【鯖鱒wiki】ふたたび坂松市で聖杯戦争が行われるようです【AA不使用】2スレ目

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55 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/03/21(日) 22:59:22.64 ID:GZ/fE0tf0



ルゥナからの指摘に、重く、こくんと頷く
本当なら生きていいはずがない。罪悪感から、その顔はホロホロと仮面が剥がれ落ちる

昆虫の様な無機質な素顔。人間の様に泣き出しそうな仮面。ルゥナの知らない顔は、よく知る声で懇願した


「……もう、いい。これ以上は、もう」
「ルゥナ。私を殺して。ルゥナの魔術なら、それが出来る、から」
「だから……お願い。ルゥナ」


目から涙を流しながら、笑顔で少々森だった蟲は語る
もう生きたくない。だから殺せ。事実上の自殺をルゥナに託したのだ

それを聞き入れるのか、それとも。……何を悩む必要があるの?


「……ふざけんじゃないわよ!」

「あたしがどれだけ!あんたを心配してやったと思ってるのよ!」

「もう死にたい?殺してくれ?知らないわよ、そんなの!」

「あたしは!あんたの事を……!」




「みーつけた!」「こんな所に……」「くそっ、スーツが汚れるだろうが……!」



56 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/03/21(日) 23:01:09.93 ID:GZ/fE0tf0



「っ!?」
「あんた達……市長の!」

(……ランサー!)(わかってるよ!)

ぞろぞろと路地裏に雪崩れ込んでくる、不審な魔術師の群れ
施経とルゥナを拐った魔術師に、少々森に銃を突きつけていた魔術師

明らかに市長の差し金だ。急いでランサーに念話を飛ばす。あっと言う間に割り込み、長針を模した槍を構えて


「ルゥナ、少々森!下がっていて!」
「不審な動きの車があったから、監視していたんだ。こいつらの狙いは少々森だと思う!」

「あ、ちょっと待った。話をしようよ」
「私達は生身の魔術師がたった三人。そっちはサーヴァントに街を滅ぼしかけた怪物」
「……ズルくない?」

「んな事知らないっての!ランサー!まとめてぶっ飛ばし……きゃっ!?」
「ルゥナ!?……うわっ!?」

指示を下すその直前、背後から何か重いモノがのしかかる
見ると、それは土で出来たゴーレムで。少々森も身体を掴まれている
ランサーも突如飛来した光弾に思いっきり吹き飛ばされる。確か、これは……!

「目標は沈黙した。貴様らは直ちにアバドンを回収しろ」
「悪く思わないでくれ。僕も街を滅ぼされてはたまらないからね」


57 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/03/21(日) 23:01:55.00 ID:GZ/fE0tf0



「ストレングス!ユーニス……!」

「裏切った。なんて言わないわよね?」
「俺達からすればお前らの方が裏切り者だ!」
「あ痛たた……君たち、捕まってたんじゃなかったの?」

「力を貸す事を条件に解放されたんだよ!」
「私は街なんてどうでもいいけど……こんな兵器を隠し持っていたなら話は別よ」

かつてはライダーを退ける為、一時的に共闘したアーチャー陣営とキャスター陣営
だが、今はこちらに牙を向ける。完全に敵対の意思を見せていた

「回収しまーす!」
「暴れられると面倒だから、手錠でも使うか」
「ルゥナ!ルゥナ───っ!」

ゴーレムに足止めされている内に、少々森は車に乗せられて拐われる
アーチャーにキャスター、ユーニスも続く。唯一人。ストレングスは二人を注視していた


「……オレは、この街を護る為にあのアバドンを倒す」

「だが、お前達も同じ意思があるのなら。もしくは……いや、何でもない」

「何にせよ、自分の意思を示したければ“禍門邸”に来るがいい」

「そこに、全ての陣営が揃うはずだ……」


それだけを言い残すと、踵を翻し去っていく
ルゥナの手元には、結局少々森が飲まなかったジュースの缶が転がってきた

……自分の意思を示したければ。それなら、もう覚悟は出来ている

「……ランサー。戦えるわね?」
「勿論。オレは君の答えを聞くまで止まらないよ」
「じゃあ行くわよ。あんたはあいつに連絡を入れておいて」

「もう一回、これをあいつに渡してやるんだから!」



58 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/03/21(日) 23:02:30.74 ID:GZ/fE0tf0

【本日はここまで……】

59 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 23:26:13.04 ID:JdMiQFJP0
おつ
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 23:30:00.02 ID:+XqTO90Oo
おつ
少々森とコミュ安価とっといてよかった
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 23:30:36.99 ID:KIEsTQH+o
乙
62 : ◆6QF2c0WenUEY [sage]:2021/04/02(金) 23:12:13.91 ID:O1C1EwLQO

【ちょっと明日から力業で更新します】

【安価の予定はないので、眺めていてくだされば】

63 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 18:20:00.25 ID:OlHjUpmq0

【という訳で、今から力尽きるまでひたすら更新したいと思います】

【目安は九時まで。安価は無し。これくらいしないと今月中にエピローグまでいけない…!】



64 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 18:20:36.49 ID:OlHjUpmq0


「かつて、ガイスロギヴァテスがこの街にいた頃……」
「聖杯戦争で必勝を期す為に、機械人形の兵隊を製作していた」
「だが、幾つかの人形に自我が芽生える不具合が発生して……」
「そのほとんどは廃棄処理されたとドミトリイ様は語っていたな」

つらつらとコリーが語るのは、かつて御三家の一角だったガイスロギヴァテス家の歴史
横で聞くアダムスとベルは、不思議そうに顔を見合わせる


「つー事は、何か?そのロボット兵士がこの街に存在してたってか?」
「ああ。だが幾つかの自意識を得た人形は廃棄の中で生き延びたとの記録がある」
「そ、そのメモリ……ランサーに探してほしいって言っていたのですよねえ?」

「……そして、その中でただの一機。完全に破壊を免れた幸運な機体があったという」
「彼は明確な自我の中で、我等の悲願……聖杯を求める為に戦っているのだ」

締めくくる様に、ある一人のマスターに視線を映す。それはかつて、基地を強襲した男


「そうだろう。ストレングス……」

65 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 18:24:30.33 ID:OlHjUpmq0



「……どういう事だ?聖杯を諦めろ?」
「へえ。本家の当主様からの直々の命です」
「『聖杯を放棄し、即刻帰還せよ』。……どうもアバドンが酷いトラウマらしいそうで」

「それは貴方達の家の問題でしょう?私達には関係ないじゃない!」
「いや、ううん……まあ、そうかもしれねえですけれどね」


アーチャー陣営はディールから伝えられた、ドミトリイからの指示に疑問をぶつける
そもそも、捨てたのは其方ではないのか?それなのに指示に従えというのは納得できない

「そのドミトリイ?……とかいうのは、本当に私達の敗退を望んでいるのかしら?」
「一応はそうですねえ。ガイスロギヴァテスはあのアバドンに関わりたくないそうで」

「けど、まあルゥナさんだけは絶対に帰ってこいという話でしたので。こっちでなんとかしておきますよ」
「……何故、ルゥナだけは?」


「あの子はガイスロギヴァテスでも有力な家の娘さんでしてね。万一があると困るんです」
「ふうん……意外ね。あの子、箱入りなの」

アーチャーが感心する隣。ストレングスは虚空に視線を浮かべている
意思を示したいならばここに来い。そう言ったのは何故だったか

「……不思議だな。奴のどこに感化されたと言うんだ。オレは」

目を閉じ、暫しの休眠状態に移行する
その近くでは、今回の……全ての元凶。ロベルトがグレイト。フェリシアと話を進めていた

66 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 18:33:27.70 ID:OlHjUpmq0



「───つまり、あれは不幸な事故なのです」
「アバドンを召喚したのは、神の証明の為。街に被害を出すつもりはありません」
「この度は彼女……受肉したアバドンに再調整を施し、この街を守護する為に利用するのです」

朗々と語るロベルトに、かつての所業から懐疑的な視線を向けるグレイト
それを知ってか知らずか、市長の舌先もいつも以上によく回る

「ええ、ええ!当然、協会にも今回の事は提出しておりますとも」
「そして、私への投資も検討してくださるそうです。両得ですな!ははは……!」
「ううむ……む?ところでアーディー君は」


「ああ。彼女は少しお疲れのようでね」
「少し別室で、『お休み』いただいているよ」

ゆらり。黒の衣服をはためかせたアサシンが、誤魔化す様にグレイトに近づく
見下ろす姿からはえも言われぬ威圧を感じ、やむ無くグレイトは引き下がる

「……それで、首尾の方はどうかな?」
「上々だそうです!数日はかかるやもしれませんが、未来の栄華の前では些末でしょう!」




「ええ、この街が多少荒れていても!すぐに元に戻りますからね!」


67 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/03(土) 18:38:56.37 ID:/Fxywbgso
力尽きるまでとは半端ねえ決意じゃ
68 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 18:43:24.56 ID:OlHjUpmq0


「……ちょっと、カラス男!」
「アンタ達の計画なんかどうでもいいけど、私達が集められているのは何でよ?」
「ほとんどの陣営を一ヶ所に集めて、ここで雌雄を決するつもりかしら?」

不服そうにセイバーは問い質す。何故、自分達はここにいるのか?
その問いに若干の呆れを見せるものの、直ぐ様普段の怜悧な笑みを浮かべて返す

その視線の先には、セイバーではなく……両の腕をくくりつけられて、磔にされた少々森がいた

「ああ。これはあくまでも保険だよ」
「今は封じられていても、アバドンの力は未だに未知数だからね」
「いつ暴発しても対処出来るよう、こうして戦力をかき集めているという訳だよ」


「……私には、あの子がそんな大層な存在には見えないのだけど」
「君の尺度で物事を考えるべきじゃない。それと、少しの不安分子として……」

アサシンの話を遮るかの様に、突如、禍門邸のドアが吹き飛ぶ
その先に立っていたのは、この場にいない唯一の陣営……ルゥナとランサーだった

「……邪魔するわ。あたしはルゥナ・ガイスロギヴァテス」
「あんた達に用があって来たわ。単刀直入に言わせて貰う」

「その子を、あたしに渡しなさい!」


69 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 18:59:04.75 ID:OlHjUpmq0


「ルゥナ……!」
「ルゥナさぁん!?」

姿を表したこちらのマスターに、驚きを隠せていないコリーとベル
しかし、既にガイスロギヴァテスは聖杯戦争を諦めた。もはや、こちらがサーヴァントを従える意味はない

「おーい、嬢ちゃん。俺達はもう帰れってよ」
「早くランサーを自害させてくだせえ。そうすれば皆が帰れるんです」

「らしいけど……どうする?」
「決まってるって言ってるでしょ……来なさい」

アダムスとディールに対する返答は、背後から現れた人物に託す
彼女は一つ瞬きをすると、にこやかな微笑みで宣言する


「ごきげんよう。今次の聖杯戦争の皆様」
「私の名ははティファ。ティファニー・フォン・ロシュフォール」
「此度はライダーのマスターとして。……そしてランサー陣営の『同盟相手』として召集されましたの」


「……はぁ?同盟だあ?」
「はい。私はルゥナの戦力として。ルゥナは私に『聖杯のデータを譲渡する』事を条件として契約を結んでおりますの」
「せせせ聖杯のデータぁ!?そそそそんな事を本家の人が知ったら……!」

「怒られる。で済むといいわね」
「済む訳ないだろう!こんなの、本家……いや、私達に対する裏切りだ!」
「ええそうよ!あたしは……ルゥナ・ガイスロギヴァテスは家の為に戦う事を放棄する!」


「今、ここから!あたしは自分の為に聖杯を手にする!これで文句無いわよね!?」


70 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 19:03:32.27 ID:OlHjUpmq0


あまりにも堂々とした、裏切りの宣言
その潔さに全員が呆気に取られている。こうも目の前で『今から自分の為に戦います』と答えたのだから

「ルゥナ、お前」
「ど……どうしてですかぁ!何で、何でぇ!」
「そんな事はどうでもいいわ!問題は……」

「アバドンを渡せ!?お前、酒の飲み過ぎで気でも狂ったのか!?」
「僕もにわかに信じられないな。君は世界を征服でもするつもりなのかい?」

信じられない。猜疑の目がルゥナを貫いていく
正直、自分でもどうかしてると思う。だって、たかが一瞬の為に全てを投げ捨てるなんてありえない


「……少々森。あんたはどうなの?」
「ここで兵器として扱われるか、今まで通りの生活に戻るのか!」
「答えなさい!答えなさいよ!あたしは答えたんだから!あんたも答えて!」

「……少々森?誰よそれ」
「確か……アバドンが擬態してる。人間の名前と聞いたわ」

喉がジンジンと痛くなる。ありったけの感情を乗せて叫ぶと、こうも辛くて苦しいのか
周囲の目が移り変わる。乱入してきたルゥナから、縛り付けられたアバドン……いいや、少々森若子へと

「………………………………私、は………………」


71 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 19:04:24.27 ID:OlHjUpmq0


あまりにも堂々とした、裏切りの宣言
その潔さに全員が呆気に取られている。こうも目の前で『今から自分の為に戦います』と答えたのだから

「ルゥナ、お前」
「ど……どうしてですかぁ!何で、何でぇ!」
「そんな事はどうでもいいわ!問題は……」

「アバドンを渡せ!?お前、酒の飲み過ぎで気でも狂ったのか!?」
「僕もにわかに信じられないな。君は世界を征服でもするつもりなのかい?」

信じられない。猜疑の目がルゥナを貫いていく
正直、自分でもどうかしてると思う。だって、たかが一瞬の為に全てを投げ捨てるなんてありえない


「……少々森。あんたはどうなの?」
「ここで兵器として扱われるか、今まで通りの生活に戻るのか!」
「答えなさい!答えなさいよ!あたしは答えたんだから!あんたも答えて!」

「……少々森?誰よそれ」
「確か……アバドンが擬態してる。人間の名前と聞いたわ」

喉がジンジンと痛くなる。ありったけの感情を乗せて叫ぶと、こうも辛くて苦しいのか
周囲の目が移り変わる。乱入してきたルゥナから、縛り付けられたアバドン……いいや、少々森若子へと

「………………………………私、は………………」


72 :しまった二重になってしまった ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 19:09:09.29 ID:OlHjUpmq0



「生きていたら、駄目、だから」


「ここで、消えたい……もう、死にたい」


「……そう、思って、いた、のに」


ぽつり、ぽつり。一言一言を噛む様に。小さな音が響いていく
何かを口出しする者はいない。正確には、口を開くと槍の穂先が此方に向くから黙っていた


「けど、ルゥナが。ルゥナが来て、私」

「嬉しい。って、思って、そうしたら、色んな事が、わっと頭の中で、ぐるぐるって……!」

「さき、ちゃんに……!言われた、事が……!頭の中でずっと聞こえる……!」



『さようなら。わたしの、たいせつなおねーちゃんたち……』



「やだ……やだ!もう、別れたく、ない!私は、もう大切な人と、離れたくない!」

少々森は泣いていた。普段、感情をあまり表にしない彼女が、今だけは大粒の涙を目から流していた
無数の災厄から、一人の人間へ。移り変わった少女は叫ぶ。心の底から、芽生えた願いを



「私、は……っ!生き、たい……っ!」

「人として……ルゥナと、一緒にいたい……!」


73 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 19:24:11.56 ID:OlHjUpmq0



「……何を、馬鹿な事を」
「幾ら人間を真似しても、虫は虫」
「人として。という前提は、最初からあり得ない。砂上の楼閣だよ」

冷たく、アサシンは言い放つ。そんな事はあり得ないと冷笑を浮かべながら
周囲の人間も程度の差はあれその願いを怪訝に目を細めて

「その通りよアサシン。あんたの言う事は全て正しいわ」
「けど、少々森が人間になれたら?ヒトとしての生を歩めるようになったら?」
「それでもあんたは、今と同じ内容を言えるのかしらね?」

「君は阿呆か?虫が人間になる訳がない」
「そんなもの、『万能の願望器』にでもすがらない限りは……」
「……まさか」

アサシンの顔が、微かに歪む。この現代に召喚されてから、初めて彼に驚愕の感情が浮かぶ
そう。不可能すら可能にする。万能の願望器に願えば叶うのなら───



「あたしは、聖杯を使う。聖杯であたしの願望を叶えさせる」
「『少々森若子を人間にする』。その為にあたしはあんた達を全員倒す!」

「これがあたしの選択……あたしの決断よ!文句のある奴からかかってきなさい!」


74 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 19:37:58.17 ID:OlHjUpmq0


「ふざけるなァアアアッ!天使を人間に堕とすだとッ!?」
「それは正しく……神への冒涜に他ならない!許される行為では断じて無い!」
「貴様等ァアァアッ!疾くランサー陣営を処刑せよ!神の降臨を妨げてなるものかアーッ!」

ロベルトが発狂した様にランサー陣営を怒鳴り付ける。神への冒涜だと断言し、息の根を止めろと喚き叫ぶ
……だが、そもそもの話。少々森はそんな事を望んでいない。例えロベルトが召喚した存在だと言えども

全てがロベルトの意のままになるとは限らないという事を、完全に失念していたのだ


「……アーチャー。戦闘の準備を」
「わかっているわ、聖杯を狙うというのなら、いずれは私達と戦うもの」

「おいおいおい!そんなトチ狂った考えの為にそんな化け物を庇うのかよ!?」
「本当に叶う保証も無いからね。僕としては反対の姿勢を取らせて貰おう」

「やっぱりやる気ね……準備はいい?」
「ふふふ……ヒロインを取り返す為に迫りくる敵をなぎ倒す……いいわね」
「割りと余裕そう!?その余裕でやられないでよね!」


「それじゃあ、オレも!“今───”」
「……待って!」


75 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 19:49:24.42 ID:OlHjUpmq0


「……………………」
「っとと!どうしたの?」
「あんたは……セイバーのマスターじゃない」

空気を割る様に制止をかけたのは、セイバーのマスターであるフェリシアだった
凛とした声を挙げて、ルゥナに近づいていく。その様子からは敵意をまるで感じなかった

「……フェリシア、いいのね?」
「ええ。……お父様も、きっと許してくれるわ」

「ルゥナ。と言ったわね?先程の言葉に偽りは無いかしら」
「当たり前じゃない。ヤワな考えで家を裏切る程、あたしは適当じゃないわ」
「そう。……なら、私も貴女に賭けてみるわ」

大人びた顔つきが少し和らぐ。柔らかな微笑みを浮かべたフェリシアは、一瞬だけ目をつむり
そして、毅然とした決意を胸に。朗々と言葉を紡いでいった



「……今、この時より!フェリシア・グロスキュリア。及びセイバーはランサー陣営に同盟を申し込みます!」
「期限はこの戦闘が終わるまで!対価は不要とします!ランサー陣営よ、返答を!」

「え!?いいの!?」
「ルゥナ、決断は早めにね」
「当然、受けるわ!お願いセイバー!」

「まっ私はフェリシアがいいって言うなら従うわよ?カラス男よりもこっちがいいし!」
「という訳で!かかってきなさい雑兵共。このクソ剣でぶったぎってやるわ!」


「おやおや……セイバー陣営があちらに付きましたか」
「では、私も増援を呼びましょう!皆さん、こちらに来てください!」

76 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 20:15:11.37 ID:OlHjUpmq0


市長が手を叩くと、どこからか武器を担いだ人物がぞろぞろと沸き出る
彼ら、彼女らには見覚えがあった。それは市長の命令で動いていた魔術師達……


「彼等は私の直属の魔術師です!言ってしまえば私兵ですな!」
「この時の為に、各地から集めていたのです!さあ、やってしまいなさい!」


 ◆コネクション  
  幅広い交友関係。確度の高い情報の源泉。
  各勢力の利害関係を把握し、調整するのは政治家に課せられた責務。  
  国会議員や海外の権力者、果てには街に起きる魔術がらみの事件に対応する為、聖堂教会や時計塔とも太いパイプを持つ。  
  名分があれば彼らの助力を得る事も可能だろう。


「初作戦。ちょっとは活躍しねえとな」
「皆で勝負でもしましょうか?最初にマスターの首を取ったヒトは臨時ボーナスとか」
「じゃあテメエは勝っても意味ねえな。ボーナス貰っても無駄遣いするだけだぜ」
「ん〜。皆ホントに張り切っているなあ」

「当たり前だろ?こんな大仕事、何度もあるもんじゃない」
「ガキの首取った所でなんの自慢にもならないと思うけどなあ、ね!先輩!」
「皆不埒だ……街は私が守るから……」


「ええいややこしいわ!ぽっと出の連中なんかにあたし達が負けるかっての!」
「ネームドの格を教えてあげるわ。この魔眼の前では等しく無力だという事を……」
「ふざけないで!来るわ、集中しなさい!」

「あらら。案外いい組み合わせじゃない?あんたのマスターとフェリシア」
「奇遇だね!オレもそう思ってた!」


一番槍が突き進む。それに応じるかの様に、全員が武器を構えて戦闘態勢に移行した

これは、子供の意地の叩きつけ。市長の支配を突き破る為の、戦闘だ

77 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 20:29:40.42 ID:OlHjUpmq0



……戦禍は、混沌を極めていた
飛び交う銃弾に剣戟の悲鳴。物や壁が破壊されて、絶叫が空間に木霊する
あまりに物騒なオーケストラ。禍門の住民は影で静観する事しか出来ずにいた

「パパ……」「お父さん……」
「大丈夫、大丈夫だ。俺がついているからな」

娘を慰める事しか出来ない自分に腹が立つ。兄の暴虐を止められなかった事が情けない
不意に、背後から誰かの気配が。振り返ると、頭を抑えたアーディーがフラフラとやって来た


「う〜ん……あの、ロベルトは……」
「君はエーデルワイスの!」
「あっ!?何これ!?どういう事ですか!?」

「アーディーちゃん。さっきまでぐっすり寝てなかった?」
「多分アサシンだ……あいつ、よくも!」


「アハハッ。何だか楽しそうだね!」
「ボクも見学していいかな?こんな面白そうな事、滅多には無いからさ」

怒りに燃えるアーディーの隣に、いつの間にか白髪の青年が現れた
目の前の惨状を面白そう。と感じる精神も奇怪だが、それよりも奇妙なのはその雰囲気

まるで、この世の存在では無いかの様な。希薄な存在感が逆に不気味で……


「てめえ、誰も来ていいなんざ言ってねえぞ。イエス」
「あれ?君は……ああ!禍門のオバケか!」

「懐かしいなあ。こうして会うのは何十年ぶりだろうね?久しぶり」
「……………………」

「当主よ。この男は」
「聞くんじゃねえよ。……おい、何もするな。一歩でも動いたら容赦しねえ」
「もちろん。ボクとしても、この場は静観しておきたいからね」

招福の言葉に頷くイエス。すると、まるで影に沈むかの様にその姿が消えていくではないか
その光景に驚愕する一同だが、直ぐに目の前の戦闘に意識を移す

未だに鳴り止まぬ戦いの音は、更に激しさを加速していた

78 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 20:42:44.88 ID:OlHjUpmq0


「そこ!来てるわよティファ!」
「わかっているわ。“──私は、その歩みを否定する”」

無数の魔術師に殺到されながらも、炎と氷の猛攻がそれらを捌く
炎の剣が周囲を切り裂く。それを縫う様に降り注ぐのは、絶対零度の氷の風
凍結した身体を灼熱が襲う。フェリシアの『氷結霊媒』はルゥナの魔術を阻害せず、相乗し合い敵を払う


 ◆氷結領域(ニヴルヘイム)   
  魔術刻印に記された大魔術。  
  場をムスペルヘイムと対為す氷結領域へと書き換える。  
  彼女の魔術回路ではその一端しか扱えない。  
└◇氷結霊媒(ニヴルセイズ)   
  「氷結領域(ニヴルヘイム)」のスケールダウン版。   
   詠唱によるトランス状態から女神ヘルを降ろし、ニヴルヘイムの氷風を呼び起こす。   
  ムスペルヘイムと対を為すニヴルヘイムの氷は炎と中和される。


此方に剣を、槍を、鞭を向ける魔術師達。彼等を足止めするのはティファだ
数の上では倍に近い戦力差。それを埋めるのは彼女達の持つ至上の才能

「クソ、こいつら、まさか最初から組んでいたのか!?」
「互いの連携に隙がない。息も完全に一致している……」

「まさか!ここが初めての共闘だっての!」
「油断しないで!まだ勝った訳じゃないわ!」


「……そうだ。まだオレがいる」
「オレの使命はこの街の守護……」
「お前達を打倒する。それこそがオレのやるべき事だ」

魔力の弾丸が放たれて、ルゥナとフェリシアは咄嗟に防御する
吹き上がる土煙の先にいたのはストレングス。彼もこちらを倒さんと、魔力を集約させて次弾を放つ準備をしていて

「……そういえば、あたしはあんたに負けてるのよね」
「リベンジをさせて貰うわ!今度は負けないって教えてあげる!」

一際派手な炎が吹き上がる。まだ、終わりではないのだと宣言するかの様に
79 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 20:48:24.45 ID:OlHjUpmq0


背後で爆音が響いている。果たして、ルゥナは無事だろうか
そんな野暮な感想は、元気そうに叫ぶ声で完全に霧散した

「それにしても……近づけないね、コレ」
「うざったいっての!パチパチパチパチ豆鉄砲のクセに!」

「別に、貴方達とまともに戦う理由は無いわ」
「先にマスターが倒されれば、自ずと魔力の供給に限界がくる。そうなったら単独行動を持つ私が有利なんだから!」
「それ、解説していいの?オレ達はそうならない様に戦うんだけど」

「いいわよ、別に。解説した所で貴方達が有利になる訳じゃないもの」
「この貴方達を狙う無数の銃口から!逃れられる訳がないのだから!」


ぐるりと辺りを見渡すと、前後左右にみっちりと詰められた銃が此方を睨んでいる
まるでドームの様になった銃の束。セイバーとランサーは互いを背にして得物を構え

「これ、耐えきれたら凄くない?」
「耐えられたらね!」

軽口を叩くのと、銃口が火を吹くのはほぼ同時に。二人を撃ち殺さんと襲い来る
剣と槍が銃弾を迎え撃つ。例えその身を削られようとも

80 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/03(土) 20:48:54.47 ID:OlHjUpmq0

【本日はここまで】

【明日も似た方式でやります】

81 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/03(土) 21:18:43.67 ID:/Fxywbgso
乙
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/04(日) 11:04:40.02 ID:mYczKhBno
乙
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/04(日) 11:52:34.54 ID:+elbUwbi0
乙
84 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/04(日) 21:03:25.45 ID:GyTPH5Rc0

【はい。それではやっていきます】

【途中退席を挟んでやれるまで。リミットは23時と少しまでとします】



85 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/04(日) 21:04:49.75 ID:GyTPH5Rc0


互いの全力をぶつけ合うルゥナとストレングス
炎が吹けば、光が消し飛ばす。光が飛べば、炎が撃ち落とす
その力量はほぼ互角。一瞬、視線が交錯した

「────ッ!火力が増している……!」
「当たり前よストレングス!今のあたしは燃えに燃えてるんだから!」
「……何故だ。何故お前は!そこまで、あの女を救おうとする!」

「決まってんでしょ!少々森はあたしにとって大事なの!」
「あんたみたいな奴にはわかんないかもね!」

「……大事な。オレにとって、それはこの街」
「いや違う……大事なのは、使命……!」

胸に灯るは強い感情。色は違えど力は同じく
だとするならば、この勝負。勝敗を分かつのは己の心に他ならない……


「……出力を限界まで上げる。耐えきれるか?」
「やってみなさいよ!こっちも全力。本気で火力を上げてやるわ!」

激突は更に増していく。周囲すらも巻き込んだその戦闘は、より過激に火花を咲かせていた

86 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/04(日) 21:14:36.09 ID:GyTPH5Rc0


……その隣で、有象に無象を迎え撃つのはフェリシアとティファ
凍える風が吹き荒ぶ。しかし、兵隊達は止まる気配を一向に見せず

「キャスターの援護かしら?多少は強化されているのかも」
「言い寄られるのは好きだけど、不細工ばかりじゃ面白くないわ」
「ティファ!ふざけてる場合!?」

軽口を言いつつも、的確にその動きは鈍り始めている
流石に相手も無尽という訳ではないのだろう。疲弊の色に色濃く染まる

「このままなら勝てるわ!余計な横槍が入らなければだけど!」
「それはフラグというのよフェリシア。……噂をすれば、お出ましかしら?」


「そう構えないでくれるかな。私は戦闘狂でもなければ殺人鬼でもない」
「軍師の真似事はした事が無い訳じゃない。役に立たない魔術師の変わりに私が指揮しよう」
「悪かったな!どうせ俺はキャスター失格だよアサシン!」

矢面に立つアサシンに、氷の槍を向けるフェリシア
それでも微塵も怯まない。驚異ではないと言いたげな顔に、氷結の槍が降り注いだ

87 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/04(日) 21:33:17.59 ID:GyTPH5Rc0



「……フェリシア!?っの、カラス男!」
「落ち着いてよセイバー。オレ達はアーチャーを突破しないと」
「わかってるわよランサー。……ああもう!ウザいったらありゃしない!」

「それが既製品の強みというものよ。伝説の剣なんて一本で、この数は突破できないわ!」
「オマケにここは屋敷の中。私の戦場としては最高の条件が整っているんだもの!」

銃撃の雨を突破して、アーチャーの首を斬り落とさんと迫るセイバー
だがアーチャーは身軽にも回避していく。周囲の壁や床を砕き割る一撃は、全て彼女に当たらない


「ふ〜ん。でもさ、アーチャー!君は一つ忘れているよ」
「この世で最も産み出されているモノ。誰にも手出しできない特注品!」
「それは『時間』であり、『未来』であり、要するに───」

「“────今だ!(エクスペダイト)!”」


ランサーの槍が光る。その先端はアーチャーの胸を的確に狙う正確な一刻
貫く寸前、銃の束が槍を阻む。ガリガリと不快な音を響かせながら、へし折り、削っていく

「貴方の槍は最速最短かもしれない……けど、目的地がわかるなら、そこに壁を置けば突破は不可能よ」
「まだまだ!ここでオレが諦めたら、ルゥナの選択も台無しになるからね!」

「……貴方、本来はマスターに忠実な方じゃないでしょう?」
「うん。ていうか最初はどうしようって思ってたよ?何の願いもないんだもん」

88 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/04(日) 21:47:12.18 ID:GyTPH5Rc0


鍔迫り合いの最中で、淡々と吐露する心情
最新鋭の聖人は、自身のマスターをどの様に見ていたのかを語り出す


「自力で夢を叶えるだけの能力はある。才能も申し分無いと思う

「けど、それだけじゃオレにとってはダメなんだ。オレは『問題を解決する聖人』だから」

「言うなれば、ルゥナは『空っぽ』だった。ただ目の前の事だけを見て、先にも後にも興味を示さなかった」


ランサーの語るルゥナ像は、ルゥナ自身も自覚していない部分が多く映る
ただ優秀なだけ。あまりにも率直で、残酷な評価を下していたのだ

「けどさ。ルゥナは多感な時期だし色々な人と会えて変わるかもしれない。それだけがオレの望みだった」

「それで、今は明確な目的を持って必死に願いを叶えようとしてる!それでオレは確信したんだよ」

「オレがルゥナに召喚されたのは、ルゥナの夢を守る為!ルゥナが守ると決めた相手を、オレが摘ませない!」



「だからこそ、オレはここでお前を倒すよ。アーチャー!」
「……っ!やってみなさい!私だって、私だって願いが───」

89 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/04(日) 22:02:40.36 ID:GyTPH5Rc0



───願いが、ある
そうだ、願いがあるから私は銃を持っている

けれどそれは何の、いや、どんな願いだった?頭の中で思考が淀む

そうだ。願いは『私の家のせいで悪霊になった者達の救済』。それだけを願って今の今まで


「……? 私は、いつから」

「そう、願っていたんだっけ……?」


考えてはいけない。思い出してはならない。ふとした疑問は無意識に封じた記憶を覚ます

そうだ。私は私の家が行った罪を贖わねばならない。それだけが、私の人生

私の───


『……お母さん!』『サラ!』

「貴方、達は」

『もうやめて。もうやめてよ』『誰も君に責任を負って欲しいなんて考えていないんだ』


頭の中で思い出す。それは死ぬ間際、悪霊に身を引き裂かれる前の走馬灯。
そう言ってくれたのは誰だったか。アーチャーの記憶の中を、洗いざらいに探していく

……そうだ。二人は、二人は私の!

「あなた……!アニー!」


90 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/04(日) 22:14:04.02 ID:GyTPH5Rc0


ランサーの背後。哀しげに見つめる二人の影
そこにいるのだろうか?それとも、私の願いが見せた幻覚なのか?

どうして今まで忘れてたんだろう。私の大切な夫と娘……
そうだ!私は!ずっと二人の為に戦ってきたと言うのにも関わらず!
二人の死の原因を許せなくて。銃で殺された霊を銃で祓う矛盾にも身を投じて

屋敷を建て続け、増やし続け……その果てに、私は果てたのだったんだ


「……ランサー。私は、貴方が嫌いよ」
「貴方がもっと早くに存在していれば……私は、こんなに悩まなかったのに!」

幾筋の涙が頬を伝う。ずっと忘れていた二人に懺悔する
悪霊を狩り続けるなんて、二人の死を直視出来なかったから行っただけの代償行為なのかもしれない
だからこそ、『困難に手を差し伸べる聖人』であるランサーは自分も……

「……そうだね。君も悩んでたんだと思う」
「だけど……オレも、じゃなかった……オレ達も前に進まないといけないからさ!」
「だからゴメン。ここでお別れしよう、サラ・ウィンチェスター」


槍が銃を弾き飛ばす。アーチャーの手には何も持たない素手の状態
だが、そんな事は関係無い。空に銃を呼び出し眼前のランサーにのみ銃口を……ランサーのみ?

「……ッ!?」

嫌な気配が背筋に走る。いつの間にか、司会の中からセイバーが消えていた事に気づく
振り向く隙が無い事はわかっていた。鍔迫り合いの最中に、彼女は死角にいたのだと


「獲ったぁーーーーっっっ!!!」

斬。肉が斬られる音が鈍く響く
セイバーの魔剣は、アーチャーの背中を袈裟斬りに裂き……その霊核を粉微塵に砕いていた

91 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/04(日) 22:32:20.71 ID:GyTPH5Rc0



「───ゲホッ!くっ!」
「卑怯。なんて言わないわよね?残念だけど、私は蛮族だからそういうの知らないわ」

「自慢気に言う事かな?それ。……サラ、少しだけいいかな?」
「確か君には気配を感知するスキルがあるはずだよね?気づかれると思ってたんだけど」

血を口から吐き出すアーチャー。この様子では蘇生も意味を為さないだろう
その前に、ランサーは疑問を口に出す。それを聞いた彼女は自重げに笑みを溢す


「……ふ、ふふふ。どうして、だと思う?」
「私も……よく、わからないわね。どうして、気づかなかったのかしら?」
「でも、理由を考えるとすれば……意図的に、無視したのかもしれないわね」

身体が解れる。粒子が消えていく。もう猶予は残されていない
思えば馬鹿げた人生だった。もっと早くに気づけていれば、少しは違った道を進めただろうか

ふと、顔を上げると見覚えのある少女と男性が手を差し出しているのに気がついた


「ああ……待っていてちょうだい。二人共」

「私も今から……そっちに、行くわ……」


手を伸ばす。既に身体が消えかけていたとしてもなお、二人の手を取ろうと必死に伸ばす
つん。と指先が触れ合った気がした。アーチャーは安堵の笑みを浮かべると……消滅した

その行き先は、光の中で待つ家族の元へ───

92 : ◆6QF2c0WenUEY [sage]:2021/04/04(日) 22:35:07.88 ID:GyTPH5Rc0

【ちょっと離席する時間が長そうなのと、いいタイミングなので本日はここまで】

【すまない……有言実行出来なくてすまない……】
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/05(月) 08:27:37.30 ID:YT0/Dj7qo
乙乙乙つ乙
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/05(月) 15:28:18.14 ID:g0Yky5TLo
乙
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/05(月) 16:36:16.71 ID:8kxATZNz0
乙
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2021/04/08(木) 17:57:03.78 ID:AKg6tiyE0
乙
97 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2021/04/13(火) 14:58:03.05 ID:dC9gmJE70
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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98 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/14(水) 21:31:58.80 ID:57I/HTZW0

【さて、速報も復帰した事ですし少しだけ進めます】

99 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/14(水) 21:38:40.93 ID:57I/HTZW0


「どうしたのかしらね?アーチャー」
「さあね。でも、きっと満足のいく結果だったとオレは思う」

消滅を確認すると、大剣を振り回して空を切り鳴らす
ヒュンヒュンと風切り音が響き渡る。それはコソコソと逃げ出そうとした二名にも

「ふーん、まあいいわ。……キャスター?」
「ヒッ」
「リベンジマッチ、やってみる?」
「「……………………」」

背を向けたユーニスとキャスターに刃を向け、にっこりと笑顔を浮かべるセイバー
顔を向けて黙り合うキャスター陣営は、両手を上げてこちらに向き直った

「降参だ。僕達は君達の味方になろう」
「そうだな!そもそも俺はあくまでマスターに従っただけでお前達を信じてたからな!」
「吉田君……見損なったぞ」

「……そうそう。ロベルトは?」
「いつの間にか消えているな。市長や少々森なるアバドンも姿を消している様だが」
「ならオレが探してくる。皆はここでルゥナ達を援護して!」

それだけ言い残すと、ランサーは走る。二人は共にマスター達の元へ駆け出した


(市長とロベルトを放置してた。多分、それも織り込み済みだったのかも)
(なんだか、マズイ気がする……!)

100 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/14(水) 21:52:36.08 ID:57I/HTZW0


「……!アーチャー!?」
「どうやら勝負アリね。こっちの勝ちよ!」

驚愕するストレングス。ルゥナに気を取られて戦況の把握を行えなかった。
いや、令呪を使用する隙すら与えなかった彼女の勝ちだろう。ルゥナの勝ちを認めるしかない
だが……サーヴァントが巻けても、マスターでの戦闘はまだ決着がついていない

「……いいや。確かにランサーの勝ちは認める」
「だが俺達の戦闘は終わっていないだろう?」
「そうね。いいわ!トコトンまでぶっ飛ばしてやるんだから……って危なっ!?」

話の途中で飛んでくる矢に身を竦める。見ると何人かの兵隊が此方に向かって来ていた

「ああもう!二人もいるのにいったい何してんのよ……!」
「邪魔が入ったか。だが、これも勝負だ」

次々に殺到する凶器を捌きつつ、ルゥナの視線はフェリシアとティファに向く
二人も苦戦しているのか、その顔に先程までの余裕は浮かんでいなかった


101 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/14(水) 22:04:45.67 ID:57I/HTZW0


……ほんの少し、時を遡る
そこには不敵な笑みを浮かべながら、苦悶の表情を浮かべる少女をいたぶっていた

「……戦に必要なのは一騎当千の英雄じゃない」
「こうして雑兵を効率的に運用してこそ。それが理解出来ない馬鹿が多すぎる」

「……統率が取れてきてる。厄介ね、実力を数で覆い隠している!」
「私の魔眼も万能じゃないわ。精々数名しか足止めは無理ね」
「ルゥナがアーチャーのマスターと戦っているから、せめて彼女が来てくれれば……!」

フェリシアとティファは、歯噛みをしつつ状況を把握していく
雇われた魔術師達は此方より格下。しかしアサシンの指揮下に置かれた現状では実力は何の差にもならない
じりじりと追い込まれていく二人は、蜘蛛の巣にかかった様な錯覚に陥っていた


 ◆蜘蛛糸の果て:A++
  邪悪を画策する能力。
  秩序を破壊し、善を穢し、しかして自分に対して因縁や罰を向かわせない。
  蜘蛛が作った網のように相手を取り込み、貶める。


「だったらこっちも追加すればいいんでしょ!そら、散った散った!」
「セイバーか。君の脳ミソは理解できないが、それについては概ね同意しよう」

「そして私の役目はここまで──」「ちょっ、逃げるつもり!?」

踵を返し、去ろうとする背に一撃を入れんと剣が唸る。が……その姿は瞬く間に霧散した
霊体化にしてはあまりにも早すぎる。令呪による撤退の指示と見るのが妥当だろう


「って、あいつら!何人かランサーのマスターの方に行ってるじゃない!」
「ああもう。私はそういうの苦手だっての!自分の身は自分で守ってちょうだい!」


102 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/14(水) 22:31:11.78 ID:57I/HTZW0


そして、今この瞬間。ルゥナは殺到する凶器を避けつつストレングスに肉薄する
このまま距離をとっていても撃ち抜かれるだけなら、踏み込んで勝負を決めるしかない……!

「って言ってもこいつら邪魔!ぺちぺち豆鉄砲撃ってんじゃないっての!」
「ああもう!せめて、ランサーがいてくれたら何とかなるのに!」

とは思っても多勢に無勢。いくらルゥナが天才とはいえど、一人の火力はたかが知れている
この場を焼き払う程の燃料。それはただの少女一人では賄いきれない熱い想い

だからこそ、せめて。『あと一人』は心の火を燃やしてくれれば


「……るるるるるゥナさぁああん!」
「ベル?」「何だ急に」「少し落ち着けよ」
「何!?今忙しいの見てわかんない!?」

そんなあと涙を浮かべているのは声の主。ベル
せっかく声を張り上げたのにどうしてそんな事を。という顔をありありと浮かべて叫び続ける

「私はあ!ルゥナさんに助けて貰ったから!今こうしてここにいるんですぅ!」
「そうなの!それは良かったわね!」

「だから!私もお!ルゥナさんのお役に立ちたい!私も貴女の隣にいたいんです!」
「好きにしなさい!あんたがいたいなら隣にいさせてやるわよ!」
「ひゃいっ!」

その声を律儀に返答していくルゥナ。その額には汗が伝おうと無下にはしない事に疑問を抱くストレングス
つい。それを聞きたくなってしまった。それが必要ないとは頭の中では理解していても

「……余所見をしている場合か?」
「しょうがないでしょ、ベルに話しかけられてるんだから!」

103 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/14(水) 22:41:54.34 ID:57I/HTZW0


混戦の最中においても、ルゥナとベルは言葉を交わす
命のやり取りよりも重要だと。大切な存在だと証明に他ならない

ベルは知っている。ルゥナという少女の本質を
普段はつんけんしているけれど、本当は誰よりも自分を心配してくれているんだ
……だから。ベルはずっとこの人についていくと決めたんだ


「大好きです!大好きです、から!ベルは……」
「ルゥナさんに!ベルの全部をあげますから!だから!」

「ずっと……!ベルを隣にいさせてくださああああああああああい!!!」

涙ながらの慟哭は、不思議と悲壮さを感じない
ベルの普段の性格もあるだろうが、一番はその叫びの中にある真意だろう

ベラドンナ・ガイスロギヴァテス。彼女の異名は『燭台の魔女』
炎を放つ火種に寄り添い、その火を強く。より輝かせる生粋の介添人


 ◆燭台の魔女(ベーラ・ドンナ)  
  蝋燭の魔術師。  
  味方の火属性魔術行使効率を何十倍にも高める魔術の適性と刻印を継承する一族。  
  この一族の者は自らを燃やしてしまう為に基本火属性魔術を扱わないが、代々ガイスロギヴァテス家の補佐官として重要なポジションを占めてきた。  
  その性質から危険な戦場にお供として駆り出される事も多く、彼女の両親も戦いの中で亡くなっている。  
  臆病者と蔑まれる彼女だが、その気になれば一人で味方の戦力を数倍化させる可能性を秘めている。


「……何回も、しつこく言わせんじゃないわよ」
「あんたも、あたしにとっては……大切な人なんだってのーーーっ!!!」


炎が願いに呼応する。一人と一人の力は、この場にいる敵を焼き滅ぼさんと吹き上がる
魔力を足し合わせたのではなく、二人の願いの掛け合わせ。その限界は存在する訳がない
ストレングスは驚愕する。もはやルゥナに余力は無いと確信していたが故に、出力の調整すら間に合わず

何倍も膨れ上がった炎は、ルゥナの剣を伝ってストレングスや周りの敵を呑み込み焼却する

炎が晴れる。倒れ伏した尖兵達が、ルゥナに敗北した事を如実に示していた


104 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/14(水) 22:42:34.37 ID:57I/HTZW0

【本日はここまで】

105 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/14(水) 22:48:56.25 ID:3f7sbovco
乙
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/15(木) 08:40:45.90 ID:SHW6sjpCo
乙乙
ベルは自己犠牲しそうなスキルだとずっと思ってたけどどうなるかね
107 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/17(土) 21:43:35.86 ID:XmLLvg7C0

【それではゆっくりやっていきます】

108 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/17(土) 21:47:12.72 ID:XmLLvg7C0


「お疲れ様。貴女の炎の魔術、しかと拝見させて戴いたわ」
「派手にやったわね。もしかして、そういうのが趣味かしら?」
「うっさいわね……こっちはフルパワー出して疲れてんの!」「ふしゅううう……」


一戦を終えたルゥナはへたり込む。ベルも同様に、顔色を更に悪くして寝転がった
対称的に、どこか余裕すら感じる二人。どうやらあちらもケリがついたのか、魔術師達が倒れ伏していた

何の事は無い。フェリシアとティファが、召集された魔術師よりも遥かに強かっただけ
厄介なアサシンの指揮を失った集団は、もはや単なる烏合の衆と成り果てていたのだった

「……ストレングス、生きてる?」
「いや……動ける。の方がいいのかしら?この際どっちがいいかは気にしないわよ」
「とにかく、戦えるかだけは教えなさい」

煤を叩いて立ち上がり、毅然とした態度で敗北したストレングスに向かい合う
焼け焦げ、灰となった外套から露になるのは鉄の機体。バチバチと火花を散らす姿は、まるで心音を模す様に耳に響く
片腕が動く。だがそれが限界なのか、体を地面に擦りつけて蠢くだけだった

「……コリー!アダムス、ディール!」
「今すぐにストレングスを治療しなさい。応急処置程度なら出来るでしょ!?」

叫ぶ剣幕に気圧されたのか、先程まではルゥナの態度に懐疑的だった面々も周囲に近づく
こいつらは仕事となれば真面目に取り組む集団というのは知っている。当面は任せてもいいだろう


「問題はランサーなのよね……あいつ、念話も切断して何してんのよ……!」


109 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/17(土) 22:02:55.36 ID:XmLLvg7C0



「……ここが、聖杯の安置場所ですか!」
「いやはやまさか!学園の地下にこの様な空間が存在していたとは!」

カツカツと音を立てて市長が地下空間に足を踏み入れる。その背後には少々森を連れていて
前回では最後の戦いの舞台として。そして、今は全てを紐解く舞台として。空間は英霊を受け入れる


「そう。ここが総ての始まり」
「かつて、エーデルワイスはとある地で行われた聖杯の争奪戦に勝利し聖杯を手にした」
「だが、勝者は当主に聖杯を授け……それ以降、聖杯は起動しなかった」

「理由はわからない。当時の勝利者がそうあれとしたのか、あるいは魔力が足りなかったか」
「ともあれその力は証明された。聖杯戦争という名の儀式は、天使を召喚する為のものへと姿を変えたのだから!」
「その証明こそ我が親愛なる神の先駆けとして現れたアバドン!この街に降臨し、愚かなる民を粛清する蝗の化身よ!」


恍惚とした表情で夢想を語るロベルトを、にこやかな笑顔で見つめる市長
その顔はいつもの様に。張り付けた風に本心を見せない鉄面皮で笑っていた

ゆらり、新たな影が闇から這い出る。市長は影を見やると満足そうに口角を上げる


「おお、アサシン君!よくぞ無事で!」
「さて、こちらも首尾は上々。と言った所か」
「ありがとう市長。あと少し遅れていたら、私の首は泣き別れだ」

「ああ。それと……人払いは済んでるかい?」
「……何を、当然の事を」
「ここは私と神の逢瀬の場だぞ……?余計な虫は一匹たりとも入れない用に注意を払っている」


ロベルトの返答に、そうかい。と軽蔑した様に顔を歪めるアサシン
その態度が癪に障ったのか、見るからに不機嫌そうに舌を打つ。勢い余ったのか、少々森から手を離して睨み付ける

すると、少々森の手を掴もうとする何者かの手が伸びる。が、触れる事は叶わない
何故ならば……アサシンは手の主に剣を投げて、その腕を貫く。主は思わずたじろぎ、少々森から離れざるをえなかった


「あっちゃあ、やっぱり無茶だったか……!」


110 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/17(土) 22:15:53.16 ID:XmLLvg7C0



「貴様、ランサーッ!?」
「おやおや。もしやすると付けてましたか!」

手の主の正体は、禍門邸にて足止めをされていたサーヴァントの一騎。ランサー
突き刺さった剣を引っこ抜くと、思いっきりの力でへし折る。その動きからは消耗を全く感じる事はない

「ご名答。あんた達がいないと気づいた後、この街の監視カメラを片っ端からハッキングしたんだ」
「そこから逆算して、この場所に辿り着いたんだけれど……」

余裕そうな態度から一転して、不安げな声をあげる。その理由は少々森を取り返し損ねたからだけではなく


「……あ、ラン、サー」
「見ない、で……ルゥナに、見せないで……!」
「……擬態が保てなくなってきてる。場所の影響もあるのかもしれないけど」

既に、その肉体からは銀の殻が突き破る異形のモノへと戻りつつある
やはり少々森には時間がない。急がないといけないのだ。彼女の心までが変わり果てる前に……

「さて、ランサー。わかるとは思うが君は私達に手を出す事が出来ない」
「アバドンを『人間として』受肉する為には、出来る限り傷は付けたくは無いだろう?」
「我々は『天使として』アバドンを用いる。傷があろうと受け入れてくれるさ」

短剣を手に、アサシンは厭な笑いを浮かべつつ少々森の首筋をなぞる
ここで三人を相手取る事は不可能ではない。だが逃げに徹されては、少々森が変異してしまう

そして、この場で仕留めねば猶予は無い。ランサーは腹を括る。自らのマスターの判断を仰ごうと


『“……ルゥナ、聞こえてる?”』
『“時間がないんだ。手短に話すから、今すぐに決断してくれ……!”』


111 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/17(土) 22:25:45.51 ID:XmLLvg7C0



「……はぁ!?ちょっ、ええ!?」

「どうしたのかしら?急に慌て出して……」

「わかるわ。その気持ち……ゲームの予約日時を間違えたのね!」
「違うわよバカ!早くしないと少々森が危ないんだってば!」

突如送られてきたランサーからのメッセージ。ルゥナはただ困惑するばかりだ
とにかく、情報を整理すると……アサシン陣営とロベルトはこの街の地下空間に逃げていて、早く少々森を解放せねば危険という事

そして、ランサー単独では少々森の奪還は不可能だという事……
ならば、こちらも援軍として馳せ参じねばならないだろう。そうなると、問題は二つ


「移動手段と人員が足りないわね……ストレングスはまだ動けないかしら?」
「無茶言うなっての。こちとら専門じゃねえんだぜ?」

アダムスの表情は芳しくない。時間がかかるのはルゥナも覚悟はしていた事
だが、徒歩や車といった手段では確実に間に合うかはわからない。何せ向こうにも令呪が残存しているのだから……

「……セイバー。私達も行きましょう」
「この街の危機というのなら、手を貸さない理由はないわ。そうでしょう?」

「あーあ。フェリシア、いいのかしら?敵に塩を送る。ってここの国の言葉にあるわよ?」
「ま、何だっていいんだけど!私はフェリシアのサーヴァント。この子がそうしろって言うなら従うわよ」

「……ルゥナ、だったかしら。私が令呪を使い、地下空間に転移するわ」
「だから、貴女が切る必要は無い。それは確実に奴等を倒す為に取っておきなさい」


手を上げたのはセイバー陣営。フェリシアの手には真新しい令呪が三画も
確かに、令呪による転移ならば間に合う可能性が極めて高い。これで一つの問題は解決した

……残る問題は

「人員ね。戦える人間は全員私に……」
「ちょっと待ちなさい。私が抱えられるのは、頑張ったって三人が限度よ」
「確定なのは私のマスターのフェリシア。ランサーのマスターのあんた……」

「つまり、残りは一人だけ!ちゃちゃっと決めてちょうだい!」


112 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/17(土) 22:36:48.83 ID:XmLLvg7C0



……一人だけ。いや、当然か
セイバーの体格は極めて恵まれてはいる。が、それは人間の肉体の範疇でだ
背と両手を足したとしても、三人が限度というのはしょうがないだろう


「一人だけ……では、なるべく戦力になる人物がいいだろうな」
「敵は何をしてくるかわからない。対応力の高さも求められるか」
「……すまない。私と禍門の面々は省いては貰えないだろうか?」
「そっか。私達は監督役だから下手に干渉すると協会に目をつけられるんだよね……」


この場にいる人間を一望する。要は戦力の足しになり、ある程度の対応力を持つ人物が必要となるのだろう
完璧でなくてもいい。それらを満たす人物は……

「ううむ。だったら誰が行くべきだ?俺には思いつかんぞマスター」
「君でいいじゃないか吉田君」
「ハァ!?」 

全員が視線を向ける先には、心底驚いた様に目を見開くキャスター
完全に予想外だったのか、その顔は真っ青に血の気が引いている

「いや何で俺なんだ!?戦力にもならんし対応力も無いぞ!?」
「君は魔術師の英霊じゃないか。寧ろここで行かなければ本当にただのアル中だぞ?」
「仕方ないだろうが!飲まなきゃやってられるかこんな所で!」

「決めたわ。あたしとフェリシア。それとキャスターで行く」
「話を聞けお前!俺を連れていっても何の得にもならんとあれ程」
「ああもう、うっさい!サーヴァントを連れていけばアサシンを引き付ける役くらいには使えるでしょうが!」


ルゥナの剣幕に押されたのか、それ以降の文句は口から出ない
結論が出たと判断したのか、フェリシアは腕を掲げ、契約を唱える



「“セイバー。汝がマスター、フェリシア・グロスキュリアが命じます”」
「“私とルゥナ、キャスターを、ランサーの存在する座標まで送り届けなさい!”」


113 : ◆6QF2c0WenUEY [sage]:2021/04/17(土) 22:37:51.61 ID:XmLLvg7C0

【少し離席します】

114 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/17(土) 22:39:42.97 ID:ocllHkmLo
たんおつ
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/17(土) 22:59:18.54 ID:gqXgIfOE0
たんおつ
116 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/17(土) 23:57:18.98 ID:XmLLvg7C0






───変わりたいと、そう願っていた

ヒトとしての生に憧れたのもあった。ただ生きたいという単純な欲求もあった

だけど、今は。それよりも強く、……人間の言葉で表すなら。心の奥から溢れる感情は


ずっと、あの子の隣にいたい。……離れたくない


叶うなら、ずっと。人間になりたいと、確かに感じさせてくれたあの子と一緒に

だって、あの子はいつだって強くて。私に手を差し伸べてくれたから

人間になれば、きっと。ルゥナも、私を





「少々森ーーーっ!!」
「………………………………!」



117 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/18(日) 00:06:39.49 ID:IMYXt7S30



「あれが……アバドン……!」
「おい……!どう見ても不味くないか!?」

「間に合った……いや、駄目かもしれない」
「ゴメン。オレがしくじったせいで……」

地下空間に降り立つ一同の目に、ランサーと対峙するロベルトとアサシン陣営が映る
有無を言わさず認識するのは、最早人間の姿を認識出来ない程に変質した少々森の存在だった
銀の甲殻は鎧の様に肉体を覆い、鳴り響く羽音は心の底からかき乱す

英霊であるセイバーとキャスター。ランサーですらも怖気が走る
にも関わらず、平気な顔でアサシンは肩を竦めて嘲笑を浮かべていた


「遅かった。いや、私は丁度よかった。と言うべきだろうか」
「何せ、ここで君達は死ぬ。蝗の群れは、君達を跡形も無く喰らい尽くすだろう」
「何言ってんの、あんたはマスターでも何でも無いでしょうが!」

「知った口を聞くのもそこまでだ。セイバー」
「アバドンは私が召喚した存在……謂わば、英霊のシステムの上に立っている」
「私の指示で、アバドンは貴様らに牙を剥く。そして神が望む供物となるのだ」

ロベルトの言葉を証明するかの様に、アバドンから刃を離し、勝ち誇って嗤うアサシン
溢れんばかりの愉悦を浴び、絶望を存分に味わう。その顔が見たかったと口元を歪めながら

……そうだ、これこそが真実。目の前の絶望に折れ、気迫も誇りも全てが無意味
素直に受け入れて死ねばいい。これで、少しはあの馬鹿も理解するだろう……




……なのに、何故。あの小娘は、未だその目に光を灯しているんだ?


118 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/18(日) 00:18:37.78 ID:IMYXt7S30



「……少々森!聞こえてるでしょ!?」
「さっさとこっちに来なさい!あんたにはそれが出来るはずよ!」
「来たら、後はあたしが何とかするから!心配しないで早く来いってば!」

「……ルゥナ。もう、アレは少々森じゃない」
「わかるんだ。オレ達サーヴァントは、目の前の存在が何者なのか」
「諦めよう。まだ完全に覚醒していない今ならオレの宝具でも……」

諭す様に語るランサー。誰もがアバドンを殺すか、アバドンに殺されるかの二つで思考を進めている
だが、ルゥナは違う。その目はアサシンでも、ランサーでも、アバドンですら捉えていない

その視線は真っ直ぐに。少々森若子へと向けていた


「勝手に決めるな!勝手にあの子を決めつけんじゃないわよ!」
「あそこにいるのがアバドンか少々森か、そんなのあんた達が決める事じゃないでしょ!?」
「あたしは少々森を信じてる……!あんたの事はあたしが一番知ってるんだから……!」



『“俺は人を信じている。例え、お前がどんな罪を押し付けてもいつかは必ず明かされる”』

『“天は全てを知っている。……そうだろ?”』

「────ッ!?!?」

突如、アサシンの脳内に浮かび上がるのは存在したかつての記憶
あの時、汚れた牢屋にて縛り付けられたあの男は、屈する事なく。あろう事か笑ってそう言ってのけたのだ

……真実として、彼の者に課せられた罪は無く。彼は祖国の英雄としてその勇名は後世まで語り継がれる事となる

その男の名は『岳飛』。謀反の罪を着せられ、拷問による嘘の自白すらも跳ね退けた、まさしく英雄の中の英雄である



119 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/18(日) 00:32:17.72 ID:IMYXt7S30



「……ああ、思い出した。何故、あんなにも不快に感じたのか」
「その目だ……その、澄みきった瞳が気にくわなかったんだよ」

一人、口の中で噛み潰す過去の感情。英雄の瞳の中で燃える、その正しさが嫌いだった
だが今回は違う。誰もその正しさを信じない。いや、信じられる訳がない
小娘の戯れ言を信じる奴が、どこにいようか……

「さて……遺言も済んだろう。神に祈り、天にて救われる刻を待て」
「アバドンよ!奴等を喰らい!神が降臨する為の準備をするのだッ!」

「っ!セイバー!前に!」
「さいしょに言っておくけど!私も倒せるかわかんないから!」
「あああ……せめて、もう一本開けとけば……」

「ルゥナ!迷っている暇はない!」
「令呪でオレに魔力を!今なら霊核を砕いて、消滅させられるかもしれないんだ!」
「…………あたしは、あんたの事。信じてる」



「街なんて知らない、人理なんて知らないし、どうだっていいわ」
「後悔なんてしない……どんな結末になっても、きっとあたしはあんたを憎めないもの」
「だって、あたし達は友達でしょ?せめて、あたしだけは信じてるから」

「あんたは。少々森若子は人間だって」


120 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/18(日) 00:47:54.63 ID:IMYXt7S30


「………………」
「……?アバドンの動きが止まりましたが?」
「馬鹿な事を……!天使が、たかが人間の、それも小娘の声を聞く訳が」

「天使じゃない!その子は人間だっての!」
「少々森!あんたは結構……いや少し変わってるとこもあるけど!」
「あたしも、さきちゃんも!ずっとあんたを人間として見てたんだから──!」


先程までは刻む様だった羽音が静まる。ルゥナの声に反応するかの様にその殻に罅が入る
こんな事はあり得ない。何故?どうして?平静を保ちつつも、アサシンの胸は穏やかではない
命令を受け付けないアバドンに苛立ったのか、ロベルトは必死に声を荒げていた


「私の命令を聞けッ!私は貴様の上位存在!神の意思を継ぐ者だぞッ!」
「あんたはどっちなの!?人か、天使か。もう一度ここで宣言しなさい!」

ロベルトとルゥナ。二人の声の狭間で、人間に焦がれた虫は決意する

自分が何者なのか、自分は何を望むのか。その意思は銀に光る殻を剥がしていって──


121 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/18(日) 00:49:04.15 ID:IMYXt7S30
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122 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/18(日) 00:49:41.61 ID:IMYXt7S30
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                ,、、、、、、、_____ア´ W | | | ∨  ト、   \¨√-]
           _jI斗r─くヽニニニ}0 0 /i/|i:i|-Li:|/i:}リi|iト(Wi]     二-[ __
     >`` __ \ \  }ニニニムr‐匕゙ |i小厂廴}jI抖ミ丁]  {   二_√-=_´
     i      \}_ } 厶ィ--=个   ///:. 人(:. 以ノ ]i:{  ∨ 二_√iミi:i:\          「私は……人間……。それと……」
     {        〕Iト。,_  r‐-=ミ /  {´        厶ィ   :i), 二_√.:i:i:i寸:i}
     \         ア⌒\. .Q〕ァ∧__ r ュ     |  | .:i:i:i:二_√i:寸i:i:У
.        〕ト。,     /     /. ./ヽ. ⌒\)ト、  ,, ]  ∨\i 二_√i:i:i:i〉´
            )ト。,   |   /. ./. . . .∨ . . . \ 〕iく--}トミ}i:i:i:i二 7i:〉⌒′            「私は……ルゥナの、ともだち……!」
            )ト、|    |. /. . . . . .∨. . . . .}. . . .〕iト、 . `ト辷,7´
                  \  ] ] . . . . . . . \. . /. . . . . . . .〕ト √�W\
                   \| ] . . . . . . . . . . ∧ . . . . . . . . . / W(. ./
                 勹-寸 . . . . . . /. . \ . . . . . . /二/. ∨
                    忖. . . ./. . . . . |. . . . . ./二/. . .
                         |..∨. . . . . . . . . |. . . . ./二/. __/
                   ∧〈. . . . . . . . . . |. . . ./二/. //
                      ∨, . . . . . . . ..]. . _/二/. //
                          ∨,. . . . . . . .]_/⌒ヽ{- 〈
123 : ◆6QF2c0WenUEY [sage]:2021/04/18(日) 00:50:43.29 ID:IMYXt7S30

【本日はここまで】

124 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/18(日) 01:00:05.13 ID:nmG4oAwiO
乙
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/18(日) 07:56:18.16 ID:+3koyIWg0
おつ
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/18(日) 13:40:31.40 ID:Iub9km2Xo
乙
負けるムードゼロだが果たして…
127 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/19(月) 20:54:49.96 ID:NlSYI+gp0

【21:30から、ゆっくりやりたいと思います】

128 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/19(月) 21:40:16.60 ID:NlSYI+gp0



異形の中から、少女の体が顕れる。振りかぶる視線はアサシンを捉えていて
その手に握るのは、かつては地の獄を管理していた際の遺物である奈落の鍵
これは、未来を切り開く為。人間としての世界を開く為の鍵との証明


「っ。虫風情が、私の邪魔を」
「アサシン君!お怪我はありませんか!」
「かすり傷だよ、この程度で死にはしないさ。だが……」

「おのれ……おのれおのれおのれッ!神の眷属である貴様はッ!私の意思を無視するのかッ!」
「これはまさしく涜神に他ならない……あってはならない!赦されてはならないのだァーッ!」


ロベルトは少々森の反抗に酷く腹を立て、目を血走らせて絶叫する
無理もない。この場の優位性は全てがアバドン……少々森の力に依るものだ
だが、彼女は明確に建言した。『私は人間であり、そしてルゥナの友達だ』と

「何かよくわかんないけど、要はそいつは私達を攻撃する意思は無いのよね?」
「そ、そうだ!今の内にお前達を倒せば、この問題は全て解決するよな!?」

セイバーとキャスターは、改めて戦闘の態勢を取る。理由はわからないが、このチャンスを逃す手は無い
先程の余裕とは一転して、アサシン達は窮地に追い込まれる……



「あはっ……!ロベルト、困っている様だね」
「一応は、ボクの家族だし……助けてあげるよ」


129 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/19(月) 22:07:01.08 ID:NlSYI+gp0



「…………!」
「彼は……いったい?」
「下がってフェリシア。こいつ、何か嫌な感じがするわ……!」

セイバーの言葉に反応するかの様に、全員の体が硬直する。男の姿に総毛立つ
唐突に現れたその人物は、ルゥナはおろか、誰もがこの場に乱入してきた男の真意を計りかねていた

「ボクの名前は……イエス・エーデルワイス」
「そんなに怯えなくてもいいよ。ロベルト、ボクは君を助けに来たんだ」

「おや……ロベルト君のお知り合いですか!では是非ともそのお手をお借りし……」
「駄目だッ!この男はこの世に存在してはならない!悪魔そのものだッ!」

「……何かしら。仲間割れ?」
「いや、と言うよりは……ロベルトが、彼の事を信用していないみたいだ」

友好的な態度を見せる青年を、恐れるかの様な顔を浮かべて睨み付けるロベルト
徐々に、背後に後退していくその姿。あのロベルトですらも恐怖するという事実が周囲の緊張を高めていた

「貴様は……貴様は!何を考えている!?」
「嫌だなあ。ボクはただ同じ血族を助けに来ただけなんだって」




「それに……『ボクが勝ち取った聖杯』を、他の人間には渡したくないからさ」


130 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/19(月) 22:56:35.60 ID:NlSYI+gp0



ぞわり。不気味に空間が歪んだ気がした
イエスの双眸は得体の知れない光を湛える。何が見えているのかすらわからない

いや……それよりも気になるのは、先程の言葉。確かに今、あの男は

「勝ち取った聖杯……ですって?そんな事、ありえる訳ないわ」
「だって、この聖杯戦争はあたしが生まれる前から計画されていたって聞いているわよ?」
「それこそ、数十年以上も前に。あんたはそれ以前も、どこかで聖杯戦争があったとでも言いたいのかしら?」


ルゥナの視点は、かつては御三家であったガイスロギヴァテスだからこその指摘だった
エーデルワイスも御三家ではあるが、目の前の青年は自分よりも遥かに年上とは思えない
精々が五、六歳。高く見積もっても十歳が限度だろう

だが、イエスの返答は予想だにしないもので

「うん、そうだよ。ボクがこの街に聖杯をもたらしたんだ」
「とは言っても……偶然、聖杯に触れて生き延びただけのグズだけどね……」
「だけどボクはツイてたんだ!何しろ『天啓』が教えてくれたからね!」


131 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/19(月) 23:10:36.79 ID:NlSYI+gp0



「……天啓?」
「あーよくわからんが、要はその聖杯はお宅のものって認識でいいのか?」
「それなら、何故わざわざ聖杯戦争を?聖杯を手にしたなら願いを叶えればいいはず……」

フェリシアの疑問は当然だ。その話が本当ならば、聖杯戦争を起こす理由がない
イエスはさも当然とばかりに笑う。まるで決まりきっていると言いたげに

「そんなの……『君達が苦しむから』以外に、理由がいる?」

澄んだ声は、一切の偽りを感じさせない。それが真意だと明確に告げる
誰も思考を理解できない。それも仕方ないかとイエスは語る

「君達が苦痛に悶える程、君達が欲望に溺れる程にボクが面白いんだよ」
「シュヴァルツはさっさと使いたかったみたいだけど、それだとツマラナイじゃないか!」
「ボクは死にもの狂いで手に入れたんだから、皆もそのくらいはしてもらわないとね!」


あまりにも身勝手な言動に、全員の思考が硬直する。こいつは何を言っているんだ?
ルゥナにフェリシアはおろか、味方であるはずのアサシンすらも目を見開く。その中で、最も速く動いたのは

「そうですか!そのお気持ちはよくわかりますとも!」
「では、この場は共に切り抜けましょう!是非とも私をお見知りおきを!」

市長がにこやかな笑みで手を差し出す。この状況下でもその態度は揺るがない
差し出された手を一瞥するイエス。無言で片手を突き出すと……ドス黒い『泥』が市長の手を呑み込んだ


132 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/04/19(月) 23:11:15.88 ID:NlSYI+gp0

【ごめんなさい。体力の限界が来てしまったので本日はここまでです…】

133 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/19(月) 23:11:56.90 ID:Dj8yp+cEo
お
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/20(火) 00:15:11.51 ID:aKgrUTUso
乙
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/22(木) 22:40:50.17 ID:3n2DdWRWO
おつ
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/22(木) 22:42:10.06 ID:TWVyUfoa0
おつ
137 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/05/01(土) 22:23:35.63 ID:7wWUQ+Yf0

【では少しだけ更新していきます】

138 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/05/01(土) 22:27:05.02 ID:7wWUQ+Yf0



それは、突然の出来事だった
イエスから放たれた『泥』は市長の手に喰らいつき、その先を砕く
あまりにも突然の出来事に、誰も反応する事が出来なかった。……唯の一人。アサシンを除いて

「ひっ……!?がぁああああぁああ!?!?」
「ッ、その男から離れるんだ!」
「あーあ。手が汚れちゃった……」

「……何?仲間割れかしら?」
「油断しないでセイバー。相手の動きから目を離しては駄目よ」
「それにしては……様子がおかしくないか?」

周囲の怪訝そうな目も意に介さず。イエスは隣のロベルトに視線を向ける
その顔はどこか優しげで。それなのに一切の慈悲を感じられない無機質なもので

「さて……ロベルト。キミは勝手にボクの聖杯を使ったね?」
「シュヴァルツの目は誤魔化せても、ボクには通用しない……わかるよね?」
「な……あ、ああ!?」


「さようなら。ロベルト……せめて、泥の中での安寧を貪るといい」



 ◆聖杯の泥
 人の悪性。泥の形をもった純粋かつ圧倒的な呪い。
 触れた者の魂を汚染し、時には肉体ごと呑みこみ消滅させる。
 とある地で行われた聖杯戦争にてこの泥に触れ、敗死した彼は復活を遂げた。
 その為、彼は自分が神に選ばれた存在であると信じ込んでいる。


139 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/05/01(土) 23:19:27.39 ID:7wWUQ+Yf0


暗澹とした泥がロベルトを呑み込む
濁流となった形ある悪意は、矮小な悪意を容易に飲み干し砕いていく
あまりに圧倒的な暴力に、為す術もなく堕ちていった


「こっ……こんな、こんなハズでは……ッ!?」
「あぁぁーッ!?私と!私が愛する神の!輝かしい未来が消えていくッ!?こんな、こんな事を許していいのか!?」
「止めろおおオオオオオ誰でもいいからイエスを殺し……」

「うるさいなあ。どうしてこうも醜く足掻くのかな?」
「ボクの血族ながら、理解が出来ないよ」


惨めな断末魔だけを遺して、黒幕であったロベルトは呆気なく泥に沈んでいく
まるで、最初からこの世に存在しなかった様に跡形もなく。痕跡すら許さないように

「さて……キミ達には申し訳ないんだけど、ここで全員死んでもらう」
「聖杯戦争の幕引きとしては三流だけど……アハハッ、まあいいか!」

微笑みながらの邪悪な宣言。その一言は否応なしに全員の緊張を漲らせる
泥が周囲に満ちていく。何か得体の知れない、おぞましいモノが這い出てくる──!



「さあ、現れよ!この馬鹿げた戦争の全てを絶望に堕とす為に顕現してくれ!」
「アハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

、
140 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/05/01(土) 23:32:00.98 ID:7wWUQ+Yf0


ぞぶ、ぞぶ。泥の中から『何か』が出てきた
まるで羽化するかの様に、有象無象の影の群れが沸き上がる。形容の出来ないおぞましさに、思わず目をつむる少々森

「あああ……!私は、私はまだ死にたくない!街を発展させていない!」
「志半ばで死ぬのは嫌だぁぁ……!」

「……っ!あんたはこっちよ!ランサー、これはなんなの!?」
「オレもよくはわからない。けど間違いなく、ヤバいのは確かだよ……!」

「ななななんだ!?コイツら、あの青白い男に従っているみたいだぞ!?」
「セイバー!前衛に出て、私達を守って!……セイバー!?」
「わかってるってば!それにしても……っ!」

一人、前に立つセイバーの顔は苦々しく。眼前の異様な存在に一際強く警戒しながら
担う魔剣は微かに震える。セイバーだけがその影の正体を理解出来たのは、この剣が強い反応を示したからで

だからこそ、この窮地を誰よりも強く、鮮明に理解してしまっていた


「ああもう!なんてモン呼び寄せたのよ!」
「コイツら、『英霊のなり損ない』……要は英霊モドキ!デッドコピーよ!」
「……つまり、コイツらを倒すと」



 ◆堕・英霊召喚
  彼の権限で大聖杯にアクセスし、不完全な英霊「シャドウサーヴァント」を召喚できる。
  召喚された英霊は彼の呪いに汚染され、支配下に置かれる。
  正規の英霊を一騎で倒す力は無いが、数で圧倒することは十分可能。

  なお召喚される英霊が不完全なのは、正規の召喚方法ではないため。
  大聖杯自体にはなんの小細工もしていない。
  ただし、召喚されたシャドウサーヴァントを倒すほど、聖杯が汚染されてゆく。
  悲願を叶えるまでは本意ではないので、容易には切れない切り札。



「確実に聖杯が汚染される!あいつ、本気でこの街を滅ぼしに来てるわよ!!」

141 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/05/01(土) 23:35:40.79 ID:7wWUQ+Yf0

【本日はここまで。また明日更新します】

142 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/05/01(土) 23:53:15.88 ID:BdHGgGY/o
乙です
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/05/01(土) 23:54:39.20 ID:bOb3EjSdo
乙
144 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/05/02(日) 18:03:27.49 ID:baTryqjv0

【早めに更新。安価は無いのでごゆるりとどうぞ】

145 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/05/02(日) 18:12:46.96 ID:baTryqjv0


黒く蠢く無数の影が、狭い空間を埋め尽くす
こちらに明確な殺意と悪意を向ける黒の集団。今もなおその数を増殖し続ける
おまけに、此方からの手出しは不可能。この影を倒す度に、聖杯が汚染されていく……


「ランサー、キャスター!アンタ達は下がってフェリシア達を守りなさい!」
「無茶だセイバー!幾ら君でも、この数は!」

「いいから!言っとくけど、アンタ達はこの影を倒したら駄目だからね!」
「あ、オイ!……ああクソっ!やってやる!」

ランサーとキャスターを背後に、セイバーは単身で影を討つ
実力は完全にセイバーの圧勝。だが消滅させる事は不可能である

……はず。なのだが


「ぜぇやあああっ!かかって来い、黒塗り野郎共!」
「アンガンチュールの娘にして、盾持つ乙女!このヘルヴォールがクソ剣に喰わせてやる!」

薙ぐ毎に影が切り伏せられる。斬る毎に黒の体が断たれる。その剣には容赦も躊躇いもない
聖杯の汚染も気にせずに、セイバーはその魔剣を振り回していく……



「……へえ、ティルフィング。魂を喰らう剣か」

146 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/05/02(日) 18:28:22.73 ID:baTryqjv0



ティルフィング。それは所有した者を悉く破滅させる呪われた剣
様々な人間の命を蝕み、セイバーの父も、息子もその輝きに魅いられ命を落とした邪悪な剣

だが、セイバーだけは違う。彼女だけは何故か剣に魂を啜られる事なく扱えた
それが何故か?そんな事は知らないが、兎も角これを振るえるのはセイバーだけ

つまり、彼女の魂は魔剣に喰らわれず。影英霊の汚染された魂のみを斬り砕く


 『宝具』
 ◆『魂魄啜る破滅の宝剣(ティルヴィング)』  
  ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大捕捉:10人    
  生命を吸収する宝剣。剣に触れた対象から魔力や神秘、生命力を吸収する。    
  物質の生命を吸い尽くして容易に断ち切る事を可能とし、吸収した命で刀身を常時修復・修繕する。    
  また、剣その物が命を好んでおり、命に向けて刀身を自動誘導する特性を有している。


「……なるほどね。でもセイバーだけじゃこの数は倒しきれないよ」
「他のサーヴァントやマスターの助力も期待できない……絶望的だよね」
「だからボクは焦らないよ。ゆっくり、キミ達が死ぬまでね……」

その言葉通り、幾ら斬り捨てようとも影の数は増していく
セイバーの力も限りがある。今は均衡を保てているものの、このままではいずれ力が尽きる……


147 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/05/02(日) 18:47:37.87 ID:baTryqjv0



「“汝がマスター、フェリシア・グロスキュリアが令呪を以て命じます!”」
「“立ち上がりなさい!ここで倒れる事は、マスターである許しません!”」

一筋、闇の中から紅い閃光が照らす。マスターからの絶対命令、令呪をここで使ったのだ
膨大な魔力がセイバーを支援する。一瞬だが、均衡は此方に傾いた

「サンキューフェリシア!これでもうちょっとは戦えるわ!」
「……だけど、不味いのは確かね。私はともかくこのままだとフェリシアがやられるかも」
「けど私が下がると……あーっ!面倒な事は苦手なんだっての!」

背後のフェリシアに目を向ける。討ち漏らした影は、ランサーによって食い止められていた
今はランサーが持ちこたえているものの、倒せないという条件が肩に重くのしかかる
自分一人で、この影の群れを全滅させなければこのまま共倒れになるだけ……


「おーーーいっ!セイバーっ!こっちに来てくれーーーっ!」
「なによバカ!今忙しいんだっての!」「バカとは何だ!とにかく一度こっちに戻れ!」

突如、キャスターからの絶叫が背後から響く。こっちは忙しいのに何を、と睨みつけた


148 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/05/02(日) 19:07:34.60 ID:baTryqjv0




「その剣は!霊体を喰らえば喰らう程強くなるのだろう!?」


「協力する!俺を喰え!サーヴァントをエサにすればより強力になるんじゃないのか!?」



149 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/05/02(日) 19:16:25.98 ID:baTryqjv0



「……はぁ!?」

キャスターの思いきった発言に、セイバーは思わず目を丸くする
この男は自分を喰えと。そう言ったのか?前線から一時切り上げ、後方に向かう


「仕方ないだろ!?俺だって死にたくない!」

「だがなあ!ここで手をこまねいて見ていても何も状況は変わらないだろ!?」

最後尾では、ランサーとルゥナ。フェリシアが少々森を庇うように影を相手取る
だが、徐々に鈍くなっているのが目に見えてわかっていた

「女子供に犠牲になれとは言えない。ランサーの奴がいないと守れない」

「俺は“英霊(サーヴァント)”なんて大それたモンになったんだろ!なら!」

「この国の、一つの街だろうが……英雄として、守ってやりたいだろうが」

キャスターの足は震えている。その目は泳ぎ、覚悟が未だに決まりきっていない事を如実に表していて
キャスターは恐らく、生前から争いとは無縁な人物だ。学者然とした態度は、剣よりも筆を握る方が得意だと示している
そんな人間が、国の為に命をなげうつ。その恐怖は如何ばかりか。その決意は如何ほどか

セイバー、ヘルヴォールは戦士である。その決意を無下にする事は、不可能に等しかった

「……そうね。幾ら近代人とはいえ、この連中を喰い尽くした分も合わせれば。多分」
「そうかよ。なら頼む!……なるべく、痛くないようにな」



150 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/05/02(日) 19:39:21.77 ID:baTryqjv0


重々しく、剣を引き抜く。その煌めきは、獲物をねめつける獣の瞳の様な妖しい光を放つ
魔剣はキャスターを捉えて輝く。その身、命を捧げる覚悟はあるのかと

剣に映されるのは、不敵な笑みのキャスターだけ。今更だと笑い飛ばすかの様な強がりの笑み
剣を振りかぶり、暫しの沈黙。戦場に響く怨嗟も、この瞬間だけは観戦に徹して

「そう言えば、あんたの真名って何だっけ?」
「『吉田東伍(よしだ とうご)』だ!あの馬鹿マスター。『どうせわからないからいいじゃないか』って真名で呼びやがって!」
「そ。ありがとう。アンタの命で、絶対に皆を救ってみせるから」



鈍く、肉を斬る音が木霊する。セイバーの魔剣は寸分狂わずキャスターの霊核に食らい付いて
剣に魔力が満ちていく。魂魄を糧とし、勝利を手にする呪われし魔剣

「……頼む、この街を、守ってくれ」
「聞き届けた。ヘルヴォールの名において、剣の魔力を解放する───」

両手は剣を上段に構え、両足は地を踏み締める
魔力の奔流が剣より零れる。影の群れも、その煌めきに目を奪われるばかり

嗚呼、我々も、あの様な剣を担える英雄になる筈だったのに……



「“唸れ、クソ剣ッ!魂魄を啜る破滅の宝具よ。私の願いを聞き届けよッ!”」
「“私が願うは、この影の全滅!フェリシアと、その仲間を!この手で救う為に剣を振るう!”」

「“食い荒らせ!『魂魄啜る破滅の宝剣(ティルヴィング)ッッッ!!この悪夢ごと──!!”」


151 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/05/02(日) 19:51:13.53 ID:baTryqjv0


喰らう、喰らう、喰らっていく
刀身は空間を断ち斬る程に増強し、影共は為す統べなく呑まれていく
この世に遺すまいと、魔剣が逃げる影を追い、一つ残らず食い潰す。新たに沸こうが関係無い

イエスはその光景をゆっくりと見ていた。抵抗するでもなく、絶望するでもなく
ただ胸にある感情は『郷愁』。かつて聖杯戦争で見たあの光

「あはっ、何だか懐かしいなあ。ボクは必死に逃げたんだっけ」
「……ごめんね、バーサーカー。ボクは勝って、願いを」

言葉は続かない。魔剣がイエスを分断し、体は泥へと沈んでいく
その顔は少し寂しげで、どこか申し訳なさそうら悲しげな表情を遺していた



「らぁああああーーーっ!こ、のっ!クソ剣がああぁあああーーーッ!!!」

セイバーの雄叫びが、地下に蠢く影を塗り潰す
その霊基は既に限界を超え、全身が悲鳴をあげようと剣を振り続ける

そして、空間には静寂が帰る。影も、敵も、絶望も。全て魔剣が喰い尽くした

「セイバー!」
「あ、フェリシアとランサーのマスター。お疲れ様」
「ま、礼はしとくわ。貴女がいなければあたし達は……っ!?」

労おうと近づくフェリシアとルゥナ。その顔には疲弊の色がありありと浮かぶ
とはいえ、功労者であるセイバーに一言くらいは声をかけておかねば。そう思ったルゥナは言葉を失った

……セイバーの身体はほつれ、光の粒子となっていたのだから


152 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/05/02(日) 20:10:46.23 ID:baTryqjv0
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153 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/05/02(日) 20:13:29.24 ID:baTryqjv0
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154 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2021/05/02(日) 20:14:45.52 ID:baTryqjv0


「……セイ、バー?」
「あんのクソ剣。少し解放したら”もっと魂を寄越せ”とか。ふざけんじゃないっての」
「だから……ごめん、フェリシア。私の霊核、剣にくれてやっちゃった」

冗談めかした言い方だが、セイバーの顔は心底悔しげだ
目の前の少女を勝たせてあげられなかった。出来れば、自分の手で願いを叶えてあげたかった
けれどもその願いは無慈悲に断たれた。彼女が聖杯を手にする事は出来なくなったのだ

「……謝らないで。私は、後悔してないわ」
「家の事は、残念、だけれど。私はやりたい事をやったから。だから」
「どんな結末になって、も……っ!受け入れ、ない、と……っ!」

戦後の静かな地下空間は、すすり泣く声がよく響く
どれだけ気丈に振る舞おうとしても、夢を断たれた哀しみは少女の胸を支配する
ルゥナは泣きじゃくるフェリシアから目を逸らす。そして、セイバーはその頭を優しく撫でた


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