【咲-saki-安価】京太郎「朝の光〜」 咲優和久まこ「眩しくて!」【艦これ要素】

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460 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/12(金) 23:39:45.19 ID:Nh2tM9Kdo
>>459
そんなんあったんや…

>>458の酉おかしいですけど、>>1のカキコです。携帯からなので酉を失敗しました。

もう少ししたら電編投下しますのでよろです
461 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/12(金) 23:54:12.00 ID:Nh2tM9Kdo
それじゃ、投下していきます。
毎度のごとくR-18ですので(以下略
462 : ◆gb4ndwMf/k [saga]:2016/08/12(金) 23:55:09.77 ID:Nh2tM9Kdo


「はい、どうぞー」


コンコンと寝室の扉を叩く音が聞こえたので、京太郎は尋ね人の入室を促す。
まぁ、誰が訪ねてきたのかはわかりきっているのだが…


「失礼するのです」

「いらっしゃい、電ちゃん」


駆逐艦娘『電』こと吾妻稲美である。
繰り返すが、ここは京太郎が寝泊まりする司令官用の寝室だ。
そしてさっきまで咲と激しく性交していた場所でもある。
彼女がここに来る…
それが意味することはただ一つだ。


「ん? なんだかかすかにアンモニアの匂いがするのです」

「き、気のせいじゃないかなぁ…」


クンクンと鼻を鳴らしながら言葉をこぼす電。
それに対しきょどりながらも否定する京太郎。
咲がエッチの時に二回もお漏らししたが、それは妖精さんの不思議パワーで綺麗に掃除されている。
小さな妖精さんが力を合わせてエッチラオッチラとベッドを取り換えていたのは… かなりシュールな光景だった。
その妖精さんのおかげでほぼ完ぺきに綺麗になっていたはずの寝室。
しかし、電は空気中に漂う僅かなアンモニア臭を嗅ぎ取った。
実に恐ろしきは、彼女の嗅覚の良さか。


「…司令官さん。あまり女の子に激しいことをしてはダメなのです」

「…はい」


此処で何がったのかを推測しきった電はジト目を京太郎に向ける。


「分かっていただければいいのです」


そう言いながら電は新しくなったベッドの縁に腰かける。
463 : ◆gb4ndwMf/k [saga]:2016/08/12(金) 23:55:36.09 ID:Nh2tM9Kdo

「1つ聞いてもいいかな?」

「なのです?」


京太郎が電の隣に座りながら聞く。


「いや、これから何するかは十分わかってると思うけど…」

「…………」

「咲や部長、和に優希と染谷先輩は少なくとも半年近い付き合いがあるからまだ分かるんだ…」


躊躇いがちに言い出す京太郎に電は微笑みで続きを促す。
それを見て「でも…」と言いながら京太郎は続ける。


「電ちゃんと出会って… まだ3日だ… たった3日間の付き合いだ…」

「正直、そんな女の子を抱いていいのか… すごく迷ってる」


まがりなりにも咲達は京太郎に恋心を持っていてそれをぶつけてきた。
複数の少女をほぼ同時に抱くなど京太郎からすればアウトどころかビーンボールだ。
それでも出来たのは、彼女たちの安全と恋心があったからこそ。
しかし電は事情が全く異なる。
出会ってわずかに3日、それでコトに及ぼうとしているのだ。
京太郎はスケベな男子高校生だが常識を置き忘れてはいない。
当然そういう状況をすんなり呑み込めるわけはなかった。


「確かに、普通はそうなりますね… でも私は艦娘なのです」


京太郎の問いにそう答えた電が語り出す。


「艦娘になるときに海軍省から散々説明を受けた上に、しつこい位に何回も確認されました。納得していますし、覚悟の上なのです」


そう言い切る電の目に覚悟の色を京太郎は見た。
彼女は絶対に意思を曲げない。
その確信が彼にはあった。
それに、ここで彼女を抱かなければ非常に命の危険がある状態で戦争に送り出すことになる。
京太郎は覚悟を固めた。


「それに、司令官さん…」

「なに?」

「エッチから始まる恋と言うのもあるのですよ?」


ニッコリと微笑む電の表情は非常に艶めかしく色気があった。

464 : ◆gb4ndwMf/k [saga]:2016/08/12(金) 23:56:36.44 ID:Nh2tM9Kdo



「あっ! アッ! あアぁッ!!」


ギシギシとベッドが軋む音が寝室に響く。
京太郎の大きく育った怒張が電の小さな入り口を目一杯拡げている。
京太郎の腰が前後するたびにグチュグチュと湿った音がする。
雁首が膣壁を引っ掻くたびに電の胎内から次々に愛液が溢れ出す。


「い、電ちゃん! どうだ!? 気持ちイイか!?」

「気持ちイイのです! もっと! もっと突いてェ!!」


お互いの意思確認が終わった後の2人は直ぐに服を脱いだ。
両者とも、どこか硬さが残っていたが京太郎の方から声を掛け、愛撫が始まった。
電の体はほぼ優希と同じくらい、発達具合も同じくらいだった。
京太郎が可愛らしい頂を舌で舐り、乳首に吸い付く。
内太腿やお尻を優しく撫でるとピクピクと体を反応させる電。
雌穴に指を突っ込まれた際には可愛らしい声を上げたりもした。
そんな具合に電の体をほぐす目的で、前戯はそこそこに。
そのまま本番へと移った訳である。


「んぁぁあぁぁあああ! キス! キスしてくださいぃ!!」


肉棒を挿れられた直後は痛みで体を硬くしていた電。
暫く動かずに様子を見て、痛みが引いてきた頃合いに京太郎は腰を動かした。
本能に従い電の雌穴が愛液を出し始めると、ヌルヌルと粘膜が滑りスムーズな抽送になる。
それは2人の体に耐えがたい快感を産み、次第に行為に没頭させていく。
コツンコツンっと亀頭が子宮口をノックすると、その刺激で雌の本能が膨れ上がり電がキスをねだる。
電の求めに応じて接吻をする京太郎。
京太郎の唇が、電の小さく桃色をした唇を咥えこむ。


「ン… ムチュ… クチュ…」


下だけでなく上で繋がった2人はすぐに舌を絡めだす。
上あご、内頬、下あご、歯茎、お互いの口の中を嘗め回し、舌をナメクジのように絡め合う。
上がっていた息がさらに上がり、2人の性的興奮は更に高みに昇っていく。


「ふぁあああ! 司令官さんのオチンチンで電犯されてるですぅ!」


自分の小さな膣が硬く勃起したペニスのカタチに矯正されているような感覚に襲われる電。
快感で半分以上働かなくなった頭で、今、少女から女に改造されているのだと朧げなから感じている。
465 : ◆gb4ndwMf/k [saga]:2016/08/12(金) 23:57:09.54 ID:Nh2tM9Kdo

「ほら! ここがイイんでしょ!?」

「しょこはりゃめぇれしゅううう!!」


組み敷いた電が自分の肉棒に溺れていく様をみて京太郎は更に攻める。
Gスポットのあたりを浅く何回も亀頭で擦ると面白いように電は乱れる。
深く浅く優しく力強く。
電が刺激に慣れないように変化を付ける。


「やぁぁぁあ! コリコリしちゃらめぇ!! んひゃぁあああああ!!!」


時折、優希と同じくらい未発達な胸の乳首やクリトリスをつまんで扱きあげる。
この京太郎とのセックスが初体験だった彼女には強すぎるその刺激は、絶頂を迎えるのに十分だった。
ビクンビクンと体が痙攣する電の膣もビクビクと京太郎の肉棒を締め付ける。
電の膣内は初物とは思えないくらいに淫らに熟れ切っていた。


「電ちゃん! 射精そうだ!!」

「だ、だしてくりゃはぁい! 司令ひゃんのぉ! 熱いおチンポミルクぅ! 稲美の胎内に出してくりゃしゃいぃぃ!!」

「よ、よし! 出すぞ! くぅうぅぅッ!!」

「あっぁぁあああ! でてりゅぅう! せいえきがいなみのなかでぴゅっぴゅっでてりゅうう!!」


電の足を割り開いて自らの腰をズッポシ嵌め込む京太郎。
快感のせいで降りてきた電の子宮がグイッと京太郎のペニスに持ち上げられ、その感覚だけで彼女は達してしまう。
そして、彼女の膣内で育った怒張の鈴先から勢いよく精液が飛び出す。


「あつい… あついのです…」

「電ちゃんどうだった?」

「すごく… よかったのです…」


電の胎内から陰茎が引き抜かれて湿った音を立てる。
愛液と精液が交じり合った泡が陰唇を伝い、中から納まりきらなかった精液がこぼれ出してきた。
そんな自分の性器をじーっと見つめた電はクスリと笑って京太郎に一言投げかけた。


「やっぱり、エッチから始まる恋はあったのです」

466 : ◆gb4ndwMf/k [saga]:2016/08/12(金) 23:58:11.02 ID:Nh2tM9Kdo



「………………」

「………………」


初体験を語り終えた電と咲。
2人とも顔がトマトのように真っ赤になっている。
なんだかんだ言って自分の情事を赤裸々にするのは恥ずかしいし、棒姉妹とはいえ照れくさいのだ。


「…なんだか須賀君の日記帳ひとつで豪い状態になったわね…」

「…まぁ、まさか日記にワシ等を抱いたことが克明に書かれちょるとは思わんかったしのぉ…」

「と言うか、この日記帳… 物凄く冷静で客観的かつ克明に書いてますけど、須賀君は書いてるときに恥ずかしく無いのでしょうか…?」


繰り返すが、京太郎の日記帳。
一日当たりの平均ページ数が2〜3ページ、多い時で5ページを超えている。
おまけに克明に説明調で書かれている。
いったいどこの報告書かと突っ込みどころ満載である。
そのせいで6人の初エッチの部分を読んだだけなのにもう日が暮れていた。


「ところで次の日は何が書いてあるじぇ?」

「ゆ、優希ちゃん…」

「雷ちゃん…」

「だって、咲ちゃん、稲見ちゃん… 気になるじぇ」

「あー… 確か次の日は初めての出撃だったな」

「あっ、そうだった!」

「で、鎮守府周辺をぐるっと哨戒して帰投して、で初出撃のお祝いパーティーやったよなぁ」

「思い出したのです! 皆で大騒ぎ… なのです?」

「ん? さっきの声って…」

「も、もしかして…」


ここで皆、気が付く。
なんか聞きなれた男の子の声がするなぁっと…
ギギギッと油の切れた蝶番みたいな様子で声のする方… 執務室の入口の方を向く艦娘6人。
そこには第一種軍装を着た京太郎が腕を組んでガイナ立ち。
額には青筋が浮かび、かなり怒っておられるようだ。
467 : ◆gb4ndwMf/k [saga]:2016/08/12(金) 23:58:44.41 ID:Nh2tM9Kdo


「し、司令官さん… 今日は軍令部の方に用事で遅くなるはずでは…」

「あぁ、提督同士の懇親会の予定だったんだけど、皆忙しいらしくて集まりが良くなかったんだ。後日に食事会をするってことで今日はお流れ」

「な、なのです…」

「だから、皆と夕食食べようと急いで帰ってきてみれば…」

「あ、あ、あ、あのね… 京ちゃん… こ、これには深海よりも深ーい訳が…」

「ほーぅ… じゃあその訳とやらを聞かせてもらおうか、『古鷹』?」

「ひぃぃぃっ!!!!」


咲が何とか京太郎の怒りを鎮めんと、弁解を試みるが…
その咲に、あろうことか艦種名で返してくる京太郎、かなりお怒りのご様子である。


「執務室の片づけは… まぁ、綺麗にしてくれたんだから有り難いし、感謝してます」


ニッコリと笑顔で宣う京太郎。
だが、目が笑っていない。


「だけど… 人の日記帳を盗み見るとはどうゆう了見なんだ!!!」

「ごめんなさぃぃいい!!」


クワッと目を開いて一括する京太郎。
そのあまりの迫力に艦娘6人衆は尻もちを搗いてひたすら謝ることしかできない。
そんな彼女たちに京太郎は非情な宣告下す。


「ええぃ、許さん! 今日は全員晩飯抜きだ!!」

「そ、そんな! 殺生だじぇ!!」

「あと海軍精神注入棒でお仕置きするから覚悟しろよ!!」

「いやぁぁぁああああ!!」


その夜、お腹を空かせたうえ、お尻にたっぷり注入棒で海軍精神を叩きこまれた哀れな咲たち…
腹の虫をグーグー鳴らし、唸りながら眠れる夜を過ごす羽目になったらしい。
468 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/13(土) 00:01:09.21 ID:8Kz+fqiMo
と言うわけで本日の投下は以上です。
海軍精神注入棒がガチなのか(笑)なのかは皆さんのご想像にお任せ

ガチなら痛みで寝れないし痔の危機、(笑)なら火照って寝れないのでしょうね

次からは本編行きます! 
感想とかもらえるとすごく嬉しいし励みになりますのでどんどん書いてください
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/13(土) 18:36:03.65 ID:GkGUi93G0
乙なのです!
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/14(日) 13:42:36.20 ID:RUKCDs+TO
他の県の子たちは艦娘ならんのかな?
471 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/14(日) 14:49:51.83 ID:QjLt+iKRo
遂に、16年夏イベント!
やっとE-2のラストダンスに入りました。
提督の皆さんは熱中症に気を付けて頑張ってください

>>470
なりますよ〜
次か次々回あたりで登場させます
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga sage]:2016/08/14(日) 16:04:31.33 ID:jg95pybO0

お尻の場合は感染症を避ける為、洗浄したりと準備が大変らしいです。
473 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/18(木) 23:47:21.16 ID:4ssYcXMPo
突然ですが、マルマルマルマル頃に次の投下をしますね
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/18(木) 23:54:11.66 ID:ySbHUiDEo
はーい
475 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/18(木) 23:59:54.57 ID:4ssYcXMPo
では、短いですが投下します


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天気明朗なれど波高し。
腫れてはいるが少々風が強くて海が荒れ模様なある日のこと、京太郎たちの清澄鎮守府は何故か臨時休業と相成った。


「で、提督。今日の出撃の予定を全部ドタキャンして何があったの?」


執務室のソファでコーヒーを啜りながら軽巡『大井』の制服を纏った久が聞く。
今朝、起きたらいきなり全ての予定が変更だと伝えられたのだ、そりゃ訊ねたくもなる。
なお咲と優希はソファの余りの座り心地の良さに、完全にタレ咲とタレ優希と化している。


「俺も昨日の深夜に緊急の連絡を受けたんですよ。寝ようと思った直前に電信で」

「ふーん、何と書いてあったんじゃ? ああ、話せる範囲でいいけェ」

「まぁ、別に機密じゃないし… 平文で来たので隠すものでもないので『発、大本営。宛、清澄鎮守府司令提督須賀京太郎中佐。○月×日ノ出撃、遠征ノ予定ハ全テ中止シ以下ノ通リ行動セヨ。1300、執務室ニ提督、艦娘全員集合ノコト。1人モ欠ケズニ参集スルコトヲ期待スル』」

「正直、何の意図があってこんな電信寄越したんだか…」


京太郎は命令文を読み上げ、サッパリ分からんと両手を軽く上げる。
確かに軍事行動の全てを中断し、執務室に集まれとだけ言われても意味不明だ。
ツカツカと机まで歩いていき、上等な椅子にドカッと座り込む京太郎。
どうやら大本営の意図を読むことを放棄したようだ。


「まぁ、分からないものをあーだこーだ言っても仕方ない。もう少しすればヒトサンマルマルになる。そのとき分かるだろうさ」

「待つのも戦術の内けぇ… 京太ろ… いや、提督さんお茶淹れたけェ」

「おっ、染谷せ… いや… 浦風、ありがとう」


苦笑いと共にそう言い切る京太郎。
その京太郎の言に相槌を打ちつつ、本日の秘書艦のまこが紅茶を淹れて持ってくる。
2人とも未だに提督呼び、艦娘名呼びに慣れていないのか本名で呼び合ってしまうのが微笑ましい。
京太郎はティーカップを受け取り、カップに口をつける。
鼻腔を擽る芳醇な香りを楽しみつつ、茶を喫する京太郎。
「うん、旨い!」そう言ってニッコリ笑みをまこに向けて礼を言う。
笑みを向けられたまこはちょっと顔を赤くして嬉しそうな表情を緩める。


「染谷せ… 浦風さん、私にも紅茶いただけませんか?」

「あっ、私も欲しいのです」


そう言ってまこにお茶を要求する和と稲美。
自らは稲美とチェスを嗜みながら、元の世界での先輩に給仕を要求する和。
図抜けた肝の太さだが、提督室に隣接された給湯室の管轄はその日の秘書艦が担当する。
他のメンバーはなるべく立ち入らないとの不文律が出来てしまっているので仕方がなかった。


「おう、ちょっと待っちょれ」


そう言って給湯室に消えていくまこ。
平和な鎮守府での日常の光景である。

476 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/19(金) 00:00:46.63 ID:olGdlxg7o


12時56分… 海軍流に言えばヒトフタゴーロク。
見事に晴れ渡った空に異変が起こる。
一瞬、新星のようなものがピカッと光ったかと思うと、空に黒い染みが1つ生じる。
そして、それは時間が経つごとにだんだん大きくなっていき…

12時58分、ヒトフタゴーハチ頃には、それが複数の人型の物体だと見分けがつくまで大きくなった。
猛然としたスピードで自由落下を続けるソレは…


「いやぁぁあああああああああああ!!!」
「しぬ! シヌ! 死ぬぅぅぅぅうううう!!!」
「なんでこんな目に合うのぉぉぉおぉおおおお!!!!」


絶叫を上げて紐無しバンジーを決める少女達だった。
因みに落下する物体の質量を50kg、空気抵抗係数を0.24kg/m、重力加速度を9.80665m/s^2とした時に4分掛かる落花距離は凡そ11000m。
地球の対流圏の高さも高度11000m…
ほぼ成層圏からのダイビングだ。

恐怖と滅多に体験することのない強烈な負のGのせいで完全なパニック状態。
助かろうと必死に両手を鳥のようにバタバタさせて飛ぼうと涙ぐましい努力をする者もいるが…
焼け石に水の典型だろう。
そのまま猛烈なスピードで落下を続ける彼女たち。
彼女たちの落下点と思しき所に見えるのは清澄鎮守府の建物。
しかし、彼女たちが最後に行きつく先はそこではないだろう。
まず間違いなく着地した後の行先は病院か三途の川のはずだ、普通の人間ならば。


477 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/19(金) 00:02:07.49 ID:olGdlxg7o



「ヒトフタゴーキュウ… そろそろ指定された時間になるんだが…」


そう言って執務室の壁に掛けられた時計をチラッと見る京太郎。
秘書官のまこはその斜め後ろに控えているが、他のメンツはソファーでだらけたり、チェスに熱中したりと好き好きに過ごしている。


「一応、予定はヒトサンマルマル見たいですが時間通りとは限らないのでは? 電さん、チェックです」

「確かに多少は時間が前後すると思うのです。春雨さん、チェック返しなのです」


チェスの盤面を睨みながら和と電が言う。
かなり白熱した対局のようで二人とも眉間に皺を寄せている。
コーヒーを飲み過ぎてもよおしたのか、久が「ちょっとトイレに…」と言って執務室を後にする。
壁にはコチコチと秒針を進める時計、その時計が13:00を示した瞬間…


――――執務室の天井が爆ぜた


「はにゃぁぁあああああ!!」
「きゃぁあああああああ!!」
「あべしーーーーーーー!!」
「ひでぶぅぅううーーー!!」



そう先ほど紐無しバンジーをしていた少女たちが建物に着弾したのだ。
轟音を撒き散らし、京太郎たちを巻き込んで部屋の床をぶち抜く肉弾たち。
執務室は3階、2階の床もその衝撃を受け止めるには役者不足…
1階の床にめり込んで漸く止まった。
屋根と床が抜けただけで建物自体は無事だったのが幸いである。
人的被害を除けばの話だが…

因みに質量50kg、空気抵抗係数0.24 kg/m、重力加速度9.80665 m/s^2の条件で物体が11000 mから落下すると凡そ163 km/hのスピードが出る。
ここから計算される運動エネルギーは51076 J。
分かりやすく例えるとプリウス(車重1.4 t)の車が31 km/hで衝突した時と同じ威力になる。
思ったほど威力は出ていない、空気抵抗は偉大なのだ。
空気抵抗がなかった場合は最終着弾速度は1,672 km/hになり、衝突エネルギーは5390000 Jとなる。
凡そ2 tトラックがが52 km/hで衝突した時と同じである。
プリウスならば300 km/hオーバーだ。
478 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/19(金) 00:03:04.54 ID:olGdlxg7o

閑話休題


「ちょっと! 何事!?!?」


建物がブッ壊れる音を聞いて慌ててトイレから戻ってくる久。
しかも轟音は執務室の方から聞こえてきたのだ、焦らないはずはない。
着弾の衝撃でドアが吹っ飛んでいて、入り口から見えるのは砂埃が濛々と舞う床の抜けた執務室。
それを見た久は、大急ぎで階下へ走る。
執務室直下の1階の部屋、娯楽室なのだが、そこも砂埃で濛々としており中を窺えないほどだ。


「ゲホ ゴホ… ちょっと! みんな大丈夫!?」


ハンカチを口に当てても咳が出てくるなか、仲間の身を案じて呼びかける久。
執務室に京太郎以下6名の姿が見えない以上、ここにいることは間違いないはずだ。
次第に砂埃が収まってくると、部屋の床に出来たどでかいクレーターが目に飛び込んでくる。
この部屋に置いてあった高級そうなビリヤード台とかその他諸々はバラバラに壊れている。


「須賀君! 皆! 無事!?」


部屋の惨状から無事であろうはずがない。
少なくとも重症、下手しなくても命を落としている可能性が高い。
最悪の予想が脳裏を過り、冷たい汗が久の背中を伝う。
そんな彼女の耳に声が飛び込んでくる。


「ぶ、部長…… い、医者を呼ん… でくれると…… うれ…しいなぁ……」

「あ゛ー、死ぬかと思ったじぇ……」


よーく見るとクレーターの中央に京太郎を含めて10は超えるだろう人の姿が見える。
京太郎と優希以外は目を回して失神しているようだが。
頭からドクドクと血を流しながら手を久に伸ばす京太郎と、全身擦り傷だらけの優希。
よくもまぁ、こんな大惨事に巻き込まれて助かったものだと感心する。


「わ、分かったわ! 医者呼んでくる!」


京太郎の求め通りに医者を呼びに走る久だった。
479 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/19(金) 00:04:41.27 ID:olGdlxg7o
本当に短かったですが、本日は以上です
さて、空から降ってきた女の子はいったい誰なんでしょうかねぇ?
ではまた次のお話までしばらくお待ちください

提督の皆様方、イベントの進捗は如何ですか?
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2016/08/19(金) 00:08:41.91 ID:THks9Wo00
乙ですー

宿毛湾泊地の自分は、現在E-4甲を攻略中です!
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/08/19(金) 05:54:32.25 ID:MWC3jWeWO
期待!
482 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/19(金) 15:26:33.67 ID:olGdlxg7o
>>480
僕は大湊ですね、いまE-4乙攻略中です
お互いに頑張りましょう!

>>481
ありがとうです、つぎ期待しててください!
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga sage]:2016/08/19(金) 21:19:29.93 ID:WsgEiXae0
期待(ぷんすこ)
レ級以上の火力と制空力を持った「ぼくのかんがえたさいきょうくうぼ(すこやん)」は?
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/20(土) 19:38:00.74 ID:KA6etNvO0
ぷんすこしながら舞ってる
485 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/27(土) 22:30:34.79 ID:BUrSzYHjo
こんばんわ
もう少しで出来上がりそうです。
今晩中に投下できるといいなぁ、と言った感じです。

イベントですが甲甲甲乙で完走しました。
アクィラは諦めましたが…
現在はE-1でニム掘りの真っ最中です
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2016/08/27(土) 22:40:12.17 ID:vSec2zPH0
期待です!

自分はE-4攻略中にアクィラが来てくれました♪
現在E-3でニムと嵐・沖波・風雲・酒匂を掘ってます
おかげで燃料が凄い勢いで減っていく……orz
487 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/28(日) 00:36:26.45 ID:9j3CoBaqo
遅くなりました〜
投下します。
推敲、誤字チェックはほどほどなのでところどころおかしいところがあるかもしれませんが、ご勘弁を
488 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/28(日) 00:37:06.84 ID:9j3CoBaqo

ここは鎮守府の大会議室。
机がコの字型に並べられ、議長席に京太郎が、彼の左隣に秘書艦、右隣に先任艦娘が座っている。


「さて、現状確認を始めようか?」


机に肘をつき手でAの字を作ってそこに鼻先を乗っけるゲンドウスタイルの京太郎。
そう言ってぐるりとこの場にいる面子を見渡す。


「須賀く… いえ、提督。艦娘の古鷹以下5名が軽傷なのはいいとして… なんで頭から血を流して重傷だった提督がもうピンピンしてるんですか?」

「気になるか? 大井」

「ええ、すごく」

「ならば教えてやろう… ギャグ空間では主人公とその仲間は死なない!」

「何、メタい発言してるんですか? 酸素魚雷撃ちますよ?」


艦娘になれば一般人に比べて力が強くなるし、体もかなり頑丈になる。
そんな艦娘である咲たちが気絶したとはいえ、ほぼ擦り傷のみの軽傷だったのはまぁ理解できる。
理解できないのは京太郎だ。
一般人の体で、なおかつ重傷を負っていたはず…
なのにもう既に怪我が治りピンピンしている。
不思議に思った久が話を振るが帰ってきたのは何ともメタな答え。
ちょっとイラッときた久は何処からか九三式酸素魚雷を京太郎に突き付ける。
脂汗を流して「すまん」と京太郎が謝ると、酸素魚雷をひっこめる久。
ニコニコ顔が少し怖い。

ゴホンと咳払いをして場を仕切りなおす京太郎。
現在、この場には京太郎を含め16名が顔をそろえている。
そのうち京太郎以下7名が鎮守府関係者、のこり9名が今回建物の屋根を突き破って着弾した面々である。
まぁ、その9名… 京太郎たちの顔見知りだったのだが…


「まずは自己紹介かな… まぁ、ほとんどの面子は顔見知りなわけだが電ちゃんのためにもしておいた方がいいだろう」

「では言い出しっぺの俺から。清澄高校1年の須賀京太郎です。今は訳あってこの清澄鎮守府の提督です。階級は中佐」


起立して自己紹介する京太郎、そのあと秘書艦の久、先任の電が挨拶をする。


「竹井久よ。艦種は軽巡洋艦『大井』。階級は秘書官を拝命しているので今は特務中尉、本来の階級は一等兵曹よ。みんな久しぶりね」

「吾妻稲美といいます。艦種は駆逐艦『電』で先任艦娘を拝命しています。階級は特務大尉。よろしくお願いなのです。」


ぺこりとお辞儀をする電。
ちなみに電が拝命している先任艦娘と言う役、これは鎮守府に所属する艦娘のまとめ役で、各鎮守府に定員1名で設置される。
艦娘同士の揉め事の仲裁、提督不在時および死傷時の指揮権の引き継ぎ、鎮守府内での艦娘の犯罪に関する逮捕・起訴権の執行など。
かなり強烈な役職で、その鎮守府でも練度が高く海軍の空気に馴染んだ艦娘が適任とされることから、鎮守府内の一番古株の艦娘が着くことが多い。
更に付け加えると秘書艦を上回る強権を持つために一般の艦娘がもらえる階級では最上位の特務大尉に自動的に昇格する。
艦娘の階級は上から特務大尉・特務中尉・特務少尉・兵曹長・上等兵曹・一等兵曹・二等兵曹の7階級である。
なお秘書艦の任に就いた場合と各艦隊の旗艦に就いた場合、臨時階級(temporary rank)として特務中尉の階級が任務に就いている間だけ与えられる。

489 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/28(日) 00:37:58.05 ID:9j3CoBaqo

「駆逐艦『浦風』こと染谷まこじゃ。階級は二等兵曹じゃ」

「い、一等兵曹の宮永咲です。艦種は重巡洋艦『古鷹』」

「片岡優希だじぇ、駆逐艦『雷』で二等兵曹だじぇ」

「同じく二等兵曹の原村和です。駆逐艦『春雨』をさせていただいてます」


その後、まこ、咲、優希、和と順に自己紹介をして、いよいよ天井を打ち抜いた面々の自己紹介だ。


「じゃあ、私から… 新道寺高校2年生の花田煌です。和と優希たちの無事が分かってすばらです!」

「…阿知賀女子の1年、新子憧よ。和、いったい何がどうなっているのかちゃんと教えてよ?」

「…鶴賀学園2年生の妹尾佳織です… ククク…」

「白糸台の3年生、宮永照。そこの咲とは姉妹だよ。吾妻さん」

「臨海女子の辻垣内智葉だ、3年生だ」

「大阪の姫松高校3年生の末原恭子や。いったい何があったんや?」

「岩手の宮守女子の臼沢塞よ、3年生ね。で、こっちにいるのが同じく…」

「…小瀬川白望… 宮守女子3年… だる…」

「…………ハッ! すいません! 永水女子の神代小蒔です! 2年生です!!」


そう、顔見知りと言うか…
インターハイでも思いっきり鎬を削り合った面々である。
しかも何故か付き合いの深い高校の面子ばかり…
まぁ、知り合いだったので余計な悶着が起きなかったのは不幸中の幸いである。
もっとも…


「…で、和。その艦これのコスプレと、ここの妙に気合の入ったセットと、そこにいる吾妻さんとの関係と、なんでパラシュートもなくあんな高さを落ちて私たちが無事なのか、それに直撃した貴方たちがなんで無事なのか全部話してもらうわよ」


頭の中身は未だ混乱中。
当然だろう、清澄の部室で麻雀していたら突然目の前が真っ白になって、気が付いたら豪快な投自由落下の真っ最中。
そして地面に叩きつけられて失神、目が覚めたら探していた行方不明の面々が目の前にいたのだ。
普通の精神をしていたら何が何やらである。


「……ククク… 狂気の沙汰ほど面白い… ククク…」

「おい、花田… 妹尾ってあんなぶち濃いキャラじゃったか?」

「…そっとしておいてあげて下さい、染谷さん… 此処に来るために彼女、辛い目に合ってるんでまだ現実逃避中なんです…」


そんな疑問とは程遠い人もいる…
俯き加減で、ニヤリとした表情で呟く佳織だ。
その麻雀の玄人(バイニン)みたいな雰囲気を漂わせる彼女だが、スク水にニーソックスと言う破滅的にアンバランスな格好なのでちょっと近づきたくない。
そんな彼女を横目で見てまこと煌がひそひそ話をする。
490 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/28(日) 00:38:49.38 ID:9j3CoBaqo

「はいはい、色々と疑問があるかと思いますが… とりあえず此方の状況説明をします」


パンパンと手を叩き、皆を注目させながら宣う京太郎。
司令官ぶりが板についてきた成果か、かなり様になっている。


「ふむ、須賀君だったか? この場なら3年生で部長の竹井が説明するものと思ったが…」

「提督… この場なら須賀君呼びの方がいいかしら? 今は須賀君が私たちの指揮官なのよ、だから立場的に不思議じゃないわ、辻垣内さん」

「…まぁ、そちらの方で何かあったんだろう。別に私は構わんよ」


智葉がフッと浮かんだ疑問を口に出す。
それに久が答える。


「納得いただけましたか? じゃあ説明を始めますね」


そう言って京太郎が、話し始める。


「まず、結論から言います。ここは艦これの世界で、俺たちはこの清澄鎮守府で艦隊を結成し深海棲艦と戦火を交えてます」

「………………………………は?」


ズバリと結論から切り込んだ京太郎。
そのあまりにも突拍子の無い言葉に9名の少女たちの思考が停止する。


「ちょ、ちょっと待って! 私たち、ゲームの世界に来ちゃったの!?」

「まぁ、正確に言うとゲームの設定によく似た世界ですね… 詳しい議論は終わりが見えないので今度にしましょう。とりあえず質問は後で纏めて聴きますので… 続きを話します」


それから京太郎は咲たちにも話を振りつつ、ここに来てからの話を分かりやすく語る。
もちろん時間の関係や、機密などで話せない部分は言わない。
たとえば、一発轟沈防止処置のこととか…
たっぷり2時間は使って語られた内容は9人の少女たちにとっては衝撃的だった。


「し、信じられない…」

「これはすばらなのかどうかも分かりませんねぇ…」

「ねぇ、すごく不思議なんだけど…」

「ん? なんだ臼沢?」


憧と煌が頭を抱えて唸るような声を出す。
その中でフッと疑問が浮かんできたので智葉に声を掛ける塞。


「あの時、清澄の部室に30名以上いたよね? なんで、ここに飛ばされたのは私たち9人だけなんだろう…?」

「そう言えばそうですね…」

「確かに… うち等である必然性が全くないなぁ。偶然やと考えることも出来るんやけど…」


そう言って腕を組み、頭をひねる新規転移組。
9人の共通点を探そうとするが全くと言っていいほど思い当たる節がない。
一方で咲たちには思い当たる節がある。
だが、今はまだそのことについて教えるのは控えようとアイコンタクトで意思疎通をする清澄麻雀部+電。
491 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/28(日) 00:39:47.41 ID:9j3CoBaqo

「ああ、きっと艦娘適正のせいだじぇ… ムグゥ!!」


が、空気の読めない娘がここにいた。
慌てて優希の口を和が塞ぐが時すでに遅し。
口から出た言葉は引っ込めるはずもない。


「…私たちが…」

「…艦娘…?」

「あちゃー…」


優希の言葉を聞いて新規転移組の動きが止まる。
目を丸くしながら優希を、そして咲たちを見る。
一方の京太郎はややこしい事態になったと、額に手を当てて溜息をついた。


「和、私たち本当に艦娘の適性があるのですか?」

「ええ、確かにありますよ。全員に…」


煌が和に問い、素直に和が答える。
ここに至って変に隠し事をすると後々話がこじれると判断したからだ。
ちなみに、艦娘になった少女は他の艦娘(元や適性持ちも含む)と一般人とを見分けることができる。
それは外見に特徴があるとかそんなのではなく、電に言わせると「こう… ティンとくる感じなのです」らしい。
何処のアイドル事務所の社長だ?
京太郎は咲たちにも尋ねたことがあるが、彼女たちも「確かに、艦娘を見るとピーンときますね…」と仰る。


「そうか… 私たちも艦娘になれるのか」

「それならそうと早く言えばいいのに」

「客分だと養ってもらうだけで、すばらじゃないですからね。和、優希、手伝いますよ!」

「…怠いけど、帰るためだから手伝う…」


京太郎たちはしばらくの間は9人を客分として扱うつもりだったが、その意思に反して艦娘として戦う気になった新規転移組。
当然、所属艦娘が咲たち6人しかいない現状を考えれば、艦娘として戦線に立って貰うのが一番助かる。
客だと衣食住諸々を世話しなければならないので余計な手間(大半が書類)が増えるだけでデメリットしかない。
しかし、それでも彼女たちを客として受け入れることを京太郎たちは決めていた。
ちなみに、その決断の理由の9割は…


「ちょっと、須賀君! どうするのよこれ!?」

「俺に振らないで下さいよ! これ大体優希の責任ですよ!!」

「ゆーき… あとでお仕置きです… 性的な」

「そんな! のどちゃん、待って欲しいじょ!!」

「それよりもこの場をどう乗り切るかじゃな… 艦娘として所属してもらうなら一撃轟沈防止処置の件は避けて通れんぞ…」

「初対面じゃないけど、そこまで付き合い深くないよね? 京ちゃん」

「あぁ、一応全員と連絡先の交換位はした仲だが… その程度の仲で艦娘として戦うために抱かれろとか言えるわけがないぞ……」

「まず間違いなくドン引きされる… と言うか一歩間違えれば性犯罪者よ?」

「…なのです」

492 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/28(日) 00:40:37.28 ID:9j3CoBaqo

清澄の面々+電が鼻を突き合わせてヒソヒソと相談を始める。
そう、新規転移組を客として扱う理由…
それが一撃轟沈防止処置… つまりは出撃前に行われる提督と艦娘のエッチだ。
子宮に司令官の精を納めておけば、破滅的な一撃をもらっても大破で踏みとどまれるという謎現象。
そりゃ安易に「艦娘になって一緒に戦ってよ」と言えるわけがない。
しかも、出撃のたびに抱かれる必要があるというトドメの一撃まである。
この世界の艦娘になる少女たちはその辺についても海軍から何回も確認を取られるし、純潔を失うことの覚悟はきちんと持っている。
と言うか、この世界では常識で広く知られている。
しかし、照、煌、憧、佳織、智葉、恭子、塞、白望、小蒔たちはそんな常識や覚悟など毛の先ほどもないし、そんな話をすれば間違いなく過剰反応する。
咲たちにしてみれば京太郎に恋心を持っていたし、むしろエッチしたいと思ってたから問題はなかった。
本人たち公認の6股という問題点に目を瞑ればだが…
話は反れたが、要は、いきなり艦娘となってもらうのは問題が多すぎるので、取りあえず客として迎えて様子を見る。
その間に、問題なさそうなら一人々々声を掛けて了承してもらってから艦娘として参加してもらい、無理な人間には声を掛けずにそのまま客としていてもらう。
そう言うプランだったのだ、優希のウッカリで台無しになったが…


「あの… 急にヒソヒソ話をされてどうしたんですか…?」

「戦闘があるんでしょ? 痛いのは嫌だけど、和たちもそれを耐えて戦ってるんだから私も我慢するわよ」


小蒔と憧がヒソヒソ話をする京太郎たちを訝しみながら声を掛ける。
憧に至っては覚悟を決めた顔をしている。
その覚悟は立派である。


「憧… 皆さん… 落ち着いて聞いて下さい…」

「和、やっぱり話すの?」

「ええ、いま話さなくて隠しておいた方が問題になりそうなので…」

「確かに… こんな展開になった以上、厄介ごとは芽のうちに摘んでおくに限るわね… 説明頼むわね」


和の言葉に納得した久は、説明を彼女に一任する。
本来なら責任者の京太郎がすべきなのだが…
事が事だけに彼が説明するととんでもない混乱が起こるのは火を見るより明らか。
よって同性かつ顔がインターミドル覇者として顔が売れている和が説明する流れになった。

さて、和が説明するのだが。
親が弁護士と検察官でその影響を受けているうえ、彼女自身が工学部に進む気満々の理系。
説明もかなり理論的で上手、皆、分かりやすいのでうんうんと聞き入っている。
艦娘の任務と待遇、階級、給与や元の世界に変えるための計画の話などは問題なかった。


「…で、艦娘は戦場に立つ兵士です。ゆえに怪我、最悪、戦死もあり得ます」

「………」

「ただ、怪我の方は艤装のパワーでほとんど心配ありません。戦死の可能性もある方法を取れば殆ど0に等しいです」

「なっ! そんな方法があるのか!?」

「すばらですねぇ、でもそれならなんで、先ほどは話すのを躊躇っていたのですか? 和」

「……その方法とは……」

「その方法とは…?」


何故かここでタメをとる和。
新規転移組の面々がゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。
ちなみに咲たちは心臓がドキドキ言っている。


「提督に抱いてもらって精液を胎の中に納めておくこと」

「「「「………………………はい?」」」」


新規転移組の9人がピタッと固まる。
和が「もう一度言います“提督に抱いてもらって精液を胎の中に納めておくこと”です」と言い、その言葉がじっくり皆の中に溶け込んでいった後…
部屋の空気が爆発した。
493 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/28(日) 00:41:26.97 ID:9j3CoBaqo

「そ、それって… せ、せ、せっく…ッ!!」

「なっ! 一体どういうことだ!?!?!」

「えっ! えっ!? ちょっと待ってください!! と言うことは和と優希は須賀君と…?!? ええっ!!」

「なんだそんな事なんだ、じゃあ京ちゃん、不束者だけど宜しくね」

「ちょっと私たちまだ高校生よ!! そんな破廉恥な!!」

「だ、だる…」


座っていた椅子を蹴飛ばして怒鳴り声を上げる面々。
当然の反応だった。
約一名、お菓子好きのインハイチャンプはこれ幸いと京太郎の方に寄り三つ指でちゃっかり挨拶するなど例外もあるが、それ以外は顔を真っ赤にして抗議と怒号の嵐。
憧なんかは刺激が強すぎて真っ赤な顔して目を回しバタンキューと倒れている。
そして7組の強烈な視線が椅子に座った京太郎に降り注ぐ。
ふんだんに軽蔑と侮蔑の色が混じったそれで針の筵になる京太郎。
京太郎に責任は一切ないし、彼から強要した訳ではないのでそんな目で見られる謂れは全くないのだが…
彼はあえて黙ってその視線を受ける。
ここで言い訳しても火に油を注ぐだけで事態は収束しない。
それなら自分が耐えるだけで場が落ち着くならそうしようと考えてのことだった。
だが、京太郎をその視線から遮るように立つ影が2つ。


「おう、京太郎をそげな目で見んなや」

「そうね、幾ら貴女たちでも… それは許せないわ」


まこと久だった。
京太郎は彼女たちにとっては大切な想い人。
そんな彼が軽蔑の視線に晒されるなど我慢できなかったのだ。


「だがなぁ、竹井に染谷!」

「少のォとも、京太郎はわりゃぁ等に強要はしちょらんぞ?」

「それに私たちの方は納得済み… むしろ最後まで反対していたのは須賀君の方だったのよ?」


抗議の声を上げる智葉だったが、まこと久の言葉と眼光にたじろぐ。
幾ら戦死の危険が無いといっても艦娘が向かうのは戦場。
その幾つかの修羅場を潜り抜けた久とまこである。
威圧感は半端ないし、その顔は兵士のそれである。
死線を潜り抜けたことのないただの女子校生の智葉が敵うはずがない。


「その程度の覚悟がないのなら戦場では足手まといに成るだけなのです。それなら、お客さんとして大人しくしてもらった方が遥かに助かるのです」


そこに電の追撃が加わる。
さらに咲、優希、和が京太郎を守るように立ち位置を移動させ、新規転移組を睨む。
一触即発のこの空気、この空気を変えたのは京太郎だった。


「はい、そこまで」


パンっと柏手を打ち椅子から立つ京太郎。


「咲、和、優希、まこ、久、稲美、そこまでだ。少なくとも彼女達からしてみれば俺は6股かけた最低野郎で女の敵だ。どんな理由があろうともな」

「でも、それだと京ちゃんが!」

「そんな俺を理解して庇ってくれる女の子が6人もいるんだ。十分だよ」


肩をすくめながら咲たちを宥める京太郎。
494 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/28(日) 00:42:10.56 ID:9j3CoBaqo

「花田さん、憧、辻垣内さん、臼澤さん、小瀬川さん、妹尾さん、神代さん、末原さん… 少なくもこの6人との関係は遊びではありません、真剣なんです」

「そりゃ悩みましたよ… 制度というかシステムというか、不可抗力とはいえ不義理も甚だしいです」


そう言って語りだす京太郎。
飾らず、自分の胸の内にある思いを吐き出していく。
筋も倫理もあったものではないが、咲たちを思う気持ちは伝わってくる。
少なくとも京太郎は本気で彼女らを守ろうとしてるし、向ける想いも本物である。
落ち着いて話す彼の言葉で次第に場も落ち着いてくる。


「まぁ、立ったままと言うのもなんです。座りましょう」


そう言って全員に着席を促す京太郎。
彼が先に座るとそれに続くように各々も元の席に座る。


「皆、落ち着きましたか?」

「………ああ、済まなかった」

「それは重畳」


ニッコリとほほ笑む京太郎。


「取りあえず話を整理しよう… 電、確かに辻垣内さんたち9人に艦娘の適性があるんだな?」

「は、はい。キチンと調べないと断言できませんが、恐らく辻垣内さんは戦艦『霧島』の適性持ちだと思うのです!」

「ふむ… 他の面々は?」

「花田さんは重巡『衣笠』、新子さんは駆逐艦『村雨』、臼澤さんは戦艦『Roma』、小瀬川さんは空母『雲龍』」

「妹尾さんは潜水艦『伊8』、神代さんは潜水母艦『大鯨』、宮永照さんは軽巡『鬼怒』、末原さんは軽巡『神通』の適性持ちだと推測するのです」


電の報告を頷きながら聞き、聞き終わると咲たちの方に視線を向け確認を取る。
アイコンタクトでその通りだと5人から返事をもらった京太郎は顎に手をやって話の続きを再開する。


「まぁ、この際艦娘適正とかはどうでもいい。一つ言えることは辻垣内さん以下9名を司令官権限でお客として受け入れます」

「それは… いいのか? 須賀」


京太郎の言葉に、智葉が返す。
京太郎は頷きながら更に言葉を続ける。


「これが現状で一番の方法でしょう。少なくとも艦娘として参戦してもらうのは無理がありすぎます」

「システムを理解はしても感情面で納得してもらえなければ… 本人だけでなく他のメンバーをも危険に晒します」

「キチンと納得の上でなければ古鷹以下6名との間に軋轢が生じるでしょう、それは非常に不味い」

「確かに戦力は欲しい…! が、戦力を欲して連携や士気を滅茶苦茶にしては本末転倒です。それに、俺も向こうの世界の出身ですからね、嫌がる女性と一夜を共になんて御免ですよ」


おどけた調子でそういう京太郎。
現状で艦娘として働けないなら鎮守府から出てもらう必要があるのだが…
そんなことをすればこの世界での戸籍がない智葉たちは一発で路頭に迷う。
同じ世界の人間としてそんな冷たい対応は出来ない、ならば負担は増えるが司令官権限でお客として鎮守府でタダ飯を食ってもらった方がいい。


「なに、俺の書類が少し増えるだけです。追い出したり、艦娘になれとは言いません。衣食住は責任を持って俺が保証します。安心して鎮守府で過ごしてください」


新規組に向かってそう言い切る京太郎。
その姿はとても高校一年生には見えず、貫録のようなものがにじみ出ていた。
咲たちが艦娘として成長したみたいに、京太郎も指揮官として成長していたのだ。
こうして、とりあえず騒動は収まった。
清澄鎮守府は新たに9名の人間を迎え入れて、まだまだ先の見えない対深海戦争を戦い抜いていくことになる。
495 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/28(日) 00:47:04.41 ID:9j3CoBaqo
はい、本日は以上です!
なんかダラダラと長いだけの文になってしまった…
もう少しメリハリのある文章を書きたい…

感想、指摘、意見は大歓迎です。
むしろ書いていただくと励みになります。

では次回までしばしお待ちください


>>486
アクィラくそ裏山
こっちに寄越せヽ(`Д´#)ノ
496 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/28(日) 00:48:45.12 ID:9j3CoBaqo
そう言えば、原作で和のお母さんが登場したようで…
どうしよう、このSSと食い違ってしまった…

リッツよ、今頃になってそのキャラ出すんかい…
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/28(日) 01:34:54.54 ID:bwQFpJZ9o

その辺は気にしだしたらキリがないからここではこれ!でいいと思
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/28(日) 02:13:36.66 ID:Amt2TIxKo
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga sage]:2016/08/28(日) 07:26:49.43 ID:YXxt8cc70
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga sage]:2016/08/28(日) 07:28:50.40 ID:YXxt8cc70
それと、この世界の提督の死亡原因の一位は腎虚、腹上死な気がします。
501 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/28(日) 07:41:46.66 ID:9j3CoBaqo
>>500
何故裏設定 バ レ た し ?
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga sage]:2016/08/28(日) 08:44:05.52 ID:YXxt8cc70
提督が夜戦(意味深)で戦死して提督代行の艦娘が運営している連絡、補給専門の鎮守府とかもあるのでしょうか。
戻るのに厚紙か何かで作った手作りの麻雀カードで代用できないかとプラズマ状態の電さん、顎が尖っている佳織からツッコミは受けないのだろうか。
のどっち母は二次創作と割り切るか娘の行方不明が転機になったとか設定は転がせます。
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/29(月) 01:00:44.48 ID:D98Wv6TcO
鎮守府に飛ばされなかった島風衣たんは海に放り出されてドロップ待ちですか?
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/08/29(月) 13:02:45.57 ID:IV2KVmofO
和による性的なおしおきが気になってしまう……。

取りあえず、≫172 で登場した念話符で連絡は取れると思うからひとまず原村夫妻は安心するでしょう。

オカルトを二人が受け入れたらの話ですが……。
505 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/31(水) 00:56:32.00 ID:iFhmxVoCo
こんばんわ
明日に続きを投下する予定です。
お楽しみに

>>504
そりゃもう、放置プレイに決まってますよ
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/31(水) 00:58:18.73 ID:YPwqUZjlO
安価スレと書いてるけど実質コンマスレだよな
安価ねえし
507 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/31(水) 01:04:51.08 ID:iFhmxVoCo
>>506
立てた当初は安価とコンマを使う予定だったんですが…
いつの間にかほとんど使わなくなってしまったんですよ…

ややこしいなら新スレ立ててタイトルから【安価】抜いたほうがいい?
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/31(水) 01:45:43.48 ID:uPvdC2HRO
安価とらないんなら抜いてもいいんじゃない?
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga sage]:2016/08/31(水) 18:29:05.79 ID:qO7hM75N0
どうするかは埋まってからで良いのじゃね。
510 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/31(水) 23:12:07.49 ID:iFhmxVoCo
もう少ししたら投下します!
511 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/31(水) 23:27:18.63 ID:iFhmxVoCo


パパパパー パパパパー パパパパッパパッパパー

シュッコウヨーイ!!


鎮守府の青く澄んだ空に高らかに出港ラッパが鳴り響く。
それと同時に妖精さんの掛け声がかかり、艦娘たちが背負った艤装の主機の音がより大きくなる。。
第1、第2、第3、第5、第6、第7番バースからゆっくりと動き出す艦娘たち。
古鷹を機関に据え、大井、鬼怒、春雨、雷、電を僚艦とした水雷戦隊が航行序列を整えつつ外洋に向かう。
鬼怒が隊列からはみ出したり、速度を合わせられずにアタフタしているが、まあ仕方ないと言える。
彼女はつい先日戦線に加わった新人なのだから。

そんな艦隊を埠頭から見送る複数の人影がある。
2人は軍帽を振る… いわゆる帽振れで見送り、残りの8人は手を振って見送っている。
その見送りは艦隊が水平線の向こうに沈むまでつづけられた。


「行きよったのォ… チャンピ… 鬼怒は大丈夫じゃろうか?」

「まあ、重巡1、軽巡2、駆逐3の水雷戦隊で5名はそこそこ手練れだからなぁ… 少なくとも鎮守府正面海域で手古摺ることは無いはずだ」

「たしかのそうじゃのォ」


京太郎とまこが見送りながら話をしている。
その会話の途中でまこがクククっと急に笑い出し、京太郎が不思議な顔をする。


「…どうしたんだ浦風、いきなり笑いだしたりして」

「なに、つい先日までわしに敬語、ちょっと前はしどろもどろなタメ口で話ちょったのに、今はずいぶん慣れたもんじゃなっとおもっての」


そう言って再び含み笑いをするまこ。
それを京太郎は苦笑して「4ヶ月もたてば流石になれるさ」っと返す。
そんな会話を楽しそう視する2人を見つめるのは煌、憧、佳織、智葉、恭子、塞、白望、小蒔の8人。
顔には何とも言えない表情が張り付いている。


「さて、それじゃ執務に戻るか。皆さんも、今朝渡した地図の立ち入り禁止区域以外なら何処でも自由に過ごしていいですよ」

「あ、ああ… ありがとう… 安心してくれ、言いつけは守る」

「それと、滅多にないと思いますが警報が出た場合は直ぐに防空壕に避難してくださいね」


クルリと回れ右をして智葉たちに声を掛ける京太郎。
どもりながら返事をするのは智葉、どうやらまだ軍人モード(久命名)の京太郎に慣れないようだ。
返事を聞いて京太郎はニッと笑いながら色気のある挙手礼をする。
同じく隣でまこも挙手礼。


「で、提督。昨日抱いた鬼怒の具合はどうじゃった?」

「…いきなり下世話だなぁ、おい… オッサンみたいだぞ浦風」

「何とでも言いんさい。棒姉妹のことが気になるのはおかしいん?」


和気藹々と表現するにはちょっとアレな話題ではあるが、仲良さげに会話しながら鎮守府の本部等に向かって歩く京太郎とまこ。
2人のあとを智葉達8人が追いかけていく。
さわやかな海風が、朝の軍港を吹き抜けた。
512 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/31(水) 23:27:47.96 ID:iFhmxVoCo

さて、鎮守府の提督の仕事は多い。
艦隊司令部への報告書や兵站関係の要求書。
鎮守府内の資材管理はもちろんのこと、各種問題が発生したときの専門機関への依頼等々。
変わったところでは、各地方自治体の要望陳述や漁協への深海棲艦の活動予測・予報の提供等がある。
そして、一番重要なことであるが艦娘の管理・ケア。
これらを毎日こなさなければならないのだからかなりの激務だ。
つい先日まで清澄鎮守府は提督1人に艦娘6人体制、当然、艦隊を出動させれば秘書艦も出撃してしまう…
そして、執務机に積みあがる書類は提督1人でこなせる量ではない。

で、何が言いたいのかと言うと…


「浦風、ここからここまでの書類は秘書艦裁量で決済できるから片付けといて」

「ほい、了解じゃ」

「あと、艦隊司令部への報告は3日後だからその旨をボードに書いといて」

「わかった」

「うーん、大分片付いたぞ… 休憩するか、浦風ー、お茶淹れて」

「はい、おつかれさん」


昨日、照が鬼怒として艦隊に参加したので、艦隊出撃中でも秘書艦が鎮守府にとどまることが出来る。
これがどのくらい喜ばしいかと言うと、京太郎がもろ手を挙げて万歳三唱をするくらいだ。
秘書艦が居るだけで仕事の効率は倍以上に跳ね上がる。
地味に重要なことだ。


「しかし… 宮永照が艦娘になることを即断しよったのは予想できんかった…」

「…まぁ、咲と同じくらい長い付き合いだから…」

「妹と幼馴染じゃけぇ、その姉とももちろんっちゅう訳けェ」

「仲は良かったと思う… でも、いきなり抱いてとはな…」


小休止にお茶と間宮羊羹を楽しみつつ雑談をする2人。
話題は咲の姉、照のことだ。
こっちに飛ばされた日に三つ指ついて京太郎に挨拶、そして艦娘になることを二つ返事で了承。
全く迷うそぶりのない即断即決のお手本だった。

京太郎自身、照と仲がいいのは理解していたが、まさかエッチOKなほど好意を持たれているとは予想外だった。
実は京太郎は忘れているが本当に幼い時にこんな会話がった。

「京ちゃん、結婚しよう」

「照ちゃん、結婚て大人のモノだよ」

「じゃあ、大人になったら結婚しよう!」

「うーん… うん、いいよ」

「約束だよ! 絶対だからね!」

微笑ましい子供同士のじゃれ合いだ。
この後、照が約束のしるしとして何かを欲しがったので、京太郎が100円のおもちゃの指輪を上げている。
ここで終われば本当に微笑ましい子供時代のエピソードで終わったのだが…
この約束、今でも照は覚えていて成就させる気満々なのだ。
白糸台の部活でも「将来を約束した人がいる」と言って地味に話題になっていたりする。
こんなことが背景にあったので、『艦娘になる=京太郎とのエッチ必須』と言うのは彼女にとって渡りに船。
答えは『はい』か『イエス』の二択である。
513 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/31(水) 23:28:14.68 ID:iFhmxVoCo


「…まぁ、わし等の取り決めに従っちょるんなら文句は言えん」

「仲良く頼むぜ… 他の鎮守府だと修羅場で死人が出るなんとこともあるらしいからな…」


京太郎の麾下の艦娘になるにあたってまこ達はいくつかの取り決めをしている。
1つ、京太郎ノ独占ヲ禁ズ
1つ、京太郎ノ負担ニ成ルコトヲシナイ
1つ、艦娘同士ノ仲ヲ良好ニ保ツヨウニ務メルコト
1つ、京太郎ノ求メニハ原則応ジルコト
他にもいくつかあるのだが、主なものはこの4つ。
基本的な考えは、京太郎を平等にシェアしよう、節度モラルをもって仲良くしよう、修羅場は回避しようと言う淑女協定だ。

因みに、複数の艦娘と肉体関係を持つという提督の仕事柄、鎮守府の修羅場の発生率は決して低くはない。
これ、実に大きな問題なのだ。
後方から艦隊に指令を出し、艦娘とエッチして、書類を書くだけ…
これで提督の仕事の9割を締めるので、なんとも楽な仕事と思われるだろう。
しかし、提督の戦死・殉職・離職率、意外に高い。
年に3〜4人は死んでおり、その何倍もの離職者が居る。
その原因を高い順に上げると…

一位:シュラバヤ沖海戦(痴情の縺れ)48%
二位:アンアンキシムサウンド=ベッドウエー海戦(腹上死・腎虚)40%
三位:深海棲艦の襲撃10%
四位:その他2%

となる。
艦娘と言えど、元は適正を持っていただけの普通の少女たちだ。
当然、そのような複数の少女たちと肉体関係を持つのだから上手に立ち回らないと嫉妬による泥沼の関係が発生する。
言い争いや、鎮守府の雰囲気が悪くなるくらいならまだ良い、最悪の場合は刃傷沙汰に発展し死傷者が出る。
この修羅場の発生率が原因で、40年ほど前には男子のなりたい職業ベスト5に入っていた提督と言う職業、いまやワースト3にランクインしている。
艦隊司令部、海軍省、大本営もこの問題には頭を痛めているが、如何せん根本的な解決策は見つかっていない。
提督の成り手が無ければシーレーンは深海棲艦によってズタズタにされ、日本の存続すら危うくなる。
その故、提督の適性を持つ男子が見つかれば陸海空軍、学校、地方公共団体が一丸となって入隊の説得にあたるというのが年度末の風物詩だ。
説得される方の男子にとってはいい迷惑である。

まぁ、長々と説明したが…
ようは京太郎たちは上手くやっているということだ。
京太郎のコミュ力と咲たち艦娘の協力があってこその円滑な鎮守府運営である。


「さて… 小休止はここまでにして残りの仕事を片付けるぞ!」

「了解じゃ!」
514 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/31(水) 23:28:40.79 ID:iFhmxVoCo

その後、サクサクと仕事を進め、執務机に山と積まれていた書類も日が傾くころには綺麗に無くなった。
執務終了時刻まではまだ間があるが、今日の業務は終わりにすると決めた京太郎。
まこと再びお茶を嗜んでいた。
2人でまったりとしていたところ、執務室の扉がコンコンっとノックされる。


「はい、どうぞ」

「須賀君、すまんな。お邪魔する」


京太郎の返事とともに入ってきたのは智葉、小蒔、塞の3人。


「で、3人そろって何の用じゃ?」

「ちょっと、相談しなければいけないことがあってな」

「ふむ… まぁ取りあえずソファに掛けてください」


そう言って新調されたばっかりの高級ソファに座るよう勧める京太郎。
先日の新規組自由落下事件で破壊された執務室と娯楽室であるが…
妖精さんの不思議パワーで一晩のうちに直っていた。
内装の家具なんかは、艦隊司令部に連絡するとその日のうちに届く始末。
因みに予算は司令部持ちで、京太郎たちの懐は一切痛まなかった。


「で、相談とは…」

「まぁ、まずはこの札を見てくれ」

「…なんじゃ? このぶち古そうなお札は?」

「それは霧島神境に代々伝わる念話符です。持っている人同士なら念話で意思疎通が出来ます」

「それはまた… 何ともオカルトチックな…」

「そういうなら須賀君たちが異世界に飛ばされていることも十分オカルトチックだと思うわよ?」


渡された念話符をしげしげと見つつ、飛び出してきたオカルト話に苦笑を浮かべる司令官・京太郎。
尤も塞に突っ込まれてさらに苦笑が深くなったのだが。


「で、わりゃら、こんなもんわしらに見せて何がしたいんじゃ?」

「元の世界に居るだろう皆に、私たちと君たちの現状を伝えたい」

「それに清澄の皆さんのご両親にも無事を伝える必要があると思います」

「…なるほど… その念話符の使用許可と、伝えるべき情報の取捨選択が相談の内容ですか…」

「そうなんだけど… 察しが良すぎない? 須賀君」


智葉と小蒔の言葉を聞いて凡その相談内容にあたりをつけた京太郎。
ほぼ正解を言い当てていて、その読みの鋭さに塞が呆れた顔をする。
515 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/31(水) 23:29:07.61 ID:iFhmxVoCo

全ての情報を伝えないのは、情報過多になって相手方が混乱しないようにとの配慮と…
異世界とはいえ軍事情報が含まれているので、機密漏えいを起こさないための配慮である。
この辺のことを察した彼女たち、結構優秀である。


「まあ、基本的に軍事情報と言っても漏れて痛いものは少ないですね」

「じゃけど、擦り合わせは必要じゃな。あと、アレだけは伝えられたらあずるけぇ…」

「確かに… 一撃轟沈防止処置は知られたら困るな…」

「心配しなくても、それを伝える気はないわよ…」


腕を組み、情報の内容を頭に浮かべる京太郎。
特に困る情報は無いが、一撃轟沈防止処置だけは例外だ。
正直、元の世界の人間にこれが知られたら気まずいどころの話ではない。
と言うか各々の両親に知られたら…
考えたくもない事態である。


「…一度、全員で話す必要があるな…」

「そうじゃの… しかし暫くは出撃や出張の予定がつまっちょるぞ」


ペラペラと予定表を見ながら相談する京太郎とまこ。


「…よし、ここだな… 10日後の土曜日、この日なら全員非番にしても大丈夫だ」

「そうじゃの」

「と言うことで… 辻垣内さん、臼澤さん、神代さん、10日後の土曜日に16人全員そろって話し合ってから、その念話符を使用する。それでいいですか?」

「結構時間が空くが、まぁ、仕方ないだろう。了解した」

「でも、向こうから念話があった場合はどうするの?」

「その時はさらっと概要を伝えるだけ、後日、詳しい情報を教えると伝えてください」

「仕方ないですね」


こうして後日、元の世界との情報のやり取りを行うことになった。
取りあえずその日まで、智葉たちには艦これ世界の常識とか情報とかを学んでもらうことにした京太郎。
テレビの視聴は許可を出すだけでよかったが、書籍、雑誌の購入手配で仕事が僅かばかり増えることになった。

話は変わるが、出撃していた艦隊は無事に日が落ちる前に無事帰投した。
重巡1、軽巡2、駆逐3と言うフル編成の水雷戦隊。
駆逐イ級をタコ殴り、3隻編成の深海棲艦水雷戦隊に圧勝して帰ってきた。
ダメージもカスダメのみと言う結果で、照の初陣としては大成功だろう。
そして帰投した艦隊にも10日後の件が伝えられ、その日までに各々が何を伝え何を伝えないかを考えておくことになった。
516 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/08/31(水) 23:31:32.34 ID:iFhmxVoCo
今夜は以上です!
提督の皆々様は夏イベお疲れでした。
…結局>>1はアクィラとニムを掘り当てることが出来ずじまいで凹んでます…

新スレにして【安価】をタイトルから抜くのはもう少し考えてみようと思います。
それでは次回までしばしお待ちを


感想、意見等大歓迎です!
どんどん書いてください
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/01(木) 00:30:58.43 ID:CoZGEt1ho

タイトル云々はこのスレが終わって次スレ立てる時でいいのよ
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/01(木) 08:01:49.72 ID:rnMwrq3AO
乙です。
>>511で『機関』となってますが『旗艦』だと思います。
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/04(日) 10:43:09.41 ID:CVxUtrrDO
久しぶりに来たら大分更新されてた乙
…俺もどっちも出なかったよ、次頑張ろう…
520 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/09/10(土) 21:13:58.03 ID:hQdwlYv1o
お久しぶりです
ちょっと研究が忙しくて、筆を執る時間がないのが何とも…
ちょっと間が空くと思いますが、お待ちください
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/11(日) 11:02:36.56 ID:ghBJc5Quo
乙乙
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/15(木) 08:19:02.54 ID:VtfOUpRnO
【名前】 秋田 美羽 あきたみう
【性別】 女
【容姿】 長身だが胸はそんなにない
【性格】 常に余裕ぶっており超然としている
【学年】 2年
【高校】 清澄
【特記】観察力が強く相手の考えを予測できる
523 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/10/16(日) 23:46:10.76 ID:QpRvoW3Co
お久しぶりです
リアルが忙しすぎてほとんど手がついていない現状…
誠に申し訳ない
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/16(日) 23:47:34.93 ID:6xo9NH2io
続ける意思があるなら気にせんよ
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/20(木) 22:09:44.71 ID:LG+TaQuo0
まあ、ここの1は1-3ヶ月、間を開けることが何回かあったが、それでも続いているから、そういう意味では安心
526 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/11/12(土) 21:31:27.04 ID:e29i8VVho
凄まじくお久しぶりです。
最新話を投下するのでご笑納ください。
527 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/11/12(土) 21:31:53.50 ID:e29i8VVho


智葉達が艦これ世界に飛ばされてから十数日後…
鎮守府の大会議室に16人が集まっていた。


「さて、向こうに伝える情報はこんな感じかな?」


議長役の須賀京太郎提督が皆の顔を見渡して発言する。
ここ数日、何人か手隙のメンバーで討議を重ねていたのも功を奏し、かなり分かりやすい感じで情報がまとまった。
伝える事柄が多すぎず、少なすぎずイイ感じで、これをまとめたメンバーの能力の高さがうかがえる。


「よし! それじゃあ元の世界と連絡を取ろう」

「あっ… でもこの札ってどうやって使うんですか?」


京太郎の音頭で早速始めようと言った時に佳織がふと疑問を挟む。
因みに彼女、二晩グッスリ寝たら憑き物が落ちたかのように元の性格に戻っていた。


「それはですね… 送信側は左右どちらでもいいので耳に符を当てて、目を閉じて…」


小蒔が懇切丁寧に念話符の使い方を説明する。
まぁ、とりあえず元の世界との連絡の準備が整ったのだ。
これでこちら側の現状を伝えることが出来るし、帰還の方法も分かるかもしれない。
何より突然異世界に飛ばされて2か月…
心配している親たちに無事を伝えることが出来る。
色々な期待を載せて、世界を越えた通信が今始まる。




528 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/11/12(土) 21:32:19.77 ID:e29i8VVho


変わって、清澄高校の麻雀部部室。
何処から調達したのか部屋のど真ん中にチークで出来た高級そうな円卓がドデンと据えられていた。
その周りを囲むように座るのは久たちを救出する目的で集まった麻雀インハイ出場校の面々。
物々しい雰囲気の中、議長役の透華が口を開く。


「…2日前の爆発で辻垣内さん、臼澤さん、小瀬川さん、神代さん、宮永さん、花田さん、妹尾さん、、末原さん、新子さんが行方不明とは…」

「それにけが人が数人出てしまいましたわ…」


まるで自分を責めるかのように声を絞り出す。


「一番の重症がハギヨシさんの大腿骨と上腕骨の骨折… それ以外はかすり傷程度の軽傷なのが救いと言ったら救いかな…」


透華のセリフに一が補足する。
透華がチラッと後ろを振り返るとそこには右足と右手にギプスを着けて車いすに座ったハギヨシが居た。
なお、ハギヨシがこんな状態なので給仕その他は純と歩が代理で頑張っている。
ハギヨシ以外のけが人もいたのだが、一の言う通り包帯こそ巻いているが、一週間のうちに完治する擦り傷ばかりである。


「…私を爆発から庇ったばかりに… ハギヨシ、申し訳ありませんわ」

「頭を上げてください、お嬢様。執事として当然のことをしたまでです。むしろ職務を全うできずに申し訳ありません」


出来た主従である。
そのまま謝罪合戦になりそうな透華とハギヨシ、一が止めなければそのままお互い謝り続けていただろう。


「で、どうするのよー?」

「9人も一気に行方不明になるなんて流石に予想外やからなー… 親御さんには連絡したん?」

「ええ、それはもちろん… 気が重かったですがしないわけにはいきませんし」

「龍門淵さんに全部押し付けた様で申し訳ないねぇ」

「お気になさらないでください、まあ、全員、理解のある親御さんで助かりましたが…」


現状確認のための雑談だが、9人が新たに神隠しに遭って事態は更に悪化したと言えよう。
考えれば考えるほど頭を抱えたくなる事態だ。
なにせ神隠しに遭ったメンツの共通点と言えばインハイ出場経験…
いや、京太郎も入れれば全く共通点が見いだせない。


「はぁ、どないすればいいんや…」


絹が頭を抱えてため息を吐いたとき、突然それは来た。
ピーンと言うかキーンと言うか何かがつながったような感覚が頭の中に感じられる。
それは絹だけでなくこの場にいる全員が感じたらしく、見渡せば誰も彼もがキョロキョロと周りを見渡している。
例外は永水女子のメンバーだけで…


「来ました! 符を使った念話です!!」


それは待ちに待った小蒔たちからの通信に間違いなかった。
その声を聴いた皆は、事前のレクチャー道理に符を耳に当てだした。


「もしもし! 小蒔ちゃん!?」


大慌てで小蒔に語りかける霞さんじゅうはっさい。
が、帰ってきた返事は…

『モシモシ、カスミチャン!?』

「ファッ!?!?」


まるでビデオを倍速回しにした、もしくはターンテーブルのスピードを思いっきり速くしたような声が聞こえる。
早すぎて内容が聞き取れないくらいに…


「小蒔ちゃん! 早口じゃなくてゆっくりしゃべって!!」


529 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/11/12(土) 21:32:46.88 ID:e29i8VVho

一方、その頃の清澄鎮守府
小蒔を始めとした後から転移してきたメンツが念話符を耳に当て元の世界との交信を行っている。


「何だか異様な光景ね… お札をを耳に当てて…」


久の言葉に首を縦に振る京太郎たち。
年頃の女の子たちがそろいもそろって耳にお札を当てている…
どこの新興宗教だと問いたくなる光景である。


「来ました!」


そう小蒔が声を上げたとき、念話を試みているメンツは頭の中に何処からともなく声が聞こえるような感覚を覚える。
が、聞こえてきたのは…


『モーーーーーーシーーーーーーモーーーーーーーシーーーーーーーー… コーーーーマーーーーキーーーーチーーャーーーンーーーーーー……』

「ファァアアッ!?!?!?」


ビデオの超スロー再生のようなド低音の不気味な音声だった…


「何この声!?」

「おい、神代! 念話符の声ってこういう風に聞こえるものなのか!?」


混乱する念話符メンツ。
一番混乱しているのは小蒔だったりする。


「いえ… 普通に聞こえるはずなんですが… もしもし!霞ちゃん!?」


智葉の質問に否定の返事を返しつつ、呼びかける小蒔。
が、またしても帰ってきたのは…


『コーーーーマーーーーキーーーーチーーャーーーンーーーーーー…… ハーーーーヤーーーークーーーーチーーージーーャーーーーナーーーークーーーーテーーーー… ユーーーッークーーーーリーーーーシーーャーーーベーーーッーーテーーーーーー……』


またもや超スローのド低音。


「もう! 霞ちゃん! もっと早くしゃべって!!」


ちょっと苛立ちつつ、早くしゃべる様に早口でまくしたてる小蒔だった。

530 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/11/12(土) 21:34:48.68 ID:e29i8VVho


一方、その頃の清澄高校麻雀部部室では、聞こえてくる念話がどんどん早くなっていて、耳を澄まさないとキュルキュルとしか聞こえなくなってきていることに霞が苛立ち始めていた。


「小ーまーきーちゃん! もーっとーゆーっくーりー、しゃーべーってー!」


すこし間延びした声で額に青筋を浮かべながら交信する霞。
さて、賢明な読者諸兄は何が起こっているのかもうお分かりかと思う。


何故か清澄高校側では超早送り、清澄鎮守府側では超スローで聞こえる
            ↓
清澄鎮守府側が早くしゃべる様に早口で伝える
            ↓
高校側がより早送りで聞こえるため、ゆっくりしゃべる様にゆっくりした口調で伝える
            ↓
鎮守府側ではさらにスローで聞こえ、早くしゃべる様にさらに早口で伝える
            ↓
高校側ではさらにさらに早送りで聞こえ、以下無限ループ


こんな状況に陥ってるのだ。
で、念話符を耳に当てている面々。
高校側の全員と、鎮守府側の後から転移したメンツはお互いのその意思疎通のすれ違いにヒートアップしている。
清澄鎮守府の会議室で小蒔たちの念話を見ている京太郎たち。
冷静に… と言うか何が起こっているのかよく分からないので傾げている。


「一体どうなっているんですかね?」

「…さあ、全くわからんわ…」


頸を傾げるまこと京太郎。
ところどころの発言内容で向こうの声がスローで聞こえることは把握している。
さらに向こうはゆっくりしゃべる様に要求しているらしいことも漏れ聞こえる発言から推測出来る。
ここで、理系の和があることに気づいた。


「…もしかして、元の世界とこの世界では時間の流れが違うのかもしれませんね…」

「どういうことなのです?」

「向こうの世界でこちらの声が早く聞こえて、こちらの世界であちらの声がスローで聞こえることもこれで説明が付きますから…」


そう言って電の疑問に説明で答える和。
たとえに出したのはビデオだ。


「ビデオの早回しとスローで考えると分かりやすいのですが… 早回しにすると声が早く聞こえますよね?」

「そうだけど… それがどうしたの?」

「例えばですよ、ビデオを5倍速で5分間再生するとビデオの中の時間は25分経つことになります」

「でも、見ている私たちの時間は5分間のまま変わることはありません」

「ふんふん」

「なるほど、逆で5倍スローの場合は5分間私たちが視聴したとしても、ビデオの中では1分しか経っていない」

「その通りです。倍率は分かりませんが向こうの声がゆっくり聞こえるこちら側は時間が速く流れて…」

「こっちの声が早く聞こえる向こう側はゆっくりと流れているわけね…」

「おそらく」


中々の洞察力である。
取り合えず、この推測を紙に書いて頭に血が上っている小蒔たちに渡すことにした京太郎一行。
このメモを見て何が起こってるのか小蒔たちもようやく把握した。
531 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/11/12(土) 21:35:17.47 ID:e29i8VVho

で、改めて意思疎通を図るのだが、やはり中々もどかしいものがある。
それでも粘り強くお互いの情報を交換していく。
途中で京太郎たちがストップウォッチを持ち出し、時間の流れの倍率の割り出しにかかる。


「うーん… 誤差が酷いけど… 凡そ4〜6倍こっちの時間は早く流れているか…」

「まぁ、正確な倍率を出したからと言って意味は少ないんだけどね」

「しかし… これはこれでメリットもあるし、デメリットもあるのォ…」

「じぇ?」

「…ゆーき、分かってます?」

「じぇんじぇん」


頭の上にクエスチョンマークが見て取れそうな表情の優希に、和が呆れながら説明を始める。


「この場合、メリットは私たちの帰還が多少遅れたとしても向こうではあまり時間が経っていないことです」

「まぁ、4倍だと仮定すると20ヶ月… こっちで2年以内に帰ることが出来れば向こうでは年度内に帰れるわ」

「デメリットですけど… 元の世界の人よりも歳をとることですね」

「まぁのぉ… 向こうで1年たったとして… 級友が1年しか年取っていないのにワシらは4年歳をとる計算じゃからのォ」

「それは… なるべく避けたいじぇ…」

「染谷先輩と部長、20歳過ぎて高校生することになりますもんね…」

「咲、俺らも19歳で高校生だぞ? その場合…」


ゲンナリした表情で予測される未来を語る京太郎たち。
帰るなら早く帰る算段を付けた方がいい、下手すると自分たちと世界とのギャップに悩むことになる。
本格的に帰る手段が見つかるのが遅くなったらこの世界に骨を埋める… そんな考えが皆の頭をよぎる。


「まぁ、とりあえず麻雀牌を手に入れることに集中しよう…」

「須賀君の言うとおりですね、木を使って自作してみましたけど… 牌が不揃いすぎてゲームになりませんでしたし…」


実は以前に、木や竹を使って麻雀牌の自作を試みていた。
しかし、結果は大失敗…
形や大きさは不揃いなうえ、木目なんかで使っているうちにどの牌か判別できてしまうのだ。
ナチュラルにガン牌が出来るのではゲームにならない。
ユリア樹脂の入手も考えてみたが…
制海権を深海棲艦に握られているので物資についてはある程度の統制が行われているのがこの艦これ世界だ。
不足しているほどではないが、充分とも言い難い。
なのでユリア樹脂どころか、プラ系の材料は入手が不可能だった。
まぁ、仮に手に入れられたとしても加工法が分からないのでどのみち無理なのだが…
結論として、戦果を挙げて褒賞の麻雀牌を手に入れるしかなかった。


「そもそもなんで麻雀牌が超貴重品になるのよ…」


久が天井を見上げて嘆く。

532 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/11/12(土) 21:35:43.83 ID:e29i8VVho

「ん? なんか焦げ臭くないか?」


京太郎が異臭がすると言い出した。
その声に反応してクンクンと鼻を鳴らす咲、和、久、まこ、優希。
言われ見れば何かが焦げるにおいが微かにする。


「おい、浦風! 給湯室!!」

「そげなバカな! 元栓は締めたはず!!」


京太郎が言うと、まこは慌てて給湯室に掛けていく。


「給湯室は大丈夫じゃ!」


暫くしてまこから給湯室に異常はないと報告が上がる。
じゃあこの異臭はどこから!?
そういって原因を探そうとする咲たち。
結論から言うとすぐに見つかった。


「ねぇ提督… 私の目が確かなら… 神代さんたちが使ってるお札全部から煙が上がってるんだけど…」

「安心しろ大井… 俺にもそう見える…」


清澄メンバーの目に映ったのは小蒔たちが使っている念話符の端から上がる黒い煙…
当の小蒔たちは念話でのやり取りに夢中で全く気が付いていない。
京太郎たちが慌てて知らせようとしたその刹那。
533 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/11/12(土) 21:36:09.95 ID:e29i8VVho

パァァアアアアン!!


控えめな爆音を轟かせながら念話符が爆発した。
音の大きさは癇癪玉より少し大きい程度で、京太郎たちはビックリするだけで済んだ。
問題は小蒔たちである。
念話符を持っていた全員が、念話の為に符を耳に当てていたのだ。
耳の直近で癇癪玉を上回る破裂音。
同然耳に大ダメージ… 下手すれば鼓膜破裂で失聴だ。


「んぉぉおおおおおお!!!」

「すばら! スバラ! すばらぁぁああああ!!!」

「きゃだぁああえあえあえ!!」

「くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」?!?!}」


案の定、爆音と耳に走る激痛でパニックになって床を転げまわる念話組。
と言うか早く医者に連れて行かなければ取り返しがつかなくなる恐れがある。


「医者! 医者を呼んで!!」


咲が叫ぶが、そこで京太郎が追加の指示を出す。


「医者もだけど、ウェットドックの用意を急げ!! 艦娘の適性があればドックを使えば傷を治すことができるはずだ!! バケツの使用も許可する!!」

「はわわ! 了解なのです!!」

「取りあえず、ドックで治るか試みろ! そっちの方が医者を呼ぶより早い!」

「合点じゃ!」

「和は万が一の時に備えて医者を連れてこい! ドックで治っていた場合にも一応診察してもらう!」

「はい!」

「事態は一分一秒を争う! かかれぇぇぇえッ!!」

「「「よーそろー!!」」」


京太郎の機転ですぐに露天風呂(ウェットドック)に放り込まれた念話組、狙い通りバケツを投入後すぐに回復し後遺症等の心配はないとのことだった。
一方、元の世界では清澄の部室に集っていた面子も念話符が爆発し大ダメージを受けていた。
小蒔たちからの情報を紙に書いてまとめていたハギヨシが無事だったため病院に直行することができ、こちらも後遺症が出なかったのが不幸中の幸いだった。
534 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/11/12(土) 21:37:37.16 ID:e29i8VVho
はい、本日の投下は以上です
リアルが忙しい + WoWSにハマってしまい時間が取れずにこんなに遅く・・・
申し訳ありませんでしたm(_ _)m

次回の投下もお楽しみに!
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/12(土) 21:44:11.47 ID:QONKLRbQo
乙です
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/12(土) 22:27:50.20 ID:/fTrvhtx0
乙です!
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga sage]:2016/11/12(土) 23:41:05.14 ID:jFRJUGrP0
乙です
オカルト的な物だし深海棲艦から強奪した物(他の姫と楽しむ為に持っていたほっぽは奪われ涙する)じゃないと効果が無いのかもしれないが、注文生産で職人さんに作って貰えば十万単位の高価な物になるかも知れないけど、ガン牌出来ない精度の製品を作ってくれそう。
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/12(土) 23:44:41.36 ID:6A7jXwEm0
乙!
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/13(日) 08:41:19.08 ID:xM/cE1eN0
そういや、原作だと一応あったけどこっちではどうなんだっけ?
家具の雀卓
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/13(日) 16:20:03.24 ID:vDI+t54Eo
家具職人が必要=貴重品って感じなんじゃないの
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/14(月) 22:25:12.46 ID:duE53SLO0
乙でした
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga sage]:2016/11/16(水) 23:15:00.70 ID:mrripxAg0
雀卓は独特なシルエットの某軽空母のあの人に代わりを務めて貰おう。
もしくは夜戦明けでフラフラのメンバーの誰かが彼女を見て良からぬ妄想をするとか。
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/07(水) 18:01:29.83 ID:mtWkQG+30
544 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/12/14(水) 22:00:36.67 ID:9h70ajrZo
お久しぶりです。
RJいじめは止めるんだ!

という事で新話投下していきます
545 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/12/14(水) 22:01:46.46 ID:9h70ajrZo



「重巡り級を旗艦とした敵水雷戦隊見ゆ! 全艦、単縦陣!」


水平線に幽かに艦影を認めた咲は手持ちの双眼鏡で艦種の識別を行う。
その艦影が深海棲艦だと確認すると旗艦の咲が凛々しく号令を発する。
間髪入れず、残りの五人は警戒航行序列を解き、見事な単縦陣に移行する。


「左舷、砲雷撃戦、用意!」

「私、砲雷撃戦って聞くと…燃えちゃいます。」

「ってー!!」

「陣形を保ちつつ、臨機応変に、行くよ!」

「なのです!」

「砲雷撃戦、開始じゃ!」


それぞれが掛け声を掛けながら敵艦隊へ接近していく。
そして始まる砲撃戦。
砲弾の着弾による水柱が白く立ち上り、両艦隊が砲弾を打ち出す爆煙が黒く漲る。
砲弾の雨を潜りながら更に艦隊間の距離が縮まり魚雷の射程内に入る。
水雷戦隊の本領、雷撃戦の開始である。


「雷撃戦… 開始!!」


咲の号令とともに一斉に魚雷が海に放たれる。
敵艦隊も魚雷を撃ったのか、自分たちに向かって真っすぐに伸びてくる白線が青い海にはっきりと見える。


「各艦、回避!」




546 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/12/14(水) 22:02:54.05 ID:9h70ajrZo




場所は変わって清澄鎮守府の執務室。
本日の秘書艦は駆逐艦『春雨』こと和だ。
京太郎の執務机と直角になる様に配置された秘書艦用の机で、書類のチェックと秘書艦権限で出来る決済をこなしている。
提督の裁可が必要な書類は手を伸ばせば届く提督の机の上に置く。
京太郎と和、二人とも黙々と手を動かし書類をさばいていく。


「うーん… ここらで休憩を入れるか、春雨」

「はい、提督」


ぐいーっと背を伸ばしつつ休憩の宣言をする京太郎。
2時間は机に齧りついていたので集中力が切れてきたのだ。
答えた和は直ぐにペンを置き、給湯室に入ってお茶の準備を始める。
頭の中を空っぽにしてボーっと机の上に飾られた写真を眺める京太郎。
現在の清澄鎮守府に所属する艦娘7人と京太郎が写った写真だ。
写真を眺めつつ…


「やっぱり和の胸ってデカいよなァ…」


健全な15歳男子なのだから仕方は無いのだが、今考える事かと問いたい。
写真に写った和の姿。
白露型特有の黒のセーラー服を押し上げてその存在感を存分に主張する和の両胸。
駆逐艦『春雨』は小ぶりな胸の艦娘が多い中、和のKカップは尋常ではない。
駆逐艦でこれに匹敵する艦と言えば『潮』『浦風』『浜風』など数えるほどしかいないだろう。
駆逐艦のおっぱいビッグセブンの一角に食い込む和の胸恐るべしと言ったところか。


「須賀君、お茶入りましたよ」


そう言ってお盆に大きめの湯飲み2つを載せて運んでくる和。
どうやら今日のお茶請けのお菓子は間宮羊羹らしい。
湯飲みと一緒に乗っているお皿の上の羊羹に視線を走らせた後、チラッと和の巨乳に目が向いてしまう。
意外とこういうチラ見は目の動きからバレてしまう事が多い。
清澄高校にいたころの乙女な和なら、顔を少し赤くし、両手で胸を隠すような仕草と非難するような目線を向けてくるのが常だったが、此処にいるのは女になった和である。
クスッと微笑を浮かべ、湯飲みとお皿を机に置き…


「須賀君、意外とそれ分かるんですよ」


余裕綽々と言った様子で一言いい、あまつさえ京太郎の腕に抱きつくくらいのことは平気でするようになった。
ナチュラルに「当ててんのよ」を… いや、この場合は完全に意図的にやっている。
スキンシップと自身のセックスアピールは欠かさないらしい。
因みに、京太郎以外の男が和の胸をチラ見した場合、ゴミを見るような目で非難の視線を向けてくる。
どうやら和の中では、自分の体は京太郎の所有物で京太郎専用という意識があるらしい。


「ハハハ、ごめんごめん今度からは分からないように上手くやるさ」

「そこでやめると言わないんですね」


対する京太郎も慣れたもので軽く流す。
既に肌を重ねて、お互いの恥ずかしいところの隅々まで見せ合った仲である。今更照れるのもバカらしいのだろう。
しばし休憩して英気を養った後、書類との格闘を再開する2人。
やはり人手が倍になると効率がいいのか、見る見るうちに書類は減っていく。
547 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/12/14(水) 22:03:20.41 ID:9h70ajrZo

「よし! 本日のお勤め終了!」

「提督、お疲れ様です」


処理すべき書類がすべて片付いたら京太郎が業務は終わりと宣言する。
同時に和は艦隊司令部へ発送する書類の発送手続きに鎮守府の隣にある陸軍の出張所へ向かった。

基本、どんな国でも陸軍と海軍の仲は悪いものだ。
あのアメリカでさえ予算や権限の奪い合いで陸と海の間に深海よりも深い溝が存在した。
だが深海棲艦が猛威を振るっているこの世界、資源を輸入に頼る日本にとってシーレンの防衛はまさに死活問題… いや、国家存亡にかかわる問題である。
そんな状況において陸軍と海軍で仲違いなど出来るはずがない。
陸軍にとっても消費する資源が入ってこなければ困るのだ。
そのシーレンの防衛を一身に背負っているのは海軍と艦娘、陸軍としても両者を応援こそすれ敵視する理由はほとんどなかった。

海軍が深海棲艦との戦いに専念できるよう、日本国内の陸上にかかわる事は全て陸軍が引き受けている。
海軍の公文書・機密文書の輸送についても陸軍が請け負っており、両軍の間には完全な信頼関係が成立していた。
…もっとも、見目麗しい娘が多い艦娘にかっこいいところを見せたいという、泥臭い陸軍の男の下心も見え隠れしているのだが…

そんな背景があるので、全ての鎮守府に小さいながらも陸軍の出張所が併設されているのだ。
此処には憲兵もおり、なにか騒動があった時に鎮守府の治安維持や警備に出てくることもある。


「うーん… コーヒーでも入れるかな? でも給湯室に俺が入ると皆がうるさいし…」


突如、コーヒーが飲みたくなった京太郎。
給湯室に淹れに行くかと思ったが、途中でやめた。
艦娘の皆の間で給湯室は秘書艦の聖域とされ、それ以外が入ることはタブーになっている。
こうなった理由は、一日中書類漬になる京太郎に雑事をさせたくないという可愛い理由だった。
提督自室にもサイフォンやティーセットがあるが、京太郎はまだ日が出ているうちに自室に行くことはほとんどしない。
日の高いうちから自室とかヒッキーみたいと言う理由らしい。

そんなこんなで少し手持ち無沙汰な京太郎。
ボーっと壁に掛けられた時計を見ていると、コンコンと扉がノックされた。


「はい、どうぞ」
548 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/12/14(水) 22:03:53.99 ID:9h70ajrZo

「お邪魔します」


そう言って入ってきたのは智葉をはじめとした後期転移組。


「どうしたんです、皆さん揃って? 何か不都合でも?」

「いやなに、扉の横のサインプレートが【執務終了】【在室】になってたのでな。世間話でもと皆で来たんだ」


京太郎の疑問に、智葉が代表して答える。
どうやら彼女、後期転移組のリーダに収まったようだ。
皆に席を勧めて、京太郎は給湯室に向かう。
来客があるのにお茶すら出さないのは流石に無礼だし、何より自分もコーヒーが飲みたい。
咲達に何か言われても作戦の高度で柔軟な運用だと押し切る気満々である。


「どうぞ、男手のコーヒーだけど」


そう言って人数分のコーヒーを出す京太郎。
ちなみに京太郎、ハギヨシに色々教わっているので紅茶やコーヒーを入れる腕前はそこらの喫茶店よりも良かったりする。


「すばらな味です! それにしても突然押しかけて迷惑ではなかったですか?」


コーヒーを一口飲みその香り高い苦みを堪能した煌が旨いと褒める。
そして突然の訪問で迷惑を掛けていないか聞いてくる。


「大丈夫ですよ、すでに今日のノルマは終えましたし… あとは出撃している艦隊の帰還を待つだけですから」

「ずいぶん手際がいいわね… どんな手品なの?」

「どんな手品って… 憧、こっちに飛ばされて数ヶ月経ってるんだ、流石に書類仕事にも慣れるさ」


コーヒーを啜りながら他愛もない話をする面々。
そんな中、戻ってきた和がノックもそこそこに執務室に入ってくる。


「あれ、皆さんいらっしゃってるんですね」


智葉達9人を見てそう発言する和。
彼女らの手元にコーヒーカップがあることを見て京太郎が給湯室に入ったことも瞬時に察している。
まぁ、来客なのだから仕方がないが…
やはり秘書艦の聖域を犯されたことはお気に召さないのかちょっと膨れっ面になる。


「須賀君… 給湯室は秘書艦の管轄ですよ…」

「ハハハ、いや済まない。だがこれは高度で政治的かつ戦略的な作戦の柔軟な運用だ。許してくれ」

549 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/12/14(水) 22:04:20.14 ID:9h70ajrZo


一応は勤務時間なのだが、先ほど勤務終了を京太郎が宣言していたので提督に対する艦娘の口調ではなく同級生に対する口調になっていた。
和の可愛い抗議に笑いながらユーモアを交えて良いわけをする京太郎。
予想通りの返答なので和は軽くため息をついて、お代わりのコーヒーの準備をするべく給湯室に姿を消す。
その2人の慣れたやり取りを見て大阪出身の逸般人の恭子が一言。


「なんや2人のやり取り。妙に慣れてるというか自然体と言うか… 夫婦見たいやな」


その後、和を世間話を交えて世間話で盛り上がる。
こんな他愛のない会話でもお互いの人間性はよくわかるものだ。
智葉達にしても京太郎は悪い奴じゃないと解っていても、こうやって交流を持たないことには実感は出来ない。
そう、須賀京太郎という男子をもっと理解するためにあえて彼女たちはこうやって押しかけたのだ。
京太郎たちの方もそれは重々承知の上で、いらぬ不和を産まないためにもこう言ったやり取りは大切にするようにしている。
そして交流を重ねるごとに京太郎との距離は確実に縮まっている。
この鎮守府に飛ばされた時は、軽蔑と侮蔑の色が混じった目線を向けていたことを考えると驚きの進歩である。
咲や和、他4名の様子を見ていても京太郎が女の子を無下に扱う下種ではないことは一目瞭然だし、その心にある思いはホンモノだと実感できる。
それどころか、真剣に執務に取り組み、艦娘のことを考えてあらゆる手を打つ姿を見ていて、そんな男の子に大切に扱われたいと思うのが乙女心だろうか。
何人かは無意識に京太郎に想いを寄せ始めていたりする。


「そろそろ艦隊の帰投予定時間か…」


そう言ってカップのコーヒーを飲み干し腰を上げる京太郎。
執務室を出て、埠頭まで艦隊の出迎えに向かった。

日が水平線に近づき、徐々に空が茜色に染まりつつある。
埠頭では程よい海風が吹き抜け、潮の香りが心地よい。


「もうそろそろ見えるはずなんだがな…」


そう言いながら双眼鏡で水平線を見渡す京太郎。
傍には和や智葉達も同じように双眼鏡を覗いている。


「ねぇ、須賀君。水平線の向こうってことは結構距離があるんじゃ…」


京太郎にそう聴く佳織。
まぁ、水平線の彼方と言うのは結構遠距離と思うのが普通ではあるのだが…


「そう思うでしょ、妹尾先輩。実は水平線までの距離って4kmくらいなんですよ」

「嘘!?」


長野住まいの彼女にとって海はある種の憧れがあったのだろう。
水平線の彼方と言うのは未知なる世界と同じような感覚だったのだが、歩いて僅か1時間ほどの距離だと聞いて目を丸くしていた。
実はこの事実、京太郎たちもこっちの世界に来てから知った事実だったりする。


「まぁ、観測する高度によって水平線までの距離は変わるんですけどね… と、見えました。艦隊が帰ってきましたよ」


水平線にポツポツと6つの黒い影が浮かび上がる。
双眼鏡で見ると咲たち艦娘艦隊だとはっきり分かった。


「速度はおよそ半速(9ノット)程ですね、だとすると20分ほどで接岸ですね、提督」


和がざっと暗算で到着時までの時間をはじき出す。
京太郎も同じ計算だったらしく、うんうんと頷いていた。

550 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/12/14(水) 22:05:01.47 ID:9h70ajrZo


「艦隊戻りました!」

きっちり20分後には埠頭に出撃していた6人の姿があった。
旗艦を任されていた咲の号令で京太郎に対して一斉に海軍式の敬礼。
それに京太郎が答礼し簡単な報告を受ける。
詳細な報告は後程書類でなされるので本当に簡単なものだ。


「中破1名、小破2名。海域の攻略は成功しました!」

「ご苦労様。小破以上は直ぐにドックに入って傷を癒すこと。古鷹、あとで報告を頼むぞ」


そんなやり取りで解散を命じる京太郎。
心の中で誰一人欠けなかったことに安堵していた。
いくら昨日の夜に轟沈防止処置をしていたとしても行く先は戦場…
何があるかは分からないのだから。

解散の命が下りたら思い思いに過ごしていいと決めてあったが…
ほぼ全員の行動は一致している。
必ず決まって京太郎の周りにたむろするのだ。


「お・ま・え・ら! 戯れは良いから損傷してるやつは早くドックへ行ってこい!!」


埠頭に京太郎の叫びが木霊した。
551 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2016/12/14(水) 22:06:14.12 ID:9h70ajrZo
という事で今回の投下はここまで

最近やたら文章がくどくなったような気がするんだが…
なんでだろうか?

感想意見等募集中
どんどん書いてください
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/14(水) 23:36:53.83 ID:qzUjAgNoo
乙ー
後発組との個別のエピソードなんかも
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/15(木) 14:38:25.11 ID:2RszVSPIo
乙です
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga sage]:2016/12/15(木) 23:03:51.07 ID:sbeYlrxf0
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/16(金) 06:43:43.56 ID:YyNDs1Ew0
乙!
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga sage]:2016/12/21(水) 22:18:42.78 ID:avbVq3r50
ほっぽ「マージャンナイ…カエレ!!(麻雀卓を背中で隠し威嚇)」
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/01/04(水) 18:41:22.52 ID:RYgl/4lH0
舞ってる
558 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2017/01/09(月) 23:06:16.78 ID:aFjHf5OBo
お久しぶりです。
リアルが忙しいもので時間が空いてしまい申し訳ないです。
559 : ◆RW9l2xb5q2 [saga]:2017/01/09(月) 23:07:04.84 ID:aFjHf5OBo
長野にあるとある喫茶店、扉には『本日臨時休業』の札が掛かっている。
その扉の前に若々しい女性の姿がある。
女性は何のためらいもなく扉を押して店の中に入っていく。
店の中には大体同じ年代の女性が13名、一つの大きなテーブルを囲っていた。


「皆、遅くなってごめんなさい!」

「大丈夫よ愛子、皆さっき来たばっかりだし…… 約束の時間までまだあるから」


店の中に入ってきたのは須賀愛子、京太郎の母親である。


「明子、久しぶりね。仕事で忙しいって聞いたけど?」

「ええもう本当に! 今日は有給を使ったのよ」


もう一人の女性は原村明子、和の母親だ。
どうやらこの2人、結構親しい知り合いのようである。


「愛子さん、何か飲まれますか?」

「ありがとう夕子ちゃん、紅茶お願いできる?」

「はい」


愛子に注文を伺いに来たのは染谷夕子、お察しの通りまこの母親で、この喫茶店の名前は『roof-top』。
まこの実家である。


「愛子、とりあえず座ったら? 一服して話を始めましょう」

「そうね…… そうさせてもらうわ」


愛子が席に着くとすかさず夕子が紅茶を持ってくる。
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