眼鏡娘「私は重力が嫌い」

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58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/20(火) 22:21:44.24 ID:vVwEFBbDO
乙でした
続きが気になるので次も期待してます
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/21(水) 17:47:57.78 ID:gsrS2n4I0
面白そう
60 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 07:44:12.73 ID:QgvHefg/O
ーーー翌日 学校ーーー

ガラッ!

男「っとー!危ない危ない間に合った!」

「あー!惜しい、後2分だったのになぁ」

「賭けは俺の勝ちだな」

男「?何の話?」

「いや男が珍しく来ないから遅刻するかしないかで飲み物賭けてたんだわ。…何で遅刻しなかったんだよっ」

男「勝手に賭けの対象にしといて何という言い種…」

ピロリン

男「ん?」スッスッ



眼鏡★娘『今日は遅れて登場だね。昨日のサプライズ大失敗した件遅刻しちゃうほど落ち込んじゃったの??』



男「……」チラッ

眼鏡娘「」ニヤニヤ

男「………」



男『単に寝坊しちゃっただけだからなー!あとその話、昨日「気持ちだけでも嬉しい」みたいなこと言ってくれてたのに、なぜ今蒸し返したし』

眼鏡★娘『嘘じゃないよ?でも男くんにはいつもいじられてばっかりなんだもん。こうやっていじり返すネタの一つは持っとかなきゃ』

男『大人しくいじられてなさい』

眼鏡★娘『いやですー』


61 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 07:46:32.50 ID:QgvHefg/O

男「……フッ」

男(…あ、そうそう)



男『そういえばさ、面白い噂聞いたよ』

眼鏡★娘『噂?』

男『うむ。知ってる?』

眼鏡★娘『知ってるような知らないような、かといって知らないようなやっぱり知ってるような…』

男『……知ってるならいっか』

眼鏡★娘『ねー冗談だよ!噂とか知らない!どんなの?』

男『なんでもさ、"願いを叶えてくれるアプリ"っていうのがあるらしいよ』



眼鏡娘「……願い……」

眼鏡娘(そういえば……)



ーーーーー

男「──これが"願いを叶えてくれるアプリ"?」

ーーーーー



眼鏡娘(あの時も、そんなことを言っていたような)



ーーーーー

元気娘「──付き合ってるんだしさ!」

ーーーーー



眼鏡娘(……あんまり思い出したくない記憶だけど)



ガララ



先生「うーす、始めるぞー」

眼鏡娘「!」



眼鏡★娘『先生来ちゃったね。また後でその話聞かせて』

男『おう』


62 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 07:47:43.03 ID:QgvHefg/O

先生「はいはい、出席なー」

先生「同級生A」

「はい」

先生「同級生B」

「はーい」

眼鏡娘(願いを叶えてくれる、か)

眼鏡娘(もしかして私がこの時間をやり直せてるのは、そのアプリのおかげだったりするのかな)

先生「──元気娘……は居ないんだったな」

「あれ、珍しいですね?」

「元気娘ちゃん何かあったんですかー?」

眼鏡娘(あ、ほんとだ。あの子今日いない)

先生「あー……そのだな、元気娘なんだが……」

先生「今朝家の人から連絡があってな──」





先生「昨日、駅の階段で足を滑らせて今も眠ったままらしい」





「え…!?」

「そんな、元気娘さん……」

「嘘でしょ…」

ザワッ...

先生「命に関わる怪我はしてないそうだ!」

先生「彼女は今、都立西病院に入院してる。小康状態に入ったから、行けばお見舞いくらいは出来るだろうと思う」

先生「……今日くらいは特別に早退を許す。行きたいものが居たら申し出てくれ」

眼鏡娘「……」

眼鏡娘(………)

眼鏡娘(………)





眼鏡娘(ふーん)




63 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 07:48:46.27 ID:QgvHefg/O

眼鏡娘(………)

眼鏡娘(………)

眼鏡娘(………え)

眼鏡娘(待って…待って待って…!)

眼鏡娘(今、私何を考えた…?)

眼鏡娘(元気娘ちゃんは私の一番の友達)

眼鏡娘(そんな子が大怪我して寝たきりになってる)

眼鏡娘(普通なら心配するよね…?不安で不安でしょうがなくなるよね…?)

眼鏡娘(なのに私、今……)

眼鏡娘(──せいせいしたとか思った…?)

眼鏡娘「……」ドクンドクン

眼鏡娘(おかしい……おかしいよ…!)

眼鏡娘(元気娘ちゃんのことが嫌い?ううんそんなこと絶対にないはず……じゃあこの黒い気持ちは何…?)

眼鏡娘(まるで私が私じゃないみたい…)

眼鏡娘(思い返してみれば不自然なことがたくさんある)

眼鏡娘(図書委員のお手伝い断ったり、素っ気ないLINEを返したり、他にも……元気娘ちゃんのことを避けるような行動ばっかり……)

眼鏡娘(極めつけはさっき。先生が出席をとるまでいないことにすら気付かないなんて…)

眼鏡娘(大体前の時は元気娘ちゃんが階段から落っこちることなんてなかった……)

眼鏡娘(……違う、そうじゃない)

眼鏡娘(そもそもこの巻き戻り自体がおかしいんだ)

眼鏡娘(ここまで何の抵抗もなく受け入れてきちゃったけど、この、言わば"二周目"の世界そのものがおかしいんだよ)

眼鏡娘(こんな夢みたいな、都合のいいこと現実には起きない……でも私に起きてる)

眼鏡娘(何かあるはず……二周目になって現れた変なものや変なこと……何か……)


64 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 07:51:20.40 ID:QgvHefg/O

眼鏡娘「………」

眼鏡娘「……………!」

(机の下にスマホを取り出す)

眼鏡娘「」スッスッ



◆Gravities◆ INFLUENCER:眼鏡娘
━━━━━━━━━━━━━━━━━
NAME     STATUS
━━━━━━━━━━━━━━━━━
男       Gravity
元気娘     AntiGravity
眼鏡娘母    OFF
眼鏡娘父    OFF
同級生A     OFF
 ・      ・
 ・      ・
 ・      ・



眼鏡娘(………まさか………)

眼鏡娘「……」

スッ



『元気娘     OFF』




眼鏡娘「……」

スー...

眼鏡娘「!」

眼鏡娘(胸の中に溜まってた黒いモヤモヤがなくなった……)

眼鏡娘(やっぱりそうなんだ…!このアプリ、普通のアプリじゃない)

眼鏡娘(INFLUENCERは直訳で影響者。それが私で、AntiGravityはGravity──重力、つまり引力の反対の意味だから……)

眼鏡娘(私は元気娘ちゃんから遠ざけられていたってこと……?そういう行動をとるように操られてたの…?)

眼鏡娘「……」ジッ

眼鏡娘(……なら、男くんのGravityは……)


65 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 07:52:31.21 ID:QgvHefg/O

先生「──連絡事項は以上だ。一限の用意しとけよ」ガララ



「…元気娘ちゃん大丈夫かな」

「心配で泣きそう…」

「お前、早退してお見舞い行って来れば?」

「何で俺が…」

「…好きなんだろ?」

「うぉい…!こんなとこで言うなよ…!」



眼鏡娘(………)

ピロリン

眼鏡娘(!)



男『大丈夫?元気娘さんと仲良かったんだよね?早退する?』



眼鏡娘「……」スッスッ



眼鏡★娘『うん。行く。でも早退は午後になってからにする。お昼休み、男くんに話しておきたいことがあるから』

男『分かった』

男『けど無理するなよ。行きたくなったらいつでも行っていいからな』



眼鏡娘「………」

眼鏡娘(………)




66 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 07:53:37.71 ID:QgvHefg/O
ーーー昼休み 外階段踊り場ーーー

男「──つまり、眼鏡娘は未来からやって来た……って?」

眼鏡娘「うん」

男「………」

眼鏡娘「………」

男「…猫型ロボット?」

眼鏡娘「違います」

男「や、そんなこと言われてもさー……普通に何かのドッキリとしか思えないけどなぁ」

眼鏡娘「逆の立場だったら私もそう思うけど、お願い!本当のことなの信じて!」

男「う、うーん……」

眼鏡娘「…彼女が真剣に言うことを信用できないの?」

男「そうじゃないけど…現実離れし過ぎてて……そうだ、未来のこと言い当てられたりするの?そしたら信憑性出てくるよ」

眼鏡娘「それは……分かんない」

眼鏡娘「だってもう私の知ってる未来にはないことが起こってるから……」

眼鏡娘「あ、説得力薄いかもだけど、証拠が一応あるよ」

男「どんな?」

(スマホを取り出す)

眼鏡娘「」スッススッ

眼鏡娘「これ」

男「……"Gravities"」

男「アプリ?」

眼鏡娘「そう」

男「こいつがどうかしたん?」

眼鏡娘「聞いたことないでしょ?調べてみてごらん。多分どこにも情報出てこないから」

男「………」スッスッ...

男「……確かに」


67 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 07:54:28.37 ID:QgvHefg/O

眼鏡娘「私自身、このアプリに気付いたのは男くんと付き合い始めた日の夜だったの。その時は新手のSNSか何かかと思って放置してたんだけど…」

眼鏡娘「……朝、先生の話を聞いた時、元気娘ちゃんのこと全く心配に思わなかった自分がいたから、おかしいなと思って考えてみて、そしたら……」

眼鏡娘「このアプリの機能は多分、簡単に言うと人を好きになれたり嫌いになれたりすること」

男「えっ…?」

眼鏡娘「ほら、Gravityって重力でしょ?つまりその人に対して引き寄せられて、反対にAntiGravityっていうのはその人から遠ざかるってことなんだよ」

眼鏡娘「……元気娘ちゃんのステータスは、さっきまでAntiGravityだった」

眼鏡娘「私が最近元気娘ちゃんと一緒にいるところ見たことあった?」

男「……見てないな、そういや」

眼鏡娘「でしょ?…つまりそういうことなの。私は元気娘ちゃんを遠ざけてた。多分気付いてなかっただけで、私が巻き戻ったあの日からこの効果はあったんだと思う」

男「……じゃ、Gravityっていうのは……」

眼鏡娘「……」コクリ

眼鏡娘「…ね、男くんが朝してくれた話」

男「朝?LINEでか?」

眼鏡娘「うん。……"願いを叶えてくれるアプリ"って」

眼鏡娘「…多分これのことなんじゃないかって私は思ってる」

男「……本気か?」

眼鏡娘「だって、こんな変なアプリ知らないし……私の願い、叶えたくれたし……」

眼鏡娘「……私、前から男くんのこと好きだったの。でもずっと言い出せなくて、同じクラスなのにただ見てるだけで……話しかけるのだって緊張して自分からじゃ絶対出来なかった」

眼鏡娘「だから男くんと普通に話して、二人で遊びに出掛けて……告白もして……そんな風に変われた自分が嬉しかった」

眼鏡娘「…けど、それはきっとこのアプリのおかげ。そう実感したら、男くんが好きっていうこの気持ちも、もう本物なのか作り物なのか分からなくなってきちゃって……」

男「……」


68 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 07:55:37.87 ID:QgvHefg/O

眼鏡娘「私が前過ごしてた時間……一周目とでも言おうかな、そっちの世界では私男くんと付き合えてないの」

眼鏡娘「……男くんと付き合ってたのは、元気娘ちゃん」

男「…!」

眼鏡娘「私はやっぱり何も出来なくて、気付いたときには全部遅くて……」

男「……だったら、この世界は眼鏡娘が願ったから実現した世界だって、そう言いたいのか?」

男「眼鏡娘の時間だけが戻ったのも、俺と付き合うことが出来たのも」

男「……元気娘さんが大怪我したのも…」

眼鏡娘「違うの!!」

眼鏡娘「確かに男くんの相手が私だったらとは思った!もう一度やり直せたらいいのにって思うこともあった…」

眼鏡娘「でも元気娘ちゃんがいなくなって欲しいだなんて思ったことはなかった!!」

眼鏡娘「………なのに………」

眼鏡娘「そんなこと言ったって、元気娘ちゃんは現に大変なことになって今も病院で……」

男「……」

眼鏡娘「私のせい、なのかな」

眼鏡娘「口ではこんなことが言えても、頭では友達だとか思ってても、本当は心の底では……元気娘ちゃんのこと、憎く思ってたのかな…」

眼鏡娘「──男くんを奪った、あの子を」

男「眼鏡娘……」

眼鏡娘「だとしたら、私って……こんな醜い人間だったんだね」

眼鏡娘「好きな人を奪うために、友達を平気で切り捨てるような」

眼鏡娘「そんな、クズ」


69 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 07:56:48.58 ID:QgvHefg/O

男「……」

眼鏡娘「……」

眼鏡娘「………」

ツー...

男(…!)

眼鏡娘「……」ポロ..ポロ..

眼鏡娘「……私、もう分かんない……」ポロポロ

眼鏡娘「自分がどんな気持ちを持ってるのか……この世界が何なのか……」ポロポロ

眼鏡娘「全部、分かんないよぉ……」ポロポロ

男「……」

眼鏡娘「グスッ……エグッ……」ポロポロ

男「………」



...ギュ



眼鏡娘「──…」

男「……落ち着きなって。眼鏡娘らしくもない」

男「よく考えてみな。眼鏡娘が俺のこと好きだって思ってくれてたのは、前からだったんだろ?」

眼鏡娘「……うん」

男「なら少なくとも、その気持ちは作り物じゃないんじゃないか?所詮あのアプリは眼鏡娘のその気持ちを後押ししただけで……多少強弱をつけたりはしたのかもしれないけど」

男「…そう考えた方が、自然だろ」

眼鏡娘「男、くん…」

男「……あー、それに、さ」

眼鏡娘「…?」

男「今の俺は、眼鏡娘のことが好きだ」

男「奪うとか、奪われたとか、俺にとっちゃ関係ないよ。だってこの世界の俺の彼女はお前だけだから」

眼鏡娘「………泣く………」

男「えぇ!?」

眼鏡娘「嬉しくて…!」ギュー

男「……」

男「……」ナデナデ

眼鏡娘「」ギュー


70 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 07:57:47.50 ID:QgvHefg/O

眼鏡娘「……男くんは、私の話信じてくれたの?」

男「信じたとしたら、こう言うだろうなってのを言ってみたんだ」

眼鏡娘「なにそれ」クスッ

男「……正直、元気娘さんがああなった理由は俺にもよく分からん」

男「ただの偶然か、あるいは本当に眼鏡娘が願ったからそうなったのか……」

眼鏡娘「………」

男「……というか、だ」

男「そもそもこの世界自体、眼鏡娘が願ったから生まれたものじゃないかもしれないよ?そのアプリだって"願いを叶えてくれるアプリ"と何の関係もなくて、誰かのイタズラかもしれないし」

男「それにさ、元気娘さん生きてるじゃん」

男「それこそ眼鏡娘があの子のこといなくなって欲しいって願ってたなら、この世界に来た時点で元々いないだとか、命を落とすだとか、そういう未来だってあり得たわけだろ?」

男「ただの偶然の可能性の方が高いと思うし、仮に眼鏡娘が願ってそうなったんだとしても、元気娘さんは生きてるんだから、心の中では生きてて欲しいって思ってたんだよ」

男「な?」

眼鏡娘「──」

眼鏡娘「」カオウズメ

眼鏡娘「……男くんに打ち明けて正解だった」

男「どうよ、俺の推理力」エッヘン

眼鏡娘「……惚れ直したよ…?」ウワメヅカイ

男「…っ」ドキッ

男「……そっか」

眼鏡娘「……」

眼鏡娘「……いつもいつも、助けてくれる」

眼鏡娘「男くんは私のヒーローだよ」ニコッ

男「…おう」

男「呼べばいつでも……なるべく駆け付けてやる」

眼鏡娘「そこは嘘でも断言してよ」フフッ

男「努力する」ヘヘ


71 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 07:58:44.01 ID:QgvHefg/O

男「……それでさ、俺は何をすればいいんだ?」

眼鏡娘「?」

男「嘘か本当かは置いていて、そんな重大なことをわざわざ俺に話してくれたんだから、何か協力して欲しいことがあったんじゃないのか?」

眼鏡娘(……)

眼鏡娘「ううん。男くんにだけは話しておきたかっただけ。私の身勝手に巻き込んじゃった人だから」

男「身勝手なんて言うな」ピシッ

眼鏡娘「あうっ」

男「迷惑かどうかなんて俺が決めることだ。俺にとっちゃむしろ……」

男「そんなに好いてくれて超嬉しい、かな」

眼鏡娘「またそんなこと言って…」

眼鏡娘(……そういうところに、私は惚れたんだよね)

眼鏡娘「……大丈夫。私が何とかする」

眼鏡娘「これは私の問題だから、私が解決させなきゃいけないの」

眼鏡娘(絶対誰も不幸にしないように)

男「……辛くなったらすぐ呼べよ」

眼鏡娘「平気だよ。男くんがいてくれるだけで、私はいくらでも頑張れるから」

男「それは無理をします宣言に聞こえるけど?」

眼鏡娘「心配し過ぎ!男くんはちゃんと私の彼氏でいてくれればいいの!」

眼鏡娘「そうだ、今度また遊びに行こう?この季節だし、ふらっと遊ぶんじゃなくてどっか遠出してみたい!」

男「遠出?んー……」

男「ん!いいのがあるよ。ベタなもんだけど、夏祭りとかどう?」

眼鏡娘「いい…賛成」

男「ちょっち日は遠いけどね。今月末にさ、南町の方でやってるやつ。神社のある小さい山でやるんだけど、境内までの長い階段に沿って屋台が並ぶんだって」

男「俺は普通に見てみたい」

眼鏡娘(それって…)



ーーーーー

眼鏡娘(──丁度夏休み中にやってるこの夏祭り。これに男くんを誘おう)

ーーーーー



眼鏡娘(同じだ)


72 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 08:00:43.87 ID:QgvHefg/O

眼鏡娘「……ふふ、私も気になる」

男「よっし。夏休みの楽しみがまず一つ出来たな!」

眼鏡娘「ね♪」



キーンコーンカーンコーン



男「予鈴か。もう戻らないと」

男「眼鏡娘は病院に?」

眼鏡娘「うん。先生に一言言ってからね」



テクテク



男「……」

男(……)

男「……あのさ、気になってたことがあるんだけどさ」

眼鏡娘「ん?」

男「さっきのアプリ、元気娘さんのステータス?はOFFにしたって言ってたよね?」

眼鏡娘「そうだよ。見たでしょ?」

男「……なんで俺はGravityのままなんだ?」

ピタッ

眼鏡娘「………」

男「眼鏡娘?」

眼鏡娘「……………」

男「…もしかして、変えちゃまずいことがあるのか?」

眼鏡娘(………)

男「今度は俺が酷い事故に遭うとか──」

眼鏡娘「………ったから………」ボソッ

男「え?」


73 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 08:02:03.12 ID:QgvHefg/O

眼鏡娘「………」モジモジ

眼鏡娘「……男くんともうちょっと、引かれ合っていたかったから……」

眼鏡娘「……//」カアァ

男「……」

男(めっちゃかわいい)

男「」ホッペツン

眼鏡娘「ひゃっ!?」

男「いやほんと、眼鏡娘がこんなかわいい子だとは最初会った時からは想像もつかなかったよ」

男「写真撮っとけばよかったなぁさっきの。絶対消さないし、後で面白いくらいいじれたろうになー」

眼鏡娘「……〜〜!」

眼鏡娘「も、もう行く!」タッタッタッ

男「あ!気を付けてなー!」



タッタッ...



男「……後でLINEでいじり倒してやろ」

男「……」



ーーーーー

眼鏡娘「──男くんが好きっていうこの気持ちも、もう本物なのか作り物なのか分からなくなってきちゃって……」

ーーーーー



男(それでも俺は、眼鏡娘の味方で居続けるから)

男「…いや、この場合はヒーローか」フッ




74 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 08:03:26.85 ID:QgvHefg/O
ーーー病院ーーー



テクテク



眼鏡娘「……」テクテク

眼鏡娘「……」テクテク

眼鏡娘「……」テク...



ドアプレート『106』



眼鏡娘「……ここだ」

眼鏡娘(………)



ガチャ...



眼鏡娘「失礼します……」

眼鏡娘「……っ」





元気娘「……」スー..スー..





眼鏡娘「元気娘、ちゃん……」

眼鏡娘(包帯……固定具……点滴……)

眼鏡娘(あんなに元気だったのに……こんなの……)

眼鏡娘「……私、元気娘ちゃんのこと好きだよ」

眼鏡娘「嫌いだなんて思ったこと一回もない。ましてやいなくなって欲しいなんて……」

眼鏡娘「でも私はあなたに酷いことをした」

眼鏡娘「男くんは偶然だって、そうでなくても私が自分を責めないように慰めてくれたけど、この現実を引き起こしたのは間違いなく私」

眼鏡娘「時間の巻き戻りなんて不自然が起きても、自分に都合のいいように流されてただけの私が引き寄せた…」

眼鏡娘「……ごめんね……」

眼鏡娘「目覚ましたらちゃんと全部話すから」

眼鏡娘「きっと謝って許されるようなものじゃない……それでも」

眼鏡娘(…それで元気娘ちゃんに軽蔑されることになっても……)


75 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 08:04:31.89 ID:QgvHefg/O



コンコン



眼鏡娘「?…はい」

ガチャリ

看護師「あら、お友達かしら?」

眼鏡娘「そうです」

看護師「学校はお休み?」

眼鏡娘「……早退したきたんです」

看護師「そう……この子も喜んでるかもね」

看護師「ごめんね、少し失礼して…点滴を変える時間なのよ」スススッ

眼鏡娘(……喜んでる……?)

眼鏡娘(もし起きてたらいつもみたいに笑って迎えてくれたのかな)

眼鏡娘(…それがどんなに酷い怪我でも…)

眼鏡娘「……?」

眼鏡娘(あそこの小棚の上…綺麗な包み)

眼鏡娘(先にお見舞いに来た人が置いてったのかな)

看護師「──その包みが気になる?」

眼鏡娘「え!…あ、どなたの贈り物なのかと…」

看護師「違うのよ」

看護師「それはね、この子が事故のあったその時に持っていたものらしいの」

看護師「私物でもなくて、誰かへのプレゼントみたいだったから、ここに置くことにしたんだって」

看護師「…起きたら、そのお相手さんがそばにいてくれるといいわね」

眼鏡娘「………」

眼鏡娘「…!!」

眼鏡娘(あの包装…)

看護師「これでおしまい。…早く元気になって欲しいわね」

眼鏡娘「…はい」

看護師「私は失礼するね。何かあったら呼んでね」

ガチャ パタン


76 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 08:05:30.69 ID:QgvHefg/O

眼鏡娘「………」

眼鏡娘「……」ソー...

(包みを手に取る)

眼鏡娘(…やっぱりそうだ)

眼鏡娘(これ、あの時元気娘ちゃんがくれた髪留めの……)



ーーーーー

元気娘「──ずっと友達でいようねっ」

ーーーーー



眼鏡娘(……私……何度もあなたの想いを踏みにじってきちゃったのに……)

眼鏡娘(あなたはずっと………)

眼鏡娘「……」グッ...

眼鏡娘(こんなこと、二度と起こさない)

眼鏡娘(私自身の手で打破しないと!)

眼鏡娘「……」

眼鏡娘(そのためにはどうしたらいい?あのアプリを調べる?……ううん、それは学校の授業の間に散々やった)

眼鏡娘(ステータスを無闇に変えるのは怖かったからそんなに徹底的にとは言えないけど)

眼鏡娘(……もっと他にあるはず。一周目と二周目の根本的な差異……)

眼鏡娘(ここまで捻じ曲がった未来を呼び寄せることになった原因が)

眼鏡娘(考えて……考えるのよ……!)

眼鏡娘「………」

眼鏡娘「………」

眼鏡娘「……………」

眼鏡娘「……………」

眼鏡娘(……………!)



ーーーーー

黒猫「──ナーオ」トコトコ

ーーーーー



眼鏡娘(そうだ……時間が巻き戻って、最初に一周目との違いがはっきり現れたのは、あの黒猫……)

眼鏡娘(あの子のおかげで私はこの世界で男くんと仲良くなるきっかけが出来た)

眼鏡娘(二人組に襲われそうになってた時もそう。二周目では代わりに男くんが来てくれた)

眼鏡娘(…そこで私は告白した)

眼鏡娘「……あの猫ちゃんが、何か知ってる」


77 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 08:06:46.34 ID:QgvHefg/O

眼鏡娘(動物を疑うなんて、普通なら考慮すらしない。でも今起きてることは普通じゃない)

眼鏡娘「探そう」

眼鏡娘(見つけて、何が起きてるのか訊いて…この奇妙な現実を正す方法を、教えてもらう)

眼鏡娘「」スクッ

眼鏡娘「……」

元気娘「……」スー..スー..

眼鏡娘「…待っててね」







ーーー学校からの帰路ーーー

眼鏡娘「」キョロキョロ

眼鏡娘「…いないかな…」

眼鏡娘(私が二人組に声を掛けられた道。あの黒猫に初めて出会って……男くんの彼女になることが出来た道)

眼鏡娘(私にとって特別なこの場所に、もしかしたらって来てみたけど…)

眼鏡娘「そうそう上手くはいかないよね…」







ーーー学校 昇降口ーーー

「──それでさ、この前なんかもうめちゃくちゃ!部長キレてたし──」

「災難だったねぇ。一年生何もしてないのに──」



ガヤガヤ



眼鏡娘(丁度学校終わったところなんだ)

眼鏡娘「……」スタスタスタ

眼鏡娘(…前はこっちの茂みの方から出てきたんだっけ)

ガサ..ガサ..

眼鏡娘「…おーい、猫ちゃんいるー?」

シーン

眼鏡娘「………」

眼鏡娘(……もうちょっと周りも探してみよ)




78 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 08:10:41.83 ID:QgvHefg/O
ーーー駅前ーーー

眼鏡娘「……」テクテク

眼鏡娘「……」テクテク

眼鏡娘(……)

眼鏡娘「」チラッ..チラリ

眼鏡娘(……いない)







ーーー最寄駅からの帰路ーーー

眼鏡娘「……」テクテク

眼鏡娘「」キョロキョロ

眼鏡娘「………」

眼鏡娘「……」テクテク

眼鏡娘「」キョロキョロ

眼鏡娘「……どこ……?」

眼鏡娘「どこにいるの…?」







ーーーーーーー

眼鏡娘「……」トボトボ

眼鏡娘「……」トボトボ

眼鏡娘(…見つからない)

眼鏡娘(普通に考えればどこにいるかあてもない猫ちゃん一匹を探し出すなんて、すぐには無理だよね…)

眼鏡娘「………」

眼鏡娘(もう日も暮れちゃう)

眼鏡娘「……今日は帰ろう……」

眼鏡娘(明日学校の子たちにも訊いてみようかな。迷子の猫なんです、て言えば変じゃないよね)





「ナーオ」




79 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 08:12:23.43 ID:QgvHefg/O

眼鏡娘「!!」フリムキ

黒猫「……」

眼鏡娘「あ……!」

黒猫「……ミャー」

眼鏡娘「…ねぇ、あなたに訊きたいことが──」テク...

黒猫「」サッ!

眼鏡娘「!ま、待って…!」



タッタッタッ...







ーーーーーーー

黒猫「」スタッ、スタッ

眼鏡娘「はぁ……はぁ……」タッタッ

眼鏡娘「ねぇ待ってよ…!」タッタッ

黒猫「」スタッ、スタッ

眼鏡娘「お願い……だから……!」タッタッ

眼鏡娘(もう……だめ……肺が弾けそう……)

眼鏡娘(運動なんて得意じゃないのに…!)

黒猫「」ピョンッ

眼鏡娘「─!」タッ...

眼鏡娘(…あんな…高い塀の上に……)

眼鏡娘「はぁ……はぁ……はぁ………」

眼鏡娘「すぅー……はー……」

眼鏡娘「はぁ……ふぅ……」

黒猫「……」ジッ

眼鏡娘「……」

黒猫「……」

眼鏡娘「…そこまで行かなきゃだめ?」

黒猫「………」

眼鏡娘「あなた、知ってるんだよね?」

眼鏡娘「私に起きてることについて」

黒猫「……」

眼鏡娘「教えて欲しいの!」

眼鏡娘「この世界は何?どうして私は時間を遡ったの?あの変なアプリは何か関係があるの?」

眼鏡娘「──どうすれば元の日常が戻ってくるのっ?」


80 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 08:13:38.99 ID:QgvHefg/O

黒猫「……」

眼鏡娘「……」

黒猫「」ケヅクロイ

眼鏡娘「……」

黒猫「」クシクシ

眼鏡娘「……えーと……」

黒猫「フミャー…」ノビー

眼鏡娘「聞こえてる、よね…?」

黒猫「……」

黒猫「」ピョンッ

眼鏡娘「!待っ──」




スタッスタッスタッ...



眼鏡娘「──て……」

眼鏡娘「………」

眼鏡娘(行っちゃった…)

眼鏡娘「……」

眼鏡娘(……何も答えてくれなかったな)

眼鏡娘(私の言ったこと、聞いてたのかも怪しいし…)

眼鏡娘(……一つ分かったことは……)

眼鏡娘「………」

眼鏡娘(さっきの私、必死に猫に話しかけるちょっと痛い人にしか見えないってこと)

眼鏡娘(………なんで?)

眼鏡娘(違う猫ちゃんだったのかな)

眼鏡娘(けどあの黒猫だけは見間違えることないはず…)

眼鏡娘(それとも)

眼鏡娘(……私の考えが、全くの見当違いだった……?)

眼鏡娘「……うぅー……」

眼鏡娘(どうしよう…)

眼鏡娘(弱気になっちゃダメって、頭では分かってるのに……)

ピロリン

眼鏡娘「……」...スッスッ



眼鏡娘母『いつまで遊んでるの?早く帰ってきなさい』



眼鏡娘「……はーい」




81 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 08:14:47.31 ID:QgvHefg/O
ーーー数日後ーーー

眼鏡娘「……」テクテク

眼鏡娘(……)

眼鏡娘「……」テクテク

眼鏡娘(……あれからもう半月ほど経った)

眼鏡娘(世の学生は夏休みに入って、皆思い思いの時間を満喫してる時期)

眼鏡娘(……私は、ずっと現況を解明する方法を探してた)

眼鏡娘(でも進捗はかけらも無し。前逃げられてからあの黒猫とは会えてないし、入れたままの例のアプリについても何も分かってない)

眼鏡娘(それに時間を割いてるせいで、男くんと遊ぶ頻度も減っちゃった)

眼鏡娘(私の様子から何となく察してるのかな、男くんは付かず離れず、居心地のいい距離で私と接してくれる)

眼鏡娘(……逆に私がそろそろ限界来そう……男くんに引っ付いてたい)

眼鏡娘「」ブンブン

眼鏡娘(Gravityのせいかな、これ……)

眼鏡娘「……」...テクテク

眼鏡娘(……元気娘ちゃんは、まだ目を覚まさない)

眼鏡娘(少しずつ回復に向かっていってはいるらしいけど、なら尚更なんで起きないのか…)

眼鏡娘(お医者さん曰く、こういうことは珍しくはないとのことで……でも私は底の見えない焦燥に駆られる……)

眼鏡娘(さっきお見舞いに行ったときなんか、今にも起き上がってきそうな顔色だったのに)

眼鏡娘「……」テクテク

眼鏡娘(……いたずらに時間が過ぎていく……)

眼鏡娘(……)

眼鏡娘(…明日は男くんと夏祭り)

眼鏡娘(でもこんなんじゃ、とてもじゃないけど心から楽しむなんて出来ないよ…!男くんに嫌な思いさせちゃう…)


82 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 08:15:53.77 ID:QgvHefg/O

眼鏡娘「……」テク...

眼鏡娘(………)

眼鏡娘「……」ゴソゴソ

スッスッ、スッ



◆Gravities◆ INFLUENCER:眼鏡娘
━━━━━━━━━━━━━━━━━
NAME     STATUS
━━━━━━━━━━━━━━━━━
男       Gravity
元気娘     OFF
眼鏡娘母    OFF
眼鏡娘父    OFF
同級生A     OFF
 ・      ・
 ・      ・
 ・      ・



眼鏡娘「………」

眼鏡娘(これが……いけないのかな)

眼鏡娘(このアプリのせいで、元気娘ちゃんを避けて、男くんに近付くことが出来た)

眼鏡娘(その結果、元気娘ちゃんは怪我を負って、男くんとは恋人になった)

眼鏡娘(……つまり)

眼鏡娘(このアプリが全ての元凶……?)

眼鏡娘(なら)

スッ



『男       OFF』



眼鏡娘(全員OFF……これが本来の状態……このまま)

眼鏡娘(……これを、消しちゃえば……)


83 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 08:17:46.78 ID:QgvHefg/O

眼鏡娘「……」トクン..トクン..

スッ、スッ



━━━━━━━━━━━━━━━━━
 "Gravities"を削除しますか?

   削除   キャンセル
━━━━━━━━━━━━━━━━━



眼鏡娘「……」ドクン..ドクン..



スッ...



スマホ『削除しました。』



眼鏡娘「………」

眼鏡娘「……ふぅ」

眼鏡娘(これで…いいのかな……)

眼鏡娘(こんなに呆気なく解決してくれるなら言うことなしなんだけど)

眼鏡娘(……大丈夫だよね、きっと)

眼鏡娘(これで異物は取り払ったもの。もう何も起こらない)


84 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/23(金) 08:18:38.29 ID:QgvHefg/O

眼鏡娘「……んー……」

眼鏡娘(釈然としない気持ちの悪さが残る……)

眼鏡娘(Gravities……重力……)

眼鏡娘(趣味の悪い名前)

眼鏡娘「…重力は嫌いって言ってるのに」

眼鏡娘(今なんてもう──)





眼鏡娘「こんな世界から私が浮きたい気分」





眼鏡娘(……けどとにかく)

眼鏡娘(消したものは消した)

眼鏡娘(今更くよくよしたって意味ないんだし、切り替えていこう)

眼鏡娘(明日のお祭り……ふふ、男くんと屋台回ってるの想像したら、少し楽しくなってきちゃった)

眼鏡娘(久しぶりに男くんとちゃんと遊ぶんだもん、目一杯楽しも!)

眼鏡娘「…♪」テクテク

テクテク...





黒猫「……」




85 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/26(月) 07:40:51.82 ID:+1MGtum3O
ーーー夏祭り当日 自室ーーー

眼鏡娘「……」スマホイジイジ

眼鏡娘「……」スッスッ

眼鏡娘「……」ススッ...



ーーーーー

男「──そんなに好いてくれて超嬉しい、かな」

ーーーーー



眼鏡娘(私は、男くんのことが好き)

眼鏡娘「……」

眼鏡娘(良かった…あのアプリを消してからすごく不安だったけど、私はちゃんと私のままだ)

眼鏡娘(………勿論、元気娘ちゃんだって、私の大切な人)



スマホ『PM 02:00』



眼鏡娘「…やっと2時?」

眼鏡娘(楽しみがあるときに限って時間て遅く感じるよね)

眼鏡娘(そのくせ楽しい時間はあっという間に過ぎる…)

眼鏡娘「相対性理論、だっけ」

眼鏡娘(って今はそんなこといいか)

眼鏡娘「ママー!浴衣ー!」

ハイハイ



.........





眼鏡娘母「……」ゴソゴソ

眼鏡娘「……」

(浴衣を着付けてもらう眼鏡娘)

眼鏡娘母「……」スッ

眼鏡娘「……」ソデトオシ

眼鏡娘(……)

眼鏡娘「ねぇ…」

眼鏡娘母「……なに?」

眼鏡娘「……何でもない……」

眼鏡娘母「そ」

眼鏡娘(…なんか今日のママ、素っ気ない…?)

眼鏡娘(普段ならからかってきたりしそうなのに)

眼鏡娘母「次、帯やるから背中向けて」

眼鏡娘「うん…」

ゴソゴソ ギュッギュ...


86 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/26(月) 07:43:49.17 ID:+1MGtum3O
ーーー駅構内ーーー



トットットッ



眼鏡娘「うぅ……油断したぁ…」トットッ

眼鏡娘(浴衣ってこんなに歩きにくかったの…)

眼鏡娘(駅まで少し歩かなきゃいけないから、いつもより余計に時間かかっちゃったよ)

眼鏡娘「あっ、向こうのホームか」

眼鏡娘(次の電車に乗れないと、20分も空いちゃう…!)

眼鏡娘「……」トットッ



トゥルルルルルルルル

『ドアが閉まります。ご注意下さい』



眼鏡娘「!…待って…!」トットットッ!



ガコン

...ガタンゴトン ガタンゴトン



眼鏡娘(…セーフ)

眼鏡娘(何とか間に合った)

乗客たち「「「……」」」ジッ

眼鏡娘「………」

眼鏡娘(…皆こっち見てる…)

眼鏡娘(浴衣で走ったりして、みっともなかったかな)

眼鏡娘(もしかして着崩れてるとか…?)

眼鏡娘「……」チラリ、チラリ

眼鏡娘(……大丈夫。どこも乱れてない)

眼鏡娘(なのに)

乗客たち「「「……」」」ジッ

眼鏡娘(なんでずっと見てくるの…?)


87 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/26(月) 07:44:41.54 ID:+1MGtum3O

眼鏡娘「……あの、何か……?」

乗客たち「「「……」」」ジッ...

眼鏡娘「………」

眼鏡娘(居づらい……移動しよ)

眼鏡娘「……」スタスタスタ



スー(隣の車両のドアを開ける)



眼鏡娘「……ふー」

眼鏡娘(ドア開ける時までこっち見てきた……何だったのかな)

眼鏡娘(後で男くんにおかしなところがないか訊いてみよ)

眼鏡娘(…変に走って疲れちゃった。座れるところあるかな──)





乗客たち「「「……」」」ギョロ





眼鏡娘「ひっ…!?」

眼鏡娘(なに…何なのっ!?)

ヒソヒソ ヒソヒソ

眼鏡娘(全員私を見てる…!)

眼鏡娘(小声で何か話してる人も…)

眼鏡娘「っ……」

眼鏡娘(怖い……怖いよ……)

眼鏡娘(早く駅に着いて……!)




88 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/26(月) 07:46:46.00 ID:+SsAg55fO
ーーーーーーー

眼鏡娘「」スタスタ

眼鏡娘「」スタスタ

眼鏡娘(お祭りは確かこっちに行けば着くはず)

眼鏡娘(早く男くんに会いたい)

眼鏡娘「」スタスタ

「……」チラリ

眼鏡娘(さっきからすれ違う人みんな必ずこっちを見ていく)

眼鏡娘(電車の人たちがおかしかったんじゃない)

眼鏡娘(……私に何があるっていうの!?)

眼鏡娘「」スタスタ

ガッ

眼鏡娘「あっ…!」ヨロ...



ズテッ



眼鏡娘「痛い……」

眼鏡娘(もうやだ……)

眼鏡娘(何で今日に限ってこんな……)

眼鏡娘「……裾汚しちゃった……」



老人「大丈夫かね、お嬢ちゃん?」



眼鏡娘「!」

眼鏡娘(優しそうなおじいちゃん……良かった)

眼鏡娘「…はい。浴衣、慣れてなくて」

老人「お祭りかな?向こうの南町神社のとこじゃろう」

老人「それにしても、お嬢ちゃんのその浴衣……とっても似合っておる。昔を思い出すわい」

眼鏡娘「そ、そうですか…?」

老人「うむうむ。昔はうちの婆さんも、よく浴衣を着て共に出掛けたものじゃ。歩きにくいから手を繋いでくれとか──」

眼鏡娘(なんか始まっちゃった…)


89 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/26(月) 07:48:03.96 ID:+SsAg55fO

老人「──、───」ペチャクチャ

眼鏡娘(……おじいちゃん、お話長いよ……)

眼鏡娘「……あの!心配してくれてありがとうございます。でも私もう行かないといけませんので…」

老人「ん?おぉそうかいそうかい」

眼鏡娘「はい。失礼しま──」

老人「ところでお嬢ちゃん」





老人「──君、何故生きてるのかね?」





眼鏡娘「………?」

老人「……」ニコニコ

眼鏡娘「生きてる、ですか?」

老人「うむ」

老人「不思議なものじゃ…お嬢ちゃんとは初めて会うのに、どうにも……」

老人「この世に居るべき者ではないように感じるものでなぁ……」



「あぁ、それ俺も思ってました」

「私も。なんかあんた見てると違和感がすごいのよね」



ゾロゾロ



眼鏡娘「…!?、なんで…」

眼鏡娘(面識もない人たちが)



ゾロゾロ ヒソヒソ



眼鏡娘(集まってくる…)

眼鏡娘(それでまたあの目……私を突き刺す異様な目)

老人「のうお嬢ちゃん、どうしてかね?」

眼鏡娘(私は夢でも見てるの…?)

眼鏡娘(寝覚めの最悪な悪夢…!)


90 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/26(月) 07:48:50.16 ID:+SsAg55fO

老人「………そうじゃ」

老人「もしお嬢ちゃんが自身の存在に困っておるなら……」





老人「わしらが君を消す手伝いをしてやろう」ニッコリ





「そうだな、それがいい!」

「全員でやればすぐ終わるわよ!」

眼鏡娘「は……?え…?」

老人「心配せんでよい。わしらに任せておきなさい」スッ...

眼鏡娘「…いや……来ないで……!」アトズサリ

眼鏡娘「やだっ!!」ダッ

老人「これ!待ちなさい!」



タッタッタッ...




91 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/26(月) 07:50:02.99 ID:+SsAg55fO
ーーーーーーー



タッタッタッ!



眼鏡娘(おかしい…こんなの絶対に変!)

眼鏡娘(何が起きてるの!?やっぱり昨日アプリを消したから…!?)

眼鏡娘(会う人全員が得体の知れない生き物に見えてくる…)

眼鏡娘(誰も……誰もいないとこに行かないと…!)

眼鏡娘「はぁ、はぁ、はぁ…」タッタッタッ

眼鏡娘(そうだ男くん!)

眼鏡娘(男くんとは石階段の下で待ち合わせしてるから、もう近くのはず!)

眼鏡娘(人しかいないだろうから絶対行きたくないけど、電話なら……)

眼鏡娘「はぁ、はぁ…」タッタッ...

眼鏡娘「……」キョロキョロ

眼鏡娘(……あそこ)

眼鏡娘「」サッ



ガササ



眼鏡娘「………」

眼鏡娘(ここに隠れれば、見えないよね…)

眼鏡娘(思わず飛び込んじゃったけど、ここ……山の麓……?あっちに細い登山道みたいな道があったし)

眼鏡娘(多分お祭りやってる山の、別の側なんだ)



「なぁ聞いたか?この女を見かけたら捕まえろだって。お前も手伝えよ?」

「は?なんだそれ?何バカげたこと……」

「……あぁ、確かにこいつは野放しにしておけないな」

「さっきは向こうの通りに居たんだと。ここの祭りに来たってことらしいから案外その辺にいたりしてな」

「遠くには行ってないだろ。手分けして探すか」

「おう」

テクテク...


92 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/26(月) 07:50:59.98 ID:+SsAg55fO

眼鏡娘「……っ……」

眼鏡娘(今の、私のこと…だよね)

眼鏡娘(わけが分からなくなってきた)

眼鏡娘(謂れのない罪で追われる人の気持ちってこんな感じなのかな)

眼鏡娘「……」

眼鏡娘(……さっきの人たちは行った?男くんに電話かけよ)

眼鏡娘「」ゴソゴソ

眼鏡娘「……!?」

眼鏡娘("Gravities"……なんであるの…?昨日確かに消したはず…)

眼鏡娘「……」...スッスッ





◆Gravities◆ INFLUENCER:世界
━━━━━━━━━━━━━━━━━
NAME     STATUS
━━━━━━━━━━━━━━━━━
眼鏡娘     AntiGravity





眼鏡娘「………なに……これ……」

眼鏡娘(これのせいだったんだ……!皆がおかしくなった原因……)

スッ

眼鏡娘「…?」

スッスッスッ

眼鏡娘「……!?」



『眼鏡娘     AntiGravity』



眼鏡娘(なんで……切り替えられない…!?)


93 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/26(月) 07:51:56.34 ID:+SsAg55fO

眼鏡娘「」スッ!



━━━━━━━━━━━━━━━━━
 不明なエラーが発生しました。
 "Gravities"を削除できません。
━━━━━━━━━━━━━━━━━



眼鏡娘「そんな……」

眼鏡娘(……これは、罰なのかな)

眼鏡娘(この世界で、元の現実を捻じ曲げて自分勝手に生きたことの……)



ーーーーー

元気娘「──また誘うから一緒に行こうね!絶対ね!!」

ーーーーー



眼鏡娘(……元気娘ちゃんを傷付けた報い……)

眼鏡娘「………」

眼鏡娘「……………」

眼鏡娘(私は……殺されるの………?)

眼鏡娘(この世界に………)

眼鏡娘「……」チラリ



━━━━━━━━━━━━━━━━━
 不明なエラーが発生しました。
 "Gravities"を削除できません。
━━━━━━━━━━━━━━━━━



眼鏡娘「………嫌………」フルフル

眼鏡娘「いやぁ!!」ブンッ



ガンッ

カタカタン...(地面に落ちるスマホ)



「おい、今向こうから声がしたぞ」

「見て!あんなところにいる!」




眼鏡娘「あ……や……」

眼鏡娘「」タッタッ!



「山の中に逃げる気だ!」

「私人呼んでくる!」



ガヤガヤ...




94 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/26(月) 07:53:04.68 ID:+SsAg55fO
ーーー病院ーーー

元気娘「……」スー..スー..

元気娘「……」スー...

元気娘「……ん」ピクッ

元気娘「…んぁ〜…」ノソ...

元気娘「よく寝たぁ……?」

キョロキョロ

元気娘「……あれ?ここどこ?……って私包帯巻かれてる!?」

元気娘「左手とかなんか手首固定されてますがな」

元気娘「あ、思い出した」



ーーーーー

元気娘「──あれ……?」フラ...

ーーーーー



元気娘「階段で転んじゃったんだっけ」

元気娘「ドジだなー私。眼鏡娘ちゃんがいたら呆れ笑いされちゃうよぉー…」

元気娘「…!」

元気娘「あの包み…」

ググ...(手を伸ばす)

元気娘「……眼鏡娘ちゃんにあげる髪留め……」

元気娘「誰か親切な人がここに置いてくれたんだ」

元気娘「……良かった、無くなってなくて」

元気娘「…?裏に何か挟まってる……メモみたいだけど」スッ



『早く目を覚まして、また元気に笑って下さい。元気娘ちゃんには話さなくちゃいけないことがあるから。それでもし許してくれるとしたら……また一緒に遊びたいな。

 眼鏡娘』



元気娘「……眼鏡娘ちゃん……」

元気娘「お見舞い、来てくれてたんだ」

元気娘「…やっぱり、眼鏡娘ちゃんは私の……」

元気娘(……♪)

元気娘「私も眼鏡娘ちゃんと遊びたい!そんで、眼鏡娘ちゃんのかわいいとこいっぱい見たい!」

元気娘「こんな怪我さっさと治しちゃわないとねっ」


95 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/26(月) 07:54:34.86 ID:+SsAg55fO



「──ねぇ聞いた?この子、見つけたら取り押さえておきなさいって」

「あら、知ってるわ。最近106号室の患者さんにお見舞いに来てた子よね。眼鏡娘さん、だったかしら」



元気娘「!」

元気娘(ドアの向こうの…看護師さん?眼鏡娘ちゃんの名前が聞こえたけど…)

元気娘「……」コソ...

元気娘「うわ…」フラフラ

元気娘(全然うまく歩けない。自分の足じゃないみたい…)

元気娘(こんなに鈍ってるって、どれだけ私寝てたんだろ)

元気娘「…っ」フラフラ

元気娘(やっとドアの傍まで着いた)

元気娘「」キキミミ



「そっかぁ、気が付かなかった全然。何で見逃しちゃってたんだろう」

「この子今日も来るかしらね?」

「いーや、来ないんじゃない?今は南町の方にいるらしいわよ。あそこの夏祭りに来てるんだって、浴衣姿で」

「まぁ受付担当にこの子が来るか注意して見ておくよう言っておきましょうか」



元気娘(……なんで眼鏡娘ちゃんのことこんなに話してるの…?)



「でもさ、この子捕まえて何する気なのかな?」

「それは決まってるでしょう」

「──消すのよ。この世から」



元気娘(!?)



「あー納得!この子が居るってだけで違和感しか感じないものね」

「そういうこと。さ、私達は仕事に戻りましょう。どうせ来ないとは思うけど、106号室の見張りもお願いしたいしね」



元気娘(……)

元気娘「………」




96 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/26(月) 07:55:33.73 ID:+SsAg55fO
ーーーーーーー

ガチャ

看護師「元気娘さーん、ちょっと失礼するわね」

看護師「少しお部屋の掃除でも……あら」



(無人のベッド)



看護師「……いないわ」




97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/26(月) 14:19:38.54 ID:NNX3EuBtO
なんか藤崎竜の短編みたいな感じだね
98 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2019/08/28(水) 08:05:59.13 ID:+70QDg8kO
>>97
名前だけでは分かりませんでしたが、銀河英雄伝説の方なんですね。
99 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:07:24.39 ID:+70QDg8kO
ーーー山中ーーー

「そっちはいたか?」

「いや、いない」

「おかしいな…こっちの方に向かったって報せを聞いたんだが」

「もしかしたら下りてたり?」

「場所移してみるか」

スタスタスタ...



眼鏡娘「………」ジ...

眼鏡娘「………」

眼鏡娘(……行った、かな)

眼鏡娘「……」

眼鏡娘(どうしよう、どんどん人が増えてきてる気がする…)

眼鏡娘(山、下りたいけどきっと下にもたくさん人が……)

眼鏡娘「……っ」チクッ

眼鏡娘(さっきから変なとこに隠れてるせいで枝が擦れて痛いよ…)

眼鏡娘「……」

眼鏡娘(……こういう時、じっとしてたら見つかっちゃうよね)

眼鏡娘(移動しないと……人がいないとこの隙間を縫って、その内この山から離れられれば、その後は)

眼鏡娘(……その後は……どうしよう)

眼鏡娘「………」

眼鏡娘「」ガサガサ

タッタッタッ...




100 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:08:29.78 ID:+70QDg8kO
undefined
101 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:09:49.77 ID:+70QDg8kO
ーーー山頂 神社裏手ーーー

ガサガサ...

ガリッ

眼鏡娘「いっ……」

眼鏡娘(血出てる……)

眼鏡娘(……ここどこだろう)

眼鏡娘(人の少なそうな方に向かってたら、どんどん登ってきちゃった気がする)

眼鏡娘「……!」

眼鏡娘(あの建物、神社かな)

眼鏡娘(ということは、ここが山の頂上…?)

眼鏡娘(うぅ……ここから下りていかなくちゃいけないと思うと、泣きそうだよ……)

眼鏡娘「………」

眼鏡娘(………もういっそのこと、見つかっちゃおうかな)

眼鏡娘(どうせ下りられてもこの悪夢が終わらないなら、こんなところで生きてる意味なんて……)

眼鏡娘(………)

眼鏡娘(それが、私みたいな人に相応しい末路………)



チョンチョン



眼鏡娘「ひっ!?」

「しーっ!静かにして…!」

眼鏡娘「!その声…」

眼鏡娘「……元気娘ちゃん…?」フリムキ

元気娘「えっへへー正解♪」

眼鏡娘「な、なんで元気娘ちゃんが…?病院にいるはずじゃ…??」

元気娘「起きたの!いつまでもぐーすか寝てる私じゃありませんから」

元気娘「そしたらさ、なんか眼鏡娘ちゃんをどうこうするとか変な話が聞こえてきてさ、心配で思わずここまで来ちゃったんだよね」テヘヘ

眼鏡娘「……ここまでって……」

眼鏡娘「元気娘ちゃんは、私を見つけて、私を……消しに来たんじゃないの…?」

元気娘「?何言ってるの?そんなことするわけないじゃん」

元気娘「私は眼鏡娘ちゃんを守りに来たの!」

元気娘「大事な友達だもん」ピース

眼鏡娘「っ……」

眼鏡娘(───!)

眼鏡娘「」バッ!

元気娘「にゃ!?」

眼鏡娘「……」ギュー

元気娘「眼鏡娘ちゃん…」


102 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:14:23.25 ID:+70QDg8kO

眼鏡娘「」ギュー

元気娘「……あたた。あのね、左手折れてるみたいだからすこーし加減してくれると嬉しいかなー…って」

眼鏡娘「………ありがとう……本当に…!」

元気娘「……ね、何があったか分からないけどさ、私は絶対眼鏡娘ちゃんの味方だからね」

眼鏡娘「うん……嬉しい……」

眼鏡娘「……元気娘ちゃん。私のメモ読んだ?」

元気娘「読んだよ!こんなとこから逃げ出したらさ、また遊びに行こ!……けど、プレゼントせっかく驚かせようと思ってたのになぁ」

眼鏡娘「謝りたいことがあるの」

元気娘「…?あ!許してくれるとしたら、ってやつ?」

眼鏡娘「うん」

眼鏡娘「…元気娘ちゃん、ごめんなさい。私、長いこと元気娘ちゃんのこと避けてた。いっぱい話しかけてくれてたのに、振り払うようにしてた」

眼鏡娘「それにね……大切なものを、無断で奪った……」

眼鏡娘「だから、ごめんなさい」

元気娘「………」

元気娘「…よかったぁ、嫌われてたんじゃないんだ」

眼鏡娘「嫌いじゃないよ、好きだから!」

元気娘「告白されちゃった」ニシシ

元気娘「大切なものを奪ったとか、よく分からないけど、私はそんなことでへこたれないよ!」

元気娘「──というわけで、お主を許してしんぜよう」

眼鏡娘「……ふふ、なぁにその口調」

元気娘「和むかなーって思って」

眼鏡娘(……でも良かった、これでもう……)



スクッ



元気娘「?…どうしたの?立ったりしたら見つかっちゃうよ…!」

眼鏡娘「うん、いいの。これから私、あの人たちのところに行ってくるから」

元気娘「え…」

元気娘「何言って……」


103 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:15:39.28 ID:+70QDg8kO

眼鏡娘「だって考えてもみて。きっと私と元気娘ちゃん以外の皆、私が異常な存在だと思ってる。…それってさ、もう私はこの世界から爪弾きにされてるってことなんだよ」

眼鏡娘(それがあのアプリのせいでも、元を辿れば根本の原因は私)

眼鏡娘「だったら抵抗なんてしないで大人しく従うしかないの」

眼鏡娘(私が引き起こしたこの異常は、私が終わらせないと)

眼鏡娘「……最後に元気娘ちゃんに会えて嬉しかったよ。もし私がいなくなっても、忘れないでくれるといいな…なんて」

元気娘「待って……待ってよ!」

元気娘「ただでさえ分からないことだらけなのに、また意味分かんないこと言わないで!」

元気娘「なんで眼鏡娘ちゃんが消えなきゃいけないの?また一緒に遊びに行くんじゃないの?」

元気娘「勝手に一人で諦めないでよ!」

眼鏡娘「……強いね、元気娘ちゃんは」

眼鏡娘(辛くないはずない怪我をしてるのに、こんなところまで来て私を見つけてくれて)

眼鏡娘「さようなら」

眼鏡娘(そんな強さが私にもあれば…)ガサ...

元気娘「…っ!」



ガシッ グイッ!



眼鏡娘「わっ…」



──パシンッ



元気娘「………」

眼鏡娘「………」

眼鏡娘(頬、打たれた…?)

元気娘「……だめだよ……」

眼鏡娘「……」

元気娘「眼鏡娘ちゃんは、そうじゃないんだよ……」

元気娘「……あの時、私を変えてくれたヒーローなんだから…!」

眼鏡娘「……ヒーロー……?」

元気娘「…覚えてる?私のこと…」

ファサ...(前髪を垂らす)

眼鏡娘「………」

眼鏡娘(目元が少し隠れて、いつもより暗い印象……)

眼鏡娘「…………!!」



ーーーーー

「──あの……何か用…?」

ーーーーー



眼鏡娘「まさか………内気娘、ちゃん……?」

元気娘「……」ニコッ



104 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:16:59.58 ID:+70QDg8kO
===数年前===

「──内気娘、この人があなたの新しいパパよ」

「よろしくね、内気娘ちゃん」





子の心親知らず、なんて諺をこの時はまだ知らなかったな。





「──なー!お前ん家のお父さんって、ほんとのお父さんじゃないんだって?」

「まじで!?あれかな?大人の離婚問題ってやつぅ〜??」

「やめなさいよ男子!最低よ!」





子供の無邪気な悪意が怖くなったのも、おんなじ年だったっけ。

それでね、私のヒーローに出会ったのも、

──その年の夏だった。




105 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:18:21.97 ID:+70QDg8kO
ーーー公園ーーー

内気娘「……」キーコ...

内気娘「……」キーコ...

内気娘(……また、飛び出してきちゃった)

内気娘(ここのブランコ乗るの、もう何回目だろ…)



ーーーーー

内気娘母「もう!何度言ったら分かるの!?パパに挨拶を返しなさい!無視なんて人として最低なことなんだからね!?」

内気娘「……最低なのはどっちよ。わたしは今のパパなんか要らなかった!わたしの気持ちを無視したのはママじゃない!」

内気娘母「この子は……ちょっとこっちに来なさい!」

内気娘「嫌!」ダッ!

ーーーーー



内気娘「……はぁ……」

内気娘(ママはわたしよりあの人の方が大事なんだ。きっと私なんかどうでもいいんだ)

内気娘「……」

内気娘(……夏休みに入って、みんな変な目で見てくる学校に行かなくてよくなったのに……)

内気娘(忘れてた。学校に行かないってことは家にいる時間が増えるってことだ)

内気娘(今の家にはあの人がいる)

内気娘「……わたしってどこにいればいいのかな」

内気娘「………グスッ」





「おぉ!第一村人発見!」





内気娘「…?」チラッ

幼眼鏡娘「では早速、何をしているのか訊いてみましょー!」トコトコ

内気娘(え、え?何あの子、こっちに来る…)


106 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:19:40.44 ID:+70QDg8kO

幼眼鏡娘「……」フンス!

内気娘「あの……何か用…?」

幼眼鏡娘「……今、何してたんですかー?」

内気娘「え?…ブランコ…」

幼眼鏡娘「楽しいですかー?」

内気娘「あんまり…」

幼眼鏡娘「えー?第一村人面白くないよー。これじゃカットされちゃうよー?」

内気娘「な、なにが?」

幼眼鏡娘「知らない?有名な旅番組!」

内気娘「知ってるけど…」

幼眼鏡娘「なら話は簡単!ねーねー私さ、ここ初めて来たんだ!あなたこの辺りに住んでるんだよね?」

内気娘「うん」

幼眼鏡娘「じゃあ案内して!ついでにこういうとこでしか出来ない遊びとかも教えて欲しいです!!」ズイッ

内気娘「いいよ…いいから…!ちょっと近過ぎ…!」

幼眼鏡娘「ではでは、まずこの公園から!」

内気娘「……?普通の公園だよ」

幼眼鏡娘「」ジー...

内気娘「…えと、ブランコがあります。あとシーソーと……」

内気娘「……毛虫の湧く木」

幼眼鏡娘「………」

内気娘「………」

幼眼鏡娘「却下で」

内気娘(どうしろと)





台風みたいな子だなーって思ったよ。

でも気付けば、それから毎日一緒に遊んでた。




107 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:21:00.34 ID:+70QDg8kO
──ある時は近場の案内



幼眼鏡娘「そーいえばさ、あなた名前は?」テクテク

内気娘「内気娘だよ。そっちは?」テクテク

幼眼鏡娘「私はね…」フッフッフ...

幼眼鏡娘「あなたを助けに来た正義のヒーロー!」シュバッ

幼眼鏡娘「…なーんちゃって、これあんまりやってるとママにみっともないって怒られちゃうんだよね」

内気娘「……ヒーロー……」

幼眼鏡娘「あ!ね、あそこのお店なに!?なんかお菓子みたいなのいっぱい置いてない!?えっと………ば、がし…?」

内気娘「だがし、だよ」






──ある時は川辺で



パシッ、パシッ、パシッパシッ、ポチャ



幼眼鏡娘「わぁ…」

幼眼鏡娘「見た見た!?今4回も跳ねたよ!これもう水切りのプロって言ってもいいんじゃないかなー!」

内気娘「……これかな」ヒョイッ

内気娘「……」ザッザッ

内気娘「」シュッ!



パシッ、パシッ、パシッ、パシパシパシッ、パシッパシシシシッ、ポチャ



幼眼鏡娘「……」ポカン

内気娘「せめてこれぐらいは出来ないとね」ドヤ

幼眼鏡娘「むむむ…」




108 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:22:19.05 ID:+70QDg8kO
──ある時は土手で



幼眼鏡娘「こんな段ボールで滑るの?」

内気娘「そう。そり滑りっていうんだけど、ここの子たちはみんなよくやってるよ」

幼眼鏡娘「結構急なところ滑るんだね」

内気娘「うん。途中で無理に止まろうとしたりすると逆に危ないから、もし怖いようならもう少し緩い坂で──」

幼眼鏡娘「やっほーー!」シュゥーー

トサッ

幼眼鏡娘「…これ結構スリルあって楽しい!」

内気娘「……ならよかった」フフッ







──ある時は雑木林で虫取り



幼眼鏡娘「……」フルフル

内気娘「…虫、ダメなの?」

幼眼鏡娘「」コクコク



──は出来なかったけど。







一日一日がすごく楽しかった。

久しぶりにたくさんはしゃいじゃった気がした。

そしてそんなある日──




109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/28(水) 08:23:02.04 ID:aTD7ZEbHO
>>98
フジリューはジャンプで封神演義を連載してた漫画家だよ短編は独特の世界観のあるやつ多くて凄い面白いよ
110 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:25:37.39 ID:+70QDg8kO
ーーー公園ーーー

幼眼鏡娘「……」カキカキ

幼眼鏡娘「……」カキカキ

幼眼鏡娘「……よし」

幼眼鏡娘「」ケンケンパ

内気娘「……」トボトボ

幼眼鏡娘「よっ、ほっ……あ、来た来た」

内気娘「……」

幼眼鏡娘「今日は少し遅かったね?寝坊でもしちゃった?」

内気娘「………」ジワ...

内気娘「ヒック、グスッ……うえぇぇん……」ポロポロ

幼眼鏡娘「え」



.........





幼眼鏡娘「──そっか。新しいパパ、か」

内気娘「うん……いっつもママと喧嘩になっちゃうんだけど、今日は私も急いでたから思わず言い過ぎちゃって、そしたら……」



ーーーーー

内気娘母「──もうあんたなんかうちの子じゃないわよ!!」

ーーーーー



幼眼鏡娘「……」

内気娘「……」

内気娘「…ママはわたしのことなんて考えてないの」

内気娘「わたしがどんな気持ちでいるか、学校で何を言われてるか、絶対知らない」

幼眼鏡娘「……」

内気娘「…それでね、わたしって必要とされてないんじゃないのかなって思っちゃうの」

幼眼鏡娘「そんなわけないじゃん」

内気娘「え…?」

幼眼鏡娘「だってまず私が必要としてるもん。あなたの笑った顔。…ね、ニッコリ笑ってみてよ」

内気娘「……こーお?」

幼眼鏡娘「プッ…あはは!なんかそれこわいよー!」

内気娘「ひどーい!もうしてあげないもん!」

幼眼鏡娘「ごめんってば。バカにする気はなくてさ」


111 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:28:14.99 ID:+70QDg8kO
幼眼鏡娘「もったいないよ。せっかくそんなにかわいー笑顔が出来るんだから」

内気娘「むー…」

幼眼鏡娘「もっと元気に笑えばいいの!その方が案外楽しいよ?」

内気娘「元気に…?」

幼眼鏡娘「そ!」

幼眼鏡娘「…内気娘ちゃんはさ、その新しく来たパパのこと嫌いなの?」

内気娘「………嫌い、じゃない。悪い人じゃなさそうだし、ママのことも、わたしのことも気にかけてくれて…」

幼眼鏡娘「ならいいじゃん」

内気娘「…え?」

幼眼鏡娘「内気娘ちゃんがそう思えてるなら、絶対仲良くなれるでしょ?ほら、こーやってさっきみたいにニコッて笑ってあげれば大丈夫!」ニコッ

内気娘「……」

幼眼鏡娘「……正直さ、誰が何考えてるかなんて知りようがないよ。明るく笑ってる裏では泣いてるかもしれないし、同情してる裏では意地悪く笑ってるかもしれない」

幼眼鏡娘「内気娘ちゃんのママが内気娘ちゃんのことどう思ってるかなんてことも分からないけど……どうでもいいとは考えてないと思う」

内気娘「…絶対違う」

幼眼鏡娘「違わないよ。……ねぇ、昨日の夕ご飯は何だった?」

内気娘「?ご飯?……普通のご飯に、お味噌汁に、豚のしょうが焼き、きんぴらごぼうと、あと…」

幼眼鏡娘「誰と一緒に食べたの?」

内気娘「いつもと同じだよ。ママと、あの人と……」

幼眼鏡娘「……ね?」

内気娘「??」

幼眼鏡娘「私のママが言ってた。ご飯一緒に食べるのは、たくさんお話がしたいからだって」

幼眼鏡娘「楽しく食べて、ずっと仲良しでいられるように……それが家族えんまん?の秘訣なんだってさ」

内気娘「……」

内気娘(ママと、あの人が…私と……?)

幼眼鏡娘「………」ソー...

ツン

内気娘「うひゃっ!?」バッ

幼眼鏡娘「ふっふっふ、脇のガードが甘いよー?」

内気娘「……んもー!お返し!!」ガバッ

幼眼鏡娘「おわっ!待って!倒すのは反則──!」

ドタバタ



.........




112 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:29:29.79 ID:+70QDg8kO
ーーー夕方ーーー

内気娘「ちょっと暗くなってきたね。もう帰ろうか」

幼眼鏡娘「そうだねー。こんな公園だけでも、意外と遊べること多いんだね」

内気娘「田舎の遊び知恵を舐めてもらっちゃ困りますよ、都会人さん」

幼眼鏡娘「でもこっちにはゲーム機とかなさそうだよね?」

内気娘「……ノーコメント」

幼眼鏡娘「図星なんだ」ニヒヒ

幼眼鏡娘「……内気娘ちゃんて、この夏休み他の子と遊んだりしてないの?」

内気娘「そ、れは……」

内気娘(……)

内気娘「…いないの。友達」

内気娘「だって周りの子みんな、変な目で見てくるんだもん。面白がってるか、哀れんでるか、大体どっちか…」

内気娘「そんなの、友達じゃない」

幼眼鏡娘「……」





幼眼鏡娘「じゃあわたしが友達になってあげるよ!」





内気娘「─!」

幼眼鏡娘「というか、こんなに遊んでるんだからもうとっくに友達だよね!」

幼眼鏡娘「私、夏休みの間しかこっちにいないけど、そんな期間限定の珍しい友達、いかがでしょー」

内気娘「………」

内気娘「……くふっ、あはははっ」

内気娘「期間限定なんてケチケチしないで、年中販売してよー」ケラケラ

幼眼鏡娘「レアものですから!」

内気娘「……うん、よろしく」

内気娘「わたしとお友達になって下さい」ニッ




113 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:30:53.01 ID:+70QDg8kO
ーーー内気娘の家ーーー

...ガチャ

内気娘「……」ソ...

パタン

内気娘「……あ」

内気娘母「……」

内気娘「……」

内気娘母「…おかえり。ご飯出来てるわよ。席着いちゃって」

内気娘「………」

内気娘「ママ!」

内気娘母「?」

内気娘「……その、ごめんなさい」

内気娘母「………ママもごめん。怒ってあんなこと言っちゃって」

内気娘母「内気娘はちゃんとママの大切な子だからね」

内気娘「!……うん!」

内気娘母「ご飯、冷めちゃうから食べましょ」

トッ、トッ、トッ

内気娘父「お」

内気娘「っ」

内気娘(………)



ーーーーー

幼眼鏡娘「──内気娘ちゃんがそう思えてるなら、絶対仲良くなれるでしょ?」

ーーーーー



内気娘父「おかえり。帰ってたんだな」

内気娘「……」

内気娘父「…飯にしようか」ストッ



内気娘「ただいま、パパ」ニコッ



内気娘母・父「「!!」」

内気娘父「……あ、あぁ!おかえりだ!おかえりなさい!」

内気娘「ふふっ、そんないっぱいただいまは言えませんー」

内気娘(あぁなんだ)

内気娘(ママたちがわたしを見ようとしなかったわけじゃない)

内気娘(わたしが二人を突き放してたんだ)

内気娘(……♪)





気付ければとっても簡単なこと。

そのことが嬉しくて嬉しくて、早く伝えたくて、次の日はいつもより1時間くらい早めに家を出たなぁ。


114 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:31:53.02 ID:+70QDg8kO
ーーー翌日ーーー

内気娘「」タッタッタッ!

内気娘(早く…早く会いたいな…!)

内気娘(あなたのおかげで仲直り出来たって、パパの前で自然に笑えたよって)

内気娘(教えたい!)

内気娘「」タッタッタッ!

タッタッ...

内気娘「はぁ、はぁ…」



(無人の公園)



内気娘「…さすがに、まだだよね」

内気娘(急いで来過ぎちゃった)

内気娘「……早く来ないかなー」






ーーー数十分後ーーー

内気娘「……」ジー

(アリの行列)

内気娘「……」ジー

内気娘(あ、ぶつかった)

内気娘「……」ジー







ーーーさらに数十分後ーーー

内気娘「……」キーコ...

内気娘「……」キーコ...

内気娘(……まだかな)

内気娘(いつもならとっくに来てるはず…)



ザッザッザッ



内気娘「!」カオアゲル

老婆「あらやっぱり」

内気娘「…?おばあちゃんどちら様ですか?」


115 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:32:48.59 ID:+70QDg8kO

老婆「ねぇあなた、近頃同じくらいの女の子と二人で遊んでたわよねぇ?」

内気娘「み、見てたんですか…?」

老婆「それは聞こえるわよ。あれだけ元気に遊んでるんだものねぇ」ホッホッ

老婆「…それでね、あの子なんだけどねぇ……あそこのおうち、毎年息子さんの家族が夏の間ここに帰って来るんだけど、今年は何でも急な仕事が入ったとかで、今朝早く戻っていっちゃったらしくて…」

内気娘「……え……」

老婆「住んでるおじいさんも、孫がすぐに帰っちゃったって嘆いてたわねぇ」

老婆「毎日遊んでたお友達が、今日もここで待ってるんじゃないかと思って来てみたんだけど…教えることが出来て良かったわ」

内気娘「……そう、ですか」

内気娘「ありがとうございます……気にかけてくれて…」

老婆「いーえ。遊んでるあの子、とても楽しそうだったからねぇ……きっとまた来年も会えるわよ」

内気娘「はい……」

老婆「それじゃ、おばちゃんはもう帰るけど、あなたも暑さには気を付なさいな」テクテク

内気娘「……」ペコリ

内気娘「……」

内気娘「………」

内気娘(………)

内気娘「……ぅ……」グスッ...



ーーーーー

幼眼鏡娘「──もっと元気に笑えばいいの!その方が案外楽しいよ?」

ーーーーー



内気娘「……!」グッ

内気娘(泣いちゃだめ……)

内気娘(あなたが教えてくれた、楽しく生きていくための秘訣)

内気娘「……」ホホムニムニ

内気娘「」ニィッ

内気娘(明るく笑うこと)

内気娘「……ありがとう」





内気娘「私のヒーローさん」ニコッ





=======




116 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:33:56.61 ID:+70QDg8kO
ーーーーーーー

元気娘「結局、あの後私が引っ越しちゃったから眼鏡娘ちゃんと会うことはなかったんだけどね」

元気娘「だから入学式の日の自己紹介でさ、眼鏡娘ちゃんを見たときは本当にびっくりしたんだよ?名前も知らなかったけど一目で分かったもん。あのときの子だ!って」

眼鏡娘「……気付かなかった、元気娘ちゃんがあの、内気娘ちゃんだったなんて……」

元気娘「今のパパの名字に変わっちゃったからね」

眼鏡娘「それもだけど……全然雰囲気違うから」

元気娘「えへへ……ヒーローさんのおかげです」

元気娘「……あなたは、昔の私を救ってくれた。今の私があるのはあなたのおかげ」

元気娘「──だから!今度は私が眼鏡娘ちゃんを助ける番なの!」

元気娘「また友達を置いてどっかに行くなんて、許さないんだからねっ」

眼鏡娘「………ふふっ」

眼鏡娘「本当に変わったね、元気娘ちゃんは。なんか小さい頃の私を見てるみたい」

元気娘「リスペクトしてますので!」

眼鏡娘(……ダメだなぁ、私)

眼鏡娘(こんなに真剣に私を見てくれる人がいるのに、自分しか見えてなかった)

眼鏡娘(逃げよう。それで生き延びて、必ずこの事態を解決しよう)

眼鏡娘「元気娘ちゃん、私もう一回目指してみようと思う」

元気娘「んー?」

眼鏡娘「ヒーロー。それで元気娘ちゃんをまた笑わせてあげる」ニコッ

元気娘「…!」パァァ

元気娘「うんっ!」

眼鏡娘「でも、どうしよ。まずはここから逃げ出さなきゃいけないよね…」

元気娘「ちっちっちっ」

元気娘「眼鏡娘ちゃん、私がなんの考えも無しにここまで来たんだと思ってる?」

眼鏡娘「へ?」

ゴソゴソ

元気娘「じゃーん!これなーんだ?」

眼鏡娘「ん…?……!私のスマホ…!」

元気娘「ピンポン!山の下で眼鏡娘ちゃん探そうとしたら見つけたの!」



117 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:34:42.13 ID:+70QDg8kO

元気娘「あと、上まで来るとき男の人に連れてきてもらったんだけど、眼鏡娘ちゃんを追ってるフリしてその人から山の警備状況を聞き出したのです」

元気娘「スマホのメモに全部書いておいたよ!東側にいるかもって撹乱したことも!」

眼鏡娘「元気娘ちゃん…!」

眼鏡娘「いつも頭の中楽しそうとか思っちゃっててごめん…出来る子だよ、あなたは!」

元気娘「今の後で問い質すリストに入れといたからねー…」

眼鏡娘「じゃ、これ見ながら行こっか!枝が結構痛いから顔は守りながら歩いてね」

元気娘「いやいや、私は行けないよ?」

眼鏡娘「……え」

元気娘「だってほら、この足だからね」

眼鏡娘「でも、じゃあ……」

元気娘「だーいじょうぶ!周りの人たちに紛れて私も下りるから!」

元気娘「そしたら自分のスマホ取りに帰って、眼鏡娘ちゃんにLINEするよ。誰もいないとこで集まって、この後どうするか決めていこ?」

眼鏡娘(そっか、元気娘ちゃんは別に狙われても何でもないもんね)

眼鏡娘「……分かった。気を付けてね、元気娘ちゃん」

元気娘「それは私の言葉だよ」

元気娘「さ、行って行って。見つからないように見張ってるうちに!」

眼鏡娘「…また後でね」

元気娘「また後で」ニッ



ガサガサ ガサッ

ガササ...


118 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:36:43.14 ID:+70QDg8kO

元気娘「……」

元気娘「……行った、よね」

元気娘「ふぅー、見つけられて良かった、本当に」

元気娘「やっぱりさっきの猫ちゃんの後追いかけて正解だった」

元気娘「でもなー、私が内気娘だってこと、もっと違う時に思い出して欲しかったなぁ」



ーーーーー

眼鏡娘「──私もう一回目指してみようと思う………ヒーロー」

ーーーーー



元気娘「……ま、いっか!」

元気娘「さてさて、私もそろそろ戻りますかね」ガサ



ガサガサガサ



元気娘「いたた……眼鏡娘ちゃんの言う通り枝がよく擦れる…………!!」

老人「……」

青年「……」

他数名「「「……」」」

元気娘「……お迎えに来てくれたんですか?ありがとうございますっ」

老人「………ふむ、遅かったか」





眼鏡娘「!」

眼鏡娘(今聞こえたの……あのおじいさんの声…)

眼鏡娘(……元気娘ちゃん……)

眼鏡娘「………」

(そっと引き返す)




119 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:38:02.85 ID:+70QDg8kO

元気娘「遅い、ですか…?それよりこの辺りにはいませんでしたよ。やっぱり東側の方に──」

老人「娘さんや、ままごとはもうよい」

老人「あの子をどこへやったんじゃ?」

元気娘「…ですから私もそれを探していて…」

老人「もうよいと言うとろうに」

老人「初めから怪しかったんじゃ。まともに階段を登れぬ身でなぜこの祭りに来る?下手な嘘をついてでも探し出したかったのじゃろう」

老人「あの子を逃がすために」

元気娘「……」

老人「さあ、言いなさい。あの子はどこへ向かったのかね?」

元気娘「……知りません」

元気娘「知ってても、あなたたちには教えない」キッ

老人「……仕方ないの」

老人「おい」

「おう」



眼鏡娘(……戻ってきちゃった)

眼鏡娘「」ソー...

眼鏡娘(…!)

眼鏡娘(なんで元気娘ちゃんが囲まれてる…!?)

眼鏡娘(それにあの男の人…パイプみたいなの持って、元気娘ちゃんの方に……)

眼鏡娘(何、するつもりなの……?)



「……」ザッザッ

元気娘「……」

「……女の居場所は?」

元気娘「…知りません」

ブォン!

元気娘「ぐぁっ…!」



眼鏡娘(!?)

眼鏡娘(思いっきり……!)


120 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:39:23.98 ID:+70QDg8kO

老人「痛いじゃろう?そうでなくともお前さんの身体はボロボロなんじゃ。無理はせぬ方がよい」

「俺に女を痛めつける趣味はないんだがなぁ」

元気娘「ぃ……」ウズクマリ

老人「もう一度訊くぞ?あの子をどこへやった?」

元気娘「………ない」

老人「ん?」

元気娘「死んでも、言わない……!」

老人「……」

老人「皆の衆、聞こえたな?」

老人「……望み通りにしてあげなさい」

ゾロゾロゾロ



眼鏡娘(いや…待って……やめて……!)



ブン!

元気娘「ぎゃっ!」

ドスッ!

元気娘「ぅぐ…」

ガン!

元気娘「!……」

ドカッ、ゴスッ、バキッ



眼鏡娘(やだ……元気娘ちゃん…!)

──助けなきゃ

眼鏡娘(でも私一人が行ったところで……)

──私は彼女のヒーローなんだよ?



ドゴッ、ガスッ



眼鏡娘(あ……あぁ……)

──なのにどうして、足が動かない

眼鏡娘(お願いです……どうか、助けて下さい…)

眼鏡娘(誰でもいい…!元気娘ちゃんを……!)

眼鏡娘「……っ」ギュッ(目を閉じしゃがみ込む)



.........




121 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:42:46.20 ID:+70QDg8kO
undefined
122 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:57:02.41 ID:+70QDg8kO
>>100が抜けてますね。なぜか1レスで投稿できないので、2つに分けて投下します。
以下、>>100です。



ーーー山頂 神社境内ーーー

老人「それでは、まだ見つかっていないのですかな?」

青年「はい。西側で目撃されてから総出で探しているんですけどね…もう山を離れたのではと言い出す人もいます」

老人「……藪の中に隠れているのやもしれません。もう少し丁寧に捜索するように伝えてもらえませぬか?」

青年「分かりました」

老人「すまんのう……わしがこんな老体でなければ共に探しに出るのじゃが…」

青年「いいんですよ。ここで情報のハブをしてくれるだけで十分助かってますから」

老人「そうかね」

老人「……あの子は必ず滅さねばならん」

青年「えぇ」





「おい!おーい!」トットットッ





123 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/28(水) 08:59:01.37 ID:+70QDg8kO
>>122の続きです。



老人「?」

青年「石階段の方から…?…ってあんた、その子はなんだ?まさか怪我でもさせたんじゃ…」

「そんなわけないだろうが。この子がな、下の方で右往左往してたから何してるのか訊いてみたら、なんと探してる子の同級生なんだと!」

老人「ほう」

「で、怪我してるらしくてな、居場所が分かるかもって言うからここまで連れてきたんだ」

青年「本当か!君、あの子はどこに居るんだい?」



元気娘「……」



元気娘「はい!実は私、眼鏡娘ちゃんと今日お祭りに行く約束をしてたんです。待ち合わせ場所は東側の麓なんですけど…」

元気娘「私と彼女、とっても仲良かったので、もしかしたら私を探してそっちに行っているのかなって」

青年「東側か。あまり人手を割いていなかったな」

青年「…よし、西側の人員を東側にも向かわせるよう伝えてくれ」

「おうよ!」タッタッ

青年「君も、わざわざご苦労様。そんな身体で疲れたろう。ここでおじいさんと居るといい」

元気娘「…いえ、私も行きます」

青年「申し出は有難いが、彼におぶってもらって来たくらいだ、段差登るのも難しいんだろう?」

元気娘「ちょっとふらつくだけで歩けはします!この辺りに隠れてるかもしれませんので、探してみます」

青年「そうかい?なら俺も付いていくよ」

元気娘「いえいえ!本当に近くを見て回るだけですから!私だけで平気ですよ!」

元気娘「見つけたら大声出して知らせられるくらいの距離にいますから!」

青年「……分かった。無理はしないようにね」

元気娘「はい!」

老人「……」






ここから>>101に続きます。
124 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2019/08/28(水) 09:03:21.97 ID:+70QDg8kO
>>109
確か宝貝とか出てくるお話でしたよね。
アニメが好きで見ていました。ナタクのキャラとか好きだった気がします。
125 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/29(木) 21:32:14.62 ID:e5eS69OO0
ーーーーーーー

老人「……もうその辺でよいじゃろう」

「「「……」」」





元気娘「」





青年「…最後まで口を割りませんでしたね」

老人「とんだ時間の無駄をした。既にあの子はここを離れとるじゃろうが……山にいる全員に至急伝えておくれ。中腹付近から包囲網を作り、狭めていくようにと」

青年「分かりました」タッタッタッ...

老人「………」

元気娘「」

老人「若い大事な命を粗末にするとは、勿体ないことをするのう」

老人「…わしらも移動しよう。この娘さん、人手の薄い場所をあの子に教えているはずじゃ。そこを重点的に見張ってゆかねばならん」



ザッザッザッ...



.........





元気娘「」



...ガサ

タッタッタッ



眼鏡娘「元気娘ちゃん!」タッタッ


126 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/29(木) 21:34:34.16 ID:e5eS69OO0

元気娘「」

眼鏡娘「あ……そんな……」

眼鏡娘(……息、してない………脈も……)

眼鏡娘「やだ…やだよ、元気娘ちゃん…!」

眼鏡娘(どうしよう、どうすればいい?)

眼鏡娘(心臓マッサージとか人工呼吸とかって効果あるのかな今から救急車呼べば助かるかもけど来た人たちもおかしくなってたら?)

眼鏡娘(どうしようどうしようどうしよう)

眼鏡娘「……っ……!………?………」

眼鏡娘(……あああ!)

眼鏡娘「どうすればいいのっ!!?」ダンッ!





「諦めなよ。その子はもう死んでる」





眼鏡娘「っ!」バッ

眼鏡娘「え……」

眼鏡娘「……男、くん?」

男?「……へぇ、君にはあの少年に見えるわけだ」テクテク

眼鏡娘「…?どういう意味…?」

男?「そのままだよ。君にとって僕は男くんなんだ」

眼鏡娘「………あなた、男くんじゃないわね」

男?「フッ」

眼鏡娘「誰なの?…いえ、この際あなたでもいい。この子を、元気娘ちゃんを助けてあげて…!」

男?「無駄だって。死んだ人間は生き返らない」

男?「でも悲しいなぁ。僕のこと忘れちゃった?僕はちゃんと覚えてるのに」

男「──君にもらった水の味」

眼鏡娘「………」

眼鏡娘「!!」



ーーーーー

黒猫「」ペロペロ

ーーーーー



眼鏡娘「……黒猫さん」

男?「……」ニィ


127 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/29(木) 21:39:32.03 ID:e5eS69OO0

眼鏡娘「……やっぱり、あなたの仕業だったんだ」

眼鏡娘「私の時間を戻したのも、世界をおかしくしたのも……元気娘ちゃんを痛めつけたのも!!」

男?「えー?人聞きの悪いことを言わないで欲しいなぁ」

男?「僕は君の手助けをしただけに過ぎないのにさ」

眼鏡娘「手助け…?」

男?「そう」

男?「嫌いなもの、重力」

眼鏡娘「っ」

男?「そんなどうしようもないものが嫌いだなんて、世の中生きにくいよね?だから、好きになってくれるようプレゼントをあげたんだ」

眼鏡娘「………"Gravities"」

男?「理解が早くて嬉しいよ。どうだった?我ながら素敵な贈り物だと思ってるんだけど喜んでもらえたかな?」

眼鏡娘「……ふざけないで……」

男「ん?」

眼鏡娘「ふざけないでよっ!」

眼鏡娘「喜べるわけないじゃない!私をこんな異常な世界に閉じ込めておいて!苦しめて!何よりあなたは、私の大事な友達を…殺した!!」

男?「…君はとことんわがままだね」

男?「言ったじゃないか、僕は手助けをしただけだって。この状況はみんなみーんな、君が望んだ結果だろう?」


128 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/29(木) 21:41:03.19 ID:e5eS69OO0

男?「過去をやり直したいと願ったのも」



ーーーーー

眼鏡娘「──もう一度やり直せたらなぁ」

ーーーーー



男?「この世界から隔絶されたいと願ったのも」



ーーーーー

眼鏡娘「──こんな世界から私が浮きたい気分」

ーーーーー



男?「君がそう望んだから、僕は聞き届けてあげたんだよ」

男?「僕のおかげで、あの少年と恋仲になれたじゃない。…余計な邪魔に阻まれずにね」

眼鏡娘「……余計な?それ、元気娘ちゃんのこと…?」

眼鏡娘「……」ギリッ

眼鏡娘「元気娘ちゃんは余計でも邪魔でもない!私が元気娘ちゃんを突き放してたのだって、あの碌でもないアプリのせい!」

眼鏡娘「そもそも私は時間を戻して欲しいなんて頼んでないのに、あなたが勝手にしたことじゃない!」

眼鏡娘「余計なことしたのはあなた!元気娘ちゃんを返してよ!!」

男?「………」

男?「……あのさ、いい加減にしたらどうだい」

男?「君はいつまで他人任せにすれば気が済むのかな」

男?「いつもそうだよね。自分から動こうとしない。それでいて都合のいい結果だけは望むんだ」

男?「だから想い人をとられる。だから……」



元気娘「」



男?「…この子を見殺しにする」

眼鏡娘「……っ」


129 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/29(木) 21:44:41.90 ID:e5eS69OO0

男?「かわいそうにね、せっかく重い身体を引きずって友達を助けに来たのに、その友達は助けてくれないなんてさ」

男?「僕が君の元まで案内してあげたのに」

眼鏡娘「……あなたが連れてきたの?」

男?「この辺を彷徨ってたから目印になってあげたんだよ。ここまで来たのはあくまでこの子の意思」

男?「……痛かった…苦しかっただろうね。殴打され続けて息絶えるなんて」

男?「それでも絶対に君を売らなかった」

男?「なのにさ」ジッ...

眼鏡娘「ちがっ……だって、私がどうこう出来る状況じゃなくて……」

男?「君はこの子のヒーロー?なんだろう?それっていざとなったら見捨てるような人でもなれるものなんだねぇ」

男?「それに助ける手段ならいくらでもあるじゃないか。それこそ君があの場に出て行ってこの子と代わってあげればよかった」

男?「人間はそういう自己犠牲が好きなんじゃないのかい?」

眼鏡娘「………約束、したんだもの……」

眼鏡娘「一緒に逃げようって……」

眼鏡娘「私だって元気娘ちゃんを助けようとしたっ!」

眼鏡娘「……でも、身体が動かなかった……見てることも出来なくて……そのまま……」ツー...

眼鏡娘「……ぅ……グスッ……」ポロ..ポロ..

男?「…つまり、見捨てたわけだ」

眼鏡娘「違うもん…!元気娘ちゃんは私の大切な人で……見捨てるつもりなんかこれっぽっちも……」ポロポロ

男?「違わないさ。君はこの子がくれた逃げるチャンスもふいにしてのこのこ戻ってきた挙句、ただ居るだけで何もしなかった」

男?「君が殺したんだよ」

眼鏡娘「……私じゃない……私、じゃないもん……」ポロポロ

眼鏡娘(──ううん、本当は分かってる)

眼鏡娘「……ぅ……ぁ……」ポロポロ

眼鏡娘(こうなったのは全部、私の弱さのせいだって)

眼鏡娘「うぁあああぁ……!」ポロポロ

元気娘「」

眼鏡娘「ごめん……ごめんね……」ポロポロ

眼鏡娘「こんな私でごめんねぇ……!」ポロポロ...


130 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/29(木) 21:46:51.18 ID:e5eS69OO0

眼鏡娘(あなたにヒーローなんて言われる資格はない)

眼鏡娘(誰も不幸にしないどころか取り返しのつかないところまで来てしまった)

眼鏡娘(私が壊しちゃったんだ。何もかも……)

眼鏡娘「…………もう………いや…………」

男?「………」

男?「──何も起きなかったことに出来たら」

眼鏡娘「………ぇ?」

男?「………」

眼鏡娘「今、なんて……」

男?「……ヒントをあげるよ」





男?「嫌いなものは何ですか?」





眼鏡娘「……それは、どういう──」フリカエリ

眼鏡娘(……いない……)


131 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/29(木) 21:51:13.73 ID:e5eS69OO0

眼鏡娘「………」

眼鏡娘「嫌いなもの……」

眼鏡娘「……重力」

眼鏡娘(………本当に……?)

眼鏡娘(私が重力を嫌いになったのはいつからだっけ…)

眼鏡娘「……」

眼鏡娘(そう……内気娘ちゃんと遊んだ時よりは間違いなく後)

眼鏡娘(小さい頃は誰とでも仲良くなれた。今よりずっと積極的な子だった)

眼鏡娘(それが、いつしか少しずつ……思うようにならないことが増えていって、世の中が窮屈だと感じるようになって……)

眼鏡娘(……まとわり付く重力のせいだと思って……)

眼鏡娘「………」

眼鏡娘「………私は………」





「なるほどのう、まさかとは思うたが」





眼鏡娘「っ!」



ザッザッザッ



老人「犯人が現場に戻るように、お嬢ちゃんも戻ってきたわけじゃな」

青年「……」


132 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2019/08/29(木) 21:53:55.38 ID:e5eS69OO0
次回の投稿で完結する予定です。

次の月曜日までには投下出来ると思います。
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/29(木) 21:54:45.80 ID:hhEEKgvP0
乙です
待ってます
134 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:17:30.20 ID:N7AwUAt80

眼鏡娘「………」

眼鏡娘(………)

眼鏡娘「……人殺し」

眼鏡娘「犯人はあなたたちの方でしょ。こんなこと……同じ人間とは思えない」

老人「ほっほっ。元を辿れば、お嬢ちゃんが逃げ回ったりせずにおればここまで大事にはならなかったのじゃよ?」

眼鏡娘「私が何をしたの!?女の子一人追い回して寄ってたかって殺そうとしてるんだよっ!おかしいと思わないのっ!?」

老人「おかしいのはお嬢ちゃんの存在じゃと、初めから言うておろうに。みなそう思っておるから、こうしてお嬢ちゃんを探しているのではないか」

眼鏡娘(だめ…もう常識は通じない)

眼鏡娘(あのアプリの影響が消えることは期待出来ない……)

青年「…おじいさん、そろそろ」

老人「そうじゃな」

青年「眼鏡娘さんだったかな。君を今すぐどうこうはしない」

青年「まずは山の下に連れて行く。それからなるべく大勢の観衆の前で」

青年「──死んでもらう」

青年「その方が皆納得出来るだろうからね」

青年「ただ…暴れたりおかしな真似をしたりすれば、どうなるかは分からないけど」

眼鏡娘「………」

眼鏡娘(……諦めない)



ーーーーー

男?「──何も起きなかったことに出来たら」

ーーーーー



眼鏡娘(あの言葉の意味はきっと)


135 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:19:08.81 ID:N7AwUAt80

青年「さ、こっちに来て」

眼鏡娘「………」

青年「……はぁ、仕方ない」

青年「抵抗するなよ?」...ザッザッ

眼鏡娘「……っ」

眼鏡娘(逃げるしかない)

眼鏡娘(後ろは林…ここに登ってくるまでも道無き道だったけど、考えてる暇なんかない)

ザッザッザッ

青年「……」スッ(手を伸ばす)

眼鏡娘(…!今っ──)





──タッタッタッ!





「触るんじゃねぇ!」バッ

青年「!?」

ドンッ!

青年「うわっ!」ドサッ

老人「なんじゃお主…!」

眼鏡娘「男くん!?」

男「無事か!眼鏡娘!?」

眼鏡娘「う、うん…今度は本物…?」

男「本物?何言ってるっ!いいから走るぞ!」ガシッ

眼鏡娘「わっ…!」グラ...

...タッタッタッ

眼鏡娘「あ、でもっ、元気娘ちゃんが…!」タッタッ

男「分かってる!けど走れ!お前だけは絶対に助けたいんだ!!」タッタッ

眼鏡娘「──!」タッタッ

青年「くそっ……逃げられると思うな…!」

青年「みんな!!来てくれ!!神社裏手からの道だ!!」



タッタッタッ...




136 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:20:03.78 ID:N7AwUAt80
ーーーーーーー

眼鏡娘「はぁ、はぁ……」タッタッ

男「く……どんどん人が増えてるな…」タッタッ

眼鏡娘「はぁ…はぁ……」タッタッ

眼鏡娘「あっ…」ヨロ...

男「眼鏡娘っ」

トサッ(受け止める)

眼鏡娘「ご、ごめん、走りにくくて……」

男「いや、悪い。そんな格好なのに無理に引っ張ってきちゃったな」

眼鏡娘「ううん、ありがとう。助けてくれて」

眼鏡娘「…でもどうして…?」

男「決まってるじゃん」

男「俺は眼鏡娘のヒーローなんだろ?」ニカッ

眼鏡娘(ぁ……)

眼鏡娘「そ、そうじゃなくて、私が言いたいのは……」

眼鏡娘「……私のこと、何とも思わないの?」

男「眼鏡娘を?……あぁ確かに今日起きたら変だったかな」

男「お前のこと考えるだけで尋常じゃない違和感とか、不快感…っていうのか?そんなのを感じた気がする」

眼鏡娘「……」

眼鏡娘(やっぱり……)

男「だけど、そんなわけないんだよ。俺が眼鏡娘を嫌いになるわけがない」

男「だから思ったんだ。眼鏡娘の言ってたあの話に何か関係してるんじゃないかってな」

男「で、今日の祭りがてら何かあったのか訊こうと待ってたら……いつの間にかこんなことになっててさ」

男「周りの連中なんかよりよっぽど、眼鏡娘のこと探したよ」ハハ


137 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:21:20.86 ID:N7AwUAt80

眼鏡娘(……男くんは……)

眼鏡娘「なんでそこまで出来るの…?こんな…私なんかのために……」

男「そりゃ好きな相手だからな」

男「大切な人だから。失くしたくない。まして何も分からんままただ周りに流されてお前を嫌いになるなんて、ごめんだ」

眼鏡娘「!……」フイッ

男「どうしたん?…また泣きそうにでもなってるのかぁ?」ニヤ

眼鏡娘「…ち、がうし……」

眼鏡娘「男くんがあんまりにも格好付けてるから見てられないの」

男「え、そらないよ!」

男「…なんてな。照れ隠し下手だよなー眼鏡娘って」ワシャワシャ

眼鏡娘「あ、髪っ」

眼鏡娘(……強いな。男くんも、元気娘ちゃんも)

眼鏡娘(ヒーローだなんて、この二人にこそぴったり)

眼鏡娘(……多分、昔の私にもそうと言える時期があった)

眼鏡娘(今の私に無くて、彼等にはあるもの……きっとそれこそ……)

男「ぶっちゃけると今だってお前への違和感が消えたわけじゃない」

男「だけどな、こうして一緒にいると思い出させてくれるんだ。俺が何をすべきなのか──」



「いた!あそこだ!」



男「ちっ…前からも…!」

男「……しょうがない。眼鏡娘、こっちだ!」ザリッ

眼鏡娘「うん…!」ザッ

男「細い道だ、足元気を付けてな」サササ

眼鏡娘「今日一日で慣れっこになっちゃったかも」ササ

ザッザッザッ...





かすれた立札『危険!入るな!この先崖!!』




138 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:23:49.41 ID:N7AwUAt80
ーーーーーーー

眼鏡娘「……」ザッザッ

男「……」ザッザッ

眼鏡娘(…握られた手が温かい)

男「……」ザッザッ

眼鏡娘(前を進んでいくあなたが、こんなにも力強い)

眼鏡娘(あの頃、内気娘ちゃんにとっての私も、こんな風に見えてたのかな)

眼鏡娘「……ねぇ男くん、私たちどこに向かってるの?」

男「どこだろうな」

眼鏡娘「えぇ……」

眼鏡娘「どんどん道が荒れてきてる…」

男「そうは言っても、とにかく奴らを振り切らないと──って…!?」ピタッ

眼鏡娘「?どうしたの……」

眼鏡娘(──っ)



(小高い崖)



男「……まじかよ……」

眼鏡娘「……どうしよう……引き返す…?」

男「追ってきてるだろうから無理だ」

眼鏡娘「なら崖沿いに進む…」

男「……それしかないか。適当な所でまた山道の方に戻らないと」

男「左に行こう。こっちのがまだ足場がある」

眼鏡娘「分かった」

男「手、絶対離すなよ」

眼鏡娘「うん」



──ガサ



「……」

男・眼鏡娘「「!」」

眼鏡娘(人が……)

男「…右から行くしかないっ」



「……」ザッ...



眼鏡娘「こっちにも……!」

男「このっ…」


139 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:25:03.92 ID:N7AwUAt80



ザッザッザッ



老人「もう鬼ごっこはしまいじゃ、お嬢ちゃん方」

青年「…もっと潔い子だと思ってたよ」

他数名「「「……」」」

男「……最悪だ……」

眼鏡娘「……」

老人「それには同意見じゃ、若造よ」

老人「ここまで楽しくない鬼ごっこは生まれてこの方初めてじゃな」

男「……だったら打ち切ったらどうだ?」

老人「無論終幕じゃよ」

老人「お嬢ちゃんの死を以っての」

眼鏡娘「っ……」

老人「お前さんも分かっておるだろう。その子がどんなに"浮いた"存在であるかを」

男「……それがどうした」

男「俺はお前らみたいな赤の他人じゃないからさ」

男「彼氏なんだぜ。羨ましいだろ」

男「格好の一つや二つ付けさせてもらわないとな」

男(くっ……どこか突破出来そうな箇所はないか…!?)

青年「格好なら既に十分付いてるさ。恋人のピンチに颯爽と現れた――まるでヒーローのようにね。それで満足したろ?」

男「その節はどうも、やられ役さん」

青年「このガキ……」

男(向こうは…ダメだ。あのじいさんの横からなら…いや、奥にまだ控えてる)

「……あのよ、こいつらこのまま突き落としちまえばいいんじゃねーの」

老人「それはよろしくない。万が一にも生き延びられたら面倒じゃ」

男(なにかないか…!切り抜ける道……!)


140 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:27:02.28 ID:N7AwUAt80

老人「……若造、交換条件といこうか」

男「……」

老人「その子を引き渡すのなら、お前さんの無事は保証しよう」

男「…眼鏡娘に加担したやつは殺されるってか?いかれた宗教団体みたいだな」

老人「よく考えてみなさい。わし一人がその子を異常に感じ、消そうとしておるならおかしいのはわしの方じゃ」

老人「だがどうじゃ?これほど多くの人間が同じように思っておる。お嬢ちゃんのことはもうこの町一帯に広まっとるじゃろうな」

老人「…もしかすると、今や国中、世界中やもしれぬ」

老人「であるなら、もはやそれが普通じゃろう。おかしいのは──」

老人「──その子の方じゃよ」

男「………」

男「……そうかもな」

眼鏡娘「………」

眼鏡娘(男、くん……)

老人「ようやく理解したかの?……その子をこちらに連れて来なさい」

男「………あぁ」





男「お断りだね」





眼鏡娘「─!」

男「国が、世界がこいつをはぶろうとしてるって?どんだけ大掛かりないじめだよ」

男「全員正しいと思ってるからそうするのが普通……ま、その意見にゃ納得できる。民主主義ってやつだよな?この前習ったぜ」

男「けど悪いな。俺はこいつに生きてて欲しいからさ、お前らの言う普通には賛同できないんだわ」

男「俺には俺のしたいことがある!お前らみたいに何も考えもしないで周囲と同調するだけの人間になれなんざ、願い下げだね!」

眼鏡娘(……──!!)



ーーーーー

男「──何も分からんままただ周りに流されてお前を嫌いになるなんて、ごめんだ」

ーーーーー



眼鏡娘(………そうだったんだ)

眼鏡娘(やっと……はっきり分かった)



ーーーーー

男?「──いつもそうだよね。自分から動こうとしない」

ーーーーー



眼鏡娘(私は重力が嫌い)

眼鏡娘(……だったわけじゃなくて、ほんとはずっと──)


141 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:28:32.65 ID:N7AwUAt80

老人「……ふむ」

老人「では、どうする?」

老人「お前さんたちの手でわしらを蹴散らすか?」

老人「それとも……そこから飛び降りでもするかな?」

男「……眼鏡娘」ボソッ

男「俺がじいさんの方に突っ込んでいって、そのまま道を開ける」ヒソヒソ

男「多少もつれ合いになるだろうけど、全力で逃げてくれ。いいな?」ヒソヒソ

眼鏡娘「……」

...ギュ





眼鏡娘「跳ぼう、男くん」





男「……え?」

眼鏡娘「……」ジッ

男「跳ぶって……この崖をか…!?」ヒソヒソ

眼鏡娘「」コクッ

男「いくらなんでもそれは……」ヒソヒソ

眼鏡娘「私を信じて」



ーーーーー

男?「──ヒントをあげるよ」

ーーーーー



眼鏡娘(もしこうなることを分かっていた上でそう言ったのだとしたら)

眼鏡娘(私はここで……!)

男「……よし」

クルッ

眼鏡娘「!」クルリ

老人「……む?」

男「あんな突拍子もない話も信じちまったからな。とことん付き合うよ、眼鏡娘」

眼鏡娘「…本当、大好き」


142 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:30:47.64 ID:N7AwUAt80

青年「!まずい、あいつら本当に飛び降りるつもりだ!」

青年「みんな!取り押さえろ!!」ダッ



ドドドドドッ!



男「眼鏡娘!」

眼鏡娘「男くん!」

男・眼鏡娘「せーのっ!!」



バッ!



男「〜〜!」

男(落ちる…!)

眼鏡娘「……っ」





──フワッ





男「浮いた…!?」

眼鏡娘「」フワリ

眼鏡娘(あ、眼鏡が)グラッ...

スル...

眼鏡娘「…落ちちゃった」



青年「え…!?あれ、浮かんでるのか!?」

老人「なんという…!あの子は魔女の類だったんじゃ!」

老人「皆!何か投げつけて撃ち落とせ!石でも何でもよい!」

ブンッ、ヒュッ!



眼鏡娘「!…しつこい人たち…」

眼鏡娘「男くん、ここから離れよう!」

男「あ、あぁ!」



ススス...




143 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:31:47.47 ID:N7AwUAt80
ーーーーーーー



フワフワ



眼鏡娘「……ここまで来れば、もう見えないかな」

男「声も聞こえないしな」

男「…しっかし、俺、空飛んでるのか…?」

眼鏡娘「飛ぶというより、浮くって感じだけどね」

男「自分の身一つで空を……人類の夢一足先に叶えちゃったんだな…」

男「これ、眼鏡娘がやったのか?」

眼鏡娘「んー……分かんないけど、多分違う」

眼鏡娘(きっとあのお節介な黒猫)

男「ほー…でもすごいなこれ!」

クルクル、スイー

男「はは、今ならどこへでも飛んでいけそうだよ!」

眼鏡娘「また子供みたいにはしゃいでる」クスッ

男「はしゃぐなって方が無理だろ!こんなの!」

男「…っと、言い忘れてたけどさ」

男「その浴衣、似合ってるよ。眼鏡も無いと、いつもよりこう……色気があるというか……」

男「少しはだけてるし…」

眼鏡娘「」バッ

眼鏡娘「……そんなこと考えながら一緒に逃げてたの?」ジトー

男「しょうがないんだって……彼女のそんな格好…男の性(サガ)ってやつだ」

眼鏡娘「もう…やらしいんだ」フフッ

男「……けどなー、せっかく浴衣の眼鏡娘と祭り回れると思ったのに、結局ひたすら走っただけだったな」

男「祭りらしいことなんて、何一つ出来なかった……」



ヒュルルルルルルル

ドーン!



男・眼鏡娘「「!」」

眼鏡娘「花火?」

男「みたいだな。あんなことになっても上がるものなのか…」

ヒュルル...ヒュルルル

ドドーン!

眼鏡娘「……お祭りらしいこと、出来たね」ニコッ

男「……そうな」ハハ

男(…!)

眼鏡娘「……」ハナビミアゲ

男(…花火をバックに浮かぶ眼鏡娘の姿は、どんな一流の画家でも描けないだろうってくらい、絵になっていた)


144 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:33:28.46 ID:N7AwUAt80

男「……眼鏡娘」

眼鏡娘「?」

男「その、助け出すの遅くなってごめん」

眼鏡娘「え?なんで?今こうやって無事でいるんだから、それだけで──」

男「元気娘さん」

眼鏡娘「─っ」

男「…もう少し俺が早く見つけられれば、あの子も助けられたかもしれない…」

眼鏡娘「……」

眼鏡娘「男くんが責任を感じることじゃないよ。あれは…私が弱かったから起きちゃったこと……」

眼鏡娘(だからもう、あの自分とはお別れ)

眼鏡娘「………男くん、私ね」

眼鏡娘「──帰ろうと思うの」

男「危険じゃないのか…?眼鏡娘の家はとっくにあいつらの仲間が」

眼鏡娘「」フルフル

男「…違う?なら……」

男「!……まさか」

眼鏡娘「……」

男「……前言ってた、"ひと月前の日"……にか?」

眼鏡娘「……そう」

男「おいおい……でもどうやって?」

男「引き出しの中にタイムマシンでもあるとか?」

眼鏡娘「どうしても私をドラえもんにしたいの?」

眼鏡娘「やり方は多分、分かってる」

眼鏡娘「……」ガサゴソ

スッスッ



[送信済みメール]
━━━━━━━━━━━━━━━
from:
sub:アンケートにご協力ください
━━━━━━━━━━━━━━━
Q. 嫌いなものは何ですか?
重力。

━━━━━━━━━━━━━━━



眼鏡娘(……やっぱり残ってた)



ーーーーー

男?「──嫌いなものは何ですか?」

ーーーーー


145 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:34:43.36 ID:N7AwUAt80

眼鏡娘「……」

眼鏡娘「男くんは私に戻って欲しくないの?」

男「まあ…」

男「普通に考えて、好きな人が居なくなるなんて嫌だろ…」

眼鏡娘「居なくはならない。またすぐ会えるよ」

男「戻った先で、だよな?その時の俺は眼鏡娘のことを好きになる前の俺じゃんか」

男「あんなに眼鏡娘のかわいいところ知ってる俺が、無かったことになるなんてさー……」

眼鏡娘「……また、好きにさせてみせる」

眼鏡娘「男くんのこと、惚れさせてあげる。今度は私だけの力で!」

眼鏡娘「だから、無かったことになんかならないもん」

男「………」

男「そうかい」フッ

男「……あ、戻ったらさ、教室で寝てる俺のワイシャツ、よーく見てみ」

男「あんとき、ボタン掛け違えてるから」クスッ

眼鏡娘「そうだったの?…からかってやろー」

男「んなことしたら、後日いじり返すからな?そういう性格だから、俺」フフン

眼鏡娘「ふふっ、知ってる」

眼鏡娘「……さて、と」スッ



『このメールを編集しますか?』



眼鏡娘「……」スッ、スッスッススッ

スッ...



『送信しました』



眼鏡娘(……これで……)


146 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:36:11.95 ID:N7AwUAt80

男「……なぁ」

眼鏡娘「ん?どうし──んむっ」

眼鏡娘(!?!?)

男「………むぁ」

男「ふぅ…これ、いい雰囲気って言えるんかな」

眼鏡娘「」ポカン

眼鏡娘「…!」

眼鏡娘「な、ななな…今にゃにを……!?」

男「何って、キスだけど」

眼鏡娘「〜〜っ!!」

眼鏡娘「は…初めてだったんだよ…!?」

男「やりぃ。俺も初めて」ニッ

男「だってよー、癪なんだよなぁ。眼鏡娘と両想いになったのは俺なのに、戻ったらどことも知れない奴が彼氏になるんだろ?」

男「……それが"俺"だとしてもさ」

男「つーわけで、こんくらい報われてもいいよね?」

眼鏡娘「……バカ」

眼鏡娘「バカバカ!ずるいよっ!こんな時にぃ…!」

男「へへっ、柔らかかったなー、唇」

眼鏡娘「言わなくていい!//」

眼鏡娘(ほんっとに!男くんは…!)

男「……ありがとうな」

眼鏡娘「なに??勝手にしといてお礼言うの???」

男「いや」

男「──俺を好きになってくれて」

眼鏡娘「!……」

男「……」

眼鏡娘「……」

男「…前の俺に、よろしく」

眼鏡娘「…うん」



グワン



眼鏡娘(!世界がぼやけてきた…)

眼鏡娘「…私の方こそありがとう」

眼鏡娘「好きになった相手が男くんだったから、すっごく楽しかったし、私が見ないようにしてた自分の嫌いな──」

眼鏡娘(だめ……もう意識が………)



グニャリ...



.........




147 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:37:49.19 ID:N7AwUAt80
ーーーーーーー



──ポトッ



眼鏡娘「…………!」

眼鏡娘(学校……戻って、来た…?)

眼鏡娘(……消しゴム)

眼鏡娘「……」ヒロイアゲ

眼鏡娘(………)

眼鏡娘「………」

眼鏡娘「……」チラッ



男「」スースー...



眼鏡娘(…同じだ)

眼鏡娘(ということは)

ピロリン

眼鏡娘「……」

スッ、スッ



☆元気娘☆『ごめん!先帰ってて!まだ委員の仕事長引きそう_(:3 」∠ )_』



眼鏡娘「………」

眼鏡娘「」スッスッ



眼鏡★娘『ううん、待ってるよー。今日元気娘ちゃんと帰りたいから』

☆元気娘☆『!!!(゚ロ゚屮)屮』



眼鏡娘「……ふふ」


148 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:39:02.35 ID:N7AwUAt80

男「……んぁ…」パチッ

男「やば、寝てた…ってこんな時間か」

眼鏡娘「おはよう、男くん」

男「眼鏡娘さん…?…おはよう」

眼鏡娘「……シャツのボタン、掛け違えてるよ?」

男「えっ……ほんとだ!?」

眼鏡娘「クスッ、意外と抜けてるとこあるんだね、男くんて」

男「い、いや今日は偶々だから…!」イソイソ

眼鏡娘「朝からずっとその状態だったのに?いつ気付くかなーって見てたけど、最後まで気付かないんだもの」フフッ

男「教えてくれよー……」

男「…眼鏡娘さんは意外といじわるなんだ?」

眼鏡娘「そんなことないよ?ボタン掛け違える誰かさんと比べたら」

男「………」

男「」ニヤ

男「あー、明日が楽しみになったなーこれは」

男「ね、眼鏡娘さん??」

眼鏡娘「…そうかもね?」

男「………ははっ」

男「俺はもう帰るんだけどさ、眼鏡娘さんはどうするの?」

眼鏡娘「私は友達を待ってるから、まだ残るよ」

男「ほぉ」

男「……じゃやっぱ明日だな」ボソ

男「明日さ!昼、一緒に食べような!席そっちに持ってくから!」

男「んじゃ、またなー」



ガララ



眼鏡娘「うん、また明日ー」

眼鏡娘(……何されちゃうんだろうなー私)ワクワク

眼鏡娘「……」

眼鏡娘(なんか…男くんにいじられるの、癖になっちゃってるかも…)

眼鏡娘「………」

眼鏡娘「……元気娘ちゃん、後何分で終わるんだろ」



.........




149 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:41:04.32 ID:N7AwUAt80
ーーーーーーー



ガラッ!



元気娘「あ、ほんとにいた!」

元気娘「待っててくれてありがとー、眼鏡娘ちゃん!」テテテッ

眼鏡娘「あ……」

眼鏡娘(元気娘、ちゃん)

元気娘「でも2時間くらい待たせちゃったよね…面目ない」

眼鏡娘「……」スッ

ペタペタ(手を触る)

元気娘「へ、なになに?」

眼鏡娘「……ちゃんとあったかい」

元気娘「それは、血が通ってますからなー。…眼鏡娘ちゃんって冷え性だったっけ?」

眼鏡娘「そうでもないけど……冬、背中に手入れて確かめさせてもらっていい?」

元気娘「…!?いいって言うと思うのかな!?ビクッてなるやつだよね、それ!」

眼鏡娘(この子が私と友達でいてくれるのは)



ーーーーー

幼眼鏡娘「──じゃあわたしが友達になってあげるよ!」

ーーーーー



眼鏡娘(私がこの子と友達になったから)



ーーーーー

元気娘「──ずっと友達でいようねっ」

ーーーーー



眼鏡娘(だからこうして、私と一緒に居てくれるんだね)

眼鏡娘「……ね、元気娘ちゃん」

元気娘「んー?」

眼鏡娘「……」





眼鏡娘「私、男くんのこと好きなんだ」




150 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:44:00.18 ID:N7AwUAt80

元気娘「!」

元気娘「…そ、そーなんだ」

元気娘「いいじゃん!応援するよ、私!」

眼鏡娘「はいダウト」

元気娘「ふぇ?」

眼鏡娘「だって、元気娘ちゃんも同じでしょ?」

眼鏡娘「男くんを好きなの」

元気娘「……そんなこと……」

眼鏡娘「いいの!私元気娘ちゃんに譲って欲しくて白状したんじゃないから!」

眼鏡娘「……これからはライバル同士だよ、元気娘ちゃん」

元気娘「でも、私、眼鏡娘ちゃんが好きならそれで──」

眼鏡娘「だーめ!遠慮とかしたら怒るからね」

眼鏡娘「私たち、ライバル同士で──」

眼鏡娘「──友達同士なんだから」ニコッ

元気娘「……!」

元気娘「…負けないよ?眼鏡娘ちゃん」

眼鏡娘「私だって」

眼鏡娘(そう、これでいいの)

眼鏡娘(何も出来ない、しようとしない私は置いてきた)

元気娘「…ん!じゃあさ!ライバルになった記念でどっか遊びに行こ!」

眼鏡娘「今から?もう結構な時間だけど…」

元気娘「今日はもう帰るよ!だから明日の放課後!」...テクテク

眼鏡娘「それならいいかな、空いてるし」テクテク

元気娘「この辺りに最近出来たっていう話題のカフェがあるんだけど、そこのパフェ食べながら決起集会しましょー!」

眼鏡娘「あ、ごめん。私その前に明日のお昼男くんと食べる約束しちゃった」

元気娘「えぇ!?早速抜け駆けされたっ!?」

眼鏡娘「一応弁解させてもらうけど、誘ったのは向こうだからね?これはセーフ」

元気娘「なにが!アウトだよー!裏で密かに仲良くなろうと──」

眼鏡娘「そんなこと言って、同じように誘われたら元気娘ちゃんも──」

ワイワイ...



ガララ ピシャリ



.........




151 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/01(日) 15:45:02.07 ID:N7AwUAt80





[送信済みメール]
━━━━━━━━━━━━━━━
from:
sub:Re:アンケートにご協力ください
━━━━━━━━━━━━━━━
Q. 嫌いなものは何ですか?
重力に逆らえない自分。

━━━━━━━━━━━━━━━





ー終わりー
152 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2019/09/01(日) 15:47:50.22 ID:N7AwUAt80
これにて完結となります。

参考にしたのは「アンチグラビティーズ」という歌です。オリジナル展開の方が多めですが…。

読んで下さった方ありがとうございました。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/02(月) 09:27:37.80 ID:+HBLTQz50
完結していたか乙
1から読み直すとするか
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/02(月) 11:11:48.85 ID:bY8UF1hHO
誰かが書いてたけど確かにフジリューの短編の匂いがするねサイコ+だったかな
面白かったよまたss書くときは告知とかあるのかな?
155 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2019/09/02(月) 12:21:42.96 ID:cM82+KfeO
>>154
下手の横好きで書いているもので、嬉しいですけど何だか畏れ多いですね…。

告知の仕方とかは分かりませんが、次回作はもう構想が出来てます。

少女「お兄、すき」男「そうか」

というタイトルで、多分今週末か来週頭には投稿を始めると思います。
よければ是非。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/02(月) 13:57:45.43 ID:e+b0XnCDO
乙でした。面白かったです
途中まではどうなるかと思ったけど、良い感じに終わって良かったです
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/02(月) 16:58:54.52 ID:bY8UF1hHO
ただ重力世界?のほうの彼氏はあの後に老人達に捕まって撲殺されたのかなと考えると悲しいな
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