【一部キャラ安価コンマ】村長「勇者よ、必ずや優勝して参れ」勇者「へいへーい」

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239 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/18(木) 23:59:26.83 ID:d2dAFaLW0
ーーー翌日 宿近く 無人の野原ーーー

勇者「……」(ジッと黙祷)

勇者「……」

アッシュ「エントリー済ませて参りましたよ」ザッザッ

アッシュ「どうですか?少しずつ分かるようになってきましたか?」

勇者「…アッシュ先生、確か俺っちに稽古をつけてくれるんだよな」

アッシュ「えぇ」

勇者「これは、なんなんでしょうか」

アッシュ「礼儀を知る修行です。これも歴としたお稽古ですよ」

アッシュ「勇者様は少々お相手に対する敬意を忘れがちですからね」

勇者「んなこと言われたって、敬意なんてどう意識しろってんだ…」

アッシュ「だからこその修行です。これを機に他者を敬う気持ちを覚えましょう」ニコッ

アッシュ「礼儀を知ることで、より相手が鮮明に見えてくるのですよ」

勇者「…頑張ります」

魔法使い「ここにいたのね」

魔法使い「アッシュさん、私たち賢者様が教えてくれた場所に行ってくるわ」

アッシュ「テイシロ様の、ですね?」

魔法使い「そう」

アッシュ「どうぞお気を付けて。我々はここにおりますので何かあればいらしてください」

勇者「……」ジッ

魔法使い「……」

魔法使い「ん、分かった」




240 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:00:19.59 ID:74TzIOeD0
ーーー王都 郊外ーーー

魔法使い「地図だとこの辺のはずよね」テクテク

リア「似たお家が多いので注意しないといけませんね…」テクテク

テイシロ「……」

リア「シロー?」

テイシロ「あ、ごめん」タッタッ

魔法使い「……怖い?」

テイシロ「…怖くない」

テイシロ「って言ったら嘘だけど、それで怖気付いちゃうくらいならここまで来てないよ」

魔法使い「もっともね」

リア「魔法使いさん、ここじゃないですか?」

(一戸の民家)

魔法使い「間違いなさそうね。周りもこの地図通り」

テイシロ「……」

コンコン

魔法使い「ごめんください」

テイシロ「………」

リア「大丈夫」

テイシロ「うん…」
241 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:00:56.79 ID:74TzIOeD0



カチャ...



初老の女性「…どちら様?」

魔法使い「いきなりごめんなさい。どうしてもお聞きしたいことがあって来ました」

魔法使い「テイシロ、という男の子を知ってますか?」

初老の女性「テイシロ?いいえ、知らないわ」

魔法使い「この子が貰った名前です」

魔法使い「この子、小さい頃からずっと孤児院で育ってきたらしいんです。自分を産んでくれたお母さんの名前も知らずに。それでご両親のことを探して旅をしている最中なんです」

初老の女性「孤児院…?」

テイシロ「……っ」

初老の女性「!」

初老の女性「あなた、もう少しお顔を上げてくれるかしら…?」

テイシロ「ん」

初老の女性「……その孤児院には、恰幅のいい神父さんが居て、花の綺麗な丘があった?」

テイシロ「!…はい」

初老の女性「そう、やっぱり…」

初老の女性「ここじゃなんだから、上がっておゆきなさい」




242 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:01:38.83 ID:74TzIOeD0
ーーーーーーー

勇者「……」ジッ

アッシュ「……」

勇者「……」ジッ...

アッシュ「……」

勇者「………んあー!」

アッシュ「勇者様」

勇者「これ本当に意味あるんか!?座って考え事してるだけじゃ!?」

アッシュ「強くなりたいのでしょう?」

勇者「そうだけど…!」

アッシュ「とはいえ、無理強いはしません」

アッシュ「勇者様が無駄と感じられるのでしたら、体術か剣術の鍛錬に移ってもよろしいですよ」

勇者「……」

勇者「いや、やる」

勇者「俺っちが強くなるために必要なんだよな?だったらやる」

アッシュ「…ふふ、合格です。では体術の鍛錬から行いましょうか」

勇者「はい?」

アッシュ「試すような真似をしてしまい申し訳ありません」

アッシュ「今、貴方は私を信じ、託してくれましたね。自らだけでなく相手も思考に組み込む。それが礼儀の原点と言えるでしょう」

アッシュ「そのお気持ち、お忘れなきよう」ニコッ

勇者(こ、こんなんでよかったのか…?)

アッシュ「さぁ何してるのです?早く始めますよ。時間は極めて少ないのですから」

勇者「…おう!」




243 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:02:53.42 ID:74TzIOeD0
ーーーーーーー

初老の女性「粗茶くらいしか出せなくてごめんね」

魔法使い「いえ」

初老の女性「よっこいしょ。…どこから話したものかしらね」

テイシロ「……」

初老の女性「結論から言うと、あなたの父親は生きているし、母親はどこに居るかも分からないの」

リア「お父様は生きているんですね…!」

初老の女性「けど、あなたのことは知らない」

テイシロ「え…」

初老の女性「10年以上前のことよ」

初老の女性「あなたの母親はとある貴族の男性と恋をしたの。平民の女が貴族の殿方と許可無く交際することは禁じられてる上に、相手は婚約も決まっている身でね。それでも二人は強く惹かれ合って、何度も逢瀬を重ねたんだって」

初老の女性「でも、貴族様の行動を怪しんだ婚約者に見つかってしまい一転、彼女は追われる身となった。そうして逃げる折、私のところに転がり込んで来たのよ」

魔法使い「お知り合いだったんですよね?」

初老の女性「そうね。昔からの付き合いだった。けど私が事情を知ったのはその時が初めてで……あれだけ泣きじゃくって謝る姿を見るのも初めてだったわ」

リア「ご友人も危険に晒してしまうから…」

初老の女性「それもあったかもしれないねぇ」

初老の女性「彼女は、自分が抱えた赤ちゃんに謝っていたのよ」

テイシロ「――っ」

魔法使い「それが…」

初老の女性「……」コクリ

初老の女性「聞けば一人でお産をしたっていうじゃないの。誰にも知られるわけにいかないからって」

初老の女性「そして彼女はこう言った」
244 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:03:32.07 ID:74TzIOeD0



ーーーーー

「お願い…!この子を西国の孤児院へ預けて欲しいの…!私といるとこの先絶対に幸せにはなれないから…」

「ごめん、ごめんね…!身勝手な母でごめんねっ…!」

ーーーーー



初老の女性「その際、誰の子かを一切伏せて…とね」

初老の女性「だからあなたのことを知っているのは、あなたの母親と私だけ。父である貴族様も知らない」

テイシロ「……」

初老の女性「その綺麗な白い髪は、母方譲りなのよ」

初老の女性「彼女が今どこに居るのか、逃げ続けているのかそれとも……あれから連絡はないわ」

リア「…貴族様にお会いするのは…」

初老の女性「やめた方がいい。ただじゃ済まないよ」

魔法使い「ですよね…」

初老の女性「あなたはあなたで、幸せになる道を見つけてあげなさいな」

テイシロ「……はい」

初老の女性「それにしても、今はそうすると…12歳!」

初老の女性「とっても大きくなったわねぇ」ニコ...




245 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:04:37.24 ID:74TzIOeD0
ーーー帰り道ーーー

テイシロ「……」

リア「……」ソワ...

魔法使い「……」

リア(シロー…)

リア(ちゃんと事実を知ることが出来たのに、分かったのはシローがひとりぼっちになっちゃうってことだけ…)

リア「……」グッ..,

テイシロ「よし、決めたっ」

魔法使い・リア「「!」」

テイシロ「僕、大きくなって、誰かを守れるくらい強くなったら母さんを探しに行く」

テイシロ「大切な人を守れるんだぞって、母さんを安心させに行くんだ!」

魔法使い「きっと喜んでくれるわよ」

テイシロ「僕になんて名付けようとしたのかも聞きたいしな」ヘヘッ

テイシロ「魔法使いさん、リア、ここまでしてくれて本当にありがとう。自分の生まれを知れたこと、僕後悔してないから」

リア「…うん!どういたしまして」

テイシロ「神父様が心配してるだろうから、明日には帰ろうと思う」

テイシロ「だからさ、その……」

テイシロ「…リア!」

リア「ん?」

(着ていたローブを脱ぐ)

テイシロ「これ!預かっててくれ!」

テイシロ「僕が強くなって……守れるようになったら、取りに来るから」

リア「え、え…?でも、これ神父さんからもらったものじゃないの…?」

テイシロ「い、いいんだ!僕なりの決意だから!」

魔法使い(まあ…大胆ね。これ、ほとんど告白じゃないの)フフ

リア「……分かった」

リア「待ってるね」ニコリ




246 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:05:03.14 ID:74TzIOeD0
ーーー宿ーーー

魔法使い「もう真っ暗…思ったより遠かったのね」

...グゥ

テイシロ「……//」

リア「お腹、空いちゃったね」

テイシロ「うぅ…」

魔法使い「ふふっ、夕食にしましょうか」

魔法使い(アッシュさんと勇者がまだいないけど)

魔法使い(……)

魔法使い(稽古、なのよね)




247 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:05:30.46 ID:74TzIOeD0
ーーー特訓2日目 大会まであと13日ーーー

勇者「」ヒュッ、ビュオ

アッシュ「まだまだ遅いです!余計な場所に目を向けない!」

アッシュ「速く速く!」

勇者「せあっ!!」ギュン!

アッシュ「そうです!」

...ザッザッ

テイシロ「…す、すごい」

勇者「」ダダンッ

テイシロ(僕もあれくらい強くなれるかな)

テイシロ「あのさ、取り込み中に悪い。僕これから西国に帰るよ」

アッシュ「お一人で平気ですか?」

テイシロ「うん。賢者様のこと、感謝してる」

アッシュ「はいお元気で。またどこかでお会いしましょう」ニコッ

アッシュ「ほらまた!目線が泳いでますよ!」




248 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:06:10.82 ID:74TzIOeD0
ーーー特訓4日目 大会まであと11日ーーー

アッシュ「――よし、いいでしょう。5分間の休憩にします」

勇者「ゼェ……ゼェ……」

勇者「5分…ゼェ…せめて、10で……!」

アッシュ「なりません」

アッシュ「休憩後はまた剣術です。勇者様の強みである体術と剣。どちらも満遍なく伸ばしていきましょう」

勇者「ひーっ…りょーかい…」

勇者「こりゃ…ハァ、ぜってー優勝して…美女ちゃんに癒してもらわんと…!」

アッシュ「おや、当てがあるのですか?」

勇者「賞品だよ賞品、大会のさ」

アッシュ「そのようなものはありませんが」

勇者「………なぬぃっ!?」



.........




249 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:07:12.58 ID:74TzIOeD0
ーーー特訓9日目 大会まであと6日ーーー

レラ「や。来ちゃった」

アッシュ「レラ様。貴女様が外へ出られるとは些か珍しいですね」

レラ「人を引き籠もり扱いしないで頂戴な」

レラ「んー?」

勇者「」ヒュッヒュッ!

ズアッ!

レラ「ほぉ。意外と様になってるじゃないか」

アッシュ「やはり驚異的なのです、彼の伸びは。たった数日でここまでものにしてしまうのですから」

レラ「……」ニィ



ザッザッザッ



レラ「元気そうね、坊や」

勇者「あっ、賢者のお姉さん!」

レラ「えらい量の汗だ。ちゃんと風呂は入りなよ?」

勇者「水浴びときゃ平気さ。ちっと汗くさい方が男っぽかったりしねーか?」ハハッ

レラ「くふ、嫌いじゃないさね」

レラ「なぁあたしと手合わせしてみないかい?」

勇者「お姉さんと?」

アッシュ「いいかもしれませんね。レラ様は私よりも剣の腕は上。姫騎士様と戦うことを考えれば願ってもない申し出です」

勇者「だけどよ、俺っちあんな魔法使われたら対処できっかどうか…」

レラ「魔法は使わない。正々堂々剣だけの交わし合いさ」

レラ「アシュ坊、それ借りるよ」

アッシュ「どうぞ」(木剣を渡す)
250 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:07:41.62 ID:74TzIOeD0

勇者「ま、マジすか」

レラ「どれどれ」ザッ

タユン

勇者(やべ、集中できっかな…)チラ

レラ「よそ見してたら伸しちまうよ?」スッ

勇者「!」

ガン!

勇者(重っ!今の動きからこの衝撃っ!?)

勇者(俺っちだって…!)

勇者「」ヒュッ

レラ「ほれ」ガンッ

勇者「ふっ!」ヒュンッ

レラ「ここ」ガンッ

勇者(もらった!)

ギュン――

レラ「」クルン

勇者(!?)

バシィ!

勇者「ぎゃっ!」

レラ「はい一本」

アッシュ「剣も変わらず、衰えていませんね」

勇者「っつー…なんだよ今の」

レラ「なかなか華麗だったろう」

勇者「どんな腕の使い方してんだ…」

勇者(…けど、見えない動きじゃなかった)

勇者「お姉さんもっかい頼む!」

レラ「くふっ、次は受け止めてくれよ?」



.........




251 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:08:20.17 ID:74TzIOeD0

ザンッ!

勇者「ぐはっ」

ドサッ

勇者「うぅ…ちくしょー…」

レラ「そろそろ一息入れようかね」

勇者「問題ねー!俺っちまだまだやれんさ!」

レラ「あたしが休みたいのよ」

レラ「ねぇ、水持ってきて頂戴」

アッシュ「はい、ただいま」

タッタッタッ...

勇者「水ぅ…助かる…!」

勇者「でもさ、お姉さんなら魔法で水くらい出せんじゃないの?」

レラ「!」

レラ「くくっ、鋭いね」

レラ「坊やお伽噺は好きかい?」

勇者「おとぎ話?」

レラ「そうさ」

レラ「昔々、とある国に一人のお姫様がいました」

レラ「小さな国のお姫様は王様にとても愛されて育ち、お姫様もまた、そんな王様のことが大好きでした」

レラ「ある日王様はお姫様の"力"に気付きました。その"力"は人々の胸を打ち、国に幸福をもたらす特別なもの」

レラ「そうしてお姫様の"力"で、国はみるみるうちに大きくなっていきました」

レラ「今日も王様はお姫様を頼りに、お姫様は大好きな王様の求めに応えるため"力"を使い続けます」

レラ「めでたしめでたし」
252 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:08:52.90 ID:74TzIOeD0

勇者「え、終わり?」

レラ「終わり」

勇者「なんてーか…雑っ」

勇者「まさかお姉さんのことだったり」

レラ「それこそまさかだよ」

勇者「ふーん…」

勇者「なんか楽しくなさそうだな、そのお姫様」

レラ「……」

勇者「あー、まぁ、本人たちが幸せならそれでいいんかなー」

レラ「フッ、そうさね」

勇者「お姉さんは大会出ないん?」

レラ「あたしは出ないよ」

勇者(軽く優勝しちゃいそうなのになぁ)

勇者(ぶっちゃけ勝てる気がしない。…今はまだ)

レラ「出たくても出れないしね」

勇者「?」

アッシュ「お待たせ致しました」

勇者「おっ!サンキュ先生!」

勇者「んく、んくっ」

アッシュ「飲み過ぎてお腹を重くしないように」

レラ「じゃ、それ飲んだら再開だ」




253 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:09:25.27 ID:74TzIOeD0
ーーー夕方ーーー

魔法使い「アッシュさんお疲れ様。これ、差し入れ持ってきたの」

アッシュ「これはこれは。わざわざありがとうございます」

勇者「ぐー……すー……」

魔法使い「寝てる…」

アッシュ「仮眠中なのです。今日は特に激しいメニューでしたから」

勇者「ぐがー……」

魔法使い「何も土の上で寝ることないのにね」

魔法使い「どうなんですか、勇者は。強くなってます?」

アッシュ「驚くべき速度で成長しています。1教えれば3か4程を出来るようになるのです」

アッシュ「大会の優勝もいよいよ現実味を帯びて参りましたよ」

魔法使い「…そうなんだ」

勇者「むにゃむにゃ……」

魔法使い「………」




254 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:09:52.71 ID:74TzIOeD0
ーーー特訓14日目 大会前日ーーー

勇者「」スササッ

クルッ ブォン!

アッシュ「お見事です」

勇者「ふ〜。お姉さんの技、使ってみると結構おもしれーなー」

アッシュ「技に頼り過ぎないようにするのですよ」

勇者「オーケーオーケー。心得てるぜ先生」

アッシュ「よいでしょう」

アッシュ「さて、これにてお稽古は終了に致します。もう前日ですからね、怪我や疲れを残さないよう過ごすのが最後の鍛錬です」

勇者「…いいんか?俺っち、これで勝てる?」

アッシュ「勝てます」

アッシュ「と言いたいところですが、それは貴方次第ですね」

アッシュ「勝つと思えば勝てるかもしれません。負けると思えば負けてしまうでしょう」

勇者「………」

勇者「負けるわけないっしょ!俺っち、最強なんだかんさ!」

アッシュ「では、勝つしかありませんね」

勇者「だからもうちっとだけ自主練してく」

アッシュ「無理は禁物ですよ」

勇者「うぃっす」

アッシュ(…久々に、あそこへ行ってみましょうか)




255 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:10:34.67 ID:74TzIOeD0
ーーー小さな池のほとりーーー

アッシュ「……」

アッシュ(変わってしまいましたね、ここは)

アッシュ(あの頃はもっと広く見えたものです)

アッシュ「…いえ、変わったのは私の方ですか」フッ



...ザッザッ



侍女「……」

アッシュ「…!」

アッシュ「懐かしいですね。貴女とここに居ると、昔を思い出しますよ」

侍女「…何故戻ってきたのです?」

侍女「言ったはずです。貴方では姫騎士様を救えないと」

アッシュ「旅先で捕らえた盗人を届けにきただけですよ」

侍女「受付所で貴方の姿を見たという者がいます」

アッシュ「そのついでに、英雄を育てていました」

侍女「英雄…?」

アッシュ「えぇ。最強の、ね」

侍女「……っ」

侍女「それが姫騎士様を救うと?」

アッシュ「さて。彼はただ、勝ちたいだけのようですから」

アッシュ「結果として救われる者なら、いるかもしれませんがね」ニコッ
256 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:11:11.02 ID:74TzIOeD0

侍女「貴方は……そこまで愚かだったのですか」

侍女「生半可な手出しでは傷を負うだけです。その者も、姫騎士様も」

侍女「手を引きなさい」

アッシュ「引きませんよ」

侍女「……」

アッシュ「……」

侍女「…姫騎士様は、この国の英雄です」

侍女「かつて小さく発言権もなかったこの国を、闘技の実力だけでここまで押し上げたお方」

侍女「民衆と、何より国王様の多大なご期待を背負って日々必勝の闘技に明け暮れる…」

侍女「…何故、こうなってしまったのですか…」

アッシュ「……」

侍女「彼女に剣の才能があったから…?彼女が国王様のことを誰より好いているから…?」

侍女「今の姫騎士様は国によって作り上げられた偶像であるというのに、当のご自身が、それを受け入れ続けている…」

侍女「私はもうあのお姿を見ているのが辛い……この手で助け出すことが出来ないのが、悔しい…!」グッ...

アッシュ「………」
257 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:11:52.00 ID:74TzIOeD0

アッシュ「子供の頃、この池の周りで三人、よく遊んでいました」



ーーーーー

「姫ちゃん!向こうにきれいなお花があったよ!」

「ほんとか!アッシュー!見に行くぞー!」

「今行くー」

ーーーーー



アッシュ「姫騎士様は誰より、花が好きでしたね」

アッシュ「そしてそれを知る国民は一人もいないのでしょう」

侍女「……」

アッシュ「催事で娯楽街へ繰り出した時は、密かに遊技場を見学に行く計画も立てましたね。結局頓挫してしまいましたが」フフ

侍女「………」

アッシュ「私は彼を信じています。彼の強さを知っています」

アッシュ「明日の優勝者はきっと、前大会と違う方になる」




258 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:12:42.75 ID:74TzIOeD0
ーーー夜 宿 アッシュの部屋ーーー

アッシュ(正直なところを言えば、確率はまだ五分よりも低い)

アッシュ(ですが私に出来ることはやりました)

アッシュ(後は任せましたよ)

アッシュ(勇者様)




259 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:13:10.80 ID:74TzIOeD0
ーーー魔法使いの部屋ーーー

魔法使い「そっか、明日なんだ」

魔法使い(勇者のあのやる気。多分賢者様と二人で居た時に何かがあった)

魔法使い(気になるけど、結局今日まで訊けなかったわ…)

魔法使い「…明日教えてくれるかしら」



ーーーーー

勇者「最強になりてーんだ!」

ーーーーー



魔法使い「……ふふ」




260 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:13:39.01 ID:74TzIOeD0
ーーー勇者の部屋ーーー

勇者「もう寝なきゃなんねー時間か」

勇者(剣と体術…あとちょっとでなんか掴めそうなんだよなー)

勇者(先生に体調管理も強さのうちって言われちったかんな…)

勇者「…ま、何とかなんさ!」



ーーーーー

幼魔法使い「さいきょうの勇者がね、だいすき!」

ーーーーー



勇者(ぜってー勝って、ぜってー見せつけてやる)

勇者「へへっ、待ってろよ最強」




261 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:14:06.36 ID:74TzIOeD0
ーーー城 侍女の寝室ーーー

侍女「………」

侍女「………」

侍女「………」

侍女(……また戻ってきてよ……)

侍女(姫ちゃん……)




262 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:15:47.96 ID:74TzIOeD0
ーーー姫騎士の寝室ーーー

姫騎士「む?」

(萎れかけの生け花)

姫騎士「しまった、水を替えていなかったか」

スッ...ザー

キュ、キュ

チャプン

姫騎士「これでいい」

姫騎士「明日になる前に気付けてよかった。優勝者褒賞まで帰れないからな」

姫騎士(………)

姫騎士「そう、いつもと同じだ」

姫騎士「勝てばいい」

姫騎士(お父様の望むように)

姫騎士「ただ、勝てばいい」




263 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:22:03.60 ID:74TzIOeD0
5章はここまでとなります。

言及されなかったレラの過去はどこかで触れたい…と思ってはいます(出来なかったらごめんなさい)。
264 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 00:23:57.83 ID:74TzIOeD0
6章では闘技大会が行われます。
そこで、大会に登場する一部のキャラを四人ほど、安価とコンマで決めたいと思います。
安価で6つの候補を出してもらい、その候補からコンマによって四人決定させます。
安価は以下の形式でお願いします。



キャラ名:(役柄や容姿など)
性別:(男か女)
年齢:(5〜100の間)
得意戦型:(剣術、体術、魔法のうちのいずれか。複数可)
備考・希望:(そのキャラの過去や、こうしてほしいなどがあれば)



※それぞれのキャラに大きく尺を割けないため、サクッと扱われる可能性もありますがご了承ください。

あまりにも無茶あるいは意味が読み取れないもの、また、連投は再安価とします。
候補 >>265>>270
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/19(金) 07:33:00.20 ID:jov3uy5i0
キャラ名アニキンドリス(美術家) スキンヘッドで筋肉ムキムキの男 褌一丁で戦う
性別男
年齢30
得意戦型体術
備考・希望:実はそれなりに名の通った戦う芸術家 作品のインスピレーションを求めるために戦う
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/19(金) 09:23:27.14 ID:OfilA1NB0
キャラ名:ミント (格闘家 ピンク髪にポニーテール、モデル体型でへそが出ている服を着ていて革手袋をはめている)
性別:女
年齢:19
得意戦術:体型と魔法
備考・希望:明るい性格。貴族の娘で貴族の生活が嫌になり家を出て旅をしている。。火、水、土、光、闇の魔法が使えて身体能力も高い。手や足に魔法を纏って戦うことができる。実はアッシュの隠れファンでもある。
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/19(金) 11:11:34.90 ID:n8DK9ZVDO
名前 ナタリー(魔法剣士
緑色のショートの髪をしている)
性別 女性
年齢 20
得意戦型 魔法と剣術
備考・希望 炎の魔翌力を宿した剣と氷の魔翌力を宿した剣の二刀流で戦う
性格はおっとりのんびりやだが、戦いのときは若干ハイテンション
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/19(金) 12:07:13.05 ID:KD+oaXa5O
キャラ名:ダグ・ミグ 細身なノッポ。モブっぽい
性別:男
年齢:39
得意:拳法(普段はナイフ投擲で遠距離型と相手に誤認させ、近距離なら弱いと思い込んだ相手に強力な打撃を与える)
備考:普段は武器屋のオヤジだが正体は盗賊団首領。武器屋に訪れた相手の強さや交遊関係を探り、勝ち目が薄いと感じると相手の身内や恋人を手下に拐わせ人質にする卑劣漢。拐った相手が女なら最初に自分が強姦し、後は手下に与え徹底的に輪姦させる外道。
※自分が負けたらお前の女はこうなるぞ
と脅す感じで
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/19(金) 15:59:16.21 ID:8SdmmTF9O
キャラ名:ラッキー 剣士(アフロ。褐色肌。サングラスをかけている)
性別:男
年齢:28
得意戦術:剣術
備考・希望:陽気な性格ですごい強運の持っている。大会にも何度も出場しており運だけで勝ち進んだこともある。他の人から「幸運のラッキー」と呼ばれている。剣術も我流だがかなり強い。
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/19(金) 17:47:43.06 ID:mnwhRXK7O
キャラ名:ジンガ(鋭い目付きをした悪人面、長身の細マッチョ。ボサボサの黒髪、褐色の肌など。ごろつき風の男。)
性別:男
年齢:35
得意戦型:剣術と魔法
備考・希望:
幻術を得意とする身のこなしが軽い魔法戦士。装備は数打ちの長剣や投げナイフ、急所を守る程度の防具、ボロボロのマントなど。
みすぼらしい姿をしたごろつきのように装っているが、その正体は他国からの間者であり強者達の情報を集め場合によっては引き抜く任務を帯びている者の一人である。
闘技大会では使わないが、本来は猛毒や暗器などを用い手段を選ばず戦う。
271 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 18:11:48.83 ID:3/V/rXVU0
候補6人が出そろったので、まず二人を>>272>>273のコンマで決めます。
被った場合はその一人をまずは採用します。

00〜15:アニキンドリス
16〜31:ミント
32〜47:ナタリー
48〜63:ダグ・ミグ
64〜79:ラッキー
80〜96:ジンガ
97〜99:再安価
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/19(金) 18:13:59.46 ID:12dtkJgU0
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/19(金) 18:16:37.63 ID:n8DK9ZVDO
はい
274 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 18:27:53.85 ID:aF6kzQvyO
コンマ46と63で、

名前 ナタリー(魔法剣士
緑色のショートの髪をしている)
性別 女性
年齢 20
得意戦型 魔法と剣術
備考・希望 炎の魔翌力を宿した剣と氷の魔翌力を宿した剣の二刀流で戦う
性格はおっとりのんびりやだが、戦いのときは若干ハイテンション

キャラ名:ダグ・ミグ 細身なノッポ。モブっぽい
性別:男
年齢:39
得意:拳法(普段はナイフ投擲で遠距離型と相手に誤認させ、近距離なら弱いと思い込んだ相手に強力な打撃を与える)
備考:普段は武器屋のオヤジだが正体は盗賊団首領。武器屋に訪れた相手の強さや交遊関係を探り、勝ち目が薄いと感じると相手の身内や恋人を手下に拐わせ人質にする卑劣漢。拐った相手が女なら最初に自分が強姦し、後は手下に与え徹底的に輪姦させる外道。
※自分が負けたらお前の女はこうなるぞ
と脅す感じで

の2名は決定です。
275 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/19(金) 18:30:39.47 ID:aF6kzQvyO
残りの二人を>>276>>277のコンマで決めます。
被った場合はその一人をまずは採用します。

00〜24:アニキンドリス
25〜49:ミント
50〜74:ラッキー
75〜99:ジンガ
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/19(金) 18:39:31.28 ID:Oi91mQV5O
はい
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/19(金) 18:39:53.90 ID:1C9O9znpO
278 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2020/06/19(金) 18:48:27.86 ID:aF6kzQvyO
コンマ28と90で、

キャラ名:ミント (格闘家 ピンク髪にポニーテール、モデル体型でへそが出ている服を着ていて革手袋をはめている) ?性別:女 ?年齢:19 ?得意戦術:体型と魔法 ?備考・希望:明るい性格。貴族の娘で貴族の生活が嫌になり家を出て旅をしている。。火、水、土、光、闇の魔法が使えて身体能力も高い。手や足に魔法を纏って戦うことができる。実はアッシュの隠れファンでもある。

キャラ名:ジンガ(鋭い目付きをした悪人面、長身の細マッチョ。ボサボサの黒髪、褐色の肌など。ごろつき風の男。) ?性別:男 ?年齢:35 ?得意戦型:剣術と魔法 ?備考・希望: ?幻術を得意とする身のこなしが軽い魔法戦士。装備は数打ちの長剣や投げナイフ、急所を守る程度の防具、ボロボロのマントなど。 ?みすぼらしい姿をしたごろつきのように装っているが、その正体は他国からの間者であり強者達の情報を集め場合によっては引き抜く任務を帯びている者の一人である。 ?闘技大会では使わないが、本来は猛毒や暗器などを用い手段を選ばず戦う。

が決定です。
279 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2020/06/19(金) 18:49:52.46 ID:aF6kzQvyO
6章は3回に分けて投下します。
次回の投下はまた後日となります。
280 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 05:52:01.83 ID:qKbALpwl0
6章1/3、投下します。
281 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 05:57:07.82 ID:qKbALpwl0
ーーー翌朝 闘技大会会場ーーー

アッシュ「ここ王都で開催される闘技大会には予選と本選がございます」

アッシュ「午前はまず予選です。予選は32あるブロックの中でそれぞれ総当たり戦を行い、最も戦績の良い者のみが本選へ進むことが出来ます」

アッシュ「午後に入れば本選です。予選で選び抜かれた32名が勝ち抜き形式で戦うことになります。つまり本選で5回勝利すれば優勝というわけですね」

アッシュ「あちらに大きな闘技場が二つ見えますが、第1から16ブロックの方々は左、17から32ブロックの方々は右の会場で本選を進めていくのです。決勝はどちらかで行われるので、観客が集中し、いつもパンクしてしまうのですがね」

アッシュ「ちなみに予選の方はあちらこちらに用意された屋内の闘技場で行いますよ」

勇者「へぇー。で、俺っちはどこなん?」

アッシュ「勇者様は第9ブロックですので、そちらから行くと近いですね」

魔法使い「こんなにたくさん出場者がいるのね…」ミマワシ

魔法使い「これで総当たり戦なんかやってたら終わらないんじゃないの?」

アッシュ「いえ、ブロック内で1位の方が確定した時点でそのブロックの予選は終わりですからね。最初の数試合で勝利数の多い者を優先的に戦わせていくので、全勝してしまえば手早く簡単に本選へ行けますよ」

リア「でも…それって休みなく戦うってことですよね…?すごく疲れそうです…」

アッシュ「えぇ。今大会は一つのブロックに少なくとも20人は居ますから、それだけの連戦となれば普通は疲労困憊となってもおかしくありません」

勇者「へーきだよ。体調は万全だし、即行決めればいいだけっしょ!」

アッシュ「…おっしゃる通りです」フフッ

アッシュ「今の勇者様ならそう難しいことでもないでしょう」

魔法使い(………)

魔法使い「…あのさ、勇者――」



アナウンス『間もなく予選を開始します。出場者は各自自分のブロックの会場で待機していてください』


282 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 05:59:19.87 ID:qKbALpwl0

勇者「おー。お呼び出しってか?」

勇者「うし、じゃあ俺っち行ってくるわ」

アッシュ「出場者以外は闘技が始まってからでないと入れないので、私達は後ほど向かいますね」

勇者「そん頃にゃ終わってっかもなー!なはは!」

タッタッタッ...

リア「勇者さん、元気になってよかったです」

アッシュ「彼の中で何か思うことがあったのでしょう」

魔法使い「……」

リア「勇者さんがああなったの…賢者様に呼ばれてた後でしたよね?アッシュさん、何があったか聞いてます?」

魔法使い「!」

アッシュ「いいえ。恐らく質問したとしても我々には教えてくれないでしょう」

アッシュ(一人を除いては)

リア「そうなんですか…?」

魔法使い「………」



桃色ポニテ「あー!アッシュ様!?」


283 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 05:59:53.92 ID:qKbALpwl0

アッシュ「?」

桃色ポニテ「やっぱりアッシュ様だ!こんなとこで会えるなんて感激ですー!」ズイッ

アッシュ「あ、貴女は…?」

桃色ポニテ「私ミントって言います!今年で19になるピチピチの女の子です!今はしがない旅の格闘家をやらせてもらってまーす♪」(以降、ミント)

魔法使い(なにこのあざとさ全開オーラは)

アッシュ「そうでしたか」ニコッ

魔法使い(そしてさすがの社交辞令ね…)

ミント「アッシュ様が執事を辞めてこの国を出られたと聞いて、私すごく落ち込んでたんです…3日も寝込んじゃいましたよぉ…」ウルウル

ミント「でもでも、こうしてここで会えたのって私たちきっと運命みたいなものがあるんですね!」

アッシュ「そ、そうかもしれませんね…」

ミント「アッシュ様も大会に出られるんですか?」

アッシュ「私は観戦だけですよ」

ミント「なんだ残念です…せっかくアッシュ様の凛々しいお姿が見れると思ったのに」

ミント「じゃあじゃあ、私が頑張るところ見ててくださいね!15ブロックでやってますので!」

ミント「あ、いけない!もう行かなきゃ!」

ミント「アッシュ様また後でー!」

ピューン

魔法使い「……嵐のような人だったわね」

リア「踊り子さんみたいな格好してました…」

アッシュ「えぇ」

魔法使い「初対面なのよね?」

アッシュ「記憶の限りでは。彼女は私をご存知のようでしたが」

アッシュ「旅の格闘家ですか…聞いたことないですね」

リア「アッシュさん、魔法使いさん、そろそろ予選が始まるみたいですよ…!」

アッシュ「行きましょうか」




284 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:00:57.26 ID:qKbALpwl0
ーーー予選会場ーーー

勇者「」ヒュン

「ぐ…」

勇者「よっ」

ガキン!

「うあ…!」

勇者「」ビシッ

勇者「まだ続ける?」

「…降参します」

審判「勝者、勇者!」

勇者「ありがとーございました!ってな」ヘヘッ



アッシュ「言うことなしですね。教えたこともしっかりと実践出来ているようです」

魔法使い「えーと、これであいつは9勝目?」

アッシュ「10戦10勝、今のところ無敗です」

アッシュ「ここで負けてしまうようでは困りますけどね」



審判「次の闘技も続けてもらって構いませんか?」

勇者「いいっすよ!ウェルカムウェルカム」

審判「それでは38試合目、――」



魔法使い「……」ジー

リア「…勇者さん、かっこいいですね」

魔法使い「そうね」



侍女「………」



.........




285 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:02:06.53 ID:qKbALpwl0
ーーーーーーー

姫騎士「はっ!」ビュンッ

バキッ

「ひっ!?ま、参りましたぁ!」

審判「勝者、姫騎士!」

オオオォ…!



「相手の木剣折っちまったぜ」

「はぇーなー、これで第1ブロックの予選終わりだろ?他はまだまだやってんのに」

「ばっか当然でしょ。なんたって姫騎士様がいらっしゃるんだから」

「剣を振る姿、いつ見ても神々しいですな…!」



姫騎士「対戦感謝する。いい闘技だった」



第1ブロック本選進出者 姫騎士




286 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:02:41.38 ID:qKbALpwl0
ーーーーーーー

「ぐぁ…!」ズサ...

審判「場外!」

審判「勝者、ジンガ!」

ジンガ「……」



「なんだあの男…」

「おっかねぇ顔してんな。あの格好も…どっかの賊かなんかか?」

「賞金目当てに律儀に予選から参加してるって?賊の野郎が?そりゃ傑作だ!ははは!」



ジンガ「……」ジロッ



「馬鹿っ、聞こえるって…!」

「むぐぐ…」



ジンガ「……ふん」

ジンガ(強者共が集まると聞いて来てみたが、見かけるのは雑魚ばかり。めぼしい奴は居ないな。所詮は元弱小国家か)

ジンガ(やはり、国の英雄と謳われる彼女しか…)



第2ブロック本選進出者 ジンガ




287 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:03:13.58 ID:qKbALpwl0
ーーーーーーー

審判「勝者、勇者!」

勇者「しゃあ!これで全勝!」



リア「やった!」

アッシュ「全ての試合を最短で終わらせる…まさに最善手と言えますね。本選では特に体力勝者になることが多いですから」

魔法使い「…あいつ、あんなに真面目に闘技出来たのね」

アッシュ「礼儀を知りましたからね」

魔法使い「礼儀?」

「ねーあの人すっごく強くなかった?」

「うん、私も見てた!格好良かったわねぇ…どこの人なのかしら」

魔法使い(……)

魔法使い「もう勇者のブロックでは試合ないのよね?だったらさっさとあいつ連れ戻しに行きましょ」スタスタ

リア「は、速いです魔法使いさん…!」テテテッ



第9ブロック本選進出者 勇者




288 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:03:47.03 ID:qKbALpwl0
ーーーーーーー

ピキピキ

ボオォ!

緑色ショート「ねぇ逃げ回ってたら終わらないよぉ?氷漬けか丸焼きどっちがお好みかな?あはは!」

「や、やべぇよこの女…!」タタタッ

「審判、降参!降参だ!早くあの女を止めてくれ!」

審判「勝者、ナタリー!」

審判「さぁ勝負はつきました。もう攻撃してはなりませんよ」

緑色ショート(以降、ナタリー)「えー、おしまい?」

ナタリー「そうですかぁ」

ナタリー「…もう帰る時間ー?」ポケー

審判「いえいえ、あなたには午後の本選がありますから」



第10ブロック本選進出者 ナタリー




289 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:05:09.88 ID:qKbALpwl0
ーーーーーーーー

グローバ「ふぬっ!」

「ぐぼぉ!?」

「あ……ぁ……」

ドサッ

審判「…気絶」

審判「勝者、グローバ!」



「おい見たか?あのおっさんの闘技。女相手にしてる時、異様に体触りまくってたぜ」

「見てた見てた。羨ま…じゃなくて反則になったりしないのかね?」

「はー、俺もあれだけ強かったら合法的にお触りできんのかなー」



グローバ「悪いな若造。落とすつもりはなかったんだが勢い余っちまったぜ」

グローバ「男に興味ねえもんだからよ!がはは!」



第14ブロック本選進出者 グローバ




290 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:05:47.36 ID:qKbALpwl0
ーーーーーーー

ミント「"火球"」ボッ

「っ」サッ

ミント「"引潮"」ザー!

「わっ!」ヨロ...

ミント「"魔手"!」グォー

ガシッ

「しまった!」

ミント「さ、捕まえたよー!これでとどめといっちゃいましょー!」

「…ここで終わるわけには!」

ブチッ!

ミント「すっごい馬鹿力!?」

ミント「でも逃さないから!"閃光"」カッ

「くぅ…!」

ミント「」スタタッ

ミント「最後は、土の力で吹っ飛んじゃえ!」

ドスン!

「ぐふ…」

審判「場外」

審判「勝者、ミント!」

ミント「名付けて大地のパンチ!えっへへー」



「派手な戦い方だなぁ」

「あの服を見るに、元々曲芸士なのではないか?」

「でも実力はあるみたいだ」



ミント(アッシュ様見ててくれたかな〜♪)



第15ブロック本選進出者 ミント




291 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:06:18.71 ID:qKbALpwl0
ーーーーーーー

「く…そぉ……」ガクッ

審判「…うむ、気絶だな」

審判「勝者、ダグ!」

ダグ「へへぇ、どうもどうも」



「ほぉ、あれ武器屋の主人だよねぇ?あの人あんなに強かったんだ」

「びっくりです……木剣をあんな風に使うの初めて見ましたよ」

「いいぞー武器屋!そのまま優勝したら俺の年収分買い物してってやらー!」



ダグ「どうぞご贔屓に!うちの武器を使えばこのような芸当は朝飯前になりますぞ!」



「よく言った!」

「今度あんたんとこに発注かけようかねぇ」



ダグ「……」ニヤ



第25ブロック本選進出者 ダグ




292 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:07:01.14 ID:qKbALpwl0
ーーー正午 本選会場前ーーー

ガヤガヤ

勇者「人しかいねー。どいつもこいつも考えることは同じかよ」

魔法使い「勇者、まだ本選始まるまで時間あるんだからお昼の後でもいいんじゃない…?」

勇者「いーや、今見ておきてーの。どんな奴とあたるか分かればもしかしたら対策できっかもしんないじゃん。魔法使いも前に言ってたことだぜ」

魔法使い「そうだけど」

アッシュ「しかしこの人集りでは少々手間ですね」

ドン

リア「あっ…!」グラ

魔法使い「危ないっ」ガシッ

リア「ご、ごめんなさい…」

魔法使い「大丈夫?」

リア「はい…」

魔法使い「もう、ぶつかったなら謝っていきなさいよね」

ミント「アッシュ様発見!」

ミント「ねね、私の戦うところ見てくれましたっ?みんな綺麗に倒しちゃうとこ!」ズズイ

アッシュ「い、いえ…私はこの者の付き添いで来ただけですので…」

ミント「ん!?」

勇者「へ?」

ミント「んーー…」ジー...

ミント「あんた名前は?」

勇者「勇者」

ミント「勇者くん!絶対あんたに勝ってアッシュ様の視線独り占めにしてやるから!」

勇者「おう…?」
293 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:08:20.61 ID:qKbALpwl0

ミント「それでそれでアッシュ様はここで何をしていたんですか?」

アッシュ「本選の対戦表を見に来たのですが、ご覧の通り立ち往生を余儀なくされていましてね」

ミント「そういうことでしたら私に任せてください♪」

魔法使い「ちょっと、まさか力尽くでどかす気じゃ…」

ミント「そんな野蛮なことしませんー」

ミント「…ね、そこのお兄さん?」

「あん?」

ミント「私、どうしてもそこ通りたくって…」

ミント「すこーしだけ、道開けてくれませんかぁ?」ギュ

「し、しょうがねぇな…ほれ」

ミント「ありがと♪」

ミント「行きましょ、アッシュ様」

アッシュ「…はい」

(人をかき分け前へ)

アッシュ「ありました。勇者様見えますか?」

勇者「どれどれ…」

魔法使い(第1ブロック、姫騎士。この国の人に言わせれば当然なんでしょうね)

魔法使い(で、勇者は……)

魔法使い「……え」

アッシュ「順当に行けば準決勝で姫騎士様とあたりますね。ですがその前に」

魔法使い「…14ブロック、グローバ…」

アッシュ「準々でバーランド卿ですか」
294 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:08:53.57 ID:qKbALpwl0

勇者「………」

魔法使い「勇者…」

勇者「任せろって!」

勇者「あんだけ先生に稽古つけてもらったんだ。この間の俺っちとは一味も二味も違うってこと、思い知らせてやんぜ」

勇者「他にやば強い奴はいないんか?」

アッシュ「はい。後は知らない名前ばかりですね」

勇者「ならその二人蹴散らせば優勝ってことか!目標がクリアになってよかったわ」

勇者「腹減ったし昼にしようぜぃ。俺っちトイレ寄ってくっから先行っててくれ」

テクテクテク...

リア「…この前のことがあったので心配でしたけど、立ち直ってくれたんですね、勇者さん」

アッシュ「バーランド卿も大会に出場するとおっしゃってましたからね。覚悟を決めたのでしょう」

魔法使い「………」

ミント「ねーそのグローバって人強いんですか?私と2回戦でぶつかるんですけど!」

アッシュ「えぇ、強いですよ。準優勝候補と言っても差し支えありません」

ミント「えっ、そんなに!?」

ミント「…アッシュ様!絶対応援しててくださいね!」




295 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:09:22.51 ID:qKbALpwl0

勇者「……」テクテク

勇者「……」テク...

勇者「………」

勇者「はぁぁぁ……」

勇者「くっそ……マジかぁ…」

勇者「あー……」

勇者「勘弁してほしいぜー……へへ…」




296 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:10:38.20 ID:qKbALpwl0
ーーーーーーー

侍女「姫騎士様、バーランド卿がいらしているようです」

姫騎士「なに?彼は退役したと聞いたが」

侍女「グローバという名で出場されています」

姫騎士「ふむ……14ブロック。この者だな」

姫騎士「私との闘技は4戦目か」

侍女「如何いたします?現役を退いたとはいえ他国の公爵様がこの大会に参加されるのは…」

姫騎士「構わないさ。それしきのことお父様も気にはしないだろう」

姫騎士「相手が誰であろうと勝つだけだ」




297 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:12:06.56 ID:qKbALpwl0





アナウンス『間もなく本選を開始します。本選出場者第1から16ブロックの方、及び17から32ブロックの方はそれぞれの会場へ向かってください」




298 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:14:06.65 ID:qKbALpwl0
ーーー本選左会場ーーー

「まだ始まんねーの?」

「あとちょいだよ」

ガヤガヤ

「席空いててラッキー!こっち姫騎士様が出場するからな、何人立ち見が出ることか」

「わしも30歳若ければ健闘したんじゃがのぅ」

「ちょっとそこの頭邪魔!しゃがんでくれない?」

ワイワイ

リア「ひろーい…」

魔法使い「大きいとは思ってたけどここまでなんてね…私たちの村が収まっちゃうくらいあるじゃない」

アッシュ「他国からの人々も多く呼べるようにと、国王様が増築に増築を重ねたのです」

アッシュ「今や国のどの建物より大きいですよ」

アッシュ(何とも皮肉なものです)

勇者「……」

アナウンス『皆様、大変お待たせ致しました。ただいまより闘技大会本選を開始致します』

アナウンス『第1戦第一試合。姫騎士、ジンガ』



姫騎士「……」トットットッ

ジンガ「……」ザッザッザッ



ウオオオオ!

「待ってました!」

「姫騎士様ー!」

「このためだけに生きとるわい…!」

魔法使い「すごいわね…」

リア「お相手さん、ちょっと気の毒です…」

アッシュ「しかと見ててください、勇者様。あの方を超えなければこの国における最強は名乗れません」

勇者「あぁ」


299 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:15:45.44 ID:qKbALpwl0

ジンガ「お初にお目にかかる、ジンガと申す者だ。この辺境国で最も強いと言われる貴女と戦えること、誇りに思う」

姫騎士「ふっ。光栄なことだな。では辺境の代表として恥じない闘技を見せねばなるまい」

審判「両者前へ!」

姫騎士・ジンガ「「……」」ザッ...

審判「始めっ!」

ジンガ「」ダッ

ジンガ(その強さの所以たる剣の腕、見せてもらおうか)

バッ、バッ

ジンガ「……」グワッ

ガッ!

姫騎士「……」

ジンガ(ほう)



「さすが姫騎士様じゃ。初手も難なく防ぎおる」

「つーかあいつフライングしてなかったか?」

「あんな粗悪な成りしてんだ、中身も相応なんだろうよ」


300 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:16:47.34 ID:qKbALpwl0

姫騎士「……」スッ

ジンガ(来るか)

姫騎士「」シッ――

ジンガ「…!」

ガンッ、ガッ

ズバッ!

ジンガ「ぐっ!?」

ジンガ(この動きは…!)

ダンッ

ビュオッ

ジンガ(視界に捉えきれぬっ)

姫騎士「」ヒュッ

ジンガ(刺突か!)

ガィン!

ジンガ「」バッ(距離を取る)

姫騎士「……」

姫騎士「醜態を晒してすまない」

姫騎士「今ので終わらせるつもりだった」

ジンガ「……なるほど」



アッシュ「あれが姫騎士様の剣技です」

アッシュ「彼女にとって剣とは、文字通り身体の一部なのです」

アッシュ「剣戟が及ぶ範囲は広く、正面に居ながらにして視界の外から斬ることが出来る。それでいて正確無比な一撃」

勇者「……」


301 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:17:30.62 ID:qKbALpwl0

ジンガ(噂は本物のようだな)

ジンガ(…使う予定はなかったが、仕方ない)

ジンガ「"幻視"」



「な、なんだ!?会場が…!?」

魔法使い(幻術…しかもこれほど大規模の)



ジンガ「」スサッ

ジンガ(視覚を脅かすこの術とて、素人ならいざ知らずこやつのような猛者には1秒で状況を把握されるだろう)

ジンガ(――だが、その1秒でいい)

ジンガ(それが戦闘では命取りとなる)

サッ、サッ!

ジンガ(これにて、終演)



――スタッ



姫騎士「」ス...

ジンガ(な、に…!?)

ギュオッ!

ジンガ「!!」ガンッ

ガン!ガンッ、ギィン!

姫騎士「もう休憩は無しだ」

ジンガ「く…!」


302 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:18:01.61 ID:qKbALpwl0

魔法使い「なんで…真っ直ぐ走ってったわよ、あの幻惑魔法の中で」

魔法使い「魔法を無効化してる?」

アッシュ「いえ、そうではありませんが」

アッシュ「姫騎士様に甘い小細工は通じないのです」

勇者「あれが小細工なんかい…」

アッシュ「ジンガという御仁、彼も相当な手練れとみえます」

アッシュ「しかし保ってあと1分というところでしょう」



.........




303 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:19:54.32 ID:qKbALpwl0

姫騎士「はっ!」

ガキン!

ジンガ「―っ」

...カランカラン

姫騎士「まだ続けた方がよいか?」

ジンガ「……ふっ」

ジンガ「彼我の実力差が見えぬ程、愚者ではないつもりだ」

ジンガ「降参する」

審判「勝者、姫騎士!」

ワアアァ!



リア「剣、弾いちゃいましたね」

魔法使い「これが王都の闘技……」

アッシュ「えぇ」

アッシュ(本国における闘技とはそれ即ち姫騎士様と同義)

アッシュ(才能に愛された者が、努力によってその才を惜しみなく引き出した果て。凡人には決して手の届くはずもない領域…)
304 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:20:22.13 ID:qKbALpwl0

アッシュ「勇者様、如何でしたか?彼女に数段劣る私では助言など出来ませんが、貴方なら何かしら活路を見出せたのではありませんか?」

勇者「…アッシュ先生」

勇者「俺っちがそんなに頭の良いこと出来ると思う?」

魔法使い「あんたねぇ…」

勇者「へーきよへーよ。敵が強いほど、勝負は燃えんじゃん」スクッ

魔法使い「どこ行くの?」

勇者「準備運動。俺っちも試合あるし」

タッタッタッ...



姫騎士「いい闘技だった」

ジンガ「同意しよう」

ジンガ「貴女が何故この国の英雄と呼ばれるか、しかと理解することが出来た」

ジンガ(このような辺境には勿体ない、素晴らしい逸材だ。是非我が国へ欲しい)

ジンガ(であればどう手を打っていくべきか。一度本国へ戻るとしよう)

姫騎士「……」トットットッ(背を向け去って行く)

ジンガ「…いずれ、ルール無用の場での手合わせも願いたいものだ」




305 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:21:41.39 ID:qKbALpwl0
ーーーーーーー

侍女「お疲れ様です」

姫騎士「あぁ」

侍女「次の闘技までお休みなされますか?」

姫騎士「いや、バーランド卿の試合が見たい」

姫騎士「彼の闘技を目にしたことはあるが、万に一つも油断を残したくないんだ」

姫騎士「慢心は敗北を呼ぶ」

侍女「…はい」




306 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:22:38.28 ID:qKbALpwl0
ーーーーーーー

アナウンス『第1戦第五試合。勇者、ナタリー』

勇者「いぇい。どーもどーも!」

ナタリー「ふあ…」ノビー



「見ろよあのねーちゃん、剣二本持ちだぜ」

「二刀流ってやつ?初めて見るな」

魔法使い「剣を二本使うって、単純に考えれば一本で戦うよりも手数を多く出来そうよね」

アッシュ「それがそうでもないのですよ。二つの剣を同時に扱うということは、本来不要なはずのもう片方の腕の振り方を考える必要がありますし、重心を集中させることも難しくなってしまいます」

アッシュ「余程身体の制御に卓越していない限り一刀を振る方が効率的なのです」

リア「じゃああの人、とっても強いのでしょうか…?」

アッシュ「問題はないかと。二刀で名を馳せた方を私は知りません」

「あの娘っ子かわいいなぁ。どうにか仲良くなれんもんかいなぁ」

「やめとけやめとけ。おめぇ予選見てないんか?あいつ闘技してる時別人のようになんだ。嬉々として相手をいたぶるのよ」

リア「……」

魔法使い「……」

アッシュ「…大丈夫です。きっと」



審判「両者前へ!」

勇者「よろしくな、いい試合にしようぜ〜」

ナタリー「よろしくー」

審判「始め!」

勇者「」タタッ

ナタリー「…あは!」

ボッ



アッシュ「あれは…」


307 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:24:21.16 ID:qKbALpwl0

ナタリー「」ブン!

ボオォ...!

勇者「うぉっと?」サッ

ナタリー「えい♪」

ピシィッ

勇者「!」ヒョイ

勇者(火と氷?剣を振って飛ばしてくるって、こいつは…)



リア「アッシュさんがやっていたことと、そっくりです」

アッシュ「そうですね。魔法剣…私のものは不完全ですが、彼女は上手く魔力を流動化しています」

魔法使い「あれなら無理に力を込める必要もないわね」

魔法使い「綺麗に収束されてる分、アッシュさんのような威力はないけれど」

アッシュ「しかし私以外に魔法剣を使う方がいるのですね」

ミント「知らないんですか?最近流行ってるんです!」

アッシュ「!…ミント様」

ミント「来ちゃいました♪」

ミント「流行の発端はアッシュ様なんですよー?」

ミント「アッシュ様の戦うお姿を見て、魔力を宿して攻撃するっていうスタイルが広まってきてるんです」

アッシュ「私が?人前で披露した覚えはないのですが…」

ミント「私が広めちゃいました」エヘ

アッシュ「……」

ミント「私も使えるんですよ!こう、拳に込めて」

ミント「ドカンと!」

アッシュ「…ふぅ、闘技の世界も日進月歩ですか」


308 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:25:15.38 ID:qKbALpwl0

勇者「」サッ、サッ

ナタリー「おにーさんすばしっこいねぇ」

勇者「だろー?俺っちもそう思う!」

ナタリー「面白いなぁー」ブォン

ピシピシピシ

勇者(つっても避けてばっかじゃ終わんねーから)

勇者「」ビュン

タタタッ

ナタリー「っ!」ブォッ

勇者「よっ!」バッ

ナタリー「わ…」

勇者(よし、この距離ならもう――)

ナタリー「…にひ」

勇者「!!」

勇者(上かっ!?)

ナタリー「"氷柱"」



バキィン!



パラパラパラ...

ナタリー「わぁ…」

ナタリー「すごいねー、壊せちゃうんだぁ」

勇者「へっへ。魔法は見慣れてっかんよ」
309 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:25:58.27 ID:qKbALpwl0

勇者「今の会場を涼しくしようとしてくれたんよな?粋なサービスだぜ」

ナタリー「……」

ナタリー「あはは♪」

ナタリー「ねーもっともっと遊ぼう?疲れて疲れて疲れ果てちゃうまでいっぱい!」

勇者「おーう!」

勇者「…って言いたいとこなんだが、わりぃ、俺っちちょーっと急いでんだ」

ナタリー「えー?楽しくないー?」

勇者「もち楽しいぜ」

勇者「けど、これ以上待たせんのも酷だかんさ」

ナタリー「?」

勇者「つーわけで」

勇者「勇者くん、突撃します」シュンッ

ナタリー「!速いんだぁ…!」

ボオオォ!

勇者「」サッ

スタタタッ!

ナタリー「"包炎"!」

勇者「遅い遅い!」ダンッ

ナタリー「いいよぉ!あっつあつの火炎で受け止めたげるから!」

ナタリー「その剣、炭にしちゃう!」ブワァ
310 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:27:11.64 ID:qKbALpwl0

勇者「」バッ



――クルン



ナタリー(あ…)

バシッ ガスッ!

勇者「……」...スタ

カラン、カラカラ...(転がる二本の木剣)

ナタリー「あれまぁ」

勇者「どうよ」

勇者「俺っちにも剣はたき落とすくらい出来んだぜ」

ナタリー「……♪」

ナタリー「審判さーん。私の負けー」

勇者「え?」

審判「勝者、勇者!」



「やるなあの男」

「最後の剣の動き、見えたか?」

「1回転?いや、なんだろうな」

アッシュ「まずは1勝ですね」

魔法使い「今の初めて見たわ。あれも特訓の成果?」

アッシュ「レラ様直伝の技です。この短期間で習得出来るのはさすがという他ないですね」

ミント「むむ……勇者くんめ、なかなか……」


311 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:27:40.34 ID:qKbALpwl0

勇者「よかったんか?俺っちてっきり」

ナタリー「うん、いいの」

ナタリー「その代わりぃ、今度たくさん遊んでねー」

勇者「お安い御用よ」b

ナタリー「…えへー」



姫騎士「侍女、あの勇者という男」

侍女「はい。先日通りで行き会った者です」

姫騎士「アッシュと共に居た奴だな」

侍女「……」



ーーーーー

アッシュ「そのついでに、英雄を育てていました」

ーーーーー



侍女(……)




312 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:28:09.26 ID:qKbALpwl0
ーーー本選2回戦ーーー

審判「勝者、姫騎士!」

姫騎士「ありがとう、いい闘技だった」



姫騎士 本選3回戦進出







ーーーーーーー

審判「勝者、勇者!」

勇者「ふー。体、あったまってきたかな」



「今度は剣使わずに勝っちまった」

「全身武器みてぇな戦い方だ。こいつはもしかしたらもしかするかもな」

「まぁ姫騎士様には敵わんさ」



勇者 本選3回戦進出




313 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:28:59.60 ID:qKbALpwl0
ーーーーーーー

勇者「よっ」

リア「勇者さん!おかえりなさい」

アッシュ「体術も好調のようですね」

勇者「先生のおかげだよ。剣も体も、今までで最高に気持ちよく動かせる」

魔法使い「…勇者」

勇者「うん?」

魔法使い「あ、いえなんでもない…」

勇者「で、俺っちの次のお相手さんは」

アッシュ「今まさに、ですよ」



ミント「"光弓"!」ヒュヒュッ

グローバ「うりゃ、ほっ」パシ、パシッ

ミント「〜!」

ミント「"加重"!」

グローバ「ん?」グ...

ミント(よしっ)

ミント「"落石"」

...ゴゴゴ

ミント「潰れちゃえ!」

ゴォォ!

グローバ「"剛腕"」

ズンッ!


314 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:29:47.85 ID:qKbALpwl0

「い、岩が…」

「おっさん生きてんのか…?」

勇者「へっ」



グローバ「むぅん!」ブンッ

ガァン!

ミント「うっそ…」

ミント「おじいちゃん元気良すぎっ」

グローバ「がはは!元気だけが取り柄なもんでなあ!」

グローバ「"敏捷"!」

ビュンッ!

ミント(来る…!)

グローバ「」ダダダッ

ミント(速いけど、むしろ好機!)

ミント(私の"魔法拳"お見舞いしてやる!)タッ

スタタッ

ミント「いっけぇ!」グワッ!

――ガシッ

ミント「…!?」

グローバ「…へへぇ」

サワサワ

ミント「ひっ」

グローバ「やわっこいねえ。やっぱこれよこれ!ゴツい岩なんざ触ったことでなーんも面白くねえ!」

ミント「は、離してっ!」ブンッ

グローバ「おっと」

パッ
315 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:31:39.35 ID:qKbALpwl0

ミント「このぉ…さっきからベタベタしてくると思ったら…!」

ミント「変態っ!」

グローバ「人聞きが悪いなあ。戦いの最中に偶然触れ合っちまっただけだぜ?偶然」

ミント「何が偶然よ!うぅ…アッシュ様が見てるのに…」

グローバ「嬢ちゃん、貴族だろ?」

ミント「」ギクッ

ミント「…しし知りませんが?」

グローバ「隠さんでいいがな。嬢ちゃんの気持ちも分かる」

グローバ「貴族なんていつんなってもつまらんしな。どこで何するにしたって義務だの家柄がついて回る」

ミント「そう!そうなの!」

ミント「おじいちゃん、あなたももしかして…」

グローバ「と、言っとった知り合いが居たなあ。そいつが女なんだが、いいケツしてたもんで全然話入ってこんかったわい!」

ミント「……」

ミント「ない。これが貴族はさすがに」

グローバ「嬢ちゃんも肌のハリは負けとらんだろう!わはは!」

ミント「っっ」ゾワゾワ

ミント「絶対はっ倒してやるんだから!」



.........




316 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:32:28.07 ID:qKbALpwl0

ツン

ミント「や…!」ブンッ

グローバ「」ヒョイ

グローバ「ん〜、お次はどこがいいかねえ」

ミント「う…もうやだぁ…」ナミダメ



「……」ゴクリ

「なんつーか、美少女の泣き顔って……悪くないな」



グローバ「よおし」ニヤリ

ミント「…!!?」

ミント「こ、降参しますー!審判さん、もう終わり!」

審判「勝者、グローバ!」

グローバ「おん?なんでえ、これからがいいトコだってのによお」



魔法使い「……アッシュさん、あとであの人元気づけてあげて」

アッシュ「そうですね…一言くらいかけましょうか」

勇者(ま、こうなっちまうよな)



侍女「品の無い戦いです」

姫騎士「しかし勝ちは勝ちだ」

姫騎士「案ずるな、私には指一本触れさせはしない」




317 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:32:56.09 ID:qKbALpwl0
ーーー本選右会場ーーー

ダグ「」ヒュ、ヒュヒュッ

...ピタ、ピタピタ

ダグ「…どうなってやがる」

勇者母「……」ニコニコ



「こりゃまた、マジックショーでも見せられてる気分だ」

「場所が場所ならそうなってるやろ。武器屋のやつ、小せぇ木剣大量に持って何すんのかと思ったら投擲たぁな」

「武器の使い方を俺達に見せてくれてんだろうぜ」

「だが一本も届かないんじゃあなぁ」



ダグ(投げナイフの効かねぇ相手なら山程見てきたが、宙で止める奴は初めてだ)

ダグ(ここらじゃ見ない顔の女と思っていたが、ただ者じゃねぇ)

勇者母「あなた、勇者という男の子を見ませんでしたか?この舞踊祭に出ているはずなんですけど…」

ダグ「大会にかね?はは、それなら反対側の会場でやってんだろうさ。さっき名前を見かけたからね」

勇者母「あら、見落としていたのでしょうか」

勇者母「早く渡してあげたいのですが…きっとあの子も――」

ダグ(金持ち貴族か、あわよくば賞金か。戯れで出場してみたが、こいつはとんだ掘り出しもんかもな)

ダグ(飛び道具が通用しねぇなら)

ダグ「」バッ!

ダグ(直接叩くまで!)



.........




318 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:33:38.47 ID:qKbALpwl0

審判「勝者、勇者母!」

オオオォ...!



「やべぇな、あの女」

「武器屋の近接戦もすごかったが…」

「あれは本当に女…いや人間か…?」



ダグ「いやぁ参った参った。とてもお強い!」

ダグ「どちらの出身の方ですかな?」

勇者母「しがない小さな村ですよ」

ダグ「ほぉ」

ダグ「うちは王都で武器屋やってるもんでね、よかったら寄ってっておくれ。武器はあなたをもっと強くしますぞ!」

勇者母「覚えておきます」ニコッ

勇者母「もうすぐで勇者に会えるのですね♪」

ダグ(この女、いつか必ず…)




319 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:34:39.70 ID:qKbALpwl0
ーーーーーーー

姫騎士「気になるな」

侍女「先程の相手ですか?お望みとあらば素行調査を致しますが」

姫騎士「いや、勇者だ」

侍女「…!」

姫騎士「奴の戦い方は剣術と体術。剣の腕など私から言わせれば青二才だが…」

姫騎士「まだ何かある」

侍女「何か、ですか」

姫騎士「うむ」

姫騎士「奴の出番は次だったな」

侍女「はい。バーランド卿との闘技です」

姫騎士「席を移そう。ここでは少し見えづらい」




320 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:35:50.96 ID:qKbALpwl0
ーーーーーーー

「よしいけー!」

「ぶちのめせー!」

「俺はセクハラ爺さんに賭けてんだ!負けんなよー!」

ワーワー!

リア「声が…耳に響きます…」

アッシュ「本選も準々決勝ですからね。先の姫騎士様の試合もあります、こちらの会場を観に来る人の方が多いのでしょう」

ミント「……」ギュ

アッシュ「…ミント様、そろそろ離していただいても…」

ミント「もうちょっと」

リア「でも、勇者さんのお相手……」

魔法使い(……勇者……)



グローバ「なんだここまで来れたのか小僧!」

勇者「白々しいおっさんだぜ。見てた癖に」

グローバ「すまんなあ、俺は美人しか目に映らんのよ」

審判「両者前へ!」

グローバ「しかしいいのかい?またこの前みてえに一発で沈むさまを連れの嬢ちゃんに見られちゃうぞ?」

勇者「…へ、いい試合にしよーぜ」

グローバ「フッ。腹、括ったってことかい」

審判「始め!」

グローバ「手加減は無しだ」

グローバ「"硬化"、"敏捷"、"剛腕"」

グローバ「」ドゴッ

勇者「」ダッ
321 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:39:19.10 ID:qKbALpwl0

グローバ(向かってくるか。悪くねえ判断だが)

グローバ「歯食いしばっとけよ!」ズドドド!

勇者「……」タタタッ

グローバ(お粗末!)

グローバ「」ズオッ

勇者「」スッ



ドゴォン!



グローバ「…ほお」



「地面が抉れた…」

「とんでもねぇなあのジジイ」

アッシュ「バーランド卿の身体強化魔法は硬化、敏捷、剛腕の3つ。これだけですが、大砲よりも速く瞬発し、鋼の如き四肢から繰り出される重たい一撃はまさに必殺」

アッシュ「魔法の使えない勇者様にとっては元々相性の悪い相手なのです」

ミント「…魔法、使っても倒せなかった」

アッシュ「あくまでも打つ手が増えるというだけですので…」


322 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:39:51.68 ID:qKbALpwl0

グローバ「ふんぬっ」ブォッ

勇者「」サッ

勇者(よしっ、見える)

グローバ「おお!」グンッ!

勇者「」ヒラッ

勇者(焦るな、奴の次の動きは――)

グローバ「」グ...

勇者(右!)

グローバ「どう!」

勇者「」スサッ

グローバ「やるじゃねえの小僧!ならこれでどうよ!」

ドドドドッ!(猛烈な連続攻撃)

勇者「っ」サササッ、ササッ



リア「腕が増えたみたいです…?」

アッシュ「二本ですよ。霞むほどの動きでそう見えますが」

アッシュ「当たれば勝敗が決してしまうでしょうね」

魔法使い「……っ」



勇者(……)

ドドドドッ

勇者(………)

グローバ「」ズ――(腕を思いきり引く)

勇者(ここだっ!)



――バシィン!



魔法使い「あ…!」


323 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:40:28.92 ID:qKbALpwl0

グローバ「おっ!?」

勇者「ちっ」

サッ、サッ(距離を取る)

グローバ(剣を、当てられたか?)

グローバ(この小僧に?)

勇者「…おっそろしく硬ぇ脇だな」

グローバ「男は硬くてなんぼだろお」

勇者「硬過ぎても嫌われるんじゃねーの?」ケッ

グローバ(こいつは本当にあの時の小僧か?)

勇者「やーっぱ中途半端な攻撃じゃ、でけーイノシシを退治すんのは無理か」

グローバ「!」

グローバ「ぬはは、少しは出来るようになったみたいだなあ?」

勇者「おっさんのおかげさ」

勇者「感謝してんだぜ、あんたのおかげで俺っちはもっと強くなれた」

勇者「"現実"ってのを思い出せたんだ」ニッ

グローバ「……」

グローバ「面白くなってきたな!えぇ?小僧?」

勇者「そう…だな!」ダッ!



.........




324 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:40:57.55 ID:qKbALpwl0

グローバ「むん!」

勇者「っ」サッ

勇者「おらっ!」

ガンッ



「いいぞ!いけいけ!」

「爺さんさっさと決めちまえ!」



グローバ(こっちの隙間を縫って的確に剣を叩き込んできやがる)

グローバ(一回でも俺の拳を当てられれば終わりなんだが…)

勇者「」ヒョイ

グローバ(すんでのところで回避。さっきからこればっかだ)

グローバ(だがそれは小僧とて同じ)

バシッ

勇者「っ!」

グローバ(俺の体にいくら木剣をぶつけたところで無意味。こいつが有効打を喰らわすとしたら、顔面しかねえ)

グローバ(それを狙ってきたところを…叩く!)


325 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:42:25.90 ID:qKbALpwl0

魔法使い「…見てるのが怖いわ」

魔法使い「このまま長引いたら、またあの時みたいに…」

アッシュ「疲労で少しでも動きが鈍くなってしまったら、危険ですね」

アッシュ「ですが今は、彼を信じましょう」

ミント「うー、勇者くんは恨めしいけど…あのおじいちゃんが勝つのはもっと嫌…」



勇者「」グワッ

グローバ(大振り…!)

グローバ(いよいよか!)

ガキンッ

勇者「くぅ…!」

グローバ(体狙い?効かねえことなんぞとっくに分かっとるだろうに)

グローバ(何を企んどる?)

勇者「ほんとにどこもかしこもカチカチだな!」

グローバ「俺をおちょくってんのか!」ブォン!

勇者「滅相もない!」

勇者「確かめてたんだ、よ!」

シュッ!



「投げ付けた!?」

「あの距離でか!」


326 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:43:05.18 ID:qKbALpwl0

グローバ(これが狙いか!)

グローバ(顔面への投剣。なるほど腕を振りきった後じゃ防御も避けることも出来ねえ)

グローバ(――けどなあ)

ゴツンッ

グローバ「がはは!俺は石頭なんだ!」

グローバ(額に向かって投げたのはナンセンス!)

グローバ(これでこいつはその体だけで戦うしかなくなったわけだ)

グローバ「早まったな小僧!体術は俺の土俵――」



スッ



グローバ「!!」

グローバ(いつの間に…!)

グローバ(顔はやらせん!)

勇者「」グ――

グローバ(いや…また体か!?)





ズドンッ!





...ドス、ドシン




327 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:44:00.92 ID:qKbALpwl0

リア「…!」

アッシュ「ふふ」



グローバ「ぐ…小僧…」

審判「…場外!勝者、勇者!」

ワーー!



リア「やりました…!」

アッシュ「フェイントからの見事な掌底。バーランド卿をあそこまで吹き飛ばしたのは勇者様が初めてではないでしょうか」

ミント「すっご…」



グローバ「いやあ驚いた」

グローバ「小僧、お前さん強くなったな」

勇者「言ったろ?俺っち優勝候補者だって」

グローバ「ただのイキったガキじゃなかったっつーことか!わはは!」

グローバ「しかし残念だ。せっかく姫の豊満なボディを堪能しようと思ってたんだがなあ」

勇者「豊満…確かに」

グローバ「お?お前さんも分かるかい。いい目してるぜ」

グローバ「ま、俺の代わりに楽しんできてくれや。姫との手合わせをよ」ニカッ

勇者「言われなくても」ヘッ
328 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:44:32.09 ID:qKbALpwl0

勇者(……)

勇者「」クルッ

勇者「スゥー…」

勇者「よく聞けお前ら!」

勇者「最強は、この俺っちだ!!!」

ウォオオオオ!



「愉快なやつよのう」

「はっはっは!いいぜ、あんたに賭けたろうじゃねぇの!」

魔法使い「――」

魔法使い「」タッタッタッ

リア「あ、魔法使いさん」

アッシュ「行かせてあげましょう」

リア「…はい」フフッ


329 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:47:58.56 ID:qKbALpwl0

姫騎士「………」

姫騎士(……)

侍女「……」

王「ここにおったか」

姫騎士「お父様。何故こちらへ?」

王「それは儂の言葉だ。お前が客席の前まで来るとはな」

王「あの男、それ程の使い手か?」

姫騎士「……」

姫騎士「心配には及びません。見かけない者が勝ち進んでいたもので、観察していただけです」

姫騎士「私の敵ではありません」

王「そうか。お前がそう言うのなら安心だ」

王「分かっておるな姫騎士よ。お前はこの国の光、希望なのだ。負けることは許されぬ」

王「国の為、儂の為に、勝て」

姫騎士「お任せ下さい」

姫騎士「私の愛するお父様」




330 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:48:39.52 ID:qKbALpwl0
ーーー選手入場路内ーーー

勇者「……はー」

勇者「やったんだな、俺」



ーーーーー

グローバ「なぁまさかおめえよ、このポンコツをぶつけようってんじゃねえだろうな?」

ーーーーー



勇者「……へへ、そのポンコツはここまで強くなりましたとさ」



...タッタッタッ

勇者「…!」

魔法使い「はぁ…はぁ…」

勇者「魔法使い?どうしたんだよ」

魔法使い「あんたを、探しにきたのよ」ハァ..ハァ..

勇者「あー戻ってこなかったからか?俺っち次の試合に備えてちょっち休憩してたんだ」

魔法使い「………」

勇者「なんか、怒ってらっしゃる?」

魔法使い「……おめでと」

勇者「んぇ?」

魔法使い「あのおじいさんに、勝ってくれたから」

勇者「…おう、サンキュ」

魔法使い「またみっともなく負けでもしたらどうしてくれようかと思ったわ」

勇者「蒸し返すなって。ありゃ生まれて初めて負けたもんだかんよ、ちっとびっくりしただけさ」

魔法使い「この前までめそめそいじけてたものね」

勇者「負けっぱなしは気に喰わねーし、一念発起してやったのよ、俺」

勇者「前よりずっと強くなってんだろ?」

魔法使い「……やっぱり……あんたは……」

勇者「今度はなんだよ?」
331 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:49:22.37 ID:qKbALpwl0



ツー...



勇者「…!?」

魔法使い「ぅ……グス…」ポロ、ポロ

勇者「え、お前…」

魔法使い「バカ……バカ…!」

魔法使い「もう、戻ってこないかと思ったんだから…」ポロポロ

勇者「…泣き虫魔法使いちゃんは戻ってきちまったみたいだな?」

魔法使い「うるさい…!」

勇者「ほら、泣くなって。俺っちはここにいんだから」

魔法使い「だってぇ……」ポロポロ

魔法使い「本当に、消えちゃったと思ったんだもん…!」

魔法使い「いつもいつも私を引っ張って……どんな時も楽しそうで……」



魔法使い「私の大好きなあんたが…!」


332 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:50:08.62 ID:qKbALpwl0

勇者「……」

魔法使い「……………!!??」

魔法使い「わ、私何言って…!」

魔法使い「忘れて!今のはその…とにかく忘れてっ!」

勇者(……)

勇者「俺、行くわ」

トットットッ

魔法使い「っ…」

魔法使い(そう、だよね)

魔法使い(こいつにとっての私なんか……)

トッ...

勇者「……」

勇者「待ってるやつがいるんよ」

魔法使い「…え?」

勇者「子供ん頃からずーっと、最強の俺っちを待ってるやつがさ」

勇者「早く行ってやんねーとまた泣き出しちまう」

魔法使い(――!)

魔法使い「…覚えて、たの…?」

勇者「勝ってくる」

勇者「勝って戻ってくるからさ」

勇者「もう少しだけ、待っててくれ」

魔法使い「………うん」

魔法使い「絶対、勝ってよ」

勇者「へへっ」




333 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:50:48.88 ID:qKbALpwl0





アナウンス『ただいまより第4戦を行います。選手は入場してください』

アナウンス『準決勝。姫騎士、勇者』




334 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/06/28(日) 06:52:11.04 ID:qKbALpwl0
今回はここまでです。
次回、姫騎士戦です。
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/28(日) 14:27:52.82 ID:jJkraU1X0
乙乙
336 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/07/02(木) 02:35:35.34 ID:ElQ0xIuM0
6章2/3、投下します。
337 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/07/02(木) 02:36:05.33 ID:ElQ0xIuM0
ーーーーーーー

「姫騎士様ー!我らがついておりますぞー!」

「勇者ー!男を見せろよこの!」

タッタッタッ

魔法使い「間に合った?」ハァ..ハァ..

リア「魔法使いさん!よかったです、今始まるところですよ」

ミント「……」ジー

魔法使い「あれ、アッシュさんは?」

ミント「昔の友人に会ってくるとかでどっか行っちゃった」

ミント「そして私はアッシュ様からこの子のお守りという大事な使命を任されたのです!」フンス

魔法使い「…そう」



姫騎士「……」

勇者(うひゃーおっかねー)

勇者(美人でグラマラスときてんのに、すげー威圧感だぜ…)

姫騎士「緊張しているのか?」

勇者「ん?いやー間近で見るとこーんな綺麗な人なんだなって」

姫騎士「面白い男だ。賛辞と受け取っておこう」


338 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/07/02(木) 02:36:37.78 ID:ElQ0xIuM0

侍女「………」

...コツコツ

アッシュ「元気がありませんね」

侍女「何をしにきたのですか?」

アッシュ「観戦ですよ。お一人でいるよりは寂しくないでしょう?」

侍女「…不要な気遣いです」

アッシュ「そう仰らずに」ニコッ



姫騎士「君の闘技見せてもらったよ。大層な演出家だな、最強殿」

勇者「なはは、どーも」

姫騎士「さぞ、強いのだろうな」

勇者「期待してくれていいぜ。勝っても負けても退屈はさせないかんよ」

姫騎士「楽しみだ」

審判「両者前へ!」

ザッ...

姫騎士(……)

審判「始め!」
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