【艦これ】提督「クール鎮守府」

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237 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 21:04:18.27 ID:bm6s7vQZO



不知火「――――くっ! ダメです! ソナーに反応ありません!」

那智「水偵でも探しているが見つけられんぞ! 本当に潜水艦が近くにいるのか?」

不知火「ですが、先程の通信で響はそう言っていました。酸素魚雷による攻撃が確認された以上、間違いなくどこかに潜んでいるはずです!」

那智「だが、お前のソナーにも反応が無いとなると一体どこに……!」



――――――
――――
――




遠く離れた位置から、困惑する不知火たちを眺める影が一つ。


伊19「いひひっ♪ 敵さんたち、だいぶ混乱してるみたいなの!」


悪戯っぽく笑うその姿は、一見すると可愛らしい少女の姿にしか見えない。
だが、今この場においては獰猛さを孕んだ悪魔の笑みをも連想させた。


伊19(イクがいる以上、対策としてソナーや爆雷を持ち出してくるのは当然なのね)

伊19(でもそれが分かりきっていれば、対策の対策を講じることも簡単なの!)


なぜ不知火の装備しているソナーに、伊19の姿が映らなかったのか?

答えは単純明白。

ソナーの感知範囲外にいたからだ。


伊19「普通はこんな遠くからだと魚雷なんて当たらないけど……」

伊19「イクを普通の潜水艦と一緒にしてもらっちゃ困るのね!」


海のスナイパー。
伊19本人も自称するその異名は、決して名ばかりの物ではなかった。

いくら酸素魚雷の射程距離が通常の魚雷より長いとはいえ、ソナーにも感知されない距離からでは狙いをつけることすらままならない。
しかし、伊19は持ち前のセンスと日々の訓練により、その技術をモノにしていた。


伊19「流石に動き回る標的に当てるのは難しいけど、対空砲火で動きを止めてる瞬間なら狙い放題なの!」

伊19「ふふー。スナイパー魂が滾るのね〜」ニヒッ


次なる獲物を求め、伊19は嗜虐的な笑みを浮かべるのであった――



238 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 21:14:43.70 ID:bm6s7vQZO


――――――
――――
――



アイオワ「さぁーて、そろそろMeの出番かしら」


空からは大鳳による爆撃。
水面下では伊19による奇襲。

異なる方向からの絶え間ない攻撃により、加賀たちの統率は乱れ始めていた。
また、大鳳と千代田の見事な連携により制空権も確保しつつある。

叩くなら、今しかない。


アイオワ(悪いけど、このまま一気に勝たせてもらうわ!)


自らの主砲をゆっくりと構え、片眼を閉じて意識を集中させる。


アイオワ(距離……良し。角度……右に5度修正。風向きは……問題なさそうね)


アイオワは先程、千代田と大鳳の艦載機に紛れ込ませるようにして水上観測機を発艦させていた。
自身の長距離射撃の精度を上げるため……即ち、弾着観測射撃を行うために。



アイオワ(……MeからのSupriseよ)


そして、引き金に手をかけ――




アイオワ「Open fire!!」




轟音と共に、鋼鉄の弾丸が発射された。



239 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 21:22:28.70 ID:bm6s7vQZO


――
――――
――――――



加賀(このままではジリ貧ね……)


加賀たちは相変わらず、大鳳の操る攻撃機の対処に追われていた。
まだ壊滅的な被害こそ受けていないものの、このまま迎撃に徹していても埒が明かない。


加賀(何とか一旦攻撃を凌いで、体勢を立て直さないと………っ!?」ゾクッ


その瞬間、加賀の背筋をぞわりとした感触が襲った。
研ぎ澄まされた五感と歴戦の猛者だけが持つ直感が、頭の中で警鐘を鳴らす。


加賀(何かが来る……!)


慌てて周囲を見渡すと同時に、耳をすませる。
爆音の合間に微かに聞こえてくる、この風切り音は――


加賀「――っ!! 総員回避! 砲撃が来ます!」


直後。

僅か10メートルほど離れた位置。
加賀やグラーフたちが密集する地点のちょうど中心辺りに――




 ドッパァァァン!!!




視界全てを覆い尽くすほどの、とてつもない高さの水飛沫が上がった。


240 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 21:32:57.65 ID:bm6s7vQZO


加賀「ぐっ……!」


至近距離で炸裂した砲撃の余波により、加賀の体は大きく仰け反ってしまう。
体重の軽い響と霰は、その衝撃で数メートルほど身体が宙に舞った。


響「くっ……!」

霰「きゃっ!」

グラーフ「2人とも、大丈夫か!?」


直撃はしなかったため損傷こそ無いようだが、加賀たちの間に動揺と緊張が走る。
もし、あんな攻撃が直撃したら……
駆逐艦は勿論、比較的装甲の厚いグラーフでさえも一撃で大破することは間違いない。


加賀「っ! 急いで散開してください! 恐らく第2波が来ます!」


この威力の砲撃は間違いなく戦艦……アイオワによるものだ。
となるとこれは恐らく、長距離からの弾着観測射撃。


加賀(弾着観測射撃は、1発目の着弾地点から狙いを修正し、2発目、3発目の精度を上げていくもの)

加賀(つまり、すぐに次の攻撃が来るはず……!)


加賀の予想通り、ソレは間髪入れずにやってきた。




 ドッパァァァン!!!




グラーフ「くっ!? また至近弾か!」

響「いや、さっきより着弾地点が近い!」

霰「……っ!」ゾクッ


初撃が10メートルほど離れた位置に着弾したのに対し、2発目は6〜7メートルほどの距離に炸裂した。
2発目が来ることが分かっていた分、初撃を受けた時ほどの動揺は無かったが、それでも着弾の衝撃により体はよろけ、額からは嫌な汗が流れ落ちる。


241 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 21:42:47.58 ID:bm6s7vQZO


グラーフ「このまま同じ場所に止まっていては、いずれあの砲撃の餌食になるぞ!」

加賀「……三手に分かれましょう」


加賀は攻撃が当たらぬよう動き回りながらも、状況を分析し最善と思われる指示を飛ばす。


加賀「一か所に止まり続けるのも、皆で密集しているのもマズいわ」

加賀「それに、このままここで迎撃を続けていても防戦一方になるだけ……私たちも打って出ます!」



加賀「那智さんと不知火は潜水艦に注意しつつそのまま前進。敵空母に接近し砲雷撃戦でこれを撃破」

加賀「私とグラーフさんは別行動を取ります。敵は率先して私たち空母を狙ってくるはずだから、同じ位置にいては一網打尽よ」

グラーフ「分かった。では響と霰はどうする?」

加賀「響はグラーフさんに、霰は私に護衛艦として随伴してもらいます」

響「了解」

霰「…………」コクリ



加賀「では………散開!」


242 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 21:58:32.61 ID:bm6s7vQZO

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アイオワ「――ふぅん、どうやら3つに分かれたみたいね」


観測機から伝わってきた情報によると、加賀たちは3チームに分かれて別行動を開始したらしい。

那智と不知火は大鳳たちのいる方角へ向かって前進。
加賀と霰、グラーフと響の2チームは、互いが真逆の方角へと距離を離していく。


アイオワ(……狙うなら、やっぱり旗艦のカガよね)


敵艦隊の中で一番の手練れは、間違いなく加賀だ。
旗艦であり、戦力としても最も脅威になり得る彼女さえ倒してしまえば、ほぼ勝ちは決まったようなもの。


アイオワ(それに、Meが砲撃を続けている限りは、カガも攻撃に専念できないはず)

アイオワ(例えこちらの砲撃がHitしなかったとしても、カガに攻撃する機会を与えないというだけで、敵の戦力を大幅にDownさせることができる)

アイオワ(となると、皆に出すべき指示は……)


アイオワは少し考えたのち、無線に手を当てて皆に指示を飛ばす。


アイオワ「皆聞こえる? 敵は3つのチームに分かれて行動を開始したわ」

アイオワ「私はこのままカガを狙い続けるから、皆は他のMemberの相手をお願い」


243 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 22:06:17.92 ID:bm6s7vQZO



アイオワ「千代田はそのまま敵艦載機の迎撃を続けて。Meと大鳳が攻撃に専念できるよう、しっかり守ってちょうだい!」

千代田『了解。私に任せて!』



アイオワ「大鳳はグラーフの相手をお願い。さっきの戦いを見てたけど、加賀に比べて発艦させている艦載機の数が少なく感じたわ」

アイオワ「恐らく元々の搭載数が少ないはず……1対1で正面から戦えば十分に勝てる相手よ」

大鳳『分かりました。 ……しかし、そんなところまで見ていただなんて流石です』

アイオワ「こう見えてもアナタたちのFlag shipよ? 戦場全てを見渡して、的確な判断と指示ができなければ務まらないわ!」フフン

大鳳『……普段とのギャップがありすぎるんですよ』ボソッ

アイオワ「? 何か言った?」

大鳳『いえ何も。通信終わります』ブツッ



アイオワ「ポーラと舞風はナチとシラヌイを迎え撃って。大鳳と千代田には絶対近付かせないこと!」

舞風『りょーかいです! よーし、不知火姉さんに一泡吹かせちゃおっと!』

ポーラ『ワイン……焼酎……ウイスキー……』ブツブツ

舞風『ほらほら! 行きますよポーラさん!』グイッ

ポーラ『はっ!? お酒は? 飲み放題は〜?』キョロキョロ

舞風『だーかーらー、それは演習に勝ったらの話ですよぉ!』



アイオワ「最後にイクだけど……状況に応じて狙える相手を狙ってちょうだい」

伊19『なんだかイクへの指示だけ雑なのね!?』ガーン

アイオワ「Youの酸素魚雷なら、どの位置からでも敵全員をSnipeできるでしょ?」

アイオワ「流石の私も弾道の計算をしながら一人一人に的確な指示は飛ばせないし、あとはYouの経験と判断に任せるわ!」ビシッ

伊19『……つまり、イクのことを信頼してくれてるのね!!』キラーン

伊19『了解なの! 何なら全員イクがやっつけてあげるのね〜!』


アイオワ(……イクは指示を出したところで、その通りに動くキャラじゃないし)

アイオワ(だったら最初から好きに動いてもらった方が、パフォーマンスも発揮できそうだしね☆)




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244 : ◆wI6nKiwnSc :2020/06/12(金) 22:08:51.47 ID:bm6s7vQZO
今回はここまで
長らく更新できず、すみませんでした・・・
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/12(金) 22:10:53.82 ID:Fy3ZGzbpo
舞ってた
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/12(金) 22:14:48.29 ID:EKvBWmUx0
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/07/29(水) 23:58:00.63 ID:dTw2grq7O
保守
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/13(木) 18:05:09.34 ID:yfRVCNn+0
二か月か...
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/16(日) 23:12:33.48 ID:J3H4DkODO
おーい生存してるか?
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/09/12(土) 11:24:31.02 ID:u0hnpB630
三ヶ月…
251 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/19(土) 23:55:05.08 ID:gAY060MVO

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那智「? あれは……」


加勢に戻りたくなる衝動をぐっと堪えながら敵の潜水艦を探していた那智と不知火は、こちらに向かってくる2人の人影に気が付いた。



舞風「どうもー、舞風でーす!」

ポーラ「敵艦はっけ〜ん。砲撃戦〜準備ですぅ〜」


那智「お前たちは……なるほど、私たちを足止めしに来たわけか」


アイオワの指示で、那智と不知火の迎撃を任された2人。
ソナーで潜水艦の探索を続けていた不知火も、一旦索敵を止めて敵である舞風たちと相対する。




不知火「……演習とはいえ、こうして貴女と戦うことになるとはね」

舞風「前の鎮守府にいた頃は、一緒に出撃したことはあっても直接戦ったことはなかったもんねぇ」アハハ

不知火「演習に参加したのは自分の意思? それとも、貴女の提督の指示かしら?」

舞風「うーん、陽炎姉さんが推薦してくれたのが切欠だけど……今は自分の意思で、不知火姉さんと戦いたいって思ってるかな」

不知火「貴女は昔っから能天気に見えて意外と好戦的だったわね」フッ


不知火「――いいわ、かかってらっしゃい」ギロリ

舞風「ぉ〜こわっ! でも私だってあれから強くなったんだから!」チャキ



252 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/19(土) 23:57:37.81 ID:gAY060MVO



那智「貴様は確か、ポーラとかいったな」

ポーラ「はい〜、ザラ級重巡洋艦の三番艦、ポーラです〜」エヘヘ

那智「……妙高型二番艦、那智だ」


那智(何というか、緊張感のないやつだな……)


ヘラヘラした態度のポーラを前にして「こいつは戦いを舐めているのか?」と、那智は若干の苛立ちを覚えていた。
演習前に多量の酒を飲むだけでも言語道断なのに、いざ演習が始まってもこの態度。
戦いそのものを舐めているとしか思えない。
或いは戦いではなく自分たちが舐められているのか……
いずれにせよ、武人気質の那智にとっては度し難い相手であった。


那智「貴様、よくそれで艦娘が務まるな。演習とはいえ真剣勝負の真っただ中だぞ!」

ポーラ「え〜? でもでもぉ、こう見えてポーラ、結構強いですよ〜?」ニヘラ

那智「ッッ! よかろう……! では相手になってやる!」チャキ

ポーラ「那智さんに恨みはないけれど〜、お酒の為にもポーラ頑張りま〜す」チャキ



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253 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:01:06.27 ID:VVMT4HvHO


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響「……どうやら不知火たちが会敵したみたいだ」


無線から伝わってきた情報によると、潜水艦の探索を続けていた不知火たちの前に、ポーラと舞風が立ちはだかったらしい。
2人を足止めすることで大鳳と千代田を守り、それと同時に潜水艦の発見を遅らせることで伊19が自由に動き回れるようにするのが敵の狙いだろう。


響「不知火たちが足止めを食らっているとなると、敵空母と潜水艦の脅威はまだ当分拭い去れそうにないね」

グラーフ「あぁ。しかし逆に言えば、敵2人を引き付けてくれているということだ」

グラーフ「戦艦と空母の遠距離攻撃に加えて、重巡と駆逐艦に接近戦まで挑まれる、というリスクはこれで無くなった」

響「そうだね。でも、苦しい状況には変わりないんじゃないかな」

グラーフ「それもそうだ……っと!」


大鳳が放つ爆撃機の攻撃を辛うじて避けながら、グラーフもまた反撃のために攻撃機を発艦させる。

響の言うように、危機的状況にあることには変わりない。
先ほどの航空戦でも、敵空母の見事な連携により後れを取ってしまった。

しかし、それでも――


響「……何だか楽しそうだね」

グラーフ「ふっ、そう見えるか?」


グラーフの顔には、まるで苦しい表情は見られず、

それどころか、この状況を楽しんでいるかのように不敵な笑みさえ浮かべていた。



254 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:03:12.37 ID:VVMT4HvHO



グラーフ(――これこそ、私が望んでいた戦いだ)


危機感が足りない、などと叱責されてしまうかもしれない。
しかしそれでも、湧き上がる歓喜の念を抑え込むことはできそうになかった。

自分が艦娘ではなく、意思を持たない軍艦だった頃。
かつての大戦で、未成艦のまま戦わずして朽ちていった空母――それが自分、グラーフ=ツェッペリンだ。

そんな自分が、空母として戦えることが。
同じ空母である敵と、航空戦を繰り広げられることが。
グラーフにとって、堪らなく嬉しかったのだ。


グラーフ(こんな日が来るのを待っていた)

グラーフ(この日を夢見て、ひたすら腕を磨いてきた)

グラーフ(敵は技術大国日本の誇る最新鋭の装甲空母『大鳳』)

グラーフ(――相手にとって不足なし!!)


大空を舞う敵の攻撃機を見上げながら、カタパルトを天に向けて突き出すと、


グラーフ「攻撃隊、出撃! Vorwarts!」


楽しくて仕方がないといった声色で、高らかに反撃の開始を宣言した。



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255 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:05:31.99 ID:VVMT4HvHO


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――――



舞風「ほらほら! そんな攻撃当たんないよーっと!」

不知火(くっ、ちょこまかと……!)


一方、舞風と1対1の戦いを繰り広げていた不知火は、予想以上に苦戦を強いられていた。

元々舞風の姉であり、艦娘としても先輩にあたる不知火の方が練度は上だ。
かつて同じ鎮守府に所属していた頃も、戦績では常に不知火が2歩も3歩もリードしていた。

しかし実際こうして戦ってみると、なぜか妹の舞風の方が優位に立っているように見える。

その理由は2つ。


不知火(やはり、この装備では分が悪い……!)


1つ目の理由は、不知火の装備にあった。

ソナー、爆雷、爆雷投射機。

対潜性能に特化させた結果、不知火のスロットには主砲も魚雷も搭載されていなかったのだ。


不知火(せめて、主砲を1本だけでも積んでくるべきだったか……!)


もしも相手が潜水艦であったならば、特化された対潜性能によって簡単に勝利できただろう。
しかし、相手は自分と同じ駆逐艦。
水上の敵を相手に、爆雷やソナーでは何の役にも立たない。
必然的に不知火の攻撃手段は、元から搭載されている小口径の機銃1本のみに限られてしまっていた。




そして、2つ目の理由は――



不知火(……しばらく会わないうちに、随分と成長したみたいね)


確かに以前は、不知火と舞風の間には明らかな実力差があった。

しかし、それは過去の話。

『男子三日会わざれば刮目して見よ』という諺があるが、女子も決してその例外ではない。
ましてや三日どころか、もう数年は会っていなかったのだ。
自分の知らないところで訓練や実戦を積み、メキメキと実力を付けていたところで何らおかしくはない。


以前は存在したはずの実力差が、格段に縮まっている――
それこそが、舞風が不知火を相手に善戦できている2つ目の理由であった。



256 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:08:29.61 ID:VVMT4HvHO



舞風(いける! 不知火姉さんに勝てる――!)


不知火の機銃による攻撃を難なく躱しながら、舞風は自身の優勢を感じていた。
まだ有効打こそ与えられていないものの、向こうの攻撃もまた、こちらに掠りもしていない。
加えてこちらには心身ともに余裕があるが、不知火の顔には明らかに焦りの色が浮かんでいる。


舞風(別れてから数年。姉さんも姉さんで、きっと更に成長してるんだろうけど……)

舞風(私はそれ以上に成長してるんだから!)


異動により不知火と離れ離れになってからも、毎日の訓練を怠ったことはなかった。
それどころか長姉である陽炎に頼んで、通常の訓練の後にも特別に稽古を付けてもらっていた。
それはひとえに、姉たちへの憧れの念があったからだ。



舞風(――陽炎姉さんは長女として、いつも私たちを引っ張ってきてくれた)


19人姉妹の長女である陽炎。
持ち前の明るさとリーダーシップで、姉妹のみならず艦隊や鎮守府全体を盛り上げてきたムード―メーカー。
その朗らかさからは想像しづらいが仕事に対する責任感は人一倍強く、彼女が成し遂げた任務や勝ち取ってきた武勲は数えきれない。
舞風が最も頼りにし、尊敬している姉。



舞風(不知火姉さんは常に先陣に立ち、何度も私たちを救ってくれた)


次女である不知火は、こと戦闘に関しては陽炎以上にストイックだ。
艦隊の斬り込み隊長として、あらゆる戦場でいつも一番槍を務めてきた彼女。
それは単に戦いが好きだからというだけではなく、自分が率先して敵を倒すことで、背後にいる仲間を護れるから。
一見すると取っ付きにくい性格をしているが、本当は仲間や妹たちのことを大切に想ってくれていることを、舞風は知っていた。



舞風(そんな姉さんたちに追いつきたくて、ここまでずっと頑張ってきたんだ……!)


舞風(絶対に……負けません!)



257 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:10:53.72 ID:VVMT4HvHO



―― モニタールーム ――



提督(………やっべぇ)

提督(俺が対潜装備を積んでいけって言ったせいで、妹相手に苦戦しちゃってるじゃん)

提督(もし、不知火が舞風に負けたら……)



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

不知火「……提督の指示のせいで、妹相手に1対1で負けるという屈辱を味わわされたわけですが」

不知火「覚悟はできていますか?」ギロッ

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



提督()








陽炎「不知火はあんまり本調子じゃないみたいね。ま、装備のことを考えたら仕方ないけど」

陽炎「それに比べて、舞風はいい動きしてるじゃない」

Pa提督「実の姉が相手ということで、いつも以上に張り切っているんだろう」

Pa提督「……にしても、いつ見ても舞風の動きは独特だな。まるで踊っているようかのような……」

陽炎「あぁ、あれは私が教えたのよ」

Pa提督「何? どういうことだ?」

陽炎「ほら、舞風ってダンスが好きでしょ? だからその動きを戦闘にも取り入れてみたらどう? ってアドバイスをね」

Pa提督「成程な。危なっかしい動きだと思っていたが、あれはそういう戦闘スタイルだったわけか」

陽炎「『蝶のように舞い、蜂のように刺す』だっけ? それがあの子のモットーらしいわ」アハハ



――――
――


258 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:16:23.39 ID:VVMT4HvHO

――
――――



不知火「……驚いた。まさかここまで成長しているなんてね」


肩で息をしながら、妹のことを素直に称賛する不知火。
よく見れば服の所々が破れ、一部は焼け焦げているようにも見える。
必死に攻撃を回避していた不知火だったが、気付かぬうちに小破するまでダメージが蓄積していたらしい。



舞風「褒められるのは嬉しいけど、できれば勝敗が着いてからにしてほしいなーって」


そう返しつつも、姉に認められたことに対し喜びを隠しきれない舞風。
ずっと尊敬し、その後ろ姿を追ってきた姉に認められたのだ。
喜ぶなという方が無理な相談であった。


舞風「本当はそんな対潜装備じゃなくて、主砲と魚雷を積んだ本気の姉さんと戦いたかったけど……」

舞風「これも演習だし、仕方ないよね」

舞風「それとも、まだ何か策はありますか? その装備で私を倒せる策が」


自身が優位に立っているという自覚と、姉に褒められた高揚感からか、ついつい調子に乗った発言をしてしまう。
後で怒られるかなとも思ったが、少なくとも今は自分の方が立場は上だ。臆する必要などどこにもない。



不知火「……そうね、策ならあるわ」

舞風「へぇ。どんな策ですか?」


この期に及んでどんな策があるというのか。

まさか、水面に立つ自分目掛けて爆雷を投げ付けて戦うとでも言うのだろうか?

それとも単なる負け惜しみか。

いや、この姉の言うことだ。決してハッタリなどではないはず……


様々な考えが頭の中を廻り、舞風が若干警戒を強めたところで、




不知火「――逃げるわ」ダッ



そう一言呟くと、不知火は踵を返して全速力で駆け出した。


259 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:18:20.17 ID:VVMT4HvHO




舞風「――は?」ポカン


突然の出来事に、舞風は思わず呆気に取られてしまう。



逃げた?  あの姉さんが?


 妹である自分に勝てないと判断し、


    けれども潔く負けを認めることなく、


       尻尾を巻いて戦いから逃げ出した?



あの、ずっと憧れていた、不知火姉さんが?




舞風「…………ふ」
















舞風「ふざけんなあああああああぁぁっっ!!!」



静寂から一転。感情が雄叫びとなって爆発する。
尊敬する姉の醜態を目の当たりにして、舞風の心中は怒りと落胆ではち切れそうになっていた。



舞風「絶っっっ対に! この手で! 倒してやる!!」 ダッ


すぐさま追跡を開始する舞風。

この姉妹の戦いに決着が着くまでには、まだ少し時間がかかりそうであった。


――――
――


260 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:23:48.54 ID:VVMT4HvHO


――
――――



戦いを舐め切った、艦娘の風上にも置けないヤツ。

それが、那智のポーラに対する最初の印象だ。
しかし実際に矛を交えてみて、その印象は変わりつつあった。


那智(こいつ……強い!)


2人の戦いが始まって早数十分。
幾度となく距離を詰めて近距離から砲撃を浴びせようとしたが、ギリギリのところでポーラに上手く躱されてしまう。
特別ポーラの動きが俊敏というわけではないのだが……
何というか、まるでユラユラとはためく布を攻撃しているかのように、こちらの砲撃が紙一重で当たらない。


那智(さながら酔拳だな……)


酒がまだ抜け切っていないせいなのか、ふらふらとしたその足取りは正に酔拳そのもの。
それがポーラの戦闘スタイルなのか、それとも本当にただ酔っているだけなのか。
那智には判別が付かなかったが、それでもこちらの攻撃を上手く回避していることは事実だ。


那智(それに加えて――)

ポーラ「いいですか〜? 撃ちますよ〜? Fuoco!」ドゴォォン!!

那智「……ッッ!」



バシャァァァン、と。

ポーラの主砲から放たれた砲弾は、那智の体からほんの数十センチのところを掠め、後方の海面に着弾する。
炸裂した砲弾は高い水柱を上げ、近くにいた那智はその飛沫をマトモに浴びた。


261 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:26:01.90 ID:VVMT4HvHO



那智(ヤツの主砲……あれは確か、イタリア製の長射程を誇る連装砲だったか)

那智(射程が長い分、命中精度は低いと聞いたことがあるが……)


実際に、ポーラの扱う203mm/53連装砲は命中精度に難がある。
重巡の主砲として最もメジャーである20.3cm連装砲に比べると、その精度の差は歴然だ。
いくら長距離射撃が可能といっても、当たらなければ何の意味も無い……はずなのだが、


那智(あの主砲を使ってこの命中精度とは……恐れ入った)

那智(イタリア艦であるヤツにとっては使い慣れた装備なのかもしれんが……)


見た目や言動とは裏腹に、もしや影で相当な訓練を積んでいるのだろうか。
いや、それにしては動きに無駄が多いというか、洗練されていないというか……



那智「貴様、中々やるではないか! その動きは訓練の賜物か!?」ドォン!

ポーラ「ん〜? ポーラ、訓練は苦手ですぅ〜」ヒョイッ

那智「っ! ならその動きはどこで学んだ!?」ドゴォン!

ポーラ「う〜ん、えっとぉ〜……カン、ですかねぇ?」ヒョイッ

那智「なっ……!」


那智が砲撃し、ポーラがそれを軽々と躱す。
そんな応酬の中でポーラに問いかけた那智だったが、返ってきたいい加減な答えに激昂――しかけたところで、一つの答えに辿り着いた。



――ポーラは、いわゆる“天才型”なのだと。



262 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:29:55.79 ID:VVMT4HvHO



いかなる分野においても、優れた人物には2種類のタイプが存在する。


秀才型と天才型。


前者は修練や研鑽によって実力を身に着けた努力家であり、後天的に力を得た者。
後者は生まれながらにして実力を持ったサラブレッドであり、先天的に力を得た者。


恐らく、ポーラは後者なのだ。


碌に狙っているようには見えない構えと、基本からかけ離れた個性的な撃ち方。
にも関わらず、ポーラの放つ砲撃はどれも至近弾になる。

こちらの射撃精度も決して悪くは無いはずだが、ポーラはそれを難なく躱す。
それはまるで、こちらの弾道を直感で読み取り、最小限の動きだけで回避できることが分かっているかのようだ。

努力や苦労を重ねずとも、持ち前のセンスだけで大抵の物事を卒なくこなしてしまう。
そういったポーラたちのような者のことを、世間では“天才”と呼ぶのだ。



那智(天才、か。まったく……性格はまるで違うが、姉さんを思い出す)


天才と聞くと、真っ先に姉のことが頭に思い浮かぶ。

妙高型一番艦、妙高。

姉としても、武人としても、誇り高い自慢の姉。
その実力は国内のみならず国外にも名を轟かせるほどで、現在就役している重巡洋艦の中でも1〜2を争う実力だと噂されている。

昼戦では1人で敵艦隊の半数以上を沈め、夜戦になれば正確無比な雷撃で姫クラスの敵さえ単独で撃破する。
おまけに知略にも優れ、人柄も良く、人望も厚い。
本当に非の打ちどころのない、まさに天才と呼ぶべき姉であった。


だが――



那智(いつからだったか……そんな姉さんと比べられることに、苦痛を覚え始めたのは)


263 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:32:53.98 ID:VVMT4HvHO


舞風が陽炎と不知火を尊敬しているのと同じように、那智もまた妙高のことを尊敬していた。
同じ妙高型として、いつかは姉と肩を並べられるようにと、どんなに厳しい訓練にも耐えてきた。
訓練だけでは実力は身に着かないと、率先して出撃を繰り返し実戦経験も積んできた。

そうやって姉以上の努力を重ねてきたが―――姉は涼しい顔をして、その1つ2つ先を行く。


そうしていつしか気付いてしまったのだ。
自分は一生、姉に追いつくことはできないのだと。


その事実に気付いてしまった途端、あれだけ誇りに思えていた“妙高型”の肩書が、重く圧し掛かってくるように感じた。


――妙高型の一番艦は優秀だが、その二番艦は姉には及ばない。

――妙高“型”って言う割には、一番艦である妙高以外の活躍は聞いたことが無いな。


誰かにそう言われたわけでもない。自分の勝手な被害妄想だとは分かっている。
しかしそれでも、ことあるごとに卑屈な考えが彼女のことを苦しめた。

普段の那智を知る者からすれば、まさか彼女がそんなことで悩んでいるはずがないだろうと、
豪胆な性格の彼女なら、そんなコンプレックスなど笑って吹き飛ばしてしまうだろうと、
そう思ったかもしれない。

しかし、間違いなく彼女は人知れずに苦しんでいたのだ。


そうして遂に、まるで姉から逃げるようにして他の鎮守府への異動願いを出した。
私もそろそろ姉離れせねばな、などと笑って誤魔化し、心配そうにする姉妹たちを振り切ってこの鎮守府にやってきたのだった――




那智「――ぐぁっ!?」ドゴォォォン!!

ポーラ「おー、当たりました〜!」パチパチ

那智(くっ……馬鹿か私は! 戦いの途中で物思いに耽るなど……っ!)


考え事をしていたせいで動きに乱れが生じたのか、ついにポーラの放った一撃が那智を捉える。
強烈な一撃を浴びた那智の艤装からは、薄っすらと黒煙が上がっていた。
まだ戦うことはできるが、中破しているのは明らかだ。


那智(ヤツの態度や考え方は許容できんが、この戦いにはしっかりと集中している)

那智(その反面、私はなんだ! 真剣勝負の真っただ中などと言っておきながら、この体たらく……!)ギリッ


勝負の最中に雑念を抱いてしまった己に対する自己嫌悪。
そしてその自己嫌悪が、再び心の中に雑念を生み出す。


姉と同じ“天才”を目の当たりにし、それに加えて恥ずべき失態を犯してしまったことで、那智の心は負のループに飲み込まれようとしていた――



――――
――

264 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:35:59.88 ID:VVMT4HvHO


――
――――



霰「加賀さん……! また砲撃が来る……!」

加賀「っ!」




 ドッパァァァン!!!


これで何発目だろうか。

アイオワの放ったであろう砲弾が加賀たちの間近に着弾し、轟音を響かせた。
衝撃の余波を全身に受けながらも、何とか体勢を崩さぬようバランスを取り、追撃から逃れるべく敵との距離を取る。



霰(このままじゃ……負ける)


遥か遠くからの砲撃に晒され続け、加賀と霰は先ほどから逃げ回ってばかりいた。
こちらからも攻撃しようと加賀が隙を見て艦載機を発艦させるも、千代田の艦戦による妨害で思うようにいかない。
おまけに――


加賀「! 魚雷よ! 右方向に回避!」

霰「っっ!」


シュゴォォォ、と、

水切り音を立てながら、霰が先程までいた位置を魚雷が通過していく。

空から降り注ぐ砲撃に加えて、水中からも幾度となく魚雷が襲い掛かってきていた。
恐らく敵の潜水艦は、旗艦である加賀と、その護衛艦である霰にターゲットを定めたのだろう。
未だにその姿と位置は確認できず、2人は見えない敵からの波状攻撃に対処するので精一杯であった。


265 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:37:39.12 ID:VVMT4HvHO


霰(早く……早く何とかしない、と……!)

霰(私たちだけじゃなく、グラーフさんや、那智さんも……)


危機に直面しているのは自分たちだけではない。

確かに今、自分たちは敵の戦艦と潜水艦に狙われている。
言い方を変えれば、敵の2隻を引き付けているということだ。
その間、他の仲間たちへの攻撃は手薄になるはずだが……


霰(……さっきから、こっちに艦攻も艦爆も、飛んでこない)


先刻はあれほど苛烈に雷撃と爆撃を繰り返していた敵の艦載機が、グラーフたちと分かれて以降、1機もこちらへは飛来していなかった。
それはつまり、自分たち以外の誰か――恐らくグラーフと響が、今この瞬間も攻撃されているということだ。


霰(加賀さんと、グラーフさんの2人がかりでも、凌ぐのがやっとだった、のに……)

霰(それに、まだ敵は他に2人いる、はず)

霰(早く、加勢に行かないと……!)


霰の胸中に自然と焦りが生まれる。

早く何とかしないと。

早くどうにかしないと――




加賀「――大丈夫、心配いらないわ」


そんな霰の心中を察したかのように。
聴く者を安堵させるような声音で、加賀が語り掛けた。


266 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:39:34.07 ID:VVMT4HvHO


霰「加賀、さん……でも、このままだと皆が……それに、私たちも……!」

加賀「……私たちの役目は、敵戦艦の攻撃を引き付けること」

加賀「確かに艦載機による攻撃や、潜水艦の魚雷も厄介だけれど、一番の脅威はやはりアイオワさんの砲撃よ」

加賀「アレを食らったら、小破や中破では済まない。おまけに命中精度も悪くないときているわ」

加賀「今はこうして少しでも逃げ回り、アイオワさんの注意をこちらから逸らさないようにするのが私たちの役目よ」

霰「けど、他の皆は……!」

加賀「だから言ったでしょう――心配いらないと」


仲間たちが戦っているであろう方角を見据えながら、加賀は静かに、それでいてハッキリと口にした。



加賀(貴女たちが、誰よりも努力を積み重ねてきたことを私は知っている)


序盤は敵にリードされてしまったが、グラーフも那智も、この程度でやられるようなタマではないと。
自分たちが加勢に向かえずとも、彼女たちなら何とか切り抜けてみせるだろうと。

そう信じ切っていると、加賀の眼差しは物語っていた――



267 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/20(日) 00:42:23.92 ID:VVMT4HvHO
梅雨イベに掛かりっきりでしばらく筆を置いていたら、続きが書けなくなっていました
待って頂いていた方はすみません・・・

また少しずつ、更新していければと思っています
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/20(日) 00:48:06.52 ID:mxlnsdaKO
おつ
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/20(日) 00:48:39.62 ID:UIru4gs0o
おつおつおかえりなさい!
それぞれの戦況いいね
そして提督さんがまーだ被害妄想を…w
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/20(日) 01:24:54.39 ID:PTa4VrED0
乙 再開嬉しい
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/20(日) 01:27:23.23 ID:wagsGrtlo



この感じだと、不知火と霰がマーク交代したら逆転チャンスかな?
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/21(月) 19:16:37.05 ID:787E8sYe0
>>271
>>196の作戦もまだ未登場だしな勝機はかなりあるかと
273 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:10:13.80 ID:T3cUIjdxO
レスありがとうございます
少しではありますが投下します
274 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:13:26.76 ID:T3cUIjdxO

――
――――



大鳳(思った以上に、手強い……!)ギリッ


自身の艦載機がグラーフに迎撃されるのを感じ取りながら、大鳳は歯噛みしていた。


大鳳(これで5機目……明らかに撃墜される数が増している……!)


決してグラーフのことを侮っていたつもりはない。

確かに“あの”加賀に比べれば御しやすい相手だろうとは思っていた。それは認めよう。
しかし、決して油断や慢心はしていなかったはずだ。


大鳳(……いえ、心のどこかで私はグラーフさんのことを舐めていた)

大鳳(加賀さんならともかく、グラーフさんになら1対1でも十分に勝てるだろう、と)


その考え自体は決して間違っていたとは思わない。
旗艦のアイオワもそう判断したからこそ、グラーフの相手を大鳳1人に任せたのだ。
事実、つい先程まではこちら側が圧倒的に優勢であり、向こうは防戦一方だったはず。

それなのに、なぜ今になって戦況が拮抗し始めているのだろうか?


275 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:16:09.38 ID:T3cUIjdxO


大鳳(……なるほど、戦力を分散させたのはこの為でもあったというわけですか……!)


1ヵ所に固まっていては、砲撃や爆撃で一網打尽にされてしまう。
敵が3つの勢力に分散したのは、それを避けるためだと思っていた。
しかし、それだけでは無かったとしたら――


大鳳(さっきまでは加賀さんとグラーフさんが1ヵ所に固まっていたため、千代田さんの艦戦によるサポートを十分に受けることができた)

大鳳(けれど敵の空母2人が分散してしまったら、千代田さんは艦載機を異なる2つの方向に差し向けなければならない)

大鳳(そうなればどうしても、敵1人あたりに割ける艦載機の数は半減し、操作の精度も落ちてしまう……)


先程までは加賀とグラーフが同じ地点に密集していたため、1つの視界で2人を捉えつつ、全艦載機を1ヵ所に集中して送り込むだけで良かった。
しかし、2人が別方向に分散してしまった今。
加賀とグラーフの攻撃機を撃墜するためには、2つの視界でそれぞれ1人ずつを相手にせねばならない。

ゲームに例えると少しは分かりやすいだろうか。
1つの画面で2人の敵を相手に戦うのと、2つの画面を交互に見ながら1人ずつと戦うのと。
敵の人数は同じ2人であっても、どちらの方が戦いやすく、どちらの方が戦いにくいか、実際にやらずとも分かるはずだ。


276 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:20:07.48 ID:T3cUIjdxO


大鳳(それに恐らく、千代田さんの艦載機の数は半減どころじゃない)

大鳳(加賀さんの艦載機の数に対抗しようと思ったら、どうしても加賀さん側に割く艦載機の方が多くなってしまうはず)


加賀は圧倒的な搭載数を誇ることで有名な空母だ。
そんな彼女に対抗するためには、こちらもそれなりの数で迎え撃つ必要がある。
実際に大鳳の読み通り、千代田は全艦載機の内、約7割近くを加賀へ、残り3割をグラーフへ差し向ける形となっていた。


大鳳(つまり、演習序盤と比べたら千代田さんによるサポートが3割程度しか受けられないということ)

大鳳(そうなれば撃墜できる敵の数は減り、代わってこちらの被撃墜数が増えるのは自然なこと…………ぐぅッッ!?)ドゴォ!!


突如、大鳳の身に衝撃が走る。
気付けば上空にはグラーフの放ったと思われる爆撃機が旋回していた。
どうやら思考することに気を取られ、その隙に手痛い一撃を貰ってしまったらしい。

しかし、そこは流石に装甲空母。

持ち前の耐久と装甲の厚さにより、何とか中破一歩手前の損傷で持ちこたえていた。


大鳳(くっ、油断した!)ボロッ

大鳳(まさか、ここまで苦戦するとは……!)


確かに千代田のサポートが減ったのは痛い。
コンビネーションを前提とした戦術を取っているがゆえに、その戦力の低下ぶりは甚だしいものがある。

しかし、それでも。
当初、自身やアイオワがそう判断したように、例え1対1であっても決して後れを取るような相手ではないはず――





いや……もう、認めるしかない。





大鳳(グラーフ=ツェッペリン……貴女は、強い……!!)




――――
――

277 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:23:30.30 ID:T3cUIjdxO


――
――――


グラーフ=ツェッペリンが艦娘として2度目の生を受けたのは、今からほんの3年ほど前。
現在彼女が所属している鎮守府……ではなく、彼女の母国であるドイツの領海にて発見された。



かつて沈んだ軍艦たちが艦娘として転生する流れには、以下の2つが存在する。

1つは、各鎮守府の工廠で資材を消費して行われる『建造』
もう1つは、各海域で深海棲艦を撃破した際などに、どこからともなくその姿を現す『ドロップ』
グラーフはその内の後者であった。

『ドロップ』により発見された艦娘は、一旦その国の海軍や政府にて身柄を保護されることになっている。
グラーフもその例に漏れず、海上にて発見された後、そのまま海軍本部へと連れてこられた。
そうしてしばらくの間は軍や政府の管理下に置かれ、やがて配属先が言い渡されるのだ。



自身の今後が決定されるまでの間、グラーフの心の内にあったのは大きな期待と使命感であった。
かつての自分は未成艦として何の成果も残せなかったが、今の自分にはこの肉体がある。
手があり、足があり、声があり、何より――心がある。


今度こそ、この国のために。

そして護るべき人たちのために、人類の敵である深海棲艦と戦うのだ――












 『グラーフ=ツェッペリン。貴艦に日本への出向を命ずる』





だからこそ、




そう言い渡された時の落胆ぶりは、筆舌に尽くしがたいものであった。




278 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:27:29.05 ID:T3cUIjdxO


地球の歴史上、ドイツほど戦禍に見舞われ、また逆に戦火を巻き起こした国は存在しないだろう。
先の大戦では多くの国を蹂躙し、多くの命を奪い、多くの悲劇を生みだした。

そんなドイツだからこそ。
それが例え表面的なものであったとしても、平和の訪れた現代において。
戦争や軍を連想させるものは忌避される傾向が強まっていた。

軍隊は大幅に縮小され、外敵と戦う牙を失った。
人々は軍事力よりも、経済力を求めるようになった。

時代の流れと言えば、そうなのかもしれない。
争いを嫌い、平和を愛することは決して間違っていないだろう。



だが、



戦うために生まれてきたグラーフにとって、日本への出向命令は 『お前はもうこの国には必要ない』 という、存在そのものを否定されることと同義であった。







そうして彼女は失意のまま、海を渡り日本へとやって来た。

言葉も文化も分からない異国の地。
かつての同盟国ではあるが、実際に日本へ足を踏み入れたことなどないし、日本人にも会ったことなどない。

聞けば日本も先の大戦の反省からか、軍隊が武力を有することに対して批判的な声が強いらしい。
ここでも、母国と同じように蔑ろにされるのだろうか。
役割を与えられないまま、倉庫の中で埃を被っていく運命なのか。

そんな不安と絶望に苛まれていた彼女が、日本で初めて出会ったのが――




加賀『――ようこそ日本へ。グラーフ=ツェッペリンさん』




世界最強の空母との呼び声も名高い、一航戦、加賀であった。


279 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:33:54.29 ID:T3cUIjdxO


加賀『何でも、赤城さんの設計を参考にして建造されたとか』

加賀『慣れない異国の地で戸惑うこともあるでしょうが、何かあったら案内役である私を頼ってください』


最初の頃は、気難しい人だと思っていた。
自分が言えたことではないが、常に表情は硬く何を考えているのか分からない。
喋り方も坦々としているため、何か質問をするたびに不機嫌にさせてしまったのではないかと不安になったものだ。





加賀『ドイツではビールが盛んだと聞きましたが……』

加賀『日本のお酒も負けてはいません。よろしければ1杯どうぞ』


だが、何度か接する内にそれは誤解であったことに気が付いた。
彼女は感情表現が苦手なだけで、本当は心優しい、思いやりのある人なのだと。
案内役を任されたから仕方なく……ではなく、本心からこちらのことを気遣ってくれているのだと。





加賀『――確かに、貴女は艦載機の搭載数が少ないかもしれません』

加賀『けれど、それがどうしたというのですか』

加賀『仮にこちらが敵の半数以下の艦載機しか扱えないとしても、こちらの1機で敵を2機撃ち落とせば、2倍の戦力を持つ相手とも戦えます』

加賀『……貴女に強くなりたいという意志があるのなら、協力は惜しみません』


搭載数の貧小さに一種のコンプレックスを抱いていた自分を励まし、稽古を付けてくれたのも他ならない彼女だ。
時には厳しく、時には優しく、航空戦の何たるかを一から十まで授けてくれた。





加賀『驚きました。貴女、空母なのに夜戦ができるのね』

加賀『でしたら艦載機の扱いだけでなく、砲撃についても学んでおくべきです』

加賀『やれることは全てやる。そうすれば、きっと貴女にしかできない、貴女だからこそできるような戦い方が見つかるはずよ』


空母だからといって艦載機を上手く扱うことだけに囚われず、様々な分野にも目を向けるべきだと教えてくれた。
こんな自分にもできることが……いや、自分にしかできないことがあるはずだと、新たな可能性を示してくれた。





未成艦で、何の武勲や戦果も無く、実力的にも未熟な自分の隣に、

歴戦の、輝かしい実績を持った、最強とも呼ばれる空母がいてくれる。


そのことが何よりも嬉しく、何よりも誇らしかった。




そして同時に、グラーフの中に新たな願いが芽生える。

ただ単に強くなるだけではない。
ただ単に功績を立てるだけではない。


この人に認めてもらいたい。

この人と背中を預け合って戦いたい。

この人をいずれ超えてみたい、と――



280 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:37:39.50 ID:T3cUIjdxO


グラーフ「――敵機撃墜! これで8機目だ!」

響「Круто!(すごい!)」


グラーフと大鳳の一騎打ちは、今や完全に互角の戦いになりつつある。
むしろ防戦一方の状態からここまで巻き返したことを考えると、勢いはグラーフの方にあると言っていいだろう。


グラーフ「このまま敵に接近するぞ! 後に続け!」

響「了解!」


劣勢になった相手が逃げ出さないよう、航空戦を繰り広げながらも徐々に距離を詰めていく。
もしここで大鳳を逃してしまったら、今度は別の味方が狙われるかもしれない。
或いは1対1で戦うことを不利だと感じ、再び千代田と合流されてしまったら先程のようにまた苦戦を強いられることになる。

自分たちがこの演習で勝利するためには、何としてもここで大鳳を倒しておかなければならない。



グラーフ(……とはいえ、序盤に艦載機の大半を堕とされてしまった)

グラーフ(このまま戦い続けた場合、先に艦載機が尽きるのはこちら側、か……)

グラーフ(ならばそうなる前に敵を追い詰め、撃破する!)


響「――見えた! 敵空母を発見!」


迫りくる艦載機の遥か向こう。
薄っすらとではあるが、水平線上に立つ人影を肉眼で捉えた。

ここまで接近してしまえば、自分たちが2人揃って返り討ちにでも遭わない限り、大鳳を逃がすことはない。







グラーフ「さて、そろそろケリを着けさせてもらおうか――!」


大鳳「……来なさい。全力でお相手しましょう――!」



――――
――


281 : ◆wI6nKiwnSc [saga]:2020/09/23(水) 23:39:52.02 ID:T3cUIjdxO
今回はここまで
書き溜めて一気に投下するよりも、こまめに投下していきたいと思います
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/23(水) 23:42:01.92 ID:JDuprvM40
乙 そういえば加賀さん改二きたね
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/23(水) 23:51:37.85 ID:oBMjM4bbo



改弐護って何だよ自衛隊とチンチンカモカモか?
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/26(土) 23:27:18.29 ID:U5Gjjsqfo
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/22(日) 17:34:02.85 ID:YQmwPygy0
2か月か...
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/12/27(日) 17:18:51.12 ID:G3JbR0YW0
もう続きを期待できそうにないかな…
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