高森藍子が一人前の水先案内人を目指すシリーズ【ARIA×モバマス】
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89: ◆jsQIWWnULI
2020/12/12(土) 20:17:12.36 ID:frt3HOpI0
その後もあずきちゃんは意気消沈したままだった。いつもの練習を終えた私たちは、今夜一緒に夜光石を海に還しに行く約束をした。そして、その約束の時。

あずきちゃんが来るかどうか、少し不安だったけれど、それは杞憂だった。あずきちゃんはあやめちゃんと一緒にいつもの集合場所にやって来た。あずきちゃんの目が赤いところを察するに、部屋でひとしきり泣いてきたんだと思う。そういうところがあずきちゃんらしくて、良いなと思った。

「それじゃあ、行こうか」

私たちはゴンドラに乗った。

水路を抜け、ネオ・アドリア海に出ると、そこにはすでにたくさんのゴンドラが海面で揺れていた。その一つ一つに、夜光石の青白い光が灯っている。

「ここら辺にしようか」

私はゴンドラを動かすのを止め、辺りを確認しながら言った。他のゴンドラから、光が落ちるのが見える。

「そうですね。良い場所だと思います」

あやめちゃんはそう言いながら七宝柄の夜光鈴を持ち、ゴンドラのへりへかざした。その夜光鈴の夜光石は、青白い淡い光を断続的に放ちながら、次第に光の強さがなくなっていくのを目の当たりにさせた。

「あ」

ぽちゃん

夜光石が、ゆっくりと沈んでいく。光りながら沈んでいった夜光鈴が、ついに見えなくなった。

「……これで、今年の夏も終わりですね……」

あやめちゃんはしみじみとそう言った。

「あ、私のももう落ちそうかも……」

私は慌ててゴンドラのへりに近づいた。この夜光鈴との思い出が、スピードをもって徐々に思い出す。初めて夜光鈴を買った日のこと、アイスティーとお菓子を持って夜の海で開いた夜光鈴との秘密のお茶会のこと、何気ない風が優しい音色を与えてくれたこと。

ぽちゃん

夜光石が沈んでいく。私はそれに向かって、「またね」と呟いた。

すると今まで何も言わなかったあずきちゃんが口を開いた。

「……どうしてそんな平気そうな顔をするの……?淋しく、ないの?」

あずきちゃんの瞳には涙がいっぱいにたまっていた。そしてついに決壊を起こし、一筋涙がこぼれた。私はあずきちゃんに言った。

「だって、また会えるって、信じてるから」

「……あ、会える……?」

涙をぬぐいながらあずきちゃんはそう返してきた。

「うん。さっき、あやめちゃん言ってたでしょ?アクアでしか採れない夜光石をもとに還すって。私、こう思うの。私が今海に還した夜光石は、海底でゆっくりお休みするの。そして、来年の夏に向けて力を蓄えて、また私に会いに来てくれるって。だから、悲しくないって言ったら嘘になるけど、涙を流してしまったら、夜光石が心配しちゃうでしょう?」

私はそう言いながら、あずきちゃんにハンカチを渡した。あずきちゃんはそのハンカチを受け取りながら言う。

「本当に……また会える?」

「うん。私は絶対に合えるって、信じてる」

私がそう言うと、あずきちゃんは涙を拭きとり、ゴンドラのへりに向いた。そして、自分の夜光鈴を海に向けた。

ぽちゃん

夜光石はしばらくして海の底に沈んでいった。

「絶対に……また、会いに来てね!」

あずきちゃんは、沈みゆく夜光石に向かってそう叫んだ。沈んでいく夜光石が、少しだけ強く光ったように見えた。


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