【安価スレ】堕ち行く光

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755 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/20(金) 04:33:06.39 ID:4PsxJxlmo
【名前】桔梗(ききょう)
【人種】鬼
【性別】女
【魔法】炎魔法、簡単な治癒魔法
長身でショートの桃色髪で出るところの出た女性。腰に刀と脇差をさげている
早くに両親をなくして孤独になったとき周囲が誰も引き取ってくれなかったため子供のころから自分の力で生きていくしかなかった
そのことが少しトラウマになっていて自分の生まれた地域に苦手意識を持っている
緋桜郷の伝統的な武術を身につけて冒険者稼業や用心棒をやっていたときに伝手で牡丹雪の仕事を紹介された
乱暴な客に対応する用心棒として雇われて普段は掃除や雑用を担当
男のような振る舞いをするがそれは一人で生きていくための処世術として身に付いたものであり根は純真で女性らしい
心の奥では自分には帰るべき場所がないという寂しさを抱えている
756 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/20(金) 13:58:17.10 ID:rjB7/JXS0
【名前】灯籠(とうろう)
【人種】天狗
【性別】男
【魔法】鋼魔法
桜花衆の1人にして緋桜郷の商人会長を勤めている。オレンジ髪にサングラスをしている。天狗の羽がついている。腰には武器のメイスを下げている。テンションが高くお調子者。流行には敏感で常に流行を取り入れたり、新しいものを販売しているため、彼のお店はいつも長い列ができている。店は日常のものや冒険者に役立つアイテムなどが売っている。元々孤児だったが優しい商人の人に拾ってくれて育ててくれた。成長して商人なろうと決心し勉強や技術をし今にいたる。魔法を使って体を固くして防御したり、人に教わった体術や武器のメイスを使って戦う。
757 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/20(金) 16:37:46.84 ID:W+KsXtFD0
【名前】嵐月(らんげつ)
【人種】鬼
【性別】男
【魔法】風魔法
桜花衆の中でも幹部的な立ち位置にある、眼光鋭く頬に刀傷のある黒髪長髪の男性。前をはだけた着物を直接素肌に着て、腰には業物と思しき刀を下げている
現在は桜花衆に統合されて存在しないものの、かつては緋桜郷の見回りや用心棒、金を踏み倒すような客への取り立てといった極道的な組織の親分を務めており、その強さと男気から男女問わず憧れられていた
現在でもその武闘派ぶりは健在であり、緋桜郷に勇者であるリヒトがやって来たと聞いて一度戦ってみたいと周囲に漏らしているという
ちなみに戦いで本気になると着物を脱ぎ捨て、背中に彫られた風神の刺青が露わになる
それを見て生きて帰れた者は今まで一人もいないと言われている
758 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/20(金) 19:32:26.56 ID:W+KsXtFD0
>>757
ちょっと文章的におかしい所があったので修正します

【名前】嵐月(らんげつ)
【人種】鬼
【性別】男
【魔法】風魔法
桜花衆の中でも幹部的な立ち位置にある、眼光鋭く頬に刀傷のある黒髪長髪の男性。前をはだけた着物を直接素肌に着て、腰には業物と思しき刀を下げている
現在は桜花衆に統合されて存在しないものの、かつては緋桜郷の見回りや用心棒、金を踏み倒すような客への取り立てといった仕事をこなす極道的な組織の親分を務めており、その強さと男気から男女問わず多くの者達から憧れられていた
現在でもその武闘派ぶりは健在であり、緋桜郷に勇者であるリヒトがやって来たと聞いて一度戦ってみたいと周囲に漏らしているという
ちなみに戦いで本気になると着物を脱ぎ捨て、背中に彫られた風神の刺青が露わになる
それを見て生きて帰れた者は今まで一人もいないと言われている
759 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/20(金) 20:57:57.69 ID:8H87JUlcO
【名前】瑠璃(るり)
【人種】人間
【性別】女性
【魔法】呪詛魔法
新しく牡丹雪に入った女性。年齢はおよそ20歳前後
艶やかな濡羽色の髪を腰丈までストレートに下ろし、いつも物憂げな表情をしている。体つきはやや華奢で暗色系の和装を好む
元はある寒村の出身で食い詰めた家族に奴隷として売られ、最近まで違法な店で働かせられていた。先日その店が桜花衆の働きにより取り潰され、身寄りを失ったために牡丹雪に置かれることとなる
前の店では違法薬物や異常行為を強要されていた。体の傷や異常は都度回復魔法や浄化魔法で治癒されていたため殆ど残っていないが、心には無数の癒えない傷を負っている。そういった事情から自己肯定感が低く、夜の仕事をしている最中にしか生きる実感を得られない。また、自分はそれ以外に価値がないとも思っている
家族のことは恨んでいるが、食い詰めていた事情も理解できるため、心の底から呪うことまではできていない
760 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/21(土) 22:40:59.64 ID:AUXGAStX0
【名前】サイエス・リーヨー
【人種】人間
【性別】男
【魔法】硫酸魔法
桜花衆の一人でもあり科学者を勤めている男性。緑髪で髪はボサボサになっている。メガネをかけて、白衣を着ている。優しくいつも笑顔で話しかけている。緋桜郷のところにある研究所で色んなを研究しており、ポーションなどの回復アイテムも作ることができる。遠距離での攻撃が得意で弓や魔法で硫酸の弾丸を飛ばしたり、科学薬品を投げたりなどしている。元々別の街の出身で研究していたが現在は緋桜郷に住んでいる。桜花衆のメンバーや緋桜郷の住人とも仲が良く飲みに行ったりなどしている。
761 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/21(土) 23:07:12.21 ID:4myQnQBDO
お待たせしました。これより再開します。
762 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/21(土) 23:08:19.12 ID:73/7szOwO
図書館を見て第一に感じた印象は『古風』だろうか。
緋桜郷特有の木造建築は他の地域の様式と当然のことながら大きく異なり、昔らしさを感じさせる。温かみがあって嫌いではないのだが。
完成して何百年も経っている割には綺麗で、作りもしっかりしている。さぞかし立派な名工が手掛けたのだろう。

まだ午前中だからなのか人は少なく、ざっと見た限りでもご年配の方や真面目な冒険者くらいしか見当たらない。
おそらく娯楽に溢れた緋桜郷の住民は外で遊ぶのだろう。そのような娯楽を必要としない者、知識を求める人がここに集うのだと思われる。

「外に置いてるハリゴーディンがパクられたら敵わん。なるべく手短に済ませて出るか」

「あんなのを盗む物好きいますかね?チャカちゃんは可愛いので盗まれそうですが、アレがリードを持ってるので結局誰も近づかないと思いますけど」

仮にも仲間なのにあんなのとかアレ呼ばわりするウィンディはなかなかイイ性格をしている。
まあ、そんな呼ばれ方をするハリゴーディン側に多大な問題があるので致し方なしである。

30分後くらいに図書館を出るまで自由行動とし、その場は解散することにした。
これで何かしらを得てもらいたいものだと頭の片隅で思いつつ、リヒトは本に手を掛けた。
763 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/21(土) 23:08:52.13 ID:73/7szOwO
リヒトが選んだ本は二つ。一つは『緋桜郷妖怪絵巻』なる題名の絵本。もう一つは『これが世界各地の勇者だ!』なる題名のゴシップ誌だ。

緋桜郷妖怪絵巻は、緋桜郷に言い伝えられている妖怪を分かりやすく解説している子供向けの絵本だ。
危険なものはおどろおどろしく、可愛いものは可愛らしく描かれており、いかにも子供が好みそうである。
まあ、その実態は緋桜郷周辺の情報を纏めた魔物図鑑とでも呼ぶべきものなのだが。
先祖代々伝えられる魔物の情報を妖怪として、後世に遺すこの書物の価値は地味に大きい。当時を知る手段にもなる。
たまに本物の妖怪(謎の存在)が紛れ込んでいるのはご愛嬌と言ったところか。

もう一つの本は、当時世界中で観測されていたらしい勇者の情報を収録した勇者図鑑。と本誌は謳っている。
だがその実情は筆者の主観が入りに入ったゴシップ誌と大して変わらない。
数年毎に発刊すると後書きに記載しておきながら、図書館に保存されているのは初版のみ。
発刊したは良いが誰にも買われなかったのか。はたまた売れはしたが信憑性の無い与太話や噂話がありすぎて出版社が焼き討ちでも喰らって絶版になったのか。
真相は定かではないが、二百年前に初版が出たっきりなのでお察しするしかない。話半分で読めば良いだろう。
そう思考に区切りをつけ、本を開いた。
764 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/21(土) 23:09:31.94 ID:73/7szOwO
『福呼び様』


昔々、ある村に小さな食堂がありました。子供好きのおばあちゃんが作るご飯はとっても美味しく、村の子供たちに大人気でした。
ですが、その村に病気が流行り、たくさんの人が亡くなってしまいます。
怖くなった人たちはみんな、村を去って出ていきます。
亡くなった子供たちが寂しくないよう、おばあちゃんはたった一人村に残り、何年も何年も、ご飯を作っていました。

ある日、男の子が一人お店にご飯を食べにきました。
その顔は見たことがなく、周りにも家族がいなかったのでおばあちゃんは不思議に思いましたが、お腹を空かせた男の子のためにご飯を作ってあげました。
ご飯を全部食べた男の子は、お辞儀だけをして店を出て行きました。

次の日。何やら店の前が騒がしいとおばあちゃんは朝早くに目が覚めます。
するとなんと、たくさんの行列ができているではありませんか。
お客様に話を聞いてみると、たまたま近くを通りがかった商人が、子供に美味しいご飯屋さんがある、と道案内を受けたというのです。
しかし、もう村には子供はいません。不思議なことが何度もあるなんて、とおばあちゃんは思いますが、お客様のためにご飯を作りました。
それからは、美味しいご飯が食べたいと村に人が戻ってきてお店はとっても繁盛しました。
たくさんの人に囲まれたおばあちゃんは、そのまま幸せに過ごしました。

福呼び様が幸せを呼び込んでくれたおかげで、また一人幸せになれましたとさ。

めでたしめでたし。

著:亀有南斎
絵:脇差ぐねぐね太郎
《緋桜郷妖怪絵巻》より抜粋
765 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/21(土) 23:10:27.21 ID:73/7szOwO
何ページか読み進め、リヒトは絵巻を本棚に戻す。福呼び様以外にもいくつか読み込んだが、どれも関わらない方が吉と書かれていた。
ごく一部しか読んでいないので何とも言えないが、ガチモンの妖怪である福呼び様以外はやはり、人類にとって害獣のような存在らしい。
だから、こういった本を使って危ない奴にちょっかいを掛けるな、と警鐘を鳴らしているのだろう。
死が見えているのにわざわざそれに触れる必要は無いのだから。

例えば、ヒオウサンショウウオ。透き通るような淡紅色の身体を持つ、サンショウウオに似た魔物だ。
緋桜郷(ひざくらきょう)の近辺に住むのにヒオウと付いているのが気になるが、湖のヌシと呼ばれる時があるらしいので王と桜のダブルミーニングなのかもしれない。
性格は物静かで温厚。彼側から攻撃をすることは防衛行動以外ではまず無いので、彼の怒りを買うようなことさえしなければ安全らしい。
昼寝中に抱きついても大丈夫らしいが、普段は水底でのんびりしているそうなのでヌメヌメしてそうだ。少なくともリヒトは触りたくないと思っている。
そんなヒオウサンショウウオの怒りを買った不届者はどうなるかと言うと、頭上から局所的な豪雨と落雷が降り注ぐのだという。普通に迷惑で死人が出そうだ。
766 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/21(土) 23:11:01.11 ID:73/7szOwO
他にも、ドクロサムライやイナズマミケネコといった魔物も目を引いた。
二又の尻尾を持つ猫型の魔物であるイナズマミケネコは手を出さなければ毛繕いをしたりと可愛らしい姿を見せるが、一度でも手を出せばそれはまさに逆鱗に触れられた龍の如く暴れ始めるらしい。
ただでさえ数mと中型のドラゴン級のサイズを持つ魔物が雷を纏って大暴れするのだから、その被害は想像したくないレベルである。人里まで攻めてこないのがせめてもの救いか。

六本の腕を持つ骸骨の魔物であるドクロサムライに至っては、目が合った瞬間に剣を振るってくるという好戦的にも程がある生態をしている。
宴に興じていた将軍が夜襲を受け、部下と共に惨殺された怨念から生まれた魔物らしい。
悲しい出自の魔物だが危険な存在には変わりなく、殺すのは難しい上に封印も面倒、しかし縄張りである荒れ地からは動こうとしないので、桜花衆側も不干渉に徹しているらしい。
緋桜郷を経由するキャラバン隊にも、荒れ地に接近しないようにとお触れを出しているのだとか。

面白いものが知れた、とリヒトは絵巻の齎した情報に満足する。
ドクロサムライとやらなら、光魔法で存在ごと消し炭にできそうだと物騒な思考をしつつ、次の本に目を通した。
767 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/21(土) 23:11:38.61 ID:73/7szOwO
皆様の多大なる要望を経て、本誌が発行できたことを喜ばしく思います。
はい、というわけで始まりました『これが世界各地の勇者だ!』です。好評だったら数年単位で出していこうと思うのでそこんとこよろしく。

えー、まず本誌を出すに至った理由なんですけれども。私は今までに世界各地を旅してバチクソに痛い目に遭ってきましてね。
その時にまあ、目にしたり耳にするわけですよ。勇者のお話とか昔話をね。
んでもって、どれもこれも勇者に至るまでの経歴が違うから面白いって思いましてね。
ならこれを他の人にも知ってもらって、あわよくば印税をガッポガッポ…いやなんでもないです。

何はともあれ、石碑を読み解いたり金を貢いだりしてやっとこさ手に入れた情報ばかりです。
参考にしてくれたら嬉しいです。それでは本題にGo!
768 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/21(土) 23:12:22.27 ID:73/7szOwO
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769 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/21(土) 23:12:56.20 ID:73/7szOwO
『世界に殺された勇者』

えー。この勇者を初っ端に紹介してええんかと悩んだんですけども。
やっぱり掴みはインパクトが大事!なもんで、現実はそう上手くいくものじゃないよって教えるのも含めて先陣を切っていただきました。本人は首を切られたんですけれども。

彼の名は『ルーク・ファンブルダイス』。冗談みたいな名前ですがマジでこの名前です。ガッチガチに厳重に封印されてた祠の石碑に書かれてたんでたぶんガセじゃないと思います。
もし嘘だったら緋桜の下に埋めてもらって構いません。

彼がどんな勇者だったのか。いつの時代の勇者なのか。についてなんですが。
言ってしまえば遥か昔…そうですねー。ざっと数千年前の時代に存在してたみたいです。
我々が生きるこの世界。文明が長い間続かないのは周知の事実だと思います。ざっくり数百年経ったら綺麗さっぱり滅んで、また新しい国とかできてますしね。
だから世界中に遺跡とかがあるわけです。滅ぶ原因は自然現象だったり戦争だったりとあるわけですが、私は専門家じゃないのでこの話はここまで。

まあつまり、そんな昔に生きていたこの勇者はとにかく強かったんです。とんでもなく強かったんですよ。
少なくとも、魔法の類は一切使えなかったそうですが、そのシンプルにして規格外の強さを以って、世界征服を企んだ魔王をたった一人でぶち殺し、世界を救いました。
しかも、彼は死ぬ瞬間まで何一つ喋らなかったんです。意志も伝えず、ただ黙々と、返礼さえも求めず人を救い続けました。
彼が優しすぎたのか。それとも頭のネジが外れていたのか。何かがあって心を壊したのか。それは情報が無いので何も解りませんけれど。
770 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/21(土) 23:13:35.47 ID:73/7szOwO
その力を、行為を恐れた民衆は、世界は、彼の死を望みました。自身を救ってくれた英雄を、ただ怖いというだけで殺そうとしたのです。
しかし、勇者はそれを拒むことなく、首を差し出します。
断頭台に取り付けられ、心無い罵声を浴びせられる中でも、彼は微笑みを浮かべていました。
振り下ろされる大鉈。飛び散る鮮血。
何も求めず、ただひたすらに救い続けた英雄は。人のエゴによって都合良く切り捨てられた英雄は。死してもなお笑っていたのです。

それでもあなたは、勇者になりたいと思いますか?

著:不死鬼 八犬
《これが世界各地の勇者だ!》より抜粋
771 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/21(土) 23:14:30.68 ID:73/7szOwO
最初の一人目を読了した時、ぞくりと背筋に氷柱を差し込まれたような感覚がした。
額に手をやると、冷や汗がべったりと付いていた。その理由は考えるまでもなかった。

自分も彼と同じ末路を辿っていたのかもしれない、と、本能が嫌悪感を示したのだ。
何も求めず戦い続けた自分と、何も求めず人を救い続けた彼が、重なって見えてしまった。
厳密に言えば、何も求めなかったわけではないのだが。戦争が終わった後、身を寄せていたフィアリス家への爵位を嘆願した。
その結果、田舎町の名家だったフィアリス家は男爵の爵位を賜り、正式に統治するようになったのは記憶に新しい。

もう戻れない、戻ってはいけない嘗ての故郷に思いを馳せる。
故郷と呼ぶべき場所は三つほどあるが、その中でもフィアリス家が一番居心地が良かった。

「…どうしてあの人は、俺を赦したんだろうな。あれほど俺を恨んでたのに。…憎んでたのに」

護れなかった聖女の父母に会った時。聖女の死を伝えた時。殺される覚悟はしていた。寧ろそれを望んでいた。
なのに、彼らは殺すこともせず見逃した。愛しの娘を見殺しにした大罪人を、裁こうともしなかった。
今でも、その理由は分からない。分かる日はやってくるのだろうか。

光の失せた紅眼が、天井へ向けられる。木材の模様が目に映った。
772 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/21(土) 23:15:09.94 ID:73/7szOwO
ニンニン。はじめまして皆の衆。皆大好きシノビマンでござるよ。ニンニン。
さてさて、拙者が此度筆を取った理由でござるが。
どうやら異邦には魔法なる摩訶不思議な妖術があるらしいのでござる。
幸い、魔法への知見を持つ者と対談する機会があったので、魔法に対する見解を述べようと思った次第でござる。
皆もこれを読んで、立派な忍になるでござるよ。シノビマンとの約束でござる。ニンニン!

まず、忍術と魔法の差異について示さねばなるまい。大前提として、どちらも魔力を消費するものであることに変わらぬ。
忍術の場合は、魔力を練りつつ図示したような特定の印を結ぶことで火を吹いたり風の刃を放ったり、と望んだ現象を起こす技術でござる。
しかし、魔法の場合はあら不思議。謎の呪言を呟きながら魔力を練ると、大爆発が起きたり雷が落ちたりするのでござるよ。怖いね。
同じ魔力を使っておきながら、現象を起こすまでの過程がここまで異なるのは驚きでござる。
ここで、拙者はこの差がどう影響を及ぼすのか拙者なりに考察したでござる。少し長くなりまするが刮目して見よ!


著:(自称)忍術マスターシノビマン〜
《魔法についての見解》より抜粋
773 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/21(土) 23:16:12.45 ID:73/7szOwO
はじめましての方ははじめまして。そうでない方はお久しぶり。千を超える魔法を極めた最強の魔法マスターマジックマンです。
今回は、緋桜郷と呼ばれる地域で何故か大流行している魔法モドキである忍術について独自の見解を交えて話していこうと思います。
つまらなさそうって思った奴は呪うから覚悟しとけよ。何食っても雑草の味しかしないようにしてやるからな。

ゴホン。魔法とは何か。それを説明しようとしたらそれはもうめんどくさいことになるのでそこから知りたいならまずフェルリティアで一年くらい勉強してきてください。
人の生活様式に地域差があるように、魔法の形式にも地域差があります。
解りやすいのは呪詛魔法とかですね。詠唱と触媒を併用するものもあれば、生贄一つで行使するものもあります。

先述した忍術はおそらく、緋桜郷で独自の進化を遂げた魔法だと思います。そうでないとやってられません。
どっちも魔力を使うし現象を起こしてますからね。
だからって、なんであんな痛々しいポーズを取るのか理解できませんが。頭の中が少年時代で止まった奴が考案したのか?

と愚にもつかない推測はさておき。魔法と忍術の明確な違いですが、魔法の方が才能による効果の差が顕著に出ることですね。
忍術の方はやり方さえ知っていれば、ある程度の効果は保証されます。才能絶無の子供がやっても、天才の大人がやっても最低限の効果はあるってわけです。
その分魔力を喰うのでお子ちゃまがやったら最悪死にますけど。
774 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/21(土) 23:17:15.56 ID:73/7szOwO
それに対して、魔法の方は全然変わります。天と地ほどの差が出ます。
才能の欠片もない奴が火炎魔法を行使したところで、蝋燭の火くらいしか出ないんですよ。
同じやり方を私がしたら家が消し飛びます。たぶん。危ないからやったことないんで確証はないです。

ざっくりまとめると違いはこんな感じです。

魔法:魔力消費は魔法ごとに調節可能。威力や難易度も同時に変動する。才能があれば際限なしに性能強化。

忍術:魔力消費は忍術ごとに最低値のみ固定。威力や難易度は結ぶ印の数と魔力消費に依存。魔力量の才能のみが性能に影響を及ぼす。

まあこれは私なりの見解なので、絶対にこうだ間違いない、と保証はしてないです。クレームは受け付けないので悪しからず。

著:(自称)魔法マスターマジックマン
《忍術についての見解》より抜粋
775 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/21(土) 23:18:02.80 ID:73/7szOwO
二つの本を読み終えたウィンディは人目も憚らずに嘆息した。書き手の個性が出過ぎている。
もっと簡潔に、詳細を書いてほしいのに、ござるだの呪うぞゴラだの余計なことが書かれていて読む気が失せていく。
意地で読了したが、何を書いていたのか半分くらい頭から抜け落ちてしまった。
今からもう一度読み直す気力も時間も価値も無いので、絶対にしないが。

「そろそろ時間ですよリヒトさん。早く外に出ましょう」

「…ああ」

入り口で突っ立っていたリヒトに声を掛ける。が、表情はあまり明るくなかった。
お目当ての本でも無かったのだろうか。

「どうしました?えっちな本でも探したけど見つからなかったんですか?」

「…違うが。ちょっと考え事をしてただけだ」

「なるほど。そういうことにしておきますね」

「だから違うって」

そんな他愛のない会話をして、二人は図書館を出る。
外に出ると、ハリゴーディンはチャカと共に大道芸をしていた。
何がどうしてそうなったのか。二人は考えるのをやめた。

ちなみに見物客は一人もいなかった。見るからに怪しいのだから当たり前である。
776 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/21(土) 23:19:03.80 ID:73/7szOwO
何をするかを↓1にどうぞ。
勇者の本は借りてるので読みたい時は行動として選んでください。
777 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/21(土) 23:48:17.98 ID:q0t0Tz6eO
武具屋を覗く

リヒトはともかくウィンディやマナはなんか食らったら即死しそうなので…
778 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/22(日) 01:43:23.44 ID:gy4NW0jYO
続いて一行が向かったのは六番街。冒険者向けの店や宿屋が軒を連ねている宿場街だ。
武具店や道具屋の他、魔導具店といった便利アイテムも取り揃えているので、魔物と戦ったりダンジョンに潜ったりする前に品揃えを見ておいて損はない、とよく言われているらしい。
レムカーナ軍に随伴していた時は支給を受けていたリヒトには微塵も関係ない話ではあるが。

「へー。超硬質メタライトってこんなに高いんだな」

武具店にオーダーメイドしてもらう際に利用できる素材を興味本位で見ていたのだが、偶然ハリゴーディンの装甲材と同じ物を発見した。
値段は馬鹿みたいに高かった。これを採算度外視で大量に注ぎ込んだハリゴーディンの製作者はやはり頭がおかしい。
そんな高級品に自爆機能を盛り込んでいるのだから、一度死んで馬鹿を治した方がいいのではないか、と一瞬真面目に思ってしまった。
流石に失礼すぎたと自覚したため内心で謝罪するが、正直まともじゃないと誰に対してか分からない抗議をしておく。
779 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/22(日) 01:44:39.84 ID:gy4NW0jYO
「武具店に何か注文するんです?」

「俺の分はするつもりはないが。君とかマナ用の防具くらいは作った方が良いと思ってな」

「戦わないので不要です。痛いのやです」

「どうせいっかいなぐられたらしぬからいらない」

「二人のへちょい耐久力だと流れ弾で死ぬリスクがあるから困ってるんだが」

無数の修羅場を経て鍛え上げられたリヒトと、そんな経験などしたことがない二人では肉対面の強さに圧倒的な差がある。
リヒトにとっては些細な怪我で済むようなダメージも、二人にとっては致命傷になり得るだろう。

妖精という種族である以上、マナの虚弱性は保証されている。これっぽっちも良くないことだが。
しかも、常人より遥かに小さな体躯をしたマナに合う防具などあるのだろうか。
そもそもそれを作ったとして、彼女が着込んでくれるだろうか。
反人工物ウーマンのマナが首を縦に振ってくれるイメージが湧かない。

ウィンディもウィンディで、魔法使いということは重装が難しい現実が立ち塞がっていた。
詳しい理由はリヒトには解らないが、鎧などの重装備をしていると、魔法の行使に悪影響を及ぼすらしい。
だからなのか、魔法使いは基本軽装だし、重装備をした戦士が魔法を行使する際は簡単なものに留めておくか、利用する武器などに触媒としての機能を持たせて、無理矢理性能を底上げして補っている。

リヒトの場合はかなりの特異ケースで、そもそもが軽装であるのに加えて、聖剣が触媒としての機能を勝手に果たしてくれるのでデタラメな魔法をポンポン放てたりする。
ガチガチに装備を固めるよりかは、軽装で素早く動いて魔法をぶっ放した方が戦果を挙げられるのだ。

「なんというか、世の不条理とか理不尽を感じますね」

「どういう意味だオイ」

遠い目をし始めたウィンディに抗議の視線を向けるも、乾いた笑いで黙殺されたリヒトだった。
780 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/22(日) 01:47:20.82 ID:gy4NW0jYO
誰にどんな装備を買うかを↓2までどうぞ。一レスにつき一人です。現時点ではそこまで金が無いので贅沢はできません。
買わない選択肢もあります。



マナ 小盾とお子様用ヘルメット
ウィンディ 耐物ローブとお鍋の蓋
781 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/22(日) 04:22:35.75 ID:HEQa7yoh0
ウィンディ 耐物ローブ
782 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/22(日) 09:40:58.30 ID:6eQquFQIo
マナ 子天狗の葉団扇
783 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/22(日) 17:57:27.06 ID:DtH6g9FEO
評判の良い武具店を調べ、店内を確認する。陳列されている物は全て規格品のようで、サイズ毎に分別して置かれている。
オーダーメイドも承っているらしく、現に今目の前で装備製作を依頼して去っていった冒険者がいた。

ふむ、と残金と必要な物について思考しつつ、リヒトは藍色のローブを手に取った。
商品の名前は『対物ローブ』。大仰な名前が付いているが立派な市販品であり、はっきり言って世界各地どこでも買える防具だ。

対物と聞くと、分厚い装甲をぶち破るようなパワーを持つイカレ武器ばっかり想像してしまうが、今回手に取ったものは対物理の意味合いを持つ。
斬撃。刺突。殴打といった物理的な攻撃にある程度の耐性を持たせた、魔法使い用の防具である。
ただの布に耐性を持たせるカラクリは、生地に編み込まれた魔法である。
この魔法が衝撃を和らげることによって、魔法使いが苦手とする物理的なダメージを軽減させているのだ。

一流の魔法使いともなれば、高級な素材を贅沢に使って物理、魔法、属性全てに強力な耐性を持たせた防具一式を揃えているのだが、悲しいことにそんな財力は存在しない。

効果が如何程なものか、ウィンディに試してもらう。おっかなびっくりといった様子で鉄の棒を握ったウィンディは、ローブ越しに木の板を叩いた。
カン、と軽い音を立てるが、木の板は割れることなくその形状を保持していた。
ローブを外してもう一度木の板を叩くが、今度は綺麗に割れた。

「おおー…」

なるほど。値段と性能のコスパを考えれば、これは買っておいて問題はなさそうだ。
とにかく安く、それでいてある程度の品質は保証されている。これだから市販品は普段使いにありがたい、とリヒトの口角が吊り上がった。
784 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/22(日) 17:58:11.23 ID:DtH6g9FEO
さて、お次はマナの道具である。ウィンディにだけ買ってマナだけお預け、なんてことをして拗ねられると非常に困るのだ。
実際、マナはリヒトの肩に座っているのだが露骨に不機嫌になっている。
膨らんだ頬を押すと、ぽひゅー、と間抜けな音を出しながら空気が抜けていった。こうして見ると小動物のようで可愛らしいのだが。

適当に商品を見繕うも、マナはじっとりとした視線を向けてくるだけで評価は良くない。
やはり人工物はNGで、鉄製の道具など論外のようだ。
ならば、とリヒトが取り出したるは『子天狗の葉団扇』なる団扇。
こちらは名前の示す通り、子供の天狗がよく使う道具であり、葉っぱを束ねて作っているので自然に優しい。

秘めたる力はそよ風を生み出したりちょっとした加護を与えたり、と大したことないのが難点だが、子供用の物なので仕方ない。あとこれより大きかったらたぶんマナでは持てない。

マナの視線の温度が下がる。それでもめげずに団扇を押し付けると、渋々といった様子で受け取った。
マナ的には許容範囲ギリギリだったようだ。

お買い物を済ませたリヒトは店を出る。

「えー皆様に悲報があります。活動資金がそろそろ底を突きそうです」

そして、端的に破産一歩手前だと宣告した。
785 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/22(日) 17:58:54.09 ID:DtH6g9FEO
「えー皆様に悲報があります。活動資金がそろそろ底を突きそうです」

何故こんな悲しい宣言をする羽目になったのか。理由は明白である。それは。

「ぎゃう?」

このかわいいペットを購入したからである。それ以外にも理由はあるが、直近でした買い物の中でぶっちぎりで金が飛んだのがこれなのだ。
アリフで親切な人からもらった宝石などを換金したっきりで、それ以降は特に収入もなく支出ばかりがあったのだから、寧ろよくここまで保たせたと自身の倹約ぶりを褒めちぎりたいくらいだ。
そんなことを考えながら、チャカの頭を撫でる。

「あれ?これもしかして私のせいです?」

「さて、どうでしょうね」

今までに何を買ったのか思い出していたのだろう。先の言葉を呟いたウィンディは冷や汗を掻いていた。

「どどどうしましょう私お金持ってないです働き方も知らないですごめんなさい後生ですから身売りだけは勘弁してくださいこんな貧相な身体じゃ変態しか寄りつかないです杖も売らないでくださいつまり私にお金を稼ぐ手段は無いってことですねつまりもう終わりですねはい!!!!!!!」

はいじゃないが。勝手にヒートアップして結論付けたぐるぐるお目目なウィンディちゃんに、リヒトは呆れながら手刀を振り下ろす。
額からぺち、という音が鳴る。相変わらずウィンディは目を回しながらあうあう言っていた。

「幸い、ここ緋桜郷は人も金も集まる場所だ。俺らでもやれる仕事はある。なんなら俺向けの仕事は絶対に仰山ある。そういうもんだ。ってわけで、君が身体を張って稼ぐ必要はたぶんないんじゃないかな」

そう告げるリヒトの言葉は言外に、荒事に首を突っ込む気満々であることを示していた。
残念ながらそこに気付けるほどウィンディは物騒な思考はしておらず、リヒトさんのえっちと的外れにも程がある返答が返ってきた。
786 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/22(日) 17:59:42.24 ID:DtH6g9FEO
何をするかを↓1にどうぞ。
787 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/22(日) 18:10:48.45 ID:fh0kr4a00
じゃあ仕事を求めて冒険者ギルドへ
788 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/22(日) 19:20:13.95 ID:8fvpws2pO
そんな困ったウィンディちゃんを連れ、冒険者ギルドを訪ねる。
気のせいだろうか。ここまで大きな街に設置されているギルドなのに人が全然いない。
魔物退治なりキャラバン隊の護衛なりで人手が欲しいはずなのだが。

「冒険者ギルドにようこそー。依頼を受ける場合はそちらの掲示板で内容を確認するか、受付に直接お願いしまーす」

と、案内を受けて掲示板に目を通す。人が全然いない理由が解った。

「…しょっぺえー」

依頼内容がしょぼかった。それはもう目も当てられないくらいにしょぼい。
期待していたような高給与の依頼などは一切無く、建物の修繕や商店、茶店などのヘルプ募集といった雑用がほぼ全てである。
申し訳程度にある討伐依頼も、八番街に巣を作った人喰いネズミの処理といった簡単なものしかない。

ダンジョンで救援を求めてる人でもいないかな、と救援依頼もチェックするがそんな人はいなかった。そもそも誰も挑戦していない。

何故こんなことになっているのか。天下の冒険者ギルドがこんな体たらくでいいのか。
ちょっと桜花衆の頭領にクレームでも入れようかと思ったが、そこで一つの推論に思い至った。
ここ緋桜郷は享楽の郷。ある人は娯楽を求めて。ある人は疲れた心身を癒やしに。つまりは慰安のために訪れる郷だ。
なのに何故大変な思いをする必要があるのか、という話だ。遊びに来たのに命を懸けることはない。
789 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/22(日) 19:20:56.22 ID:tD2VwJE1O
それに、緋桜郷は彼岸花 紅華が、桜花衆が統治している郷だ。自国の優先して解決すべき問題は、なるべく自力で解決しようとするはずだ。
桜花衆が処理するまでもない事案、または冒険者ギルドに委託しても良い事案のみが依頼として掲示されているのだろう。
よほど切羽詰まった事態でもなければ、冒険者ギルドに助力を乞うこともない。
それ以前にそんな事態が頻発していたら、とっくにこの郷の統治は破綻している。

以上の理由から、大したことない依頼しか掲示されていないのだと思われる。
なら仕方ない。クレームは取り下げよう。寛大な心を持つリヒトは冒険者ギルドを赦すことにした。

暇そうに談笑している職員を見るに、これが平常運転のようだ。平和でなによりだと、リヒトは小さく笑う。
そんなリヒトをよそにウィンディは図書館のアルバイト募集を受けようとしていた。
楽な方ばかり選んじゃダメよ、とその依頼を取り下げる。

杖で強めに叩かれた。
790 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/22(日) 19:25:09.92 ID:tD2VwJE1O
何をするかを↓1にどうぞ。


A:簡単な依頼を受ける。誰がどんな内容のものを受けるかを例を参考に記載してください。戦闘系は無いです。
B:八番街の人喰いネズミ退治を受ける。
C:天守閣へ。
D:その他。自由安価。




リヒト 回復薬の販売員
ウィンディ 食堂の一日看板娘
791 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/22(日) 19:36:49.24 ID:cS9ALRqCo
B
792 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/22(日) 20:00:55.24 ID:9lBbC/Q/O
その後リヒトらが引き受けたのは、人喰いネズミの退治依頼。
人喰いネズミは人里にもよく出没する低級の魔物で、新米冒険者が経験を積むための練習台としても有名だ。
しかし、腐っても魔物。いくら低級といえども民間人を殺めるだけの力はあり、『人喰い』と付くだけあって人肉を好んで食す。
下水道などから侵入した人喰いネズミが巣を作り、子供が被害に遭うのはままあることであり、割と頻繁に冒険者ギルドではネズミ退治の依頼が出ている。

今回の依頼場所は八番街の水路。汚水が流れているわけではなく、緋桜郷全体に温泉を通すために張り巡らされた水路にどこからか入り込んだ人喰いネズミが巣食ってしまったらしい。
ギルドに流されたということは火急の要件ではない。もし被害者が続出していたら彼らが既に対応しているはずだ。
おそらく、周辺の地域にはネズミの巣に近づかないよう警告されているのだろう。それでも近づく命知らずの末路はお察しである。

「怖い〜…やだ〜…戦いたくないですぅ〜………」

「そう言うんじゃないよ」

イヤイヤ期に入って駄々をこねるウィンディの背中を押し前進する。道ゆく人の視線がとても痛い。

「ママー。あれなにー?」

「しっ。見ちゃいけませんよ」

邪険に扱われるのはとても辛いものだとリヒトは心中で涙を流す。何故こんな扱いをされにゃならんのだ。
愚痴を溢したくなるが今は我慢である。今はネズミを駆除して、近隣の安全を確保するのが優先だ。

「おうちかえる〜!いたいのやーだー!!!」

遂に幼児退行してしまったウィンディに痺れを切らし、リヒトはネズミの巣まで最短経路で突っ切る。八番街に少女の悲鳴がこだました。
793 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/22(日) 20:04:35.74 ID:9lBbC/Q/O
人喰いネズミにどんな対処をするかを↓1にどうぞ。


人喰いネズミ

体長50cm程度のネズミ。肉食で特に人肉を好む。
不潔で臭い嫌な魔物であり、人喰いネズミの巣は汚すぎて誰も近寄らない。
戦法は集団でただ噛み付くだけ。知性の欠片もないが、数の暴力でゴリ押ししようとする。
魔物だがネズミの生態に近いので、放っておくと指数関数的に数が増える。
こいつの肉は何があっても食ったらダメ。
794 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/22(日) 20:37:51.86 ID:ab97bn5A0
ウィンディに経験を積ませる意味も込めて囮にする
そして集まってきたところを一気に叩く
795 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/22(日) 21:10:02.65 ID:IVtGeeOeO
人喰いネズミ駆除 判定↓1コンマ


01〜10:ウィンディ穀潰しの巻
11〜40:ウィンディなんとか最低限は頑張るの巻
41〜80:ウィンディ及第点の巻
81〜99:ウィンディ花丸の巻
00:???
796 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/22(日) 21:16:20.62 ID:cS9ALRqCo
797 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/22(日) 22:33:24.13 ID:tp+aQWywO
レムカーナにおけるスラム街である八番街。その中にある水路。そこには、薄汚れた獣が群れを成し、巣を作っていた。
汚物に塗れたそれはとても酷い悪臭を放ち、もはや物好き以外は誰も近寄らない禁足地となってしまっている。
そんなところに腐肉が転がっているのは何故なのか。誰も詮索しないししたがらない。
触らぬものには祟りなし。誰も好き好んで、嫌なものに関わりたくはないだろう。それで死んでしまっては、元も子もないのだから。

目的地が眼前に迫り、リヒトは顔を顰める。ウィンディは水路に向けてキラキラを放出した。
乙女への配慮として、その瞬間は見ないであげている。気を配るだけの余裕があることの証左でもあった。

「…臭い。これはちとキツいな」

「でっだい゛じま゛じょう゛ごの゛ま゛ま゛じゃじに゛ま゛ず」

「撤退は許可できん。あいつらは俺たちを獲物として見定めたからな。これで逃げたらこの薄汚いネズミが世に放たれるぞ」

泣き言を宣うウィンディを制し、視線を前に向けさせる。ギラリと光った無数の眼光が二人(と二匹と一機)を射抜いた。
チャカの優れた嗅覚にクリティカルヒットしたのだろう。完全にダウンしてしまっており、ハリゴーディンが抱っこしているのだがうんともすんとも言わない。
役に立つのはリヒトとウィンディだけだ。リヒト一人さえいればそれで充分なのだが。
798 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/22(日) 22:34:11.96 ID:tp+aQWywO
とはいえ、こんな簡単な依頼を引き受けた理由は一つ。ウィンディに多少強引にでも経験を積ませるためだ。
イヤイヤ言ってばかりのウィンディに少しでも成功体験を積ませれば、自信を持ってくれるかもしれない。
この世界で生きるのであれば、戦わなければならない時はいずれやってくるのだ。たとえそれが、本人が厭う戦いだとしても。
その時にこの経験は役に立ってくれるはずだと、リヒトは大真面目に考えている。
戦いに摩耗したリヒトの精神は、どうしようもないほどに歪んでいた。

人喰いネズミの脅威度ははっきり言って低い。なりたてホヤホヤの新米冒険者でも、四人集まれば二十匹前後はやっつけられる。
回復薬などの入念な準備をしていたら、という但し書きが付くがまあ、才能のあるウィンディなら本気になれば五十は軽く殺せるだろう。リヒトの場合は言うまでもない。
そんな人喰いネズミの数は約四十前後。比較的大規模な群れになっているようだ。あと数日対処が遅れていたらどうなっていたのやら。
そんなことを考え、ウィンディの肩を叩く。あとは任せた、とキラリと光った笑顔とサムズアップを添えて。

「えっ?」

何事もぶっつけ本番あるのみ。リヒトはそう言って、ウィンディから距離を取る。
離れていくリヒトからネズミの巣に視線を向けると。

「ぴいいいいいぃぃぃぃぃ!!!!?!?!!!」

腹を空かせた人喰いネズミの大行列が、ご飯(ウィンディ)目掛けて突撃していた。

ウィンディの初体験が今、始まる。
799 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/22(日) 22:34:55.83 ID:tp+aQWywO
これで今日は終わりです。
800 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/22(日) 23:04:52.33 ID:cjsXtN93O
801 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/22(日) 23:10:25.25 ID:6eQquFQIo

まあいざって時に身を守れないと実際ヤバい世界観だしね
802 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/22(日) 23:18:58.23 ID:cS9ALRqCo
おつー
803 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/25(水) 23:21:01.79 ID:72ANxGUSO
幽者の思いつきにより突如始まったスパルタトレーニング(ネズミ駆除大作戦)。
その参加者にして被害者の少女は、この状況にどう立ち向かうか。
幽者は後方にて高みの見物(物理)を決め込んでいるが、限界だと感じたらすぐに魔法をぶっ放すつもりでいる。
まあ、危なくなったらすぐお助け、と今後もしていたらやがて甘えが生まれて成長が見込めなくなるので、初回サービスみたいなものである。
つまり、今回だけは早めに助けるが今後はどうするか全く考えていないのである。行き当たりばったりにも程があった。

さて、ヒャッハァ!新鮮な餌だァ!と言わんばかりに押し寄せてくる人喰いネズミに対し、ウィンディが取った策は。

「風穿(エアロレイト)ッ!!!」

お得意の風魔法を使った迎撃戦法である。思い切りの良さは評価点だが、その戦法を使うには相手の物量が多すぎた。

練り上げられた魔力が風の矢となり、肉を穿ち骨を断つ。ベキ、グチ、と嫌な音が鳴る。
先頭を突っ走っていた一番槍に魔法が直撃。螺旋を描く空気の刃が全身を断裁し、肉と血を周囲にぶち撒けた。

しかし、それだけではネズミの侵攻は止まらない。たかが一匹仲間が死んだところで止まるわけがない。
今の彼らには獲物しか見えていない。今の彼らには腹を満たそうとする欲望しか存在しない。
仲間一匹が死んだからといって、何故躊躇う必要がある。どうせいくらでも産み落とす命。先行投資と思えば安いものだ。

「とは思ってねえか。所詮ネズミだ。ただ本能に突き動かされてるだけだろうな」
804 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/25(水) 23:21:33.29 ID:72ANxGUSO
空中からウィンディの奮闘を俯瞰するリヒトは、そう溢して目を細める。
誰かに見られている。敵意の無い視線が全身に突き刺さっていた。
その大半は興味本位のものだ。おそらく周辺地域に住んでいる子供が、空に浮かんでいる自分をへんなのがいる!という感じで見ているのだろう。

だが一つ。たった一つだけ、全く毛色の異なる視線が混じっていた。
視線の大元に顔を向ける。遠く離れた家屋の屋根に、年若い青年が立っていた。この郷屈指のイケメン美人ロリボーイ珠樹くんである。
軽く会釈してみると、こちらに認識されたことに驚いたのか少しの間呆気に取られた表情をしていたが、すぐに表情を戻し、綺麗な敬礼を見せてくれた。

仕事熱心で熱意のある若者だと感心する。おそらく彼は、リヒトたちが依頼を受けたことを知り、各所の水門を閉じていたのだろう。
その仕事が終わったから、進捗確認や実力調査も含めて様子見しているのだと思われる。
水路脇で戦闘する以上、ネズミの死骸や血液が水路に混入するのは半ば確定している。
実際、派手にぶち撒けられたネズミの肉と血が水路を流れる温泉に現在進行形で混入している最中である。
なんなら少し前にウィンディが放出したキラキラが温泉に溶け込んでいるわけで。
こんなものが店の温泉に使われたら大惨事どころではない。この世の終わり、地獄の始まりである。
自分だったらそんな温泉に死んでも浸かりたくない。

そんな益体もないことを考えつつ、再度ウィンディに目を向けた。
805 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/25(水) 23:22:22.54 ID:72ANxGUSO
同胞が一匹天に召したのを無視して、今日のご飯に向けて行軍する人喰いネズミたち。
それに対処すべく、ウィンディは次の魔法の準備を始める。

(私の考案した理論の検証用の魔法だからそんなに効果ないよね解ってましたー…!っていうか人とかに向けて撃ったことなかったから分からなかったけどエグい音出たしあのおっきなネズミがワンパンで死んじゃったしこれ絶対人に向けて撃っていいやつじゃない!!!)

つまり人に向けてはいけない魔法をボコスカ放つであろうリヒトには人の心が無い。
なんならこんな状況に有無を言わさずぶち込んでいる時点でド畜生であった。後でかの邪智暴虐の幽者を呪わねば。ウィンディは決意した。

構えた杖に魔力が集い、大気を震わせる。威力は下がってしまうが詠唱は省略し、魔法の行使だけを最優先とする。

「大嵐流(タービュストローム)!!!!!」

刹那、幾重にも重なった乱気流が、ウィンディの前方に発生した。
周辺への影響を防ぐために範囲は通路ギリギリに抑えているがその分、極小の乱気流を大量に発生させることで威力を補っている。
詠唱省略による威力の減衰は多少なりとも抑えられただろう。

先程の風穿とは比べ物にならない威力の暴力がネズミを襲う。一度乱気流の壁に入ったが最期、全方位から迫り来る風の刃によって細切れにされていった。
しかし、それでも突撃をやめないやめられない。
力押しのごり押ししか能の無いネズミには、どんな障壁が立ち塞がろうと齧り付いて突き破ることしかできないのだ。
806 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/25(水) 23:23:06.52 ID:72ANxGUSO
二十匹ほど仕留めた頃だろうか。風の威力が弱まり、遂にネズミが乱気流の壁を突き破る。
先に殉職したネズミの死骸が障害となり、空気の流れが弱まったのだ。彼らの死は無駄ではなかった。天国のネズミも喜んでいるだろう。

「お疲れさん。初陣でこれだけやれりゃ充分だよ」

障害を乗り越え、ネズミが獲物に喰らい付こうとしたまさにその時。
瞬きの間にウィンディの前方に移動した幽者は、右腕を突き出した。

「天喰らう白狼は遍く御魂を楽土に導く」

微かに耳に聞こえる魔法の詠唱。その優しい声色とは裏腹に研ぎ澄まされる魔力はあまりに冷たく。

「踊れ。天狼星(シリウス)」

産み落とされた白い狼は、真の捕食者がどちらか。哀れな生贄に現実を思い知らせた。
807 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/25(水) 23:23:56.29 ID:72ANxGUSO
同刻。牡丹雪にて。

「本日はお越しいただきありがとうございました。またお客様が牡丹雪を訪ねられる日を、心よりお待ちしております」

客を見送り、息を吐く。雫が注いでくれたお茶を飲み、また息を漏らした。

「どったの女将さん。頭領の愚痴を聴きすぎて疲れちゃった?」

「紅ちゃんの愚痴は聴き慣れてるさ。この溜め息はそれとは別件だよ」

「…やっぱ、アレの件かな?」

コクリ、とお雪は頷く。何かを案じているように目は細まっており、表情は芳しくない。

「…まー、腹立つよね。わたしがあの店に入った時、はらわたが煮えくり返ったもん」

普段の明るい表情を隠し、冷徹な目を入り口に向ける。戸は閉められているので、客に見られる心配はない。

「霧香たちが先手を打ってくれたおかげで、奴らが逃げる前に店を取り潰すことができた。…他所からやってきた時点で探りを入れておくべきだったね」

「たらればを言ってもしょうがないよ。あの子たちの安全を確保できただけ良しとしましょ」

「…もう手遅れかもしれないけどね」

手元の書類に一瞬視線を移し、引き出しに戻す。物憂げな表情をした女性の絵が、名前の横に描かれていた。

「…毎度のことだけど、霧香には頭が上がらないよ。こんな役回りばかり任せて申し訳ない」

「んーにゃ。わたしは気にしてないよ。もう慣れたし、辞める気はないから」

「…ごめんね」

絞り出すようなお雪の謝罪に、霧香は気まずそうに腕を組む。柔らかい双丘が形を変え腕を包んだ。
808 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/25(水) 23:24:27.04 ID:72ANxGUSO
万難を喰らい空へと還る白狼。後に残ったのは血痕だけだった。
こっそり左手に持っていた聖剣も虚空へ戻す。やはりこれがあるのと無いのでは魔法の性能が段違いである。

「………」

ウィンディの方を振り返ってみると、ものすごく不機嫌そうな顔をしていた。私怒ってます。プンプンです。とか言いそうだ。

「ずるです。魔法の勉強してないのにそんな魔法使えるのはどう考えてもずるですよ」

「んなこと言われても。理論とか全然分からないからフィーリングになるが使いたいなら教えるけど?」

「常識的に考えて私が光魔法を使えるわけないですよ。光と闇は希少なんですからね」

「そうなの?メリちゃん最かわ教の化け物どもはポンポン撃ってきてたが」

「それはそのメリちゃん最かわ教の人たちがおかしいだけです」

「そう言われると否定できんな。あいつら揃いも揃って英雄級だったしな…」

当時死闘を演じた猛者を追憶する。
一対一(サシ)で戦り合って辛うじて勝てるかどうかの相手が何人もいたのに、よくメリオゴストーグに一撃入れられたものだと当時の自分を手放しで褒め称えたい。
というか何故攻撃できたのか本当に解らない。同じことをもう一度やれと言われたら即座に首を斬るくらいには無理難題だった。

まあ、何はともあれ戦争は終わったし、今回の依頼も解決した。終わりよければ全てよし。
それでいいではないか、と投げやりになる。
戦うのは二度とごめんです。そんな怨嗟と実感の籠った嘆きが耳に聞こえたが気のせいだろう。
809 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/25(水) 23:25:59.00 ID:72ANxGUSO
何をするかを↓1にどうぞ。
行動時間はだいたいお昼時くらいの時間帯で、報酬金は自動で受け取ります。安い依頼なのでまだ贅沢はできません。
810 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/25(水) 23:55:51.00 ID:zFFuh7n8O
天守閣へ行ってみよう
811 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/26(木) 00:42:46.99 ID:reUN9bHZO
「そこの旅行者、止まれーい!」

リヒトたちは天守閣の正門付近に来たところで足止めを食らう。まあそうなるだろうな、とは思っていたので、そこまで問題ではない。

しかし、相も変わらず荘厳な佇まいだと素直に感心する。ここまでの規模の城を建てるには、並大抵の時間と費用、労力を費やしただろうに。

目の前の現実から逃げ出していたら、足止めをしていた衛兵に詰問される。やれ旅行者が何の用だの招待も受けてないのに来ちゃダメだぞだのやかましい。
そんなマジレスや正論を聴くつもりはない。金だ。金がとにかく欲しいのだ。
だから仕事をくれ。くれないのならこっちから仕事を受けに行く。と抗議しようと思ったところで。

「どうした見張り番。そんなぎゃいぎゃい騒いでよ」

「ら、嵐月様!?」

男性が急に正門を開けて出てきた。着物を着ているのだが胸元はおっ広げられていて、素肌が丸出しで危険が危ない。ポロリしないか誠に心配である。
嵐月と呼ばれた男性は一瞬目を丸くし、ニヤリと笑った。

「誰かと思えば勇者様じゃねえか。あんたの武勇、俺も何度か耳にしたよ」

「勇者…?はっ!?つまり彼は、頭領に数日前に歓待を受けたあの…?」

「そういうことだ。そういや、お前はその時非番だったっけな。顔を知らないのも無理はないか」

「と、とんだご無礼を失礼しましたぁっ!!!」

「そんなビビられるとこっちが困るんだが」

もしや、魔族と見るや即攻撃するような蛮族に思われているのだろうか。
だとするならば抗議も辞さない。裁判に持ち込んで勝訴させてもらおう。
そんな意図を込めて視線を飛ばすと、露骨に怯えられた。

何故だか申し訳なくなった。
812 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/26(木) 00:43:25.99 ID:reUN9bHZO
そんなこんなで天守閣の訪問は許可され、現在は嵐月の同行を受けながら天守閣内を歩いていた。

「案内感謝するよ。前にここに来た時は彼岸花さんのとこまで直行したからな、どこに何があるのかさっぱりなんだ」

「これくらい些事に過ぎん。感謝されても困るってもんだ」

雑談を交わす男連中の後を追い、ウィンディとハリゴーディンは進む。
ワイルドなイケメンの鬼さんでした。のちにウィンディは嵐月のことをそう語ったという。

「桜花衆用の依頼はここで受け付けてる。まあ、お前なら仕事しても問題ないだろ。頭にも俺から口添えしとくわ」

「どうも」

実力だけは買われているのか、特に文句は言われなかった。それだけ忙しいということもあるのだろうが、助かっているので何も言わないでおく。

「俺はこれから飲みに行くんでお別れだ。もし機会があれば、お手合わせ願うよ」

「…機会があれば、な」

カラ、コロ、と下駄を鳴らし嵐月は去っていく。
その足取りは悠然としていて、しかし荒々しかった。
813 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/26(木) 00:49:10.85 ID:reUN9bHZO
何をするかを↓1にどうぞ。


A:盗賊殲滅の依頼を受ける。異常な強さの魔族がいるとの報告あり。
B:ドクロサムライ討伐の依頼を受ける。
C:大量発生した魔物の殲滅依頼を受ける。難易度はコンマで後ほど判定。
D:やっぱりやめる。
E:その他。自由安価。
814 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/26(木) 00:51:25.75 ID:nTuk9GSo0
C
815 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/26(木) 01:04:37.63 ID:reUN9bHZO
魔物の強さ 判定↓1コンマ


01〜10:ブチギレイナズマミケネコの群れ。報酬金いっぱい。
11〜80:何故かやってきたアークミノタウロス先輩たち。報酬金そこそこ。
81〜99:シラヌイドリの大群。報酬金安め。
00:ヌ・レオン降臨
816 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/26(木) 01:16:33.66 ID:otnC0vlgo
817 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/26(木) 01:18:17.47 ID:reUN9bHZO
では本日はここまでです。↓1にウィンディやハリゴーディンたちを同行させるか記載してください。
818 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/26(木) 01:27:09.03 ID:vg/LAus8O
させない

819 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/26(木) 12:10:54.48 ID:jy44QPP0o
おつおつ
リベンジと行こう
820 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/27(金) 20:10:14.79 ID:FVTh8u9EO
「さて、どんな依頼があるのかなっと」

受付嬢に会釈して、依頼リストを確認させてもらう。掲示板方式ではないのはギルドはないからなのかもしれない。

候補は主に三つ。一つ目はどこの街でもターゲットに挙げられる傍迷惑な存在である盗賊の殲滅。
どうやら今回の盗賊団はそんじょそこらのものとは格が違うようだ。
緋桜郷へ向かうキャラバン隊を二つ、緋桜郷から出発したキャラバン隊を一つ壊滅させ、討伐部隊を二度も撃退しているとの報告が上がっている。
それでいて盗賊団の規模が小さいため現在の所在もおおよそでしか分からない、ともはやお手上げ状態とも言える。
大規模な盗賊団であれば、拠点も相応の規模を必要とするので強襲作戦などの策を取れたのだろうが。

二つ目はドクロサムライの討伐。亡霊と成り果てた将軍が、罪なき人々を手に掛ける。
そのような悲劇を終わらせたいのだろう。依頼としてリストに載っているのはそういうことだ。
とはいえ、かなり腕が立つ魔物であることも事実。生半可な強さでは返り討ちに遭う上、生息地にさえ近づかなければ脅威たりえないので後回しにされているようだ。
その間一人寂しく歌っているドクロサムライ将軍がかわいそうでならない。
821 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/27(金) 20:11:14.33 ID:FVTh8u9EO
三つ目はどこからともなく現れたアークミノタウロスの大群の撃滅である。
どこまで行っても邪魔してくるのか、とリヒトは苦い顔をした。
この中で一番優先すべきなのはこの依頼だろう。
盗賊は今のところキャラバンを襲っているだけだし、ドクロサムライは近づかなければセーフである。
しかし、このミノタウロス軍団は違う。こいつらは人肉の味を知った途端にアグレッシブになる。
依頼が出ている以上、世界各地から人の集うここ緋桜郷を狙って侵攻していると見て間違いない。
放っておいても桜花衆が死に物狂いで防衛に当たるだろうが、先手を打っておいて損はないはずだ。

そして、蓮武との模擬戦を経て痛感した。自分はどうしようもないほどに鈍っていると。
根本的な実力差があったのでその時は誤魔化せたが、今冷静に思い返すとちょっと真面目に笑えないレベルでひどい動きをしていた。
身体も、太刀筋も、判断も、感覚も。その全てが衰えていた。
戦争が終わってからは全力を出す機会が無くなったので当然のことではあるのだが、鈍ったことを実感したのなら放置するつもりはない。

戦争が終わり、聖女を喪い、過去を否定され、その果てに貪った怠惰な生活の代償がシルヴィアとの死別。
主因ではなくとも、遠因ではあるのは確定的に明らかだ。
冥光に頼った途端に、アークミノタウロスを跡形も無く消し去った事実が何よりの証拠である。
あの時、当時の二割ほどの輝きを取り戻していたなら、苦戦することもなかったはずだ。

「…リベンジ戦といかせてもらうか」

一線から退き、ぬるま湯に浸かっていたが故に鈍った身体を鍛え直すため。そして何より冥光に頼らず過去を越えるため。
リヒトは一人、過去(トラウマ)と戦うことを決意した。
822 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/27(金) 20:12:13.10 ID:FVTh8u9EO
太陽が沈み、月が顔を見せる。風が吹く夜の草原の中にただ一人、幽者が座していた。

「…ついて来なくていいと言ったはずだがな」

「しるう゛ぃあはいつもりひとのそばにいた。…わたしはしるう゛ぃあにたすけられた」

「だから、わたしもいっしょにいる。それだけ」

リヒトの肩に座り、淡々と喋るマナ。いつになく雄弁であり、いつもより距離が近い。
具体的には、身体一つ分近づいている。いつもは肩幅ギリギリに座っているのだが、今は耳元に寄り添っていた。

「…殺し合うのを観ても、面白くないぞ?」

きにしない、とマナは告げ、首元に手を添える。力が漲った気がした。

「気持ちはありがたいが今回だけは手助け干渉一切無用、だ。俺一人の力で終わらせなきゃ、意味がない」

「…うん…」

躊躇いつつも、マナは手を離す。そして、定位置であるフードに潜り込んだ。
リヒトは瞑目し、暗闇の中で微かに煌めく光に身を委ねる。聖剣の輝きが増し、光が溢れ出した。

幾度となく味わった喪失の痛み。その度に心は渇き、今では涙すら流れなくなった。

幾度となく奪ってきた命。満たされる度に心は渇き、次なる贄を求め飢えていた。

この渇きを。飢えを。空っぽの心を満たしてくれるのは戦いだけだ。
幾多の離別と闘争の果てに心身に刻まれた闘争への渇望はもはや宿痾に等しく。
ただただ、戦う時を待ち望んでいた。
823 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/27(金) 20:12:48.64 ID:FVTh8u9EO
地を揺らす地響きが近づいてくる。閉じていた目を開けると、地を埋め尽くす怪物の群れがそこに。
各々が携えた得物は全て異なり同じものは二つとないが、血に染まり錆びついているのは共通している。

それでこそだと心が躍り、口元は歪な弧を描く。弱者を甚振っても意味はない。強者と戦い捩じ伏せることに意味がある。
ただならぬ気迫を纏っているからさぞかし強いのだろう。手に持つ大斧の血錆が、修羅場を潜ってきたことを物語っている。

相手にとって不足はなし。足りないものを敢えて挙げるならば。
絶対的な強者と相対した時に感じる死の予感だけだ。

ふう、と小さく息を吐き、聖剣を空へ掲げる。軽く手首を捻ると、極大の閃光が空に放たれ、夜を照らす。

「…悪いが、あんたらの鏖殺を仰せつかったんでな。ここから先には誰も行かさないし、誰も逃さない」

空へと連なる光の柱が漆黒の天蓋を打ち砕く。数瞬遅れて光が弾け飛び、地表に降り注いだ。
凄まじい衝撃が大地を揺らし、眩い光が戦場を照らす。
夜に咲く緋桜と同等の長大さを誇る無数の光剣が、リヒトたちを囲うようにして突き立てられる。
その根本、柄から上に向けては十字架が伸び、左右に繋がっている。
何も知らぬ者が見たら天変地異かと見紛うほどに大規模の結界が作り出された。
誰一人として逃さないという決意表明であり。部外者の乱入を許さないという拒絶。
言葉を知らずとも理解したのか、アークミノタウロスの間にも剣呑な空気が広がる。

結界を展開した時に、事前に告知しておけばよかったと後悔するも後の祭り。
何か言われた時は、素直に謝罪すればいいだろう。

そんなことを一瞬考えたが何はともあれ。

時は満ち、舞台は整い、役者は揃った。今、過去との訣別の儀を始めよう。

天を劈く怒号と空間を縫う閃光が、戦いの始まりを告げた。
824 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/27(金) 20:14:54.36 ID:FVTh8u9EO
VSアークミノタウロス軍団 判定↓1コンマ


01〜05:リヒト負傷
01〜15:膠着状態
16〜35:半数殲滅
36〜70:全滅 ある程度当時の実力を取り戻します
71〜99:全滅 当時と遜色ない実力に戻ります
825 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/27(金) 20:37:11.98 ID:0f5257D1o
いけ
826 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/27(金) 22:08:21.15 ID:7iSQT3fdO
草原に響き渡るのは剣戟と咆哮。あるいは悲鳴。人ならざるものが発する身の毛のよだつ絶叫は魂を震え上がらせ、怖気を走らせるだろう。
が、今はそんなことなどどうでもいい。煩くて、煩くて、とにかく耳障りで仕方がない。

「ギィッ!?!」

ので、頭を潰して黙らせた。これで少しは静かになるだろう。
温まっていく身体とは裏腹に、思考は冷めていく。命を刈り取る度に、鋭さを取り戻していく。
嗚呼、この感覚だ。肉を断ち切るこの感覚が懐かしかった。
久方ぶりの実戦に、魂が奥底から悦び震えている。

風切り音と共に大剣が振り下ろされる。
光魔法で剣を二本作り、交差させて受け止めた。

背後から剛腕が振るう大槌が迫る。
左方から剛腕が振るう大斧が迫る。
右方から剛腕が振るう大槍が迫る。
空へと飛び、攻撃を回避する。

聖剣に魔力を込めて、斬撃と共に解き放つ。
空間を光の線が縫い、閃きと共に血飛沫が舞う。

何匹殺したのか、数えるのは途中から辞めた。余計な思考は切り捨て、戦闘に必要な情報だけかき集める。

攻勢に出るものがいるなら、どう躱すかを思考する。そして殺す。
守勢に回ったものがいるなら、どう突き崩すのが有効か思考する。そして殺す。
全ての思考が殺害へと繋がり、出力された行動全てが殺害という結果を残す。

血が流れ、命が消え、大地が赫く染まる。その色はまるで鮮やかに咲く緋桜のようで。
怪物と共に剣の舞(ソードダンス)を踊る幽者と聖剣。その姿はまるで雪にはしゃぐ子供と子犬のようで。
惨憺たる光景を生み出しながら、怪物と人間が踊り狂う。
827 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/27(金) 22:09:06.66 ID:7iSQT3fdO
しかし、その演目はすぐに終わりを迎えた。

「…逃げんなよ。一度武器を取ったなら、殺すか死ぬかの二択だろうが」

風に吹かれて飛ぶ枯葉のように、為す術なく命を散らした同胞。
その惨状に耐えかね逃げ出した生き残りを、容赦も慈悲も存在しない銀色の刃が貫いた。

「戦うのを選んだのはお前たちだ。負けたなら潔く死ねよ」

追い詰められたら人も魔物も変わらないな、と心中に溢し、剣を引き抜く。
臓物と血、そして脂に塗れた聖剣が、月光を反射した。

光の結界が崩れ、夜の帳が再び降りる。静寂が戻った草原で、アークミノタウロスの生首回収に勇者は勤しむ。

「あれだけ派手にやったとはいえ、証拠はやっぱ要るからな。原型を留めてるのがいくらかあって助かるよ」

童心に帰ったように明るい表情で後始末をするリヒト。それを無言で見つめるマナ。

「………っ」

手応えに満足気に頷くリヒトの目は、マナが目を背けたくなるほどに綺麗だった。
828 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/27(金) 22:10:03.38 ID:7iSQT3fdO
今日はこれで終わりです。次から牡丹雪での話に変わります。
829 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/27(金) 22:13:16.58 ID:0f5257D1o
おつ
戦力的に万々歳のはずなのに手放しでは喜べねえのは気の所為と思いたい
830 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/27(金) 23:16:31.39 ID:v9H3L9+8o

これで伝説級の竜とかにも相対することができるようになったのだろうか
しかし意外と正統にヒロインしてるマナちゃん良いね
831 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 00:39:28.22 ID:pFYHrz7EO
山奥に隠された小さな集落。
人が営んでいた頃の面影は影も形もなく、骸が無造作に転がっている。
そして、その亡骸は現在進行形で作られている最中だった。

他でもない、幽者自身の手によって。

首を断ち。心臓を穿ち。胴体を両断し。様々な手段で戮殺する幽者には何の感情もなく、何の感傷もない。
楽しくなければ苦しくもない。嫌でもなければ好きでもない。
幽者からすればそれは、ただ金を稼ぐための手段であり、有り余った時間の浪費先でしかなかった。

作業のように消費される命。断頭台に差し出された頭のように、淀みなく断首が行われ、無為に命が消えていく。
剣を取ろうが、逃げ出そうが変わらない。ただただ無慈悲に。ただただ平等に。死へと導いた。

ある者は武器を捨て跪いた。しかし首を刎ねられる。
ある者は自らの全てを差し出すと言った。しかし首を刎ねられる。
男女問わず。老若問わず。皆、平等に死んでいった。

『なんでもするから…!貴方の好きにしていいから…だから殺さないで…!わたしは、まだ、生きていたいの…!!』

今まで散々殺戮と略奪を楽しんでおいて何を言うのか。呆れながら首を落とした。

『俺たちはまだ子供だぞ!?なんでそんな…平気で殺せるんだよ!?』

武器を取った時点で歳や性別など関係ないだろうに。呆れながら首を落とした。
832 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 00:40:28.69 ID:pFYHrz7EO
戦闘が始まる前に警告はしていたのに。一回だけ猶予を与えたというのに。
それを拒み、戦うことを選んだのは貴様たちだと。
ならば、全てが終わった後の処遇は自分に委ねられているのだと。
何度目か知れない溜め息と共に、聖剣を振り下ろした。

『今からお前たちを全員ぶち殺して金に換えるわけだが、俺も鬼じゃない。今から10数える間に投降した奴は殺さないでやる。…誰もいない、か。じゃあもう手遅れだ。命乞いしようが泣き叫ぼうが俺は殺すからな。恨むなら判断を誤った愚鈍な自分を恨め』

と、確かに自分は宣言した。別に怒ってなどいない。
ただ宣言通りに事を進めているだけだ。

勝てる見込みのない戦いに勝てると思い込み譲歩を突っぱねておきながら、蹂躙され始めた途端に救命を嘆願するなど。
虫のいい話ではないだろうか。
そんな自分勝手な輩に差し伸べる手などないと、幽者は最後の生き残りの首に剣を添える。

『や…あ……ぁ………』

身体はガタガタと震え、言葉にならない声を絞り出す少女。
端正な顔は恐怖に歪み、色々な液体を垂れ流していてぐちゃぐちゃになっていた。
綺麗な顔が台無しだと思いながら聖剣を振り抜く。ずるりと首が落ち、血が噴水のように噴き出した。

『降ってくれれば殺さないって…警告しただろうが。なのにそんな、悲しそうな顔するなよ』

『まるで、こっちが悪者みたいじゃないか』
833 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 00:41:09.97 ID:pFYHrz7EO
undefined
834 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 00:41:48.15 ID:pFYHrz7EO
ふと、過去に一仕事した時のことを思い出した。
今回の虐殺劇が、似たような記憶を勝手に引っ張ってきたのかもしれない。
犠牲者の実力こそ天と地ほどの差があるが、どちらの結末も変わらず。
一人残らず。一匹残らず。その尊くもない命を散らした。

「人のためになることをしても敬遠されるとは難儀なものだね」

アークミノタウロスを余さず滅ぼし、首をかき集め、天守閣に提出した。
プロ根性故か受付嬢は笑顔で応対してくれたが、その笑顔は引き攣っていたし、他の人が自身に向ける視線は化け物に向けるそれと同じだった。

盗賊の首をギルドに提出した時よりはマシな反応ではあったが。
その時は本当にひどかった。
生首を見た受付嬢が全員えずいて白目を剥くわ、子供や女の子の生首を見た冒険者が義憤に駆られて道徳心の欠片もないのか、なんて脳内お花畑なバカ理論を展開された。
もちろん投降勧告はしたし、断った場合は誰一人として例外なく殺すと宣言していた。
その上で首を横に振られたのだから生かしておく理由はない、ときっぱり言い放つと、冒険者は絶句していた。

まあ、冒険者の言い分や気絶してしまった受付嬢らの気持ちは分からないものではなかったが。
彼らは冒険者であって傭兵でも兵士でも断じてない。
そんな彼らが人殺しに忌避感を持っているのは当然のことで。
それ故に、盗賊と相対した時も捕縛で済ませるのがほとんどだ。
だから、老若男女関係なく殺めた自分を冒険者は理解できなかったのだろう。
だから、受付嬢たちも人間の死体を、もっと言うなら人間の首など見ることは滅多になく耐性も付いていないのだろう。
835 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 00:42:18.80 ID:pFYHrz7EO
「…まあ、今回は俺の見た目も原因だろうが。ちょっと下手を打ったな」

そんなことを呟くリヒトは、全身血塗れだった。
別に大きなダメージを受けたわけではない。
寧ろ、今回の戦闘では無傷だった。完全勝利というやつである。

全身を赤黒く染める血の正体は、アークミノタウロスを盛大にぶっ殺した時に浴びた返り血である。
それはもうバッタバッタと薙ぎ倒したので浴びた血の量もえらいことになっており、見るも無惨でブラッディな姿になっていた。

そんな状態で街の中を歩くものだから人混みは自分を避けて空洞ができるし、周囲からはヒソヒソ声が聞こえてくる。
そして、そんな状態で牡丹雪に入ったものだから。

「おお…おおおお女将さーん!!!!!ブラッディでスプラッタなことになっている重傷者が来ましたーーーーっっっ!!!!!!静音さんをーーっっ!!!衛生兵ーーーーっっっ!!!!」

と、盛大な勘違いをさせてしまった。
836 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 00:43:05.67 ID:pFYHrz7EO
汚れを落とすために風呂を浴び、用意されていた着物に着替える。
私服は現在雫が一生懸命洗っているそうなので、しばらく返ってこないようだ。

慣れない肌触りに顔を顰めながら脱衣所を出る。お雪が自分を待っていたのか、そこに立っていた。

「何があったのかは桜花衆から訊いてるよ。お疲れ様…と言いたいとこだけど。あんな姿を見せたリヒトさんにはお説教だよ」

申し訳ないと頭を下げる。聞き分けが良くてもダメだと、どこからか取り出した扇子で頭を叩かれた。
ぺち、と小さな音が鳴る。痛くなど当然ないし、不愉快でもない。
まあ、子供扱いされてる感が気になると言えば気になるが。

それからというもの、晩御飯が冷めてしまったからリヒトの分だけリンが作り直していること。
あんな格好で帰ってきたものだから子供たちが怯えて心配していたことをこんこんとお説教された。
客は全員寝静まっているようなので、他に人がいなかったのが不幸中の幸いか。
837 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 00:43:41.19 ID:pFYHrz7EO
「…と、愚にもつかない説教はここまでにして。お前さんに紹介したい人がいてね。…おいで」

お雪の合図を経て、女湯の扉が開かれる。
もう深夜なので温泉は閉められているのだが、反射的に目を背けた自分は正しかったはずだ。
そんな自己弁護を済ませると、お雪の声が聞こえた。

「彼女たちは本日付けで牡丹雪預かりとなった人たちだよ。ほら、挨拶なさい」

意味がわからない、とリヒトは首を傾げる。
あくまで自分は客人であり、牡丹雪所属の用心棒とかでもないのだ。
新人が入ったからといって、自分に紹介する必要などないだろうに。

そんなリヒトの疑問を無視して、桃色の髪をした女性が口を開いた。

「私は桔梗(キキョウ)と言う者だ。桜花衆の仲介により、牡丹雪で用心棒を務めることになった。貴殿のことはお雪殿より聴いている」

「…何と仰ってました?」

「大層腕の立つ猛者だと。どうやら話通りの辣腕を持つご様子で」

お褒めいただき光栄だ、と返して頬を掻く。
こうも素直に褒められては気恥ずかしいものがあるのだ。
照れているリヒトを見つつ、桔梗は一礼する。
凛とした佇まいが印象的な女性だった。
838 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 00:44:46.45 ID:pFYHrz7EO
「…私(わたくし)は瑠璃(ルリ)と申します。先日、籍を置いておりました店舗が店を畳んだので、お雪様の口添えもあって牡丹雪に引き取っていただく運びとなりました」

続いて口を開いたのは、艶やかな黒髪を伸ばした女性。
深窓の令嬢、という評価がピッタリ当てはまるような、美しい女性だった。
濡羽色、というのだろうか。微かに青みがかった黒髪は艶めかしく輝き、見る者全てを魅了させる。
紺色の着物も相まってその黒は主張をさらに強め、ふとした瞬間に夜に溶けて消えてしまいそうな儚さを内包している。
誰もが目を奪われ釘付けになってしまう絶世の美女。それがリヒトの抱いた印象だった。
奇しくもそれは、牡丹雪に務める女性全員に抱く印象であり、牡丹雪の顔面偏差値のインフレをこの上なく示していた。

だがしかし、彼女に抱いた好印象は瑠璃の発した言葉によって粉々に砕け散ることとなる。

「…私は見習い故、夜のお勤めは許されておりません。ですのでどうか、貴方様がよろしければ一晩でいいので抱いていただきませんか?誠心誠意尽くしますのでどうか、ご一考いただければ…」

これはヤバい。とんでもない激ヤバウーマンだとリヒトの勘が告げていた。
彼女の誘いに乗ったが最後、ケツの毛までむしり取られて捨てられる気配を感じる。

「………」

これはいったい全体どういうことだと、お雪に目線で尋ねる。
悲しげな表情で首を振られた。
どういうことか分からないが、厄ネタを抱えていることはなんとなく分かった。

「………?」

不安そうにこちらを見る瑠璃。
ここで無言を貫き通すのは簡単だが、それで彼女がどう出るか不明なので選択肢から除外する。
ならば、取るべき選択肢は一つ。

「コノケンハオモチカエリサセテイタダキマス」

全人類が所有する伝家の宝刀。曖昧な返事によるはぐらかし、問題の先送りである。
困った時は未来の自分がなんとかしてくれる、とリヒトは考えることをやめた。
839 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 00:47:07.31 ID:pFYHrz7EO
何をするかを↓1にどうぞ。行動順としては夜食→深夜の行動(今回の行動)→朝の行動となります。
他のキャラクターは全員寝ているので、交流できるのはマナ、桔梗、瑠璃、お雪、リンのいずれかのみとなります。
840 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/29(日) 02:51:05.29 ID:4LKeet700
お雪と交流する
841 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 08:42:51.27 ID:pFYHrz7EO
さて、紆余曲折あったが夕食にありつくことができた。
手間暇かけた料理を作り直しさせてしまったのは申し訳なかったが、仕事をしていたなら仕方がない、と許してくれたリンは器が大きい。

食事を済ませて食器を全て洗い終えたリヒトは、お雪の部屋を訪ねていた。

「夜分遅くに何用だい?わしもそろそろ寝たかったんだけどね」

眼鏡を外し印象の変わったお雪がお出迎えする。
寝支度をしていたところを邪魔してしまった形だが、牡丹雪の営業が再開した今、彼女と会話をする機会は限られているのだ。
少しくらい大目に見てほしい、と詫びを入れる。

「そういうことならしょうがないねえ」

と、こちらのわがままに微笑で返してくれたお雪。
本当に優しくて頭が上がらない。
842 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 08:44:14.30 ID:pFYHrz7EO
お雪と何をするかを↓1にどうぞ。
843 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/29(日) 09:08:52.22 ID:d9doKakIo
先ほどの瑠璃の申し出について聞いてみる
844 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 10:25:01.96 ID:pFYHrz7EO
座布団の上に座り、お茶請けのせんべいを齧る。甘辛い味付けが口に合った。

「さっきのことについて訊きたいんだが」

単刀直入に話を切り出す。今回は世間話に興じるつもりはないのだ。

「瑠璃さんはさっき、俺に相手してほしいと言っていた。でもその直前には夜のお勤めは許されていない…とも言っていた。どういうことなんだ?」

「…ああ、そういう話か」

目を細めたお雪ははあ、と臓腑の息を吐き出す。
溜め息を吐くと幸せが逃げるらしいが、そこんとこどう思っているのだろうか。

「それはお互い様だよ。お前さんだって溜め息は吐くだろうに」

それを言われると弱い。リヒトは目を逸らし、話題を戻して誤魔化しに入った。

「…彼女は奴隷階級の子でね。数日前までは、違法な店で働かされていたんだよ。違法薬物や異常行為を強要された彼女は、桜花衆の尽力もあって身柄を保護されたわけだけど…。店でどんな扱いをされていたのかは、ご想像にお任せするよ。…ただ、心を壊すには充分すぎる仕打ちを受けたことは、念頭に入れておくれ」

無言で頷き、続きを促す。お雪も首肯で返し、話を続けた。
845 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 10:25:57.73 ID:pFYHrz7EO
「桜花衆に救出された瑠璃の処遇についてだが、数度の会議を経て牡丹雪で預かることに決まったんだよ。…あくまで引き取りだから、彼女は未だに奴隷としての身分を捨てれていないがね。それは、彼女を心から愛し、守ってくれる殿方の務めさ。わしの役目ではない」

「引き取った理由は?」

「ここに勤めている間は傷ついた心身の療養に充ててもらいたいのさ。だから、夜のお勤めは禁止しているんだ。…実のところ、瑠璃には見習い期間中のみの措置とは伝えているが彼女が務めを果たす日は来ないよ。たとえ彼女が、殿方と床を同じくするのを望んでいるのだとしても、ね」

「じゃあ、あの申し出は断るべきだな。それを馬鹿正直に言ったらダメかもしれんが」

「そうしてもらえるとありがたい。…が、拒絶し続けてどうなるかは未知数。適度に会話して、お前さんからも瑠璃を気にしてあげてくれると助かるよ」

「俺が?逆にトラウマを刺激したりしないか?」

「彼女が夜伽を頼み込むのは、それしか自身に価値がないと思っているから。それさえできなければ切り捨てられると怯えているからだ。…逆に言えば、身体を重ねている間は自分には生きている価値があると認められ、安心を得られるということでもある。お前さんが乱暴しなければ、大丈夫だと信じているけどね」

人の心は分からないから確証はない、とお雪は悲しげに溢す。

艶やかに咲く桜に照らされる緋桜郷。
強い光が深い影を落とすように、緋桜郷にもまた、深い闇が蠢いている。
皆が笑う陰では泣く人もおり、絶望に心身を苛む人がいるのだと実感する。

奇しくもそれは、過去の自分(勇者と幽者の関係)と似ていた。
846 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 10:26:54.11 ID:pFYHrz7EO
お雪と何をするかを↓1にどうぞ。
これで今回の交流は終わりとなります。
847 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 10:32:43.70 ID:pFYHrz7EO
一部訂正します。


「桜花衆に救出された瑠璃の処遇についてだが、数度の会議を経て牡丹雪で預かることに決まったんだよ。…あくまで引き取りだから、彼女は未だに奴隷としての身分を捨てれていないがね。それは、彼女を心から愛し、守ってくれる殿方の務めさ。わしの役目ではない」

「引き取った理由は?」

「ここに勤めている間は傷ついた心身の療養に充ててもらいたいのさ。だから、夜のお勤めは禁止しているんだ。…実のところ、瑠璃には見習い期間中のみの措置とは伝えているが彼女が務めを果たす日は来ないよ。たとえ彼女が、殿方と床を同じくするのを望んでいるのだとしても、ね」

「じゃあ、あの申し出は断るべきだな。それを馬鹿正直に言ったらダメかもしれんが」

「そうしてもらえるとありがたい。…が、拒絶し続けてどうなるかは未知数。適度に会話して、お前さんからも瑠璃を気にしてあげてくれると助かるよ」

「俺が?逆にトラウマを刺激したりしないか?」

「彼女が夜伽を頼み込むのは、それしか自身に価値がないと思っているから。それさえできなければ切り捨てられると怯えているからだ。…逆に言えば、身体を重ねている間は自分には生きている価値があると認められ、安心を得られるということでもある。それに、客相手にするのとお前さん相手にするのでは勝手が違うんだよ。普通の客は遊女の心境など知ったこっちゃないが、お前さんは瑠璃のことを今知った。つまり、彼女を慮った言葉を投げかけられるわけだ」

それで解決するかは分からないけれど、とお雪は悲しげに溢す。

艶やかに咲く桜に照らされる緋桜郷。
強い光が深い影を落とすように、緋桜郷にもまた、深い闇が蠢いている。
皆が笑う陰では泣く人もおり、絶望に心身を苛む人がいるのだと実感する。

奇しくもそれは、過去の自分(勇者と幽者の関係)と似ていた。
848 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/29(日) 13:13:53.31 ID:551tRLirO
改めて諸々の礼を言う
849 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 14:50:15.87 ID:pFYHrz7EO
バリボリと皿に乗っていたせんべいを食べ終える。
わしのお気に入りが…というお雪の小さな嘆きが聞こえた気がするが気のせいだと思われる。

面と面で向かい合う機会はこれからもあるだろう。お互いに息災ならば、きっと。
だが、それでも。言葉にしなければならない、と気を引き締め、口を開く。

「貴女には感謝している。緋桜郷のことなど右も左も解らない俺たちを、文句一つ言わずに迎え入れてくれて。本当に助かった。ありがとうございます」

万感の想いを込めた言葉をぶつけ、頭を下げる。
彼女には、牡丹雪には世話になりっぱなしだ。
寝床を用意してくれて。食事も作ってくれて。
ともすれば、ヒモ扱いされているのではないかと懸念を抱いたことも二度や三度ではない。
実際そうじゃろと言われたらぐうの音も出ないが、とにかく色々と便宜を計ってもらった。
対するお雪の反応は。

「いや、そんな今生の別れみたいな言い方されてもね。まだここには滞在するんだろう?」

微妙だった。
850 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 14:51:29.51 ID:pFYHrz7EO
「…確かに、まだしばらくは滞在するとは思う。だが、こんなご時世だ。いつどこで誰がどう死ぬか分からない。感謝の言葉ってのは後回しにするほど言いにくくなるし、その時お互いに生きてる保証も無い」

あの時言っておけば良かった。そう後悔しないために。
あの時言っておけば良かった。そう後悔してきたから。
だから、敢えてこのタイミングで伝えたのだ。
何も言えず終わるよりは、ずっとずっとマシだから。

聖女にも。大賢者にも。感謝の言葉は伝えず終いだった。
思いがけない事態に陥り、永遠の別れとなってしまった。
言いたいことがたくさん合ったのに、と思えど、時は既に遅く。

人は簡単に死ぬ。散々思い知らされた事実だ。
怪我をすれば死ぬ。病気に罹れば死ぬ。呪いをかけられたら死ぬ。事故に遭ったら死ぬ。
明日、目が覚めた時にお雪がいない可能性は、決してゼロではないのだ。
リヒトがこの世を去っている可能性もまた同様に。
全ては奇跡の上に成り立っている。
この出逢いも。この日常も。全て。数えきれない奇跡が積み重なり、形になったものだ。

その奇跡が残っているうちに、できることはしておきたかった。

「今まで後悔し続けた。ああすればよかったと何度も悔やんだ。だから、こんなタイミングではあるが、感謝の言葉を述べさせていただいた。…同じ思いをするのは嫌だからな」

縁起でもない、というのも解る。
突然結婚すると言ったり、君と出逢えて良かったと言い出したら、その後は決まって不幸に見舞われるものだ。
今リヒトが告げた言葉もその例に漏れず、何故か不幸を呼び寄せてしまう。

だが。

「俺はまだ死ねない理由が山ほどある。だから絶対に死なないよ。何年後だって、何十年後だってまた、ここの温泉に入りに来るさ。絶対にな」

命を懸けて聖女が与えてくれた祝福(呪い)。
死に際に大賢者が遺してくれた願い(責任)。
戦いの最中で受け取り奪い背負った命(十字架)。

それがある限り、勇者(幽者)は決して死なない(死ねない)のだ。
851 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 14:52:05.62 ID:pFYHrz7EO
何をするかを↓1にどうぞ。今回の行動は朝になってます。
852 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/29(日) 15:02:06.25 ID:rd0UjtJz0
緋桜郷の繁栄を神に祈る
853 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/29(日) 15:02:33.19 ID:rd0UjtJz0
緋桜郷の繁栄を神に祈る
854 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/29(日) 16:54:31.11 ID:pFYHrz7EO
新しい朝が来た。活気に溢れる希望の朝だ。
そんな朝にやることいったら一つしかない。

「………」

神様へのお祈りである。

天にまします我らが神よ、どうか緋桜郷に更なる繁栄と安寧が在らんことを。

幽者の曇りなき黙祷は神に捧げられ、神々のご加護を齎すだろう。

それはそれとして、こんな眼を持って産まれさせた神に怨念と憎悪の籠った怨嗟をついでに呪詛として振り撒く。
紅眼を授かったが故に勇者と成ったが、人並みの幸せと愛を受け取れるのならば、こんな力は要らなかった。
この眼が碧眼だったなら。家族に愛されブラウダ家で平和に暮らせていたのに。

勇者を経て幽者と成る。その過程で救われた命がある。金銀財宝にも勝る尊い出逢いがある。
だが、それでも。それらを全て手放すとしても、家族にだけは愛されたかった。

もう家族ではなくなった人たちへの微かな郷愁と共に、リヒトは中指を立てる。

「何が神様だふざけやがって。お前のせいで俺の人生めちゃくちゃだクソがよお!!!!!!」

信仰する神がいない故に為せる蛮行。
狂信者が見たら発狂死ののちに袋叩き待ったなしの無礼を働き、神様の馬鹿野郎!!!!と無言の抗議をここではないどこかへ行った。
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