6: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:30:44.29 ID:RvB9VQpu0
「そうですね。僕も、あれからの白石さんとは、まだ2回だけしか面会できていませんが……」
仕掛け人さまの言葉は珍しく不均等で分かりづらく、
紬さんの仕事の予定が変更され、その空白を埋めるために奔走したはずの連日の疲労が窺えた。
7: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:32:27.49 ID:RvB9VQpu0
「勿論、公演には出ます」
紬さんは当然とばかりに言い切った。
「そもそも、父も母も心配のしすぎなのです。仕事を放り出してまで東京に来てしまって……
8: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:33:44.86 ID:RvB9VQpu0
「……こほん。と、とにかく、私は大丈夫です。プロデューサーにもそう伝えておいてください」
「……できません」
自分の声が掠れているのが嫌だった。
9: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:34:46.69 ID:RvB9VQpu0
「エミリーさん」
白くて細い、綺麗な指が伸びて、膝の上で固く握られた、私の拳に触れる。
「信じて貰えないかもしれませんが、本当に、見えていないわけではないのです」
10: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:36:22.99 ID:RvB9VQpu0
「風が、呼吸によって折り畳まれるさまを見ることができます」
「え?」
「光の指や、水滴に潜む昏い秤が見えます。
11: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:37:14.74 ID:RvB9VQpu0
「できません」
仕掛け人さまは平坦な声で言った。
「次の公演に、白石さんを出すことはできません」
12: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:38:46.33 ID:RvB9VQpu0
「それは……まだ、慣れていないだけです」
「僕が白石さんと、白石さんのご両親に伺うことがあるとすれば」
仕掛け人さまの視線は、紬さんの『目』に真っ直ぐ衝突した。
13: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:43:11.30 ID:RvB9VQpu0
「嫌な方向に吹っ切れましたね。
僕には、白石さんが今回の公演にそこまで拘る理由が分かりません」
紬さんは口をつぐんで、ただ立っている。
14: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:44:02.07 ID:RvB9VQpu0
「スチュアートさん」
仕掛け人さまが、突然私の方を向いた。
「あなたの目から見て、白石さんはステージに立てる状態だと思いますか」
15: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:44:59.56 ID:RvB9VQpu0
「エミリーさん、ありがとうございます」
紬さんは練習着に着替えて、軽く喉を鳴らしながら微笑んだ。
「エミリーさんからいただいた、このチャンスを無駄にはしません」
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