他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報R
更新
検索
全部
最新50
【ガルパン】 不死の感情
Check
Tweet
559 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/10/31(木) 20:44:23.04 ID:1TDhW2kZO
「そのまま進んで、次の角を左折してください」
エンジン音を立てながら市街地を進む。街中には既に事情は伝えてあるようで、街中には人は見当たらない。既に避難済みのようだ。ありがたい
御船川の森崎橋は破壊したし、レオポンさんの存在もありこれで時間は稼げた。SS歩兵師団などが来なければ……まぁ流石に本格的な投入は避けてくるだろうな。学園の対面的に考えて、ウチ相手に使ってくるとは思えん
だが時間だけだ。結局数的劣勢は揺らがないし、火力不足も変わらない。おまけにその過程で最大火力、最大装甲を持つ車輌を失ったのだ。皆も不安に思うはずだろう。それに今すぐにそれを解消することもできない
私には奇跡を願いつつ、その奇跡を活かす最善の手を打ち続けるしかない。ある一つのことを犠牲にして
「200メートル先右側が黒森峰の物資倉庫です。警備が2名しかいません。沙織さん、威嚇して追い払ってください」
戦車の上で道案内しながら向かわせたのは、黒森峰の各地に設置された物資倉庫の一つである。かといって戦車の砲弾とかが置いてあるわけではない。目的は別のものだ
「お願い!逃げて!」
沙織さんの僅かな願いとともに車内に薬莢が吐かれる。警備の2名は抵抗もなくその場から走り去った。恐らく防衛隊だろう。士気も低いし
「麻子さん止まらないで!シャッターごと突き破ってください!」
「了解」
麻子さんの操縦は全く狂うことなくそのままシャッターを押し潰し、IV号は倉庫の中に突っ込んだ。車内が大きく揺れる。だがそんな揺れでも、先ほどよりはマシだ。枠に掴まっていれば耐えられる。そのまま前方の空間を確認した上で前に進ませる
その穴に続いてIII突、B1bisと他車輌が入ってきたことを確認し、咽頭マイクに指を再び当てた
560 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/10/31(木) 20:45:43.47 ID:1TDhW2kZO
「あんこう、カバさんの人は一回集まってください」
キューポラから出て地面に飛び降りる。ぞろぞろと中から出てきたあんこうチームとカバさんチームを前に、倉庫の少し奥の方にあった一つの縦長のケースを開いた。流石は軍事バカ学園。自分たちがそうしているから、そうされた時の対策もしてやがるのだ
中には互い違いにあるものが入れられている。薄茶色のラグビーボールみたいな形の頭に同じ色の棒が組み合わさった代物、パンツァーファウストだ
「使い方を説明します」
その一つを手に取る。砲弾に比べればマシだが、鉄パイプが付いてるだけあってそこそこ重量がある
「パンツァーファウストか」
「エルヴィンさんなら使い方ご存知じゃありませんか?」
「いや、流石に本物を見るのは初めてだ」
以前の私の部屋にはコイツのレプリカが置いてあったな。確か親からの貰い物だった気がする
「じゃ、一応使い方を。基本的にこれは先の丸い部分を敵戦車に向けて放ち、これを撃破します。その為にはここの安全装置を外し、その先にあるこの穴を、弾の頂点とともに照準を合わせます
撃つ時の姿勢は大きく二つ。脇に抱えるか、肩に載せるか、です。何れにせよ発射時に後方に爆風が出るため、後ろに敵以外の人がいないことを確認してください。また胸元で狙いを定めるのもやめてください。死にます。そしたらここのレバーを押して発射します
これは使い捨てです。使い終わったら棒は放棄して、自身の車輌に戻ってくるなり、今回みたいに倉庫を襲ってもう一本手に入れるなりしてください。きっとここはすぐに代わりの兵が駐屯するでしょうから。まぁそれを倒すのもアリ、ですが」
561 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/10/31(木) 20:48:09.29 ID:1TDhW2kZO
「こんなのに戦車を倒せる威力があるの?」
「なにを仰いますか!これは独ソ末期戦におけるソ連戦車の一番の天敵でありますぞ!」
沙織さんの訝しげな目に対し、優花里さんが必死に声を張る
「誤射でとはいえヤークトティーガーを撃破したこともある、という話も聞いたことあるな。少なくともポルシェティーガーが抜けてしまった以上、重装甲の駆逐戦車とかを撃破できるのはこれくらいしかあるまい」
「へぇ……」
たしかに戦車より遥かに小さいこんなものが戦車を仕留められることに違和感を覚えるのも仕方ない。自分たちが戦車に乗って戦ってきた意味も薄れるだろう。が、現にこれより小さいであろうものにウサギさんチームは殺られているわけだ
「運用に関してですが、射程が短いため基本は隠れながら接近し、撃った後は当たろうと外れようと即座に離脱してください
説明は以上です。カモさんチームは砲が2つあるのでそのままで。あんこうとカバさんは操縦手と砲手だけ残って、他の人はこれで戦います」
「でもそうするとウチの車輌、車長とリーダー両方失うぜよ。流石にそれはまずいんじゃないぜよ?」
おりょうさんが腕を組みながら言う。確かに一理ある。どちらかならともかく、どちらもは流石に統率的にまずい
「あっ……」
「取り敢えず砲手の左衛門佐は外さないとすると……」
「私がやろうか?操縦」
エルヴィンが声をかける。この人操縦出来たっけ?
「おりょうほどではないが、1度冷泉さんに聞いたことがある」
「でも、それだけで動かせるものでは……特にIII突は砲身の自由が利きにくいですし」
「隠れればいいぜよ。余り動かなければ弊害にはならんぜよ。それに隠れるのはIII突の得意技ぜよ」
「じゃあIII突に残るのは私と左衛門佐、行くのはカエサルとおりょうでいいか?」
「御意」
「了解ぜよ」
「バベーネ(了解)」
562 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/10/31(木) 20:49:37.29 ID:1TDhW2kZO
そうして担当が決まった。天才肌の麻子さんの指導というのもあり不安ではあるが、彼女たちが納得しているならそれでいい気もする。決まった後そこから少し離れた所にある箱に目をつけた。中身を見ると、予想通りの代物である
「みぽりん、何やっているの?」
「10、11、12。よし、人数分はある」
「何がですか?」
「痛み止め」
皆の頭にクエスチョンマークが浮かんだところで、一人一つずつ小さな縦長の箱を配っていった
「これが痛み止めなのか?西住」
皆が中を見ると注射が入っている
「注射?」
「はい、これは……モルヒネです」
「モルヒネ??」
「麻薬じゃないですか??どうしてこんなものを??」
思わず沙織さんが投げ捨てようとしたのを、割れる前にキャッチすることができた
「とと……えっと、これは……安楽死用です。これからの作戦は危険で、かつ負傷する可能性があります。自分が大怪我をして死を悟るまで追い詰められた時は、それを打って痛みを和らげてください」
563 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/10/31(木) 20:50:04.75 ID:1TDhW2kZO
無言。分かってはいるが、分かりたくはないだろう
「……結構効くらしいですよ。でもその代わり、使うのは本当に死を悟った時だけにしてください!一人でも多く帰って来ましょう。それが、勝利への道です」
言葉の最後が弱々しくなってしまうな
「分かりました……」
「私たちの戦場はここです。皆さんも各地に散って、迎え撃つ準備をしてください。敵を発見次第、私が信号弾を放ちます。あ、因みにここから欲しい武器があったら持っていってください」
「はい」
皆詳しそうな優花里さんやエルヴィンの話も聞きつつ、適当に自動小銃や爆弾などを見繕っていく。仮に死にたくなくとも、武器が多いなら越したことはないことは理解しているのだろう。それか本能か
私はパンツァーファウストと追加で手榴弾のみにしておく。身軽な方が動きやすく逃げやすいし、銃は持ち替えても弾が得られなかったら意味がない。弾も持ちすぎたら動き辛いしな
そして暫くしてここからかなりの人と車輌が散っていった。そしてこの時より私は殆どの責任を投げ捨てた。このチームの人の命を出来るだけ守るという
車輌から離れた人をコントロールすることは難しい。何より私もその一人だ。勝つために。そうお題目を立てて、私はまた逃げているのかもしれない。そしてその結果、皆この敵の本拠地で命を燃やし切るのだろうか
そうはありたくない。可能性は増やしたい。だからこそ、やるだけやらせてみよう
「華さん、麻子さん。ちょっと残って頂けますか?」
564 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/10/31(木) 20:51:19.78 ID:1TDhW2kZO
黒森峰学園都市郊外 ブレスラウ地区
目下には黒森峰学園都市の主要部が一面に広がっている。周りに視界の邪魔になる物は無い。ここなら敵が攻撃を仕掛けてきても、すぐに分かるし対応できる
そしてこっちから攻撃を仕掛けなければ敵はこっちに来るしかない。エンジンを切っても問題ない。むしろ掛けていて燃料切れにでもなったら洒落にもならない。だが暫くは来ないだろう。それが分かっている者たちによる穏やかな空気が高台に漂う
「飲む?」
あるパンターに乗る者が同乗者にペットボトルを渡す。この者たちは初参戦だ
「ありがと、このまま戦わず判定勝ちなら良いのにね」
受け取ろうとした時、ティーガー2の上で双眼鏡を構えていた私がこちらを向いたことに気づいたようだ
「あ……すみません、隊長」
試合前に言われたことを思い出したらしい。確かに大洗を全滅させろ、と言ったのは私だ。仮にこれまでの大会の最中だったなら、こんな発言など許されなかったに違いない。すぐに隊長の拳が彼女たちのほおを襲ったであろ打つ
しかし私は違う。口元を緩ませ、その者を安心させようとする
「いや、お前の言う通り、これは硬式戦、会場の外に出ている奴らが反則負けで誰も死なずに優勝できるなら、それが一番いい」
それが黒森峰や西住流の方針に反していることなど分かりきっている。そうでもなければ決勝に大洗は来ていないだろう
「なんなら自衛隊が片付けてくれれば楽だったんだけどねぇ」
しかし『非常時に最上の策を取れる人間』、それが出来る人間を真っ先に殺し、人の命を部品にする硬式戦車道を快く思えなかった。その者という損害は二度と取り戻せないというのに。きっといつか、この戦いもなくなるといいのだが、私がそれを差配できるような立場になるには、まずここで勝つしかない
565 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/10/31(木) 20:51:52.98 ID:1TDhW2kZO
「ただ、こちらから入っていかないとしても、奴らがどこに潜むのかは知っておく必要があるわ。そこでルフトバッフェの出番よ。奴らに対空兵器は無いから、空から全ての動きは筒抜けよ。流石に攻撃はさせないけどね。下手な恩は与えないに限るわ」
「ルフトバッフェと言えば、朝出撃がありましたけど、何なんですかね?」
「サンダースか何かが来てスクランブルかしら?全く最近そういうの増えたわね。どーせ攻撃する気なんてないのに
まあ今回のために一機だけ貸してくれたんだから、今は試合に集中するわよ」
「は、はい」
左側前方から2つのローターが回る機体が飛んでくる。先ほどまでは偵察などをこなしていた黒森峰のフォッケ、アハゲリスFa223だ。とりあえず今後の動きさえ読めれば、あの3輌などどうにでもできる
しかしそれは構えていた双眼鏡の向こうでいきなり砕け散った。驚きで双眼鏡を目から外した後、丘の上を悲しく爆発音の波が過ぎる
「え……何?事故?」
「ま、まさか……せ、戦車砲で……飛行機を撃った?」
小島さんも小梅も、この様子には驚きを隠さない。戦車砲なんかで撃墜するのを見るのは初めてだ。そもそも戦車は上を撃つのにあまり向いていない
「ど、どうやって……」
「……ま、まだ優勢は変わらないわ。こちらに来るまで砲をあちらに向けさせたまま待機していなさい」
「……は、はい」
兎に角これでもうフォッケ、アハゲリスはない。敵情は探りにくくなった
まずいな。先ほどのしんがりを含め、段々と向こうの、いやあいつの雰囲気が呑まれている。栄光ある黒森峰の者の士気はそう簡単に落ちないとは思うが、どうにかならないものか
566 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/10/31(木) 20:54:46.23 ID:1TDhW2kZO
黒森峰学園都市中心部 ライヒ病院
「砲声……?」
白衣の看護婦が東向きの窓のカーテンをめくる。空には依然として雲が張っている
「そう言えば今日は郊外で戦車道の試合がやってましたね」
と分かれば良くあることである。別に気にすることではない
カーテンを元に戻すと、反応が返ってこないのが分かりきってる話しかける。だがこうして話している言葉も患者の耳からは入っていく。そうした刺激がこの人の脳を再び活性化させるかもしれないのだ
そして詳しいことはわからないが、それが学園に必要なこと、らしい
「確かケーブルテレビで中継もやってますよ。西住さんのお仲間も戦ってるんですよね。一緒に応援しましょう」
まず電動ベッドを動かし患者の上半身を起こす。ワゴンに手をかけながら机の上のリモコンを手に取ると、電源を入れ、慣れた操作でチャンネルを黒森峰ケーブルテレビに合わせる。患者が元気な時にやっていたことを、ここではしょっちゅう流しているから
『戦車道をこよなく愛する皆さんこんにちは。ヨーゼフ加ヶ丘です。黒森峰中央放送より、黒森峰演習場にて行われている全国高校戦車道大会の様子をお伝えいたします
試合は膠着状態に入っていますねぇ。黒森峰戦車道選抜部隊は市街地を見下ろす見晴らしの良い丘に停止したままです。選手たちは落ち着いた様子を見せています
大洗は苦しいですね。これでは側面も背後も取れません。南山さん、どう思われますか』
『そうですねぇ。両サイドも的確に塞いでますね。このままいくかもしれません』
だがここでの解説はいつも学園に有利な情報だけを伝えてきている。永らくここに身を置くうちに、そこに関しては割り切れるようになっていた
だが彼女らが今の私たちの生活を守っている。それもまた周知の出来事だった
567 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/10/31(木) 20:57:26.53 ID:1TDhW2kZO
ただ光を得た時に画面に映っていたのは、キューポラから身を乗り出すエリカと彼女の乗るティーガーII、そして一面に広がる木のない平原。緩やかに動き始めた脳が、画面のわずかな情報から状況を把握しようとし始める。
そしてかすかに残るかつての記憶、それを交えて導いたのはある戦場。それもかなり危ういもの
「……だ」
閉じていた口が粘着力を取り払い、自力で動き出す
「ダメだ……エリカ……」
彼女がアップになった画面に手が伸びる。時間はかなり経っているらしい。手を伸ばしていくのも一苦労だ
「離れるんだ……そこを……」
だがそれでも、漏れ出る言葉を止めようとは思えない
「誰か……エリカに伝えろ、アイツは……アイツはまだ、硬式戦の経験が……」
鴻門の会の樊?の如く目頭、目尻が引き裂かれんばかりに見開いた目は画面に狙いを定める。筋力が大幅に減退した腹筋、背筋を酷使し更に、更に前に手を伸ばす
「先生!西住さんが!」
看護婦はワゴンにストッパーを掛けるのも忘れて扉を叩き開けて一目散に部屋を飛び出す。だが、それよりも重大な問題がある
「……アイツは……アイツはまだ……硬式戦を、黒森峰を分かってないんだ……」
568 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/10/31(木) 20:59:04.33 ID:1TDhW2kZO
当面準備の進行に滞りはない。黒森峰の目は華さんが神業とも思える狙撃で潰したし、黒森峰が山から降りてくるようにも見えない。いやさ、やれるならと思ったけどさ、本当に空に飛んでるヘリを放物線を描く砲弾で撃ち落とすとか、マジでやれるとか誰も思わんでしょ。けしかけた私がいうのもなんだけど
狙撃を成功させた時、華さんの心の中では何か踏ん切りがついたような顔をしていたが、その心で破門も乗り越えていくのだろうか
それを戦車の上で見届けたのち、私は優花里さんと沙織さんと共に、ある建物の一室を蹴り開けて潜んでいる。やはり集団的に避難が行われているらしい。無断立ち入りのお詫びは生き残ったらするかもしれないな。生き残ったら
ここの下には御船からブレスラウ地区を経由してフリードリヒ地区へと続く主要道が通っており、その直線の先を眺めれば黒森峰の主力が山の上に収まっているのが確認できる
「西住殿」
優花里さんがその建物の一室で話しかけてきた
「はい」
窓の外を向いていたが、声を聞いて後ろを見る。2人はそれぞれパンツァーファウストを握り、顔には汗が浮かべる。気温は9度、遠軽より気温はかなり上とはいえ、息も白く変わる。その汗が塩気のある汗か、冷や汗か、脂汗か、そんなのは分からない
569 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/10/31(木) 20:59:43.34 ID:1TDhW2kZO
「本当にまだ、我々に勝ち目はあるのでしょうか?」
「そ、そうだよ。まだ強い車輌が沢山いるんでしょう?ティーガーとか」
優花里さんの癖っ毛の内向きロールの度合いや沙織さんの髪の外向き度合いがいつもより高い気がする
後ろに向けていた視線を、外の道とガラス窓が幾つも並ぶ向かいの建物に戻す。その窓もいくつかは水泡がまとわり付き、中は見えない
勝ち目?そんなことは分からない。私にできるのは勝つために最善を尽くすだけ
「分かりません。ただ、黒森峰はルール違反を犯しました。ルールを破った者は負けなければいけないと思います」
「ルール違反?え、黒森峰が?」
「黒森峰が何かやったでありますか?どちらかと言うと会場外に出たウチや、準決勝のプラウダの方が」
「いえ……この大会のルールじゃなくて……戦車道のルールですらなく……」
外に現在は変化はない。それでも警戒を怠らない。敵は黒森峰、そしてここは敵地ど真ん中である
570 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/10/31(木) 21:01:43.96 ID:1TDhW2kZO
「人道に対する罪、人類へのルール違反を黒森峰は犯して来たんです」
その警戒を区切り、目線を優花里さんの方に向ける。口は少々緩ませようとしたが、それができたかは知らない。二人は言葉を飲み込めていないらしい。まぁそうだろう。この目で現実を知るのはこの中では私だけだ
黒森峰の歩んだ道は、敵としたものの未来を潰して潰して潰し続けることだった。その結果、自分たちの未来が潰れそうになるとも知らず。国の前に学園だった愚かな者たちの、崩壊の足音、それが来ていると信じた
「一つだけ確実なことがあります。黒森峰が再び戦車道に君臨することを、誰も望んでいないということです」
黒森峰は既にサンダース、プラウダという二強を敵に回している。私としてはそこにつけ込む機会を狙うしかない。その奇跡が再び私に微笑まんことを
571 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/10/31(木) 21:03:21.47 ID:1TDhW2kZO
〜
与党日本民主党は55年体制における保守合同ののち、連立の如何はあれども、ほぼ一貫して政権与党の座を占めていた。1985年以降、学園艦の原子力エンジンの老朽化により、内需拡大の名の下進められた学園艦移設計画によって誕生した地上の学園都市は、その以前と変わらず日本民主党の大きな支持母体であった。(但し日本教職員連盟などの内部組織はその限りではない)。何より地方では都市そのものが一つの選挙区であることもあったため、日本民主党としては繋ぎ止めておきたい母体だった。実際に政府は学園都市の自治に表立って介入するのを避け続けた
かのプラウダでさえ積極的にではなかったが、その関与があるのは青森県の選出議員のほぼ全てが日本民主党の公認候補である点からも明らかだろう
政府は学園都市の自治を保証する代わりに、学園都市は政権を支持する。この相互利益のある関係は2009年まで安定していた
〜
572 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/10/31(木) 22:45:40.93 ID:mBkQ6ajr0
忘れてたけど今日はここまでです
また日曜日
573 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/03(日) 22:17:15.90 ID:SZXzOB5IO
〜
永遠の平和など夢にすぎない。しかも決して美しくない夢である。戦争とは神の世界秩序の一環である。戦争においてこそ人間の最も高貴な美徳、勇気、自己否定、命をかける義務心や犠牲心が育まれる。もし戦争がなかったら世界は唯物主義の中で腐敗していくであろう
大モルトケ
〜
574 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/03(日) 22:18:27.66 ID:SZXzOB5IO
どんよりとしていた雲に隙間が見える
「日が差してきたわね。天気も回復しそう」
手をかざし日光を遮りつつ天使の階段を眺める。やっとか。こんな天気じゃこちらの士気にも暗い影を落としかねなかったし、このぐらいがちょうどいい。しかし奴らも動かんな。流石に圧倒的な火力の前に死ぬ気はないらしい
だが動かなくてどうする?敵地の真ん中だ。補給だってまともにできやしない。食事も、水も、燃料も、寝床も、こちらには与えられる。此方が求めれば存分にだ
だがお前らはどうだ?刻一刻と減る燃料に奪った飯と水と寝床。仮にもついこの前まで普通の乙女だった者たちにその罪悪感を上乗せする。お前は大丈夫だろうが、他の者たちは果たしていつまでまともでいられるかな?
「ねえ、何か音がしない?」
少し気分良く伸びをしている合間に、近くにいた者が辺りを見回す。確かに私にもハエが飛び回るような音が耳に入るが、この周りに虫はいない。それが天使の階段の入り口に向くと、そこにいたのは黒い点の集まりだった
「あれ……飛行機だ」
「凄い数」
その点は近づくと横に広がる。この世にあんな遠くであれだけの大きさに見えるものは、しかもあれだけの数が揃うのはいくつかしかない
「ルフトバッフェの帰還?それとも誰か偵察の増援頼んだ?ちょっと本部に問い合わせてみなさい」
575 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/03(日) 22:19:05.15 ID:SZXzOB5IO
「隊長??」
近くにいて双眼鏡で空を眺めていた者が急に絶叫する。目は見開かれ、周りにツバが飛ぶのも気にする様子もない
「何よ?確認取れたの?」
「P47!サンダースのヤークトボンバーです!」
「なっ!」
素早く双眼鏡を構える。遠くに見える機体の中で一番手前の一番大きな機体の側面にあったのは、小さく見える青い星
間違いなくサンダースだ。そしてスクランブルした機体は帰ってきていない
だとしたら目標は……我々。それを妨げるもの、なし
「そ、総員緊急乗車!エンジン始動!回避急げ!大至急隠れなさい!」
ティーガーIIのキューポラに滑り込む。伝えるべきことは山ほどある。対空避難なんてどうやるか知らないが、とりあえず見られなければいいとは知っている
「ど、どこへ……」
しかしここは木一本もない平原、隠れる場所なぞある訳ない。更に今は冬、エンジンが温まり移動を開始できるまで少なくとも20分はかかる。あと15分もすれば爆撃が開始されるだろう
くそっ、しかも後方もしばらく平地。あのポルシェティーガーを撃破した場所も平地だ。つまり身を隠せる一番近くの場所は、ところどころにあるポツンと立つ木か、市街地か。
どちらにいくか。答えは一つしかない
そう、一つしかない
「兎に角市街地に急ぎなさい!温まりが微妙でもいいから!動けたらどんどん動きなさい!」
576 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/03(日) 22:19:43.79 ID:SZXzOB5IO
「に、西住殿!黒森峰のいるあたりに爆撃がッ!」
窓の外から丘を眺めていた優花里さんが声をあげる
「機体は?」
「えっと……恐らくP47、ですな。この辺りで、となればやはりサンダースでしょう」
「ふむ、サンダースが来ましたか。そうですか……サンダースが」
言葉を口から零すと座り込みを深くし、顔の汗を拭う
「良かった……なんとか時間を引き伸ばせば、終了までにきっと何か動きがあると思っていました」
「え、みぽりん知ってたの?」
「に、西住殿はこの事態を読んでいらっしゃったのですか?」
2つ目の奇跡が叶った。これが勝利には欠かせない
「まさか。運ですよ、運」
「……先ほどの自衛隊の件といい、西住殿は豪運をお持ちですな」
本当だな
「え、じゃあ本当に勝てるかもしれないの?」
「さぁ、そこまでは……」
「あれ、外から何か音が……」
上空から鋭く風を切る音がする。優花里さんが窓に這い寄って身を乗り出す。空には何十本もの煙の筋が縦に登る。灰色の空でもよく見える、さらに灰色の筋
「えっ?こ、これは」
その音が気持ちの良いもののはずがない。あの森を焼き払い、黒森峰のかつての同胞を死なせた音だ。だがこれまた幸運の証であるのだから、なんとも反応し難い。できることは一つだけ
「優花里さん、危ない!」
「うわっ」
窓際にいた優花里さんの服の首元と沙織さんの袖を引き寄せ、その手を握る。二人とも驚いたようだが、とにかくそばに座ってくれた。三人の手が多層的に組み合わさり、この冬に貴重な熱をもたらす
「さあ、一緒に信じましょう」
「えっ?」
「この建物に砲弾が命中しないことを」
577 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/03(日) 22:21:17.30 ID:SZXzOB5IO
黒森峰学園都市南部 ドレスデン地区
ここには大量の学生が集まっていた。ちゃんと15歳から18歳までの高校生である。高校戦車道大会の要綱に違反する部分はない
だが彼らは黒森峰の者たちではない。いやむしろ、彼らを憎んで憎んで憎み続けている者たちである
「撃て撃て、撃ちまくれ!ファシストの街を火の海と化し灰になるまで焼き尽くせ!今こそ虐殺された生徒や父兄の恨みを晴らし、同志カチューシャの仇を討つ時だ!」
プラウダ防衛隊学園駐屯部隊隊長という長い肩書きを引きさげたソホフ=コーネフが、軍服に身を包み、入ってくる情報を捌きつつ、命令を出す。プラウダ本土から用意した30輌のカチューシャが、大量の煙を吐きながらその名の者の恨みを晴らすが如く黒森峰学園都市を襲う
「向きは大丈夫か、セルゲイ」
「全て黒森峰学園都市中心部及び南部を狙っています」
テントの出口に向けて双眼鏡を向けつつ、参謀のセルゲイに確認を繰り返す
「連盟に確認は?」
「問題ありません。学園側が厳重に手配済みだそうで」
「そうか。突撃部隊の攻撃準備は」
「問題ありません。指示一つで黒森峰を粉砕出来ます!」
セルゲイは拳を胸元で振り上げる。こちらはソホフより声が低い。この場にいるとそう思うかもしれないが、軍楽隊にいた時はテナーのセカンドだった
578 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/03(日) 22:21:47.82 ID:SZXzOB5IO
「しかし……本隊はともかく奴ら、本当に大丈夫なのか?そもそも軍属ですからないし、命令云々ではないかもしれんが……」
「今のところは大人しくしてますな、今のところは。まぁ、餌には食いついてますよ」
「だろうな。まぁ、同志カチューシャの指示だ。お隠れになっているとしても、逆らうわけにはいかんしな」
「今後を考えますと、それが宜しいかと」
「狙撃隊は?」
「ヴァレリーに無線を」
セルゲイが呼ぶと、別の者が無線機を持ってくる。それのダイヤルを素早く合わせ、声を掛ける。ケータイが使えないとこういうのが厄介だ
「こちらソホフ、どんくらい済んだか、ヴァレリー」
「……もういない。橋は確保できた」
帰ってくるのは暗く小さな声だ。なにか前髪で顔が隠れている姿を想像させる
「……風がなさ過ぎて面白くない。スコープで真ん中にやって当たるとかつまらんこと限りない」
「流石言うことが違うな。それじゃ確認の為一人残って、他はこっちに帰って来てくれ」
「……ダー。俺が残る。時が来たら教えろ」
「分かった。全く、お前は敬語が使えないのかい」
「狙撃の腕で勝ってから言え」
「お前に勝てる奴がおるか!」
そう言うと無線機を元に戻した。配下の者は素早くそれを持って戻って行く
579 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/03(日) 22:22:21.68 ID:SZXzOB5IO
「……ヴァレリーには軽いんですね」
セルゲイが少し気分悪そうに言う
「彼奴の腕は信頼できるけどな、彼奴の性格的にあれくらいで付き合わんともたん。ありゃあ現場向きだ。下士官が精一杯だろうよ」
「でしょうな。ま、技術が一級品だからこれからも重宝されるでしょうがね」
「しかし……いいものだな」
「この光景がですか?まぁ、間違いないでしょうな。全ての恨みごと燃え尽きて仕舞えばいいのですが」
二人揃ってトーンを落として笑い合う
「隊長」
「どうした?」
先程の配下の者が落ち着いた様子でソホフを呼びに来た
「同志クラーラから無線です。無線所へ」
「同志クラーラからか」
「時の確認ですかな?」
「だろうな。分かった。今行く」
構えていた双眼鏡から目を外し、それをポケットに入れて布で囲まれた無線所へ向かう
580 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/03(日) 22:23:08.53 ID:SZXzOB5IO
入り口の布を払うと、大きな機械が机を占拠している。無線士から手渡されたマイクを受け取る
「こちらソホフ。如何なさいましたか、プラウダ戦車隊常務監督官様?」
「作戦開始時刻に関してです。あと、その呼び方お辞めになって頂けますか。今はプラウダ戦車隊臨時隊長です」
「では臨時隊長、開始時刻は、確か向こうが10分後をめどに引き上げ、我々が15分後には撃ち終わるので、20分後でお願いします。我々も其方に敵の目が向いたあと全軍で向かいます。学園の為に偉大なる戦果を!」
「それでは同志マリア、ヨシコ、アレクサンドラ、リツにもその様に伝えておきますわ。それにしても……貴方がたまで出てくるとは、もはやこれは戦車道と言えるのでしょうか?」
「我々は武装偵察隊ですから、ルール的には問題はありません。それにこれはほぼ戦争と言って差し支えないと思います。憎っくき黒森峰を殲滅する、ね
しっかし、日本語まで流暢な同志クラーラにはかないませんな。私どうも日本語の発音は苦手なもので。伝達、よろしくお願いします」
「プラウダ、ウラー!」
「プラウダ、ウラー!」
無線に向かって敬礼すると、またマイクを掛け口に掛ける。その下に一人、布越しに頭だけさしてくる者がいた
「隊長、そろそろカチューシャが無くなります」
「次は122ミリカノン砲用意!構わず全弾市街中心部に撃ちこめ!3分以内にだ!」
「ダー!」
581 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/03(日) 22:23:45.72 ID:SZXzOB5IO
「5号車、応答ありません!」
「8号車、エンジンに被弾で走行不能!脱出します!」
悲惨だ。辺りは投下された爆弾による煙が立ち登り、さらに新たな爆弾が次々と黒森峰選抜戦車隊を襲う。何とか走らせ市街地に急行しているが、そこに向かっている間にも一輌、また一輌と餌食になってゆく
「ぎゃぁぁ!」
先程脱出した8号車の者たちに機銃掃射が縦一列に攻めかかり一人その餌食になる。しかし私の車輌も、他の車輌とその乗員を気にするほどの余裕はない
「後ろに付かれたわ!ターンして回避!御船川は空気抜きコックを閉じた後、上流部から突っ込みなさい!そんなに深くないからこれでいけるはずよ!頑張って!市街はもうすぐだから!」
操縦手は左右に車輌を振らせる。顎の下から垂れる汗を拭う気も起こらない
「とにかく逃げなさい!くそっ、サンダースの航空隊がここにいるのに、ルフトバッフェは何をやっているの!」
黒森峰戦車隊は出発前に5輌、川までの移動中に4輌、川縁や川の中で2輌の戦車がそれぞれ走行不能となった。そして私の頭の中では悪魔に近い顔をしたあいつが口角を上げて語りかけてくる
ようこそ、私のいる場所へ
582 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/03(日) 22:24:39.65 ID:SZXzOB5IO
そうせざるを得ないとはいえ、まんまと乗せられていることは分かっている。仮にこれすらも予測していた、いや計画に組み込んでいたのなら、とんだ化け物だ。黒森峰のために、奴だけは殺さねばならない。たとえ私の命が引き換えだとしても
黒森峰戦車隊が市街地に入った頃を皮切りにサンダース航空隊は長崎の方を目指して撤退を開始し始めた。音が遠くなる。やっと……当面の危機は去った
しかしサンダースめ。直接ウチの戦車隊を攻撃するとは、何を考えている。いくら戦車道の枠内とはいえ、こちらを完全に敵に回すことは避けられない。だが協定のおかげで海軍力で黒森峰は優位にある。上陸はできまい。対立に意味はないはずだ
何を考えている?
583 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/03(日) 22:25:07.14 ID:SZXzOB5IO
黒森峰学園都市コットブス地区 試合会場外の一角
「まさかサンダースが介入するなんて……あそこは反硬式で対外不干渉を主張していませんでしたか?ダージリン様」
黒森峰市街地から縦に太く登る煙を眺めながらオレンジペコは話しかける。ダージリンはこんな状況でもその煙をも添えて優雅に紅茶を嗜んでいる
「大概お題目は何かを隠す蓋でしかありません。それに言ったでしょう、熊と象が来ると。これで黒森峰は最悪でも戦車道の覇者に返り咲くのは難しくなりましたわね」
「それは此れ程の被害を受けたら仕方ないでしょう。市街地中心部も被害を受けているようですし、都市の復旧と機甲師団の復活を両方できる力はさすがの黒森峰にもありませんでしょうから」
ダージリンは紅茶を更に一口飲む
「それにしてもみほさんは凄いわね。今までの敵を友達にしてしまうなんて」
「友達とは違うと思います、ダージリン様」
「変わりませんわ。みほさんを、みほさんの奮闘を信じているからこそ、熊と象は此処に来ているのですから」
「……あの、そう言えば熊は分かりますけど、なんでサンダースが象なんですか?」
ダージリンは紅茶を飲もうとした手を止める。そしてすぐにほおを緩め直す
「あらペコ、ご存知ありませんの?現在のサンダースの学園長の愛善はサンダース共和党出身ですわよ。貴女はどうやら世界史の他に日本の学園都市の政治体系についても学んだ方が良さそうですわね」
すぐにカップを空にした
584 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/03(日) 22:27:55.75 ID:SZXzOB5IO
何とか川を渡り、市街地に入った時、市街地はすでに窓が割れ、火の手が上がり、廃墟と化した建物の群れだった。市街地の状況に思わず絶句するほかない
サンダース航空隊は戦車隊だけでなく市街地南部も縦横無尽に焼き払う。最早黒森峰学園都市南部は復旧に数年かかるだろう、と思える、いやそう予測できるくらいの被害を受けていた
「7号車応答ありません。8号車応答ありません。10号車応答ありません。11号車……」
先程から通信手が伝えてくるのは、応答なしの無限ループだけ。聞き飽きてはならないものだと分かっていても、流石に聞き飽きる
「もういいわ。誰が残ってるか、応答した車長名を言いなさい」
「赤星、小島、国末、江賀、宮内です」
幸いティーガーIIは共に生き残った様だ。あとはヤークトパンターとパンター2輌、そしてティーガーI。頼れる人間が残ったのは幸いだが、駆逐戦車はほぼ壊滅した
まずいな。火力は落ちたし、本格的に黒森峰の各車輌には恐怖と不安が山積し、溢れようとし始めている
「これは……いくら硬式戦とはいえ市街まで攻撃するとは異常よ」
火事が頻発しているように見受けられるが、響くサイレンは軍事目的の訓練でしか聞いたことのないもののみ。住民の避難は住んでいるようだが、そうだとしても火が消えたら即座にゴーストタウンと化す気配を醸し出している
585 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/03(日) 22:28:34.23 ID:SZXzOB5IO
そんな煙の街の中に直立する審判は、無表情で2本の旗を共に下げている。ただ己がそうあるべき姿を示し、職務を遂行している
「試合は、まだ継続しているようね」
残念なのはこの爆撃で大洗が全滅しなかったことだ。せっかくこんなところにやって来やがったのだから、巻き込まれて仕舞えば楽だったのに
「エリカ隊長、無線です。学園からです」
「誰から?」
通信手からの報告を聞いて、すぐに無線を繋ぐ
「逸見くん、こちら狩出だ」
「か、狩出教官。如何なさいましたか?」
何故、学園ナンバー3、学園教育統括部長のここまでの方が私に……
「ふふ、私だったことが驚きかね?まあ細々したことはいい。其方に偵察部隊としてSS歩兵師団から3個小隊を送った。無線機と拳銃しか持たせてないが、使ってくれ
学園長からはこのような形をとってでも大洗をできるだけ早く撃滅するように、との指示が出た。これを完遂するように」
「……はっ!学園長から直々にお言葉を賜るなど、この上なき名誉!選抜戦車隊隊長として間違いなく成し遂げます!」
「そうか、それはなによりだ。私からは一つ、早く戦車道を終わらせろ。ハイルフューラー(学園長万歳)」
「ハイルフューラー!」
無線を切らせる。間を置かずに今度は各車輌全てに繋げさせた
586 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/03(日) 22:29:28.57 ID:SZXzOB5IO
「諸君」
一度息を吸い、深く吐き出した
「私は途方も無い犠牲を出した黒森峰女学園戦車隊隊長としてここにいるわ。きっと歴代でも最大クラスね。殲滅戦っていう条件が付いても
でも試合は終わってない。旗は両手とも上がった状態ではないわ。だから戦わなきゃいけない。今回の被害について悩むのも恨むのも……後にしなさい
先程狩出学園教育統括部長殿より連絡があり、学園長直々にお言葉を賜ったわ
『一刻も早く大洗を撃滅せよ』とね
その上この状況を考慮なさり、偵察員としてSS歩兵師団より小隊を投入して頂いたわ。ここまで学園長直々に御配慮頂いた上でその命を満たせぬとあらば、これは戦車道末代までの恥よ!
だからこそ……ここで叩き潰すのよ、大洗を、西住みほを。あの女は厄介。生かしておけば黒森峰に100年の災いをもたらすわ。だから……必ず殺しなさい。戦車ごとでも、一人だけでもいいから
総員前進。ルール通り大洗を殲滅せよ!」
587 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/03(日) 22:30:25.51 ID:SZXzOB5IO
〜
黒森峰女学園学園長賛歌
『神よ我らの総統を祝福せよ』
黒森峰 黒森峰よ 日本の学園を統率せよ
気高く賢人たる 総統を我らは敬愛す
犬伏から田代まで 杉堂から寒野まで
神よ総統を祝福せよ 我らの良き総統等良を
神よ総統を祝福せよ 黒森峰の名と共に
整然と行進し 勝利と実りを輝かそう
総統は我らに恵みを与え 幸運へと導かれん
輝く草原と緑の山は 淑女を育て給う
神よ総統を護り給え 我らの良き総統等良を
神よ総統を護り給え 黒森峰の名と共に
正義と堅実と忠誠を 母なる黒森峰の為に
その手を我らは掲げ 姉妹の如く協力す
この大地と我らの博愛 繁栄の証であれ
神よ総統と共にあれ 我らの良き総統等良を
神よ総統と共にあれ 黒森峰の名と共に
神よ総統を祝福せよ 我らの良き総統等良を
神よ総統を祝福せよ 黒森峰の名と共に
〜
588 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/03(日) 22:30:57.46 ID:SZXzOB5IO
今日はここまでです
589 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 20:47:08.49 ID:rYNwkNdDO
2050から始めます
590 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 20:50:05.72 ID:rYNwkNdDO
〜
怪しいところは、弾丸をぶちこめ
エルヴィン・ロンメル
〜
591 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 20:50:37.97 ID:rYNwkNdDO
路地の隙間からドイツ戦車が通り過ぎるのが見える。あの後一個後ろの建物に場所を移しておいてよかった。先ほどの建物、近くに砲弾が当たったのか瓦礫が落ちてきていたし
「来ました。5輌……6輌です。ティーガーIIやパンターはいますが、マウスやヤークトティーガーなどは見当たりませんね……
黒森峰は3分の1以下に減っています。奥の通りに2輌向かいます。優花里さんと沙織さんは例のポイントに移動してください」
双眼鏡で一輌一輌確認しながら優花里さんと沙織さんに指示を出す。減ったか。予想の範疇内で減ったな。もっと減ってくれればそれはそれで楽だが、その分学園からの支援がプラスされそうだしな……こんなものか
「はい。西住殿、御武運を!」
「みぽりん、気をつけてね!」
二人はそれを聞き、パンツァーファウストと幾らかの荷物を抱えて部屋から走って出ていった
さて、動く時か。この戦いのために皆が奮闘してくれることを期待しよう。自動小銃を肩にかけ、倉庫から持ってきた小さな拳銃に少し大きめの弾を装填し、空に打ち上げる。軽い音とともに、弾の周囲に煙が撒き散らされる
信号弾白。黒森峰来襲の合図だ。そしてそれを確認し、私もすぐに建物の闇に消える
592 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 20:51:11.97 ID:rYNwkNdDO
黒森峰残り6輌、それは優花里に勝利への希望を抱かせるには十分だ。20輌と比べれば数はかなりマシ。さらにマウスなどの重戦車もかなり減っている
損害比率で言えばこちらが圧倒的に優位。さらにはパンツァーファウストのお陰で敵の装甲の硬い車輌だって撃破できる
その期待感に少し気分が昂った状態で、沙織と別れ言われた地点の建物の扉を開こうとする。するとその扉は触れる前にすっと奥に開いた。自動ではなかったが
「あ」
「あ」
開いた入り口の向こうにいたのは黒森峰の服を着た者。その者と同じような表情で同じ言葉を同時に発していた。二人の目はあったまま動かない。銃を構えようとも思ったが、身体がそうしたがらない
無言の空白が少しの時間を吸収すると、優花里は半身になり、右腕を入り口とは逆に向ける。流石によく知らぬ人間を直接、即座に殺す勇気はなかった
「あ……ど、どうぞであります」
「ああ、すみません」
目立った混乱もなくその者は一礼し、背中に無線機を背負って、長いアンテナを空に伸ばした状態で前を通っていった。その人に背を向けて続いてくぐろうとすると、たどたどしく後ろから声が掛かる
「あの……パンツァーファウストなんて使うんですか?」
「そちらは無線機でこちらの居場所を教えるのでありますか?」
不気味だと言わんばかりの様子で話し掛けたその者に、すました顔で返す。この場が真に『なんでもあり』だと知っているならば、この質問は愚問だ。殺すのは早い。されど音で気づかれ、建物ごと崩されては助かるとは思えない
何よりこの服はSS。彼女は歩兵師団の可能性が高い。タイマンでこちらから仕掛けても負けるかもしれない
再び目線を合わせたが、先程より遥かに短い時間で、走って各々の行くべき場所に向かった。次にまた出会わないことを願いつつ
そしてその後建物のドアを隣も含めていくつか蹴破ってから、窓際であたりをさっと確認し終えた時、いつのまにか自分が殺さない理由を考えていることに気づいた
593 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 20:51:51.80 ID:rYNwkNdDO
「エリカ隊長、SS歩兵師団第4部隊第2小隊の者より無線です」
「分かったわ」
通信手がこちらに話を振ってきた。件の歩兵師団の者たちだろう
「こちら戦車道選抜隊長代行、逸見曹長」
「こちらSS歩兵師団の観測隊の吉崎軍曹です。本日は……」
「吉崎軍曹、挨拶はいらないわ。情報を持ってきなさい」
下手な話をする時間はない。情報面で優位に立ち、出来るだけ早く叩く
「は、では早速。大洗のIV号がそちらの前から500メートルの所を通過しています。あと戦車猟兵が各地で数名確認されています。注意してください」
「了解。情報に感謝するわ」
戦車猟兵。全く、厄介なものを投入してきたわね。ちっこいけど盾はない。けどこの場では建物そのものが盾になり得る
「そちらでも可能なら掃討をお願いできるかしら?」
「……まぁ、ここは戦車道の会場外ですから、連盟への説明は可能だと聞いています。しかし偵察を主眼においているため、身軽であるためにそんなに武装していないことをご理解お願いします」
「……まぁ、しょうがないわね。よろしく頼むわ」
外からの無線を切り、各車の車長に繋ぎ直す
「各車に通達する。敵には戦車猟兵が確認されているわ。見つけ次第躊躇なく機銃で蹂躙しなさい。その躊躇が死に繋がるわ。それとIV号が近くに確認されたわ。西住みほも近くにいる可能性が高いから、各車注意を怠らないように!」
「ヤヴォール!」
その返事の強さに少し安心したが、先ほどの一つの言葉が私の心に突き刺さる
戦車道の会場外だから、直接関係しない者たちもいて問題ない
そういうことだろう
何故だ。なんで言葉の前置きなんかに引っかかる。大した意味はあるまいに
「どうなさいました?」
言われるまで装填手がこちらを見ていたことにも気づかなかった
「何でもないわ。ただ……そうね。この戦いの先を見据えたかっただけよ」
適当にそう返した
594 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 20:53:54.16 ID:rYNwkNdDO
次の通信まで余分な時間はなかった
「IV号発見!前を横切り左へ向かっています!側面が……」
発見した国末の乗るパンターの砲身が、大洗IV号を狙うべく砲塔を回転させ始める
「待ちなさい!砲塔で追わないで!」
叫んで後輩を制止させる。とりあえずすぐに停止してくれて助かった。士気は高いが、冷静さも一応は持ち合わせている
西住みほほどの女がそんな容易に姿を見せるはずがない。彼女たちは先に着いている。この地形を利用して待ち伏せなどをしているのが普通だろう
「敵はこちらの側面を取りたいはず。誘導だとすると……おそらく二時方向の路地に待ち伏せがいるはずよ。宮内、回り込んで確認してくれる?」
「ヤヴォール」
狙おうとしていパンターの後ろを左へ曲がり、土煙を上げて言われた方向に進む
「私は万一気づかれて脱出しようとしていた際に備え宮内の救援に向かう!他車輌は周囲を警戒しつつ先程のIV号を追撃用意。三突が近くにいる可能性もあるし、場合によっては宮内と包囲殲滅してやるわ」
「ヤヴォール!」
595 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 20:54:43.59 ID:rYNwkNdDO
そして周囲を見渡しながら速度を落として進んでいると、結果はすぐについてきた
「2時方向の裏にB1bis発見!」
「報告する間があったら撃ちなさい!」
すぐにイヤホンを外し、砲声を確認。確かに言われた通りの場所にいたらしい
私たちの車輌がその場所に近づいた時に見えたのは、燃え盛る敵車輌だけだった。嘘偽りはない
「B1bis撃破炎上!キューポラから1人脱出して隠れていますが、もう一発撃ちますか?」
「いや、炎上している車輌にいたなら、まともに動けるはずがないわ。戦車猟兵を呼び寄せたら面倒だし
何も持っていないようなら放っておき、戦車の撃破を優先しなさい。ルール上それで構わないしね。よくやったわ、宮内」
B1bisはいつまでも火までも吹いて、轟々と燃え盛っていた
596 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 20:55:21.30 ID:rYNwkNdDO
第74回戦車道大会公式記録
大洗女子学園犠牲者
後藤 モヨ子
黒森峰 砲撃死 死体損壊が激しく死因は不明 即死
金春 希美
黒森峰 砲撃死 死体損壊が激しく死因は不明 即死
597 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 20:55:56.18 ID:rYNwkNdDO
「宮内は私とともに、一本奥の路地からこちらに近づいてきているであろうIV号を探索し、追跡しなさい!」
「ヤヴォール!」
宮内の乗るパンターは道から段差を降り、枝を踏み折って、先を行こうとする
その時、二本の白い筋がそのパンターを狙った。その内一つが見事にパンターの左側面に命中する。命中されたパンターは爆風を受け、みるみる炎に包まれる。
「宮内!」
叫んでも何も変わらない。猟兵がいたか!
「やった!カエサルの一発当たったぜよ!」
「賽は投げられた!」
炎の音に混じって声がしたが、きっと即座にその場を離れているだろう。装備は……パンツァーファウストか……
「クッ!」
一瞬の油断だろうか、その時を確実に狙われた。目の前で撃破された事に焦っているのが、心臓の鼓動を通して体を揺らす
「エリカさん……追跡しますか?」
「……ねぇ、パンツァーファウストって何本も持ち歩けるものかしら?」
「いえ。そこそこ重量ありますし、それはないかと……」
「なら車輌の撃破を優先するわ。IV号の後を追いなさい
各車ともに連携を密に!敵は残り2輌、5対2よ!猟兵に気をつけなさい!数はそんなにいないだろうから、機銃の残弾は考えなくていいわ!」
咽頭マイクを掴んで叫んだ。どこだ。猟兵はあと何人いる?
598 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 20:56:37.54 ID:rYNwkNdDO
道の角で通りの向こうを伺っていた。特に異変はない。いや。異変はあるが敵ではない
「ねえゆかりん戻らない?あそこにいれば敵来ないみたいだし……」
一緒にいる武部殿が不安げな顔で尋ねてくる
「試合自体は全車輌撃破されたら負けですし、ここは黒森峰学園都市のど真ん中。見つかって最後に殺られるだけであります。味方が残っていて少しでも勝ち目がある内に合流しないといけません」
路上とその周りを再度確認する。燻る煙の臭いを払いつつ、銃の引き金に指をかけておく。もし居たら引けるのか、それは別の問題だ
「それに敵は偵察を投入しています。こちらが不利なのは火を見るより明らかであります。急がなければ」
「て、偵察ってしていいの?」
「偵察行為そのものは禁止されておりません。ただ、さっき会った人は大丈夫でしたが他の偵察の人が武装している可能性があります。黒森峰ならやりかねません
どうやらここにはいないみたいでありますな。行きましょう」
先に道へと飛び出すと、慌てて武部殿も続く
市街地に着いてから不思議に思っていたが、この付近、いや市街地のあちこちに、簡易的ながら塹壕のようなものが張り巡らされている。何かの準備かと思われたが、ちょうどいいので気にせず身を隠しながら移動するのに使った。しかし地上に比べて足場が安定しておらず、後ろの武部殿が時折つまづく
近くに爆撃に巻き込まれたのだろうか、足の関節が変な形に曲がった審判の遺体が転がっている。審判の立場を侵す行為が咎められるスポーツなど、寡聞にして知らない
これが本当に試合なのか、それともほかの何か……自分が好きな戦車を生み出した戦争、というものなのか
「ひいぃ、もうイケメンもお金持ちもいりません。生きてお家に帰してください……」
目に涙を浮かべながらついてくる。生きて帰るために死の危険に身を晒す、皮肉な環境に私たちはいる。その比較対象は兎も角
?
599 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 20:57:31.41 ID:rYNwkNdDO
?
コンビニがあった。今はもう運営能力はない。ただ店内に突っ込んだIII突の75ミリ長砲身が、その先にある交差点を指向している
「そうだ、よーしそのまま出てこい」
ティーガーIIの砲身と足元の一部が二枚の鏡を経てエルヴィンの視界に入る
「何を躊躇している。さっさと出て来い。横っ腹にタングステンを撃ち込んでやる」
砲隊鏡から額からの汗を止めずに?に流しつつ、手でそれを動かぬよう握りしめてその時を待つ
「もうちょっとだ……完全に出てくれさえすれば……」
しかしその見えた砲身が見える範囲は、急に短くなってしまった
「あ、クソ!下がりやがった」
しかしその下がったあとの車輌は凄まじかった。まず左に45度超信地旋回し、少し進んだ先で今度は右に90度超信地旋回したのだ。足回りの負担は尋常じゃないだろうが、そこから角にあった建物に身を擦り付けるようにして側面を守りつつ角を曲がり、やっと右折した
その機動はまさに見事。敵であるエルヴィンたちも何もできずに見とれているくらいであった
「……チッ!」
「エルヴィン、気付かれたのか!」
驚くのも無理はない。向こうからこちらは見えてない筈なのだから。だがこちらに砲塔を向け、近づいてきている。なら答えは一つ
「構うもんか、ゼロ距離だ!撃て左衛門佐!」
距離は短い。200メートルもあるかないかだ。左衛門佐が引き金を引くと、車輌は反動で大きく下がろうとし、店内から煙が吐き出される。それだけでなくIII突は砲が低位置にあるため、砲撃により地上から土煙が舞い上がる
600 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 20:58:50.06 ID:rYNwkNdDO
「当たった!」
「殺ったか!」
「分からん!」
敵は弾とともに土煙の向こうに消えた
「もう1発、照準そのまま撃てッ!」
「定めなき浮世にて候へば、一発先は知らざる事に候!」
左衛門佐はエルヴィンによる装填が確認され次第、即座に引き金を引いた。轟音と共に車内に薬莢が排出される
「次ッ!殺るまで何発でもだ!」
エルヴィンは75ミリ砲弾を掴み、その後ろを拳で砲尾に押し込む
「3発目!」
車内の揺れで頭に載せた帽子とゴーグルがずれるが、大した事ではない。次の砲弾を装填する
「4発目!」
地面を這うように行く砲弾は土を巻き上げる。エルヴィンは次の5発目の装填に移ろうとする。しかし敵は土煙を掻き分け、やっと彼女らの目の前に姿を見せた
茫然とするしかなかった。今まで何事もなかったかの如く、堂々と彼女ら目指して前進していた。車輌正面には四つの凹みというか擦り傷というか、がついているだけである。何度も砲隊鏡を眺めるが、変わらない
「やっぱり、キングタイガーはモノが違う」
不思議と口角が上がる。しかしその逆説的に至福の時間は長くは残されていなかった
間も無くティーガー2の砲身がIII突をゼロ距離で狙う。今までの音よりはるかに大きく、低い音が響く
正面右側に垂直に命中した88ミリを止められる筈がない。寧ろ後ろのガソリンエンジンまで撃ち抜かれたのだろうか、コンビニは一瞬の内に炎に包まれ、III突と共に丸ごと焼き尽くした
そのコンビニ跡前を左折し、ティーガーIIは悠々とその重い車輌を走らせていった
601 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 21:00:39.54 ID:rYNwkNdDO
第74回戦車道大会公式記録
大洗女子学園犠牲者
松本 里子
黒森峰 砲撃死 死体損壊が激しく死因は不明 即死
杉山 清美
黒森峰 砲撃死 死体損壊が激しく死因は不明 即死
602 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 21:01:05.69 ID:rYNwkNdDO
アパートのある一室で、息の音を聞いた。少し先のドアの向こうだ。そこだけ扉が開いている。背中には機械。そのせいで見えないが、恐らく親衛隊かね
ふむ、偵察か。流石にかつてのお上はこのまま犠牲がむやみに増えるのを良しとしなかったらしい。が、一方で目立った武装は見当たらない。つまり補助はするが直接戦うのは戦車隊、そう考えているのだろう。この者をどうするか、その答えは一つだ。もう二度と報告させないようにする
しかしそうしようにも方法がいくつかある。情報を聞き出すか一撃か。銃だって拳銃と自動小銃の二つ。長々と迷う暇はない。一撃で、かつ的確に。となると、やはり拳銃で接近して後頭部から一発、だな。あの時から試合が変わって球も補充されてるし
ゆっくりと扉に近づく。耳にイヤホンをつけているせいもあり、背後からそっと覗いても気づいている様子はない。親衛隊にしてはえらく不用心だな。もしかして新入りの系統かな?そうだとしてもやらねばならないのは変わらない
彼女が左を偵察した時を狙う。その時一番私から視野が離れる
右……真ん中……
左っ!
603 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 21:01:53.43 ID:rYNwkNdDO
荷物を捨て、三歩!振り返ってきた敵を顔を見る間も作らずに、機械ごと背中から押し倒す。重心を肩の上に移し、銃の発射準備
「な……誰……!」
警戒してなかった敵が悪い。それとも我々が猟兵を展開していることを知らなかったのだろうか。なら知らないほうが悪い
しかしいざ銃を突きつけてみると、私の身体を何かが押し留める。連絡されるのは都合が悪い。それは分かっている。仮にされたりしたら、私の命の危機だ
なぜ撃てぬ。こいつは敵だ。このような服をしているからこそ
「ぐ……お、大洗?れ、連絡を……」
首をひねって服の裾の色を見られたようだ
うなじから前頭葉にかけて一発。銃口を押し付けて引き金を引く。やはり何度も思うが、命と引き換えにしては指への圧力は軽い
あの時のような骸の頭が、血の海を成して浮かんでいた。だが見続けられるほど悠長にはしていられない。流石に銃声を鳴らしてしまった以上ここにはいられない。仕方ない、次の候補に場所を移すか
頭の切り替えは久し振りに恐ろしいほど早くできた。できてしまった
604 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 21:02:31.81 ID:rYNwkNdDO
こちらの建物には幸いにして偵察は投入されていなかった。ここは戦車が両側と幅をとって走行できる道の一つ。猟兵の存在は外の音から気づかれているはず。と、なるとこのような道を選択するだろう。さらに警戒しやすくするため速度も落ちる
そしてやはり予想は当たる。音と窓枠の振動がそれを知らせるのだ。窓際で数を数えていた。幸いにして周囲に誰かがいる気配もないので、暫くはこの音だけに集中できる
「70……60……」
外から戦車のエンジンが回る音がする。手にはしっかりとパンツァーファウストがある。それも窓枠の外に現れないよう警戒する
「50……40メートル!」
その音が自分の右側に壁にほぼ垂直に届いていると判断した。すぐに立ち上がり、立てておいた照準器の穴から確実に狙いを定め、前の車輌に向けて引き金を引いた
発射された弾は爆炎と鳴動と共に敵の左側面に命中した。炎の音と共にヤークトパンターはみるみる燃え盛る。人が生きているとは思えない
それを確認すると、急いでその場を去った。攻撃は自分の居場所を教える事と同義だ。それを示すように階段を駆け下りる際、先ほどの場所は砲撃で破壊され、耳元を小さな瓦礫と爆風が駆け抜けた
ヤークトパンター。防衛隊の車輌で唯一の重駆逐戦車。他にも重戦車の類も親衛隊所属である。つまりこの車輌は防衛隊の中で特別な存在
これに乗っていた人を私は知っている。だが戦車の壁があるだけで、これだけ躊躇いをなくせるのか
605 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 21:03:10.41 ID:rYNwkNdDO
第74回戦車道大会公式記録
黒森峰女学園犠牲者
小島 エミ
大洗 砲撃死 死体損壊が激しく死因は不明 即死
606 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 21:03:52.44 ID:rYNwkNdDO
〜
日本では戦後すぐに生産力の増強を傾斜生産方式のもと進めるとともに、復興に伴う需要がひと段落した際を見据え、新たな計画を打ち出した。学園艦計画である
これは先の大戦が国際的孤立が要因にある、との考えも踏まえ、当時は特に海外旅行が貴重であったことから、国際文化交流の窓口としての役割も兼ねられることがあった。これが今日の一部の学園都市にて外国各国文化を持っている理由としてある
しかし結果的にこれはなされなかった。復興信用金庫によるインフレとその是正のためのGHQによる経済安定九原則、ドッジ=ラインによる不況。そしてなによりそのようなことを実現する経済的余力がなかったのである
これの実施計画の本格的進行には、朝鮮戦争による特需景気とサンフランシスコ平和条約による日本の独立をまたねばならない
〜
607 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/07(木) 21:04:17.17 ID:rYNwkNdDO
今日はここまでです
608 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 22:36:24.56 ID:E1fl5AjpO
2250からやります
609 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 22:50:52.14 ID:E1fl5AjpO
〜
ドイツ陸軍暗黒の日
エーリヒ・ルーデンドルフ
アミアンの戦いを受けた発言
〜
610 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 22:57:35.51 ID:E1fl5AjpO
「最後の一輌、IV号発見しました!5番通り52番地のビル陰に潜んでいます!進行方向は南!6番通りに向かう道から挟み撃ちにできます!」
話は入ってきた。黒森峰にとってもかけがえのない人だったと思うし、私が指揮する上で支えになる方の一人だった
「……報告に感謝する」
しかし悲しむ時間など無い。仮に悲しんでいたとしても、何やってんですか、と笑い飛ばされそうなのもあるが。すぐに観測隊からの報告が入る。大洗はこれ一輌のみ。これさえ潰せば、勝ちだ
「よし、四輌全車で包囲するわ!国末と江賀は5番通りから、小梅は私と合流して6番通りに向かう。IV号を確実に仕留めなさい!」
「ヤヴォール!」
三輌の車長からのはっきりとした返事を確認し、車輌を進める。そして合流した小梅車に先行させ、6番通りに向かう
その時私の頭は、一時的にそのIV号で支配された。だからこそ考慮すべき存在が頭から欠けていた。ティーガーIIが悠然と走り、それの交尾がとある路地裏の前を過ぎた時、道の真ん中に飛び出した者らがいた
「来た!」
彼女らの手には、パンツァーファウストらしくはない何かが握られている。駆け足でティーガーIIの後ろに回り込む
「見た!」
右腕の動きが若干ぎこちないが、そんな事は気にせず、ただ目標に走り寄っている
「勝ったッ??」
それを合図に二つの吸着地雷をティーガーIIの背面に重い金属音と共にくっつけ、紐を引く。そしてその勢いのまま走り去ろうとした
「は、早く!早く撃ちなさい!」
「は、はい!」
通信手が7.92ミリ機銃で二人を狙う。銃弾を食らった彼女らは焼いたゴマの如く跳ね回り、地面に斃れた
だが判断は遅れていた。すぐ後に小梅のティーガーIIの背後は大きな爆発音と共に吹っ飛ばされた。車輌からは火の手が上がり、黒い煙を登らせる
611 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:01:53.31 ID:E1fl5AjpO
「……念のためもう少し撃っておきますか?」
「轢きなさい。息の根を止めるなら」
操縦手にそう指示したところ、流石に嫌悪感があるらしく、若干怯えた目でこちらを見てきた
「しかし、履帯に肉片が挟まると……」
「戦車道は人を苦しめるためにあるわけじゃないわ。早めに、そして確実にとどめを刺すのも礼儀よ」
「……はっ」
車輌は二つの血しぶきの集団を作った上で小梅のティーガーIIの脇を通り、隣り合った状態で一回車輌を止めさせる
「小梅、乗員は無事?」
「何とか」
戦車の上で炎に消火器を向ける小梅が答える。幸いエンジン部のみの損傷で、車内そのものには影響なさそうだ
「ご苦労だったわ。後は我々に任せて脱出しなさい。この先の行動は任せるわ」
「はい。エリカさんたちも健闘を祈ります」
走り去った後ろには赤い線が一本に纏まってついてきている。その奥、起点には履帯に捻り潰された二人の残忍な死体しか残っていなかった
私は正しい
612 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:02:29.42 ID:E1fl5AjpO
第74回戦車道大会公式記録
大洗女子学園犠牲者
鈴木 貴子
黒森峰 銃殺 履帯に轢かれた跡あり 死体損壊激しく致命傷は不明 即死
野上 武子
黒森峰 銃殺 履帯に轢かれた跡あり 死体損壊激しく致命傷は不明 即死
613 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:04:58.87 ID:E1fl5AjpO
私がそれを見つけた時、IV号は道の片側に身を寄せ、敵が来るのを待っていた。ここに来たのは先ほどの場所にはもういられないということと、敵がこちらに誘き出される可能性が高い、というものだ
かといってパンツァーファウストがあるわけでもないし、他に直接装甲に風穴を開けてやれる兵器も持ち合わせていない。なら車長の頭でも狙ってやろうか、とささやかな期待を寄せていた。今ある唯一の銃、Stg44の銃身を強めに握り直す
それにしても……砲声、ロケット砲、サンダースとプラウダの参戦、これらが指すのは何か。まだ確証は持てないが、予想はできる。ではその状況下で我々の勝利に必要なのは何か。こちらの残り車輌はあって2輌。場合によってはこの1輌だけ、かもしれぬ。いや、戦力差的にその方が考えやすい
相手は何輌だ?5輌以下ではある。そうなると他の人の活躍を考えても……3から5輌かな。数の差、質の差は……未だ圧倒的か。やはり猟兵によって敵の数を減らしていくしかない
そして近くの廃墟と化した建物の陰に潜んでいた時、奥から戦車の履帯の音。IV号は動いていない。となると……やはり、パンター。おまけにキューポラから頭を出していない。これじゃ車長を撃てないじゃないか。お前らは生真面目に頭を出してりゃ良かったんだが
そして偵察はやはり仕事をしていたらしい。ギリギリからわざわざ側面を晒さぬよう出てきて、正面を完全にこちらに向けつつ進んできている
IV号が足元に狙いを定める。放たれた弾は履帯ではなくその少し上の履帯のカバーに当たり、弾かれる。それで前のめりになった的車輌から撃たれた弾もまた、IV号の足元にめり込んだ。土砂がこちらにも降りかかる
下がるIV号をパンターは追撃しようとする。そしてその車輌が十字路を超えて更にIV号と私に迫ろうとする
614 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:12:34.80 ID:E1fl5AjpO
その時、視界の右側から二本の筋がパンター目指して流れた。その内一本がパンターの側面に当たり、黒い煙が砲塔から砲身までまとわりついた
「おっ」
顔を出し左に向けると、破壊され中が見える建物の一番上で、愉快げに手を振っている人を視認できる。茶髪ロングである
「沙織さん……」
その隣に棒を構えたままの優花里さんを認めたのとほぼ同じくして、IV号はさらに素早く車輌を後退させ始めた。パンターは車輌丸ごと燃え続け、音と煙をあたりに撒き散らしている
だが動かない。彼女らは私を見つけたらしく、何を言っているのか、どんな表情をしているのかは分からないが、身ぶりを交え何かを伝えようとしている。しかしそんなことする暇はない。もう既に彼女らの立ち位置はバレているし、そして今まさに撃破した戦車の裏から、ティーガーIが砲塔をそちらに向けたまま接近しているのだ
このまま彼女たちを失うのは今後の戦略的に損失が大きい。いや、それ以上に私が、私が彼女らを失いたくない
逃げろ!その場を離れろ!早く……持ち物なんざ捨ててどこかに行け!
今から近づいても間に合わない。せめて逃がそう。我を忘れんばかりに声を届けようとした。しかしそれは燃え盛るパンターの音と先程から増してきた他の場所からの砲撃音に邪魔される。死んでもなお邪魔するかこのやろう!
そして最早逃げる時間もなくなり、間も無くその砲塔のアハトアハトが建物の最上階狙って砲弾を撃ち込んだ。その建物の吹っ飛ばされる様子からは思わず目を逸らした
後に残るは、崩れる瓦礫の音と煙の増加。そして戦車は隅にいた私の前を気づくことなく通り過ぎていった
そして次の角を戦車が曲がると、やっと私はその建物から向こう側へと飛び出せた
615 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:13:08.33 ID:SASSSKiG0
「……そう。国末のことは残念だけど、猟兵が狩れたなら良しよ。6番通りの裏に回り込みなさい。私たちが勝つわ」
「ヤ、ヤボール」
残りは二輌。本当に数は減りに減ってしまった。だが相手はあと一輌。これだけだ。これさえ倒せば……終わる。早く……早く終わらせなくては
「あの、逸見曹長……先程からここ以外でも戦闘が勃発しているような音がしているのですが……宜しいのですか?」
「今は試合に集中しなさい。話によるとここら辺よね。警戒は緩めないでいなさい。小隊からの続報は?」
「今はまだ……」
「早くさせなさ……ん?」
正面の先で何かが動いた。いや、出てきた。あちこちから黒く上がる煙、破壊されたコンクリートやレンガの建物、その中に確実に混じっていて実に、本当に素晴らしいものがいた。殺れる、そう確信した
??「ようやく見つけたわ。最後の一匹よ」
待ち侘びたその時に少し胸が高ぶる
「では、終わらせましょう」
そのティーガーIIのアハトアハトに砲撃を命じた。この試合を終わらす為
616 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:15:49.92 ID:SASSSKiG0
向かい合ったティーガーII。砲塔はこちら。こちらは停止状態。絶望以外の何を捉えればいいのだろう。絶望の一部を一瞬で払い、とっさに麻子は両方のレバーをそれぞれ逆に力を入れて動かし、時計回りに超信地旋回を開始させた。足回りへの被害など考える暇は無かった
しかしそれは命中を避けるものでは無かった。ティーガーIIから撃たれた88ミリ砲弾はIV号の砲塔右後部に命中した。麻子は反動で運転機器に額を強く打ち付け、背中にも大きな痛みを感じた
頭を打ち付けたせいか少しばかり気を失っていたが、間も無く全身を痛みに襲われながら、何とか運転機器から頭を放す
「ううっ……背中をハンマーでぶん殴られたみたいだ……」
何が起きたかは分かっている。痛みが特に強い背中に手を当てると、生暖かい液体が手に着く。戻してみると右手の平全体は完全に、一部の隙間もなく紅に染まっていた。有能なだけに麻子は分かってしまった
焦げ臭い匂いがする。自分でさえこれなのだ。背後が怖い
恐る恐る後ろを振り向くと、空が見える。青い。しかし、赤い
「五十鈴……さん……」
もう砲手五十鈴華の顔は写真か想像でしか見ることはできない。もう、砲手席に腰掛けたその身体は目も、鼻も、口も、耳も、長い髪も有していない。両手を降ろした手と胴と足だけがそこにはあった
「クッ」
涙を堪えつつレバーに力を入れて、再び車輌を前に動かした。幸い、動きからしてエンジンに大きな支障は無いらしい
逃げなきゃ。とにかく、ここから。私たちは黒森峰には屈しない。西住さんを生かそうとする限り。表情も声もないが、きっと五十鈴さんも同調してくれるだろう
外では何かが起こっている。エンジン音に混じって続く砲撃の音。何だ。何が起こっている。そして、何ができる?
617 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:21:10.69 ID:SASSSKiG0
「命中!」
「よし!ジャッジのコールは!」
車内で思わず叫んだ。しかし外から笛の鳴る音はない。IV号には小さいが火の手が上がっている。タダではすんでいないだろう。だったらまだ中で生きているのか?
「完全な撃破が必要なようね。もう一度よく狙って、止めを刺しなさい」
「大洗IV号、後退していきます!」
前を見ると確かにIV号は遠ざかっている。それなりの速度も出ているようだ
「クソッ、動けるの?追いなさい!江賀にも連絡!挟み撃ちにして確実に倒すわよ!」
「ヤボール!」
しかしその動きは一つの声で制止を迎えることになった
「エリカ隊長!学園より緊急無電です!繋ぎます!」
車輌を発進させる前に邪魔が入る。あと一歩のところなのにタイミングが悪すぎる。だが学園からの命令だ。取り敢えず出発を中止し、無線を繋がせる
「こちら逸見です」
「こちら狩出だ」
「き、教官……どうなさいましたか。もう直ぐ大洗は倒せますが……」
少し、ヘッドホンは音を伝えてこなかった。そしてやっと聞こえた言葉は、実に感情のない声にのせられていた
618 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:21:53.38 ID:SASSSKiG0
「……学園都市フリードリヒ地区にプラウダの大部隊が迫っている。各部隊現在の戦況を省みず、これの防戦に参加せよ」
「なっ!」
馬鹿な!ここで、だと……
考えも纏まらぬうちから反駁を始める
「お待ちください、教官!大洗は現在中破車輌が一輌だけです。それを撃破すれば試合は終了します!戦闘行為は禁止され、宣戦布告によるものでないならプラウダの侵攻は止まるはずです!宣戦布告されたものなら防衛隊青年大隊が対応できるはず!大洗を撃破する余裕はあります!
いずれにせよこちらの勝利は目前です!あと5分ください。確実に大洗を撃破します!」
「早急に来い。そっちには今何輌いるんだ?」
「ティーガーI、ティーガーIIがそれぞれ一輌のみです。そちらに一輌だけならまだしも、両方送るなんて出来ません!」
先ほどまではすぐに返答があったのに、今度はやけに時間が空いた
「……教官?」
「貴様何をやっている??残り二輌だと??我が校の栄光ある戦車隊を壊滅させられただと??今年あれの回復に我々はどれ程の予算をかけたのか、そしてこれまでそれを守るために何人の命が散っていったのか、貴様には分からんのか??」
「しかし空爆と猟兵相手では……」
「言い訳なんぞ聞きたくない??兎に角、貴様らもこちらに来い??」
いつもは落ち着いている教官らしくないほどの罵声が、私の耳と心臓に突き刺さる
「……誠に申し訳ございません」
619 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:23:05.24 ID:SASSSKiG0
undefined
620 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:23:36.88 ID:SASSSKiG0
「……すまない、取り乱してしまったな。兎に角、現在SS装甲師団学生大隊、学園都市防衛隊学生大隊を攻め込んできたプラウダに対して送ったが、最早一部を除き壊滅、突破されている。空爆とプラウダのミサイルで結構やられたからな、数が足らん
学園長の命令で非軍属も使ってはいるが、正直使い物にならん。ただ敵の戦車を前に死んでいくだけだ
それに都市防衛の為のアハトアハト高射砲団も空爆で壊滅状態だ。ルフトバッフェもサンダースの連合航空隊に有明海で縛り付けられている。撤退中の敵爆撃機の追撃すらできん」
ルフトバッフェが来れなかったのはそのせいか……あの拝金主義の軍団ふぜいが……
「現在は学園に残ったSS歩兵師団の一部が学園と学園官邸周辺で辛うじて防衛しているに過ぎない。士気も下がる一方だ
その為に君達が防衛に参加するということが必要なのだ。士気を上げ、プラウダに一矢報いる為にも」
「しかし学生大隊しか出してないのならば宣戦布告はされてないと愚考します。ならば大洗を撃破すれば、試合は……」
「逸見君、確かにプラウダとサンダース、ポンプルは戦車道大会における大洗の同盟としてこの戦いに参加している。しかしそれは名目だ。プラウダ外務局とサンダース校外交流担当課から、降伏に応じない時は試合終了次第宣戦すると通告を受けている
全く敵ながらよくやってくれるわ。こちらは学生部隊のみなら数で勝る二校には太刀打ちできん。君たちがその状況なら尚更な
情報によると緑川河口周辺にサンダースの戦車部隊が上陸しているらしい。宇土も向こうに寝返った。奴らは確実に黒森峰を崩壊させるつもりだ」
黒森峰の……崩壊。私の愛する学園の
その言葉はこの先の私の口をしばらく封じられるほどの重りだった
621 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:24:06.27 ID:SASSSKiG0
「試合が終わったら、二校の侵攻に歯止めが効かなくなる。つまり大洗を生かして試合はできるだけ抵抗した上で、プラウダに黒森峰中心部を陥落させた時に終わらせる。ルールに戦闘体制の崩壊を勝利条件とすると決められているからな
サンダースには空以外参戦させん。それが学園都市の被害を最小にしつつ有利に講和を結ぶ道だ。講和さえなれば、あとはやりようだ。相手が二人もいるしな
とにかく、これは学園長命令でもある。もう一度言う。各部隊戦況を省みず防戦に参加せよ」
返事を聞くこと無く無線は切られた。急に告げられた事実。もう、学園は負けるしかないのか……こんなに離れた場所で、大洗なんて雑魚軍団に梃子摺りに梃子摺った挙句
私があっという間に大洗を殲滅していれば!あの極寒の戦場でプラウダの停戦なんざ無視して殲滅していれば!いや、そもそも私が、私がもっと強かったら……
椅子の座面を拳で殴り、歯の噛み合う限り全てに力を込める
「……学園長より命令。追撃は中止よ。学園官邸に向かいなさい。江賀にも同様の連絡を。IV号は捨て置きなさい」
照準器の向こうからすでにIV号は消えていた
622 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:26:58.94 ID:SASSSKiG0
〜
広報部より報告
黒森峰女学園の動向
同校からの連絡によりますと
「全てを賭して最後まで」
を
「プラウダの猛攻」
において選択したとのことです
〜
今日もここまで
623 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:04:08.18 ID:JuXJT1NJO
もうすぐ始めます
624 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:05:58.06 ID:JuXJT1NJO
〜
馬鹿にも様々な種類の馬鹿があって、利口なのも馬鹿のうちのあまり感心しない一種であるようです
トーマス・マン
〜
625 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:07:18.77 ID:JuXJT1NJO
建物の瓦礫の中に踏み込んで行く。ここで偵察に見つかった時など脳みそから抜け落ちていた
「優花里さん、沙織さん!」
建物の中ほどに撃ち込まれた砲弾は建物を足元から完全に崩壊させていた。未だバランスを崩し、崩れる瓦礫の音が聞こえる。埃が舞い、熱気は私の息から白を奪う
すぐに一人を見つけた。完全にコンクリートの大きな塊の下敷きとなり、辺りに血飛沫をばら撒いて、手足の先だけを覗かせている。最早生死を問うまでもない。その様子に今まで幾つも死体を見てきた私も、思わず顔をしかめ目をそらす
そして、もう一人も土煙の向こうにいた。幸いコンクリートの下敷きとはなってないが、埃が体に敷き積もり、腹の辺りからの出血が凄まじい
「優花里さん!」
優花里さんに瓦礫に気をつけながら近づく。声をかけるが、返事はない。この出血、そして内臓が見え隠れするほどの腹部の大きな傷。こう判断するに時間は必要ない。もう、助からない
「しっかりしなさい。大丈夫ですか!モルヒネは??渡したモルヒネはどこですか??」
だがそれでも処置は行う。偵察に見つかってもそれはその時。今は、少しでも長くこの人を生かす道を……
裂けた腹に見えかけた臓物を戻し、服の上から素早く持っていた白い布を巻き付け縛る。服の左上のポケットに入っていたモルヒネ注射のケースを見つけ、右の二の腕上方に袖をまくり上げてから打つ
優花里さんは先ほどから返事がわりの呻き声をあげるようになったが、とにかく体外への出血はそれなりに抑えられたはずだ。ただ体内に溜まっていくだけだが。こればっかりは血管を結んで止めるなりしなければ、止めようがない。つまりいろいろやったが外見がまともになっただけだ
626 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:09:53.51 ID:JuXJT1NJO
??一通りの処置が終わると、優花里さんを仰向けにして外に目と耳を転じる。試合が行われているにしては多すぎる砲声、銃撃音。北西の学園都市中心部から爆撃後より多く登る煙。そして双眼鏡で道の隙間を見た時に遠くに見えたT34/85。それで現状を決定する情報は揃った
「……プラウダの本格参戦……いつの間にか、試合の目的が黒森峰を倒すことに変わっているようです」
双眼鏡を下ろして優花里さんの足元に膝をつく
「優花里さん……私は行かなくてはなりません。このままプラウダが黒森峰を攻め落としたら、決勝の最大の勲章者は彼らだ、という印象を与えてしまいます。皆が命を懸けた成果をプラウダが持っていくのは、何としても避けなくてはなりません。我々の勝利のために」
優花里さんは最期まで生き続けようと、肺だけで懸命に深呼吸を続けている。意識ははっきりしているようだ
「……フフ……凄いですな……」
しかし、大丈夫な訳では全くもってない。声も力無い
「ここまで絶望的な状況でも……勝利のみを見据えておられる……い……今も……実に頼もしい西住殿ですね……」
やっと、優花里さんが声を絞り出す。弱い。血が、傷が、そして辛うじて作り出した微笑みがジリジリと最後の力を削ぎ落としていっている
627 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:11:16.34 ID:JuXJT1NJO
「頼もしいだなんて……臆病なだけです。臆病だからバカにならないと動けないんです」
なぜ私は今こうして『西住』であろうとしているのか。あの憎むほど嫌っていた西住の道に沿うように
簡単だ
「バカだから、こうして目の前で、私を支えてくれた友達が次々死んでいるのに、まだ試合のことを考えているんです。どうすれば勝てるのか、ただそれだけを考えてしまうんです」
吐く息が白く変わる。優花里さんの先程の笑いも消える
「小さい頃からお母さんに戦車道をやらされている内に自分が極力傷つかないコツを覚えました。意味を考えない、何も想像しない、バカになってやるべきことをただやる、やり続ける……とにかく楽になりたかったんです」
空には何本も煙が消えてゆく。上着の上の幾つかのボタンを外し、左胸の方をシャツにする。そこにそっと指を触れる
「私のここには爆弾が埋まっているんですよ。バカになった報いです。嫌な事はすぐに押し込んで蓋をして、もう見るのも怖くて開けられない爆弾です。もし破裂してしまったら……私にもわかりません」
全く恐ろしい想定だ。胸元から指を外し、二本の腕を力無く降ろし、首を振る
「頼もしいどころか自分の記憶から逃げ続けている、臆病なだけの人間です」
シャツの上に上着を戻すと、片手の指でさっさとボタンをはめる
628 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:11:50.11 ID:JuXJT1NJO
シャツの上に上着を戻すと、片手の指でさっさとボタンをはめる
「さあ、私の最後のつまらない話はおしまいです。何ができるか分かりませんが、私も出発します」
ここまで来たら、この偽りを貫き通すしかない。彼女に対応する時間がない
優花里さんの手元に金属の塊と布を置く
「信号弾と白旗です。近くに人が来たらこれで助けを呼んでください」
荷物を纏めようとすると、目の先にあるものが目に入った。鼻のフレームが思い切りひしゃげた眼鏡だ。レンズも辛うじてフレームにくっついているという感じだ
死体をどうにもできない以上、数少ない遺品になる。それを手に取り、ポケットにしまおうとすると、連鎖的に重い金属音が耳に入る。見ると優花里さんの手元に置いていた信号弾用の銃が、少し離れた場所に移動している
「こんなものに……用はないであります……自分も……一緒に行きます」
深呼吸の合間に口を開いてきた
「行くって……無理です!動けるわけないじゃないですか!」
しかしその通りなのだ。腹筋繊維を一本残らず引き千切られた彼女は、上半身を起こす事も出来ない。動く、ましてやここから移動するなんて出来るはずがない。ここから彼女を移動させるとなると……手段はただ一つ
「大丈夫であります……お腹の痛みは感じなくなりました。連れて行ってください……お願いです……優勝のために……と死んだみんなのためにも……西住殿と一緒に……大洗の優勝を見届けるのであります……」
腕を伸ばし、涙を流して優花里さんは懇願してくる。どうする。そもそも彼女は置いて行くつもりだったし、彼女を運ぶ時間は今後のプランにとっては支障だ。だが……私にとって彼女は何であったか……
こう言えるほど効いてしまうモルヒネを少し厄介に思ったが、少し迷ったのち友としてその懇願に応える事にした。こうすれば賢くなれるのか、バカだから分からない
629 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:13:20.62 ID:JuXJT1NJO
優花里さんを腕を引っ張り上げて背負うと、若干でも瓦礫で塞がった道を選んで進む。まだ偵察はいる可能性が高い。そしてその時、今の私は戦えない
時折更に建物が崩れる音と、遠くから銃撃音、砲撃音を耳にしつつ、ある場所を目指す
「西住殿……やっと、遺書に書くような事以外にお話ししたい事が浮かんだので……今度は自分の話をしてもいいですか?」
「どうぞ」
この段階になって呼吸もある程度落ち着いてきたようだ。ある程度、でありまだ荒いが。死に目まで気を紛らわせるのに付き合おう
「酷い大会になってしまったけど、一つだけ良かった事があります……」
耳元に息がかかる
「ずっと……お母さんの言葉が、怖かったんです
『あなたが戦争で遊ぶのは、何も知らないからよ!本物の戦争を経験したお年寄りや、戦争で亡くなった方と遺族に、失礼だと思わないんですか!あなただって、実際に自分が撃たれたら、そんなの大嫌いになるに決まっています!』
って」
だろうな。私だって初めて会ったあの場で殴りかかろうかと思ったのだ。日常的に出会っていたら、キレていてもおかしくない。まぁ幸いそうはならなかったわけだが
「悔しかったけど、もしかしたら、そうなのかなと思って……言い返せませんでした。でも……こうなった今でも、ティーガーとパンター、7TPは、カッコよくて、好きであります」
だが、これが彼女なのだ。戦争を嫌っているかとその道具が好きか。それを別個に捉えている。そしてどれだけそれを取り巻く環境が悪化しても、芯は揺らがない。率直に言って羨ましい。いや、それができても楽しくない私にしたら単なる僻みか
「やっと、自信を持って、言えたのであります……」
荒れる呼吸の中、その合間を縫うように一言ずつ伝えてくる
630 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:14:02.38 ID:JuXJT1NJO
「家に帰ったら……作りかけだったティーガーI……黒森峰西住みほ仕様を完成させなきゃ……」
何か息を吐き切るようにゆっくりだが一気に言う。家に帰ったら、か……自分のことはよく分かっているはず。だからこそ、私はその話に乗り続ける
「あはは……そんなのがあるんですか。どのくらいの大きさなんですか?」
二歩進む。返事はない。背中が少し軽くなった気がする。少し歩調を落として二歩さらに進む。それでも返事はない。先ほどまでは少し待てば呼吸の中から返事があったというのに。背中から振動と温かみが薄くなる
更に歩調を落としてゆっくりとレンガの上を二歩進み終わった時、ただ流れ出る涙を堪えようと歯を食いしばっていた。しかしそれでも止める事は叶わず、目は水源となり続けた
人が死んでいて、そのために私が泣いている。あの時以来、か。だがあの時のように残忍さが極限を突破しているわけじゃない。だけど涙は止まらない
「トモダチ……」
きっと答えはそこだろう
631 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:16:40.73 ID:JuXJT1NJO
どこだろう、ここは
なんだか、あたたかい
まわりが、しろい
かべが、みえない
おかしいな、わたしはさむいふゆのまちにいたはずなんだけど
「麻子……麻子や……」
だれかの、よぶこえ
いつも、きいていたこえ
「おばぁ……」
なぜ、おばぁがここにいるの
すがたを、みまちがえるはずがない
かくじつに、おばぁだ
ここは、どこ
どこだ
「病気……病院はいいの?」
「いいもんかね。だからここにいるんだろう」
よくないから、ここにいる?
「全くおまえの親もそうだが、おまえもそんな若くしてこんなとこに来て。親不孝者が」
ああそうか
??ここは……
『麻子さん、麻子さん!』
そとから、こえがする
これも、いつもきいていたこえ
なんども、なんどもよんでる
「ホラ、お友達が呼んでなさる。川を渡るまでにまだ時間があるから最後の奉公をしてきな」
632 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:17:59.87 ID:JuXJT1NJO
優花里さんの遺体を背負ったまま、道中たまたまIV号を発見した。そのことは非常に幸運だったが、IV号はいつも見慣れた姿とはかけ離れたものだった。辛うじて黒森峰の追撃を逃れたのであろう。砲塔には大きな穴が開き、車輌は傷だらけだ。シンボルのアンコウのマークもかなり傷が入っている。しかもそれが路上のど真ん中で停車している
中にはまだ生きている人が、仲間がいるのか。背負ったまま駆け足で近づく
車体の上に登り、エンジンの上に一旦優花里さんを腰掛けさせ、その穴から車内を覗く。その中も、これまでの練習で見慣れた姿ではなかった。車内には血痕が一面に散らばり、砲手席にいなければ華さんとは分からない遺体、その奥に操縦席の計器に身体を預けた麻子さんがいる。二人ともピクリとも動かない
「麻子さん生きてますか!麻子さん!」
そのうち生きている可能性がある方に向け、声を張り上げる。何度かそれを繰り返し半ば諦めかけていたところで呼びかけが通じたのか、計器から頭を少し浮かせた麻子さんが、額から太い血の筋を作りながらこちらを振り向く。戦車服の背中の部分は大きく黒ずんでいる。私の袖とは色が完全に別物だ
出血多量。背中と頭を足せば、相当量になるだろう
「ああ……お婆ぁ、なるほどね」
「凄い出血です。傷を見せてください!」
そう呼びかけながら、優花里さんの遺体を穴の周りの棘で傷つけないように注意して運び込むことに腐心している時点で、優先云々の問題でないことを私は示してしまっている。そしておそらく、その通りだ。
「いや……いい、モルヒネを打ってる。それより……行き先を言ってくれ」
予想通りの反応をして麻子さんは身を更に起こし、息を吸い込み椅子を調整して両手で操縦桿を強く、力強く握る
「早く……命の保っている内に。その為に戻ってきたんだ……」
633 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:19:30.84 ID:JuXJT1NJO
その言葉には有無を言わさない迫力と鋭さを持ち合わせていた。だがそれよりもある言葉が私をその場に留めさせる
戻ってきた。一体どこから?この出血じゃこの車内からは動けないはずだ。ましてやさっきのさっきまで気絶していたのだぞ?
暫く答えられずにいたが、向かうべき、実行すべき事を思い出す
「市街の中心……黒森峰女学園官邸までお願いします。」
「了解……」
634 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:21:47.72 ID:JuXJT1NJO
IV号は土煙を上げ、未だに順調なエンジン音を立てながら走り始めた。車内の私たちは無言で各々の作業をこなしている
麻子さんは操縦桿を握り、物見窓から前を注視しながら車輌をまっすぐ前に進める。目も霞んでゆくだろうに、その中でよくできるものだ
一方私は車内に置いてあった布で華さんを包んで、それを椅子の後ろで縛る。友人として死者にできる最低限のはなむけだ
「西住さん……」
視線は前に残しながら、麻子さんが話しを振ってきた
「どうしました?」
「撃たれたあと……黒森峰の追撃が、全く無かった……何が、起こってるんだ?あなたの予想でいい……教えて、くれないか……」
追撃がなかった、か。新たな情報にして、予想を補完するに十分なものだ
「どうやらプラウダがこの試合に参戦しているようです。こちら側で」
「ようです……ってことは、こちらに連絡も無しにか……」
「プラウダの真の目的は、おそらく黒森峰を崩壊させることでしょう。黒森峰もこれだけ損傷させたIV号を追撃させず、試合に出場しているメンバーまで呼び戻しているとなると、相当まずい状況だと思います」
「では……何故あなたはこれからわざわざそこに行くんだ?」
「大洗を、真に優勝させる為です」
「……出来るのか?この状況で……無線も繋がらんし……カバさんもやられたと見るべきだろうし……」
「分かりません。ですが、みんなの死を無駄にしないためにも、やれるだけのことはやります」
635 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:23:44.09 ID:JuXJT1NJO
「……分かった。だが……済まない……そろそろ私の気力が、限界に近づいているようだ……」
限界か……仕方ない。これだけ出血していながらここまで意識を保ってこれただけでも十分だ
「……分かりました。では、車庫みたいなところがあればそこに隠してください。これが撃破されたらおそらく負けです」
「了解……」
再び何も話さなくなり、近くの車庫にIV号を見事ワンテイクで入れた。やりきって安心したらしく、操縦桿から手を離し背もたれに身を委ね、息を吐く
「麻子さん……すみません」
「……どうした?」
言葉が溢れた。あの時心から頼まれたこと、それを裏切る結果を残さねばならない
「おばあちゃんのお見舞い、行けなくなっちゃって……」
「……いや、構わない……もう、会えたから……」
「えっ?」
理解が追いついていない。しかしその事を気にせず、麻子さんは話を続ける
636 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:24:53.07 ID:JuXJT1NJO
「……西住さん……あなたはあの世とか……神とか、を信じるか……」
急になんだろうか。あの世とか、神か……
顎に手をかけて少し考えるが、麻子さんには時間がない事を思い出す。すぐに返すしかない
「……私は、信じていません。というより、信じたくありません。だって神様がいるのなら、私にこんなに過酷な運命を着せるはずがないと思います。もしあの世があったら、私の立てた作戦のせいで死んだ皆さんに申し訳なくて、顔向けできません」
私は生き残ってしまう。この試合のみならず、これまでのみんなの命全てを踏み台にして。そんな人間が天国なんてものに行けるはずがない。なら、そんなもの無い。勝手な理由で唯物論者になってしまった方が楽だ。実に無責任なバカだな
呼吸は落ち着いているが、背中の染みは大きくなり、額の赤い筋は変わらず流れる。麻子さんは自分の身を更に背もたれに委ねる
「……残念だったな」
自嘲しようか、としたところで、麻子さんが力なく口角を上げた
「へっ?」
「あの世は……あるぞ。私は……そこでお婆ぁに会ってきた……みんなに、顔向け出来ないなら……出来るまで、こっちに……絶対……来るな……よ」
私の方に顔を向けた麻子さんは、さらに悪戯っぽく微笑んだ。それに返事をする間も無く、崩れるようにそのまま腕を垂らして、首が座らなくなった赤ん坊のような姿になってしまった
637 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:26:28.55 ID:JuXJT1NJO
「麻子さん!」
車長席から降りて彼女の元に向かう。しかし、その呼びかけにも、揺さぶりにも答えは、反応は無かった。もう一度彼女の名前を叫んで揺さぶるが、ただ首が振り子となっている、という結果しかやってこなかった
肩を掴んだ両手をそっと離して、まずは彼女を姿勢よく座り直らせる。隣の通信手の席に無線の計器に近い場所に、優花里さんの近くで拾った壊れたメガネを置いた
そして自分の居るべき場所に戻り、トンプソンの紐を肩に掛ける。それが終わると、ぐるりと車内を見回した
「麻子さん……華さん……優花里さん……沙織さん……」
一人一人の姿を見据えつつ、名前を呼んでいく。だがもちろん私の独り言になってしまう。一人、いや二人に関しては見える姿は想像でしかないのだ
「みんな、つい最近までごく普通の女の子だったのに、ここまでよく頑張ってくれました……黒森峰のSSにも劣らない素晴らしいチームでした」
ある持ち物を追加したのちにキューポラから身を出して、車輌から飛び降りて走り出す。
ありがとう、あんこうチーム。私が戦車道をやってきた中で、いやそれだけじゃなくても、本当に……ただ、最高だった
638 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:27:56.43 ID:JuXJT1NJO
第74回戦車道大会公式記録
大洗女子学園犠牲者
武部 沙織
黒森峰 砲撃死 砲撃による建物崩壊による圧死 即死
五十鈴 華
黒森峰 砲撃死 頭部損傷による脳死 即死
秋山 優花里
黒森峰 砲撃死 腹部損失による失血死 負傷後10分ほど生存していたと思われる
冷泉 麻子
黒森峰 砲撃死 背部、損傷による失血死 負傷後30分ほど生存していたと思われる
639 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:29:20.79 ID:JuXJT1NJO
〜
広報部より報告
大洗女子学園の動向
同校からの連絡によりますと、
「実に最高のチームであった」
を
「あんこう『チーム』の解散」
において選択したとのことです
〜
ここまでです
640 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 21:56:16.88 ID:DJC40sPbO
〜
力によって支えられた政権は、その力の反逆を何より恐れる。だが力による支えのない政権は、そもそもが非常に不安定である。
山鹿涼 『日本の学園都市』より
〜
641 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 21:57:00.71 ID:DJC40sPbO
私とカトラスさんはレオポンから走りに走ってブレスラウ地区を過ぎて、森崎橋より上流の橋を隙をついて渡って向こう岸に着いた。あの場に残っていても何もできない。その悔しさは癒えるはずがない。が、生きなければならないのも確かだった
「こ、ここまで来たね」
荒れた息を整えながら、同行人に声を掛ける
「……ここからどうするの?」
「いや……特に何も」
ただ背中を押されるままに飛び出し、自動車部を任されただけだ
「……黒森峰が追ってきているのは確か。早くここからは離れたほうがいい」
「……そうだね」
レオポンから持ってきたトンプソンM1を携え、さらに奥、黒森峰の市街に向かう。幸い東の隅っこの地域ならここからでもさほど遠くないらしい
「武器持ってて大丈夫かな?」
「……流石に置いていった……いや、持っていこう」
私が持っていた銃に手を乗せて細目を上手に見つめてくる。確かにこの先は敵地。持っておくに越したことはない
642 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 21:57:38.99 ID:DJC40sPbO
幸いその不安は全く必要ないものだった。代わりに市街地は非常に不気味だった
「誰も……いないのかな?」
「……車もない。人もいない……誰もいなくなった街、だね」
文字通り誰もいないのである。よって武器を持ちながら少し歩いていても、誰にも何も言われることはない
日は登っているから、窓から電気の光が見えないのはわかる。だがそれでいて、あたりに走る車も人すらも見かけないのだ。自分たちが話すのさえはばかられるような異様な雰囲気が支配していた
「ここだけなのかな?」
「……さぁ」
市街の中から少し外側に出ようとした時、視界の奥、東の方に何か見える。稜線にこそ隠れていたが、そこにあったのは数多くの戦車だった
「自衛隊かな?」
「……分からない」
とりあえず身を伏せてみる。自衛隊なら包囲網から脱出している時点で大丈夫云々は聞いたが、やっておくに越したことはない
しかしよくよく見てみると、色が皆均一で濃緑だ。自衛隊の戦車は春に教官が来た際に一度見たが、迷彩色だったはず
「……何処の?」
その戦車の感じをかつて見た事があった
「もしかして……プラウダ?」
あの色、そして一部の車輌が大きく砲身を前につき出している。間違いない。あの雪山で見続けていた車輌だ
「……でも、なんでこんな所に……今回の試合、プラウダは参加していないはず……」
「まさか、同盟?」
あの黒森峰が我々にしてくれた事を、プラウダが我々にしようと考えているのか?
643 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 21:58:12.14 ID:DJC40sPbO
ここで一つの考えが浮かぶ。もしプラウダが我々に味方して同盟しているなら、そこに行けば助けてくれるかもしれない。生き延びるのが先輩たちからの指示だった。その指示を最優先するなら、そうするのが妥当かもしれない
しかし、現在プラウダが我々に味方しているのかも分からないし、更に今他の皆は命を、学園の存続を懸けて戦っている。私だけが悠々と生き残るわけにはいかない
それだけではない。私が生き残っても、試合に負けて学園が廃校になってはあの場に残った先輩に申し訳ない。だったら、私が出来ることをして大洗を優勝させる手助けをするしかない
「……どうする?」
「プラウダが味方かどうか断定できないですし、大洗が優勝しなきゃ意味ないです。ここは市街地に行きましょう」
「……分かった」
644 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 21:58:40.38 ID:DJC40sPbO
頃合いを見計らって戦車隊に背を向け、市街地に戻るべく西に向かった。その間に先ほど駆けていった丘の上に、多くの茶色の戦車が布陣していた
「……黒森峰」
それが何を意味するか、実に容易だ
「先輩方は……負けた……」
そう言葉を発した途端、不意に涙がどんどん流れ始めた
「先輩……」
「……幸いこの辺りに黒森峰の人はいないみたいだ。少しくらい大丈夫」
彼女は肩に手を置いた。実に、温かい
だがその温かさがさらに涙を生じさせる。地面に膝と頭を落とし、やりようのない慟哭を地面にぶつけ続けた
だがこうしてばかりもいられない。ある程度流した後は、意地でもって無理やり泣き止んだ
「……もういいのか?」
「はい」
目元を袖で拭ってただ前を向き、先輩方の願いを叶えるべく進むしかない
645 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 21:59:21.10 ID:DJC40sPbO
道は真っ直ぐに中心部に向け伸びている。相変わらず通行人はいない。ここを今車で走ったら、とてもスピードが出せそうだ、とか考えつつ街に入る
しかしカトラスさんがあるものに気づいたのか、建物の隙間に身を寄せるようジェスチャーする。指示されるままにちらりと覗いてみると、その先にいたのは黒い服を着た人達、黒森峰の者だ。手には何か持っている
一本裏の道に入り、その場所に近づいていく。確認すると、黒森峰のものはマシンガンを手に警戒をしている。彼らが守っている場所には『黒森峰女学園学園都市防衛隊武器庫』と薄れた日本語で書かれている。濃く書かれた点のついたアルファベットは読めない。きっとドイツ語か何かだろう
「……武器庫……だね」
「どうやり過ごそうかな……」
「……ツチヤさんの先輩方の願い、叶える気はある?」
小さいがやけに低めの、よく耳に通る声で、カトラスさんが話し始めた。
「そりゃ……もちろん」
「……なら、黒森峰の戦車を潰すのが手っ取り早い。戦車に抵抗するためにも、さらに武器がいる。そして、今すぐにそれを手に入れられるのは、ここ。黒森峰の武器庫ならきっと何かあるはず」
「なっ……」
「……違う?」
武器を……手に入れる?ここで?
「い、いや……」
「……じゃあ、そのトンプソンで戦車倒せる?」
銃を見つめ直す。無理だ。元は機関銃を防ぎながら前進するために作られたのが戦車。こんな自動小銃じゃ弾かれるのがオチ
「……それに、攻撃できても死んだら意味ない。なら、強力な武装で一撃で倒した方がいい」
「じゃ、じゃあ、この武器庫を……」
「……あの門番たちを倒して手に入れる」
倒す……って
646 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 21:59:50.45 ID:DJC40sPbO
「……それが一番早い。他の武器庫が見つかる、または見つかっても警備が緩め、という保証はないし……むしろここでモタモタしている方が見つかるリスクは高い」
どうしてだ。どうして人を殺そうって話をしているのに、ここまで平然と話せるんだ
「……今までと変わらない。戦車の大砲か……そのトンプソンと続く対戦車兵器ってだけ」
「なんで……なんでそんな簡単に……」
「……それに関して答える暇はないね。行くかい?行かないかい?このままじゃジリ貧だけど」
どうする。彼女の言っていることは正しい。全くその通りだ。だが……だがここで……
「……まさかここの武器を話し合いで貰えるなんて考えちゃいないよね?」
いや、私のためじゃない。この戦いは先輩がたの、自動車部の、そして学園のための戦いだ。そのためだ、そのためなのだ……
「……分かりました。行きます」
「……そう……ツチヤさんが行く?なんなら」
「いえ、私が」
手に持ったトンプソンを眺める。使い方ならアンツィオ戦の時に偵察の為に持って行ったスズキ先輩から聞いた。マガジンポーチにも四つのバイオプラスチックでできたマガジンが入っている
だがここにいるということは、この二人は試合に無関係の者たちだ。ここで殺すのは自身の防衛のためではない。自分の優勝したい、学園を残したいという欲により起こす行動だ
幸いだったのはこの葛藤の間、全くもって武器庫前の二人が私たちの存在に気付かなかったことだろう
ここで戦って勝てば、学園艦に住む三万人の人が都市を離れて路頭に迷わずに済む。優勝するなら、ここの二人の損はそれに勝る。自動車部も残る。そう自分に言い聞かせて、覚悟を決めた
647 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:02:01.80 ID:DJC40sPbO
マガジンを込めてあることを確認し、引き金に指をかけ、その二人が此方に姿を現すのを待つ。弾は20発、これで倒せなかったら死ぬしかない。時は来た。見回る二人が一緒にこっちの方に姿を見せた
「……行くか?」
「はい」
息を吐き、トンプソンを構えて建物の裏から飛び出した。二人に走り寄りながら引き金を引く
乱れる球の一つが一人目に命中、当たったところが幸い首から上で、猛烈に血を吹いて奥側に倒れる
もう一人がこちらに気づきMP40/Iを向けるが、引き金の指を固定したまま素早く銃を左に向け、腹部と胸部を狙う。彼女も前のめりに倒れたことを確認し、弾切れを示す音を鳴らし続けた状態で、やっと指を引き金から離した
「……終わった、みたいだね」
「はぁ……はぁ……」
死んだ、らしい
「……じゃ、音もしただろうし、早めに済まそう。二人が死んでるか確認して」
「いや……死体をさらに傷つける真似は……」
「……生きてて撃たれても知らないよ。それに私が巻き込まれちゃたまらない」
またしても真っ当な事を言われてしまった。だが血を垂れ流すこれら二つのものに触れたくはない。弾倉を入れ替えて倒した頭に銃口を向け、一瞬躊躇ったが、彼女の視線があることに気づいて、二人に一発ずつ銃弾を撃ち込んだ
「……私が開ける方法探すから、少し休んでて」
「あ……はい」
こみあがる吐き気に考える力を奪われて、言われるままに武器庫の脇の壁に背中を預け、腰を下ろした。銃も一度手元から離す
そのシャッターは閉じている。鍵穴とかはない。シャッターの上の赤いランプの灯った装置などから察するに、遠隔スイッチとかがあるらしい。生憎トンプソンと弾は共用できないようで、私が右脇に朝食を垂れ流す近くで、カトラスさんが不満げに弾の予備を投げ捨てていた
少しして片方の死体のポケットからボタンのついた機械を見つけ、それを持ってシャッターの前で上に向けてスイッチを押した。するとシャッターは重い音を出しながら、徐々に上へと開いた
「……おー、ビンゴ」
「入ってみますか」
「……そうだね」
648 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:03:31.48 ID:DJC40sPbO
かなり力を入れて立ち上がって合流する。薄暗い中に入ると、縦長のケース、整頓された自動小銃など、よく分からないものを含めたくさんのものが並んでいる
「どれがその対戦車兵器、ってやつなんですかね?」
「……わかんない。流石にそんな知識ないし」
「ないのにここをこじ開けたんですか?」
「……いや、こんだけ戦車揃えている学校なら、対策として持ってるはず」
「対策って……何のですか?」
「……他所からの防衛と……恐らく、戦車道の反乱」
「反……乱?」
自分が持つ戦車道のイメージからは、なかなか想像がつかない。反旗を翻して何になるというのだろう
「……戦車道が反乱起こしたら、戦車以外で止めるしかない。そうなると……そういうのが必要になるよ
さ、それより片っ端から箱を開けてみよう。あったら教えてくれ」
私の疑問が完全に解消される前に、彼女は手を鳴らして箱の山へと歩みを進めた
爆発物もあるだろうから、扱いには気をつけつつ箱を開けて、中身を確認してゆく。奥まったところにあったその中の一つのプラスチックケースを開けると、ある物が入っていた
649 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:04:56.50 ID:DJC40sPbO
四角錐型の物の先に紐がついている。底を近くにあった鉄のケースに近づけると、重いドアに鍵が掛かるような音がしてガッチリとくっ付いてしまった。引っ張ってもずらそうとしても外せなくなったので、仕方なくそのままにする
「……何かあったのかい?」
「入っていたケースには……Bombeと書いてあるから、爆弾かな?」
「……磁石が付いてるみたいだね。戦車の車体にも取り付けられるかもしれない」
「でも、これで戦車の車体なんて破壊できるのかな……」
「……流石に車体にくっつけるだけの爆弾なんて脅しにしかならないし……なんかしら効果はあると思う。使い方さえ間違ってなければ」
「それじゃ、持っていきますか?」
「……そうだね。他に簡単に使えそうなものは見当たらないし、のんびりするわけにもいかない……行こうか」
650 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:11:11.42 ID:DJC40sPbO
奥にあったカバンを手に取り、お互い二つずつその爆弾を入れてから、その場を立ち去ろうとした。しかしそのまま立ち去れるほど、私は気丈な人間じゃない
「……早く行こう。ここを爆破するのは面倒そうだし」
「少し待ってください」
もう先ほどの死体は、血を流し切って外気に触れ続けて冷たくなっている。その二人を倉庫側に寄せると、手をヘソの上で重ね合わせる形で仰向けに並べた。それぞれ結構重かったが、日頃思い部品を持ち歩いていたのが功を奏したようだ
カトラスさんはただ何も言わずにその様子を眺め、待ってくれていた
彼女らは、死んだ。試合で生きるか死ぬか、それを賭ける場所にいなかったにもかかわらず
その二人を前にして手を合わせる。だが心の中でも謝罪の言葉はない。私は……私は間違っていない。彼女らは必要な犠牲だと断言してしまおうとするからだ
「……行こうか」
「はい」
しばらくして手を下ろすと、背後の声が私の気持ちを途切らせようとしてきた。行為自体はやめたし、カバンを背負い直してその場を去った。だがこの記憶だけは棘のように頭の奥まで貫き通し、切り替えを許さなかった
651 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:12:41.42 ID:DJC40sPbO
今度は境界付近で折り返すことなく、市街の奥へと進んでいく。道中道の隙間に身を潜めながらあてもなく進んでいくが、奥まで行っても人がいない
「本当に……誰もいない」
「……避難したのかもしれないね。西住副隊長が市街地を戦場にするって言ってたから」
しかし奥に進むと、あるものが増えていた。南北に進む道の一部の地面に敷かれていたであろうコンクリートが剥がされ、そこそこ深めの溝が横たわっているのである
「……何なんだ、この溝は?……排水用にしてはやけに雑な作りだね」
カトラスさんが呟くが、返事をするための頭が働かない。安全以外にはあの事しか考えられないのだ。だがしばらくして、やっと次の議題が来た。遠くから音が聞こえるのだ
「これは……エンジン音、ですね」
「……戦車が近くにいるかもしれない」
「一旦待ちましょうか」
この音でやっと棘は抜けた。隙間から少し身を出して辺りを見回すが、道中にそれらしきものはない
「……遠いね」
「幸いこの辺りじゃ無いようです」
しかもエンジン音といっても戦車とは音が大きく違う。なんの音が考えていたその時、遠くで何発もの爆発音が耳を襲った
「なっ!」
「……爆発?どこから……」
「こっちみたいです」
生憎ここから煙のもとは見えないが、場所をずらして低い建物の上を通して見ると、丘のある南東の方から煙が上がっている。それは何度も何度も繰り返された
飛行機だ。煙の上で旋回している小さなもの、どこの何かは分からないが、これが煙の原因であり黒森峰の戦車隊を攻撃している、というのは現地に行かなくても検討がつく
それだけで驚くのは早かった。今度は南西の方から白い筋が、市街地の中心部の方に向けて何本も通っている。幸いこちらを向いてはいないようだ。そしてそれは中心部の地面に向けて吸い込まれていった
652 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:14:20.63 ID:DJC40sPbO
「く、黒森峰が……大洗以外から攻撃されてる……」
こんな装備が大洗にあるはずがない。あってもこんなところに持ってこれるはずがない
「……そうみたい……だね」
こちらに有利となる出来事である、というのは明らかだった
「……まずは様子見だね」
喜ぶわけにはいかなかった。先程のエンジン音が此方に向けて近づいてきたのだ。爆弾らしきものが街に投下され、煙を何箇所も登らせている。しかも飛行機の群れはこちらに近づいてきている。ここにいれば爆撃に巻き込まれることは容易に想像できた
「……こっちに来てるね」
「ど、どうしたら……どこか隠れられる場所は……」
周囲を見渡すが、件の溝以外特に隠れられそうなところはない。それに溝とはいえ上はガラ空き。上から降ってくる爆弾には対抗できない
一方のカトラスさんは近くの家の中を窓の外から見ていた。そしてカバンから先ほどの爆弾の一つを取り出すと、その根元を握って窓を叩き割った
「ちょ……ちょっと、何やってるんですか!人の家ですよ!」
「……ここに避難する」
「で、でも……」
「……たとえ不法侵入でも、爆撃に巻き込まれて死ぬよりマシ……緊急避難、緊急避難」
割った窓に手を入れ鍵を開けると、素早く窓を開き、窓枠に足を掛けていた
「……早く。ここは地下室があるから、外の溝よりはまとも」
確かにそうだ。さっきから彼女の話に乗っかってばかりだが、それで助かるのならそうするしかない。私も窓から室内に入っていた
653 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:20:01.89 ID:DJC40sPbO
地下室への木の扉が床にあるのを見つけ、すぐに身を滑り込ませる。中にある階段を降り、階段の途中で段を椅子代わりにして腰を下ろす。まもなく近くにも爆撃が開始されたようで、爆発音だけでなく振動も地下室に伝わってきた
「……やっぱり爆撃みたいだ」
それにしても、本当につい最近まで戦争関連の云々なんて、自分にとって紙の向こうの話でしかなかった。だが今、私はそのものではないが、現場にいる。少し安全なところとはいえ
そしてその安全のために、私は……
だめだ。考えれば考えるほど、変な思考に染まっていきそうだ
「そうだ……カトラスさん、一つ伺ってもいいですか?」
「……どうしたんだい?」
「武器庫の時とか……今回の侵入の時とか、何でそんなに平然と出来るんですか?」
それが正しいのはわかる。だが道徳の壁を思いっきり壊してそれができるかは、また別だろう
654 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:24:05.50 ID:DJC40sPbO
「……さぁね。強いて言うなら……環境?」
「環境、ですか……そうなると、船底の、でしょうか?」
「……まぁ、そうなるね」
「私自身そこら辺知識が曖昧なのですが、ただこれをやり過ごすのもなんですし、少し教えてくださいますか?」
床、といっても頭の上にあるが、を指し示しながら話を切り出すと、カトラスさんは表情を変えなかったものの、頭を指で掻きながら呟いた
「……あんまり面白くないよ?」
「構いません。無言よりは遥かにマシでしょうから」
「……違いないね」
話を整理するように上を眺めていた
655 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:25:52.87 ID:DJC40sPbO
「……それじゃあそうだね……学園艦の底の方、上じゃ大洗のヨハネスブルグと呼んでるって話だけど……ま、桃さんがなんとかしてくださっおかげで今はマシだけど、昔はほんとそのままだったね。ほんと数年前までは」
「数年前、までですか」
「……そ。甲板とか艦内港湾に直結する出入り口、つまり地上からの物資の供給口をどこの派閥が抑えるか……それの大半を掌握しさえあれば、底をほぼ差配することができる。そしてその供給口を守る、または奪うために、各派閥は資金源を狙い続けたのさ」
「派閥なんてものが……あったんですか」
「……あった、じゃないな。実は今もある。桃さんの調停のお陰で、当面の衝突は回避されているけどね……そして、基本底に収入源はない。そりゃもともと船舶科自体が労働と引き換えに学費を免除されてる人たちの集まりだからね。実家の送金なんてあったとしても大した額じゃない。船舶科の中にゃ勉強と勤務をして、バイトまでしてる奴もいる」
「寝る時間あるんですかそれ……」
「……そういう奴の中にゃ立って寝る術を習得している奴もいるさ。もっとも……勤務中バレたらタダじゃすまないが
……ま、それはいいとして、つまり底は金がなくて逆に、いやだからこそ金が欲しく堪らない場所なのさ」
「なるほど……」
自分も放課後はかなりの時間を自動車部に割いていると思うが、実にそれは幸せだったのかもしれない
「……そして、私の仕事は知ってるか?」
「確か……バーの店員さん、でしたっけ?」
「……そうだ。そして、ノンアルが基本とはいえ、飲食で利益率の高い飲み物の販売が軸だ。ま、値段はある程度は安いがね
……で、アルコールとか糖度の高いものは基本そんなに腐ったりするもんじゃない。つまり廃棄分もそんなにない……要するに、私の店はドル箱ってわけだ」
彼女の話は分かりやすかった。機械の部品が噛み合うように、実に論理的だった
656 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:27:25.96 ID:DJC40sPbO
「……話が早いのは、こういう時はいいのか知らないけど……まぁ、当たりだろうね。私の店は、金を求める派閥対立の立派な舞台だった」
やはり……そして、元々の疑問の解決になる鍵も、きっとここにある
「……一応お銀のいた派閥は主要派閥だったし、地上の出入口をいくつも抑える力もあった……そして私はそこにみかじめ料を納める存在だった
……だがね、他所がウチを襲うことは時々あった。そして大概はウチの派閥の主力、ムラカミとかがいない時をよく狙ってたね……そうなると派閥の助けが来るまで、基本一人で、いても味方かもわからない客と防衛だ
カネだけは盗まれてはいけない……それだけは厳命されてたからね……空き瓶とかモップとか、まさに手当たり次第さ。敵も数いたからね……割っては戦うの繰り返しさ。考える暇なんてありゃしなかった」
かなり壮絶な世界だったのだろう
「……床にはよく破片が散らばっていたよ……一度だけチャカ持ってきた奴もいたし……」
「チャカ?」
「……拳銃さ。ま、流石に地上に連れていかれたけど」
どれだけ世紀末だったんだ?ここまでとは……平穏な甲板からは想像もつかない世界だ
「……私の前に店をやっていた人は、腕を殴られて破片で神経やられてシェイカー振れなくなって辞めたし……私だってココなんかには傷がある……」
彼女は冬服の袖を捲り上げて、肘のは近くの傷を見せてくれた。長さは3センチほど、だが周囲にも若干赤みが残っている
「……治療ったってあんなとこじゃ縫い合わせるだけだからね。酒を麻酔がわりに」
「お酒を……ですか?」
「……そう。度数高めの酒をイッキして、さらに鍋越しに頭を鈍器で叩いて気絶させて、その間に縫う……痛いよ、その時よりあれはあとあと……
ま、私は数針だったからマシな方さ……ヤバイやつだと途中で眼を覚ますから、そしたらまたイッキさせんのさ……」
「はぁ……」
あまりの想像の範囲外の出来事続きに、気の抜けた返事しか返せなくなっていた
657 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:44:38.00 ID:nhXQpGdt0
「……さて、だいたいこんなもんかね。こんな世界にいたら、冷酷にやるやり方も覚えるってものさ
……でも……お銀が……お銀が死んじゃった時は……流石に……」
そのまま頭を抱えて前に体を倒した。そのまま嗚咽が混じり始める。きっと……死ぬ事態はそうそうなかったのだろう。流石に労働者でもある彼女らを見捨てるのは惜しいはず
「……そうですか……」
「だからこそ」
嗚咽を振り払い、いつになくはっきりとした口調で、私が伸ばそうとした腕を止めた
「私は勝ちたい。いや、大洗を勝たせたい。それが……お銀が望んだことだから」
その視線は私の方にはない。正面のコンクリートの壁だけを見ている
「……貴女は、勝ちたい?」
「生き残るには……勝つしかない、のですかね?」
「……そうだね。ここは黒森峰の都市の中だし……こちらが負けたら、どうなるかは分からない」
「なら、勝ちます」
「……それが聞けてよかった」
658 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:57:45.27 ID:nhXQpGdt0
ある程度続いた爆撃が終わってから1分くらい過ぎた後、周りを警戒しながら地下室から顔を出した。家は爆撃によって大きな損害は出なかったらしく、普通に開けたままにしていた窓から外に出る事ができた
「……音はしてたけど、直接はされなかったのかね?」
「しかし地下に閉じ込められるよりはいいですよね」
お邪魔した家に一礼して外に出ると、外は崩れた建物で溢れ、そこからは赤い火の手が上がり煙を登らせる。戦争ドキュメンタリーでよく見る廃墟となった街のシーンが、眼前に広がっていた。本当に私たちがいた家は幸運を持っていたらしい
「……これって、なんだったっけ?」
「たしか……戦車道の試合、だった……気がします」
「……でもここは戦場だね」
「ですね……」
678.46 KB
Speed:0.2
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報R
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
続きを読む
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)