【モバマス】みく「バースデーライブ」
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4:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:40:33.42 ID:gJQnAjCL0
 菜々ちゃんが言い終わるとステージは暗転した。お客さんのざわつく声をよそに、私は袖からステージ真ん中へ、菜々ちゃんの隣へ駆け寄る。暗闇の中で、菜々ちゃんがこっそり笑った気がした。音楽がかかると同時に、ライトが私たちを照らした。眩しさで周りが一瞬ほとんど見えなくなる。割れんばかりの歓声が上がった。
 曲は、『おねだりShall We〜?』。ピンク色の光の海が眼下に広がり、スポットライトは真夏の太陽のように私を焦がした。
「子猫ちゃんたちーっ、今日はみくの誕生日ライブに来てくれてありがとにゃ! このままどんどん行っくよー!!」
 出だしに煽って会場はさらに盛り上がった。体がポカポカと温かくて、テンションもいつもより高い。煽り方の上手い、ロックな彼女のおかげで、一年前に比べたらずいぶん良い煽りになったかもね、と私は思った。


5:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:41:38.57 ID:gJQnAjCL0
 『おねだりShall We〜?』を完璧に踊り終えて、MCコーナーに移った。目が慣れてきてお客さんの多さに驚いたけど、私の探す彼女は見当たらなかった。いつもなら関係者席にいるのに、おかしいな。でも、それを表情に出すような私ではない。
「それでは、今日誕生日のみくちゃんのために、ケーキが用意されていますー! お願いしまーす」
 菜々ちゃんの言葉で、ワゴンに乗ったケーキが運ばれてきた。生クリームにイチゴの乗った、定番のケーキだ。メッセージカードはネコの顔に象られたチョコで、「お誕生日おめでとう!」と白のチョコペンで書いてある。そのメッセージカードを、マジパンでできている恰幅のいい三毛猫が立って前脚で持っていた。思わず、「かわいいー!」と声が出る。もちろん、マイクにしっかりと拾われている。会場が沸いた。
「そのメッセージカード、ナナが書いたんですよ! ……と言っても、たぶん小さすぎて皆さんには見えないんですよね〜」
「あー、子猫ちゃんたちに見せられないの残念だにゃ〜!」
以下略 AAS



6:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:42:53.19 ID:gJQnAjCL0
「そういえば、お菓子ということで……、みくちゃん、先日のバレンタインデーはいかがでしたか?」
「事務所のみんなと分け合いっこしたにゃ。っていうか、ナナちゃんも一緒だったでしょー!?」
「そうでしたねぇ。他には?」
「にゃし! 今日のライブで配る予定もにゃしにゃ!」
 お客さんの大きな落胆の声が上がった。「物欲しそうな声しても渡さないんだからねっ!」と付け加える。菜々ちゃんは質問を続けた。
以下略 AAS



7:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:43:56.80 ID:gJQnAjCL0
 MCを挟みつつ、We are the friends!!、Wonder goes on!!、EVERMOREなどを歌い、大盛況のまま誕生日ライブは終わった。私のモヤモヤも、途中から頭の外に飛んでいた。

 ライブが終わり衣装から着替え、帰る準備を整えた。だんだんと余韻が冷めて、頭の回転がしっかりしてくる。プロデューサーの指示を待つためいったん楽屋へ戻る道中、菜々ちゃんと話していると、ふと彼女のことが思い出された。
「ねぇ菜々ちゃん。今日李衣菜ちゃん見なかったけど何か知ってる?」
 菜々ちゃんは一瞬思い出すような顔をした後、衝撃の事実を告げた。
以下略 AAS



8:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:44:58.23 ID:gJQnAjCL0
 菜々ちゃんは笑って「来年は来てくれますよ!」と励ましてくれた。彼女も近くの椅子に座る。私は、どうだろうな、と先日の李衣菜ちゃんの様子を思い出した。

≪ねぇ李衣菜ちゃん、私22日にライブやるんだけど、来る?≫
≪ゴメンみく! 私、その日はロック・ザ・ビートで音楽番組に出演することになってて……≫
≪……ふーん≫
以下略 AAS



9:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:46:04.28 ID:gJQnAjCL0
 私がため息をついたとき、ドアをノックする音と「プレゼントボックス、お届けに来ましたー」というスタッフさんの声がした。いつもはすぐ、ちょうど衣装を着替えるあたりでもらえるけど、今回は少し遅かった。誕生日だから多かったのかな。
 菜々ちゃんは素早く立ち上がって、受け取りに行く。年下の私が取りに行くべきなんだろうけど、制止する前にすでに菜々ちゃんはドアを開けていた。ライブは何とかできるようになってきたけど、こういう部分ではアイドルとしてまだまだだなぁ、と私は思う。
 なんで李衣菜ちゃんが来れないことを忘れていたんだろう、と続けて思い起こしていると、「いっぱい贈り物が届いてますよー」と菜々ちゃんが私の目の前に段ボール箱を持ってきて、考えはプツンと途切れた。
 段ボール箱に入ったたくさんのプレゼント。色紙・メッセージカードをはじめ、ピンク色の猫じゃらしやたい焼きのキーホルダーなど、様々なものが入っている。私はその中からギターのピックを見出した。黒を背景に、ハートとイバラ、そして銘打たれているRock the Beatの文字。彼女たちの公式グッズだった。裏返すと、白ペンで李衣菜ちゃんと夏樹ちゃんのサイン、それと「みく、誕生日おめでとう!」と書かれている。


10:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:46:56.75 ID:gJQnAjCL0
 ピックを握って止まった私を菜々ちゃんが覗き込んできて、「あら」と言った。
「本当に寄ってきたんですね、あの人たち……」
「え?」と私は問い返した。菜々ちゃんは「あ゛」と声を漏らして固まった。
「……どういうこと?」
 絞り出した声は震えている。怒っているような声音で自分でもビックリした。嬉しいからだと気付くまでに少しかかった。
以下略 AAS



11:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:47:35.01 ID:gJQnAjCL0
 唇の端に何か液体の感触を感じて、やっと泣いているのだ、と気づいた。ライブ後は頭と体がちぐはぐになる、と私は疲れのせいにした。
「……ナナ、少しお手洗い行きますね」
 菜々ちゃんは私に背を向けて楽屋を出た。気を遣ってくれたのだろう。

 菜々ちゃんが帰ってこれるように、私もしっかりしなきゃ。気持ちを振り払うために、私はピックから目を離してテレビをつけた。
以下略 AAS



12:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:50:46.18 ID:gJQnAjCL0
 スポットライトが点いた。李衣菜ちゃんと夏樹ちゃんがそこにいた。心臓の鼓動がバクバクとうるさい。
≪今日は何の日だー?≫
≪猫の日ー!≫
私と同じような煽り。イントロは私が知っているよりも長かった。よく見ると李衣菜ちゃんは青いネコミミヘッドホン、夏樹ちゃんはジャガーミミを着けている。
≪OKみんなわかってるねー!? それじゃあ聴いてよ!! 『ØωØver!!』≫
以下略 AAS



13:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:51:18.81 ID:gJQnAjCL0
 曲の終わり、李衣菜ちゃんは≪センキュー!!≫と言って何かを投げた。それはカメラの方に向かって飛んできて、次第に形が分かってきた。ピックだ。さらに近づき、それはカメラにぶつかって、画面は暗くなった。直前に見えたのは、白いペンで書いた拙いネコの絵だった。いや、拙くなかったかもしれない。私の視界は嬉し涙で滲んでいて、テレビの輪郭すらも覚束ないから。
 菜々ちゃんが戻ってきた。私は彼女の顔を見れない。けど、彼女の胸に抱きついてしまった。柔らかい感触に包み込まれる。あーあ、そんなに泣いちゃって。カワイイ顔が台無しですよ? 菜々ちゃんはそう優しく語りかけた。
「……ほら、ハンカチです。どれだけ汚れてもいいですから、拭いてください」
 ありがと、菜々チャン。つっかえつっかえのダミ声しか出ない。ハンカチはすでに少し濡れていた。見上げると目が合った。彼女の目もうるんでいて、ウサギみたいに赤かった。少し噴き出したように笑うと、「みくちゃんからもらい泣きしただけですからっ!」とそっぽを向かれた。
 涙は留まるところを知らなかった。幸せに包まれたときにも涙ってこんなに出るんだな、と思った。
以下略 AAS



14:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:53:29.13 ID:gJQnAjCL0
以上で完結です。
HTML化依頼出します。

過去作 李衣菜「午後11時」みく「午前5時」 ex14.vip2ch.com


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