15: ◆JfOiQcbfj2[saga]
2018/03/15(木) 00:11:58.87 ID:LHPiSqGv0
寝室とリビングを分ける扉が開き、夕美がゆっくりと姿を現した。そこにいた触手はその頭と思われる部分を一斉に彼女に向ける。
その様子に今すぐ寝室に逃げ込みたい衝動に襲われるが、志希の言葉を信じて何とか踏みとどまる。
そして──
「お、おはよう……」
その一言になんともいえない空気が流れる。シンと静まったリビングに夕美は嫌な予感がした。が
「わっ」
まるで挨拶に返事するように触手は頭を下げるようクイッと曲がると再びゾロゾロと動き出した。
『いやー、びっくりしたね。朝起きたら散らかっていた部屋が掃除されてるしさ、何か珈琲まで入れてあるし?そんでもって話しかけたら何かそれらしい反応もするしで、一定の知性があるっぽいんだよね』
さっきの電話での志希の言葉であった。昨晩襲ってきた原因はわからないが、今は襲ってくる様子もないということ。それを聞いて夕美も勇気を出したわけであるが、どうやら彼女の言う通りであるらしかった。
「朝食まで……」
いつも作っている朝食が出来上がっている。良い匂いがしたのはこれのせいだった。
「あれ、水やりもしてくれたの?」
いつも早朝に水やりをする部屋の小さなプランターを確認した夕美はそこが湿っていることに気が付いた。水やりの量も適量だ。
一本の触手は夕美の前でピョコピョコと跳ねるように動く。そこに水やり用のじょうろを持っていることから彼(?)がやってくれたらしい。
「あ、ありがと……?」
よくわからないお礼を返して慎重に撫でるように触ってみる。昨日感じたゴム質とひんやりとした感触が返ってきた。
(昨日これに私は……)
昨日のことを思い出すたびに顔を赤くしている夕美だったが、それを忘れるようにブンブンと顔を振ると、テーブルについた。
「私がいつも作るメニューみたいだけど……」
トースターで焼いたパンにベーコンエッグとサラダ。毎日同じ物を食べているわけではないが、基本的に朝食のメニューはこうなることが多い。それが作られているのだ。
「変な物とか、入ってないよね……」
恐る恐る作られた朝食を口に運ぶが、少しだけ冷めている点を除けばいつも作る朝食と全く同じであった。
「……詳しく話を聞かなきゃ」
朝食を食べながら目の前でうえきちゃんの生えている鉢から少しだけ顔(?)を覗かせている触手を見つつ、今回の諸悪の根源であるであろう千川ちひろに問い詰める内容を夕美は考えていた。
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