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ドロシー「またハニートラップかよ…って、プリンセスに!?」
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773 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/05/19(火) 00:33:37.16 ID:2jPijgb30
…その晩・メイフェア校…
プリンセス「……やっと終わったわ」
ベアトリス「お疲れさまでした、姫様。お休み前の暖かい飲み物をお持ちしますね」
プリンセス「ありがとう、ベアト……難しいレポートだったものだから、すっかり肩がこっちゃったわ♪」公務の時には見せない砕けた態度で腕を回すプリンセス……
ベアトリス「でしたら肩でもお揉みしましょうか?」
プリンセス「ベアトだってもう寝に行きたいでしょうに、そんなわがままを言っては悪いわ」
ベアトリス「そんなことありません。私は姫様にお仕えできて嬉しいですから……///」思わずそう口走ってから顔を真っ赤にするベアトリス……
プリンセス「まぁ、ベアトに愛されて私は果報者ね……でもせっかくだから飲み物にしましょう。それと、ベアトも付き合ってくれること♪」
ベアトリス「わ、分かりました///」
…しばらくして小ぶりな盆に陶器の水差しやカップ、菓子皿などを乗せて戻ってきたベアトリス……暖炉の温もりがまだほのかに残っている部室のテーブルに手際よく夜食のセットを並べ、プリンセスの優しいがうむを言わさない「お願い」に従って向かいに腰かけた…
プリンセス「あら、今夜は温かいミルクね?」
ベアトリス「夜も遅い時間ですし、紅茶では目が冴えてしまうかと思って……姫様が紅茶をお飲みになりたいようでしたらすぐ……」
プリンセス「ううん、いいの……それより、はい♪」お湯で温めておいたカップにミルクを注ぎ、それから隠し棚からとりだした瓶を開けて中身を少し垂らした……
ベアトリス「姫様、それは?」
プリンセス「カルヴァドスよ。少しだけ入れると味もいいしお腹も暖まるわ♪」
…すでに封は切ってあるものの、ドロシーが秘蔵してちびちび飲んでいる上物のカルヴァドス(リンゴ酒)をちょっぴり失敬し「ドロシーさんには内緒よ?」と唇に人差し指をあてておどけると、ベアトリスのカップにも注いだ…
ベアトリス「姫様、私はそんなに……!」
プリンセス「まぁまぁ、少し多かっただけだからきっと大丈夫よ……さ、乾杯♪」軽くカップを持ち上げ、優雅にホットミルクを味わうプリンセス……温かくて優しいミルクの味と、カルヴァドスの甘いリンゴの香りとアルコールの暖かさが喉からお腹にじんわりと広がっていく……
ベアトリス「いただきます……わ、良い香りがして美味しいです」
プリンセス「ね?」
…最低限の灯りにしぼった深夜の部室でこっそり食べるお夜食とミルクは小さな背徳感と軽い空腹を満足させてくれる……思っていたより水差しのミルクが残っていることに気づいたプリンセスは二杯目を注ぎ、先ほどよりすこし大胆にカルヴァドスを垂らした…
ベアトリス「姫様、少しお過ごしではありませんか……?」
プリンセス「私なら平気よ、公務でもお酒をいただく機会はあるもの……それよりベアトは大丈夫?」
ベアトリス「はい、私も全然大丈夫です。このお酒、口当たりがまろやかで美味しいれす♪」丸っこくてあどけない顔をぽおっと赤らめ、少しろれつの回らない口調のベアトリス……
プリンセス「あらあら、ベアトったらもう……♪」
…卓上の小さなランプに照らされてふわふわと心地よさそうにしているベアトリス……小皿の菓子をつまみミルクを飲み干すと食器を片付けにかかったが、手元が少し危なっかしい…
プリンセス「ベアト、食器の片付けは明日にしましょう? その調子だとお皿を落としてしまうわ」
ベアトリス「いえ、そんなことは……それにミルクが乾いてこびりつく前に片付けないと……」酔って意地っぱりになっているのか首を振って盆を片付けようとした矢先、水差しが傾いて倒れかかった……
プリンセス「いけないっ……!」とっさに受けとめてどうにか水差しを割らず音も立てずに済んだが、底に残っていた生温かいミルクが脚を濡らした……
ベアトリス「すみません姫様っ……!」
…盆を置くと布巾をとり、あせあせとしゃがみこんでこぼしたミルクを拭き取りにかかる……飾りこそ少ないが愛らしい淡いミント色のネグリジェ姿をしたベアトリスが座っているプリンセスの前で四つん這いになり、少しお尻を突き上げた格好であたふたしている様子を見て、プリンセスの口角が吊り上がる…
プリンセス「だから私が言ったでしょうに……もう、ストッキングが濡れてしまったわ」
ベアトリス「申し訳ありません、いま拭き取りますから……」
プリンセス「だぁーめ、布巾で拭き取るだなんてつまらないわ♪」
ベアトリス「あの、ではどうすれば……?」
プリンセス「舐めて?」
ベアトリス「ふえっ!?」
プリンセス「な・め・て♪」生温かいミルクが沁みた純白のシルクストッキングでベアトリスの頬をくすぐり、それからその足を口元へと近づけた……
ベアトリス「そ、その……姫様……///」
プリンセス「あら、ベアトったら私の言うことが聞けない?」頬杖をつき、足先でベアトリスのあごを上向かせる……
プリンセス「……さ、良い子のベアトなら出来るわね♪」
ベアトリス「ふぁ、ふぁ……い♪」小さな両手でプリンセスの足を包み込むと、可愛らしい桃色の舌を出して足指を舐め始めた……
774 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/05/27(水) 02:38:22.97 ID:WD8GeGho0
プリンセス「そうそう、上手よベアト……♪」片方の足を舐めさせている間に、もう片方の足でベアトリスの頭を撫でる……
ベアトリス「ふぁい……///」ちゅぱ……ちゅる……ちぅ♪
プリンセス「さ、それじゃあストッキングを脱がせてもらえる? 手は使っちゃダメよ?」
ベアトリス「わ、分かりまひた……///」
…白絹のすべすべしたストッキングはずり落ちないよう太腿のガーターベルトで留められていて、プリンセスが留め金を外すとベアトリスは四つん這いでにじり寄り、ストッキングの履き口をくわえて皮をむくように引っ張った……太腿に当たるベアトリスの温かい息と冷やっこい部屋の空気の寒暖差とくすぐったさで、ぞわりとした感覚を覚えるプリンセス…
プリンセス「んふふ……ベアトったらくすぐったいわ」
ベアトリス「ひゅみまひぇん、ひめひゃま……///」絹の生地をくわえたまま「すみません姫様」と謝り、膝の辺りまで引き下ろしたストッキングを相手に苦戦しているベアトリス……
プリンセス「破かないようにね?」
ベアトリス「ふぁ……い」引っ張っていくうちに「つつ……」とプリンセスのきめ細かな肌を滑っていくストッキング……そのうちにくるぶし、足の甲までずり下げることに成功すると、最後はバナナの皮をむくようにぺろりとストッキングが足先から抜け落ちた……
プリンセス「はい、良く出来ました♪ それじゃあベアト、今度は直接舐めてくれる?」
ベアトリス「はい、姫様///」
…プリンセスの瞳に見られているうちに、下腹部に甘くじゅわっと疼くような感覚を覚え始めたベアトリス……柔らかく小さな白い足と、しなやかで魚の目ひとつない美しい足指、綺麗に磨かれて艶のある桃色の足爪……誰もが知る王女殿下の日頃誰も見たことがない部分が、舌を伸ばせば届く位置にあり、しかもプリンセス自らがベアトリスに「舐めて良い」と差し出してくれている…
ベアトリス「……ちゅる、んちゅ、れろっ♪」
プリンセス「あんっ、ふふっ……ベアトったらくすぐったい♪」子猫がミルクを舐めるかのように、一心不乱に足を舐めあげるベアトリス……その信頼、献身……そして尽きせぬ愛情に思わず嬉しくなると同時に、這いつくばって奉仕するベアトリスの無垢な姿に対し甘い肉欲を覚えてしまう……
ベアトリス「あむっ、れろ……姫様のおみ足、柔らかくておいひいれす……♪」
プリンセス「あら、それなら反対側の脚もお願いしようかしら?」
ベアトリス「いいんれふか……?」赤んぼうが指をしゃぶるようにプリンセスの足指をしゃぶりながら、喜悦の声をあげるベアトリス……
プリンセス「ええ……それと今度はもう少し趣向を変えてみましょう♪」
…プリンセスはそういうと自分でストッキングを脱ぎ始め、脱ぎ終わってだらりと垂れ下がったそれを闘牛士の布のようにヒラヒラと振ってみせるとベアトリスに「後ろを向いて?」とささやいた…
ベアトリス「はい♪」
プリンセス「よろしい……それじゃあ、えい♪」シルクが傷むのも構わずストッキングを引き伸ばすと、つま先と履き口を両端にしてベアトリスの後頭部で結んで目隠しにした……
ベアトリス「わわ、目隠しですか……♪」
プリンセス「ええ。これから何をされるか分からないのも、ちょっとした緊迫感があって愉しいと思って♪」そういいながら四つん這いのベアトリスにまたがって片手でベアトリスの短髪をまとめると、手綱を引くように……ただし乱暴ではない程度にぐっと引いた……
ベアトリス「ん、くっ……///」
プリンセス「あらあら、ベアトったらもうこんなにびしょびしょにして……とってもいやらしくて良い娘ね♪」くちゅ……♪
ベアトリス「ふあぁぁ……ぁ♪」濡れそぼった花芯にプリンセスのしなやかな指が滑り込み、優しく内壁を擦り上げる……
プリンセス「あら、このお馬さんはなかなか進んでくれないのね……そーれ、はい♪」ぱちんっ……!
ベアトリス「ひゃん♪」
…ずるりと秘部から指を抜くと迎え舌でその指先を舐めとり、それからベアトリスの小ぶりなヒップを軽く叩いた……ベアトリスがよちよちとはいはいをし始めると、プリンセスは脚が地面に着かないよう正座のような姿勢で跨がりつつ、鞭をくれるようにベアトリスのヒップをぱちんと叩く…
プリンセス「ふふふ、本当に可愛いお馬さんね……それっ♪」ぱちっ!
ベアトリス「あんっ♪」
プリンセス「それじゃあこの馬場を一周したら降りるとしましょう♪ はいどう、はいどう♪」目隠しのベアトリスを四つん這いで進ませながら、椅子の回りを一周させる……ベアトリスは恥ずかしさと悦びで頬を赤くして口の端から涎を垂らしつつ、一歩進むごとに「ぬちゅ……っ♪」と太ももに垂れた愛蜜がこすれる粘っこい水音を立てている……
ベアトリス「はひ、あひぃ……あぁ……んっ♪」
プリンセス「そろそろ一周ね……はい、良く出来ました♪」そう言いながらにんまりとみだらな笑みを浮かべ、唾液で湿した右手の中指と薬指をぬるりと滑り込ませた……
ベアトリス「い゛っ……ふわぁぁぁぁ……っ♪」頭をのけぞらせて派手に嬌声をあげかけるベアトリス……
プリンセス「しーっ、誰かに聞こえちゃうからお静かに♪」そう言って床に放りだしていたもう片方のストッキングを丸めて口の中に詰め込んだ……
ベアトリス「ん゛ぅっ、ん゛んんん……っ♪」プリンセスの手にとろりと蜜をこぼし、力の抜けた膝をがくりと落とすとひくひくと痙攣しながら絶頂を迎えた……
プリンセス「あぁ、ベアトったらイくところまで可愛い……もっと気持ち良くしてあげるわね♪」白い目隠しに覆われたベアトリスの目には見えないが、プリンセスは瞳を爛々と輝かせ、女帝の風格と吸血鬼のような蠱惑的な表情でベアトリスを見おろしていた……
ベアトリス「んふぅ……んんぅ♪」
…床に崩れ落ちたベアトリスは口に突っ込まれたストッキングをしゃぶりながらプリンセスの残り香を味わい、秘部に伸ばした自分の小さな手に重なるプリンセスの手を使ってぐちょぐちょに濡れた秘部をかき回し、桃真珠色をした敏感な部分を撫で上げながら何度も愛液をほとばしらせた…
プリンセス「まぁまぁ、今日のベアトはまるで獣ね……ふふっ、明け方まであと二時間……それまで思う存分、いっぱいイかせてあげるわね♪」薄暗いランプだけが灯る中、影になった口元にえくぼを浮かべるとふたたび指を沈み込ませた……
775 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/06/16(火) 01:07:48.93 ID:hPSRvhPj0
…Case・ドロシー×アンジェ×プリンセス「Give my best regards to Sir Walsingham」(ウォルシンガム卿にによろしく)…
…とある日・コントロール内の無電傍受施設…
無電オペレーター「……」
…ロンドン市内にある「アルビオン共和国大使館」の立ち入りが制限された一角にはモールス信号機やその受信機がずらりと並び、複数の局員がヘッドフォンを耳に当て、空中を飛び交う電波の中から王国側の周波数、あるいは共和国側が使っていない周波数を捉えると電文をメモ帳に書き留めては、はぎ取った意味不明な文字の羅列を暗号解読室の局員たちが解読器にかけたり、敵方から手に入れたコードブックを用いて平文に戻していく…
解読係「……これは!」次々とメッセージを解読して行く中、一人の解読係が読み解いた暗号文を読むなり書類挟みを手にLの執務室に向かった……
………
…数日後・ロンドン市内の地下街…
L「ああ、来たな」
…張り巡らされた真鍮や銅のパイプが交錯し、常に漏出する蒸気で湿っぽい地下街に隠し部屋の一つがある……もともとは無計画で野放図な地下街の工事に使われていたが、革命騒ぎで放棄され埋め戻されることもなく忘れ去られた区画の一部で、今では開発された地下街と地下鉄トンネルとの狭間にあり、地下街に通じる隠し通路を使って出入りすることができる……室内は「アンダーグラウンド」あるいは「ザ・チューブ」と言い表されるロンドン地下鉄の音が鈍く響いていて、アーチ状の背の低い天井は長身の人間では頭をぶつけてしまいそうになる…
ドロシー「急な呼び出しだったからちょうどいいお土産がなくて大慌てだったよ」
L「慌ただしいのは好ましくないが『ちょっとした問題』が起きてな」
ドロシー「なるほど。それじゃあ一杯もらおうか」
L「好きにしろ。グレンリベット、ヘネシー……アイリッシュウィスキーがいいならジェームソンもある。シャンパンならクリュッグとクルボアジェだ」
ドロシー「今日はやけに気前がいいじゃないか」グレンリベットを開けてウイスキーソーダを作ると軽くあおり、机に肘をついた……
L「納税滞納者からの押収品なのでな。国庫を痛めることもない」
ドロシー「それはそれは……それで、今回はどんな無理難題を押しつける気だ?」
…赤紫色を帯びた瞳に少し皮肉っぽい笑みを浮かべ、グラスを揺すりながらウイスキーソーダをあおるドロシー……デイドレスはちょっとしたお出かけ用といったところで、上等ではあるが目立つほどではなく、ほどほどに綺麗ではあるが派手ではない……ことさらに気配を消そうという意図は感じられないが、必要な程度に「目立たない」格好をしていた…
L「うむ、そのことだが……これを読んでみろ」
ドロシー「あちらさんの暗号文か、わざわざ持ってくるなんて危なっかしいな……」ぼやきながら流し読みを始めたが、内容を確かめるなり目つきが変わり、知らず知らずのうちに姿勢を起こして真剣に読み始めた……
ドロシー「こいつは……」
L「なんだ?」
ドロシー「……どこの誰だか知らないが、こいつはあんたら「コントロール」の内部に送り込まれた第一級の情報源だな」
L「いかにも」内容を読み終えたドロシーからタイプされた紙片を返してもらうと暖炉にくべて灰になるまで焼き尽くした……
L「この発信を捉えてからの数日の間に収集した情報だが、こちらが数ヶ月前に王国へ送り込んだ情報部員の正体、情報活動に使った予算の額、王国への対応方針……とにかくこちらが被った被害は相当なものだ。手札が相手に筒抜けでは勝負にならん」
ドロシー「それで?」
L「もちろんこちらでもこの「もぐら」を探し出すが、君たちも正体を探ってもらいたい……こちらが新規に「植え込んだ」情報部員はおおかた面が割れていて使えんし、既存のエージェントもどうだか分からん以上うかつに動かせん。だが君たちのことは私とほか数人しか知らん以上、まだ存在を掴まれていないはずだ」
ドロシー「希望的観測ってやつか?」
L「ある程度の根拠もある。今までに挙げてきている成果と、王国が君たちを通じてこちらの諜報網を一網打尽にできる利益とではすでに釣り合わん」
ドロシー「なるほどな。しかし末尾の「ウォルシンガム卿によろしく」とはね……ふざけた奴だな」
(※フランシス・ウォルシンガム…1532〜1590年。エリザベス一世に対するスペインやスコットランド女王メアリ・ステュアートを始めとする国内外のカトリック勢力による謀略や暗殺計画を手段を問わずに次々と退け、英国の繁栄を影から支えた「英国情報部産みの親」にして伝説の秘密警察・情報部長官。女王の花婿候補にも次々と難癖をつけ結婚を諦めさせてしまうなど気難しい性格だったことから嫌われていたが、その圧倒的な実力で認めさせていた人物)
L「逆に言えば、それだけの個人的アクセントをつけても許されるほどの実力だということになる……君もそういうお遊びをしてみたいのなら構わんが」
ドロシー「あいにくそんな趣味はないんでね。しかしこれほどの余裕を持っているやつだ、手強いだろうな」
L「こちらも簡単だと言った覚えはない……やれるな?」
ドロシー「ああ、久しぶりに手応えのある相手だ。腕が鳴るね……ああ、それと」
L「分かっている。植え込みに失敗したエージェントたちの分だけ浮いた活動費がある。それを回そう」
ドロシー「頼んだ。なにしろ『情報にはいくら金をかけてもかけ過ぎることはない』んでね」(※「情報には〜」…ウォルシンガムが言ったとされる言葉)
L「よかろう。とにかくこれ以上被害が拡大する前に食い止めたい、成果に期待している」
ドロシー「やるだけはやってみるさ……それじゃあお先に」
L「うむ」
776 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/07/10(金) 01:16:56.69 ID:4V2iKZOq0
…数時間後・部室…
ドロシー「……というわけだ」
アンジェ「そういう浮かれているタイプは必ずボロを出す、そこを押さえればどうとでもなる」
ドロシー「そう上手くいきゃいいんだがね……とにかくしばらくはこっちにかかりっきりになるし、日常の定時連絡やなにかは出来るだけベアトリスにやらせよう」
アンジェ「そうね」
ドロシー「プリンセスとちせは今のところ普段通りだが、場合によっては使うこともあるかもしれない」
アンジェ「ちせが物理的に排除する機会があるかもしれないと?」
ドロシー「そこなのさ」すっかり冷めた紅茶をすすり、眉をしかめた……
ドロシー「いくらそいつが最上級のエージェントだとしてもだ、通信は傍受される可能性があるし……実際そうなったわけだが……無電や伝書鳩、メールドロップでやりとりするにはデリケートすぎる情報だってある。絶対にどこかで担当の管理官とコンタクトしているはずだ」
アンジェ「その担当官を探し出す気?」
ドロシー「ああ。本人が壁の向こうにいるんなら手が出せないが幸いこっちにいるんだし、管理官が誰か割れれば芋づる式にそいつの正体も分かる」
アンジェ「もっともね」
ドロシー「……が、そうなるとプリンセスにもご出馬願うことになるかもしれないな」
アンジェ「プリンセスに頼むのは最後の手段ね、うかつに嗅ぎ回ったらプリンセス自身に危害が及ぶ」
ドロシー「分かっているさ。だが相手の「産物」(プロダクト)は超一級品だ。今はまだ大丈夫だが、もし「チェンジリング」に勘づかれたらおしまいだ」
アンジェ「……」
ドロシー「分かってる、こっちだって必要以上にプリンセスの立場を危うくしたいわけじゃない……とはいえどうしようもない場合もあるってことを覚えておいてくれ。そうならないよう努力はするがね」
アンジェ「ええ、私も出来る限りのことはする」
ドロシー「よっしゃ。それじゃあ私は今夜から「会員制婦人サロン」にしけ込むとするかな」
アンジェ「……どういうつもり?」
ドロシー「知れたことさ。腕利きエージェント、それもこれだけの千両役者となると管理官はノルマンディ公のところ……つまり内務省で間違いない。それで、だ。こちとら内務省課長級の奥様とすっかりねんごろだって話は前にしただろ?」
アンジェ「浮気性な女が持ってくるゴシップに興味があるわけじゃないわ」
ドロシー「へっへっへ……それがその奥様、冷え切った結婚生活なのは亭主が省内で美人の秘書かなにかを抱えているためだと思っているらしくてな。証拠探しに持ち帰り仕事の書類を盗み読みしては、その内容を不満と一緒に私にぶちまけてくれているのさ」
アンジェ「部外秘の書類を持ち帰り?」
ドロシー「敵ながらノルマンディ公の能率的な仕事ぶりを考えたら書類の処理がおっつかないのも無理もないさ……ともかく、書類の持ち出しは公務員の機密保持規則違反で厳罰だから、もし亭主が細君の盗み読みを見つけたとしてもうかつに報告することさえできない……重い規則違反をやらかした部下にノルマンディ公がどんなこの世の果ての植民地のポストを見つけてくるかを考えたら、こっちだってぞっとするね」
アンジェ「それが保険になると」
ドロシー「ああ。そういうパブリックスクールのガリ勉タイプは中途半端に頭が回るから自分でどうにかしようとするし、同時に気位が高くて役職のことばかり考えているから、それを守るためなら口も閉じるし脅しも効く」
アンジェ「あるいはパニックを起こして大騒ぎをするか……あてにならないわ」
ドロシー「大金でもせびればそうなるかもしれないが、こっちはそんなつもりがないからな……それに、まさか自分の細君が婦人サロンで若い女相手の寝物語(ピロートーク)に省内の機密情報をくっちゃべっているとは思わないだろうよ」
アンジェ「……若い女?」
ドロシー「おい、私だってまだ充分に若いだろ」
アンジェ「そういうことにしておくわ……とにかく方向性は了解した。私も別口で相手の管理官を探ってみる」
ドロシー「よろしく頼む……へっくし」
アンジェ「噂でもされているのかしら?」
ドロシー「かもな、モテる女は辛いもんだ♪」
777 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/07/23(木) 00:06:40.78 ID:+MFf+0Cf0
アンジェ「……貴女がモテるかどうかはさておき、他にも情報を探る必要があるわね」
ドロシー「ああ……やつが発信しているモールス電文の強度から位置を割り出していくことにしよう」
アンジェ「電波の三角測量法? あんなの技術的にはまだあてになるようなものじゃないし、そもそも電文を傍受するオペレーターが最低でも三人は必要よ」そういうと露骨に眉をひそめた……
ドロシー「問題があるか? 無電を扱うのは私とお前さん、それにベアトリスでちょうど三人じゃないか」
アンジェ「ベアトリスを単独で使うのは不安があるわね」
ドロシー「そりゃあ荒事に使うには頼りないが、メカや技術に関しちゃなかなかだぜ?」
アンジェ「それは分かっているわ」
ドロシー「なら何が不満だ? プリンセスを安易に使うのはもっと反対だろうし、ちせは刃物なら一流だが通信機なんてからっきしだ。ベアトリスができるんだから……ごほん……ベアトリスを使おうじゃないか」
アンジェ「どうしたの?」
ドロシー「いや、大したことはない……ちょっとつばをのみ損ねてな」
アンジェ「年寄りの証拠ね。いいわ、納得したわけではないけれどとりあえずはその方向しかないようね」
ドロシー「そういうこと。やつの定時連絡は曜日も時間も決まっているが、おそらくは数日おきにパターンを変えているはずだ。そいつを変えられる前に尻尾をつかみたい」
アンジェ「ええ」
ドロシー「まずは通信機のあるネストから任意の三か所を選び出して電波の強度を測る……方位は分からないが、強度からある程度の位置が絞り込めればそれだけでもずいぶんマシになるはずだ」
アンジェ「そうね」
…放課後…
ドロシー「さてと……ベアトリス、それじゃあお前さんにも協力してもらおう」
ベアトリス「分かりました、何をすればいいんですか?」
ドロシー「今回は特定の時間にネストのひとつで通信機を立ち上げ、モールス電文に聞き耳を立ててもらうってお仕事だ」
ベアトリス「一人で、ですか?」
ドロシー「ああ、もう子守りの必要な年頃じゃないだろ?」イヤミに聞こえないように軽い口調でそういうとウィンクを投げた……
ベアトリス「ええ、まぁ……それで?」
ドロシー「分かっているとは思うが電文のモールス信号は距離が離れるほど電波、つまり音が弱くなる……ちょうどこんな具合に波紋になって広がっていくわけだな」ティーカップの紅茶に角砂糖をひとつ落とした……
ベアトリス「はい、それは知っています」
ドロシー「今回はその電波を探り、この同業者がロンドンのどの辺りから電文を叩いているのかつきとめたいってわけだ」
ベアトリス「質問をいいですか?」小さく手をあげるベアトリス……
アンジェ「どうぞ」
ベアトリス「ドロシーさんが紅茶で見せてくれたようにモールス信号は全方位に広がっていきます。それを聞いただけではどこからの発信かは突き止められないと思いますけれど……」
ドロシー「そいつはまったくその通りだが、それは一か所から聞いた時の話だ。今回は私、アンジェ、それからお前さんの三人が別の場所で同時に電文を傍受する。そうすれば信号の強弱である程度の位置が推察できる。それにモールス通信機は電気を食うしハンドバッグに収められるほど小さいものでもない。隠せる場所となるとおのずから限られてくる」
ベアトリス「なるほど」
…アルビオンの技術力がいかに優れているとはいえ、まだまだモールス通信機は小さなものではなく、情報部員にとって便利ではあるが隠しどころに困る厄介者でもあった……通信機の音質や距離もそこまでではなく、シティ(金融街)や貿易会社、船会社といった民間での無電通信も急増するなか混信も起こりがちで、使われるのは速報性の高い通信か、伝書鳩やメールドロップを使えない場合に限られていた…
ドロシー「納得してくれたか?」
ベアトリス「はい。あと一つ提案が……いいですか?」
ドロシー「おう。遠慮することはないからどんどん言ってみろ」
ベアトリス「モールス通信機ですが、実はちょっとした考えがあって……ちょっと待っていてもらえますか?」そう言って立ち上がるとどこかに出ていった……
ドロシー「……なんだろうな?」
アンジェ「さあ」
778 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/08/10(月) 01:44:37.63 ID:xKZDlfS90
ベアトリス「……お待たせしました」数分ほど待っているとベアトリスが戻ってきたが、その手には見なれない何かの部品のようなものが握られている……
アンジェ「それは?」
ベアトリス「これですか? これは通信機の水晶増幅器です。支給されている通信機なんですが、メンテナンスをしている時に出来があまり良くないことに気がついて……もっといい増幅器を使えば感度がぐっと良くなると思って作ってみたんです」
ドロシー「作ってみたって……お前なぁ、そんなクッキーかなにかみたいに……」あきれたような声を上げた……
アンジェ「それで、性能のほどは?」
ベアトリス「実はまだ試していないのですが、いい出来だと思います」普段よりいくぶん自信ありげなベアトリス……
ドロシー「ほう……そこまではっきりと言うんだから相当なもんだな。いいだろう、試してみようじゃないか……完成品は一個だけか?」
ベアトリス「いえ、ちょうど三つあります」
ドロシー「おいおい、まるで誂えたみたいじゃないか。三か所で聞き耳を立てようって時にちょうど役に立つ部品が三つある……ベアトリス」
ベアトリス「はい、何でしょうか?」
ドロシー「隠し棚にある酒の好きなやつを開けていいぞ。それだけの価値はある」
アンジェ「ちなみに奥の左から三番目がドロシーのとっておきよ」
ドロシー「おい。なぁベアトリス、私の好みはお前さんとは違うし、無理にそいつを選ばなくたっていいからな?」
ベアトリス「大丈夫ですよ、こっちにします」
ドロシー「ふぅ、やれやれ……じゃあ私も一杯もらうとしよう。ベアトリスとそのイカした発明品に乾杯しないとな」
…グラスを取り出すとなみなみとブランデーを注ぎ、ベアトリスがごく控えめに注いだサイダー(リンゴ酒)のグラスと触れ合わせた…
アンジェ「昼間から酒だなんていいご身分ね」
ドロシー「そう言うなよ。とにかくベアトリス、お前さんとそのゴキゲンな部品に乾杯だ♪」
ベアトリス「あ、ありがとうございます……なんだか照れちゃいます///」
ドロシー「なぁに。それだけのものを作ったんだ、自信をもてよ」いつもよりも暖かな表情を浮かべて軽く肩を叩いた……
アンジェ「いいけど、少し顔が赤いんじゃないかしら」
ドロシー「おっと、少し飲み過ぎちまったかな……そんなつもりはなかったんだが」
アンジェ「お願いだから教師や寮監にバレることがないように頼むわね」
ドロシー「そんなの楽勝さ……それじゃあ傍受は予定の日から始めよう」
アンジェ「ええ」
ベアトリス「分かりました」
…数日後…
ドロシー「さてと、それじゃあ今日から傍受を始めることにするが……手はずは覚えているな?」
ベアトリス「大丈夫です、よくおさらいしましたから」
ドロシー「結構。まずはそれぞれのネストに行って通信機の部品をお前さんの水晶増幅器に取り替える」
ベアトリス「はい」
ドロシー「それからあとは向こうが定時連絡を発信するまで傍受を続ける……本当なら通信機に詰めている間、不意を突かれないよう子守役が必要なんだが……なにぶん手が足りないからな。ネストの位置がばれていないことを願いつつ用心してかかろう」
ベアトリス「そうですね」
ドロシー「あとは電波の強度から相手の位置を探るだけだ……細かく方向を探ることができる指向性のアンテナみたいなものがありゃいいんだが、そんなのは科学小説に出てくる絵空事だからな……地道に強度から探るしかない。それとあちらさんの定時連絡の時間は分かっているから、予定時刻を一時間過ぎたら中止してメイフェア校に戻る」
ベアトリス「了解しました」
ドロシー「万が一ネストが急襲を受けたら緊急信号を打電して機材を破壊し……その暇があればだが……一目散に逃げだす、いいな?」
アンジェ「緊急時の集合場所や逃走のための道具がしまってある場所は覚えているわね。慌てず騒がずそこへ向かうこと」
ベアトリス「はい」
ドロシー「よし、それじゃあ行こうか」
779 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/08/26(水) 01:28:12.00 ID:1x5btGeP0
…ネストの一つ…
ドロシー「さあ、準備を始めようぜ」
…古めかしい棚に施された特定の浮き彫りを順番に押すとからくり仕掛けのようにカチリと留め具が外れ、浮いた棚板を開くと中に収まっていた通信機が姿を現す……ベアトリスは小さなレンチやペンチを使い、通信機に仕込まれている水晶を慎重に外しお手製の増幅器に差し替える…
ドロシー「……できたか?」
ベアトリス「はい、できました」
ドロシー「それじゃあ試してみるとするか。アンジェ、頼む」
アンジェ「ええ」
…起電用の手回しハンドルを回すと通信機が低くうなり始める……席に腰かけたアンジェがスイッチを「送信」から「受信」に動かすとたちまち計器盤の針が左右に振れ、長短のモールス信号が空中を飛び交っていることを示した…
アンジェ「この波長は通常商用電信ね……確かによく聞こえる。これまでの倍以上は感度が良い」
…耳当てがついたラッパ型のヘッドフォンに耳を傾け、周波数のダイヤルを回しながらしばし沈黙していたが、ヘッドフォンを外すと軽くうなずいた…
アンジェ「いい出来だわ、ベアトリス。とてもいい」
ベアトリス「それならよかったです」
アンジェ「ええ。素晴らしい仕上がりよ……スパイは特許を申請できないのが残念ね」珍しいことにからかうような賛辞まで飛び出す……
ベアトリス「いえ、そんな……///」
アンジェ「それから、できれば全ての通信機にこれをつけたい。手持ちの材料がまだあるようなら他の通信機の分も作って欲しい」
ベアトリス「分かりました」
アンジェ「あと、全体としては良いけど周波数帯によっては音が飛ぶわね」
ベアトリス「そうですか? ちょっと待って下さいね……」再び通信機に顔を寄せると工具を取りだしあちこちいじった……
ベアトリス「……これでどうでしょうか?」
アンジェ「試してみましょう……そうね、いいわ。さっきよりも落ち着いた」
ドロシー「さすがだな。それじゃあアンジェ、ここは任せる」
アンジェ「ええ。残り二か所もお願いね」
ドロシー「ああ……それじゃあ行こう」
…ドロシーはベアトリスを連れてロンドン市街を歩きながらレモネードの屋台で喉を潤したり、道端のショーウィンドウを眺めたりしながら尾行がないか確かめ、とある角でつと裏路地に入った…
…二つ目のネスト…
ドロシー「さ、じゃあ今度はここだ……さっきと同じように頼むぞ」
ベアトリス「はい」
…ベアトリスも二つ目となると手慣れたもので、錯綜した真鍮や銅線の迷路に細く繊細な指を差し入れて増幅器を取り替え、電源を入れると通信機が「暖まる」のを待った…
ドロシー「よし、動いたな……どれどれ……」ドロシーは通信席にどっかりと腰を下ろすとヘッドフォンを当て、かん高いモールス信号の音に耳を傾けた……
ベアトリス「どうでした? 調整はいりますか?」
ドロシー「うんにゃ、文句なしにばっちりだ……ときたま空電が入るが、こいつはロンドン中に金属の蒸気パイプやら何やらが張り巡らされている上に、ドーヴァーの方で雷雨が来ているからだろう」
ベアトリス「そうですね、雷が来るとどうしても空電が入ってしまいますから……」
ドロシー「とにかく増幅器の方は文句なしだ。残り一か所はお前さんに任せるから、いつものように尾行に気を付けて行ってこい」
ベアトリス「はい、それじゃあ行ってきます」
ドロシー「おう……さて、あとはあちらさんが定期報告を打電してくれるのを待つばかり、と」
ドロシー「……へっくし!」数回連続してくしゃみをし、思わず顔をひそめた……
ドロシー「ったく、あんまり埃っぽいのも考え物だな。今度ベアトリスに雑巾がけでもやってもらうか……くしゃみで肝心の通信を聞き逃したんじゃ冗談にもならないしな」
…そうつぶやいていると、ふと足元から背中にかけてぞわりとした寒さを感じた……そこまで低い気温ではないはずだが、作りの雑な安普請の部屋で北窓から吹き込んでくる風がよりこたえるように感じた…
ドロシー「おまけにこの部屋はすきま風がひでぇときやがる……どうにもうそ寒いや」
………
…
780 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/09/06(日) 01:58:47.40 ID:D1niIlq30
…三つ目のネスト…
ベアトリス「ふう……」
…尾行がないか、あるいはネストを監視している人間がいないかをさりげなく見定めて、安全とみると入り口をくぐったベアトリス……通信機のある部屋に入るとバリケード代わりのクローゼットをドアに寄せて身体を椅子に休めたが、疲れを感じているのは歩き回ったからというより、むしろエージェントとして精神を研ぎ澄ましていることからくる気疲れからだった…
ベアトリス「……っと、座っていちゃダメですね。はやく増幅器を取り替えないと」
…パーティや舞踏会のような騒がしい環境よりもむしろ心落ち着けて黙々と取り組める機械の方が安心するような気がするベアトリス……往診に通う医者のような小さい茶革の鞄から工具を取り出すと、通信機の化粧板を外した…
ベアトリス「増幅器もそうですが、ここの接合もゆるい気がするんですよね……今度また調整しないと……」
ベアトリス「ん……よし、入りました」
…細い指がピアニストのように手際よく動き、増幅器を取り替えた……取り外した方の増幅器は持っているわけにもいかないので、後で運河に捨てられるよう食べ終わったサンドウィッチの包み紙にくるんでおく…
ベアトリス「さて、それじゃあ立ち上げましょう」
…手回しハンドルを回して電源を起こすと「ぶぅ……ん」と低いうなり声をあげて通信機が立ち上がり、たちまちロンドンを飛び交う電波が通信機を駆け抜ける…
ベアトリス「それと周波数は……と」波長のダイヤルを回していく……
ベアトリス「この波長は船舶用の電信ですね……」
ベアトリス「それにしてもドロシーさんの言う通りですね、今日は空電が多い……」
…ヘッドフォンを当て、右手には電文を書き留めるための鉛筆を持ち、左手は周波数のダイヤルを回しているが、電信の小気味いい「トン・ツー」に交じって砂利を振るうような空電が入る…
ベアトリス「この調子じゃあ無事に聞き取れるか難しいですね……」
…卓上に置いた懐中時計をちらりと見るベアトリス……予定通りならあと数分で敵方のエージェントが通信を始めるはずだが、通信機は今のところはうんともすんとも言わないで黙っている…
ベアトリス「……」
ベアトリス「……」鉛筆を持って身構えたまま、ダイヤルを小さく左右に回して近くの波長で送信していないか探す……
ベアトリス「……あと十五分」
…通信機の前に座って必要以上に長居をしているとそれだけ危険性が高まる……制限時間が迫りベアトリスがそろそろ撤収を考え始めた矢先、ヘッドフォンにモールス電文の断続音が響き始めた…
ベアトリス「……っ!」
…王国側の暗号帳はプリンセスの協力もあってすでに手に入れている……もちろん用心の上にも用心を重ねるノルマンディ公のことゆえ、定期的に暗号は変更されるが、少なくとも今回はまだ同じ暗号が使われている……ベアトリスは頭に叩き込んである解読表を使って通信を書き留めていく…
ベアトリス「……共和国……情報部……いえ、情報部員……植え込みあり……氏名……ジョン……カウリー……」
ベアトリス「……チェックポイント・ベーカー(B)より……明後日……」
…暗号文を解読しながらも、敵に自分の偽装が筒抜けであることを知らずにいる情報部員の身の上を思い悲痛な気持ちになるベアトリス……が、それでも暗号文を正しく書き留め、同時に振れている針が示す目盛りを確かめて通信の強度を確認する…
ベアトリス「……ウォルシンガム卿に……よろしく……ピリオド……通信終わり」敵の情報部員はいつもの締めくくりで通信を終えた……
ベアトリス「……」
ベアトリス「とにかく通信は聞き取れたわけですし、あとは戻ってドロシーさんたちと強度の比較をして発信の位置を絞り込むだけですね」
…何かの手違いで通信機が発見されても王国の暗号通信を傍受していたことが分からないよう、波長のダイヤルをごく一般的な商用暗号の周波数に合わせてから電源をおとした…
ベアトリス「なんだかどっと疲れちゃいました……帰りにお茶でも飲んでいきましょうか」そう一人ごちると暗号文を書き留めたメモをくしゃくしゃっと丸めて書き損じのメモやノートの紙に混ぜ、柳のバスケットに押し込んだ……
…その夜…
ドロシー「よう、忙しいところ集まってもらって悪いな」
プリンセス「いいえ、久しぶりの「定例会」ですもの♪ 楽しみにしておりましたわ」
ちせ「うむ。こうして菓子も出るしの」甘い紅茶とジャム付きのクッキーにご機嫌なちせ……
プリンセス「でも食べたらちゃんと歯を磨かないとだめですよ?」
ちせ「分かっておる」
アンジェ「さあ、おしゃべりはその辺にしてちょうだい……プリンセス、ちせ、それぞれ報告を」
プリンセス「ええ♪」
ちせ「うむ」それぞれメイフェア校や行動先で発見したことや入手した情報、協力者として有望そうな人物、反対に王国防諜部や内務卿の息がかかっていそうな人間について報告・共有する……
アンジェ「分かったわ、ありがとう……それじゃあ二人は上がってくれていいわ」
プリンセス「あら、もういいの?」
アンジェ「ええ」
プリンセス「分かったわ……それじゃあまた後でね、アンジェ♪」
781 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/09/20(日) 01:31:46.55 ID:c0ffCBGY0
ドロシー「……さてと、それじゃあ傍受の結果について聞こうじゃないか。アンジェ」
アンジェ「私のポイントからは振れ幅があったけれどおおよそ感度3、途中で空電が入ったけれど無事に聞き取ることができたわ」
ドロシー「なるほどな……それじゃあベアトリス」
ベアトリス「はい。私の傍受したポイントでは感度4。空電の影響はほぼありませんでしたが、鉄道の高架が影響していたのか近い周波数の通信が混信することが少しありました」
ドロシー「分かった。で、私の方では感度3。と言っても2に近い方で、空電も混じれば商用通信も割り込んでくるような状態だったな……それでだ」
…卓上にロンドンの地図を広げると裁縫用の待ち針と木綿糸が巻かれている糸巻きを取り出した……それぞれが通信を傍受したポイントに待ち針を刺していく…
ドロシー「アンジェのポイントはここ、それからベアトリス……私はここ……」
アンジェ「王国の通信施設はここ、ここ、それからここ……」待ち針の頭にはそれぞれ色がついていて、色分けされたことで地図上の勢力が明確になる……
ドロシー「さてと……ベアトリス、糸の端っこをその待ち針に結んでくれ」
ベアトリス「あ、はい」
ドロシー「ありがとな……さて、それをこう結ぶと……どうだ」ドロシーたちが傍受したポイントを糸で結ぶと三角形ができた……
アンジェ「それじゃあ次はこうかしら」三角形のうち、一番感度が弱かった点を外して糸を動かし新しい三角形を作る……
ドロシー「そうだな、西はない」
ベアトリス「感度が低い側を外していくんですね?」
ドロシー「そうだ。三角形を前転させていくようにして、より強度のある方に動かして絞り込んでいく」
アンジェ「それと特定の地域は除外できる」
ベアトリス「特定の地域?」
アンジェ「ええ。例えば王室の敷地や王国陸軍の施設……コントロールに入り込んでいる王国のエージェントなら王国との繋がりを疑わせるような場所には絶対近づかない」
ドロシー「そういうことだ」
ベアトリス「なるほど」
アンジェ「これを続けて差し渡し一マイル圏内に絞り込んでいき、後はその街区からあり得そうな施設を徹底的に洗う」
ドロシー「とはいえ、こいつは口でいうほど簡単じゃないんだよな……通信機そのものは目立つ方だが、ロンドンは広い。私たち三人じゃあ調べるにしても限りがある」
アンジェ「泣き言は言っていられないわ、正体をつかまれたら私たちだけじゃなくプリンセスも危うくなる」
ベアトリス「そうですね……」
ドロシー「まぁな……ごほっ、けほっ……」
アンジェ「ドロシー?」
ドロシー「あぁ、なんでもない」
アンジェ「……」けげんな顔をして額を寄せた……
ドロシー「おいおい、キスをするつもりならもっと雰囲気を作ってからに……」
アンジェ「馬鹿を言っている場合? ……ドロシー、貴女熱があるわよ」
ドロシー「なぁに、このくらいは平気さ……ごほ、ごほっ……!」
アンジェ「まったく、馬鹿は風邪をひかないはずなのにね……ベアトリス、看病を手伝ってちょうだい。それと終わったらよく手を洗うこと。プリンセスに移しでもしたら大変だわ」
ベアトリス「はいっ。ドロシーさん、すぐ暖かい飲みものをお持ちしますからね」
ドロシー「私はプリンセスじゃないんだから、そんなに気を遣うなって」口ではいつものように軽口を叩きながらも、少し億劫な様子のドロシー……アンジェが持ってきた毛布を大人しく受け取るとソファーに寝っ転がった……
アンジェ「いいから看病してもらいなさい。とっとと治してもらわないと任務に影響が出るわ」
ドロシー「風邪っ引きでも休めないんだからスパイ稼業ってのも楽じゃないよな……ウイスキーくれ」
アンジェ「トディ(ウイスキーをお湯で割り、果汁や砂糖、スパイスを加えたホット・カクテル)にでもしましょうか?」
ドロシー「よせよ、冷血の黒蜥蜴星人がかいがいしく世話をするなんてかえって気味が悪いぜ? ストレートでいい」
アンジェ「相変わらず減らず口ばっかりね……ほどほどにしておきなさい」
ドロシー「ああ……うへ、このウイスキーは化学薬品みたいな味がするな……って、いつものやつか?」アンジェの取った瓶を眺めたが、普段は気に入って飲んでいる銘柄であることを確かめると肩をすくめた……
アンジェ「どうやら味覚もダメになっているようね。こっちもできるだけカバーするから今日はよく休んでちょうだい」
ドロシー「そうするよ。味覚までイかれているようじゃな」
782 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/10/04(日) 02:58:43.75 ID:nlFmxs8d0
…十数分後…
ベアトリス「ドロシーさん、お待たせしました」
ドロシー「なぁに、待つっていうほどじゃないさ……何を持ってきてくれたんだ?」期待を込めてむっくりとソファーから起き上がると、ベアトリスの持っているお盆をのぞきこんだ……
ベアトリス「風邪と言えばこれに限ります、ビーフティです♪」
(※ビーフティ…「ティ」と言ってもお茶ではない。牛肉と野菜を火に通してから水を加えて煮込んだ薄いスープで、具材は取り除き汁の部分だけを供する。イギリスにおける病人食の定番。スープ皿ではなくマグカップなどを使う)
ドロシー「やれやれ、風邪っ引きだからって食い気がないわけじゃないんだぜ? 魚じゃあるまいし水気だけじゃあな」
ベアトリス「そういうと思って食べ物も持ってきましたよ」
ドロシー「そう来なくちゃな……ヨークシャープディングでも持ってきてくれたのか?」
ベアトリス「もう、風邪なのにそんなもたれるものを食べていいはずがないじゃありませんか……トーストサンドウィッチですよ」
(※トーストサンドウィッチ…19世紀のイギリス的病人食の代表で「胃腸を休めるための淡白な料理がよい」ことから考案された。薄くバターを塗り塩コショウをしたパンで薄手のトーストを挟んだもので、「人生の悲哀を味わう料理」や「史上もっとも安上がりな料理」とも)
ドロシー「参ったな……」手際よく皿とカップを並べるベアトリスと、ため息をついてげんなりした様子のドロシー……
ベアトリス「きちんと治せばそれだけ早く好きなものが食べられますよ」
ドロシー「おっしゃるとおりで……はぁ……」味気ないトーストサンドウィッチと薄いビーフティを渋々口にする……
ベアトリス「それと、寮監の先生には伝えておきますか?」
ドロシー「いいや。ガミガミ言われるのも億劫だし、それ以前に保健室のベッドなんかに閉じ込められたら任務に差し支える」
ベアトリス「そうだろうと思って言わないでおきました」
ドロシー「それでいい……ついでにこのトーストサンドウィッチにコーンビーフでも挟んでおいてくれたら満点だったんだがな」
ベアトリス「それはダメです」
ドロシー「厳しいねぇ……とりあえずごちそうさん」
ベアトリス「それじゃあこのまま部室で……?」
ドロシー「ああ。寮監の見回りの時だけは部屋に戻るけどな」
ベアトリス「分かりました、それじゃあ寝具もいくつか用意しておきます」
…メイフェア校内での長丁場に備えて部室にも仮眠できる程度の備えはあるが、さすがに厚手の布団などは用意がない……食べ終わった食器を盆にまとめると、寝具を持って来るべくいそいそと出て行った…
ドロシー「ま、とりあえず腹は暖まったな……」文句を言いながらもビーフティのおかげで少し寒気が収まった気がした……
ドロシー「すぅ……すぅ……」
…翌朝…
ちせ「ドロシー、よいか?」
ドロシー「んぁ……あぁ、ちせか」
ちせ「なんでも風邪をひいたそうじゃな……大事ないか?」
ドロシー「なぁに、ベアトリスが大げさなだけでそう深刻なことじゃないさ……それよりそいつは?」ちせが運んできた土鍋を指さした……
ちせ「いや、風邪だと聞いたものじゃからな……風邪と言えばこれに限る」
…ふきんを鍋つかみの代わりにしてふたを開けると、中央に紅一点を置いた真っ白な粥がふわりと湯気を立てた…
ドロシー「見た目はオートミールのポリッジ(粥)みたいだが……それと真ん中のやつは例の酸っぱいプラムの漬物(梅干し)だろう」
ちせ「まあ似たようなものじゃな。ともあれ粥と梅干しほど病人に良いものはないのじゃ」ちせは自分のとは別に持ち込んであった志野(しの)焼の茶碗に白粥をよそって差し出した……
ドロシー「この調子だと治るまで固形物とは縁が切れそうだな……ま、いただくよ」
…アルビオンの基準からするといささか熱すぎる粥をふーふーしたりさじでかき回したりしながら冷まし、口を火傷しないよう慎重にふくんだ…
ちせ「どうじゃ?」
ドロシー「なるほど、こいつは塩味なのか……甘くないのは正統派らしくていいな」
…オートミールの粥と言えば甘いミルク味が多いが、アイルランドなどでは「正しい」味付けは塩味と決まっている……下半身を布団でくるんだまま、ときおり梅干しの酸っぱさに顔をしかめながら粥を口に運ぶ…
ちせ「気に入ったようで何よりじゃ」
ドロシー「ああ、この酸っぱいやつを別にすればな……それと今度はゆで卵でも付けてくれ」
ちせ「ふむ、ならば次は卵粥にでもしようかの」
ドロシー「そいつはいいな、うまいものが出ると思えば風邪を治すにも張り合いが出るってもんだ」
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