都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13

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354 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/06/15(土) 20:59:29.51 ID:WijZcjeN0
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」スレ、10周年おめでとうございます


「組織」

A-No.   花子
B-No.   ギザ十
C-No.   花子
D-No.   花子
E-No.   八尺様
F-No.   ハーメルン
G-No.   花子
H-No.   花子
I-No.   バール
J-No.   彷徨うみさき
K-No.   はないちもんめ
L-No.   闇子
M-No.   バール、次世代ーズ
N-No.   犬神憑き
O-No.   占い師と少女
P-No.   次世代ーズ
Q-No.   ハンバーグ
R-No.   シャドーマン
S-No.   花子
T-No.   T
U-No.   彷徨うみさき
V-No.   バール
W-No.   魔法の銃弾
X-No.   花子
Y-No.   やる気ない
Z-No.   三面鏡
β-No.   シャドーマン
Δ-No.   DKG
ο-No.   プラモデル
π-No.   三面鏡
φ-No.   DKG
χ-No.   シャドーマン
Ω-No.   DKG
о-No.   鳥居
х-No.   シャドーマン
Я-No.   シャドーマン
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/16(火) 22:42:30.76 ID:ph3DDB2To
 
「はい!やって参りました!『サキュバスラジオ』第1回目の放送でっす!」
「パーソナリティはアタシ、しがないサキュバスが務めまーす」
「いや普段はこんなテンション高くないの!日のある内は弱いんだけど夜になると強くなるのだ!」
「というわけで今夜はガンガンやっていくぞ!」

「えーさて、このラジオはなんと今回が初放送なんです…が!」
「なんとなんと、始まる前からお便りが既に2通も届いてるわけなんですよ!」
「これはもう読むしかないでしょ!アタシすごく嬉しい!今までこんなにはしゃいだ事多分生まれて初めてかも!」

「じゃあ記念すべき1通目、読みますよ?読むからね?」
「しかも結構長いんだよね、これは気合入るね!」
「えー…っと、ラジオネーム『ハンバーグ大好き』さんからのお便りです」

「『こんにちは、ぼくは小学生です』 おお、小学生の男の子から!
 小さい子からのお便りですよ!!小さい子がこのラジオの事知ってるってのは嬉しいね!」

「えーっと、
 『親が共働きなので家に帰るといつも一人です
  ぼくはマンションに住んでますがとなりの部屋にはきれいなお姉さんがいます』
 …あー分かりましたよ、もう分かりました!ハンバーグ大好きくんはお姉さんの事が好きなんだね?
 それでこのお便りは恋愛相談ってわけね!アタシはそういうの得意だからね!任せといて!」

「で、続きは、と…
 『いつもお姉さんがご飯を作ってくれるので、ぼくはお姉さんのお家で夕ご飯を食べます
  お姉さんのお家はくさいです。何のにおいかお姉さんに聞いたらビールのにおいだよと教えてくれました
  でもお父さんもビールを飲みますがこんなにくさくないです』
 Oh…これは、小学生ならではの…無邪気な一言が乙女心をキズつけるやつですよ!
 ハンバーグ大好きくん!仮にお姉さんの事が臭かったとしても、本人にそれを言っちゃ駄目だからね!傷ついちゃうから!」

「『お姉さんは恋人をぼしゅう中だそうです。でもお姉さんは料理は出来てもそうじが出来ないし家の中がくさいです
  お姉さんは夜のお仕事をしているのでよく見るとお肌も荒れています。この前はあんまり見ないでって言われました
  ある日、お姉さんが実は私はサキュバスなんだよって教えてくれました』
 おっ!急になんか、サキュバスラジオっぽくなってきたね!お姉さんのカミングアウト!
 これはもしかして、ハンバーグ大好きくんの事を信頼できる人間だって、お姉さんは思ったのかな?
 普通はね、人間社会に潜り込んで生活してるサキュバスは自分がサキュバスですって言ったりしないからね
 住んでる環境とかにもよるけど、相当信頼できるこの人になら全部バレても大丈夫だって思える人にじゃないと、打ち明けないものだし
 でも小学生に打ち明けちゃうサキュバス…、これは不思議っちゃあ不思議だけどな……
 あとねー、臭いとかお肌が荒れてるとか、女の人に軽々しく言っちゃ駄目だからね!将来大人になった時に女の子に嫌われちゃうぞ?
 お姉さんに直接言うんだったら、『たまには掃除した方がいいと思う』とか、『掃除の出来るお姉さんは素敵だと思う』とか
 言い方をよく考えてから伝えようね!アタシとの約束だよ?
 それで、ええと、続きは…
 『ぼくはサキュバスだからくさいんじゃないかって思いました』
 関係ないよそれ!?サキュバスは臭くないよ!!むしろいい匂いするんだぞ!!なんでそんな酷い事言うの!?
 もう!ちょっとハンバーグ大好きくんはデリカシーが足りなさ過ぎ!お母さんにさ、『女の人にデリカシーが無いって言われた』って言って!
 女の子に言っちゃいけない事をね、お母さんに教えてもらいなさい!!
 君の事、クラスの女子から嫌われてんじゃないかって本気で心配になってきちゃうよ…」

 
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/16(火) 22:52:31.02 ID:ph3DDB2To
 
「『お仕事中にかっこいい男の人が何人も来るそうですが、お姉さんはあまり相手にされなくてさみしいそうです
  最近、お姉さんはぼくを見ながら、もう年下の男の子でもいいから早くおよめに行きたいわって言います』
 あ……これ良くないやつだ。状況が生々しすぎる…。こっちの心にもきそう…。このお姉さんはいっぱい傷ついてるね…
 それで余裕が無くなっちゃってるんだ…。あのね、ハンバーグ大好きくん、そのお姉さんの事はそっとしてあげて?
 多分自分でもよくない状況だって分かってるはずだから、多分……。お姉さんがサキュバスならいつか必ず乗り越えるはずだから
 うん、そう信じたい…
 それで続きは…
 『でも料理が出来てもそうじが出来ないし、お肌も荒れてるし、くさい人はけっこんできないと思います
  このお姉さんはけっこんできると思いますか? おしえてください』
 余計なお世話ッ!!ハンバーグ大好きくん!?そういう事、お姉さんには聞いてないよね!?
 駄目だからね!?そういうの一番メンタル抉るやつだからね!!あとお姉さんにはもっと優しくしてあげて!!可哀想だよ!!」

「はー!もう!君はね、お母さんから『デリカシー』って言葉の意味をしっかり習っておくべきだとアタシは思うな!
 サキュバスとか関係なくね、女の子の心ってのは強い部分もあるけど弱い部分もあるものなの
 女の子には臭いとか、結婚できないとか、そういう言葉を使っちゃ駄目なんだよ?
 人を傷つけるような事ばっかり考える大人にはなって欲しくないからね?いい?『デ・リ・カ・シー』!大事だからね!」

「1回目からすごく説教臭くなっちゃった…。あ待って、まだ続きがある
 『あと、ぼくがご飯食べてる時にくさいストッキングをぬいでポイする人は[ピーーー]ばいいと思います』
 アウト!!なんで[ピーーー]ばいいとか言うの!!それ一番使っちゃ駄目なやつ!!サキュバスだって一生懸命生きてるんだぞ!!
 確かにだよ!?ご飯中にストッキングを脱いじゃうのはマナー違反じゃないかなって思うけど!!
 他人に軽々しく[ピーーー]とか言っちゃ駄目!!」

「アタシは…、ハンバーグ大好きくんの将来が本気で心配です…
 お父さんお母さんがこのラジオ聞いてたら、今度家族会議した方がいいですよ、絶対
 あとお隣のサキュバスさんにも優しくしてあげてください。彼女は愛に飢えてるだけなんです。多分…」

「1回目からテンションが下がってしまった…
 ええい!無理矢理上げていくからね!気を取り直して2通目のお便りいきます!」

「ええと、ラジオネーム…せ…『聖教会付き特殊部隊≪アビゲイル≫隊員コードネーム≪パウラ≫』
 な…長いですねー…。これ、読んじゃって大丈夫なやつかな…?」

「じゃ、じゃあ読みます…
 『はじめまして。初めてご相談させて頂きます
  単刀直入にお伺いしますが、≪サキュバス≫の弱点と効率的な討伐方法を若輩者の私にご教授頂けますでしょうか
  同族だからこそ知りうる情報を公開して頂けますと幸いです』 …待ってなにこれ
 ちょっと…なに、これ
 これ、ヤバイやつだよね?い、言っておくけどアタシ知らないからね?ていうか知ってたとしても教えるわけないでしょ!!
 『組織』に所属してるようなサキュバスとは違うんだよ!?アタシらみたいなのは戦闘力ゼロだからね!?
 戦えないサキュバスだって結構いるんだよ!?アタシも平和思想の持ち主だし!!なんで討伐するの!?やめて!!
 人間社会で生活してる大多数のサキュバスは省エネ生活送ってるから!清く慎ましい生活してるから!
 男をいきなり襲うみたいな犯罪みたいな事しないから!たまにやらかして警察か『組織』のお世話になるのもいるけど!!
 ていうかこのお便り、『同族』って書いてるよね!?えっなに?アタシがサキュバスだって知ってるって事!?
 もしかして目を付けられんの!?えっ嘘、えっ!?ヤバイやつじゃんこれ!?えっ?逃げなきゃ…!!」

「と、というわけで、『サキュバスラジオ』はこれで終了です!次回未定!さよなら!!」                    【終】
 
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/16(火) 22:58:32.82 ID:ph3DDB2To
令和になってから本スレがめがっさ重いが何があった…

ところでこのサキュバスは一体何を食って生きているのであろうか
 
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/18(木) 22:38:37.64 ID:E63e9bwco
これサキュバスさんしっかり食べるもの食べたら臭いと肌は大丈夫になるのにワンチャンあるんじゃ・・・
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/26(金) 10:25:08.45 ID:nXVRtAp30
そういや穏健派に所属の(Y-bニは言ってない)サキュバスって何食って生きてるんだ?
人間襲うのをある程度許容してんのかね?
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/12/18(金) 22:53:06.93 ID:pese5reF0
てすと
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/17(木) 19:32:28.96 ID:xh4d1uj30
亀だが次世代イベ大体読み終わった
残留思念の契約者とサイコメトリーの黒服が協力すれば狐の居所を特定できたのでは?と一瞬思ったが
お互いの発動条件と発動範囲が明確じゃないし無理ゲーかもな・・・
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/24(木) 06:45:08.72 ID:oLSu3Cx6o
一度触れちゃうとどう展開して決着したのか気になるもんですね
363 :単発:チームワークの勝利だ! [sage]:2021/12/22(水) 23:53:12.64 ID:Z6E8RoIW0

 これは、都市伝説と戦うために都市伝説と契約した能力者達の物語である。



 高速併走型と呼ばれる都市伝説は、実に種類が豊富である。
 一番の有名どころは、「ダッシュ婆」「ターボおばあちゃん」等と呼ばれる、人間とは思えぬスピードで追いかけてくる老婆の都市伝説だろう。
 高速老婆系だけでも、たとえばバスケットボールをドリブルしながら車やバイクに並走しボールを叩きつけててくる「ドリブル婆」。たとえば棺桶を担ぎながら並走した車やバイクの運転手を捕まえて棺桶に入れて火葬場に運ぶ「棺桶婆」。
 老婆以外でも、「高速でハイハイをする赤ちゃん」「ミサイル跨る女子高生」「スキップする少女」などなど。ご当地限定の存在もあげていけばキリがないほどだ。
 そんな高速系都市伝説の一体、「ホッピングばあちゃん」は苛立ちを隠すことなくそこをはね飛び回っていた。
「えぇい……うるさいんだよ、さっきから!」
 ホッピング……取手と足場の付いた棒の底面がばねで弾むようになっており、それに乗ってバランスを取りながら高く飛び跳ねて遊ぶ玩具でもって、「ホッピングばあちゃん」は地面にヒビを入れながら跳ね飛び続ける。
 がんっ、がんっ、がんっ、と、ホッピングが地面に着地し、飛び立つたびに地面にヒビが入る。貧相な老婆の見た目であるとはいえ、都市伝説である「ホッピングばあちゃん」が全体重をかけてフライングホッピングアタックをしたならば、その一撃を食らった者はただではすまない。
 聞こえ続ける耳障りな音を止めるべく、「ホッピングばあちゃん」は殺意をみなぎらせ続ける。
 ーーぱっぱらぱー!ぱらぱっぱっぱっぱー!!!!
 耳障りな音の正体は、トランペットだ。真夜中だというのに近所迷惑確定の大音量。それがずっと、鳴り響き続けている。
 ぱっぱらぱー!ぱらっぱっぱっぱっぱっぱー!!!!!
 いつもの夜のように道路を走る獲物を追いかけようとしていた「ホッピングばあちゃん」の耳に届いたその音は、「ホッピングばあちゃん」の背後から鳴り響き、そして「ホッピングばあちゃん」を追い越していった。
 なんという事であろう。「ホッピングばあちゃん」を追い越していったバイク、それを運転している者の後ろに、トランペットを構えた少年が座っていたのだ。
 危なっかしくも運転している者に背を向けた状態で座って、ぱっぱかぱっぱか、トランペットを吹き鳴らしているのだ。演奏はめちゃくちゃで、うるさいったらありゃしない。
 そもそも、トランペットにしてはなんだか音がおかしい。まるでラッパみたいにけたたましく鳴り響き続けているのだ。
 耳障りで、耳障りで、今宵の獲物はあれにしようと決めて追いかけているのだが。先ほどから全く追いつくことができない。
 追いかけっこの時間が続けば続きほど、「ホッピングばあちゃん」は苛立ち殺気立ち、冷静な判断ができなくなってきていた。
 ただただ、ただただ、トランペットのやかましい音を止めるために跳ね飛び続け。気づくことができなかった。

 己が、誘いだされていた事に。

 勢いよく、「ホッピングばっちゃん」はマンホールに着地した。その瞬間、びしり、とマンホールに大きくヒビが入り、砕ける。
 だからと言って、「ホッピングばあちゃん」がそこに落下していくことはない。マンホールが砕けるのと、「ホッピングばあちゃん」が跳び上がるのはほぼ同時だからだ。
 ただ。
「え」
 砕けたマンホールの下から。白い、白い……アルビノのように真白で、血のように赤い瞳のワニが飛び出してくることを「ホッピングばあちゃん」は予想しきれてはおらず。
 そして、その真白いワニは、まるでアメリカのパニック映画にでも出てきそうなモンスター級の……とてもじゃないが、その小さなマンホールから飛び出してくるには無理があるほどの巨体を誇っていて。
 ばくんっ、と。
 「ホッピングばあちゃん」は、一口であっさりと、全身のみ込まれて。
 ばきり、べきり、ぼきり、と。よく咀嚼して飲み込まれる音は、トランペットのやかましい音でかき消された。


「よく誘い出してくれたねー。助かった助かった。私の「下水道の白いワニ」は、下水道が主なテリトリーだからマンホールから長く飛び出すことできなくってさー」
 よーしよしよしよしよしよしよし、と己が契約している「下水道の白いワニ」を撫でてやりながら女はそう言った。
 バイクを運転していた男は深々とため息をつきながら、疲れ切った眼差しでもって自身が契約している「トランペット小僧」と共に女をにらむ。
「だからって、囮作戦はきつい」
 ぱーぺー。
 「トランペット小僧」も、契約者の男の言葉に賛同するようにトランペットを鳴らした。
 「下水道の白いワニ」の契約者は「ごっめーん☆」と反省度合いの薄い返答を返す。
「「首無しライダー」や「ゴーストライダー」とバイク勝負できるあなたなら、「ホッピングばあちゃん」相手でも大丈夫だと思って」
「後ろに「トランペット小僧」乗せた状態だときついんだよ!今回こそは死ぬかと思ったわ!!」
 ぱぱぱー。
 抗議の声もトランペットの音も「下水道の白いワニ」の契約者は華麗に聞き流す。
「だって、あなた達の能力っていつでもどこでもトランペットを出現させて演奏する、ってだけでしょ」
「水の上を歩くこともできるわ。「トランペット小僧」が出現するのは、池の真ん中の水面だからな」
 ぱっぱー。
「せいぜいそれくらいでしょう。なら、一番できる事はトランペットの音量を生かしての囮。あなた達が誘い出して私が倒す。最高のチームワーク!」
「こっちの負担があまりにも大きすぎる」
 ぱぱー。
「気にしない気にしない。ま、これからもよろしくねー」
 あまりにも反省度合いがない「下水道の白いワニ」の契約者。
 その様子に、「トランペット小僧」の契約者は静かに、「トランペット小僧」へとGOサインを出す。
「耳元大音量。GO」
 ぱぱぱぱーぱぱぱぱぱぱぱ!ぱぱぱぱっぱぱっぱぱーぱぱぱー!!!!!!!
「グワーッ!?耳元大音量グワーッ!!??」
 耳元で盛大にトランペットを吹き鳴らされ、悶絶する「下水道の白いワニ」の契約者。
 そんな契約者を「下水道の白いワニ」は助けるでもなく、トランペットの音から逃れるように明らかにサイズ的に入れるはずのない下水道への入口へと身を滑らせ、吸い込まれて行くかのように下水土井へと姿を消した。


 後日。
「しばらく夢の中でもトランペットの音が聞こえ続けて寝不足」
 と、「下水道の白いワニ」の契約者は語ったそうだが。
 どう考えても、自業自得なのである。



364 :単発:腕のいいマッサージ師 [sage]:2021/12/23(木) 00:54:01.25 ID:WH4aLp1m0

 これは、都市伝説と契約しているが特に戦う事はない者の物語である。


 酷く肩がこっていた。
 いや、肩どころではない。全身がばっきばきのばっきばき。首、否、頭のてっぺんから足のつま先まで全身疲れ切って凝り固まっている。
 日々、ブラック企業で社畜として働く彼女の肉体とストレスは臨界点を突破してそろそろ壊れる寸前だった。
「知ってる?〇〇温泉にさ、腕のいいマッサージ師の人がいるんだよ。予約とってやったから温泉でゆっくりしてそのマッサージ師さんに身も心も癒してもらってきなさい。知ってた?「この会社、死体が出勤してる」って噂流れてるんだけど。その噂の原因、どう見てもあんただから。顔色が化粧で誤魔化せないレベルで死人色だから」
 同僚からそんな風に言われ、上司に「休ませてくれないとここで死ぬ!!!!!!」と自分の喉にナイフつきつけながら上司を脅して有休をもぎ取り。
 温泉で寝落ちして溺れて死ぬという事故を奇跡的に回避し、彼女は今、マッサージ台の上でうつぶせになっていた。
「あぁー……」
 と、マッサージ師の男性は彼女の背中に触れると同時、苦笑するような声を出す。
 マッサージ開始前の問診して、「日々10時間のパソコン業務。朝から晩までトイレの回数まで制限されてパソコンの前に拘束されている」事や、そのせいで全身凝り固まっているはずだという事を伝えたうえでのこの反応だ。
 凝り固まっている、のだと思うのだ。いや、もうその感覚すら当たり前のものになっているので断言はできないのだが。
 どうやら、マッサージ師の反応を見るに実際に凝っていたらしい。良かった。大袈裟だと思われたらどうしようかと不安だった。
「確かに、すごい事になっていますね……ここまでのお客様はめったにいらっしゃいません」
 わぁなんだか褒められたぞやったー。
 背中をさすられてその段階でなんだかぽかぽかと気持ちよく、頭がふわふわしていて頭の悪い言葉が浮かぶ。
 たださすっているだけではなく、背中に触れることで凝り具合などを確認してくれているようなのだが。正直、すでに気持ちがいい。なるほどここが天国か。
「ちょっと、本気でいかせていただきます。あぁ、緊張なさらず、リラックスしてくださいね。マッサージは、緊張していますと効果が半減しますから」
 はぁい、と自分でも間が抜けていると思う声を出す。
 緊張なんてしていない、最初はマッサージ師が若い青年だった上にアイドルも真っ青なレベルのくっっっっっっっっっっっそイケメンだった為に緊張していたが、青年の声は聴いているだけでもなんだか安心して気が抜ける声質で。触れてくる手もいやらしさや下心0のもので安心できる。
 それでははじめますね、と優しく声をかけながらマッサージ師は施術を開始する。まずは精神のリラックス度合いについていけないレベルで、まるで外骨格に覆われているかのような固さを誇っていた肩甲骨周りを中心に優しく撫でさすられていく。
 ただ撫でさするだけではなく、程よく手のひら全体に力を入れて、指で揉むようなピンポイントではなく手のひらによる面で刺激を与えてくれている。
 あ゛ぁ゛あ゛ーーーー、等と温泉に入った時にも出してしまった、だらしないおっさんのような声がまた上がってしまう。
 イケメン相手にこんな声を聞かれるという羞恥心は死んだ、もういない。
 押し揉まれ、ほぐされ、体はどんどんぐっでんぐっでんになっていく。
「座り仕事と言う事で、お尻からもキてるでしょうから。こちらもほぐしていきますね」
 ばっちこーい、と思いながらはぁいと返事をする。これはマッサージなのでお尻に触れられても問題ない。実際、お尻もばっきばきだったらしく、えっちな気分には一切ならずお゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー、とまただらしない声が漏れる気持ちよさだった。そうか、お尻も凝るのか。
 途中、なんだか指が体の中に入ってきたような気もしたが気のせいだろう。あまりの気持ちよさにそんな錯覚を引き起こす……そんな錯覚を感じるほどに心地いいのだ。
 寝そう。いや、だが寝てはいけない。勿体ない。
 指が体の中にずぶんっ、と入り込んで、何かしら抜き取られたような気がしたが気のせいだろう。すーー、っとその辺りが楽になっていっている事から察するに、凝りがほぐされる感覚のようだ。
 寝そうだけど勿体ない。あぁ、でも眠たい……。
 そのうち彼女は睡魔に敗北し、すやすやと眠りに落ちてしまっていた。
365 :単発:腕のいいマッサージ師 [sage]:2021/12/23(木) 00:54:53.45 ID:WH4aLp1m0

 にゅぽんっ。ずるずる。にゅぽぽぽんっ。
 死体かな?と錯覚するほどに冷たい体(温泉に入った後のはずなのにこれは相当ヤバイ)の客の体から、マッサージ師はそれを引きずり出す。
 肩甲骨周りに、腰回りに、尻に、太ももに。指を文字通り沈みこませて引きずりだす。
 引きずり出されたそれは、黒くぼやけていてはっきりと姿を視認する事は出来ない。引きずり出すと抵抗するようにじたばたと暴れる。
 暴れるそれを、マッサージ師は構うことなく傍らに用意していた袋にぽんぽんと放り込んでいた。袋の中にはもうずいぶんとそれがたまっていて、袋はうごうごと蠢いている。
 マッサージ師は、それを「業」と呼んでいた。疲労にストレスを始めとした負の精神が混ざり合い凝り固まった物。勤め人にはどうしても体に蓄積されてしまう「業」。
 「温泉街の按摩さん」と呼ばれる都市伝説と契約しているこのマッサージ師は、語られるその都市伝説に出てくる按摩さんと同様に人間の肉体に蓄積された「業」を抜き取る事ができた。
 最も、これは契約したマッサージ師当人のマッサージの腕がいいからでもある。この都市伝説は、マッサージの腕前までは与えてくれない。マッサージの腕前自体はマッサージ師が日々勉強し努力して会得したもの。熟練のマッサージの腕前あってこそ「温泉街の按摩さん」の能力は発動し、客を癒すことができるのだ。
 ……それにしても、本当、疲れ切っているお客さんだ。問診での会話等から察するにブラック企業で日々肉体と精神をすり減らしているのだろう。もはや、自身の状況から脱しようとする思考すら働かなくなっているに違いない。
 抜き取っても抜き取っても、「業」が出てくる出てくる。久々の大豊作だ。
 マッサージ師は知っている。人間の「業」は限りなく甘美であると。「温泉街の按摩さん」と契約して以降、「業」の味の虜となったマッサージ師にとってこの客はまさに最高のお客様だった。
 我慢しきれず、抜き取りたての「業」を一つ、口の中に放り込んで味わう。
 あぁ、あぁ、あぁ、なんてすばらしく甘美な味か!!!
 この調子で、お客様の「業」を全て抜き取って見せよう。マッサージの腕前がいいと評判が広がれば、この「業」をもっともっと、味わい続けることができるのだから……!


 マッサージ前半で寝落ちてしまった勿体なさに膝から崩れ落ちはしたが。彼女は生まれ変わった気分だった。
 視界が明るい。思考が限りなくクリアである。晴れ晴れしい、おろしたてのパンツを履いたかのような爽快感。
「よし、明日から頑張るぞ!」
 証拠は山のようにある。張り切っていこうじゃないか。
 労基へと会社を訴える決意を固めながら、彼女は帰路へとついた。




366 :単発:永遠の子供 [sage]:2021/12/23(木) 22:01:59.67 ID:WH4aLp1m0

 これは、都市伝説と戦うために都市伝説と契約した能力者に後に倒されるであろう者の物語である。


 お父さんの顔は覚えていない。と、言うより、多分、見たこともないのだと思う。
 少なくとも、ぼくが覚えている範囲では家にお父さんの姿は一度もなかった。
 お母さんは、ある日から家に帰ってこなくなった。どこに行ってしまったのか、生きているのか死んでいるのかさえ、わからない。
 お母さんが帰ってこなくなって、ぼくはおなかがすいた。家にあった物をなんとか食べていったけれど、そのうち食べられる物は何もなくなった。
 あぁ、このまま死んじゃうのかな、と、ぼんやりと思っていた時。目の前に、きらきらと輝くものが飛んできた。
『はじめまして!私はティンカーベル!』
 キラキラと輝くそれは、まるでお人形のように小さくて、背中から透明な羽根を生やした女の子。
 ティンカーベルと名乗った彼女はぼくの周りをきらきらと飛び回りながら。
『やっと見つけたわ、私のピーター!』
 感極まった声でぼくを「ピーター」と呼んで、そうして。
『さぁ、私と契約して!また一緒に遊びましょう、私のピーター!』
 ぼくに、契約を持ちかけてきた。

 契約して、ぼくは思い出した。
 ぼくはピーター。ピーターパン。迷子になった赤ん坊が永遠に歳を取らなくなった、永遠の子供。
 妖精のティンカーベルと共にネバーランドで暮らしていて、親とはぐれた子供をネバーランドに導く存在。
 すべてを思い出したぼくは、ティンカーベルの魔法の粉の力を借りて、窓から外を飛び出して夜空へと飛び立った。

 思い出したからには、ぼくには使命と言うものがある。
 だって、ぼくは「ピーターパン」なのだ。親とはぐれた子供達をネバーランドへと案内する役目がある。
 ぼくは世界中飛び回って、そういう子供を見つけては保護して回った。そのうち、親とはぐれた子供だけじゃなく、親にいじめられている子供も集めていった。
 だって、ぼくは「ピーターパン」。子供たちを守るのはぼくの役目、ぼくの使命。
 ネバーランドは子供のための、子供だけの島。永遠に子供だけがいる世界。
 この島を守るのだって、ぼくの大事な大事な使命なんだ。


「ぇ、あ……ピーター…………なんで……?」

 そう、ここは子供の島!

「っひ、や、やめ、そんな、どうして……っ!?」

 ここは「子供だけ」の島!

「なんで、なんで、そんな……そんなのって……」

 そう、だから。

「勝手に連れてきて!大人になりそうになったら、こんな…………身勝手じゃないか、この……」

 この島には、「大人」はいちゃいけない、

「この、殺人鬼が!!!」


 持ち上げた大人を、高い空から叩き落とした。
 何か言っていたようだけど無視する。だって、大人はみんな嘘つきだから。話を聞くだけ時間の無駄だ。
 おかしいな、なんでだろう。
 このネバーランドは子供の島なのに。いつの間にか、連れてきた子供がいなくなって代わりに大人がいる。
 なんでだろう、おかしいな。
 これは、きっと、誰かの陰謀に違いない。
 世界中飛び回って知ったところによると、世界には「組織」「アメリカ政府の陰謀論」「薔薇十字団」「メンバー」「MI6」「第三帝国」「占い愛好会」「首塚」「怪奇同盟」「教会」「レジスタンス」などなど、他にも代償色々と悪い大人達の集団がいるらしい。
 きっと、子供たちがいなくなるのは、そいつらの陰謀だ!
 ぼくは「ピーターパン」。永遠の子供。子供達をネバーランドに導いて、悪い大人から守護する者。
 そんな悪い大人たちの陰謀になんて、負けるもんか。
 何度、この島に大人が現れたって、ぼくが全部やっつけてやるんだ!!



 子供は何も知らない、わからない、気づかない。
 子供は「ピーターパン」と言う「永遠の子供」になって、大人になる機会を永遠に失ってしまって、何も理解できない、わからない。
 ただただ、自分は正しいとうぬぼれて、自分は子供たちのヒーローなのだとうぬぼれて、大人達を殺し続ける。
 それがどれだけ親しくした相手であっても、大人になれば容赦なく、残酷に殺してけたけたと笑う。

 子供は何も知らない、わからない、気づかない、理解しない。
 そう遠くない未来、とうとう誰かに退治されるその瞬間までも。
 己の咎に気づけることは、ない。



367 :単発:真夜中の決闘と言う悪夢 [sage]:2021/12/24(金) 00:44:18.52 ID:v3CHZFiY0

 これは、都市伝説と戦うためではないが契約している能力者と契約している都市伝説と、とある都市伝説の戦いの物語である。


 深夜、街中の空を飛び回るモノがいた。
 一見するとコウモリに見えるそれは、しかし、明らかにコウモリとは違うモノだった。
 一つ、それは単眼であり。一つ、それは人間より小柄な小人くらいの大きさで。一つ、何よりも。

 それの股間には、あまりにも、あまりにも、ご立派なブツがぶらりぶらん、とぶら下がっていた。

 こんなコウモリ、自然界には存在していないだろう。むしろしていてほしくない。主に股間のブツが。
 エレクチオン状態でもないというのにあまりにもご立派すぎる。小柄な体躯にあまりにも似合わない、不相応すぎるブツ。
 風に揺られてぶらんぶららん、股間のブツを揺らしながらそれは夜空を飛び回り、家々の窓を覗き獲物を探す。
 とは言え、カーテンを閉めている家も多い為にまともに中を覗けない家も多いのだが。
 ……見つけた。
 不用心にも、開け放たれたままのカーテン。部屋の中にはベッドに入って眠っている青年一人。
 それは獲物を見つけた喜びで、空中でくるりと一回転した。
 ばさり、青年が眠るその家まで近づいていく。
 流石に、窓には鍵がかかっているのだが。それにとってそんなものは障害にはならない。
 それの体は、窓の手前で煙へと変化して。するりと細い細い、目に見えない程の細い隙間を通って部屋の中へと侵入した。
 まるで硫黄のような匂いを纏いながらも、それは単眼のコウモリのような姿へと戻る。ぶるんっ、と、その拍子に股間のブツが揺れた。

 現実逃避としてそれの名称をまだ記していなかったが、いい加減、現実に向き合うとしよう。
 それは、「ポポバワ」と呼ばれる、アフリカ東部にある某国の某島にて目撃されたUMAの一種である。
 外見特徴については股間のブツに関する記述を除けば大体前述したとおりである。
 ……いや、もしかしたら、股間のブツについても大体正しい記述かもしれない。
 何故ならばこのUMAには、深夜に民家に入り込みその家の男を大きな股間のブツで犯すという話が伝わっているからだ。
 伝わる話の通りであれば、股間のブツの大きさも人々の噂に伝えられている通りで間違っていないのだろう。

 まぁとにかく、そういうUMAなのである。UMAも都市伝説の一種。都市伝説の性として、「ポポバワ」は言い伝えられている通りに行動する。
 すなわち、今、眠っている青年へと襲い掛かろうと、ゆっくり、近づいていく。
 青年は眠り続けており、まさに絶体絶命のピンチ。

 だが。
 そこに、救いの神が現れた!!

「ヘーイ青年!今日こそワタシとDOKIDOKI☆ブルーフィルムタイムでーす!」

 勢いよく扉を開け放ち、この発言をかましたのは欧米人と思わしきナイスな筋肉質な肉体を誇る男性だった。
 もしかしなくとも、救いの神ではなく不審者2号だった。
 突然の闖入者に驚いたのか、「ポポバワ」はギギギッ、と不気味な鳴き声をあげて青年から離れる。

「むむ、まさか、ワタシの愛しい人の元にフラチな不審都市伝説!……良いでしょう」

 ばっ、と、筋肉質な男性は服を脱ぎ捨てる。
 鍛えられた筋肉がよりわかりやすくあらわになり、そして、その体躯にふさわしいブツがぶるんばるんと揺れる。

「この「エイズ・サム」!愛しい人のタメに不審都市伝説を追い払いマース!」

 ギギギギギギギッ!!!!
 「ポポバワ」も、やっと見つけた獲物を奪われたくなかったのだろう。
 戦闘態勢をとった「エイズ・サム」に対して激しく威嚇のポーズをとる。
 互いの股間のご立派様は、戦いの興奮によってエレクチオン。あまりにも凶悪なエクスカリバーと化していた。


 かくて、真夜中の決闘が開始された。
 こんなあまりにもひど過ぎる決闘が繰り広げられているにも関わらず、「エイズ・サム」の契約者の青年はすやすやと幸せな夢を見続けていて。
 このあまりにもひど過ぎる決闘について知るのは、翌朝、ダブルノックダウン状態で倒れていた二体を発見しての事だったという。



368 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/12/26(日) 14:28:05.48 ID:qznTdO4Mo
乙です

ホッピングばあちゃんや首無しライダー、ゴーストライダーから逃げられるトランペット小僧の契約者なかなかの逸材では?

マッサージ、俺も是非お世話になりたいのですが、このイケメンマッサージ師にはどこで出逢えるのでしょうか!?

ネバーランド勢……黒幕はティンカーベルでしょうか……やはり妖精は悪……っ

最期の絵面の汚さがやばいwwwwwwwwwwww

久々に楽しめました!
369 :年末単発祭り:デリカシーは投げ捨てて [sage]:2021/12/26(日) 23:28:49.17 ID:AmuOz4zK0

 これは、都市伝説と戦うために都市伝説と契約した能力者達が、一つ、戦いを終えた後の物語である。


「はぁ……っ」
 目の前で力尽き、消えていく刃物を持った「トイレの花子さん」を油断なく見つめながら、彼女はがっくりと膝をついた。
 激しい戦闘で、体中ボロボロだ。そもそも、彼女の契約都市伝説は、そこまで戦闘向きの都市伝説ではないのだ。
 それでもこうして相手を撃破できたのは、彼女の実力故か。
「契約者様、しっかり!」
 おろおろと、そんな彼女を気遣うのは、彼女の契約都市伝説である「カマキリ男爵」。身なりのいい服装をした人間より少し大きいくらいのカマキリの姿をしたナイスミドルである。
 「カマキリ男爵」との契約によって彼女が得た力は、ピアノの才能と腕をカマキリに変える能力。カマキリの腕のままでもピアノを弾けるという謎の力もある。
 とにかく、腕をカマキリの腕に変えて、それで戦闘を行っていたのだ。互いに互いを切り裂き合った結果、生き残った彼女はそれでもボロボロだった。
 体中、切り傷まみれ。幸い、傷の一つ一つは深くない為出血はそこまででもないのだが、じくじくと全身が傷む。
「私は平気…………それより、あいつは……あっちは、どうなったんだろ……」
 「カマキリ男爵」にそう答えながら、彼女はクラスメイトが戦っているはずの廊下の向こう側へと視線を向けた。
 「トイレの花子さん」との戦闘を開始した彼女に、横殴りするように襲い掛かってきた「紫ババア」。クラスメイトは、その「紫ババア」の相手を買って出てくれたのだ。
 一対二の状況は流石に厳しかったのでありがたい、が。
「……あいつ、契約都市伝説、戦闘向きじゃないって言ってたのに」
 具体的にどんな都市伝説と契約しているのかまではまだ聞けていなかったが、直接、戦闘に使えるようなものではないと聞いていた。
 それなのに、彼女を助けようと「紫ババア」の相手を、買って出てくれた。
「助けに、いかないと……」
「け、契約者様。しかし、そのお怪我では……!」
 よろめきながらも、彼女は立ち上がろうとする。
 助けないと、助けないと。
 互いに都市伝説契約者であると判明してから、積極的に交流するようになった彼。他人に対する扱いはぞんざいなようでいて、なんだかんだ都市伝説絡みで相談にも乗ってくれた彼を死なせる訳にはいかないのだ。
 なんとか、彼女が立ち上がったところで……人影が、見えた。
「あ、そっちも終わってたか」
「……!無事、だったんだね」
 彼だ。服がボロボロになっていて血が滲んで見えるが、こちらよりずっと余裕そうだった。
 少しだけ、ほっとする。
「振り切れたの?」
「いや、殴り倒した」
「なぐりたおした」
 思わずオウム返ししてしまった。都市伝説って殴り倒せるものだっけ。それとも彼がちょっと逸脱人なんだろうか。
「怪我は……?」
「舐めたから治った。そっちは…………かなり切られたな。手当するよ」
 大丈夫、と答えようとして……先程の彼のセリフが、少し引っかかった。
 舐めたから治った?
 疑問を浮かべた次の瞬間、彼の顔が近づいてきて。

 ぺろり、と、頬を舐められた。

「おぎゃっはぁああああああああああああああああああああああああ!!!!????」
「なんだ今の悲鳴」
「契約者様。乙女としてその悲鳴はどうかと」
 彼と「カマキリ男爵」からダブルでツッコミが飛んできたがそれどころではない。
 むしろ、ツッコミたいのはこちらの方だ。
「い、いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい、今、何をっ!?」
「舐めた」
 即答された。
 いや、舐めたって、突然、何をしてくるのか。
 パニックになりつつ、舐められた頬に触れて、気づいた。
「え……?傷、治って……?」
 その辺りも、切りつけられて血が滲んでいたはずなのに。そこだけ、痛みが消えている。恐る恐る振れれば、切り傷が消滅しているようだった。
「「舐めたら治る」。それが俺の契約都市伝説だ」
「なるほど……できれば、言ってから行動、してほしかったな……!」
 心の準備が必要だ、これは。
 彼も彼だ。なんの躊躇もなく、人の顔を舐めないでほしい。
 いくら恋愛的な意味では意識していないと言っても、クラスでそこそこモテる方である彼にこんな事されたら流石に焦る。
 彼女のそんな心境に、彼は気づいてはいない様子でじっと、彼女の様子を観察していた。
「…………本当、あちこちボロボロだな」
「え」
 とさっ、と。
 優しく、床の上に押し倒される。
「ちょっとじっとしてろ。残りの傷も治す」
「え…………あ、いや、待って、残りの傷も、って」
 彼の契約都市伝説は「舐めたら治る」で。
 そして、私は全身、ズタボロ切傷だらけな訳で。
 それを治す、と言う事は、つまり。
「傷、深くなさそうでよかった。内部まで傷ついてると舐めるの難しいしな。じゃ、まずは腕から」
「いやいやいやいやいや待って待って待って待ってストップ!!!タイム!!!!!いや止まってくれないし!?これくらい大丈夫!大丈夫だかrひゃぁん!!??」
「女の体に変に傷残したくないしな」
「気遣いっ!?でも捨てて!今はその気遣い捨てて!!!ってか、「カマキリ男爵」!ヘルプ!へるぷみーーーーっ!!??」
 あちこち、いやらしさは一切なく舐められ、傷を癒されていく。
 いやらしさはないというのに、その舌遣いにぞくぞくしたものを感じてしまい、思わず契約都市伝説である「カマキリ男爵」に助けを求めるも。
「…………ごゆっくり。どうか、契約者様をしっかり癒してくださいませ」
「あぁ、任せろ。次、太ももな」
「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!????」
 契約者を気遣う「カマキリ男爵」によってGOサインが出てしまい。
 夜の校舎に彼女の悲鳴は盛大に響き渡った。

 そうして、何か大切なものを失いつつも。彼女の体には傷一つ、残されることはなかったのだった。


370 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/12/27(月) 15:24:58.02 ID:rKgmrGVQ0
計測開始
371 :年末単発祭り:バーニングガール [sage]:2021/12/27(月) 15:49:50.73 ID:rKgmrGVQ0

 これは、都市伝説から身を守るために都市伝説と契約する事になった能力者の物語である。


 べちゃ、べちゃ、べちゃ。
 べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ!!
 足音が近づいてくる。べとべとぬちゃぬちゃとした、気持ちの悪い、ぬるぬるとした者の足音が。
 追いかけてくる、追いかけてくる。夜の闇の中、それはずっと、私を追いかけてきている。
 逃げても逃げても、追いかけられる。助けを求めようにも、走り続けて、苦しくて、うまく声が出ない。
 こんな時に限って、誰ともすれ違う事もない。そんなど田舎と言う訳でもないのに、この時間はもう、人があまり外に出歩いていないとでもいうのだろうか。
 ちらり、と、肩越しに少しだけ、改めてその追いかけてくる者の姿を確認する。
 それは、黒い人間の姿をしていた。全身が黒い。黒々としていてぬめぬめしている。どうやら、黒いオイルのようなものが全身を覆っているらしい。そのせいで足音はべちゃべちゃとしていて、黒い油の足跡を地面に残していっている。黒い姿は闇に溶け込むようで、しかし、赤々と光る眼と、その手に持つナイフの刃が月明かりに照らされて光っているせいで完全には溶け込めていなかった。
 私は、それにかれこれ数十分は追いかけられていた。ここまで走り続けられた自分を偉いと思いつつ、そろそろ体力も脚も限界が訪れようとしていた。
 不気味なそれにつかまってしまったら、どうなってしまうかわからない。赤々と光るその目は、私を「獲物」として見ているようにしか見えなかった。
 なんで、どうして。どうして街中に、こんな、化け物が。
 疑問を浮かべたところで答えは出ないし、どうにもならない。足音は、どんどん、どんどんと近づいてきているのだ。
 そして。
「っきゃ……!?」
 とうとう、脚の限界が来た。無様に転び、転がる。そうなってしまえば、立ち上がろうにも立ち上がる事はできなくて。
「ぁ…………」
 黒いオイルまみれのそれが、私を見下ろしてくる。ぽた、ぽたっ、と、落ちてきた黒いオイルが私のコートを汚す。
 手が、伸びてくる、オイルまみれの手が。ナイフが、振り上げられる。月明かりがナイフの光に反射する。
 向けられるのは、害意、悪意。それと、性欲のようなもの。
 このままだと、私、は。

【敵対存在:「オラン・ミニャク」。マレーシア発祥都市伝説が一つ】

 こちらのコートをつかみ取ろうとする手の動きが、振り下ろされようとするナイフの動きが。
 黒いオイルまみれのそれの動きの一つ一つが、やけにスローモーションのように遅く感じて。自分だけ、時間の流れが変わってしまったような錯覚の中、妙な声が聞こえた。

【全身が黒い油まみれのナイフを持った男。女性を暴行する事件が複数回発生済】

 このままだと、私もその被害者の一人になる、と。
 聞こえてくる妙な声によって、認識させられる。

 ……嫌だ。
 嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ!!!
 そんなの、絶対に、嫌だ!!!!!

【契約を実行しますか?】

 その言葉の意味はわからなかった。
 けれど、契約とやらをすればどうになかるのではないか、と。
 何故か、そう思ったから。


「けい、やくを…………実行……する……!!」


 絞りだした声で、叫んで。
 直後、ざわり、自分の中を炎が走り抜けたかのような熱を感じた。
 熱い、と。自分が燃え尽きるのではないかと言う錯覚は、ほんの一瞬。
 その一瞬の直後、私は契約の実行によって何がなされたかを理解し。そして、世界のスピードが元に戻る。
 ナイフが、私に向かって、一気に振り下ろされて。それが私に届くよりも先に、私は、その力を解き放った。

「っぎ、ぃ、ぎゃああああああああああああああああああああっ!!??」
 それの……聞こえてきた声によれば「オラン・ミニャク」とか言う名前らしい存在が、燃え上がる。
 炎は、「オラン・ミニャク」の体を覆いつくしていたオイルに点火し、さらに強く激しく燃え上がる。
「わ、わわわわ……っ」
 燃え移ってはひとたまりもない。
 みっともなくも、地面をはいずって燃え上がり苦しみもだえる「オラン・ミニャク」から離れた。
「おの、れ……!契約者だった、とは…………畜生がぁあああああ!!!!」
 吠え声のような、おたけびのような、断末魔のような。そんな叫び声をあげながら、「オラン・ミニャク」が最後の抵抗と言わんばかりに私に迫る。
 その恐ろしさに、悍ましさに、私はさらにその力を。
 「人体発火現象」……それの、「間の体に含まれる遺伝子の中には発火性のものがあり、それが突然発火する」と言う説に基づいた都市伝説の力をさらに引き出して、「オラン・ミニャク」をさらに燃え上がらせた。
 苦しみの声が聞こえる。油が、人体が焼けていく嫌な臭いが辺りに広がる。
 「オラン・ミニャク」を焼いた炎は、幸いにもか、それとも特殊な炎故他に燃え移る事はないのか。「オラン・ミニャク」だけを燃やし尽くして。
 後には、人の形をした炭と、真っ黒こげになったナイフだけが、残された。
 その残った炭も、風に吹かれてさらさらと崩れて、風に流されて消えていって。
 最後には、座り込んだ私だけが、残された。


 これが、私が「人体発火現象」と契約したきっかけ。
 人を、人の形をした都市伝説だけを燃やし、燃やし尽くす力。
 恐ろしい力だとは思う。
 けれど、それ以上に恐ろしい存在に襲われた時、身を守れるのはこの力しかないのも事実。
「人の形してないのに襲われたらアウトなんだけどなぁ……」
 そういう時は、どうすればいいのやら。
 不安に思いつつも、私はこの力をコントロールする術を学んでいかなければ、と。そう認識する。


 死にたくないなら使いこなせ。殺したくないなら使いこなせ。
 これは、そういう力なのだから。

372 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/12/27(月) 15:51:08.44 ID:rKgmrGVQ0
約25分で書きあがり確認
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/12/27(月) 23:16:08.56 ID:rKgmrGVQ0

 これは、特に契約者を持たない野良都市伝説達の物語である。


 真夜中、とある山奥の車道。車も通る事のないその時間帯に、人影が集まっていた。
 おかしな光景である。こんな時間に、こんな山奥の車道に人が集まっていて。しかも、その大半が老婆なのだ。
 現場に、新たな人影が姿を現す。それもまた、異常だった。それは女子高生。どこからどう見ても、どこにでもいそうな平凡な女子高生。
 ひらり、膝丈のスカートを揺らしながらその女子高生はそこに集まっていた人影の群れへと近づいていく。
「……あ!女子高生のお姉ちゃん!こんばんは!」
「こんばんは、マリちゃん」
 女子高生に、一人の少女が近づく。マリちゃんと呼んだその少女が飛びついてきたのを、女子高生は優しく抱きとめる。
 ……マリちゃんの体は、うっすらと透けていた。まるで、幽霊のように。いや、「幽霊」なのだ。このマリちゃんは。それでも、マリちゃんの方から触れたいと思ってくれればこうして触れられる。体温までは感じられないのが、少しばかり寂しいが。
「皆さん、ごめんなさい。すっかり遅くなっちゃって」
「ひっひっひ、気にするんじゃないよ。あたしらが早すぎただけさ」
「無事、辿り着けたならいいんじゃよ。あんたもマリちゃんも、後でババ達がおやつあげるからね」
 老婆達はけらけらと笑いながら女子高生達にそう言ってみせた。完全に、自分の孫に接するような態度だ。この老婆達に実際に孫が存在するかどうかは謎だが。
 異様な集団は、みな和気あいあいと楽し気に話している。一番多いのは老婆であるが、中には鹿の胴体に老婆の頭部がついた者や牛の頭部をした着物姿の女性等あからさまな異形も存在していた。ある種一番異様なのは赤ん坊か。老婆達にかまってもらってきゃっきゃっと笑っているが、こんな時間にこんな場所にいるのはおかしい、
 また、リヤカーや自転車を整備している様子の人物もいた。真剣に、まるで真剣勝負に赴く直前のような雰囲気だ。

 そう。
 この場に集まった者達はまさに、真剣勝負の為に集まっているのだ。

「すっみませーん!大遅刻ーーーー!!!」
 と、現場に新たな人物が姿を見せた。マリちゃんと同じくらいか、少し年上程度のランドセルを背負った少女だ。
 正直、こんな時間に外を出歩いていたら大人から咎められそうである。それは、女子高生にも言える事だが。
「もう、みんな来ちゃってる?」
「そうだねぇ。そろそろ、始まりの時間だよ」
「整備してる組が整備する時間があったからえぇじゃろよ……あんたは、乗り物の整備はいらんのかえ?」
「私のは、その場で精製するタイプだから平気です」
 わいわいとおしゃべりしつつ、自然と皆横一列に並び始める。真剣勝負の、スタートラインに。
 数人の老婆が、異形の姿をした者達が、リヤカーを装備したおばちゃんが、自転車に乗り込んだ真面目なサラリーマンが、赤ん坊が、少女が、女子高生が。
 スタートラインに、ついた。
「それじゃあ、今年も私がスタートの合図をしますねぇ」
 よぼよぼの、腰の曲がった老婆が競技用ピストルを構える。この老婆もまた、真剣勝負の参加者ではあるが。こうして自ら、スタートの合図をする役目を担っていた。
 それくらいはハンデだ、とでもいうように。
「それでは、用意……!」
 皆が、構えて。
「スタート!」
 ぱぁんっ!と、音が鳴り響くと同時。
 一斉に、皆が駆けだし始めた。

「いっ、けぇええええええええええええええええ!!!!」
 ごぅんっ!!と、轟音と共に女子高生は己の相棒たるミサイルを呼び出した。それにまたがり、一気に加速し頭一つ抜ける。
 「ミサイルにまたがる女子高生」そのものでもある彼女の疾走スタイルはこれだ。
 高速走行型都市伝説によるフリースタイル競争において、ミサイルにまたがるのは違法ではない。
「ふぇふぇふぇ、相変わらず派手だねぇ!」
「でもねぇ、ババ達も簡単には負けないよぉ!!」
 「ターボばあちゃん」「ジェット婆」は、ぐんぐんと加速し、「ミサイルにまたがる女子高生」の後を追いかける。
「ばあさん達には負けんぞい!」
「そうじゃいそうじゃい!知名度では劣るが、スピードではそうそう負けん!」
 「ダッシュ爺ちゃん」「鞠つきじじい」も負けじと並走する。「鞠つきじじい」はその名の通り、鞠をつきながらも恐ろしいスピードで走っていた。
 ぽんぽんぽん、と、鞠をつく音は一つではない。
「み、みんな早い……でも、負けないもん!」
 マリちゃん……「鞠つきマリちゃん」もまた、鞠をつきながら皆へと追いすがる。その足元を、「高速赤ちゃん」がきゃっきゃっと楽しそうにハイハイで爆走してついてきていた。「高速赤ちゃん」は、これが勝負事であるとわかっているかどうか不明であるが。当人が楽しそうなので問題ないのだろう。
「く、速い……!私だって、80kmは出せているはずなのに……!」
 悔し気に「リヤカーおばさん」はそう呟く。少なくとも80km以上のスピードで走れると言われている彼女は、どうにもその語られるスピードに縛られがちだ。都市伝説とはどうしてもそういうものなのである。
 その点で言うと。
「うぉおおおおおおおお!!!!!!!!
374 :年末単発祭り:夜に駆ける   【途中送信申し訳ない!】 [sage]:2021/12/27(月) 23:30:01.75 ID:rKgmrGVQ0
 ひらり、膝丈のスカートを揺らしながらその女子高生はそこに集まっていた人影の群れへと近づいていく。
「……あ!女子高生のお姉ちゃん!こんばんは!」
「こんばんは、マリちゃん」
 女子高生に、一人の少女が近づく。マリちゃんと呼んだその少女が飛びついてきたのを、女子高生は優しく抱きとめる。
 ……マリちゃんの体は、うっすらと透けていた。まるで、幽霊のように。いや、「幽霊」なのだ。このマリちゃんは。それでも、マリちゃんの方から触れたいと思ってくれればこうして触れられる。体温までは感じられないのが、少しばかり寂しいが。
「皆さん、ごめんなさい。すっかり遅くなっちゃって」
「ひっひっひ、気にするんじゃないよ。あたしらが早すぎただけさ」
「無事、辿り着けたならいいんじゃよ。あんたもマリちゃんも、後でババ達がおやつあげるからね」
 老婆達はけらけらと笑いながら女子高生達にそう言ってみせた。完全に、自分の孫に接するような態度だ。この老婆達に実際に孫が存在するかどうかは謎だが。
 異様な集団は、みな和気あいあいと楽し気に話している。一番多いのは老婆であるが、中には鹿の胴体に老婆の頭部がついた者や牛の頭部をした着物姿の女性等あからさまな異形も存在していた。ある種一番異様なのは赤ん坊か。老婆達にかまってもらってきゃっきゃっと笑っているが、こんな時間にこんな場所にいるのはおかしい、
 また、リヤカーや自転車を整備している様子の人物もいた。真剣に、まるで真剣勝負に赴く直前のような雰囲気だ。

 そう。
 この場に集まった者達はまさに、真剣勝負の為に集まっているのだ。

「すっみませーん!大遅刻ーーーー!!!」
 と、現場に新たな人物が姿を見せた。マリちゃんと同じくらいか、少し年上程度のランドセルを背負った少女だ。
 正直、こんな時間に外を出歩いていたら大人から咎められそうである。それは、女子高生にも言える事だが。
「もう、みんな来ちゃってる?」
「そうだねぇ。そろそろ、始まりの時間だよ」
「整備してる組が整備する時間があったからえぇじゃろよ……あんたは、乗り物の整備はいらんのかえ?」
「私のは、その場で精製するタイプだから平気です」
 わいわいとおしゃべりしつつ、自然と皆横一列に並び始める。真剣勝負の、スタートラインに。
 数人の老婆が、異形の姿をした者達が、リヤカーを装備したおばちゃんが、自転車に乗り込んだ真面目なサラリーマンが、赤ん坊が、少女が、女子高生が。
 スタートラインに、ついた。
「それじゃあ、今年も私がスタートの合図をしますねぇ」
 よぼよぼの、腰の曲がった老婆が競技用ピストルを構える。この老婆もまた、真剣勝負の参加者ではあるが。こうして自ら、スタートの合図をする役目を担っていた。
 それくらいはハンデだ、とでもいうように。
「それでは、用意……!」
 皆が、構えて。
「スタート!」
 ぱぁんっ!と、音が鳴り響くと同時。
 一斉に、皆が駆けだし始めた。
375 :年末単発祭り:夜に駆ける   【データ量の関係で1レス収まらなかった……orz】 [sage]:2021/12/27(月) 23:31:15.44 ID:rKgmrGVQ0


「いっ、けぇええええええええええええええええ!!!!」
 ごぅんっ!!と、轟音と共に女子高生は己の相棒たるミサイルを呼び出した。それにまたがり、一気に加速し頭一つ抜ける。
 「ミサイルにまたがる女子高生」そのものでもある彼女の疾走スタイルはこれだ。
 高速走行型都市伝説によるフリースタイル競争において、ミサイルにまたがるのは違法ではない。
「ふぇふぇふぇ、相変わらず派手だねぇ!」
「でもねぇ、ババ達も簡単には負けないよぉ!!」
 「ターボばあちゃん」「ジェット婆」は、ぐんぐんと加速し、「ミサイルにまたがる女子高生」の後を追いかける。
「ばあさん達には負けんぞい!」
「そうじゃいそうじゃい!知名度では劣るが、スピードではそうそう負けん!」
 「ダッシュ爺ちゃん」「鞠つきじじい」も負けじと並走する。「鞠つきじじい」はその名の通り、鞠をつきながらも恐ろしいスピードで走っていた。
 ぽんぽんぽん、と、鞠をつく音は一つではない。
「み、みんな早い……でも、負けないもん!」
 マリちゃん……「鞠つきマリちゃん」もまた、鞠をつきながら皆へと追いすがる。その足元を、「高速赤ちゃん」がきゃっきゃっと楽しそうにハイハイで爆走してついてきていた。「高速赤ちゃん」は、これが勝負事であるとわかっているかどうか不明であるが。当人が楽しそうなので問題ないのだろう。
「く、速い……!私だって、80kmは出せているはずなのに……!」
 悔し気に「リヤカーおばさん」はそう呟く。少なくとも80km以上のスピードで走れると言われている彼女は、どうにもその語られるスピードに縛られがちだ。都市伝説とはどうしてもそういうものなのである。
 その点で言うと。
「うぉおおおおおおおお!!!!!!!!今年こそは負けん!!!!!時速100kmの壁…………超えて見せる……っ!」
 「100キロで走る車と並走する自転車に乗ったまじめなサラリーマン風おじさん」もまた、語られるスピードに縛られがちだが。その壁を、気合で突破しようとしていた。
 負けられない。そんな意地が彼らにはある。
 高速並走型都市伝説達は皆、己のスピードに誇りを持っている。
 これは、その誇りをかけた真剣勝負。
「モ゛ぉ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛オ゛オ゛!!!!!!」
「ぴぃぇえええええええええええ!!!!!」
 「牛女」が、「ぴょんぴょんババア」が、雄たけび上げながら追いすがる。
「負ける、もんかぁ!!!知名度が低くたってねぇ!!!速度は鍛えられるんだよ!!」
「ラン・ラン・ルー♪」
 「峠のよつんばい女」が、「首都高ドナ〇ド」が、自分達の前を走る者達を追い抜こうと隙を伺う。
「ふっふーん♪ボクは追い上げ型だー!」
 と、ランドセルを背負った「スキップする少女」が、普段、車相手にやっているように対戦相手達をスキップしながらすり抜けて追い抜いていく。追い上げ型、と言うよりも、「車の間をスキップしながらすり抜けていく」と語られているために、前に走っていてもらわないとスピードが出せないともいう。
 デッドヒートが繰り広げられていき、ゴールとして決めているラインが見えてきた……その時、だった。
(……!来る!!)
 ミサイルにまたがりスピードを上げ続けながら、「ミサイルにまたがる女子高生」は後方からの気配に気づいていた。彼女だけではなく、この勝負に参加しているほぼ全員が、気づいていた事だろう。
 スタートの合図を出した、彼女が。
 ………………来る!
 追い上げてくるのは、光。光そのもの。「光速ばばあ」と呼ばれる彼女は光そのもののスピードで駆ける。光の速度故姿は見えない。それでも来ているのだと、わかる。本能が告げてくる。
「これだけ、ハンデもらって…………負けられるかぁああああああああっ!!!!!」
「超えてやる、光の壁だって!!!!」
「これが!わしらの生きざまじゃああああああああああ!!!!!」
「らんらんるー♪」

 駆ける、駆ける、ゴールに向かって。
 勝負の行方は、参加者達だけが知っている。




376 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/12/29(水) 13:23:02.56 ID:EpRmvOFmo
にわかに読み物が増えてうれしみ


ペロペロくんとカマキリちゃんはこの後お互いに特殊な性癖に目覚めてハッピーエンドになればいい。
ペロペロくんは、こう、鈍感すぎて手遅れになったくらいで癖に目覚めていただきたい。

人体発火現象さん、解釈を極めて全て焼き尽くすウーマンになれるまで生き延びてほしい。

走り屋系は婆勢力があまりに強いwwww
ミサイルのJKも大概だけど、光速は卑怯だwwww
377 :年末単発祭りマン:「夜に駆ける」に脱字を発見したお詫びをかねた補足 [sage]:2021/12/29(水) 17:27:01.79 ID:i7rhNExS0
■単発「夜に駆ける」にてレースに出場していた高速並走型都市伝説一覧
・ミサイルにまたがる女子高生:読んで字のごとく。自動車を追いかけたり追い抜いたりするだけで攻撃はしない。「フロイト的な精神分析では、ミサイルやロケットなどの兵器は男性原理を表す」とも言われているが特に関係はおそらくない
・鞠つきマリちゃん:鞠つきをしている最中に車に轢き逃げされた少女の幽霊が、鞠をつきながら自動車を追いかける
・ぴょんぴょんババア:夜にぴょんぴょん跳びはねる老婆タイプと、鹿の胴体に老婆の頭の2タイプが存在。今回出場したのは後者
・牛女:着物を着て牛頭な四つん這いの女、もしくは牛の胴体に般若の頭の怪物の2タイプが存在。今回出場したのは前者
・高速赤ちゃん:高速でハイハイしながら追いかけてくる赤ん坊。きゃっきゃっ
・リヤカーおばさん:リヤカーを引いたおばさんが時速80kmの車と競争する。北海道出身なので恐らく雪道に強い
・100キロで走る車と並走する自転車に乗ったまじめなサラリーマン風おじさん;名前の長さでは出場者で並ぶ者はいない
・スキップする少女:白いブラウス、赤いスカート、ランドセル姿の少女。岡山の津山インターチェンジ付近にて時速80kmでスキップしながら車と車の間をすり抜けていく
・ターボばあちゃん:細かく色んな呼び名で存在するターボな速度で走るおばあちゃん
・ジェット婆:こちらはジェットな速度で走るおばあちゃん
・ダッシュ爺ちゃん:高速並走型は婆だけじゃない。爺もいる!
・鞠つきじじい:鞠つきしながら車を追いかける爺。マリちゃんとは特に関係ない
・峠のよつんばい女:別名「高速女」。四つん這いで車を追いかけてくる。ゴクミ似とのうわさ
・首都高ド〇ルド:首都高で爆走するドナ〇ド。貴様、何故ここにいる!?
・光速ばばあ;高速並走型最上位。その速さ光のごとし。故に視認不可。ピカピカの実は食べていない

※今回、「バスケばあちゃん」「ホッピング婆ちゃん」「棺桶婆」「ホッピング婆」等、そこそこ積極的に物理攻撃しかけてくるタイプは参加しておりません
378 :年末単発祭りマン:ホッピング婆二回言ってるな? [sage]:2021/12/29(水) 17:43:01.63 ID:i7rhNExS0
■訂正
※今回、「バスケばあちゃん」「ホッピング婆ちゃん」「棺桶婆」「ボンネット婆」等、そこそこ積極的に物理攻撃しかけてくるタイプは参加しておりません
379 :年末単発祭り:道踏み外して外道歩み [sage]:2021/12/29(水) 23:31:14.80 ID:i7rhNExS0

 これは都市伝説と戦うために都市伝説と契約し、道を踏み外した者の物語である。


 血の臭いがする。焼け焦げた臭いがする。薬品の臭いがする。水の臭いがする。錆ついた臭いがする。腐り落ちた臭いがする。
 ありとあらゆる死につながる臭いが、そこには充満していた。
 「組織」所属の黒服と契約者、合計二十三人。その全てが絶命し、今、最後の一人もまさに命を散らそうとしていた。
「か、ふ……」
 決して、彼らが弱かった訳ではない。討伐任務につくような面子である。弱いはずがないのだ。
 「口裂け女」「白い壁の穴」「南極のニンゲン」「ケンタウロス」「青頭巾の火」「ドンドコドン」「ストリガ」「鏡のピエロ」「ジャンパイア」「カシマさん」「エンドロップ」…………どの契約者も、この討伐任務に参加するにふさわしいだけの実力者だった。
 だというのに、このざまだ。
 生き残った最後の一人、「骨折した箇所が治癒した場合、骨は以前より強くなる」は、契約しているその都市伝説の力で持って全身の骨折を治癒していきながら、なんとか立ち上がる。
 じゃきり、皮膚を貫いて飛び出した骨を剣のように構えて、討伐対象を見据えた。
「へぇ、まだやんのか」
 討伐対象は、そんな彼を見下し嗤う。
「その出血量で助かるとでも思っているのか?」
 わかっている。脇腹から、首筋から流れる血は止まる様子はない。自分の都市伝説で治癒できるのは骨折だけだ。この出血はどうにもならない。
 そうだとしても、戦う意思を捨てるつもりはなかった。この場で、この討伐対象を倒さなければいけない。
「……お前は」
「うん?」
「お前は…………お前の中には、何人いる?」
 意識が霞んでいくのを叱咤しながらも、そう問いかければ。
 討伐対象は、酷く、酷く、凶悪な笑みを浮かべ、答える。
「十五人だな。ま、「組織」の黒服化した契約者三十五人殺してこの人数。なかなかの豊作だと思わないか?」
「…………なんて、事を」
「そういう都市伝説だからな、私の「臓器の記憶」と言う都市伝説は」
 嗤う討伐対象、「臓器の記憶」の契約者の背中には、蛾のような羽根が生えている。「モスマン」の契約者の臓器を取り込んで奪った羽根が。
 「臓器の記憶」の契約者の左腕は、熊のように変化している。「ファラミーヌ」の契約者の臓器を取り込んで奪った力の一部を引き出している。
 「臓器の記憶」の契約者の右手には注射器が握られている。「注射男」の契約者の臓器を取り込んで奪った注射器が。
 …………そういう、能力なのだ。移植された臓器の元の持ち主の記憶を引き継ぐだけのはずの都市伝説は、契約者を得た事によって悍ましい進化を遂げた。移植された臓器の持ち主が都市伝説契約者、もしくは都市伝説であった場合、その力の一部を扱えるようになる、と言うものに。
 事実に気付いた「臓器の記憶」の契約者は、使えそうな能力の持ち主を次々と殺して臓器を奪っていった。人間の体に収められる臓器の数も種類もたかが知れているはずなのだが、その数をオーバーしても取り込み続けた……もはや、移植ではなく、「臓器を取り込む」事で能力を奪えるように進化してしまったのだろう。
 これ以上……これ以上、「臓器の記憶」の契約者に力を与えてはいけない。どんどんと、止めることが難しくなってしまう。
 骨の剣を、構える。「臓器の記憶」の契約者もまた、熊のような腕を振り上げ、モスマンの羽根で浮かび上がる。
「欲しいな、「骨折した箇所が治癒した場合、骨は以前より強くなる」…………その力を手に入れりゃあ、私はもっと!もっと強くなれる!」
「そう、簡単に……奪えると、思うなぁっ!!!」
 地面が抉れるほどに踏み込み、一気に接近する。心臓の位置を骨の剣が貫くが、「臓器の記憶」の契約者は彼を嘲笑うだけだ。
「心臓一個やられた程度で死ぬとでも?心臓のストックなら、まだある」
 取り込んだかずだけ心臓があるとでもいうように嘲笑い。「ファラミーヌ」の熊の腕が、「アクロバティックサラサラ」のスピードでもって彼の胴体へと突き入れられる。
「ぐ……っ!」
380 :年末単発祭り:道踏み外して外道歩み [sage]:2021/12/29(水) 23:32:18.15 ID:i7rhNExS0

「さぁ、お前の心臓も、もらった……?」
 がしり、と。骨の剣を生やしているのとは逆手で持って、彼は己の胴体に突き入れられた「臓器の記憶」の契約者の腕を、掴んだ。その手から、ぶきびきと皮膚を貫いて骨が飛び出し、「臓器の記憶」の契約者の腕へと突き刺さっていく。
「…………ただでは死なんぞ!この体の臓器の一部も!お前なんぞには、くれてやらん!!」
 骨が、飛び出す。彼の体中から一斉に。彼の体内の臓器をずたずたに切り裂き、引き裂き、使い物にならなくしながら。目の前の「臓器の記憶」の契約者へと、四方八方取り囲み、一斉に襲い掛かる。
 突き刺し、引き裂き。骨の檻に閉じ込めるように。そのままさらにさらに、ズタズタに。
 流石の「臓器の記憶」の契約者も、その攻撃から逃れようと暴れ出す。
 暴れ、骨の刃が、槍が、檻が、へし折られて破壊され。破壊されたはしから再生し、さらに丈夫な刃に、槍に、檻へと変わり、「臓器の記憶」の契約者へと襲い掛かり閉じ込める。
「っき、さまぁあああああああああああ!!??」
「俺が、死ぬまで!!!!お前を、殺し続ける!!!!!」
 どちらが死ぬのが先か。
 どちらが殺しきるのが先か。
 二人の、徹底的な殺し合いは、そう長くは続かなかった。

「は、ぁ…………くっそが。七回は死んだぞ」
 ぼたぼたと、全身出血しながらも「臓器の記憶」の契約者は生き延びていた。少しばかり遊びすぎたとほんのりと反省する。
 傷も治さず、ぐちゃぐちゃと「骨折した箇所が治癒した場合、骨は以前より強くなる」の死体を漁る。
「……くそが。心臓も、肝臓も、肺も……何もかも、ぐっちゃぐちゃじゃねぇか。これじゃあ使えない。畜生、もったいねぇ……」
 血まみれの手を死体から引き抜いた。
 あまりにも勿体ないが、仕方ない。思考を切り替えていくしかなさそうだ。
 通常であればそう簡単に切り替えられるものでもないかもしれないが。「臓器の記憶」の契約者にとっては容易いことである。
 別の意識に、切り替えればいいのだ。取り込んでいる別の意識に。
 軽く首を振り、ぶつんっ、と、テレビのチャンネルでも切り替えるかのように、意識を入れ替える。
「…………うん、しばらくは俺が動きましょうか……まずは、傷の手当ですね。えぇと、「蝦蟇の油」、黒服のどれかが持ってないですかね」
 今度は、死体が残っているタイプの黒服の死体を漁り始める。あったあった、と「蝦蟇の油」を取り出して、己の傷の治療を始めた。
「ストックしていた臓器をそこそこ使ってしまったのは事実ですし。しばらくは契約者狙いではなくストック補充に勤めるとしましょう。死ににくいという強みは捨てちゃだめですからね」
 己の中の他の意識達にそう語りかけるようにしながら、今後について思案する。
 ……自分は、「早期の記憶」は、増長しすぎない限り最強なのだ。
 今後もそうあり続けるために、自分「達」は動くべきである。


「俺「私「僕「わらわ「わしは、最強だ」」」」」

 いくつかの声は重なりながら、いくつかの意識は重なりながら、意見がたがえる事はなく。

 「臓器の記憶」は、まだまだ殺し続けるだろう。
 まだまだ、奪い続けるだろう。

 その命を、誰かに散らされる、その瞬間まで。



381 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/12/30(木) 10:28:23.57 ID:ZfhKixtJo
乙です
骨折さんいいヤツだったのに……
外道な臓器な記憶さんには数ではなく特級の個をぶつけるか飽和攻撃で死ぬまで[ピーーー]感じですかねえ
命のストックはこう、羨ましい
382 :年末単発祭り:襲われる条件を考えるとつまり [sage]:2021/12/31(金) 23:50:02.78 ID:hdugN44c0

 これは、都市伝説と戦う為に都市伝説と契約し、「組織」に所属する契約者の物語である。


「恋人ばかりを襲う、ね」
「どうやらそのようで」
 黒服と並び歩きながら、少女は保温水筒片手にふぅむと思案する。
 このところ、男女二人連れが何者かに襲われ、負傷したり命を落としたりと言う事件が頻発している。
 「組織」の調査によれば、案の定と言うべきか都市伝説の仕業らしい。
「「ザ・フック」。「キャンディマン」とも呼ばれる者。元々はアメリカの都市伝説ですね」
「「キャンディマン」って映画じゃなかったっけ?」
「その映画を元に生まれた都市伝説、と言っていいでしょう。厳密には、元となった話が映画化する際に、アメリカの都市伝説的要素と組み合わせられた、と言うべきかもしれません」
 物語の「キャンディマン」……道化師のような服装をして、「可愛い子にお菓子を!」を言いながら飴を中心としたお菓子を売り歩く男。それが子供をさらっていくという、土地の者でないよそ者が子供を連れ去っていく都市伝説の物語。
 それと、「精神病院から脱走した、右腕が鈎爪の殺人鬼」の都市伝説。
 二つが混ざり合った存在が、「ザ・フック」であり「キャンディマン」。後者で語られている内容では、停車中の車に乗っていたカップルを襲おうとしていた。今回のカップル襲撃も、その逸話故だろう。
「これは偏見かも知れないんだけど。アメリカの都市伝説ってさ、カップル襲う系そこそこ多くない?気のせい?」
「……具体例がぱっとでる訳ではないので偏見とは思いますが」
 否定はしきれない、と言うような表情を浮かべる黒服。少女の偏見は、恐らくアメリカ産のホラー映画の影響ではなかろうか。あれでは、カップルは基本イチャついて殺されるのが役目なのだから。
 とまれ、少女は保温水筒の紐をくるくると弄びつつ、黒服からもらった情報を頭の中で整理する。
「カップルを主に襲う、って事は。おびき出すとしたらカップルっぽい男女で、って言うのが一番?」
「そういう事になるのではないでしょうか。たまたま遭遇するよりは、戦闘力を持つ者が囮となっておびき寄せるのが、一番確実で安全ですので」
「……そうなると、あたしの出番はなさげかな」
 少女の言葉に、おや、と黒服は彼女を見つめた。
 何よ、と怪訝そうに少女は黒服を見つめ返す。
「何故、そのようにお考えに?」
「だって、カップルっぽい男女でおびき寄せるんでしょ?なら、あつぃ、出番ないじゃない」
 恋人いないしー、と、ぶんぶんぶぶん、保温水筒を振り回す少女。なかなかに丈夫な水筒のはずなので、ぶつかると痛いので大変と危ないから止めてほしいと黒服はひっそり思う。言っても止めてくれなさそうなので黙っているが。
「あくまで、カップルに見えればいい、と言う事ですし。お呼びがかからない、と言う事はないでしょう。備えていてくださった方がありがたいです」
「そういうもん?」
「そういうものです」
 カップルのふり、さえできればいいのだ。ならば、この少女と同じくらいの年頃に見える契約者と一緒に行動してもらうという事はありえる。出番がない、と言う事はないだろう。
 ……何故だか、少女が複雑そうな表情を浮かべた気がしたが、気のせいだろう。ただの見間違いだ。
 伝えるべき事を伝え、では、と少女と別れようと、したところで。

 ひらりっ、と。
 出現した漆黒のマントが、黒服と少女を包み込む。直後、二人の姿は消えて。一瞬前まで少女がいたその位地に振り下ろされた鈎爪は獲物を捕らえる事なく空振る。
383 :年末単発祭り:襲われる条件を考えるとつまり [sage]:2021/12/31(金) 23:51:00.58 ID:hdugN44c0

「噂をすれば影、ですね」
 漆黒のマントを纏った黒服は、少女を狙った下手人、「ザ・フック」を睨んだ。
 まさか、自分達の元へとやってくるとは思わなかった。同じ感想を、黒服のマントの内側に包まれた少女も抱いたようで。
「なるほど、結構節穴みたいね。あいつ」
「そのようで」
 鋭い、赤黒くさびた汚れがこびりついた鈎爪が執拗に自分達へと襲い掛かる。
 ひらり、ひらりと、黒服は人間時代に契約していた「黒マント」の力による短距離転移を活用してそれを避けていた。本来の「黒マント」のテリトリーは学校のトイレだが、契約によって無理矢理、派生元である「赤マント」の「人さらいの赤マント」に似た力を引き出しているのだ。
 とは言え、やはり本家と比べれば転移能力に関しては赤子に近い。攻撃を避ける事には使えるが長距離移動には使えない程度のもの。それでも、こうした戦闘では十二分に使える力。
「あなたは……」
「こっちは、いつでも使える。見ればわかるでしょ」
 保温水筒を手に、少女は笑う。黒服に片腕で抱きかかえられた状態のまま、保温水筒の蓋を外し始める。
「あいつの足を止められる?」
「まぁ、やってみましょう」
 流れるように連続して鈎爪で攻撃してくる「ザ・フック」を見据え。黒服は「黒マント」の力を発動する。
「腕と脚、どちらが欲しいですか?」

 黒服の問いを、「ザ・フック」は聞いていた。
 そのうえで、攻撃の手は止めず、答える。
「そうだな、まずは、脚をよこせぇえええええ!!!!!!!」
 足を奪えば、この社会人と女子高生のカップルを徹底的に痛めつけて、弄んで、苦しめて、殺せる。
 そう考えてのあまりに身勝手なその返答に。
「了承いたしました」
 黒服はにこり、微笑んで。

 男の悲鳴が、響き渡った。

「脚、いただきましたよ」
 「ザ・フック」が答えたその直後。一瞬で。黒服は「ザ・フック」の脚をもぎ取っていた。
 それが、「黒マント」としての力なのだ。「赤マント」の派生である「黒マント」は、好きな色を聞いてくる「赤マント」と違い、聞くのは体の部位。そして、答えたその部位をもぎ取って[ピーーー]、と言われているのだ。
 その気になれば心臓等を質問に混ぜて、心臓をもぎ取っての一撃必殺も狙えなくもないが。流石に警戒されるのか心臓をもぎ取れたためしはない。人間時代も、黒服になってからも。
 とにかく、「ザ・フック」の脚をもぎ取った。動きを封じた。そうなれば、もう、こちらのもの。
「ありがと黒服。それじゃあ」
 保温水筒の蓋を開けて、少女はにやり、残酷に、愛らしく、微笑んで。
「ばいばぁ〜い」
 中に入っていたお湯を全て、「ザ・フック」に振りかけた。お湯をかぶった「ザ・フック」の悲鳴が止まる……ぼぅっ、と、呆けたような。そんな表情になって。そしてその体は急速に衰弱していって。
 衰弱しきった命は静かに消え失せて、その存在毎、消えた。

「事前準備が必要とはいえ。やはり強力な力ですね。あなたの「お風呂坊主」の力は」
「正直、あなたの「黒マント」の方が強いと思うんだけど」
 面倒なのよこれ、と少女はぼやく。
 「お風呂坊主」は、風呂の湯をかけた対象のありとあらゆる欲望を奪い取り、衰弱死させる都市伝説だ。一応、都市伝説本体も存在するのだが。出現時間が夜八時の風呂場と言うあまりにも限定されたものなのでめったに顔を合わせない。絶対にその時間には入浴しないからだ。最初に出会った際に「お風呂坊主」に裸を見られてぶん殴って以来、少女はずっとそうしている。
 逸話通りの力を振るうために必要なのは、風呂の湯。なぜか、自分が入浴した後の風呂の湯じゃないといけないのが一番困る。本当困る。毎度、入浴後の風呂の残り湯を念の為取っておかなきゃならない身になってほしい。
「とにかく、お疲れ様でした。後処理はお任せください。お仕事料は後日お支払いします」
「は〜い。期待してるわね」
 まぁ、危険は去ったのだ。一仕事終えた少女は、晴れやかな笑みを浮かべたのだった。


384 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/01(土) 00:55:16.32 ID:hQxwMWpAo
ひゅー年末最後の投稿お疲れ様だぜ

この少女黒マントに懸想してるね! 俺の中のザ・フックがフックショットしてるから間違ぇねえ!
俄かに読み物が湧いて楽しかったぜ!
少女の残り湯で一杯やりながら初日の出を迎えようぜ!
385 :新年単発 ◆AaMV0hIAII [sage]:2022/01/01(土) 20:00:04.73 ID:U3VRfQe6o
 
「明けましておめでとうございます!! 早速ですが初日の出を見に行きませんか!?」
「あけおめ、アポなしでいきなりやって来て言う事がそれかよ」
「いいでしょ! 貴方どうせ年末年始暇ですし! それに独身の一人暮らしですし! 独身ですしおすし!」
「勝手に俺を暇扱いするな! 独身を強調するな! まだ学生だぞ!?」

 日付が変わって数時間経ったあたりで、担当の黒服が突然訪問してきた
 この正月はいつも通りネット配信を眺めつつ食っちゃ寝してヌクヌク過ごす予定だったのに
 何が悲しくて「組織」の仕事仲間と元旦を過ごさなきゃなんねーんだ……てか黒服のテンション高過ぎだろ

「さあさあさあ! 車出しますから着替えて着替えて! 今年は絶景のスポットを見つけてあるんですから!」
「うわおい押すな押すな! 炬燵から俺を押し出すんじゃねえ!」





 数時間後
 ちゅうぶちほー、某所
 俺は黒服にほぼ無理矢理連行され、車に揺られてここにやって来た
 遠方に富士山が確認できる。成程、確かに初日の出を拝むには持って来いだな

「いいでしょ! いいでしょ!? 人も居ないし! 誉めてくれてもいいんですよ!?」

 テンションと距離感が若干ウザい黒服の存在を除けば、の話だが
 コイツ普段からこんな感じだったか?

「あ! ほらほら! もうそろそろ日が昇りますよ!」
「いや待て、まだ日の出の時刻じゃなくね?」

 黒服の指差す先には確かに赤い陽光のようなものが富士山の端から揺らめいている
 だがまだ空全体は暗いままだし、俺が言った通り日の出まではまだ数時間ある

「あれ? あれっ!? な、なんだか様子がおかしいですね……!?」
「おいおいおいおい、様子がおかしいなんてもんじゃねえぞ!? 何だあれは!?」

 地平線からゆっくりと、しかし確実に昇り始めたのは、日の出なんてもんじゃない
 もっと赤い赤い、禍々しい何かだ! 全体がマグマのように煮え滾り、熱を帯びた光源が徐々に姿を現しつつあった

「なんですかアレ!? ねえなんですかアレ!? かっ、顔がありますよ!?」
「うるせえ離せ! どさくさに紛れて首を締め上げんじゃねえ!!」

『うっふっふ…… ふっふっふ…… ふっハッハッ……! アーッハッハッハ……!!』

 なんだこのエコー掛かった魔王笑いは!? 方向的に光源から聞こえるようだが!?

『尺の都合で早速真名解放せねばならんが、そうよオレこそ! 【空亡】そのものよ!
     恐れよ! 慄け!  ( ゚∀゚ ) アーッハッハッ八ッ八ッノヽッノヽッノヽッノ \ / \ / \ 』

「なんだあのさいたま(AA)の劣化コピーめいた太陽は!?」

「【空亡】!? いま【空亡】って言ってましたよね!?」


 【空亡】
 それは日本の誇る重要文化財「百鬼夜行絵巻」より生まれ出でた創作上の怪異である
 いや、厳密には絵巻に描かれたとある場面の拡大解釈から生み出された怪異と言っていい
 有象無象の魑魅魍魎共を退散させるほどの力をもつ【夜明け】、その真っ赤な球体が実は怪異なのでは? という誤解から生じたとされるソレは
 曲解や拡大解釈、ネット上での紆余曲折を経て各種創作作品に登場する強キャラクラスのクリーチャーとして君臨するに至ったのである! なんならラスボス張ってる作品すらあるやべーヤツだ!!
 
386 :新年単発 ◆AaMV0hIAII [sage]:2022/01/01(土) 20:01:01.62 ID:U3VRfQe6o
 
「どうすんだよ!! あんなんどうやって対処すんだよ!!」
「契約者さん落ち着いてください! 私が『組織』に応援を呼びます! その間、なんとかして凌いでください!」
「えっ? 俺がアレをなんとかすんの? 一人で?」

 大慌てで電話を始めた黒服を前にしばらく固まる
 再び【空亡】の方を見ると、やっこさんは相変わらずバカ笑いを大音量で響かせながら徐々に高度を増していた
 これもうヤバくね? 隠蔽できるレベルなのこれ? 大丈夫?

 呆けること数秒
 いっけね、俺がなんとかしないといけないんだった
 そうなるともう仕方がない、俺が旧年中に新調した日本刀の出番だろう
 こんなこともあろうかと、防寒コートの下に忍ばせてこの場所まで持ち込んできたのだ

 一応俺も「組織」に所属し、変態的な都市伝説や契約者共を相手に戦いまくってきた身だ
 「組織」からのお仕事報酬、ボーナスその他を貯めに貯めまくって用意した大金をふんだんに投入し
 細かい点までオーダーをつけて一流の職人に打って頂いた、まさに俺の為だけの、世界に唯一つの刀!!

 三百万ちょい超なお値段になったのはここだけの秘密だ
 ちなみに黒服は俺が金を溜め込んでいることを知っており、その金を使って三泊四日の豪華温泉旅行にありつけるものと企んでいたようだが、そうは行くか
 有り金は全てこの刀に投入した! お前の好き勝手にはさせねえぜ! ざまぁ見な黒服ゥ!!

 おっと興奮しすぎたな
 俺はコートを払って改めて腰に差した刀の具合を確かめる…… 抜刀するには絶好調だ!
 かくして俺は【刃物は魔を払う】の能力を発動した。あでも待てよ、このまま【空亡】を斬ったとして、俺の刀、持つかな?
 つーか斬ると言っても俺の射程は刀の間合い程度なんだが!? この状態でどうやって戦えと!?

『ホーハッハッ!! アッハァ!! そもそもオレはクリスマスイブの学校町で【性の6時間】を発動してメリクリ淫乱ピンク地獄を創ってやる予定だったのだわ!!
   ところが前日の晩に調子に乗りまくっていたオレは睡眠導入剤と大量のアルコールそしてバイアグ(一部規制を挟みました、ご了承ください)を摂取し!!
     その所為で意識を回復したのが26日の晩だったのだ!! 実に!! 72時間も!! 無駄にし腐ったのだわさ!! おのれ!! おのれ学校町ォ!!』

「学校町関係ねえだろそれ!? てかお前も学校町関係者かよ!? てか学校町で何やらかそうとしてたんだオメーは!?」

『オレは納得いかんぞ!! 絶対に許さんぞ!! こうなったら学校町に復讐の炎を!! そう思い立ったオレは!!
   こうして富士山より偽りの初日の出として登場し!! そのまま上空遊泳で学校町へ移動を続け!! かの空を真っ赤に焦がし!!
     そのうえで学校町の住民の脳ミソを茹で上げ!! いやんあはんおほん?ちょっとだけよー? なあけおめ灼熱ピンク地獄を創り出そうと決意したのだわさ!!』

「どんだけピンク地獄に未練あんだよ!? オメーのが脳みそピンクじゃねーか!!」

『うるせえ!! オレはやるぞ!! すべては淫乱ピンクのために!! オレは!! 真っ赤に輝く!!
     ( ゚∀゚ ) アーッ ハッハッ 八ッ八ッ ノヽッノヽッ ノヽッノヽッノヽッ ノヽ ッ ノ \ ッ / \ ッ / \ ッ ノ \ ッ / \ ッ / \ ッ』

「クソッ! 思った以上に俗っぽいロクでもないヤツだった!!」

 【空亡】は相変わらず魔王笑いを続けながら、天空で禍々しい輝きを放っている
 なんか気温も上がってねーか!? クソッ! この状態で戦えってのかよ!?
 俺は半ばヤケになって鯉口を切った





 その時だった!!





 
387 :新年単発 ◆AaMV0hIAII [sage]:2022/01/01(土) 20:02:02.06 ID:U3VRfQe6o
 
          「だぁぁぁぁぁぁぁぁラッシャイ!!」          「とぉぉぉぉぉおおおうウ!!」
     『 ( ゚Д゚ ) ウボォお゙お゙お゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙お゙お゙お゙お゙オ゙オ゙オ゙才゙才゙才゙才゙オ゙オ゙オ゙お゙お゙お゙オオッッ!?』

 天高く跳躍し四肢を広げる影二つ!! 【空亡】をバックにクロスするかの如く一閃!!
 それと同時に【空亡】が断末魔めいた絶叫を上げるではないか!? 一体何が起こったというのか!?
 ついでに言っておくと【刃物は魔を払う】の契約者は未だ刀を抜いていない。一体何が起こったというのか!?

 目の前で繰り広げられている事態に仰天する契約者の前に、影の一つが着地した!
 着地の瞬間、その衝撃で大地を揺るがし、やおら立ち上がったその正体は!?

「どうも、いい子いい子でお馴染みの【思考盗聴警察】の神田です
 皆さん実にお久し振りですね。何年振りでしょうか? 元気でやっていたでしょうか?
 この神田、本来なら 『都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……』 スレの10周年を記念してカッコよくキメる予定だったのですが
 温めたネタを行方不明にするわ、あろうことか10周年記念日を盛大にド忘れするわ、その他諸々恥ずかしい思いするわで登場がこのタイミングになったというね
 いやもうそれもこれもこの神田の不徳の致すところ! それはさておき各種連載の作者様方、そして年末単発祭りの作者様、乙でございます
 個人的にビンビンきたのは【カマキリ男爵】の契約者と【舐めたら治る】の契約者のイチャイチャですね!! 年末から何やってやがる!! いいぞもっとやれ!!」

『 ( ゚A゚ ) オレの!! オレの大事な(規制しました、ご安心ください)がぁ!! 真っ赤に裂けてぇ!! 真っ赤っかぁぁ!!!!』

「ご安心を、【空亡】はこの神田が直接対処しました」

「く、黒服!! コイツは何者だ!? 『組織』の応援か!?」
「いっいいえ!! 『組織』のプロファイルには該当がありません!! 何者か不明です!!」

 遠方から響くかわいそうな【空亡】の悲鳴を背景に、【思考盗聴警察】の神田は混乱している契約者と黒服に一礼
 そして混乱したままの二人から、もう一つの着地した影へと半身を向ける

「私と呼吸を合わせるように【空亡】へ必殺の一撃を打ち込み、一瞬にして(規制済、重ねてご安心ください)を引き裂いた、貴方は一体……?」

「ぬう……、ここで会ったがウン年目。【思考盗聴警察】、まさか私の顔を忘れたとは言うまいね?」

「なっ、貴様は……!!」

 未だ昏い夜明け前の闇に紛れるようにして佇んでいたもう一つの影
 ゆっくりと神田に向けて歩み寄り、遂にその正体を現す!!

「馬鹿なッ!! 【犬面人】!? 貴様は確か学校町のょぅι゛ょおパンツ騒動に巻き込まれて死んだはずでは!?」

「ところがどっこい生きてたのよ、私の身を焼き焦がすこの絶望が、私を生き永らえさせたのだ……!!」

 なんと現れたるは体が人間! 頭部がイッヌ、もとい犬! の【犬面人】ではないか!?
 【人面犬】は存在するが【犬面人】なるは聞いたことがない!! 読者諸氏も概ね同意見であろう!!
 
388 :ところで作者はこの黒服が男性であるとは一言も書いていない。つまり……後は分かるね? ◆AaMV0hIAII [sage]:2022/01/01(土) 20:03:16.89 ID:U3VRfQe6o
 
「私は某所避難所で本来不要な保守活動に勤しんでいたのだが、その傍らで主に某スレ登場キャラ達のごく一部を相手にセクハラもといスキンシップに励んでいたのよ (避難所管理人様、関係者各位、その節はすいませんでした)
 忘れもしない……。私は偶然出会ったTさん家のリカちゃんに一目惚れした (Tさんの作者様、その節はすいませんでした)
 私は、リカちゃんにこの高鳴る想いを知ってほしく、猛アタックを開始した……!! (Tさんの作者様、その節は本当すいませんでした)
 リカちゃんは私に反応せず、まったく反応してくれず…… しかし時折気まぐれに私の半身を綿飴のように引き裂いた!! (Tさんの作者様、その節はマジですいませんでした)
 私は思い上がっていたよ……。リカちゃんは私に気があるものと! リカちゃんのお茶目な暴力は好意の裏返しだと! しかし! 彼女は去った! 去ったのだ! そして、この哀れな中年男だけが残された!!
 それでも! 私は覚悟していた! 永訣の日が来ることを! そして! 私がリカちゃんを愛した日々に、あの遠くも懐かしい日々に偽りはない!!
 だが、私には遣り残したことが……まだある」

「私と決着をつける気か」

「如何にも。 【思考盗聴警察】、君と学校町で相見えたあの日から、雌雄を決するこの日が来るのを心待ちにしていた」

 置いてけぼりの契約者と黒服両氏の困惑を余所に、【思考盗聴警察】と【犬面人】は二人だけの世界に没入していく
 そして、突如【犬面人】の体が激しく燃え上がった! それと同時に【犬面人】の周囲に火炎の渦が形成される!

「この姿を取っていたのは、ひとえにリカちゃんへの愛ゆえに! 自らの存在をも捻じ曲げ、リカちゃんへ愛を捧げ続けたゆえだ!
 【人面犬】ではキモがられるだろうと考え、姿を偽って人面犬身の姿を反転させた! かくして私は【犬面人】と化した!!
 そして! 【思考盗聴警察】!! 君との対決のために、私は真の姿を現す!! よく目に焼き付けておきたまえ!! 我が雄姿を!!」

「そういうことでしたか。私の【思考盗聴警察】ですら貴方の真の姿を看破できなかった――! 【人面犬】、いいえ! 【祝融】!!」

「真名……解放!!」

 なんということか!
 灼熱の烈風が吹き荒れる中、【犬面人】の姿が溶けるようにして【人面犬】の姿に変わったではないか!
 否! 否! 【人面犬】に非ず、【人面犬】に非ず!! その姿は瞬く間に膨れ上がり――巨大な獣身へと変貌したではないか!!


 【祝融】
 古来中国の、炎神である
 その姿は獣身人面、伝えられる神話によっては天帝の名を受け神をも倒す程の力を持つ
 火を司るため火災に遭うことの譬えとして「祝融に遇う」との表現があるほどにその存在は畏れられていた


「この目出度き日に、君と雌雄を決することができるとはな! 僥倖だ! 【祝融】として君を倒すぞ! 【思考盗聴警察】!!」

 厳かに、そして堂々たるその威風で以て【犬面人】、もとい【祝融】は戦闘態勢に入る
   その構えは、なんたることか! 蠱惑する女豹のポーズ、それそのものではないか!?

「神である貴方にそこまで言って頂けるとは実に光栄です、総力をもってお相手しましょう! 【祝融】!!」

 対するは【思考盗聴警察】! 古の神を前にして全く動ずることはない!
   彼が取った構えは、なんたることか! 勇猛なる戦士だけが扱えるとされる、荒ぶる鷲のポーズではないか!?


 富士山をバックに両雄が対峙する……!!
 そして富士山の頭頂は徐々にであるが、今度こそ本当に白み始めている!!


「あーもうそろそろ本当に夜が明けますよ!」
「ところで【空亡】の方はいいのか?」
「応援に向かってる『組織』の人達に回収するよう伝えてあります! 実質戦闘不能でしょうし! それよりはいこれ! 手作りの茄子の煮浸しですよ!」
「おっ、ホカホカじゃん。悪いねぇ。これで鷹が飛んで来ればかなり縁起いいぞ」

 両雄の対決など余所に、契約者と黒服は仲良く肩を並べて初日の出が昇るのを待っていた
 たとえ眼前で今まさに【思考盗聴警察】と【祝融】の対決が始まろうとも、自分らには関係のない話だ

 さっきまでちょっと空気に呑まれて圧倒されたたのはここだけの秘密だ


 そして
 幾許かの静寂の後、両雄が動いた!!


               「謹賀新年ッッ!!」               「明けましておめでとぉぉぉぉぉおおおうウ!!」









   【糸冬】
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/01(土) 22:13:32.35 ID:NraSwV8D0
乙です
新年早々、げらっげらに笑わせていただいております
390 :年明け単発祭り:めぇ!めぇ!めぇ!! [sage]:2022/01/01(土) 22:53:29.10 ID:NraSwV8D0

 これは、都市伝説と戦う訳では特になかったが都市伝説と多重契約し、都市伝説と戦う能力者の物語である。


 めぇ!
「おらぁっ!」
 めぇ!めぇ!!
「ごらぁっ!!」
 めぇ!めぇ!!めぇ!!!
「えぇい、鬱陶しいぞ貴様っ!!!」
 次々と現れ、タックル仕掛けてくる金毛羊の群れを前に、灰色の毛におおわれ羊か山羊のような角を持ったアメリカ産都市伝説……「ゴートマン」は苛立った声をあげた。
 潰しても、潰しても、羊達は姿を現す。
 めぇ!めぇ!めぇ!めぇ!めぇ!!
 羊とて、ただの羊ではない。その羊達には植物のような茎が繋がっていた。羊は、まるで瓢箪の木に似た木からぶら下がる実から飛び出し、柔軟な茎に繋がったままめぇめぇ鳴きつつ「ゴートマン」へとタックルを仕掛けてくるのだ。
 それに指示を出している高校生くらいの少年は、羊の木の上の方の枝に腰かけ、子羊を抱いて「ゴートマン」を見下ろしている。
「貴様!この「バロメッツ」の契約者!さっさと降りて来い!」
「え、やだ」
 めぇ!
 少年の言葉に肯定するように、抱かれている子羊……「バロメッツ」の本体が愛らしい鳴き声をあげる。
 せっかく、この街でひと暴れしてやろうと思ったのに面倒な奴に見つかってしまった、と「ゴートマン」は己の迂闊さを呪った。
 たまたま見かけた少年を襲おうとしたところ、突然生えた巨大な木。それに実った実は一気に成長して、こうして羊を生み出し「ゴートマン」に絶え間なく攻撃を仕掛けて来てた。
 ……とは言え、「ゴートマン」に決定的なダメージを与えられている訳ではない。そもそも「バロメッツ」自体、攻撃的な都市伝説ではないのだ。
 別名「スキタイ人の羊」「ダッタン人の羊」「リコポデウム」等の名前をもつ「バロメッツ」。引っ張っても曲げても折れる事のない柔軟な茎をもつ瓢箪の木に似た木の実が熟し、そこから生きた羊が顔を出す。羊は茎で届く範囲の草を食らいつくすと儚く力尽き、残った金毛羊の毛や肉を人間が有効活用したり狼が食べたりする。
 そんな、戦闘的ではない都市伝説相手に倒されるほど自分は弱くない。これでも「ゴートマン」としてはそこそこ強い方ではある。だからこそ、アメリカでは都市伝説の退治屋に目を付けられ、国外逃亡するはめになったのだ。
 この、妙に都市伝説が集まりまくっている街であれば、大多数の都市伝説に紛れてうまくやれると思ったというのに……!
「どれだけっ!羊を出しゃあ気が済むんだ!」
 飛び掛かってきた羊を屠る。羊が一匹。隙を見て角頭突きを仕掛けてきた羊を蹴り飛ばす。羊が二匹。茎の柔軟さを利用し、フライングボディ羊アタックしてこようとした羊の胴体を貫く。羊が三匹。
「………ぐ、ぅ!?」
 おかしい。
 一瞬、めまい。いや、これは、意識が、遠のい、て。
「……っ、しま、った」
 これは。何度倒されても「バロメッツ」を生み出し続けていたのは……。
 木の上から見下ろしてきていた少年の笑みが深まったのを見て。「ゴートマン」は己の敗北を悟った。


「いやぁ、いつもいつもすみません」
「えぇ、まったく」
 山積みになった羊の死体と、まだ元気でその辺の草を食べている羊の群れ。それを前に、黒服は深々とため息をついた。
「「ゴートマン」の捕縛に協力してくださったのは、ありがたいのですが……」
「僕ですと、こういう手段しかないんですよね。「羊を数えると眠たくなる」には、大量の羊が必要なので」
 めぇ!
 「バロメッツ」の契約者に抱っこされた、子羊の姿をとった「バロメッツ」本体が契約者に同意する。この契約者、「バロメッツ」以外に先程口にした「羊を数えると眠たくなる」と契約している。
 多重契約、というやつだ。都市伝説に飲み込まれるリスクが高まる為、多重契約と言う行為はあまり推奨されるものではない。属性的に似ていれば飲み込まれリスクは下がるのだとしても、だ。
 どっちも羊属性だから大丈夫いける、で多重契約して飲み込まれずにすんでいるこの契約者は、運がいいのか元々の心の器の容量が大きかったのか。そもそもどちらの都市伝説もそこまで容量を食わないのか。そのどれかだろう。「バロメッツ」と「羊を数えると眠たくなる」は、同じカテゴリに入れていい存在ではない。羊以外共通点がない。そもそも、「バロメッツ」は植物属性なのでは?と言う都市伝説研究者とているというのに。
 とにかく、多重契約によって、この契約者は大量に「バロメッツ」を出現させ、出現させた羊を強制的に相手に数えさせて「羊を数えると眠たくなる」を発動。契約によって強まった力により相手を眠らせてしまうのだ。相手を無力化するのには便利である。のだが。
 欠点は、見ての通り大量の羊が残される事だ。呼び出した羊を、この契約者は自主的に消せないのである。出したら出しっぱなしだ。
「ほら、「バロメッツ」は美味しいですから。「組織」の皆さんで美味しく食べてください。ジンギスカンとか」
「「バロメッツ」の羊の肉は、どちらかと言うと蟹の味に近いのですが」
「ならカニ鍋いけますね。肉以外も、「バロメッツ」は蹄まで羊毛ですから無駄がないです」
 めぇ!
 契約者に褒められたと思っている「バロメッツ」が得意げな顔をしている。得意げな顔をするくらいなら、この大量の羊をどうにかしてほしい。
「……なんとか、「組織」関係者で分配はします。そちらも、一頭くらいは自分でなんとかするように」
「そんな!「バロメッツ」の前で羊を食えと!?」
 めぇ!!
 呼び出した羊の処理を自分でする気が一切ない様子の「バロメッツ」契約者。
 いい加減、それくらいは自分で責任とってほしい。黒服は、そう願わずにはいられなかった。



391 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/02(日) 00:13:01.83 ID:JFGcCr18o
乙です

空亡の扱いの軽さもさることながら犬面人……お前……え、めっちゃ格高い系変態おじさんだったの?!
長いことこのスレに居ましたが、ええ、驚愕ですわ
思考盗聴警察の神田さんもお久しぶりです
平和な年明け初笑いでしたwwwwww

蟹味の羊とか組織で大人気になるのでは
バロメッツ鍋で一杯いきたいですなあ
臭みとかなさそう
392 :年明け単発祭り:単発から連載へってよくあるけど連載になるほど話は浮かんでいない [sage]:2022/01/03(月) 00:01:53.61 ID:xRtPLQ1a0

 これは都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者の、なんか評判っぽい奴らに関する別の話である。


 「舐めたら治る」。その名の通り、舐めた箇所の負傷を治療する都市伝説だ。基本的に負傷を癒すものであり病気や毒への対処はできないものの、貴重な治療系の都市伝説。
 その使い手が美少女であったならば、喜んで負傷する野郎共が発生していたかもしれない。
 だが、男である。この都市伝説の契約者は男子高校生である。平均よりは顔が整っているかもしれないが、男である事に変わりはない。故に、彼に舐められるためにわざと負傷する、なんて事を好き好んで行うような者はいない。もしかしたらそんな夢見る変態、ではなく夢見る女子が存在する可能性は微粒子レベルであるかもしれないが、少なくともそのような存在は確認されていない。
 当然の如く、「カマキリ男爵」の契約者とてそんな変態な思考へは行きつかない。むしろ、初めて「嵌めたら治る」の能力を身をもって味わった際に、全身舐めまわされて若干トラウマになってしまったくらいだ。決して変な性癖には目覚めていない。決して変な性癖には目覚めていない。大事な事なので二度言うレベルで「カマキリ男爵」の契約者は自分に言い聞かせる。
(第一、私とあいつじゃ釣り合わないでしょうに……)
 学校の休み時間、ちらりこそり、「舐めたら治る」の契約者へと視線を向ける。彼は幼馴染なのだという女子生徒と、何やら楽し気に話している最中だった。幼馴染。それだけで一定の色々にアドバンテージが存在する強すぎる存在。周囲から恋仲なんじゃないかとからかわれていた際に「こいつだけはない」「昔から一緒に居過ぎて恋愛的な目で見るとか無理」と二人共言っていたから、まぁ恋仲ではないんだろうけれど。
(……いやいや。何考えてるの)
 あれは治療行為だった。あれは治療行為だったのだ。変な行為ではない。治療行為だ。だから、変に意識する必要はない。
 いや、ある意味、意識する必要はあるか。もう二度と、あの治療行為を受けたくない。変な性癖目覚めたくない。その為にも、今後、敵対的な都市伝説との戦闘を行う際は負傷してはいけない。なんとしても負傷してはいけないのだ。絶対に負傷してはいけない都市伝説バトルを行う必要がある。
 もっと鍛えないとな、と「カマキリ男爵」の契約者は強く誓った。

 だと、言うのに。
「あー、いったた……強敵だったね」
「ソウダネ」
 今、「カマキリ男爵」の契約者は「お風呂坊主」の契約者と一緒に、ぼろぼろの状態で座り込んでいた。全身、切り傷だらけ。
 うん、あの「猿夢」はとても……強敵だった。一応、防御力も高める装備で来たつもりだったが、関係なかった。ずったぼろだ。
「ちょっと待ってて、あたしの担当の黒服に、来てもらうから」
 そう言いながら、「お風呂坊主」の契約者が携帯端末で担当黒服へと連絡を開始する。
 あぁ、でも彼女と一緒の戦闘で良かったかもしれない。彼女の担当黒服が、「蝦蟇の油」を持ってきてくれるはずだ。舐めまわされることはない。良かった良かった。
 安堵の息を吐き出すと、ひらりっ、と視界に黒いマントが翻った。さっそく、来てくれたよう、だ。
「なんでいる!!!!!!!???????」
「え、怪我人出たって聞いたから。お前らか」
 何故!?何故に!!!???
 黒服によって連れてこられたらしい「舐めたら治る」の契約者が、二人に駆け寄ってくる。
「黒服さん!!!!なんで!!!!!!こいつを!!!!!!!!???????」
「戦闘直後で満身創痍とは思えぬ叫びにこちらが大変驚いているのはさておき。ちょうど、彼の保護者の方々と情報のやり取りをしていた最中でしたので……怪我人が出たのなら自分が行く、と彼が」
 おのれ、タイミング!!!!!!!!!!!!!!!!!
 全力で雄たけびあげる「カマキリ男爵」の契約者の様子に、黒服も「お風呂坊主」の契約者も、何事、と言わんばかりの表情だ。つまり、二人共、まだ被害にあった事はないという事か。
「全く、二人共こんなひどい怪我して」
 手が、伸びてくる。傷口に触らないように気を使いながら、「舐めたら治る」の契約者は「カマキリ男爵」の契約者の手を取って。
「っちょ、ま、だ、男爵!男しゃーーーーーっく!!!!来て!ヘルプ、たすk「まずは、ここから」おぼはぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!???????」
「悲鳴が酷い」
 ぺろり。舌が、手の甲の傷を舐めた。ぞくっ、とした感覚が背筋を走り抜け、傷がすぅ、と消えていく。
 舌は肌から離れる事なく、そのまま、腕へと。
「え、何それ。え、何その治療の仕方」
「……そういえば。治療系の都市伝説とは聞いていましたが、どのようなものか具体的に聞いていませんでしたね」
 「お風呂坊主」の契約者と黒服が何やら言っている気がしたが、もはや「カマキリ男爵」の契約者には聞こえていない。
 そして、普段は自身のテリトリーたる学校の音楽室からあまり出てこない「カマキリ男爵」はここにいないので助けてもらえない。
 よって。
「全身切り刻まれた感じか。じゃ、前みたいに続けるぞ」
「みぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!?????」
393 :年明け単発祭り:単発から連載へってよくあるけど連載になるほど話は浮かんでいない [sage]:2022/01/03(月) 00:03:23.63 ID:xRtPLQ1a0




 〜 色気のない悲鳴と共に投下してはいけないネタスレ一歩手前の光景が繰り広げられています
                   悲鳴が止むまで、なんかマッスルな人々のポージングでお待ちください 〜


.
394 :年明け単発祭り:単発から連載へってよくあるけど連載になるほど話は浮かんでいない [sage]:2022/01/03(月) 00:06:30.14 ID:xRtPLQ1a0

 数分後。
「よし、治ったな」
「モウオヨメニイケナイ」
 全身に使うとなるとそこそこ能力を発動し続けるので疲れる筈なのだが、特に疲労も見せず、これでいいなって顔をしている「舐めたら治る」の契約者と、三角座りで落ち込む「カマキリ男爵」の契約者。
 そして、あまりの光景にうっかり静止もできず逃亡もできなかった「お風呂坊主」の契約者とその担当黒服。
 くるり、「舐めたら治る」の契約者の視線が、次のターゲット、ではなく、治療対象へと向けられた。
「こっちも酷いな。痛いだろ?すぐに治す」
 その声は、本当に「お風呂坊主」の契約者を気遣っている声で。「カマキリ男爵」の契約者に対してと同様に下心は一切なく。ただ純粋に怪我人を治そうとする意志に満ちていて。
 だからこそ、「お風呂坊主」の契約者は逃げそびれて、「舐めたら治る」の契約者に腕を取られた時点で正気に戻った。黒服も同じくらいのタイミングで正気に戻ったが、もう遅い。
「っく、くくくく黒服!今からマッハで「蝦蟇の油」をもってk「指先もボロボロじゃないかお前。ちぎれかけてないのが奇跡だ」うぼはぁああああああああああああああ!!!!!!!????????」
「こっちも悲鳴が酷い」
 ちゃぷりっ、と。手の指を口に含まれて、「お風呂坊主」の契約者は悲鳴を上げた。ちろちろと舌が指を這いまわり傷を癒すのだが、それと同時によくわからない、わかっちゃいけない感覚が全身を駆け抜ける。
 善意なのだ。どこまでも善意で下心がない。だからこそ、質が悪い。
「今どき古い考えかもしれないけど。二人共女なんだから、もうちょっと怪我とか気をつけろよ。傷跡残ったらどうするんだ」
「っひ!?ちょ、舐めながら喋るの止めっ、くすぐった」
「黒服さん、ちょっとこいつ抑えといて。暴れられると舐めにくい」
 じたばた
 舌から逃れようと暴れる「お風呂坊主」の契約者。それを、「舐めたら治る」の契約者は片手でがっしり肩の辺りを掴みながら、逆手で優しく腕を持ち上げて舐めていっている。ただ肩と腕を抑えられているだけなのに、「舐めたら治る」の契約者の力が強いのか、押さえつけるコツでも掴んでいるのか妙に動きづらく逃げられない。
 「お風呂坊主」の契約者の悲鳴と、「舐めたら治る」の契約者の言葉。その二つの板挟みになった黒服は、すばやく思考を巡らせた。
 すなわち、今、己がすべき事は。
「えっ」
 がしり、「お風呂坊主」の契約者の体を、押さえつける。
「彼女、油断すると細かい傷は治療しなくていいと放置しようとするんですよ。しっかりお願いします」
「任せろ」
「裏切者おぉおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

 月下にて悲鳴が上がる。
 それでも、「猿夢」と言う悪夢は一つ退治され、少女達の体には傷一つ残らない。
 素晴らしい、ハッピーエンドを迎える事に成功した物語である。


「どこがハッピーエンドだぁああああ!!!!!!!!!!!」
「モウオヨメニイケナイ」






395 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/03(月) 00:57:56.57 ID:+xkW0zIX0

単発の人乙です!
でかしたぞ「舐めたら治る」の契約者!
2人とも特殊性癖に目覚めればいいんだ!
傍目から見れば黒服まで加わってこれはかなりいかがわしい光景なんじゃないかねえ!
オババも爺さんとちちくり合ってた若い頃を思い出しちまったよ!
396 :年明け単発祭り:無限の夢幻 [sage]:2022/01/04(火) 01:25:07.51 ID:ieOHxila0

 これは、都市伝説と戦う為と言うより教え子達を守る為に都市伝説と契約した能力者の物語である。



 放課後、日が沈みゆく時刻。
 こつ、こつ、こつ、と足音を響かせながら、教師が一人校舎の中を歩き回っていた。校舎内に生徒が残っていたら、そろそろ帰りなさいと帰宅を促す。学園祭なんかの時期は多少仕方ない部分はあるが。そうではない時期にあまり遅くまで残って居られても困る。
「……それでさぁ。上半身しかない女子生徒が、ずるずると這いずりながら追いかけてきて……」
「っちょ、怖い。想像すると怖いから止めてってば」
「這いずっている……すなわち、スカートの中を覗けるな……」
 生徒達がおしゃべりしている声。まだいたか、と教室の扉を開き生徒に声をかける。
「こら、いつまで残っている。もう帰りなさい」
「あ、先生……え、もうそんな時間?」
「やっべ、そろそろ帰らないと特売の時間間に合わない」
「はーい、帰りまーす」
 言い訳せず反論せず帰ってくれる生徒は実にありがたい。帰っていく生徒達を見送り、教室の中をさっと整えると再び見回りに戻る。
 ……それにしても、くだらない会話をしていたものだ。おそらく、あれは「てけてけ」の話だろう。何故、そういうありもしない存在について楽しげに、無責任に噂できるのだろうか。
 そんなものは実在しない。それでいいだろうに。
 あぁやって、無責任に噂するから……。
「…………」
 こつ、こつ、こつ、こつ、こつ。
 ずる、ずる、ずる、ずる、ずる。
 何かが、這いずる音。無視して廊下を進むが、その音はずっとついてくる。
 こつ、こつ、こつ、こつ、こつ、こつ、こつ、こつ。
 ずる、ずる、ずる、ずる、ずる、ずる、ずる、ずる。
 足音は、どこまでも、どこまでもついてくる。一定の距離を保ちながら、ずっとずっと。まっすぐな廊下をいつまでもついてくる。
 仕方ない、と歩みを止める事はせずにちらりと背後を伺う。
「……やはり、か」
 ずる、ずる、ずる。
 先ほど生徒達が噂していた通りの、上半身だけの女生徒が。ずるずるずるり、恐らく切断面が丸見えなのだろう腹の辺りから血を廊下に垂れ流しながら追いかけてきていた。掃除が面倒だから止めてほしい。
「あぁ、やっと気づいてくれたぁ」
 にたり、と。上半身だけの女生徒が、笑う。
「「てけてけ」。死んだ場所とされる電車の踏切で出るパターンと、何故だか知らないが学校で出現するパターン。大きく分けて二つの説があったな」
 あぁ、忌々しい。そんなものの存在信じたくもないのだが、生徒の安全のためを思えば調べずにはいられない。この街はあまりにも都市伝説が出現しやすくて。知識はあればあるだけ生徒を守りやすくなるのだから。
 けらけらけらららら、「てけてけ」は笑いながらも這いずり続け、追いかけてくる。
 さて、対処法は……覚えては、いるが。
「知ってるなら、これからされる事、わかってるよねぇ!?」
 すっく、と、「てけてけ」が肘を使って起き上がる。そうして、教師へ一気に飛び掛かろうとした。
 飛び掛かろうとしたのだろう。
「……あ、れぇ?」
 だが、届くことはない。何度も飛びつこうとするのだが、「てけてけ」と教師との距離が、縮まらない。
「な、なんでぇ?」
「気づいていなかったようだな」
 まっすぐまあっすぐ、どれだけ歩き続けても、廊下が終わらない。窓の外の風景がいつまで経っても変わらない。「てけてけ」はずっと廊下をはいずっていたから、なおさら気づかなかったのだろう。
「この廊下、いつまで経っても終わらないと。気づいていなかった時点でそちらの負けだ」
「…………!け、契約者ぁ!?しかも、これはぁ……」
 こつ、こつ、こつ、こつ、こつ。
 歩み続ける。いつまでも終わらない廊下を……「無限廊下」を。
「今更気づいても遅い。もう捕えた」
 「無限廊下」。いつまで進んでも進めない。どこまでもどこまでも廊下が続く。そんな学校の怪談、都市伝説。
 都市伝説の存在を知り、それと契約できると言う事を知り。たまたま遭遇した「無限廊下」と交渉ができた為、契約は成立した。
 どんな建物であろうと廊下を歩き続けることで「無限廊下」と言う異空間を生み出す力。それだけと言えばそれだけ。
 だが、「無限廊下」には、時として恐ろしいオチがつく事がある。そこに入り込んでしまった者は、永遠に、その「無限廊下」を彷徨い続ける、と言うオチが。永遠に続く夢幻のような廊下を彷徨わせるという事。
「……お前には、ずっとこの無限の夢幻の中で這いずり回っていてもらおう」
「ぐ…………ぐぐぐぐぐぐ…………!」
 必死に、「てけてけ」は飛び掛かろうとする。しかし、距離は縮まらない。もはや「無限廊下」に囚われた彼女は、そのまま……「無限廊下」から教師が解放してやるまで、ずっと、そこで彷徨い続けるしかない。直接[ピーーー]ことはできないが、うまく発動してしまえば問答無用に近いのだ。
 こつ、こつ、こつ、と。そのまま、教師は「無限廊下」の空間から立ち去っていこうとして。
「逃がす、かぁっ!!」
「!」
 ひゅっ!と。頬を何かが霞めた。見れば、「てけてけ」の両手に鎌が出現している。それを投擲してきたらしい。
 舌打ち一つ。油断した。「てけてけ」は「無限廊下」に捕えていたものの、それが投擲する物にまで効果が及んでいなかった。と言うより、「てけてけ」が「カシマさん」の逸話と混じって鎌を持っている可能性を失念してそこまで力を発動させていなかった。気を付けねば。
 だが、一撃でこちらを仕留められなかったなら、どちらにせよ向こうの負けだ。
 改めて、「無限廊下」の空間から脱出する。背後からの怨嗟の声は無視して。そのままこつ、こつ、こつ、と。元の校舎の廊下を進み、階段を下りていく。
397 :年明け単発祭り:無限の夢幻 [sage]:2022/01/04(火) 01:26:14.40 ID:ieOHxila0
「先生、さような……あれ、先生。怪我」
 と、途中で男子生徒とすれ違い、先ほど頬を鎌が霞めた時の傷に気付かれた。
 帰ろうとしていた生徒だったが、踵を返し近づいてくる。
「大した怪我ではないし問題ない。校長に報告せねばならないし、生徒を煩わせる訳には」
「駄目です。つまり、なんか都市伝説と遭遇して怪我したんですね?……全く」
 流石に生徒相手に「無限廊下」を使う訳にはいかず、距離を詰められて。
 べろり、頬を舐められた。傷が一瞬で癒えて、消える。
「先生の契約都市伝説、戦闘向きって訳じゃないんですから無理は駄目ですよ」
「……同じく、戦闘に適していない都市伝説と契約している君には言われたくないし、君は相手の意志を無視して強制治療する性格をなんとかするように」
「俺は戦闘では無理だと思ったら適任者に任せるし、怪我人放っておくのは性に合いません」
 ではさようなら、と改めて帰っていく男子生徒。
 あれの被害者はおそらく自分だけではないのだろうな、と少しばかり遠い目をしながら。教師は改めて、報告へと向かっていった。


398 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/04(火) 16:04:48.89 ID:nGT11V63o
単発乙です
舐めたら治るの契約者……一切の下心なく親切心で治癒してるんだろうけど
ためらいもなく教師の頬を舐める光景を多感な年頃の女子生徒に目撃されたら
教師が女性の場合は背徳的なおねショタ、男性の場合はもっと危険な関係にしか見えず
多感な年頃の女子生徒の性癖に悪影響ががが!
399 :年明け単発祭り:夢を抱き飛ぶ [sage]:2022/01/04(火) 17:41:22.43 ID:ieOHxila0

 これは、都市伝説と戦う為に都市伝説と契約し、そして飲み込まれて行こうとしている者の物語である。


 UFOに乗るのが夢だった。
 夜の空、星の海を飛び回るのが夢だった。
 その夢は「UFO」との契約によって叶うかと思っていた。
 残念ながら、自分が契約した「UFO」は乗り込めるようなタイプではなかった。まぁ、手のひらサイズと言う愛らしい大きさなので仕方ないだろう。
 それでも偵察なり、そのサイズの癖にくそ強力なビームを放てたり。何度も助けてもらった。
 動きも愛らしいその「UFO」と助け合いながら、都市伝説と戦ったり色々とやってきた。

 そして、その限界が来ようとしていた。

「い、ぐ、ぅ……」
 血が止まらない。
 ギリギリ、なんとかあの恐ろしい契約者から逃げ出す事はできた。あれは、一体どんな多重契約者だったのだろうか。いくつもの都市伝説の能力を使うあの男に、自分達は全くかなわなかった。
「「UFO」……」
 力なく「UFO」は点滅する。その小さな体は、あの恐ろしい契約者に殴り飛ばされ半分以上欠けてしまっていた。
 自分も、「UFO」も。このままでは、どちらも死ぬのだろう。
「……何か……何か、助ける、方法は……」
 自分は、いい。
 せめて、「UFO」だけでも助けたかった。この小さな命に、消えてほしくなかった。
 どんどん、「UFO」の点滅は弱々しくなっていく。かすかに、その小さな体は光へと変わっていこうとしていた。
 何か、何か、なにか、なにか、ナニカ…………。
「……あぁ、そうだ」
 あるじゃないか。「UFO」だけでも助かればいいのなら、きっと、簡単なはずだ。
 よろよろと座り込む。どうせ、もう立っていられない。
 「UFO」はこちらの考えを悟ったのだろうか。やや慌てたような点滅をする。点滅によるモールス信号での意思表示。伝えられた言葉に、笑う。
「…………駄目だ。契約は切らない。このまま、私は死ぬ。だから、君はもう少し、耐えてくれ」
 ちかちかと、「UFO」は点滅を繰り返す。必死に契約を切ろうとする意思が伝わる。
 だが、契約は切らない。解除しない。ゆっくりと、自分自身が変化していくのを感じながら笑う。
「私が先に[ピーーー]ば。君は私を飲みこめるだろう」
 実のところ、自分と「UFO」との契約はギリギリのものだった。だからこそ、この「UFO」はこんな愛らしいサイズになってしまったのだ。心の器、とやらが自分は小さかったという事。
 そんな自分が、[ピーーー]ば。契約を維持したまま死んでいこうとすれば。「UFO」は、自分と言う存在を飲み込むだろう。そうして、もっと力を増すはずだ。
 そうすれば、「UFO」は助かる。「UFO」だけでも助けることができる。自分はどうせ助からないから、せめて。
「今までありがとう、「UFO」……君のおかげで、ずいぶんと楽しい生活をさせてもらったよ」
 意識が、引きずり込まれる。あぁ、こっちが先に死なないと。けれど、これはきちんと、伝えないと。
「君は、私の事など忘れて幸せに、新しい契約者を見つけるなりして幸せに生きるといい。今度は…………私のような半端な器しかない人間じゃなく、もっと……大きな器を持った者と………………契約、するんだよ」
 これだけ、なんとか伝えて。
 意識も、命も、魂も、引きずり込まれた。



 夜の空を、星の海を「UFO」は飛ぶ。ちかちか、ちかちか、点滅しながら飛び回る。
 起きない。起きない、起きない、起きてくれない。
 飲み込んだその人は、自分の中で眠っている。起きてくれない。何度呼び掛けても、起きない。
 死んでほしくなくて飲み込んだ。なのに、意識が戻らない。
 ちかちか、ちかちか、点滅しながら「UFO」は飛び回る。
 飲み込んでしまった大事な契約者を起こしてくれる人を探して、どこまでも、どこまでも。

 夜の空を、星の海を飛び回る。
 彼の人が目覚める日が来るのかどうか。
 誰も、わからない。

 ただただ、「UFO」は飛び続ける。
 契約者を目覚めさせるという夢を抱いて、どこまでも、どこまでも。



400 :年明けそろそろ単発じゃなくなってきた祭り:治療行為への覚悟完了 [sage]:2022/01/04(火) 23:33:14.95 ID:ieOHxila0

 これは、都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者達の、特に戦ってはいないちょっとした日常の一幕である。


「それでは。「「舐めたら治る」被害者の会による告発会を始めます」
「なんだそれ」
「名前の通りよ!!!!!」
 そう、名前の通りの会でしかない。
 たとえ親切心からであろうとも、下心がなかろうとも。「舐めたら治る」を発動させるために舐められるのは色々と大切なものを失ってしまう。特に、全身やられると一気に大事なものが消えうせる。モウオヨメニイケナイ。
 そんな想いを抱きながら、「カマキリ男爵」の契約者と「お風呂坊主」の契約者。そしてついでに「無限廊下」の契約者たる教師が「舐めたら治る」の契約者に向き合っていた。「舐めたら治る」の契約者は「解せない」と言う表情を浮かべていた。解しろ。
「まぁいいや。話は聞くから、腕立て伏せは続けてていい?」
「いいけど。なんで背中に「カマキリ男爵」乗せて腕立て伏せしてんの?」
「ただ腕立て伏せするだけだと負荷が足りない」
「何言ってんのこいつ」
 何言ってんのこいつ。白い目を向けられても気にする様子なく、「舐めたら治る」の契約者は背に「カマキリ男爵」を乗せたまま腕立て伏せをしていた。
 「カマキリ男爵」はカマキリではあるが、大きさは人間よりも少し大きい。それなりの重さがあるはずなのにその重みを感じていないかのような動きだ。「カマキリ男爵」は、宇宙猫みたいな表情(いや、カマキリに表情なんてないかもしれないが)でそのまま大人しくしていた。なんだこの光景。
 まぁ、話を聞くのならば問題ないだろう。訴えを開始する。
「とにかく、あれよ。こちらの意志をガン無視して舐めまわすのは止めてほしい」
「迅速に治療しないと痕が残るだろ」
「残っても問題ないって言ってるよね!?」
「契約者様。乙女のお体に傷跡が残るのは、この「カマキリ男爵」反対でございます」
「しまった身内に裏切者がいた!!??」
 宇宙猫状態から脱出した「カマキリ男爵」の言葉に頭を抱える「カマキリ男爵」の契約者。そうだ、こいつはそういう奴だった。だから、全身舐めまわされているのを止めてくれなかったのだ。なんて奴だ。
「と、言うか。先生も被害にあってた時点で本当、もう…………躊躇0なんだなって改めて認識したわ」
「……こちらは、全身はやられてないからな。頬やら手の甲を治療された事があるだけで」
 「お風呂坊主」契約者が頭を抱えている様子に、「無限廊下」の教師はそう弁明した。そして、自分が教え子達のように全身舐めまわされる結果になったら……と、想像し……静かに遠くを見た。窓の外は今日も空が綺麗だ。
「いや、本当さ。もっとこう。躊躇するとかないの?舐めるんだよ?」
「傷の治療に躊躇も何もないだろ」
「くそっ!覚悟が完了しすぎている!!」 
「え、と言うか。先生相手でも、全身怪我してたら全身舐めるの?」
「そりゃするだろ。治療しなきゃダメなんだし」
 静かに、静かに。「無限廊下」の教師はさらに遠くを見ていた。生徒想いであり、生徒の為であれば存在を認めたくもない都市伝説と契約する程度には意志力が強い教師ではあったが。もしかしたら辱めの類には耐性がないのかもしれない。治療なのだが。
 絶対に、全身に傷を負うような事態にはなってはいけないのだと、教師は決意を固めていたが、未来はどうなるかわからない。先の事など、未来予測系都市伝説と契約でもしていない限り分る筈はないのだから。
 なお、その遠くへと現実逃避されていた意識は。
「……万が一。万が一だけどさ。「昇天カーセッ●ス」とか「もげろ」で。股間が犠牲になってても使うと……?」
「待て」
 「お風呂坊主」契約者の震える声での疑問で一気に引き戻されていた。女子高生がなんて都市伝説の話題を口にしているのか。どちらも男の急所が犠牲になる都市伝説ではないか。
 そんなものは食らいたくもないし、それを「舐めたら治る」によって治療するとなると、絵面があんまりにも……。
「え、もちろん使うよ。そんな大事な場所、ちゃんと治さないとダメだろう」




「え。なんだこの時間が止まったみたいな沈黙」
「至極当然の反応でございますよ、「舐めたら治る」の契約者様」
 腕立て伏せ続けつつ、自身を見て固まっている三人相手に首をかしげる「舐めたら治る」の契約者に「カマキリ男爵」はいち早く正気を取り戻してツッコミを入れた。
 覚悟が……覚悟が、あまりにも完了しすぎている。と、言うより。もはや舐めるという行為を心の底から治療行為としか思っていないようで。あまりにも、認識が一般とかけ離れ過ぎていた。
「都市伝説と関わった契約者とはいえ。そこまで覚悟が完了と申しますか。認識がズレていらっしゃるのもまた、珍しい」
「そうか?いやまぁ、俺も周りが周りだし、多少は一般とズレてるって認識はあるけど」
 あまりにもズレすぎている。そのせいで己の契約者含め三人が、意識を宇宙の彼方へ飛ばしてしまっている現実に「カマキリ男爵」はどうしたものかと思案した。もしかしたら三人共SAN値チェックに失敗したのかもしれない。一時的発狂で酷い結果を引かなければいいのだが。
「と、言うか。「カマキリ男爵」も、俺が他人を治療する事に関しては止めないんだろう?」
「確かに、契約者様も「お風呂坊主」の契約者様も。乙女であるというのにあまりにも自身の怪我に対して無頓着でございますので。治療には反対いたしません」
「なら、問題ないな」
「問題ある」
 なんとか、「無限廊下」の教師の意識が現実に戻ってきた。教師として、教え子より先に復活せねばならないという意志が強かったのだろう。
「……今度、君の保護者とはじっくり、話し合う必要がありそうだ」
「え!?ちょ、それは止めてくださいよ。義父さんは仕事色々忙しいんですから」
 ようやく慌てだした「舐めたら治る」の契約者。それでも腕立て伏せを続けているのだから強者だ。そろそろ百回を超えていそうなのだがスピードが落ちない。身体能力化け物か。「舐めたら治る」には身体能力強化等ないはずなのに。
 深く深く、教師はため息をついた。まぁ、保護者と話し合うとしても。「舐めたら治る」の契約者が能力を使う事は止めないのだろう。せめて飲み込まれる事ないようにと思うし、自分達はなるべく負傷すべきではない。
「……そうそう。覚悟は決まらないものだ」
 舐められる覚悟より、負傷しないように努力する覚悟の方が勝る事実。
 固まったままの女子二人もそうなるのだろう。きっと。

 今後、彼女らがどれだけ「舐めたら治る」によって治療されるのか。
 それは全て、彼女らの運命次第である。



401 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/05(水) 07:41:47.69 ID:IxB7Pgmdo
舐めたら治る君被害者めちゃくちゃ作ってそうwwwwww
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/05(水) 07:47:33.34 ID:IxB7Pgmdo
彷徨うことになったUFOが狩られる側に回らないようにと祈っております
403 :年明け単発祭り:満足するために [sage]:2022/01/05(水) 17:40:05.68 ID:Xyehbh0O0

 これは、都市伝説と戦う為ではなく、ただただ身勝手に契約した能力者の物語である。


 カタカタと、暗い部屋の中にキーボードを叩く音が鳴り響く。他の音は、せいぜいヘッドフォンからかすかに漏れ出す音楽くらいか。
 カタカタ、カタカタ、お手本のようなきれいなブラインドタッチによって文章が形になっていっている。
 決して、人を引き続ける文章ではない。ただただ書き散らしているに等しい。思うがまま書き垂らした散文に近い。まぁ、日記なんてそんなものだろう。誰かが読むことを前提に書いた日記は、もはや日記ではない。
「……よし」
 こんなところだろう。もしかしたら誤字脱字その他もろもろあるかもしれないが、後で直せばいいだけの事だ。書いている最中には気づかないけれど、後になって読み直したら気づくなんて日記に限らずよくある事である。
 名前さえ、間違えていなければいいのだ。
 ターゲットの名前さえ間違えていなければ、問題ない。
 かちりと投稿をクリックし、ブログをネット上へと投稿した。
 これでいい、とニタリと笑う。さて、どれくらいで効果が発動するか。実に楽しみだ。

 効果は、思ったよりも早く発動してくれた。
 ターゲットに関する話題を書いたブログを投稿してから12日程経って、そのターゲットが交通事故にあったという緊急ニュースが流れてきた。これで死ぬにせよ、生き延びるにせよ、自分が契約している「デスブログ」の効果が発動したことに変わりはない。
 「デスブログ」の発動条件と効果は単純明快。自分のブログに不幸な目にあわせたい相手に関する話題を書く。なんだったら、特定個人ではなく会社とか特定組織とか。なんだったら国単位でもいい。そうしてブログで話題に出した対象を不幸にする。そんな力だ。
 別に、ブログで話題に出せば無差別に発動する訳ではない。契約の力によって発動させたい時だけ発動させることができる。不幸の度合いや具体的な内容までは決められないし、どれくらい時間が経つと発動するのかもわからないのが欠点だが、それ以外は実に使い勝手がいい能力である。
 強制発動能力ではないおかげもあって、今のところ私が犯人であるとは疑われていない。いくつかの都市伝説絡みの組織が私を警戒してはいるようだが、決定的な証拠をつかめてはいないのだろう。
 正直なところ、そういう都市伝説絡みの組織相手にもこの「デスブログ」を発動してやりたいところなのだが……流石に、自分のブログで話題に出してしまうと、あちらに私を狙う大義名分を与えてしまいかねない。
 だから、私は毎日気ままにブログを書き散らし、不幸を与えたない対象がいたらそれに関する話題を書いて発動させる。それで満足することにしているのだ。
 私にとって目障りな相手を不幸にできる。それで満足してあげるのだ。あぁ、なんて私は心が広いんだろう。
「そろそろ出番でーす!」
「あ、はーい!」
 ネットニュースを見ていた携帯端末から視線を外す。いけない、そろそろ時間だ。
 グループのみんなと一緒に立ち上がり、舞台セットへと向かう。
「それでは、今回のゲスト!FOXGIRLSのみなさんでーす!」
「「「「「こーんにーちフォーックス♡」」」」」
 可愛らしさを意識した声でみんなと一緒に言えば、盛り上がった返事が返ってくる。
 あぁ、なんて充実した日々。なんてすばらしい日々。
 この間、番組内でこちらを弄り倒してきたむかつく野郎も交通事故にあってスッキリしたし。
 さぁ、今日も気持ち悪い野郎共に愛想と媚びを振りまいて、稼がせてもらいましょうか!



404 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/07(金) 06:50:49.13 ID:qkyGj5lLo
●OXGIRLSやべえやつしか居ねえ気配がむんむんするぜ……!
405 :年明け単発祭り:これが私のお狐さんだ [sage]:2022/01/07(金) 12:08:42.98 ID:9eOYmDK70

 これは都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した魔法少女の物語である。


「お疲れ様でしたー」
 バラエティ番組の収録を終え、衣装も脱いで私服に戻ったアイドルグループ「FOXGIRLS」のメンバー達。まだまだアイドルグループとしては新人であり、人気もそこまで高い訳ではない為、帰宅の際に事務所に送ってもらう、みたいな待遇は残念ながらまだない。
「それでは皆さん、お気をつけてお帰りください。最近、変質者が出るというお話もありますからね」
 生真面目なマネージャーは心配そうに五人にそう声をかけた。本当ならば送ってあげたいけれど他の仕事があって無理、と言う様子だ。
 大丈夫ですよぉ、とメンバーの一人はけらけらと笑った。
「お父さんにお迎え頼むんで平気でーす」
「私も、お姉ちゃんが車で迎えに来てくれるから……大丈夫」
「変質者?……よかろう。我が愛機ブラックメタリックハイパーフォックス号に追いつけるかどうか、試してやる」
「スピード違反で捕まるとかないようにねリーダー。ぼくはタクシー呼ぶつもりだから平気」
「変なのと遭遇したら、すぐ110番できるよう構えておきますから。安心してください」
 それぞれ、マネージャーを安心させるようにそう言って見せる。
 いっそ、マネージャーの方が心配なくらいだ。複数の新人アイドルやグループのマネージャーと言う激務を担わされているブラック社畜な様子とか。見た目実に頼りないからむしろそっちが変質者に襲われないかとか、色々。
 担当アイドル達の返答にひとまずはほっとしつつも。
「いいですか。何かあったら、すぐにこちらに連絡してくださいね?」
 等と言って、マネージャーは次の仕事に向かっていく。いや本当、いつか倒れないかな。
「もー、マネージャーちゃん、いっつも過保護なんだからー」
「心配してくれてるんだよ。あの人、いい人だもん」
 余計な心配かけないようにしなくちゃな……と思いながら、他のみんなとはテレビ局の前で別れる事にする。
 メンバーの一人が、黒塗りのいかにも立派な自家用車に乗り込んで帰っていく様子を見守っていると、とんとんっ、とリーダーに肩を叩かれた。
「他の三人は車での帰宅だから大丈夫だろうが。主は平気か?歩きだろう」
 予備のヘルメットを持って来ようか、と言う表情を浮かべているリーダー。
 キャラ作り……ではなく普段からこういう喋り方と言う変わり者な点はあるが、きちんとメンバーを心配してくれているしっかりした人だ。喋り方がちょっとアレだけど。
「平気!ほら、いつでも110番でおまわりさん呼べるようにしておくし。ちゃんと悲鳴もあげるから」
「……いざ、危険が迫った際咄嗟にそれができる者はそうそう、おらんのだが…………本当、気をつけろよ」
「うん。リーダーこそ、スピード違反とかスピード違反とかスピード違反に気を付けてね?」
「ふん。そんなもので捕まるような半端な速度など出さんわ」
 それはもっと駄目なのでは……?と疑問に思ったが、リーダーはそのまま、バイクに乗りこんで帰っていった。あぁ、一瞬で見えなくなる。どれくらいのスピードなんだろう、あれ……いつか本当にスピード違反で捕まって変なニュースにならないといいのだが。
 とまれ、帰路につく。徒歩帰宅だが、途中で電車に乗るのだし平気だ。問題ない。夜遅い時間だけど、平気。怖くない。
 だって、私は……。

「きゃあああああああああああああっ!!!!!」

 ある程度歩いたところで、悲鳴が聞こえてきた。周囲を見回す。おそらく、悲鳴を聞いたのは私一人。
「……もう!」
 放っておくことなんてできない。悲鳴の方向へと駆け出す。
 あぁ、これを放っておくことができないから。私は、これと契約したのだ。


「誰か……誰かぁっ!!」
「うるせぇ!暴れるんじゃねぇ!」
 1人の女性が襲われている。全身包帯まみれの注射器を持った男に。それが「注射男」等と呼ばれる都市伝説と契約した存在であると、襲われている女性はわからないだろう。都市伝説であろうとそうじゃなかろうと、これは変質者であるし犯罪者だ。女性を注射器の中の薬品で昏倒させた後、股間の注射器を刺そうとしているからなおさらだ。
 注射を刺そうにも、女性は暴れる。それでも馬乗りになって押さえつけ、注射しようとした。
 その時!
「そこまでよ!!!」
 凛とした声が響き渡り、「注射男」は、襲われていた女性は、思わずそちらの方向を見た。
 そこには、人影一つ。月光をバックに、びしりとポーズを決めていた。
「我が名は魔法少女お狐仮面!罪なき女性を襲う変質者め!私が相手だ!!」
 凛々しく叫ぶそれは、少女のようだった。少女のはずだ。体格的にも声からしても。
 しかし。
 問題はその纏う魔法少女めいた衣装だった。
「……変態だーーーーーーーーーーっ!!!???」
 思わず叫んだ「注射男」は悪くないだろう。
 明らかにパンチラしそうなギリギリ丈のマイクロミニスカート。ふわふわお狐毛皮のニーブーツ。胸元・へそ・二の腕完全露出。必要最低限だけを覆った狐の毛皮。そもそも、股間辺りだけはマイクロミニスカートで半端に布で覆っているせいで余計に変態っぽい。狐耳と尻尾とか狐手グローブとか、狐仮面が気にならない変態ファッション。否、痴女ファッションだ。
「だまれ!変態はそちら!!いざ、勝負っ!!!!!」
 恥ずかしさを押し隠しながら、魔法少女お狐仮面……「おたねさん」の契約者たるアイドル少女は、「注射男」に殴りかかった。
 「おたねさん」。悪人だけをいじめる正義の狐の妖怪。少なくとも彼女はそう認識していたから。
 故に、彼女はアイドルを続けながらも正義の魔法少女として、日々、羞恥心に抗いながら戦うのだった


406 :年明け単発祭り:これが私のお狐さんだ都市伝説補足 [sage]:2022/01/07(金) 13:41:58.82 ID:9eOYmDK70
■おたねさん
鳥取県境港市に伝わる。
女に化けるのが得意な狐で、善人は欺かず、悪人だけをいじめるという。
盗人を探し出したり、災いを知らせたりなどもしたという。
(佐藤徳堯『山陰の民話 第一集』)

■今回の単発の契約者の場合
契約によって変身能力会得。
魔法少女の如き姿(本人談/ちょっと恥ずかしい)になり、抜群の身体能力によって相手を叩き伏せる他、狐らしく様々な姿に化けることができる。
また、伝承通り盗人を探知したり、災いを感じ取ることもできる。
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/10(月) 00:51:48.40 ID:38RG+nNto
改めて単発の人乙です

「チームワークの勝利だ!」   トランペット小僧は契約者ともトランペットでコミュニケーション取ってるんですかね
「腕のいいマッサージ師」   マッサージ師のゲテモノ食い……いやそれで誰かが幸せになれるならそれでいいのか……? ブラック企業と戦う決意を固めたお姉さんの明日はどっちだ
「永遠の子供」   ピーターパンの契約者じゃなくてティンカーベルの契約者なのか……もしかするとティンカーベルを自称して人間の子供を破滅されるタイプの妖精かもしれんな
「真夜中の決闘と言う悪夢」   久々に兄貴っぽいの見た。多分6年くらいかな? 「ポポバワ」なんて初めて知りましたがtwitterで一時期話題だったようですね(一体どの界隈に……いや考えない方がいいだろう)お下品でした♡
「デリカシーは投げ捨てて」   性癖歪む系その@ カマキリ男爵もいい性格してましたが「舐めたら治る」に全部もっていかれた。良かったです♡
「バーニングガール」   「人体発火現象」の契約者がこれからどうなるのか気になる良作品でした。闇堕ちするならそれも良し。個人的には「舐めたら治る」の被害者になるのが良し
「夜に駆ける」   契約者ではなく登場人物全員が都市伝説というところがポイントですね。これで契約者をゲットしたらどうなってしまうんだ……個人的に「ミサイルにまたがる女子高生」のスピンオフが見たい。戦ってほしい(何と?)そして見られてほしい(何を?)
「道踏み外して外道歩み」   シリアスいいですよね。でもこれ最初読んだとき、一個上に登場した「光速ばばあ」ぶつけたらどうなるんだ? と考えてしまった
「襲われる条件を考えるとつまり」   読み返すと黒服が良い味だしてるが「お風呂坊主」の契約者との距離感がほどよいですね。まさかここからあんなことになるとはこの時点では思ってなかったよ
「めぇ!めぇ!めぇ!!」   「バロメッツ」の契約者は絶対線細い系マイペース青年に違いない。連載になったら「舐めたら治る」と仲良くなるやつだと思う。組織内売店にしばらく羊肉が並ぶ光景まではっきりイメージできました
「単発から連載へってよくあるけど連載になるほど話は浮かんでいない」   性癖歪む系そのA まさかの「お風呂坊主」契約者&黒服コンビの再登場。絵面があまりにも酷すぎるいいぞもっとやれ!!(性癖歪んでほしい♡)
「無限の夢幻」   「無限廊下」と契約した先生はいい先生なんでしょうけど、最後に登場した「舐めたら治る」に全部もっていかれた(超えてはいけない一線超えてほしい♡)
「夢を抱き飛ぶ」   相手はもしや「臓器の記憶」の契約者なのでは? と思いましたが真相は闇の中。契約者が死んだらどうなるのか問題への1つの回答とも読めるんですが、個人的に次誰かと契約したら契約者の意識は完全に戻らなくなると思う
「治療行為への覚悟完了」   性癖歪む系そのB まさか被害者の会が結成するとは思ってなかった……読めば読むほど組織は女性向けの治癒契約者を別に用意した方がいいのでは? と思いました(それはそれとして変な癖に目覚めてほしい♡)
「満足するために」   「デスブログ」はこうブラックなユーモアな感じの短編でしたがここから世にも奇妙な物語みたいな展開になりそう。読みたいようで怖い。けど続きが読みたい
「これが私のお狐さんだ」   まさかのFOXGIRLS第二弾。まさか土着の妖怪と契約した結果魔法少女っぽい姿になるとは……ふと疑問に思ったのですが普段のアイドル衣装とどっちがきわどいのだろう

まさかVIPから生まれた「都戦都契」が10年以上続くとは思ってなかったのですが、シェアワールドなんだからこのコンセプトを外部で利用する人が現れるんじゃないかとひそかに期待してたのですが……そんなことはなかったな!(誰か知ってたら教えてね♡)
あと最近知ったけどこのスレR-18っぽいところに立ってるんですね……エロ
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/11(火) 00:19:25.23 ID:4SPQHCDFo
おつおつ
痴女ルックFOX仮面魔法少女ええやん!
マジカルヒップアタックになら当たってもいいかな!
409 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:32:46.66 ID:XcJZUenvo

この年末年始に投下された皆様、お疲れ様でした
個人的に心に来たのは腕のいいマッサージ師の単発でした……自分も受けたい……業やしがらみを全部抜き取られたい……!!

ご無沙汰しております、「次世代ーズ」でございます
以前は2週間前に投下すると言っておきながら3年経ってやって来る有様で
特に花子さんとかの人、鳥居の人、アクマの人にはご迷惑をお掛けしました
クロスしてくださったやの人、ありがとうございます……!

今年から心身ともに余裕ができ……そうなので「次世代ーズ」の続きを投下していきます
具体的には【9月】【10月】のエピソードをガンガン書きつつ
最大の問題の【11月】に最早迷惑集団と化した「ピエロ」の勢いを削ぎつつ、顛末に決着をつけたいです(つける)



ひとまず今夜は次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」の続きをいきます
>>334-342
早渡がソレイユに`襲われそうになった騒動の、ソレイユ=日向視点です

410 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 1/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:33:29.78 ID:XcJZUenvo
 








 


「観念しなさい、この変態クマ」


 震えそうになる息を、抑える
 すくみそうになる両膝に、力を込める


 私が杖を突きつけた先にいるのは商業の制服を着た男子
 いかにも呆気に取られましたといった体でこっちを凝視している
 ふざけた格好にふざけた表情のふざけきったチャラい存在だ、吐き気がする


 変態クマ
 東区の公園で変態的な暴挙に及んだ絶対悪
 あの屈辱を受けた日から、私はその正体を突き止めようと躍起になっていた

 そして、目の前にいるこいつ
 こいつこそがその許されざる犯人だ


 こいつの蛮行はあの日の暴挙だけに留まらない
 近頃、学校町の東区や南区で度々目撃されているという露出魔は
 十中八九この変態クマ、正しくはクマのぬいぐるみを操って変質的な破廉恥を繰り広げてきた本体だろう

 私は情報収集で得た手掛かりから目星をつけて犯人の捜索を続けてきた
 そのなかで浮上してきたのが、目の前にいるこの男だ

 正直、犯人が年の近い男子なのは意外だった
 しかしだからと言って、それが容赦する理由には全然ならない




 自分の鼓動がいつもより大きく響いてくる
 こいつが何か言おうとしたので思わず“炎矢”を発射してしまった
 自分の喉から悲鳴を飛び出しそうになるのを、無理矢理こらえる




「言っとくけど、余計な真似したら消し炭にするわよ」




 声が震えないように、声が上ずらないように、頑張って抑えつけた
 そう、これは戦いだ、絶対に気取られてはいけない
 以前の繰り返しになっては、絶対に駄目だ


 落ち着け、落ち着いて自分、大丈夫
 こうして対峙することは前々から決めていたし
 これまでにやるべきことも、事前準備も、きちんとしてきた


 だから今日、此処でこいつを仕留めないと――!










 
411 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 2/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:34:11.54 ID:XcJZUenvo
     
 








「千十は今日バイト休みよね?」
「え? うん、そうだよ」


 時間は戻って、今日の放課後
 HRが終わった後、私は千十に念のためこの後の予定を確認していた


「これから予定ある? どこか寄ったりとか」
「今日は……うーん、そのまま帰ろうかなって」


 それがいいわ、私は大きく首肯する
 そもそも今日の千十は朝から具合が良くなさそうだった


「安全な大通りから早めに帰った方がいいわ。できれば陽のある内に」
「……ありすちゃん、何かあったの? 今日、ずっと、怖い顔してるよ?」


どこか遠慮がちにそんなことを訊く千十に、私は少し言葉を選んだ


「東区から南区にかけて露出魔が出没しているのは知ってるわよね?」
「うん、何度かホームルームでも先生が注意してたよね」
「その露出魔、契約者よ。間違いないわ。それもかなり悪質なやつ」
「え……」


 最近この町を徘徊する変質者は、なにも都市伝説だけじゃない
 なんでも新たに変態の露出魔が出没するようになったらしいのだ
 クラスでもその都度担任から注意するよう通知されている

 案の定、千十は表情を曇らせた
 別に怖がらせるつもりじゃないけど、でも伝えておく必要はある


「もしも二足歩行するクマのぬいぐるみを見かけたら、絶対に近づかないで
 全力で逃げて、余裕があったら私に連絡して」

「あの、ありすちゃん。これから何するつもりなの?」


 千十は私と同じく、契約者だ
 この子は普通の契約者みたいに能力が使えるわけじゃないらしいけど
 私と同じように都市伝説やら怪異やらの類を知覚することができる
 その所為でこれまでにも何度も怖い思いをしてきたらしく、都市伝説に対して恐怖を抱いている

 そして千十も知っている
 私が契約者であることも、有害な都市伝説をできる範囲で撃退していることも


「変質者の目星はついてるの
 犯人はどうも南区の商業生っぽくて、能力でぬいぐるみを操作して女性を襲ってるみたい
 そいつの行動範囲が問題の露出魔とほぼ一致してるのよ。これ以上あんなふざけた真似を見過ごすつもりは無いわ」

「ありすちゃん、また一人でやるつもりなの? 危ないよ! それなら私が」

 
412 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 3/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:34:58.01 ID:XcJZUenvo
 

 千十の目を見つめる
 彼女の言葉はもっともだし、心配してくれてるのはよくよく理解してる

 確かに一人でやるにはリスクが大きいかもしれない
 反りの合わないノクターンの助けを借りる手も考えた、けれど


「大丈夫、私だって無理はしないし」


 今回は勝算がある

 でもそれだけじゃない

 やっぱり、この手で直接叩かないことには、納得がいかない!





          ●





「これでよし、と。ざっとこんなもんかしらね」


 高校を後にして問題の場所に到着する
 一応制服の下から水着だけは着てきたとはいえ
 まだマジカル☆ソレイユの衣装へと完全に着替えたわけではない

 街中でまだ日も暮れてないうちからこの格好で出歩くことになるのには躊躇したし
 作戦的に路上で着替えることになるのにも大いに躊躇した、したけれど
 今回はそうも言ってられない、状況が状況だ

 此処は東区、昼間も夕方も他の場所よりも一際閑静な住宅街の路地だ
 あいつは東区の住宅街だろうと、此処より人が居るような場所だろうと、そんな時間帯だろうと
 場所や時間に構わず、変態行為に及んでいることは調べがついている
 ましてや人気のないこの場所は、あいつにとっては格好の狩場ってとこだろう

 路面には目立ちにくい暗色系のビニールテープを貼り付けた、無数の目印
 仕掛けのために昨夕用意したものだ

 これまでの傾向から判断するに、あいつはこの時間帯、間違いなくこの道を通る
 言うまでもなくあいつの動線は把握済み、目印はそのためのものだ

 此処に隠しておいた使い古しの抱き枕を引っ張り出す
 これは囮のためのもの


「アアヴ・エ・ファイ、ヴァスヴォーシュ・アント……      (炎の鎖、私の戦意)」


 抱き枕へ杖を向けて“熱鎖”の呪文を掛ける
 元々は敵を拘束するために考え出した呪文だけど、今回の目的は違う
 抱き枕に私の気配を編み込むため、プランAが失敗したときの代替策だ

 ここまでは問題ない
 あとはシミュレーション通りに動くだけだ
 この日のために事前のリサーチと準備は怠らなかったんだし、だから大丈夫

 抱き枕を所定の位置へ隠すように置く
 今になってまさかこんなに緊張してくるとは思わなかった
 でも、頭の中では今日の計画を幾度も練ってきた、だから、大丈夫

 プランAは「あいつの先を歩いて、襲い掛かってきたところをいい感じで返り討ちにする」
 プランBは「万が一あいつが別の道へ逸れたり、襲ってこなかった場合は、どうにかして此処に誘い出す」
 作戦と呼ぶには我ながらアバウトすぎるけど、何が起こるか分からない以上臨機応変に立ち回るしかない
 だからこれはあくまで行動方針的なものだ


「そろそろ時間ね――」


 時刻を確認して私自身の待機位置へ歩を進める
 推定通りならそろそろこの道をあいつが通る頃合だ


 大丈夫! 私ならやれる!!
 
413 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 4/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:35:38.62 ID:XcJZUenvo
 









 そして、今

 私の想定は概ね間違ってはいなかった

 あいつは確かにこの辺りに近づいてきたし、私はうまいことあいつの前方を位置取ることに成功した
 ただ、あいつは直ぐには襲ってこなかったし、よりによって今日は別の道へ逸れようとしたので
 思わず声を出して注意を引かなきゃいけなかった

 電柱の影に飛び込んで大慌てで制服を脱いでソレイユの格好に着替える羽目になったし
 結局プランBに切り替えるような形になった
 それでも、とうとう私はあいつを此処へ追い込むことに成功した





          ●





「覚悟なさい、あんたが今までやってきたことを後悔させてやるわ」


 声が震えそうになるのを抑える
 こいつに向かって、もう既に“炎矢”を放ってしまった
 絶対に逃げるわけにはいかない、此処で確実に仕留める必要がある

 大丈夫落ち着いて自分
 この日のために何度もイメトレを重ねてきた
 敵が私とほぼ同じ年齢の男子だというのは早い段階で分かっていたし
 敵が何を言ってどう動いたら、こっちはどう出るべきなのかも検討してきた


 そういえば年の近い契約者と交戦するのって初めてだっけ
 そもそも都市伝説ではなくて、契約者相手に戦ったのって、どれくらい前だっけ


 イメトレのときには思い浮かびもしなかったようなことが、今になって私の頭のなかを渦巻きだした


 落ち着いてありす、大丈夫だから
 自分にそう言い聞かせないと
 大丈夫、今なら能力の使用にはまだまだ余裕がある
 今日は私の方が有利なんだから


「ごめん、あの、身に覚えがないんだけど」



 は?

 目の前の犯人の言葉に、一瞬、頭のなかが真っ白になりかけた



 
414 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 5/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:36:22.56 ID:XcJZUenvo
 

「覚えがない? へえ、そんなこと言うの? 一言目がよりによってそれ? ふざけてるの?」


 頭のなかが真っ白のまま、ほぼ無意識で怒りが言葉になって私の口から出てくる
 こいつの表情は、なに? 動揺? もしてかして恐怖? そんな顔で私を見返している


 なんでそんな顔ができるのよ

 なんでそんなすっとぼけてられるのよ


「知らないとでも言うの? いい加減になさいよこの変態!」


 犯人が何か言い訳がましいことを口にした。何を言ってるのかなんて耳に入らなかった
 私は怒りのままに何かをまくし立てた。自分が何を言い返したかなんて覚えてられるわけなかった

 いやもうそもそも、この男の存在そのものが、論外だった

 こいつが私に何をしたきたか
 私だけじゃない、こいつがこの町のあちこちで何をしでかしてきたか
 それを思い出すだけで、マグマのような怒りが私の内側を焼き尽くしていた



「ヌルヌルのベチョベチョにするって言い放って、エロ……くっ……
 あっ、や、やらしいことしようと迫ってきたことも、とぼける気ね!?」



 不意に我に返る
 公園で受けた屈辱を口にして、そのことを思い出して、一瞬言葉が詰まってしまった



「待って本当に身に覚えがないんだけど!?」



 対してこいつが切羽詰まったような声色で即座に言い返してきた答えが、これだ



 身に覚えが、ない



 あらそう
 ふざけないで!! この期に及んでまだシラを切り通すつもり!?
 あんなやらしい犯罪行為をしでかしておきながら!?

 犯人の目を、睨みつけた


(ソレイユちゃん、メリーの勘だけどあの人は犯人じゃないと思うのー)


 何故だかこのタイミングで、いつだったかのメリーの言葉を思い出してしまう
 いつ言われたことだっけ? そのとき私はなんて応じたっけ?


 ほんの一瞬、自分のなかの怒りがフッと冷めた気がした
 こいつの返答って、全部私を騙すための演技なんだろうか? 知らないフリを続けるために?
 少なくともウソを吐いてるようには見えない。私のなかで徐々に混乱が渦巻き始めた

 
415 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 6/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:37:01.60 ID:XcJZUenvo
 

 もしも


 目の前のこいつが、変態クマの正体じゃないとしたら?
 こいつが犯人というのが、全部私の勘違いだとしたら?


「そう、しらばっくれる気ね。いいわ、いいわよ。そっちがその気なら――」


 混乱した思考とは裏腹に、勝手に言葉が口から出てくる


 ど、どうしよう
 卑劣な変質者なら人を騙すことなんて何とも思わないかもしれない
 だからこいつが本当に犯人で、こいつの答えが、態度が、表情が、全部演技の可能性だって十分にある

 でも、もしもこいつが変態クマの犯人じゃ、なかったとしたら?

 どうしよう
 こういうときは一度痛い目に遭わせて、それから様子を見るべき?


「あくまでシラを切り続けるつもりなら、本当のことを話したくなるまで、体の端から灰にしていってやるわよ!?」


 考えなしに我ながら物騒な台詞が口から滑り出た
 私はそれを、止めることができなくなっていた

 でも――そうだ、それがいい、今のはいい案だわ
 大丈夫、端っこからちょっとだけ焼いていく、それだけだから
 それで己の罪状を自白し始めるかもしれない。そうだ、拷問に掛ければいんだ


「言っとくけど、前の私と同じだなんて思ってたら、死ぬほど後悔させてやるわよ」


 目の前の男子は見開いた両目で私のことを凝視している
 もし、もしも
 この男子が、本当に変態クマの正体じゃ無かったとしたら?

 無実の人を、拷問に掛けるつもり?

 どうしよう


「アアヴ・エ・ファイ、ヴァスヴォーシュ・アント          (炎の鎖、私の戦意)
 アルヴィル・ノッド・アルヴィル――          (強く、より強く――)」


 ほとんど麻痺したような私の頭は
 半ば無意識のうちに、“熱鎖”の呪文を唱え始めた

 この呪文で拘束されると、温度を上げて相手の身体を熱することも、焼くこともできる
 威力を上げれば火だるまにすることだって可能だ――勿論、人を[ピーーー]ことだってできるかもしれない


 どうしよう


 男子に向ける杖が、大きく震えた










 
416 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 7/12 ◆John//PW6. [sage !red_res]:2022/01/11(火) 20:37:49.55 ID:XcJZUenvo
 










 すべての音が消えた、少なくともそう感じた

 それは一瞬だった

 男子の両目が、私を捉えている



 こいつの目には、恐怖の感情が渦巻いていた

 恐怖、私に対する恐怖

 ようやく実感した、こいつが私に抱いている恐怖を



 どうしよう、私はこいつが変態クマの正体であることを前提に準備を進めてきた

 でも、思い返せば

 メリーはずっと、何度も口にしていたんじゃないか

 目の前の男子が、本当に変態クマの正体なのかと、疑念をことあるごとに口にしていたんじゃないか

 そしてそれを、私は軽く受け取るか、無視してきたんじゃないか





      くすくす      くすくすくす      くすくす





 不意に、女の人の笑い声が聞こえた

 幽かな、囁くような、嘲笑うような、そんな嗤い声が



 憑かれたように、男子を見る

 何故そうしたのかは、自分でも分からなかった





                  くすくすくすくす      くすくす         くすくすくす





 その声は当然私のものでも、男子のものでもなかった



 笑い声は、私の直ぐ耳元で、聞こえた











 
417 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 8/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:38:35.63 ID:XcJZUenvo
 








「――待って!! ありすちゃん!! 駄目!!」


 麻痺していた頭が、一気に現実に引き戻される

 聞き慣れた声だ


「あり、あっ……ソレイユちゃん! 駄目! 待って!!」


 数秒遅れて知覚に思考が追いついた


「千十ぉ!!??」


 あの後、学校で別れて先に帰宅した筈の千十が、目の前にいる
 千十が、問題の男子と私の間に割って入っていた
 まるで、男子を庇うように

 ちょっっ、えっっ!? な、なんで千十がここにいるの!!??
 先に帰ったんじゃなかったの!!??
 なんでそいつのこと庇ってるの!? なんで!!??


「千十!! な、何やってるのよ、こっちに来て!!」

「待ってあり、……ソレイユちゃん! 脩寿くんと何かあったの!?」

「千十!! そいつから離れて!! そいつが変態クマよ!! 早くこっち来て!!」

「変態クマって……」


 はっきり言う、千十は男子が苦手だ
 それも男子から急に話し掛けられると飛び上がってしまうレベルで
 だから、目の間にいるこの犯罪者を、千十が庇った理由が私には理解できなかった


「違うよ、脩寿くんじゃないよ! そんなことをするような人じゃないよ!!」


 なんてこと言い出すのよ!?
 なに!? 知り合いなわけ!? そんなのと!?!?


「脩寿くんじゃないよ! だから……ソレイユちゃん、お願い。杖を下ろして」

 
418 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 9/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:39:04.01 ID:XcJZUenvo
 

 どうしよう
 さっきまでの私はちょっとパニックになってた
 でもでも、この男子が変態クマの正体では無いと確定したわけでもない

 一瞬、迷った
 私をみつめる千十の表情は普段よりも固い――とりあえず、杖を下げるしかなかった


「千十、とにかくこっちに来て! 早く!!」


 無論、この男子のことが信用できるわけじゃない
 千十が騙されてる可能性だって十分にあるわけで

 最悪なのは、この男子が千十を盾に本性を現すパターン
 この場に私が居ながらそんな事態になるのは、絶対に許されない

 もうこうなった以上、一旦撤退するしかない


「メリー!」


 千十の腕を掴んだまま、携帯でメリーを呼ぶ
 最初の計画には無かった緊急時の最終手段だ
 無論、男子からは目を離さない


 そいつは困惑したような表情で、最後までこちらを凝視していた

















 
419 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 10/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:39:45.85 ID:XcJZUenvo
 













「ありすちゃん、一体何があったの!?」


 そして
 私達は学校町内のドーナツ屋にいた

 メリーの能力で転移した後、近場の公園トイレで早着替えを済ませてある
 さすがにソレイユの格好でお店に入るわけにはいかないし

 どこから説明しよう
 私の対面席で千十がいつになく怖い表情をしている
 言葉にもなんというかこちらを責めるような圧がこもっていた

 そんな彼女を前に、切り出す言葉を選ぶ
 思えば、こんな顔する千十は初めて見るかもしれない


「せとちゃん、ありすちゃんはねー、テディベアを操る変質者を追ってたのー」


 私に代わりに答えたのはメリーだった
 メリーはぱっと見、もこもこした羊のぬいぐるみ
 だから声を出しているのを他人に気づかれなければ割かし安全だ
 メリーはテーブルに置いた私の腕のなかで震えるように身動ぎしている


「そう、その……そうよ
 それで、色々調べて回ってたんだけど
 そのうち、あの男子が犯人の可能性が強くなってきたんだけど」

「でもでもー、あの男子ーが変質者だっていう決定的証拠は無いなのー
 今のところは、あくまでありすちゃんの推測なのー!」


 メリーは私の説明に横槍を入れると
 私の腕から抜け出して、テーブルをちょこちょこ駆けて千十の胸元へ飛び込んだ
 彼女はメリーを抱きしめて、今度は不安そうな面持ちでこっちを見てくる



 
420 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 11/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:40:19.14 ID:XcJZUenvo
 

「それよりも千十! あなたアレと知り合いだったわけ!?」

「知り合いというか、お……幼馴染だよ! あの、小学校の頃に一緒の施設にいたの
 ありすちゃんにも前、紹介したい友達がいるって言ったでしょ? それがさっきの、脩寿くんのことなんだけど」

「あいつが」

「脩寿くんは人を傷つけるような真似をするような人じゃ、……ないんだけど
 だから、あの、変質者じゃないと思うんだけど、何かの間違いじゃないかな……?」


 大きく息を吸い込む
 落ち着こう、こういうときは一旦整理しないと

 さっきあいつを追い詰めてたとき、私は確かに熱くなってた
 思い込みで判断していたところも多いかもしれない
 でも――でも、だ


「確かにあいつが犯人だって直接的な証拠は無いわ、今のところ全部状況からの判断よ
 でも、あいつの行動範囲は変質者、クラスでも話題に挙がってた露出魔が目撃された箇所とほぼ一致するし
 それにあいつが夜の東区を徘徊しているのは、私もメリーもこの目でしっかり確認してるのよ」

「うー、それはそうなのー。あの男子ーは、あちこち徘徊してたのー。東中とかー」

「ああ、まあそうね、別に東中だけじゃなく東区の広い範囲を……、東中! そうよ!!」


 思い出した。証拠、あった!
 東中であの男子が都市伝説の少女を襲ってたことを話さないと

 一瞬、千十を怖がらせるんじゃないかとも思った
 この子は東中の出身で、そもそも学校の怪談全般を怖がってた筈

 でも状況が状況だ


「千十、あいつはね、夜の東中で都市伝説の……そう、『学校の怪談』の女子に襲い掛かってたのよ」
「へ!?」
「あう、それも本当に襲ってたのか、ちょっと微妙なところなのー」
「いやでもあれは襲ってたと見てほぼ間違いないでしょ!」
「……」


 千十は自分の携帯を握りしめたまま固まっている


「千十、あなたの幼馴染かもしれないけど、あいつは……千十!?」

「あおお、あおお……!!」


 彼女は変な声を上げだした
 千十の目が、激しく泳いでいる


 
421 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 12/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:40:55.86 ID:XcJZUenvo
 

「しゅっ、脩寿くんはっ! 昔、せッ、セクハラ大魔王って呼ばれた時期もあったけど!
 あ、あれは単に、寂しがり屋な、やんちゃさん、だっただけだからっ! ほんとは優しい子だったから!」

「せ、千十? いま、なんて?」

「い、今もへっ、へへ、変態さんかもしれないけど、けどっ
 でも、でもっ、そんなっ、人を傷つけるようなこと、するような人じゃないからっっ!」

「千十、ちょっと、どうしたのよ!?」


 どうしよう
 こんな様子のおかしい千十、初めて見た……

 でも今、あいつのこと変態呼ばわりしてなかった?
 ちょっと千十、どういうことなの!?


「わ、私っ、脩寿くんを、ココに呼ぶねっ!」

「は!? あいつを!? ここに!? 呼ぶ!? なんで!!??」


 思わず大声を出してしまった
 途端にお店のなかが静まり返った
 店員さん含め、皆がこっちを見ている


「あ、す、すいません――!」


 立ち上がって店内にいる人たちに頭を下げた
 我を忘れて大声出しちゃうなんて、何やってるの私

 千十は脇目も振らずに凄い勢いで携帯をフリック操作している


「あばばばば……! 私が、誤解を、解かなくっちゃ……!!」

「ちょ、ちょっと千十! あいつを呼ぶって、どういうつもりよ!?」

「こっ、こういうときは、やっぱり両方の話を聞くのが大事だと思うし!
 それに私は脩寿くんが、へ、変質者じゃないって、信じてるから!」


 私は身を乗り出し、押し殺した声で千十に尋ねると
 彼女は顔を上げてそんなことを言う


「それがいいと思うのー! 本人に話を聞くのが一番と思うのー!
 疑うのはそれからでも遅くないと思うのー!」

「メリーまで!?」


 メリーも千十に同調した


 ちょ、ちょっと待って!? 本気でアイツここに呼ぶの!?



 マジで!?









 




□■□
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/11(火) 23:26:47.92 ID:OSLwwoaB0
乙でした
こちらこそ年単位で続き書けてなくてごめんな……さ……
423 :疑問に答えようと思ったらなんか話になったタイプの単発 [sage]:2022/01/15(土) 22:07:43.07 ID:CQjuKjKM0
 歌番組の収録が終わり、お疲れ様ー、とみんなで労いながら楽屋へと戻る。
 着替える前に、鏡に自分の姿を映して……むぅ、と一人考え込む。
 「おたねさん」の契約者として、契約で得た変身能力でもって「魔法少女お狐仮面」に変身して戦う彼女。変身した際の装束が痴女ルックギリギリなのが悩みの種だ。正直、「FOXGIRLS」の一員としてのアイドル衣装の方がまだ布面積が多い。こちらは露出よりも、かわいらしさ優先だからそのせいもあるのだろうけれど。
(あぁ……「おたねさん」。どうして……どうして、変身した時の姿があんな痴女ルックなの……)
(聞こえますか……私の大切な契約者…………この「おたねさん」、瀕死の状態であなたと契約したが故、実体化できませんがあなたの心に直接語りかけて答えましょう…………変身姿が露出狂一歩手前なのは……想像力です…………あなたの想像力がより豊かになれば…………きちんと布面積の多い姿に変身できましょう……)
 自分だけに聞こえる「おたねさん」の声はいつでも優しい。優しいけれど、時々ちょっぴり容赦ない。
 なるほど想像力。すでにあの痴女みたいな変身姿が脳裏にこびりついてしまい、変身する際にその姿を思い浮かべてしまうのがいけないのか。もっと……布面積の多い姿を、想像しろと言う事か……。
「どうしたの?ぼーっとして?」
「え?……あ、ごめん。なんでもないよ。ちょっと疲れちゃったみたい」
「つっかれたよね〜。もう、クイズ難しすぎ〜」
「うむ。実に難敵であったな。頭脳戦もまた戦い。実に素晴らしい」
 わいわいとみんなでお喋りしながら、アイドル衣装から私服に着替えていくことにする。
 その最中、むぅ……と、リーダーは鏡に自分の姿を映し、呻く。
「……やはり。我には、このような愛らしい衣装は似合わぬのでは……?」
「え?なんで。リーダー似合ってますよ」
「そうですよぉ。マネージャーちゃんだって、似合ってるってべた褒めだったじゃないですかぁ」
「む、むむ……っし、しかしだな。主らならともかく。我のような背丈もあり、筋肉もついている女が。こ、このようなフリフリひらひらとした衣装はだな……」
「ちゃんと、二の腕とかカバーしてくれるデザインだから大丈夫だって。ぼく、リーダーとおそろいの衣装で嬉しいよ」
 わいわい、きゃいきゃい。
 みんなの会話を聞いて、ほっとする。「おたねさん」と契約して、非日常に触れるようになって。こうしたアイドルとしての活動もまた、一般の人から見れば非日常に近いのかもしれないけれど……自分にとっては、これが日常。護るべき大切な日常だ。
 この日常を守る為にも、もっと「おたねさん」の変身能力を使いこなせるようになって。もっともっと、強くならなければいけない。
 そう、強く噛み締めた。


 その男は、監視カメラの映像をじっと見つめていた。
 テレビ局の警備員。それは表の顔。裏の顔は、業界の人間の裏を探り弱みを握り、恐喝し、懐と欲を満たす俗物。テレビ局のお偉いさんと言う立場を利用して、やりたい放題だ。
(これも、都市伝説って奴との契約のおかげだな)
 手元で、くるくると赤いクレヨンを弄ぶ。肉欲を満たす際は、これを使うに限る。ターゲットを閉じ込め、そうしてじっくり嬲る。その様子を撮影してしまえば、もうこっちのものだ。映像は、この警備員室の監視カメラの映像ログに紛れ込ませて隠している。
 都市伝説なんて誰も信じない。そんなものを人に語ったところで頭の具合を疑われるだけ。通報もできない。
 実に人間の屑かつ下衆の嗜好をしながら、男は監視カメラで今宵のターゲットを選別する。
(こいつらのうち、どれかにしようか)
 カメラに映る。今、売り出し中の新人アイドルグループ。狐をモチーフにした装束を纏い、狐をテーマにした歌を歌う彼女らは、ロリ体型ロリボイスから高身長ナイスバディまで、色とりどりの美少女美女が五人も集まっている。どれもこれも素晴らしい。
 男の好みとしては、あの高身長のリーダー。常に強気であり、トーク番組等ではいっそ雄々しさすら見せるそんな女が、無様に泣き叫び許しを請う姿を撮影出来たらどれだけ素晴らしいだろうか。
(よし、今夜はこいつ……に……?)
 ふと。
 メンバーの一人と。映像越しに、目が、あった。



「……?なんだろ。騒がしい」
 着替えも終えて、マネージャーがタクシーを呼んでくれると言うのでそれに甘えて(リーダーはバイクがあるからと辞退したが)みんなでテレビ局の出口付近に集まっていたのだが。
 何やら、上が騒がしい。悲鳴のような、雄たけびのような……そんな声が、聞こえてきた。
「なんか、こわぁい」
 一番年下のメンバーが、ややぶりっ子口調ながらも怯えたように縮こまった。
 そんな様子に、す、とリーダーはこの出口までの直線通路を塞ぐように立つ。
「安心しろ。何かあれば、我が主らを守ってやる」
「リーダーが……頼もしい……」
「雄々しさすら感じてしまって申し訳ないし、リーダーに何かあったらぼくらが悲しいから、無理しないでね?」
 そうだ、確かにリーダーは頼もしい。バラエティの腕相撲企画でうっかり元メダリストのレスリング選手相手に腕相撲で勝ってしまった程度には頼もしい。
 けれど、何かしら物騒な事件が起きて、それでリーダーが怪我をしてしまったら。自分達は悲しいのだ。
 だから、自分も一歩、前に出る。
「リーダー、いつでも逃げれるようにしようね?」
「任せよ。主らは必ず逃がす」
 違う、そうじゃない。そうツッコミを入れようとしたところで、慌てたようにマネージャーが走ってきた。
 こちらが全員揃っている様子に、ほっとしている。
「マネージャーちゃん、なんか物騒な声聞こえてきてるけど、何かあったの?」
「その……警備員室の方でトラブルがあったらしくて…………皆さんには、関係ない事です。騒動に巻き込まれる前に、帰りましょう」
 タクシーもそろそろ来ているはずですから、とマネージャーはぐいぐいと自分達五人をテレビ局から出そうとしている。
 警備員室でトラブル……何だろう。怪我人とか出ていないといいんだけれど。
「…………」
「?どうしたの、監視カメラになんかあった?」
「……いや。なんでもないよ」
 いつもボーイッシュな雰囲気をただ寄せているメンバーが、監視カメラを睨んでいた気がしたのだけれど。
 気のせい、だったのだろうか。

 この日、警備員室にいた警備員が、突然叫び出して警備員室の監視カメラの映像機材、過去の映像記録も破壊し暴れまわり、泡を吹いて倒れたと知ったのはそれからしばらくしての事だった



424 :疑問に答えようと思ったらなんか話になったタイプの単発 [sage !red_res]:2022/01/15(土) 22:09:10.56 ID:CQjuKjKM0

 信じようと、信じまいと――

 とある病院警備スタッフが自殺した。
 同僚の話によると、監視カメラの映像を見ている際に、突然叫びながら記録用のビデオテープを破壊し、逃げるように出て行ったという。
 この事件は精神的ノイローゼによる自殺として処理されたが、結局彼が何を見たのかはわからない。

 信じようと、信じまいと――




425 :単発ではないが連載とも言い切れない:ターゲットはお間違いなく [sage]:2022/01/16(日) 22:29:31.60 ID:mgtZU5V20

 これは、都市伝説と多分戦う為に都市伝説と契約した能力者達が巻き込まれた事件である。
 ついでに、前回このお決まりの一文忘れてましたね。


『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
 突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
 二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
 つまりは、そういう部屋なのだろう。この部屋を作り出したと思わしき契約者の姿は見えない。見えないが、声は聞こえる。一方的に部屋の中の様子を見たり聞いたりできて、なおかつ声を届けることができるのだろう。
『くははははは!我が都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」は、問答無用に二人を閉じ込め、なんかかしらエッチな事をしないと決して出られない部屋を作り出す程度の能力!』
 どうやらその通りらしく、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声が響いた。問答無用、と言うのが本当かどうかはさておき、二人が閉じ込められたのは事実であり、宣言通りにエッチな事をしないと出られない事は確かなのだろう。
 ある種、実に厄介で悪趣味な能力だ。悪用されてはとんでもない。できれば、契約者は押さえておきたいところだが……果たして、契約者本人はどこにいるのか。
『さて、こうして閉じ込めたところで我は言うべき事がある!!』
 得意げな声。
 …………は、直後、実に素に戻ったかのような冷静な声になって告げる。
『なんで、男二人でこの部屋来ちゃったの???』

 そう言われてもなぁ、と言わんばかりの顔になる、「バロメッツ」の契約者と「舐めたら治る」の契約者。閉じ込められた身としては、そんな事を言われても困るのである。
「閉じ込めたのはそっちでしょう」
『いやいやいや。我は女子とそっちのちょっと線が細い感じの男子で閉じ込めようとしたんだよ?気の強そうな女子と線の細い男子の組み合わせヒャッハーって思っただけだよ?なんで、体鍛えられてる系男子と線細い系男子になってんの?なんで???』
「怪しい視線が二人に注いでたから、とりあえず彼女だけでも逃がそうと突き飛ばした結果かな」
 「エッチな事をしないと出られない部屋」の言葉に、なるほどと納得する「舐めたら治る」の契約者。怪しい視線に、とっさに「カマキリ男爵」の契約者を突き飛ばして正解だったようだ。女子がこのような被害にあうのは可哀想だから。
(突き飛ばして、こいつと並んだ状態になってここに閉じ込められたと思われるから……別々の場所にいる二人を閉じ込める、はできない。ある程度物理的に近い距離じゃないとダメなんだな。まぁ、閉じ込める条件がわかったとしても、今役には立たないが……)
 部屋中を観察しながら、「舐めたら治る」の契約者は思案する。閉じ込められた直後、とりあえず壁を破壊しようとしてみたが傷一つついていない。物理的な破壊は不可能なのかもしれない。
 「バロメッツ」の契約者が「バロメッツ」を呼び出そうとしたが、それもダメだった。二人を閉じ込める部屋であるが故、それ以上をこの部屋に出現させられないのか。
「どうしようか」
「そうだな、どうするか……」
『いや本当、貴様らどうするの?一回閉じ込めたら、我が意思で出してやるのも無理なんだけど??』
 なんて使い勝手が悪くて無責任な能力だろうか。他人と他人がエッチな事をしている現場を見たいがために手に入れたかの能力のようだが、使いこなしが難しいのだろう。一生使いこなさないでほしいし、使わないでほしい。
「この手の、条件を満たさないといけない能力は。本当に満たさないと解除できないからな」
「そうですね……」
 二人の契約者は、静かに考え込む。
 先だって、まず考えるべき、結論を出すべき事は。
「どのラインからが「エッチな事」に含まれるかだな」
『え、まず気にするのそこ??』
 ツッコミの声が聞こえた気がするがスルーする。
 何せ、子の部屋から脱出するためには、抑えておくべき大切な事なのだ。
「そうですね。世の中、手をつないだだけでエッチだ!と言う人もいますし」
『いやいやいやいやいやいやいや、流石にそこまで童貞くさい思考はしてない。手をつないだだけで出られるなら簡単すぎるからね??』
「あぁ。そして、単純にエッチな事をするといっても、どこまでやれば出られるか、も問題だ」
 「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の言葉など無視して、二人は話し合う。
 何せ男同士、出来ることは限られている。「セッ●スしないと出られない部屋」ではない為、そこまでしなくとも出られるとは思いたいが。果たしてどのラインから、どのラインまでエッチな事をすれば出られるのか。
『いや待って?と言うか君ら男同士だよね?そっちの線細い系男子は男子に間違いないよね喉仏もあるし。男同士でエッチな事するの?ためらいってもんはないの?』
「あと、片方が片方にやればそれで充分なのか、互いにやる必要あるのか、の問題もあるな」
『ねぇ無視?無視なの?話聞いて?こっちが発動している能力なんだよ?わからないならこっちに聞いて?君ら解放しないと新たなターゲット閉じ込められなくてこっちも困るの。お願い。聞いて?』
「まぁ、そこは互いに互いにエッチな事をすれば解決なので問題ないかと。片方だけで良くても、お互いにエッチな事をしあえば条件クリアですし」
『止めて?ねぇ止めて??男同士のエッチな事には興味ないんですお止めくださいお願いします!!!』
 いっそ必死な悲痛さすら溢れる「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声。
 しかして、「バロメッツ」の契約者と「舐めたら治る」の契約者は、仕方ないとでもいうような顔になり。
「……抜き合えば、まぁ条件クリアか」
「そうですね。それで充分でしょう」
『やめてぇええええええええ!!!!!お願いやめてっ!!!!ちょっと!!!ちょっとこの男子達の保護者!!保護者早く来て!!!!!!この子達止めてお願い!!!!!!!』
 悲鳴を丸っと無視したまま、二人はすとん、と、ためらいも躊躇もなく、キングサイズのベッドに腰かけて。
 ただただ、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の悲鳴が、盛大に響き渡り続けていた。


 翌日。
 「バロメッツ」の契約者も「舐めたら治る」の契約者も、何の問題もなく学校に登校してきていた訳だが。
 結局どうなったのかは、関係者のみが知る。



426 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/16(日) 23:33:18.95 ID:RfAQ+48wo
次世代ーズと単発の人乙でした
早渡も3年ぶりお久です。今後はイチャコラ展開大目で頼むぜ!!
FOXGIRLSの衣装は普通なんか。実はメンバー全員契約者だったりしない?
そして「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者よ、違うそうじゃない
あと行間で何かあったらしいからまさかと思って避難所の投下できないスレのレス数が増えてないか確認して特に何もなかったようなので安心したぜ!
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/17(月) 00:10:17.47 ID:gdn0kJNG0
承認して増やしてきた
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/17(月) 00:19:54.27 ID:xpzYGLRfo
いつの間にかレスが増えてる……誰がそこまでやれと言った!
さては投下できないスレのネタがメインディッシュだろ!
429 :安心したとの発言を見て急いで書いて増やしておいた年末年始単発マン [sage]:2022/01/17(月) 00:23:53.90 ID:gdn0kJNG0
>FOXGIRLSの衣装は普通なんか。
二の腕と腹筋は隠れるが太ももは隠しきれなかったふりふりひらひらアイドル衣装 〜狐耳と尻尾を添えて〜 を脳内に浮かべてやってください。
430 :女子を書いてバランスとりたい単発:友情は突然に [sage]:2022/01/17(月) 01:15:23.80 ID:gdn0kJNG0

 これは、都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者ではなく、都市伝説が契約はしないものの都市伝説契約者と出会った物語である。


 真夜中の高速道路。星空の下、もはや走る車などほとんどない時間帯。
 ごぉうっ、と鼓膜を揺さぶる。否。一歩間違えれば鼓膜を破壊しかねない轟音と共に、彼女は飛び回っていた。
「く…………っ、速い…………っ」
 「ミサイルにまたがる女子高生」は、かなりの速度を出して飛び回っているつもりだった。しかし、それは振り払われる事なく彼女を追いかけまわしてくる。
 バイクに乗った、首無しの男。「首無しライダー」である。どうやら契約者がいないようであり。そして、同時に語られる内容に忠実に振舞うタイプの個体のようだ。人間だけではなく、都市伝説に対してまで襲い掛かってくるのを見ると、かなり凶悪な個体と言えよう。
 そんな者に追いかけられ、「ミサイルにまたがる女子高生」は必死に考えていた。ミサイルと言う、あからさまに攻撃向きと思われる物体にまたがっている彼女ではあるが。戦闘行為は苦手だった。このミサイルは速度を出すために、飛び回る為にまたがっているだけであり、攻撃に使うという事まで思考が回らない。
 もっと高い位置まで飛んで振り払ってしまえばいいのかもしれないが……そうも、いかなかった。彼女は、「高速併走型怪奇現象」に分類される都市伝説。そうであるが故、道路から離れすぎた高い位置まで飛ぶことはできないのだ。そのせいで、「首無しライダー」を振り切る事ができない。
 何度かフェイントをかけてみたものの、見切られてしまって追いかけられる。
「っきゃ……!?」
 ごぅんっ!!と、飛ばされてきた道路標識をギリギリのところで避けた。あの「首無しライダー」は、道路標識で首を失った話で生まれてきたらしい。故にか、先ほどから無から道路標識を生み出し飛ばし、首を切り落とそうとしてくる。
「もう!私は戦いたくないの!スピードを極めたいの!!戦いたいならどっか行ってよーーー!!」
 半ば涙声で叫ぶのだが、「首無しライダー」は聞いてくれない。そもそも、首がない以上耳がないので聞こえないのかもしれない。
 長く続く追いかけっこ。どこまで続くかわからぬそれに終止符を打つ合図は。

 パパパー!パパパー!パパパパパー!!!

 高らかと鳴り響いた、トランペットの音。
 え、と「ミサイルにまたがる女子高生」が音の発生源を確かめようとすると、それは彼女と「首無しライダー」に負けないスピードで二人の真横を走り抜けた。
 パッパカパッパッパッパッパー!
 バイクを走らせる男。その後ろに、ちょんっ、とトランペットを吹き鳴らす少年が座っている。決してバランスを崩すことなく、クラシックで聞き覚えがある気がする曲をトランペットで演奏していた。
 パッパー!パッパー!パッパー!パパパー!!
 トランペットの音が不快だったのか、それとも、抜き去られたのが不快だったか。「首無しライダー」はターゲットを切り替えた。
 次々と道路標識を生み出し、射出を開始する。
「……っ駄目!危ないから、逃げて!!」
 見も知らずの相手ではあるが。目の前で犠牲になりそうとなると流石に心配になる。
 が、「ミサイルにまたがる女子高生」の心配とは裏腹に、トランペットを吹き鳴らす少年が乗ったバイクの運転手は射出される道路標識に首を切り落とされる事なく走り抜けていく。
 向かう先は高速道路のインターチェンジ付近。ぎゃりぎゃりと嫌な音を立てながらも、それに負けないトランペットの音が辺りに響く。
 バイクはそのまま、料金所を走り抜けていって。「首無しライダー」のバイクも、それを追いかけて。
「あ…………」
 「ミサイルにまたがる女子高生」には、見えた。料金所へと「首無しライダー」が飛び込んだ瞬間。「首無しライダー:が燃え上がったのを。
 待ち構えていたのであろう女性が、決死の表情で「首無しライダー」を睨みつけていたのを。
 首がないが故、悲鳴は上がらない。「首無しライダー」は倒れ込み、のたうち回って火を消そうとする。が、消えない。消えてくれない。発火したのは、発火の元となったのは「首無しライダー」自身。だから、いくら苦しんでも消えない。
 炎は「首無しライダー」を完全に包み込み、燃え盛り。そして、「首無しライダー」ごと、消えた。


「……今度こそ死ぬかと思った」
 パラッパー。
「すみません。私じゃ、「首無しライダー」を追いかける手段がなくて……」
「まぁ、こっちの運転するバイクにあんたを乗せる余裕はなかったしなぁ」
 ぐったりしている「トランペット小僧」の契約者に、「人体発火現象」の契約者が申し訳なさげに声をかける。
 「下水道の白いワニ」の契約者と違い、申し訳なさそうにしてきたので「トランペット小僧」の契約者は彼女を許した。実にちょろい。
 そうしてから、見上げた。「ミサイルにまたがる女子高生」を。
「追いかけられてたようだけど、怪我は?」
「私は大丈夫。そちらこそ、道路標識がかすったりしてない?」
「かすってたら多分死ぬんだよなぁ。俺だと」
 パッパッパー。
 契約者の言葉に、「トランペット小僧」は同意するようにトランペットを鳴らす。「トランペット小僧」はいつだってトランペットで己の意見を伝えるのだ。契約者の青年ですら、一度も「トランペット小僧」の声を聞いたことがない。
「えぇっと……あなたは、どういう都市伝説の契約者なんですか?」
「あ、私は都市伝説そのもの。「ミサイルにまたがる女子高生」よ」
 「ミサイルにまたがる女子高生」の言葉に、「人体発火現象」の契約者がほんの少し、体をこわばらせた。
 そんな様子を、「トランペット小僧」の契約者が制する。
「こうして会話が成立してるし、「首無しライダー」から逃げ回ってた。インパクトはともかく、人を襲う様子はなさそうだ」
「うんうん。襲わないよ。私はただ、みんなと一緒にスピードを極めたいだけ」
「あ、スピード狂だこれ」
 スピード狂と言う言葉はむしろ誉め言葉なのか、「ミサイルにまたがる女子高生」は喜びに満ちた笑みを浮かべた。
 そして、「トランペット小僧」の契約者を、キラキラと見つめる。
「運転技術とか、高速並走型怪奇現象系とかの都市伝説と契約している訳でもないのに「首無しライダー」相手に追いつかれないなんて!すごいすごい!!ね、ね、私と競争しない?」
「疲れてるんで勘弁してほしい」
 パパパパー。
「それじゃあ明日!明日競争しましょう!なんだったら友達も呼ぶから!」
「勘弁してほしい」
 パカパッパッパー。
 心底ぐったりした様子の「トランペット小僧」の契約者と、競争心に火が付いた「ミサイルにまたがる女子高生」。
 二人の様子になんだかおもしろくない物を、「人体発火現象」の契約者は感じていた。



431 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/17(月) 13:01:42.41 ID:YHWbgZNmo
FOXGIRLS、これ、全員契約してる奴やん

エッチなことをしないと出られない部屋……すばらしい
しかし、そうじゃない。そうじゃないんだ……なんで閉じ込めたのが野郎二人……
ミサイルにまたがる女子高生ちゃんを背後から眺めて癒されるしかないな
432 :単発と連載の間:野郎しか入ってくれなくて泣いてるエッチな以下略契約者がいるんですよ! [sage]:2022/01/17(月) 17:51:49.41 ID:gdn0kJNG0

 これは、都市伝説と戦う為ではないが都市伝説と契約し悪事を働き、目論見通りにならずともめげずに頑張る者が起こした物語である。


『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
 突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
 二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
 コピペで手抜きをするのはここまでとしよう。「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者は、今度こそ男女を閉じ込めてエッチな事をする様子を観察しようとしたに違いない。しかし。
『どうしてまたどっちも男子なんだよォオオオ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!』
「叫ばれてもこちらが困る」
 声がどこから響いているのかわからない為、どこを睨みつければいいものかなどと思いつつ。「無限廊下」の契約者は表情を険しくする。
 生徒から、このような都市伝説の使い手が悪さをしているようだという話は聞いていた。聞いてはいた。
 不審な視線を感じた際、とっさに傍に居た教え子……「お風呂坊主」の契約者と距離をとった。そこまでは正解だったはずだ。
 しかし、だ。
「なるほど、君が教えてくれようとしていた都市伝説とは、これか」
 のほほん、と危機感など欠片も感じていない様子の友人へと剣呑な視線を向ける。確かに、彼もまた都市伝説の契約者。
 都市伝説の契約者は、どうしても都市伝説と関わりやすいし巻き込まれやすい。だから、この不埒な都市伝説に関しても伝えるつもりだったのだ。
 メールですませるべきだった。そんな後悔は手遅れである。
『どうして…………教師と教え子な雰囲気だったから、禁断の教え子×教師的なエッチな光景を見たかっただけなのに……どうして……』
「生徒とそんな事になってたまるか」
『謝れ!!!世界中の教師と教え子で成立した夫婦に謝れ!!!!!!!』
 泣きが入っている「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。だがもとはと言えば、狙いを外した「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者が悪い。期待してくれた読者にも大変と失礼だ。
 だがこれが現実である。悲しいが現実の状況がこれなのでどうにかするしかない。
 「エッチな事をしないと出られない部屋」は、問答無用でターゲットを閉じ込めてしまう代わりに、条件を満たさなければ決して部屋から出ることができない。そして、部屋にいる二人がどうにかならないと新たなターゲットを引き込めないのだ。
 それが何を意味するか。今現在、この部屋に閉じ込められた成人男子二人がエッチな事をしないとどうにもならないという事実。現実はいつだって無情で非情だ。「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者は泣いていい。自業自得だが。
(とにかく。脱出手段を考えねば)
 何せ、自分達はどちらも戦闘向きの都市伝説ではない。「無限廊下」は異空間制御系に分類されるものであろうが、その名称の通り廊下でなければ発動できない。部屋である仔の場所では発動不可能だ。
 友人の契約都市伝説も、転移系や異空間制御系ではない。どちらの契約都市伝説の力をもってしても、この場所の脱出には有効に使用する事はできない。と、なると。残された手段は。
「条件を満たせば出られるんだね?」
「あぁ、教え子からはそう聞いて……っ!?」
 とんっ、と。軽く押されて、「無限廊下」の契約者はベッドの上に倒れ込んだ。
433 :単発と連載の間:野郎しか入ってくれなくて泣いてるエッチな以下略契約者がいるんですよ! [sage]:2022/01/17(月) 17:53:31.58 ID:gdn0kJNG0
 ベッドがきしむ音がする。友人はいつも仕事場で浮かべているのであろう笑みを浮かべてのしかかってきた。
「……おい?」
「はい、うつぶせになってくださいねー」
 逃げ出そうとするより早く、体勢を変えさせられた。うつぶせから起き上がろうとしても、背中に触れてくる手がそれを許さない。
『…………へい?穏やかそうなイケメンお兄さんの方?何なさろうとしてます?』
「最後までと言うか本格的にしないといけないと躊躇するけれど。「エッチな事」と曖昧であれば躊躇はいりませんね」
『いや、躊躇して??男同士だよ??お願い躊躇して???この間の男子高生二人と言いなんで躊躇0なの??』
「……この状況を作り出した犯人と意見が重なるのは至極屈辱だが。躊躇なく、こちらの了承も得ずに何をしようと…………っ!?」
 指先が、触れてくる。くすぐるような動きに漏れ出しそうになった声をすんでのところで抑え込んだ。
 動く、蠢く。布越しとはいえ、与えられる刺激は適格だ。仕事柄人体の弱い所を熟知しているだろう指は迷うことなく急所を見つけ出し、責め立ててくる。
「……ぅ、ぐ、んん……っ」
「はい力抜いてー。声我慢しないでー」
「ゃ、め…………っひ!?ば、か、止め、ひぐっ!?」
『いやぁあああああああああああ成人男子ボイスなのに色っぽい!!??くっそ中の声がダイレクトに耳元に届くのきつい!きっっっっつい!!!』
 「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の悲鳴が響き渡るが、それすら耳に届かなくなりかけている。与えられる刺激に、思考が飛びかけるのをギリギリ抑え込む。
「さっさと部屋から出る為なんだから……ちゃんと、協力、して?」
 耳元で囁きかけてくる声は。さぞや、女性客から喜ばれる声なのだろう。
 が、男としてはそんな声で囁かれても悪寒を感じるだけである。そうだというのに、指先の動きは、その悪寒すら塗りつぶし。
「たくさん、声を響かせてくださいね」
 死刑宣告のような発言の直後。本気の責めが、始まった。


 で、だ。
「どうやって脱出したんです?」
「くすぐったさ優先のマッサージをしただけですが」
 「お風呂坊主」の契約者からの連絡で現場に急行した「黒マント」に飲まれた黒服は、無事脱出した「無限廊下」の契約者と、その友人だという整った顔立ちの男性から事情聴取を行っていた。
 「無限廊下」の契約者たる教師は、息も絶え絶えに、紅潮した顔でぐったりしている。「お風呂坊主」の契約者はイケナイものが目覚めそうになっているのか、なるべく直視しないようにしていた。それで正解だ。
「仕事上、まぁその辺りはわかってますのでね。いやらしい声が響くマッサージが「エッチな事」カウントされて良かったと思います」
「……お前…………覚悟しておけよ……」
「後で全身の「業」を抜き取ってあげるから勘弁してくださいね」
 悪気は一切なく、半ば殺意すら混じった「無限廊下」の契約者の言葉に、友人……「温泉街の按摩さん」の契約者たるマッサージ師はにっこり笑って見せた。
 ……下手に男女が閉じ込められるよりはマシだった。の、だろう。多分。そう思うしかないのだろう。
 黒服はいまだ視線をそらし続けている「お風呂坊主」契約者をどう正気に戻そうか考えつつ、今後の対応に静かに頭を悩ませた。
















「……女性の「業」の方が個人的には美味だと思うんですがね。仕方ない」
「お前のゲテモノ食いの好みはどうでもいいし口に出すな」


434 :単発:幸運の招き猫 [sage]:2022/01/18(火) 15:57:24.62 ID:NSGYhJoS0

 これは、都市伝説と戦う為に契約したのではなく、契約している自覚すらない者とうっかり契約しちゃった都市伝説の物語である。


 クロとの出会いは、出会いらしい出会いと言えるかどうかわからない。
 うちの庭にいつの間にか居ついていたのだ。餌を与えている訳でもないのに、どこからか庭に入り込んで日向ぼっこしていた。
 ある日、台風が来るというので。風にさらわれて怪我でもしたら可哀想と思って家に入れたら「自分、前からここに住んでましたよね」と言わんばかりの態度でそのまま居ついてしまった。びっくりするほど警戒心がない。野生とは何であったのか。
 ただ、クロは自分にとって「幸運の招き猫」と呼べる存在だろう。クロが庭に居ついてから、何かと不幸続きだった我が家は幸運が舞い込み始めた。
 浮気とか浮気とか浮気とかが原因で離婚寸前だった両親は、何やら痛い目にあったらしい母がとうとう己の非を全面的に認めて浮気を止めて仲がなんとかなった。事業がうまくいっていなかった父は、事業が軌道に乗ってくれて仕事がうまくいくようになった。売り払うしかないと名k場諦めていた家を手放すことはなくなり、色々と我が家は豊かになった。
「ありがとうなー、クロ。お前は招き猫だな」
 こちらの言葉に、クロはにゃーん?と不思議に思っているような返事をした。
 飼い主のひいき目と言われるかもしれないが、クロは結構賢くて人間の言う事を大体理解している。
「招き猫だからって訳じゃないけど、お前には長生きしてほしいな」
 にゃーん。
「だから、ちゃんと明日は動物病院に予防接種に行こうな」
 …………。
 うん、やっぱり、こちらの言う事を理解している。動物病院とか予防接種とか。聞きたくない単語が出たとたん、耳を倒して目を閉じて聞かないふりをしている。その癖して、顎の下を撫でてやればゴロゴロゴロとご機嫌に喉を鳴らすのだが。
「予防接種は大事だからなー?あと、健康診断もな。お前、オムレツ盗み食いするの本当止めような。クロ用に味付けなしで作ってやってるんだから、人間用盗み食いは本当止めてくれ」
 ゴロゴロゴロゴロゴロ、と、喉を鳴らしながらクロは寝たふりを開始した。こんなに喉を鳴らした寝たふりがあるか。
 だが本当、健康診断は大事だ。クロはなぜかオムレツが大好きで、人間用に作ったオムレツまで盗み食いしようとしてくる。猫の体には悪いからと、クロ用に特別にオムレツを作っても。足りないのか奪い取ろうとしてくる。それくらいに大好きだ。
 家に来た頃にはもうオムレツが好きだったから、もしかしたら、家に来る前にどこかで食べたことがあったのだろうか。
「お前の為なんだからなー?わかってくれよー?」
 こうして説得すれば、なんだかんだ逃げずに動物病院まで連れていかれてくれるのだから。いい子である事には変わりないのだろう。
 あぁ、本当、クロには長生きしてほしい。


 契約者……契約者よ……。
 いや、契約した事すら自覚がないであろう我が主よ……。
 我はただの黒猫に非ず。我が名は「アイトワラス」。バルト三国が一つリトアニアにて生まれし存在である。
 故郷にて「教会」を始めとしたいくつかの団体に追いやられ、逃げるように船に乗り込みこの遠い島国までやってきた。
 ただの猫のふりをして主の家にて居座り、家にあげられ名付けられたのをいいことに勝手に契約を結びし愚か者でもある。
 我が追いやられたには理由あり。我は富をもたらす者。さりとて、その富は他者より奪い取りしものである。
 本来ならば牛乳や穀物、金品を隣家より盗み出し、飼い主の家にため込み豊かにさせるだけの力。それは契約により力を増し、他者の幸運を奪い取り主に与えしものとなった。
 故に、我が主の幸運は、我が主が言う通り我によるものであり。我が主にとって我が「招き猫」である事には変わりないのだろう。
 ……だが。この幸運が、他者から奪い取ったものであるのだと知ったら。知ってしまったら。我が主はどうするのだろうか。
 我は、このまま、我が主の元にあり続ける事ができるのだろうか。
 本来、我は一度住み着いた家からはそうそう離れる存在ではない。追い出すのは困難であると語られている通りに。
 だが、契約が結ばれ多少は逸話から逸脱できる。その気になれば、離れる事もできる……離れて、契約を解除する事が、できるのだろう。
 あぁ。あぁ。それでもだ。
 ここは酷く居心地がいいのだ。何も知らず、ただの猫であると思って可愛がってくれる我が主がどうしようもなく愛おしく、我が傍に居て護らねばならぬと強く思うのだ。
 我が主よ。己の正体を明かす事すらできず、他者から奪うという罪深き行為でしか主を幸福にできぬ我を許さずとも良い。
 せめて、この命が終わるまで。この力は全て、我が主のためにだけに振るわせてもらおう。



435 :単発:幸運の招き猫 [sage]:2022/01/18(火) 21:54:15.36 ID:NSGYhJoS0

 これは、決してあきらめない都市伝説契約者の想いと願いが、ついに叶った物語である。


『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
 突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
 二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
 ここまでのコピペをまたやる羽目になるとは思わなかったが現状はこうとしか言いようがない。他に適切な出だしが思い浮かばないのだから仕方ないとしよう。
『くくくくくくくく…………やったっ!!ついにやったぞっ!!!!!男女の組み合わせで引きずり込むのに成功ヒャッハーーーー!!!』
「滅びればいいのに」
 ハイテンションな「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声を聞きながら、「カマキリ男爵」の契約者は殺意をみなぎらせていっていた。
 完全なる油断。このような不埒な都市伝説契約者が悪事を働いているのはわかっていたというのに……!
「四十六時中警戒し続ける訳にもいかないとは言え、完全に油断したな」
 壁の強度を軽く確認しながら、「舐めたら治る」の契約者はぼやいた。
 そう、とうとう、「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者と読者諸君にとっては念願の、男女の組み合わせでの「エッチな事をしないと出られない部屋」である。
 クラスメイトの男女。都市伝説契約者同士と言う秘密の共有と連帯感。共闘した事もある仲。
 「カマキリ男爵」の契約者としては、「舐めたら治る」の契約者は多少なりとも、異性として意識する相手ではある。
 あるのだが……いや、あるからこそ。このような部屋に二人で閉じ込められてしまった際、余計にその意識は加速する。
「…………強度は変わりなさそうだし。やっぱり条件を満たさないとダメか」
「条件……」
 脱出条件。「エッチな事」。条件はわかっているのである。
 あとは、実行するだけなのだが。流石に気軽に実行するには勇気とか色々と足りない。
「仕方ない。とりあえず胸を揉むでいい?」
「何がとりあえずなの!!!???」
 躊躇なき「舐めたら治る」の契約者の発言に、「カマキリ男爵」の契約者は全力全霊にてツッコミを入れた。
 彼女は悪くない。何一つ悪くない。「舐めたら治る」の契約者にデリカシーとか乙女心を理解する力とか色々と足りない。躊躇しない意志は足りている。
「え。だって、流石に胸を揉むのは「エッチな事」に含まれるだろ」
「そうだろうけど!!??」
「いやらしい声が出る感じのマッサージでも開いたらしいけど。俺はスポーツマッサージはともかくそういうのはできる自信がないし。かと言ってスカートめくりでは「エッチな事」レベルが低すぎて扉が出ない予感がする」
「「エッチな事」レベルって何!!!???」
『まぁ、確かにスカートめくり程度で脱出はできない事になってはいるが』
 ハイテンションから冷静さが戻ってきたらしい「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者からツッコミが響いたがひとまずスルーとする。いつか殴る。むしろ鎌で引き裂く。
 それよりも問題は。さりげなくかつ確実に「舐めたら治る」の契約者が距離を詰めてきている事実だ。
「あんた、女の胸を揉むって行為に躊躇ないの!!??」
「脱出条件満たせるなら躊躇する必要はないよ。時間を無駄に浪費するのもどうかと思うし」
「くそっ!!
436 :単発:幸運の招き猫 [sage]:2022/01/18(火) 21:57:07.16 ID:NSGYhJoS0
 これは、決してあきらめない都市伝説契約者の想いと願いが、ついに叶った物語である。


『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
 突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
 二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
 ここまでのコピペをまたやる羽目になるとは思わなかったが現状はこうとしか言いようがない。他に適切な出だしが思い浮かばないのだから仕方ないとしよう。
『くくくくくくくく…………やったっ!!ついにやったぞっ!!!!!男女の組み合わせで引きずり込むのに成功ヒャッハーーーー!!!』
「滅びればいいのに」
 ハイテンションな「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声を聞きながら、「カマキリ男爵」の契約者は殺意をみなぎらせていっていた。
 完全なる油断。このような不埒な都市伝説契約者が悪事を働いているのはわかっていたというのに……!
「四十六時中警戒し続ける訳にもいかないとは言え、完全に油断したな」
 壁の強度を軽く確認しながら、「舐めたら治る」の契約者はぼやいた。
 そう、とうとう、「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者と読者諸君にとっては念願の、男女の組み合わせでの「エッチな事をしないと出られない部屋」である。
 クラスメイトの男女。都市伝説契約者同士と言う秘密の共有と連帯感。共闘した事もある仲。
 「カマキリ男爵」の契約者としては、「舐めたら治る」の契約者は多少なりとも、異性として意識する相手ではある。
 あるのだが……いや、あるからこそ。このような部屋に二人で閉じ込められてしまった際、余計にその意識は加速する。
「…………強度は変わりなさそうだし。やっぱり条件を満たさないとダメか」
「条件……」
 脱出条件。「エッチな事」。条件はわかっているのである。
 あとは、実行するだけなのだが。流石に気軽に実行するには勇気とか色々と足りない。
「仕方ない。とりあえず胸を揉むでいい?」
「何がとりあえずなの!!!???」
 躊躇なき「舐めたら治る」の契約者の発言に、「カマキリ男爵」の契約者は全力全霊にてツッコミを入れた。
 彼女は悪くない。何一つ悪くない。「舐めたら治る」の契約者にデリカシーとか乙女心を理解する力とか色々と足りない。躊躇しない意志は足りている。
「え。だって、流石に胸を揉むのは「エッチな事」に含まれるだろ」
「そうだろうけど!!??」
「いやらしい声が出る感じのマッサージでも開いたらしいけど。俺はスポーツマッサージはともかくそういうのはできる自信がないし。かと言ってスカートめくりでは「エッチな事」レベルが低すぎて扉が出ない予感がする」
「「エッチな事」レベルって何!!!???」
『まぁ、確かにスカートめくり程度で脱出はできない事になってはいるが』
 ハイテンションから冷静さが戻ってきたらしい「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者からツッコミが響いたがひとまずスルーとする。いつか殴る。むしろ鎌で引き裂く。
 それよりも問題は。さりげなくかつ確実に「舐めたら治る」の契約者が距離を詰めてきている事実だ。
「あんた、女の胸を揉むって行為に躊躇ないの!!??」
「脱出条件満たせるなら躊躇する必要はないよ。時間を無駄に浪費するのもどうかと思うし」
「くそっ!!秒すら躊躇してくれない!普段からこうだったわくそっ!!!」
 「カマキリ男爵」が聞いていたら「お下品ですよ」と怒られそうな勢いで叫びちらす。
 そうだ、「舐めたら治る」の契約者はそもそも普段から一切合切躊躇を見せないではないか。
 だからこそ、普段から怪我をするたびに舐められて……………………。
「………………普段されてる事の方がずっとエッチだーーーーーっ!!!!????」
『えっ、君達どういう仲???もう一線超えてた????』
「超えてないっ!!!!!!ただ舐められただけ…………だけじゃないっ!!!???「だけ」ですませていい事じゃないわ畜生!!!!!!」
「ただの治療行為だろ」
437 :単発:幸運の招き猫 [sage]:2022/01/18(火) 21:58:23.10 ID:NSGYhJoS0
 これは、決してあきらめない都市伝説契約者の想いと願いが、ついに叶った物語である。


『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
 突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
 二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
 ここまでのコピペをまたやる羽目になるとは思わなかったが現状はこうとしか言いようがない。他に適切な出だしが思い浮かばないのだから仕方ないとしよう。
『くくくくくくくく…………やったっ!!ついにやったぞっ!!!!!男女の組み合わせで引きずり込むのに成功ヒャッハーーーー!!!』
「滅びればいいのに」
 ハイテンションな「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声を聞きながら、「カマキリ男爵」の契約者は殺意をみなぎらせていっていた。
 完全なる油断。このような不埒な都市伝説契約者が悪事を働いているのはわかっていたというのに……!
「四十六時中警戒し続ける訳にもいかないとは言え、完全に油断したな」
 壁の強度を軽く確認しながら、「舐めたら治る」の契約者はぼやいた。
 そう、とうとう、「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者と読者諸君にとっては念願の、男女の組み合わせでの「エッチな事をしないと出られない部屋」である。
 クラスメイトの男女。都市伝説契約者同士と言う秘密の共有と連帯感。共闘した事もある仲。
 「カマキリ男爵」の契約者としては、「舐めたら治る」の契約者は多少なりとも、異性として意識する相手ではある。
 あるのだが……いや、あるからこそ。このような部屋に二人で閉じ込められてしまった際、余計にその意識は加速する。
「…………強度は変わりなさそうだし。やっぱり条件を満たさないとダメか」
「条件……」
 脱出条件。「エッチな事」。条件はわかっているのである。
 あとは、実行するだけなのだが。流石に気軽に実行するには勇気とか色々と足りない。
「仕方ない。とりあえず胸を揉むでいい?」
「何がとりあえずなの!!!???」
 躊躇なき「舐めたら治る」の契約者の発言に、「カマキリ男爵」の契約者は全力全霊にてツッコミを入れた。
 彼女は悪くない。何一つ悪くない。「舐めたら治る」の契約者にデリカシーとか乙女心を理解する力とか色々と足りない。躊躇しない意志は足りている。
「え。だって、流石に胸を揉むのは「エッチな事」に含まれるだろ」
「そうだろうけど!!??」
「いやらしい声が出る感じのマッサージでも開いたらしいけど。俺はスポーツマッサージはともかくそういうのはできる自信がないし。かと言ってスカートめくりでは「エッチな事」レベルが低すぎて扉が出ない予感がする」
「「エッチな事」レベルって何!!!???」
『まぁ、確かにスカートめくり程度で脱出はできない事になってはいるが』
 ハイテンションから冷静さが戻ってきたらしい「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者からツッコミが響いたがひとまずスルーとする。いつか殴る。むしろ鎌で引き裂く。
 それよりも問題は。さりげなくかつ確実に「舐めたら治る」の契約者が距離を詰めてきている事実だ。
「あんた、女の胸を揉むって行為に躊躇ないの!!??」
「脱出条件満たせるなら躊躇する必要はないよ。時間を無駄に浪費するのもどうかと思うし」
「くそっ!!秒すら躊躇してくれない!普段からこうだったわくそっ!!!」
 「カマキリ男爵」が聞いていたら「お下品ですよ」と怒られそうな勢いで叫びちらす。
 そうだ、「舐めたら治る」の契約者はそもそも普段から一切合切躊躇を見せないではないか。
 だからこそ、普段から怪我をするたびに舐められて……………………。
「………………普段されてる事の方がずっとエッチだーーーーーっ!!!!????」
『えっ、君達どういう仲???もう一線超えてた????』
「超えてないっ!!!!!!ただ舐められただけ…………だけじゃないっ!!!???「だけ」ですませていい事じゃないわ畜生!!!!!!」
「ただの治療行為だろ」
 なんでそんな反応するんだと言わんばかりの「舐めたら治る」の契約者。こんな反応するに決まっているじゃないか。
438 :エンターキー暴走につき連続中途半端投稿してしまいました申し訳ない [sage]:2022/01/18(火) 21:59:32.17 ID:NSGYhJoS0
えっちどあいがんばってますのでおゆるしください。
439 :単発:単発:幸運の招き猫に誤字脱字見つけたのでお詫びで書こうとしたら連続で馬鹿な事やらかしたんですよ [sage]:2022/01/18(火) 23:05:21.56 ID:NSGYhJoS0


 これは、決してあきらめない都市伝説契約者の想いと願いが、ついに叶った物語である。


『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
 突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
 二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
 ここまでのコピペをまたやる羽目になるとは思わなかったが現状はこうとしか言いようがない。他に適切な出だしが思い浮かばないのだから仕方ないとしよう。
『くくくくくくくく…………やったっ!!ついにやったぞっ!!!!!男女の組み合わせで引きずり込むのに成功ヒャッハーーーー!!!』
「滅びればいいのに」
 ハイテンションな「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声を聞きながら、「カマキリ男爵」の契約者は殺意をみなぎらせていっていた。
 完全なる油断。このような不埒な都市伝説契約者が悪事を働いているのはわかっていたというのに……!
「四十六時中警戒し続ける訳にもいかないとは言え、完全に油断したな」
 壁の強度を軽く確認しながら、「舐めたら治る」の契約者はぼやいた。
 そう、とうとう、「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者と読者諸君にとっては念願の、男女の組み合わせでの「エッチな事をしないと出られない部屋」である。
 クラスメイトの男女。都市伝説契約者同士と言う秘密の共有と連帯感。共闘した事もある仲。
 「カマキリ男爵」の契約者としては、「舐めたら治る」の契約者は多少なりとも、異性として意識する相手ではある。
 あるのだが……いや、あるからこそ。このような部屋に二人で閉じ込められてしまった際、余計にその意識は加速する。
「…………強度は変わりなさそうだし。やっぱり条件を満たさないとダメか」
「条件……」
 脱出条件。「エッチな事」。条件はわかっているのである。
 あとは、実行するだけなのだが。流石に気軽に実行するには勇気とか色々と足りない。
「仕方ない。とりあえず胸を揉むでいい?」
「何がとりあえずなの!!!???」
 躊躇なき「舐めたら治る」の契約者の発言に、「カマキリ男爵」の契約者は全力全霊にてツッコミを入れた。
 彼女は悪くない。何一つ悪くない。「舐めたら治る」の契約者にデリカシーとか乙女心を理解する力とか色々と足りない。躊躇しない意志は足りている。
「え。だって、流石に胸を揉むのは「エッチな事」に含まれるだろ」
「そうだろうけど!!??」
「いやらしい声が出る感じのマッサージでも開いたらしいけど。俺はスポーツマッサージはともかくそういうのはできる自信がないし。かと言ってスカートめくりでは「エッチな事」レベルが低すぎて扉が出ない予感がする」
「「エッチな事」レベルって何!!!???」
『まぁ、確かにスカートめくり程度で脱出はできない事になってはいるが』
 ハイテンションから冷静さが戻ってきたらしい「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者からツッコミが響いたがひとまずスルーとする。いつか殴る。むしろ鎌で引き裂く。
 それよりも問題は。さりげなくかつ確実に「舐めたら治る」の契約者が距離を詰めてきている事実だ。
「あんた、女の胸を揉むって行為に躊躇ないの!!??」
「脱出条件満たせるなら躊躇する必要はないよ。時間を無駄に浪費するのもどうかと思うし」
「くそっ!!秒すら躊躇してくれない!普段からこうだったわくそっ!!!」
 「カマキリ男爵」が聞いていたら「お下品ですよ」と怒られそうな勢いで叫びちらす。
 そうだ、「舐めたら治る」の契約者はそもそも普段から一切合切躊躇を見せないではないか。
 だからこそ、普段から怪我をするたびに舐められて……………………。
「………………普段されてる事の方がずっとエッチだーーーーーっ!!!!????」
『えっ、君達どういう仲???もう一線超えてた????』
「超えてないっ!!!!!!ただ舐められただけ…………だけじゃないっ!!!???「だけ」ですませていい事じゃないわ畜生!!!!!!」
「ただの治療行為だろ」
 なんでそんな反応するんだと言わんばかりの「舐めたら治る」の契約者。こんな反応するに決まっているじゃないか。
 冷静に考えて、いや、冷静に考えずとも。胸を揉まれる事よりも全身舐めまわされる事の方がエッチだ。「舐めたら治る」の契約者にとっては治療行為なのであろうが、される方としてはエッチな事としか認識できない。
 そうだ。「舐めたら治る」の契約者が治療行為だというから現実から目を背け続けてきていたが。エッチなのだ。自分は、怪我するたびにこの男にエッチな事をされているのだ。
 一度意識してしまえば、そこから意識がそれてくれない。「舐めたら治る」の契約者が男性相手でも平気で同じ治療を行う事実も現実として存在しているのだが、一つの事に意識が囚われてしまったが故にそこまで考えが至らない。
「どうした?赤くなって」
「あ……」
 思考が固まった隙に、「舐めたら治る」の契約者は「カマキリ男爵」の契約者の目の前まで来ていた。そっと額に触れてくる手つきは優しい。
「……少し熱いが、熱って程でもないか」
「ぁ、う」
「体調悪いんなら、さっさとこんな部屋出るべきだな」
「あっ」
 くるりっ、と体勢を入れ替えさせられる。向き合う体勢から、後ろから抱きすくめられるような体勢に。
440 :単発:単発:幸運の招き猫に誤字脱字見つけたのでお詫びで書こうとしたら連続で馬鹿な事やらかしたんですよ [sage]:2022/01/18(火) 23:06:31.17 ID:NSGYhJoS0
「まっ」
 て、と言う言葉は最後まで続かず。
「ひゃんっ!?」
 むにっ、と。「カマキリ男爵」の契約者のたわわなCカップに遠慮も躊躇もなく手が伸びてきて、その手によって緩やかに胸の形が変わる。
 むにゅ、むに。手が動くたび、体中を甘い痺れのようなものが走る。
「痛くないか?」
「い、痛くはない、けどっ」
「うん、これくらいの力でいいのか」
 違う、そうじゃない。力が入りすぎていないか気を使ってくれたのだろうけれど、そうじゃ、なくて。
 服越しに触れてくる手。直接触られている訳ではない。普段怪我した際に舐められる事の方が客観的じゃなくてもエッチな事のはず。
 そのはずなのだが、今回は「エッチな事」と意識しての行為なのだ。いつものように「治療行為」として行われている事ではない。
 だからなのか。だから余計に、いつもと違って変な気持ちになってしまう。
「あ……ふぁあ…………ゃ、なんか、変……っ」
「まだ扉が出てない」
「ひんっ!?さ、き、やぁっ!?」
 後頭部に、熱がたまっていくような錯覚。下着とブレザー越しに触れてくる手は止まらない。少しばかり先を意識するようにくりくりと人差し指で押しつぶされて、足の力が抜けそうになる。
 多分、意識していない相手であればここまでならない。ここまで体の奥が熱くなるのは、多少なりとも意識をしているから。
 疑いようなく、好意を、恋愛感情を持っているのだと自覚してしまった。きっとあちらは、欠片もそんな風に思ってくれてはいないだろうと。そこもわかっているだけに、自覚した想いが痛くて苦しい。
「……あ、ん……っ!あぁ…………も、ぅ」
 胸の先を弄ばれながら、胸全体を揉みしだかれる。
 思考と体がリンクしなくなってきた。後頭部がピリピリと熱い。体中をぐずぐずの熱が走り抜ける。後頭部に収まりきらなかった熱は、今度は、下腹部へと集中しだして……。
「…………お、開いた」
「ぁ」
 ぱっ、と。その責めは唐突に終わった。快楽を与えてきていた手はあっけなく離れていく。
 もう、立っていられない。へなへなと座り込んで荒く呼吸しながら「舐めたら治る」の契約者の視線の先を確認する。
 確かに、そこには扉が現れていた。条件をクリアしたとみなされたらしい。
 こんな、中途半端な、状態で。
「ごめんな。嫌だっただろ。大丈夫か?」
 「カマキリ男爵」の契約者の想いには、案の定、欠片も気づいていない様子で。「舐めたら治る」の契約者はしゃがみ込んで彼女の顔を覗き込む。
 気遣う表情と視線に、後頭部にたまっていたぴりぴりじんじんとした熱が、ぱぁんっ、とはじけた。


「あ」
 目の前で、「カマキリ男爵」の契約者は意識を失ってしまった。
 まいったな、と思いながら「舐めたら治る」の契約者はその体を抱き上げる。
「さすがに、好きでもない相手から胸を揉みしだかれるのはショックが大きかったか」
 それは違うよ!と「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者であればツッコミを入れてくれた事だろう。
 が、すでに脱出条件を満たしているが故、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者は部屋の中を確認できずツッコミを入れてやることができない。
(報告……は、しなくてもいいか。彼女もこんな体験したのを人に知られたくはないだろうし。とりあえず、家に送ってやらないと)
 「カマキリ男爵」の契約者の体を抱きかかえたまま、部屋を出る。
 部屋を出れば、閉じ込められる直前まで二人でいた公園に出た。時間はそこまで経ってない。茜色の夕焼け空はそのままだ。
 注意深く辺りの様子を伺ってみたが、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者らしき気配はない。逃げられたか。
「いい加減、誰かなんとかしてくれないかな」
 自分でも、犯人見つけたら一発二発、技をかけても許されるだろうな、と。
 気絶したままの「カマキリ男爵」の契約者を抱えたまま、「舐めたら治る」の契約者は剣呑な思考を巡らせていた。




441 :単発と連載の間:いつから全員が契約者だと錯覚していた? [sage]:2022/01/21(金) 01:08:49.22 ID:F3kCl3w10


 これは、家族に都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した契約者がいる者の物語である。



 家についた際、室内に気配を感じて彼女は一瞬、動きを止めた。ドアノブを軽く回せば、鍵が開いている。
 静かに、深呼吸。何者かは知らぬが、家主の許可なく入り込むとは、言語道断。
 故に、彼女の行動は迷いは一切なかった。
「曲者!!!!」
 勢いよく扉を開け放ち、室内へと飛び込みながら侵入していた気配へと先制攻撃!
「ぬぅん!!!」
 鈍い音が響き渡る。彼女の勢いの乗った先制攻撃を、室内に鎮座していた男は片手で軽々と受け止めた。
 馬鹿な、と自らの、現役プロレスサーに膝をつかせた事もある一撃を軽々受け止めた男を見て。おや、と気の抜けた声をあげた。
「兄者ではないか」
「うむ。久しいな。我が妹よ」
 筋骨隆々とした大男。ボディビルダーのような「魅せる」為の筋肉ではなく、戦いによって鍛え上げられた肉体を持つ男は。間違いなく、彼女の兄であった。

「まったく。せめて、相手が何者であるか見極めてから攻撃せんか」
「しかしだな、兄者。連絡もなしに一人暮らしの室内に自分以外の何者かがいるとなると。高確率で曲者であろう」
「……ふむ。言われてみればそうだな。連絡を怠った我輩の責任であったか」
 兄は素直に自らの非を認めた。
 実際、いくら家族であるとはいえ、一人暮らしの家に連絡なしに勝手に上がり込むのは大問題だろう。いくら合鍵を持っていたとしても、だ。
「突然どうしたのだ?武者修行のため、世界各国を回っている最中であったと記憶しているが」
「お前が、アイドル、とやらになったと友より聞いてな。どのようなものかと思って様子を見に来た」
 つまり、妹の事が心配だという事なのだろう。
 兄のその心配を、妹はきちんと理解した。たとえ離れて生活していようとも、長年共に過ごした兄の考えをこの妹は手に取るように理解するのだ。だから、兄が何を特に心配しているのかも、理解する。
「幼き頃より、お前は我輩と共に鍛錬を続けてきた。むしろ、それが生活の中心であった…………アイドルとやらの仕事、今までの生き方とはまるで違う。無理をしておらぬか?」
 女だてらに、兄と共に鍛え続けた。それが当たり前の生活だった。
 そんな彼女にとって、アイドルと言う表向き煌びやか、裏は悪意や欲望が跳梁跋扈するような世界は未知の世界。己は決して関わる事がないと思っていた世界。彼女にしてみれば、己がその世界に所属している現実が不思議で仕方ない。
 兄の心配もよくわかる。だからこそ、安心させるように笑って見せた。
「確かに、鍛錬に加えて舞踊や歌唱の練習も行う必要があるし、慣れぬことも多いが…………我も、楽しませてもらっておる。それに」
「それに?」
「アイドル、と言うものは。時としてストーカー等と言った危険に見舞われる事があるそうでな。我が仲間達は、皆、我より年下で可憐でか弱いのだ。何かあった時、我がいれば守ってやれる」
 そう、己には向いていないだろうと思いつつ、彼女がアイドル業を続ける一番の原因はそれだ。つい最近もテレビ局で騒動があったばかりだし、この界隈はどうしても後ろ暗い話題が尽きない。
 そのような数々の危険から、同じメンバーである少女達四人を護ってやりたい。いや、護らねばならぬ。それが己の義務であると彼女は信じて疑っていなかったのだ。実は己が「FOXGIRLS」で一番人気がある事実には、彼女はさっぱり気づいていない。
「我の事は良い。それより兄者よ。義姉者の姿が見えぬし気配もしないようだが?」
「彼女であれば、お前に手料理を振舞いたいと食材を買いに行っている。もうそろそろ、戻ってくる頃であろう」
 そうか、と、妹は頷く。自分達が幼い頃から、不思議と姿が変わらない兄の嫁は。きっと今も変わっていないのだろうな、と思いながら。


 世間的に、それはストーカーと呼ばれる存在だった。新米アイドルグループ「FOXGIRLS」。そのリーダーに男は心奪われていた。メンバーの中では一番の年長。アイドルらしさはあまりなく雄々しさすら感じさせるその姿に心を完全に掴まれた。
 素晴らしいと思う。女性はあれくらい強い方がいい。むしろ、そういう女性が特定の相手にだけ弱い顔を見せてくれたりしたら最高だ。
 様々な伝手を使い彼女の住居をとうとう見つけた。さぁ、あの家に忍び込んで、この盗聴器を……。
 ………………っぽ。
「…………?」
 何か聞こえたような。何か気配を感じるような。振り返って、男は悲鳴を上げそうになった。
「ぽぽ、ぽぽっぽ」
 そこには、女がいた。清楚な白いワンピース、真っ白なつばの広い帽子。ここまではいい。しかし、その体躯が異常だった。男よりもはるかに大きい。男が心つかまれている「FOXGIRLS」のリーダーよりもさらに大きい。二メートルを超えているどころか、三メートル近くあるのではないだろうか。
 ぎょろ、と見下ろしてくる大きな瞳は、恐ろしさすら感じさせるもので。そのあまりの恐ろしさに、男はそのまま、気絶した。


「ぽ」
「おぉ、久しいな義姉者!」
「ぽ、ぽぽぽ」
「どうした?……む、近場で男が急に倒れた?わかった。我輩が救急車を呼んでおこう」
「ぽ……」
 自分が言葉をしゃべれぬばかりに申し訳ない、と。彼が少年の頃に契約し、今は夫でもあるその人にしょんぼりしてみせる八尺様。
 なんとなく、自分の義妹によからぬ事をしようとしていた気配があった男性が自分を見た瞬間気絶したことに心傷つきつつも。
 …………守れたのならいいか、と、思い直すことにした。



442 :単発:かごめかごめは逃げることを許されぬ遊女を歌ったものと言う説もある [sage]:2022/01/21(金) 17:19:45.60 ID:F3kCl3w10


 これは、都市伝説と契約したが故に、タガが外れた契約者の物語である。



 かごめかごめ。かごのなかのとりは。
 いついつでやう。よあけのばんに。
 つるとかめがすべった。うしろしょうめんだぁれ?

 ある少女の母親が死んだ。
 忽然と姿を消してから一か月後、少女と一緒に住んでいたアパートの室内で腐乱死体となって発見された。
 死因は、餓死。
 何故、行方不明になっていた彼女の死体がアパートの室内から発見されたのか。
 警察は捜査を続けたが、真相はわからぬままだった。
「怖いわねぇ、何があったのかしら……」
「家の中は荒れ放題だったんでしょう?」
「あの子、どうなるのかしらね……」
 近所の人達は、葬式でひそひそと噂しあった。
 少女は、そんな噂が聞こえているのかいないのか。自分を引き取る事になった元父親の両親……ようは自分の祖父母にかまってもらって楽しそうに笑っている。
 死んだ母親が、離婚した父親から支払われていた養育費を離婚前から付き合っていた恋人に貢いで少女の為には使っておらず。
 また、日常的に少女に対して、恋人と共に様々な虐待を行っていた事がわかったのは。
 その恋人の腐乱死体もまた、近所で発見された頃の事だった。

 かごめかごめ。かごのなかのとりは。
 いついつでやう。よあけのばんに。
 鶴と亀が滑った。後ろの正面だぁれ?

 ある少女の友人が死んだ。
 忽然と姿を消してから一か月後。学校行事で訪れていて、そして行方不明になった現場である宿泊研修を兼ねたサマーキャンプの地で腐乱死体となって発見された。
 死因は、餓死。
 少女の母親と同じ死因だった。
 少女はその友人と、本当に本当に仲が良かった。お嫁さんごっこ、なんて遊びをするくらいに仲が良かった。
 ただ、友人が行方不明になる数日前、酷い喧嘩をしたらしかった。
 友人が謝った事で喧嘩は終わったようであり、事件には関係ないと判断された。
 そもそも、か弱い小学生の少女が、事件に関係しているはずもないと判断された。
 みんなが泣いていた葬式会場。少女もまた、クラスメイト達と同じようにしくしくと泣いていた。
「なんでだろう。なんでだろう……」
 泣いていた少女の呟きの意味を正確に理解した者は、その場には誰もいなかった。

 かごめかごめ。かごのなかのとりは。
 いついつ出やう。夜明けの晩に。
 鶴と亀が滑った。後ろの正面だぁれ?

 ある少女の学校の先生が死んだ。
 忽然と姿を消してから一か月後。学校の生徒指導室で腐乱死体となって発見された。
 死因は、餓死。
 少女の母親や友人と同じ死因だった。
 生徒達からの人望ある女性教師だった。生徒の悩み事に真剣に耳を傾け、問題の解決に動いてくれる教師だった。
 少女に対しても、悩み事を連日聞いてやっていた事が周囲の証言でわかっている。
 三度も続くと、少女が原因ではないかと思う者が出始めた。
 とは言え、ただの少女が人を行方不明にさせて、さらに餓死させるなんて簡単にできる事ではない。
 彼女らが行方不明になっている間も、少女は普段通り、なんら変わらぬ生活を送っていたのだからなおさらだ。
 だからこれは、意地の悪い噂として。「あの子、呪われているんじゃないの?」と。そんな風に広まった。

 かごめかごめ。籠の中の鳥は。
 いついつ出やう。夜明けの晩に。
 鶴と亀が滑った。後ろ正面だぁれ?

「なんでだろう……なんでなんだろう……」
 先生の葬式からの帰り道。少女は独り暗く俯き呟く。
「なんで、みんな。私の愛をわかってくれないんだろう……」
 お母さんは、私をかまってくれないから閉じ込めた。
 お友達は、愛してるって言ったら「気持ち悪い」って言ってきたから閉じ込めた。
 先生は、好きです、愛していますと伝えたらやんわりと窘めてきたから閉じ込めた。
 どうして、みんなわかってくれないだろう。こんなにもこんなにも愛しているのに。
 愛しているから閉じ込めて。愛してるって答えてくれたら出してあげるだけなのに。
 なんで、みんな私に愛してるって言ってくれないんだろう。なんで私の事を罵ってくるんだろう。
「わかんないや……」
 死んでしまったなら仕方ないけれど。どうしてわかってくれないのか、わからない。
 今度愛する女性はそうじゃないといいなと、願う事しかできない。

 籠女籠女。籠の中の鳥は。
 いついつ出やう。夜明けの晩に。
 鶴と亀が滑った。後ろ正面だぁれ?






443 :単発:雨降らせるも多少の縁 [sage]:2022/01/22(土) 17:44:25.56 ID:8ds7bCVg0


 これは、都市伝説と契約した能力者であるが、都市伝説とどう戦うか悩む者の物語である。


 雨が降る、雨が降る。
 ざあざあざあざあ雨が降る。
 ばしゃばしゃと水たまりを乗り越えながら、それは苛立たし気に叫ぶ。
「えぇいっ!鬱陶しいぞ、糞がっ!!」
 べっとりと濡れた髪が肌に張り付く。それを払いもせず女は駆け抜けていた。
 耳元まで痛々しく裂けている大きな口を含め、その顔は怒りに歪んでいる。
「こんなっ!鬱陶しい雨程度でっ!!私、「口裂け女」から逃げられると思うなよぉおおおおっ!!!」
 「口裂け女」。都市伝説としての知名度はトップクラスであり、それ故に無数のバリエーションが存在する都市伝説。
 長い黒髪に真っ赤なコート。赤いベレー帽に赤いハイヒール。獲物は鋏。身体能力は100mを6秒で走れる程度。この「口裂け女」はそんな個体だ。特別目立った能力はないと言えるか。
 だが、シンプル故に強く厄介なのが「口裂け女」である。か弱い個体であれば、都市伝説契約者でなくとも鍛え上げた人間に倒される場合もあるが。そうやって都市伝説なしで撃退する人間がレアな個体なのである。逸脱人がそんなにたくさんいても困る。
 実際、100mを6秒で走る俊足からはそうそう逃げ切れるものではない。今、「口裂け女」が追っている相手とて、角々を使いなんとか逃げているという現状であり、「口裂け女」が追い付くのも時間の問題だろう。
(あぁ。それにしても。本当、鬱陶しい雨だ……!)
 そう、雨。この雨は、どうやら自分が追いかけている少女が降らせたものであるらしいと「口裂け女」は認識していた。
 何せ、少女を襲おうとしたそのタイミングで振り始めたのだ。いくらなんでもタイミングが良すぎる。何よりも、自分と少女を追いかけるように雨雲が移動し続けている時点で、通常の雨ではない。
(都市伝説契約者だったのは計算外だった……が、こんな雨、関係ない!)
 ただ、雨を降らせるだけ。この雨が酸性雨だったり猛毒を含んでいたりするならば別だが、本当にただの雨でしかない。
 そんなもので撃退されるほど、「口裂け女」はやわではないのだ。契約者こそ存在しないが、こうして思考できる程度には自我が確立している。ただただ雨を降らせることしかできない人間程度に負けはしないし逃がしはしない。
 さぁ、距離が縮んできた。あと少し、あと少し……!

 あと少し、あと少し。
 少女は必至で雨の中駆け続ける。自分が呼んだ雨で全身ずぶぬれだが、そんな事を気にする余裕なんてない。
 追いつかれたら、殺される。
 唯一幸いなのは、追いかけてくる「口裂け女」の持つ獲物が鋏であるという点か。鎌やら斧やらと比べるとリーチが短い。攻撃を受けるまでほんの少しだけ余裕がある。本当に、ほんの少しだけだが。
(…………これしかできないの、本当、不便)
 少女は、生まれた瞬間から契約者だった。稀にいるのだ。代々契約を受け継いできたやらそういう事情によって、生まれた瞬間から契約者であるというものが。
 「雨女」。都市伝説と言うよりも、妖怪の一種。能力は雨を降らせる事。ただそれだけ。人々を干ばつから救う雨の神とされる事もあるが、少女にとっての認識は「雨を降らせる厄介な存在」だ。
 もっと幼い頃は、能力をコントロールできなくて非常に困った。そのせいで遠足や運動会を延期にさせてしまったり、桜の花を早々と散らせてしまったり。「雨女」とからかわれていじめられたりもした。
 そして、今。こうして追いかけられている最中だって。ほとんど役に立たない力。
 雨を降らせたって、目くらましにもなりやしない。前が見えない程の大雨ならいいかもしれないが、そこまでできる訳でもない。足を滑らせてくれるだろうかと期待したが駄目だったようだ。
 あぁ。追いつかれる、追いつかれる。あと少しで、追いつかれる…………。
「こっちよ!」
 雨の中、聞こえてくる声。聞き覚えのある声に、導かれるようにそちらへと足を向けた。
 飛び込んだ路地の行き止まり、知っている女の人がいてちょっとだけほっとしながら、マンホールを踏み越えていく。
「馬鹿めっ!自らどん詰まりへと飛び込んだかっ!!」
 「口裂け女」が、爛々と目を輝かせ路地へと飛び込んできた。両手に鋏を出現させてしゃきしゃき言わせながら、マンホールを踏み越えようとして。
 マンホールから、それが飛び出す。明らかにそこから飛び出すにはあまりにも大きな、白い、ワニが。
「な、にぃいいいいいいいいいっ!!!???」
 飛び出してきたワニの大口に飲み込まれそうになって、「口裂け女」が鋏を振り回す。しかし、鋏はワニにまともな傷を入れることはできず、逃げられもせず。
 ばくんっ、と。
 悲鳴を上げる暇もなく、「口裂け女」は一口で飲み込まれてしまった。
「大丈夫?」
「なん……とか……」
 ぜぇぜぇと呼吸を整えながら、「雨女」の能力を解除する。あぁ、効果範囲に巻き込んでしまった家々の皆さん、洗濯物を干している最中だったらごめんなさい。
 申し訳ない気持ちを抱えながら、自分を助けてくれた「下水道の白いワニ」の契約者を見上げる。
「すみま、せん……助けてもらって……」
「いいのいいの。不自然に移動してる雨雲が見えたから、なんかあったんだろうなー、って」
 よしよし、と落ち着かせるように背中を撫でてくれる「下水道の白いワニ」の契約者。
 あぁ、そうか。あまり広い範囲に雨雲を展開させる余裕はなかったから、その分、雨雲の動きが不自然だったのか…………おかげで、助けてもらえはしたが。
「助けてもらってばかりで……本当…………歯がゆい、です」
「気にしない気にしない。その雨が必要になる事だってあるんだから」
「そう、でしょうか……」
「そうそう。もし、どうしても申し訳なく思うなら。あの子用にいい感じのお肉用意してくれればいいから」
 仕事は終わったと言わんばかりに、下水道へと戻っていこうとしていた「下水道の白いワニ」。お肉、と言う単語に「ごはん?」とでもいうように顔を上げて見つめてくる。
「……わかりました。じゃあ、ワニさんの好きなお肉、教えてください」
「オッケー。まっ、どちらにせよ着替えてからね。ずぶぬれだしー」
 けらけら笑って、くしゅんっ、とくしゃみする「下水道の白いワニ」の契約者。
 いつか、彼女の言うように自分が降らせる雨が必要になる日はくるのだろうか。
 私には、まだわからない。




444 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/23(日) 03:31:58.24 ID:UBt6WSX9o
 
単発の人、投下お疲れ様でした
単発が集まって一つの物語を形成するといいますか
共通世界観の単発シリーズ、良いと思います

ロアいいですよね、ロア
FOXGIRLSのリーダーがメンバーから慕われてるというのも良いし
勇ましいリーダーが実は契約者メンバーから守られてるというのも良いですね…
しかしまさかリーダーの実兄も都市伝説契約者だったとは(八尺様かわいい)、世界は狭いね!(八尺様かわいい)

「エッチな事をしないと出られない部屋」……
起源はともかくとして能力は使い方によってかなり凶悪なことができるのでは?
ただ毎度後半はフェードアウトしていくところが何というか色んな意味で空気読んでる感ありますね
契約者が同性同士もイケるメンタル持ちならば無敵だったろうに……

他にも三角関係のなかで「人体発火現象」契約者の心情が意味深長だったりとか
「アイトワラス」を拾った家庭が不幸続きだったのは実は幸運を吸い取られてのでは? とか
エンターキー荒ぶりすぎじゃないか? とか、「かごめかごめ」の契約者の話からほのかな百合の香りがしたりとか
「下水道の白いワニ」の契約者が再登場したり、美味しい単発ご馳走様でした

ところで「雨女」の契約者が知ってたらいいんですが、雨は幸運を呼ぶらしいですよ
つまり彼女が助かったのは
 
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/23(日) 14:09:19.19 ID:Se8EWtazo
「エッチな事をしないと出られない部屋」の人は報われてよかったなぁ
だからおとなしくお縄につこうか?

FOXGIRLSのキャラ立ちすごい子が非契約者だとは思わなんだww

雨女ちゃんは水のない場所でこのレベルの水遁をとかできる要員になれるよ! がんばれ!

かごめちゃんと猫ちゃんは救われづらそうですねえ
かごめちゃんはもうどうしようもなさそうで・・・
446 :単発:どちらも妖怪系だと思えば仲間仲間 [sage]:2022/01/23(日) 16:36:13.29 ID:q8EvEdSZ0


 これは、出会ってはいけない都市伝説契約者と都市伝説が出会ってしまった物語である。


 類は友を呼ぶ。昔からそう言われている。
 それとはまた違うが、都市伝説契約者同士や都市伝説契約者と都市伝説は自然と引き付けあい、遭遇しやすいとも言われている。
 実際の処、都市伝説の撃退手段や知識を持たない一般人が都市伝説と遭遇し被害にあうよりは、ある程度対処できる契約者が遭遇する方が全体的に被害は少ないのだろう。
 そうだとしても……世の中、「出会ってはいけない」と評される出会いというものは存在する。そして、そのように評されてしまうのだとしても。まるで運命に導かれたかのように、そうした二人は出会ってしまうものだ。
 今回の件も、当人達同士は否定するのかもしれないが。きっと、出会うべくして出会ってしまった衝突事故のようなものなのだ。

(気配……来たか)
 周囲に畑が広がるエリア。そこに辛うじてある物陰に隠れていたその契約者は、感じた気配に笑みを浮かべる。
 やっと、獲物が来た。
 この都市伝説と契約して以降、どうにもこの行為を止められない。飲まれているつもりはないのだが、逸話に語られる行動をどうしてもとりたくなってしまう。
 だがその契約者の漢は思う。これは犯罪ではないはずだ。相手を傷つけたり性的に襲ったりするわけではない。
 よって、犯罪ではないのでセーフであろう。「組織」に見つかったらめったくそに怒られることは間違いなさそうだが、警察のお縄にはつかずにすむはずだ。多分。
 気配を押し[ピーーー]。怪しい気配、なんて思われて回れ右されては困るのだ。
 だんだんと近づいてくる気配。肉と肉がこすれあうような音が聞こえる気がするが、恐らく気のせいだろう。気にするほどのものでもない。
 あと少し…………今だ!
 男は手ごろな細い棒を持って勢いよく物陰から飛び出す。突然のことに、夜道を歩いていた気配が足を止める。
 すかさず、気配へと持っている棒を向け。ついでに丸出しにしていた己の尻を向けながら男は叫ぶ。
「そこのお前!この棒で俺の尻の穴をほじれ!!」

 ――説明しよう!
 この男が契約している都市伝説……と言うか怪談は「柿男」!
 詳細は省くが、年頃の娘さん相手に自身の尻穴を棒でほじらせてしゃぶらせた変態である!
 正体的には柿の実の精のようなものであり、最終的には娘さんが尻の穴にしゃぶりつくくらい甘くておいしかったらしい。
 が、その言動!行動!!控えめに言って変態である!!!

 「柿男」の契約者は、それに忠実に動いた。いや、本来の昔話だと柿の実美味しそうだなぁ食べたいなぁと思ったお嬢さんの家に不法侵入して尻の穴をほじらせたので変態度合いと犯罪度合いがすごい事になるのだが。
 一応、不法侵入はせず、通りすがる人を待っての行動なのでギリギリセーフ……いや、どちらにせよアウトかもしれない。変態だ。
 とにかく、「柿男」の契約者は不審者として通報されても文句言えない行動をとった。そして、固まっていた。
 不幸にも「柿男」のターゲットとなってしまった女性もまた、固まっていた。お互いに固まっていたのだ。
 被害者たる女性が固まっているのはいい、と言うより当然だ。こんな変態不審者が出た瞬間、きちんと悲鳴を上げられる女性は案外少ないのだから。
 では、何故、「柿男」の契約者もまた固まっていたか?それは、女性のその姿が問題であった。

 それは、巨胸と言うにはあまりにも大きすぎた。
 大きく、豊満で、たわわで、そして一糸まとっていなかった。
 それはまさに、一切何一つ隠されていないエベレスト級の豊満バストだった。

 片や、尻丸出しで尻の穴をほじれと女性に要求した男。
 片や、あまりに豊満すぎる胸元だけではなく全身丸出しの女。

「「変態だーーーーーっ!!!!????」」

 ほぼ同時に互いに叫んでしまったのは、どちらも悪くてどちらも悪くなかった。

 ――説明しよう!
 この女性は「サッパン・スックーン」と呼ばれる、アルゼンチンやボリビアに伝わる妖怪の一種である!
 南米の農村に出現するとされ、見た目は小麦色の肌に長い髪、魅力的な大きな瞳。掌だけは不思議と雪のように白く、そして何よりも巨乳を通り越した豊満バスト。そして全裸。
 決して痴女妖怪ではない。畑仕事で忙しい母親に変わって子供の面倒見てくれたり、怠けものを懲らしめたりするタイプのよくある妖怪だ。
 ついでに言うと、名前の由来はそのあまりに豊満なバストが歩いている最中に揺れてこすれ合った時に鳴る音らしい。どんな音?

「いや、痴女!変態!!!なんで日本の北関東の畑地帯に南米っぽい全裸痴女いるの!!??どうなってるの治安!!!」
「変態はそちらデス!お、お尻を丸出しで、しかも、ほ、っほ、ほ…………とにかく、変態デス!おまわりさーーーん!!!!」
「いや痴女の方が変態度高いから!!よいこの教育に悪すぎる!!!!おまわりさーーーーーん!!!!!」
 どちらも変態である。が、どちらも自分は変態ではなく相手が変態だと言わんばかりに全力で叫び倒す。
 出会っては行けなかったであろう都市伝説契約者と都市伝説。
 その出会いは互いに叫び倒してご近所さんに通報され、警察から「組織」へと連絡がいって二人そろって厳重注意されるという結末へと至ったという。



447 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/24(月) 19:33:48.34 ID:hxouiCSEo
柿女さんはいらっしゃいませんかああああああああああぁ?!
448 :単発と連載の間:正体知らぬは命取り [sage saga]:2022/01/24(月) 23:30:13.56 ID:brJoWwmc0
 これは、都市伝説と戦う為ではなく都市伝説能力を利用してうまい事自分の欲望を満たそうとした者が、人知れず始末された物語である。


「そうか。よりにもよってあの朴念仁に惚れたか……」
「幼馴染からのこの言われよう」
「あの男が朴念仁でなかったら誰を朴念仁と言うんだ」
 ある日の放課後、学校帰り。
 「カマキリ男爵」の契約者は、「舐めたら治る」の契約者の幼馴染である同級生の女生徒と一緒にショッピングモールへと向かっていた。
 示し合わせた訳でなく、たまたまだ。彼女は特に部活に所属していない「カマキリ男爵」の契約者と違い、演劇部に所属していていつもはそこそこ忙しい。
 そうしてたまたま一緒にショッピングモールへと向かう最中、「舐めたら治る」の契約者の話題となって今に至る。ようは、「カマキリ男爵」の契約者の、「舐めたら治る」の契約者への想いが演劇部の彼女にバレたとも言う。
 「カマキリ男爵」の契約者としては、あまり自覚したくなかった想い。よりにもよって「エッチな事をしないと出られない部屋」と言うふざけたものに閉じ込められた際に自覚したのも嫌だが、そもそも意識するようになったきっかけが「舐めたら治る」の力で治療された事実と言うのがまた嫌だ。変な性癖目覚めたみたいではないか。
 そんな「カマキリ男爵」の契約者の複雑な心境に気付いているのかいないのか。演劇部の彼女は面白げに笑うのだ。
「あの男ときたら、恋をする事よりも体を鍛える事の方に興味が向いているだろうしな。よほど頑張らなければ、恋心にすら気づいてもらえないぞ?」
「……それはよーーーーーっく、わかるわ」
 力強く同意した。多分、あれはストレートにストレートを重ねてしつこいくらい伝えないと気づかないタイプだ。
 恋をするよりも、自身を鍛えたり友人と過ごす時間を大切にしているようにも見える。そのうえで、都市伝説事件とかで負傷者が出たならば、積極的にかつ躊躇なく治療に動こうとする。
 ……ひとまず、治療に関しては今は頭の中から追い出すことにした「カマキリ男爵」の契約者。今、あの件について考えるのは麺たるに大変とよろしくない。
「ま、あの朴念仁をデートに誘いたい、とかという希望があったら少しくらいは手伝うよ。あの男、男女問わず一緒に遊びに行くことを「デート」だと認識している節があるが」
「…………考えとくわ」
 演劇部の彼女の言葉に、ひとまず、「カマキリ男爵」の契約者はこう答えておいた。想いを伝えることがあるかどうかわからないので、なんとも言えないが。
「……と、言うか。あなた、本当にあいつと付き合ってないんだ」
「ないない。半ば家族のようなものだし。そうじゃなくともアレはない」
「幼馴染が容赦なさすぎる」
「幼馴染だからさ。とりあえず、契約都市伝説の「カマキリ男爵」とも相談しておくといいよ。契約者のそういう心の乱れは、契約都市伝説に伝わる事あるし」
「うぐっ!?…………うん、今度、ちゃんと相談する……」
 ものすごく恥ずかしいが、そうするしかあるまい。
 演劇部の彼女は、都市伝説との契約による諸々の事情に詳しいのだ。彼女自身が契約しているかどうかについては「カマキリ男爵」の契約者は把握していないが。そうした事情に詳しい彼女が相談相手として頼もしいのもまた、事実だ。
 そうしているうちに、ショッピングモールについた。ここまでは目的地が同じ。ショッピングモールについたら別行動だ。
「では、私は部活用の化粧品を見てくる」
「私は、「カマキリ男爵」に楽譜頼まれてるからとりあえずは本屋さんかな……それじゃあ。またね」
「あぁ。また明日」
 お決まりの言葉を言って、別行動になる。
 離れていく演劇部の彼女の後姿を見ながら、「カマキリ男爵」の契約者はこっそりとため息をついた。
 演劇部の彼女は、話し方は男っぽいが顔立ちは整っているし女性としてはすらっと長身でスタイルもいい。日仏ハーフでヨーロッパの方の血筋が強く出ている感じの容姿。クラスでもそうだし、今だって自然と人目を引いている。
 「舐めたら治る」の契約者と並ぶと、なんともお似合いなのだ。だから、幼馴染同士特有の距離感のせいもプラスして、周囲から付き合ってるんじゃないかとかからかわれるのだろう。
 お互いに恋愛方面では欠片も意識し合っていないのだというのが幸いか……いや、幸いと思っていいのかどうか。
 ぐるぐるりとめぐる己の思考のまとまりのなさを感じながらも、「カマキリ男爵」の契約者はショッピングモールに来た目的を果たすべく、目的のお店へと向かった。

449 :単発と連載の間:正体知らぬは命取り [sage saga]:2022/01/24(月) 23:31:07.73 ID:brJoWwmc0
 ……よりによってあいつか、と言うのが素直な感想。「舐めたら治る」の契約者の事は昔から知っている。だからこそ余計に、よりによってあいつか、と言う感想に至る。
(あの男は、恋愛云々以前に自分自身に自信がない奴だし。恋愛意識を持つにしても、まずは自信をもてるようになってもらわないとな】
 勉学も、武術も。並以上になっていて。それでもまだ足りない、まだ足りないと上を向き続ける男の意識はそう簡単には恋愛には向かないだろう。
 「カマキリ男爵」の契約者は、まさに恋愛的な意味での強敵相手に恋をしてしまったのだ。そこは同情しかない。
 一応、変なトラブルが起きないように見守ってはおこう、というのが個人的な考えだった。
 思考を巡らせつつ、ショッピングモールの中の化粧品店へと向かう。その最中、モールの中の大きな柱の影。ちょうど、監視カメラにも映らないであろうそこへと足を踏み入れた時。ちょうど、この位置へと視線を向けていた者は自分以外には恐らく一人。
「…………!?」
 突如、視界が暗転する。一瞬の浮遊感。次の瞬間には、自分は先程までと全く違う場所にいた。ここは、恐らくショッピングモールの中の個室トイレ、
 そして、目の前に。見知らぬ男がいる。中年、と言っていい年頃か。狭い個室トイレでは圧迫感を感じる程度の体格。鍛えられてはいない。肉は柔らかいだろう。
 こちらを座敷便座に座らせた状態でにやにやと笑いながら見下ろし、かちゃかちゃとベルトを外そうとしていた。
「……「ショッピングセンターレイプ」か。あれは、犯人は中学生。被害者は児童であったと記憶していたが。契約によってショッピングセンターではなくショッピングモールでも、高校生程度でも捕らえられるようになったのか」
 こちらの言葉に、男の動きが止まる。何も知らぬだろうと思っていた相手に真実を見透かされたように告げられた時。そして、その相手が怖がりもせず冷静でいた時。人は、恐怖に囚われやすい。
「まぁ、狙われたのが私で良かったとするか。対処がしやすい」
「……っ、その口ぶり、契約者か!だが、「ショッピングセンターレイプ」を発動している以上、ここは俺のテリトリーだ!女は、ここでは無力でしかない!」
「なるほど、女は無力、か」
 恐怖にかられてか、ぺらぺらと喋ってくれてやりやすい。
「ならば、問題ないな」
 こちらがにやりと笑い、そして動き出して見せれば。
 その「ショッピングセンターレイプ」の契約者は、悲鳴を上げるしかなかった。

 この日、トイレ清掃へと向かっていたその清掃員は、男子トイレから女子高生が出てきたような気がして首を傾げた。
 多分、気のせいなのだろう。どう見ても女子高生だった。きちんと女子トイレから出てきたはずである。男子トイレから出てくrはずがない・
 そう考えて思考からその存在を追い出して、まずは女子トイレの掃除。ピッカピカに掃除を終えて、そのまま男子トイレに。
(…………あれ?)
 妙な臭いがした気がした。とある個室から、赤い液体がにじみ出ていた。
 扉は閉まっているが鍵はかかっていない。何度かノックした後に恐る恐る扉を開けて、悲鳴を上げた。
 そこには、一人のでっぷりとした中年男性が。まるで獣にでも襲われたかのような血塗れの姿で倒れていたのだ。

 辛うじて息があったその男は救急車で病院まで運ばれて。後に、この近辺で起きていた連続強姦事件の犯人と判明した。
 あのショッピングモールのトイレで何が起きて、あんな状態になっていたのか。
 警察に逮捕されても、男は酷くおびえたように何も語らなかったという。




450 :単発と連載の間:そういえば「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者は使用フリーです [sage saga]:2022/01/25(火) 17:51:09.32 ID:EVGMyznp0


 これは、都市伝説と戦う為ではなく己の欲望を満たしたくて都市伝説と契約した者が、うまくいかなくて欲望満たせず涙する事の方が多いその様子を書いた物語である。


 「エッチな事をしないと出られない部屋」。まさに名称通りの部屋を生み出し、そこに人を閉じ込める程度の能力の都市伝説である。
 一時期、SNSやらイラスト投稿サイトやらで流行ったネタだ。てっとり早くいやんうふんあっはんなネタを描く際の導入として使われたものなのだろうが、そのような部屋でありながら結局エッチな事にならなかった、みたいな逆張りネタもまた結構ある。
 そして、エッチな事に限らず様々な〇〇しないと出られない部屋と言うネタが無数に生まれ。そういう「〇〇しないと出られない部屋」と言う条件を契約者が設定できるタイプもいれば、この契約者のように「エッチな事をしないと出られない部屋」とがっつり条件が定まっているタイプもいる。
 自分は、「エッチな事をしないと出られない部屋」でじゅうぶんだと、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者はそのように考えていた。
 そう、これでじゅうぶんなのだ。別に、どちらかを殺さないと出られないとか物騒なのはいらない。ただ、男女のきゃっうふふなエッチな事を覗き見できればじゅうぶん。誰かを殺すような力なんていらない。ただ望むのは自分が関わらないエッチな事。
 だから、この日も適当な安ホテルの上の方の階に泊り、そこから高性能の双眼鏡をもって獲物を探していた。彼の契約している「エッチな事をしないと出られない部屋」の効果範囲は視界内。道具を使って遠くを見ても発動してくれるのはありがたいである。これで見えている範囲で、この二人で閉じ込めたら良い感じになるのでは?と言う組み合わせを発見し次第、能力を使うのだ。
「……お、あれは「FOXGIRLS」のメンバーか。マネージャーと二人…………いや、駄目だ。マネージャーとアイドルと言う関係は美味しいが。スキャンダルになってはいけない」
 個人的に好きなアイドルである「FOXGIRLS」の姿が見えたが、発動をぐっと我慢。同じ事務所所属の「スプラッターレディーズ」と同様に彼としては見守っていきたいアイドルなのだ。変なスキャンダルとか起こさせたくない。
 変なところで良識を働かせて「FOXGIRLS」のメンバーとマネージャーを見送る。あぁ、今夜放送の「FOXGIRLS」が出演する鬼ごっこバラエティも見なければ。リーダーとぶりっこちゃんとお嬢様が参加なのだ。一人でも逃げ切れるといいな。
 思考を「FOXGIRLS」の今後に向けていたところで……来た。獲物だ。
(何度か閉じ込めた連中……!)
 そう、この街に来てから何度か閉じ込めたり逃がしたりした連中の姿だ。三回のうち二回は男だけで閉じ込めてしまい、むしろこちらにとって拷問みたいな現場になってしまった悲しき思い出。
 「エッチな事をしないと出られない部屋」の中で行われている光景を、自分は全て見る事ができるし聞くことができる。正確には、全部見えちゃうし全部聞こえちゃう。強制的に見せられる&聞かされるなのだ。男同士は流石に地獄である。自分が見聞きしたいのは男女のエッチな事なのだ。同性はいかんぞ非生産的だ。
 とにかく、何度か閉じ込めた連中が見えたのである。始めてみた者もいるがまぁいいだろう。女性が三人、男性三人。一気にそれぞれ別々の部屋に閉じ込めるとかできればいいのだが、残念ながらそこまではできない。謙虚に男女一組を閉じ込めるとしよう。
(そうなると、どの組み合わせがいいか……)
 まずは女性から見ていこう。とはいえ、一人は以前に逞しい系男子との組み合わせで閉じ込めに成功し、見事にエッチな様子を見る事ができた相手である。なので、今回は除外でいいだろう。
 残る二人。片方はボーイッシュ、と言うか凛々しいというか。女性ではあるのだが、どこか男性的な雰囲気も漂う少女。肉食系めいた気配もする。あぁ言う子がエッチな事に積極的で乱れるのもいいし、逆に実はそういう事が苦手で恥じらうのもまた、いい。
 もう一人は、以前に教師と生徒の関係で閉じ込めようとして失敗した相手だ。あぁ、あの時聞こえた男性教師の声、エッチだったな……悔しいけどエッチだったな…………マッサージされてるだけなのに条件満たすレベルでエッチなの悔しい。違う話題が逸れた。どこにでもいそうな平凡な雰囲気がいい。ごく普通の女子高生、逆に希少だと最近気づいた。
 次、男子に移ろう。一人はどこか線が細い感じの少年。うん……逞しい系男子と一緒に閉じ込めてしまった少年だ。二人共躊躇0だったな……脱出のためとはいえ躊躇0だったな……最近の男子高生怖いな……。
 トラウマは記憶の底に閉じ込めて、次。いや、次もトラウマだわ。問題の逞しい系男子だわ。スポーツってか格闘技やってる系の逞しさ。いや、エッチな現場も見れたけどトラウマが結構強いわ。どっちの時も躊躇なかったな……すごいな最近の男子高生。
 最後の一人!ごめんこれもちょっとトラウマ一歩手前!教師に延々とエッチな声あげさせた人だわ!イケメンなのはいいけどどうしてもあの教師のエッチな声が記憶よぎるわ!!
451 :単発と連載の間:そういえば「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者は使用フリーです [sage saga]:2022/01/25(火) 17:52:00.21 ID:EVGMyznp0
 困った、男子が全員トラウマだ。いや、ここは今度こそ男女の組み合わせにしてトラウマを残り越えるべきか。逞しい系男子は良い感じのエッチな様子も見せてくれたので今回はやめとくとして……。
(……よし!線が細い系男子とちょっと肉食な雰囲気もするボーイッシュ系少女!これだ!!)
 組み合わせは決めた。よって、「エッチな事をしないと出られない部屋」を発動すべく集中する。
 まずは、「エッチな事をしないと出られない部屋」と言う異空間を生成。そこに、視界に入っている二人を閉じ込めるのだ。
 ……高性能双眼鏡での視界に、目標の二人が入った。いざ、発ど……
「ッアーーーー!!!???」
 しまった!かなり離れているはずだというのに不穏な気配にでも気づいたか。ボーイッシュ女子が一瞬で視界から消えた。その後を追いかけようとして、線の細い系男子の視線の先を追おうとした。したのだ。
 その結果、双眼鏡の視界に、線の細い系男子とマッサージ師らしい男性が入ってしまって。
 ……「エッチな事をしないと出られない部屋」、発動。
「くそっ!!どうしてだ…………どうして…………こんな事に…………っ」
 くそ!聞こえてくる声やら見える様子から、どっちも過去に閉じ込めた相手と言う事もあって対応が早い!
 一応、いつものボイスチェンジャー使いつつお決まりの言葉はかけておいたが、話聞いてはくれているけれど、もうどう動くべきかを考えている。
 男……また男同士…………いや、お好きな人にはたまらない組み合わせなのかもしれない。どっちがどっちなのかわからないけど好きな人は好きなのだろう。どっちがどっちかで戦争になるレベルでは。
 だが自分は男女がいいのだ。男女の組み合わせが…………好きなのだ…………同性はちょっと…………。
「ッアーーーーー!!??お止めください!!??いやえっちぃ!!!!声がえっちぃ!!!!!くそっ、マッサージ師って奴はエロAVとかみたいにテクニシャンなのか!!??」
 聞こえてくる!エッチな声が聞こえてくる!!!くすぐったい感じのマッサージすごい!尊敬はしたくないけどすごい!!!
 エッチな声が耳元でダイレクトに響く。どこか色っぽさを感じる顔が視界に入る。止めてほしいのだが一度閉じ込めるとエッチな事を実行して、こちらが確認しないと解放できないので仕方ない。仕方ないので見聞きするしかない。辛い!!!!!
「どうして…………どうして、この街は男女でのエッチな感じの様子を見せて……くれないんだ……」
 べそべそ泣きつつ、ベッドに倒れこむ。
 このまま、ある程度見聞きすれば勝手に「エッチな事をしないと出られない部屋」の発動は解除される。たとえ行為が途中で有ろうと解除されるので時々「延滞料金払わせてください!!」と言いたくなるのもまた欠点だ。
 辛い。本当…………辛い……もっと男女のいやんうふふなエッチな様子を見たい……。

 欲望は止まらない。欲望を願う心は止まらない。
 この「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者がいつか捕まるかどうか、わからない。
 ただ、捕まったとしても、捕まらなかったとしても。今後のこの手の都市伝説の被害はぽつぽつ、発生するのだろう。
 人が欲望を抱く限り、その存在は生まれ続けるのだから。




452 :単発:これもまた一つの在り方 [sage saga]:2022/01/26(水) 17:02:49.36 ID:ZMGUeKTy0


 これは、人間と契約しなくともなんか平穏な生活手に入れちゃったっぽいので適応した都市伝説の物語である。


 広い広い、どこまでも広がる草原。
 確か、己が生まれたのはそのような場所であった記憶がある。
 あの広い場所を気ままにはね飛び回っていたが、水辺にて首長き獣と争い、致命に近き深手を負った。
 もはやこれまでと覚悟を決めたが、倒れている己を人間が見つけ、そこから多数の人間が集まって己を何処かへと運び、治療を施した。
 何故、己が「人間」というものを知っていたのかはわからない。
 己が生まれたのは「人間」が原因であると、そういうぼんやりとした程度のものではあるが。人間が己をどう扱うかわからず、多少暴れた。
 暴れても、暴れても、人間は己に治療を施してきた。色々と言葉をかけられたようなのだが、生憎その言葉の意味まではわからない。
 ……ただ、必死に呼びかけていた事はわかる。救おうとしてくれたらしい事はわかる。
 だから、己は最終的に、その人間達による治療を受け入れた。その後に実験動物にでもされるかもしれないが、その時はその時だ。

 傷は癒えて。己は今もこの施設にいる。
 どうやら、ここは「動物保護施設」とか呼ばれる場所らしい。
 己以外に、傷ついた生き物が保護され、治療され、野に戻されたりここで暮らし続けたりしている。
 残念ながらと言うべきか幸いと言うべきか、己と同じ存在はいないようだった。
 似たような動物はいるが、己は似た姿をしながらも別の存在だ。己と比べるとそれらはずっと小さいし、本能的にわかるのだろう、己を怖がり近づこうともしない。
 そうして、似たような存在に避けられる己を見て、どうやら人間は己を野に返せぬと判断したらしい。群れになじめぬものと認識されたか。
 別に、己は生まれて以降ずっと群れる事なく生きてきたので問題はないのだが…………人間とは、なんとも過保護な思考をするものだ。
 その気になればこの地より逃げ出すこともできるのだろうが。不思議とそういう気にはならなかった。
 己の治療に一番必死だった人間は、今でも親身になって己に語り掛け、世話を焼いてこようとする。もう怪我は癒えているというのに、具合を確かめようとしてくる。
 己がここから逃げ出したならば、この人間が心配するのではないか、と妙な考えを抱くようにもなった。
 ……「契約」を、考えもした。だが、今のところそれは行っていない。
 この人間が、己との「契約」に耐えきれるかどうか、己には判断がつかなかった。
 もしも耐えきれぬならば、この人間は人間ではなくなるだろう。それを「嫌だ」と感じる程度の、人間が言うところの情のようなものが己にもあった事は少し驚いた。
 まぁいい。この人間が死ぬまでは、己はここにいてやろう。
 己のような存在を治療したこの人間への、せめてもの義理として。
 この場所が、己のような「都市伝説」に襲われるような事があれば。己が戦い、護りぬいて見せよう。


「…………よし、大丈夫そうだな」
 古傷の確認を終えた。
 酷い怪我をしたところを発見され、この施設に保護されたカンガルー。何か獣にでも襲われたようなその傷は、同僚達が「もうだめかもしれない」とそう言葉をこぼすほどのものだった。
 それでも、諦めきれなかった。通常の個体とは少し違う特徴のあるそのカンガルーを自分は放っておけなかった。
 野生に生きた生き物として、人に触れられる事すら拒むように治療中に暴れようとするその生き物を。麻酔にすら抗うその生き物を治療し終えた後、自分はうっかり倒れて川を渡りかけたらしい。
 そういえば、治療中にカンガルーキックとかカンガルーキックとかカンガルーパンチとか食らった気がする。よく生きてたなぁ自分。
 まぁ過去の臨死体験一歩手前はどうでもいい。問題はこのカンガルーだ。
 傷はもう癒えているのだが、どうにも群れになじめる様子がない。
 通常のカンガルーと違い、この個体はあまりにも大きい。そのせいか、他のカンガルーが逃げてしまうのだ。この個体自体はそれを気にしていないようでのんきに生活しているが。これでは野生に返しても生きているかどうかわからない。
 ……それに。本当に、大きいのだ、この子は。体高三メートルもあるのだ。その巨体はあまりにも、目立つ。
 こう言う目立つ個体は敵にも狙われやすいし、密猟者にも狙われやすい。
 この命を守る意味でも、施設では野生に返さずに保護を続ける事に決定した。
「本当なら、野生に返せるのが一番なんだけどな……」
 こちらの言葉を聞いているのかいないのか。
 のんきに餌を頬張りつつ、じっと見つめてくるつぶらな瞳。
 人間の身勝手なエゴだとは思いながらも、護らねば、とそう感じた。



 こうして、その都市伝説。UMA「ジャイアントカンガルー」はそこにいる。
 少なくとも、それを親身に世話する人間がそこにいる限りは、「ジャイアントカンガルー」はその場所を守り続けるのだろう。
 契約はなされずとも。時としてこうした友情のような何かは。確かに、存在するのだ。




453 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/26(水) 23:02:28.02 ID:+L5CJCh8o
 
単発の人、お疲れ様です
出たな柿の精! 柿の精といえばかの有名なタンタンコロリンですが
なんというか類話(?)が卑猥なんですよね、あれ絶対艶笑譚ですよねきっと
サッパン・スックーンは初めて知りましたが、日本で紹介されたのは2019年?
調べてみるとマプチェ族の民間信仰にも登場する子守りの妖精みたいで……しかしインパクトある
勉強になりました

もはやレギュラーメンバーな「カマキリ男爵」の契約者、いいですね
同じくレギュラーメンバーになった感のある「エッチ部屋」の契約者、いいですね
何やら裏のありそうな演劇部女子(?)が登場したり、意外と「エッチ部屋」が謎の良識を持ち合わせていたりと
どんどん賑やかになってるんじゃないでしょうか(でも「エッチ部屋」からは何か残念なヘタレな感じがする)

「ジャイアントカンガルー」の舞台は豪州かな?
野生っぽいけど“契約”なる概念を理解していたり、どこか己の境遇含めて達観している趣があったりと
余韻を感じる単発でした、ごちそうさま!
 
カンガルーはね、戦闘は絶対ボクシングスタイルだと思うんだよなあ
 
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