新東京物語

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61 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 21:54:04.97 ID:81ehqMkB0


銭湯「愛善」

約43度の湯に浸かる涼とヤマト。

「ふーん、バラバラ死体ねえ」

タイルの溝を指でなぞりながら物騒なことを言う涼。
62 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 21:54:31.28 ID:81ehqMkB0

「お前なんか知ってるか?」

「知り合いにさぁ、人肉食べるの
好きなおっさんいるんだけど違うなぁ」

「さらっと言うけど穏やかじゃねえな」

「その人だったら残さないしね、
でも探さなかくてもそんな異常者なら
ひょっこり出てくるんじゃない?」

「わかんねえな、話半分に聞いただけだし」
63 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 21:55:00.52 ID:81ehqMkB0

「あ、今夜ベットレースやるけど来る?」

「あ、駄目だ。まだ整備してねえ」

「じゃ見るだけでも?」

「いいぜ、あとちょっともうキツイ」

「ハハッ、じゃあ上がろうか」
64 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 21:55:26.59 ID:81ehqMkB0

2人は湯からヘトヘトになって上がる。
いつの間にか我慢比べになるこれは最早疲れを取りに湯に浸かるどころか浸かる前よりずっと疲れしまうのであった。
65 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 21:55:53.17 ID:81ehqMkB0

神楽通りはここら辺の道の中ではずっと広く、
見通しの良い直線が1キロほど通っていた。

これは25年前の旧東京内戦で多くの建物が
更地になって公道になったおかげである。

そんな神楽通りは若年層の溜まり場となり
治安は決していいとは言えなかった。

しかし、7、6年前に桐島涼やシマ・ヤマトが
この街に現れてからここら一帯はかつての治安を取り戻した。
66 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 21:56:19.66 ID:81ehqMkB0

ホワイトクラウンは週に一回、金曜の夜11時頃に集会をする。

集会といっても仲間内でチューニングしたクルマやバイクを公道で走らせて競うもので、
白冠の活動資金は主にそのレースで賭けられた
資金である。

夜も更け、あと1時間で日付が変わる頃、
ヘッドは拡声器を手にして彼ら仲間を
焚きつけた。
67 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 21:56:47.34 ID:81ehqMkB0

『じゃあー、これからー、
ベットレース始めまーす!
各自ークルマはー、白線の内側にー、
入れー!』

「おい、なんだあれ?」

メンバーの1人が涼の後ろ、公道の先を指差す。

すると、涼以外のメンバーは何か異変を感じて騒ぎ出す。
68 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 21:57:14.80 ID:81ehqMkB0

「なに?後ろ?ってワッ、驚いた〜」

顔は真顔にして振り返った涼の先には黒い闘気で包まれた少年の姿があった。

大衆の奥で見ていたヤマトも椅子をガタッと倒して凝視する。

「あらら〜、もしかしてぇ、
例のバラバラ死体のやつだったりしてぇ?」
69 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 21:57:40.68 ID:81ehqMkB0

「そこのボーイ!レースの邪魔だからぁ、
退いて?」

おどけながらいう涼、その手には赤いガソリンの入ったポリタンク。

少年はなにやらブツブツ言っていて彼の声は届いていない。

「どいてくんないだぁ、残念」

涼はポリタンクを少年の真上まで投げ飛ばす。
70 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 21:58:07.57 ID:81ehqMkB0

ヤマトは遠くで見ながら、隣の新入りの島崎に
声をかける。

「よく見ておけ、新入り。
あれが曲芸師、クラウンだ。」

投げ飛ばされた赤い飛行体は少年の上で
何かが光った後刃物で切った様にバラバラになる。
71 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 21:58:34.14 ID:81ehqMkB0

当然中のガソリンは空中で形を変えて、
少年の体はガソリンを被る。

「懐かしいですね、八年前まだクソガキだった
俺らの憧れだったあなたたちの戦い、
今でも鮮明に思い出せますよ」

白冠幹部、磁鋼の蔵木がいう。

「お互いボロボロになっても倒れなかった、
なんていうかガッツがありましたね」

「今はないっていうのかよ」

「そんなことないですよ」
72 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 21:59:28.36 ID:81ehqMkB0
涼はガソリンを被った少年に神速で近づき手に
白い電撃を纏って電撃を放つ。

「白閃」

ガソリンに引火し、少年は炎の渦に巻き込まれる、というよりも炎そのものにあった。

しかし、その少年以前変わらずその体は無傷。

少年は黒い闘志を虫の手足の様な形にして
涼を攻撃する。

「人間じゃない、フリークスだね!」
73 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 21:59:54.59 ID:81ehqMkB0
鼻筋の通った顔は目がギョロついていて好戦的な様子が一目でわかる。

また、ポリタンクを切り裂いた光の筋が風切り音を立てて、少年の体に切り傷を与える。

「その感触、死体じゃないか」

突然涼は悲壮感の漂う顔になり、がっかりした声を吐き出す。

少年の切り傷は黒い闘気が噴き出し、塞がれる。

すると、涼と少年を結ぶ光の糸がキラリとひかった。

「残念だ、生きてないモノにはボクの曲芸は
わからない」
74 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 22:00:20.28 ID:81ehqMkB0

涼の前髪が吹き出された闘気で浮かび、
白い闘気は糸を伝って少年の体へと向かう。

「白雷」

瞬時に闘気は電撃に変わり、糸は黒く焦げ、
パソコンの起動音の様な音とともに少年の体は
爆発四散した。
75 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 22:00:46.13 ID:81ehqMkB0

戦いを終えた涼に蔵木が近寄る。

「ヘッド、メンバーを帰して
処理屋呼びましょう!これはさすがに安藤を
誤魔化せないです!」

蔵木はいつになく焦り、動揺している。

「焦らない焦らない、
どう思う?ヤマト君」

「それが最善だ」

76 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 22:01:13.43 ID:81ehqMkB0

日曜、新東京国立公園。

非番なのか、眼鏡をかけた安藤とヤマト。

「アレ、バラバラ死体どう?
科捜研の検証結果をこっそり言うとね。
残留したオーラからは148センチ、
13歳ほどの少年だってさ」

「さあ、さっぱりだな」

ヤマトはさらりと嘘を吐いた。


この街には裏がある。

その裏はどう足掻いても消すことはできない。

人に闇が必ずある様に、街にも闇がある。

要は街は生き物なのである。
そんな街にとって彼ら人は血流なのであろう。

街は生きている。
決して眠らず、心に表裏を兼ね揃えて。

完。
77 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 22:01:40.28 ID:81ehqMkB0
登場人物其の二。

蔵木 実

ヤマト、涼とは同い年であるが尊敬の念を込めて彼らには敬語を使う青年。
能力は磁力性の極めて強い鉄鋼柱を生み出すというもの。
普段は教習所の教習員をしている。

新入りの島崎

見た目が猿。雑魚。


世界観其の二。

能力の使い手にクラスがある。
とても曖昧なもので系統トップ以外は目安。

旧東京内戦、物語開始から二十年前に永田町を中心に起きた内戦。
何者かが左翼と右翼を煽り全面抗争までに発展した。隣国の内政干渉が問題となり国際問題となる。

戦後都市再生計画。
住民区画と工業区画を綿密に分け、
工業区画の建物を大いに減らした。

住民区画は全国に散らばり、商業都市を各地に持たせる様にする。

今現在日本国は首都がない。

78 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/07/27(水) 22:02:14.20 ID:81ehqMkB0
以上第2話終!
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/28(木) 07:45:06.64 ID:aJRvyMiq0
おつ
80 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/01(月) 22:52:25.77 ID:Rb1RP4JX0
今日短いけど3話目あげます
81 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/01(月) 23:42:04.38 ID:Rb1RP4JX0
かつてこの世を闇に陥れた鬼がいた。
鬼の真祖はそれから2000年を超えて現代に生きているという。

神楽通りの交差点に4台の車が横に並ぶ。
白線に揃って並んだそれらは信号が青に切り替わるのを待っていた。

4台の中にヤマトもいた。
赤の車体の低い、よく整備された車である。
ヤマトはパーツを海外と国内から取り寄せて
組み立てた。実際速い、おそらくこの4台の中で飛び抜けて速いだろう。

他の3台は当然ヤマトに勝つ自信があってそこに立っている。

信号が、パッと切り替わる。


「はい、これが賞金」

相変わらずの姿の涼から10万を手渡される。

「おう、次もよろしく」

手短に挨拶だけ済ましてそのまま車から降りることなくその場をヤマトは去った。
82 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/01(月) 23:42:31.47 ID:Rb1RP4JX0
新東京の西側に位置する歓楽街、そこの外れの
赤いレンガ造りのアパートがヤマトの住処だった。

ヤマトは一見そこの一部屋に住んでいるように見えたが実際はアパートの壁をぶち抜き、
外からは数部屋あるように見えるが中は広いたった一部屋だった。

主にヤマトに依頼が参り込んでくる時はベンチで請け負うかアパートで請け負うかである。

依頼条件はヤマトと直接会うことである。
83 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/01(月) 23:43:23.86 ID:Rb1RP4JX0
キシキシと音を立てて軋む階段を上がり、
そろそろ直さなきゃななどと思いながらヤマトは部屋のドアを開けようとドアに近づく。

その時、ヤマトの体に猛烈な違和感が堰を切った川のように流れ込んできた。

違和感は警戒心へと変わり、ヤマトを臨戦態勢へと
導く。

瞬時に右手をホルスターに当てパチンと留め具を外す、静かに静かに手のひらをグリップに当て、人差し指を立てて安全装置を外す。

敢えて穏やかなままで決して闘気を隠そうとせずにひたりひたりと足を進める。

ドアノブを指の腹、関節、掌というように
しっかりと握る。
音を立てずにゆっくりと鍵をさし、カチリとならないように回す。
84 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/01(月) 23:44:08.62 ID:Rb1RP4JX0
ドアノブに力が入り、左手で勢いよく回して
体で扉を押し右手の銃で牽制して入る、

「動くな!」

たった一言だけ発する。

ヤマトの目に入ったのは自分のデスクの椅子にこちらとは逆に向いた男の姿だった。

照明はついていなくて姿は見えない。
夜目に慣らすことをしなかったヤマトは
衰えたなと自分の腕を卑下した。

ヤマトの声に反応してゆっくりとくるりと椅子が回る。

依然、その顔は見えない。が、紅く光る瞳だけ
存在が目立っていた。

「吸血鬼かッ!だがなッこの距離ならッ
この拳銃でも貴様らには有効射程だッ!」

模範的な牽制だった。
85 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/01(月) 23:44:43.27 ID:Rb1RP4JX0

すると闇に包まれた男は声を発した。

「フフ、島大和。」

ピクッと大和の血管が動く。

「身長は192センチ、体重は110キロ。
一年前までは国際機関に所属、
現在はこの街のトラブルシューター、
ここまでは探偵を雇えばわかる」

男はスラスラと言いあげた。

「だが、問題はここからだ。
君はある男を追っている。
男の名はー、」

「クラウド=レイソンだ」

ヤマトの顔は引きつっている。

「ほう、君の方から言ってくれるとは
思わなかったよ」

「こっちのことは言ってやったんだ!
てめえは何者だ!」
86 : ◆BRVDE48Y6OxB [saga]:2016/08/01(月) 23:45:36.38 ID:Rb1RP4JX0

瞬きすることなく紅く眼の持ち主は言った。

「そうだな、ウォーカー、とでも
名乗っておこうか」

その瞬間ヤマトの指は絞られ3発の弾丸が飛んだ。
しかし、男に当たることなく男はデスクから消えた。

ピト、ヤマトの頬を刃が冷たく当たる。

「衰えたね。もう一度、
鍛えなおしたほうがいいよ」

「それと、いいことを教えてやろう。
クラウドの小童はロードとなるために
私を殺しにくるはずだ。動く必要はない。
今の君にはやつを倒せるほどの力も
ないしね」

男の掌から刃は伸びていた。

ヤマトの体に緊張が走っていた。
殺される、明確にそのイメージだけが頭にあった。

「まあ、今君を殺すような真似はしないから
安心してくれ」

男は続けていう。

「この街で消し屋をすることになったんだ、
挨拶にでもと思ってね。これ名刺」

男は手首を返してヤマトの目の前に名刺を突き刺した。

「では、これで」

男はそれだけいうと自分の影に包まれたようにして消えた。
87 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/01(月) 23:47:31.95 ID:Rb1RP4JX0
重圧から解放されてヤマトの体から汗が噴き出す。

荒々しい息をしながらヤマトは腰を滑り落とし、いった。

「なんてやつだ!敵いっこねえ!」バキッ!

振り上げた左手は床へとハンマーのように振り下ろされた。

「まずいな。そろそろ、本腰入れるか」

ヤマトの瞳に闘志の炎が灯る。

自分が何をすべきか、はっきりと浮かんだヤマトは
以前とは変わった様子だった。

この街に何かが起きようとしているのだろうか、その真実は誰の手にもわからなかった。

第3話「来客」終
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/02(火) 10:38:57.73 ID:1/LXUHVKo
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/02(火) 12:15:39.07 ID:X1NRJO1d0
90 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/07(日) 20:53:40.65 ID:c11JNGA90
水曜投下しますわ
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/07(日) 23:31:29.57 ID:oY9x7ynTo
待ってます
92 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/11(木) 22:52:34.68 ID:EAELfEue0
エンジンの低い音が枯れ果てた大地を木霊する。

新東京を少し離れると首都一点化のかつての影響でそこら一帯は砂漠と化していた。
その光景はさながらアリゾナである。

その有様によって首都という制度は日本から消えたというわけである。

四駆の赤い燃え盛る炎のような車は大和を乗せて長野へと向かっていた。

長野へと県境を越えてしばらくすると緑の光景は復活し、山を登る。

この山の頂上には大きい寺があってそこは大和の生まれ故郷でもあった。
大和がそこへ帰るのは実に七年ぶりのことであった。

(相変わらずの威圧感、七年じゃあ
変わりっこないか)

大和は車窓から山に根をはるように存在する
その真来寺を見た。
93 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/11(木) 22:53:03.21 ID:EAELfEue0


どうして大和がここへ来たかはあの吸血鬼の
来訪が理由である。

元々己の力量の限界を発揮することなく一年を過ごしていたため大和は力の衰えを薄々感じていた。要は実力は常に上がっていないと衰えていると思った方が良いということである。
それがあの来訪で予感が確信へと変わったのであった。

大和は日頃自分を頼る人や関係する人に新東京をしばらく離れることを伝えると最小限の荷物を持って街を離れた。


真来寺の門は途方もなく大きい。
その大きさは明らかに威圧感を放っていた。

大和は門の前に立つと門に手を置く。
すると彼はありったけの闘気を送り込む。

彼の周りは土埃が立ち込み、
軽い煙幕となっていた。
しかし、門はビクとも開かない。

(ジジイは怒ってるな)
94 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/11(木) 22:53:42.22 ID:EAELfEue0


真来寺の造りは普通のそれと変わっていた。
中の御堂の柱に弟子たちは背をつけ経文を唱える。経文を唱えることをきっかけとして彼らは自らのオーラを寺そのものに流し続けているのだ。

従って住職が許可した者の全力の闘気以外は
寺に入ることを許されない。抜群のセキュリティを誇っている。

十五のときにこの寺を飛び出して新東京へと身を移した大和は住職の怒りに触れ寺に入ることを許されていないということである。


大和がその事実に狼狽えていると門はゆっくりと開いた。

中には頭を丸めた坊主が立っている。

「お久しぶりですね、大和君。
君が再びここの門をくぐろうとすることを
待っていました」

眼鏡をかけた坊主は落ち着いた口調で
まるで全てを予め知っていたようにはなす。

「ご無沙汰しています。倉科さん。
無理を承知の上です。住職に
会わせていただけないでしょうか」

大和は頭をさげる。
すると倉科はにっこりと慈愛の笑みを浮かべて
門の中へと手を招く。

「私の能力を知っているでしょう。
住職は確かにお怒りです。
骨の二本は覚悟して下さいね」
95 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/11(木) 22:54:14.17 ID:EAELfEue0


二人はひたひたと足を進めて本堂へと向かう。

寺の境内の中で一際大きい御堂が正に本堂だった。二人は本堂の近くまで来ると殺気ににた非常に濃い闘気を感じた。

通常闘気を自身の周辺に展開するというのは闘気をソナーのようにして探知するためか、
能力の性質上かである。しかしそれらは闘気を薄く薄くしたものを漂わせるものであるはずだった。闘気には限界があるため無駄な浪費を避けるためである。

本堂から放たれる濃密な闘気は”我ここに在り”
という住職の意思表示に違いない。

大和は本堂の中で住職の背中を見た時悟った。

「……今更何をしに来た」

背中で語るを体現する住職は背を向けたままいう。

「単刀直入に申します。
私に、力を授けてください」

大和は畳の上に頭をつけた。

「たわけ!」

本堂に轟音が響く。
けれども大和、住職、倉科の三人は微動だにしなかった。

「基礎さえ、基礎さえ満足に為さなかった者が
力を授けてくれだと?正気ではないわ!
力を己で得るもの、そう教えたはずだ!」

住職が立ち上がる。
その身の丈はあまりに大きすぎた。
96 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/11(木) 22:54:41.63 ID:EAELfEue0

「愚か者め、ついてこい」

長い白い髭を蓄えた住職は本堂から立ち去り、
そのあとを二人は追う。

別の御堂に来ると明かりは薄暗く、
四隅の柱には修行の身の弟子たちが闘気を放っている。

「儂に、一撃を加えてみよ」

厳かに住職は構えをとる。

大和は目を閉じ、目をカッと見開く。


畳を親指で掴むようにして急発進する。

そのまま接近するのかと思いきや間合いに入るか入らないかのところでまた親指を軸にして
動きを変える。

しかし大和の動きに住職は動じない。

背後から一撃を加えようとした。
しかし住職はそれを左に回転しながら躱す。

僅か、一瞬の大和の伸びきった拳を見逃さなかった住職は左足の突きを大和に与える。

全身に闘気を纏っていた大和は辛うじて外傷を
つくらないかったが強く吹き飛ばされ内臓はダメージを負っていた。

追撃するようにして柱にもたれる大和に闘気を込めた突きを放つ住職。

大和はそれを避けると柱は消し飛んでいた。

寺の中は滅多に傷つかない。
結界のようにして弟子たちが常にオーラを寺に纏わせているからである。

しかし住職のあまりの一撃に寺の柱は耐え切れなかった。

大和は体勢を取り直して動きを撹乱する。

けれどもまたしてもその動きは住職に看破され通用しない。


畳の上に大の字になる大和。

「貴様は動きが単調だ。心を読まずとも
わかる動きはあまりに軟弱だ!」


大和の長い修練は始まったばかりであった。
97 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/11(木) 22:55:15.36 ID:EAELfEue0
今気づいたけど今日木曜日なんだね
1日遅れてすまんな
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/11(木) 23:15:47.33 ID:GWrAy8Pao
乙ー
続き来てた
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/15(月) 16:09:06.25 ID:gI1gmF0L0
良いのう
100 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/18(木) 09:14:28.03 ID:N1FTqmfV0
土曜投下すます
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/20(土) 15:32:59.03 ID:WBGcpwww0
待ってます
102 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/23(火) 01:23:20.21 ID:quhSRmdf0
水曜に2話分投下します。
遅れてごめんなさい。
103 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/25(木) 12:32:40.48 ID:1G1nvqDW0
第5話「多重能力者」

ホワイトクラウンが新東京駅の北側、新東京公園をナワバリにしているのと同じように西側の
洞巌公園は黒十字が仕切っている。

噴水広場を中心とした円状の公園にはほぼ常に
黒い服装の男らがいる。

噴水近くの大理石に腰をかけているのは牧、黒十字のアタマの男だ。

彼は常に片手に本を持っていた。
彼の顔はというと確かに綺麗な顔立ちをしていて男前だがこれといった特徴のないフツウである。

しかしホワイトクラウンのような寄せ集めとは違い黒十字は牧を崇拝するかのように硬い結束で結ばれている。

まるで一つの宗教団体だ。

これは彼の能力による。

彼の能力は接触感知というもので触れたものの
残留思念や潜在意識を把握する能力であった。

これによって部下の生い立ち、トラウマ、癖を見抜きあたかも全知全能のように崇められている。しかしこれは彼が自ら装っているわけではない。限られた人間が波動、オーラ、闘気といった同一のそれを備えているとはいえ、部下の中では皆、牧が語らないにしても何らかの能力を持っていることは解っていた。だけれども部下のほとんど、いやその全ては彼に対する強いロイヤルティを抱いているのである。

彼の能力はそれとは別にあるものがある。
精神細菌。これは対象に芽というものを感づかれずに植え付け次第にその精神世界を気づかれずに支配するというものである。

そんな業物な能力を持つ彼には今悩みがあった。

北からのホワイトクラウンの侵撃に加え、
南東からの赤木組による思惑が見え隠れしていたからだ。

これは街の顔役、島大和が突如いなくなったからである。

これによりほとんどのこの街の組織に隙が生まれまるで冷戦のように互いを睨み合うようになり始めた。

そんな中ついにホワイトクラウンから果たし状が部下数名をボロ雑巾のようにされた上に届いた。

決断のとき、といっても彼には進むことしか許されなかった。部下の皆が自分に期待している、これは彼にとって辛いと感じさせていたのである。

精神干渉系統の能力を持つ彼の悩みは実にセンチメンタルなものなのである。


三日後、ホワイトクラウンと黒十字の抗争が始まることになる。

ホワイトクラウンは足に電動制御の車輪を付け
壁を軍隊蟻のように滑り走る。

反対に黒十字の面子は彼らの縄張りを動かず
じっと構え防御の一点であった。

実力は拮抗、数で誇るホワイトクラウンに対し、黒十字は吸血鬼が十数名いるため少数精鋭型にホワイトクラウンはなぎ倒されていく。

抗争が始まり、一週間が経った頃ついに桐島と
牧の大将戦が始まろうとした。
104 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/25(木) 12:33:23.74 ID:1G1nvqDW0

「こんにちは、マキクン」

「どうも」

たった一言交わした後、互いに攻撃を仕掛ける。

体操競技のゆかのようにアクロバットな動きを見せる牧、桐島は長袖に巻きつけたワイヤーの先の針を壁に飛ばし牧と距離をとる。

牧は着地とともに波動を固めたエネルギー弾を
桐島に飛ばしていく。

桐島は蜘蛛のように壁から壁へワイヤーにより
エネルギー弾を躱す。

桐島は知っていた。
牧の能力が精神干渉タイプでその多くが接触、
または波動に触れることでハマるものであることを。

いつになく慎重に桐島はシカケを済ましていく。おそらく牧には感づかれているだろう。
けれども技巧的に感づかれないようそれを済ませていくことよりも牧に接触しないことの方がはるかに優先順位が高かったのだ。

(そろそろか)
意味ありげに牧は思う。

その頃には少しづつ力の差が見え始めていた。
やはり近距離攻撃を主とする牧よりも中距離を
主とする桐島に軍配が上がったのだ。

牧のズボンはところどころが切り裂かれ生々しい傷が見えている。

「その傷痛そうだねぇ!
例えばこう思ったりしないの?
ワイヤーに痺れ毒や催眠毒を仕込んでないか
とかさぁ!」

「その発言が仕込んでないことを意味してるね
そういうのは考えるほど無駄じゃないか」

「流石ぁ!でもこれじゃあ
お得意の芽は使えないねぇ!」

ニヤリと桐島は笑う。
すると牧もニヤリと笑みを浮かべた。

「ああ、やっぱり勘違いしてたか。
君がどうしてそれを知ってるかは
すごく気になるけど」
「君、負けたね」

「!」

桐島の動きが止まる。
膝は地に着き、震えが始まった。

「何も手で触れるだけが条件じゃない。
例えば視覚ではめることだってできるだろ」

「君が見えていた僕の波動の色の
赤が芽なのさ。そろそろ意識が
変わる頃じゃないかな」

桐島の震えが止まった。
この時牧は一片の疑いもなく勝利を確信した。

「俺の名前は桐島、明だ」

涼とは明らかに声色が変わる。
波動の色も白から紫へと変貌する。

「想定外だ。………多重人格者か!」
105 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/25(木) 12:33:57.07 ID:1G1nvqDW0


明と名乗る青年は桐島の本来の人格である。
これを説明するにあたって桐島涼の生い立ちを語る必要がある。

まず、桐島涼は日本人ではない。
彼は中東系の出生国不明の若者である。

かつて中東では日本国と同じく20年ほど前、
エネルギー資源の争いによる内争が頻発していた。
しかし彼ら同士が戦っていたわけではなく、
それぞれが雇ったPMCによる間接的なものだ。

桐島涼はそんな争いの中で命を授かる。
彼は文字の前に安全装置の外し方を習った。
そして本を読めるようになる前に人を殺した。

戦争による悲劇そのものである。

それから内戦が終わると彼は七つだった。
当時内戦が終わった中東では観光ブームが到来し多くの観光客が押し寄せたという。

そんな観光客の中にある博士がいた。
彼は心理学を専門としていた。
そんな彼は涼のことをほんの少しだけ不憫に思った。
しかし博士は決して人格者ではない。

まず博士がしたことは涼という実験素材による
人格の植え付けだった。
戦争の悲劇による殺人のプロをうまく隠すためにリセットしてしまおうと考えたのだ。

博士の目論見はうまくいった。
穏やかな人格は表となるようにそのままの名を名付け、かつての人格は裏となるよう新しい名前の明と名付けた。

それから博士は涼を手放し、涼は新東京に居ついた。

そんな中、精神干渉という涼の心の錠を開けるような真似がなされたことによって再び凶暴人格の明が目覚めたのだ。


明は腰からバタフライナイフを取り出すと
牧との間合いを瞬時に詰めるが如くナイフを展開させながら高速移動する。

普通、波動というものは自然現象系、身体能力系、精神干渉系、武装系、波動変化系と別れていて大体の能力者はそれらのうち二つのコンパウンドである。だが、人格が変わると能力は変わらないにしても系統が変わることがある。

涼の系統は自然現象系と波動変化系だった。
しかし明と交代することにより白い電撃から
紫電という自然現象系と身体能力系に人格と共に変化したのだ。

この勝負、こうなると明らかに牧は分が悪かった。精神干渉系という肉体攻撃をほぼ伴わない系統に対して高速移動が可能な身体能力系は相性が悪すぎる。

しかし、第三勢力の参入がこの勝負の行き先を
闇に葬る。

明のナイフが牧の首元に刺さろうとしたとき、
黒い影が明の首元を狙う。

「この勝負、ウチがもらった」

赤木組若頭、[禁則事項です]である。

彼はビルの上から三人を見下ろした。
明の首元を抑えるは殺し屋ウォーカーだ。

明はそのとき全てを悟った。
これは罠だったと、はじめからこの抗争は彼らの手によって構想され計られていたと。

「正解だ。クソガキ壱号、
此のシマはうちの管轄と
此のときを持って決めた。
何、少し協力してほしいことがあるんだ。
そこのクソガキ弐号もな。嫌だったらうちの
百鬼夜行と戦争だぞ」

この状態で二人はうんと頷く他ない。
互いに闘気を使って披露している上、百鬼夜行などというわけのわからない妖怪を相手にするのは生命の危機を感じるほどの馬鹿げた話だったからだ。

「クソガキにしては聞き分けがいいな。
話はそこの吸血鬼が話す。黙って聞いとけ」


この街の人間が生命の危機に侵されているのは
何らおかしくないことである。
しかし今回はちょっと、いやすごく話が違うようだということは子供でもわかった。
106 : ◆BRVDE48Y6OxB :2016/08/25(木) 12:34:22.55 ID:1G1nvqDW0
もう一話しばらくしたら投下する
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/26(金) 21:43:55.42 ID:NvSVG1J3o

メール欄にsagaつけた方がいいと思う
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/24(土) 15:47:11.43 ID:kW6kvNQWo
待ってる
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/28(金) 16:12:19.24 ID:2QS15/EXo
保守
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/31(土) 00:00:46.73 ID:lUZh7ahio
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