妖狐の国の座椅子あふたー

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

202 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/05/03(水) 19:08:31.03 ID:1JdePEtD0
こらこら文句を言うでないそなたら

楽しみにしておるぞ
203 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2017/05/04(木) 00:46:40.54 ID:X2lDrYW00

男「妖狐姫…もうそろそろ出発の時間なんだけど…」

二日後の夕方、これでもかというくらい撫で回したつもりだったが、妖狐姫はまだ満足しないのか俺から抱きついて離れようとしない。

妖狐姫「…やじゃ」

適当に眠らせてその間に…とも思っていたのだが彼女は睡魔に抗い、目を半開きの状態で意地でも俺にすがりついてきた。
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 00:47:32.18 ID:X2lDrYW00
男「人力車が来るから外で待ってないと…な?」

妖狐姫「のぅ…やはり外泊なぞやめにせぬか?」

男「もうシエンさんには行くって言っちゃったんだ。そういうわけにもいかないよ」

妖狐姫「うぅ〜…」

くぅこ「車をくろこ殿に変えればまだ時間はあるでごじゃるよ」

男「それだけはぜってーやだ!」

もしくろこの車なんかに乗ったら俺はしらこの頭の上に吐瀉物をかぶせるだろう。
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 00:48:16.02 ID:X2lDrYW00
てんこ「姫様、私がいますよ」

妖狐姫「わっ…」

ひっつき虫と化した妖狐姫をてんこさんが後ろからそっと抱きかかえた。

てんこ「旦那様、旦那様が留守の間はこの私が姫様の座椅子となろう。だから旦那様は安心して己の使命に励んでくれ」

男「…はい!」

くぅこ「参るでごじゃるか」

男「行くか」
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 00:49:43.41 ID:X2lDrYW00
妖狐姫「…百倍じゃ」

男「んあ?」

妖狐姫「帰ってきたらいつもの百倍わらわを愛でるのじゃ〜!!!」

彼女はてんこさんの腕の中でバタバタと暴れながら叫んだ。

男「…分かったよ」

てんこ「だ、旦那様…そのときは私も…」

男「え?てんこさんも何か…」

てんこ「い、いや!やっぱりなんでもないっ!」
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 00:51:00.52 ID:X2lDrYW00
…………………………

くぅこ「屋敷が点になって行くでごじゃるよ〜…」

男「また二人っきりだな。くぅこ」

くぅこ「ふぇ!?二人きりだからといってよそ様の屋敷で…しょ、しょの…あのようなことは…」

男「あのようなことって?俺は何もいってないぞ〜?」

焦るくぅこの頭を撫でながら意地悪に煽る。
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 00:52:02.21 ID:X2lDrYW00
くぅこ「わふっ…」

沈む夕日と同じ色に染めた顔で俯く彼女の頬を意地悪につついた。

男「なんのことか知らないけど、くぅこがどうしてもって言うなら?出来る範囲のことはしてあげるよ」

男「家来に褒美を与えるのも主の務めだしな〜」

くぅこ「…なんでもないでごじゃるよ」

男「我慢するのは禁止だぞ?」

くぅこ「何も我慢してないでごじゃるぅ〜!」

くぅこは目をぎゅっと閉じたまま俺の胸をポカポカ叩いた。
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 00:53:17.30 ID:X2lDrYW00
男「まぁいいや。はいぎゅー」

おふざけ程度に彼女に抱きつく。

くぅこ「あぅ…我慢できてないのは主殿の方でごじゃるな…」

男「こんな可愛い家来が隣に座ってて我慢しろって方が無理でしょ」

くぅこ「むぅ…少しばかり調子に乗りすぎでごじゃる」

男「ごめん久しぶりに二人きりだから嬉しくてつい…駄目か?」

くぅこ「駄目と言ったらどうするつもりでごじゃるか?」

男「鬱だ死のう…」

くぅこがマジなら割とマジで
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:00:58.10 ID:X2lDrYW00
車屋「…兄ちゃん本当に姫様の婿さんなのかい?そっちの子は護衛役かと思ったら…なんでぃ、愛人さんかぃ」

くぅこ「な…あ、あいじん…?」

男「違うぜおっちゃん!愛人なんてそんな生ぬるいもんじゃないって!」

車屋「へぇへぇ…若いってのはいいねぇ…姫様も寛大なお方よな。うちの奥さんなら他の女の子にそんなことしてるのバレたら野菜包丁で切り刻まれちめぇよ」

車屋「ま、なんでもいいけどよ…いちゃつくのは降りてからにしておくれよ」

車を引っ張るガタイの良いおっさんは呆れ気味だった。

くぅこ「ほら怒られてしまったでごじゃる」

男「ちぇー…」

211 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:01:36.29 ID:X2lDrYW00
…………………………

次の日の朝。
俺たちは無事隣街に到着した。

車屋「ほい到着」

くぅこ「恩にきるでごじゃる。お代でごじゃるよ」

車屋「はいよ!確かに頂いたぜ」

車屋「つっても兄ちゃんの方は…」

男「ぐぅ…ぐぅ…」

くぅこ「すまぬでごじゃるよ。今起こすでごじゃる」

くぅこ「主殿ー!」
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:02:07.33 ID:X2lDrYW00
車屋「あ、嬢ちゃん」

くぅこ「ふぇ?」

車屋「ぶっちゃけ…その、兄ちゃんと嬢ちゃんの関係って…なんなんだい…?」

くぅこ「くく…ただの主従でごじゃるよ」

車屋「そーかい」
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:02:34.38 ID:X2lDrYW00
車屋(…某にはそうは見えんがな)

くぅこ「あーるーじーどーのー!」

男「んー…あと五分…むにゃー…」

車屋(さながら新婚夫婦といったところか)
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:03:35.60 ID:X2lDrYW00
………………………………

しらこ「男殿、よくきてくれたね」

シエン「あっしもお待ちしておりました」

男「久しぶりだな。しらこ様」

しらこの屋敷に上がるのは二度目だ。
前回散々俺を拒んだ門番が二つ返事で通してくれたのには何だか笑ってしまいそうになった。

今回はアンウェルカムではなくウェルカムというわけだ。
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:04:19.30 ID:X2lDrYW00
しらこ「もう『様』なんかいらないよ。貴方は特別だ」

男「お、おう」

男(まあわざわざ名指しで呼ばれるほどだから特別ってのは分かるけど…前との扱いの差でちと背中がむずがゆいな…)

しらこ「遠出で疲れたろう?ひとまず料理人にあなた方二人の朝飯も作らせておいたんだ。共に箸を取ろうじゃないか」

くぅこ「有難いでごじゃるな。お言葉に甘えてご一緒させていただくでごじゃるよ」

しらこ「くぅこ殿は食いっぷりがよいと聞いている。おかわりも遠慮しなくていいよ」

くぅこ「はにゃっ!?い、一体どこでそんなことを…」

くぅこが目尻で俺を睨む。

男「え…いや!俺は何も言ってないぞ!」
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:05:27.05 ID:X2lDrYW00
しらこ「いやぁ、実はくぅこ殿に詳しい人物から貴方のことをいろいろ聞いてね」

くぅこ「む…」

シエン「…しらこ様、あまり喋りすぎると変な誤解と警戒を招きますぞ」

しらこ「いや失礼失礼…安心してくれ。ボクは今回本当に男殿に癒して頂きたいだけなんだ。別にもうあなた方に対して恨みなんてものもないし殺伐とした考えもないよ」

男「だってさ。くぅこ、ここは信じてやろうぜ。あまり協力的じゃないと貰えるもんも貰えなくなっちまうぞ」

くぅこ「…主殿がそう言うなら」
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:06:18.40 ID:X2lDrYW00
少し耳の毛を逆立てたくぅこをおさめると丁度使用人の方々だと思われる女の人たちが朝食を乗せたお盆を部屋に運んできた。

しらこ「きたぞ。ボクはこの素晴らしき香りを鼻に入れるとどれだけ寝不足でも目が覚めてしまうんだ」

男(確かに…すっげぇ美味そうな匂いがする)

あの屋敷の料理に負けずとも劣らない…かいでるだけで腹つづみが打てそうだ。

そんな料理を乗せたお盆はとうとう俺の目の前に置かれた。

やはりここでもメインは油揚げなのか、一番最初に目に入ったのは大盛りのご飯の上に盛られた油揚げの卵とじだった。

男(これは、きつね丼か)
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:06:57.19 ID:X2lDrYW00
盆を囲むみなで合掌した後俺はそのどんぶりを手に取った。

そして箸を米に近づけ…

くぅこ「主殿、そのどんぶりを渡して欲しいでごじゃるよ」

ようとしたところを隣にいたくぅこに止められた。

男「どうした?…まさかここでもあーんして欲しいとか…」

くぅこ「…せっしゃのどんぶりと交換するだけでごじゃるよ」

俺の渾身のボケも虚しく、くぅこは真顔でそれをあしらうと俺のどんぶりと自らのどんぶりを取り替えた。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:07:42.25 ID:X2lDrYW00
くぅこ「いいでごじゃるか?せっしゃがこれを口にしてなんとも無かったら主殿も食べ始めるでごじゃるよ」

男(なるほど毒味というわけだな)

さすがくぅこ用心深い。

くぅこは箸で一口分取ると口の中にそれを入れた。

そしてゆっくりとそれを噛む。

男「…どうだ?大丈夫そうか?」

くぅこ「っ!!!!」

突如くぅこが大きく目を見開いた。
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:08:20.71 ID:X2lDrYW00
男「くぅこ!?」

男(なっ…まさか本当に毒が…)

五秒ほど瞬き一つせず固まったくぅこだったが、その後彼女はいきなり電源が入った機械のようにどんぶりを勢いよくかきこみだした。

くぅこ「はむっ!はむっ!はふっ!」

男(え………?)

そしてあっという間にきつね丼を平らげるとお盆にどんぶりをドンと置き、さっきまでの俺にやっと聞こえるか程度の小声とは真逆の大声で言った。

くぅこ「主殿!早く食べるでごじゃるよ!!」
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:08:52.32 ID:X2lDrYW00
男「は…?いや…さっきくぅこが待てって言ったんじゃ…」

くぅこ「何をしているでごじゃるか!?冷めてしまうでごじゃるよ!このまま冷めてしまうならせっしゃが…」

男「あー分かった分かったから」

俺のどんぶりに向かって伸びた彼女の手をはらうと俺は再びどんぶりを手に取り今度こそ最初の一口を味わった。
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:09:57.05 ID:X2lDrYW00
男「ぬぅ…!?」

たかが油揚げの卵とじ…
されどあなどることなかれ…

世に美味い卵かけご飯が存在した。
世に美味いいなり寿司が存在した。

ならばだ、それらの美味い二つの食べものが合わさったかのようなこの食べ物…

美味くないわけがないのである。

気がつけば俺は箸で米をかき込んでいた。
美味たるダシを吸った油揚げを奥歯でかみしめていた。
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:10:26.63 ID:X2lDrYW00
突然のあつあつご飯の波にに口の中は熱くも幸せの悲鳴をあげた。

喉が詰まった。
それでも箸はこの美味を求めて動き続けた。

死にかけた。

だがほんの一瞬、ほんの一瞬だが思ってしまった。


男(この味を舌に止めたまま死ねるなら…いっか…)



………………

…………

……
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:11:07.90 ID:X2lDrYW00

男「…んぷはっ!!!!」

男「はぁ…はぁ…はぁ…」

空っぽになった湯飲みをお盆に置いて息を整える。

男(あぶねー…毒なんてなさ過ぎて逆にもう少しで美味すぎる毒に殺されるところだった…)

しらこ「はは…男殿、そんなに急がなくてもきつね丼は逃げたりしないよ」

シエン「はっはっ!主従そろって豪快でございますなぁ!」
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:11:54.42 ID:X2lDrYW00
男「ああ…」

くぅこ「あ、主殿ぉ…」

俺は死にかけた故に落ち着きを取り戻したがどうやら彼女はまだ口の中の天国から戻ってこれていないようだ。

くぅこ「あ、あの店で食べていたきつねうどんはなんだったでごじゃるか…?あれは本当にうどんだったでごじゃるか…?」

くぅこ「いや、もしやその逆。この美味たる小麦粉はうどんではないもっと別の食べものでごじゃるか…?」

男「お、落ち着けくぅこ!俺たちが食べてたのもうどんだしそれもうどんだ!」
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:12:44.52 ID:X2lDrYW00
しらこ「食後には団子も用意してあるよ」

くぅこ「団子!」

しらこ「もし気に入ってもらえたなら明日の朝はもっと多めに作らせるとするよ」

くぅこ「真でごじゃるか!?」

しらこ「嘘なんてついてこちらに得なんてないじゃないか。丁重におもてなしさせてもらうよ。あなた方はお客様なんだからね」

しらこ「どうだい男殿?ここのご飯は魅力的だろう?こっちに来ればいつだってこれが食べられるよ?」

男「あはは…じょーだん」

しらこ「…つれないなぁ。こっちは冗談じゃないんだけど」

男「生憎あっちの飯も翼が生えそうなほど美味くてね」

男「あと…」

くぅこ「もぐもぐ……にゅ?」

男「いいもんが見られるもんで」

しらこ「ふーん…。そうなんだ」
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/05/04(木) 01:14:38.21 ID:X2lDrYW00
なうろうでぃんぐ…

(-ω-)

228 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/05/04(木) 01:53:21.48 ID:51IAu1ZBo
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/05/04(木) 12:54:19.42 ID:WRONO64bo
てんこさんはちょっとグラマラスなお姉さんなイメージ
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/05/04(木) 16:02:29.40 ID:AXI9WlHao
おつ
朝から衣笠丼っていいよな
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/05/11(木) 23:27:54.68 ID:8DLI6akdO
おつ
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/06/07(水) 06:33:05.23 ID:sGhpDxuWO
前作から一気に読んで追いついた
どいつもこいつも可愛過ぎるだろ
続き期待してる
233 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2017/06/12(月) 23:38:39.38 ID:RxFqSWQK0
……………………………

しらこ「くぁ…そろそろお昼寝の時間だ」

しらこ「それじゃあ男殿、お願いしていいかな?」

男(来たか)

今からすることは今回俺がここに呼ばれた理由…

俺は用意された座布団に腰掛けて胡座をかいた。

男「ん、いつでもいいぞ」
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 23:39:25.57 ID:RxFqSWQK0
しらこ「よいしょ……っと」

男「座り心地はいかがかね。わざわざ呼んだかいはあったかい」

しらこ「それを言うのは早すぎるよ男殿。これで終わりではないだろう?」

しらこ「さぁ、ボクのことを撫でておくれよ」

しらこは首だけ上に向けてはやくしてくれと俺を急かした。

男「…もう愚弄してるとか言わないのか?」

しらこ「まさか」

男「ほいよ。じゃっ、失礼しますよっと」
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 23:44:41.69 ID:RxFqSWQK0
しらこの頭に手を置き、彼の白い狐耳の裏をかくようにして撫でる。

しらこ「んぁ…いぃ…そーだよ…これが欲しかったんだ…」

しらこ「この世のものとは思えない、この安らぎがさ」

男「…ありがたいお言葉だよ」
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 23:45:20.02 ID:RxFqSWQK0
欲しいものがあったら、人はそれを手に入れようとするわけだ。

だがそれらを自分の欲望を満たす段階まで取り入れるには入手難易度というものが常に付きまとう。

単純な値段の高さもそれにあたるが…
それが高いものはどんなに欲しくても諦めてしまいがちとなる。

しらこにとって俺はそういう『手に入れようとするには少し面倒』な存在だと思う。

なんせ土地の一部を釣り餌に使ったんだ。
相当だろう。

しかし彼は俺を諦めずに、そうまでしてこの一時だけのためだけに俺をここに連れてきた。

……そう考えるとなんだか嬉しくなった。
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 23:45:56.58 ID:RxFqSWQK0
尻尾の付け根から上へじわじわと撫で上げると彼は歳に似合わないその小さな背中をブルッと震わせた。

しらこ「んっ……」

しらこ「あの、さ…ボクはどういうわけかいつまでたっても童の容姿のままなんだ。そのことに少し劣等感を抱いていてね」

しらこ「同性のよしみだ。わかるだろう?」

男「…まぁ」

男(気にしてたのか)

妖狐姫と同じく彼の堂々とした領地主としての佇まいを見ているとそんな気はまったく感じられなかったのだが…
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 23:47:58.17 ID:RxFqSWQK0
しらこ「でもさ、こうして男殿の上で丸くなっていると……なんでかな、不思議とこんな小さな身体でも良かったって思えるんだ」

しらこ「落ち着くんだ。これはボクが人並みに成長していたら得られなかった悦びだと思う」

しらこ「出来過ぎてるとは思わないかい?これじゃあまるでボクは貴方の上に座るためにこんな身体なんじゃないかって思っちゃうよ」

男「なんとなく分かるよ。その気持ち」

多分、妖狐姫も彼のこの話をまともに耳にいれてくれさえすれば共感くらいはしてくれるのではないだろうか。
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 23:56:19.93 ID:RxFqSWQK0
しらこ「そうだろう?そうだろう?」

そこまではずっと俺の方を向きながら話したしらこだったが、急に首を戻して低い声になった。

しらこ「……それでも貴方は、明日にはここを出て行ってしまうのだろう?」

男にしては長すぎる彼の前髪が、彼の顔に深い影を作った。
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 23:57:10.00 ID:RxFqSWQK0
男「はぁ」

男「分かってるなら口に出さない方がいいぞ」

男(おかしいな)

俺は、だ。
今膝椅子に乗るこの方の頼みでここに来ていて、仮にもこの方を満面の笑みで満たすためにここに来たのに…

なんでこの方の

しらこ「…っ」

瞳を潤わせてしまっているのだろう。
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 23:58:03.28 ID:RxFqSWQK0
しらこ「ふぁあ…しつれぃ。心地よさにだらしなくあくびをもらしてしまったよ」

しらこは俺にバレないようにか露骨なあくびの演技をしてからくしくしと目をこすった。

男「明日のことなんか考えなくていいって」

しらこ「あっ…」

俺は彼の目を片手で目隠しするように覆った。

男「今はさ、そんな顔せずに気持ちいいって顔のまま眠って欲しいかな」
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 23:59:08.31 ID:RxFqSWQK0
しらこ(…分かっていた。貴方は簡単にはボクのものになんかなったりしない)

しらこ(でも、ボクもまた欲しいものはどんな汚い手を使ってでも手に入れようとする奴だってこと、貴方も知ってるだろう?)

しらこ(だからさ、先に言っておくよ)

しらこ「…すまないね。男殿」

男「ん?」

しらこ「あー……」

しらこ「……『ありがとう』って意味さ」

しらこ「おやすみ、男殿」

男「ああ。おやすみ」

しらこはそう言うと数分もしない内に寝息を立て始めた。
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 23:59:42.62 ID:RxFqSWQK0
もたれたままだとずるずるとずれ落ちてしまうので時折彼を深く抱きよせる。

彼の寝顔を上からのぞき込むとその童顔も相まって、一時彼を敵の類として認識していた自分が信じられなくなった。

しらこ「ん、すぅ…しゅ…」

なんと言っていいのだろうか、そのくらい今の彼は

可憐で

平たく言うと俺の目には……

男「かわ、いい……?」

と、映った。
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:00:37.88 ID:hjjuyDpX0
「まさかそちらの趣味にも目覚めてしまったでごじゃるか?」

この屋敷にいても領地主の部屋の天井からは同じ声が聞けるとは……

さすがだ。

男「妬いてんのー?」

上を向いて姿の見えない家来に適当に言葉を投げる。

「あ、主殿が男好きになってしまってはあちらの屋敷の後継者が望めぬでごじゃるからな。少し心配になっただけでごじゃるよっ」

しらこ「ぬ〜……」

「ほら、あまりそこで喋っているとしらこ様が起きてしまわれるでごじゃるよ」

男「へーへー」
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:01:59.37 ID:hjjuyDpX0
男(しらこ…)

しらこ「にゅ…しゅー、しゅー…」

男(お前のそんな顔見たら、俺はもうお前のこと嫌な奴だったなんて思えなくなっちまったよ)

……………………………………

『……それでも貴方は、明日にはここを出て行ってしまうのだろう?』

……………………………………

男「そうだな」

男(でもお前がそんなにも俺を気に入ってくれているのならもしかして俺たち、友達くらいには親しくなれんじゃないか)

いや、さすがに領地主様と友人にだなんて……



(少しおこがましいかな)




246 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:02:42.95 ID:hjjuyDpX0
しらこは夕飯の時間になるまで俺の膝の上で眠った。

夕飯には朝よりも豪華な肉料理などがたくさんならんだ。

最初はくぅこがまた警戒していたがどうやらそのような心配はする必要がなかったようで、夕飯も特に薬品などを盛られることはなかった。
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:03:19.36 ID:hjjuyDpX0
シエン「男殿!」

夕飯を済ませた後シエンさんに修行を手伝うように頼まれたのだが……

男「あ、すみません……今回はあくまでしらこの頼みということなので……はは」

断っておいた。

筋骨隆々のシエンさんはどう見ても俺よりも体重がありそうだったので支えられる自信がなかった。

シエン「……そうでしたな。失礼」

俺に背を向けたシエンさんにはいつもの覇気がなく、しょんぼりと肩を落としているようにも見えた。


……ちょっと悪いことした、かも?
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:03:51.37 ID:hjjuyDpX0
………………………………

素人でも分かるほどの超高級布団から身体を起こした朝、俺とくぅこは早々に出て行く支度を済ませ、しらこたちと二度目の朝食を囲んだ。

しらこの言う通り昨日よりも多めに出された団子をくぅこはもはや無警戒で頬張っていた。

男「さて、帰るか」

くぅこ「おいとまするでごじゃるよ」

今から帰れば夕方前には隣町に着くだろうか。
帰ったら妖狐姫がすがりついてくるに違いない。
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:06:32.11 ID:hjjuyDpX0
男(そうしたらいつもの百倍か)

一体何をすればいいのやら……

かくいう俺も少し妖狐姫が恋しくなってきた。

男(一日離れていただけなのにな)

俺も相当彼女に毒されている。
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:07:19.44 ID:hjjuyDpX0
シエン「お気をつけて」

男「はい」

屋敷の門の前、しらことシエンさんはそこまで俺を見送りに来てくれたがしらこは一言も喋りそうになかった。
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:08:19.02 ID:hjjuyDpX0
男「しらこ」

おこがましいかもしれないけど、伝えたい。

男「俺と」

くぅこ「主殿……?」

男(友達に……)

男(あ、れ?)

急に、声がうまく出せなくなった。
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:09:14.58 ID:hjjuyDpX0
足元がふらつく。

視界が、暗くなっていく。

男(しら、こ)

意識が途切れる前に最後に見えたしらこの口の動きを見て俺は……

すま……

あの謝罪の本当の意味を理解した。

……いね


「男殿」


253 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:09:54.32 ID:hjjuyDpX0
くぅこ「主殿!?主殿!」

しらこ「おっと。これは大変だ」

くぅこ「止まるでごじゃる!」

シエン「くぅこ殿」

しらこ「シエン動くな」

シエン「…はっ」

門番「貴様ぁ!しらこ様から離れろ!」

しらこ「門番もだ」

門番「ぐっ」
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:10:39.27 ID:hjjuyDpX0
しらこ「短刀なんて、そんな物騒なものを首に近づけたら危ないじゃないか」

しらこ「……くぅこ殿、これは一体どういうつもりだい?」

くぅこ「それはこちらの台詞でごじゃるよ。主殿に、何をしたでごじゃるか」

しらこ「疑い深いなぁ。さすがだね」

しらこ「まぁもう隠すのも無理かな。……少し眠ってもらっただけだよ」

しらこ「ボクのモノにするために、ね」
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:11:29.45 ID:hjjuyDpX0
くぅこ「っ!……覚悟するでごじゃる!!」

しらこ「シエン」

シエン「はぁっ!」

くぅこ「なっ!!」

くぅこ(み、見えなかったでごじゃる…)

くぅこ(一瞬で…手元の短刀を弾かれたでごじゃるか!?)

しらこ「門番、男殿を部屋へ連れて行け」

門番「はっ!」

くぅこ「待つでごじゃる!」
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:12:16.99 ID:hjjuyDpX0
しらこ「シエン、くぅこ殿を頼んだよ」

くぅこ「くっ!」

シエン「徳の外した道だということはあっしもしらこ様も覚悟の上。くぅこ殿、相手をしてもらおうぞ」

くぅこ「どうなっても知らぬでごじゃるよ」

シエン「そなたの実力を知らぬわけではないが……それは闇夜を土俵とした話」

シエン「朝焼けの中の一対一。このシエン、たかだか少女に屈する気はない」

くぅこ「せっしゃの前で主殿に手を出したこと……後悔してもらうでごじゃるよ」
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:12:50.51 ID:hjjuyDpX0
………………………………

男「……んぅっ」

目覚めると俺は布団の上で寝かされていた。

見上げた天井は昨日くぅこと喋った時と同じ木目をしていた。

障子からうっすら差す日光はどう見ても朝のものではない。

昼まで眠っていたということだろうか。

男(とりあえず生きてた)

盛られた薬は毒ではなかったようだ。
ひとまず胸をなで下ろす。
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:13:49.72 ID:hjjuyDpX0
しらこ「起きたかい。男殿」

男「しらこ、これはどういうことなんだ」

しらこ「どういうことも何も、分かるだろう?」

しらこ「んっ……」

白毛の美少年は微笑むと俺の掛け布団の上にうつ伏せにもたれかかった。

しらこ「今日から貴方はボクの座椅子ってわけ」
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:14:24.96 ID:hjjuyDpX0
男(ヤ、ヤンデレって奴?)

男「あのさ、こんなことしたって無駄だって分かってるだろ?すぐ近くにはくぅこだっているし……」

しらこ「ふふん」

男(あれ?)

くぅこの気配を近くに感じない。
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:15:42.99 ID:hjjuyDpX0
男「お、おい!くぅこを何処にやった!」

しらこ「くぅこ殿が心配かい?」

男「しらこてめぇ!くぅこに一体何を……」

布団から身体を一気に起こしてしらこに掴みかかろうとしたとき、いつの間にか背中に立っていたシエンさんに服の背を引かれた。

男「うわっ」

シエン「落ち着き願おう」

261 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:16:36.60 ID:hjjuyDpX0
服を掴んで覇気を漂わせる彼の顔を見上げるとまだ付いてから新しいと思われる刃物による切り傷が見えた。

男(もしかしてシエンさんはくぅこと闘ったのか?)

くぅこは強い、だがしらこの筆頭護衛で場数も彼女より圧倒的と見える彼ならば彼女を軽くあしらうことも造作もないことなのかもしれない。
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:17:30.92 ID:hjjuyDpX0
男「……くぅこは生きてる、のか?」

心臓が落ち着かない。
この最悪の気分は二度目だ。

男(頼むっ!生きててくれ!)
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:18:20.04 ID:hjjuyDpX0
しらこ「男殿が自らボクの座椅子になってくれるって言うならくぅこ殿の無事は保証するよ」

男「くっ!」

もちろん、そんなこと認めるわけにもいかないし認めたくもない。

あの屋敷のために、妖狐姫のために。

今どこにいるかも分からないくぅこを助けたいという気持ちも山々だが、ここでやすやすとこの取引に応じてしまうことは彼女も望まないだろう。
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:19:10.90 ID:hjjuyDpX0
男(どうする)

まだ、希望がないというわけではない。

いくらシエンさんがくぅこより強いといっても彼女もまたシエンさん以外ならこの屋敷の誰にも負けないだろう。

今シエンさんがここにいるということは、彼女は何処かで縄にでも縛られて放置されているのだろうが、彼女よりも強い見張りがいないとなればくぅこは必ずここに来てくれるはずだ。
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:20:11.20 ID:hjjuyDpX0
しらこ「まだ殺しはしないけど、まぁ彼女が再びここにくるのは不可能だろうね」

男「うちの家来を随分とコケにしてくれるじゃねーの。……痛い目見るぞ」

しらこ「とっておきの見張りをつけておいたんだ」

男「とっておきの、見張り……?」

男(くぅこより強い奴ってことか?)

馬鹿な

ぬかせ、そんな奴この街にポンポンいるわけがない。
俺を殺しに来た連中ですら瞬殺だったんだぞ!?
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:21:26.52 ID:hjjuyDpX0
男「はっ……」

男(……いや)

もう一人、知っている。
確実にくぅこより強い奴。

………………………………


『馬鹿な男よ…某でなければそのまま貫いていたぞ』



『いやぁ、実はくぅこ殿に詳しい人物から貴方のことをいろいろ聞いてね』


………………………………



気がついた瞬間、全身から血の気が引いていくのを感じた。


267 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:22:07.70 ID:hjjuyDpX0
男(どうすれば、いいんだ……俺は……)

しらこ「貴方も知っている男さ」









268 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/13(火) 00:22:46.52 ID:hjjuyDpX0






「ヤオ、だよ」




269 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2017/06/13(火) 00:24:02.61 ID:hjjuyDpX0
なうろうでぃんぐ…

(-ω-)
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/06/13(火) 00:25:36.65 ID:ZYOwSfXCo
( ・,_ノ・ )y━・~~~乙
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/06/13(火) 02:45:35.08 ID:vddsyUtA0
ホモは勘弁
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/06/13(火) 10:09:53.57 ID:D1W7OjwCO
このままだとしらこルートはなさそうだが、上手くまとめてくれるならそれもまたよし。
ホモとショタは別、分かるね?
273 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2017/06/22(木) 06:08:32.13 ID:jCAv+IA40
…………………………

くぅこ「うぅ、ぐっ……」

くぅこ「はわっ!?ここは……」

くぅこ「ふぇ?車の座台でごじゃるか?」

車屋「お?嬢ちゃんおはよーさん。……つってももう昼間だがね」

くぅこ「はっ!」

くぅこ(主殿!)

くぅこ(思い出したでごじゃる!せっしゃはシエン殿に敗れて気絶してしまっていたでごじゃるよ)

くぅこ(出来るだけ遠くへ追い払うようにせっしゃを車屋に乗せたでごじゃるな。こんなところで伸びている暇はないでごじゃる)
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:09:13.39 ID:jCAv+IA40
くぅこ「車屋殿、この車は何処へ向かっているでごじゃるか?」

車屋「嬢ちゃんは隣町から来ただろ?隣町へ帰るんじゃねーのかい?」

くぅこ「事情が変わったでごじゃるよ!今すぐ反対方向の屋敷へ戻って欲しいでごじゃる!」

車屋「……それはできねーよ嬢ちゃん」

くぅこ「そこを何とか!」

くぅこ(こうなれば仕方なし。無理矢理にでも降りて戻るでごじゃる!)
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:09:49.26 ID:jCAv+IA40
くぅこ「失礼するでごじゃるよ」

車屋「……嬢ちゃん」

くぅこ「む!?」

くぅこ(せっしゃが腕を掴まれた!?)

車屋「もう一度いうぜ?それはできねーんだ」

くぅこ「……只者ではないでごじゃるな」

車屋「まだ気づかないのか?くぅこ……あの男に甘やかされてまた少し弱くなったか」

くぅこ「なっ……!?」

くぅこ(これは……変化の煙っ!?)
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:10:26.03 ID:jCAv+IA40
ヤオ「いやはや、妹弟子に見破られるような変化をしているようではそれこそ某が脆弱か」

くぅこ「ヤオ殿もしらこ様の手先でごじゃるか?」

ヤオ「何度もあの男の関係で振り回されるのは少々しゃくに障るがこれも仕事でな」

くぅこ「ならヤオ殿を振り払ってでも戻るまででごじゃる」

ヤオ「一度某に殺されかけた貴様がか?……笑わせる」
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:10:55.91 ID:jCAv+IA40
ヤオ「いいだろう。一度だけこの手を解いてやる。構えろ、くぅこ」

くぅこ「っ!」

ヤオ「今のところ殺せとの依頼は受けていない。あくまであの男が折れるまで貴様を人質にとることを続行するだけだ」

ヤオ「すなわち某は貴様を殺しはしない。だが、貴様は某を殺めるつもりで来い……そうでなければ」

くぅこ「参るでごじゃるよ」

ヤオ「ここは通れんぞ」
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:11:27.05 ID:jCAv+IA40
……………………………………

せっしゃとヤオ殿は同じ師のもとで育った兄妹弟子だった。

実の親の顔は覚えていない。
生きているのかすら分からない。
このくぅこの名すら、誰が名付け親なのやら……

物心ついたときには忍者である師匠様に拾われていて、その師匠様について行くことが生きる術だったせっしゃが忍道を志すことは必然だった。
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:11:57.50 ID:jCAv+IA40
師匠「ほっほ…まだまだ粗いがついにくぅこも変化の術を使えるようになったのう」

くぅこ「ししょーさまぁ。せっしゃすごい?すごいでごじゃるか?」

師匠「ほっほ。すごいすごい。くぅこは筋がいい…これは天才かもしれんのう」

くぅこ「えへへ〜」

ヤオ「っ……」

くぅこ「あにじゃ〜!」

ヤオ「ふん……」

くぅこ「…あにじゃ?」

師匠「ほっほ。ヤオのやつめ。ワシがくぅこばかり褒めるからさては嫉妬じゃな」

くぅこ「ふ〜ん」

ヤオ殿……あにじゃはそれをあまり良しとしなかったようだったが……。
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:12:38.05 ID:jCAv+IA40
…………………………

師匠「さてさて。そろそろ焼けたころじゃな」

くぅこ「美味そうでごじゃるよ〜!」

くぅこ「はむっ!むしゃむしゃ…もぐもぐ」

師匠「ほっほ。よい食いっぷりじゃが、喉を詰まらせることのないようにの」

くぅこ「ごっほ!ごほっ!」

師匠「……おそかったようじゃの」

ヤオ「くぅこ」

くぅこ「んっ…。ごくっごくっ……ぷはっ」

くぅこ「かたじけにゃいでごじゃる」

師匠「くぅこや、食事は命を繋ぐものじゃ。そのような行為で命を落とすほど馬鹿馬鹿しいこともないぞ?落ち着いていただくのじゃ」

くぅこ「ししょーさまの焼いたものは全部美味でごじゃるゆえ……てへ……」
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:13:21.02 ID:jCAv+IA40
ヤオ「はぁ」

くぅこ「もぐもぐ……もうなくなってしまったでごじゃるよ」

師匠「ほっほ。まぁその早食いもまた、何処ぞやで役に立つかもしれの」

くぅこ「あにじゃはまだ一口しか食べてないでごじゃるか?」

ヤオ「……それがどうした」

くぅこ「と、特にどうこうというわけではないでごじゃるが」
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:13:47.27 ID:jCAv+IA40
ヤオ「そうか。はむっ」

くぅこ「……じー」

ヤオ「……欲しいのか」

くぅこ「じゅる」

ヤオ「……やる」

くぅこ「まことでごじゃるか!?」

師匠「これくぅこ」

ヤオ「……いい。少食も修行の一環だ」

くぅこ「はむっ!はむっ!」

くぅこ「えへへ〜。かたじけないでごじゃるよ〜」

ヤオ「……ふっ」

それは、せっしゃが主に精神面で忍道とは程遠い存在だったからであった。
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:14:44.80 ID:jCAv+IA40
…………………………

だがあにじゃはそんなせっしゃを完全否定することなく受け入れてくれようとしていた。

ヤオ「くぅこ、貴様は忍者を目指すことを諦めたほうがいい」

くぅこ「え」

忍の道から離そうとする形で……

今思うとそれはあにじゃからせっしゃへの大きな優しさだった。

くぅこ「……っ!!」

しかし当時のせっしゃにはそんなあにじゃの気持ちが理解しきれなかった。
それどころか物心ついたときから定められた道だと信じて歩んできた志を否定されたことへの怒りの念すら湧いてきた。
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:15:21.85 ID:jCAv+IA40
このとき、せっしゃに本当になんの才も無ければそれも良しとできたかもしれないが

皮肉にもせっしゃは師匠様の言う通り戦闘面の才能だけはあったようで、それが更にあにじゃの言っている言葉を理解できない障害物となった。

せっしゃは力を認めてもらおうと新しい術を習得する度にあにじゃへ組手を挑んだ。

ヤオ「ふん!」

くぅこ「ひあぁ!」

……勝てたことは、一度もなかった。
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:15:55.47 ID:jCAv+IA40
結局、一矢も報いることのない内にあにじゃは師匠様のもとを離れて行ってしまった。

悔しかった。

そこからはできるだけ我を切り捨て、あにじゃの目指していたであろう理想の忍者像だけを追って修行を続け、ときは流れてせっしゃは姫様に仕える身となった。
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:16:39.19 ID:jCAv+IA40
…………………………

その結果何時しかせっしゃは

盗賊「ひっ!わ、悪かった!別に姫様にどうこうしようってつもりはなかったんだ!ただ金目の物が欲しくてっ!だから、い、命だけは……!」

くぅこ「……さらばでごじゃる」

盗賊「ギャッ!」

盗賊「ぐ、ぇっ……」

闇夜にて屋敷に仇なす者の首を掻く、それが存在の全てとも言える冷酷な狐となった。

…………………………

くぅこ「しょ…しょの…やはり汚れ仕事をしている身に魅力はないということでごじゃろうか…」

男「そんなことないって。くぅこは可愛いよ」



あの日までは……。





287 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:17:18.29 ID:jCAv+IA40
………………………………

その後、せっしゃがあにじゃの言っていた言葉の真意を完全に理解できたのはあにじゃに命を奪われかけたときだった。

ヤオ「…だから忍者を志すことをやめ、抜け忍となることを勧めたというのに」

ヤオ「だが某が見てきた貴様の中で、今貴様は最も少女らしい顔をしている」

ヤオ「普通の街娘としてこの世に生を受けたなら…もう少し幸せに死ねたかもしれんな」

ヤオ「許せ…我が親愛なる妹弟子よっ!」


(ああ)


あにじゃは、心の底からせっしゃを愛してくれていたのだ。
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:17:44.31 ID:jCAv+IA40
だから、いつか来るかもしれなかったこの敵対する瞬間を、兄妹弟子同士で殺しあう瞬間を、必死に避けようとしてくれていたのだ。

己の信じる私情に揺さぶられない忍者になりきるために。


『えへへ〜。かたじけないでごじゃるよ〜』


妹弟子の笑顔を、失わないために。


289 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:18:25.02 ID:jCAv+IA40
……………………………………

くぅこ「はぁ…!はぁ…!」

ヤオ「その程度か」

くぅこ(まだ、一矢報いるには程遠いでごじゃるか……?)

短刀、手裏剣、クナイ、針、あらゆる刃物と武装を彼を傷つけるために振るうもそれらは全て受け流すだけのために振るわれた彼のクナイによって弾かれた。

妖術には妖術でかわされ、武器を使用しない純粋な体術に至っては組み伏せられるのが目に見えているので挑もうとすら思えない。
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:19:04.44 ID:jCAv+IA40
ヤオ「やはり、あの男に甘やかされてさらに弱体化したと見える」

くぅこ「主殿は関係ないでごじゃる!」

そう、例えせっしゃがあの血を血で洗う冷酷な狐のまま戦い続けていたとしても彼に一矢報いることができたか。

答えは恐らく否だ。

なぜなら彼と同じ道を歩んだところでせっしゃの目の前に広がるのは彼がさらに伸ばした道だからだ。

何処かで違う道、彼とは違うやり口、彼が知らない戦術を身につけないことにはこの圧倒的な実力差は縮まることをしらないだろう。
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:19:30.57 ID:jCAv+IA40
ならやはり今己が彼に見せるべきは……

くぅこ(主殿と共に寄り添うことで手に入れた力)

それしかない。

それでしか勝利は掴めないし、主殿を助けることは叶わない。
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:20:07.98 ID:jCAv+IA40
くぅこ(主殿……)

ヤオ「は……?」

せっしゃは両手に持ったクナイと短刀を地面に捨て、続いて胸内にしまっていた手裏剣、地下足袋に隠していた針すら放り出した。

くぅこ(この術を主殿以外に使用することを許して欲しいでごじゃるよ)

そしてゆらゆらと無防備に

ヤオ「どうした……戦意を消失し自暴自棄となったか」

ヤオ殿に近づいて行く。
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:21:06.77 ID:jCAv+IA40
ヤオ(妙だ。そのまま近づいてどうするつもりだ?まだ試していない純粋な肉弾戦を挑む気か?しかしそれでは武器を捨てる理由にはならない。口の中に針でも仕込んでいるのか)

ヤオ(浅はかなり。……千里眼の術)

殺意も戦意も、完全に捨てきるのは容易だった。

彼は自分を家族のように想い、親しくしてくれた相手だったから。

ヤオ(馬鹿な……手裏剣もクナイも針も見えない。それどころか殺意すら感じられない。だからといって逃げようという気も感じられない)

ヤオ(くぅこ貴様……)

ヤオ「一体何を企んでいる?」
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:22:08.35 ID:jCAv+IA40
くぅこ「……じゃ」

ついにヤオ殿の目と鼻の先まで近づき、彼の胸元に顔を埋めるようにして抱きついた。

抱きつかれて一瞬身構えたヤオ殿だったが、自らを抱く腕の力の弱さからすぐに構えを解いた。

ヤオ「どうした……」

くぅこ「あにじゃ……」

ヤオ「なっ!?」

ヤオ(どうして今になってその呼び名を……!!)

ヤオ「やめろっ!!」

(その呼び名はっ!!)

くぅこ「あにじゃ……?」

(某を忍道から遠ざけるっ!!)
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:22:47.08 ID:jCAv+IA40
ヤオ「……今すぐ離れろ。さもなければ刺し殺す」

くぅこ「別に突き放すことくらい造作もないことのはずでごじゃるよ」

ヤオ「……離れろと言っている」

少し上を向いて

尻尾を左右に振る。

くぅこ「何故でごじゃるか?」

耳は立てずに力を抜いて

前に体重をかけるようにもたれかかる。

ヤオ(なんだその顔は……)

ヤオ(一体何処で覚えた……そんな……)

くぅこ「許してほしいでごじゃるよ」

ヤオ(オスに媚びた顔を……!!)
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:23:31.99 ID:jCAv+IA40
くぅこ「ここを、通して欲しいでごじゃる」

ヤオ「そんな直球な願いを某が情けで聞くとでも?」

くぅこ「思っているでごじゃる」

くぅこ「あにじゃ……だから……」

くぅこ「せっしゃに優しかった……あにじゃだから……」

ヤオ「っ〜〜!!」

ヤオ「……馬鹿な奴め」
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:24:08.97 ID:jCAv+IA40
くぅこ「恩にきるでごじゃるよっ」

ヤオ「それ以上ひっつくな!!」

ヤオ「……興が冷めた。次はない」

くぅこ「二度あることは三度あると主殿が言っていたでごじゃるよ」

せっしゃはヤオ殿から離れると彼の真横を歩いて通り過ぎた。

主殿の囚われた屋敷の方向へ。
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:24:44.69 ID:jCAv+IA40
ヤオ「待て」

ヤオ「……乗っていけ。連れて行ってやろう」

くぅこ「くくっ。あにじゃもその優しさは変わらぬでごじゃるな」

ヤオ「黙れ。手遅れになりたいか」

くぅこ「ときにあにじゃ、奥さんがいるというのは本当でごじゃるか?変化を見破れなかったのはそれが信じられなかったのもあるでごじゃるよ」

ヤオ「……あんなもの作り話に決まっている」

くぅこ「何故わざわざそんな話を……」

ヤオ「あの男の声が耳障りだったからだ」

くぅこ「え」

ヤオ「……ごほん。行くぞ」

299 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:25:35.79 ID:jCAv+IA40
………………………………

しらこ「ずっとだんまりだね男殿」

シエン「これ以上悪人面をするのは心の臓が痛みいるが……早く観念した方がくぅこ殿の身のためにもなりますぞ」

男(そう、だよな……)

男(それに俺が戻ってこないとなれば妖狐姫が黙っていないだろう)

きっと、てんこさんを連れて俺を連れ戻しに来てくれるに違いない。

もともと妖狐姫はこうなることを予測して俺を引き止め続けてくれたんだ。これだけには賭けたくなかったが……

男(くぅこの命には変えられない)

男(ごめん!妖狐姫!)

男「ああ、そうだな」

しらこ「ふふっ、やっとボクの座椅子になってくれるんだね」
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:26:08.01 ID:jCAv+IA40
男「わかっ……」

男「っ!!」

そのとき確かに感じ取った。

天井裏の、いつもの気配を。
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 06:26:47.68 ID:jCAv+IA40
しらこ「どうしたんだい?」

男「いやまだだ。折れないぞ俺は」

男(分かるぞくぅこ)

今天井から降りて俺を連れ去ろうにもシエンさんとの衝突は避けられない。

明るい中真っ向でのタイマンではシエンさんに勝つことはできない。
それを彼女は知っている。

彼女には隙が必要なんだ。
シエンさんの不意をつけるだけの隙が。
192.06 KB Speed:0.1   VIP Service SS速報R 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)