貴方「僕がヒロインを攻略するまどか☆マギカ…オカルト?」マミ「それは終わったわ」

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655 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/09(日) 21:38:07.07 ID:TdKu0VZq0
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視力矯正目的なのでとくに怪我とかではないですよー
心配してくださってありがとうございます
656 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/09(日) 22:03:38.55 ID:TdKu0VZq0



あすみ(……魔女でも狩ってくるか、魔法少女らしく)



 ――――しばらくボーッと時間を潰していたが、思い立って立ち上がる。

 いつまでもこうしてても仕方ない。やるべきことは大してないが。


 街の方へ足を向けて歩いていると、その途中でばったりと見知った人物に出くわす。それは、まだ日が高かった時にも見た顔だった。



なぎさ「あっ、あすみ」

あすみ「…………訓練終わったんだ」



――――――
――――――



 ――――あすみとはさっきぶりです。

 あすみの言うとおり今は訓練が終わって、その帰りでした。


なぎさ「はい! さっきぶりなのです!」

あすみ「で、帰るの?」

なぎさ「はい。今日はおやすみの日なので、あまり遅く帰るとお父さんもきっと寂しくなっちゃうのです」

あすみ「あー……そーだね」


 いつもどおり、興味のなさそうなそっけない返答です。

 あすみのほうは、訓練の途中に会った時に見た傘はさすがにもう手元からなくなっています。


なぎさ「あすみのほうももしかして今帰りなのです? お友達に会ってきたんですよね?」

あすみ「友達ィ? いや違う。別にそういうんじゃないから。そういうのいないって前言わなかったっけ?」

なぎさ「でもそれけっこう前ですよ?」

あすみ「その時から何も変わんないよ」


 あすみはそう言いましたが、あすみの場合は照れ隠しもあるので勘違いなのかはよくわかりません。

 たしかに前に友達がいないとは聞きました。でも実際その直後に一人は増えたのです。あすみもなぎさのことを友達だと言ってくれたのですから。


 ……でも、あれからなぎさがマミと一緒にいるようになって、今はあすみとは少し離れてしまったように感じます。

 というより、二人なら変わらなくてもマミがいると少し遠慮しているような。マミとはまだそこまで親密になれていないのかもしれませんが――。

 マミがいても、それはやっぱり寂しく思うのです。それに、もっと遠慮せずに頼ってほしいですから。

657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/09(日) 22:54:16.36 ID:+XKjsuNi0
>>655
怪我とか病気でなくてよかったです。
658 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/09(日) 23:30:17.96 ID:TdKu0VZq0

あすみ「じゃ、こっちはこれから魔女狩りだから」

なぎさ「あっ、これからですか? じゃあなぎさも行きます!」

あすみ「帰るんじゃなかったの? お父さん待ってるんでしょ。帰ってやりゃいいじゃん」

なぎさ「んー、さっきはそう言ったけど…………」


 一緒に行くことも減ってしまったから、行けるときには一緒に行きたい。

 けど、そう言われると。


なぎさ「なら明日でどーでしょうか? 放課後の時間、マミも誘って三人でいくのです」

あすみ「三人も要る? いつも二人で行ってるんでしょ? 遊びじゃないんだし、余計に人増やしても意味ないよ」


 ……こういうところの考え方はあすみは本当に厳しい。でも、ちゃんとメリットがないわけじゃないはず。


なぎさ「手合わせは断られちゃいましたけど、同じ街にいるからにはほら、たまには連携とか! 試してみても損はないと思うのですよ」

なぎさ「こっちは『前に見た時と変わらない』、とは言わせませんから! なぎさもマミも毎日鍛えてますからねっ」

あすみ「…………」



 数秒の考えるような間。考えるまでもなく一蹴されないのなら上出来です。



あすみ「……そこまで言うならわかった。明日ね」

なぎさ「はい! では詳しいことはまた連絡を――――……って、そういえば今ってどうなってるのです? 携帯は使えないのです?」

あすみ「ああ、そうだった。詳しいことは今決めてくれる?」

なぎさ「というか……何かあったのですか?」

あすみ「さあ? なんだろう? 私も携帯には詳しくないしなー」

なぎさ「だったら誰かに相談したほうがいいのじゃないのですか!?」

あすみ「……」


 あすみは肝心なことは何も言いません。今のも明らかにはぐらかしているのだとはわかるのです。

 本当の理由は、別に専門的なところにはないはずで。


なぎさ「……なぎさに相談してもいいのですよ。『友達』なので」



 ……『明日の約束』を決めて、今日は別れました。

 あすみは本当に頑固です。



――――
――――
659 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/09(日) 23:36:30.89 ID:TdKu0VZq0
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ここまで
次回は10日(月)20時くらいからの予定です
660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/10(月) 00:24:11.49 ID:QePXqFF/o
待ってた
レーシックかな?
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/10(月) 20:26:56.74 ID:R4GbBCMoO

次回の魔女狩りで何か起きそうだな
無理のない範囲で続きを
662 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/10(月) 21:21:47.95 ID:qwAanwFA0
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レーシックではないですね、コンタクトをインプラントするやつです
663 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/10(月) 22:00:12.84 ID:qwAanwFA0




 ――――昨日マミにメールを送って、放課後になると先に二人で無事合流することができました。

 マミとは普段からこうしてよくやりとりしています。訓練や魔女退治の連絡も、それ以外も。


 雑談を交わして、途中でマミがふと時計を確認しました。


マミ「約束の時間まではあと少しね。今日は神名さんもくるんでしょう?」

なぎさ「はい。時間になって見つけられなかったら、とりあえずテレパシーを試してみることはできますけど……」


 連絡手段のないあすみとの待ち合わせは、昨日くわしいことを決めたとはいえ不安になってきます。

 今までは魔法なんて使うまでもなくできてたことだから、日常生活で魔法に頼るのは少し気が引けます。

 でもまあ、使えなくなったのならそうも言ってられません。


マミ「なるほど、そういえばそういうやりとりの方法もあるわね」

なぎさ「でも、近くにいなければどうしようもないのです。もしなにも返ってこなかったらまたもう少し待ってみますか」



 話しているうちにも時間が経ち、待ち合わせの時間になりました。

 ……テレパシー。結果は返事こず。



マミ「まあ、まだちょうどだもの」

なぎさ「……前はそんなに遅れるほうじゃなかったんですけどね。遅れるにしても連絡はきましたし」



 それからもテレパシーを試しながら待っていたものの、何度目かになるとちょっと心配になってきます。

 今は何かあっても連絡はとれない。もちろん、あすみがそうそう戦いで負けるとも思えませんが。

 魔女はもちろん、悪い魔法少女に狙われた時もえげつなく返り討ちにしてるのを知っているのです。


 ――――そんなことを考えていると、なぎさの心配をよそにあすみはひょこりと現れました。


あすみ「お、もう揃ってるか」

なぎさ「揃ってるって、そりゃあっ」



 しかも拍子抜けするような態度の軽さですっ。人の気もしらないでっ。


664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/10(月) 23:04:49.28 ID:vkr41D7B0
お、続き来てる!
なぎさは最近あすみと関わってなかったせいで過保護ぎみかな?
665 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/10(月) 23:19:39.70 ID:qwAanwFA0


あすみ「そんなに過ぎてた? あーごめんごめん」

なぎさ「もーーっ。今来たのです? 何度かテレパシーまで試したのですよ!」

あすみ「最近あんまり時間を気にすることもなかったからさー」

なぎさ「むむむ……」

あすみ「怒るなよ、その分魔女をさっさと倒してやるからさ。さ、行くよ」


 遅れてきたのになぜかあすみが仕切ろうとしてます。それだけ見れば怒りが湧いてもおかしくないと思うのですが。

 久しぶりの待ち合わせで、前と違って……そう考えると、怒るよりも前よりどこかが変わってしまったような違和感を覚えてしまうのでした。


なぎさ「別にそんなに怒ってるわけじゃないのです」

あすみ「そう? ならいいや」

なぎさ「よくはないですけど!」


 そんななぎさたちを見て、なぜかマミは笑っています。


なぎさ「ま、マミまでなんなのですか??」

マミ「仲良さそうだなって。二人だけの時にはこんなの見られないもの」

なぎさ「マミは優等生さんですからねえ……それに、二人だとなぎさのほうが師匠なので」

あすみ「……師匠なんて、いつのまにかずいぶんと楽しそうな関係になってるのね」

なぎさ「楽しそうですか? あすみも混ざってもよいのですよ!」

あすみ「それはエンリョしとく」




 そんな会話をしながら、なぎさたちはようやく歩き始めます。

 ――――ほどなくして魔女の結界を見つけました。



なぎさ「ここは空き地みたいですけど、人のすんでる家も近くにあるしほっといたら危なかったのです」

なぎさ「でも見つけたからにはもうアンシンなのです!なぎさたちでやっつけちゃいましょう!」

マミ「ええ!」


666 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/10(月) 23:24:33.16 ID:vkr41D7B0
師匠といえばマミに最初に戦い方を教えたのはあすみなんだよね
667 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/11(火) 00:26:04.35 ID:Z314tfrJ0


 あすみが横から何かを言いたそうな、呆れたような目で見ていました。


あすみ「いつもそんなテンションなの?」

なぎさ「え? まあ……マミとはいつもこんな感じですけど、あすみと一緒のときはこういうのはなかったですね」


 言われてみると、なぎさも前より少し変わっていることに気づきます。


なぎさ「あすみはこういうの好きじゃないかもしれないですが、やってみると気合が入るものですよ?」

あすみ「マミ、アンタも?」

マミ「そ、そうね。こういうふうに言ってくれるのは助かってるわよ。気合が入るし、自分の力で人助けできるんだって思えば恐怖だって薄らぐから」

あすみ「あぁそう」


 三人いれば使い魔が出てきてもすぐに倒せます。

 順調に進みながら、段々と深層へ近づきつつあすみがマミに問いました。


あすみ「……ねえ、アンタってたまには一人でも魔女狩りに行ってるの?」

マミ「一人ではないわよ?」

あすみ「まだ過保護してんの? マミももう一年くらいでしょ? 新人でもないのに」

なぎさ「そう言っても……せっかく仲間がいるんですし、なぎさのほうが師匠です。マミのことはなぎさが守るって言いましたから」

なぎさ「それはいつまでも変わらないのです!」

あすみ「……」


 足を進め、たどり着いた小部屋の奥には、広い空間と魔女と思わしき姿がありました。

 それを取り囲む使い魔たちも。


 ひと呼吸の後、いよいよその奥へと踏み入れます。


あすみ「確かに戦い方はマシになってるように見えるけど、最初に見た時からやっぱ変わってないね」

マミ「……?」

なぎさ「え?」


 あすみの言葉がきになりましたが、今は魔女に集中です。

 ――広間に足を踏み入れた瞬間、魔女がこちらを見てけたたましい鳴き声を上げます。

668 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/11(火) 00:44:09.12 ID:Z314tfrJ0
------------------
ここまで
次回は12日(水)20時くらいからの予定です
669 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/12(水) 22:24:46.56 ID:YmhiDaZ90
何があったんだ?
670 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/12(水) 23:45:08.19 ID:e3/XKApQ0


 「!」


 それを合図に、使い魔が一斉になぎさたちのほうに目を向けます。

 前方から襲い来る影多数。

 数を相手にするならこちらも数。ラッパを構えて吹きます!


なぎさ「そっちから来るなら早いのです! シャボンでおでむかえしてあげるのですよ!」


 虹色に光るシャボンは足止めにも攻撃にもなります。

 新しいシャボンがぷくぷくと浮かんでは弾け、使い魔とともに消えていく。タイミングや威力の調整も今では完璧に操ることができるようになったのです。


 一気に残り少なくなった使い魔の軍勢に、ついに奥で構えていた大型の魔女が動き出します。

 ――思ったよりも速い動き。


なぎさ「マミ、まずは魔女の動きを封じちゃってください!」

マミ「ええ!」


 あすみがすかさず突進してきた魔女の動きを殺すように頭を一発重い鉄球で殴りつけ、よろめいた隙にマミのリボンで完全に確保。

 
 あとは煮るなり焼くなり、というやつです。

 二、三発さらにあすみが攻撃を入れると魔女はグリーフシードを残して消えました。


 ほっと一息つきます。すべては順調でした。今日も誰も傷つくことがなく終わってよかった。


なぎさ「やりましたね、あっという間でしたよ! みんなの力です!」

あすみ「ちなみに参考までにさ、マミだけでトドメを刺すとしたらあれからどうしてたの?」

なぎさ「マミにはリボンで縛ったあと魔力をこめて爆発させる、『フィナーレ』って技があるのですよ! リボンもほどけちゃうので本当に最終奥義なのですけど」

なぎさ「まあそれで終われなくてもなぎさがいるので大丈夫なのです。なぎさがいるかぎりぜったいに傷つけさせませんから」

あすみ「……ふーん」


 聞いておいてなんだか興味なさそうな返事です。

 まあ、あすみはいつもこんな感じなのですが。

671 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/12(水) 23:47:53.65 ID:e3/XKApQ0


あすみ「でもそれ、前にも聞いたけど、一人のときはどうするの?」

あすみ「いざ追い込まれてどうしても一人で戦わなくちゃいけなくなった時は、全力で戦えるの?」

あすみ「……それとも、死ぬの? 逃げるの?」

マミ「それは……」

なぎさ「……なんでそんなことを? それでも今なら戦えますよ。きっと。たくさん練習してきたし、一緒なら戦えてるのですから」

あすみ「私が変わってないって言ったのはそういうことだから。わざわざ手合わせなんて試さなくてもわかるの」

あすみ「年月以上に、その覚悟の違いって大きいよ? いざという時を経験してきてない人に負けることなんてないって」

なぎさ「そんなの、経験する必要なんてないです!」

あすみ「まあそうかもしれないね。守ってもらって生き延びられるなら、それでもきっと間違ってはないんでしょうよ」



 ……あまやかしてる、のかな?

 でもやっぱり、一人で戦う意味なんてないし、それが良いことだとも思いません。


 なぎさは強くなれました。魔女に苦戦することもそうそうありません。マミを傷つけさせることがないように守ることができるのです。

 それは師匠としての、なぎさの役目ですから。



――――――
――――――
672 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/12(水) 23:49:22.27 ID:pHGsJJM40
12日ギリギリ来てくれましたねw

やっぱりマミは攻撃手段がリボンだけか・・・
サポート役に徹しれば強いけどソロだと火力が無くてキツそうだなぁ
673 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/13(木) 00:40:03.70 ID:ntiGv1dh0



 ――――魔女狩りを終えて、さっきまで三人で歩いていた道を一人で歩く。


 なぎさが提案してきたマミと一緒の魔女狩り。三人といっても、戦ってる時には二人のときとほとんど大差はなかった。

 補助的な拘束能力は強いかもしれないけど、動きを止める手段も叩きのめす手段もすでに足りている。ある程度強くなれば大抵は身につくものだ。

 マミのことはなぎさが過保護なほどに気にかけているとは思っていたが、イマイチ主体性が見えてこなくてあまり興味が持てなかった。


あすみ(いや……もともと任せるつもりだったんだし、私が口を挟むことでもないな)

あすみ(あいつがどんな魔法少女になろうが勝手だ。少なくとも悪事に手を染める方向に走ってないだけかなりマシな部類)

あすみ(ただ、そういうのがあまり好きになれないだけ)


 一方で、なぎさは強くなってた。

 それにマミのことやら街のことやら、『守りたいもの』とやらができたからか。



あすみ(……まだ、明るい。これからどうするかな)



 なんとなく歩いてみて、なんとなくまたあの教会に向かってることに気づいた。

 一応、好きに出入りしていいと言われた場所。

 ヒマではあるが雨風しのげて、人気がない分落ち着いて過ごせる場所ではあった。

 扉を開ければ優しく出迎えてくれる。そんな場所が他にないというのも事実で。



 ……教会の人たちもあれこれと事情を聞いてくることはない。ただ、どんなふうに思われているかは察しはつく。

674 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/13(木) 00:44:29.82 ID:ntiGv1dh0
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ここまで
うーん、開始も終了も遅くなって申し訳ない…
次回は15日(土)18時くらいからの予定です
675 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/16(日) 00:00:53.56 ID:WA9aFN+R0



杏子「ただいまー! あ、今日も来てくれてるんだ」

あすみ「来ていいって言われたから来てるだけだよ。どこにいても暇なのは変わんないけど、同じ暇ならこのくらい人気がないほうが落ち着けるし」


 そう言うと、人気がないってのに引っかかったのか複雑そうな顔をする。


あすみ「……あぁ、皮肉言ったつもりはなかったんだけどね? 今日もまた布教とやらをしてきたの?」

杏子「まあそうなんだけど……ダメだったよ」

あすみ「そっか」

杏子「いきなり話しても怪しまれるから街で困ってる人がいたら助けて、そのついでに……っていうふうにしたんだけど、話そうとした途端逃げる人ばっかりで」

杏子「ひどい人だと暴言まで吐かれちゃって、ちょっと参ってきちゃったよ」

あすみ「まあー……そうだろうね」


 それは私だってそうする。

 関わり合いになりたくないと思えば必要以上にキツい言葉を言ってでも断って逃げる人がいるのもわかる。

 けど、善意を仇で返されるのはそりゃまあ堪えるだろう。


杏子「でもたしかに、下心ありきで助けるのは良くない気もしたんだ。どうしたらいいと思う?」

あすみ「私に聞かれてもな」

杏子「そこをなんとか! 信者じゃない人から意見を聞いてみたくて!」


 杏子が切実に頼んでくるものの、少し考えてみてもまともなアイデアは浮かばなかった。


あすみ「……敷居が高いのはしょうがないよ。断って逃げる人はどう接したって興味持たないだろうし、話に乗る人ってのは大体最初から興味を持ってる人だけだ」

あすみ「いきなり増えやしないよ、洗脳でもしない限りは」

杏子「魔法の力でもないと無理ってこと?」

あすみ「どうかな、現実的にも洗脳ってあるもんだよ? 拉致って囲んで信じるまで説得する宗教団体もあるって聞くけど」

杏子「そんなのがしたいわけじゃないよ。うちはそんなのとは違うし!」

あすみ「……魔法だったらクリーンなわけでもないでしょ」


 取り繕っても仕方ないと率直に言ってやれば、杏子は目に見えて落胆した。

 そこに、「無理を言って困らせるものじゃない」とやりとりを見ていた神父がなだめに入る。



 ……よく見れば、みんな最初に見た時よりもやつれていた。

676 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/16(日) 00:52:17.70 ID:WA9aFN+R0



 遅くなりすぎないうちに立ち上がる。

 ここの人たちは、探ってはこないがあれこれと世話を焼くのが好きな人たちだ。

 あまり居座ってたら自分たちの分もろくにない物をまた分けてこようとしかねない。



あすみ「いつのまにか私みたいなのが一人で居座る場所になってて悪いね? なんだか貧乏神みたいになってきちゃってるかも」

神父「構わないよ。ここを居場所に思ってくれるのなら、何者だって拒まないさ」


 私の魔法で洗脳はできないが、私の力は『呪い』だ。人を害するためのもの。そう考えれば、この場所はなんて私には似つかわしくない場所だろうか。

 ……果たしてそれを知ってもこの優しい神父と家族は拒まないのだろうか?



 教会を出れば、再び煩雑とした街中へと戻っていく。


 そんな日が数日続いて――――。


 教会の家族の顔色は日ごとに酷いものになっていった。

677 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/16(日) 01:03:25.00 ID:WA9aFN+R0
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ここまで
18時とはなんなのか…
次回は16日(日)できれば夕方に…!
678 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/16(日) 20:12:27.06 ID:WA9aFN+R0


神父「――――どうしてこんなことをしたんだ!」


 ある日の教会は珍しく騒がしかった。

 まったくいい意味じゃない。神父が怒ってて、シスターが泣いてた。

 どうやら杏子が何か食べ物を盗んできたらしい。

 ……私からすればちっぽけな悪事だけど、神父にひっついて世の中を良くするだとかなんとか言ってたアイツが、ねえ。


神父「こんなことをして私達が喜ぶと思ったのか? 人様に迷惑をかけてまで腹を満たしたいなど思わない! もしバレなかったらどうするつもりだったのだ!?」

神父「私達の神はいつでも見ている。盗みを働き、嘘をつき、神を裏切ったまま平気な顔をして過ごすつもりだったのか!」

杏子「……」

モモ「お姉ちゃん……」

夫人「私は悲しいわ……杏子がこんなことをするようになるなんて……こんなことをさせてしまうなんて」


 私は冷めた目で見ていた。神なんていやしないし、ましてや助けてくれるわけがない。

 こんな場所だというのに、わかりやすいほどにそれが証明されていた。そりゃこんな場所に信者は増えない。

 やつれて見えたのは勘違いなどではなく、本当に限界だったのだ。もちろんそれは行動を起こした杏子に限ったことじゃない。


 ――でも本当に餓死したほうがマシ? プライドのために死ぬなんて馬鹿らしくない? 相手はそれで死ぬわけでもないのにさ。

 杏子の行動は綺麗事言って怒ってる神父サンより理解できた。なんの力もない人間がこの状況で、こうするしかなかったってわけだ。


神父「反省していなさい」

杏子「……はい」


 杏子は祈りのポーズでうつむいている。あれが懺悔とやらのつもりなんだろうか。

 なぎさならこんなカワイソウな家族を見れば、汚れのひとつもない魔法のケーキでもポンと差し出してやったりするだろうか?

 私にはそんなことはできない。



あすみ「なんかやらかしてきたの?」

杏子「……聞かれてたんだ。幻滅したよね。これじゃ父さんの教えを広める資格もない」

あすみ「そう? 私はよく知らないけどさー……バレないようにやればよかったのに」

杏子「あ――あんたも物盗んできたことあるの!?」

あすみ「さあねー」

679 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/16(日) 21:06:38.82 ID:2jwCK4oX0
説法だけではお腹は膨れないからなぁ・・・
状況的にそろそろキュウベェが営業しに来そうだけど。
680 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/16(日) 22:01:18.12 ID:WA9aFN+R0


 杏子はまだ疑うような目で見ている。


あすみ「あーあ、この場所もそろそろおしまいか。せっかく気兼ねなく足を休められる場所ができたと思ってたんだけど、仕方ないか」

杏子「ど……どうして!? あたしのせいでそこまで!?」

あすみ「いやいや、それ以前の問題だよ。こんなガタガタでこれ以上続けてられないでしょ?」

あすみ「強いて言うなら、家族のために盗んでこなきゃ食える物もないような状況になる時点でもうおしまいってやつ」

杏子「そんな……」

あすみ「そもそも、なんでこうなったわけ? 最初からこうだったら生きてこれてないだろうし」

杏子「……もともとうちは今とは違うもっと大きい宗派だったんだ」

杏子「でも父さんはどうしたら世界がより良くなるかって考えて、本部の教えにないことも言い始めるようになって……そしたら本部から破門されて、人も離れた」

あすみ「ふーん、あぁそう……難しい世界なのね」


 もとより私は教会も神父も善とは見ていない。所詮人間だし、ソイツらの中身なんてわからないからだ。

 大きな組織ともなれば何かしがらみでもあったんだろう。足並み外れたことをしはじめるのは大抵気に入られないものだ。


あすみ「まー、ダメだったならしょうがない。ちゃんと頼めば少しは国も面倒見てくれるみたいだよ。早めにこの教会と下手なプライドを捨ててそうするように言ってみたら?」

杏子「いやだ……そんなのいやだ」

あすみ「でもアンタはプライドよりも生きることを考えたから盗みに手を出したんじゃないの?」

あすみ「祈ったってなんにも起きないよ。ていうか、誰かが助けてくれる、誰かがなんとかしてくれるって思いながらなんにもできない弱い人たちって――――……」

あすみ「私は嫌いなんだ」

杏子「……!?」


 ……むっとした感情が伝わってくる。

 まだ悪意ってほど強いわけでもないけど。

681 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/16(日) 23:31:36.58 ID:WA9aFN+R0

あすみ「ま、私を恨まないほうがいいよ? これ以上不幸になりたくはないでしょ?」

杏子「は……? なにそれ」

あすみ「私がアンタたちの世界をよく知らないように、アンタにも知らない世界があるってことかなあ」


 私が煽ったせいで悪い事が起きるのは面白くないので一応それとない忠告をしてみる。が、よくわからなそうな様子だ。

 わからないならそれでもいい。……あるいは。もしかしたらこいつにも素養はあったりして?

 それならそれで、自力で生きられるようにはなるかもしれない。死も身近にはなるけど。


あすみ「私のこと、他に居場所がなくていつも一人でいるカワイソウな子供だと思ってたんだよね? まあ……どう思われるのかくらいは察してたさ。そんなに間違ってはないし」

あすみ「見下してるつもりはないのかもしれないけど、自分よりか弱いと思ってた相手に強く出られると『なんでアンタなんかにそんなことを言われなきゃいけないんだ』って思っちゃうものだよね」

杏子「そんなつもりじゃ!」

あすみ「嘘だ、図星って顔してるもん。まるで心の中で思ったセリフを読み取られたみたいにさ?」

杏子「いや……なんでそんなこと言われなきゃいけないんだとは思ったよ。でも、そうだな、あたしには……なにもできないな」


 ……怒った後は落ち込んだ。

 忙しいやつ。


あすみ「……どうせなるようにしかならないもんだよ。その中で後悔しないように選ぶしかないわけじゃん」


 とはいえ、杏子には選ぶことすらできないのかもしれないけど。

 これからどうするかを一番に握っているのはあの神父サンだ。綺麗事の真綿で自分たちを締め続けるような理想をどこまで追いかけるつもりだろうか。


――――――
――――――
682 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/16(日) 23:55:14.48 ID:2jwCK4oX0
まぁ、杏子の父親が貧困の元凶・・・じゃない原因なのはあすみもわかってるか、さすがに
683 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/17(月) 00:17:23.51 ID:rQjth1so0


 ふわふわと浮かぶシャボン。

 そこを次々とリボンが切り裂いていきます。――――今日もマミとの訓練。小さな動く目標に狙いをつけるトレーニングです。


なぎさ「今日の狙いも正確ですね! 前よりも短い時間でシャボンをすべて割れるようになってます!」

マミ「ええ!」

なぎさ「これならもぎせんとーでなぎさに勝つ日も近いかもですね〜」


 最初の頃はなかなか狙った場所にリボンを当てられなかったものでした。

 マミのノートには狙う位置やコツなど、その時感じたことが細かく注意書きしてあります。このノートはこれまでの経験の積み重ねなのです。


 訓練に一区切りがつくとマミはノートを見返して、それからなぎさに聞いてきました。


マミ「私、ちゃんと強くなってるわよね」

なぎさ「当然なのですよ! これだけ訓練してますし、実際にいろんなことができるようになってるじゃないですか」

マミ「ええ。そうよね」


 『わざわざ手合わせなんて試さなくてもわかるの。いざという時を経験してきてない人に負けることなんてないって――』


 ――……あの時あすみに言れた言葉。あれをまだ気にしているのでしょうか。


なぎさ「じゃ、今日も魔女退治に行くのですよ!」

なぎさ「終わったらお茶会にしましょう! あと……ちょっと今日の宿題も見てほしいところがあるのです」

マミ「ええ、あとで一緒にやりましょうか」



 二人で陽々と訓練場所を離れていきます。

 最初の頃のマミは、魔女退治となると緊張で顔をこわばらせていました。

 でも今はにこやかで楽しげ。それに安心します。

684 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/17(月) 00:23:15.16 ID:rQjth1so0
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ここまで
次回は18日(火)20時くらいからの予定です
685 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/17(月) 00:27:02.56 ID:N/zcfhgU0
うーん、マミさんは原作のような挫折を経験してないからちょっと危なげかな?
といってもなぎさ編でも多分なぎさが付きっ切りになってたと思うから、この話だとどうなるんだろうか
686 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/17(月) 00:29:39.95 ID:N/zcfhgU0
乙でした

杏子の実家の方もですが、一見順調に行ってるように見えるなぎマミ組の方も不安が見えかくれしますね
687 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/18(火) 23:29:59.32 ID:tKjpxPlg0
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今日は無理そうですね…(日付変わるまで30分)
次回は19日(水)夜に。多分。
688 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/18(火) 23:31:21.04 ID:tfqEfo320
スレ主さん、お忙しいのでしたらご無理はなさらずにー
689 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/19(水) 22:40:27.29 ID:eJ3A4uvo0
うーん、今日も時間がないですねぇ…
今週平日はとれなさそうなので多分次は休日になります。
690 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/22(土) 19:48:30.67 ID:UEEFsOu20



 ――――街を回り、その先で出会った魔女や使い魔を倒し、そろそろ帰ろうかと思い始めた時のことです。

 見覚えのある友の姿を見つけて手を振ります。



あすみ「……ああ、奇遇」

なぎさ「あすみ! あすみも魔女退治なのです?」

あすみ「いや、別に。散歩?」

なぎさ「一人でお散歩ですか?」

あすみ「そうだけど悪いー? 暇つぶしにやるこことしちゃ健康的だと思うけど」


 まあ、一人の暇つぶしといえばゲームや漫画などのインドアなものが浮かぶので、それよりは健康的かもしれませんが。

 ……それにしても、それだけというのもどうにも違和感があるわけです。


なぎさ(そういえば前の時も……)


なぎさ「あっちに用事があったのです?」

あすみ「まあ少し。じゃ、引き続き頑張って」

なぎさ「じつは、こっちもそろそろ終わろうかと思ってたところなのです」

あすみ「ああそうなの」

なぎさ「この後マミの家でお茶会する予定なのですよ! 用事が終わったならあすみもどうです?」

あすみ「私はいい」


 相変わらずつれない返事です。でも、珍しくあすみのことが少しだけわかりました。

 この辺には何もないと思ってましたが、あすみの来た方向を見てみると立派な教会の建物があることに気づきます。


なぎさ「教会……?」

マミ「え?」

なぎさ「ああ、いえ。あすみ、あっちから来たのかなって」

マミ「ええ、多分そうね……」

なぎさ「ちょっとだけ見てみてもいいですか?」

マミ「教会を?」

なぎさ「あ、イヤなら先に帰っていてもいいのですよ! ちょっと気になっただけなので!」

マミ「嫌ってことはないのだけど……でも少し帰りに買い足したいものがあるからそっちを見てきてもいいかしら?」

なぎさ「もちろんです。なぎさも長居はしないと思うので!」


 そう言って、マミと別れます。


 ……なぎさも少し興味が沸いただけです。いつも何かとドライなあすみが通うところはどんなところなのだろう、と。

 同時に、怪しいところではないんだろうとも思いましたから。

691 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/22(土) 20:52:39.60 ID:UEEFsOu20


 とはいえ、扉はしまっています。教会というと自由に出入りできる場所かとは思っていたのですが……勝手に開けちゃってもいいものなんでしょうか。

 どうしたらいいものかと思っていると。


「あれ? ……お客さん?」


 箒を持ったお姉さんが中から出てきて、声をかけられました。シスターさん? って格好にも見えませんが。


なぎさ「は、はい! といってもちょっと気になって来ただけで、とくに祈りにきたとゆーわけではないのですが……!」

「あ、あぁ……ああ! 構わないよ! うち、そうそうお客さん来ないしさ……! でもできれば父さんの話も少しは聞いてってほしいな」


 お姉さんはすごく嬉しそうにして、父さん……こと、神父さんを呼びに行きました。

 ……うーん、気軽に来てよかったのかな? ちょっと寄ってみるくらいのつもりだったので、あまり遅くなるとマミを待たせてしまうかもしれません。


 それにしても、気になることがあるのです。


なぎさ「あの……、ちょっといいですか?」

「?」

なぎさ「顔色がよくないように見えるのです。どこか具合が悪いのですか?」

「……」

なぎさ「ちゃんと食べてますか……?」

「……いや、最近余裕がなくて」

なぎさ「……あ、そうだっ、よかったらどうぞです! もらいものですが、食べきれなくて困っていたのです!」

「えっ……!?」


 もちろん理由は嘘ですが、カバンに入るくらいのエクレアを魔法で作って差し出してみました。

 するとお姉さんは目を輝かせます。


「えっ、いいの!?」

なぎさ「はい!」

「ありがとう!」


 こうしてここに来たのは偶然ですが、喜ばれるのは嬉しいものです。

 しかし、わざわざ家族を呼んで小さなエクレアを分けている姿を見ていると……なんともいえない気持ちがこみ上げてきました。


なぎさ「……」



 神父様はお礼にと心を込めてお話してくれましたが、正直難しくて内容はよくわからないところもあります。

 神様が本当にいるかもなぎさにはわかりません。それでもきっと。


なぎさ(…………魔法は人を助けるためにあるのです。それなら、こういう使い方だってアリですよね!)



 ……教会から出た後、そっと、メッセージを添えて教会の裏に箱を置いていきました。



――――
――――
692 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/22(土) 21:22:02.93 ID:qQnfB1g90
お、続き来ましたね!
なぎさの魔法なら魔力さえあればお菓子類は出せるからね
とはいえご飯ではないから栄養が偏るなぁ
693 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/22(土) 22:12:40.59 ID:UEEFsOu20


なぎさ「マミ、遅くなってごめんなさいなのです!」


 マミの家につくと、エントランスからマミを呼び出してみましたが、返事がありません。


なぎさ「……あれ? まだ帰ってないのかなあ」

マミ「なぎさちゃん、もしかして待たせちゃった?」


 携帯を取り出して連絡しようかと思ったところで、ちょうどマミが来ました。


なぎさ「なぎさも今来たところなのです」

マミ「どうだった? 私、教会って行ったことないから」

なぎさ「なぎさのほうはですね――――」



 マミと話しながら上にあがって、お茶会をはじめます。

 こっちも思ってたより遅くなってしまいましたし、マミも買い物が長引いたのかなとしか思ってませんでした。



なぎさ「マミのほうはどうでしたか? 時間かかってたみたいですが、どこまで買い物に行ってたのです?」

マミ「そんなに遠くには行ってないけど……ちょっと、魔女を見つけたから倒してたの」

なぎさ「魔女……一人でですか!?」

マミ「え、ええ。大丈夫よ。前は怖かったけど、今はなぎさちゃんのおかげでもう戦い方もわかるようになったから」

マミ「なぎさちゃんや神名さん……他の魔法少女も普通は一人で倒すんでしょう?」


 一人でも今ならきっと大丈夫。

 この前あすみと話したときにはそう言いましたが、今までずっと二人でやってきたから、驚いたのです。


なぎさ「そうですね……も、もうベテランさんですからね。うーん」


 大丈夫……とは言いましたが。やはり心配になってしまうものです。

 一人で戦うほうが危険なことには代わりはないし、仲間がいるなら危険を冒す必要はない、というのはマミも最初の頃から言ってたものですから。

 とはいえ、マミももう契約したてではありません。あの頃から今までで、何かしらの心の変化があったのかもしれません。

 もしかしたら、やっぱりこの前あすみに言われたことも気にしているのかも。


なぎさ「で、でも! 何かあったらすぐになぎさを呼んでくださいね!?」

マミ「……ええ。わかってるわ」


――――――
――――――
694 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/22(土) 22:52:49.89 ID:qQnfB1g90
うーん、そこはかとなく不安が・・・
695 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/22(土) 23:14:35.32 ID:UEEFsOu20



 まだ太陽の光が差す午後、私はまたあのみすぼらしい家族の住む教会に向かってみて、そして――――。

 ここ数日の空気とは違い、いつになく元気な声に出迎えられた。


モモ「あっ、あすみだ! いつも気になってたの! 今日こそ一緒に遊ぼうよ!」

杏子「お姉ちゃんが遊んでやるから迷惑かけちゃダメだよ。ほら、いつもの丘の木まで競争するか?」

モモ「うん!」

神父「ようこそ。賑やかで悪いね。驚かせちゃったかな。前はいつもこんな感じだったんだけどね……」


 相変わらず人気はないが、青白く痩せこけた顔で、力の入らない声で語るよりはよほどご利益がありそうな場所になった。


あすみ「いや? 元気そうでなにより」


 それより私が気になったのは、微かに魔力を感じたことだ。


 ……まさか、こいつが契約した?

 そう思って杏子を見る。


杏子「? ……一緒に遊ぶ?」

あすみ「かけっこ? そんなの……」


 魔法少女がやれば勝負にならないことだ。まあ、こいつはそれでもおねーちゃんだから手加減するんだろうけど。

 私は身内でもないヤツ相手に手加減してやったって楽しくない。


あすみ「……違う。箱?」


 魔力の元はあれだ。ちょうど、夫人が持ってきた箱に目を移す。そこからよく知った魔力を感じた。


夫人「また今日も贈り物よ。わたしたちの女神様……から」

あすみ「女神様ぁ――!?」

杏子「何? またケーキ?」

モモ「甘い匂い! ケーキだよ!」

杏子「でも、本当に神様からなのかな? ていうか、うちにいるのって女神様だったんだ?」

神父「人がやることにしては不自然な点はある。ケーキは傷みやすいはずだが、外に置かれていても傷んでもいないし、そもそも直接渡せるならそのほうが早いからね」

神父「なんであれ、感謝していただかなければいけないね。さあ祈りを捧げよう」


 …………呆れた。

 どこでここのことを知ったのかは知らないが、よりによってこんな形で施しを与えるなんて。なぎさのやつ。

696 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/22(土) 23:57:35.33 ID:XyxjtxieO
あすみからしたら偽善に見えるのかねー
問題の解決にはなってはいないわけだし
697 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/23(日) 00:26:14.58 ID:1n00ondX0


杏子「……もしかしたら、昨日来た子って関係ないかな」

モモ「エクレアくれた子のこと?」

杏子「箱を見つけたのってあの子が来てからだし、あの時もらったのも生菓子……考え過ぎかな」

夫人「ありえない話ではないけど、でもさっき言ったみたいに不自然なところはあるし、あの子の家がもしケーキ屋さんだったとしてもこう立て続けには無理じゃないかしら?」

夫人「あの子が女神様でもない限り……ね」

あすみ「……」

神父「よかったら、君も一緒にどうかな?」

あすみ「……私はいい。今日は帰る」


 来た早々で帰る私は、遠慮しているようにでも見えたかもしれない。

 しかし、あいつの仕業なら私が食べる意味なんて本当にないからだ。


あすみ(……こんなことしたところで自分たちで何もできないんじゃその場しのぎだ。結局何も解決しない)

あすみ(まさかずっと面倒見るつもりか?)



 人がやることにしては不自然ってのは神父サンも言ってた。

 魔法でやったことだからだ。今のなぎさの魔法なら腐らないようにすることも出来るだろうし、薬すら作れるのだから栄養だってコントロールできる。


 魔法を施しに使うのはまだいい。わざわざ神を名乗って、人間技じゃできないことをやって――――。


あすみ(……こりゃタイヘンなことになるかもね)


698 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/23(日) 00:29:14.54 ID:1n00ondX0
-------------------------------
ここまで
次回は23日(日)夜の予定
699 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/23(日) 00:34:07.56 ID:R/S5IPfJ0
乙です。

あすみが危惧したことって大抵起こるんだよなぁ・・・
あすみがなぎさに今回の件、どう始末をつけるのか問い詰めそう
700 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/23(日) 21:45:21.04 ID:1n00ondX0


 いつもの場所に寄れば、すぐに訓練してる二人の姿を見つけられた。


あすみ「…………」

なぎさ「あっ、あすみ! 来てたなら声をかけてくれればよかったのに」

あすみ「まだ見てただけ。用ができたら声かけるよ」

なぎさ「それなら、気が済むまで見ていってくださいなのです!」


 訓練の内容は二人での組み手のようだった。

 なぎさのほうがだいぶ余裕で、師匠らしくアドバイスなんかしてる。

 私と一緒の時には見えないような姿だ。師匠と弟子なのだから当然ではあるが、それ以外にも私の知らないような世界はあるんだろう。


 出会った頃からいろんな敵と戦って、目的を持って、なぎさは確実に成長してる。でも変わらないところもある。良い部分も、悪い部分も。

 むしろ目的持ってからさらに青臭くなった部分だってありそうだ。


あすみ「ねえ、なぎさ」

なぎさ「はい!?」


 仕切り直して二戦目をはじめた途中で声をかけられて、なぎさは半分こちらに意識を向ける。まだ余裕そうに澄ましてる。


あすみ「教会の奴らのこと……余計なことするのやめておいたら」

なぎさ「なっ、なんのことやら!」

あすみ「私にはごまかせないのわかってるでしょ。あくまで“女神様”の仕業にしたいってつもり?」

なぎさ「それでいいのですよ。見えないところでも人助けするのが、なぎさの思う魔法少女の役目なのです」

あすみ「……まだ続けるんなら、最後まで責任持ちなよ。どんなことになっても」

なぎさ「……!?」


 どう思ったのか、なぎさはまだ真剣な表情で訓練を続けてる。


あすみ「なぎさ……こっちから見るとパンツ丸見え!」

なぎさ「ふわあっ!?」


 気が逸れたであろう瞬間を狙うようマミにアイコンタクトしといた。

 すると、不意打ちの拘束は成功したように見えたが、

 縛り上げる前にいつのまにやら仕込んでいたシャボンが次々にぶくぶくと膨らんでリボンを破って弾けた。


あすみ「……こんくらいじゃ隙は突けなかったか。つーまんない。残念だったね、マミも」

なぎさ「丸見えなわけないじゃないですか!? 変なこと言わないでください!」

あすみ「あれ、じゃーもっと生々しいの攻めたほうがよかったかな? パンツなんて水着と変わんないし、子供だましって思っちゃうか」
701 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/23(日) 21:57:02.11 ID:R/S5IPfJ0
なぎさちゃんの魔法少女衣装は元々パンツは見えないようなw
702 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/23(日) 22:12:18.46 ID:+lEja0lfO
あすみは契約したのか云々言ってたから杏子が素質持ちだと気づいてるくさいか?
703 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/23(日) 23:28:18.54 ID:1n00ondX0

なぎさ「そういう意味じゃないんですけど……っていうか、マミだってそんなことでなぎさに勝ってもうれしくないですよ」

マミ「え、ええ。まあ……そうね?」

あすみ「本当に? まぐれでも一回くらい勝ちたくないの? まだ勝ったことないんでしょ?」

マミ「魔法少女同士で競うのは本来の目的でもないし、なぎさちゃんは師匠なんだから私より強くて当然よ。仕方ないわ」

あすみ「そう? 純粋な実力なんて、本当の戦いじゃ覆ることはいくらでもあるけどね」

あすみ「……要は機転ってやつだって。頭使って、一回くらい本気で勝ちにいってみなよ。負けっぱなしの試合なんてつまんないじゃん?」


 なぎさも過保護だがマミはマミで真面目だから、今までこんな感じだったのかもしれない。


あすみ「で、なぎさならさらにその細工をも捻り潰してみせるんだろうね」

なぎさ「あ、あたりまえです! 師匠ですから! ……なので、マミも遠慮せず来てくださいなのですよ?」

マミ「……ええ。遠慮はしてないわよ?」


 ……まあでも、真面目なほうが寿命は長いのかもしれないな。

 徹底して守られてるのなら、いざっていう時だって来ないんだろう。


 二人を突っついて、ちょっとだけ忠告をして、深くは関わらずに去っていく。


 これがいつもどおりの距離感だった。

 これからどこへ行こうか。まだ明るい。また教会に戻るにも早いし、時間を潰せることといえば魔女狩りに街を見て回るくらいだ。


なぎさ「……」



 …………去り際を見つめるなぎさは少し寂しそうな目で見ていて、でもそれに気づくことはなかった。

 いや、そんなの気づいていたって無視していた。


704 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/23(日) 23:41:54.99 ID:R/S5IPfJ0
あすみの方から歩み寄ることはよほどのことがない限り無理だと思うけど・・・
なぎさと関わりを持たないことが悪影響を生んでるよね、多分
705 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/24(月) 00:20:07.27 ID:T9pvnxi10


 だって、私ならアンタのほうが心配だって返すだろう。

 一応、心配はしてるんだろうな。


あすみ『……とりあえずケーキの件、正体バレるような滑稽なことにはなるなよって言っておく』



 姿は見ないまま、最後に気にかかってたことをテレパシーで伝えてから行った。



――――――



なぎさ「――――――……また言いたいことだけ言って、行ってしまいました」

マミ「なんだか、自由そうよね。神名さんって。あんなに思ったこと言うことってできないもの」

なぎさ「自由そう、ですか…… たしかにそう言うことも出来ますけど」


 もっと一緒にいろんなことしたいのに。もっとあすみのことも知りたいのに。

 あすみにはずっとモヤモヤとした気持ちを抱いていました。

 だって、ゼッタイ困ってるのはわかってるのです。


なぎさ「マミは何か言いたいこと、我慢してるのですか?」

マミ「えっ? いえ、そういうわけではないんだけどね?」

なぎさ「そうですか? それならよかったのです」


 些細な雑談でマミと笑い合って、それからまた少し訓練をして。

 そうして、夕焼けを見ながら帰り道を歩きます。

 なぎさにとってはこれがかけがえのない日常です。



なぎさ(そうだ。あすみの話でケーキがちゃんと届いてるのはわかったけど、みんなが元気にしてるか今日も見に行こう!)


706 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/24(月) 00:51:55.56 ID:T9pvnxi10




 それからも教会の人たちの顔色は良くなってて、みんな元気そうで、安心します。

 またちょっとむずかしいお話を聞いて、年の近いお姉さんたちとは普通の雑談をしたり、遊んだりもしました。

 女神様の話もしてくれました。本当はなぎさのことなので、ちょっと照れくさい気分になったけど……。



――――
――――



 ……顔を合わせて会いに行くのはたまにですが、毎日こっそりとケーキは置きに行っています。

 腐ることがなくて、できるだけ栄養満点のものをと念じて。

 それが終わると、文房具を取り出して今日もいつものメッセージを添えます。



なぎさ(見えないところでも人助けするのが魔法少女の役目……)

なぎさ(……そうですよね。感謝されたくてするわけじゃないから、こうして正体を隠しているのです。今日も見られないうちに――)



 その時、誰もいないと思っていた教会の裏――この場所に足音がして、声がしました。



「女神様……?」

707 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/24(月) 00:54:55.90 ID:T9pvnxi10
-------------------
ここまで
次回は24日(月)夜からの予定
708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/24(月) 01:01:36.19 ID:jTbVHQ9v0
乙です

あーあ、あすみの危惧通りばれちゃったか・・・
佐倉家が原作みたいな流れにはならないとは思うけど拗れはしそうだなぁ
709 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/24(月) 22:02:28.95 ID:T9pvnxi10


なぎさ「ええっ!?」


 驚きました。そして……何かしなくてはと考えます。

 しかし、戸惑ったところでなぎさには人目をごまかす魔法なんてありませんし、都合よく忘れさせる魔法もないのです。

 そんなのは、たしかに、考えるまでもなく…… とっくにわかってたことでした。


なぎさ「い、いえ! なぎさですよ! 一緒に遊んだ……! 知ってますよね!?」

モモ「知ってる、けど…… 見たもん。なぎさ、なんでそんなほうに行くんだろうなって、また遊びに誘おうかなって思ってたら……」

モモ「キラキラ光って箱が出てきたの。なぎさが女神様なんでしょ!?」

なぎさ「それは……――――」


 そこまで見られてしまっては言い逃れができません。


 仮面のヒーローの素顔がバレるのは、いつかあすみが言ってたように『こっけい』なことでしょうか?

 それどころか今のなぎさは…… この人たちにとっては女神様、なのです。

 感謝されたくてしてたわけじゃないですが……。


モモ「あのね! 女神様に会ったら、ずっと言いたかったことがあるの!」

なぎさ「な、なんでしょうか?」

モモ「いつもおいしいケーキをありがとう……ございます! 私たち家族のことをいつも見てくれて、見捨てないでくれて……!」

なぎさ「そ、そんな、改まらなくても……!?」

モモ「だって、神様なんだもん! これからもどうか……!」

なぎさ「は――はいっ! これからももちろん、なぎさの助けが必要ならお助けしますので!」


 ……頬が熱くなります。

 感謝されたくてするわけじゃなくても、感謝されるのは悪いことじゃないんじゃないか――そう思ったのでした。



――――

――――
710 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/24(月) 22:42:11.15 ID:jTbVHQ9v0
即効でバレましたなぁ・・・
このなぎさちゃんはすみみとの事とかで心に余裕がないせいか、色々と隙がありますね
711 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/24(月) 23:34:08.49 ID:T9pvnxi10



 約束通り、次の日もマミとの訓練の前に教会へケーキを置きにいきます。


 バレてしまったものはしょうがありません。見られたのはモモだけですが、一家に広まってたらと思うとどうしたらいいか。

 それでも前よりも気を張らなくてよくなったぶん、気分的には楽になりました。

 こっそり、っていうのも意外と疲れるのです。



なぎさ(今日はチョコレートケーキ……)


 ケーキの入った箱を置いて、文房具を取り出していつものメッセージを書きます。

 それから戻ろうとすると、待っていたようにモモがいました。


なぎさ「あのっ、なぎさのことって他のみんなにも話しました?」


 モモは首を横に振ります。ちょっとホッとしました。

 さすがに一家の全員から女神様と崇められたら気後れしてしまいます。


なぎさ「じゃあ、ヒミツにしててくれませんか? みんなと会うときのなぎさは、ただのなぎさだと思ってほしいのです」

モモ「女神様ってすごいです! こんなによくしてくれるのに謙虚で。本当に今日もありがとうございます!」

なぎさ「えへへ……」


 ……他の人からは女神様と呼ばれないで済むみたいですが、モモの態度は元には戻らなさそうです。


モモ「これからはもっとお祈りを頑張るので……!」

なぎさ「は、はい」

モモ「……明日はモンブランがいいな、なんて」


 何かかしこまった雰囲気と思ったら。


 これも、すがおがバレたっていうのでしょうか。

 たしかに見られてしまったけど、ホントのなぎさは女神様ではないのです。

 でも、女神じゃなくても魔法で叶えることはできます。なぎさの得意な、幸せのお菓子の魔法。


モモ「あ! ごめんなさい、わがまま言っちゃって!」

なぎさ「いえいえ、そのくらいならお安い御用なのですよ! 女神様にまかせなさいなのです!」

712 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/25(火) 00:35:04.91 ID:LUNAnkwB0

モモ「もう行っちゃうんですか?」

なぎさ「はい、これから予定があるので…… それが終わったらまた来るのです!」

モモ「はい! いつでも待ってます!」


 ふかぶかとお辞儀をする姿に手を振り、訓練場所へと行くことにします。

 ――……その時、なぎさの背後では、モモの姿を探して杏子が外を見に出てきていました。


杏子「……モモ、そんなとこでなにやってんの?」

モモ「ううん、ヒミツ! それより今日も裏見てみてよ。女神様に感謝の祈りを捧げなきゃだよ!」

杏子「お、今日も来てるんだ! 今日は何かな?」



 素直に喜んでいた杏子でしたが、なぎさの行ったほうを見て、少しだけ不可解な表情を浮かべます。

 とはいえ、その場を見ていない杏子にはすぐに正体と結びつけることは出来なかったのですが――――というのは、なぎさの知らない部分のおはなし。



――――



なぎさ「マミ、遅くなってごめんなさいなのです!」

マミ「いえ。でも、最近少し来るのが遅いことが多いけど……もしかしてまた教会に?」

なぎさ「ま、まあそうですね!」

マミ「お祈りでもしてるの? そんなにハマるような場所なのかしら……?」

なぎさ「え、ええと! お祈りもしてませんし怪しいものにハマったとかっていうわけじゃないのですよ!? むしろなぎさが祈られてるっていうか……」

マミ「……え?」

なぎさ「なんでもないのです! さあ訓練訓練!」



 半ば強引にごまかすように訓練に移ります。

 マミは同じ魔法少女ですし、モモに女神様……なんて呼ばれてることは、なんとなく恥ずかしいので知られたくありませんでした。



 ――――モモにも言ったので、訓練が終わったらまた教会に向かいます。今度はただのなぎさとして。



なぎさ(あ。あすみ……?)


 扉を開けた途端にまず目に入ったのは、教会の家族ではなくあすみの姿でした。

 ガラ空きの椅子の端にぽつりと座っていて、なんだか寂しそうに映ります。

 そうでした。最初にここに来たのもあすみがきっかけだったことを思い出します。

 特に何をしている様子でもなく、ただそこにいるだけ。


あすみ「…………」


 あすみもこちらに気づいただろうに、目を合わせてくれません。

 話しかけるなオーラと言いましょうか……意図的に無視している雰囲気を感じました。



なぎさ(さすがになぎさもそのくらいは読めますけどね……)


 そうしていると、あすみが席を立ちました。なぎさと入れ違いになるように去っていくつもりみたいです。

 モモたちがいるので厳密には一人じゃないですけど、一人になりたかったんでしょうか……? そんな感じにも見えました。

713 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/25(火) 00:40:23.58 ID:LUNAnkwB0
------------------------------
ここまで
次回は27日(木)夜の予定です
714 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/28(金) 00:52:16.44 ID:5lUs1dkn0


 しばらくあすみのことを考えてましたが、声をかけられます。


夫人「あら、ようこそ。今日もきてくれたのね」

モモ「わあ! いらっしゃい!」


 ひときわ明るい声で寄ってきたモモの手には分厚い本があります。勉強中だったのでしょうか?


なぎさ「むずしそうな本を読んでるんですね〜」

杏子「まあそうだね。これは聖書だよ。だから、神様の勉強。なんだかモモったら急に精を出しててさ。今日なんて遊ぶより勉強するって言うから驚いたよ」

神父「あのケーキのこともあって、目覚めたのかもしれないね。もちろん私としては嬉しい限りだ」

モモ「うん! だって今こうしているのも全部神様のおかげなんだもん!」


 モモはそう言って満面の笑みをなぎさに向けます。

 それは、なぎさを神様と思ってのことです。


なぎさ「ふふ。あ、あんまり無理はしなくて良いのですよ」


 ――なんて、ちょっと調子にのって言ったら、モモ以外からは『?』というような反応を返されてしまったのですが。


神父「まあ、ずっと本を読んでいたら目を悪くしてしまうかもしれないし、小さい頃は外で遊ぶことも大事だね」

神父「せっかくなぎさちゃんも来てくれたんだし、一緒に遊んできてもいいんだよ」

モモ「うん。じゃあ、遊びに行きましょう! めが……、なぎさ!」

なぎさ「は――はい!」



 それから、今日は暗くなるまでモモと杏子と一緒に三人で遊びました。

 学校の友達との遊びとなるとゲームなどのインドアになることが多いので、めいっぱい身体を動かす遊びはむしろ新鮮に感じます。

 もちろん、手加減はしなくちゃならないのですが……。


 魔法少女になってから近い年の子と遊ぶこと自体減ってしまったので、一緒に遊ぶ時間は楽しい時間でした。

715 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/28(金) 01:00:48.86 ID:5lUs1dkn0
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亀更新すぎるんですがとりあえーず1レスだけ投稿しつつ…
次回は28日(金)夜からの予定です
716 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/28(金) 23:19:05.45 ID:5lUs1dkn0
――――――



あすみ「…………」


 ……なんとなく暫く外から眺めてたら、なぎさと教会の娘らが飛び出していくのが見えた。


 ケーキの件からなぎさがここの奴らに関わってることは知ってた。

 飢えなくなって多少賑やかになってからも私一人だとまだ静かだが、なぎさが来たら空気はまるで別物へと変化してしまった。


 なぎさはああいうやつだから。マミが来てから余計に元気になってるみたいだし。

 あの空気の中にいる気はなかった。忠告ならこの前に済んでる。



あすみ(寂しい? 違う。別にそんな感情を埋めるために立ち寄ってたわけじゃない)



 ――だけど、なんか。

 なにかが気に入らなくて、立ち去った。


――――――
――――――




モモ「め…… なぎさ、ちょっとあっちで話せる?」



 ――――また次の日も教会に行くと、みんな歓迎してくれて、とくにモモはリクエストのモンブランのケーキを喜んでくれました。

 本当にすごい、ありがとうって。

 わざわざモモは教会の裏で感謝を伝えてくれたのです。


 でも、なんだか、昨日よりも少し元気がないようにも見えました。


なぎさ「あっ、またリクエストあったら聞きますよ?」

モモ「えっと、じゃあ、すっごくひさしぶりに豆腐じゃないホンモノのお肉とかも食べたいなぁ……って」

なぎさ「あ……それはできないのです。ごめんなさいなのですが……実はなぎさ、お菓子しか出せないのです。それもチーズを使ってないお菓子だけで……」

モモ「えっ、い、いいえ! ケーキ大好きです! こちらこそわがままを言ってしまってすみませんでした!」

717 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/28(金) 23:35:40.23 ID:z3gxEXvB0
なぎさはお菓子しか出せないからね
ケーキばかりなのは流石にね

あとあすみが何か複雑な感情抱いたね、嫉妬?
あすみも意地張らないで少しでもなぎさに歩み寄れればねぇ・・・
718 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/29(土) 01:14:39.12 ID:TAt5j0GZ0


モモ「……本当にごめんなさい、女神様。全然信仰を増やせなくて……。こんなに良くしてくれてるのになにもできてないです」

なぎさ「そ、そんなの、全然気にしてないのです……! ――――あ、というか……」


 なんと言っていいかわからず、言いかけた言葉を引っ込めます。それと同時に胸が痛みました。

 こうやって申し訳なさそうにされると困ってしまいます。

 なぎさは本当は女神様じゃないから……。


モモ「このままじゃうちは教会じゃなくなってしまうかもしれません……だから、少しでいいので、協力してもらえませんか?」

なぎさ「ええと、なぎさはなにをすれば……?」


 モモのことは今ではただ純粋に、なぎさのお友達だと思ってます。

 だから、神も魔法少女も関係なく、できることなら協力はしたいと思うのです。……でも、何か嫌な予感がします。


モモ「『神様として』布教を手伝ってほしいんです!」

なぎさ「でも、それは……」

モモ「お願いします! こんなにすごい神様がいるんだって知ってもらえれば、みんなも信じてくれるはずだから……!」


 いつになくモモは食い下がります。

 当たり前です。自分の家の命運がかかっているのですから、そう簡単には引けません。

 なぎさが『神様として』魔法少女の力を見せつければ、信仰してくれる人は増えるかもしれません。モモの家は教会を続けていけるかもしれません。


なぎさ「……………あの、ですね」


 ……でも、もう限界だと思いました。

 これ以上自分を神様だなんて言い続けたら、人を騙してるのと同じ。



 そう思って言いかけた言葉は、不意に表のほうから響いた声のせいで遮られました。


719 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/29(土) 01:18:30.05 ID:TAt5j0GZ0
>>718 【訂正】 数行抜けてる!
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モモ「……本当にごめんなさい、女神様。全然信仰を増やせなくて……。こんなに良くしてくれてるのになにもできてないです」

なぎさ「そ、そんなの、全然気にしてないのです……! ――――あ、というか……」


 なんと言っていいかわからず、言いかけた言葉を引っ込めます。それと同時に胸が痛みました。

 こうやって申し訳なさそうにされると困ってしまいます。

 なぎさは本当は女神様じゃないから……。


モモ「みんなが話を聞いてくれないのは、きっと、神様なんていないと思ってるからです。神様はこうしてちゃんといるのに」

モモ「今日は、学校でも神様のこと馬鹿にされてモモの家がヘンだって言われて……すごく悔しかったんです」


 今まで見たことがない怒りの表情を見せます。それにきっと、その怒りはなぎさのためでもあるのです。

 モモが元気がないのはそのことがあったせいでした。


モモ「このままじゃうちは教会じゃなくなってしまうかもしれません……だから、少しでいいので、協力してもらえませんか?」

なぎさ「ええと、なぎさはなにをすれば……?」


 モモのことは今ではただ純粋に、なぎさのお友達だと思ってます。

 だから、神も魔法少女も関係なく、できることなら協力はしたいと思うのです。……でも、何か嫌な予感がします。


モモ「『神様として』布教を手伝ってほしいんです!」

なぎさ「でも、それは……」

モモ「お願いします! こんなにすごい神様がいるんだって知ってもらえれば、みんなも信じてくれるはずだから……!」


 いつになくモモは食い下がります。

 当たり前です。自分の家の命運がかかっているのですから、そう簡単には引けません。

 なぎさが『神様として』魔法少女の力を見せつければ、信仰してくれる人は増えるかもしれません。モモの家は教会を続けていけるかもしれません。


なぎさ「……………あの、ですね」


 ……でも、もう限界だと思いました。

 これ以上自分を神様だなんて言い続けたら、人を騙してるのと同じ。



 そう思って言いかけた言葉は、不意に表のほうから響いた声のせいで遮られました。


720 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/29(土) 01:21:49.91 ID:TAt5j0GZ0
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ここまで
次回は30日(日)夜からの予定
721 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/29(土) 01:22:44.43 ID:XlhuLAgC0
あすみが危惧した通り、なんかめんどくさい展開になってきましたね
722 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/30(日) 21:30:57.29 ID:J12IF2ye0



*「ここがアイツの家? こんな町外れのド田舎みたいなとこにホントーに住んでるヤツなんていたんだな!」

*「おい、嘘つきモモ! きてやったぞ! 歓迎しろよ!」


 なにやら乱暴な声です。

 モモと一緒に表に駆け寄ってみると、モモと同じくらいの年の男の子二人がいました。


モモ「あ、あんたたち…… 何しに来たの!?」

*「お前がクラスの人みんなに『お願いだから来てください〜』って頼んでたから見にきてやったんだよ」

*「てかマジで来たのオレらだけ? オレらってやさしー。みんなモモの家はおかしいから近づいちゃいけませんって言われてるもんな」

モモ「みんな? そんなはずない!」

*「ホントだよ。モモと違って嘘つきじゃないし。モモには言わないだけだよ」

なぎさ「あ、あなたたちはバカにするためにここまできたのですか……?」


 ムッとして尋ねます。興味がないなら来なければいいのに。

 モモは学校でも広めようとしてたみたいです。モモを馬鹿にした人たちというのはこの二人なのでしょう。


 表で騒いでいたのに気づいたのか、神父さんと杏子も出てきました。


神父「何やら声がしたが、お客さんかね……?」

杏子「あんたたちモモのクラスメイト?」

*「あ、嘘つき宗教の神父だ! 逃げろー!」

*「神父さん! 信者を増やすためなら嘘言ってもいいんですか?」


 嘘……。さっきも『嘘つき』って言われていました。

 もしかして、それなぎさのしたことが関わっているのでしょうか。


神父「嘘……とは何のことかな? 嘘はもちろん良くないよ。娘たちにもそう言って聞かせているが」

*「じゃあこの教会に困ったときに助けてくれる女神様って本当にいんの? 女神様が毎日ケーキくれて、願いを聞いてくれるって!」

神父「ああ、ケーキのことは心当たりがあるが、願いというと……――」

モモ「本当だよ! 今日のモンブラン、私がお願いしたんだもん」

杏子「モモ、それホントに!? 偶然とかじゃなくて?」


 モモの言う願いとは、あのリクエストのことだったのです。

 なぎさは大した事はできませんし、大したことをした気もありませんでした。でもモモにとっては十分すぎるほどの奇跡で――。


モモ「女神様、お願いします! 嘘つきじゃないって証明してよ!」

723 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/30(日) 23:18:39.75 ID:J12IF2ye0


なぎさ「………………」


 なぎさがここで何もしなければ、モモは嘘つきって言われ続けるのでしょう。

 もしかしたら神父さんや杏子にも怒られてしまうかもしれません。


なぎさ「…………」


 それに……、

 モモからは『見捨てられた』と思われてしまうでしょう。そう思うといても立ってもいられず――。


 ……ソウルジェムから魔力を練りました。


なぎさ「……これ、明日の分のケーキなのです!」

杏子「な、何もないところから!」

神父「なんと…… 人の力ではないのかもしれないとは薄々思っていたが、君が…… いや、貴女が……」

なぎさ「き、気づいてると思いますが、腐ったりしませんので……受け取ってください」


 メッセージはないけれど、いつもと同じ箱入りのケーキです。


*「う、嘘だろ!? なんかの手品だよな!?」

*「いやいや……信じらんないけど、これ手品とかじゃないって! 神様って本当にいたんだぁ……」

なぎさ「……」

モモ「あ、ありがとうございます! ほら、わかったでしょ!? 嘘つきなんかじゃないんだから!」

*「あ、あの……神様? お、オレらのこと祟ったりしないですよね?」

なぎさ「……きょ、今日のところは許しててあげるのです。ただし、これからモモのことをバカにしたら許しません」


 男の子たちは、ぺこぺこと謝って帰っていきました。


 ……やってしまいました。これでもう、モモ以外からも今までのように接してもらえなくなるかもしれません。

 でも、騙したままじゃ、やっぱりダメだと思うのす。


杏子「モモは知ってたんだな」

モモ「うん。たまたま見ちゃって……」

なぎさ「あの、モモ。また少し話してもよろしいでしょうか……?」

モモ「?」

724 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/30(日) 23:34:59.17 ID:+oCQ2JHR0
魔法バレしちゃったか
725 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/31(月) 00:41:05.49 ID:g+caFouE0


 教会の裏。ふたりになると、なぎさは決心します。


なぎさ「実は……なぎさは神様ではないのです」

モモ「え……!? で、でもっ、ケーキを出してずっと助けてくれたじゃないですか!? さっきだって!」

なぎさ「あれは魔法なのです!」

モモ「魔法……?」


 こんなことを急に言われたって混乱するでしょう。

 モモの前にソウルジェムを見せます。手に乗せて差し出した宝石をモモは呆然と見ていました。

 思い切って変身してみせると、更に驚いた表情になりました。


なぎさ「今まで隠しててごめんなさい。なぎさは……魔法少女なのですよ。今見せた宝石が魔力のモトで、こうやって変身して魔女と戦って街の平和を守っているのです」

なぎさ「なぎさもただの人間なのです。キュゥべえと契約すればみんな魔法少女になれるのですよ」

モモ「み、みんなって、モモもなれるの……? モモもケーキを出せるように……?」

なぎさ「ケーキを出したのはなぎさの願いから生まれた魔法です。キュゥべえが願いを叶えてくれて、その代わりに戦うことになるのです。だから、そう願えば……」

なぎさ「……お、怒ってませんか? 騙してたこと!」

モモ「ごめんなさい…… まだ混乱してて…………」

なぎさ「そ、そうですよね! こんなこといきなり言われても困ってしまいますよね……」

モモ「…………」

なぎさ「では……もう行きますね。みんなの前で話す勇気はなくて。でもモモには知っていてもらいたかったのです」



 ……落ち着かない気持ちのまま変身を解いて表のほうに向かい、教会から離れていきました。

 みんなと今なんて話したらいいのかわかりません。

 明日からどうすればいいのでしょうか。


726 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/31(月) 00:52:59.00 ID:g+caFouE0
---------------------
ここまで
次回は2日(水)夜の予定です
727 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/03(木) 22:48:22.10 ID:pVwAJIwe0
――――――
――――――


 中に戻ってみると、みんなまだ女神様――なぎさからもらったケーキの箱を神妙な表情で眺めてた。


神父「神様は私達を見捨てないはずだとは信じていたが……こうして目に見える形で姿を現すことがあるとは、正直思っていなかったな」

夫人「そうね。でも、目の前で見てしまったもの。まさか本当にあの子が女神様だったなんて……」


 まだみんな不思議そうにしてるみたい。

 人の力じゃありえないこと。それを神の力だと思っていたけれど、さっきの話はそれを否定した。


モモ「おねえちゃん」

杏子「モモ、どうした? そういえばなんか話してきたの?」

モモ「うん。……ちょっと」



 みんなより一足先に部屋のほうに戻っていく。そこでお姉ちゃんにさっきのことを話してみた。

 まだ整理がつかないから、まずは聞いたことをそのまま。



杏子「実はさ、前にモモが裏で話してるの知ってからちょっと怪しい気はしてて、もしかしたらなぎさが女神様なんじゃないか……とか考えたりはしてたんだ」

杏子「だって、あんなタイミングよくなぎさが来てすぐケーキ見つけるって普通ないでしょ。……でも、ホントに合ってたって思ったら今度は魔法少女って」


 今も信じられない。でも、そんな変な嘘つく意味もない。

728 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/03(木) 23:36:10.26 ID:pVwAJIwe0

モモ「女神様だと思ってたなぎさは魔法少女で……じゃあ女神様は本当はいないの?」

杏子「あのメッセージに書いてあった『女神様』はいないだろうけど、神様はいるよ。最近熱心に祈ってたのもきっと無駄じゃないさ」

モモ「う、うん。そうだよね……」

杏子「それにしても、人間と魔法の力を与える契約なんてするやつがいるっていうのか……?」


 そしたら、このプライベートな空間で聞くはずのない知らない声とともに小さな影が現れた。


「うん。いるよ」

杏子「わ、わぁっ!?」

モモ「も、もしかして……」

QB「僕がなぎさの言ってたキュゥべえだよ。魔法の使者さ。願い事があれば叶えてあげることができる」

杏子「……」

モモ「……」



 お姉ちゃんと二人で顔を見合わせる。そのときわたしたちが思いついた願い事は“ふたつ”だった。



――――――

―――
―――



なぎさ「み、みなさんこんにち……あ、あれ? お客さん?」


 あれからなぎさは気まずくて、昨日はついに顔を出しませんでした。

 あの時は渡したのは『翌日の分』でした。だから、まだ今日の朝までは足りているはずなのです。


 今日はちょうどお休みなので、朝に来てみました。

 だって、助けてほしいというのはモモからの頼みでもあるのです。今から見捨てるわけになんていきません。


 ――――でも、そこにあったのはいつもとは違う光景で。


神父「ちょうどよかった。……どうぞお入りください」

なぎさ「ふえ……?」

神父「日曜日は礼拝の日。皆様は神様……いえ、『貴女』のためにお集まりいただいているのです」

なぎさ「……ふぇぇ!?」


 中にいるのは決して大人数ではありませんが、今までと比べれば多い人数です。

 子連れの家族も多く……あの時の男の子も来ていました。

 その視線が一斉にこっちに向きます。


729 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/04(金) 00:08:15.73 ID:Q8p8joRH0
あー、杏子がひょっとしたらモモっも契約しちゃったのか・・・
この話だとなぎさは魔法少女の真実知らないままだし、こりゃとんでもないことになりそう
730 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/04(金) 00:22:20.27 ID:DRJfaEhv0


*「この子がその!?」

*「信じられない……見た目は普通の子供なのに! でもそれも聞いたとおりだわ……」

*「お祈りすれば私達にも奇跡が起こるの!?」


 たしかになぎさの魔法で、ここのみんなのことは助けることができました。

 でもなぎさはこんなに多くの人の『神様』にはなれません。どう答えようか迷っていると、神父さんが制しました。


神父「静粛にお願いします。お祈りや信仰とは下心を持ってするものではありません」

神父「『していただく』のではなく、神の為、人の為――ひいては世の中の為に自らが奉仕すること。そう考えているからこそ神様は目を向けてくださるのだと信じています」

神父「……そう、ですよね?」

なぎさ「は、はい。なぎさもそう思います」

なぎさ「すぐにみなさんの悩みが解消するわけじゃないかもしれませんが……きっと、良いことしてればいつかは報われると思います」


 ……結局なぎさは曖昧なことしか言えませんでしたが、みんなは納得してくれたみたいでした。


*「今日はお試しのつもりだったけど、これからもお祈りしてみようかな……」

*「でも……女神様? 怒られるかもしれませんが今は本当に困ってるんです。これから大事なピアノの発表会が控えてるのに指を骨折してしちゃって」

なぎさ「おケガですか……それくらいなら、なぎさの力でも治せるかも」

*「ほ、本当ですか!?」

なぎさ「――はいっと、これでどうでしょう?」


 女の子の差し出した手を包み込み、その中で見えないようにソウルジェムを具現化して魔力を使いました。


*「あ、あ! 治ってる! ありがとう、ありがとうございます!」


 その言葉に教会内は一斉に沸き立ちました。

 ……なぎさの魔法を見た男の子もいるし、戻れないのは今更です。でも。

 治ってよかったという安堵と、文字通り神様のように称賛されるてれくささ。それと同時に、騙しているという罪悪感が膨らみます。


モモ「…………」


 モモのほうを見ると目が合いましたが、すぐに隣にいる杏子のほうを見てしまいました。

 二人は何を考えているのでしょうか。それはなぎさにはわかりません。


――――
――――
731 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/04(金) 00:25:45.05 ID:DRJfaEhv0
--------------------------
ここまで
(水)はちょっと仮眠とろうとおもったら朝まで寝てました
次回は5日(土)夜からの予定です
732 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/06(日) 00:14:20.79 ID:Zsqn73UJ0


 礼拝が終わるとお客さんが神父さんと話しにきました。この前見た男の子も一緒にいますし、その子の母親なのでしょう。

 なんとなくやりとりを見ていると、何かを渡して頭を下げてから帰っていきました。


 ……なぎさは今日は、初めて見る人たちに注目されてすっかり疲れてしまいました。しかし、ここにきた目的を忘れるわけにはいきません。


神父「神様――いえ、本来ならこうして直接話すことすらおこがましいのですが……」

なぎさ「そ、そんなにかしこまらなくてもいいのです……! それで、なんでしょうか?」

神父「うちの教会にもあれからこうして私達の教えを聞いてくれる人がきてくださるようになりました」

神父「一昨日のことがあってから、あの男の子が広めてくれたみたいでね……モモから聞いた話だと、あの子たちはクラスでも発言力の高いガキ大将だったらしい」

神父「あの子たちの友達、親、そのつながりから興味を持ってもらえたようで、あのご婦人は息子がモモをいじめてすまなかったとお詫びまでしてくれて……」

なぎさ「そうだったのですね……」


 あの時神父さんや男の子たちの目の前で力を使ったことがきっかけでこんなことになるなんて。

 みんなを騙してしまうことにはなりましたが、めでたし……なのでしょうか?


神父「なんと感謝すればいいのか……。これからはなんとか暮らしていけそうです。貴女のおかげで私達は、生活していける力まで手に入れることができました」

なぎさ「! そ、そうですかっ。よかったのです!」

神父「これからもどうか私達を見守りください」


 そんなとき、向こうから家族を昼食に呼ぶ声がしました。

 今までずっと魔法のケーキを差し入れてきましたが、ついになぎさが何かをしなくてもよくなったのです。


 あの時は叶えてあげられませんでしたが、モモもやっと本物のお肉を食べられます。

 ……すれちがいざま、モモはこっちを見てそっとつぶやきました。



モモ「……ありがとう」



 真実を知っているのはモモだけ。

 モモはまだなぎさが話したことは胸に留めたままのようです。少なくとも、神父さんには話していません。

 これからもずっと、本当のことは知られないままなのでしょうか……?

733 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/06(日) 00:17:47.84 ID:Zsqn73UJ0
-------------
次回は6日(日)夜に…
734 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/06(日) 21:04:20.12 ID:Zsqn73UJ0
――――――
――――――


 ――――……わたしたちが思いついた願い事は“ふたつ”だった。


モモ「……ぜんぶ叶っちゃったね」

杏子「……そうだね」


 ひとつは、なぎさのようにたべものを生み出す魔法を手に入れること。なぎさは本当は神様じゃなくてモモたちにもできるなら、モモたちがやるべきだ。

 そしてもうひとつは、うちが教会を続けていけるようにすること。


 結局その時にはまだキュゥべえには願わないで、その次の日になったら、なぎさが力を見せつけたときの話が広まってた。


モモ「早まらないでよかったの、かな?」

杏子「じゃあ……他の願いにする?」

杏子「まだ叶えられるんだよね。どんなことでも」

モモ「他のこと……」


 あの時すぐに浮かんだのはふたつで、他のこととわれるとすぐには浮かばなかった。

 美味しいものを食べたり、キレイなお洋服を着たり、たくさんのお金をもらったり……とか。

 今よりさらにイイ思いをすることもできるんだろうけど、そのために願うってどうなんだろう? なんだか、ズルしてるような気がした。


モモ「お姉ちゃんはなにか思い浮かぶの?」

杏子「いや……。でも」

モモ「?」

杏子「なぎさのことも契約のことも、父さんたちに話さないでいいのかな。あたしたちだけで抱えていていいことじゃない気がするんだ」

モモ「…………」


――――――
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/06(日) 22:32:56.17 ID:SbtzUd9Q0
杏子たちはまだ契約してなかったのか
話さないと原作同様に禄でもないことになりそう・・・
まずはあすみに話して欲しいなぁ
736 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/06(日) 23:24:39.18 ID:Zsqn73UJ0


 あれからはなぎさも毎日教会に行くことはなくなって、今までどおりマミと訓練したりパトロールに行ったりして過ごしました。


なぎさ(思えば最近は訓練で見てられる時間も減ってしまってて……マミには申し訳ないことをしてしまいました)

なぎさ(今日も訓練しようってマミにメールしてみますか。でも、たしか今日は――)


 一週間ぶりの礼拝の日。みんなは元気にやれているのでしょうか。

 マミとの予定は午後にして、あの教会のある街の外れのほうに向かうことにします。


 すると、その途中であすみと鉢合わせます。そしてなぜか……引き止められてしまいました。


あすみ「……今あいつらに近づかないほうがいいよ」

なぎさ「な、なんでですか?」

あすみ「教会は閉まってる。畳むことにしたんだってさ」

なぎさ「え……!? そんな、どうして? この前ちゃんと人も来てたのに?」

あすみ「人は来てるよ。だからアンタが近づいたらヤバいことになるんだって」


 あすみはそう言いますが、なぎさにはなにがなんだかまったくわかりませんでした。

 でも、わからないままにしたくはありません。


なぎさ「……何かが起きているのですね。もしかしたら、それってなぎさのせいでしょうか?」


 わからないなりに思い至ったのは、なぎさの嘘がバレる日が来てしまったのかもしれない――ということでした。

 なぎさにもみんなを騙してた自覚はありました。おそらく、それがみんなにバレた時には良くないことが起こるだろう、ということも。


なぎさ「そうだとしたら、なぎさがなんとかしないとです! もちろんそうでなくても……何かあったら助けるって約束しました」

あすみ「…………」


 あすみの横を抜け、さらに道を進んでいきます。

737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/06(日) 23:29:33.77 ID:SbtzUd9Q0
あ、これは・・・
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 23:51:26.83 ID:wu2qOrfTO
なーんか杏子の父親の矛先がなぎさに向かいそうだな
739 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/07(月) 00:37:29.53 ID:0B5p2dYf0


*「あ、女神様だ!」

*「女神様!」

なぎさ「え?」


 教会の建物の前にはたしかに人が集まっていて、それを見た時なぎさは責められるんだと覚悟していました。

 でも、その反応は予想と違いました。この前と変わらない照れくさくなるような呼ばれ方。バレてはいないのでしょうか?


 そう思った時、扉にある大きな貼り紙が目に入ります。


なぎさ「これは……」


 『申し訳ございません。私達は皆様を騙してしまいました。
  女神と名乗った者は神などではありませんでした。魔女だったのです。
  償いとして今日でこの教会は終わりにします』


 貼り紙には目立つ赤い文字でこう書かれていました。

 正体がなぎさたちが倒すべき“魔女”として書かれているのには悲しみを覚えましたが、ますます疑問がわきました。


なぎさ「どうしてこれを読んだのに、みんな……?」

*「女神様でも魔女様でも本当に力はあるなら教会なんてどうでもいいわ。もともと神なんか信じてたわけでもないもの」

*「そうだそうだ。あいつらなんか何もできないくせに!」

なぎさ「…………」


 ……教会に来てくれた人たちは魔法の力で起きた奇跡に興味を持ったのであって、教えに興味を持っていたのではなかったのです。

 それならもう、これで神様ごっこはちゃんと終わりにすることにします。


なぎさ「みなさん、まだ騙されてますよ。……ここまでバレちゃったらしょうがないから言いますけど!」

なぎさ「傷が治ったなんてサクラです! ほんの冗談だったのですよ。魔女っていうのは……たぶん、『嘘つき』って意味なのです」

なぎさ「……だから、ごめんなさい。魔法なんてあるわけないのですよ」


 みんなしばらくざわめいていましたが、なぎさにそう言い張られては仕方ないと思ったのか、次第に興味をなくしたように帰っていきます。

 ……良くも悪くも、彼らの多くは目に見えるものしか信じようとしない人たちでした。

 教会という大人の関わる組織がついていればまだしも、なぎさだけでは神というにも魔女というにも、常識を覆すには説得力が欠けるというものです。


 結局最後の最後まで、なぎさは嘘つきになってしまいました。でも神父さんたちだけが悪く思われたままになるのはあんまりだと思ったのです。

740 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/07(月) 00:40:42.06 ID:0B5p2dYf0
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次回は8日(火)夜の予定
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/07(月) 00:43:20.65 ID:4MRhPWBD0
やっぱりこんな感じになったか
>>738の通り神父がなぎざに何か言いそうだなぁ・・・
742 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/08(火) 23:22:51.29 ID:YTdhnism0


 やがて表は静かになって、なぎさはしばらく扉の前に立ち尽くしていました。

 いつもは開放されていたはずの扉でしたが、今は鍵がかけられているようです。


なぎさ「…………」


 もう一度貼り紙の字に目を向けます。

 なぎさはもう、ここには来てはいけないのでしょう……。友達だと思っていたモモとも、もう……。


 そんな時、中から声がしました。


モモ「……なぎさ、外にいるんだよね?」

なぎさ「! ……モモ?」

神父「やめなさい……モモ」


 もう一つ聞こえてきたのは、それを制止する神父さんの声でした。


神父「あの子は神を騙った。許されない事だ。それに、その力は神の力ではなかった」

神父「私達は日々祈っている。しかしそれは、すべてが叶えられるわけじゃない。世の為に奉仕する行為こそが重要なのだ」

神父「聞くところでは、例の契約は『何でも叶える』のだろう? 彼女が何を願ったかは知らない。だが、もし平和のための布教を願ったらどうなる?」

神父「文字通り、叶えられるのだろう。だがそこにはなんの過程もない。どんなに良いことを願ったとしても、自らの思い通りになる奇跡など……私達にとっては邪悪でしかないんだよ」

なぎさ「…………っ」


 神父さんたちからすればなぎさたちは卑怯に見えるのでしょう。

 しかし、そう言い切られてしまうと何かモヤモヤとした気持ちが沸き起こりました。

 ……怒りでしょうか、悲しみでしょうか。なぎさは叶えてもらったことに後悔なんてしてないから。でも、なんと言い返せばいいのかわかりません。


神父「得体の知れぬ存在に望みを叶えてもらう契約なんて、古より伝わる悪魔に魂を売り渡す契約と何も違わない」


 キュゥべえは得体の知れない存在だなんて……――そう口に出そうと思いましたが、

 よく考えればキュゥべえについて知ってることなんてほとんどありませんでした。


神父「そして、そんな力に頼らなくては誰も寄り付かぬ教会など……もう私達も諦めるべきだったんだ」

なぎさ「こ、これからどうするのですか?」

神父「仕事でも探すさ。君が心配することではないよ」


 なぎさは突き放されたのでしょうか。

 しかし、神父さんの声は悲しげでありながらもどこか吹っ切れたようにも聞こえました。


 ……多分、なぎさはもうこの家に関わることはなくなるのです。

743 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/09(水) 00:21:44.00 ID:Qe7EciPy0


あすみ「邪悪な力だとしてもそれに命拾われたのは事実だろーが! なんて思っててもいいけどまずはそれに感謝するのが人の心じゃーないわけ?」

あすみ「でも一応やっと現実見たみたいで良かったよ! 現実見えてない正論振りかざすとことか嫌いだった!」

なぎさ「へっ?」

あすみ「……ヒトツだけアドバイスしとくと、そういうとこ直さないと次の職場でも浮いちゃうよ?」


 なぎさがしんみりしていると、急にあすみが割り込んで扉に向かって言い放っていきました。最後のチャンスとばかりに……。

 いつのまについて来てたんでしょう?


なぎさ「あ、あすみ……!?」

あすみ「いこっ」


 ……あすみの物言いはキツいですが、なぎさが言葉にできなかったモヤモヤがちょっとすっきりしました。

 あっけにとられてましたが、ようやくなぎさも教会に背を向けようとします。

 そのとき、背中のほうから再びモモの声が聞こえてきました。


モモ「……この前も言ったけど、ありがとう! なぎさは神様じゃなかったけど助けてくれたし助けようとしてくれたよね……」

杏子「ああ、あんな美味しいケーキなんて食べたことなかったし夢のようだったよ。あれがなかったら……」

杏子「なぎさと会えてよかった。思えばそれだって奇跡だ。だから、モモもさ、神様に祈ってたのは無駄じゃなかったんだよ」

モモ「うん!」


 奇跡……キュゥべえに願ったものじゃない、ホンモノの奇跡。

 考えたことはなかったですが、人との出会いも奇跡なのでしょう。だったら、きっとなぎさは恵まれています。



神父「確かに、そういう考えも出来るね。 ……ありがとう」



 ……少し遅れて、神父さんの声も聞こえました。

744 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/09(水) 00:26:12.27 ID:Qe7EciPy0
----------------
ここまで
次回は12日(土)夜の予定です
745 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/09(水) 00:29:56.99 ID:B0Fag+980
あすみ、なぎさについて来てくれてたのか
言ってることはキツくても、あすみはなぎさや佐倉家のことちゃんと気にかけてくれてたんだね
アニメ本編とは違い心中にならなくてよかった・・・
746 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/09(水) 19:08:54.64 ID:8FuU47DdO

佐倉家、これはこれで救いのある終わり方かな?
あすみがしっかりなぎさをサポートしてるのも良し

747 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/12(土) 20:42:59.14 ID:BrQl52Dp0
――――――



 “あなたたちの女神より”……手書きで可愛らしいメモ帳に書かれたメッセージは拙く、

 上等な造りの箱とその中身のケーキがなければ、子供のイタズラとすら思いかねないようなシロモノだった。


 ……神? そんなのいないから代わりにやってるんだ。何もしてない神に感謝されることになっても。

 でも『女神』なんて、どうしてちょっとだけ自分を出すような書き方をしたんだ。神を名乗るならただ神とだけ書けばいいのに。


あすみ「本当は最初からさ、感謝されたいって気持ちもあったんじゃないの? 『神様』って讃えられるのはイイ気持ちだったでしょ?」

あすみ「やり方だってずさんだよ。身を隠すのに特化した魔法を持ってるわけでもないんだし、毎日コソコソ置きにいってたらそりゃいつかバレる」


 きっと、深く考えていなかったんだろう。助けたらどうなるかもバレた時のことも、あの家族の前で神様を名乗る意味も。


なぎさ「……そうですね。ちょっと浮かれてたとこはありました。でも、段々と騙してるって気持ちのほうが大きくなりました」

あすみ「まー、感謝されていいようなことしてるんだからそう思うのは当たり前なんだけど」

あすみ「良いことしても上手くいかないもんだよね? 恩が仇で返ってくるようなことだってあるしさ?」

あすみ「私は優しさなんて誰かに付け入られるだけの『弱み』だと思ってたよ。今も思ってる」

なぎさ「だからですか? あすみがなぎさたちとは離れて活動しているのって」

あすみ「……」


 たまに通りがかりにでも訓練場に顔を出すようにはしたり、露骨に避けたりしてないつもりだったけど、さすがにそう思われてたんだ。


なぎさ「前はよく一緒にいろんなことしてたけど、今はあすみがどうしてるのか全然わからなくて」

なぎさ「そんなときあすみがあの教会に行ってたことを知って、なぎさも行ってみたのです。そしたらちょっとわかるんじゃないかって」

あすみ「私のことを知るために……?」

なぎさ「はい。あすみはどうして行ってたのですか? お祈りにきてたわけではないのですよね?」

748 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/12(土) 22:08:11.72 ID:BrQl52Dp0


 そう問われると答えに困った。

 最初は傘がなかったからって流れ的に。それからは……他に行くとこがないからだった。しいていうなら。


あすみ「そうだね、なんとなく? 何も言われなかったし」

なぎさ「なんとなくで教会に通いますかね……」


 さすがにこんなんじゃ納得しないかな、と思ってたらなぎさはこんなことを言いはじめた。


なぎさ「……でも、何も言われないからっていうのは納得しました。前見かけたとき、そんな感じがしたのです」

あすみ「あぁ、そう? 納得してくれたならいいけど……」

なぎさ「もしかしたら…… 今、そういう場所がほかにないってことですよね」

あすみ「!」

なぎさ「あすみが自分のことを言わないのは前からでした。でも今は携帯も使えなくなったって言うし本当に心配で」

なぎさ「もしかしたら出会う前から何か抱えてたのかもしれないけど……何かが起きてるんじゃないですか?」


 やめてよ、見透かされたくない。

 人を見透かすのは得意だけど見透かされるのは嫌いだ。なんだかみじめな感じがする。

 でも、そんな心まで読んだかのようになぎさは言う。


なぎさ「あすみは前、『いざというときに頼れるのが友達』だって言ってくれましたよね。今がそうなんじゃないですか? だったらもっと、頼ってほしいのです!」


……そりゃ読めちゃうか。

 もう付き合いも長いし、『友達』――って認めちゃったんだから。諦めるしかないようだ。


あすみ「言ったとこでなんもできないと思うよ? 嫌な気持ちになるだけだよ? それでも聞きたいの?」

なぎさ「それでも何も知らないままよりいいはずです!」

あすみ「もう、仕方ないなぁ」


――――
――――
749 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/12(土) 22:23:37.32 ID:DwGpGjmC0
あすみの過去はなぎさにはキツいだろうな
それと魔法少女の真実も話すかね?
そろそろ知っておかないとヤバいだろうし
750 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/13(日) 00:29:06.46 ID:IsKfL80Q0


 契約する前のこと、契約してからのこと……――――



あすみ「多分まぁ私のもありふれた不幸だよ。心読んでみると家庭環境とかやべーのってたまに見たし。そのほうがキュゥべえがつけ入りやすいでしょ」

なぎさ「つけ入るって……あすみも神父さんが言ってたようにキュゥべえを悪魔みたいに思ってるのですか?」

あすみ「あぁ、あれに関してはほぼ同意だったよ。神父サンやってたからかしんないけど、そこそこ真に迫ってるなぁと思ってた」


 そんな前置きをして。


あすみ「私もお母さんいないってのは言ったじゃん。そのときにキュゥべえは来なかったってのも」

なぎさ「そうですね……聞きました」

あすみ「私の場合、お父さんも最初から家にいなかったんだ。じいちゃんばあちゃんもいない。だから、わけわかんないとこに飛ばされた」

なぎさ「ま、まさかそれでロトーに!?」

あすみ「……結論は合ってるんだけどね。さすがにそんなに簡単には路頭に迷わせられないかなー。おせっかいなことに、子供には大人が必要だってことでどっかにはあてがわれるから」

なぎさ「け、結論は合ってるのですか……?」

あすみ「うん。マミくらい大きくて家に金があれば一人暮らしもできたんだろうけど、私は無理だった。……私の場合は、父親がテキトーに友人に手を回したんだって」

あすみ「私からすれば知らない人。父親でさえよく知らないのに。向こうからしても、知らない子供なんてサンドバッグ兼ダッチワイフが手に入ったくらいにしか思ってなかったわけね」


 ……そのことはごくざっくりとだけ。

 特にあの男のことなんか詳細に話しても嫌な気持ちになるどころじゃないし、大して話したくもない。


あすみ「しかもその時の私って暗かったから友達もいなかったんだ。前まで普通に話してた人まで離れるどころかいじめる側に回った」

あすみ「そうなるともう、目に入るもの全部、醜いなー……って思って。だから、そいつら全員『不幸』になるようにって呪って契約してやった」

なぎさ「呪いって……どうなったのですか?」

あすみ「あの男は魔女に食われて死んだ。私も途中で『口づけ』に気づいて見送ったよ。念入りに他の魔法少女がいないことも確かめて」

あすみ「いや、私が助けなきゃ助けられるはずないんだよね。それが不幸というものだから。他も……事故に遭った奴とかいたかな。全部の末路は知らないけどね」

なぎさ「殺されそうになって殺したって……そういうことだったのですね……」

あすみ「そう。心を削るような暴力も、いじめも、見殺しも立派な殺しだよ。それで私は今晴れて路頭に迷ってるとこ」

あすみ「でももちろん前よりはいいよ。あの家に居続けたくもないし、あの街の魔法少女と醜い小競り合いしてるよりはアンタみたいなのに出会えた分よかったと思う」


 誰かにこんなこと話すのははじめてだった。

 なぎさがどう思ってるのか気になる。でも、魔法で覗きたくはない。

751 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/13(日) 00:31:56.19 ID:IsKfL80Q0


あすみ「家にあったもの持ち出してこっちに来たんだけど、そろそろ色々と使えるものがなくなっちゃってさ」

あすみ「それに心置きなく休める居場所ってのも結構大事だったんだなって思った」

なぎさ「居場所……ですか…… あと携帯やお金?」

あすみ「不便だけど、携帯はなければないで慣れるよ。前まで携帯なんて持ったことなかったし」

なぎさ「たしかにとりあえずお金とおうちのほうが重要ですよね……うーん」


 なぎさはあれこれと考えているようだった。

 なんとかしようと考えてるのか? どうせ何も出来ないって言ったのに。


なぎさ「でも、居場所なら…… 訓練場所は好きにいてくれて構わないのですよ。訓練中も気にしませんから。たまにアドバイスとか、参加してくれたりすると嬉しいですし!」

なぎさ「そうでした。今日もマミに訓練しようって誘ったんでした。多分もうすぐ……」



 ……私達はいつも訓練に使ってる場所からも少し離れたところにいた。

 もしマミが偶然ここに来たりしても大丈夫なようにと思って選んだ場所だ。もちろん関係ない人がよく通る場所でも話しにくいし。



なぎさ「ここからちょっとですし、あすみも来ませんか? マミのことだしちょっと早くにきて訓練はじめてると思うのですよ!」

あすみ「……まあ、いいけどさ」



 行く場所もないし、行ってやってもいいか。

 ――――……そう思ってついていったが、なぎさの予想に反してマミの姿はまだなかった。

752 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/13(日) 00:35:43.16 ID:IsKfL80Q0
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ここまで
次回は13日(日)夜の予定です
753 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/13(日) 00:57:18.59 ID:cKhhSFlT0
乙です

あすみの事情、なぎさにはまだ理解できないところがあるのはどうしようもないですからボカして正解かな、と
マミはなぎざにマンツーマンで訓練受けてたから、もう弱くはないとは思うけど逆に無理しちゃうかも?
754 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/13(日) 22:01:17.43 ID:IsKfL80Q0


あすみ「私達だけみたいだね」

なぎさ「うーん、予想はずれちゃいましたねー……」


 それならそれで、訓練中しててもそうじゃなくても居るだけなら関係ない。

 すると、なぎさは思いついたように言い出した。


なぎさ「そういえば、さっきの話を聞いてもわからなかったことがあるのですが……」


 ……なんだ。もしかしてダッチワイフってなんですかとでも言うつもりか。

 そんなことを考えたが、それも違うようだった。


なぎさ「結局どうしてキュゥべえのことを嫌ってるのです? あすみは神父さんのような理由では嫌わないんじゃないかと思ったのです」

あすみ「あー……」


 どう返したものかと悩む。そういえばそこには一切触れていなかった。その真実自体は、『私の過去』ってわけじゃないから。

 たしかに私は心を読むまで、キュゥべえのことは助けてくれた恩人だとすら思っていた。


あすみ「……まあそれもいつか、話すよ」



 私が話すのと自ら知ってしまうのと、どっちが早いだろうか。

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