【安価】ガイアメモリ犯罪に立ち向かえ【仮面ライダーW】

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569 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/23(水) 00:53:55.77 ID:s4cMZmVeo
>>568
なんかスペースパンジャンドラム射出して来そう
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/25(金) 22:36:58.23 ID:rr+m3Elg0
スーパーヒーロードーパント

『超英雄』のメモリで変身するドーパント。
このメモリは同型のタイプのものが5色存在し、5色すべてのメモリの使用者を見つけないと使用することができない(内、一人は必ず女性でないといけない)
仮面を身に着け、5種類のスーツを着たドーパントで5人で一つの存在となる。そのため厄介なことに5体同時にメモリブレイクしないといけない。1体1体のドーパントは並みの力しか持たないが、5体という数とその連携が厄介な事になる
更に追いつめられると5体のドーパントが合体して巨大ロボットの様な姿へと変身することが可能。強力になる反面、この状態で倒されると5体同時にメモリブレイクしたと判断される諸刃の剣のため、最後の手段である
571 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/26(土) 16:46:06.54 ID:TcjEV5FY0



 バスから降りたところで、リンカからのメールに気付いた。

”このメッセージに気付くのは、昼食時かと思います。いつもの蕎麦屋に来てください”

「そう言えば、最近行ってなかったな…」

 見慣れた住宅街を歩き、細い通りを幾つも曲がると、2階建ての住宅に隠れるように建つ一件の蕎麦屋に辿り着く。『ばそ風北』と書かれた暖簾をくぐると、聞き慣れた声が彼を迎えてくれた。

「いらっしゃいませ」

 そう、数年来の顔馴染みである、蕎麦屋の店主……じゃない。

「えっ、リンカ!?」

 何と彼を出迎えたのは、白い作務衣と青い前掛けに身を包んだリンカであった。

「何でここに…その格好は…」

「リンカちゃんがね、徹ちゃんの力になりたいって言ってきてね」

 奥から、店主が出てきた。

「急に休んだり、仕事中に用事が入っても良いような働き先がないかって訊かれたんだ。流石に無いかなって思ったけど、よくよく考えたら一つ見つかってね。…ここさ」

 彼はにこにこしながら、リンカの肩を叩いた。

「丁度、看板娘が欲しかったところなんだ。元々一人でやってきたし、いつ抜けても大丈夫だからさ」

「本当に、感謝しています」

 深く頭を下げるリンカ。徹は2人を呆然と見て、口ごもりながら言った。

「で、でも…その、そんな無茶な…だって」

「…分かってるよ」

 突然、店主が静かな声になった。他の客に聞こえないよう、耳元で言う。

「徹ちゃんは今までずっと、働きながら…仮面ライダーとして、頑張ってきたんだろう?」

「!! …っ」

 その言葉を聞いた瞬間、徹の目から涙が溢れた。

「おっちゃん…ありがとう…リンカ…っ!」

「ああぁ、泣くなよぉ。ほら、昼飯まだなんだろう? 蕎麦作るから、食ってきな」

 店主が厨房に引っ込む。リンカもテーブルの片付けを始めた。
 徹は一人、カウンターに突っ伏して、声を殺してむせび泣いていた。
572 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/26(土) 16:46:33.94 ID:TcjEV5FY0



 化学的な異臭を放つ産廃の山で、金村源治郎は涙を流していた。
 仰向けに横たわった彼の手には、鉄錆のような色をした、一本のメモリスティックが握られている。その筐体には、ひしゃげた鉄骨のような文字で『S』と書かれている。



『スクラップ』



 メモリスティックから、声がした。金村が、溜め息を吐いた。

「そうだよなぁ…もう、おれもスクラップだ…」

 何も創れない。何も遺せない。ただ、人様が捨てたゴミに縋って、今日までみっともなく生きてきた。だが、それももう…

「ユキエ…ひとりぼっちにして、すまなかったなぁ…おれも、今そっちに行くよ」



『スクラップ』



「…お前さんも、おれと一緒だな」

 メモリを、目の前に掲げる。

「まだ立派に使えるのに、使えねえ、要らねえって捨てられちまってよ。ま、おれを捨てたのは、結局おれ自身だったんだがな…」

 その手から、メモリが滑り落ちた。
 何の偶然か、それは銅色の端子を下にして落ちた。
 そしてそれは、吸い込まれるように彼の右目に突き刺さった。

「っ、あ…」
573 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/26(土) 16:47:15.78 ID:TcjEV5FY0



『スクラップ』


574 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/26(土) 16:49:31.79 ID:TcjEV5FY0
『Sの山にて/捨てられた男の涙』完

今日はここまで
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/26(土) 20:07:05.14 ID:Vk40oNToO
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/26(土) 21:22:21.59 ID:HJ+eC5zDo
おつ。コネクタ無しの直挿し?
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/26(土) 23:19:40.49 ID:zQ9rsTvRO
負担がエグいから普通はコネクタ手術するだけで直挿し自体は出来るはず
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/27(日) 00:38:02.90 ID:OjGqgr0o0
ホエールドーパント

現存する史上最大の動物、クジラ(whale)の記憶を内包したガイアメモリで変身する。本物のクジラよりも大きな身体で地面をローリングして更地へ、潮を吹いて大雨を発生させることができる。また口から大きく息を吸ってあらゆるものを吸い込み、吐き出すことであらゆるものを吹き飛ばす。
勿論海を優雅に泳げる。人や物を運ぶことも可能

なお実物のクジラがオキアミしか食わないことから、このドーパントも人間やドーパントを食べて消化することはない
579 : ◆iOyZuzKYAc [sage]:2019/10/27(日) 10:46:35.06 ID:YesiB98q0
TV本編だと陸上部の子供たちがバードメモリをコネクタ無しで打ち回ししてましたね
アレやると手首がかなり痛々しいことになる
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/27(日) 13:01:41.03 ID:tPOdEalno
(ちなみに動物カテゴリではなく生物カテゴリだと史上最大の生物はアメリカのきのこで大きさ15ヘクタール重さ推定100トンらしい)
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/27(日) 15:12:40.24 ID:oc9pOSlMO
(重箱の隅案件だが、ザトウクジラは泡で魚の逃げ場を奪う独特の狩りを行うし、マッコウクジラあたりはダイオウイカを捕食することもあるのであまり安心できない)
582 : ◆iOyZuzKYAc [sage]:2019/10/27(日) 16:03:45.74 ID:V078LNFo0
(そう言えば井坂って耳にウェザー挿してるけど、コネクターが耳にあるんだっけ、耳穴に直挿しだっけ)
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/27(日) 21:17:52.52 ID:eFpxYDjH0
(ピクシブ百科だと身体中に生体コネクタがあるけど「危険な「直挿し」を信条」って記述があるから直挿しなのでは?)
584 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/29(火) 20:09:29.99 ID:Tg7Z4ROk0



「…ん、くぅ…」

 目が覚めて、徹はまだ夜中であることに気付いた。
 視線を移すと、ベッドの中にはリンカもいて、彼の腕を抱いて寝息を立てている。思えば、最初はどこで寝ているのか、身支度などはどうしているのか。そもそもどうやって生きているのかさえ、まるで見当もつかなかった。だが、こうして間近に見てみると、彼女も彼と変わらない、一人の人間であることに気付かされる。

「…いつも、ありがとうな」

 囁いて、前髪をそっと撫ぜる。そうして、再び眠りに就こうとしたその時、枕元の携帯電話が鳴った。

「!? な、何だよこんな時間に…」

「植木警部でしょうか?」

 瞬時に目覚めたリンカが、予想する。
 果たして、着信の相手は本当に植木であった。

「もしもし?」

”夜遅くにすまない。ドーパントだ”

「そんなとこだろうと思ってました。場所は?」

”衝立山の、産業廃棄物の廃棄場は分かるかね”

「! はい。つい昨日、近くを通りました」

”行けば分かると思う。今はまだ大丈夫だが…このままでは、甚大な被害が出るだろう”
585 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/29(火) 20:09:58.11 ID:Tg7Z4ROk0



 植木の言う意味は、現場に辿り着くよりも前に、すぐに理解できた。

「な…何だあれ…?」

 遥か向こうに見える、北風町の北側にある衝立山。そこから伸びるように、巨大な影が立っているのが、星明りの下でもはっきりと見えた。しかもそれは、見る見る内に大きさを増しているようであった。

「プロリファレーション…グロース…いえ、地理的にはツリー…?」

 リンカが呟く。

「廃棄場…なら、ガーベッジの方が」

「!」

 徹は、あの残忍な強姦殺人魔を思い出した。あれと同じメモリが、まだ残っているのだろうか。

「急ごう」ファンタジー!

「ええ」トゥルース!

「「変身!!」」

 2人の影が合わさり、一人の仮面ライダーとなる。アクセルを吹かすと、バイクの後面から白い翼が生えた。

『よし、飛ぶぞ!』

 ハンドルを握ると、翼がはためいて、バイクが空へと舞い上がった。そのままスピードを増しながら、山にそびえる巨大な怪物へと接近していった。

 近寄りながら、デュアルは違和感を覚えた。

『こいつ…動かないのか…?』

 星明りに照らされたそれは、細長い歪な人型をしていた。冷蔵庫やトラックといった廃棄物を雑に繋ぎ合わせたような体をしており、数十メートルはあろうかという高い身長で、地面に付きそうなほど長い腕が着いている。
 その、モアイ像のようなのっぺりとした顔に近づくと、デュアルは呼びかけた。
586 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/29(火) 20:10:43.94 ID:Tg7Z4ROk0
『おーい!』



”…”



『おい、聞こえるか! 変身を解除しろ!』

 細長い目が、薄く開いた。ぼろぼろと埃を落としながら、巨大な口がもごもごと動いた。



”…あ、ぃ…”



『何だって!?』



”…ああ…ここが、あの世…か”



『しっかりしろ、あんたはまだ死んじゃいない!』

”メモリ使用後の陶酔感で、正気を失っているのかも知れません”

『じゃあ、今のうちにメモリブレイクだ…』

 ファンタジーメモリを、腰のスロットに装填しようとしたその時

『…うわっ!?』

 突然、赤い光弾が彼を襲った。咄嗟にハンドルを切り、間一髪で躱す。
 しかし、光弾は次々に飛んでくる。下から飛んでくるから、相手は地表にいるのだろう。目を凝らすと、強化された視界に、小さな人影が怪物の足元に佇んでいるのが、辛うじて見えた。

『このドーパントはまだ動かないし…あっちから先に』

 飛来する光弾を躱しながら、地上に向かって突っ込む。新手のドーパントだろう。そう思い、最初からマキシマムの準備をしながら飛んでいた彼は、近づいてくる相手の姿を認め、思わず叫んだ。

『う…嘘だ!?』
587 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/29(火) 20:11:26.17 ID:Tg7Z4ROk0
 すぐにハンドルを切り、再び距離を取る。

”…ありえない、と言いたいところですが”

 彼の中で、リンカが呟く。

”この事態を、想定しておくべきでした”

『でも…あれは…そ、そんな』

 ヘッドライトに照らされた、意外に小さな人影。
 水色のゴスロリ衣装を身に纏い、紅と銀の杖を携えた、それは。

『…だって、彼女は…ミヅキは、もう…!』

 あの土砂降りの中、彼の腕の中で息絶えた筈の、ミヅキであった。
588 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/29(火) 20:12:14.51 ID:Tg7Z4ROk0
今夜はここまで

>>1の想像以上にミヅキ人気が高くてびっくりした
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/29(火) 21:22:13.18 ID:AdosXTrd0


そりゃ歪んでたとはいえ徹に正直に好意を示してたり、助けに入ったりと割とリンカ以上にヒロインしてた感があるからねぇ
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/29(火) 22:11:24.42 ID:12VtkDLSO
591 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/03(日) 10:11:21.52 ID:i+bbSS+S0
「…」

 何も言わず、杖を振るって光弾を飛ばすミヅキ。よく見ると、彼女の腰にはロストドライバーが巻かれていた。おそらく、ネブラドーパントがガイキから奪った物だろう。問題は、装填されているメモリだ。

『あれは…メモコーン!?』

 ドライバーに結合していたのは、グリフォンの頭部。メモコーンに秘められた、クエストメモリ。

『クソッ、どういうことだ!』

”メモコーンが、母神教によって捕縛されたと考えるべきでしょう”

 デュアルの…徹の中に、だんだんと怒りが沸いてきた。

『まだ…まだ、戦わせるのかよ…!』

 イデアカリバーを抜き、光弾を叩き落とす。

『もう、十分頑張っただろ! まだ、足りないのかよ…せっかく、眠りに就いたのに…また、引きずり出して、ミヅキを戦いの道具にするのかよ!!』

 右手をかざすと、地面から無数の鎖が伸びてミヅキの足を絡め取った。

「…」セイバー!

 メモコーンを変形させ、セイバーメモリを装填する。杖が変形し長剣になると、それで鎖を切った。それから突然跳躍すると、バイクに乗ったデュアルに斬りかかった。

『!』

 バイクを飛び降り、大剣で受ける。斬撃をいなしながら、叫んだ。

『ミヅキ! もう止めろ、ミヅキ!』

「…」

『ミヅキ…おい、どうして…』
592 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/03(日) 10:15:40.86 ID:i+bbSS+S0
 ミヅキは、応えない。何も言わず、虚ろな目つきで剣を振るい、デュアルを襲う。

”彼女は、以前の兎ノ原美月とは違うようです”

『…そうみたいだ』

”姿を模しただけの完全な偽物か、あるいは精神までは取り戻せていないのかも”

『だったら、どうしたら…!』

 少し置いて、リンカが答えた。

”…後ろの、巨大ドーパントから先に対処しましょう”

『分かった!』

 右手を突き出すと、ミヅキの足元から無数の鉄の杭が伸び、彼女をぐるりと取り囲んだ。飛び上がれないほどに高い檻に彼女を閉じ込めると、デュアルは再びバイクに跨り、空高く舞い上がった。
 トゥルースメモリを腰のスロットに装填し、起動する。

『起きなさい』トゥルース! マキシマムドライブ

 巨大な顔の前で、念じる。

『貴方は、人間です。鉄の巨人になど、なってはいけない』



”! お…おお…”



 巨大なドーパントが、軋んだような声を上げる。その顔から鉄くずがボロボロと剥がれ落ちていく。右目から、何かが出てくるのが見えた。

”あれが、ガイアメモリ…”

『目を覚ましなさい。それは、偽りの姿…偽りの光景』

”よし、いい感じだ…”

 身体を構成する廃棄物が、音を立てて崩れ落ちていく。これならいけると勝利を確信した、次の瞬間

 ___遥か下方、ミヅキの手から、虹色の何かが放たれた。



”…っ! お、あ、あああっ…



 悶え苦しむ、鉄の巨人。崩れかけていた身体が、再び足元の廃棄物を吸収し、膨れ上がっていく。



”あ…お、おれは…お、おれはああああああっっっ!!!”



593 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/03(日) 10:16:09.61 ID:i+bbSS+S0
”な、何が起こったんだ!?”

『…! 徹、あれを』

 視線の先。ドーパントの脇腹辺りで鉄くずに埋もれるように、サイケデリックな光を放つ小さなメモリが刺さっていた。

”あれは…エクスタシーメモリ!?”

『…敵が動きます』



”あ…ああ、仲間が…呼んでる…”



 巨人が呻く。そして…遂に、長い足を一歩、前に踏み出した。

『ま、マズい! 止めないと』

 大剣を振りかざし、バイクで接近する。ところが



”仲間、があっ!!”



『うわあーっっ!?』

 巨大な手を無造作に振るうと、バイクをはたき落としてしまった。
 シートから振り落とされたデュアルはマントを広げ、どうにか空中に留まる。薙ぎ払われたバイクは、巨人の手に張り付き…そのまま、掌に吸収されてしまった。

”! 分かりました。あのドーパントは”

『何だ?』

”『スクラップ』です。金属の廃材を吸収し、巨大化するという特徴があります。そして…”

『そして?』

”…これを仕組んだのは、恐らくガイキです”

『何だって!?』

 リンカが説明する。

”彼は北風町に出てきた時、まず母神教の首魁を表に露見させることを画策しました。そのために、制圧したガイアメモリ工場から数本のメモリを持ち出し、適当な人物に渡すか、町の各所に設置しました。選定したメモリの共通点は一つ。必要な条件を満たせば、巨大化し、破壊行為に走るということ”

『スクラップもその中の一つなんだな?』

”ええ。しかも、使用してすぐに巨大化するよう、材料の豊富な廃棄所に設置したと思われます”
594 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/03(日) 10:17:08.73 ID:i+bbSS+S0
『…リンカ。まだ何か、言いたいことがあるんじゃないか?』

”…”

 徹の問いかけに、彼女は済まなそうに言った。

”…この町でガイキとコンタクトを取った時点で、既に1本のメモリが起動していました。…『オーケストラ』です。私は…出水涼に、足立宝の居場所を教えました。彼が自宅に向かわず、真っ直ぐホテルを襲ったのは、そのためです”

『…分かった』

 木々を薙ぎ倒し、町へと降りていくスクラップドーパント。彼の進行方向には、無数の建物や金属でできた機械などがある。それらを、破壊した側から吸収し、更に巨大化していくのだろう。
 白い翼を広げ、空を追いかけながら、徹は言った。

『あんたも、大変だったんだな』

”…”

『心配するな。俺は、今のあんたを信じてる』

 頭の中で、様々な感情が渦巻くのが分かる。だが、今は目の前の敵に集中する時だ。彼は、真っ直ぐに巨大な鉄の背中を追った。
595 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/04(月) 10:15:35.29 ID:LYyNSZbU0



 警察病院、集中治療室。手錠で繋がれた九頭英生をあるベッドの前に連れて来ると、坂間は言った。

「こいつも、お前の仲間だったそうだな」

 人工呼吸器に繋がれ、固く目を閉じているのは、蜜屋志羽子。彼女の姿を認めると、九頭は鼻で笑った。

「ふん、裏切り者に相応しい末路です」

「遅かれ早かれ、お前の仲間は皆こうなるぞ。お前が、いつまでも口を割らなければな」

「あなた方は、勘違いしておられる」

 九頭は、不吉な顔で言った。

「お母様は、この世全てのお母様です。ならば、この世界に生きる全ては、皆兄弟。皆、同志。その全てを、この狭い部屋のベッドに、ずらりと並べてみせるとでも?」

「デタラメを言うな!」

「我々は死を超越しています。ここに横たわったとて、敗北ではありませんよ。…いずれ、あなたにも分かります」

「…もういい、連れて行け」

 坂間は溜め息を吐いた。一緒に来た警官が、九頭の手錠に繋がる縄を引いて、病室を出て行った。
 窓の外は、そろそろ明け方だろうか。先程出現した巨大ドーパントが動き出しているのに気付き、彼は息を呑んだ。

「ま、マジかよ…」

 真っ直ぐにこちらに向かってくる、巨大な怪人。その周囲を、金と銀の影が飛び回っているのを、彼は視界の隅に捉えた。
596 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/04(月) 10:16:05.16 ID:LYyNSZbU0



「おらっ! たあっ!」

 翼をはためかせ、大剣を振るってドーパントに斬りかかる。しかし、表面をわずかに削るばかりで、巨人は少しも動じない。

”メモリのある部位を、直接叩く必要があるようです”

『メモリ…確か、右目だったな』

 顔に接近するデュアル。しかし



”うう、あああっ!!”



『ああっ! 近寄れない…っ!』

 巨大な腕が、蝿でも追い払うかのように彼の接近を阻む。

『どうにか、足止めしないと…』

”…”

 考え込むリンカ。やがて、思いついたように言った。

”スクラップドーパントが吸収できるのは、主に鉄の廃材です。つまりあの体は、殆どが鉄でできています”

『つまり?』

”磁石があれば、あれを止められるかも”

『磁石だな!?』

 さっと周囲を見回す。しかし、磁石はおろか磁石になりそうな物は、あらかたドーパントに吸収されてしまっている。

『落ち着け…考えろ…ファンタジーメモリとトゥルースメモリを合わせれば、もう何でもアリなんだ…』

 そして、思い至る。

『…そうだ、土だ! 鉄だって、元は鉱石や砂鉄…だったら』

 地面に降り立つと、足元に両手を置いた。

『うおおお…おおおああああっっ!!!』
597 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/04(月) 10:17:19.16 ID:LYyNSZbU0
 金と銀の光が迸り、地面に広がる。



”…?”



 巨人の歩みが、遅くなった。足を持ち上げようとして、地面から離れないのに気付く。

『まだまだぁ…っ!!』

 木々の間から、凝集した黒い金属塊が無数に浮かび上がる。それら全てが、強力な磁石であった。



”…あ、ああああ…”



 見上げるような巨体がぐらりと揺れ…そして、遂に倒れた。
 轟音と共に、大きく揺れる衝立山。デュアルは再び飛び上がると、ファンタジーメモリを腰に想定んした。



『ファンタジー! マキシマムドライブ』



 体から金の鳥が飛び立ち、デュアルの足先を掴む。そして、仰向けに倒れた巨人の右目に向かって、共に金と銀の矢となって突っ込んだ。

『デュアル・エクスプロージョン!!』



”あ、が、ああああっっっ!!!”



 山の斜面が、爆発した。倒された木々が、木屑となって舞い上がる。
 土煙の中、立ち尽くすデュアルの足元には、一人の老人が倒れていた。その顔の横には、鉄錆色の、足の横には虹色の残骸が散らばっていた。
598 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/04(月) 10:23:03.38 ID:LYyNSZbU0
『おい、しっかりしろ』

 抱き起こすと、老人は左目を薄っすらと開いた。右目は痛々しく腫れ上がっている。コネクターを介さずに、メモリを挿してしまったのだろう。

「…ここ、は」

『衝立山だよ。もう少しで、町だ』

 ちらりと、後ろを振り返る。薙ぎ倒された看板や電柱の向こうに、民家が見えた。もう少しで、大きな被害が出るところだった。

「夢、見てたみてえだ…懐かしい…鉄触ってて…」

『夢みたいなものだった。起きろ、もう朝だ』

「冷てえ…けど、あったけえ、夢だったなぁ…」

『おい…おい、よせ! しっかりしろ!』

 右手が、ゆっくりとスクラップメモリの残骸に触れる。

「…そうだ。ずっと…この感触が…忘れられなかったんだ…」

 右手が、落ちた。左目が、再び閉じた。

『おい! 待て! 死ぬんじゃない…』

”…徹”

 乾いた唇が、小さく動いた。

「…ユキ、エ…」

 そして…動かなくなった。
599 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/04(月) 10:34:11.58 ID:LYyNSZbU0



「朔田友子は、隕石に恋したんだって」

 ソファーに座って、速水かなえは言った。彼女の膝に頭を載せて横たわっているのは、ガイキであった。

「ぶつかったり、憎んだりもしたけど、だんだんと心惹かれて…」

「…」

 ガイキは瞬きもせずに目を開いたまま、じっと黙っている。

「…ガイキさんは、きっと宇宙人なんですね」

 短く刈り込まれた髪を、優しく撫でる。

「隕石に乗ってやってきた…最初は、敵だと思ってたけど」

「…」

 背中を曲げ、髭に覆われた頬に、そっと口づけした。

「…ガイキさん。わたし…貴方に、恋しました」

「…」

 ガイキが、目を閉じた。少し遅れて、いびきが聞こえてくる。
 もう一度口づけしようとして、かなえは、彼の顔がやつれ果てているのに気付いた。

 その日も、その次の日も、またその次の日も。
 ガイキは、目を覚まさなかった。
600 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/04(月) 10:35:06.17 ID:LYyNSZbU0
『Sの山にて/男は眠った』完
601 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/04(月) 10:54:19.58 ID:LYyNSZbU0
『スクラップドーパント』

 『鉄屑』の記憶を内包するガイアメモリで、ホームレスの金村源治郎が変身したドーパント。変身した瞬間は銀色の精悍なシルエットのロボットめいた姿だが、すぐに錆に覆われ、動きも鈍くなる。何もしなければものの数分で完全に動けなくなり、錆に塗れた人型の鉄屑と化してしまうという酷い外れメモリ。それでもこのメモリが製造ロットに乗ったのは、『周囲の金属の廃材を吸収し、巨大化する』という特性によるもので、最初に変身する場所さえ間違えなければ、このメモリは使用者に強大な力を与えることができる。
 吸収した廃材は体の一部となるだけでなく、まだ使われていた頃の記憶を使用者に少しずつ流し込む。そのため、一気に大量の廃材を吸収すると、流れ込んでくる記憶によって使用者の自我が薄れ、曖昧な状態となってしまう。メモリを抜けば解除はできるものの、そもそもメモリの抜き方すら忘れてしまうという致命的な欠点があり、やはり外れメモリであることには変わりなかった。
 ガイキによって産業廃棄物の廃棄場に放置されたこのメモリを、事故で使用してしまった金村は、変身した瞬間に周囲の夥しい量の廃材を吸収し、一気に巨大化した。同時に自我が崩壊し、呆然とその場に立って動かなかったが、ミヅキによってエクスタシーメモリを追加で挿されたことで暴走。町から聞こえてくる廃材の『声』に引き寄せられ、山を下り始める。しかし、全身が鉄であることに着目したデュアルによって、巨大な磁石に変えた山に縫い留められ、メモリブレイクされた。高齢に加えてスクラップメモリの負荷、そしてエクスタシーメモリの毒性によって彼の体は限界を迎えた。冷たく、懐かしい鋼材に囲まれ、デュアルの腕の中で、亡き妻のもとへと旅立ったのであった。
 メモリの色は鉄錆色。捻じ曲がった鉄骨が『S』の字を描いている。



 >>525をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました!
602 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/06(水) 20:40:04.10 ID:nyl2yx+00
 植物に覆われ、鬱蒼とした聖堂。祭壇の下で、一人の少女が寝息を立てている。祭壇の上には、体中に未解読文字や神秘的な絵を描かれた女が、不気味な太陽と共に浮かんでいる。太陽から伸びた蔦の先には、3個の培養器。一個には女が、一個にはガイアメモリが漂っている。そして、最後の一個は既に空であった。

「…」

 少女のもとに、井野が近付いてきた。彼は、裸で浮かぶ妹を見ないようにしながら少女に歩み寄ると、やがてゆっくりと手を伸ばした。

「…思えば、お前のせいで、おれは…おれの人生は」

 ところが、彼の前に立ちはだかる者があった。

「…また、お前か。ロボットめ」

 威嚇するように嘶くそれは、銀色の小さな一角獣。
 少女が目を覚ました。彼女は、片手に握ったロストドライバーを、腰に当てた。

「やめろ。もういい」

 井野は諦めて、少女に背を向けた。
 そして、後ろにまた別の人間が立っていることに気付いた。

「…君か」

「どうもぉ〜」

 へらへらと手を振るのは、一人の女。タイトなレザーパンツに裾を結んだ白いブラウス姿で、グラマラスな体型をしている。妙に上気した顔の彼女の後ろには、疲れ果てた表情のユウダイが付いてきていた。

「またユウダイ君に手を出したのか」

「だってぇ〜、我慢できなくてぇ」

 くねくねと腰を振りながら近寄ると、やおらブラウスの胸元を引っ張る。服の下にブラジャーは付けておらず、黒ずんだ乳首が露わになる。

「…お兄さんも、どう?」

「やめろ! ここは聖堂だぞ!」

「井野さん…」

 ユウダイが、掠れた声で言った。

「僕なら、大丈夫…それにナギさんは、お姉ちゃんを連れ帰ってくれたし」

「や〜ん、いい子ぉ〜!」

 豊満な胸に、彼を抱き寄せる。

「お姉さん、ご褒美あげちゃう」

「あはは…ありがと」

 苦々しい顔で、2人を眺める井野。

 咲原ナギというのが、この女の名前である。彼女について説明する前に、塵となって消えた筈の兎ノ原美月について語る必要がある。
603 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/06(水) 20:40:30.48 ID:nyl2yx+00
 ヴォイニッチの力を得た井野遊香は、目的の『お母様』こと成瀬ヨシノだけでなく、ミヅキをも生き返らせた。成瀬より先に完成した彼女は培養器を出た。しかし、生き返った彼女は抜け殻同然で、意志もなければ言葉も喋らなかった。井野とユウダイは、そんな彼女にガイキから奪ったロストドライバーを与え、母神教の尖兵とすることにした。ネブラメモリとクローバーメモリが遊香によって成瀬復活のために使われており、ドーパントに変身することができなくなっていたからだ。
 最初、ドライバーには工場から持ち込まれたエクスタシーメモリを装填するつもりだった。ところが、そこへ現れたのは銀色の一角獣。彼はミヅキに常に寄り添い、時にガイアメモリとして、彼女に力を与えたのであった。
 さて、意志なき戦闘マシーンとして仮面ライダーに挑んだミヅキ。しかし、仮面ライダーによって檻に閉じ込められてしまう。それを救い、聖堂まで連れ帰ったのが、ナギであった。

「…はぁい、ここまで」

 ひとしきりユウダイに『ご褒美』を与えた彼女は、解いたブラウスを結び直すと、2人の男に背を向けた。

「どこへ行く」

「遊んで来るわぁ〜。ちゃあ〜んと戻って来るから、心配しないでねぇ」

 そう言うと彼女は、艶かしく尻を振りながら、その場を去って行った。



 この日、徹とリンカは、風都にあるダム湖に来ていた。これは、例によって北風新報の藤沢編集長から頼まれた仕事のためであった。

「幻の”フッキー”を目撃せよ、ねえ」

 ダム湖の畔にある真新しい小屋の前で、徹は溜め息を吐いた。

「今日びそんなオカルトが流行るかっての」

「ですが、目撃証言は多いようです」

 鞄から数枚のプリントを出して捲りながら、リンカが言う。彼女の着ているシャツに描かれているのは、片手を上げて小判の海に沈む、銀色の招き猫。

「…だからって、わざわざ記事にするほどか?」

 それを見ないようにしながら、徹が反論する。

「真偽を確かめると言うよりは、記事にして注目を集めること自体が目的のように思えます」

 小屋の前に建てられた、これまた新しい看板に目を遣る。



『フッキーに会えるかも!? ボート貸します』



604 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/06(水) 20:40:58.99 ID:nyl2yx+00
 徹が、また溜め息。

「こんなことしてる場合かよ…」

「…なあ、ボート借りたいんだけど」

「大体、北風新報が何で風都の観光記事なんて書かなきゃ…」

「…おい、無視すんなって」

「俺はボート屋じゃねえ!」

 とうとう、徹が怒鳴った。
 大声を出されて、帽子を被った若い男が一歩下がる。

「おっと、勘違いしてた。悪い悪い」

 徹は、怪訝な目で男を見た。
 こんな山奥に来ているというのに、カッターシャツにスラックスを穿き、きっちりネクタイを締めて黒いベストを羽織り、同じく黒の中折れ帽を被っている。気取った格好の割に、妙に垢抜けない男であった。

「何だよ、あんたもフッキーとか言うのを見に来たのか?」

「まあ、そんなとこだ。仕事の一環でな」

「へえ、あんたも仕事か」

 そこへ、一人の女が駆け寄ってきた。こちらはシースルーのキャミソールに股上の浅いタイトジーンズを穿いた、刺激的な体つきの若い女だ。男の恋人だろうか。

「翔太郎!」

「ときめ、何か気になるものはあったか?」

「何も…気配も無い」

 意味深な会話を交わす2人。徹とリンカは、顔を見合わせた。
 向こうも、2人のことが気になったらしい。

「…お二人は? デートにでも来たんですか?」

「取材です」

 ときめと呼ばれた女の質問に、リンカが答えた。彼女は翔太郎と言う男の方をちらりと見やると、微かに目を細めた。

「…ん? 俺の顔に何か付いてるか?」

「いえ」

 目を逸らすリンカ。取り繕うように、小屋の扉に歩み寄る。

「我々を貸しボート屋と間違えたということは、この店は空だったのですか」

「ああ。あんたらが来るちょっと前からいたんだけど、ノックしても返事が無いんだ。だからこの辺を見て回って、帰ってきたら誰かいると思って」

「それで俺たちに声をかけたんだな」

「うーん、しゃあない。一旦帰って、出直すか…」

 翔太郎が言いかけたその時

「…おやっ、お客さん?」

「!」

 見ると、湖の方から一人の老婆が歩いてくるところであった。

「もしかして、ボート屋さんですか?」

「そうそう。ごめんねえ外で待たせちゃって! さ、中で休んでって。良かったら、湖も見てってよ。綺麗だからさ」
605 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/06(水) 21:10:15.82 ID:nyl2yx+00
一旦区切る
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/11/07(木) 00:53:54.79 ID:rBi72b75O
ついに接触か……
607 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/08(金) 18:52:59.03 ID:LQ4dIVlO0
久しぶりに安価スレっぽいことをしてみようかな
608 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/08(金) 19:05:29.51 ID:LQ4dIVlO0



「私たちは、最近このダム湖で目撃されるようになったという、フッキーと呼ばれる生物を探しに来ました」

 リンカの説明に、老婆は困ったように唸った。

「何か、都合の悪いことが?」

「悪いってほどじゃないんだけどねぇ…」

 緑茶の注がれた湯呑を両手で握って、ぽつりと言う。

「…何であたしが、ダム湖でボート屋なんかやってるか、分かるかい?」

「…」

 翔太郎とときめは、黙って老婆に注目している。

「…もしかして、お婆さんの家は」

「あれの底さ」

 老婆が頷く。

「別に、無理くり追い出されたわけじゃない。必要だと分かって引っ越したんだけど、それでも寂しくてね。暇に任せて、静かにやってたのに、フッキーの噂が立ってからはひっきりなしさ。思い出に浸る暇もないもの」

「そうだったんですか…」

 沈んだ声で相槌を打つ徹。この時既に彼の頭の中には、フッキーなどいない、無責任な噂のせいで近隣住民が困っているという、記事の大筋が出来上がっていた。
 そのためには、静かな湖の写真が必要だ。

「…一応、ボートを貸していただけませんか。フッキーがいないとしても、折角の綺麗なダム湖です。写真は撮っておきたい」

「ああ、良いよ。表にあるから、持っていきなさいな」
609 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/08(金) 19:08:12.93 ID:LQ4dIVlO0



 表にあるボートは、一台だけだった。普通に乗って2人、どう頑張っても3人が限界だろう。

「俺たちが乗るからな」

 ボートに近付こうとした徹を、翔太郎が呼び止めた。

「おい、待てよ! 俺たちもフッキーを探しに来たんだぞ」

「後で良いだろ。俺たちが先だ」

「いや、俺たちが…」



↓1〜3でコンマ最大 誰が乗る?

@徹&リンカ

A翔太郎&ときめ

Bまさかの翔太郎&徹

Cまさかまさかのときめ&リンカ
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/11/08(金) 19:17:11.50 ID:Uvu1j6DRO
4
611 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/11/08(金) 19:19:54.12 ID:ffSsvbwpo
3
612 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/11/08(金) 19:56:55.53 ID:thdiEji0O
3
613 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/08(金) 20:47:17.71 ID:LQ4dIVlO0
「…」

 言い争う2人を尻目に、ときめとリンカはボートを引っ張り、岸に浮かべた。そして

「…はい、2人で」

「行ってらっしゃい!」

「えっ?」

「…おわあぁっ!?」

 首根っこを捕まれ、ボートに放り込まれる翔太郎と徹。彼らに2本のオールを投げつけると、2人の女はボートをぐいと押し出した。

「ちょっ、あっ、あーっ!?」

 叫びも虚しく、ボートは見る見る内に沖の方へと遠ざかっていった。



「…」

「…」

 持ってきたカメラで、湖の景色を撮る徹。翔太郎も、持参した奇妙な形のカメラで、湖の風景を写真に撮っている。

「あんたたち、記者か何かなのか?」

「ああ、フリーの記者だ。…一応、名刺」

 懐から名刺を取り出し、渡す。翔太郎はそれを受け取ると、自分も名刺を差し出した。

「『鳴海探偵事務所 左翔太郎』…探偵?」

「そう。風都一のハードボイルド探偵とは、この俺のことよ!」

「ふぅん…」

 名刺入れに仕舞い、改めて相手の顔を眺める。
 帽子の下は、意外と精悍な顔付きの色男だった。それによく見ると、線は細いが体つきはしっかりしている。恐らく、殴り合いになったら勝てないだろう。

「っと…で? 力野さん? は、フッキーの取材に来たってわけ」

「そうそう。オカルトとか得意じゃないけど、お得意様に頼まれたら仕方ない。…あんたは? 左さん。探偵が何で、こんなところに来てる」

「俺は、人探しだ」

「へえ、探偵っぽい。どんな?」

「そこから先は、依頼人の秘密に関わる」
614 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/08(金) 20:48:11.56 ID:LQ4dIVlO0
「あ、そ。じゃあせいぜい、俺の仕事の邪魔をしないで…」

 言いかけたその時、突然翔太郎が、その場で立ち上がった。

「うわっ、何すんだよ! ボートがひっくり返る…」

「しっ」

 片手を上げ、徹を制止する。それから、声を潜めて言った。

「…何か、聞こえねえか」

「何かって、何が」

「こう…波というか、水が揺れるような……っっっ!?」

「はあ? ……あああっ!?」

 突然、2人の目の前で水面が大きく揺れた。と思った次の瞬間、巨大な影が、湖の中から姿を現した。

「あ…こ、これは…」

「ふ…ふ…」



「「フッキーだああああっ!!?」」



615 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/08(金) 21:18:22.90 ID:LQ4dIVlO0
 ときめとリンカは、ダム湖の周りを2人で歩いていた。

「円城寺リンカ、さんね」

「リンカ、で構いません。それに数ヶ月以内に、円城寺は旧姓になると予想されます」

「えっ? じゃあ、結婚を」

「彼が望むなら」

「お、おめでとうございます…」

「時に、貴女は? 同行している探偵とは、どのようなご関係で?」

「し、翔太郎は探偵としての先輩というか…わたし、あの人の助手だから」

「そうでしたか」

 木々の茂る湖畔を歩きながら、リンカがぼそっと呟く。

「…本当に、何も覚えていない」

「何?」

「いえ、こちらの話です。…探偵が、未確認生物を探しにここまで?」

「ううん。正確には、フッキーを追いかけて行方が分からなくなった人を、探しに来たの」

「なるほど」

 頷くリンカ。ときめは、そんな彼女の着ているシャツが気になるのか、ちらちらと横目で見ながら言った。

「…き、記者って、変わった人が多いのかな」

「そうですね。徹を見ていると、そう思います」

「徹さん…あの人は」

「ですが」

 彼女はおもむろに立ち止まると、ときめの方をじっと見て、言った。

「彼は、真っ直ぐです。それこそ、変わっていると思われるほどに」

 言いながら彼女は…鞄に手を入れ、無骨な大型拳銃を抜いた。

「!!? リンカさん、何を」

「出てきなさい」

 リンカはそれを、脇の木立に向けた。
 すると、木の陰から一つの人影が現れた。

「…彼の、真っ直ぐなところに惹かれたのでしょう。私も、……『彼女』も」

 そこに立っていたのは、水色のゴスロリ衣装を着た少女。

「大人しく投降して。これ以上、徹を悲しませないでください。……兎ノ原、美月!」
616 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/08(金) 21:18:48.53 ID:LQ4dIVlO0
今夜はここまで
617 : ◆eXipHdytqM [saga]:2019/11/10(日) 14:16:50.65 ID:WlmJT/mi0



「こ、こうなったら…」

「いや、待て」

 懐に手を入れかけた徹を、翔太郎が止めた。彼は『フッキー』の方を向くと、慎重に身を乗り出した。
 『フッキー』は、長い首だけを水面から出して、じっとボートの上の2人を見ていた。大きな口からはずらりと並んだ鋭い歯が覗き、太い首はいかにも力強い印象であるが、ぎょろりと丸い目は、どこか愛らしささえ感じる。

「あ…あんたが、フッキーか」

「こいつ、襲ってこない…?」

「あんたに訊きたいことがある!」

 そう言うと翔太郎は、懐から一枚の写真を取り出した。
 そこに写っていたのは、一人の中年男性。冒険家のような格好をしている。

「この男を知らないか…」

 ところが、写真を見た瞬間、フッキーの目つきが変わった。突然首を大きく振り上げると、ボートに向かって振り下ろしたのだ。

「うわああっ!?」

「危ないっ!」

 急いでオールを漕ぎ、距離を取ろうとする徹。しかし、水面を叩く衝撃だけで、ボートが大きく揺れた。

「左さん、逃げないと…」

「分かってる。ただ、湖の真ん中じゃ…」バット

「!? ガイアメモリ…?」 

 翔太郎が青いメモリをカメラに挿し込むと、何とカメラがコウモリ型ロボットに変形し、空に跳び上がった。
 更に片腕を突き出すと、黄色いデジタル時計からワイヤーが伸び、コウモリにくっついた。
 コウモリは一直線に岸まで飛ぶと、近くにあった気にワイヤーを巻き付けた

「しっかり掴まってろよ…」

 猛スピードでワイヤーが巻き取られる。引っ張られて、ボートも岸へと近づいて行く。

「よし、もうすぐで…」

「…左さん! 後ろ!」

 振り返ると、追いかけてきたフッキーが、巨大な口を開けてボートに噛みつこうとしていた。

「力野さん、飛べーっ!!」

「うおおおーっ!!」

 ボートの底を蹴り、ジャンプする。翔太郎が徹の肩を掴むと、ワイヤーに引かれてどうにか陸地まで辿り着いた。

「痛た…」

「た、助かった…」
618 : ◆eXipHdytqM [saga]:2019/11/10(日) 14:17:18.77 ID:WlmJT/mi0
 立ち上がる徹。そして、気付く。
 いつの間にか湖畔には多くの人がいて、水中に消えゆくフッキーにカメラやスマートフォンを向けていた。



「こ、この娘は…?」

「説明する時間も義理もありません」ワイヤー

 銃から銀色のワイヤーが放たれる。それを軽々と躱すと、ミヅキはリンカに接近した。

「ときめ、手伝って! スタッグフォンぐらいは持っているでしょう?」

「!! 何でわたしが、コレ持ってるって…」スタッグ

 やや時代遅れな二つ折り式携帯電話に、ピンク色の疑似メモリを装填する。すると携帯電話がクワガタムシ型ロボットに変形し、ミヅキに突進を仕掛けた。
 ところが、それは宙で撃ち落とされた。

「ああっ!」

 体当たりでスタッグを撃墜した、銀色の影が、ミヅキの前に庇うように立つ。

「メモコーン…それ以上私たちを阻むなら、破壊します」

「! あの時のユニコーン君…じゃあ、この娘が…『アリス』」

「面識があるのですか? …っ!」

 回し蹴りを銃床で受ける。二度目の蹴りをバック転で躱すと、空中でワイヤーを放った。

「…」

 跳び上がって躱すミヅキ。ときめは撃ち落とされたスタッグフォンを拾うと、番号をプッシュした。

「もしもし!? …助けて、翔太郎!!」



 2人の男が駆けつけた時、ミヅキは長剣を構え、ときめとリンカを追い詰めるところであった。

「リンカ! …ミヅキ!?」

「ときめ、大丈夫か!?」

「うん! それより、この娘は…」

「…これは、俺たちの問題だ。悪いが、手出ししないで欲しい」

 徹が、ミヅキの前に立ち塞がる。
 しかし、翔太郎は従わず、徹の隣に立った。

「聞こえなかったのかよ」

「悪いな。助手に手出しされて、黙っていられる俺じゃねえんだ」
619 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/10(日) 14:17:44.63 ID:WlmJT/mi0
 そう言うと彼は…懐から、黒いガイアメモリを取り出した。



『ジョーカー』



「!? 左さん…あんた『も』」

「…『も』?」

 徹は、ポケットから銀のガイアメモリを抜き、掲げた。一歩後ろで、リンカも金のメモリを抜く。



『ファンタジー』『トゥルース』



「ドライバー…しかも、ダブルの? 何でリンカさんが」

「「変身!」」

「変身!」



『サイクロン』『ジョーカー』

『トゥルース』『ファンタジー』



『…ま、マジで』

『まさか、本当に…』



『『あんたも、仮面ライダーだったのか!?』』
620 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/10(日) 14:19:03.29 ID:WlmJT/mi0
『Pの願い/フッキーを探せ!?』完
621 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/13(水) 19:35:47.74 ID:+HqNMdMD0
 並び立つ金と銀の騎士と、緑と黒の超人。

”ミュージアムを壊滅させ、NEVERを撃退し、T2計画を失敗に追い込んだ、風都の英雄。仮面ライダーW…!”

『…ああ、出会ってしまったか』

 Wの右側から、溜め息混じりの声が聞こえた。

『あんたが何だか知らないが…絶対に手出しするんじゃねえ!』

 大剣を構えると、デュアルはミヅキに向かって踏み込んだ。ミヅキは長剣を振るい、デュアルに襲いかかる。

『ミヅキ、目を覚ませ!』

「…」

『もう、戦うのは止めるんだ! ミヅキ…』

『彼女に君の声は届かない! 何故なら、アリス…兎ノ原美月は、そこにはいない!』

『うるさい! お前に何が分かる…』

 右手を掲げると、空中に無数の細長い包帯が出現し、ミヅキに向かって伸びた。それらを一つ残らず切り払うと、彼女はメモリをクエストに挿し替えた。

「…」

 杖から炎を飛ばし、デュアルを攻撃する。幾つかはWにも向かったが、全てはたき落とされた。

『翔太郎、彼女を傷付けないようにするんだ』ルナ!

『当然だ、フィリップ!』ルナ! ジョーカー!

 デュアルの前に、長い腕が割り込んだ。黄色い腕が杖を叩き落とすと、更に彼女の周りをぐるりと囲んだ。

「…」

 ミヅキは動じず、その場に跳び上がると、長い腕の上を走ってWに飛び蹴りを放った。

『!』ルナ! メタル!

 腕を引っ込めると、代わりに鋼の棍を出現させ、蹴りを受け止めた。棍は自在に伸びて、彼女の動きを封じる。
622 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/13(水) 19:36:16.66 ID:+HqNMdMD0
『だから、余計なことをするな!』

 デュアルが、空中に巨大な籠を出現させ、ミヅキの上に落とした。

『おっと!』

 飛び退くW。ミヅキは逃げ遅れて、籠の中に閉じ込められた。

「…」セイバー!

 落ちた杖が剣に変形し、ミヅキに向かって飛来する。しかし、竹製に見えるそれは、竹と違って刃を通さない。

『…ミヅキ』

 デュアルは大剣を置くと、籠に向かって歩み寄った。

『しっかりしろ。俺が分かるだろ。…俺のために、命懸けで戦ってくれたじゃないか』

「…」

 ミヅキは、応えない。

『聞いてくれ、北風町の仮面ライダー。彼女の意識は、まだそこにいない』

『黙ってろ! …なあ、思い出してくれよ! そうしたら、もう二度と戦わなくていいんだ。あんたは、もう十分頑張ったんだから』

「…」

 ミヅキが、ドライバーに手を伸ばす。セイバーメモリを外すと、ライブモードに戻ったメモコーンが、彼女の足元に着地した。

『そうだ。武器を捨てるんだ。もう、あんたには必要ない…』

 デュアルもドライバーからメモリを抜こうとした。次の瞬間

『…危ない!』

『え? …うああっ!?』

 突然、彼の足元で何かが爆ぜた。
 咄嗟に飛び退くデュアル。一方のミヅキは、別の手によって引き寄せられていた。

『だっ、誰だ!?』

「んふふふ…」

 湿っぽい女の笑い声。粉塵の中から、新たな乱入者が姿を現した。
623 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/13(水) 19:51:13.42 ID:+HqNMdMD0
 それは、二枚貝めいた形状の、不気味なドーパントであった。貝と言っても貝殻に当たる外殻は肌色で柔らかく、縦に裂けた殻の隙間からは赤いぶよぶよした肉のひだが覗いている。裂け目の上の方から突き出たピンク色の球体が頭部だろうか。殻から突き出た手足は妙に細く、艶めかしい。それが一層、不気味さを際立たせていた。

「初めまして〜、仮面ライダーさぁん…」

 ねっとりとした声で喋る、二枚貝のドーパント。デュアルが大剣を構えた。

「…ちょっとぉ〜、挨拶もなしに斬りかかるなんて、酷いわぁ〜?」

『…あんた、誰だ』

 Wが、一歩前に進み出た。
 ドーパントが、興味なさそうに目(見当たらないが、おそらくどこかにあるのだろう)を逸した。

「風都の仮面ライダーはもう良いの〜。どうしても遊びたいって言うなら…」

 やおら、Wの方に体を向けると、突然、肉のひだの隙間から、何かの液体が勢いよく吹き出した。

『うわっ!?』

 避け損ねて、液体を浴びるW。反撃しようとして、その動きが止まった。

『っ…な、何が…っ!?』

『…マズい。このドーパント、メモリは…』

 右側が喋った次の瞬間、Wがその場に伏せた。そして、何かに耐えるように、地面を繰り返し殴り始めた。

「どうしたの? 大丈夫…」

『来るな!』

 その隙に、ミヅキを抱えたドーパントが背中を向ける。

『あっ、待てっ!』

「さようならぁ〜、今度は、『お母様』と一緒に、ね〜」

 その姿が、ふっと掻き消えた。
624 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/13(水) 19:57:05.67 ID:+HqNMdMD0
『…おい、どうしてくれんだよ!』

 突っかかるデュアル。しかし、Wは応えず、四つん這いになって何かに耐えている。
 そこへ…

『…! 何だあれ…』

 啼声と共に、飛来したものがあった。

”…エクストリームメモリ”

 それはWのもとへ飛んでくると、独りでにドライバーに収まった。



『エクストリーム』



 虹色の光が迸る。光の中で、Wが一瞬だけその姿を変えた。
 しかし、それはすぐに消えた。変身すら解除され、そこにいたのは、地面に突っぷす翔太郎と…

「…初めまして、北風町の仮面ライダー」

 緑色のパーカーを着て、翔太郎と同じドライバーを身に着けた、一人の青年であった。
625 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/13(水) 19:57:36.08 ID:+HqNMdMD0
今夜はここまで
626 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/11/13(水) 20:13:08.79 ID:DrnC2Cj+O
相当アレなメモリでは……
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/11/13(水) 20:36:40.16 ID:XvkjDgeCO
これを実写でやったらどうなりますか?(純粋な目)
628 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/13(水) 21:06:29.20 ID:+HqNMdMD0
書き忘れてたけど、>>623でWに駆け寄ったのはときめね
629 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/11/13(水) 21:34:39.17 ID:DrnC2Cj+O
ゴマンダーというかヒャクメルゲというか(婉曲表現)
630 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/16(土) 17:13:45.28 ID:EtLGjGV70




「あたしは、もうここを離れるよ」

 貸しボートの小屋で、老婆はぽつりと言った。

「ボートも失くしちゃったし、何よりあんな大事になっちゃ大変だ」

「…」

 沈痛な面持ちでそれを聞く徹。翔太郎やときめも気まずそうにしている中、エクストリームメモリと共に現れた青年だけが、きょろきょろと小屋の中を見回していた。

「だからもう、帰っておくれ」

「…失礼しました」

 立ち上がる徹。リンカも後に続く。

「一つ、訊きたい」

 不意に、青年が口を開いた。

「あなたは、静かにこのダム湖を見守りたい、ボート屋は隠れ蓑だと言った。…だったら何故、看板にはフッキーと会えるなんて客を煽るような言葉を書いた?」

「おい、もう良いだろ」

「…友達に勧められたのさ。折角だから、乗っかっとけってね。あたしゃ押しに弱くて」

「もう一つ。ここには、数年前にも来たことがあるが、その時は貸しボートなんて無かった。本当に、あなたはここにいたのか?」

「…」

 徹が、青年の肩を掴んだ。
 青年は、追求を止めない。

「最後に。僕たちは、ある人物を探すよう頼まれてここに来た。ダム湖に現れた未確認生物に、翔太郎がその人物の写真を見せたら、態度が一変したそうだ。何か、知らないかい」

「知らないよ! そんな男…」

「…そうか」

 青年は頷くと、引き下がった。

「もう、帰るぞ。…お邪魔しました。ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」

 徹は頭を下げると、小屋を辞した。
631 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/16(土) 17:14:12.92 ID:EtLGjGV70



「悪いけど、僕たちはもう少しここに残るよ」

 小屋を出るなり、青年が言った。

「おい…いい加減にしろよ」

 詰め寄る徹に、彼は平然と言い返す。

「あのお婆さんは気の毒だが、それとは別に人探しがまだ残ってる。あのフッキーとかいう恐竜が、目的の人物について何か知っている可能性が高い。直接話は聞けないだろうけど、手がかりは掴めるだろう」

「…」

 苛立たしげに息を吐く徹。青年は、低い声で言った。

「…僕たちは、お互いに深く関わらないほうが良い」

「フィリップ、そんなこと言うなよ…」

「翔太郎。彼にも事情があるんだ。照井竜のように、考えを変えられると思わない方が良い」

「あんたの言う通りだよ」

 徹は、唸るように言った。

「風都の仮面ライダーなら、風都の中でヒーローでも気取ってれば良い。俺たちの町は…俺たちで十分だ」

 彼らに背を向け、足音荒く歩き出す。リンカは、それに付いていこうとして…ふと、足を止めて翔太郎たちを見た。

「…円城寺リンカ」

 フィリップと呼ばれた青年が、呟く。

「君は一体、何者だ?」

「名もなきフリー記者Bです。以前は勤め人でしたが、先日退職しました」

「そんなわけないよ! 普通の記者が、銃やメモリを持っているわけ…」

「…私の知る限り、万灯雪侍の件に財団は一切関知しておりません。悪しからず」

「!! あんた」

「もう退職したと言ったでしょう? 今の私は、主婦兼パート従業員ですので。では」

 色めき立つ翔太郎たちを残して、リンカは徹を追ってその場を去った。
632 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/18(月) 21:12:21.39 ID:UPv3nJ7b0
「…さて、行こうか」

 徹たちが見えなくなったことを確認すると、おもむろにフィリップが小屋の方を向いた。

「えっ?」

「もう、答えは出ただろう? 後は、仕上げだ。…この街を泣かせる輩を、倒しに行こう」



 独房の中で、じっと黙って座っていた九頭が、不意に顔を上げた。

「…来た」

「…」

 看守は、取り合わない。

「外宇宙の秘技を経て…お母様が、再びこの世に、帰って来られる」

 弱りきった足で立ち上がると、天を仰ぎ、叫ぶ。

「お母様が…お戻りになられる!!」

「…」

 看守が、密かにポケットの中のスマートフォンを覗き見る。
 ロック画面には、彼の主の不在を告げるアラートが、ずらりと並んでいた。
633 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/18(月) 21:15:19.29 ID:UPv3nJ7b0



「1つ。天候によって水位が変動するダム湖において、観光目的のボートは一般的でない」

「な、何だいあんたたちは!?」

「1つ。フッキーの噂が広がったのは、ここ数週間程度の話だ。それなのにしっかり看板を用意する辺り、やけに準備が良い」

「…」

 老婆が、2人の狼藉者を睨む。

「1つ。…俺たちは数年前にもここに来たが…やっぱり、こんなボート屋無かったぞ。ダム湖に沈んだ故郷を偲ぶにしては、随分と急だな」

「何より」

 フィリップが、声を張り上げた。

「…このダムが出来たのは、もう80年以上は前の話だ。お婆さん、一体幾つかな?」

「…幾つに見えるかい」

 おもむろに、老婆が尋ねた。

「あそこに住んでたのは、ほんの赤ん坊の頃さ。だからって、語る思い出も無いなんて思われちゃ嫌だね。あそこは確かに」

「あんたが最初に俺たちと会った時」

 翔太郎が、老婆の言葉を遮った。

「湖の方から歩いてきたよな。あの後、ちょっとした用事ができる前に、そっちの方をちょっと探してみたら…」

 彼が見せつけたものに、老婆ははっと息を呑んだ。
 それは、1台の一眼レフカメラであった。全体に水を被り、レンズは割れてしまっている。しかし、翔太郎が操作すると、奇跡的に電源が入った。

「これは、フッキーを探しに行くと言って消息を絶った、二海健蔵という冒険家が持っていたものだ。俺たちは、二海の娘の香菜ちゃんに頼まれて、彼を探しに来た…」

 画面にプレビューが映る。幼い少女。公園。花畑…それは突然、森や湖の写真に変わった。
 そして最後に映ったのは、一人の老婆が、謎の小箱を掲げ、今まさに足に刺さんとしている光景であった。

「…あの男」

 突然、老婆が低い声で言った。

「大人しく、カネで手を打っておけば、命を失わずに済んだってのに…」

「! …殺したのか」

「もうとっくにあたしの腹の中さ。でも、直前にあいつが投げつけたそのカメラだけは、どうしても見つけ出して処分しなきゃいけなかった…」

「それで、湖の中を嗅ぎ回っていたのか。…ドーパントに変身して!」

 老婆が、灰色のガイアメモリを取り出した。
634 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/18(月) 21:17:20.99 ID:UPv3nJ7b0



『プレシオサウルス』



「後ちょっとで、競艇の負けが取り戻せるんだよ…タダで貰った、このメモリで!」

 そう言うと彼女は、いきなり小屋を飛び出した。

「待てっ!」

 追いかける翔太郎とフィリップ。
 老婆は湖畔で立ち止まると、ゆっくりと2人の方を向いた。

「…どうして、ここに故郷が沈んでるなんて、湿っぽい作り話なんてしたと思うかい?」

「検索はしていないが…それだけは、事実だと思っていた」

 すると彼女は、可笑しそうに声を上げて嗤った。

「後追いに真似されちゃ、あたしの取り分が減るだろ? 縁もゆかりもあるあたしだけが、ここでボート屋をできるようにしたかったのさ! フッキーとしてお客さんを楽しませて、あたしは貸しボートで儲けて…皆が幸せになるってのに! 邪魔するんじゃないよ!!」プレシオサウルス

 サンダルを脱ぎ、片足を上げると、足の裏にコネクタが見えた。そこにメモリを挿すと、老婆は湖に飛び込んだ。

「…行くぞ、相棒」ジョーカー!

「ああ」サイクロン!



「「変身!!」」サイクロン! ジョーカー!



 湖に、巨大な首長竜が出現する。
 私欲のために人を殺し、少女を泣かせた街の敵。……彼らは、投げかける。
635 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/18(月) 21:19:20.29 ID:UPv3nJ7b0



『『さあ…お前の罪を、数えろ!!』』


636 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/18(月) 21:22:33.86 ID:UPv3nJ7b0
今夜はここまで
637 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/24(日) 21:34:17.90 ID:92Xz7fy90



 聖堂に響いた、乾いた破裂音に、井野は目を覚ました。

「…!」

 祭壇に駆け寄る。
 一人の女が入った培養器に、ヒビが入っている。

「お母様…」

「井野さん、どうしたの…!!」

 ユウダイも気付いて、走ってきた。
 ヒビが、広がっていく。それと同時に、ガイアメモリの入った培養器にも亀裂が走った。

「お母様…お母様が、帰ってきた…!」

 培養器の壁が、遂に崩れ落ちた。流れ落ちる液体を踏んで、裸の女がゆっくりと前に進み出る。

「お母様!!」

 たまらず、ユウダイが彼女に抱きついた。

「…」

 ところが、女は虚ろな目でじっと前を見たきり、何も応えない。

「お母様…?」

「ミヅキと一緒だろう。精神まではまだ戻っていない」

「そんな…」

「まだ、希望はある」

 井野の言葉と同時に、最後の培養器も開いた。彼はその中から、金色のガイアメモリを手に取ると、女に近寄った。
 金色のメモリには、2本の腕に抱かれる赤子の絵。子を抱く母の腕が、『M』の字を成しているのだ。



『マザー』



 起動した瞬間、メモリが彼の手から飛んだ。そして、吸い込まれるように、女の豊満な乳房の間に刺さった。
 女が、目を開ける。

「…ああ」

 その体が、白い光に包まれ…やがて、マリア像めいた姿に変わった。

「お母様!」

「愛しい子たち。母を想う心が、母をこの世に蘇らせてくれました」

「なあ、おれは約束は果たしたぞ。だから」

 『お母様』が、頷いた。そして、ふと後ろを振り返った。



”……ぁ”



 祭壇の上に浮かんでいた女が、支えを失ったように落ちてくる。井野が慌てて受け止めると、その腕の中でぐったりと脱力した。
638 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/24(日) 21:34:59.94 ID:92Xz7fy90



『『トリガー・フルバースト!!』』

「ぎゃああぁぁっっ!!?」

 無数の光弾が、水上の首長竜に炸裂した。爆炎の中から、気絶した老婆をどうにか拾い上げると、Wはほっと一息ついた。

『やれやれ、これで一段落…』

 と、突然その動きが止まった。

『…どうした、フィリップ?』

『アリスが…』

『アリス? って、さっきの娘か』

『悪い翔太郎、後は頼んだ!』

『えっ、ちょっ、おい!?』

 止める間もなく右手がドライバーを閉じ、黄色のメモリを引き抜いた。変身が解けると、老婆の体の重さにハードスプラッシャーの上で翔太郎がよろめいた。

「うおっと!? おい…おいフィリップ!」

 湖畔に目を遣ると、ときめが保護していたフィリップの体が起き上がり、そして座ったまま気絶したように固まったところであった。



 ___白い空間にて。本棚さえ取り払われた何もない場所で、座って本を読む少女に、近寄るものがあった。
639 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/24(日) 21:35:27.29 ID:92Xz7fy90



「…ミヅキ。さあ、母の元へ帰りましょう」


640 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/24(日) 21:36:22.16 ID:92Xz7fy90
『Pの願い/ライダーとライダー』完

今夜はここまで
641 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/11/24(日) 21:50:22.79 ID:92Xz7fy90
『プレシオサウルスドーパント』

 『プレシオサウルス』の記憶を内包するガイアメモリで、貸しボート屋の老婆が変身するドーパント。本物のプレシオサウルスとそう変わらない、巨大な体のドーパントであるが、本物に比べると若干首から先の比率が大きく、デフォルメされている。これはかの有名な未確認生物、『ネッシー』の正体ではないかとする説によるもので、狭い湖でも巨大な首を出して泳げるような体になっている。
 陸地でもある程度は動けるが、当然水中のほうが速度も力も発揮できる。また、口からエネルギー弾を出したり、大きな波を起こして攻撃することもできる。
 マザードーパントをおびき寄せるべく、ガイキが北風町にばら撒いたメモリの一つ。競艇で負けこんで借金を抱えていた老婆は、ガイキからこのメモリを渡されると、風都のダム湖で未確認生物『フッキー』として行動し、その上でダム湖を巡るボートをレンタルしてフッキー目当ての観光客を集め、金儲けをすることを思いついた。競合者が出にくくなるよう、ダム湖に沈んだ村の住民を装うという念の入れようであったが、フッキーを探しに来た冒険家、二海健蔵に変身するところを目撃されたため、口封じに殺害。ドーパント態で生きたまま飲み込んだため遺体は残らなかったが、変身するところを収められたカメラが水中に投げられたため、人目を忍んでは湖底を探し回っていた。
 しかし、二海の娘の依頼で彼を探しに来た私立探偵、左翔太郎とフィリップによって湖畔に打ち上げられたカメラを発見され、正体を看破された。これも口封じするべくドーパントに変身するが、仮面ライダーに変身した2人によって撃破、メモリブレイクされた。
 メモリの色は灰色。横から見た首長竜の頭部が『P』の文字に見える。



 >>123を採用させていただきました。ありがとうございました!
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/12/06(金) 02:28:17.46 ID:LbQEe5fDO
年末進行でお忙しかしら
643 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/12/07(土) 22:43:57.55 ID:oM1J5Y240
「…ミヅキ。さあ、母の元へ帰りましょう」



「やめるんだ!!」

「っ!?」

 手を差し伸べる女に、叫びながら突進するフィリップ。不意打ちに女は軽くよろめいたものの、動じることなく2人を見た。

「あなたも…母の子」

「ふざけるな!」

 少女を庇うように立ち尽くすと、彼は断じた。

「最近、地球の本棚に不審な気配があった…アリスかと思っていたが、お前だったんだな」

「母とは、星。ならばこの本棚は、母の知識、母の知恵」

「地球の記憶は、誰か一人が独占して良いものじゃない…悪用することも!」

 噛み締めるように、宣言する。彼の脳裏には、かつての自分の行い、そして彼を利用した人々の顔が浮かんでいる。
 拳を握り、頼りないファイティングポーズを取る。

「その手で、何をするというのですか? 愛しい子」

「お前を…ここから、追い出す!」
644 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/12/07(土) 22:44:32.88 ID:oM1J5Y240



 風都のダム湖から帰ってきたときには、もう日が暮れていた。

「どのように記事を書くつもりですか」

「もう、フッキーは本当にいたという方向で書くしか無いだろ…」

 その時、徹の携帯電話が鳴った。

「…もしもし?」

”あっ、力野くん?”

「藤沢さん? どうしたんですか」

 電話の相手は、徹にフッキーの記事を依頼した、北風新報の藤沢編集長であった。

”君、SNSか何かやってる?”

「はあ、少しは」

”ちょっと、フッキーで検索してみてよ”

 電話を繋いだまま、SNSでフッキーについて調べてみる。
 藤沢の言わんとすることは、すぐに分かった。

「仮面ライダーが…フッキーと、戦ってる!?」

 巨大な首長竜と戦うWの姿が、様々な角度から収められた写真が、多くの人々によって投稿されている。時間を見ると、今からほんの数十分前の出来事のようだ。

“悪いけど、今度の記事は無しだ。風都署の超常犯罪捜査課ってところからストップがかかったんだ。悪いけど、そういうことで”

「…」

 電話が切れる。徹は唇を噛みながら、携帯をポケットに突っ込んだ。そのまま歩き出そうとしたところで、リンカが黙って立ったまま動かないことに気付いた。

「…リンカ?」
645 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/12/07(土) 22:45:00.16 ID:oM1J5Y240
 振り返り、ややぶっきらぼうに呼びかける。
 リンカは、彼の肩越しに、じっと何かを見ていた。

「…?」

 彼女の視線を追い…そして、気付く。
 いつの間にか進行方向に、一人の女が立っていることに。

「んふふ…」

 粘ついた声で嗤う女。タイトなレザーパンツに白いブラウスを着て、ボタンを止めずに裾を前で結んでいる。
 その笑い声に、覚えがあった。

「お前、まさか」

「こんにちはぁ〜」

 へらへらと手を振りながら、くねくねと歩み寄ってくる女。彼女は、大きくはだけた胸元を徹に見せつけるようにお辞儀すると、慇懃に名乗った。

「咲原ナギって言いますぅ〜、よろしくね」

「ミヅキをどこへやった!」

 胸ぐらを掴むと、ブラウスの結び目が解けた。下着も付けない乳房が露わになって、徹は思わず目を逸らした。
 ナギは一切動じず、むしろ剥き出しの胸を擦り付けるように身を寄せてくる。

「ミヅキちゃんはぁ〜、すぅ〜ぐ迷子になっちゃうからぁ〜…その度に、お姉さんが連れ帰ってあげてるのぉ〜」

「…母神教の、本拠地か」

「んふふふ…」

 意味深に嗤うナギ。何か言おうと開いたその口に、黒い銃口が捩じ込まれた。

「っ」

「離れなさい」

 Xマグナムを握り、静かに怒りを燃やすリンカ。ナギは途端に冷めた顔になり、徹の身体を離した。
 ブラウスを結び直すナギに、リンカが吐き捨てるように言う。

「何の目的で私たちの目の前に現れたか知りませんが、私たちが貴女に要求することは一つ。メモリを棄て…」
646 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/12/07(土) 22:46:06.17 ID:oM1J5Y240
「…恋人?」

 いきなり、ナギが口を開いた。

「それが何か」

「そう! 君たち、恋人同士! だって匂うもの! 君たち2人のお股から、同じ匂いが…」

「おい! ふざけるのも大概に」

「もう、我慢出来なぁ〜い!」

 そう言うと彼女は、突然ズボンのホックを外し、足首まで一気に下ろした。
 当然のようにショーツも穿いておらず、剥き出しになった彼女の秘部。陰毛は剃り落としているようだが、余程『使い込まれて』いるのか、かなり黒ずんでいて、はみ出したひだが垂れ下がっている。
 その隙間から、何が銀色のものが覗いていた。

「はぁ…ぁんっ…」

 脚を広げ、いきむナギ。
 すると、彼女の膣内から何かがゆっくりと抜け落ちてきた。

「! あれは」

 銀色の端子から露わになったそれは、臙脂色のガイアメモリであった。筐体には『♂』と『♀』の記号を組み合わせた意匠で『L』の字が書かれていた。
 愛液に塗れたメモリをつまみ上げ、目の前に掲げる。

「この『L』はねぇ〜…『LOVE』のLなのよぉ〜」

 ところが、ガイアウィスパーは同調しない。



『リビドー』



 端子を上にして、再び膣に挿入する。

「んっ、あっ、あぁっ…はんっ!」

 服が脱げ、全裸になる。その股間だけが、見る見るうちに肥大化し、どんどん全身を覆っていく。
 遂に彼女は、二枚貝めいた女性器のドーパントへと変貌した。

「…」トゥルース!

「ああ。何も言わなくていいぞ」ファンタジー!

 咲原ナギ…リビドードーパントが、叫んだ。

「さぁ…愛し合いましょ、欲望のままに!!」
647 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/12/07(土) 22:46:38.57 ID:oM1J5Y240
今夜はここまで
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/12/08(日) 22:22:05.66 ID:gygtd6WsO

そういえばこのスレはR18スレだった
649 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/12/21(土) 20:54:12.48 ID:8W+H8s2n0



『はあっ!』

「ぁんっ!」

 大剣の一撃を、ぎりぎりで躱すドーパント。歪な肉体にも関わらず、しなやかな動きで攻撃をいなしていく。

「んん…あっ!」

 突然、リビドードーパントがデュアルに向けて何かの霧を噴きつけた。デュアルはマントを翻し、それを防ぐ。
 効果は分からないが、Wが一撃で行動不能になった代物だ。絶対に受けるべきではない。

『…まだやるか』

 大剣を構える。

「愛し合うの、あなたと、あたしで!」

『断る!』

 突き出す切っ先を避けると、足元を回し蹴りが駆け抜けた。軽く下がって躱し、再び斬りつける。それは拳で弾かれて、更にカウンターパンチが飛んできた。

『っ!』

「はぁんっ!」

 片手で拳を止めた。それをぐいと引き寄せると、ぶよぶよした胴体に膝蹴りを打ち込んだ。

「んんぅっ…」

 うずくまるドーパント。がら空きの背中に、剣を振り下ろした。

「いっ、たあぁぁっ…!」

『せぇやっ!』

 更に一撃。剣を地面に突き立て、ファンタジーメモリをドライバーから抜いた。

『これで…』

 腰のスロットに装填しようとした、その時

「…んふっ」

 リビドードーパントが、何かを取り出した。

『! それは』
650 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/12/21(土) 21:04:25.65 ID:8W+H8s2n0



『エクスタシー』



 サイケデリックな七色に輝くメモリを掲げると、彼女はゆっくりと姿勢を正した。

「焦らしプレイはぁ…好きじゃ、ないのぉぉぉぉ!!!」エクスタシー

 肉の裂け目に、エクスタシーメモリを挿入した。
 次の瞬間、その体が紫色に光った。

「あっ、あ、ああっ…はああぁぁっっっ…!!!」

 全身から、濃い霧が噴き出す。

『マズい…!』

 すぐに防壁を展開し、霧を防ぐ。しかし、周囲一帯を覆わんばかりの霧を、デュアルも少し浴びてしまった。

『…っ、な、何だこれ…』

 身体が熱くなってくるのを、徹は自覚した。
 彼の中で、リンカも同じ感覚を抱いていることに気付く。

”…偽り…これは、偽り…こんな、感覚は…”

『り、リンカ』
651 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/12/21(土) 21:21:33.68 ID:8W+H8s2n0
 霧の中で、リビドードーパントの身体が変形していく。全身を覆うほど肥大していた女性器が縮み、普通の女性のような姿に戻る。しかし、胴体には乳房が6つ付いており、長い髪の生えた頭部に顔は無く、縦に裂けた穴がぽっかりと空いているばかりであった。

「はあっ。あああっ! ああああっっ!」

『っ!?』

 目にも留まらぬ鋭い突きを、慌てて防御する。体の異常に加えて、エクスタシーメモリで強化された攻撃に、思わず姿勢が崩れる。

「はあっ! あんっ!」

 奇妙な叫びを上げながら、パンチやキックを繰り出す。デュアルは防御が追いつかず、遂に前蹴りを腹に受けてしまった。

『ぐはっ…』

「はぁんっ、はっ、早くっ…」

 仰向けに倒れたデュアルに跨り、くねくねと腰を振るリビドードーパント。

『こ、こいつ…』

 拳を握り、反撃の機を伺う。
 敵は激しく仰ぎながら、股間をデュアルの脚に擦りつけていたが、やがてその動きが止まり、そして呟いた。

「…や」

『っ、このっ!』

 すかさず突き出した正拳を跳んで躱すと、ドーパントが叫んだ。

「嫌、嫌っ!! 全っ然、『気持ち良くない』のっ!!!」

『なっ…?』

 困惑するデュアルの前で、彼女は喚きながら、どこへともなく走り去ってしまった。
652 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/12/30(月) 23:36:29.71 ID:w840u/cY0
『…っ!』

 敵が去った途端に、先程の違和感がぶり返してきた。

『クソッ…これは…』

 ドライバーに手をかけた時、彼の中でリンカが叫んだ。

”変身を解除しないで! …これはトゥルースメモリでも無効化出来ません”

『何でだ?』

”これは…この感情は…”

『この感情は?』

”…偽りでは、ありません”

『…』

 デュアルは辺りを見回すと、マントを広げ空へ飛び上がった。



 使ったことの無いほどにメモリの能力を駆使し、誰にも見られないよう空や地中を進み、ようやく部屋にたどり着いたデュアルは、ドライバーからメモリを抜いた。

「っ、はあっ…!」

「と、徹…」

 上気し、蕩けきった目のリンカ。それを見た瞬間、徹は彼女を床に押し倒した。

「はっ、リンカ、りんかっ」

 引き裂くようにシャツを脱がせる。リンカも、徹の服を力づくで剥ぎ取っていく。
 そのまま2人は、もつれ合うように朝まで求めあった。
653 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/12/30(月) 23:37:13.42 ID:w840u/cY0



「くっ…はぁっ…」

「…」

 少女を背中に庇う、傷だらけのフィリップ。満身創痍になりながらも、彼は諦めずに立ち上がる。
 女は、微笑みを絶やさずに彼を追い詰める。

「諦めなさい。母の腕に」

「うるさい!」

 震える手を拳に固め、女を睨む。
 女の身体が、白いマリア像めいた姿へと変わる。

「!」

「来なさい…そして…生まれ変わりなさい!」

 女が片手を上げ、そして振り下ろそうとした、その時

「…!?」

「これは…」

 周囲を漂う本棚から、一冊の本が飛来し、2人の間に割り込んだ。
 分厚い、大きな本。表紙には『MOTHER』の文字。

「『母』…」

 かつてこの本には、何重にも鎖が巻かれ、硬く封印が施されていた。しかし、今は違う。
 家族を。そして母を。彼自身が受け入れたことで、記憶の封印は解かれた。

 故に。

「…」

 本がひとりでに開き、光が溢れ出る。

「…あなたは」

 その光の中から、『彼女』は現れた。
 黒いコートに身を包み、つば広の帽子を目深に被り、白い包帯で顔を覆った、一人の女。

「…そうだ。僕にも、母親がいる。お前じゃない、母さんがいる…!」

 フィリップが断じる。
 黒コートの女が、拳銃を抜いた。

『ボム』

”来人”

 赤いガイアメモリを銃に装填しながら、彼女は言った。

”語りかけなさい。彼女に…かつて『あの人』が、お前にそうしたように”

「…!」

 フィリップは…園咲来人は、力強く頷いた。
654 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/12/30(月) 23:40:35.93 ID:w840u/cY0
『肥大するL/偽りなき感情』完

今夜はここまで
655 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2020/01/09(木) 21:07:35.18 ID:YxFRBaVv0
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

 長椅子に仰向けに転がしたユウダイの上で、激しく腰を振っていたナギは、不意にそこから飛び降りると、喚いた。

「あ゛あ゛ああっ! 全っっっ然っ! 感じないっっ!!」

 そこへ、井野が入ってきた。彼は足音荒く彼女に歩み寄ると、突然その胸ぐらを掴んだ。

「貴様! よくも…」

 その顔は、微かに上気している。

「はぁんっ…なぁに、定くぅん…」

 粘ついた視線を向ける彼女に、彼は怒鳴った。

「よ、よくも…よくも、あんな夢を…」

「あたしは、あなたにとって『気持ちいい』夢を見せただけ…あれは、あなたの望みなのよぉ…」

「っ…」

 ナギはおもむろに彼の股間を掴むと、祭壇を指差した。

「ほぉら…お望みのものが、あそこに」
656 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2020/01/09(木) 21:08:06.60 ID:YxFRBaVv0
 指差す先には、祭壇に腰掛けるマザードーパントと、その胸にしがみついて乳を吸う、裸の女。井野の実の妹、遊香。

「ふ、ふざけるな…」

「良いからヤれよ!」

 ナギが、ヒステリックに怒鳴った。

「妹ちゃんのマンコにチンポぶち込んで、バコバコやってビューってザーメン出せよ! 気持ち良くなれよ! あたしはもう、気持ち良くなれないんだよぉ…」

 大声で泣き出す、半裸の女。
 泣き喚くナギの目つきが、だんだんとおかしくなってきた。

「そう…そうよぉ…自分が気持ち良くなれないんだからぁ…みんなに気持ち良いとこ、見せてもらわなきゃ…」

 その視線が、聖堂の隅で座り込むミヅキを捉えた。

「ミ・ヅ・キ・ちゃぁ〜ん!!」

「…」

 ミヅキのもとへ歩み寄り、肩を掴んで立たせる。

「付いてきてよ」

「…」

 何も言わず、されるがままのミヅキ。井野はマザードーパントの方を見た。

「おい、お母様! こいつをどうにかしてくれよ…」

「…」

 しかし、『お母様』は取り合わない。井野は溜め息を吐いた。
 そんな彼らを尻目に、ナギはミヅキを連れて、どこかへと去ってしまった。
657 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2020/01/09(木) 21:20:24.94 ID:YxFRBaVv0



 明け方になって、ようやく徹とリンカは正気を取り戻した。

「はぁ…っく」

 震える手で、額の汗を拭う。リンカは床の上で、ぐったりと倒れたままだ。

「な…何だったんだ、アレは…」

 リビドードーパントが吐き出した、怪しい霧。それを浴びた瞬間、湧き上がってきた強い衝動。同じものを、リンカも感じているようであった。

「リンカ…大丈夫か」

「…はい」

 リンカがすっくと起き上がった。彼女は裸のまま立ち上がると、言った。

「ようやく頭がすっきりしました。シャワーを浴びてきます」

「あ、ああ」

 浴室に向かうリンカ。引き締まった尻が揺れるのを見て、さんざんぶち撒けたはずの衝動がまた湧き上がってくる気がして、彼は慌てて目を逸らした。



 服を着直しながら、リンカがシャワーから上がるのを待っていると、突然携帯電話が鳴った。しかも、徹のではなく、リンカのものだ。
658 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2020/01/09(木) 21:21:02.37 ID:YxFRBaVv0
 流石に、勝手に出るわけにはいかない。彼は震える携帯を拾い上げると、浴室の扉に向かって言った。

「リンカ、電話が鳴ってるぞ!」

「…失礼」

 いきなり扉が開いて、リンカが腕を伸ばした。彼女は電話を受け取ると、耳に当てた。

「もしもし、円城寺です。いつもお世話になってます。…はい、断り無く遅刻してしまい、申し訳…はい?」

「…おっちゃん?」

 漏れ聞こえるのは、『ばそ風北』の店主の声だ。今はリンカがそこでアルバイトをしている。出勤の確認だろうか。

「…分かりました。準備でき次第、すぐに行きます」

 電話を切り、徹に返す。

「…お。おう」

 まごつきながらも受け取る徹。その視線は、濡れた髪や、白いうなじや、控えめな乳房などにちらちらと向いている。
 彼女は、そんな彼の顔を見て、彼のズボンの股間を見て、それから

「続きは帰ってから、です」

 と、すげなく言って浴室の扉を締めた。
 徹はしょんぼりと居間に戻った。
659 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2020/01/09(木) 21:22:11.15 ID:YxFRBaVv0
一旦区切る
660 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2020/01/17(金) 20:26:53.77 ID:9nJJSdnW0



 1時間後。まだ暖簾もかかっていない『ばそ風北』の扉を開けると、もう出汁の香りが漂ってきた。開店前だと言うのに、一人の男がカウンターに座って蕎麦を啜っていた。

「…ん、ここの蕎麦はうめえな!」

「おっ、良い食べっぷりだね! 今度はお友達も連れておいでよ」

 店主と威勢のいいやり取りを交わすその人物を見た瞬間、徹はその場で後ろを向いた。

「帰るぞ、リンカ」

「あーっ、ちょっと待て!」

 カウンターの男、左翔太郎が慌てて立ち上がった。

「折角会いに来たのに、そりゃ無いぜ」

「…何の用だ」

 徹は舌打ちすると、店内に入った。

「力野さんとリンカさんに伝えときたいことがあってよ。どこに行けば会えるかツテで調べてみたら、この店によく来るって言うから」

「2人に会いたいって言うから、ちょっと早いけど呼んじゃった。ごめんね」

「いや、おっちゃんは悪くない。だけど…」

 徹は一つ離れた席に座ると、翔太郎を睨んだ。

「しょうもない用事だったら、許さねえからな」

「分かってるよ」
661 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2020/01/17(金) 20:27:19.41 ID:9nJJSdnW0
 彼は、徹の隣に座り直した。リンカも、反対側の隣に腰を下ろす。

「…っていうか、店主のおっちゃんは」

「俺のこともドーパントのことも、全部知ってる。気にせず話せ」

「そうか。…まず、昨日のドーパント。メモリは『リビドー』だ」

「知ってる」

「あの、噴き出す煙は、浴びた相手の欲求を刺激し、その…性欲を、極限まで高める」

「…知ってる」

 徹は硬い顔で切り捨てた。自分たちが身を以て味わったとは、流石に言えないが。

「それだけか? まだ俺たちの方が詳しいぞ」

「変身者は、咲原ナギ。風車町の風俗嬢だったらしいが、数週間前に白い服を着た大柄な男の相手をした日を境に、姿を消した」

「!」

 白い服の男。ガイキか。

「…相棒が手が離せない今、これが俺たちの調べた精一杯だ」

「そうか」

 徹は短く答えると、椅子から立ち上がった。

「じゃあ帰れ」

「おい」

「もう用はないだろ。帰れ」

「おい!」

 翔太郎は立ち上がり、徹の肩を掴んだ。その手を振り払おうとすると、そちらも掴まれた。

「…財団Xが、まだ何かしようとしてんのか」

「お前らには関係ない」

「関係ないはずがあるかよ! あいつらは、何度も街を泣かせた! まだやろうってんなら、絶対に許さねえ!」

「街? 風都か。…いい気味だ」

 次の瞬間、彼の身体がテーブル席の向こうまで吹き飛んだ。
662 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2020/01/17(金) 20:27:48.49 ID:9nJJSdnW0
「徹!」

「徹ちゃん!?」

「…」

 左の拳を突き出し、怒りに震える翔太郎。

「…あんただって、この北風町が好きなんだろ」

 震える声で、言う。

「だったら…何でそんなことが言えるんだよ…故郷を愛する者同士…何で、分かり合えないんだよ…!!」

「…街を泣かせる奴は、許さない」

 腫れ上がった頬をさすりながら、徹はよろよろと立ち上がった。

「『街に泣かされた』人のことを、あんたは考えたことがあるのか?」

 きっと、翔太郎を睨みつける。

「俺が生まれるずっと前から…この町は、泣いてんだよ…カネ、ゴミ、暴力、挙げ句ガイアメモリ、ドーパント…全部、全部…風都から持ち込まれた。押し付けられてきた…ずっと!」

 涙を浮かべながら、彼は叫んだ。

「この町を泣かせるのは…お前ら、風都なんだよ!!」

 店の出口を指差し、怒鳴る。

「分かったら、さっさとこの町から出ていけ!!」

「…っ」

 翔太郎は歯ぎしりしながら彼を見ていたが、やがて諦めたように、出口に向かった。
 去り際、彼はぽつりと言った。

「…相棒は、今も戦ってる」

「…」

「『アリス』…あの娘を、助けるために」

 そこまで言って、彼は店を後にした。
 徹は、その場にがっくりと膝を突いた。
663 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/01/17(金) 20:31:37.61 ID:/A0FrtFfO
ここ最初からやりたかったやつ?
664 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/01/17(金) 21:38:55.11 ID:EviejVIgO
当初はオリキャスほぼ出ない予定だったみたいだし違うんじゃない?偽ダブルが出てきたから翔フィリがいる事が確定した位だし
意識したかは知らんけど、あそこの決着は偽のダブルをWのメモリのジョーカーで倒した部分が芸コマだから好きよ
665 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2020/01/25(土) 09:34:33.09 ID:yAZ3XNRt0



 人通りの多い通りに辿り着くと、ナギはメモリを起動した。

『リビドー』『エクスタシー』

「はぁっ…はあああんっっっ!!!」

 服が消え、ナギの身体が歪な女体へと変化する。



「うわあっ!?」

「ばっ、化け物だーっ!」



 逃げ惑う人々を物色するように見回すと、突然、全身から白い霧を吹き出した。
 不運にも、それを浴びた数人の人の足が止まった。



「うっ、な、何…」

「体が、熱く…」



 一人の男と、一人の女の目が合った。次の瞬間、偶然すれ違っただけの2人は、その場で服を脱がし合い、激しく交わり始めた。
 それを皮切りに、その場にいた人々が、近くにいた人間を押し倒し、犯し始めた。

「もっと…もっと盛って…気持ち良くなって…!」
666 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2020/01/25(土) 09:35:00.22 ID:yAZ3XNRt0
 霧を撒き散らしながら、悠々と通りを歩く。人々が、性欲に狂っていく。
 その隣を、少女は黙ってついて行く。魂の無い彼女には感情も欲求も無く、従ってリビドーの霧を浴びても平然としていた。

 やがて、数人の男たちの前で、リビドードーパントが声を張り上げた。

「はぁい、ちゅうもぉ〜く!」



「はあっ、はあっ」

「ああっ、何かすげえ」

「が、我慢できない…っ」



「君たちぃ…ムラムラしてぇ、死にそうって感じぃ?」

 少女を、彼らの方へと突き出す。

「…ほぉら、この娘、とぉーっても上手よ!」



「はっ、はっ、ああっ」

「もしかして…こいつ、公園にいたって噂の」

「誰でもいい! もう我慢できねえ!」



667 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2020/01/25(土) 09:35:27.18 ID:yAZ3XNRt0
 男たちが、少女に襲いかかる。水色のゴスロリ衣装を剥ぎ、その身体を犯さんとする…



『ワイヤー』



 次の瞬間、どこからともなく飛んできた銀色のワイヤーが、彼女の腰に巻き付き、遠くへと引っ張り上げてしまった。

「はあっ…間に合いました」

 飛んで行った先には、一人の女。構えた黒い大型拳銃から、ワイヤーが伸びて少女を捕らえている。
 その隣の男が、ゆっくりとドーパントの元へ進み出た。

「…あらぁ」

「咲原ナギ…」

 ドライバーを腰に当て、メモリを抜く。

『ファンタジー』

「あらぁ…あたしのこと、知ってくれてるの」

「お前も…何か理由があって、ガイアに手を出したんだろ」

 ドライバーにメモリを挿し、展開する。

『…だけど、まずは罪を償うんだ』

 近寄るだけで、リビドーの霧が理性を蝕む。

”耐えて、としか言えませんが”

 リンカが囁く。

”後で、いくらでも相手になります。だから、頑張って”

『ああ!』

 大剣を振りかざし、リビドードーパントに斬りかかった。
668 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2020/01/29(水) 21:24:10.23 ID:Ew5SuySK0



”…”

 膝を突く、コートの女。マザードーパントが、ゆっくりと歩み寄る。

「復讐に呑まれ、我が子さえその炎に焚べた、小さな女。あなたに『母』は、相応しくない」

「お前…」

 フィリップが、思わず声を荒げた。

「それを決めるのは、お前なんかじゃない…!」

 呆然と2人の女を見守る少女に、向き直る。

「アリス! 目を覚ますんだ。君には、本当に大切な人が…愛する人が、いるはずなんだ!」

”来人…”

 黒コートの女が、呟く。

”もし…嘘でも良い…私を、許して…認めてくれるなら”

 再び飛来した、『母』の本。分厚いその本が光りに包まれ、女の手に吸い込まれていく。
 光が収まった時…そこにあったのは、金色のガイアメモリであった。描かれているのは、子を抱く母の腕。
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