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イタリア百合提督(その2)「タラントに二輪の百合の花」

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809 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/11/19(金) 10:36:23.79 ID:TQjWDWB+0
>>808 間違えました…正しくは「『第12MAS隊』がフィンランドに、豆潜水艦が黒海に派遣された」ですね……別の話とごっちゃにしてしまいました

ちなみにフィンランドに派遣された「第12MAS」隊はレニングラード封鎖に参加し砲艦や貨物船を撃沈、黒海ではMAS艇数隻、および貨物列車で沿岸まで陸送された豆潜水艦がソ連の潜水艦を撃沈するなどちょっとだけ戦果を挙げています
810 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/11/28(日) 01:39:03.95 ID:v98k1zgy0
…数日後・提督私室…

提督「まずはパスポートに、お金、トラベラーズチェック(旅行小切手)……携帯電話の充電器と、電圧が違うから向こうのコンセントにさせる変換用のタップ……それからコートと毛皮の帽子、私服が数日分。下着やタイツや多めに詰めて……と」


…トランクのふたを開け、ベッドやテーブルの上に服や旅行に必要な小物を並べている提督……かたわらにはかいがいしく支度を手伝ってくれるライモンと妹のムツィオ・アッテンドーロ、そして隣の執務室で書類仕事を片付けながら、時折様子をのぞきにくる秘書艦のデルフィーノとアッチアイーオ、それから暇な鎮守府の艦娘たちも手伝い半分、野次馬半分でかわりばんこにやってくる…


ライモン「……できるだけ暖かい服を持って行って下さいね?」

提督「ええ、もちろん……それから食品保存袋(ジップロック)が何枚かいるわね」

ライモン「それなら厨房にありますが……一体何にお使いになるんですか?」

提督「そうねぇ、例えば着替えの靴下や下着なんかを詰めたりとか、何か液体のものや散らばって困るものをトランクに入れるときとか……あると何かと役に立つわ。 練習航海のときも持っていて重宝したもの」

ライモン「言われてみれば便利そうですね」

提督「ええ、それに大きめの衣類圧縮袋もいくつか持っているから、それも入れておくわ。 できるだけ荷物はコンパクトにして、その分お土産を詰めてこられるようにね」

オンディーナ(水の精「ウンディーネ」)「……ふふ、素敵なお土産を期待してるわ♪」

提督「ええ♪ あとはもらった語学ガイドと参考資料、ラップトップのパソコンに筆記用具……それから化粧品にちょっとしたお薬、それと生理用品のポーチも入れていかないと。そういうものは規格が違ったりして身体に合わなかったりするから……」

ライモン「なるほど」

提督「うーん、とりあえずこんなものかしら……意外と小さくまとまったわね」トランクのふたを閉めてみて、一人で納得したようにうなずいている……

ライモン「基本的に服は制服でいいから簡単ですね」

提督「ええ……とはいえ礼装と一般用制服の両方を持って行かないといけないし、特に礼装は金モールなんかが付いているからトランクに押し込むことも出来ないって考えると、結構面倒ね」黒いガーメントバッグ(持ち運び用スーツバッグ)をトランクの上に載せ、手のひらを上に向けて肩をすくめた……

アッテンドーロ「そうね」

提督「後は出発の前日にナポリでミカエラと合流、それから空軍の連絡機でローマに出て……ローマではいくつか指示を受けてから、フィウミチーノ空港(ローマ)で飛行機に乗って、数カ所を経由してヘルシンキに行くことになっているから……」

ライモン「なるほど……それにしてもナポリですか、懐かしいです」

提督「開戦当時は第二巡洋艦戦隊の所属だったものね」

ライモン「はい、コレオーニが一緒でした」

提督「そうだったわね……ねえライモン、それじゃあナポリまで一緒に行く? 有給休暇を使うことになっちゃうけれど……」

ライモン「え、でもご迷惑じゃあありませんか?」

提督「まさか。 一人でいるより、誰かが隣にいる方がおしゃべりが出来て楽しいもの……それがライモンならなおさら嬉しいわ」

ライモン「……そ、それじゃあ///」

提督「そう、良かった……ムツィオ、貴女もどう?」

アッテンドーロ「姉さんだけじゃなくて私まで一緒に鎮守府を留守にしちゃったら、編成が回せなくなるんじゃない?」

提督「どっちみち姉妹の片方が欠けたら、セットにしている戦隊のバランスが崩れるのは同じだもの……それに駆逐隊の戦隊旗艦ならジュッサーノたちに十分任せておけるし」

アッテンドーロ「でも、私が横にいると姉さんをせっついちゃう気がするわ」

ライモン「もう、ムツィオってば」

提督「大丈夫、ムツィオがやきもきする前にベッドに引きずり込むって約束するから♪」

ライモン「提督まで……///」

アッテンドーロ「それなら安心ね……いいわ」

提督「決まりね。 ついでに本場のマルゲリータでも食べて、しばらくはおあずけになる国の味を舌に覚えさせておくことにするわ」

アッテンドーロ「ナポリならいい店を知ってるから任せておいてちょうだい♪」

811 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/12/07(火) 00:36:44.44 ID:Q9+9Yq7a0
提督「……それはそうと、出張の前にクリスマスの準備をしないといけないわね」

アッテンドーロ「とはいえ潜水艦の娘たちは後からここに来たからクリスマスの手順はちんぷんかんぷんだし、私たちがどうにかしないといけないわね」

提督「それは私も同じよ……これまではどんな感じだったの?」

アッテンドーロ「そうねぇ……良く考えたらさしたる事はしてなかったわね。提督が着任するまでここにいたのは司令官じゃなくて「担当官」だったから、何かする権限も予算もあまりなかったし……せいぜい賛美歌のレコードを流して、お菓子を焼く程度だったわね」

提督「うーん、それじゃああんまりにも素っ気なさ過ぎるわね……町でもみの木を買ってきて飾りをつけて、それからクリスマスの前後はごちそうを作って……」

アッテンドーロ「まぁそんなところじゃない?」

提督「あと、当日は近くの町の神父様にお願いしてミサを執り行ってもらいましょうか」

ライモン「妥当なところだと思います」

提督「そういってもらえて良かったわ。あと、ご馳走に関しては私に任せておいて♪」

…翌日・倉庫…

提督「……ここにあるのよね?」

ドリア「はい、そのはずなんですが……見つかりませんか?」

提督「ええ、どうにも見当たらないの……」

…ホコリっぽい倉庫に入って箱をどかしたり棚から下ろしたりしてあちこちかき回しながら、クリスマス用の飾り物が入った箱を探している提督……後ろからは最古参の一人として鎮守府を見守り切り盛りしてきたドリアがのぞき込んでいる…

ドリア「おかしいですね……この辺りにあったように記憶していますが」むにっ…♪

提督「そう……ドリアが言うなら間違いないわよね♪」ドリアが提督の後ろから身を乗り出して棚の上を確認すると、そのはずみでずっしりと重く張りのある乳房が背中に押しつけられた……

ドリア「ええ、確かここに……あ、見つけました♪」むにゅ…っ♪

提督「あら、本当に?」

ドリア「はい……ほら、この箱です♪」棚に両腕を伸ばして箱を下ろそうとして、ますます提督に身体を押しつけるドリア……

提督「…ふふっ♪」さわ…っ♪

ドリア「あんっ……もう、提督ったら♪」

提督「ごめんなさい。でも、さっきからドリアの胸が背中に当たって……つい、ね♪」手を後ろに回してドリアのヒップを撫でると、口の端にえくぼを見せていたずらっぽく微笑んだ……

ドリア「もう、いけませんね……箱を落としたらどうするんです?」

提督「ドリアなら落とさないって信じているわ♪」

ドリア「まったく、お上手なんですから……よいしょ」箱を床に下ろしたが、そのまま提督を棚に押しつける姿勢のまま動こうとしない……

提督「ねえドリア、箱は見つかったんだから早く出ましょうよ?」

ドリア「まあ、提督ったらちっともそんなつもりではないくせに……ん、ちゅっ♪」

提督「ちゅ……あ、んぅ……っ♪」


…金属の星や木でできたリンゴの飾り物が入った箱を床に置いたまま、次第にむさぼるようなキスを交わし始める提督とドリア……長身の提督よりさらに一回り大きいドリアは、向かい合わせになった提督の腰に腕を回しぐっと引き寄せると、顔を胸の谷間に挟みこんであご先を指で軽く上向かせ、上から押さえ込むように口づけを見舞った……


提督「ん、んはぁ……ちゅっ……じゅるっ、ちゅぷ……ぷは……ぁ♪」


…ドリアの熱く優しいキスにとろりと甘い表情を浮かべ、夢見心地の様子で舌を絡める提督……すでにひざは力を失い、両手をドリアの首筋に回し、豊満な身体にしがみつくようにして唇を重ねている……タイトスカートの裾からのぞく黒いタイツにつつまれたふとももはスプーンを入れたフォンダンショコラのようにとろりと愛蜜があふれて沁みを作り、ぎゅっとドリアの腰を挟んでいる…


ドリア「もう、いけませんね……倉庫でこんなことをするなんて♪」くちゅくちゅっ、ぐちゅ……っ♪

提督「だって、ドリアが誘惑してくるんだもの……ふあぁぁ、あふっ、あぁ……んっ♪」じゅぷじゅぷっ、にちゅ……っ♪

ドリア「まぁ、ふふっ……私のせいですか?」

提督「そうよ、可愛くて優しいドリアがいけないんだから……ね、もっと♪」

ドリア「仕方ありませんね……あんまり遅いと皆が気にしてしまいますから、あと一回だけですよ?」

提督「もう、ドリアのいじわる……んちゅぅ、ちゅぷ……♪」

ドリア「んちゅ、ちゅる……っ♪」

812 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/12/13(月) 02:23:34.44 ID:IjK5a0vd0
…しばらくして・食堂…

ディアナ「あら、提督……昼食はまだ出来ておりませんが?」

提督「お昼を食べに来たわけじゃないわ、クリスマスに入り用なものを出してきたの♪」

…上に軽く積もっていたホコリを拭き取って食堂に持ってきたのはクリスマス飾りが入っている箱で、艦娘のドリアが大きい方を抱え、提督が小さい方を持っている……たかだが箱を出してきただけにしては妙に息を弾ませている提督と、後ろに付き従いながら艶やかな笑みを浮かべているドリアを見て、ディアナは事情を悟ったような表情を浮かべた…

ディアナ「ああ、なるほど……」

提督「そろそろ待降節も来るわけだし「いよいよクリスマス」っていう気分になってくるものね」

(※待降節…たいこうせつ。ラテン語から「アドベント」とも。クリスマスのおおよそ四週間前を指す。ここからいよいよクリスマスモードになり、寝かせた状態に置いた緑葉のリースや燭台に立てた四本のろうそくを週末ごとに一本ずつ点けていくなどの風習がある)

ディアナ「それもそうですね……ではわたくしもパネットーネなど作ると致しましょうか」

(※パネットーネ…ドライフルーツが入ったパウンドケーキ的な焼き菓子。キログラム単位で作りクリスマスまで長く楽しむ。北イタリア・ミラノの銘菓)

アッテンドーロ「いいじゃない、私も食べたいし手伝うわよ」ミラノ・スフォルツァ家の源流である傭兵隊長「ムツィオ・アッテンドーロ」を由来に持つだけに、ミラノと聞くと食いつきがいい…

提督「それがいいわね。ディアナは大変だけれどいくつか焼いてもらって、好きなようにつまんでいいことにしましょう……それとも手間がかかって大変でしょうから、買ってくる?」

ディアナ「皆さんに手伝っていただければ大丈夫かと……エリトレアもおりますし」

提督「そう、良かった♪」

ディアナ「では、どうせですからパンドーロも作りましょう」

提督「材料は同じようなものだものね」

(※パンドーロ…「パン・デ・オーロ」(黄金のパン)を意味するヴェローナの銘菓。卵や牛乳をふんだんに使い焼き上げたパネットーネの元祖のような菓子で、上から見ると角の多い星形をしている)

エリトレア「それじゃあパンドーロは私が作りますね」

提督「ええ、それからクリスマスツリーにするもみの木を買ってこないと……私のランチアにはさすがに載らないから、鎮守府のトラックを出すしかないわね」

ディアナ「わたくしのフィアット・アバルト850には載せられませんか?」

提督「うーん……ツリーの大きさにもよるけれど、さすがに厳しいんじゃあないかしら」

ディアナ「それは残念です、せっかくあの850を走らせるいい機会だと思ったのですが」

提督「それなら一緒に行きましょう? 町でお買い物をしたい娘もいるでしょうし、ディアナが車を出してあげればみんな喜ぶわ」

ディアナ「さようですか、でしたらそういたしましょう」嬉しそうな様子でいそいそと車の準備をしに行くディアナ……

アッテンドーロ「……ディアナの車に乗りたがる娘がいるかどうかは別として、ね」

提督「あら、ディアナの運転はとても上手よ……ただ、乗り心地がいいかは別だけれど」

…数十分後・近くの町…

ディアナ「あら……」

フルット「クリスマスの装飾が何とも華やかですね」

リットリオ「わぁぁ、すごく綺麗です♪」

提督「そうね……そのうち交代で皆も連れてきてあげましょう」


…小さな町の中央広場にはさまざまな飾りと電飾が施されたツリーが堂々と立っていて、古式ゆかしい町の建物も窓や壁に飾り布を垂らしたり、リースをつけたりしている……町の通りの左右にはクリスマス関係の商品を扱う露店がいくつも出ていて、のんびり買い物を楽しむ老夫婦からはしゃぎ回る子供まで、老若男女を問わず多くの人々が楽しげに歩いている…


オンディーナ「ここのお店にクリスマスの飾り物がありますよ、提督っ……♪」

シレーナ「ラララ……ララ……露店ならここにもあるわよ……♪」

リットリオ「提督ぅ、早く行きましょうよぉ♪」

提督「あぁ、はいはい……そんなに引っ張らなくたってお店は逃げたりしないわよ」子供のようにはしゃぎ回るリットリオたちを見て笑いながらついていく提督……鎮守府で飾るのに頃合いなもみの木を探しつつ、木箱に入った小さな球形の飾り玉や木で出来たリンゴの飾り、小さいキャンドルなどをのぞいて回る…

ディアナ「まるで母娘のようでございますね」

アッテンドーロ「ふふ、同感……♪」

813 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/12/20(月) 00:42:10.10 ID:aKiWTZ3c0
提督「……それじゃあこの金と銀の飾り玉をそれぞれ一袋ずつ」

リットリオ「この木彫りのリンゴを二ダースほど下さいな♪」

オンディーナ「綺麗なガラス細工ですね、これをお願いします…♪」

ディアナ「まぁ、可愛らしいろうそくの飾り物でございますね……おいくらですか?」

…本命のもみの木にある程度目星を付けた提督たちは通りをそぞろ歩きしながら、着々と買い物袋の中身を増やしていく……華やかなリボンや飾り物、商店から流れてくる賛美歌やクリスマスソングを聞きながら歩いていると、不思議と財布の紐も緩くなってくる…

提督「うーん、けっこう買ったわね……これならツリーも充分に飾ることが出来そう」

ディアナ「飾り物もだいぶ痛んだり煤けてきたりしておりましたから、良い機会でございますね」

アッテンドーロ「ずいぶんと散財したものね、これだけあれば充分でしょう」

リットリオ「それじゃあそろそろ本命のもみの木を買わないと……ですね♪」

提督「ええ……買ったら皆も手伝ってちょうだいね? 私だけじゃあとってもじゃないけれど車まで運べないもの」

フルット「もちろんですとも……♪」

…広場の露店…

提督「それじゃあこれでいいかしら?」

ディアナ「よろしいかと思います」


…広場にいるツリー売りの露店商はもみの木を何本も並べていて、辺りには爽やかな匂いが立ちこめている……事前に天井の高さを測ってメモ帳に書き留めておいた提督は、候補として手頃な数本を選び出した……が、リットリオを始め数人は大きなツリーに心引かれ、どうも得心がいかない様子でいる……そうなると露店商のおじさんも好機とみて「せっかくのクリスマスなんだから」とか「一年に一回なんだし買っていきなよ」などと景気の良いことを言って、しきりに買わせようとする…


リットリオ「……ねぇ提督、どうせですからもっと大きいのにしませんか?」

フルット「ですがリットリオ、天井の高さを考えたらこの程度でないとつかえてしまいますよ」

リットリオ「それもそうですが……でもせっかくのツリーですし、六メートルものの方が見栄えもしますし形も整ってますよ?」

提督「リットリオの言うことももっともだけれど、大きくても四メートル以内じゃないと食堂の天井につかえちゃうから……ね?」

リットリオ「でもお値段だってそう変わりませんし……」

提督「まぁまぁ……このもみの木だってたくさんある中で見ているから小さく見えるけれど、持って帰って据え付けたら結構な大きさに見えるはずよ?」

リットリオ「むぅ……」

アッテンドーロ「だいたい天井につかえるようじゃあ間抜けも良いところじゃない。 値段だって単価でいけば……リラしか変わらないわよ」計算高いミラノ人らしく、さっと暗算してみせた…

リットリオ「言われてみればそれもそうですね……」口ではそう言っているものの、まだ未練がましい表情で堂々としたツリーを眺めている……

提督「ふぅ……分かった分かった。 そっちの大きい方も買うことにしましょう」

リットリオ「えっ、本当ですかっ?」

アッテンドーロ「ちょっと!」

提督「……ただし、リットリオも半分出すのよ? いい?」

リットリオ「はいっ♪」

提督「よろしい……それじゃあこの三メートル半のを一本と、それからこの六メートルものを一本」

露店商「毎度あり! お嬢さん方、どうか良いクリスマスを!」

リットリオ「はいっ♪」

提督「さぁリットリオ、それじゃあ運ぶのを手伝ってちょうだい」

リットリオ「もちろんです♪」そう言うとちょっとした街灯ほどの高さがあるツリーをひょいと持ち上げ、切り口を固定している四角い鉢を支えてプレゼントのように抱えた…

提督「それじゃあもみの木はトラックに積むから……リットリオ、帰りは助手席に座る?」

リットリオ「いえ、せっかくのツリーですから横に座って押さえておきます♪」

提督「ふふっ、了解……それじゃあ、はい。 ……そのまま荷台に座ったら服が汚れちゃうから、これを敷いて座るといいわ」ランチアのトランクを開けてメンテの時に敷く古毛布を取り出した

リットリオ「えへへっ、ありがとうございます♪」

アッテンドーロ「……まったく、大きいなりをしておきながらまるで子供なんだから♪」ご機嫌でトラックの荷台に乗り込むリットリオを見ながら、微笑ましいのとあきれたのが混じったような苦笑を浮かべた…

提督「そこがまた可愛い所なのよ♪」そう言ってアッテンドーロにウィンクを投げた…
814 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/12/26(日) 01:23:16.63 ID:Tlp9xEGX0
…鎮守府までの帰り道…

提督「うーん、それにしてもよく飛ばすわねぇ……」


…先頭をぶっちぎりで走っていくディアナのフィアット850を見て感心したように言った提督……どちらかと言えば運転の得意な提督から見てもディアナの運転は段違いで、コーナーのクリアはまるでラリーでもしているように見える……海沿いの地方道路を感心するような勢いで飛ばしていくさまは、普段のしとやかで落ち着いた「月の女神」ディアナではなく、弓を持って野山を駆け巡る「狩猟の女神」ディアナを表しているようにも見える…


アッテンドーロ「あの調子じゃあ無茶苦茶に揺られてるわね、きっと……フルットたちが吐かなきゃいいけど」

提督「そうね」

…先頭を行くディアナのフィアットに続く提督のランチア・フラミニア…そしてその後ろに続くのが鎮守府に配備されている旧式なイヴェコのトラックで、荷台には幌が張ってあり、車体の後端からはクリスマスツリーが突き出している…

トゥルビーネ「提督たちは心配し過ぎよ、あの程度で吐いてたんじゃあ沖に出られないでしょ?」

提督「まぁね、でも船酔いと車酔いは違うから……実際にフリゲートの艦長で一人いたもの。ブリッジまで波がかぶりそうな時化の海でも平然とコーヒーをすすっていられるのに、ローマのタクシーで真っ青になっていた人が」

シロッコ「それはローマのタクシーだからじゃないかな?」

提督「まぁね…っと、パトカーだわ。 みんなシートベルトはしているわよね?」

…スタイリッシュな黒と紅に塗り分けられたカラビニエーリのフィアット・プントが鎮守府のトラックと併走し始めると、回転灯を回して停止をうながした…

提督「あら、こっちじゃないみたい……でも私が応対したほうがいいわね」車道の端にランチアを停めると後続車を確認し、それからドアを開けてパトカーの方へと向かった…

提督「……ボンジョルノ、シニョーレ(ミスター)……どうかしましたか?」

カラビニエーリ隊員「ボンジョルノ……ああ、海軍さんですか」

…脇に寄せて停めたイヴェコの運転席から降りてきた「ソルダティ(兵士)」級駆逐艦の「ヴェリーテ(軽歩兵)」と、近寄ってきた提督を交互に眺めるカラビニエーリの隊員…

提督「ええ……どうぞ、身分証です」

カラビニエーリB「はい、どうも」

…有事となれば「第四の軍隊」として治安維持や海外派遣も行うが、同時に警察とカバーし合うように田舎での警察活動も請け負っているカラビニエーリ(軍警察)…もっとも中央の精鋭部隊と違って、地方にいるカラビニエーリは割とのんきで気さくな雰囲気を漂わせている…

提督「それで、うちの娘たちがなにか……?」

カラビニエーリ「ああ、いや。 ただちょっとばかりツリーの先端が大きく荷台からはみ出していたもんで……基地で飾るんですか?」

提督「ええ、そうです」

カラビニエーリB「そりゃあいいですね。とはいえやはり少し気になりますが……」鎮守府の艦娘たちの何人かが持っている、運転できる場所や速度が限定される制限付き免許のような海軍の「許可証」を確認しながらあごをかいた……

提督「それでしたら一応監視役も乗せてありますから……ね、リットリオ?」

リットリオ「はい♪」提督の声に応えて、荷台からひょっこりと顔を出して笑顔を浮かべるリットリオ…

カラビニエーリ「ああ、後ろに乗ってたんですね……それならばっちりですよ。 やあお嬢さん♪」

リットリオ「チャオ♪」

提督「では、大丈夫ですか?」

カラビニエーリ「ええ、問題ありません……お嬢ちゃん、ご協力ありがとう」ヴェリーテに許可証を返すとおどけたように敬礼し、フィアットに乗り込んだ…

ヴェリーテ「いいえ」

提督「パトロールご苦労様です」

カラビニエーリB「これはどうも……あぁ、そうそう」

提督「何でしょう?」

カラビニエーリB「良いクリスマスを♪」

提督「グラツィエ♪」

815 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/12/31(金) 01:39:36.27 ID:ln18LMee0
…しばらくして・鎮守府…

カヴール「……それであんなに大きなツリーを買ってきたのですか」

リットリオ「はい♪」

ドリア「確かに立派ですけれど、あれだけのツリーともなるとお値段が張ったでしょう?」

リットリオ「ええ、でも提督が半分出してくれましたから♪」

アオスタ「リットリオったら仕方ないですね……提督にまでお金を出させるだなんて」

リットリオ「でも、せっかくのクリスマスですし……」

アオスタ「そうやって無駄遣いをするのは良くないですよ」

リットリオ「むぅ、アオスタってばそういうことを言うんですか」

アオスタ「だってそうじゃありませんか」

提督「まぁまぁ、アオスタ。 確かに一年に一回のことだから……それにあれを見ると、ね?」

…リットリオは鎮守府に戻ってくるなりいそいそとツリーを下ろして、食堂のフランス窓から見える位置に堂々と立てた……早速ツリーに群がって、きゃあきゃあと歓声を上げながら飾り付けに興じる艦娘たち……すでにツリーのあちこちには星形や球形のオーナメント(飾り物)がぶら下がり、どこかから引っ張り出してきたらしい電飾も巻き付けられている…

アオスタ「……それもそうですね、皆があんなに喜んでいるのにお説教もないものですね」生真面目な委員長気質の軽巡アオスタはふっと肩の力を抜いて、提督に向かって苦笑した…

提督「そういうこと♪ さぁリットリオ、トップの星を飾ってきて♪」

リットリオ「はいっ♪」

…リットリオがツリーのてっぺんに飾る銀の星を持っていそいそと駆け寄ると、たちまち駆逐艦たちや潜水艦の娘たちに取り囲まれて歓声を浴びせられ、うんともてはやされている……同時に、何やら楽しげな様子であることを察したルチアもみんなの足元で尻尾を振って駆け回っている…

カヴール「……何とも楽しげではありませんか♪」

提督「そうね、小さいのだけじゃなくて大きいのも買ってよかったわ♪」

ドリア「そうですね……それでは飾り付けは元気な駆逐艦や潜水艦の娘たちに任せて、私たちは中に入って温かいワインでもいただくとしましょう♪」

提督「ええ」

…食堂…

提督「まぁ……私たちが出かけている間にここまでやってくれたの?」

デュイリオ「はい♪」


…パチパチと木切れがはぜ、楽しげに火の踊る暖炉が食堂を心地よく暖め、テーブルには新しいテーブルクロスが掛けられている……テーブルの上にはいくつか燭台が置かれ、綺麗に焼き上がったパンドーロやパネットーネは大皿に載せられ、誰でも好きなようにつまみ食いが出来るよう、切り分け用のナイフや小皿と一緒に置いてある……提督たちが買ってきた小さい方のクリスマスツリーにも早速飾り付けが始まっていて、金色や銀色をした玉や木彫りのリンゴ、リボンをかけた箱の形をした飾り物などがあちこちに吊り下げられていく…


ペルラ(「真珠」)「提督、お帰りなさい」

トゥルケーゼ(「トルコ石」)「みんな提督のお帰りを待ってましたよ……♪」

ルビノ(「ルビー」)「お帰りなさいっ……はむっ、んっ、ちゅぅ……っ♪」

提督「んむっ、ぷは……もう、ルビノったら積極的なんだから♪ ただいま、みんな」

ドリア「ツリーの飾り付けはいかがですか?」

スメラルド(「エメラルド」)「見ての通り順調です」

ペルラ「スメラルドの言うとおりです……ご覧になってみて、どうでしょうか?」

提督「そうね、とっても綺麗できらきらしていて……って、ちょっと」

オニーチェ(「オニキス」)「どうかしたの?」

提督「いえ、だって……これって貴女たちが持っているネックレスとかじゃない」室内の灯りを受けて輝いているモールや飾りをよく見ると、ペルラたちが持っている装身具のいくつかが交じっている……

ペルラ「どうですか、とても綺麗でしょう?」

提督「いえ、確かに綺麗だけれど……」

アルジェント(「銀」)「ふふ、せっかくのクリスマスですから……ここにはアクセサリーをくすねるような手癖の悪い娘もいませんし」

デュイリオ「あら、それはどうでしょう……わたくしはコルウス(カラス)の使い手ですし、カラスは光り物が好き……もしかして、そーっと持って行ってしまうかもしれませんよ……ね♪」肩に止まらせているペットのカラスの喉を軽くかいてあげるデュイリオ…

カラス「アー」

シレーナ(「セイレーン」)「ララ、ラ……ふふ、私も宝石は好き……♪」

提督「もう、せっかく信用してくれているんだからそういうことは言わないの♪」
816 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/12/31(金) 16:12:57.13 ID:ln18LMee0
…今年も残すところ数時間となりましたね。このssを読んで下さった皆様に感謝します…


しかし年末近くにも護衛艦「みくま」進水や長きに渡り活躍した「せとゆき」の退役など、新たに生まれる艦がいれば花道を去る艦もあって色々ありましたね……来年も七つの海が穏やかで、海に関わる方々が良い風と波に恵まれますように
817 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/01/02(日) 00:43:09.25 ID:GgALU43l0
遅くなりましたが明けましておめでとうございます、本年もぼちぼち書いていきたいと思います


…そして何故か三日の夜にイタリア・ドイツ・日本と所属を変えるという数奇な運命をたどった大型潜水艦「コマンダンテ・カッペリーニ」を題材にしたドラマが放送されるようで、イタリア王国海軍のファンとしては楽しみです
818 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/01/14(金) 02:43:48.80 ID:WTxXQ7Hw0
…出張当日・朝…

提督「忘れ物はない? ライモン、ムツィオ」

アッテンドーロ「ないわよ」

ライモン「準備はととのっています」

提督「そう、じゃあ乗って?」

デュイリオ「行ってらっしゃいまし、提督」

提督「ええ、艦隊旗艦として留守は任せたわ」ランチアの運転席から顔を出し、デュイリオの頬に軽くキスをする……

デュイリオ「はい、わたくしとアオスタで切り盛りさせていただきます♪」

提督「お願いするわ……アッチアイーオ、デルフィーノ。よく二人を補佐してあげてね?」

アッチアイーオ「もちろんよ」

デルフィーノ「分かっています」

エウジェニオ「それじゃあ行ってらっしゃい、提督……ライモンド、遠慮しないで好きなことをおねだりするのよ?」

ライモン「もう、エウジェニオってば……分かっていますから///」

アッテンドーロ「姉さんの尻押しはちゃんと私がやるから大丈夫よ」

エウジェニオ「ふふっ、確かにムツィオがいるなら大丈夫よね……それじゃあ行ってらっしゃい♪」

ライモン「ええ、行ってきます」

…グロッタリーエ空軍基地…

提督「では、お願いね」

…愛車の「ランチア・フラミニア」を数日とは言え置き去りにするのは忍びなかったがやむなく基地の駐車スペースに預け、それから本部施設で係の士官に搭乗のための「予約票」を渡した…

空軍士官「お任せ下さい……搭乗するのは閣下と随行する艦娘が二人ですね」

提督「ええ」

士官「確認しました……他に手荷物は?」

提督「今持っているもので全部よ」中くらいのスーツケース一つに礼装の入ったガーメントバッグ(旅行用スーツ袋)を指し示す…

士官「分かりました、それは部下に運ばせます……伍長!」


…少尉は下士官を呼んで提督たちの持ち物を機に積み込むよう指示した……エプロンに駐機しているのはエンテ翼(先尾翼)に、推進式(プロペラが後ろに付いている)双発エンジンと未来的なデザインをしたピアッジォP180「アヴァンティ」で、機付整備員とパイロットが最終チェックを行っている…


操縦士「では、この機でナポリまでお送りいたします……とはいえ通常の輸送型ですからさしたるおもてなしは出来ませんが」

提督「大丈夫よ、大尉。お気遣いなく」シートにゆったりと腰かけ、ベルトをしめた……

…数時間後・ナポリ…

アッテンドーロ「うーん、この喧噪にごちゃついた町並み……ナポリ、懐かしいわね」

提督「そうね」


…賑やかでちょっとごみごみした港町でありながら、明るい陽光と家並みのせいか、どこか親しげな雰囲気のナポリ市街……沖には観光名所のカプリ島を望み、山側にはかの高名なヴェスヴィアス(ヴェスヴィオ火山)がそびえている……提督は停泊中の米第六艦隊の艦艇を横目に見ながら、つい短艇の吊り方や整頓の様子を確かめてしまう…


アッテンドーロ「……そういえば提督はナポリにもいたことがあるのよね?」

提督「ええ、そこでジェーン(ミッチャー提督)と出会ったの……泊まるところがないっていうから下宿に泊めてあげたのがきっかけでね」

………


819 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/01/17(月) 00:42:57.09 ID:vjM9YSGV0
…数年前…


米海軍の女性士官「ホーリィ、シッ……こういう時に限ってこうなんだから、タイミングが悪いったらありゃしない」米海軍中佐の制服を着ている一人の女性が舌打ちしながら米兵相手のホテルから出てきた……

女性士官「ふぅ、参ったわね……」ぼやいている女性はボリュームのある身体をしていて、つやつやした褐色の肌が制服からはち切れそうになっている……と、制服姿の提督を見るとガイドブック片手に歩み寄ってきた……

女性士官「あー……キューズミー、キャニュウスピーキン、イングリッシュ?(ちょっと失礼、英語は話せる?)」

カンピオーニ少佐(提督)「ええ、ある程度なら……メイ・アイ・ヘルプ・ユー?(何かお手伝いしましょうか?)」


女性士官「そうね、ぜひその「ヘルプ」をお願いするわ……あのね、この辺りでどっか泊まれそうなホテルかなにかないかしら? 実はホテルの予約がしてあったはずなのに部屋が取れてなくってね……別のホテルもいくつかあたってみたんだけど、事もあろうに「アイク(CVN69・原子力空母「ドワイト・D・アイゼンハワー」)」の入港とかぶっちゃって……どこもいっぱいだって言うのよ」


提督「なるほど、それは大変ですね。 でもホテルと言っても、ここから歩いて行ける距離となると……タクシーを使っても今は観光シーズンですし、空母の入港も重なっていますから、悪くすると(ナポリ湾の対岸にある)ポッツォーリの辺りまで満員かもしれませんよ」

女性士官「オーケイ、それじゃあ基地に戻って内部の宿舎に一晩泊まるわ。消灯時刻はうるさいし、夕食に出るのったら出来損ないの「SOS」だけだろうけど……ま、少なくともベッドだけはあるわけだし……呼び止めて悪かったわね、えーと……」

(※shit on a single…トーストのクリームソース和え。南北戦争の頃にはレシピが生まれていたらしいが、今ひとつな味と鳥の糞に見える見た目の悪さから「屋根の上の糞」という不名誉なあだ名が付いている)

提督「フランチェスカ・カンピオーニ少佐です」

ミッチャー中佐「私はジェーン・ミッチャー中佐。ジェーンでいいわ……とにかくありがとね、カンピオーニ少佐」

提督「私もフランチェスカでいいですよ、ジェーン」

ミッチャー提督「オーケイ、フランチェスカ……それじゃあ私は基地に戻ってシケた晩飯を食べることにするわ……はるばるナポリまで来てキャンベルスープの缶詰か、それとも「テレビ・ディナー(冷凍食品)」か……とにかくアンクル・サム(合衆国)印のヤツをね♪」ニヤリと笑って、大げさに肩をすくめて見せた

提督「あの……もし良かったら、玉ねぎのマリネとスパゲッティ・アッラ・プッタネスカ、それに冷えた赤ワイン、ドルチェに甘いジェラートなんて言うのはいかがですか?」

ミッチャー提督「すごく美味しそうに聞こえるわね……フランチェスカ、それはあなたのフラット(住居)で、ってこと?」

提督「ええ。せっかくナポリに来たのですし……ナポリ料理とまでは言わなくても、イタリア料理を食べないなんてもったいないですから」

ミッチャー提督「そう……まぁせっかくそう言ってくれるのなら、お邪魔しようかしら」

提督「ええ、ぜひ…♪」

…提督の下宿先…

提督「どうぞ、ちょっと手狭ですけれど」

ミッチャー提督「ノー・プロブレム……駆逐艦のバンク(寝台)に比べたらヒルトンのスイートルームみたいよ」

提督「どうします、先にお風呂にしますか? それとも夕食を?」

ミッチャー提督「そうね……それならシャワーをもらおうかしら。何しろ陸(おか)に上がってからというもの「ハリウッドシャワー(使い放題のシャワー)」が楽しみだったのにロクな浴室と出会ってなくってね♪」

提督「分かりました。それじゃあその間にテーブルを整えておきますから、どうぞシャワーを浴びてきて下さい……それから体拭きのタオルと……私の予備ですけれど、着られますか?」白いパイル(タオル)地のバスローブを取り出して渡した…

ミッチャー提督「サンクス♪ ちょいとキツめだけど着られるわ……フランチェスカが水道代で目を回さない程度にたっぷり使わせてもらうわね」

提督「ふふっ、遠慮せずにどうぞごゆっくり♪」

…十分ほどして…

ミッチャー提督「ふー…さっぱりしたわ。本当にありがとね……っと」

提督「さ、どうぞ座って下さい♪」

…制服を脱いでシンプルなワンピース姿に着替え、その上からエプロンを着けている提督……部屋の灯りは少し暗めにしてあり、テーブルには赤ワインの瓶と皿が並び、ゆらゆらと炎が揺らめくキャンドルが一本立てられている…

ミッチャー提督「……ワーオ、まるで素敵なレストランみたいじゃない♪」

提督「いえ……だってせっかくですから、お洒落な方がいいかと思って///」

ミッチャー提督「いいじゃない、これなら干からびたパンとチーズだって美味しく頂けそうよ♪」

提督「きっと干からびたパンよりは美味しいと思います……どうぞ、ボン・アペティート(召し上がれ)♪」
820 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/01/17(月) 01:03:15.10 ID:vjM9YSGV0
アッテンドーロ「……そうやって引っ張り込んだわけね」

提督「あら「引っ張り込んだ」なんて人聞きが悪いわね……本当に親切でごちそうしてあげたかっただけよ?」

アッテンドーロ「どうだか……♪」

提督「もう……それより二人とも、ここからだとヴェスヴィアスが綺麗に見えるわ♪」

アッテンドーロ「あら、はぐらかしたわね……それにしてもヴェスヴィアスも相変わらずだこと。 ……開戦前までは登山電車があったけれど、今はないのよね」

提督「ええ、今は道路も出来たから車でも頂上近くまで行けるし……残っているのは「フニクリ・フニクラ」の歌だけね」


(※フニクリ・フニクラ…1880年(明治13年)ヴェスヴィアスに観光登山電車(フニコラーレ…「フニクリ・フニクラ」はその愛称)が作られたが、あまりの急勾配に恐れをなした観光客が乗ろうとせず売り上げが振るわないので、イギリスにある世界最古の旅行会社「トーマス・クック旅行社」がテコ入れのため、ナポリの新聞記者「ジュセッペ・トゥルコ」に作詞、ロンドン音大の教授として勤めていたナポリ出身の「ルイージ・デンツァ」に作曲を依頼。出来上がったこのCMソングは大ヒットし、無事に登山電車も人気となった……1944年、連合軍の管理下にあった登山電車そのものはヴェスヴィアス噴火のため閉鎖されたが、歌そのものは今も残っている。日本語訳では「♪〜登山電車ができたので、誰でも、登れる」といかにも登山電車の歌になっているが、原語(ナポリ語)では火山の炎と恋模様をからめたラブソングなのがイタリアらしい)


ライモン「フニクリ・フニクラですか……ムツィオは覚えてる?」

アッテンドーロ「ええ、もちろん♪」すっと息を吸い込むと高らかに歌い始めた……


アッテンドーロ「♪〜アイセーラ、ナンニネ、メ・ネ・サリェッテ。 トゥ・サーレ、アディオ」

(♪〜お嬢さん、今宵ぼくは登るんだ。どこだか貴女はわかるかい?)

アッテンドーロ「♪〜アドォ、トゥ・コーレ、ンガラァト、チィウ、ディスピェット。 ファルメ、ン・ポ」

(♪〜そこはもう恩知らずの心がぼくをじらさないところ)

アッテンドーロ「♪〜アドォ、ロ・フォーコ、コ・セ、マ・シ・フゥイエ。 テ・ラッサ・スタ」

(♪〜そこには火が燃えているが(嫉妬の炎ではないから)貴女を放っておける場所)

アッテンドーロ「♪〜エ・ヌン、テ・コォーレ、アプリィエッソ、ヌン・テ・ストゥルィェ。 スロ・ア・グラダ」

(♪〜貴女を追ったり(恋で)苦しめずに、ただ見つめていられる場所)

アッテンドーロ「♪〜ヤンモ!ヤンモ!ンコッパ、ヤンモ・ヤ!」
(♪〜行こう!行こう! 上へと行こう!)

アッテンドーロ「♪〜フニクリ・フニクラ、フニクリ・フニクラぁぁ!」
(♪〜フニクリ・フニクラ…)

アッテンドーロ「♪ンコッパ、ヤンモ・ヤ! フニクリ・フニクラ!」
(♪〜上に行こう! フニクリ・フニクラ!)


提督「あら、お上手♪」

アッテンドーロ「そりゃあね……まぁ、テアトロ・アッラ・スカラ(ミラノ・スカラ座)でプリマ・ドンナをやれるとは言わないけれど♪」

提督「ふふっ……ところで二人とも、そろそろお昼にしましょう? ミカエラも待っているだろうし、ピッツェリーア(ピッツァ店)辺りで手早く…ね?」

アッテンドーロ「そうね、でもせっかくだから地元の名店でマルゲリータを食べなくちゃ……ほら、ついてきて?」

…怪しい裏通り…

提督「……ここ?」

アッテンドーロ「そうよ。 お世辞にも品のいい場所とは言いがたいけれど、この路地の奥にある店で出すマルゲリータは絶品なんだから」

提督「そうなのね……それで、ピストルは準備しておいた方がいいかしら?」

ライモン「大丈夫ですよ、提督。 わたしとムツィオが付いていますから」

アッテンドーロ「そうそう……あとは大金を見せびらかしたりしなければ大丈夫」

提督「……そういうことにしておくわ」
821 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/01/28(金) 02:04:18.86 ID:VGjoX0eq0
アッテンドーロ「さ、早く済ませないといけないんでしょ?」

提督「ええ」

…坂の多い港町ナポリの裏通りをすいすいと歩いて行くアッテンドーロとそれに従って付いていく提督、そして提督の横に付いているライモン……路地の道端には壊れた木箱や野菜くずが放り出してあり、お世辞にも柄がいいとは言えない…

アッテンドーロ「ほら、ここよ」

提督「……どうやら間違いないみたいね」

…案内された先には薄汚れた黄色の壁をした一軒の小さな店があり、年季の入った小さな木の吊り看板には「ピッツェリーア」の文字が彫り込まれている…

アッテンドーロ「チャオ、三人よ」

提督「ごめんください……」

オヤジ「へい、らっしゃい! 注文は!」

…アッテンドーロの後に付き店内へと入った提督とライモン……店の中は全体的に古く薄汚い感じではあるが、テーブルだけは長い年月にわたってずっと拭かれているのか、表面に艶が出てすっかり飴色になっている……威勢のいい店主は丸顔であごに無精ひげをはやし、汚れきったエプロンに台拭きを挟みこんでいる…

アッテンドーロ「それぞれにピッツァ・マルゲリータよ」

オヤジ「あいよ! 飲み物は?」

アッテンドーロ「ロッソ(赤)をもらうわ」

オヤジ「ほいさ……士官さん、そっちは?」

提督「それじゃあ同じものを」

オヤジ「そっちのお嬢ちゃんは?」

ライモン「わたしも同じでいいです」

オヤジ「よしきた! ほらおっかあ、聞いただろ!」

おかみさん「ガタガタ言わなくたって聞こえてるよ、あたしにだって耳があるんだからね!」

オヤジ「そうかい! おれはてっきりこの間「オレキエッテ」と一緒に料理しちまったと思ってたぜ!」

(※オレキエッテ…「耳」を意味する丸っこいパスタ。タラント近郊では「小石」を意味する「チァンカレーレ」とも)

…勢いのいい店主とおかみさんのやり取りに、数人の客はげらげら笑っている……そのうちの三人は顔なじみらしい爺さんたちで、後は白粉をベタベタと塗った娼婦の「お姉さま」方……彼女たちもきっと数十年前は王室ヨットのようにスマートで綺麗だったのだろうが、すっかり沿岸回りの老朽貨物船のような体型になっていて、サビの上にペイントを塗りたくっているあたりもよく似ている…

おかみさん「はい、お待たせ!」編んだ柳のカゴにすっぽりと収まっている丸っこい瓶から、グラスにごぼごぼとワインを注いだ……

オヤジ「おう、とっととしねえか! せっかくのピッツァが冷めっちまうだろうが!」

おかみさん「分かってるよぅ! それにもし冷めたらヴェスーヴィオ(ヴェスヴィアス)にでも突っ込めばいいじゃないか!」

…下町のナポリ人らしく元気にまくし立てながら、さっとピッツァ・マルゲリータの皿を提督たちの前に並べたおかみさん……縁のある丸くて薄い生地にさっとサルサ・ポモドーロ(トマトソース)を塗り、モッツァレラ・チーズとバジリコを散らしてある…

提督「グラツィエ」

おかみさん「はいよ! 冷めないうちに食べな!」

提督「ええ……あむっ」

…パリッとして少し焦げのある香ばしい「耳」の部分と、さっくりとした生地の部分……そこに酸味のあるポモドーロと、ふつふつたぎっているモッツァレラの脂っ気、そしてそれをすっきりと打ち消すバジリコの爽やかな風味……一人に一枚を供するナポリピッツァで、差し渡したっぷり二十四センチはありそうな一枚が来て、提督は少し持て余してしまうかと思ったが、口当たりが軽いので美味しく食べられる…

………



アッテンドーロ「……ね、美味しかったでしょ?」

提督「はぁ、確かに美味しかったわね……あんなに美味しいピッツァ・マルゲリータを食べたのは初めてかもしれないわ」

アッテンドーロ「でしょう?」

提督「ええ、これで心おきなく出張に出かけられるわ♪」

アッテンドーロ「良かったわね……それじゃあ私と姉さんはこれで♪」

提督「楽しんでいらっしゃいね」

ライモン「提督も楽しんで来て下さいね」

提督「ありがとう、ライモン」
822 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/02/04(金) 11:30:35.82 ID:6//l9u1t0
…ナポリ基地「南部ティレニア海」管区司令部…

フェリーチェ大尉「来てくれて嬉しいわ、フランカ……それで、この後のスケジュールだけれど」手際よくラップトップコンピューターとメモを用意し、説明に入る…

提督「ええ」

フェリーチェ大尉「まずはローマのスーペルマリーナでいくつか資料を受け取り、それからアリタリアの便でスキポール空港(アムステルダム)に。スキポールにはハーグのオランダ海軍参謀部から士官が来ているから、その士官に二つほど資料を渡す」

提督「それから?」

フェリーチェ大尉「次にスカンジナビア航空の飛行機でオスロに飛んで、私はあちらの情報部と少し情報交換をするわ……それが済んだらノルウェーの海軍士官に基地を案内してもらって、フリゲートや艦娘たちを紹介してもらう予定になっているわ」

提督「ノルウェーのフリゲート……フリチョフ・ナンセン級ね」

フェリーチェ大尉「ええ。それからもう一度スカンジナビアの便に乗ってストックホルムに行って一泊、翌日の夕方にはフィンエアーの飛行機でヘルシンキ入り……細かい時間のスケジュールはこの紙に書いてあるわ。いくつかはぶいてある部分もあるけれど、そこは気にしないで?」

提督「分かっているわ。 それにしても結構なスケジュールね……色々見てみたい名所もあるのに、全然見られそうにないわ」


…公務である事は提督にも分かっているが、ヘルシンキ入りするの前のたった一日か二日の間にオランダ、ノルウェー、スウェーデンと駆け抜けるスケジュールを見て、さすがに愚痴が出る…


フェリーチェ大尉「そこは勘弁してちょうだい、フランカ。 やっぱり将官が行くと金モールの威光が働くから、先方が無理解な部類でも話を通しやすくなるのよ……それだけに普段は許可が下りにくい所へも訪問の予定を詰めこませてもらったから、どうしてもね」

提督「ええ、分かっているわ。でもせっかくのフィンランド湾だし、ストックホルムからヘルシンキは流氷クルーズの船で行きたかったなぁ……って」

フェリーチェ大尉「悪いわね、観光旅行って訳じゃないから時間がかかる船便は「うん」って言ってもらえないのよ……いつかみたいに火山が噴火して航空便が軒並み欠航にでもなれば別だけれど。代わりにストックホルムで一泊させてもらえるから、ちょっとだけ観光が出来るわ」

提督「わざわざ掛け合ってくれたのね、ありがとう……ストックホルムは「北欧のヴェネツィア」っていうくらいだし、一度見てみたかったの」

フェリーチェ大尉「いいのよ、私だってたまには観光くらいしたいし……官費とあればなおの事ね」ふっと浮かべた笑みを見ると、提督はフェリーチェとしばし同棲していた時を思い起こした…

提督「そうね……せっかく機会を得られたのだから、出来るだけ楽しまないと♪」

フェリーチェ大尉「だからって羽目は外さないようにね」

提督「分かっているわ♪」

…午後・カポーディキーノ空軍基地…

フェリーチェ大尉「それじゃあ、準備はいいわね? パスポートと航空券は持ってる?」

提督「ええ♪」

フェリーチェ大尉「よろしい」

…荷物検査のエリアへ提督を連れて行くと、空軍の係官にパッと何かを提示して見せた…

係官「あっ……確かにうかがっております」

フェリーチェ大尉「結構」係官がチェーンで塞いでいる通り道を開けて、二人をさっと通してくれる……

提督「……」

…官民共用のカポーディキーノ基地で空軍の「ガルフストリーム」哨戒・連絡機に乗り込み、次々と離着陸するカラフルな旅客機を眺めつつ離陸を待った…

提督「ふー……空港の手続きっていうのはせわしなくって気疲れがするわね」

フェリーチェ大尉「たかが国内でそんなことを言っているようじゃ、途中でへたばっちゃうかもしれないわね」

………

…数時間後・ローマ…

フェリーチェ大尉「それじゃあ今夜はここで一泊するから……明日は0800時にはスーペルマリーナで資料を受け取り、その脚でフィウミチーノ空港に向かうわ。駆け足の行動になるから早めに寝ることね」

提督「ええ、そうするわ……」

…そう言ってビジネスホテルらしいシングルベッドに潜り込むと、軽くため息をついた…

フェリーチェ大尉「あ、そうそう」

提督「なぁに?」

フェリーチェ大尉「お休み……♪」提督の唇にさっとキスをすると、隣のベッドに潜り込んで卓上スタンドの灯りを消した……

提督「///」


823 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/02/19(土) 01:30:56.43 ID:91e2KKf20
…翌朝・フィウミチーノ空港…

出国カウンター職員「ご連絡は承っております、どうぞお通りください」

フェリーチェ大尉「グラツィエ」

提督「……ねぇミカエラ、手荷物検査も搭乗手続きもなしってどうなっているの?」エアバスの座席に腰かけて、シートベルトを締めながら小声で尋ねた……

フェリーチェ「そう、もう言ってもいいわね……私は表向き「オブザーバーとして会議に出席するイタリア海軍将官に随行する士官」って事になっているけれど、ハーグで渡す資料はNATOの「機密」扱いだから、実際は情報部のアタッシェ(伝達吏)扱いなの……まぁていの良いカモフラージュね」

提督「あぁ、それで……」

フェリーチェ「そういうこと……フランカがおしゃべりするとは思わないけれど、知らなければ顔にも出ないし口が滑ることもないもの。とにかくスキポールでオランダ海軍の士官に資料を渡せば、重荷はなくなるから安心して」


…アムステルダム・スキポール空港…

オランダ海軍士官「連絡は受け取っております。では資料を……」

フェリーチェ「お願いします」

オランダ士官「確かに……どうもありがとうございました」

フェリーチェ「いいえ、どうもご苦労様でした」トランジット(乗り換え)エリアにやって来たオランダ海軍士官が身分証を見せて資料を受け取り、軽く会釈すると立ち去った……

提督「……あれだけ?」

フェリーチェ「ええ、あれだけよ……あとはあの士官がハーグにあるオランダ海軍の参謀本部まで運ぶ手はずになっているの。これで最初の用は済んだから、今度はSAS(スカンジナビア航空)の飛行機に乗ってオスロ入りね」

提督「そう……ところでお昼は?」

フェリーチェ「どのみち短時間だし、エコノミーの機内食を食べるよりもオスロでの昼食に期待しましょう。 今のうちにお腹を減らしておけば、より美味しく感じられるでしょうし」

提督「空腹は最良のソースってわけね……」


…オスロ…

ノルウェー海軍士官「ようこそおいで下さいました。ノルウェー海軍のビョルゲン・クリステンセン少佐です」

提督「初めまして、少佐……イタリア海軍のフランチェスカ・カンピオーニ少将です。こちらはミカエラ・フェリーチェ大尉」

クリステンセン少佐「初めまして、カンピオーニ少将、フェリーチェ大尉……ノルウェーは初めてですか?」

提督「ええ」

クリステンセン「そうですか。時間があればたくさん案内したい場所があるのですが、残念ですね」

…堂々とした体格に金髪、青い目、あごにそって生えたひげ……と、北欧神話の神トールやエッダ(伝承物語)に出てくる英雄ベーオウルフ、あるいはヴァイキングをほうふつとさせる偉丈夫のクリステンセン少佐は数多くの冒険家と探検家を生み出してきたノルウェー人らしい立派な顔立ちをしている……敬礼のを済ませてから握手を交わすと、そのゴツゴツとした力強い大きな手に驚かされる…

提督「お気遣いありがとうございます、少佐」

クリステンセン「いえ……では早速ですが行きましょう。フェリーチェ大尉は情報部の人間が迎えに来ていますから、その間カンピオーニ少将には大戦中ドイツ艦隊の侵攻を迎え撃った海岸要塞の遺構を案内します……それからベルゲンの「ハーコンスヴァーン海軍基地」に向かい、見学の方をなさって下さい」

提督「分かりました。ところで「要塞」というと……オスロの戦いでブリュッヒャーを沈めた「オスカシボルグ要塞」ですか」

クリステンセン「そうです、よくご存じで」

提督「ええ、ノルウェー軍の奮戦ぶりについては私も以前から尊敬の念を抱いておりましたから……と言いたいところですが、お恥ずかしながら細かいところは映画で知ったのです」はにかんだような笑みを浮かべる提督……

クリステンセン「なるほど……とはいえわざわざ「予習」までして下さったようで嬉しいですね。ところで昼食はお済みですか?」

提督「いえ、それがまだでして」

クリステンセン「そうですか、ではベルゲンへ向かう前に昼食をお召し上がりいただくとしましょう……お客様のために素晴らしい鮭の燻製を用意してありますよ」

提督「まぁ、それは楽しみです♪」
824 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/02/21(月) 07:14:28.18 ID:TKSSFowqo
SS速報避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/
825 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/02/27(日) 00:42:52.60 ID:RoXNloNK0
>>824 教えて下さってありがとうございます。

……とはいえさして更新がはかどるわけでもないのでしばらくはここで投下していき、そのうちにそちらへ移ることも考えて行きたいと思います。


それにしてもウクライナはどうなるのか……日本から心配してもどうこうなるわけでもありませんが、せめて気持ちだけでも応援してあげたいですね。
826 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/02/27(日) 01:56:01.40 ID:RoXNloNK0
…数時間後・ハーコンスヴァーン海軍基地…

基地司令「ようこそハーコンスヴァーン海軍基地へ」


…曇り空の下に広がるベルゲン沖の海は冬の北欧らしく荒々しく冷たい灰色に白い波頭を散らしていて、切り立った崖やフィヨルドが天候とも戦わなければならないスカンジナビアの荒々しい自然の雰囲気を感じさせる……基地には小型ながらイージス・システムを備え「ミニ・イージス艦」とあだ名されるノルウェー海軍の「フリチョフ・ナンセン」級フリゲートや、まるで陸戦兵器のようにグレイとグリーン系の色でスプリッター迷彩を施した「シェル(盾)」級ミサイル艇が数隻停泊していて、隣接する区域には艦娘たちの居住施設がある…


提督「とても大きな基地ですね……それに崖の中にドックがあったりと、実に興味深いです」

基地司令「そうでしょうね。我が国が地政学的の観点から、かなり独特な兵器体系を構築してきていることは自認しております」

…映画館やジムといった各種の娯楽施設まで備えた、まるで一つの町のような基地を案内してくれているのは基地司令の大佐で、ダンディな金褐色の口ひげを生やしている…

提督「いえ、国情に合った見事なものだと思います……それにノルウェーの「コングスベルグ」といえばペンギン・ミサイルを初め有名ですし、ぜひ色々と勉強させていただきたいと思っております」

(※コングスベルグ…ノルウェーの総合軍需メーカー。IR(赤外線)誘導の短距離対艦ミサイル「ペンギン」はベストセラーSSM(対艦ミサイル)で、発展型の「NSM」は「JSM」としてF-35戦闘機の兵装としても採用された)

基地司令「恐縮です……まぁ陸軍にはかの有名な名誉連隊長「ニルス・オーラヴ」がおりますが、その分我々海軍にはペンギン・ミサイルがありますからね……ところで昼食がまだでしょう? どうぞ食堂の方へ」


(※ニルス・オーラヴ准将…イギリス、スコットランド動物園にいるキングペンギン。現在は「三世」で階級はノルウェー近衛部隊の准将。1961年、各国軍隊の音楽隊によるイベント「ロイヤル・エディンバラ・ミリタリー・タトゥー」でノルウェー軍の中尉が交流を持ち、そののち隊のマスコットとして認めてもらうよう働きかけたもの。当初は上等兵だったが昇進を重ね、代替わりを続けながらとうとう准将となった。名前は当時の国王オーラヴ五世にあやかったもの)


提督「これはどうも、わざわざありがとうございます」オスロでも軽い昼食を食べてはいたものの、むげにもてなしを断るのも悪いのでそっと制服のベルトを緩めながらついていく……


…基地の食堂では艦娘担当の中佐一人と艦娘二人が提督たちを出迎えてくれた……白いテーブルクロスをかけた長テーブルには、さまざまな取り合わせの具材を載せたノルウェー式オープンサンドウィッチ「スモーブロー」や綺麗なスモークド・サーモンの皿が並んでいる…

艦娘担当官「では、こちらの艦娘たちを紹介いたします……「スレイプニール」級駆逐艦の「スレイプニール」と「オーディン」です」

艦娘「スレイプニール級駆逐艦、スレイプニールです」

…神話と同じく脚が八本あるかどうかはテーブルクロスに隠れていて見えないが、たてがみのような銀髪にしっかりした表情は水雷艇クラスの小さな駆逐艦とは思えないほど大人びている…

艦娘「同じくスレイプニール級、オーディンです」

…こちらも北欧神話の主神オーディンと同じく片目がないかどうかは顔にかかっている髪で定かではないが、やはり神話にあやかっているのか、左右の耳にはオーディンへと世界中の情報を伝えるカラス「フギン(思考)」と「ムニン(記憶)」をあしらったイヤリングをし、足元をそっとのぞくと狼の「ゲリ」と「フレキ」(二匹とも「貪欲」「大食らい」といった意味)をモチーフにしたアンクレット(脚飾り)を付けている…

提督「初めまして」

基地司令「……さぁどうぞ、遠慮せずに召し上がって下さい」

提督「では、いただきます」具をこぼさないよう、お上品にスモーブローを口に運ぶ提督……北欧風の薄くしっかりとした固めのパンに、それぞれ塩漬けニシンや味の濃いハム、酸味の利いたピクルスなどが載せてある……

基地司令「いかがですかな?」

提督「ええ、とてもおいしいです……ニシンというのはピクルスとも合うものですね」

艦娘担当官「お気に召していただいたようで何よりです」

提督「ええ。それにこの燻製サーモンも絶品ですし」ほどよく脂が乗っていてしっとりしているサーモンに、さっぱりしたサワークリームが添えてある……

基地司令「それはよかった……深海棲艦が出現した当初は出漁も出来ず、養殖場も被害を受けたりしたものですからね。 当時はしばらくサーモンとお別れでしたよ」

提督「そうでしょうね……イタリアでも海産物の価格が跳ね上がって大変でしたから」

オーディン「あの時はゲリとフレキの食べものに苦労しました」

提督「ふふ、何しろ名前からが「貪欲」ですものね♪」

オーディン「……北欧神話をご存じですか」

提督「ええ、一応は……きっと貴女はミーミルの泉の一口と引き換えに、片目をあげてしまったのね」

オーディン「その代わり世界で一番賢くなったので……」そう言いながらスモーブローを食べているが、片目のせいで目算を誤ってしまうのか、ちょくちょく足元の「ゲリ」と「フレキ」のあたりにこぼしている……

スレイプニール「……」

オーディン「何か?」

スレイプニール「いいえ、私はオーディンの馬ですから」

オーディン「ならよし……それにしてもハチミツ酒(ミード)が飲みたいものだ」

基地司令「こらこら、昼からはいかんぞ」真面目そうな表情をふっと崩すと、軽く叱りつけた……

提督「ふふっ……♪」
827 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/03/25(金) 11:03:21.07 ID:PjuYs/Jb0
提督「……ところでここの戦隊司令はどちらに?」


…食後のコーヒーをカップに注いでもらい、灰色の海を眺めながら担当官に聞いた……当然ながら各国で「艦娘」の運用制度は異なるので、ノルウェーの担当官がどういう立ち位置にあるのかは少し分かりにくかったが、どうやら艦隊の運用に当たる「提督」とは別に、艦娘たちのメンタルや広報活動を受け持つ、マネージャー兼カウンセラーのような扱いであるらしい…


基地司令「いやはや申し訳ない。 本当ならばここの戦隊司令も少将をお出迎えする予定だったのですが、哨戒中に潜水艦らしきコンタクトを発見しまして……先ほど帰投したので、すぐこちらに参ります」

提督「ああ、そういうことでしたか。では「どうぞ焦らずにおいで下さい」とお伝え願えれば……」そう言いかけたところで一人の少尉が入って来て、基地司令になにか耳打ちした……

海軍士官「……」

基地司令「ん、そうか。では格好を整えたらすぐ来るようにと……戦隊司令ですがもうすぐ来ますので、どうぞコーヒーのお代わりでも」

提督「そうですか、では半分ほど……」

…数分後…

海軍士官「遅くなりました。ノルウェー海軍のビョルン・ダニエルソン中佐です……少将どの、はるばるイタリアからようこそお越し下さいました」

提督「初めまして、ダニエルソン中佐。イタリア海軍のフランチェスカ・カンピオーニ少将です。お会い出来て光栄です」

…急いで正装に着替えてきたらしい中佐は荒波などものともしないようながっしりした体型をしていて、まるでファンタジーに出てくるドワーフのような金茶色のヒゲが顔の下半分を覆うほどにたっぷりと生えている……声は低いが良く通り、そのゴツゴツした手はコーヒーカップが小さく見える…

スレイプニール「お帰りなさい、司令」

オーディン「帰投を待っていました」

ダニエルソン中佐「ああ……ちゃんといい子にしてたか?」

スレイプニール「もちろんです」

ダニエルソン中佐「よし、偉いぞ」そう言うと大きな手で頭を撫でた……お客様である提督の前だからか遠慮しているように見えるが、普段は親子のように仲良くしているらしいことがうかがえる……

基地司令「それじゃあダニエルソン中佐……そろそろ少将に我々の活動を説明するから、君も同席して実際にはどんな様子だとかを解説してもらいたい」

ダニエルソン中佐「了解」

…しばらくして…

基地司令「いかがでしたか?」

提督「ええ、とても参考になりました」

…ノルウェー海軍製作のごく短い映画と、直近の活動中に撮影した写真を使ったプレゼンテーションを見せてもらい、それから様々な説明を受けた提督……手持ちのノートには聞き留めた大事な単語や肝心な所を要約した短文があれこれと書き込まれ、そこからあちこちに矢印が飛び出して他の単語や言い換えとつながっている…


ダニエルソン中佐「残念な事に我々ノルウェーの艦娘はあまり数が多くないうえ、大型艦がほとんどおりませんから、沿岸防衛が主任務となっております。夏場は夏場でユンカースJu−88やハインケルHe−111による空襲がありますし、冬場はひどく時化るので、活動が難しいという面では苦労します……それに最近は見かけなくなりましたが、一時期は重巡クラスの深海棲艦も確認されていたので、必要なときはシェットランド諸島に展開している英海軍と協力しています」

提督「なるほど」

ダニエルソン中佐「オスロからノルウェー南端のクリスチャンサンはスウェーデン、デンマーク、ドイツ海軍と協力しつつスカゲラク海峡とカテガット海峡の安全を確保してバルト海への入り口を維持し、ここベルゲンを始めとした西海岸のノルウェー海沿いには、スタヴァンゲル、オーレスンド、トロンヘイム、ナムソス等に鎮守府があってロフォーテン諸島やノール岬への海路を確保しています……そしてナルヴィクから北、トロムセの鎮守府から先のヴァランゲル半島、ノール岬(ノールカップ)を経由し、ロシアのムルマンスク港へと向かうバレンツ海の極北航路を維持するのは主にキルケネスの鎮守府となっています」


(※スカゲラク海峡、カテガット海峡…スカンジナビア半島とデンマークのあるユーラン半島に挟まれた海峡で、スウェーデン東岸やフィンランド南部、ポーランド北部やバルト三国に面しているバルト海やフィンランド湾へ入るための出入り口にあたる要衝。いわば北欧のジブラルタルかダーダネルス海峡といった場所)


提督「なるほど……それにしても長い半島西側は制海権を維持するのが大変ですね」

ダニエルソン中佐「その通りです。南部はデンマークやスウェーデンの海軍に任せておけますが、西にはアイスランドしかありませんからね……そのため我々ノルウェー海軍は西岸の基地に多く展開しているのです」

提督「良く理解できました、ありがとうございます」

ダニエルソン中佐「いえ、何かの参考になれば嬉しいですよ……そういえばオスロからは列車で?」

提督「いえ、飛行機でした」

ダニエルソン中佐「それは残念です。何しろ「ベルゲン鉄道」と言えばすばらしい景色で有名な観光列車ですから、ぜひ乗ってほしかったですね」

提督「私も時間さえあればそうしたかったのですが、なにぶん出張ですから……」

ダニエルソン中佐「どうやら小うるさくてけちな主計部というのはどこの海軍も変わらないようですね」

提督「ふふ、同感です♪」

828 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/04/03(日) 02:06:33.27 ID:LWsM42WL0
提督「……ところでダニエルソン中佐はどうして海軍に?」

…海軍士官がお互いに出会うと、話は自然と今まで航海した海や港で出会った興味深いものや珍しいもの、変わったこと……そして(当人が話してくれるようなら)海軍に入った理由もよく話題になる…

ダニエルソン「私ですか……私はうちが代々クジラ取りの漁師でしてね」

提督「クジラですか」

ダニエルソン「ええ。ノルウェーじゃ伝統的に食べていたんですが、昨今は保護団体からの風当たりが強いもんですからね……それに深海棲艦のこともあってクジラ漁が立ち行かなくなったので、サーモンやカニ漁に切り替えようとしたんですが、それもダメでしてね……結局、海のことならどうにかなるだろうと海軍予備士官に志願したんです」

提督「そうだったんですね」

ダニエルソン「ええ……カンピオーニ少将はクジラを食べたことがありますか?」

提督「いいえ、一度も」

ダニエルソン「……少将もやはりクジラは保護するべき生き物で、猟の対象にするべきではないとお考えで?」

提督「どうでしょうか……同族の哺乳類を食べていると嫌悪感を抱く人がいることは知っていますが、それでいけば牛や豚も食べられませんし……実家では時々、猟で仕留めたイノシシやウサギ、シカを食べていましたから……絶滅危惧種なのに見境なく乱獲するとか、あるいは遊び半分に殺すのでなければそういう文化があっても良いと思いますよ」

ダニエルソン「そう言ってくれると嬉しいですね。ノルウェーでもいまやクジラを食べる人はごく少なくなってきてしまいましたから……たいていは日本に輸出されるんですよ」

提督「なるほど」

ダニエルソン「これが昔持っていたうちの船です」

…ダニエルソンは胸ポケットから軍隊手帳を取り出すと、折り返しの透明窓の所に挟んでいる写真を見せてくれた……ふちが少しよれている年季の入った写真には、北欧らしいずんぐりむっくりとした寸詰まりの船体に、やたら乾舷の高い船首をもった一隻の漁船が写っている……舷側は鮮やかな赤色で、埠頭に横付けした船の前でダニエルソンとその家族と思われる数人が笑顔で収まっている……

提督「素敵な写真ですね」

ダニエルソン「いや、どうも……」ぼりぼりと頭をかきながら、少し恥ずかしげに照れ笑いを浮かべた……

提督「……ところでダニエルソン中佐、ノルウェー海軍も深海棲艦が出現してからは「提督」として任官する士官が多いのでしょうか?」

ダニエルソン「ええ、多いですね……私のような予備士官を始め、他兵種からの転属や若手士官の起用、士官学校の拡充も続いていますよ」

基地司令「とはいえ、どうしても他兵種からの転属組は「艦娘」の運用となると難しい所がありましてね……何しろレーダーやミサイルに慣れている今どきの士官に、大戦中の兵器について学び直してもらうのでは時間がかかりすぎますから」

提督「そうですね」

基地司令「それに「艦娘」たちは戦う軍艦としての存在であると同時に、一人の女の子でもありますし……その心のケアや体調管理には気を遣っています」

提督「たしかに、専門のカウンセラーや医療施設、ジムや温水プール、美容室……艦娘たちの福利厚生にとても気を配っている印象を受けました」

基地司令「ええ……我々は彼女たちに高いパフォーマンスを発揮、維持してもらうためにはそういった施設が必要だと考えていますし、同時に「深海棲艦」による制海権の喪失や、それをイージス艦や戦闘機といった既存の兵器で奪い返すコストを考えれば、それだけしても充分にお釣りが来ると考えております」

提督「同感です」

ダニエルソン「それに、彼女たちはみな良い娘ばかりです……そりゃあ時には叱りつける事もありますが、よく頑張ってくれていますよ」

提督「ふふ、それは私の所でも同じです……♪」お互いに提督として理解し合い、話が盛り上がってきた所でそっとフェリーチェが耳打ちした……

フェリーチェ「フランカ、そろそろ空港に行かないと……」

提督「ええ……色々なお話を聞くことが出来てとても有意義な時間でしたが、そろそろ空港に向かわないとならないので……本当はもっとお話をしたいのですが」

ダニエルソン「それは残念です……カンピオーニ少将は例のヘルシンキで行う会議に出席なさるのですね?」

提督「ええ」

ダニエルソン「そうでしたか……私は参加しませんが、ノルウェー海軍からは別の士官が出席する予定ですから、カンピオーニ少将のことをお伝えしておきます」

提督「ありがとうございます」

基地司令「では、送迎車を玄関に回しておきましたので……有意義な時間を過ごしていただけたようなら本官としても幸いです」

提督「ええ、大変に学ぶところがありました……大佐の心のこもったもてなしについては、ノルウェー海軍本部にも御礼を伝えておきます」

基地司令「いや、これはどうも……では、また機会がありましたらぜひ当基地へいらしてください」

スレイプニール「では、いつかまた来て下さいね。カンピオーニ少将……ちゅっ♪」敬礼を交わした後、つま先立ちをすると頬に口づけをした……

提督「あら……♪」

…司令部の入り口で基地司令とダニエルソン、それに「スレイプニール」を始めとする艦娘たちが見送ってくれる中、いそいそと車に乗り込んだ…

フェリーチェ「……どうやら良い思い出ができたようね」

提督「そうね……♪」

829 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/04/10(日) 02:20:06.56 ID:j7Yli54l0
…ストックホルム…

提督「うーん、やっと着いたわね……肩と腰がすっかりこわばっちゃった」

フェリーチェ「慣れてないでしょうし無理もないわ……でも、情報部だったら一泊で五カ国を巡ったりなんていう弾丸旅行みたいな出張もよくあるのよ?」

提督「頭が下がるわ……でも、今夜はちゃんとしたホテルに泊まれるのよね?」

フェリーチェ「ええ」

提督「助かったわ」

…空港ビル…

美人の女性士官「……ようこそストックホルムへ。お二人を案内することになりました、スウェーデン王国海軍のイングリッド・ラーセン大佐です」

…アーランダ国際空港のターミナル5で二人を出迎えてくれたのは、大佐の制服もビシッと決まっている海軍士官で、きりりとした典型的な北欧美人といった顔立ちもあいまって、銀幕を彩った往年の名女優「グレタ・ガルボ」を彷彿とさせる……

提督「初めまして、ラーセン大佐……「タラント第六鎮守府」司令のフランチェスカ・カンピオーニ少将です(それにしても目が覚めるような美人ね……)」敬礼を交わし、握手をしながらごくりと生唾を飲み込む……

フェリーチェ「ミカエラ・フェリーチェ大尉です」

ラーセン大佐「スウェーデン訪問を歓迎します。少将閣下、それと大尉……ここからストックホルムのホテルまでは私が車でお送りします。 ところで、お二人はこれまでストックホルムにおいでになったことは?」

提督「いえ、まだです」

ラーセン「そうですか、では「ガムラスターン(旧市街)」や王宮での衛兵交代は見たことがないわけですね?」

提督「ええ」

ラーセン「分かりました。せっかくストックホルムに来たのですから、ぜひご覧になってもらいたいですね……衛兵交代は正午ですから、明日ご案内しましょう」

提督「ありがとうございます」

ラーセン「いいえ。さぁ、どうぞ乗って下さい……ちょっと狭いかもしれませんが」駐車しているのは丸みを帯びた流線型で構成された2ドアの自動車で、銀色の塗装が空力を意識した滑らかで美しいラインを際立たせている……

提督「サーブですか、今どき珍しいですね……」


(※サーブ…1937年に国営の航空機メーカーとして設立された。「SAAB」は「スヴェンスカ・アエロプラン・AB(スウェーデン航空機製造会社)」の頭文字から。小国でありながら高い技術力をもち、戦中にエンテ翼、双ブーム、推進式エンジンという独特なデザインを持つJ21を完成させるなど意欲的な機種を次々と開発。戦後も50年代には米ソよりも早くダブルデルタ翼を採用したJ35「ドラケン(ドラゴン)」やJマルチロール機として好調なJAS39「グリペン(グリフォン)」を送り出すなど、優れた設計と高い技術力を誇る。一時期は航空機設計の技術を応用して自動車分野にも参入し、技術力に裏打ちされた優れた自動車をリリースしていた)


ラーセン「ええ、サーブ96です。父の代から乗っていて愛着があるものですから……年代物ですし運転には少し慣れが必要ですが、よく走りますよ」

提督「それでは……よいしょ、と」助手席の椅子を前のめりに倒してもらい、そこから後席に潜り込む……大柄な車ではないので少しせせこましいが、それでもそこまで居心地が悪くないのはシートやルーフ(屋根)のデザインがよく出来ているからだろうと提督は思った……

フェリーチェ「じゃあ私は助手席で」

ラーセン「ええ。それでは行きましょう」

…ストックホルム市街への道…

提督「……それにしても、コンパクトなのによく走りますね」

ラーセン「そうですね……乗り心地はいかがですか?」

…アンダーパワー気味のエンジンしか積んでいないため加速はそれなりだが、空力設計が上手いからかコーナーではかなり機敏なサーブ96……提督も車の運転は得意な方なのでしげしげと観察していたが、ラリーカーとして活躍するだけのことはあると思わせる…

提督「そうですね、かなり面白いです」

ラーセン「ちゃんとした自動車でお迎えできなくて済みません……本当は運転手付きの黒塗りでお出迎えする予定だったのですが、たまたま黒塗りの使用日時がかぶってしまいまして」

提督「構いませんよ。それにこちらの方がスウェーデンの自動車らしくて楽しいです」

ラーセン「そう言ってもらえると助かります」

提督「いえいえ」

ラーセン「……ストックホルムに着きましたら市街の案内や通訳は私が行いますので、必要な事があればどうぞご遠慮なく」

提督「ありがとうございます」

ラーセン「いいえ」
830 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/04/17(日) 02:36:41.50 ID:XwueR7TO0
ラーセン「ところで、スウェーデンで何かご存じのことはありますか?」

提督「そうですね……スウェーデンと言うと、サーブの戦闘機に「ヴィズヴィ」級フリゲート、Strv.103(Sタンク)のように、ユニークで優秀な兵器を持っているイメージですね……他に知っている事と言えば、恥ずかしながらグレタ・ガルボやイングリッド・バーグマンのような綺麗な女優が多いことと、警察小説の「刑事マルティン・ベック」シリーズ……そうそう「ニルスの不思議な旅」も子供の頃に読んだことがあります」


…提督は自分でも知識が偏っていることに苦笑いをしながら、運転席でハンドルをさばいているラーセンにそういった…


ラーセン「なるほど、「ニルスの不思議な旅」ですか。 あれは子供のためにスウェーデンの地理と歴史を楽しく学べるよう書かれた児童文学ですから、あれを読めばスウェーデンの大まかなところが理解できますよ……あとでゆかりの場所もご案内しましょう」


(※ニルスの不思議な旅……セルマ・ラーゲルレーヴの児童文学。動物をいじめていたり親の言いつけを守らない悪童ニルスが妖精をいじめたために小さくされてしまい、ガンの群れについて行こうとして飛び立った家のがちょうを捕まえようとして飛び立ってしまい、そこから渡りの中で様々な経験をして成長するお話。スウェーデンの地理や歴史を物語として楽しみながら学べるようになっている)


ラーセン「……それにしても時間の都合でカールスクルーナに寄れないのは残念ですね。私の鎮守府もカールスクルーナにあるので、ぜひご覧になって欲しかったのですが」


(※カールスクルーナ…スウェーデン南部に位置する軍港都市で世界遺産。冷戦中の1981年、ソ連の「ウィスキー」級潜水艦が座礁した「ウィスキー・オン・ザ・ロック」事件が起きた場所でもある。「ニルスのふしぎな旅」ではカール十一世のブロンズ像と、カールスクルーナ提督教会にある有名な老人型の寄付箱「ローゼンボム」の像が出てくる)


提督「ラーセン大佐はカールスクルーナ鎮守府の司令なのですね」

ラーセン「ええ……生まれたのは南部のマルメですが。 マルメはストックホルムよりも暖かですし、住んでいる人も穏やかな良いところですよ。それにコクムスの造船所もあります」

(※コクムス……スウェーデンの造船会社。1840年からあって、所有していたガントリークレーンはマルメの名物だった。潜水艦の建造にたけており「ゴトラント」級を始めとするAIP(非大気依存)システム搭載の通常動力潜水艦では高いノウハウを持つ。海自の「そうりゅう」型にも技術が導入されている)

提督「そうですね」

ラーセン「ええ。夏場は避暑を兼ねて多島海にある小島の別荘に行って、日光浴をしたり冷たいアクヴァヴィットを飲みながらのんびりしたりして時間を過ごすんです」

提督「自分の島があるなんて素敵ですね♪」

ラーセン「まぁ、スウェーデンは島が多いですから……それと先ほどからのお話を伺っている限りでは少将は映画がお好きなようですが、それで言うとマルメはアニタ・エクバーグの出身地でもありますよ」

提督「やっぱりスウェーデンはきれいな人が多いんですね。ラーセン大佐もとてもきれいな方ですし……それもぎらぎらした太陽ではなくて、静寂の中で輝きを放つ月のようです」

ラーセン「お上手ですね……何かお飲み物でもごちそうした方がよろしいですか?」

提督「いいえ、むしろ私からごちそうさせて下さい♪」

フェリーチェ「カンピオーニ少将」ラーセンに色目を使い始めた提督をたしなめるように、事務的な声を出した……

提督「あー、こほん……そう、映画は好きですよ」

ラーセン「そうですか。他にもスウェーデンと言えばイングマール・ベルイマン監督や俳優のマックス・フォン・シドー……イタリアと言えば「ヴェニスに死す」に出演した美少年タジオを演じたビョルン・アンドレセンもスウェーデン人ですよ」

提督「ルキノ・ヴィスコンティの映画ですね……幼い頃に見た時は分かりませんでしたが、ある程度大人になってから見ると感情や描写の奥深さに驚かされます」

ラーセン「そうですね、中年の作曲家が名前も知らない美少年に心を奪われてしまう……それだけで済ませることのできない人間の心や、美しいものに心惹かれる感情の機微というのでしょうか……」

提督「ええ。それにヴィスコンティ自身も美少年が好きだったようですから、一層リアリティがありますね」

ラーセン「たしかにその話は聞いたことがあります……そろそろホテルに着きますよ」

…ストックホルム市街は古き良き石造りの建物も多いが、同時にガラスとコンクリートで出来た現代的なビルディングも数多く立ち並んでいる……どちらにもいい点はあるのかもしれないが、淡い黄色や落ち着いた白色の壁の古い建物の方が好ましく思えた…

提督「きれいな街ですね」

ラーセン「ありがとうございます……ですが、私からすると堅苦しくてよそよそしい感じがしますね。もっとも、それは私がストックホルムの人間でないせいかもしれませんが」

提督「いえ、その気持ちはよく分かります。イタリアでもローマはせわしなくて慌ただしい感じですから……どこでも首都というのはそういうものなのかもしれませんね」

ラーセン「かもしれません……さぁ、着きましたよ」

831 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/04/18(月) 01:42:06.03 ID:5ZxYdCGc0
…翌日…

ラーセン「さてと、手荷物は大丈夫ですか?」

提督「ええ」

ラーセン「分かりました、それでは行きましょう……王宮周辺は車が乗り入れられないので近くで車を停めて、あとは歩きです」

…ガムラスターン(旧市街)と王宮は、ストックホルム市街の周辺に広がる多島海の一つ「スターズホルメン島」に集中している……周囲はクリスマス前とあってバザールが開かれていたりと賑やかで、灰色の冬の空を押し戻そうとしているかのように、あちこちに鮮やかな青と黄色のスウェーデン国旗が翻っている……ラーセンは旧市街の入り口でサーブを停めると、提督とフェリーチェを案内して旧市街を連れ立って歩いた…

…ストックホルム宮殿前…

提督「あ、始まったわ……」

…王宮前の広場で行われる衛兵交代式を見学する提督一行……青を基調にした凜々しい礼装姿のスウェーデン近衛兵達が、白馬にまたがり石畳の広場で見事な行進を披露する……およそ半時間あまりにわたる式典を見終えると、周囲の観光客と同じように惜しみない拍手を送った…

…しばらくして…

ラーセン「……いかがでしたか?」

提督「とても素晴らしかったです、まるで物語に出てくる騎士達のようですね」

ラーセン「気に入ってもらえて何よりです……失礼、少々よろしいですか」

…新市街に戻ってくる途中で広告のついた青色のトラックを見かけると、いささか唐突に車を停めたラーセン大佐…

提督「どうかしましたか?」

ラーセン「いえ……つかぬ事をお尋ねしますが、少将はアイスクリームがお好きですか?」

提督「ええ、どちらかと言えば好きな方ですよ」

ラーセン「そうですか、それはよかった……では行きましょう!」

提督「ラーセン大佐?」

ラーセン「ああ、そういえば少将はご存じないですね……あの車は「ヘムグラス(Hemglass)」のアイスクリーム販売車ですよ」

…妙にのんきなオルゴールのようなメロディを響かせながら道端に停まった青色のトラック……と、たちまちあどけない子供たちから、ネクタイを締めた生真面目そうな会社員、杖をついたお年寄りまで、ありとあらゆる年齢層の人がトラックの周りに集まってくる……どちらかと言えば落ち着いていてあたふたすることの少ないスウェーデン人が、我先にとトラックの周りに集まってくるのに何とも言えない違和感を覚えた提督…

提督「えーと……」

ラーセン「あぁ、スウェーデン語で書かれているからどれがどの味が分かりませんか? 英語でよろしければ翻訳しますよ?」言うよりも早く自分のアイスクリームを注文しているラーセン……

提督「そうではなくて……」

ラーセン「では何か……もしかしてお好みの味がありませんか?」

提督「いえ、そういうわけでも……」

フェリーチェ「……噂は本当だったようね」提督の横に立っているフェリーチェが小声でつぶやいた

提督「どういう事?」

フェリーチェ「あぁ……北欧やロシアの人間はアイスクリームが大好きだって話よ。空気が乾燥しているから、飲み物よりも時間をかけて舐めることが出来るアイスクリームが好まれる……って」

提督「そういうこと……それにしてもこの気温でアイスクリームね。まぁいい経験かもしれないわ」財布からアストリッド・リンドグレーンが描かれた20クローナ札を取り出すと、ラーセンに通訳を頼んでアイスを買おうとする……

(※アストリッド・リンドグレーン……「長くつ下のピッピ」の作者。それ以前の20クローナ札は「ニルスの不思議な旅」と作者のラーゲルレーヴだった)

ラーセン「あの、カンピオーニ少将……」

提督「何でしょう、ラーセン大佐」

ラーセン「いえ……スウェーデンのたいていのお店では現金が通じないので。電子マネーかカードの類はお持ちですか?」

提督「あぁ、そういえばそうでしたね……逆にイタリアでは現金以外は信用されないものですから、つい♪」額に手を当てて少しおどけたような身振りをすると、改めて財布からプリペイドカードを取り出した……

…数分後…

提督「……ミカエラは何味にしたの?」

フェリーチェ「普通のバニラ味ね、フランカは?」

提督「キイチゴ味ね……普通のイチゴよりも甘酸っぱいわ」

ラーセン「無事に買えたようで何よりです……出遅れるとすぐなくなってしまいますから」

提督「ふふ……スウェーデンの方はアイスクリームが好きなんですね」整っていて「格調高い」とも言えそうな顔立ちのラーセンが、子供のようにアイスクリームをなめている姿を見ると、何となくおかしさがこみ上げてくる……

ラーセン「ええ、子供の頃から家にはアイスクリームがたくさんありましたよ……どうかしましたか?」

提督「いえ、何でもありません♪」ある意味で面白い体験が出来たと、気温がひとケタの寒空の下で暖かいコートにくるまってアイスをなめた……
832 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/04/26(火) 11:35:50.37 ID:t2dgCduN0
…しばらくして…

ラーセン「カンピオーニ少将、フェリーチェ大尉。よろしかったら「フィーカ」をご一緒しませんか?」

提督「フィーカ……たしかコーヒー休憩のことでしたっけ」

ラーセン「ええ、よくご存じですね……いかがですか?」

提督「そうですね、ぜひ♪」

…前日にスウェーデン入りしたばかりだと言うのに、すでにコーヒーを飲み続けている気がしている提督……フィンランド人の次にコーヒーを消費し、EU(欧州連合)平均の倍はコーヒーを飲んでいるとされるスウェーデンだけあって「フィーカ(コーヒー休憩)」というと、もはや息をするのと変わらないほど生活に染みついている…

…カフェ…

ラーセン「カンピオーニ少将、マザリン・ケーキをどうぞ」

提督「ありがとうございます」

…濃く淹れた苦くて熱いコーヒーにたっぷりと牛乳を入れたミルクコーヒーに、小さいタルトのような台にアーモンドのペーストを詰めて、上から粉砂糖でコーティングした甘い「マザリン・ケーキ」を添えた提督……フェリーチェもマザリン・ケーキを取り、ラーセンはしばし考えてスイートロールを取った……カフェとペストリーを売る菓子店を兼ねている「コンディトリー」は、ガラス張りの陳列棚に甘い菓子がいくつも並び、コーヒーの香ばしい香りが漂っている…

ラーセン「ええ……ふぅ、やはりこれがないと落ち着きません」きりりとした表情を少しゆるめて、満足げなため息をついたラーセン……

提督「スウェーデンの方はコーヒーがお好きですね」

ラーセン「そうですね。同じように牛乳も好きですが……ところで昨夜の夕食はいかがでした?」

提督「ええ、美味しかったですよ」

ラーセン「それは何よりです」

…前夜・レストラン…

提督「……わざわざありがとうございます」

ラーセン「いえ、どのみち私も夕食を取りに出かけようと思っていたところでしたから」


…提督たちをホテルに送ってくれた後で「夕食でもいかがですか」と誘いに来てくれたラーセン……提督としては美しいラーセンにそう言われて一瞬わくわくしたが、ラーセンとしては他意はなく、単に外国の将官に気を遣ってそう言ってくれたのだと思い、少しがっかりすると同時に、その気配りを嬉しく感じた……制服から私服に着替えてきたラーセンは淡いグレーのスカートとクリーム色のセーター、それとライトグレイのコートに合わせて、袖口に白い毛皮の縁取りを施したライトグレイの手袋をしていて、脱いだコートと手袋は横に置いてある…


提督「そうだとしても、わざわざ誘って下さるなんて嬉しいです♪」


…いかにもスウェーデンらしいゆでジャガイモとベリーソース添えのミートボールを食べながら、にっこりと微笑みかけた提督……ストックホルムのぴりっと冷たい寒さに対抗して、黒いウサギの毛皮帽に黒革の手袋、それに暖かなクリーム色のラップコートで、下にはふんわりした淡い桃色のセーターとひざ丈のスカートをまとい、ストッキングに黒革のニーハイブーツで足元を固めている……フェリーチェは黒のハイネックセーターに控え目な金のネックレス、割とぴっちりした地味なスラックスを合わせていて、カブのピューレをそえた小ぶりなヒレステーキを味わっている…


フェリーチェ「私もスウェーデン語はおぼつかないので、助かりました」

ラーセン「いえ、どうぞお気になさらず……後でクリスマス前のマーケットも寄ってみましょう」

………



提督「……それにしても、うちの艦娘たちも、スウェーデン海軍の「プシランデル」級や「ロムルス」級に会えれば良かったのですが」

ラーセン「そういえば、もともとそちらの艦(フネ)でしたね」

提督「ええ。プシランデル級がもとのセラ級駆逐艦、ロムルス級がスピカ級の水雷艇です……あとは戦後の「トレ・クロノール」級軽巡もアンサルド社のデザインですし、親近感があります」

ラーセン「当時、ソ連やドイツに備えるために艦艇を整備していた我が国にとってみれば、必要な性能があって固いことを言わずに売却してくれるイタリア艦は貴重な戦力でしたからね……何しろ軍艦を建造すると言っても、造船所には限りがありますから」

提督「それに、長い半島と陸地に囲まれた穏やかな海という部分でもイタリアに似ていますし、スペックや性格の部分でも扱いやすかったのではないかと思います」

ラーセン「おっしゃるとおりです……それに数隻とは言え、独ソ両方から中立を守るという意味ではいい時期に艦隊へ編入することが出来ました」

提督「スウェーデンの中立維持は今も昔もなかなか舵取りが難しいですね」

ラーセン「ええ。とはいえ、バルト海の深海棲艦も活動がかなり下火になりましたから……失礼」

提督「……そういえば、スウェーデンの人って歯磨きの後にうがいをしないわよね」化粧室に向かったラーセンの後ろ姿を見送りながら、ふと気になったことを口に出した……

フェリーチェ「ええ……なんでもフッ素の成分をうがいで流してしまわないためだそうだけど。キシリトールガムがやたら多いのもそのためだって聞いたわ」

提督「なるほどね……理屈は分かるけれど、私は遠慮しておくとするわ」

………

833 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/04/27(水) 17:09:45.16 ID:EOgtssco0
…そういえば4月26日は「海上自衛隊の日」で、海自の創設70周年でしたね。近年ますます世界の情勢が混迷を深める中、活躍している海自の皆さまには頭が下がります……平和で海難事故もなく、金曜カレーの味を競うような穏やかな日々が続けば良いのですが…

…それにしても旧帝国海軍の駆逐艦や海防艦、米軍のお下がりといった寄せ集めの艦艇群だった当時に比べ立派な護衛艦を持つようになって、本当に隔世の感がありますね…
834 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 18:32:27.55 ID:ihDcxAkHO
SS避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/
835 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/05/09(月) 00:43:40.42 ID:9fHPSI/e0
…艦娘紹介(スウェーデン)…


ゴトラント…航空巡洋艦。単艦

世界的にも珍しい航空巡洋艦(水上機運用巡洋艦)。平甲板で構成された船体と、前部主砲として「ボフォース・M/30」152ミリ連装砲、および艦橋両舷のケースメイトに同単装砲一基ずつを備え、後部甲板には75ミリ60口径連装高角砲、および中央部両舷に同単装高角砲、また533ミリ魚雷発射管や機銃少々を装備した。

巡洋艦としては低速で、あくまで武装を強化した水上機母艦といった立ち位置ではあるが、アイデア自体はフランスや日本に影響を与え、「リシュリュー」級戦艦や「利根」型一等巡洋艦の設計、また「最上」型二等巡洋艦などの「航空巡洋艦」化につながったとも言える。

後に搭載機の「ホーカー・オスプレイ」(1928年初飛行の複葉軽爆「ホーカー・ハート」の艦載型)が旧式となり、戦時下にあってカタパルトの変更や代替機の調達がかなわなかったことから、ボフォース製の大傑作である40ミリ60口径「ボフォース・m/36」高角機銃を後甲板に増備し防空巡洋艦となった。
大戦中、スウェーデンは武装中立を維持したので戦績という戦績はないが、ドイツ・ソ連の双方にニラミを利かせ、またドイツ戦艦「ビスマルク」の出撃時にはこれを発見、イギリスに通報することで撃沈の端緒を作っている。艦名はスウェーデンの「ゴトラント島」から。


艦娘「ゴトラント」は軽巡と言いつつも小柄で、火力、防御、速力いずれもそこまで高い能力があるわけではないが、当時のスウェーデン王国海軍でほぼ唯一の巡洋艦ということで頑張っている。「ゴトラント」の名前に影響を受けてか、南部スウェーデン人らしく気さくで人のいい性格をしている。


……

トレ・クロノール級軽巡…二隻。

イタリア艦「R・モンテクッコリ」級や「アブルッツィ」級など、デザイン的に優れていた「コンドッティエーリ(傭兵隊長)」型軽巡の設計案を売り込まれたスウェーデンが、これをベースに設計した新型軽巡。

武装は全てスウェーデンのボフォース製に換装されており、特に当時としては先進的な自動装填機能、仰角70度まで指向できる152ミリ高角砲を主砲とし、同時に高角機銃として高性能を誇るボフォース製「m36・40ミリ60口径」機銃を装備して対空戦に備え、専用の高角砲を持たない所に特徴がある。
一番艦の「トレ・クロノール(三つの王冠)」は43年に進水、就役は戦後の47年。64年には除籍されたが、同じく戦後に就役した二番艦「イェータ・レヨン(黄金の獅子)」はスウェーデン海軍除籍後チリに売却され「アルミランテ・ラトーレ」として1984年に除籍されるまで長く活躍した。
艦名の「トレ・クロノール」「イェータ・レヨン」はいずれもスウェーデン王家の紋章から。


大戦には間に合わなかったことから活躍の機会もなかった「トレ・クロノール」級だが、艦娘として活躍の機会が得られたことから張り切っている。スウェーデン王室のシンボルを冠しているだけに高貴な印象を与えるが、国民とも積極的に関わり合うスウェーデン王室を体現してか、意外と気さくで付き合いやすい。服はスウェーデンらしい青地に黄色のワンポイントが入ったお洒落な礼装。

……

プシランデル級駆逐艦…イタリア海軍の「セラ」級駆逐艦のうち二隻を購入したもので、砲や機銃はスウェーデン軍に合わせてボフォース製のものに換装され、450ミリ魚雷も53.3センチ魚雷に換装された。


塗装もスウェーデン独自の灰色と白にグリーン系の三色で構成された迷彩を施し、イメージがかなり変わっている。

元の「セラ」級は小柄な船体に過剰とも言うべき兵装を搭載していたが、波穏やかなバルト海ではそこまでの影響がなく、航続距離(アシ)の短さも防衛を主とするスウェーデンでは欠点とならず、沿岸防衛や哨戒に活躍した。


服は迷彩服のような色味で、小さいが何でもそれなりにこなせる器用なところがある。
836 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/05/21(土) 00:55:46.56 ID:JH8ZyRRw0
…フィンランド・ヘルシンキ空港…

提督「はー、ここがヘルシンキ……って、寒いわね」

フェリーチェ「無理もないわ。気温を見てみなさいよ」それぞれ現地時間とロンドン時間を表示している二つの時計や各種施設の案内が書かれている大きな案内板……そしてそれに付いているデジタル温度計を軽く指し示した……

提督「うわ、外は氷点下なのね……道理で」

フェリーチェ「暖かいコートで正解ね」

提督「ええ……それにひきかえフィンランドの人ときたら、寒くないのかしら」


…暖房の効いていたフィンエアーのサーブ機から降りてきた提督とフェリーチェは当直(ワッチ)にも使える厚いダブルの軍用コートをきっちり着込んでいたが、それでもなお沁みこんで来るフィンランドの冷気に軽く身震いした……にもかかわらず辺りを行き交うフィンランド人はさして寒そうな様子もなく、一応コートや毛皮の帽子は身に付けているが、当たり前のように歩き回っている…


フェリーチェ「きっと慣れっこなんでしょう」

提督「そのようね……それで、お迎えの士官さんはどこかしら……?」

フェリーチェ「……ゲートの所に二人いるわ、きっとあれがそうでしょう」そう言っている間にも丁寧な雰囲気のフィンランド海軍の士官が歩み寄ってきて、ぴしりと敬礼した……

フィンランド軍士官「お待ちしておりました。ようこそフィンランドへ……本官がお二人を送迎することになっております。どうぞこちらへ」

提督「感謝します」

士官「お荷物は下士官に運ばせますので、どうぞお楽に」

提督「ありがとうございます」スーツケースを運んでくれる下士官にも礼を言うと、メルセデスの後部座席に腰を下ろした……


…所帯が小さいフィンランド軍は、陸・海・空・それぞれの司令官を少将が務めていることもあり、「はるばるイタリアからやって来た将官」という立場である提督に対して、わざわざ前部のフェンダー部分に軍のペナントを立てた立派なメルセデスのSクラス乗用車と随伴車が一台ついた車列で迎えに来てくれていた……ぜいたく自体は嫌いではないが、仰々しいのが苦手な提督としては別にタクシーでも構わなかったが、車内が暖かく乗り心地がいいのはありがたかった…


フィンランド軍士官「それでは、本官がヘルシンキのホテルまでお送りいたしますので」

提督「お願いします」

…滑らかに走り出したメルセデスのシートに深々と腰かけ、窓からの景色を眺めつつフェリーチェに話しかけた…

提督「それにしても北欧は色が少ない感じね。 白と灰色と針葉樹の緑……建物に赤や黄色を使いたくなる気分も分かるわ」

フェリーチェ「同感」

提督「フィンランド海軍の艦娘たちと会う機会はあるかしら? スウェーデンの娘たちとは会えなかったし」

フェリーチェ「それなら会議には随伴として来ているはずだから、きっと会えるわ」

提督「そう、良かった♪」

フェリーチェ「ええ……ところでストックホルムで買い込んでいたクリスマス飾りは鎮守府へのお土産?」

提督「そうよ。スーツケースには着替えくらいしか入っていないし、いざとなったら宅配便で送っちゃえばいいものね」

フェリーチェ「なるほど、フランカも色々と考えてきたのね」

提督「ええ、ミカエラほど旅慣れてはいないけれど……♪」

フェリーチェ「何事にも初めてはあるものよ。 それと、会議の出席者だけれど……」さっと資料を取り出すと、手早くブリーフィングを行った……

提督「ええ」

…数分後…

フェリーチェ「……ざっとこんなところね」

提督「よく分かったわ」

フィンランド軍士官「……少将閣下、もうそろそろホテルに到着します」

提督「ええ、ありがとう」

士官「ホテルではこちらの代表である鎮守府司令官がお二人を出迎える手はずになっております……わが軍のおおよその態勢や状況はその士官からお聞きいただければと存じます」

提督「分かりました、ありがとう」
837 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/06/13(月) 01:08:13.44 ID:VtVpfAb50
…ヘルシンキ・ホテルのラウンジ…

色白の女性士官「ようこそ「森と湖の国」フィンランドへ、お会い出来て光栄です……クリスティーナ・ニッカネン少佐です」

提督「フランチェスカ・カンピオーニ少将です。こちらこそ、暖かいもてなしに感謝しております」敬礼を交わすと、軽く握手をした……

ニッカネン少佐「我々フィンランド人は「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからざる人物)でもない限り、いつでも旅人を歓迎しますよ。 イタリアの方にこの寒さはこたえたと思いますが……コーヒーでもいかがですか?」

提督「ええ、いただきます」

…コーヒー好きのフィンランド人らしく、早速コーヒーを注文したニッカネン……運ばれてきた銀色のポットからカップにコーヒーが注がれるのを見ながらも、ついニッカネンを観察してしまう…

提督「……」

ニッカネン「どうかなさいましたか?」

提督「あぁ、いえ……」


…ニッカネンは色白で、淡い琥珀色の髪に色素の薄いブルーの瞳をしていて、髪を頭に巻き付けるように結っている……すでに結氷期で艦娘側も深海側もお互い活動が低調な東部バルト海とはいえ、フィンランド海軍の持つ戦力はごく小さく、哨戒や指定海域での機雷敷設、あるいはフィンランド湾を封鎖しようと深海側が敷設する機雷の掃海と忙しいらしい……カップを持つ指は多少骨張った感じではあるが白くすんなりとしていて、帰投してから急いで金モールと略綬付きのきれいな制服に着替えてきたらしく、髪にほのかな潮の匂いが残っている……また、それがどんな香水よりもニッカネンのすっきりした美しさを引き出している…


ニッカネン「それにしても少将がいらっしゃるとは思いませんでした……フィンランドは初めてですか?」

提督「ええ。北欧自体が初めてなので、何もかもが目新しくて興味深いです」

ニッカネン「そうですか……少将は何かご趣味を?」

提督「ええ。映画や絵画の鑑賞、読書など一通りは……それに射撃も少し」親指と人差し指で小さなすきまを作り「ほんのたしなむ程度に」と身振りをつけた提督……

ニッカネン「射撃ですか、それなら私もたしなんでいます……時期になると鹿撃ちや鴨猟をやりに田舎の方へ出かけますよ。猟のシーズンならご一緒出来たのですが」

提督「まぁまぁ、休暇で来たわけではありませんから……少し残念ですけれど」

ニッカネン「他にフィンランドでご存じのことは?」

提督「そうですね……」

提督「やはりフィンランドと言えばマンネルヘイム将軍と「冬戦争」ですね……それに子供の頃に読んだ「ムーミン」や、船舶用ディーゼルのヴァルティラ……電子機器のノキアにアパレルのマリメッコ、銃火器のヴァルメ……」

ニッカネン「なるほど」

提督「それから作曲家のシベリウスに建築家のアルヴァ・アールト、ライコネンのような有名レーサーたちに、パーヴォ・ヌルミを始めとする陸上競技の「空飛ぶフィンランド人」や、クロスカントリースキーといったスキースポーツの選手……そうそう、実家にはイッタラのグラスもいくつかありますよ」

ニッカネン「これはこれは……私がイタリアについて知っている事よりも多いですね」

提督「そうですか? ふふっ♪」眉を持ち上げて驚いた様子のニッカネンを見て、思わず笑みを浮かべた提督……

ニッカネン「ええ。それと、この後の予定ですが……会議は翌日から始まる予定ですから、それまでの間に基地の艦娘たちを紹介する機会や、ヘルシンキ市内をご案内する時間も持てると思います。「スオメンリンナ要塞」(世界遺産)の見学や、市街の散策もできるかと思います」

提督「まぁ、それは嬉しいです」

フェリーチェ「ニッカネン少佐、お気遣いありがとうございます」

ニッカネン「いいえ。大尉もぜひ楽しんで下さいね」

フェリーチェ「そうさせていただきます」

ニッカネン「ええ、ですがその前に当地の情勢について軽く説明を……」

提督「ええ、ぜひお願いします」

…無愛想というわけではないが、あまりおしゃべりではないニッカネンが慎重に口を開く……提督もノートとペンを取り出し、あらためて椅子に座り直す…

ニッカネン「我々フィンランド海軍ですが……現在はフィンランド湾口を押さえるハンコ半島を拠点に、深海側の活動を抑え込んでいるというのが現状です」横に置いてあった書類鞄から様々な書き込みが加えられた地図を取り出し、ディバイダーと定規を当てて説明に入った……

提督「なるほど」

ニッカネン「フィンランド湾の最奥はクロンシュタットやサンクトペテルブルクといったロシアの都市があり、同地には黒海艦隊(バルチック艦隊)の基地があります」

…深海棲艦という「人類共通の脅威」を前にしてある程度協力関係にあるとは言え、過去にフィンランドへとしてきた仕打ちを考えるとお世辞にも「味方」とは言いにくいロシア海軍の事だけあって歯切れが悪い…

提督「ええ」提督も察して、そこは軽く相づちを打つだけでとどめた……

ニッカネン「……基本的に我々はフィンランド湾から深海棲艦がバルト海へ進出するのを抑え、同時にこちらの活動が制限されないよう、ハンコ半島や周辺海域を封鎖されないよう機雷の掃海に当たっています」

提督「なるほど」

ニッカネン「とはいえ冬期はフィンランド湾が結氷し、日照時間も短くなるので活動は低調になります」

提督「そのようですね」冬とは言えまだ日差しのある南イタリアのタラントに比べて薄く弱々しく、それすらもすぐに沈んでしまう北欧の太陽を経験している最中なので気持ちがこもる……

ニッカネン「ええ」
838 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/06/14(火) 03:17:20.56 ID:kXMqWcJ80
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839 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/06/30(木) 00:38:09.54 ID:VDMzgJCv0
いよいよ「リムパック2022」が開催されましたが、現役の方はぜひ事故のないよう気を付けて下さい……世界がきな臭くなっている中での演習ですから緊張も増していると思いますが。


それと一つ間違いの部分を……サンクトペテルブルクはバルチック艦隊の根拠地ですから当然ながら黒海艦隊ではなくバルト海艦隊ですね。

また、この後ロシア連邦海軍のキャラクターを登場させるつもりでいます。ウクライナのことがあるのでどうかとは思ったのですが、登場させること自体はウクライナ以前に考えていたので……あくまでもテンプレートな冷血ロシア人キャラという事で、特段の意図を持っているつもりはありません。

840 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/07/16(土) 11:17:46.30 ID:KE82mUTN0
…しばらくして…

ニッカネン「それではそろそろキルッコヌンミの鎮守府を案内しましょう」


…ホテルのラウンジで美味しいコーヒーをお供に情勢説明を受けた提督とフェリーチェ……カップの濃いコーヒーを飲み終えると、ニッカネンが切り出した…


提督「楽しみです」椅子から立ち上がると制服を軽くはたき、さっと身体を見回してお菓子の食べこぼしやコーヒーの染みがないか確かめる……

…ホテルの玄関先…

ニッカネン「では、おいてきた車を取ってきます……本官が先行しますから、どうぞ後からいらっしゃって下さい」

提督「ええ、お願いします」提督とフェリーチェが送迎用のメルセデスに乗り込んでいると、ニッカネンが自分の車を運転してきた……

フェリーチェ「あれじゃない? ……またずいぶんと年季が入っていそうな車ね」

提督「フィンランドの人は物持ちがいいって言うけれど、本当みたいね」


…黒塗りの後部座席におさまり待っていた二人の横を、ニッカネンが乗った車がすり抜けて前に出た……彼女が乗っているのはその真四角なデザインと、外見のイメージを裏切らない頑丈さで一世を風靡したスウェーデンの「ボルボ240」ステーションワゴンだったが、かなり使い込まれているらしく見た目はずいぶんとくたびれている……ニッカネンのボルボが走り出すと、後ろに付くようにしてメルセデスが滑らかに走り出す…

………



…ヘルシンキ郊外・キルッコヌンミ鎮守府…

ニッカネン「お疲れさまでした、少将。 ここが私の所属する「キルッコヌンミ鎮守府」です」

提督「なるほど、見事に整えられていますね」


…ゲートで守衛に敬礼され、提督たちのメルセデスは本部庁舎前にしずしずと滑り込んだ……先行したニッカネンは車を置いてきて、庁舎の入口で改めて敬礼し、握手を交わす……庁舎前の国旗掲揚柱にはフィンランド海軍旗、それにイタリア海軍旗が掲げられ、海から吹いてくるかすかな……しかしぴりっと冷たい微風に揺れている……ニッカネンの左右にはフィンランド国旗の白と爽やかな青色を基調にした服をまとった艦娘たちと、主計や軍医といった内勤の将校が並び、フィンランド海軍公報のカメラマンが左右に動き回り、しきりにフラッシュを焚いている…


ニッカネン「それでは鎮守府をご案内します」簡単な式典を済ませると、ニッカネンが並んでいる艦娘たちを紹介してくれた……

ニッカネン「彼女たちが鎮守府の海防戦艦、イルマリネン級の「イルマリネン(鍛冶の匠)」と「ヴァイナモイネン(老賢者)」です」

イルマリネン「初めまして、少将」

ヴァイナモイネン「フィンランドへようこそじゃ、少将」


…イルマリネンとヴァイナモイネンは二人とも背は低く、イルマリネンはどこかおっちょこちょいな印象を、反対にヴァイナモイネンからは知恵や深い叡智といった雰囲気を感じる……お互いに性格は正反対のようだが、仲がいい様子はちょっとしたやり取りや雰囲気から伝わってきて、何とも微笑ましい…


提督「ええ、ありがとう。 可愛らしい娘たちですね」艦娘たちと軽く握手を交わしにっこりと微笑み、それから港内に停泊している「イルマリネン」級をじっくり観察した提督……


…灰色と灰緑色、それに白という冬のフィンランドにふさわしい迷彩塗装を施した海防戦艦が穏やかな湾内で揺れている……幅広でずんぐりした砲艦のような船体と、それとは不釣り合いなほど巨大に見える前後一基ずつの連装254ミリ主砲、そして中央部に高々とそびえるマストと各所に詰め込まれた高角砲や高角機銃という船型はかなり風変わりで、陸上兵器のような迷彩ということもあって独特な雰囲気をかもしだしている…


ニッカネン「……見た目こそ小さいですが、強力なモニター(装甲砲艦)や防空砲台としてフィンランドの沿岸部を守っている、わが海軍の主力艦です」

提督「そうですね……艦名は叙事詩「カレワラ」の人物でしたか」

ニッカネン「ええ、その通りです。イルマリネンは鍛冶の匠で、ヴァイナモイネンは白髪、白髯(白ひげ)の賢者と言われております」

イルマリネン「そうそう、年寄りのくせに若い娘に求婚してフラれたんだもんね」

ヴァイナモイネン「やかましい、後から来て横取りしおって」

ニッカネン「こう見えても仲はいいのです……さ、少将に艦を案内してあげなさい」

ヴァイナモイネン「では、この賢者ヴァイナモイネンが……」白髪をさっとなびかせ、提督を案内しようとする……

イルマリネン「年寄りの冷や水はやめなって、私が案内するからさ」

ヴァイナモイネン「こら、そう年寄り扱いするでない!」
841 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/07/29(金) 01:45:13.48 ID:7T6PnXRw0
…海防戦艦「イルマリネン」艦上…

イルマリネン「ここが艦橋です」

提督「なるほど……ふむふむ」

ニッカネン「……いかがですか?」

提督「ええ、とてもきちんと整備されていますね……見事なものです」


…舷梯(タラップ)を上り、ニッカネン少佐とイルマリネン、ヴァイナモイネンの解説を受けながら艦内を軽く一回りした提督……真鍮や銅で出来ている金具はきれいに磨き上げられ、甲板や調度品の木材は艶やかで、塵のひとつ、汚れの一点もない……だがそれより提督の気を引いたのはきちんと前後の水平を保って繋止されているカッター(ボート)や、急な対空戦になっても即応できるよう満杯にしてあるボフォース40ミリ高角機銃の弾薬箱、とっさの時に凍り付いていて使えないことのないよう防寒用の布でくるまれている消火ポンプと消火用ホースなど、あちこちを磨き立てることよりも、いつでも戦闘に入れるよう準備が整っている事に感心した…


ニッカネン「少将にそう言っていただけると嬉しいかぎりです……イルマリネンも少将にお礼を申し上げなさい」

イルマリネン「ありがとうございます、少将」

提督「いいえ♪」

………



提督「貴重な時間に感謝します、少佐……フィンランド海軍の海防戦艦をつぶさに観察する機会はそうありませんから、いい経験が出来ました」

ニッカネン「そうおっしゃっていただけるとこちらも案内したかいがあります……この後は司令部でわが海軍の短い紹介映像と、最近の作戦行動を簡単にまとめた資料を用意してありますので、そちらをご覧になっていただければと思っております」

提督「ありがとうございます……と、あれは……」


…空冷エンジン独特の乾いた音を響かせて、曇り空をブリュースター・B239「バッファロー」戦闘機が飛び去っていく……どこかユーモラスでもあるずんぐりした機体は黄色く塗ったエンジンカウリング以外は濃淡二色の緑色で迷彩が施されていて、その飛行する姿はエンジン音といいシルエットといい、どことなくクマバチを思わせる…


ニッカネン「わが軍の「ブルーステル(ブリュースター)」です……よほどの悪天候でなければ、ああしてフィンランド湾や沿岸部の哨戒に当たっています」

…太平洋では日本の「零戦」や「隼」といった格闘戦の得意な機体にいいように落とされ、評価の低い「バッファロー」だが、機体の頑丈さを活かしたフィンランド人の運用の上手さとソ連空軍の練度の低さから「冬戦争」では大いに活躍し、一部のフィンランド軍操縦士からは「空の真珠」とまで言われている……そのままフィンランド湾の沖に向かって飛行していったバッファローを見送ると、ニッカネンの案内を受けて基地施設に入った…


…司令部…

ニッカネン「どうぞおかけになって下さい」

提督「ええ」

…なまじ将官が座らないでいると室内の全員が座ることをためらってしまうので、勧められたら遠慮せず、すぐ腰かけることにしている提督……司令部施設のブリーフィングルームか会議室と思われる部屋にはプレゼンテーションの準備が整っていて、暖房も入っていて暖かい…

ニッカネン「では、始めさせていただきます……」カーテンを引くと十五分あまりの短い広報用映画と、作戦行動中に撮ったと思われる映像がいくつか、そしてフィンランドの艦娘たちが基地でのんびりしたりにぎやかにしたりしている「日常のひとこま」といった映像も合わせて流れた……

提督「……」メモ帳を机の上に置き、機雷掃海や対空戦の場面では真剣に、にぎやかな場面では微笑みを浮かべて映画を見た……

ニッカネン「……以上です」

提督「ありがとうございます、掃海の場面や対空戦の部分は非常に参考になりました……どの娘も手際が良くて、動きが身についていますね」

ニッカネン「そうかもしれません。 このあたりではこちらも深海側も勢力が小さく、お互いに決め手を欠くところがありますから」

提督「そこで機雷の敷設ということになる……と言うわけですね」

ニッカネン「その通りです。何しろ水路や湾口を塞いでしまえば相手は何もできなくなりますから……敵味方の本拠地が近いこともあって、機雷の敷設は結氷する冬期を除いていつでも行われております」

提督「なるほど、とてもためになりました……」そう言ってメモ帳を閉じ、礼を言おうとしたところでフェリーチェの携帯電話が震えだした……

フェリーチェ「……っ、失礼。 どうも急ぎの用件のようでして……」ちらっと発信者の番号を見ると、ニッカネンにわびて部屋を出る……

ニッカネン「構いませんよ、大尉……では少将、もう一杯コーヒーでも」

提督「ええ」

…しばらくして…

提督「……フィンランドと言えばやはり「ムーミン」とトーベ・ヤンソンでしょうか。彼女は同性のパートナーと仲むつまじくしていたとか。ムーミンに出てくる「おしゃまさん」はトーベ・ヤンソンのパートナーがモデルだと聞いたことがあります」

…フェリーチェが戻るまでの間、時間つぶしのおしゃべりを続けている提督とニッカネン……そこでフィンランドの有名人という話題から「ムーミン」で有名な女流作家のトーベ・ヤンソンの話になり、そこで何の気なしに同性のパートナーがいたことにも触れた提督……

ニッカネン「トゥーティッキ(おしゃまさん)ですね、確かにそう言われています……ですがフィンランドはその点立ち遅れていましたから、もったいないことに彼女の活躍は長い間認められずにいました。 今でこそそうした権利も認められるようになってきましたが、我が国では長らく同性愛は病気扱いでしたので」イタリア人の提督なら手を上に向け派手に肩をすくめるような態度で、小さく肩をすくめたニッカネン……

提督「そうだったのですか、もったいないことですね」

ニッカネン「ええ」そう言って簡単に相づちをうったニッカネンだったが、提督に向けた視線がほんの少し長かった……

提督「……?(気のせいかしら)」

842 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/08/07(日) 01:28:36.38 ID:6gTvanY50
提督「……それにしても暗くなるのが早いですね」

ニッカネン「北欧の冬はいつもこうです……まぁ、慣れているとは言え少し嫌になりますね。 早く夏になって日光浴か、さもなければイナリ湖あたりの森でシカ猟でもしたいところです」


…イタリアならまだまだ午後の日差しが暖かく辺りを照らしているはずの時間だというのに、すでに辺りは夕闇に覆われ始め、埠頭の周囲を飛び回っていた白いカモメたちも家路についている…


提督「ああ、そういえばニッカネン少佐は猟をなさるそうですね」

ニッカネン「ええ、カンピオーニ少将も銃猟をたしなんでいるとおっしゃっておられましたが……」

提督「はい、子供の頃から家族に教わりまして……もっとも、任官してからはすっかりごぶさたですが♪」苦笑しながら肩を大きくすくめた

ニッカネン「海軍士官ですし無理もありません……獲物は何を?」

提督「そうですね、場合にもよりますが散弾銃でカモ撃ちをしたり、実家にいたときはコムーネ(自治体)からの駆除依頼を受けてイノシシ撃ちをしたりしていました」

ニッカネン「いいですね……銃は何を?」

提督「そうですね、私はフランキかベネリの12ゲージ(番)や20ゲージが多いですね、ニッカネン少佐は?」

ニッカネン「私は……」

フェリーチェ「失礼、遅くなりました」

ニッカネン「大丈夫ですよ、大尉……用事は無事に済みましたか?」

フェリーチェ「ええ。ご迷惑をおかけしました」

ニッカネン「いいえ……それではそろそろホテルの方に戻りましょう」

………

提督「ニッカネン少佐、せっかくですしもう少し少佐のお話を伺いたいですね」

ニッカネン「それは光栄です……とはいえ明日からは会議が始まってしまいますし、そうなるとなかなか時間も取れないかと……」

提督「そうですね……もし少佐がよろしければ、ホテルまで少佐の車に乗せていただいてもよろしいでしょうか?」

ニッカネン「え? しかし私の車はあのメルセデスと違って乗り心地もあまり良くないですから……」

提督「確かにご迷惑かもしれませんけれど、せっかくですし少佐のボルボ240にも乗ってみたいです……ダメでしょうか?」

ニッカネン「それは……まぁいいでしょう。上からはカンピオーニ少将とフェリーチェ大尉のためにできるだけ便宜を図るよう指示されておりますから……ただ、できればご内聞にお願いします」

提督「ええ、もちろんです♪」

ニッカネン「送迎車の運転手には私から話をしておきましょう」

提督「すみません、ワガママを言ってしまって」

ニッカネン「その程度ならワガママの内には入りませんよ」そう言うとかすかに微笑を浮かべた……

提督「それじゃあ私はミカエラに説明しないと……フェリーチェ大尉」

フェリーチェ「は、何でしょうか」

提督「私はニッカネン少佐と話したい事がありますので、ホテルまでニッカネン少佐の車に乗ります……黒塗りの後部座席に一人だなんて寂しいでしょうけれど、ホテルに戻ったらその分の埋め合わせはするから……我慢してね?」まるで命令を伝えるかのような堅苦しいはっきりした口調で呼びかけると、口調を変えてこっそり耳打ちした……

フェリーチェ「了解しました、少将……まったく、貴女はすぐそうやって女と一緒になりたがるんだから」

提督「ごめんなさいね♪」見送りのため整列している将校や艦娘たちから見えないよう、こっそりとフェリーチェに小さなウィンクを投げた……

フェリーチェ「いいのよ」

ニッカネン「お待たせしました……さあ、どうぞ」

提督「ありがとうございます♪」助手席に乗せてもらい、まるでエアロックのような重くずっしりしたドアを閉める……途端に外部の音がシャットアウトされて、低いエンジン音だけが深い火山の鳴動か何かのようにお腹の底に伝わってくる……

ニッカネン「それでは出しますよ……ベルトは締めましたか」

提督「ええ♪」

ニッカネン「では行きましょう」

…まるで子供のようにわくわくしながら、ニッカネンの運転を楽しむ提督……名ドライバーを数多輩出しているフィンランド人だけあって、ニッカネンの運転は相当上手で、重さのあるボルボをキレのある挙動で走らせる…

提督「……少佐は運転がお上手ですね」道路の前方を見据えて巧みにボルボをコントロールするニッカネンのきりりとした横顔に、つい見惚れてしまう……

ニッカネン「そうですか?」

提督「ええ♪」
843 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/08/16(火) 01:51:09.71 ID:Wk3G7LJE0
…ホテル前…

ニッカネン「着きましたよ、少将」

提督「ありがとうございます、少佐……とても楽しいドライブでした♪」

ニッカネン「それはどうも……///」

提督「ええ、それでは明日の会議で」フェリーチェを乗せたメルセデスを待つ間に、肉が薄くひんやりとした……しかしすべすべしたニッカネンの頬へ挨拶のキスを済ませると、色白のニッカネンが少し頬を赤らめた気がした……

フェリーチェ「お待たせしました……ニッカネン少佐、本日は鎮守府の案内をありがとうございました」

ニッカネン「いえ。 ではまた明日」

フェリーチェ「はい」

…ホテルの部屋…

提督「ふー……到着して挨拶をするだけかと思っていたけれど、意外と盛りだくさんだったわね」

フェリーチェ「そうかもしれないわ……ところで、夕食の前に明日からの会議に備えてちょっと状況説明をしておきたいのだけど」

提督「分かったわ」礼服がシワにならないようきちんとハンガーに掛けるとブラウスのボタンをいくつか外して胸元をゆるめ、肩を回したり首を傾けたりして凝りをほぐしつつ、ベッドに腰かけた……

フェリーチェ「聞く気になってくれて助かるわ」

提督「まぁ、明日からの会議でどんな人が来るかくらいは知っておかないといけないでしょうし……どうぞ始めてちょうだい?」

フェリーチェ「ええ。明日からの会議だけれど、参加国は主催役のフィンランドを始め、スカンジナビアのノルウェー、スウェーデン……フィンランドからは陸・海・空軍や参謀本部の士官が数人、ノルウェー、スウェーデンからは佐官が何人か……スウェーデンからはこの前会ったラーセン大佐がメンバーに入っているわ」

提督「あぁ、あの気品がある美人の……♪」

フェリーチェ「今のは聞かなかったことにしておくわ……それからポーランド海軍からも佐官が何人か。 グディニヤやグダニスクみたいなバルト海に面した港湾もあるから深海棲艦対策には熱心で、フィンランドとも協同しているわ」

提督「ええ」

フェリーチェ「それから、問題のロシア軍将官ね……階級は少将で副官が一人。今回の件でわざわざモスクワから派遣されるほどの優秀な将官で、頭の切れるタイプだと思われるから注意して。 うかつなことを言うと言質を取られるから、うっかりしたことは言わないように」

提督「そうね……なんだか聞いているだけで、氷みたいに冷たい目をしてニコリともしない顔が目に浮かぶわ」

フェリーチェ「そう思っておけば問題ないはずよ。とにかくこちらとしてはオブザーバーとして、スカンジナビア側とロシア側がいがみ合わないよう上手く取り持ってあげれば良いだけだから……くれぐれも「ソ・フィン戦争」の火を付けることがないように」

提督「ええ。 それにしてもロシアの将官ね……士官学校の教官や先輩方はまだソ連が仮想敵だった頃だから詳しいけれど、私はもうその世代じゃないし……それに今までロシア軍の将官なんて会ったこともないから、どんな人なのかちょっと興味があるわ」

フェリーチェ「いいけど、例え美人だったとしても口説いたりはしないでちょうだい」

提督「……ということは女性なの?」

フェリーチェ「ええ……頼むから国際問題のタネを作るような真似はしないでよ」

…その頃・バルト海上空…

女性士官「……あと十五分程度でヘルシンキです、少将」

女性将官「ダー(ああ)……カサトノヴァ少佐、準備は整っているな?」灰皿に煙草を押しつけて消すと、副官の少佐に尋ねた……

少佐「はい」

少将「よろしい」


…独特なエンジン音とゆっくりと回転しているように見える二重反転プロペラが特徴的なツポレフTuー95「ベア」戦略爆撃機の高官輸送型……未だに世界で最高速かつ長大な航続距離を持つターボプロップ機の座席にロシア海軍の黒っぽい冬用制服を着た将官が腰かけ、向かいに副官の少佐が座っている…


少佐「……少将、フィンランドの戦闘機です」エスコート(護衛)というよりは警戒しているかのように、五時方向と七時方向(斜め後ろ)に占位したフィンランド空軍のFー18C「ホーネット」…

少将「結構、時間通りだな……」

少佐「ダー」

少将「それと今回の会議だが、よく目と耳を澄ませておけ」

少佐「はっ」

………

844 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/08/21(日) 01:41:30.76 ID:a8IKP+rY0
…翌日…

提督「どう、大丈夫かしら?」

フェリーチェ「ええ。金モールもよじれてはいないし、略綬もきちんとしているわ」

提督「なら大丈夫ね」

…紺色のきちんとした軍装に肩章の仰々しい金モールと、一列ごとの幅はまだ短いものの何だかんだで三列にわたっている略綬、ピシッとしたタイトスカートと黒ストッキングに、磨きあげておいた革靴……腰には礼装用の短剣を吊るし、髪は結い上げ、タイをきちんと締めた…

フェリーチェ「ええ、なかなか凜々しく見えるわ」

提督「ありがと♪」ちゅっと音をさせて、軽く唇にキスをする……

フェリーチェ「やめて、口紅の色が移るから……」

提督「分かったわ♪ ……さ、気合いを入れていかないとね」姿見の前でもう一度格好を見直すと部屋のロックをかけ、フェリーチェとロビーへ降りた……

…午前・会議場…

ニッカネン「お早うございます、カンピオーニ少将。フェリーチェ大尉も」

提督「ええ。 おはようございます、少佐」

フェリーチェ「おはようございます」

ニッカネン「各国の将校もおおかたやって来ましたし、会場も開いていますから……席におかけになってはいかがでしょう?」

提督「ありがとう、そうさせてもらいます」


…会議場はフィンランド国防省が用意した施設の一室で、かなり広々とした室内のスクリーンを取り囲んで「コ」の字型にテーブルと椅子が並べられ、席にはそれぞれの名前を記したネームプレートが英語と出身国の母語で併記されている……席には控え目な花とミネラルウォーターのボトル二本とグラスが置いてあり、提督とフェリーチェは自分の場所を確認すると、それからあちこち立ち歩いて各国の士官たちと顔を合わせ、軽く挨拶をかわした…


フィンランド軍士官「……それでは、そろそろ時間となりましたので……皆様、どうぞお席の方へ」ガヤガヤとざわめきが聞こえ、椅子を引く音や咳払いが一通り収まると、司会を務めるフィンランド軍参謀本部の士官が開式の辞を述べる……

フィンランド士官「……では早速ですが、近年のバルト海における「深海棲艦」の動静について、ニッカネン少佐から」

ニッカネン「各国の将官、また士官の方々……紹介にあずかりました、クリスティーナ・ニッカネン少佐です……」

提督「……」

フェリーチェ「……」提督はペンを持ってメモ帳を広げ、フェリーチェはラップトップのコンピュータを開いている……

ニッカネン「……冬季になりますとバルト海の結氷により、いわゆる深海棲艦の活動は低調となることは周知の事実かと思われます。しかしながら、フィンランド湾およびバルト海東部では深海側による機雷の敷設により、艦艇の行動に不自由を生じており……」

提督「……なるほどね」

ニッカネン「……これにより、ポーランド、バルト三国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)、ロシア、ドイツの一部で海運や漁業に影響が生じております。このことは沿岸各国において大変重大な……」スクリーンにコンピュータの図表データを表示し、簡潔な説明を終えて着席したニッカネン……

フィンランド士官「ありがとうございます、少佐。では続いて……」


…ニッカネンに続いて各国の士官がそれぞれの国の立場から状況の説明を行う……とはいえ、各国ごとにそれぞれの思惑と利害関係があるので、そう簡単には「足並み揃えて」といった具合にはなってくれない……結局、二時間近くかかったそれぞれの状況説明の後、今度は「艦娘」の運用や担当範囲、あるいは各国海軍の連携について、どこで折り合いを付けるかの長い長い話し合いが始まった…


ノルウェー軍士官「……バルト海に関しては、分担は各国のEEZ(排他的経済水域)を目安にすべきだと考えますが」

ニッカネン「それではこちらの負担が少し大きすぎるように思います……わが軍がバルト海東部から出現する深海棲艦を抑えているのは事実ですから、ぜひ各国の協力もお願いしたいところですね」

ポーランド海軍士官「同感です。バルト海東部で深海棲艦を跳梁跋扈させることは、ひいてはバルト海全体の制海権を失うことにつながる」

ラーセン「スウェーデン海軍のラーセンです。今のご意見には賛同いたします。 しかし本官は同時に、バルト海東部での活動にもっとも適しているのがフィンランド、ポーランド海軍である事も間違いないと思いますが」


…結局のところ、各国いずれも深海棲艦対策で負担を担ったり割りを食ったりするのは避けたい上、自国の艦娘たちが怪我をしたり、あるいはもっと悪いことが起きたりという事態は避けたい……そういった面で、各国いずれもできるだけ艦娘たちを出撃させたくないのが実情だった……かといって、手の内が読めない……しかもバルト海沿岸に対する領土的野心を捨ててはいないロシア海軍バルチック(バルト海)艦隊の手を借りることもしたくはない…


ロシア海軍代表「……」むっつりと黙りこくっているロシア海軍の数人は、黒っぽい制服もあいまって異彩を放っている……その中には女性の将官も一人いて、冷たい目で会議場内を眺めている……

提督「……」

フェリーチェ「……」しばらくけりは付きそうにないと、会話を黙って聞いている提督とフェリーチェ……少し効き過ぎな暖房のせいで喉は渇き、きちんとした正装のせいでひどく暑苦しい……

提督「……しばらくは様子見で行くわ。みんな疲れた頃合いになったら折衷案でも出してみるわね」

フェリーチェ「任せるわ」
845 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/08/27(土) 01:46:37.57 ID:WyYZz/100
…またしばらくして…

ニッカネン「……では、スウェーデン海軍としては「艦娘」の派遣には応じられないと言うことでよろしいですか?」

ラーセン「……本官個人としてはそちらと協力すべきであるというのは理解しているのですが、残念ながらわがスウェーデン海軍もそこまでの規模を有しているわけではありませんので……ただ、先ほど申上げたように哨戒機による支援は政府の方でも確約しておりますので、実行が可能です」


…きりりとした美しい顔に疲れも見せず、淡々と意見を述べるラーセン大佐……とはいえ、どちらかと言えばフィンランドを「緩衝地帯」として扱って、自国の中立を崩さないよう慎重に振る舞ってきたスウェーデン政府の指示もあるのか、ニッカネンの欲しい……ひいてはフィンランド海軍が聞きたい「艦娘」の派遣や協同での哨戒といった言葉は出てこない…


ニッカネン「なるほど……それからポーランド海軍ですが、バルト海北部の哨戒に協力することは難しいと」

ポーランド海軍士官「残念ながら。 我々ポーランド海軍の「艦娘」たちは自由ポーランド軍当時の艦艇……つまりほとんどはイギリスから貸与・提供された旧型駆逐艦であり、かつグダニスクを始め、我が国の港湾都市と海路を維持するために戦力を割かなければならないので、そこまでの支援は難しいと思われます……その分、わがポーランド海軍としてはバルト海南部における航路の維持と海上交通のために尽力しております」


…きちんとした黒いダブルの上着に金ボタンと金モールが映えて、いかにも海軍士官らしいポーランド軍の代表たち……何人かは綺麗に切り整えた口ひげを生やしていて、風格がある……が、やはり上層部の指示か、フィンランド側に対しては煮え切らない態度を取っている…


提督「……まさに「会議は踊る」ね」横に控えているフェリーチェにこっそりささやいた……

フェリーチェ「そうね……まぁ、どこの海軍も自分から大変な哨戒や掃海を請け負いたくはないもの」

ニッカネン「ラーセン大佐、スウェーデン海軍は海防戦艦を基幹に駆逐隊、小艦艇群を有しておりますが……海面の氷が溶ける夏の時期だけでも良いのです、そちらの艦娘たちと共同作戦を行うことは叶いませんか?」

ラーセン「無論、そういった打診があれば検討の上で派遣することもあり得るでしょう。とはいえ先のことはまだ分かりかねます。 その時期になったらまた改めてお国の政府からストックホルムに打診していただければ、具体的な回答が出来るものと思います」

ニッカネン「なるほど、では現状では何も確約は出来ないと?」

ラーセン「先の情勢が予見出来ない以上、本官としてはそう回答するしかありません……」

ニッカネン「……」

…各国の代表から「支援したいのはやまやまなのですが……」と、気持ちばかりで実行はさっぱりという支援案を聞かされ、とうとう黙りこくって四杯目のコーヒーをすすりはじめたニッカネン……ざわつきばかりで誰も意見を言おうとしない中、提督が切り出した…

提督「……すみません、少々発言をよろしいですか?」

司会「え、ああ……どうぞ」

提督「ありがとうございます……イタリア海軍からオブザーバーとして派遣されましたカンピオーニです」長らくだらだらと続いていた会議の間、メモをとりながら温めていた意見を述べる……

提督「えー、まずはノルウェー海軍のヨハンセン大佐……大佐は先ほど「駆逐隊をバルト海東部まで派遣するのは難しい」とおっしゃっておりましたね」

ノルウェー海軍代表「ええ。 ノルウェー西岸に深海棲艦が出没する可能性がある以上、遠くフィンランド湾にまで艦娘を派遣してしまっては、強力な敵艦の出現があった際これを呼び戻しても間に合わない危険がありますので」

提督「確かに……では、スウェーデン南部ではいかがですか?」

ノルウェー士官「スウェーデン南部、ですか?」

提督「ええ。 例えばカールスクルーナの沖合といった所ですが」

ノルウェー士官「そうですね、それなら……いやしかし、大ベルト海峡の航行に時間がかかる可能性がありますから……」

提督「アムンセンやナンセンを先輩に持つノルウェー海軍の皆さんが、まさか海峡ひとつにそこまでの苦労はなさらないでしょう?」ノルウェーが生んだ偉大な航海者や冒険家を引き合いに出して冗談めかすと、少し笑い声が聞こえた……

ノルウェー士官「それは、まぁ……」

提督「では、ラーセン大佐」

ラーセン「何でしょうか、カンピオーニ少将」

提督「ええ……お国の南部方面に展開する駆逐隊は、基地であるカールスクルーナを中心に、オーランド諸島からエストニア沖、スウェーデン南端のマルメを結ぶ三角形を哨戒しているという認識でよろしいですか?」

ラーセン「おおよそその認識で合っています」

提督「では、例えばマルメからカールスクルーナまでのエリアをノルウェー海軍と協同で哨戒することは可能ですか?」

ラーセン「不可能ではありませんね、すでに演習などで実績があります」

提督「分かりました……では、その分艦娘の行動エリアを北部に移して……例えば哨戒線をエストニア、タリンの沖辺りまで北上させることは出来ますか?」

ラーセン「……ええ、不可能ではありません」しばし熟考してから、ゆっくりと言った……

提督「では、こうしたらいかがでしょう……バルト海の入り口、カテガット海峡はノルウェー海軍、デンマーク海軍にお任せする……そうすればスウェーデン海軍のうち、イェーテボリに配属されている艦娘たちは手すきになります。 それをカールスクルーナに移せば、フィンランドを支援する戦隊を派遣する余裕が出るのではありませんか?」いわば「玉突き式」に、各国がそれぞれ隣国を支援する形を提案した提督……

提督「それに移動するのは艦娘たちだけで、フリゲートや潜水艦といった通常戦力を移動させるわけではありませんから、費用もそこまでかからないと思いますが」ついでに海軍の悩みのタネである「予算」を盾にされないよう、先手を打って言い添えた……

ノルウェー士官「ううむ……」

ラーセン「なるほど」

ニッカネン「……」

提督「それはそうと、少し休憩にしませんか? さすがに皆さん疲れが見えますし……いかがでしょう?」

司会「そうですね、では一時休憩とします」
846 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/09/03(土) 11:07:46.49 ID:/gCWDoGZ0
ラーセン「カンピオーニ少将、先ほどはお見事でした」

提督「いえいえ、何かたたき台がないことには永遠に話が進まないでしょうし……それにオブザーバーの私なら、多少勝手なことを言ってもあとに響くことはないでしょうから♪」

ニッカネン「違いありませんね」

…会議室から出て別室で休憩をとる各国の代表たち……室内ではポットのコーヒーと軽食が供され、それぞれ立ったり座ったりしながら二ヶ国間で話を詰めたり、あるいは頭に栄養を送るため、小さくカットされているサンドウィッチをつまんだりしている……提督は消しゴムほどの大きさをした可愛らしいサンドウィッチを三つばかりつまみ、砂糖とミルクを入れたコーヒーをとり、それからスウェーデン海軍のラーセンとフィンランド海軍のニッカネンに合流した…

提督「それに、スカンジナヴィアの三国は関係がとてもいいようですから……我々イタリアが沿岸の防衛をフランスに任せるというのよりは現実味がありますよ♪」冗談めかして小さくウィンクを投げた……

ラーセン「ふふ、確かに……♪」

提督「……ところでロシア海軍の代表ですが……まだこれと言った発言がありませんね?」

ラーセン「ええ。ポーランド海軍の提案に反対意見を述べた以外には」

提督「どういうつもりなのでしょう? それにバルチック艦隊の大佐が、しきりに横の将官を気にしているようでしたが……」

ニッカネン「あの冷ややかな表情をした少将でしょう?」

提督「ええ……いったい誰なんです?」ロシア海軍代表は談話室でも一か所に固まり、あたかも鉄のカーテンを引いたままに見える……その中心にいる押し出しの強そうな赤ら顔の大佐はバルチック艦隊代表を務めているが、その大佐はハンカチで額を拭いながら、しきりに後ろの少将を気にしている……

ニッカネン「あの将官ですが、今回の会議に合わせてモスクワから派遣されてきた少将です」

ラーセン「おそらくはお目付役といったところでしょうね……ソ連時代ならさしずめ「政治将校」といった役どころでしょう」

提督「なるほど、それは難物ですね」

ラーセン「ええ……それにロシアが会議に絡んでくるとなると、途端に話がこじれてしまいますから」

ニッカネン「同感です。 彼らは何かにつけて、こちらが賛成だというと「ニェット(ノー)」だと言いますからね」

提督「じゃあ会議がまとまった頃になって壊してくる可能性も……?」

ラーセン「ないとは言えないでしょうね」

提督「困りましたね……それで、ロシア海軍は具体的に何を引き出したいのでしょう?」そう問いかけると顔を見合わせたラーセンとニッカネン……

ラーセン「……それは何とも言いがたいところですね」

ニッカネン「具体的なところはあまりはっきりしていないようにも感じられます……しいて言うなら、フィンランド湾における主導権は握りたいが、かといって声高に主張して自国の艦娘を使うことになってしまったら、それはそれでフィンランドをはじめ沿岸各国の得になるので面白くない……といった具合でしょう」

提督「うーん……そうなると駆け引きが面倒になってきますね」

ニッカネン「ええ……なにしろ向こうは我々が深海側との戦闘で疲弊するのを見ていればいいわけですから」

提督「しかし、ロシアもフィンランド湾が深海棲艦に閉塞されれば困る事になるのでは?」

ラーセン「確かに困らないとはいいませんが……あちらは貧乏にも抑圧にも慣れていますし、国土が大きいだけ体力がありますから」

ニッカネン「フィンランド湾やバルト海で深海棲艦が跋扈するような事態が続けば、海運においては相対的にこちらの方が大きなダメージを受けることになりますので」

提督「では、ロシア海軍に協力を願うほかはない……と?」

ニッカネン「そうならざるを得ないでしょう……もっとも、先ほど少将が切り出した「たたき台」のおかげで、ロシア海軍抜きでもバルト海における協力態勢がまとまりそうになっていますから、このまま合意する方向で持って行けば向こうがあわて出す可能性もあります」

ラーセン「あとはポーランドやバルト三国に協力を取り付けるだけですが、そこはどうにかなるでしょう」

提督「……そうですか、なら会議もどうにか無事に済みそうですね」

ニッカネン「そう願いたいものです……いい加減この暖房で蒸れた室内からおさらばして、サウナにでも行きたいところです」

提督「あー、フィンランド式サウナですね。 聞いたことはあります」

ニッカネン「……こちらへ来てから、まだ経験していらっしゃらないのですか?」どちらかというと感情表現の小さなニッカネンが珍しく驚いたような顔をした……

提督「ええ。ヘルシンキに来てからまだ二日あまりですし、その機会がなくて……」

ニッカネン「わかりました……会議が終わったら、どこかでご案内しましょう」

ラーセン「フィンランドの方はサウナがお好きですものね……そろそろ休憩も終わりのようですし、参りましょうか」

提督「ええ」提督たちが歩き出すと、あちこちで耳をそばだててきたらしいフェリーチェが戻ってきて、さりげなく提督の脇についた……

フェリーチェ「……どうだった?」

提督「そうね……ニッカネン少佐とラーセン大佐はロシア抜きで話をまとめようとすることで、向こうを慌てさせたいみたい」

フェリーチェ「なるほど、いい形になってきたわね……フランチェスカ、さっきの貴女の意見でノルウェーも渋々ながらバルト海に駆逐隊を出す考えに傾き始めているわ。 これならスカンジナヴィア三国とポーランド、バルト三国の間で合意が得られるかもしれない……そうなればロシアの提督たちはは立つ瀬がなくなって、慌てて参加する方向に舵を切るかもしれないわ」

提督「ふう、助かったわ……てっきりこのまま会議室で雪解けの季節まで缶詰かと思っていたところよ」

フェリーチェ「金モールをつけた少将なのにだらしないわね……大尉の私だって一日や二日の雪隠詰めくらい耐えられるのに」

提督「ふふ、ミカエラにはかなわないわ……♪」
847 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/09/12(月) 01:13:04.31 ID:CXXTcSsw0
…夜…

司会「えー……では、今日の会議はここで一旦中断し、続きは明日の0940時から行います。お疲れさまでした」司会が閉会の挨拶をすると、あちこちでガタガタと椅子を引く音がして、席を立った海軍士官や将官たち……

提督「……ふー、疲れた」会議場の玄関ホールでホテルまで送ってくれる黒塗りの到着を待ちながら、くたびれた様子で長いため息をついた……

フェリーチェ「お疲れさま、フランチェスカ」

提督「ええ……だらだらと続くばかりの会議って嫌いだわ」

フェリーチェ「そんなものが好きな人間なんていないでしょうよ」

提督「確かにね……それにしても、まるで味のないガムを噛み続けているようだったわ」

フェリーチェ「同感ね」


…昼下がりから再び始まった会議ではスカンジナヴィア三国が妥協点を見つけてお互いに歩み寄りはじめた矢先に、今度はロシア海軍の代表がああだこうだと口を挟みだし、それに対してポーランドやバルト三国が反発して、いつ果てるとも分からない不毛な堂々巡りを始めていた……提督も円満に会議がまとまるよう尽力したが、責任も権限もないオブザーバー、しかもバルト海沿岸諸国とは馴染みの薄いイタリア海軍代表という立場では、いまいち各国の代表たちに響かない…


提督「とにかく、ホテルに戻ったら美味しいものでも食べて……それからベッドでぐっすりしたいわ」

フェリーチェ「良い考えね……ほら、車が来たわよ」

…数十分後・ホテル…

提督「あー……これでやっとくつろげるわ」制服をハンガーにかけるとブラウスやタイツを脱ぎ捨てながら、ベッドに腰かけた……

フェリーチェ「服は脱いだようだし、シャワーをお先にどうぞ?」

提督「ミカエラが先でいいわよ?」

フェリーチェ「こういうのは提督が先って決まっているものよ……それに、私は今日のやり取りで気になった部分をまとめておくつもりだから」

提督「そう……じゃあお先に入らせていただくわ」

…ホテルの清潔な……しかし鎮守府の豪奢な大浴場とは比較にならないほどせせこましい浴室でシャワーを浴び、脚の収まらないバスタブに身体を沈めた提督……足裏やふくらはぎは座りっぱなしだったせいでこわばり、心なしかいつもよりむくんでいる気がする…

提督「ふぅ……きっと鎮守府のみんなは夕食を済ませたころね。お風呂から出たら電話でもしてみようかしら」

…数分後…

提督「ミカエラ、出たわよ」ホテルに備え付けの、ふかふかした着心地の良いバスローブをまとい、メイクも落としてさっぱりした提督……

フェリーチェ「そう、なら私も入ってくるわ」

提督「ええ……それと、お湯の栓をひねるときは注意したほうがいいわよ。急に熱くなるから」

フェリーチェ「ありがとう、気を付けるわ」

提督「さて、それじゃあ……と」ペットボトルのミネラルウォーターを三分の一ばかり飲み干すと、ベッドサイドの小机に置いておいた携帯電話を取り、電話帳から鎮守府を選んで電話をかけた……

…鎮守府…

デュイリオ「あら、電話でございますね……はい、こちらタラント第六鎮守府」

提督「もしもし、デュイリオ?」

デュイリオ「まぁまぁ、提督♪ お声が聞けて嬉しいです」

提督「私も貴女の声が聞けて嬉しいわ、デュイリオ。 今日はもう用事もないし、時間があるから電話をしたのだけれど……みんなはどう、元気でいるかしら?」

デュイリオ「あぁ、提督。 それがもうこちらは大騒動でして、すぐにでも鎮守府に戻ってきていただかないと……」

提督「えっ!?」

デュイリオ「そうなんです……ライモンドは提督がいらっしゃらないからとふくれ面、ポーラはキアンティの飲み過ぎですっかりへべれけ、チェザーレは近くの街で人妻と火遊びをして警察沙汰になる始末……シロッコは階段で転んでひっくり返り、ディアナは皿を割り、ルチアは一晩中鳴き続け……ふふっ♪」真面目な口調で言っていたが、我慢しきれなくなったのか含み笑いをもらしたデュイリオ……

提督「もう……からかわないでよ、一瞬本当に何かあったのかと思ったじゃない」

デュイリオ「くすくすっ♪ 申し訳ありません。提督とお話が出来て嬉しかったものですから、つい……こちらは万事順調ですよ♪」と、電話口の向こうからルチアの吠える声が聞こえてくる……

提督「良かったわ……でも、それにしてはルチアが騒いでいるわね? どうしたの?」

デュイリオ「ああ、ちょうどディアナが明日の夕食に出す牛すじ肉のシチューを作ろうと下ごしらえをしているものですから」

提督「それで大騒ぎをしているのね……♪」

デュイリオ「ええ……ところで提督、せっかくですからここにいる娘たちと順繰りにお話でもなさってはいかがでしょう?」

提督「そうね……いない娘たちには申し訳ないけれど、そうさせてもらうわ♪」そう言って、何人かの艦娘たちとたわいもない会話をする提督……

フェリーチェ「出たわよ……っと、楽しいお話の最中だったようね」

提督「ええ……♪」近況や来たるクリスマスの話をしつつ、フェリーチェに向けてウィンクを投げた……
848 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/09/20(火) 01:17:03.17 ID:lu5tE7z10
…翌朝…

提督「ふわぁ……おはよう、ミカエラ」

フェリーチェ「おはよう、フランチェスカ……コーヒーはミルク入りの方が好きだったわね」

提督「ありがと、覚えていてくれたのね……♪」ベッドで半身を起こし、コーヒーのマグを受け取る……室内はセントラルヒーティングで暖かいが、片手で毛布を引っ張り上げて胸元を隠した……

フェリーチェ「今日の日程は覚えている?」

提督「ええ、大丈夫よ」砂糖少しとミルクの入ったコーヒーをひとすすりしてほっと小さく息をつくと、くしゃくしゃになった髪を軽く手で梳いた……

フェリーチェ「なら結構……新聞は?」

提督「気にはなるけど、あいにくフィン語もスウェーデン語も読めないわよ?」

フェリーチェ「まさか、私が貴女にフィン語の新聞なんて勧めるわけがないでしょう。記事の少ない海外向けだけど一応「レプブリカ」よ」

提督「そう、それじゃあ後で読むわ」

…ベッドから降りるとバスローブを羽織って浴室に行き、歯を磨いて顔を洗い、それからシャワーを浴びてさっぱりした…

提督「……改めておはよう、ミカエラ♪」軽く頬にキスをする提督……

フェリーチェ「ええ、おはよう。 いいけど、早く髪を乾かさないと時間に間に合わなくなるわよ」報告書か資料か、ラップトップを立ち上げて手早くキーを叩きながら、提督のあいさつに軽く答えた……

提督「それもそうね」

…タオルで髪を包んで乾かしつつ海外版の「レプブリカ」紙にざっと目を通し、読み終わったところで化粧台の前に座り髪を整え始める……肌に当たる櫛の感触を楽しみながら長い髪をくしけずり、冷風から温風へと切り替えながらドライヤーをあてる……髪がある程度まとまったところで軍帽に合うような形に結い始め、ピンを差して形をまとめた…

提督「うん、いい感じ……♪」少しもつれているこめかみの辺りを直し、鏡に向かって微笑んでみたり真面目な表情を浮かべてみたりする……

フェリーチェ「そろそろ終わらせないと、朝食を食べ損ねるわよ」

提督「はいはい」

…手際よくルームサービスを頼んでおいてくれたフェリーチェに感謝しつつ、バスローブ姿で朝食をしたためる提督……向かいにはフェリーチェが座り、ライ麦パンとコケモモのジャム、しっかりした味わいのチーズといった朝食を淡々と食べる…

提督「それにしても……」

フェリーチェ「ん?」

提督「フィンランドの食事は……何というか、ずいぶんと素朴な感じね」ジャムを付けたライ麦パンをよく噛んで飲み込むと、少し考えてから言葉を選んだ……

フェリーチェ「厳しい土地だもの、仕方ないわ……ま、今回の会議が上手くまとまればパーティがあるし、そうしたらきっと美味しいものだって出るわ。ごちそうのためにも頑張ってちょうだい」

提督「ええ、そうさせてもらうわ」

…会議場…

ニッカネン「おはようございます、少将。フェリーチェ大尉も」

提督「ええ、おはようございます……ぴりっとした空気のおかげで目が覚めますね」

ニッカネン「田舎に行けば森の香りとしっとりした朝霧でもっと空気を楽しめるのですが、贅沢は言えませんね……昨夜はよくお休みになれましたか」

提督「ええ、おかげさまで……おはようございます、ラーセン大佐」まだ日の出を迎えたかどうかもあやふやな冬のフィンランドの朝だというのに眠そうな様子一つ見せず、きちんと折り目正しい様子のラーセン……

ラーセン「おはようございます」

ニッカネン「それでは、会議場に入りましょうか」

…午前中…

司会「……では、この件に関しては賛成多数で可決とします。次の議題ですが……」

提督「……昨日に比べればずいぶんと話が早くまとまってくれそうね。筋肉痛のカタツムリから、短距離走者のカタツムリくらいにはなったんじゃないかしら?」

フェリーチェ「昨日のやり取りで互いの立場が明らかになったからでしょうね。お互いに制服組同士、小難しい外交に関しては政府に任せて、身内でどうにか出来る範囲のことだけ折り合いを付ければいい」

提督「ええ……この調子なら、カチコチの雪だるまになる前に帰国できそうね♪」口元を手で隠し、小声でフェリーチェに耳打ちした……

フェリーチェ「どうかしら。あちらがそれで納得してくれればいいんだけど……」向かいのテーブルから冷たい目で会場を見わたしているロシア海軍の女性少将をちらっと眺めた……

ロシア海軍将官「……」

………

849 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/10/02(日) 01:45:34.45 ID:1wqdHT430
ニッカネン「その意見には納得できかねます、マリノフスキー大佐」

ロシア海軍大佐「どう思われようとご自由だが、我々はそう決定している……少佐」赤ら顔の大佐は規模の小さいフィンランド軍「少佐」が他国なら大佐クラスに相当するにもかかわらず、下の階級だと言わんばかりの態度を取っている……

提督「また始まったわね……」


…右耳には単調な声で話す同時通訳のヘッドホンを当て、もう片方の耳で生の声に含まれている調子や強弱を聞き、相手の出方を確かめようとする提督……手元の手帳には交渉材料に使えそうな単語がいくつか書き散らしてあり、隣のフェリーチェはメモ帳とラップトップを使い分け、さらに目線は相手の口元や視線を捉えている…


フェリーチェ「バルト海艦隊の代表はモスクワから来たお目付役の前で強気な態度を取って「いいところ」を見せたいのよ」

提督「きっとそうね……ねぇミカエラ、そろそろニッカネン少佐の援護射撃をしてあげようかしら?」

フェリーチェ「待って、ラーセン大佐が動くわ……」

ラーセン「失礼、発言をよろしいですか?」

司会「ラーセン大佐、どうぞ」

ラーセン「どうも……失礼ながらマリノフスキー大佐、貴国のバルト海艦隊に所属する「艦娘」たちだけでバルト海全域をカバーするのは物理的に不可能かと思いますが」

大佐「ニェット(いや)、本官はそう思わない」

ラーセン「そうでしょうか? ですがそちらの艦隊に所属している「艦娘」を海域に展開させると、哨戒可能な範囲は周囲……浬、対してフィンランド湾の面積はこれだけあります……明らかに足りないように思えますが?」

大佐「……」

ミカエラ「……フランチェスカ」

提督「ええ。 マリノフスキー大佐、私からも一つ……」

…午後…

司会「では、以上でバルト海「深海棲艦」対策会議を終了いたします。皆様、お疲れさまでした」

提督「ふー……どうにかまとまってくれてよかったわ」

フェリーチェ「お互いに妥協出来そうなところまで持って行けてよかったわ……ロシア側もこっちの意見を押し切るほどの力はないし、どこかで折れるとは思っていたけど」

提督「ミカエラの読み通りね……」と、資料を小脇に抱えたニッカネンが近寄ってきた……

ニッカネン「お疲れさまでした、カンピオーニ少将、フェリーチェ大尉」

提督「いえいえ、少佐こそ……途中、なかなか話が決まらなくて大変でしたね」

ニッカネン「いえ、沿岸諸国の会議ではこのくらいよくありますから……ところで少将」

提督「はい、なんでしょう?」

ニッカネン「この後、なにかご用事は?」

提督「いえ、せいぜいホテルに戻って夕食を食べるくらいです」

ニッカネン「そうですか……ところでこの前お話ししたサウナですが……もしご都合がよろしければ、これから一緒にいかがですか?」

提督「ええ。 せっかくの機会ですから、ぜひお願いします♪」

ニッカネン「それはよかった……フェリーチェ大尉は?」

フェリーチェ「いえ、私は片付けなければならない資料があるので明日にでも……申し訳ありません」

ニッカネン「おや、それは残念です……では少将、後でそちらのホテルまでお迎えにあがります。1600時頃でよろしいでしょうか」

提督「ええ。 何か必要なものはありますか?」

ニッカネン「そうですね、同性とはいえ身体を見られるのが気になるようでしたら水着が必要ですが、他のものはタオルを始め、たいていの浴場でレンタルがありますので」

提督「分かりました、それじゃあ楽しみに待っていますね」

ニッカネン「はい、それでは……」

提督「もう、ミカエラったら……私のために遠慮しなくたってよかったのに♪」

フェリーチェ「よく言うわ。 とにかく、サウナにもフィンランド美人にものぼせないようにすることね」そう言うとあきれたように小さく肩をすくめた……
850 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/10/16(日) 01:43:37.68 ID:E5njUObA0
…夕方・ホテルのロビー…

ニッカネン「お待たせしました」

提督「いいえ、私もちょうど支度を終えて降りてきたところです……明るい黄色がよく似合っていらっしゃいますね♪」

…北欧の冬は昼が短く、1600時ともなればすでに周囲は暗くなっている……私服に着替えた提督がホテルのロビーで待っていると、ニッカネンがやってきた……着ている服は特にお金をかけているいう風でもなく、むしろごくあっさりとしたファストファッションのものらしいが、白い肌に似合う明るい黄色のセーターと淡いベージュのコート、明るいグレイのスラックスでスマートにまとめている…

ニッカネン「ありがとうございます、アドミラル・カンピオーニ」

提督「ふふっ……もう制服を脱いでいるのに「アドミラル」もないでしょう。 フランチェスカか、さもなければ「フランカ」で構いませんよ?」

ニッカネン「ではそうさせていただきます、フランチェスカ……」

提督「ええ。ところで私も「クリスティーナ」と名前で呼ばせてもらってもいいですか?」

ニッカネン「はい、もちろんです……それでは参りましょう」提督をボルボの助手席に乗せると自分は運転席に乗り込んだ……

…公共サウナ…

ニッカネン「さぁ、着きました……車を駐車場に停めてきますから、どうぞ先に降りて下さい」

提督「ええ」

…そもそも「サウナ」という言葉自体がフィン語であり、人口よりもサウナの方が多いと言われるほどサウナ文化の盛んなフィンランド……当然ヘルシンキ市街にも公共サウナを始め、リゾート用の高級な場所から親しみやすい大衆向けの浴場までさまざまなサウナ施設が点在している……ニッカネンが提督を連れてきたのは比較的新しい感じのする施設で、受付で貴重品を預けると、二人は暖房の効いた清潔感のある更衣室で服を脱いだ……提督のバラ模様をあしらった黒いブラとパンティが淡いクリーム色の肌を引き立たせ、服を脱ごうと身動きするたびに豊かな乳房が「たゆんっ……♪」と弾む…

ニッカネン「……」

提督「どうかしましたか?」ニッカネンの控え目な視線に気付いた提督が、小首を傾げて問いかけた……

ニッカネン「ああ、いえ……///」

提督「ご覧になりたければ遠慮せずにどうぞ? 運動不足なもので、少し肉付きが良すぎるところもありますが……それでもよろしければ♪」冗談交じりに軽く笑みを浮かべ、ウィンクを投げる…

ニッカネン「いえ、そういうつもりでは……中に入りましょう///」

…サウナ内…

提督「あ……とてもいい針葉樹の香りがします」

ニッカネン「そうでしょう」

…おそらく杉材で作られたと思われるほの明るい室内にはやはり木で出来たベンチがあり、中央には枠で囲われて、黒っぽい石が積み上げられている……提督は「サウナ」と聞いて真夏の機関室のような状態を想像し身構えていたが、室内の温度はずっと穏やかで「熱い」というほどでもなく、ほっと安堵してニッカネンの隣に腰を下ろした…

ニッカネン「……サウナは初めてだそうですから、私が「ロウリュ」を行いますね」

提督「ええ」

…手桶に水を汲むと、中央で熱を放っている石にそれをかけたニッカネン……しゅうしゅうと音を立てて水蒸気が立ちこめると、次第に室内が蒸れた感じになってくる…

ニッカネン「こうして蒸気を立てて、ほどよく汗をかくようにします」

提督「なるほど……」

…とつとつと静かに話すニッカネンの、陶器のように白い肌に赤みが差してくるのを見ていると、提督自身も身体から汗が浮いてくるのを感じた……汗が出てくるのと同時に身体がじんわりと熱を帯び、真っ白なタオルがしっとりと湿り気を帯びてくる…

ニッカネン「……それでは、そろそろヴィヒタを使いましょう」

提督「ヴィヒタ?」

ニッカネン「これです」まるで瞑想にふけるように蒸気の中でしばし沈黙していたニッカネンだったが、つと席を立つと、片隅に置いてあった細い白樺の枝を取り上げた…

提督「あ、なんだか聞いたことがあるような気がします……それで軽く叩くのでしたね?」

ニッカネン「そうです、よくご存じで……どうぞ、背中を向けて下さい」

提督「どうかお手柔らかにお願いします♪」

ニッカネン「ええ、大丈夫です」

…冗談交じりに言った提督に対して、生真面目に答えるニッカネン……提督が背中を向けると、ニッカネンがほどよい勢いで白樺の枝を振るった……枝を振るたびに残っている白樺の葉から雫が飛び散り、ふわりと新鮮な木の葉の香りが漂う…

ニッカネン「痛くはないですか」

提督「ええ、心地よい程度です」

ニッカネン「そうですか……では、そろそろ交代をお願いします」

851 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/10/27(木) 01:26:08.17 ID:e9noRa9A0
提督「初めてですから、もし加減を誤っていたらおっしゃって下さいね」そう言うとヴィヒタを手に取って、ニッカネンのしみひとつない白い背中にそっと枝を振るう…

ニッカネン「もう少し強くても大丈夫ですよ」

提督「そうですか……では」

…ニッカネンの身体はやせていて、うっすらとシルエットが浮かぶ鎖骨まわりや肉の薄い脇腹は、まるで提督が持っている白樺の枝のように細くしなやかに見える……ヴィヒタで背中や肩甲骨の辺りを軽く叩くと血流が良くなった部分がほのかに赤みを増し、白かった肌が桃色を帯びてくる…

ニッカネン「……そのくらいで結構です」

提督「分かりました」

ニッカネン「それでは、水浴に行きましょう」

…冷水浴の浴室…

ニッカネン「いきなり入ると冷たくて心臓に悪いですから、足先からそっと入って下さいね」

提督「ええ」

…サウナを出た隣にある大きなバスタブには水が満たされていて、そこにそっと身体を沈めていく……冷水といってもおそらくは常温の水で、ことさらに冷やしてあるというわけでもないのだろうが、じんわりと汗が滴るほど熱を帯びた身体にはまるで氷水のように感じられる…

提督「っ……冷たいですね」

ニッカネン「そうかもしれません。ですがこれで身体を冷まし、同時にすっきりさせることが出来るので、サウナでは外すことの出来ない手順なんですよ」そろりそろりと入っていく提督とは対照的に、躊躇なく身体をひたしていく……

提督「少なくとも流氷の浮いている海に飛び込んだりする必要はないようですね……助かりました」肩の下まで冷水に浸かると浴槽がかき回されて冷感が増すことがないよう、できるだけ身動きしないようにしながら冗談めかした……

ニッカネン「ああいうのはことさらに……えーと……そう、チャレンジ精神が旺盛な人がやるものですから」

提督「そうだろうと思いました……」

…二度目のサウナ…

ニッカネン「……ところでキルッコヌンミ鎮守府にご案内した際、フランチェスカも銃猟をすると言っていましたが、そのお話をもっと聞きたいですね」

提督「猟の話ですか、いいですよ」冷水浴を終えてサウナに戻ると、蒸気の中で好みの銃や獲物の話をする提督とニッカネン……

提督「……そういえば、クリスティーナはどんな銃が好みですか?」

ニッカネン「私ですか? そうですね、私は値段と性能が折り合えば充分なので、あまり特定のモデルにこだわった事はありませんが……今のところ、中古の垂直二連が一丁と「ブローニング・オート5」を持っています」

(※ブローニング・オート5…天才的銃器設計者「ジョン・M・ブローニング」による、世界で初めて成功を収めた大ベストセラーのセミオートマティック・ショットガン。原型は1898年(明治31年)と古いが基礎設計が優れており、ベルギーFNやレミントンを始め、日本を含めた世界中で長く生産された)

提督「オート5はいい銃ですね……普段は鹿撃ちだそうですね?」

ニッカネン「そうです。普段は鹿と、それから鴨のような野鳥類ですね。他にはトナカイ撃ちも数回ほど……あと一頭だけ、クマも経験があります」

提督「なるほど……私は大きくてもせいぜいイノシシ程度ですね。実家では食べるために撃ったり、地元のコムーネ(自治体)から駆除依頼が来たりしていましたので」

ニッカネン「あれはあれで危険だと聞いていますが」

提督「ええ。イノシシはああ見えて意外と素早いですし、雄の牙で太ももを突き上げられたら命に関わりますので……撃ちに行くのは秋が多くて冬場の繁殖期には基本やりませんでしたが、その時期は雄雌ともに気が立っているので特に危険ですね」

ニッカネン「なるほど」

…提督はどちらかというとニッカネンを「寡黙で人付き合いが好きではないタイプ」だと思っていたが、サウナの蒸気の中でぽつぽつと……しかしあまり途切れる事なく会話に興じるニッカネンを見るかぎり、別にそういうこともないらしい……隣に座って小さな身振りを交え、シカ撃ちの話やフィンランドの森の話をするたびに汗の玉が滑らかな白い肌を下っていき、小ぶりで形のいい乳房の谷間や、金色の野原のような脚の間に流れていく…

提督「……」サウナの蒸気に交じってニッカネンの爽やかな汗の香りと、発散される体温が隣に腰かけている提督に伝わってくる……

ニッカネン「それで、去年のシーズンでは二頭を……フランチェスカ?」

提督「ああ、はい……聞いていますよ。それで、撃った二頭は雄でした?雌でした?」

ニッカネン「一頭は雄で、もう一頭は雌でした……そろそろ上がった方が良さそうですね」

提督「ごめんなさい、もっと聞いていたかったのですが……」

ニッカネン「いえ、いいんですよ……またお話しする機会もあるでしょうから///」

提督「ぜひその機会が欲しいものですね……っとと♪」サウナでたっぷり蒸されたおかげですっかり身体がふわふわしている提督……立ち上がってよろめいてしまい、その拍子にニッカネンの身体につかまった……

ニッカネン「あっ……大丈夫ですか///」

提督「大丈夫です……ちょっと勢いよく立ち上がり過ぎました」しっとりと濡れたニッカネンの肩に手をかけ、少し見おろすような形で顔を近づけている……

ニッカネン「転ばなくて何よりでした……さあ、出ましょう///」そっと提督の手を肩からどけると、転ばないようにと軽く腕をつかんでくれる……

提督「ええ、そうしましょう♪」
852 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/11/03(木) 01:07:49.13 ID:lgP2pU9P0
ニッカネン「ところで、フランチェスカ……ホテルに戻る前にクリスマス市でも見ていきませんか? 今日は時間もありますし」

提督「そうですか、それではぜひ♪」

…ヘルシンキ市街・クリスマス市…

提督「ふふ……♪」

ニッカネン「何かおかしかったですか?」

提督「いいえ♪ こうして楽しげなクリスマス市を見ていると、それだけでこちらも気分がうきうきしてきますね」

ニッカネン「そうですね」

…ニッカネンと連れだって、時代を感じさせるヘルシンキ市街の綺麗な建物とその前に開いているクリスマス用品のマーケットを見て回る提督……繊細なガラス細工やオルゴール、クリスマスツリーにぶら下げるオーナメント(飾り物)の数々……街頭や店先の灯りに照り映えて、キラキラと光り輝く光景はどこか幻想的で美しく、にぎわう街の喧騒さえもどこか美しく聞こえる…

提督「クリスティーナ、お店の人に「これを一袋下さい」と言ってもらえますか?」フィンランド国旗を彷彿とさせる、綺麗な青と白の二種類が入っている玉飾りの袋を指さした……

ニッカネン「ええ、分かりました」

…ゆったりとした歩調で通りを歩きながら時折足を止め、鎮守府へのお土産としてクリスマスツリーに吊るすオーナメントや綺麗な細工物を見繕う提督……フィン語でのやり取りはニッカネンにお願いして、着々と買い物の量を増やしていく…

ニッカネン「フランチェスカ、荷物の量は大丈夫ですか?」

提督「ええ。トランクは結構空きがありますし、もし入りきらないとしても追加の手荷物料金くらい払いますよ……それとお店の人に「どうか良いクリスマスを」と伝えてもらえますか?」ニッカネンに向けて微笑を浮かべつつ、お店の人から商品の袋を受け取った…

ニッカネン「伝えましたよ……フランチェスカ「貴女にもよいクリスマスを」だそうです」

提督「グラツィエ♪」

…辺りにはオルガン音楽やクリスマスを題材にしたポピュラー音楽が流され、コートの合わせや靴底から伝わってくる冷たい夜気も、サウナのおかげか、さもなければ暖かな気分のために心なしか柔らかく感じられる…

ニッカネン「フランチェスカ、少し身体が冷えてきたのではありませんか? ……良かったらコーヒーハウスにでも寄っていきましょうか?」

提督「ええ」

…コーヒーハウス…

提督「ふぅ……身体の中から暖まりますね」

ニッカネン「美味しいですか?」

提督「ええ、とても。フィンランドの方はみんなコーヒーを淹れるのが上手ですね」

ニッカネン「まあフィン人の「みんな」と言うこともないでしょうが……それに、コーヒーを淹れるならやはり森の中、焚き火を使って銅のポットを使うのが一番です」

提督「素敵ですね。 静まりかえった森の中、二人きりで焚き火のはぜる音を聞きながらコーヒーを沸かす……なんて」テーブルの上に置かれたニッカネンの手にそっと自分の手を重ねる……

ニッカネン「え、ええ……///」かすかに頬を赤らめて、乗せられた手から自分の手を引き抜くかそのままにしておくかためらっているニッカネン……

提督「……さてと、そろそろホテルに戻りましょうか」

ニッカネン「そ、そうですね……///」

…ホテル前…

ニッカネン「サウナはいかがでした、フランチェスカ?」

提督「ええ、とても気持ちが良かったですし、機会があったらまた行きたいものですね。 それに買い物も楽しめました」買い込んだ飾り物の袋や箱を積み重ね、その下に腕を回して支えている提督…

ニッカネン「それは何よりです。 それでは、明日の夕食会でまた」

提督「ええ、また明日……っと、ちょっと待って?」ホテルの前まで送ってきてくれたニッカネンがボルボに乗り込もうとするところを呼び止めた…

ニッカネン「何か?」

提督「ええ……ちゅっ♪」

ニッカネン「……あっ///」

提督「今日はとても楽しかったわ、クリスティーナ……チャオ♪」ニッカネンのひんやりした頬に軽くキスをすると、軽くウィンクを投げた……

ニッカネン「そ、そうですか……喜んでいただけたようでなによりです///」提督の唇が触れた部分に手を当てると、何を言うか迷っているように口ごもり、ようやくそれだけ言って車に乗り込んだ……

提督「ふふ……っ♪」いつもよりぎくしゃくした運転で走り去るボルボを見送ると、含み笑いをしながらホテルの入り口をくぐった……

………

853 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/11/18(金) 01:50:40.43 ID:7E4+Zff30
…翌日・夕食会…

ニッカネン「さぁ、どうぞお入り下さい」

提督「素敵な会場ですね……♪」


…礼装に身を包んだニッカネンに案内されてやって来たパーティ会場はきれいにしつらえられており、床の一部には赤と緑でパッチワーク風の模様に仕上げたフィンランドの伝統織物「ルイユ織り」の絨毯が敷かれ、テーブルには色とりどりの花が飾ってある……それも参加各国をもてなす意味を込めてそれぞれの花瓶に各国の国旗と同じ色が使われていて、カーネーションやカラー、バラに百合、かすみ草といった花をバランスよく組み合わせて、イタリアのトリコローリ(三色旗)の色である緑・白・赤をはじめ、ポーランドの白と赤、スウェーデンの青と黄色、ノルウェーの赤、青、白といった具合に仕上げてある……


ニッカネン「どうしても冬は色がなくて殺風景に感じますから、こうやって花があるのはいいものです」

提督「同感です……」提督はニッカネンと話しながら、テーブルのそばで立っている各国士官の一団に近づいた……

ニッカネン「それでは、改めて紹介しましょう。こちらはウーシマー旅団のミカ・カンキネン大尉」がっしりした体格をした沿岸防衛旅団の大尉は鍛え上げた肉体のために礼服が窮屈そうで、頬の肉が付いているところに赤みが差している様子はどことなくサンタクロースを思い起こさせる……

カンキネン「初めまして」

ニッカネン「こちらは空軍のラウリ・キルピ大尉」

キルピ「お目にかかれて光栄です、アドミラル・カンピオーニ」

提督「こちらこそ……大尉はどんな機種を操縦なさっているのですか?」

キルピ「たいていは「サーブ・ドラケン」です。私も機体も退役するはずだったのですが、深海棲艦のことがあってまだ引退できずにいましてね」戦闘機の操縦士としてはかなり高齢に見えるキルピ大尉はいかにもパイロットらしく、細身の顔とほとんど同じくらいあるがっちりした首をしているが、一度笑うと目尻や口元に笑いじわができて親しげな表情になる……

提督「なるほど」

ニッカネン「こちらはポーランド海軍のヴァシェフスキ中佐」

ヴァシェフスキ「スタニスワフ・ヴァシェフスキです。どうぞお見知りおきを」

提督「フランチェスカ・カンピオーニです……ポーランド軍の勇敢さについてはよく聞き及んでおります。イタリア人として、お国のドンブロフスキがイタリアで軍団を編成した歴史があるというのは光栄なことです」

(※ヤン・ドンブロフスキ……ナポレオンの下、イタリアで亡命ポーランド人たちを募った「ポーランド軍団」を編成し、ロシア・オーストリア・プロイセンなどに分割されたポーランドを復活させるために戦った。ポーランド国歌「ドンブロフスキのマズルカ」はその際にポーランド軍団の兵士たちが歌った愛唱歌を元にしている)」

ヴァシェフスキ「これはまた、我が国の歴史をご存じで……どうもありがとうございます」風格のあるヴァシェフスキの顔がぱっとほころんだ……

ニッカネン「では、自己紹介も済んだことですし……乾杯にお付き合いいただけますか、少将?」

提督「ええ、喜んで」

ニッカネン「良かった……フィンランドのウォッカは最高ですよ、ぜひ賞味してみて下さい」

提督「そうですか、でしたら」澄み切った液体がなみなみと満たされている小さいグラスを取った……

ニッカネン「では、音頭は私が……キピス(乾杯)!」

一同「「キピス」」

…ウォッカを始め、度数の強い酒を恐る恐る飲もうとするとかえって飲みにくいので、覚悟を決めて一気にあおった提督……いいウォッカだというニッカネンの言葉通り、カッと熱い感覚が喉を流れ落ちるが口当たりは水のようで、当たりの強さやえぐみはまったくない…

ニッカネン「いかがですか」

提督「ええ……とってもいいウォッカですね」つばを飲み込み、一呼吸してから答えた……

キルピ「それでも慣れていないと飲みにくいでしょう……キャビアを一緒に食べるといいですよ」小さじで皿にキャビアをよそってくれたキルピ大尉

提督「ありがとうございます」

…度数こそきついが口に入れた瞬間は甘いウォッカと塩っぱいキャビアは確かによく合い、食べた後にかすかに残るキャビアの海くささのようなものを、ウォッカがきれいに落としてくれる…

提督「……なるほど、これはいい組み合わせですね」

ニッカネン「そうでしょう……ところでこれはどうですか? トナカイの燻製ですよ」

提督「これがそうですか、初めて食べます……」赤身が濃くて鹿肉に似ているトナカイ肉の燻製は噛みごたえがあって、あごはくたびれるが、噛めば噛むだけ旨みが沁みだしてくる……

ニッカネン「いかがですか?」

提督「これは……例えば暖炉か何かのそばに腰かけて、じっくり噛みしめて食べる……そうした食べ方が合いそうですね」

カンキネン「おや、なかなか通な意見ですね」

提督「それはどうも……もちろんパルマの生ハムも美味しいですが、このトナカイ肉とは風味や歯ごたえが全く違いますし、同じ物差しでどちらが美味しいとか優れているとか、そういった比較をすることはできませんね……少なくとも、私は美味しいと思いますよ?」

ニッカネン「そう言ってもらえると嬉しいですね」提督の言った言葉に含まれた意味を理解して、ニッカネンをはじめフィンランド軍の士官たちは軒並み苦笑いした……

ヴァシェフスキ「では、今度は私からも乾杯を……カンピオーニ少将、お願いできますかな?」

提督「ええ、分かりました」

854 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/11/26(土) 02:14:45.57 ID:mss3scI10
…しばらくして…

提督「この鴨肉もとても美味しいです……肉が柔らかくて、脂の甘味がじんわりと染み出すようで……」

ニッカネン「鴨肉ならシャンパンの方が良いでしょう、お取りしますよ」

提督「グラツィエ♪」


…会場で各国士官たちと会話をする間もニッカネンが隣に付いてくれ、並んでいる料理や酒を勧めてくれる……鴨のローストにシャンパン、キャセロール(グラタン皿料理)にフィンランドウォッカ、ノルウェーから空輸されてきたサーモンに、海老を使ったグリル……提督以外にも食欲旺盛な士官は多くいて、食器やグラスの触れあう音もにぎやかにパーティが進み、幾人かは頬の血色が良くなっているが、それは暖かな空調のためだけではないように見える……提督はニッカネンのガイドのおかげで料理と酒の美味しい組み合わせを堪能しながら、打ち解けた様子の士官たちと面白おかしく脚色した過去の失敗談やちょっとした冗談を交わした…


キルピ「……ところでアドミラル・カンピオーニ、実は「ドラケン」というとちょっとした小話がありましてね」一杯機嫌で愉快そうなキルピ大尉が切り出した……

提督「と、いいますと?」

キルピ「ええ……戦闘機に限らず飛行機は着陸に際して、滑走路への進入前に脚(降着装置)を下ろし、前後共に下りたことを示す表示を確認して「スリー・グリーン」と管制官にコールするんですが……」

提督「ええ、聞いたことがあります」

キルピ「そうですか……いや、ドラケンはご存じの通りダブルデルタ翼で、離着陸時の機首上げ角度が強いもんですから、いわゆる「尻餅」をつかないよう胴体後部にもう一つ尾輪が付いているんですよ」

提督「なるほど……?」

キルピ「ですから、管制官から「スリー・グリーンを確認せよ」と言われた時にわざと「フォー・グリーン」と返して面食らわせてやることがありましてね……♪」

提督「くすくすっ……そういうことですか♪」

ヴァシェフスキ「……ところでカンピオーニ少将、ポーランドへ旅行したことはありますか?」

提督「いえ、残念ながら機会がなかったものですから」

ヴァシェフスキ「それはもったいない……ワルシャワ、クラクフ、どこも歴史があって良い街ですよ」

提督「そうですね、かの有名な「ワルシャワ・マーメイド」の像も見てみたいですし」

(※ワルシャワ・マーメイド……自身を捕らえた悪徳商人から助けてくれたワルシャワの人たちへの恩返しとして、剣と盾を持ってワルシャワを守護する約束をした人魚。ワルシャワの誇りと名誉のシンボル)

ヴァシェフスキ「ああ、あれはぜひ見てほしいですね。ショパンやマリー・キュリーといった偉人もおりますし……カンピオーニ少将はSF小説を読まれますか?」

提督「学生時代に好きでよく読んでいました……ポーランドと言えば「ソラリス」のスタスワフ・レムですね?」

ヴァシェフスキ「その通りですとも。他にも「無敵(砂漠の惑星)」や「星からの帰還」といった真面目な作品から「宇宙創生期ロボットの旅」のような皮肉の効いたユーモアSFまで……あの複雑なポーランド語の味わいが翻訳では出せないのが残念です」

提督「同感ですね。映画にしろ書籍にしろ、翻訳ではどうしても思っている事を伝えきれないのが残念です……こうしてお話ししている時も、失礼な言い方に感じられてしまったらごめんなさい」

ヴァシェフスキ「いえいえ、私の英語よりはずっとお上手だ……シャンパンはいかがですか?」

提督「ええ、では……♪」

…またしばらくして…

カンキネン「カンピオーニ少将、もう一杯いかがですか?」

提督「いえ、もうこのくらいにしておきます……お酒が入るとおしゃべり機関銃どころか、「おしゃべりCIWS」になると言われておりますから♪」

(※CIWS…「近接迎撃兵装システム」の略。アメリカの二十ミリ「バルカン・ファランクス」やイタリアの四十ミリ「ダルド」、オランダの三十ミリ「ゴールキーパー」等が有名。シーウィズ)

カンキネン「ははは、そいつは大変ですね」

キルピ「それにしてももう数日早ければ、独立記念日に間に合ったのですが……当日はパレードや何かがあって、白と青の旗が家々に翻って、それはそれは美しいものですよ」

提督「私も話には聞いていたので見逃すことになって残念です……この予定を組んだ上層部が恨めしいですね」

カンキネン「まぁ、いつかまたお出でになる機会もありますよ……キピス!」

提督「キピス♪」

855 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/12/04(日) 02:01:39.19 ID:Zkv+0TkO0
フェリーチェ「……だいぶ打ち解けてきたようね?」提督が歓談している間に会場を歩き回って会話に加わり、またさりげなくあちこちの会話に聞き耳を立てていたらしいフェリーチェ……

提督「ええ、おかげさまで」

フェリーチェ「それと今さらだけれど、あまり食べ過ぎないようにね?」

…提督の皿に盛られているマッシュド・ポテトと濃厚なクリームで和えたミートボール料理をちらりと見て、冗談半分に釘を刺した…

提督「ええ。それよりも飲み過ぎの方が問題ね……」

フェリーチェ「頼むからああいう風にはならないでよ?」

…フェリーチェがちらりと目線で指し示した先では、ロシア海軍バルト海艦隊の士官たちが「タダ酒」ということでいい気になってウォッカやウィスキーをがぶ飲みしていて、会議の代表を務めていた大佐クラスの士官を始め、たいていが鼻の頭や頬を真っ赤にしながら大声のロシア語でしゃべっている…

提督「ならないわよ……まあ、ミカエラにとってはああいう相手の方が都合が良いんじゃないかしら?」

フェリーチェ「そうね。でもそれは私だけじゃなくてどこも同じよ……」付き合いがあった提督だけが分かるような微妙な身振りで何人かの士官を指し示した……

物静かなフィンランド軍士官「……」

気配の薄いスウェーデン軍士官「……」

提督「なるほど……」と、台に乗っているグラスを取りにロシア海軍の女性将官が近寄ってきた……

ロシア女性将官「失礼、そのシャンパンを取ってもらえまいか」

提督「ええ、どうぞ」


…フェリーチェ言うところの「モスクワからのお目付役」らしいロシア海軍の女性将官は少将の階級章を付け、胸元に並んでいる略綬の他にも、いくつかのメダルが留められている……瞳は冷厳な印象を与える淡い青灰色で、まるで妖精のような美しいプラチナブロンドの髪をしている……その横に影のように付いている女性の大尉は後ろでまとめた金髪に淡いブルーの瞳で、きっちりとした態度はいかにも優秀な副官タイプに見える…


ロシア女性将官「スパシーバ(ありがとう)」

ニッカネン「しかし、なんというか……あの人はまるで冬のヴァンターヨキ川よりも愛想がないですね」さっと歩み去った女性将官を見送りつつ、つぶやくように言った……

提督「言い得て妙ですね。もっとも、冬のヴァンターヨキ川がどのような様子かは知りませんが」

カンキネン「いや、ありゃあどちらかというと「メルケ」だな……ニコリともしやしない」

(※モラン…ムーミンシリーズに登場する、冬を具現化したような女の妖怪。 黒いローブを引きずったような姿で、座った跡は霜が降りてしまう。フィン語のメルケは「お化け・幽霊」の意味)

キルピ「全く、東から来るもので歓迎できるものといえばお日様だけだからな」

…そろそろ酔いが回ってきて、次第に打ち解けた……場合によっては隠していた本音の部分が顔をのぞかせ始めた各国の士官たち……特に北欧諸国やポーランドの代表は、お世辞にもロシアと友好関係にあるとは言いにくく、ウォッカやシャンパン、アクヴァヴィットのグラスを重ねたこともあって、勢い舌鋒も鋭くなる…

フィンランド士官「……いや、ようこそフィンランドへお出で下さいました。ヘルシンキに足を踏み入れたロシアの士官は捕虜を除けば少将が初めてですな」

ロシア女性将官「……」

フィンランド士官B「良かったらサルミアッキでもいかがですか、美味しいですよ?」

(※サルミアッキ…リコリス飴。北欧ではよく食べられるが外国人には「塩味のゴム」など散々な評価で、かなりクセのある味だという)

スウェーデン海軍士官「何か飲み物はいかがですか? せっかくですから「ウィスキー・オン・ザ・ロック」でも?」冷戦時代の事件をあてこすって、ウィスキー・オン・ザ・ロックを勧めるスウェーデンの海軍士官……

ロシア女性将官「スパシーバ(ありがとう)……ウォッカを頂戴する」皮肉などまったく意に介さない様子で冷たく相手を見据えると、露が降りるような冷たいウォッカのグラスを受け取る……

…時間が過ぎてたびたびグラスが干されるうちに真面目で感情表現の控え目なフィンランド軍の士官たちもかなり陽気な雰囲気になってきて、中の数人がヴァイオリンやアコーディオンを用意し始めた…

フィンランド軍士官「……さて、何か演奏しましょうか。聞きたい曲があったら遠慮なくどうぞ?」アコーディオンを首から提げると、鍵盤を軽く試した……

ニッカネン「カンピオーニ少将、せっかくですから何かリクエストなさってみては?」

提督「それもそうですね……あいにくフィンランドの曲はあまり知らないのですが「サッキヤルヴェン・ポルカ」でしたか、それなら題名くらいは聞いたことがあり……」言いかけたところで隣にいたフェリーチェが小さく、しかし思い切りふとももをつねった……

提督「痛っ……ミカエラ、どうしたの?」

856 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/12/26(月) 01:23:01.13 ID:ZUFS9DHc0
フェリーチェ「フランチェスカ、何を考えてるの! ……「サッキヤルヴェン・ポルカ」はロシアに奪われたカレリアを懐かしむ歌なのよ?」小声で提督を叱りつける……

提督「あっ……しまったわ」

フィンランド士官「さすがはアドミラル・カンピオーニ……ではリクエストにお応えして「サッキヤルヴェン・ポルッカ」!」


…提督は慌てて別な曲を頼もうとしたが時すでに遅く、アコーディオンを持った士官が曲を弾き始めると、たちまち勢いづいたフィンランド軍の士官たちがグラスを片手に声を張り上げた…

フィンランド軍士官たち「「♪〜オン・カウイナ・ムイストナ・カレヤラ・マー、ムッター・ヴィエラカ・スォイメサ・スォイナッター」」
(♪〜美しき思い出の地カレリアよ、今も心に沸き上がる)

士官たち「「♪〜クン・スォッタヤン・スォルミスタ・クーラッサー、サッキヤルヴェン・ポルッカ!」」
(♪〜奏者が奏でるサッキヤルヴェン(サッキヤルヴィの)ポルッカ!)

士官たち「「♪〜セ・ポルッカ・ター・ミエネッタ・ミエレン・トゥオ、ヤ・セ・ウオトゥオ・カイプタ・リンタン・トゥオ」」
(♪〜ポルッカが過去を呼び起こし、胸に追憶が去来する)

士官たち「「♪〜ヘイ・ソイタッハー・ハイタッリン・ソイダ・スオ、サッキヤルヴェン・ポルッカ!」」
(♪〜アコーディオンを奏でれば、サッキヤルヴェン・ポルッカ!)

士官たち「「♪〜ヌオレン・ヤ・ヴァンハセ・タンセン・ヴィエ、エイ・セレ・ポルカラ・ヴィエター・リィエ!」」
(♪〜老いも若きも踊り出す、ポルッカに勝るものはなし!)

士官たち「「♪〜セ・カンサー・オン・ヴァイッカ・ミエロン・ティエ、サッキヤルヴェン・ポルッカ!」
(♪〜さすらう身となっても(故郷を失ったとしても)歌はある、サッキヤルヴェン・ポルッカ!)

士官たち「「♪〜スィナア・オン・リプラトゥス・ライネッテン、スィンナア・オン・フゥオユンター・ホンキエン」」
(湖には波が立ち、松の梢はざわめいて)

士官たち「「♪〜カレヤラ・スォイ・カッキ・ティエター・セン、サッキヤルヴェン・ポルッカ!」」
(カレリアの誰もが歌詞を知る、サッキヤルヴェン・ポルッカ!)

士官たち「「♪〜トゥレ・トゥレ・トゥットネ、カンサネ・タンサネ・クォ・ポルカネ・ヘルカセ・ヘルカンター」」
(♪〜娘さんよ私と踊ろう、優しきポルッカの響きに乗って)

士官たち「「♪〜ホイ・ヘポ・スルコヤ、ハンマスタ・プルコン・スィーラナ・イーメスィティ・スーレミ・パー」」
(♪〜馬は歯ぎしりしているが、頭が大きい(賢い)のだから勝手にやらせておこうじゃないか)

士官たち「「♪〜トゥレ・トゥレ・トゥットネ、カンサネ・タンサネ・メーレア・リェームヤ・スヴィネン・サー!」」
(♪〜娘さんよ私と踊ろう、優しきポルッカの音色が響く!)

士官たち「「♪〜サッキヤルヴェセ・メルター・オン・ポィス、ムッタ・ヤイ・トキ・センターン・ポルッカ!」」
(♪〜サッキヤルヴィは失われてもポルッカの音色は残ったのだから!)


ロシア海軍士官「……諸君、我々も一曲歌おうじゃないか!」

…ウォッカで顔を赤くしたロシア軍の少佐が塩辛い声でそう言って、空のグラスを片手に指揮者のように腕を振ると、フィンランド軍士官たちの歌声をかき消そうと、ソ連時代から続く海軍の軍歌「艦隊への道(タローガ・ナ・フロート)」を合唱し始める…

フェリーチェ「フランチェスカ、どうするつもり?」

提督「困ったことになったわね。まるで「カサブランカ」の場面みたい……あ、そうだわ」互いの声が砲弾のように飛び交う中、ふと思いたってラーセン大佐のそばに行き、ひそひそと耳打ちする提督……

ラーセン「……分かりました、やってみましょう」

…フィンランド軍士官とロシア海軍士官がお互いに歌声を張り上げて相手をやり込めようとしている中、ラーセンがスウェーデン軍の士官たちに小声で何事か指示した……ラーセンが提督のリクエストを伝えると、若手士官の何人かは提督に向かって「了解した」というように軽くうなずいたり小さく親指を立てたりした…

提督「あー、よろしければもう一曲構いませんか?」

…サッキヤルヴェン・ポルッカの合唱が終わったところでニッカネンに近寄ると、さりげなく尋ねた…

ニッカネン「もちろんです……皆さん、アドミラル・カンピオーニからもう一曲リクエストがあるそうですよ? それで、曲は何を?」

提督「ええ……良く考えたら明日は聖ルチアの日ですし「サンタ・ルチア」をお願いします♪」

フェリーチェ「……なるほどね」


857 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/01/08(日) 01:56:39.93 ID:+EvTlOXR0
ニッカネン「それではアドミラル・カンピオーニのリクエストで「サンタ・ルチア」です」


…ニッカネンがさっと助け船を出してアコーディオン係の士官に合図をすると、士官はナポリ民謡「サンタ・ルチア」を演奏し始めた……ナポリに勤務していた事もある提督にはお馴染みの……また冬の寒さと暗さに耐えるスカンジナヴィアの人々にとっては(旧暦にあたるユリウス暦では)これから夜が一日ずつ短くなっていくという嬉しい「聖ルチアの日」を祝う歌としてよく耳に馴染んでいる「サンタ・ルチア」…


提督「♪〜スル・マーレ・ルチィカ、ラストゥーロ・ダルジェント……」
(♪〜海の上、星は銀に輝き……)

…提督が本来の歌詞で歌い出す暇もあらばこそ、あっという間にスウェーデンやフィンランドで付けられた冬の終わりを喜ぶ歌詞が大合唱になって
覆い被さってくる…

提督「ふぅ……」

フェリーチェ「……どうにかなったわね」

提督「ええ。私が撒いた種だもの、少しはどうにかしないと……でしょう?」

…さっきまでのロシア軍士官に対する険悪な雰囲気はどこへやら、フィンランド軍やスウェーデン軍の士官たちが聖歌隊の子供のような熱心さで歌を歌っている…

ラーセン「……これで大丈夫でしたか、カンピオーニ少将?」

提督「ええ、おかげで助かりました……♪」

ニッカネン「ラーセン大佐、私からもご協力に感謝します」

ラーセン「とんでもない……あのままロシア側といがみ合いにならなくて幸いでした」

ニッカネン「そうですね」

提督「本当に申し訳ありません……」

ニッカネン「いいえ……その代わりと言ってはなんですが、もう一杯お付き合いいただけると嬉しいのですが」

提督「え、ええ……」


…提督としてはそれまでも何回か乾杯に付き合っていたので、出来ることなら勘弁してもらいたいところだったが、フォローしてもらった手前むげに断るのも具合が悪い……それならせめてアルコール度数の低いカクテルでもと思って酒類のテーブルを眺めたが、残念な事に並べられているのはウォッカにアクヴァヴィット、ウィスキーとブランデーと、度数の高い酒のグラスばかりが並んでいる……仕方なしにテーブルの中では一番軽いシャンパンのグラスを取り、ニッカネンの掲げたウォッカのグラスと軽く触れあわせた…


ニッカネン「キピス」

提督「キピス♪」

………



…しばらくして…

フェリーチェ「大丈夫、フランチェスカ?」

提督「ええ、思っていたよりも量を過ごしてしまったけれど……まだローリング(横揺れ)は起こしていないわ♪」

…立食ながら種類も量もたっぷりあった北欧料理と、それに合う度数の高いお酒ですっかり身体が火照っている提督……いつもより冗談が増え、頬紅(チーク)なしでもほんのりと色づいた頬が艶めいている…

フェリーチェ「なら良かったわ。ホテルに戻ったら酔い覚ましにシャワーでも浴びて、ゆっくり休むことね……どうかした?」酔いが回っているだけではない、提督のご機嫌な様子に気付いた……

提督「ちょっと……ね♪」

フェリーチェ「なに?」

提督「ふふふ……あのね、さっきニッカネン少佐と「キピス」をしたでしょう?」

フェリーチェ「それは見てたわ。そのあと二人して話し込んでいたようだったけれど」

提督「そうなの……それで、ニッカネン少佐が「よろしければ、後で部屋に来ませんか」って♪」

フェリーチェ「つまり、貴女の「Lバンドレーダー」に引っかかったってわけね」

提督「なぁに、それ? 私は捜索用レーダーなんて積んでないわよ?」

フェリーチェ「あら、意外ね。貴女ときたらいつでも色んな女性と付き合っているものだから、てっきりそういう女性を見つけるためのレズ(L)バンドレーダーを搭載しているんだと思ってたわ」

提督「くすくすっ……そういうことね♪ とにかく、今夜はニッカネン少佐の所に泊まるわ」

フェリーチェ「はいはい。くれぐれも粗相をしないようにね」

提督「もちろん♪」
858 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/01/16(月) 02:01:22.75 ID:ti0t2krK0
ニッカネン「お待たせしました。それでは行きましょう」

提督「ええ♪」

…黒塗りでホテルまで送迎される各国士官を見送ってからタクシーを呼び止めたニッカネン……運転手に場所を告げてしばらく走ると、ヘルシンキ市内にある五階建てアパートの前でタクシーが停まった…

………



…ニッカネンの住居…

ニッカネン「さ、どうぞどうぞあがって下さい」

提督「お邪魔します」


…ニッカネンがヘルシンキに借りている住居(フラット)は部屋に備え付けのものらしいシンプルかつ実用的な家具でまとめられていて、持ち込んだものは室内の隅に置かれているショットガン用のガンロッカーと卓上の写真立て、それに白いエナメル塗装が施された金属製の本棚に並んでいる本といった程度らしい……清潔感はあってきれいにまとまってもいるが、全体的には鎮守府のそばに構えた独身士官用の宿舎と同じような「仮住まい」という雰囲気で、家具や調度もフィンランド人らしく無駄がなく簡素な感じがする…


ニッカネン「殺風景な部屋でしょう? 実家には色々と家具もあるのですが、転属のことを考えると身軽でいたいものですから」提督の視線に気付いたのか「言い訳がましく聞こえるかもしれないが」というニュアンスを込めて、あっさりした調度について弁明した……

提督「分かります。むしろ私は余計なものを増やしすぎて引っ越しの時に後悔することになったほうなので、うらやましいです」

ニッカネン「そうですか? ああ、どうぞかけて下さい。いま飲み物を持ってきます……ウォッカのジュース割りでかまいませんか? 実家で採ったコケモモのジュースがまだあるのですが」ベッド脇の椅子を勧めると、提督に尋ねたニッカネン……

提督「自家製のコケモモジュースなんて素敵ですね、ぜひそれでお願いします♪」

ニッカネン「分かりました」

…台所から戻ってきたニッカネンはフィンランドではお馴染みのウォッカ「コスケンコルヴァ」と、コルクで栓をしてある貯蔵用の瓶を持ってきた…

ニッカネン「ウォッカはどのくらいにします?」

提督「それじゃあ少な目でお願いします……ええ、そのくらいで」

…それぞれのグラスにウォッカを注ぐと、そこにコケモモのジュースを加えるニッカネン……クランベリーの親戚であるコケモモのジュースはザクロのように透き通った赤色をしている…

ニッカネン「はい……では、キピス」

提督「キピス」

…冷えたグラスを手に取って何口か飲んでみる提督……甘酸っぱいコケモモジュースのさっぱりした飲み口のおかげで案外飲みやすく、暖房やお酒で火照った身体にきりりと冷たい飲み物が心地よい…

提督「こくんっ……甘酸っぱくて美味しいです」

ニッカネン「それは良かったです」

提督「ええ。それにこうやって照明にかざして見ると、ルビーみたいで綺麗ね♪」控え目な光を投げかけている照明にグラスを掲げて、液体を透かしてみる提督……

ニッカネン「アドミラル・カンピオーニは詩人ですね」

提督「ふふっ……堅苦しい表敬訪問ではないのだから、気軽に「フランチェスカ」って呼んでほしいわ♪」

ニッカネン「あ、では私のことも「クリスティーナ」と……」

提督「ええ、そうします……クリスティーナ♪」少し首を傾げ、甘い声で呼びかける……

ニッカネン「はい……少し、恥ずかしいですね///」

提督「そうかしら?」

…しばらくして…

ニッカネン「フランチェスカは聞いたことがあるでしょうか……長く続く暗鬱な冬の夜を過ごしているとフィンランド人はいくつかの種類に分かれると言います」

提督「というと?」

ニッカネン「ええ。イヨッパラリ(大酒飲み)か、その反対に禁欲主義者……さもなければメタルバンドを組むようになると♪」

提督「まぁ、ふふっ♪」

…提督がほどよく相づちを打ったり笑ったりしているためか、さもなければ提督よりかなり早いペースでグラスを干している「ウォッカのコケモモジュース割り」のおかげか、少しぎこちない感じはあるものの、ちょっとした冗談まで言うようになったニッカネン…

ニッカネン「あ、いつの間にかずいぶん遅い時間になってしまいました……こうして話をしながら飲むというのも良いものですね」

提督「そう……ね♪」身体を乗り出し、ニッカネンの頬をそっと左手で撫でる……

ニッカネン「あ……///」
859 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/01/22(日) 01:25:22.31 ID:cckXYrAS0
提督「あら、ごめんなさいね……つい」

…口調もそれまでより親しげにして距離を近づけつつも、頬を撫でた手はうっかりだったかのようにすぐ引っ込めた…

ニッカネン「いえ……それにしても、フランチェスカの手はとても綺麗ですね」

提督「お褒めにあずかり恐縮ね。 これでも士官学校や若手士官のころはロープに海水、挙げ句の果てには機械油と「働き者の手」だったけれど、最近はそういうこととはすっかり縁遠くなったものだから……」名ばかりの提督としてのんきに過ごしていることを示す綺麗な手をしていることに苦笑する提督……

ニッカネン「いえ、分かります……それに爪も艶やかですね。クリアのマニキュアですか?」

提督「いいえ、爪やすりだけよ? 以前ガラスの爪ヤスリを買ってからというもの、爪だけはつるつるのぴかぴかで……自分でもちょっと気に入っているの♪」綺麗に切り整えられ、照明の光を鏡のように反射している形の良い爪……

ニッカネン「やすりだけですか? そうは思えないほどですね」

提督「そう言ってもらえると手入れをしたかいがあるわ」

ニッカネン「ええ。なにしろ私の爪はお世辞にも艶があるとは言いがたいので……」確かにニッカネンの爪は短く切り整えられてはいるものの、表面にはかすかに縦溝が入っていて、少し固くなっている……

提督「まぁまぁ、それなら今度爪やすりを贈るわ。クリスマスも近いし、せっかくこうやって知り合う事が出来たのだものね……でも、私は貴女のほっそりした手が好きよ?」


…そう言ってニッカネンの細く、少し骨ばった手に指を絡めた提督……さっきまでは遠慮がちに手をほどいていたニッカネンも今は繋いだ指を離そうとせず、提督が金色の瞳でじっと見つめると、恥ずかしさと困惑が混じり合ったような様子で視線をそらす…


提督「……クリスティーナ」

ニッカネン「なんでしょうか、フランチェスカ……」

提督「私ね、貴女に恋をしたみたい……帰国するまでの短い間だけれど、貴女のことを好きになってもいいかしら?」

ニッカネン「……私だってそのつもりでした……でなければ、こうして部屋に呼んだりはしません///」

提督「嬉しい……」ちゅっ…♪

ニッカネン「ん……///」

…立ち上がると小さなテーブルを回り込み、座っているニッカネンの右手を両手で包み込んだまま、見おろすようにして優しく口づけする提督……柔らかで、それでいて張りのある提督の唇が、ニッカネンの薄い唇にそっと重なる…

提督「……ん、んっ♪」

ニッカネン「あ……んんっ、ちゅ……あふっ///」

提督「んちゅ、ちゅ……っ♪」甘酸っぱいコケモモジュースの後味が唾液に混じり、離した唇から細い銀の糸が一筋伸びた……

ニッカネン「……フランチェスカ///」


…ニッカネンも立ち上がると提督の手を引き、片隅にあるシングルベッドに導いた……清潔感のあるベッドは折り目もぴしっとしている洗い立てのシーツと暖かそうな羽毛布団、それと真ん中をへこませて両脇をふくらませた枕とクッションがいくつか並べてある……二人は金モールや略綬の付いた礼装の上着を脱いで椅子に置くと、ベッドに潜り込んだ…


提督「クリスティーナ♪」

ニッカネン「フランチェスカ……///」


…ニッカネンが「フランチェスカ」と言うと、フィン語独特の母音を重ねたような響きが交じり、多くの恋人、あるいは「親しい友人」たちからたびたび名前をささやかれてきた提督の耳に、北欧の魅力的な雰囲気をともなって心地よく聞こえる…


提督「んっ、んんぅ……はむっ、ちゅ……ぅっ♪」

ニッカネン「あふっ、んっ……ふぁ……あふ……っ///」

提督「……それにしても、クリスティーナったら表情を隠すのが上手ね? こうしてお部屋に招いてくれたりサウナに誘ってくれたりしなかったら、クリスティーナが「そう」なのかどうか迷っていたところよ?」二人して息継ぎをすると、いたずらっぽく笑いながらニッカネンを眺めた……

ニッカネン「それは私の言うべき言葉です。フランチェスカの態度はアプローチなのか、それともただ親しげなだけなのか……ずいぶん考えさせられていたんですからね……///」

提督「あら、私は伝わっているとばかり思っていたわ♪」

ニッカネン「私の方では、イタリア人はみんなそうなのだと思っていましたから……」

提督「心外ね……ちゅっ、ちゅるっ……んちゅ……っ♪」

ニッカネン「んっ、れろっ……ちゅむ……っ///」
860 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/01/30(月) 01:56:59.92 ID:a/oBWygb0
提督「……あむっ、ちゅぅ……っ、ちゅ……♪」

ニッカネン「はふっ、ふぁ……んちゅ……っ///」

…そっと花びらに触れるような控え目な口づけから、次第にじっくりと甘いキスへ変わっていく二人……口中でお互いの舌が絡み合い、コケモモの甘酸っぱい残り香とウォッカの火照りが提督をくらくらさせる…

提督「んんぅ、ちゅるっ……じゅるぅぅ……っ♪」

ニッカネン「ん、んっ、んん……っ///」

提督「ちゅむっ、ちゅる……んちゅ、ちゅぅぅ……っ♪」

ニッカネン「んくっ……ふ……んん……っ///」

提督「ちゅむ、ちゅるぅ……っ……ぷはぁ♪」

ニッカネン「ぷはっ……はぁ、はぁ、はぁ……っ///」

…ニッカネンの口中を舌でなぞり、ついばみ、吸い上げるようにして息が切れるまでキスを交わした提督……さすがに息苦しくなって口を離すと、プールから上がってきたかのように大きく息を吸い込んだ……同じようにニッカネンもすっかり息を切らし、大きく胸を上下させている…

ニッカネン「……はぁ、はぁ……こんなに……長いキスは……はぁ、ふぅ……初めてです……///」

提督「長さよりも、クリスティーナが気持ち良かったのなら嬉しいわ……?」

ニッカネン「ええ……気持ち……よかったです///」

提督「よかった……でも、まだまだこれからよ♪」

…室内をほんのりと照らす程度まで光量を下げてある照明の中で、ニッカネンと向かい合って互いの着衣を脱がしていく……互いに礼装の下に着ていたワイシャツを脱がせあうと、ニッカネンは提督の肌を引き立てる黒レースの薔薇模様が入ったランジェリー、提督はニッカネンが身に付けているすっきりしたライトグレイの下着に手を伸ばした…

提督「綺麗よ、クリスティーナ……♪」

ニッカネン「……こんな風に見つめられる機会はあまりなかったので、少し恥ずかしいですね///」

提督「そう? 白くて形も整っていて、とっても素敵よ?」

ニッカネン「それを言ったらフランチェスカの乳房の方が、大きくて丸みを帯びていて綺麗です……張りもありますし……」

…そう言いながら提督のブラジャーを外そうとするが、ホックに苦戦気味のニッカネン……自分のブラなら何となく手が馴染んでいるが、相手の脇から背中へと腕を回して、見ないでホックを外すのは意外と難しい……そんなニッカネンの様子を見た提督は、口の端にえくぼを浮かべて微笑むと、ニッカネンの右手を取ってブラの下へと滑り込ませた…

提督「外さなくたっていいわ……ね?」

ニッカネン「あっ///」

提督「ほら、遠慮しないで……?」

ニッカネン「わ……柔らかいのにずっしりしていて……///」もみっ、ふにゅ……♪

提督「クリスティーナのはしっかりしていて引き締まっているわね♪」むにゅ…っ♪

ニッカネン「なんとも言いようのない柔らかさです……それに肌ももっちりしていて、吸い付くようですね……///」ニッカネンのひんやりした指がブラの下に這い込み、提督の乳房を遠慮がちに揉んでいく……

提督「ふふふっ、もっと思いっきりどうぞ……♪」

ニッカネン「わっ……///」たゆんっ♪

…提督はずっしりした胸の谷間にニッカネンの顔を埋めさせた……どうにか右手だけでブラのホックを外すと後ろ手に放り出し、左手でニッカネンの後頭部を優しく撫でながら胸に押しつけ、さらにはむっちりした太ももでニッカネンのきゃしゃな腰を挟みこむ…

提督「クリスティーナ……れろっ♪」

ニッカネン「んぅっ///」

…ニッカネンの耳元で名前をささやき、それから吸い付くように耳を舐めてから「ふーっ」と息を吹きかける……ニッカネンはぞくぞくするような刺激に思わず身震いしながらも提督の谷間を舐めたり、細い指で張りのあるヒップを撫でたりし始めた…

提督「れろっ、ちゅる……ぴちゃ♪」ニッカネンの肉の薄い鎖骨まわりに舌を這わせ、次第に頭を胸元へと動かしていく……

ニッカネン「ぷは……ぁ♪」提督の胸の谷間から顔を上げると、すっかり上気した表情で息継ぎをする……

提督「うふふっ……気に入った?」

ニッカネン「はい、こんなのは初めてですが……癖になりそうです///」まだまだ恥ずかしげにしているが視線は提督のずっしりした乳房や甘い表情にくぎ付けで、表情の乏しい顔にも少し甘ったるいものが交じり始めた……

提督「よかった♪」そう言うといたずらっぽい笑みを浮かべ、ニッカネンの控え目な乳房に舌を這わせた……

ニッカネン「あ、あ、あっ……///」

提督「んふふっ、ちゅぅ……ぅっ♪」乳房を優しく舐めたり先端に吸い付いたりしながら、両手でニッカネンの背中や脇腹を優しく愛撫する……

ニッカネン「あふっ、ふぁ……あっ、あ……///」

提督「ふふふ……っ♪」提督の金色をした瞳にとろりとみだらな光がきらめき、綺麗な指が徐々に下半身へと下っていく……
861 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/02/07(火) 01:55:40.39 ID:u9v+bFJs0
提督「んちゅ、ちゅ……っ♪」

ニッカネン「ん、ん、んんっ……///」くちゅくちゅっ……ちゅぷっ♪

…舌を絡めてゆっくりとキスをしながら、ニッカネンの秘部にするりと指を滑り込ませる提督……始めは驚いたように小さく引きつったニッカネンの身体だったが、しばらく動かさずにいると次第に緊張がほぐれてきた……提督はそれを確かめてから、暖かく濡れた花芯を優しくかき回した…

提督「れろっ、ちゅく……ちゅぱ……っ♪」

ニッカネン「んぁぁ……あ、あ、あっ///」

提督「ふふ……そんなに悦んでもらえると張り合いがあるわね♪」くちゅくちゅっ、にちゅっ……ちゅぷっ♪

ニッカネン「あぁぁ…っ/// あ、あ……っ///」

提督「……ねぇ、クリスティーナ?」

ニッカネン「ふぁ、ふぁい……///」

提督「私にも……お願い♪」ちゅく……っ♪

…提督はニッカネンの白くひんやりした手に自分の手を重ね、そのまま下腹部へと指を導いた……粘っこい水音がしてニッカネンの指が膣内へと入ってくると、熱を帯びた花芯に冷たい指と第二関節の固い感触が伝わってくる…

ニッカネン「あ…フランチェスカのここ……暖かい……///」くちゅ……っ♪

提督「クリスティーナ……んっ♪」

ニッカネン「ど、どうでしょう……か///」

提督「ふふふっ……そんなに遠慮がちにしなくても大丈夫よ♪」耳元でささやきながらニッカネンのぎこちない指を誘導する……

…しばらくして・深夜…

ニッカネン「んあぁっ、あっ、ふあぁぁ……っ///」

提督「んんんっ、あ、あっ……♪」

ニッカネン「はひっ、ひぅっ、はっ、はぁ……っ♪」とろっ、にちゅ…♪

提督「クリスティーナ……イって良いのよ♪」くちゅくちゅっ……ちゅぷっ♪

ニッカネン「ふあぁぁ……っ♪」とろっ……ぷしゃぁ……っ♪

提督「んんんっ、あ、あっ……んぅぅっ♪」くちゅっ、とぽ……っ♪

…ニッカネンが打ち上げられた魚のようにびくびくと跳ねてとろりと愛蜜をこぼし、その勢いで提督の花芯をかき回していた二本の指が奥を激しくえぐった……ニッカネンを抱きとめるようにしながらも、思わず甘い嬌声をあげる提督…

ニッカネン「はぁ、はぁ……///」

提督「ん、ちゅっ……れろっ♪」口の端から垂れた唾液をすくい上げるように舐めた……

…さらに数時間後…

ニッカネン「ふあぁぁっ、あんっ、ああ……っ///」

提督「あんっ、あふ……っ、はひっ……んあぁぁっ♪」

…ニッカネンの指遣いはまだぎこちないものの、逆にその初々しさと骨ばった感触が新鮮な提督……暖房が効いた暖かい部屋とはいえ、掛けてあった布団をはねのけてしっとりと汗ばんだ身体を重ね、互いに蜜の糸を引いた指をゆっくりと引き抜くとべとべとになった手をヒップに這わせ、濡れた花芯を重ね合わせた…

ニッカネン「はひっ、あふっ、ああぁ……っ♪」くちゅ…ぬちゅっ♪

提督「んっ、ん……あふっ…あぁん……っ♪」にちゅっ、くちゅ……♪

ニッカネン「はひっ、ひぅ……はっ、はっ……ふあぁぁっ♪」

提督「あっ、ふあぁ……あん……っ♪」

…夜明け前…

ニッカネン「はぁ……///」

提督「ふふ……♪」

…冬の北欧は夜明けが遅く、カーテンの外もまだ真っ暗闇ではあるが、ベッド脇の時計で光る夜光文字はすでに0500時近くを指している……提督はニッカネンを優しく愛撫しながら、ベッドの上で甘い余韻に浸っている……一方のニッカネンはくたびれきった様子だが、提督の肩に手を当て、甘えるように身体を寄せている…

ニッカネン「……せっかくですし、コーヒーでも淹れましょうか」

提督「いいわね……ついでにシャワーでも浴びたいわ♪」

ニッカネン「そうですね。このまま今日の会議に出るわけには行かないですし……///」

提督「ふふっ……こんな風にふとももまでべとべとにして会議に出たら私たちのお付き合いがバレちゃうものね? それともいっそのことそうしちゃおうかしら♪」冗談めかしてウィンクを投げる……

ニッカネン「もう、フランチェスカ……///」

提督「冗談よ♪」ちゅっ……♪
862 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/02/14(火) 01:03:58.41 ID:kgOA7nhU0
…0600時ごろ…

フェリーチェ「……お帰りなさい、フランチェスカ。どうやら二日酔いの薬は飲み忘れなかったようね」

提督「おはよう、ミカエラ……ええ、ちゃんと水も飲んだし、シャワーも浴びてきたわ」

フェリーチェ「そう、ならいいわ。昨日は事前の予想よりも話が上手くまとまったから今日の会議は午後から……それもあんまり議題がないし、寝ぼけていてもどうにかなるとは思っていたけれど……その調子なら大丈夫そうね」

提督「そこまで考えていたの?」

フェリーチェ「一応はね……はい、コーヒーと新聞」

…イタリアと違ってエスプレッソやカフェ・ラテといった多彩な飲み方はないが、ルームサービスが持ってきたポットのコーヒーはフィンランド人秘伝のレシピでもあるのか不思議とおいしい……砂糖少しとミルクを入れてカップを両手で包み込むようにしながら、ゆっくりすする提督…

提督「グラツィエ」コーヒーで身体が暖まると、今度は新聞に取りかかった…

フェリーチェ「……うーん」

提督「どうかしたの?」

フェリーチェ「ああ、いえ……なんでもないわ」ラップトップコンピュータを開いて難しい顔をしているフェリーチェ……

提督「そう?」

フェリーチェ「ええ。今日の会議でどんな話題が出て、どういう風に返せばいいか……その想定問答を考えているだけよ」

提督「そうね……昨日だけでよーく分かったけれど、スカンジナヴィア三国や東欧諸国とロシアの険悪さはなかなか解消できないものね」

フェリーチェ「たとえ「深海棲艦」なんていう共通の問題があってもね……まあ、そのことで頭を悩ませるのは私の仕事。フランチェスカはうまく双方の間を取り持ってくれればいいわ……貴女の「華麗な女性関係」から考えても修羅場には慣れているでしょうし、ね」

提督「まさか。私はそういうのが苦手だから修羅場は作らないようにしてきたのよ?」

フェリーチェ「そうかしら。確か六年前の七月、日曜日だったわね……貴女がとある測量部の大尉と昼からいちゃついているところに、前夜に忘れ物をした通信隊の少佐が戻ってきたことがあったはずよ? その時は修羅場じゃなかったのかしら?」

提督「……何で知ってるの」

フェリーチェ「海軍情報部大尉ともなると、いろんな噂が耳に入るのよ」

提督「あー……でも結局はそのあと三人で「仲直り」したし、どうにかなったわよ?」

フェリーチェ「……とにかく、貴女は釜が沸き立ちそうになった時の「差し水」になってくれればそれでいいわ」

提督「大変そうだけれど、まぁやってみるわね……数字や資料の援護射撃はお願いするわ、ミカエラ」

フェリーチェ「ええ」

………



…お昼前…

提督「……そうえいば、今日は聖ルチア祭ね。うちの鎮守府で飼っている犬は「ルチア」っていう名前だから、名前の聖人の日でお祝いをしているはずよ」

フェリーチェ「ルチアね、良い名前じゃない」

提督「ええ。真っ白な大型の雑種犬で賢いし可愛いの……せっかくだから鎮守府に電話でもしてみようかしら♪」

フェリーチェ「それがいいわ。それに公務での出張だから、国際電話の通話料は官費よ?」

提督「もう、たかだか電話の一本でそこまで言わないわよ……官費を申請したらしたで、どうせ書類を山ほど書かなきゃいけなくなるでしょうし、その方が面倒だわ」そう言うと手のひらを上に向け、肩をすくめる……

フェリーチェ「よく分かっているじゃない。 それじゃあ邪魔しないよう、私は隣にいるわ」

提督「お気遣いありがと、ミカエラ……でも聞かれても困るような話題はないし、一緒にいてくれてもいいのに?」

フェリーチェ「そういうのは余人を交えず、身内同士で話す方が楽しいものよ……電話が終わったら言ってちょうだい」

提督「そうするわ」


863 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/02/20(月) 00:40:10.68 ID:eYuXb+Wv0
…同じ頃・鎮守府…

ルチア「ワンワンッ!」

リベッチオ「ほーら、追いついてごらん!」

…冬の風にも負けず、鎮守府の庭を駆け回っているルチアと「リベッチオ」を始めとする活発な駆逐艦たち……そこへアッチアイーオがやって来て呼びかけた…

アッチアイーオ「リベッチオ。そろそろ準備に入るから、ルチアとじゃれるのはおしまいにしなさいよ」

リベッチオ「えー? ルチアだってもっと遊びたいよね?」

ルチア「ハッハッハッ……♪」

アッチアイーオ「もう、どっちが犬だか分かりゃしないわね……」

………

…しばらくして・大浴場…

チェザーレ「よーし、それでは諸君にも手伝ってもらわねばな」

ニコ(ニコロソ・ダ・レッコ)「分かってるよ」

チェザーレ「結構……さぁルチア、こちらに来なさい」

ルチア「ワフッ」

…急に飛び出したり危ない物に触れたりしないようにと「待て」や「お座り」程度はきちんとできるようしつけられているルチアではあるが、さっきまで庭を駆け回り、古いロープの切れ端を骨のような形に結んだおもちゃを振り回していた興奮冷めやらない状態ではなかなか落ち着かない……首輪にリードを付けて馬を抑えるように「どうどう」と軽く引くと、ようやく跳ね回るのを止めて「ハッハッハッ……」と舌を出して床に伏せた…

チェザーレ「やれやれ、またずいぶんと泥だらけであるな……ごちそうを食べる前にきっちり綺麗にせねばな」

ルチア「ワンッ……!」

チェザーレ「よーしよし、いい娘だ……お前は風呂が好きなようで助かるぞ」浴用に使っているトーガをまとい、こだわりのある髪もアップにまとめて態勢を整えているチェザーレ……

カヴール「ふふ、そうねぇ♪」

…大浴場の片隅にある流し場の一つを使って、ルチアを洗うチェザーレたち……土ぼこりをかぶって薄い砂色になっているルチアの身体へぬるま湯にしたシャワーをかけ、それから赤ちゃん用の低刺激シャンプーを泡立てて塗りつける…

アッチアイーオ「まるで大きなデコレーションケーキね」

チェザーレ「全くだ……顔は嫌だろうからな、濡れタオルで拭いてやってくれぬか」胴を抱えるようにしながらゴシゴシと洗っていく……

アッチアイーオ「了解」

ルチア「ワフッ、フガ……ッ」すっと伸びたマズル(鼻)にタオルがあてがわれ顔や耳を拭かれている間、くしゃみが出そうになった人のような声を出すルチア……

ニコ「もう少しだからね、そのまま……そのまま……」

アッチアイーオ「……チェザーレ、もういいんじゃない?」

チェザーレ「待て待て、ここの毛がまだ整っておらぬから……」髪の手入れにはうるさいチェザーレだけあって、洗い残しやシャンプーの泡を流しそこねた部分がないか念入りに確かめる……

カヴール「もういいでしょう? ジューリオ?」

チェザーレ「ふむ、まだ少し気になるが……まぁよかろう」

ルチア「ワン、ワンッ!」手を離すと飛び出して行きそうなルチアをしっかりと押さえ、大浴場の入り口に待ち構えていた数人が専用の古タオルで包み込んで拭き始める……

ルチア「ワフ……ッ」

…ドライヤーの音があまり好きではないルチアのために、わしゃわしゃとタオルでよく拭いてやり、ついでにブラッシングもしてあげるチェザーレたち……ルチア自身がバタバタと身体を揺すって残った雫を振り払っている間にも純白の毛が撫でつけられ、次第に乾いてふんわりとした具合になってくる…

………



…しばらくして…

ムツィオ「ずいぶんと綺麗になったわね」

カヴール「そうですね」

チェザーレ「これならば充分であろう……さ、参ろうか」

ルチア「ワフッ♪」

864 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/02/20(月) 01:17:05.72 ID:eYuXb+Wv0
…食堂…

トレント「あ、来た来た」

アッチアイーオ「待ちくたびれたわよ」

チェザーレ「うむ、あい済まぬ。だが毛並みを整えてやる必要があったものでな……」

…シャンプーが終わったのを確認してから食堂へ向かったアッチアイーオだったが、髪にうるさいチェザーレがルチアのブラッシングに時間をかけたので愚痴をこぼした……

デルフィーノ「アッチアイーオ、そう言わないであげよう?」

アッチアイーオ「それもそうね。 じゃあアトロポ、お願い」

アトロポ「ええ……さぁさぁ、主賓にはこれをつけてあげないと♪」

…糸や針の扱いが上手いアトロポ(アトロポス)が端切れで作った赤い前掛けをルチアの首に回し、後ろで軽く結んだ……ルチアも気になる様子で匂いを嗅いだり舌を伸ばしてみたりはするが、嫌がる様子はない…

アッチアイーオ「さてと、それじゃあ聖ルチア祭のお祝いを始めましょう……乾杯!」

一同「「乾杯」」

ディアナ「ルチア。今日はあなたが主賓ですし、ごちそうもうんとありますからね」

ルチア「ワンッ!」

…食堂の長テーブルを囲んだ一同には牛もも肉のロースト、それに保存用しておいた乾燥トマトに残る風味が夏を思い起こさせる「パスタ・アラビアータ」それにクリスマスまでの一ヶ月間、自由に食べられるようにとたくさん焼いてある「パン・ドーロ(黄金のパン)」や果物入りドライケーキの類…飲み物は温めた果汁入りのグリューワインやミルクと砂糖入りのブランデー、サンブーカ(リキュール入りコーヒー)といった、身体の内側から暖まるような飲み物が並ぶ…

ジャンティーナ「美味しいですね……ぇ♪」

フルット「同感です」

ディアナ「はい、あなたの分ですよ。召し上がれ♪」

…主賓のルチアには味付けなしの牛すじ肉と、小腸のようなもつの部分をニンジンやジャガイモと一緒に煮込んだものや、肉の切れ端の部分を焼いたステーキ、また同じように切れ端の部分や古くなってしまったモッツァレラやカチョ・カバッロ、あるいはゴルゴンゾーラ・チーズを載せて焼いた小ぶりなピッツァをえさ皿に載せて仰々しく出した……ディアナが皿を置くまでの間、ルチアはよだれを垂らして尻尾を振っていたが「よし」の声を聞くやいなや勢いよくがっつき始めた…

ドリア「まぁまぁ、そんなに勢いよく食べて……」上品に料理を味わいながら「まるで普段は食べさせていないみたいですね」と、思わず苦笑するアンドレア・ドリア……

レモ「これ……美味しい……っ」

ロモロ「はぐっ、むしゃ……ね、とっても美味しい……ごくんっ」

アッチアイーオ「相変わらず食べ方が汚いんだから……ほら、ソースが付いてる」

レモ「ん、ありがと」

アッチアイーオ「当然でしょ? 提督が留守の間は私がしっかりしていなきゃいけないんだから」

チェザーレ「はは、アッチアイーオも貫禄が付いてきたようであるな」

アッチアイーオ「そりゃあ、提督がいないんだもの……///」

エウジェニオ「まあ、いつもはあんなにつっけんどんなのに照れちゃって……可愛い♪」

アッチアイーオ「う……うるさいわねっ、黙って食べてなさいよ///」

エウジェニオ「ふふふっ、そうさせてもらうわ♪ ジュゼッペ、もう一杯注いでくれる?」

ガリバルディ「ああ。しかし色白なところに赤みが差して、とても魅力的だ……食後に頂きたくなるね♪」

エウジェニオ「まぁ、ふふ……っ♪」

バリラ「さぁさぁ、食べたいものがあったらよそってあげますからね?」

フィザレア「ありがとう、マンマ(お母さん)」

バリラ「もう、私はお母さんじゃあありませんよ」旧式の大型潜「バリラ」級はほとんどが戦時中に解役されて燃料タンクとなっていたためか、潜水艦隊のいいお母さん役を担っている……

アルキメーデ「マンマ、こっちにもお代わりをもらえる?」

バリラ「もう……はいはい♪」

865 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/02/27(月) 02:25:45.12 ID:+e+6lu3F0
…食後…

ポーラ「ザラ姉様ぁ、もう一杯注いで下さい♪」

ザラ「はい……それじゃあポーラ、私にも何かカクテルを作ってくれる?」

ポーラ「はぁ〜い♪」

…親しげに暖炉の火が燃える食堂で聖ルチアのお祝いを済ませると「主賓」のルチアは満足して暖炉の前に敷かれた絨毯の上に寝そべり、当直のない艦娘たちは食後のドルチェやコーヒー、あるいは軽いカクテルをお供に楽しいおしゃべりを始めた…

カヴール「ポーラ、私にも何か作ってくださいな。さっぱりしたのが飲みたいですね」

ポーラ「いいですよぉ〜」

…ザラに代わってバーカウンターの内側に入るとリキュールの棚を眺め、それからグラスとシェーカーを取ったポーラ……それから規則正しい音を響かせるとグラスに綺麗な紅色をしたカクテルを注いだ…

ポーラ「どうぞ「シー・ブリーズ(海の微風)」のシェイクです♪」

カヴール「まぁ、ルビー色の綺麗なカクテルですね」

ポーラ「召し上がれ〜♪」

カヴール「あら、爽やかで美味しい……暖炉の火で火照っていたところですから、ちょうどいいですね♪」ウォッカとクランベリージュース、グレープフルーツジュースのさっぱりしたカクテルを味わいながら、片手で小さく扇ぐ真似をしてみせた……

ザラ「こっちのも美味しいわよ、ポーラ」

…乾杯の時に開けたスプマンテのお余りと、イチゴのピューレを合わせてフルートグラス(丈の長いシャンパングラス)にそっと注ぎ込む「ロッシーニ」を味わっている……と、食堂の壁掛け電話が「ジリリリン……ッ!」と鳴り始めた…

ザラ「こういう満ち足りて動きたくない時に限って電話って鳴るのよね……もしもし?」

提督の声「プロント(もしもし)、ザラ? 私だけれど聞こえるかしら?」

ザラ「あぁ、提督……どうかしたの?」

提督「いえ、ちょっと時間があるから皆はどうしているかしらと思って……それに今日は聖ルチア祭の日でしょう? ルチアは元気?」

ザラ「ええ。ディアナの作ったごちそうを食べて、今はご機嫌で暖炉の前に寝そべっているわ……提督は?」

提督「おかげさまで会議はどうにかなりそうよ。てっきり白髪のお婆さんになるまで帰れないと思っていたのだけれど……」

ザラ「そうならなくて良かったわね」

提督「ええ。ところで、良かったら皆の様子を動画にでも撮って送ってもらえないかしら? ミカエラに言わせると、鎮守府のビデオカメラで撮影して、コンピュータにデータを送ればメールに添付できるそうだから」

ザラ「いいけど、私はあんまりそういうのは得意じゃないから……天才のレオナルドにでもやらせてみましょうか」

提督「そうね」

ザラ「分かったわ、それじゃあ電話は他の皆に代わってもらって……レオナルドは?」

ガリレオ・ガリレイ「ダ・ヴィンチなら自室に戻っているはずよ」

ザラ「分かったわ、それじゃあ呼んでくるわ……ライモンド、愛しの提督から電話よ。 良かったら代わってちょうだい?」

ライモン「……そういうのはやめてください///」

ザラ「悪かったわ、とにかく代わってちょうだいよ……他にも話したい娘はいるんだから、独り占めしないようにね♪」グラスの残りをぐっと空けると、ラッパ型の受話器を押しつけた……

ライモン「も、もう……代わりました、わたしです///」

提督「あら、ライモン♪ ご機嫌いかが?」

ライモン「はい、わたしは元気ですよ。 提督はいかがですか?」

提督「そうねぇ……礼装は堅苦しくて居心地が悪いし、会議の後の立食パーティでは乾杯続きで飲み過ぎるし、空気が乾いているから喉はひりひりするし、隣にライモンもいないし……ヘルシンキは素敵な街だけれど、今は早く帰りたいわ」

ライモン「ふふっ、もう……♪」

提督「ふふふっ……まぁ、あと数日もしないうちに帰国できるし、そのあとはクリスマス休暇が待っていると思えば何てこともないわね♪」

ライモン「その意気ですよ、提督♪」

提督「ええ。お土産もたっぷり買って帰るつもりだから、それだけは期待しておいてくれていいわ」

ライモン「はい。 でも、一番のお土産は提督が元気に帰ってきてくれることです///」

提督「まぁ、ふふ……ライモンも最近は上手になったわね♪」

ライモン「……独り占めは良くないですし、他の人に代わりますね///」

提督「ええ、それじゃあね……♪」
866 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/03/05(日) 01:46:29.30 ID:kPBcFmMN0
…しばらくして…

提督「……ええ、帰ったらうんと甘やかしてあげるわね♪」

提督「もう、そんなにつれないことを言わないの……それじゃあね、アッチアイーオ……チャオ♪」

フェリーチェ「……そろそろいいかしら?」

提督「ええ。声も聞けたし、鎮守府のコンピュータを使って映像も送ってもらったわ……みんな楽しそうで良かったわ」

フェリーチェ「良かったわね……さ、そろそろ支度をしないと」

提督「ええ、あとは上着を着れば準備完了よ♪」

フェリーチェ「結構」

………



…会議場…

ニッカネン「あ、カンピオーニ少将、フェリーチェ大尉……どうぞこちらへ」

提督「ええ♪」

フェリーチェ「グラツィエ……それと私からもお礼を。少佐の提供してくれた資料のおかげで作業がはかどりました」

ニッカネン「こちらこそ……こちらも懸案の課題が片付きそうですし、ほっとしています」

…会議の場に集まっている各国士官たちも、議題がある程度片付いたことから「雪解け」とまでは行かないがいくらか和やかな様子で、初日ほどのピリピリした雰囲気はなくなっている……もっとも、何人かはフィンランドの強いお酒が効いてしまったのか、げんなりした様子で椅子に座り込んでいる……その点、提督とフェリーチェは「オブザーバー」ということで、0940時から始まった会議は昼休憩の後まで出なくてもいいよう取り計らってもらっていた…

ニッカネン「では、どうぞお席へ」

提督「ええ……っと、失礼しました」

…提督が席に着こうと会議場を歩いていると、横合いから出てきたロシア海軍の女性将官とぶつかりそうになった……長身の提督とも遜色がないロシアの少将だが、提督のきらきらした金色の瞳とは対照的にその瞳は冷え切った薄いブルーグレイで、寒々しい極北の冬を思わせる…

ロシア女性将官「いや、大丈夫だ」

提督「それなら良かったです、あー……」

ニッカネン「……アドミラル・カンピオーニ、こちらはロシア連邦海軍のクズネツォワ少将。クズネツォワ少将、こちらはイタリア共和国海軍のカンピオーニ少将」

ロシア女性将官「初めまして、アドミラル・カンピオーニ」

提督「こちらこそ。アドミラル・クズネツォワ」儀礼的な握手を交わしたが、クズネツォワの考えが読めない瞳に困惑気味な提督……

クズネツォワ「ああ……では失礼」

提督「……」

…提督はクズネツォワが立ち去ると、握手を交わした手をしげしげと眺めた……まるで何かを隠すように軽く触れあわせるだけの握手だったが、その手は骨ばっていて力強く、何か冷たい気迫のようなものが伝わってきた気がした…

ニッカネン「……どうかしましたか?」

提督「ああ、いえ……なんでもありません」

ニッカネン「そうですか?」

提督「ええ」

ニッカネン「フランチェスカ……彼女のことを考えているのなら、気を付けた方が良いですよ? あまり詳しいことは言えませんが、色々と暗い噂も多いですから……」誰にも聞こえないよう、提督の耳元に唇を寄せてささやいた……

提督「あら、私だってそう誰でも見境なしに抱くわけじゃないわ……クリスティーナ」ニッカネンがしたように耳元へ顔を寄せ、いたずらっぽくささやいた……

ニッカネン「///」

提督「……でも、ご忠告ありがとう」

ニッカネン「いえ……///」

提督「うふふっ、それじゃあ本日もよろしくお願いします♪」

ニッカネン「え、ええ……」

フェリーチェ「……」数歩離れた場所に立って、我関せずと言った表情をしている……

867 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/03/11(土) 01:58:42.89 ID:IZkmBJHT0
司会「では、皆様も席に着かれたようですので会議を再開いたしたいと思います」

提督「……昨日よりは人が増えたわね」

フェリーチェ「今日の会議は昨日まとまった内容の説明も兼ねているから、地元のフィンランド国防省を始め各国の大使館からもお役人が来ているわ……ニッカネン少佐の隣に座っているのがフィンランド国防省で外務の調整を行う担当課長、その隣がフィンランド外務省のお役人。それからロシアも大使館から何人か来ているわね……」


…提督もこれまでに何回か舌を巻いた経験があるが、フェリーチェはその任務上から何人もの顔と特徴を覚えていて、その情報を小声で教えてくれる…


フェリーチェ「あの恰幅の良い丸顔はロシア大使館付きの海軍武官をやっているニコノフ大佐だけれど、あれはウォッカ浸りでただのお飾りだから気にしないで良いわ……それよりも後ろの席に腰かけている眼鏡、あれがくせ者のヴァシリーエフ少佐だから注意するようにね。聞いていないふりをして耳をそばだてているから、彼の近くではうっかりしたことをいわないように」

提督「ええ」

フェリーチェ「フランチェスカは聞き分けが良いから助かるわ」

提督「ふふっ、ありがとう♪」口元を手で隠し、耳元でささやいた……

司会「それでは、ニッカネン少佐から説明を……」

…休憩時間…

提督「ふぅ、これでだいたいの説明は終わったわね」

フェリーチェ「そうね……フランチェスカ、貴女にお客様よ」

提督「え?」

ニッカネン「カンピオーニ少将、フェリーチェ大尉……お二人ともお疲れさまでした」

提督「いえ、とんでもない。ニッカネン少佐こそあれこれ質問されて大変でしたね」

ニッカネン「まあ、いつものことですから……少将も経験があるのでは?」

提督「ええ、ローマのスーペルマリーナ(海軍最高司令部)にいた頃はしばしばでした♪」

ニッカネン「そうでしょうね……♪」

…どの国でもあまり変わらない、役人や「エライ人」へ説明する時に経験する苦労のあれこれに共感して、思わず苦笑いを浮かべる提督とニッカネン……と、そこへロシア海軍のクズネツォワ少将が副官の女性士官を連れて近寄ってきた…

クズネツォワ「……役人への説明は疲れるものだな」

提督「そうですね」

ニッカネン「……失礼、私は国防省の役人に渡さなければならない書類があるので……それではまた明日。カンピオーニ少将、クズネツォワ少将」

提督「はい、また明日」

クズネツォワ「ダスヴィダーニャ(さようなら)」

…ニッカネンが立ち去るのを見送ると、クズネツォワが提督の方を向いて視線を合わせてきた…

提督「……どうかされましたか?」

クズネツォワ「いや。単にコーヒーを取りに来ただけだ……」

提督「ああ……はい、どうぞ♪」コーヒーのポットやちょっとした菓子が置いてあるテーブルのすぐ脇に立っていたので、コーヒーカップを渡した……

クズネツォワ「スパシーバ(ありがとう)」

提督「どういたしまして……クズネツォワ少将、そちらの方は?」

クズネツォワ「ああ、彼女か……私の副官をしている、マリア・エカテリーナ・カサトノヴァ少佐だ」

カサトノヴァ「……どうぞお見知りおきを、カンピオーニ少将」

提督「こちらこそ♪」

…端正な顔立ちに淡いブルーの瞳、冬の陽光のような淡い金髪が合わさって、目立たずきっちりと職務をこなす、いかにも副官らしい副官といった雰囲気のカサトノヴァ……その綺麗な顔立ちもぱっと見ただけではそこまでの印象を残さないが、どうやらあえてそうなるようにメイクや物腰に注意しているらしい……ロシア海軍の黒い制服に身を包み、今日は三つ編みを後頭部に流したハーフアップにしている…

クズネツォワ「ところでカンピオーニ少将、さっきの会議で貴官が言っていた……」

提督「ああ、そのことですか。それなら……」

…コーヒーカップを手にクズネツォワの投げかける質問へ応じる提督と、お互い一歩下がった位置からその様子を黙って見ているフェリーチェとカサトノヴァ…

提督「……ということだと思います」相手が相手だけにしゃべっても大丈夫な情報だけを口にするよう、言葉や内容に注意しながら話す提督……

クズネツォワ「ふむ、なるほど……よく分かった。 では、また後で」

提督「ふぅぅ……」

フェリーチェ「まさか向こうから近づいて来るとはね……それにしてもフランチェスカ、さっきの受け答えは上出来だったわ」

提督「グラツィエ♪」少しおどけた態度で一礼した……
868 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/03/17(金) 01:30:23.91 ID:d8omLR1s0
…夕食会…

ニッカネン「……カンピオーニ少将。会議も無事にまとまったことですし、もう一杯いかがですか?」

提督「ええ。これで明日と明後日の予備日がお休みになるわけですし、それなら多少は過ごしても大丈夫でしょうね……いただきます♪」

ニッカネン「良かった……では、キピス♪」

提督「キピス♪」

…先日の立食パーティはお互いに海軍の「同業者」ということで開かれた内輪のものだったが、この日の夕食会はフィンランドの関連省庁や関係国の大使館員などもいることから一回りぜいたくなものになっていて、美味しいものに目がない提督は太ももが圧迫している礼装のことを気にしながらも、シェフが取り分けてくれる料理のコーナーを前にしてどれを味わうか目移りしていた……幸いにしてニッカネンがあれこれとお勧めのフィンランド料理を教えてくれ、同時にシャンパンやよく冷えたウォッカのグラスも取ってくれる…

ニッカネン「……んくっ」

提督「んっ……」

クズネツォワ「失礼する……おや、アドミラル・カンピオーニ」

提督「ああ、クズネツォワ少将……もしよろしければ、私たちと乾杯しませんか?」ウォッカのグラスを取りに来たクズネツォワに対して何も言わないのも失礼にあたるかと、形ばかり申し出てみる……

クズネツォワ「君たちと? ……そうだな、いいだろう」

提督「……えっ?」

クズネツォワ「何かおかしいか? そちらが誘ったのだと思ったが」

…そもそも長身の提督と並んでも遜色がないほどの身長があるクズネツォワだが、優しげな提督と違って冷厳とした雰囲気をまとっていることもあって、隠しきれない威圧感のようなものがにじみ出ている…

提督「ああ、いえ……では、私が音頭を取りましょうか」

クズネツォワ「そうだな、お願いしよう」

提督「分かりました、それでは……ザ・ズダローヴィエ(健康を祝して)」事前に詰め込んできたロシア語の引き出しから、慌てて乾杯の言葉を引っ張り出した……

クズネツォワ「ザ・ズダローヴィエ!」

ニッカネン「……キピス」

提督「ごくん……っ」思っていたよりも素直に乾杯に応じてきたクズネツォワの意図を考えるあまり、ウォッカの味も分からないままにグラスを干した提督……

クズネツォワ「スパシーバ。ありがとう……アドミラル・カンピオーニはロシア語もできるのか」

提督「いえ、一夜漬けですからほとんど出来ませんよ」思わず苦笑いをしてしまう提督……

クズネツォワ「いや、私はイタリア語などまるで出来ないからな……大したものだ」

提督「恐縮です」

クズネツォワ「なに……ところで向こうにあるピローグ(東欧風パイ)はもう食べたか?」

提督「いえ、まだです」

クズネツォワ「それは良くないな……では一緒に来るといい」ニッカネンから横取りする形で提督の手を取り、別のテーブルへと引っ張っていくクズネツォワ……

提督「あの、クズネツォワ少将……」

クズネツォワ「なにか?」

提督「いえ、私は手を引いていただかなくても大丈夫ですから……」

クズネツォワ「これは失礼した」硬く力強い手を離すとピローグの皿を取って提督に渡した……

提督「では、いただきます……あむっ」

…ずっしりと盛り上がった円盤をケーキのようにカットしてあるピローグはさっくりとしたパイ生地にキノコやタマネギ、ジャガイモなどを詰めてあって、サワークリームやコンソメといった味で仕上げてある……パーティ向けと言うにはすこしボリュームがあるが、オードブルの盛り合わせのようなメニューが並ぶことが多い会場で、終わってから空腹を抱えたままでいることが多かった提督からするとこうした料理はありがたい…

クズネツォワ「それからこれも……シャンパンと一緒にやるといいだろう」

提督「スパシーバ」黒キャビアを小さじでつまみつつ、シャンパンを少しずつ口に含む……

クズネツォワ「どうだ?」

提督「ええ、美味しいです」

クズネツォワ「そうか……」

提督「……あの、クズネツォワ少将?」

クズネツォワ「ユーリアと呼んでくれて結構だ、アドミラル・カンピオーニ」

提督「では、私のこともフランチェスカで構いませんよ……ユーリア」

クズネツォワ「ダー、分かった……フランチェスカ」

提督「ええ」
869 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/03/25(土) 01:15:52.44 ID:+XvZN4+Y0
…パーティを終えて・ホテル…

フェリーチェ「……それじゃあクズネツォワ少将からの夕食のお誘いに応じたわけ?」

提督「ええ。明日の夜に夕食でもいかがですか……って言うから」

フェリーチェ「はぁ、目を離すとすぐにこれなんだから……ロシア海軍の将官と二人っきりで夕食だなんて、後で情報部から何を聞かれるか分かったものじゃないわよ?」

提督「だからってむげに断るのも失礼でしょう?」

フェリーチェ「もう、仕方ないわね……もし事情聴取を受けるような事があったら私に言いなさいよ?」

提督「ええ、ミカエラには感謝しているわ♪」鎮守府の豪華な大浴場とは比ぶべくもないが、ともかく堅苦しい礼装を脱いでホコリを落とし、さっぱりした気分で髪をくしけずりながら、フェリーチェに軽くキスをした……

フェリーチェ「本当に貴女と来たら……ん、ちゅ♪」

提督「ふふっ、こうしていると同棲していた時の事を思い出すわね?」

フェリーチェ「まぁね……フランチェスカはたいていエプロン姿で、ワインとパスタを用意して待っていてくれたわね」

提督「ええ。それでミカエラはたいてい難しい顔をして帰ってきて……でも私の料理を美味しいって喜んでくれたわよね♪」

フェリーチェ「事実だもの。まったく、海軍司令部に入っている食堂もあれくらい美味しい料理を出してくれればいいんだけど」

提督「もう、電子レンジで温めたような出来合いの料理と比較しないで欲しいわ」

フェリーチェ「それもそうね……じゃあ、明日は気を付けて行ってくる事ね」

提督「ええ、迂闊な事を言わないよう気を付けます♪」

…翌日・夕刻…

提督「さてと、髪をとかしたら着替えて……あのクリーム色のセーターで良いわよね」

フェリーチェ「なに、せっかく持ってきたのにカクテルドレスは着ていかないの?」

提督「ええ、クズネツォワ少将いわく「あくまでも会議中のことに関して質問があるだけで、夕食を済ませたらすぐ終わるので普段通りの格好で結構だ」って……」

…提督はフェリーチェに「クズネツォワ少将ったら、まるで絵に描いたように無機質な人みたいね」と肩をすくめ、それでも黒いシルクにレースで薔薇模様をあしらったミラノ製の上等なランジェリーを身に付け、鏡の前でためつすがめつしながらルージュを引き、白粉をはたいてメイクを仕上げている……

フェリーチェ「そう……」

提督「なぁに? 私がマタ=ハリかボンドガールの真似をして情報を引き出せるように、色っぽいカクテルドレスの方がよかった?」冗談めかして、腰に手を当てた色っぽい姿勢を取ってみせる……

フェリーチェ「そうじゃないわ。ただ、私が用意したものを考えるとドレスの方がいいかと思って……」

提督「用意した、って……何を?」

フェリーチェ「これよ……貴女に似合うと思ったから用意したの。良かったら付けてみて?」

…そう言って黒いヴェルヴェットのアクセサリーケースを取り出すと、蓋を開けて提督に差し出した……中には直径十ミリくらいの大きさをした、真珠のイヤリングが対になって収まっている…

提督「あら、素敵なイヤリング……でも残念ね。私、イヤリングの穴を開けたことはないのよ?」

フェリーチェ「もちろんそのくらいは知っているわ。 だからイヤーカフみたいに耳たぶへ挟むタイプにしておいたの……いい?」

提督「ええ」化粧台の前で座りなおすと豊かな髪をかき上げ、フェリーチェがイヤリングを付けやすいようにした……

フェリーチェ「そのままよ、まだ動かないで……どう? 本物じゃなくてイミテーション(模造)の真珠だけど、なかなかいいんじゃないかしら」

提督「そうね、大粒だけれど自己主張し過ぎない程度で……ちょうどいいわ」鏡の前で左右に首を動かし、耳たぶの下で揺れる模造真珠のイヤリングを確かめる……

フェリーチェ「気に入ってもらえたようで良かった。ネックレスは持っているでしょう?」

提督「ええ、銀のネックレスがあるわ」

フェリーチェ「なら首もとは心配ないわね……ふむ、なかなかいいじゃない」

提督「そう?」

フェリーチェ「ええ、決まっているわ」

提督「ミカエラがそう言ってくれるなら成功ね……っと、いけない。もうそろそろ迎えの車が来る時間だわ」身支度を済ませ、ノートや筆記具を入れた小ぶりな黒革のバッグを肩に掛けると、忘れ物がないかさっと見わたした……

フェリーチェ「それじゃあ舞踏会へ行ってらっしゃい、チェネレントラ(シンデレラ)」

提督「ええ、行ってきます♪」

フェリーチェ「気を付けてね」
870 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/04/02(日) 01:33:37.51 ID:9BAJdt4i0
…ホテル前…

カサトノヴァ「お待ちしておりました、アドミラル・カンピオーニ」

提督「あら、カサトノヴァ少佐……貴女が運転を?」

カサトノヴァ「ダー。どうぞお乗りください」

提督「スパシーバ」

…カサトノヴァがロシア大使館ナンバーのついた黒い「メルセデス・S600」のドアを開け、後部座席に座るよううながした……私服に着替えているカサトノヴァだったが、上着の裾が持ち上がった瞬間、提督の目にちらりとマカロフ・ピストルのホルスターが見えた…

提督「……」

カサトノヴァ「……シートベルトはよろしいですか」

提督「ええ」

カサトノヴァ「結構です。では車を出します」

………



…ヘルシンキ市内・高級ロシア料理店…

クズネツォワ「こんばんは、アドミラル・カンピオーニ」

提督「どうも……」

…レストランは暗めの照明と観葉植物でそれぞれのテーブルが隠されたようになっているが、さらに奥の半個室でクズネツォワが待っていた……カサトノヴァに案内されてやって来たテーブルにはぼんやりと残照のような色の光を投げるランプとヴィンテージワインの瓶が置かれていて、提督が腰かけると、クズネツォワが早速グラスにワインを注いだ……

クズネツォワ「ご苦労だった、下がってよろしい」

カサトノヴァ「ダー」

クズネツォワ「……さてと、まずは良く来てくれた」

提督「ええ、聞きたいことがあるという事でしたから……」

クズネツォワ「そうだな。だがまずは一杯付き合ってくれ……ザ・ズダローヴィエ(健康を祝して)」

提督「ザ・ズダローヴィエ」底が読めない相手だけに、控え目にワインを含む提督……

クズネツォワ「聞きたいこともあるが、まずは食べてからにしよう……夕食はまだだろう?」

提督「はい、まだです」

クズネツォワ「結構。勝手に料理を頼んでおいたが、構わないな?」

提督「え、ええ……」

…黒いタートルネックにチャコールグレイのダブルのブレザーを羽織り、提督が食べている様子をじっと観察しているクズネツォワ……彼女自身はときたま精密な動きでナイフを動かし、視線を提督に向けたまま料理を口に運んでいる…

提督「……それで、クズネツォワ少将」

クズネツォワ「ユーリアで結構だ、アドミラル・カンピオーニ」

提督「そうですか、では……ユーリア」

クズネツォワ「何だ?」

提督「いえ、その……私に聞きたいことがあるということでしたが」

クズネツォワ「ダー、その通りだ。 だがさっきも言ったとおり、まずは食べてからにしよう」

提督「そうですね……」

…普段は縁のないお高いレストランにありがちな、大きくて真っ白な皿にソースで点々と色を垂らして縁取りをした料理を口に運ぶ……サーモンの桃色が上品なムースにサワークリームとビーツのコントラストも鮮やかなボルシチ……スメタナ(クリーム)やキャビアを添えた温かいブリヌイ(そば粉のクレープ)に、器の大きさに対して驚くほどボリュームのある濃厚なクリームシチュー……途中で赤ワインのボトルが空になるとクズネツォワはウォッカを頼み、小さいショットグラスを軽く持ち上げると一気に飲み干した…

提督「乾杯」濃厚な味付けの多い料理と、度数は高くても水のように余計な味のないウォッカはなかなか相性が良い……

クズネツォワ「どうだ?」

提督「ええ、美味しいです」少しだけ緊張をほぐしてゆったりと腰かけた提督……

クズネツォワ「ハラショー(結構だ)」
871 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/04/11(火) 01:46:51.66 ID:6mQxCad+0
…食後…

提督「ふー、大変美味しかったです」

クズネツォワ「結構」

…デザートに出されたのは初雪のように粉砂糖がかかったふんわりした揚げパンケーキ「スィールニキ」と、色鮮やかなイチゴの「ヴァレーニエ(シロップ煮)」を添えたもので、サモワール(沸かし器)で淹れた紅茶と一緒に甘い味を楽しみながら、提督は案外くつろいだ気分になっていた…

クズネツォワ「さて……そろそろ食べ終わったかな?」ヴァレーニエを小さじですくって肴にしながら紅茶をすすっていたが、提督がデザートを食べて紅茶を飲み終えたのを見ると、かちゃりとカップを置いて尋ねた……

提督「はい」

クズネツォワ「よろしい……では行こう」

提督「あの、尋ねたいことがあるというお話でしたが……?」

クズネツォワ「アドミラル・カンピオーニ……まさか夕食を済ませたばかりで堅苦しい話もあるまい?」

提督「え、ええ……」

…会計…

クズネツォワ「会計を頼む」

提督「……あ、私の分は払います」さっさと入り口で会計を済ませようとするクズネツォワを引き止めて、あわてて長財布を取り出す提督……

クズネツォワ「待て、私が君を呼んで夕食に付き合わせたのだぞ? 野暮なことを言うな」

提督「いえ……これでも私の立場上、酒食のもてなしを受けてはならないことになっていますから」

クズネツォワ「だが今は軍服を着ていないだろう。任務外で個人と個人が出会って一緒に食事をしただけにすぎない……まとめて頼む」

提督「お気持ちは嬉しいですけれど、そういうわけにはいきません」さすがに「ロシア海軍の将官に夕食をごちそうになって情報部の取り調べ対象になりたくはないので……」とは言えないので、一般論を武器に丁寧な態度で食い下がる提督……

クズネツォワ「もういい、分かったわかった……別会計にしてくれ」

提督「スパシーバ。 あ、領収書をお願いします」

…ローマやパリの偉そうなビストロやリストランテと同じようにゼロが一桁多い金額を見て、美味しい食事とデザートで得たご機嫌な気分も少し色あせてしまったが、領収書をもらって少し安心した提督……コートや革手袋、毛皮帽を受け取るときっちり身に付けて、クズネツォワと一緒に店を出た……店の入り口ではカサトノヴァ少佐がメルセデスで待っていて、さっとドアを開けた…

クズネツォワ「……ご苦労、マリア・エカテリーナ」

カサトノヴァ「はっ……どうぞお乗りください、アドミラル・カンピオーニ」

提督「ええ、ありがとう」

…ヘルシンキ中心街・高級ホテル…

カサトノヴァ「……着きました、少将」

クズネツォワ「ああ、ご苦労だった。大使館に車を戻したら帰ってよろしい」

カサトノヴァ「はい」

提督「えっ……?」

クズネツォワ「何かおかしいか、アドミラル・カンピオーニ? これから部屋で話をするというのに、少佐をいつまでも待たせたままにしておくわけにもいかないだろう」

提督「いえ、それはそうですが……」

クズネツォワ「ならどうしてそんなに驚いたような声を出したのだ? 別に人跡未踏の地ではないのだ、帰る時になったらタクシーでも呼べばいい」

提督「ええ、そうします」

クズネツォワ「さ、いつまでも外にいては冷えてしまう……中に入ろう」

…スイートルーム…

クズネツォワ「さて、では話をする前に……何か飲み物がなくてはな」ルームサービスで氷の詰まったアイスペールを持ってこさせると、ロングコートのどこかからとり出した「ストリーチナヤ」ウォッカの瓶を突っ込み、グラスを二つ置いた……

クズネツォワ「これでよし。さて、それでだが……」

提督「ええ……」

…飲み過ぎないよう注意はしていたものの、すでにいくらか酔いが回ってふわふわした気分になり始めている提督……それとは対照的にクズネツォワは顔色一つ変わっておらず、テーブルに会議の資料や地図を広げると、単刀直入な言葉遣いで疑問点やあいまいな部分を問い詰める……提督も余計な事は言わないようにと気を付けながら説明するが、士官学校で口頭試問を行う教官のような勢いで矢継ぎ早に質問を浴びせられると、ついぽろりと本音がこぼれたり、うっかり感想を述べてしまったりする…

クズネツォワ「……ふむ、なるほど」

提督「もう大丈夫ですか?」尋問のようなやり取りが済んで、思わず肩の力を抜いた提督……

クズネツォワ「ダー、納得がいった……感謝する」そう言って二つのグラスにウォッカを満たすと、片方を提督に握らせた……

提督「お役に立てて良かったです……」
872 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/04/20(木) 00:51:27.25 ID:j4NiNM1J0
…しばらくして…

提督「それでは、私はこの辺で……」

…まるで流氷のように冷たい「ストリーチナヤ」をグラスに注がれ、クズネツォワの冷たい瞳に見据えられていることもあって、二杯ほどウォッカを喉に流し込んだ提督……ちらりとクロノグラフ(腕時計)を見ると、立ち上がって辞去しようとした…

クズネツォワ「おや、もうそんな時間か……とはいえ帰るには少々遅い時刻だ。 幸い、寝室にはベッドが二つあるし、今夜はここに泊まっていったらどうだ?」

提督「ご厚意はありがたいですが……明日もあることですし、タクシーでも呼んで帰ることにします」

クズネツォワ「そうか。 だがここはモスクワやニューヨークのような大都会ではないのだ。当たり前のフィンランド人ならきっとベッドに潜り込んでいるか、さもなければコスケンコルヴァでもがぶ飲みしている時間だろう。タクシーなどいるはずもない」

提督「それは……」

クズネツォワ「どのみちストリーチナヤがまだ残っている……せっかくだ、もう少し付き合ってくれ」

提督「……分かりました」そういうと、また腰を下ろした提督……

…またしばらくして…

提督「……しかし、先ほどからうかがっていると、お国の「艦娘」の扱いはずいぶんと……その……冷たいように感じます」

クズネツォワ「ふむ。ならば、アドミラル・カンピオーニはいわゆる「艦娘」をどうすればいいと思っているのだ?」

提督「私ですか……私は、もしできることなら艦娘たちを戦わせたくはありません」

クズネツォワ「……申し訳ないが、そこが西側諸君の甘いところだ」表情の読めない冷たい瞳が提督を真っ直ぐ見つめ、冷淡な口調で言い放った……

提督「と、いいますと?」

クズネツォワ「深海側と対話ができるというのならさておき、あの連中には話など通じない……それに部下である艦娘たちを愛玩動物か何かのように可愛がっていては、かえって判断を曇らせ、戦闘の帰趨に影響を与えかねない」

クズネツォワ「ましてや軍隊は戦うための組織であって、不合理な命令であっても従わなければならない理不尽なところだ。 私とて戦うために必要な資材や戦意を高めるための休養といったものを惜しむものではないが、貴女方のいう「鎮守府」とやらは、まるで特権階級(ノメンクラツーラ)の別荘(ダーチャ)だ」

提督「……私たちの鎮守府が特権階級のダーチャなら、お国の鎮守府はシベリアのラーゲリ(強制収容所)ですね」酷薄なまでに冷淡なクズネツォワへの反発と酔った勢いもあって、つい言い返してしまう提督……

クズネツォワ「ふ……ははははっ! やはり君は面白いな、タヴァリーシチ(同志)カンピオーニ、そうやって面と向かって口答えをされたのは久しぶりだ」

提督「恐縮です」

クズネツォワ「ああ……だがな、少将。 君の豊かな人間性を否定するわけではないが、戦闘時に余計な感傷は不要だ」

提督「ええ、それは私も分かっているつもりです。ですが、艦娘の娘たちとは日頃から生活を共にしている仲です。そう簡単に割り切れるものでもありません」

クズネツォワ「君のような女性からすればそうだろうな」

提督「ええ、そもそも私は軍人向きではありませんし……よくいう「祖国のために殉ずるは甘美にして名誉なこと」という言葉は嫌いです」

クズネツォワ「ホラティウスか……まぁそうだろうな」

(※ホラティウス……クィントゥス・ホラティウス・フラックス。古代ローマの詩人「dulce et decorum est pro patria mori」はホラティウスの格言の一つ)

提督「ええ。 貴女からすれば甘いとは思いますけれど」

クズネツォワ「ダー、その通りだ。艦隊を率いる将官としては甘いし、考え方も青い……だが、たまには違う考え方の人間がいてもいい」提督の目には、冷たく刻み込まれたクズネツォワの額の縦じわが少しだけほぐれたように見えた……

提督「ありがとうございます……それで、クズネツォワ少将は?」

クズネツォワ「私が何か?」

提督「少将の行動原理です」

クズネツォワ「ああ、そういうことか……簡単だよ。「撃たれる前に撃て」これだけだ」

提督「ふふっ、なるほど。それなら私も同じです」

クズネツォワ「そうは思えないがな」

提督「いいえ……確かに私は深海側と交渉で解決できるならそうしたいと思っています。 しかしその機会がないのなら、私としては鎮守府の可愛い娘たちのために「やられないためにやっつけろ」と言うでしょう」

クズネツォワ「……なるほど、どうやら同じ結論にたどり着いたようだな?」

提督「ええ、意外ですが」
873 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/04/24(月) 01:29:50.90 ID:WB0UYTOX0
クズネツォワ「私も意外だよ……もっとも、君の考えを理解できないこともない。なにしろ私は平和主義者だからな」

提督「あー……聞き違いでしょうか?」

クズネツォワ「いや、私が「平和主義者」といったのは聞き違いではないよ……考えてもみるがいい」

提督「何をです?」

クズネツォワ「冷戦時代のことだ。もっとも、君の世代ではもう知らないか?」

提督「そうですね、私が生まれたか生まれないかのころにソ連は無くなっていましたから」

クズネツォワ「そういうことを言われると自分が年寄りになった気がするな……それはそうと、強力で圧倒的なソ連軍があったとき人はソ連を恐れ、また憎みこそすれ、刃向かおうという者はそういなかった。例えそれが誰かの犠牲によって立っているとしても、少なくとも多数の人間にとって平和な時代であったこともまた事実ではないか?」

提督「……つまり「ゆえにカルタゴは残さねばならない」ということですか」


(※ゆえにカルタゴは……古代ローマの政治家「大カトー」が北アフリカ沿岸にありローマにとって身近な脅威であったカルタゴに対し「……ゆえにカルタゴは滅ぼさねばならない」と演説をしめくくるのに対して、政敵であったスキピオ・ナシカは仮想敵がなくなると軍備がおろそかになったり緊張感がなくなることでローマが衰退するとして「……ゆえにカルタゴは残さねばならない」と演説したという)


クズネツォワ「いかにも……米ソ冷戦が終わって「悪の帝国」がなくなったとき、世界は指針を失って混迷の時代を迎えた。 一つくらい持病を持っていた方が健康に気を使うようになるのと同じで、世界には強大な敵役が必要なのだ」

提督「それがロシアだと……?」

クズネツォワ「いかにも。望むかどうかは関わりなく、ロシアというのはそういう役割を担っているのだ」ウォッカのグラスを一息に干すと、かすかに皮肉っぽい表情を浮かべた……

提督「そうですか?」

クズネツォワ「ああ。それに我が国がソ連時代から軍拡に努めてきたのは、全てアメリカからソ連を防衛するためにすぎない……実際問題として、アメリカが我が国の裏庭である東欧諸国に優れたミサイルを配備しておきながら、我が国がアメリカの裏庭であるキューバや中南米にミサイルを配備してはいけないというのは不公平というものではないか?」

提督「……納得は出来ませんが、そういう意見もあるでしょうね」

クズネツォワ「そうとも。それに当時のソ連海軍が保有していた艦艇も航空機も、全てアメリカの原潜や空母打撃群、爆撃機に対抗するためのものでしかない……」

提督「なるほど」

クズネツォワ「それにだ、たいていの軍人は戦争など欲しない。それがいかに悲惨なものかよく知っているからだ……クレムリンの政治屋どもがどう思っているかは知らないが、少なくとも私は平和であって悪いことはないと思っているよ」

提督「そうですね。私が言うのもおかしな話ですが、軍人が「本業」に精を出すようになったらおしまいですから」

クズネツォワ「そういうことだ……さ、もう一杯飲もう」表情はまるで変わらないが、どうやらご機嫌な様子のクズネツォワ……提督のと自分の、二つのグラスのギリギリまでウォッカを注いだ……

提督「……いただきます」

…どの世界でも「部外者」の同国人よりも「同業者」の外国人の方が考えを理解しやすいし付き合いやすいというのはありがちな話で、提督とクズネツォワも何だかんだとウォッカのグラスをやりとりする程度には打ち解け始めていた……

クズネツォワ「……」

提督「……どうかしましたか?」

クズネツォワ「ニェット(いいや)……だが……ふむ、なるほどな」もう一杯ウォッカを飲み干すと、なにやら納得した様子のクズネツォワ……

提督「?」

クズネツォワ「なに、こっちの話だ……いいか?」上着の内ポケットから煙草の箱を取り出すと、提督に尋ねた……

提督「ええ、どうぞ……ずいぶん気になる言い方ですね」提督は煙草が好きではないので、失礼にならない程度で少し椅子を下げた……

クズネツォワ「そうか?」

提督「ええ。特にそんな風に気を持たされたらなおのこと♪」

クズネツォワ「かもな……」

提督「はぐらかすのがお上手ですね、ユーリア♪」

…机の上の灰皿を引き寄せて煙草に火をつけ「ふーっ……」と紫煙をくゆらせるクズネツォワに対して、ちょっと小首をかしげて頬杖をつき、ウォッカでぽーっと火照った顔にいたずらっぽい微笑をうかべる提督…

クズネツォワ「……まあ、せっかくの機会だ」

提督「と、いいますと?」

クズネツォワ「なに、すぐに分かる……」そういうと吸いさしの煙草を灰皿に押しつけて消した……
874 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/05/01(月) 01:44:48.40 ID:st6aV10Z0
提督「……ユーリア?」

クズネツォワ「何を戸惑っているのだ? 君だって子供ではないのだから、ここまで来たらどういう意味かくらいは分かるだろう?」

…立ち上がると提督の手に自分の手を重ね、ぐっと上半身を屈めるようにして提督の瞳をのぞき込んだ……冷たく骨っぽい、逆らいがたい力を秘めた手が提督の手首をつかみ、椅子から立ち上がらせる……反対の腕を提督の腰に回すと、そのままベッドルームとおぼしきドアへと提督を連れて行くクズネツォワ…

提督「ユーリア……///」ふんわりしたセーターの生地越しにクズネツォワの固く引き締まった身体が感じられ、煙草の香りが混じったビターな吐息がふっと耳元に吹きつけられる……

クズネツォワ「ああ」

提督「……いいのですか?」

クズネツォワ「駄目だったらこんな真似はしない」

…ベッドルーム…

クズネツォワ「……さて、それではもっと個人的な話をする前に……カンピオーニ提督、少しよろしいか?」

提督「ええ、何でしょう?」

クズネツォワ「失礼」提督が付けているイヤリングを外すと、ナイトテーブルにあった水差しの中に放り込もうとする……

提督「あっ、何を……」

クズネツォワ「申し訳ないな。 だが、盗聴されるのは趣味ではない」

提督「えっ?」

クズネツォワ「おや、気が付かなかったか? では後でご友人に聞いてみるといい……悪いがこんな小細工に気付かない私ではない」

…イヤリングの人工真珠に爪をかけると、パカッと真珠が二つに割れ、中にボタン電池程度の小さな機械が収まっている……クズネツォワは機械に唇を近づけてそう言うと、改めてぽちゃんとイヤリングを放り込んだ…

クズネツォワ「さて……一つ始末したとはいえ、おおかたこの部屋そのものにもフィンランド側が仕掛けた盗聴器が山とあるはずだ」

提督「そうでしょうか?」

クズネツォワ「ダー(ああ)。 もっとも、探して見つかるような幼稚な場所にありはしないだろう……驚きはしないがね。 公的なレセプションに出席したロシア海軍の将官が宿泊する部屋に盗聴器の一つもないとしたら、その方が驚きだ」

提督「そういうものですか……私には縁のない世界です」

クズネツォワ「そうだろう、だから君のご友人も盗聴器を仕込む気になったのだ……自分の持ち物に盗聴器を仕掛けられていることを知らない人間なら、不自然な挙動をすることもないからな。とはいえフィンランド人にただ盗み聞きされるのも芸がない……」

…そう言うとどこからか文庫本くらいの大きさをした、テルミンと音叉のあいのこのような器具を取りだしてナイトテーブルに置き、側面のスイッチを入れた……途端に「ぶぅん……」と、遠くでクマンバチが飛んでいるような振動音が低く鳴り始める…

提督「それは?」

クズネツォワ「ノイズメーカーだよ……低周波を始めとした音波を発してガラス窓や壁に反響させ、室内の声が捉えにくくなる。これで多少は私的なおしゃべりもできるわけだ」

提督「……」

クズネツォワ「どうした? 遠慮せずに座るといい」

…重そうなコートと地味なチャコールグレイのブレザーを脱いでベッド脇の椅子にかけると、化粧っ気のない地味な黒いタートルネック姿になったクズネツォワ……将官というよりは競泳選手のような引き締まった身体と冷徹な表情を浮かべた苦みばしった顔に、可愛らしさのかけらもないモノトーンの服が良く似合う……そのままベッドに腰かけると掛け布団を軽く叩き、隣に腰かけるよううながした…

提督「ユーリア、もしかして私がどういう人間かご存じの上でやっているでしょう?」

クズネツォワ「だとしたらどうなのだ?」

提督「……こうします」

…そういうとかたわらに腰かけ、顔を向けさせてキスをした……冷たく煙ったい煙草の香りとウォッカの味が少し残っている薄い唇に提督の柔らかなみずみずしい唇が触れる…

提督「ん、ちゅ……っ♪」

クズネツォワ「……んっ」

提督「ぷは……///」

クズネツォワ「ふ、なるほどな……くくくっ♪」

提督「何がおかしいのです?」

クズネツォワ「いや。まったく面白い女性だよ、君は……」

…そういうなり提督をベッドに押し倒し、あご先に指をあてがうと上向かせると唇を押しつけた……片腕で提督の手をつかみ、上から覆い被さって身体を押さえ込むようにして長々と口づけをする…

提督「ん、んんっ……んぅ///」

クズネツォワ「ん……ふっ……んむっ……」

提督「ぷはっ……はぁ、はぁ……っ///」息切れを起こすかと思うくらい長々と続けられた口づけに、呼吸を荒くする提督……

クズネツォワ「……それで、もうおしまいか?」

提督「いいえ……これからです♪」ちゅ……っ♪
875 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/05/04(木) 01:25:30.38 ID:4vqiA8he0
クズネツォワ「んん……ちゅ…る……」

提督「ん…ふ……ちゅぅ……♪」

クズネツォワ「んむ……っ、んぅ……」

提督「はぁ、はぁ……あむっ、ちゅるっ……ん……ぅ♪」


…肺に深く吸い込んだ空気と鼻呼吸で、唇を離すこともなく長々と接吻を交わす提督……最初はクズネツォワの唇を優しくついばみ、次第にじっくりとむさぼるようなキスに変えていく……舌先を唇のすき間に滑り込ませるとクズネツォワの舌に絡みつかせ、かすかに甘いウォッカの後味と煙草の冷たく煙ったい香りが残る口中をねちっこくねぶっていく…


クズネツォワ「ん、んっ……んぅっ……」

提督「ん、はむっ……れろっ、ちゅぅ……っ♪」

クズネツォワ「……っ、はぁ」

提督「ユーリア……貴女が誘ったんですからね?」

クズネツォワ「ダー、分かっている……どうして、なかなか大したものじゃないか」

提督「ふふふっ、まだこれからです……♪」

クズネツォワ「ほう、それはそれは」

提督「むぅ……そうやって涼しい顔でいられるのも今のうちですからね?」


…クズネツォワが着ているセーターの裾から手を入れ、固く引き締まった猟犬のような脇腹をそっと愛撫し、同時に親指をかけてセーターをずりあげていく……次第にあらわになっていく引き締まった腹部にはうっすらとだが腹筋の割れ目が浮かび、それがナイトスタンドの明かりを受けて砂丘のように陰影を強めている…


提督「すごい筋肉ですね……私なんてどう頑張ってもこんな風にはなれそうもありません」

クズネツォワ「いや、簡単なものさ。毎日百回単位で腕立て伏せや腹筋をすればいいだけだ」

提督「それが出来そうにありませんから……」苦笑いをしながら揉みほぐすようにしてお腹を撫で、次第に乳房の方へと指先を進めていく……

クズネツォワ「かもな……」


…提督の手と呼応するようにクズネツォワも提督のセーターを徐々に脱がしていき、その冷たい目が提督の柔らかな曲線を帯びた身体のラインをじっくりと眺め回す…


提督「……ね、ユーリアと比べたら私なんてクジラみたいなものでしょう?」

クズネツォワ「ああ……だが、抱くにはこの方がいいな」ぎゅむっ……♪

提督「きゃあっ♪」

クズネツォワ「ふむ……柔らかいが張りと弾力もあっていい揉み心地だ」

提督「そんな淡々と言われても……あんっ♪」

クズネツォワ「なにしろ誰かとベッドを共にすることはあまりないからな……こういうのはなかなか新鮮だ」淡々と言いながら提督の豊満な胸をこね回す……

提督「もうっ、ユーリアがそうなら私も……っ♪」

クズネツォワ「私の胸では揉むほどもあるまい」

提督「それならそれで他にやりようはありますから……それに、結構ありますよ? ちゅっ♪」

…提督はクズネツォワの硬く引き締まった乳房に唇を這わせ、薄い小豆色をした先端に優しく吸い付き甘噛みした……ぎゅっと抱きしめたクズネツォワの身体は骨ばっているが筋肉質で引き締まった弾力があり、鍛えているためか提督が身動きをしたり舌で舐めあげても小揺るぎすらしない…

クズネツォワ「そうか、なにぶん比較対象が少ないものだからな……しかし君の身体は柔らかいな。肌もきめ細かくて手に吸い付くようだ」

提督「ふふっ、くすぐったいです……♪」

クズネツォワ「ああ、済まないな……ふむ」提督のスカートに手を伸ばすと少々ぎこちない手つきでずりおろし、黒タイツに包まれたヒップを撫でた……

提督「もう、ユーリアったらせっかちですね♪」

クズネツォワ「ウスカレーニエ(加速化)というやつだ」(※ウスカレーニエ…ゴルバチョフ時代の経済発展加速化プラン)

提督「……ウスカレーニエ?」

クズネツォワ「ふ、分からないならそれでいい……♪」

提督「ん……あふっ♪」

876 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/05/12(金) 01:04:02.98 ID:HJOkhMsZ0
クズネツォワ「ん…ちゅる……っ」

提督「ふぁ……あ、あっ……ん、ふっ♪」


…舌を絡めたキスを続けるうちに口中の唾液は水気が減って粘っこくなっていき、もどかしいような息継ぎをするたびに湿っぽい音を立て、朝露に濡れた蜘蛛糸のように銀色の糸を引く……クズネツォワの手がいささか強引に提督の下着を引き下ろし、むっちりした太ももから柔らかそうな下腹部があらわになる…


クズネツォワ「それでは……」ぐり……っ♪

提督「んっ……ユーリア、いきなり指を入れるなんて乱暴ですよ……」


…痛さに飛び上がるほどではなかったが、いずれも絶妙な愛技の持ち主でじっくり丁寧に気持ちを高めるのが上手だったローマやミラノの「恋人」たちや、技巧はそれほどでもないにしろ提督に対する「好き」の気持ちがこもっている愛しい艦娘たちと違って、いささか唐突かつ粗削りな手つきで指をねじ込まれ、少し涙目になる提督…


クズネツォワ「そうか、それは済まなかった……しばらくそのままにしておけばいいのか?」困惑さと意外さがない交ぜになったような表情を浮かべ、提督の花芯に挿し入れた指をどうすればいいか持て余し気味にしている……

提督「ええ、しばらくはそのままで……ところで、もしかしてカサトノヴァ少佐相手にもこんな風に?」

クズネツォワ「ああ。少なくともマリア・エカテリーナとするときはな」

提督「まったく……こんなやり方じゃあカサトノヴァ少佐が可哀想ですよ?」

クズネツォワ「考え方の相違だな。私がマリア・エカテリーナを抱くときは何も考えず思考をまとめたい時だけだ……それ以上でもそれ以下でもない。 彼女は余計な事を言わずに寝ていてくれればそれでいいし、こちらに余計な気づかいや、どうやって彼女を悦ばせるかと言ったことを考えさせるようなら欲しくない」

提督「だからってあんまりですよ、それだったら玩具でも変わりないでしょうに」

クズネツォワ「ニェット(いいや)。マリア・エカテリーナはそのへんをよくわきまえてくれているからな」

提督「もう、ユーリアったら勝手なんですから」

クズネツォワ「これでも何かと考えることが多いのでな……いいか?」

提督「ええ、少しは落ち着いてきましたから……///」

クズネツォワ「そうか、だが少し控え目にしなければいけないようだな……」ぐちゅ、にちゅ……っ♪

提督「ん、んっ……」

クズネツォワ「大丈夫か?」

提督「ええ、さっきよりは……あ、もっとゆっくり……」

クズネツォワ「なるほど……こうか?」ちゅくっ、くちゅり……♪

提督「はい、ですがまだ強すぎます……あ、あっ///」

クズネツォワ「ふむ、目の前にいる女性の事だけを考えてするのもそれはそれで新鮮だな……ここか?」くちゅくちゅ……じゅぷっ♪

提督「あ、あっ……そこ、気持ちいい…っ///」

クズネツォワ「こっちは?」

提督「ふあぁ……あふっ、はぁ……んっ♪」

クズネツォワ「ここが感じやすいようだな……んちゅっ♪」提督に覆い被さりながら豊かな乳房に吸い付いたクズネツォワ……

提督「ふあぁ、もう……あっ、あぁぁんっ♪」


…空いている手で乳房にクズネツォワの頭を押しつけると、ぎゅっと脚を締め付けてクズネツォワの身体を挟みこむ提督……まだクズネツォワの手つきはぎこちなく洗練されていない感じも残るが、身体が火照ってくるにつれて提督自身みだらな気持ちになってきて、クズネツォワらしい冷たさと煙草の香りが混じった髪の匂いを吸い込むと、秘部がとろりと濡れてきた…


クズネツォワ「ん、ぴちゃ……れろっ、ちゅ……」ぐちゅっ、ぬちゅ……っ♪

提督「あ、あ、あっ……あんっ、んふふっ♪」ときおり妙な舌遣いをされ、気持ちよさよりもくすぐったさに笑いが漏れる……

クズネツォワ「……私のやり方はおかしいか?」

提督「いえ、そうではなくてくすぐったくて……ふぁぁ、あふっ……あっ、んんぅ……っ♪」

クズネツォワ「そうか」ぐちゅぐちゅ……ずぷっ♪

提督「ふあぁ……ぁっ♪」とぽっ、とろ……っ♪

クズネツォワ「……どうだ、少しは良かったか?」

提督「そんなことを聞くのは無粋ですよ、ユーリア……それに」

クズネツォワ「それに?」

提督「……今度は私の番ですから♪」金色の瞳にとろりと甘いみだらな光を浮かべ、クズネツォワに身体を絡ませた……
877 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/05/20(土) 01:12:13.69 ID:j8KxuYom0
クズネツォワ「ん、んっ……」

提督「ユーリア、そんなに身構えないで……もっと肩の力を抜いてください」

クズネツォワ「ダー。しかし身構えているつもりはないのだがな……」

提督「そうですか? それじゃあ私がユーリアの気持ちをほぐしてあげます♪」

…提督はしっとりとした柔肌をクズネツォワの引き締まった裸身にぺたりと合わせて、綺麗に整えられた左手の中指と薬指をやんわりと彼女の花芯へと滑り込ませていく……ベッドを共にしているのにどこか隔たりを感じるクズネツォワの冷たい手に右手を絡ませて「恋人つなぎ」にすると、優しく唇を触れあわせながらしばらくそのままついばむようなキスを続け、冷たい手がほのかに温もりを帯びるまで恋人つなぎを続けた…

クズネツォワ「……こういうのは初めてだな」

提督「言わなくっていいです……いまは私のこと以外は考えて欲しくないので」ちゅ……っ♪

クズネツォワ「分かった」

提督「はい……♪」

…しばし幼い子供のように無垢な口づけを続けていたが、次第にねっとりと甘ったるいキスへと変化させていく提督……クズネツォワの固く引き締まった胸にはたわわな乳房を押しつけて弾力のある柔肌の中に埋めさせ、ゆったりと動かし始めた左手の指は優しく、しかし執拗に膣内をかき回していく…

クズネツォワ「……んっ、ふ///」

提督「んちゅっ、ちゅる……っ♪」

クズネツォワ「あ……ふ、んむ……っ///」

提督「ユーリア、こっちの方がいいですか……?」

クズネツォワ「好きにしろ。私はどっちでも構わない」

提督「あら、つれないお返事……そういうことなら、うんとさせてもらいますから♪」じゅぷ、ぐちゅっ……くちゅっ、にちゅ……っ♪

クズネツォワ「ああ……ん、んんっ///」

提督「ふふっ♪ ユーリアのここ、ずいぶん濡れてきましたね♪」ぬちゅ、ぐちゅり……じゅぷっ♪

クズネツォワ「そうだな……んん゛ん゛っ///」

提督「うふふっ、ちゃんとそうやってトロけたお顔もできるんですね……可愛いですよ♪」じゅぷっ、ぬちゅり……ぐちゅぐちゅっ♪

クズネツォワ「あ、あ゛っ……はぁぁ……ぁっ♪」

提督「んぅ、そろそろ体勢を変えますね……はひっ、あ……あふっ♪」

…粘っこい水音をさせて指を引き抜くと粘土をこねるような手つきで下腹部を愛撫し、それから身体を起こすとクズネツォワの太ももを両手で押し開くようにして開脚させ、自分の花芯とクズネツォワの花芯を重ね合わせた……すでにとろりと濡れている提督の秘部が意外なほどに熱を帯びたクズネツォワの秘所と触れあうと、しびれるような甘い感覚が背筋を伝わっていくように走り、思わず甘ったるい嬌声が漏れる…

クズネツォワ「はぁ……あぁ、んんうっ///」

提督「あっ、はぁっ、はぁ……はひっ……ふわぁぁぁ……っ♪」

クズネツォワ「あ゛っ、はぁぁっ……ん゛あ゛あ゛ぁぁ………っ♪」

…提督の甘い声と共鳴するようにクズネツォワの吼えるような声が響く……クズネツォワの競泳選手のような脚が提督の腰に絡みつき、まるで腰骨が折れそうな強さでぎゅっと締め付けてくる……お互い身体を離そうにもいやでも伝わってくる脳をとろけさせるような快感に呑まれて、身体を引き離す事もできない……提督は甘ったるい声を響かせながらも、クズネツォワの無表情の仮面がいくらかなりとも崩れて喘いでいるさまに気づいて嬉しさと同時に、普通なら敵うはずもないクズネツォワのような鍛え上げられた相手を思い通りにしている事実に、みだらでわがままな嗜虐心をくすぐられた…

提督「んふふ……っ♪」ぐちゅっ、にちゅ……っ♪

クズネツォワ「お゛っ……あ゛ぁ゛ぁぁっ♪」

提督「あっ、ユーリア……激しっ……ふわぁぁぁ……っ♪」

クズネツォワ「あぁぁっ、はぁっ……♪」

提督「ふあぁぁっ、そんなに締め付けられたら……あっ、あぁぁっ♪」

…提督は目の焦点が合わなくなり、暖かくぬめる下腹部からの止めどない熱と快感の波動に身体をのけぞらせて嬌声をあげる……一方のクズネツォワもがくがくと太ももをひくつかせ、がくりと首を上向かせて腹筋をけいれんさせている…

クズネツォワ「ああぁぁ……っ♪」

提督「あぁぁん……っ♪」

…互いに終わりが見えないまま、愛撫したり甘噛みをしたり跡の残るようなキスをしたりしつつ、秘所を重ね合わせる二人……全身はじっとりと汗ばみ、重ね合わせている身体がぺっとりと吸い付き、時にはぬるりと滑る……そのまま何時間たったのかも分からないまま、最後は崩れるようにして愛蜜まみれのベッドシーツに倒れ込んだ…

クズネツォワ「ふー……」

提督「はぁ、はぁ、はぁ……ぁ♪」

クズネツォワ「……ふふ」

提督「何かおかしいですか?」

クズネツォワ「いや、なに……まさか一回りも年下の小娘にここまでいいようにされるとは思っていなかったからな。私もまだまだということか」

提督「えーと……お褒めにあずかり恐縮です///」

クズネツォワ「ふ……まったく面白い女だよ、君は」
878 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/05/28(日) 00:53:14.75 ID:0BYdMybg0
提督「……」

クズネツォワ「ふー……何か気になることでも?」

…裸のまま起き上がるとベッドサイドの小机に置いてあった煙草の箱を引き寄せ、一本取り出して火を付けたクズネツォワ……提督が少し意外そうな表情でその様子を見ていると、視線が気になったのか問いかけてきた…

提督「いえ、そこまでのことでは……」

クズネツォワ「構わないから話してみるがいい」

提督「そうですか、本当に大したことではないのですが……ユーリアは左利きですか?」

クズネツォワ「どうしてそう思う」

提督「いえ、だって煙草をそうやって左手で持っているものですから……」

クズネツォワ「ふ……なかなか観察眼が鋭いな」そう言って親指と人差し指の間に挟んだ煙草をもうひと吸いすると、ふーっと長い息を吐いた……

提督「そうですか?」

クズネツォワ「ああ……私は職業上、右手を常に空けておくよう訓練されてきたからな。そのせいで煙草を左手で吸う癖がついてしまった……」

提督「でも、ユーリアのお仕事は海軍軍人でしょう? そこまで徹底して右手を空けておくような訓練を受けるものでしょうか?」

クズネツォワ「海軍軍人か、確かにな」

提督「……そういえば、クズネツォワ提督はどうして海軍に?」

…あまり根掘り葉掘り聞くようなことでもないらしいと気付いて、とっさに話題を転じた提督……胸元に布団を引き寄せ、枕を背中にあてがってベッドのヘッドボードを椅子の背のようにして座った…

クズネツォワ「そうだな……おそらくは私のバーブシュカ(祖母)の影響だろうな」提督に煙を吹き付けないようもうひと吸いすると、ゆっくりした口調で言った……

提督「バーブシュカ……たしかお祖母さんのことでしたね?」

クズネツォワ「ダー……私の祖母ナターシャ(ナターリアの通称)は政治将校として大祖国戦争(独ソ戦)を戦い抜いた女性でな。ブーツも汚さずに安全な後方からスローガンをわめいていた連中と違って常に兵と共に銃を取り、後に「赤いジャンヌ・ダルク」などとまつりあげられたほどの人物だったのだ」

提督「立派なお祖母様だったのですね」

クズネツォワ「少なくとも私はそう思っている……せっかくだ、祖母から聞いた話でもしてあげよう」そう言うと昔話を語るように淡々と話し始めた……



クズネツォワ「……今は昔、大祖国戦争(独ソ戦)の頃の話だ。 私の祖母は当時ではまだ珍しい高等教育を受けていたので軍で庶務であったり読み書きといった兵への教育を行っていてな。組織に献身的だったことと「大粛正」後の士官不足と言うこともあって大尉に昇格していたのだが……1941年6月22日、状況が変わった」

提督「独ソ戦の開戦、ですか」

クズネツォワ「ああ。祖母は大祖国戦争開戦の一報をラジオで聞いたそうだ……」

………

…1941年…

ソ連軍士官「同志政治将校、今の放送をお聞きになりましたか!」

ナターリア(ナターシャ)・クズネツォワ大尉「聞いた……司令部からの命令は?」

士官「はっ! 命令ですが「全部隊は直ちに鉄道駅に集結、急ぎ祖国防衛のために進発せよ!」とのことです!」

ナターシャ「よろしい、ではそのように計らえ……私も駅へ行く」

…駅…

ナターシャ「同志諸君! 邪悪なファシスト共の魔の手から我らの祖国(ロージナ)を、父を、母を、兄弟姉妹を守るのだ!」

…ぴしっとしたカーキ色の軍服にトカレフ「TT33」ピストルのホルスターを吊るし、メガホンの筒を手に声を張り上げ、客車・貨車を問わずに次々と列車に乗り込む将兵たちを激励するナターシャ……プラットホームではやはり軍服を着た軍楽隊のオーケストラが勇ましい軍歌を演奏し、その重厚なメロディと地元合唱団の声が響き渡るなか、兵たちを乗せた列車が重そうに発車していく……

ナターシャ「さあ、列車に乗り込め! 祖国は同志諸君を必要としている!」



クズネツォワ「しかし、粛正に次ぐ粛正で思考力のある有能な士官を失っていて、かつ奇襲を受けたソ連軍はドイツ軍の「電撃戦」に後退を余儀なくされた……そして数週間後、祖母はレニングラードにいた」

提督「……レニングラード、ですか」

クズネツォワ「そう……九百日も包囲されたレニングラードだ。だが私の祖母は運が良かった」

提督「と、いいますと?」

クズネツォワ「召喚命令だよ。 レニングラード防衛戦の実情が分からないモスクワのスタフカ(STAVKA…赤軍最高会議)に直接報告に行けと命令を受けたのだ……私の祖母はラドガ湖を使って包囲直前のレニングラードから脱出できた人間の一人だ」

提督「なんと、まぁ……」

クズネツォワ「その時の話は祖母からいくつか聞いたよ……いよいよレニングラードも包囲され始めた、とある曇りの日だったそうだ……」
879 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/06/10(土) 00:44:29.34 ID:BE4DfZCG0
…レニングラード…

ソ連軍士官「……同志政治将校、民間人がやって来て同志政治将校に会わせて欲しいと言っているのですが」

ナターシャ「民間人?」

…包囲されつつある市街の命運を暗示するような曇り空のレニングラードには次第に近づいて来るドイツ軍の砲声が遠雷のように響き、街には工場から続々と吐き出される対戦車砲や対戦車ライフル、果ては火炎瓶からあり合わせの即製兵器までが配備され、目抜き通りのあちこちにはバリケードが並べられている…

士官「ダー……忙しい最中だからと言ったのですが」

ナターシャ「それほどまでに私に会いたいとは、よほど重大な事なのだろう……まだ船団は出ないはずだ。 通してやれ、アントーン・イリイッチ」

士官「はっ」

…部下に連れてこられた民間人はやせていて、おびえたような態度をしている……身体にあまり合っていない茶系の背広の胸元には民間人に授与される文化系の勲章をいくつか付けていて、司令部入り口の衛兵や士官たちから門前払いをされなかったのはそのおかげらしい…

ナターシャ「さて。私に用があるそうだが、同志……」

民間人「ニコライ・シモノフです……同志政治将校」軍における恐怖政治の執行者として民間人にも知れ渡っている「政治将校」に対し帽子を脱ぎ、おずおずと手を伸ばして握手する民間人……

ナターシャ「ナターリア・ニコラーエヴナ・クズネツォワ大尉だ、同志シモノフ。 それで、用件とは?」

民間人「はい、実は……」

ナターシャ「……なるほど、市内にある美術館の収蔵品を退避させると」

民間人「ええ……もちろん、開戦してからエルミタージュ美術館を始め、名のある美術品の疎開は続けておりましたが、それでも市内の美術館にはまだたくさんの貴重な品々が残っているのです……同志政治将校、どうか美術品を運び出してもらえないでしょうか?」

…ナターシャのところにやって来た民間人は市内にある美術館の館長で、そこはエルミタージュほど高名でもなければ大きくもなかったが、ナターシャ自身も何回か見学したことのある場所だった……困ったように手をこすり合わせながら、館長はナターシャに懇願した…

ナターシャ「なるほど……話は理解した。 だが、ここを出て行くラドガ湖艦隊の艦艇は軒並み避難民や負傷者で舷側すれすれまで満載だ。 運び出してくれと言われても、そう簡単にはいかない」

館長「むろんそのことは承知しています、同志たちの生命はどんな美術品よりも尊いものです……ですが、このまま人民の宝を戦災にさらしておくなど……」

ナターシャ「ああ、分かった……はしけでも伝馬船でも良いというなら、どうにか用立ててみよう。ただ、ファシスト共の爆撃を受けるかもしれないが……それでも構わないのだな、同志?」

館長「はい、このまま戦火にさらすよりは少しでも可能性のある方に賭けようと思います、同志政治将校」

ナターシャ「いいだろう。では今からラドガ湖艦隊の司令部に掛け合ってみよう、一緒に来てくれ」

…ラドガ湖艦隊司令部…

ソ連海軍士官「……送り出した輸送船の十隻のうち五隻は沈められるような状況で、美術品なんぞに構っている余裕があると思っているのかね、同志政治将校?」

ナターシャ「無論そのことは承知しています。だが美術館の品々も貴重な人民の宝であることを忘れないでいただきたい。ファシストの畜生共にむざむざ破壊されるのを見ているわけにも行きますまい……同志少佐?」政治将校という存在の恐ろしさをにじませるように、階級が上の相手に対してかすかな非難の響きを込める……

海軍士官「……だが、すでに船団の出港準備は整っている。 今から積み込むのでは間に合わない」

ナターシャ「なら次の便で構いません……構わないな? 同志シモノフ?」

館長「ええ、とにかくここから運び出すことさえ出来れば……」

ナターシャ「なら決まりだ。 次の便に載せる美術品を運び出し、埠頭まで持ってくるとしよう……積み込みはこちらで行います。それならばそちらの将兵を使うこともない……よろしいですか、同志少佐?」

海軍士官「ああ、分かった……ただし、どんな事情であれ出港に間に合わなければ置いていく。よろしいな? 同志政治将校」

ナターシャ「結構です、同志少佐。 協力に感謝します。上層部にも同志少佐の「国家の至宝を守ろうとする懸命な判断と献身的な行為」を報告しておきます……では急いで美術館に向かうとしよう、同志」

…十数分後・レニングラード防衛司令部…

士官「同志政治将校!? 先ほどの船団でレニングラードを離れられたのでは!?」

ナターシャ「そうする予定だったが事情が変わったのだ。 急ぎトラック二台と一個分隊を用意しろ」

士官「トラック二台に一個分隊ですか? ……了解、同志政治将校」困惑してすっとんきょうな声を上げたが、じろっとにらみつけられると慌てて敬礼をし、トラックを探しに駆けだしていった……

…数分後…

士官「トラック二台と一個分隊の用意完了です、同志政治将校!」

ナターシャ「結構、良くやった……それでは美術館まで行こう、同志シモノフ」

…しばらくして・市内の美術館…

ナターシャ「これで全部か? 同志?」木箱に梱包されたり筒状の入れ物に収められたりしている様々な美術品をトラックの荷台に詰め込ませると、館長に尋ねた……

館長「はい、最も貴重な物はこれだけです……出来れば全部運び出したいところですが……」

ナターシャ「それは諦めてもらうほかはあるまいな……さぁ、出発しろ!」
880 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/06/20(火) 01:41:27.83 ID:b4svyaCY0
提督「……そんな体験をなさったのですか」

クズネツォワ「ダー……途中でファシストの空襲にも遭ったそうだ」

………



…ラドガ湖…

ナターシャ「……船長、護衛との会同は?」

…ナターシャは戦傷者や難民たちが舷側すれすれまで詰め込まれたおんぼろ砲艦や小型貨物船で編成された船団の一隻に乗り込むと、彼方に霞むレニングラードを見送りながら煙草を吹かしていた……港を出てしばらくすると船員がやって来て、案内されるがままに人混みをかき分け船橋に行くと、もじゃもじゃのあごひげを生やした船長にさっそく尋ねた…

船長「さぁ、ワシには何とも……出港前に聞いた話じゃ空軍が顔を見せてくれるって話ですがね、同志」

ナターシャ「そうか」

…そうは言っても空軍も海軍航空隊も緒戦の奇襲で甚大な被害を受けている以上、まともな援護など期待できない事くらい誰にでも分かりきっていた……それでも、ポリカルポフ戦闘機の一機でもいてくれれば心強い事は確かで、ナターシャは期待するようにちらりと上空へ目をやった…

船長「へぇ。まぁ大したもてなしもできやせんが、どうか少しでも居心地良くしておくんなさい」

ナターシャ「スパシーバ。とにかく頼むぞ」

…ちっぽけな船橋から甲板を見おろすと、美術館の館長から預かった美術品が収まっている船倉ハッチには防水布がかけられ、その防水布の上にも鈴なりに人が座り込んでいる……左右を進む船舶も同じように甲板上に負傷兵や避難民たちが座り込み、何人かの兵士が少しでも気が紛れるようにと、持ち込んだアコーディオンやバラライカを弾いている……と、どこからか蜂の羽音のような単調なエンジン音が聞こえてきた……

ナターシャ「……敵機! 上空にシュトゥーカ!」

…雲間から黒いシルエットが現われ、途端に反転するようにして船団へ向けて急降下をかけてきた……

ソ連兵「敵襲!」

ソ連下士官「アゴン(撃て)、撃てっ!」

…どんな勇敢な兵士でさえも恐怖に耳を塞ぎたくなるという、ユンカースJu−87「シュトゥーカ」が急降下してくるときの甲高い音が鳴り響き、その恐怖に抗うかのようにピストルから短機関銃、重機関銃、即席の砲座に据え付けられた高角砲まで、ありとあらゆる兵器が撃ち上げられる…

船員「爆弾が来ます!」

…通り過ぎる急行列車のような音を立ててシュトゥーカが上空を通過し、同時にすさまじい轟音と水柱を噴き上げ着弾する爆弾……凍るように冷たい飛沫が軍服を濡らし、頭から水が滴る……と、横を進んでいた小型貨物船が黒煙をあげて停止し、別れを告げるような哀れな汽笛の音を響かせながらゆっくりと傾いていく…

ソ連兵B「……可哀想に」

…沈んでいく友軍を助けてやりたいのは誰も同じだが、舷側すれすれまで人と荷物を積み込んでいる船団の船に他の誰かを助ける余裕はない……それでも近くの数隻が減速して幸運な最寄りの十数人を拾い上げ、護衛の老朽掃海艇も無電で救援を要請し、もしかしたらやってくるかもしれない友軍艦艇に浮かんでいる同志たちのことを託した…

下士官「敵機!雲の切れ目から来ます!」

ナターシャ「操縦席を狙って撃て!」

…一機目の投下した爆煙が収まらないうちに二機目が急降下をはじめ、船団めがけて突っ込んでくる……これを迎え撃つ船団では銃座に装備された古めかしい、しかし頼りになる水冷のマキシム機銃が吼えたて、兵士の「モシン・ナガン」小銃やトカレフ・ピストルまで、雑多な銃器が上空のシュトゥーカを狙って弾幕を張る…

ソ連兵C「やった……やった!」

…弾幕のうちの気まぐれな数発が当たったらしくシュトゥーカのエンジンが白煙を吐き、投下した爆弾は輸送船の脇で水柱を上げただけに留まった……シュトゥーカはぐっと機首を上げると、そのまま低く垂れ込めた雲に逃げ込んだ…

船長「やれやれ……」

ナターシャ「ふぅ……どうにかなったな、船長」

………

提督「……大変な経験でしたね」

クズネツォワ「ダー……だが、祖母の経験はそこで終わらなかった」

…一本の煙草を吸い終えると最後の煙を空中に吐き出し、紫煙が空調装置に吸い込まれていく様子をじっと眺めた……煙が完全に吸い込まれるのを見届けると、話の続きを始めた…

提督「まだ他にも経験したのですか」

クズネツォワ「ああ。モスクワで戦況を報告した祖母はしばらくスタフカと前線を行ったり来たりして連絡将校じみた事をしていたそうだが、あるとき能力を買われて次の戦場で兵の督戦と前線の維持を命令されたのだ……場所は42年の冬、スターリングラードだ」

提督「スターリングラード……!」

クズネツォワ「そうだ」
881 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/07/03(月) 01:50:58.48 ID:CkD0yM610
…1942年・スターリングラード…

ナターシャ「……同志諸君、一歩も退くな!ヴォルガ河の後ろに前線はない!」

…腰ベルトのトカレフ・ピストルと柄付き手榴弾、そして肩から「バラライカ」ことPPSh41短機関銃を提げ、防寒用の長い外套を羽織って渡船場の渡り船から降りてくる将兵に声を張り上げるナターシャ……軍の政治将校ならピカピカでもおかしくない制服やブーツは泥とほこりにまみれ、顔も土ぼこりや汚れですっかり黒ずんでいる…

ナターシャ「一人でも多くファシストを撃て! 諸君の家族や故郷のために!」

…ヴォルガ河の渡船を使って次々と送り込まれる兵士たちの群れに向かって、声を張り上げ督戦するナターリア……強大なドイツ軍に対して二人に一人しか支給されない小銃や乏しい弾薬を補うのは、これだけはどうにか毎日欠かさず支給されるウォッカとボルシチ、それに生存本能に根ざした獣のようながむしゃらさだけだった…

ナターシャ「たとえ死ぬとしても、決して無駄死にはするな! 一人でも多くの敵を道連れにせよ!」

…たいていの政治将校が暖房の効いた地下壕でぬくぬくと過ごし、ビラを刷っては口先ばかりの宣伝をひねくり回している間、ナターリアは地面を這いずり埃と垢にまみれ、後方から来る弾薬や、はるばるアメリカから運ばれてくる缶詰といった物資を背嚢に詰め込み、がれきと廃墟の中に陣取る兵士たちへと配って回り、また時には兵士と一緒になって敵の攻撃を撃退したりもした…


…とある防衛拠点…

ナターシャ「……あの建物から敵を叩き出せ!敵の銃撃が収まる瞬間を待って突入する!」

下士官「了解!」

ナターシャ「いいか、私が援護してやるから心配するな。屋内に突入したらひと部屋ごとに手榴弾を放り込め……今だ!」

下士官「よし、突っ込め!」

兵士たち「「ウラー!」」

…ナターリアはドラム型弾倉のPPsh−41短機関銃「バラライカ」を、ドイツ兵の陣取るアパート二階の部屋に向けてバリバリと浴びせる……窓の下までたどり着いた兵士たちが手榴弾や梱包爆薬を投げ込むと爆煙が噴き出し、がれきやセメントの破片がバラバラと飛び散る……そのまま崩れた階段の残骸を使って屋内へと突入する兵士たち…

…数分後…

ナターシャ「……よくやったな、伍長」

下士官「ありがとうございます、同志政治将校」

ナターシャ「礼などいい……諸君も良くやった。これで隣の拠点とも連絡がつくようになるだろう」おそらく今のスターリングラードでは一番のごちそうに数えられるであろう、アメリカ製コーンビーフの缶詰を背嚢から取り出して分隊の兵士に配った……

………



クズネツォワ「そうして一進一退、拠点を奪っては取り返し……祖母はドイツ第六軍が降伏するまで市街を駆け回っては兵を励まし、敵を撃ち、重傷の兵には優しい言葉をかけてやったのだ……いまのヴォルゴグラード(スターリングラード)、ママイェフの丘にある『母なる祖国』像はロシアの大地を表す女神であると同時に、スターリングラードを始め各地で戦った女性の将兵たちや、苦しい戦時下の生活に耐え抜いた女性たちの象徴でもあると祖母は言っていたよ」

提督「あの剣を持った巨大な像のことですね……」

クズネツォワ「ダー……祖母はその後前進を続ける軍と共にベルリンまで戦い続けた。しかし祖母は厳格な人間だったのでな、よく言われるように「略奪した腕時計を両腕にびっしりはめている」ようなこともなかった。家にあったのは当時の捕虜から取り上げたルガー・ピストルくらいなものだった」

提督「すごいお話ですね……まるで歴史書の登場人物のような……」

クズネツォワ「ダー。バーブシュカは戦後もしばらくは将校として務めていたが退役して、私が子供の頃にはすっかり白髪になっていたが……それでも頭は切れるし身体も動くし、かくしゃくとしたものだったよ……その祖母に言われたのだ「泥まみれで埋め草にされる陸軍の兵隊と違って、少なくとも海軍なら乗り物がある」とな」

提督「なるほど、それで海軍に……」

クズネツォワ「ああ、子供のころから聞かされていれば自然とそう思うようになる……あと、祖母いわく「色んな経験をしたが、自慢できるのはムラヴィンスキー指揮のレニングラード交響楽団が演奏するショスタコーヴィチを生で聞けたこと」だとよく言っていたよ」

提督「確かに、それはなかなか機会があるものではないですものね……ところで」

クズネツォワ「なんだ?」

提督「あー、その……ユーリアは音楽を聞きますか?」

クズネツォワ「無論だ。音楽は時に心を駆り立て、時に心を落ち着かせる……モスクワ・ボリショイ劇場の券は年間パスで買っている」

提督「なかなかお好きなんですね」

クズネツォワ「ああ……それでフランチェスカ、君はどうだ?」

提督「私はそんなに裕福ではありませんから……数回だけミラノ・スカラ座に行った事はあります。それに音楽は好きですよ」

クズネツォワ「そうか、例えば誰の曲が好きだ?」

提督「いつもは60〜70年代のカンツォーネを流しているので、クラシックはあまり……でも、母の影響でヴィヴァルディやロッシーニ、ヴェルディ……あとはラヴェルやチャイコフスキー、ビゼーも時々聞きます。もっとも、私の場合は気分に合わせて聞いているだけですので、難しい考証や解説はできませんが……」

クズネツォワ「いや。気分に合わせて難しいことを考えずに聞く、それでいいのではないか? あくまで感性の問題だからな。演奏のテクニックで悩むのは楽士と指揮者だけで充分だろう」抑揚がない感情の薄い声だが、どうやら冗談めかしているらしい……

提督「ユーリアも冗談を言うのですね?」

クズネツォワ「ああ、私にだってユーモアのセンスくらいはある……皮肉というのは言われる側も意味を理解していないと皮肉にならんからな。作品に込めた意図が分からなければ、風刺作家をルビヤンカ監獄に放り込めないだろう?」

提督「なるほど……」実際にそういうことをしそうなクズネツォワだけに、提督も素直に笑えない……
882 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/07/11(火) 01:06:42.53 ID:0ftPuc1q0
クズネツォワ「例えば、そうだな……フランチェスカ、ちょうどこの窓から広場のクリスマスツリーが見えるが、君はサンタクロースのことを信じているか?」窓の外には控え目だが綺麗に飾りつけられた大きなモミの木がそびえていて、街灯の光を受けて静かに輝いている……

提督「サンタクロースですか?」

クズネツォワ「ダー」

提督「そうですね……うちでは子供の頃から好きなものは買ってもらえましたし、私もあんまり欲しがりな子供ではなかったそうなのでそこまでは……親もそういう存在がいることは教えてくれましたが」

クズネツォワ「そうか……実はな、サンタクロースというのはソ連の具現化だと言ったら、どうだ?」ごくかすかではあるが、笑顔のような表情を浮かべてみせるクズネツォワ……

提督「えっ?」

クズネツォワ「考えてもみたまえ……赤色というのはソヴィエトの象徴である色だろう?」

提督「ええ、そうですね」

クズネツォワ「そしてその「赤い」服を着たヒゲのおじさんが、良い子にしていれば「みんなに」「無料で」「公平に」プレゼントを配る……どうだ、誰かを思い出さないか? アメリカ資本主義の代表のような、あの有名なコーラ会社が広告のためにサンタクロースを赤色にしたというのに、その実態はまるでソ連を具現化しているようなものなのだ」

提督「……考えてもみませんでした」

クズネツォワ「ふふ、そうだろうとも」提督の乳房を軽くいじりながら皮肉な表情を浮かべた……

提督「ええ……ところでユーリアのお祖母様は軍の政治将校だったわけですが、お母様はどんな方なのですか?」

クズネツォワ「私の母か? もう辞めてしまったが、母はソ連時代には科学者だった」

提督「なるほど、科学者ですか……しかし、科学の発達というのは目覚ましいものがありますね。近頃は「iPS細胞」というもので、同性間でも子供が出来るようになるとか」

クズネツォワ「ダー。ヤポーンスキ(日本人)の学者が発明したと言うアレだな……もっとも、あれならソ連が数十年は前に開発していたよ」

提督「まぁ♪ くすくすっ、ふふふ……っ♪」

クズネツォワ「おかしいか?」

提督「ええ、だって……ふふ、うふふっ……「それは我がソヴィエトが数十年前に発明していた」はよく聞くジョークですから……ふふふふっ♪」

クズネツォワ「面白がってくれて光栄だが、同志カンピオーニ……現に私がそうなのだ」

提督「うふふふっ……えっ?」

クズネツォワ「年齢のわりに耳が遠いようだな」

提督「あ、いえ……言葉は聞き取れましたが……でも……」

クズネツォワ「にわかには信じがたいか?」

提督「え、ええ……」思いがけない話に困惑して、うまい返事ができない……

クズネツォワ「ま、仕方のない事だな……だが、君も私のミドルネームには気付いていただろう?」

提督「ええ、確かロシアの人はミドルネームに父の名がつくのでしたね……」

クズネツォワ「そうだ。それが私の場合は「両母」の片方、つまり「父親の側」にあたる母の名になっているわけだ」

提督「あー……それは養子ですとか、そういう……?」

クズネツォワ「ニェット(いいや)……私は「ソ連版iPS細胞」の実験で生まれたいわゆる「試験管ベビー」というやつなのだ」

提督「……」

クズネツォワ「どうせだからな、寝物語(ピロートーク)に話すとしよう……」

…箱から煙草を抜き出すと火をつけ、布団をかぶって上半身を起こしている提督の裸身を眺めながらゆっくりと話し始めた……フィンランドの長い長い夜はまだ明ける様子もなく、閉じた窓越しに街灯の明かりと、時折聞こえる車の音や人の声がかすかに室内へと入ってくる…

クズネツォワ「かつてソ連は『大祖国戦争』で多くの人間を徴兵したり動員したりして、そのうちの多くを失った」

提督「ええ……」

クズネツォワ「戦後になってモスクワの首脳部はこう考えた……「大祖国戦争で我々がかろうじて勝利できたのは兵隊の数が多かったからだ。つまり戦争を戦うには人口が多い国が有利だ。それに大祖国戦争で多くの人間を失ったぶん、次代の兵士や学者や労働者になる子供たちもたくさん必要だ」……とね」

提督「……」

クズネツォワ「しかし、いざ戦争ともなれば男は軒並み駆り出されることになるし、そもそも戦後すぐのソ連では男性の数がかなり減っていた……そこで首脳部は「戦場に行くことの少ない女同士で子供を作ることは出来ないか?」と考えたのだ」

提督「当時のソ連にそんな計画が……?」
883 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/07/18(火) 01:47:20.45 ID:svOXb5PM0
クズネツォワ「ダー……詳細はもはや闇の中になってしまったが、基本的にはそういった経緯でフルシチョフのころに研究が開始されたらしい。そして何十年もかかってソ連崩壊の直前、ようやく実用化の目途がついた」

提督「……ええ」

クズネツォワ「そこで研究所としては誰か被験者を探さなくてはならない……とはいえ大祖国戦争を知る世代も減り、当初の目標だった「生産性のある人口の増加」も人海戦術に頼る時代が過ぎていたことから推進する理由が失われていたし、ソ連末期ということで人材を集める資金もなかった。そこで私の「片方の」母、科学者のユーリアが当時親しくしていたバレエダンサーのマリアを口説いて被験体になってもらったのだ」

提督「実験の被験体だなんて、よく了承してもらえましたね?」

クズネツォワ「ああ……当時のソ連では同性愛は違法だったが、ユーリアとマリアはお互いに愛しあっていたからな。マリアが被験体になることで当局に同性同士での「恋愛」や「結婚」を黙認してもらったらしい……」

…1980年代・とある研究所…

研究者「主任、これを……とうとう成功しましたよ!」

ユーリア・クズネツォワ(クズネツォワの母)「ハラショー、実に見事なものだ……皆もよくやってくれた」

…胸元のネームプレートに白衣姿で、鉄縁眼鏡をかけた研究主任のユーリアの元へと集まってくる研究者や技師たち……ラットに犬、そしてとうとうサルでの実験に成功し、みんな科学者らしく冷静さを装いながらも沸き立っている…

研究者B「これで所長にもいい報告が出来ますね」

研究者C「次はいよいよ人体での治験ですか……とはいえここの研究所で被験者を募るのは……」何十年と結果を残せずにいて今ではすっかり後回しにされている研究に、人を募るための予算が回してもらえるはずもない……

ユーリア「そのことだが、治験に応じてくれそうな人間に心当たりがある。所長の許可と被験者の承諾を取るあいだ、諸君は作業を続けてくれ」

…数日後の夜・モスクワ市街…

ユーリア「……遅くなって済まなかった、マリア・ニコラーエヴナ。冷えてしまっただろう?」クレムリンのタマネギ型ドームが建物の狭間から見える橋のたもとで一人待っていたマリアに、自分の不格好な……しかしとりあえずは暖かい厚手のウールコートを羽織らせるユーリア……

マリア「いいのよ、ユーリア……一緒に歩きましょう///」

…バレエダンサーらしい華奢でほっそりとした身体に、青色の涼しげな目元と金色の髪をしたマリア……その柔らかなソプラノで教養のある話をするさまは、さながら乙女の理想像のように見える……薬品で荒れた手に、まるで技術レポートでも読み上げているかのように聞こえる素っ気ない自分の話し方と比較して、なんと対照的なのだろうとユーリアは考えた…

ユーリア「ああ……」

マリア「……それで、話って?」

ユーリア「そのことだが、とりあえず座って話そう」川を望む道端のベンチを見つけた二人……

マリア「さ、座ったわ……話してくれる?」

ユーリア「ああ、そうだな……」

マリア「……言いにくいこと?」下からのぞき込むようにして顔を近づけるマリア……

ユーリア「いや、そういうわけじゃないが……」

マリア「そう……じゃあ話してくれるまで静かに待っているわね」

ユーリア「……」

マリア「……」

ユーリア「……その、マリア」

マリア「なぁに?」

ユーリア「実は、君に頼みたい事がある……」

マリア「頼みたい事?」

ユーリア「ああ。科学の進歩のためにも、君に協力してもらえたらと思っているのだが……」詩的な言い回しや心をとろかすような表現どころか、堅苦しい言い訳しか出てこない自分のセンスに内心でげんなりしながらも切り出した……

マリア「協力というのはお注射でも打つの? それとも何かのお薬でも飲めばいいのかしら?」

ユーリア「それなのだが……手術を伴う可能性がある時間のかかる大がかりな話で、おまけに君の身体にも大きく影響することになる……そして間違いなくバレエダンサーを続けることは不可能になるだろう」

マリア「……ずいぶんと危険な実験のようね? 貴女がそんな実験を行っているのかと考えると心配になるわ」

ユーリア「いや、私は危険でも何でもないんだ……」

マリア「それじゃあ、一体どういう実験なの? それに私でなければならないって……ロケットで宇宙へ行って、そこで『白鳥の湖』のオディールでも踊るのかしら?」

ユーリア「そうじゃないが……実は、私との子供を作って欲しいんだ///」

マリア「えっ?」

ユーリア「その……私の勘違いでないとしたら、君は私に好意を持ってくれているようだし……つまり……///」

マリア「えーと、それって体外受精かなにかの実験っていうこと?」

ユーリア「似ているがそうじゃない。実は……女同士で子供を作る実験なんだ……その、私は君のことが好きだし……実験のためとはいえ、二人の子供ができたらと……///」

マリア「貴女との子供? ……嬉しい、そういうことなら喜んで協力させていただくわ♪」警官に見とがめられないよう、コートの襟を立てて唇にキスをした……

ユーリア「……ありがとう、マリア///」
884 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/07/31(月) 01:57:18.47 ID:0v3FzSsN0
………

提督「そして産まれたのが……」

クズネツォワ「ダー。この私だ……もっとも、私が生まれてすぐに「予算の削減」で実験は中止。それから十年もしないうちにソ連が崩壊して、研究所も実験のレポートも失われてしまったから、今では証明のしようもないがな」肩をすくめてみせた……

提督「そうだったのですか……それで、ご両親は?」

クズネツォワ「今でもモスクワで仲むつまじくやっているよ。マリアの方はサワークリームとマヨネーズ、それにウォッカのせいで太り気味だが……どうだ、寝る前のおとぎ話にはちょうどよかっただろう?」

提督「寝物語どころか、あまりのことにすっかり目が覚めてしまいました」

クズネツォワ「ふふ、まあそうだろうな……吸うか?」

提督「いえ」

クズネツォワ「……では私の方は勝手にやらせてもらうよ」

提督「ええ」

クズネツォワ「済まんな」

提督「……ところで」

クズネツォワ「ん?」

提督「お祖母様の薫陶を受けて軍に入ろうと思ったのは分かりました、でもどうして海軍だったのですか? お祖母様は陸軍配属の政治将校だったのでしょう?」

クズネツォワ「ああ、それもバーブシュカに吹き込まれてだ……」薄い唇に皮肉めいた苦笑いを浮かべて、煙草の煙を吐き出した……

提督「?」

クズネツォワ「さっき話したように私の祖母は大祖国戦争を戦い抜いたが、幼い頃の私をひざに乗せてよく言っていたよ『入るなら海軍に入りなさい』とな……海軍なら歩かされることも、機銃の弾幕に向かって突撃させられることもまずない。行軍に付いていけなくなって置きざりにされたあげく、パルチザンに処刑されることもない」

提督「まぁ、それはそうですが……」

クズネツォワ「それに、海軍こそは世界の覇権を決める力だ……近代以降、戦争に勝った『大国』で海軍が弱小だった国はない」

提督「それは確かですね」

クズネツォワ「ダー。 それに私の祖母は当時の陸軍元帥だの大将だのをよく知っていたからな……ヴォロシーロフにブジョンヌイといった人物たちだが、祖母いわく『馬鹿ばっかりだった』そうだ。 まぁどこにも馬鹿はいるものだが、祖母からすれば海軍は少なくとも陸軍よりマシに見えたのだろう」

提督「なるほど」

クズネツォワ「さて、おしゃべりはこのくらいでいいだろう……時間になったら起こすから、少し寝たらどうだ?」

提督「お気持ちは嬉しいですが、ユーリア……どうせあと数時間でおいとまするつもりですし、街の夜景も見ていたいですから」布団を裸身に巻きつけると、街の景色が見えるように身体を動かした……

クズネツォワ「そうか、なら好きにすればいい」

提督「……ユーリア」冷徹な色をたたえた瞳に、街のクリスマスツリーを彩る電飾や灯りが映って銀河のようにきらめいている……吸い込まれるように顔を近づけ、煙たい味のする唇にそっとキスをした……

クズネツォワ「ん……あれだけして、まだ物足りなかったか?」

提督「いいえ……でもそうやって遠くを眺めているユーリアは、唇を触れあわせておかないとどこか遠くへ行ってしまうような気がして……」

クズネツォワ「ふ、なんともロマンティックなことだな……ローマにいた頃は、そうやってミミ・ステファネッリを口説いていたのだろう?」

提督「!?」情報流出こそなかったとはいえ、ロシアの女スパイに言い寄られた数年前の事件をいきなり持ち出されてびっくりする……

クズネツォワ「驚いたようだな……なに、君と彼女のあれこれは私もよく知っている」

提督「ユーリア、もしかして……?」

クズネツォワ「いいや、その件は私じゃない。ただモスクワのファイルに君の名前があったものでな……なに、心配はいらない」

提督「どこかの情報機関のファイルに自分の名前があるのに、なにが心配いらないんです?」

クズネツォワ「簡単なことだ。君は『女たらしで軍人らしい命令遵守の意識や厳格さにも欠けるが、性格は意外と几帳面であることから有用な情報源たり得ず、かえって工作員の偽装を見抜いたために情報収集活動は失敗した。今後の工作は検挙のリスクが大きいため破棄する』とあったよ……性格診断も含めて、きわめて同感だ」

提督「もう……ちっとも嬉しくありませんよ」

クズネツォワ「そうか? ところでフランチェスカ、君はどうやって彼女の偽装を見破ったのだ?」

提督「ミミのことですか? それなら隠し味にサワークリームを入れるのが東欧風だったので……」

クズネツォワ「ふむ、なるほどな」

提督「……ところで、彼女は無事なんですか?」

クズネツォワ「無事だよ。君に化けの皮を剥がされたおかげでキャリアは棒に振ってしまったが、モスクワで文書読解をはじめとした内勤をしているそうだ」

提督「良かったです」

クズネツォワ「まさか自分のところに送り込まれた工作員の心配をする人間がいるとはな……実に面白い女だよ、君は♪」
885 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/08/08(火) 02:20:21.30 ID:0N3qegzU0
…朝…

提督「送って下さってありがとうございます、ユーリア」

クズネツォワ「ああ。ではな」

提督「はい……カサトノヴァ少佐も」

カサトノヴァ「いえ。それでは」

…黒いメルセデスが走り去るのを見送ると、ホテルに入った提督……エレベーターで泊まっているフロアまで上がると、あくびをしながら部屋のドアをノックする…

フェリーチェ「はい、どなた?」

提督「ミカエラ、私よ……いま戻ったわ」

フェリーチェ「今開けるわ、ちょっと待ってて……」ドアチェーンや鍵を開ける音に続いてドアが開き、フェリーチェが顔を出した……

提督「ただいま、ミカエラ……♪」

フェリーチェ「んっ……お帰りなさい」

提督「ええ。 さ、部屋に入れてくれる?」

フェリーチェ「ええ」

…数分後…

提督「ふー……」

フェリーチェ「さっぱりした? はい、お水」

提督「ありがと」

…昨日着ていたお出かけ用の服を脱いでシャワーを浴び、メイクも落としてさっぱりした気分でベッドに腰かけると、ミネラルウォーターのグラスを受け取った…

フェリーチェ「……結局一晩中帰って来なかったわね」

提督「ええ、クズネツォワ少将が帰してくれなくて……それよりミカエラ、あのイヤリングに仕込んだ盗聴器はいったいなぁに?」威厳のないバスローブ姿ではあるが立ち上がると腰に両手を当て、フェリーチェを問いただした……

フェリーチェ「ああ、あれね……クズネツォワの個人情報を少しでも聞き出せればと思って仕込んだんだけど、やっぱり彼女は一筋縄じゃいかなかったわね」

提督「もう。 貴女は情報部だし、私も多少の事なら協力してあげたっていいとは思っていたけれど……それにしたって何も知らない私をダシにして情報収集なんて人が悪いんじゃない?」

フェリーチェ「あー、事前に教えなかったことは謝るわ。 でも「私をダシにして」に関しては、むしろ「貴女だからこそ」だったのよ」

提督「どういう意味?」

フェリーチェ「本当なら言うわけにはいかないんだけど、貴女も関係者みたいなものだから特別に教えてあげるわ……ま、かけて?」

提督「ええ」

フェリーチェ「情報部としてはね、前々から彼女に目を付けてはいたのよ……冷厳で無慈悲、システマみたいな軍用格闘技に小火器、ヘリや飛行機の操縦も出来て、ロシア語に英語、フランス語もばっちり」

提督「確かにフランス語は上手だったわ」

フェリーチェ「でしょうね……しかしクズネツォワ少将は表向きこそ「海軍少将」とはいいながらも何をしているのかはっきりしないし、あちらの部内で粛正なんかに携わっていたなんていう後ろ暗い噂もあって、こっちとしては彼女の性格や任務に関わる情報なら何でもいいから引き出したかったの」

提督「つまり狼の前に肉の塊をぶら下げてみたわけね」

フェリーチェ「ありていに言えばね。でも、危険性に関しては部内でも十分検討したし考慮されていたのよ。仮にもお互い海軍少将で、プライベートな会話をするだけ……それを盗聴しようとしたからっていちいち相手の首をへし折ったりしていたらかえって大問題になるし、あちらも貴女が「仕込み」であることは分かっていたはずよ……だからこそあのイヤリングに気付いたわけだし」

提督「むぅ……でも、そうは言っても少しくらいは信用して欲しかったわ」

フェリーチェ「それに関しては本当に謝るわ……でも貴女は素直だから、イヤリングの盗聴器を隠しおおせるような腹芸はできないし、ましてや相手はその道のプロだもの、素人芝居で取り繕ったってすぐ見抜いたに違いないの……結局のところ、知らないでいるのが一番良かったのよ」

提督「なるほどね、納得は出来ないけれど理解はしたわ……それにしても、ユーリアってそんなに危険な相手だったの?」会話を思い返してみても色々と常人と違うところはあるが、ユーモアのセンスもあれば人並みに笑うことも出来る彼女が冷酷で無慈悲な人間だとは思いにくい……

フェリーチェ「どうかしらね。危険だって確証が掴めているようならそもそも調べたりはしないし、何より貴女みたいな大事な女(ひと)を送り込むような真似なんてしないわよ」

提督「まぁ、お上手だこと」

フェリーチェ「ま、少なくともクズネツォワ少将に関して言えば「限りなく黒に近いグレイ」ってところね……海軍に所属している形をとって、GRUに籍を置いていないスパイの親玉だとにらんでいるの」

(※GRU…ゲー・エル・ウー。軍の諜報・防諜を担う情報機関。ソ連軍参謀本部情報総局)

提督「GRUって、こっちでいう「AISE」……改編前の「SISMI」みたいな組織でしょう?」

(※SISMI…「Servizio per le Informazioni e la Sicurezza Militare」の略。軍事保安庁。防諜担当のSISDEと対になる情報機関だった)

フェリーチェ「おおかた合ってるわ。まぁ、規模もやり口もAISEよりは数段格上だけれど」

886 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/08/15(火) 01:57:29.95 ID:i4/jssu/0
提督「それにしてもソ連の方がなくなってGRUが残るだなんて、当のロシア人だって思いもしなかったでしょうね」

(※GRUはソ連崩壊後も「ロシア連邦軍参謀本部情報総局」として名前を変え、ほぼ組織を残している)

フェリーチェ「どこでも組織なんていうのはそういうものよ。そしてその血脈を受け継いでいるのがクズネツォワ少将ってわけ」

提督「なるほどね……ところでさっき「後ろ暗い噂」って言っていたけれど、本当にそんな噂があるの?」

フェリーチェ「断定できるようなものは何も……もっとも、ロシアの情報機関は国内での暗殺をいうほどこっそりはやらないけれど」

提督「どうして?」

フェリーチェ「理由は簡単。バレなければそれで結構だけれど、バレたらバレたで「政府に逆らうとこういう目に遭うぞ」って脅しに使えるのよ。むしろわざとバレるようにやる場合さえあるわ」

提督「……」

フェリーチェ「それで、彼女が関わっていると思われるケースはというと……」

提督「なんだか聞かない方が良さそうな気がしてきたわ」

フェリーチェ「ご冗談、彼女とベッドを共にしてきた勇気があるんだから大丈夫よ……最初が軍内部でクーデターを画策したと思われる陸軍高級将校の不審な事故死」

提督「事故死?」

フェリーチェ「ええ。入浴中、バスタブに落ちたドライヤーで感電」

提督「それなら普通にあってもおかしくはなさそうだけれど?」

フェリーチェ「それだけならね。ただ、その高級将校はガラス玉そこのけのつるつる頭なのよ……ドライヤーで胸毛でも乾かしていたっていうのなら話は別だけれど」

提督「なるほど……」

フェリーチェ「それから兵器の横流しをしていたとある補給所長。公的な記録によると「ウォッカの飲み過ぎで吐瀉物を喉に詰まらせ」となっているんだけれど、調べたところによれば、その汚職軍人はアルコールが飲めるほうじゃなかったのよ」

提督「ロシアにもお酒が飲めない人がいるのね」フェリーチェから明かされた情報の多さに戸惑い、とんちんかんな感想を漏らす提督……

フェリーチェ「そりゃあいるわよ……他に関与が疑われているものが二、三件あるけれど確証はなし。ただいずれも軍内部の粛清に限られているわ」

提督「だからってちっとも安全になった気がしないのは私だけ?」

フェリーチェ「大丈夫よ。こういう探り合いはお互いにやっていることだから……なんなら経歴をファックスで送るように頼んだっていいくらいよ」

提督「私には縁のない世界だわ」

フェリーチェ「貴女は素直過ぎるもの……とにかくお疲れさま。刺激的な一晩だったでしょう?」

提督「刺激的すぎてくたびれちゃったわ……少し眠るけれど、支度をする時間になったら起こしてね?」

フェリーチェ「ええ……私は報告を書き上げちゃうから、その間ゆっくり寝てて」

…コンピュータを立ち上げ、カタカタと文書を打ち始めるフェリーチェ……普段は好ましく感じている、個人的にされた話やプライベートに関わることを胸の内にしまっておける提督の義理堅さを厄介に思いながらも、会話の間に忍ばせていた質問や裏を取りたい事項で分かった部分をまとめていく…

提督「すぅ……すぅ……」

フェリーチェ「ふふ、子供みたいなあどけない寝顔をしちゃって……♪」

…まだ曙光がおとずれない窓を眺めやりながら文書を叩き、出来上がった文書はロックと暗号化を行ってUSBメモリに保存し、ラップトップから外すとドッグタグ(認識票)のように首からかけた……それも懇談会に出る前には大使館で本国に送信してもらい、メモリ自体は消去してもらう…

フェリーチェ「……これでよし、と」

………



…数時間後…

フェリーチェ「フランチェスカ、そろそろお目覚めの時間よ」

提督「んんぅ……おはよう、ミカエラ♪」

フェリーチェ「ええ、おはよう……もっとも、もう「おはよう」の時間でもないけど」

提督「懇親会まであとどのくらい?」

フェリーチェ「二時間はあるわ。それだけあれば十分に支度できるでしょ」

提督「ええ。こればっかりは士官学校の教育に感謝しないと♪」

フェリーチェ「言えてるわ」
887 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/08/20(日) 01:38:24.41 ID:I2vJbfKD0
…午前中…

ニッカネン「カンピオーニ少将にフェリーチェ大尉、ご機嫌いかがですか」

提督「ええ、おかげさまで元気です」

フェリーチェ「私もです……会議が無事に終わってよかったですね」

ニッカネン「それもお二人がオブザーバーとして参加くれたおかげです。今日はもう話し合うこともありませんし、細かい手続きは事務方のほうで詰めてくれる手はずになっておりますから、お二人の行きたいところがあればご案内しますよ」

提督「それは楽しみですね……フェリーチェ大尉、貴女は?」

フェリーチェ「はっ、私は……」

クズネツォワ「おや、カンピオーニ少将にフェリーチェ大尉」

提督「あら、クズネツォワ少将」

クズネツォワ「おはよう……いや、もう「こんにちは」だな」

提督「そうですね、この時期のフィンランドは昼間が短いので分からなくなりそうですが」

クズネツォワ「イタリア人の君からすればそうかもしれないな」

提督「ええ……ところで、何か私に用がおありでしょうか?」

クズネツォワ「ダー。君は昨晩、私の部屋に忘れ物をして行っただろう。それを返しに来たのだ……ほら」そういって盗聴器入りの真珠のイヤリングを取り出し、提督の手に載せた……

ニッカネン「カンピオーニ少将? 昨夜はクズネツォワ少将の宿泊しているホテルで一晩お過ごしになったのですか……?」

提督「あー……それは、その……会議の内容について少々質問があるからと……で、夕食をご一緒したのですが遅くなってしまったので、そのまま……///」

ニッカネン「……そうですか、なるほど」頬を紅くしてしどろもどろな返事をする提督に醒めた視線を向けるニッカネン……

クズネツォワ「とにかく、これはお返しする……ああ、それとフェリーチェ大尉」

フェリーチェ「何でしょうか」

クズネツォワ「いや、聞くところによるとこのイヤリングは君からカンピオーニ少将への個人的なプレゼントだそうだな……実に素敵な品物だ」

フェリーチェ「恐縮です」

クズネツォワ「いや、なに……ところで一体どこに行けばこういったものが手に入るのか、非常に興味があるのだが」

フェリーチェ「そうですか? てっきりモスクワにもこうした品物を扱う店は数多くあると思っておりましたが」

クズネツォワ「ふむ、そうだな……とにかく、今後はこういったことがないようにした方がいいだろう」

フェリーチェ「そうですね。アクセサリーを置き忘れたり、うっかり水の中に落としたりしないよう気を付けたほうがいいでしょうね」

クズネツォワ「そうだな……では失礼する」

フェリーチェ「……ふー」

提督「ミカエラ、あれって……」

フェリーチェ「ええ、クギを刺しにきたの……さすがに正面切って顔を合わせると肝が冷えるわ」

ニッカネン「クズネツォワ少将は一筋縄で行くような人物ではないと噂に聞きます。十分ご存じのこととは思いますが……」

フェリーチェ「ええ、ありがとうございます。ですがいつかは誰かが「猫の首に鈴」をつけなければなりませんから」

提督「あれはどちらかと言えば猫と言うよりはアムールトラだけれど……」

フェリーチェ「それでも貴女からすれば「ネコ」なのは同じ……でしょ?」

提督「ノーコメント」

ニッカネン「カンピオーニ少将? まさかとは思いますが……」

提督「……クリスティーナ。制服を着ていない時の私の行動についてはしゃべらない自由もあるはずよね?」

ニッカネン「ええ、もちろん」

提督「ならそういうことで……ね?」

ニッカネン「分かりました……話を戻しますが、市街散策などいかがでしょうか」

提督「ええ、ぜひ……せっかくクリスティーナが誘ってくれたんですもの♪」後半は耳元に口を寄せて、甘い声でささやいた……

ニッカネン「……はい///」

888 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/08/28(月) 02:50:35.30 ID:J4WEynrY0
…軍事博物館…

ニッカネン「……軍人としては光栄ですが、せっかくの自由時間に訪問するのがこのようなお堅い施設で良いのですか?」

提督「ええ。ヘルシンキ旧市街も素敵だけれど、初日にある程度は回ることが出来たから……それに、色々と用意してくれているのでしょう?」

ニッカネン「それはもう……といっても、実銃の試射くらいしか出来ませんが」

提督「それだけ体験できれば充分よ♪」

フェリーチェ「何しろフランチェスカは射撃が趣味だから……普段は大きい音が嫌いなくせにね」

提督「だって、自分が撃っている間は気にならないもの♪ よいしょ……っと」

…制服を汚さないようにと用意してもらったフィンランド軍の野戦服に着替えると、博物館の館長を兼ねている予備役少佐の解説を聞きながら、戦中・戦後のフィンランド軍が使ってきた多種多様な兵器を観察して回る……冬戦争や継続戦争で改造をくり返しながら戦力として役立ててきたそれらの兵器は、提督にとってなじみ深いイタリアの兵器を始めドイツ、スウェーデン、あるいはイギリス、フランス、はたまたポーランドといったものから、ある意味では主力とも言える鹵獲品のソ連製までさまざまで、どれもよくレストアされ、きちんと管理されている…

ニッカネン「これは対戦車砲の牽引などで活躍したソ連製のT−20「コムソモーレツ」小型トラクターです」

提督「可愛らしいトラクターね。マリー……フランス海軍の友人の鎮守府にあった「ルノーUE」やイギリスの「ブレンガン・キャリア(ユニバーサル・キャリア)」、あるいはイタリアのL3「カーロ・ヴェローチェ」を思い出します」

ニッカネン「そうですね。性格としては「カーデン・ロイド」豆戦車から発展した一連のシリーズによく似ています……」と、館長が何やらニッカネンに話しかけた……

ニッカネン「カンピオーニ提督……いま館長が「せっかくですから屋外射撃場までこれに試乗していきませんか?」と申しておりますが」

提督「よろしいのですか? では、お言葉に甘えて♪」

…屋外射撃場…

提督「あいたた……お尻が痛くなっちゃったわ。それにエンジン音も結構大きかったし」

…提督たちは「コムソモーレツ」の後部にある開放型の木製シートに腰かけて屋外射撃場までやって来たが、足回りはごくあっさりした構造なので地面の起伏に合わせてガタンゴトンと派手に揺れ、エンジンの排気がもうもうと立ちこめた……よいしょと脇に降りても、まだ身体の中に振動が残っている気がする…

フェリーチェ「乗ってみたいと言ったのは貴女でしょうが」

提督「まぁね……こういうのもいい経験よね♪」

ニッカネン「あまり乗り心地がいいとは言えなかったと思いますが……大丈夫でしたか」

提督「ええ、大丈夫よ」

ニッカネン「それなら良かったです……では、こちらがカンピオーニ提督に体験していただく銃です」屋外射撃場の台の上には、現用のものからクラシカルなものまで、数種類の軍用銃が並べてある……

提督「こんなにたくさん用意して下さって、ありがとうございます」英語とつたないフィン語のちゃんぽんで、博物館の職員にお礼を言う提督……

館長「いえ、興味を持っていただいて嬉しいですよ……どうぞ一通り試してみて下さい」他のレンジには現役下士官らしい数人が入っていて、集中した様子で爽やかな森の中にある的に向けて射撃練習をしている……提督は耳当てを受け取ると館長から一通りの操作手順を聞いて、一挺を手に取った……

ニッカネン「それは「スオミ・KP31」短機関銃です。ソ連の「バラライカ」ことPPSh−41短機関銃に似ていますが、登場したのは1931年ですから、こちらの方が先ですね」

提督「なるほど……すごくずっしりしていますね」木製ストックにドラムマガジンのついたクラシックな造りの短機関銃は「ベレッタM12S」や「フランキLF57」といった短機関銃どころか、提督が士官学校で扱ったことのある「ベレッタBM59」自動小銃と比べても重く、がっちりしている……手に軍用の防寒ミトンをはめて耳当てを付けると、射撃場の的に向かって銃を構える……

館長「では、いつでもどうぞ」

提督「ええ……撃ちます」

…射撃時にボルトと連動しないよう独立している槓桿(コッキングハンドル)を引いて初弾を送り込むと、引き金を引く……途端に銃口から「バリバリッ……!」と威勢良く9×19ミリの銃弾が撃ち出され、硝煙が立ちこめる……弾倉を含めた銃の自重がたっぷり7キログラム近いこともあって跳ね上がりはほとんどなく、腕が抜けそうなほどの自重を除けば素直によく当たる…

提督「なるほど……重い分だけ跳ね上がりが少ないですね」

ニッカネン「その通りです。それに本来この銃は短機関銃というよりは、スキー部隊が奇襲の際に使う「9ミリ口径の軽機関銃」といった扱いでしたから……とのことです」

提督「そう考えると納得ですね……それから、これは「ヴァルメRk62」ですか」

ニッカネン「ええ、フィンランド軍の現用自動小銃です。操作系はAK……つまりカラシニコフ突撃銃と同じです」

提督「なるほど、海軍士官学校では東側の銃器を扱う事がないので興味深いです」

…ある程度聞きかじりの耳学問でカラシニコフの操作手順は知っていたが、実際に手に取るとフィンランド軍が信頼するその頑強さがよくわかる……その上でヴァルメ62にはフィンランドらしい実用性に優れたアレンジが加わっていて、とても頼もしい一挺に仕上がっている…

館長「どうぞ、ご自由に撃ってみて下さい」

提督「……撃ちます!」ダダッ、ダダッ、ダダッ!

ニッカネン「いかがですか」

提督「そうですね、思っていたよりはマイルドでしたが……何しろ最近撃った銃と言えばショットガンかピストルがせいぜいだったので、少し苦戦しました」弾倉を抜いて薬室の弾をはじき出すと、苦笑いを浮かべて台に置いた……

ニッカネン「少将はそうおっしゃいますが、館長は「大変お上手だ」と言っていますよ」

提督「ふふ、そう言われるとお世辞でも嬉しいですね……せっかくですから残りの銃も試させて下さい♪」すっかり乗り気になっている提督と、熱心に話を聞き感想を述べてくれる提督に嬉しくなって、あれもこれもとコレクションを持ち出してきた館長……

フェリーチェ「やれやれ、これは長くなりそうね……」

ニッカネン「でも、喜んでもらえたようで良かったです」

フェリーチェ「……まるでクリスマスプレゼントをもらった子供みたいにね」
889 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/09/11(月) 01:01:00.15 ID:vcNtmlmO0
…昼食後…

提督「はぁ……美味しい」

ニッカネン「……午前中は射撃を楽しんでもらえたようで何よりです」

提督「ええ、おかげでとても貴重な経験が出来たわ♪」ヘルシンキ市内の老舗レストランで昼食をとり、食後のコーヒーを楽しんでいる提督たち……

フェリーチェ「博物館の館長とずいぶん小火器談義に花を咲かせていたものね……」

提督「だって、なかなかフィンランドの銃を手にする機会なんてないもの……クリスティーナには苦労をかけたわ」

ニッカネン「いえ、そんな……///」

フェリーチェ「こほん……ところでニッカネン少佐」提督がニッカネンに対してテーブル越しに微笑みを向けているのをみて、横合いから声をかけた……

ニッカネン「あぁ……はい、なんでしょう」

フェリーチェ「午後のスケジュールですが、このまま旧市街の散策と言うことでよろしいでしょうか」

ニッカネン「はい、そのつもりです」

フェリーチェ「分かりました」

提督「なぁに? もしかしてまた用事?」

フェリーチェ「いいえ。済ませるべきものはすっかり済ませたわ」

提督「なら心おきなく街歩きが楽しめるわね?」

フェリーチェ「美人を見るとすぐフラフラとどこかに行ってしまう、どこかの誰かさんのお守りさえなければね」

提督「誰の事かしら?」

フェリーチェ「その大きな胸に手を当てて考えてみることね」

提督「……私の胸がどのくらい大きいか、ミカエラはよくご存じだものね♪」フェリーチェの耳元に顔を寄せ、いたずらっぽくささやいた……

フェリーチェ「まったく、相変わらずよく口が回ること……」

…数分後…

ニッカネン「あの、カンピオーニ提督。一つお願いがあるのですが……」コーヒーも飲み終わりかけたころ、ニッカネンが遠慮がちに切り出した……

提督「ええ、どうぞ?」

ニッカネン「申し訳ありません……その、硬貨を貸していただけませんか?」

提督「硬貨ですか? 少し待って下さいね……」制服のポケットに入れてある革の小銭入れを取り出すと、中をかき回した……

提督「はい、ありましたよ」五ユーロ硬貨を取り出すと、包み込むような手つきでニッカネンの手のひらに載せる……

ニッカネン「ありがとうございます」

提督「いつでもどうぞ……でも、どうして硬貨を?」

ニッカネン「えぇと……実はその、これを///」いま提督が渡したばかりの硬貨を添えて、小ぶりな長方形の包みを手渡す……

提督「あら、そんな……わざわざプレゼントを?」

ニッカネン「ええ……せっかく出会えたのですし、もらっていただけると嬉しいです///」

提督「ありがとう、クリスティーナ……開けてもいいかしら?」

ニッカネン「どうぞ、ぜひそうしてください」

提督「何かしら……まぁ♪」

…包み紙をめくってニスを塗った飾り気のない、しかし丁寧に作られた箱を開けると、中には一振りのフィンランド・ナイフが収まっていた……フィン語で「プーッコ」と呼ばれる、つばのないシンプルな片刃のナイフは峰の方に向けて刃が反っている……柄はしっかりした角製で、刃渡りはだいたい十センチあまり……握ると角製の柄が持つ表面のでこぼこが滑り止めの役目を果たしていて、刃と柄のバランスもちょうどいい…

ニッカネン「その、どうでしょうか……///」

提督「ええ、とっても嬉しい……それに、フィンランドでナイフを贈られるのはとっても名誉な事だって聞いたことがあるわ」

ニッカネン「ご存じでしたか」

提督「ええ」

ニッカネン「……その、最初は別のものにしようかとも思ったのですが……私は化粧品や服など詳しくないですし……それならいっそ実用として使えるものの方が良いかと思いまして、それで……柄は私が仕留めたトナカイの角を使っています///」

提督「そんなにしてくれて嬉しいわ、クリスティーナ……それで硬貨が必要だったのね♪」

ニッカネン「ええ、昔からあるしきたりですので」

提督「ありがとう、大事に使わせてもらうわ」
890 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/09/21(木) 01:42:40.22 ID:GpOw/6mp0
…出張最終日…

フェリーチェ「今日で帰国だけど、出張はどうだった?」

提督「そうねぇ。短かったようで長かったような、長かったようで短かったような……とにかく今は鎮守府に戻って、ベッドでゆっくりしたいわ」

フェリーチェ「ふっ……相変わらずね、そういうとこ」

提督「仕方ないじゃない、そういうふうに出来ているのよ」

フェリーチェ「買い物は済んだ? 荷物は詰めた?」

提督「ええ。鎮守府に戻ってすぐ渡したいお土産はトランクに詰め込んで、あとのものは航空便で送るわ」

フェリーチェ「ま、そうなるでしょうね……そろそろ時間よ、行きましょう」

…ヘルシンキ空港・第二ターミナル…

ニッカネン「……それでは、よい空の旅を」

提督「お見送りありがとう、クリスティーナ……クリスマスにはメッセージを送るわ♪」親しみを込めて腰に腕を回し、唇に優しくキスをした……

ニッカネン「はい、楽しみにしています……///」

フェリーチェ「カンピオーニ少将」まるで生ゴミに呼びかけるような口調で声をかける……

提督「あら、何かしら?」

フェリーチェ「そろそろチェックインの時間です」

提督「まぁ……クリスティーナ、せっかく仲良くなれたのに離ればなれになるのは辛いことだけれど、寒い冬もいつか終わって春が来るように、私たちもきっとまた逢えるときがくるわ」

ニッカネン「ええ、そうですね……」

提督「それに別れは辛いけれど、淋しくはないわ……だってクリスティーナ、私には貴女がくれたプーッコ(フィンランドナイフ)があるもの。猟で使うたびに、刃を研ぐたびにきっと貴女の事を思い出すわ」

ニッカネン「そうあってくれれば嬉しいです」

提督「ええ、もちろん。それから、今度は貴女がイタリアへいらっしゃいな……ローマの遺跡や美術館、博物館に美味しいもの……案内したいところがたくさんあるわ♪」

ニッカネン「機会が出来たら、ぜひそうします」

提督「それじゃあ、その時を楽しみにしているわね♪」もう一度ほっそりした身体を抱きしめ、唇に音立てて口づけする提督……

女性グラウンドパーサー「あの、お客様……」ブロンドの髪をしたフィンエアーのグラウンドパーサーが声のかけどころに困りつつ、フェリーチェにそっと呼びかける……

フェリーチェ「ああ、すぐに連れて行きますから……フランチェスカ」

提督「それじゃあまた会いましょうね、クリスティーナ……チャオ♪」最後に少し気取って飛びきりのウィンクと、人差し指と中指での投げキッスを送ってゲートをくぐった……

ニッカネン「……チャオ、フランチェスカ///」

…ローマ・フィウミチーノ空港…

提督「うーん……懐かしのローマ、この空気や喧騒さえも懐かしい気がするわ」

フェリーチェ「たった数日の出張でそれじゃあ困るわね……それととりあえずはここでお別れ。私は情報部に寄って成果の引き渡しと任務報告(デブリーフィング)を済ませなきゃいけないから」

提督「今から?」

フェリーチェ「ええ、そうよ」

提督「もうクリスマスも近いのに?」

フェリーチェ「情報部にはクリスマスも週末もないの」

提督「……私にはついて行けそうにないわ」そう言うと驚いたような表情をつくり、大きく肩をすくめてみせた……

フェリーチェ「ついて来いなんて言った覚えはないわよ……はいこれ、グロッタリーエ空軍基地までの搭乗許可書」

提督「グラツィエ、ミカエラ」

フェリーチェ「いいのよ……それと明後日にはタラントの管区司令部で貴女への聞き取りを行う予定だから、今のうちに想定問答でも考えておく事ね」

提督「考えただけでげんなりするわ……」

フェリーチェ「バカ言わないでよ。本当なら貴女にもこのままスーペルマリーナ(海軍総司令部)までついてきてもらって、情報部の担当者から半日はあれこれ聞かれるはずなんだから……これでもずいぶんと大甘なのよ?」

提督「それもそうよね、まさか官費で北欧旅行を楽しませてくれるはずはないし……貴女が手心を加えてくれたのよね、ありがと」

フェリーチェ「ノン・ファ・ニエンテ(いいのよ)……これもしばらく同棲していたよしみと、私からのささやかなクリスマス・プレゼントってことで」

提督「嬉しいわ……それじゃあ、またね♪」

フェリーチェ「ええ」
891 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/09/28(木) 01:55:50.76 ID:fWeSDmOH0
…しばらくして・提督執務室…

デルフィーノ「はい、こちらタラント第六鎮守府です」

提督「チャオ、デルフィーノ♪ 私だけれど、聞こえる?」

デルフィーノ「提督っ♪ もうイタリアですか?」

…提督の留守中、交代で執務室に詰めていた艦娘たち……電話が鳴った時にいたのは現「秘書艦」の片方である中型潜「デルフィーノ」で、イルカの艦名に似つかわしい濃灰色のピッタリとしたセーターと白いスラックスのツートンで、受話器越しに聞こえる提督の甘い声を聞くと喜びのあまり腰を浮かせた…

提督「ええ、いまフィウミチーノから電話をかけてるの。順調に行けば……そうね、1600時ころにも帰れると思うわ」

デルフィーノ「わぁぁ、嬉しいですっ♪ なにか用意しておきましょうか?」

提督「そうねぇ……とりあえずはふかふかのベッドとたっぷりの夕食、それに温かいお風呂かしらね」

デルフィーノ「はい、全部用意をしているところですよ」

提督「グラツィエ、みんな気が利くわね。それじゃあ……」

デルフィーノ「?」

提督「……早く貴女の可愛い顔が見たいわ♪」

デルフィーノ「あぅ、提督……っ///」

提督「ふふっ♪ それじゃあできるだけ早く帰るようにするから……飛行機の時間が近いから、またね?」

デルフィーノ「はい……っ///」ガチャリと受話器を置くと、赤くなった頬に手を当てた……

アッチアイーオ「……電話が鳴ってたみたいだけど、提督から?」ともに秘書艦を務めている中型潜「アッチアイーオ」が、帰りに備えてベッドを整えていた提督寝室から顔を出す……

デルフィーノ「そう、提督から……///」

アッチアイーオ「それで? 思わずあなたが濡らしちゃうような口説き文句以外に何か言ってた?」

デルフィーノ「は、恥ずかしいからやめてよぉ……///」

アッチアイーオ「周知の事実を今さら隠し立てしたって無駄なのよ……いいから「なにが欲しい」とか「なにがしたい」とか、あったでしょ?」

デルフィーノ「それなら「夕食とお風呂、それにベッドの用意をしておいて」って」

アッチアイーオ「ならどれも準備万端ね……いつ頃戻るって?」

デルフィーノ「1600時には戻れると思うって」

アッチアイーオ「そ、ならみんなにもそう言っておかないと……」

…夕方…

提督「……すっかり遅くなっちゃったわね」

…グロッタリーエ空軍基地の駐車スペースに預けておいた「ランチア・フラミニア」を受け取ると、受付の下士官に「早めのクリスマスプレゼントよ」と、ヘルシンキで買ったチョコレートの大袋を渡してきた提督……と、そこまでは良かったが、道中でちょっとした渋滞に巻き込まれてしまい、抜け出して鎮守府への道を飛ばしている間にも、日がどんどん傾いていく…

提督「焦らない焦らない……せっかちは事故のもと」そう自分に言い聞かせながらも足は自然とアクセルを踏みこみ、大柄だが走りのいいランチアはカーブの多い海沿いの道をクリアしていく……

提督「…」ちらりとメーターに目をやり、少し速度を落とした提督……それでもランチアの走りを信頼して、時速80キロは充分に出している……

…夕暮れ時・鎮守府…

提督「はぁ、急いでは来たけれど一時間は遅くなっちゃったわ……」暗証番号を打ち込んで正面ゲートを開け、鎮守府の本棟にゆるゆるとランチアを進ませる……と、本棟の前に集まっている艦娘たちの姿が見えた……

艦娘たち「「お帰りなさい、提督!」」

提督「ただいま、みんな……寒いのに表で待っていてくれたの?」

リットリオ「当たり前じゃないですか♪」

カヴール「皆、提督のお帰りを首を長くして待っておりましたよ……長旅お疲れさまでした」

アッチアイーオ「それにしても、遅れるなら遅れるって連絡しなさいよ……心配したんだから///」

ルチア「ワンワンッ!」

提督「ごめんなさいね、道路で渋滞につかまっちゃって……」

ライモン「……お帰りなさい、提督。 わたし、提督が帰ってくるのを待っていました///」恥ずかしげに提督の頬へ軽いキスをしたライモン……

提督「ええ、ただいま……♪」

892 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/10/04(水) 01:52:33.01 ID:pkZtqh5L0
マエストラーレ「提督、提督っ♪」

オリアーニ「なんだか久しぶりな感じ……ね、キスして?」

ルビノ「早く提督の熱い唇をちょうだい……っ♪」

提督「もう、焦らなくたって私はいなくなったりしないわよ?」そう言いながらも、挨拶代わりにキスをして回る提督……

カラビニエーリ「こら、そんなにまとわりつかれたら提督が歩きにくいでしょうが」

提督「いいのいいの、むしろ出張から帰ってきただけなのにこんなに歓迎してくれて嬉しいくらい……カラビニエーリもいらっしゃい♪」

カラビニエーリ「そ、それじゃあお言葉に甘えて……///」

リットリオ「提督っ、私もいいですか♪」

提督「もちろん♪」

…年相応の女の子のようにきゃあきゃあと笑いさざめきながら、鎮守府のこまごました出来事や面白かった出来事を一斉に話す艦娘たち……提督は辺りに笑顔を振りまきながら相づちを打っていたが、玄関ホールまで入った所で軽く手を鳴らした…

提督「はいはい、そう一斉に話されたら何が何やら分からなくなっちゃうわ。 それに荷物も降ろしたいし、続きは夕食の後にでもゆっくりと……ね?」

カヴール「そうですね、暖炉の前でゆっくりワインでもいただきながら……ということにいたしましょう♪」

ライモン「では、荷物はわたしが……」

提督「ありがとう、ライモン」

デルフィーノ「お部屋の用意は済ませてありますよ」

提督「助かるわ。 正直、ちょっと疲れちゃったもの。お風呂をいただいてさっぱりしたら夕食にするわ……みんなはもう夕食を済ませたの?」

ドリア「いいえ。みんな「提督が帰ってくるまで待とう」と……保温容器に入れてありますから、まだ熱いままですよ」

提督「そんな、わざわざ待たなくても良かったのに……それじゃあお風呂でほこりを流してくるから、もう少しだけ待っていてちょうだいね?」

…大浴場…

提督「はぁぁ……♪」

…古代ローマ風の豪奢な浴槽に「ちゃぽん……」とつま先から脚を入れ、それから滑り込ませるようにして身体をお湯に沈めた提督……鎮守府の温泉は裏手に湧いている源泉の具合によって泉質が多少変化するが、今日はほのかな緑白色をしていて、誰かにそっと抱きしめられた時のようにじんわりと温かい…

アッチアイーオ「……提督、せっかくだから洗ってあげましょうか?」

…暖かければ暖かいほど柔らかくなり、冷えるとツンとした態度、さらに寒くなるとすっかり心がもろくなってしまうアッチアイーオ(鋼鉄)……今は結い上げた髪にタオルを巻いた姿で提督の横に腰かけ、ガンブルーを思わせる艶やかな黒い瞳をちらちらと提督の裸身に走らせている…

提督「そうねぇ、それじゃあお願いしようかしら……」

アッチアイーオ「分かったわ、それじゃあ私が流してあげる♪」

…浴槽から出てカランの前に座った提督の後ろに回るとご機嫌な様子でシャンプーを取り、提督の髪を洗い始めた……ほっそりした、しかし意外なほど力のある指が心地よく頭皮を撫で、提督の腰まである長い髪をていねいに梳いていく……お湯を含んでずっしりとした髪に甘いシャンプーの香りが絡みつき、アッチアイーオの指が滑っていくたびに心地よい刺激が伝わってくる…

アッチアイーオ「それじゃあ、流すわよ……熱くない?」

提督「いいえ、ちょうどいい具合よ……こんなに気持ち良いと眠くなってきちゃうわね」

アッチアイーオ「だからってここで寝ないでよ?」

提督「ええ、そうするわ」

アッチアイーオ「はい、おしまい……次は身体を洗ってあげる///」

提督「それじゃあ前は出来るから、背中をお願いしようかしら」タオルで頭をまとめ上げると、豊かな胸からほどよくくびれたウエスト、そしてむっちりしたヒップへと続く白く滑らかな背中があらわになる……

アッチアイーオ「え、ええ……///」何度かベッドを共にしたことがあるとはいえ、明るい大浴場でしげしげと眺めるのは少々気恥ずかしい……

提督「アッチアイーオ?」

アッチアイーオ「ううん、何でもないわ……」スポンジでもこもことせっけんを泡立てると、ふわっと花束のような甘い香りが立ちのぼった…肩甲骨から下へ向かって、柔和なラインを持った提督の背中にスポンジを走らせると、まるで愛撫しているような気分になってくる……

提督「あ…そこ、気持ちいい……んっ♪」

アッチアイーオ「そ、そう?」提督が発する甘い声にドキリとして、返事がついうわずってしまう……

提督「……ねえ、アッチアイーオ♪」

アッチアイーオ「な、なに?」

提督「なんだか億劫になっちゃったから、前もお願いできるかしら……♪」鏡越しにアッチアイーオの表情を見ると、提督の金色の瞳にいたずらっぽい…そしてどこか甘くいやらしい光を宿すと、からかうような…あるいは誘うような声を出した……

アッチアイーオ「べ、別にいいけど……?」

提督「ならお願いするわ、戻ってくるときに急いだりして結構汗ばんじゃったから……丹念にお願いね♪」

アッチアイーオ「……っ///」
893 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/10/09(月) 02:35:18.96 ID:T5P3BkAm0
…しばらくして・食堂…

アラジ「……ずいぶん遅かったね?」

アッチアイーオ「///」

提督「そうね、なにしろ髪が長いものだから♪」

…まだ余韻を残しているようなアッチアイーオが顔を赤くしてそっぽを向いたのに対して、にこやかに微笑みながらさらりと言い逃れをする提督……もちろん察しのいい一部の艦娘たちにそんなありきたりな嘘が通用するわけもないが、恥ずかしげなアッチアイーオのためについた言い訳であることを分かってほしいという含みを持たせた…

ドリア「そうですね、チェザーレも髪を乾かすとなると大騒ぎですし♪」口元を手で押さえてころころと笑いながら、髪にうるさいチェザーレを引き合いに出してからかった……

チェザーレ「む、それは致し方あるまいが……」

ディアナ「さあさあ、提督もお腹を透かしていらっしゃるのですから……まずは夕食にいたしましょう」

リベッチオ「賛成っ♪」

提督「そうね、お風呂に入ってさっぱりしたらお腹が空いてきたわ♪」

…すっかりクリスマスムードの食堂で楽しげにしている艦娘たちを眺めつつ、定位置に腰かけた提督……最初は遠慮していたが周囲にやいのやいの言われて横に座ったライモンが、グラスに白ワインを注いでくれる…

カヴール「では改めて……お帰りなさいませ、提督♪」

提督「ええ♪」

…ディアナは旅の疲れで食欲が出ないだろうと気を利かせてくれていて、テーブルには家庭的なミネストローネ、それと作り置きの野菜マリネや牛の生ハムスライスといった、さっぱり食べられるものが並んでいる…

ディアナ「いかがでございましょう?」

提督「ええ、とっても美味しいわ……♪」すっきりと飲み口のいいシチリアの白ワインをお供に、暖炉の火がかもし出す暖かな雰囲気の中で艦娘たちとゆったり食事をとる……

ライモン「もう少しいかがですか、提督?」

提督「ありがとう。ライモン、ところでワインをもう少しいかが?」

ライモン「ええ、それじゃあ半分ほど……///」

…食後…

提督「ふー、美味しかったわ……ディアナ、お皿洗いを手伝いましょうか?」

ディアナ「お帰りになったばかりの提督にそのようなお願いはいたしません……それより、あの娘たちに土産話でもしてあげて下さいませ」

提督「分かったわ。それじゃあお皿洗いは後にして、ディアナもいらっしゃいな♪」

ディアナ「まぁ……では、よしなに」

…暖炉のそばに引き寄せた椅子や暖炉の前に敷いてある大ぶりの絨毯には艦娘たちと、鎮守府の皆に可愛がられている純白の雑種犬「ルチア」が三々五々と集まり、椅子に座って火を眺めていたり、あるいは直接絨毯に座ったり寝そべったりしている……中の何人かはクリスマスシーズンということでつまみ食い自由にしてある「パンドーロ(黄金のパン)」といった伝統焼き菓子をつまんだり、果物やスパイスの入ったホットワインやキアンティを垂らしたコーヒーで暖まっている…

提督「よしよし♪」ルチアのふんわりと長い毛をブラシでくしけずりつつ、ときおり耳のあたりや尻尾の付け根をかいてあげる提督……

ルチア「ワフッ……♪」

デュイリオ「うふふっ♪ ルチアも提督がお戻りになって、安心したようですね♪」

…おっとりした妙齢のお姉さまである「カイオ・デュイリオ」は自分のペットであるカラスを肩に止まらせつつ揺り椅子に腰かけ、紅に金糸で模様をあしらった豪奢なガウン姿でちびちびとブランデーを舐めている……時折かたわらに置いてある小皿からクルミを取るとカラスに食べさせて、それから頭を撫でたり、羽根を整えてあげたりしている…

カラス「カー」丸い利口そうな目をくるくると動かし、それからデュイリオの頬にちょんと身体を寄せると頬ずりのような動きをした……

デュイリオ「まぁまぁ……それじゃあもう少しだけあげましょうね♪」

カルロ・ミラベロ「それで、提督のお眼鏡にかなうような綺麗なお姉さんはいた?」絨毯に寝そべり頬杖をついて、脚をぱたぱたと動かしている……

提督「もう、別に北欧へ遊びに行ったわけじゃないのよ?」

エウジェニオ「あら、そうなの? でも、出会いの一つや二つはあったでしょう?」

提督「それは、まあ……なかったとは言わないけれど♪」

ガリバルディ「やっぱりね……それで?」

提督「そうねぇ。例えばスウェーデンのラーセンっていう大佐なんかはとっても綺麗な人で……まるでグレタ・ガルボみたいで、惚れ惚れするような美しさだったわ♪」

エウジェニオ「そう。ところで提督が大事そうに部屋へ持って行った贈り物のナイフ……あれの送り主のフィンランド人とはずいぶん仲良くなったみたいだけれど、その話はしないの?」

提督「……どうしてあの贈り物がナイフだって分かったの」

エウジェニオ「ふふ、私の目をごまかそうとしてもそうは行かないわ♪ まず、あの箱の様子だと中身は長細いものでしょうし、かといってペンにしては大きすぎる……これといったロゴやブランド名もないから、送り主の手作りかそれに近い素朴な何か……で、今回の出張先はフィンランドでしょ」

提督「え、ええ……」

エウジェニオ「フィンランドと言えばフィンランド・ナイフ(プーッコ)が有名だし、あの飾り気のなさはスウェーデン人よりは質素倹約を重んじるフィンランド人からのプレゼントにふさわしい……ってところね。どう?」

提督「……エウジェニオにはかなわないわね」
894 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/10/21(土) 01:16:08.05 ID:+S+lF9aD0
…その晩・提督寝室…

提督「ねぇライモン、一緒に入る?」

…ワインやカクテルといったお酒、それに暖炉の火ですっかり暖まった提督がぽおっと赤みを帯びた顔に柔和な笑みを浮かべつつ、布団を持ち上げすき間を作った…

ライモン「あ、いえ……わたしは自分の部屋で休みますから///」

提督「……いいの?」

ライモン「そんな誘い方……ずるいです///」くるぶしまである純白のネグリジェをするりと脱ぐと、滑るようにベッドへ入ってきた……

提督「ふふ、いらっしゃい♪」

ライモン「提督……///」

提督「ライモン……こうやって名前を呼ぶのも久しぶりな気がするわ♪」

ライモン「わたしも……待ち遠しかったです///」

提督「嬉しい……んっ♪」

ライモン「ん……ふ///」

提督「ちゅっ……んちゅ…ちゅる……っ♪」

ライモン「ん、んぅ……ちゅぱ///」

提督「ぷは……ライモン、貴女の好きなようにしていいのよ?」

ライモン「そ、そうですか……それじゃあ///」

…提督の両肩に手を置き、ずっしりした乳房に顔を埋めるようにしてぎゅっと身体を寄せるライモン……提督の谷間にライモンの暖かい吐息が微風となって吹きつけ、しっとりしたライモンの白い肌が提督の柔肌と吸い付くように重なり合う…

提督「よしよし……♪」

ライモン「あ……っ///」

…明るい、しかしけばけばしくはないライモンの金髪をくしけずるように撫でる提督……ベッドの白いシーツには提督の長い金色がかった髪がウェディングドレスの裾のように広がり、その上で抱き合っている二人はまるでひまわり畑で寝転んでいるように見える…

提督「……来て?」

ライモン「はい……///」ちゅぷ……っ♪

提督「んっ……ふふっ♪ ちゃんと、私の気持ちいいところ……」

ライモン「忘れるわけがありません……だって、フランチェスカ……貴女が教えてくれたんですから///」

提督「そうね。それじゃあ私も、ライモンが教えてくれたところ……♪」くちゅ……っ♪

ライモン「あ、あ、あ……っ///」

提督「ふふ、可愛い声……もっと聞かせて?」ぬりゅっ、くちゅ……り♪

ライモン「ふぁぁ……あっ、ん……あぁ……んっ///」

提督「……ほら、好きにしていいのよ?」

ライモン「だったら……手を止めてください……っ///」

提督「ふふ、仕方ないじゃない。いつも可愛いライモンがそういうトロけた表情をするの……ベッドの中でしか見られない特別な顔で好きなんだもの♪」

ライモン「……も、もうっ///」顔を真っ赤にしたライモンが照れ隠しに怒ったような表情を浮かべ、提督の濡れた花芯に中指と薬指を滑り込ませた……

提督「ひゃぁん…っ♪」

ライモン「貴女は、いつもそうやって優しくて甘い言葉をかけてくれるから……だから……っ///」じゅぷっ、ぐちゅぐちゅ……っ♪

提督「あっ、あっ、あぁぁ……んっ♪」

ライモン「だから、わたしだけじゃなくてみんなが貴女の事を好きになって……ずるい女性(ひと)です……っ///」くにっ、こりっ……ちゅぷ……っ♪

提督「あぁぁぁん……っ♪」長い余韻を残しつつ、甘くねだるような声で絶頂した提督……嬌声をあげながらも片手はライモンの滑らかなほっそりした腰に回され、もう片方の手はライモンのとろりと濡れた秘所にあてがわれ、中にぬるりと滑り込んでいる指が粘っこい水音を響かせながらなめらかに動く……

ライモン「あぁぁんっ……フランチェスカ……ぁ///」

提督「ねえ、ライモン……」太ももを重ね合わせて「ぬちゅっ、くちゅっ……♪」とみだらな水音を響かせながら、耳元でささやいた……

ライモン「なんですか、フランチェスカ……?」

提督「ええ、貴女にちょっと早めの……クリスマスプレゼント♪」ぐりっ、ぷちゅ……っ♪

ライモン「あ、あぁぁぁぁ……っ♪」

提督「……うふふっ、しばらくご無沙汰だったぶん……今夜は好きなだけしていいから、ね?」
895 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/10/26(木) 01:19:06.59 ID:fR+tjxd80
…翌朝…

デルフィーノ「おはようございます、提督」

提督「おはよう、デルフィーノ。 ちょっとだけ声を落としてもらえるかしら……ね?」ベッドのふくらみを指し示して、パチリとウィンクをした……

デルフィーノ「……あ、はいっ///」

提督「ふふ、ありがと♪」デルフィーノの頬におはようのキスをするとガウンを羽織り、浴室へ行って洗面台で顔を洗い、それからきっちりと歯を磨く……北欧出張の際に現地で買った、キシリトール入りだという歯磨き粉をさっそく使ってみる……

提督「……なるほど、確かにスッキリした感じはあるかもしれないわね」

…歯みがきと洗顔を終えて部屋に戻ると、デルフィーノがせわしなく動きながら朝刊と目覚めのコーヒーを用意してくれていた…

デルフィーノ「朝のコーヒーと新聞です、提督。 お留守の時の分もとってありますから、読みたかったら後で読めますよ」

提督「グラツィエ……ん、いい香り」

デルフィーノ「今日のコーヒーはゴンダールが淹れたエチオピアです」

提督「ゴンダールだものね……美味しいわ」(※ゴンダール…当時の「イタリア領東アフリカ」(エチオピア)にある都市。世界遺産にもなった建築などで知られる)

デルフィーノ「それでは、また朝食の時に……///」

提督「ええ♪」窓を細めに開き、冷たいが清らかな冬の海風を少しだけ部屋に入れながらガウンにくるまり湯気の立つコーヒーを楽しむ提督……朝刊の「レプブリカ」を読んでいると、ライモンが目をこすりながら出てきた……

提督「おはよう、ライモン」

ライモン「おはようございます……朝のコーヒーはわたしが支度をしたかったのですが、寝過ごしてしまいました……」

提督「いいのよ……昨夜聞かせてくれた甘い声だけでお釣りがくるわ♪」コーヒーカップ片手にからかうような口調で言った……

ライモン「も、もう///」

提督「今日は何の予定もないし、荷物の整理が済んだらのんびりさせてもらうわ……それとライモンには、留守中にあった話でも聞かせてもらおうかしら」

ライモン「はい♪」

…朝食後・食堂…

提督「……それじゃあみんなに早めのクリスマスプレゼント♪」

…朝食を済ませてゆったりとした空気が流れている中、提督がトランク一杯買ってきた北欧三カ国のお土産を渡し始めた……当直や哨戒のために出撃している艦娘をのぞいた手すきの娘たちが食堂に集まり、それぞれ提督がふさわしいと思ったものや、本人が欲しがっていたものを受け取っている…

リベッチオ「提督、さっそく開けていい?」

提督「もちろん、貴女のために買ってきたのだから……喜んでもらえるとうれしいわ♪」

リベッチオ「何かなぁ……わぁ、素敵なマフラー♪」包みから出てきたのは長いふんわりしたクリーム色のマフラーで、褐色の肌と良く似合う……

提督「この間、出撃の時に首元が寒いって言っていたから……どう?」

リベッチオ「うん、うんっ♪ とっても暖かいよっ……ありがと♪」

提督「みんなにもそれぞれあるから……はい♪」いくら四姉妹とはいえ、いつも十把一絡げにしたようなお揃いばかりではつまらないだろうと、それぞれの好みに合わせて違う色や柄のマフラーを選んできた提督……

マエストラーレ「とっても嬉しいよ、提督♪」

提督「そう言ってもらえて良かったわ……でも、それならお礼のキスくらい欲しいわね♪」

マエストラーレ「ん、まかせて♪ んちゅ、ちゅる……っ♪」冗談めかした提督に対して、マエストラーレがくっつくように身体を寄せるとつま先立ちをし、提督の両頬を手で押さえると舌を滑り込ませた……夏の香りを残したような褐色の肌が近寄り、あどけなさの残る……しかし熱っぽいキスを浴びせてくる…

提督「んぅぅ……ぷは♪」

マエストラーレ「これで満足?」

提督「ええ♪ それにこれ以上したくても、ここでするわけにはいかないものね?」

リベッチオ「くすくすっ……提督がしたいならここでしたっていいよ?」ぱっちりとした目をくるくると動かしつつ斜め下から見上げるような、挑発的かつませた態度をとってみせる……

提督「ふふっ、リベッチオったら♪」

ライモン「……提督」

提督「あぁ、はいはい。 えぇと、これは……ディアナ」

ディアナ「まぁ、わたくしにもプレゼントを?」

提督「もちろん……貴女にはこれを」小ぶりな箱に入っていたのは三日月をあしらった銀のキーホルダーと、真珠をあしらった銀の髪留め……

ディアナ「あら、こんなに素敵なものを……」

提督「ほら、貴女がいつも使っているフィアット850……あれのキーには何も付いていなかったから、もし良かったらと思って」

ディアナ「とても嬉しいです、提督……♪」
896 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/10/31(火) 01:53:34.78 ID:YYE93CNN0
…しばらくして…

提督「これでみんな配り終わったかしらね」

リットリオ「こんなにいいものをもらえて私は幸せですっ♪」

バリラ「ええ、本当に……お礼に提督の事をぎゅーってしてあげます♪」旧型の潜水艦ゆえに出撃の機会は少ないが、そのぶん鎮守府の潜水隊にとってのよきお母さんでもあるバリラ級のネームシップ「バリラ」が、その母性を存分に発揮して提督を抱きしめる……

提督「あんっ……♪」たわわな胸元に顔を埋めて、ミルクのような甘い匂いを吸い込みながら甘い表情を浮かべている提督……

デュイリオ「あらあら、でしたらわたくしも……♪」むぎゅ……っ♪

ドリア「それなら私もお邪魔させてもらいましょう♪」むにゅっ♪

提督「ふふっ、そんなに胸元に押しつけられたら窒息しちゃうわ……でもきっと、世界で一番幸せな窒息ね♪」三方から囲まれるようにして抱きしめられ、ご満悦の提督……

ライモン「……はぁ」

アッテンドーロ「やれやれ、姉さんったら……確かに提督はなかなかの美人だし性格も優しいけど、私にはあの女たらしのどこがいいのかいまだに分からないわ」

ライモン「仕方ないでしょう……だって一目見てからずっと好きなんだもの///」

アッテンドーロ「それはまたずいぶんと一途なことで……」

提督「んむ、んふぅ……ぷはぁ♪」

…提督もかなり長身な方だったが、それよりもさらに頭ひとつ分は大きい、優雅でおっとりした感じのするドリアやデュイリオといった「妙齢の」ド級戦艦であるお姉さま方、そしてはつらつとして可愛らしい表情と、それに似合わぬほどの高身長でメリハリのある身体をしたリットリオ級の娘たち……そんな艦娘たちに抱きつかれて、提督はまるで新婚かなにかのように抱きついてみたり軽い口づけを交わしたりといちゃついている…

アッテンドーロ「……ふぅ、仕方ないわね」

ライモン「何が……って、きゃっ!?」アッテンドーロに突き飛ばされるようにして、提督たちの間に飛び込んだライモン……

提督「あら、ライモン……ごめんなさいね? 貴女を仲間はずれにしちゃって」

ドリア「ふふっ、ライモンドも遠慮しないで……さあ、お姉さんの胸の中にいらっしゃい♪」

デュイリオ「くすくすっ、ドリアはライモンドの「お姉さん」にしてはずいぶんと艦齢(とし)の差があるようだけれど?」

ドリア「……ふふっ、それを言ったらデュイリオだってそうでしょう?」

デュイリオ「あら、なかなかお上手だこと♪」

提督「もう、こんなに瑞々しい身体なんだからお互いそういうことは言わないの……ね?」パチリとウィンクをすると、二人のたわわな乳房を下から支えるようにして軽く揺すった……

デュイリオ「あんっ……もう提督ったら♪」

ドリア「いたずらなお手々ですね♪」

カヴール「ふふ、ライモンドも遠慮しないでいいのよ?」

ライモン「///」自分の手にカヴールの白くて柔らかい手が重ねられると、そのままずっしりとした乳房に誘導されて真っ赤になる……

提督「ふふっ、ライモンはいつでも初々しくて可愛いわ♪」

エウジェニオ「同感ね……これじゃあ提督がいたずらしたくなっちゃうのも無理ないわ」

ガリバルディ「そうね、実に可愛いわ♪」

…暖炉脇の敷物に座って、提督が「誰でも自由に取っていいように」と置いたお土産のチョコレートをつまみつつ、泡立つスプマンテを傾けていたエウジェニオとガリバルディ……艦隊一の技巧派で相手をとろかすような女たらしであるエウジェニオと、それとは対照的に革命家らしく情熱的で、燃え上がるような女たらしのガリバルディ……その二人が「コンドッティエーリ(傭兵隊長)」型軽巡の先輩、あるいは従姉とでもいえる関係にあるライモンを眺めて舌なめずりをした…

提督「うふふっ、二人もそう思う?」

エウジェニオ「ええ……とっても美味しそう♪」

ガリバルディ「焼け付くような愛の炎を起こしてみたいわ♪」

ライモン「も、もう……みんなしてわたしの事をからかうんですから///」

提督「だってライモンが可愛いんだもの♪」

ガリバルディ「言えてるわ」

エウジェニオ「ええ……ところでジュゼッペ、お一つどうぞ♪」チョコレートを一つくわえると口を近づけた……

ガリバルディ「グラツィエ……ねえエウジェニオ、少し喉が乾かない?」

エウジェニオ「そうね、ちょっと暖炉で火照っているし……♪」

ガリバルディ「だと思ったわ……んくっ♪」スプマンテを口に含むと、しなだれかかるエウジェニオに口移しで飲ませた……

エウジェニオ「ふふ、美味し……♪」

提督「まぁ、ふふっ……二人は本当に絵になるわね」

ライモン「///」
897 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/11/09(木) 01:56:42.81 ID:mtb5KQ5Y0
…翌日…

提督「さてと、昨日はゆっくり休めたのだから……今日は書類を片付けないと」

デルフィーノ「私もお手伝いしますよ、提督」

アッチアイーオ「遠慮しないで任せておきなさい」

カヴール「事務書類の処理は得意ですから、任せて下さいな♪」

ライモン「及ばずながら、わたしもお手伝いします」

提督「みんな、ありがとう……それじゃあ手早く片付けましょうか」

…提督の執務机の上「未決」の箱に積み上がっているのは出張の間にも日々溜まっていたとおぼしき書類の山……内容を読んだ上でファイルするだけのものや、提督の手を借りずとも処理できそうなものは秘書艦のデルフィーノとアッチアイーオを始め、書類仕事の得意な艦娘たちがある程度は片付けてくれていたが、それでもひとつの鎮守府に届く書類となると相当なものがある…

提督「請求書、納品書、領収書……通達に納品書、また領収書……」

カヴール「では納品書の確認は私が」

提督「ええ」

アッチアイーオ「ファイルに綴じるのは私がやるわ」

提督「お願いね」

デルフィーノ「領収書の値段があっているかどうかの計算は私がやりますねっ」

提督「助かるわ、デルフィーノは計算が得意だものね♪」

ライモン「えぇと、それじゃあわたしは……」

提督「ライモンは私の隣で、書いたものに誤りがないか確認してくれる? 重要な役目だからぜひ貴女に頼みたいわ」

ライモン「はい///」

カヴール「まぁまぁ、提督ったら公私混同ですね♪」

提督「司令官特権よ♪ ……ん、この場合はどの予算で執行すればいいのかしら?」

…納品書に書いてある品目や値段があっているかどうか、決済の日付が正しいかどうか、用途別に付いている予算から正しい要目を選んでいるかどうか……ラップトップコンピュータの画面と送られてきた書類を突き合わせながら一つひとつ確かめていく…

提督「えぇと、この場合は諸雑費からの支出で……」

…ピンクや黄色の付せんだらけになっている「支出処理マニュアル」をめくりながら、ときおりこめかみに手を当てて眉をしかめ、カタカタとキーボードに入力しながら、思い出したようにコーヒーカップに手を伸ばす……

…しばらくして…

デュイリオ「……みんなお疲れでしょう、しばらくわたくしが代わりますよ♪」

ペルラ(ペルラ級潜水艦「真珠」)「アッチアイーオ、交代しましょう」

ベリロ(ペルラ級「緑柱石」)「デルフィーノも少し休んできたらどうですか?」

デルフィーノ「え、でも私とアッチアイーオは秘書艦ですし……」

提督「いいのよ、少し休憩していらっしゃい……ライモン、貴女も」

ライモン「いえ、もう少しですから」

提督「相変わらず律儀ね……分かったわ、それじゃあその書類が終わったら三十分は休憩してくること。いいわね?」

ライモン「はい」

提督「よろしい。 えぇと、次の書類は……あー、クリスマス休暇関係ね。これだけはどうにか終わらせないと、私をふくめてみんなの休暇が取れなくなっちゃうわ……」

…提督は何本か持っている万年筆のうち、鎮守府に「栄転」することになった際に仲良しの数人がお金を出し合ってくれたプレゼントの万年筆を選んで紙面に滑らせた……軸は海のような濃い青色で、要所を締める金の部品がしゃれている万年筆は、提督の名前が筆記体で彫り込んである……見た目だけでなく書き味も極上の万年筆は持っているだけで文豪や名士の仲間入りした気分になれるので、なんとなく書類も手際よく片付けられる気がする…

提督「えーと……休暇開始予定日…期間……非常時連絡先……海外旅行をする場合は目的地……」

…海軍士官である提督、それに艦娘たちは休暇の際に海外旅行をしたい場合は軍に申請しなければならない……むろん、非友好国や危険がありそうな国への旅行は認められず、安全と思われる国であってもかなり細かいチェックをうける……艦娘たちの何人かはフランスやスペイン、あるいはアドリア海を挟んで向かい側のアルバニアといった国に旅行したいと申請していたので、まずは提督がサインを入れ、その上で管区司令部へと回す…

提督「ふー、これで休暇の申請書類は終わったわね。あとは期日までに郵送するか直接提出すれば完了……と」

ペルラ「お疲れさまです、提督」

提督「ふふ、自分の休暇がフイにならないために頑張っただけよ♪」ペルラの真珠色をした艶やかな瞳、それに珠を転がすような美しい声で言われるとくすぐったい気分になり、照れ隠しに冗談めかした……

デュイリオ「ふふっ、いずれにせよあともう少しですから……頑張りましょう、ね?」

提督「ええ♪」
898 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/11/18(土) 02:13:59.28 ID:gqvE9Z1O0
…翌朝…

ライモン「おはようございます、提督……今日はタラントの管区司令部までお出かけだそうですね」

提督「ええ。北欧出張の時に話をした例のロシア軍将官について情報部の聞き取り調査があるの。ついでにみんなのクリスマス休暇の申請書を提出してくるわ」きちんと冬用の制服に身を包み、片手には金属のアタッシュケースをぶら下げている……

ライモン「気を付けて行ってきて下さいね?」

提督「ありがとう……どう、一緒に行く?」ランチアのキーをつまんでゆらゆらさせつつ尋ねた……

ライモン「あの、提督と一緒に行きたいのはやまやまですが、今日は午後直が入っていますから」

提督「そうだったわね……ライモンの当直時間を忘れちゃうなんてうっかりしていたわ。時差ボケかしら?」

ライモン「そんな、でも誘ってくれて嬉しかったです///」

提督「そう言ってもらえて光栄だわ……それじゃあ他の誰かを誘うことにするけれど、何か欲しいものはある? タラントで買えるものなら買ってくるわよ?」

ライモン「いいえ、大丈夫です」

提督「そう? 遠慮しないでもっとねだってくれたっていいのに……まぁいいわ、留守のあいだは鎮守府をドリアに任せるけれど、何かあったらかまわず連絡を頂戴ね?」

ライモン「はい」

提督「いい返事ね、それじゃあ行ってきます♪」

ライモン「はい、行ってらっしゃい」

…玄関…

提督「さてと、用意はいい?」

エウジェニオ「ええ」

サイント・ボン「本官の準備は出来ておりますよ」

ニコロソ・ダ・レッコ(ニコ)「いつでもいいよ、提督」

…鎮守府に配備されている一台ずつの三トン軍用トラックとベスパ、それにリットリオのフィアット500(チンクエチェント)とディアナのフィアット850だけでは「近くの町」ならともかく、全員が好きな時にタラントへ出かけるという訳にはいかないので、提督は公務でタラントへ出かけるようなときは、できるだけ艦娘たちを連れて行くようにしていた…

提督「よろしい、それじゃあ行きましょう♪」

…地方道路…

エウジェニオ「……いい風ね、少し冷たいけれど」

提督「ええ」

…提督は車内にヒーターをいれつつも、張り詰めたような冬の冷たい風を感じられるよう少しだけ窓を開けて、「ランチア・フラミニア」を走らせていく……助手席にはエウジェニオ、後部座席には大型潜の「アミラーリオ・ディ・サイント・ボン」と駆逐艦の「ニコロソ・ダ・レッコ」が座っている…

サイント・ボン「では、タラントに着きましたら本官たちは市街で買い物などしておりますので」

提督「それがいいわ。お昼になったら管区司令部の前で合流しましょう……もし聴取が長引いたりするようだったら連絡するわね」

エウジェニオ「ふふ……♪」

提督「何かおかしいかしら?」

エウジェニオ「ええ、それはもう……だってこともあろうにロシア軍の美人将官と寝たって言うんだもの、貴女の女好きも大したものね」

提督「だって……///」

エウジェニオ「なぁに?」そう言いながら提督の太ももをさりげなく撫で回しはじめた……

提督「エウジェニオ、運転中は止めてちょうだい……いくら美女と一緒でも、まだ崖下にダイブする気は無いわ」

エウジェニオ「ふ、冗談でしょう? 貴女なら目をつぶっていても、キスしながらでも運転できるでしょうに」

提督「ごあいにくさま、私はフェラーリでもなければヌヴォラーリでもないの。それにせっかくのキスを「ながら」でしたくはないもの」

エウジェニオ「ふふ、そういう真面目なところが好きなのよ……いいわ、きちんと座っていてあげる♪」

…エウジェニオは無造作に散らしたようなセミロングの髪型で、黒いレザージャケットにヴィヴィッドな色味の紅のタートルネックセーター、きゅっと引き締まったヒップから伸びる長い脚は黒の乗馬ズボンとひざ丈まである黒革のヒールつきブーツで固め、片耳にだけ付けたイヤリング……と、どう見てもビアンの格好いいお姉さんといった服装に身を固めている…

提督「グラツィエ。帰ったらごほうびをあげるわ」

エウジェニオ「期待しているわよ♪」

提督「ええ。って、そんなことを言っていたらもうここまで……相変わらずにぎやかね」タラント市街が近づくと、艦娘の「具現化」させた往時の海軍艦艇が出撃していき、漁船や沿岸航路の貨物船、それに定期航路の客船といった民間の船舶が行き交い、上空ではイオニア海を哨戒するカントZ506水偵やフィアットCR42戦闘機がエンジン音も高らかに飛んでいく…

ニコ「それに市街もすっかりクリスマスだ」

提督「そうね、みんなへのお土産にクリスマス菓子でも買って帰りましょうか」

サイント・ボン「それはよろしいですね」
899 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/11/23(木) 01:09:07.13 ID:Gz1NGPh50
…管区司令部…

提督「おはよう」

受付の下士官「おはようございます、少将……数日前もいらっしゃったのに、また呼び出しとは大変ですね」

提督「本当にね……そうそう、ちょっと早いけれどクリスマスプレゼントをどうぞ。当直のみんなに分けてあげて?」フィンランドの免税店で仕入れてきたチョコレートやキャンディが詰め合わせになった大袋を受付の伍長に渡す……

受付「わざわざありがとうございます」

提督「ノン・ファ・ニエンテ(いいのよ)……よいクリスマスをね」

受付「は、ありがとうございます。少将も良いクリスマスを」

提督「グラツィエ♪」

…事務方…

提督「おはよう、大尉……申請書類の提出に来たのだけれど、今いいかしら?」

事務方の士官「おはようございます、カンピオーニ少将。申請書ですね、どうぞ」

提督「ありがとう。それじゃあ私と鎮守府の娘たちの分のクリスマス休暇申請書、手続きをお願いするわ」厚手の本くらいはありそうな申請書類の束をカウンターにどさりと載せる……

士官「確かに受け取りました、処理しておきます」

提督「助かるわ。それと、良かったらこれ。クリスマスも近いし……ね?」茶目っ気のある表情を浮かべつつ、またまた菓子の大袋を手渡した……

士官「は、いつもありがとうございます……」後ろでデスクを並べ、書類の処理に当たっている数人からもさりげない感謝のジェスチャーや小さな会釈が向けられる……

提督「ええ。さ、法務や内務のお堅い士官に見つかってガミガミ言われないうちに……♪」

士官「分かっております。少将も良いクリスマスを♪」

提督「ええ♪」

…会議室…

提督「さて、いよいよ次が本命ね……」別に悪さをしたわけではないが、情報部によるデブリーフィング(任務報告)とあって、ひとつ深呼吸して身構える……

案内の下士官「……カンピオーニ少将がおいでになりました」

フェリーチェ「どうぞ……あぁ、少将。よく来てくださいました」よそよそしい態度を演技しているのはフェリーチェで、すでに卓上には提督のレポートとラップトップコンピュータ、メモ帳に録音用のボイスレコーダーなどが並べられている……

提督「ええ……」

フェリーチェ「ご苦労様でした、二等兵曹。下がってよろしい」

下士官「は、失礼します」

フェリーチェ「……さてと、それじゃあ貴女の女遊びについてじっくり問いただすとしましょうか♪」

提督「もう「情報部の聞き取り調査」だなんて言うから、てっきり無表情な士官が二、三人で絞り上げてくるのかとばかり思っていたわ♪」

フェリーチェ「そうしたいのは山々だったけれどね「私が一番うまく情報を引き出せますから」って上にかけ合ったのよ……たまたま任務の都合でイオニア海管区に来る用事もあったし……ね♪」

提督「嬉しいけれど、貴女が聞き出すのだから隠し事は出来そうにないわね……」

フェリーチェ「よく分かってるわね……録音するタイミングになったらそう言うから、とりあえずはクズネツォワ少将について知っていることと分かったことをあらいざらい話してもらうわよ」

提督「ええ……」

フェリーチェ「録音開始……聴取担当者、海軍情報部、ミカエラ・フェリーチェ大尉。対象者、フランチェスカ・カンピオーニ少将……」レコーダーに音声を吹き込むと、テーブルの中央に置いた……

フェリーチェ「では少将にお尋ねします。フィンランドにおける深海棲艦対策の会議において面識を持った、ロシア連邦海軍のユーリア・クズネツォワ少将についてですが、貴官は会議の場、またそれに関連する場所においてどのような会話をなさいましたか?」

提督「はい。基本はごくありふれた会話でしたが、北欧における深海棲艦対策に関してロシア海軍がどう行動するつもりか、出来る限り聞き出そうとしました」

フェリーチェ「なるほど……それで、クズネツォワ少将から何らかの回答を引き出せましたか?」

提督「いいえ。書面によりこちら側に明示された方針以上のものはなにも」

フェリーチェ「口は固かったということですか?」

提督「ええ、相当に」

フェリーチェ「なるほど……」そこでレコーダーのスイッチを「一時停止」にいれた……

フェリーチェ「……なら、ベッドの上では?」

提督「けほっ……!」

フェリーチェ「お願いよ、フランチェスカ。私が貴女にボンドガールの真似事みたいな事までさせて知りたかったことなのよ……あの無表情な「インペラトリーツァ(女帝)」のことならなんでもいいわ、身体に刺青や傷があるとか、えっちするときの好みのやり方とか……録音はしないし、貴女から仕入れた情報だって事も上には伝えない……ミカエラ・フェリーチェとして約束するわ」
900 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/11/30(木) 01:58:49.86 ID:tFe17jz30
提督「……誰にも口外しない?」

フェリーチェ「ええ、情報源は秘匿する」

提督「そう……ミカエラ、貴女の事を信じるわ」

フェリーチェ「ありがとう、フランチェスカ」

提督「いまさらお礼なんていらないわ……それで、どんなことを聞きたいの?」

フェリーチェ「とにかくクズネツォワについて気付いたこと、あるいは彼女が話したこと……些細な事でもちょっとした癖や習慣のことでも構わないわ」

提督「そうね、それじゃあ……クズネツォワ少将だけれど、とにかく煙草をよく吸うわ」

フェリーチェ「銘柄は?」

提督「そう言われても私は吸わないし、ましてやロシアの煙草だったから銘柄までは……でも確か、箱にソリの絵が描いてあったわ」

フェリーチェ「それなら『トロイカ』ね……」

提督「それから吸うときは左手の親指と人差し指でつまむように煙草を持っていたわ。なんでも「そう教え込まれた」みたいなことを自嘲するように言っていたけれど……」

フェリーチェ「なるほど、彼女ならそうでしょうね」

提督「それから、ライターにこだわりがあるようには見えなかったわ。ホテルのブックマッチを使っていたりもしたから」

フェリーチェ「ふっ……さすがの観察眼ね、フランチェスカ。身の回りのものにこだわりがないというのはこっちの調査でも推測されていたけれど、これで改めて裏付けが取れたわ」

提督「そう、良かったわ」

フェリーチェ「ええ。 ほかに特徴的な言動は?」

提督「えぇ…と、まずは一緒に夕食を食べて……」当日の経緯を順繰りに思い出していく提督……

フェリーチェ「お酒は?」

提督「ウォッカやシャンパンを飲んではいたわ。でも顔色は全然変わらないし、口調もまるでしらふのまま」

フェリーチェ「相当に強いみたいだから無理もないわ……続けて?」

提督「それから彼女の泊まっているホテルまで車に乗せてもらって……そうそう、副官のカサトノヴァ少佐はピストルを隠していたわ」

フェリーチェ「マカロフ?」

提督「たぶん……腰のバックサイド・ホルスターに入っているのがちらっと見えただけだから断言はできないけれど」

フェリーチェ「いいえ、十分な情報よ……それで?」

提督「えぇと、それから……」

………



提督「ん……///」

クズネツォワ「……どうだ?」

提督「あっ、あふ……っ///」

クズネツォワ「柔らかくて初々しい……まるでマツユキソウのようだな」

提督「あっ、ふ……あんっ……「森は生きている」ですか」

(※マツユキソウ…待雪草。英名スノードロップ。春を告げる白い可憐な花で、ロシア文学「森は生きている」で、わがままなお姫様が真冬にも関わらずマツユキソウを見たいと言ったことから、主人公の少女が意地悪な継母にマツユキソウを探してこいと真冬の森へと追いやられる)

クズネツォワ「マルシャークを読んだことがあるのか」

提督「ええ……」

…提督がまだ余韻に浸っているなか、クズネツォワはてきぱきと着替えていく……と、スラックスのベルトにホルスターを通し、無骨さと優雅さの同居したような「トカレフTT−33」ピストルを小机から出して突っ込んだ……

提督「ユーリア、そのピストルは……」

クズネツォワ「トカレフだが」

提督「いえ、トカレフなのは分かりますが……いつも手元に?」

クズネツォワ「ダー。祖母がくれたものなのだが、他のものはともかく、これだけは手放したことがない」

提督「……大事なものなのですね」

クズネツォワ「お守りの十字架や幸運の「うさぎの脚」よりは役に立つからな」そっけない言い方の中に、少しだけ冗談めかした声が混じった……

………
901 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/12/07(木) 02:15:02.29 ID:v0j/RYhV0
フェリーチェ「……お祖母さんの持っていたトカレフだなんて、ああ見えてセンチメンタルなところがあるのね」

提督「ええ。もちろん部品は取り替えたりしているとは言っていたけれど」

フェリーチェ「お飾りの銃を持っているようなタイプではないものね」

提督「そう思うわ。それと二人きりになると…たいていは皮肉なブラックユーモアだったけれど…意外と冗談も言うし、少なくとも無感情なロボットみたいではなかったわ」

フェリーチェ「なるほどね……続けて?」メモすら取らずに、手を組んで話を聞いている……

提督「それから……ねぇ、本当に言わないとダメなの?」

フェリーチェ「言える範囲でいいわよ……例えば傷だとか刺青はあった?」

提督「いいえ、少なくとも見た限りでは綺麗だったわ」

フェリーチェ「ふぅん?」

提督「ミカエラも気になった? 私も「ロシアの将校」っていうと刺青を入れているようなイメージがあったから聞いてみたの」

フェリーチェ「それで?」

提督「ええ、クズネツォワ少将が言うにはね……」

………

提督「……ユーリアの肌は綺麗ですね」

クズネツォワ「そうか?」

提督「ええ……きめ細やかで、透き通るように白くて……」

…互いに身体を重ね合ったあと、クズネツォワの裸身を優しく愛撫する提督……乳液や保湿クリームといった肌の手入れとはまるで縁がないようだが、鞭のようなしなやかな筋肉を包む肌はあくまで白く、提督と交わした愛の交歓のおかげでぽーっと赤みが差している…

クズネツォワ「ふむ、そうか……」

提督「はい。 それに、刺青は入れていないのですね」

クズネツォワ「刺青?」

提督「その……勝手なイメージですが、ロシアの将校というと腕やお腹にすごい刺青を彫っているものとばかり……」

クズネツォワ「映画などに出てくる兵隊崩れのマフィアが入れているような、おどろおどろしい髑髏だのコウモリが羽を広げているようなやつか?」

提督「えぇ、まぁ……お恥ずかしながら、その程度のイメージしかなくって///」

クズネツォワ「ふ……まあ分からんでもない、空挺の連中や何かはよくドッグタグ(認識票)代わりに刺青を入れたりするし、ロシアンマフィアはハッタリのためだったり、組の構成員であることの証明で刺青を入れていたりするからな」

提督「ええ、そういうイメージです……」

クズネツォワ「まあ知らん人間からしたらそうだろう……だがな」

提督「?」

クズネツォワ「スパイにしろなんにしろ「本物」はそんなもの入れないのだ……特徴的な刺青なんていうのは、それだけで身元を割られる元だからな」

提督「なるほど……」

クズネツォワ「ああ。期待を裏切って申し訳ないがな、西側の映画や何かでみる「刺青を入れたイワンのスパイ」なんていうのは絵空事だよ」

提督「そうなのですね……では、私がユーリアの真っ白なキャンバスに絵を描くことにします♪」そう言いながら鎖骨に吸い付くようなキスをした……

………

提督「……と、そんな風に言っていたわ」

フェリーチェ「やっぱりね……おかげでいい情報がとれたわ」

提督「約束は覚えているわよね?」

フェリーチェ「当然。貴女から聞いたなんておくびにも出さないわ……あとはもう一度レコーダーを回してありきたりな質問をするから、それなりに答えてくれればいいわ。お疲れさま」

提督「どういたしまして」

…再びICレコーダーを回していくつかの質問をぶつけると、事務的な口調で「以上で聴取を終わります」と締めくくった……それからポットのコーヒーを注ぐと、しばし軍で親しい間柄にある知り合いたちの近況を話題にして話の花を咲かせた…

フェリーチェ「いけない、もうこんな時間……悪いけど、ローマに戻って報告書を上げないといけないの。それじゃあ、良いクリスマスをね?」

提督「相変わらず忙しいのね。 ミカエラもいいクリスマスを♪」

フェリーチェ「ええ、ありがと……それじゃあね」そういって提督の唇に「ちゅっ♪」と音を立てて唇を重ねた……

提督「ええ♪」
902 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/12/14(木) 02:12:50.55 ID:MasWu44x0
…数日後…

提督「さてと、今日の書類はこれでおしまい……と♪」

ドリア「ずいぶんとご機嫌ですね?」

提督「ええ。みんなと過ごすのも楽しいけれど、やっぱりクリスマス休暇があと数日で始まると思うとね……ドリアはクリスマス休暇が嬉しくない?」

ドリア「いいえ、私のようなおばあちゃんでもクリスマス休暇は嬉しいですよ……ですが、休暇中はこうして提督と過ごすことができないと思うと、一抹の寂しさを覚えます」

提督「あら、そんな風に思っていてくれていたなんて光栄だわ///」満面の笑みを浮かべて「ちゅっ♪」と音高く頬にキスをした……

ドリア「まあ、提督ったら♪」

提督「ふふっ、遠慮せずにうんと甘えていいのよ……さ、いらっしゃい♪」両腕を広げて小首を傾げた……

ドリア「……それなら、少しだけ///」

提督「ええ♪」

…執務机の椅子で向かい合うようにして抱き合った提督とドリア……提督は胸元にドリアの顔を埋めさせ「地中海の黒い狼」などと言われたアンドレア・ドリアをほうふつとさせる艶やかな黒髪に顔を押しつけ、深く息を吸った……花の香りのシャンプーと少し残った重油と海の匂い、それにドリア本人の頭皮からかすかに立ちのぼる、ほのかに甘いような匂いが混じり合う……

ドリア「……提督は甘くていい匂いがしますね♪」

提督「お世辞を言っても休暇は増えないわよ?」

ドリア「お世辞ではないですよ……それと、こんなに暖かくて柔らかい♪」ふにっ♪

提督「くすくすっ……もう、ドリアったら意外とおてんばなのね♪」

…口ではそう言いながらも、提督は自分の太ももにまたがるようにして座っているドリアのスカートをずり上げた……黒いストッキングに包まれたむっちりした太ももがあらわになり、提督の太ももと触れあった…

ドリア「あん……っ♪」くちゅ……っ♪

提督「ふふ、ドリアったら積極的ね……そんなにしたかった?」

ドリア「……もう、そんなことを言うのは野暮というものですよ♪」ふんわりしたカシミアのセーターをたくし上げると、黒い花柄のブラに支えられたずっしりとした乳房へと提督の手をいざなった……

提督「なら、失言のお詫びをしないと……ね♪」提督も制服の上着を脱ぐと執務机の上に放りだし、ブラウスの胸元を大きく開いた……ドリアとさして遜色がないほどたわわな自身の胸へと彼女の手を誘導し、同時に片方の手を背中に回すとブラのホックを外そうとした……

提督「ん……くっ……」

ドリア「ふふふっ、それではまるでヨガの姿勢ですね……私が外してあげます♪」象牙色の地に、淡いパステルカラーの桃色や黄色の花々が咲いている提督のブラをパチリと外すと、丁寧に執務机の上に置いた……

提督「ドリア……触って♪」

ドリア「あら、提督は触られるだけで良いのですか?」ころころと笑いながら、わざといじわるな事を言うドリア……

提督「もう……どうすればいいか分かっているくせに///」

ドリア「うふふっ、そうですね……それでは♪」もにゅ…っ♪

提督「あっ、ん……♪」お返しとばかり、ドリアの豊満な胸に指を埋めてゆったりとこね回す……

ドリア「んふふっ、くすぐったいです……ところで、こちらが少し手持ち無沙汰ですね♪」

提督「そう、ね……あぁん……っ♪」椅子から転げ落ちそうになりながら互いのランジェリーをずり下ろし、暖かな下腹部を触れあわせた……

ドリア「まぁまぁ……提督ったらこんなに熱くして、おまけにすっかりとろとろです♪」ぐちゅっ、にちゅ…♪

提督「あら、それを言うならドリアだってこんな風にいやらしい音をさせているじゃない♪」じゅぷっ、くちゅ……っ♪

ドリア「では引き分けということで……ん、あっ♪」

提督「ええ……あっ、あふっ♪」

………



ドリア「……それにしても愛を交わしている最中に見つかってしまったときは気まずかったですね♪」

提督「よく言うわ、デルフィーノが入って来てからも平気で私のことをイかせ続けたくせに♪」

ドリア「まあ。それを言うなら提督だって、ちっとも嫌がらなかったではありませんか」

提督「だって……デルフィーノに見られながらドリアに中をかき回されるの、腰が抜けるほど気持ち良かったんだもの♪」

ドリア「それは私もです、おかげですっかり下着を濡らしてしまいました♪」

提督「それじゃあクリスマス休暇が終わったら、また……ね?」

ドリア「ふふ、約束ですよ?」

提督「ええ♪」
903 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/12/17(日) 01:36:15.14 ID:c8l2I2/00
…鎮守府・正門…

提督「それじゃあ気を付けて行ってらっしゃい……良いクリスマスを♪」

ウエビ・セベリ「では、行ってきマス」

ゴンダール「エリトリア土産に何か珍しいものでも買ってきますネ♪」

…クリスマス休暇の申請に許可が届き、トランクやスーツケースを手に次々と休暇に入る艦娘たち……提督自身の休暇もあと数日という中で、楽しみを待ちきれない様子の艦娘たちに手を振り、頬にキスをして見送っている……深海棲艦の蠢動(しゅんどう)具合や社会情勢のこともあって、なかなか許可の下りなかったキレナイカ(リビア)やAOI組はようやく降りた許可に安堵して、提督がタラントまでの便として管区司令部に手配してもらったミニバスに乗り込んでいく…

(※AOI…当時「イタリア領東アフリカ(Africa Orientale Italiana)」と呼ばれた地域。現在のエチオピアやエリトリア)

提督「そういえばペルラもきょう発つのね」

ペルラ「はい、私はマダガスカルのあたりまで行ってきます」

…淡い真珠色の涼やかな目元をした中型潜「ペルラ(真珠)」は、すっきりしたシルエットをしたパールホワイトのトレンチコートに、淡いフラミンゴのようなピンク色が控え目にフェミニンな雰囲気を主張しているひざ丈のフレアースカート、それに提督の母親であるクラウディアが送ってくれた衣類の山から選んだ象牙色のショートブーツと白ストッキング、首元には粒選りのピンクパールのネックレスをつけている…

提督「貴女はアトランティスを探しに行くのよね♪」

ペルラ「はい」

(※ペルラ…当時インド洋を中心にマダガスカル沖などで暴れ回っていたドイツの仮装巡洋艦「アトランティス」への補給と捕虜の受け取りのため会同したことがある)

下士官「さぁさぁお嬢さん方、そろそろバスを出しますよ! パスポートにヴィザ、手荷物にお財布はちゃんとお持ちですか!」ミニバスでの送迎を請け負ってくれたのはお堅い管区司令部には珍しい陽気な下士官で、観光ガイドの物真似をして艦娘たちを笑わせている……

アシアンギ「忘れ物はないデス」

提督「それじゃあ行ってらっしゃい♪ …では、うちの娘たちをよろしくお願いするわ、三等兵曹。あなたも良いクリスマスを」

下士官「はい、お任せください」

…数日後・朝…

提督「いよいよ私も今日から休暇ね……クリスマス中はよろしくお願いするわ」いよいよ休暇初日の朝を迎え、いそいそと支度を済ませる提督……

チェザーレ「うむ、留守中はこのチェザーレに任せておけ」

提督「ええ。艦隊総旗艦の役は名将チェザーレ、貴女にこそふさわしいわ」

ドリア「あら、実際に旗艦だった私ではなく?」

デュイリオ「そうですよ、わたくしだって艦隊総旗艦だったのですから……」

提督「貴女たちも、よ……良くチェザーレを支えてあげてね?」

カヴール「いささか髪にうるさい妹ではありますけれど……ね♪」

チェザーレ「むむ、髪のことは関係あるまい」

ライモン「……提督、くれぐれもお気をつけて」

提督「ありがとう……貴女もね、ライモン」

アッテンドーロ「姉さんには私がいるから平気よ。 提督こそ、美人だからって知らないお姉さんにノコノコついて行っちゃ駄目よ?」

提督「私だって子供じゃないんだから知らない美人について行くことなんてしないわ……ついて行くのは知り合ってからよ♪」提督の冗談に艦娘たちの笑いが起きる……

ドリア「皆さん楽しそうですが、くれぐれも気を付けて行ってらっしゃいね」

提督「ええ、ドリアたちもゆっくり骨休めをしてちょうだい」

ドリア「はい、留守はお任せを」

提督「任せたわ……それにしても本当にいいの?」

ドリア「ええ、構いませんよ。夏はうんと旅行をさせていただきましたし、クリスマスはここでのんびり過ごす方が気が楽です……リットリオたちが戻ってきたら、入れ替わりで小旅行にでも行ってくることにしますから♪」

提督「それじゃあクリスマスプレゼントでも送ってあげるわ、一番欲しいものをクリスマスカードに書いて送ってちょうだい?」

ドリア「ふふふ……一番欲しいものを書いて送ったら、提督はとんぼ返りすることになってしまいます♪」

提督「あら、嬉しいお言葉……それならいっそ絨毯にくるまれて来た方がいいかしら?」

ドリア「それならジュリオが喜ぶでしょうね」

(※絨毯にくるまれて……クレオパトラ7世の伝説。秘密裏にカエサルに会うべく、クレオパトラが贈り物の絨毯に隠れて来たという)

提督「リットリオ、貴女も気を付けるのよ? 特にこの時期のオートストラーダ(高速道路)は飛ばしている車も多いから……」

リットリオ「大丈夫ですよっ、私だってちゃんと運転はできますから♪」艶のある真っ赤な「フィアット500(二代)」に妹の「ヴィットリオ・ヴェネト」「ローマ」とぎゅう詰めになって乗り込む……手を振りながら正門を出て、ぎくしゃくとしたギアチェンジをしながら走って行った……

提督「やれやれね……♪」
904 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/12/24(日) 02:11:39.88 ID:aRz/cVAV0
提督「ディアナにも苦労をかけるわね」

ディアナ「いいえ、年が明けたら自動車旅行にでも行くつもりですので……それにせっかくのクリスマスですから、大いに腕を振るってご馳走を作ってあげませんと」

提督「むぅ……帰省は嬉しいけれど、ディアナのご馳走を食べ損ねるのは残念だわ」

ディアナ「まぁ、お上手でございますこと♪」

提督「本当のことよ」

ルチア「クゥ…ン」

提督「ルチア、貴女もね……戻ったらうんとお散歩に付き合ってあげるわ♪」

ルチア「ワンッ!」提督の言葉を聞いて、ぱたぱたと尻尾を振った……

ディアナ「では、行ってらっしゃいまし」

提督「ええ♪」

…艦娘たちが「家族水入らずのクリスマスを邪魔しないよう」にと提督に遠慮した面もあるかもしれないが、彼女たちもそれぞれ姉妹や仲良しの娘と一緒の旅行を計画していたり、はたまた鎮守府でのんびり過ごすつもりでいて、結果として提督は一人で気軽な帰省というかたちになっていた……ランチアに乗り込むと、冬の低い日差しで目がくらまないようサングラスをかけ、鎮守府の正門を出た…

提督「♪〜ふーん、ふーふーん……」艶のある深青色のランチアはきらりと日差しを反射して、右手に冬のイオニア海を見ながら海沿いの地方道路を走っていく……

………



提督「ふぅ……オートストラーダに入ったし、これで速度も出せるわね」

…眺望は素晴らしいがカーブが多く、片側一車線しかない地方道路から片側三車線の立派なオートストラーダ(高速道路)に入った提督……道路は大都市である北部のローマやトリノを離れ、バーリを始めとする暖かなアドリア海沿いにある南部の観光地でクリスマス休暇を過ごそうとする人たちで南へ向かう車線こそ混み合っていたが、ありがたいことに提督が向かう北部への道路はあまり混雑していなかった……それでも物流を支える大きなイヴェコの長距離トラックや、追い越し車線でいらだたしげなエンジン音を残して飛ばしていくフェラーリやメルセデスがいて、提督は気を付けて運転していた…

提督「……あらまぁ」

…この時期になると、ポルストラーダ(※ポリツィア・ストラダーレ…交通警察)も速度を出すことそのものにはある程度目をつぶってくれるが、無理な追い越しをかけたり傍若無人な運転をしている車がいると、途端にサイレンを鳴らして猛禽のように飛びかかっていく……提督が運転している前でも一台のメルセデス63AMGが白と青のランボルギーニ・ガヤルドのパトカーに誘導され、路肩で違反切符をきられていた…

提督「クリスマスだからって交通ルールが変わるわけじゃないし、私も気を付けないと……」

…しばらくして・休憩所…

提督「……もしもし、お母様?」

クラウディア「まぁ、可愛いフランカ……休暇は今日からだったわよね、いまどのあたり?」

提督「もう、子供じゃないんだから「可愛いフランカ」は止めてよ……いま14号線の休憩所で、もうそろそろ16号線に乗り換えるところ」

クラウディア「じゃああと四時間もしないくらいかしら?」

提督「そうね」

クラウディア「分かったわ、いっぱい美味しいものを用意しておくから楽しみにしていてね?」

提督「ありがとう……でも前にも言ったとおり、今回は夏の休暇と違って私一人だからほどほどにね」

クラウディア「ええ、残念だわ。夏の時はライモンドちゃんたちも喜んでくれたし、今回もうちに来る娘がいたらうんとご馳走を振る舞ってあげようと思っていたのに……そうそう、シルヴィアも会いたがっているわよ♪」

提督「私もよ、それでシルヴィアおばさまは?」

クラウディア「ジュリエッタの整備をしに町へ行っているわ……とにかく、気を付けて帰ってくるのよ?」

提督「ええ、そうするわ……それじゃあ、チャオ♪」携帯電話越しにキスの音を送ると休憩所の喫茶店で買い込んだコーヒーを飲み干し、肩を回して伸びをすると、あらためて車に戻った……

…オートストラーダの制限速度はいちおう130キロから150キロまでということになってはいるが、高速道路の常で真面目に守っているドライバーはほとんどいない……提督も「ランチア・フラミニア」の安定感に任せて140キロで路面を走らせているが、追い越し車線ではまるでジェット機のように飛ばしている車が次々と視界から遠ざかっていく…

………

…昼下がり…

提督「ふぅ、やっとここまできたわね」

提督「燃料もまだあるし、このまま行けば1500時には家に着きそうね……」

提督「……って、私ったら♪」つい「午後三時」のことを軍隊式に「1500時」と考えてしまい、一人で苦笑いをした……

提督「アンナじゃないけれど、このままじゃあ腕と膝を伸ばして行進しかねないわ……♪」

…小さいころからの幼馴染みで、提督の「許嫁」を自称しているアンナいわく「早く私と結婚して退役しなさい、そうじゃないとそのうちに腕と脚を伸ばして行進するようになりかねないわ」とのことで、それを思い出して思わず微笑んだ…

提督「まぁ、もしアンナも帰省しているようなら、クリスマスの間くらいはわがままに付き合ってあげても良いかもしれないわね……♪」そう独りごちた途端、腰に手を当て、提督に向かって身勝手かつわがままな……それでいて可愛らしい「お願い」をするアンナの姿が目に浮かんだ……

提督「……ふふっ♪」

………

905 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/12/29(金) 01:52:19.05 ID:hWfNLb6y0
…カンパーニア州・提督の地元…

提督「……やっぱり故郷はいいわね」

…街角のクリスマス装飾や家々に暖かな懐かしさを覚えながら左右に視線を向けつつ、故郷の狭い石畳の道路に合わせてゆっくりとランチアを走らせる……街の道路をのろのろと抜けると、海沿いのちょっとした丘の上に建つ提督の実家が見えてきた…

提督「ふぅ、やっと着いた……♪」

…家の門を開けるとランチアを庭の小道に進ませ、車庫に停める提督……車を降りてエンジンの冷めるチリチリいう音を聞きながら伸びをしていると、玄関を開けて母親のクラウディアが小走りでやって来た…

クラウディア「お帰りなさい、フランカ♪」そのまま提督に駆け寄ると左右の頬にキスをして、その上で暖かで柔らかい唇をたっぷりと重ねた……

提督「ぷは……ただいま、お母様♪」

クラウディア「ええ♪ さ、外は冷えるから中に入りましょう? 暖炉の火も燃えているし、暖かいコーヒーにパンドーロもあるわよ♪」

提督「ありがと、お母様」

クラウディア「いいのよ……あら、ちょうどシルヴィアも帰ってきたわ♪」

…提督の実家に向けて続くなだらかな上り坂を、艶やかな赤に塗られた「アルファロメオ・ジュリエッタ」スパイダーが走ってきた……オープンカーのジュリエッタ・スパイダーは冬なので屋根に幌を張っているが、その小粋な姿は変わらない……提督のフラミニアの隣にジュリエッタを入れると、軽やかな足取りでシルヴィアが降りてきた…

シルヴィア「ただいま……それとフランチェスカ、お帰り」

提督「ただいま、シルヴィアおばさま♪」シルヴィアに近寄ると左右の頬にキスをし、それからぎゅっと抱きしめる……

シルヴィア「ん……っと、フランカってばまた大きくなったみたいね」提督に抱き寄せられ、かるくたたらを踏んだシルヴィア……

提督「もう……高校生じゃないんだからいまさら背なんて伸びたりしないわ♪」

シルヴィア「どうかしらね……」

クラウディア「さぁさぁ、早く手を洗って……積もる話は部屋でお茶を飲みながらしましょう♪」

…居間…

提督「あぁ、やっぱりうちはいいわ♪」手洗いとうがい、それにメイク落としも済ませると、冬用のふんわりした部屋着とスリッパに着替えて居間の定位置に落ち着いた……

クラウディア「実家って言うのはそういうものなのよ……さ、クリスマスのお菓子を召し上がれ♪」

提督「ありがと、お母様♪」長らく愛用しているカップに注がれた甘いミルクコーヒーとクリスマスシーズンに食べる特別なお菓子である「パンドーロ」をつまみ、パチパチとはぜる暖炉を眺める提督……

シルヴィア「……今はこうして何でもないようなふりをしているけれどね、クラウディアと来たら一昨日くらいからフランカが帰ってくるのをずーっと待ちわびていて、今朝もフランカの部屋を掃除したり、ごちそうの支度をしたりでちっとも落ち着かなかったのよ」

クラウディア「もう、それは言わない約束でしょう///」

シルヴィア「言わなくたって分かることだもの……そうでしょ、フランカ?」

提督「ええ、でも嬉しいわ♪」

クラウディア「……もう、二人して私の事をからかって♪」

シルヴィア「からかってはいないわよ……」ちゅっ♪

クラウディア「ん、あっ……もう、フランカの前なのよ?」

提督「どうぞおかまいなく♪」

シルヴィア「理解力のある娘で良かったわ……ん、ちゅっ♪」

クラウディア「ん、あふっ……せっかく淹れたコーヒーが冷めちゃうわ」

シルヴィア「冷めたって良いわ……」

クラウディア「もう、そういうことをいうなら……ん、ちゅる……っ♪」

シルヴィア「ふふ、ようやくいつも通りのクラウディアになった……んっ、ちゅむ……んちゅ♪」

提督「私が言うのもどうかと思うけれど、お母様とおばさまは相変わらずね……倦怠期なんてあったのかしら?」

シルヴィア「無くはなかったわよ、程度が軽かっただけでね」

クラウディア「まぁ、シルヴィアってばそうやってごまかすんだから……私、あの時期はずいぶんこたえたのよ?」

シルヴィア「かもしれないわ、二日も口を利かなかったのは後にも先にもあの時くらいだったもの」

提督「……それだけ?」

クラウディア「もう「それだけ」ってことはないでしょう? 冷え込んだ関係の二人が一つ屋根の下で過ごす二日は長いものよ?」

提督「あー……まぁ、お母様たちの仲を考えるとそれだけでも記録破りだけれど……」

シルヴィア「まぁ、結局は仲直りできたんだから良しとしないと……ね」

クラウディア「ええ♪」
906 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/01/05(金) 02:01:34.49 ID:nyN/p2w50
提督「あんまり仲良くいちゃついていると他人は胸焼けするってよく分かったわ……私も気を付けないと」

クラウディア「ということはフランカも鎮守府でライモンちゃんたちとずいぶんいちゃいちゃしているってことね?」

提督「まぁ、ありていに言えばね」

シルヴィア「確かに気立てが良くて可愛い娘だったわね」

クラウディア「もう、シルヴィアってばすぐそうやって女の子に色目を使うんだから」

シルヴィア「別に色目は使ってないわ……それに、浮気で言えばクラウディアだって相当なものだったと思うけれどね」

クラウディア「むぅ……」

提督「お母様が浮気?」

シルヴィア「そう。もっとも、私は気にしなかったけれどね」

クラウディア「お互い、女の子と遊ぶ時はちゃんと相手にも「ただのお遊びで、本気じゃない関係でいいなら」って伝えることって決まりにしていたから、あんまりこじれたことはなかったわね」

提督「……私もそうしておくべきだったわ」

シルヴィア「ということは、フランカに熱を上げている女の子がいるわけね……となるとアンナかな?」

提督「ええ……物の道理が分からない子供の頃にした「約束」を持ち出して結婚しろ、って言われてもね……」

クラウディア「アンナちゃんは勝気だけれど良い子だもの、結婚すればいいじゃない♪」

シルヴィア「そうね。ちょっと短気な所はあるけれど決断力はあるし、若いのに国際弁護士だなんて大した娘だと思うわ」

提督「ちょっと、お母様とおばさままで……まさかアンナに丸め込まれたわけじゃないわよね?」

シルヴィア「人にどうこう言われて意見を変えるような親じゃないってことは、フランカが一番よく知っているはずよ」

提督「ええ、それはもう……でも、だとしたら余計に困るわ」

クラウディア「ふふふっ、フランカも色んな可愛い娘を連れてきたものね……もし目移りしちゃうようなら、一人くらい手伝ってあげるわ♪」

シルヴィア「一人で済むとは思えないわね」

提督「あぁ、もう……この話はおしまい。シルヴィアおばさま、あとで銃のメンテナンスを手伝って?」

シルヴィア「ええ」

提督「それから、おばさまがクリスマスのご馳走に食べられるよう鎮守府へ猟の獲物を送ってくれるって話をしたら、みんな喜んでいたわ」

シルヴィア「そう、良かった。何しろ今年は夏からずっとイノシシが多かったものだから、コムーネの駆除依頼も多くてね……私とクラウディアだけじゃとうてい食べきれないし、肉屋のアルベルトに売りにいっても良かったんだけど、それよりは鎮守府の娘たちに送ってあげた方が喜ばれるでしょうし」

提督「ええ、とっても……この秋はイノシシだけ?」

シルヴィア「でもないわ。野ガモもいくらか撃ったし、ウズラもいくらか……あと、農家のエミーリオに頼まれて、ウサギも何羽か」

クラウディア「……そういえば、あのフランスの女の子はウサギのパイ皮包みが好きだったわね」

提督「マリーのこと?」

クラウディア「ええ♪ あの娘ったら顔立ちが整っていて、いかにもフランス人らしいコケティッシュなファッションが似合っていたわよね♪ 黒のミニドレスとか、薄い藤色のプルオーヴァーなんてすごく素敵で……♪」

提督「確かに」

クラウディア「フランカもそう思うわよね。 それで、せっかくだからフェンディのミニドレスでもあげようと思ったのだけれど、あの子ったら「マダム、お気持ちは嬉しいのですけれど……わたくし、ファッションはフランスのものしか身に付けないつもりですの」って♪」

提督「あー……マリーならそういうことを言うわ」

クラウディア「そうなの、だから代わりにイヴ・サンローランのクリーム色をしたトレンチコートをあげたのだけれど……すらっとしていて良く似合っていたわ♪」

提督「でしょうね。マリーったらいっつも「体型を維持する」とかいって、ヨガだかピラティスだか……そんなようなことをしていたもの」

クラウディア「ヨガ、ね……最近ふとももやヒップが気になるし、私も始めてみようかしら?」

シルヴィア「その必要はないんじゃない」

クラウディア「あら、どうして?」

シルヴィア「第一に、そのくらいむっちりしている方が私の好みだから」

クラウディア「もう、シルヴィアったら……で、第二の理由は?」

シルヴィア「ベッドの上で一晩過ごせば、ヨガなんかよりもずっといい運動になるから……♪」そう言うと身体を抱き寄せ、甘噛みしつつ鎖骨にキスをした……

クラウディア「あんっ♪」

提督「……帰って来ない方が良かったかしら」
907 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/01/11(木) 01:10:01.78 ID:0BOJ4mtA0
…夜…

提督「あぁ、美味しかった……お母さまの手料理に勝るものはないわ♪」

クラウディア「ふふっ、鎮守府であれだけ美味しい料理を食べているフランカにそう言ってもらえると、私も作ったかいがあるわ♪」

シルヴィア「フランカの言うとおり、クラウディアの料理ほど美味しいものはないから仕方ないわ……基地祭でご馳走になったディアナの料理も見事なものだったけれど、やっぱり「家の味」が一番いいもの」

クラウディア「もう、二人してそんなに私の事をおだてて……パンドーロをもう一切れ切ってあげましょうか?」

シルヴィア「私はもう満腹……フランカは?」

提督「うーん、もう少し食べたい気分だけれど……太ももが気になるから明日にするわ」

クラウディア「そう? じゃあ器にはフタをしておくから、いつでも食べてね?」

提督「ありがと、お母さま……それじゃあお風呂に入ってくるわね♪」

…実家の懐かしい……しかし鎮守府の豪華な大浴場に比べるとあまりにもつつましやかな浴槽に身体を押し込むと、肌にたっぷりの湯気を吸い込ませようとするかのようにシャワーの栓をひねり、日頃「節水」の二文字に追い回されている海軍軍人にとっての罪深い楽しみである際限なしのシャワーに身体をあずけた…

提督「ふー……♪」ふかふかのバスローブと頭にタオルを巻いた格好で歯を磨き、それから洗面台で髪にドライヤーをあてる……

シルヴィア「さっぱりした?」

提督「ええ、とっても♪」

シルヴィア「それは良かったわ」少し古びてはいるが暖かそうな栗色のパジャマ姿で、ゆっくり本のページをめくっている……

クラウディア「お部屋の布団は冬物にしておいたから、暖かく眠れるわよ♪」クラウディアは身動きするたびにパールピンクとアイボリーに変化して見えるシルク生地のネグリジェ姿で、その上からライトグレイのガウンを羽織っている……

提督「それじゃあゆっくりベッドの中で寝転がることにするわ……お休みなさい♪」クラウディアとシルヴィア、双方の唇にお休みのキスをして、お返しに二人からも口づけをもらって自室へと入った……

提督「寝るのには少し早いし、読書でもするとしましょうか……」

…ベッド脇のスタンドを点けると本棚から文庫本を取り出してベッドにもぐり込み、ラジオ局の放送にチャンネルを合わせると、うるさくない程度に音をしぼった……

ラジオ「RAI(イタリア国営放送)ラジオが……時をお伝えします。続けて各地の天気ですが……」

提督「ふわぁ……」

…次第に暖まってくるふわふわの布団と、ほどよく薄暗くしてあるスタンドの明かり、それにラジオの音に混じって寝室に届く波の音……ベッドこそ少し小さいが、懐かしい居心地の良さがある自分の部屋でゆったりと本のページをめくっていると、次第にまぶたが下がってきた……提督は本にしおりを挟むと卓上に置き、スタンドの明かりを消すと、そのまま小さな寝息を立てはじめた…

………

…翌朝…

提督「うぅ……ん♪」時計を気にせずあれこれ考える必要もないままに、ベッドの中でもぞもぞと身体を動かしながら、裸身をくすぐる布団の感触を楽しんでいる……

シルヴィア「……フランカ、もう起きてる?」

提督「ええ、目は覚ましているわ……」

シルヴィア「ならいいわ。朝食が冷める前に来るようにね」

提督「はぁーい」眠気の混じったあくびとも返事ともつかないような声をあげると、名残惜しげにベッドを出て、すぐ足元に並んでいるスリッパに足を入れ、それから椅子の背に引っかけてあるガウンに袖を通した……

…しばらくして…

クラウディア「おはよう、フランカ♪」

提督「おはよう、お母さま♪」

…歯を磨いて冷たい水で顔を洗うと、すっかり眠気が覚めた提督……居間の暖炉は残っていた昨夜のおき火にシルヴィアが焚き付けを足してあり、火勢こそ強くはないが心地よく火が燃えている……テーブルにはまだ十分に温かいコーヒーのポットと温めたミルク、暖炉のそばで温めたおかげで外皮がパリパリとして、中心の白いふわふわした部分にバターが溶けて染みこんでいるパン、夏の間にクラウディアが作ったお手製のイチゴジャムと、さっぱりしたミルクのような口当たりのリコッタチーズ…

クラウディア「よく眠れたようね」

提督「ええ、一晩中ぐっすり……♪」

シルヴィア「新聞はここに置いておくから、読みたかったらどうぞ」

提督「……ありがとう、おばさま」長い脚を暖炉の心地よい熱で温めながら、目をつぶって苦くて甘いミルクコーヒーをゆっくり味わう……

シルヴィア「このジャム、甘さもちょうどいいわ」

クラウディア「そう、良かった。甘過ぎると貴女の好みじゃなくなるし、かといって砂糖が少なすぎるとカビが生えるから……フランカはどう?」

提督「そうね、私もちょうどいいと思うわ……おばさま、リコッタの鉢をこっちに回してくれる?」

シルヴィア「ええ」

クラウディア「ふふ、いいものね……家族そろって食卓を囲むのは♪」

………

908 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/01/14(日) 00:58:06.48 ID:atQrelcs0
…午前中…

クラウディア「そういえばフランカ、クリスマスカードは書いた?」

提督「ええ。海軍関係の知り合いにはタラントの管区司令部で軍事郵便にして投函してきたわ……軍事郵便だから相手の所属と名前さえ分かっていればどこにでも届くし、軍の知り合い以外に出す分もついでに書いて、タラント市内の郵便ポストに投函しておいたわ」

クラウディア「そう、なら大丈夫ね」

提督「ええ。お母さまは?」

クラウディア「私は親戚だとか、付き合いのあったデザイナーやモデルの知り合いくらいかしら」

提督「つまり例年通りたくさんっていうことね」

クラウディア「そうでもないわ。私は半ば引退しているようなものだから、最近はそれなりに親しい人としかクリスマスカードのやり取りはしないし……」

シルヴィア「よく言うわ……この間「書き終わったクリスマスカードを投函したい」って言うから郵便局まで車を出したけれど、たっぷり五十枚はあったでしょう」

クラウディア「そうは言うけれど、あれでも現役の頃よりは減っているのは貴女が一番よく知っているじゃない」

シルヴィア「まぁね」

クラウディア「でしょう? それからフランカのクリスマスプレゼントはそこにちゃーんと用意してあるから、当日は楽しみにしていてちょうだいね♪」

シルヴィア「私からも用意してあるからね」そういって軽く頭を動かしてみせた先、可愛らしいクリスマスツリーの下には確かに「フランカへ」とカードのついた包みが二つおいてある……

提督「いつもありがと。お母さま、おばさま」

クラウディア「どういたしまして……ところでフランカ、あなたは鎮守府の女の子たちにプレゼントを用意してあげたの?」

提督「ええ、もちろん。 おかげで冬の賞与があらかた吹き飛んだわ……」艦娘たちの喜ぶ表情を想像し、それから通帳から引き出した額のことを考えて、思わず苦笑いを浮かべる提督……

シルヴィア「フランカは良い子だね」

クラウディア「ええ、だって私たちの娘だもの♪」

提督「もう、やめてよ……///」

シルヴィア「それにしてもあれだけの娘たちにプレゼントを買ったのなら、相当な大荷物になったんじゃない?」

提督「ええ、まるで絵本の泥棒みたいに袋を担いで鎮守府へ運び込んだわ」

…さかのぼって…

提督「ただいまー……ふぅ、ふ……ぅ」

デルフィーノ「お帰りなさい、提督……って、その荷物は一体なんですか?」

提督「それもちろん、みんなへのクリスマスプレゼントよ……これでもまだ半分で、残りは車の中にあるの」

デルフィーノ「じゃあ私も手伝いますっ」

提督「いいのいいの……私がみんなに買ってきたプレゼントだもの、最後まで私が運ばないとね」

ルチア「ワンワンッ♪」帰ってきた提督を見て、じゃれつきたそうに尻尾を振って足元を駆け回っている……

提督「あぁ、ルチア。お散歩は後で連れて行ってあげるから、今は大人しくしていてちょうだいね……お座り」

ルチア「ワフッ…♪」きちんとお座りをして、床の大理石を尻尾でぱたぱたと掃いている……

…廊下…

提督「ふぅ……ひぃ……みんな、ちょっと道を空けて」

トリチェリ「すごい大荷物ですね」

エウジェニオ「まるで夜逃げでもするみたいじゃない?」

提督「言ってくれるわね……よいしょ」執務室の前にたどり着くと、大きな袋をそーっと下ろした……

エウジェニオ「……これからプレゼントにつけるカードを書くのね?」

提督「ご名答……エウジェニオ、貴女は?」

エウジェニオ「私はもう済ませちゃったわ……提督もそういう時は化粧品とか下着みたいに軽いものを選ぶほうが楽よ?」

提督「それは私も知っているけれど、みんなの好みを考えたらそうも言っていられなくて」

エウジェニオ「ふふ、一人ひとりに合わせて好きそうなものを選んでプレゼントするなんて提督らしいわね……大抵の鎮守府じゃあ出来合いになっているお菓子の詰め合わせが良いところだって聞くわよ?」

提督「そうできないのが私の指揮官としての悪いところよ……貴女たちが可愛いから、つい恋人同士みたいな気分になって甘やかしちゃう♪」

エウジェニオ「恋多き女性だものね?」

提督「それは貴女もでしょ、エウジェニオ♪」
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