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タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part7

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126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/10(月) 12:47:06.00 ID:XhlY3PGh0
タイトル「苦情ネギ」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 20:12:04.72 ID:tsfKTfpqO
タイトル「おまえらは勉強ができない」
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/11(火) 14:59:50.39 ID:ZYOxeX9V0
タイトル「パラドックスボックス」
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/11(火) 17:20:24.18 ID:P1xQ1Sx10
タイトル「5京年ボタン」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/12(水) 12:25:30.05 ID:gSfHDqMS0
タイトル「後悔と懺悔」
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/02/13(木) 01:11:03.04 ID:LYiFRwOS0
>>51「線引き家族」


居間につながる襖を引くと、何者かがキッチンに引っ込む気配がした。
炬燵机の上には、ミカンの皮が数枚、筋が置かれたティッシュペーパー。居間から抜け出したのは母らしい。

「ただいま」

 キッチンからおかえり、と声がした。遅れて二回からも同じ言葉。弟だ。バックグラウンド再生みたいに気のない声である。
ミカンを一つ手に持って僕は自室へと上がっていった。家はひっそりと静まっている。階段を踏みしめるぎい、ぎいという音が嫌に大きく響いた。
母はキッチンに潜んだままで物音を立てなかった。微かな息遣いの雰囲気が、沈滞する家の空気に伝播して感じられるような気がする。
掌中のミカンはひんやりと冷めていて心地よかった。幾度か手で冷たさを楽しんだ後、徐に頬につけてみる。快い感触であった。

 部屋に入ると、西側にある弟のベッドが慌ただしく暴れ、布団が立ち上がって冷徹な紅葉柄の壁を作った。
表情はなく、頑として受け入れないといったような格好である。
 僕は荷物を自分の机の足元に置くと、部屋の中央のカーテンを引いた。
兄弟共用の部屋が、これで二つに分けられたことになる。
弟のベッドに直立した布団の壁が崩壊する音がして、小麦粉が満載された袋が爆ぜるような衝撃がカーテン越しに届いた。
 鬼滅の16巻ある、と弟が僕に呼び掛けた。
ある、と返事をすると
「じゃあ読ませて」
 そう言って布団の中で背を向けたようだ。
 本棚から16,17,18巻を抜き出してカーテンの隙間から差し入れてやった。机に向かって座りなおしたころに、慎重な足取りで『鬼滅の刃』は回収された。

 夕飯に呼ばれて弟がベッドから立つ気配がしたので、階段のきしむ音がしなくなるのを待ってからカーテンをくぐって一階に降りた。
居間の炬燵の上には八宝菜とサラダ、ご飯がお盆に乗って置いてあった。八宝菜に手をかざすと、温いものが感じられる。
階段がぎち、ぎちとなった。弟が上がっているらしい。
少し待って、弟と同じ道をたどって僕も部屋に戻った。部屋に入るとき、弟が再び布団の壁を作ったことは言うまでもない。

 翌朝も同じようにまず弟がとって、入れ替わりで僕が居間にある自分の分を持って部屋に戻る。母親はそのあとで最後に残ったのを食べる。父親は弟よりもさらに早く食べ、まだ兄弟が目を覚まさないうちに出て行ってしまう。帰宅するのも遅いから、あまり僕たちは気にかけていない。

 その日に帰ると、弟は部屋に彼女を連れ込んでいるようだった。ドアノブに手をかけてひねって中に入り、僕は宿題をしようと思った。
朝って提出の数学の宿題で、量が多いうえにまだ手を付けていなかった。
弟は僕の雰囲気が侵入してくるのを感じるや否や布団にくるまって彼女を抱いた。
きっと後押しが足りなかったのだろう、二人は脱いではいなかった。ただ微妙に視線を合わせたり外したりし、恥ずかしそうにうつむいた雰囲気だった。
机に座って問題集を開いたちょうどその時に、くぐもったような押し込めたような、短い上気した高い声が聞こえた。僕は音をたてないようにカーテンのほうを見た。
弟と彼の彼女のシルエットが映っている。二人の顔は接近し、くっついているようだった。弟の手は彼女の胸のあたりにある。

彼女が両腕を背中側で引き合わせるように上半身をよじると肩から大き目の何かが滑り落ちた。弟はそれを確認するとさっきまで落ちた何かがあったところに顔を近づけ、シルエットの中に融合されていった。おそらく体の前面だろう。彼女は天を仰いでのけぞった。血が集中し始めていた。
 
 肉がぶつかる音がする。我慢するような声が漏れてくる。彼女の豊満なものが揺れる。直接は見えないが顔は赤くなっていそうだ。弟よ、それでいいのだ。
僕たちは君らになんだって言いやしないからな! ただ、影と空気を見るだけだ。そこから十分な情報を目に引き受けて融合させてやる。
それがどうなっているのか君はたぶん知らないだろうが、心配することはない、このことは僕たち家族の心裡にだけ保存されて、不外出の一次資料だ。
いかなる令状によっても出されないのだ。僕たちは僕たちの秘密を共有する代わりに、その秘密を秘匿する義務を相互に課している。
そうしないとたちまち我が家の在り方は瓦解してしまう。こうするしかないのだ。

 だから。

 彼女はまたがって体を上下に振る。

 君はこのように間接的に。

 唇は半開きになっているだろうか?

 そのプライベートを身内に。

 表情はきっとだいぶとけてきているはずだ……。

 晒す代わりにうちに閉じ。

 彼女の裸体が痙攣した。鼠径部あたりに手を持ってきて抑えている。

 こめて外界からそのプライバシーを完全に保護しているのだ。わかっているね?

 息切れしたようで、肩で息をしている。カーテン越しの背筋が気になった。

 弟よ、我が家のルールをきちんと把握しているか?

 扉の向こうに神社の境内の隅に居ついた狐のような雰囲気があった。

 君は絶対的な澱ものに覆われているんだ。

 母もまた弟の性交を感じに来たようだ。淡い雰囲気を発して扉の向こうに潜んでいる。

 だから不満を抱いて改革を訴えてはならないのである。

 母もまた、どこか上気しているようでもあった。
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/13(木) 01:49:39.63 ID:TCPxq+YN0
>ただし、板のローカルルールに則って、R-18内容を含むものを書くことはタイトル・SS共にご遠慮ください。
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/13(木) 17:03:29.66 ID:5APzoLhL0
タイトル「強肉弱食」
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/02/13(木) 22:59:17.38 ID:LYiFRwOS0
>>69「愛の薔薇」

 詰襟の二人の少年が、橙色の差す坂道を下っている。西の空に一羽のカラスが飛び、夕陽をわずかに陰らせた。
背の低い方の少年が空を見上げて、

「あーあ、大学どうすっかなー。全然わかんねえや」
「まだ決めてなかったのか? センターの出願来週だろ」
「そうなんだよ、そうなんだけどさー……」

口をとがらせて大きな目をくりくりさせて歩いた。僕はその顔が好きだった。髪は柔らかくて滑らかだ。風が吹くたびに一本一本がさらさらとなびく。
瞳は色が薄く、夏になると彼はよく目の上に手を当てて影を作り、その上目を細め、
「ずいぶん眩しいね。目を開けてるのがつらいや」
 とはにかみながら言うのだ。普段白い首が強い日差しに晒されて赤くなっている。そこからあふれてくるのは彼の活きて熱く滾る血潮……。

 休み時間になると彼はよく僕の元にやってくる。小学生のころからそうだった。いつもいつも、休み時間になると僕の席にやってきて他愛もないことを話すのだ。
 流行りのアイドルのこと。
 昨日のバラエティのこと。
 勉強のこと。
 行事のこと。
 部活のこと。
 そして学校の女の子のこと。
 
 女の子の話をされると胸が締めつけられるように感じ始めたのは中学に上がった頃だろうか?
 僕はその正体を量りかねた。と同時に、可愛いと思う女の子、交わりたい子はいるのに恋愛感情が彼女らに対して湧かないのも不思議だったのだが……。
しかし彼が楽しそうに話をしているので、僕はそのことを告白することができずにいた。今でもできていない。きっとこれからも心のうちに秘め続けるだろう。どんな顔を彼がするのか本当に知ってしまうのが怖いからだ……。

「お」
 と彼は足を止めて店頭を見た。そこにあったのは花屋で、軒先に可憐な薔薇が立ててあった。いったい何輪あるだろう。百は下らないかもしれない。

「薔薇、あげてみたいよな。一生を誓った運命の人に。そのときどんな顔をしてくれるんだろう、俺のフィアンセは……どんな人なのかな」

 さあな、と僕は哀愁を心の底に沈めてから言った。膝に手をついて薔薇に見入る彼の顔は溌溂としていた。まるで将来の希望が既定の事柄であるとでも言いたげな表情だ。同意を求めるように笑いかけてきたので適切な相槌を打つ。

「出会えるといいな、そんな素敵な人に」

 無邪気な顔をして彼はまた笑った。しかし立派な薔薇だなー、ずっと見ていたいや。

 僕もそうだ、と声に出さずに言った。しかし薔薇は二の次である。薔薇に喜ぶ彼がなによりも喜ばしかった。素晴らしかった。愛らしかった!
 自然と幸福そうな笑顔に変わっているのが自分でもわかった。薔薇に目を移す。
 深紅の花弁が盛大に咲き誇り、火炎のように心の中をかき乱していた。熱く、火をつけようとしているようでもある。
 
 でも――そうするわけにはいかないんだ、わかってほしい。応援してくれるのはうれしいけどさ、それはなされてはならないんだ。僕が彼のすぐ近くに居続けるためにも。
 
 薔薇の花は立派で、深紅色、他のどんなものにも勝る純粋な深紅色であった。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/14(金) 00:24:26.86 ID:dvW6l1140
タイトル「花一問目」
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/14(金) 07:35:24.04 ID:fQV3XqoJ0
タイトル「ボルボットボボックス」
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/15(土) 18:16:45.76 ID:dBfwLC+PO
タイトル「廃人の街」
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/16(日) 09:25:20.28 ID:GEgX33O/O

五月雨さんは僕のクラスの学級委員長である。

容姿端麗、文武両道、清廉潔白、純粋無垢と彼女を言葉で現すとこれでもかと彼女を褒め称える言葉しか出てこない。
実際五月雨さんはクラス中でも人気者で先生たちとの信頼も厚く、何だったら彼女のファンクラブなるものが存在するほどの有名人だ。

同姓のクラスメイトでも彼女を嫌う人は少ない。それは彼女が自分を嫌う者であっても分け隔てなく接しようとする慈愛と献身からもたらす人徳のお陰なのかもしれない。


「…◯◯くん? ホームルーム終わってだいぶ経つだけど帰らないの?」

そう、クラスの中でも地味で目立たず友達も少ない僕に対してもそれは変わらずで、僕にはそんな彼女に眩しさを覚え気後れすらしてしまう程に。


「あっ…ごめん、花瓶の水だけ取り替えたら帰ります…」

「ふふ、同じクラスなのになんで敬語?」

小さくはにかむ彼女に心臓がキュっと締め付けられるような気持ちになる。彼女は誰に対してもこうだ。

だから変に勘違いなどしてはいけない。


「私ももう少しで帰るけど……もうすぐ夕方だし暗くなると通り魔とか出て危ないから早くに帰った方がいいよ?」

「うん、ありがとう五月雨さん」

「どういたしまして」

そう言い残して五月雨さんはニコリと笑いながら教室から去っていく、純白のセーラー服と腰まで伸びた黒髪をなびかせながら。
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/16(日) 09:28:09.40 ID:GEgX33O/O


どうやらこれが走馬灯というものらしいが、こんな直近の思い出しか出てこない限り、なんて僕の人生は薄っぺらいものだったのだろうか。

最近この辺りで通り魔による猟奇殺人事件が多発しているのは分かっていた、だけど自分が襲われるとはつゆにも思っていなかったが。

それよりも何も、僕が恐れ戦いてるのは眼前にいる通り魔と呼ばれるものがもはや人間のカタチを成していない化け物であるということだ。
その身からは肩や背中からは棘が生えており、肌は青白く血のように染まっている眼からは理性というものを感じられない。

僕は死ぬんだろうか?

死体ははらわたがぐちゃぐちゃの状態で発見されているらしい。きっと僕も腹を裂かれ、内蔵を貪るように喰われるのだろう。
そんなのは嫌だ、死にたくない。
駄目でも無茶でも好きな娘に告白の一つもできないまま終わりたくない。

そんな僕の意思を無視するかのように目の前の化け物は鋭く血に汚れた爪を僕に振り下ろした。


「見ぃ〜つけた♡」


爪は僕に届かなかった。
僕を引き裂こうとした瞬間、何かに腕を切り落とされ明後日の方向へと飛んでいった。
痛みに悶える化け物の視線を追うと一人の女の子が立っていた、手には刀を持っていてきっとあれで化け物を斬ったのだろう。


化け物が怒り狂うように女の子へと飛びかかる、女の子は軽くいなすように避け再び化け物を斬りつける。化け物が必死に女の子を捕らえようとするも地を、宙を舞うように動き回る彼女には当たらない。

彼女は化け物を斬り裂いていく、しかし致命傷を与えるような攻撃ではなく少しずつ身体を削いでいくような、じわじわといたぶるように追い詰め、純白の制服を紅く染め上げ、背中まで伸びた黒髪をたなびかせながら………そんな、嘘だ、ありえない。

だって彼女は


「あれ…? あはっ♡もうおしまいかぁ……もう少し遊びたかったんだけどしょうがないか、それよりも…」


彼女の笑顔は清楚で、眩しく太陽のようだった。
しかし今の彼女は…妖艶で、どこか恐ろしく。


「暗くなると危ないよって……わたし、言ったんだけどなぁ……◯◯くん?」

「…さ…さみだれ、さん…?」



黄昏に染まる景色の中、恍惚とした妖しい笑顔を携えたきみは……だれなんだ?



>>119「たそがれ、さみだれ、きみだれ」
>>120「黄昏時に君は誰」

----------

お目汚し失礼、拙い文章でごめんよ
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/02/16(日) 10:45:14.07 ID:FETyfwn30
>>「どす恋」

「そうは言いましてもな、わたくしは食わねばならんのであります、大きくあらねばならないのであります」
甚兵衛の巨漢は米をひたすら口に押し込んで噛みながら、不乱に口説く努力をしていた。
目の前の女もまた巨体であり、男とは異なり飲み込むまで口を開かない。

「浅香さん、箸が止まっていらしてますな。どうなさったのか? どんどん、お食べになってください。同業ですから、遠慮する必要などないのでありますよ」

「別に」浅香と呼ばれた女は噛んでいたものを嚥下して言った。
「何も遠慮しちゃあいないよ。噛んでる間に新しいものを一気呵成に詰め込むことができんだけですわ」
「そうですか」

 二人は力士であった。男は前頭で、女は女性力士として活躍していた。
男は斯波山と言い、幕下転落の危機に瀕している。斯波山がそれを自覚しているのかいないのか、それは態度からうかがうことはできない。
何しろ彼は軟派な質で、遠征する毎に女を誘い買いなどしていたので、相撲協会の人間からよくは思われていなかったのだ。
 そんな彼も三十を目前にし、身を固めたいと思うようになったのだ。

 しかし彼の性質を知る女は皆敬遠して逃げていくし、せっかく新たにまぐわえそうな女をひっかけても、彼の性的な無節操が顔を出してこれまた逃げられてしまうのだった。
 そういうわけだから、浅香に狙いを絞って食事に来ているのである。

 浅香はかつて女力士として名を馳せていたが、長い伝統とはいえ土俵に上がることができないのに我慢がいかず電撃引退し、今は斯波山の所属する部屋で働いている。
知人は、痩せれば美人に違いないと皆言う。そしてそれは浅香自身もそうだろうと思っている。相撲なんかやっていなければ、男などいくらでもとっかえひっかえできるだろう。うぶな童貞を食い荒らして彼らが泣く姿を想像すると、彼女はエクスタシーのような勝利感を味わうのだった。

 しかし女力士になってしまったのだから仕方がない、言い寄る男は少なかった。だから浅香は斯波山の誘いを受けたのだ。
彼女とて斯波山のことは嫌いではない。嫌いだったら誘いを受けていないはずだ。それに斯波山に対しては、自分と似た雰囲気を感じ取っていた。
同じ異性を誑かす人間として、同族的な連帯感を感じていたのだ。おそらく自分が結ばれるならもうこういった男しか残ってこないだろう、ともどこか確信めいた考えも心中にあった。

 それは斯波山とて同じであった。軟派物の俺が捕まえられるのはこんなの程度だろう。痩せれば美人だしな。
相互の同情も重なって、彼らの間には冷めきった恋愛の感情が横たわっていた。それは燃えない。燃えないが、一通の太い運河のようなもので、その間を確かな交流は二人に強いつながりを抱かせた。
 
 もう一押しだ、と浅香は思う。つながろう、とかそれに類することを言ってくれれば、私もすぐに手をつないでいこうと言い出せるのに。

 斯波山は言った。
「浅香さん、あなたいつになったら身を固めてやるおつもりですか」

「いつでも構わんですよ、私は。今固めてやってもいいくらいです。来年でも、再来年でも。しかし早い方がありがたい。斯波山さん、あんたの方は」
「わたくしですか、早くしないと生涯独り身ですからね、早急にお願いしたいですね」
「では私はどうですか」
「良いですね、では浅香さんわたくしは」
「ええ、いいと思いますよ」
「そうですか、ではお願いしたいですね」
「はい、そうしましょう」
「それではこの後、仲を深めるためにちょっくらホテルに参りませんか」
「大丈夫でしょう。親方が何というか心配ですが」
「そのあたりは平気です。以前にわたくしはそういった話を親方としたことがあります。自由恋愛で婚姻を進めるのはいかが思うか、と。親方は言いました。現代は見合い結婚よりも恋愛結婚が主流だ。部屋の顔とか大企業、名家の跡継ぎならともかくお前は部屋に所属する単なる一力士だから、気にする必要はない」
「それはあなた期待されてないんじゃ?」
 笑いながら朝香は言った。
「そうでしょうな。でもそれがどうしたというのでしょう。気楽に相撲を取ることができますし、好きな女を食って捨てるも自由にできるのであります。本命を捕まえるまでの間の性欲を吐き出す相手を好きにできるのもいいもんですぞ」
「それを交際を申し込んだ人の前で言いますか。私も似たような考えを持っているので、あまり強いことは言えませんが」
「そうでしょうとも! 我々は似た人間なのではないでしょうか。だからこそともにいようというのです。同じ所帯で、浮気のような恋愛を続けるのです」
「面白いですね」

 二人は静かに食事を終え、勘定を済ませた。外に出ると温い風が足許に吹きつけ、互いの首筋のにおいをかいだ。
 安心した表情で見つめあった。その脚で二人は夜を過ごすホテルへと向かった。


感想求ム
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/02/16(日) 10:45:50.40 ID:FETyfwn30
>>70
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/17(月) 09:17:18.71 ID:0vVDSc8x0
タイトル「平行世界ツアー」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/17(月) 17:56:23.10 ID:pDzRV5FZO
タイトル「さいたまーず」
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/18(火) 17:45:25.28 ID:W/yKhBi4O
タイトル「さいたまーずvsちばーず」
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/18(火) 22:13:12.33 ID:AqahJRTk0
タイトル「オッドアイの猫」
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/19(水) 16:38:18.49 ID:8fjNKSxm0
タイトル「瞳の中の私」
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/19(水) 19:37:57.51 ID:yHszG1C+O
タイトル「浮上戦隊アゲルマン」
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/19(水) 20:47:48.43 ID:37XcMRc7O
タイトル「はじめての世界」
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/20(木) 00:19:39.57 ID:X60C8czQ0
タイトル「隅付き括弧(鍵括弧)<丸括弧>」
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/20(木) 02:10:10.13 ID:4eljQqP40
タイトル「月刊''アナタの秘密’’」
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/20(木) 13:57:50.01 ID:GjcoaCgqO
タイトル「とある魔術の教書抜粋」
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/20(木) 14:19:11.54 ID:GjcoaCgqO
タイトル「Maleman vs Femalewoman」
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/21(金) 07:17:51.29 ID:OmPE0e520
タイトル「ローソンどきどき四丁目店」
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/21(金) 23:34:56.76 ID:OtUQF87N0
タイトル「こちら葛飾区亀有公園前セブンイレブン」
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/22(土) 19:35:53.00 ID:6fJuAN6qO
タイトル「スタンド能力関連犯罪対策捜査部」
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/23(日) 20:03:25.67 ID:+xaTAyFMO
タイトル「最果ての村」
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/23(日) 21:26:13.38 ID:H3jULl5R0
タイトル「こちら横浜港ダイヤモンドプリンセス号派出所」
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/24(月) 10:01:36.26 ID:y6LTa1CE0
タイトル「愛され系飼い猫になりたいだけの人間だった」
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 14:29:08.90 ID:jlNj+JE40
タイトル「ご注文はうなぎですか?」
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/26(水) 17:44:09.76 ID:Tf5+R/ntO
タイトル「沈黙戦隊サゲルマン」
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/28(金) 11:36:04.38 ID:k8I8eIugO
タイトル「サトーマンvsスズキマン」
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/28(金) 21:24:02.64 ID:ET8gWwAh0
タイトル「てやんDAY」
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/29(土) 17:29:03.52 ID:6Buit0Or0
タイトル「テンサイ馬鹿凡」
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/29(土) 22:21:25.14 ID:6Buit0Or0
タイトル「ご注文はうさぎですか!?」
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/02(月) 19:17:40.28 ID:VBQn1btn0
>>74「海底の花火」

 ――聞こえるか? おい、返事ができるやつは返事をしろ。

 …………いいや、やめだ。点呼だ、点呼を取る。番号!

 ――いち!

 ――に!
 
 ――…………………………

 ――よん!

 ――…………………………

 ――…………………………

 ――…………なな。

 ――…………………………

 ――きゅう!

 そうか、半分しかいないか。みんな、艦内前方に集まってくれ。真っ暗だから、壁を伝ってな。



 明かりは全滅、計器類はほとんどダウン。動いてるのは酸素メーターと深度計、あとは酸素供給系統か……。

くそっ、通信、レーダー、発信機はことごとくだめか! ハッチもいかれてて脱出も試みられやしない!

なまじ生きられるだけあって、かえって地獄だな、これは……。

 ちくしょうめ、と手の中でライターを揉んでいる。彼は艦員の中で一番若く、短絡な男だった。整髪剤で逆立てた髪の乱れを気にしている。

 焦っても仕方ないさ、と壮年の男がたしなめるような優しい声で言った。こちらは三十代前半の整備士である。

左手の薬指にはプラチナの指輪がきらめきを待ちつつはめられている。指の背に触れるところには、Hirochika Yanaseの文字が刻まれている。

 その彼の背中にしがみついているのは髪の長い、三十路ちょうどくらいの若い女だ。

こちらも左手の薬指にリングがあって、やはりMasano Yanaseと刻印されている。二人は夫婦で、結婚してから三か月だった。

出航した直後には、二人向かい合って笑い、早く子供が欲しいな、などといちゃついて桃色の関係を披露していた。

 航海士は生存こそしているものの、全身を打って衰弱甚だしい。すでに意識はもうろうとし、へし曲がった腕はタオルで簡易的に縛られている。

舌の周りが随分と悪い。急性硬膜下血腫だろうか?

 艦長は動けない航海士の代わりに操舵を担っているが、動かないものはどうしようもないから、レンズをのぞきあたりを見回している。

見えるのは青ざめた砂である。のっぺりとした感触に思われ、おそらくはかき回す存在がまれなのだろう。

 うっすらとした影が見えた。オオグチホヤである。透明な口をばっくり開け、流れてくる微細な餌を飲み込んでいる。

近くには小さなエビ。長いひげを垂らして歩いていた。従容とした態度が艦長には気に入らなかった。

エビごときがあんなに悠々としておいて、どうしておれたちがこれほどに静かに絶望しなければいけないのか?

 明かり、使っていぞ。動ける三人の艦員はそろって顔を上げた。

闇のヴェールがかかった輪郭しかわからず、どんな表情をしているのか知ることはできない。

ただ確かなのは、Yanase夫妻が濃厚なキスをしようとしていたことだけだ。

二人は見つめ合うと、MasanoはHirochikaの首に手を回し、曖昧な香りの息をして顔を寄せた。そして吸いつくように二つの唇を重ねたのである。

 今さら愛するものたちが絡み合っても、場が華やぐということは決してなかった。

そうなるためには、機能をほとんど停止し、生殺しに処されている潜水艦内はあまりに希望がなかった。

その証拠に――Yanase夫妻は涙を流しながら舌を絡めあっている!

「あっ」と艦長が声を上げた。艦員は――航海士はわずかに首を傾けたのみだが――一斉に艦長のほうを振り向いた。「火山が揺れている」

「噴火ですか」「ああ、海底火山の噴火だ」「でも火口は」「いや……低い。かなり深いところから裾野はつながっているみたいだ」「では火山灰は我々の上に積もるのでは」「そうなるだろう」「わたしたちは移動することができないんですよね」「無論」「灰に埋まってグッド・バイですか」「そうなるな」「じゃあ、僕らは二度度発見されないというわけですか! 結婚したばかり、可憐な子供が生まれたかもしれないのに」「残念だ」「いやですよ、そんなの……」「もっと、燃えるように生きたかったぜ、馬鹿野郎が! ナナ、ちくしょう!」

 あ、と航海士が細い声を上げた。モニターが点灯していた。「外が見える……」

 マリンスノーが、彼らを葬らんばかりに美しく振っていた。桜吹雪が散るみたいに……そして奥の海底火山が二度、三度震えて火を噴いた。

 赤いマグマは瞬間的に冷えて黒くなる。そのわずかな光の繚乱さを彼らは認めないわけにはいかなかった。

166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/04(水) 10:40:40.09 ID:gz7GqTzzO
タイトル「笑う男」
タイトル「Mr.Box」
タイトル「13」
タイトル「半透明人間」
タイトル「暗闇の中で」
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/04(水) 23:27:48.99 ID:guu+Gjm20
タイトル「死神と少女」
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/05(木) 16:38:43.60 ID:JzJrDIMM0
>>123の少女視点バージョンも見たいかな
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/03/05(木) 17:57:21.52 ID:bleRoA02O
タイトル「高輪ゲートウェイ駅一番乗り男」
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/03/06(金) 17:17:56.42 ID:IGMWxUYCO
タイトル「矢野がうつになりまして。」
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/06(金) 18:19:59.28 ID:L1Shuw9h0
タイトル「アヤカシゴロシ」
タイトル「ヒトゴロシ」
タイトル「ケモノゴロシ」
タイトル「アクマゴロシ」
タイトル「カミゴロシ」
タイトル「悪魔の銃」
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/06(金) 18:22:48.96 ID:L1Shuw9h0
タイトル「異世界行き特急」
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/07(土) 16:47:21.47 ID:M27Mh1hUO
タイトル「ハートに火をつける簡単なお仕事」
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/03/08(日) 20:04:46.82 ID:S1rLa3gk0
タイトル「熱湯甲子園」
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/10(火) 08:36:16.53 ID:dWNEOc0m0
タイトル「癒しの実」
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/03/11(水) 19:04:56.29 ID:XCx+uM5+O
タイトル「FORCE OUT」
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/11(水) 22:41:18.05 ID:+6L7oJRI0
タイトル「セカイノハジマリ」
タイトル「セカイノフシギ」
タイトル「セカイノルール」
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/11(水) 23:40:04.68 ID:+6L7oJRI0
タイトル「全人類蘇生計画」
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/13(金) 14:43:29.22 ID:NObtlSibO
タイトル「殺人列車〜murder train〜」
タイトル「ヒトクイレッシャ」
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/16(月) 03:42:47.80 ID:oK5p3SwZ0
タイトル「その時、当たり前の事が起こった」
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/17(火) 21:37:04.08 ID:pbsJoG2po
SSって書き手も読み手も悪い意味での「大人」になったら成り立たない文化だと思う
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/03/19(木) 19:11:44.11 ID:r123igW4O
タイトル「THIS IS 蘇」
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/03/19(木) 20:48:00.55 ID:YkUUXEQ/0
>>165
乙です。雰囲気好き
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/20(金) 00:31:15.06 ID:5ljZ8Sf2O
タイトル「異形姫」
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/03/20(金) 22:23:56.47 ID:DefHUZV/0
タイトル「鈴木戦隊サトーマン」
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/03/20(金) 22:25:15.27 ID:DefHUZV/0
タイトル「蘇に愛された男」
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/03/21(土) 22:09:44.42 ID:6PrV1mXi0
タイトル「100手後に死ぬ黒石」
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/26(木) 23:49:16.99 ID:HzwCLkz90
>>77「停止した惑星」

北方――これはあくまで便宜的な呼び名ではあるが――に、爛々と太陽が燃えている。
その場所に北中してから、同じ箇所を延々と照らし続け、杏子色の空には南へとたなびいていく雲があった。

 周辺は嫌というほど荒涼としている。かつて青かったこの地も、夜が来ず強烈な日差しにやられ、強風も手伝って植物の痕跡は骨粗しょう症になった骨のように穴が開いた黒い樹木の幹のみだ。移動ができる生物は皆ここから離れ、昼と夜の(すでにその二元的な概念は消滅している)境目に盛んに集まって過ごしていた。
 扁平な生物が太陽に向かって飛んでいく。コシライである。昼半球にずっと生息しているのはこの生物くらいのものである。コシライは風に乗って飛来するプランクトンを、網目状の大きな口で漉しとるようにして食べる。地球の生物でいったら、最も近いのはジンベエザメだろうか? 少なくとも食事に関しては近似するものとして考えてもいい。そして地上を移動する機構というものを持っていないために、ずっと空中に留まっていなければならないのだが、夜半球には風が少ないために、そこでは生存が困難になってしまう。だからコシライは昼半球の強風に向かってプランクトンがやってくるのをひたすら食う生活を行っているのである。
 
 昼半球と夜半球の間。砂埃がもうもうと舞うところに、のっぺりとした肌の生物がうずくまっている。扁平な頭、短い手足、その手足と胴を結ぶ膜、目を覆う瞼のようなもの。ハレイノーだ。後ろ足で立つことが可能になり、全体的にいっそう扁平に、鰓の張り出しがより極端になったブラキオプス類のような見た目?
 一匹だけ取り残されている。砂埃に巻き込まれるとハレイノーはぷよぷよした肌が砂にまみれて身動きが取れなくなる。水分が吸い取られて強張ってしまうのだ。仲間は逃げ出せたが、ふるふる一匹だけうつぶせたままだ。
 
 それを狙う大きな生物。鋭角的な作りの頭部、細い体、薄い翼、無駄のないひょろりとして締まった脚、その先には鋭い爪と細かい棘がある。エッキノーダーという。この惑星最大の捕食者である。普段は流れる砂の中で体を縮めて動かない。そして腹が減った頃になって首を伸ばして獲物を探し、それめがけて一気にとびかかって仕留める。不意打ち、そしてスピード勝負だ。

 エッキノーダーはしばし取り残されたハレイノーを見つめていた。同情しているような見方ではなく、どの角度から襲おうか見分している、残酷な目つきである。
 あッ……と息をつく暇もなく、可哀そうなハレイノーはエッキノーダーの口で背骨を砕かれてぐったりしていた。目にもとまらぬ早業。砂埃の引いた岩の上にハレイノーをいったん落とすと、爪でその体を抑えて弾力のある肌を裂こうと尽力し始めた。脂肪が豊富にあって、エネルギーには困るまい……。

 
 どれだけ時間が流れようと、夜は来ないし昼もまた同様に来ない。一方はずっと昼であり、一方はずっと夜である。太陽は地軸の真上にあって変わらない。影は常に、最も近い状態だ。その光を直に受ける極地は、冷酷な表情をしたクレーター状に大地が削れていて、そこからオニヒトデの触手のように幾筋かがそこから伸び、流れていく雲と同じく強い風の存在を示している。

 星は止まっている。それでも、この星に適応した生き物が生きている。
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/31(火) 00:32:12.87 ID:UxSSfY4l0
>>80「寂れた街」

一番小高いところに続く、コンクリートの階段を駆け上がって振り返る。蔦の這った壁が消えて、のろのろと漁船がやってくる細い湾港と、仄かに揺らぐ更紗のような雲が水平線の彼方までを覆っているのが、初夏の植物の青臭さと潮の香りが混じった風と共に届いた。

「ほら見てみい、ヤッちゃんとこのおじちゃんがかえってきとるが!」真っ白いランニングに白いラインの入った短パンを身に着けた褐色の少年が声を上げた。安物のサンダルは酷使されて足裏が擦れて溝はほとんどなくなっている。

「ちょっと待ってぇな、登るの早いんよ、カッツンは」一つ下の踊り場をようやく越した辺りから、大柄な少年が息を切らせて褐色の少年を見上げていた。白い靴下に青いスニーカー。アイボリーのポロシャツに鉄紺の半ズボン。「そない走られたら、おれはどうやったって追いつけんよ」

 カッツンと呼ばれた少年は縁に設置された手すりに肘を乗せ、口をとがらせて彼を見ていた。まるで対戦カードゲームのカードの交換を断られた時みたいに。「そんなでっかい体しといて、すぐ疲れたとか情けないことやで! ぐちゃぐちゃ言わんと、早よきい!」



 彼らは町に二人だけの中学三年生で、来年には島を出て高校に通う公算である。過疎が進んで高校がなくなって十年以上が経ち、それを当然のこととして受け入れていた。彼らの下の学年はおらず、島を出ていくと同時に中学校には一人だけが入学する。その下の三学年にそれぞれ一人、二人、一人。限界集落として国の資料には記載されていたりもする、そんな町で彼らは育ってきた。

「けーちゃんはええな、勉強ができて! 大学にも行かせてくれるんやろ? そないなったらずっと自慢でけるわ、けーちゃんのこと」
 けーちゃんと呼ばれた大柄な少年は、肩をすぼめてうつむいて少し恥ずかしそうに手を揉んだ。声が大きく活発なカッツンとは反対に気が弱く物静かだったため、二人が並んでいると身長差が縮まったか、あるいはないような感じがする。
「そうでもないで、おれくらいのやつはそこら中におるし、むしろおれは追っかける側やと思う。全然知らんことが山ほどあってな、不安で不安でしょうがないんや。いつここが帰られへん場所になってまうかもわからんしな」
「そない考える必要がどこにあってん、けーちゃん! 悪いことばっか考えとってもあかんで、楽しないやろ! ええこと考え、ええこと!」
「いや、それはおれもわかってん。でも見てみ、おれらが知っとんのはこの島ん中だけやろ? 外にはな、もっとぎょうさん人がおんのや! 望月さんとかな、そんな人がいてん、おれには理解が追いつかんのやよ、どうやったらあないな人がいることができるんかっちゅうことが!」

 カッツンは黙って聞いていた。何か思うところがあったのかもしれないし、あるいは言っていることを理解できる頭がなかったのかもしれない。だがいずれにせよ、無理に説得する姿勢はその場では見せなかった。これまでに身に着けた人付き合いについての学習から、ここは余計な励ましをするべきではないと、意識的にせよ無意識にせよ判断したことは確かだった。

「それにな、見てみい、カッツン。こっから見下ろしたら結構な数の家が見えるやろ? 高台からの景色で言ったら栄えているように見えるやんな? でもな、この家の中で人が住んどる家がどれほどあるっちゅう話や!」                                     一旦中絶
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/03/31(火) 07:59:44.56 ID:qyHliMANO
タイトル「盤取」
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/31(火) 22:07:28.42 ID:UxSSfY4l0
>>189の続き

 とけーちゃんは家の並びを指さし、町の縁の斜面に沿うようにして示した。窓の中身は真っ黒く、ガラスが破れているのもちらほら見える。
あるいは外壁を蔓が這って覆い、玄関わきの柱が濃緑色に隠されてしまっている。
「見えたやろ。どうや、そう思わんか。あれが悲しうてたまらんのや、ちっさいころに可愛がってもろたかもわからんのに、いつの間にかいなくなってもうとんねん。お礼も何も言われへんねやぞ!」
「そないに空いてるんばっかやったか? そのうち帰ってきよるかも知らんで」
「帰ってくるもんか! 年々人が減っとるのに気づかへんの、カッツン? 現実見い」
 
 カッツンは黙り込んだ。現実見い、この言葉が引っかかって考えざるを得なかったのだ。
 俺がおったんは、現実ちゃうかったんか?――けーちゃんのオヤジさんにアイスクリームおごってもらったんとか、ヤッちゃん家の漁船の排気のうるさい響きとか、また今度な、と言ってサヨナラした矢壁の秀おじさんとか、あれはみんな嘘やったん? ……やや、混乱が来ていた。現実と現状とをない交ぜにしてしまったのが原因ではあるが、それをきっぱり見分けることができるほど彼は諦めがよい性格ではなかった。できる限り自分が抱く感触と近いように、現実を認識する質だったのである。

「カッツン」けーちゃんはウミネコが鳴く沖のほうを見て、
「俺は高校を出たら、もうこの島には戻って来ん。外で億万長者になれるような人間でないんはわかっとるけどな、ここにずっといるほうがあかん、というのはほとんど確信しとる」
 なにゆうとん、と言おうとしたが出てこなかった。カッツン自身は高校卒業後に島に戻って漁師になるつもりでいた。そしていつでもけーちゃんに会うことができると、いかにも当然のように思っていたから、けーちゃんと将来顔を合わせることが二度となくなるかもしれないという、たった今告げられた告白が明らかにした事実をうまく自分の発言と紐つけることができなかったのである。数拍待って、彼はなして、と絞り出した。

「なして、ってな、今ここで物買えるとこがどんだけある? おれは田端さんとこの八百屋と楡おばちゃんのお店しか知らんで。ほんであとは工事屋の行木さんやろ。こんなとこで、どうやって生きて行けばええんや!」
「魚や、魚を取るんや! それを冷やしたり干したりしてな、山ほど売ってやるんよ。それでな、いいもん食ってな、それで十分やんか」
「いや、」とけーちゃんは頑強な、断固とした声音で、
「それじゃあかん。魚じゃあ今どきどうにもならへん。いくらうちが漁師町やというてもな、そもそも規模がちっさいもんで、懐が潤ってしゃあないということにはならへんのよ。悲しいけどな。それに、外に出てって帰ってきたんは何人おるん? おれは二、三人しか知らんで。毎年二人くらい外に出ていくのを、十年近く見とったんによ!」

 カッツンは驚きつつけーちゃんの顔に見入っていた。彼はけーちゃんがこれほど強く自分の気持ちを述べることを見たことがなかった。いつも彼が訊かれもしないうちに自分からべらべらと公開して、その流れでけーちゃんに言わせていた。それが自然であった。常にけーちゃんが彼の後ろについてくるような状態だったので、彼が自分の影響下から外れてしまった気分になっていたのかもしれない。それをわかってはおらずに呆然と反論を探している。

「わかったか、カッツン? おれが戻っても、ここじゃいかんのや。いくら勉強ができたって、体を動かせなここでは生きてけん。はっきり言って、もう二度と船には乗りたないし、かといってそれを助ける裏方の役も勉強がまったく意味ないもんや。せっかく効率いい方法探しても聞き入れてもらえんような気がするしな」
「気がするだけやろ、そんなことないで」

 けーちゃんはカッツンの無邪気な顔を見た。「そんなことないで」明るく、無垢な希望の言葉。彼は根本的にカッツンと違うことを再度思い知らされた。
おれはこいつにはかなわない、この街の論理にはカッツンの方があっている。おれとは違って……。

「なあカッツン、降りようよ」感じた劣等感を完全に隠してけーちゃんは言った。かまへんけど早ないか、とカッツンは少し不服そうだ。
「早やないで」噛みしめる表情を見せないようにして、カッツンに止められる前に階段を一段一弾降り始めた。
 ちょい待ってな、まだ降りるとか言ってへんやろ、と抵抗するような言葉を口にしながらもカッツンはけーちゃんの後をついて行った。
沖に出る漁船はなく、帰ってくる漁船も当然なかった。止まっている船は水揚げを全て済ませ、海水に使った網の絡まった部分をほどきながら点検している最中であった。
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/04/02(木) 00:21:34.81 ID:BXPvmphL0
>>81「死を待つ天使」

重い、鈍色の錠に繋がれながら、けば立ち汚くなった翼に涙して考えた。おれが女と交わることが、いったいどうしてそんなに甚大なことなんだ。
ああ、確かに良いことではないさ。それでもだ、それでも、だ……両方の性器を破壊した上に首を切り落とすって、あまりに残酷じゃないか。しかも天使が手を下す。名目では正義の下での裁断は構わぬ、ということ。いうには、父なる存在の思し召しの通り、だとよ。そりゃもちろん知ってはいるんだがな、だからといって全員が全員、父なるを骨の髄まで信奉し心酔せねばならない、というのには違和感があるんだ。何故かって、父なるが必ず真理を透徹していると、誰が保証できるというんだ?

 あの女は、天国にあって似つかわしくない、いかにも煉獄から這い上がることのない者の典型みたいな、おどおどした態度で岩陰に隠れていた。
他の住人は暢気に水辺をとことこ散歩したり、花を眺めて口笛を吹いているのによ、そいつはこっそり座り込んだまま、俯いて、時折辺りを見回しては肘を縮こませたりと、明らかに挙動が怪しいんだ。掟に触れなきゃ、誰をガイなんて与えないのに……。
 ――なぜ踏み出して歩かない? ここは天国だ、お前を捕まえて食おうなんて、とこにもいやしねえ。おれは言った。
 ――あなたがいるじゃありませんか……。驚くことに、女はそう返したんだ。
 
 まさか、と純粋におれは狼狽えたね。こいつは天使を何だと思っていやがる、そんなに見下げたものとお前の目には映っていたか、そんな憤りを隠さずに女の前に立っていた。
 新たな声は聞かれなかった。妙だな、謝罪の一つもできないのか、と女に目を向けると――ここでおれは初めて女の姿をしっかり認識したわけだが――、震えて歯を鳴らせているんだな。ビビッて声が出ないくらいに腰が抜けてんだよ、情けないことにさ。しかも白衣の股間のあたりがしみになって、土もだんだん濡れていくしな。どんな顔してんだ、と興味が湧いてそっちに目を移すと、案外大きな目をしていて、睫毛も長い。そこにたっぷり涙を貯めて、唇が蜃気楼みたいに波打って曖昧な輪郭をしていた。すげえ怯えようよ、あれは。滅多なことじゃお目にかかれんぜ。あの感じだと、畏怖が先だって心を埋め尽くしていたから、漏らしていたことはちっとも気づいていなかったろう。                                     一旦ここまで
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/04/02(木) 23:37:27.61 ID:BXPvmphL0
>>192の続き

 目の形を見ていて気が付いたんだが――結構きれいな顔をしていたんだよな。しっとりとした柔らかい黒髪が肩に触れて、更紗みたいに流れている。長い前髪が右目を覆い隠していて、――おれが見ていたのは左目だった――一本一本の隙間から潤んだ瞳が上目遣いで見つめている。小ぶりな唇が統御を失って震えていたのは先に言ったとおりだ。引きつった口角の両横にある頬は蒼白で、リンゴのような赤らんだ様子はない。精力は伝わらなかった。女なら、そういうのはあってほしいもんだがよ……。

 黙って女の体の検分をしていた。ほっそりとした首から、白衣の隙間に顔を出した、窪みが明瞭な鎖骨、その真下、ハッキリとしたことはわからないが、大きいわけではないものの形のよさそうな乳房。細身の腰。小ぶりな尻、痩せぎすな太ももとうって変わって弾力のありそうなふくらはぎ。おれはそれが何だか気に入って、一度試してみたい、そう思ったんだ。掟には触れるが、信条からしてそれが拷問のち死刑に匹敵する重罪とは認めることができないから……。

 幾周期か経って同じ場所に出向くと、女は同じ姿勢で座っていた。そのときは周りに誰もいなくって、おれのなかに茶目っ気というか、イタズラ心が芽生えたんだよ。どうしてそんな答えだったのか知らんが、――ここで襲うような仕草を見せたら――その想像はおれを力強くさせた。体の一部がみなぎって、さあこれを放出してやろう。そう思って足音を殺して抜き足、差し足、忍び足で女の死角を縫い背後に立った。女は気づいているようにはおれには見えなかった。あの柔らかそうな髪が背中に沿って、美麗な滝のような印象を与えていた。うなじが髪の一本一本が生み出す間隙の中に自己主張を押し込めていた。滑らかそうな、砂浜のように手触りと想像されるうなじ。色は白くて雪を思い起こさせる。では滾った体で荒らしてやったらこの女は存在ごと消し飛んでしまうのではなかろうか……。

 肩を叩いて不思議そうな、とぼけた顔で振り向いた瞬間に、唐突に押し倒してやろう。これから自分がどんな目に遭うのか想像の俎上に及ぶこともなく、ただ降りかかった出来事を理解しようと精一杯の、クエスチョンマークたっぷりの顔で女はおれの顔を見上げるだろう。
 いよいよ、いよいよだ……手を肩に伸ばしたその瞬間、女はおれを振り返って見、……幸せそうな笑顔を見せた! ……おれはこれまでただ一度も、あんな笑顔を見たことはなかった。天国の奴らはみんな幸福そうな顔をして跳ねまわっているんだが、それはあくまで幸福の発現であって、幸せの表現ではなかったんだ。つまりは、幸福に満たされているがために幸せを自発的に表すことができなくなっているんだな。それが良いことなのか悪いことなのか、この口では断言できんのだが。

 それを向けられたおれは激しく動揺した――さっき言った考えは、おれが捕えられてからまとめた内容だから、そのときは気づいていなかった――。慌てて引きずり倒して服をはぎ、顕わになった胸の頂の突起を強く摘まんだ。あっ、と悲鳴を上げてのけぞった女は痙攣し、白い顔を上気させている。馬乗りになって執拗にいじくり、喘ぐたびにおれは濡れ、……あとはもうそっちで想像してくれ。すべて終わると、女はぜいぜい喘いで火照った顔をとろけさせていた。白いものが流れ出てもいて、唇の縁には泡がついて女が胸部を上下させて呼吸をするごとに小さな粒が爆ぜ、また新しい気泡が湧いてきていたのだ。放出した器官は萎えつつあったが、おれ自身はかえって力があふれていて、まだしたりなかった。もう一度、とまたがりなおそうとしたとき、後頭部に赤い何かが散って暗転した。そして、気づいたら繋がれて、陰嚢、陰茎、陰唇を使用不可になるまで破壊したあと斬首だって……自己弁護の間もなくそう決められた。

 なあ、おれは悲しいんだ。どうしてあんな不幸をため込んでいたような女を襲っちまったんだ? どうせなら互いに幸せな気分がよりよいだろうに。おれは何かに急かされ追い立てられ、尊厳を破壊されそうな焦燥に駆られて……あのとき、どうして周りに誰もいなかったんだ? どうしておれを殺す前に、おれを止めるような何かが存在していてくれなかったんだ?
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/03(金) 17:01:43.18 ID:7qsFhhgnO
タイトル「あの世行き特急」
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/04/03(金) 17:29:20.27 ID:lW8bYa+4O
タイトル「THE LOCAL THREAD」
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/04(土) 17:13:11.89 ID:XOrW6Wun0
タイトル「竜の巫女」
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/04(土) 20:11:19.28 ID:DvuzuNZL0
タイトル「あの人への手紙」
タイトル「今は亡きあの人へ」
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/04/05(日) 11:44:05.31 ID:iIT1uubs0
>>82「血塗られた手紙」

三か月ぶりにポストを開けると、小さな横型封筒が一つ、横たわっていた。各辺に、棕櫚のような植物の模様が、やや赤みを帯びて描かれている。
差出人の名前はなく、宛名だけの飾り気のないものであったが、消印はきちんと押されていて、母の住所に近い郵便局の消印だった。

 四か月間もの長きにわたり、母からの手紙は途絶えていたのだった。それまではひと月からひと月半に一通程度、欠かさず届いていたのだ。母は一人で暮らしていたから、手紙を書く余裕もないような大病を患ってしまったか、アルツハイマー病や認知症といった記憶障害を伴う何かになったのか、と考えていた。
そのためか、差出人不明の怪文書(?)であることにも気づかず、毫の逡巡もなく開封してしまった。中身は一枚の、罫線が十行前後ある便箋だった。いつも母が寄越す手紙はいつもこのシンプルな便箋なのだ。自室に戻り、炬燵机でそれを読んだ。

 「こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。しっかり三食食べて、健康でいますか。母は心配です。お前が死にゆきつつある時を想像すると、恐ろしくて寿命が日々加速しながら縮んでいく思いです。返信の一つでも、電話の一つでも寄越してください。そしてお前の声を聴かせてください。それだけでも、母は幸せな気持ちになります。お願いです。」

 ところどころ震えていたが、母の字で、安心感を抱かせる文面だった。変わらない母の手紙。

 しかしその次の行からは小筆の、なぜか赤い文字で、中心が大きくぶれた文章が連なっていた。稚拙な文体で、下手な文字で。

「おまえの母おやはずいぶんいい人みたいだ、むす子のようすをこんなに心配して、しあわせをねがっていて、ぼくはとてもうらやましい。こんなお母さんがほしくってたまんなかったなあ。だからもらおうとしたんだけど、だれあんた、やめてやめて、ってうるさかったのでだまってほしかったからべしってたたいたらぐったりしちゃった。たぶん殺しちゃったんだろうな、と感じて、とりあえずこまったからばらばらにして血を全部ぬきとってみた。どす黒い血もあったけど、きれいなピンク色の血もあったから、そっちをつかってみた。ためしにそれで字を書いてみたらすごく、太ようみたいにあかるかったから、書いてたと中のてがみのつづきを書いてみました。これがそれです。あなたのお母さんの血で、ぼくは文しょうを書いてみました。どうでしょうか?」
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/06(月) 08:18:02.40 ID:wHJcC4q60
タイトル「スピン$」
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/04/07(火) 01:41:57.45 ID:BHLnQ+ae0
>>194「あの世行き特急」



ーーーーーーー



『えー、次はあの世ー、あの世ー』

『尚この列車はあの世行き特急につき、途中の――駅、――駅、――駅には止まりません』


……?

なんだ、ここ…



ガタンゴトン



電車…?

でも外は真っ暗だな…



黒髪の女「……」



女の人だ。

すごいな、ピクリともしない。

寝てるのか?

他に乗客は――







ーーーーーーー

ジリリリリ!

男「!?」バッ

ジリリリリ!

男「」ワタワタ

ガチャ

男「……びくった……」

男「目覚ましうるさすぎなー…」




201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/04/07(火) 01:42:53.86 ID:BHLnQ+ae0
>>200の続き



ーーー学校ーーー

友「へー…電車の夢ならボクもたまに見かけるよ」

男「そうなのか」

友「うん。ボクの場合は走る電車を外で眺めてることが多いけどね」

男「友、鉄道好きだっけ?」

友「夢の話だろっ。ま、嫌いじゃないけど」

友「けどきみが夢の話をしてくるなんて珍しいね」

男「うーん、なんかやけにはっきり覚えてるもんだからさ。こう、つい誰かに話したくなるというか…分かる?」

友「その記憶力をちょっとは勉強に使ったらどう?」

男「あーあー聞こえなーい」

友「また追加課題もらっても知らないよ」

男「う……精進します」



キーンコーンカーンコーン



男「ってあれ、次って体育だっけ」

友「そうだね。さ、着替えるから早く出てった出てった」

男「やべぇ体操着もジャージも何もかも忘れた…」

男「頼む!ジャージ…は無いと寒いから体操着だけ貸してくんないか!?」

友「きみ、セクハラで突き出すよ?」





202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/04/07(火) 01:44:38.08 ID:BHLnQ+ae0
>>201の続き

ーーーーーーー



『えー、次はあの世ー、あの世ー』

『尚この列車はあの世行き特急につき、途中の――駅、――駅には止まりません』



…まただ。

またこの電車。



黒髪の女「……」



あの人も同じ。

座席の端っこでマネキンみたいに座ってる。



黒髪の女「………」スッ...





ちょっと動いた…?

…彼女は何をしているんだろう。

もっと他に気になることだってあるはずなのになんでだろう。

この人のことが、気になる。





ーーー学校ーーー

友「それで?きみの好みが黒髪ストレートのやや年上のお姉さんという話の続きは?」

男「なんでだよ!いやそうじゃなくて!」

男「気になんないか普通。だってそこに乗ってるのその人だけなんだぜ?」

男「怪しい雰囲気マシマシの状況なのにさ、その人だけなぜか全然怖くないし」

友「ふーん…まぁ実を言うとボクもちょっと気になって調べてみたんだ」スマホトリダシ

友「これとか、似てるんじゃないかい?」スッ

男「"猿夢"?」

男「どれどれ……」

男「………」

男「いや、違うなぁ」

男「こんなえぐり出しだの挽肉だの物騒なアナウンスしてなかったしな」

友「でもあの世行きって言ってたんだろ?十分物騒じゃないか」

男「んー…突き詰めれば死へ向かっていることだけは共通してるのか…?」

男「っつか、俺死ぬん!?」

友「夢に殺されたら世話ないよ。迷信だよ迷信」

友「きみの夢もどうせ取り越し苦労さ」

男「他人事だからって気楽に言ってくれちゃってよー…」

男(…気になるんだよなー)
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/04/07(火) 01:45:18.94 ID:BHLnQ+ae0
>>202の続き

ーーーーーーー



『えー、次はあの世ー、あの世ー』

『尚この列車はあの世行き特急につき、途中の――駅には止まりません』



やっぱり来れた。

間延びしたアナウンス、殺風景な車内、真っ暗な窓の外。

そして…



黒髪の女「……」



一人静かに座る、彼女。

意識すればするほどいつもより鮮明に見える気がする。

…どうしよう。

彼女に話しかけてもいいのかな。



黒髪の女「………」スッ...

黒髪の女「――、――?」



え?



黒髪の女「――、――?」



なんだ?何か、喋ってるよな?

くそっ…よく聞こえない…!



黒髪の女「――、――?」



……あの!




204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/04/07(火) 01:46:00.83 ID:BHLnQ+ae0
>>203の続き

ーーー学校ーーー

男「そこで目が覚めちまったわけよ!」

男「あぁ…せっかく話しかけてくれたのに返事どころか聞き取れもしないなんて」

友「はぁ。これは相当お熱だね」

男「だから違うって。これはほら、あれだよあれ」

男「なんていうか、遠目で見てきた憧れのミュージシャンが、手の届く距離まで来た感じ?」

友「全然分かんないよ」

男「とにかくさ、これって絶対何か神秘的で霊的なあれじゃない?もうどうしようもなくあれ過ぎるよな!?」

友「ボクはきみの頭の方がアレな気がする」

友「…で?きみはそんなにその子が気にかかるのかい?」

男「そりゃそうよ!ここまで来たら何としてもあの人と知り合いになってやる!」

友「知り合ってどうするのさ」

男「どうするって……そう、夢の中の友達、夢友になる!はっはー、これ自慢できっかな!?」

友「………」





友「きみは、その子を助けたいかい?」





男「はい?助けたい?」

友「……」ジー

男「…苦しんでるとかなら、まぁ助けるだろ、うん」

友「そ…っか」

男「でも助けるってなんだよ、友?」

友「寝れば分かるよ、きっと」

男「???」




205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/04/07(火) 01:51:19.06 ID:BHLnQ+ae0
>>204の続き

ーーー夜ーーー

男「さーて、今日もあの人に会えるかなー」ウキウキ

男「おっと楽しみ過ぎて寝らんなくなんないようにせんと」

男「この時のためにわざわざジョギングして疲れといたし!」

男「宿題もやって頭脳労働もバッチリ」

男「じゃ、寝ますか」



カチッ(消灯)



男「……」

男「……」



ーーーーー

友「――その子を助けたいかい?」

ーーーーー



男(助ける……助ける……)

男「………」

男(お客が一人で寂しいから?)

男「………」

男(よー分からん…)

男「……」ウトウト...



.........





その夢が何なのか。
彼女が何者なのか。
そして男の奥深くに眠ったままの、真実とは…





以上です。
プロローグになってしまいました。
こんな感じのフリーホラー系ゲームってないんでしょうかね?
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/07(火) 21:20:29.26 ID:ZMoi9h8l0
タイトル「刀と剣と拳銃と」
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/04/08(水) 14:04:11.04 ID:Tn6iZyoI0
>>83「監獄に咲く花」

 ママが死んだから、私は家に火をつけた。赤い火と黒煙が立ち上って最寄りの路線からも異変がわかるほどになってようやく消防が来て、家の土塀の前でうずくまっていた私を保護したのだ。そして事情を聴かれ、家を燃やしました、と第一声。目の前で狼狽の色を見せた消防士の姿が、私にはなんだか滑稽に映った。
 警察は、おそらく放火だ、と言い、二階から高齢の女性の黒焦げの遺体が見つかった、とも話した。それは母です、と警察に伝え、火も私がつけました、と。予期していなかった様子で、ではあの遺体はどういうことですか。私は、母は病気で死にました。だから放火したんです。何といったって、母が死んだのですからね。それが理由になりますか、と警官が少し怒ったような口ぶりで、問いかけるふうに糾弾しにかかった。ええ、理由、と言ったらちょっと違う気もしますけれど、それが理由であるということしか確かなことは言えません。母が死んだから火を放ったというふうにお伝えするしか術は私にはなくて、なぜ母が死んだから火をつけたか、ということはどうやっても答えられません。ともあれ私は放火魔ですね。ではさっさと連れて行ってください!


 死体遺棄・死体損壊・非現住建造物放火等罪で起訴され、第一審判決のまま控訴せずに刑が確定し、服役中。のろのろと刑務作業をし、ひっそりと房で座り続ける日々。私は自らの手で放った火のことを思った――暖かかったな。あんなに暖かいものを受けたのは、ひょっとして人生なかったんじゃなかろうか……。あとは細い竹の枝を折るような高い音とともに舞い降りてくる火花、立ち上がる赤い舌。炎は盛んで、桜吹雪のような儚さと可憐さ。硬直している壁の向こうでうねる熱気が、生き生きした活力を私に少しずつ伝播させていた。あのときの、生命の胎動をもはや私は知っていない……。
 
 狭い窓からそれを見てみる。暗く、しかし視界に入らない年の明りが影響して、殊に明るい一等星、二等星がかろうじて見える程度。それでも、その一粒一粒の小さなつぼみが、ちょっぴり愛らしく見えた。遠くでサイレンの音がする。細いたなびくものが、星にかかってぼやけたような気がした。あのたなびきの足元で、また活力を持った赤い華が、物を食らわんと咲いているのだ、と感じた。私がそうしたように――。
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/14(火) 22:19:58.72 ID:m92uMtO3O
>>200
>>207
すき

タイトル「数字と真実」
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/16(木) 18:08:09.41 ID:gioEB0vI0
タイトル「列車事故」
タイトル「異常気象」
タイトル「ドント・ムーヴ 〜そこから、動いてはいけない〜」
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/17(金) 22:24:07.57 ID:ADYK5lF60
タイトル「ニート探偵」
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/21(火) 06:41:23.14 ID:q3jywG340
タイトル「ゲーミングジャージ」
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/21(火) 06:58:23.04 ID:a/m9muC40
タイトル「気弱な少年と気弱な少女」
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/21(火) 21:43:22.22 ID:6buewDUZ0
タイトル「13号室」
タイトル「デス・パズル」
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/22(水) 04:53:41.10 ID:M4rR8EAJ0
タイトル「売るセールの猫」
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/04/22(水) 21:24:30.74 ID:h2Fjn5jo0
タイトル「Buffalo buffalo buffalo buffalo buffalo buffalo buffalo buffalo」
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/23(木) 05:29:49.29 ID:7xOltJwe0
タイトル「イヒッと」
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/23(木) 07:28:52.33 ID:WzJ+G8pr0
タイトル「ヘタレな彼氏と奥手な彼女」
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/23(木) 12:38:39.73 ID:oERmbAGAO
タイトル「異世界行き特急」
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/04/23(木) 13:56:25.98 ID:nsX2D1mF0
タイトル「A canner cannot can a can」
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/27(月) 23:00:56.10 ID:9OnXi7ru0
タイトル「過去からの手紙」
タイトル「未来からの手紙」
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/03(日) 12:59:28.89 ID:WTRGHLnP0
タイトル「被告人を懲役1年6月に処す」
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/05(火) 15:11:14.27 ID:Jn7yA0370
タイトル「IQがカンストした男」
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 21:34:31.63 ID:BkAD++d90
タイトル「TAKA−KO−SAKI」
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 21:35:25.87 ID:BkAD++d90
タイトル「将来の夢はノーベル賞で優勝することです」
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/20(水) 18:54:11.03 ID:+CPtimmU0
タイトル「クトゥルフ神話の神々に好かれすぎてて困ってます」
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