【艦これ】提督「クール鎮守府」

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202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/15(土) 20:06:12.44 ID:dlt4CjZR0
Cu提督がどんなステータス異常食らってるか楽しみだ
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/07(土) 10:24:33.98 ID:ssKdCrqKo
待ってる
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/07(土) 10:54:44.17 ID:nxS/CkZu0
舞風舞ってる
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/17(火) 21:06:50.87 ID:FP/NGIHk0
エタ?
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/19(木) 22:55:10.54 ID:Tf9fLR0iO
申し訳ありません。>>1です
仕事が繁忙期なのとリアイベ(艦これ)とが重なって更新が停滞しています
途中までは書き上がっており、書き続ける意志はありますので今しばらくお待ち頂ければ幸いです・・・
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/19(木) 22:57:20.60 ID:uYfl6xcq0

無理強いはしないが酉とかあったらなと思う
208 : ◆wI6nKiwnSc :2020/03/29(日) 23:20:15.86 ID:W7gHD0u4O
>>207
ご指摘ありがとうございます。酉付けました

経過報告になりますが、数日中には投下できそうです
待ってくれている方は申し訳ありません
209 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 21:48:16.00 ID:5DABnN68O
お待たせしました。再開します
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/02(木) 21:50:04.28 ID:5FgaGw6po
うおおお!
待ってた!
211 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 21:54:38.86 ID:5DABnN68O


―― パッション鎮守府 母港 ――



Pa提督「――ではこれより、ルールの説明と確認を行います」


Pa提督「今回はより実戦に近い形式を取るため、鎮守府近海全域を使った広範囲演習となります」

Pa提督「全員にマップを配布しますので各自確認していただき、指定範囲から離脱することのないようご注意ください」

Pa提督「万が一指定範囲からの離脱が確認された場合は、その時点で失格となります」

Pa提督「演習に参加しない長良とロイテルを監視役および審判として派遣しますので、各員は彼女たちの判定に従ってください」

Pa提督「当然ですが、厳正かつ公平な判定をお約束します。2人とも、頼んだぞ」

デ・ロイテル「ちゃーんとフェアなジャッジをするから安心してね!」

長良「私たちにお任せください!」



Pa提督「事前にお伝えしたように、演習開始時刻はヒトゴーマルマルです」

Pa提督「現時刻がヒトヨンフタマルですので、開始時刻までにそれぞれの初期位置へ移動をお願いします」

Pa提督「なお、互いの初期位置が分からないようにするため、各チームの旗艦はクジを引いていただき、そこに書かれている座標へ移動してください」

提督(なるほど、初期位置はランダムで決まるということか)

提督(となれば純粋な戦闘力だけでなく、いかに素早く敵を見つけ出すかという索敵力も問われることとなる)

提督(先程も言っていたが、かなり実戦に近い形式だな……)



Pa提督「ではクジ引きを行いますので、各チームの旗艦は前へ」

アイオワ「OK!」

加賀「はい」


――――
――


212 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 22:02:23.51 ID:5DABnN68O

――
――――



Pa提督「――どちらかの艦隊全員が轟沈判定を受けるか、指定時刻に達した時点で演習は終了です」

Pa提督「指定時刻はヒトキュウマルマル。それまでに決着がつかなかった場合は、その時点での各被害状況や残存している人数によって判定を行います」



Pa提督「それでは、各チームはクジに書かれている座標まで移動を開始してください」


――――――
――――
――




【クール艦隊】


加賀「……指定されたポイントに到着しました」

響「肉眼では陸地がほとんど見えないね」

グラーフ「これだけ離れていれば沿岸部に流れ弾が飛んでいくこともないだろう」

不知火「ですね。周りを気にせず戦えます」

那智「さて、時刻は……ヒトヨンゴーマルか。皆、装備の最終点検を済ませておこう」

霰「了解、です」







【パッション艦隊】

アイオワ「――Stop! 目的のポイントに到着したわ」

舞風「よーし! 準備体操準備体操っと」イッチニー

ポーラ「お酒……飲み放題……」ブツブツ

大鳳(大丈夫かしら……?)



213 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 22:08:31.86 ID:5DABnN68O


―― パッション鎮守府 モニタールーム ――



Pa提督「こちらがモニタールームになります」

Pa提督「演習の様子は長良とロイテルに持たせたカメラを通じて、このモニターに映し出されます」

Pa提督「どうぞ、あちらの席にお掛けください」

提督「これはどうも」





Pa提督「……間もなく開始時刻ですね」

提督「ええ」

Pa提督「………………」

提督「………………」



Pa提督「…………あいつらは」ボソッ

提督「?」

Pa提督「あいつらは……ご覧になられた通り、喧しくて落ち着きが無く、上官に対する敬意も感じられない問題児ばかりです」

Pa提督「ですが……間違いなく強い」

Pa提督「出会ってまだ1年と少しですが、こと戦闘においてはあいつらのことを信頼しています」

Pa提督「……貴方はどうですか?」

Pa提督「自分の艦娘たちを、信頼していますか?」


提督「……………」

提督(俺は……)



 加賀『……いえ、これが私の仕事ですので』



提督(俺は、あいつらのことを……)



 不知火『こちらの書類ですが、計算に誤りがあります』



提督(信頼……しているのか……?)


214 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 22:15:15.49 ID:5DABnN68O



『ええ。鎧袖一触よ、心配いらないわ』

                      『今後とも、ご指導ご鞭撻、よろしくです』


 『そうこなくてはな! よし、今夜ばかりは私も飲ませてもらおう!』


        『ふふっ、分かっている。貴官でもそのように狼狽えたりするのだな』


『……私たちと遊ぶのは、やっぱり嫌?』


                  『勝ってみせるよ』





提督「…………分かりません」

Pa提督「…………」

提督「恥ずかしながら……彼女たちと良好な関係を築けているとは思えません」

提督「彼女たちが何を考えているのか、私に対してどう思っているのか、分からない時が多々あります」

提督「……ですが」

提督「ですが、これだけははっきりと言えます」




提督「彼女たちに、勝ってほしい――」


提督「私自身が勝ちたいというのではなく、“彼女たちに”勝ってほしいと」


提督「そう思えるくらいには、彼女たちのことを想っています」



――――――
――――
――

215 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 22:21:05.08 ID:5DABnN68O



    カチッ、カチッ、

  14:59:50



加賀「間もなく開始時刻です。準備はいいかしら」



    カチッ、カチッ、

  14:59:52



那智「ああ。偵察機の発艦準備、整っている!」



    カチッ、カチッ、

  14:59:55



アイオワ「さあ、私の火力、見せてあげるわ……!」



    カチッ、カチッ、

  14:59:58



大鳳「………………」スゥー、ハァー



     カチッ

  15:00:00




=== 演習 開始!! ===


216 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 22:32:07.64 ID:5DABnN68O
※ここから先は戦闘描写のため、地の文が入ります
※作者は軍事ネタに詳しくないため、どこかおかしい表現や描写があるかもしれませんがご容赦ください

↓↓↓






【クール艦隊】


加賀「偵察機、発艦始め!」

那智「了解!」


加賀の号令と共に、那智の艤装から偵察機が発艦させられる。
零式水上偵察機と呼ばれる、もっともオーソドックスな水上偵察機だ。


加賀「今回、私とグラーフさんは航空戦に注力するため、艦上偵察機を装備していません」

加賀「どちらが先に敵の位置を掴めるかは、貴女の偵察機にかかっているわ」

那智「心得た!」


艦娘の艤装には“スロット”と呼ばれる、装備を搭載するためのスペースが3〜5ヵ所備わっている。
そして、スロット1ヵ所につき1種類の装備しか積むことができないというのが艦隊運用における常識だ。

故にどのスロットにどの装備を搭載するかによって、戦局は大きく左右されることとなる。
装備の組み合わせや搭載数次第で、試合が始まる前から半分以上は勝敗が着くといっても過言ではない。


今回、クール鎮守府を率いる提督は制空権の奪取と航空戦における火力を最優先とし、空母の貴重なスロットを攻撃機と戦闘機に割いていた。
“彩雲”と呼ばれる優れた艦上偵察機を装備して索敵能力を伸ばすという手もあったが、そうなると1つのスロットが偵察機で埋まってしまい、その分攻撃機と戦闘機の積める数が少なくなってしまう。
提督はそれを嫌ったのだ。




提督(……しかし、那智の装備できる零式水上偵察機は性能面で艦上偵察機に大きく劣る)

提督(もし相手の空母が艦上偵察機を装備していた場合、索敵能力では大きく差を付けられることになるが……)



217 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 22:36:38.65 ID:5DABnN68O


【パッション艦隊】


千代田「――見つけた」


偵察機越しに伝わってきた情報に、千代田の口角が僅かに上がる。


千代田「彩雲から得た情報によると、敵艦隊までの距離およそ30000。まだこちらには気付いてないみたい」


彩雲。
航空母艦と一部の航空戦艦のみが装備できる、高性能な艦上偵察機。
クール鎮守府の提督が危惧した通り、那智の零式水偵を性能面で遥かに凌ぐ偵察機が、千代田には搭載されていた。


千代田「さて……どうする?」

アイオワ「もちろん先制攻撃よ! 優先目標はAircraft carrier! カガとグラーフ!」

大鳳「了解しました。攻撃機、発艦始め!」

伊19「それじゃあ私も行ってくるのね〜」


大鳳が大量の攻撃機を空に向けて発艦させる。
と同時に、潜水艦である伊19も敵艦隊に向けて潜航を開始した。


アイオワ「初撃が肝心よ。ここでどれだけ痛手を負わせられるかで、今後の展開が決まってくるわ」

アイオワ「……まぁ、展開がどうなるにせよ、結果は私たちのVictoryで揺るがないけどネ☆」



――――
――


218 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 22:42:46.35 ID:5DABnN68O


那智「――! 何かが来る! 6時の方向!」


那智の放った偵察機が、迫りくる敵の航空隊の姿を捉える。
距離にしておよそ5000。
もう間もなく敵の攻撃圏内に入ろうとしていた。


那智「くっ! すまん、発見が遅れた!」

グラーフ「仕方がない。どうやら敵空母は艦上偵察機を装備しているようだ」

不知火「ここまで早く発見されたということは、恐らくそのようですね……!」


本来、那智のような重巡が得意とするのは砲雷撃戦であり、艦載機の扱いには精通していない。
水上偵察機と艦上偵察機の性能差。
そして重巡と空母という艦種の違い。
これだけのハンデの中、攻撃を受ける前に敵の航空隊に気付けただけでも賞賛モノだろう。


加賀「――迎え撃ちます。グラーフさん、発艦の用意を!」

グラーフ「了解した!」

加賀「響、霰は対空砲火に専念。不知火と那智は周囲を警戒しつつ前進を。こちらからも仕掛けます!」

一同「了解!」


219 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 22:47:30.70 ID:5DABnN68O


大鳳「――気付かれたみたいね……でも、もう遅いわ」

大鳳「艦攻隊、艦爆隊、攻撃開始!」


大鳳の指示を受けて、艦載機から大量の魚雷と爆弾がばら撒かれる。
加賀たちは未だ発艦動作の途中であり、その一瞬の隙を狙った絶妙なタイミングでの攻撃。

着水した魚雷は海を掻き分けて猛進し、上空で放たれた爆弾は周囲一帯に雨を降らせるが如く落下していく。


加賀「――っ! 総員、回避行動を!」

グラーフ「くっ! まだ発艦の途中だというのに……!」


襲い来る猛攻をギリギリのところで回避していく加賀たち。
発艦動作を中断し、回避に専念していなければ被弾していたかもしれない。
加賀による咄嗟の指示で開幕早々に損害を受けるという事態は免れたが、未だ攻撃の手は止まず、加賀もグラーフも艦載機を発艦できないでいた。


響「好き勝手はさせないよ!」

霰「霰、行きます……!」


高角砲と対空機銃を装備した響と霰が、敵艦載機に対空砲火を浴びせていく。

しかし――


響「……っ! 数が多すぎる!」

霰「動きも、速い……!」


まるで弾道と弾道の間を縫うかのように、ひらりひらりと攻撃を躱される。
流石に全ては回避しきれず、数機が対空砲火によって落とされていくが――
全体の数からしたらほんの僅かであり、とても損害を与えたとは言えないレベルの戦果だ。

だが、敵艦載機が対空砲火に対する回避行動を取ったおかげで、加賀たちにもほんの少しの余裕が生まれる。


加賀「今です! 発艦始め!」

グラーフ「了解!」


ようやく加賀たちの艦載機が空に向かって解き放たれる。
2人の元から飛び立った機種は艦上戦闘機と呼ばれる、敵艦載機を撃ち落とすことを目的とした機体だ。


加賀「ひとまずこの攻撃を凌ぎます! 私とグラーフさんは艦戦による迎撃を、響たちは引き続き対空砲火に専念してください!」

グラーフ「分かった! フォッケウルフの力、思い知れ!」

響「こっちも了解だよ!」


220 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 22:53:51.93 ID:5DABnN68O


大鳳「……敵の艦戦が出てきました。千代田さん、お願いします」

千代田「了解。もう間もなく到着するわ」


先制攻撃には成功したものの、まだ敵艦隊にダメージを与えられてはいない。
その上、こちらの初撃を回避した相手には反撃の兆候も見られる。

――だというのに、大鳳と千代田には焦りの色が全く見られなかった。


大鳳「さて、ここからが私たちの本領発揮よ……」

千代田「えぇ。そろそろ本気を出しちゃおっかな!」



――――――
――――
――




加賀「! 敵の艦戦を確認しました!」

グラーフ「数は27……いや、30!」

加賀「制空権を取られるわけにはいきません! 敵攻撃機の迎撃と並行して、敵艦戦の撃墜もお願いします!」

グラーフ「了解した!」


敵攻撃機の対処に当たっていた艦戦のうち、およそ半数が新たに飛来した敵艦戦を迎え撃つため航空隊から分離する。

艦攻、艦爆、艦戦。

上空は敵と味方の艦載機が入り乱れる、激戦区と化しつつあった――


221 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 23:03:45.46 ID:5DABnN68O


―― モニタールーム ――


提督(……先手を打たれてしまったか)

提督(やはりこちらも彩雲を積んでおくべきだったか? ……いや、ここを耐え凌ぎさえすれば勝機はある)


提督(相手は彩雲にスロットを1つ割いている分、艦攻や艦爆の搭載数は少なくなっている)

提督(つまり、数少ない攻撃機を雑に扱うことはできないはずだ。もし攻撃機を全機撃墜されてしまえば、攻撃手段を失うからな)

提督(故に撃墜されることを恐れて攻め方も慎重になり、攻めるにも攻めきれないはず)

提督(この初撃を耐え、なるべく多くの敵攻撃機を落とすことができれば……)





Pa提督(……流石にやりますね)

Pa提督(大鳳の先制攻撃を受けてなお、誰一人小破すらしていないとは)

Pa提督(……ですが、ここからが本番です)

Pa提督(大鳳と千代田の“十八番”をお見せしましょう……!)


222 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 23:15:49.29 ID:5DABnN68O


加賀(……おかしい)


最初に違和感に気が付いたのは加賀だった。


加賀(相手の艦戦の動きが洗練されすぎている……!)


艦戦同士の空中戦。
いわゆるドッグファイトと呼ばれる戦闘を先程から繰り広げているのだが、こちらの撃墜数に比べて、相手の撃墜数の方が僅かにリードしている。


加賀(おまけに敵攻撃機の雷撃と爆撃も一向に止む気配がない……)

加賀(それどころか、こちらに撃墜されることを一切恐れていないかのように、深いところまで突っ込んでくる……!)


敵は彩雲にスロットを割いている分、攻撃機や艦戦の搭載数は少なくなっているはず。
そのため相手は少ない攻撃機を粗末に扱うことができず、慎重かつローリスクローリターンな攻撃しか仕掛けてこない。
また、艦戦の数もこちらと同等かそれ以下のはずなので、制空争いで負けることはないだろう――

それが提督の判断であったはずだ。
しかし、現実はどうだろうか?

敵の攻撃機はこちらの艦戦による迎撃を恐れず、果敢に猛攻を繰り返し、

敵の艦戦は数で勝るこちらの艦戦に打ち勝ちつつある。


加賀(くっ! 一体なぜ……!?)


現存する空母たちの中でもトップクラスの練度と実績を誇る加賀。
その加賀の目から見ても、敵の艦載機の扱いは見事というほかない。

いくら自分でも、ここまで軽快なドッグファイトを披露しつつ、それと同時に攻撃機による正確無比な攻撃を行えるかどうか――


加賀(……『同時に』? ………まさか!?)


223 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 23:22:42.67 ID:5DABnN68O


空母の扱う艦載機には、いくつかの種類が存在する。


周囲の偵察を行い、敵を発見することを主な役目とする艦上偵察機。

敵の艦載機を撃ち落とすことで、制空争いに打ち勝つための艦上戦闘機。

魚雷を搭載し、敵にダメージを与えることに特化した艦上攻撃機。

艦上攻撃機とは違い上空からの攻撃手段を持ち、陸地への攻撃も可能とする艦上爆撃機。


空母はこれらの艦載機を同時に、並行して扱うことが求められる。


Pa提督(……しかし、それは左手で文字を書きながら、右手でキーボードを打つようなもの)


攻撃機の操作だけに気を取られていては艦戦の操作が疎かになり、敵機に撃墜されてしまう。
かといって艦戦の操作だけに気を取られていては攻撃の手が休まることとなり、相手に反撃の隙を与えてしまう。
そうならないためには、並行して複数の艦載機を操作する必要があるのだ。


Pa提督(当然、それは簡単なことではない)

Pa提督(異なる種類の艦載機を同時に複数扱おうとすれば、どこかで必ず綻びが生じる)


艦戦によるドッグファイトの最中には攻撃機の動きが緩慢になり、
攻撃機による雷撃や爆撃の最中には艦戦の軌道が単調になる。
それは致し方ないことであり、どれだけ訓練を積んだところで完璧にこなすことは不可能と言われている。


Pa提督(訓練を重ねたところで、脳の数が増えるわけでもない)

Pa提督(空母の脳は他の艦種や人間のものに比べて、物事を並列処理することに長けているとは聞くが……)

Pa提督(それでもやはり限界はある)


空母が艦載機を運用する上で必ず突き当たる課題。
それが、艦載機の並列操作によって生じる操作制度の低下であった。


224 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 23:29:51.05 ID:5DABnN68O


Pa提督(――だがもし、異なる種類の艦載機を並列操作する必要がなかったら)

Pa提督(2つの操作を同時に行うよりは1つの操作に専念した方が、より精度は高くなる)


それは至極当然のこと。
左手で文字を書き、右手でキーボードを打つような真似をすれば、書き損じやタイプミスも発生するだろう。
しかし、まず先に文字を書き終えてから、次に両手でキーボードを操作すれば。
同時に2つの作業を消化することはできないものの、それぞれの作業の精度は格段に増す。

二兎を追う者は一兎をも得ず……ではないが、一兎を追うことに集中した方が、より確実に成果を得られるのは明白だ。


Pa提督(攻撃機と戦闘機を同時に運用すれば、それぞれの精度はどうしても落ちてしまう)

Pa提督(ならば最初から、どちらか1つしか運用しなければいい)


大鳳には艦攻と艦爆を搭載し、攻撃に専念させ、

千代田には艦戦と偵察機を搭載し、索敵と制空に専念させる。

本来、異なる種類の艦載機をバランス良く積むのが最善とされているところを敢えてそうせず、1つのことに特化させる戦術。


Pa提督(――艦戦キャリア)


ほとんどのスロットに艦戦を搭載し、制空権の確保に全神経を注ぐ艦隊運用方法。
千代田が今行なっているのは、正にそれであった。


Pa提督(制空権の確保は千代田に任せきっている分、大鳳には攻撃機しか搭載していない)

Pa提督(大鳳は敵の艦戦を気にすることなく攻撃に専念でき、千代田は攻撃に参加することなく敵機の撃墜にのみ集中できる)

Pa提督(これこそが、大鳳と千代田が得意とする戦術……!)


225 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 23:35:21.64 ID:5DABnN68O


千代田(……圧倒してる! 私が、あの加賀さんたちを相手に……!)


自身の操る艦載機が、加賀たちの艦戦を1機、また1機と墜としていく。
その様を見ながら、千代田は確かな手応えと言い知れぬ高翌揚感を得ていた。


千代田(正規空母を2人同時に、それもあの“一航戦の加賀”を相手にして、互角以上に戦えている……!)


正規空母と軽空母。
同じ航空母艦とはいえ、その間には決して埋められない数値上の差が存在している。

かつて千代田は、自身の上位互換とも呼べるスペックを持った正規空母に対し、少なからず劣等感を抱いていた。

火力、耐久、対空値、搭載数

全てにおいて完全に劣っているわけではないにせよ、総合的に見れば軽空母より正規空母の方が優れているのは明らかだ。
対潜攻撃手段を持っていたり、燃費が良いというメリットも存在するが、戦力として見たときに正規空母には決して敵わない――


千代田(それは仕方のないこと……そう思ってた)


思っていた―――が、千代田は諦めきれなかった。

搭載数で劣るのであれば、より艦載機の扱いを洗練させる。
そうすることで被撃墜数を減らし、継戦能力を底上げすればいい。

火力で敵わないのであれば、火力に左右されない艦戦の扱いを極める。
そうすることで、敵空母の攻撃機を撃墜し火力を削ぎ落としてしまえばいい。

ステータスという数値の差は努力で埋めることはできないが、実戦の勝敗は数値だけでは決まらない――

千代田はそう信じて、これまで鍛錬を続けてきたのであった。


千代田(――千歳お姉、提督、見てて!)

千代田(今日ここで加賀さんたちを倒して、軽空母が正規空母の下位互換じゃないってことを証明して見せるから……!)


226 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 23:45:28.87 ID:5DABnN68O


加賀「――恐らく相手は、攻撃に専念する役と制空権を確保する役とで、完全に役割を分担しているのでしょう」

加賀「そうでなければ、ここまで精密に艦載機を動かすことなどできないはずです!」

グラーフ「なるほどな……だが」

加賀「ええ……」


しかしそれは諸刃の剣でもある。

片方が攻撃機のみを、もう片方が艦戦と偵察機のみしか装備していなかった場合。
攻撃役の空母が倒されてしまえば空からの攻撃手段を一切失うこととなり、ダメージレースで優位に立てなくなる。
逆に艦戦を装備している空母が戦闘不能になってしまえば、敵の艦載機を撃墜する術が無くなり、制空権を喪失してしまう。


加賀(なんてリスキーな……!)


先にも述べたように、艦攻、艦爆、艦戦といった異なる種の艦載機をバランス良く搭載するのが、空母を運用する上で最善と言われている。
その最大の理由は、リスクの分散にあった。


加賀(もし仮に、私が中破して艦載機の発艦ができなくなったとしても、艦攻・艦爆・艦戦を全て搭載したグラーフさんが残っていれば、攻撃手段も制空権も完全には失わずに済む)

加賀(でも相手は……もし大鳳さんか千代田さんのどちらか片方がやられてしまえば、その時点で航空戦における敗北は免れない)

加賀(それを承知の上でこんな戦法を取ってくるということは……よほど自分の腕と、お互いのことを信頼しているようね)



攻撃役は艦戦を積んでいない以上、相手の艦戦に対抗する術を持たない。
にも拘わらず果敢に攻撃を繰り返せるのは、相方が敵の艦戦を撃ち落とし、自身を守ってくれると信じているから――


大鳳(……流石、千代田さんね。こちらの攻撃機を狙ってくる艦戦を、正確かつ優先して撃墜してくれている)



制空権の確保を担う役は攻撃機を積んでいない以上、相手の艦娘を攻撃する術を持たない。
にも拘わらず敵機の撃墜にのみ専念できるのは、自分が攻撃できずとも相方が敵を全て倒してくれると信じているから――


千代田(……相変わらず大鳳さんの攻撃は苛烈ね。私の分まで、たーっぷりお見舞いしてあげて!)


自分が身を守らずとも、相方が守ってくれる。
自分が敵を倒せずとも、相方が倒してくれる。

そんな信頼があってこそ、初めて成立しうる戦法であった。


227 : ◆wI6nKiwnSc :2020/04/02(木) 23:47:54.66 ID:5DABnN68O
今回はここまで
これからも花粉症とコロナと5月病に気を付けつつ、投稿を続けていきたいと思います
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/03(金) 00:13:43.32 ID:w1SplNOto
お疲れ様
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/03(金) 00:38:47.66 ID:lJYVIFBW0
おつです
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/03(金) 01:10:40.37 ID:FTriu2UIo

まさかの流星拳法
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/30(土) 00:10:05.57 ID:h5b1lOJC0
まさかの二か月間近...
232 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 20:31:26.71 ID:bm6s7vQZO
出張から帰投したのでひっそりと再開します
233 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 20:35:52.16 ID:bm6s7vQZO


不知火「――加賀さん! グラーフさん!」ダッ

那智「待て不知火! 戻ったところでどうにもならん!」


敵陣に斬り込むべく前進していた不知火だったが、敵の攻撃に翻弄される仲間の姿を目にし、思わず足を止め振り返ってしまう。
しかし、そんな行動を随伴していた那智に咎められた。


那智「対空機銃も持たない私たちが駆け付けたところで焼け石に水だ!」

那智「私たちが今取れる最善手は、加賀たちが耐えている間に敵に接近し、それを討つことだろう!」

不知火「っ……! 了解、しました……!」


助けに行きたくなる衝動をぐっと堪え、不知火は前を向きなおす。
確かに那智の言う通り、あの場に戻ったところで自分にできることはほとんどないだろう。
それよりも、一刻も早く敵を見つけ出して反撃に転じなければ、このまま一方的に攻撃され続け大勢が決してしまう。


不知火(艦載機の飛来してくる方角から考えて、敵はこの先に潜んでいるはず……!)


味方を救うためにも、一分一秒でも早く敵の位置を割り出さなければ――
そのためには、先程から上空を通り過ぎていく敵艦載機の軌跡を頼りにするほかない。


不知火(敵の航空部隊はいずれも南南東から飛来している。このまま進めば肉眼でも敵影を捉えられるはず……)


キッと目を細め、敵がいるであろう方向を睨みつける。
おおよその位置に目星を付けた不知火が、敵艦隊に到達すべく更に加速したところで――




 ドゴォォォォン!!




「あぐっ……!!」




後方から、大きな爆発音と仲間の悲鳴が挙がった。

234 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 20:41:09.48 ID:bm6s7vQZO





響「――霰!!」

霰「ぅ……まだ、大丈夫……っ!」ボロッ


突如として攻撃を受けた霰。
どうやら脚部に被弾したらしく、バランスを崩して海面に片膝をついている。
心配した響が駆け寄ろうとしたが、気丈にもそれを制し、自らの力で何とか立ち上がった。


グラーフ「霰! 大丈夫か!?」

霰「平気……魚雷が、片足に接触しただけ」

響「いや普通に大ごとじゃないか! 損傷はそこまで酷くないみたいだけど……」


見ると、左足に装着された艤装からプスプスと黒煙が上がっている。
だが航行に支障はないらしく、損傷度合で言えば小破といったところか。



霰(……おかしい)

霰(敵艦載機から放たれた魚雷の数は、ちゃんと把握できてたはず)

霰(絶対に当たらない位置にいて、警戒も緩めてなかった、のに……)


先程から猛攻を受けてはいるが、敵の優先目標は加賀とグラーフの2人らしく、霰と響を狙って魚雷が飛んでくることはほぼ無かった。
それでも加賀たちを狙った攻撃が逸れ、流れ弾が飛んでくる可能性はあったので、警戒を怠らず周囲をよく見ていたのだが……


235 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 20:46:39.70 ID:bm6s7vQZO


霰「……さっきの魚雷、どこから飛んできたか、分かる?」

響「いや……敵の艦攻は加賀さんたちに殺到していたし、少なくとも霰に向けて魚雷を放つ瞬間は見てないよ」


霰「…………私の見間違い、かもだけど」

響「?」

霰「さっき、攻撃が当たる直前に……一瞬だけ、魚雷の姿が見えた」

霰「一瞬だったし、水面下だから、はっきり見えたわけじゃない、けど……魚雷のサイズが大きかった、気がする」


自身を襲った謎の魚雷。
ほんの一瞬だけ視界に捉えられたその姿は、敵艦載機から放たれるソレと比べて若干大きいように感じられた。


響「艦攻の放つ魚雷より大きいものとなると……まさか、酸素魚雷?」


酸素魚雷。
空気ではなく純酸素を燃料の酸化剤に用いた魚雷で、その威力と射程距離は通常の魚雷を遥かに上回る。
おまけに排出されるガスの量も少なく、その成分も水に溶けやすいことから、魚雷が通った航跡――雷跡も残りにくいため、敵に発見されづらいという利点も併せ持つ。

しかしその反面、サイズが大きく重量も嵩んでしまうため、艦載機には搭載できないのだが……


響(サイズが大きく、当たる直前まで気付かなかったことも考えると、酸素魚雷である可能性が高い)

響(けど、あれを装備できるのは巡洋艦クラスか潜水艦のみ…………潜水艦!?)


浮上する一つの可能性。

どこからか放たれた酸素魚雷。
しかし周りを見渡しても、魚雷を撃ったであろう敵艦隊の姿は見当たらない。
となると――


236 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 20:54:57.58 ID:bm6s7vQZO


響「――こちら響! 不知火、聞こえるかい?」ザザッ

不知火『こちら不知火! 先程の爆発音と悲鳴は一体――』ザザッ

響「霰が敵の酸素魚雷に被弾した! 潜水艦が近くに潜んでいるかもしれない!」

不知火『潜水艦が……!? し、しかしソナーには何の反応もありません!』


響と霰が対空装備を充実させているのに対し、不知火は対潜装備を積んでいた。
敵の艦隊に潜水艦――伊19が編成される可能性が高いと踏んだ提督が、ソナーと爆雷を装備するよう指示していたからだ。

――しかし、不知火のソナーには潜水艦の反応は一切表示されていなかった。


響「霰が酸素魚雷に襲われたのはまず間違いない。けれど、周囲の海上には敵の艦影が見当たらないんだ」

響「となると、考えられるのは潜水艦しかない」


水上に敵の姿が見えない以上、残る可能性は水面下……つまり、肉眼で捉えられない場所に潜んでいるとしか思えない。


不知火『……了解しました! もう一度周囲を探ってみます!』

響「頼んだよ。こっちは上からの攻撃に対処するので精一杯だからね……!」


通信を終えた響は、再び対空気銃を構えて艦載機の迎撃に当たる。


響(上空の敵に応戦しつつ、水面下からの攻撃も警戒しなくちゃいけないなんて……)

響(これはかなり厳しいかな……!)


近くに潜水艦が潜んでいるかもしれない以上、空にばかり気を取られていては文字通り足元を掬われる。
上空と海中の二方向からの攻撃に晒されて、響の顔には焦りの色が浮かんでいた。


237 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 21:04:18.27 ID:bm6s7vQZO



不知火「――――くっ! ダメです! ソナーに反応ありません!」

那智「水偵でも探しているが見つけられんぞ! 本当に潜水艦が近くにいるのか?」

不知火「ですが、先程の通信で響はそう言っていました。酸素魚雷による攻撃が確認された以上、間違いなくどこかに潜んでいるはずです!」

那智「だが、お前のソナーにも反応が無いとなると一体どこに……!」



――――――
――――
――




遠く離れた位置から、困惑する不知火たちを眺める影が一つ。


伊19「いひひっ♪ 敵さんたち、だいぶ混乱してるみたいなの!」


悪戯っぽく笑うその姿は、一見すると可愛らしい少女の姿にしか見えない。
だが、今この場においては獰猛さを孕んだ悪魔の笑みをも連想させた。


伊19(イクがいる以上、対策としてソナーや爆雷を持ち出してくるのは当然なのね)

伊19(でもそれが分かりきっていれば、対策の対策を講じることも簡単なの!)


なぜ不知火の装備しているソナーに、伊19の姿が映らなかったのか?

答えは単純明白。

ソナーの感知範囲外にいたからだ。


伊19「普通はこんな遠くからだと魚雷なんて当たらないけど……」

伊19「イクを普通の潜水艦と一緒にしてもらっちゃ困るのね!」


海のスナイパー。
伊19本人も自称するその異名は、決して名ばかりの物ではなかった。

いくら酸素魚雷の射程距離が通常の魚雷より長いとはいえ、ソナーにも感知されない距離からでは狙いをつけることすらままならない。
しかし、伊19は持ち前のセンスと日々の訓練により、その技術をモノにしていた。


伊19「流石に動き回る標的に当てるのは難しいけど、対空砲火で動きを止めてる瞬間なら狙い放題なの!」

伊19「ふふー。スナイパー魂が滾るのね〜」ニヒッ


次なる獲物を求め、伊19は嗜虐的な笑みを浮かべるのであった――



238 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 21:14:43.70 ID:bm6s7vQZO


――――――
――――
――



アイオワ「さぁーて、そろそろMeの出番かしら」


空からは大鳳による爆撃。
水面下では伊19による奇襲。

異なる方向からの絶え間ない攻撃により、加賀たちの統率は乱れ始めていた。
また、大鳳と千代田の見事な連携により制空権も確保しつつある。

叩くなら、今しかない。


アイオワ(悪いけど、このまま一気に勝たせてもらうわ!)


自らの主砲をゆっくりと構え、片眼を閉じて意識を集中させる。


アイオワ(距離……良し。角度……右に5度修正。風向きは……問題なさそうね)


アイオワは先程、千代田と大鳳の艦載機に紛れ込ませるようにして水上観測機を発艦させていた。
自身の長距離射撃の精度を上げるため……即ち、弾着観測射撃を行うために。



アイオワ(……MeからのSupriseよ)


そして、引き金に手をかけ――




アイオワ「Open fire!!」




轟音と共に、鋼鉄の弾丸が発射された。



239 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 21:22:28.70 ID:bm6s7vQZO


――
――――
――――――



加賀(このままではジリ貧ね……)


加賀たちは相変わらず、大鳳の操る攻撃機の対処に追われていた。
まだ壊滅的な被害こそ受けていないものの、このまま迎撃に徹していても埒が明かない。


加賀(何とか一旦攻撃を凌いで、体勢を立て直さないと………っ!?」ゾクッ


その瞬間、加賀の背筋をぞわりとした感触が襲った。
研ぎ澄まされた五感と歴戦の猛者だけが持つ直感が、頭の中で警鐘を鳴らす。


加賀(何かが来る……!)


慌てて周囲を見渡すと同時に、耳をすませる。
爆音の合間に微かに聞こえてくる、この風切り音は――


加賀「――っ!! 総員回避! 砲撃が来ます!」


直後。

僅か10メートルほど離れた位置。
加賀やグラーフたちが密集する地点のちょうど中心辺りに――




 ドッパァァァン!!!




視界全てを覆い尽くすほどの、とてつもない高さの水飛沫が上がった。


240 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 21:32:57.65 ID:bm6s7vQZO


加賀「ぐっ……!」


至近距離で炸裂した砲撃の余波により、加賀の体は大きく仰け反ってしまう。
体重の軽い響と霰は、その衝撃で数メートルほど身体が宙に舞った。


響「くっ……!」

霰「きゃっ!」

グラーフ「2人とも、大丈夫か!?」


直撃はしなかったため損傷こそ無いようだが、加賀たちの間に動揺と緊張が走る。
もし、あんな攻撃が直撃したら……
駆逐艦は勿論、比較的装甲の厚いグラーフでさえも一撃で大破することは間違いない。


加賀「っ! 急いで散開してください! 恐らく第2波が来ます!」


この威力の砲撃は間違いなく戦艦……アイオワによるものだ。
となるとこれは恐らく、長距離からの弾着観測射撃。


加賀(弾着観測射撃は、1発目の着弾地点から狙いを修正し、2発目、3発目の精度を上げていくもの)

加賀(つまり、すぐに次の攻撃が来るはず……!)


加賀の予想通り、ソレは間髪入れずにやってきた。




 ドッパァァァン!!!




グラーフ「くっ!? また至近弾か!」

響「いや、さっきより着弾地点が近い!」

霰「……っ!」ゾクッ


初撃が10メートルほど離れた位置に着弾したのに対し、2発目は6〜7メートルほどの距離に炸裂した。
2発目が来ることが分かっていた分、初撃を受けた時ほどの動揺は無かったが、それでも着弾の衝撃により体はよろけ、額からは嫌な汗が流れ落ちる。


241 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 21:42:47.58 ID:bm6s7vQZO


グラーフ「このまま同じ場所に止まっていては、いずれあの砲撃の餌食になるぞ!」

加賀「……三手に分かれましょう」


加賀は攻撃が当たらぬよう動き回りながらも、状況を分析し最善と思われる指示を飛ばす。


加賀「一か所に止まり続けるのも、皆で密集しているのもマズいわ」

加賀「それに、このままここで迎撃を続けていても防戦一方になるだけ……私たちも打って出ます!」



加賀「那智さんと不知火は潜水艦に注意しつつそのまま前進。敵空母に接近し砲雷撃戦でこれを撃破」

加賀「私とグラーフさんは別行動を取ります。敵は率先して私たち空母を狙ってくるはずだから、同じ位置にいては一網打尽よ」

グラーフ「分かった。では響と霰はどうする?」

加賀「響はグラーフさんに、霰は私に護衛艦として随伴してもらいます」

響「了解」

霰「…………」コクリ



加賀「では………散開!」


242 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 21:58:32.61 ID:bm6s7vQZO

――
――――
――――――



アイオワ「――ふぅん、どうやら3つに分かれたみたいね」


観測機から伝わってきた情報によると、加賀たちは3チームに分かれて別行動を開始したらしい。

那智と不知火は大鳳たちのいる方角へ向かって前進。
加賀と霰、グラーフと響の2チームは、互いが真逆の方角へと距離を離していく。


アイオワ(……狙うなら、やっぱり旗艦のカガよね)


敵艦隊の中で一番の手練れは、間違いなく加賀だ。
旗艦であり、戦力としても最も脅威になり得る彼女さえ倒してしまえば、ほぼ勝ちは決まったようなもの。


アイオワ(それに、Meが砲撃を続けている限りは、カガも攻撃に専念できないはず)

アイオワ(例えこちらの砲撃がHitしなかったとしても、カガに攻撃する機会を与えないというだけで、敵の戦力を大幅にDownさせることができる)

アイオワ(となると、皆に出すべき指示は……)


アイオワは少し考えたのち、無線に手を当てて皆に指示を飛ばす。


アイオワ「皆聞こえる? 敵は3つのチームに分かれて行動を開始したわ」

アイオワ「私はこのままカガを狙い続けるから、皆は他のMemberの相手をお願い」


243 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 22:06:17.92 ID:bm6s7vQZO



アイオワ「千代田はそのまま敵艦載機の迎撃を続けて。Meと大鳳が攻撃に専念できるよう、しっかり守ってちょうだい!」

千代田『了解。私に任せて!』



アイオワ「大鳳はグラーフの相手をお願い。さっきの戦いを見てたけど、加賀に比べて発艦させている艦載機の数が少なく感じたわ」

アイオワ「恐らく元々の搭載数が少ないはず……1対1で正面から戦えば十分に勝てる相手よ」

大鳳『分かりました。 ……しかし、そんなところまで見ていただなんて流石です』

アイオワ「こう見えてもアナタたちのFlag shipよ? 戦場全てを見渡して、的確な判断と指示ができなければ務まらないわ!」フフン

大鳳『……普段とのギャップがありすぎるんですよ』ボソッ

アイオワ「? 何か言った?」

大鳳『いえ何も。通信終わります』ブツッ



アイオワ「ポーラと舞風はナチとシラヌイを迎え撃って。大鳳と千代田には絶対近付かせないこと!」

舞風『りょーかいです! よーし、不知火姉さんに一泡吹かせちゃおっと!』

ポーラ『ワイン……焼酎……ウイスキー……』ブツブツ

舞風『ほらほら! 行きますよポーラさん!』グイッ

ポーラ『はっ!? お酒は? 飲み放題は〜?』キョロキョロ

舞風『だーかーらー、それは演習に勝ったらの話ですよぉ!』



アイオワ「最後にイクだけど……状況に応じて狙える相手を狙ってちょうだい」

伊19『なんだかイクへの指示だけ雑なのね!?』ガーン

アイオワ「Youの酸素魚雷なら、どの位置からでも敵全員をSnipeできるでしょ?」

アイオワ「流石の私も弾道の計算をしながら一人一人に的確な指示は飛ばせないし、あとはYouの経験と判断に任せるわ!」ビシッ

伊19『……つまり、イクのことを信頼してくれてるのね!!』キラーン

伊19『了解なの! 何なら全員イクがやっつけてあげるのね〜!』


アイオワ(……イクは指示を出したところで、その通りに動くキャラじゃないし)

アイオワ(だったら最初から好きに動いてもらった方が、パフォーマンスも発揮できそうだしね☆)




――――――
――――
――



244 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 22:08:51.47 ID:bm6s7vQZO
今回はここまで
長らく更新できず、すみませんでした・・・
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/12(金) 22:10:53.82 ID:Fy3ZGzbpo
舞ってた
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/12(金) 22:14:48.29 ID:EKvBWmUx0
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/07/29(水) 23:58:00.63 ID:dTw2grq7O
保守
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/13(木) 18:05:09.34 ID:yfRVCNn+0
二か月か...
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/16(日) 23:12:33.48 ID:J3H4DkODO
おーい生存してるか?
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/09/12(土) 11:24:31.02 ID:u0hnpB630
三ヶ月…
251 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/19(土) 23:55:05.08 ID:gAY060MVO

――
――――



那智「? あれは……」


加勢に戻りたくなる衝動をぐっと堪えながら敵の潜水艦を探していた那智と不知火は、こちらに向かってくる2人の人影に気が付いた。



舞風「どうもー、舞風でーす!」

ポーラ「敵艦はっけ〜ん。砲撃戦〜準備ですぅ〜」


那智「お前たちは……なるほど、私たちを足止めしに来たわけか」


アイオワの指示で、那智と不知火の迎撃を任された2人。
ソナーで潜水艦の探索を続けていた不知火も、一旦索敵を止めて敵である舞風たちと相対する。




不知火「……演習とはいえ、こうして貴女と戦うことになるとはね」

舞風「前の鎮守府にいた頃は、一緒に出撃したことはあっても直接戦ったことはなかったもんねぇ」アハハ

不知火「演習に参加したのは自分の意思? それとも、貴女の提督の指示かしら?」

舞風「うーん、陽炎姉さんが推薦してくれたのが切欠だけど……今は自分の意思で、不知火姉さんと戦いたいって思ってるかな」

不知火「貴女は昔っから能天気に見えて意外と好戦的だったわね」フッ


不知火「――いいわ、かかってらっしゃい」ギロリ

舞風「ぉ〜こわっ! でも私だってあれから強くなったんだから!」チャキ



252 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/19(土) 23:57:37.81 ID:gAY060MVO



那智「貴様は確か、ポーラとかいったな」

ポーラ「はい〜、ザラ級重巡洋艦の三番艦、ポーラです〜」エヘヘ

那智「……妙高型二番艦、那智だ」


那智(何というか、緊張感のないやつだな……)


ヘラヘラした態度のポーラを前にして「こいつは戦いを舐めているのか?」と、那智は若干の苛立ちを覚えていた。
演習前に多量の酒を飲むだけでも言語道断なのに、いざ演習が始まってもこの態度。
戦いそのものを舐めているとしか思えない。
或いは戦いではなく自分たちが舐められているのか……
いずれにせよ、武人気質の那智にとっては度し難い相手であった。


那智「貴様、よくそれで艦娘が務まるな。演習とはいえ真剣勝負の真っただ中だぞ!」

ポーラ「え〜? でもでもぉ、こう見えてポーラ、結構強いですよ〜?」ニヘラ

那智「ッッ! よかろう……! では相手になってやる!」チャキ

ポーラ「那智さんに恨みはないけれど〜、お酒の為にもポーラ頑張りま〜す」チャキ



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――


253 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:01:06.27 ID:VVMT4HvHO


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――――



響「……どうやら不知火たちが会敵したみたいだ」


無線から伝わってきた情報によると、潜水艦の探索を続けていた不知火たちの前に、ポーラと舞風が立ちはだかったらしい。
2人を足止めすることで大鳳と千代田を守り、それと同時に潜水艦の発見を遅らせることで伊19が自由に動き回れるようにするのが敵の狙いだろう。


響「不知火たちが足止めを食らっているとなると、敵空母と潜水艦の脅威はまだ当分拭い去れそうにないね」

グラーフ「あぁ。しかし逆に言えば、敵2人を引き付けてくれているということだ」

グラーフ「戦艦と空母の遠距離攻撃に加えて、重巡と駆逐艦に接近戦まで挑まれる、というリスクはこれで無くなった」

響「そうだね。でも、苦しい状況には変わりないんじゃないかな」

グラーフ「それもそうだ……っと!」


大鳳が放つ爆撃機の攻撃を辛うじて避けながら、グラーフもまた反撃のために攻撃機を発艦させる。

響の言うように、危機的状況にあることには変わりない。
先ほどの航空戦でも、敵空母の見事な連携により後れを取ってしまった。

しかし、それでも――


響「……何だか楽しそうだね」

グラーフ「ふっ、そう見えるか?」


グラーフの顔には、まるで苦しい表情は見られず、

それどころか、この状況を楽しんでいるかのように不敵な笑みさえ浮かべていた。



254 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:03:12.37 ID:VVMT4HvHO



グラーフ(――これこそ、私が望んでいた戦いだ)


危機感が足りない、などと叱責されてしまうかもしれない。
しかしそれでも、湧き上がる歓喜の念を抑え込むことはできそうになかった。

自分が艦娘ではなく、意思を持たない軍艦だった頃。
かつての大戦で、未成艦のまま戦わずして朽ちていった空母――それが自分、グラーフ=ツェッペリンだ。

そんな自分が、空母として戦えることが。
同じ空母である敵と、航空戦を繰り広げられることが。
グラーフにとって、堪らなく嬉しかったのだ。


グラーフ(こんな日が来るのを待っていた)

グラーフ(この日を夢見て、ひたすら腕を磨いてきた)

グラーフ(敵は技術大国日本の誇る最新鋭の装甲空母『大鳳』)

グラーフ(――相手にとって不足なし!!)


大空を舞う敵の攻撃機を見上げながら、カタパルトを天に向けて突き出すと、


グラーフ「攻撃隊、出撃! Vorwarts!」


楽しくて仕方がないといった声色で、高らかに反撃の開始を宣言した。



――――
――




255 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:05:31.99 ID:VVMT4HvHO


――
――――



舞風「ほらほら! そんな攻撃当たんないよーっと!」

不知火(くっ、ちょこまかと……!)


一方、舞風と1対1の戦いを繰り広げていた不知火は、予想以上に苦戦を強いられていた。

元々舞風の姉であり、艦娘としても先輩にあたる不知火の方が練度は上だ。
かつて同じ鎮守府に所属していた頃も、戦績では常に不知火が2歩も3歩もリードしていた。

しかし実際こうして戦ってみると、なぜか妹の舞風の方が優位に立っているように見える。

その理由は2つ。


不知火(やはり、この装備では分が悪い……!)


1つ目の理由は、不知火の装備にあった。

ソナー、爆雷、爆雷投射機。

対潜性能に特化させた結果、不知火のスロットには主砲も魚雷も搭載されていなかったのだ。


不知火(せめて、主砲を1本だけでも積んでくるべきだったか……!)


もしも相手が潜水艦であったならば、特化された対潜性能によって簡単に勝利できただろう。
しかし、相手は自分と同じ駆逐艦。
水上の敵を相手に、爆雷やソナーでは何の役にも立たない。
必然的に不知火の攻撃手段は、元から搭載されている小口径の機銃1本のみに限られてしまっていた。




そして、2つ目の理由は――



不知火(……しばらく会わないうちに、随分と成長したみたいね)


確かに以前は、不知火と舞風の間には明らかな実力差があった。

しかし、それは過去の話。

『男子三日会わざれば刮目して見よ』という諺があるが、女子も決してその例外ではない。
ましてや三日どころか、もう数年は会っていなかったのだ。
自分の知らないところで訓練や実戦を積み、メキメキと実力を付けていたところで何らおかしくはない。


以前は存在したはずの実力差が、格段に縮まっている――
それこそが、舞風が不知火を相手に善戦できている2つ目の理由であった。



256 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:08:29.61 ID:VVMT4HvHO



舞風(いける! 不知火姉さんに勝てる――!)


不知火の機銃による攻撃を難なく躱しながら、舞風は自身の優勢を感じていた。
まだ有効打こそ与えられていないものの、向こうの攻撃もまた、こちらに掠りもしていない。
加えてこちらには心身ともに余裕があるが、不知火の顔には明らかに焦りの色が浮かんでいる。


舞風(別れてから数年。姉さんも姉さんで、きっと更に成長してるんだろうけど……)

舞風(私はそれ以上に成長してるんだから!)


異動により不知火と離れ離れになってからも、毎日の訓練を怠ったことはなかった。
それどころか長姉である陽炎に頼んで、通常の訓練の後にも特別に稽古を付けてもらっていた。
それはひとえに、姉たちへの憧れの念があったからだ。



舞風(――陽炎姉さんは長女として、いつも私たちを引っ張ってきてくれた)


19人姉妹の長女である陽炎。
持ち前の明るさとリーダーシップで、姉妹のみならず艦隊や鎮守府全体を盛り上げてきたムード―メーカー。
その朗らかさからは想像しづらいが仕事に対する責任感は人一倍強く、彼女が成し遂げた任務や勝ち取ってきた武勲は数えきれない。
舞風が最も頼りにし、尊敬している姉。



舞風(不知火姉さんは常に先陣に立ち、何度も私たちを救ってくれた)


次女である不知火は、こと戦闘に関しては陽炎以上にストイックだ。
艦隊の斬り込み隊長として、あらゆる戦場でいつも一番槍を務めてきた彼女。
それは単に戦いが好きだからというだけではなく、自分が率先して敵を倒すことで、背後にいる仲間を護れるから。
一見すると取っ付きにくい性格をしているが、本当は仲間や妹たちのことを大切に想ってくれていることを、舞風は知っていた。



舞風(そんな姉さんたちに追いつきたくて、ここまでずっと頑張ってきたんだ……!)


舞風(絶対に……負けません!)



257 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:10:53.72 ID:VVMT4HvHO



―― モニタールーム ――



提督(………やっべぇ)

提督(俺が対潜装備を積んでいけって言ったせいで、妹相手に苦戦しちゃってるじゃん)

提督(もし、不知火が舞風に負けたら……)



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

不知火「……提督の指示のせいで、妹相手に1対1で負けるという屈辱を味わわされたわけですが」

不知火「覚悟はできていますか?」ギロッ

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



提督()








陽炎「不知火はあんまり本調子じゃないみたいね。ま、装備のことを考えたら仕方ないけど」

陽炎「それに比べて、舞風はいい動きしてるじゃない」

Pa提督「実の姉が相手ということで、いつも以上に張り切っているんだろう」

Pa提督「……にしても、いつ見ても舞風の動きは独特だな。まるで踊っているようかのような……」

陽炎「あぁ、あれは私が教えたのよ」

Pa提督「何? どういうことだ?」

陽炎「ほら、舞風ってダンスが好きでしょ? だからその動きを戦闘にも取り入れてみたらどう? ってアドバイスをね」

Pa提督「成程な。危なっかしい動きだと思っていたが、あれはそういう戦闘スタイルだったわけか」

陽炎「『蝶のように舞い、蜂のように刺す』だっけ? それがあの子のモットーらしいわ」アハハ



――――
――


258 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:16:23.39 ID:VVMT4HvHO

――
――――



不知火「……驚いた。まさかここまで成長しているなんてね」


肩で息をしながら、妹のことを素直に称賛する不知火。
よく見れば服の所々が破れ、一部は焼け焦げているようにも見える。
必死に攻撃を回避していた不知火だったが、気付かぬうちに小破するまでダメージが蓄積していたらしい。



舞風「褒められるのは嬉しいけど、できれば勝敗が着いてからにしてほしいなーって」


そう返しつつも、姉に認められたことに対し喜びを隠しきれない舞風。
ずっと尊敬し、その後ろ姿を追ってきた姉に認められたのだ。
喜ぶなという方が無理な相談であった。


舞風「本当はそんな対潜装備じゃなくて、主砲と魚雷を積んだ本気の姉さんと戦いたかったけど……」

舞風「これも演習だし、仕方ないよね」

舞風「それとも、まだ何か策はありますか? その装備で私を倒せる策が」


自身が優位に立っているという自覚と、姉に褒められた高揚感からか、ついつい調子に乗った発言をしてしまう。
後で怒られるかなとも思ったが、少なくとも今は自分の方が立場は上だ。臆する必要などどこにもない。



不知火「……そうね、策ならあるわ」

舞風「へぇ。どんな策ですか?」


この期に及んでどんな策があるというのか。

まさか、水面に立つ自分目掛けて爆雷を投げ付けて戦うとでも言うのだろうか?

それとも単なる負け惜しみか。

いや、この姉の言うことだ。決してハッタリなどではないはず……


様々な考えが頭の中を廻り、舞風が若干警戒を強めたところで、




不知火「――逃げるわ」ダッ



そう一言呟くと、不知火は踵を返して全速力で駆け出した。


259 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:18:20.17 ID:VVMT4HvHO




舞風「――は?」ポカン


突然の出来事に、舞風は思わず呆気に取られてしまう。



逃げた?  あの姉さんが?


 妹である自分に勝てないと判断し、


    けれども潔く負けを認めることなく、


       尻尾を巻いて戦いから逃げ出した?



あの、ずっと憧れていた、不知火姉さんが?




舞風「…………ふ」
















舞風「ふざけんなあああああああぁぁっっ!!!」



静寂から一転。感情が雄叫びとなって爆発する。
尊敬する姉の醜態を目の当たりにして、舞風の心中は怒りと落胆ではち切れそうになっていた。



舞風「絶っっっ対に! この手で! 倒してやる!!」 ダッ


すぐさま追跡を開始する舞風。

この姉妹の戦いに決着が着くまでには、まだ少し時間がかかりそうであった。


――――
――


260 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:23:48.54 ID:VVMT4HvHO


――
――――



戦いを舐め切った、艦娘の風上にも置けないヤツ。

それが、那智のポーラに対する最初の印象だ。
しかし実際に矛を交えてみて、その印象は変わりつつあった。


那智(こいつ……強い!)


2人の戦いが始まって早数十分。
幾度となく距離を詰めて近距離から砲撃を浴びせようとしたが、ギリギリのところでポーラに上手く躱されてしまう。
特別ポーラの動きが俊敏というわけではないのだが……
何というか、まるでユラユラとはためく布を攻撃しているかのように、こちらの砲撃が紙一重で当たらない。


那智(さながら酔拳だな……)


酒がまだ抜け切っていないせいなのか、ふらふらとしたその足取りは正に酔拳そのもの。
それがポーラの戦闘スタイルなのか、それとも本当にただ酔っているだけなのか。
那智には判別が付かなかったが、それでもこちらの攻撃を上手く回避していることは事実だ。


那智(それに加えて――)

ポーラ「いいですか〜? 撃ちますよ〜? Fuoco!」ドゴォォン!!

那智「……ッッ!」



バシャァァァン、と。

ポーラの主砲から放たれた砲弾は、那智の体からほんの数十センチのところを掠め、後方の海面に着弾する。
炸裂した砲弾は高い水柱を上げ、近くにいた那智はその飛沫をマトモに浴びた。


261 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:26:01.90 ID:VVMT4HvHO



那智(ヤツの主砲……あれは確か、イタリア製の長射程を誇る連装砲だったか)

那智(射程が長い分、命中精度は低いと聞いたことがあるが……)


実際に、ポーラの扱う203mm/53連装砲は命中精度に難がある。
重巡の主砲として最もメジャーである20.3cm連装砲に比べると、その精度の差は歴然だ。
いくら長距離射撃が可能といっても、当たらなければ何の意味も無い……はずなのだが、


那智(あの主砲を使ってこの命中精度とは……恐れ入った)

那智(イタリア艦であるヤツにとっては使い慣れた装備なのかもしれんが……)


見た目や言動とは裏腹に、もしや影で相当な訓練を積んでいるのだろうか。
いや、それにしては動きに無駄が多いというか、洗練されていないというか……



那智「貴様、中々やるではないか! その動きは訓練の賜物か!?」ドォン!

ポーラ「ん〜? ポーラ、訓練は苦手ですぅ〜」ヒョイッ

那智「っ! ならその動きはどこで学んだ!?」ドゴォン!

ポーラ「う〜ん、えっとぉ〜……カン、ですかねぇ?」ヒョイッ

那智「なっ……!」


那智が砲撃し、ポーラがそれを軽々と躱す。
そんな応酬の中でポーラに問いかけた那智だったが、返ってきたいい加減な答えに激昂――しかけたところで、一つの答えに辿り着いた。



――ポーラは、いわゆる“天才型”なのだと。



262 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:29:55.79 ID:VVMT4HvHO



いかなる分野においても、優れた人物には2種類のタイプが存在する。


秀才型と天才型。


前者は修練や研鑽によって実力を身に着けた努力家であり、後天的に力を得た者。
後者は生まれながらにして実力を持ったサラブレッドであり、先天的に力を得た者。


恐らく、ポーラは後者なのだ。


碌に狙っているようには見えない構えと、基本からかけ離れた個性的な撃ち方。
にも関わらず、ポーラの放つ砲撃はどれも至近弾になる。

こちらの射撃精度も決して悪くは無いはずだが、ポーラはそれを難なく躱す。
それはまるで、こちらの弾道を直感で読み取り、最小限の動きだけで回避できることが分かっているかのようだ。

努力や苦労を重ねずとも、持ち前のセンスだけで大抵の物事を卒なくこなしてしまう。
そういったポーラたちのような者のことを、世間では“天才”と呼ぶのだ。



那智(天才、か。まったく……性格はまるで違うが、姉さんを思い出す)


天才と聞くと、真っ先に姉のことが頭に思い浮かぶ。

妙高型一番艦、妙高。

姉としても、武人としても、誇り高い自慢の姉。
その実力は国内のみならず国外にも名を轟かせるほどで、現在就役している重巡洋艦の中でも1〜2を争う実力だと噂されている。

昼戦では1人で敵艦隊の半数以上を沈め、夜戦になれば正確無比な雷撃で姫クラスの敵さえ単独で撃破する。
おまけに知略にも優れ、人柄も良く、人望も厚い。
本当に非の打ちどころのない、まさに天才と呼ぶべき姉であった。


だが――



那智(いつからだったか……そんな姉さんと比べられることに、苦痛を覚え始めたのは)


263 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:32:53.98 ID:VVMT4HvHO


舞風が陽炎と不知火を尊敬しているのと同じように、那智もまた妙高のことを尊敬していた。
同じ妙高型として、いつかは姉と肩を並べられるようにと、どんなに厳しい訓練にも耐えてきた。
訓練だけでは実力は身に着かないと、率先して出撃を繰り返し実戦経験も積んできた。

そうやって姉以上の努力を重ねてきたが―――姉は涼しい顔をして、その1つ2つ先を行く。


そうしていつしか気付いてしまったのだ。
自分は一生、姉に追いつくことはできないのだと。


その事実に気付いてしまった途端、あれだけ誇りに思えていた“妙高型”の肩書が、重く圧し掛かってくるように感じた。


――妙高型の一番艦は優秀だが、その二番艦は姉には及ばない。

――妙高“型”って言う割には、一番艦である妙高以外の活躍は聞いたことが無いな。


誰かにそう言われたわけでもない。自分の勝手な被害妄想だとは分かっている。
しかしそれでも、ことあるごとに卑屈な考えが彼女のことを苦しめた。

普段の那智を知る者からすれば、まさか彼女がそんなことで悩んでいるはずがないだろうと、
豪胆な性格の彼女なら、そんなコンプレックスなど笑って吹き飛ばしてしまうだろうと、
そう思ったかもしれない。

しかし、間違いなく彼女は人知れずに苦しんでいたのだ。


そうして遂に、まるで姉から逃げるようにして他の鎮守府への異動願いを出した。
私もそろそろ姉離れせねばな、などと笑って誤魔化し、心配そうにする姉妹たちを振り切ってこの鎮守府にやってきたのだった――




那智「――ぐぁっ!?」ドゴォォォン!!

ポーラ「おー、当たりました〜!」パチパチ

那智(くっ……馬鹿か私は! 戦いの途中で物思いに耽るなど……っ!)


考え事をしていたせいで動きに乱れが生じたのか、ついにポーラの放った一撃が那智を捉える。
強烈な一撃を浴びた那智の艤装からは、薄っすらと黒煙が上がっていた。
まだ戦うことはできるが、中破しているのは明らかだ。


那智(ヤツの態度や考え方は許容できんが、この戦いにはしっかりと集中している)

那智(その反面、私はなんだ! 真剣勝負の真っただ中などと言っておきながら、この体たらく……!)ギリッ


勝負の最中に雑念を抱いてしまった己に対する自己嫌悪。
そしてその自己嫌悪が、再び心の中に雑念を生み出す。


姉と同じ“天才”を目の当たりにし、それに加えて恥ずべき失態を犯してしまったことで、那智の心は負のループに飲み込まれようとしていた――



――――
――

264 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:35:59.88 ID:VVMT4HvHO


――
――――



霰「加賀さん……! また砲撃が来る……!」

加賀「っ!」




 ドッパァァァン!!!


これで何発目だろうか。

アイオワの放ったであろう砲弾が加賀たちの間近に着弾し、轟音を響かせた。
衝撃の余波を全身に受けながらも、何とか体勢を崩さぬようバランスを取り、追撃から逃れるべく敵との距離を取る。



霰(このままじゃ……負ける)


遥か遠くからの砲撃に晒され続け、加賀と霰は先ほどから逃げ回ってばかりいた。
こちらからも攻撃しようと加賀が隙を見て艦載機を発艦させるも、千代田の艦戦による妨害で思うようにいかない。
おまけに――


加賀「! 魚雷よ! 右方向に回避!」

霰「っっ!」


シュゴォォォ、と、

水切り音を立てながら、霰が先程までいた位置を魚雷が通過していく。

空から降り注ぐ砲撃に加えて、水中からも幾度となく魚雷が襲い掛かってきていた。
恐らく敵の潜水艦は、旗艦である加賀と、その護衛艦である霰にターゲットを定めたのだろう。
未だにその姿と位置は確認できず、2人は見えない敵からの波状攻撃に対処するので精一杯であった。


265 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:37:39.12 ID:VVMT4HvHO


霰(早く……早く何とかしない、と……!)

霰(私たちだけじゃなく、グラーフさんや、那智さんも……)


危機に直面しているのは自分たちだけではない。

確かに今、自分たちは敵の戦艦と潜水艦に狙われている。
言い方を変えれば、敵の2隻を引き付けているということだ。
その間、他の仲間たちへの攻撃は手薄になるはずだが……


霰(……さっきから、こっちに艦攻も艦爆も、飛んでこない)


先刻はあれほど苛烈に雷撃と爆撃を繰り返していた敵の艦載機が、グラーフたちと分かれて以降、1機もこちらへは飛来していなかった。
それはつまり、自分たち以外の誰か――恐らくグラーフと響が、今この瞬間も攻撃されているということだ。


霰(加賀さんと、グラーフさんの2人がかりでも、凌ぐのがやっとだった、のに……)

霰(それに、まだ敵は他に2人いる、はず)

霰(早く、加勢に行かないと……!)


霰の胸中に自然と焦りが生まれる。

早く何とかしないと。

早くどうにかしないと――




加賀「――大丈夫、心配いらないわ」


そんな霰の心中を察したかのように。
聴く者を安堵させるような声音で、加賀が語り掛けた。


266 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:39:34.07 ID:VVMT4HvHO


霰「加賀、さん……でも、このままだと皆が……それに、私たちも……!」

加賀「……私たちの役目は、敵戦艦の攻撃を引き付けること」

加賀「確かに艦載機による攻撃や、潜水艦の魚雷も厄介だけれど、一番の脅威はやはりアイオワさんの砲撃よ」

加賀「アレを食らったら、小破や中破では済まない。おまけに命中精度も悪くないときているわ」

加賀「今はこうして少しでも逃げ回り、アイオワさんの注意をこちらから逸らさないようにするのが私たちの役目よ」

霰「けど、他の皆は……!」

加賀「だから言ったでしょう――心配いらないと」


仲間たちが戦っているであろう方角を見据えながら、加賀は静かに、それでいてハッキリと口にした。



加賀(貴女たちが、誰よりも努力を積み重ねてきたことを私は知っている)


序盤は敵にリードされてしまったが、グラーフも那智も、この程度でやられるようなタマではないと。
自分たちが加勢に向かえずとも、彼女たちなら何とか切り抜けてみせるだろうと。

そう信じ切っていると、加賀の眼差しは物語っていた――



267 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:42:23.92 ID:VVMT4HvHO
梅雨イベに掛かりっきりでしばらく筆を置いていたら、続きが書けなくなっていました
待って頂いていた方はすみません・・・

また少しずつ、更新していければと思っています
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/20(日) 00:48:06.52 ID:mxlnsdaKO
おつ
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/20(日) 00:48:39.62 ID:UIru4gs0o
おつおつおかえりなさい!
それぞれの戦況いいね
そして提督さんがまーだ被害妄想を…w
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/20(日) 01:24:54.39 ID:PTa4VrED0
乙 再開嬉しい
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/20(日) 01:27:23.23 ID:wagsGrtlo



この感じだと、不知火と霰がマーク交代したら逆転チャンスかな?
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/21(月) 19:16:37.05 ID:787E8sYe0
>>271
>>196の作戦もまだ未登場だしな勝機はかなりあるかと
273 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:10:13.80 ID:T3cUIjdxO
レスありがとうございます
少しではありますが投下します
274 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:13:26.76 ID:T3cUIjdxO

――
――――



大鳳(思った以上に、手強い……!)ギリッ


自身の艦載機がグラーフに迎撃されるのを感じ取りながら、大鳳は歯噛みしていた。


大鳳(これで5機目……明らかに撃墜される数が増している……!)


決してグラーフのことを侮っていたつもりはない。

確かに“あの”加賀に比べれば御しやすい相手だろうとは思っていた。それは認めよう。
しかし、決して油断や慢心はしていなかったはずだ。


大鳳(……いえ、心のどこかで私はグラーフさんのことを舐めていた)

大鳳(加賀さんならともかく、グラーフさんになら1対1でも十分に勝てるだろう、と)


その考え自体は決して間違っていたとは思わない。
旗艦のアイオワもそう判断したからこそ、グラーフの相手を大鳳1人に任せたのだ。
事実、つい先程まではこちら側が圧倒的に優勢であり、向こうは防戦一方だったはず。

それなのに、なぜ今になって戦況が拮抗し始めているのだろうか?


275 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:16:09.38 ID:T3cUIjdxO


大鳳(……なるほど、戦力を分散させたのはこの為でもあったというわけですか……!)


1ヵ所に固まっていては、砲撃や爆撃で一網打尽にされてしまう。
敵が3つの勢力に分散したのは、それを避けるためだと思っていた。
しかし、それだけでは無かったとしたら――


大鳳(さっきまでは加賀さんとグラーフさんが1ヵ所に固まっていたため、千代田さんの艦戦によるサポートを十分に受けることができた)

大鳳(けれど敵の空母2人が分散してしまったら、千代田さんは艦載機を異なる2つの方向に差し向けなければならない)

大鳳(そうなればどうしても、敵1人あたりに割ける艦載機の数は半減し、操作の精度も落ちてしまう……)


先程までは加賀とグラーフが同じ地点に密集していたため、1つの視界で2人を捉えつつ、全艦載機を1ヵ所に集中して送り込むだけで良かった。
しかし、2人が別方向に分散してしまった今。
加賀とグラーフの攻撃機を撃墜するためには、2つの視界でそれぞれ1人ずつを相手にせねばならない。

ゲームに例えると少しは分かりやすいだろうか。
1つの画面で2人の敵を相手に戦うのと、2つの画面を交互に見ながら1人ずつと戦うのと。
敵の人数は同じ2人であっても、どちらの方が戦いやすく、どちらの方が戦いにくいか、実際にやらずとも分かるはずだ。


276 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:20:07.48 ID:T3cUIjdxO


大鳳(それに恐らく、千代田さんの艦載機の数は半減どころじゃない)

大鳳(加賀さんの艦載機の数に対抗しようと思ったら、どうしても加賀さん側に割く艦載機の方が多くなってしまうはず)


加賀は圧倒的な搭載数を誇ることで有名な空母だ。
そんな彼女に対抗するためには、こちらもそれなりの数で迎え撃つ必要がある。
実際に大鳳の読み通り、千代田は全艦載機の内、約7割近くを加賀へ、残り3割をグラーフへ差し向ける形となっていた。


大鳳(つまり、演習序盤と比べたら千代田さんによるサポートが3割程度しか受けられないということ)

大鳳(そうなれば撃墜できる敵の数は減り、代わってこちらの被撃墜数が増えるのは自然なこと…………ぐぅッッ!?)ドゴォ!!


突如、大鳳の身に衝撃が走る。
気付けば上空にはグラーフの放ったと思われる爆撃機が旋回していた。
どうやら思考することに気を取られ、その隙に手痛い一撃を貰ってしまったらしい。

しかし、そこは流石に装甲空母。

持ち前の耐久と装甲の厚さにより、何とか中破一歩手前の損傷で持ちこたえていた。


大鳳(くっ、油断した!)ボロッ

大鳳(まさか、ここまで苦戦するとは……!)


確かに千代田のサポートが減ったのは痛い。
コンビネーションを前提とした戦術を取っているがゆえに、その戦力の低下ぶりは甚だしいものがある。

しかし、それでも。
当初、自身やアイオワがそう判断したように、例え1対1であっても決して後れを取るような相手ではないはず――





いや……もう、認めるしかない。





大鳳(グラーフ=ツェッペリン……貴女は、強い……!!)




――――
――

277 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:23:30.30 ID:T3cUIjdxO


――
――――


グラーフ=ツェッペリンが艦娘として2度目の生を受けたのは、今からほんの3年ほど前。
現在彼女が所属している鎮守府……ではなく、彼女の母国であるドイツの領海にて発見された。



かつて沈んだ軍艦たちが艦娘として転生する流れには、以下の2つが存在する。

1つは、各鎮守府の工廠で資材を消費して行われる『建造』
もう1つは、各海域で深海棲艦を撃破した際などに、どこからともなくその姿を現す『ドロップ』
グラーフはその内の後者であった。

『ドロップ』により発見された艦娘は、一旦その国の海軍や政府にて身柄を保護されることになっている。
グラーフもその例に漏れず、海上にて発見された後、そのまま海軍本部へと連れてこられた。
そうしてしばらくの間は軍や政府の管理下に置かれ、やがて配属先が言い渡されるのだ。



自身の今後が決定されるまでの間、グラーフの心の内にあったのは大きな期待と使命感であった。
かつての自分は未成艦として何の成果も残せなかったが、今の自分にはこの肉体がある。
手があり、足があり、声があり、何より――心がある。


今度こそ、この国のために。

そして護るべき人たちのために、人類の敵である深海棲艦と戦うのだ――












 『グラーフ=ツェッペリン。貴艦に日本への出向を命ずる』





だからこそ、




そう言い渡された時の落胆ぶりは、筆舌に尽くしがたいものであった。




278 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:27:29.05 ID:T3cUIjdxO


地球の歴史上、ドイツほど戦禍に見舞われ、また逆に戦火を巻き起こした国は存在しないだろう。
先の大戦では多くの国を蹂躙し、多くの命を奪い、多くの悲劇を生みだした。

そんなドイツだからこそ。
それが例え表面的なものであったとしても、平和の訪れた現代において。
戦争や軍を連想させるものは忌避される傾向が強まっていた。

軍隊は大幅に縮小され、外敵と戦う牙を失った。
人々は軍事力よりも、経済力を求めるようになった。

時代の流れと言えば、そうなのかもしれない。
争いを嫌い、平和を愛することは決して間違っていないだろう。



だが、



戦うために生まれてきたグラーフにとって、日本への出向命令は 『お前はもうこの国には必要ない』 という、存在そのものを否定されることと同義であった。







そうして彼女は失意のまま、海を渡り日本へとやって来た。

言葉も文化も分からない異国の地。
かつての同盟国ではあるが、実際に日本へ足を踏み入れたことなどないし、日本人にも会ったことなどない。

聞けば日本も先の大戦の反省からか、軍隊が武力を有することに対して批判的な声が強いらしい。
ここでも、母国と同じように蔑ろにされるのだろうか。
役割を与えられないまま、倉庫の中で埃を被っていく運命なのか。

そんな不安と絶望に苛まれていた彼女が、日本で初めて出会ったのが――




加賀『――ようこそ日本へ。グラーフ=ツェッペリンさん』




世界最強の空母との呼び声も名高い、一航戦、加賀であった。


279 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:33:54.29 ID:T3cUIjdxO


加賀『何でも、赤城さんの設計を参考にして建造されたとか』

加賀『慣れない異国の地で戸惑うこともあるでしょうが、何かあったら案内役である私を頼ってください』


最初の頃は、気難しい人だと思っていた。
自分が言えたことではないが、常に表情は硬く何を考えているのか分からない。
喋り方も坦々としているため、何か質問をするたびに不機嫌にさせてしまったのではないかと不安になったものだ。





加賀『ドイツではビールが盛んだと聞きましたが……』

加賀『日本のお酒も負けてはいません。よろしければ1杯どうぞ』


だが、何度か接する内にそれは誤解であったことに気が付いた。
彼女は感情表現が苦手なだけで、本当は心優しい、思いやりのある人なのだと。
案内役を任されたから仕方なく……ではなく、本心からこちらのことを気遣ってくれているのだと。





加賀『――確かに、貴女は艦載機の搭載数が少ないかもしれません』

加賀『けれど、それがどうしたというのですか』

加賀『仮にこちらが敵の半数以下の艦載機しか扱えないとしても、こちらの1機で敵を2機撃ち落とせば、2倍の戦力を持つ相手とも戦えます』

加賀『……貴女に強くなりたいという意志があるのなら、協力は惜しみません』


搭載数の貧小さに一種のコンプレックスを抱いていた自分を励まし、稽古を付けてくれたのも他ならない彼女だ。
時には厳しく、時には優しく、航空戦の何たるかを一から十まで授けてくれた。





加賀『驚きました。貴女、空母なのに夜戦ができるのね』

加賀『でしたら艦載機の扱いだけでなく、砲撃についても学んでおくべきです』

加賀『やれることは全てやる。そうすれば、きっと貴女にしかできない、貴女だからこそできるような戦い方が見つかるはずよ』


空母だからといって艦載機を上手く扱うことだけに囚われず、様々な分野にも目を向けるべきだと教えてくれた。
こんな自分にもできることが……いや、自分にしかできないことがあるはずだと、新たな可能性を示してくれた。





未成艦で、何の武勲や戦果も無く、実力的にも未熟な自分の隣に、

歴戦の、輝かしい実績を持った、最強とも呼ばれる空母がいてくれる。


そのことが何よりも嬉しく、何よりも誇らしかった。




そして同時に、グラーフの中に新たな願いが芽生える。

ただ単に強くなるだけではない。
ただ単に功績を立てるだけではない。


この人に認めてもらいたい。

この人と背中を預け合って戦いたい。

この人をいずれ超えてみたい、と――



280 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:37:39.50 ID:T3cUIjdxO


グラーフ「――敵機撃墜! これで8機目だ!」

響「Круто!(すごい!)」


グラーフと大鳳の一騎打ちは、今や完全に互角の戦いになりつつある。
むしろ防戦一方の状態からここまで巻き返したことを考えると、勢いはグラーフの方にあると言っていいだろう。


グラーフ「このまま敵に接近するぞ! 後に続け!」

響「了解!」


劣勢になった相手が逃げ出さないよう、航空戦を繰り広げながらも徐々に距離を詰めていく。
もしここで大鳳を逃してしまったら、今度は別の味方が狙われるかもしれない。
或いは1対1で戦うことを不利だと感じ、再び千代田と合流されてしまったら先程のようにまた苦戦を強いられることになる。

自分たちがこの演習で勝利するためには、何としてもここで大鳳を倒しておかなければならない。



グラーフ(……とはいえ、序盤に艦載機の大半を堕とされてしまった)

グラーフ(このまま戦い続けた場合、先に艦載機が尽きるのはこちら側、か……)

グラーフ(ならばそうなる前に敵を追い詰め、撃破する!)


響「――見えた! 敵空母を発見!」


迫りくる艦載機の遥か向こう。
薄っすらとではあるが、水平線上に立つ人影を肉眼で捉えた。

ここまで接近してしまえば、自分たちが2人揃って返り討ちにでも遭わない限り、大鳳を逃がすことはない。







グラーフ「さて、そろそろケリを着けさせてもらおうか――!」


大鳳「……来なさい。全力でお相手しましょう――!」



――――
――


281 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:39:52.02 ID:T3cUIjdxO
今回はここまで
書き溜めて一気に投下するよりも、こまめに投下していきたいと思います
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/23(水) 23:42:01.92 ID:JDuprvM40
乙 そういえば加賀さん改二きたね
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/23(水) 23:51:37.85 ID:oBMjM4bbo



改弐護って何だよ自衛隊とチンチンカモカモか?
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/26(土) 23:27:18.29 ID:U5Gjjsqfo
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/22(日) 17:34:02.85 ID:YQmwPygy0
2か月か...
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/12/27(日) 17:18:51.12 ID:G3JbR0YW0
もう続きを期待できそうにないかな…
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