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イタリア百合提督(その2)「タラントに二輪の百合の花」
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809 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2021/11/19(金) 10:36:23.79 ID:TQjWDWB+0
>>808
間違えました…正しくは「『第12MAS隊』がフィンランドに、豆潜水艦が黒海に派遣された」ですね……別の話とごっちゃにしてしまいました
ちなみにフィンランドに派遣された「第12MAS」隊はレニングラード封鎖に参加し砲艦や貨物船を撃沈、黒海ではMAS艇数隻、および貨物列車で沿岸まで陸送された豆潜水艦がソ連の潜水艦を撃沈するなどちょっとだけ戦果を挙げています
810 :
◆b0M46H9tf98h
[saga]:2021/11/28(日) 01:39:03.95 ID:v98k1zgy0
…数日後・提督私室…
提督「まずはパスポートに、お金、トラベラーズチェック(旅行小切手)……携帯電話の充電器と、電圧が違うから向こうのコンセントにさせる変換用のタップ……それからコートと毛皮の帽子、私服が数日分。下着やタイツや多めに詰めて……と」
…トランクのふたを開け、ベッドやテーブルの上に服や旅行に必要な小物を並べている提督……かたわらにはかいがいしく支度を手伝ってくれるライモンと妹のムツィオ・アッテンドーロ、そして隣の執務室で書類仕事を片付けながら、時折様子をのぞきにくる秘書艦のデルフィーノとアッチアイーオ、それから暇な鎮守府の艦娘たちも手伝い半分、野次馬半分でかわりばんこにやってくる…
ライモン「……できるだけ暖かい服を持って行って下さいね?」
提督「ええ、もちろん……それから食品保存袋(ジップロック)が何枚かいるわね」
ライモン「それなら厨房にありますが……一体何にお使いになるんですか?」
提督「そうねぇ、例えば着替えの靴下や下着なんかを詰めたりとか、何か液体のものや散らばって困るものをトランクに入れるときとか……あると何かと役に立つわ。 練習航海のときも持っていて重宝したもの」
ライモン「言われてみれば便利そうですね」
提督「ええ、それに大きめの衣類圧縮袋もいくつか持っているから、それも入れておくわ。 できるだけ荷物はコンパクトにして、その分お土産を詰めてこられるようにね」
オンディーナ(水の精「ウンディーネ」)「……ふふ、素敵なお土産を期待してるわ♪」
提督「ええ♪ あとはもらった語学ガイドと参考資料、ラップトップのパソコンに筆記用具……それから化粧品にちょっとしたお薬、それと生理用品のポーチも入れていかないと。そういうものは規格が違ったりして身体に合わなかったりするから……」
ライモン「なるほど」
提督「うーん、とりあえずこんなものかしら……意外と小さくまとまったわね」トランクのふたを閉めてみて、一人で納得したようにうなずいている……
ライモン「基本的に服は制服でいいから簡単ですね」
提督「ええ……とはいえ礼装と一般用制服の両方を持って行かないといけないし、特に礼装は金モールなんかが付いているからトランクに押し込むことも出来ないって考えると、結構面倒ね」黒いガーメントバッグ(持ち運び用スーツバッグ)をトランクの上に載せ、手のひらを上に向けて肩をすくめた……
アッテンドーロ「そうね」
提督「後は出発の前日にナポリでミカエラと合流、それから空軍の連絡機でローマに出て……ローマではいくつか指示を受けてから、フィウミチーノ空港(ローマ)で飛行機に乗って、数カ所を経由してヘルシンキに行くことになっているから……」
ライモン「なるほど……それにしてもナポリですか、懐かしいです」
提督「開戦当時は第二巡洋艦戦隊の所属だったものね」
ライモン「はい、コレオーニが一緒でした」
提督「そうだったわね……ねえライモン、それじゃあナポリまで一緒に行く? 有給休暇を使うことになっちゃうけれど……」
ライモン「え、でもご迷惑じゃあありませんか?」
提督「まさか。 一人でいるより、誰かが隣にいる方がおしゃべりが出来て楽しいもの……それがライモンならなおさら嬉しいわ」
ライモン「……そ、それじゃあ///」
提督「そう、良かった……ムツィオ、貴女もどう?」
アッテンドーロ「姉さんだけじゃなくて私まで一緒に鎮守府を留守にしちゃったら、編成が回せなくなるんじゃない?」
提督「どっちみち姉妹の片方が欠けたら、セットにしている戦隊のバランスが崩れるのは同じだもの……それに駆逐隊の戦隊旗艦ならジュッサーノたちに十分任せておけるし」
アッテンドーロ「でも、私が横にいると姉さんをせっついちゃう気がするわ」
ライモン「もう、ムツィオってば」
提督「大丈夫、ムツィオがやきもきする前にベッドに引きずり込むって約束するから♪」
ライモン「提督まで……///」
アッテンドーロ「それなら安心ね……いいわ」
提督「決まりね。 ついでに本場のマルゲリータでも食べて、しばらくはおあずけになる国の味を舌に覚えさせておくことにするわ」
アッテンドーロ「ナポリならいい店を知ってるから任せておいてちょうだい♪」
811 :
◆b0M46H9tf98h
[saga]:2021/12/07(火) 00:36:44.44 ID:Q9+9Yq7a0
提督「……それはそうと、出張の前にクリスマスの準備をしないといけないわね」
アッテンドーロ「とはいえ潜水艦の娘たちは後からここに来たからクリスマスの手順はちんぷんかんぷんだし、私たちがどうにかしないといけないわね」
提督「それは私も同じよ……これまではどんな感じだったの?」
アッテンドーロ「そうねぇ……良く考えたらさしたる事はしてなかったわね。提督が着任するまでここにいたのは司令官じゃなくて「担当官」だったから、何かする権限も予算もあまりなかったし……せいぜい賛美歌のレコードを流して、お菓子を焼く程度だったわね」
提督「うーん、それじゃああんまりにも素っ気なさ過ぎるわね……町でもみの木を買ってきて飾りをつけて、それからクリスマスの前後はごちそうを作って……」
アッテンドーロ「まぁそんなところじゃない?」
提督「あと、当日は近くの町の神父様にお願いしてミサを執り行ってもらいましょうか」
ライモン「妥当なところだと思います」
提督「そういってもらえて良かったわ。あと、ご馳走に関しては私に任せておいて♪」
…翌日・倉庫…
提督「……ここにあるのよね?」
ドリア「はい、そのはずなんですが……見つかりませんか?」
提督「ええ、どうにも見当たらないの……」
…ホコリっぽい倉庫に入って箱をどかしたり棚から下ろしたりしてあちこちかき回しながら、クリスマス用の飾り物が入った箱を探している提督……後ろからは最古参の一人として鎮守府を見守り切り盛りしてきたドリアがのぞき込んでいる…
ドリア「おかしいですね……この辺りにあったように記憶していますが」むにっ…♪
提督「そう……ドリアが言うなら間違いないわよね♪」ドリアが提督の後ろから身を乗り出して棚の上を確認すると、そのはずみでずっしりと重く張りのある乳房が背中に押しつけられた……
ドリア「ええ、確かここに……あ、見つけました♪」むにゅ…っ♪
提督「あら、本当に?」
ドリア「はい……ほら、この箱です♪」棚に両腕を伸ばして箱を下ろそうとして、ますます提督に身体を押しつけるドリア……
提督「…ふふっ♪」さわ…っ♪
ドリア「あんっ……もう、提督ったら♪」
提督「ごめんなさい。でも、さっきからドリアの胸が背中に当たって……つい、ね♪」手を後ろに回してドリアのヒップを撫でると、口の端にえくぼを見せていたずらっぽく微笑んだ……
ドリア「もう、いけませんね……箱を落としたらどうするんです?」
提督「ドリアなら落とさないって信じているわ♪」
ドリア「まったく、お上手なんですから……よいしょ」箱を床に下ろしたが、そのまま提督を棚に押しつける姿勢のまま動こうとしない……
提督「ねえドリア、箱は見つかったんだから早く出ましょうよ?」
ドリア「まあ、提督ったらちっともそんなつもりではないくせに……ん、ちゅっ♪」
提督「ちゅ……あ、んぅ……っ♪」
…金属の星や木でできたリンゴの飾り物が入った箱を床に置いたまま、次第にむさぼるようなキスを交わし始める提督とドリア……長身の提督よりさらに一回り大きいドリアは、向かい合わせになった提督の腰に腕を回しぐっと引き寄せると、顔を胸の谷間に挟みこんであご先を指で軽く上向かせ、上から押さえ込むように口づけを見舞った……
提督「ん、んはぁ……ちゅっ……じゅるっ、ちゅぷ……ぷは……ぁ♪」
…ドリアの熱く優しいキスにとろりと甘い表情を浮かべ、夢見心地の様子で舌を絡める提督……すでにひざは力を失い、両手をドリアの首筋に回し、豊満な身体にしがみつくようにして唇を重ねている……タイトスカートの裾からのぞく黒いタイツにつつまれたふとももはスプーンを入れたフォンダンショコラのようにとろりと愛蜜があふれて沁みを作り、ぎゅっとドリアの腰を挟んでいる…
ドリア「もう、いけませんね……倉庫でこんなことをするなんて♪」くちゅくちゅっ、ぐちゅ……っ♪
提督「だって、ドリアが誘惑してくるんだもの……ふあぁぁ、あふっ、あぁ……んっ♪」じゅぷじゅぷっ、にちゅ……っ♪
ドリア「まぁ、ふふっ……私のせいですか?」
提督「そうよ、可愛くて優しいドリアがいけないんだから……ね、もっと♪」
ドリア「仕方ありませんね……あんまり遅いと皆が気にしてしまいますから、あと一回だけですよ?」
提督「もう、ドリアのいじわる……んちゅぅ、ちゅぷ……♪」
ドリア「んちゅ、ちゅる……っ♪」
812 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2021/12/13(月) 02:23:34.44 ID:IjK5a0vd0
…しばらくして・食堂…
ディアナ「あら、提督……昼食はまだ出来ておりませんが?」
提督「お昼を食べに来たわけじゃないわ、クリスマスに入り用なものを出してきたの♪」
…上に軽く積もっていたホコリを拭き取って食堂に持ってきたのはクリスマス飾りが入っている箱で、艦娘のドリアが大きい方を抱え、提督が小さい方を持っている……たかだが箱を出してきただけにしては妙に息を弾ませている提督と、後ろに付き従いながら艶やかな笑みを浮かべているドリアを見て、ディアナは事情を悟ったような表情を浮かべた…
ディアナ「ああ、なるほど……」
提督「そろそろ待降節も来るわけだし「いよいよクリスマス」っていう気分になってくるものね」
(※待降節…たいこうせつ。ラテン語から「アドベント」とも。クリスマスのおおよそ四週間前を指す。ここからいよいよクリスマスモードになり、寝かせた状態に置いた緑葉のリースや燭台に立てた四本のろうそくを週末ごとに一本ずつ点けていくなどの風習がある)
ディアナ「それもそうですね……ではわたくしもパネットーネなど作ると致しましょうか」
(※パネットーネ…ドライフルーツが入ったパウンドケーキ的な焼き菓子。キログラム単位で作りクリスマスまで長く楽しむ。北イタリア・ミラノの銘菓)
アッテンドーロ「いいじゃない、私も食べたいし手伝うわよ」ミラノ・スフォルツァ家の源流である傭兵隊長「ムツィオ・アッテンドーロ」を由来に持つだけに、ミラノと聞くと食いつきがいい…
提督「それがいいわね。ディアナは大変だけれどいくつか焼いてもらって、好きなようにつまんでいいことにしましょう……それとも手間がかかって大変でしょうから、買ってくる?」
ディアナ「皆さんに手伝っていただければ大丈夫かと……エリトレアもおりますし」
提督「そう、良かった♪」
ディアナ「では、どうせですからパンドーロも作りましょう」
提督「材料は同じようなものだものね」
(※パンドーロ…「パン・デ・オーロ」(黄金のパン)を意味するヴェローナの銘菓。卵や牛乳をふんだんに使い焼き上げたパネットーネの元祖のような菓子で、上から見ると角の多い星形をしている)
エリトレア「それじゃあパンドーロは私が作りますね」
提督「ええ、それからクリスマスツリーにするもみの木を買ってこないと……私のランチアにはさすがに載らないから、鎮守府のトラックを出すしかないわね」
ディアナ「わたくしのフィアット・アバルト850には載せられませんか?」
提督「うーん……ツリーの大きさにもよるけれど、さすがに厳しいんじゃあないかしら」
ディアナ「それは残念です、せっかくあの850を走らせるいい機会だと思ったのですが」
提督「それなら一緒に行きましょう? 町でお買い物をしたい娘もいるでしょうし、ディアナが車を出してあげればみんな喜ぶわ」
ディアナ「さようですか、でしたらそういたしましょう」嬉しそうな様子でいそいそと車の準備をしに行くディアナ……
アッテンドーロ「……ディアナの車に乗りたがる娘がいるかどうかは別として、ね」
提督「あら、ディアナの運転はとても上手よ……ただ、乗り心地がいいかは別だけれど」
…数十分後・近くの町…
ディアナ「あら……」
フルット「クリスマスの装飾が何とも華やかですね」
リットリオ「わぁぁ、すごく綺麗です♪」
提督「そうね……そのうち交代で皆も連れてきてあげましょう」
…小さな町の中央広場にはさまざまな飾りと電飾が施されたツリーが堂々と立っていて、古式ゆかしい町の建物も窓や壁に飾り布を垂らしたり、リースをつけたりしている……町の通りの左右にはクリスマス関係の商品を扱う露店がいくつも出ていて、のんびり買い物を楽しむ老夫婦からはしゃぎ回る子供まで、老若男女を問わず多くの人々が楽しげに歩いている…
オンディーナ「ここのお店にクリスマスの飾り物がありますよ、提督っ……♪」
シレーナ「ラララ……ララ……露店ならここにもあるわよ……♪」
リットリオ「提督ぅ、早く行きましょうよぉ♪」
提督「あぁ、はいはい……そんなに引っ張らなくたってお店は逃げたりしないわよ」子供のようにはしゃぎ回るリットリオたちを見て笑いながらついていく提督……鎮守府で飾るのに頃合いなもみの木を探しつつ、木箱に入った小さな球形の飾り玉や木で出来たリンゴの飾り、小さいキャンドルなどをのぞいて回る…
ディアナ「まるで母娘のようでございますね」
アッテンドーロ「ふふ、同感……♪」
813 :
◆b0M46H9tf98h
[saga]:2021/12/20(月) 00:42:10.10 ID:aKiWTZ3c0
提督「……それじゃあこの金と銀の飾り玉をそれぞれ一袋ずつ」
リットリオ「この木彫りのリンゴを二ダースほど下さいな♪」
オンディーナ「綺麗なガラス細工ですね、これをお願いします…♪」
ディアナ「まぁ、可愛らしいろうそくの飾り物でございますね……おいくらですか?」
…本命のもみの木にある程度目星を付けた提督たちは通りをそぞろ歩きしながら、着々と買い物袋の中身を増やしていく……華やかなリボンや飾り物、商店から流れてくる賛美歌やクリスマスソングを聞きながら歩いていると、不思議と財布の紐も緩くなってくる…
提督「うーん、けっこう買ったわね……これならツリーも充分に飾ることが出来そう」
ディアナ「飾り物もだいぶ痛んだり煤けてきたりしておりましたから、良い機会でございますね」
アッテンドーロ「ずいぶんと散財したものね、これだけあれば充分でしょう」
リットリオ「それじゃあそろそろ本命のもみの木を買わないと……ですね♪」
提督「ええ……買ったら皆も手伝ってちょうだいね? 私だけじゃあとってもじゃないけれど車まで運べないもの」
フルット「もちろんですとも……♪」
…広場の露店…
提督「それじゃあこれでいいかしら?」
ディアナ「よろしいかと思います」
…広場にいるツリー売りの露店商はもみの木を何本も並べていて、辺りには爽やかな匂いが立ちこめている……事前に天井の高さを測ってメモ帳に書き留めておいた提督は、候補として手頃な数本を選び出した……が、リットリオを始め数人は大きなツリーに心引かれ、どうも得心がいかない様子でいる……そうなると露店商のおじさんも好機とみて「せっかくのクリスマスなんだから」とか「一年に一回なんだし買っていきなよ」などと景気の良いことを言って、しきりに買わせようとする…
リットリオ「……ねぇ提督、どうせですからもっと大きいのにしませんか?」
フルット「ですがリットリオ、天井の高さを考えたらこの程度でないとつかえてしまいますよ」
リットリオ「それもそうですが……でもせっかくのツリーですし、六メートルものの方が見栄えもしますし形も整ってますよ?」
提督「リットリオの言うことももっともだけれど、大きくても四メートル以内じゃないと食堂の天井につかえちゃうから……ね?」
リットリオ「でもお値段だってそう変わりませんし……」
提督「まぁまぁ……このもみの木だってたくさんある中で見ているから小さく見えるけれど、持って帰って据え付けたら結構な大きさに見えるはずよ?」
リットリオ「むぅ……」
アッテンドーロ「だいたい天井につかえるようじゃあ間抜けも良いところじゃない。 値段だって単価でいけば……リラしか変わらないわよ」計算高いミラノ人らしく、さっと暗算してみせた…
リットリオ「言われてみればそれもそうですね……」口ではそう言っているものの、まだ未練がましい表情で堂々としたツリーを眺めている……
提督「ふぅ……分かった分かった。 そっちの大きい方も買うことにしましょう」
リットリオ「えっ、本当ですかっ?」
アッテンドーロ「ちょっと!」
提督「……ただし、リットリオも半分出すのよ? いい?」
リットリオ「はいっ♪」
提督「よろしい……それじゃあこの三メートル半のを一本と、それからこの六メートルものを一本」
露店商「毎度あり! お嬢さん方、どうか良いクリスマスを!」
リットリオ「はいっ♪」
提督「さぁリットリオ、それじゃあ運ぶのを手伝ってちょうだい」
リットリオ「もちろんです♪」そう言うとちょっとした街灯ほどの高さがあるツリーをひょいと持ち上げ、切り口を固定している四角い鉢を支えてプレゼントのように抱えた…
提督「それじゃあもみの木はトラックに積むから……リットリオ、帰りは助手席に座る?」
リットリオ「いえ、せっかくのツリーですから横に座って押さえておきます♪」
提督「ふふっ、了解……それじゃあ、はい。 ……そのまま荷台に座ったら服が汚れちゃうから、これを敷いて座るといいわ」ランチアのトランクを開けてメンテの時に敷く古毛布を取り出した
リットリオ「えへへっ、ありがとうございます♪」
アッテンドーロ「……まったく、大きいなりをしておきながらまるで子供なんだから♪」ご機嫌でトラックの荷台に乗り込むリットリオを見ながら、微笑ましいのとあきれたのが混じったような苦笑を浮かべた…
提督「そこがまた可愛い所なのよ♪」そう言ってアッテンドーロにウィンクを投げた…
814 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2021/12/26(日) 01:23:16.63 ID:Tlp9xEGX0
…鎮守府までの帰り道…
提督「うーん、それにしてもよく飛ばすわねぇ……」
…先頭をぶっちぎりで走っていくディアナのフィアット850を見て感心したように言った提督……どちらかと言えば運転の得意な提督から見てもディアナの運転は段違いで、コーナーのクリアはまるでラリーでもしているように見える……海沿いの地方道路を感心するような勢いで飛ばしていくさまは、普段のしとやかで落ち着いた「月の女神」ディアナではなく、弓を持って野山を駆け巡る「狩猟の女神」ディアナを表しているようにも見える…
アッテンドーロ「あの調子じゃあ無茶苦茶に揺られてるわね、きっと……フルットたちが吐かなきゃいいけど」
提督「そうね」
…先頭を行くディアナのフィアットに続く提督のランチア・フラミニア…そしてその後ろに続くのが鎮守府に配備されている旧式なイヴェコのトラックで、荷台には幌が張ってあり、車体の後端からはクリスマスツリーが突き出している…
トゥルビーネ「提督たちは心配し過ぎよ、あの程度で吐いてたんじゃあ沖に出られないでしょ?」
提督「まぁね、でも船酔いと車酔いは違うから……実際にフリゲートの艦長で一人いたもの。ブリッジまで波がかぶりそうな時化の海でも平然とコーヒーをすすっていられるのに、ローマのタクシーで真っ青になっていた人が」
シロッコ「それはローマのタクシーだからじゃないかな?」
提督「まぁね…っと、パトカーだわ。 みんなシートベルトはしているわよね?」
…スタイリッシュな黒と紅に塗り分けられたカラビニエーリのフィアット・プントが鎮守府のトラックと併走し始めると、回転灯を回して停止をうながした…
提督「あら、こっちじゃないみたい……でも私が応対したほうがいいわね」車道の端にランチアを停めると後続車を確認し、それからドアを開けてパトカーの方へと向かった…
提督「……ボンジョルノ、シニョーレ(ミスター)……どうかしましたか?」
カラビニエーリ隊員「ボンジョルノ……ああ、海軍さんですか」
…脇に寄せて停めたイヴェコの運転席から降りてきた「ソルダティ(兵士)」級駆逐艦の「ヴェリーテ(軽歩兵)」と、近寄ってきた提督を交互に眺めるカラビニエーリの隊員…
提督「ええ……どうぞ、身分証です」
カラビニエーリB「はい、どうも」
…有事となれば「第四の軍隊」として治安維持や海外派遣も行うが、同時に警察とカバーし合うように田舎での警察活動も請け負っているカラビニエーリ(軍警察)…もっとも中央の精鋭部隊と違って、地方にいるカラビニエーリは割とのんきで気さくな雰囲気を漂わせている…
提督「それで、うちの娘たちがなにか……?」
カラビニエーリ「ああ、いや。 ただちょっとばかりツリーの先端が大きく荷台からはみ出していたもんで……基地で飾るんですか?」
提督「ええ、そうです」
カラビニエーリB「そりゃあいいですね。とはいえやはり少し気になりますが……」鎮守府の艦娘たちの何人かが持っている、運転できる場所や速度が限定される制限付き免許のような海軍の「許可証」を確認しながらあごをかいた……
提督「それでしたら一応監視役も乗せてありますから……ね、リットリオ?」
リットリオ「はい♪」提督の声に応えて、荷台からひょっこりと顔を出して笑顔を浮かべるリットリオ…
カラビニエーリ「ああ、後ろに乗ってたんですね……それならばっちりですよ。 やあお嬢さん♪」
リットリオ「チャオ♪」
提督「では、大丈夫ですか?」
カラビニエーリ「ええ、問題ありません……お嬢ちゃん、ご協力ありがとう」ヴェリーテに許可証を返すとおどけたように敬礼し、フィアットに乗り込んだ…
ヴェリーテ「いいえ」
提督「パトロールご苦労様です」
カラビニエーリB「これはどうも……あぁ、そうそう」
提督「何でしょう?」
カラビニエーリB「良いクリスマスを♪」
提督「グラツィエ♪」
815 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2021/12/31(金) 01:39:36.27 ID:ln18LMee0
…しばらくして・鎮守府…
カヴール「……それであんなに大きなツリーを買ってきたのですか」
リットリオ「はい♪」
ドリア「確かに立派ですけれど、あれだけのツリーともなるとお値段が張ったでしょう?」
リットリオ「ええ、でも提督が半分出してくれましたから♪」
アオスタ「リットリオったら仕方ないですね……提督にまでお金を出させるだなんて」
リットリオ「でも、せっかくのクリスマスですし……」
アオスタ「そうやって無駄遣いをするのは良くないですよ」
リットリオ「むぅ、アオスタってばそういうことを言うんですか」
アオスタ「だってそうじゃありませんか」
提督「まぁまぁ、アオスタ。 確かに一年に一回のことだから……それにあれを見ると、ね?」
…リットリオは鎮守府に戻ってくるなりいそいそとツリーを下ろして、食堂のフランス窓から見える位置に堂々と立てた……早速ツリーに群がって、きゃあきゃあと歓声を上げながら飾り付けに興じる艦娘たち……すでにツリーのあちこちには星形や球形のオーナメント(飾り物)がぶら下がり、どこかから引っ張り出してきたらしい電飾も巻き付けられている…
アオスタ「……それもそうですね、皆があんなに喜んでいるのにお説教もないものですね」生真面目な委員長気質の軽巡アオスタはふっと肩の力を抜いて、提督に向かって苦笑した…
提督「そういうこと♪ さぁリットリオ、トップの星を飾ってきて♪」
リットリオ「はいっ♪」
…リットリオがツリーのてっぺんに飾る銀の星を持っていそいそと駆け寄ると、たちまち駆逐艦たちや潜水艦の娘たちに取り囲まれて歓声を浴びせられ、うんともてはやされている……同時に、何やら楽しげな様子であることを察したルチアもみんなの足元で尻尾を振って駆け回っている…
カヴール「……何とも楽しげではありませんか♪」
提督「そうね、小さいのだけじゃなくて大きいのも買ってよかったわ♪」
ドリア「そうですね……それでは飾り付けは元気な駆逐艦や潜水艦の娘たちに任せて、私たちは中に入って温かいワインでもいただくとしましょう♪」
提督「ええ」
…食堂…
提督「まぁ……私たちが出かけている間にここまでやってくれたの?」
デュイリオ「はい♪」
…パチパチと木切れがはぜ、楽しげに火の踊る暖炉が食堂を心地よく暖め、テーブルには新しいテーブルクロスが掛けられている……テーブルの上にはいくつか燭台が置かれ、綺麗に焼き上がったパンドーロやパネットーネは大皿に載せられ、誰でも好きなようにつまみ食いが出来るよう、切り分け用のナイフや小皿と一緒に置いてある……提督たちが買ってきた小さい方のクリスマスツリーにも早速飾り付けが始まっていて、金色や銀色をした玉や木彫りのリンゴ、リボンをかけた箱の形をした飾り物などがあちこちに吊り下げられていく…
ペルラ(「真珠」)「提督、お帰りなさい」
トゥルケーゼ(「トルコ石」)「みんな提督のお帰りを待ってましたよ……♪」
ルビノ(「ルビー」)「お帰りなさいっ……はむっ、んっ、ちゅぅ……っ♪」
提督「んむっ、ぷは……もう、ルビノったら積極的なんだから♪ ただいま、みんな」
ドリア「ツリーの飾り付けはいかがですか?」
スメラルド(「エメラルド」)「見ての通り順調です」
ペルラ「スメラルドの言うとおりです……ご覧になってみて、どうでしょうか?」
提督「そうね、とっても綺麗できらきらしていて……って、ちょっと」
オニーチェ(「オニキス」)「どうかしたの?」
提督「いえ、だって……これって貴女たちが持っているネックレスとかじゃない」室内の灯りを受けて輝いているモールや飾りをよく見ると、ペルラたちが持っている装身具のいくつかが交じっている……
ペルラ「どうですか、とても綺麗でしょう?」
提督「いえ、確かに綺麗だけれど……」
アルジェント(「銀」)「ふふ、せっかくのクリスマスですから……ここにはアクセサリーをくすねるような手癖の悪い娘もいませんし」
デュイリオ「あら、それはどうでしょう……わたくしはコルウス(カラス)の使い手ですし、カラスは光り物が好き……もしかして、そーっと持って行ってしまうかもしれませんよ……ね♪」肩に止まらせているペットのカラスの喉を軽くかいてあげるデュイリオ…
カラス「アー」
シレーナ(「セイレーン」)「ララ、ラ……ふふ、私も宝石は好き……♪」
提督「もう、せっかく信用してくれているんだからそういうことは言わないの♪」
816 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2021/12/31(金) 16:12:57.13 ID:ln18LMee0
…今年も残すところ数時間となりましたね。このssを読んで下さった皆様に感謝します…
しかし年末近くにも護衛艦「みくま」進水や長きに渡り活躍した「せとゆき」の退役など、新たに生まれる艦がいれば花道を去る艦もあって色々ありましたね……来年も七つの海が穏やかで、海に関わる方々が良い風と波に恵まれますように
817 :
◆b0M46H9tf98h
[saga]:2022/01/02(日) 00:43:09.25 ID:GgALU43l0
遅くなりましたが明けましておめでとうございます、本年もぼちぼち書いていきたいと思います
…そして何故か三日の夜にイタリア・ドイツ・日本と所属を変えるという数奇な運命をたどった大型潜水艦「コマンダンテ・カッペリーニ」を題材にしたドラマが放送されるようで、イタリア王国海軍のファンとしては楽しみです
818 :
◆b0M46H9tf98h
[saga]:2022/01/14(金) 02:43:48.80 ID:WTxXQ7Hw0
…出張当日・朝…
提督「忘れ物はない? ライモン、ムツィオ」
アッテンドーロ「ないわよ」
ライモン「準備はととのっています」
提督「そう、じゃあ乗って?」
デュイリオ「行ってらっしゃいまし、提督」
提督「ええ、艦隊旗艦として留守は任せたわ」ランチアの運転席から顔を出し、デュイリオの頬に軽くキスをする……
デュイリオ「はい、わたくしとアオスタで切り盛りさせていただきます♪」
提督「お願いするわ……アッチアイーオ、デルフィーノ。よく二人を補佐してあげてね?」
アッチアイーオ「もちろんよ」
デルフィーノ「分かっています」
エウジェニオ「それじゃあ行ってらっしゃい、提督……ライモンド、遠慮しないで好きなことをおねだりするのよ?」
ライモン「もう、エウジェニオってば……分かっていますから///」
アッテンドーロ「姉さんの尻押しはちゃんと私がやるから大丈夫よ」
エウジェニオ「ふふっ、確かにムツィオがいるなら大丈夫よね……それじゃあ行ってらっしゃい♪」
ライモン「ええ、行ってきます」
…グロッタリーエ空軍基地…
提督「では、お願いね」
…愛車の「ランチア・フラミニア」を数日とは言え置き去りにするのは忍びなかったがやむなく基地の駐車スペースに預け、それから本部施設で係の士官に搭乗のための「予約票」を渡した…
空軍士官「お任せ下さい……搭乗するのは閣下と随行する艦娘が二人ですね」
提督「ええ」
士官「確認しました……他に手荷物は?」
提督「今持っているもので全部よ」中くらいのスーツケース一つに礼装の入ったガーメントバッグ(旅行用スーツ袋)を指し示す…
士官「分かりました、それは部下に運ばせます……伍長!」
…少尉は下士官を呼んで提督たちの持ち物を機に積み込むよう指示した……エプロンに駐機しているのはエンテ翼(先尾翼)に、推進式(プロペラが後ろに付いている)双発エンジンと未来的なデザインをしたピアッジォP180「アヴァンティ」で、機付整備員とパイロットが最終チェックを行っている…
操縦士「では、この機でナポリまでお送りいたします……とはいえ通常の輸送型ですからさしたるおもてなしは出来ませんが」
提督「大丈夫よ、大尉。お気遣いなく」シートにゆったりと腰かけ、ベルトをしめた……
…数時間後・ナポリ…
アッテンドーロ「うーん、この喧噪にごちゃついた町並み……ナポリ、懐かしいわね」
提督「そうね」
…賑やかでちょっとごみごみした港町でありながら、明るい陽光と家並みのせいか、どこか親しげな雰囲気のナポリ市街……沖には観光名所のカプリ島を望み、山側にはかの高名なヴェスヴィアス(ヴェスヴィオ火山)がそびえている……提督は停泊中の米第六艦隊の艦艇を横目に見ながら、つい短艇の吊り方や整頓の様子を確かめてしまう…
アッテンドーロ「……そういえば提督はナポリにもいたことがあるのよね?」
提督「ええ、そこでジェーン(ミッチャー提督)と出会ったの……泊まるところがないっていうから下宿に泊めてあげたのがきっかけでね」
………
…
819 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/01/17(月) 00:42:57.09 ID:vjM9YSGV0
…数年前…
米海軍の女性士官「ホーリィ、シッ……こういう時に限ってこうなんだから、タイミングが悪いったらありゃしない」米海軍中佐の制服を着ている一人の女性が舌打ちしながら米兵相手のホテルから出てきた……
女性士官「ふぅ、参ったわね……」ぼやいている女性はボリュームのある身体をしていて、つやつやした褐色の肌が制服からはち切れそうになっている……と、制服姿の提督を見るとガイドブック片手に歩み寄ってきた……
女性士官「あー……キューズミー、キャニュウスピーキン、イングリッシュ?(ちょっと失礼、英語は話せる?)」
カンピオーニ少佐(提督)「ええ、ある程度なら……メイ・アイ・ヘルプ・ユー?(何かお手伝いしましょうか?)」
女性士官「そうね、ぜひその「ヘルプ」をお願いするわ……あのね、この辺りでどっか泊まれそうなホテルかなにかないかしら? 実はホテルの予約がしてあったはずなのに部屋が取れてなくってね……別のホテルもいくつかあたってみたんだけど、事もあろうに「アイク(CVN69・原子力空母「ドワイト・D・アイゼンハワー」)」の入港とかぶっちゃって……どこもいっぱいだって言うのよ」
提督「なるほど、それは大変ですね。 でもホテルと言っても、ここから歩いて行ける距離となると……タクシーを使っても今は観光シーズンですし、空母の入港も重なっていますから、悪くすると(ナポリ湾の対岸にある)ポッツォーリの辺りまで満員かもしれませんよ」
女性士官「オーケイ、それじゃあ基地に戻って内部の宿舎に一晩泊まるわ。消灯時刻はうるさいし、夕食に出るのったら出来損ないの「SOS」だけだろうけど……ま、少なくともベッドだけはあるわけだし……呼び止めて悪かったわね、えーと……」
(※shit on a single…トーストのクリームソース和え。南北戦争の頃にはレシピが生まれていたらしいが、今ひとつな味と鳥の糞に見える見た目の悪さから「屋根の上の糞」という不名誉なあだ名が付いている)
提督「フランチェスカ・カンピオーニ少佐です」
ミッチャー中佐「私はジェーン・ミッチャー中佐。ジェーンでいいわ……とにかくありがとね、カンピオーニ少佐」
提督「私もフランチェスカでいいですよ、ジェーン」
ミッチャー提督「オーケイ、フランチェスカ……それじゃあ私は基地に戻ってシケた晩飯を食べることにするわ……はるばるナポリまで来てキャンベルスープの缶詰か、それとも「テレビ・ディナー(冷凍食品)」か……とにかくアンクル・サム(合衆国)印のヤツをね♪」ニヤリと笑って、大げさに肩をすくめて見せた
提督「あの……もし良かったら、玉ねぎのマリネとスパゲッティ・アッラ・プッタネスカ、それに冷えた赤ワイン、ドルチェに甘いジェラートなんて言うのはいかがですか?」
ミッチャー提督「すごく美味しそうに聞こえるわね……フランチェスカ、それはあなたのフラット(住居)で、ってこと?」
提督「ええ。せっかくナポリに来たのですし……ナポリ料理とまでは言わなくても、イタリア料理を食べないなんてもったいないですから」
ミッチャー提督「そう……まぁせっかくそう言ってくれるのなら、お邪魔しようかしら」
提督「ええ、ぜひ…♪」
…提督の下宿先…
提督「どうぞ、ちょっと手狭ですけれど」
ミッチャー提督「ノー・プロブレム……駆逐艦のバンク(寝台)に比べたらヒルトンのスイートルームみたいよ」
提督「どうします、先にお風呂にしますか? それとも夕食を?」
ミッチャー提督「そうね……それならシャワーをもらおうかしら。何しろ陸(おか)に上がってからというもの「ハリウッドシャワー(使い放題のシャワー)」が楽しみだったのにロクな浴室と出会ってなくってね♪」
提督「分かりました。それじゃあその間にテーブルを整えておきますから、どうぞシャワーを浴びてきて下さい……それから体拭きのタオルと……私の予備ですけれど、着られますか?」白いパイル(タオル)地のバスローブを取り出して渡した…
ミッチャー提督「サンクス♪ ちょいとキツめだけど着られるわ……フランチェスカが水道代で目を回さない程度にたっぷり使わせてもらうわね」
提督「ふふっ、遠慮せずにどうぞごゆっくり♪」
…十分ほどして…
ミッチャー提督「ふー…さっぱりしたわ。本当にありがとね……っと」
提督「さ、どうぞ座って下さい♪」
…制服を脱いでシンプルなワンピース姿に着替え、その上からエプロンを着けている提督……部屋の灯りは少し暗めにしてあり、テーブルには赤ワインの瓶と皿が並び、ゆらゆらと炎が揺らめくキャンドルが一本立てられている…
ミッチャー提督「……ワーオ、まるで素敵なレストランみたいじゃない♪」
提督「いえ……だってせっかくですから、お洒落な方がいいかと思って///」
ミッチャー提督「いいじゃない、これなら干からびたパンとチーズだって美味しく頂けそうよ♪」
提督「きっと干からびたパンよりは美味しいと思います……どうぞ、ボン・アペティート(召し上がれ)♪」
820 :
◆b0M46H9tf98h
[saga]:2022/01/17(月) 01:03:15.10 ID:vjM9YSGV0
アッテンドーロ「……そうやって引っ張り込んだわけね」
提督「あら「引っ張り込んだ」なんて人聞きが悪いわね……本当に親切でごちそうしてあげたかっただけよ?」
アッテンドーロ「どうだか……♪」
提督「もう……それより二人とも、ここからだとヴェスヴィアスが綺麗に見えるわ♪」
アッテンドーロ「あら、はぐらかしたわね……それにしてもヴェスヴィアスも相変わらずだこと。 ……開戦前までは登山電車があったけれど、今はないのよね」
提督「ええ、今は道路も出来たから車でも頂上近くまで行けるし……残っているのは「フニクリ・フニクラ」の歌だけね」
(※フニクリ・フニクラ…1880年(明治13年)ヴェスヴィアスに観光登山電車(フニコラーレ…「フニクリ・フニクラ」はその愛称)が作られたが、あまりの急勾配に恐れをなした観光客が乗ろうとせず売り上げが振るわないので、イギリスにある世界最古の旅行会社「トーマス・クック旅行社」がテコ入れのため、ナポリの新聞記者「ジュセッペ・トゥルコ」に作詞、ロンドン音大の教授として勤めていたナポリ出身の「ルイージ・デンツァ」に作曲を依頼。出来上がったこのCMソングは大ヒットし、無事に登山電車も人気となった……1944年、連合軍の管理下にあった登山電車そのものはヴェスヴィアス噴火のため閉鎖されたが、歌そのものは今も残っている。日本語訳では「♪〜登山電車ができたので、誰でも、登れる」といかにも登山電車の歌になっているが、原語(ナポリ語)では火山の炎と恋模様をからめたラブソングなのがイタリアらしい)
ライモン「フニクリ・フニクラですか……ムツィオは覚えてる?」
アッテンドーロ「ええ、もちろん♪」すっと息を吸い込むと高らかに歌い始めた……
アッテンドーロ「♪〜アイセーラ、ナンニネ、メ・ネ・サリェッテ。 トゥ・サーレ、アディオ」
(♪〜お嬢さん、今宵ぼくは登るんだ。どこだか貴女はわかるかい?)
アッテンドーロ「♪〜アドォ、トゥ・コーレ、ンガラァト、チィウ、ディスピェット。 ファルメ、ン・ポ」
(♪〜そこはもう恩知らずの心がぼくをじらさないところ)
アッテンドーロ「♪〜アドォ、ロ・フォーコ、コ・セ、マ・シ・フゥイエ。 テ・ラッサ・スタ」
(♪〜そこには火が燃えているが(嫉妬の炎ではないから)貴女を放っておける場所)
アッテンドーロ「♪〜エ・ヌン、テ・コォーレ、アプリィエッソ、ヌン・テ・ストゥルィェ。 スロ・ア・グラダ」
(♪〜貴女を追ったり(恋で)苦しめずに、ただ見つめていられる場所)
アッテンドーロ「♪〜ヤンモ!ヤンモ!ンコッパ、ヤンモ・ヤ!」
(♪〜行こう!行こう! 上へと行こう!)
アッテンドーロ「♪〜フニクリ・フニクラ、フニクリ・フニクラぁぁ!」
(♪〜フニクリ・フニクラ…)
アッテンドーロ「♪ンコッパ、ヤンモ・ヤ! フニクリ・フニクラ!」
(♪〜上に行こう! フニクリ・フニクラ!)
提督「あら、お上手♪」
アッテンドーロ「そりゃあね……まぁ、テアトロ・アッラ・スカラ(ミラノ・スカラ座)でプリマ・ドンナをやれるとは言わないけれど♪」
提督「ふふっ……ところで二人とも、そろそろお昼にしましょう? ミカエラも待っているだろうし、ピッツェリーア(ピッツァ店)辺りで手早く…ね?」
アッテンドーロ「そうね、でもせっかくだから地元の名店でマルゲリータを食べなくちゃ……ほら、ついてきて?」
…怪しい裏通り…
提督「……ここ?」
アッテンドーロ「そうよ。 お世辞にも品のいい場所とは言いがたいけれど、この路地の奥にある店で出すマルゲリータは絶品なんだから」
提督「そうなのね……それで、ピストルは準備しておいた方がいいかしら?」
ライモン「大丈夫ですよ、提督。 わたしとムツィオが付いていますから」
アッテンドーロ「そうそう……あとは大金を見せびらかしたりしなければ大丈夫」
提督「……そういうことにしておくわ」
821 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/01/28(金) 02:04:18.86 ID:VGjoX0eq0
アッテンドーロ「さ、早く済ませないといけないんでしょ?」
提督「ええ」
…坂の多い港町ナポリの裏通りをすいすいと歩いて行くアッテンドーロとそれに従って付いていく提督、そして提督の横に付いているライモン……路地の道端には壊れた木箱や野菜くずが放り出してあり、お世辞にも柄がいいとは言えない…
アッテンドーロ「ほら、ここよ」
提督「……どうやら間違いないみたいね」
…案内された先には薄汚れた黄色の壁をした一軒の小さな店があり、年季の入った小さな木の吊り看板には「ピッツェリーア」の文字が彫り込まれている…
アッテンドーロ「チャオ、三人よ」
提督「ごめんください……」
オヤジ「へい、らっしゃい! 注文は!」
…アッテンドーロの後に付き店内へと入った提督とライモン……店の中は全体的に古く薄汚い感じではあるが、テーブルだけは長い年月にわたってずっと拭かれているのか、表面に艶が出てすっかり飴色になっている……威勢のいい店主は丸顔であごに無精ひげをはやし、汚れきったエプロンに台拭きを挟みこんでいる…
アッテンドーロ「それぞれにピッツァ・マルゲリータよ」
オヤジ「あいよ! 飲み物は?」
アッテンドーロ「ロッソ(赤)をもらうわ」
オヤジ「ほいさ……士官さん、そっちは?」
提督「それじゃあ同じものを」
オヤジ「そっちのお嬢ちゃんは?」
ライモン「わたしも同じでいいです」
オヤジ「よしきた! ほらおっかあ、聞いただろ!」
おかみさん「ガタガタ言わなくたって聞こえてるよ、あたしにだって耳があるんだからね!」
オヤジ「そうかい! おれはてっきりこの間「オレキエッテ」と一緒に料理しちまったと思ってたぜ!」
(※オレキエッテ…「耳」を意味する丸っこいパスタ。タラント近郊では「小石」を意味する「チァンカレーレ」とも)
…勢いのいい店主とおかみさんのやり取りに、数人の客はげらげら笑っている……そのうちの三人は顔なじみらしい爺さんたちで、後は白粉をベタベタと塗った娼婦の「お姉さま」方……彼女たちもきっと数十年前は王室ヨットのようにスマートで綺麗だったのだろうが、すっかり沿岸回りの老朽貨物船のような体型になっていて、サビの上にペイントを塗りたくっているあたりもよく似ている…
おかみさん「はい、お待たせ!」編んだ柳のカゴにすっぽりと収まっている丸っこい瓶から、グラスにごぼごぼとワインを注いだ……
オヤジ「おう、とっととしねえか! せっかくのピッツァが冷めっちまうだろうが!」
おかみさん「分かってるよぅ! それにもし冷めたらヴェスーヴィオ(ヴェスヴィアス)にでも突っ込めばいいじゃないか!」
…下町のナポリ人らしく元気にまくし立てながら、さっとピッツァ・マルゲリータの皿を提督たちの前に並べたおかみさん……縁のある丸くて薄い生地にさっとサルサ・ポモドーロ(トマトソース)を塗り、モッツァレラ・チーズとバジリコを散らしてある…
提督「グラツィエ」
おかみさん「はいよ! 冷めないうちに食べな!」
提督「ええ……あむっ」
…パリッとして少し焦げのある香ばしい「耳」の部分と、さっくりとした生地の部分……そこに酸味のあるポモドーロと、ふつふつたぎっているモッツァレラの脂っ気、そしてそれをすっきりと打ち消すバジリコの爽やかな風味……一人に一枚を供するナポリピッツァで、差し渡したっぷり二十四センチはありそうな一枚が来て、提督は少し持て余してしまうかと思ったが、口当たりが軽いので美味しく食べられる…
………
…
アッテンドーロ「……ね、美味しかったでしょ?」
提督「はぁ、確かに美味しかったわね……あんなに美味しいピッツァ・マルゲリータを食べたのは初めてかもしれないわ」
アッテンドーロ「でしょう?」
提督「ええ、これで心おきなく出張に出かけられるわ♪」
アッテンドーロ「良かったわね……それじゃあ私と姉さんはこれで♪」
提督「楽しんでいらっしゃいね」
ライモン「提督も楽しんで来て下さいね」
提督「ありがとう、ライモン」
822 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/02/04(金) 11:30:35.82 ID:6//l9u1t0
…ナポリ基地「南部ティレニア海」管区司令部…
フェリーチェ大尉「来てくれて嬉しいわ、フランカ……それで、この後のスケジュールだけれど」手際よくラップトップコンピューターとメモを用意し、説明に入る…
提督「ええ」
フェリーチェ大尉「まずはローマのスーペルマリーナでいくつか資料を受け取り、それからアリタリアの便でスキポール空港(アムステルダム)に。スキポールにはハーグのオランダ海軍参謀部から士官が来ているから、その士官に二つほど資料を渡す」
提督「それから?」
フェリーチェ大尉「次にスカンジナビア航空の飛行機でオスロに飛んで、私はあちらの情報部と少し情報交換をするわ……それが済んだらノルウェーの海軍士官に基地を案内してもらって、フリゲートや艦娘たちを紹介してもらう予定になっているわ」
提督「ノルウェーのフリゲート……フリチョフ・ナンセン級ね」
フェリーチェ大尉「ええ。それからもう一度スカンジナビアの便に乗ってストックホルムに行って一泊、翌日の夕方にはフィンエアーの飛行機でヘルシンキ入り……細かい時間のスケジュールはこの紙に書いてあるわ。いくつかはぶいてある部分もあるけれど、そこは気にしないで?」
提督「分かっているわ。 それにしても結構なスケジュールね……色々見てみたい名所もあるのに、全然見られそうにないわ」
…公務である事は提督にも分かっているが、ヘルシンキ入りするの前のたった一日か二日の間にオランダ、ノルウェー、スウェーデンと駆け抜けるスケジュールを見て、さすがに愚痴が出る…
フェリーチェ大尉「そこは勘弁してちょうだい、フランカ。 やっぱり将官が行くと金モールの威光が働くから、先方が無理解な部類でも話を通しやすくなるのよ……それだけに普段は許可が下りにくい所へも訪問の予定を詰めこませてもらったから、どうしてもね」
提督「ええ、分かっているわ。でもせっかくのフィンランド湾だし、ストックホルムからヘルシンキは流氷クルーズの船で行きたかったなぁ……って」
フェリーチェ大尉「悪いわね、観光旅行って訳じゃないから時間がかかる船便は「うん」って言ってもらえないのよ……いつかみたいに火山が噴火して航空便が軒並み欠航にでもなれば別だけれど。代わりにストックホルムで一泊させてもらえるから、ちょっとだけ観光が出来るわ」
提督「わざわざ掛け合ってくれたのね、ありがとう……ストックホルムは「北欧のヴェネツィア」っていうくらいだし、一度見てみたかったの」
フェリーチェ大尉「いいのよ、私だってたまには観光くらいしたいし……官費とあればなおの事ね」ふっと浮かべた笑みを見ると、提督はフェリーチェとしばし同棲していた時を思い起こした…
提督「そうね……せっかく機会を得られたのだから、出来るだけ楽しまないと♪」
フェリーチェ大尉「だからって羽目は外さないようにね」
提督「分かっているわ♪」
…午後・カポーディキーノ空軍基地…
フェリーチェ大尉「それじゃあ、準備はいいわね? パスポートと航空券は持ってる?」
提督「ええ♪」
フェリーチェ大尉「よろしい」
…荷物検査のエリアへ提督を連れて行くと、空軍の係官にパッと何かを提示して見せた…
係官「あっ……確かにうかがっております」
フェリーチェ大尉「結構」係官がチェーンで塞いでいる通り道を開けて、二人をさっと通してくれる……
提督「……」
…官民共用のカポーディキーノ基地で空軍の「ガルフストリーム」哨戒・連絡機に乗り込み、次々と離着陸するカラフルな旅客機を眺めつつ離陸を待った…
提督「ふー……空港の手続きっていうのはせわしなくって気疲れがするわね」
フェリーチェ大尉「たかが国内でそんなことを言っているようじゃ、途中でへたばっちゃうかもしれないわね」
………
…数時間後・ローマ…
フェリーチェ大尉「それじゃあ今夜はここで一泊するから……明日は0800時にはスーペルマリーナで資料を受け取り、その脚でフィウミチーノ空港に向かうわ。駆け足の行動になるから早めに寝ることね」
提督「ええ、そうするわ……」
…そう言ってビジネスホテルらしいシングルベッドに潜り込むと、軽くため息をついた…
フェリーチェ大尉「あ、そうそう」
提督「なぁに?」
フェリーチェ大尉「お休み……♪」提督の唇にさっとキスをすると、隣のベッドに潜り込んで卓上スタンドの灯りを消した……
提督「///」
823 :
◆b0M46H9tf98h
[saga]:2022/02/19(土) 01:30:56.43 ID:91e2KKf20
…翌朝・フィウミチーノ空港…
出国カウンター職員「ご連絡は承っております、どうぞお通りください」
フェリーチェ大尉「グラツィエ」
提督「……ねぇミカエラ、手荷物検査も搭乗手続きもなしってどうなっているの?」エアバスの座席に腰かけて、シートベルトを締めながら小声で尋ねた……
フェリーチェ「そう、もう言ってもいいわね……私は表向き「オブザーバーとして会議に出席するイタリア海軍将官に随行する士官」って事になっているけれど、ハーグで渡す資料はNATOの「機密」扱いだから、実際は情報部のアタッシェ(伝達吏)扱いなの……まぁていの良いカモフラージュね」
提督「あぁ、それで……」
フェリーチェ「そういうこと……フランカがおしゃべりするとは思わないけれど、知らなければ顔にも出ないし口が滑ることもないもの。とにかくスキポールでオランダ海軍の士官に資料を渡せば、重荷はなくなるから安心して」
…アムステルダム・スキポール空港…
オランダ海軍士官「連絡は受け取っております。では資料を……」
フェリーチェ「お願いします」
オランダ士官「確かに……どうもありがとうございました」
フェリーチェ「いいえ、どうもご苦労様でした」トランジット(乗り換え)エリアにやって来たオランダ海軍士官が身分証を見せて資料を受け取り、軽く会釈すると立ち去った……
提督「……あれだけ?」
フェリーチェ「ええ、あれだけよ……あとはあの士官がハーグにあるオランダ海軍の参謀本部まで運ぶ手はずになっているの。これで最初の用は済んだから、今度はSAS(スカンジナビア航空)の飛行機に乗ってオスロ入りね」
提督「そう……ところでお昼は?」
フェリーチェ「どのみち短時間だし、エコノミーの機内食を食べるよりもオスロでの昼食に期待しましょう。 今のうちにお腹を減らしておけば、より美味しく感じられるでしょうし」
提督「空腹は最良のソースってわけね……」
…オスロ…
ノルウェー海軍士官「ようこそおいで下さいました。ノルウェー海軍のビョルゲン・クリステンセン少佐です」
提督「初めまして、少佐……イタリア海軍のフランチェスカ・カンピオーニ少将です。こちらはミカエラ・フェリーチェ大尉」
クリステンセン少佐「初めまして、カンピオーニ少将、フェリーチェ大尉……ノルウェーは初めてですか?」
提督「ええ」
クリステンセン「そうですか。時間があればたくさん案内したい場所があるのですが、残念ですね」
…堂々とした体格に金髪、青い目、あごにそって生えたひげ……と、北欧神話の神トールやエッダ(伝承物語)に出てくる英雄ベーオウルフ、あるいはヴァイキングをほうふつとさせる偉丈夫のクリステンセン少佐は数多くの冒険家と探検家を生み出してきたノルウェー人らしい立派な顔立ちをしている……敬礼のを済ませてから握手を交わすと、そのゴツゴツとした力強い大きな手に驚かされる…
提督「お気遣いありがとうございます、少佐」
クリステンセン「いえ……では早速ですが行きましょう。フェリーチェ大尉は情報部の人間が迎えに来ていますから、その間カンピオーニ少将には大戦中ドイツ艦隊の侵攻を迎え撃った海岸要塞の遺構を案内します……それからベルゲンの「ハーコンスヴァーン海軍基地」に向かい、見学の方をなさって下さい」
提督「分かりました。ところで「要塞」というと……オスロの戦いでブリュッヒャーを沈めた「オスカシボルグ要塞」ですか」
クリステンセン「そうです、よくご存じで」
提督「ええ、ノルウェー軍の奮戦ぶりについては私も以前から尊敬の念を抱いておりましたから……と言いたいところですが、お恥ずかしながら細かいところは映画で知ったのです」はにかんだような笑みを浮かべる提督……
クリステンセン「なるほど……とはいえわざわざ「予習」までして下さったようで嬉しいですね。ところで昼食はお済みですか?」
提督「いえ、それがまだでして」
クリステンセン「そうですか、ではベルゲンへ向かう前に昼食をお召し上がりいただくとしましょう……お客様のために素晴らしい鮭の燻製を用意してありますよ」
提督「まぁ、それは楽しみです♪」
824 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2022/02/21(月) 07:14:28.18 ID:TKSSFowqo
SS速報避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/
825 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/02/27(日) 00:42:52.60 ID:RoXNloNK0
>>824
教えて下さってありがとうございます。
……とはいえさして更新がはかどるわけでもないのでしばらくはここで投下していき、そのうちにそちらへ移ることも考えて行きたいと思います。
それにしてもウクライナはどうなるのか……日本から心配してもどうこうなるわけでもありませんが、せめて気持ちだけでも応援してあげたいですね。
826 :
◆b0M46H9tf98h
[saga]:2022/02/27(日) 01:56:01.40 ID:RoXNloNK0
…数時間後・ハーコンスヴァーン海軍基地…
基地司令「ようこそハーコンスヴァーン海軍基地へ」
…曇り空の下に広がるベルゲン沖の海は冬の北欧らしく荒々しく冷たい灰色に白い波頭を散らしていて、切り立った崖やフィヨルドが天候とも戦わなければならないスカンジナビアの荒々しい自然の雰囲気を感じさせる……基地には小型ながらイージス・システムを備え「ミニ・イージス艦」とあだ名されるノルウェー海軍の「フリチョフ・ナンセン」級フリゲートや、まるで陸戦兵器のようにグレイとグリーン系の色でスプリッター迷彩を施した「シェル(盾)」級ミサイル艇が数隻停泊していて、隣接する区域には艦娘たちの居住施設がある…
提督「とても大きな基地ですね……それに崖の中にドックがあったりと、実に興味深いです」
基地司令「そうでしょうね。我が国が地政学的の観点から、かなり独特な兵器体系を構築してきていることは自認しております」
…映画館やジムといった各種の娯楽施設まで備えた、まるで一つの町のような基地を案内してくれているのは基地司令の大佐で、ダンディな金褐色の口ひげを生やしている…
提督「いえ、国情に合った見事なものだと思います……それにノルウェーの「コングスベルグ」といえばペンギン・ミサイルを初め有名ですし、ぜひ色々と勉強させていただきたいと思っております」
(※コングスベルグ…ノルウェーの総合軍需メーカー。IR(赤外線)誘導の短距離対艦ミサイル「ペンギン」はベストセラーSSM(対艦ミサイル)で、発展型の「NSM」は「JSM」としてF-35戦闘機の兵装としても採用された)
基地司令「恐縮です……まぁ陸軍にはかの有名な名誉連隊長「ニルス・オーラヴ」がおりますが、その分我々海軍にはペンギン・ミサイルがありますからね……ところで昼食がまだでしょう? どうぞ食堂の方へ」
(※ニルス・オーラヴ准将…イギリス、スコットランド動物園にいるキングペンギン。現在は「三世」で階級はノルウェー近衛部隊の准将。1961年、各国軍隊の音楽隊によるイベント「ロイヤル・エディンバラ・ミリタリー・タトゥー」でノルウェー軍の中尉が交流を持ち、そののち隊のマスコットとして認めてもらうよう働きかけたもの。当初は上等兵だったが昇進を重ね、代替わりを続けながらとうとう准将となった。名前は当時の国王オーラヴ五世にあやかったもの)
提督「これはどうも、わざわざありがとうございます」オスロでも軽い昼食を食べてはいたものの、むげにもてなしを断るのも悪いのでそっと制服のベルトを緩めながらついていく……
…基地の食堂では艦娘担当の中佐一人と艦娘二人が提督たちを出迎えてくれた……白いテーブルクロスをかけた長テーブルには、さまざまな取り合わせの具材を載せたノルウェー式オープンサンドウィッチ「スモーブロー」や綺麗なスモークド・サーモンの皿が並んでいる…
艦娘担当官「では、こちらの艦娘たちを紹介いたします……「スレイプニール」級駆逐艦の「スレイプニール」と「オーディン」です」
艦娘「スレイプニール級駆逐艦、スレイプニールです」
…神話と同じく脚が八本あるかどうかはテーブルクロスに隠れていて見えないが、たてがみのような銀髪にしっかりした表情は水雷艇クラスの小さな駆逐艦とは思えないほど大人びている…
艦娘「同じくスレイプニール級、オーディンです」
…こちらも北欧神話の主神オーディンと同じく片目がないかどうかは顔にかかっている髪で定かではないが、やはり神話にあやかっているのか、左右の耳にはオーディンへと世界中の情報を伝えるカラス「フギン(思考)」と「ムニン(記憶)」をあしらったイヤリングをし、足元をそっとのぞくと狼の「ゲリ」と「フレキ」(二匹とも「貪欲」「大食らい」といった意味)をモチーフにしたアンクレット(脚飾り)を付けている…
提督「初めまして」
基地司令「……さぁどうぞ、遠慮せずに召し上がって下さい」
提督「では、いただきます」具をこぼさないよう、お上品にスモーブローを口に運ぶ提督……北欧風の薄くしっかりとした固めのパンに、それぞれ塩漬けニシンや味の濃いハム、酸味の利いたピクルスなどが載せてある……
基地司令「いかがですかな?」
提督「ええ、とてもおいしいです……ニシンというのはピクルスとも合うものですね」
艦娘担当官「お気に召していただいたようで何よりです」
提督「ええ。それにこの燻製サーモンも絶品ですし」ほどよく脂が乗っていてしっとりしているサーモンに、さっぱりしたサワークリームが添えてある……
基地司令「それはよかった……深海棲艦が出現した当初は出漁も出来ず、養殖場も被害を受けたりしたものですからね。 当時はしばらくサーモンとお別れでしたよ」
提督「そうでしょうね……イタリアでも海産物の価格が跳ね上がって大変でしたから」
オーディン「あの時はゲリとフレキの食べものに苦労しました」
提督「ふふ、何しろ名前からが「貪欲」ですものね♪」
オーディン「……北欧神話をご存じですか」
提督「ええ、一応は……きっと貴女はミーミルの泉の一口と引き換えに、片目をあげてしまったのね」
オーディン「その代わり世界で一番賢くなったので……」そう言いながらスモーブローを食べているが、片目のせいで目算を誤ってしまうのか、ちょくちょく足元の「ゲリ」と「フレキ」のあたりにこぼしている……
スレイプニール「……」
オーディン「何か?」
スレイプニール「いいえ、私はオーディンの馬ですから」
オーディン「ならよし……それにしてもハチミツ酒(ミード)が飲みたいものだ」
基地司令「こらこら、昼からはいかんぞ」真面目そうな表情をふっと崩すと、軽く叱りつけた……
提督「ふふっ……♪」
827 :
◆b0M46H9tf98h
[saga]:2022/03/25(金) 11:03:21.07 ID:PjuYs/Jb0
提督「……ところでここの戦隊司令はどちらに?」
…食後のコーヒーをカップに注いでもらい、灰色の海を眺めながら担当官に聞いた……当然ながら各国で「艦娘」の運用制度は異なるので、ノルウェーの担当官がどういう立ち位置にあるのかは少し分かりにくかったが、どうやら艦隊の運用に当たる「提督」とは別に、艦娘たちのメンタルや広報活動を受け持つ、マネージャー兼カウンセラーのような扱いであるらしい…
基地司令「いやはや申し訳ない。 本当ならばここの戦隊司令も少将をお出迎えする予定だったのですが、哨戒中に潜水艦らしきコンタクトを発見しまして……先ほど帰投したので、すぐこちらに参ります」
提督「ああ、そういうことでしたか。では「どうぞ焦らずにおいで下さい」とお伝え願えれば……」そう言いかけたところで一人の少尉が入って来て、基地司令になにか耳打ちした……
海軍士官「……」
基地司令「ん、そうか。では格好を整えたらすぐ来るようにと……戦隊司令ですがもうすぐ来ますので、どうぞコーヒーのお代わりでも」
提督「そうですか、では半分ほど……」
…数分後…
海軍士官「遅くなりました。ノルウェー海軍のビョルン・ダニエルソン中佐です……少将どの、はるばるイタリアからようこそお越し下さいました」
提督「初めまして、ダニエルソン中佐。イタリア海軍のフランチェスカ・カンピオーニ少将です。お会い出来て光栄です」
…急いで正装に着替えてきたらしい中佐は荒波などものともしないようながっしりした体型をしていて、まるでファンタジーに出てくるドワーフのような金茶色のヒゲが顔の下半分を覆うほどにたっぷりと生えている……声は低いが良く通り、そのゴツゴツした手はコーヒーカップが小さく見える…
スレイプニール「お帰りなさい、司令」
オーディン「帰投を待っていました」
ダニエルソン中佐「ああ……ちゃんといい子にしてたか?」
スレイプニール「もちろんです」
ダニエルソン中佐「よし、偉いぞ」そう言うと大きな手で頭を撫でた……お客様である提督の前だからか遠慮しているように見えるが、普段は親子のように仲良くしているらしいことがうかがえる……
基地司令「それじゃあダニエルソン中佐……そろそろ少将に我々の活動を説明するから、君も同席して実際にはどんな様子だとかを解説してもらいたい」
ダニエルソン中佐「了解」
…しばらくして…
基地司令「いかがでしたか?」
提督「ええ、とても参考になりました」
…ノルウェー海軍製作のごく短い映画と、直近の活動中に撮影した写真を使ったプレゼンテーションを見せてもらい、それから様々な説明を受けた提督……手持ちのノートには聞き留めた大事な単語や肝心な所を要約した短文があれこれと書き込まれ、そこからあちこちに矢印が飛び出して他の単語や言い換えとつながっている…
ダニエルソン中佐「残念な事に我々ノルウェーの艦娘はあまり数が多くないうえ、大型艦がほとんどおりませんから、沿岸防衛が主任務となっております。夏場は夏場でユンカースJu−88やハインケルHe−111による空襲がありますし、冬場はひどく時化るので、活動が難しいという面では苦労します……それに最近は見かけなくなりましたが、一時期は重巡クラスの深海棲艦も確認されていたので、必要なときはシェットランド諸島に展開している英海軍と協力しています」
提督「なるほど」
ダニエルソン中佐「オスロからノルウェー南端のクリスチャンサンはスウェーデン、デンマーク、ドイツ海軍と協力しつつスカゲラク海峡とカテガット海峡の安全を確保してバルト海への入り口を維持し、ここベルゲンを始めとした西海岸のノルウェー海沿いには、スタヴァンゲル、オーレスンド、トロンヘイム、ナムソス等に鎮守府があってロフォーテン諸島やノール岬への海路を確保しています……そしてナルヴィクから北、トロムセの鎮守府から先のヴァランゲル半島、ノール岬(ノールカップ)を経由し、ロシアのムルマンスク港へと向かうバレンツ海の極北航路を維持するのは主にキルケネスの鎮守府となっています」
(※スカゲラク海峡、カテガット海峡…スカンジナビア半島とデンマークのあるユーラン半島に挟まれた海峡で、スウェーデン東岸やフィンランド南部、ポーランド北部やバルト三国に面しているバルト海やフィンランド湾へ入るための出入り口にあたる要衝。いわば北欧のジブラルタルかダーダネルス海峡といった場所)
提督「なるほど……それにしても長い半島西側は制海権を維持するのが大変ですね」
ダニエルソン中佐「その通りです。南部はデンマークやスウェーデンの海軍に任せておけますが、西にはアイスランドしかありませんからね……そのため我々ノルウェー海軍は西岸の基地に多く展開しているのです」
提督「良く理解できました、ありがとうございます」
ダニエルソン中佐「いえ、何かの参考になれば嬉しいですよ……そういえばオスロからは列車で?」
提督「いえ、飛行機でした」
ダニエルソン中佐「それは残念です。何しろ「ベルゲン鉄道」と言えばすばらしい景色で有名な観光列車ですから、ぜひ乗ってほしかったですね」
提督「私も時間さえあればそうしたかったのですが、なにぶん出張ですから……」
ダニエルソン中佐「どうやら小うるさくてけちな主計部というのはどこの海軍も変わらないようですね」
提督「ふふ、同感です♪」
828 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/04/03(日) 02:06:33.27 ID:LWsM42WL0
提督「……ところでダニエルソン中佐はどうして海軍に?」
…海軍士官がお互いに出会うと、話は自然と今まで航海した海や港で出会った興味深いものや珍しいもの、変わったこと……そして(当人が話してくれるようなら)海軍に入った理由もよく話題になる…
ダニエルソン「私ですか……私はうちが代々クジラ取りの漁師でしてね」
提督「クジラですか」
ダニエルソン「ええ。ノルウェーじゃ伝統的に食べていたんですが、昨今は保護団体からの風当たりが強いもんですからね……それに深海棲艦のこともあってクジラ漁が立ち行かなくなったので、サーモンやカニ漁に切り替えようとしたんですが、それもダメでしてね……結局、海のことならどうにかなるだろうと海軍予備士官に志願したんです」
提督「そうだったんですね」
ダニエルソン「ええ……カンピオーニ少将はクジラを食べたことがありますか?」
提督「いいえ、一度も」
ダニエルソン「……少将もやはりクジラは保護するべき生き物で、猟の対象にするべきではないとお考えで?」
提督「どうでしょうか……同族の哺乳類を食べていると嫌悪感を抱く人がいることは知っていますが、それでいけば牛や豚も食べられませんし……実家では時々、猟で仕留めたイノシシやウサギ、シカを食べていましたから……絶滅危惧種なのに見境なく乱獲するとか、あるいは遊び半分に殺すのでなければそういう文化があっても良いと思いますよ」
ダニエルソン「そう言ってくれると嬉しいですね。ノルウェーでもいまやクジラを食べる人はごく少なくなってきてしまいましたから……たいていは日本に輸出されるんですよ」
提督「なるほど」
ダニエルソン「これが昔持っていたうちの船です」
…ダニエルソンは胸ポケットから軍隊手帳を取り出すと、折り返しの透明窓の所に挟んでいる写真を見せてくれた……ふちが少しよれている年季の入った写真には、北欧らしいずんぐりむっくりとした寸詰まりの船体に、やたら乾舷の高い船首をもった一隻の漁船が写っている……舷側は鮮やかな赤色で、埠頭に横付けした船の前でダニエルソンとその家族と思われる数人が笑顔で収まっている……
提督「素敵な写真ですね」
ダニエルソン「いや、どうも……」ぼりぼりと頭をかきながら、少し恥ずかしげに照れ笑いを浮かべた……
提督「……ところでダニエルソン中佐、ノルウェー海軍も深海棲艦が出現してからは「提督」として任官する士官が多いのでしょうか?」
ダニエルソン「ええ、多いですね……私のような予備士官を始め、他兵種からの転属や若手士官の起用、士官学校の拡充も続いていますよ」
基地司令「とはいえ、どうしても他兵種からの転属組は「艦娘」の運用となると難しい所がありましてね……何しろレーダーやミサイルに慣れている今どきの士官に、大戦中の兵器について学び直してもらうのでは時間がかかりすぎますから」
提督「そうですね」
基地司令「それに「艦娘」たちは戦う軍艦としての存在であると同時に、一人の女の子でもありますし……その心のケアや体調管理には気を遣っています」
提督「たしかに、専門のカウンセラーや医療施設、ジムや温水プール、美容室……艦娘たちの福利厚生にとても気を配っている印象を受けました」
基地司令「ええ……我々は彼女たちに高いパフォーマンスを発揮、維持してもらうためにはそういった施設が必要だと考えていますし、同時に「深海棲艦」による制海権の喪失や、それをイージス艦や戦闘機といった既存の兵器で奪い返すコストを考えれば、それだけしても充分にお釣りが来ると考えております」
提督「同感です」
ダニエルソン「それに、彼女たちはみな良い娘ばかりです……そりゃあ時には叱りつける事もありますが、よく頑張ってくれていますよ」
提督「ふふ、それは私の所でも同じです……♪」お互いに提督として理解し合い、話が盛り上がってきた所でそっとフェリーチェが耳打ちした……
フェリーチェ「フランカ、そろそろ空港に行かないと……」
提督「ええ……色々なお話を聞くことが出来てとても有意義な時間でしたが、そろそろ空港に向かわないとならないので……本当はもっとお話をしたいのですが」
ダニエルソン「それは残念です……カンピオーニ少将は例のヘルシンキで行う会議に出席なさるのですね?」
提督「ええ」
ダニエルソン「そうでしたか……私は参加しませんが、ノルウェー海軍からは別の士官が出席する予定ですから、カンピオーニ少将のことをお伝えしておきます」
提督「ありがとうございます」
基地司令「では、送迎車を玄関に回しておきましたので……有意義な時間を過ごしていただけたようなら本官としても幸いです」
提督「ええ、大変に学ぶところがありました……大佐の心のこもったもてなしについては、ノルウェー海軍本部にも御礼を伝えておきます」
基地司令「いや、これはどうも……では、また機会がありましたらぜひ当基地へいらしてください」
スレイプニール「では、いつかまた来て下さいね。カンピオーニ少将……ちゅっ♪」敬礼を交わした後、つま先立ちをすると頬に口づけをした……
提督「あら……♪」
…司令部の入り口で基地司令とダニエルソン、それに「スレイプニール」を始めとする艦娘たちが見送ってくれる中、いそいそと車に乗り込んだ…
フェリーチェ「……どうやら良い思い出ができたようね」
提督「そうね……♪」
829 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/04/10(日) 02:20:06.56 ID:j7Yli54l0
…ストックホルム…
提督「うーん、やっと着いたわね……肩と腰がすっかりこわばっちゃった」
フェリーチェ「慣れてないでしょうし無理もないわ……でも、情報部だったら一泊で五カ国を巡ったりなんていう弾丸旅行みたいな出張もよくあるのよ?」
提督「頭が下がるわ……でも、今夜はちゃんとしたホテルに泊まれるのよね?」
フェリーチェ「ええ」
提督「助かったわ」
…空港ビル…
美人の女性士官「……ようこそストックホルムへ。お二人を案内することになりました、スウェーデン王国海軍のイングリッド・ラーセン大佐です」
…アーランダ国際空港のターミナル5で二人を出迎えてくれたのは、大佐の制服もビシッと決まっている海軍士官で、きりりとした典型的な北欧美人といった顔立ちもあいまって、銀幕を彩った往年の名女優「グレタ・ガルボ」を彷彿とさせる……
提督「初めまして、ラーセン大佐……「タラント第六鎮守府」司令のフランチェスカ・カンピオーニ少将です(それにしても目が覚めるような美人ね……)」敬礼を交わし、握手をしながらごくりと生唾を飲み込む……
フェリーチェ「ミカエラ・フェリーチェ大尉です」
ラーセン大佐「スウェーデン訪問を歓迎します。少将閣下、それと大尉……ここからストックホルムのホテルまでは私が車でお送りします。 ところで、お二人はこれまでストックホルムにおいでになったことは?」
提督「いえ、まだです」
ラーセン「そうですか、では「ガムラスターン(旧市街)」や王宮での衛兵交代は見たことがないわけですね?」
提督「ええ」
ラーセン「分かりました。せっかくストックホルムに来たのですから、ぜひご覧になってもらいたいですね……衛兵交代は正午ですから、明日ご案内しましょう」
提督「ありがとうございます」
ラーセン「いいえ。さぁ、どうぞ乗って下さい……ちょっと狭いかもしれませんが」駐車しているのは丸みを帯びた流線型で構成された2ドアの自動車で、銀色の塗装が空力を意識した滑らかで美しいラインを際立たせている……
提督「サーブですか、今どき珍しいですね……」
(※サーブ…1937年に国営の航空機メーカーとして設立された。「SAAB」は「スヴェンスカ・アエロプラン・AB(スウェーデン航空機製造会社)」の頭文字から。小国でありながら高い技術力をもち、戦中にエンテ翼、双ブーム、推進式エンジンという独特なデザインを持つJ21を完成させるなど意欲的な機種を次々と開発。戦後も50年代には米ソよりも早くダブルデルタ翼を採用したJ35「ドラケン(ドラゴン)」やJマルチロール機として好調なJAS39「グリペン(グリフォン)」を送り出すなど、優れた設計と高い技術力を誇る。一時期は航空機設計の技術を応用して自動車分野にも参入し、技術力に裏打ちされた優れた自動車をリリースしていた)
ラーセン「ええ、サーブ96です。父の代から乗っていて愛着があるものですから……年代物ですし運転には少し慣れが必要ですが、よく走りますよ」
提督「それでは……よいしょ、と」助手席の椅子を前のめりに倒してもらい、そこから後席に潜り込む……大柄な車ではないので少しせせこましいが、それでもそこまで居心地が悪くないのはシートやルーフ(屋根)のデザインがよく出来ているからだろうと提督は思った……
フェリーチェ「じゃあ私は助手席で」
ラーセン「ええ。それでは行きましょう」
…ストックホルム市街への道…
提督「……それにしても、コンパクトなのによく走りますね」
ラーセン「そうですね……乗り心地はいかがですか?」
…アンダーパワー気味のエンジンしか積んでいないため加速はそれなりだが、空力設計が上手いからかコーナーではかなり機敏なサーブ96……提督も車の運転は得意な方なのでしげしげと観察していたが、ラリーカーとして活躍するだけのことはあると思わせる…
提督「そうですね、かなり面白いです」
ラーセン「ちゃんとした自動車でお迎えできなくて済みません……本当は運転手付きの黒塗りでお出迎えする予定だったのですが、たまたま黒塗りの使用日時がかぶってしまいまして」
提督「構いませんよ。それにこちらの方がスウェーデンの自動車らしくて楽しいです」
ラーセン「そう言ってもらえると助かります」
提督「いえいえ」
ラーセン「……ストックホルムに着きましたら市街の案内や通訳は私が行いますので、必要な事があればどうぞご遠慮なく」
提督「ありがとうございます」
ラーセン「いいえ」
830 :
◆b0M46H9tf98h
[saga]:2022/04/17(日) 02:36:41.50 ID:XwueR7TO0
ラーセン「ところで、スウェーデンで何かご存じのことはありますか?」
提督「そうですね……スウェーデンと言うと、サーブの戦闘機に「ヴィズヴィ」級フリゲート、Strv.103(Sタンク)のように、ユニークで優秀な兵器を持っているイメージですね……他に知っている事と言えば、恥ずかしながらグレタ・ガルボやイングリッド・バーグマンのような綺麗な女優が多いことと、警察小説の「刑事マルティン・ベック」シリーズ……そうそう「ニルスの不思議な旅」も子供の頃に読んだことがあります」
…提督は自分でも知識が偏っていることに苦笑いをしながら、運転席でハンドルをさばいているラーセンにそういった…
ラーセン「なるほど、「ニルスの不思議な旅」ですか。 あれは子供のためにスウェーデンの地理と歴史を楽しく学べるよう書かれた児童文学ですから、あれを読めばスウェーデンの大まかなところが理解できますよ……あとでゆかりの場所もご案内しましょう」
(※ニルスの不思議な旅……セルマ・ラーゲルレーヴの児童文学。動物をいじめていたり親の言いつけを守らない悪童ニルスが妖精をいじめたために小さくされてしまい、ガンの群れについて行こうとして飛び立った家のがちょうを捕まえようとして飛び立ってしまい、そこから渡りの中で様々な経験をして成長するお話。スウェーデンの地理や歴史を物語として楽しみながら学べるようになっている)
ラーセン「……それにしても時間の都合でカールスクルーナに寄れないのは残念ですね。私の鎮守府もカールスクルーナにあるので、ぜひご覧になって欲しかったのですが」
(※カールスクルーナ…スウェーデン南部に位置する軍港都市で世界遺産。冷戦中の1981年、ソ連の「ウィスキー」級潜水艦が座礁した「ウィスキー・オン・ザ・ロック」事件が起きた場所でもある。「ニルスのふしぎな旅」ではカール十一世のブロンズ像と、カールスクルーナ提督教会にある有名な老人型の寄付箱「ローゼンボム」の像が出てくる)
提督「ラーセン大佐はカールスクルーナ鎮守府の司令なのですね」
ラーセン「ええ……生まれたのは南部のマルメですが。 マルメはストックホルムよりも暖かですし、住んでいる人も穏やかな良いところですよ。それにコクムスの造船所もあります」
(※コクムス……スウェーデンの造船会社。1840年からあって、所有していたガントリークレーンはマルメの名物だった。潜水艦の建造にたけており「ゴトラント」級を始めとするAIP(非大気依存)システム搭載の通常動力潜水艦では高いノウハウを持つ。海自の「そうりゅう」型にも技術が導入されている)
提督「そうですね」
ラーセン「ええ。夏場は避暑を兼ねて多島海にある小島の別荘に行って、日光浴をしたり冷たいアクヴァヴィットを飲みながらのんびりしたりして時間を過ごすんです」
提督「自分の島があるなんて素敵ですね♪」
ラーセン「まぁ、スウェーデンは島が多いですから……それと先ほどからのお話を伺っている限りでは少将は映画がお好きなようですが、それで言うとマルメはアニタ・エクバーグの出身地でもありますよ」
提督「やっぱりスウェーデンはきれいな人が多いんですね。ラーセン大佐もとてもきれいな方ですし……それもぎらぎらした太陽ではなくて、静寂の中で輝きを放つ月のようです」
ラーセン「お上手ですね……何かお飲み物でもごちそうした方がよろしいですか?」
提督「いいえ、むしろ私からごちそうさせて下さい♪」
フェリーチェ「カンピオーニ少将」ラーセンに色目を使い始めた提督をたしなめるように、事務的な声を出した……
提督「あー、こほん……そう、映画は好きですよ」
ラーセン「そうですか。他にもスウェーデンと言えばイングマール・ベルイマン監督や俳優のマックス・フォン・シドー……イタリアと言えば「ヴェニスに死す」に出演した美少年タジオを演じたビョルン・アンドレセンもスウェーデン人ですよ」
提督「ルキノ・ヴィスコンティの映画ですね……幼い頃に見た時は分かりませんでしたが、ある程度大人になってから見ると感情や描写の奥深さに驚かされます」
ラーセン「そうですね、中年の作曲家が名前も知らない美少年に心を奪われてしまう……それだけで済ませることのできない人間の心や、美しいものに心惹かれる感情の機微というのでしょうか……」
提督「ええ。それにヴィスコンティ自身も美少年が好きだったようですから、一層リアリティがありますね」
ラーセン「たしかにその話は聞いたことがあります……そろそろホテルに着きますよ」
…ストックホルム市街は古き良き石造りの建物も多いが、同時にガラスとコンクリートで出来た現代的なビルディングも数多く立ち並んでいる……どちらにもいい点はあるのかもしれないが、淡い黄色や落ち着いた白色の壁の古い建物の方が好ましく思えた…
提督「きれいな街ですね」
ラーセン「ありがとうございます……ですが、私からすると堅苦しくてよそよそしい感じがしますね。もっとも、それは私がストックホルムの人間でないせいかもしれませんが」
提督「いえ、その気持ちはよく分かります。イタリアでもローマはせわしなくて慌ただしい感じですから……どこでも首都というのはそういうものなのかもしれませんね」
ラーセン「かもしれません……さぁ、着きましたよ」
831 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/04/18(月) 01:42:06.03 ID:5ZxYdCGc0
…翌日…
ラーセン「さてと、手荷物は大丈夫ですか?」
提督「ええ」
ラーセン「分かりました、それでは行きましょう……王宮周辺は車が乗り入れられないので近くで車を停めて、あとは歩きです」
…ガムラスターン(旧市街)と王宮は、ストックホルム市街の周辺に広がる多島海の一つ「スターズホルメン島」に集中している……周囲はクリスマス前とあってバザールが開かれていたりと賑やかで、灰色の冬の空を押し戻そうとしているかのように、あちこちに鮮やかな青と黄色のスウェーデン国旗が翻っている……ラーセンは旧市街の入り口でサーブを停めると、提督とフェリーチェを案内して旧市街を連れ立って歩いた…
…ストックホルム宮殿前…
提督「あ、始まったわ……」
…王宮前の広場で行われる衛兵交代式を見学する提督一行……青を基調にした凜々しい礼装姿のスウェーデン近衛兵達が、白馬にまたがり石畳の広場で見事な行進を披露する……およそ半時間あまりにわたる式典を見終えると、周囲の観光客と同じように惜しみない拍手を送った…
…しばらくして…
ラーセン「……いかがでしたか?」
提督「とても素晴らしかったです、まるで物語に出てくる騎士達のようですね」
ラーセン「気に入ってもらえて何よりです……失礼、少々よろしいですか」
…新市街に戻ってくる途中で広告のついた青色のトラックを見かけると、いささか唐突に車を停めたラーセン大佐…
提督「どうかしましたか?」
ラーセン「いえ……つかぬ事をお尋ねしますが、少将はアイスクリームがお好きですか?」
提督「ええ、どちらかと言えば好きな方ですよ」
ラーセン「そうですか、それはよかった……では行きましょう!」
提督「ラーセン大佐?」
ラーセン「ああ、そういえば少将はご存じないですね……あの車は「ヘムグラス(Hemglass)」のアイスクリーム販売車ですよ」
…妙にのんきなオルゴールのようなメロディを響かせながら道端に停まった青色のトラック……と、たちまちあどけない子供たちから、ネクタイを締めた生真面目そうな会社員、杖をついたお年寄りまで、ありとあらゆる年齢層の人がトラックの周りに集まってくる……どちらかと言えば落ち着いていてあたふたすることの少ないスウェーデン人が、我先にとトラックの周りに集まってくるのに何とも言えない違和感を覚えた提督…
提督「えーと……」
ラーセン「あぁ、スウェーデン語で書かれているからどれがどの味が分かりませんか? 英語でよろしければ翻訳しますよ?」言うよりも早く自分のアイスクリームを注文しているラーセン……
提督「そうではなくて……」
ラーセン「では何か……もしかしてお好みの味がありませんか?」
提督「いえ、そういうわけでも……」
フェリーチェ「……噂は本当だったようね」提督の横に立っているフェリーチェが小声でつぶやいた
提督「どういう事?」
フェリーチェ「あぁ……北欧やロシアの人間はアイスクリームが大好きだって話よ。空気が乾燥しているから、飲み物よりも時間をかけて舐めることが出来るアイスクリームが好まれる……って」
提督「そういうこと……それにしてもこの気温でアイスクリームね。まぁいい経験かもしれないわ」財布からアストリッド・リンドグレーンが描かれた20クローナ札を取り出すと、ラーセンに通訳を頼んでアイスを買おうとする……
(※アストリッド・リンドグレーン……「長くつ下のピッピ」の作者。それ以前の20クローナ札は「ニルスの不思議な旅」と作者のラーゲルレーヴだった)
ラーセン「あの、カンピオーニ少将……」
提督「何でしょう、ラーセン大佐」
ラーセン「いえ……スウェーデンのたいていのお店では現金が通じないので。電子マネーかカードの類はお持ちですか?」
提督「あぁ、そういえばそうでしたね……逆にイタリアでは現金以外は信用されないものですから、つい♪」額に手を当てて少しおどけたような身振りをすると、改めて財布からプリペイドカードを取り出した……
…数分後…
提督「……ミカエラは何味にしたの?」
フェリーチェ「普通のバニラ味ね、フランカは?」
提督「キイチゴ味ね……普通のイチゴよりも甘酸っぱいわ」
ラーセン「無事に買えたようで何よりです……出遅れるとすぐなくなってしまいますから」
提督「ふふ……スウェーデンの方はアイスクリームが好きなんですね」整っていて「格調高い」とも言えそうな顔立ちのラーセンが、子供のようにアイスクリームをなめている姿を見ると、何となくおかしさがこみ上げてくる……
ラーセン「ええ、子供の頃から家にはアイスクリームがたくさんありましたよ……どうかしましたか?」
提督「いえ、何でもありません♪」ある意味で面白い体験が出来たと、気温がひとケタの寒空の下で暖かいコートにくるまってアイスをなめた……
832 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/04/26(火) 11:35:50.37 ID:t2dgCduN0
…しばらくして…
ラーセン「カンピオーニ少将、フェリーチェ大尉。よろしかったら「フィーカ」をご一緒しませんか?」
提督「フィーカ……たしかコーヒー休憩のことでしたっけ」
ラーセン「ええ、よくご存じですね……いかがですか?」
提督「そうですね、ぜひ♪」
…前日にスウェーデン入りしたばかりだと言うのに、すでにコーヒーを飲み続けている気がしている提督……フィンランド人の次にコーヒーを消費し、EU(欧州連合)平均の倍はコーヒーを飲んでいるとされるスウェーデンだけあって「フィーカ(コーヒー休憩)」というと、もはや息をするのと変わらないほど生活に染みついている…
…カフェ…
ラーセン「カンピオーニ少将、マザリン・ケーキをどうぞ」
提督「ありがとうございます」
…濃く淹れた苦くて熱いコーヒーにたっぷりと牛乳を入れたミルクコーヒーに、小さいタルトのような台にアーモンドのペーストを詰めて、上から粉砂糖でコーティングした甘い「マザリン・ケーキ」を添えた提督……フェリーチェもマザリン・ケーキを取り、ラーセンはしばし考えてスイートロールを取った……カフェとペストリーを売る菓子店を兼ねている「コンディトリー」は、ガラス張りの陳列棚に甘い菓子がいくつも並び、コーヒーの香ばしい香りが漂っている…
ラーセン「ええ……ふぅ、やはりこれがないと落ち着きません」きりりとした表情を少しゆるめて、満足げなため息をついたラーセン……
提督「スウェーデンの方はコーヒーがお好きですね」
ラーセン「そうですね。同じように牛乳も好きですが……ところで昨夜の夕食はいかがでした?」
提督「ええ、美味しかったですよ」
ラーセン「それは何よりです」
…前夜・レストラン…
提督「……わざわざありがとうございます」
ラーセン「いえ、どのみち私も夕食を取りに出かけようと思っていたところでしたから」
…提督たちをホテルに送ってくれた後で「夕食でもいかがですか」と誘いに来てくれたラーセン……提督としては美しいラーセンにそう言われて一瞬わくわくしたが、ラーセンとしては他意はなく、単に外国の将官に気を遣ってそう言ってくれたのだと思い、少しがっかりすると同時に、その気配りを嬉しく感じた……制服から私服に着替えてきたラーセンは淡いグレーのスカートとクリーム色のセーター、それとライトグレイのコートに合わせて、袖口に白い毛皮の縁取りを施したライトグレイの手袋をしていて、脱いだコートと手袋は横に置いてある…
提督「そうだとしても、わざわざ誘って下さるなんて嬉しいです♪」
…いかにもスウェーデンらしいゆでジャガイモとベリーソース添えのミートボールを食べながら、にっこりと微笑みかけた提督……ストックホルムのぴりっと冷たい寒さに対抗して、黒いウサギの毛皮帽に黒革の手袋、それに暖かなクリーム色のラップコートで、下にはふんわりした淡い桃色のセーターとひざ丈のスカートをまとい、ストッキングに黒革のニーハイブーツで足元を固めている……フェリーチェは黒のハイネックセーターに控え目な金のネックレス、割とぴっちりした地味なスラックスを合わせていて、カブのピューレをそえた小ぶりなヒレステーキを味わっている…
フェリーチェ「私もスウェーデン語はおぼつかないので、助かりました」
ラーセン「いえ、どうぞお気になさらず……後でクリスマス前のマーケットも寄ってみましょう」
………
…
提督「……それにしても、うちの艦娘たちも、スウェーデン海軍の「プシランデル」級や「ロムルス」級に会えれば良かったのですが」
ラーセン「そういえば、もともとそちらの艦(フネ)でしたね」
提督「ええ。プシランデル級がもとのセラ級駆逐艦、ロムルス級がスピカ級の水雷艇です……あとは戦後の「トレ・クロノール」級軽巡もアンサルド社のデザインですし、親近感があります」
ラーセン「当時、ソ連やドイツに備えるために艦艇を整備していた我が国にとってみれば、必要な性能があって固いことを言わずに売却してくれるイタリア艦は貴重な戦力でしたからね……何しろ軍艦を建造すると言っても、造船所には限りがありますから」
提督「それに、長い半島と陸地に囲まれた穏やかな海という部分でもイタリアに似ていますし、スペックや性格の部分でも扱いやすかったのではないかと思います」
ラーセン「おっしゃるとおりです……それに数隻とは言え、独ソ両方から中立を守るという意味ではいい時期に艦隊へ編入することが出来ました」
提督「スウェーデンの中立維持は今も昔もなかなか舵取りが難しいですね」
ラーセン「ええ。とはいえ、バルト海の深海棲艦も活動がかなり下火になりましたから……失礼」
提督「……そういえば、スウェーデンの人って歯磨きの後にうがいをしないわよね」化粧室に向かったラーセンの後ろ姿を見送りながら、ふと気になったことを口に出した……
フェリーチェ「ええ……なんでもフッ素の成分をうがいで流してしまわないためだそうだけど。キシリトールガムがやたら多いのもそのためだって聞いたわ」
提督「なるほどね……理屈は分かるけれど、私は遠慮しておくとするわ」
………
…
833 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/04/27(水) 17:09:45.16 ID:EOgtssco0
…そういえば4月26日は「海上自衛隊の日」で、海自の創設70周年でしたね。近年ますます世界の情勢が混迷を深める中、活躍している海自の皆さまには頭が下がります……平和で海難事故もなく、金曜カレーの味を競うような穏やかな日々が続けば良いのですが…
…それにしても旧帝国海軍の駆逐艦や海防艦、米軍のお下がりといった寄せ集めの艦艇群だった当時に比べ立派な護衛艦を持つようになって、本当に隔世の感がありますね…
834 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2022/05/06(金) 18:32:27.55 ID:ihDcxAkHO
SS避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/
835 :
◆b0M46H9tf98h
[saga]:2022/05/09(月) 00:43:40.42 ID:9fHPSI/e0
…艦娘紹介(スウェーデン)…
ゴトラント…航空巡洋艦。単艦
世界的にも珍しい航空巡洋艦(水上機運用巡洋艦)。平甲板で構成された船体と、前部主砲として「ボフォース・M/30」152ミリ連装砲、および艦橋両舷のケースメイトに同単装砲一基ずつを備え、後部甲板には75ミリ60口径連装高角砲、および中央部両舷に同単装高角砲、また533ミリ魚雷発射管や機銃少々を装備した。
巡洋艦としては低速で、あくまで武装を強化した水上機母艦といった立ち位置ではあるが、アイデア自体はフランスや日本に影響を与え、「リシュリュー」級戦艦や「利根」型一等巡洋艦の設計、また「最上」型二等巡洋艦などの「航空巡洋艦」化につながったとも言える。
後に搭載機の「ホーカー・オスプレイ」(1928年初飛行の複葉軽爆「ホーカー・ハート」の艦載型)が旧式となり、戦時下にあってカタパルトの変更や代替機の調達がかなわなかったことから、ボフォース製の大傑作である40ミリ60口径「ボフォース・m/36」高角機銃を後甲板に増備し防空巡洋艦となった。
大戦中、スウェーデンは武装中立を維持したので戦績という戦績はないが、ドイツ・ソ連の双方にニラミを利かせ、またドイツ戦艦「ビスマルク」の出撃時にはこれを発見、イギリスに通報することで撃沈の端緒を作っている。艦名はスウェーデンの「ゴトラント島」から。
艦娘「ゴトラント」は軽巡と言いつつも小柄で、火力、防御、速力いずれもそこまで高い能力があるわけではないが、当時のスウェーデン王国海軍でほぼ唯一の巡洋艦ということで頑張っている。「ゴトラント」の名前に影響を受けてか、南部スウェーデン人らしく気さくで人のいい性格をしている。
……
トレ・クロノール級軽巡…二隻。
イタリア艦「R・モンテクッコリ」級や「アブルッツィ」級など、デザイン的に優れていた「コンドッティエーリ(傭兵隊長)」型軽巡の設計案を売り込まれたスウェーデンが、これをベースに設計した新型軽巡。
武装は全てスウェーデンのボフォース製に換装されており、特に当時としては先進的な自動装填機能、仰角70度まで指向できる152ミリ高角砲を主砲とし、同時に高角機銃として高性能を誇るボフォース製「m36・40ミリ60口径」機銃を装備して対空戦に備え、専用の高角砲を持たない所に特徴がある。
一番艦の「トレ・クロノール(三つの王冠)」は43年に進水、就役は戦後の47年。64年には除籍されたが、同じく戦後に就役した二番艦「イェータ・レヨン(黄金の獅子)」はスウェーデン海軍除籍後チリに売却され「アルミランテ・ラトーレ」として1984年に除籍されるまで長く活躍した。
艦名の「トレ・クロノール」「イェータ・レヨン」はいずれもスウェーデン王家の紋章から。
大戦には間に合わなかったことから活躍の機会もなかった「トレ・クロノール」級だが、艦娘として活躍の機会が得られたことから張り切っている。スウェーデン王室のシンボルを冠しているだけに高貴な印象を与えるが、国民とも積極的に関わり合うスウェーデン王室を体現してか、意外と気さくで付き合いやすい。服はスウェーデンらしい青地に黄色のワンポイントが入ったお洒落な礼装。
……
プシランデル級駆逐艦…イタリア海軍の「セラ」級駆逐艦のうち二隻を購入したもので、砲や機銃はスウェーデン軍に合わせてボフォース製のものに換装され、450ミリ魚雷も53.3センチ魚雷に換装された。
塗装もスウェーデン独自の灰色と白にグリーン系の三色で構成された迷彩を施し、イメージがかなり変わっている。
元の「セラ」級は小柄な船体に過剰とも言うべき兵装を搭載していたが、波穏やかなバルト海ではそこまでの影響がなく、航続距離(アシ)の短さも防衛を主とするスウェーデンでは欠点とならず、沿岸防衛や哨戒に活躍した。
服は迷彩服のような色味で、小さいが何でもそれなりにこなせる器用なところがある。
836 :
◆b0M46H9tf98h
[saga]:2022/05/21(土) 00:55:46.56 ID:JH8ZyRRw0
…フィンランド・ヘルシンキ空港…
提督「はー、ここがヘルシンキ……って、寒いわね」
フェリーチェ「無理もないわ。気温を見てみなさいよ」それぞれ現地時間とロンドン時間を表示している二つの時計や各種施設の案内が書かれている大きな案内板……そしてそれに付いているデジタル温度計を軽く指し示した……
提督「うわ、外は氷点下なのね……道理で」
フェリーチェ「暖かいコートで正解ね」
提督「ええ……それにひきかえフィンランドの人ときたら、寒くないのかしら」
…暖房の効いていたフィンエアーのサーブ機から降りてきた提督とフェリーチェは当直(ワッチ)にも使える厚いダブルの軍用コートをきっちり着込んでいたが、それでもなお沁みこんで来るフィンランドの冷気に軽く身震いした……にもかかわらず辺りを行き交うフィンランド人はさして寒そうな様子もなく、一応コートや毛皮の帽子は身に付けているが、当たり前のように歩き回っている…
フェリーチェ「きっと慣れっこなんでしょう」
提督「そのようね……それで、お迎えの士官さんはどこかしら……?」
フェリーチェ「……ゲートの所に二人いるわ、きっとあれがそうでしょう」そう言っている間にも丁寧な雰囲気のフィンランド海軍の士官が歩み寄ってきて、ぴしりと敬礼した……
フィンランド軍士官「お待ちしておりました。ようこそフィンランドへ……本官がお二人を送迎することになっております。どうぞこちらへ」
提督「感謝します」
士官「お荷物は下士官に運ばせますので、どうぞお楽に」
提督「ありがとうございます」スーツケースを運んでくれる下士官にも礼を言うと、メルセデスの後部座席に腰を下ろした……
…所帯が小さいフィンランド軍は、陸・海・空・それぞれの司令官を少将が務めていることもあり、「はるばるイタリアからやって来た将官」という立場である提督に対して、わざわざ前部のフェンダー部分に軍のペナントを立てた立派なメルセデスのSクラス乗用車と随伴車が一台ついた車列で迎えに来てくれていた……ぜいたく自体は嫌いではないが、仰々しいのが苦手な提督としては別にタクシーでも構わなかったが、車内が暖かく乗り心地がいいのはありがたかった…
フィンランド軍士官「それでは、本官がヘルシンキのホテルまでお送りいたしますので」
提督「お願いします」
…滑らかに走り出したメルセデスのシートに深々と腰かけ、窓からの景色を眺めつつフェリーチェに話しかけた…
提督「それにしても北欧は色が少ない感じね。 白と灰色と針葉樹の緑……建物に赤や黄色を使いたくなる気分も分かるわ」
フェリーチェ「同感」
提督「フィンランド海軍の艦娘たちと会う機会はあるかしら? スウェーデンの娘たちとは会えなかったし」
フェリーチェ「それなら会議には随伴として来ているはずだから、きっと会えるわ」
提督「そう、良かった♪」
フェリーチェ「ええ……ところでストックホルムで買い込んでいたクリスマス飾りは鎮守府へのお土産?」
提督「そうよ。スーツケースには着替えくらいしか入っていないし、いざとなったら宅配便で送っちゃえばいいものね」
フェリーチェ「なるほど、フランカも色々と考えてきたのね」
提督「ええ、ミカエラほど旅慣れてはいないけれど……♪」
フェリーチェ「何事にも初めてはあるものよ。 それと、会議の出席者だけれど……」さっと資料を取り出すと、手早くブリーフィングを行った……
提督「ええ」
…数分後…
フェリーチェ「……ざっとこんなところね」
提督「よく分かったわ」
フィンランド軍士官「……少将閣下、もうそろそろホテルに到着します」
提督「ええ、ありがとう」
士官「ホテルではこちらの代表である鎮守府司令官がお二人を出迎える手はずになっております……わが軍のおおよその態勢や状況はその士官からお聞きいただければと存じます」
提督「分かりました、ありがとう」
837 :
◆b0M46H9tf98h
[saga]:2022/06/13(月) 01:08:13.44 ID:VtVpfAb50
…ヘルシンキ・ホテルのラウンジ…
色白の女性士官「ようこそ「森と湖の国」フィンランドへ、お会い出来て光栄です……クリスティーナ・ニッカネン少佐です」
提督「フランチェスカ・カンピオーニ少将です。こちらこそ、暖かいもてなしに感謝しております」敬礼を交わすと、軽く握手をした……
ニッカネン少佐「我々フィンランド人は「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからざる人物)でもない限り、いつでも旅人を歓迎しますよ。 イタリアの方にこの寒さはこたえたと思いますが……コーヒーでもいかがですか?」
提督「ええ、いただきます」
…コーヒー好きのフィンランド人らしく、早速コーヒーを注文したニッカネン……運ばれてきた銀色のポットからカップにコーヒーが注がれるのを見ながらも、ついニッカネンを観察してしまう…
提督「……」
ニッカネン「どうかなさいましたか?」
提督「あぁ、いえ……」
…ニッカネンは色白で、淡い琥珀色の髪に色素の薄いブルーの瞳をしていて、髪を頭に巻き付けるように結っている……すでに結氷期で艦娘側も深海側もお互い活動が低調な東部バルト海とはいえ、フィンランド海軍の持つ戦力はごく小さく、哨戒や指定海域での機雷敷設、あるいはフィンランド湾を封鎖しようと深海側が敷設する機雷の掃海と忙しいらしい……カップを持つ指は多少骨張った感じではあるが白くすんなりとしていて、帰投してから急いで金モールと略綬付きのきれいな制服に着替えてきたらしく、髪にほのかな潮の匂いが残っている……また、それがどんな香水よりもニッカネンのすっきりした美しさを引き出している…
ニッカネン「それにしても少将がいらっしゃるとは思いませんでした……フィンランドは初めてですか?」
提督「ええ。北欧自体が初めてなので、何もかもが目新しくて興味深いです」
ニッカネン「そうですか……少将は何かご趣味を?」
提督「ええ。映画や絵画の鑑賞、読書など一通りは……それに射撃も少し」親指と人差し指で小さなすきまを作り「ほんのたしなむ程度に」と身振りをつけた提督……
ニッカネン「射撃ですか、それなら私もたしなんでいます……時期になると鹿撃ちや鴨猟をやりに田舎の方へ出かけますよ。猟のシーズンならご一緒出来たのですが」
提督「まぁまぁ、休暇で来たわけではありませんから……少し残念ですけれど」
ニッカネン「他にフィンランドでご存じのことは?」
提督「そうですね……」
提督「やはりフィンランドと言えばマンネルヘイム将軍と「冬戦争」ですね……それに子供の頃に読んだ「ムーミン」や、船舶用ディーゼルのヴァルティラ……電子機器のノキアにアパレルのマリメッコ、銃火器のヴァルメ……」
ニッカネン「なるほど」
提督「それから作曲家のシベリウスに建築家のアルヴァ・アールト、ライコネンのような有名レーサーたちに、パーヴォ・ヌルミを始めとする陸上競技の「空飛ぶフィンランド人」や、クロスカントリースキーといったスキースポーツの選手……そうそう、実家にはイッタラのグラスもいくつかありますよ」
ニッカネン「これはこれは……私がイタリアについて知っている事よりも多いですね」
提督「そうですか? ふふっ♪」眉を持ち上げて驚いた様子のニッカネンを見て、思わず笑みを浮かべた提督……
ニッカネン「ええ。それと、この後の予定ですが……会議は翌日から始まる予定ですから、それまでの間に基地の艦娘たちを紹介する機会や、ヘルシンキ市内をご案内する時間も持てると思います。「スオメンリンナ要塞」(世界遺産)の見学や、市街の散策もできるかと思います」
提督「まぁ、それは嬉しいです」
フェリーチェ「ニッカネン少佐、お気遣いありがとうございます」
ニッカネン「いいえ。大尉もぜひ楽しんで下さいね」
フェリーチェ「そうさせていただきます」
ニッカネン「ええ、ですがその前に当地の情勢について軽く説明を……」
提督「ええ、ぜひお願いします」
…無愛想というわけではないが、あまりおしゃべりではないニッカネンが慎重に口を開く……提督もノートとペンを取り出し、あらためて椅子に座り直す…
ニッカネン「我々フィンランド海軍ですが……現在はフィンランド湾口を押さえるハンコ半島を拠点に、深海側の活動を抑え込んでいるというのが現状です」横に置いてあった書類鞄から様々な書き込みが加えられた地図を取り出し、ディバイダーと定規を当てて説明に入った……
提督「なるほど」
ニッカネン「フィンランド湾の最奥はクロンシュタットやサンクトペテルブルクといったロシアの都市があり、同地には黒海艦隊(バルチック艦隊)の基地があります」
…深海棲艦という「人類共通の脅威」を前にしてある程度協力関係にあるとは言え、過去にフィンランドへとしてきた仕打ちを考えるとお世辞にも「味方」とは言いにくいロシア海軍の事だけあって歯切れが悪い…
提督「ええ」提督も察して、そこは軽く相づちを打つだけでとどめた……
ニッカネン「……基本的に我々はフィンランド湾から深海棲艦がバルト海へ進出するのを抑え、同時にこちらの活動が制限されないよう、ハンコ半島や周辺海域を封鎖されないよう機雷の掃海に当たっています」
提督「なるほど」
ニッカネン「とはいえ冬期はフィンランド湾が結氷し、日照時間も短くなるので活動は低調になります」
提督「そのようですね」冬とは言えまだ日差しのある南イタリアのタラントに比べて薄く弱々しく、それすらもすぐに沈んでしまう北欧の太陽を経験している最中なので気持ちがこもる……
ニッカネン「ええ」
838 :
以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします
[sage]:2022/06/14(火) 03:17:20.56 ID:kXMqWcJ80
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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839 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/06/30(木) 00:38:09.54 ID:VDMzgJCv0
いよいよ「リムパック2022」が開催されましたが、現役の方はぜひ事故のないよう気を付けて下さい……世界がきな臭くなっている中での演習ですから緊張も増していると思いますが。
それと一つ間違いの部分を……サンクトペテルブルクはバルチック艦隊の根拠地ですから当然ながら黒海艦隊ではなくバルト海艦隊ですね。
また、この後ロシア連邦海軍のキャラクターを登場させるつもりでいます。ウクライナのことがあるのでどうかとは思ったのですが、登場させること自体はウクライナ以前に考えていたので……あくまでもテンプレートな冷血ロシア人キャラという事で、特段の意図を持っているつもりはありません。
840 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/07/16(土) 11:17:46.30 ID:KE82mUTN0
…しばらくして…
ニッカネン「それではそろそろキルッコヌンミの鎮守府を案内しましょう」
…ホテルのラウンジで美味しいコーヒーをお供に情勢説明を受けた提督とフェリーチェ……カップの濃いコーヒーを飲み終えると、ニッカネンが切り出した…
提督「楽しみです」椅子から立ち上がると制服を軽くはたき、さっと身体を見回してお菓子の食べこぼしやコーヒーの染みがないか確かめる……
…ホテルの玄関先…
ニッカネン「では、おいてきた車を取ってきます……本官が先行しますから、どうぞ後からいらっしゃって下さい」
提督「ええ、お願いします」提督とフェリーチェが送迎用のメルセデスに乗り込んでいると、ニッカネンが自分の車を運転してきた……
フェリーチェ「あれじゃない? ……またずいぶんと年季が入っていそうな車ね」
提督「フィンランドの人は物持ちがいいって言うけれど、本当みたいね」
…黒塗りの後部座席におさまり待っていた二人の横を、ニッカネンが乗った車がすり抜けて前に出た……彼女が乗っているのはその真四角なデザインと、外見のイメージを裏切らない頑丈さで一世を風靡したスウェーデンの「ボルボ240」ステーションワゴンだったが、かなり使い込まれているらしく見た目はずいぶんとくたびれている……ニッカネンのボルボが走り出すと、後ろに付くようにしてメルセデスが滑らかに走り出す…
………
…
…ヘルシンキ郊外・キルッコヌンミ鎮守府…
ニッカネン「お疲れさまでした、少将。 ここが私の所属する「キルッコヌンミ鎮守府」です」
提督「なるほど、見事に整えられていますね」
…ゲートで守衛に敬礼され、提督たちのメルセデスは本部庁舎前にしずしずと滑り込んだ……先行したニッカネンは車を置いてきて、庁舎の入口で改めて敬礼し、握手を交わす……庁舎前の国旗掲揚柱にはフィンランド海軍旗、それにイタリア海軍旗が掲げられ、海から吹いてくるかすかな……しかしぴりっと冷たい微風に揺れている……ニッカネンの左右にはフィンランド国旗の白と爽やかな青色を基調にした服をまとった艦娘たちと、主計や軍医といった内勤の将校が並び、フィンランド海軍公報のカメラマンが左右に動き回り、しきりにフラッシュを焚いている…
ニッカネン「それでは鎮守府をご案内します」簡単な式典を済ませると、ニッカネンが並んでいる艦娘たちを紹介してくれた……
ニッカネン「彼女たちが鎮守府の海防戦艦、イルマリネン級の「イルマリネン(鍛冶の匠)」と「ヴァイナモイネン(老賢者)」です」
イルマリネン「初めまして、少将」
ヴァイナモイネン「フィンランドへようこそじゃ、少将」
…イルマリネンとヴァイナモイネンは二人とも背は低く、イルマリネンはどこかおっちょこちょいな印象を、反対にヴァイナモイネンからは知恵や深い叡智といった雰囲気を感じる……お互いに性格は正反対のようだが、仲がいい様子はちょっとしたやり取りや雰囲気から伝わってきて、何とも微笑ましい…
提督「ええ、ありがとう。 可愛らしい娘たちですね」艦娘たちと軽く握手を交わしにっこりと微笑み、それから港内に停泊している「イルマリネン」級をじっくり観察した提督……
…灰色と灰緑色、それに白という冬のフィンランドにふさわしい迷彩塗装を施した海防戦艦が穏やかな湾内で揺れている……幅広でずんぐりした砲艦のような船体と、それとは不釣り合いなほど巨大に見える前後一基ずつの連装254ミリ主砲、そして中央部に高々とそびえるマストと各所に詰め込まれた高角砲や高角機銃という船型はかなり風変わりで、陸上兵器のような迷彩ということもあって独特な雰囲気をかもしだしている…
ニッカネン「……見た目こそ小さいですが、強力なモニター(装甲砲艦)や防空砲台としてフィンランドの沿岸部を守っている、わが海軍の主力艦です」
提督「そうですね……艦名は叙事詩「カレワラ」の人物でしたか」
ニッカネン「ええ、その通りです。イルマリネンは鍛冶の匠で、ヴァイナモイネンは白髪、白髯(白ひげ)の賢者と言われております」
イルマリネン「そうそう、年寄りのくせに若い娘に求婚してフラれたんだもんね」
ヴァイナモイネン「やかましい、後から来て横取りしおって」
ニッカネン「こう見えても仲はいいのです……さ、少将に艦を案内してあげなさい」
ヴァイナモイネン「では、この賢者ヴァイナモイネンが……」白髪をさっとなびかせ、提督を案内しようとする……
イルマリネン「年寄りの冷や水はやめなって、私が案内するからさ」
ヴァイナモイネン「こら、そう年寄り扱いするでない!」
841 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/07/29(金) 01:45:13.48 ID:7T6PnXRw0
…海防戦艦「イルマリネン」艦上…
イルマリネン「ここが艦橋です」
提督「なるほど……ふむふむ」
ニッカネン「……いかがですか?」
提督「ええ、とてもきちんと整備されていますね……見事なものです」
…舷梯(タラップ)を上り、ニッカネン少佐とイルマリネン、ヴァイナモイネンの解説を受けながら艦内を軽く一回りした提督……真鍮や銅で出来ている金具はきれいに磨き上げられ、甲板や調度品の木材は艶やかで、塵のひとつ、汚れの一点もない……だがそれより提督の気を引いたのはきちんと前後の水平を保って繋止されているカッター(ボート)や、急な対空戦になっても即応できるよう満杯にしてあるボフォース40ミリ高角機銃の弾薬箱、とっさの時に凍り付いていて使えないことのないよう防寒用の布でくるまれている消火ポンプと消火用ホースなど、あちこちを磨き立てることよりも、いつでも戦闘に入れるよう準備が整っている事に感心した…
ニッカネン「少将にそう言っていただけると嬉しいかぎりです……イルマリネンも少将にお礼を申し上げなさい」
イルマリネン「ありがとうございます、少将」
提督「いいえ♪」
………
…
提督「貴重な時間に感謝します、少佐……フィンランド海軍の海防戦艦をつぶさに観察する機会はそうありませんから、いい経験が出来ました」
ニッカネン「そうおっしゃっていただけるとこちらも案内したかいがあります……この後は司令部でわが海軍の短い紹介映像と、最近の作戦行動を簡単にまとめた資料を用意してありますので、そちらをご覧になっていただければと思っております」
提督「ありがとうございます……と、あれは……」
…空冷エンジン独特の乾いた音を響かせて、曇り空をブリュースター・B239「バッファロー」戦闘機が飛び去っていく……どこかユーモラスでもあるずんぐりした機体は黄色く塗ったエンジンカウリング以外は濃淡二色の緑色で迷彩が施されていて、その飛行する姿はエンジン音といいシルエットといい、どことなくクマバチを思わせる…
ニッカネン「わが軍の「ブルーステル(ブリュースター)」です……よほどの悪天候でなければ、ああしてフィンランド湾や沿岸部の哨戒に当たっています」
…太平洋では日本の「零戦」や「隼」といった格闘戦の得意な機体にいいように落とされ、評価の低い「バッファロー」だが、機体の頑丈さを活かしたフィンランド人の運用の上手さとソ連空軍の練度の低さから「冬戦争」では大いに活躍し、一部のフィンランド軍操縦士からは「空の真珠」とまで言われている……そのままフィンランド湾の沖に向かって飛行していったバッファローを見送ると、ニッカネンの案内を受けて基地施設に入った…
…司令部…
ニッカネン「どうぞおかけになって下さい」
提督「ええ」
…なまじ将官が座らないでいると室内の全員が座ることをためらってしまうので、勧められたら遠慮せず、すぐ腰かけることにしている提督……司令部施設のブリーフィングルームか会議室と思われる部屋にはプレゼンテーションの準備が整っていて、暖房も入っていて暖かい…
ニッカネン「では、始めさせていただきます……」カーテンを引くと十五分あまりの短い広報用映画と、作戦行動中に撮ったと思われる映像がいくつか、そしてフィンランドの艦娘たちが基地でのんびりしたりにぎやかにしたりしている「日常のひとこま」といった映像も合わせて流れた……
提督「……」メモ帳を机の上に置き、機雷掃海や対空戦の場面では真剣に、にぎやかな場面では微笑みを浮かべて映画を見た……
ニッカネン「……以上です」
提督「ありがとうございます、掃海の場面や対空戦の部分は非常に参考になりました……どの娘も手際が良くて、動きが身についていますね」
ニッカネン「そうかもしれません。 このあたりではこちらも深海側も勢力が小さく、お互いに決め手を欠くところがありますから」
提督「そこで機雷の敷設ということになる……と言うわけですね」
ニッカネン「その通りです。何しろ水路や湾口を塞いでしまえば相手は何もできなくなりますから……敵味方の本拠地が近いこともあって、機雷の敷設は結氷する冬期を除いていつでも行われております」
提督「なるほど、とてもためになりました……」そう言ってメモ帳を閉じ、礼を言おうとしたところでフェリーチェの携帯電話が震えだした……
フェリーチェ「……っ、失礼。 どうも急ぎの用件のようでして……」ちらっと発信者の番号を見ると、ニッカネンにわびて部屋を出る……
ニッカネン「構いませんよ、大尉……では少将、もう一杯コーヒーでも」
提督「ええ」
…しばらくして…
提督「……フィンランドと言えばやはり「ムーミン」とトーベ・ヤンソンでしょうか。彼女は同性のパートナーと仲むつまじくしていたとか。ムーミンに出てくる「おしゃまさん」はトーベ・ヤンソンのパートナーがモデルだと聞いたことがあります」
…フェリーチェが戻るまでの間、時間つぶしのおしゃべりを続けている提督とニッカネン……そこでフィンランドの有名人という話題から「ムーミン」で有名な女流作家のトーベ・ヤンソンの話になり、そこで何の気なしに同性のパートナーがいたことにも触れた提督……
ニッカネン「トゥーティッキ(おしゃまさん)ですね、確かにそう言われています……ですがフィンランドはその点立ち遅れていましたから、もったいないことに彼女の活躍は長い間認められずにいました。 今でこそそうした権利も認められるようになってきましたが、我が国では長らく同性愛は病気扱いでしたので」イタリア人の提督なら手を上に向け派手に肩をすくめるような態度で、小さく肩をすくめたニッカネン……
提督「そうだったのですか、もったいないことですね」
ニッカネン「ええ」そう言って簡単に相づちをうったニッカネンだったが、提督に向けた視線がほんの少し長かった……
提督「……?(気のせいかしら)」
842 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/08/07(日) 01:28:36.38 ID:6gTvanY50
提督「……それにしても暗くなるのが早いですね」
ニッカネン「北欧の冬はいつもこうです……まぁ、慣れているとは言え少し嫌になりますね。 早く夏になって日光浴か、さもなければイナリ湖あたりの森でシカ猟でもしたいところです」
…イタリアならまだまだ午後の日差しが暖かく辺りを照らしているはずの時間だというのに、すでに辺りは夕闇に覆われ始め、埠頭の周囲を飛び回っていた白いカモメたちも家路についている…
提督「ああ、そういえばニッカネン少佐は猟をなさるそうですね」
ニッカネン「ええ、カンピオーニ少将も銃猟をたしなんでいるとおっしゃっておられましたが……」
提督「はい、子供の頃から家族に教わりまして……もっとも、任官してからはすっかりごぶさたですが♪」苦笑しながら肩を大きくすくめた
ニッカネン「海軍士官ですし無理もありません……獲物は何を?」
提督「そうですね、場合にもよりますが散弾銃でカモ撃ちをしたり、実家にいたときはコムーネ(自治体)からの駆除依頼を受けてイノシシ撃ちをしたりしていました」
ニッカネン「いいですね……銃は何を?」
提督「そうですね、私はフランキかベネリの12ゲージ(番)や20ゲージが多いですね、ニッカネン少佐は?」
ニッカネン「私は……」
フェリーチェ「失礼、遅くなりました」
ニッカネン「大丈夫ですよ、大尉……用事は無事に済みましたか?」
フェリーチェ「ええ。ご迷惑をおかけしました」
ニッカネン「いいえ……それではそろそろホテルの方に戻りましょう」
………
提督「ニッカネン少佐、せっかくですしもう少し少佐のお話を伺いたいですね」
ニッカネン「それは光栄です……とはいえ明日からは会議が始まってしまいますし、そうなるとなかなか時間も取れないかと……」
提督「そうですね……もし少佐がよろしければ、ホテルまで少佐の車に乗せていただいてもよろしいでしょうか?」
ニッカネン「え? しかし私の車はあのメルセデスと違って乗り心地もあまり良くないですから……」
提督「確かにご迷惑かもしれませんけれど、せっかくですし少佐のボルボ240にも乗ってみたいです……ダメでしょうか?」
ニッカネン「それは……まぁいいでしょう。上からはカンピオーニ少将とフェリーチェ大尉のためにできるだけ便宜を図るよう指示されておりますから……ただ、できればご内聞にお願いします」
提督「ええ、もちろんです♪」
ニッカネン「送迎車の運転手には私から話をしておきましょう」
提督「すみません、ワガママを言ってしまって」
ニッカネン「その程度ならワガママの内には入りませんよ」そう言うとかすかに微笑を浮かべた……
提督「それじゃあ私はミカエラに説明しないと……フェリーチェ大尉」
フェリーチェ「は、何でしょうか」
提督「私はニッカネン少佐と話したい事がありますので、ホテルまでニッカネン少佐の車に乗ります……黒塗りの後部座席に一人だなんて寂しいでしょうけれど、ホテルに戻ったらその分の埋め合わせはするから……我慢してね?」まるで命令を伝えるかのような堅苦しいはっきりした口調で呼びかけると、口調を変えてこっそり耳打ちした……
フェリーチェ「了解しました、少将……まったく、貴女はすぐそうやって女と一緒になりたがるんだから」
提督「ごめんなさいね♪」見送りのため整列している将校や艦娘たちから見えないよう、こっそりとフェリーチェに小さなウィンクを投げた……
フェリーチェ「いいのよ」
ニッカネン「お待たせしました……さあ、どうぞ」
提督「ありがとうございます♪」助手席に乗せてもらい、まるでエアロックのような重くずっしりしたドアを閉める……途端に外部の音がシャットアウトされて、低いエンジン音だけが深い火山の鳴動か何かのようにお腹の底に伝わってくる……
ニッカネン「それでは出しますよ……ベルトは締めましたか」
提督「ええ♪」
ニッカネン「では行きましょう」
…まるで子供のようにわくわくしながら、ニッカネンの運転を楽しむ提督……名ドライバーを数多輩出しているフィンランド人だけあって、ニッカネンの運転は相当上手で、重さのあるボルボをキレのある挙動で走らせる…
提督「……少佐は運転がお上手ですね」道路の前方を見据えて巧みにボルボをコントロールするニッカネンのきりりとした横顔に、つい見惚れてしまう……
ニッカネン「そうですか?」
提督「ええ♪」
843 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/08/16(火) 01:51:09.71 ID:Wk3G7LJE0
…ホテル前…
ニッカネン「着きましたよ、少将」
提督「ありがとうございます、少佐……とても楽しいドライブでした♪」
ニッカネン「それはどうも……///」
提督「ええ、それでは明日の会議で」フェリーチェを乗せたメルセデスを待つ間に、肉が薄くひんやりとした……しかしすべすべしたニッカネンの頬へ挨拶のキスを済ませると、色白のニッカネンが少し頬を赤らめた気がした……
フェリーチェ「お待たせしました……ニッカネン少佐、本日は鎮守府の案内をありがとうございました」
ニッカネン「いえ。 ではまた明日」
フェリーチェ「はい」
…ホテルの部屋…
提督「ふー……到着して挨拶をするだけかと思っていたけれど、意外と盛りだくさんだったわね」
フェリーチェ「そうかもしれないわ……ところで、夕食の前に明日からの会議に備えてちょっと状況説明をしておきたいのだけど」
提督「分かったわ」礼服がシワにならないようきちんとハンガーに掛けるとブラウスのボタンをいくつか外して胸元をゆるめ、肩を回したり首を傾けたりして凝りをほぐしつつ、ベッドに腰かけた……
フェリーチェ「聞く気になってくれて助かるわ」
提督「まぁ、明日からの会議でどんな人が来るかくらいは知っておかないといけないでしょうし……どうぞ始めてちょうだい?」
フェリーチェ「ええ。明日からの会議だけれど、参加国は主催役のフィンランドを始め、スカンジナビアのノルウェー、スウェーデン……フィンランドからは陸・海・空軍や参謀本部の士官が数人、ノルウェー、スウェーデンからは佐官が何人か……スウェーデンからはこの前会ったラーセン大佐がメンバーに入っているわ」
提督「あぁ、あの気品がある美人の……♪」
フェリーチェ「今のは聞かなかったことにしておくわ……それからポーランド海軍からも佐官が何人か。 グディニヤやグダニスクみたいなバルト海に面した港湾もあるから深海棲艦対策には熱心で、フィンランドとも協同しているわ」
提督「ええ」
フェリーチェ「それから、問題のロシア軍将官ね……階級は少将で副官が一人。今回の件でわざわざモスクワから派遣されるほどの優秀な将官で、頭の切れるタイプだと思われるから注意して。 うかつなことを言うと言質を取られるから、うっかりしたことは言わないように」
提督「そうね……なんだか聞いているだけで、氷みたいに冷たい目をしてニコリともしない顔が目に浮かぶわ」
フェリーチェ「そう思っておけば問題ないはずよ。とにかくこちらとしてはオブザーバーとして、スカンジナビア側とロシア側がいがみ合わないよう上手く取り持ってあげれば良いだけだから……くれぐれも「ソ・フィン戦争」の火を付けることがないように」
提督「ええ。 それにしてもロシアの将官ね……士官学校の教官や先輩方はまだソ連が仮想敵だった頃だから詳しいけれど、私はもうその世代じゃないし……それに今までロシア軍の将官なんて会ったこともないから、どんな人なのかちょっと興味があるわ」
フェリーチェ「いいけど、例え美人だったとしても口説いたりはしないでちょうだい」
提督「……ということは女性なの?」
フェリーチェ「ええ……頼むから国際問題のタネを作るような真似はしないでよ」
…その頃・バルト海上空…
女性士官「……あと十五分程度でヘルシンキです、少将」
女性将官「ダー(ああ)……カサトノヴァ少佐、準備は整っているな?」灰皿に煙草を押しつけて消すと、副官の少佐に尋ねた……
少佐「はい」
少将「よろしい」
…独特なエンジン音とゆっくりと回転しているように見える二重反転プロペラが特徴的なツポレフTuー95「ベア」戦略爆撃機の高官輸送型……未だに世界で最高速かつ長大な航続距離を持つターボプロップ機の座席にロシア海軍の黒っぽい冬用制服を着た将官が腰かけ、向かいに副官の少佐が座っている…
少佐「……少将、フィンランドの戦闘機です」エスコート(護衛)というよりは警戒しているかのように、五時方向と七時方向(斜め後ろ)に占位したフィンランド空軍のFー18C「ホーネット」…
少将「結構、時間通りだな……」
少佐「ダー」
少将「それと今回の会議だが、よく目と耳を澄ませておけ」
少佐「はっ」
………
…
844 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/08/21(日) 01:41:30.76 ID:a8IKP+rY0
…翌日…
提督「どう、大丈夫かしら?」
フェリーチェ「ええ。金モールもよじれてはいないし、略綬もきちんとしているわ」
提督「なら大丈夫ね」
…紺色のきちんとした軍装に肩章の仰々しい金モールと、一列ごとの幅はまだ短いものの何だかんだで三列にわたっている略綬、ピシッとしたタイトスカートと黒ストッキングに、磨きあげておいた革靴……腰には礼装用の短剣を吊るし、髪は結い上げ、タイをきちんと締めた…
フェリーチェ「ええ、なかなか凜々しく見えるわ」
提督「ありがと♪」ちゅっと音をさせて、軽く唇にキスをする……
フェリーチェ「やめて、口紅の色が移るから……」
提督「分かったわ♪ ……さ、気合いを入れていかないとね」姿見の前でもう一度格好を見直すと部屋のロックをかけ、フェリーチェとロビーへ降りた……
…午前・会議場…
ニッカネン「お早うございます、カンピオーニ少将。フェリーチェ大尉も」
提督「ええ。 おはようございます、少佐」
フェリーチェ「おはようございます」
ニッカネン「各国の将校もおおかたやって来ましたし、会場も開いていますから……席におかけになってはいかがでしょう?」
提督「ありがとう、そうさせてもらいます」
…会議場はフィンランド国防省が用意した施設の一室で、かなり広々とした室内のスクリーンを取り囲んで「コ」の字型にテーブルと椅子が並べられ、席にはそれぞれの名前を記したネームプレートが英語と出身国の母語で併記されている……席には控え目な花とミネラルウォーターのボトル二本とグラスが置いてあり、提督とフェリーチェは自分の場所を確認すると、それからあちこち立ち歩いて各国の士官たちと顔を合わせ、軽く挨拶をかわした…
フィンランド軍士官「……それでは、そろそろ時間となりましたので……皆様、どうぞお席の方へ」ガヤガヤとざわめきが聞こえ、椅子を引く音や咳払いが一通り収まると、司会を務めるフィンランド軍参謀本部の士官が開式の辞を述べる……
フィンランド士官「……では早速ですが、近年のバルト海における「深海棲艦」の動静について、ニッカネン少佐から」
ニッカネン「各国の将官、また士官の方々……紹介にあずかりました、クリスティーナ・ニッカネン少佐です……」
提督「……」
フェリーチェ「……」提督はペンを持ってメモ帳を広げ、フェリーチェはラップトップのコンピュータを開いている……
ニッカネン「……冬季になりますとバルト海の結氷により、いわゆる深海棲艦の活動は低調となることは周知の事実かと思われます。しかしながら、フィンランド湾およびバルト海東部では深海側による機雷の敷設により、艦艇の行動に不自由を生じており……」
提督「……なるほどね」
ニッカネン「……これにより、ポーランド、バルト三国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)、ロシア、ドイツの一部で海運や漁業に影響が生じております。このことは沿岸各国において大変重大な……」スクリーンにコンピュータの図表データを表示し、簡潔な説明を終えて着席したニッカネン……
フィンランド士官「ありがとうございます、少佐。では続いて……」
…ニッカネンに続いて各国の士官がそれぞれの国の立場から状況の説明を行う……とはいえ、各国ごとにそれぞれの思惑と利害関係があるので、そう簡単には「足並み揃えて」といった具合にはなってくれない……結局、二時間近くかかったそれぞれの状況説明の後、今度は「艦娘」の運用や担当範囲、あるいは各国海軍の連携について、どこで折り合いを付けるかの長い長い話し合いが始まった…
ノルウェー軍士官「……バルト海に関しては、分担は各国のEEZ(排他的経済水域)を目安にすべきだと考えますが」
ニッカネン「それではこちらの負担が少し大きすぎるように思います……わが軍がバルト海東部から出現する深海棲艦を抑えているのは事実ですから、ぜひ各国の協力もお願いしたいところですね」
ポーランド海軍士官「同感です。バルト海東部で深海棲艦を跳梁跋扈させることは、ひいてはバルト海全体の制海権を失うことにつながる」
ラーセン「スウェーデン海軍のラーセンです。今のご意見には賛同いたします。 しかし本官は同時に、バルト海東部での活動にもっとも適しているのがフィンランド、ポーランド海軍である事も間違いないと思いますが」
…結局のところ、各国いずれも深海棲艦対策で負担を担ったり割りを食ったりするのは避けたい上、自国の艦娘たちが怪我をしたり、あるいはもっと悪いことが起きたりという事態は避けたい……そういった面で、各国いずれもできるだけ艦娘たちを出撃させたくないのが実情だった……かといって、手の内が読めない……しかもバルト海沿岸に対する領土的野心を捨ててはいないロシア海軍バルチック(バルト海)艦隊の手を借りることもしたくはない…
ロシア海軍代表「……」むっつりと黙りこくっているロシア海軍の数人は、黒っぽい制服もあいまって異彩を放っている……その中には女性の将官も一人いて、冷たい目で会議場内を眺めている……
提督「……」
フェリーチェ「……」しばらくけりは付きそうにないと、会話を黙って聞いている提督とフェリーチェ……少し効き過ぎな暖房のせいで喉は渇き、きちんとした正装のせいでひどく暑苦しい……
提督「……しばらくは様子見で行くわ。みんな疲れた頃合いになったら折衷案でも出してみるわね」
フェリーチェ「任せるわ」
845 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/08/27(土) 01:46:37.57 ID:WyYZz/100
…またしばらくして…
ニッカネン「……では、スウェーデン海軍としては「艦娘」の派遣には応じられないと言うことでよろしいですか?」
ラーセン「……本官個人としてはそちらと協力すべきであるというのは理解しているのですが、残念ながらわがスウェーデン海軍もそこまでの規模を有しているわけではありませんので……ただ、先ほど申上げたように哨戒機による支援は政府の方でも確約しておりますので、実行が可能です」
…きりりとした美しい顔に疲れも見せず、淡々と意見を述べるラーセン大佐……とはいえ、どちらかと言えばフィンランドを「緩衝地帯」として扱って、自国の中立を崩さないよう慎重に振る舞ってきたスウェーデン政府の指示もあるのか、ニッカネンの欲しい……ひいてはフィンランド海軍が聞きたい「艦娘」の派遣や協同での哨戒といった言葉は出てこない…
ニッカネン「なるほど……それからポーランド海軍ですが、バルト海北部の哨戒に協力することは難しいと」
ポーランド海軍士官「残念ながら。 我々ポーランド海軍の「艦娘」たちは自由ポーランド軍当時の艦艇……つまりほとんどはイギリスから貸与・提供された旧型駆逐艦であり、かつグダニスクを始め、我が国の港湾都市と海路を維持するために戦力を割かなければならないので、そこまでの支援は難しいと思われます……その分、わがポーランド海軍としてはバルト海南部における航路の維持と海上交通のために尽力しております」
…きちんとした黒いダブルの上着に金ボタンと金モールが映えて、いかにも海軍士官らしいポーランド軍の代表たち……何人かは綺麗に切り整えた口ひげを生やしていて、風格がある……が、やはり上層部の指示か、フィンランド側に対しては煮え切らない態度を取っている…
提督「……まさに「会議は踊る」ね」横に控えているフェリーチェにこっそりささやいた……
フェリーチェ「そうね……まぁ、どこの海軍も自分から大変な哨戒や掃海を請け負いたくはないもの」
ニッカネン「ラーセン大佐、スウェーデン海軍は海防戦艦を基幹に駆逐隊、小艦艇群を有しておりますが……海面の氷が溶ける夏の時期だけでも良いのです、そちらの艦娘たちと共同作戦を行うことは叶いませんか?」
ラーセン「無論、そういった打診があれば検討の上で派遣することもあり得るでしょう。とはいえ先のことはまだ分かりかねます。 その時期になったらまた改めてお国の政府からストックホルムに打診していただければ、具体的な回答が出来るものと思います」
ニッカネン「なるほど、では現状では何も確約は出来ないと?」
ラーセン「先の情勢が予見出来ない以上、本官としてはそう回答するしかありません……」
ニッカネン「……」
…各国の代表から「支援したいのはやまやまなのですが……」と、気持ちばかりで実行はさっぱりという支援案を聞かされ、とうとう黙りこくって四杯目のコーヒーをすすりはじめたニッカネン……ざわつきばかりで誰も意見を言おうとしない中、提督が切り出した…
提督「……すみません、少々発言をよろしいですか?」
司会「え、ああ……どうぞ」
提督「ありがとうございます……イタリア海軍からオブザーバーとして派遣されましたカンピオーニです」長らくだらだらと続いていた会議の間、メモをとりながら温めていた意見を述べる……
提督「えー、まずはノルウェー海軍のヨハンセン大佐……大佐は先ほど「駆逐隊をバルト海東部まで派遣するのは難しい」とおっしゃっておりましたね」
ノルウェー海軍代表「ええ。 ノルウェー西岸に深海棲艦が出没する可能性がある以上、遠くフィンランド湾にまで艦娘を派遣してしまっては、強力な敵艦の出現があった際これを呼び戻しても間に合わない危険がありますので」
提督「確かに……では、スウェーデン南部ではいかがですか?」
ノルウェー士官「スウェーデン南部、ですか?」
提督「ええ。 例えばカールスクルーナの沖合といった所ですが」
ノルウェー士官「そうですね、それなら……いやしかし、大ベルト海峡の航行に時間がかかる可能性がありますから……」
提督「アムンセンやナンセンを先輩に持つノルウェー海軍の皆さんが、まさか海峡ひとつにそこまでの苦労はなさらないでしょう?」ノルウェーが生んだ偉大な航海者や冒険家を引き合いに出して冗談めかすと、少し笑い声が聞こえた……
ノルウェー士官「それは、まぁ……」
提督「では、ラーセン大佐」
ラーセン「何でしょうか、カンピオーニ少将」
提督「ええ……お国の南部方面に展開する駆逐隊は、基地であるカールスクルーナを中心に、オーランド諸島からエストニア沖、スウェーデン南端のマルメを結ぶ三角形を哨戒しているという認識でよろしいですか?」
ラーセン「おおよそその認識で合っています」
提督「では、例えばマルメからカールスクルーナまでのエリアをノルウェー海軍と協同で哨戒することは可能ですか?」
ラーセン「不可能ではありませんね、すでに演習などで実績があります」
提督「分かりました……では、その分艦娘の行動エリアを北部に移して……例えば哨戒線をエストニア、タリンの沖辺りまで北上させることは出来ますか?」
ラーセン「……ええ、不可能ではありません」しばし熟考してから、ゆっくりと言った……
提督「では、こうしたらいかがでしょう……バルト海の入り口、カテガット海峡はノルウェー海軍、デンマーク海軍にお任せする……そうすればスウェーデン海軍のうち、イェーテボリに配属されている艦娘たちは手すきになります。 それをカールスクルーナに移せば、フィンランドを支援する戦隊を派遣する余裕が出るのではありませんか?」いわば「玉突き式」に、各国がそれぞれ隣国を支援する形を提案した提督……
提督「それに移動するのは艦娘たちだけで、フリゲートや潜水艦といった通常戦力を移動させるわけではありませんから、費用もそこまでかからないと思いますが」ついでに海軍の悩みのタネである「予算」を盾にされないよう、先手を打って言い添えた……
ノルウェー士官「ううむ……」
ラーセン「なるほど」
ニッカネン「……」
提督「それはそうと、少し休憩にしませんか? さすがに皆さん疲れが見えますし……いかがでしょう?」
司会「そうですね、では一時休憩とします」
846 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/09/03(土) 11:07:46.49 ID:/gCWDoGZ0
ラーセン「カンピオーニ少将、先ほどはお見事でした」
提督「いえいえ、何かたたき台がないことには永遠に話が進まないでしょうし……それにオブザーバーの私なら、多少勝手なことを言ってもあとに響くことはないでしょうから♪」
ニッカネン「違いありませんね」
…会議室から出て別室で休憩をとる各国の代表たち……室内ではポットのコーヒーと軽食が供され、それぞれ立ったり座ったりしながら二ヶ国間で話を詰めたり、あるいは頭に栄養を送るため、小さくカットされているサンドウィッチをつまんだりしている……提督は消しゴムほどの大きさをした可愛らしいサンドウィッチを三つばかりつまみ、砂糖とミルクを入れたコーヒーをとり、それからスウェーデン海軍のラーセンとフィンランド海軍のニッカネンに合流した…
提督「それに、スカンジナヴィアの三国は関係がとてもいいようですから……我々イタリアが沿岸の防衛をフランスに任せるというのよりは現実味がありますよ♪」冗談めかして小さくウィンクを投げた……
ラーセン「ふふ、確かに……♪」
提督「……ところでロシア海軍の代表ですが……まだこれと言った発言がありませんね?」
ラーセン「ええ。ポーランド海軍の提案に反対意見を述べた以外には」
提督「どういうつもりなのでしょう? それにバルチック艦隊の大佐が、しきりに横の将官を気にしているようでしたが……」
ニッカネン「あの冷ややかな表情をした少将でしょう?」
提督「ええ……いったい誰なんです?」ロシア海軍代表は談話室でも一か所に固まり、あたかも鉄のカーテンを引いたままに見える……その中心にいる押し出しの強そうな赤ら顔の大佐はバルチック艦隊代表を務めているが、その大佐はハンカチで額を拭いながら、しきりに後ろの少将を気にしている……
ニッカネン「あの将官ですが、今回の会議に合わせてモスクワから派遣されてきた少将です」
ラーセン「おそらくはお目付役といったところでしょうね……ソ連時代ならさしずめ「政治将校」といった役どころでしょう」
提督「なるほど、それは難物ですね」
ラーセン「ええ……それにロシアが会議に絡んでくるとなると、途端に話がこじれてしまいますから」
ニッカネン「同感です。 彼らは何かにつけて、こちらが賛成だというと「ニェット(ノー)」だと言いますからね」
提督「じゃあ会議がまとまった頃になって壊してくる可能性も……?」
ラーセン「ないとは言えないでしょうね」
提督「困りましたね……それで、ロシア海軍は具体的に何を引き出したいのでしょう?」そう問いかけると顔を見合わせたラーセンとニッカネン……
ラーセン「……それは何とも言いがたいところですね」
ニッカネン「具体的なところはあまりはっきりしていないようにも感じられます……しいて言うなら、フィンランド湾における主導権は握りたいが、かといって声高に主張して自国の艦娘を使うことになってしまったら、それはそれでフィンランドをはじめ沿岸各国の得になるので面白くない……といった具合でしょう」
提督「うーん……そうなると駆け引きが面倒になってきますね」
ニッカネン「ええ……なにしろ向こうは我々が深海側との戦闘で疲弊するのを見ていればいいわけですから」
提督「しかし、ロシアもフィンランド湾が深海棲艦に閉塞されれば困る事になるのでは?」
ラーセン「確かに困らないとはいいませんが……あちらは貧乏にも抑圧にも慣れていますし、国土が大きいだけ体力がありますから」
ニッカネン「フィンランド湾やバルト海で深海棲艦が跋扈するような事態が続けば、海運においては相対的にこちらの方が大きなダメージを受けることになりますので」
提督「では、ロシア海軍に協力を願うほかはない……と?」
ニッカネン「そうならざるを得ないでしょう……もっとも、先ほど少将が切り出した「たたき台」のおかげで、ロシア海軍抜きでもバルト海における協力態勢がまとまりそうになっていますから、このまま合意する方向で持って行けば向こうがあわて出す可能性もあります」
ラーセン「あとはポーランドやバルト三国に協力を取り付けるだけですが、そこはどうにかなるでしょう」
提督「……そうですか、なら会議もどうにか無事に済みそうですね」
ニッカネン「そう願いたいものです……いい加減この暖房で蒸れた室内からおさらばして、サウナにでも行きたいところです」
提督「あー、フィンランド式サウナですね。 聞いたことはあります」
ニッカネン「……こちらへ来てから、まだ経験していらっしゃらないのですか?」どちらかというと感情表現の小さなニッカネンが珍しく驚いたような顔をした……
提督「ええ。ヘルシンキに来てからまだ二日あまりですし、その機会がなくて……」
ニッカネン「わかりました……会議が終わったら、どこかでご案内しましょう」
ラーセン「フィンランドの方はサウナがお好きですものね……そろそろ休憩も終わりのようですし、参りましょうか」
提督「ええ」提督たちが歩き出すと、あちこちで耳をそばだててきたらしいフェリーチェが戻ってきて、さりげなく提督の脇についた……
フェリーチェ「……どうだった?」
提督「そうね……ニッカネン少佐とラーセン大佐はロシア抜きで話をまとめようとすることで、向こうを慌てさせたいみたい」
フェリーチェ「なるほど、いい形になってきたわね……フランチェスカ、さっきの貴女の意見でノルウェーも渋々ながらバルト海に駆逐隊を出す考えに傾き始めているわ。 これならスカンジナヴィア三国とポーランド、バルト三国の間で合意が得られるかもしれない……そうなればロシアの提督たちはは立つ瀬がなくなって、慌てて参加する方向に舵を切るかもしれないわ」
提督「ふう、助かったわ……てっきりこのまま会議室で雪解けの季節まで缶詰かと思っていたところよ」
フェリーチェ「金モールをつけた少将なのにだらしないわね……大尉の私だって一日や二日の雪隠詰めくらい耐えられるのに」
提督「ふふ、ミカエラにはかなわないわ……♪」
847 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/09/12(月) 01:13:04.31 ID:CXXTcSsw0
…夜…
司会「えー……では、今日の会議はここで一旦中断し、続きは明日の0940時から行います。お疲れさまでした」司会が閉会の挨拶をすると、あちこちでガタガタと椅子を引く音がして、席を立った海軍士官や将官たち……
提督「……ふー、疲れた」会議場の玄関ホールでホテルまで送ってくれる黒塗りの到着を待ちながら、くたびれた様子で長いため息をついた……
フェリーチェ「お疲れさま、フランチェスカ」
提督「ええ……だらだらと続くばかりの会議って嫌いだわ」
フェリーチェ「そんなものが好きな人間なんていないでしょうよ」
提督「確かにね……それにしても、まるで味のないガムを噛み続けているようだったわ」
フェリーチェ「同感ね」
…昼下がりから再び始まった会議ではスカンジナヴィア三国が妥協点を見つけてお互いに歩み寄りはじめた矢先に、今度はロシア海軍の代表がああだこうだと口を挟みだし、それに対してポーランドやバルト三国が反発して、いつ果てるとも分からない不毛な堂々巡りを始めていた……提督も円満に会議がまとまるよう尽力したが、責任も権限もないオブザーバー、しかもバルト海沿岸諸国とは馴染みの薄いイタリア海軍代表という立場では、いまいち各国の代表たちに響かない…
提督「とにかく、ホテルに戻ったら美味しいものでも食べて……それからベッドでぐっすりしたいわ」
フェリーチェ「良い考えね……ほら、車が来たわよ」
…数十分後・ホテル…
提督「あー……これでやっとくつろげるわ」制服をハンガーにかけるとブラウスやタイツを脱ぎ捨てながら、ベッドに腰かけた……
フェリーチェ「服は脱いだようだし、シャワーをお先にどうぞ?」
提督「ミカエラが先でいいわよ?」
フェリーチェ「こういうのは提督が先って決まっているものよ……それに、私は今日のやり取りで気になった部分をまとめておくつもりだから」
提督「そう……じゃあお先に入らせていただくわ」
…ホテルの清潔な……しかし鎮守府の豪奢な大浴場とは比較にならないほどせせこましい浴室でシャワーを浴び、脚の収まらないバスタブに身体を沈めた提督……足裏やふくらはぎは座りっぱなしだったせいでこわばり、心なしかいつもよりむくんでいる気がする…
提督「ふぅ……きっと鎮守府のみんなは夕食を済ませたころね。お風呂から出たら電話でもしてみようかしら」
…数分後…
提督「ミカエラ、出たわよ」ホテルに備え付けの、ふかふかした着心地の良いバスローブをまとい、メイクも落としてさっぱりした提督……
フェリーチェ「そう、なら私も入ってくるわ」
提督「ええ……それと、お湯の栓をひねるときは注意したほうがいいわよ。急に熱くなるから」
フェリーチェ「ありがとう、気を付けるわ」
提督「さて、それじゃあ……と」ペットボトルのミネラルウォーターを三分の一ばかり飲み干すと、ベッドサイドの小机に置いておいた携帯電話を取り、電話帳から鎮守府を選んで電話をかけた……
…鎮守府…
デュイリオ「あら、電話でございますね……はい、こちらタラント第六鎮守府」
提督「もしもし、デュイリオ?」
デュイリオ「まぁまぁ、提督♪ お声が聞けて嬉しいです」
提督「私も貴女の声が聞けて嬉しいわ、デュイリオ。 今日はもう用事もないし、時間があるから電話をしたのだけれど……みんなはどう、元気でいるかしら?」
デュイリオ「あぁ、提督。 それがもうこちらは大騒動でして、すぐにでも鎮守府に戻ってきていただかないと……」
提督「えっ!?」
デュイリオ「そうなんです……ライモンドは提督がいらっしゃらないからとふくれ面、ポーラはキアンティの飲み過ぎですっかりへべれけ、チェザーレは近くの街で人妻と火遊びをして警察沙汰になる始末……シロッコは階段で転んでひっくり返り、ディアナは皿を割り、ルチアは一晩中鳴き続け……ふふっ♪」真面目な口調で言っていたが、我慢しきれなくなったのか含み笑いをもらしたデュイリオ……
提督「もう……からかわないでよ、一瞬本当に何かあったのかと思ったじゃない」
デュイリオ「くすくすっ♪ 申し訳ありません。提督とお話が出来て嬉しかったものですから、つい……こちらは万事順調ですよ♪」と、電話口の向こうからルチアの吠える声が聞こえてくる……
提督「良かったわ……でも、それにしてはルチアが騒いでいるわね? どうしたの?」
デュイリオ「ああ、ちょうどディアナが明日の夕食に出す牛すじ肉のシチューを作ろうと下ごしらえをしているものですから」
提督「それで大騒ぎをしているのね……♪」
デュイリオ「ええ……ところで提督、せっかくですからここにいる娘たちと順繰りにお話でもなさってはいかがでしょう?」
提督「そうね……いない娘たちには申し訳ないけれど、そうさせてもらうわ♪」そう言って、何人かの艦娘たちとたわいもない会話をする提督……
フェリーチェ「出たわよ……っと、楽しいお話の最中だったようね」
提督「ええ……♪」近況や来たるクリスマスの話をしつつ、フェリーチェに向けてウィンクを投げた……
848 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/09/20(火) 01:17:03.17 ID:lu5tE7z10
…翌朝…
提督「ふわぁ……おはよう、ミカエラ」
フェリーチェ「おはよう、フランチェスカ……コーヒーはミルク入りの方が好きだったわね」
提督「ありがと、覚えていてくれたのね……♪」ベッドで半身を起こし、コーヒーのマグを受け取る……室内はセントラルヒーティングで暖かいが、片手で毛布を引っ張り上げて胸元を隠した……
フェリーチェ「今日の日程は覚えている?」
提督「ええ、大丈夫よ」砂糖少しとミルクの入ったコーヒーをひとすすりしてほっと小さく息をつくと、くしゃくしゃになった髪を軽く手で梳いた……
フェリーチェ「なら結構……新聞は?」
提督「気にはなるけど、あいにくフィン語もスウェーデン語も読めないわよ?」
フェリーチェ「まさか、私が貴女にフィン語の新聞なんて勧めるわけがないでしょう。記事の少ない海外向けだけど一応「レプブリカ」よ」
提督「そう、それじゃあ後で読むわ」
…ベッドから降りるとバスローブを羽織って浴室に行き、歯を磨いて顔を洗い、それからシャワーを浴びてさっぱりした…
提督「……改めておはよう、ミカエラ♪」軽く頬にキスをする提督……
フェリーチェ「ええ、おはよう。 いいけど、早く髪を乾かさないと時間に間に合わなくなるわよ」報告書か資料か、ラップトップを立ち上げて手早くキーを叩きながら、提督のあいさつに軽く答えた……
提督「それもそうね」
…タオルで髪を包んで乾かしつつ海外版の「レプブリカ」紙にざっと目を通し、読み終わったところで化粧台の前に座り髪を整え始める……肌に当たる櫛の感触を楽しみながら長い髪をくしけずり、冷風から温風へと切り替えながらドライヤーをあてる……髪がある程度まとまったところで軍帽に合うような形に結い始め、ピンを差して形をまとめた…
提督「うん、いい感じ……♪」少しもつれているこめかみの辺りを直し、鏡に向かって微笑んでみたり真面目な表情を浮かべてみたりする……
フェリーチェ「そろそろ終わらせないと、朝食を食べ損ねるわよ」
提督「はいはい」
…手際よくルームサービスを頼んでおいてくれたフェリーチェに感謝しつつ、バスローブ姿で朝食をしたためる提督……向かいにはフェリーチェが座り、ライ麦パンとコケモモのジャム、しっかりした味わいのチーズといった朝食を淡々と食べる…
提督「それにしても……」
フェリーチェ「ん?」
提督「フィンランドの食事は……何というか、ずいぶんと素朴な感じね」ジャムを付けたライ麦パンをよく噛んで飲み込むと、少し考えてから言葉を選んだ……
フェリーチェ「厳しい土地だもの、仕方ないわ……ま、今回の会議が上手くまとまればパーティがあるし、そうしたらきっと美味しいものだって出るわ。ごちそうのためにも頑張ってちょうだい」
提督「ええ、そうさせてもらうわ」
…会議場…
ニッカネン「おはようございます、少将。フェリーチェ大尉も」
提督「ええ、おはようございます……ぴりっとした空気のおかげで目が覚めますね」
ニッカネン「田舎に行けば森の香りとしっとりした朝霧でもっと空気を楽しめるのですが、贅沢は言えませんね……昨夜はよくお休みになれましたか」
提督「ええ、おかげさまで……おはようございます、ラーセン大佐」まだ日の出を迎えたかどうかもあやふやな冬のフィンランドの朝だというのに眠そうな様子一つ見せず、きちんと折り目正しい様子のラーセン……
ラーセン「おはようございます」
ニッカネン「それでは、会議場に入りましょうか」
…午前中…
司会「……では、この件に関しては賛成多数で可決とします。次の議題ですが……」
提督「……昨日に比べればずいぶんと話が早くまとまってくれそうね。筋肉痛のカタツムリから、短距離走者のカタツムリくらいにはなったんじゃないかしら?」
フェリーチェ「昨日のやり取りで互いの立場が明らかになったからでしょうね。お互いに制服組同士、小難しい外交に関しては政府に任せて、身内でどうにか出来る範囲のことだけ折り合いを付ければいい」
提督「ええ……この調子なら、カチコチの雪だるまになる前に帰国できそうね♪」口元を手で隠し、小声でフェリーチェに耳打ちした……
フェリーチェ「どうかしら。あちらがそれで納得してくれればいいんだけど……」向かいのテーブルから冷たい目で会場を見わたしているロシア海軍の女性少将をちらっと眺めた……
ロシア海軍将官「……」
………
…
849 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/10/02(日) 01:45:34.45 ID:1wqdHT430
ニッカネン「その意見には納得できかねます、マリノフスキー大佐」
ロシア海軍大佐「どう思われようとご自由だが、我々はそう決定している……少佐」赤ら顔の大佐は規模の小さいフィンランド軍「少佐」が他国なら大佐クラスに相当するにもかかわらず、下の階級だと言わんばかりの態度を取っている……
提督「また始まったわね……」
…右耳には単調な声で話す同時通訳のヘッドホンを当て、もう片方の耳で生の声に含まれている調子や強弱を聞き、相手の出方を確かめようとする提督……手元の手帳には交渉材料に使えそうな単語がいくつか書き散らしてあり、隣のフェリーチェはメモ帳とラップトップを使い分け、さらに目線は相手の口元や視線を捉えている…
フェリーチェ「バルト海艦隊の代表はモスクワから来たお目付役の前で強気な態度を取って「いいところ」を見せたいのよ」
提督「きっとそうね……ねぇミカエラ、そろそろニッカネン少佐の援護射撃をしてあげようかしら?」
フェリーチェ「待って、ラーセン大佐が動くわ……」
ラーセン「失礼、発言をよろしいですか?」
司会「ラーセン大佐、どうぞ」
ラーセン「どうも……失礼ながらマリノフスキー大佐、貴国のバルト海艦隊に所属する「艦娘」たちだけでバルト海全域をカバーするのは物理的に不可能かと思いますが」
大佐「ニェット(いや)、本官はそう思わない」
ラーセン「そうでしょうか? ですがそちらの艦隊に所属している「艦娘」を海域に展開させると、哨戒可能な範囲は周囲……浬、対してフィンランド湾の面積はこれだけあります……明らかに足りないように思えますが?」
大佐「……」
ミカエラ「……フランチェスカ」
提督「ええ。 マリノフスキー大佐、私からも一つ……」
…午後…
司会「では、以上でバルト海「深海棲艦」対策会議を終了いたします。皆様、お疲れさまでした」
提督「ふー……どうにかまとまってくれてよかったわ」
フェリーチェ「お互いに妥協出来そうなところまで持って行けてよかったわ……ロシア側もこっちの意見を押し切るほどの力はないし、どこかで折れるとは思っていたけど」
提督「ミカエラの読み通りね……」と、資料を小脇に抱えたニッカネンが近寄ってきた……
ニッカネン「お疲れさまでした、カンピオーニ少将、フェリーチェ大尉」
提督「いえいえ、少佐こそ……途中、なかなか話が決まらなくて大変でしたね」
ニッカネン「いえ、沿岸諸国の会議ではこのくらいよくありますから……ところで少将」
提督「はい、なんでしょう?」
ニッカネン「この後、なにかご用事は?」
提督「いえ、せいぜいホテルに戻って夕食を食べるくらいです」
ニッカネン「そうですか……ところでこの前お話ししたサウナですが……もしご都合がよろしければ、これから一緒にいかがですか?」
提督「ええ。 せっかくの機会ですから、ぜひお願いします♪」
ニッカネン「それはよかった……フェリーチェ大尉は?」
フェリーチェ「いえ、私は片付けなければならない資料があるので明日にでも……申し訳ありません」
ニッカネン「おや、それは残念です……では少将、後でそちらのホテルまでお迎えにあがります。1600時頃でよろしいでしょうか」
提督「ええ。 何か必要なものはありますか?」
ニッカネン「そうですね、同性とはいえ身体を見られるのが気になるようでしたら水着が必要ですが、他のものはタオルを始め、たいていの浴場でレンタルがありますので」
提督「分かりました、それじゃあ楽しみに待っていますね」
ニッカネン「はい、それでは……」
提督「もう、ミカエラったら……私のために遠慮しなくたってよかったのに♪」
フェリーチェ「よく言うわ。 とにかく、サウナにもフィンランド美人にものぼせないようにすることね」そう言うとあきれたように小さく肩をすくめた……
850 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/10/16(日) 01:43:37.68 ID:E5njUObA0
…夕方・ホテルのロビー…
ニッカネン「お待たせしました」
提督「いいえ、私もちょうど支度を終えて降りてきたところです……明るい黄色がよく似合っていらっしゃいますね♪」
…北欧の冬は昼が短く、1600時ともなればすでに周囲は暗くなっている……私服に着替えた提督がホテルのロビーで待っていると、ニッカネンがやってきた……着ている服は特にお金をかけているいう風でもなく、むしろごくあっさりとしたファストファッションのものらしいが、白い肌に似合う明るい黄色のセーターと淡いベージュのコート、明るいグレイのスラックスでスマートにまとめている…
ニッカネン「ありがとうございます、アドミラル・カンピオーニ」
提督「ふふっ……もう制服を脱いでいるのに「アドミラル」もないでしょう。 フランチェスカか、さもなければ「フランカ」で構いませんよ?」
ニッカネン「ではそうさせていただきます、フランチェスカ……」
提督「ええ。ところで私も「クリスティーナ」と名前で呼ばせてもらってもいいですか?」
ニッカネン「はい、もちろんです……それでは参りましょう」提督をボルボの助手席に乗せると自分は運転席に乗り込んだ……
…公共サウナ…
ニッカネン「さぁ、着きました……車を駐車場に停めてきますから、どうぞ先に降りて下さい」
提督「ええ」
…そもそも「サウナ」という言葉自体がフィン語であり、人口よりもサウナの方が多いと言われるほどサウナ文化の盛んなフィンランド……当然ヘルシンキ市街にも公共サウナを始め、リゾート用の高級な場所から親しみやすい大衆向けの浴場までさまざまなサウナ施設が点在している……ニッカネンが提督を連れてきたのは比較的新しい感じのする施設で、受付で貴重品を預けると、二人は暖房の効いた清潔感のある更衣室で服を脱いだ……提督のバラ模様をあしらった黒いブラとパンティが淡いクリーム色の肌を引き立たせ、服を脱ごうと身動きするたびに豊かな乳房が「たゆんっ……♪」と弾む…
ニッカネン「……」
提督「どうかしましたか?」ニッカネンの控え目な視線に気付いた提督が、小首を傾げて問いかけた……
ニッカネン「ああ、いえ……///」
提督「ご覧になりたければ遠慮せずにどうぞ? 運動不足なもので、少し肉付きが良すぎるところもありますが……それでもよろしければ♪」冗談交じりに軽く笑みを浮かべ、ウィンクを投げる…
ニッカネン「いえ、そういうつもりでは……中に入りましょう///」
…サウナ内…
提督「あ……とてもいい針葉樹の香りがします」
ニッカネン「そうでしょう」
…おそらく杉材で作られたと思われるほの明るい室内にはやはり木で出来たベンチがあり、中央には枠で囲われて、黒っぽい石が積み上げられている……提督は「サウナ」と聞いて真夏の機関室のような状態を想像し身構えていたが、室内の温度はずっと穏やかで「熱い」というほどでもなく、ほっと安堵してニッカネンの隣に腰を下ろした…
ニッカネン「……サウナは初めてだそうですから、私が「ロウリュ」を行いますね」
提督「ええ」
…手桶に水を汲むと、中央で熱を放っている石にそれをかけたニッカネン……しゅうしゅうと音を立てて水蒸気が立ちこめると、次第に室内が蒸れた感じになってくる…
ニッカネン「こうして蒸気を立てて、ほどよく汗をかくようにします」
提督「なるほど……」
…とつとつと静かに話すニッカネンの、陶器のように白い肌に赤みが差してくるのを見ていると、提督自身も身体から汗が浮いてくるのを感じた……汗が出てくるのと同時に身体がじんわりと熱を帯び、真っ白なタオルがしっとりと湿り気を帯びてくる…
ニッカネン「……それでは、そろそろヴィヒタを使いましょう」
提督「ヴィヒタ?」
ニッカネン「これです」まるで瞑想にふけるように蒸気の中でしばし沈黙していたニッカネンだったが、つと席を立つと、片隅に置いてあった細い白樺の枝を取り上げた…
提督「あ、なんだか聞いたことがあるような気がします……それで軽く叩くのでしたね?」
ニッカネン「そうです、よくご存じで……どうぞ、背中を向けて下さい」
提督「どうかお手柔らかにお願いします♪」
ニッカネン「ええ、大丈夫です」
…冗談交じりに言った提督に対して、生真面目に答えるニッカネン……提督が背中を向けると、ニッカネンがほどよい勢いで白樺の枝を振るった……枝を振るたびに残っている白樺の葉から雫が飛び散り、ふわりと新鮮な木の葉の香りが漂う…
ニッカネン「痛くはないですか」
提督「ええ、心地よい程度です」
ニッカネン「そうですか……では、そろそろ交代をお願いします」
851 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/10/27(木) 01:26:08.17 ID:e9noRa9A0
提督「初めてですから、もし加減を誤っていたらおっしゃって下さいね」そう言うとヴィヒタを手に取って、ニッカネンのしみひとつない白い背中にそっと枝を振るう…
ニッカネン「もう少し強くても大丈夫ですよ」
提督「そうですか……では」
…ニッカネンの身体はやせていて、うっすらとシルエットが浮かぶ鎖骨まわりや肉の薄い脇腹は、まるで提督が持っている白樺の枝のように細くしなやかに見える……ヴィヒタで背中や肩甲骨の辺りを軽く叩くと血流が良くなった部分がほのかに赤みを増し、白かった肌が桃色を帯びてくる…
ニッカネン「……そのくらいで結構です」
提督「分かりました」
ニッカネン「それでは、水浴に行きましょう」
…冷水浴の浴室…
ニッカネン「いきなり入ると冷たくて心臓に悪いですから、足先からそっと入って下さいね」
提督「ええ」
…サウナを出た隣にある大きなバスタブには水が満たされていて、そこにそっと身体を沈めていく……冷水といってもおそらくは常温の水で、ことさらに冷やしてあるというわけでもないのだろうが、じんわりと汗が滴るほど熱を帯びた身体にはまるで氷水のように感じられる…
提督「っ……冷たいですね」
ニッカネン「そうかもしれません。ですがこれで身体を冷まし、同時にすっきりさせることが出来るので、サウナでは外すことの出来ない手順なんですよ」そろりそろりと入っていく提督とは対照的に、躊躇なく身体をひたしていく……
提督「少なくとも流氷の浮いている海に飛び込んだりする必要はないようですね……助かりました」肩の下まで冷水に浸かると浴槽がかき回されて冷感が増すことがないよう、できるだけ身動きしないようにしながら冗談めかした……
ニッカネン「ああいうのはことさらに……えーと……そう、チャレンジ精神が旺盛な人がやるものですから」
提督「そうだろうと思いました……」
…二度目のサウナ…
ニッカネン「……ところでキルッコヌンミ鎮守府にご案内した際、フランチェスカも銃猟をすると言っていましたが、そのお話をもっと聞きたいですね」
提督「猟の話ですか、いいですよ」冷水浴を終えてサウナに戻ると、蒸気の中で好みの銃や獲物の話をする提督とニッカネン……
提督「……そういえば、クリスティーナはどんな銃が好みですか?」
ニッカネン「私ですか? そうですね、私は値段と性能が折り合えば充分なので、あまり特定のモデルにこだわった事はありませんが……今のところ、中古の垂直二連が一丁と「ブローニング・オート5」を持っています」
(※ブローニング・オート5…天才的銃器設計者「ジョン・M・ブローニング」による、世界で初めて成功を収めた大ベストセラーのセミオートマティック・ショットガン。原型は1898年(明治31年)と古いが基礎設計が優れており、ベルギーFNやレミントンを始め、日本を含めた世界中で長く生産された)
提督「オート5はいい銃ですね……普段は鹿撃ちだそうですね?」
ニッカネン「そうです。普段は鹿と、それから鴨のような野鳥類ですね。他にはトナカイ撃ちも数回ほど……あと一頭だけ、クマも経験があります」
提督「なるほど……私は大きくてもせいぜいイノシシ程度ですね。実家では食べるために撃ったり、地元のコムーネ(自治体)から駆除依頼が来たりしていましたので」
ニッカネン「あれはあれで危険だと聞いていますが」
提督「ええ。イノシシはああ見えて意外と素早いですし、雄の牙で太ももを突き上げられたら命に関わりますので……撃ちに行くのは秋が多くて冬場の繁殖期には基本やりませんでしたが、その時期は雄雌ともに気が立っているので特に危険ですね」
ニッカネン「なるほど」
…提督はどちらかというとニッカネンを「寡黙で人付き合いが好きではないタイプ」だと思っていたが、サウナの蒸気の中でぽつぽつと……しかしあまり途切れる事なく会話に興じるニッカネンを見るかぎり、別にそういうこともないらしい……隣に座って小さな身振りを交え、シカ撃ちの話やフィンランドの森の話をするたびに汗の玉が滑らかな白い肌を下っていき、小ぶりで形のいい乳房の谷間や、金色の野原のような脚の間に流れていく…
提督「……」サウナの蒸気に交じってニッカネンの爽やかな汗の香りと、発散される体温が隣に腰かけている提督に伝わってくる……
ニッカネン「それで、去年のシーズンでは二頭を……フランチェスカ?」
提督「ああ、はい……聞いていますよ。それで、撃った二頭は雄でした?雌でした?」
ニッカネン「一頭は雄で、もう一頭は雌でした……そろそろ上がった方が良さそうですね」
提督「ごめんなさい、もっと聞いていたかったのですが……」
ニッカネン「いえ、いいんですよ……またお話しする機会もあるでしょうから///」
提督「ぜひその機会が欲しいものですね……っとと♪」サウナでたっぷり蒸されたおかげですっかり身体がふわふわしている提督……立ち上がってよろめいてしまい、その拍子にニッカネンの身体につかまった……
ニッカネン「あっ……大丈夫ですか///」
提督「大丈夫です……ちょっと勢いよく立ち上がり過ぎました」しっとりと濡れたニッカネンの肩に手をかけ、少し見おろすような形で顔を近づけている……
ニッカネン「転ばなくて何よりでした……さあ、出ましょう///」そっと提督の手を肩からどけると、転ばないようにと軽く腕をつかんでくれる……
提督「ええ、そうしましょう♪」
852 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/11/03(木) 01:07:49.13 ID:lgP2pU9P0
ニッカネン「ところで、フランチェスカ……ホテルに戻る前にクリスマス市でも見ていきませんか? 今日は時間もありますし」
提督「そうですか、それではぜひ♪」
…ヘルシンキ市街・クリスマス市…
提督「ふふ……♪」
ニッカネン「何かおかしかったですか?」
提督「いいえ♪ こうして楽しげなクリスマス市を見ていると、それだけでこちらも気分がうきうきしてきますね」
ニッカネン「そうですね」
…ニッカネンと連れだって、時代を感じさせるヘルシンキ市街の綺麗な建物とその前に開いているクリスマス用品のマーケットを見て回る提督……繊細なガラス細工やオルゴール、クリスマスツリーにぶら下げるオーナメント(飾り物)の数々……街頭や店先の灯りに照り映えて、キラキラと光り輝く光景はどこか幻想的で美しく、にぎわう街の喧騒さえもどこか美しく聞こえる…
提督「クリスティーナ、お店の人に「これを一袋下さい」と言ってもらえますか?」フィンランド国旗を彷彿とさせる、綺麗な青と白の二種類が入っている玉飾りの袋を指さした……
ニッカネン「ええ、分かりました」
…ゆったりとした歩調で通りを歩きながら時折足を止め、鎮守府へのお土産としてクリスマスツリーに吊るすオーナメントや綺麗な細工物を見繕う提督……フィン語でのやり取りはニッカネンにお願いして、着々と買い物の量を増やしていく…
ニッカネン「フランチェスカ、荷物の量は大丈夫ですか?」
提督「ええ。トランクは結構空きがありますし、もし入りきらないとしても追加の手荷物料金くらい払いますよ……それとお店の人に「どうか良いクリスマスを」と伝えてもらえますか?」ニッカネンに向けて微笑を浮かべつつ、お店の人から商品の袋を受け取った…
ニッカネン「伝えましたよ……フランチェスカ「貴女にもよいクリスマスを」だそうです」
提督「グラツィエ♪」
…辺りにはオルガン音楽やクリスマスを題材にしたポピュラー音楽が流され、コートの合わせや靴底から伝わってくる冷たい夜気も、サウナのおかげか、さもなければ暖かな気分のために心なしか柔らかく感じられる…
ニッカネン「フランチェスカ、少し身体が冷えてきたのではありませんか? ……良かったらコーヒーハウスにでも寄っていきましょうか?」
提督「ええ」
…コーヒーハウス…
提督「ふぅ……身体の中から暖まりますね」
ニッカネン「美味しいですか?」
提督「ええ、とても。フィンランドの方はみんなコーヒーを淹れるのが上手ですね」
ニッカネン「まあフィン人の「みんな」と言うこともないでしょうが……それに、コーヒーを淹れるならやはり森の中、焚き火を使って銅のポットを使うのが一番です」
提督「素敵ですね。 静まりかえった森の中、二人きりで焚き火のはぜる音を聞きながらコーヒーを沸かす……なんて」テーブルの上に置かれたニッカネンの手にそっと自分の手を重ねる……
ニッカネン「え、ええ……///」かすかに頬を赤らめて、乗せられた手から自分の手を引き抜くかそのままにしておくかためらっているニッカネン……
提督「……さてと、そろそろホテルに戻りましょうか」
ニッカネン「そ、そうですね……///」
…ホテル前…
ニッカネン「サウナはいかがでした、フランチェスカ?」
提督「ええ、とても気持ちが良かったですし、機会があったらまた行きたいものですね。 それに買い物も楽しめました」買い込んだ飾り物の袋や箱を積み重ね、その下に腕を回して支えている提督…
ニッカネン「それは何よりです。 それでは、明日の夕食会でまた」
提督「ええ、また明日……っと、ちょっと待って?」ホテルの前まで送ってきてくれたニッカネンがボルボに乗り込もうとするところを呼び止めた…
ニッカネン「何か?」
提督「ええ……ちゅっ♪」
ニッカネン「……あっ///」
提督「今日はとても楽しかったわ、クリスティーナ……チャオ♪」ニッカネンのひんやりした頬に軽くキスをすると、軽くウィンクを投げた……
ニッカネン「そ、そうですか……喜んでいただけたようでなによりです///」提督の唇が触れた部分に手を当てると、何を言うか迷っているように口ごもり、ようやくそれだけ言って車に乗り込んだ……
提督「ふふ……っ♪」いつもよりぎくしゃくした運転で走り去るボルボを見送ると、含み笑いをしながらホテルの入り口をくぐった……
………
…
853 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/11/18(金) 01:50:40.43 ID:7E4+Zff30
…翌日・夕食会…
ニッカネン「さぁ、どうぞお入り下さい」
提督「素敵な会場ですね……♪」
…礼装に身を包んだニッカネンに案内されてやって来たパーティ会場はきれいにしつらえられており、床の一部には赤と緑でパッチワーク風の模様に仕上げたフィンランドの伝統織物「ルイユ織り」の絨毯が敷かれ、テーブルには色とりどりの花が飾ってある……それも参加各国をもてなす意味を込めてそれぞれの花瓶に各国の国旗と同じ色が使われていて、カーネーションやカラー、バラに百合、かすみ草といった花をバランスよく組み合わせて、イタリアのトリコローリ(三色旗)の色である緑・白・赤をはじめ、ポーランドの白と赤、スウェーデンの青と黄色、ノルウェーの赤、青、白といった具合に仕上げてある……
ニッカネン「どうしても冬は色がなくて殺風景に感じますから、こうやって花があるのはいいものです」
提督「同感です……」提督はニッカネンと話しながら、テーブルのそばで立っている各国士官の一団に近づいた……
ニッカネン「それでは、改めて紹介しましょう。こちらはウーシマー旅団のミカ・カンキネン大尉」がっしりした体格をした沿岸防衛旅団の大尉は鍛え上げた肉体のために礼服が窮屈そうで、頬の肉が付いているところに赤みが差している様子はどことなくサンタクロースを思い起こさせる……
カンキネン「初めまして」
ニッカネン「こちらは空軍のラウリ・キルピ大尉」
キルピ「お目にかかれて光栄です、アドミラル・カンピオーニ」
提督「こちらこそ……大尉はどんな機種を操縦なさっているのですか?」
キルピ「たいていは「サーブ・ドラケン」です。私も機体も退役するはずだったのですが、深海棲艦のことがあってまだ引退できずにいましてね」戦闘機の操縦士としてはかなり高齢に見えるキルピ大尉はいかにもパイロットらしく、細身の顔とほとんど同じくらいあるがっちりした首をしているが、一度笑うと目尻や口元に笑いじわができて親しげな表情になる……
提督「なるほど」
ニッカネン「こちらはポーランド海軍のヴァシェフスキ中佐」
ヴァシェフスキ「スタニスワフ・ヴァシェフスキです。どうぞお見知りおきを」
提督「フランチェスカ・カンピオーニです……ポーランド軍の勇敢さについてはよく聞き及んでおります。イタリア人として、お国のドンブロフスキがイタリアで軍団を編成した歴史があるというのは光栄なことです」
(※ヤン・ドンブロフスキ……ナポレオンの下、イタリアで亡命ポーランド人たちを募った「ポーランド軍団」を編成し、ロシア・オーストリア・プロイセンなどに分割されたポーランドを復活させるために戦った。ポーランド国歌「ドンブロフスキのマズルカ」はその際にポーランド軍団の兵士たちが歌った愛唱歌を元にしている)」
ヴァシェフスキ「これはまた、我が国の歴史をご存じで……どうもありがとうございます」風格のあるヴァシェフスキの顔がぱっとほころんだ……
ニッカネン「では、自己紹介も済んだことですし……乾杯にお付き合いいただけますか、少将?」
提督「ええ、喜んで」
ニッカネン「良かった……フィンランドのウォッカは最高ですよ、ぜひ賞味してみて下さい」
提督「そうですか、でしたら」澄み切った液体がなみなみと満たされている小さいグラスを取った……
ニッカネン「では、音頭は私が……キピス(乾杯)!」
一同「「キピス」」
…ウォッカを始め、度数の強い酒を恐る恐る飲もうとするとかえって飲みにくいので、覚悟を決めて一気にあおった提督……いいウォッカだというニッカネンの言葉通り、カッと熱い感覚が喉を流れ落ちるが口当たりは水のようで、当たりの強さやえぐみはまったくない…
ニッカネン「いかがですか」
提督「ええ……とってもいいウォッカですね」つばを飲み込み、一呼吸してから答えた……
キルピ「それでも慣れていないと飲みにくいでしょう……キャビアを一緒に食べるといいですよ」小さじで皿にキャビアをよそってくれたキルピ大尉
提督「ありがとうございます」
…度数こそきついが口に入れた瞬間は甘いウォッカと塩っぱいキャビアは確かによく合い、食べた後にかすかに残るキャビアの海くささのようなものを、ウォッカがきれいに落としてくれる…
提督「……なるほど、これはいい組み合わせですね」
ニッカネン「そうでしょう……ところでこれはどうですか? トナカイの燻製ですよ」
提督「これがそうですか、初めて食べます……」赤身が濃くて鹿肉に似ているトナカイ肉の燻製は噛みごたえがあって、あごはくたびれるが、噛めば噛むだけ旨みが沁みだしてくる……
ニッカネン「いかがですか?」
提督「これは……例えば暖炉か何かのそばに腰かけて、じっくり噛みしめて食べる……そうした食べ方が合いそうですね」
カンキネン「おや、なかなか通な意見ですね」
提督「それはどうも……もちろんパルマの生ハムも美味しいですが、このトナカイ肉とは風味や歯ごたえが全く違いますし、同じ物差しでどちらが美味しいとか優れているとか、そういった比較をすることはできませんね……少なくとも、私は美味しいと思いますよ?」
ニッカネン「そう言ってもらえると嬉しいですね」提督の言った言葉に含まれた意味を理解して、ニッカネンをはじめフィンランド軍の士官たちは軒並み苦笑いした……
ヴァシェフスキ「では、今度は私からも乾杯を……カンピオーニ少将、お願いできますかな?」
提督「ええ、分かりました」
854 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/11/26(土) 02:14:45.57 ID:mss3scI10
…しばらくして…
提督「この鴨肉もとても美味しいです……肉が柔らかくて、脂の甘味がじんわりと染み出すようで……」
ニッカネン「鴨肉ならシャンパンの方が良いでしょう、お取りしますよ」
提督「グラツィエ♪」
…会場で各国士官たちと会話をする間もニッカネンが隣に付いてくれ、並んでいる料理や酒を勧めてくれる……鴨のローストにシャンパン、キャセロール(グラタン皿料理)にフィンランドウォッカ、ノルウェーから空輸されてきたサーモンに、海老を使ったグリル……提督以外にも食欲旺盛な士官は多くいて、食器やグラスの触れあう音もにぎやかにパーティが進み、幾人かは頬の血色が良くなっているが、それは暖かな空調のためだけではないように見える……提督はニッカネンのガイドのおかげで料理と酒の美味しい組み合わせを堪能しながら、打ち解けた様子の士官たちと面白おかしく脚色した過去の失敗談やちょっとした冗談を交わした…
キルピ「……ところでアドミラル・カンピオーニ、実は「ドラケン」というとちょっとした小話がありましてね」一杯機嫌で愉快そうなキルピ大尉が切り出した……
提督「と、いいますと?」
キルピ「ええ……戦闘機に限らず飛行機は着陸に際して、滑走路への進入前に脚(降着装置)を下ろし、前後共に下りたことを示す表示を確認して「スリー・グリーン」と管制官にコールするんですが……」
提督「ええ、聞いたことがあります」
キルピ「そうですか……いや、ドラケンはご存じの通りダブルデルタ翼で、離着陸時の機首上げ角度が強いもんですから、いわゆる「尻餅」をつかないよう胴体後部にもう一つ尾輪が付いているんですよ」
提督「なるほど……?」
キルピ「ですから、管制官から「スリー・グリーンを確認せよ」と言われた時にわざと「フォー・グリーン」と返して面食らわせてやることがありましてね……♪」
提督「くすくすっ……そういうことですか♪」
ヴァシェフスキ「……ところでカンピオーニ少将、ポーランドへ旅行したことはありますか?」
提督「いえ、残念ながら機会がなかったものですから」
ヴァシェフスキ「それはもったいない……ワルシャワ、クラクフ、どこも歴史があって良い街ですよ」
提督「そうですね、かの有名な「ワルシャワ・マーメイド」の像も見てみたいですし」
(※ワルシャワ・マーメイド……自身を捕らえた悪徳商人から助けてくれたワルシャワの人たちへの恩返しとして、剣と盾を持ってワルシャワを守護する約束をした人魚。ワルシャワの誇りと名誉のシンボル)
ヴァシェフスキ「ああ、あれはぜひ見てほしいですね。ショパンやマリー・キュリーといった偉人もおりますし……カンピオーニ少将はSF小説を読まれますか?」
提督「学生時代に好きでよく読んでいました……ポーランドと言えば「ソラリス」のスタスワフ・レムですね?」
ヴァシェフスキ「その通りですとも。他にも「無敵(砂漠の惑星)」や「星からの帰還」といった真面目な作品から「宇宙創生期ロボットの旅」のような皮肉の効いたユーモアSFまで……あの複雑なポーランド語の味わいが翻訳では出せないのが残念です」
提督「同感ですね。映画にしろ書籍にしろ、翻訳ではどうしても思っている事を伝えきれないのが残念です……こうしてお話ししている時も、失礼な言い方に感じられてしまったらごめんなさい」
ヴァシェフスキ「いえいえ、私の英語よりはずっとお上手だ……シャンパンはいかがですか?」
提督「ええ、では……♪」
…またしばらくして…
カンキネン「カンピオーニ少将、もう一杯いかがですか?」
提督「いえ、もうこのくらいにしておきます……お酒が入るとおしゃべり機関銃どころか、「おしゃべりCIWS」になると言われておりますから♪」
(※CIWS…「近接迎撃兵装システム」の略。アメリカの二十ミリ「バルカン・ファランクス」やイタリアの四十ミリ「ダルド」、オランダの三十ミリ「ゴールキーパー」等が有名。シーウィズ)
カンキネン「ははは、そいつは大変ですね」
キルピ「それにしてももう数日早ければ、独立記念日に間に合ったのですが……当日はパレードや何かがあって、白と青の旗が家々に翻って、それはそれは美しいものですよ」
提督「私も話には聞いていたので見逃すことになって残念です……この予定を組んだ上層部が恨めしいですね」
カンキネン「まぁ、いつかまたお出でになる機会もありますよ……キピス!」
提督「キピス♪」
855 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/12/04(日) 02:01:39.19 ID:Zkv+0TkO0
フェリーチェ「……だいぶ打ち解けてきたようね?」提督が歓談している間に会場を歩き回って会話に加わり、またさりげなくあちこちの会話に聞き耳を立てていたらしいフェリーチェ……
提督「ええ、おかげさまで」
フェリーチェ「それと今さらだけれど、あまり食べ過ぎないようにね?」
…提督の皿に盛られているマッシュド・ポテトと濃厚なクリームで和えたミートボール料理をちらりと見て、冗談半分に釘を刺した…
提督「ええ。それよりも飲み過ぎの方が問題ね……」
フェリーチェ「頼むからああいう風にはならないでよ?」
…フェリーチェがちらりと目線で指し示した先では、ロシア海軍バルト海艦隊の士官たちが「タダ酒」ということでいい気になってウォッカやウィスキーをがぶ飲みしていて、会議の代表を務めていた大佐クラスの士官を始め、たいていが鼻の頭や頬を真っ赤にしながら大声のロシア語でしゃべっている…
提督「ならないわよ……まあ、ミカエラにとってはああいう相手の方が都合が良いんじゃないかしら?」
フェリーチェ「そうね。でもそれは私だけじゃなくてどこも同じよ……」付き合いがあった提督だけが分かるような微妙な身振りで何人かの士官を指し示した……
物静かなフィンランド軍士官「……」
気配の薄いスウェーデン軍士官「……」
提督「なるほど……」と、台に乗っているグラスを取りにロシア海軍の女性将官が近寄ってきた……
ロシア女性将官「失礼、そのシャンパンを取ってもらえまいか」
提督「ええ、どうぞ」
…フェリーチェ言うところの「モスクワからのお目付役」らしいロシア海軍の女性将官は少将の階級章を付け、胸元に並んでいる略綬の他にも、いくつかのメダルが留められている……瞳は冷厳な印象を与える淡い青灰色で、まるで妖精のような美しいプラチナブロンドの髪をしている……その横に影のように付いている女性の大尉は後ろでまとめた金髪に淡いブルーの瞳で、きっちりとした態度はいかにも優秀な副官タイプに見える…
ロシア女性将官「スパシーバ(ありがとう)」
ニッカネン「しかし、なんというか……あの人はまるで冬のヴァンターヨキ川よりも愛想がないですね」さっと歩み去った女性将官を見送りつつ、つぶやくように言った……
提督「言い得て妙ですね。もっとも、冬のヴァンターヨキ川がどのような様子かは知りませんが」
カンキネン「いや、ありゃあどちらかというと「メルケ」だな……ニコリともしやしない」
(※モラン…ムーミンシリーズに登場する、冬を具現化したような女の妖怪。 黒いローブを引きずったような姿で、座った跡は霜が降りてしまう。フィン語のメルケは「お化け・幽霊」の意味)
キルピ「全く、東から来るもので歓迎できるものといえばお日様だけだからな」
…そろそろ酔いが回ってきて、次第に打ち解けた……場合によっては隠していた本音の部分が顔をのぞかせ始めた各国の士官たち……特に北欧諸国やポーランドの代表は、お世辞にもロシアと友好関係にあるとは言いにくく、ウォッカやシャンパン、アクヴァヴィットのグラスを重ねたこともあって、勢い舌鋒も鋭くなる…
フィンランド士官「……いや、ようこそフィンランドへお出で下さいました。ヘルシンキに足を踏み入れたロシアの士官は捕虜を除けば少将が初めてですな」
ロシア女性将官「……」
フィンランド士官B「良かったらサルミアッキでもいかがですか、美味しいですよ?」
(※サルミアッキ…リコリス飴。北欧ではよく食べられるが外国人には「塩味のゴム」など散々な評価で、かなりクセのある味だという)
スウェーデン海軍士官「何か飲み物はいかがですか? せっかくですから「ウィスキー・オン・ザ・ロック」でも?」冷戦時代の事件をあてこすって、ウィスキー・オン・ザ・ロックを勧めるスウェーデンの海軍士官……
ロシア女性将官「スパシーバ(ありがとう)……ウォッカを頂戴する」皮肉などまったく意に介さない様子で冷たく相手を見据えると、露が降りるような冷たいウォッカのグラスを受け取る……
…時間が過ぎてたびたびグラスが干されるうちに真面目で感情表現の控え目なフィンランド軍の士官たちもかなり陽気な雰囲気になってきて、中の数人がヴァイオリンやアコーディオンを用意し始めた…
フィンランド軍士官「……さて、何か演奏しましょうか。聞きたい曲があったら遠慮なくどうぞ?」アコーディオンを首から提げると、鍵盤を軽く試した……
ニッカネン「カンピオーニ少将、せっかくですから何かリクエストなさってみては?」
提督「それもそうですね……あいにくフィンランドの曲はあまり知らないのですが「サッキヤルヴェン・ポルカ」でしたか、それなら題名くらいは聞いたことがあり……」言いかけたところで隣にいたフェリーチェが小さく、しかし思い切りふとももをつねった……
提督「痛っ……ミカエラ、どうしたの?」
856 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2022/12/26(月) 01:23:01.13 ID:ZUFS9DHc0
フェリーチェ「フランチェスカ、何を考えてるの! ……「サッキヤルヴェン・ポルカ」はロシアに奪われたカレリアを懐かしむ歌なのよ?」小声で提督を叱りつける……
提督「あっ……しまったわ」
フィンランド士官「さすがはアドミラル・カンピオーニ……ではリクエストにお応えして「サッキヤルヴェン・ポルッカ」!」
…提督は慌てて別な曲を頼もうとしたが時すでに遅く、アコーディオンを持った士官が曲を弾き始めると、たちまち勢いづいたフィンランド軍の士官たちがグラスを片手に声を張り上げた…
フィンランド軍士官たち「「♪〜オン・カウイナ・ムイストナ・カレヤラ・マー、ムッター・ヴィエラカ・スォイメサ・スォイナッター」」
(♪〜美しき思い出の地カレリアよ、今も心に沸き上がる)
士官たち「「♪〜クン・スォッタヤン・スォルミスタ・クーラッサー、サッキヤルヴェン・ポルッカ!」」
(♪〜奏者が奏でるサッキヤルヴェン(サッキヤルヴィの)ポルッカ!)
士官たち「「♪〜セ・ポルッカ・ター・ミエネッタ・ミエレン・トゥオ、ヤ・セ・ウオトゥオ・カイプタ・リンタン・トゥオ」」
(♪〜ポルッカが過去を呼び起こし、胸に追憶が去来する)
士官たち「「♪〜ヘイ・ソイタッハー・ハイタッリン・ソイダ・スオ、サッキヤルヴェン・ポルッカ!」」
(♪〜アコーディオンを奏でれば、サッキヤルヴェン・ポルッカ!)
士官たち「「♪〜ヌオレン・ヤ・ヴァンハセ・タンセン・ヴィエ、エイ・セレ・ポルカラ・ヴィエター・リィエ!」」
(♪〜老いも若きも踊り出す、ポルッカに勝るものはなし!)
士官たち「「♪〜セ・カンサー・オン・ヴァイッカ・ミエロン・ティエ、サッキヤルヴェン・ポルッカ!」
(♪〜さすらう身となっても(故郷を失ったとしても)歌はある、サッキヤルヴェン・ポルッカ!)
士官たち「「♪〜スィナア・オン・リプラトゥス・ライネッテン、スィンナア・オン・フゥオユンター・ホンキエン」」
(湖には波が立ち、松の梢はざわめいて)
士官たち「「♪〜カレヤラ・スォイ・カッキ・ティエター・セン、サッキヤルヴェン・ポルッカ!」」
(カレリアの誰もが歌詞を知る、サッキヤルヴェン・ポルッカ!)
士官たち「「♪〜トゥレ・トゥレ・トゥットネ、カンサネ・タンサネ・クォ・ポルカネ・ヘルカセ・ヘルカンター」」
(♪〜娘さんよ私と踊ろう、優しきポルッカの響きに乗って)
士官たち「「♪〜ホイ・ヘポ・スルコヤ、ハンマスタ・プルコン・スィーラナ・イーメスィティ・スーレミ・パー」」
(♪〜馬は歯ぎしりしているが、頭が大きい(賢い)のだから勝手にやらせておこうじゃないか)
士官たち「「♪〜トゥレ・トゥレ・トゥットネ、カンサネ・タンサネ・メーレア・リェームヤ・スヴィネン・サー!」」
(♪〜娘さんよ私と踊ろう、優しきポルッカの音色が響く!)
士官たち「「♪〜サッキヤルヴェセ・メルター・オン・ポィス、ムッタ・ヤイ・トキ・センターン・ポルッカ!」」
(♪〜サッキヤルヴィは失われてもポルッカの音色は残ったのだから!)
ロシア海軍士官「……諸君、我々も一曲歌おうじゃないか!」
…ウォッカで顔を赤くしたロシア軍の少佐が塩辛い声でそう言って、空のグラスを片手に指揮者のように腕を振ると、フィンランド軍士官たちの歌声をかき消そうと、ソ連時代から続く海軍の軍歌「艦隊への道(タローガ・ナ・フロート)」を合唱し始める…
フェリーチェ「フランチェスカ、どうするつもり?」
提督「困ったことになったわね。まるで「カサブランカ」の場面みたい……あ、そうだわ」互いの声が砲弾のように飛び交う中、ふと思いたってラーセン大佐のそばに行き、ひそひそと耳打ちする提督……
ラーセン「……分かりました、やってみましょう」
…フィンランド軍士官とロシア海軍士官がお互いに歌声を張り上げて相手をやり込めようとしている中、ラーセンがスウェーデン軍の士官たちに小声で何事か指示した……ラーセンが提督のリクエストを伝えると、若手士官の何人かは提督に向かって「了解した」というように軽くうなずいたり小さく親指を立てたりした…
提督「あー、よろしければもう一曲構いませんか?」
…サッキヤルヴェン・ポルッカの合唱が終わったところでニッカネンに近寄ると、さりげなく尋ねた…
ニッカネン「もちろんです……皆さん、アドミラル・カンピオーニからもう一曲リクエストがあるそうですよ? それで、曲は何を?」
提督「ええ……良く考えたら明日は聖ルチアの日ですし「サンタ・ルチア」をお願いします♪」
フェリーチェ「……なるほどね」
857 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/01/08(日) 01:56:39.93 ID:+EvTlOXR0
ニッカネン「それではアドミラル・カンピオーニのリクエストで「サンタ・ルチア」です」
…ニッカネンがさっと助け船を出してアコーディオン係の士官に合図をすると、士官はナポリ民謡「サンタ・ルチア」を演奏し始めた……ナポリに勤務していた事もある提督にはお馴染みの……また冬の寒さと暗さに耐えるスカンジナヴィアの人々にとっては(旧暦にあたるユリウス暦では)これから夜が一日ずつ短くなっていくという嬉しい「聖ルチアの日」を祝う歌としてよく耳に馴染んでいる「サンタ・ルチア」…
提督「♪〜スル・マーレ・ルチィカ、ラストゥーロ・ダルジェント……」
(♪〜海の上、星は銀に輝き……)
…提督が本来の歌詞で歌い出す暇もあらばこそ、あっという間にスウェーデンやフィンランドで付けられた冬の終わりを喜ぶ歌詞が大合唱になって
覆い被さってくる…
提督「ふぅ……」
フェリーチェ「……どうにかなったわね」
提督「ええ。私が撒いた種だもの、少しはどうにかしないと……でしょう?」
…さっきまでのロシア軍士官に対する険悪な雰囲気はどこへやら、フィンランド軍やスウェーデン軍の士官たちが聖歌隊の子供のような熱心さで歌を歌っている…
ラーセン「……これで大丈夫でしたか、カンピオーニ少将?」
提督「ええ、おかげで助かりました……♪」
ニッカネン「ラーセン大佐、私からもご協力に感謝します」
ラーセン「とんでもない……あのままロシア側といがみ合いにならなくて幸いでした」
ニッカネン「そうですね」
提督「本当に申し訳ありません……」
ニッカネン「いいえ……その代わりと言ってはなんですが、もう一杯お付き合いいただけると嬉しいのですが」
提督「え、ええ……」
…提督としてはそれまでも何回か乾杯に付き合っていたので、出来ることなら勘弁してもらいたいところだったが、フォローしてもらった手前むげに断るのも具合が悪い……それならせめてアルコール度数の低いカクテルでもと思って酒類のテーブルを眺めたが、残念な事に並べられているのはウォッカにアクヴァヴィット、ウィスキーとブランデーと、度数の高い酒のグラスばかりが並んでいる……仕方なしにテーブルの中では一番軽いシャンパンのグラスを取り、ニッカネンの掲げたウォッカのグラスと軽く触れあわせた…
ニッカネン「キピス」
提督「キピス♪」
………
…
…しばらくして…
フェリーチェ「大丈夫、フランチェスカ?」
提督「ええ、思っていたよりも量を過ごしてしまったけれど……まだローリング(横揺れ)は起こしていないわ♪」
…立食ながら種類も量もたっぷりあった北欧料理と、それに合う度数の高いお酒ですっかり身体が火照っている提督……いつもより冗談が増え、頬紅(チーク)なしでもほんのりと色づいた頬が艶めいている…
フェリーチェ「なら良かったわ。ホテルに戻ったら酔い覚ましにシャワーでも浴びて、ゆっくり休むことね……どうかした?」酔いが回っているだけではない、提督のご機嫌な様子に気付いた……
提督「ちょっと……ね♪」
フェリーチェ「なに?」
提督「ふふふ……あのね、さっきニッカネン少佐と「キピス」をしたでしょう?」
フェリーチェ「それは見てたわ。そのあと二人して話し込んでいたようだったけれど」
提督「そうなの……それで、ニッカネン少佐が「よろしければ、後で部屋に来ませんか」って♪」
フェリーチェ「つまり、貴女の「Lバンドレーダー」に引っかかったってわけね」
提督「なぁに、それ? 私は捜索用レーダーなんて積んでないわよ?」
フェリーチェ「あら、意外ね。貴女ときたらいつでも色んな女性と付き合っているものだから、てっきりそういう女性を見つけるためのレズ(L)バンドレーダーを搭載しているんだと思ってたわ」
提督「くすくすっ……そういうことね♪ とにかく、今夜はニッカネン少佐の所に泊まるわ」
フェリーチェ「はいはい。くれぐれも粗相をしないようにね」
提督「もちろん♪」
858 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/01/16(月) 02:01:22.75 ID:ti0t2krK0
ニッカネン「お待たせしました。それでは行きましょう」
提督「ええ♪」
…黒塗りでホテルまで送迎される各国士官を見送ってからタクシーを呼び止めたニッカネン……運転手に場所を告げてしばらく走ると、ヘルシンキ市内にある五階建てアパートの前でタクシーが停まった…
………
…
…ニッカネンの住居…
ニッカネン「さ、どうぞどうぞあがって下さい」
提督「お邪魔します」
…ニッカネンがヘルシンキに借りている住居(フラット)は部屋に備え付けのものらしいシンプルかつ実用的な家具でまとめられていて、持ち込んだものは室内の隅に置かれているショットガン用のガンロッカーと卓上の写真立て、それに白いエナメル塗装が施された金属製の本棚に並んでいる本といった程度らしい……清潔感はあってきれいにまとまってもいるが、全体的には鎮守府のそばに構えた独身士官用の宿舎と同じような「仮住まい」という雰囲気で、家具や調度もフィンランド人らしく無駄がなく簡素な感じがする…
ニッカネン「殺風景な部屋でしょう? 実家には色々と家具もあるのですが、転属のことを考えると身軽でいたいものですから」提督の視線に気付いたのか「言い訳がましく聞こえるかもしれないが」というニュアンスを込めて、あっさりした調度について弁明した……
提督「分かります。むしろ私は余計なものを増やしすぎて引っ越しの時に後悔することになったほうなので、うらやましいです」
ニッカネン「そうですか? ああ、どうぞかけて下さい。いま飲み物を持ってきます……ウォッカのジュース割りでかまいませんか? 実家で採ったコケモモのジュースがまだあるのですが」ベッド脇の椅子を勧めると、提督に尋ねたニッカネン……
提督「自家製のコケモモジュースなんて素敵ですね、ぜひそれでお願いします♪」
ニッカネン「分かりました」
…台所から戻ってきたニッカネンはフィンランドではお馴染みのウォッカ「コスケンコルヴァ」と、コルクで栓をしてある貯蔵用の瓶を持ってきた…
ニッカネン「ウォッカはどのくらいにします?」
提督「それじゃあ少な目でお願いします……ええ、そのくらいで」
…それぞれのグラスにウォッカを注ぐと、そこにコケモモのジュースを加えるニッカネン……クランベリーの親戚であるコケモモのジュースはザクロのように透き通った赤色をしている…
ニッカネン「はい……では、キピス」
提督「キピス」
…冷えたグラスを手に取って何口か飲んでみる提督……甘酸っぱいコケモモジュースのさっぱりした飲み口のおかげで案外飲みやすく、暖房やお酒で火照った身体にきりりと冷たい飲み物が心地よい…
提督「こくんっ……甘酸っぱくて美味しいです」
ニッカネン「それは良かったです」
提督「ええ。それにこうやって照明にかざして見ると、ルビーみたいで綺麗ね♪」控え目な光を投げかけている照明にグラスを掲げて、液体を透かしてみる提督……
ニッカネン「アドミラル・カンピオーニは詩人ですね」
提督「ふふっ……堅苦しい表敬訪問ではないのだから、気軽に「フランチェスカ」って呼んでほしいわ♪」
ニッカネン「あ、では私のことも「クリスティーナ」と……」
提督「ええ、そうします……クリスティーナ♪」少し首を傾げ、甘い声で呼びかける……
ニッカネン「はい……少し、恥ずかしいですね///」
提督「そうかしら?」
…しばらくして…
ニッカネン「フランチェスカは聞いたことがあるでしょうか……長く続く暗鬱な冬の夜を過ごしているとフィンランド人はいくつかの種類に分かれると言います」
提督「というと?」
ニッカネン「ええ。イヨッパラリ(大酒飲み)か、その反対に禁欲主義者……さもなければメタルバンドを組むようになると♪」
提督「まぁ、ふふっ♪」
…提督がほどよく相づちを打ったり笑ったりしているためか、さもなければ提督よりかなり早いペースでグラスを干している「ウォッカのコケモモジュース割り」のおかげか、少しぎこちない感じはあるものの、ちょっとした冗談まで言うようになったニッカネン…
ニッカネン「あ、いつの間にかずいぶん遅い時間になってしまいました……こうして話をしながら飲むというのも良いものですね」
提督「そう……ね♪」身体を乗り出し、ニッカネンの頬をそっと左手で撫でる……
ニッカネン「あ……///」
859 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/01/22(日) 01:25:22.31 ID:cckXYrAS0
提督「あら、ごめんなさいね……つい」
…口調もそれまでより親しげにして距離を近づけつつも、頬を撫でた手はうっかりだったかのようにすぐ引っ込めた…
ニッカネン「いえ……それにしても、フランチェスカの手はとても綺麗ですね」
提督「お褒めにあずかり恐縮ね。 これでも士官学校や若手士官のころはロープに海水、挙げ句の果てには機械油と「働き者の手」だったけれど、最近はそういうこととはすっかり縁遠くなったものだから……」名ばかりの提督としてのんきに過ごしていることを示す綺麗な手をしていることに苦笑する提督……
ニッカネン「いえ、分かります……それに爪も艶やかですね。クリアのマニキュアですか?」
提督「いいえ、爪やすりだけよ? 以前ガラスの爪ヤスリを買ってからというもの、爪だけはつるつるのぴかぴかで……自分でもちょっと気に入っているの♪」綺麗に切り整えられ、照明の光を鏡のように反射している形の良い爪……
ニッカネン「やすりだけですか? そうは思えないほどですね」
提督「そう言ってもらえると手入れをしたかいがあるわ」
ニッカネン「ええ。なにしろ私の爪はお世辞にも艶があるとは言いがたいので……」確かにニッカネンの爪は短く切り整えられてはいるものの、表面にはかすかに縦溝が入っていて、少し固くなっている……
提督「まぁまぁ、それなら今度爪やすりを贈るわ。クリスマスも近いし、せっかくこうやって知り合う事が出来たのだものね……でも、私は貴女のほっそりした手が好きよ?」
…そう言ってニッカネンの細く、少し骨ばった手に指を絡めた提督……さっきまでは遠慮がちに手をほどいていたニッカネンも今は繋いだ指を離そうとせず、提督が金色の瞳でじっと見つめると、恥ずかしさと困惑が混じり合ったような様子で視線をそらす…
提督「……クリスティーナ」
ニッカネン「なんでしょうか、フランチェスカ……」
提督「私ね、貴女に恋をしたみたい……帰国するまでの短い間だけれど、貴女のことを好きになってもいいかしら?」
ニッカネン「……私だってそのつもりでした……でなければ、こうして部屋に呼んだりはしません///」
提督「嬉しい……」ちゅっ…♪
ニッカネン「ん……///」
…立ち上がると小さなテーブルを回り込み、座っているニッカネンの右手を両手で包み込んだまま、見おろすようにして優しく口づけする提督……柔らかで、それでいて張りのある提督の唇が、ニッカネンの薄い唇にそっと重なる…
提督「……ん、んっ♪」
ニッカネン「あ……んんっ、ちゅ……あふっ///」
提督「んちゅ、ちゅ……っ♪」甘酸っぱいコケモモジュースの後味が唾液に混じり、離した唇から細い銀の糸が一筋伸びた……
ニッカネン「……フランチェスカ///」
…ニッカネンも立ち上がると提督の手を引き、片隅にあるシングルベッドに導いた……清潔感のあるベッドは折り目もぴしっとしている洗い立てのシーツと暖かそうな羽毛布団、それと真ん中をへこませて両脇をふくらませた枕とクッションがいくつか並べてある……二人は金モールや略綬の付いた礼装の上着を脱いで椅子に置くと、ベッドに潜り込んだ…
提督「クリスティーナ♪」
ニッカネン「フランチェスカ……///」
…ニッカネンが「フランチェスカ」と言うと、フィン語独特の母音を重ねたような響きが交じり、多くの恋人、あるいは「親しい友人」たちからたびたび名前をささやかれてきた提督の耳に、北欧の魅力的な雰囲気をともなって心地よく聞こえる…
提督「んっ、んんぅ……はむっ、ちゅ……ぅっ♪」
ニッカネン「あふっ、んっ……ふぁ……あふ……っ///」
提督「……それにしても、クリスティーナったら表情を隠すのが上手ね? こうしてお部屋に招いてくれたりサウナに誘ってくれたりしなかったら、クリスティーナが「そう」なのかどうか迷っていたところよ?」二人して息継ぎをすると、いたずらっぽく笑いながらニッカネンを眺めた……
ニッカネン「それは私の言うべき言葉です。フランチェスカの態度はアプローチなのか、それともただ親しげなだけなのか……ずいぶん考えさせられていたんですからね……///」
提督「あら、私は伝わっているとばかり思っていたわ♪」
ニッカネン「私の方では、イタリア人はみんなそうなのだと思っていましたから……」
提督「心外ね……ちゅっ、ちゅるっ……んちゅ……っ♪」
ニッカネン「んっ、れろっ……ちゅむ……っ///」
860 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/01/30(月) 01:56:59.92 ID:a/oBWygb0
提督「……あむっ、ちゅぅ……っ、ちゅ……♪」
ニッカネン「はふっ、ふぁ……んちゅ……っ///」
…そっと花びらに触れるような控え目な口づけから、次第にじっくりと甘いキスへ変わっていく二人……口中でお互いの舌が絡み合い、コケモモの甘酸っぱい残り香とウォッカの火照りが提督をくらくらさせる…
提督「んんぅ、ちゅるっ……じゅるぅぅ……っ♪」
ニッカネン「ん、んっ、んん……っ///」
提督「ちゅむっ、ちゅる……んちゅ、ちゅぅぅ……っ♪」
ニッカネン「んくっ……ふ……んん……っ///」
提督「ちゅむ、ちゅるぅ……っ……ぷはぁ♪」
ニッカネン「ぷはっ……はぁ、はぁ、はぁ……っ///」
…ニッカネンの口中を舌でなぞり、ついばみ、吸い上げるようにして息が切れるまでキスを交わした提督……さすがに息苦しくなって口を離すと、プールから上がってきたかのように大きく息を吸い込んだ……同じようにニッカネンもすっかり息を切らし、大きく胸を上下させている…
ニッカネン「……はぁ、はぁ……こんなに……長いキスは……はぁ、ふぅ……初めてです……///」
提督「長さよりも、クリスティーナが気持ち良かったのなら嬉しいわ……?」
ニッカネン「ええ……気持ち……よかったです///」
提督「よかった……でも、まだまだこれからよ♪」
…室内をほんのりと照らす程度まで光量を下げてある照明の中で、ニッカネンと向かい合って互いの着衣を脱がしていく……互いに礼装の下に着ていたワイシャツを脱がせあうと、ニッカネンは提督の肌を引き立てる黒レースの薔薇模様が入ったランジェリー、提督はニッカネンが身に付けているすっきりしたライトグレイの下着に手を伸ばした…
提督「綺麗よ、クリスティーナ……♪」
ニッカネン「……こんな風に見つめられる機会はあまりなかったので、少し恥ずかしいですね///」
提督「そう? 白くて形も整っていて、とっても素敵よ?」
ニッカネン「それを言ったらフランチェスカの乳房の方が、大きくて丸みを帯びていて綺麗です……張りもありますし……」
…そう言いながら提督のブラジャーを外そうとするが、ホックに苦戦気味のニッカネン……自分のブラなら何となく手が馴染んでいるが、相手の脇から背中へと腕を回して、見ないでホックを外すのは意外と難しい……そんなニッカネンの様子を見た提督は、口の端にえくぼを浮かべて微笑むと、ニッカネンの右手を取ってブラの下へと滑り込ませた…
提督「外さなくたっていいわ……ね?」
ニッカネン「あっ///」
提督「ほら、遠慮しないで……?」
ニッカネン「わ……柔らかいのにずっしりしていて……///」もみっ、ふにゅ……♪
提督「クリスティーナのはしっかりしていて引き締まっているわね♪」むにゅ…っ♪
ニッカネン「なんとも言いようのない柔らかさです……それに肌ももっちりしていて、吸い付くようですね……///」ニッカネンのひんやりした指がブラの下に這い込み、提督の乳房を遠慮がちに揉んでいく……
提督「ふふふっ、もっと思いっきりどうぞ……♪」
ニッカネン「わっ……///」たゆんっ♪
…提督はずっしりした胸の谷間にニッカネンの顔を埋めさせた……どうにか右手だけでブラのホックを外すと後ろ手に放り出し、左手でニッカネンの後頭部を優しく撫でながら胸に押しつけ、さらにはむっちりした太ももでニッカネンのきゃしゃな腰を挟みこむ…
提督「クリスティーナ……れろっ♪」
ニッカネン「んぅっ///」
…ニッカネンの耳元で名前をささやき、それから吸い付くように耳を舐めてから「ふーっ」と息を吹きかける……ニッカネンはぞくぞくするような刺激に思わず身震いしながらも提督の谷間を舐めたり、細い指で張りのあるヒップを撫でたりし始めた…
提督「れろっ、ちゅる……ぴちゃ♪」ニッカネンの肉の薄い鎖骨まわりに舌を這わせ、次第に頭を胸元へと動かしていく……
ニッカネン「ぷは……ぁ♪」提督の胸の谷間から顔を上げると、すっかり上気した表情で息継ぎをする……
提督「うふふっ……気に入った?」
ニッカネン「はい、こんなのは初めてですが……癖になりそうです///」まだまだ恥ずかしげにしているが視線は提督のずっしりした乳房や甘い表情にくぎ付けで、表情の乏しい顔にも少し甘ったるいものが交じり始めた……
提督「よかった♪」そう言うといたずらっぽい笑みを浮かべ、ニッカネンの控え目な乳房に舌を這わせた……
ニッカネン「あ、あ、あっ……///」
提督「んふふっ、ちゅぅ……ぅっ♪」乳房を優しく舐めたり先端に吸い付いたりしながら、両手でニッカネンの背中や脇腹を優しく愛撫する……
ニッカネン「あふっ、ふぁ……あっ、あ……///」
提督「ふふふ……っ♪」提督の金色をした瞳にとろりとみだらな光がきらめき、綺麗な指が徐々に下半身へと下っていく……
861 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/02/07(火) 01:55:40.39 ID:u9v+bFJs0
提督「んちゅ、ちゅ……っ♪」
ニッカネン「ん、ん、んんっ……///」くちゅくちゅっ……ちゅぷっ♪
…舌を絡めてゆっくりとキスをしながら、ニッカネンの秘部にするりと指を滑り込ませる提督……始めは驚いたように小さく引きつったニッカネンの身体だったが、しばらく動かさずにいると次第に緊張がほぐれてきた……提督はそれを確かめてから、暖かく濡れた花芯を優しくかき回した…
提督「れろっ、ちゅく……ちゅぱ……っ♪」
ニッカネン「んぁぁ……あ、あ、あっ///」
提督「ふふ……そんなに悦んでもらえると張り合いがあるわね♪」くちゅくちゅっ、にちゅっ……ちゅぷっ♪
ニッカネン「あぁぁ…っ/// あ、あ……っ///」
提督「……ねぇ、クリスティーナ?」
ニッカネン「ふぁ、ふぁい……///」
提督「私にも……お願い♪」ちゅく……っ♪
…提督はニッカネンの白くひんやりした手に自分の手を重ね、そのまま下腹部へと指を導いた……粘っこい水音がしてニッカネンの指が膣内へと入ってくると、熱を帯びた花芯に冷たい指と第二関節の固い感触が伝わってくる…
ニッカネン「あ…フランチェスカのここ……暖かい……///」くちゅ……っ♪
提督「クリスティーナ……んっ♪」
ニッカネン「ど、どうでしょう……か///」
提督「ふふふっ……そんなに遠慮がちにしなくても大丈夫よ♪」耳元でささやきながらニッカネンのぎこちない指を誘導する……
…しばらくして・深夜…
ニッカネン「んあぁっ、あっ、ふあぁぁ……っ///」
提督「んんんっ、あ、あっ……♪」
ニッカネン「はひっ、ひぅっ、はっ、はぁ……っ♪」とろっ、にちゅ…♪
提督「クリスティーナ……イって良いのよ♪」くちゅくちゅっ……ちゅぷっ♪
ニッカネン「ふあぁぁ……っ♪」とろっ……ぷしゃぁ……っ♪
提督「んんんっ、あ、あっ……んぅぅっ♪」くちゅっ、とぽ……っ♪
…ニッカネンが打ち上げられた魚のようにびくびくと跳ねてとろりと愛蜜をこぼし、その勢いで提督の花芯をかき回していた二本の指が奥を激しくえぐった……ニッカネンを抱きとめるようにしながらも、思わず甘い嬌声をあげる提督…
ニッカネン「はぁ、はぁ……///」
提督「ん、ちゅっ……れろっ♪」口の端から垂れた唾液をすくい上げるように舐めた……
…さらに数時間後…
ニッカネン「ふあぁぁっ、あんっ、ああ……っ///」
提督「あんっ、あふ……っ、はひっ……んあぁぁっ♪」
…ニッカネンの指遣いはまだぎこちないものの、逆にその初々しさと骨ばった感触が新鮮な提督……暖房が効いた暖かい部屋とはいえ、掛けてあった布団をはねのけてしっとりと汗ばんだ身体を重ね、互いに蜜の糸を引いた指をゆっくりと引き抜くとべとべとになった手をヒップに這わせ、濡れた花芯を重ね合わせた…
ニッカネン「はひっ、あふっ、ああぁ……っ♪」くちゅ…ぬちゅっ♪
提督「んっ、ん……あふっ…あぁん……っ♪」にちゅっ、くちゅ……♪
ニッカネン「はひっ、ひぅ……はっ、はっ……ふあぁぁっ♪」
提督「あっ、ふあぁ……あん……っ♪」
…夜明け前…
ニッカネン「はぁ……///」
提督「ふふ……♪」
…冬の北欧は夜明けが遅く、カーテンの外もまだ真っ暗闇ではあるが、ベッド脇の時計で光る夜光文字はすでに0500時近くを指している……提督はニッカネンを優しく愛撫しながら、ベッドの上で甘い余韻に浸っている……一方のニッカネンはくたびれきった様子だが、提督の肩に手を当て、甘えるように身体を寄せている…
ニッカネン「……せっかくですし、コーヒーでも淹れましょうか」
提督「いいわね……ついでにシャワーでも浴びたいわ♪」
ニッカネン「そうですね。このまま今日の会議に出るわけには行かないですし……///」
提督「ふふっ……こんな風にふとももまでべとべとにして会議に出たら私たちのお付き合いがバレちゃうものね? それともいっそのことそうしちゃおうかしら♪」冗談めかしてウィンクを投げる……
ニッカネン「もう、フランチェスカ……///」
提督「冗談よ♪」ちゅっ……♪
862 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/02/14(火) 01:03:58.41 ID:kgOA7nhU0
…0600時ごろ…
フェリーチェ「……お帰りなさい、フランチェスカ。どうやら二日酔いの薬は飲み忘れなかったようね」
提督「おはよう、ミカエラ……ええ、ちゃんと水も飲んだし、シャワーも浴びてきたわ」
フェリーチェ「そう、ならいいわ。昨日は事前の予想よりも話が上手くまとまったから今日の会議は午後から……それもあんまり議題がないし、寝ぼけていてもどうにかなるとは思っていたけれど……その調子なら大丈夫そうね」
提督「そこまで考えていたの?」
フェリーチェ「一応はね……はい、コーヒーと新聞」
…イタリアと違ってエスプレッソやカフェ・ラテといった多彩な飲み方はないが、ルームサービスが持ってきたポットのコーヒーはフィンランド人秘伝のレシピでもあるのか不思議とおいしい……砂糖少しとミルクを入れてカップを両手で包み込むようにしながら、ゆっくりすする提督…
提督「グラツィエ」コーヒーで身体が暖まると、今度は新聞に取りかかった…
フェリーチェ「……うーん」
提督「どうかしたの?」
フェリーチェ「ああ、いえ……なんでもないわ」ラップトップコンピュータを開いて難しい顔をしているフェリーチェ……
提督「そう?」
フェリーチェ「ええ。今日の会議でどんな話題が出て、どういう風に返せばいいか……その想定問答を考えているだけよ」
提督「そうね……昨日だけでよーく分かったけれど、スカンジナヴィア三国や東欧諸国とロシアの険悪さはなかなか解消できないものね」
フェリーチェ「たとえ「深海棲艦」なんていう共通の問題があってもね……まあ、そのことで頭を悩ませるのは私の仕事。フランチェスカはうまく双方の間を取り持ってくれればいいわ……貴女の「華麗な女性関係」から考えても修羅場には慣れているでしょうし、ね」
提督「まさか。私はそういうのが苦手だから修羅場は作らないようにしてきたのよ?」
フェリーチェ「そうかしら。確か六年前の七月、日曜日だったわね……貴女がとある測量部の大尉と昼からいちゃついているところに、前夜に忘れ物をした通信隊の少佐が戻ってきたことがあったはずよ? その時は修羅場じゃなかったのかしら?」
提督「……何で知ってるの」
フェリーチェ「海軍情報部大尉ともなると、いろんな噂が耳に入るのよ」
提督「あー……でも結局はそのあと三人で「仲直り」したし、どうにかなったわよ?」
フェリーチェ「……とにかく、貴女は釜が沸き立ちそうになった時の「差し水」になってくれればそれでいいわ」
提督「大変そうだけれど、まぁやってみるわね……数字や資料の援護射撃はお願いするわ、ミカエラ」
フェリーチェ「ええ」
………
…
…お昼前…
提督「……そうえいば、今日は聖ルチア祭ね。うちの鎮守府で飼っている犬は「ルチア」っていう名前だから、名前の聖人の日でお祝いをしているはずよ」
フェリーチェ「ルチアね、良い名前じゃない」
提督「ええ。真っ白な大型の雑種犬で賢いし可愛いの……せっかくだから鎮守府に電話でもしてみようかしら♪」
フェリーチェ「それがいいわ。それに公務での出張だから、国際電話の通話料は官費よ?」
提督「もう、たかだか電話の一本でそこまで言わないわよ……官費を申請したらしたで、どうせ書類を山ほど書かなきゃいけなくなるでしょうし、その方が面倒だわ」そう言うと手のひらを上に向け、肩をすくめる……
フェリーチェ「よく分かっているじゃない。 それじゃあ邪魔しないよう、私は隣にいるわ」
提督「お気遣いありがと、ミカエラ……でも聞かれても困るような話題はないし、一緒にいてくれてもいいのに?」
フェリーチェ「そういうのは余人を交えず、身内同士で話す方が楽しいものよ……電話が終わったら言ってちょうだい」
提督「そうするわ」
863 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/02/20(月) 00:40:10.68 ID:eYuXb+Wv0
…同じ頃・鎮守府…
ルチア「ワンワンッ!」
リベッチオ「ほーら、追いついてごらん!」
…冬の風にも負けず、鎮守府の庭を駆け回っているルチアと「リベッチオ」を始めとする活発な駆逐艦たち……そこへアッチアイーオがやって来て呼びかけた…
アッチアイーオ「リベッチオ。そろそろ準備に入るから、ルチアとじゃれるのはおしまいにしなさいよ」
リベッチオ「えー? ルチアだってもっと遊びたいよね?」
ルチア「ハッハッハッ……♪」
アッチアイーオ「もう、どっちが犬だか分かりゃしないわね……」
………
…しばらくして・大浴場…
チェザーレ「よーし、それでは諸君にも手伝ってもらわねばな」
ニコ(ニコロソ・ダ・レッコ)「分かってるよ」
チェザーレ「結構……さぁルチア、こちらに来なさい」
ルチア「ワフッ」
…急に飛び出したり危ない物に触れたりしないようにと「待て」や「お座り」程度はきちんとできるようしつけられているルチアではあるが、さっきまで庭を駆け回り、古いロープの切れ端を骨のような形に結んだおもちゃを振り回していた興奮冷めやらない状態ではなかなか落ち着かない……首輪にリードを付けて馬を抑えるように「どうどう」と軽く引くと、ようやく跳ね回るのを止めて「ハッハッハッ……」と舌を出して床に伏せた…
チェザーレ「やれやれ、またずいぶんと泥だらけであるな……ごちそうを食べる前にきっちり綺麗にせねばな」
ルチア「ワンッ……!」
チェザーレ「よーしよし、いい娘だ……お前は風呂が好きなようで助かるぞ」浴用に使っているトーガをまとい、こだわりのある髪もアップにまとめて態勢を整えているチェザーレ……
カヴール「ふふ、そうねぇ♪」
…大浴場の片隅にある流し場の一つを使って、ルチアを洗うチェザーレたち……土ぼこりをかぶって薄い砂色になっているルチアの身体へぬるま湯にしたシャワーをかけ、それから赤ちゃん用の低刺激シャンプーを泡立てて塗りつける…
アッチアイーオ「まるで大きなデコレーションケーキね」
チェザーレ「全くだ……顔は嫌だろうからな、濡れタオルで拭いてやってくれぬか」胴を抱えるようにしながらゴシゴシと洗っていく……
アッチアイーオ「了解」
ルチア「ワフッ、フガ……ッ」すっと伸びたマズル(鼻)にタオルがあてがわれ顔や耳を拭かれている間、くしゃみが出そうになった人のような声を出すルチア……
ニコ「もう少しだからね、そのまま……そのまま……」
アッチアイーオ「……チェザーレ、もういいんじゃない?」
チェザーレ「待て待て、ここの毛がまだ整っておらぬから……」髪の手入れにはうるさいチェザーレだけあって、洗い残しやシャンプーの泡を流しそこねた部分がないか念入りに確かめる……
カヴール「もういいでしょう? ジューリオ?」
チェザーレ「ふむ、まだ少し気になるが……まぁよかろう」
ルチア「ワン、ワンッ!」手を離すと飛び出して行きそうなルチアをしっかりと押さえ、大浴場の入り口に待ち構えていた数人が専用の古タオルで包み込んで拭き始める……
ルチア「ワフ……ッ」
…ドライヤーの音があまり好きではないルチアのために、わしゃわしゃとタオルでよく拭いてやり、ついでにブラッシングもしてあげるチェザーレたち……ルチア自身がバタバタと身体を揺すって残った雫を振り払っている間にも純白の毛が撫でつけられ、次第に乾いてふんわりとした具合になってくる…
………
…
…しばらくして…
ムツィオ「ずいぶんと綺麗になったわね」
カヴール「そうですね」
チェザーレ「これならば充分であろう……さ、参ろうか」
ルチア「ワフッ♪」
864 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/02/20(月) 01:17:05.72 ID:eYuXb+Wv0
…食堂…
トレント「あ、来た来た」
アッチアイーオ「待ちくたびれたわよ」
チェザーレ「うむ、あい済まぬ。だが毛並みを整えてやる必要があったものでな……」
…シャンプーが終わったのを確認してから食堂へ向かったアッチアイーオだったが、髪にうるさいチェザーレがルチアのブラッシングに時間をかけたので愚痴をこぼした……
デルフィーノ「アッチアイーオ、そう言わないであげよう?」
アッチアイーオ「それもそうね。 じゃあアトロポ、お願い」
アトロポ「ええ……さぁさぁ、主賓にはこれをつけてあげないと♪」
…糸や針の扱いが上手いアトロポ(アトロポス)が端切れで作った赤い前掛けをルチアの首に回し、後ろで軽く結んだ……ルチアも気になる様子で匂いを嗅いだり舌を伸ばしてみたりはするが、嫌がる様子はない…
アッチアイーオ「さてと、それじゃあ聖ルチア祭のお祝いを始めましょう……乾杯!」
一同「「乾杯」」
ディアナ「ルチア。今日はあなたが主賓ですし、ごちそうもうんとありますからね」
ルチア「ワンッ!」
…食堂の長テーブルを囲んだ一同には牛もも肉のロースト、それに保存用しておいた乾燥トマトに残る風味が夏を思い起こさせる「パスタ・アラビアータ」それにクリスマスまでの一ヶ月間、自由に食べられるようにとたくさん焼いてある「パン・ドーロ(黄金のパン)」や果物入りドライケーキの類…飲み物は温めた果汁入りのグリューワインやミルクと砂糖入りのブランデー、サンブーカ(リキュール入りコーヒー)といった、身体の内側から暖まるような飲み物が並ぶ…
ジャンティーナ「美味しいですね……ぇ♪」
フルット「同感です」
ディアナ「はい、あなたの分ですよ。召し上がれ♪」
…主賓のルチアには味付けなしの牛すじ肉と、小腸のようなもつの部分をニンジンやジャガイモと一緒に煮込んだものや、肉の切れ端の部分を焼いたステーキ、また同じように切れ端の部分や古くなってしまったモッツァレラやカチョ・カバッロ、あるいはゴルゴンゾーラ・チーズを載せて焼いた小ぶりなピッツァをえさ皿に載せて仰々しく出した……ディアナが皿を置くまでの間、ルチアはよだれを垂らして尻尾を振っていたが「よし」の声を聞くやいなや勢いよくがっつき始めた…
ドリア「まぁまぁ、そんなに勢いよく食べて……」上品に料理を味わいながら「まるで普段は食べさせていないみたいですね」と、思わず苦笑するアンドレア・ドリア……
レモ「これ……美味しい……っ」
ロモロ「はぐっ、むしゃ……ね、とっても美味しい……ごくんっ」
アッチアイーオ「相変わらず食べ方が汚いんだから……ほら、ソースが付いてる」
レモ「ん、ありがと」
アッチアイーオ「当然でしょ? 提督が留守の間は私がしっかりしていなきゃいけないんだから」
チェザーレ「はは、アッチアイーオも貫禄が付いてきたようであるな」
アッチアイーオ「そりゃあ、提督がいないんだもの……///」
エウジェニオ「まあ、いつもはあんなにつっけんどんなのに照れちゃって……可愛い♪」
アッチアイーオ「う……うるさいわねっ、黙って食べてなさいよ///」
エウジェニオ「ふふふっ、そうさせてもらうわ♪ ジュゼッペ、もう一杯注いでくれる?」
ガリバルディ「ああ。しかし色白なところに赤みが差して、とても魅力的だ……食後に頂きたくなるね♪」
エウジェニオ「まぁ、ふふ……っ♪」
バリラ「さぁさぁ、食べたいものがあったらよそってあげますからね?」
フィザレア「ありがとう、マンマ(お母さん)」
バリラ「もう、私はお母さんじゃあありませんよ」旧式の大型潜「バリラ」級はほとんどが戦時中に解役されて燃料タンクとなっていたためか、潜水艦隊のいいお母さん役を担っている……
アルキメーデ「マンマ、こっちにもお代わりをもらえる?」
バリラ「もう……はいはい♪」
865 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/02/27(月) 02:25:45.12 ID:+e+6lu3F0
…食後…
ポーラ「ザラ姉様ぁ、もう一杯注いで下さい♪」
ザラ「はい……それじゃあポーラ、私にも何かカクテルを作ってくれる?」
ポーラ「はぁ〜い♪」
…親しげに暖炉の火が燃える食堂で聖ルチアのお祝いを済ませると「主賓」のルチアは満足して暖炉の前に敷かれた絨毯の上に寝そべり、当直のない艦娘たちは食後のドルチェやコーヒー、あるいは軽いカクテルをお供に楽しいおしゃべりを始めた…
カヴール「ポーラ、私にも何か作ってくださいな。さっぱりしたのが飲みたいですね」
ポーラ「いいですよぉ〜」
…ザラに代わってバーカウンターの内側に入るとリキュールの棚を眺め、それからグラスとシェーカーを取ったポーラ……それから規則正しい音を響かせるとグラスに綺麗な紅色をしたカクテルを注いだ…
ポーラ「どうぞ「シー・ブリーズ(海の微風)」のシェイクです♪」
カヴール「まぁ、ルビー色の綺麗なカクテルですね」
ポーラ「召し上がれ〜♪」
カヴール「あら、爽やかで美味しい……暖炉の火で火照っていたところですから、ちょうどいいですね♪」ウォッカとクランベリージュース、グレープフルーツジュースのさっぱりしたカクテルを味わいながら、片手で小さく扇ぐ真似をしてみせた……
ザラ「こっちのも美味しいわよ、ポーラ」
…乾杯の時に開けたスプマンテのお余りと、イチゴのピューレを合わせてフルートグラス(丈の長いシャンパングラス)にそっと注ぎ込む「ロッシーニ」を味わっている……と、食堂の壁掛け電話が「ジリリリン……ッ!」と鳴り始めた…
ザラ「こういう満ち足りて動きたくない時に限って電話って鳴るのよね……もしもし?」
提督の声「プロント(もしもし)、ザラ? 私だけれど聞こえるかしら?」
ザラ「あぁ、提督……どうかしたの?」
提督「いえ、ちょっと時間があるから皆はどうしているかしらと思って……それに今日は聖ルチア祭の日でしょう? ルチアは元気?」
ザラ「ええ。ディアナの作ったごちそうを食べて、今はご機嫌で暖炉の前に寝そべっているわ……提督は?」
提督「おかげさまで会議はどうにかなりそうよ。てっきり白髪のお婆さんになるまで帰れないと思っていたのだけれど……」
ザラ「そうならなくて良かったわね」
提督「ええ。ところで、良かったら皆の様子を動画にでも撮って送ってもらえないかしら? ミカエラに言わせると、鎮守府のビデオカメラで撮影して、コンピュータにデータを送ればメールに添付できるそうだから」
ザラ「いいけど、私はあんまりそういうのは得意じゃないから……天才のレオナルドにでもやらせてみましょうか」
提督「そうね」
ザラ「分かったわ、それじゃあ電話は他の皆に代わってもらって……レオナルドは?」
ガリレオ・ガリレイ「ダ・ヴィンチなら自室に戻っているはずよ」
ザラ「分かったわ、それじゃあ呼んでくるわ……ライモンド、愛しの提督から電話よ。 良かったら代わってちょうだい?」
ライモン「……そういうのはやめてください///」
ザラ「悪かったわ、とにかく代わってちょうだいよ……他にも話したい娘はいるんだから、独り占めしないようにね♪」グラスの残りをぐっと空けると、ラッパ型の受話器を押しつけた……
ライモン「も、もう……代わりました、わたしです///」
提督「あら、ライモン♪ ご機嫌いかが?」
ライモン「はい、わたしは元気ですよ。 提督はいかがですか?」
提督「そうねぇ……礼装は堅苦しくて居心地が悪いし、会議の後の立食パーティでは乾杯続きで飲み過ぎるし、空気が乾いているから喉はひりひりするし、隣にライモンもいないし……ヘルシンキは素敵な街だけれど、今は早く帰りたいわ」
ライモン「ふふっ、もう……♪」
提督「ふふふっ……まぁ、あと数日もしないうちに帰国できるし、そのあとはクリスマス休暇が待っていると思えば何てこともないわね♪」
ライモン「その意気ですよ、提督♪」
提督「ええ。お土産もたっぷり買って帰るつもりだから、それだけは期待しておいてくれていいわ」
ライモン「はい。 でも、一番のお土産は提督が元気に帰ってきてくれることです///」
提督「まぁ、ふふ……ライモンも最近は上手になったわね♪」
ライモン「……独り占めは良くないですし、他の人に代わりますね///」
提督「ええ、それじゃあね……♪」
866 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/03/05(日) 01:46:29.30 ID:kPBcFmMN0
…しばらくして…
提督「……ええ、帰ったらうんと甘やかしてあげるわね♪」
提督「もう、そんなにつれないことを言わないの……それじゃあね、アッチアイーオ……チャオ♪」
フェリーチェ「……そろそろいいかしら?」
提督「ええ。声も聞けたし、鎮守府のコンピュータを使って映像も送ってもらったわ……みんな楽しそうで良かったわ」
フェリーチェ「良かったわね……さ、そろそろ支度をしないと」
提督「ええ、あとは上着を着れば準備完了よ♪」
フェリーチェ「結構」
………
…
…会議場…
ニッカネン「あ、カンピオーニ少将、フェリーチェ大尉……どうぞこちらへ」
提督「ええ♪」
フェリーチェ「グラツィエ……それと私からもお礼を。少佐の提供してくれた資料のおかげで作業がはかどりました」
ニッカネン「こちらこそ……こちらも懸案の課題が片付きそうですし、ほっとしています」
…会議の場に集まっている各国士官たちも、議題がある程度片付いたことから「雪解け」とまでは行かないがいくらか和やかな様子で、初日ほどのピリピリした雰囲気はなくなっている……もっとも、何人かはフィンランドの強いお酒が効いてしまったのか、げんなりした様子で椅子に座り込んでいる……その点、提督とフェリーチェは「オブザーバー」ということで、0940時から始まった会議は昼休憩の後まで出なくてもいいよう取り計らってもらっていた…
ニッカネン「では、どうぞお席へ」
提督「ええ……っと、失礼しました」
…提督が席に着こうと会議場を歩いていると、横合いから出てきたロシア海軍の女性将官とぶつかりそうになった……長身の提督とも遜色がないロシアの少将だが、提督のきらきらした金色の瞳とは対照的にその瞳は冷え切った薄いブルーグレイで、寒々しい極北の冬を思わせる…
ロシア女性将官「いや、大丈夫だ」
提督「それなら良かったです、あー……」
ニッカネン「……アドミラル・カンピオーニ、こちらはロシア連邦海軍のクズネツォワ少将。クズネツォワ少将、こちらはイタリア共和国海軍のカンピオーニ少将」
ロシア女性将官「初めまして、アドミラル・カンピオーニ」
提督「こちらこそ。アドミラル・クズネツォワ」儀礼的な握手を交わしたが、クズネツォワの考えが読めない瞳に困惑気味な提督……
クズネツォワ「ああ……では失礼」
提督「……」
…提督はクズネツォワが立ち去ると、握手を交わした手をしげしげと眺めた……まるで何かを隠すように軽く触れあわせるだけの握手だったが、その手は骨ばっていて力強く、何か冷たい気迫のようなものが伝わってきた気がした…
ニッカネン「……どうかしましたか?」
提督「ああ、いえ……なんでもありません」
ニッカネン「そうですか?」
提督「ええ」
ニッカネン「フランチェスカ……彼女のことを考えているのなら、気を付けた方が良いですよ? あまり詳しいことは言えませんが、色々と暗い噂も多いですから……」誰にも聞こえないよう、提督の耳元に唇を寄せてささやいた……
提督「あら、私だってそう誰でも見境なしに抱くわけじゃないわ……クリスティーナ」ニッカネンがしたように耳元へ顔を寄せ、いたずらっぽくささやいた……
ニッカネン「///」
提督「……でも、ご忠告ありがとう」
ニッカネン「いえ……///」
提督「うふふっ、それじゃあ本日もよろしくお願いします♪」
ニッカネン「え、ええ……」
フェリーチェ「……」数歩離れた場所に立って、我関せずと言った表情をしている……
867 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/03/11(土) 01:58:42.89 ID:IZkmBJHT0
司会「では、皆様も席に着かれたようですので会議を再開いたしたいと思います」
提督「……昨日よりは人が増えたわね」
フェリーチェ「今日の会議は昨日まとまった内容の説明も兼ねているから、地元のフィンランド国防省を始め各国の大使館からもお役人が来ているわ……ニッカネン少佐の隣に座っているのがフィンランド国防省で外務の調整を行う担当課長、その隣がフィンランド外務省のお役人。それからロシアも大使館から何人か来ているわね……」
…提督もこれまでに何回か舌を巻いた経験があるが、フェリーチェはその任務上から何人もの顔と特徴を覚えていて、その情報を小声で教えてくれる…
フェリーチェ「あの恰幅の良い丸顔はロシア大使館付きの海軍武官をやっているニコノフ大佐だけれど、あれはウォッカ浸りでただのお飾りだから気にしないで良いわ……それよりも後ろの席に腰かけている眼鏡、あれがくせ者のヴァシリーエフ少佐だから注意するようにね。聞いていないふりをして耳をそばだてているから、彼の近くではうっかりしたことをいわないように」
提督「ええ」
フェリーチェ「フランチェスカは聞き分けが良いから助かるわ」
提督「ふふっ、ありがとう♪」口元を手で隠し、耳元でささやいた……
司会「それでは、ニッカネン少佐から説明を……」
…休憩時間…
提督「ふぅ、これでだいたいの説明は終わったわね」
フェリーチェ「そうね……フランチェスカ、貴女にお客様よ」
提督「え?」
ニッカネン「カンピオーニ少将、フェリーチェ大尉……お二人ともお疲れさまでした」
提督「いえ、とんでもない。ニッカネン少佐こそあれこれ質問されて大変でしたね」
ニッカネン「まあ、いつものことですから……少将も経験があるのでは?」
提督「ええ、ローマのスーペルマリーナ(海軍最高司令部)にいた頃はしばしばでした♪」
ニッカネン「そうでしょうね……♪」
…どの国でもあまり変わらない、役人や「エライ人」へ説明する時に経験する苦労のあれこれに共感して、思わず苦笑いを浮かべる提督とニッカネン……と、そこへロシア海軍のクズネツォワ少将が副官の女性士官を連れて近寄ってきた…
クズネツォワ「……役人への説明は疲れるものだな」
提督「そうですね」
ニッカネン「……失礼、私は国防省の役人に渡さなければならない書類があるので……それではまた明日。カンピオーニ少将、クズネツォワ少将」
提督「はい、また明日」
クズネツォワ「ダスヴィダーニャ(さようなら)」
…ニッカネンが立ち去るのを見送ると、クズネツォワが提督の方を向いて視線を合わせてきた…
提督「……どうかされましたか?」
クズネツォワ「いや。単にコーヒーを取りに来ただけだ……」
提督「ああ……はい、どうぞ♪」コーヒーのポットやちょっとした菓子が置いてあるテーブルのすぐ脇に立っていたので、コーヒーカップを渡した……
クズネツォワ「スパシーバ(ありがとう)」
提督「どういたしまして……クズネツォワ少将、そちらの方は?」
クズネツォワ「ああ、彼女か……私の副官をしている、マリア・エカテリーナ・カサトノヴァ少佐だ」
カサトノヴァ「……どうぞお見知りおきを、カンピオーニ少将」
提督「こちらこそ♪」
…端正な顔立ちに淡いブルーの瞳、冬の陽光のような淡い金髪が合わさって、目立たずきっちりと職務をこなす、いかにも副官らしい副官といった雰囲気のカサトノヴァ……その綺麗な顔立ちもぱっと見ただけではそこまでの印象を残さないが、どうやらあえてそうなるようにメイクや物腰に注意しているらしい……ロシア海軍の黒い制服に身を包み、今日は三つ編みを後頭部に流したハーフアップにしている…
クズネツォワ「ところでカンピオーニ少将、さっきの会議で貴官が言っていた……」
提督「ああ、そのことですか。それなら……」
…コーヒーカップを手にクズネツォワの投げかける質問へ応じる提督と、お互い一歩下がった位置からその様子を黙って見ているフェリーチェとカサトノヴァ…
提督「……ということだと思います」相手が相手だけにしゃべっても大丈夫な情報だけを口にするよう、言葉や内容に注意しながら話す提督……
クズネツォワ「ふむ、なるほど……よく分かった。 では、また後で」
提督「ふぅぅ……」
フェリーチェ「まさか向こうから近づいて来るとはね……それにしてもフランチェスカ、さっきの受け答えは上出来だったわ」
提督「グラツィエ♪」少しおどけた態度で一礼した……
868 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/03/17(金) 01:30:23.91 ID:d8omLR1s0
…夕食会…
ニッカネン「……カンピオーニ少将。会議も無事にまとまったことですし、もう一杯いかがですか?」
提督「ええ。これで明日と明後日の予備日がお休みになるわけですし、それなら多少は過ごしても大丈夫でしょうね……いただきます♪」
ニッカネン「良かった……では、キピス♪」
提督「キピス♪」
…先日の立食パーティはお互いに海軍の「同業者」ということで開かれた内輪のものだったが、この日の夕食会はフィンランドの関連省庁や関係国の大使館員などもいることから一回りぜいたくなものになっていて、美味しいものに目がない提督は太ももが圧迫している礼装のことを気にしながらも、シェフが取り分けてくれる料理のコーナーを前にしてどれを味わうか目移りしていた……幸いにしてニッカネンがあれこれとお勧めのフィンランド料理を教えてくれ、同時にシャンパンやよく冷えたウォッカのグラスも取ってくれる…
ニッカネン「……んくっ」
提督「んっ……」
クズネツォワ「失礼する……おや、アドミラル・カンピオーニ」
提督「ああ、クズネツォワ少将……もしよろしければ、私たちと乾杯しませんか?」ウォッカのグラスを取りに来たクズネツォワに対して何も言わないのも失礼にあたるかと、形ばかり申し出てみる……
クズネツォワ「君たちと? ……そうだな、いいだろう」
提督「……えっ?」
クズネツォワ「何かおかしいか? そちらが誘ったのだと思ったが」
…そもそも長身の提督と並んでも遜色がないほどの身長があるクズネツォワだが、優しげな提督と違って冷厳とした雰囲気をまとっていることもあって、隠しきれない威圧感のようなものがにじみ出ている…
提督「ああ、いえ……では、私が音頭を取りましょうか」
クズネツォワ「そうだな、お願いしよう」
提督「分かりました、それでは……ザ・ズダローヴィエ(健康を祝して)」事前に詰め込んできたロシア語の引き出しから、慌てて乾杯の言葉を引っ張り出した……
クズネツォワ「ザ・ズダローヴィエ!」
ニッカネン「……キピス」
提督「ごくん……っ」思っていたよりも素直に乾杯に応じてきたクズネツォワの意図を考えるあまり、ウォッカの味も分からないままにグラスを干した提督……
クズネツォワ「スパシーバ。ありがとう……アドミラル・カンピオーニはロシア語もできるのか」
提督「いえ、一夜漬けですからほとんど出来ませんよ」思わず苦笑いをしてしまう提督……
クズネツォワ「いや、私はイタリア語などまるで出来ないからな……大したものだ」
提督「恐縮です」
クズネツォワ「なに……ところで向こうにあるピローグ(東欧風パイ)はもう食べたか?」
提督「いえ、まだです」
クズネツォワ「それは良くないな……では一緒に来るといい」ニッカネンから横取りする形で提督の手を取り、別のテーブルへと引っ張っていくクズネツォワ……
提督「あの、クズネツォワ少将……」
クズネツォワ「なにか?」
提督「いえ、私は手を引いていただかなくても大丈夫ですから……」
クズネツォワ「これは失礼した」硬く力強い手を離すとピローグの皿を取って提督に渡した……
提督「では、いただきます……あむっ」
…ずっしりと盛り上がった円盤をケーキのようにカットしてあるピローグはさっくりとしたパイ生地にキノコやタマネギ、ジャガイモなどを詰めてあって、サワークリームやコンソメといった味で仕上げてある……パーティ向けと言うにはすこしボリュームがあるが、オードブルの盛り合わせのようなメニューが並ぶことが多い会場で、終わってから空腹を抱えたままでいることが多かった提督からするとこうした料理はありがたい…
クズネツォワ「それからこれも……シャンパンと一緒にやるといいだろう」
提督「スパシーバ」黒キャビアを小さじでつまみつつ、シャンパンを少しずつ口に含む……
クズネツォワ「どうだ?」
提督「ええ、美味しいです」
クズネツォワ「そうか……」
提督「……あの、クズネツォワ少将?」
クズネツォワ「ユーリアと呼んでくれて結構だ、アドミラル・カンピオーニ」
提督「では、私のこともフランチェスカで構いませんよ……ユーリア」
クズネツォワ「ダー、分かった……フランチェスカ」
提督「ええ」
869 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/03/25(土) 01:15:52.44 ID:+XvZN4+Y0
…パーティを終えて・ホテル…
フェリーチェ「……それじゃあクズネツォワ少将からの夕食のお誘いに応じたわけ?」
提督「ええ。明日の夜に夕食でもいかがですか……って言うから」
フェリーチェ「はぁ、目を離すとすぐにこれなんだから……ロシア海軍の将官と二人っきりで夕食だなんて、後で情報部から何を聞かれるか分かったものじゃないわよ?」
提督「だからってむげに断るのも失礼でしょう?」
フェリーチェ「もう、仕方ないわね……もし事情聴取を受けるような事があったら私に言いなさいよ?」
提督「ええ、ミカエラには感謝しているわ♪」鎮守府の豪華な大浴場とは比ぶべくもないが、ともかく堅苦しい礼装を脱いでホコリを落とし、さっぱりした気分で髪をくしけずりながら、フェリーチェに軽くキスをした……
フェリーチェ「本当に貴女と来たら……ん、ちゅ♪」
提督「ふふっ、こうしていると同棲していた時の事を思い出すわね?」
フェリーチェ「まぁね……フランチェスカはたいていエプロン姿で、ワインとパスタを用意して待っていてくれたわね」
提督「ええ。それでミカエラはたいてい難しい顔をして帰ってきて……でも私の料理を美味しいって喜んでくれたわよね♪」
フェリーチェ「事実だもの。まったく、海軍司令部に入っている食堂もあれくらい美味しい料理を出してくれればいいんだけど」
提督「もう、電子レンジで温めたような出来合いの料理と比較しないで欲しいわ」
フェリーチェ「それもそうね……じゃあ、明日は気を付けて行ってくる事ね」
提督「ええ、迂闊な事を言わないよう気を付けます♪」
…翌日・夕刻…
提督「さてと、髪をとかしたら着替えて……あのクリーム色のセーターで良いわよね」
フェリーチェ「なに、せっかく持ってきたのにカクテルドレスは着ていかないの?」
提督「ええ、クズネツォワ少将いわく「あくまでも会議中のことに関して質問があるだけで、夕食を済ませたらすぐ終わるので普段通りの格好で結構だ」って……」
…提督はフェリーチェに「クズネツォワ少将ったら、まるで絵に描いたように無機質な人みたいね」と肩をすくめ、それでも黒いシルクにレースで薔薇模様をあしらったミラノ製の上等なランジェリーを身に付け、鏡の前でためつすがめつしながらルージュを引き、白粉をはたいてメイクを仕上げている……
フェリーチェ「そう……」
提督「なぁに? 私がマタ=ハリかボンドガールの真似をして情報を引き出せるように、色っぽいカクテルドレスの方がよかった?」冗談めかして、腰に手を当てた色っぽい姿勢を取ってみせる……
フェリーチェ「そうじゃないわ。ただ、私が用意したものを考えるとドレスの方がいいかと思って……」
提督「用意した、って……何を?」
フェリーチェ「これよ……貴女に似合うと思ったから用意したの。良かったら付けてみて?」
…そう言って黒いヴェルヴェットのアクセサリーケースを取り出すと、蓋を開けて提督に差し出した……中には直径十ミリくらいの大きさをした、真珠のイヤリングが対になって収まっている…
提督「あら、素敵なイヤリング……でも残念ね。私、イヤリングの穴を開けたことはないのよ?」
フェリーチェ「もちろんそのくらいは知っているわ。 だからイヤーカフみたいに耳たぶへ挟むタイプにしておいたの……いい?」
提督「ええ」化粧台の前で座りなおすと豊かな髪をかき上げ、フェリーチェがイヤリングを付けやすいようにした……
フェリーチェ「そのままよ、まだ動かないで……どう? 本物じゃなくてイミテーション(模造)の真珠だけど、なかなかいいんじゃないかしら」
提督「そうね、大粒だけれど自己主張し過ぎない程度で……ちょうどいいわ」鏡の前で左右に首を動かし、耳たぶの下で揺れる模造真珠のイヤリングを確かめる……
フェリーチェ「気に入ってもらえたようで良かった。ネックレスは持っているでしょう?」
提督「ええ、銀のネックレスがあるわ」
フェリーチェ「なら首もとは心配ないわね……ふむ、なかなかいいじゃない」
提督「そう?」
フェリーチェ「ええ、決まっているわ」
提督「ミカエラがそう言ってくれるなら成功ね……っと、いけない。もうそろそろ迎えの車が来る時間だわ」身支度を済ませ、ノートや筆記具を入れた小ぶりな黒革のバッグを肩に掛けると、忘れ物がないかさっと見わたした……
フェリーチェ「それじゃあ舞踏会へ行ってらっしゃい、チェネレントラ(シンデレラ)」
提督「ええ、行ってきます♪」
フェリーチェ「気を付けてね」
870 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/04/02(日) 01:33:37.51 ID:9BAJdt4i0
…ホテル前…
カサトノヴァ「お待ちしておりました、アドミラル・カンピオーニ」
提督「あら、カサトノヴァ少佐……貴女が運転を?」
カサトノヴァ「ダー。どうぞお乗りください」
提督「スパシーバ」
…カサトノヴァがロシア大使館ナンバーのついた黒い「メルセデス・S600」のドアを開け、後部座席に座るよううながした……私服に着替えているカサトノヴァだったが、上着の裾が持ち上がった瞬間、提督の目にちらりとマカロフ・ピストルのホルスターが見えた…
提督「……」
カサトノヴァ「……シートベルトはよろしいですか」
提督「ええ」
カサトノヴァ「結構です。では車を出します」
………
…
…ヘルシンキ市内・高級ロシア料理店…
クズネツォワ「こんばんは、アドミラル・カンピオーニ」
提督「どうも……」
…レストランは暗めの照明と観葉植物でそれぞれのテーブルが隠されたようになっているが、さらに奥の半個室でクズネツォワが待っていた……カサトノヴァに案内されてやって来たテーブルにはぼんやりと残照のような色の光を投げるランプとヴィンテージワインの瓶が置かれていて、提督が腰かけると、クズネツォワが早速グラスにワインを注いだ……
クズネツォワ「ご苦労だった、下がってよろしい」
カサトノヴァ「ダー」
クズネツォワ「……さてと、まずは良く来てくれた」
提督「ええ、聞きたいことがあるという事でしたから……」
クズネツォワ「そうだな。だがまずは一杯付き合ってくれ……ザ・ズダローヴィエ(健康を祝して)」
提督「ザ・ズダローヴィエ」底が読めない相手だけに、控え目にワインを含む提督……
クズネツォワ「聞きたいこともあるが、まずは食べてからにしよう……夕食はまだだろう?」
提督「はい、まだです」
クズネツォワ「結構。勝手に料理を頼んでおいたが、構わないな?」
提督「え、ええ……」
…黒いタートルネックにチャコールグレイのダブルのブレザーを羽織り、提督が食べている様子をじっと観察しているクズネツォワ……彼女自身はときたま精密な動きでナイフを動かし、視線を提督に向けたまま料理を口に運んでいる…
提督「……それで、クズネツォワ少将」
クズネツォワ「ユーリアで結構だ、アドミラル・カンピオーニ」
提督「そうですか、では……ユーリア」
クズネツォワ「何だ?」
提督「いえ、その……私に聞きたいことがあるということでしたが」
クズネツォワ「ダー、その通りだ。 だがさっきも言ったとおり、まずは食べてからにしよう」
提督「そうですね……」
…普段は縁のないお高いレストランにありがちな、大きくて真っ白な皿にソースで点々と色を垂らして縁取りをした料理を口に運ぶ……サーモンの桃色が上品なムースにサワークリームとビーツのコントラストも鮮やかなボルシチ……スメタナ(クリーム)やキャビアを添えた温かいブリヌイ(そば粉のクレープ)に、器の大きさに対して驚くほどボリュームのある濃厚なクリームシチュー……途中で赤ワインのボトルが空になるとクズネツォワはウォッカを頼み、小さいショットグラスを軽く持ち上げると一気に飲み干した…
提督「乾杯」濃厚な味付けの多い料理と、度数は高くても水のように余計な味のないウォッカはなかなか相性が良い……
クズネツォワ「どうだ?」
提督「ええ、美味しいです」少しだけ緊張をほぐしてゆったりと腰かけた提督……
クズネツォワ「ハラショー(結構だ)」
871 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/04/11(火) 01:46:51.66 ID:6mQxCad+0
…食後…
提督「ふー、大変美味しかったです」
クズネツォワ「結構」
…デザートに出されたのは初雪のように粉砂糖がかかったふんわりした揚げパンケーキ「スィールニキ」と、色鮮やかなイチゴの「ヴァレーニエ(シロップ煮)」を添えたもので、サモワール(沸かし器)で淹れた紅茶と一緒に甘い味を楽しみながら、提督は案外くつろいだ気分になっていた…
クズネツォワ「さて……そろそろ食べ終わったかな?」ヴァレーニエを小さじですくって肴にしながら紅茶をすすっていたが、提督がデザートを食べて紅茶を飲み終えたのを見ると、かちゃりとカップを置いて尋ねた……
提督「はい」
クズネツォワ「よろしい……では行こう」
提督「あの、尋ねたいことがあるというお話でしたが……?」
クズネツォワ「アドミラル・カンピオーニ……まさか夕食を済ませたばかりで堅苦しい話もあるまい?」
提督「え、ええ……」
…会計…
クズネツォワ「会計を頼む」
提督「……あ、私の分は払います」さっさと入り口で会計を済ませようとするクズネツォワを引き止めて、あわてて長財布を取り出す提督……
クズネツォワ「待て、私が君を呼んで夕食に付き合わせたのだぞ? 野暮なことを言うな」
提督「いえ……これでも私の立場上、酒食のもてなしを受けてはならないことになっていますから」
クズネツォワ「だが今は軍服を着ていないだろう。任務外で個人と個人が出会って一緒に食事をしただけにすぎない……まとめて頼む」
提督「お気持ちは嬉しいですけれど、そういうわけにはいきません」さすがに「ロシア海軍の将官に夕食をごちそうになって情報部の取り調べ対象になりたくはないので……」とは言えないので、一般論を武器に丁寧な態度で食い下がる提督……
クズネツォワ「もういい、分かったわかった……別会計にしてくれ」
提督「スパシーバ。 あ、領収書をお願いします」
…ローマやパリの偉そうなビストロやリストランテと同じようにゼロが一桁多い金額を見て、美味しい食事とデザートで得たご機嫌な気分も少し色あせてしまったが、領収書をもらって少し安心した提督……コートや革手袋、毛皮帽を受け取るときっちり身に付けて、クズネツォワと一緒に店を出た……店の入り口ではカサトノヴァ少佐がメルセデスで待っていて、さっとドアを開けた…
クズネツォワ「……ご苦労、マリア・エカテリーナ」
カサトノヴァ「はっ……どうぞお乗りください、アドミラル・カンピオーニ」
提督「ええ、ありがとう」
…ヘルシンキ中心街・高級ホテル…
カサトノヴァ「……着きました、少将」
クズネツォワ「ああ、ご苦労だった。大使館に車を戻したら帰ってよろしい」
カサトノヴァ「はい」
提督「えっ……?」
クズネツォワ「何かおかしいか、アドミラル・カンピオーニ? これから部屋で話をするというのに、少佐をいつまでも待たせたままにしておくわけにもいかないだろう」
提督「いえ、それはそうですが……」
クズネツォワ「ならどうしてそんなに驚いたような声を出したのだ? 別に人跡未踏の地ではないのだ、帰る時になったらタクシーでも呼べばいい」
提督「ええ、そうします」
クズネツォワ「さ、いつまでも外にいては冷えてしまう……中に入ろう」
…スイートルーム…
クズネツォワ「さて、では話をする前に……何か飲み物がなくてはな」ルームサービスで氷の詰まったアイスペールを持ってこさせると、ロングコートのどこかからとり出した「ストリーチナヤ」ウォッカの瓶を突っ込み、グラスを二つ置いた……
クズネツォワ「これでよし。さて、それでだが……」
提督「ええ……」
…飲み過ぎないよう注意はしていたものの、すでにいくらか酔いが回ってふわふわした気分になり始めている提督……それとは対照的にクズネツォワは顔色一つ変わっておらず、テーブルに会議の資料や地図を広げると、単刀直入な言葉遣いで疑問点やあいまいな部分を問い詰める……提督も余計な事は言わないようにと気を付けながら説明するが、士官学校で口頭試問を行う教官のような勢いで矢継ぎ早に質問を浴びせられると、ついぽろりと本音がこぼれたり、うっかり感想を述べてしまったりする…
クズネツォワ「……ふむ、なるほど」
提督「もう大丈夫ですか?」尋問のようなやり取りが済んで、思わず肩の力を抜いた提督……
クズネツォワ「ダー、納得がいった……感謝する」そう言って二つのグラスにウォッカを満たすと、片方を提督に握らせた……
提督「お役に立てて良かったです……」
872 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/04/20(木) 00:51:27.25 ID:j4NiNM1J0
…しばらくして…
提督「それでは、私はこの辺で……」
…まるで流氷のように冷たい「ストリーチナヤ」をグラスに注がれ、クズネツォワの冷たい瞳に見据えられていることもあって、二杯ほどウォッカを喉に流し込んだ提督……ちらりとクロノグラフ(腕時計)を見ると、立ち上がって辞去しようとした…
クズネツォワ「おや、もうそんな時間か……とはいえ帰るには少々遅い時刻だ。 幸い、寝室にはベッドが二つあるし、今夜はここに泊まっていったらどうだ?」
提督「ご厚意はありがたいですが……明日もあることですし、タクシーでも呼んで帰ることにします」
クズネツォワ「そうか。 だがここはモスクワやニューヨークのような大都会ではないのだ。当たり前のフィンランド人ならきっとベッドに潜り込んでいるか、さもなければコスケンコルヴァでもがぶ飲みしている時間だろう。タクシーなどいるはずもない」
提督「それは……」
クズネツォワ「どのみちストリーチナヤがまだ残っている……せっかくだ、もう少し付き合ってくれ」
提督「……分かりました」そういうと、また腰を下ろした提督……
…またしばらくして…
提督「……しかし、先ほどからうかがっていると、お国の「艦娘」の扱いはずいぶんと……その……冷たいように感じます」
クズネツォワ「ふむ。ならば、アドミラル・カンピオーニはいわゆる「艦娘」をどうすればいいと思っているのだ?」
提督「私ですか……私は、もしできることなら艦娘たちを戦わせたくはありません」
クズネツォワ「……申し訳ないが、そこが西側諸君の甘いところだ」表情の読めない冷たい瞳が提督を真っ直ぐ見つめ、冷淡な口調で言い放った……
提督「と、いいますと?」
クズネツォワ「深海側と対話ができるというのならさておき、あの連中には話など通じない……それに部下である艦娘たちを愛玩動物か何かのように可愛がっていては、かえって判断を曇らせ、戦闘の帰趨に影響を与えかねない」
クズネツォワ「ましてや軍隊は戦うための組織であって、不合理な命令であっても従わなければならない理不尽なところだ。 私とて戦うために必要な資材や戦意を高めるための休養といったものを惜しむものではないが、貴女方のいう「鎮守府」とやらは、まるで特権階級(ノメンクラツーラ)の別荘(ダーチャ)だ」
提督「……私たちの鎮守府が特権階級のダーチャなら、お国の鎮守府はシベリアのラーゲリ(強制収容所)ですね」酷薄なまでに冷淡なクズネツォワへの反発と酔った勢いもあって、つい言い返してしまう提督……
クズネツォワ「ふ……ははははっ! やはり君は面白いな、タヴァリーシチ(同志)カンピオーニ、そうやって面と向かって口答えをされたのは久しぶりだ」
提督「恐縮です」
クズネツォワ「ああ……だがな、少将。 君の豊かな人間性を否定するわけではないが、戦闘時に余計な感傷は不要だ」
提督「ええ、それは私も分かっているつもりです。ですが、艦娘の娘たちとは日頃から生活を共にしている仲です。そう簡単に割り切れるものでもありません」
クズネツォワ「君のような女性からすればそうだろうな」
提督「ええ、そもそも私は軍人向きではありませんし……よくいう「祖国のために殉ずるは甘美にして名誉なこと」という言葉は嫌いです」
クズネツォワ「ホラティウスか……まぁそうだろうな」
(※ホラティウス……クィントゥス・ホラティウス・フラックス。古代ローマの詩人「dulce et decorum est pro patria mori」はホラティウスの格言の一つ)
提督「ええ。 貴女からすれば甘いとは思いますけれど」
クズネツォワ「ダー、その通りだ。艦隊を率いる将官としては甘いし、考え方も青い……だが、たまには違う考え方の人間がいてもいい」提督の目には、冷たく刻み込まれたクズネツォワの額の縦じわが少しだけほぐれたように見えた……
提督「ありがとうございます……それで、クズネツォワ少将は?」
クズネツォワ「私が何か?」
提督「少将の行動原理です」
クズネツォワ「ああ、そういうことか……簡単だよ。「撃たれる前に撃て」これだけだ」
提督「ふふっ、なるほど。それなら私も同じです」
クズネツォワ「そうは思えないがな」
提督「いいえ……確かに私は深海側と交渉で解決できるならそうしたいと思っています。 しかしその機会がないのなら、私としては鎮守府の可愛い娘たちのために「やられないためにやっつけろ」と言うでしょう」
クズネツォワ「……なるほど、どうやら同じ結論にたどり着いたようだな?」
提督「ええ、意外ですが」
873 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/04/24(月) 01:29:50.90 ID:WB0UYTOX0
クズネツォワ「私も意外だよ……もっとも、君の考えを理解できないこともない。なにしろ私は平和主義者だからな」
提督「あー……聞き違いでしょうか?」
クズネツォワ「いや、私が「平和主義者」といったのは聞き違いではないよ……考えてもみるがいい」
提督「何をです?」
クズネツォワ「冷戦時代のことだ。もっとも、君の世代ではもう知らないか?」
提督「そうですね、私が生まれたか生まれないかのころにソ連は無くなっていましたから」
クズネツォワ「そういうことを言われると自分が年寄りになった気がするな……それはそうと、強力で圧倒的なソ連軍があったとき人はソ連を恐れ、また憎みこそすれ、刃向かおうという者はそういなかった。例えそれが誰かの犠牲によって立っているとしても、少なくとも多数の人間にとって平和な時代であったこともまた事実ではないか?」
提督「……つまり「ゆえにカルタゴは残さねばならない」ということですか」
(※ゆえにカルタゴは……古代ローマの政治家「大カトー」が北アフリカ沿岸にありローマにとって身近な脅威であったカルタゴに対し「……ゆえにカルタゴは滅ぼさねばならない」と演説をしめくくるのに対して、政敵であったスキピオ・ナシカは仮想敵がなくなると軍備がおろそかになったり緊張感がなくなることでローマが衰退するとして「……ゆえにカルタゴは残さねばならない」と演説したという)
クズネツォワ「いかにも……米ソ冷戦が終わって「悪の帝国」がなくなったとき、世界は指針を失って混迷の時代を迎えた。 一つくらい持病を持っていた方が健康に気を使うようになるのと同じで、世界には強大な敵役が必要なのだ」
提督「それがロシアだと……?」
クズネツォワ「いかにも。望むかどうかは関わりなく、ロシアというのはそういう役割を担っているのだ」ウォッカのグラスを一息に干すと、かすかに皮肉っぽい表情を浮かべた……
提督「そうですか?」
クズネツォワ「ああ。それに我が国がソ連時代から軍拡に努めてきたのは、全てアメリカからソ連を防衛するためにすぎない……実際問題として、アメリカが我が国の裏庭である東欧諸国に優れたミサイルを配備しておきながら、我が国がアメリカの裏庭であるキューバや中南米にミサイルを配備してはいけないというのは不公平というものではないか?」
提督「……納得は出来ませんが、そういう意見もあるでしょうね」
クズネツォワ「そうとも。それに当時のソ連海軍が保有していた艦艇も航空機も、全てアメリカの原潜や空母打撃群、爆撃機に対抗するためのものでしかない……」
提督「なるほど」
クズネツォワ「それにだ、たいていの軍人は戦争など欲しない。それがいかに悲惨なものかよく知っているからだ……クレムリンの政治屋どもがどう思っているかは知らないが、少なくとも私は平和であって悪いことはないと思っているよ」
提督「そうですね。私が言うのもおかしな話ですが、軍人が「本業」に精を出すようになったらおしまいですから」
クズネツォワ「そういうことだ……さ、もう一杯飲もう」表情はまるで変わらないが、どうやらご機嫌な様子のクズネツォワ……提督のと自分の、二つのグラスのギリギリまでウォッカを注いだ……
提督「……いただきます」
…どの世界でも「部外者」の同国人よりも「同業者」の外国人の方が考えを理解しやすいし付き合いやすいというのはありがちな話で、提督とクズネツォワも何だかんだとウォッカのグラスをやりとりする程度には打ち解け始めていた……
クズネツォワ「……」
提督「……どうかしましたか?」
クズネツォワ「ニェット(いいや)……だが……ふむ、なるほどな」もう一杯ウォッカを飲み干すと、なにやら納得した様子のクズネツォワ……
提督「?」
クズネツォワ「なに、こっちの話だ……いいか?」上着の内ポケットから煙草の箱を取り出すと、提督に尋ねた……
提督「ええ、どうぞ……ずいぶん気になる言い方ですね」提督は煙草が好きではないので、失礼にならない程度で少し椅子を下げた……
クズネツォワ「そうか?」
提督「ええ。特にそんな風に気を持たされたらなおのこと♪」
クズネツォワ「かもな……」
提督「はぐらかすのがお上手ですね、ユーリア♪」
…机の上の灰皿を引き寄せて煙草に火をつけ「ふーっ……」と紫煙をくゆらせるクズネツォワに対して、ちょっと小首をかしげて頬杖をつき、ウォッカでぽーっと火照った顔にいたずらっぽい微笑をうかべる提督…
クズネツォワ「……まあ、せっかくの機会だ」
提督「と、いいますと?」
クズネツォワ「なに、すぐに分かる……」そういうと吸いさしの煙草を灰皿に押しつけて消した……
874 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/05/01(月) 01:44:48.40 ID:st6aV10Z0
提督「……ユーリア?」
クズネツォワ「何を戸惑っているのだ? 君だって子供ではないのだから、ここまで来たらどういう意味かくらいは分かるだろう?」
…立ち上がると提督の手に自分の手を重ね、ぐっと上半身を屈めるようにして提督の瞳をのぞき込んだ……冷たく骨っぽい、逆らいがたい力を秘めた手が提督の手首をつかみ、椅子から立ち上がらせる……反対の腕を提督の腰に回すと、そのままベッドルームとおぼしきドアへと提督を連れて行くクズネツォワ…
提督「ユーリア……///」ふんわりしたセーターの生地越しにクズネツォワの固く引き締まった身体が感じられ、煙草の香りが混じったビターな吐息がふっと耳元に吹きつけられる……
クズネツォワ「ああ」
提督「……いいのですか?」
クズネツォワ「駄目だったらこんな真似はしない」
…ベッドルーム…
クズネツォワ「……さて、それではもっと個人的な話をする前に……カンピオーニ提督、少しよろしいか?」
提督「ええ、何でしょう?」
クズネツォワ「失礼」提督が付けているイヤリングを外すと、ナイトテーブルにあった水差しの中に放り込もうとする……
提督「あっ、何を……」
クズネツォワ「申し訳ないな。 だが、盗聴されるのは趣味ではない」
提督「えっ?」
クズネツォワ「おや、気が付かなかったか? では後でご友人に聞いてみるといい……悪いがこんな小細工に気付かない私ではない」
…イヤリングの人工真珠に爪をかけると、パカッと真珠が二つに割れ、中にボタン電池程度の小さな機械が収まっている……クズネツォワは機械に唇を近づけてそう言うと、改めてぽちゃんとイヤリングを放り込んだ…
クズネツォワ「さて……一つ始末したとはいえ、おおかたこの部屋そのものにもフィンランド側が仕掛けた盗聴器が山とあるはずだ」
提督「そうでしょうか?」
クズネツォワ「ダー(ああ)。 もっとも、探して見つかるような幼稚な場所にありはしないだろう……驚きはしないがね。 公的なレセプションに出席したロシア海軍の将官が宿泊する部屋に盗聴器の一つもないとしたら、その方が驚きだ」
提督「そういうものですか……私には縁のない世界です」
クズネツォワ「そうだろう、だから君のご友人も盗聴器を仕込む気になったのだ……自分の持ち物に盗聴器を仕掛けられていることを知らない人間なら、不自然な挙動をすることもないからな。とはいえフィンランド人にただ盗み聞きされるのも芸がない……」
…そう言うとどこからか文庫本くらいの大きさをした、テルミンと音叉のあいのこのような器具を取りだしてナイトテーブルに置き、側面のスイッチを入れた……途端に「ぶぅん……」と、遠くでクマンバチが飛んでいるような振動音が低く鳴り始める…
提督「それは?」
クズネツォワ「ノイズメーカーだよ……低周波を始めとした音波を発してガラス窓や壁に反響させ、室内の声が捉えにくくなる。これで多少は私的なおしゃべりもできるわけだ」
提督「……」
クズネツォワ「どうした? 遠慮せずに座るといい」
…重そうなコートと地味なチャコールグレイのブレザーを脱いでベッド脇の椅子にかけると、化粧っ気のない地味な黒いタートルネック姿になったクズネツォワ……将官というよりは競泳選手のような引き締まった身体と冷徹な表情を浮かべた苦みばしった顔に、可愛らしさのかけらもないモノトーンの服が良く似合う……そのままベッドに腰かけると掛け布団を軽く叩き、隣に腰かけるよううながした…
提督「ユーリア、もしかして私がどういう人間かご存じの上でやっているでしょう?」
クズネツォワ「だとしたらどうなのだ?」
提督「……こうします」
…そういうとかたわらに腰かけ、顔を向けさせてキスをした……冷たく煙ったい煙草の香りとウォッカの味が少し残っている薄い唇に提督の柔らかなみずみずしい唇が触れる…
提督「ん、ちゅ……っ♪」
クズネツォワ「……んっ」
提督「ぷは……///」
クズネツォワ「ふ、なるほどな……くくくっ♪」
提督「何がおかしいのです?」
クズネツォワ「いや。まったく面白い女性だよ、君は……」
…そういうなり提督をベッドに押し倒し、あご先に指をあてがうと上向かせると唇を押しつけた……片腕で提督の手をつかみ、上から覆い被さって身体を押さえ込むようにして長々と口づけをする…
提督「ん、んんっ……んぅ///」
クズネツォワ「ん……ふっ……んむっ……」
提督「ぷはっ……はぁ、はぁ……っ///」息切れを起こすかと思うくらい長々と続けられた口づけに、呼吸を荒くする提督……
クズネツォワ「……それで、もうおしまいか?」
提督「いいえ……これからです♪」ちゅ……っ♪
875 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/05/04(木) 01:25:30.38 ID:4vqiA8he0
クズネツォワ「んん……ちゅ…る……」
提督「ん…ふ……ちゅぅ……♪」
クズネツォワ「んむ……っ、んぅ……」
提督「はぁ、はぁ……あむっ、ちゅるっ……ん……ぅ♪」
…肺に深く吸い込んだ空気と鼻呼吸で、唇を離すこともなく長々と接吻を交わす提督……最初はクズネツォワの唇を優しくついばみ、次第にじっくりとむさぼるようなキスに変えていく……舌先を唇のすき間に滑り込ませるとクズネツォワの舌に絡みつかせ、かすかに甘いウォッカの後味と煙草の冷たく煙ったい香りが残る口中をねちっこくねぶっていく…
クズネツォワ「ん、んっ……んぅっ……」
提督「ん、はむっ……れろっ、ちゅぅ……っ♪」
クズネツォワ「……っ、はぁ」
提督「ユーリア……貴女が誘ったんですからね?」
クズネツォワ「ダー、分かっている……どうして、なかなか大したものじゃないか」
提督「ふふふっ、まだこれからです……♪」
クズネツォワ「ほう、それはそれは」
提督「むぅ……そうやって涼しい顔でいられるのも今のうちですからね?」
…クズネツォワが着ているセーターの裾から手を入れ、固く引き締まった猟犬のような脇腹をそっと愛撫し、同時に親指をかけてセーターをずりあげていく……次第にあらわになっていく引き締まった腹部にはうっすらとだが腹筋の割れ目が浮かび、それがナイトスタンドの明かりを受けて砂丘のように陰影を強めている…
提督「すごい筋肉ですね……私なんてどう頑張ってもこんな風にはなれそうもありません」
クズネツォワ「いや、簡単なものさ。毎日百回単位で腕立て伏せや腹筋をすればいいだけだ」
提督「それが出来そうにありませんから……」苦笑いをしながら揉みほぐすようにしてお腹を撫で、次第に乳房の方へと指先を進めていく……
クズネツォワ「かもな……」
…提督の手と呼応するようにクズネツォワも提督のセーターを徐々に脱がしていき、その冷たい目が提督の柔らかな曲線を帯びた身体のラインをじっくりと眺め回す…
提督「……ね、ユーリアと比べたら私なんてクジラみたいなものでしょう?」
クズネツォワ「ああ……だが、抱くにはこの方がいいな」ぎゅむっ……♪
提督「きゃあっ♪」
クズネツォワ「ふむ……柔らかいが張りと弾力もあっていい揉み心地だ」
提督「そんな淡々と言われても……あんっ♪」
クズネツォワ「なにしろ誰かとベッドを共にすることはあまりないからな……こういうのはなかなか新鮮だ」淡々と言いながら提督の豊満な胸をこね回す……
提督「もうっ、ユーリアがそうなら私も……っ♪」
クズネツォワ「私の胸では揉むほどもあるまい」
提督「それならそれで他にやりようはありますから……それに、結構ありますよ? ちゅっ♪」
…提督はクズネツォワの硬く引き締まった乳房に唇を這わせ、薄い小豆色をした先端に優しく吸い付き甘噛みした……ぎゅっと抱きしめたクズネツォワの身体は骨ばっているが筋肉質で引き締まった弾力があり、鍛えているためか提督が身動きをしたり舌で舐めあげても小揺るぎすらしない…
クズネツォワ「そうか、なにぶん比較対象が少ないものだからな……しかし君の身体は柔らかいな。肌もきめ細かくて手に吸い付くようだ」
提督「ふふっ、くすぐったいです……♪」
クズネツォワ「ああ、済まないな……ふむ」提督のスカートに手を伸ばすと少々ぎこちない手つきでずりおろし、黒タイツに包まれたヒップを撫でた……
提督「もう、ユーリアったらせっかちですね♪」
クズネツォワ「ウスカレーニエ(加速化)というやつだ」(※ウスカレーニエ…ゴルバチョフ時代の経済発展加速化プラン)
提督「……ウスカレーニエ?」
クズネツォワ「ふ、分からないならそれでいい……♪」
提督「ん……あふっ♪」
876 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/05/12(金) 01:04:02.98 ID:HJOkhMsZ0
クズネツォワ「ん…ちゅる……っ」
提督「ふぁ……あ、あっ……ん、ふっ♪」
…舌を絡めたキスを続けるうちに口中の唾液は水気が減って粘っこくなっていき、もどかしいような息継ぎをするたびに湿っぽい音を立て、朝露に濡れた蜘蛛糸のように銀色の糸を引く……クズネツォワの手がいささか強引に提督の下着を引き下ろし、むっちりした太ももから柔らかそうな下腹部があらわになる…
クズネツォワ「それでは……」ぐり……っ♪
提督「んっ……ユーリア、いきなり指を入れるなんて乱暴ですよ……」
…痛さに飛び上がるほどではなかったが、いずれも絶妙な愛技の持ち主でじっくり丁寧に気持ちを高めるのが上手だったローマやミラノの「恋人」たちや、技巧はそれほどでもないにしろ提督に対する「好き」の気持ちがこもっている愛しい艦娘たちと違って、いささか唐突かつ粗削りな手つきで指をねじ込まれ、少し涙目になる提督…
クズネツォワ「そうか、それは済まなかった……しばらくそのままにしておけばいいのか?」困惑さと意外さがない交ぜになったような表情を浮かべ、提督の花芯に挿し入れた指をどうすればいいか持て余し気味にしている……
提督「ええ、しばらくはそのままで……ところで、もしかしてカサトノヴァ少佐相手にもこんな風に?」
クズネツォワ「ああ。少なくともマリア・エカテリーナとするときはな」
提督「まったく……こんなやり方じゃあカサトノヴァ少佐が可哀想ですよ?」
クズネツォワ「考え方の相違だな。私がマリア・エカテリーナを抱くときは何も考えず思考をまとめたい時だけだ……それ以上でもそれ以下でもない。 彼女は余計な事を言わずに寝ていてくれればそれでいいし、こちらに余計な気づかいや、どうやって彼女を悦ばせるかと言ったことを考えさせるようなら欲しくない」
提督「だからってあんまりですよ、それだったら玩具でも変わりないでしょうに」
クズネツォワ「ニェット(いいや)。マリア・エカテリーナはそのへんをよくわきまえてくれているからな」
提督「もう、ユーリアったら勝手なんですから」
クズネツォワ「これでも何かと考えることが多いのでな……いいか?」
提督「ええ、少しは落ち着いてきましたから……///」
クズネツォワ「そうか、だが少し控え目にしなければいけないようだな……」ぐちゅ、にちゅ……っ♪
提督「ん、んっ……」
クズネツォワ「大丈夫か?」
提督「ええ、さっきよりは……あ、もっとゆっくり……」
クズネツォワ「なるほど……こうか?」ちゅくっ、くちゅり……♪
提督「はい、ですがまだ強すぎます……あ、あっ///」
クズネツォワ「ふむ、目の前にいる女性の事だけを考えてするのもそれはそれで新鮮だな……ここか?」くちゅくちゅ……じゅぷっ♪
提督「あ、あっ……そこ、気持ちいい…っ///」
クズネツォワ「こっちは?」
提督「ふあぁ……あふっ、はぁ……んっ♪」
クズネツォワ「ここが感じやすいようだな……んちゅっ♪」提督に覆い被さりながら豊かな乳房に吸い付いたクズネツォワ……
提督「ふあぁ、もう……あっ、あぁぁんっ♪」
…空いている手で乳房にクズネツォワの頭を押しつけると、ぎゅっと脚を締め付けてクズネツォワの身体を挟みこむ提督……まだクズネツォワの手つきはぎこちなく洗練されていない感じも残るが、身体が火照ってくるにつれて提督自身みだらな気持ちになってきて、クズネツォワらしい冷たさと煙草の香りが混じった髪の匂いを吸い込むと、秘部がとろりと濡れてきた…
クズネツォワ「ん、ぴちゃ……れろっ、ちゅ……」ぐちゅっ、ぬちゅ……っ♪
提督「あ、あ、あっ……あんっ、んふふっ♪」ときおり妙な舌遣いをされ、気持ちよさよりもくすぐったさに笑いが漏れる……
クズネツォワ「……私のやり方はおかしいか?」
提督「いえ、そうではなくてくすぐったくて……ふぁぁ、あふっ……あっ、んんぅ……っ♪」
クズネツォワ「そうか」ぐちゅぐちゅ……ずぷっ♪
提督「ふあぁ……ぁっ♪」とぽっ、とろ……っ♪
クズネツォワ「……どうだ、少しは良かったか?」
提督「そんなことを聞くのは無粋ですよ、ユーリア……それに」
クズネツォワ「それに?」
提督「……今度は私の番ですから♪」金色の瞳にとろりと甘いみだらな光を浮かべ、クズネツォワに身体を絡ませた……
877 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/05/20(土) 01:12:13.69 ID:j8KxuYom0
クズネツォワ「ん、んっ……」
提督「ユーリア、そんなに身構えないで……もっと肩の力を抜いてください」
クズネツォワ「ダー。しかし身構えているつもりはないのだがな……」
提督「そうですか? それじゃあ私がユーリアの気持ちをほぐしてあげます♪」
…提督はしっとりとした柔肌をクズネツォワの引き締まった裸身にぺたりと合わせて、綺麗に整えられた左手の中指と薬指をやんわりと彼女の花芯へと滑り込ませていく……ベッドを共にしているのにどこか隔たりを感じるクズネツォワの冷たい手に右手を絡ませて「恋人つなぎ」にすると、優しく唇を触れあわせながらしばらくそのままついばむようなキスを続け、冷たい手がほのかに温もりを帯びるまで恋人つなぎを続けた…
クズネツォワ「……こういうのは初めてだな」
提督「言わなくっていいです……いまは私のこと以外は考えて欲しくないので」ちゅ……っ♪
クズネツォワ「分かった」
提督「はい……♪」
…しばし幼い子供のように無垢な口づけを続けていたが、次第にねっとりと甘ったるいキスへと変化させていく提督……クズネツォワの固く引き締まった胸にはたわわな乳房を押しつけて弾力のある柔肌の中に埋めさせ、ゆったりと動かし始めた左手の指は優しく、しかし執拗に膣内をかき回していく…
クズネツォワ「……んっ、ふ///」
提督「んちゅっ、ちゅる……っ♪」
クズネツォワ「あ……ふ、んむ……っ///」
提督「ユーリア、こっちの方がいいですか……?」
クズネツォワ「好きにしろ。私はどっちでも構わない」
提督「あら、つれないお返事……そういうことなら、うんとさせてもらいますから♪」じゅぷ、ぐちゅっ……くちゅっ、にちゅ……っ♪
クズネツォワ「ああ……ん、んんっ///」
提督「ふふっ♪ ユーリアのここ、ずいぶん濡れてきましたね♪」ぬちゅ、ぐちゅり……じゅぷっ♪
クズネツォワ「そうだな……んん゛ん゛っ///」
提督「うふふっ、ちゃんとそうやってトロけたお顔もできるんですね……可愛いですよ♪」じゅぷっ、ぬちゅり……ぐちゅぐちゅっ♪
クズネツォワ「あ、あ゛っ……はぁぁ……ぁっ♪」
提督「んぅ、そろそろ体勢を変えますね……はひっ、あ……あふっ♪」
…粘っこい水音をさせて指を引き抜くと粘土をこねるような手つきで下腹部を愛撫し、それから身体を起こすとクズネツォワの太ももを両手で押し開くようにして開脚させ、自分の花芯とクズネツォワの花芯を重ね合わせた……すでにとろりと濡れている提督の秘部が意外なほどに熱を帯びたクズネツォワの秘所と触れあうと、しびれるような甘い感覚が背筋を伝わっていくように走り、思わず甘ったるい嬌声が漏れる…
クズネツォワ「はぁ……あぁ、んんうっ///」
提督「あっ、はぁっ、はぁ……はひっ……ふわぁぁぁ……っ♪」
クズネツォワ「あ゛っ、はぁぁっ……ん゛あ゛あ゛ぁぁ………っ♪」
…提督の甘い声と共鳴するようにクズネツォワの吼えるような声が響く……クズネツォワの競泳選手のような脚が提督の腰に絡みつき、まるで腰骨が折れそうな強さでぎゅっと締め付けてくる……お互い身体を離そうにもいやでも伝わってくる脳をとろけさせるような快感に呑まれて、身体を引き離す事もできない……提督は甘ったるい声を響かせながらも、クズネツォワの無表情の仮面がいくらかなりとも崩れて喘いでいるさまに気づいて嬉しさと同時に、普通なら敵うはずもないクズネツォワのような鍛え上げられた相手を思い通りにしている事実に、みだらでわがままな嗜虐心をくすぐられた…
提督「んふふ……っ♪」ぐちゅっ、にちゅ……っ♪
クズネツォワ「お゛っ……あ゛ぁ゛ぁぁっ♪」
提督「あっ、ユーリア……激しっ……ふわぁぁぁ……っ♪」
クズネツォワ「あぁぁっ、はぁっ……♪」
提督「ふあぁぁっ、そんなに締め付けられたら……あっ、あぁぁっ♪」
…提督は目の焦点が合わなくなり、暖かくぬめる下腹部からの止めどない熱と快感の波動に身体をのけぞらせて嬌声をあげる……一方のクズネツォワもがくがくと太ももをひくつかせ、がくりと首を上向かせて腹筋をけいれんさせている…
クズネツォワ「ああぁぁ……っ♪」
提督「あぁぁん……っ♪」
…互いに終わりが見えないまま、愛撫したり甘噛みをしたり跡の残るようなキスをしたりしつつ、秘所を重ね合わせる二人……全身はじっとりと汗ばみ、重ね合わせている身体がぺっとりと吸い付き、時にはぬるりと滑る……そのまま何時間たったのかも分からないまま、最後は崩れるようにして愛蜜まみれのベッドシーツに倒れ込んだ…
クズネツォワ「ふー……」
提督「はぁ、はぁ、はぁ……ぁ♪」
クズネツォワ「……ふふ」
提督「何かおかしいですか?」
クズネツォワ「いや、なに……まさか一回りも年下の小娘にここまでいいようにされるとは思っていなかったからな。私もまだまだということか」
提督「えーと……お褒めにあずかり恐縮です///」
クズネツォワ「ふ……まったく面白い女だよ、君は」
878 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/05/28(日) 00:53:14.75 ID:0BYdMybg0
提督「……」
クズネツォワ「ふー……何か気になることでも?」
…裸のまま起き上がるとベッドサイドの小机に置いてあった煙草の箱を引き寄せ、一本取り出して火を付けたクズネツォワ……提督が少し意外そうな表情でその様子を見ていると、視線が気になったのか問いかけてきた…
提督「いえ、そこまでのことでは……」
クズネツォワ「構わないから話してみるがいい」
提督「そうですか、本当に大したことではないのですが……ユーリアは左利きですか?」
クズネツォワ「どうしてそう思う」
提督「いえ、だって煙草をそうやって左手で持っているものですから……」
クズネツォワ「ふ……なかなか観察眼が鋭いな」そう言って親指と人差し指の間に挟んだ煙草をもうひと吸いすると、ふーっと長い息を吐いた……
提督「そうですか?」
クズネツォワ「ああ……私は職業上、右手を常に空けておくよう訓練されてきたからな。そのせいで煙草を左手で吸う癖がついてしまった……」
提督「でも、ユーリアのお仕事は海軍軍人でしょう? そこまで徹底して右手を空けておくような訓練を受けるものでしょうか?」
クズネツォワ「海軍軍人か、確かにな」
提督「……そういえば、クズネツォワ提督はどうして海軍に?」
…あまり根掘り葉掘り聞くようなことでもないらしいと気付いて、とっさに話題を転じた提督……胸元に布団を引き寄せ、枕を背中にあてがってベッドのヘッドボードを椅子の背のようにして座った…
クズネツォワ「そうだな……おそらくは私のバーブシュカ(祖母)の影響だろうな」提督に煙を吹き付けないようもうひと吸いすると、ゆっくりした口調で言った……
提督「バーブシュカ……たしかお祖母さんのことでしたね?」
クズネツォワ「ダー……私の祖母ナターシャ(ナターリアの通称)は政治将校として大祖国戦争(独ソ戦)を戦い抜いた女性でな。ブーツも汚さずに安全な後方からスローガンをわめいていた連中と違って常に兵と共に銃を取り、後に「赤いジャンヌ・ダルク」などとまつりあげられたほどの人物だったのだ」
提督「立派なお祖母様だったのですね」
クズネツォワ「少なくとも私はそう思っている……せっかくだ、祖母から聞いた話でもしてあげよう」そう言うと昔話を語るように淡々と話し始めた……
…
クズネツォワ「……今は昔、大祖国戦争(独ソ戦)の頃の話だ。 私の祖母は当時ではまだ珍しい高等教育を受けていたので軍で庶務であったり読み書きといった兵への教育を行っていてな。組織に献身的だったことと「大粛正」後の士官不足と言うこともあって大尉に昇格していたのだが……1941年6月22日、状況が変わった」
提督「独ソ戦の開戦、ですか」
クズネツォワ「ああ。祖母は大祖国戦争開戦の一報をラジオで聞いたそうだ……」
………
…1941年…
ソ連軍士官「同志政治将校、今の放送をお聞きになりましたか!」
ナターリア(ナターシャ)・クズネツォワ大尉「聞いた……司令部からの命令は?」
士官「はっ! 命令ですが「全部隊は直ちに鉄道駅に集結、急ぎ祖国防衛のために進発せよ!」とのことです!」
ナターシャ「よろしい、ではそのように計らえ……私も駅へ行く」
…駅…
ナターシャ「同志諸君! 邪悪なファシスト共の魔の手から我らの祖国(ロージナ)を、父を、母を、兄弟姉妹を守るのだ!」
…ぴしっとしたカーキ色の軍服にトカレフ「TT33」ピストルのホルスターを吊るし、メガホンの筒を手に声を張り上げ、客車・貨車を問わずに次々と列車に乗り込む将兵たちを激励するナターシャ……プラットホームではやはり軍服を着た軍楽隊のオーケストラが勇ましい軍歌を演奏し、その重厚なメロディと地元合唱団の声が響き渡るなか、兵たちを乗せた列車が重そうに発車していく……
ナターシャ「さあ、列車に乗り込め! 祖国は同志諸君を必要としている!」
…
クズネツォワ「しかし、粛正に次ぐ粛正で思考力のある有能な士官を失っていて、かつ奇襲を受けたソ連軍はドイツ軍の「電撃戦」に後退を余儀なくされた……そして数週間後、祖母はレニングラードにいた」
提督「……レニングラード、ですか」
クズネツォワ「そう……九百日も包囲されたレニングラードだ。だが私の祖母は運が良かった」
提督「と、いいますと?」
クズネツォワ「召喚命令だよ。 レニングラード防衛戦の実情が分からないモスクワのスタフカ(STAVKA…赤軍最高会議)に直接報告に行けと命令を受けたのだ……私の祖母はラドガ湖を使って包囲直前のレニングラードから脱出できた人間の一人だ」
提督「なんと、まぁ……」
クズネツォワ「その時の話は祖母からいくつか聞いたよ……いよいよレニングラードも包囲され始めた、とある曇りの日だったそうだ……」
879 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/06/10(土) 00:44:29.34 ID:BE4DfZCG0
…レニングラード…
ソ連軍士官「……同志政治将校、民間人がやって来て同志政治将校に会わせて欲しいと言っているのですが」
ナターシャ「民間人?」
…包囲されつつある市街の命運を暗示するような曇り空のレニングラードには次第に近づいて来るドイツ軍の砲声が遠雷のように響き、街には工場から続々と吐き出される対戦車砲や対戦車ライフル、果ては火炎瓶からあり合わせの即製兵器までが配備され、目抜き通りのあちこちにはバリケードが並べられている…
士官「ダー……忙しい最中だからと言ったのですが」
ナターシャ「それほどまでに私に会いたいとは、よほど重大な事なのだろう……まだ船団は出ないはずだ。 通してやれ、アントーン・イリイッチ」
士官「はっ」
…部下に連れてこられた民間人はやせていて、おびえたような態度をしている……身体にあまり合っていない茶系の背広の胸元には民間人に授与される文化系の勲章をいくつか付けていて、司令部入り口の衛兵や士官たちから門前払いをされなかったのはそのおかげらしい…
ナターシャ「さて。私に用があるそうだが、同志……」
民間人「ニコライ・シモノフです……同志政治将校」軍における恐怖政治の執行者として民間人にも知れ渡っている「政治将校」に対し帽子を脱ぎ、おずおずと手を伸ばして握手する民間人……
ナターシャ「ナターリア・ニコラーエヴナ・クズネツォワ大尉だ、同志シモノフ。 それで、用件とは?」
民間人「はい、実は……」
ナターシャ「……なるほど、市内にある美術館の収蔵品を退避させると」
民間人「ええ……もちろん、開戦してからエルミタージュ美術館を始め、名のある美術品の疎開は続けておりましたが、それでも市内の美術館にはまだたくさんの貴重な品々が残っているのです……同志政治将校、どうか美術品を運び出してもらえないでしょうか?」
…ナターシャのところにやって来た民間人は市内にある美術館の館長で、そこはエルミタージュほど高名でもなければ大きくもなかったが、ナターシャ自身も何回か見学したことのある場所だった……困ったように手をこすり合わせながら、館長はナターシャに懇願した…
ナターシャ「なるほど……話は理解した。 だが、ここを出て行くラドガ湖艦隊の艦艇は軒並み避難民や負傷者で舷側すれすれまで満載だ。 運び出してくれと言われても、そう簡単にはいかない」
館長「むろんそのことは承知しています、同志たちの生命はどんな美術品よりも尊いものです……ですが、このまま人民の宝を戦災にさらしておくなど……」
ナターシャ「ああ、分かった……はしけでも伝馬船でも良いというなら、どうにか用立ててみよう。ただ、ファシスト共の爆撃を受けるかもしれないが……それでも構わないのだな、同志?」
館長「はい、このまま戦火にさらすよりは少しでも可能性のある方に賭けようと思います、同志政治将校」
ナターシャ「いいだろう。では今からラドガ湖艦隊の司令部に掛け合ってみよう、一緒に来てくれ」
…ラドガ湖艦隊司令部…
ソ連海軍士官「……送り出した輸送船の十隻のうち五隻は沈められるような状況で、美術品なんぞに構っている余裕があると思っているのかね、同志政治将校?」
ナターシャ「無論そのことは承知しています。だが美術館の品々も貴重な人民の宝であることを忘れないでいただきたい。ファシストの畜生共にむざむざ破壊されるのを見ているわけにも行きますまい……同志少佐?」政治将校という存在の恐ろしさをにじませるように、階級が上の相手に対してかすかな非難の響きを込める……
海軍士官「……だが、すでに船団の出港準備は整っている。 今から積み込むのでは間に合わない」
ナターシャ「なら次の便で構いません……構わないな? 同志シモノフ?」
館長「ええ、とにかくここから運び出すことさえ出来れば……」
ナターシャ「なら決まりだ。 次の便に載せる美術品を運び出し、埠頭まで持ってくるとしよう……積み込みはこちらで行います。それならばそちらの将兵を使うこともない……よろしいですか、同志少佐?」
海軍士官「ああ、分かった……ただし、どんな事情であれ出港に間に合わなければ置いていく。よろしいな? 同志政治将校」
ナターシャ「結構です、同志少佐。 協力に感謝します。上層部にも同志少佐の「国家の至宝を守ろうとする懸命な判断と献身的な行為」を報告しておきます……では急いで美術館に向かうとしよう、同志」
…十数分後・レニングラード防衛司令部…
士官「同志政治将校!? 先ほどの船団でレニングラードを離れられたのでは!?」
ナターシャ「そうする予定だったが事情が変わったのだ。 急ぎトラック二台と一個分隊を用意しろ」
士官「トラック二台に一個分隊ですか? ……了解、同志政治将校」困惑してすっとんきょうな声を上げたが、じろっとにらみつけられると慌てて敬礼をし、トラックを探しに駆けだしていった……
…数分後…
士官「トラック二台と一個分隊の用意完了です、同志政治将校!」
ナターシャ「結構、良くやった……それでは美術館まで行こう、同志シモノフ」
…しばらくして・市内の美術館…
ナターシャ「これで全部か? 同志?」木箱に梱包されたり筒状の入れ物に収められたりしている様々な美術品をトラックの荷台に詰め込ませると、館長に尋ねた……
館長「はい、最も貴重な物はこれだけです……出来れば全部運び出したいところですが……」
ナターシャ「それは諦めてもらうほかはあるまいな……さぁ、出発しろ!」
880 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/06/20(火) 01:41:27.83 ID:b4svyaCY0
提督「……そんな体験をなさったのですか」
クズネツォワ「ダー……途中でファシストの空襲にも遭ったそうだ」
………
…
…ラドガ湖…
ナターシャ「……船長、護衛との会同は?」
…ナターシャは戦傷者や難民たちが舷側すれすれまで詰め込まれたおんぼろ砲艦や小型貨物船で編成された船団の一隻に乗り込むと、彼方に霞むレニングラードを見送りながら煙草を吹かしていた……港を出てしばらくすると船員がやって来て、案内されるがままに人混みをかき分け船橋に行くと、もじゃもじゃのあごひげを生やした船長にさっそく尋ねた…
船長「さぁ、ワシには何とも……出港前に聞いた話じゃ空軍が顔を見せてくれるって話ですがね、同志」
ナターシャ「そうか」
…そうは言っても空軍も海軍航空隊も緒戦の奇襲で甚大な被害を受けている以上、まともな援護など期待できない事くらい誰にでも分かりきっていた……それでも、ポリカルポフ戦闘機の一機でもいてくれれば心強い事は確かで、ナターシャは期待するようにちらりと上空へ目をやった…
船長「へぇ。まぁ大したもてなしもできやせんが、どうか少しでも居心地良くしておくんなさい」
ナターシャ「スパシーバ。とにかく頼むぞ」
…ちっぽけな船橋から甲板を見おろすと、美術館の館長から預かった美術品が収まっている船倉ハッチには防水布がかけられ、その防水布の上にも鈴なりに人が座り込んでいる……左右を進む船舶も同じように甲板上に負傷兵や避難民たちが座り込み、何人かの兵士が少しでも気が紛れるようにと、持ち込んだアコーディオンやバラライカを弾いている……と、どこからか蜂の羽音のような単調なエンジン音が聞こえてきた……
ナターシャ「……敵機! 上空にシュトゥーカ!」
…雲間から黒いシルエットが現われ、途端に反転するようにして船団へ向けて急降下をかけてきた……
ソ連兵「敵襲!」
ソ連下士官「アゴン(撃て)、撃てっ!」
…どんな勇敢な兵士でさえも恐怖に耳を塞ぎたくなるという、ユンカースJu−87「シュトゥーカ」が急降下してくるときの甲高い音が鳴り響き、その恐怖に抗うかのようにピストルから短機関銃、重機関銃、即席の砲座に据え付けられた高角砲まで、ありとあらゆる兵器が撃ち上げられる…
船員「爆弾が来ます!」
…通り過ぎる急行列車のような音を立ててシュトゥーカが上空を通過し、同時にすさまじい轟音と水柱を噴き上げ着弾する爆弾……凍るように冷たい飛沫が軍服を濡らし、頭から水が滴る……と、横を進んでいた小型貨物船が黒煙をあげて停止し、別れを告げるような哀れな汽笛の音を響かせながらゆっくりと傾いていく…
ソ連兵B「……可哀想に」
…沈んでいく友軍を助けてやりたいのは誰も同じだが、舷側すれすれまで人と荷物を積み込んでいる船団の船に他の誰かを助ける余裕はない……それでも近くの数隻が減速して幸運な最寄りの十数人を拾い上げ、護衛の老朽掃海艇も無電で救援を要請し、もしかしたらやってくるかもしれない友軍艦艇に浮かんでいる同志たちのことを託した…
下士官「敵機!雲の切れ目から来ます!」
ナターシャ「操縦席を狙って撃て!」
…一機目の投下した爆煙が収まらないうちに二機目が急降下をはじめ、船団めがけて突っ込んでくる……これを迎え撃つ船団では銃座に装備された古めかしい、しかし頼りになる水冷のマキシム機銃が吼えたて、兵士の「モシン・ナガン」小銃やトカレフ・ピストルまで、雑多な銃器が上空のシュトゥーカを狙って弾幕を張る…
ソ連兵C「やった……やった!」
…弾幕のうちの気まぐれな数発が当たったらしくシュトゥーカのエンジンが白煙を吐き、投下した爆弾は輸送船の脇で水柱を上げただけに留まった……シュトゥーカはぐっと機首を上げると、そのまま低く垂れ込めた雲に逃げ込んだ…
船長「やれやれ……」
ナターシャ「ふぅ……どうにかなったな、船長」
………
提督「……大変な経験でしたね」
クズネツォワ「ダー……だが、祖母の経験はそこで終わらなかった」
…一本の煙草を吸い終えると最後の煙を空中に吐き出し、紫煙が空調装置に吸い込まれていく様子をじっと眺めた……煙が完全に吸い込まれるのを見届けると、話の続きを始めた…
提督「まだ他にも経験したのですか」
クズネツォワ「ああ。モスクワで戦況を報告した祖母はしばらくスタフカと前線を行ったり来たりして連絡将校じみた事をしていたそうだが、あるとき能力を買われて次の戦場で兵の督戦と前線の維持を命令されたのだ……場所は42年の冬、スターリングラードだ」
提督「スターリングラード……!」
クズネツォワ「そうだ」
881 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/07/03(月) 01:50:58.48 ID:CkD0yM610
…1942年・スターリングラード…
ナターシャ「……同志諸君、一歩も退くな!ヴォルガ河の後ろに前線はない!」
…腰ベルトのトカレフ・ピストルと柄付き手榴弾、そして肩から「バラライカ」ことPPSh41短機関銃を提げ、防寒用の長い外套を羽織って渡船場の渡り船から降りてくる将兵に声を張り上げるナターシャ……軍の政治将校ならピカピカでもおかしくない制服やブーツは泥とほこりにまみれ、顔も土ぼこりや汚れですっかり黒ずんでいる…
ナターシャ「一人でも多くファシストを撃て! 諸君の家族や故郷のために!」
…ヴォルガ河の渡船を使って次々と送り込まれる兵士たちの群れに向かって、声を張り上げ督戦するナターリア……強大なドイツ軍に対して二人に一人しか支給されない小銃や乏しい弾薬を補うのは、これだけはどうにか毎日欠かさず支給されるウォッカとボルシチ、それに生存本能に根ざした獣のようながむしゃらさだけだった…
ナターシャ「たとえ死ぬとしても、決して無駄死にはするな! 一人でも多くの敵を道連れにせよ!」
…たいていの政治将校が暖房の効いた地下壕でぬくぬくと過ごし、ビラを刷っては口先ばかりの宣伝をひねくり回している間、ナターリアは地面を這いずり埃と垢にまみれ、後方から来る弾薬や、はるばるアメリカから運ばれてくる缶詰といった物資を背嚢に詰め込み、がれきと廃墟の中に陣取る兵士たちへと配って回り、また時には兵士と一緒になって敵の攻撃を撃退したりもした…
…とある防衛拠点…
ナターシャ「……あの建物から敵を叩き出せ!敵の銃撃が収まる瞬間を待って突入する!」
下士官「了解!」
ナターシャ「いいか、私が援護してやるから心配するな。屋内に突入したらひと部屋ごとに手榴弾を放り込め……今だ!」
下士官「よし、突っ込め!」
兵士たち「「ウラー!」」
…ナターリアはドラム型弾倉のPPsh−41短機関銃「バラライカ」を、ドイツ兵の陣取るアパート二階の部屋に向けてバリバリと浴びせる……窓の下までたどり着いた兵士たちが手榴弾や梱包爆薬を投げ込むと爆煙が噴き出し、がれきやセメントの破片がバラバラと飛び散る……そのまま崩れた階段の残骸を使って屋内へと突入する兵士たち…
…数分後…
ナターシャ「……よくやったな、伍長」
下士官「ありがとうございます、同志政治将校」
ナターシャ「礼などいい……諸君も良くやった。これで隣の拠点とも連絡がつくようになるだろう」おそらく今のスターリングラードでは一番のごちそうに数えられるであろう、アメリカ製コーンビーフの缶詰を背嚢から取り出して分隊の兵士に配った……
………
…
クズネツォワ「そうして一進一退、拠点を奪っては取り返し……祖母はドイツ第六軍が降伏するまで市街を駆け回っては兵を励まし、敵を撃ち、重傷の兵には優しい言葉をかけてやったのだ……いまのヴォルゴグラード(スターリングラード)、ママイェフの丘にある『母なる祖国』像はロシアの大地を表す女神であると同時に、スターリングラードを始め各地で戦った女性の将兵たちや、苦しい戦時下の生活に耐え抜いた女性たちの象徴でもあると祖母は言っていたよ」
提督「あの剣を持った巨大な像のことですね……」
クズネツォワ「ダー……祖母はその後前進を続ける軍と共にベルリンまで戦い続けた。しかし祖母は厳格な人間だったのでな、よく言われるように「略奪した腕時計を両腕にびっしりはめている」ようなこともなかった。家にあったのは当時の捕虜から取り上げたルガー・ピストルくらいなものだった」
提督「すごいお話ですね……まるで歴史書の登場人物のような……」
クズネツォワ「ダー。バーブシュカは戦後もしばらくは将校として務めていたが退役して、私が子供の頃にはすっかり白髪になっていたが……それでも頭は切れるし身体も動くし、かくしゃくとしたものだったよ……その祖母に言われたのだ「泥まみれで埋め草にされる陸軍の兵隊と違って、少なくとも海軍なら乗り物がある」とな」
提督「なるほど、それで海軍に……」
クズネツォワ「ああ、子供のころから聞かされていれば自然とそう思うようになる……あと、祖母いわく「色んな経験をしたが、自慢できるのはムラヴィンスキー指揮のレニングラード交響楽団が演奏するショスタコーヴィチを生で聞けたこと」だとよく言っていたよ」
提督「確かに、それはなかなか機会があるものではないですものね……ところで」
クズネツォワ「なんだ?」
提督「あー、その……ユーリアは音楽を聞きますか?」
クズネツォワ「無論だ。音楽は時に心を駆り立て、時に心を落ち着かせる……モスクワ・ボリショイ劇場の券は年間パスで買っている」
提督「なかなかお好きなんですね」
クズネツォワ「ああ……それでフランチェスカ、君はどうだ?」
提督「私はそんなに裕福ではありませんから……数回だけミラノ・スカラ座に行った事はあります。それに音楽は好きですよ」
クズネツォワ「そうか、例えば誰の曲が好きだ?」
提督「いつもは60〜70年代のカンツォーネを流しているので、クラシックはあまり……でも、母の影響でヴィヴァルディやロッシーニ、ヴェルディ……あとはラヴェルやチャイコフスキー、ビゼーも時々聞きます。もっとも、私の場合は気分に合わせて聞いているだけですので、難しい考証や解説はできませんが……」
クズネツォワ「いや。気分に合わせて難しいことを考えずに聞く、それでいいのではないか? あくまで感性の問題だからな。演奏のテクニックで悩むのは楽士と指揮者だけで充分だろう」抑揚がない感情の薄い声だが、どうやら冗談めかしているらしい……
提督「ユーリアも冗談を言うのですね?」
クズネツォワ「ああ、私にだってユーモアのセンスくらいはある……皮肉というのは言われる側も意味を理解していないと皮肉にならんからな。作品に込めた意図が分からなければ、風刺作家をルビヤンカ監獄に放り込めないだろう?」
提督「なるほど……」実際にそういうことをしそうなクズネツォワだけに、提督も素直に笑えない……
882 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/07/11(火) 01:06:42.53 ID:0ftPuc1q0
クズネツォワ「例えば、そうだな……フランチェスカ、ちょうどこの窓から広場のクリスマスツリーが見えるが、君はサンタクロースのことを信じているか?」窓の外には控え目だが綺麗に飾りつけられた大きなモミの木がそびえていて、街灯の光を受けて静かに輝いている……
提督「サンタクロースですか?」
クズネツォワ「ダー」
提督「そうですね……うちでは子供の頃から好きなものは買ってもらえましたし、私もあんまり欲しがりな子供ではなかったそうなのでそこまでは……親もそういう存在がいることは教えてくれましたが」
クズネツォワ「そうか……実はな、サンタクロースというのはソ連の具現化だと言ったら、どうだ?」ごくかすかではあるが、笑顔のような表情を浮かべてみせるクズネツォワ……
提督「えっ?」
クズネツォワ「考えてもみたまえ……赤色というのはソヴィエトの象徴である色だろう?」
提督「ええ、そうですね」
クズネツォワ「そしてその「赤い」服を着たヒゲのおじさんが、良い子にしていれば「みんなに」「無料で」「公平に」プレゼントを配る……どうだ、誰かを思い出さないか? アメリカ資本主義の代表のような、あの有名なコーラ会社が広告のためにサンタクロースを赤色にしたというのに、その実態はまるでソ連を具現化しているようなものなのだ」
提督「……考えてもみませんでした」
クズネツォワ「ふふ、そうだろうとも」提督の乳房を軽くいじりながら皮肉な表情を浮かべた……
提督「ええ……ところでユーリアのお祖母様は軍の政治将校だったわけですが、お母様はどんな方なのですか?」
クズネツォワ「私の母か? もう辞めてしまったが、母はソ連時代には科学者だった」
提督「なるほど、科学者ですか……しかし、科学の発達というのは目覚ましいものがありますね。近頃は「iPS細胞」というもので、同性間でも子供が出来るようになるとか」
クズネツォワ「ダー。ヤポーンスキ(日本人)の学者が発明したと言うアレだな……もっとも、あれならソ連が数十年は前に開発していたよ」
提督「まぁ♪ くすくすっ、ふふふ……っ♪」
クズネツォワ「おかしいか?」
提督「ええ、だって……ふふ、うふふっ……「それは我がソヴィエトが数十年前に発明していた」はよく聞くジョークですから……ふふふふっ♪」
クズネツォワ「面白がってくれて光栄だが、同志カンピオーニ……現に私がそうなのだ」
提督「うふふふっ……えっ?」
クズネツォワ「年齢のわりに耳が遠いようだな」
提督「あ、いえ……言葉は聞き取れましたが……でも……」
クズネツォワ「にわかには信じがたいか?」
提督「え、ええ……」思いがけない話に困惑して、うまい返事ができない……
クズネツォワ「ま、仕方のない事だな……だが、君も私のミドルネームには気付いていただろう?」
提督「ええ、確かロシアの人はミドルネームに父の名がつくのでしたね……」
クズネツォワ「そうだ。それが私の場合は「両母」の片方、つまり「父親の側」にあたる母の名になっているわけだ」
提督「あー……それは養子ですとか、そういう……?」
クズネツォワ「ニェット(いいや)……私は「ソ連版iPS細胞」の実験で生まれたいわゆる「試験管ベビー」というやつなのだ」
提督「……」
クズネツォワ「どうせだからな、寝物語(ピロートーク)に話すとしよう……」
…箱から煙草を抜き出すと火をつけ、布団をかぶって上半身を起こしている提督の裸身を眺めながらゆっくりと話し始めた……フィンランドの長い長い夜はまだ明ける様子もなく、閉じた窓越しに街灯の明かりと、時折聞こえる車の音や人の声がかすかに室内へと入ってくる…
クズネツォワ「かつてソ連は『大祖国戦争』で多くの人間を徴兵したり動員したりして、そのうちの多くを失った」
提督「ええ……」
クズネツォワ「戦後になってモスクワの首脳部はこう考えた……「大祖国戦争で我々がかろうじて勝利できたのは兵隊の数が多かったからだ。つまり戦争を戦うには人口が多い国が有利だ。それに大祖国戦争で多くの人間を失ったぶん、次代の兵士や学者や労働者になる子供たちもたくさん必要だ」……とね」
提督「……」
クズネツォワ「しかし、いざ戦争ともなれば男は軒並み駆り出されることになるし、そもそも戦後すぐのソ連では男性の数がかなり減っていた……そこで首脳部は「戦場に行くことの少ない女同士で子供を作ることは出来ないか?」と考えたのだ」
提督「当時のソ連にそんな計画が……?」
883 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/07/18(火) 01:47:20.45 ID:svOXb5PM0
クズネツォワ「ダー……詳細はもはや闇の中になってしまったが、基本的にはそういった経緯でフルシチョフのころに研究が開始されたらしい。そして何十年もかかってソ連崩壊の直前、ようやく実用化の目途がついた」
提督「……ええ」
クズネツォワ「そこで研究所としては誰か被験者を探さなくてはならない……とはいえ大祖国戦争を知る世代も減り、当初の目標だった「生産性のある人口の増加」も人海戦術に頼る時代が過ぎていたことから推進する理由が失われていたし、ソ連末期ということで人材を集める資金もなかった。そこで私の「片方の」母、科学者のユーリアが当時親しくしていたバレエダンサーのマリアを口説いて被験体になってもらったのだ」
提督「実験の被験体だなんて、よく了承してもらえましたね?」
クズネツォワ「ああ……当時のソ連では同性愛は違法だったが、ユーリアとマリアはお互いに愛しあっていたからな。マリアが被験体になることで当局に同性同士での「恋愛」や「結婚」を黙認してもらったらしい……」
…1980年代・とある研究所…
研究者「主任、これを……とうとう成功しましたよ!」
ユーリア・クズネツォワ(クズネツォワの母)「ハラショー、実に見事なものだ……皆もよくやってくれた」
…胸元のネームプレートに白衣姿で、鉄縁眼鏡をかけた研究主任のユーリアの元へと集まってくる研究者や技師たち……ラットに犬、そしてとうとうサルでの実験に成功し、みんな科学者らしく冷静さを装いながらも沸き立っている…
研究者B「これで所長にもいい報告が出来ますね」
研究者C「次はいよいよ人体での治験ですか……とはいえここの研究所で被験者を募るのは……」何十年と結果を残せずにいて今ではすっかり後回しにされている研究に、人を募るための予算が回してもらえるはずもない……
ユーリア「そのことだが、治験に応じてくれそうな人間に心当たりがある。所長の許可と被験者の承諾を取るあいだ、諸君は作業を続けてくれ」
…数日後の夜・モスクワ市街…
ユーリア「……遅くなって済まなかった、マリア・ニコラーエヴナ。冷えてしまっただろう?」クレムリンのタマネギ型ドームが建物の狭間から見える橋のたもとで一人待っていたマリアに、自分の不格好な……しかしとりあえずは暖かい厚手のウールコートを羽織らせるユーリア……
マリア「いいのよ、ユーリア……一緒に歩きましょう///」
…バレエダンサーらしい華奢でほっそりとした身体に、青色の涼しげな目元と金色の髪をしたマリア……その柔らかなソプラノで教養のある話をするさまは、さながら乙女の理想像のように見える……薬品で荒れた手に、まるで技術レポートでも読み上げているかのように聞こえる素っ気ない自分の話し方と比較して、なんと対照的なのだろうとユーリアは考えた…
ユーリア「ああ……」
マリア「……それで、話って?」
ユーリア「そのことだが、とりあえず座って話そう」川を望む道端のベンチを見つけた二人……
マリア「さ、座ったわ……話してくれる?」
ユーリア「ああ、そうだな……」
マリア「……言いにくいこと?」下からのぞき込むようにして顔を近づけるマリア……
ユーリア「いや、そういうわけじゃないが……」
マリア「そう……じゃあ話してくれるまで静かに待っているわね」
ユーリア「……」
マリア「……」
ユーリア「……その、マリア」
マリア「なぁに?」
ユーリア「実は、君に頼みたい事がある……」
マリア「頼みたい事?」
ユーリア「ああ。科学の進歩のためにも、君に協力してもらえたらと思っているのだが……」詩的な言い回しや心をとろかすような表現どころか、堅苦しい言い訳しか出てこない自分のセンスに内心でげんなりしながらも切り出した……
マリア「協力というのはお注射でも打つの? それとも何かのお薬でも飲めばいいのかしら?」
ユーリア「それなのだが……手術を伴う可能性がある時間のかかる大がかりな話で、おまけに君の身体にも大きく影響することになる……そして間違いなくバレエダンサーを続けることは不可能になるだろう」
マリア「……ずいぶんと危険な実験のようね? 貴女がそんな実験を行っているのかと考えると心配になるわ」
ユーリア「いや、私は危険でも何でもないんだ……」
マリア「それじゃあ、一体どういう実験なの? それに私でなければならないって……ロケットで宇宙へ行って、そこで『白鳥の湖』のオディールでも踊るのかしら?」
ユーリア「そうじゃないが……実は、私との子供を作って欲しいんだ///」
マリア「えっ?」
ユーリア「その……私の勘違いでないとしたら、君は私に好意を持ってくれているようだし……つまり……///」
マリア「えーと、それって体外受精かなにかの実験っていうこと?」
ユーリア「似ているがそうじゃない。実は……女同士で子供を作る実験なんだ……その、私は君のことが好きだし……実験のためとはいえ、二人の子供ができたらと……///」
マリア「貴女との子供? ……嬉しい、そういうことなら喜んで協力させていただくわ♪」警官に見とがめられないよう、コートの襟を立てて唇にキスをした……
ユーリア「……ありがとう、マリア///」
884 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/07/31(月) 01:57:18.47 ID:0v3FzSsN0
………
提督「そして産まれたのが……」
クズネツォワ「ダー。この私だ……もっとも、私が生まれてすぐに「予算の削減」で実験は中止。それから十年もしないうちにソ連が崩壊して、研究所も実験のレポートも失われてしまったから、今では証明のしようもないがな」肩をすくめてみせた……
提督「そうだったのですか……それで、ご両親は?」
クズネツォワ「今でもモスクワで仲むつまじくやっているよ。マリアの方はサワークリームとマヨネーズ、それにウォッカのせいで太り気味だが……どうだ、寝る前のおとぎ話にはちょうどよかっただろう?」
提督「寝物語どころか、あまりのことにすっかり目が覚めてしまいました」
クズネツォワ「ふふ、まあそうだろうな……吸うか?」
提督「いえ」
クズネツォワ「……では私の方は勝手にやらせてもらうよ」
提督「ええ」
クズネツォワ「済まんな」
提督「……ところで」
クズネツォワ「ん?」
提督「お祖母様の薫陶を受けて軍に入ろうと思ったのは分かりました、でもどうして海軍だったのですか? お祖母様は陸軍配属の政治将校だったのでしょう?」
クズネツォワ「ああ、それもバーブシュカに吹き込まれてだ……」薄い唇に皮肉めいた苦笑いを浮かべて、煙草の煙を吐き出した……
提督「?」
クズネツォワ「さっき話したように私の祖母は大祖国戦争を戦い抜いたが、幼い頃の私をひざに乗せてよく言っていたよ『入るなら海軍に入りなさい』とな……海軍なら歩かされることも、機銃の弾幕に向かって突撃させられることもまずない。行軍に付いていけなくなって置きざりにされたあげく、パルチザンに処刑されることもない」
提督「まぁ、それはそうですが……」
クズネツォワ「それに、海軍こそは世界の覇権を決める力だ……近代以降、戦争に勝った『大国』で海軍が弱小だった国はない」
提督「それは確かですね」
クズネツォワ「ダー。 それに私の祖母は当時の陸軍元帥だの大将だのをよく知っていたからな……ヴォロシーロフにブジョンヌイといった人物たちだが、祖母いわく『馬鹿ばっかりだった』そうだ。 まぁどこにも馬鹿はいるものだが、祖母からすれば海軍は少なくとも陸軍よりマシに見えたのだろう」
提督「なるほど」
クズネツォワ「さて、おしゃべりはこのくらいでいいだろう……時間になったら起こすから、少し寝たらどうだ?」
提督「お気持ちは嬉しいですが、ユーリア……どうせあと数時間でおいとまするつもりですし、街の夜景も見ていたいですから」布団を裸身に巻きつけると、街の景色が見えるように身体を動かした……
クズネツォワ「そうか、なら好きにすればいい」
提督「……ユーリア」冷徹な色をたたえた瞳に、街のクリスマスツリーを彩る電飾や灯りが映って銀河のようにきらめいている……吸い込まれるように顔を近づけ、煙たい味のする唇にそっとキスをした……
クズネツォワ「ん……あれだけして、まだ物足りなかったか?」
提督「いいえ……でもそうやって遠くを眺めているユーリアは、唇を触れあわせておかないとどこか遠くへ行ってしまうような気がして……」
クズネツォワ「ふ、なんともロマンティックなことだな……ローマにいた頃は、そうやってミミ・ステファネッリを口説いていたのだろう?」
提督「!?」情報流出こそなかったとはいえ、ロシアの女スパイに言い寄られた数年前の事件をいきなり持ち出されてびっくりする……
クズネツォワ「驚いたようだな……なに、君と彼女のあれこれは私もよく知っている」
提督「ユーリア、もしかして……?」
クズネツォワ「いいや、その件は私じゃない。ただモスクワのファイルに君の名前があったものでな……なに、心配はいらない」
提督「どこかの情報機関のファイルに自分の名前があるのに、なにが心配いらないんです?」
クズネツォワ「簡単なことだ。君は『女たらしで軍人らしい命令遵守の意識や厳格さにも欠けるが、性格は意外と几帳面であることから有用な情報源たり得ず、かえって工作員の偽装を見抜いたために情報収集活動は失敗した。今後の工作は検挙のリスクが大きいため破棄する』とあったよ……性格診断も含めて、きわめて同感だ」
提督「もう……ちっとも嬉しくありませんよ」
クズネツォワ「そうか? ところでフランチェスカ、君はどうやって彼女の偽装を見破ったのだ?」
提督「ミミのことですか? それなら隠し味にサワークリームを入れるのが東欧風だったので……」
クズネツォワ「ふむ、なるほどな」
提督「……ところで、彼女は無事なんですか?」
クズネツォワ「無事だよ。君に化けの皮を剥がされたおかげでキャリアは棒に振ってしまったが、モスクワで文書読解をはじめとした内勤をしているそうだ」
提督「良かったです」
クズネツォワ「まさか自分のところに送り込まれた工作員の心配をする人間がいるとはな……実に面白い女だよ、君は♪」
885 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/08/08(火) 02:20:21.30 ID:0N3qegzU0
…朝…
提督「送って下さってありがとうございます、ユーリア」
クズネツォワ「ああ。ではな」
提督「はい……カサトノヴァ少佐も」
カサトノヴァ「いえ。それでは」
…黒いメルセデスが走り去るのを見送ると、ホテルに入った提督……エレベーターで泊まっているフロアまで上がると、あくびをしながら部屋のドアをノックする…
フェリーチェ「はい、どなた?」
提督「ミカエラ、私よ……いま戻ったわ」
フェリーチェ「今開けるわ、ちょっと待ってて……」ドアチェーンや鍵を開ける音に続いてドアが開き、フェリーチェが顔を出した……
提督「ただいま、ミカエラ……♪」
フェリーチェ「んっ……お帰りなさい」
提督「ええ。 さ、部屋に入れてくれる?」
フェリーチェ「ええ」
…数分後…
提督「ふー……」
フェリーチェ「さっぱりした? はい、お水」
提督「ありがと」
…昨日着ていたお出かけ用の服を脱いでシャワーを浴び、メイクも落としてさっぱりした気分でベッドに腰かけると、ミネラルウォーターのグラスを受け取った…
フェリーチェ「……結局一晩中帰って来なかったわね」
提督「ええ、クズネツォワ少将が帰してくれなくて……それよりミカエラ、あのイヤリングに仕込んだ盗聴器はいったいなぁに?」威厳のないバスローブ姿ではあるが立ち上がると腰に両手を当て、フェリーチェを問いただした……
フェリーチェ「ああ、あれね……クズネツォワの個人情報を少しでも聞き出せればと思って仕込んだんだけど、やっぱり彼女は一筋縄じゃいかなかったわね」
提督「もう。 貴女は情報部だし、私も多少の事なら協力してあげたっていいとは思っていたけれど……それにしたって何も知らない私をダシにして情報収集なんて人が悪いんじゃない?」
フェリーチェ「あー、事前に教えなかったことは謝るわ。 でも「私をダシにして」に関しては、むしろ「貴女だからこそ」だったのよ」
提督「どういう意味?」
フェリーチェ「本当なら言うわけにはいかないんだけど、貴女も関係者みたいなものだから特別に教えてあげるわ……ま、かけて?」
提督「ええ」
フェリーチェ「情報部としてはね、前々から彼女に目を付けてはいたのよ……冷厳で無慈悲、システマみたいな軍用格闘技に小火器、ヘリや飛行機の操縦も出来て、ロシア語に英語、フランス語もばっちり」
提督「確かにフランス語は上手だったわ」
フェリーチェ「でしょうね……しかしクズネツォワ少将は表向きこそ「海軍少将」とはいいながらも何をしているのかはっきりしないし、あちらの部内で粛正なんかに携わっていたなんていう後ろ暗い噂もあって、こっちとしては彼女の性格や任務に関わる情報なら何でもいいから引き出したかったの」
提督「つまり狼の前に肉の塊をぶら下げてみたわけね」
フェリーチェ「ありていに言えばね。でも、危険性に関しては部内でも十分検討したし考慮されていたのよ。仮にもお互い海軍少将で、プライベートな会話をするだけ……それを盗聴しようとしたからっていちいち相手の首をへし折ったりしていたらかえって大問題になるし、あちらも貴女が「仕込み」であることは分かっていたはずよ……だからこそあのイヤリングに気付いたわけだし」
提督「むぅ……でも、そうは言っても少しくらいは信用して欲しかったわ」
フェリーチェ「それに関しては本当に謝るわ……でも貴女は素直だから、イヤリングの盗聴器を隠しおおせるような腹芸はできないし、ましてや相手はその道のプロだもの、素人芝居で取り繕ったってすぐ見抜いたに違いないの……結局のところ、知らないでいるのが一番良かったのよ」
提督「なるほどね、納得は出来ないけれど理解はしたわ……それにしても、ユーリアってそんなに危険な相手だったの?」会話を思い返してみても色々と常人と違うところはあるが、ユーモアのセンスもあれば人並みに笑うことも出来る彼女が冷酷で無慈悲な人間だとは思いにくい……
フェリーチェ「どうかしらね。危険だって確証が掴めているようならそもそも調べたりはしないし、何より貴女みたいな大事な女(ひと)を送り込むような真似なんてしないわよ」
提督「まぁ、お上手だこと」
フェリーチェ「ま、少なくともクズネツォワ少将に関して言えば「限りなく黒に近いグレイ」ってところね……海軍に所属している形をとって、GRUに籍を置いていないスパイの親玉だとにらんでいるの」
(※GRU…ゲー・エル・ウー。軍の諜報・防諜を担う情報機関。ソ連軍参謀本部情報総局)
提督「GRUって、こっちでいう「AISE」……改編前の「SISMI」みたいな組織でしょう?」
(※SISMI…「Servizio per le Informazioni e la Sicurezza Militare」の略。軍事保安庁。防諜担当のSISDEと対になる情報機関だった)
フェリーチェ「おおかた合ってるわ。まぁ、規模もやり口もAISEよりは数段格上だけれど」
886 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/08/15(火) 01:57:29.95 ID:i4/jssu/0
提督「それにしてもソ連の方がなくなってGRUが残るだなんて、当のロシア人だって思いもしなかったでしょうね」
(※GRUはソ連崩壊後も「ロシア連邦軍参謀本部情報総局」として名前を変え、ほぼ組織を残している)
フェリーチェ「どこでも組織なんていうのはそういうものよ。そしてその血脈を受け継いでいるのがクズネツォワ少将ってわけ」
提督「なるほどね……ところでさっき「後ろ暗い噂」って言っていたけれど、本当にそんな噂があるの?」
フェリーチェ「断定できるようなものは何も……もっとも、ロシアの情報機関は国内での暗殺をいうほどこっそりはやらないけれど」
提督「どうして?」
フェリーチェ「理由は簡単。バレなければそれで結構だけれど、バレたらバレたで「政府に逆らうとこういう目に遭うぞ」って脅しに使えるのよ。むしろわざとバレるようにやる場合さえあるわ」
提督「……」
フェリーチェ「それで、彼女が関わっていると思われるケースはというと……」
提督「なんだか聞かない方が良さそうな気がしてきたわ」
フェリーチェ「ご冗談、彼女とベッドを共にしてきた勇気があるんだから大丈夫よ……最初が軍内部でクーデターを画策したと思われる陸軍高級将校の不審な事故死」
提督「事故死?」
フェリーチェ「ええ。入浴中、バスタブに落ちたドライヤーで感電」
提督「それなら普通にあってもおかしくはなさそうだけれど?」
フェリーチェ「それだけならね。ただ、その高級将校はガラス玉そこのけのつるつる頭なのよ……ドライヤーで胸毛でも乾かしていたっていうのなら話は別だけれど」
提督「なるほど……」
フェリーチェ「それから兵器の横流しをしていたとある補給所長。公的な記録によると「ウォッカの飲み過ぎで吐瀉物を喉に詰まらせ」となっているんだけれど、調べたところによれば、その汚職軍人はアルコールが飲めるほうじゃなかったのよ」
提督「ロシアにもお酒が飲めない人がいるのね」フェリーチェから明かされた情報の多さに戸惑い、とんちんかんな感想を漏らす提督……
フェリーチェ「そりゃあいるわよ……他に関与が疑われているものが二、三件あるけれど確証はなし。ただいずれも軍内部の粛清に限られているわ」
提督「だからってちっとも安全になった気がしないのは私だけ?」
フェリーチェ「大丈夫よ。こういう探り合いはお互いにやっていることだから……なんなら経歴をファックスで送るように頼んだっていいくらいよ」
提督「私には縁のない世界だわ」
フェリーチェ「貴女は素直過ぎるもの……とにかくお疲れさま。刺激的な一晩だったでしょう?」
提督「刺激的すぎてくたびれちゃったわ……少し眠るけれど、支度をする時間になったら起こしてね?」
フェリーチェ「ええ……私は報告を書き上げちゃうから、その間ゆっくり寝てて」
…コンピュータを立ち上げ、カタカタと文書を打ち始めるフェリーチェ……普段は好ましく感じている、個人的にされた話やプライベートに関わることを胸の内にしまっておける提督の義理堅さを厄介に思いながらも、会話の間に忍ばせていた質問や裏を取りたい事項で分かった部分をまとめていく…
提督「すぅ……すぅ……」
フェリーチェ「ふふ、子供みたいなあどけない寝顔をしちゃって……♪」
…まだ曙光がおとずれない窓を眺めやりながら文書を叩き、出来上がった文書はロックと暗号化を行ってUSBメモリに保存し、ラップトップから外すとドッグタグ(認識票)のように首からかけた……それも懇談会に出る前には大使館で本国に送信してもらい、メモリ自体は消去してもらう…
フェリーチェ「……これでよし、と」
………
…
…数時間後…
フェリーチェ「フランチェスカ、そろそろお目覚めの時間よ」
提督「んんぅ……おはよう、ミカエラ♪」
フェリーチェ「ええ、おはよう……もっとも、もう「おはよう」の時間でもないけど」
提督「懇親会まであとどのくらい?」
フェリーチェ「二時間はあるわ。それだけあれば十分に支度できるでしょ」
提督「ええ。こればっかりは士官学校の教育に感謝しないと♪」
フェリーチェ「言えてるわ」
887 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/08/20(日) 01:38:24.41 ID:I2vJbfKD0
…午前中…
ニッカネン「カンピオーニ少将にフェリーチェ大尉、ご機嫌いかがですか」
提督「ええ、おかげさまで元気です」
フェリーチェ「私もです……会議が無事に終わってよかったですね」
ニッカネン「それもお二人がオブザーバーとして参加くれたおかげです。今日はもう話し合うこともありませんし、細かい手続きは事務方のほうで詰めてくれる手はずになっておりますから、お二人の行きたいところがあればご案内しますよ」
提督「それは楽しみですね……フェリーチェ大尉、貴女は?」
フェリーチェ「はっ、私は……」
クズネツォワ「おや、カンピオーニ少将にフェリーチェ大尉」
提督「あら、クズネツォワ少将」
クズネツォワ「おはよう……いや、もう「こんにちは」だな」
提督「そうですね、この時期のフィンランドは昼間が短いので分からなくなりそうですが」
クズネツォワ「イタリア人の君からすればそうかもしれないな」
提督「ええ……ところで、何か私に用がおありでしょうか?」
クズネツォワ「ダー。君は昨晩、私の部屋に忘れ物をして行っただろう。それを返しに来たのだ……ほら」そういって盗聴器入りの真珠のイヤリングを取り出し、提督の手に載せた……
ニッカネン「カンピオーニ少将? 昨夜はクズネツォワ少将の宿泊しているホテルで一晩お過ごしになったのですか……?」
提督「あー……それは、その……会議の内容について少々質問があるからと……で、夕食をご一緒したのですが遅くなってしまったので、そのまま……///」
ニッカネン「……そうですか、なるほど」頬を紅くしてしどろもどろな返事をする提督に醒めた視線を向けるニッカネン……
クズネツォワ「とにかく、これはお返しする……ああ、それとフェリーチェ大尉」
フェリーチェ「何でしょうか」
クズネツォワ「いや、聞くところによるとこのイヤリングは君からカンピオーニ少将への個人的なプレゼントだそうだな……実に素敵な品物だ」
フェリーチェ「恐縮です」
クズネツォワ「いや、なに……ところで一体どこに行けばこういったものが手に入るのか、非常に興味があるのだが」
フェリーチェ「そうですか? てっきりモスクワにもこうした品物を扱う店は数多くあると思っておりましたが」
クズネツォワ「ふむ、そうだな……とにかく、今後はこういったことがないようにした方がいいだろう」
フェリーチェ「そうですね。アクセサリーを置き忘れたり、うっかり水の中に落としたりしないよう気を付けたほうがいいでしょうね」
クズネツォワ「そうだな……では失礼する」
フェリーチェ「……ふー」
提督「ミカエラ、あれって……」
フェリーチェ「ええ、クギを刺しにきたの……さすがに正面切って顔を合わせると肝が冷えるわ」
ニッカネン「クズネツォワ少将は一筋縄で行くような人物ではないと噂に聞きます。十分ご存じのこととは思いますが……」
フェリーチェ「ええ、ありがとうございます。ですがいつかは誰かが「猫の首に鈴」をつけなければなりませんから」
提督「あれはどちらかと言えば猫と言うよりはアムールトラだけれど……」
フェリーチェ「それでも貴女からすれば「ネコ」なのは同じ……でしょ?」
提督「ノーコメント」
ニッカネン「カンピオーニ少将? まさかとは思いますが……」
提督「……クリスティーナ。制服を着ていない時の私の行動についてはしゃべらない自由もあるはずよね?」
ニッカネン「ええ、もちろん」
提督「ならそういうことで……ね?」
ニッカネン「分かりました……話を戻しますが、市街散策などいかがでしょうか」
提督「ええ、ぜひ……せっかくクリスティーナが誘ってくれたんですもの♪」後半は耳元に口を寄せて、甘い声でささやいた……
ニッカネン「……はい///」
888 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/08/28(月) 02:50:35.30 ID:J4WEynrY0
…軍事博物館…
ニッカネン「……軍人としては光栄ですが、せっかくの自由時間に訪問するのがこのようなお堅い施設で良いのですか?」
提督「ええ。ヘルシンキ旧市街も素敵だけれど、初日にある程度は回ることが出来たから……それに、色々と用意してくれているのでしょう?」
ニッカネン「それはもう……といっても、実銃の試射くらいしか出来ませんが」
提督「それだけ体験できれば充分よ♪」
フェリーチェ「何しろフランチェスカは射撃が趣味だから……普段は大きい音が嫌いなくせにね」
提督「だって、自分が撃っている間は気にならないもの♪ よいしょ……っと」
…制服を汚さないようにと用意してもらったフィンランド軍の野戦服に着替えると、博物館の館長を兼ねている予備役少佐の解説を聞きながら、戦中・戦後のフィンランド軍が使ってきた多種多様な兵器を観察して回る……冬戦争や継続戦争で改造をくり返しながら戦力として役立ててきたそれらの兵器は、提督にとってなじみ深いイタリアの兵器を始めドイツ、スウェーデン、あるいはイギリス、フランス、はたまたポーランドといったものから、ある意味では主力とも言える鹵獲品のソ連製までさまざまで、どれもよくレストアされ、きちんと管理されている…
ニッカネン「これは対戦車砲の牽引などで活躍したソ連製のT−20「コムソモーレツ」小型トラクターです」
提督「可愛らしいトラクターね。マリー……フランス海軍の友人の鎮守府にあった「ルノーUE」やイギリスの「ブレンガン・キャリア(ユニバーサル・キャリア)」、あるいはイタリアのL3「カーロ・ヴェローチェ」を思い出します」
ニッカネン「そうですね。性格としては「カーデン・ロイド」豆戦車から発展した一連のシリーズによく似ています……」と、館長が何やらニッカネンに話しかけた……
ニッカネン「カンピオーニ提督……いま館長が「せっかくですから屋外射撃場までこれに試乗していきませんか?」と申しておりますが」
提督「よろしいのですか? では、お言葉に甘えて♪」
…屋外射撃場…
提督「あいたた……お尻が痛くなっちゃったわ。それにエンジン音も結構大きかったし」
…提督たちは「コムソモーレツ」の後部にある開放型の木製シートに腰かけて屋外射撃場までやって来たが、足回りはごくあっさりした構造なので地面の起伏に合わせてガタンゴトンと派手に揺れ、エンジンの排気がもうもうと立ちこめた……よいしょと脇に降りても、まだ身体の中に振動が残っている気がする…
フェリーチェ「乗ってみたいと言ったのは貴女でしょうが」
提督「まぁね……こういうのもいい経験よね♪」
ニッカネン「あまり乗り心地がいいとは言えなかったと思いますが……大丈夫でしたか」
提督「ええ、大丈夫よ」
ニッカネン「それなら良かったです……では、こちらがカンピオーニ提督に体験していただく銃です」屋外射撃場の台の上には、現用のものからクラシカルなものまで、数種類の軍用銃が並べてある……
提督「こんなにたくさん用意して下さって、ありがとうございます」英語とつたないフィン語のちゃんぽんで、博物館の職員にお礼を言う提督……
館長「いえ、興味を持っていただいて嬉しいですよ……どうぞ一通り試してみて下さい」他のレンジには現役下士官らしい数人が入っていて、集中した様子で爽やかな森の中にある的に向けて射撃練習をしている……提督は耳当てを受け取ると館長から一通りの操作手順を聞いて、一挺を手に取った……
ニッカネン「それは「スオミ・KP31」短機関銃です。ソ連の「バラライカ」ことPPSh−41短機関銃に似ていますが、登場したのは1931年ですから、こちらの方が先ですね」
提督「なるほど……すごくずっしりしていますね」木製ストックにドラムマガジンのついたクラシックな造りの短機関銃は「ベレッタM12S」や「フランキLF57」といった短機関銃どころか、提督が士官学校で扱ったことのある「ベレッタBM59」自動小銃と比べても重く、がっちりしている……手に軍用の防寒ミトンをはめて耳当てを付けると、射撃場の的に向かって銃を構える……
館長「では、いつでもどうぞ」
提督「ええ……撃ちます」
…射撃時にボルトと連動しないよう独立している槓桿(コッキングハンドル)を引いて初弾を送り込むと、引き金を引く……途端に銃口から「バリバリッ……!」と威勢良く9×19ミリの銃弾が撃ち出され、硝煙が立ちこめる……弾倉を含めた銃の自重がたっぷり7キログラム近いこともあって跳ね上がりはほとんどなく、腕が抜けそうなほどの自重を除けば素直によく当たる…
提督「なるほど……重い分だけ跳ね上がりが少ないですね」
ニッカネン「その通りです。それに本来この銃は短機関銃というよりは、スキー部隊が奇襲の際に使う「9ミリ口径の軽機関銃」といった扱いでしたから……とのことです」
提督「そう考えると納得ですね……それから、これは「ヴァルメRk62」ですか」
ニッカネン「ええ、フィンランド軍の現用自動小銃です。操作系はAK……つまりカラシニコフ突撃銃と同じです」
提督「なるほど、海軍士官学校では東側の銃器を扱う事がないので興味深いです」
…ある程度聞きかじりの耳学問でカラシニコフの操作手順は知っていたが、実際に手に取るとフィンランド軍が信頼するその頑強さがよくわかる……その上でヴァルメ62にはフィンランドらしい実用性に優れたアレンジが加わっていて、とても頼もしい一挺に仕上がっている…
館長「どうぞ、ご自由に撃ってみて下さい」
提督「……撃ちます!」ダダッ、ダダッ、ダダッ!
ニッカネン「いかがですか」
提督「そうですね、思っていたよりはマイルドでしたが……何しろ最近撃った銃と言えばショットガンかピストルがせいぜいだったので、少し苦戦しました」弾倉を抜いて薬室の弾をはじき出すと、苦笑いを浮かべて台に置いた……
ニッカネン「少将はそうおっしゃいますが、館長は「大変お上手だ」と言っていますよ」
提督「ふふ、そう言われるとお世辞でも嬉しいですね……せっかくですから残りの銃も試させて下さい♪」すっかり乗り気になっている提督と、熱心に話を聞き感想を述べてくれる提督に嬉しくなって、あれもこれもとコレクションを持ち出してきた館長……
フェリーチェ「やれやれ、これは長くなりそうね……」
ニッカネン「でも、喜んでもらえたようで良かったです」
フェリーチェ「……まるでクリスマスプレゼントをもらった子供みたいにね」
889 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/09/11(月) 01:01:00.15 ID:vcNtmlmO0
…昼食後…
提督「はぁ……美味しい」
ニッカネン「……午前中は射撃を楽しんでもらえたようで何よりです」
提督「ええ、おかげでとても貴重な経験が出来たわ♪」ヘルシンキ市内の老舗レストランで昼食をとり、食後のコーヒーを楽しんでいる提督たち……
フェリーチェ「博物館の館長とずいぶん小火器談義に花を咲かせていたものね……」
提督「だって、なかなかフィンランドの銃を手にする機会なんてないもの……クリスティーナには苦労をかけたわ」
ニッカネン「いえ、そんな……///」
フェリーチェ「こほん……ところでニッカネン少佐」提督がニッカネンに対してテーブル越しに微笑みを向けているのをみて、横合いから声をかけた……
ニッカネン「あぁ……はい、なんでしょう」
フェリーチェ「午後のスケジュールですが、このまま旧市街の散策と言うことでよろしいでしょうか」
ニッカネン「はい、そのつもりです」
フェリーチェ「分かりました」
提督「なぁに? もしかしてまた用事?」
フェリーチェ「いいえ。済ませるべきものはすっかり済ませたわ」
提督「なら心おきなく街歩きが楽しめるわね?」
フェリーチェ「美人を見るとすぐフラフラとどこかに行ってしまう、どこかの誰かさんのお守りさえなければね」
提督「誰の事かしら?」
フェリーチェ「その大きな胸に手を当てて考えてみることね」
提督「……私の胸がどのくらい大きいか、ミカエラはよくご存じだものね♪」フェリーチェの耳元に顔を寄せ、いたずらっぽくささやいた……
フェリーチェ「まったく、相変わらずよく口が回ること……」
…数分後…
ニッカネン「あの、カンピオーニ提督。一つお願いがあるのですが……」コーヒーも飲み終わりかけたころ、ニッカネンが遠慮がちに切り出した……
提督「ええ、どうぞ?」
ニッカネン「申し訳ありません……その、硬貨を貸していただけませんか?」
提督「硬貨ですか? 少し待って下さいね……」制服のポケットに入れてある革の小銭入れを取り出すと、中をかき回した……
提督「はい、ありましたよ」五ユーロ硬貨を取り出すと、包み込むような手つきでニッカネンの手のひらに載せる……
ニッカネン「ありがとうございます」
提督「いつでもどうぞ……でも、どうして硬貨を?」
ニッカネン「えぇと……実はその、これを///」いま提督が渡したばかりの硬貨を添えて、小ぶりな長方形の包みを手渡す……
提督「あら、そんな……わざわざプレゼントを?」
ニッカネン「ええ……せっかく出会えたのですし、もらっていただけると嬉しいです///」
提督「ありがとう、クリスティーナ……開けてもいいかしら?」
ニッカネン「どうぞ、ぜひそうしてください」
提督「何かしら……まぁ♪」
…包み紙をめくってニスを塗った飾り気のない、しかし丁寧に作られた箱を開けると、中には一振りのフィンランド・ナイフが収まっていた……フィン語で「プーッコ」と呼ばれる、つばのないシンプルな片刃のナイフは峰の方に向けて刃が反っている……柄はしっかりした角製で、刃渡りはだいたい十センチあまり……握ると角製の柄が持つ表面のでこぼこが滑り止めの役目を果たしていて、刃と柄のバランスもちょうどいい…
ニッカネン「その、どうでしょうか……///」
提督「ええ、とっても嬉しい……それに、フィンランドでナイフを贈られるのはとっても名誉な事だって聞いたことがあるわ」
ニッカネン「ご存じでしたか」
提督「ええ」
ニッカネン「……その、最初は別のものにしようかとも思ったのですが……私は化粧品や服など詳しくないですし……それならいっそ実用として使えるものの方が良いかと思いまして、それで……柄は私が仕留めたトナカイの角を使っています///」
提督「そんなにしてくれて嬉しいわ、クリスティーナ……それで硬貨が必要だったのね♪」
ニッカネン「ええ、昔からあるしきたりですので」
提督「ありがとう、大事に使わせてもらうわ」
890 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/09/21(木) 01:42:40.22 ID:GpOw/6mp0
…出張最終日…
フェリーチェ「今日で帰国だけど、出張はどうだった?」
提督「そうねぇ。短かったようで長かったような、長かったようで短かったような……とにかく今は鎮守府に戻って、ベッドでゆっくりしたいわ」
フェリーチェ「ふっ……相変わらずね、そういうとこ」
提督「仕方ないじゃない、そういうふうに出来ているのよ」
フェリーチェ「買い物は済んだ? 荷物は詰めた?」
提督「ええ。鎮守府に戻ってすぐ渡したいお土産はトランクに詰め込んで、あとのものは航空便で送るわ」
フェリーチェ「ま、そうなるでしょうね……そろそろ時間よ、行きましょう」
…ヘルシンキ空港・第二ターミナル…
ニッカネン「……それでは、よい空の旅を」
提督「お見送りありがとう、クリスティーナ……クリスマスにはメッセージを送るわ♪」親しみを込めて腰に腕を回し、唇に優しくキスをした……
ニッカネン「はい、楽しみにしています……///」
フェリーチェ「カンピオーニ少将」まるで生ゴミに呼びかけるような口調で声をかける……
提督「あら、何かしら?」
フェリーチェ「そろそろチェックインの時間です」
提督「まぁ……クリスティーナ、せっかく仲良くなれたのに離ればなれになるのは辛いことだけれど、寒い冬もいつか終わって春が来るように、私たちもきっとまた逢えるときがくるわ」
ニッカネン「ええ、そうですね……」
提督「それに別れは辛いけれど、淋しくはないわ……だってクリスティーナ、私には貴女がくれたプーッコ(フィンランドナイフ)があるもの。猟で使うたびに、刃を研ぐたびにきっと貴女の事を思い出すわ」
ニッカネン「そうあってくれれば嬉しいです」
提督「ええ、もちろん。それから、今度は貴女がイタリアへいらっしゃいな……ローマの遺跡や美術館、博物館に美味しいもの……案内したいところがたくさんあるわ♪」
ニッカネン「機会が出来たら、ぜひそうします」
提督「それじゃあ、その時を楽しみにしているわね♪」もう一度ほっそりした身体を抱きしめ、唇に音立てて口づけする提督……
女性グラウンドパーサー「あの、お客様……」ブロンドの髪をしたフィンエアーのグラウンドパーサーが声のかけどころに困りつつ、フェリーチェにそっと呼びかける……
フェリーチェ「ああ、すぐに連れて行きますから……フランチェスカ」
提督「それじゃあまた会いましょうね、クリスティーナ……チャオ♪」最後に少し気取って飛びきりのウィンクと、人差し指と中指での投げキッスを送ってゲートをくぐった……
ニッカネン「……チャオ、フランチェスカ///」
…ローマ・フィウミチーノ空港…
提督「うーん……懐かしのローマ、この空気や喧騒さえも懐かしい気がするわ」
フェリーチェ「たった数日の出張でそれじゃあ困るわね……それととりあえずはここでお別れ。私は情報部に寄って成果の引き渡しと任務報告(デブリーフィング)を済ませなきゃいけないから」
提督「今から?」
フェリーチェ「ええ、そうよ」
提督「もうクリスマスも近いのに?」
フェリーチェ「情報部にはクリスマスも週末もないの」
提督「……私にはついて行けそうにないわ」そう言うと驚いたような表情をつくり、大きく肩をすくめてみせた……
フェリーチェ「ついて来いなんて言った覚えはないわよ……はいこれ、グロッタリーエ空軍基地までの搭乗許可書」
提督「グラツィエ、ミカエラ」
フェリーチェ「いいのよ……それと明後日にはタラントの管区司令部で貴女への聞き取りを行う予定だから、今のうちに想定問答でも考えておく事ね」
提督「考えただけでげんなりするわ……」
フェリーチェ「バカ言わないでよ。本当なら貴女にもこのままスーペルマリーナ(海軍総司令部)までついてきてもらって、情報部の担当者から半日はあれこれ聞かれるはずなんだから……これでもずいぶんと大甘なのよ?」
提督「それもそうよね、まさか官費で北欧旅行を楽しませてくれるはずはないし……貴女が手心を加えてくれたのよね、ありがと」
フェリーチェ「ノン・ファ・ニエンテ(いいのよ)……これもしばらく同棲していたよしみと、私からのささやかなクリスマス・プレゼントってことで」
提督「嬉しいわ……それじゃあ、またね♪」
フェリーチェ「ええ」
891 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/09/28(木) 01:55:50.76 ID:fWeSDmOH0
…しばらくして・提督執務室…
デルフィーノ「はい、こちらタラント第六鎮守府です」
提督「チャオ、デルフィーノ♪ 私だけれど、聞こえる?」
デルフィーノ「提督っ♪ もうイタリアですか?」
…提督の留守中、交代で執務室に詰めていた艦娘たち……電話が鳴った時にいたのは現「秘書艦」の片方である中型潜「デルフィーノ」で、イルカの艦名に似つかわしい濃灰色のピッタリとしたセーターと白いスラックスのツートンで、受話器越しに聞こえる提督の甘い声を聞くと喜びのあまり腰を浮かせた…
提督「ええ、いまフィウミチーノから電話をかけてるの。順調に行けば……そうね、1600時ころにも帰れると思うわ」
デルフィーノ「わぁぁ、嬉しいですっ♪ なにか用意しておきましょうか?」
提督「そうねぇ……とりあえずはふかふかのベッドとたっぷりの夕食、それに温かいお風呂かしらね」
デルフィーノ「はい、全部用意をしているところですよ」
提督「グラツィエ、みんな気が利くわね。それじゃあ……」
デルフィーノ「?」
提督「……早く貴女の可愛い顔が見たいわ♪」
デルフィーノ「あぅ、提督……っ///」
提督「ふふっ♪ それじゃあできるだけ早く帰るようにするから……飛行機の時間が近いから、またね?」
デルフィーノ「はい……っ///」ガチャリと受話器を置くと、赤くなった頬に手を当てた……
アッチアイーオ「……電話が鳴ってたみたいだけど、提督から?」ともに秘書艦を務めている中型潜「アッチアイーオ」が、帰りに備えてベッドを整えていた提督寝室から顔を出す……
デルフィーノ「そう、提督から……///」
アッチアイーオ「それで? 思わずあなたが濡らしちゃうような口説き文句以外に何か言ってた?」
デルフィーノ「は、恥ずかしいからやめてよぉ……///」
アッチアイーオ「周知の事実を今さら隠し立てしたって無駄なのよ……いいから「なにが欲しい」とか「なにがしたい」とか、あったでしょ?」
デルフィーノ「それなら「夕食とお風呂、それにベッドの用意をしておいて」って」
アッチアイーオ「ならどれも準備万端ね……いつ頃戻るって?」
デルフィーノ「1600時には戻れると思うって」
アッチアイーオ「そ、ならみんなにもそう言っておかないと……」
…夕方…
提督「……すっかり遅くなっちゃったわね」
…グロッタリーエ空軍基地の駐車スペースに預けておいた「ランチア・フラミニア」を受け取ると、受付の下士官に「早めのクリスマスプレゼントよ」と、ヘルシンキで買ったチョコレートの大袋を渡してきた提督……と、そこまでは良かったが、道中でちょっとした渋滞に巻き込まれてしまい、抜け出して鎮守府への道を飛ばしている間にも、日がどんどん傾いていく…
提督「焦らない焦らない……せっかちは事故のもと」そう自分に言い聞かせながらも足は自然とアクセルを踏みこみ、大柄だが走りのいいランチアはカーブの多い海沿いの道をクリアしていく……
提督「…」ちらりとメーターに目をやり、少し速度を落とした提督……それでもランチアの走りを信頼して、時速80キロは充分に出している……
…夕暮れ時・鎮守府…
提督「はぁ、急いでは来たけれど一時間は遅くなっちゃったわ……」暗証番号を打ち込んで正面ゲートを開け、鎮守府の本棟にゆるゆるとランチアを進ませる……と、本棟の前に集まっている艦娘たちの姿が見えた……
艦娘たち「「お帰りなさい、提督!」」
提督「ただいま、みんな……寒いのに表で待っていてくれたの?」
リットリオ「当たり前じゃないですか♪」
カヴール「皆、提督のお帰りを首を長くして待っておりましたよ……長旅お疲れさまでした」
アッチアイーオ「それにしても、遅れるなら遅れるって連絡しなさいよ……心配したんだから///」
ルチア「ワンワンッ!」
提督「ごめんなさいね、道路で渋滞につかまっちゃって……」
ライモン「……お帰りなさい、提督。 わたし、提督が帰ってくるのを待っていました///」恥ずかしげに提督の頬へ軽いキスをしたライモン……
提督「ええ、ただいま……♪」
892 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/10/04(水) 01:52:33.01 ID:pkZtqh5L0
マエストラーレ「提督、提督っ♪」
オリアーニ「なんだか久しぶりな感じ……ね、キスして?」
ルビノ「早く提督の熱い唇をちょうだい……っ♪」
提督「もう、焦らなくたって私はいなくなったりしないわよ?」そう言いながらも、挨拶代わりにキスをして回る提督……
カラビニエーリ「こら、そんなにまとわりつかれたら提督が歩きにくいでしょうが」
提督「いいのいいの、むしろ出張から帰ってきただけなのにこんなに歓迎してくれて嬉しいくらい……カラビニエーリもいらっしゃい♪」
カラビニエーリ「そ、それじゃあお言葉に甘えて……///」
リットリオ「提督っ、私もいいですか♪」
提督「もちろん♪」
…年相応の女の子のようにきゃあきゃあと笑いさざめきながら、鎮守府のこまごました出来事や面白かった出来事を一斉に話す艦娘たち……提督は辺りに笑顔を振りまきながら相づちを打っていたが、玄関ホールまで入った所で軽く手を鳴らした…
提督「はいはい、そう一斉に話されたら何が何やら分からなくなっちゃうわ。 それに荷物も降ろしたいし、続きは夕食の後にでもゆっくりと……ね?」
カヴール「そうですね、暖炉の前でゆっくりワインでもいただきながら……ということにいたしましょう♪」
ライモン「では、荷物はわたしが……」
提督「ありがとう、ライモン」
デルフィーノ「お部屋の用意は済ませてありますよ」
提督「助かるわ。 正直、ちょっと疲れちゃったもの。お風呂をいただいてさっぱりしたら夕食にするわ……みんなはもう夕食を済ませたの?」
ドリア「いいえ。みんな「提督が帰ってくるまで待とう」と……保温容器に入れてありますから、まだ熱いままですよ」
提督「そんな、わざわざ待たなくても良かったのに……それじゃあお風呂でほこりを流してくるから、もう少しだけ待っていてちょうだいね?」
…大浴場…
提督「はぁぁ……♪」
…古代ローマ風の豪奢な浴槽に「ちゃぽん……」とつま先から脚を入れ、それから滑り込ませるようにして身体をお湯に沈めた提督……鎮守府の温泉は裏手に湧いている源泉の具合によって泉質が多少変化するが、今日はほのかな緑白色をしていて、誰かにそっと抱きしめられた時のようにじんわりと温かい…
アッチアイーオ「……提督、せっかくだから洗ってあげましょうか?」
…暖かければ暖かいほど柔らかくなり、冷えるとツンとした態度、さらに寒くなるとすっかり心がもろくなってしまうアッチアイーオ(鋼鉄)……今は結い上げた髪にタオルを巻いた姿で提督の横に腰かけ、ガンブルーを思わせる艶やかな黒い瞳をちらちらと提督の裸身に走らせている…
提督「そうねぇ、それじゃあお願いしようかしら……」
アッチアイーオ「分かったわ、それじゃあ私が流してあげる♪」
…浴槽から出てカランの前に座った提督の後ろに回るとご機嫌な様子でシャンプーを取り、提督の髪を洗い始めた……ほっそりした、しかし意外なほど力のある指が心地よく頭皮を撫で、提督の腰まである長い髪をていねいに梳いていく……お湯を含んでずっしりとした髪に甘いシャンプーの香りが絡みつき、アッチアイーオの指が滑っていくたびに心地よい刺激が伝わってくる…
アッチアイーオ「それじゃあ、流すわよ……熱くない?」
提督「いいえ、ちょうどいい具合よ……こんなに気持ち良いと眠くなってきちゃうわね」
アッチアイーオ「だからってここで寝ないでよ?」
提督「ええ、そうするわ」
アッチアイーオ「はい、おしまい……次は身体を洗ってあげる///」
提督「それじゃあ前は出来るから、背中をお願いしようかしら」タオルで頭をまとめ上げると、豊かな胸からほどよくくびれたウエスト、そしてむっちりしたヒップへと続く白く滑らかな背中があらわになる……
アッチアイーオ「え、ええ……///」何度かベッドを共にしたことがあるとはいえ、明るい大浴場でしげしげと眺めるのは少々気恥ずかしい……
提督「アッチアイーオ?」
アッチアイーオ「ううん、何でもないわ……」スポンジでもこもことせっけんを泡立てると、ふわっと花束のような甘い香りが立ちのぼった…肩甲骨から下へ向かって、柔和なラインを持った提督の背中にスポンジを走らせると、まるで愛撫しているような気分になってくる……
提督「あ…そこ、気持ちいい……んっ♪」
アッチアイーオ「そ、そう?」提督が発する甘い声にドキリとして、返事がついうわずってしまう……
提督「……ねえ、アッチアイーオ♪」
アッチアイーオ「な、なに?」
提督「なんだか億劫になっちゃったから、前もお願いできるかしら……♪」鏡越しにアッチアイーオの表情を見ると、提督の金色の瞳にいたずらっぽい…そしてどこか甘くいやらしい光を宿すと、からかうような…あるいは誘うような声を出した……
アッチアイーオ「べ、別にいいけど……?」
提督「ならお願いするわ、戻ってくるときに急いだりして結構汗ばんじゃったから……丹念にお願いね♪」
アッチアイーオ「……っ///」
893 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/10/09(月) 02:35:18.96 ID:T5P3BkAm0
…しばらくして・食堂…
アラジ「……ずいぶん遅かったね?」
アッチアイーオ「///」
提督「そうね、なにしろ髪が長いものだから♪」
…まだ余韻を残しているようなアッチアイーオが顔を赤くしてそっぽを向いたのに対して、にこやかに微笑みながらさらりと言い逃れをする提督……もちろん察しのいい一部の艦娘たちにそんなありきたりな嘘が通用するわけもないが、恥ずかしげなアッチアイーオのためについた言い訳であることを分かってほしいという含みを持たせた…
ドリア「そうですね、チェザーレも髪を乾かすとなると大騒ぎですし♪」口元を手で押さえてころころと笑いながら、髪にうるさいチェザーレを引き合いに出してからかった……
チェザーレ「む、それは致し方あるまいが……」
ディアナ「さあさあ、提督もお腹を透かしていらっしゃるのですから……まずは夕食にいたしましょう」
リベッチオ「賛成っ♪」
提督「そうね、お風呂に入ってさっぱりしたらお腹が空いてきたわ♪」
…すっかりクリスマスムードの食堂で楽しげにしている艦娘たちを眺めつつ、定位置に腰かけた提督……最初は遠慮していたが周囲にやいのやいの言われて横に座ったライモンが、グラスに白ワインを注いでくれる…
カヴール「では改めて……お帰りなさいませ、提督♪」
提督「ええ♪」
…ディアナは旅の疲れで食欲が出ないだろうと気を利かせてくれていて、テーブルには家庭的なミネストローネ、それと作り置きの野菜マリネや牛の生ハムスライスといった、さっぱり食べられるものが並んでいる…
ディアナ「いかがでございましょう?」
提督「ええ、とっても美味しいわ……♪」すっきりと飲み口のいいシチリアの白ワインをお供に、暖炉の火がかもし出す暖かな雰囲気の中で艦娘たちとゆったり食事をとる……
ライモン「もう少しいかがですか、提督?」
提督「ありがとう。ライモン、ところでワインをもう少しいかが?」
ライモン「ええ、それじゃあ半分ほど……///」
…食後…
提督「ふー、美味しかったわ……ディアナ、お皿洗いを手伝いましょうか?」
ディアナ「お帰りになったばかりの提督にそのようなお願いはいたしません……それより、あの娘たちに土産話でもしてあげて下さいませ」
提督「分かったわ。それじゃあお皿洗いは後にして、ディアナもいらっしゃいな♪」
ディアナ「まぁ……では、よしなに」
…暖炉のそばに引き寄せた椅子や暖炉の前に敷いてある大ぶりの絨毯には艦娘たちと、鎮守府の皆に可愛がられている純白の雑種犬「ルチア」が三々五々と集まり、椅子に座って火を眺めていたり、あるいは直接絨毯に座ったり寝そべったりしている……中の何人かはクリスマスシーズンということでつまみ食い自由にしてある「パンドーロ(黄金のパン)」といった伝統焼き菓子をつまんだり、果物やスパイスの入ったホットワインやキアンティを垂らしたコーヒーで暖まっている…
提督「よしよし♪」ルチアのふんわりと長い毛をブラシでくしけずりつつ、ときおり耳のあたりや尻尾の付け根をかいてあげる提督……
ルチア「ワフッ……♪」
デュイリオ「うふふっ♪ ルチアも提督がお戻りになって、安心したようですね♪」
…おっとりした妙齢のお姉さまである「カイオ・デュイリオ」は自分のペットであるカラスを肩に止まらせつつ揺り椅子に腰かけ、紅に金糸で模様をあしらった豪奢なガウン姿でちびちびとブランデーを舐めている……時折かたわらに置いてある小皿からクルミを取るとカラスに食べさせて、それから頭を撫でたり、羽根を整えてあげたりしている…
カラス「カー」丸い利口そうな目をくるくると動かし、それからデュイリオの頬にちょんと身体を寄せると頬ずりのような動きをした……
デュイリオ「まぁまぁ……それじゃあもう少しだけあげましょうね♪」
カルロ・ミラベロ「それで、提督のお眼鏡にかなうような綺麗なお姉さんはいた?」絨毯に寝そべり頬杖をついて、脚をぱたぱたと動かしている……
提督「もう、別に北欧へ遊びに行ったわけじゃないのよ?」
エウジェニオ「あら、そうなの? でも、出会いの一つや二つはあったでしょう?」
提督「それは、まあ……なかったとは言わないけれど♪」
ガリバルディ「やっぱりね……それで?」
提督「そうねぇ。例えばスウェーデンのラーセンっていう大佐なんかはとっても綺麗な人で……まるでグレタ・ガルボみたいで、惚れ惚れするような美しさだったわ♪」
エウジェニオ「そう。ところで提督が大事そうに部屋へ持って行った贈り物のナイフ……あれの送り主のフィンランド人とはずいぶん仲良くなったみたいだけれど、その話はしないの?」
提督「……どうしてあの贈り物がナイフだって分かったの」
エウジェニオ「ふふ、私の目をごまかそうとしてもそうは行かないわ♪ まず、あの箱の様子だと中身は長細いものでしょうし、かといってペンにしては大きすぎる……これといったロゴやブランド名もないから、送り主の手作りかそれに近い素朴な何か……で、今回の出張先はフィンランドでしょ」
提督「え、ええ……」
エウジェニオ「フィンランドと言えばフィンランド・ナイフ(プーッコ)が有名だし、あの飾り気のなさはスウェーデン人よりは質素倹約を重んじるフィンランド人からのプレゼントにふさわしい……ってところね。どう?」
提督「……エウジェニオにはかなわないわね」
894 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/10/21(土) 01:16:08.05 ID:+S+lF9aD0
…その晩・提督寝室…
提督「ねぇライモン、一緒に入る?」
…ワインやカクテルといったお酒、それに暖炉の火ですっかり暖まった提督がぽおっと赤みを帯びた顔に柔和な笑みを浮かべつつ、布団を持ち上げすき間を作った…
ライモン「あ、いえ……わたしは自分の部屋で休みますから///」
提督「……いいの?」
ライモン「そんな誘い方……ずるいです///」くるぶしまである純白のネグリジェをするりと脱ぐと、滑るようにベッドへ入ってきた……
提督「ふふ、いらっしゃい♪」
ライモン「提督……///」
提督「ライモン……こうやって名前を呼ぶのも久しぶりな気がするわ♪」
ライモン「わたしも……待ち遠しかったです///」
提督「嬉しい……んっ♪」
ライモン「ん……ふ///」
提督「ちゅっ……んちゅ…ちゅる……っ♪」
ライモン「ん、んぅ……ちゅぱ///」
提督「ぷは……ライモン、貴女の好きなようにしていいのよ?」
ライモン「そ、そうですか……それじゃあ///」
…提督の両肩に手を置き、ずっしりした乳房に顔を埋めるようにしてぎゅっと身体を寄せるライモン……提督の谷間にライモンの暖かい吐息が微風となって吹きつけ、しっとりしたライモンの白い肌が提督の柔肌と吸い付くように重なり合う…
提督「よしよし……♪」
ライモン「あ……っ///」
…明るい、しかしけばけばしくはないライモンの金髪をくしけずるように撫でる提督……ベッドの白いシーツには提督の長い金色がかった髪がウェディングドレスの裾のように広がり、その上で抱き合っている二人はまるでひまわり畑で寝転んでいるように見える…
提督「……来て?」
ライモン「はい……///」ちゅぷ……っ♪
提督「んっ……ふふっ♪ ちゃんと、私の気持ちいいところ……」
ライモン「忘れるわけがありません……だって、フランチェスカ……貴女が教えてくれたんですから///」
提督「そうね。それじゃあ私も、ライモンが教えてくれたところ……♪」くちゅ……っ♪
ライモン「あ、あ、あ……っ///」
提督「ふふ、可愛い声……もっと聞かせて?」ぬりゅっ、くちゅ……り♪
ライモン「ふぁぁ……あっ、ん……あぁ……んっ///」
提督「……ほら、好きにしていいのよ?」
ライモン「だったら……手を止めてください……っ///」
提督「ふふ、仕方ないじゃない。いつも可愛いライモンがそういうトロけた表情をするの……ベッドの中でしか見られない特別な顔で好きなんだもの♪」
ライモン「……も、もうっ///」顔を真っ赤にしたライモンが照れ隠しに怒ったような表情を浮かべ、提督の濡れた花芯に中指と薬指を滑り込ませた……
提督「ひゃぁん…っ♪」
ライモン「貴女は、いつもそうやって優しくて甘い言葉をかけてくれるから……だから……っ///」じゅぷっ、ぐちゅぐちゅ……っ♪
提督「あっ、あっ、あぁぁ……んっ♪」
ライモン「だから、わたしだけじゃなくてみんなが貴女の事を好きになって……ずるい女性(ひと)です……っ///」くにっ、こりっ……ちゅぷ……っ♪
提督「あぁぁぁん……っ♪」長い余韻を残しつつ、甘くねだるような声で絶頂した提督……嬌声をあげながらも片手はライモンの滑らかなほっそりした腰に回され、もう片方の手はライモンのとろりと濡れた秘所にあてがわれ、中にぬるりと滑り込んでいる指が粘っこい水音を響かせながらなめらかに動く……
ライモン「あぁぁんっ……フランチェスカ……ぁ///」
提督「ねえ、ライモン……」太ももを重ね合わせて「ぬちゅっ、くちゅっ……♪」とみだらな水音を響かせながら、耳元でささやいた……
ライモン「なんですか、フランチェスカ……?」
提督「ええ、貴女にちょっと早めの……クリスマスプレゼント♪」ぐりっ、ぷちゅ……っ♪
ライモン「あ、あぁぁぁぁ……っ♪」
提督「……うふふっ、しばらくご無沙汰だったぶん……今夜は好きなだけしていいから、ね?」
895 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/10/26(木) 01:19:06.59 ID:fR+tjxd80
…翌朝…
デルフィーノ「おはようございます、提督」
提督「おはよう、デルフィーノ。 ちょっとだけ声を落としてもらえるかしら……ね?」ベッドのふくらみを指し示して、パチリとウィンクをした……
デルフィーノ「……あ、はいっ///」
提督「ふふ、ありがと♪」デルフィーノの頬におはようのキスをするとガウンを羽織り、浴室へ行って洗面台で顔を洗い、それからきっちりと歯を磨く……北欧出張の際に現地で買った、キシリトール入りだという歯磨き粉をさっそく使ってみる……
提督「……なるほど、確かにスッキリした感じはあるかもしれないわね」
…歯みがきと洗顔を終えて部屋に戻ると、デルフィーノがせわしなく動きながら朝刊と目覚めのコーヒーを用意してくれていた…
デルフィーノ「朝のコーヒーと新聞です、提督。 お留守の時の分もとってありますから、読みたかったら後で読めますよ」
提督「グラツィエ……ん、いい香り」
デルフィーノ「今日のコーヒーはゴンダールが淹れたエチオピアです」
提督「ゴンダールだものね……美味しいわ」(※ゴンダール…当時の「イタリア領東アフリカ」(エチオピア)にある都市。世界遺産にもなった建築などで知られる)
デルフィーノ「それでは、また朝食の時に……///」
提督「ええ♪」窓を細めに開き、冷たいが清らかな冬の海風を少しだけ部屋に入れながらガウンにくるまり湯気の立つコーヒーを楽しむ提督……朝刊の「レプブリカ」を読んでいると、ライモンが目をこすりながら出てきた……
提督「おはよう、ライモン」
ライモン「おはようございます……朝のコーヒーはわたしが支度をしたかったのですが、寝過ごしてしまいました……」
提督「いいのよ……昨夜聞かせてくれた甘い声だけでお釣りがくるわ♪」コーヒーカップ片手にからかうような口調で言った……
ライモン「も、もう///」
提督「今日は何の予定もないし、荷物の整理が済んだらのんびりさせてもらうわ……それとライモンには、留守中にあった話でも聞かせてもらおうかしら」
ライモン「はい♪」
…朝食後・食堂…
提督「……それじゃあみんなに早めのクリスマスプレゼント♪」
…朝食を済ませてゆったりとした空気が流れている中、提督がトランク一杯買ってきた北欧三カ国のお土産を渡し始めた……当直や哨戒のために出撃している艦娘をのぞいた手すきの娘たちが食堂に集まり、それぞれ提督がふさわしいと思ったものや、本人が欲しがっていたものを受け取っている…
リベッチオ「提督、さっそく開けていい?」
提督「もちろん、貴女のために買ってきたのだから……喜んでもらえるとうれしいわ♪」
リベッチオ「何かなぁ……わぁ、素敵なマフラー♪」包みから出てきたのは長いふんわりしたクリーム色のマフラーで、褐色の肌と良く似合う……
提督「この間、出撃の時に首元が寒いって言っていたから……どう?」
リベッチオ「うん、うんっ♪ とっても暖かいよっ……ありがと♪」
提督「みんなにもそれぞれあるから……はい♪」いくら四姉妹とはいえ、いつも十把一絡げにしたようなお揃いばかりではつまらないだろうと、それぞれの好みに合わせて違う色や柄のマフラーを選んできた提督……
マエストラーレ「とっても嬉しいよ、提督♪」
提督「そう言ってもらえて良かったわ……でも、それならお礼のキスくらい欲しいわね♪」
マエストラーレ「ん、まかせて♪ んちゅ、ちゅる……っ♪」冗談めかした提督に対して、マエストラーレがくっつくように身体を寄せるとつま先立ちをし、提督の両頬を手で押さえると舌を滑り込ませた……夏の香りを残したような褐色の肌が近寄り、あどけなさの残る……しかし熱っぽいキスを浴びせてくる…
提督「んぅぅ……ぷは♪」
マエストラーレ「これで満足?」
提督「ええ♪ それにこれ以上したくても、ここでするわけにはいかないものね?」
リベッチオ「くすくすっ……提督がしたいならここでしたっていいよ?」ぱっちりとした目をくるくると動かしつつ斜め下から見上げるような、挑発的かつませた態度をとってみせる……
提督「ふふっ、リベッチオったら♪」
ライモン「……提督」
提督「あぁ、はいはい。 えぇと、これは……ディアナ」
ディアナ「まぁ、わたくしにもプレゼントを?」
提督「もちろん……貴女にはこれを」小ぶりな箱に入っていたのは三日月をあしらった銀のキーホルダーと、真珠をあしらった銀の髪留め……
ディアナ「あら、こんなに素敵なものを……」
提督「ほら、貴女がいつも使っているフィアット850……あれのキーには何も付いていなかったから、もし良かったらと思って」
ディアナ「とても嬉しいです、提督……♪」
896 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/10/31(火) 01:53:34.78 ID:YYE93CNN0
…しばらくして…
提督「これでみんな配り終わったかしらね」
リットリオ「こんなにいいものをもらえて私は幸せですっ♪」
バリラ「ええ、本当に……お礼に提督の事をぎゅーってしてあげます♪」旧型の潜水艦ゆえに出撃の機会は少ないが、そのぶん鎮守府の潜水隊にとってのよきお母さんでもあるバリラ級のネームシップ「バリラ」が、その母性を存分に発揮して提督を抱きしめる……
提督「あんっ……♪」たわわな胸元に顔を埋めて、ミルクのような甘い匂いを吸い込みながら甘い表情を浮かべている提督……
デュイリオ「あらあら、でしたらわたくしも……♪」むぎゅ……っ♪
ドリア「それなら私もお邪魔させてもらいましょう♪」むにゅっ♪
提督「ふふっ、そんなに胸元に押しつけられたら窒息しちゃうわ……でもきっと、世界で一番幸せな窒息ね♪」三方から囲まれるようにして抱きしめられ、ご満悦の提督……
ライモン「……はぁ」
アッテンドーロ「やれやれ、姉さんったら……確かに提督はなかなかの美人だし性格も優しいけど、私にはあの女たらしのどこがいいのかいまだに分からないわ」
ライモン「仕方ないでしょう……だって一目見てからずっと好きなんだもの///」
アッテンドーロ「それはまたずいぶんと一途なことで……」
提督「んむ、んふぅ……ぷはぁ♪」
…提督もかなり長身な方だったが、それよりもさらに頭ひとつ分は大きい、優雅でおっとりした感じのするドリアやデュイリオといった「妙齢の」ド級戦艦であるお姉さま方、そしてはつらつとして可愛らしい表情と、それに似合わぬほどの高身長でメリハリのある身体をしたリットリオ級の娘たち……そんな艦娘たちに抱きつかれて、提督はまるで新婚かなにかのように抱きついてみたり軽い口づけを交わしたりといちゃついている…
アッテンドーロ「……ふぅ、仕方ないわね」
ライモン「何が……って、きゃっ!?」アッテンドーロに突き飛ばされるようにして、提督たちの間に飛び込んだライモン……
提督「あら、ライモン……ごめんなさいね? 貴女を仲間はずれにしちゃって」
ドリア「ふふっ、ライモンドも遠慮しないで……さあ、お姉さんの胸の中にいらっしゃい♪」
デュイリオ「くすくすっ、ドリアはライモンドの「お姉さん」にしてはずいぶんと艦齢(とし)の差があるようだけれど?」
ドリア「……ふふっ、それを言ったらデュイリオだってそうでしょう?」
デュイリオ「あら、なかなかお上手だこと♪」
提督「もう、こんなに瑞々しい身体なんだからお互いそういうことは言わないの……ね?」パチリとウィンクをすると、二人のたわわな乳房を下から支えるようにして軽く揺すった……
デュイリオ「あんっ……もう提督ったら♪」
ドリア「いたずらなお手々ですね♪」
カヴール「ふふ、ライモンドも遠慮しないでいいのよ?」
ライモン「///」自分の手にカヴールの白くて柔らかい手が重ねられると、そのままずっしりとした乳房に誘導されて真っ赤になる……
提督「ふふっ、ライモンはいつでも初々しくて可愛いわ♪」
エウジェニオ「同感ね……これじゃあ提督がいたずらしたくなっちゃうのも無理ないわ」
ガリバルディ「そうね、実に可愛いわ♪」
…暖炉脇の敷物に座って、提督が「誰でも自由に取っていいように」と置いたお土産のチョコレートをつまみつつ、泡立つスプマンテを傾けていたエウジェニオとガリバルディ……艦隊一の技巧派で相手をとろかすような女たらしであるエウジェニオと、それとは対照的に革命家らしく情熱的で、燃え上がるような女たらしのガリバルディ……その二人が「コンドッティエーリ(傭兵隊長)」型軽巡の先輩、あるいは従姉とでもいえる関係にあるライモンを眺めて舌なめずりをした…
提督「うふふっ、二人もそう思う?」
エウジェニオ「ええ……とっても美味しそう♪」
ガリバルディ「焼け付くような愛の炎を起こしてみたいわ♪」
ライモン「も、もう……みんなしてわたしの事をからかうんですから///」
提督「だってライモンが可愛いんだもの♪」
ガリバルディ「言えてるわ」
エウジェニオ「ええ……ところでジュゼッペ、お一つどうぞ♪」チョコレートを一つくわえると口を近づけた……
ガリバルディ「グラツィエ……ねえエウジェニオ、少し喉が乾かない?」
エウジェニオ「そうね、ちょっと暖炉で火照っているし……♪」
ガリバルディ「だと思ったわ……んくっ♪」スプマンテを口に含むと、しなだれかかるエウジェニオに口移しで飲ませた……
エウジェニオ「ふふ、美味し……♪」
提督「まぁ、ふふっ……二人は本当に絵になるわね」
ライモン「///」
897 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/11/09(木) 01:56:42.81 ID:mtb5KQ5Y0
…翌日…
提督「さてと、昨日はゆっくり休めたのだから……今日は書類を片付けないと」
デルフィーノ「私もお手伝いしますよ、提督」
アッチアイーオ「遠慮しないで任せておきなさい」
カヴール「事務書類の処理は得意ですから、任せて下さいな♪」
ライモン「及ばずながら、わたしもお手伝いします」
提督「みんな、ありがとう……それじゃあ手早く片付けましょうか」
…提督の執務机の上「未決」の箱に積み上がっているのは出張の間にも日々溜まっていたとおぼしき書類の山……内容を読んだ上でファイルするだけのものや、提督の手を借りずとも処理できそうなものは秘書艦のデルフィーノとアッチアイーオを始め、書類仕事の得意な艦娘たちがある程度は片付けてくれていたが、それでもひとつの鎮守府に届く書類となると相当なものがある…
提督「請求書、納品書、領収書……通達に納品書、また領収書……」
カヴール「では納品書の確認は私が」
提督「ええ」
アッチアイーオ「ファイルに綴じるのは私がやるわ」
提督「お願いね」
デルフィーノ「領収書の値段があっているかどうかの計算は私がやりますねっ」
提督「助かるわ、デルフィーノは計算が得意だものね♪」
ライモン「えぇと、それじゃあわたしは……」
提督「ライモンは私の隣で、書いたものに誤りがないか確認してくれる? 重要な役目だからぜひ貴女に頼みたいわ」
ライモン「はい///」
カヴール「まぁまぁ、提督ったら公私混同ですね♪」
提督「司令官特権よ♪ ……ん、この場合はどの予算で執行すればいいのかしら?」
…納品書に書いてある品目や値段があっているかどうか、決済の日付が正しいかどうか、用途別に付いている予算から正しい要目を選んでいるかどうか……ラップトップコンピュータの画面と送られてきた書類を突き合わせながら一つひとつ確かめていく…
提督「えぇと、この場合は諸雑費からの支出で……」
…ピンクや黄色の付せんだらけになっている「支出処理マニュアル」をめくりながら、ときおりこめかみに手を当てて眉をしかめ、カタカタとキーボードに入力しながら、思い出したようにコーヒーカップに手を伸ばす……
…しばらくして…
デュイリオ「……みんなお疲れでしょう、しばらくわたくしが代わりますよ♪」
ペルラ(ペルラ級潜水艦「真珠」)「アッチアイーオ、交代しましょう」
ベリロ(ペルラ級「緑柱石」)「デルフィーノも少し休んできたらどうですか?」
デルフィーノ「え、でも私とアッチアイーオは秘書艦ですし……」
提督「いいのよ、少し休憩していらっしゃい……ライモン、貴女も」
ライモン「いえ、もう少しですから」
提督「相変わらず律儀ね……分かったわ、それじゃあその書類が終わったら三十分は休憩してくること。いいわね?」
ライモン「はい」
提督「よろしい。 えぇと、次の書類は……あー、クリスマス休暇関係ね。これだけはどうにか終わらせないと、私をふくめてみんなの休暇が取れなくなっちゃうわ……」
…提督は何本か持っている万年筆のうち、鎮守府に「栄転」することになった際に仲良しの数人がお金を出し合ってくれたプレゼントの万年筆を選んで紙面に滑らせた……軸は海のような濃い青色で、要所を締める金の部品がしゃれている万年筆は、提督の名前が筆記体で彫り込んである……見た目だけでなく書き味も極上の万年筆は持っているだけで文豪や名士の仲間入りした気分になれるので、なんとなく書類も手際よく片付けられる気がする…
提督「えーと……休暇開始予定日…期間……非常時連絡先……海外旅行をする場合は目的地……」
…海軍士官である提督、それに艦娘たちは休暇の際に海外旅行をしたい場合は軍に申請しなければならない……むろん、非友好国や危険がありそうな国への旅行は認められず、安全と思われる国であってもかなり細かいチェックをうける……艦娘たちの何人かはフランスやスペイン、あるいはアドリア海を挟んで向かい側のアルバニアといった国に旅行したいと申請していたので、まずは提督がサインを入れ、その上で管区司令部へと回す…
提督「ふー、これで休暇の申請書類は終わったわね。あとは期日までに郵送するか直接提出すれば完了……と」
ペルラ「お疲れさまです、提督」
提督「ふふ、自分の休暇がフイにならないために頑張っただけよ♪」ペルラの真珠色をした艶やかな瞳、それに珠を転がすような美しい声で言われるとくすぐったい気分になり、照れ隠しに冗談めかした……
デュイリオ「ふふっ、いずれにせよあともう少しですから……頑張りましょう、ね?」
提督「ええ♪」
898 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/11/18(土) 02:13:59.28 ID:gqvE9Z1O0
…翌朝…
ライモン「おはようございます、提督……今日はタラントの管区司令部までお出かけだそうですね」
提督「ええ。北欧出張の時に話をした例のロシア軍将官について情報部の聞き取り調査があるの。ついでにみんなのクリスマス休暇の申請書を提出してくるわ」きちんと冬用の制服に身を包み、片手には金属のアタッシュケースをぶら下げている……
ライモン「気を付けて行ってきて下さいね?」
提督「ありがとう……どう、一緒に行く?」ランチアのキーをつまんでゆらゆらさせつつ尋ねた……
ライモン「あの、提督と一緒に行きたいのはやまやまですが、今日は午後直が入っていますから」
提督「そうだったわね……ライモンの当直時間を忘れちゃうなんてうっかりしていたわ。時差ボケかしら?」
ライモン「そんな、でも誘ってくれて嬉しかったです///」
提督「そう言ってもらえて光栄だわ……それじゃあ他の誰かを誘うことにするけれど、何か欲しいものはある? タラントで買えるものなら買ってくるわよ?」
ライモン「いいえ、大丈夫です」
提督「そう? 遠慮しないでもっとねだってくれたっていいのに……まぁいいわ、留守のあいだは鎮守府をドリアに任せるけれど、何かあったらかまわず連絡を頂戴ね?」
ライモン「はい」
提督「いい返事ね、それじゃあ行ってきます♪」
ライモン「はい、行ってらっしゃい」
…玄関…
提督「さてと、用意はいい?」
エウジェニオ「ええ」
サイント・ボン「本官の準備は出来ておりますよ」
ニコロソ・ダ・レッコ(ニコ)「いつでもいいよ、提督」
…鎮守府に配備されている一台ずつの三トン軍用トラックとベスパ、それにリットリオのフィアット500(チンクエチェント)とディアナのフィアット850だけでは「近くの町」ならともかく、全員が好きな時にタラントへ出かけるという訳にはいかないので、提督は公務でタラントへ出かけるようなときは、できるだけ艦娘たちを連れて行くようにしていた…
提督「よろしい、それじゃあ行きましょう♪」
…地方道路…
エウジェニオ「……いい風ね、少し冷たいけれど」
提督「ええ」
…提督は車内にヒーターをいれつつも、張り詰めたような冬の冷たい風を感じられるよう少しだけ窓を開けて、「ランチア・フラミニア」を走らせていく……助手席にはエウジェニオ、後部座席には大型潜の「アミラーリオ・ディ・サイント・ボン」と駆逐艦の「ニコロソ・ダ・レッコ」が座っている…
サイント・ボン「では、タラントに着きましたら本官たちは市街で買い物などしておりますので」
提督「それがいいわ。お昼になったら管区司令部の前で合流しましょう……もし聴取が長引いたりするようだったら連絡するわね」
エウジェニオ「ふふ……♪」
提督「何かおかしいかしら?」
エウジェニオ「ええ、それはもう……だってこともあろうにロシア軍の美人将官と寝たって言うんだもの、貴女の女好きも大したものね」
提督「だって……///」
エウジェニオ「なぁに?」そう言いながら提督の太ももをさりげなく撫で回しはじめた……
提督「エウジェニオ、運転中は止めてちょうだい……いくら美女と一緒でも、まだ崖下にダイブする気は無いわ」
エウジェニオ「ふ、冗談でしょう? 貴女なら目をつぶっていても、キスしながらでも運転できるでしょうに」
提督「ごあいにくさま、私はフェラーリでもなければヌヴォラーリでもないの。それにせっかくのキスを「ながら」でしたくはないもの」
エウジェニオ「ふふ、そういう真面目なところが好きなのよ……いいわ、きちんと座っていてあげる♪」
…エウジェニオは無造作に散らしたようなセミロングの髪型で、黒いレザージャケットにヴィヴィッドな色味の紅のタートルネックセーター、きゅっと引き締まったヒップから伸びる長い脚は黒の乗馬ズボンとひざ丈まである黒革のヒールつきブーツで固め、片耳にだけ付けたイヤリング……と、どう見てもビアンの格好いいお姉さんといった服装に身を固めている…
提督「グラツィエ。帰ったらごほうびをあげるわ」
エウジェニオ「期待しているわよ♪」
提督「ええ。って、そんなことを言っていたらもうここまで……相変わらずにぎやかね」タラント市街が近づくと、艦娘の「具現化」させた往時の海軍艦艇が出撃していき、漁船や沿岸航路の貨物船、それに定期航路の客船といった民間の船舶が行き交い、上空ではイオニア海を哨戒するカントZ506水偵やフィアットCR42戦闘機がエンジン音も高らかに飛んでいく…
ニコ「それに市街もすっかりクリスマスだ」
提督「そうね、みんなへのお土産にクリスマス菓子でも買って帰りましょうか」
サイント・ボン「それはよろしいですね」
899 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/11/23(木) 01:09:07.13 ID:Gz1NGPh50
…管区司令部…
提督「おはよう」
受付の下士官「おはようございます、少将……数日前もいらっしゃったのに、また呼び出しとは大変ですね」
提督「本当にね……そうそう、ちょっと早いけれどクリスマスプレゼントをどうぞ。当直のみんなに分けてあげて?」フィンランドの免税店で仕入れてきたチョコレートやキャンディが詰め合わせになった大袋を受付の伍長に渡す……
受付「わざわざありがとうございます」
提督「ノン・ファ・ニエンテ(いいのよ)……よいクリスマスをね」
受付「は、ありがとうございます。少将も良いクリスマスを」
提督「グラツィエ♪」
…事務方…
提督「おはよう、大尉……申請書類の提出に来たのだけれど、今いいかしら?」
事務方の士官「おはようございます、カンピオーニ少将。申請書ですね、どうぞ」
提督「ありがとう。それじゃあ私と鎮守府の娘たちの分のクリスマス休暇申請書、手続きをお願いするわ」厚手の本くらいはありそうな申請書類の束をカウンターにどさりと載せる……
士官「確かに受け取りました、処理しておきます」
提督「助かるわ。それと、良かったらこれ。クリスマスも近いし……ね?」茶目っ気のある表情を浮かべつつ、またまた菓子の大袋を手渡した……
士官「は、いつもありがとうございます……」後ろでデスクを並べ、書類の処理に当たっている数人からもさりげない感謝のジェスチャーや小さな会釈が向けられる……
提督「ええ。さ、法務や内務のお堅い士官に見つかってガミガミ言われないうちに……♪」
士官「分かっております。少将も良いクリスマスを♪」
提督「ええ♪」
…会議室…
提督「さて、いよいよ次が本命ね……」別に悪さをしたわけではないが、情報部によるデブリーフィング(任務報告)とあって、ひとつ深呼吸して身構える……
案内の下士官「……カンピオーニ少将がおいでになりました」
フェリーチェ「どうぞ……あぁ、少将。よく来てくださいました」よそよそしい態度を演技しているのはフェリーチェで、すでに卓上には提督のレポートとラップトップコンピュータ、メモ帳に録音用のボイスレコーダーなどが並べられている……
提督「ええ……」
フェリーチェ「ご苦労様でした、二等兵曹。下がってよろしい」
下士官「は、失礼します」
フェリーチェ「……さてと、それじゃあ貴女の女遊びについてじっくり問いただすとしましょうか♪」
提督「もう「情報部の聞き取り調査」だなんて言うから、てっきり無表情な士官が二、三人で絞り上げてくるのかとばかり思っていたわ♪」
フェリーチェ「そうしたいのは山々だったけれどね「私が一番うまく情報を引き出せますから」って上にかけ合ったのよ……たまたま任務の都合でイオニア海管区に来る用事もあったし……ね♪」
提督「嬉しいけれど、貴女が聞き出すのだから隠し事は出来そうにないわね……」
フェリーチェ「よく分かってるわね……録音するタイミングになったらそう言うから、とりあえずはクズネツォワ少将について知っていることと分かったことをあらいざらい話してもらうわよ」
提督「ええ……」
フェリーチェ「録音開始……聴取担当者、海軍情報部、ミカエラ・フェリーチェ大尉。対象者、フランチェスカ・カンピオーニ少将……」レコーダーに音声を吹き込むと、テーブルの中央に置いた……
フェリーチェ「では少将にお尋ねします。フィンランドにおける深海棲艦対策の会議において面識を持った、ロシア連邦海軍のユーリア・クズネツォワ少将についてですが、貴官は会議の場、またそれに関連する場所においてどのような会話をなさいましたか?」
提督「はい。基本はごくありふれた会話でしたが、北欧における深海棲艦対策に関してロシア海軍がどう行動するつもりか、出来る限り聞き出そうとしました」
フェリーチェ「なるほど……それで、クズネツォワ少将から何らかの回答を引き出せましたか?」
提督「いいえ。書面によりこちら側に明示された方針以上のものはなにも」
フェリーチェ「口は固かったということですか?」
提督「ええ、相当に」
フェリーチェ「なるほど……」そこでレコーダーのスイッチを「一時停止」にいれた……
フェリーチェ「……なら、ベッドの上では?」
提督「けほっ……!」
フェリーチェ「お願いよ、フランチェスカ。私が貴女にボンドガールの真似事みたいな事までさせて知りたかったことなのよ……あの無表情な「インペラトリーツァ(女帝)」のことならなんでもいいわ、身体に刺青や傷があるとか、えっちするときの好みのやり方とか……録音はしないし、貴女から仕入れた情報だって事も上には伝えない……ミカエラ・フェリーチェとして約束するわ」
900 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/11/30(木) 01:58:49.86 ID:tFe17jz30
提督「……誰にも口外しない?」
フェリーチェ「ええ、情報源は秘匿する」
提督「そう……ミカエラ、貴女の事を信じるわ」
フェリーチェ「ありがとう、フランチェスカ」
提督「いまさらお礼なんていらないわ……それで、どんなことを聞きたいの?」
フェリーチェ「とにかくクズネツォワについて気付いたこと、あるいは彼女が話したこと……些細な事でもちょっとした癖や習慣のことでも構わないわ」
提督「そうね、それじゃあ……クズネツォワ少将だけれど、とにかく煙草をよく吸うわ」
フェリーチェ「銘柄は?」
提督「そう言われても私は吸わないし、ましてやロシアの煙草だったから銘柄までは……でも確か、箱にソリの絵が描いてあったわ」
フェリーチェ「それなら『トロイカ』ね……」
提督「それから吸うときは左手の親指と人差し指でつまむように煙草を持っていたわ。なんでも「そう教え込まれた」みたいなことを自嘲するように言っていたけれど……」
フェリーチェ「なるほど、彼女ならそうでしょうね」
提督「それから、ライターにこだわりがあるようには見えなかったわ。ホテルのブックマッチを使っていたりもしたから」
フェリーチェ「ふっ……さすがの観察眼ね、フランチェスカ。身の回りのものにこだわりがないというのはこっちの調査でも推測されていたけれど、これで改めて裏付けが取れたわ」
提督「そう、良かったわ」
フェリーチェ「ええ。 ほかに特徴的な言動は?」
提督「えぇ…と、まずは一緒に夕食を食べて……」当日の経緯を順繰りに思い出していく提督……
フェリーチェ「お酒は?」
提督「ウォッカやシャンパンを飲んではいたわ。でも顔色は全然変わらないし、口調もまるでしらふのまま」
フェリーチェ「相当に強いみたいだから無理もないわ……続けて?」
提督「それから彼女の泊まっているホテルまで車に乗せてもらって……そうそう、副官のカサトノヴァ少佐はピストルを隠していたわ」
フェリーチェ「マカロフ?」
提督「たぶん……腰のバックサイド・ホルスターに入っているのがちらっと見えただけだから断言はできないけれど」
フェリーチェ「いいえ、十分な情報よ……それで?」
提督「えぇと、それから……」
………
…
提督「ん……///」
クズネツォワ「……どうだ?」
提督「あっ、あふ……っ///」
クズネツォワ「柔らかくて初々しい……まるでマツユキソウのようだな」
提督「あっ、ふ……あんっ……「森は生きている」ですか」
(※マツユキソウ…待雪草。英名スノードロップ。春を告げる白い可憐な花で、ロシア文学「森は生きている」で、わがままなお姫様が真冬にも関わらずマツユキソウを見たいと言ったことから、主人公の少女が意地悪な継母にマツユキソウを探してこいと真冬の森へと追いやられる)
クズネツォワ「マルシャークを読んだことがあるのか」
提督「ええ……」
…提督がまだ余韻に浸っているなか、クズネツォワはてきぱきと着替えていく……と、スラックスのベルトにホルスターを通し、無骨さと優雅さの同居したような「トカレフTT−33」ピストルを小机から出して突っ込んだ……
提督「ユーリア、そのピストルは……」
クズネツォワ「トカレフだが」
提督「いえ、トカレフなのは分かりますが……いつも手元に?」
クズネツォワ「ダー。祖母がくれたものなのだが、他のものはともかく、これだけは手放したことがない」
提督「……大事なものなのですね」
クズネツォワ「お守りの十字架や幸運の「うさぎの脚」よりは役に立つからな」そっけない言い方の中に、少しだけ冗談めかした声が混じった……
………
901 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/12/07(木) 02:15:02.29 ID:v0j/RYhV0
フェリーチェ「……お祖母さんの持っていたトカレフだなんて、ああ見えてセンチメンタルなところがあるのね」
提督「ええ。もちろん部品は取り替えたりしているとは言っていたけれど」
フェリーチェ「お飾りの銃を持っているようなタイプではないものね」
提督「そう思うわ。それと二人きりになると…たいていは皮肉なブラックユーモアだったけれど…意外と冗談も言うし、少なくとも無感情なロボットみたいではなかったわ」
フェリーチェ「なるほどね……続けて?」メモすら取らずに、手を組んで話を聞いている……
提督「それから……ねぇ、本当に言わないとダメなの?」
フェリーチェ「言える範囲でいいわよ……例えば傷だとか刺青はあった?」
提督「いいえ、少なくとも見た限りでは綺麗だったわ」
フェリーチェ「ふぅん?」
提督「ミカエラも気になった? 私も「ロシアの将校」っていうと刺青を入れているようなイメージがあったから聞いてみたの」
フェリーチェ「それで?」
提督「ええ、クズネツォワ少将が言うにはね……」
………
提督「……ユーリアの肌は綺麗ですね」
クズネツォワ「そうか?」
提督「ええ……きめ細やかで、透き通るように白くて……」
…互いに身体を重ね合ったあと、クズネツォワの裸身を優しく愛撫する提督……乳液や保湿クリームといった肌の手入れとはまるで縁がないようだが、鞭のようなしなやかな筋肉を包む肌はあくまで白く、提督と交わした愛の交歓のおかげでぽーっと赤みが差している…
クズネツォワ「ふむ、そうか……」
提督「はい。 それに、刺青は入れていないのですね」
クズネツォワ「刺青?」
提督「その……勝手なイメージですが、ロシアの将校というと腕やお腹にすごい刺青を彫っているものとばかり……」
クズネツォワ「映画などに出てくる兵隊崩れのマフィアが入れているような、おどろおどろしい髑髏だのコウモリが羽を広げているようなやつか?」
提督「えぇ、まぁ……お恥ずかしながら、その程度のイメージしかなくって///」
クズネツォワ「ふ……まあ分からんでもない、空挺の連中や何かはよくドッグタグ(認識票)代わりに刺青を入れたりするし、ロシアンマフィアはハッタリのためだったり、組の構成員であることの証明で刺青を入れていたりするからな」
提督「ええ、そういうイメージです……」
クズネツォワ「まあ知らん人間からしたらそうだろう……だがな」
提督「?」
クズネツォワ「スパイにしろなんにしろ「本物」はそんなもの入れないのだ……特徴的な刺青なんていうのは、それだけで身元を割られる元だからな」
提督「なるほど……」
クズネツォワ「ああ。期待を裏切って申し訳ないがな、西側の映画や何かでみる「刺青を入れたイワンのスパイ」なんていうのは絵空事だよ」
提督「そうなのですね……では、私がユーリアの真っ白なキャンバスに絵を描くことにします♪」そう言いながら鎖骨に吸い付くようなキスをした……
………
提督「……と、そんな風に言っていたわ」
フェリーチェ「やっぱりね……おかげでいい情報がとれたわ」
提督「約束は覚えているわよね?」
フェリーチェ「当然。貴女から聞いたなんておくびにも出さないわ……あとはもう一度レコーダーを回してありきたりな質問をするから、それなりに答えてくれればいいわ。お疲れさま」
提督「どういたしまして」
…再びICレコーダーを回していくつかの質問をぶつけると、事務的な口調で「以上で聴取を終わります」と締めくくった……それからポットのコーヒーを注ぐと、しばし軍で親しい間柄にある知り合いたちの近況を話題にして話の花を咲かせた…
フェリーチェ「いけない、もうこんな時間……悪いけど、ローマに戻って報告書を上げないといけないの。それじゃあ、良いクリスマスをね?」
提督「相変わらず忙しいのね。 ミカエラもいいクリスマスを♪」
フェリーチェ「ええ、ありがと……それじゃあね」そういって提督の唇に「ちゅっ♪」と音を立てて唇を重ねた……
提督「ええ♪」
902 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/12/14(木) 02:12:50.55 ID:MasWu44x0
…数日後…
提督「さてと、今日の書類はこれでおしまい……と♪」
ドリア「ずいぶんとご機嫌ですね?」
提督「ええ。みんなと過ごすのも楽しいけれど、やっぱりクリスマス休暇があと数日で始まると思うとね……ドリアはクリスマス休暇が嬉しくない?」
ドリア「いいえ、私のようなおばあちゃんでもクリスマス休暇は嬉しいですよ……ですが、休暇中はこうして提督と過ごすことができないと思うと、一抹の寂しさを覚えます」
提督「あら、そんな風に思っていてくれていたなんて光栄だわ///」満面の笑みを浮かべて「ちゅっ♪」と音高く頬にキスをした……
ドリア「まあ、提督ったら♪」
提督「ふふっ、遠慮せずにうんと甘えていいのよ……さ、いらっしゃい♪」両腕を広げて小首を傾げた……
ドリア「……それなら、少しだけ///」
提督「ええ♪」
…執務机の椅子で向かい合うようにして抱き合った提督とドリア……提督は胸元にドリアの顔を埋めさせ「地中海の黒い狼」などと言われたアンドレア・ドリアをほうふつとさせる艶やかな黒髪に顔を押しつけ、深く息を吸った……花の香りのシャンプーと少し残った重油と海の匂い、それにドリア本人の頭皮からかすかに立ちのぼる、ほのかに甘いような匂いが混じり合う……
ドリア「……提督は甘くていい匂いがしますね♪」
提督「お世辞を言っても休暇は増えないわよ?」
ドリア「お世辞ではないですよ……それと、こんなに暖かくて柔らかい♪」ふにっ♪
提督「くすくすっ……もう、ドリアったら意外とおてんばなのね♪」
…口ではそう言いながらも、提督は自分の太ももにまたがるようにして座っているドリアのスカートをずり上げた……黒いストッキングに包まれたむっちりした太ももがあらわになり、提督の太ももと触れあった…
ドリア「あん……っ♪」くちゅ……っ♪
提督「ふふ、ドリアったら積極的ね……そんなにしたかった?」
ドリア「……もう、そんなことを言うのは野暮というものですよ♪」ふんわりしたカシミアのセーターをたくし上げると、黒い花柄のブラに支えられたずっしりとした乳房へと提督の手をいざなった……
提督「なら、失言のお詫びをしないと……ね♪」提督も制服の上着を脱ぐと執務机の上に放りだし、ブラウスの胸元を大きく開いた……ドリアとさして遜色がないほどたわわな自身の胸へと彼女の手を誘導し、同時に片方の手を背中に回すとブラのホックを外そうとした……
提督「ん……くっ……」
ドリア「ふふふっ、それではまるでヨガの姿勢ですね……私が外してあげます♪」象牙色の地に、淡いパステルカラーの桃色や黄色の花々が咲いている提督のブラをパチリと外すと、丁寧に執務机の上に置いた……
提督「ドリア……触って♪」
ドリア「あら、提督は触られるだけで良いのですか?」ころころと笑いながら、わざといじわるな事を言うドリア……
提督「もう……どうすればいいか分かっているくせに///」
ドリア「うふふっ、そうですね……それでは♪」もにゅ…っ♪
提督「あっ、ん……♪」お返しとばかり、ドリアの豊満な胸に指を埋めてゆったりとこね回す……
ドリア「んふふっ、くすぐったいです……ところで、こちらが少し手持ち無沙汰ですね♪」
提督「そう、ね……あぁん……っ♪」椅子から転げ落ちそうになりながら互いのランジェリーをずり下ろし、暖かな下腹部を触れあわせた……
ドリア「まぁまぁ……提督ったらこんなに熱くして、おまけにすっかりとろとろです♪」ぐちゅっ、にちゅ…♪
提督「あら、それを言うならドリアだってこんな風にいやらしい音をさせているじゃない♪」じゅぷっ、くちゅ……っ♪
ドリア「では引き分けということで……ん、あっ♪」
提督「ええ……あっ、あふっ♪」
………
…
ドリア「……それにしても愛を交わしている最中に見つかってしまったときは気まずかったですね♪」
提督「よく言うわ、デルフィーノが入って来てからも平気で私のことをイかせ続けたくせに♪」
ドリア「まあ。それを言うなら提督だって、ちっとも嫌がらなかったではありませんか」
提督「だって……デルフィーノに見られながらドリアに中をかき回されるの、腰が抜けるほど気持ち良かったんだもの♪」
ドリア「それは私もです、おかげですっかり下着を濡らしてしまいました♪」
提督「それじゃあクリスマス休暇が終わったら、また……ね?」
ドリア「ふふ、約束ですよ?」
提督「ええ♪」
903 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/12/17(日) 01:36:15.14 ID:c8l2I2/00
…鎮守府・正門…
提督「それじゃあ気を付けて行ってらっしゃい……良いクリスマスを♪」
ウエビ・セベリ「では、行ってきマス」
ゴンダール「エリトリア土産に何か珍しいものでも買ってきますネ♪」
…クリスマス休暇の申請に許可が届き、トランクやスーツケースを手に次々と休暇に入る艦娘たち……提督自身の休暇もあと数日という中で、楽しみを待ちきれない様子の艦娘たちに手を振り、頬にキスをして見送っている……深海棲艦の蠢動(しゅんどう)具合や社会情勢のこともあって、なかなか許可の下りなかったキレナイカ(リビア)やAOI組はようやく降りた許可に安堵して、提督がタラントまでの便として管区司令部に手配してもらったミニバスに乗り込んでいく…
(※AOI…当時「イタリア領東アフリカ(Africa Orientale Italiana)」と呼ばれた地域。現在のエチオピアやエリトリア)
提督「そういえばペルラもきょう発つのね」
ペルラ「はい、私はマダガスカルのあたりまで行ってきます」
…淡い真珠色の涼やかな目元をした中型潜「ペルラ(真珠)」は、すっきりしたシルエットをしたパールホワイトのトレンチコートに、淡いフラミンゴのようなピンク色が控え目にフェミニンな雰囲気を主張しているひざ丈のフレアースカート、それに提督の母親であるクラウディアが送ってくれた衣類の山から選んだ象牙色のショートブーツと白ストッキング、首元には粒選りのピンクパールのネックレスをつけている…
提督「貴女はアトランティスを探しに行くのよね♪」
ペルラ「はい」
(※ペルラ…当時インド洋を中心にマダガスカル沖などで暴れ回っていたドイツの仮装巡洋艦「アトランティス」への補給と捕虜の受け取りのため会同したことがある)
下士官「さぁさぁお嬢さん方、そろそろバスを出しますよ! パスポートにヴィザ、手荷物にお財布はちゃんとお持ちですか!」ミニバスでの送迎を請け負ってくれたのはお堅い管区司令部には珍しい陽気な下士官で、観光ガイドの物真似をして艦娘たちを笑わせている……
アシアンギ「忘れ物はないデス」
提督「それじゃあ行ってらっしゃい♪ …では、うちの娘たちをよろしくお願いするわ、三等兵曹。あなたも良いクリスマスを」
下士官「はい、お任せください」
…数日後・朝…
提督「いよいよ私も今日から休暇ね……クリスマス中はよろしくお願いするわ」いよいよ休暇初日の朝を迎え、いそいそと支度を済ませる提督……
チェザーレ「うむ、留守中はこのチェザーレに任せておけ」
提督「ええ。艦隊総旗艦の役は名将チェザーレ、貴女にこそふさわしいわ」
ドリア「あら、実際に旗艦だった私ではなく?」
デュイリオ「そうですよ、わたくしだって艦隊総旗艦だったのですから……」
提督「貴女たちも、よ……良くチェザーレを支えてあげてね?」
カヴール「いささか髪にうるさい妹ではありますけれど……ね♪」
チェザーレ「むむ、髪のことは関係あるまい」
ライモン「……提督、くれぐれもお気をつけて」
提督「ありがとう……貴女もね、ライモン」
アッテンドーロ「姉さんには私がいるから平気よ。 提督こそ、美人だからって知らないお姉さんにノコノコついて行っちゃ駄目よ?」
提督「私だって子供じゃないんだから知らない美人について行くことなんてしないわ……ついて行くのは知り合ってからよ♪」提督の冗談に艦娘たちの笑いが起きる……
ドリア「皆さん楽しそうですが、くれぐれも気を付けて行ってらっしゃいね」
提督「ええ、ドリアたちもゆっくり骨休めをしてちょうだい」
ドリア「はい、留守はお任せを」
提督「任せたわ……それにしても本当にいいの?」
ドリア「ええ、構いませんよ。夏はうんと旅行をさせていただきましたし、クリスマスはここでのんびり過ごす方が気が楽です……リットリオたちが戻ってきたら、入れ替わりで小旅行にでも行ってくることにしますから♪」
提督「それじゃあクリスマスプレゼントでも送ってあげるわ、一番欲しいものをクリスマスカードに書いて送ってちょうだい?」
ドリア「ふふふ……一番欲しいものを書いて送ったら、提督はとんぼ返りすることになってしまいます♪」
提督「あら、嬉しいお言葉……それならいっそ絨毯にくるまれて来た方がいいかしら?」
ドリア「それならジュリオが喜ぶでしょうね」
(※絨毯にくるまれて……クレオパトラ7世の伝説。秘密裏にカエサルに会うべく、クレオパトラが贈り物の絨毯に隠れて来たという)
提督「リットリオ、貴女も気を付けるのよ? 特にこの時期のオートストラーダ(高速道路)は飛ばしている車も多いから……」
リットリオ「大丈夫ですよっ、私だってちゃんと運転はできますから♪」艶のある真っ赤な「フィアット500(二代)」に妹の「ヴィットリオ・ヴェネト」「ローマ」とぎゅう詰めになって乗り込む……手を振りながら正門を出て、ぎくしゃくとしたギアチェンジをしながら走って行った……
提督「やれやれね……♪」
904 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/12/24(日) 02:11:39.88 ID:aRz/cVAV0
提督「ディアナにも苦労をかけるわね」
ディアナ「いいえ、年が明けたら自動車旅行にでも行くつもりですので……それにせっかくのクリスマスですから、大いに腕を振るってご馳走を作ってあげませんと」
提督「むぅ……帰省は嬉しいけれど、ディアナのご馳走を食べ損ねるのは残念だわ」
ディアナ「まぁ、お上手でございますこと♪」
提督「本当のことよ」
ルチア「クゥ…ン」
提督「ルチア、貴女もね……戻ったらうんとお散歩に付き合ってあげるわ♪」
ルチア「ワンッ!」提督の言葉を聞いて、ぱたぱたと尻尾を振った……
ディアナ「では、行ってらっしゃいまし」
提督「ええ♪」
…艦娘たちが「家族水入らずのクリスマスを邪魔しないよう」にと提督に遠慮した面もあるかもしれないが、彼女たちもそれぞれ姉妹や仲良しの娘と一緒の旅行を計画していたり、はたまた鎮守府でのんびり過ごすつもりでいて、結果として提督は一人で気軽な帰省というかたちになっていた……ランチアに乗り込むと、冬の低い日差しで目がくらまないようサングラスをかけ、鎮守府の正門を出た…
提督「♪〜ふーん、ふーふーん……」艶のある深青色のランチアはきらりと日差しを反射して、右手に冬のイオニア海を見ながら海沿いの地方道路を走っていく……
………
…
提督「ふぅ……オートストラーダに入ったし、これで速度も出せるわね」
…眺望は素晴らしいがカーブが多く、片側一車線しかない地方道路から片側三車線の立派なオートストラーダ(高速道路)に入った提督……道路は大都市である北部のローマやトリノを離れ、バーリを始めとする暖かなアドリア海沿いにある南部の観光地でクリスマス休暇を過ごそうとする人たちで南へ向かう車線こそ混み合っていたが、ありがたいことに提督が向かう北部への道路はあまり混雑していなかった……それでも物流を支える大きなイヴェコの長距離トラックや、追い越し車線でいらだたしげなエンジン音を残して飛ばしていくフェラーリやメルセデスがいて、提督は気を付けて運転していた…
提督「……あらまぁ」
…この時期になると、ポルストラーダ(※ポリツィア・ストラダーレ…交通警察)も速度を出すことそのものにはある程度目をつぶってくれるが、無理な追い越しをかけたり傍若無人な運転をしている車がいると、途端にサイレンを鳴らして猛禽のように飛びかかっていく……提督が運転している前でも一台のメルセデス63AMGが白と青のランボルギーニ・ガヤルドのパトカーに誘導され、路肩で違反切符をきられていた…
提督「クリスマスだからって交通ルールが変わるわけじゃないし、私も気を付けないと……」
…しばらくして・休憩所…
提督「……もしもし、お母様?」
クラウディア「まぁ、可愛いフランカ……休暇は今日からだったわよね、いまどのあたり?」
提督「もう、子供じゃないんだから「可愛いフランカ」は止めてよ……いま14号線の休憩所で、もうそろそろ16号線に乗り換えるところ」
クラウディア「じゃああと四時間もしないくらいかしら?」
提督「そうね」
クラウディア「分かったわ、いっぱい美味しいものを用意しておくから楽しみにしていてね?」
提督「ありがとう……でも前にも言ったとおり、今回は夏の休暇と違って私一人だからほどほどにね」
クラウディア「ええ、残念だわ。夏の時はライモンドちゃんたちも喜んでくれたし、今回もうちに来る娘がいたらうんとご馳走を振る舞ってあげようと思っていたのに……そうそう、シルヴィアも会いたがっているわよ♪」
提督「私もよ、それでシルヴィアおばさまは?」
クラウディア「ジュリエッタの整備をしに町へ行っているわ……とにかく、気を付けて帰ってくるのよ?」
提督「ええ、そうするわ……それじゃあ、チャオ♪」携帯電話越しにキスの音を送ると休憩所の喫茶店で買い込んだコーヒーを飲み干し、肩を回して伸びをすると、あらためて車に戻った……
…オートストラーダの制限速度はいちおう130キロから150キロまでということになってはいるが、高速道路の常で真面目に守っているドライバーはほとんどいない……提督も「ランチア・フラミニア」の安定感に任せて140キロで路面を走らせているが、追い越し車線ではまるでジェット機のように飛ばしている車が次々と視界から遠ざかっていく…
………
…昼下がり…
提督「ふぅ、やっとここまできたわね」
提督「燃料もまだあるし、このまま行けば1500時には家に着きそうね……」
提督「……って、私ったら♪」つい「午後三時」のことを軍隊式に「1500時」と考えてしまい、一人で苦笑いをした……
提督「アンナじゃないけれど、このままじゃあ腕と膝を伸ばして行進しかねないわ……♪」
…小さいころからの幼馴染みで、提督の「許嫁」を自称しているアンナいわく「早く私と結婚して退役しなさい、そうじゃないとそのうちに腕と脚を伸ばして行進するようになりかねないわ」とのことで、それを思い出して思わず微笑んだ…
提督「まぁ、もしアンナも帰省しているようなら、クリスマスの間くらいはわがままに付き合ってあげても良いかもしれないわね……♪」そう独りごちた途端、腰に手を当て、提督に向かって身勝手かつわがままな……それでいて可愛らしい「お願い」をするアンナの姿が目に浮かんだ……
提督「……ふふっ♪」
………
…
905 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2023/12/29(金) 01:52:19.05 ID:hWfNLb6y0
…カンパーニア州・提督の地元…
提督「……やっぱり故郷はいいわね」
…街角のクリスマス装飾や家々に暖かな懐かしさを覚えながら左右に視線を向けつつ、故郷の狭い石畳の道路に合わせてゆっくりとランチアを走らせる……街の道路をのろのろと抜けると、海沿いのちょっとした丘の上に建つ提督の実家が見えてきた…
提督「ふぅ、やっと着いた……♪」
…家の門を開けるとランチアを庭の小道に進ませ、車庫に停める提督……車を降りてエンジンの冷めるチリチリいう音を聞きながら伸びをしていると、玄関を開けて母親のクラウディアが小走りでやって来た…
クラウディア「お帰りなさい、フランカ♪」そのまま提督に駆け寄ると左右の頬にキスをして、その上で暖かで柔らかい唇をたっぷりと重ねた……
提督「ぷは……ただいま、お母様♪」
クラウディア「ええ♪ さ、外は冷えるから中に入りましょう? 暖炉の火も燃えているし、暖かいコーヒーにパンドーロもあるわよ♪」
提督「ありがと、お母様」
クラウディア「いいのよ……あら、ちょうどシルヴィアも帰ってきたわ♪」
…提督の実家に向けて続くなだらかな上り坂を、艶やかな赤に塗られた「アルファロメオ・ジュリエッタ」スパイダーが走ってきた……オープンカーのジュリエッタ・スパイダーは冬なので屋根に幌を張っているが、その小粋な姿は変わらない……提督のフラミニアの隣にジュリエッタを入れると、軽やかな足取りでシルヴィアが降りてきた…
シルヴィア「ただいま……それとフランチェスカ、お帰り」
提督「ただいま、シルヴィアおばさま♪」シルヴィアに近寄ると左右の頬にキスをし、それからぎゅっと抱きしめる……
シルヴィア「ん……っと、フランカってばまた大きくなったみたいね」提督に抱き寄せられ、かるくたたらを踏んだシルヴィア……
提督「もう……高校生じゃないんだからいまさら背なんて伸びたりしないわ♪」
シルヴィア「どうかしらね……」
クラウディア「さぁさぁ、早く手を洗って……積もる話は部屋でお茶を飲みながらしましょう♪」
…居間…
提督「あぁ、やっぱりうちはいいわ♪」手洗いとうがい、それにメイク落としも済ませると、冬用のふんわりした部屋着とスリッパに着替えて居間の定位置に落ち着いた……
クラウディア「実家って言うのはそういうものなのよ……さ、クリスマスのお菓子を召し上がれ♪」
提督「ありがと、お母様♪」長らく愛用しているカップに注がれた甘いミルクコーヒーとクリスマスシーズンに食べる特別なお菓子である「パンドーロ」をつまみ、パチパチとはぜる暖炉を眺める提督……
シルヴィア「……今はこうして何でもないようなふりをしているけれどね、クラウディアと来たら一昨日くらいからフランカが帰ってくるのをずーっと待ちわびていて、今朝もフランカの部屋を掃除したり、ごちそうの支度をしたりでちっとも落ち着かなかったのよ」
クラウディア「もう、それは言わない約束でしょう///」
シルヴィア「言わなくたって分かることだもの……そうでしょ、フランカ?」
提督「ええ、でも嬉しいわ♪」
クラウディア「……もう、二人して私の事をからかって♪」
シルヴィア「からかってはいないわよ……」ちゅっ♪
クラウディア「ん、あっ……もう、フランカの前なのよ?」
提督「どうぞおかまいなく♪」
シルヴィア「理解力のある娘で良かったわ……ん、ちゅっ♪」
クラウディア「ん、あふっ……せっかく淹れたコーヒーが冷めちゃうわ」
シルヴィア「冷めたって良いわ……」
クラウディア「もう、そういうことをいうなら……ん、ちゅる……っ♪」
シルヴィア「ふふ、ようやくいつも通りのクラウディアになった……んっ、ちゅむ……んちゅ♪」
提督「私が言うのもどうかと思うけれど、お母様とおばさまは相変わらずね……倦怠期なんてあったのかしら?」
シルヴィア「無くはなかったわよ、程度が軽かっただけでね」
クラウディア「まぁ、シルヴィアってばそうやってごまかすんだから……私、あの時期はずいぶんこたえたのよ?」
シルヴィア「かもしれないわ、二日も口を利かなかったのは後にも先にもあの時くらいだったもの」
提督「……それだけ?」
クラウディア「もう「それだけ」ってことはないでしょう? 冷え込んだ関係の二人が一つ屋根の下で過ごす二日は長いものよ?」
提督「あー……まぁ、お母様たちの仲を考えるとそれだけでも記録破りだけれど……」
シルヴィア「まぁ、結局は仲直りできたんだから良しとしないと……ね」
クラウディア「ええ♪」
906 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/01/05(金) 02:01:34.49 ID:nyN/p2w50
提督「あんまり仲良くいちゃついていると他人は胸焼けするってよく分かったわ……私も気を付けないと」
クラウディア「ということはフランカも鎮守府でライモンちゃんたちとずいぶんいちゃいちゃしているってことね?」
提督「まぁ、ありていに言えばね」
シルヴィア「確かに気立てが良くて可愛い娘だったわね」
クラウディア「もう、シルヴィアってばすぐそうやって女の子に色目を使うんだから」
シルヴィア「別に色目は使ってないわ……それに、浮気で言えばクラウディアだって相当なものだったと思うけれどね」
クラウディア「むぅ……」
提督「お母様が浮気?」
シルヴィア「そう。もっとも、私は気にしなかったけれどね」
クラウディア「お互い、女の子と遊ぶ時はちゃんと相手にも「ただのお遊びで、本気じゃない関係でいいなら」って伝えることって決まりにしていたから、あんまりこじれたことはなかったわね」
提督「……私もそうしておくべきだったわ」
シルヴィア「ということは、フランカに熱を上げている女の子がいるわけね……となるとアンナかな?」
提督「ええ……物の道理が分からない子供の頃にした「約束」を持ち出して結婚しろ、って言われてもね……」
クラウディア「アンナちゃんは勝気だけれど良い子だもの、結婚すればいいじゃない♪」
シルヴィア「そうね。ちょっと短気な所はあるけれど決断力はあるし、若いのに国際弁護士だなんて大した娘だと思うわ」
提督「ちょっと、お母様とおばさままで……まさかアンナに丸め込まれたわけじゃないわよね?」
シルヴィア「人にどうこう言われて意見を変えるような親じゃないってことは、フランカが一番よく知っているはずよ」
提督「ええ、それはもう……でも、だとしたら余計に困るわ」
クラウディア「ふふふっ、フランカも色んな可愛い娘を連れてきたものね……もし目移りしちゃうようなら、一人くらい手伝ってあげるわ♪」
シルヴィア「一人で済むとは思えないわね」
提督「あぁ、もう……この話はおしまい。シルヴィアおばさま、あとで銃のメンテナンスを手伝って?」
シルヴィア「ええ」
提督「それから、おばさまがクリスマスのご馳走に食べられるよう鎮守府へ猟の獲物を送ってくれるって話をしたら、みんな喜んでいたわ」
シルヴィア「そう、良かった。何しろ今年は夏からずっとイノシシが多かったものだから、コムーネの駆除依頼も多くてね……私とクラウディアだけじゃとうてい食べきれないし、肉屋のアルベルトに売りにいっても良かったんだけど、それよりは鎮守府の娘たちに送ってあげた方が喜ばれるでしょうし」
提督「ええ、とっても……この秋はイノシシだけ?」
シルヴィア「でもないわ。野ガモもいくらか撃ったし、ウズラもいくらか……あと、農家のエミーリオに頼まれて、ウサギも何羽か」
クラウディア「……そういえば、あのフランスの女の子はウサギのパイ皮包みが好きだったわね」
提督「マリーのこと?」
クラウディア「ええ♪ あの娘ったら顔立ちが整っていて、いかにもフランス人らしいコケティッシュなファッションが似合っていたわよね♪ 黒のミニドレスとか、薄い藤色のプルオーヴァーなんてすごく素敵で……♪」
提督「確かに」
クラウディア「フランカもそう思うわよね。 それで、せっかくだからフェンディのミニドレスでもあげようと思ったのだけれど、あの子ったら「マダム、お気持ちは嬉しいのですけれど……わたくし、ファッションはフランスのものしか身に付けないつもりですの」って♪」
提督「あー……マリーならそういうことを言うわ」
クラウディア「そうなの、だから代わりにイヴ・サンローランのクリーム色をしたトレンチコートをあげたのだけれど……すらっとしていて良く似合っていたわ♪」
提督「でしょうね。マリーったらいっつも「体型を維持する」とかいって、ヨガだかピラティスだか……そんなようなことをしていたもの」
クラウディア「ヨガ、ね……最近ふとももやヒップが気になるし、私も始めてみようかしら?」
シルヴィア「その必要はないんじゃない」
クラウディア「あら、どうして?」
シルヴィア「第一に、そのくらいむっちりしている方が私の好みだから」
クラウディア「もう、シルヴィアったら……で、第二の理由は?」
シルヴィア「ベッドの上で一晩過ごせば、ヨガなんかよりもずっといい運動になるから……♪」そう言うと身体を抱き寄せ、甘噛みしつつ鎖骨にキスをした……
クラウディア「あんっ♪」
提督「……帰って来ない方が良かったかしら」
907 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/01/11(木) 01:10:01.78 ID:0BOJ4mtA0
…夜…
提督「あぁ、美味しかった……お母さまの手料理に勝るものはないわ♪」
クラウディア「ふふっ、鎮守府であれだけ美味しい料理を食べているフランカにそう言ってもらえると、私も作ったかいがあるわ♪」
シルヴィア「フランカの言うとおり、クラウディアの料理ほど美味しいものはないから仕方ないわ……基地祭でご馳走になったディアナの料理も見事なものだったけれど、やっぱり「家の味」が一番いいもの」
クラウディア「もう、二人してそんなに私の事をおだてて……パンドーロをもう一切れ切ってあげましょうか?」
シルヴィア「私はもう満腹……フランカは?」
提督「うーん、もう少し食べたい気分だけれど……太ももが気になるから明日にするわ」
クラウディア「そう? じゃあ器にはフタをしておくから、いつでも食べてね?」
提督「ありがと、お母さま……それじゃあお風呂に入ってくるわね♪」
…実家の懐かしい……しかし鎮守府の豪華な大浴場に比べるとあまりにもつつましやかな浴槽に身体を押し込むと、肌にたっぷりの湯気を吸い込ませようとするかのようにシャワーの栓をひねり、日頃「節水」の二文字に追い回されている海軍軍人にとっての罪深い楽しみである際限なしのシャワーに身体をあずけた…
提督「ふー……♪」ふかふかのバスローブと頭にタオルを巻いた格好で歯を磨き、それから洗面台で髪にドライヤーをあてる……
シルヴィア「さっぱりした?」
提督「ええ、とっても♪」
シルヴィア「それは良かったわ」少し古びてはいるが暖かそうな栗色のパジャマ姿で、ゆっくり本のページをめくっている……
クラウディア「お部屋の布団は冬物にしておいたから、暖かく眠れるわよ♪」クラウディアは身動きするたびにパールピンクとアイボリーに変化して見えるシルク生地のネグリジェ姿で、その上からライトグレイのガウンを羽織っている……
提督「それじゃあゆっくりベッドの中で寝転がることにするわ……お休みなさい♪」クラウディアとシルヴィア、双方の唇にお休みのキスをして、お返しに二人からも口づけをもらって自室へと入った……
提督「寝るのには少し早いし、読書でもするとしましょうか……」
…ベッド脇のスタンドを点けると本棚から文庫本を取り出してベッドにもぐり込み、ラジオ局の放送にチャンネルを合わせると、うるさくない程度に音をしぼった……
ラジオ「RAI(イタリア国営放送)ラジオが……時をお伝えします。続けて各地の天気ですが……」
提督「ふわぁ……」
…次第に暖まってくるふわふわの布団と、ほどよく薄暗くしてあるスタンドの明かり、それにラジオの音に混じって寝室に届く波の音……ベッドこそ少し小さいが、懐かしい居心地の良さがある自分の部屋でゆったりと本のページをめくっていると、次第にまぶたが下がってきた……提督は本にしおりを挟むと卓上に置き、スタンドの明かりを消すと、そのまま小さな寝息を立てはじめた…
………
…翌朝…
提督「うぅ……ん♪」時計を気にせずあれこれ考える必要もないままに、ベッドの中でもぞもぞと身体を動かしながら、裸身をくすぐる布団の感触を楽しんでいる……
シルヴィア「……フランカ、もう起きてる?」
提督「ええ、目は覚ましているわ……」
シルヴィア「ならいいわ。朝食が冷める前に来るようにね」
提督「はぁーい」眠気の混じったあくびとも返事ともつかないような声をあげると、名残惜しげにベッドを出て、すぐ足元に並んでいるスリッパに足を入れ、それから椅子の背に引っかけてあるガウンに袖を通した……
…しばらくして…
クラウディア「おはよう、フランカ♪」
提督「おはよう、お母さま♪」
…歯を磨いて冷たい水で顔を洗うと、すっかり眠気が覚めた提督……居間の暖炉は残っていた昨夜のおき火にシルヴィアが焚き付けを足してあり、火勢こそ強くはないが心地よく火が燃えている……テーブルにはまだ十分に温かいコーヒーのポットと温めたミルク、暖炉のそばで温めたおかげで外皮がパリパリとして、中心の白いふわふわした部分にバターが溶けて染みこんでいるパン、夏の間にクラウディアが作ったお手製のイチゴジャムと、さっぱりしたミルクのような口当たりのリコッタチーズ…
クラウディア「よく眠れたようね」
提督「ええ、一晩中ぐっすり……♪」
シルヴィア「新聞はここに置いておくから、読みたかったらどうぞ」
提督「……ありがとう、おばさま」長い脚を暖炉の心地よい熱で温めながら、目をつぶって苦くて甘いミルクコーヒーをゆっくり味わう……
シルヴィア「このジャム、甘さもちょうどいいわ」
クラウディア「そう、良かった。甘過ぎると貴女の好みじゃなくなるし、かといって砂糖が少なすぎるとカビが生えるから……フランカはどう?」
提督「そうね、私もちょうどいいと思うわ……おばさま、リコッタの鉢をこっちに回してくれる?」
シルヴィア「ええ」
クラウディア「ふふ、いいものね……家族そろって食卓を囲むのは♪」
………
…
908 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/01/14(日) 00:58:06.48 ID:atQrelcs0
…午前中…
クラウディア「そういえばフランカ、クリスマスカードは書いた?」
提督「ええ。海軍関係の知り合いにはタラントの管区司令部で軍事郵便にして投函してきたわ……軍事郵便だから相手の所属と名前さえ分かっていればどこにでも届くし、軍の知り合い以外に出す分もついでに書いて、タラント市内の郵便ポストに投函しておいたわ」
クラウディア「そう、なら大丈夫ね」
提督「ええ。お母さまは?」
クラウディア「私は親戚だとか、付き合いのあったデザイナーやモデルの知り合いくらいかしら」
提督「つまり例年通りたくさんっていうことね」
クラウディア「そうでもないわ。私は半ば引退しているようなものだから、最近はそれなりに親しい人としかクリスマスカードのやり取りはしないし……」
シルヴィア「よく言うわ……この間「書き終わったクリスマスカードを投函したい」って言うから郵便局まで車を出したけれど、たっぷり五十枚はあったでしょう」
クラウディア「そうは言うけれど、あれでも現役の頃よりは減っているのは貴女が一番よく知っているじゃない」
シルヴィア「まぁね」
クラウディア「でしょう? それからフランカのクリスマスプレゼントはそこにちゃーんと用意してあるから、当日は楽しみにしていてちょうだいね♪」
シルヴィア「私からも用意してあるからね」そういって軽く頭を動かしてみせた先、可愛らしいクリスマスツリーの下には確かに「フランカへ」とカードのついた包みが二つおいてある……
提督「いつもありがと。お母さま、おばさま」
クラウディア「どういたしまして……ところでフランカ、あなたは鎮守府の女の子たちにプレゼントを用意してあげたの?」
提督「ええ、もちろん。 おかげで冬の賞与があらかた吹き飛んだわ……」艦娘たちの喜ぶ表情を想像し、それから通帳から引き出した額のことを考えて、思わず苦笑いを浮かべる提督……
シルヴィア「フランカは良い子だね」
クラウディア「ええ、だって私たちの娘だもの♪」
提督「もう、やめてよ……///」
シルヴィア「それにしてもあれだけの娘たちにプレゼントを買ったのなら、相当な大荷物になったんじゃない?」
提督「ええ、まるで絵本の泥棒みたいに袋を担いで鎮守府へ運び込んだわ」
…さかのぼって…
提督「ただいまー……ふぅ、ふ……ぅ」
デルフィーノ「お帰りなさい、提督……って、その荷物は一体なんですか?」
提督「それもちろん、みんなへのクリスマスプレゼントよ……これでもまだ半分で、残りは車の中にあるの」
デルフィーノ「じゃあ私も手伝いますっ」
提督「いいのいいの……私がみんなに買ってきたプレゼントだもの、最後まで私が運ばないとね」
ルチア「ワンワンッ♪」帰ってきた提督を見て、じゃれつきたそうに尻尾を振って足元を駆け回っている……
提督「あぁ、ルチア。お散歩は後で連れて行ってあげるから、今は大人しくしていてちょうだいね……お座り」
ルチア「ワフッ…♪」きちんとお座りをして、床の大理石を尻尾でぱたぱたと掃いている……
…廊下…
提督「ふぅ……ひぃ……みんな、ちょっと道を空けて」
トリチェリ「すごい大荷物ですね」
エウジェニオ「まるで夜逃げでもするみたいじゃない?」
提督「言ってくれるわね……よいしょ」執務室の前にたどり着くと、大きな袋をそーっと下ろした……
エウジェニオ「……これからプレゼントにつけるカードを書くのね?」
提督「ご名答……エウジェニオ、貴女は?」
エウジェニオ「私はもう済ませちゃったわ……提督もそういう時は化粧品とか下着みたいに軽いものを選ぶほうが楽よ?」
提督「それは私も知っているけれど、みんなの好みを考えたらそうも言っていられなくて」
エウジェニオ「ふふ、一人ひとりに合わせて好きそうなものを選んでプレゼントするなんて提督らしいわね……大抵の鎮守府じゃあ出来合いになっているお菓子の詰め合わせが良いところだって聞くわよ?」
提督「そうできないのが私の指揮官としての悪いところよ……貴女たちが可愛いから、つい恋人同士みたいな気分になって甘やかしちゃう♪」
エウジェニオ「恋多き女性だものね?」
提督「それは貴女もでしょ、エウジェニオ♪」
909 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/01/19(金) 01:46:26.07 ID:/1S64vcq0
…しばらくして・食堂…
提督「よいしょ……うんしょ……」
エウジェニオ「ほら、提督が通るから道を空けなさい」
ニコ「ずいぶんな大荷物だねぇ」
トレント「て、手伝いましょうか?」
提督「いいのよ、もう降ろすから……ふぅ」
レモ「くすくすっ、提督ってばまるで泥棒さんみたーい♪ それで、何が入ってるのぉ?」
提督「それはもちろん……♪」
レモ「……もしかして、クリスマスプレゼントっ?」
提督「ご名答。くれぐれも当日までは開けないように♪」
…クリスマスツリーの根もとに次々とラッピングの施された箱や包みを並べ、積み上げていく提督……個々のプレゼントには表書きに艦娘それぞれの名前を書き込んだ提督からのクリスマスカードが貼りつけてあり、それらを並べている間にも噂を聞きつけ、艦娘たちが入れ替わり立ち替わりでのぞきにくる…
エリトレア「わぁ、すごいたくさんのプレゼントです」
フルット「普段からよい暮らしをさせてもらっておりますのに、さらに散財をしていただいて……感謝しております」
提督「いいのよ、お世話になっているのはむしろ私の方だもの……♪」
アブルッツィ「それにしてもまぁ大変な量ね……」
提督「まぁね……それとクリスマス休暇に入っちゃう娘には先に渡すから、当日になったら開けてちょうだいね♪ セベリ、貴女もそうだったわよね……少し気が早いけれど、はい」
ウエビ・セベリ「わ、嬉しイです」
提督「そう言ってくれると用意したかいがあるわ♪」そう言って、クリスマス休暇で鎮守府を離れる予定の艦娘たちにプレゼントを渡す……
………
…
シルヴィア「いいことをしたわね。彼女たちだって欲しいものが色々あるでしょうし」
提督「ええ、そう思ってさりげなく聞き出したり、遠回しに尋ねてみたり……大変だったわ」
クラウディア「そうね……ところでフランカ、あの超ミニスカートのサンタ服は着たの? けっこう可愛かったけれど」
提督「けほっ! もうお母さまったら、何を言い出すかと思ったら……そもそもどうしてあの格好の事を知っているの?」
クラウディア「だって、前にうちに泊まりに来たお友達の方が教えてくれたもの」
提督「もう、いったい誰よ……そういう余計な事を吹き込んで……///」
…転属や航海の都合で「根無し草」的な暮らしになる事の多い海軍士官の常で、温かい家庭的な雰囲気というものに憧れがある……そのせいか、お互いに機会があれば家に泊めてあげたり、食事を振る舞ってあげることも少なくない……提督の実家はガエタの近郊とは言うものの田舎にあって交通の便もひどく悪いが、それでも仲良しになった何人かは週末や短い休暇を使って泊まりに来たことがある…
クラウディア「さぁ、誰かしら♪」
提督「もう……」
シルヴィア「ふふ……そういえばフランカ、クリスマス休暇はいつまで?」
提督「えーと、クリスマスを挟んでの二週間と年始からの三日間ね……どうして?」
シルヴィア「いえ、せっかくの機会だからどこかスキーにでも行こうかと思って……モンテ・チェルヴィーノ(マッターホルン)のふもと辺りなんてどうかしら」
提督「チェルヴィニアとか?」
(※モンテ・チェルヴィーノ…マッターホルンのイタリア名で「鹿の角」の意。第二次大戦時に「白い悪魔」とも称されたイタリア山岳部隊「モンテ・チェルヴィーノ」大隊の名前の由来でもある。チェルヴィニアはそのふもとにある村で有名なリゾート地)
シルヴィア「ええ。もっともああいう有名どころは外して、もっと小さなコムーネにある静かなホテルにでも泊まって過ごすの」
提督「うーん、アイデアは素敵だけれど休暇の日数を考えると……ね」
シルヴィア「ちょっとせわしないわよね、フランカが子供の頃はあちこちよく行ったものだけれど」
提督「でも嬉しいわ、おばさまが誘ってくれて……♪」
シルヴィア「当然でしょう? 貴女は私にとって最愛の女性の娘であり、可愛い宝物だもの」ふっと口元に小さな微笑を浮かべ、さらりと言った……
提督「……おばさまにそういう風に言われるとすごくドキドキするわ///」
クラウディア「そうよね、私まで胸がときめいたわ♪」
シルヴィア「さすがに二人同時に相手をするのは勘弁して欲しいわ……どっちも可愛いけれどね」
クラウディア「ふふ、それじゃあ今夜は私♪」
910 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/01/22(月) 01:38:57.03 ID:ING35Mc+0
…翌日…
シルヴィア「おはよう、フランカ……少しいいかしら」
提督「なぁに、おばさま?」
…鎮守府では朝から新聞やニュース、気象通報に目を通し耳を傾けていたが、休暇に入ってからはテレビやラジオのニュースも最低限で済ませ、一日中ふにゃふにゃのセーターやナイトガウン姿で庭いじりをしてみたり、文庫本をめくっていた提督……士官学校で身体にしみついた習慣が抜けないもので寝具だけはきちんと畳んでおいたが、この日ものんびり温かいカフェラテをすすり、ほかほかしたパンを口に運んでいた……と、シルヴィアが声をかけてきた…
シルヴィア「いえ、せっかくの機会だから射撃にでも行こうかと思って……行く?」
提督「ええ、久しぶりだし……ちょっと待ってて、すぐ食べ終わるわ」残ったパンを口に放り込むとカフェラテで流し込み、食器を洗いにせかせかと台所へ歩いて行く……
シルヴィア「ゆっくりでいいわよ、私だって支度はまだなんだから」
提督「だって、せっかくの機会だもの……できるだけ長く一緒にいたいわ」
クラウディア「そうね、昨晩は私が独り占めしちゃったから……今日はフランカの番♪ お弁当、いま用意してあげるわね」
提督「グラツィエ、クラウディアお母さま……大好きよ♪」
クラウディア「はいはい♪」
…しばらくして…
提督「用意できたわ、おばさま」
シルヴィア「私もよ……ところでフランチェスカ、鎮守府ではずいぶん美味しいものを食べているみたいね」
提督「むぅぅ……これでも腹筋や腕立て伏せをしてみたり、チェザーレやバンデ・ネーレに剣術の稽古を付けてもらったりして気を付けてはいたのよ?」
…提督はクリーム色のセーターに茶色のラム革ベストと黒い牛革の手袋、鎮守府ではほとんど出番のない軍用の迷彩ズボンを着て、背中にはクラウディアの用意してくれた弁当や水筒の入っている小ぶりなリュックサックを背負っている……腰のベルトには散弾銃の弾薬ケースやこまごましたものの入った小ぶりなポーチを通し、ズボンの裾を黒革のひざ丈ブーツに突っ込んであるが、鎮守府での食生活がたたってかズボンのヒップからふとももは少しきゅうくつで、ベストの胸回りも少しきつい…
シルヴィア「ま、デスクワークが多いでしょうし仕方ないわね」
…そう言って肩をすくめたシルヴィアは着古した白いプルオーヴァーと、自分で射止めてなめした鹿革をクラウディアに縫製してもらった愛用の茶色いベスト、黒い乗馬ズボンとふくらはぎ丈の黒革ブーツ姿で、肩からは昔の山賊のように弾薬ベルトをかけ、獲物をさばくためのがっしりした「フォックスナイヴス」のナイフをブーツに突っ込んである…
提督「ええ、書類の海で泳げそうなほどよ」
シルヴィア「それじゃあせいぜい野山を歩き回って新鮮な空気を味わうとしましょう……お昼になったらクラウディアのお弁当を食べて、夕方になったら戻る」
提督「とっても健康的ね」久々に持つベネリの散弾銃を手に持ち、重さを確かめるようにして握り直す……
シルヴィア「そういうこと」フランキの散弾銃を肩にかけ、裏庭の門を開けると雑木林の間に入っていった……
…二時間後…
提督「ふぅ……」
シルヴィア「だいぶくたびれたみたいね……少し休憩にする?」
提督「そうする……まったく、身体がなまっているって実感したわ……」手頃な倒木に腰を下ろすと暴発させないよう散弾銃を置いて、肩を回し、脚を伸ばした……
シルヴィア「そうみたいね」午前中だけで茂みから飛び出してきたつがいのキジに、素早い野ウサギを一羽、それに四羽ほどの野鴨を仕留めて腰にぶら下げている……
提督「ええ……そんなに歩いたわけでもないのに、こんなに息切れするなんてね……」射撃の腕自体は衰えていないはずだったが肩で息をしていたせいか、それまでなら難なく撃ち落としていたはずの野鴨の群れに逃げられ、二羽ばかりが残念そうにぶら下がっている……
シルヴィア「まあ、こっちにいる間だけでも身体がなまらない程度に運動すればいいわ……ちょっと早いけどお昼にして、それからもう少し歩いて帰りましょう」
提督「そうね……」
…暖かな日差しを受けた森の空き地でお弁当の包みを開く提督とシルヴィア……中身はもちもちしたフォカッチャに乾燥トマトや黒オリーヴ、少し塩っぱいハムなどを挟んだサンドウィッチと、アーモンドと干しぶどうを練り込んだ味の濃いチーズ、小瓶に入ったアーティーチョークのピクルス……冬枯れた広葉樹の枝やいつでも青々としたカサマツの間を風がさわさわと吹き抜けて、硝煙と汗にまみれた肌を冷やしていく…
シルヴィア「……いい風」
提督「ええ」
シルヴィア「ねえ、フランチェスカ……」散弾銃を置くと提督の隣に座り直した……
提督「なぁに、おばさま?」
シルヴィア「……久しぶりに……する?」じっと見つめてくる瞳に、汗と硝煙と皮革の野性的な匂い、そこに爽やかな松葉の混じった香ばしいような香り……
提督「ええ……///」
シルヴィア「ん……♪」
提督「あ、んぅ……あふっ///」
シルヴィア「フランカとこうするのも久しぶりね……んむ、ちゅ……っ」
提督「ええ、だってシルヴィアおばさまは私が初めて好きになって、初めて愛することを教えてくれた女性(ひと)だもの……」
シルヴィア「……あの時は私もずいぶん悩んでからクラウディアに相談したものだけれど、まさかあんなにあっさり許すとは思わなかったわ」
提督「そうね、お母さまが心の広い人で良かったと思うわ……ん、ちゅ♪」
911 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/01/29(月) 02:28:02.91 ID:qw/aShxX0
シルヴィア「ふふ……私もクラウディアのそういう所が好きで結婚したのよ」
提督「おばさまの気持ち、分かるわ……んんっ、あぅ……ふあぁ……っ///」
…日差しの差し込む小さな森の空き地で生えている木に背中を預け、脚の間に割って入るシルヴィアの膝や、ぐっと迫ってくる顔と吐息を感じている……きゅっと引き締まった乳房がセーター越しに触れ、ベルトを緩めてズボンの中に入ってきたシルヴィアのひんやりした指が熱を帯びた提督の秘部に触れる…
提督「ん、あっ……あぁ……ん///」
シルヴィア「フランカ……愛おしい私の娘♪」
提督「シルヴィアおばさま……ぁ///」
シルヴィア「……ここ、好きだったわね」ちゅく……っ♪
提督「ええ、そう……ふぁぁ……っ♪」
…木立の間に響く野鳥の鳴き声や、地面から立ちのぼってくる枯葉と土の乾いた匂いを感じながら、下腹部のじんわりととろけるような感覚に甘い声を漏らす…
シルヴィア「良かった。忘れていないものね……」ごつごつした樹皮に提督を押しつけるようにしながら身体をくっつけるとズボンのベルトを緩め、ウエストのすき間から提督の手をいざなって自分の花芯へと導いた……
提督「シルヴィアおばさまのここ……濡れていて……温かい……♪」
シルヴィア「フランカのキスが上手だからよ」
提督「嬉しい……ん、ちゅぅ……ちゅる……っ///」
シルヴィア「フランカ……♪」
提督「あ、あっ……シルヴィアおばさま……ぁ///」とろ……っ♪
シルヴィア「ん……♪」最後に愛のこもった優しいキスを唇にすると、濡れていない方の手で短めにしている髪を軽くかき上げた……
提督「はぁ、はぁ、はぁ……ぁ///」
…木の幹に背中をあずけたまま、ずるずるとくずれ落ちそうになる提督……気だるげな心地よさと、もっとシルヴィアと愛し合いたいという甘ったるい欲望で目がかすみ、敏感になった乳房の先端やとろりと濡れた花芯に下着の布地が触れるたびに静電気のようなピリッとした刺激が伝わってくる…
シルヴィア「そろそろ日が傾いてくるし、戻りましょう」
提督「ええ、シルヴィアおばさま……///」服の乱れを直して立ち上がったが、じんわりと濡れて冷たくなり始めた下着がはり付いてくる気色の悪い肌心地と、下腹部からの甘い余韻が合わさって微妙な内股になっている……
シルヴィア「ふふ……その調子じゃあ日暮れまでにうちに戻れるかどうか分からないわね」
提督「も、もう……おばさまったら笑わないで///」
シルヴィア「悪かったわ……足元のおぼつかないフランカも可愛いわよ♪」どちらかと言えばクールなシルヴィアにしては珍しく、どこか色っぽい笑みを浮かべながら見せつけるようにして右手を開き、中指と薬指の間に引いた粘っこい糸を舐めあげた……
提督「……っ///」
………
…夕方…
提督「お母さま、いま戻ったわ」
シルヴィア「ただいま、クラウディア」
クラウディア「あら、お帰りなさい♪ 獲物はあった?」
シルヴィア「悪くはなかったわ。血抜きは済ませてあるから、羽根をむしったり皮を剥くのは後でするとしましょう」
クラウディア「ええ、お願いね……あら」シルヴィアとキスをすると、少し問いかけるような表情を浮かべた……
シルヴィア「どうかした?」
クラウディア「……フランカの味がするわ」
提督「……っ!」
シルヴィア「さすが、鋭いわね」
クラウディア「自分の結婚相手と娘の味くらい分かるわ……それで、どうだった?」笑みを浮かべ、上目遣い気味にしながらいたずらっぽく問いかけた……
シルヴィア「とっても可愛かったわ、貴女の娘だけあって……ね♪」
クラウディア「まぁ、ふふっ……♪」
提督「///」
クラウディア「あらあら、フランカったら恥ずかしがっちゃって……シルヴィアは素敵だもの、我慢なんてできないわよね?」
シルヴィア「まったく、自分の娘に惚気てどうするの」
クラウディア「いいじゃない、貴女は私の自慢の女性(ひと)だもの……さ、夕食の前にほこりを洗い流していらっしゃいね♪」
912 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/02/03(土) 02:28:47.52 ID:YuI7hGX20
…クリスマス数日前…
提督「お母さまたちとクリスマスを過ごすのも久しぶりね」
クラウディア「そうねぇ……フランカが海軍に入ってからはなかなか会う機会もなかったものね」
提督「これでもクリスマスに休暇が取れるよう毎年頑張ってはいたのだけれど……なかなかそうも言っていられなくて」
シルヴィア「でもフランカは毎年クリスマスカードを書いてくれていたから、クリスマス・イヴになるといつも二人で読んだものよ」
提督「私もお母さまとおばさまのカード、欠かさず読んでいたわ……それにお菓子やプレゼントも贈ってくれたわよね」
クラウディア「ええ、一緒にいられないぶん贈り物くらいはしないと♪」
提督「お母さまたちの気持ちが伝わってくるようで嬉しかったわ。お菓子なんかは士官宿舎で集まって持ち寄りのクリスマスパーティなんかしたときに、ずいぶん好評だったし」
クラウディア「そう言ってもらえると作ったかいがあるわ」
提督「何しろみんな甘いものが好きだから……」と、提督の携帯電話がぶるぶると震えだした……
シルヴィア「電話みたいね」
提督「ええ。緊急呼び出しの番号なら着信音も鳴るようにしてあるから、たぶんそこまでの用事じゃないはずだけれど……あ」
クラウディア「知り合いの女の子?」
提督「ええ、ジュリアだわ。P−3C哨戒機の飛行隊長をしている……もしもし?」
…シチリア島・カターニア…
アントネッリ中佐「やぁフランチェスカ、ご機嫌にしているかな?」
…イタリア海軍航空隊・カターニア航空基地の外、モトグッツィの大型バイクのかたわらで電話越しに提督の柔らかな声に耳を傾けているアントネッリ……黒革のライダースジャケットに筋肉質な脚線美を余すところなく引き出しているぴっちりしたレザージーンズ、オートバイ用のがっちりしたブーツで、黒に近いボルドー色のルージュを引き、冬の低い日差しで目がくらまないように濃いサングラスをかけている…
提督「ええ、おかげさまで……ジュリア、貴女は?」
アントネッリ「ご機嫌さ、ありがとう」
提督「クリスマス休暇は取れた?」
アントネッリ「ああ、今日からね……正確に言えば今からかな。今日の明け方から太陽と一緒に哨戒飛行を済ませてきたところさ。他の連中はフライトスーツを脱ぐなり街に飛び出していったよ……酒を飲んでしまえば緊急呼集がかかっても飛ばなくて済むからね」
提督「なるほどね♪ それで、何事もなかった?」
アントネッリ「ああ、深海のお化けたちもクリスマスはお休みらしい」
提督「それは良かったわ」
アントネッリ「まぁね……私の方は機付整備員たちをねぎらって、それからさっきまで基地司令がよこすしょうもない書類にサインをしていたんだが……今は晴れて自由の身さ。年内は実家かい?」
提督「ええ、その予定よ……もし良かったら泊まりに来る?」
アントネッリ「いいや、せっかくの家族水入らずの時間に割って入るほど無粋じゃないつもりだよ……年が明けたら鎮守府の方にお邪魔するさ」
提督「あら、そう? ジュリアが来てくれたらお母さまもおばさまも喜んでくれると思うけれど……」
アントネッリ「なに、その気持ちだけで嬉しいよ……可愛いフランチェスカ♪」
提督「もう、相変わらず上手なんだから♪」
アントネッリ「事実なんだから仕方ないさ」
提督「今までどれだけの相手にそう言ってきたの?」
アントネッリ「君ほどの美人には一度も」
提督「ジュリアってば……口説いた相手全員にそう言っているんでしょう?」
アントネッリ「いいや? 私が本気で口説くのはフランチェスカ、君と……それからあの青い空だけさ」
提督「まぁ、今どきメロドラマでもそんな台詞は言わないわよ?」そう言いつつも、携帯電話の耳元へささやくように話しかけるアントネッリの声に、思わずどきっとする提督……
アントネッリ「そうかもしれないね……ふふ、とにかくよいクリスマスを」
提督「ええ……ジュリア、貴女もね」
アントネッリ「ああ、ありがとう……チャオ♪」電話越しに投げキッスの音を送ると、通話を終えた……
提督「もう、ジュリアってば……ただ「良いクリスマスを」って言えばいいだけなのに///」
シルヴィア「……この調子だとこれから数日はフランカの携帯電話が鳴りっぱなしね」
提督「それだけは勘弁してほしいわ」想像して思わず苦笑いを浮かべた……
913 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/02/07(水) 01:39:13.15 ID:aQ++Hmij0
…12月23日…
提督「いよいよ明日からクリスマスね」
(※カトリックの国は教会暦で24日の晩からがクリスマス。クリスマス・イヴは「クリスマスの晩」であって「前夜」ということではない)
クラウディア「そうね……さぁ二人とも、一緒にツリーの飾り付けをしましょう?」
提督「はーい」
シルヴィア「ええ、いま行くわ」
…ここ何年か提督抜きの二人きりでクリスマスを過ごしてきたクラウディアとシルヴィアだったが、今年はひさびさに家族揃ってのクリスマスということで、居間のツリーはしきたりにのっとり、今日まで飾り付けを仕上げないまま立ててあった……暖炉のなごやかな火を見ながら穏やかに、しかし和気あいあいと母娘で飾りつけに興じる提督たち…
提督「……やっぱりうちで過ごすクリスマスっていいものね♪」
クラウディア「そうでしょう。それから明日はちゃんとお魚料理、明後日はアヒルや鴨のごちそうが控えているから期待していてね♪」
シルヴィア「しかもクラウディアが料理するんだもの……考えただけで涎が出るわね、フランカ?」
提督「ええ♪ あ、その飾りはこっちにちょうだい?」
…クラウディアとシルヴィアが年ごとに、また色々な記念に少しずつ買い足していった思い入れのあるオーナメントや飾り物でにぎにぎしく装飾されていくクリスマスツリー……木の葉が揺れ動くたびに青々とした針葉樹の香りがふっと鼻腔をくすぐり、金銀の玉飾りやリンゴを模した木の飾り物、雪の結晶や小さな銀の星が取り付けられてゆくうちに、ツリーが華やかさを増していく…
クラウディア「どう? お星様は傾いてない?」つま先立ちをして人の背よりも高いツリーのてっぺんに銀の星の飾りを載せると、少し下がってシルヴィアに尋ねた……
シルヴィア「大丈夫、真っ直ぐよ」
クラウディア「そう、それじゃあ完成♪」
提督「……本当に、いつ見ても綺麗ね」
クラウディア「ええ、シルヴィアほどじゃないけれど♪ ……それに、こうして祝えるのがなによりね」
提督「そうね」
シルヴィア「それじゃあ賛美歌のレコードでもかけて……二人とも、ヴィン・ブリュレーでも飲む?」
(※ヴィン・ブリュレー…温めた赤ワインに香辛料や柑橘の風味を利かせたもの。グリューワイン)
クラウディア「ええ、いただくわ♪」
提督「私も」
シルヴィア「分かった」
…暖炉の片隅に鍋を置くと赤ワインを注ぎ、砂糖の代わりに地元の農家から分けてもらった蜂蜜を垂らし、ショウガやシナモン、それにオレンジとレモンのピール(皮)を加えて軽く温める……鍋でワインがふつふつと言い始めたところで鍋を火から遠ざけると、めいめいのカップにワインを注いだ…
クラウディア「ん……美味しい♪」
シルヴィア「クラウディアは甘めが好きだから、蜂蜜を多めにしたの……フランカはどう?」
提督「ええ、ちょうどいいわ」
シルヴィア「それなら良かった……ん///」
クラウディア「ちゅっ……どう、美味しい?」
シルヴィア「ええ、とっても甘かったわ」
提督「そうね……お母さまたちがいちゃつく分、蜂蜜はもっと少なくて良かったわ」
クラウディア「もう、フランカってば自分の母親に嫉妬しちゃって……んーっ♪」
提督「ん、んぅ……っ///」
クラウディア「これで機嫌を直してくれる?」
提督「機嫌を直すもなにも……実の母親にキスされたからってどうこうしないわよ///」
クラウディア「あら、残念♪」
シルヴィア「……クラウディア」
クラウディア「なぁに?」
シルヴィア「ん……んちゅっ、ちゅぅ……ちゅる……っ、ちゅ……っ♪」
クラウディア「あっ……ふ……んぅ♪」
シルヴィア「ぷは……フランカは可愛いけれど、せっかくのキスを上書きされたくはなかったから」
クラウディア「……まぁ///」
提督「……やっぱり蜂蜜はいらなかったわ」
914 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/02/13(火) 01:56:19.59 ID:q0m2a0XY0
…12月24日・午前…
提督「おはよう、お母さま、おばさま……いよいよクリスマスね」
クラウディア「ええ、今夜は一緒に教会へ行きましょうね♪」
提督「こっちでクリスマスミサに参加するのも久しぶりね……」
…そう言って提督がのんきにコーヒーをすすっていると、庭の門に付いている呼び鈴が鳴っている音が聞こえてきた…
クラウディア「……きっと郵便局のペリーニさんね」
シルヴィア「さすがね……貴女の言うとおり、郵便配達のペリーニだったわ。それを取って頂戴?」椅子から立ち上がり居間の窓から庭先の門を眺めて言った……
クラウディア「ええ♪」この町の郵便配達やパトロールの巡査、消防署員といった人たちに挨拶として渡すため、クラウディアが毎年のように作っているクリスマスカード付きの菓子の小袋を一つ手渡した……
提督「ペリーニさん、まだ配達をしているのね」
クラウディア「ええ。本当ならくせっ毛のアルベルトが継ぐはずだったのだけれど、田舎は嫌だってナポリに出て行っちゃったものだから」
提督「ナポリねぇ……食べ物は美味しいけれど、地区によってはずいぶん柄の悪い人間もいる街よ?」
クラウディア「そうは言っても、都会にあこがれるものなのよ」
提督「かもね」そう言って肩をすくめた提督……と、シルヴィアが戻ってきて束ねた郵便物と小包の山を机に置いた……
シルヴィア「郵便配達の人がクリスマスカードを届けてくれたわよ……フランチェスカ、貴女宛のもずいぶんあるわ」
提督「あら、本当?」
クラウディア「せっかくだし誰から来たのか読んでみたら?」
提督「そうね、他にやることがあるわけじゃないし……えぇーと」
…士官学校で知り合い、いまではそれぞれの任地に散らばっている仲の良い同期を始め、提督と「親しい」間柄にあった女友達やまだ文通の続いている「お姉様」たち、それにフランスのトゥーロンからカードを送ってきたエクレール提督を始め、各国海軍にいる提督の知り合いや友人たち…
提督「さてと、一体誰から来ているかしら……まずはトゥーロンのマリーに、イギリスからはメアリ、アメリカからはノーフォークのジェーン……あ、姫もわざわざ横須賀からカードを送ってきてくれたのね」
クラウディア「ジェーンって言うのは、写真で見せてくれた褐色のグラマーさん?」
提督「ええ、口は悪いけれど米大西洋艦隊ではピカイチの提督ね」
シルヴィア「姫っていうのは、夏期休暇の時の日本酒をプレゼントしてくれた日本の提督さんでしょう?」
提督「ええ。横須賀の百合野准将……長い黒髪がきれいな奥ゆかしい女性よ。提督としても艦隊運用が上手だし、ぜひまた会いたいわ」
クラウディア「他にもあちこちからたくさん届いているわね……フランカは可愛いから♪」
提督「もう、照れるからよして……たいていはもう送ってあると思うけれど、カードを出していない人がいたら書いてあげないと」
シルヴィア「良かったわね、読む楽しみが出来て……それとクラウディア、フランカだけじゃなくて貴女にもずいぶん来ているのよ?」
クラウディア「あら、本当に……お義理のカードはもうお断りしているのだけれど、それでもずいぶんあるものね」
シルヴィア「デザイナーをしていたときの貴女は顔が広かったものね」
クラウディア「そうは言ってもファッション業界なんて次々と新顔が出てくるし、私みたいに引退してのんびりしている人間なんてすぐ忘れられちゃうわ」
シルヴィア「この量を見る限り、そうでもないみたいだけれどね」
クラウディア「んー……まぁ、まだ時々は私にデザインを見て欲しがる人なんかもいるし、多少はね?」
提督「お母さまってば、せっかくお呼びがかかるんだもの……もう一度デザイナーとして復帰すればいいのに」
クラウディア「いいの。こういうのは形だけ言っておくお世辞みたいなものなんだから、本気にしたらバカにされちゃうわ……それにここでシルヴィアと愛し合っている方が性に合っているもの♪」
シルヴィア「ミラノのファッションにとっては大きな損失ね」
クラウディア「貴女がいないミラノよりは、貴女のいるここがいいわ♪」
シルヴィア「嬉しいことを言ってくれるわね……でも、このまえ身に付けていたミラノの素敵なランジェリーは捨てがたいわ」
クラウディア「もう……♪」
提督「あー……私はお母さまたちのお邪魔をしないよう、部屋でクリスマスカードを読んでいることにするわ」
クラウディア「ふふ……ありがと、フランカ♪」提督が二階へと上がって行くなり、シルヴィアに抱きついた……
シルヴィア「ちょっと、クラウディアってば……ミサの時間まで半日はたっぷりあるんだから、そう焦らなくたっていいでしょうに」
クラウディア「むしろ、たった半日しかないのよ? お夕飯の支度もしないといけないし……」
シルヴィア「それじゃあ夕飯の支度をしながらすればいいわ……こんな風に♪」よく台所でするように、後ろからぎゅっと抱きしめた……
クラウディア「あんっ♪」
915 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/02/19(月) 02:15:52.33 ID:ExjpwAj80
…しばらくして…
クラウディア「それじゃあ晩のミサの前に食事にしましょう……さ、二人ともかけて?」
提督「ええ」
シルヴィア「座ったわよ」
クラウディア「よろしい、それじゃあ食前のお祈りを……」
…シルヴィアもクラウディアも形ばかりのカトリックであまりやかましいことは言わないが、食べ物への感謝をこめて食前の祈りをささげ、提督も二人に合わせて祈りの言葉を唱え、十字を切った…
シルヴィア「……そして素晴らしい食事を作るクラウディアにも」祈りのおまけにそう付け加えたシルヴィア
クラウディア「もう、シルヴィアったら……それじゃあ召し上がれ♪」
…イタリアではクリスマスの晩は肉食を断って魚料理を主菜におくことから、食卓には魚料理が並んでいる……前菜のマリネに続いて、クラウディアがアサリのうまみが沁みだした「スパゲッティ・アッレ・ヴォンゴレ」(ボンゴレ・ビアンコ)を取り分ける…
クラウディア「どう、フランカ?」
提督「ん……美味しいわ♪」
…どんな魔法を使っているのか、シンプルなヴォンゴレのパスタにもかかわらず、提督が作るものよりも美味しい……アサリから出た旨味のある塩気と、白ワインからくるごくかすかな爽やかな酸味……それにあとを引くニンニクの風味…
クラウディア「そう、良かったわ♪」
シルヴィア「本当に美味しいわよ……ワインも進むわ♪」
クラウディア「ミサに行くのだからあんまり飲み過ぎないのよ?」
シルヴィア「ええ、そうするわ」
クラウディア「ふふっ……それじゃあ次のお料理を取ってくるわ♪」
…軽やかな足取りで戻ってきたクラウディアが卓上に置いたのは、メインディッシュにあたる「セコンド・ピアット(第二皿)」の料理で、クリスマスの魚料理ということで、シチリアと向かい合うイタリア半島のつま先、レッジョ・ディ・カラーブリアの名物料理「ストッコ・アッラ・マルモレーゼ(マルモラ風の干し鱈)」がほかほかと湯気を立てている…
シルヴィア「いい匂いね」
クラウディア「うふふっ、今年はフランカが帰ってくるって言うから少し高いバッカラ(干し鱈)を買っておいたの」
提督「二日前から水に漬けて、半日おきにその水を替えて……お母さま、大変だったでしょう?」
クラウディア「いいのよ、久しぶりに家族みんなで過ごすクリスマスなんだもの♪」
…浅鍋でソフリット(野菜のみじん切りやハーブをラードで炒めたもの)を作ったところに皮を剥いたトマトを加えて煮詰めながら塩を振り、くし形に切ったジャガイモやオリーヴ、バッカラを加え、コトコトと煮込む…
提督「ん、はふっ……うーん、いい味♪ トマトの甘酸っぱいところにソフリットの風味とオリーヴの渋み、絶妙な塩気……私も何回か作ったことがあるけれど、やっぱりお母さまにはかなわないわ♪」お手上げとばかりに両方の手のひらを上に向けた……
クラウディア「ふふっ、私だってただ長い間台所に立っているわけじゃないのよ♪」
シルヴィア「そうみたいね……それにフランチェスカもいるから、今年のはことさらに美味しいわ」
提督「私もお母さまたちと一緒に食べることができて嬉しい……♪」
………
…
提督「……あぁ、美味しかったわ♪」
クラウディア「いっぱい食べた?」
提督「ええ、食べ過ぎちゃったくらい……あんまり家の料理が美味しいのも考え物ね?」そういうと、冗談めかしてお腹の肉をつまむ真似をする……
クラウディア「ふふ、貴女くらいの歳ごろは食べ過ぎるくらいでちょうどいいのよ♪」
提督「もう、お母さまったら……私だってもう子供じゃないんだから、そんなに食べさせなくったっていいの」
シルヴィア「それでもフランチェスカはまだ若いからいいわ……私なんかは気を付けないと、あっという間に樽みたいな体型になってしまいそうね」
クラウディア「あら、私は貴女が樽みたいな体型だって構わないわよ?」
シルヴィア「勘弁してちょうだい……そうならないためにも、皿を片付けて運動するとしましょう」
提督「それなら私も手伝うわ。食後のパンドーロを食べた分、カロリーを消費しないと♪」
クラウディア「まぁ、二人ともありがとう♪」
………
916 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/02/26(月) 01:30:53.98 ID:zTDZK47j0
…夜…
クラウディア「それじゃあ、ミサに行く準備はできた?」
…そういって玄関先で二人に声をかける……クリスマスミサと言ってもある程度シックな装いであれば問題ないので、クラウディアはクリーム色のベルト付きトレンチコートに、淡いレモン色のふわふわしたセーターと白のスラックス、頭にはメルトン(厚手のフェルトのような布)の白いベレー帽をかぶって、首元にアクセントとして花柄プリントが施されたスカーフを巻いている…
シルヴィア「済んでるわ」
…シルヴィアは黒いダブルのステンカラーコートにパールグレイのピッタリしたタートルネックセーター、細身の黒いスラックス……それに差し色としてワイン色のマフラーを巻き、足元をヒール付きショートブーツで固めている…
提督「私も」
…提督は北欧への出張でもお世話になった黒のラップコートと淡いあんず色のセーター、それに百合の花のように広がるシルエットが綺麗な白いスカートで、黒タイツと茶革のミドル丈のブーツを履いた…
クラウディア「鍵は私がかけるわね」二人が玄関を出ると鍵をかけ、それからシルヴィアの腕につかまって歩き出した……
シルヴィア「そうしがみつかないで、歩きにくいわ」
クラウディア「恥ずかしい?」
シルヴィア「それは別に……ただ、そこまで身体を寄せられるとね」
クラウディア「そう、残念♪」おどけた口調でそういうと少しだけ身体を離し、代わりにシルヴィアの指に自分の指を絡めた……
シルヴィア「そのくらいならいいわ」
クラウディア「フランカ、あなたには反対側を貸してあげる♪」
提督「ありがと、お母さま……それじゃあ遠慮なく♪」そういうとわざとスキップのような子供じみた動きで横に並び、黒革の手袋につつまれた細い、しかし意外と力強いシルヴィアの手をつかんだ……
シルヴィア「まさに両手に花、ね」
…街の教会…
アンナ「……フランカ!」
…家から歩いて十分あまり、クラウディアたちに続いて街の中心広場に建っている教会へと入ろうとしたとき、不意に後ろから声をかけられた提督……聞き馴染みのある声を耳にして振り向いた矢先、幼馴染みのアンナが飛び込むようにして抱きついてきた…
提督「アンナ、帰ってきていたのね?」一瞬たたらを踏みそうになったが航海で鍛えられたバランス感覚でどうにか姿勢を保ち、アンナを受けとめながらたずねた……
アンナ「そりゃあクリスマスだもの……ベルギーとルクセンブルクでそれぞれ一件ずつ税法絡みの訴訟があったんだけど、とっととけりを付けて戻ってきたの」提督の左右の頬にキスを済ませると、肩をすくめていった……
提督「相変わらずね」
アンナ「それはこっちのセリフよ。帰ってくるんだったらそう言いなさいよ……てっきりクリスマスもタラントで缶詰にされているものだとばっかり思ってたわ」
提督「さすがに海軍だってクリスマスくらいは休ませてくれるわよ」
アンナ「そう。それじゃあフランカ……明後日にでもうちにこない?」
提督「えっ、でも……」いくら幼馴染み…アンナに言わせると「許嫁」とはいえ、家族水入らずで過ごすのが当然のクリスマス前後に家への招待を受けるのは…と、遠慮する言葉が出かかった提督……
アンナ「大丈夫よ。うちは広いし、フランカとの関係だって許してくれてるのは知ってるでしょ? おまけにパパもママも明日にはシチリア旅行に出かけるから、邪魔する人なんていないのよ?」まるで提督の言わんとすることを先読みしたように言葉を続けた……
提督「それはそうかもしれないけれど……」
アンナ「ふぅ……あのね、フランカ。 私、このあいだミラノに行ってきたの」
提督「あら、素敵。スカラ座でオペラでも見てきたの?」
アンナ「もう、フランカってばとぼけちゃって……つまり、ブティックで買い物をしてきたって言ってるの……ね、どんなのを買ったか見たいでしょ?」下からのぞき込むようにして、じらすような口調で言った……
提督「……っ///」
アンナ「何を照れてるのよ、これまでだってさんざん見ているくせに……♪」
提督「いえ、だって……///」
アンナ「まったく、相変わらず初心なフリをしてくれちゃって……そういうところが可愛いのよね♪」
提督「もう、からかわないでよ……」
アンナ「からかうくらいで許してあげているんだから感謝しなさい?」
提督「……ええ、そこは感謝しているわ」
アンナ「当然でしょう? 私は度量の広い女なのよ」
提督「度量の広い人間は自分でそういうことを言わないと思うの……」
アンナ「いいから。 ねぇ、せっかくだから一緒に入りましょうよ……今度白いドレスで一緒に入るときの予行練習ね♪」
提督「……」
917 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/03/04(月) 03:12:52.71 ID:Il+wi9AK0
…教会…
アンナ父「おやフランチェスカちゃん、クリスマスおめでとう。こっちに帰ってくるのは久しぶりじゃないか。 うちのアンナも何かといえば君の話でね……積もる話もあるだろうし、良かったら今度うちにおいで?」
アンナ母「ええ、本当に……貴女なら大歓迎よ♪」
提督「ありがとうございます」
アンナ「もうっ! パパもママも、余計な事は言わなくてもいいの!」
…こぢんまりとした……しかし由緒ある教会には続々と町の人がやってくる……おおよそ定位置が決まっているベンチに皆が腰かけていく中で、提督はアンナの両親と言葉を交わした……仕立てのいい茶色のスーツに暗紅色をした楕円の宝石をあしらったループタイを身に付け、相変わらずのしゃがれ声で髪の毛をぺったりと後ろに撫でつけたアンナの父と、高そうなプッチの黒いドレスとストッキング、首元に大粒の真珠のネックレスと、ぽっちゃりと丸っこい指にダイアモンド付きの豪華な指輪をし、会うたびにふくよかさが増しているアンナの母……それにアンナの父が経営している『貿易会社』の一癖ありそうな若い衆が二、三人…
アンナ父「何が「余計な事」なものだね、アンナ」
アンナ母「そうよ、フランチェスカちゃんは本当に良い子なんだから」
提督「これは、ご丁寧にどうも……そろそろ席に着かないといけませんので……」
アンナ父「それもそうだ、あんまりおしゃべりをしていては神父様に叱り飛ばされてしまうな」
アンナ「……まったく。とにかく貴女のことなら大歓迎だから、必ず来なさいよね♪」軽く手を振ると、両親と一緒に定位置のベンチに腰かけた……
提督「え、ええ……」
…ミサ…
神父「天にまします我らの主よ……」
…提督が子供の頃からずっと町の教会でミサを執り行っている神父がクリスマスミサのお祈りを続け、式次第に合わせて祈りの言葉を唱えたり十字を切ったりする会衆…
神父「……アーメン」
………
…
…ミサの後…
クラウディア「ふぅ……教会って底冷えするわね、足先が冷たくなっちゃったわ」
シルヴィア「神父は寒くないんでしょうよ。帰ったらまた暖炉の火をおこして、それからグラッパを垂らした熱いコーヒーでも飲みましょう」
提督「賛成」
クラウディア「それに、お菓子も好きなだけ食べていいわよ」
提督「まぁすごい、まるでクリスマスみたい♪」冗談めかしてわざと驚いてみせる……
クラウディア「そのクリスマスよ」
シルヴィア「ふふ……♪」
…教会前の広場では飾り立てられたツリーを見ながら気の合う仲間同士でおしゃべりに興じる人たちや、久々に顔を合わせて口づけを交わす恋人たち、あるいはお菓子をもらってご機嫌な子供たちなどが笑いさんざめき、小さな町にもにぎわいが戻ってきたような感がある…
アンナ「フランカ♪」
提督「あら、アンナ……お父様たちとはもういいの?」
アンナ「ええ、どうせうちに帰ったらずーっと「誰がどうした」とか「どこどこの娘が結婚した」だのって噂話を聞かされるんだから……それよりも貴女と一緒にいられる時間を有効活用しないと……ね♪」提督よりも小柄なアンナだが、腰に手を回すと勢いよく身体を抱き寄せた……
提督「もう///」
クラウディア「まぁ、ふふっ……アンナちゃんってば♪」
シルヴィア「相変わらずみたいね」
アンナ「あ、これはお義母さまにおばさま……お久しぶりです」
クラウディア「ええ、久しぶりね♪」
シルヴィア「そういえばこの間「お土産に」ってくれたワイン、とても良かったわ」
アンナ「お気になさらず。お義母さまとおばさまは私の母も同じですから♪」
提督「なんだか着実に外堀を埋められている気がする……」
シルヴィア「……それで、こっちにはいつ頃まで?」
アンナ「年明けの三日にはスイスへ飛ばなければいけないので、二日までです」
クラウディア「それじゃあ、良かったらフランカとも過ごしてあげて?」
アンナ「ええ、もちろんです♪」
提督「……」
918 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/03/12(火) 02:14:36.28 ID:zmg+/zf40
…12月25日…
提督「ふ〜ふふ〜ん〜…♪」
クラウディア「あら、フランカったらご機嫌ね♪」
提督「そりゃあクリスマスだもの……お母さまとおばさまもそうでしょう?」
クラウディア「そうね。もっとも、シルヴィアがいるならいつだって嬉しいけれど♪」
シルヴィア「はいはい……」
…クリスマスの朝はひんやりと寒かったが、日が昇るにつれて次第に明るい光が降り注ぎ、庭から望めるティレニア海の波もきらきらと輝いている……提督たちは暖炉の前で温かいコーヒーをゆっくり飲み、クラウディアがかけたクリスマスソングのCDを聞きつつ、届いたクリスマスカードのメッセージを読んでいる…
クラウディア「あら、もうこんな時間……そろそろローストの準備に取りかからないと」
提督「なら私も手伝うわ」
クラウディア「ありがとう、フランカ。でもクリスマスなんだから座っていていいのよ……今日は私が腕によりをかけて作るから、美味しく食べてくれればそれで十分♪」そう言って座っている提督の前髪をかきあげて額にキスすると、エプロンをつけて台所に入っていった……
提督「……お母さまったら張り切っちゃって。あの調子じゃあ一個分隊でも食べきれないくらい作っちゃいそうね」
シルヴィア「久しぶりにフランカと過ごせるクリスマスだもの、クラウディアだって嬉しいのよ」
提督「そうね、私だっておばさまたちと過ごせて嬉しいわ」
シルヴィア「ありがとう……ところで、クリスマスカードについていたプレゼントはどうだった?」
提督「ええ、それならいろんな物が届いたわ。香水や日持ちのするお菓子、それから小さなアクセサリーや小物とか……」
………
…
提督「さてと、誰から何が届いたのかしら……♪」淡い桃色のバスローブ姿で脚をぶらぶらさせながら、クリスマスカードの差出人を見ては文面を読み、それから小包や箱を開けていく……
提督「まずは……エレオノーラからね♪」
…北アドリア海管区の「ヴェネツィア第三鎮守府」でコルヴェットや駆潜艇といった小艦艇を中心とした戦隊を編制し、掃海や船団護衛、対潜掃討を行っているシモネッタ大佐……提督とは士官学校の同期で、優秀な成績とたおやかで優しい立ち居振る舞いのおかげでそうは見えないが、実際は重度のロリコンをこじらせていて、鎮守府では艦娘たちが慕ってくれるのをいいことにただれた生活を送っている…
提督「えーと、なになに……「フランカ、クリスマスおめでとう♪ 私はヴェネツィアでうちの娘たちと楽しく過ごしています。また機会があったら遊びに行きます……それからプレゼントですが、貴女に似合うと思うので、良かったらぜひ使って?」相変わらず小さい娘たちといちゃいちゃしているのね……そろそろ憲兵に逮捕されるんじゃないかしら……」眉をひそめてから、プレゼントの包みを開けた……
提督「あら、新色の口紅……さすがエレオノーラね、色の趣味がいいわ♪」ラメの入った明るいイタリアンレッドの口紅は、これからやってくる春にふさわしい……
提督「それじゃあお次は……と」
提督「あ、これはルクレツィアのね」
…シモネッタ提督と同じく士官学校の同期で、今でも仲の良いカサルディ中佐……小柄でカラッとした気持ちの良い性格をしていて、エーゲ海でMAS(機動駆潜艇)やMS(魚雷艇)の艦娘たちを率いて暴れ回っている…
提督「さてと……「フランカ、クリスマスおめでとう! 私はがさつだし何を贈ればいいか分からなかったから、とりあえずフランカの好きそうな物にしてみたわ。それじゃあね、チャオ!」ふふっ、相変わらずね♪」
提督「それで、ルクレツィアは何を贈ってくれたのかしら……と」
提督「あら……ルクレツィアってば、なかなかいいセンスよ?」出てきたのはクレタ文明のモザイク画風に描かれたイルカや魚をあしらったスカーフで、クリーム色の地に青やオレンジの柄が映える……
提督「こういうしゃれたスカーフは私よりもシルヴィアおばさまみたいな格好いいタイプの人に似合いそうだけれど……でも嬉しいわ♪」
提督「それからナタリアのプレゼントは、と……」
…クリスマスカードに書かれた近況やあいさつを読んでは知り合いや(少なくない)恋人たちとのあれこれを思い出し、それからさまざまなプレゼントを開けては楽しんだ…
………
シルヴィア「そう、良かったわね」
提督「ええ。もっともまだいくつも残っているし、お休みの間にちょっとずつ開けていくつもり……そう思って今もいくつか持ってきたの」
シルヴィア「それじゃあ開けてみたら?」
提督「そうするわ、あんまり変な物は入っていないでしょうし……って///」そう言いながらローマの海軍司令部で知り合いだったお姉様からの小包を開けると、黒の透けるようなベビードールが出てきた……
シルヴィア「……確かにただの下着であって「変なもの」ではなかったわね」
提督「その、えぇーと……」
シルヴィア「大丈夫よ。フランカだっていい大人なんだからそういうものを着たっていい」
提督「あー……まぁ、そうね」
シルヴィア「ええ、たまにはそういう遊び心があってもいいと思うわ……今度クラウディアにもそういうものを着てもらおうかしら」
提督「おばさま?」
シルヴィア「いいえ、なんでもないわ」
919 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/03/19(火) 02:24:38.84 ID:qpJUg7410
…お昼時…
クラウディア「さぁさぁ二人とも座って? スプマンテのボトルは用意した?」
シルヴィア「ええ」
提督「準備出来ているわ、お母さま」
クラウディア「よろしい、それじゃあ……乾杯♪」
…エプロンを外してクラウディアが席に着くと、シルヴィアがスプマンテのコルクを布で押さえつつ「ポンッ!」と控え目な音をさせて栓を抜いた……シューッと軽やかな音を立ててフルートグラスに注がれると、三人で軽くグラスを合わせて喉を湿した…
クラウディア「フランカ、いっぱい食べるのよ?」
提督「ぜい肉にならない程度でね」
シルヴィア「今日くらいはそのことは考えなくても良いんじゃないかしら」
提督「それもそうなのだけれど、美味しいものを前にするたびにその言い訳を使っている気がして……」
クラウディア「そう、それじゃあこのガチョウはいらない?」
提督「いいえ、ぜひ食べたいわ」
クラウディア「まぁ、ふふっ……♪」
シルヴィア「クラウディアの料理を前に我慢なんて出来ない相談だもの……私が切りましょうか?」
クラウディア「ええ、お願い♪」
…ローズマリーやオレガノ、ニンニク、粒の黒コショウと粗塩を擦り込み、中にみじん切りの野菜を詰め込んでじっくりとローストしたガチョウ……シルヴィアが大ぶりのナイフで手際よく切り分け、美味しい脚の部分を提督とクラウディアに取り分ける…
クラウディア「もう、だめよ? 脚は貴女とフランカで食べるのよ」
シルヴィア「そういうわけにはいかないわね。切り分けているのは私なんだから言うことを聞いてもらわないと……それに他の部位も肉厚で美味しそうじゃない」
提督「それならお母さまとおばさまが脚を取ればいいわ。ごちそうは他にも色々あるんだし、私は胸肉だって好きよ?」
クラウディア「もう、仕方ないわね……それじゃあシルヴィア、半分こしましょう?」
シルヴィア「それなら文句ないわ。これを料理した貴女がこの美味しそうな部分を食べられないなんて、そんな不公平があったらいけないもの」
クラウディア「ふふ、相変わらず優しいのね……♪」
提督「それなら私からもお母さまたちに分けてあげるわ」
クラウディア「いいのよ。いくつになってもフランカは私たちの娘なのだから、遠慮せずにいっぱい食べなさい……それにどうしても腿が食べたければ、もう一羽むこうに焼いたのがあるんだから♪」いたずらっぽい笑みを浮かべると、軽くウィンクをした……
シルヴィア「なんだ、それならそうと言えばいいのに……」
提督「ふふっ、本当にね♪」
………
…同じ頃・鎮守府…
ドリア「それではクリスマスの晩餐をいただくことにしましょう……主の恵みと料理を手伝ってくれたみんな、そしてこんなに立派な猟鳥を贈ってくれた提督と提督のお母様方に……乾杯♪」
一同「「乾杯」」
…しゅわしゅわときめ細やかな泡を立て、燭台の灯りや暖炉の炎に照り映える金色の「フランチャコルタ」や鮮やかな紅の「ランブルスコ」、さっぱりとした白ワイン、あるいは深いルビー色に輝く赤ワインのグラスを掲げ、乾杯する一同……それが済むと食欲旺盛な駆逐艦や潜水艦の娘たちは早速ディアナたちに料理を取り分けてもらう…
リベッチオ「ふー、ふー…はふっ、あちち……っ!」
カヴール「あらあら、よく冷ましてから食べないと舌を火傷しますよ?」
…アンティパスト(前菜)のガランティーヌ(タンや肉のゼリー寄せ)やサラミの盛り合わせに続くプリモ・ピアット(第一皿…一つ目のメインディッシュ)は温かいコンソメスープにラヴィオリを浮かせたもので、ラヴィオリの中にはトリコローリに合わせてそれぞれホウレンソウ、リコッタチーズ、トマトペーストなどを詰め込んである…
レモ「それじゃあこっちも食べるね♪」
スメラルド「オンディーナ、私にも取り分けてもらえますか?」
オンディーナ「ええ、どうぞ」
…コース料理の花形(プリマ・ドンナ)であるセコンド・ピアット(第二皿)は提督の実家からシルヴィアが送ってきた鴨やアヒル、ガチョウ、それにたっぷり脂が乗った鶏を始め、濃い赤身が食べたい娘たちには赤ワインソースの鹿肉、野趣あふれる肉が食べたい娘たちにはドングリを食べてほどよく脂が乗ったイノシシ肉のあばら肉が香草を効かせたローストで饗されている…
ディアナ「遠慮せずいっぱい召し上がれ?」
…まだ表面がぷちぷちと音を立て、きつね色の皮目がパリッと焼けている鶏やガチョウ……かかっているソースも肉に合わせて爽やかなオレンジソースやドライトマトで作った甘酸っぱいトマトソース、瓶に詰めて保存してあった濃緑色のペスト・ジェノヴェーゼ(バジルペースト)と、いく種類も取りそろえてあり、めいめいが好きな味や肉を選べるようにしてある…
コルサーロ「こいつは美味い……最高だよ♪」
カラビニエーレ「……相変わらずお行儀が悪いんだから、まったく」肩をすくめて……ただ、いつものようなお説教はせず口のまわりについた鳥の油をぬぐってあげる……
チェザーレ「ははは、元気で何よりだ♪」
920 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/03/26(火) 02:14:43.64 ID:p10Q7sa80
チェザーレ「……それにしても済まぬな、ディアナ」
ディアナ「と、申しますと?」
チェザーレ「この立派な正餐のことだ」長テーブルの上に並んでいる皿の数々を指し示した……
ディアナ「いいえ、わたくしも皆に喜んで頂きたかったので」
チェザーレ「さようか。提督に代わって礼を言うぞ」
ドリア「……チェザーレ、ディアナ、もう一杯いかがですか?」
ディアナ「ええ、ではもう少しだけ」
チェザーレ「もらおう、リットリオたちはおらぬのだからな……その分を開けても文句は言うまい」
ポーラ「そうですよぉ、クリスマス休暇を先に取っちゃった娘たちや提督の分まで開けちゃいましょ〜う♪」
ザラ「もう、相変わらずなんだから……フランチャコルタ?」
ポーラ「そうですよぉ……以前、提督に見せたら「私の月給の三分の一くらいする……」って言ってましたねぇ〜♪」
…暖炉の火とアルコールで赤みを帯びた頬を火照らせ、ころころと笑いながら値の張るスプマンテを遠慮なく開けるポーラ……しゅわしゅわと軽い音をさせながらグラスに液体が注がれ、注ぎ分けたグラスを持ち上げて乾杯する…
リベッチオ「ねぇねぇディアナぁ……お酒もいいけど、そろそろケーキを切らない?」ディアナのかたわらにやって来て、おねだりをするようにしながら軽く袖口を引っ張った……
マエストラーレ「まったくもう、リベッチオってばせっかちなんだから。ディアナだってお酒は飲みたいし、まだ食事も済んでいないのよ? もう少し我慢しなさい」
リベッチオ「えー?」
ディアナ「ふふ……リベッチオ、もう少しだけ待って下さいましね? そうしたらケーキを出しますから」
リベッチオ「ホント?」
ディアナ「ええ、本当です」
リベッチオ「やったぁ♪ ね、そろそろケーキだって♪」
マエストラーレ「はいはい……♪」
…普段から駆逐艦「マエストラーレ」級の長姉として奔放な妹の手本となるべく、また準同型の「オリアーニ」級の先輩としてもお姉ちゃんらしく振る舞っているマエストラーレだが、嬉しさが顔に出るのは隠しきれない…
アルフレド・オリアーニ「ふふ……マエストラーレったら、こんな時くらいは子供みたいに振る舞ったっていいのに」
マエストラーレ「な、何言ってるのよ……///」
カルロ・ミラベロ「くすくすっ、私たちからしたらみんなお子ちゃまみたいなものなのにね?」
アウグスト・リボティ「ね♪」駆逐艦では艦隊最高齢の小さな「ミラベロ」級駆逐艦、幼い外見に似合わないおませなミラベロとリボティがくすくすと笑った……
ディアナ「ふぅ……さて、それではそろそろケーキを持って参りましょうね」上品に口のまわりを拭うと立ち上がり、厨房へと入っていった……
ピエトロ・ミッカ「それでは私も手伝いましょう」大型潜水艦のミッカを始め、敷設や輸送に縁があった何人かが手伝おうとついていく……
ディアナ「まぁ、それではよしなに♪」
…待つほどでもないうち、ディアナたちがケーキの載った大皿や盆を捧げて戻ってくると、たちまち大食堂に娘たちの黄色い歓声が沸き上がる……同時に誰かが「きよしこの夜」のレコードをかけ、どこからともなく合唱が始まった…
ディアナ「さ、お待たせしてしまいましたね……食べたいものを切り分けますから、どうぞお皿を回して下さいな」
…ディアナが愛車の「フィアット・アバルト850」を飛ばして、鎮守府のお馴染みになっている近くの町のケーキ屋さんで買ってきた大きなスポンジケーキを始め、ディアナやドリアが腕によりをかけて作った、イタリアのクリスマス菓子として定番のパンドーロやパネットーネ、あるいは上から白い粉砂糖をふるったチョコレートケーキや、砂糖漬けの果物もカラフルなタルトと、目移りしそうなほど並べられた…
グラウコ「うーん、どれも美味しそうで決められそうにないです……」
オタリア「本当ですね……迷ってしまいます」
カヴール「ふふ、それじゃあ私が取ってあげましょう♪ ……それにしてもディアナ、ずいぶんたくさん焼いたのですね?」
ディアナ「ええ。何しろクリスマス休暇に入った娘が多かったものですから、注文しておいた卵が余ってしまって……傷ませてしまうまえに使い切ってしまおうと思いまして」
リベッチオ「それでこんなにケーキが食べられるならゴキゲンだよ♪ ね、お姉ちゃん?」皿にケーキを盛り合わせにしてもらうと、脚をぶらぶらさせながらケーキをぱくついている……
マエストラーレ「だからってあんまり食べ過ぎないの」
シロッコ「ふふ、今日くらいはいいじゃないか」
トリチェリ「……はい、先生もどうぞ? あーん♪」
ガリレオ・ガリレイ「うぷっ……もう、鼻の頭にまでクリームを食べさせることはないでしょ♪」
…艦娘たちはそれぞれケーキを食べたり、お酒のグラスをかたむけたり、クリスマスソングを歌ったりしている……暖炉の前に敷かれた絨毯の上ではルチアが骨をかじりながら寝そべり、何人かがブラシで毛並みをくしけずったり撫でたりしながら遊んでやっている…
ドリア「いいクリスマスですね、デュイリオ」
デュイリオ「あら、まだまだクリスマスは長いのよ……アンドレア♪」
921 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/03/31(日) 02:21:54.49 ID:pRbdUNY+0
…食後…
カヴール「さて、食卓は片付きましたね?」
ガリバルディ「ええ、大丈夫よ」
レモ「今度はなぁに?」
ドリア「あちこちからクリスマスカードが届いておりますから、せっかくですし読み上げようかと」
ガリバルディ「いいわね、どうせ時間もあることだし」
デルフィーノ「そうですね。それにしてもそれぞれ個性があって面白いです♪」デルフィーノは鎮守府に届けられたメッセージカードの山をより分けながらしきりにうなずいている……
カヴール「それでは読みましょうか……♪」おっとりとした貴婦人のような様子で暖炉の前の椅子に腰かけると「鎮守府宛」になっているクリスマスカードの中から、企業の広告や管区司令部からのカードを除いた何枚か手に取った……
エウジェニオ「誰から?」
カヴール「最初は……あら、イギリスのグレイ提督ですね」
…提督の実家とは別に、鎮守府にも送られてきた提督たちからのクリスマスカード……これにもそれぞれの性格や色が出ていて、イギリスの貴族令嬢であるグレイ提督は上品なハロッズ(百貨店)のカードに綺麗な筆記体で「Merry Christmas」とつづってあるのに対し、アメリカのミッチャー提督はコミック風のサンタクロースが描かれたカードに大きな文字で「Merry X‘mas」と、いかにもアメリカらしい書き方をしている…
ガラテア「それで、レディ・グレイは何とおっしゃっています?」美しいガラテアが、カヴールの後ろから乳白色の美しい腕を首元に優しく回す……
カヴール「ええ、今読みますね……「タラント第六鎮守府の皆様、メリークリスマス。このカードを書いている間、あの明るいイオニア海の海原を思い出しました。どうか七つの海が平和でありますよう、そして貴女方が良いクリスマスを過ごせますように」……だそうです」
ネレイーデ「ふふ、あの人は相変わらずですね……♪」
ドリア「それでは次は私が読みましょうか……「メリークリスマス、ガールズ。ノーフォークは北風が寒くって最悪で、サンディエゴやマイアミ、あるいはそっちのナポリみたいな港が恋しいわ。ステイツからプレゼントを贈ったから、喜んでもらえたら嬉しいわ」だそうですよ」
セッテンブリーニ「ミッチャー提督も相変わらずね、プレゼントはきっとダサいセーターと野球帽、七面鳥のローストにチューインガムで間違いないわ」
ドリア「まぁ、ふふっ……♪」
カヴール「それから次のカードは……エクレール提督ですね。フランス語ですから、私が読みましょう」
ダルド(駆逐艦フレッチア級)「ヴァイス提督からのカードは私が読めるわ」
アントニオ・ピガフェッタ(駆逐艦ナヴィガトリ級)「ドイツ語なら私も読めるけどね……途中で代わろう」
ルイージ・トレーリ(大型潜マルコーニ級)「では、百合姫提督のカードは私が読みますね」
…フランスのエクレール提督は香水つきのカードに長々とメッセージを書き、ドイツのヴァイス提督は堅苦しいまでにきちんとした内容を罫線でも引いてあるかのような具合で真っ直ぐに書きつづり、百合姫提督は和紙を使ったはがき大のカードに丸みを帯びた丁寧な筆文字でメッセージを書き留めている…
カヴール「あらまぁ、くすくすっ……♪」
チェザーレ「なにかおかしい事でも書いてあったのか?」
カヴール「ええ、ふふっ♪ エクレール提督ったらエスカルゴの前菜から始まるクリスマスの正餐ですとか、お国自慢を長々と書き連ねてあるものですから……♪」
エウジェニオ「エスカルゴってカタツムリのことでしょ……それがごちそうの前菜なの? カエルやカタツムリを食べるフランス人には困ったものね」
カヴール「まぁまぁ、あれもバター焼きにすれば案外良いものですよ?」
ダルド「そろそろいい? それじゃあこっちも読むわよ……「クリスマス、そして新年おめでとう。レープクーヒェン(ドイツのクリスマスに欠かせないショウガクッキー)を送ったので、ぜひご賞味いただきたい」だそうよ」
ピガフェッタ「レープクーヒェンか……地味な菓子だが嫌いじゃないよ」
トレーリ「それでは次は百合野提督のカードですね、読みますよ……「タラント第六鎮守府の皆様、メリークリスマス。クリスマスカードを送る風習がないものですから、何を書けばいいかずいぶん悩みました。ともあれタラント第六のみんなが良いクリスマスと新年を過ごせるよう、心から願っております。またいつか訪問できる機会を楽しみにしています」とのことです」
カヴール「ふふ、いかにも日本人らしい奥ゆかしい文面ですね」
チェザーレ「むしろ彼女の人柄であろうな……それぞれプレゼントも付いてきたようであるから、少々早いが開けてしまおうか」
(※イタリアではプレゼントを開けるのはイエス・キリストが生まれたとされる1月6日の公現祭(こうげんさい)の日。プレゼントは東方の三賢人の誘いを断り、結果キリストの誕生に立ち会えなかったことを後悔し続けているとされる魔女「ベファーナ」が持ってくるとされている)
フルミーネ「やった♪」
カヴール「まぁ、少し早い気もしますが……クリスマスですからね、提督方の贈り物に限ってはいいということにしましょう♪」
…チェザーレやカヴールたち、留守を預かる「大人組」の許しを得て、クリスマスのメッセージカードに添えて送られてきた包みを喜び勇んで開ける駆逐艦や潜水艦の艦娘たち……娘たちによって人柄がでるのか開け方もさまざまで、待ちきれない様子で嬉しそうに包み紙を破る娘から、ある程度落ち着いてリボンをほどく娘までさまざまだった…
フレッチア「すんすん……匂いからするとショウガクッキーね」
ピガフェッタ「レープクーヒェン、ドイツのクリスマス菓子では定番のやつさ」
コマンダンテ・カッペリーニ「百合野提督の贈り物は……化粧品と手拭いですね」
…日頃から潮風に吹かれ波飛沫を受けている艦娘たちにと、日本メーカーの乳液や保湿クリームといった化粧品の詰め合わせと、銀座の中心地、歌舞伎座のそばにある老舗で売っている、色も柄もさまざまな手拭いがたくさん入っている……かさばらずにお洒落なものをという、百合姫提督らしい気づかいが見て取れる…
トレーリ「柄のいくつか「鎌○ぬ(構わぬ)」と言葉遊びになっていたり「後ろに下がることがない」蜻蛉(とんぼ)の柄みたいに、戦場での縁起を担いでいたりするんですよ」
デュイリオ「まぁまぁ、それは素敵ですね♪」
922 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/04/08(月) 00:19:59.79 ID:XZ5d4hH20
…しばらくして・中型潜「スクアーロ」級の部屋…
スクアーロ「ふぅ、たっぷりのご馳走に上等な酒……最高だったな」
トリケーコ「そんな風にすぐ横になると消化に悪いですよ?」
スクアーロ「今日はクリスマスなんだ、そう言うなよ」
デルフィーノ「スクアーロはクリスマスでなくたってそうじゃないですか」
スクアーロ「お、言ったな? そういう生意気を言うと……こうだぞ♪」ベッドから飛び起きるとデルフィーノの肩口を甘噛みし、ついでに脇腹をくすぐる……
デルフィーノ「ひゃあぁ、やめて下さい……っ///」ばたばたと暴れ回るデルフィーノ……
ナルヴァーロ「ほら、じゃれ合うのもほどほどにしなさい……私たちはバンディエラの部屋に遊びに行ってくるわ♪」そう言ってナルヴァーロ(イッカク)とトリケーコ(セイウチ)は出ていった……
デルフィーノ「はぁ、はぁ、はぁ……///」
スクアーロ「どうだ、姉に逆らうとどうなるか分かったか?」スクアーロ(サメ)の名にふさわしい、白くギラギラした犬歯をのぞかせてにんまりと笑ってみせる……
デルフィーノ「もう、分かりましたよぉ……」
スクアーロ「よーし、ならいい……しかしジァポーネの提督もマメだねぇ」
…鎮守府の艦娘全員に行き渡るほどの化粧品や、和紙の包み紙さえお洒落な和風の小物が詰め込まれた百合姫提督の贈り物……スクアーロは早速包み紙を開けて、中に入っていた「資生堂」の乳液をしげしげと眺めた…
デルフィーノ「そうですねぇ」
スクアーロ「ああ……ところでデルフィーノ」
デルフィーノ「なんです?」
スクアーロ「せっかくだしちょっと塗ってくれるか、肌がガサガサなんだ」
デルフィーノ「はい、いいですよ」
スクアーロ「悪いな」
…スクアーロは自分なりに「海のギャング」らしくということでクリスマスパーティの正餐に着ていた、グレイで黒リボンの付いているボルサリーノ(ソフト帽)と、サメの背中のような濃い灰色のスーツとジレ(ベスト)、パールグレイのネクタイとワイシャツを次々に脱いでいく……着る物をすっかりハンガーに掛けてしまうとベッドにうつ伏せになり、デルフィーノに乳液の瓶を渡した…
スクアーロ「どうだ?」
デルフィーノ「たしかにずいぶん荒れてます。もしかして食生活とかが乱れているんじゃないですか?」
スクアーロ「みんな同じものを食っているのにそんな訳があるか……まぁいい、塗ってくれ」
デルフィーノ「もう、人遣いが荒いんですから……」よいしょとスクアーロの背中にまたがって甘い香りの乳液をとろりと背中に垂らすと、すんなりした手で塗り込んでいく……
スクアーロ「お、なかなか気持ちいいな……♪」
デルフィーノ「それなら良かったです。せっかくだからこっちもやってあげますね?」スクアーロのサメ肌へ馴染ませるように肩甲骨、背中、脇腹、腰の辺りへと器用な手つきで滑らせていく……
スクアーロ「あぁ、いいな……うん、上手じゃないか……♪」
デルフィーノ「あの……スクアーロ///」スクアーロにまたがり、その白い裸身を見ながら揉みほぐすように乳液を塗り込んでいるうちに、ごちそうとお酒で火照った身体が甘くうずき始める……
スクアーロ「ん?」
デルフィーノ「……そのぉ、ついでだから脚もマッサージしましょうか///」
スクアーロ「どういう風の吹き回しか知らないが、せっかくそう言ってくれたんだ……ぜひやってくれ」
デルフィーノ「はぁい……♪」スクアーロのきゅっと張りつめたようなヒップからしなやかな太ももに手を這わす……
スクアーロ「おい、それじゃあ手つきが違うだろう……この万年発情期が♪」
デルフィーノ「だ、だってぇ///」
スクアーロ「ったく、仕方のない妹だな……ほら♪」ごろりと寝返りを打つと自分の手にも乳液を取り、デルフィーノのフリル付きワンピースの下へ手を入れ、片手でくびれた腰から太ももの付け根、もう片方の手で形の良い乳房を愛撫する……
デルフィーノ「はぁ、あぁんっ……はひゅっ、はひっ♪」数分もしないうちに可愛らしいくりくりした瞳は焦点を失い、半開きの小さな口から甘えたような吐息が漏れる……我慢しきれないと言うように片手はとろりと濡れた秘部へ伸び、もう片方の手はワンピースの裾をたくし上げている……
スクアーロ「ふふ、可愛い表情で喘ぐじゃないか……♪」
デルフィーノ「らって、らって……ぇ♪」ろれつも回らないままに嬌声を上げ、くちゅくちゅと指を動かしながらふとももに蜜を垂らし、スクアーロの上でひくひくと跳ねる……
スクアーロ「ここなんかも好きだったろ?」ちゅぷ……っ♪
デルフィーノ「ふわぁぁぁ、そこ……そこれす……ぅ///」
スクアーロ「ふふ、今日は午後いっぱいしてやるからな……覚悟しておけよ?」
デルフィーノ「はぁ……い♪」
923 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/04/27(土) 00:49:53.25 ID:Vpqh/dsf0
…一方・提督の実家にて…
提督「ふわ……ぁ」
…午後の日だまりを浴びながら猫のように伸びをすると、ベッドに寝転がり文庫本をめくり始めた……と、ベッド脇のテーブルにある携帯電話が震えだし、提督は本を閉じるとせかせかと携帯に手を伸ばした…
提督「……もしもし?」
ミッチャー提督「ハーイ、フランチェスカ。いま大丈夫?」
提督「あら、ジェーン♪ ええ、大丈夫よ。貴女の声が聞けて嬉しいわ♪」
…電話口の向こうから聞こえてきたキレの良いアメリカ英語の主は、かつて提督と付き合いがあったアメリカ大西洋艦隊のジェーン・ミッチャー提督……グラマーで褐色の肌、黄色の1971年型「バラクーダ」を乗り回し、コルトM1911「ガバメント」のカスタムピストルで射撃にいそしみ、アメリカ人らしいスタンドプレーと多彩な悪口、それにタフさと知性を兼ね備えた実力派の提督で、穏和な提督とは正反対に近い勇猛果敢なタイプだが、映画という共通の趣味もあってか意外なほど仲が良い…
ミッチャー提督「そいつはこっちも同じよ……ところで一つ貴女に言いたいことがあるんだけど」
提督「……ええ、どうぞ?」思い詰めたような声の響きに思わず姿勢を正し、何を言われても驚かないように身構えた……
ミッチャー提督「それじゃあ言わせてもらうわ……メリークリスマス♪」
提督「もう、ジェーンったら……真剣な口調で言うから何かあったのかと思ったじゃない」身構えていたぶん拍子抜けで、笑い出しながらベッドの上にひっくり返った……
ミッチャー提督「あははっ、ソーリィ♪ なにせこっちはターキーを食ってクリスマスポンチを飲んで、すっかりご機嫌だからね、ちょっと驚かせてみようかと思ってさ……今はガールズたちにクリスマス映画を見せてるとこ」確かに電話口ごしに映画のものらしい音声や曲が聞こえてくる……
提督「いいわね。それで、映画は何を流しているの?」
ミッチャー提督「心暖まるクリスマス映画の定番よ「ホワイト・クリスマス」に……」
提督「ビング・クロスビーの? 曲も名曲で、映画自体も素敵よね」
ミッチャー提督「でしょう? あとは1947年版の「三十四丁目の奇蹟」と「素晴らしき哉、人生!」、それから「スクルージ」ね」
提督「スクルージだけはイギリス映画ね?」
ミッチャー提督「そ、ハリウッドにも「クリスマス・キャロル」を映画にした作品はいっぱいあるけど、私の中じゃこれが一番イメージにピッタリだから。1935年の映画だけど、時代がかった感じが逆に文学作品っぽくていいわ」
提督「そうねぇ。それにどの映画もみんな心暖まる映画で、クリスマスにふさわしいと思うわ」
ミッチャー提督「でしょ? なにしろ任務に次ぐ任務じゃあ気持ちがすさんでくるし、うちのガールズにもクリスマスくらいは幸せな気持ちでにこにこ笑っていてもらいたいからね。テーブルにはキャンディとチョコレート、デコレーションケーキにローストターキー、頭にはパーティ帽……ヤドリギの下ならキス御免で、ベッドに吊るした靴下の中やツリーの前にはリボンのかかったプレゼント……これならハッピーな気分になれるってものよ」
提督「いい考えね♪」
ミッチャー提督「サンクス、そっちは何してるの?」
提督「今は実家でベッドに転がって読書中……海軍士官になるまでは考えもしなかったけれど、何も考えずにベッドでごろごろできるのって最高の娯楽ね」
ミッチャー提督「しかもクリスマスのごちそうとワインを腹いっぱい詰め込んでから、でしょ? たしかに最高だけど、ずっとそんなことをしていたら、また太ももにぜい肉が付くわよ?」電話越しにクスクスと笑っているのが聞こえる……
提督「ええ、でもクリスマス休暇の間はそれも考えないことにしているの♪」
ミッチャー提督「スラックスがキツくなっても知らないわよ?」
提督「その時はスカートにするわ……それでジェーン、貴女自身のご予定は?」冗談めかしてたずねる提督……
ミッチャー提督「ごあいにくさま、フランチェスカと違ってサッパリよ」
提督「あら、意外……ジェーンなら一人で「ダイナ・ショア・ウィークエンド」を開催出来るほどだと思っていたわ」
(※ダイナ・ショア・ウィークエンド…往年の名女性歌手ダイナ・ショアがゴルフ・コンペを開いた際、クラブハウスに女性たちが集まったことに由来するという全米最大のビアン・イベント。カリフォルニア州パームスプリングスで開催される)
ミッチャー提督「そうだねぇ……私だってアレサ・フランクリンみたいに歌って、フレッド・アステアのように華麗に踊れて、おまけにハンフリー・ボガードみたいに気の利いた台詞が言えれば良かったんだけど、残念ながらそうはいかないもんでさ♪」
提督「ふふ……それを言ったら私だってオードリー・ヘップバーンみたいな顔が欲しかったわ♪」
ミッチャー提督「お互いないものねだりってわけね……でもフランチェスカは綺麗だと思うわよ。脚はまるでシルヴァーナ・マンガーノかジェーン・フォンダかってところだし、胸だって全盛期のころのジーナ・ロロブリジーダみたいで……それでいて顔は柔和で優しげ。パーフェクトじゃない」
提督「あら、ずいぶん褒めてくれるのね……おだてても何も出ないわよ?」
ミッチャー提督「そいつは残念」
提督「くすくすっ……相変わらずみたいね♪」
ミッチャー提督「まぁ、ノット・バッド(悪くはない)ってところよ。どいつもこいつも責任逃れしようとのらくらしているし、何をするにも申請書類をレーニア山くらい積み上げないと許可されないけど」
提督「ふふっ、お役所仕事はどこも同じね」
ミッチャー提督「そういうこと……ともかく、クリスマスカードとプレゼントをありがとね。うちのガールズも喜んでたわよ」
提督「それなら良かったわ。それから貴女のカードもこっちに届いたわ……またこっちにくる機会があったら教えてね? うんと歓迎するわ♪」
ミッチャー提督「サンクス、いいクリスマスをね♪」
提督「ジェーン、貴女もね」
924 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/05/06(月) 01:48:13.72 ID:LBiF/fyO0
…一方・クリスマスのトゥーロン第七鎮守府…
リシュリュー「提督、午後の郵便でまたクリスマスカードが届いておりますよ」
エクレール提督「メルスィ、リシュリュー。ちなみに誰からかしら?」
リシュリュー「読み上げて差し上げましょうか?」
エクレール提督「ウィ、お願い」姿見の前で顔を左右に向けてみたり制服の裾を伸ばしてみたりと、艦娘たちを前に行うクリスマスのあいさつに備えて身支度に余念がない……
ジャンヌ・ダルク「モン・コマンダン(私の司令官)、ぜひ私にもお手伝いさせてください」
エクレール提督「そうね、それではリシュリューと半分ずつ分け合って読み上げてもらおうかしら……構わないわね?」
リシュリュー「無論ですとも……ではこちらの束を」枢機卿のような緋色の生地をした厚手の衣をまとい、丁寧だが表情の読めないリシュリュー……
ジャンヌ・ダルク「ええ、お任せを!」裾に金百合の縫い取りが施された白い清楚なワンピースとふわっとした上着を羽織っている……
エクレール提督「ではリシュリュー、貴女の束からお願いするわ」
リシュリュー「では僭越ながらわたくしめが……まずはパリの海軍省から」
エクレール提督「形式的なものね、後で構いません」
リシュリュー「さようで……地中海艦隊司令部」
エクレール提督「それも後で結構ですわ」
リシュリュー「イギリス地中海艦隊のメアリ・グレイ少将」
エクレール提督「わざわざクリスマスカードを送ってくるだなんて、おおかた皮肉でも書き連ねてきたのでしょうね」
リシュリュー「でしょうな……ドイツ連邦海軍のヴァイス中佐」
エクレール提督「そう」
ジャンヌ・ダルク「では続けて私が……マリアンヌ・サヴォワ少佐」
エクレール提督「ああ、マリアンヌね。パリで一緒だったわ」
ジャンヌ・ダルク「ジュヌヴィエーヴ・フォルバン少佐」
エクレール提督「彼女ならカサブランカですわね。ジャンヌ、続けてもらえる?」
ジャンヌ・ダルク「はい、次は……イタリア海軍、フランチェスカ・カンピオーニ少将」
エクレール提督「フランチェスカから!? ……まぁ、わたくしからもカードを送ったのですし当然ですわね///」
ジャンヌ・ダルク「そうですね」
リシュリュー「おほん……他のカードは後回しにしてもよろしいような物ばかりかと存じますし、司令官も食堂でのあいさつの前にいささか公務が残っておりましょう……私どもは失礼させていただきますゆえ、何かご用の向きがございましたらまた……」
エクレール提督「え、ええ……そうですわね。つまらない書類仕事が少しだけ残っておりますし、二人はそれまで食堂でくつろいでいて構いませんわ」
ジャンヌ・ダルク「あの、モン・コマンダン? よろしければ私もお手伝いを……」
リシュリュー「……ジャンヌ」小さいが含みのある声でたしなめる……
ジャンヌ・ダルク「あっ……いえ、なんでもありません。失礼します///」
エクレール提督「え、ええ……///」
…二人が下がると提督からのクリスマスカードをしげしげと眺め、それから丹念に文を読んだ……提督の柔らかな筆跡で書かれている筆記体のフランス語を読み、二つほどあった小さな文法の誤りを見つけると眉をひそめ肩をすくめたが、読み終えると頬を赤らめてもう一度読み返した…
エクレール提督「それにしてもフランチェスカときたら……本当にこういう事を恥ずかしげもなく書くのですから///」
…提督からのクリスマスカードには「クリスマスおめでとう」の下に添えて「クリスマスには会えないので、私からの愛をプレゼントに込めて送ります……可愛いマリーへ。フランチェスカ」とあり、ほのかに甘い香りのする香水が吹き付けてある…
エクレール提督「……まったく、もう///」時間をかけて「シェルブールの雨傘」のカトリーヌ・ドヌーヴ風にセットした髪を指先でいじりつつ、口元に笑みを浮かべるとカードを読み直し、それからカードにキスをすると引き出しの大事な場所にしまい込んだ……
エクレール提督「さて……わたくしも食堂へ行くとしましょう」
エクレール提督「フランチェスカ、貴女も良いクリスマスを……♪」一人でつぶやくように言うと、足取りも軽く執務室を出て行った……
………
…
925 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/05/13(月) 01:49:52.02 ID:1BynDEZv0
…同じ頃・ジブラルタル…
クィーン・エリザベス「メリークリスマス、マイ・レディ」
グレイ提督「メリークリスマス」
…地中海の出入口である要衝ジブラルタルの鎮守府もクリスマスの時期ばかりはお祭りムードが漂っていて、蓄音機にはクリスマス音楽や「遥かなるティペラリー(ティペラリー・ソング)」といった愛唱歌がかかっている…
グレイ提督「ふふ、それにしてもみな楽しげで……」
クィーン・エリザベス「ええ、にぎやかで何よりでございますね」
…食堂のテーブルにはクリスマス・プディングと一緒に大きなパンチボウルが鎮座していて、駆逐艦を始めまだまだ「遊びたい盛り」の艦娘たちがやって来てはラム酒いりのポンチをレードル(おたま)でカップに注いでは、にぎやかに飲んだりはしゃいだりしている……一方、クィーン・エリザベスを始めとする年かさの娘たちはある程度落ち着いていて、グレイ提督のそばでゆっくりとウィスキーやブランデーをかたむけている…
エメラルド「提督、よろしければお代わりでも?」
グレイ提督「そうですわね……ではグレンフィディックをストレートで」
エメラルド「はい」
ヌビアン(トライバル級駆逐艦・二代)「提督、プレゼントを開けてもいいデスカ?」
グレイ提督「ええ。貴女たちへのプレゼントなのですから、好きな時に開けて構いませんよ」
ヌビアン「じゃあさっそく……わ、手袋デス」プレゼントの包み紙を待ちきれないというように破くと、中からしっとりした手ざわりの手袋が出てきた……
…ヌビア人(いまのスーダンや南部エジプトにいたナイル川流域の原住民)を艦名に持つ「ヌビアン」は黒褐色の肌に金のネックレスが良く似合っていて、グレイ提督がロンドンのホワイトホール(海軍省)に寄った際に「ハロッズ」で注文しておいた暖かな青灰色の手袋をはめて喜んでいる…
グレイ提督「地中海とはいえ冬は寒いし、貴女はことのほか寒がりですものね」
ヌビアン「アリガトウ、マイ・レディ♪」
グレイ提督「いいえ、構いませんわ」椅子に腰かけ、いつも通りの表情でちびりちびりとウィスキーを傾けているが、その口元には小さな笑みが浮かんでいる……
ジャヴェリン(J級駆逐艦「投げ槍」)「私のはハンカチだ…!」
グレイ提督「前に使っていたのはずいぶんとすり切れていたでしょう? 良かったらお使いなさいな」
ジャヴェリン「はい、大切にします♪」
…普段は落ち着いた雰囲気で、エリザベス女王陛下とネルソン提督の肖像画が見おろしている食堂も、今日ばかりは紙テープやリボンでにぎにぎしく飾りつけられ、演壇の周囲ではクリスマス恒例のくじ引きが行われている…
ジャーヴィス(J級駆逐艦・嚮導型)「やった、当たったぁ!」
ジャッカル(J級駆逐艦)「まーたジャーヴィーが一等を持って行っちゃったのか……私はいっつも残飯あさりだよ」
クィーン・エリザベス「相変わらずジャーヴィスは幸運の持ち主でございますね」
グレイ提督「さすがは「ラッキー・ジャーヴィス」ですわね」
(※ジャーヴィスは地中海を中心に活動し被害も多かったが、不思議と戦死者の出ない幸運艦「ラッキー・ジャーヴィス」として有名だった)
エメラルド「同感です……ところで提督」
グレイ提督「ええ、何かしら?」
エメラルド「イタリアのカンピオーニ提督にもプレゼントを贈っていらっしゃったようですが」
グレイ提督「ええ。彼女には「フォートナム&メイソン」のダージリン、セカンド・フラッシュ(二番茶)を一箱……トワイニングも普段の紅茶としては充分だけれど、たまには本物を味わってみるべきですものね」
エメラルド「なるほど」
グレイ提督「タラントからはクリスマスに合わせて素敵なイタリア食品とワインの詰め合わせを贈ってもらったことですし、そのくらいのお返しはしておかないと失礼と言うものですから」
クィーン・エリザベス「それに、個人的なプレゼントも届いていたようでございますね」
グレイ提督「ええ、リチャード・ジノリの素敵なティーカップを……色も鮮やかで、午後のお茶の時間が楽しみになりますわね」
エメラルド「ああ、あのアンズ柄の」
グレイ提督「いつものウェッジウッドも良いものだけれど、違う茶器を使うのも目先が変わって楽しいというものですわ」
クィーン・エリザベス「さようでございますね」
グレイ提督「ええ……なにはともあれ良いクリスマスですわね。誰も欠けることがなく、にぎやかで……ふふ♪」
エメラルド「まったくです」
グレイ提督「エメラルド、貴女も好きな飲み物を取っていらっしゃいな。今宵ばかりは多少酔ってもとがめ立てしたりはしませんよ?」
エメラルド「いえ、充分いただきましたから……今は提督のお側にいたいです///」
グレイ提督「まぁ……ふふっ♪」
926 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/05/18(土) 02:05:06.58 ID:1pEXzytZ0
…一方・横須賀…
百合姫提督「それじゃあ皆、メリークリスマス♪」
一同「「メリークリスマス」」
…横須賀の鎮守府では百合姫提督が艦娘たちにごちそうを食べさせるためのいい口実として形ばかりのクリスマスパーティーを開いていた……食堂のテーブルには艦隊の胃袋を支えて来た給糧艦「間宮」「伊良湖」を始め、動きが危なっかしいことで何かと話題になる給油艦の「剣埼(初代)」や大型給油艦の「速吸」、給炭艦「襟裳」といった面々が当番の艦娘たちと奮闘して作り上げたご馳走が並び、正装の百合姫提督を上座に全員がずらりと並び、グラスを持ち上げて乾杯した…
大淀「提督、お注ぎしますね」
百合姫提督「ありがとう、大淀」
妙高「提督、よろしければこの「フーカデンビーフ」をお取りしましょう」ゆで卵を埋め込んだミートローフ「フーカデンビーフ」を切り分けてくれる……
百合姫提督「それじゃあ一切れいただきます」
四阪「提督、こっちも美味しいアルヨ!」海防艦「四阪」は大戦を生き抜き中華民国の賠償艦、その後投降して中共に渡り「恵安」として長く艦籍にあった功労艦であり、今は綺麗なチャイナドレスとウェーブのかかった髪で「李香蘭」風にしている……
百合姫提督「ええ、ありがとう。四阪はもう取った?」
四阪「はい、もうたくさんとったアル!」
百合姫提督「それならいいわ。みんなもお腹を壊さない程度にいっぱい食べてね?」
…百合姫提督は普段から艦娘たちが暮らしやすいようにと心を砕き、特に食べ物に関しては窮屈なことがないよう、たびたび鎮守府の食卓料に自分のポケットマネーをつぎ込んでいた……そのおかげもあって、いつもやつれているように見える「第一号(丙型)」「第二号(丁型)」といった海防艦の娘たちも以前よりはずっと血色が良い…
足柄「提督。せっかくだし一杯注がせて?」
…フーカデンビーフにローストチキン、それに艦娘たちにとってはなじみ深い料理であるコロッケや、士官食堂でしかお目にかかれないあこがれの献立でもあるチキンライスを包み込むタイプのオムライスといった洋食に合わせて、テーブルには清酒だけではなく紅白それぞれのワインも並んでいる……洋行帰りのハイカラが自慢の足柄だけに、ボトルを手に百合姫提督にもワインを勧めた…
百合姫提督「ありがとう」
足柄「どういたしまして。代わりに私のをお願いしていい?」
百合姫提督「ええ、手酌はお行儀が良くないものね……はい、どうぞ」
足柄「ありがとう。ところで……」
百合姫提督「なぁに?」
足柄「今年の忘年会だけど、手はずはもう決まってる?」
百合姫提督「あぁ、そのこと……一応いつもの料亭に席は取っておいたのだけれど……」
足柄「どうかしたの?」
百合姫提督「いえ。もっと気さくな飲み屋さんとかの方が良かったかしら、って……ちなみに足柄は何が食べたい? 天ぷらとか?」
足柄「そうねぇ……やっぱり年末と言えばすき焼きじゃない?」
百合姫提督「すき焼きね、それならお願いできるわ」
足柄「そんなに心配しなくたって大丈夫よ。どうせ飲んだくれてきたら味なんか分からないんだし、水雷戦隊の駆逐や軽巡だのは味より量なんだから」
百合姫提督「もう、そんな身も蓋もない……♪」思わず苦笑いを浮かべる百合姫提督……
足柄「事実は事実よ。現にほら、あの様子を見てご覧なさいな」
初雪「わぁ、美味しいです♪」
白雪「本当に……もぐもぐ……それに量もたくさんあって……」
雷「間宮さん、とっても美味しいです!」
間宮「そう言ってもらえると私も頑張ったかいがあります」
百合姫提督「ふふ、良かった……あの娘たちがお腹いっぱい食べている姿を見ると嬉しくなるわ」
足柄「ふ、まったく面倒見が良いというか世話好きというか……」
百合姫提督「いつも頑張っているんだもの。私だって普段から「提督」だなんて言っている以上、そのくらいはしてあげないと……ね?」
妙高「とはいえそれが実行できる提督は少ないですし、本当に提督には感謝してもしきれません」
赤城「その通りです……良かったら私からも一献///」群馬の地酒「赤城山」の一升瓶を持ってかたわらにやって来た……
百合姫提督「あら、赤城……だいぶ回っているようだけれど平気?」
赤城「平気です、後はお風呂に入って寝てしまえばいいですから……ひっく♪」
百合姫提督「くれぐれもお風呂で溺れないようにね?」
赤城「はい……ひゃっく♪」
927 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/05/24(金) 01:39:49.31 ID:N02BX3Bt0
百合姫提督「もう、赤城ったらそんな足元がおぼつかないほど飲んで……立てる?」
赤城「立てますよ、子供じゃないんですから……っとと」
百合姫提督「大丈夫?」倒れそうになる大柄な赤城を懸命に抱きとめる……
赤城「ええ……すん、すんっ」
百合姫提督「ごめんなさい、もしかして汗臭かった? ……温かい部屋で食べたり飲んだりしたものだからちょっと汗ばんでいるし」
赤城「いえ、そうではなく……いつもの香水とは匂いが違いますね」
百合姫提督「あ……そ、そうね///」
足柄「そういえば今日のは甘っぽい花の香りよね……ねぇ、もしかして」
百合姫提督「///」
足柄「ふぅん、なるほどね♪」
…普段はグリーンティー(緑茶)や柚子のような、どちらかというと中性的でさっぱりした和風のパルファム(香水)を使うことの多い百合姫提督……だが、頬を赤らめた百合姫提督のうなじから立ちのぼるのはフローラルブーケ系の甘く華やかな香りで、それを指摘されると恥ずかしげに小さくうつむいた…
龍田「提督もなかなか捨てておけないわねぇ?」
百合姫提督「も、もう……これはフランチェスカからのクリスマスプレゼントだったから、少し付けてみただけで……///」
足柄「まぁそういうことにしておいてあげるわよ……そうよね、間宮?」
間宮「ええ♪ 提督が一生懸命読んでおられたタラントの提督さんからのお手紙に「クリスマスの時は私も同じ香水を付けるから、香りだけでも一緒にいましょう?」と書いてあったなんて、たとえ風の噂で耳にしたとしても言うわけにはいきませんから♪」
百合姫提督「ま、間宮っ///」
間宮「あ、いけません……ついうっかり♪」帝国海軍の給糧艦であり、また強力な通信設備と傍受機能を持っていた「間宮」は艦隊の金棒引きとして、鎮守府の噂という噂を知り尽くしている……
妙高「はぁ、お熱いお熱い……♪」わざとらしく手で顔を扇いでみせる……
金剛「……それでいえば、長門だってそういうのはたくさんあるでしょう?」
長門「まぁ、少しは……♪」
…戦前にはその特徴的な煙突のシルエットから広く国民に知れ渡り、ある種のアイドルとして名高かった戦艦「長門」……その性質を受け継いでいるのか、長身の古風な美人でさながら「帝劇のスタア」といった容姿の長門には、鎮守府祭や広報活動で知ったという人たちからたびたびファンレターが届いたり、上陸休暇中にツーショットやサインをせがまれたりする…
利根「へぇ、あれが少しだってぇのかい! この間の入湯上陸で一緒に陸に上がったけど、まるで「煙管の雨が降る」ってぇやつだったじゃあねぇか!」
(※煙管の雨が降る…江戸時代、花魁が好みの相手にひと吸いしたあとの煙管を渡すことに由来。要は吸い口ごしの間接キスをねだるというしゃれたアプローチで、それが複数の相手から行われることから。歌舞伎「助六」でお馴染みのモテ表現)
長門「あの時はたまたまよ、たまたま」
足柄「モテる女はたいていそういうことをいうのよ……ね、提督♪」
百合姫提督「私は別にモテるとかそういうのは……///」
龍田「そうねぇ、でもタラントでは向こうの提督さんとずいぶん仲良くしていたわよねぇ?」
百合姫提督「いえ……だって、それは……えーと、そういえば忘年会のことだけれど……///」
羽黒「あらまぁ、艦隊運動の時のキレの良さはどこへやら……さぁさ、提督の苦しい話題の転換に敬意を表して聞いてあげるとしましょうよ」
百合姫提督「もう、みんなしてそうやって……///」
足柄「いつも通り「マウンテン」か「チェリー」か……それとも「マミー(ミイラ)」あたり?」
(※帝国海軍士官の間ではスラングとして単語を英語にもじり「パイン」(料亭『小松』)や「グッド」(料亭『吉川』)などの言い換えが流行っていた)
百合姫提督「えぇと、今年は「山科」と「小桜」は別の鎮守府が押さえているそうなので、27日に「木乃伊」で行うことになりました」
初雪「……それにしても「木乃伊」って変な店名ですよね」
百合姫提督「ええ、なんでも店のご主人がそれらしい店名にしようと思って「木乃伊(きのい)」としたら、後で「ミイラ」って読み方があったことを知ったそうよ」
足柄「ずいぶん変な店名だと思ってたけれど、そんな理由だったのね……ま、あそこは手ごろな割に料理もお酒もいいし」
百合姫提督「ええ、それに店のご主人も何かと良くしてくれるから……」
足柄「それじゃあそういうわけで……それじゃあ時間も遅いし、一旦おつもりにしましょうか」
百合姫提督「そうね。それじゃあ一度お開きにして……まだ飲み足りない娘はもう少し飲んでも良いけれど、明日に響くことがないように」
仁淀「後は私が管理しておきます」
百合姫提督「お願いね。私はお風呂をいただいてから休みますから、何かあったら構わずに連絡してください」
………
…
928 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/05/30(木) 02:51:57.04 ID:aSUSxV0q0
…翌日…
足柄「……なぁに、また飲み会なの? 忘年会の季節とはいえ、このところ三日にあげず飲み会ね」
百合姫提督「ええ。今日は横鎮の提督を始め横空(横須賀航空隊)の司令官とかみんなが集まる忘年会だし、私だけ欠席するわけにも行かないから……」
足柄「まぁいいけど、飲み過ぎないようにしなさいよ? 帰りは無理して歩こうとしないで、ちゃんとタクシーを拾うのよ?」
百合姫提督「そうするわ」
梅「良ければわらわが付いて行こうか?」
百合姫提督「お気遣いありがとう、でも大丈夫よ……場所と時間、それに電話番号はここに書いておいたから、何かあったら連絡してちょうだいね?」はぎ取り式のメモ帳に書き付けて手渡す…
大淀「では、お気を付けて」
百合姫提督「ええ、行ってきます」
…横須賀市内・料亭「美月(みつき)」…
百合姫提督「遅くなりました」
横鎮先任提督「おお、百合野くん……なに、全然遅くないよ。どこでも好きな場所にかけてくれ」
横鎮後任提督「百合野准将、どうぞ上座に」
…横須賀第一鎮守府を預かる中年の先任提督に始まり、末席の年若い佐官クラスまでさまざまな男女十人前後が座敷に集っている……百合姫提督の後からも何人かやって来ては席についた…
先任提督「さてと、百合野君はビールでいいかな?」
百合姫提督「ええ、はい」
先任提督「じゃあ注いであげよう……みんな飲み物は行き届いたね?」生ビールと(下戸の提督は)烏龍茶のグラスが行き渡ったか確認する……
百合姫提督「ええ、大丈夫です」
先任提督「よろしい……それじゃあ今年もご苦労様、乾杯」
一同「「乾杯」」
先任提督「さぁさぁ、遠慮しないでつついてくれ……田中君、お造りや天ぷらも遠慮しないでいいんだぞ?」
若手提督「は、ありがとうございます」
先任提督「百合野君。きみも遠慮しないで、食べたいものがあったらドンドン頼んでくれよ?」
百合姫提督「ええ、いただきます」
…お造りの鯛にわさびを乗せ、ちょんとつつくように小皿の醤油を付けて口に運ぶ……薄いがもっちりした鯛の食感と濃い口醤油の深みのある味わい……それにチューブのではない「本物の」わさびならではつんとした、しかし爽やかな香気が鼻を抜ける…
短髪の女性提督「良かったらいくつかお取りしましょうか?」
百合姫提督「ええ、ありがとう」
…お造りの他にも懐紙を敷いた粋なカゴに、からりと揚がった春菊、レンコン、さつまいものような冬野菜、それに車エビ、太刀魚などの天ぷらが盛り合わせてある……手元には塩だけでなく温かい天つゆの小鉢も置いてあり、それぞれ好きな方で食べられるようになっている…
短髪「はい、どうぞ……ところでこの間は燃料を融通して下さってありがとうございました」
百合姫提督「いいえ、うちの方の割り当て分にまだ余裕があっただけだから」
先任提督「いやいや、あの時は本当に助かったよ。本当なら「横一」である僕の方から佐藤君の鎮守府に融通してあげないといけない所だったんだけどもね、あいにくジャワ島方面までうちの娘たちを動かしている最中だったもんだから……とかく戦艦ってのは燃料を食うしねぇ」
百合姫提督「そうですね」
先任提督「燃料廠にそういって追加を出してもらうとなったら恐ろしく面倒な手続きが必要になるし、最終的には艦隊司令部のお歴々も市ヶ谷に出向いて説明しなきゃいけなくなる所だったから……いやぁ、あれには本当に感謝だよ」
百合姫提督「そんなに感謝されるとかえって気恥ずかしいです……」
短髪「いえ、おかげで大規模対潜掃討も無事に済みましたから……私になにかお返しできる機会があったら何なりとおっしゃって下さい///」
百合姫提督「ええ、ありがとう……///」お酒も回って紅潮した頬をした女性提督から熱い視線を向けられ、はにかんだように答えた……
先任提督「とにかく君が横須賀にいてくれてありがたいよ。さすが井ノ上校長の愛弟子だね♪」
百合姫提督「もう、またそれですか。その話は誰かが広めたまったくの作り話なんですよ……本当に広まって欲しくない話ばかり勝手に広まるんですから///」
短髪「でも、その事なら私も聞いたことがあります。江田島では井ノ上成美(いのうえ・なるみ)校長の愛弟子だったとか……」
百合姫提督「だからそれは誰かが言いふらした噂で……」
後任提督「そうそう、僕も聞いた覚えがあるよ。「横二」の百合野提督は井ノ上校長の愛弟子で「智」の百合野って呼ばれているって」
929 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/06/06(木) 02:25:09.04 ID:uXsLn0Fo0
百合姫提督「ですから……私は山本五十六元帥の遠戚でもありませんし、江田島で特別扱いされたこともありません。漕艇訓練では皆さんと同じように手にマメを作りましたし、チェスト(衣服箱)の中身をひっくり返された事だってあります」
横空司令「まぁまぁ、そうムキにならなくても……それより鍋が来たようですよ」
先任提督「おっ、来たか♪」
後任提督「やっぱり冬は鍋物に限りますね」
若手提督「なに鍋が来るか楽しみです♪」
先任提督「ふふん、今回はアンコウ鍋だぞ……あれは深海魚だから「深海棲艦」を食ってやろうってわけでね♪ さ、遠慮しないで手を出してくれ……司令、そちらにもひとつ」
横空司令「や、これはどうも」
短髪「百合野准将、よそいましょうか?」
百合姫提督「そうですね、せっかくですから……ふー、ふー……」
…ぷるぷると柔らかな皮とほろりとした身、それにクリームのように濃厚な肝が上品な醤油味の汁に溶け込み、旬のみずみずしい白菜や桜に切ったにんじん、豆腐やシイタケなどにも沁みわたっている…
百合姫提督「ふあ…はふっ……おいひい……」
先任提督「うーん、美味い……日本酒と一緒に食うアンコウ鍋は最高だね」
横空司令「アンコウなんて霞ヶ浦空にいたとき以来ですよ……あー、沁みる」
百合姫提督「……よそってあげましょうか?」下手に座っている若手提督の呑水(とんすい)が空になっているのを見て、とりわけ用の菜箸に手を伸ばす……
若手提督「いや、百合野准将によそっていただくだなんてめっそうもない……///」
先任提督「田中君、そう遠慮するな。君だって横鎮の一員なんだからね」
短髪「そうそう。それにあんまり遠慮するのも考え物よ?」
若手提督「は、それでは……///」
先任提督「ははは、そんな緊張しなくても大丈夫だよ♪ 海幕の偉いさんと飯を食っているわけじゃないんだ、酒の方だって気楽に飲って(やって)くれ……そうは言っても付き合い酒だからやりにくいだろうが、私はもうちょっとしたら引き上げるから」
若手提督「あ、いえ……別にそういう意味では……」
先任提督「分かってる分かってる。たんに私が年で、あんまり深酒をすると明日に響くから引き上げるだけさ……そういう点では米内さんは大変な人だよ」
百合姫提督「米内さんというと……海幕の米内・政子(よねうち・まさこ)大将ですか」
先任提督「そう、その米内さんだ。まぁあの人の飲むことといったら、まるでうわばみ(大蛇)か酒呑童子だよ。それでいて顔色ひとつ変えやしないんだから……飲み比べをしかけた若い連中がへべれけになってひっくり返っている中で、平然と飲みつづけていたって言うからね」
百合姫提督「噂には聞いたことがありますが、お酒の席ではご一緒したことがありませんので」
先任提督「周囲は何やかやと言うけれど、器のでっかい立派な人だよ……ただ、性格は井ノ上さんと正反対だな」
百合姫提督「井ノ上校長はストイックな方ですからね」
短髪「ええ。でも課業終わりの静まりかえった海辺でそっとヴァイオリンを弾いている井ノ上校長は素敵でした……」
先任提督「何しろあの人は数学や語学だけじゃなくて楽器も得意だからね、あれでみんなやられるんだ。もっとも、井ノ上さん自身は堅い人だからちっとも浮いた話はないそうだが……ま、米内さんが明るくて豪華な牡丹の花だとすると、井ノ上さんはつつましやかな一人静(ひとりしずか)ってところだね」
百合姫提督「分かります」
先任提督「……ところで百合野君、君の方はどうなんだ?」
百合姫提督「え、私ですか?」
先任提督「ああ。君だって女性士官のファンが一杯いるじゃないか」
百合姫提督「いえ、別にそういうつもりではありませんから……///」
短髪「でも百合野准将の食事会といえば有名ですし、佐鎮の早蕨少佐や館山分遣駆逐隊の市川中佐、それから松本中佐みたいに女性だけしかメンバーに入れないって聞いたことがありますが」
百合姫提督「あ、あれはお互いに仲良しの同期で「連絡を絶やさないようにしよう」ってお茶や食事の機会を設けているだけで……///」
短髪「そうなんですか? 私てっきり……」
百合姫提督「私だって一応は提督です……そんな公私混同はしません」
先任提督「うむ、実にいいことだ。それでいうと提督の中には艦娘たちと安易に「仲良く」なりすぎる者もいるが、私としてはどうかと思うね」
短髪「ごほっ……!」
百合姫提督「……そうですね、肝に銘じておきます」自分から積極的にアプローチしたわけではないとはいえ、思い当たる節は多々あるだけに気まずい……
先任提督「アンコウだけに……かな? ははは♪」
短髪「あは、は……」
百合姫提督「……」
930 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/06/17(月) 03:09:45.41 ID:9+gEnvwy0
…忘年会当日・朝…
足柄「……おはよう、提督」
百合姫提督「ええ、おはよう」
龍田「あらぁ、少し顔色が青いわねぇ……今日はうちの忘年会だけれど、昨日の今日で大丈夫?」
百合姫提督「ええ、昨夜はお酒の量も控え目にしておいたし、解散した後にちゃんと肝臓ドリンクも飲んでおいたから……でもちょっとだけ頭が重い感じ」少し眉をひそめ、こめかみにほっそりした手を当てた……
間宮「酔い覚ましにしじみのおみおつけを用意しておきましたが、よろしければ召し上がりますか?」
百合姫提督「ええ、いただきます……気づかってくれてありがとう、間宮」
間宮「いえ、たまたま市場で安く仕入れてきたものですから」そう言いつつもさりげなく気づかってくれる間宮の心遣いが温かい……
百合姫提督「それではいただきます」
…もう年末ということもあって、少し早いが実質仕事納めの状態になっている鎮守府……そのため、どうしても欠かせない当直や当番を除く全員が揃っていて、百合姫提督のあいさつのが済むとにぎやかな、しかしどこかゆったりした雰囲気の食事が始まった…
青葉「今夜は忘年会ですね、楽しみです♪」
百合姫提督「そういってもらえると方々に予約の電話をかけたかいがあるわ」
…朝食は麦の混じっていない「銀飯」と生卵、脂がのった鮭の塩焼きに、間宮たち給糧艦の娘たちが漬け樽いっぱいに用意し、ほどよく漬かって酸味が出始めている白菜の塩漬け、そして赤味噌を利かせたしじみの味噌汁……長机のあちこちにはほうじ茶のやかんが置かれ、食後のおやつとしてカゴに盛られた温州みかんが積まれている…
鵜来「ずずっ……あー、沁みる……」
百合姫提督「そうね……ふぅ」温かい味噌汁をすすると、脈打つような鈍い頭痛が治まるような気がする……
足柄「朝食が済んだらお風呂に浸かってきたら? そうすればすっきりするんじゃないかしら」
百合姫提督「いえ、軽くとはいえお化粧もしちゃったし、それにさすがに朝からお風呂だなんて贅沢すぎるから……」
足柄「いいじゃない。だいたいタラントのカンピオーニ提督のところなんて、温泉を引いた古代ローマの宮殿みたいな大浴場がいつでも入り放題だったじゃない。アレに比べればうちの浴場なんてささやかなものよ」
百合姫提督「さすがにあれと比較するのは……」カララの大理石や御影石をふんだんにあしらい、ランの花や観葉植物の植え込みまであるタラント第六鎮守府の豪華な大浴場を引き合いに出され、思わず苦笑いする百合姫提督……
龍田「確かにすごい大浴場だったわねぇ、お湯は少しぬるめだったけれど」
足柄「とにかく、今夜の忘年会までに気分を一新しておいてくれればいいのよ」
百合姫提督「頑張ります」
間宮「それではおみおつけのお代わりを召し上がっていただくということで……よそいましょうか?」
百合姫提督「ええ、それじゃあもう一杯……」
………
…
…夕方・横須賀市街の料亭「木乃伊」…
百合姫提督「ちゃんと全員いるかしら」
大淀「はい、全員います」
百合姫提督「なら良かったわ。さすがにこれだけいると、私も把握出来ないことがあるから……」
…陽が落ちるのも早い冬の夕暮れ、ぽつぽつと明かりが灯り始めた横須賀の街……その喧騒から少し外れた一角にある料亭「木乃伊(きのい)」……百合姫提督と「横須賀第二」鎮守府の艦娘たちにとってはお馴染みの料亭で、店先には小ぎれいに整えられた竹藪や石灯籠のある前庭があって、小粋な入口の小さな行灯に「料亭・木乃伊」とある…
仲居さん「いらっしゃいませ、お席はこちらに用意してあります」
長門「提督、では私と一緒に♪」
比叡「いえ、ここはお召し艦である私と……どうぞお手を♪」
金剛「あらぁ、年長者を差し置いて何をしているのかしら。提督は私と一緒に行くわよねぇ♪」
足柄「はいはいはい、いつものお店なんだから案内なんていらないでしょ……さ、行きましょう?」
百合姫提督「あ、ありがとう……」
足柄「いいのよ、いちいちこの調子じゃあ埒があかないわ」
電「……それにしてもここに来るのは夏にやった暑気払いの宴会以来ですね……っとと」
百合姫提督「あいた……っ!」
電「あいたぁ……済みません、提督。お怪我はなかったですか?」
百合姫提督「ええ、大丈夫……」
足柄「はぁ……提督と電ときたら、本当によくぶつかるんだから。今日は隣同士で座らないことね」
931 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/06/24(月) 01:02:09.53 ID:+db1eW/Q0
…大部屋…
大淀「えー……それでは提督、乾杯の音頭をお願いします」
百合姫提督「はい」
…襖を開けて一続きにした畳敷きの大部屋で、床柱を背にした百合姫提督が立ち上がると左から右へと視線を動かしていく……勢揃いしている指揮下の娘たちは屈託のない表情で、それぞれビールグラスや熱燗のお猪口を手にしていて、せっかちな何人かは料理やお酒が待ちきれない様子でいる…
百合姫提督「えー、本当だったらなにか立派な演説をするべきなのかもしれないけれど、私がしなくてもきっと市ヶ谷のエライ人が年末の挨拶で私の分までしてくれるでしょうし……」そう言うとあちこちからくすくす笑いが漏れる……
百合姫提督「……とりあえず私から言いたいことがあるとすれば「みんな今年もよく頑張ってくれました」ということです」
百合姫提督「特に今年は夏の間「交換プログラム」で私が欧州に長期派遣されていた中で留守を預かってよくやってくれて……おかげで無事にプログラムも終え、こうしてみんなと一緒にいることができます。本当に感謝しています」
百合姫提督「……それでは、本年もお疲れさまでした。乾杯」
一同「「乾杯!」」
…席に着くとビールを数口すすって、それから「いただきます」をして箸をとる……卓の中央にはすき焼き鍋、そしてその隣には綺麗に盛り付けられた牛肉と野菜の皿が鎮座していて、その周囲を取り囲むように箸休めの小鉢や一品料理が並んでいる…
足柄「さ、まずは一献」
百合姫提督「ありがとう」
足柄「ところで年末年始はどうするの?」
百合姫提督「三が日は実家に帰って、あとは香取神社か鹿島神宮に参詣しようかと思っているわ」
(※香取神社・鹿島神宮…どちらも武を司る神として知られる)
足柄「いいわね……そろそろ煮えたみたいだし、取ってあげるわ」きれいにサシの入った霜降りの牛肉がほどよく煮えた頃合いを見計らい、菜箸で器によそった……
百合姫提督「ありがとう」
足柄「いいのよ。それに早くしないとあいつらに全部食べられちゃうし……」ちらりと視界を右の方に向けた……
青葉「……うーん、美味しい♪」
夕凪「これは私の分ですからね?」
天龍「分かってるよ、そんなけちくさい真似なんてしないって」
衣笠「そうそう、夕凪の分まで盗らないから」
青葉「きっと信用されていないんですね」
加古「あはははっ♪」
衣笠「もう、全然おかしくないし……!」
足柄「……ほらご覧なさい。あいつらさっきからバクバク口に放り込んでるわよ」
百合姫提督「大丈夫、足りなくなったら追加で頼めばいいから。そう思ってカードも入れてきたし」
足柄「提督も向こう見ずね……冬の賞与が全部消し飛ぶわよ?」
百合姫提督「いいの、せっかくの忘年会だもの……それより足柄も食べないと、お肉が煮えすぎて固くなっちゃうわ」
足柄「おっと、それもそうね」溶き卵に浸けて柔らかい牛肉を口に運ぶ……
足柄「はふ、ふぁ……良い肉ね、これ……」
百合姫提督「ね、さすがに銘柄牛だけあって……葱もそろそろ頃合いだけれど、食べる?」
足柄「ええ、もらうわ……熱っ! この葱のやつ「鉄砲」だったわ」
(※鉄砲…煮えた葱の外側が柔らかく、中がまだしっかりしている状態。噛むと中の部分が飛び出してくる事から。さらに煮えて箸で掴むとたわむようになると「への字」と呼ばれる)
百合姫提督「大丈夫?」
足柄「平気よ、葱鉄砲の一つや二つ……あー、美味しい♪」
百合姫提督「それじゃあ私はちょっとみんなとお話してくるから」
足柄「ええ、でも見計らってちゃんと食べなきゃだめよ?」
百合姫提督「そうするわ♪」
932 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/07/01(月) 01:08:56.29 ID:AHZDqK3E0
百合姫提督「……どう、おいしい?」
鵜来「はい、まるで舌の上でとろけるようで……♪」
第一号海防艦「本当に美味しいです」
百合姫提督「良かった、お腹いっぱい食べてね」
第一号「ありがとうございます」
新南(鵜来型)「……ところで提督の対潜法は面白いですね」
百合姫提督「そう?」
新南「はい、これまではあんなにしつこく反復して攻撃したことなんてなかったので」
三宅(御蔵型)「そうですね、一回の対潜戦で爆雷を四十発も五十発も投射するなんてしたことありませんでした」
百合姫提督「ああ、そのことね……私も対潜学校に行ったわけじゃないけれど、大戦時の帝国海軍は基本的に爆雷の投射数と攻撃回数が少なかったから、多くの米潜が逃げ切ってしまったという記録があって、その資料を反映して私なりに対潜戦のやり方を研究してみたの」
…海防艦たちの側へやってきて終始和やかな笑みを浮かべていた百合姫提督だったが、対潜戦の話になると気付かぬうちに背筋を伸ばして真面目な表情になる……ビールと日本酒の入っている桜色の頬が熱心な説明でさらに赤みを増し、近くにあった空の小鉢や箸を借りて話しているうちに、近くの海防艦や掃海艇、駆潜艇の娘たちも集まりだす…
松輪(択捉型)「それにしても提督の対潜法は独特です。例の「十文字花射法」ですか、数字の8を縦横に重ねたように航行しながら爆雷を投射したり、探信儀や聴音機みたいな水測兵器を多用したり……」
百合姫提督「うーん、あの戦法はあくまでもひとつのやり方にすぎないけれど、あの形なら僚艦が旋回、探知している間も中心に来た一隻が必ず爆雷を投射できるから、それだけ切れ目のない攻撃ができるの。私は対潜戦の心構えを「カメのように忍耐強く、マムシのように執念深く」だと思っているから……」
日振(日振型)「見張投射ばっかりだった当時に比べると全然違いますね、覚えるまでは苦労しました」
百合姫提督「そうかもしれないわ。でも、潜望鏡や雷跡を見かけたら急回頭して突っ込んでいく……この戦術は知られすぎているし、むしろ敵潜の返り討ちに遭うことの方が多かったから、基本的にやらないことにしているの」
第六十七号海防艦(「第一号(丙)」型海防艦)「なるほど」
百合姫提督「あら、いけないいけない……堅い話はこのくらいにして、忘年会なんだからもっとくつろいで? お肉の追加も頼みましょうか?」
竹生(鵜来型)「はい♪」
百合姫提督「ふふ、了解……仲居さんがきたらお願いしておくわ♪」
第三号海防艦(第一号型)「やったぁ♪」
第八号海防艦(「第二号(丁)型」海防艦)「あ、それじゃあこっちも」
第二十一号駆潜艇(「第十三号」型駆潜艇)「提督、私たちもおかわり欲しいです!」
百合姫提督「はいはい♪」
足柄「……まったく「士官とはオレもオレもと言う人種なり」ってやつね」
高雄「同感ですね。それとついでにこちらにも」
足柄「……」
百合姫提督「すみません、それじゃあこっちとむこう……それからあの娘たちにもお肉の追加を。それからお銚子のお代わりと……鵜来は焼酎の方がいいかしら?」
鵜来「はい、薩摩白波のお湯割りで」
百合姫提督「ではそれでお願いします」
仲居さん「はい♪」
…しばらくして…
明石「そーれ、捕まえたぁ……っと♪」
初雪「もう、放して下さいっ!」
吹雪「ひゃあっ、明石ってば! どこを触っているんですかっ……///」
明石「そりゃあ船体に異常がないか隅から隅まで調べないと……お、このバルジはちょうど手のひらに収まる大きさで♪」
百合姫提督「明石、いい加減に放してあげなさい?」
明石「むむ、提督が検査修理を認めないなら仕方ないですね。ほら、放してあげますよー……っと」
間宮「……それでですね、長門ったら普段は帝劇の女優さんのように見えますけれど長州訛りが抜けないものですから、この間もうっかり「であります」だなんて陸さんみたいな話し方を……♪」
長門「間宮、どこからその話を……!」
間宮「ふふっ、どこからでしょうねぇ……♪」
百合姫提督「くすくす……っ♪」
………
…
933 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/07/08(月) 01:40:17.33 ID:s6lOcY020
…さらにしばらくして…
青葉「ほぉら、撮りますよぉ? もっと近づいて、笑って笑って♪」
百合姫提督「はいはい♪」
龍田「青葉はすぐ写真を撮りたがるのよねぇ」
青葉「いいじゃありませんか、いつも上手に撮れているんですから」
利根「おう、確かに毎回いい具合に写ってらぁな……ひっく、どうだもう一杯♪」
天龍「いただきます!」
木曾「私も!」
利根「おっ、さすがに水雷戦隊は威勢がいいや! 気に入った、さぁ飲め飲め!」
…そう言って注いだのは利根川の流れる房総の名酒「仁勇(じんゆう)」で、威勢のいいべらんめえ口調な利根とは似合わないすっきりとした飲み口のいい酒で、勧められた百合姫提督もついついペース良くお猪口を空けてしまっていた…
木曾「はー、美味いっ!」
利根「おう、遠慮せずもう一杯やれ♪ 利根の川風ぇ〜、たもとに入れて……月に棹差す高瀬舟……っと♪」
(※利根の川風…江戸時代にブームになった中国古典「水滸伝」を日本に置き換えて大流行した、読本「天保水滸伝」の台詞。浪曲などでもお馴染み)
百合姫提督「ねぇ、足柄……もう少し、側に寄ってもいいかしら///」
足柄「そ、そりゃあ別に構わないけど……///」
矢風(標的艦)「あーっ、提督と足柄ってば二人でいちゃいちゃしてるぅ♪ 初々しくって可愛いんだ♪」
足柄「あのね、そういうのを余計なお世話って言うの……よ!」二人を茶化してくる矢風に、力加減をした上でポカリと一つ拳固を食らわせる足柄……
矢風「あいたぁ!」
摂津(標的艦)「んもう、矢風はすぐそないなちょっかいを出して……」
矢風「ふぅーん、摂津ってばそういう事を言うんだ……それじゃあ今度、赤城や加賀の練習相手をお願いしちゃおうかなぁ?」
摂津「それはあかんって、うちじゃあ反応がトロい言うてすーぐ好き放題されてまうし……///」
加賀「別に矢風でもそんなにすばしっこくはないですけれど……ね♪」後ろから忍び寄ると、矢風の小さい身体をつかまえて脇腹や足裏をくすぐった……
矢風「ひゃあっ!? あひゃひゃ、くすぐった……あはははっ♪」逃れようと身をよじらせ、脚をばたばたさせる矢風……
百合姫提督「あらまぁ、矢風ったらすぐ捕捉されちゃって……これじゃあ練習にならないわね、加賀?」
加賀「はい、ちっとも苦労しないですね……うりうり♪」
矢風「ひゃあぁっ、そこはダメだってぇ///」
…無礼講の宴席でお酒が回って陽気かつ親しげになると同時に、かなり騒がしくなってきた艦娘たち……肩を組んで戦前・戦後の歌謡曲を歌う娘もいれば旺盛な食欲のおもむくままに飲みかつ食べる娘もいて、中にはすっかり酩酊している娘やうつらうつらしている娘もいる…
百合姫提督「ん……ふわぁ……」
足柄「あら、提督はそろそろおねむかしら?」
百合姫提督「あぁいえ、大丈夫。 お部屋は暖かいしお腹もいっぱいで、少しあくびがでちゃっただけ……」そう言っている間にもあくびがこみ上げ、手の甲で口元を隠した……
足柄「大丈夫じゃなさそうね……飲みたい連中には二次会にでも行ってもらうとして、一旦おつもりにしましょうよ」
百合姫提督「そうね、みんなひとわたり食べたり飲んだりしたみたいだし……そうしてもいい頃合いかしら」
料亭の女将さん「……失礼いたします」
足柄「ほら、ちょうど良いところに女将さんも来たわよ」
百合姫提督「これは女将さん、お忙しいでしょうにわざわざすみません……それに大人数で騒がしくしてしまって……」
女将「いえいえ。こちらこそ鎮守府さんには折々の宴席をうちで設けていただいておりますのに、すっかり挨拶が遅れてしまって」料亭の女将さんはほっそり気味のしっとりした美人さんで、所作も丁寧で着物の襟もきちんと抜けていて、身ごなしの一つ一つが小粋な雰囲気をかもし出している……
百合姫提督「とんでもないです……少し早いかもしれませんが、また来年もよろしくお願いします」
女将「これはご丁寧にありがとう存じます……こちらこそ、今後ともぜひご贔屓に♪」
百合姫提督「騒がしい娘たちですしなにかとご迷惑かと思いますが、もし構わなければまた新年会でも……それと」そろそろおつもりにしますというように小さくうなずいた……
女将「はい、そのように……それではどうか、良いお年を」畳に揃えた指先をつけて丁寧に一礼すると、ふっと大人の色香が漂うような視線を向けた……
百合姫提督「よいお年を///」
………
…
934 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/07/13(土) 01:47:55.33 ID:inAHo1iA0
…夜・横須賀市街…
足柄「うぅ、寒っ……流石に夜風がこたえるわね。提督は寒くない?」
百合姫提督「大丈夫よ、ありがとう♪」
…夜風に吹かれながら歩く百合姫提督たち……どちらかと言えば小柄な百合姫提督は足柄に身体を寄せると、お酒で赤らんだ頬をそっと肩に乗せてにっこりする…
足柄「ならいいけど……帰りにコンビニでも寄っていきましょうか///」
百合姫提督「ええ、せっかくだから甘い物でも買っていきましょう」
利根「それじゃああたしらはここで……せっかく陸に上がったんだから、もう一軒行ってくらぁ♪」
足柄「いいけど飲み過ぎて警察のお世話になったりするんじゃないわよ?」
天龍「任しとけ!」
足柄「……やれやれ、あの暴れ川連中ときたら。よその鎮守府の娘と喧嘩とかしなきゃいいけど」
百合姫提督「そうねぇ、でも年末くらいは羽を伸ばして好きなようにして欲しいし……」
足柄「警察署のトラ箱に入ったり、内務の連中から監察を食らわない程度にならね……コンビニならこっちのほうが早道だったわよね」
百合姫提督「ええ」
…古くからの軍港の街である横須賀、その中でも特ににぎやかな繁華街は「海軍さん」のころから変わらない「鎮守府さん」相手のさまざまな商売で繁盛していて、ネオン輝く夜の街角はしばしの楽しみを求めて財布と欲望をふくらませている艦娘や鎮守府関係者たちを誘蛾灯のように誘っている……そんな繁華街を抜け、近道しようと角を曲がった百合姫提督と足柄だったが、通りの建物はいずれも玄関先に「ご休憩○○時間〜円から」といった値段表を載せ、洋館風の装飾がどこか後ろめたい雰囲気をしたピンクや紫の明かりで彩られている…
足柄「っ、そういえばこのあたりはそういう通りだったわね///」
百合姫提督「言われてみれば……」
足柄「べ……別に私はそういうつもりじゃないわよ///」
百合姫提督「ええ、分かっているから……///」
…立ち並ぶホテルにはときおり連れだって入っていく人たちと、そこに混じってちらほらと艦娘たちの姿も見える……今しも百合姫提督たちの目の前で、冬空の下で寒くないのか心配になるような短いスカートの女性を連れた艦娘がするりと建物へと入っていこうとする…
艦娘「……あれ、もしかして横二の百合野提督ですか?」ホテルへ入ろうとした女性連れの艦娘が百合姫提督に気付き、驚いたような声をあげた……
百合姫提督「っ!」
艦娘「やっぱり! 私、横須賀第三の明石です♪ トラックの時はうちの駆逐艦を曳航して連れてきてもらったのに、お礼もまともにしないで済みませんでした♪」
百合姫提督「いえいえ、お互い持ちつ持たれつですから……」
明石(横三)「とんでもない。「横二」さんにはもうお世話になりっぱなしで♪」
足柄「……こんなところでする話じゃないでしょうが」小声で文句を言う足柄……
明石(横三)「それにしても百合野提督とこんな所で出会うなんて珍しいですねぇ♪ ……そうそう、もし使うならここと向こうのホテルはいい感じですよ♪」
百合姫提督「え、ええ……お気遣いありがとう///」
足柄「ねぇ、お連れのお姉さんが寒そうだし早く入ってあげたら?」
明石(横三)「いけないいけない、すっかり忘れてた……もっとも、今は寒くてもすぐ溶接作業そこのけに暑くなるんですけど♪ ……とにかく良いお年を♪」
百合姫提督「……良いお年を」
足柄「はいはい……ったく、べろんべろんに酔ってたわね……」
百合姫提督「そうね……」
足柄「……ねぇ、提督」
百合姫提督「ん?」
足柄「あー、その……ちょっと歩き疲れちゃったんだけど、どこかで脚を伸ばせないかしら///」
百合姫提督「そう、ね……私も酔いが回ってきたみたいで、ちょっとふらふらするし……どこかホテルでも探しましょうか///」
足柄「わ、分かったわ……どこにする?」
百合姫提督「そうね、それじゃあ向こうのホテルに……///」
………
…
935 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/07/20(土) 01:20:03.31 ID:GWtTM44s0
…ラブホテル…
足柄「……最近のこういうホテルって受付がいないのよね」
百合姫提督「そうね、パネルを押せば良いようになっているから……このお部屋でいい?」
足柄「ええ……いいけど、提督もこういうの案外手慣れているのね」
百合姫提督「そうね、同期の集まりとかで終電を逃したときに入ったりしたこともあったから……///」
足柄「まぁいいわ、とにかく部屋に入りましょうよ」
…客室…
足柄「……あら、意外ときれいじゃない」
百合姫提督「そうね、ちょっとしたホテルよりもずっと豪華な感じ」
足柄「ね? ベッドも大きいし、調度だってしゃれてるわ」小粋なショートブーツを脱ぐとベッドに座り、お酒のせいか少しむくんでいるふくらはぎをさすった……
百合姫提督「ええ……ところで足柄///」
足柄「なに?」
百合姫提督「……その、ちょっと汗を流してこようと思うのだけれど///」
足柄「あ、あぁ……まぁずいぶん飲んで身体も火照っただろうし、良いんじゃないかしら///」
百合姫提督「え、ええ……じゃあ、お先に良いかしら///」
足柄「べ、別にいいわよ?」
百合姫提督「そう、それじゃあお先に……///」
…浴室…
百合姫提督「ふぅ……」
…やたら大きくて飾り立てられた浴室の中、流れるシャワーに身を任せる百合姫提督……乾かすのが大変なので艶やかな長い黒髪はまとめ上げ、お湯がかからないよう気を付けながら背中や胸元を湯に打たせる…
百合姫提督「良く考えたら、今まで足柄とホテルに来ることなんてあまりなかったかもしれないわ……」
百合姫提督「……どうしよう、なんだか恥ずかしくなってきちゃったわ///」自分の身体を見おろし、それから湯気に曇る大きな楕円型の鏡を手のひらで拭うと、ほのかに赤面した自分の顔がじっと見つめかえしている……
百合姫提督「ううん……私から誘ったようなものなんだから、しっかり足柄をリードしてあげなくちゃ」
…寝室…
百合姫提督「で、出たわよ……?」
足柄「そう、じゃあ私もちょっと汗を流してくるわ」
百合姫提督「……明かりをいじってみたりした方がいいのかしら」手持ち無沙汰を紛らわすためにいくつもあるスイッチを押して何がどうなるか試していると、不意に室内用プラネタリウムが点灯して、天井に天の川が投影されはじめた……
百合姫提督「これはこれで綺麗かもしれないわ……」
足柄「出たわよ……って、何これ?」
百合姫提督「それが、電灯をいじっているうちにプラネタリウムのスイッチを入れちゃったみたいなの」
足柄「何やってるのよ……でもまぁ、これはこれでなかなか綺麗じゃない? シャワーを浴びてさっぱりもしたし……///」バスローブ姿の足柄が大きな円形のベッドにひざから乗り、ベッドの上でちょこんと正座している百合姫提督ににじり寄るように近づいてきた……
百合姫提督「足柄……///」
足柄「提督……いえ、今だけは下の名前で呼ばせてもらうわよ。……深雪///」
百合姫提督「あ……///」唇に触れると思った足柄のキスが首筋に走り、足柄の黒髪から漂う甘い椿油の香りが鼻腔をくすぐる……
足柄「外泊届、出してあるわよね?」
百合姫提督「ええ、もしかしたら遅くなるかもしれないと思って……///」
足柄「じゃあ心配することは何もないわね……ん、んっ///」
百合姫提督「あ、足柄……っ///」しなやかでなめらか、それでいで頼もしい足柄の肩にぎゅっと腕を回し、その肌の熱を感じている……
足柄「……深雪、言っておくけど……もう我慢出来ないわよ」バスローブの帯を解いて、小ぶりで形のよい百合姫提督の乳房に指を走らせた……
百合姫提督「ええ……♪」
………
…
936 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/07/29(月) 01:55:10.65 ID:Ujps+46Q0
…翌朝…
百合姫提督「……うぅん、もうこんな時間」
足柄「すぅ、すぅ……」百合姫提督の上になかば覆い被さるようにして寝息を立てている足柄……羽織っていたバスローブはベッドの下に投げ出され、黒漆のように艶やかな髪は白いシーツの上に流れている……
百合姫提督「ねぇ足柄、起きて?」
足柄「う、うぅん……」
百合姫提督「足柄ってば、そろそろ起きないと」
…ゆさゆさと身体を揺さぶるたびにしっとりと昨夜の汗を残した肌が触れ、形の良い足柄の乳房が柔らかく弾む……百合姫提督に揺り起こされて、嫌々ながらも足柄が目を開けると、引かれたカーテンの向こうはまだ曙光も差していないらしくうすぼんやりと暗く、ベッドに備え付けられているデジタル時計は0600時をまわったあたりを示している…
足柄「ん……そんなの延長すればいいじゃない」
百合姫提督「そうも言っていられないでしょう、鎮守府にも戻らないといけないし……」
足柄「大淀あたりにそう言っておけば執務くらい代わりにやってくれるわよ……それよりもう一回♪」
…目が覚めるにつれ、あらためて自分の下で横たわっている百合姫提督への愛欲を感じ始めた足柄……ぐっと百合姫提督をベッドに押しつけると、吸い付くような肌に舌を這わせつつ花芯の方へと二本の指を滑らせる…
百合姫提督「だ、だめよ……いくらなんでも仕事納めの日に私がいないわけにはいかないもの///」恥ずかしげに顔をそむけ「名残惜しそうに」といってもいいくらいの弱々しさで足柄を押しのけようとする……
足柄「もう、仕方ないわね……」昨夜の火照りを残した艶っぽい表情を浮かべ、髪をかき上げながらしぶしぶ身体を起こす……
百合姫提督「ありがとう、足柄……それとチェックアウトの前にシャワーを浴びないと……」なかば乾いた唾液や愛蜜でべたべたになった身体をどうにかしようと、ベッドから脚をおろしてスリッパをつっかけた……
足柄「だったら私も一緒に入るわ。一人で浴びたら水がもったないし、時間もそんなにないんでしょう?」
百合姫提督「……それもそうね」
…浴室…
百合姫提督「ひゃあっ、あんっ……だめぇ……っ♪」
足柄「何がダメなのよ、そんな甘ったるい声を出しておきながら♪」
百合姫提督「だって……もう一回している時間なんてないもの……あふっ、んん……っ///」
足柄「あぁもう、深雪ってばそんな風に身をよじってくれちゃって……もう、最っ……高♪」シャワーの湯気に包まれ、腕の中でもがく百合姫提督をつかまえてしなやかな肌の感触を楽しむ足柄……
百合姫提督「足柄、お願いだから……このままだと本当に遅れちゃう……///」
足柄「……だったらすぐイカせてあげるわよ♪」後ろから抱きとめるようにして腕を伸ばすと、百合姫提督の秘部にするりと右手の中指と薬指を滑り込ませる……
百合姫提督「あ、あっ、あぁぁぁ……っ♪」
…しばらくして…
百合姫提督「もう、早くしないと朝礼に間に合わないわ……足柄があんなふうに「もう一戦」「もう一戦」って止めないから///」
足柄「仕方ないじゃない、深雪があんまりにも可愛いんだもの」
百合姫提督「……そんなの言い訳にならないわ///」恥ずかしげにうつむいた……
足柄「あぁ、もう……! そういう所がたまらないって言ってるの♪」
百合姫提督「こうなったらタクシーをつかまえましょう///」朝帰りをする人たちを乗せようと流しているタクシーに手を振った……
タクシー運転手「おはようございます、どちらまでやりましょう?」
百合姫提督「横須賀第二鎮守府の正門までお願いします」
運転手「ああ、横二さんですか……昨夜も何人か「横二」の女の子が乗りましたけど、同じような年格好の女の子じゃあ考えられないような所で乗ったり降りたりするもんですから、乗せる側としてはちょっとビックリしますよ」朝まだきの空いている道路を走らせながら、苦笑いする運転手……
百合姫提督「ええ、そうですね……」
…しばらくして・鎮守府…
百合姫提督「おはようございます」
一同「「おはようございます」」
百合姫提督「えー、本日で年内の業務は終了となり、明日からは年末年始のお休みとなります。旅行や外出は楽しみでしょうが、くれぐれも体調には気をつけてください……」
…艦娘たちはいずれも神妙な表情で朝礼を聞いていたが何人かはずいぶんと甘い一晩を過ごしていたらしく、寝不足がうかがえる目をしていたり、甘ったるい白粉の残り香を漂わせている…
百合姫提督「……それでは、良いお年を♪」
一同「「良いお年を!」」
………
…
937 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/08/03(土) 02:56:27.41 ID:hMQ0KcoD0
…その日の午後…
足柄「それじゃあ気を付けて帰るのよ」
百合姫提督「ありがとう。足柄たちは旅行だそうね?」
足柄「ええ、姉さんたちと那智勝浦に行こうって予約しておいたの。値段は割高だけど、仕方ないわ」
百合姫提督「そうねぇ、年末年始はどうしても混み合うものね……それじゃあ楽しんできてね?」
妙高「ええ、もちろん♪」
羽黒「はい!」
那智「もちろんです」
足柄「そうするわ」
熊野「私と鈴谷も妙高たちと一緒に行くんですよ」
百合姫提督「那智と言えば熊野権現さまだものね……最上は東北に行くそうだから、お互いにお土産を買ってきてあげたら良いかもしれないわね」
熊野「そうですね。それにしても姉様ときたら、飛び出しかねないくらい張り切っていました……」最上型でも「最上」「三隈」と改修が施された「鈴谷」「熊野」は姉妹ながら、少しぎくしゃくすることもあったりする……
百合姫提督「……お互い仲良くね?」
熊野「それはもちろんです、それに提督は分け隔てのない人ですから」
百合姫提督「そう言ってくれて嬉しいわ、ありがとう」
…濃緑色のマツダ・ロードスターに帰省のためのこまごました荷物を積みながら、休暇に出かける艦娘たちとあいさつを交わす百合姫提督……温泉旅行や名だたる神社への初詣など、年末年始の休暇を有効活用するべく喜びいさんで出かけていく艦娘たち…
百合姫提督「ふぅ……これでよし」
松「……準備が出来たようですね」
竹「気を付けて行ってらっしゃいまし」
梅「よい年の瀬をな。それからこれはわれら姉妹からの手土産じゃ♪」車のダッシュボードに置けるような小さな松飾りを手渡した……
百合姫提督「まぁ、ありがとう……いつ作ったの?」
竹「非直の時間や夜の自由時間を使って作りました、どうぞ良いお年を」
百合姫提督「三人とも、ありがとう♪」
…帰省の道すがら…
百合姫提督「……それにしても、うちの鎮守府は本当に良い娘たちばかりね」
百合姫提督「どの娘もよく馴染んでくれているし、お互いによく助け合って……年始のお休みが明けて鎮守府に戻る時は、お土産でも持って行ってあげようかしら」
百合姫提督「時には横着をしたり困った娘もいるけれど、それだって可愛い程度だし……」
…普段過ごしている鎮守府で運転するものといえば業務車の「日産・AD」バン程度で、帰省を除くとなかなか運転する事のないロードスターの軽やかなレスポンスに新鮮な驚きを覚えつつ、年末の混み合った高速を走らせていく…
百合姫提督「それにしても実家に帰るのも久しぶりね。もしおせちの準備や買い出しが済んでいないようなら手伝わないと……」
………
…
…関東・百合姫提督の実家…
百合姫提督「……ただいま♪」
百合姫提督の母「まぁ、お帰りなさい♪ あなた、深雪が帰ってきましたよ」
百合姫提督の父「お帰り。お休みが取れて良かったね……道路はずいぶん混んでただろう」
百合姫提督「ただいま。そうね、年末だからかせわしない運転の人も多くて、ちょっと疲れちゃった」
…玄関先に飾ってある門松や松飾り、それに物心ついた頃から見なれている干支の置物を見て、あらためて実家に戻ってきた気分になってきた百合姫提督……すでに大掃除は済んでいるらしく、フローリングの床は艶が出ていて、家全体がこざっぱりした雰囲気を漂わせている…
父「だろうね」
母「手を洗ったら着替えてゆっくりしなさいね。それが済んだらお父さんたちにも顔を合わせてあげなさい、きっと喜ぶわ」
百合姫提督「ええ、そうする」
………
…
938 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/08/11(日) 01:17:15.02 ID:navodhGB0
…しばらくして・和室…
母「深雪、お茶を淹れるけれど飲む?」
百合姫提督「うん、ちょうど欲しかったところ」
…和室の掘りこたつに下半身を入れ、背もたれ付きの座椅子でのんびりとくつろいでいる百合姫提督……帰省の途上で着ていたコートやセーター、スラックスは脱ぎ、白地に紅白の椿をあしらった浴衣というスタイルでゆったりと庭を眺めている……こたつの上にはカゴに載せたお煎餅やおかき、味の良い宇和島のミカンがいくつか入っている…
母「よいしょ……はい、どうぞ」
百合姫提督「ありがとう……お父さんは?」
母「お友達とお酒を飲みに行ったわ。もっとも「年の瀬だからあんまり遅くならないようにする」って言っていたわ」
百合姫提督「そうね、それがいいわ」
…視線の先にある庭先の鳥のエサ台には古釘が打ち込んであり、そこに突き刺した痛みかけのリンゴをヒヨドリがついばみ、しゃもじや炊飯釜についていた米粒やパンくずを載せた皿にはスズメやムクドリがむらがっている……時折いらだったヒヨドリが灰色の羽を震わせ、ヒーヒーと甲高い鳴き声をあげてスズメを追い散らし、またリンゴをついばむ…
百合姫提督「あぁ、こうやっていると年末っていう気分になるわ」
母「良かったわ。ずうっと忙しかったものね」
百合姫提督「そうね、今年は盛りだくさんだったから……でもおかげでイタリアにも行けたし、そういう面では楽しかったわ。ところで年末年始の支度は?」
母「もうだいたいは済んでいるわ。大掃除もしたし、あとは買いだしくらいかしらね」
百合姫提督「だったら車を出すから、明日にでも一緒に行かない?」
母「この時期のデパートは混むわよ?」
百合姫提督「早めに行って帰ってくればきっと大丈夫、お買い物のメモはある?」
母「ええ。とは言っても毎年同じだからそんなに悩まないけれど……ちょっと待っててね」台所から長いリストが書き込まれたメモ用紙を持ってくる……
母「足りないものや思いついたものがあったら言ってね……紅白かまぼこ、栗きんとん、かずのこ、伊達巻、田作り、コハダの粟漬け、黒豆、ちょろぎ……」
百合姫提督「お煮しめはいつも通り?」
母「ええ、うちで作るから大丈夫。おもちも知り合いから分けてもらうから……海老、くわいの煮しめ……あと、あなたが帰ってきたからサラミとか洋風のオードブルでも買い足しておきましょうね」
百合姫提督「そうね、毎年何だかんだでつまんでいるし」
母「……と、リストはこんな感じ」
百合姫提督「うん、全部あると思うわ」そう言っていると、お風呂が沸いたことを知らせるメロディと音声が鳴った……
母「お風呂が沸いたみたいだし、入って来たら?」
百合姫提督「それじゃあ先に入らせていただきます」
母「ゆったり浸かっていらっしゃいね」
百合姫提督「はーい♪」
…脱衣所で帯を解き、大人しめな下着を洗濯ネットに入れてから洗濯機に投入する……クリーム色の内装でまとめられた浴室は午後の日差しを受けて照明を点ける必要もないほど明るく、ふたを取ってかけ湯をすると、広い湯船に足先からゆっくりと浸かった…
百合姫提督「はぁ……ぁ♪」ちゃぷん……と胸まで浸ると身体をじんわりと暖かい湯が包み、思わず満足げなため息が出る……
百合姫提督「あぁ……♪」
…そこそこの大きさがあり丁寧に掃除しているとは言え、年季が入っていてどこか潮っ気も感じる鎮守府のお風呂と違い、入れ替えたばかりのさら湯に満たされたピカピカの浴槽で時間も気にせずお湯に浸かっていられる贅沢は帰省している間しか味わえない……艶やかな黒髪ときめ細やかな白い肌を丁寧に洗い流すと、湯船に入り直して心ゆくまで入浴を楽しんだ…
………
…
百合姫提督「お風呂上がりました」
母「どう?家のお風呂は気持ち良かったでしょう」
百合姫提督「ええ、とっても」火照った身体を冷ますべく、冷蔵庫の冷たいほうじ茶で喉をうるおす……
母「もう少ししたらお父さんも帰ってくるって」
百合姫提督「まだ1800時にもなっていないのに……もしかして昼のお酒だから効いたのかしら」
母「かもね……今日は冷えるから温かいけんちん汁と、それから豚の角煮。昨日から煮込んでおいたからすごく柔らかいわよ。良かったら先に食べる?」
百合姫提督「ううん、お父さんが帰ってくるまで待つわ」
母「そう、分かった」
百合姫提督「今日はお父さんがお出かけだから、明日はお父さんに留守番をしてもらって……買い出しの帰りにどこかでご飯でも食べよう?」
母「ふふ、そうね♪」
939 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/08/18(日) 01:41:19.33 ID:5/cfhJWp0
…翌日…
百合姫提督「それじゃあ行ってきます」
母「留守をお願いしますね」
父「ああ、気を付けていっておいで」
百合姫提督「はい」
…百貨店…
百合姫提督「わ……すごい混雑」
母「だから言ったでしょう? 買い物だけなら私一人でもできるし、なにも一緒に来なくても良かったのに……」
百合姫提督「買い物はお母さんだけで出来たとしても、荷物持ちがいれば楽だろうから」
母「それはそうね、大いに期待しているわ」
…実家から車を走らせ小一時間、県下の中核都市にある百貨店の入館待ちの行列に並ぶ百合姫提督と母……店頭には門松や年末年始の営業日を知らせるポスター、福袋商戦の広告でにぎにぎしく飾り立てられ、寒空の下で百貨店の開館を待つ人たちで人いきれがしそうなほどになっている…
店員「お待たせいたしました、開館でございます! どうぞ列の順番にお進みください!」
百合姫提督「良かった、オープンしたみたい」
母「年末年始はデパ地下だけ開店が早いのよ……そろそろ順番ね」
百合姫提督「お買い物のリストはあるし、お母さんが疲れちゃう前に済ませようね」
母「そうね」
…デパ地下…
百合姫提督「えーと、黒豆……黒豆……」金箔が入っていたりいなかったり、はたまたたくさん入っているのや少量サイズなど種類もさまざまなおせち関連の食品……母親に買い物カートを預け、人混みをすり抜けつつリストに並んだ商品を手に取っていく……
母「あった?」
百合姫提督「うん、あんまり大きくないパックでいいでしょ?」
母「そうね、そこまで黒豆ばっかり食べるわけじゃないから……あと、伊達巻きは少し高い方にしましょうか」
百合姫提督「分かった」
…館内の買い物客の数が増えるに従って混雑が増し、それと同時に空気もむっと淀んでいる感じがする……特に太平洋の爽やかな潮風に慣れきっている百合姫提督にとって人いきれの館内はこたえるものがあり、外套のボタンを外してラベンダー色をした薄手のセーターとスラックスの動きやすい姿で歩き回っている…
母「……次は肉類ね。ハムとか鴨のローストとか、いくつかあれば困らないものね。あとおつまみにチーズやサラミも」
百合姫提督「じゃあ向こうのお店ね」輸入食品や瓶詰めなどを扱っているお店に立ち寄り、クラッカーに合わせるレバーパテやコショウをまぶした鴨のロースト、カマンベールチーズ、それに夏のイタリア訪問を思い起こさせるサラミやオリーヴの瓶詰めなどをカゴに入れる……
母「こんなところね……それじゃあお会計をしましょう」
百合姫提督「私が出そうか?」
母「いいのいいの、お祖父ちゃんが「深雪が食べたいだろうから色々買ってやれ」ってお金を出してくれたから」
百合姫提督「もう……育ち盛りの中学生や高校生じゃないんだから……」思わず苦笑いを浮かべる百合姫提督……
………
…中華料理店…
百合姫提督「買いだしお疲れさまでした」
母「ええ、お疲れさま♪」
…烏龍茶のグラスを軽く合わせて、年末年始の「食料調達」で流した汗をねぎらう二人……店頭の年季の入った額に彫り込まれた筆文字にも貫禄のある中華料理店は全国レベルとは言わないまでも県下では有名な老舗で、年の瀬らしい慌ただしさの中にあっても落ち着いた雰囲気をかもしだしている…
店員「お待たせいたしました」上品な白い器に盛られた名物の上海焼きそばと、蒸籠に入って湯気を立てている大ぶりな焼売が卓に並ぶ……
百合姫提督「相変わらず美味しそう……いただきます」
母「いただきます」もう一つの名物であるタンメンを丁寧にすする……途中で注文したものを分け合ったりしつつ、ゆっくり昼食を楽しむ……
百合姫提督「……ふふ」
母「どうかした?」デザートの杏仁豆腐をすくいながら首を傾げた……
百合姫提督「ううん。ただ、こうしているといつも通りの年末みたいな気分だから、なんだかホッとしちゃって……」
母「良かったわね。年末年始はうんとのんびりしなさいよ」
百合姫提督「ええ♪」
940 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/08/27(火) 01:39:38.33 ID:OwjY5jBW0
…翌日…
百合姫提督「……良い気持ち」
母「横須賀では本当に忙しかったみたいね。少しやせたように見えるわ」
百合姫提督「そんなことはないと思うけれど……昨日お風呂の後で体重計に乗ったけれど、ほとんど変わっていなかったから」
母「そう? でも顔が細くなった気がするし、お祖父ちゃんから「もっと食べなさい」って言われるわね」
百合姫提督「もう言われたわ。相変わらず……」
母「ふふ「天ぷらかウナギか、それともすき焼きがいいか」……って?」
百合姫提督「ええ」
…母親と差し向かいでこたつに入り、浴衣にどてらのくつろぎ姿でぼーっとしている百合姫提督……テーブルの天板代わりになっているこたつ板には読みさしの文庫本がしおりを挟んで置いてあり、手の届く位置にはテレビのリモコンや読み終えた新聞、頂き物のクッキーが並べてある……と、居間の壁を飾る数枚の額縁の中に、目新しいものがあることに気がついた…
百合姫提督「あそこにあんな額縁あったかしら……」
母「ああ、あれね♪ 夏の時にあなたがイタリアから絵はがきを送ってくれたでしょう? 素敵だったから飾ってあるの」
…夏の「戦術交換プログラム」でイタリア海軍の公報施設を訪れた際にPX(酒保)で見かけた絵はがきを買い求め、実家に宛てて投函しておいた百合姫提督……絵はがきには紺碧の海に白いを広げ帆走する練習帆船「アメリゴ・ヴェスプッチ」の美しい姿が収められていて、百合姫提督が子供の頃にとった賞状や記念写真、それに風景画の間で明るい地中海の息吹を感じさせる…
百合姫提督「気に入ってくれて良かったわ。練習航海中で実物を見られなかったのは残念だったけれど」
母「まぁ、そのうちに見る機会も出来るわよ」
百合姫提督「そうね」
母「ええ。さぁ、そろそろお煮しめの準備に取りかからないと……!」
百合姫提督「私も手伝うわ」
母「いいのよ、私がやるから座ってなさい♪」
百合姫提督「でもお父さんはお祖父ちゃんのところで大掃除、お母さんはおせちの準備をしているのに私だけ座っているのも……」
母「分かったわ、それならちょっとだけ手伝ってもらおうかしら」
百合姫提督「ええ」
…台所…
母「深雪、お醤油を取ってくれる?」
百合姫提督「はい」
母「ん……このくらいかしら」
百合姫提督「ええ、もうちょっとみりんをいれても良いかもしれないけれど……」
母「じゃあそうしましょうか」
…母娘水入らずで台所に立ち、お煮しめの味付けを決めている二人……百合姫提督は浴衣のままだが袖口が邪魔にならないようたすき掛けにして、小皿で味を見ている…
母「それにしてもますます手際が良くなったわね」
百合姫提督「鎮守府にいると間宮とか伊良湖みたいな料理上手が多いし、手伝うことも結構あって……」
母「結構なことじゃない♪」
百合姫提督「ええ。何しろぬか漬けの漬け方からフランス料理までみっちり仕込まれたから」
母「それじゃあそのうちに作ってもらおうかしら」
百合姫提督「そうね、三が日が過ぎておせちに飽きたらその時にでも」
母「期待しているわね……いけないいけない、もう少し火を落とさないと……」落とし蓋をした雪平鍋ではコトコトと音を立ててお煮しめが煮えている……
百合姫提督「わ、美味しそう」
母「もう……あなたくらいの年頃なら、お煮しめなんかよりもまだまだすき焼きでしょうに♪」
百合姫提督「そうかもしれないけれど、すき焼きは鎮守府でもやったから……まだお肉の脂が残っているような気がするもの」
母「まぁまぁ。同じすき焼きでも、うちで年越し番組を見ながら食べるすき焼きは格別よ?」
百合姫提督「ええ。毎年の恒例行事だし、楽しみにしているわ」
………
…
941 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/09/01(日) 01:37:42.11 ID:AcSYKBjk0
…大晦日…
百合姫提督「白菜は切っておいたわ」
母「ありがとう」
父「食器も並べておいたよ」
母「ありがとう、家事の出来る家族がいると楽が出来て助かるわ」
父「威張って「できる」って言うほどじゃないけどね。それじゃあ父さんたちを呼んでくるよ」
母「お願いするわ」
…普段は敷地内の二軒の家でそれぞれ別に暮している百合姫提督の一家と父親の両親……とはいえ年末年始のすき焼きやおせちを別に用意するのも大変と、この時ばかりは一緒のテーブルを囲んでいる…
百合姫提督「……いい匂い」
母「そうでしょう、あなたが帰ってくるっていうからお父さんも奮発していいお肉を買っていたもの……ほら」
…すき焼き鍋で軽く煮た立たせている割り下が甘塩っぱい匂いを漂わせ、バットや皿にはみずみずしい白菜や人参、しらたきに焼き豆腐、それに斜め切りにした長ねぎが盛り上げてある……百合姫提督の母が包みを開けると、サシの入った牛肉がきちんと折り重ねて入っている…
百合姫提督「こんなにたくさん買ってきたの?」
母「いいのよ、余っても明日以降に食べればいいもの」
父「……いま伝えてきたよ。もう来るってさ」
母「それじゃあそろそろ始める?」
父「そうだね、じゃあカセットコンロを持って行くよ」
…食卓の中央に堂々と鎮座するすき焼き鍋……カセットコンロの青い火が軽く揺らめくたびに鍋からいい香りの湯気が立ちのぼる……と、そこに祖父と祖母が入って来た…
祖父「おお、いい匂いだな!」
祖母「本当にね……いつもご苦労さま。本当なら私たちは別で済ませてしまえばいいのに、わざわざ呼んでくれて」
母「いいえ、せっかくの年末ですから」
祖母「そう言ってくれるからいつも甘えちゃって、申し訳ないわねぇ」
母「まあまあ、それよりどうぞ座ってください……さ、深雪も座って」
祖父「それから乾杯するんだから何か飲みなさい。ジュースがいいか、それともサイダーか!」
百合姫提督「うん、ありがとう……それじゃあジュースにします」いつまでたっても子供扱いの祖父に苦笑いをしながら、リンゴジュースを注いでもらう……
父「みんな準備はいいね? それじゃあ今年もお疲れさま、乾杯♪」
百合姫提督「はい、乾杯」
…百合野家の慣例でテレビは昭和歌謡や演歌の年末特番にチャンネルが合わせてあり、百合姫提督は知らない昭和世代の……しかし今どきのポップスよりもずっとよく知っている名曲の数々が流れている……時折お気に入りの曲が流れると少し視線を向けて一緒に口ずさんでみたり耳を傾けたりしながら、すき焼きに箸を付ける…
祖父「ほら、もっと食べなさい!」
百合姫提督「ありがとう、でもよそったのがまだ残っているから」
祖父「そうか? とにかくしっかり食べるんだぞ!」
百合姫提督「はい」
…家族水入らずの気楽な食卓で柔らかい牛肉に舌鼓を打ちながらも、カセットコンロの熱と暖房で少し暑いくらいの室内に火照りを覚えた百合姫提督……祖父母が寒くない程度に後ろの窓を開けると、すうっと外の寒気が入り込んでくる……冷たいが爽やかな冬の空気が首筋をくすぐると、少しほっとした…
百合姫提督「ふう……」
母「お肉がもう一切れ煮えたけれど、食べる? 白菜もそろそろ食べ頃だけれど」
百合姫提督「ありがとう、それじゃあいただきます」
父「いい肉だろう? 本当はもっとずっと高いんだけれど、少し色が悪いのと、形に不揃いな部分があるからって割安にしてもらったんだ」
百合姫提督「味は全然変わらないのに」
父「でもご贈答用にはならないからね……おかげでいいお肉が食べられるわけだ」
母「そうね」
百合姫提督「ええ……でもいいお肉じゃなくても、うちで食べるすき焼きが一番美味しい」
母「良かったわ♪」
父「父さんたちはそんなに食べないし、遠慮しないで好きなだけ食べていいからね」
………
942 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/09/01(日) 02:02:28.73 ID:AcSYKBjk0
…百合姫提督の年越し風景ですが日本の円満な家族団らんを書きたくなったもので、カンピオーニ家の年末年始に戻るまでもう少し続ける予定です…
…ところで今月はイタリアから軽空母「カヴール」と護衛のフリゲート「アルピーニ」が来航したかと思うと、入れ替わるように世界一周航海中の「アメリゴ・ヴェスプッチ」が日本を訪問するなどイタリア海軍が話題を賑わせていましたね。
幸い予約が取れたので「ヴェスプッチ」の乗船体験をさせていただきましたが、好天に映える磨き上げられた木部とニスの香り、つたない英語やイタリア語で話しかけてもにこやかに応じてくれる、白と紺の制服も凜々しい士官さんや士官候補生の方々や、警備に立ついかついながらも愛想のいい「サン・マルコ」海兵旅団の海兵さんと、とてもいい体験が出来ました。
会場の「東京国際クルーズターミナル」には海軍関係者を始め、外交関係の方やイタリアメディアも来ていて大変に盛り上がっていましたし、やはりこうした交流は国際親善に大いに役立つのだと実感した次第です。
一方、海上自衛隊は不祥事問題での大量処分で抵抗できる状態にないところへ持ってきて降って湧いたような組織改編の話が出てきましたが、どうか荒波に揉まれても良き伝統は残していって欲しいものですね……
943 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/09/08(日) 02:19:36.72 ID:Y1Qs1aVy0
…しばらくして…
百合姫提督「ふぅ……」首筋にうっすらと浮いた汗を手拭いで拭う……
父「お腹いっぱいかい?」
百合姫提督「ううん、まだもう少し入りそう」
父「ならよそってあげよう。お祖父ちゃんたちはもう寝に行っちゃったし、いま煮えているお肉は硬くならないうちに食べちゃおう」
百合姫提督「そうね」
父「よし。それじゃあ母さん、菜箸を取ってくれるかい」
母「はい……あ、少しテレビの音を上げるわね」年末特番の歌番組から、百合姫提督の母が好きな「みずいろの雨」が流れている……
父「ああ。それから深雪、せっかくだしお父さんと一杯飲もう」
百合姫提督「うん、それじゃあ……いただきます」
…冷酒の「八海山」を小ぶりなグラスに注いでもらって口に含むと、きりりとした辛みにすっきりとした水のような飲み口が濃くて甘いすき焼きの味付けと肉の脂でべたついた口中をさあっと洗い流してくれる…
百合姫提督「美味しい……」
父「そうだろう? 「八海山」は燗酒で飲むのもいいけれど、冷やでも美味しいんだ……もうちょっと飲むかい?」
百合姫提督「それじゃあ、もう半分くらい」
父「分かった……っとと、すき焼きが煮詰まってきちゃったな」ぐつぐつと煮えているすき焼きに薄割り下を足して沸き立っているのを落ち着かせる……
母「あ、ごめんなさい」
父「大丈夫だよ」
………
母「いっぱい食べた?」
百合姫提督「ええ、もうお腹いっぱい……」
父「そうか、良かった。たくさん買ったかいがあるよ……それから、このよく煮えた焼き豆腐は明日のお酒のお供にしよう」
母「それじゃあ取っておくわね」
父「ああ……さ、年越しそばまではまだ時間もあるし、片付けを手伝うよ」
百合姫提督「ううん、それは私が」
父「いいんだよ、久しぶりのわが家なんだからゆっくりして」
百合姫提督「でもお父さんとお母さんが動いているのに自分だけ座っていると落ち着かなくって……」
母「それじゃあおせちを詰めるのを手伝ってくれる? それならそう大変でもないし、その間にお皿は私が片付けておくから」
百合姫提督「ええ、分かった」
…普段はしまい込んである黒漆の重箱を広げると、それぞれに色味や順番を考えておせち料理を詰めていく……かまぼこは紅白それぞれが順番に並び、黒豆の上には色鮮やかなちょろぎ……厚手に切った伊達巻きに栗きんとん、そしてお煮しめや田作り、コハダの粟漬けといった、地味ながらないと落ち着かない名脇役たち…
母「そうそう、そんな感じ」
百合姫提督「鎮守府でもおせちは食べるし、いつの間にか覚えちゃった……こっちはいつも通りハム?」漆の重箱の隣に出してある樹脂製の小ぶりな重箱はタッパーのような樹脂の中蓋つきで、おせちの時はハムやチーズ、テリーヌのような洋風のオードブルやチャーシューといった肉類が入る……
母「ええ。あなたの好きな物を好きなだけ詰めていいわよ……もちろんつまみ食いもしていいわ♪」
百合姫提督「いい加減、子供じゃないんだけれど……」
母「まぁそう言わずに♪」
百合姫提督「もう……」苦笑いしながらも、母親が切りだしたチャーシューの端っこをつまんだ……
母「ふふ♪ お蕎麦のお出汁はもう引いてあるし、年越し蕎麦まではゆっくりしていてね」
百合姫提督「はい」
………
…
944 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/09/12(木) 01:07:34.43 ID:K/wwgU6M0
…年の瀬…
父「それじゃあそろそろお蕎麦を茹でようか。お祖父ちゃんたちは座椅子でウトウトしていたけれど、しきたりだから起こしてきたよ……葱でも刻もうか?」
母「私がやるから大丈夫よ。お義父さんたちもお腹いっぱいでしょうけれど、形だけでも食べてもらうとしましょう」
父「そうだね、僕もそんなにはいらないから」
母「そう。深雪、あなたは?」
百合姫提督「私もお腹いっぱいだから少しでいいわ。それとお箸と出汁の徳利は出しておいたから」
母「ええ、ありがとう」
…年末特番もそろそろ大詰めといった頃合いになってきたところで、年越し蕎麦の準備に取りかかる百合姫提督たち……天つゆこそ市販の濃縮つゆで済ませているが、出汁はふわりと香る鰹節と日高昆布で取ってあり、薬味の小皿には刻んだ葱と細切りにした海苔を添え、台所には井筒の型をした蕎麦用のざるも用意してある…
祖父「そろそろ年越し蕎麦の時間だそうだな、いつの間にかうつらうつらしていて気付かなかったぞ!」
祖母「私はそんなに要りませんから、ほんのおしるしだけね」
母「はい……それから熱いのと冷たいの、どちらにします?」
祖父「それならざるで頼むぞ!」
父「父さん、冷たい蕎麦をたぐってお腹が冷えないかい?」
祖父「少しだけにしておくから平気だ!それより深雪の分を先に茹でてやりなさい、こんな遅くまで起きていて小腹が空いたろう!」
百合姫提督「うん、ありがとう」
祖父「お腹が空くのはいいことだぞ!それに育ち盛りが蕎麦だけじゃ足りないだろうから、かき揚げかなにか付けてやりなさい」
百合姫提督「それならさっき色々つまんだりしたから大丈夫」
祖父「そうか?蕎麦だけでいいのか?」
百合姫提督「ええ、大丈夫……お祖母ちゃんは熱いお蕎麦、それとも冷たいお蕎麦?」
祖母「私は温かいのにしますよ」
百合姫提督「はい」
…母が蕎麦を茹でるかたわらで、天つゆを温める百合姫提督……祖父が音量を上げたテレビからは、年末番組のフィナーレを飾る司会のあいさつや華やかな歌手たちのにこやかな表情が映っている…
母「さあ、茹だったわ」もうもうと湯気を立てる蕎麦をざるでしゃくいあげると、さっと冷水で締める……
百合姫提督「それじゃあ私が……お父さんはどうする?」
父「かけ蕎麦にすると手間がかかるだろうから、冷たいのでいいよ。この部屋は暖房も効いているし」
百合姫提督「分かった。お母さんは?」
母「それじゃあ私もざる蕎麦にしようかしら。冷たいのは私が準備するから、お祖母ちゃんの分だけお願いね」
百合姫提督「はい」
…手がかじかむような冷水で締めた蕎麦のうちから祖母の分をつかみ取り、温めたつゆの中でさっと泳がせる……お湯に通して軽く温めておいた丼に蕎麦を盛ると、軽く沸かした熱いつゆをかけてさっと出す…
百合姫提督「お待ちどおさま」
祖母「はい、どうもありがとうね」
父「それじゃあ改めて……良いお年を」
百合姫提督「良いお年を」手を合わせると箸を取り上げ、ざるに形良く盛った蕎麦をすくうと「つつぅ…っ」とたぐる……出汁の利いたつゆの絡んだ冷たい蕎麦が心地よく喉を流れ、ふっと鼻腔に蕎麦の風味と鰹出汁の香ばしい香りが抜ける……
祖父「うむ、美味い!」ざるの蕎麦に軽く七味唐辛子を振って、そば猪口のつゆに半分も浸けず、小気味よくすする……
父「ああ、美味しいね」
…百合姫提督たちがそばをたぐり終えたころ、ちょうど年越しの様子を伝える番組が始まった……アナウンサーは生真面目な声で、悲喜こもごもの一年を振り返りつつ、にぎやかに……あるいはしめやかに年越しを迎えた各地の様子を除夜の鐘とともに伝えていき、時計の針が零時を回った…
アナウンサー「皆さま、明けましておめでとうございます!」
父「はい、明けましておめでとうございます」改まって一礼した……
母「明けましておめでとうございます」
百合姫提督「明けましておめでとうございます」
祖父「うむ、明けましておめでとう!」
祖母「明けましておめでとう……本年も良い年になりますように」
………
945 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/09/18(水) 02:08:23.74 ID:UlD+9rfd0
…元日・明け方…
百合姫提督「お天道様、本年もよろしくお願いいたします……」除夜の鐘を聞いたあとで仮眠を取った百合姫提督は、家のベランダに出て白い息を吐きながら、次第に空を黄色く染めながら昇る初日の出を拝んだ……
父「ふわぁ……早いね、初日の出は見られたかい?」
百合姫提督「うん、とっても綺麗だったわ」
父「良かったね。それと初詣に行く前にもう一度お風呂に浸かって、身体を清めて来た方が良いね」
百合姫提督「はい」
…朝…
母「……準備できた?」
百合姫提督「ええ、大丈夫」
父「そうか、それじゃあそろそろ行こうか……お祖父ちゃんたちは後で行くそうだから、僕たちだけで先に初詣を済ませてこよう。戻ったらお雑煮とおせちを食べようね」
母「そうね。それから深雪、あなたが去年のお札と破魔矢を持って行ってちょうだいね?」
…白地に金糸で縁取られた紅の扇と緑の松という縁起のいい絵柄をあしらった正月小袖に袖を通し、久しぶりの下駄で玄関に出る百合姫提督……本来なら一月の寒い時期とは言え、百合姫提督の実家は温暖な地域にあり、小春日和とでもいいたくなるような優しい日差しが柔らかく降り注いでいる……片手にはお焚き上げに持って行く神社の破魔矢とお札を持ち、手首にひもを通した巾着には財布を始め、こまごましたものが入っている…
百合姫提督「はい」
………
百合姫提督「明けましておめでとうございます」
見知らぬ人「あ、どうも……明けましておめでとうございます」
…神社への道すがら、すれ違う見知らぬ人たちとも出来るだけ「明けましておめでとう」の挨拶か会釈を交わす百合姫提督の一家……元日と言うこともあって車通りも少ない神社への道は初詣に向かう人や初詣から戻る人がちらほらと行き交い、近所の老夫婦や帰省してきたらしい若い家族連れ、友達同士でお詣りに向かう学生など、普段なら接点のない人たちが同じ目的のために歩いている…
…神社…
父「よーし、それじゃあ写真を一枚撮ろうね」
母「はいはい」
百合姫提督「ええ」
氏子のおじさん「おっ、百合野さんとこの若旦那じゃないか……や、明けましておめでとう!」
父「ああ、これはこれは……どうも、明けましておめでとうございます」
おじさん「なんだ、記念写真かい? それならおれが撮ってやるからよ、若旦那も奥さんお嬢さんと一緒に写りなよ」
父「いいですか? 忙しいでしょうにすみません……」
おじさん「いいんだよ、せっかくのお正月なんだからさ……いいかい、撮るよ? そら、笑って笑って!」
父「いや、どうもお手数をおかけしました」
おじさん「なぁに、気にするなって。それより深雪ちゃんも大きくなったねぇ。ついこの間までちっちゃい女の子だとばっかり思っていたのに……しかも今じゃあ提督さんなんだって?」神社の法被を羽織っている氏子のおじさんは早くも一杯きこしめした様子で頬が赤い……
百合姫提督「ええ、一応は……」
おじさん「謙遜するこたぁないよ!小さいころから深雪ちゃんは礼儀正しかったし、おれは「きっと偉い人になる」ってずーっと言ってたんだ!」
百合姫提督「それは、その……ありがとうございます///」
おじさん「おう!境内で甘酒とか御神酒を配ってるから、ぜひ寄って挨拶して行ってくれよ。酒屋のじいさんとか勝ちゃんとか、みんな深雪ちゃんのことを孫みたいに思っていやがるからな、顔出したら喜ぶぜ」
百合姫提督「分かりました、お詣りが済んだら挨拶していきます」
おじさん「あいよ、それじゃあいいお正月をな!」
…境内…
百合姫提督「……」
…お焚き上げをしている氏子のおじさんにお札や破魔矢のお焚き上げをお願いし、それから手水鉢で手を清めて口をすすぎ、賽銭箱にお賽銭を入れると鈴を鳴らし、手を合わせて柏手を打つ……
父「……これでよし」
母「そうね、お焚き上げも済んだし……今年のお札を買わないと」女子高生のアルバイト巫女さんが詰めている社務所で家内安全のお札と破魔矢を買うと「はい、どうもありがとう」と一礼した……
父「それじゃあ甘酒でもいただいてから帰ろうか?」
百合姫提督「うん、そうする」
………
…
946 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/09/28(土) 01:44:46.37 ID:xjfHx3XR0
…しばらくして…
父「それじゃああらためて、明けましておめでとう」朱漆のお屠蘇セットに金箔入りの祝い酒を用意し、めいめいの杯に順番に注ぐ……
祖父「うむ、注いでくれ!」
祖母「私は一口でいいですからね」
父「分かっているよ、母さん……さ、二人も杯を出して」
母「私もほんのお義理でね。深雪はお酒が飲めないわけじゃないんだから、好きに注いでもらいなさい」
百合姫提督「まぁ、でもこれは形のものだから……お父さんのは私が注ぐね?」
父「お、ありがとう……それじゃあ、今年も良い年でありますように」
…金箔の入った祝い酒を干すと、お雑煮の入った椀に手を付ける……すまし汁に鶏肉少々と青菜、白地に「寿」の文字が入ったなるとに角餅、三つ葉の浮いた関東風のお雑煮で、喉を湿しお腹が温まる…
父「父さん、母さん、喉に詰まらせないように気を付けて食べてよ?」
祖父「言われんでも分かってる! それからな、深雪は伊達巻きが好きだったろう。わしの分はいらないからその分取ってやりなさい!」
父「大丈夫だよ、たくさんあるんだから」
祖父「そうか? ああ、それとな……ほれ、これで好きなものでも買いなさい!」のしが付いていて「お年玉」と書かれているポチ袋を押しつけるように渡す……
百合姫提督「いい加減お年玉をもらうような年でもないんだけれど……」
父「まあまあ。父さんにしてみればいつまでたっても可愛い孫娘なんだから「ありがとう」って言ってもらっておくといいよ」
祖父「あー、あとはどこだったかな……おお、あったあった。ほれ、お前にもやるから!」百合姫提督の父にもポチ袋を握らせる……
父「父さん、僕だってもうもらう年じゃないよ?」
祖父「いいからもらいなさい。それから……と、ほれ!」百合姫提督の母にもお年玉を渡す……
母「……私までもらっちゃっていいの?」
祖母「いいのよ。いつも本当に良くしてくれて、この人も「本当にいいお嫁さんが来てくれた」ってずうっと言っているくらいなんだから」
母「いえ、そんな……///」
父「まあ、父さんはあげるのが好きだしもらっておこうよ……ありがとね、父さん」
祖父「なに、気にするな!」
祖母「それじゃあおせちをいただこうかしら?」
百合姫提督「それじゃあ私が取ってあげるから……なにがいい、お祖母ちゃん?」
祖母「そうね、それじゃあまんべんなく一口ずつ……あ、でも田作りは固くて歯ぐきに刺さるから、ほんの少しにしてもらおうかしら」
百合姫提督「はい」
…祖母におせちを取ってあげている間に、母が自分の祝い皿におせちを盛り合わせる……伊達巻、きんとん、ニシンの昆布巻き、黒豆とちょろぎ、それに紅白のかまぼこ…
百合姫提督「……いただきます」子供の頃はそこまで好きでもなかったおせち料理だが、ある程度「大人になった」という事なのか、祝い箸で口に運ぶと、意外と奥深い味付けや素材の良さに気付かされる……
百合姫提督「あ、美味しい……」
…艶々とした黒豆はしっとりと甘く煮えていて、かまぼこもグチを使ったいい品物らしく味わいや歯ごたえが段違いに良い……ふんわりした伊達巻は子供にとっては面白くないおせち料理の中にあって珍しい人気者であるが、こうして口に入れるとただ甘いだけでなく、すり身の味の深さが活かされていることに気付く…
母「それからこれも取ってあげるわね……はい♪」
百合姫提督「うん、ありがとう」酢だこや松前漬けなどの縁起物をひとわたり食べると、今度は焼豚や鴨の燻製といった献立が収まっているお重のふたをとった……
父「もう一切れ取ってあげようか」
母「こっちの鴨を食べる?」
祖父「ああ、その焼豚な、深雪にもう何枚か取ってあげなさい。わしはそっちのニシン巻きを食べるから」
祖母「松前漬けはスルメが固くってどうも……黒豆をもう少しもらうことにしましょう」
…居間の棚に設けられたスペースに敷かれている赤毛氈と、その上に鎮座している干支の置物や飾り羽子板、テレビ台の前に置かれた鏡餅が正月を彩り、少し弱々しいが新年をことほぐお日様が優しく食膳を照らす……ゆるゆると食べたいものをつつきながら日本酒や梅酒を飲んでいると、門の郵便受けでカタンと音がして、郵便局のバイクが走って行く音がした…
母「あら、年賀状が届いたみたいね」
百合姫提督「それじゃあ私が取ってくるわ」正月小袖で卓上を払ったり汚したりしないよう気を付けて椅子を引くと、年の初めにふさわしい清らかな空気を味わいつつ年賀状を取りに出た……
……
…
947 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/10/04(金) 02:21:42.22 ID:xUvHH0un0
百合姫提督「はい、年賀状」
父「それじゃあついでにより分けてくれるかい?」
百合姫提督「分かった……えーと、まずはお父さん宛、これはお母さんの、次が私の……」
…机の端にスペースを作ると太いゴムバンドで束ねられている年賀状の束をほどき、カードの手札を配るようにより分けていく……郵便局からのご挨拶や広告を別にして分けながら、差出人を確かめていく百合姫提督とその家族…
百合姫提督「えーと、次はお父さん宛で……高田さんという人から」
父「あー、タカちゃんか……相変わらず元気にしているみたいだなぁ」
百合姫提督「……次は高崎……下の名前が「たけお」さん?」
父「うわ、武雄さんか……最近ご無沙汰だったから出してないよ」
百合姫提督「次はお母さん、島村さんから」
母「ああ、桜さんね♪」
…積み上がっている年賀状は達筆な筆文字のもの、近況報告の写真を印刷したもの、白地の年賀状にあり合わせのペンで「明けましておめでとう」だけの気楽なものなどさまざまで、差出人の名前も普段から親しい人や近ごろは疎遠になっている人、懐かしく思う人や「どうせ送ってこない」とたかをくくって出さずにいたのに唐突に年賀状を送ってきて慌てさせる人など、こちらも十人十色といった趣がある…
百合姫提督「さてと、私には誰から届いているかしら……ちゃんとお返事を出さないといけないし……」艦娘たちを預かる鎮守府司令官の准将ともなれば、公私問わずさまざまな相手から年賀状が送られてくる……百合姫提督は食卓のテーブルから隣の和室に場所を移し、改めて年賀状を読み始めた……
百合姫提督「……えーと、由紀にはもう出してある……美保にも出した……」
…公務上の付き合いで礼を欠かすことの出来ない相手と、百合姫提督が親しくしている友人・知人たちはリストアップしてあり、届いた年賀状と見比べて確認していく……差出人は海自の知り合いをはじめ、市ヶ谷のお役人のような「エライ人」、そして懐かしい学生時代の友人たち……たいていは都合が合わずに会う機会がめっきり減ってしまったが、中には帰省のたびに顔を合わせ、旧交を温めている親友や可愛がってくれる先輩、慕ってくれる後輩もいる…
百合姫提督「ふふ、春子ったら相変わらず元気いっぱいね……悠も相変わらずのようだし……」
百合姫提督「みんな元気そうで良かった。それじゃあ今度は国際郵便を確認しないと……」
…知り合いたちの近況を読んで微笑ましい気分になっていた百合姫提督だったが、何通か交じっている国際郵便を確認することにした……外国海軍の来訪やレセプションで親しくなった海軍士官の中には、手間はかかるが趣があると手紙を送ってくれる人もいる…
百合姫提督「アメリカのミッチャー提督……わざわざ手紙を送ってくれるなんて、マメな人なのね」
…基地のPXで買ったと思われる新年おめでとうの絵はがきには「ビッグE」こと空母エンタープライズが白波を蹴立てている堂々とした姿が印刷されていて、そこに黒いマジックペンで「A HAPPY NEW YEAR!」と書いてある…
百合姫提督「効率的なミッチャー提督のことだから、てっきり電子メールで送ってくるとばかり思っていたわ……お返事は「富嶽三十六景」の絵はがきにでもしたら喜んでもらえるかしら……」
百合姫提督「それからこれは、フランスのエクレール提督ね……」
…オディロン・ルドンの名画「グラン・ブーケ」をあしらった絵はがきに、筆致も美しい花文字でフランス語の新年のあいさつがつづられている……近づけるとふっとニナリッチの名高い香水「レール・デュ・タン」が香るところも万事フランス流にこだわり、パリジェンヌを気取っているエクレール提督らしい…
百合姫提督「やっぱりエクレール提督の人柄が出ている感じがするわ……♪」
百合姫提督「それから次は……あ、フランチェスカからだわ……///」提督からの絵はがきを手に取ると、少し頬を赤らめつつ文面に目を通す……
…提督からの絵はがきは抜けるように青いイオニア海と白い砂浜を写した風景写真のもので、そこに練習を重ねたらしい「あけましておめでとうございます」のひらがながつづられている……字そのものは丁寧で柔らかい感じだが、慣れない平仮名には苦戦したようで「あけましてお『ぬ』でとうございます」と書いてあるようにも見える…
百合姫提督「フランチェスカったら平仮名を教えてあげたのに、また「め」と「ぬ」があいまいになって……♪」
百合姫提督「あ、下にも何か書いてある……」大きめに書かれた平仮名の下にはイタリア語に英語を添えた文章がつづってある……
百合姫提督「……えーと「ごくありふれたイオニア海の写真だけれど、私にとっては姫と過ごした特別な場所。今年が貴女にとって良い年でありますよう……愛を込めて。フランチェスカ」って……///」
百合姫提督「も、もう……フランチェスカったら///」
………
…
…さかのぼって・年の瀬のイタリアにて…
提督「……おはよう、お母さま♪」
クラウディア「ええ、おはよう……ちゅっ♪」
シルヴィア「おはよう」
提督「おはよう、シルヴィアおばさま……それにしても早いものね、もう何日もしないうちに新年が来るなんて」
クラウディア「そうね、シルヴィアが隣にいると毎日が幸せだから一年があっという間♪」
シルヴィア「私もよ、クラウディア」
クラウディア「まぁ、嬉しい♪」
提督「朝からごちそうさま……ところで年始だけれど、私はアンナに色々と付き合わされることになるかもしれないわ」
クラウディア「ふふ……いいわよ、お泊まりでもなんでもしていらっしゃい♪」
シルヴィア「そうね。フランカも子供じゃないんだから、どこまでしていいかはわきまえているでしょう」
提督「私がわきまえていてもアンナがわきまえているかは怪しいところね……」
948 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/10/19(土) 02:34:56.23 ID:XBVmBDIo0
クラウディア「まぁまぁ、ふふっ……ところでフランカ、少し頼まれ事をしてくれないかしら?」
提督「どうしたの、お母さま?」
クラウディア「ええ、ちょっとルチアーノさんのカフェに行ってコーヒー豆を買ってきてくれないかしら? 買っておいた分がそろそろおしまいになりそうなのに気付かなくって……年末年始は店もお休みでしょうし、今のうちに買っておかないと」
提督「いいわよ。どうせ暇だし、ついでにコーヒーでも飲んでくるわ」
クラウディア「そうね、それならお菓子も食べていらっしゃい♪」
提督「ええ、それじゃあ行ってきます」軽いクリーム色のセーターと履き心地の良い茶色のズボン、脱ぎ履きのしやすいスエード生地のスリッポンと気軽な格好で家を出た……
…小さな町…
提督「チャオ、ルチアーノおじさん」
カフェのマスター「フランカ!戻って来たっていうのに顔を出してくれないから、てっきりミラノ辺りの生意気なカフェにあてられてうちみたいな田舎のカフェはゴメンだってお高くとまっているのかと思ったよ!」
提督「まさか。ミラノやローマでカフェなんて入ったらあまりの値段に目が回るわ……カフェ・コレットを甘めに。それからコーヒー豆をひと袋」
マスター「はいよ。それにしてもずいぶん大人になって……ついこの間までカスティリオーネさんとこのお嬢様と手をつないでいたあのお嬢ちゃんがね……」
提督「もう、おじさんったら何年も前の事を……」提督は苦笑いしつつ、運ばれてきた甘く熱いコーヒーを口に含んだ……
提督「……相変わらず美味しいわ」
マスター「そりゃあそうさ。こんな顔馴染みだらけの小さい町で少しでもマズいコーヒーなんて出してみろ。あっという間に評判が広まって客が来なくなっちまう……ヘタな都会よりも気が抜けないよ」
提督「そのセリフも相変わらずね。おばさんは元気?」
マスター「買い物に行ったきり帰ってきやしないよ。どうせ八百屋のばあさんとくっちゃべってるんだろうさ……年の瀬だからとっとと売りだめの勘定を済ませたいっていうのに」
提督「それじゃあおばさんを見かけたらそう言っておくわ」
マスター「ああ、もし見かけたら「ロバみたいにちんたらしてるな」って伝えておいてくれ……それじゃあ、どうぞごゆっくり♪」
…年の瀬の冷たいがすっきりした風に髪をなぶらせながら甘く濃いコーヒーとカンノーリを楽しんでいると、知り合いと言うほどでもないが顔を知っている地元の女の子が近寄ってきた……その女の子は夏期休暇の時にもちらっと見かけたが、その時に比べると半年あまりでずいぶん成長しているように見える…
女の子「……チャオ、お姉さん」
提督「チャオ、クリスマスおめでとう。どうかした?」
女の子「ええ、ちょっと相談したいことがあって……ここ、座ってもいい?」
提督「どうぞ」
女の子「ありがと」
提督「良かったら一ついかが?」菓子皿のカンノーリをすすめる……
女の子「ありがと、いただくわ」
提督「……それで、私に相談事ってなにかしら?」女の子が話しやすくなるよう頬杖をつき、姿勢を下げて目線を合わせる……
女の子「うん……あのね、お姉さんがカスティリオーネのお姉さんと婚約しているって聞いたから相談したいんだけど……」
提督「けほっ……!」思わずカンノーリのかけらでむせた……
女の子「違うの? うちのお母さんがそう言ってたから……」
提督「そう、ね……婚約とまではいかないけれど、幼馴染みの仲良しではあると思うわ……それで?」
女の子「……あのね、女の人どうしで好きになるってどういうことか教えて欲しくて///」
提督「誰か気になる人がいるのね?」
女の子「うん///」
提督「なるほど……その子とは仲が良いの?」
女の子「と、思う……この間、キスされたし///」
提督「ほっぺに?」
女の子「ううん……唇だった///」
提督「そう、なるほど……」ごくりとコーヒーを飲むと、カップを置いて視線を合わせた……
提督「キスされて気持ち良かったのなら……あるいは少なくとも嫌じゃないのなら「その子のことが好き」でいいと思うわ」
女の子「……お姉さんも気持ち良かった?」
提督「そうね。少なくとも今までずっとアンナと「仲良し」でいるくらいには……ね♪」そう言うと唇に指を当て「この事は他の人には秘密よ?」と共犯者めいたウィンクを投げた……
949 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/11/03(日) 01:59:34.25 ID:BGHiRYGp0
…帰宅後…
提督「ということがあって……」
クラウディア「あら、そんな大事なことを私たちに話しちゃっていいものかしら?」
提督「もちろん了承を得ているわ「私のお母さまとおばさまにも話してみていいかしら?」って。なんでもベルリーニさんの娘なんだって言っていたけれど、お母さまたちは知っている?」
シルヴィア「ああ、ベルリーニのね……なるほど」
クラウディア「あぁ、あの子ね……ええ、顔は知っているわ」
提督「まるで知らない訳じゃないみたいだけれど、何かあったの? 私とアンナのことも多少知っているようだったし……いくら小さな町だからって、私との関係を知っている人間はそういないと思うのだけれど……」
シルヴィア「確かに」
提督「それじゃあどういうわけで、いままで話したこともないような女の子までが私のことを知っているの? 別に隠し立てするようなことじゃないとは言え、アンナとの付き合いがゴシップ記事みたいな扱いになるのは嫌だわ」
クラウディア「えーと、ね……そのことだけれど、多分アンナちゃんからだと思うわ」
提督「どういうこと?」
シルヴィア「ベルリーニの家はカネッリのお隣でおかみさん同士はよくおしゃべりしているけれど、そのカネッリのおかみさんがカスティリオーネ家の家政婦として雇われているからね……おおかたアンナの両親がしゃべっているのを小耳に挟んだんでしょう」
クラウディア「あるいはフランカが煮え切らないものだから、アンナちゃんが広めて回っているのかもしれないわよ?」
提督「アンナに限ってそれはないわね。色々と欠点はあるけれど、二人の思い出をよその人にしゃべって回るような事はしないわ」
シルヴィア「信頼しているのね」
提督「ええ。許嫁どうこうはさておき、一番の幼馴染みであることは揺らがないわ」
クラウディア「もう、フランカったら……そこまで信頼しているならアンナちゃんと結婚すればいいじゃない。向こうもやきもきしているし、私だって二人のためにウェディングドレスを仕立ててあげたいんだから♪」
提督「勘弁してほしいわ……アンナと一緒にいたら一日中ずっと引きずり回されて、休む暇もなくなっちゃう」苦笑いをしながら肩をすくめた……
シルヴィア「ま、帰省のたびに結婚だの縁談だのの話をするなんていうのは年寄りの田舎者がすることだし、もうやめにするわ」
提督「そうしてくれると助かるわ。あんまりその話題ばかりだと、せっかくの夕食が喉を通らなくなっちゃうもの」
クラウディア「そうね、せっかく作ったご馳走なんだもの。残さず食べてもらいたいわ?」
シルヴィア「残して年越しの時に食べたっていいじゃない」
クラウディア「年越しの時はまたご馳走を作るもの、残り物で済ませたりはしないわよ」
シルヴィア「フランカ、これは服がきつくなる心配をしておいた方が良さそうね」
提督「同感」
…夕食後…
シルヴィア「ふー、案の定だったわね……お腹がはち切れそう」
提督「同じく……」
クラウディア「いっぱい食べてくれて嬉しいわ♪ ドルチェはもう少し後にしましょうね」
シルヴィア「それがいいわ……それにしても、あと二日もしないうちに新年ね」
提督「そうね、何だかんだで今年もいい年だったわ」
クラウディア「私はシルヴィアと結婚してから毎年ずうっと良い年を過ごしているわ♪」
シルヴィア「私もよ」
提督「ふふ、このやり取りも例年通りね♪」
シルヴィア「言わなくても伝わるけれど、言った方がもっと伝わるもの」
クラウディア「そういうこと♪」
提督「ふふ、お母さまたちらしいわ♪」
シルヴィア「そうね」
クラウディア「ええ♪」テーブル越しにお互いの指を絡め合って、見つめ合う二人……
提督「私は邪魔になりそうだから、しばらくお暇させてもらうわ……ドルチェを出す時になったら教えてね?」
クラウディア「ええ、そうするわ……♪」
950 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/11/06(水) 01:30:36.66 ID:Y0eQgh+Q0
…大晦日…
シルヴィア「……何か手伝いましょうか?」
クラウディア「ノン・ファ・ニエンテ(いいのよ)、座っていて? 笑顔で私の料理を「美味しい」って食べてくれればそれで十分♪」
提督「お母さまの料理が美味しくなかった事なんてないわ」
クラウディア「まぁ、嬉しい♪ フランカの分は多めにしておいてあげるわね♪」
…エプロン姿で楽しげに台所を行き来するクラウディア……庭はすっかり冬枯れの様子で、数本の常緑樹が緑を残している以外はすっかり黄色っぽい土と枯れ草ばかりだが、暖炉で踊る火も楽しげなカンピオーニ家の食卓は色とりどりの野菜を使った前菜や、一月六日の「公現祭」まで飾られているクリスマスツリーの飾りで華やかに彩られている…
シルヴィア「それじゃあその間にワインでも取ってこようかしらね」
提督「私が行きましょうか?」
シルヴィア「フランカはいいのよ。その代わりにクラウディアが手伝って欲しいって言ったらよろしくね」
提督「ええ」
…そう言い置いて立ち上がり、家の奥にある小さな貯蔵室にしまってあるワインを取りに行ったシルヴィア……普段はあまり化粧っ気がないが、今日は指の結婚指輪に加えて、クラウディアとお揃いのネックレスを首にかけている…
クラウディア「さぁ、出来たわ……シルヴィアは?」
提督「ワインを取りに行ったわ」
クラウディア「それじゃあ戻るまで待ちましょう」
シルヴィア「待たなくてもいいわ……♪」ワインの瓶を片手に後ろから忍び寄るよると、首筋にキスをした……
クラウディア「あん……っ///」
シルヴィア「それじゃあ乾杯しましょう」白地に文字だけがあしらわれた地味なラベルのワインを机に置くと、コルクを抜いて染みこんだ香りを確かめ、それからグラスに注ぐ……
クラウディア「今日のワインは?」
シルヴィア「せっかくの年越しだから、記念のワインから一本開けたわ」
提督「いいの、おばさま?」
シルヴィア「ええ。お互い百歳まで生きても良いように、新婚の時にいいワインをあれこれ買いだめしたから……もし私とクラウディアで飲みきれなかったらフランカが相続してちょうだい。その頃にはヴィンテージものになっているでしょうし、お金に換えたって良いわ」そう言って提督に見せたラベルにはクラウディアとシルヴィアが結婚した年が書かれている……
クラウディア「もう、せっかくの年の瀬なのにムードがないんだから」
シルヴィア「悪かったわ……さ、機嫌を直して乾杯しましょう」
クラウディア「ええ♪」
シルヴィア「それじゃあ、来年も良い年になりますように……愛しているわ、クラウディア」
クラウディア「私もよ……ずっと貴女が好き♪」
提督「これからも末永くお幸せに」
クラウディア「ええ、ありがとう♪」
シルヴィア「フランカもね……乾杯♪」
提督「ええ」クルミや樫の樽のような風味を持った濃い赤ワインは食前酒にするには少し風味が強いが、じっくりと味わうにふさわしい良いワインだった……
クラウディア「さ、お料理が冷めちゃうわ……よそってあげるから、どうぞ召し上がれ♪」
…クリスマスと違って年越しにそこまでの重きを置かないイタリアとはいえ、やはりカレンダーが改まるというのは祝う価値がある……クラウディアもクリスマス料理と違って、肩の凝らない……しかしカンピオーニ家の味として受け継いできた料理をぎっしりと並べている…
提督「相変わらず美味しい……それにしてもここ数日ご馳走ずくめなのに、お母さまってばよく献立が続くわね」
クラウディア「ふふっ、私だって勉強しているのよ? 我が家に代々続く秘伝のレシピだけじゃなくて、旅先で食べた美味しい料理を再現してみたり」
シルヴィア「おかげで体重が増えること増えること……」
クラウディア「あら、それじゃあ決まり切った献立にしましょうか?」
シルヴィア「それは勘弁ね……もっとも、クラウディアがいるなら固くなったパンと水だけでもいいわ」
クラウディア「もう、シルヴィアったらお上手なんだから……ひゃんっ///」
提督「この調子なら新年も相変わらずの一年になりそうね」
シルヴィア「それでいいのよ……さ、新年に乾杯」
クラウディア「ええ、乾杯♪」
提督「乾杯♪」
951 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/11/15(金) 01:27:19.40 ID:MKgHJg860
…新年・朝…
提督「新年おめでとう、お母さま、おばさま♪」
クラウディア「ええ、新年おめでとう♪」
シルヴィア「新年おめでとう……フランカも一杯いかが?」
提督「おばさまったら、朝からスプマンテ?」
シルヴィア「せっかくの新年だもの、いつもとは違うことをしようと思ってね」
クラウディア「シルヴィアったら朝からお風呂に入って、スプマンテを開けてごきげんなの…///」そう言って手のひらを上に向けているクラウディアの首筋には吸い付かれたような桃色の痕が残っている……
提督「いつも通りなのはお母さまとえっちしたことくらいね」
シルヴィア「まぁね……朝日を浴びながらクラウディアを抱くのは格別だったわ」
クラウディア「もう、シルヴィアったら……♪」
提督「新年早々ごちそうさま……お母さまたちがこの調子じゃあ、私も一杯もらわないとやっていられそうにないわ」グラスを出して飲み口の良いスプマンテ「モスカート・ダスティ」を注ぐ……
シルヴィア「こうやって朝日に透かすと綺麗でしょう?」
提督「そうね。明けの海原に潮風、森のざわめきに金色に抜けるような朝焼け、グラスにはひんやりしたモスカート・ダスティ……ぜいたくの極みね」
クラウディア「それから私たちのキスも付けてあげる♪」ちゅっ♪
シルヴィア「私たちの可愛いフランカに……♪」ちゅ……♪
提督「それじゃあ私からも……♪」ちゅ……っ♪
クラウディア「ふふ、ありがとう……フランカもアンナちゃんといずれこういうやり取りをするようになるのね♪」
提督「ちょっと、お母さま……!」
クラウディア「あら、でも年の瀬にアンナちゃんのお家へ出かけたときはまんざらでもなさそうだったわよ?」
提督「べ、別にそこまでじゃないわ……アンナとは幼馴染みだけれど、いつも私の事を振り回すし……///」そう言いながらも、アンナと過ごした年末を思い出して頬を赤らめた……
…数日前…
提督「……チャオ、アンナ」
アンナ「おはよう、フランカ……さ、乗って♪」銀色のマセラッティ3500GTでカンピオーニ家の門の前までやってきたアンナ……その目はサングラスで隠れているが、濃いさくらんぼ色のルージュを引いた唇は口角があがっていて、少しえくぼも出来ている……
提督「ええ」
…提督はクリーム色のメルトンのコートに、長身に映えるヴィヴィッドな色合いのローズピンクのリブ編みセーター、キャラメル色のフレアスカートに黒のストッキング、頭には少しフェミニンな要素を狙いすぎた感があるように思えたが、白ウサギのようにふわふわしたバスコ(ベレー帽)をかぶり、黒革のニーハイブーツで足元を固め、手にはハンドバッグを持っている……軽く吹いてきた「サンタ・マリア・ノヴェッラ」の甘く華やかなバラの香水は、提督の気に入っている香りで、身じろぎするたびにふっとかすかに立ちのぼる…
アンナ「フランカったら良く似合ってるわ、私のためにお洒落してくれたのね?」
提督「えぇ、まぁ……そういうアンナだってとっても綺麗よ♪」
アンナ「そりゃあせっかく許嫁と過ごせるんだもの、ぼろを着てくるわけには行かないわ……ん♪」
…そう言って両手で提督の頬を挟みこむと、身体を寄せて唇を重ねるアンナ……熱っぽいキスにふさわしいプラダの香水が鼻腔を満たし、甘いバニラとムスクの香りで頭がくらくらするような気がした…
提督「ち、ちょっと……うちの門の前でなんて、いくらなんでもせっかちすぎるわ……///」
アンナ「このくらい挨拶みたいなものよ……だいたいろくに会う機会も作らないで私の事を焦らしているのは貴女なんだから……んふっ、んぅ……っ♪」
提督「んぅぅ、ん……♪」
アンナ「ぷは……はぁ、はぁ……はぁ……っ///」自分から唇を重ねておきながら、提督にキスを返されただけで肩で息をしている……
提督「こういうのも久しぶりね……アンナ♪」
アンナ「え、ええ……言っておくけれど、今日はずうっと私のわがままに付き合ってもらうわよ?」
提督「……はたして身が持つかしら?」
アンナ「そんなことを言って、情けないわね」
提督「ふふっ♪ 私が、じゃなくて……貴女が、よ?」ちゅ……っ♪
アンナ「んっ……もう、いいから車を出すわよ/// 早くしないと一日が終わっちゃう」照れ隠しのようにアクセルを踏み込み、土ぼこりを後ろに引きながらマセラッティを加速させた……
952 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/11/22(金) 01:42:37.68 ID:n8ZJszdU0
提督「それで、今日はどんな風にエスコートしてくれるのかしら?」
アンナ「エスコートもなにも、うちに来てもらうだけよ。ミラノやローマならまだしも、この辺りに気の利いた店なんてないじゃない」
提督「あら、せっかくの帰省だっていうのにずいぶんな言い方ね?」
アンナ「言いたくもなるわよ。こうしてたまに戻ってみても、十年一日のごとしでなーんにも変わっちゃいないんだもの」
提督「私からすると、その変わらないのが嬉しいのだけれど……もっとも、アンナなら変わっていてもそれはそれで素敵よ♪」
アンナ「もう、相変わらず口が上手いんだから……」
提督「事実だもの」
アンナ「まったく……///」
…カスティリオーネ家…
アンナ「……さ、入って?」
提督「今日はずいぶん静かなのね?」
アンナ「前にも言ったけれど、パパとママはシチリアで冬のヴァカンス。家政婦だとか「ファミリア」の若衆たちにも年末年始のお休みを取らせているから……それに、うちからものを盗むような間抜けもいないものね」
提督「果たしてそうかしら。何物にも代えがたいこの家の宝を盗みたくて仕方のない人間が……案外近くにいるかもしれないわよ?」
アンナ「んっ……む///」
…そう言うなり田舎屋敷風の、しかし広々とした玄関ホールでアンナの唇にキスをする……一瞬だけ抵抗するように身をよじったアンナだったが、グッチのハンドバッグを手から落とすと腕を提督の背中に回して抱きしめ、ぐいと腰を寄せて熱のこもった口づけを交わした…
提督「んっ、ん……は……んぅ、んぁ……♪」
アンナ「んむっ、ちゅ……ちゅる……っ♪」
提督「ぷは……♪」
アンナ「はぁぁ……///」
提督「ねぇ、アンナ……♪」
アンナ「分かってるわよ……んちゅっ、ちゅぅぅ……っ♪」
提督「んっ、あふ……っ♪」
アンナ「んちゅ、ちゅる……はぁ、はぁ、はぁ……っ♪」
提督「んんぅ♪」
…アンナはこらえが効かなくなったかのように壁に提督を押しつけるといらだたしげにコートを脱ぎ捨て、提督の脚の間に自分の膝を割り込ませてくる……提督もそれに応えるようにストッキングとランジェリーに手をかけて膝まで下ろし、それから滑るような手つきでアンナの下着に手をかけた…
アンナ「ん、んちゅ……だめ、フランカ……キス、やめないで……♪」
提督「ええ……ちゅるっ、ちゅぅ……っ♪」口づけを続けながら少し屈んでアンナのランジェリーを引き下ろすと、アンナは片膝をあげて黒い透けるようなパンティから片脚を抜き、もう片方のくるぶしあたりにまで下がったそれを蹴り出すように放り出した…
アンナ「んっ、んんぅ……あっ、あん……あふっ♪」
提督「アンナ……ん、あっ……あぁん……っ♪」アンナの細い中指と薬指がいささかぎこちなく、かつわがままに滑り込んでくる……
アンナ「んっ、あ……もう……そういう甘い声を……出されると……たまらなくなるじゃない……っ♪」
提督「アンナこそ、そんなにトロけた表情で迫ってくるんだもの……んちゅっ♪」
アンナ「んふっ、んんっ、ん……っ♪」
提督「あむっ、ちゅる……ちゅむ……っ♪」互いの口には舌を、粘っこく熱を帯びた花芯には指を滑り込ませながら、飢えていたかのように愛をむさぼり合う……
アンナ「あっ、あ、あぁぁん……っ♪」
提督「ふあぁ……ぁっ♪」
…人気のない底冷えのする玄関に二人の甘い声がオペラのように響き、骨董品の花瓶や絵画の額に反響する…
提督「はぁ……はぁ……もう、アンナったら相変わらずせっかちなんだから♪」
アンナ「はぁ、ふぅ……いったい誰のせいだと思っているのよ。本当なら部屋でシャンパンでも開けてじっくりムードを作っていくつもりだったっていうのに、玄関でなんて……まったく、盛りのついた犬じゃあるまいし///」顔を火照らせ、息を切らしながら文句を言った……
提督「まぁまぁ、シャンパンなら今からでもまだ遅くないわ……♪」
アンナ「ふふ、まったく……いいわ、それじゃあ改めて最初からやり直しましょう?」
提督「あら、せっかくこれだけ愛し合ったのにまた最初からやり直し?」まだ色欲をたたえたままの金色の瞳を向け、どこかみだらな笑みを向ける……
アンナ「もう……っ///」
953 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/11/27(水) 02:19:17.67 ID:QahSp3Rq0
…アンナの部屋…
提督「この部屋も久しぶりだわ……ずいぶん模様替えをしたのね?」
アンナ「そりゃあそうよ、いつまでもぬいぐるみってこともないでしょ?」
提督「そう言いつつも、ちゃんとご両親からのプレゼントは捨てないでいるあたりはアンナの良いところね……このテディベア、六歳くらいの時にもらったって言ってたわよね?」
…かつて児童文学の全集や教科書が並んでいた本棚は国内や国外の法典をはじめ、さまざまな専門書が分厚い樫の板もたわみそうなほどぎっしりと詰め込まれ、部屋のあちこちに「シュタイフ」のテディベアや小さな絵画、思い出の写真などが飾ってある…
アンナ「そりゃあパパにもらったものだもの……って、今はそんなことはいいの」
…部屋の中央にあるアンティークものの丸テーブルには露のおりたシャンパンが浸かっているアイスペールが載っていて、その横には二人分の白ワイン用グラス……そしてそれを取り囲むようにカゴに収まっているバゲットや缶詰、チーズなどが並べてある…
アンナ「さ、せっかく用意したんだから飲みましょう?」
提督「そうね、いただくわ」
アンナ「ま、あんな片田舎の鎮守府でもお酒の品揃えはそれなりだったけれど……どう?」
提督「ルイ・ロデレール?」
アンナ「そうよ。モエ・エ・シャンドンやドン・ペリニョンはもてはやされすぎて俗っぽいし、せっかくフランカと会えるんですものね」そう言うと醸造年が見えるようにラベルを見せ、慣れた手つきで栓を抜く……
提督「恐れ入ったわ……それだけのヴィンテージもの、私のお給金で買ったらひと月は断食をしないといけなくなるわね」
アンナ「気にしなくていいのよ。コート・ダジュールのパーティ会場で味の分からない成金からせしめてきただけだから……フランカに飲まれるほうがシャンパンにとっても幸せなはずよ」
提督「そう、それじゃあいただくわ……乾杯♪」
アンナ「乾杯」
提督「……おいしい」
アンナ「当たり前でしょう? それからおつまみもあるわよ……キャビアで良いわよね?」答える前にカスピ海産のキャビアの瓶詰めを開ける……
提督「いたれりつくせりね」
アンナ「ま、その分は愛してもらうから♪」
提督「それじゃあずいぶん頑張らないといけない事になりそうね?」
アンナ「期待しているわよ?」
提督「ええ……♪」口の端に小さな笑みを浮かべると、脚を伸ばして向かい側に座っているアンナのふとももをくすぐりはじめた……
アンナ「ちょっと、キャビアがこぼれるじゃない……あぁもう」びくっと身体が震えたはずみに小さじが動き、クラッカーの上に載せようとしたキャビアがこぼれた……
提督「あら、もったいない」
アンナ「誰のせいよ、まったく……」そういってふとももから払い落とそうとする……
提督「……待って♪」
…四つん這いになってテーブルの下に潜るとアンナの脚の間から顔を出し、ふとももにこぼれ落ちた小さい黒真珠のようなキャビアを舐めとった…
アンナ「んっ……///」
提督「シャンパンもいただける?」
アンナ「ええ……♪」テーブルの上にあった飲みさしのグラスを傾け、白いふとももにゆっくりとこぼす……
提督「ぺろ……ちゅっ、ちゅる……っ♪」
アンナ「あっ、あ……ふぁ……あ///」
提督「ん、ちゅ……っ♪」シャンパンの雫を舐めとると、最後は唇で吸い付くようにしてキスをした……
アンナ「……ねえ、もっと飲んで///」
提督「ええ♪」
…白磁のような脚を伝って流れてくるシャンパンを舌先で受けとめ、爪に紅いペディキュアをしている形の良い足の甲を舐めあげた……凍えるかのようにぶるっと身震いするアンナの反応に気を良くして、提督は足からふくらはぎ、ふとももへと舌を這わせていく…
アンナ「はぁっ、あぁ……ん……はひっ……ん……っ///」
提督「ちゅるっ、ちゅ……れろ……っ♪」少しドライなルイ・ロデレールの味とアンナのすべすべした肌触りを舌に感じながら、次第に身を乗り出すようにして舐めあげていく……
アンナ「あ、ふぅ……んぁ……ん……ぁっ///」
提督「んちゅるっ、ちゅむ……んちゅぅ……っ♪」
アンナ「あ、あっ……もう、フランカ……焦らさないで……早くしなさいよ……っ///」脚で提督の首を締め付けるように挟みこみ、顔を秘所に押しつける……
提督「んむっ……♪」
954 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/12/05(木) 01:01:47.14 ID:UpIopirU0
アンナ「はぁ……はぁ……んっ……あっ///」
提督「んちゅ……ちゅるっ、じゅる……じゅぷ……っ♪」
アンナ「あ、あっ、あっ……あぁぁんっ♪」とろ……っ♪
提督「んふ……ちゅる、んちゅ……♪」
アンナ「はひっ、あふっ、ふあぁ……あっ、んぅぅっ///」提督が愛蜜したたる花芯を舌でまさぐるたびにひくひくと身体が跳ね、つま先立ちをするかのようにかかとが浮き上がる……
提督「……ぷは♪」
アンナ「はぁ……はぁ……続けて♪」
提督「ふふ、アンナったら欲張りね♪ それじゃあ今度は……あ痛っ!」
…ふとももの間から顔を出し、甘ったるいねっとりとした表情を浮かべてアンナを見上げながら、べとべとになったふとももを舐めあげようと頭を動かした提督……が、後頭部をテーブルにぶつけてすっとんきょうな声を上げ、ぶつけた場所を手で押さえた…
アンナ「ばか、何やってるのよ……大丈夫?」
提督「え、ええ……せっかくいい雰囲気だったのに締まらないわね♪」後頭部の痛みから目尻に涙をためつつ、苦笑いを浮かべている……
アンナ「いいわよ、フランカがなんともないなら」
提督「ええ、私は大丈夫……くすっ♪」
アンナ「ふふふっ……♪」
提督「うふふっ♪」
アンナ「あはははっ♪」
提督「ふふっ、うふふふっ♪」お互いにしげしげと顔を見合わせるとどちらからでもなしに笑いが起こり始め、しばし笑い転げた……
アンナ「あー、おかしい♪ フランカのそういうところは相変わらずね」
提督「これでもエスコートの上手な大人の女性を目指してはいるのだけれど……ね?」
アンナ「エスコートの上手な大人の女性ねぇ……ま、及第点って所かしら」
提督「あら、ずいぶんと手厳しい」
アンナ「そりゃあね。私の「許嫁」なんだもの、満点を目指してもらわなきゃ困るわ♪」
提督「だから……」
アンナ「んっ♪」
…提督がいつものように「許嫁」ではないと言いかけたところで、椅子に腰かけたままかがみ込んだアンナがキスをして唇をふさいだ…
提督「ん……♪」
アンナ「いいわ、今のところ許嫁かどうかは保留にしておいてあげる……でも、幼馴染みには変わりないわよね?」
提督「それはもう、アンナは私の大事な幼馴染みよ」
アンナ「なら幼馴染みとしてもう一回……ね?」椅子から立ち上がると提督の手を取り、ベッドに誘った……
提督「ええ……♪」
…二時間後…
アンナ「はぁ、はぁ……はぁぁ……っ♪」
提督「ふぅ……とっても可愛かったわ、アンナ♪」
アンナ「はぁ……はぁ……まったく「運動が苦手」が聞いて呆れるわよ……」だらりと力の抜けた身体をベッドに預け、額の上に腕を投げ出して喘いでいる……
提督「……きっとアンナの悦ぶ顔が見たいからだと思うわ♪」
アンナ「はぁ、もうそれでいいから……水ちょうだい」
提督「ええ……私も喉が渇いたわ」すっかり粘ついている口内を洗い流そうと冷水を飲み干し、それからアンナの分を注いで渡す……
アンナ「ごく、ごくっ……はぁ」
提督「こんな年の瀬も意外といいものね」
アンナ「そうね、悪くないクリスマスプレゼントだったわ」上半身だけ起こしてグラスを受け取り、ベッドに腰かけた提督に笑いかけた……
提督「ご満足いただけて良かったわ」
アンナ「ええ……とりあえず今のところは♪」
955 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/12/13(金) 02:09:58.21 ID:k43ZR7Nf0
提督「ふふ、それじゃあまた気が向いたら……ね♪」
アンナ「そうね。ところで……はい」ベッドから起き上がると裸身のままクローゼットに近寄り、中をかき回していたかと思うと赤いリボンのかかった包みを取りだした……
提督「なぁに?」
アンナ「もう、馬鹿ね。この時期なんだからクリスマスプレゼントに決まっているでしょうが」
提督「ふふ、ありがとう……開けてもいいかしら?」
アンナ「ええ、開けなさい。本当なら六日までは開けないものだけれど……せっかくのプレゼントだもの、目の前で喜んでほしいじゃない?」
提督「そうね、それじゃあ……」リボンをほどくと包み紙をはがした……
提督「……まぁ、メローラの革手袋」
(※メローラ…1870年にナポリで創業したネクタイ、革手袋のブランド。映画「ローマの休日」で使われるなど品質、知名度ともに名高い)
アンナ「そうよ。貴女のお母さんはファッションデザイナーだし、私から洋服をあげたって仕方ないけれど、手袋なら何組かあっても使いどころがあるでしょ? まだまだ寒い日も多いし、海の上じゃあ指先が冷えるでしょうから、軍艦にいるときにでも使って欲しいわ」
提督「ありがとう、こんなに素敵な物を……でも艦橋で使うにはもったいないわね」
アンナ「何を言ってるのよ。タンスのこやしにしてもらうためにあげたんじゃないんだから、きちんと使いなさいよ?」
提督「ええ、ありがとう……それじゃあうんと役立てさせてもらうわ」
アンナ「そうしなさい♪」
提督「本当にありがとう、アンナ♪」
アンナ「いいのよ」
提督「それじゃあ私からも……はい♪」
…空いている椅子の一つに置きっぱなしにされていたハンドバッグから、桃色をしたサテンのリボンで結ばれた小ぶりの箱を取りだした…
アンナ「……会えるかどうかも分からないって言うのに、わざわざ用意してくれてたの?」
提督「アンナだってクリスマスくらいは帰省するでしょうし、もし会えなかったらご両親に預けて渡してもらうよう頼んでおくつもりだったわ」
アンナ「ふぅん、何だかんだで貴女も会いたかったんじゃない」
提督「そりゃあ幼馴染みだもの、会いたかったには会いたかったわよ……許嫁の話を持ち出さなければね?」
アンナ「ふふふっ……砲弾が飛び交っている海に出る勇気があるくせに、私との結婚が怖いなんてね♪」
提督「砲弾なら回避運動も取れるし装甲で防げるけれど、貴女は防げないもの」
アンナ「言ってくれるわね……まぁいいわ、早速開けさせてもらうわよ」リボンをほどくと包装紙を破り、中身の箱を取り出す……
提督「できるだけアンナに似合いそうなものにしようと思ったのだけれど……どう?」
…提督がプレゼントしたのは優美な凝った作りでいながら俗っぽくないアール・ヌーヴォー・スタイルのネックレスで、細かな細工を施された金のチェーンにルネ・ラリック風のデザインがされたコウモリと三日月のトップがあしらわれ、コウモリの翼や三日月にはめ込まれたエナメルが光を受けて薄青や桃色に変化して見える…
アンナ「ピピストレッロ(コウモリ)のネックレス……フランカったらまだ覚えていたのね?」
提督「ええ。貴女の小さいころのあだ名♪」黒褐色の髪をツインテールにしていた幼いアンナの面影を重ねて笑みを浮かべた……
アンナ「過去を振り返るにはまだ早いんじゃないかしら……ねぇ、付けてくれる?」
提督「ええ」アンナの後ろに回ると、裸のままの首もとにそっとネックレスをつけた……
アンナ「……フランカ」
提督「どう?」どちらかと言えば気ままで勝気なアンナゆえに、どんな感想が飛んで来るかと少し身構える……
アンナ「すごく嬉しいわ、ありがとう♪」
提督「ふぅ、良かった……アンナのことだからてっきり何か言われるかと」
アンナ「こんな素敵な贈り物をくれたのに、どうして文句を言う必要があるのよ。とっても良いじゃない♪」姿見の前で頭を左右に動かしては、ネックレスのきらめきを眺めている……
提督「ふふっ、気に入ってもらえて安心したわ」
アンナ「ええ。でもこうなるとお礼をしないといけないわね……♪」傷を付けたりしないようネックレスを外してケースに戻すと、姿見に映る提督を眺めて挑発するような表情を浮かべた……
提督「ふふっ、それは楽しみね♪」アンナの後ろから肩越しに手を回し、左手は乳房を、右手は腰に回して身体を寄せた……
アンナ「ええ、お昼まではまだ時間があるもの……ね///」
………
…
956 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/12/20(金) 02:25:10.72 ID:qzGN0AlE0
…昼時…
アンナ「はぁぁ……もう起きる気力もないわよ」
提督「とっても素敵だったわ♪」
アンナ「ふっ……♪」
提督「くすくすっ……♪」ベッドの上で顔を見合わせ、どちらともなく笑い始めた……
アンナ「あーあ、まったくあきれた年末だわ。ただベッドの上で盛っていただけだなんて」
提督「そういう年末だってたまにはいいじゃない……ね?」
…口の端にえくぼを浮かべ、またしてもアンナの身体に手を伸ばそうとした提督……と、その矢先にお腹が「ぐぅ」と間抜けな音を立てた…
提督「もう、せっかく良いところなのに……///」
アンナ「でも貴女の身体は別の欲求を満たしたいようね」
提督「はいはい、大人しく言うことを聞くことにします……アンナも何か食べる?」
アンナ「そうね。考えてみたら朝も大して食べてないし」
提督「あら、でもちゃんと食べないと大きくならないわよ?」
アンナ「育ち盛りの時期はとっくに過ぎてるってば。だいたいこれ以上背を伸ばしてどうするのよ?」
提督「ううん、身長じゃなくて……ここ♪」つんととがった白い乳房をそっと撫で回す……
アンナ「あのねぇ……馬鹿な事を言ってないで、さっさと羽織るものを羽織ったら?」
提督「あら、裸じゃなくていいの?」
アンナ「おたがい裸なら暗記できるほど眺めてきたでしょ。せっかく色々用意したんだから、何か食べましょう」
…素肌にガウンを羽織り、ふわふわのスリッパをつっかけて台所に向かう二人……アンナは右手で飲みさしのルイ・ロデレール、左手で二人分のグラスを束ねて持ち、提督はアンナの左腕を胸元に挟みこみ、右手をほっそりした腰に手を回して穏やかな笑みを浮かべている…
………
…台所…
提督「ふふ♪」
アンナ「……なに、どうかしたの?」
提督「いいえ。ただ幼馴染みを眺めているだけよ♪」
アンナ「相変わらず口が減らないわね……ほら」時間が経ってぬるくなったからとアイスペールの氷をつまんでグラスに入れ、そこにシャンパンを注いだ……
提督「ありがとう」
アンナ「いいのよ……オリーヴの瓶詰めに……チーズと……パパとママが出かけるから冷蔵庫のものはおおかた片付けておいたのよね」
…まるで業務用サイズの大きな冷蔵庫を開けて、中のものを物色しているアンナ……冷蔵庫の中身をさぐるたびにシルクのガウンに包まれた形の良いヒップが揺れ、ふわりとひるがえる裾からは先ほどまでの火照りを残して赤らんだふとももがちらつく…
提督「うーん、良い眺め♪」
アンナ「だったら早く私と結婚しなさいよ、そうすれば毎朝でも見せてあげる♪」
提督「もし貴女と結婚したらガミガミやられてそんな気分じゃなくなっちゃうのが目に見えるわ」
アンナ「ずいぶんと好き勝手言ってくれるじゃない……残り物で悪いんだけど、半身のオマール海老(ロブスター)があるわ。どう?」
提督「ごちそうね♪」
アンナ「何てことないわよ……さ、これでどうにか整ったわね」
…バターでグリルしたオマール海老の冷肉とコールドチキン、軽く温めなおしたバゲット、オリーヴの瓶詰め、アンナの部屋でつまんだキャビアの残り、ほどよく熟成が進んでいるプロヴォローネ・チーズのスライスなどを並べた…
提督「それじゃあいただくわ♪」
アンナ「ええ。どのみち残しておいたってなんにもならないんだから食べちゃっていいわよ」
…南イタリア風にまとめられた調度とステンレスを多用した高級な調理家電とが混在している台所で、アンナとテーブルを挟んで早めのお昼を口に運ぶ……バターでグリルされたオマール海老は冷めていても味が濃く、歯ごたえのある身質と口中の温度で溶けてくるバターの塩味でより一層おいしい…
提督「ん、美味しい」
アンナ「フランカって、小さいころから本当に美味しそうに食べるわよね……ほら、あーんしなさい♪」
提督「あーん♪」
アンナ「……クリスマスプレゼント、嬉しかったわよ。それと良い新年を」爪楊枝に刺したオリーヴを提督に食べさせながら言った……
提督「グラツィエ、アンナもね♪」
957 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2024/12/28(土) 00:56:58.85 ID:NTEbvhyo0
…十二月三十日…
アンナ「……それじゃあ、あとは家族水入らずで過ごしなさいね」
提督「ええ、色々とありがとう。良いお年を」
アンナ「グラツィエ……ちゅっ♪」
…去り際に運転席から身体を乗り出して提督の頬に音高くキスをすると片手を上げ、マセラッティのエンジン音を残して走り去っていった…
提督「アンナったら、ずいぶん粋な挨拶をして行ってくれたわね……///」
シルヴィア「……ほんと、アンナちゃんも良い女になったわね」
提督「おばさま♪」
シルヴィア「お帰り、フランカ」
提督「ただいま……♪」シルヴィアの首に腕を回しぎゅっと抱きついた……
シルヴィア「……っと、昔は飛びつかれてもなんともなかったのに。フランカもずいぶんと大きくなったわね」
提督「そうね、小さくはならないと思うわ♪」
シルヴィア「それもそうね……さ、クラウディアがまたごちそうを用意しているから食べるのを手伝ってちょうだい」
提督「ええ♪」
………
…新年・昼…
クラウディア「……ふふっ、それにしてもフランカったら♪」
提督「そういうお母さまだってあんなにたくさんお手紙をもらっているんだから、おあいこよ///」家にたくさん届いたクリスマスカードやプレゼントのことでまたもやクラウディアにからかわれ、照れ隠しで反論する提督……
クラウディア「そうね、そういうことにしておきましょう……ねぇシルヴィア、もう一杯どう?」
シルヴィア「ええ、いただくわ」
クラウディア「了解♪」
…イタリアの新年はあくまでもクリスマス期間の一部であってそこまでお祝いの対象ではないが、カンピオーニ家ではごちそうを食べたりカクテルを飲んだりと仲むつまじくして過ごす…
提督「私ももう少し飲もうかしら……」
クラウディア「そうね、せっかくのお休みなんだもの……スプマンテ?それともワイン?」
提督「それじゃあ気が抜けないうちにスプマンテをもらうわ」
クラウディア「分かったわ、それじゃあ座って待っていてね……でも食べ過ぎちゃだめよ?食後にパネットーネが待っているんだから♪」
シルヴィア「ずいぶんと甘やかしているわね」
クラウディア「だって、ひさびさに娘が帰ってきたんですもの♪」
…クリスマスもご馳走だったが、新年の食卓にもクラウディアの心のこもった料理がにぎやかに並んでいる……普段はしまってあるジノリやパニョッシンの色鮮やかな皿や鉢に牛の煮こごりやじっくり煮込んだ鹿肉のシチュー、ひょうたん型をしたチーズ「カチョ・カヴァッロ」をあぶったもの…
提督「うーん……お母さまの料理を食べると幸せな気分になるわ」
クラウディア「あら、フランカったら私をおだてるのが上手になったわね」
提督「だって事実だもの♪」
シルヴィア「フランカ、あんまりクラウディアを口説かないで……私の妻なんだから」
クラウディア「まぁ、シルヴィアったら♪」
提督「……お母さまたちは明後日からのスキー旅行を取りやめた方が良さそうね」
クラウディア「あら、どうして?」
提督「そうやって二人でいちゃいちゃしていたら、せっかく積もった雪が溶けちゃうもの」
シルヴィア「言ってくれるわね♪」
クラウディア「あら、好きなだけ言わせておけばいいのよ……ちゅっ♪」
提督「もう……♪」
………
…
958 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/01/04(土) 01:19:36.58 ID:/4HXESRu0
…休暇最終日…
シルヴィア「それじゃあ、気を付けて行ってらっしゃい」
クラウディア「鎮守府に戻ったら身体に気を付けるのよ? 寂しくなったらいつでも電話してちょうだいね?」
提督「ありがとうお母さま、おばさま……でも二人のスキー旅行を邪魔したくはないもの、どうにか頑張ってみるわ♪」
…クラウディアとシルヴィアの二人に「行ってきます」のキスを済ませると、土産物やクラウディアから渡された艦娘たちへのプレゼントを詰め込んで重くなったランチア・フラミニアに乗り込んだ提督……低い冬の日差しに備えてサングラスをかけ、クラウディアからもらった柔らかくて暖かいクリーム色のカシミアセーターに使い勝手に優れたカーキグリーンのベルト付きトレンチコート、運転の邪魔にならない履き心地の良いチョコレート色のスラックス、運転用に履き替えたかかとの低い靴といった出で立ちで門を出た…
シルヴィア「……フランカも成長したものね」提督のランチアを見送ると、つぶやくように言った……
クラウディア「娘が独り立ちして寂しい?」
シルヴィア「いいえ、こうして我が家の歴史が紡がれていくのかと思うと感慨深いわ」
クラウディア「ふふ、ずいぶんとおセンチね♪」
シルヴィア「らしくないかしら」
クラウディア「ううん、それもまた貴女らしいわ♪」
シルヴィア「ふ、ありがとう……さてと、それじゃあ私たちも旅行の支度をしましょうか」
クラウディア「ええ、こうして二人で出かけようとしていると新婚旅行みたいね♪」
シルヴィア「そうね……ちゅっ♪」
クラウディア「あ……んっ♪」
………
…数時間後・高速道路…
提督「ふぅ……南行きの道路があんまり混んでいなくて助かるわ」大柄なランチア・フラミニアのシートに身体を預け、オートストラーダを快調に飛ばしてきた提督……
提督「お土産もいっぱいあるし、きっと皆も喜んでくれるわね」
…イヴェコやボルボのトレーラートラックや飛ばし気味のセダンに車線を譲り、無難にフラミニアを走らせる……ラジオは交通情報を報じるチャンネルに合わせてあり、ドライブに疲れると休憩所に入ってちょっとしたコーヒーの時間をとる…
提督「……そろそろプーリア州に入るし、タラントまではあと少しね」
提督「さてと、そろそろ行くとしましょうか」今ひとつなコーヒーを飲み終えるとカフェテリアのカウンターにカップを返し、軽く肩を回しながらランチアに乗り込んだ……
………
…しばらくして・タラント近郊…
提督「……あ、見えてきたわね」
…薄曇りの空と白い波頭が所々に見える海、そしてカーブが続く地方道路の視界の端に見えてきた小ぶりな岬……鎮守府そのものは背中に背負ったような形で控える丘陵地に隠され、道路も鎮守府の敷地を避けるよう海岸線を離れて内陸へと湾曲しているために見えないが、鎮守府のある小さな三日月湾の東端を縁取るようにして突き出している岬は道路からも見える……岬のてっぺんにはフェイズド・アレイ・レーダーのサイトが建っていて、その無骨な灰色の建物がイオニア海に出現する「深海棲艦」を油断なく見張っている…
提督「何だかんだで早かったわ……もっとも、鎮守府で艦娘の皆と会えると思えばそう悪くもないわね」
提督「……それにお腹も空いてきたし///」
…鎮守府…
ライモン「お帰りなさい、提督♪ そして新年おめでとうございます」
提督「ありがとう、ライモン……今年もよろしくね♪」鎮守府の玄関先で車を停めると、出迎えてくれたライモンに暖かいキスをする……
ドリア「あら、せっかくお留守をしていたのに……私にはキスなしですか?」
提督「まさか、して欲しい娘にはみんなしてあげる♪」
チェザーレ「おいおいアンドレア、このチェザーレを差し置いてそれはないだろう」
ドリア「ふふ、せっかくの提督を人妻好きのチェザーレに盗られてはかないませんから♪」
提督「ねぇドリア、私は人妻じゃないわよ?」
ドリア「そんなことをおっしゃってもよろしいのですか? 隣にこんなに可愛らしい奥さんがいらっしゃるのに♪」ころころと笑いながらいたずらっぽく指さす……
ライモン「もう、ドリアさん……///」
提督「それもそうだったわね……とにかく、ただいま♪」
ドリア「ええ、お帰りなさいませ♪」
チェザーレ「うむ。まずは着替えて楽にするとよかろう」
提督「ええ、そうさせてもらうわ……ライモン、着替えを手伝ってくれる?」
ライモン「は、はい///」
959 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/01/11(土) 01:21:19.45 ID:RaiIvtHJ0
…しばらくして・食堂…
提督「ふぅ……何だかんだ言って鎮守府も悪くないわ」
デュイリオ「ふふ、そうでしょうとも……♪」
ライモン「///」頬を赤らめてぷいと横を向いた……
提督「ええ♪」
ルチア「ワンワンッ!」
提督「あらルチア、お留守番させちゃってごめんなさいね……元気だった?」
ルチア「ワフッ……!」
提督「あらそう、良かったわねぇ♪」
…提督がくつろいだ格好に着替えて食堂にやってくると、ルチアがちぎれそうなほど勢いよく尻尾を振って駆け寄ってくる……途端にそれまでの落ち着いた様子はどこへやら、提督はルチアと一緒に暖炉の前の敷物に寝転がって白い体毛をくしけずり、お腹を見せて身体をよじるルチアをわしゃわしゃと撫でさする…
ドリア「あら、提督ったら……ルチアとじゃれるのもほどほどにしないと、お洋服に毛がついてしまいますよ?」
提督「いいのよ、どのみち普段着なんだから……あぁ、はいはい♪ お土産も持ってきてあげたわよ♪」
ルチア「ワフッ、フガフガ……♪」
提督「こらこら……そんなに焦らないの♪」手に持っていた袋から取りだしたのはとがった部分を切り落としほどの良い長さにしてある鹿の角で、表面は木目のように白い部分と茶色の部分でしま模様を帯びている……
ルチア「ワフッ……」ガリガリと音立てて角をかじる……
提督「やっぱり好きなのね……さてと」ルチアと一緒に暖炉の前で寝転がっていてついたほこりを払い、立ち上がる……
提督「……改めまして、ただいま……みんな♪」
ライモン「お帰りなさい、提督」
アッテンドーロ「姉さんも提督が戻ってきてようやく落ち着いたって所よ」
ライモン「もう、ムツィオってば……///」
ディアナ「ふふ……提督がお戻りになられて、わたくしどもは本当に嬉しく思っておりますよ」
提督「ありがとう」
レモ「ねぇねぇ……感動の再会はいいけどお腹が空いたからご飯にしよう?」
ロモロ「さんせーい♪ ディアナってば朝からずーっと支度をしてたんだから、きっとすごいご馳走だと思うの!」
チェザーレ「やれやれ、まったく食い意地の張った娘どもであるな……♪」
提督「結構なことじゃない。それじゃあ手を洗ってくるから、戻って来たら食事にしましょう」
レモ「やったぁ♪」
…昼食…
提督「これはまたずいぶんと頑張ってくれたようね?」
ディアナ「せっかく提督がお戻りなのですから……お味はいかがでしょうか?」
提督「ディアナの食事が美味しくなかったことなんてないわ♪ それと持ってきたワインだけれど、良かったら全部空けちゃっていいわよ?」
…パルマハムのスライスと半熟卵が載ったビスマルク風ピッツァに、牛すね肉をトマトソースの中でほぐれるまで煮込んだラグーなど心づくしのご馳走が並ぶ……提督が故郷の街で買ってきた地場のワインを素焼きのカップで飲みながら暖炉のはぜる音を聞いていると、窓越しに聞こえる波音とあいまってくつろいだ気分になる…
マエストラーレ「ふぅ、美味しかったわ……ちょっとリベッチオ、口に付いてるわよ」
リベッチオ「じゃあ取って?」
マエストラーレ「自分でやりなさいよ。まったく甘えん坊なんだから……」
提督「ふふ、このやり取りもいつも通りね♪」
ライモン「はい♪」
ディアナ「あとは公現祭の日にプレゼントを開けて、ご馳走をいただくといたしましょうね」
提督「そうね」
アッテンドーロ「それと休暇の間はのんびりしてたんでしょうから、その分の運動もすることね」
提督「さて、なんのことかしら?」
アッテンドーロ「……なんだったら姉さんとベッドの上で「運動」すればいいじゃない」
提督「それは言われなくても♪」
960 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/01/13(月) 00:59:42.46 ID:NWrq9j/u0
リベッチオ「あ、それじゃあジァポーネの提督さんが送ってきたやつで遊ぼう?」
提督「姫から?……なにか送ってきてくれたの?」
マエストラーレ「ええ。化粧品や浴衣、手拭いとか日本らしいものを一杯送って来てくれた中にあって……私たちはどう使えば良いか分からなかったけれど、トレーリやカッペリーニたちから使い方を教わったの」
提督「そうなの、カッペリーニ?」
カッペリーニ「いえ、教えたというほどでは……」
トレーリ「少し詳しいだけですから」
提督「謙遜しなくたっていいわ。それじゃあ少しやってみようかしら」
リベッチオ「やった♪」
提督「くれぐれもお手柔らかに頼むわよ?」
トレーリ「それじゃあ提督にも浴衣を着てもらいましょうか、その方が雰囲気も出るでしょうから」
提督「さっき着替えたのにまた着替えるの? 仕方ないわね……」
…数分後…
提督「さ、着替えたわよ。ちょっと冬場に着るには寒いけれど……」
…百合姫提督がクリスマスプレゼントにと送ってきた箱の中には色とりどりの浴衣も何枚か入っていて、艦娘たちはかわりばんこに袖を通してはきゃあきゃあと歓声をあげていた……慣れない手つきで提督がまとったのは白地に藍色の百合をあしらった浴衣で、すっきりしたデザインながらなかなかしゃれていた…
ライモン「提督、よく似合っています」
提督「ありがと、ライモンに言われると嬉しいわ。それでその「遊び」とやらはどこでするの?」
グレカーレ「私たちは体育館か庭でしていました……始めはここでやってみたんですが、狭くてぶつかりそうになっちゃうので」
アッチアイーオ「まったくよ、すんでの所でクリスマスツリーをひっくり返しそうになったんだから」
提督「なるほどね。まぁ今日は風もないし、そう寒くもないでしょうから庭でやるとしましょうか」
アッチアイーオ「あんまりはしゃぎ過ぎて怪我したりしないでよ?」
提督「ええ、ほどほどにするわ♪」
リベッチオ「えへへっ、負けないからね?」
…鎮守府・庭…
提督「それで、その遊びっていうのは? ……みたところネットが張ってあるわけでも、地面に線が引いてあるようでもないようだけれど」
トレーリ「はい、これにはそういった準備は必要ないですから♪」
…そういってトレーリが差し出したのは木でできた角ばった板状の道具で、クリケットのバットを薄く小さくしたように見える……板には赤い木の実と緑の葉をデザインした絵が施されていて、反対側の手には小さな黒い球に赤や緑の羽根がついたものを持っている…
提督「……木のラケット?」
カッペリーニ「そのようなものですね……これは日本の「はねつき」という古くからの遊びですよ」
提督「はねつき?」
トレーリ「はい。ルールは簡単で、バトミントンのようにこの羽根を打ち合って落としたら負けというものです」
提督「この小さな玉を落とさないようにするの? 結構難しそうね」
リベッチオ「大丈夫、提督は初めてだから手加減してあげる♪」
提督「言ってくれるわね……でも、大人しくそのお言葉に甘えさせてもらうわ」慣れない浴衣ということもあり、リベッチオの言葉に甘えることにする……
ミラベロ「ふふっ、どっちが勝つか楽しみ♪」
リボティ「勝敗は見えている気がするけれど……くすくすっ♪」
提督「もう、すぐそうやって私の事を笑いものにして……見ていなさいよ?」
リベッチオ「あははっ、提督ってば大人げないんだから♪」褐色の肌に似合う赤い梅模様の浴衣を着て、足元をサンダルで固めている…
提督「だって、ああまで言われちゃうとね……いいわ、とにかく始めましょう」
リベッチオ「了解、それじゃあ最初はかるーく行くからね♪」カンッ!
提督「ええ……はいっ!」コンッ!
961 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/01/19(日) 00:57:47.03 ID:dPHpy/ff0
リベッチオ「そーれ……っと!」カンッ!
提督「……っ!」カンッ!
…羽根についたムクロジの実は羽子板に当たるたびに響きの良い硬質な音を立て、どこかまだ青さの薄い冬空に緩やかな曲線を描いて打ち上がる……リベッチオも着慣れない浴衣姿のため、最初の数回は軽く打ってきたが、慣れてくるにつれて速度が上がってくる……提督も左右に打ち分けられる羽根を追い回すが、次第に足元が追いつかなくなり、地面に羽根を落としてしまった…
提督「ふぅ……これ、遊びにしては意外と大変ね……いい、リベッチオ?」
リベッチオ「ちょっと待った♪」落ちた羽根を拾い上げて続けようとする提督を制止してニヤニヤしている……
提督「なぁに?」
リベッチオ「この遊びはねぇ、落っことした方に罰があるんだって♪」
提督「罰?どんな?」
リベッチオ「んふふっ、それを今からするから……こっちに来て?」
提督「お手柔らかに頼むわね?」
リベッチオ「はぁーい♪」
提督「……マジックペンなんて持ち出してどうするの?」庭の丸テーブルに詰まれているマジックペンのセットや、使い余しのルージュに気がついた……
リベッチオ「もちろん、これで落書きするんだよっ♪」
提督「え、ちょっと……!?」
ミラベロ「ぷふっ、提督ったら可愛い♪」
ドリア「あらまぁ♪」
マエストラーレ「全くもう……リベッチオ、あんまりやり過ぎちゃダメよ。いい?」
リベッチオ「分かってまーす、っと♪」
提督「……むぅ、始めからこれが狙いだったのね」
リベッチオ「正解♪ みんな動きが良くってなかなか勝てないけど提督ならそこまで運動が得意じゃないし、背が高いから落書きのしがいもあるでしょ?」
提督「好き放題言ってくれるわね……言っておくけれど、今度は負けないわよ?」
…左頬に黒い丸のイタズラ書きをされ、威厳も何もない提督……とはいえからかってくるリベッチオに負けたままではくやしいと、テニスのようなオープンスタンスで羽子板を構え、迎え撃つ体勢をとった…
リベッチオ「ふふーん、どうなるかな……せーのっ♪」
提督「えいっ!」
リベッチオ「やっ!」
提督「はいっ!」
リベッチオ「あっ……!」地面に蹴つまずいて追いつけず、羽根を落としてしまった……
提督「ふふーん、今度は私がリベッチオに落書きする番よ♪」
リベッチオ「もう……あとちょっとで追いつけたのに、サンダルが滑ったから……」
提督「この期に及んで言い訳しない……さてと、何を描こうかしら♪」楽しげな笑みを浮かべてペンを取ったが、リベッチオの褐色の肌と黒のマジックペンを見比べてから箱に戻し、代わりに白のマジックペンを取りだしてキャップを外した……
提督「リベッチオには白が似合いそうだから……えいっ♪」
マエストラーレ「くすくすっ、リベッチオってば♪」
グレカーレ「ふふ、似合ってる似合ってる……今度からずっとそのメイクにしたら?」
リベッチオ「一体どんな……あーっ! 私が遠慮して丸だけにしてあげたのに、提督ってばこんなに描いて!」
提督「らくがきの範囲までは言われなかったもの♪ それに、イタズラ子猫みたいなリベッチオによく似合っているわ♪」
リベッチオ「むむむ、言ってくれるね……」猫のヒゲを描かれた頬を膨らませるリベッチオ……
ミラベロ「ねぇリベッチオ、私たちも遊びたいんだから代わって欲しいわ♪」
リボティ「私たちも提督にらくがきがしたいし……ね♪」
リベッチオ「はいはい、それじゃあもうひと勝負済ませたらね♪」
提督「ええ、相手になってあげる」
………
…
962 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/01/21(火) 00:43:21.88 ID:X8jNaqOY0
…十数分後…
提督「ぜぇ……はぁ……ち、ちょっと待って……!」
リボティ「戦場に「待った」があると思う?」
提督「だからって……」
ミラベロ「しゃべっていると息を使っちゃうわよ♪」
提督「はぁ、はぁ……!」
…道場破りのように次から次へとはねつきの相手を求めてくる艦娘たち……複数人で遊べるようにと気を利かせて、多めに羽子板を入れておいてくれた百合姫提督の気づかいが今はうらめしい……提督が追いついてどうにか打ち返しても、いじわるな娘は返す羽根を左右に振ってくるので息は上がり、浴衣もすっかりはだけて汗を垂らしている…
ミラベロ「はい、提督の負け♪」
提督「はぁ、ひぃ……なんで……休暇明け早々に……こんな……息を……切らさなきゃならないのよ……」
リボティ「くすくすっ、提督が運動不足だからじゃないかな♪」
提督「……」言い返したくてもその気力すらなく、手の甲で汗を拭いながら息を整えている……
ミラベロ「ふふっ、それじゃあお待ちかねのらくがきね♪」浴衣の裾をめくるとマジックのキャップを外し、汗ばんだ肉付きのいいふとももに何か描き始めた……
提督「あ、ちょっと……!」
リボティ「動いちゃだめだよ、提督♪」
提督「わ、分かってはいるけれど……んっ///」冷やっこいスポンジ状のペン先が肌を撫で、くすぐったさに身じろぎしそうになる……
ミラベロ「はい、書けた♪」
提督「もう、一体何を……って、もうっ///」
…提督が太腿を見おろすと、そこには回数を数えるときに使う縦線が書き込んである……本来それだけなら何と言うこともない記号だが、それが地肌に書かれているとなると意味深な想像もできなくはない…
リベッチオ「うわぁ、提督ってばえっち♪」
提督「わ、私が書いた訳じゃないでしょうが……それより、そろそろ休憩させて……」
デュイリオ「あらあら、提督は私みたいなおばあちゃんとは羽根つきなんてしたくないのですね……?」
エウジェニオ「私にも落書き……じゃなかった、はねつきをさせて頂戴よ♪」
提督「……だったらお互いですればいいじゃない」
チェザーレ「ははは、それではハドリアヌス帝のようではないか♪ 皆、提督とジァポーネの遊びがしたいのだ」
提督「どうせ私「と」じゃなくて、私「で」でしょうが……まったく」あちこちに丸やバツが描かれた道化師のような顔のまま、眉をひそめた……
エウジェニオ「まぁまぁ♪ さ、相手をしてもらうわ♪」
提督「むぅ、ずいぶんとご機嫌だこと……でも、もしかしたら私が勝つことだってあり得るかもしれないわよ?」
エウジェニオ「あら、その時は好きなようにらくがきしていいわよ……どこでも、ね♪」耳元に顔を寄せ、意味深にささやいた……
提督「もう……いくわよ///」
エウジェニオ「ええ♪」
提督「えいっ!」
エウジェニオ「はいはい♪」
提督「やあっ!」
エウジェニオ「まぁ怖い♪」
提督「この……っ!」
エウジェニオ「ふふふ、熱くなっちゃって……それ♪」勢いよくスマッシュを打ち込んでくるかと思いきや、コンッ……と軽く落としてきた……
提督「あっ……!」
エウジェニオ「提督の負けね♪ それじゃあ落書きさせてもらうとしようかしら♪」
提督「もう好きなだけ描いて……描けるところがまだ残っているなら、だけれど……」
エウジェニオ「ふふ、その可愛らしいお顔はともかく、身体にはまだまだ余白がいっぱいあるわよ……♪」さわさわと太腿を撫で上げつつ、濃いボルドー色のルージュを手に取った……
提督「ん、あっ……///」
エウジェニオ「ほぉら、書けたわ♪」提督の太腿、それもかなり際どいところにハートマーク付きのサインを書いた……
提督「も、もう……っ///」
963 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/02/02(日) 00:35:58.00 ID:OS6oHsRS0
…数十分後…
提督「はひ……ふぅ……もうだめ、降参……」
…落書きまみれで息も絶え絶えの提督が羽子板をテーブルに置き、尻もちをつくようにして庭の椅子に座り込んだ……身体は落書きと汗でひどいことになっており、浴衣もほとんどはだけてしまっているが、それを直す気力も起きないほどくたくたに疲れ切っている…
エウジェニオ「あら、だらしないのね♪」
提督「私は一人で貴女たちの相手をさせられているのよ……おかげでこんなことになっちゃったし……」
エウジェニオ「ふふ、たまにはそういう露骨にいやらしいのもそそるわ……♪」
提督「悪いけれど、もう相手にしたくないほど疲れているの……はぁ、こんなに息を切らしたのなんて士官学校以来よ……」
ライモン「……あの、提督」
提督「あら、ライモン……どうかした?」
ライモン「いえ、その……///」
提督「浴衣、似合っているわね。可愛いわ♪ 良かったら隣に座る?」
ライモン「はい、ではお言葉に甘えて……ですが、そうではなくて……///」
提督「ええ、いらっしゃい……それにしてもみんなして私の事を振り回して、おかげですっかり疲れちゃったわ。ねぇライモン、あとで一緒にお風呂に行きましょうか?」
ライモン「そうですね、ぜひ……」
提督「良く考えたら休暇に入る前からずっとだものね……本当に久しぶり♪」
ライモン「ええ、それもそうですが……その……///」
提督「……ねえ、もしかして」ライモンが遠慮がちに見せてきた羽子板に、思わず腰が引けてしまう……
ライモン「いえ、もし提督がお嫌でなければ……なのですけれど……///」
提督「ライモンよ、お前もか……ええ、分かったわ。こうなったら毒を食らわば皿まで、付き合ってあげるわ」
ライモン「すみません、わたしったらわがままで……」
提督「貴女のわがままなら可愛いものよ……ただしちょっとだけよ?」少し恥ずかしげな笑みを浮かべたライモンにはかなわないと、提督はレモネードを飲み干してよろよろと立ち上がった……
提督「……そーれっ」
ライモン「はいっ」
提督「えいっ」
ライモン「それでは……はっ!」
提督「えっ、早い……っ!?」
…はじめは軽いラリーを続けてくれたライモンに、てっきり羽根つきを牧歌的に楽しみたいだけかと思っていたが、突如として打ち込まれた切れ味鋭いサーブに手も脚も出ず、あっという間に羽根を落っことしてしまった提督…
ライモン「すみません、提督……でも、わたしの勝ちですね///」
提督「ええ。でも、まさかいきなりあんな強烈なサーブを打ち込んで来るとは思わなかったわ……」
ライモン「その点はごめんなさい、提督……」
提督「いいのよ。それでライモンは、私をキャンバスにしてどんな落書きをするのかしら?」
ライモン「そ、それは書き終わるまで秘密です……///」ガーデンテーブルの上に置いてある口紅を取ってしゃがみこむと、すでにあれこれ書かれている太腿に上書きするように何かを書き付けた……
提督「書き終わった?」
ライモン「えぇ、はい///」
提督「そう、それじゃあ引き上げるとしましょうか♪ みんなもほどほどにするのよ?」
リベッチオ「了解……くすくすっ♪」
エウジェニオ「ええ、そうするわよ♪」
デュイリオ「うふふっ、存じ上げております♪」
ライモン「///」
提督「……ねぇライモン、いったい何を書いたの?」
エウジェニオ「あら、それをライモンドに聞くのは野暮ってものよ……お風呂にでも行って確かめてくることね♪」
提督「それもそうね、それじゃあ汗と貴女たちの落書きを流してくるわ……」
964 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/02/09(日) 00:26:02.19 ID:t1g20Kr60
…大浴場…
提督「ここでお風呂に入るのも久しぶり……広いし豪華絢爛で、うちにもこんなお風呂があればいいのに」
ライモン「この大浴場、提督のお家の半分くらいはありますものね」
提督「そうね。それにしても私が運動が苦手だからってみんなして……まったくもう」全身に書かれた文字やらハートマークやらを見おろして苦笑交じりのため息をついた……
ライモン「……全身らくがきまみれですね///」
提督「本当よ、鎮守府に戻ってそうそうにこんな目に合わされる提督なんてそうはいないわ……ふふっ♪」
ライモン「どうかしましたか?」
提督「いえ、ね……みんなにこれだけ親しくしてもらえる私は果報者だと思ったの。ライモン、クレンジングオイルを取って♪」
ライモン「はい///」
…ルージュやマジックペンで書かれたらくがきをクレンジングオイルで落とす姿を後ろから眺めているライモン……提督の柔らかなクリーム色をした肌が湯気でほのかに桃色を帯び、クレンジングオイルで艶めいて見える……結い上げた髪が少しほつれて先端から雫がしたたり、甘いクレンジングオイルの香りがふっと鼻腔をくすぐる…
ライモン「……っ///」
提督「ライモン、後ろをお願いできる?」
ライモン「あ、はい///」
提督「それにしてもよくもまあこう色々と書いてくれて……まったく」鏡に映る文字を読みながら、半分あきれ半分おかしがっている提督……
ライモン「すみません、わたしも落書きしたので同じですね……」
提督「いいのよ。どうせだから読んでみるとしましょうか♪」
…クレンジングオイルで円を描くように洗い落としながら、それぞれの落書きを読んでいく提督……たいていは冗談めいたものばかりだが、中にはかなり際どいものもある…
提督「も、もう……こんなことを書いて///」
ライモン「///」
提督「まったく「奥までとろとろ」だの「艦隊のご褒美」だの……そういうことを書いた娘には今度「お返し」してあげないと///」
ライモン「そ、そうですね……///」
…提督が洗い進めて行くうちに、ライモンが書いた落書きまでやってきた……見おろしただけではよく見えなかったが、いまは鏡文字とはいえはっきり見える…
提督「これはライモンの字ね? えーと「互いに触れあった思い出を忘れないで」と……なるほど♪」
ライモン「え、えぇと……その///」
提督「ライモン」
ライモン「は、はいっ///」
提督「文字は消えても思い出は消えないのよ……それもこんな素敵な思い出は、ね♪」背中を流すのを手伝っていたライモンの手首をつかむとぐっと引き寄せ、顔を寄せた……
ライモン「提督……か、顔が近いです///」
提督「ふふっ♪ あれだけ愛し合ってきた仲なのにまだ恥ずかしがるなんて可愛い♪」
ライモン「それは言わないで下さい……///」
提督「はいはい♪ ……でもこれは洗い落とすのがもったいないわね、しばらく書いたままにしておきましょうか」
ライモン「だ、だめです///」
提督「あら残念♪ それじゃあライモンが洗ってくれる?」
ライモン「えっ?」
提督「ふふふっ、だってライモンが書いたんだもの……ほら、洗ってくれるでしょう?」腰かけの上でくるりとライモンの方に向き直ると誘惑するように両の手のひらで脚を広げ、誘うような笑みを浮かべた……
ライモン「は、はい///」クレンジングオイルを手に取り、シャワーのお湯で少しゆるめてから提督の肌に重ね合わせた……
提督「ライモンの手、気持ちいいわ……こういうのも久しぶりね♪」
ライモン「は、恥ずかしい事を言わないで下さい///」
提督「ふふ、ライモンったら耳まで真っ赤にして♪」耳たぶを甘噛みしながらライモンの手を下腹部に導いた……
………
…
965 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/02/19(水) 01:13:47.96 ID:Gvfjpt7x0
…数日後・公現祭(一月六日)の朝…
提督「みんな、公現祭おめでとう♪」
艦娘一同「「おめでとうございます!」」
提督「さて……今日は公現祭ということで、明日からは鎮守府も平常体勢に戻ります。みんな今日は一日楽しんでちょうだいね♪」
一同「「はい!」」
ルチア「ワンッ!」
提督「よろしい♪ 海外旅行組も今日帰ってくるはずだから、お土産にも期待するとしましょう♪」
アッチアイーオ「提督、タラントからのバスが来たわ」
提督「了解、それじゃあ出迎えにいかないと」
…鎮守府・管理棟前…
提督「公現祭の日なのにご苦労様……良かったら持って行って?」最寄りの飛行場から艦娘たちを乗せてきた運転士の下士官たちに、地元で買い込んでおいたチョコレートやアメ玉の詰め合わせ袋を渡す……
下士官「は、済みません!」
下士官B「これはわざわざお気遣いをいただいて」
下士官C「ごちそうさまです!」
提督「せっかくの公現祭ですもの、ね?」いたずらっぽくウィンクを投げた……
下士官C「少将も良い公現祭になりますよう」
提督「ええ、ありがとう。あなたたちも楽しい公現祭をね♪」提督がねぎらいの言葉をかけている間にも、大荷物を抱え、あるいは日焼けした顔に満面の笑みを浮かべた艦娘たちがぞくぞくとバスから降りてくる……
ペルラ「ただいま戻りました、提督……♪」ピンクパールのような色をしたぷるぷるの唇が提督の頬に優しく触れる……
提督「お帰りなさい、マダガスカルはどうだった? アトランティスは見つかった?」(※大戦中、中型潜「ペルラ」はマダガスカル沖でドイツの仮装巡洋艦「アトランティス」等と会合している)
ペルラ「はい、大変に面白い場所でした」
ウエビ・セベリ「ただいま戻りマシタ、提督!」
ゴンダール「アフリカのお土産もたくさんアリマス♪」エチオピアやジブチなど、AOI(旧イタリア領東アフリカ)方面に出かけていた艦娘たちは褐色や黒色の肌に香ばしいような健康的な匂いを漂わせている……
提督「まぁ、わざわざありがとう♪」
…提督がミニバスから降りてくる艦娘たちを出迎えてキスしたり抱きしめたりしていると、チンクエチェント(フィアット500)の空冷エンジンが立てる乾いた音が響いてきた……正門のゲートが開かれると真っ赤なチンクエチェントが走ってきて多少ぎこちないブレーキをかけると、提督の脇で停まるか停まらないかといううちにリットリオが運転席のドアを開け、そのまま提督の胸に飛び込んできた…
提督「……っとと」
リットリオ「提督、ただいま戻りましたっ♪」
提督「んふ……リットリオ、お帰りなさい……休暇は楽しかった?」背の高い方である提督も大柄なリットリオに抱きつかれては胸元に顔が埋まり、たっぷりと胸の谷間で呼吸をすることになった……
ヴィットリオ・ヴェネト「はい、とても楽しかったです♪」
ローマ「素晴らしかったですよ、姉様の運転はともかくですが」
リットリオ「もうっ、それは言わない約束でしょ♪」
提督「とにかく無事で何よりだわ……積もる話もあるでしょうけれど、まずはチンクエチェントを車庫に入れていらっしゃい」
リットリオ「はいっ♪」
…しばらくして・食堂…
提督「さてと、これでみんな揃ったわね♪」休暇中に怪我や病気をすることもなく、元気一杯で戻って来た艦娘たちを見てほっと一安心した提督……
リベッチオ「それじゃあクリスマスプレゼントを開けてもいいの?」
(※イタリアではクリスマスプレゼントを開けるのは公現祭の日。持ってくるのもサンタクロースではなく魔女のベファーナということになっている)
提督「ええ、許可します♪」
リベッチオ「やったぁ!」
…おやつのビスケットに飛びつく犬のようにクリスマスツリーの下に置かれている自分宛のプレゼントに押しかける駆逐艦や中型潜クラスの艦娘たちと、その様子を微笑ましく眺めている年かさの艦娘たちと提督…
チェザーレ「ははは、なんとも微笑ましい眺めであるな」
提督「チェザーレもプレゼントを取りに行ったら?」
チェザーレ「なぁに、チェザーレは後からでも構わぬ……しかし皆も嬉しそうだ」
提督「それだけでもお財布をはたいたかいがあるというものね♪」
966 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/03/02(日) 02:00:35.38 ID:gtZKY0WA0
リベッチオ「わぁ、素敵なバレッタとスカーフ! ありがとう、提督♪」
アッチアイーオ「私のはマフラーに手袋ね」
提督「リベッチオはいつも元気に走り回って髪が大変でしょうから、まとめられるようにね……アッチアイーオは哨戒の時に寒いでしょうから、少しでも暖かいように」
アラジ「あ、靴下にセーターだ♪」
提督「貴女だって出撃が多いのだから、替えのお洋服も多い方がいいでしょう?」
ペルラ「あら、このハンドバッグは……」
提督「以前、コートと合わせたいけれど値段が折り合わないって言っていたでしょう? だから私からプレゼント♪」
ペルラ「覚えていてくれたのですね……♪」小さな口にえくぼを浮かべると「ちゅっ♪」とほっぺたにキスをした……
提督「ふふっ、いまのキスだけでお釣りがくるくらいだわ♪」
…あちこちにほどいたリボンや包装紙が散らかり、きゃあきゃあと楽しげな歓声が響き渡る……ルチアもそんな気分を察してか尻尾を振りながら駆け回り、提督の足元にまとわりついてはまた走って行く…
提督「それにしても良かったわ。みんなが喜んでくれて」
チェザーレ「きっと礼代わりの夜這いが続いて、明日は腰が立たなくなるであろうな♪」
提督「ふふっ、望む所よ」
チェザーレ「ほほう、ずいぶんと余裕ではないか」
提督「ええ、もとより明日は執務なんてしないつもりでいたもの♪」ちろりと舌先を出していたずらっぽい表情をしてみせた……
………
…翌朝…
デルフィーノ「おはようございます、提督っ」
提督「あ゛ー……お゛はよ゛う、デルフィーノ……」
デルフィーノ「うわわっ!? 提督ってば声がすっかりしゃがれて、一体どうしたんですか……あっ///」
提督「お゛ほん……見ての通りよ……」
デルフィーノ「うわぁ///」
アッチアイーオ「おはよう、提督……って、休暇明け早々からずいぶんとお楽しみだったようね?」
提督「楽しかったには楽しかったけれど、それ以上にくたくた……歯を磨いてくるから、甘いミルクコーヒーを持ってきてもらえる?」
…二日酔いのように頭を抱え、数人の艦娘たちが寝息を立てている天蓋付きベッドからよろめきながら這い出てきた提督……脱ぎ散らかされた服を踏まないようステップをとるようにして歩きながら、椅子の背にかけてあったナイトガウンをひっかけて化粧室に入っていった…
アッチアイーオ「前にも似たような事があったけれど、どいつもこいつも本当に色ボケばっかりね……シーツごと引きずり出してやろうかしら」
デルフィーノ「それだとシーツが破れちゃいますよ……」
アッチアイーオ「私だってその程度のことは分かるわ。そのくらい腹が立つってことよ」
エウジェニオ「だったら意地を張らないで素直にお呼ばれしておけばよかったじゃない……♪」色白な裸身をさらけ出しながらベッドの上で起き上がり、ものうげな動作で髪をかき上げる……
アッチアイーオ「私は十把一絡げで提督とベッドに入るなんてごめんだわ」
ガリバルディ「……とっかえひっかえで愉しむのもたまには良いものだけどね?」起き上がってエウジェニオを抱き寄せると、にんまりと笑みを浮かべた……
アッチアイーオ「くだらない事を言ってないでとっとと出ていってくれない? どうせシーツもぐちゃぐちゃでしょうし、早いうちに洗濯をかけたいから」
ガリバルディ「だ、そうだ」
エウジェニオ「ふふっ、この余韻が良いのに……残念ね♪」
アッチアイーオ「ざれごとはいいから早くしてちょうだい、ここはナポリあたりの連れ込み宿じゃないのよ」
エウジェニオ「ふふふ、せっかちなんだから……それより二人とも、良かったら片付けの前に私と愛を育んでみない?」腰に手を当ててむすっとしているアッチアイーオと、その後ろで恥ずかしそうに顔を赤らめているデルフィーノに向かってしなをつくってみせた……
デルフィーノ「あう、それは……その……///」
エウジェニオ「いいのよ、どうせシーツも洗うんでしょう? ……それに、私は貴女たちのことだって抱きたいと思っているわよ?」
アッチアイーオ「……いいからさっさと出ていって!」からかうような調子で誘ってくるエウジェニオにしびれを切らし、床に落ちていた枕を投げつけた……
エウジェニオ「ふふ、悪かったわ♪」たやすく枕を受けとめると小さく肩をすくめ、優雅にベッドから降りた……
ガリバルディ「ああ、まったくだ……それとデルフィーノ、もし良かったら後で私の部屋においで♪」
デルフィーノ「あ……えぇと、はい……///」
アッチアイーオ「まったくもう……!」
967 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/03/10(月) 01:18:12.11 ID:NlCZEgO/0
…しばらくして…
提督「ふぅ、さっぱりしたわ……♪」
アッチアイーオ「朝からお風呂だなんてぜいたくなことね」
提督「そう怒らないの♪ ……気象通報と管区司令部からの通達は?」
アッチアイーオ「気象通報はここよ。天候は晴、海況凪。風は北西からで風力は二。視程は十浬以上も海面にわずかなもや」
提督「風があるならじきに晴れるわね。哨戒組からの報告は?」
アッチアイーオ「今日はフルットをはじめ中型潜八隻が哨戒にあたっていたけれど敵影はなし」
提督「了解」
アッチアイーオ「あとは鎮守府宛に届いたクリスマスプレゼントへのお礼状書きね」
提督「私の留守中にいろいろ届いたそうだものね。とりあえず何が来たのかちゃんと見てくるわ」
アッチアイーオ「ええ」
…厨房…
ディアナ「エリトレア、ニンジンを取ってきて下さいな」
エリトレア「はいっ、すぐ持ってきます!」
ディアナ「よしなに」
…朝食が終わるとすぐ昼食の仕込み、昼食が済めば夕食と、一日中おいしそうな料理の匂いとにぎやかな音の絶えたことがない厨房……ディアナとエリトレア、それに手伝いの食事当番が交代でにぎやかにやっている……提督が顔を出すと、腕まくりをして髪をまとめあげたディアナが手際よく切り盛りしている…
提督「ディアナ、いつもお疲れさま」
ディアナ「あら、提督……どうかなさいましたか?」
提督「ええ。なんでも鎮守府へのクリスマスプレゼントで調理器具をもらったとかなんとか……誰がくれたにせよ、ちゃんとお礼状を書かないといけないから」
ディアナ「さようでございましたか……いただきましたのはこちらの品で、ちょうどお伝えしようと思っていたところでございます」まだ封を切らず、きちんと並べてある……
提督「助かるわ。えーと……」大きな調理器具の箱と、几帳面なディアナがきちんと箱に添えて取っておいたメッセージカードを確かめる……
提督「マリーからル・クルーゼの大鍋……前にもらったのはオレンジ色だったけれど、今度は黄色ね」取り落としそうなほど重いほうろう加工の鉄鍋は分厚く冷めにくい頑丈なもので、冬のあいだ暖炉にでも鎮座させてシチューか何かを煮込むのにふさわしい風格を帯びている……
ディアナ「あのお方は常々フランス製の良さをふれ回っておりますから」
提督「ふふっ、その通りね……♪」
…そのころ・トゥーロン…
エクレール提督「くしゅ……んっ!」
リシュリュー「おや、お風邪ですか?」
エクレール提督「ノン、きっと誰かが噂でもしているのですわ……それよりクリスマス休暇は楽しめまして?」
リシュリュー「ウィ、充実したものでした。提督も帰省をなさったそうですが、ご実家はいかがでしたか?」
エクレール提督「……実家は相変わらずでしたわ。ここからそう遠いわけでもありませんし、特に変わったこともありませんでしたわね」
リシュリュー「おや、そういえばそうでした……提督のアクセントを聞いていると、ついプロヴァンス出身であることを忘れてしまいます」
エクレール提督「……っ、わたくしがプロヴァンス生まれかどうかは関係ないでしょう///」
リシュリュー「ええ、ごもっともで」
エクレール提督「まったく。まあ気ぜわしいこともなく、のんきなものでしたわ……」
………
…年の瀬・エクレール提督の実家…
エクレール提督「それにしても、相変わらずの田舎ですわね……」
…1950年代の発表時には「宇宙船のよう」とまで表された先進的な構造とデザインで世界の度胆を抜き、その後も長く活躍した愛車の「シトロエンDS19」を拭きながら小さくため息をついた……久々の帰省になったプロヴァンスの実家は気ぜわしいパリの空気を知っているエクレール提督からすると少しのんきすぎるくらいのどかな空気が漂っていて、磨き上げているシトロエンDSの隣にちょこんと停めてある家族の車……小さな灰色の2CV(ドゥシュヴォア)からも田舎らしさが漂ってくる…
エクレール提督「でも、きっとこの家も百年はこうして建ち続けていたのですわね……」納屋に充満している乾いたわらの香ばしい匂いに懐かしさを覚えながら、黒塗りのシトロエンに仕上げのワックスをかける……
エクレール提督の母「ほれマリー、お茶が入ったから飲みにおいで?」のんびりしたプロヴァンス訛りが母屋の方から聞こえてくる……
エクレール提督「ええ、すぐ行きますわ!」
エクレール提督「……まぁ、たまにはこのような雰囲気も悪くありませんわね」
968 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/03/20(木) 01:14:01.56 ID:wUSGFgIf0
…エクレール家・居間…
エクレール母「ほら、たんとおあがり?」
エクレール提督「ええ」
エクレール父「いや、お前が帰ってきてくれて嬉しいよ……今年は葡萄も良かったし、トリュフも結構収穫があったんだ」
エクレール提督「それは何よりですわね」
エクレール父「ああ、今年はいい年越しが過ごせるよ」
…数百年の風雪に耐えてきたエクレール家の暖かな居間でコーヒーとブリオッシュをお供にゆったりと過ごす一家……いつもは少し気取った雰囲気を漂わせているエクレール提督も、いまは少し気を抜いているように見える…
エクレール父「……それにしてもだ、まさかうちの娘が海軍士官とはな」
エクレール提督「その話は耳にたこができるほど聞きましたわ」
エクレール母「ほんにねぇ、しゃべる言葉もすっかり都会者みたいになって……」
エクレール提督「パリでプロヴァンス言葉なんて使ったら小馬鹿にされてしまいますもの」
エクレール父「やれやれ、最近の若いもんは口を開けばパリ、パリ、パリだ……あんなよそよそしい町のどこがいいんだか分からんよ」
エクレール提督「海軍省にいたのですから仕方ありませんわ」
エクレール母「まぁまぁ。父さんは口でこそこんなだけど、おまえが官報やル・モンドの記事になるたびにペタンク友達に自慢して回っているんだから」
(※ペタンク…目標になる球に向けてチーム分けされた双方が交互にボールを投げて目標に近い方が点を取る、カーリングの球技版。プロヴァンスなどで盛ん)
エクレール父「自慢してるわけじゃないさ。ただアンリやジャンの野郎が「お前の娘はどうしてる?」って言うから……」
エクレール提督「まったく……この調子では何を食べたとか、何を買ったかまでふれ回っていそうですわね」
エクレール父「そんなことはしちゃいないよ……それよりマリー、ヴォークランのせがれがそろそろ身を固めたいらしいんだが……」
エクレール提督「お断りですわ」
エクレール母「マリーや、せめて顔を見たうえで断るとかできないものかい?」
エクレール提督「これまで何度も言っているとおり、顔のよしあしなど問題ではないと言ったはずですわ」
エクレール父「とはいえ、いずれはお前もうちの葡萄畑や土地を継がなきゃならん……女だけで、ってのは難しいだろう」
エクレール提督「もしそうなったら小作人を雇いますもの」
エクレール母「だけどねぇ……女同士で結婚なんていうのは教会でも認めちゃくれないんだよ?」
エクレール提督「教会に認めてもらうために結婚するわけではありませんわ!」
エクレール母「そりゃあそうだけども……」
エクレール提督「とにかく、わたくしはわたくしの好きな人間と結婚いたします。お父様とお母様があれこれと気を使ったり、どこかの農家の息子をカタログにして持ってくる必要はありませんわ」
エクレール母「お前がそこまで言うなら無理にとは言わないよ……だけどねぇ」
エクレール父「……分かったよ、おれも付き合い上そう言っただけだからな。ヴォークランのやつには断りを入れておくさ」
エクレール提督「申し訳ありませんわ」
エクレール父「親にわびを言う事なんぞないさ。他人様にはかけられない迷惑をかけていいのが家族なんだからな」
エクレール提督「ええ、そうですわね」
エクレール父「そうとも。それより前の休暇の時にくれたセーター。ありゃあ暖かくて助かるよ……今年の冬はめっぽう寒いからな」
エクレール母「あたしに買ってきてくれた靴下も役に立っているよ」
エクレール提督「それは何よりですわ」
エクレール父「ところで今年のクリスマス休暇は公現祭までいられるのかい?」
エクレール提督「残念ながら今年は難しいですわ。先任提督にお願いをして、どうにか四日までは伸ばしてもらえたのですけれど……」
エクレール母「オー・ラ・ラ(おやまあ)……それじゃあ今年はロワイヨームを一緒に食べられないのかい」
(※ガレット・デ・ロワ…「王様のお菓子」の意。王冠の飾りをつけたパイに陶器の小さな人形を一つ入れ、切った中から「当たり」のひと切れを取ったものがその年の「王様」になるという縁起物のお菓子。プロヴァンスではオレンジの香りを効かせたブリオッシュ生地で作られ、名前も「ロワイヨーム」と異なる)
エクレール提督「ええ……」
エクレール父「仕方ないさ。それじゃあおっかあにとびきりでっかいのを焼いてもらって、鎮守府で軍艦の娘たちと食べることにすりゃあいい」
エクレール母「そうだね、あたしが美味しいのを焼いてあげるから基地に持ってお行き」
エクレール提督「ええ、そうすることにいたしますわ」
969 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/03/29(土) 01:21:47.39 ID:kzYhyWdq0
…夕食時…
エクレール母「ほら、もっと食べないと……そんなにやせこけて、あたしゃ心配になっちまうよ」
エクレール提督「適正体重を維持しているだけですわ」
エクレール父「そう言わずにもうちょっと食べた方が良いぞ、せっかくの手料理なんだしな」
エクレール提督「……それはそうですわね」
…プロヴァンスとはいえ寒い冬の夜、暖炉が心地よく室内を暖める中で食卓を囲むエクレール家……時間をかけてゆっくり煮込んだ野ウサギの煮物やアイオリソースをたっぷりつけた蒸し野菜など、素朴な材料にもかかわらずハーブや香草で驚くほどの味わい深さがある…
エクレール提督「たくさんいただきましたわ……ごちそうさま」
エクレール母「久しぶりの家の味だったろう?」
エクレール提督「ええ、懐かしい味でしたわ」
エクレール父「良かったな……さて、おれはアブサン(※ニガヨモギのリキュール)でも飲るとするか」独特の匂いがする煙草「ジターヌ(ジタン)」に火を付けると、小さなグラスに綺麗な黄緑色のリキュールを注いだ……
エクレール提督「お父様は相変わらずですわね」
エクレール父「こいつはプロヴァンス人の魂だからな」自慢げに鼻をうごめかし、小さいグラスをつまみ上げるようにして口元に持っていくとちびちびと舐めるようにすすった……
エクレール提督「わたくしはコニャックにしておきますわ」
エクレール父「ああ、好きな物を飲めばいいさ……おっかあ、マリーにグラスを出してやれ」
エクレール母「はいはい」
エクレール提督「お母さまは座っていて下さいまし、自分でできますから」
エクレール母「そうかい?」
エクレール提督「ええ……よかったらお母さまも少し召し上がる?」
エクレール「そうだねぇ、じゃああたしも一杯だけもらおうかしらね」
エクレール提督「分かりましたわ」
………
…数日後…
エクレール提督「それでは、わたくしは鎮守府に戻りますわ……ごきげんよう」
エクレール父「達者でな」
エクレール母「体調には気をつけるんだよ? たまには手紙をちょうだいね?」
エクレール提督「ええ、分かっておりますわ。それでは」
…普段はパリジェンヌを気取っているエクレール提督も庭先で家族に見送られて車に乗り込むとなると、古めかしい家や変わり映えのしない畑、なだらかなプロヴァンスの野山に離れがたいものを感じる……そうしたノスタルジーを振りきるように制帽をかぶり直すとDS19に乗り込み、停車時には姿勢を低くするハイドロニューマチック(油圧制御)の車高調整装置を走行状態に入れてアクセルを踏んだ…
エクレール提督「お父様もお母様も、いつの間にかシワと白髪が増えておりましたわね……」バックミラー越しに小さくなる両親の姿をちらりと眺めると、胸に感慨深いものが流れた……
エクレール提督「……家族を心配させないためにも、わたくしはしっかりしないといけませんわね」
エクレール提督「それにしてもこんなにたくさんのお土産を、まったく……」口が酸っぱくなるほど「いらない」と言っても、あれこれと持たせてくる親心に苦笑いを浮かべる……
エクレール提督「まあ、鎮守府の娘たちに分ければ良いだけのことですわね」
………
…
エクレール提督「……ともあれ、貴女たちが喜んでくれて何よりですわ」
リシュリュー「それはもう、コマンダン(司令官)のご実家からいただいたさまざまなものをむげに扱うようなことはいたしません」
エクレール提督「皮肉で言っておりますの?」
リシュリュー「ノン、とんでもございません……気取らないプロヴァンスの素朴なお土産、実に結構なものでございます」
エクレール提督「……素直に賛辞として受け取っておくことにいたしますわ」
リシュリュー「ウィ、それがよろしいかと」
エクレール提督「ええ……では、そろそろガレット・デ・ロワを切り分けに参りましょうか。ジャンヌたちも待ちくたびれていることでしょうし」
リシュリュー「お供いたします」
970 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/04/07(月) 01:35:19.70 ID:CgmZEvqc0
………
…
ディアナ「昼の献立はもう決めてしまいましたが、夕食はフランス料理になさいますか?」
提督「いいえ。マリーの実家でごちそうになったプロヴァンス料理も悪くはなかったけれど素朴すぎたし、かといってパリで食べた料理は高くて目が回りそうだったから……やっぱりイタリア料理の方が断然良いわ」
ディアナ「ふふ、カヴールには聞かせられませんね?」
提督「カヴールはフランス通だものね」
ディアナ「しかし、フランスをはじめドイツ、日本、アメリカ……ここの娘たちも色々な場所と縁がございますね」
提督「そうね……せっかくだし、私も手伝うわ」
ディアナ「よしなに」
…昼時…
提督「……良かったらもう少しどう?」
ゴリツィア「ではもう半分ほど……」
ポーラ「う〜ん、これは飲み口のいい赤ですねぇ♪」
提督「私の実家があるコムーネで地元の小さな醸造所が作っているテーブルワインだけれど……こんどのは去年のだけれど案外いいでしょう?」
ザラ「まだ少し若いですが、渋みが少なくて合わせやすい良いワインです」
提督「ね? 赤にしては軽いし、ほどよく飲めるわよね♪」
…軽めの昼食を済ませ、暖かな食堂でチーズやオリーヴの瓶詰め、サラミをつまみながらワインをちびちびすすっている……デュイリオのカラスは止まり木で鶏肉の切れ端やクラッカーの欠片をついばみ、ルチアは暖炉の前の敷物に寝そべって鹿の角をガリガリと噛んでいる…
フィウメ「これでクリスマス休暇も終わりですか」
提督「ええ……とはいえクリスマス休暇を取らないで後ろに回した組がいるわけだし、今度はその娘たちが出かけるわけね」
ボルツァーノ「また鎮守府の半分近くがいなくなってしまいますね」
提督「まぁ、一斉に休暇を取るのは無理だったし……私としてもチェザーレやディアナたちがクリスマス時を外してくれて助かったわ」
チェザーレ「……ふむ、しからば身体で礼をしていただこうか♪」後ろからぬっと姿を現し、肩に手をかける……
提督「もう、さすがに勘弁して♪」
チェザーレ「そこまで言うのならば仕方あるまい」
提督「ともかく、気兼ねすることなんてないのだから楽しんできてもらいたいわ」
ザラ「そうですね」
提督「ええ」
ルチア「……ワフッ」シルヴィアがくれた裁断した鹿の角をガリガリとかじって楽しんでいたルチアだったが満足したらしく、かじりかけの角を食堂の片隅にある定位置に片付けると、提督の足元までとことこと歩いてきて軽く吠えた……
提督「あら、ルチア……お散歩でも行く?」
ルチア「ワンッ♪」
提督「はいはい、それじゃあ支度をするわね♪」
…鎮守府・庭…
提督「うっ……まだまだ春は遠いようね」ロングコートに手袋を取ってきたが、それでも吹き付ける海風はぴりっと冷たい……自前の毛皮を着ているルチアは寒くもないらしく大はしゃぎだが、提督は思わず身体をすくめた……
アラジ「おーい、提督っ♪」
提督「ルチアと同じくらい元気一杯な娘があんなところにもいたわ……アラジ、寒くないの?」
アラジ「寒い? 動いていれば身体が暖まってくるし、寒くなんてないよ♪」イタリア潜で最も多くの出撃をこなしたアラジは活発な性格で、散歩中の提督とルチアを見かけると跳ねるような駆け足でやってきた……
提督「さすがね……とはいえ風邪をひいたりしないように注意するのよ?」
アラジ「了解。ルチア、一緒に走ろうか♪」
ルチア「ワンワンッ!」アラジが浜辺で拾った木の枝を手に駆け出すと、それに続いて走り出すルチア……敷地内の散歩ではたいていリード(つなぎひも)を付けていないので、たちまち白い毛をひるがえし全速で疾駆しはじめた……
提督「若いわねぇ……」
971 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/04/18(金) 01:19:05.32 ID:NZ5h/yaO0
デュイリオ「あらあら、提督だってまだまだお若いでしょうに♪」口元を手で押さえ、ころころと笑うデュイリオ……
提督「若いと言ってもあの元気にはかなわないわ……早く戻って温かいココアでも飲みたい気分よ」
デュイリオ「ではエリトレアにそう言っておくといたしましょう♪」
提督「ええ、お願いね」
…四季折々の花が咲いている庭も今は冬枯れのわびしさで、土作りのため夏の間に作っておいた堆肥や腐葉土が積み上げられているばかり……浜辺に打ち寄せる波は「ざあ……っ」と余韻を残しては海に戻り、また白い泡を伴って寄せてくる…
提督「ふぅ……」
ライモン「提督」
提督「あぁ、ライモン……その格好で大丈夫?寒くない?」
ライモン「はい。わたしは大丈夫ですが、提督は寒いのではないかと思って……マフラーを持ってきました」
提督「ふふ、お気遣いありがとう。ライモンも一緒に巻く?」
ライモン「いえ、そんな……///」
提督「まぁまぁ、少し短いけれど頑張れば巻けるんじゃないかしら?」柔らかなカシミアのマフラーを首もとに軽く巻くと、余った部分をライモンの首もとにかけて身体を寄せた……
ライモン「あ……///」
提督「ほら、どうにか巻けたわ。それに貴方の体温で暖かい♪」
ライモン「提督こそ……あったかいです……///」
提督「そう?」
ライモン「はい。確かに今までたくさん楽しいことや嬉しいことがありましたけれど……わたし、こうやって提督のぬくもりを知ることが出来たのが……一番嬉しいことかもしれません///」
提督「も、もう……そんなことを言われたら愛おしくてたまらなくなっちゃうじゃない///」思わず腰に手を回し、ぐっと顔を近寄せた……
ライモン「あ……///」
提督「んっ……♪」
ライモン「ん……ちゅ///」
提督「ふふ、ちょっとしょっぱい……♪」海風に当たっていたためか、甘く柔らかな唇に少しだけ塩気を感じた……
ライモン「海の味ですね」
提督「そうね……」
ルチア「ワンワンッ!」
…提督とライモンが波打ち際でお互いにささやきながらたたずんでいると、アラジを振りきったルチアが流木をくわえて全速力で駆け戻ってきた…
提督「このままいたいけれど、どうやらルチアが構ってほしいみたいね」
ライモン「名残惜しいです……」
提督「それじゃあ後で、また……ね?」
ライモン「はい」マフラーをほどくとルチアが差し出した木切れを受け取り、ブーメランのように投げた……
ルチア「ワンッ!」
アラジ「待て待てぇ!」疾駆するルチアに追いすがるべく砂浜を駆ける……
提督「本当に元気ねぇ……さてと、そろそろ戻りましょうか」
ライモン「そうですね。お散歩の続きはアラジに任せましょう」
提督「ええ、そろそろココアも出来たでしょうし♪」
アラジ「あ、そろそろ引き上げる?」
提督「私はね。もしアラジが構わなければ、あと少しだけルチアと遊んであげてくれる?」
アラジ「了解っ♪」
提督「それじゃあお願いするわ」
アラジ「はぁーい」
ライモン「では、戻りましょう」
提督「ええ、暖炉とココアが待っているものね♪」
972 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/05/01(木) 01:24:02.53 ID:YZXyTJeW0
提督「はぁ……温かい」
ライモン「そうですね」
…暖炉の脇、温もりがじんわりと伝わってくる場所に椅子を据えてココアのカップを手にしている提督たち……活発な娘たちが表ではしゃいでいるのを食堂の窓越しに眺めつつ、エリトレアが淹れてくれた甘く濃いチョコラータ(ココア)に舌鼓を打つ…
エリトレア「まだまだ寒いですからねぇ」厨房の後片付けを終えてエプロンを外したエリトレアは、くつろぎモードで銅製ポットのチョコラータを注いでいる……
提督「……それにしてもまだまだ夕暮れが短いわね」
ライモン「確かに、あっという間ですね」
…ことわざにある「秋の日は釣瓶落とし」ではないが、さっきまで少し頼りなげとはいえ穏やかな午後の日差しが残っていたというのに、あっという間に日が落ちて深青色に変わっていく海面……浜辺に打ち寄せる波の泡だけがほの白いだけで、空もヴェルヴェットのような黒一色に染まっていき、そこに小さな宝石の欠片を撒いたかのようにぽつりぽつりと星が出始める…
提督「灯台にも明りが入ったようね」鎮守府から数キロ先「小さな町」の方には小さな岬があって、そこに設けられた灯台が光の帯でさっと海面を払う……
デュイリオ「灯台が点いていると平和な気持ちになるものですね」
提督「深海棲艦のことがあるとはいえ厳密に言えば平時なわけだし、灯火管制をする必要もないものね」
…鎮守府の浜辺に「ざぁ……っ」と寄せては返す波音に耳傾け、遠くにさっと流れる灯台の光芒を見るでもなくぼーっと眺めながら、思い出したようにとろりとしたチョコラータに口をつける…
アラジ「ただいま戻りましたっ!」
提督「あぁ、お帰りなさい……ルチア、満足した?」
ルチア「ワンッ♪」
アラジ「なにしろ思い切り駆け回ったからね♪ ……全身砂まみれになっちゃったので、さっきドックの簡易シャワーで軽く流してからお風呂場で洗ってあげました」
提督「ありがとう、お疲れさま♪ エリトレアがチョコラータを淹れてくれたから、良かったらどうぞ」
アラジ「やった♪」
…ついでに自分も洗ってきたのか、まだ湿り気の残っている髪をかき上げると自分のマグカップを持ってきて暖炉の前に座り、ポットから湯気の立つチョコラータをたっぷり注いだ……ルチアは暖炉の前の敷物に長々と身体を横たえると器用に頭を回してあちこち舐め回して毛並みを整えつつ、暇な艦娘たちが遊び半分にブラシを持ち出すと喜んでブラッシングに応じている…
提督「……ふふ♪」
ライモン「提督?」
提督「いえ、ね……こうのんびりしているとあくびでも出そうな気がして。 電話でも来ないかしら?」
ライモン「いくらなんでもそう都合良くかかってくることはないと思いますが……」そう言いかけたところで、提督が持ち歩いている私用の携帯電話がぶるぶると震えだした……
提督「噂をすればなんとやら……ね」
ライモン「すごいタイミングですね……どなたからでしょうか?」
提督「えぇ…と、ジェーンからね。 はい、もしもし?」
ミッチャー提督「ハーイ、フランチェスカ♪ 元気? いまおしゃべりしても大丈夫かしら?」
提督「ええ、ちょうど話し相手が欲しかったところよ♪」
ミッチャー提督「オーケー、タイミングはばっちりだったわけね……そうそう、クリスマスプレゼントとグリーティングカードをありがと♪ うちのガールズたちも喜んでたわ」
提督「こちらこそプレゼントをたくさん送ってもらって感謝しているわ、ありがとう」
ミッチャー提督「ノ−・プロブレム。こういうのはギヴ・アンド・テイクなんだからさ……そっちはどう?」
提督「そうねぇ……鎮守府にいるとは言っても管区司令部もまだクリスマス気分が抜けきっていないみたいでのんびりしたものよ」
ミッチャー提督「そいつはうらやましい限りね……こちとらはボスが気短なおかげで休み明けもなにもあったもんじゃないわ」
提督「その調子だとあまり聞かない方が良さそうだけれど、ちゃんと休暇は取れたの?」
ミッチャー提督「そいつは心配無用よ。「31ノット・バーク」そこのけの勢いで書類を片付けて、ついでに休暇申請書を叩きつけてやったわ……ま、休暇といっても飲み歩くか女を呼んで騒ぐかのどっちかだったけど♪」
提督「くすくすっ……相変わらずね?」
ミッチャー提督「まぁね。それにアナポリス(海軍兵学校)時代の知り合いどもがイカした57年型の「シボレー・ベルエア」で乗り込んで来たもんだからさ。わいわい言いながら街に繰り出して、久しぶりの上陸みたいにはしゃぎ回ったわ♪」
提督「ふふっ、きっとにぎやかだったでしょうね♪」
ミッチャー提督「にぎやかなんてもんじゃなかったわよ。バドワイザーとテキーラの海でミズーリが浮くんじゃないかってくらいで、ストリッパーは来るし憲兵は駆けつけるし、翌日になって二日酔いの頭を抱えて起きてみれば、どっかの娼婦たちと一緒にどでかいハート型のベッドに転がり込んでるし……」
提督「複数形ってことは、何人もいたの?」
ミッチャー提督「ええ。なんでも「今日は全員相手してやるから遠慮するな」って私たちが札ビラを切ったもんだから、一人に四人くらいはついちゃったみたいなのよね。こっちは覚えちゃいないけど、あちらさんによるとそういう話だったわ」
提督「なんて言うのかしら、いかにも「らしい」クリスマスだったようね?」
ミッチャー提督「おかげさまでね♪」
973 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/05/10(土) 01:40:29.48 ID:ccWrX6qa0
提督「みんなそれなりに楽しい年末年始を過ごしていたみたいね」
ライモン「そのようですね。提督はゆっくりできましたか?」
提督「ええ、おかげさまで♪ 鋭気も養ったし、これで元気よく書類の山に……」未決書類の箱に積まれた書類をちらりと見て視線を戻した……
ライモン「提督?」
提督「いえ、もちろんやらないわけじゃないわ。いつかはどうにかしないといけない書類だもの……とはいえ、ね」また改めて書類の山に視線を向けて眉をひそめた……
ライモン「あの、少しずつでも片付けないと……」
提督「そうね。溜まれば溜まるほど片付けるのがおっくうになるもの……掃除と同じね」
ライモン「では、わたしもお手伝いします」
提督「ありがとうライモン、優しいわね……それじゃあコーヒーを淹れてきてもらおうかしら。温めたミルクたっぷり、砂糖は少なめで」
ライモン「はい♪」
提督「それから手が空いているようだったらアッチアイーオとデルフィーノも呼んできてもらえる? 秘書艦としてのお仕事があるって」
ライモン「了解」
…数分後…
デルフィーノ「ただいま参りましたっ」
アッチアイーオ「来たわよ……」
提督「あらら、アッチアイーオったらずいぶん陰気になっちゃって……」
デルフィーノ「寒いせいかすっかり気落ちしちゃっているみたいなんです」
提督「それじゃあアッチアイーオは食堂の暖炉で温まって、元気になったら来てちょうだい……デルフィーノ、それまではお願いね?」
アッチアイーオ「悪いわね……はぁ……」
デルフィーノ「はい、アッチアイーオの分まで頑張ります♪」くりっとした目をキラキラさせ、跳ねるような動きで応接テーブルの椅子に腰かけて書類を受け取る……
提督「頼もしい限りね……それじゃあ張り切ってやっつけることにしましょうか♪」セーターの袖をひじまでまくり上げ、お気に入りの万年筆を手に取った……
…しばらくして…
デルフィーノ「提督、この書類の書式なんですけれどマニュアルにはaとbがあって……」
提督「あー、それなら年度替わり前だからaの方よ」
デルフィーノ「あとこの「休暇時交通費の補助に係る申請」っていう書類を書きたいんですけれど、適応される範囲が分からなくって……」
提督「それならマニュアルの……9ページだったかしら、書き方と適応範囲が書いてあるから参考にしてもらえる? まぁおおまかなところで、EU圏内なら補助が出ると思っておけば間違っていないはずよ」
デルフィーノ「なるほど。9ページ……9……あ、ありました♪」
提督「ね? だいたいのことはマニュアルに書いてあるから、困ったらそれでどうにかなるわ。ならないこともあるけれど……」複雑で面倒な経費や手当の申請書類とふせんだらけの使い込まれた用例集、さらにはラップトップを開いて海軍の申請システムに入っているフローチャートを出して見比べている……
提督「うぅん……結局どの項目で申請すればいいのよ?」ぶつくさとこぼしていたが受話器を取り上げ、左肩と耳で挟むと番号をダイヤルした……
提督「もしもし。タラント第六のカンピオーニですが、庶務課をお願いします。書類の摘要のことで少し問い合わせたいことが……」
提督「……あら少尉、お久しぶり♪ えぇそうなの、実は艦娘の娘たちが休暇時にもらえる旅費の補助のことで……そうそう、その書類よ」
提督「それじゃあこの書式のC項に書き入れればいいのね……領収証の貼付も必要? 了解」
提督「なるほど、おかげで謎が解けたわ……どうもありがとう。できれば貴女の声を聞いていたいのだけれど、書類がたっぷり残っているものだからまたの機会にね……チャオ♪」
デルフィーノ「無事に手続きの仕方が分かったみたいですね」
提督「ええ。それにしても複雑極まりないことおびただしいわ……まったく嫌になっちゃう」正方形のふせんにメモをつけるとマニュアルのページにぺたりと貼りつけ、それから気を取り直して書類の空欄に必要項目を書き入れ、サインをし、キーボードを叩く……
ライモン「コーヒーをお持ちしました。デルフィーノも良かったらどうぞ」
デルフィーノ「わ、ありがとうございます♪」
提督「ライモンは優しいわね……アッチアイーオは?」
ライモン「そろそろ温まってくると思いますが、まだしょげているみたいで……余計だったかもしれませんが、何人かに声をかけておきました」
提督「余計だなんてとんでもないわ。今は一人でも多くの手が欲しい所よ……はい、どうぞ」
ガラテア「失礼いたします、書類のお手伝いが必要とのことで……」
ルビノ「わが愛しの提督のために馳せ参じたわ♪」
提督「ふふ、心強い限りね……それじゃあ手分けして片付けるとしましょうか♪」
974 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/05/27(火) 01:51:58.62 ID:U0Ixlxae0
提督「……仕上がった書類はひとまとめにしておいてね」
ライモン「はい、提督。 ガラテアとデルフィーノはこちらの山をお願いします」
デルフィーノ「はぁい」
ガラテア「ええ。ルビノは出来上がった分をまとめて下さる?」
ルビノ「任せて」
…温泉の熱を利用した全館暖房の少し心もとない暖気が足元に吹く中でカタカタとキーボードを叩く提督と、それぞれペンを走らせ、クリップで書類を留め、記入漏れを確かめるライモンたち……
提督「えーっと、経費申請は……あら?」だいたいは順調に進んでいるが、思い出したようにエラーではじかれたり、入力したい要目の部分がロックされて数字を打ち込めなかったりする……
提督「ふぅ……っ」時折しぶるキーボードを連打したり眉をひそめたりしながらも「未決」の山を減らしていく提督……
ライモン「提督、こちらはほとんど片付きました」
提督「あぁ、ありがとう……おかげでずいぶん助かったわ」
ルビノ「他ならぬ提督のためだもの……ねぇ、ごほうびにキスして?」
ガラテア「あら、ではわたくしにも♪」
デルフィーノ「えっと、そ……それじゃあ私も///」
提督「そうね、頑張ってくれた娘にはご褒美をあげないと……もちろんライモン、貴女もよ?」
ライモン「いえっ、わたしは提督のお役に立てればそれで充分ですから///」
提督「まぁまぁ、そう言わずに……ね?」提督は立ち上がると一つ伸びをし、それから執務机を回ってライモンたちが座っていた応接テーブルの方へやって来た……
ライモン「は、はい……///」
提督「それじゃあ、お手伝いありがとう……ちゅっ♪」
ライモン「んっ///」軽く唇を合わせる少女のようなキスだったが、唇を通して伝わってくる生真面目な恋心が愛おしい……
ガラテア「では、わたくしから提督に……あむっ……ん♪」
提督「あ……んっ……ガラテアのキスは本当に上手ね///」ピグマリオン伝説の美しい彫像、または海のニンフ(精霊)であるネレイーデの一人を名前の由来に持つガラテアは色白で、美人揃いの鎮守府にあっても抜群に顔が良く、さすがの提督でも間近に迫られると少しどぎまぎする……
ルビノ「それじゃあ今度は私から♪」微笑と慈愛で包み込むようなガラテアとは対照的に、熱情をぶつけてくるようなルビノ(ルビー)は焼けるように激しく熱いキスで提督の唇をむさぼる……
提督「ん、んっ、んむっ……ぷはぁ♪」唾液に残ったミルクコーヒーの甘い味がつぅ…っと糸を引く……
デルフィーノ「そ、それじゃあ私も……///」くりくりとした丸っこい瞳を伏し目がちにしてもじもじと身じろぎしながらも、つま先を伸ばして待ち遠しげにしているデルフィーノ……
提督「ええ♪」
デルフィーノ「……んぅ?」なかなか唇が触れないので、いぶかしげに視線を向けてくる……
提督「あら、そんなにして欲しかったの?」イルカらしく「一人遊び」を始めとしたえっちな事柄を奔放なまでに楽しんでおきながら、それにそぐわない可愛らしい童顔と恥ずかしがりようを見せるデルフィーノはついからかいたくなる……
デルフィーノ「いえっ、そういうつもりじゃないです……っ///」
提督「ふふふ、いいのよ♪ デルフィーノは欲しがりさんだものね……んちゅっ、ちゅ♪」
デルフィーノ「ふあぁ……あふぅ、んぁ///」片手を腰に回され、もう片方の手で濃い灰色の髪を撫でられながら舌を絡められると、すっかり力が抜けたように
提督の腕の中で甘い声を上げている……
提督「はい、おしまい♪」
デルフィーノ「ふわぁ……///」トロけたような表情を浮かべ、ため息とも嬌声ともつかない音を漏らしている……
提督「さ、あとは提出書類に不備があった娘たちのところを回って必要なものを集めるとしましょう」
…ライモンたちを連れて回診をする医師のように鎮守府を巡る提督……もちろん館内放送で「提出書類に不備がある」と艦娘たちを呼びつけても良いのだが、運動不足の解消と艦娘たちとのコミュニケーション、そしてなによりパソコン画面としばらく離れるためにそれぞれの部屋を訪問することにした…
提督「……コルサーロ、いる?」
コルサーロ「ああ、いるよ……どうかしたか?」ソルダティ級駆逐艦の「コルサーロ(アラビア海賊)」はハーレム(後宮)風の豪華なガウン姿でベッドに寝転がっていた……
提督「ええ、休暇の時にかかった旅費には補助が出るのだけれど……料金が分かるような領収書とか明細は取ってある?」
コルサーロ「どうだったかなぁ……忘れちまった」
提督「困ったわね。でも管区司令部に提出しないと私がやいのやいの言われちゃうから……探してみても見つからないようなそれでいいから」
コルサーロ「分かった、それじゃあちょっくら探してみるよ」
提督「お願いね」
975 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/06/08(日) 02:33:54.40 ID:0zBRxkTM0
提督「ガリレオ、クリスマス休暇の時に使った航空券や列車の切符の額が分かるものを……」
提督「ニコ、貴女がクリスマス休暇で使った旅費には補助が出るから領収書を……」
提督「あらバンデ・ネーレ、ちょうどいい所に。休暇の時に使った交通手段の領収書を……」
………
…しばらくして…
提督「リベッチオ、少しいいかしら?」
リベッチオ「うわ、領収書お化けが出たぁ!」噂が広まっているのか、寝転がって本を読んでいたリベッチオがすっとんきょうな声を出した……
提督「もう、いきなり失礼ね」
リベッチオ「それじゃあ別の用事?」
提督「いいえ。特に貴女は領収書も明細もまるっきり提出していないから、このままだと管区司令部に補助の申請が出せないわよ?」
リベッチオ「ほらやっぱり……それに領収書なんてもらってないもん」
提督「もう、休暇の交通費には補助が出るからもらっておくようにって言ったでしょう……」肩をすくめ手のひらを上に向ける提督……
リベッチオ「だってぇ……」
提督「仕方ないわね……それじゃあリベッチオ、スーツケースは?」
リベッチオ「スーツケース?」
提督「ええ、ちょっと出してくれる?」
リベッチオ「いいけど……んしょ」クローゼットの下段に仲良く収まっている姉妹お揃いのスーツケースから自分のを引っ張り出した……
リベッチオ「よいしょっと……それで、スーツケースがどうかしたの?」
提督「ええ、もし運が良ければ……やっぱり♪ これがあれば大丈夫なはずよ♪」提督が指さしたのはスーツケースの持ち手に付けられた空港の手荷物タグ……
リベッチオ「それでいいの?」
提督「ええ。これなら行き先や日付も分かるし……持って行っても構わないかしら?」
リベッチオ「いいよ? 別に荷物タグなんていらないし」
提督「了解、これでどうにかなりそうね」
…夕食後…
提督「ふぅ……これで揃えられる範囲のものは揃えたわね」スキャンした領収証や旅費の証明になりそうなチケットの半券やタグの画像をデータとして添付し、申請を終えるとシステムを閉じた……
ライモン「お疲れさまでした、提督」
提督「いいえ。それに皆が大変な思いをしてもらっているお給金だもの、せっかく補助や還付があるならもらっておかないと……ね?」
ライモン「ありがとうございます」
提督「ノン・ファ・ニェンテ(いいのよ)……それより浮いたお金で何かお買い物でもするといいわ」
ライモン「ふふっ、そうですね♪」
提督「それにしても疲れたわ……お風呂にでも入るとしましょうか」
ライモン「分かりました、それでは着替えを……」
提督「別に貴族じゃないのだから、そこまでしてくれなくたっていいわ……それよりライモン、一緒に入る?」
ライモン「えっ……その、構いませんか///」
提督「構うも構わないも、私から誘っているのよ? ライモンさえ良ければぜひご一緒したいわ」
ライモン「わ、分かりました……それじゃあ着替えを取ってきます///」
提督「ええ、それじゃあ大浴場の前で♪」
…まとめていた髪をほどいて頭を振ると、パイル地のバスローブとメイク落としなどが入った浴用品のポーチを小脇に抱えてゆったりと歩き出した……そして海軍士官ならではの職業病で、窓辺によるとついつい海の様子や天候を確かめてしまう……海面は少し荒いが月が冴え渡り、白い波頭が明るく浮き上がるように見えている…
提督「少し荒れ気味ね……深夜哨戒の娘たちは船体ががぶってくたびれるでしょうし、少しお腹に溜まるような夜食の方が良いかもしれないわね」
提督「風は北から北東に回ったけれど、明日になったら少しは落ち着くかしら……」
提督「っと、いけないいけない……あれこれ考えていたらお風呂に行くのを忘れそうになっちゃったわ」
………
…
976 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/06/17(火) 00:48:43.95 ID:/aOb8Ef40
…大浴場…
提督「あー……肩のこわばりがほぐれていくわ……」
ライモン「あれだけの書類でしたからね」
提督「それでもみんなのためになると思えばどうってことないわ……とまでは言わないけれど、まぁ頑張れるわ」
ライモン「わたしたちも気苦労なく暮すことができるのも提督のおかげですね」
提督「私の方こそこんなに良い暮らしをさせてもらっているんだもの。肩に「二つ星」を付けている分だけ役に立たないと……いつもこんなことを言っている気がするわ」失笑する提督……
ライモン「ふふ♪」
提督「ふふふっ♪」
声「……あらぁ、こんな時間に誰かいるの?」立ちこめる湯気の向こうからシルエットが近づき、広い大浴場に声が反響する……
バリラ「……あら提督、それにライモンドも……もしかしてお邪魔だったかしら?」
ライモン「あっ、いえ……そんなことはありませんよ///」
提督「バリラ、貴女もお風呂?」
…大型潜「バリラ」級のネームシップであるバリラ……水中で1800トン近い大柄な船体から戦前は長距離航海の記録を残すなどしたが、戦時中は老艦ゆえにさしたる活躍もないまま解役されて浮き燃料タンクとして過ごし、鎮守府で艦娘の姿となった今も多少の哨戒を除いては出撃することも少なく、そのぶん鎮守府の潜水艦組からは「良きお母さん」として慕われている…
バリラ「そうなの。今日は当直もあったし、寝る前に汗を流しておこうと思って♪」肉付きのいいたわわな身体にタオルをあて、母性愛あふれる笑みを浮かべている……
提督「お疲れさま」
バリラ「提督もお疲れさま……あ、せっかくだから抱っこしてあげる♪」つま先から静かに浴槽に入ってきたバリラだったが目を細めると、おいでおいでというように両腕を広げて迎え入れるような姿勢を取った……
提督「そんな、子供じゃないんだから……///」
バリラ「あらあら、私からみたら提督なんて赤ちゃんみたいなものよ? ほぉら、マンマのところにいらっしゃい♪」
ライモン「バリラ、さすがに提督を赤ちゃん呼ばわりは……」
バリラ「あら、ライモンドだって私からしたら妹みたいなものよ……さ、遠慮しないの♪」
提督「分かったわ……そこまで言うなら甘えさせていただくとしましょう♪」
バリラ「聞き分けの良い子でお母さん嬉しいわ♪」
ライモン「あの、本当にわたしもですか……?」
バリラ「あらぁ、お母さんの抱っこは嫌?」
ライモン「別に嫌だというわけではありませんが……」
バリラ「じゃあいらっしゃい♪ 良かったらおっぱいも吸う?」下から手を当て、ゆさゆさと乳房を揺すぶってみせた……
ライモン「じ、冗談はやめて下さいっ///」
バリラ「まぁ、照れちゃって♪ 提督は良い子だからお母さんのおっぱいをちゅうちゅうするわよね♪」
提督「あら、本当にいいの?」甘やかすような表情を浮かべて冗談めかしてくるバリラと、それに乗っていたずらっぽい笑みを浮べた提督……
バリラ「ええ……さぁいらっしゃい、大きな赤ちゃん♪」
提督「ふふっ、はぁい♪」
…身長こそそこまで大きくはないが、その分ふくよかなバリラの身体に抱きついてずっしりした乳房に吸い付いた……弾力のある先端を含んだ口元から下は温かい湯に浸かり、鼻から上は水面から出ている……バリラは提督の腰に手を回してぐっと引き寄せると「よしよし♪」と頭を撫でる…
バリラ「ほぉら、ライモンドも♪」尻込みするライモンにしびれを切らし、ぐっと腕を引いて右の胸を含ませた……
ライモン「んむっ///」
バリラ「はぁい、良い子ねぇ♪ よしよし♪」むっちりした肉付きのいい肌が湯気と汗でしっとりと湿り気を帯び、横並びに「授乳」させられている提督とライモンの肌とバリラの肌がぺたりと触れあって熱を帯びる……
提督「あむっ、ちゅぅ……ちゅっ♪」
バリラ「あらあら、そんなにお母さんのおっぱいが欲しかった?」
提督「ちゅぱっ……ええ♪」息継ぎのために顔を上げると返事と一緒にウィンクを投げた……
バリラ「素直でよろしい♪ ライモンドも遠慮しないでもっとちゅぱちゅぱしていいのよ?」
ライモン「いえ、わたしは……///」
バリラ「まぁまぁ、照れちゃって可愛い♪」
提督「ね、ライモンったらいつでも初心で可愛いのよ♪」
ライモン「///」
977 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/06/23(月) 01:27:06.44 ID:pVaFL7kl0
…しばらくして…
バリラ「……とく、提督」
提督「う……ぅん」
ライモン「あ、気がつきましたね」
提督「ライモン……私……」
バリラ「ふふっ。提督ったらお母さんがあんまり「いい子いい子」していたらのぼせちゃったのよ」
提督「そういえばふっと頭から血の気が抜けて……」
ライモン「まったくもう、心配したんですよ? ……もう大丈夫そうですか?」
提督「ええ、おかげさまで……柔らかい枕と素敵な眺めのおかげですっかりいい気分よ♪」
…更衣室の縁台に寝かされ、バリラのむっちりしたふとももに頭をあずけた状態の提督をライモンが心配そうにのぞき込んでいる……ライモンはバスタオル一枚を巻いただけで、その形の良い胸がタオルからはみ出している…
ライモン「もう、わたしがこれだけ心配しているのに……///」
提督「ありがとう、ライモン……バリラ、貴女も」
バリラ「いいのよ♪ それよりお水でも飲んで」氷の浮いたレモン水のグラスを差し出した……
提督「ありがとう、いただくわ……っと」
バリラ「だめよ、一気に起き上がろうとしちゃ……このところ書類仕事も忙しかったみたいだし、ちょっと疲れていたんじゃない? さ、お母さんが支えてあげる♪」ずっしりとした乳房の谷間に頭を預けさせ、後ろから抱きかかえる形で支えた……
提督「こんなに座り心地のいい椅子はローマでもなかったわ♪ ……二人とも、重ね重ねありがとう」冷たいレモン水ですっかり調子を取り戻した提督……
バリラ「ふふ、して欲しくなったらまたいつでもお母さんが甘やかしてあげる……今度はのぼせないようベッドにしましょうね♪」
ライモン「提督、必要ならわたしもいつだってお側にいますから……///」
提督「ええ、嬉しいわ♪」
…数日後・提督居室…
提督「……これでよし、と」
アッチアイーオ「あら、朝から迷彩服なんて着てずいぶん大仰じゃない。一体どうしたのよ?」
提督「ええ、休暇も明けたし定例の小火器の作動テストをしないと……武器庫の小火器を運ぶから、手空きの娘たちに手伝ってくれるよう頼んでみてくれる?」提督は長い髪を結い上げ、イタリア軍独特の茶系と緑を基調としたデジタル迷彩の上下と黒の軍用ブーツで固め、射撃用の耳栓を首から下げている……
アッチアイーオ「分かったわ」
…数十分後・屋外射撃場…
アッチアイーオ「ここに置くわよ」
提督「ええ」
ジェンマ「持ってきたぞ、提督……」
提督「ありがとう、助かるわ」
…鎮守府と体育館の間をつなぐ屋外の小道から少しはずれた場所に広がる屋外射撃練習場……寒々しい冬の森を背景に、コンクリートブロックや塀で「コの字」型に囲まれた射撃場は優秀なイタリア陸軍工兵隊が築いたもので、レーンの数こそ少ないがきちんと作られている……そのレーンの前には鎮守府配備の小火器が一揃い運び出され並べられている…
アッチアイーオ「それにしても藪から棒ね」
提督「そうね。銃の手入れそのものは時々やっているけれど一年を通して規定の弾数を撃たないと管区司令部に言われるし、ちょうどいい機会だから……射撃、始めるわよ!」
…耳栓を付けるとベレッタM12S短機関銃を取り上げてストックを広げ、肩付けすると弾倉を込める……周囲に大声で伝えるとボルトを引き、的に向けて狙いを定めた…
提督「……っ」ダダダッ、ダダダッ!
ジェンマ「ふっ。流石は提督、なかなかの腕前だ……普段はこういう銃は使わないんだが、私もやってみよう」ダダッ!ダダダダッ!
アッテンドーロ「どうせ消費しなきゃいけないんだもの、気前よく撃とうじゃない」ダダダダダッ!
…退屈しのぎやスポーツの代わり、あるいはちょっとした憂さ晴らしも兼ねて手伝いに来た艦娘たち……生身の人間である提督よりもずっと頑丈な艦娘はMG3軽機関銃だろうと腰だめで軽々と取り回せる…
アミラーリオ・ディ・サイント・ボン「たまにはこういうのも爽快で良いものですな」バララララ……ッ!
アミラーリオ・カーニ「同感です」バララララ……ンッ!
提督「腰だめでその集弾ぶりはすごいわね……とってもじゃないけれどかなわないわ」
提督「……どうやら私にはピストルくらいがちょうどいいみたいね」レーンを離れると苦笑いを浮かべ、ケースに入っているベレッタ・ピストルを取りだした……
978 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/07/09(水) 00:47:47.15 ID:Dhh8javE0
提督「……射撃は集中するからいい気分転換になるわね」少ししびれた手と肩をほぐしながら、撃ちきった小火器をケースに戻していく……
サイント・ボン「まったくですな」
カーニ「本官もそう思いますよ」
提督「撃ち終わったら銃は保管庫まで持って行って、そこでメンテナンスをしましょう……あ、空薬莢はある程度でいいから集めておいてね」
…射撃台の周囲へ敷き詰めたように散らばっている金色の空薬莢……そのままにしておくと金属の成分が地面に溶け出して環境に悪いのと、管区司令部からの通達で(そこまで厳密にではないが)ある程度は空薬莢の回収を要求されるので、ホウキとちりとりでかき集めてはリサイクル用のゴミ箱にざらざらと流し込んでいく……提督も耳当てを外し、回収を手伝いながら艦娘たちと言葉を交わす…
提督「ジェンマ、射撃はどうだった?」
ジェンマ「ま、相変わらずさ」
…黒と銀のテンガロンハットをかぶり、さすらいのガンファイター風に決めているジェンマは「ふっ……」と銃口から立ちのぼる煙を吹き払うと空になった弾倉を抜き、ベレッタ短機関銃を軽く撫でた…
提督「さすがね」
アッテンドーロ「提督、銃は武器庫に戻しておくわよ?」
提督「ええ。撃った銃は分かるようにひとまとめにしておいてちょうだいね」
アッテンドーロ「そうするわ……もっとも、匂いを嗅げばすぐ分かるけど」
提督「まぁね」
…しばらくして・小火器保管庫…
提督「……ふう」
…武器庫に備え付けてある椅子に腰かけ、台に乗せてある銃を掃除する提督……ボロ布にガンオイル、試験管洗いのような形状をした掃除用のブラシなど「七つ道具」を手元に広げ、ときどきスタンドの明かりにかざしながら(安全な)薬室側から銃身をのぞき込んでは、またゴシゴシと火薬の燃焼カスを掃除する…
アッテンドーロ「フルオートでバリバリ撃つのはすっきりしていいけど、こういうちまちました作業はおっくうね……姉さんなら嬉々としてやりそうだけど」
提督「そう言わないの。銃の手入れは大事よ?」
アッテンドーロ「分かってるわよ。だからこうしてきちんとやっているんじゃない」
提督「頼りにしているわ♪」
バンデ・ネーレ「ボクもコンドッティエーリ(傭兵隊長)の一人だからね、武器はおろそかにできないよ」
カラビニエーレ「そうね。管理はきちんとしないといけないし」
アオスタ「その通りよ。それなのにエウジェニオったら『手が汚れるから遠慮するわ』なんて言うんだから……」
提督「ふふっ……普段はそう言っているけれど、エウジェニオはこのあいだ手伝ってくれたのよ」
アオスタ「本当ですか?」
提督「ええ……なんでも『美人の困りごとは助けてあげないといけないわよね♪』って」
アオスタ「そうですか。わが妹ながら少し見直しました」戦後賠償でソ連へ渡った委員長気質のアオスタと、ギリシャへ渡った口説き上手で女好きなエウジェニオ……姉妹でまるきり性格は違うが、どちらも頼れる軽巡で提督の信頼もあつい……
提督「ふふっ、エウジェニオもそれを聞いたら喜ぶわ」
アオスタ「いえ、直接言うのは少し気恥ずかしいというか……どうせ色仕掛けでからかわれるのがオチですから///」
アッテンドーロ「ふっ、アオスタはエウジェニオをうちの姉さんと交換した方がいいんじゃないかしら」
アオスタ「できるものならそうしたいです。ライモンドは良い娘ですし」
アッテンドーロ「姉さんを褒めてくれてありがと……ちょっとおどおどしちゃいるけど、あんないい姉さんはそうはいないわ」
提督「みんないい姉妹を持って良かったわね。私も姉妹だけはいないからちょっぴりうらやましいわ」
アッテンドーロ「だったら年の離れた妹にしてあげましょうか?」
提督「気にしないで、冗談なんだから」
バンデ・ネーレ「とはいえ、もしも提督に姉や妹がいたら朝から晩までベッドで交わってばかりだろうね」
アッテンドーロ「言えてるわ♪」
提督「もう、失礼ね……ベッド以外でもするわ♪」
アオスタ「し、姉妹でそんなことする話なんて……///」
バンデ・ネーレ「ふふ、エウジェニオに甘い声をあげさせられているのを思い出したのかい?」
アオスタ「余計なお世話です///」
バンデ・ネーレ「おっと、それは悪かったね……それじゃあ残りの整備を終わらせるとしようか」
979 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/07/17(木) 02:27:51.95 ID:NSTzDsPM0
バンデ・ネーレ「ようやく終わったね」
提督「貴女たちが手伝ってくれたおかげで思っていたよりずっと早く終わったわ……グラツィエ・モルト(とってもありがとう)」
アッテンドーロ「ノン・ファ・ニェンテ(いいってことよ)」
アオスタ「すべきことをしただけですから」
バンデ・ネーレ「そうだよ、ボクたちのためでもあるしね……それよりシャワーでも浴びてさっぱりしようよ。硝煙のせいか肌がムズムズというかちくちくするし」
アッテンドーロ「言えてるわ」
提督「そうね、それじゃあお風呂にでも行きましょうか」
…大浴場…
バンデ・ネーレ「こんなにぜいたくな大浴場があると日に何度でも入りたくなるね」
アオスタ「メイクをし直さないといけないからそこまでは入れないけれど……気持ちは分かるわ」
アッテンドーロ「私なんてせいぜい乳液を塗っただけで過ごしちゃうけれどね」
アオスタ「ムツィオ、貴女は身だしなみにもう少し気を使ったらどうなの?」
アッテンドーロ「別に汚れた服を着続けているわけじゃあるまいし、そう噛みつかないでよ……そうでしょ、提督?」
提督「そうね、見苦しくない程度に整えていてくれればそれで構わないわ。私だって人のことを言えた義理じゃないし……」提督自身も職務時間を過ぎると制服を脱ぎ、ゆったりした私服姿で過ごしている事が多いので苦笑いしながら肯定した……
アオスタ「やれやれですね」
提督「まぁまぁ……当直や出撃の時にしっかりしていてくれればそれでいいわ」
…着任直後は裸で入浴することに少し抵抗感があったが、今ではすっかり慣れっこになった提督はためらうこともなく黒の下着を脱ぐと脱衣カゴに放り込み、大浴場の扉を開けた…
提督「すんすん……どうやら落ちてくれたみたいね」別に硝煙の匂いは嫌いではなかったが、のんびりした気分の時に嗅いでいたいほど好きというわけでもないので石けんでよく洗い、改めて腕を鼻先に寄せて残り香がないかどうか嗅いでみる……
アッテンドーロ「それにしても提督は射撃が上手よね。略綬にこそ射撃記章はないけれど、いい線いってると思うわ」
提督「射撃そのものはともかく飛んだり走ったりがダメだったから……教官にもしょっちゅう「もったいない」って言われたわ」
アッテンドーロ「教官って言うと、基地祭の時に来た……メッセ兵曹長って言ったわよね」
提督「ええ。口は悪いし当然のようにびしばしやられたけれど、たとえ落ちこぼれても見捨てずに付き合ってくれる立派な教官だったわ……ふふっ♪」
バンデ・ネーレ「何かおかしいことでもあったかい?」
提督「いえ、ね……あの人のおかげで私たちは海軍士官学校なのか海兵連隊なのか分からないような訓練をいくどもやらされたけれど、その中の一つを思い出したものだから」
アオスタ「笑っておられるということはいい思い出なのですか?」
提督「まぁ、今となってはね……せっかくだし話してあげるわ」
…士官学校時代…
メッセ教官「……さて候補生諸君、いよいよこの士官学校で過ごす日々も残りわずかとなってきたわけだ……入って来たばかりの頃は『また面倒なヒヨッコどもが来た』と心底うんざりしていたが、少しは面倒のかからないヒヨッコになってくれたようで、教官としてはまことに喜ばしい」短髪に迷彩服姿の兵曹長がニヤリと笑うと、整列している訓練生たちからお義理の笑い声がまばらに聞こえた……
メッセ教官「これまで私を始め教官たちはさまざまな事をお前たちに教えてきた。恐らくその半分は卒業する際に放り投げる軍帽と一緒に忘れ去られてしまう運命にあるだろうが、そうだとしたら二倍教え込むだけのことだ」
メッセ教官「とはいえ、必要なことがらを二倍教えるというのはこちらにとっても手間がかかる。したがって我々教官としては候補生諸君が貴重な教訓を忘れないようにするためにはどうすればいいか日々考えている。人間、失敗した時に得られた教訓のほうが長く覚えていられるということで、我々は君たちに腕立てをやらせてみたり便所掃除をさせてみたりしてきたわけだ」
メッセ教官「ま、その心配ももうしなくて済みそうだ。すでに知っていることと思うが、君たちはあと一ヶ月もしないうちに荷物をまとめ、家族に晴れ姿を見せることになる……だがその前に、私からの卒業祝いとしてちょっとした小旅行をプレゼントしようと思う♪」何やら悪だくみをしているような満面の笑みを浮かべ、候補生たちがざわめいた……
メッセ教官「候補生諸君! 君たちには明日から三日間に渡って無人島でのサバイバル訓練を行ってもらう! 武運つたなく艦(フネ)を捨てねばならなくなった、あるいは波にでもさらわれて無人島に漂着した場合、救援が到着するまでの数日間を生き残る必要がある」ざわめき出す候補生たち……
メッセ教官「とはいえここは特殊部隊ではないから、君たちを素っ裸で放り出すような事はしない。救命艇に搭載されているであろう基本的な道具一式と、一日分の携行糧食、さらに途中でギブアップしたい場合、あるいは重傷を負ったりした場合に備えて班ごとに無線機も持たせる至れり尽くせりのサービスぶりだ」
メッセ教官「……というわけで候補生諸君、無人島生活を楽しんでくれ!」
…翌日・無人島…
カサルディ提督「まさか、本当に無人島へ連れてこられるとはね……」
シモネッタ提督「せっかくなんだから日焼け止めも持ってくればよかったわね?」雑木の生えた小島の浜辺にいながら、ヴェネツィアの一流ホテルにいるのと変わらないような余裕を見せるシモネッタ提督……
提督「とりあえず荷物を改めてみるとしましょうか」
ベルガミーニ提督「そうだね、それがいいかも」
…それぞれ班ごとにゴムボートに乗せられ、バラバラな地点で海浜に降ろされた候補生たち……各班は四人一組で、浜辺には弾薬なしのフランキ短機関銃が一挺、テントなしのサバイバルキット一揃い、非常時に備えて渡された無線機と信号用ピストルなどが置かれている…
提督「……幸いお天気もいいし、危険な動物もいるわけじゃないから少しは安心ね」
カサルディ提督「食料が一日分なのはちょい厳しめだけど、水源もあるって話だし、まずはそこを確保していこうよ……どうかな、エレオノーラ?」
シモネッタ提督「そうね。まずは水と野営地の確保に努めることにしましょう……体調の異変があったらすぐ報告してね」
980 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/07/26(土) 00:37:01.58 ID:nOYTn/o20
…一日目…
シモネッタ提督「荷物は背負った?」
提督「ええ」
カサルディ提督「ばっちりよ。カルラは?」
ベルガミーニ提督「ええ、大丈夫」
シモネッタ提督「それじゃあ出発♪」
…白っぽい岩がちの地面に松やオリーヴ、それに名も知らない背の低い木がぼさぼさと生えているだけの島を歩き始めた提督たち……カサルディ提督は手ごろな枝をナイフで叩き斬って即席の杖を作りみんなに渡し、提督はシモネッタ提督と水源のありそうな場所を探して目を配る…
シモネッタ提督「んー……ルクレツィア、どう思う?」
カサルディ提督「私は登山家じゃないし、水源かどこかなんて分からないわよ……エレオノーラこそどうなの?」
シモネッタ提督「残念ながら街育ちだからこういうのはさっぱり……カルラとフランチェスカは?」
ベルガミーニ提督「ごめんね、私も全然……」
提督「うーん、私は子供の頃におばさまから多少教わったけれど……とりあえずこのまま海岸沿いを歩いて川を探して、見つけたら上流に向けて歩けば良いんじゃないかしら?」
シモネッタ提督「それが一番良さそうね」
…二時間後…
ベルガミーニ提督「はぁ……ふぅ……」
シモネッタ提督「だいぶくたびれて来たわね……小休止しましょうか」
提督「ふぅ……賛成」
カサルディ提督「じゃあその間にあの岡を少し登ってみるわ、何か見えるかもしれないし」
シモネッタ提督「お願いね」
カサルディ提督「任せといて♪」疲れも見せず、軽やかな足取りで獣道を上っていった……
提督「元気ねぇ……」
…数分後…
カサルディ提督「……おーい!」岡の中腹で手を振りながら呼びかけるカサルディ提督……
シモネッタ提督「ルクレツィア、どうしたの?」
カサルディ提督「早くおいでよ!小川があった!」
ベルガミーニ提督「やった……!」
提督「……どうやら水筒の残りを心配しながらちびちび飲む必要はなくなりそうね?」
シモネッタ提督「そうみたいね……さ、行きましょう♪」
…岡のふもと…
提督「あら素敵」
カサルディ提督「ね、まるで誂えたみたいじゃない?」
…丘のふもとを縫うようにして海に注いでいる綺麗な小川がカーブを描いて松の木陰をさらさらと流れている……川岸には小さな岸辺があり、どこかで鳴いているのどかな鳥の声が響いている…
シモネッタ提督「澄んだ小川だけれど、まずは水質を調べないとね」第二次大戦のアフリカ戦線で赤痢に苦労した戦訓から、イタリア軍の携行糧食には必ず同封されている水質検査薬を取り出し、水を汲んで試薬を入れた……
ベルガミーニ提督「どう?」
シモネッタ提督「ええ、大丈夫よ♪ とはいえ生水を飲み過ぎるとお腹を壊すかもしれないからほどほどにね?」
カサルディ提督「了解……ところでさ、せっかくだから水浴びでもしない? 砂がちくちくしてやりきれないんだよね」小川の水を手ですくって軽く飲むと言った……
提督「そうねぇ、お互いの裸くらい見なれてはいるけれど……」
シモネッタ提督「いいんじゃないかしら♪ ただし見張りを付けて交代でね……最初は私が立つわ」
カサルディ提督「いやっほう♪」川岸にブーツと迷彩服を脱ぎ捨てると、ばしゃばしゃと水を跳ね上げながら勢いよく小川に駆け込んでいった……
ベルガミーニ提督「きゃっ!?」
提督「もう、相変わらず行動が早いんだから……私も行くわ♪」
シモネッタ提督「ふぅ、これが無垢な幼女だったら最高だったのだけれど……ないものねだりは良くないわね♪」川辺の白い砂に腰を下ろし、軽く頬杖をついた……
981 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/08/04(月) 00:54:02.41 ID:X/qKHrH10
提督「……はぁ、生き返るわ♪」
カサルディ提督「同感。冷たくていい気持ち」
ベルガミーニ提督「野外で裸になるのはちょっと恥ずかしいけど……///」
カサルディ提督「流れはそこで曲がっているから海からは隠れてるし大丈夫だって♪ そらっ♪」
ベルガミーニ提督「わぷっ……!」
提督「ほどほどにしておきなさいよ?」
ベルガミーニ提督「分かってるって……フランチェスカ、もう上がっちゃうの?」
提督「ええ。エレオノーラと代わってあげないと……さ、交代に来たわ」
シモネッタ提督「あら、もっと涼んでいたっていいのに」
提督「そういうわけにもいかないでしょう? さ、荷物は見ていてあげるから」
シモネッタ提督「そう、ならお言葉に甘えて泳いでくるわ」野戦服を脱ぐ仕草すら上品で優雅なシモネッタ提督……屋外での運動や漕艇訓練が続いていたにも関わらず肌はきれいなミルク色で、頭をゆすって髪をなびかせるとしずしずと小川に入っていく……
提督「……まるでヴィーナスね」
シモネッタ提督「お褒めにあずかり光栄だけれど、ご褒美はないわよ?」
提督「それは残念」
…しばらくして…
カサルディ提督「いやぁ、さっぱりした♪」
ベルガミーニ提督「涼しくなったよね」
シモネッタ提督「とりあえず今日はここで野宿すると言うことでよさそうね?」
提督「賛成。この岸辺なら水に浸かる心配もなさそうだもの」
ベルガミーニ提督「そんなことまで分かるの?」
カサルディ提督「そりゃあ分かるよ。いま私たちが座っている岸辺は打ち上げられた流木や小枝よりも高い位置にある……つまり以前の増水でも水が浸かなかっってことよ」
ベルガミーニ提督「なるほどね……」感心したようにうなずいていたが、お腹が「ぐぅ」と鳴いて恥ずかしげに頬を染めた……
シモネッタ提督「次は野営地の設営と食料の確保としましょうか……私とカルラでテントを張るから、フランチェスカ、エレオノーラは食料の確保をお願いするわ」班長として、人柄はいいのだがどこかツキに恵まれないベルガミーニ提督を手元に置いてリスクを請け負い、提督たちを送り出した……
提督「了解」
カサルディ提督「任せておいて」
…海辺…
カサルディ提督「さーてと……お、いるいる」
提督「魚?」
カサルディ提督「魚もだし、海老やら蟹やらもいるわ……ここはひとつ本業だったってところを見せないと♪」迷彩服を脱ぐと濃紺色の下着姿になり、手ごろな流木を拾ってナイフで加工しはじめた……
提督「それじゃあ私は貝でも集めることにするわ」
カサルディ提督「上等。ただ、貝殻のふちは鋭いから気を付けてよ?」手際よく頃合いの銛を作ると軍用ナイフは腰にくくりつけ「ちょっと行ってくるね」とじゃぶじゃぶと海に入っていった……
提督「さてと、それじゃあその間に……あら、ずいぶんいること」
…潮だまりや岩場には牡蠣や黒紫色をしたムール貝のような見慣れた貝類が貼り付いている……ナイフを取り出すと岩場とのすき間にねじ込み、テコの要領でこじる……カサルディ提督は泳ぎが達者だが、流されたり怪我をしたりして助けを求める事があるかもしれないと小まめに様子を見ながら貝類を集める…
…数分後…
カサルディ提督「よっ、貝は採れた?」
提督「ええ。どうやって運ぶか思案中よ……そっちは?」
カサルディ提督「おかげさまで、面目丸つぶれににはならなくて済みそうよ♪」そう言ってかざしてみせたのは立派なサイズのカサゴとメバルで、陽に焼けた顔に満面の笑みを浮かべている……
提督「ふふっ、大漁ね♪」
カサルディ提督「でしょ? カサゴのやつは棘があるから、鱗を落すついでに処理してくるわ」
提督「それじゃあ私はこの牡蠣をどう運ぶか考えることにするわね」
カサルディ提督「あぁ、そっか……じゃあさ」上に着ていたシャツを脱ぎ捨てると袖と裾を結び、風呂敷包みのようなものをこしらえた……
カサルディ提督「魚臭いのは慣れっこだし使っていいよ。その代わりおっぱいの一つも揉ませてよね?」上半身裸の所に袖まくりした迷彩服だけ羽織り、派手なウィンクを投げた……
提督「ええ、お魚の分だけ存分に触らせてあげる♪」
982 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/08/22(金) 01:46:31.43 ID:olL4oV+10
…数分後…
提督「ただいま」
シモネッタ提督「ええ、お帰りなさい……釣果はあった?」
カサルディ提督「見ての通りよ♪」エラに指を引っかけて魚を見せつける……
ベルガミーニ提督「大漁ね」
カサルディ提督「この辺の魚は獲りやすくっていいわ……なんか手伝おうか?」
シモネッタ提督「ありがとう、でも大丈夫よ。火を起こしている間は休憩していていいわ」
カサルディ提督「了解」
…提督とカサルディが魚を獲りに行っている間に残る二人は川岸の岩がえぐれた部分に防水布で「屋根」をつけて、その前に乾いた流木や枝を集めて焚き火の用意をととのえていた…
提督「こっちは牡蠣とムール貝ね……よいしょ」ガラガラと地面に貝を下ろす……
カサルディ提督「ついでにシャツをすすいでくれる?」
提督「もちろん」澄んだ小川で海藻や蠣殻の欠片、ヌメヌメした磯臭い何かがへばりついたシャツを洗い流した……
提督「石けんはないけれど、まぁまぁ取れたわね……あとは乾かしておけば大丈夫よ」
カサルディ提督「ありがとね」
シモネッタ提督「大丈夫? こすれてヒリヒリしない?」
カサルディ提督「私の乳首は丈夫だから大丈夫よ……それよりお腹が減ったし、夕食にしようよ」
シモネッタ提督「そうね。料理にも時間がかかるでしょうから今から取りかかりましょう」
提督「じゃあ手伝うわ、これでもおばさまに一通りは教わったんだから♪」
シモネッタ提督「期待しているわ」
…ありがたいことにサバイバルキットの防水マッチは取り上げられていなかったので、細かな小枝やむしってきた枯れ草を焚きつけにして火をおこす……周囲が明るいので最初は分かりづらかったが、ぱちぱちと威勢の良い音を立てて火が燃え始めた…
シモネッタ提督「さてと、この魚と貝はどう調理しようかしら?」
カサルディ提督「あー……私は釣る方は得意だけど料理の方はあんまりだからなぁ……カルラ?」
ベルガミーニ提督「私も料理は苦手じゃないけれどそこまでは……」
シモネッタ提督「ですって、フランチェスカ」
提督「ええ、料理は得意な方だから任せておいて? お母さまほどじゃないけれどね♪」
シモネッタ提督「期待しているわ。私もある程度ならできるから手伝うわね?」
提督「助かるわ。とりあえず、せっかく携行糧食があるのだからこれをベースにしていきましょうか……」
…教官たちの「行き届いた配慮」のおかげで三日間のサバイバル訓練に対して一班四人、一日分の糧食だけが用意してある……提督はそのうちの一人前一食だけを開け、飯盒(ガメラータ)をセットした…
カサルディ提督「それで料理長、今夜は何を出してくれるの?」
提督「そうね……このトマトのスープをベースに魚を煮込んでアクアパッツァ風、それに焼き牡蠣としましょうか」
シモネッタ提督「あら素敵。それに白ワインでもあればパレルモあたりのリストランテになるわね……誰を口説くつもりなのかしら♪」
提督「ごあいにくさま。さっき約束したから今夜はルクレツィアと過ごすわ」
シモネッタ提督「ふふっ、そう……それじゃあ何を手伝おうかしら?」
提督「そうねぇ……あ、じゃあ火をお願い」周囲を見わたすと不意にこんもりした茂みに目を留め、立ち上がると近寄っていった……
提督「……やっぱり♪」
ベルガミーニ提督「やっぱり……って、なにが?」
提督「この草、よく見たら野生のセージね♪ ほら、少しかじってみると分かるわ」
ベルガミーニ提督「へぇ、どれどれ……うわ!」小枝についた葉っぱを思い切りよくかんでみて、口一杯に広がった強い風味に顔をしかめると小川で口をゆすぎだした……
提督「もう、そんなに勢いよく噛むから……」
…苦笑いしながら飯盒にトマトソースと切ったカサゴ、風味付けと臭い消しのセージを入れて火にかける……牡蠣とムール貝は殻ごと火のそばに置いて口が開くまで待つ…
カサルディ提督「……いい匂いがしてきたね」
983 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/09/03(水) 00:48:36.67 ID:0YJ7uFpX0
シモネッタ提督「初日の夜だからクラッカーも開けましょう」
提督「大盤振る舞いね♪」
シモネッタ提督「その代わり明日からは倹約していくことになるから覚悟するように」
カサルディ提督「ま、魚や貝でよければ私が獲ってくるしどうにかなるでしょ」
提督「頼もしいわね……どれどれ」さじでスープをすくい、軽く舐めてみる……
シモネッタ提督「お味はいかが?」
提督「ちょうどいいわ。かさ増ししたから味が薄くなるかと思ったけれど、魚介から塩味がでているから良い具合よ」
シモネッタ提督「では夕食としましょうか」十字を切って食前の祈りを唱え、提督たちが唱和した……
カサルディ提督「アーメン……っと。さ、牡蠣も焼けたよ♪ 取ってあげる」焚き火のぐるりを囲んだ石の上で良い具合に焼けた牡蠣を軍用手袋でつかむと、手際よく飯盒のふたに乗せてくれる……
提督「グラツィエ……ふぁ、はふ♪」小ぶりで味の濃い牡蠣は塩がなくても十分に美味しく、つるりと吸うと口中を火傷しそうなほど熱い……
シモネッタ提督「アクアパッツァもいい味よ、フランチェスカ」
提督「はふ、ふぉれはよかったわ……」熱い牡蠣を相手にはふはふ言いながら「それは良かったわ」と軽くうなずいた……
カサルディ提督「ほんと、良い味♪」
ベルガミーニ提督「ね、美味しい……熱っ!」すすり終わった牡蠣の殻を飯盒からどけようとして指でつまみ、火傷しそうになって慌てて放した……
シモネッタ提督「気を付けなさい、カルラ? 焼き牡蠣のせいで演習中断なんてさまにならないわよ?」
ベルガミーニ提督「ええ」よほど熱かったのか眉をしかめて、火傷しかけた指をくわえている……
提督「牡蠣じゃなくてアクアパッツァの方にするといいわ……貸して?」飯盒にカサゴとメバルの切り身とスープを入れた……
………
…食後…
カサルディ提督「はぁ、満腹……フランカを奥さんにできる女は果報者だね」
ベルガミーニ提督「ね、とっても美味しかった」
提督「気に入ってもらえて良かったわ♪」スープの一滴も余さず空になった飯盒を見て笑みを浮かべた……
シモネッタ提督「満腹で動きたくないのは分かるけれど、飯盒ちゃんとゆすいでくるように」
カサルディ提督「もうちょっとしたらね。まだ動きたくないし……ふぅ」川岸の砂地に脚を伸ばし、片手でふくれたお腹をさすっている……
提督「ねぇ、ルクレツィア……♪」
カサルディ提督「んー?」
提督「そろそろ定時連絡の時間だけれど、それが終わったら……ね?」甘い笑みを浮かべてウィンクを投げた……
カサルディ提督「そっか、そういえばそうだった……じゃあ余計なことは済ませておかないとね♪」パッと立ち上がると飯盒をゆすぎ、携行糧食に付いている歯みがきセットでいそいそと歯をみがいた……
提督「エレオノーラ、何かまだするべきことはある?」
シモネッタ提督「いいえ、定時連絡さえ済んだらあとは自由時間よ……邪魔はしないわ♪」
提督「了解♪ それじゃあ向こうの岩陰にいるから、何かあったら声をかけてね」
シモネッタ提督「ええ」
…夜…
カサルディ提督「……んちゅっ、ちゅぅ……ん♪」
提督「あんっ……あっ、あっ、んぅ……っ♪」
…各班に渡された野営セットにはそれぞれ「趣向をこらして」欠けている物品があり、提督の班にはテントが入っていなかったが、暖かい時期と言うこともあって防水布や寝袋でどうにかなる……提督とカサルディは「おやすみ」を言ってからあとの二人から見えない岩陰に行くと、唇を合わせて身体を絡め合った…
カサルディ提督「はぁ、相変わらず大きくて張りがあって最高だね♪」
提督「ふふっ、ルクレツィアったらおっぱいばっかりなんだから……♪」乳房にしゃぶりつき揉みしだくカサルディを抱きしめ、引き締まったヒップに手を這わす……
カサルディ提督「だって……あ、それ……いいよ、いい……っ♪」薄暗い中で口を開けて喘ぐカサルディの白い歯がほんのり浮かび上がり、川のせせらぎに交じって二人の秘所が合わさる粘っこい水音が響く……
提督「それにしても……こんなにはしゃいで、明日は起きられるかしら?」
カサルディ提督「フランカってば、寝坊が心配ならこのまま徹夜すればいいでしょ♪」
提督「ふふっ、言ったわね? それじゃあ今夜は寝かさないから♪」
カサルディ提督「望むところよ♪」
984 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/09/27(土) 02:12:43.98 ID:3YjCumvT0
…サバイバル訓練二日目・朝…
提督「……くしゅっ!」
カサルディ提督「んぁ……おはよう」
提督「おはよう、ルクレツィア……って、身体が冷えちゃったわ……」
カサルディ提督「あのあと砂地で寝ちゃったもんね……夜露も降りたみたいだし」
提督「ええ。宵のうちは地面が暖かかったものだから、うっかりしていたわ」
カサルディ提督「ま、運動でもすればすぐに暖かくなるって♪」
シモネッタ提督「……そうね。まずは体操でもして、それから朝食にしましょう」
提督「おはよう、エレオノーラ」
シモネッタ提督「おはよう、フランカ。今日も快晴で良かったわね」
カサルディ提督「言えてる……カルラは?」
シモネッタ提督「さっき起こしたからもう来るでしょう……ほら」
ベルガミーニ提督「おはよう」
カサルディ提督「おはよう、カルラ。それじゃあひとつ体操でもしようか」
シモネッタ提督「そうね、それじゃあ音頭はルクレツィアに任せるわ」
カサルディ提督「了解♪」
…しばらくして…
ベルガミーニ提督「ふぅ……」
提督「朝からいい運動になったわね」川で顔を洗って髪をくしけずり、携行糧食に付属している(少し使い勝手の悪い)使い捨て歯ブラシで歯を磨いた……
ベルガミーニ提督「ね、朝からあれこれやらされてお腹が減っちゃったわ」
提督「同感♪」
…朝食…
シモネッタ提督「さて……あんまり携行糧食に手を付けるのも考えものだけれど、朝食は軽いメニューで済むからどうにかなるでしょう」
提督「あんまりルクレツィアに潜ってもらってばかりでもいけないものね」
カサルディ提督「私は平気だけど、この時間だとちょっと水が冷たいかな……それより服が生乾きなのがうっとうしいね」
シモネッタ提督「そうね。できるだけ乾いた服を着て、濡れた衣類は干しておくように……はい、コーヒー」
カサルディ提督「グラツィエ……あー、温まる」
…朝食はクラッカーにコーヒー、ジャムなどのごく軽い献立になっているイタリア軍の携行糧食……持ち手つきの飯盒のフタでインスタントコーヒーを淹れるシモネッタ、クラッカーを取り出しイチゴジャムを塗る提督…
シモネッタ提督「さてと、今日のスケジュールを伝達するわね。フランカはカルラと薪集め。私とルクレツィアは海で魚介類の採収にあたるわ……昨日に続いてで悪いけれど、魚を獲ることに関してはルクレツィア、貴女が一番だから」
カサルディ提督「気にしなくていいって。なにしろ本業みたいなもんだからさ♪」
シモネッタ提督「助かるわ」
無線機「……指導班よりシモネッタ班へ定時連絡。状況を報告せよ」定期連絡を求めるメッセ兵曹長の声が無線機から響く……
シモネッタ提督「こちらシモネッタ班、総員異常なし」
無線機「了解。それでは本日の課題を指示する、よく聞いておけ」
シモネッタ提督「シモネッタ了解。課題の内容をどうぞ」
無線機「よろしい。本日の課題だが、君たちには「救助を要請する」ため何らかの目印を作成してもらう。目印はのろしでもいいし流木の「SOS」でも構わん。ただし洋上のこちらから見える大きさでなければだめだ。合格したかどうかは定時連絡に合わせて伝達する……理解したか?」
シモネッタ提督「理解しました」
無線機「よろしい、それでは上手くやれ。以上だ」
カサルディ提督「……二日目ものんびりバカンスってわけにはいかないみたいだね」
シモネッタ提督「そのようね。計画変更、全員で薪を集めて大きなのろしを上げることにしましょう」
提督「了解」
985 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/10/09(木) 01:55:15.58 ID:B90Orw0b0
シモネッタ提督「それじゃあ薪を集めるとして、雑木林に落ちている枝を集めるのと海岸で流木を集めるのと……どっちが良いかしら」
提督「そうね……乾いた薪だと煙が立たないから、むしろ生乾きの流木を集める方が良いんじゃないかしら」
ベルガミーニ提督「それに海岸でのろしを上げるのに丘から焚き付けを運ぶのは効率が悪いと思うわ」
シモネッタ提督「確かに二人の言う通りね。それじゃあ海岸で流木を集める案で行きましょう」
カサルディ提督「了解。ま、どっちにしろ集める手間は同じだし」
…海岸…
提督「……それにしても綺麗な海ね」
シモネッタ提督「あら、いきなりなぁに?」
カサルディ提督「フランカはがさつな私なんかと違って詩人だからね」
提督「茶化さないでよ///」
ベルガミーニ提督「でも、確かに綺麗な海……」
…集めた流木を小脇に抱えながらふと視線を上げると、透き通るような海が視線に飛び込んでくる……朝日に照らされ遠くまで青い海原は白い砂の浜辺に波を送っては打ち砕ける波音と引き波の泡立つような音を永遠にくり返す…
提督「……こんな綺麗な海なのに艦娘たちは毎日のように深海棲艦と戦っていて、いつか私たちもその指揮を執る日が来るかもしれないのね」
カサルディ提督「そういうことになるね。でもさ、どこかで戦いがあってどこかで平和な一日があって、どこかで人が生まれて、あるいは亡くなって……世界なんてそういうものなんじゃない?」
シモネッタ提督「あら、フランカが詩人ならルクレツィアは哲学者ね」
カサルディ提督「からかわないでよ……ほら、うちは漁師の家だからさ。魚が獲れる時もあれば獲れない時もあって、そのせいか「なるようにしかならない」って考えになるんだよね」
シモネッタ提督「宿命論?」
カサルディ提督「とはでは言わないけど……ま「当たって砕けろ」式かな。だから私は提督だの司令官だのには向いてないよ。舵輪も自分で握っていたいし」
ベルガミーニ提督「じゃあ駆逐艦の艦長とか?」
カサルディ提督「そうそう、そういうのがいい。司令部にこもって海図とにらめっこなんて向きじゃないし……フランカはどう?」
提督「そうねぇ……それはまあ、私だって一度くらいは提督になって号令一下、艦隊が動く想像したことがないと言えば嘘になるけど……」
シモネッタ提督「おかしくないわ。海軍士官候補生の夢だもの」
提督「でも私はこうやって気の合う仲間と一緒に過ごして、お休みの時には美術館にでも行って……なんて暮らし方の方が似合っているわ」
カサルディ提督「ずいぶんと枯れてるねぇ、それじゃおばあちゃんみたいだよ」
提督「あら、そのおばあちゃんと昨晩「イイコト」をしたのは誰だったかしら?」
カサルディ提督「うわ、これは一本取られたな……カルラはどんな士官になりたい?」
ベルガミーニ提督「うーん、私も一度くらいは艦隊司令官をやってみたいけど……私は運が悪いから」
シモネッタ提督「だったらそのぶん準備すればいいのよ。運が悪いって言ったって何でも運で決まるわけじゃないもの、自信を持ちなさいな?」
カサルディ提督「へぇ……ロリコンにしては良いこというね」
シモネッタ提督「むしろロリコンだからこそ、よ。可愛い女の子を導くには完璧な「お姉ちゃん」でなければいけないもの」
提督「あー……それで、エレオノーラはどんな士官になりたい?」
シモネッタ提督「それはもう、ゆくゆくは可愛らしい幼女たちを集めた鎮守府に赴任したいけれど……でもきっとダメね」
提督「どうして?」
カサルディ提督「その前に憲兵に捕まるからでしょ」
シモネッタ提督「馬鹿言わないで。愛すべき女の子たちを深海棲艦との戦火の海に送り込むなんて出来そうにないからよ」
提督「確かに……金属の塊とは訳が違うものね……」
シモネッタ提督「そういうこと。でもいずれは折り合いをつけて頑張ってみるつもり……それより薪は集まった?」
カサルディ提督「見ての通りひと山は集まったよ」
シモネッタ提督「これだけあればのろしの一つも起こせそうね。後ろはどう?」
ベルガミーニ提督「後ろ?」
シモネッタ提督「沖から見るのだから、背景が黄色っぽい地面より雑木林の緑の方が見やすいはずでしょう」
提督「それなら丁度いい位置じゃないかしら、後ろの斜面は林よ」
シモネッタ提督「それじゃあのろしを上げて課題を攻略するとしましょうか」
986 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/10/18(土) 01:52:44.86 ID:N9wuO3HK0
カサルディ提督「それじゃあつけるよ?」
シモネッタ提督「ええ、お願い」
…マッチを擦って集めた枯れ草や松葉に火をつけ、それから小枝に火を移していく……ぱちぱちと次第に勢いよく火が舌を伸ばし始め、テントのような三角形に積み上げた流木に燃え移りはじめた…
提督「無事についたわね」
シモネッタ提督「でも本題はこれからよ? 教官から見えるような煙が上がってくれると良いのだけれど……」
ベルガミーニ提督「流木、もっと集めてきた方がいいかな?」
シモネッタ提督「ぜひお願いするわ、あって困るものじゃないし……ルクレツィア、カルラと一緒に流木集めをお願い」
カサルディ提督「了解」
…まだ湿っている流木に火が付くと、ときおり大きな音を立ててはぜたりしながら白い煙をもくもくと噴き上げ始めた……風下にいると目がヒリヒリしていがらっぽいので、慌てて風上に場所を移す提督たち…
提督「まるでエトナ山ね」
シモネッタ提督「言い得て妙ね。これなら十分見えるんじゃないかしら」
提督「だといいわね……見えたかどうかは教官が教えてくれるのよね?」
シモネッタ提督「ええ、定時連絡の時にね」
提督「あと一時間くらい?」
シモネッタ提督「そのくらいよ……どうやら少なくともひとつは同じ考えの班があったようね」指さした先の稜線の向こう、うっすらと立ちのぼる白煙が見える……
提督「あと、もっと単純な考えを実行した班もあるみたいよ?」提督が視線を向けた島の頂上近く、まばらな林の間にぽっかり広がっている斜面の草原で一生懸命に防水布を振り回している小さな姿が見える……
シモネッタ提督「ふふっ、あんなに布を振り回して……闘牛士にでもなるつもりなのかしらね?」
提督「かもね♪」
カサルディ提督「ふぅ……ただいま」
提督「お帰りなさい。これはまたすごい量ね」
カサルディ提督「あっちの班ののろしが見えたからね、負けちゃいられないでしょ?」
ベルガミーニ提督「はぁ、はぁ……だからっていっぺんに運ばなくても……」
シモネッタ提督「まあまあ。それにこれだけあればお昼に豪華な浜焼きも出来るわ。またエレオノーラにお願いすることになっちゃうけれど……」
カサルディ提督「いいよ。味付けはともかく、獲る方は任せておいて?」
提督「じゃあお母さま秘伝の味付けを披露しなくちゃ♪」
…昼・定時連絡の時間…
無線機「……指導班よりシモネッタ班、定時連絡。状況はどうだ」
シモネッタ提督「こちらシモネッタ、異常なし」
無線機「了解。それから課題については海岸に上がるのろしの煙を確認した。合格だ、よくやったな」
シモネッタ提督「ありがとうございます」
無線機「では周辺に飛び火したりしないようきちんと消しておけ、通信終わり」
提督「……やったわね♪」
カサルディ提督「そりゃそうよ。なにしろこっちには同期トップのエレオノーラと、おばさんからサバイバルを教わったフランカがいるんだから」
シモネッタ提督「ルクレツィアったら褒めすぎよ……さ、お腹も空いたことでしょうしお昼にしましょう」
…提督たちは携行糧食の一食分を開けてクラッカーを均等に分け、それからカサルディ提督が軍用ナイフをくくりつけたお手製の「銛」で射止めたシマダイのような魚を小枝を削り出した串に刺し、提督が携行糧食についている貴重な塩とコショウ、それに野生のオレガノを擦り込むとのろしの残り火でこんがりとあぶった…
カサルディ提督「うーん、絶品……たったこれだけの調味料でここまで美味しくできるなんて、やっぱりフランカは天才だね」
提督「私なんてお母さまと比べたらまだまだだわ」
シモネッタ提督「これでまだまだだとしたら、あなたのお母さまの手料理をぜひご馳走になりたいわ」
提督「それじゃあ卒業祝いにうちに来る?」
ベルガミーニ提督「賛成♪ あ、でも大勢で押しかけて迷惑じゃない?」
提督「そうね……もちろん事前に話をしておかないといけないけれど、お客様が三人ならどうにかなると思うわ」
カサルディ提督「ははっ、これで卒業の楽しみが増えたね♪」
987 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/11/07(金) 02:09:35.21 ID:kpNw0g3l0
…二日目・宵…
ベルガミーニ提督「……すん、すん」
提督「カルラ、どうかしたの?」
ベルガミーニ提督「あぁ、フランカ……いえ、流石に二日目ともなると自分の体が臭っているんじゃないかって気になって……」
提督「分かるわ。支給されたサバイバルセットに石けんの一つも入れておいて欲しかったわね」
…とりあえず小川で水浴びをしタオルで身体をこすっているとはいえ、動き回って汗ばむ事も多いなかで石けんなしは少し厳しい……提督も迷彩服の袖を近づけ鼻をひくつかせてみた…
提督「体臭って自分じゃあ分からないって言うけれど本当みたいね……どう、カルラ? 臭う?」
ベルガミーニ提督「ううん、ちょっぴり汗の臭いはするけれど大丈夫」
カサルディ提督「二人ともどうしたの?」
ベルガミーニ提督「あぁ、ルクレツィア……いえ、この二日というもの身体を洗っていないから体臭が気になって……」
カサルディ提督「なるほど、そういうこと。 私に言わせれば二人はいい匂いで何てことないよ……むしろ私よ」
提督「別に大丈夫だけれど……」
カサルディ提督「優しいねえ、そう言ってくれるのはフランカだけだわ」
ベルガミーニ提督「いや、フランカの言うとおりで臭くはないけど?」
カサルディ提督「磯で魚と格闘して、シャツを袋代わりに貝を運んで汗をだくだくかいている女が臭くないわけないでしょうが……いいの、これも宿命みたいなもんよ」
提督「うーん、ルクレツィアの場合は「臭い」っていうよりちょっと日焼けした肌の香ばしい匂いに似ているかも」
ベルガミーニ提督「あぁ、それだわ! というより、なんか犬の毛皮に顔を埋めたときみたいな♪」
カサルディ提督「……それってケモノ臭いってことじゃない」
ベルガミーニ提督「っ!? いや、そういう意味じゃなくて……温かくて私は嫌いじゃない匂いだから……」
カサルディ提督「取って付けたような気休めをありがとね」
ベルガミーニ提督「いえ、だから……!」慌てふためいて言葉につまるベルガミーニ提督……
提督「ルクレツィア、からかうのはそのくらいにしてあげたら? カルラってばすっかり慌てているじゃない」
カサルディ提督「あははっ、それもそうね。大丈夫よカルラ、別に悪口じゃないって分かってるわ」
ベルガミーニ提督「そ、そう……?」
カサルディ提督「とはいえ犬臭いってのは考え物ね……ねぇフランカ、何かいい手はある?」
提督「そうねぇ……」
シモネッタ提督「三人とも何をおしゃべりしているの? 仲間はずれなんて寂しいわ♪」
提督「あぁ、エレオノーラ。いえ、実はね……」かくかくしかじかと事情を説明する……
シモネッタ提督「なるほどね、それで悩んでいたわけ」
カサルディ提督「そうよ。それにしてもエレオノーラ、このシケた島で二日も過ごしているのにどうやったらそんな良い香りをさせていられるのよ」
ベルガミーニ提督「それ、私も聞きたい。ここには石けんもないのに」
…歯磨き粉は虫歯予防のために用意されているが「三日くらい垢を落とさなくても死ぬことはない」という教官たちのありがたいお言葉によって石けんはない……にも関わらずどこか甘く爽やかな香りを漂わせているシモネッタ提督…
シモネッタ提督「あぁ、そのこと……聞きたい?」
提督「ぜひとも」
シモネッタ提督「よろしい、では教えて進ぜよう♪」おどけて白ひげをたくわえた賢者のような口調を真似ると「ついてきて」と三人を草藪の方へと案内した……
カサルディ提督「ここがどうかしたの?」
シモネッタ提督「うふふ……フランカ、貴女なら分かるんじゃないかしら?」
提督「えぇ? ……あ、これってもしかして野生のミント?」夕闇の中で枝葉に触れると途端に爽やかな香りをさせた草藪は、提督が実家の庭で母親のクラウディアから教わったミントの近縁種だった……
シモネッタ提督「ご名答。それで、柔らかい若枝を束ねてこすると……ね、少しは良い香りになるでしょう?」
ベルガミーニ提督「うわぁ、頭良い……ねぇエレオノーラ、良かったら私にも使わせてくれる?」
シモネッタ提督「私の使いさしを借りなくたって、そこにある材料で作れば良いじゃない♪ べつに私の藪じゃないもの」
ベルガミーニ提督「そっか、それもそうね」
988 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/11/29(土) 01:16:14.13 ID:qA6qMkqJ0
提督「うん、出来たわ♪」うまいこと若枝を折り曲げて楕円型の束をつくり、それを手近なツタで縛ってタワシ状のものをこしらえた……
ベルガミーニ提督「もう暗いし水浴びをするなら早くしないと……夜になったら小川の水も冷たくなるし」
カサルディ提督「そうだね、急ごう」
シモネッタ提督「あんまり暗いとあぶないから、私が照らしておいてあげるわ」焚き火から火の付いた長めの枝を取り出し、たいまつ代わりに掲げると提督たちについてきた……
…夜の帳が降りた小川は川岸の白い砂だけがほんのり明るく、水面そのものは提督たちが動いてできる波紋だけがたいまつの灯に照らされて判別できる程度で、あとは一筋の黒いリボンにすぎない……宵闇で視界が狭められた代わりに耳が研ぎ澄まされ、川のせせらぎや打ち返す海の波音が昼間よりも大きく響く…
カサルディ提督「うわ、ちょっと冷たくなってきてる……あんまり長居してると風邪をひきそうね」
ベルガミーニ提督「まさか? ルクレツィアなら真冬の北極海に飛び込んだってへっちゃらでしょ?」
カサルディ提督「失礼ねぇ、私だって一応人の子なんだから風邪くらいひくわよ……でしょ、フランカ?」
提督「そうよ、さすがにルクレツィアだって真冬の北極海は無理よ。せいぜいノルウェー沖くらいね♪」
カサルディ提督「もう、どいつもこいつも……せっかく魚だのなんだの獲って来てあげたって言うのにさ」
提督「ふふ、悪かったわ。代わりに背中を流してあげるから」
カサルディ提督「はいはい」
シモネッタ提督「はしゃぐのはいいけれど、早く上がらないと本当に身体が冷えるわよ?」
提督「それもそうね……分かった、すぐ上がるわ」
…まだ緑色をした野生ミントの若枝で身体を擦ると、途端に爽やかなミントの香りがふっと立ちのぼる……同時に少し固くなった茶色の枝は垢すりとしてほどよい硬さで、柔らかいだけのスポンジよりもいいような気がしてくる……士官学校生活の短い入浴時間のおかげですっかり染みついた手際の良さで手早く身体を流すと、じゃぶじゃぶと川岸に上がった…
シモネッタ提督「さ、凍える前に火にあたって?」
提督「ありがとう」裸の尻に砂がつかないよう迷彩服の上着を広げて敷布代わりにすると火の前に腰かけ、両手をかざして焚き火を眺めた……
カサルディ提督「よいしょ……っと」
ベルガミーニ提督「うー、最低……頭が濡れちゃったわ……」
提督「どうしたの?」
ベルガミーニ提督「川から上がるときに足を取られて転んじゃって……もう」いくら短くしているとはいえ、髪が濡れるとなかなか乾かないのでぶつぶつとこぼしている……
カサルディ提督「やれやれ、カルラってばドジなんだから」肩をすくめてからかい半分に言った……
シモネッタ提督「そのくらいで良かったわね……はい、どうぞ」たいまつで提督たちを照らしている間に温めていたらしい携行糧食のミネストローネをそれぞれの飯盒に注いだ……
提督「あら、ありがとう。道理で良い香りがすると思ったわ」
カサルディ提督「まさかこいつをありがたがって食うことになるとは思わなかったわ……ふー、温かい」
ベルガミーニ提督「そうね。でも明日で訓練は完了だし、今度の休みはうんと美味しいものでも食べに行こう?」
提督「賛成♪」
シモネッタ提督「いいわね」
カサルディ提督「ま、それよりまずは明日の訓練をやっつけないとね。教官たちのことだから最終日にはとっておきのろくでもない課題を用意しているに違いないし」
ベルガミーニ提督「うわ、ありそう……」
…深夜…
提督「うぅん……」
提督「はぁ、まだこんな時間……」疲れていたにもかかわらず目が覚めてしまった提督……腕時計をのぞくと夜明けにはまだしばらくある……
提督「ふぅ」薄い寝袋に身体を預けたまま頭の後ろで手を組んで枕代わりにして、天を行く星々を眺めた……
シモネッタ提督「……寝つけないの?」
提督「エレオノーラ……ええ、なんだか目が冴えちゃって。貴女はちゃんと寝た?」
シモネッタ提督「ええ。今は深夜直をね……隣、座ってもいいかしら?」
提督「もちろん」
シモネッタ提督「……それしても、貴女と一緒で良かったわ」
提督「私は幼女じゃないけれど平気?」
シモネッタ提督「ふふっ、それとこれとは別よ……一人の友人として。フランチェスカ、貴女に出会えて良かったと思っているわ」
提督「そうね、それで言ったら私も……エレオノーラ、貴女には感謝しているわ」
シモネッタ提督「そう言ってくれて嬉しいわ」ふっと小さく微笑むと提督の頬に軽くキスをした……
989 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/12/18(木) 00:52:39.51 ID:SDHyguTc0
…三日目・朝…
提督「今日でいよいよ最終日ね」
カサルディ提督「ま、案外悪くなかったよね。放送や時鐘に追い回されることもないしさ」
ベルガミーニ提督「どうかな、教官たちのことだからまだ何か隠しているのかもしれないし……」
シモネッタ提督「そうなったとしてもどうにか切り抜けましょう、せっかくここまで来たんだから……でしょう?」
提督「そうね」
カサルディ提督「言えてる。それじゃあまずは一つ、朝飯を獲ってくるとしますか♪」
…寝ていてこわばった身体をほぐすための体操を全員で済ませると、一つのびをしてからお手製の銛と、漂着ゴミの漁網からでっち上げた網袋を手に渚に向かうカサルディ提督…
提督「じゃあ私は薪を集めてくるわ」
ベルガミーニ提督「じゃあ私はルクレツィアに付いていくわ」
シモネッタ提督「あら、私だけなんにもなし?」
カサルディ提督「お留守番と無線機をよろしくね♪」
…朝食後…
提督「ふぅ……エレオノーラは料理も上手ね」
シモネッタ提督「そう? 料理上手のフランチェスカに言われると悪い気はしないわね」
ベルガミーニ提督「美味しかったけど、これで糧食の残りは一人分のビスケットだけ……教官の気まぐれで「もう一日追加」とか言われたら困るかも」
提督「メッセ教官ならやりかねないわね?」
カサルディ提督「ま、その時は私が獲ってくる海鮮でしのぐってことで……」お腹を満たし、たわいないことをしゃべっていると無線機が鳴り始めた……
無線機「指導班よりシモネッタ班、定時連絡。現状を知らせ。どうぞ」
シモネッタ提督「シモネッタ班より指導班。異常なし、どうぞ」
無線機「指導班了解。それでは今日の課題を伝える、地図を用意しろ……いいか?」
シモネッタ提督「用意できました、どうぞ」提督が広げた地図を手元に置いた……
無線機「よろしい、それでは島の地図にある北側の湾を確認しろ。地図上のA6区にある」
シモネッタ提督「確認しました」
無線機「よし。それでは本日1400時までに当該地へと移動しろ。手段は問わない。不測の事態の発生、または到着が間に合わないよう進出状況ならその時点で報告しろ。理解できたか?」
シモネッタ提督「理解しました」
無線機「よろしい……この二日というもの砂浜でのんびりしていてなまっただろう。しっかり運動することだ。湾に到着したらこちらで収容、その時点で合格とする。遅刻するなよ?」
シモネッタ提督「了解」
無線機「では収容ポイントで待っている。環境のためゴミはきちんと持ち帰り、怪我しないように。以上、通信終わり」
シモネッタ提督「……だそうよ」
ベルガミーニ提督「今から1400時までに島の北側……?」
カサルディ提督「ホントやってくれるよ、メッセ教官は……♪」思わず小さく笑い出した……
提督「いつも予想以上よね……ふふっ♪」
シモネッタ提督「ふふふっ♪」
ベルガミーニ提督「あはははっ♪」
一同「あはははははっ♪」
提督「あー、ひぃ……ふぅ……ともかく、まずは荷物をまとめなくっちゃ……」笑いのあまり目尻に溜まった涙を拭うと防水布を畳みはじめた……
カサルディ提督「火は消してあるし……と」
シモネッタ提督「糧食のゴミはまとめて袋に……」支給されたセットの中に入っていたゴミ袋に糧食の空きパッケージや包み紙をまとめる……
ベルガミーニ提督「これで忘れ物はなさそうね」
シモネッタ提督「よろしい。それじゃあ島の北側への行き方を考えましょう」
提督「そうね、よく考えて決めないと」キャンプとも言えない仮の野営地を手際よく畳むと、川べりの砂浜に地図を広げて頭を寄せ合った……
990 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/12/29(月) 02:06:13.78 ID:aQlvJ2x40
ベルガミーニ提督「筏を作ったら? 波打ち際には打ち上げられた流木なんかがたくさんあるし、漁業用の浮きだとかをくくりつければ浮力の足しにもなるんじゃない?なにより海軍らしいし♪」
カサルディ提督「私はあんまり賛成できないな。浜辺は割と穏やかだけど岩場の向こうはけっこう波が立っているし、なにより筏を作る時間が足りそうにない」
提督「そうね。筏なら歩かなくて済むし島を縦断する必要もないけれど、色々と制約が多そうだものね……エレオノーラ、班長として判断してほしいわ」
シモネッタ提督「ええ、分かったわ……カルラの「筏」案も悪くはないけれど、時間的な制約と航行の不安があるのでやめておきましょう。残念ながら愚直に歩くしかないわ」
カサルディ提督「やれやれだね……で、ルートは?」
シモネッタ提督「そのことだけれど、みんな地図を見て? ……ご覧の通り私たちは島の南側。回収地点は北側の湾。単純に考えれば真っ直ぐ歩くのが一番早いということになるわ」
提督「けれど地形を考えたらそうはならない」
シモネッタ提督「ええ、フランチェスカの言うとおり……島の真ん中はけわしい岡になっていて、小さいけれど崖や斜面があったり岩場になっていたりして通るのに苦労しそうな地形をしている」
カサルディ提督「距離はあるけど海沿いを進めば迷子にもならないし、地図を見る限りでは海に突き出した崖や岩場みたいな障害があるようにも見えない」
シモネッタ提督「その通り。あるいは賭けになるけれど、ここを突破するか……」
…地図に書かれている岡の西よりの部分にはマフィンの表面のような割れ目が記載されていて、そのギザキザのルートをたどっていけば近道をした上で北側の湾に出られそうに見える…
カサルディ提督「その方がかなり早そうにみえるけど……どうだろ」
ベルガミーニ提督「結構な冒険になりそうよね」
シモネッタ提督「私個人としては時間の余裕があるならこの道を使いたくはないわね。短縮して得られる時間がそこまで多いとも思えないし、誰かが捻挫したり骨折したりしたら話にならない」
提督「時間厳守とはいえ怪我をしたら演習中止になってしまうものね」
カサルディ提督「確かに……それじゃあともかくそこまで行ってみて、その上で改めて決めることにしない?」
ベルガミーニ提督「賛成」
シモネッタ提督「それが一番よさそうね。それじゃあルクレツィア、先導をお願い。私は地図を持ってその次に入る。カルラはその次で、フランチェスカは最後尾から周囲に気を配って」
カサルディ提督「了解、斬り込み役がちびの私なら後ろからでも前が見えるもんね♪」
提督「しんがりは任されたわ」
シモネッタ提督「お願いね? 時計は合わせてあるから、時間配分は私が指示するわ。キツくなったり、体調に異変を感じたらすぐ報告すること……それじゃあ、進発!」
…最初は海風の吹く浜辺を気軽に歩いていた提督たちだったが、陽が高くなるにつれてじわじわと体力が蝕まれはじめた……さくさくと心地よい音を立てる砂浜は足がめり込み意外と歩度が進まず、かといって浜辺を離れると低木の絡みあった藪や転がっている岩がルートを邪魔して迅速に進ませてくれない……小柄だが体力自慢のベルガミーニ提督が軍用ナイフをなた代わりに藪を切り開き、シルヴィアおばさまから野山の歩き方を教わっていた提督はシモネッタ提督たちと相談しつつ道を選んでいく…
………
…一時間後・谷間の入口…
シモネッタ提督「……谷が見えたわ。ここで休憩しましょう」
ベルガミーニ提督「賛成……もうくたくた」
提督「同感ね……」
カサルディ提督「私もちょっとくたびれたわ。枝を払っていたからナイフを握っていた手が痛いし」ナイフを鞘に戻すとしかめ面で手を握ったり開いたりした……
シモネッタ提督「みんな、ちょっといいかしら?」水筒の水を口に含み喉をうるおすと、シモネッタ提督が差し出すように地図を広げた……
シモネッタ提督「……見ての通り、私たちはここまで来たわ。とはいえやはり島の外周を大回りしていては時間的に厳しい」
カサルディ提督「だったら谷間を抜けるしかないでしょ」
ベルガミーニ提督「でも怪我をしたり谷間を抜けるのに時間がかかってたどり着けないようじゃあ本末転倒よね……形だけとはいえ「サバイバル訓練」なんだから、多少時刻に遅れたとしても無事であるべきなんじゃない?」
シモネッタ提督「私もそこが悩みどころなの。時間のためにリスクを負うべきか、安全策で行くか……」
カサルディ提督「どうかな。もしこれが任務だったとして、例えば戦隊との会同時刻にたどり着かないじゃ話にならないでしょ」
シモネッタ提督「フランチェスカはどう思う?」
提督「そうね……私もカルラの言うように「無事であるべき」だとは思うけれど、ここは谷間を行く案に賛成」
シモネッタ提督「あら、理由は?」
提督「ルクレツィアの言った「会同時刻に間に合わないと話にならない」って言葉が引っかかったの。これが艦隊ならとにかく合流を急いで、艦隊そのものが間に合いそうになかったら速い艦を分離して先行させる。もちろん艦隊の分散で各個撃破の危険は高まるかもしれないけれど、増援が来れば味方は立て直せるし相手は驚くかもしれない……それに、たとえ一隻でもゼロよりはましじゃない?」
シモネッタ提督「ふっ、それはそうね……いいわ、それじゃあ残り五分だけ休憩したら谷間を進むことにします」
カサルディ提督「了解」
ベルガミーニ提督「どっちにしても早くゴールしたいわ……」
提督「もうちょっとだから頑張りましょう、カルラ?」
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