【艦これ】山城「不幸のままに、幸せに」

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198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/08(日) 16:13:53.85 ID:KMafcUvEo
乙。


乙だけど、夕立と夕張が途中で混線してるっぽい?
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/08(日) 21:48:47.82 ID:Prl96ueZ0
メロン乙

前から思ってたけど鎮首府って鎮守府だよな?そういう単語なの?
200 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/08(日) 23:06:57.27 ID:d80kTEDO0
>>198-199
色々誤字申し訳ないです……。
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/09(月) 10:42:53.16 ID:MabMH+5Co
舞ってる次回
202 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/15(日) 12:40:31.96 ID:lzhGd5a70

 十七人目の演習相手――もとい、「挑戦者」であるポーラが倒れた。彼女は数秒だけ水上に仰臥していたけれど、すぐに反動をつけて立ち上がる。

「いやぁ、本当に強いですねぇ」

 口内から黒煙を吐きだして笑うポーラ。痛覚設定をできるだけ下げての演習なので、痛みはあってないようなものである。それでも絹のような髪の毛が焦げ付いてしまっているのは見るに堪えない。
 本人は、寧ろそんなことよりもこのあとの一杯のほうが大事らしかった。顎に指先を当てて「晩酌は何にしましょうかねぇ」と嘯いている。

「さぁ、次は誰が来るっぽい?」

 夕立は笑った。犬歯を剥き出しにして。

 演習規定に基づいた、オーソドックスな1VS1での十七人抜きは、考えずともに埒外の所業だとわかる。しかも無補給、無休憩でのぶっ通しとなればなおさらだ。
 個の強さで全てが決まるのはあくまで決闘であり、私たちの赴く戦争、あるいは戦闘はまた別次元の論理で動いている。とはいえ、銃弾と爆炎の舞い散る最中では、個の強さに頼らなければいけない側面も少なくはない。

203 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/15(日) 12:41:11.60 ID:lzhGd5a70

 そう言った意味で、なるほど確かにこの夕立という少女は、佐世保の鎮守府、深海棲艦相手の最前線基地を任せられるに足る存在なのかもしれなかった。

「強かったですか?」と不知火が尋ねる。同じ駆逐艦という艦種同士、思うところはあるのかもしれない。
 受けてポーラは「肺活量が凄いですぅ」と答えた。端的に、それだけ。

 その表現は個性的ではあったものの、腑に落ちる点も多い。近距離戦から中距離戦への移行、あるいはその逆が、夕立は恐ろしいほどにうまいのだ。
 決して相手の得意な距離に持ち込ませない。近づけば離れ、離れられれば追いすがる。一旦体勢を崩されてしまえば、その隙に一瞬で喰らい尽くされるだろう。

 ざじり。護岸の上、砂を踏みしめて、一歩前に踏み出した加賀は呆れ顔。

「そろそろ、夕食の時間でしょう」

「ってことは、加賀さんがラストってこと?」

 夕立の台詞にはいくらかの挑発が含まれていた。まさか呉の筆頭秘書艦が、戦いを挑まれて逃げるわけはないでしょう? と。当然加賀にもそれは伝わっていて、怜悧な表情が一瞬だけ崩れる。

204 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/15(日) 12:41:40.95 ID:lzhGd5a70

 はぁ、と加賀はため息をついた。諦念を多分に含んだものだった。

「だから子供はきらいなんです。後先を考えない……」

 波音静かに加賀は水面へと立った。

 演習開始の合図とともに、夕立は一気に吶喊する。巨大な水飛沫を上げながら、一目散に一直線、加賀を狙う。
 加賀の応対。矢を掛ける、弦を引く、構える――放つ。川のせせらぎのような静けさを伴った動作。

 私の傍らで、大鷹とグラーフが驚愕の吐息を零す。

 艦載機へと変化した矢、その爆撃を夕立は最小限の動き、そして引き続き最短距離を往く。生半可な攻撃では、狂犬は止まりそうにない。
 加賀はまたも矢を放った。素早く、冷静で、縮みつつある彼我の距離など一顧だにしないという風だった。

 一層激しさを増した火炎の驟雨を夕立は紙一重でかわし続けるも、さすがに連戦に次ぐ連戦の果てでは無理があるのか、目に見えてその機敏さは失われつつあった。脳内では避けているのだろう。しかし、体が追いついていない。服や髪の毛の端々へ火が燃え移る。

205 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/15(日) 12:42:10.83 ID:lzhGd5a70

 僅かに動きの遅れた瞬間を加賀は無論見逃さない。矢筒から、次弾を手に取る。塗り分けられた矢筈はそれぞれ艦載機の種別をあらわしている。赤、青、緑、そして赤と緑の斑。
 射出。そして顕現。立体的な集中砲火を夕立は奇跡的な身のこなしで最小限の被害に喰い留めるも、それはあくまで奇跡、神業の類であって、そう長くは続かない。

 顔面への直撃。

「あぁははははぁっ!」

 黒煙とともに、炎を纏いながら、夕立は加賀に迫る。

 更に顔面への追撃。

 驚異的な足腰の粘り。異常なほどに強い体幹。転倒、最悪卒倒してもいいはずの一発だったはずだ。だのに夕立は上体をぐらつかせただけでなく、さらに、そこから一歩、吸い込んだ熱気を吐きだしながら。

 踏み出す。
 踏み込む。

 そうして三度。

206 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/15(日) 12:42:36.31 ID:lzhGd5a70

 ぶすぶすと焼け焦げる音がこちらまで聞こえてきそうだった。夕立の身体から力が抜け、ぐらり、そのまま後ろへと体勢を崩す。

「――」

 なにがそこまでさせるのか。夕立がたたらを踏み、堪える。

 そのことを加賀も知っている。

 四度。

 ついに、ようやく、夕立は水面へと背中をつけた。肘から先が痙攣している。それもなくなると、加賀が人心地ついた面持ちで弓を下げ、額の汗を甲で拭った。

「……」

 その場にいた誰もが、まるで恐ろしいものの片鱗を見てしまったようだった。夕立の身体能力も、加賀の精緻さも、人間の枠組みをとうに超えている。
 いや、艦娘は人の身に神を宿す。とっくに人外であると言われてしまえばそれまでだけれど、ここまでハイレベルな演習――と言ってしまっていいものなのだろうか?――が見られるとは思ってもいなかった。
 ともすれば、すぐさま夕立が飛び起きて、加賀へと向かっていくんじゃないかという気さえして。

207 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/15(日) 12:43:55.33 ID:lzhGd5a70

「はいはーい! 本当に時間ですよー!」

 だから、佐世保の次席である吹雪が手を叩いてみなの時間を進めたとき、私は率直にほっとしたのだった。助けられたような思いがしたのだった。
 吹雪はけれど慣れっこなのだろう。よく見れば佐世保の艦娘たちは、困った顔こそしているけれど、驚愕に目を見開いてはいない。吹雪が夕立の脚を引っ張って移動させているうちに、呉、パラオ、そして私たちと、先頭について案内を買って出る。

「ほら、行くわよ。広いんだから迷わないようについてきてよね」

 案内役の五十鈴の背中を追っていく。彼女は追いすがる青葉、大淀と何やら話しながら、手をひらひらさせていた。その内容は聞き取れなかったが、大方夕立のことだろうとは察しが付く。
 グラーフと大鷹は加賀の戦い方について、不知火とポーラも感想戦。そして私のもとには、そっと近づく影が。

208 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/15(日) 12:44:48.01 ID:lzhGd5a70

「凄かったわね」

 パラオの霧島だった。眼鏡の奥の瞳は興奮に濡れている。

「凄かったけど」

 あんな戦い方を私は学んできていない。我が身を摺り切り、銃火に炙りながら敵へ突っ込むやりかたを。

「《猟犬》夕立の面目躍如ってところかしら。同時に加賀も、ね」

「面目躍如、ね」

 反応してから、だめだ、鸚鵡返しばかりだと気付く。これではまるでコミュ障である。

「トップランカーはさすがに気迫が違うのね」

「それもあるけど、夕立は示して見せたのよ。自分の在り方ってやつを。なるべくしてなるのが運命なら、あるべくしてあるのは自助努力によってのみでしょ?
 佐世保は今回の指揮系統を担っているから、作戦の成功も失敗も、大きく彼らの名誉を左右させる。万が一にも失敗させるわけにはいかない。戦って、戦い続けて、作戦を成功に導く。それが夕立の在り方なのよ」

 我々は戦う。ついてこい。それが佐世保の矜持であると、言葉ではなくその姿で、雄弁に語って見せた。

209 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/15(日) 12:45:18.20 ID:lzhGd5a70

 在り方、か。
 それは妙に、私にとってもクリティカルな言葉だった。

「誰にだって在り方の一つや二つ、あるものだと思うわ」

「私にも?」

 意地悪そうに霧島はにんまり笑って見せた。私は彼女のことを知らない。どうして彼女が私に話しかけてきたのかさえわからないくらいなのだ。それでも、ふんわりとした確信を持って言える。

「たぶん。そうでなければ、艦娘なんてやっていられないもの」

 死は信念のあるなしに関わらず平等だろうけれど、それでも、戦場にいる全ての者に信念がある。

「私たちは少々特殊だから」

「少々で済むかなぁ」

 笑われてしまった。理知的な外見とは裏腹に、屈託なく笑った霧島のその表情は、言うほど特殊であるようには見えない。勿論外見や表情からその人間の過去を押しは過労だなんて言う行為が傲慢そのものではあるのだけれど。
210 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/15(日) 12:46:08.49 ID:lzhGd5a70

 艦娘などその殆どがわけありだ。疎外やら機能不全家族やら賎民やら。しかし同時に、霧島の弁を借りるとするならば、それはあくまで運命である。「なるべくしてなった」。
 それだけではひとは生きてはいけない。運命の導きが果たして本当にあるとして、結局我々は、あるべくしてあらねば生きていけないのだ。

 組織に入った理由が、そのまま組織に居続ける理由になる必要はない。
 地獄から逃げ出すために艦娘を志望したこの身なれど、今はもう、人生から逃げようとは思わない。

「まぁでも、そうね。在り方。……生きるための杖がなくては、歩きづらいか」

 霧島は海の向こうを見ながら呟いた。

211 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/15(日) 12:46:56.03 ID:lzhGd5a70

「CSAR、でしたっけ」

「え? あ、はい」

「国村さんの肝いりだとか。人が死ななくなるのはいいことね、ほんと。本当に」

「私は新入りだから、あんまり偉そうなことは言えないの。人でも六人っきりだし」

「でも、これから増やしていくんでしょ。いきたいと、考えている」

「えぇ」

「なら、それがいいことなのよ。そう思う」

 ここまで真っ正直に自らの行いを褒められた経験がなかったので、一瞬思考に空白が生まれる。あくまで一瞬だ。

「ありがとう。頑張るわ」

 私は歩く。食堂では夕餉が待っているはずだった。
212 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/15(日) 12:48:08.62 ID:lzhGd5a70
――――――――――――
ここまで

無駄に設定に凝りだすのが設定中の背負った業。

待て、次回。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/15(日) 16:30:19.64 ID:qqLVo0cco
お疲れ様です
舞ってる次回
214 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/21(土) 10:46:20.24 ID:pQ00XHC/0

 少し、飲みすぎてしまったかもしれない。日本酒党の私は、ポーラの持ってきたワインとは相性があまりよくないようだ。優れない気分を立て直そうと、夜風にあたるべく、大淀を起こさないように部屋を出る。
 廊下は薄暗い。ぽつぽつ等間隔で夜照明に照らされている。当然ながら、人気はない。

 と、脚が停まる。私は自分が佐世保の鎮守府にいることを思い出したからだ。例えば不用心に出歩いた結果、赤外線のセンサーに引っかかって警報が鳴る……最悪侵入者とみなされて撃たれては困る。
 ううむ、廊下で窓を開けるくらいに留めておくべきだろうか。
 窓に近づけば、月光に照らされた人影が、ちょうど私の真下を歩いている最中だった。その姿は影に落ち込んでいて誰何は叶わないが、右手に弓を持っている。ならば恐らく空母の誰か。

215 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/21(土) 10:55:54.20 ID:pQ00XHC/0

 ということは、恐らくではあるが、外に出られないことはないらしい。まぁ当然か。周辺海域の見回りに緊急出動など、青葉ではないけれど、夜討ち朝駆けは艦娘の常套。そのたびにいちいち警報を切るのはあまりにも面倒だろう。
 見るからに怪しいところに近づかなければ問題あるまい。研究所とか、備品庫だとか。そう判断して、私はふらふらと、階段を下りていく。

 外に出るための扉には施錠はされていなかった。単にいつもそうなのか、それとも先ほどの空母が内鍵を開けたのか。
 なんとなく、先ほどの空母はあっちに向かっていったなという思いで、棟の裏手へと回る。

 当然鎮守府や泊地といった前線基地は海沿いにある。しかし、佐世保は大きい。あまり海風は感じない。それでも確かに潮のにおいだけは確かにあって。
 購買の照明が煌々と灯っているのが、かなり離れた位置からでもわかった。なんてコンビニエンスなのだろう。ともすれば、いまも海のどこかで、佐世保の艦娘たちは夜警に出ているのかもしれない。

 右へ曲がれば夕方に向かった演習場になっていて、そこにベンチがあることを知っていたから、私はそちらへと曲がった。

216 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/21(土) 10:58:22.80 ID:pQ00XHC/0

「あ」

 先客がいた。こんな夜更けだというのに胴着さえ身に着けて、弓を構えている。確か夕食時は私服だったはずだ。また着替えたというのか。
 さきほどの人影の正体がわかると同時に、一体なぜ、なにをしにここへ、といった疑問が湧いてくる。彼女は夕食後の宴会を早々に退散していたはずである。酔い覚ましとは考えにくい。

 彼女もまたこちらに気付いたようだった。ちらり、視線だけをやって、射形は崩さない。
 的がなくても射られるものなのだろうか。ベンチに座って、加賀を見る。

「……なに?」

「あぁ、ごめんなさい。気が散る?」

「用事があるわけではないの?」

「酔い覚ましの散歩。邪魔になるようだったら場所を変えるけど」

「お願いできる? わたし、あなたちのことが好きではないみたいだから」

217 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/21(土) 11:11:02.04 ID:pQ00XHC/0

 疑問と苛立ちの両方が、殆ど同時にやってくる。それは悪天候の日、濃い灰色の暗雲から、水平線のさらに向こうに落ちる稲妻の群れに酷似していた。
 次の加賀の言葉も、そして私自身の言葉も俟たずして、ベンチから立ち上がった。

「……ひどいご挨拶じゃない」

「そうね。申し訳ないとは、思っている」

 真実味のない言葉だった。加賀はこちらへ視線を向けず、射形も、やはり、崩さない。先ほどから数分はその体勢でいる。
 肩を掴んで「こっちを見ろよ」とやりそうになる衝動を抑える。夕方、演習の終わり、霧島との会話が脳裏をよぎったからだ。

 在り方。

 加賀は筆頭秘書艦だ。彼女の肩には、責任がある。呉の名前と誇りを背負っている。なにより、彼女には呉の他の艦娘たちを導かなければならない。そんな彼女の言動がこれ? まったき信じられない事実。
 無論、全てにおいて、どんなときでも、その役割で居続けることは難しいだろう。立場が求めるふるまいと本心は必ずしも一致しない。いまの加賀が筆頭秘書艦の仮面を脱ぎ捨てている可能性だって否定はできない。

218 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/21(土) 11:13:13.77 ID:pQ00XHC/0

 それでも。それでも、なら、どうして彼女は射形を崩さない? 胴着を身に着けたまま、遠くを見据えている?

 それはとても難しいことに思えた。なにより奇妙に思えた。推論のちぐはぐ感。きっと間違っているからだ。

「CSARが?」

「……えぇ、まぁ、そうね」

 あなたたち、と加賀は言った。あなた、ではなく。
 海軍と空軍の領域。防衛省と神祇省の領域。仕事には自らの範囲というものが必ずあって、そうでなければ万事においてぐずぐずになってしまうだろう。上の人間ほどそれにこだわる。矜持から来るものなのか、既得権益から来るものなのか。
 加賀はそちら側なのか? 努めて悪態をつくならば「旧態依然の」人間なのか?

219 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/21(土) 11:24:26.43 ID:pQ00XHC/0

「言っておくけれど」

 喧嘩腰にならないように、それでもはっきり怒りを露わにして、言葉を選ぶ。

「私たちの仕事は誰にも邪魔させないわ」

「……」

 たっぷりと間を開けて、加賀はまた「そうね」と言った。

「互いの仕事に全力を尽くしましょう」

 私はすぐさま踵を返した。悪酔いはすっかり冷めてしまっていたが、別の感情が胸中を支配して、このままではまるで寝られそうになかった。
 加賀、彼女にもまた彼女なりの何かがあって、心に決めた在り方や過去が今の彼女を形作っているのだとして、それでも慮ってやれるほどには私は優しい人間ではなかったのだ。

「どきどきしてましたよ」

 物陰から、青葉が声をかけてくる。
220 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/21(土) 11:25:43.33 ID:pQ00XHC/0

「割って入っては、来なかったのね」

「や、勿論殴り合いになる前には止めるつもりでした。

 肩を怒らせながら歩く私の速度は、たぶん少し早い。青葉は困ったように笑いながら、一眼レフを肩からぶらぶら揺らしつつ、ついてくる。

「あの人は……」

 言葉を選ぶ。

「『ああ』なの?」

「そうですね。気難しい人ではあります。有名な話です。その代り、個人での戦闘能力も指揮能力もずば抜けていて……必勝請負人ですから」

「なにか私たちが気に障るようなことをしたとでも?」

「それはないとは思いますが。そもそも交流が浅いですし」

 なら、なぜ。どうして。

「あんなことを言われなくっちゃならないの」

221 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/21(土) 11:28:07.67 ID:pQ00XHC/0

 戦うことは大事なことだ。戦わずして、真に大切なものは守れない。しかしそれと同時に、同じくらい、誰かを助けることは重要なはずだった。

 怒りが鎌首をもたげる。

「……免罪符になるとは思いませんが、艦娘になる人間などみぃんなワケありです。古株は、特に。あの態度が本心なのかそうでないのか青葉にはわかりませんが、偏屈で頑ななだけでは呉という大所帯を率いることはできないでしょう。
 きっと、理由があるんだと思います。それとなく調べてみますよ」

「余計な詮索はしないほうがいいんじゃない」

「よく言われます」

 青葉は頬を掻いた。

「それでも、ねぇ、山城さん。自分にもっと力があれば、だなんて、きっと殆どの人が思うことです。青葉だってそうです。
 このまま作戦が何事もなく終わって――少なくとも表面上は――加賀さんとお別れした時、きっとモヤモヤが残るでしょう。青葉はそれが嫌なんですよ。もっとできたはずだと、うまくやれていればこんなことにならなかったのにと生きていくのは」

222 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/21(土) 11:30:12.03 ID:pQ00XHC/0

 歌うように諳んじる青葉の口調は、どこまでも突き抜けていくほどあっけらかんとしていて、まるで彼女の言葉だけが重力から解放されているようだった。
 どこを見て言っているのか。誰に向けて言っているのか。不明瞭なほど曖昧な言の葉。

「トラックも――」

「え?」

「や、や。なんでもありません。なんでも……」

 そこでくるりと、踵を軸に一回転して見せる青葉。軽快なステップを踏み踏み、三叉路を私とは別方向、ドックへと向ける。

「そろそろ夜警が戻ってくる時間帯です。青葉、そっちに少し用があるので……今夜のことは、山城さん、あまりお気になさらず。引きずってもいいことはありませんよ」

「……ありがとう。わかっているわ」

 わかっているのだけれど。

 悔いて、嘆いて、人生を棒に振るとは言わないまでも、囚われて執着して、そんな生き方はしたくない。青葉の言うことは尤もだ。それでも、悔悟なしに幸せな人生は送れまい、とも思う。

223 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/21(土) 11:33:54.95 ID:pQ00XHC/0

「……ねえさま」

 諦念に満ち満ちたあのひとの人生に、果たして悔悟はあったのだろうか。「そういうものだ」と割り切ることは、幸福を希求する一助になるのだろうか。

 私は……。

「負けない。死なない」

 幸せになってやる。

『連絡。全艦娘に連絡』

 アラームが脳内へと響く。識別番号の主番は佐世保、枝番は00――つまり提督直々の通達である。

『夜の哨戒班が、敵哨戒群と思しき一団と接敵、及び交戦、これを撃退した。一時間後、緊急のブリーフィングを行う』

「……来たか」
224 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/21(土) 11:40:34.14 ID:pQ00XHC/0
―――――――――――――――
ここまで。

ラストバトル突入。
「ギャルゲー」「潜水艦泊地」と続いたお話も、もう少しでおしまいとなります。
最後までよろしくお願いします。
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/21(土) 11:58:55.01 ID:0O6plnNPo


そうか、もう長くないのか
最後まで付き合いますよ
226 : ◆yufVJNsZ3s [sage saga]:2020/03/21(土) 12:40:01.07 ID:pQ00XHC/0
こっから無尽蔵に描写が増えて長くなります。
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/21(土) 14:23:35.63 ID:g2tShfbyo
おつおつ
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/21(土) 19:51:48.35 ID:H4IBT/zYo
お疲れ様です
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/21(土) 22:50:10.19 ID:scL0oBCpO
ギャルゲーから読んでますよ
どれも好き
だか待つぞ
230 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/22(日) 13:55:14.92 ID:S0LjOGb+0

 ばたばた、ばたん。

 階段を駆け上がる音、扉の開け閉め、あるいはクローゼットのそれ、壁越しの話し声。

 蛍光灯は灯り、外の投光機は会議室までの道を照らす。購買に幾人も駆け足でやっていき、また駆け足で出ていく。
 俄かな慌ただしさ。それも当然だろう。敵作戦群と思しき集団との邂逅が昨日の今日とは、運がいいのか悪いのかわからない。あまりにも生き急ぎ過ぎている。

 緊急のブリーフィングは一時間後、大会議室で行われる予定となっていた。参加者は、呉、パラオ、CSARから六名ずつ、そして佐世保からの選抜六名。勿論佐世保はメインを張る都合上、その他部隊も指揮しなければならない。
 通信が入った。佐世保の通信網に乗っていない、独自のもの。

231 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/22(日) 13:56:29.95 ID:S0LjOGb+0

『点呼。番号を』

 後藤田提督の声。野太く、低い。それだけ身が引き締まる。

『一番、大淀、います』

『二番、不知火』

『グラーフ・ツェッペリン。準備は万端だ』

『ポーラ、よーん』

『ご、ごぉっ! 大鷹、ここに!』

「山城。六番」

『よし。各自身だしなみを整え、適宜飲食を済ませてから、定刻五分前に会議室へ集合だ。艤装はひとまずいらない。質問は』

『哨戒班は無事だったのですか? 不知火たちが出張る必要は?』

『ひとまず無事らしい。小破が二名、と報告は受けている』

『了解しました』

232 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/22(日) 13:59:38.39 ID:S0LjOGb+0

『後藤田提督』

『どうした、淀の字』

『今回の作戦目標は』

『会議次第だが、恐らく敵戦力の壊滅、あるいは特定期間の邀撃達成ということに――』

『失礼。遂行基準については、どうお考えですか』

 空気を呑む音が通信越しでも聞こえてきそうだった。私にはそれが、後藤田提督のものなのか、はたまた他の隊員のものなのかわからない。
 通信は傍受に強い秘匿通信を使っている。私たちは今回の作戦において、佐世保基地のローカルネットワーク上に構築された作戦用の通信網と、並行して我が「浜松泊地」の秘匿通信を使い分けなければならない。

『……淀の字、おめぇ』

『失礼。いじわるが過ぎましたかね』

『性格悪いって言われるだろ』

『えぇ、よく、あなたに』

『……?』

 少しばかり流れの読めない会話が続く。それは単なる軽口とは違っていて……なんだか、どちらも苦虫を噛み潰しているよう。

233 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/22(日) 14:01:16.70 ID:S0LjOGb+0

『……少し、考える。時間をくれ』

 ともあれ内容は理解できた。大淀が言っているのは、つまりこういうことだ。「佐世保や呉、パラオの行動理念と、我々CSARの行動理念は違うのではないか」。
 深海棲艦を撃滅せんとする彼女たちと、隊列から落伍した兵士を救わんとする私たちでは、当然倫理や規範、規準が変わってくる。作戦の大義の中にあってなお、我々が追求すべきは果たしていかなるものなのか、大淀は問うているのだ。
 救助部隊と言えど、第一線に立って砲を打ち、機銃を構えることはできる。援護が一人でも欲しい場面は多いだろう。その場に私たちがいたとして、同時に負傷者が海に浮かんでいたとすれば、さてどちらの選択をとればいいのか。

 銃後の存在と言えども、前線に立てるのがCSARの存在意義。追加の戦力として期待されるだけなら、別段「浜松泊地」でなくてもよくて、どこか他の基地から数人を引っ張ってくればいいだけの話なのだ。
 後藤田提督は嘗て私に言った。今日を生き延びる気のない人間を仲間にはしないと。それは決して仲間を見捨てて逃げろと言う意味ではないはずだ。

234 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/22(日) 14:01:46.16 ID:S0LjOGb+0

 大淀は静かに了承の言葉を唱えた。あとに続くものはいない。

『……それじゃあ、各自、また会おう』

 通信が切れる。

 私は大きく呼吸した。

 新鮮な空気を頭に取り込む。活性化させる。明朗化させる。始まってから、動き出してからおっつけたのでは間に合わない。微々たる準備でさえ大きな差が開く。私はそのことを知っている。
 現状敵戦力の多寡や目標はわかっていない。ならば考えることは他にある。艦娘の運用方法、指揮系統、それらに対する心構えと交戦規定の再確認。

 基本的に艦娘は出撃と休息を一定の間隔で繰り返す。作戦と動員の規模にもよるが、過去に私のいた泊地では、最も忙しいときで六時間ごとの交代頻度だった。人手が足りていたり敵の数が少なければ一日、もしくは一日半の休息を挟むこともあった。
 今回はどうか。哨戒班が交戦したという敵群が本当に件の「イベント」のものなのであれば、規模は最悪で極大を想定してもよさそうだ。
 大規模作戦の裏をかかれた本土襲撃は数年前であっても記憶に新しい。あれに匹敵するならば一日三交代、あるいは四か……?

235 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/22(日) 14:04:55.67 ID:S0LjOGb+0

 しかし、とはいえ、ここは佐世保鎮守府。何も総勢二十四名でことにあたらなければならないわけではない。そもそも私たちは救難救助がメイン、出撃のスパンは異なるだろう。
 
「山城」

 壁に背中を預けながら、こちらへと手をひらひらさせるのは不知火だった。ゼリーの袋を咥えて、もう中身はないのだろう、空気を送り込んでぺこぺこ音を鳴らし遊んでいる。

「いっきに騒がしくなったわね」

「仕方がありません。やっこさんも、せめて昼に出会ってくれればいいものを」

 夜の戦闘は聊か勝手が違う。空母の大半は夜目が効かないし、照明弾や探照灯がなければ誤射の可能性も上がる。そして私たちだって、捜索に悉く難儀するだろう。
 この騒がしさや慌ただしさが杞憂とまではいかなくとも、せめて一時のものであればどんなにいいか。

「当たりを引いたってことよ。それとも、外れ?」

「ま、早く帰られるならそれに越したことはありませんね」

236 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/22(日) 14:05:40.80 ID:S0LjOGb+0

「それもそうだけれど」私は唇を湿らせて、宙を仰ぐ。「最初のブリーフィングのときに説明された海域の図を覚えている?」

「台湾とフィリピン……東シナ海からインド洋まで」

「かなり広範に渡るわ。それをローラー作戦で絞り込んでいくと言う話だったはず」

「そうですね」

「随分と接敵が早かったと思ってね。そもそも、交戦した敵群が本当に『イベント』の作戦群だという根拠はあるのかしら?」

「事前調査はパラオと佐世保が行っていたはずです。本部の主導で。本来当該海域には出現しないと目されているタイプの深海棲艦、それが発見されたために優先度が上がったと聞きましたが」

「聞いた? 誰から?」

「青葉です」

 ぺこっ、ぺこっ。不知火は膨らませたり凹ませたりをやめる気配がない。

「……不快ですね。実に、不快です」

「不知火?」

「失礼。不知火と大鷹は、重要な作戦というものに嫌な過去がありまして」

237 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/22(日) 14:07:16.21 ID:S0LjOGb+0

「……私だって、そうよ」

 裏切られたり、いいように使われたり。そんなものには飽き飽きしている。
 結局のところ私たちなぞ一介の兵士でしかないのだろう。大局的な視点を持たず、右往左往するだけの愚かな生き物。少なくとも、一部の上層部はそう考えているに違いない。
 そうでなければ、私も、不知火も、大鷹も、ここにはいない。

「腹が立つわね」

 零れた言葉に、不知火が怪訝な目でこちらを窺ってくる。

 業腹だった。実に、業腹だった。それは。
 この世にはどうしようもないことが数多く、本当に夥しいほどあって、だから古今東西問わずにこの世の理不尽や不条理を描いた絵、唄った詩が山積している。それらは時代と人によってさまざまで、社会構造や身分階級、性別、成功と失敗、

 ……幸運と不幸。

 どうしようもないことをどうしようもないとして生きていくのは、実に簡単なことだった。全てのあらゆる困難に立ち向かうことは、恐らく、熱量的に不可能だから。
 それでも――それだからこそ、私は幸せを求める。

238 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/22(日) 14:07:43.55 ID:S0LjOGb+0

「時間です」

 不知火がついに空き容器をゴミ箱へ放り込んで言った。空中を二度タップするとログイン画面が表示され、その右隅には現在時刻が示されている。
 いきましょう。不知火に促されて私たちは会議室へと向かった。指示通り、定刻の五分前。

 既に会議室はごった返していた。佐世保、呉、パラオ。一通りそろっている。CSARの面々も、一塊になって席を陣取っていた。大淀と青葉がまだ来ていないようだ。
 私たちの姿を見つけてポーラはひときわ大きく手を挙げた。さすがに酩酊はしていないようだ。柔らかな美少女の姿がそこにある。
 後藤田提督は軽くこちらに目をやっただけで、腕を組んで何か難しい顔をしていた。そんな彼の様子を察してか、グラーフと大鷹もまた落ち着かないふうに見える。

 加賀もいた。目を瞑って微動だにしない。隣には呉の杉崎提督がいて、後藤田提督と同じような思案顔。
 パラオの霧島はまだ来ていなかった。空席を隣において、敦賀提督が忙しく爪を噛んでいる。苛立っている? 焦っている? わからない。
 夕立と三神提督は何やら話し込んでいた。どちらも和気藹々としていて、この二人の周囲だけが少し空気を変質させている。佐世保というホームだからなのか、緊張というものと無縁なだけなのか。

239 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/22(日) 14:08:40.65 ID:S0LjOGb+0

 時間になった。ベルが鳴る。

 いつの間にか来ていた青葉、大淀、そして霧島の三名が、扉を閉める。

「さて、皆さん」

 大淀が一際とおる声を投げかけると、それまで喧噪に包まれていた会議室内が、しぃん、水を打ったように静まり返る。だがそれは、不思議な静けさだった。誰もが大淀の言葉を待っているというよりは、寧ろ……。

「どうして、大淀が……?」

 不知火が呟く。

 そうだ。その通りだ。
 この会議室の殆どの人間が、だからこそ、その思いで大淀を見ていることは明白だった。

 即ちこの静寂の正体は困惑。

240 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/22(日) 14:09:06.89 ID:S0LjOGb+0

「――たった今この部屋の通信網を一時的に隔離しました。外部と連絡はできません。拳銃もセーフティはおりません」

 は?

「青葉さん」

「はいっ!」

 青葉は鋭く応じて、

「みなさん、我々は嵌められています。この作戦は仕組まれたものです」

 と、言った。
241 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2020/03/22(日) 14:10:27.32 ID:S0LjOGb+0
―――――――――――――
ここまで

速度あげてこ

待て、次回。
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/22(日) 18:00:17.44 ID:1XPuRI6Lo
お疲れ様です
舞ってる次回
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/23(月) 03:55:07.81 ID:ATBK6/9Vo
乙。

ファッ!?
何か陰謀の臭い!
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/17(日) 15:45:49.76 ID:qcEHSx0So
まつわ
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/12(土) 22:02:42.15 ID:U5lsmz7k0
もうこないのか……
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/14(月) 15:04:09.52 ID:7v6ZoaRyo
来て欲しいが、主にも色々あるんだろう
信じて待つしかない
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/14(月) 23:07:56.51 ID:tUnmGxVro
他のSSで一から書き直してるっていってたからゆっくりかな。
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