高峯のあ「牛丼並……玉子とみそ汁もつけて」

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58 :☆H ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 22:39:33.14 ID:pVyNxzTm0

━━━━一方━━━━
【豪雨の中】



ザアアアァァ……!!


美優「だ、ダメですPさん! ちょっと待って下さい……!」

P「ハァ、ハァ………へ、平気です! 大丈夫です!!」

美優「か、風邪引きますよ! その、傘を差してください……!」

P「打ちひしがれた彼女だって、傘も持たずこうしてこの雨の中を彷徨っているかもしれないっていうのに……!」バチャバチャ

P「俺が不甲斐無いせいで彼女を悲しませてしまって、こんな目に合わせておいて…………」

P「担当プロデューサーである俺が、そんな彼女を差し置いて、弱気に濡れるのを拒むわけにはいきませんよ……!!」バチャバチャ

美優「で、でも(人目が)…………」

P「……この雨は、きっと高峯さんの涙なんです。ならばその涙を全身で受け止めるのが担当プロデューサーというものでしょう!!!」バチャバチャ

P「高峯さん、待っていて下さい!! 今行きます!!!」












━━━━その頃━━━━
【ラーメン屋】


のあ「外の湿気と、湯気で包まれた温かい室内……」

のあ「不思議と、………心地いいわ」

貴音「雨催いの、鬱蒼とした日和の中でらぁめんに舌鼓を打ち、体を温めるのも………趣がありますね」

のあ「(……♪)」

のあ「服ももう乾いたし、すごい快適。それにしても凄い雨……、さっきまでは小雨だったのに」

貴音「……衝撃的でした」

貴音「貴女の普段とは違う一面を垣間見たと思えば……、まさか」

貴音「きゃら作り……、と言うべきでしょうか?」

のあ「……こうやって普通に接するのは、親戚の子と、貴女で二人目」

のあ「泣いてるところを見られたら……、もういいかなって」

貴音「……成る程」

店主「ハーイ、お待たせしました、と」

店主「四条スペシャル大盛り全のせ、と替え玉は後でね」

店主「こっちは、四条スペシャル普通盛り、半熟味玉、白髪葱、バター、背油、メンマ、味付けもやし、フライドガーリック、きくらげ、のり、水菜、チーズね」

のあ&貴音「(♪♪♪)」

貴音「では、伸びないうちに頂くとしましょう」

のあ「……そうね」

のあ&貴音「いただきます」
59 :☆I ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 22:40:22.50 ID:pVyNxzTm0

━━━━━━一方━━━━━━
【街路地】


美優「落ち着いてください、Pさん」

美優「焦る気持ちも分かりますが、こんな無茶に体力を消耗していたら貴方が先に参ってしまいます」

P「……すみません」

美優「Pさん、何故ここまでするんです? もう何度も転んで、スーツもボロボロじゃないですか」

P「……アイドルのために尽くすのは、当然の事です」

P「ただ……」

P「以前、見たことがあるんです。不幸の手紙を読んでしまって……潰れていったアイドルを」

美優「……!!」

P「本当に可哀想でした。天真爛漫が服を着たような可愛らしい女の子が………、仕事も放り出すようになり、うって変わって性格も荒み、見る見るうちにやせ細り……そして…………っ」

美優「……Pさん」

P「自分を否定したファンに向き合うのが嫌になったんでしょう。周囲の人間を信じられず、疑心暗鬼になっていったんでしょう」

P「……ご飯ものどを通らない程に、本当に辛かったんでしょう」

P「俺……、高峯さんと生放送の記念に、お祝いするって約束したのになぁ……」

美優「…………っ」

美優「……Pさん。今、ちひろさんが車で来てくれるらしいです。まずは高峯さんの家に向かいましょう」












━━━━その頃━━━━
【ラーメン屋】


のあ「んむ……」ズズー

のあ「(……お、おいしいっ!)」モグモグ

のあ「(すごい食べごたえがある太い麺……、おいしい……)」モグモグモグモグ

貴音「(うどんの様にもっちりとした極太の麺に、どっしりとした背油のどろどろな濃厚な豚骨スープがぎゅうっと良く絡み、とめどなく次々と口の中に運んでしまう程………あぁ、否定のしようがありません)」

貴音「(これぞらぁめん……。まことに美味です)」ズズー

のあ「はぐっ」

のあ「(あぁ、柔らかい。てかてかの脂ががっつりしてる)」ガツガツ

貴音「(店主殿自慢の自家製ちゃーしゅーは、とろとろのほろほろで……、口の中に入れてしまうとそのまま溶けてしまうかの如く、まるで色気すら感じる柔らかさ)」

貴音「(炙ったタレの香ばしい焦げの香りが、また絶妙に食欲をそそります)」

のあ「はふ、はむ…………ぷはぁ」

のあ「(濃い、とにかく濃厚で……体に満足感が染み渡る。本当においしい)」

のあ「(あぁ、感動的。なんだっけ、なんかさっきまで色々と考えてたけど……)」

のあ「(まあいいや。とにかく食べよう)」

のあ&貴音「(……♪)」ズズー
60 :☆J ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 22:41:25.64 ID:pVyNxzTm0

━━━━━━一方━━━━━━
【豪雨の中】


P「があ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁ!!!!」

警察A「ちょ、ちょっと大声出さないで。暴れないで」

P「なんでですかッ!? 俺は今、急いで行かなきゃいけない場所があるんです!!!」

P「会いにいかなきゃいけない人がいるんです!!!!」

警察A「いや……あのね。そんな藤原竜也みたいに苦しそうに全力で叫ばれても……」

P「貴方達に、貴方達に構っている暇は微塵もないんですよっっ!!!!!」

P「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙!!!!!」

警察B「ていうか君、そのスーツの袖どうしたの? アメリカのバイカー集団さながらロックな感じでビリビリに破けてるけど」

P「滑って転んだんですよ!!! 見たら分かるでしょう!!??」

警察A「すみません、抑えるの手伝って貰っていいですか。本署に連絡入れますんで」

P「み、美優さんッ!! 貴女だけでも今のうちに───」

P「───……ってアレ? み、美優さん!? ど、どこに!?」












━━━━━━その頃━━━━━━
【ラーメン屋】


のあ「ま、マイどんぶり……!?」

貴音「はい。店主様が以前に、記念として私の名を彫った物です」

貴音「これは普段から、御守り代わりに持ち歩いているのです」ゴトッ

のあ「(う、羨ましい……!)」

店主「そちらの方、ビールとか飲む?」

店主「貴音ちゃんのツレなら、一本まけとくけど?」

のあ「!」

のあ「イ、いいのかしら」

貴音「これも一期一会、お言葉に甘えては如何でしょう」

のあ「ナ、なら………そうね。貰おうかな」

店主「はい、どうぞ」ゴトッ

貴音「では、改めて乾杯いたしましょう。私は水で申し訳ありませんが」

貴音「……今日という巡り合わせと、この店の盛況と今後の御繁盛……」

のあ「………」トクトク

のあ「…………あと、貴音ちゃんの、生放送の成功も」

貴音「ええ。有難う御座います」

───カチン
61 :☆K ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 22:42:27.90 ID:pVyNxzTm0

━━━━━━一方━━━━━━
【車内】


P&美優「……」

ちひろ「プロデューサーさん。美優さんがすぐに呼んでくれたから事無きを得たものの、あまり派手な事しないで下さいね」

ちひろ「謹慎処分になって悲しむのは貴方だけではないんですから」

P「ス、スミマセン……」

ちひろ「というか二人とも、何でそんなにびしょびしょに濡れてるんですか? 傘は?」

ちひろ「特にプロデューサーさん。どうしたらそんな時代錯誤のバンカラ学生みたいに、裾と袖がビリビリに短くなるんですか?」

P「その……道で転んで…………あと裾は、警察と揉めて……」

ちひろ「……ハァ」

ちひろ「とりあえず、どうします? 高峯さんの家に向かいますか?」

P「……ハイ。お願いします」

美優「……スミマセン」

ちひろ「二人とも、風邪引かないで下さいね」












━━━━━━その頃━━━━━━
【ラーメン屋】


貴音「それは、誠に遺憾です……」

貴音「世評がいかなるものであっても、今回の舞台、私自身は非常に満足のゆく結果でした」

貴音「ましてや、成功に向けて携わって頂いた方々が侮蔑を受ける事など、私は望んでおりません」

貴音「勿論、貴女とて例外ではありません。のあ」

のあ「……………ウン」グビッ

貴音「侮蔑を受けるなら、私であるべきです……。聞き及んでいると思いますが、此度の演出や配役指名等は殆ど、恣意に任せて頂いたもの」

貴音「本当に、申し訳ありませんでした」

のあ「い、いや……貴音ちゃんが謝ることなんて……」グビグビ

貴音「貴女の苦しみは、共演した私の物でもあるのです」

貴音「喜怒哀楽、すべからく分かち合うからこそ、共に高みを目指せる………と」

貴音「春香が……、事務所の仲間がそう言っておりました」

のあ「……ウン。確か似たようなことを、キン肉マンの漫画で誰か言っていたし……」グビグビ

のあ「キン肉マンとはいっさい無縁の、島村卯月ちゃんもどこかで言ってた気がする」グビグビ

のあ「すみません、ビールもう一本」

貴音「ふふ……、見事な飲みっぷりです♪」
62 :☆L ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 22:43:23.69 ID:pVyNxzTm0

━━━━━━一方━━━━━━
【とあるアパート】


───ピンポーン

P「……」

美優「……」


───ピンポーン

P「……」

美優「……」


───ピンポーン

P「……………………」

P「……………へっくしゅん!!」












━━━━━━その頃━━━━━━
【ラーメン屋】


貴音「名誉のため、勝敗のため、そして評価のため………」

貴音「綺羅を飾り、目標に邁進し、輝く舞台で歌い踊る」

貴音「それも一つの真理でしょう。結果はいかなるものであれ、切磋琢磨し、競い合う事で掴み獲る物も、必ず尊い光を放つものですから」

貴音「゙結果が全でではなく、゙結果は全で………言い得て妙なものです」

のあ「……………」

のあ「……………ヒック」

貴音「しかし私達のプロダクションの理想は、そうではありません」

貴音「ファンの人々と……、観客の皆さまと一心同体になり、楽しむことを至上の信念としています」

貴音「そのために、まずは私達が楽しむ事を第一に考えねばなりません」

貴音「ファンの人々は、楽しむ私達を見てその心を躍らせる。故に私達の言うところの゙結果゙とは、私達自身の心の在り様に起因するのです」

のあ「………………」グビッ

のあ「でも……」

貴音「?」

のあ「今回、私は貴音ちゃんより目立って、それで色々と陰口も叩かれて……」

のあ「あの『不幸の手紙』だって、きっと………私の話題を快く思わなかった人が書いたんだと思うの」

貴音「………」

のあ「……私、どうしたら良かったんだろう?」

貴音「ふふっ……」

のあ「?」

貴音「のあ。その答えを見つけるのは、貴方次第です」
63 :☆M ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 22:44:18.54 ID:pVyNxzTm0

貴音「先程も申し上げました。私としては今回の生放送の舞台……、本当に素晴らしい出来だと感じております」

貴音「幻想的な衣装を纏い、のびのびと舞い踊り、私の魅力を引き立ててくれる豪奢な演出に、一歩引いて力添えしてくれる頼もしい踊り手達」

貴音「私自身、これ以上ないくらいに楽しむことが出来ました」

貴音「貴女が受けた誹謗中傷に関しては、私も心を痛めましょう。理不尽な軽侮も、共に分かち合いましょう」

貴音「しかしそれとは別に、貴女は今回の舞台を、どうお考えなのですか?」

のあ「うぅん……」

貴音「…………」

のあ「…………よく分からない」

のあ「まだ、色々やってみないと、上手く言えない……」

貴音「……ええ。その通りです」

貴音「傲岸に講釈を垂れた手前お恥ずかしいですが、私とてまだ至らぬ点が多く、貴女のように俯瞰的な視点で物事を捕えていない事もあります」

のあ「ううん、貴音ちゃんはすごいよ」

のあ「ラーメン屋とコラボして、自分の名前で商品を出して、お店に来たらサービス満点だし、自分の名前が彫ったどんぶりも持ってる」

のあ「まさに、この前の夢のような存在だなぁ……」グビグビ

貴音「そうですか? そこまで言われると………少し気恥ずかしい気もしますが」

貴音「しかし、『夢』とまで例えられるとは……」

貴音「夢を見せ、惹き込む事こそ私達の目標のするところ………正にアイドル冥利に尽きるというものです」

貴音「………」

貴音「……今宵の私は、どうも口が回ります」

貴音「これもひとえに…………、貴女とこうしているのが、きっと私の中で、とても楽しいことなのでしょう」

のあ「…………」グビグビ

のあ「……………ぷはぁ」ゴトッ

貴音「のあ」

貴音「辛い時こそ、楽しみましょう。綺麗な物を探し、美味しい物を沢山食べて……」

貴音「共に笑いましょう。辛さを忘れるのではなく、乗り越えるために」

のあ「すみません、ビールもう一本」

貴音「ふふ……、惚れ惚れする飲みっぷりです♪」
64 :☆N ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 22:45:22.75 ID:pVyNxzTm0

のあ「………………ひっく」

のあ「飲みっぷり……?」

のあ「そう言えば、隣人が言っていたの」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

楓『泰葉ちゃん。大人になれば、たくさんの悩みを抱え込んでしまいます。たくさん考え込んで、たくさんストレスを溜め込んでしまいます』

楓『なら、その悩みを吐き出し、考え込む時間を奪い、ストレスを発散させてあげましょう!』

楓『これこそ私の知りうる最大限のアドバイス!! デキる大人の処世術というヤツですっ!」

泰葉『ソレ根本的な解決には結びついてないですよね!?』

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




貴音「素敵なご友人をお持ちですね」

のあ「ゆ、友人って言えるのかなぁ……。私、アイドルになって何人かにアドレスは聞いたけど、まだ本当に友達と呼べる人がいると言われると………正直……」

貴音「友達とは、自然にそう呼び合う存在を指すものかと思いますが……、では……」

貴音「では……今日こうやって出遭ったのも、何かの縁でしょう」

貴音「私と友達になりましょう。のあ」













───ガチャン!!




のあ「───っ!!!!!!」

貴音「ど、どうされました……? そ、そんなに目を見開いて驚くほどのことでは……」

店主「だ、大丈夫? 怪我ない?」

のあ「ゴ、ごめんなさい……」

店主「あぁ、いいですよ。破片危ないから、任せて」
65 :☆O ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 22:47:34.45 ID:pVyNxzTm0

のあ「なっ!!」

のあ「な、ナ……」

のあ「………………ナ、なってくださるんですか??」

貴音「何故敬語に?」

のあ「いや、その……」

のあ「アイドルとしてのランクが違い過ぎて……。私はGで、貴音ちゃんはSに限りなく近いAだし……」

貴音「些末な事です、らんくなど……。活動を続けていくうちに後から付いて来た評価にすぎません」

のあ「じ、じゃあアドレスを……」

貴音「……!!」

貴音「困りました……、プロダクションでは……」

のあ「あっ、ゴ、ごめんね? その、無理なら全然……」

貴音「いえ、違います。その……」

貴音「この『すまほ』なる端末に不慣れなもので……、プロダクションでは、あまり使用していないのです」

のあ「じっ! じゃあわ、私がおおおしグホッ、ゴホッ……、ぐ、くっ……!」

のあ「わ、私が教えてあげる!! さ、最近スマホ買ったし!!!」

貴音「ふふっ………では、お願いします」

貴音「さて、そのご友人の助言の通り……、飲み直しましょうか」

のあ「すみません、ビールもう一本!」

貴音「ふふ……、素晴らしい飲みっぷりです♪」












━━━━一方━━━━
【とあるアパート】


時子「……へぇ」

千秋「それで櫻井さんが言うには、前任者のリーダーが……」

時子「少し止まりなさい、千秋」

千秋「えっ?」




P「……………へっくしゅん!!」

時子「アァ……?」

千秋「Pさん!?」

美優「えっ! こ、こんばんは……」

千秋「み、三船さんも………何かあったんですか?」

時子「低劣で汚らわしい浮浪者と見間違えたわ。特に男の方」

P「と、時子と千秋……? ど、どうしたんだ一体?」

時子「それはコッチの台詞よ」

千秋「どうしたんですかPさん……、その、前衛的ファッション風な袖と裾は……」
66 :☆P ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 22:49:59.25 ID:pVyNxzTm0

━━━━━━その頃━━━━━━
【ラーメン屋】


貴音「今宵のらぁめんも、まことに美味でした。店主様」

貴音「らぁめん2杯、そしてとっぴんぐとお酒の代金を……」

店主「いつもサービスって言っているのに、毎回キチンと払ってくれるんだから………お礼を言いたいのはウチのほうだよ」

貴音「これほどの一杯を振る舞われておいて対価も払わず去ることなど、面目ありません」

貴音「どうかこの店に足を運んでいる時だけでも、私をアイドルではなく、一人の客として見て頂ければ……、私も気兼ねなく店主様のらぁめんを堪能できるというものです」

店主「立派だねぇ。ありがとう、また来てね」

貴音「ご馳走様でした」

店主「でもお代はいいよ。ホラ、そこに」

貴音「……!」

店主「ツレの女性が、もうコップの下に置いてってるから」

店主「……って、あれ? さっきまであの人、そこに立ってたんだけど………どこ行ったんだろう?」

貴音「?? のあ、どこに……」

店主「……トイレにもいないし……、あれ?」

貴音「…………面妖な」

貴音「(………………………)」

貴音「(今宵の一杯は、まことに美味なものでしたが……)」

貴音「(しかしそれは、私が今日一人で訪れでいたら、この感覚に巡り合うことは無かったでしょう。それこそ、まさに筆舌に尽くし難いもの)」

貴音「(願わくば、またいつの日か……)」











━━━━一方━━━━
【とあるアパート】


P「ら…………!」

P「ラーメン屋にいた……!?」

美優「た、高峯さんが……ですか!?」

時子「ええ。知人と楽しそうに、豚の餌を豚のように貪る如く、暴飲暴食の限りを尽くしていたわ」
67 :☆Q ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 22:50:56.74 ID:pVyNxzTm0

千秋「ホント? 財前さん」

時子「何で見ていないのよ、千秋」

千秋「気付かなかったわ。私、課題に夢中だったし……」

P「………………………………………」

美優「お、お二人もラーメンを食べてたんですか?」

時子「飲食店にいて、それ以外の目的があるのかしら?」

美優「いや、その……ちょっと意外かなと思って。あまりそういったジャンクフードに縁がなさそうだなと……」

時子「…………………」

時子「………ちょっとした野暮用よ。別に好き好んで豚の餌を啜っていた訳じゃないわ」

千秋「じゃあ、これから財前さんの部屋で、ちょっと課題に取り組まないといけないから」

美優「課題? 大学ですか?」

千秋「まあ…………そんなところ。サークルみたいな」

千秋「お疲れ様でした、お二人とも」

時子「せいぜい、交番の前を通る時はそのみすぼらしい服装を正してからにしなさい。特に男の方」

時子「不審者と警戒されて捕まったりでもしたら…………ハッ。笑いのために体を張るなんて、プロデューサーを辞めて芸人にでも転向したらどうかしら」

P「………………」

美優「………………」


───ガチャ
バタン




P「………………」

美優「………………」

P「………………………………」

美優「……………………………Pさん」

美優「カ……、帰りますか、とりあえず。ちひろさんも待っていますし」

P「……………………はぁ」

P「とにかく高峯さんが……、平気そうで何よりでした」

美優「……そうですね」

美優「………Pさん。彼女は……」

P「?」

美優「私達が考えているより……、意外としたたかなのかもしれないですね」

P「……はい。そうですね」
68 :☆R ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 22:52:37.62 ID:pVyNxzTm0

━━━━━━翌日━━━━━━
【事務所 応接室】


周子「そっかそっか……、大変だったね」

周子「でも、あの四条貴音とお忍びでデートとは………のあさんも大物だねえ」

のあ「うん。おかげで元気出た」

のあ「ビール一升瓶を何本も空けて……、途中で気持ち悪くなって、その……」

のあ「とりあえず五千円をコップの下に置いて、急いで帰宅して盛大に吐いた」

のあ「……あとで貴音ちゃんに謝っておかないと。勝手に帰ってゴメンって」

周子「(本当に大物だなぁ……)」

周子「それはさておき」

周子「ホラ。ぎゅーってしてあげる」

のあ「!」

周子「おいでおいで。ホントに大変だったね」

周子「ぎゅーーっ」

のあ「……………♪」ギュー

のあ「……あぁ、あったかい。まるで母親の胎盤に包まれているみたい」

周子「生々しい表現はやめて」

のあ「周子ちゃんのお腹………柔らかい。ぷにぷにしてる」

周子「それもまた複雑だけど………まあいいや」ナデナデ

周子「………のあさん。周りの声なんて気にしなくていいんだよ」

周子「のあさんはのあさんなんだから」

のあ「……うん。私もいつか吉野家とコラボを……」

周子「えっ、なに?」

のあ「ううん。なんでもない…………眠くなってきた」

周子「おうおう、よしよし」ナデナデ

のあ「………♪」

周子「………♪」























紗枝「…………………………………………………………………………………………」




周子「(ハッッッ!!!!!!!!!!!)」ビクゥ!!
69 :☆S ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 22:55:28.20 ID:pVyNxzTm0

のあ「紗枝……?」

周子「さ、紗枝ちゃん………!!」

紗枝「ア、あグ……、ぎ、ギ……」プルプル

周子「その壊れかけのロボットみたいな音はどっから出してんの!?」

紗枝「こ……、こ、これは……!!」プルプル

周子「(───!)」

紗枝「しゅ、しゅ、周子はん………な、ナなんで、た、たか高峯はんをひ、膝枕して、してはるのっ……!?」プルプル

紗枝「そ、そ、そんでっ……、お、お腹と腕とで………か、体全体で高峯はんの頭を、ほ、捕食してるみたいな…………!!?」プルプル

周子「表現!!」

周子「こ、これはね! その、まあ……、一種のコミュニケーションで……」

紗枝「そ、そないな……、た、タタ高峯はんの頭をっ……、な、な、なでなで……、な、なでなでして…………!!」プルプル

のあ「(…………)」

紗枝「ここ、コ、これは、な、ナ…………ッ、げほっ!!!!!」

周子「紗枝ちゃん!!」

紗枝「ア、あぁ……………、………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あっ?」

周子「?」





紗枝「ぶ……、VR彼氏?」

周子「落ち着いて、紗枝ちゃん。なんか『あぁ、それなら納得』みたいな顔してるけど、現実だから……」

のあ「(…………♪)」スリスリ











━━━━━━━━━━
【事務所】


美優「…………くしゅんっ」

真奈美「美優。風邪かな?」

真奈美「今時分珍しい。冷房の前で薄着で長居しすぎたか?」

美優「い、いえ……特には」

真奈美「? そうか」

真奈美「プロデューサー君も高熱で倒れたらしい。夏だからと言って、油断は大敵だな」

美優「ソ、そうですね……」


──────
────
──
70 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 22:56:49.00 ID:pVyNxzTm0
──
────
──────
【とあるラーメン屋】



のあ「(…………)」

店員「おまたせしました、こちらエスニック風ラーメン、パクチー別盛りです」

店員「ごゆっくりどうぞー」

のあ「(…………♪)」

のあ「(ふ、フフ……! ここが貴音ちゃんが言ってた、オススメのお店……♪)」





店員「(……………)」

店員「(美人だなぁ……あの人)」チラッ

客A「(外国人のモデルか?)」チラッ

客B「(ジャンクなラーメン屋には不釣り合いなくらい綺麗な人だ……)」チラッ

客C「(やべぇ……ちょっとお前、声かけてみろって)」チラッ

客D「(近付けないって! なんかすげえ大物のオーラが出てる気がする……)」チラッ





のあ「(食券制で注文簡単。えすにっくとか言う、ちょっと理解出来ない小洒落たカンジで……!)」

のあ「(ま、まるでリア充みたい! 陰キャな私が、そして一人で! 一人ラーメンっ!!)」

のあ「(今月の目標の『友達作り』もなんとか達成したし、私もいよいよ……っ!)」

のあ「(ふ、フフフ……♪)」ドキドキ





店員「(……………)」

店員「(ひとつひとつの動作に……、俺達とはまるで生まれた世界が違うかのような、優美な品を含んでいる……)」チラッチラッ

客A「(美しすぎる……っ! なんか俺達、ここに居ていいのか?)」チラッチラッ

客B「(美しい女性の振る舞いを『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』と言うが………じゃあ今のあの人の……食べる姿は何と形容すればいいのか)」チラッチラッ

客C「(馬鹿野郎。花も恥じらう超美人だろ)」チラッチラッ

客D「(あれ……、おかしいな。俺、VRヘッドセット付けてたっけ)」チラッチラッ





のあ「(ふ、不思議と店全体から注目されてる気がする……っ、き、緊張してきたわ……フフッ♪)」
71 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:00:36.59 ID:pVyNxzTm0

のあ「(……そうだっ!)」

のあ「(ちょうどいいかな。昨日始めた『インスタ』に、このラーメンの写真をあげよう♪)」

のあ「(わ、私もいよいよこれでリア充の仲間入り? あ、憧れの、い、意識高い系アピール? ふ、フフ……♪)」

のあ「(えへへ……、カメラ機能は……っと)」スッ

のあ「(よし……っ)」

───カチッ



パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ!!
パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ!!



のあ「ヒッ!」ビクッ!

───ぱっ


のあ「 ぁ っ 」




 ぼちゃっ!




のあ「」

のあ「ぁっ…………」クルッ

店員「(……っ)」スッ

のあ「ぁっ…………」クルッ

客A「(……っ)」スッ

客B「(……っ)」スッ

のあ「ぁっ…………」クルッ

客C「ごちそうさまでしたー」ガタッ

客D「あー、ラーメンうめぇー」ズズー

のあ「」ガタッ










━━━━━夜━━━━━
【岡崎宅】


泰葉「スマホをラーメン屋に忘れた?」

泰葉「不幸中の幸いですね、場所が分っているだけでも。でも、なんで取りに行かないんですか?」

のあ「…」

時子「楓。醤油取って」

楓「あ、ハイ」

のあ「…………………いけなぃ」

泰葉「な、なんでですか……」

──────
────
──
72 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2020/03/30(月) 23:02:51.71 ID:pVyNxzTm0
──
────
──────
【岡崎宅】


のあ「……時子」

時子「なによ」

のあ「貴女が泰葉の家で過ごすのは、何か理由があるのかしら」

のあ「……甘き誘惑。人間は、安息を求めるあまり堕落という闇に囚われる」

時子「その質問、そのまま返すわ。想像に難くは無いけれど」

のあ「セ、節約」

のあ「泰葉の家にいるだけで水光熱費が、とても浮く」

泰葉「あの、一応本人いるんですけど」

のあ「あと、居心地がとてもいい」

時子「私は退屈しのぎ。道化の滑稽な三文芝居でもたまには興が乗るわ」

時子「これ以上にないくらい、憐れみを感じさせてくれるという意味でね」

泰葉「(高峯さんのことかな)」

泰葉「でも時子さん、いつもご飯時に来るから、てっきりご飯が目的だと思ってましたよ」

時子「………」

のあ「お茶を貰えるかしら」

泰葉「あっ、ハイ」

泰葉「そう言えば、楓さんは今日来ないんですね?」

のあ「……?」

のあ「(確かに、珍しい。今日は楓さんの好きな銀だらのみりん漬けなのに)」

のあ「ラインも未読だったわ」
73 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2020/03/30(月) 23:03:44.34 ID:pVyNxzTm0


───ピンポーン!

泰葉「あ、来ましたね楓さん。よいしょっと」

時子「……貴女って、料理の心得はある?」

のあ「……!」

のあ「レシピを見ながらなら、自信はあるわ。多分」

時子「得意料理は?」

のあ「……おでんよ。母から教わった」

時子「あぁ……、貴女も人の子だったかしら。それにしても地味ね」

のあ「(じ、地味?)」

バタバタバタ

ガチャ




楓「み、み、みなさーーーん!!!!」



時子「来るや否や騒々しい」

のあ「お帰りなさい、楓」

楓「た、大変です! とと、とにかく……!」

のあ「何があったの?」

泰葉「??」

楓「わ、私っ! や、やりましたぁ!!」

楓「ランクが上がったんですよぉっ!!!」

のあ「(!!!!)」

泰葉「わぁ! おめでとうございます楓さん!」

時子「ふぅん。元々ランクは“G”で、じゃあ“F”かしら」

のあ「(まあ……、楓さんのほうが私より所属は早かったし、順当なのかな)」 ←Gランク







楓「それがっ……!!」

楓「“E”です!!!」

楓「い、一気に2ランクアップして……!! さ、さっきプロデューサーさんから呼び出されて、そのっ、わわ、私……!!!」









のあ「えっ……」


──────
────
──
74 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2020/03/30(月) 23:04:14.51 ID:pVyNxzTm0
──
────
──────
【続・岡崎宅】


泰葉「2ランクアップですか!?」

泰葉「相当珍しいですよ!! もしかして前代未聞かも」

のあ「(………)」

時子「へえ……、おめでとう」

楓「あ、ありがとうございます!」

時子「楓、リモコン取って」

楓「あっ、ハイ。う、うへへ……♪」

のあ「(………)」

泰葉「手に持っている袋は何ですか?」

楓「あっ、これはお菓子です」

時子「駄菓子じゃない。ポッキー、きのこの山、カントリーマアム……?」ゴソゴソ

楓「事務所でその場にいた子達が、おめでとうって、どんどん買って来てくれて……」

楓「いや、いやぁ、本当にそのっ、なんていうか……」

のあ「(………)」

泰葉「本当におめでとうございます、楓さん♪」

時子「良かったじゃない。仕事も増えるわね」ビリッ

楓「ば、バスチーが! た、食べたかったのに……!」

のあ「(………)」

75 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2020/03/30(月) 23:04:40.06 ID:pVyNxzTm0

泰葉「あっ」

泰葉「高峯さん、帰るんですか?」

時子「まだ何も食べてないのに、奇行ね」

泰葉「確かに珍しい。ご飯は欠かさず食べて帰るのに」

楓「の、のあさん?」

のあ「………」

のあ「………」

のあ「……腹痛よ」

泰葉「(嘘だ)」

楓「(嘘だ)」

時子「………」

楓「(………)」












━━━━━━1時間後━━━━━━
【居酒屋】


のあ「うぅ〜、ううぅ〜……!」

のあ「ぅあぁ〜! くやしい、くやしいよおっ……!」

のあ「おめでたい……、おめでたいのに、素直に喜べないぃ〜〜……!」

周子「(最近呼びだされるスパンせまなってるなぁ)」

周子「あっ、店員さん。鯛茶漬けください」

のあ「ぐすっ………うぅぅ〜〜っ……」


──────
────
──
76 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2020/03/30(月) 23:05:13.72 ID:pVyNxzTm0
──
────
──────
【続・居酒屋】


周子「ま」

周子「あたしは美味しい居酒屋ごはんが食べられるから、別に構わないんだけどね」モグモグ

のあ「ゔゔぅ゙っ……!」グビッ

周子「そんで? 楓さんが、えーっと?」

周子「妊娠したんだっけ?」

のあ「違う……。ランクが上がったの」

周子「あー」

のあ「………」

周子「あー、そやねえ」

周子「のあさんの方が、麗さんからの評価高いし、実はデビューもしてCDも出してるし、つい最近は四条貴音のバーターとしてバックダンサーもやったのにねえ」

のあ「そ、そう! そうなのっ!」

のあ「それに私の方がむ、む、胸もあるし!」

のあ「料理も出来るし! 寝起きもいいのに……!」

周子「(競う次元がかなり低い)」

周子「でもね、のあさん? 楓さんの方が所属は早いし、一応は楓さんも努力してきたわけだよね?」

周子「のあさんが周りと仲良くするために努力してるのと同じように。それが実を結んだんやね、楓さん」

のあ「た、確かに。楓さんの方が、なんか周囲から好かれているというか、色々と人脈が広そうな気もする」

周子「前職、モデルだったんだよね? まゆちゃんと悠貴ちゃんと以前は仲良くしてたって聞いたことがあるかも」

のあ「そ、そうなの?」
77 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:07:15.39 ID:pVyNxzTm0

のあ「………」

周子「案外、のあさんは楓さんの事を良く知らないかもしれないよ」

のあ「で、でもやっぱり悔しい……」

のあ「同じGランク仲間かと思ったのに、同じぼっち仲間かと思ったのに……」

周子「楓さんもそうだけど、のあさんも自分が思ってるよりはコミュ障でも陰キャでもないと思うよ」

のあ「うぅ、うううっ……」グスッ

のあ「か、楓さんなんて、楓さんなんて……」

のあ「いっつもコンビニ弁当かスーパーの惣菜ばっかり食べてて、部屋からはアルコールの臭いがぷんぷんするし」

のあ「“咲いたばかりの白い百合の香りを漂わせるような楚楚とした艶やかさ”……なんて雑誌で謳われてるけれど、本当に香るのは酒精の生温かい臭いなのに」

のあ「ブラジャーだって2日に1回しか替えてないっていうし、靴下はしまむらブランドでまさに見えないところにお金はかけないを地で行く人だし」

周子「」

のあ「免許だって、実は楓さん効果測定で何回か引っかかって、技能試験も1回落ちてたし」

のあ「スーパーの試食、私ですら5往復が普通なのに楓さんは7往復ぐらいしてたし。会計後に袋詰めする台にある透明な袋、めっちゃ持って帰るし」

のあ「泰葉ちゃんのネットフリックスとフールーのアカウント、未だに借りてるっていうし。いや、それは私もこっそり使っているんだけれども」

のあ「トイレの音姫、いっつも使ってないし。エレベーターに乗った時、いっつも階間違えるし、それでいっつも動いてる時に消そうとしてダブルクリックするし」

のあ「吉野家じゃなくてなか卯派だし。口臭ケアのタブレット、いっつもボリボリ噛んでるし。リップクリーム、いっつも食べてるし」

のあ「楓さんなんて、楓さんなんて……」













━━━━━━━その頃━━━━━━━
【岡崎家】


楓「は……、は……」

楓「はっくしゅん!! はっくしゅん!!!」

泰葉「風邪ですか? 夏なのに珍しい」

時子「夏風邪は馬鹿が引く、って言うわね」

楓「ふ、フフ……♪ きっと誰かが私のウワサをしているんですよ!」

泰葉「まぁ、そうかもしれませんね。ランクも上がりましたし」

時子「くしゃみ2回は陰口よ」

楓「………………………」


──────
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──
78 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:07:44.69 ID:pVyNxzTm0
──
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──────
【公園】


紗南「伝説レイドだーーっ!!」

美玲「(お、大声出すなッ! はずかしいぞッ!!)」

紗南「やっぱり実装初日だから、みんな集まるよねぇ♪ ぱっと見で、50人は越えてるよね」

美玲「(というか、ウチら以外はみんな大人だぞ………ポケモンGOユーザー層って平均年齢高いんだな……)」

紗南「今回はフリーザーだから、こおりタイプの弱点はほのおとかくとう、と………ホラ、美玲ちゃんもパーティ決めといて!」

美玲「んん〜……」

美玲「(……!!)」

美玲「(紗南! 紗南!!)」

紗南「うん? レイドパス?」

美玲「(ちがう。あそこ)」

紗南「……うん?」

美玲「(黒のキャップ被って、一心不乱に画面タップしてる、あの人)」

美玲「(帽子以外の服装は事務所の時と変わらない近未来チックなやつで、木陰でひっそり立ちながらプレイしてるあそこの女の人)」

紗南「わっ、高峯さんだっ!!」

紗南「高峯さんっ! 高峯さーん!!」

紗南「高峯さん! おつかれさまですっ♪」

のあ「………」

美玲「高峯さんもポケモンGOか? ウチも紗南に連れて来られてさあ」

のあ「………」

紗南「時限式で、期間限定で、伝説ポケモンで、マルチ協力必須ときたらもうやるしかないよね!」

のあ「………」

紗南「高峯さん? もしよかったらアタシらと一緒のグループでやりませんか?」

のあ「………」
79 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:08:25.63 ID:pVyNxzTm0

紗南「あの? 高峯さん??」

美玲「どうしたんだ? 体調でも悪いのか……?」

のあ「(………)」

のあ「………ヒ」

紗南&美玲「???」

のあ「人違い───」





美優「のあさん?」

真奈美「やあ! のあもここに来ていたのか!」

のあ「───グッ!?」





美優「だ、大丈夫ですか? 変装もせず……」

紗南「真奈美さん、美優さんも! おつかれさまですっ♪」

真奈美「おや、紗南。奇遇だね、美玲も」

美玲「二人も伝説レイドか? いや、ウォーキング……?」

真奈美「フフッ、ここに居る目的は君達と同じだよ。これから“奴”に取り掛かる所さ」

紗南「真奈美さん、かっこいいスポーツサングラスですね! 美優さんもGOプラ付けてて、本格的にやってるカンジで……!」

美優「最初は軽い気持ちで始めたんだけど、ウォーキングがてらにやっていると案外面白くてね?」

美玲「なぁ、紗南? あと30秒ってなってるけど、このままでいいのか??」

紗南「わ!? ままま待って入室早いよ美玲ちゃん!! アタシも準備するから、一旦待って!!」








のあ「」

のあ「(し、しまったわ……、美優さんと真奈美さんもポケモンGOやってるんだった……、完全に油断した……)」


──────
────
──
※第4作(番外編@)参照
80 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:09:16.55 ID:pVyNxzTm0
──
────
──────
【続・喫茶店】


のあ「(………)」

店員「こちらメロンソーダとレモネードになります」

美玲「あ、ハイ! こっちだぞ!」

紗南「いっただきまーす♪」

美優「それにしても、本当にばったり会いましたね」

真奈美「確かに。いつの日だったか、夕食の買い出しに足を運んだスーパーで出くわした事もあったな」

のあ「……ええ」

真奈美「一年近く前か、懐かしいね」

店員「こちら、アップルティーです」カチャ

店員「ミルクティーのお客様」

美優「はい」スッ

真奈美「それにしても美優の言った通り、些か無防備だったんじゃないか、のあ?」

真奈美「仮にもアイドルである君が、これといったカモフラージュもせずに堂々と闊歩するのは。つい最近、Aランクさながらの話題をさらったばかりだろう」

美優「(……!)」

のあ「いいえ、構わない。ランクなど……」

のあ「……ランクなど。真価を曇らせ覆い隠す、表層の虚飾にしか過ぎない、……過ぎないわ」

真奈美「ん?」

美優「(……??)」

のあ「紅茶、頂こうかしら」

紗南「ねえ高峯さん? それ、紅茶に付いて来たやつ、それさ、ルマンド?」

美玲「ああ、ブルボンのお菓子か?」

のあ「ええ。その通りよ」

のあ「上質で優しい香気の紅茶には、安い甘味が不思議と調和をもたらすの……」カチャ

美優「………」

真奈美「………」







美優&真奈美「(───!?)」

美優「(ま、真奈美さん!? 私のミルクティーのも同じですけど、シナモンスティックですよコレ!!!)」

真奈美「(そ、そうだな)」
81 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:09:59.57 ID:pVyNxzTm0

のあ「あむっ」

ガリッ! ばりっ、ばりっ!
ボリッ、ボリッ、ボリッ、ボリッ、ボリッ……


美優「」

真奈美「」

のあ「(硬っ……、そしてマズイわ、このルマンド。おまけに苦いしちょっと辛い)」ボリボリボリ

紗南「へえー。確かに『紅茶にはヤングドーナツですわー!』って桃華ちゃんが言ってたなぁ」

美玲「琴歌も“しみチョココーンスティック”が合うって言ってたぞ。よく分からない世界だな」

美優&真奈美「………………………………」

真奈美「(まさかシナモンスティックを食べる人間がいるとは思いもしなかったよ、美優)」

美優「(アレ、食べて大丈夫なんですか? 香りが付いた木の樹皮ですよね?)」

真奈美「(体を張ってからかっているのか、はたまた用途を知らなかったのか……)」

美優「(この間、緊張しすぎた瞳子さんがスティックシュガーとマドラーを間違えてコーヒー混ぜてましたけど、それに近い状態なんじゃあないですか?)」

美玲「なあ?」

美玲「美優さんのミルクティーにも同じの付いてるけど、残してるならウチが貰ってもいいか?」ヒョイ

美優&真奈美「(!?)」

美優「アッ! だ、だめっ!!」バッ!

美玲「わっ!? ご、ごめん………そんなに食べたかった?」

美優「あっ、びっくりさせてごめんね、美玲ちゃん。その、えっとぉ……」

美優「こ、こういう所のお茶請けってその、お酒が入ってたりするから、あの、………ッ」

のあ「………」ボリッ

美優「ッッ……!!!」


がじっ!
 ぼりっ、ぼりっ……


真奈美「………………………」

美優「ゥッ!!!! ……………ゔン、おいしィッ……!!」ボリボリ

美優「ヤ゙……、ウグッ……、やっぱリ、お酒がぁッ゙! ごほっ!? ゲホッ!!!」

真奈美「だ、大丈夫か!?」ガタッ!

紗南「へえぇ、てことはルマンドに似たお菓子かぁ。いいなあ、アタシも将来食べてみたいなあ」

美玲「うーん、他のテーブルの人も結構残してるカンジだぞ。あまり美味しくないのか??」

のあ「………」ボリボリ




※その夜、三船美優はしっかり体調を崩した
──────
────
──
82 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:10:37.55 ID:pVyNxzTm0
──
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──────
【事務所】


ちひろ「高峯さん、お疲れ様です」

のあ「(……!)」

のあ「ええ。貴女も」

ちひろ「丁度良かった、高峯さん? 実はアルバイトのお話があるんですけど」

のあ「……可能であるならば、若者とあまり接触しない内容であれば望ましいわ」

のあ「前回のナイトプールは……、少し私には不釣り合いだった」

ちひろ「!」

ちひろ「(彼女が日常の中で意思表示をするのは、本当に珍しい)」

ちひろ「(Pさんも言ってましたけど、寡黙の彼女であるからこそ尊重すべきですね)」

ちひろ「そうでしたか……。ご期待に沿えないようですみませんでした」

ちひろ「そういった要望があれば遠慮せず言ってくださいね?」

のあ「ええ、ありがとう」

ちひろ「今回の依頼者は、実は事務所の所属アイドルなんですよ」

ちひろ「もちろん、内輪だけで募集を掛けている、いわばボランティアに近いですね」

のあ「(へえ〜、そんなのもやってるんだ。芸能事務所って色々身内で支え合ってるところがあるんだなぁ)」

ちひろ「時期が被っている都合上、一人だけ選んでください。内容も当然、精査していいですけど」

ちひろ「新田美波ちゃん、速水奏ちゃん、小早川紗枝ちゃん」

のあ「(………)」

ちひろ「あと……」

ちひろ「三船美優さん」









━━━━━━翌日━━━━━━
【三船宅】


美優「まさか、バイトを受けてくれるのがのあさんだったなんて、最近はよく会いますね」

のあ「内容は?」

美優「はい。実は私が直接的な依頼をしたのではなく、友人の頼みでして」
83 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:11:17.63 ID:pVyNxzTm0

美優「本来は私が頼まれたんですけど、急な仕事の都合上どうしても最後まで面倒を見れなくて……」

のあ「明日から出張と聞いたわ、美優」

美優「沖縄の宮古島で、写真撮影をしてきます。前乗りですけど」

のあ「(う、羨ましい!)」

美優「お土産買ってきますね。それで、アルバイトの内容なんですが」




犬「グルルルルル……!!」




のあ「………」

のあ「美優」

のあ「貴女、前来た時には動物は飼っていなかったと認識していたのだけれども」

のあ「(しかも気性荒らそう。う、唸ってるし)」

美優「ええ、今回の依頼はこの子です」

のあ「えっ」

美優「この子は友人のペットですが、少しの間預かってくれと頼まれまして」

美優「のあさんには初めて話しますが、私、前に犬を飼っていたんです。それで私に白羽の矢が立ったようで、二つ返事で引き受けたのですが……」

のあ「止むを得ないわね。美優は……」

のあ「……貴女は、Dランクで多忙を極める身だから。貴女の憂いを断てれば幸いよ」

のあ「任せて」

美優「ありがとうございます。その、普段はこんなに唸ったりはしていないようなんですけど、今日はなんか機嫌が悪いみたいで……」

のあ「(不安だわ……)」

のあ「それで、彼の名前は?」







美優「……順一朗」






のあ「……え?」

のあ「じ、ジョン?」

美優「じゅ、順一朗です!」

のあ「順一朗……」

のあ「……マ、任せて美優」

のあ「貴女の息子、……順一朗は私が責任を持って預かるわ。貴女は後ろを振り返らずに自分の責務を全うして」

美優「わ、私の子供じゃなくて、友人のペットです! 本当にお任せしますからね……?」


☆つづく
──────
────
──
84 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:11:50.49 ID:pVyNxzTm0
──
────
──────
【三船宅】


〜〜〜〜〜〜回想〜〜〜〜〜〜

美優『期間は一泊二日で、今日は良ければ泊まって下さい。ウチにある物は何でも使って結構ですから』

美優『この子のご飯は朝晩2回、夕方ごろに外へ散歩もお願いします』

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


のあ「………」

のあ「あー……、美優さんのおうち、久々だなぁ。去年の秋、美優さんと真奈美さんと三人でお鍋をした以来だわ」

のあ「部屋中良い香り。私もアロマとか始めようかなぁ」スンスン

のあ「………」チラッ

順一朗「………」

のあ「めちゃくちゃ興味無さそう。もしかして舐められてる?」

順一朗「………」

のあ「……はぁ」

のあ「引き受けた以上、貴方の面倒は私がみるわ。よろしくね、順一朗?」

順一朗「ワンッ!!!」

のあ「ヒッ!!!」

のあ「ぐ、くっ………犬は怖いなぁ。猫と違って攻撃力高そうだし」

のあ「……お腹空いた。冷蔵庫でも物色しようかしら」
85 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:12:21.91 ID:pVyNxzTm0

〜〜〜〜〜〜1時間後〜〜〜〜〜〜


のあ「っ……!」モグモグ

のあ「やばっ! 冷食のアヒージョなんて初めて食べた!」

のあ「ん〜、おいしいっ! ニンニクとオリーブオイルの風味が効いてて、これにパンをひたひたに付けて食べたらもうすごいんだろうなぁ」モグモグ

のあ「冷食の進化って素晴らしいなぁ。このニチレイのチャーハンと餃子なんて普通に作るよりも完成度高いと思う」パクパク

のあ「最近コンビニでよくみかけるSAVASのドリンクも意外にイケるわ。飲むヨーグルトも貰っておこうかな」グビッ

のあ「そういえば冷蔵庫にサラダチキンが大量に置いてあった。あとで頂こうかしら」

のあ「あとは、何が入ってたかな? どれどれ??」ガサガサ

のあ「美優さん、冷食とかこういうの結構あるし、普段はあんまり時間ないのかな? でも食材の冷凍保存ストックもかなりあるわね」

のあ「小麦粉とかって冷蔵庫で保存する物なの? うわ〜、几帳面にフルーツとか野菜とか小分けにしてるし………こういうトコよね、やっぱり」

のあ「へえ〜、ふ〜ん……」ガサガサ

のあ「(なんか持って帰ろうかな……)」

のあ「私の冷蔵庫とは大違いだなぁ。といっても私の冷蔵庫、お金が無くて今は何にも入ってないけど」

のあ「ふふっ……、死にたくなってきたわ」

のあ「泰葉ちゃんの家の冷蔵庫は食材ばっかりだったなぁ。以前は料理の練習とか言ってたけど、あの頃より遥かに上達してきたわね」

のあ「楓さんの冷蔵庫は……、想像に難くないわね。ビールと酎ハイばっかり入ってそう」

のあ「あー……」

のあ「………………」

のあ「あっ。そろそろ散歩の時間ね、あの子の」

のあ「持ち物は美優さんが残してくれたメモに、ふむふむ……?」

のあ「この犬用ジャーキー数本と、リードと、袋と………、これくらいね」

のあ「………………」

のあ「このジャーキーって、私達も食べられるのかしら……」


☆つづく
──────
────
──
86 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:12:48.24 ID:pVyNxzTm0
──
────
──────
【三船宅・玄関】


のあ「………」

順一朗「ヘッ、ヘッ……!」

のあ「………」

のあ「このアパートを………2周くらいだけじゃダメ?」

順一朗「ガウッ!!!!」

のあ「ヒッ!!!! ………わ、分かったわ。ちゃんと行くから」

のあ「(くっ……、そっちの出方によっては餌抜きよ。せいぜい殊勝な態度でいる事ね)」

順一朗「ヘッ、ヘッ、ヘッ……!」

のあ「(緊張するなぁ。30分くらいでいいのかなぁ)」

のあ「(うちの事務所で犬飼ってる人って誰だろ)」

のあ「(優さんに、聖來さんは確か愛犬家って噂よね。雪美ちゃんは………、猫だったかしら?)」

のあ「はぁ〜、そろそろ行こう」

のあ「ほら、順一朗。ほら」スッ

順一朗「ヘッ、ヘッ、ヘッ、ヘッ……!」


ガチャッ




順一朗「バウッ!!!!!!!!!」






グイッ!!!!






のあ「ちょっ!!!!!!!!!?」


87 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:13:25.15 ID:pVyNxzTm0



順一朗「ヘッ! ヘッ! ヘッ! ヘッ! ヘッ!」



グイグイグイグイグイ!!!!!


のあ「おっ おっ お!?」

のあ「ちちちちょちょっ、ちょっとォォォ!!!!!!」



順一朗「ヘッ!! ヘッ!! ヘッ!! ヘッ!! ヘッ!! ヘッ!!」



のあ「強ッ!! ちょっ、まっ、まッッ……!!!!!」






するっ






のあ「 ァ゙ァ゙ッ 」






 ヘッ!! ヘッ! ヘッ、ヘ、………











のあ「………………………………………………………」

のあ「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

美優『わ、私の子供じゃなくて、友人のペットです! 本当にお任せしますからね……?』

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




のあ「じ」

のあ「じゅんいちろうーーーーーーッ!!!!!」


☆つづく
──────
────
──
88 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:15:35.78 ID:pVyNxzTm0
──
────
──────
【三船宅・アパート前】


のあ「あ、あぁ……」ペタン

のあ「ま、まずい………か、かくじつに……」

のあ「ど、どっかいっちゃった……、戻ってこない……」

のあ「み、み、美優さんの、お友達の、なのに……」

のあ「ま、ま、まさか、あんなに引っぱる力が、つ、強いなんて……、も、もっと注意しておけば……」

のあ「あ、あぁぁ………」

のあ「………………………………」

のあ「お、おお追いかけないと、だ、だめ……」

のあ「く、車にでも……!」

のあ「轢かれたら……」

のあ「取り返しが……………」

89 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:16:07.84 ID:pVyNxzTm0

のあ「………っ」

のあ「ぅっ……」ポロッ

のあ「な、なさ、情けないぃぃっ……!」ポロポロ

のあ「わ゙、わたじ、な、な゙んてことをぉ……!!」

のあ「ウッ、ウウウッ……!!」

のあ「順一朗……、じゅんいちろうぅぅっ……!!!」






























凛「………………………」






のあ「 ヴ ワ ァ ッ !!!!!!!!!!!」

凛「た、高峯さん?」

のあ「ヒッ!」

凛「や、そんなに怯えないでも」

のあ「ヒ、人違い、人違い……」

凛「いや、高峯さんでしょう?」

のあ「ご、ごめんなさい……」

凛「どうしたの? さっきからアスファルトに座り込んで」

のあ「あっ……」

のあ「み、見てた……?」

凛「う、ウン」

凛「『じゅんいちろうーーーーーーッ!!!!!』あたりから」

のあ「(終わった)」


☆つづく
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────
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90 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:16:40.48 ID:pVyNxzTm0
──
────
──────
【三船宅・アパート前】


凛「“順一朗”って、高峯さんの……」

のあ「そ、そうなの……、その、私……」

のあ「に、逃げられちゃって……」

凛「(うっ)」

凛「(この人がこんなに取り乱しているなんて、よっぽど大切な人なんだろな……)」

凛「(名前呼びってことは弟? いや、この様子だと、まさか恋人?)」

凛「(ともかく、とんでもなく複雑な状況に遭遇しちゃったカンジかな、私)」

凛「………」

凛「何があったかは分からないけど」

凛「手伝うよ。その人のこと、探してこよう」

のあ「う、ウン!」

のあ「……その、私、慣れてなくて」

のあ「は、初めてだったから、あの、すごい力が強くて……」

のあ「て、抵抗できなくて……」

凛「(………っ!?)」
91 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:19:16.97 ID:pVyNxzTm0

凛「そ、その………えっと………」

凛「(落ち着いて私!! これは興味本位じゃないけど、でもっ……!)」

凛「あー………乱暴なことをされたの?」

のあ「乱暴はされてないけど、その、いえ、でも首輪と紐は、指示通りだし……」

凛「首輪と紐!? もしかしてその人が付けてるの!?」

のあ「そ、そう……」

凛「(こ、これ以上は聞かないほうがお互いのためな気がする。ディープすぎて気になるけど、クールに、クールに……)」

凛「ウン。とにかく事情はさておき、早く追いかけよう」

凛「この業界じゃあ、プライベートの流出は一大事だから」

のあ「あ、ありがとう……」

凛「いいよ。同じ事務所の仲間同士、支え合わないとね」

のあ「………」

凛「電話してみる? それか、思い当たる行き先でもある?」

凛「なにか手がかりでもあれば……」

のあ「こ、これ、使えない?」

凛「何?」

のあ「これ」スッ

凛「えっ、何コレ」









〜〜〜〜〜〜〜数分後〜〜〜〜〜〜〜









凛「ほーら、ジャーキー! ジャーキーー!!!」

順一朗「ワンッ!! ワンッ!!!」

のあ「じゅ、順一朗!!」

のあ「良かった、戻ってきて……っ」

凛「(い、犬の事か……。変な想像しちゃって馬鹿みたい)」

凛「……犬ってさ、リード離しても割とそんなに遠くに行かないもんなんだよ。逃げるよりも近くの電柱とか塀のニオイ嗅ぐのに必死でね」

凛「それで、自分が普段食べてるおやつの名前とかで呼び掛けると、すっごい反応するんだ」

凛「私のハナコも離れちゃった時、この方法ですぐに戻ってきたなぁ」

のあ「本当に良かった………美優さんの順一朗にもしものことがあったら、彼女になんて言ったらよかったか……」

凛「(美優さんの犬、順一朗って名前なんだ……)」

凛「(へ、へえぇ。美優さんの方が色々と闇が深そう……)」


☆つづく
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92 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:19:42.99 ID:pVyNxzTm0
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【公園】


凛「可愛いゴールデンレトリバーだね、この子」

のあ「ゴールデン?」

凛「犬種だよ。ちなみにウチのハナコはヨークシャーテリアとミニチュアダックスのミックス」

のあ「へえ……」

凛「好奇心旺盛な子だ、この………順一郎は」

のあ「凛ちゃん」

凛「うん?」

のあ「今日は本当に助かった………ありがとう」

凛「いいえ、どういたしまして」

凛「フフッ。今日……、初めて本当の貴女に会った気がするよ、私」

凛「勿論、みんなには言わないから、安心して?」

のあ「……ええ」

凛「私も謝らなきゃいけないかな」

のあ「えっ?」

凛「寡黙な女王のキャラと、その感情が読み取れない見た目でさ。事務所のみんな、貴方の事を怖がってる」

凛「“ロボット”って揶揄したり、“宇宙の統率意識”っておかしく笑ってる子もいるよ」

凛「貴女は貴女で、色々と悩んでるかもしれないのにね」

のあ「凛ちゃん……」

凛「私も高峯さんの事、ターミネーターかETだと思ってたし」

のあ「凛ちゃん……?」

93 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:20:28.99 ID:pVyNxzTm0

凛「でもそれは貴女の事を知らないから……、怖いから無意識に距離を置いているんだと思う」

凛「今日から、仲良く出来たら嬉しいかな?」

のあ「ええ、私も是非」

凛「高峯さんさ、前にLIVEバトルの時、私に言ったよね?」

凛「『貴女達3人は私と違う。共に支えあい、笑いあい、協力できる仲間がいる』って」

のあ「………」

凛「その、上手く言えないけど………キャラ作りって言うのかな。自分を偽って過ごすのは大変だと思う。でも」

凛「貴女も一人じゃないよ」

凛「頼ってくれるなら、周りは全力で応えてくれるから」

のあ「……ええ」

のあ「じ、じゃあ早速お願いしたいんだけど」

凛「うん、何?」

のあ「犬の事、良く知らないから、明日までお世話できるか分からないの」

のあ「美優さんには申し訳ないけど、その、今日一日付き合ってくれないかな?」

凛「ん、んー……」

凛「門限までならいいケド、それ以降は……」

のあ「うっ……」

凛「あ、そうだ! 優さんと聖來さんに連絡してみようか。今日予定が付くかどうか」

凛「知ってると思うけど、二人も犬飼ってるから、色々と助けてくれるはずだよ」

凛「美優さんの家って、さっきのアパート? 高そうなとこだったね、じゃあ早速色々と買い出し行こうか」

凛「ほら、行くよ。順一郎」

順一朗「ワンッ!」

のあ「………♪」

















━━━━━━━━後日━━━━━━━━
【事務所】


早苗「ねえ、美優ちゃん。その、野暮な事かと思うけど、一つ聞いてイイ?」

美優「はい、なんでしょう?」

早苗「最近事務所でウワサなんだけど、その……」

美優「ウワサ……?」


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94 :☆1/1 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:21:45.84 ID:pVyNxzTm0
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★三船美優のウワサ★
http://i.imgur.com/hlzI7O6.png



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95 :☆1/5 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:22:29.84 ID:pVyNxzTm0
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【岡崎宅】


泰葉「あ。いらっしゃい、高峯さん」

のあ「息災かしら」

泰葉「はい。5日ぶりですね」

のあ「今日の献立は何かしら」

泰葉「そうめんです。温玉と、豚ひき肉と、ねぎとごま油を使った台湾風の」

のあ「頂くわ。問題ないかしら」

泰葉「いつも4人分作っていたので、むしろ最近来ない方が困りましたよ」

泰葉「時子さんも来てますから」

のあ「ええ」

のあ「……楓は?」

泰葉「今日は………まだ来てないですね」

のあ「……そう」

96 :☆2/5 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:22:56.46 ID:pVyNxzTm0

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泰葉「どうですか? 台湾風そうめん」

時子「……台湾風」

泰葉「はい。このまえ千鶴ちゃんとプロデューサーと一緒に新宿のお店に行ったんですよ、仕事終わりに」

泰葉「台湾ラーメン。美味しかったんで、そうめんでも応用できないかなぁって」

時子「下の下ね。辛味が足りない」

泰葉「は、はぁ……」

時子「唐辛子と、ねぎではなくニラを入れるべきね。ニンニクも隠し味として欲しいところかしら」

泰葉「隠し味………ニンニクは主張が激しいと思うんですけど……」

時子「うるさい」

泰葉「時子さん、名古屋の出身でしたっけ」

泰葉「よく召し上がっていたんですか? 台湾ラーメン、確か発祥でしたよね」

時子「あんな低俗なB級グルメ、耳にするのも不快だわ」

のあ「………」

泰葉「高峯さん? 一口も食べてませんが、辛いのは嫌いでした?」

のあ「いいえ……」

時子「今回のは箸を付けるのも憚られる程の駄作と、嫌なら早く言いなさいな」

泰葉「じ、次回はちゃんとレシピを参考にしますよ!」

のあ「今日……」

のあ「楓は来るのかしら」

時子「まさか、まだ下らない劣等感にでも苛まれているのかしら? 貴女」

泰葉「と、時子さん!」
97 :☆3/5 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:23:32.06 ID:pVyNxzTm0

時子「上に行けば行くほど、本人にしかわからない悩み・苦痛が立ちふさがるわ」

時子「それを知らない訳では無いでしょう。元子役」

泰葉「そ、それは……」

のあ「悔しさを感じていないと言えば嘘になるけれど、それでも私は、素直に応援したい」

のあ「彼女に寄り添えるのは、私なのだから」



───貴女も一人じゃないよ

───頼ってくれるなら、周りは全力で応えてくれるから



のあ「………」

泰葉「Eランクからは、仕事の量が一気に増えてきます」

泰葉「楓さんは飄々としてますけど、それでも不安な事が増えてくるはずです」

泰葉「高峯さんの言うとおり、誰かが、どこかが、心と体の拠り所として必ず必要になってくる」

泰葉「私達がそうなってあげられると良いんですが……」

時子「……ハァ」

時子「辛気臭い。場末の廃墟でもまだ落ち着くわ」

時子「泰葉。楓は貴女と違って表と裏を使い分ける演技力もないだろうけれど、それほどストレスを溜めこむ性格とも思えないわ」

泰葉「私もそんな演技力なんて大層な物はないですよ。この業界の経験が少しばかり人より長いだけですから」

時子「あら、そうかしら」

時子「ここが火事になった際、駆けつけた貴女の目に光る涙はまさに迫真だったわよ」

泰葉「あれはもう本当に、二人には懲りて貰おうと思って………」

時子「………」

のあ「………」

泰葉「………」


















のあ「ソ、そうなの……?」

泰葉「ちちち違いますよ!!?? ほ、本当に心配したんですからあの時は!!!!!」

───ピンポーン!


泰葉「あ! あ!! 楓さんですよホラ!!!」ガタッ

のあ「泰葉、私はもう少し貴女の話が聞きたい」

98 :☆4/5 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:24:20.31 ID:pVyNxzTm0

ガチャッ!


楓「お邪魔しまーす♪ わぁ、ごま油の香ばしいニオイ!」

泰葉「お疲れさまです。ご飯食べますか?」

楓「ええ、モチロン! それより知ってますか泰葉ちゃん!」

楓「カフェでよくコーヒーと一緒についてくるルマンドみたいな棒、あれってシナモンスティックって言うんですよ」

楓「私、今までずっとお菓子だと思って齧ってたんですよねぇ。苦くて一口しか食べてなかったんですけど、今日初めて瑞樹さんに指摘されて、もう恥ずかしくって恥ずかしくって───……!」

のあ「……楓」

楓「───あっ!」

のあ「………」

のあ「……この間、言いそびれた事があるの」

のあ「Eランク昇格、おめでとう」

のあ「自分の事のように、本当に誇らしい。これから新しい舞台に羽ばたく貴女に幸運がある事を祈るわ」

楓「……!」

泰葉&時子「(………)」

楓「あ───」

楓「ありがとうございますっ♪」

のあ「……フッ」

楓「ふふっ♪ あー、お腹空いた、今日のご飯は何ですか??」

泰葉「楓さん、今日は台湾風そうめんですよ」

楓「あー! 台湾風って、名古屋のアレですね! よく居酒屋で見かけますけど、実はあんまり好きじゃないんですよ」

泰葉「えっ、そうなんです??」

時子「………」ピクッ
99 :☆5/5 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:25:06.33 ID:pVyNxzTm0

泰葉「じゃあ具を抜いて、普通のそうめんにしますか?」

楓「はい! お願いします!」

楓「名古屋の名物って、何か変なのばかりですよねぇ。台湾ラーメンも、小倉トーストとかあんスパとか天むすとか、高カロリー+高カロリーで胸焼けのオンパレードですし!」

楓「濃い味で誤魔化しておけば何とかなるオーラがむんむんなんですよねぇ、名古屋! 味噌やら胡椒やら唐辛子やら!!」

のあ&泰葉「(………)」

楓「安っぽいというかファミレスメニューというか、もうB級の中のB級ってカンジで、愛知県民の民度の底が知れるというかお里が知れるというか、『いやあれだけ偉そうな事いっておいてB級とか戸愚呂じゃ───


ガシィッ!!!



楓「ヴッ!!?」

時子「へえ……、流石はEランク。随分と口が回るようになったわね」

時子「上を目指すには、Bランクの味もたぁんと堪能しておくべきだと思うわ。辛(から)く、険しい道のりを往く楓には私からの餞別よ」

楓「えっ、えっ、えっ!?」

時子「泰葉。私が追加で味付けするから、貴女は休んでなさいな」

泰葉「はい。分かりました」

楓「えっ!? と、とと時子ちゃん!? ななな何でそんなに不機嫌なんですか!? 怖いですよ!!!」

楓「あっ!? まま、まさか時子ちゃん、名古屋って……!? あっ、違うんです違うんです誤解です!!!!」

楓「名古屋を馬鹿にしたつもりは無くて、その、台湾ラーメンだけに他意は────………




泰葉「高峯さん、どうですか? 台湾風そうめん」

のあ「確かに、少し辛さが欲しいかしら。魂を揺るがす程の刺激が」

泰葉「う〜ん、輪切り唐辛子は入れたんですけどね。豆板醤とかラー油とかかなぁ?」

のあ「……でも、刺激が無くとも、それはそれで求める人がいるはず」

のあ「この落ち着いた優しい味付けも、私は好きよ」

泰葉「ありがとうございます。さて、私も食べようかな」



おわり
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100 : ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2020/03/30(月) 23:26:40.67 ID:pVyNxzTm0
以上です、ありがとうございました。
次の次で最終回の予定です。また次回。HTML依頼出しておきます。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/03/30(月) 23:39:40.62 ID:4V+M5Hs20
乙!!今回も楽しかった
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/31(火) 02:56:03.34 ID:kbdomnyf0
乙乙
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/31(火) 11:53:21.06 ID:nYJhBByDO
ラスト。今回ばかりはとっきーの肩を持ちたい by名古屋生まれ
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/31(火) 22:25:01.62 ID:E3jvbyTLo
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/02(木) 00:14:37.84 ID:4CzwmLk1o
乙!
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/10(金) 16:05:42.40 ID:sfJoZIqJo
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/04/13(月) 05:27:00.43 ID:97J30xCPo
来てたのか乙
最終回…ウソダドンドコド-ン!
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