【ガルパン】 不死の感情

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359 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/12(木) 20:55:26.02 ID:wCFNWaFWO



2005年冬、12月。プラウダ学園地域サウスツガル部キヅクリ分部タテオカ。外には前日の雪が積もっていたが、空は曇りだった

寒い風が吹く中、祖母、父、母、妹は人民委員、通称NKVDに捕まった。人民委員は反地域組織とされていたパン=スラブ、排日主義を主張するプラウダ=スラブ連合という急進的団体を弾圧していた。父はその団体の幹部だった

朝食を摂っていた時に急に押しかけてきた者達を前に、家族はなすすべなく捕まっていった。私は少し部屋から出ていたので、素早く物置に隠れた。父にもしものことがあったら隠れて、落ち着いたら逃げろというように教えられていたのだ

父らは手を縛られ、妹はウサギの人形を抱え、泣いたまま集落の近くの壁の前まで連れて行かれた。北部NKVD隊長のウラジーミル=イワノフが手元で書類を開いた

「ニコライ=ノヴィコフ及びその家族を地域への裏切り行為による反逆罪を持って逮捕し、奪還危険性に伴う特別令状に基づき、銃殺刑とする」

その言葉の後に銃を構えていたNKVD隊員らによる銃声が周囲に響く。その近くで隊長の娘のエカチェリーナ、イワノワ、愛称カチューシャが暇潰しに父から貰ったピロシキを頬張って見届けていたそうだ

「もう1人娘がいるはずだ。探せ」


360 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/12(木) 20:56:11.70 ID:wCFNWaFWO


白い息を吐きつつウラジーミルが辺りを見渡しているとき、カチューシャはピロシキを食べ終わり、近くの物置の扉を蹴り開ける。扉は鈍い音を出して開く

「うわ、汚ったない。農民ってよくこんな所に住めるわね」

物置の中の戸のハシゴの裏で、黒くボサボサした長髪を気にする余裕もなく、私はただ静かに体育座りをしていた。この距離では逃げようとする音すら命取りだ。見つけられない奇跡を祈っていたが届かず、私を見つけた彼女は指についたパンくずを舐めとる

「お前の家族は悪い人たちだからパーパが殺しちゃったわ。お前も一緒に死にたい?」

首を左右に振る。そんなの私には関係ないことだ

「ふーん、そうねえ……お前が今ここでカチューシャに忠誠を誓うなら、パーパに殺さないよう頼んであげる」

真っ直ぐ彼女の目を見つめる。大きなあくびを一つして続けた

「早く決めなさい。カチューシャは気が短いんだから」

何かを感じた。その時は分からなかった。しかし生きる為にそうせざるを得ないなら、そうするしかなかった。首肯した

「お前、名前は?」

「ノンナ」


361 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/12(木) 20:57:06.31 ID:wCFNWaFWO



これが、初めて同志カチューシャに出会った日。その日以来私はカチューシャ様のもとに厄介になり、カチューシャ様とこのプラウダ学園地域の為に働いてきた
初め生きる為の手段として彼女を見ていたことは否定しない。だが結構すぐのことだったと思う、彼女の強さと深さを感じ、心の底から忠誠を誓うようになっていた。幼そうな外見の殻の中にある清濁併せ持つ強さ、それに呑み込まれた

彼女が戦車部に入れば進言をして、トップに立っていただくために功績を挙げられるようにした
軟式大会にて黒森峰のフラッグ車を撃破なさり優勝に導いた人気で学園第一書記に就任なされば、私は学園第二書記に就任し学園内の彼女への権力集中を進めた

政治委員を各クラスに設置し、革命精神が1人1人に根付くようにし、カチューシャ独裁体制の構築に向け尽力した
彼女は戦車部隊長に就き、私は副隊長兼参謀総長に就いた。戦術などを彼女の為に必死に学び実戦で生かした


地域の裏切り者という恥辱を背負わされた私が、ついにここまで来た。今や誰一人私を犯罪者の娘という者はいない

私は名誉を取り戻した。地域に役立ち、周りから賞賛され、敬愛を受けている。これからもっと彼女の為に働き、党青年団の最高実力者、ひいてはプラウダ書記長になって頂くのが私の夢

私は彼女を支えるとともに、過去の消去もやった。その為にNKVDの者に身を売ったこともある。純潔など彼女のためなら喜んで捨てる。全ては彼女の為なのだ。もし彼女の命令ならば、火の中に飛び込むことだって躊躇いはしない


362 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/12(木) 20:57:43.86 ID:wCFNWaFWO


翌日、プラウダ学園都市プラウダ学園高等部校舎裏口。まだ季節としては秋だが、肌寒い風が冬の訪れが近いことを思わせる

「ノンナ、行くわよ」

「はい」

周囲には警備の者が拳銃に指を掛けて警戒態勢を取っている。その正面にあるのは、要人用の車。彼女がプラウダを左右する存在である証左である

乗り込んでからは運転手が勝手に向かうべき店へと導いてくれる。学園はプラウダ市のタモギ地区及びミヤガワ地区、トリタニ川と大河イワキの狭間にある。向かう店はジュウサン湖東岸を通った先のイマイズミ地区にある。距離にして6km強、車だと15分ほどだ。公共交通もそこそこ充実しているため、市街地中心部では目立った渋滞はない

彼女とは車内でこれといった話はしない。要件に関してはこちらの予想に過ぎない以上、ここでの合意が意味を成すわけがない。何より、彼女は今も真剣に書物と相対しているのだ。邪魔せねばならぬ道理はない

広大な学園の敷地の東側を駆け抜け、線路沿いに北上していく。コンクリートの単調な林を抜けると、港湾施設群が姿を見せてきた。漁港、イマイズミである
汽水湖であるジュウサン湖の西部、日本海と面する場所に軍民両用のプラウダ港があるが、それとは別に湖内の海産物を取り扱う漁港がここなのだ。市内で特別発展しているわけではないが、夕飯目当ての客が魚屋の前に列をなしている
その賑わいを流し見ていると、車は速度を落とし始め、まもなくある店の前で停車した

363 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/12(木) 21:01:14.79 ID:wCFNWaFWO



数段の段差を登り、木のドアを開けると穏やかな鈴の音が来客を祝福する

「いらっしゃいませ」

にこやかに頭を下げる店員に手紙に入っていたカードを見せる

「ありがとうございます。お仲間の方ならこちらでお待ちです」

時間より前だが、先客がいるようだ。手で先導する店員の先にあるのはドアがついた個室だった。店員がノックしたあとドアノブを捻る

「どうぞ」

店員に案内され2人は部屋に入り、店員に上着を預ける。代わりの番号札を受け取り、正面を向く

「ようこそ!カチューシャ、ノンナ。今日はよくきたな!」

席の向こうに座るのは頭をスキンヘッドにした中年の男だ。にこやかに右手を挙げる。細い体に見えて引き締まっている様子が袖などから垣間見える

彼の名はゲラシム=ジュコフスキー、現在プラウダ人民労農防衛隊、通称プラウダ赤軍少将にして参謀総長を務める男である。つい最近まで対日防衛戦略を練っていたはずの男である

「こちらこそ、本日はありがとうございます。同志ジュコフスキー」

「ありがとね、ジューおじさん」

丁寧に礼をする私に対し、関係の深いカチューシャはくだけた挨拶で済ませる。親が古くからの付き合いだそうだ。私も何度かお会いしたことがあるが、この軽い感じがどうも慣れない。別にプラウダの中で特段悪い人間ではないのだが

「ところで、他のお2人は?」

机の上に用意された紙のマットは5枚。今この場にいるのは3人だけだ

「ああ、それならもうすぐこちらに来るそうだ。場所は決めてないから好きな場所に座りなさい」

364 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/12(木) 21:02:10.08 ID:wCFNWaFWO
undefined
365 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/12(木) 21:02:54.06 ID:wCFNWaFWO

そう言われ、入り口近くの席に並んで座る。最近の学園での活動などのたわいもない話から、3人の会話は始まった。そんな会話を進めてしばらくした後、ドアからノックが聞こえ、さっきの店員が扉を開ける

「こちらです。それではごゆっくりお楽しみください」

その案内の元、2人の男が入って軽く挨拶する。1人は丸メガネをかけた背のあまり高くない男、もう1人は鼻の下にちょび髭をつけた日本人だ。丸メガネの男は知っているが、日本人の方の顔は初めて見る

「どうもお久しぶりです、同志ジュコフスキー、ノンナ、カチューシャ。ベルドフです」

丸メガネの男が会釈する。猫背であるためか実際より背が小さく見える。本来は隣の同志ジュコフスキーと大差ないはずなんだが

「こんばんは、同志ジュコフスキー。初めまして、同志ノンナ、カチューシャ。私はついこの前同志モソロフから外務局局長を引き継ぎました松岡と申します。以後お見知りおきを」

席を立ったジュコフスキーと握手した後松岡は私たちの方に向き直り、深々と礼をする

366 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/12(木) 21:03:25.31 ID:wCFNWaFWO


「ようこそベルドフ!マツオカ!今日は君らがいないと回らないからね!頼んだよ!」

食前にビールを一杯頼んだジュコフスキーは少しテンションが高い。席に座ろうとする松岡の肩をジュコフスキーは引き寄せる

「ベルドフは2人も知っていると思うが、マツオカは初めてだろう。紹介しよう。彼はマツオカヒロシだ。モソロフはロシアとの関係強化をやってくれたが、マツオカなしに中国との関係改善はなかっただろうな!まあこいつは信用して構わんよ。私が保証する」

「同志ジュコフスキー、紹介はこれくらいで。せっかくのここでの食事ですし、乾杯しましょうよ」

嫌がるそぶりは微塵も見せず、マツオカと紹介された男は同志ジュコフスキーの肩を叩き返して応じる。よっぽど近い関係なのだろう。だが私が知らないとなると、裏方寄りか在中の者か

「それもそうだな。乾杯といこうか。君達はジュースを頼みなさい。今日は君達2人の分は私が払おう。遠慮なく食べなさい」

「いいの?ジューおじさん!ありがとう!」

「……それでは、ご馳走になります」

少々考えたが、ここは乗ることにした。別に貸しになるほどのことでもないし、それでこちらに強要されるようなこともない。そして私自身、十分な手持ちがない


367 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/12(木) 21:03:59.91 ID:wCFNWaFWO


「私らはワインですな、というか乾杯の前に飲まないでくださいよ、同志ジュコフスキー」

同志ベルドフが苦笑する

「全くですなぁ、ハハハ。同志ジュコフスキーの飲みっぷりは昔から変わりませんな」

同志マツオカは余裕を持って笑う。下手したらかつての同僚辺りなのだろうか。年も近そうだし

「度数5のビールなんて酒に入らんわ。君らが決めてくれ。どれにするかね」

「まあ最初ですし魚中心ですから白でしょうな。マジノ系のもあるのですか……うーん、テーレ・デ・シュッドウがいいのでは?これはサワークリームが合うみたいですね」

「いいだろう。それでいこう。君達は決まったかね?」

「私はグレープフルーツジュースお願い!」

「私はオレンジジュースをお願いします」

「よしわかった。早速頼もう」

机のボタンを同志ジュコフスキーの岩のように太い人差し指が押す。耳あたりのいい軽快な音楽が店員を連れてくる。店員はそれぞれの飲み物と、追加の大きめのサラダの注文を聞いて去っていった。すぐに飲み物が出され、ジュコフスキーのテイスティングののち、3人の大人のグラスの3割くらいのところまでワインが注がれる。ワインとやらは美味いのだろうか。この歳だからよく分からない

「よし、それではプラウダのさらなる栄光と繁栄のために、
ザ ナーシュ フストレーチュ トースト!(我々の出会いを祝って、乾杯!)」

「トースト!」

前に掲げられた白い飲料の群れに、微かに心動かされた。良い予感なのか悪い予感なのかは分からない。ただ願うのはこの白きものがより遠くにあることだ


368 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/12(木) 21:06:00.41 ID:wCFNWaFWO

「ところでジューおじさん。こちらの方々を含めて私達を呼んだのは何故?まさか食事だけに誘ったわけではないわよね?」

「勿論、しかも君ら2人が要となる話をするためさ」

そう言い、同志ジュコフスキーは皆にある提案をした。それは確かに同志カチューシャが、いや「戦車道」そのものが要となるものだった
酒が回った彼らが、同志カチューシャのロシア語を冷やかすのは、予想よりもかなり遅い時間になってからだった

369 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/12(木) 21:06:46.06 ID:wCFNWaFWO

広報部より報告

内容
プラウダ学園の動向

同校からの連絡によると
「実に素晴らしいことだ」

「軟式大会、硬式化の予兆」
において選択したとのことです


ここまでです
370 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 21:10:18.38 ID:KU5Yllnf0
2130からやりますよ
371 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 22:10:21.30 ID:KU5Yllnf0


12月4日 岩手県陸前高田市郊外

第74回戦車道大会第2回戦会場

私達は観客席にいた。毎年の軟式大会は多くの観客がいるが、今回はちらほら見えるのみだ。こんな血みどろの試合を間近で見たい奴はそんなにいないということだろう

「問題は……プラウダに勝てるのか?」

河嶋さんが片眼鏡を調整する。そう、その通りだ。敵は日本の中で断トツの面積と人口を持つ学園都市、いや地域。そこに挑むのは人口は20分の1以下の弱小学園都市、戦車は寄せ集めの7輌、そう疑うのが自然だろう

「西住ちゃん、どうよ」

会長さんが私に話を振ってきた。だが前の試合での話を知り、他の人の話に耳を傾けた結果として、答えは一つしかない

「大変厳しいと思います。でも最善は尽くします。次の戦いは少しの油断や迷いが命取りになります。皆さんも私から出る指示をよく聞いて躊躇せず動いてください」

返事は無い。白けたような雰囲気が辺りを包む

372 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 22:10:53.96 ID:KU5Yllnf0

「え……あれっ?」

「でも、1年生とバレー部ってその指示に従ってやられたのよね。あの立場に選ばれてたのが私たちなら、私たちが死んでたわ。あの塹壕の傍にいたのは、私たちだったかもしれない」

後ろで手を組みながら口を挟んだのはゴモヨさんだ。ももがーさんも同調するようにこちらの目を見る。疑心か
これはあれだな。美味いもん食ったせいで余裕ができて、その余裕で変なことを考えてしまっているんだな。全く厄介な

「な、何を言っているでありますか!西住殿の指揮があればこそこうしてサンダースとアンツィオに勝利出来たであります!」

優花里さんが力を込めて反論を述べる。味方がいるだけでも有難い

「そ、そうだ!ねぇ、こっちにも戦車有るんだから、自衛隊の一点に集中したりして包囲を突破して逃げるっていう」

「ムリ」

沙織さんが言い終わる前に、優花里さんとエルヴィンさんによって希望は打ち砕かれる。当たり前だ

「第3世代MBT相手なんてたとえ1輌でも無理だ」

「武部殿、自衛隊はムチャクチャ強いのであります」

「沙織さんは逃げることばかり考えてらっしゃるのですね」

後ろの華さんも思わず苦笑いする。にらみ合っていた米ソの40年間を舐めない方がいい。その支援を受けた日本も。T-54/55の1輌くらいならなんとかなるかもしれないが、流石に10式はどうあがいても無理だ。行進間射撃し放題とかどうやって勝てと

373 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 22:11:19.84 ID:KU5Yllnf0


「案外もう西住殿は次に誰を犠牲にするか決めているかもしれんぜよ」

「その指標が何かは計りようがないが、能力、車輌、そしてその場の状況。それ次第ではある意味で死を命じられるやもしれん」

「ちょ……何を言い出すでありますか!」

普段は仲の良いカバさんチームと優花里の間にまで険悪な空気が流れる。まずいな

「やめろ、こんな時に仲間割れなんて最悪だ。今は非常時なんだぞ!旅先はいつもの2倍我慢しろって言うだろ!他に誰か指揮できる奴がいるって言うのか!」

河嶋さんが何時もより冷静に擁護してくださる。この語気の強さは、この時は役立つといいなぁ

「そ、そうだ!西住さんを生かしてこの蛮行を伝える、そう決めただろ!」

「誰も従わないとは言ってませんよ。ワケも分からず死にたく無いって言ってるんです!せめてそう動く理由を教えてください!西住さんを生かすとしても、その為の囮として死ね、というのには納得出来ません!」

そう上手くはいかないか。私に出来るのは不安げな顔をしながら話に耳を傾けるのみだ。誰を犠牲にするか考えている、というのも巡り巡っては全くの嘘にはならない。ここは身を引いて落ち着きつつ、用事を済ませよう

「会長、少し1人になって作戦を考えてきます」

「ん……ああ、余り気にしなくていいよ」

背を向けて去ろうとする肩に会長は手をかけてくださる。内容自体は気になることじゃない。だがこれで団結が崩れてしまうのだけは避けたい

「西住殿、自分も行くであります」

優花里さんが後を追いかけてきた。必要ないが、拒絶するほどでもあるまい



374 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 22:15:50.44 ID:KU5Yllnf0


同日、第2回戦会場、黒森峰女学園陣地

此処には一時の平穏が訪れていた。2回戦の相手の継続高校は合意通り開始直後に降伏。もともと同盟関係にあったこともあり、決勝戦参加を条件に隊長の下平美香以下全員解放した。もう車輌の輸送準備は完了し、出発までも時間がある
隊員たちは休息を楽しんでいた。隊長の逸見エリカも同様だ。彼女は負傷者用のテントにいた

「はい、お口開けて。隊長の好きなジャガイモとソーセージのスープですよ」

口は開かない。エリカは少し無理やり口にスープを流し込むが、それは喉に送られることなく口から溢れる

「ダメですよ、しっかり食べないと。お身体も回復しません」

しかし反応はない。ただ焦点の合わない目を見せるのみだ

「ほら、こんなにこぼして……」

布巾を取り出したエリカは口の周りを拭く。表情は優れない。この方の回復を何度神に祈ったことか。されどこの方の目に光が灯ることはない

「エリカ隊長。あの、大洗の西住……副隊長が……」

テントの外から聞こえた見張りの声でエリカは口から布巾を外した


375 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 22:16:26.42 ID:KU5Yllnf0


隊員の一人は私の顔に驚きつつも、話がしたいと告げると身体検査した上で案内してくれた。優花里さんは3歩後ろで待機させている

「これはこれは元SS12部隊副隊長、黒森峰で辞めた戦車道をまた始められたそうで、今更何の御用で?」

テントの幕を開けたエリカさんは嫌味たっぷりに声を掛ける。まぁその通りなんだが

「エリカさん、お姉ちゃんの具合はどうでしょうか」

「良いワケないでしょう!」

テントの鉄柱に怒りをぶつけた。だろうな、としか答えられん

「なんでアンタの方は平気なのよ。大人しそうに見えて腹じゃ何考えているのかわかったもんじゃない。
言っとくけどもう黒森峰じゃないアンタとはもう会わせないからね。隊長をこんな目に遭わせたプラウダを私は絶対に許さない」

彼女と私の間に黒森峰SS歩兵部隊の歩哨がKar98kのボルトを操作しながら入ってきた。その不穏な空気に優花里さんは思わず数歩下がったようだが、私からすれば慣れたもの。意識的に背を向けてその場を立ち去ろうとした

「待ちなさい。次のプラウダ戦、どうするつもりなのよ」

「……姉になら相談したかったのですが、硬式戦の経験が少ない貴女に話しても……」

彼女のの目は目尻が切れんとばかりに見開かれた。歩みを進め始めた私の肩は、その直後にとても強い力で掴まれた

「西住みほ、私を怒らせないでちょうだい」

誰が怒らせた。単にあなたが怒っているだけだろう。昔から挑発には弱いよな。
もう1本の腕の指先がテントの中に案内する。どうやら話をする気はあるようだ


376 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 22:16:59.95 ID:KU5Yllnf0


暫くしてテントから出た。エリカさんに一礼すると、さっさと背を向けて立ち去った。これで良い

その晩、岩手の南から北へと戦車の乗る車輌は動き出した。その車内で、使用できる銃がトンプソンM1からモシンナガンM1891/30となる事が発表された

377 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 22:17:45.53 ID:KU5Yllnf0


翌朝、そこは雪国だった

旭川で付け替えられたDD51に牽引された客車1輌、貨車7輌の編成は、石北の大地を警笛を鳴らしながら東へ駆け抜ける。周りは雪景色となった牧場とその奥に山地が連なっている
客車に寝台などない。大洗の予算では旧式の座席車を借りるのが精一杯だった。硬い椅子が深い眠りを阻害する。はっと目を覚ました時、周りの者はまだ寝ていたり、話していたり、ただ外を眺めていたり、生徒会の者は大富豪をやっている。丁度会長さんが革命を起こして、河嶋さんの手札に終止符を打ったようだ

身体にはまだ怠さが残っているが、ここで二度寝してもそれが増すのみだろう。静かだ。聞こえるのは牛の鳴き声の輪唱と少しの人の話し声、それと時たまするカードが叩きつけられるものだけだ
何もないので外の景色を漫然と見ていくことにした。話すことはないし、ここにも戦車道連盟の関係者がいる。ライフルの件やそもそものこの大会の様子から考えて、双方ともに連盟と繋がっている。私の不用意な一言が向こうに漏れるとも限らないのだ
牛が何匹視界の中を通ったか数えるのも面倒になった頃、その徒然なる時は1つの発砲音で阻害された

378 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 22:18:16.78 ID:KU5Yllnf0

「ひっ!」

隣にいた優花里さんが竦みあがる。銃弾は右に広がる農場の1番奥にいた牛の胴を見事に撃ち抜いたらしく、横にバタンと倒れ、周りの牛が散り散りになっていた。銃声の元はアリクイさんチームだ。窓は少し開かれ、ねこにゃーの持つモシン、ナガンが煙を昇らせる

「おー、さすがねこにゃー。キルデス80%は伊達じゃないなり」

「芋スナキャンプ野郎と罵られても全くブレない不動心!」

ももがーさんとぴよたんさんが口々に褒める。ねこにゃーさんは反応する事なく黙々と薬莢を排出する。ふむ、距離は540m、揺れる車輌の中から当てるとは、なかなかの技術だな

「な、何をしているでありますか!牛は農家の大事な財産でありますよ!」

優花里さんは後ろを向き注意するが、ねこにゃーさんはただじっと外の次の目標に狙いを定め、他の2人は気怠げにこちらを向いた

「うるさいなり、ウチら明日死ぬかもしれないんだから少しくらい羽目外してもいいなり」

「てゆーか、秋山さん副隊長どころか車長でも何でもないのに仕切りすぎっちゃ」

「あ、いえ、そんなつもりじゃ……」

優花里さんは押し黙るしかできなかった

「に、西住殿!幾ら何でも食べるわけでもないのに人の牛を撃つなんてあんまりであります!注意をなさってください!」

「これから見たこともない人を撃つのにですか?」

「え……」

「照準はあっているようですので、弾の無駄はしないように」

少し大きめの声でそう通告すると、力の抜けて背もたれに寄りかかった彼女を見て再び外を向いた。先ほどの牛は最早視界の彼方である。その後銃声はなかったが、何か不穏な空気は終わる気配が無かった
いや情報をくれたことは認めつつ、これ以上撃たないようにとは注意したと思うんだけどなぁ


379 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 22:18:48.38 ID:KU5Yllnf0


列車は湧別川を南に見つつ、遠軽駅で折り返し、遠軽の貨物ターミナルに入線する。すでに時間は昼になっており、寒空の下で戦車を降ろす作業が終わり次第、連盟に指定された旅館「ヒマワリ」に向かった

部屋は中部屋の和室2つだ。旅館での夕食が部屋に運ばれたが、私と優花里さんとその他の者の間には深い溝が横たわっていた。そして若干優花里さんとの距離も離れている気がした
プラウダ戦に向けてこの状況を改善させたいが、生憎私はこういう時、戦車で前進することで無理にでも付いて来させる方法しか出来ないし、それでは上手くいかないだろう
そして皮肉にも夕飯が美味い。熊筍ご飯とか初めて食べたが、その他も含め美味い。これでは皆の心の余裕は増すばかりだ。その不安に呼応するように外には雪が舞い始めていた

380 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 22:19:44.78 ID:KU5Yllnf0


『プラウダ学園地域は人民の平等を求める。この平等は地域の民の機会の均等であり、存在条件の公平性である。この維持の為資産、人種、言語、宗教、思想などによって一部の人間のみが不当に機会の利を得ようと動くことをプラウダは許さず、如何なる手を使ってでもこれらを認めない』

プラウダ学園地域憲章より




プラウダ学園地域の前身プラウダ自治会は第一次世界大戦後のロシア内戦から逃れた元富裕層のロシア人たちを主体として設立された。日本がソヴィエトと国交を結ぶ際に権限が縮小されたが、それ以外は特に抑圧を受けず、戦後には第一次学園艦計画の中で学園都市化がなされた
しかしロシア内戦を逃れた富裕層とソヴィエト5カ年計画実行中後の困窮を逃れ加わった農民層との間には意識的に隔絶があり、それがプラウダ革命、共産党政権設立へと繋がっていく。そしてスターリン批判を行ったソヴィエトとの関係強化に動き出すのである

381 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 22:20:20.41 ID:KU5Yllnf0
ここまでです
382 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/20(金) 00:50:24.08 ID:dpThyMLv0
普通に忘れてたぞ……

1時からやります
383 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/20(金) 00:59:19.46 ID:dpThyMLv0


現実と理論が一致しないなら、現実を変えよ

ヨシフ=スターリン

384 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/20(金) 00:59:54.45 ID:dpThyMLv0


私と優花里さんは他の者たちより早く布団につき、明かりを消した。その中で2人はすぐに眠りに落ちる。暫くして襖の間から一筋の光が部屋に差し込んだ。若干覚醒したが、眠くてそれが何か細かく見ようとする気力は湧かない

「さて……と、コラーッ!起きろー!」

布団が剥がされる。周りの者の手は私たちの浴衣に手を伸ばす

「ふぇ?な、何でありますか?」

「て、敵襲?」

何事だ!寝ぼけた頭での考えが及ばぬ間に浴衣が剥がれると次に帯に触手が及ぶ

「脱がせろー!」

「えっ、ちょっ、ちょっと……」

抵抗する間も無く下着2枚の姿にされる。叩き起こされてから30秒もなく行われた出来事に、理解と行動が追いつく訳がない。布団をひっくり返され壁際に転がる

「コラーッ、西住!秋山!偉そーにすんな!お前達だけで戦ってんじゃねーんだぞ!」

「そうだそうだ!」

「ミリオタがなんぼのもんじゃ!」

「命懸けで戦っているのはウチらだ。それを無碍にしやがって!謝れ!」

枕や座布団が2人目掛けて宙を舞う

「そ、そんな、誤解です!私達は……」

待て待て何を考えている。手を顔の前に翳しつつ声を掛けるが反論など聞く人はいない。しかしほんの一瞬だけ会長さんの顔が真顔に戻った気がした。それが正確だかどうかは、これによって導かれる結果次第だ

「踊れ!辛気臭い顔ばっかしやがって、芸でもやってウチらを笑わせろ!あんこう踊りやれ!」

会長さんの顔は最早完全にノリに乗っている顔である。それをきっかけに辺りから4拍子の踊れコールが巻き起こる。ふむ、拒否は無理か。優花里さんがこちらを見つめてくるが、数の合わさった人の勢いはどうしようもない

385 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/20(金) 01:00:30.37 ID:dpThyMLv0
undefined
386 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/20(金) 01:01:01.35 ID:dpThyMLv0


〜あああんあん、あああんあん〜

右手を掲げ屁っ放り腰をしている動作からこの踊りは始まる。それが左右頻繁に入れ替わるのだから動作的にはかなりきつい

〜あったまのあっかりはあーいのあかしーもっやしってこっがしってゆーらゆら〜

振りは足を上げてその下で手を叩くというさらに激しいものになる。そのせいか声が小さくなってゆく

「もっと元気よく!」

「腹から声を出して歌え!」

次々と指示が飛び出る。目のピントが狂う。どこを見ているのか自分でも分からない。それだけ恥ずかしく忙しいのだ

「レイプ目キター!」

「効いてる効いてる!」

不気味な盛り上がりがその部屋を包む。各所から笑い声が上がり、写真を撮るものまでいる。会長さんも笑いながら何枚も干し芋を口に頬張る。
その盛り上がりはあんこう踊りフルコーラスが終わっても止む気配は無かった。疲れた。恥ずかしいけど、それ以上に疲れた

「よーし、次はなんだ!」

「はいはーい!ゆかりんがいっつもみぽりんと一緒にいるのは、別に偉そうにしたいわけじゃなくてみぽりんと一緒にいたいからなんでーす!」

「あらあら」

「じゃあお前らチューしろ」

「えっ?」

「キスするんだよ」

何が面白いのだろうか。男と女のキスは実に悍ましいものだったが、女同士ならそうはならないのか。そういうものでもないだろう

「キース!キース!」

「秋山ー、西住のこと好きなんだろぉ、やっちゃえー!」

「西住さんも受け入れろー!」

「あくしろよー!」

だが会長さんが生んだ流れは皆の同調で変えられないものとなってしまっている

387 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/20(金) 01:01:29.53 ID:dpThyMLv0


「優花里さん、仕方ありません。やりましょう」

「ええっ!」

「この場を壊さないうちに、早く」

それでも躊躇うそぶりを見せた。やむを得まい。この場を壊し、その切れ端が先鋭化する方が怖い。ある意味でまとまっているこの集団を破壊するのは危険だ。仕方ない
無理矢理に熱い相手の方を抱き寄せて、唇同士をぶつけた。互いの鼻息が当たり合う

「ヒャッハー!キスしたぞ!」

「お互い真っ赤じゃないか!」

私も真っ赤なんだろうな。流石に下着姿で女子とキスしたらそうもなるか。収容所の男とキスするよりは遥かにマシだしな
荒れる息と共に相手を引き離したあと、どこからか油性ペンを持ち出した者らが2人を床に押さえつけ、それぞれの腹に『ダメ隊長』と『飼い犬』と書いた。そしてその姿を見ながら指差して笑い合う。飼い犬……の顔は真っ赤に染めあがっている。うん、まぁ犬だな

なされた姿は四つん這いではなく腹を見せ屈服した犬、だった


388 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/20(金) 01:02:07.04 ID:dpThyMLv0


その場の盛り上がりが少し治まってくると、身を起こして壁側に寄り顔を伏せて座り込む。それから目を逸らした会長さんの口が開かれた

「さーて西住ちゃんもケツまくったことだし、明日のプラウダ戦は誰が指揮をとる?」

「誰って……」

「会長じゃないんですか?」

「ムリムリ、ただの生徒会に戦車戦の指揮なんて出来る訳ないし」

確かに会長さんには不可能だ。だがこのうねりを引き出したのが会長さんなら……嘗て見た形になる

「じゃあ、他に誰が……」

全軍突撃、神出鬼没、車長狙撃、案を出す者続々と現れるが、直ちに全て却下されてゆく。生死が掛かっているのだ。生半可な案を飲めるはずがない。遂には案を出す者はいなくなった。話す者もいなくなった。ただ無言で隣の顔を覗き合う

389 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/20(金) 01:04:51.55 ID:dpThyMLv0

「ちょ……ちょっとやり過ぎちゃったかな……」

肩に浴衣が掛けられた。隣の人と同時に

「ごめんね、2人とも。私達ちょっとイライラしてて」

「気を悪くしないで……」

「やっぱり西住さんしかいないよ」

下手に出て謝罪の意を表そうとする者が話しかけてくる。なるほど、こういう道に持ち込むか。会長さんの顔を再び眺めると、ただ見つめ返してくる

「いえ、とんでもないです。明日は一兵卒として皆さんの指示に従います」

「まあまあ、そう言わず機嫌直して……」

「しゃーないね。ウチらもこんだけのことやったんだし、ケジメだけはちゃんとつけようか」

会長さんが頭を掻きながらその場をまとめ、皆が私たちの前にずらりと並ぶ。よく見ると結構な人数がこの騒動に関わっていたようだ

「西住さん、秋山さん、ごめんなさい。どうか今までのことは水に流して、明日もどうか指揮を執ってください」

歪んだ布団の上で多くの者の最敬礼が成す様子に圧倒され、私にできたのはただ頷くことだけだった

390 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/20(金) 01:05:21.26 ID:dpThyMLv0


「終わったか」

皆がまだ直ってない中で、視線の先、皆の背後である襖の裏に人がいる。河嶋さんだ

「西住と秋山以外は話すことがある。全員隣に来い」

「面白そうなことから私たちを省かないでくれよ。海賊では裏切りは即斬首なんだよ、ここは海賊じゃないけどね」

お銀さんがその背後から顔を出し、左手の人差し指で組んだ腕の右肘をせわしなく叩く

「まてかーしま。今回のことは私が主導したことだ。私の謝罪がこれだけで済むわけがない。ここに残るよ」

顔は前に向けたまま会長さんが話す

「……分かりました。他の者は早くしろ!」

動かない他の者に痺れを切らした河嶋さんが入り口近くの壁を叩く。それに加えてサメさんチームの面々が皆の背後から突入し、ラムさんに瓶でケツを引っ叩かれたりフリントさんの金切り声を耳元で聞かされたりして、会長さん以外は部屋を連れ出されていった。ムラカミさん強いな。女子とはいえ二人を担ぎ上げてったぞ


391 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/20(金) 01:05:55.41 ID:dpThyMLv0


部屋には私と優花里さん、会長さん、そして荒れた布団に散らばった枕や座布団が残される。会長は私達の方に座ったまま腕を使ってすり寄ってきた

無言で会長さんを見定める。考えの7割ほどは纏まっているが、残りを詰められない程度にはまだ少し茫然としている。そのまま寄るかと思いきや、こちらにさっと背を向けた

「……トイレ行って来るからその間に服着てくれない?私らが脱がして申し訳ないんだけど……」

優花里さんと互いに顔を見合わせる。下着に浴衣の袖も通さずただ羽織っている現状を向こうは十分に認識していなかったのか、思わず赤面していた。視線を逸らし、2人はいそいそと浴衣の帯を締めた。布団が乱雑になっているのが気に食わなかったが、戻す気力と時間はなかった

ちょうど浴衣を着終わったころ、水の流れる音と共に手を拭きながら会長が戻ってくる。会長はハンカチをしまうと正面に正座した。その纏う重い雰囲気が2人の背筋を伸ばさせる

「……今回、西住ちゃんを副隊長から降ろそうと西住ちゃんを辱めることを主導した。今考えれば本当に馬鹿らしいことをしたと思っている。秋山ちゃんも本当に申し訳ない」

会長さんが頭を床につけんばかりに深く下げる。 顔の下で重ねているその手に触れた

「顔を上げてください」
392 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/20(金) 01:07:24.26 ID:dpThyMLv0

この結果となった以上、そしてあの時そのように発言した以上、私の予想は正しかった

「むしろありがとうございます」

「えっ?」

「……なんだ、バレちゃってたか」

会長さんは頭を上げ、後頭部を掻く。優花里さんはまだ状況が理解出来ていないようだがその様子に気づかうことなく話を続ける

「黒森峰でも昔同じようなことがありましたから」

「しかも他所でとはいえ二番煎じか……マイッタね……」

「えっ?えっ!えっ……と」

さらに混乱が加速している

「えっと……申し訳ないのですが、どういうことでありますか?私よく分かっていないのでありますが……」

優花里さんが会話の隙間から加わる

「つまり、会長さんは大洗を纏めるためにこんな事をやったっていうこと」

「そーそー。あの状態のままプラウダと戦っても負けるだけだからさ」

つまり私を辱めた後、その後任となる指揮官が大洗にいないことを分からせ、皆が私についていくようにする、ということだ。この人は仲間を纏めて戦う方向に導いたのみならず、その主導が私であると認めさせた。私には出来ない、彼女だから打てる手だ

「でも秋山ちゃんは本当に巻き込んじゃったんだ。申し訳ない」

今度は優花里さんの方を向いて頭を床につける

「い、いえ。大洗の優勝のために必要ならば喜んで受け入れるであります!」

393 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/20(金) 01:07:51.75 ID:dpThyMLv0

会長さんはもう一度謝罪の言葉を述べると顔を戻した。二重窓の外の黒い幕に散らばる斑点を眺める

「雪、強くなってきましたね」

風の音が暖房のついた部屋でも寒さを感じさせる

「これでも明日、やるんだよね」

「やると思うでありますよ。『どんな環境でも戦いは起こりうる。』それが戦車道の試合のモットーの1つですから」

3人は黙って外を眺め続けた。敵は15輌、我々は7輌。しかもこの寒さは北の学園たるプラウダに有利だ。勝つことの厳しさが底から染み渡っていく

「〜?〜?」

静かになったことで外から河嶋さんの怒鳴り声が聞こえる

「かーしま、やってるねぇ。サメさんチームも付けたし、大丈夫でしょ」

会長さんは姿勢と顔を軽く崩し、後ろに反り腕で支える

「かーしまもあそこまでやってくれてるしさ、どんな策でも出してよ。やってみせるからさ」

そう、私の指示を聞いて動いてくれる。それが分かるだけでもいい。あとは私の脳味噌が何とかすればいいのだ

「分かりました。やれるだけのことはやりましょう。ゼロじゃありませんから」

「よし、頼んだ!」

会長さんは両膝を叩くと、体を捩って立ち上がる

「かーしま止めてくる。ごめんね。じゃ」

そのまま襖を開けて部屋に戻っていった

394 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/20(金) 01:08:26.00 ID:dpThyMLv0


「西住殿、何か飲み物買ってきましょうか?」

背中を見送った優花里さんが立ち上がりながら口元に手を寄せ、空想のコップを握る

「ありがとう、優花里さん」

だが残念ながら下のフロント近くの売り場は営業を停止しており、2人は部屋の水をそれぞれコップに汲んだ

「はぁ〜」

揃ってそう言葉が漏れた。コップの水は2人の中に染み渡る。布団を正そうとしたが、気がつけば隣の怒鳴り声が止み、長針が短針を抜いていた。嵐は止みそうにない。

395 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/20(金) 01:08:59.51 ID:dpThyMLv0


広報部より報告

内容
大洗女子学園の動向

同校からの連絡によると
「やはり指揮するのは西住しかいない」

「内部の不信感」
において選択したとのことです。




ここまで
396 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:21:00.07 ID:0HQ/L1/L0


2230からやります
397 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:28:38.88 ID:0HQ/L1/L0


プラウダ学園地域が2009年に提唱した『融和人民戦線理論』は、日本各地に影響を与えた。マジノ女学院、青師団学園などにおける融和主義左派政権の成立のみならず、太平洋岸などへの影響力拡大を語る上でも東日本大震災と並んで考慮せねばならない。そしてそのターゲットはやはり校忰主義の総本山、黒森峰女学園であった。

山鹿涼『日本の学園都市』

398 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:30:08.25 ID:0HQ/L1/L0


バスで自陣の近くに着いた者たちは、皆足首までしっかり埋まる雪の中に踏み出した。小さな町の中心部にある2階建ての白い壁の建物が大洗女子学園の陣地である
周りは今年降り続いた雪がしっかり層を重ね、近くの木の幹には1メートル位の高さまで雪が付いている。今は雪がしんしんと降っているが、時折凄まじい吹雪が建物を襲う

「ちょっと……何よこれ。寒いなんてレベルじゃない……」

「顔が……痛いです」

沙織さんと華さんが震える。彼女らはもちろん上下ヒートテックに上にはフリース、コートも着て厚手のスボンとセーターも着て、さらに毛糸のパンツも履いているのに、それをも突破する寒気が襲いかかる。息を吐いても口の中の時点から白くなっている気がする

399 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:30:47.63 ID:0HQ/L1/L0


7時、遠軽町生田原八重、東側の摺鉢山から西側に広がる麓に笛の音がこだました

「ただ今より準決勝第1試合、大洗女子学園対プラウダ高校の試合を開始します!」

審判の高らかな合図とは裏腹に皆の士気は上がらない

「開始と言われても……どうにもならないよな、コレ」

それが総意だった。外は完全に吹雪いている。遥か先はおろか、小さな町の外れの木さえ見えない。寒い

「これは、海ノ口城の戦いだ……」

「いや、桜田門外の変ぜよ……」

「第2次ポエニ戦争のアルプス越えだろ……」

「冬戦争のスオムッサルミの戦いだ……」

「それだ……といいがな」

カバさんチームが口々に言い合っているが、寒いせいか口調が暗い。全く、私たちの空気まで凍えちゃどうにもならんぞ

「優花里さん、気温は?」

フードを外し耳を気にせず建物内を歩き回る。優花里さんが建物の温度計に駆け寄った。水銀はここでも凍らないらしい

「マイナス32度であります」

道央に近いこの町は1年の温度差が激しいが、そんなこの町でもこの気温は珍しいらしい。昨今の異常気象のせいだろうか。しかし不安の原因はそんなものではない

「エンジンはかかりそうですか?」

「ダメです。セルが回らずオイルも凍っています。動きそうにないですね」

自動車部の面々がIV号の上で答えた。だろうな。こんな環境で満足に動ける戦車なんて、ロシアかカナダかスウェーデンくらいでしかそもそも設計されないだろう。そしてロシア人はそんな事より量産性を重視する

「焼きレンガで暖め続けてください」

建物唯一の暖炉にはまきとレンガがくべられ続ける。その外側にフードを被った人々が半円状に並ぶ。時々その遠近を巡って争いが起こっているようだが、時々交代することで決着したようだ

400 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:32:31.00 ID:0HQ/L1/L0

「なんだあんたら、そんな寒いのか?」

「それにハイ以外の返事ができると思う?」

ちょっとその集団から外れていたサメさんチームが沙織さんの後ろから声をかけた。かといって彼女らも防寒装備万全に見えるわけだが

「そうか、じゃあこれやるよ」

お銀さんが手に持っていた紙コップを沙織さんに渡した。何事かと周囲の視線も億劫そうなれど彼女らに向けられる。どうやら中には液体が入っているようだ。一口飲んで口をコップから離し、代わりに手を寄せた

「ゴホッ……な……何よこれ!えっ?辛い!ほんっとに辛い!」

「そらそうだ。ハバネロクラブだし」

「え?何ですかそれは?」

「……激辛ラム酒……多分ノンアル」

激辛、か。ラム酒とはここの様子にはまた似合わなそうなものを

「多分って……」

「どっちにしても体の中から熱くなるから変わらないさ」

「いや、そういうことじゃなくて……みぽりん、一応確かめた方が……」

何でこっちに振ってくるんだ

「つーか向こうのプラウダとかいう奴らだってこの天気でタダで居られる訳がない。奴らロシア人が多いらしいし、ウォッカでも呑んでんじゃないか?」

「かもしれませんね。まぁ、飲みたかったら自己責任で」

「あのう、私、一口頂いてもよろしいでしょうか?」

今度は華さんがそれを要求した。確かにこの人なら何杯でもいけそう。仮に酒でも

「あ、そこの人のを貰いな」

「華あげるこれ……確かにあったまるけど口の中が……」

まぁ話しづらくなるのが難点だが、作戦に文句付ける口が開いたりするよりかはマシだ。どんどん他の人にもあげるといい

「……身体の中からポカポカします」

「だろぉ。他にいる奴いるかい?」

私はこれから脳みそをフル回転させねばならないので、この時ばかりは酒に頼る訳にはいかない。その可能性があるなら触れぬが吉だ

401 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:34:44.23 ID:0HQ/L1/L0

「西住」

「河嶋隊長。この先の動きですか?」

「そうだ。こちらが動けないのは見ての通りだが、向こうが動いてくる可能性はあるのか?」

「流石にこの状態ではプラウダも動けないでしょう。人海戦術で何とか動かせるようにしたとしても、こちらを圧倒出来るほどの大軍ではないはずです。数でこちらに勝る中、わざわざその優位を削ってはこないでしょう。こちらも天候と気温が回復するまで待ちましょう」

「いきなり膠着状態か……」

「ですが装備がモシンナガンになった以上、狙撃などにも警戒が必要ですし、集中砲撃で遠距離からこの建物の破壊を狙う可能性もあります。とりあえず偵察隊を出しましょう」


暫くして計4人による2つの部隊が組織された。第1隊は優花里さんとエルヴィンさん、第2隊は園さんとお銀さんだ。単純に隊長車かつ人数不足気味であるカメさん、車輌回復の主力たるレオポン、そして防衛用のスナイパーを含みこちらも人数不足気味のアリクイさんを除く各車輌から一人ずつ選抜した形だ
園さんが一度お銀さんと組むのを拒否しようとしたが、河嶋さんの指示もあり何とかのんでもらった

第1隊は西の方を経由し北へ、第2隊は東の方を経由して北へ向かうことになった。優花里さんは出発前にヘルメットの中に布切れを詰められるだけ詰める

「何やってんのよ。ぼろ切れなんて詰めて汚いわね。お銀さん、さっさと出発よ」

「分かった分かった」

「全く何でこんな人たちと行かなきゃいけないのよ……」

お銀さんはフードの上からヘルメットという一見不思議な格好で園さんに続き建物を後にした。流石にいつもの帽子は外したらしい

「こちらも行くぞ、グデーリアン!」

「了解であります!」

その後にモシン、ナガンを装備した優花里さんとエルヴィンさんも建物から北に向かった


402 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:37:21.61 ID:0HQ/L1/L0


〜ゆきーのしんぐんこーおりをふんでー どーれがかわやらみちさえしれずー〜

外の吹雪はさらに激しさを増している。歌の途中で息を吸おうとした時に喉が固まるような感覚を覚える。優花里はそこで歌うのを止め、胸元から小型の簡易温度計を取り出す。気温はマイナス37度、なんと先ほどよりさらに気温が低下したのだ。下手に立ち止まったりしたら、その場で血液が凍ってしまいそうだ

「グデーリアン、離れるな!」

エルヴィンの声で優花里は距離ができてることに気づき、胸元に温度計を戻すと、足で雪を掻き分けながら近づいた。そのまま並んで歩み続けるが、周りの景色は至って単調、白一色だ。たまに視界に入る枝しかない木が無ければ、本当に道さえ知れないだろう

「……しょうがない、引き返そう、グデーリアン!一面真っ白で敵も何もない。逆にこのまま行くと迷ってしまうぞ」

その時、優花里は見た。絶対に味方ではない姿を

「え、エルヴィン殿、あれっ?T34とスキー兵、プラウダの攻撃部隊であります!」

彼女の指差した先には2輌の戦車とその周りに棒のように立つものの群れがあった。2人は素早く近場の稜線の裏に隠れて伏せる。優花里はさっと双眼鏡を構えた

「まさかこの天候で……早く戻って報告を!」

立ち上がり背を向け引き返そうとする優花里の肩をエルヴィンが押し留める

「待てグデーリアン、様子がおかしい」

遠目でだが確かにそれらには妙な違和感があった。2人はゆっくりと稜線の裏から出て、腰で雪を掻き分けて道を作りながら近づく。その違和感は近づいていく中で明らかになった
もう彼らは動いていない。動く気配もない。戦車の履帯はほぼ雪で埋まり、砲身にもかなり雪が積もっている。周りの人だったものも腰まで雪に埋まり頭の上にも積もっている様子から、ここに来たのはだいぶ前だとわかる

「これは……」

「おそらく迂回か奇襲のための部隊だろう。プラウダ兵ですらこの寒波には耐えられなかったんだな。よかったと言うべきか、気の毒と言うべきか……」

2人は無言のまま、出来るだけ彼らの目を見ないようにしつつモシンナガンの弾を遺体から少々拝借し、腰でできた道がかき消されないうちにその場を離れた

403 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:39:30.19 ID:0HQ/L1/L0


願っていた音が聞こえる

「動いた!西住さん、IV号の砲塔周りは溶けたようです」

IV号の砲塔はモーター音を立てながら反時計回りに回転を始める。だが一度緩んだからとこちらも気を緩める訳にはいかない

「はい、再び凍らせないように暖め続けてください。それと他の車輌も引き続きお願いします」

「了解しました。次はヘッツァーとIII突の復旧を急ぎます」

「はいよ、焼きレンガ。ほんっとあっついからね」

フリントさんが焼きレンガを持ちながらIV号に近づき、車輌の上にいるホシノさん渡そうと手を伸ばす

その時、紙にパチンコが当たるような音がし、レンガは地面に向けて放物線を描き、角の一つが砕かれた。それに続きフリントさんが銀髪を引き連れて、手をつくこともなくうつ伏せに倒れる。長身の頂点にあたる頭から真紅の霧が舞う

受け取ろうとした、ホシノ

物音を聞き振り返る、皆

須臾、時が止まる

音と様子、そして変更された装備。導かれる答えはただ一つ。止まったままでは次が来る

404 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:42:18.09 ID:0HQ/L1/L0

「スナイパー!」

その声でスイッチが入ったかのごとく皆は伏せる。地面にばら撒かれた干し芋に会長さんが目もくれないほど

窓際に駆け寄って伏せ、胸元を探る。確かアレがあるはず。フリントさんはまだ息が有り、頭から流血しながら呻き声を出す

「……うっ……」

「フリント!まだ生きてる!早く、早く手当てを!せめて壁側に寄せるぞ!」

「よせ、危ない!」

ムラカミさんが立ち、フリントさんの元に駆け寄る。河嶋さんの言葉も耳に入らない。あった。止めても無理だし、間に合わないだろう。淡々と取り出した手鏡を外に向ける。
銃声は冷酷だった。彼女の大きく鍛え上げられた肉体でさえ、小さな鉛玉を食い止めるには余りにも無力であった

少し時間が経つと、ムラカミさんの左手はフリントさんの頭を水源とする血の池の中に浮かんでいた。もう呻き声はない


405 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:42:50.32 ID:0HQ/L1/L0


第74回戦車道大会公式記録
大洗女子学園犠牲者

石引 雄香

プラウダ 銃殺 頭頂部の破壊に伴う失血死 銃撃後1〜2分ほど意識があったと思われる


村上 景子

プラウダ 銃殺 頭部左側部から右側部にかけて貫通による脳死 即死


406 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:45:07.20 ID:0HQ/L1/L0


「猫田さん、こちらへ」

「はい」

彼女らの命は、逆にこれ以上の損害を防ぎうる情報をくれた。これを価値あるものにするためには、彼女が必要だ。仮に仮想の中だとしても、どう動くべきか理解している。それだけでもプラスに働く
猫田さんが窓際を這って近づいてきた。彼女をさらに近づけさせ、手鏡を通して外を見せる

「この奥の建物の3階、右から2番目の窓です。2階から狙えますか?」

「ボクが?」

「動いている列車からの牛よりは動きませんよ?向こうもこちらにスナイパーがいるとは想定してないでしょうし」

「……やってみる。ボクはこれくらいしか取り柄がないから」

這って戻った猫田さんはモシンナガンのボルトを操作し、動作を確認する

「動きますね」

「それは大丈夫そう。あの、西住さんってゲームの成績だからって馬鹿にしないんだね」

「キルレシオ4の立ち回りなんて私には到底無理ですから」

「おい、西住……何を」

「動かないでください!もう向こうはリロードを終えているはずです。2発連続で当てていることから、向こうは相当の手練れでしょう。身体を出したら、死にます!」


407 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:46:51.91 ID:0HQ/L1/L0


その言葉に返事せず、ねこにゃーは身を低くして出発する。木製の階段を駆け上り、階段の手すりの終わりから素早く1番近い窓の窓枠に張り付く。ゲームをやる時の何時ものルートだ、ミスりはしない
そして先ほど西住さんに指摘された建物の窓には、言われた通りそれらしきものがあった。こちらはスコープに目を寄せて、窓際に膝を立てる。捉えた
その敵を確認する。敵の銃は1階の方を向き、まだ新たな尸を産もうとしている。こちらに注意は向いていない。このまま銃の引き金を引けば、敵は死ぬだろう

だがその敵が一瞬くしゃみをした。そして鼻を拭おうとする。それは画面の光の集まりではない。人であった。ねこにゃーの頭の中を想像が駆け巡る

どこの誰か知らないけど、私のこの指でこの人の人生が終わる。家族や親戚はさぞ悲しむんだろうな。兄弟はいるんだろうか。現実で脳漿が飛び散るところなんて見たくないな。
邪推に自分が囚われていると感じ、目を閉じてそれを振り払おうとする。何時ものゲームの感覚で淡々とヘッドショットをとればいい。向こうだってこっちを殺す気で来ているのだから躊躇う必要はない
そう信じて目元に力を込めた

眼を見開いた先に見えたのは棒ではない、点だ。敵が点を持っていた。仇となった

「あっ……」

その点が自分のスコープの照準と合わさった時、みほらのいた下の階には先程と同じ銃声が響いた。銃弾はスコープごと彼女の目と脳を撃ち抜き、辺りには脳漿が飛び散った
皮肉にも彼女が先ほど敵の姿を借りて想像した様を自分で体現したのである


408 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:47:25.42 ID:0HQ/L1/L0


第74回戦車道大会公式記録
大洗女子学園犠牲者
猫田 鳴海
プラウダ 銃殺 右目から頭部右後部にかけて貫通による脳死 即死

409 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:48:09.66 ID:0HQ/L1/L0


カチューシャ独裁体制

2011年度硬式戦車道大会における黒森峰女学園撃破の作戦を提示し、それを実行したエカチェリーナ=イワノワは、その年末の共産党青年団長選挙に出馬。黒森峰への反感を吸収して当選を果たした。また彼女が率いる政党『勇気ある民』は、翌年の高校共産党大会選挙で単独過半数を確保。そのまま学生防衛委任法によって党大会の権限を共産党青年団執行部が一年に限り継承し、黒森峰打倒を名目に独裁体制を樹立させたのである




ここまでです
410 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 20:43:04.08 ID:d3dmTuuHO

2050くらいから始めますが奇跡的に見ていらっしゃったらご覧ください
411 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 20:50:04.56 ID:d3dmTuuHO


絶望のなかにも焼けつくように強烈な快感があるものだ。ことに自分の進退きわまったみじめな境遇を痛切に意識するときなどはなおさらである。

ドストエフスキー

412 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 20:51:36.02 ID:d3dmTuuHO


「華さん!直ぐにIV号に乗ってください!」

銃声は同じ。上からは倒れる音。しくじったか
だがこの鉛玉を封じる手は尽きたわけではない。時を移さず命令を出す。華さんはIV号に飛び乗り、横のハッチから身を捻り込ませた。次に向こうが撃った弾は、短時間で狙いを定めることは出来なかったようで、ハッチから右にずれた所に当たった。流石にIV号なら銃弾で抜かれたりなんかはしない

「華さん!榴弾で!」

「はい!」

車中にはツチヤさんが隠れていたはず。装填を手伝えば、時間はそうかからないはずだ
砲塔が右に回転を始めた。だが問題は目標を華さんに見せねばならない。2人の遺体の位置なども合わせれば、どの窓を経由して来たかは分かるだろうが、その何処からかは説明できない以上、光源を直接見なければわからない
近くの布を持って宙に投げる。布は弾に命中され地面に叩きつけられたあと、寂しく銃声が響く

「みほさん、場所分かりました。ライフルの弾の速さは?」

「850!」

「距離は600……撃てます!」

「撃てッ!」


413 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 20:52:34.00 ID:d3dmTuuHO


合図を向こうが確認していたかは分からない。ただ建物を揺らさんばかりの砲撃は、確実にその砲身によって行われた。そして放物線を描いた砲弾は、私が鏡ごしに指差していた建物を見事に捉えた

流石は華さん。腕前は超一流だ。この寒さで砲身が歪んでいたら、それを考慮する必要もあったというのに

こちらが使ったのは榴弾。建物は階層ごと吹っ飛ばされている。仮に逃げようとしていても、巻き込まれていないはずがない。そしてこの寒空の下動けない人間を助ける暇人はそうはいまい

414 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 20:54:33.90 ID:d3dmTuuHO


キューポラから華さんが頭を出す

「みほさん、もう1発撃ちますか?」

「いえ、十分です。榴弾であれだけ被害があれば大丈夫でしょう。直前にこちらに1発撃ってますし」

華さんは力が抜けたのかするすると自動的に車内に戻った。周りのものにも今ここを生き延びれた、そのことに安堵の表情が浮かんでいる

「これで……大丈夫……なの?」

「……恐らく。仮に2人以上いたとしても、榴弾に巻き込まれているでしょう。プラウダがいかに人を抱えてようと、狙撃ができる人材はそんなに数はいないと思いますし
一度警戒は解きますが、再び銃撃等があったら先ほど同様すぐに物陰に隠れてください。
では先ほどの作業を再開します」

ゆっくりと立ち上がった人々によって、暖炉の中で加熱に加熱を重ねられたレンガが再び戦車の上に乗せられ始める。予想通りさらなる狙撃要員は確保できていないようで、建物の中は暫くは安全そうだとの見解で一致していた
建物にあった黒い布を持ってゴモヨさんとパゾ美さんは2階の、河嶋先輩と小山さんは1階の遺体を回収する。だが遺体は視界から隠せたとしても、血痕だけは冬の池のように氷を張りそうになったまま残されている

ラムさんがムラカミさんとフリントさんの遺体を抱き寄せながら号泣していた。カトラスさんも彼女の方を握り無表情を貫こうとしつつも、涙と口元の震えまでも抑えられるわけではなさそうだ。だが遺体はそれに何か返事をするわけじゃない
彼女らを作業に連れ戻すことを名目に近づいていった河嶋さんも、結局は涙を流す3人目となった。もともと彼女らは河嶋さんに助けられたという話だったし、河嶋さんにも彼女らに対して強い思いがあったのだろう
私も彼女らの死によぎるものがないわけじゃない。あの『どん底』での一瞬の安らぎを忘れたわけじゃない。しかしそれが本当に一瞬であり、すぐに彼女らを作業に引き戻そうとした辺り、私の心はどんどん人から遠ざかっている


包まれたものは入り口に並べられる。黒い、川だ。流れない、川だ


415 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 20:55:29.65 ID:d3dmTuuHO


「西住ちゃん」

皆の警戒がかなり緩んで来た頃、入り口の方を向いていた会長さんが声をかけてきた。暖炉の前で立ち上がり、服の埃を払う

「秋山ちゃん達が帰ってきたよ」

「本当ですか」

優花里さんとエルヴィンさんは建物の前の雪の山から飛び降りて入ってくる。体調に大きな変化はなさそうだ

「不肖秋山優花里、ただ今帰還致しました!」

優花里さんは力強く敬礼を決める。本当に問題なさそうだ

「敵の様子は?」

「ここから北に1.5キロほどの所で歩兵と戦車を含む敵迂回部隊を発見しましたが、全員凍死しているのを確認致しました。他に動きはないであります」

「それは直接確認しましたか?」

「勿論だ。あの様子を見るに今日は攻めよせてこないかと」

「分かりました。ありがとうございます」

不気味だが、向こうから今日攻めよせてくる可能性が一つ潰れただけでも大きい

「戦車は何輌ありましたか?」

「1輌だけでした」

1輌だけ……

「それにしても、こちらは……」

優花里さんの手は黒い袋の並びに向けられる

「狙撃を喰らいました。やはりモシンナガンに変えたのは、こうして抵抗させずに叩くためだったようです。が、華さんが榴弾でなんとかしてくださいました」

416 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 20:57:17.53 ID:d3dmTuuHO


「……変じゃないか?」

エルヴィンさんが話の中で首を傾げた

「……と言いますと?」

「プラウダだって上限は15輌のはず。確かにこちらに対して数が多いのは事実だが、それでも車輌や人員を見捨てたりするものか?数があるなら、一斉に投入して完全な数的優位の下で倒すのが筋だろう」

「……確かに向こうの攻撃がちまちましたものばかりであります。それどころか我々が発見した部隊は攻撃さえ出来ていません。
こちらの精神を削るのには効果があるかもしれませんが、それに見合う損失かというと微妙でしょうな」

「……プラウダならスパイの排除などを名目にやりそうなので何とも言えませんね……」

「そうですか……」

「ですが今後の判断材料にはなります。ありがとうございました」

表向きはそう言ってごまかしたが、それでも何か裏があるのか疑わざるにはいられない。杞憂だと願いつつ、恐怖を覚える予想もする必要があった

「そど子殿とお銀殿はまだでありますか?」

「あっちはちょっと奥まで行っているのかもしれんな。そど子さん目が良いって話だったし」

417 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 20:59:05.12 ID:d3dmTuuHO


その後、ただ時は進み続けた。話すこともなく皆車輌と暖炉の前を往復する。IV号以外の車輌の砲塔、エンジンも動き始める。優花里さん達が帰ってから暫くした後、入り口の方から何かが倒れる音がした。入り口には倒されているものはあるが、倒れるものは本来ない
見ると、そこに居たのは白いコートを頭まで着てうつ伏せに倒れているものだった。ヘルメットがコートより上にある

「お銀さん!」

「……西住……隊長、すまない。園さんが……」

「園さんがどうしたのですか!誰か、暖炉の前まで運ぶのを手伝ってください!」

仲間の危機の前に思わず叫ぶ。生きている限り価値はある

「親分!大丈夫すか!」

「お銀!」

生き残った他の2人もすぐさま駆け寄ってくる。カトラスさんは柄になく表情に焦りをさらけ出している
暖炉の前に寝かせたが、唇は紫に変わり、それ以外は蒼白
「乾いている服をたくさんお願いします!あとはすぐに焼きレンガを!それと桶か何かに雪をお願いします!」

「な、何する気だい?」

「一部は服の中に仕込んで、残りはぬるま湯を作ります!凍傷を引き起こしている可能性もありますから!少し熱めのお風呂くらいのものを!」

服は濡れているもののうち無理なく脱がせられる部分は取り、他は残す。こんなに寒い中とはいえ無理に剥がして怪我させては感染症になる可能性もある。だがすでに事態は相当悪いも思われる。特に足が

418 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 21:00:40.75 ID:d3dmTuuHO


「園さんは……死んだ」

「そう……ですか」

言葉は絶え絶えだ。まぁ、片方がこうなっていてまだ戻らないもう片方がこれより状態が良いとは考えづらかったし、重大な驚きではなかった

「急に立ち止まって頭を抱えたから……何事か……って思って背負って連れてこうとしてたら……急に……背中の方から……パキッて……何かが割れる音がして……喉から漏れ出るような呻き声が……」

「……そしたら死んでいた、と」

頭蓋骨損傷あたりか……死体がないから断定はできないが

「……そうらしい。人って……ああやって死ぬんだな……私は……ああはなりたくない」

何故か彼女の顔には笑みが見える

「とりあえず服をかけとくぞ!」

「ジッパーで開けるものをどんどんお願いします!2枚か3枚入れたところで、焼く時間が短めのレンガを入れます!」

「服は溶けないかい?」

「それは大丈夫なようにします。あとは乾いた布で包んだものを4つほど、末端を温めます!」

「……に、西住隊長……」

背後にて彼女の靴を脱がせていたらしいラムさんが体の芯が震えるような声を届けてきた。彼女の手にある靴には側面に大きく傷が付いており、傷からラムさんの服を見せる

「ケガ……」

「帰りにな……まだ園さんが死んでいると知らなくて……背負って歩いていた時に……な、雪の下に埋まっていたらしい木の枝を……思いっきり踏んでしまってな……
底は抜けないと思っていたが……まさか側面がガリッと削れちまうとはね……」

まずい。彼女の足は靴下同様赤く染まって膨れ上がっていた。おまけに傷のある一部は少し黒ずんでもきている
明らかに凍傷だ。医学の知識は私にはないが、これくらいは予想がつく

「……さっきまでは……疼くような感じがしていたんだが……もう……痛いだけ……だ……」

それもかなりの重症だと思われるが……果たしてぬるま湯につけて効くものか……

419 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 21:02:36.48 ID:d3dmTuuHO


「に、西住さん!親分は大丈夫なんですか!」

「……麻子さん、会長さん、ちょっとよろしいですか?」

人の力を借りよう

「どうした?こっちの作業中断していいのかい?」

「……お銀さんの症状、私だけは判断がつきません。手伝いをお願いします」

「……分かった」

「まぁ、私に分かるかは分からないけどな。私は医者じゃないし」

そうだ。これもある意味逃げだ。彼女らとの合同の判断、という名目で最悪のケースの責任を分け合おうとする手段に過ぎない
麻子さんと会長さんはラムさんが抱えていた左足の外側の傷をじっと眺めていた。時々小言で話しているのは、こちらには聞こえない

「西住殿!ぬるま湯はこのくらいでいいでありますか?」

優花里さんが桶らしきものに湯気の立つお湯を張って持ってきた。さわるとまだ夏の水風呂もどきくらいでしかない。ここまで寒い環境に居続けると、温度感覚も狂うものなのかもしれない

「まだです。もう一個焼きレンガを投入してください!あとはこちらにもってくるときも一つ持ってくるように!この天気じゃすぐに冷めます!」

「了解です!」

すぐに立ち去った優花里さんに気を払う余裕はない。お銀さんの顔を覗き込む。息も浅い

「……西住さん……」

「はい」

「ムラカミと……フリントは……」

「……あちらに」

嘘をつく必要は感じられなかった。黒い袋が3つ。そのうち2つだと指でさっと示す

「……そうか。だよなぁ、こんな寒空の下に偵察か出撃以外で外出する奴はいないよなぁ……」

「ライフルで狙撃されました。私の警戒と管理不足です。お仲間を……申し訳ありません」

「……管理してたら、止められたのかい?」

「私には……そうは見えないけどね……装備も変わってたし……こちらには……手も足も出ない話さ……こんなことは言いたくないし……実際に手足が伸びるわけじゃない……がね」

心なしか顔が赤くなっているように見える

420 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 21:03:46.53 ID:d3dmTuuHO


優花里さんやラムさん、カトラスさんらにより作業が進められる中、会長さんと麻子さんが私を指で外に出るように示した。ついでに河嶋隊長も呼んでいる。私の予想はほぼ当たっていたらしい
外で麻子さんは深く一つ呼吸してから口を開いた

「……あれは……どうにもならない可能性が高いだろう。少なくともここでは」

「……私もそう思う。傷が一部壊死しているよ、あれは」

「え、壊死……」

「……そうですか」

色がおかしいかったからそうもなるか

「もし滅菌された場所や治療道具があれば、切除したりしてなんとかなるかも知れないが、ここにはどちらもないな。
秋山さんのかばんの中身を使ってもいいが、包帯はほぼ使い切ってしまっているそうだ。傷を十分に塞げない。仮にあっても凍傷の傷相手に足りるかは分からんが。
傷のあたりは下手に温めて血流を良くしたりすれば、体力の消耗も考えれば破傷風クラスでも命に関わるぞ」

「外に出ている間はあの寒さだったからまだ大丈夫だったのかもしれないけど、ここは少しは暖かいからねぇ。あの進行度じゃあ細菌やウイルスに感染するのは時間の問題だ、と思うよ。温めたらなおさら」

「そして現状の彼女では感染したら最後、助かるとは思えないですね」

「に、西住。何とかならないのか……人数が少ない私たちからしたら、一人でも減るのは厳しいだろ?」

421 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 21:05:07.32 ID:d3dmTuuHO


「……そうなると案は3つ
一つは彼女だけプラウダに降伏させる
もう一つはそれでも何とかアルコールで殺菌したりして時間を稼ぐ
最後は……」

「ここで……楽にする、か」

「はい、そうなります。この戦いはこの天候だと長期化する可能性があります。このまま彼女を苦しませ続けるよりは……」

「……な、何を言ってる、西住」

「それにこのまま病気にかかられると、それがチーム内に広がる恐れもあります。
一人でも厳しいのです。それ以上各車輌の人数が減る、少なくとも戦車に乗れなくなると……厳しくなります」

「まぁ、先日の西住ちゃんの話を聞く限り1番最初はナシ。生徒会長としては最後の手は取らせたくないけどね……教育的に」

「今更それを言いますか?」

「……まぁ、味方に直接手を下すならね」

「で、2番目が可能か……という話か……」

ここでどうこうなる話ではないと思うが、それでも4人で頭を付き合わせなくてはならない
だが全員が一斉に頭を振り上げる時が来た。天をも突かんとする断末魔が同時に彼らの耳を訪れたのである

「ああああああああ!がああああああ!」

「お、親分……」

「い……いッ!」

「が、我慢して……お銀」

「そ……から……足を……足を抜い……れぇ……頼む……」

ケフッ

「し、しかし温めないことには……」

「がっ……」

壁の向こう、入り口を超えて響くお銀さんの絶叫であった

422 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 21:05:39.36 ID:d3dmTuuHO

「……2番目……」

「……厳しそうだな」

「うん……この様子だと……ね」

「……おい、西住」

3人が一定の方向性で一致を見出そうとしていた時、河嶋さんが3人の間に割り込むように入った。そして私と至近で目を合わせ、両肩を掴んだ

「西住、頼む!殺すのは……殺すのだけはやめてくれ!あいつは……あいつがいないと……船の底は再び血と暴力の連鎖が続く場になってしまう!学園に……学園艦に、そんな場所を残したく……ない!
絶対に生かして帰せとは言わない!だが助かるかもしれないのに殺す、それだけはやめてくれぇ!」

「……どういうことです?」

会長さんの方へ視線を逸らすと、会長さんは頭を掻きながら気怠そうに話した

「いやー実はね、数年前まであの船の中って今以上に治安悪かったのさ。西住ちゃんは『どん底』行ったんだろ?そんなことをするなんて考え付かない程度にはね
外の人が下手に入ったら帰ってこれないのは当たり前。ひいては船の中でも担当部署や居住地域ごとに縄張りをはって、僅かな独自収入を巡って抗争続き。生徒会からの命令どころか、場合によっちゃ同じ船舶科の指示さえ聞きやしない。そんなとこだったのさ
そこをせめて学園艦の中だけでも安定させたい。人の血を流させたくない、って調停に入ったのがかーしまだったのさ。お陰で生徒会での仕事は私や小山とかに回されてばっかりだったけどね
結果的に彼女らを戦車道に取り込んだのはかーしまなのさ。だから特別な思い入れがあるんだよ」

「姉は……抗争の中で死んでいった……この大洗で、少なくとも内部で、二度とそんなこと……させたくないんだ!何とかならないのか!」

「……本人に事情を伝えましょう。それでも助かることを望むなら、最善を尽くします」

「……かーしま、気持ちは分かるがそれが筋だ」

「はい……」

会長さんに肩を掴まれた河嶋さんはやっと私の肩から手を外した

423 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 21:07:24.32 ID:d3dmTuuHO


一時的に人払いをして、小さな声で事情は伝えた。その返事はあまりに単純で、的確だった

「……そうか……やってくれ、西住さん」

「……おい、お銀!お前、死ぬ気なのか!」

「桃さん……自分の身体って……本当に自分で分かるものなんですわ……恐らく……ここで生かしてもらっても……先は……」

僅かに動く右手を胸の上へ移した。これでも本当に一苦労なようだ

「お銀!生きるって言ってくれ!ムラカミもフリントに加えて……お前も目の前で喪うなんて……」

土煙の残る建物の床の上に、河嶋隊長の額

「……ははっ……やっぱ桃さんは……私らみたいな人間に……優しいや……優しすぎる……」

一度顔を背けて咳をした。それでさえ彼女の力を奪っているのが、苦悶の表情から察された

「生きたいと……思っても……もう……寒気に当てられた体が……言うことを……きかないんだ……
桃さん……今まで……沢山の……我儘を……聞いてくれて……ありがとう……貴女は……そのままで……いて欲しい……」

彼女の片手にしがみつく人から、声とも分からぬ咽び泣きが発せられる

424 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 21:08:44.81 ID:d3dmTuuHO


「……西住ちゃん……」

「……足の傷は既に感染症にかかりやすくなっています。少なくとも今夜外に出ることは出来ません
そしてその凍傷の治療はここでは不可能です。他の皆のためにも、その決定をしてくださったことを感謝します」

「身体って……あったまるの……早いんだな……あったまったら……きっと……痛みが……やって……くる……
痛みが……想像もつかない痛みが……怖い……怖い……だから……その前に……」

「……分かりました。その意思を尊重しましょう。私が執行します。会長さん、河嶋さん、よろしいですか?」

「……許可するよ。生徒を無為に苦しませるよりは……ね」

会長さんの吐き出し尽くすような返事の一方、河嶋さんは未だ躊躇いを隠さない。麻子さんの方に向くと、面倒そうな顔をして一声付け加えた

「……彼女を守る術は他にないぞ」

「……そうか。お銀……」

「……大丈夫だから……」

何とか首を回し地面に近い顔に寄せる様は、人から見たら痛々しいったらありゃしない

「……西住……」

「はい」

「お銀を……頼む……」

「ありがとうございます。あ、皆さんに伝えます?」

「……いや、やる前に話が下手に広がっては面倒だ。ラムちゃんとカトラスちゃんだけ呼ぼう。流石に伝えないのは可愛そうだ」

「お任せします」

ここには麻子さん含めて3人だけが残った

425 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 21:09:30.81 ID:d3dmTuuHO


「……ははは……あいつらにまた会ったら……生きたくなっちまう……とは思わない……のかい?」

「痛みは人間の苦痛の根源。それから逃れようとすることは、何があっても揺らぎませんよ」

「……そうか……そうだ……ひとつ……いいかい?」

「はい?」

「私の服の……胸ポケットの……中に……パイプが……」

「……失礼します」

幾層にもなった服を掻き分け、彼女が初めに着ていた服に辿り着く。そこには透明な袋に入ったパイプが、少し歪んだ形で入っていた

「……歪んでますね」

「……そうだろうなぁ……真ん中の辺りを……持って……口元へ……」

「はい」

袋の周りは溶けたパイプが張り付きかけていたが、それを注意深く外してゆっくり口元へ寄せると、口をかすかに開いてそれを受け止めた

「ふぅ……」

「船舶科の帽子はいかがします?」

「……それはいいかな」

ゆっくり、小さく左右に首が振れた

「親分!」

「ど、どういうことなの!」

生き残っている2人が必死の形相で詰め寄る

「……そのままさ……このままじゃ……みんなに……迷惑かけるだけ……」

「じ、冗談……だよね?」

「冗談で……こんなこと……言えるか?」

私が無言で自身の拳銃に球が込められているか確認している様をちらりと見て、2人とも口を閉じた

「……なぁに……向こうには……そこの2人がいるんだ……怖くは……ない……」

そう言いつつも手先が震えるのはこの寒さのせい、ということにした

「何か他に言い残しておきたいことは?」

「……勝て……プラウダにも……黒森峰にも……大洗女子学園は……残すんだ……絶対に……船底を……守るために……
ラム……カトラス……お前らに……会えたことを……忘れはしない……私の元にくるの……暫くの……楽しみに……させてくれよ……
この身体じゃ……暫く……酒は……必要なさそうだ……ま……向こうで……楽しめるかは……分からないけどね……
西住さん……これでいい」

426 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 21:10:25.69 ID:d3dmTuuHO


私は側にあった、冷たくなりつつある桶の水で手を濯ぎ、素早くハンカチで拭った。そのまま手に取った銃を両手で構え、彼女の頭へ向ける
肩から腕、そして照星から先は確実に照準を定めていた
「……ははっ……こんなちっぽけな……もので……本当に……死んでしまうとはね……」

彼女と目が合った。いや、正面から私が構えているのだから、合うのは普通だ
だがその時、手から力を抜こうとする外圧が、背中全体を駆け巡った。思わず銃口を下げる。違う。彼女は受け入れている。そして私に委ねている。あの時とは違う。違うんだ

「……西住ちゃん?なんなら」

「いえ、私がやります」

この苦を生涯の中で味わうのは、私だけでいい

「お銀さん、目を閉じて頂けますか?」

「……お安い……御用さ」

よし、黒い焦点は消えた。これで撃てる。
一呼吸置いてから両手で彼女の正面、脳味噌を確実に1発で貫けるように構えた

「……結局……役立てなかったなぁ……」

最期の言葉は聞かなかったことにした
この銃にはサイレンサーなんて高性能なものは付いてない。すぐに周りの者に結果は知れ渡った


427 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 21:10:54.36 ID:d3dmTuuHO


第74回戦車道大会公式記録

大洗女子学園犠牲者

園 みどり子

プラウダ 凍死 頭蓋骨破損による脳損傷

栗下 良華

プラウダ 銃殺 頭部前方から後方への貫通による脳死 即死

428 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 21:12:22.44 ID:d3dmTuuHO


こちらに来る者の大半は目の前の光景に気づくや否やすぐに目を逸らしてしまう。話し掛けてくるものはない

銃を足元にそっと置き、両手を合わせる。ただ感謝を込めて。第三者を介在させる必要もない

「……彼女の意志は尊重されました。先程のお二方と同様、包んで並べてあげましょう。
同時にラムさん、カトラスさんを他車輌へ振り分けます。人数的に運用不可能なマークIVは放棄します」

残ったのは操縦手と砲手か……専門職すぎて車輌を放棄させると使いづらいな……仕方ない

「ラムさんはアリクイさんチームの通信手、装填手を。カトラスさんはカモさんチームの37ミリの砲手と通信手をお願いします。
流石に弾は使えないので、明日以降実戦でのカンの把握をお願いします。メインは75ミリの方で」

おかっぱの2人を見やったが、どうやら2人をターゲットにした話だと気付いてないらしい

「金春さん、後藤さん、よろしいですか?」

「……は、はいっ!」

よし、言質取った。船底の人たちと組みたくないなんて言わせる気は無い
誰も何も言わない。会長さんら決定を受け入れた人たちは事情を理解してくださっているからだが、他の人も同様なのだろうか
お銀さんの遺体は私と会長さん、河嶋さんの3人で黒い布に包み、ムラカミさんの脇に加えられた

429 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 21:12:54.66 ID:d3dmTuuHO


夜を迎えた。夜襲への警戒も兼ねて、交代で休息をとることにした。建物の中には雪がしんしんと降る音と、暖炉の上のやかんが煙を蒸す音、そしてその暖炉の火が跳ねる音のみがこだます。やかんの注ぎ口から直に煙が登っているように見える
起きているものは暖炉の周りに群がる。短期的なスパンで起床と就寝を、座りながらにして繰り返している。外はもう吹雪こうとはしていなかった
明日、緩む

430 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/26(木) 21:13:31.40 ID:d3dmTuuHO


広報部より報告

内容
大洗女子学園の動向

同校からの報告によると
「彼女の望むことを」

「勇敢な斥候の重傷」
に対し選択したとのことです



今日はここまでです


431 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 20:45:49.98 ID:nCryEuB7O
しばらく新疆に行ってて何もできんですまんやで


お詫びに今日中にプラウダ編終わらすやで
432 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 20:46:22.12 ID:nCryEuB7O


弁護士はね、ピンチのとき程ふてぶてしく笑うものよ

「逆転裁判」より

433 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 20:47:42.61 ID:nCryEuB7O


12月7日、プラウダ学園地域遠軽部生田原分部水穂 プラウダ高校陣地

昨日とはうって変わった快晴の空に、鋭く靴が差し込もうとして押し返される

「よし!よく凍っているわ。1日無駄にしたけど、これで戦車は十分に機動出来るわね」

同志カチューシャは凍った地面を何度も蹴る。やっとのことで氷は割れ、鈍い音に変わる。そのまま踏み潰された氷はパリパリとヒビを辺りに走らせた。
確かに夜は冷えた。お陰で氷は固く、履帯で踏み固めながら走る程度は可能だ

「はい」

「ノンナ、クラーラとニーナの部隊は?」

「無事昨日朝向こうを出港しています」

「そう。今我が校に動ける戦車は何輌あるかしら?」

「はい。呼び寄せた分を含めると、331輌中現在240輌が稼働可能です」

「全部集めなさい。1輌残らず」

「は?」

予想外の指示に思わず変な返事が漏れ出る

「大洗なんて黒森峰の前座にすぎない。一瞬で方をつけるわ。その為にも圧倒的な数をそろえなさい。地域の力の差を見せつけるためにね」

「しかし、準決勝は15輌までもいうルールですし、少し離れた場所に予備として待機させている車輌もあります。それらを試合開始までに呼び寄せて稼働させられるか」

「ノンナ!」

同志カチューシャは私なんかの言い分を叫んで無理やり止める

「忘れたの?戦車道は強豪校の都合自体がルール!そして圧倒的、徹底的な殲滅戦こそがこのカチューシャの戦い方なのよ。すぐに乗員をかき集めて出発させなさい!練度は問わないわ!」

「し、承知しました」

そう指示されたのならば致し方ない。現地に来ていたプラウダの高校生のほぼ全てを、脅し気味にかき集めさせた戦車の中に押し込むことになった。中には戦車の中に入ったこともない人間さえいたが、気にしないでおく
そう、次に向けてこちらが本気で黒森峰を潰す気であることを示すまたとない機会だ

434 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 20:48:34.51 ID:nCryEuB7O


試合開始のホイッスルの直前に到着した戦車のエンジンが温まるのを確認してから、一面に広がる大平原の中、彼女率いるプラウダ高校戦車道部隊240輌は悠々と南進を開始した

「ノンナ、話はついてるわね?」

「はい。あのクソ野郎さえ通さなければ問題ないようでした。条件こそ出されましたが、連盟はこの件には介入しません。それにあちらも『時』に向けて動き出す模様です」

「でしょうね。連盟だって国の意向には逆らえないでしょうし、この運営が逼迫してるのも誰より知ってるしね。だとしたら今ならギリギリこちらに乗るはずよ」

「流石は同志カチューシャ。しかしあの国の意向に乗っかるのが納得いきませんがね」

「ノンナ、学園地域の利のためよ」

「分かっています」

♪Blossoming beautifully apple trees
A dense fog over the river

IS2から上半身を出した私は、黒い長髪の隙間を流れる大いなる風を感じながら、『同志カチューシャ』の冒頭を奏で始めた

♪Young Катюша go beyond the ground
which is fruited and majestic
♪Young Катюша go beyond the ground
as a leader of the common students

それにT34/85に乗る同志カチューシャが丸いキューポラを真ん中から開き続く。堂々と、正面から突き当たる風と巻き上げられた雪なぞ、我らの声さえ阻めない

♪The grandeur of Mt. Iwaki
The vast extent of sea in Tsugaru
♪Young Катюша fact powerful enemies
as far as she is still there
♪Young Катюша fact powerful enemies
like a fort of equality and free

♪Thousands of motivated workers
The young people who have great hopes
♪Young Катюша has a noble spirit
to which she succeeds once comrades
♪Young Катюша has a noble spirit
May Pravda last forever

歌が進むに連れて車長が次々と歌に加わり、最後の繰り返しが終わる頃には240人の雪上大合唱祭と化していた

435 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 20:49:39.95 ID:nCryEuB7O


?「大軍じゃ分かりません!数えなさい。何輌ですかッ!」

無線機の前で語気を強める様に、建物内に緊張が走る。この緊張は程よいを通り過ぎているぞクソッタレが

「申し訳ありません。雪煙で全体がよく見えませんが、200輌から300輌であります!」

ここから少し西にある高台から優花里さんが報告してくる。その声も無線越しであることを考慮しても余りに震えており、途切れ途切れだ。嘘をつくとも思えない
そのうえ外の天気は快晴。雪煙で見えない部分があったとしても概算から大きく外れるとも思えない。今日動くとは分かっていたが、この数は予想をはるかに上回っている

「西住ちゃん、どうする?」

「みぽりん!」

「西住さん!」

視線を下に向け、頭の中で必死に駒を動かす。この大軍と戦わない……という道は、ないな。そしてここに立て籠もるのはない。ここを要塞とするには立地も悪く、時間もない。だとすると手早く要塞となる地に移動するほかなし
考えをまとめると、無線機を置いていた机に地図を広げる

「ここはすぐに包囲されるので放棄しましょう。地形的に有利な背後の高台に移動して迎え撃ちます。これだけの戦力差なら相手も小細工はしてこないと思います」

「え……相手がルール無視してるの?」

「……足して割って250。これでプラウダの全力じゃないんだよなぁ……」

「……少なく見積もっても200輌対6輌って……少しくらい地形が有利でもどうにもならないよな……」

436 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 20:50:18.59 ID:nCryEuB7O


理解不足なものも、その裏をも理解している者も緊張の面持ちの中で、河嶋隊長が口にする。小山さんの顔も恐怖か怒りかその他の感情が混ざり合うものとなる

「ジャッジ!抗議します。準決勝は15輌とルールに記されています。これは明らかに反則です。直ちに試合を中断してプラウダに警告してください!」

いつもおっとりした感じの小山さんが手にあるルールブックを叩き、ロから堰を切ったように言葉を溢れさせる。しかし審判は小山さんから目線を逸らし、微動だにしない
向こうについた、か。こちらは見捨てられたかな?そりゃそうだ。プラウダと大洗じゃどっちの話に乗ったほうが得かは一目瞭然

「やだもー。何なのよこの人達!無茶苦茶じゃない。一体どうなってるの!」

簡単だ。強いやつの尻馬に乗る。弱きものの摂理だ
しかしこのムードじゃいかんな。どうにかして場を上昇傾向にしないと。確証はないが言ってしまうか

「み、皆さん、落ち着いて元気出してください。まだ私に奥の手があります!やられると決まった訳じゃありません!」

「そ、そうか、西住!まだ望みはあるんだな!」

「兎に角高台に移動します。エンジンをかけてください!」

私の一単語を信頼してくれたのか、陽気気味な顔を連れて皆は自分の車輌に向かう。無線機を通じて、優花里さんとエルヴィンさんにも急いで戻る様に指示した


437 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 20:50:58.47 ID:nCryEuB7O


さて、こういう時は悪いパターンも想定しなくてはならない。それでトントン……いやそれはきついか、でもそれくらいにはしておきたいなぁ
エンジンのかかった車輌たちは建物を出て1列になって高台に向かう

「西住ちゃん」

最後尾から2番目になるIV号のキューポラから身を出すと、会長さんが私の左手と肩を握りながら声をかけてきた

「本当は、奥の手なんてないんだろ。だってウチは……」

いきなりなにを言ってくるんだ。学園都市の主人がそんな弱気でいいのか?

「会長さん……ここの近くの紋別学園都市はプラウダの同盟校。それどころか東北海道の学園都市の殆どがプラウダの同盟校です。その地縁もありますので……ただ……」

エンジン始動の報告をしようとしていた優花里さんが横のハッチから不安げな顔で見つめてくる

「私が今まで一度でも会長に嘘をついた事がありますか?」

嘘だ。私はこれまでは勿論、今も重大で、重要な秘密をひた隠しにしている。しかしそんな私の言葉でも何か伝わることがあったのか、傍の優花里さんは詰まった嗚咽を漏らす。会長さんも目元を手袋で拭う

「ははは……まったく……みんな我慢しているってのに、つまんない事聞いちゃって……生徒会長失格だな……」

優花里さんに少し待つよう伝えた後、正面を向き直る

「よっしゃ、任せた!頼むぜ、参謀!」

その直後、背中が力強く叩かれた。そのまま彼女はIV号から飛び降り、河嶋さんの背中を経由して自分達のヘッツァーに乗り込んでいった

何だったのか、今のは

一瞬あっけにとられたが、気にする暇はない。今この時も刻一刻とプラウダの大軍は我らを食らいつくさんと向かってきている。一息吐いて移動を開始させた。それに殿としてヘッツァーが続く
建物の入り口には3つの黒い仲間の遺体が取り残されていた。それらが帰りを待っているのか、向こうで待っているのか、それは誰にもわからなかった


438 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 20:52:35.70 ID:nCryEuB7O


その間にもプラウダ戦車道部隊は南進を続けていた。シベリアの雪上を移動するトナカイの群れの如く

「ノンナ!」

「はい」

並んで走行するT34/85の車長である同志が声を掛けてきた

「やはりあそこの高台に登っているわね」

「ええ。西住流、お前は間違っていない。我々が15輌であれば、な」

一度視線を彼女から山裾へ向ける

「こういう時は相手に見つかったら終わりなのよね。ま、でもそう動く他ないんでしょうけど。で、前衛は彼奴らにしてあるわよね?」

「勿論です。後ろに下がろうとしたら前を撃って良いと精鋭には伝達済みです」

「そう。あ、そうだ。ノンナ、一度列を離れて静止射撃していいわ。あそこに榴弾一発行けるかしら?」

「あそこですか……撃ってもいいですけど、距離3000はありますから、ほば当たりませんよ。そもそもIS2は装填弾薬28発しかありませんし」

「6輌を潰すのに、28発も必要なの?ノンナ
それにこの数よ。当たらなくてもいいわ、脅しくらいにはなるでしょう。プラウダに堂々と対抗することの愚かさを奴らに思い知らせてやりなさい」

「……分かりました」

IS2は群れから右に外れる。ある程度進んだところで静止し、照準器に氷の如く冷酷な目を当てる。脳の中で激しい数字の変換が行われる。この砲身の歪みを考慮すれば、狙いは定まったはずだ
それが終わった時、私の指はトリガーを引いていた。十秒ほど宙を駆け抜けた榴弾は大洗の戦車隊を確実に狙っていた

439 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 20:54:00.44 ID:nCryEuB7O


プラウダ学園地域がプラウダ学園都市であった頃、人口的に勝る学園艦出身のロシア人と、経済力に勝る津軽地域の日本人の調和が図られた。その結果が公用語を日本語、ロシア語のどちらにもせず、英語とすることだった。
プラウダ学園は小学校は共通語各言語に応じて建設されているが、中学校以降は各分校及び本校の英語教育に集約され、高校、大学はプラウダ学園都市にさらに集約される。

440 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 20:56:59.81 ID:nCryEuB7O



わたくしたちは この海をひらき 原子の火を育て 水と緑を愛する 健康で明るい 大洗の町民です

1.めぐまれた自然をまもり 美しいまちにしましょう。
1.教養を深め 文化の高いまちにしましょう。
1.仕事にはげみ 活力のある豊かなまちにしましょう。
1.きまりを守り 住みよいまちにしましょう。
1.思いやりの心で 楽しいまちにしましょう。

『大洗町民憲章』


441 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 20:57:41.62 ID:nCryEuB7O



先頭からIII突、B1bis、ポルシェティーガー、3式、IV号、ヘッツァーが高台の稜線の裏側を目指して上昇していた。不意に聞こえる風を切る音、そしてその弾はヘッツァーの近くに着弾した。凄まじい爆風が辺りの雪を吹き飛ばす。ヘッツァーが爆風でかなりずれる

「カメさんチーム!大丈夫ですか?」

揺れが収まる前に、西住ちゃんからの無線が聞こえてくる

「小山、かーしま、無事かぁ?」

「は、はい……頭ぶつけましたが……すごい揺れでしたね……」

かーしまは無事。小山もこっちを向いてきた

「ん……なんとか3人とも無事だよ」

「よかった……ではそのまま上に登っってください」

「了解」

しかしヘッツァーは上には登れなかった

「あれっ?あれっ!」

小山がレバーを引くが車輌は右に回転を始める。前に進まない

「履帯外れたね、こりゃ。元が38tだし、38tは外れやすいからね……」

「カメさんチーム?」

西住ちゃんがIV号を止めさせ、キューポラから身を乗り出しているんだろう。枠に当たったような音が混じる

さて、履帯が外れたとなると、留まるか直すかしかない。だが私たちの後ろには高々と上がる雪煙が控えている。外で悠長に直す時間はどう考えてもない
車輌の放棄。それはない。この75ミリをプラウダに向けない。それは大洗の放棄と同義である
ここからは動けない。されど攻撃するしかない。そしてかーしまに砲は預けられない

442 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 20:58:16.19 ID:nCryEuB7O


母ちゃんごめんよ。ここで私の道は決まってしまったよ。ここで勝てば、西住ちゃんは決勝で勝ってくれる。そして、私は西住ちゃんの言葉を信じる

「ごめん、履帯が外れた。敵はすぐ近くに来ている。西住ちゃん達は早く上に登って!」

「えっ、でも……」

「早く!全滅する訳には行かない!奥の手をやるんだろ!」

返事はない。だがここで躊躇うのは無駄だ

「会長、距離2800です」

あと、何分あるのか。恐らく数分が命の中でここで立ち止まるのは、大洗の命を削るだけだ

「もう時間がない!わたしらはここで出来るだけ敵を食い止める!早く!」

「でも……そうしたら……」

「生とか死とか議論している暇はないんだ!君が気にやむ必要はない!私の判断だ!行ってくれ!」

私の目的、その為にここで私の命は必要となる。無為に死ぬ気は無い。そう考え待つことしばらく、やっと返事が返ってきた

「本当に……良いんですか?」

「ああ、構わない!私らが弾を引きつける!その間に前衛から削ってって!」

断言した。後顧の憂いも残して欲しくない。また少し、間が開いた

「…………上に登れる車輌は皆稜線に移動します」

「よし、よく言った西住ちゃん」

深く息を吐いた。これで一つはよし。あともう一つ。大洗に必要な人材は私の隣で震えながら待機している。無線は後で必要だ。一度外して、その人物の肩を左手で掴んだ


443 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 20:59:11.46 ID:nCryEuB7O


「かーしま!お前は脱出しろ!この坂を登ってどっかの車輌に入れてもらえ!」

「……はっ?し、しかし、会長と柚ちゃんが残るなら私も大洗女子学園の一員として、ここに残らせてください!」

そう言うだろうと思ったわ。船舶科の人たちを、特にお銀ちゃんを死なせた、とかでも考えているんだろうか

「馬鹿者!」

「確かに私は馬鹿です!しかし転校後トラウマに囚われないようにしてくださった大恩がある方を見捨てられるほどの大馬鹿ではありません!」

かーしまは手を握り締め、歯を食いしばり、黒光りする眼光を向けるこりゃー、めんどいね

「そうじゃない!隊長がそう簡単に果てるとか言うんじゃない!リーダーというのはな、そう簡単にいなくなって良いもんじゃないんだ!」

「そうしたら会長こそ我らの大洗からいなくなっていい方ではありません!」

「違う!戦車道のリーダーはお前だ、かーしま。この大会、うちらが優勝し、西住ちゃんに優勝旗持たせるまで、お前は死んではいけない!私は学園を残すための道はつけた!達成するのはかーしまだ!頼む!早くここから去ってくれ!」

私が死んでも、勝てば大洗は残る。されどかーしま無しに大洗戦車道は今年を乗り切れない。西住ちゃんとの両輪こそが大洗戦車道を成り立たせているのだから

「……駄目です……」

「我々生徒会は優勝させ、学園を残す為にやってきたんだ。誰かが決勝まで見届けない訳にはいかない!
西住ちゃんは優秀だ!だが彼女だけで優勝出来るわけじゃない!この凸凹な面子を纏めきれるお前がいたからこそ、ここまで来れたんだ!
西住ちゃんの心を真に支えられるのは戦車道で大事な人の死を経験したお前だけだ!だから頼む!時間がない!」

かーしまの頬を一筋の涙がつたう。決心が……ついたか?


444 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 20:59:48.20 ID:nCryEuB7O


「でも……柚ちゃん……は?」

「私は…さっきの爆発で足を痛めちゃったみたい。多分稜線の上まで雪の上を歩けないと思う」

小山は右足に手をかけながら呟く

「……かーしま、早く行け!」

かーしまはその場に棒立ちし続ける。駄目か。ならば仕方ない。どうせ死ぬ身だ

「どうしても行かないと言うのなら……」

胸元から九四式拳銃を取り出し、スライドを動かす。そしてそれの銃口を右のこめかみに当てる。これくらい怖くはない

「なっ!」

「会長!」

2人は驚きを隠さない

「私はこれの引き金を引かなければならない。1分時間をやる」

誰も動こうとしない。沈黙が車内を包む。その制限があと半分となった頃、やっとかーしまの口が開いた

「い、今まで……今まで本当にありがとうございました!私は必ずや大洗女子学園の存続をこの目で見届けます!」

吐き出すように叫ぶと深く一礼し、振り向くことなく外に飛び出していった。目で追う必要はない。
深く息を吐いてからこめかみから銃口を離し、銃を胸元に戻す。この命をプラウダと戦わずして散らす、それは有り得ないからな。
さて、では旅路に付き合ってもらう人を呼び出すか。そこにいる、ってことはその気なんだろうし、何よりプラウダに対しより多くの砲弾を撃ち込むには、いてくれた方がありがたい

445 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 21:00:51.44 ID:nCryEuB7O

「小山!こっちで装填やって!」

「私は足を怪我」

「嘘だろ?じゃなかったら怪我した足でアクセル踏めるものか」

「……やはりばれてましたか」

当たり前だろう。かーしまはあの頭にさらに混乱が追加されていたのか?

「なぜ残った?これは半ば私の勝手だ。生きたいなら脱出してもいいんだぞ?」

「……話し相手がいなかったら会長、暇すぎて冥土の干し芋。食べ尽くしてしまうでしょう?話し相手くらいにはなりますよ」

なかなかギザなことを言う
面白い。そこまでしてこんな私に付いてくるならば、優雅なツアープランナーになってやろう。砲弾まみれだけどな!

「フッ、よし頼んだ!片方だけで向きの変更頼む!」

「はいっ!」

「左右角は多分これで足りる!距離、もうすぐ1500!いくよ!」

「はいっ!」

小山が操縦席にてヘッツァーを緩やかに回転させる。その間に最期の挨拶をすべく、無線をIV号に繋げる


446 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 21:01:42.44 ID:nCryEuB7O


他の5輌は稜線の裏までたどり着いた。車体の向きをプラウダの戦車道部隊の方に向ける

「凄い……雪煙で向こうがほとんど見えない。まるで津波ぞな……何あれ!あんなのアリなり!」

ももがーさんが三式車内の不安を伝えてくる。ところがどっこい、審判が止めてないからアリなんだな、これが。死の接近。そう言っている間も雪煙は刻一刻と大洗側に近づく

「射撃開始の指示は出しません。各砲手当たると思ったら近い順にどんどん撃ってください」

そう、敵は幾度となく黒森峰に挑み続けた強豪。全力で、しかもこの数でぶつかってくる。恐らく捨て駒も混じっているだろう
つまりそれらが捨て駒である限り、局所的に損害を与える戦法は全く通用せず、本体含め全滅並みの大損害を与えないと引くことはしない。それに敵の車輌はT34/85が大半。外見から本隊を見分けるのは至難の技だ
今の敵までの距離は2000、もうすぐだろう

447 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 21:02:35.78 ID:nCryEuB7O


ゴマ粒から山椒の粒くらいになってきた頃、ヘッツァーの最初の1発が命中したらしく、敵の砲撃の対象は他の車輌から距離にして200メートル前方にあるヘッツァーに絞られるていた。何発もの砲撃の中ヘッツァーは確実に1輌ずつ仕留めていた

「カメさん以外の各車輌に通達。砲撃の合図は出しません。撃てると判断したら、各車砲撃を開始してください」

流石だな。相手が当てるのが下手か、走行間射撃のせいか。それらもあるが、何より会長さんが確実に当て続けているのは事実

「西住ちゃん」

「会長さん!大丈夫ですか!」

急な無線の繋がりが、敵車輌に向けられた集中を途切れさせる

「何とかね。敵が走行間射撃で助かってるよ」

話しながら狙いを定めた会長さんは砲弾を放ち続けているらしい

「でも、敵が近づいてきてる。そろそろダメっぽいね」

「そんな……」

彼女を次に持ち越す術がないことは分かりきっている。そして向こうはやる気だ。だがこの高潔でも清純でもないが最強の人物を救う手立てはないか、一瞬その思考が身体中を駆け巡る

「西住ちゃん」

「えっ?はい……」

その超特急を止めたのは、当人であった

「かーしまを逃したから、よろしく。そして私らをここまで連れてきてくれて、ありがとね」

今まで聞いたことのない、先ほどと似た声なのだが、意思、逆にこの先の全てを任せるという強引な委任が込められていた。少なくとも私が一瞬弁当に戸惑うほど

「……か、会長、こちらこそ……」

もう無線の向こうから音はしない。完全に、ヘッツァーは関係を断ち切ったのだ。これで一本の木綿クズほどの望みも消えた

「みぽりん……」

心配そうに沙織さんがこちらを見る。ためらいはあった。だが、合理的判断を下すのに3秒以上の時間はいらない

「華さん、撃てたら構わず撃ってください。優花里さん、装填早めにお願いします。数から見て、100は撃破しないと相手は引かないと思います」

「了解しました!」

448 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 21:03:16.54 ID:nCryEuB7O


「ひ、100……?え、そんなに……」

「いくらプラウダといえど、あの数全てに精鋭を乗せられるほど練度は高くありません。逆にそれだけ練度が高い人材揃いなら、黒森峰に9連敗もしないでしょう
かなりの割合で補欠や下級生、場合によってはそれ以外が乗っていると思われます。プラウダからしたら、ある程度の損害は許容範囲でしょう
しかしこちらは向こうが補欠だろうと精鋭だろうと、撃ち抜かれたら終いです。だから精鋭にダメージを与えるまで削っていくしかないんです」

「な、なるほど……」

「幸い立地的な優位は取れました。やれない訳ではないはずです。華さん、距離そろそろだと思うけど、どう?」

「はい、まもなく1500。撃ちます!」

砲尾から煙が立ち、優花里さんが次弾を素早く込める

「止まった!命中だよ!」

「次を。撃ち続けてください」

その砲撃を合図に稜線の上の全車輌が砲撃を開始する。やはり練度は低いらしく、前方に砲弾が落ちたことに驚いたのか急停車し、車輌同士がぶつかる様さえ見える

449 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 21:03:48.17 ID:nCryEuB7O


煙があちこちから上がり始めた。白いものも多いが、灰色や黒っぽいものもある。その下では何人か、私の知らない人間が死んでいる。だがそれを気にする人は、最早大洗チームにはいない。対してこちらは前方のヘッツァー含め損害なし
だが向こうにまだ200輌近く戦車が残っていることは事実。この戦場の未来は見通せない


会長さんの話で伺っていた河嶋隊長もなんとか稜線にたどり着き、倒れ込んだ姿でIV号の下にいた

「河嶋先輩!」

「……西住……か、会長が」

「レオポンチームに加わってください!通信手をお願いします!」

乗員数を満たしていないのはこれだけだ

「……分かった」

河嶋隊長は話を遮ったことには反応せず、背を向けてポルシェティーガーの方に向かう。きっとこの戦場で最も生き残り得る車輌だ

「レオポンチーム!河嶋隊長を車内に入れてあげてください!」

「分かりました!」

「全車、砲撃を続けてください!先ほどよりも接近してきています!」

450 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 21:04:28.29 ID:nCryEuB7O
undefined
451 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 21:04:56.93 ID:nCryEuB7O


「……奇跡だね。小山」

「……はい」

敵先頭部隊、1200を切らんとする。この時もヘッツァーの砲はまだ弾を撃てる状態だった。近くに着弾したり車輌をかすったりする弾はあったが、致命的な命中弾はまだ無い

「敵10輌を斃さざれば死せども死せず、と思ってやってきたけど、まさかここまで大丈夫とはね」

また1発、敵車輌の側面に食らわせてやった

「小山さ、今ならあの時の西住ちゃんの気持ち分かる気がするわ」

「何時のですか?」

話しながらも小山は淡々と75ミリ砲弾を装填する。そして直ぐに私も狙いを定めはじめる

「おっと」

しかしその間にも辺りにはあらゆる砲弾が着弾し、衝撃波を撒き散らす。全く、また少し調整が必要だ

「アンツィオの前の、西住ちゃんが自分の身はどうなっても良いから降伏した方が良いって言った時さ
あの案は呑んだら間違いなく西住ちゃんはアンツィオか黒森峰に殺されてた。まさに十死零生だね。それだけの怨恨を抱えている。きっと私たちが知りようもないほどの
それでもそれで良い、みんなが助かればいい、って西住ちゃんは言った。あれに今の我々は似ているだろ」

「なるほど、不安とか、ですか?」

「違うね、むしろ開放感っていうか興味というか、面白い感覚だね、今まで味わったことのない」

再び砲身を凄まじい振動が襲う。着弾もその後近くにあった

「おお。今のは近いね」

「本当に落ち着いてらっしゃいますね」

「昔の哲学者が人間の行動は全て死の恐怖を紛らわすため、って言ったらしいし、多分それが関係しているんじゃないかな?知らないけど」

小山が弾の後ろを拳で押し込む

「なるほど。天国への興味、といったところですか」

「はは、知らないって言ったじゃないか。あ、ちょっと右で」

それを再び放つ。やはり車輌が少し傾いていたのか、それとも歪んだのか。弾は狙った車輌のとなりの車輌の装甲に弾かれた

452 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 21:05:28.92 ID:nCryEuB7O


「くそっ」

「ま、そんな時もありますよ。次です次」

「その次があるとは……」

離れた所に着弾する砲弾のなす揺れだけが、ここには伝わる

「……ありそうだね」

「でしょう?」

次は当てた。その次も当てる余裕があったから、砲塔との隙間にねじりこませてやった。
私たちはまだ生きている。そして死に様を決められる

「小山」

「はい」

「私は、大洗だと思うんだ」

「大洗、ですか……ま、そこまでの干し芋好き、得意料理はあんこう鍋。大洗生まれで大洗女子学園に在学、おまけにそこの生徒会長となれば、大洗そのものと呼ばれても問題ないでしょうね」

「……だから、私は大洗の一員として、悔いなく死にたい」

「と、なりますと……如何なさいます?」

なんだ。ここでできる、大洗の一員と示せる証。誰も知り得ない、ただこの場の2人だけが相互に知る、微かな存在証明
あるものが、不意に頭をよぎった

「……校歌を……私らの大洗女子学園の校歌を歌って……生きていたい」

「校歌ですか。歌い終われませんよ?」

「構わない」

他に思いつかないのだ

「それじゃ、一緒に歌いましょう。私も大洗の一人として死ぬのなら本望です」

「じゃ、歌える限り歌おっか。次撃ったら始めよう」

「安全装置よし!」

「このまま歌いながら装填よろしくね!」

その次の弾は破壊された敵戦車に阻まれたが、合図になることは変わらない


453 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 21:05:59.04 ID:nCryEuB7O


♪長峯の丘に 立ち返り
茂る木々ある 古墳に至る
春のつつじに 並ぶ松
平穏大洋 眺めたり
ああ 我ら ここに集いし
若葉の都 大洗女子学園

♪涸沼の川の 水清く
昇る海流 抗い進まん
磯浜陣屋の 大筒を
向けし相手の 手を取らん
ああ 我ら 望み果てなし
睦て励まん 大洗女子学園

♪原子の母たる 科学都市
ここを離るを 怯むことなし
学の独立 その維持に
あるは学徒の 奮闘ぞ
ああ 我ら 明日を創らん
大洗女子学園 我らが母校

454 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 21:06:26.30 ID:nCryEuB7O


「まさか歌い終われるとはね……」

こちらも歌っている間数発放ったが、余程相手が下手なのかなんなのか

「良かったじゃないですか。これで真に大洗女子学園に魂もろとも染まっていると示せたのですから
しかし……流石にそろそろ時間のようですね、会長。バレー部、うさぎさんチーム、猫田さん、園さん、フリントさん、ムラカミさん、お銀さん……みんなと磯前神社で会えますよね?」

引き金を思い切り引く。小山はもう装填しようとしない

「敵距離1000。来るね、そろそろ。大丈夫、きっと会えるさ。後は任せた、先に待ってるよ、みんな。我らの母校、大洗女子学園よ永遠なれ」


戦車を跨げば稜線のある方に視線を向けた時、無慈悲にも削れていたヘッツァーの左側面を85ミリ徹甲弾が撃ち抜いた。爆煙をあげて周りの雪を溶かし続ける車輌から出るものは居なかった

455 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 21:06:55.29 ID:nCryEuB7O


第74回戦車道大会公式記録

大洗女子学園犠牲者

角谷 杏

プラウダ 砲撃死 死体損壊が激しく致命傷は不明 即死

小山 柚子

プラウダ 砲撃死 死体損壊が激しく致命傷は不明 即死

456 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 21:51:42.59 ID:U2snit8u0


大洗女子学園学園艦は茨城県東茨城郡大洗町の飛び地の扱いである。実際に大洗町役場の出張所も設置されている。しかし学生自治の観点から、統治は大洗女子学園生徒会を主体に行われている。その上で財政状況に大洗町が介入することで、一応の支配関係が構築されている
だからこそ大洗町にとっても、学園都市の廃止は人口流出による税収の大幅減を招きかねない非常事態なのである

457 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 22:53:40.37 ID:U2snit8u0
再開します




信ずる理由があるから信じているのではなくて、信じたいから信じているのだ

二葉亭四迷

458 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/10(木) 22:55:05.51 ID:U2snit8u0


「ヘッツァー撃破!」

プラウダの主力が待ち望んだ報告が耳に入った

「やっとですか……」

「ノンナ副隊長、こちらも既に30輌近く損害が……」

「ですが残骸に身を一部隠しているせいか、損害が出る速度は落ちています。あとは主力が地道に沈めるのみです。IV号とポルシェティーガー、三式に攻撃を集中させなさい」

そう、実際2校の先頭同士の距離はもう1200メートルを切ろうとしている。しかも前方にいるのは、補欠やその他かき集めた者たちを含む余り上手くない者や、戦車道に所属していてもスパイの疑いがある者を集めた部隊、やられて当然だ。損害は損害だが、目的を達する支障となる程ではない

大洗が前に気を取られて対応しているうちに、後続の精鋭部隊の射程にさえ入れば、大洗の戦車は鉄くずと化す。そして数輌の損害が出さえすれば、向こうの戦力はガタ落ちだ

古今東西30倍をひっくり返して勝った戦いは指で数えるほどしかない。勝てる、今回は指に入らない。私を含め、プラウダ戦車道の幹部層はそう信じていた

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