高森藍子が一人前の水先案内人を目指すシリーズ【ARIA×モバマス】
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11: ◆jsQIWWnULI
2020/08/08(土) 18:50:50.97 ID:b+VIQ/E60
「……どうしたの?」

アイさんの声が聞こえ、私は我に返る。

「あ、いえ……少し思い出して……」

私はアイさんに手を引かれ、ゴンドラに乗りこみながら言う。

「思い出したって?」

アイさんは私に尋ねながら舳先に両足をつけると、オールでもって漕ぎ始めた。私はゴンドラに配置されている椅子に座ると、アイさんが手を引いてくれた方の手、つまり左手を右手で握ってみた。

「はい。さっき、小さい頃に一度ゴンドラに乗ったって言ったじゃないですか」

「うん」

アイさんは極めて自然に船を漕ぐ。水が滑らかさを極端に発揮しているように見えるそのオールさばきは、アイさんの水先案内人としての力量を表していた。

「その時のこと、今の今まで覚えていなかったんですけど、アイさんの手を触ったら、急に思い出せたんです」

「へぇ、どんな思い出?」

「もみあげから生えた二つの髪の毛の房が印象的だった水先案内人の方なんですけど、その人の手の温かさが、アイさんの手のあたたかさと似ていたんです。だから思い出せたんです」

「…………」

「ア、アイさん?」

私が思い出した内容を話し終わると、アイさんは驚いたような顔をしたまま、オールを漕ぐのもやめて、しばらく呆然としていた。そしてそのまま目を瞑ると、静かに息を吐いた。アイさんはしばらくした後に目を開いて、私に向かってほほ笑んだ。微笑んでいるアイさんの目の奥には、どうしてか悲しさのようなものが少しにじんで見えた。

「……それは、とってもすごいミラクル、だね」

アイさんは漕ぐのを再開すると、噛みしめるようにそう言った。

「はい。ミラクルかもしれません」


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