真美「ベランダ一歩、お隣さん」

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413 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/24(月) 00:29:04.14 ID:QHO8M2d60


ぼんっ。


レストランの時に続いてもっかい、頭が爆発する音がした。


「え、あ、へ、あの、ヤバかったって、そういう……」

「……うん、まあ」


あああああああああああああああ!!!!

恥ずかしいよおおおおおおおおお!!!!


何で真美こんな時間差攻撃食らってんの!?

確かにゲームとかの時間差攻撃って威力高いけどさあ!!

ちょっと……ちょっとはずいってば、ねえ!!
414 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/24(月) 00:30:13.14 ID:QHO8M2d60

「あのとき、意識したんだ」


兄ちゃんがぽつりと言った。


「――何を?」

「真美も、大人になっていくんだ、って」


いつかの日のような風が吹いて。

下ろしてた真美の長髪が、兄ちゃんの顔を撫でる。


「真美のシャンプーの香りだって、今すごいドキドキしてる」


そう言われて兄ちゃんの胸に手を当てると、本当にそうだった。


「そんなことも意識しちまうんだよ」

「真美が、オトナになってきたから?」

「そうだな」


そう言われて兄ちゃんを見たら。

その瞳が。

いつもの真美を見る目とは少し違っていて。


真美も、兄ちゃんから目を放せなかった。
415 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/24(月) 00:30:39.39 ID:QHO8M2d60

「時計、しっかり合わせてきたんだ」

「え?」

「今、十五秒前」


かち、こち、と。

兄ちゃんの腕時計の秒針が鳴る。


「あと、ちょっとだな」

「うん、コドモの時間」

「それが過ぎたら――」

「それを過ぎてもね」


言葉を遮る。


「真美は、兄ちゃんのことが大好きな、真美だよ」


かちん。

416 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/24(月) 00:31:08.40 ID:QHO8M2d60

零時。

真美の、本当の誕生日。


「真美」


兄ちゃんが真美を静かに抱き寄せる。


「誕生日、おめでとう」

「……うん、ありがとう」


風がびゅうと吹いて。

雲が、どこかへ飛んでいった。

その陰からは、まん丸お月様。

綺麗な綺麗な、夜空のお月様。
417 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/24(月) 00:31:36.60 ID:QHO8M2d60

「真美」


真美を抱き寄せる兄ちゃんの力が、少し強くなる。


「さっき、レストランで言えなかった言葉」


顔は見えない、けど、表情は分かる。


「……ちょっと違うな。言おうとしたけど、やめた言葉」


真美も、兄ちゃんの服をつかむ手に力が入る。


五月二十二日。

その日まで、待っていてほしい。

二人で互いに交わした、約束。
418 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/24(月) 00:35:04.99 ID:QHO8M2d60

そして兄ちゃんの口から。

真美が、ずっとずっと。

人生の何分の一もかけて待っていた言葉。


「真美、結婚してくれないか」


ではなく、あまりにも衝撃的な一言が飛び出した。


「ゔぁびぇっ!?」


たぶん地球上で誰も聞いたことのない叫び声をあげちゃった。


「ににに兄ちゃんたたた確かに結婚できる年齢だけどあのその」

「あ、ごめん、今の間違えた」

「ちょっと待って間違えたって何!?」

「いやあのその」

「こんなシチュエーションであんな叫び声上げたの、たぶん世界で真美が初めてだよ!?」

「わわわ悪い! 色んな言葉を考えてたんだけど緊張して、最初の方に消した候補が咄嗟に――」

「消すなーーーっ!」


ふぉがばしぃっ!

真美のサマーソルト気分のキックが兄ちゃんに炸裂!

いっくらなんでも仏の真美でもいまのは足が出るよ!


「すまん、ごめん、先走りました……」

「そうじゃなくてさあ!」


なんで真美が怒ってるのか、まだ分からないかなあ?!
419 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/24(月) 00:35:38.40 ID:QHO8M2d60

「真美なんて最初から、ずぅぅぅぅぅぅっと一生一緒にいたいと思ってんだかんね!?」

「っ」

「それを間違えただの先走っただの……! 失礼ってレベルじゃないっしょ!?」


兄ちゃんの胸をポカポカポカポカ!


「ごめん、すまん!」


ポカポカポカポカ!

と、真美が叩いている内に、お互いだんだん冷静になってきて。

ポカポカが止まる頃には、二人でくすくす笑ってた。


「あーあ、俺たちこんなのばっかだな」

「そだね、たぶん、これからもだよね」

「そうだな」

「知ってる? 真美、今日で結婚できる歳になったんだよ?」

「ああ、そうだな。だからさっきの言葉も候補に入ってた」


また、兄ちゃんが静かに私を抱き寄せる。

今度はしっかりと、離さないように。
420 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/24(月) 00:36:15.32 ID:QHO8M2d60


「なぁ、真美」


「うん」


「約束を、守りにきたよ」


「うん」


「なぁ、真美」


「うん」



次に言われる言葉が分かってるから。

今度こそ、ずっとずっと、待ってた言葉だから。

今度は勘違いでも、間違いでも、おちゃらけた話でもなくて。

ただただ、ずっと、ほしかった言葉。

421 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/24(月) 00:37:44.43 ID:QHO8M2d60





「恋人として、隣にいてくれないか」




422 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/24(月) 00:38:10.26 ID:QHO8M2d60


真美は、返事、出来なかった。


涙ぼろぼろで、声が出なくて。


代わりにね。


兄ちゃんの胸の中で、何度も何度も、大きくうなずいた。

423 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/24(月) 00:38:50.59 ID:QHO8M2d60

目から溢れる大粒の涙を。

兄ちゃんがそっとぬぐってくれて。

潤んだ目で、兄ちゃんを見上げた。


「兄ちゃ――」

424 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/24(月) 00:39:42.46 ID:QHO8M2d60


「――っ」


言おうとした言葉は、最後まで発することは出来なかった。

優しく、兄ちゃんが真美の顎に手を添えて。


いつか花火の裏で、真美がしたような、いきなりなのではなくて。

真美の頭を、優しく、包み込むようにしてから、ゆっくりと。

――。


「んっ……」


頭が、真っ白になって。

嬉しさと恥ずかしさと、大好きって気持ちがない交ぜになって。


「んぅ……」


この時間がこのまま、永遠に続けばいいと思って。

しばらくの間、そのまま重ねて。


「……ぷぁ……」



――デザートよりも、とってもとっても、甘い味がした。


425 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/24(月) 00:40:10.27 ID:QHO8M2d60


兄ちゃん。

真美、ずっと忘れないよ。


二人で見上げたあのお月様。

まん丸の綺麗なお月様。


そよそよ吹いた風。

そんな風で揺れる兄ちゃんの襟元。


その瞬間の、兄ちゃんの、瞳の色。

兄ちゃんの、鼓動。


抱きしめてくれたときの、胸の暖かさ。


それに、そのときの、とってもとっても幸せな――。

426 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:30:57.81 ID:wZZZEODD0


――――――――

―――――

――




ひょいっと。

真夏の日差しで日焼けが心配な中、お隣のベランダへ飛び移る。


「しっかし、段ボール何箱分になるのやら……」


あの日、初めて飛び移ってから。

あの日、兄ちゃんに呼ばれて、支えられながら移ってから。


あの日から、時間は流れ続けてる。


「でも、このベランダともお別れだね」


名残惜しみながら手摺りを撫でる。

これ、お隣の部屋の手摺りだけど。
427 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:31:58.30 ID:wZZZEODD0

あれから私は、世間には秘密裏に、兄ちゃんと恋人になって。

事務所のみんなは知ってるけど。

まこちんがびっくりして他の以外は。


色んなモノが変わった。

誕生日を過ぎてからは、少しずつ自分を「私」って言うようにした。

私はやっぱり、あの日思った通り、どんどんオトナになっていった。


でも、変わらないモノも確かにある。

時々いたずらしたりとか。

ついつい自分のこと、真美って言っちゃう時があったりとか。


ステージ上で歌うときの。

煌びやかなライトの下で、みんなに向ける笑顔とか。
428 :>>427誤字修正 [saga]:2019/06/25(火) 00:32:53.20 ID:wZZZEODD0

あれから私は、世間には秘密裏に、兄ちゃんと恋人になって。

事務所のみんなは知ってるけど。

まこちんがびっくりしてたの以外は。


色んなモノが変わった。

誕生日を過ぎてからは、少しずつ自分を「私」って言うようにした。

私はやっぱり、あの日思った通り、どんどんオトナになっていった。


でも、変わらないモノも確かにある。

時々いたずらしたりとか。

ついつい自分のこと、真美って言っちゃう時があったりとか。


ステージ上で歌うときの。

煌びやかなライトの下で、みんなに向ける笑顔とか。
429 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:33:27.36 ID:wZZZEODD0

「真美、作業は進んでるのか?」

「うん、今は小休止」


からからと網戸が開く音がして、汗を拭きながら兄ちゃんが出てきた。

兄ちゃんの部屋にも、真美の部屋と同じように段ボールの山。

というか、真美より多い。


「俺も休憩しよっと。昼飯は?」

「亜美が今持ってきてくれてる」

「なら俺も一緒に食べようかな」


そんな話をしていると、亜美がクリームパン片手にやってきた。

そして、私たちを見るや否や……。


「ふぉっふぉっふぉ、お二人でごゆっくりー」

「茶化すなー!」


パンを私に手渡すと、ニタニタ笑いながら部屋へと戻っていった。
430 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:34:07.86 ID:wZZZEODD0

「このベランダにもお世話になったなあ」

「ね。思い出の中にはいっつも、どこかにこのベランダがいるんだよ」

「名残惜しいか?」

「……ちょっぴり」


実は私、しばらく前にアイドル引退したんだ。

芸能界には残ってて、バラエティに出たり、時々歌ったりはするけど。

フツーの女の子に戻りまーす!って言うの、ちょっと夢だったんだよね。
431 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:34:45.98 ID:wZZZEODD0

生まれ育った部屋ともお別れ。

そういえば、兄ちゃんはいつからこの部屋に住んでたんだろ?


「俺? 高校の時からだから……」


ひー、ふー、みー……と数える兄ちゃん。

そっか、お部屋歴は私の方がちょっと長いんだ。

少し勝った気分。

ふふん。
432 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:37:03.06 ID:wZZZEODD0

「でもアイドル、本当に辞めてよかったのか?」

「こーゆーことになったし、ケジメつけんことにはおさまりつかんですよ」

「お前、また仁義ない戦いのDVD観てたな?」

「アレ何度観ても千早お姉ちゃんが格好良すぎんだもん」


真美も結構活躍するし。


じりじりと照る日に当てられて、汗が滲む。

話の途中でよっこいしょ、とじじむさい言葉とともに兄ちゃんが部屋に入った。

そして戻ってきたとき、手に持ってたのは……。
433 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:38:28.20 ID:wZZZEODD0

「ぬぉあーー! シャリシャリくんだーーー!!!」

「そういうとこはまだちょっとお子さまだな」

「うるへー、甘味は正義っしょ!?」

「それには全く同意です」


二人でしゃりしゃり。

アイスをしゃりしゃり。


「本当に、部屋にもアイドルにも、心残りはないか?」

「ない……って言ったら、嘘になるよ」


でもね。


「でも、変わっていくモノもある、でしょ?」

「変わらないモノもある、けどな」


うるさかったはずの蝉の声も心地よくなってきて。

アイスも食べ終わって。

ちょっと汗がにじんでる、兄ちゃんの肩にこてん。


「眠くなったのか?」

「うん……」

「疲れてお昼寝とは……いつから変わってないというか」

「違うよ、兄ちゃんの肩が悪いんだもん……」


いつの季節も、ここは私の特等席。

暖かくて、涼しくて。

そして、とっても安心できる場所。

だからつい、うとうととして――。
434 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:38:55.93 ID:wZZZEODD0

「こらああああ亜美にばっか働かせていちゃいちゃすんなあああああああ!!!!」

「ひゃいっ!!!」

「すんませんっ!」


亜美の怒声で、二人そろってビクッと飛び跳ねる。


「亜美隊長、すぐに作業に戻るであります!」

「引っ越し屋さんもうすぐ来ちゃうんだかんね! 兄ちゃんもすぐ甘やかさない!」

「かしこまりました!!」


すっかり鬼軍曹がうつってきた亜美に怒られちゃった。

でもこれは確かに申し訳ない。

亜美は引っ越す訳じゃないのにね。

手伝ってもらってる立場でごめんなさい……。
435 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:43:05.06 ID:wZZZEODD0

そんなこんなで、ギリギリで荷造りを終えた途端、ちょうどやってきた引っ越し屋さん。

荷物を運び出してもらってる間、白い原液を薄めて飲むアレを飲みながら三人でだべってた。


「新居はどんなとこなの?」

「ここと似てるかも。でも割と築浅」

「ずっこいなー、亜美もそろそろ新しいとこ住みたいー」


亜美がぶーたれた。

底に残った濃いめの部分をじゅるじゅるとストローですすりながら。
436 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:45:33.03 ID:wZZZEODD0

「そろそろ一人暮らししてみてもいいんじゃないか?」

「兄ちゃんがそれ言うのズルくない!? 亜美だって二人がいいよー!」

「おや、こりゃ失礼」

「そりゃさ、一人暮らしもいいよ。でも亜美だってイイ人と一緒に同棲とかしたいー!」


今度はクッションを抱えてじたばたじたばた。


「亜美さんや、アイドルはファンのためにだねえ」

「くそぅ、これまでの数年を週刊誌にバラしてやる……」

「亜美、それはやめてくれ」

「私にはもうあんまダメージないけど」

「俺の仕事に支障が出かねないんだよ!」


確かに、小学生アイドルに唾付けて源氏物語しちゃうプロデューサーだとねえ……。

研修生の子の親とか心配しちゃうよね。
437 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:46:59.38 ID:wZZZEODD0

まぁここまででバレバレだと思うけどさ。


私と兄ちゃん、同棲することにしたんだ。


三年ばかりの交際期間を経て、ようやく兄ちゃんも重い腰を上げたようで。

パパとママにご挨拶したんだよ。


『結婚を前提に、同棲することをお許しいただけませんでしょうか』


って、ビクビクしながら。

もっとビシっとカッコよく決めてほしかったんだけど。


そしたらパパとママ、ぽかんとしちゃってさ。

二人揃って、え、今更?って返事で。

あんときは一緒にいた亜美も含めて家族で、大爆笑だったよ。

兄ちゃん一人だけ、顔真っ赤で恥ずかしそうにしてたなー。

可愛かったなー、あのときの兄ちゃん。
438 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:47:55.60 ID:wZZZEODD0

そもそも恋人になった時点でさ、勿論、パパとママにも報告したよ。

二人とも私の気持ちは気付いてたからさ、ようやくか!って泣いちゃってさ。

あのときも兄ちゃん、オロオロしてたっけ。


そんな相手に今更、同棲だの結婚だの言って断られるかもとか思ってたのかな。

そーゆーとこ、兄ちゃんってちょっと杓子定規というか。

心配性というか。
439 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:48:43.41 ID:wZZZEODD0

引っ越し先は、ささやかなマンション。

お金は割と余裕あったけどさ、いきなしすんごい部屋に住むのもなんか違うかなって。


二人で色んな物件見て。

結局選んだのは、今住んでる部屋に似てる、ちょーどいい大きさの部屋。

でも一個だけ、絶対譲れない条件があってね。


綺麗で、二人で座れるベランダ!


これだけは、私と兄ちゃん二人とも、最初から絶対って決めてたんだ。

これから何回引っ越しするとしても、私たちの大切な場所は、必ず最優先にしようって。


同じ想いを持ってくれてるのは、やっぱり嬉しかったな。

440 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:49:38.98 ID:wZZZEODD0

そんなこと思い出してる間に、トラックへの積み込みも終わって。

いよいよ新居へ旅立つときがきた。


「それじゃー亜美、グッドラック!」

「亜美、手伝ってくれてありがとう。また事務所でな」

「お礼は期待してますぜー!」

「勿論、それなりのお礼はさせてもらうさ、これまでの分もな」


トラックの荷台に乗りながら、そんなやりとりをして。

引っ越し屋さんが、荷台のドアを閉じた。
441 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:50:56.97 ID:wZZZEODD0

中で、兄ちゃんと二人きり。


「私たちの同棲生活、どうなると思う?」

「これまでと対して変わらんだろ。わーきゃーして、時々喧嘩して、仲直りして、またわーきゃーして……」

「言っとくけど私、同棲で終わらせる気ないかんね。一生モノのカクゴしといてよ!」

「そんなんこっちだって同じだよ。一生放してたまるか」


……。

ぼぼんっ!

自分たちで言っておいて、直後に二人とも真っ赤になって爆発する。

いい加減初々しい時期、ってわけでもないのに。

こんなとこは変わらないんだね、ってのも、ちょっと幸せだよ。
442 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:51:29.02 ID:wZZZEODD0

新しい部屋での新生活。

そこで私は、何と出会って、どう変わっていくんだろう。


でもその隣にはいつも兄ちゃんがいて。

ベランダ一歩ではなくて、本当に一歩隣に兄ちゃんがいて。


同棲も始めるのに、兄ちゃん、って言うのも変なのかな。

これからは、名前で呼ぼうかな。

そんなところから、変わってみようかな。
443 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:52:49.14 ID:wZZZEODD0

「ねね」

「どうした?」


トラックのエンジン音がして、荷台もがたがたと揺れ始める。

私たちの新生活に向けて動きだそうとしている。

だから、新しい私の、第一歩として。


「ねぇ――」


兄ちゃんを、名前で呼んでみた。

したら兄ちゃん、みるみる顔が真っ赤になっていって。


「……ふぁいっ?!」


テンパった裏声で、驚きまくりながら返事をした。


んっふっふ、今回も一本取ってやった!

444 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:53:19.98 ID:wZZZEODD0

口をぱくぱくさせてから、何も言えずに、真っ赤な顔でうつむく。

そんなあなたも、私のモノだからね。


揺れが大きくなり、しばらくして静かになった。


「お、走り出した」

「新生活に向かって出発だね」

「ああ、家事とかの役割分担も決めないとな」

「うん」


一つ一つ、新生活のことを考えるだけで頬が緩んでくる。
445 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:53:57.26 ID:wZZZEODD0

目的地に着くまで、数十分。

時々揺れて、会話は途切れて。

二人きりの車内で身を寄せ合った。


暖かい体温。

好きな香り。

抱きしめてくれる温もり。

言葉がなくても伝わり合う、互いのココロ。


それだけの空間が、何よりも幸せ。

これが二人で、一緒にいるということ。


この人が、私のお隣さん。

446 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:54:28.60 ID:wZZZEODD0



「なぁ、真美」


「ん?」


「今年、お祭りいこうか。俺も浴衣着て」


「うん、行こ行こ!」


447 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:55:08.86 ID:wZZZEODD0



私は、幸せだよ。


だから同じように。


あなたのことも、絶対に幸せにしてあげるからね。


448 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:55:37.45 ID:wZZZEODD0



これから、ずっとずっと。


お隣さんだからね。


449 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:56:09.74 ID:wZZZEODD0



ずっと一緒だよ。


私の最愛の、お隣さん。


450 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:56:53.42 ID:wZZZEODD0



おしまい


451 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 00:59:24.68 ID:wZZZEODD0
以上で、ベランダ一歩、お隣さん、完結となります。

当投稿で初めて読んでいただいた方、ここまでお読みいただきありがとうございました。

数年前立てた当時、お読みいただいていた方、本当にお待たせしました。
すみませんでしたと同時に、また見つけて、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。

なんとか完結させることができ、本当に良かったです。
452 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/25(火) 01:01:27.34 ID:wZZZEODD0
html化依頼を出して来ますが、もし感想とかあれば、書き込んでいって下さると本当にうれしいです。
まだ二つほどお待たせしてしまっているものもあるので、そちらもなんとかやっていきたいと思います。
改めて長い間、本当にありがとうございました。
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/25(火) 02:22:44.22 ID:aINdg2C+0
完走乙!
とても素晴らしいものを読めて心が浄化された
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/25(火) 04:38:05.42 ID:pl3wdoIl0
まとめられてたのを読んできた。めっちゃ良かったよ。にわかの俺でも真美という女の子が可愛くて仕方なくなった。是非また書いてくれ。
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/25(火) 07:41:23.04 ID:UGcRsnnZo
おつおつ!
待っていてよかったと思える作品でした
掛け値なしに
次も待ってる
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/25(火) 10:01:30.90 ID:s+UdCc49O
乙!
完結本当に嬉しいわ
年甲斐もなくキュンキュンした
457 : ◆on5CJtpVEE [sage]:2019/06/26(水) 21:06:33.72 ID:cvV4j1Nuo
>>453
なんとか完走できました
そう言っていただけると嬉しいです

>>454
真美チャンハ、カワイイデスヨ
にわかでもいいじゃないですか、ぜひ愛でましょう

>>455
本当にお待たせしました
次のは今回ほどゴールまで近くないのでまだしばらくかかってしまいますが、どうかよろしくお願いします

>>456
自分のことながら、完結できて本当に良かったです
というより、何年も経ってからまた目にしてくださる方が多過ぎて……
本当にありがとうございます
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/26(水) 21:18:41.51 ID:QV+bNNmt0
タイトルであれ?と思ったらあの時の人だったのか
完走おめでとう
これからゆっくり読ませて貰う
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/28(金) 23:31:26.18 ID:mBecOR/Qo
見覚えのあるスレタイだと思ったら復活だった
懐かしさと感動とむず痒さやらがごちゃ混ぜになって言葉に出来ないくらい良かった
乙そして最高の作品をありがとう
460 : ◆on5CJtpVEE [sage]:2019/06/29(土) 22:48:51.09 ID:E6mBL6LsO
>>458
ありがとうございます、なんとか完走できました
お読みいただければ幸いです

>>459
復活していました
読めてよかった、という感想をいただけると本当に嬉しいです
ありがとうございます
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/02(火) 08:20:48.56 ID:SvcZ00mu0
昨晩読み終わったけど偶然とはいえ
再び見つける事ができて良かったと
そう思えるくらい良いSSだった




またせすぎだぞコノヤロウ!
462 : ◆on5CJtpVEE [sage]:2019/07/02(火) 16:16:14.34 ID:uPsZPOU7o
>>461
本当にお待たせして申し訳ありませんでした
でも、再び見つけていただくことができて本当に良かったです
ありがとうございます
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