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ダンテ「学園都市か」【MISSION 06】 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 23:32:58.52 ID:qhpTqigo
「デビルメイクライ(+ベヨネッタ)」シリーズと「とある魔術の禁書目録」のクロスです。

○大まかな流れ

本編 対魔帝編

外伝 対アリウス&ロリルシア編

上条覚醒編

上条修業編

勃発・瓦解編

準備と休息編←今ここの後半(スレ建て時)

デュマーリ島編

(ここより予定。変更する場合も有り)

学園都市編(デュマーリ島編の裏のパートです。こんがらってしまうので、デュマーリ島編から分離して進める予定です)

創世と終焉編(三章構成)

ラストエピローグ


○ダンテ「学園都市か」で検索すればまとめて下さったサイトが出てきます。
編名も一緒に検索すると尚良しです。

○過去スレ

http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267269712/
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267368924/

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1267417603/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1269069020/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1271690981/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1276448902/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1281455278/


○有志の方がうpして下さった過去ログ(dat)
ttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/88288.zip
pass:dmc
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もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714136403/

少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/

渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 23:33:23.58 ID:qhpTqigo

―――注意事項及び補足―――

※当SSはかなり長いです。

※基本シリアスです。

※本編後のおまけシリーズはパラレルとなっており、外伝以降の本筋ストーリーとは全く関係ありません。

※DMC(ベヨネッタ)勢は、ゲーム内の強さよりも設定上の強さを参考にしたため絶賛パワーインフレ中。
それに伴い禁書キャラの一部もハイパー状態です。

(上条は右手以外ほぼ悪魔化、一方通行は半神化、麦野は悪魔と同化、ステイルと神裂は悪魔化、シェリーは悪魔使役などなど)

※妄想オリ設定がかなり入ります。
ダンテ・バージル・ネロの生い立ちやキャラ達の力関係、幻想殺し等『能力』や『魔術』等の仕組み・正体など。
また世界観はほぼ別物となっております。

※禁書側の時間軸でイギリスクーデター直後(原作18巻)、DMC側の時間軸は4の数年後から始まっています。
ネロは20代前半、ダンテとバージルは40代目前、ルシアの身体成長度は10歳前後となっております。

※また、クロス以降の展開は双方の原作に沿わないものとなります。
その関係上、禁書原作21巻以降に明かされた諸設定は基本的に適用されてません。
ただ例外として、天使の姿・攻撃技等は反映させて頂く場合があります。
(ベヨネッタと禁書の天使の、配色・デザインの系統がそれなりに似ている感じなので)

※現在(スレ建て時)の投下速度は大体週二回〜三回、週50レス以上を目安としています。

※主なカップリングは上条×禁書、ネロ×キリエ(これ当然)となっております。

――――――――――――――
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 23:44:51.61 ID:TMmOcj60
(*´ω`)ゝ乙です
4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 00:09:30.81 ID:5dHvNIAO
これヤバいな確実に来年まで続くぜ
乙です
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 00:29:40.23 ID:BrkxM9Uo
スレ立て乙、今日の投下は前スレで終わり?
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 00:30:46.45 ID:KhSxV4wo
スレ建て&決め台詞乙
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:31:06.82 ID:Ip2Ds8co

ステイル「…………いいか、僕が今言った事、強く意識しつつ右手を頭に当ててみろ」

ステイル「できるだけ強く意識しながらな」

上条「お、おう……」

怪訝な表情をしながらも、傷まみれで震えている右手を額に軽く当てる上条。

その瞬間。


上条「―――う、嘘だろ…………!!?」


ようやく完全にこのベールを打ち破り。
上条はやっと認識する。

二人の顔の類似を。


ステイル「…………」


上条「―――似てるってもんじゃねえぞ…………親子……姉妹レベルじゃねえか…………」


上条「い、いや、双子ってくらい激似だぞこれ…………」


ステイル「…………」

どうやら上条は、
直接脳に右手を突っ込む展開は避けられたようだ。
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:33:50.56 ID:Ip2Ds8co

上条「ど、どういう事だよ……!まさか本当に最大主教の妹とか娘かなんかか?!」

ステイル「いや……そこは確実な事は何も……」

ステイル「確かなのは二人ともアンブラの魔女、という事だ。だから何らかの血の繋がりがあってもおかしくない」

上条「…………」

ステイル「……いいか、僕らは彼女の『力』に対する考えを、根本から改める必要がある」

ステイル「彼女は『後天的』に、完全記憶能力やあのような力を身に宿した訳ではないかもしれない」

ステイル「『禁書目録』になる為に『人体改造』された者ではないのかもしれない」


ステイル「それらは全て、彼女自身の『生まれながら』の部分に起因しているかもしれない」


ステイル「あれは彼女自身の『本当の力』かもな」


ステイル「僕らが見てきた今までの姿の方が、『偽り』だったという訳なのかもな」
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:36:12.51 ID:Ip2Ds8co

上条「…………」

そう、この事実はインデックスの認識が根本から崩れていく。

そして。


『彼女を救う』、という事を更に困難にしていく。


インデックス彼女自身がその力。
今やっと、その本当の姿が見え始めてきた。

ステイルの言葉通り、
インデックスの存在そのものが上条の考えていた『諸悪の根源』だったら。


『本当のインデックス』自身が、彼女の身に降りかかる災いの源だったら―――。


どうやって『彼女』を『解き放て』と―――。


どうしろと―――。
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:40:03.81 ID:Ip2Ds8co

ステイル「……………………」

上条「……………………」

ステイル「…………他にも伝えることはある。実はな、ローラ=スチュアートと僕、そしてインデックスは―――」


ステイル「―――反逆の徒として、イギリスから国家の敵と認定された」


上条「―――…………は?」


ステイル「僕らはもう帰る場所が無いんだ」

ステイル「残された居場所はこの忌々しい街だけだ」


ステイル「いまや、イギリスは僕らの敵だ」

ステイル「全軍にこう命じられている。『ローラ=スチュアートとステイル=マグヌスは発見次第殺せ、』」


ステイル「『禁書目録は四肢を落とし、舌をそぎ落とした後に回収しろ』、とね」


上条「な、なんでだよ!!!!!どうしてそんな―――!!!!!!??」


ステイル「『魔女』だからさ」


上条「―――…………ッ…………!!!!!」
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:43:16.46 ID:Ip2Ds8co

ステイル「つまり僕は魔女の『使い魔』」

ステイル「インデックスも、話によるとローラ=スチュアートがどこからともなく連れて来て擁立したらしいしな」

ステイル「彼女の本当の身分はローラ=スチュアートしか知らない、」

ステイル「そしてローラ=スチュアートは魔女だった」

ステイル「後はわかるな?イギリスがどう思うかが」

上条「だ、だがよ……!!!そんな…………!!!?」

ステイル「もう一つ言うとだ。十字教国家は基本的に天界の強い影響下にある」

ステイル「使用魔術も、天界の力を借りているものばかりだ」

ステイル「イギリスは最近になって魔界魔術も使うようになったが、」

ステイル「それでも直接国を纏めている基盤は天界魔術」

ステイル「カーテナ等も全て天界の支援の元にある産物だ」


ステイル「そして天界とアンブラの魔女は仇同士だ。決して相容れない」


ステイル「決して、だ」


上条「…………」
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:45:43.13 ID:Ip2Ds8co

ステイル「イギリス清教、いや天界に起因する魔術サイドの者は、基本的に全員敵と思え」

ステイル「君が親しい天草式も。無論、土御門もだ」

上条「……………………………………………………」

ステイル「それと…………これも言っておこう。今日からのトリッシュ達に協力する作業あるな、」

上条「ああ…………」

ステイル「君は席を外していたから聞いていないだろうが……いや、聞いていたとしてもわからないだろうが」

ステイル「あれはフォルトゥナの、ネロの恋人にかけられた術式を外す為のものだという所まではわかるな?」

上条「そこまでは……聞いたぜ」

ステイル「その術式というのがな、首謀者に傷を付けると彼女も傷を負ってしまう、という代物だ」

上条「…………」

ステイル「その首謀者が、今の大戦を引き起こした張本人の一人でもある」

上条「…………!!」

ステイル「更に現在は『まだ』人間同士の戦争だが、その者の手によって近い内に魔が割り込んでくる。魔が人間界を席巻する事になる」

上条「なッ…………!!!!!!」

ステイル「それで、トリッシュ達は彼女にかけられた術式を剥がそうとしている。そうしないとネロが動けないからな」

上条「…………な、なるほど……」
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:48:15.83 ID:Ip2Ds8co

ステイル「その一方でだ」

上条「……………………まだ何か……あるのか?」

ステイル「その首謀者は、天界の口を開こうとしている」

上条「…………天界……」

ステイル「天界と魔を激突させ、恐らくそこから更なる戦火を招こうとしているのだろう」


上条「!!!!!!!」


ステイル「なぜそうするかの理由は想像も付かないがな。知りたくも無い」

ステイル「そして更にだ。天界は―――」


ステイル「―――この学園都市をも潰そうとしている」


上条「―――…………」

ステイル「能力者の殲滅のためにな。詳しくは知らないが、魔女と同じく能力者も天界にとっては究極の敵として見なされている」

ステイル「いいか、『あの魔女』達が大勢いたアンブラの都を、天界は一夜で滅ぼしたんだ」

ステイル「それと同規模の総攻撃が行われれば、学園都市など一時間もしない内に人間界から完全に消えるだろうさ」

ステイル「この街の全ての能力者と共にな」


上条「……………………」
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:51:12.84 ID:Ip2Ds8co

ステイル「君はわかるだろう?実際にガブリエルの力を目の当たりにしたらしいからな」

上条「ああ…………夏にな…………」

ステイル「そのレベルの連中が大勢、『本体』をもって『直接』人間界に降臨する」

ステイル「『本当の力』をもって、だ。君や神裂が相対した時よりも強大だろうよ」

ステイル「更にその十字教の四大天使を遥かに上回る、規格外の存在もいるらしい」

ステイル「その軍勢に学園都市が対抗できると思うか?」

上条「…………む、無理だな…………で、でもよ!!!!それだけの事ならダンテ達が動くんじゃねえのか!?」

ステイル「確かにダンテ達なら、その軍勢を簡単に蹴散らす事ができるだろう」


ステイル「だがその『戦場』が学園都市だ」


上条「…………ッ……」

ステイル「…………聞いた話だがな、かつて魔女の中にも、天界の誰にも負けぬ強者が何人かいたらしい」

ステイル「だがな。天界の軍勢は奇襲をかけ、都に直接降りてきたらしい」

上条「…………つまり…………その魔女達は全ての力を解放できなかった…………と?」

ステイル「そうだ。あまりにも強大すぎる力は、周囲の守るべき存在をも巻き添えにして滅ぼしてしまう」

上条「じゃ、じゃあよ、二ヵ月半前みたいに別の世界で戦ったら……」

ステイル「…………あれは魔帝自身が己も全力になる為に招いたのだろう?今回、こちらが用意しても天界側が素直に来ると思うか?」

ステイル「この奇襲・相手方の力の制限が、彼らにとっての最大の武器でもあるのにだ」
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:53:22.03 ID:Ip2Ds8co

上条「…………」

ステイル「大体にして、僕達には新しく『戦場』を作る力も方法も無い」

ステイル「あれは魔帝の底無しの力と『創造』があったからこそ、可能だった事だろ」

ステイル「ダンテ達もそれは不可能だろうよ」

ステイル「もしできるのならば、もしその分野に干渉できるのならば、」

ステイル「わざわざああやって人間界への負荷を警戒するような戦い方はしないだろ」

上条「……」

ステイル「それ以前にだ」

ステイル「スパーダの一族は、天界の件については動かない可能性も考えられる」

上条「……は?」

ステイル「アンブラが滅亡した時、天界の大攻勢をスパーダは黙認してたらしいからな」

上条「…………」
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:54:34.16 ID:Ip2Ds8co

ステイル「今の学園都市の置かれている状況は、アンブラ滅亡時とかなり酷似してるらしい」

ステイル「有史以前から長きに渡って続けられてきた、天界の力の支援による能力者狩も、スパーダは黙認し続けたらしい」

ステイル「それに今回の天界の目的には、人間界に蔓延し牙を向いている魔の廃絶もある」

上条「…………」

ステイル「要するにだ、人類という『種全体』の保護を掲げているスパーダの一族にとって、」


ステイル「必ずしも天界が敵とは限らない場合も充分考えられる」


ステイル「少なくとも。少なくとも天界側は、彼らは今回も手を出して来ないと思ってるんだろう」


ステイル「今まで『通り』にな。過去という『現実』がそれを『証明』している」


ステイル「むしろ魔の廃絶に関しては、自分達をスパーダ一族への『援軍』と思っているかもな」


上条「…………」
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:56:41.83 ID:Ip2Ds8co

上条「…………じゃ、じゃあどうするんだよ…………始まっちまったら、インデックスをここには置いておけえねえぞ……」

上条「天界は魔女も目の仇にしてんだろ…………『ミーシャ』みたいな連中が大勢来たら、俺らだけじゃ手の打ちようがねえぞ……」

上条「どこか遠くに逃げるしか…………この街の皆もどこかに…………」

ステイル「230万もの『忌まわしき避難民』をどこが受け入れる?天界によって監視されているこの人間界の中で」

ステイル「どこに逃げても一緒だ。散り散りになっても結局は追い詰められて殲滅される。それこそ魔界にでも逃げない限りな」

ステイル「そして、魔界ははっきり言って『どこよりも』危険だ。獣がひしめく檻に裸で入っていくようなものだ」


上条「………………………………」


ステイル「……永久の安寧の地など、今のインデックスにとってはどこにも存在しないんだ」


上条「………………………………」


ステイル「…………だがな、学園都市側もただ怯え縮こまっている訳ではない」

上条「…………?」

ステイル「アレイスターが天界の口が開く前に、決着をつけようとしているんだがな…………」

上条「アレイスター……って……?」

ステイル「君程の者がまだ会ったことが無いのか?この街の最高権力者に」

上条「名前だけは聞いていたがまだ……」
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:58:29.89 ID:Ip2Ds8co

ステイル「まあいい。そこは後だ」

ステイル「アレイスターは、その天界の口を開こうとしてている者をどうにかしようとしている」

ステイル「どうやるか等の詳細は聞いていないが、土御門やアクセラレータ達と共同でな」

ステイル「恐らく、主要戦力を総動員してその首謀者を強襲する、といった感じだろう」

上条「ほんとか!!?………………ってちょっと待て…………」

上条「た、確かその天界の口を開く奴には手が出せないんじゃ…………ネロの恋人の件が片付くまで…………」


ステイル「……………………………そうだ」

上条「………………それって……かなりマズイんじゃないか?」

ステイル「……………………さっき立ち聞きした限りじゃ、トリッシュ達は恐らく知っている」

ステイル「学園都市側は知らないだろうがな。そもそも知ってたら、まず先にあのネロの恋人をどうにかしようとしてくるだろう」

ステイル「今の学園都市はな、天界の口の開放を防ぐ為ならば手段を選ばない状況だからな」

ステイル「大戦が始まっているのにも関わらず、そしてここから更に過酷な戦況になるとわかりつつ、」

ステイル「主要な戦力を学園都市の防備ではなく、そちらに裂くぐらいだからな」

上条「…………………………」

ステイル「………………」
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:59:32.85 ID:Ip2Ds8co

ステイル「…………と、まあな。僕が知っている範囲内での今の状況はこんなところだ」

上条「…………」

一通りの状況説明を聞いた上条。
その表情は曇り、まるでどん底に叩き落されて絶望しているかのようだった。

状況はかなり複雑。
その上、どれも頭を悩ます重すぎる事柄ばかり。

いつもならば、パッと己が進むべき道が見えるのに。
今までは、迷い無くストレートに決断できたのに。

今は全く考えが纏まらない。
その道が『見えない』。

何をすればいいのか、どうすればいいのか。

どの行動が良くて、どの行動が悪いのか。

どれが正解で、どれが間違いなのか。


そして。

誰が味方なのか、どこの側につけばいいのかが。
20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 01:00:46.12 ID:Ip2Ds8co

上条「…………」

手をこまねいて待っているのはもちろん駄目だ。
そんな事などできない。

しかし。


何も決断できない。


何も判断できない。


答えが導き出せない。


己の考えに疑問を持ってしまう。


それでいいのか、と。


己を信じ切る事ができない。
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 01:03:39.57 ID:Ip2Ds8co

さながら地球に落下する超巨大隕石を、人々がぼんやりと見ているかのように。
その迫り来る終末の時を呆然と見つめているかのように。

どうしようもなかった。

何も思いつかない。


何も。



上条「…………」

夕方にニュースをぼんやりと見ていた時、この騒乱は始まりに過ぎないと思っていた。
ここから更なる問題が出現するすると確信していた。

だがその『壁』は、想像を遥かに超える代物だった。

手の付けられないあまりにも巨大な、だ。


己の小ささを、矮小さを改めて思い知る。


己とインデックスの置かれていた状況は、想像を絶する崖っぷちだったのだ。


そんな上条の心の内を悟ったステイル。

ステイル「…………僕もだ……」

深く息を吐きながら彼の苦悩に同調する。

ステイル「僕もわからないんだ…………どうすればいいのかがな…………」

上条「……………………………クッソ…………」
22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 01:07:12.50 ID:Ip2Ds8co

ステイル「…………一応、これだけは意識しててくれ」

上条「…………」


ステイル「バージルはどうやら魔女と繋がっているらしい」

ステイル「その一方で、彼はフィアンマを守ろうとしていた」

ステイル「インデックスをフィアンマに攫わせようとしていたのかもしれない」

ステイル「そしてこれは僕の個人的な解釈だが、ダンテやネロ達の側は天界の大侵攻をあまり重要視していないようにも思える」

上条「…………」


ステイル「もう誰が『どちら側』なのか、『敵』か『味方』なのか、というのは考えるだけ無駄だ」


ステイル「―――誰も信じるな」


ステイル「―――例外は無い。もちろん僕をもだ」


ステイル「常に疑いを持て。己以外を頭っから信用するな」


ステイル「君は己だけを信じ、インデックスの事だけに意識を集中しろ」


上条「……………………………………………………」
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 01:09:06.73 ID:Ip2Ds8co

無言のまま口を引き締める上条。

ステイル「そして、今一度約束してくれ」

そんな彼の瞳を見つめステイルは言葉を続けた。


ステイル「決して―――」


ステイル「―――決してインデックスの事だけは何があっても諦めない、と」

すがりつくような願いの意思を篭めて。


上条「…………………………当然だろ」


上条「…………俺は絶対に諦めねえ」


上条「今は何もわかんねえ。わかんねえけど―――」


上条「―――諦めてたまるか」


上条「学園都市の事も。皆の事も―――」



上条「―――そしてインデックスも」



上条「―――絶対に諦めねえ」
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 01:11:15.91 ID:Ip2Ds8co
ステイル「…………フン…………」

こんな絶望的状況を聞かされた直後に。
そして頭の中も絶望に満ちているはずなのに。

それでも潰えない上条の奥底の炎。

それを垣間見たステイルは小さく笑った。
今度は安堵の気持ちを篭めて。

ステイル「………………今はここまでにしておこう」

ステイル「やや長くなってしまったな。君はシャワーを浴びて来るんだ。少しは頭もすっきりするだろう」

上条「…………ああ」

ステイル「いや…………」

上条「………………?」

ステイル「最後にもう一つだけ良いかい?君自身について聞きたい事がある」

上条「……何だ?」



ステイル「いつからだ?どこまでだ?」



ステイル「『覚えていない』のは」



上条「―――…………ッ…………」
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 01:13:41.71 ID:Ip2Ds8co

上条「……………………………俺が覚えている一番古い記憶は…………」


上条「…………七月二十八日の病院だ」


ステイル「……………………となるとだ。彼女に会った時の事は何も覚えていないんだな?」

ステイル「彼女を初めて守った時の事も」

上条「…………ああ。七月二十八日以前は何も」

ステイル「………………」

上条「………………」

ステイル「……彼女は知っているのか?」

上条「…………俺からは何も言ってないが……」

上条「…………今は……わからない」

ステイル「……………………チッ…………君には本当に呆れるよ……」

上条「……………………すまん……」


ステイル「………………まあ今は………………君を思いっきりぶん殴るのは保留しておこう」

ステイル「ここで騒ぐ訳にもいかないしな。その話は後だ……さっさと行って来い」


上条「……………………ああ」
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 01:15:49.08 ID:Ip2Ds8co

上条は小さく返事をした後、ドアを抜けて病室から出て行った。

ステイル「…………」

彼が抜けていった後も、
そのドアをしばらく見つめていたステイル。

その後、深く息を吐き呆れながら赤髪を一度掻き揚げ。

ステイル「…………君は本当に馬鹿野郎だな……」

小さく呟いた。


上条が何で隠していたのかは容易にに想像付く。
それに対し言いたい事がたくさんある。
一気に罵り捲くし立てたかった。

君はインデックスを舐めてるのか、と。

君はインデックスを馬鹿にしてるのか、と。

なぜ彼女が、君をここまで慕っているのかわからないのか、と。

ステイル「……本当に…………馬鹿だ。大馬鹿野郎だ……馬鹿めが…………」

ドアに向けて彼は何度も呟いた。

何度も。

何度も。



背後のベッドの上に横たわっているインデックスの目が。

己が入って来た時から、薄く開いていた事に気づかずに。

そしてゆっくりとその目を閉じ、再びまどろみの底へと戻っていった事に。

―――
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 01:16:35.65 ID:Ip2Ds8co
今日はここまでです。
次は日曜か月曜の夜に。
28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 01:22:28.45 ID:BrkxM9Uo
乙、記憶喪失バレたか?
29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 01:30:35.23 ID:nvYgFGI0
今夜も堪能させてもらいました乙!
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 02:50:13.14 ID:pAasCoAO
お疲れの残りませんよう

格好良いぞ、上条当麻!!
そのぼろぼろの右手こそが君の勲章だ
31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 04:00:58.03 ID:5wjhcpEo
うむ・・・とても・・いい。 乙。
32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 16:53:11.33 ID:d92VfkDO
今さらだが、この準備と休息編って各々の今現在の状況、そして今後の計画をわかりやすく整理する話だな
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 22:49:04.32 ID:65dbJBMo
ふと思ったけど明らかになってる中では多分、本編時のていとくんリンク一通さんがいまだに禁書側最強か
非魔人化とはいえバージルと互角にやりあって、血をも流させたし
トリッシュと感覚共有してた麦ストルでさえ赤子同然に圧倒されてたのに

現在の堕天使神裂さんが未知数ながらも超強くなってるっぽくて、
上条さんも色々フラグ立ってるから今後はどうなるかわからんけど

それと神裂さん、やっと正真正銘本物の「堕天使」になれたんだな
胸が熱くなってきた
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/07(木) 02:35:59.24 ID:xCD3j6.0
ちょっと分からないんだが
【MISSION 05】の>>985-986の所だが
『大悪魔』に匹敵しうる三人(上条・一方通行・ステイル)をあっという間に制圧したインデックスの力が、『大悪魔』のベリアルやボルヴェルグと同等ってどういうことだ?
上条さんたちはベリアルたちと同じ『大悪魔』ってことになるよな?
それとも 同じ『大悪魔』でも天と地ほどの差があるってことか?
一度説明済みだったら申し訳ないが誰か教えてほしい
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/07(木) 02:42:37.77 ID:vR.3ylEo
俺の中で悪魔や天使の強さの序列って女神転生シリーズが根底にあるから
デビルメイクライの強さの序列見てると混乱するわ
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/07(木) 07:32:20.59 ID:myRDrGEo
>>34
『大悪魔』の中でもピンキリ
諸神・諸王クラスのトリッシュと、領主クラスのベリアルとはかなりの力の差があるし、
同じ諸神・諸王クラスの中でも、現在魔界で頂点を競ってる10強とその他でもかなりの差があるっぽいし

それこそ、ダンテ達もベリアルも同じ『大悪魔』

あるラインを超えた存在が全部『大悪魔』って言われてるんだと思う
そのラインの数値が例えば100とすると、101も100000も大悪魔ですよ的な
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/07(木) 10:02:03.39 ID:Ysa31EDO
大悪魔って分けられても実力はピンからキリまであるって、麦野とアラストルの会話であったじゃねーか
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/07(木) 16:56:51.71 ID:bkuR9FA0
>>36 分かりやすい解説サンクス

>>37 完全に忘れてたスマソ
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/07(木) 17:23:34.71 ID:Ysa31EDO
つか、作者さんはそれぞれの強さをちゃんと提示してるだろ。読者が○○は△△だから強いとか考えるのは無意味だよ
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 23:50:52.27 ID:Qbbz9oYo
とりあえずバージルが全世界最強ってことで大丈夫か?
41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/09(土) 00:41:33.01 ID:gKJgzB6o
アラストルが言っている
変態級の連中は強すぎるし相性と状況もあるから誰が一番なんぞわかるわきゃねーよ、と
42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/09(土) 02:09:10.63 ID:Kf3TGgAO
>>40
まぁそうなるわな
43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/09(土) 08:23:46.03 ID:cACl.cw0
最強議論は程々にね
44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:18:23.28 ID:IxADFqYo
―――

とある深い森。

地平線スレスレの太陽から、
分厚い雲を潜り抜けるように斜めに朝日が差込み、
常に薄暗いこの地が最も明るくなる時刻。

冬の澄んだ大気によって、淀みのない『清潔』な光が真っ直ぐと降り注ぐ。

森の中に、孤島のように聳えている古めかしい洋館も、
この時だけは光を浴びてその姿を清める。

そんな洋館の中。

ある小部屋にて、五和はふと目を覚ました。

五和「…………」

壁に半ば寄りかかるように寝そべっていた五和。
彼女の上には、一枚の厚手の毛布が掛けられていた。

五和「…………」

ぼんやりとした眼差しで、小部屋の中をゆっくりと見渡す。
一方の恐らく東側の壁には小さな窓。

そこから朝日がレーザーのように差込み、
室内を舞うほこりを照らし上げながら彼女の足先に落ちていた。

その反対側の壁には、
質素でありながらも精巧な掘り込みがなされているドア。

五和「…………」

そこまでを見て、五和はようやく脳を覚醒させていき、
己の置かれている状況を思い出し始めた。
45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:20:06.56 ID:IxADFqYo

いくらか睡眠をとったおかげか、思考が徐々に明晰になっていく。

五和「…………」

己はここに連れてこられた。
神裂を軽々と屠り、ステイルを一蹴した怪物染みた女達に。

その後は嘆き。

その後は嘆くのすらやめ。

その後は呆然とし。

絶望するのもやめ。

そして。


五和「…………………プリ……エステス…………?」


女教皇を見た。

生きている神裂を見た。

彼女は、己の抱きかかえていた鞘に七天七刀を納め。

泣きじゃくる己を優しく、頭を撫でながら慰めてくれ。

それから。

それから―――。
46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:21:10.53 ID:IxADFqYo

五和「―――」

完全に眠気が吹き飛んだ五和。

目を見開き、己の上に掛けられていた毛布を勢い良く剥ぎ取った。
朝の冷気が一気に押し寄せ、未だエンジンのかかっていない彼女の体に瞬時に染み渡っていくが。

五和「―――ッ」

そんな事など今の五和は気にも留めていなかった。
彼女の意識は、あったはずの物が『無かった』事に集中する。

五和「…………………無い……」


先ほど一瞬、こう思ってしまった。

あれは夢だったのではないか、と。

疲労のあまり己は寝てしまい、その中で幻を見ていたのではないか、と。


だが。

『夢』が持って行くか?
『幻』が持って行くか?



七天七刀の鞘を。
47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:22:53.76 ID:IxADFqYo
五和は跳ね上がり。
毛布を部屋の隅に投げ捨て、ふらつく足ながらもドアの方へと駆け。

ノブを握り。
勢い良くそのドアを開け放った。


五和「―――」


ドアの先は広めの広間だった。
中央には大きな不恰好なソファー(『まるで』、ひしゃげたのを強引かつテキトーに修理したかのような)。

その上に寝そべってり、目を瞑っている黒いボディスーツを纏った黒縁メガネの女。

五和「―――」

神裂を屠った女の姿を第一に捉え、五和は一瞬顔を引きつらせた。

その時。


「やっと『動いた』な」


静かに響く、気の強そうな女の声。

五和「…………」

五和はその声の方へと恐る恐る視線を移すと。

部屋の角、椅子に座り長い足を優雅に組んでいる銀髪の女。
赤いボディスーツを身に纏っており、
手に持っている小さな本に目を落としていた。

やや乱暴な気がありながら、品と威厳をも兼ね備えているその雰囲気。

五和「…………」

この女も見覚えがある。
いや、見覚えがあるというレベルでは無い。

しっかりと目の当たりにした。

この女が、ステイルを赤子のように手玉に取っていたことを。
48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:24:27.54 ID:IxADFqYo

「眠れたか?」

女は本のページを捲りながら、声だけを五和の方へと飛ばす。

五和「………………………」

それに対し、五和は戸惑いながらも小さく頷く。
相手は本に視線を落としているにも関わらず。

「そいつは良かった」

その五和の仕草を、
女は目で捉えずとも認識したらしかった。

五和「……………………」

相変わらず戸惑いと警戒の色を滲ませながら、
五和は探るようにその女をジッと見つめる。

そんな彼女へ、これまた相変わらず淡々とした調子で口を開き。

ジャンヌ「私はジャンヌだ」

名乗る女。


五和「……………………は、はい…………」

これは自己紹介なのか。
攫って来た『敵』に自己紹介とは?

五和は、己の置かれている状況が今一つ掴めなかった。
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:25:44.60 ID:IxADFqYo

五和「………………五和です」

今だ戸惑いながらも、空気に押され気味でとりあえず名乗り返す五和。
と、その時。

ソファーの方から妙に色っぽい『唸り』声と、ごそごそと衣擦れの音が響いた。


「…………あ〜…………おはよ…………あぁ゛〜…………」

直後にむくりと身を起こし、背もたれの上にヌッ頭を出す感じで五和をジトッと見つめる、黒縁メガネの女。
寝癖なのかあちこちで黒髪がピンと跳ね、明らかに寝覚めが悪い不機嫌そうな薄目をした顔で。

ただそんな有様なのにも関わらず、
もう一人のジャンヌと名乗った女と同じく品と威厳が不思議な事に保たれており、
そしてそれ以上の妖艶な空気。


ベヨネッタ「…………私ベヨネッタ…………本名はセレッサだけど……そっちで呼ぶのはジャンヌとアイゼン婆さんだけ…………」


警戒の表情を崩さない五和に向け、どう見ても寝ぼけている状態でたどたどしく自己紹介。


ベヨネッタ「ン〜…………良い体してるわね…………お尻もおっぱいも合格…………美味しそうんふうふふ……おやすみ…………」

その後、ちょっと意味がわからない事を喋りそのままパタリと再び寝てしまった。


五和「………………………………」

ジャンヌ「基本的にだ。ソイツの言葉は真に受けるな」

五和「…………は、はい…………」
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:27:27.43 ID:IxADFqYo

一人はリラックスしながら本を読み。
もう一人はゴロゴロと二度寝。

五和「…………」

このあまりの緊張感の無さに五和は、
かなり警戒し緊張している己が段々と馬鹿らしくなってきてしまった。

そう、ここで身構えていても何も意味が無い。

警戒などいくらしてても、この二人がその気になれば己は一瞬で塵と化すだろうし、
こっちから攻撃しようと動き出しても、どうせ同じく一瞬で返り討ち。

五和「…………」

五和はここで認識する。
今の己には、『場』に抗う権利が無い事を。

ただ周囲に同調しその空気に身を委ねるしかない。


五和「はぁ…………」

肩の力を抜き、一度軽く息を吐く五和。
ある種の諦めをしたことにより、フッと緊張が抜けていく体。

そして柔軟になった思考で、最も重要なことをようやく口に出した。


五和「…………あの…………プリエステス……は?」
51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:30:15.66 ID:IxADFqYo

ジャンヌ「プリ…………ああ、神裂か」

五和「は、はい!!!どこに……!?」

ジャンヌ「…………」

ジャンヌは本に目を落とし無言のまま、軽く顎を上げた。
五和の『後ろ』を指すような仕草。

五和「―――」

とその時。

真後ろから扉が開く音。
勢い良くその音の方へと振り向く五和。

そして。

目に入る、顔を火照らせている神裂。
長い黒髪は結われておらずに大きく広がり。
その頭の上には軽くタオルが掛けられていた。


神裂「おはようございます」


五和の姿を見、
シャワー上がりの神裂がさらりと『いつも』のように挨拶。

五和「お、おはようございます!!!!!!!プ、プリエステ―――!!!!」


神裂「まず湯浴みをして身なりを整えなさい。その後に朝食です。良いですね?」

そして小さく微笑みながら、まずは朝の嗜みを行うよう促した。


五和「…………は、はい!!!!!!」
52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:33:11.22 ID:IxADFqYo
元気な神裂。
いつも通りの女教皇。

その姿と声により、五和の中が一気に活気に溢れた。

色々と話したい事があるものの、彼女はまず先に神裂の声に従い、
軽い足取りで神裂の傍をすれ違いながら浴室に向かっていった。

神裂「ふふ……」

神裂は小さく穏やかに笑いながら七天七刀を壁に立て掛け、
頭のタオルを取り、その柄の上に軽くかぶせて置き。

どこからともなく取り出した髪紐を指に引っ掛けながら、
両手で長い長い髪を纏め始めた。

ジャンヌ「…………良い子だな」

そんな彼女の方へ、相変わらず本に目を落としながら声だけを飛ばすジャンヌ。

神裂「……ええ。素晴らしき友であり、最高の戦士です。幼き部分が多少ありますが」

壁の方を向き、髪を纏めながら同じく声だけを返す神裂。

ジャンヌ「…………そこも気に入ってるんだろ?」

神裂「…………ふふ、まあ……」

ジャンヌ「……ところでバージルは知らないか?いつの間にかまた消えちまったんだが」

神裂「恐らく『時の腕輪』の調整の為、アイゼン様の下に行かれたかと」

ジャンヌ「そうか。で、『段取り』は聞いたか?」

神裂「はい。私がやるべき動きだけは一通り」


神裂「バージルさんの命が下り次第―――」



神裂「―――まずインデックスを『回収』、そして『設置』に向かいます」



神裂「用意が整っているのならば五和も連れて」
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:36:31.82 ID:IxADFqYo

バージルはフィアンマの行動を利用してインデックスを『所定の位置』に動かそうとしたが、
元々はこちら側が動かすつもりだった。

神裂が『回収』に向かうのが元の計画通りだ。


ジャンヌ「…………やれるか?」

神裂「……」

ジャンヌのやれるか?と言う問い。
神裂はすぐに悟った
それは『戦力的』な面ではなく。

『いざという時―――』


ジャンヌ「禁書目録の周囲、お前の『知り合いら』が固めてるんだろ?」


『―――その大事な戦友らに刃を振るえるのか?』という意味だと。

神裂は髪を結い終え、キュッと引き締め。
数秒間程押し黙った後。


神裂「………………………………ご心配なく」


ぽつりと言葉を返した。

小さくも強く響く声で。


神裂「やるべき事はやります。『必要』ならば」
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:39:31.76 ID:IxADFqYo

ジャンヌ「…………」

神裂「ところで、ジャンヌさんはどう動くんです?少し予定が変わったと聞きましたが」

ジャンヌ「私は明日からローラを追う。その後、時間になったらお前らに合流する」

神裂「……ベヨネッタさんは?」

ジャンヌ「バージル・アイゼン様と共に『神儀の間』にて『時の腕輪』の起動させる」

ジャンヌ「そしてお前が『事』を済ませ次第、『闇の左目』を覚醒させ『絶頂の腕輪』を持って出撃する」

ジャンヌ「バージルはそのまま、私らが『事』を済ませるまで『時の腕輪』の起動を維持する」

神裂「…………」

ジャンヌ「で、『大掃除』が終わり次第…………その後はバージルの『仕上げ』だ」

神裂「わかりました」

ジャンヌ「ああ、それとバージルの判断によるが、お前らはデュマーリ島にいつでも行けるように準備しとけ」

ジャンヌ「今はまだ想定範囲内だが、万が一がある」

神裂「…………」

そう、天界の口と魔界の口の開放が防がれたら全て瓦解だ。

ジャンヌ「そうだ。『弟と息子』が割り込んでくる以上、いつ何が起こるかわからん。右方の時もそうだったしな」

神裂「…………アリウスが作業を『代行してくれて』幸いでしたね」

ジャンヌ「まあな」
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:41:38.19 ID:IxADFqYo

神裂「ふぅ…………」

ひと段落おいてくるりと振り向き、ようやくジャンヌの方を見やった神裂。

神裂「…………ところで、何の本読んでるんですか?」

ジャンヌ「ああ、古本屋で見つけた詩集だ。授業に使えそうな感じでな、とりあえず目を通してる」

神裂「授業?」

ジャンヌ「まだ言ってなかったか?私は高校の教師をやっている」

神裂「きょ、教師ですか……!?」

ジャンヌ「今は一週間ほど出張、という事にしてるがな」

神裂「…………な、なるほど……」

ジャンヌ「そんなに意外か?」

神裂「い、いえ……あの…………『一般の魔術サイド』ならともかく…………」

神裂「『あなた方の世界』の方が、表世界の普通の職に就くとは思ってなかったので…………」

ジャンヌ「まあ、結構珍しいだろうな」

神裂「では…………ま、『まさか』ベヨネッタさんも何か……?」

ジャンヌ「…………こいつが普通に働くと思うか?」

神裂「いえ」

ジャンヌ「その通り」
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:45:12.15 ID:IxADFqYo
神裂「…………さて…………では……」

神裂「キッチンはどこにあります?朝食を用意したいのですが」

ジャンヌ「そっちのドアを抜けて、廊下の奥から二番目の両扉」

今だ本に目を通したまま軽く右手を挙げ、その指で一方のドアを指すジャンヌ。

ジャンヌ「だが水は出ないぞ。年季の入ったネズミのクソなら山ほどでてくるが」

ジャンヌ「それと辛うじて動いてる冷蔵庫の中は酒だけだ」

神裂「…………はいぃぃ?」

ジャンヌ「残念だったな。ここで『日本風の朝』を再現するのは『裸踊り』しても不可能だ」

神裂「…………で、では、あなた方はいつも何を??!」


ジャンヌ「マクドナル○かバーガーキン○。たまにピザ。セレッサはスナック菓子で済ませる事もある」

ジャンヌ「奥のテーブルに昨日買ったバーガーとポテトが上がってるぞ。確か10個はあった」

ジャンヌ「菓子は冷蔵庫のとなりの棚だ」


神裂「(最ッッッ悪の食生活ですね…………)」


ジャンヌ「お前は悪魔なんだから気にするな。元々飲まず食わずでも問題ない」

神裂「ですがぁ…………やっぱり昔からの習慣でして……お味噌汁とご飯をお腹に入れなきゃエンジンがかからないというか……」

神裂「そ、それに!五和は普通の人間ですよ!五和の為に何か……!!」

ジャンヌ「……どうせここにはあと3、4日しかいないんだから我慢しろ。とりあえず今日はここにあるもんを食え」

ジャンヌ「私だって我慢してるんだ。普段はこんな『豚のエサ』なんざ食わん」

神裂「………………はぃぃ」

―――
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:47:47.69 ID:IxADFqYo
―――

学園都市。

午前二時、深夜。

とある病棟の一室。
その中央に無機質な業務用の机が置かれ、向かい合うように座っている二人。

一方は、浅く腰かけ背もたれに後頭部を乗せるように、だらしなく座っている麦野。
机に対し横向きに座り、長いその足を優雅に組み、
右手には能力者達のデータが記された書類。

ジャケットは背もたれにかけ、着ているワイシャツははだけており、
隙間から『調整』の為のチューブが伸び近くの電子機器に繋がっていた。

それと向かい合って座っているのは土御門。
左手には書類、右手指先でクルクルとボールペンをまわしていた。

二人の間の机の上には様々な書類が散乱し、
PDAやペットボトル飲料が無造作に置かれていた。

彼らは今、能力者達の配属と編成を決めてる真っ最中だ。
適材適所、約100名のそれぞれの系統をしっかりと把握し、バランスよく決定していかねばならない。

ただ、今ここで最終決定という訳では無い。

この後数日間の能力測定・演習データを見て、変更するところは変更しなければならない。

調整・強化後の見積もりはデータとして手元にあるが、
やはり現物を確認する必要があるのだ。

そこも踏まえ、
今はそのままでも行ける、それでいて容易に変更を加えられる編成図を決める必要がある。
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:50:02.21 ID:IxADFqYo

土御門「…………あ〜……ちょっと休憩するぜよ……」

書類とペンを机の上に投げ出し、どかりと背もたれに寄りかかり天井を仰ぐ土御門。
疲労の色が濃く滲んでいる溜息を吐きながら、サングラスの下辺に起用に指を突っ込んで目を擦る。

麦野「さっきから休憩ばっかり。もっと働けよ」

書類に目を通しながら、そっけなく声だけを飛ばす麦野。

土御門「……誰かさんが隻腕だから、俺が二人分ペン動かしてるんだぜい?」

麦野「何?どうせシコる時はさんざん動かせる癖にして、こういうのはダメって?」

土御門「バカ野郎、誰が4時間もトップスピードで擦り続けるかよ。磨り減っちまうぜよ」

麦野「はん…………」

土御門「…………………………そういえばちょうど今だな」

土御門「ラストオーダーの調整」

麦野「…………」

土御門「これで『めでたく』、結標と滝壺理后は昇格だな」

麦野「……メデタク……か」
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:51:59.91 ID:IxADFqYo

土御門「滝壺理后のデータ見たがな、元々かなりの『素材』らしいな」

麦野「…………」

土御門「時期が今じゃなく、そして別の形で順当に成長してたらとんでもないのになってただろうな」

土御門「対象のAIMを完全に掌握するのなら、アクセラレータ以上になってたかもしれないな」

麦野「あいつが第一位……ね」

土御門「…………」

麦野「…………」

土御門「…………レベル5の序列、何で決まるか知ってるか?」

麦野「能力の商業利用価値……と、最近までは思ってたけど……」

土御門「違うだろうなそれは。建前だな」

麦野「だろうね」

土御門「本当の意味を示しているのはな、恐らくアクセラレータの『アレ』だ」

麦野「…………『腕』か」
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:53:08.09 ID:IxADFqYo

土御門「第一位と第二位は、『アレ』の為の『素材』だったんだろう」

麦野「序列はその順位か」

土御門「それについては……これを見ろ」

と、そこで土御門は徐にポケットから、丸まった薄めの書類を取り出して麦野の方へと放り投げた。

麦野は今まで見ていた書類を太ももの上に置き、
その書類を手に取り目を通し始め。

麦野「…………これはどこから手に入れた?」

重く、確かめるような口調で呟いた。


土御門「アレイスターからだ」


麦野「…………はぁ?本当にか?」


土御門「本当だ。あの野郎、本気で今回は俺らに手伝って欲しいみたいだな」

土御門「簡単に情報を明かしてくれた。ま、『具体的に聞かなきゃ教えてくれない』んだけどな」


麦野「…………」

その、土御門がアレイスターから手に入れた情報。
そこに記されていたのは。

能力の性質と。クラス分け・序列決定について。
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 23:58:16.13 ID:IxADFqYo

麦野「…………」

まず、レベルの区分はAIMの強度の数値によって決まっているとの事だ。
基本的にAIM拡散力場が強ければ強いほど、それに比例してパーソナルリアリティがより色濃くなり、
周囲の法則を捻じ曲げていく、と。

つまり、それは言葉を変えると『世界を作り変える』力の強さ。

麦野「…………」

土御門「……前にトリッシュから、雑談がてらにチラッと聞いたことがあるんだがな」

麦野の目を追い、彼女が今どこに目を通しているかを確認した土御門が、
いかにも思い出したかのように口を開いた。

土御門「悪魔はな、その凄まじい力で己の周囲の世界を『捻じ曲げる』らしい」

土御門「いや、『作り変える』、といった方が良いか」

土御門「既存の法則が意味を成さなくなり、唯一のルールは『力』の『大小』と『増減』となる」

土御門「これが可能な程の力を有してる連中が、大悪魔と呼ばれてるらしい」

土御門「このクラスになるとな、全ての行動現象が物理的な界を超えちまうらしい」

土御門「つまりだ、例えば大悪魔の戦闘速度なんかも、あれは『物質的な速さではない』ということだ」

土御門「高位の悪魔同士の戦いは物理的な界を超越、魂と力の削り合い」

土御門「ちなみにこれが、悪魔には通常兵器がほぼ全く効果が無い理由でもあり、」

土御門「『力』には『力』を、という事で能力者が今回駆り出される理由でもある」

土御門「で、『物質的な』というのはどういうのかというと……」


麦野「『世界の基本法則』」


土御門「そういう事だ」
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/12(火) 00:01:20.48 ID:orWlyWwo

麦野「…………」

その土御門の話。
彼が何を言わんとしているのかは明白。

『同じ』だと言うことだ。

言葉の表現は違えと。

能力と悪魔の力の基本的な性質は同じだと。

いや、ただどこの世界の物かでの違いであって、どちらもが同じく『力』と一括りにできる、と。

麦野「…………待て……それじゃあ、この能力の『力』の出所は?」

麦野「まさか、私らも悪魔と同じく個々の『魂』とやらから放出してるのか?」

土御門「そこんところはだ。『俺ら』は悪魔とは少し事情が違うらしくてな。まあ書いてある。先を読め」

麦野「………………………………」

土御門に促され、先に目を通していく。

そして少し進んだところに。

麦野「…………………ッ……」

彼女は土御門の言っていた部分を見つけた。


そこ説明の部分を含め、要約するとこう書かれていた。


グレイブヤード
『 墓 所 』への『接続』。


       ダウンロード
『AIM』の『引き出し』、と。
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/12(火) 00:04:40.75 ID:orWlyWwo

麦野「…………『墓所』……」

土御門「どうやら、その『墓所』とやらが能力の元ネタらしいな」

麦野「『引き出し』って事は…………」

土御門「魔術に似てる。『他から力を借りる』事だな」

麦野「『借り物』、か」

土御門「さあ、『盗んだ物』かもな。墓所の正体は今のところ知りようが無い」

土御門「ここだけはアレイスターも明かさなかった……いや……『アクセラレータに聞け』、と言った」

麦野「……あいつが知ってるのか?」

土御門「まだ聞いていない。明日にでも聞くぜよ。時間があればな」

麦野「…………まあ、それはおいておくとしてだ」

麦野「とにかく、その『墓所』とやら多くの力を引き出せる程、レベル序列も上って事?」

土御門「レベル4まではな」

麦野「?」

土御門「次の頁を見ろ。レベル5は必ずしもそうとは限らないらしい」

麦野「…………」

再び土御門に促され、頁を捲る麦野。

次の頁には表となっており、様々な数値や表記と共に大勢の名前が載っていた。

パッと上の部分の説明を見た所、AIM拡散力場の強度順に、
全能力者のトップ40を記しているとの事だ。
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/12(火) 00:06:33.93 ID:orWlyWwo

麦野「…………」

ふん、と小さく鼻を鳴らしながら麦野は目を通していく。

トップはやはり一方通行だった。
名の横、数値に続いて『Priority 1st』と記されていた。

これは『何か』別の事柄の優先順位らしい。

二番目は、一方通行の半分程の数値の未元物質。
表記は『Priority 2nd』。


ここまでは予想通り。
こうでなければおかしい、と言ったところだが。


麦野「…………はぁ?」

その次。

三番目の名前が。


麦野「―――うそ―――」


麦野にとってかなり予想外であった。
いや、誰もこの三番目の名を予想できなかっただろう。


そこに、未元物質と遜色の無い程の数値と共に、『Priority 3rd. //Reservation』と記されていた名。


それは元アイテムであり、麦野の部下。


滝壺理后だった。
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/12(火) 00:10:52.93 ID:orWlyWwo

麦野「―――」

レベル5ですらなかった滝壺が三番目。
『何か』の優先順位も、後ろに『//Reservation』(保留)と記されながらも三番目。

麦野自身、アイテム時代から彼女の力の片鱗を感じていたが。
まさかここまでの強度を誇っていたとは夢にも思っていなかった。

四番目に名が記されていたのはレベル5第七位、削板軍覇。
『何か』の優先順位はガクンと下がり『Priority 53rd』。


更に、五番目が再びレベル4の者。


結標淡希。


優先度表記は『Priority 4th. //Reservation』。

滝壺と同じく保留ともされている。


続けて六番目にて『心理掌握』。
表記は『Priority 12nd』。


七番目には御坂美琴。
表記は『Priority 5th』。



そして八番目でやっと麦野自身の名が現れた。
表記は『Priority 6th. //Reservation』であった。
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/12(火) 00:15:11.87 ID:orWlyWwo

麦野「…………」

ここまででわかる。
まず、このAIMの強度が必ずしも能力の実際的な強さに比例し切ってない事を。
確かに強度があればあるほど能力も強まる傾向にあるらしいが、そうとも限らないようでもあった。

レベル5として数年前から君臨していた御坂と麦野を、
現に滝壺と結標のAIM強度は遥かに上回っている。


土御門「能力の実際の行使規模は当然として、『強度』と『優先度』も見て上位の序列は決まってるらしい」

麦野「…………」

強度が高くても、優先度が低ければレベル5入りは難しいようだ。
それこそ、削板程の強度でも無い限り。

恐らくこの優先度が、
学園都市側がどれだけ能力開発に手をかけるかかにも大きく影響しているのだろう。

だが滝壺と結標は、その優先度ど強度の高さにもかかわらず能力の実際的な強さは低い。
これについては、優先度表記後ろの『//Reservation』(保留)が意味を物語っている。

結標は、話を聞くところによると能力実験中に大きな事故に合い、
そのショックによって以降の開発が一時中断状態らしい。

そして滝壺は言わずもがな。
体晶の使用でボロボロになっていた。

これが二人の『//Reservation』(保留)の理由だろう。
優先度が高く強度もありながら、それを実際の能力行使に反映できずにレベル4止まりという事だ。

麦野「…………」

麦野も『//Reservation』(保留)とされていたのは、
恐らく浜面に敗れ、左手と右目を失った事が原因だろう。
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/12(火) 00:17:02.00 ID:orWlyWwo

この優先度。

恐らく。

いや確実に。

アレイスターの『プラン』とやらの優先度だ。

麦野「…………」

土御門「何かが違ってたらだ。滝壺理后と結標がお前らの上の序列に君臨していたかもな」

麦野「…………」

いや、『かも』では無い。
強度と優先順位から見て、
彼女達が能力を完全に開花させていたら必ず上の序列になっていたはずだ。

麦野「…………」

土御門「……これは俺の予想だがな、優先度と強度から見ても、」

土御門「第一位と第二位がアレイスターのプランとやらの『メインの部品』だ」

麦野「……『一方通行』と『未元物質』……」

土御門「二人とも、そもそも能力の根本的な部分から他とは格が違う」

土御門「強度の数値も、他とは3桁も違うしな。まあ滝壺理后もなんだが」

土御門「二人の実際の能力も、どちらもこの世界の『理』を根本から捻じ曲げてるようなもんだ」

土御門「本当に、特に今のアクセラレータは大悪魔みたいなもんだぜよ」

麦野「…………」
68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/12(火) 00:19:35.51 ID:orWlyWwo

麦野「……ところで第六位は?これにも書いて無いけど」

土御門「……さあな。第六位だけは何も聞いたことが無い。お前は何か知ってるか?」

麦野「何も」

土御門「……………………アレイスターにとっての虎の子か」

麦野「そもそも欠番とかじゃないの?」

麦野「それか大分昔にでも、第二位みたいに冷蔵庫風に『加工済み』とか」

土御門「かもな」

麦野「というか、もうレベル5云々なんざ今更どうでもいい」

土御門「まあな。今の状況に比べたらな……問題はそこじゃない」


麦野「ああ……アレイスターの目的だ」


土御門「…………今のアクセラレータ、『アレ』でアレイスターは何をしようとしている?」


230万もの人間に手を加え、180万の能力者を作り出してまで何を?
巨大なAIM拡散力場を作り出して何を?
一方通行のような『能力の怪物』を生み出してまで何をしようとしてる?


麦野「それがわかったんなら苦労しねえだろ」

土御門「だな…………その点についてはその資料がいくらか役に立つだろ」

土御門「充分有益な情報だ」

土御門「まあ、状況的に今は後回しにするしかないがな」

土御門「そもそも、アレイスターがこう明かしてくれる時点でもう手遅れかもしれないが」

麦野「…………」
69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/12(火) 00:21:43.58 ID:orWlyWwo

麦野「…………」

土御門「話し変わるが、元アイテム勢の配置、本当にお前の直下じゃなくて良いんだな?」

麦野「ええ」

土御門「へぇ…………というかお前、直属は一人もつけないのか?」

そう、この今決めている最中の編成図。
100名の能力者は10に小分けされているが、その全てが結標の直下。

その結標の上に麦野、という図であるのだ。
つまり、実際に各々を指揮するのは結標だ。

麦野はからでは、各チームへの細かい指揮を下すことができない。
この強襲部隊全体への大きな指示しか出せないのだ。

土御門「……」

麦野「……私が何の為にアラストルを持ってると思ってるの?」

麦野「『最前線』で暴れる為よ」

麦野「周りでうろちょろされてたら邪魔。私『も』一人身が動きやすいって訳」

土御門「……」

麦野「結標は、いざとなったら周りの部下達をどっかに飛ばすとかして退避させられるだろ?」

麦野「でも私は無理。周りにいる連中もろとも、敵味方関係なく消し飛ばしちまうから」

麦野「私の力は壊し殺す事しかできない」


麦野「今も昔も」


麦野「そこだけは変わってない」


土御門「……」
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/12(火) 00:23:55.61 ID:orWlyWwo

土御門「…………」

麦野の言葉も一理ある。
彼女としては、元アイテム勢を己自身の傍には絶対に置きたくないのだ。

部下達にとって、己自身の力がとんでもない脅威となりうるのだから。

巨大すぎる力はあるラインを超えてしまうと、
『守る対象』すらをも傷つけてしまう。

守る為に戦おうとすれば、何もかもを破壊してしまう危険性が常に付き纏う。

手加減も小回りも非常に難しい。
挙句に身動きできなくなってしまう事も。

更に麦野は、以前能力が暴走してしまった事もある以上、
今も己の力の安全性は全く信用していない。

むしろ規格外の力を手に入れたことで更に慎重に。

いや、正に『臆病』になっているのかもしれない。


土御門「…………そうか」


麦野「それに幸い、結標は能力的にも指揮技術でもそれなりだから」

麦野「というかアンタも直属一人もつけないんでしょ?」

土御門「そりゃあ、俺は戦闘要員じゃないからな。『兵』じゃないぜよ」

土御門「頭で勝負するタイプなんでな」

麦野「……ふん」
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/12(火) 00:25:45.17 ID:orWlyWwo

不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、再び土御門から渡された書類に目を落とす麦野。
そして最後の頁にまでたどり着いたが。

麦野「……………………」

その最後の頁がまた、特に異質なものだった。

頁のど真ん中にポツリと記されている情報。
その形式は先ほどの表と同じだったが、この頁にはたった一人の名前しか記されていなかった。
強度の順位を示す数字も無く。


麦野「…………」

そこにはこう表記されていた。


上条当麻。


『幻想殺し』。


強度は『実数測定不能、推測最低値』とされ。


その推定数値は、実に一方通行の『100倍』以上。


表記は『Priority 000』、と。
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/12(火) 00:27:51.15 ID:orWlyWwo

実数は測定不能。

推定数値も規格外過ぎる。

優先順位の表記の仕方も。

明らかに『特別』。


一方通行よりも、だ。


麦野「…………ねえ」

土御門「ん?」

麦野は、その頁を土御門に見せ付けるように突き出し。

麦野「…………もしかして、『コレ』がアレイスター虎の子の第六位ってこと無い?」


土御門「はは、いやいやいや違うぜよ」


土御門「そいつはそもそもレベル0だ」


麦野「…………はぁぁ?『コレ』で?嘘だろ?私から見ても化けもんだぞコレ」


土御門「どうやら、『レベル』程度の物差しじゃ図れない代物らしいぜよ」

土御門「俺もあいつの力については詳しくは知らないがな」

―――
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/12(火) 00:28:43.38 ID:orWlyWwo
今日はここまでです。
次は明日か明後日の夜に。
74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/12(火) 00:30:46.95 ID:bRjTchI0
乙、流石上条さんパネェっす。
ところで最新刊のフィアンマさんが綺麗になってて吹いたww
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/12(火) 00:31:12.74 ID:7DPYUp20
やっぱりベオ条さんはアインソフアウルか・・・

(´ω`)ゝ今夜も乙っした♪
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/12(火) 00:33:50.67 ID:JhbLtYAO
『乙』


『実を言うとこの話は終わらないんだよ。僕は作者と友達だからね。皆のためにお願いしてあげたのさ』
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/12(火) 00:33:53.65 ID:orWlyWwo
読みました。
フィアンマさんに主人公入りのフラグらしきものが。

当SSでは、フィアンマさんには純粋悪で思いっきり突っ走ってもらいます。
78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/12(火) 00:37:39.08 ID:9Kw8N6AO
乙!
幻想殺しの謎が明かされる日も近いな
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/12(火) 01:01:11.65 ID:seMXYzU0
原作で再生能力身につけたからな、上条さん
80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/12(火) 02:23:18.64 ID:YZ92SoAO
原作でも悪魔化か
81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/12(火) 02:28:09.22 ID:1gFBITQo
悪魔かどうかは知らんけど人外には間違いない
82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/13(水) 14:21:42.11 ID:eKcCsVo0
上条さんとインデックスの絆が
原作でもここに負けず劣らずで安心した
83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/13(水) 22:16:52.40 ID:ZLki.2M0
原作で一方さんは天使化してたなー、このスレで言う天使とはまた違うもんなんだろうが
84 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 23:22:06.44 ID:2og95pco
―――

深い森の中にある、とある古い洋館。
その一画の広間ににて、四人の女がそれぞれの時間を過ごしていた。

ソファーに優雅に足を組みながら座り、棒付きキャンディーを口で艶かしく弄びながら、
大型テレビのテキトーにまわしたチャンネルを何気なく見ているベヨネッタ。

彼女の隣には、少し緊張しかしこまって五和が座っていた。
やや戸惑いの色を浮かべながら。
なぜかというと。

ベヨネッタ「ボインボイン」

テレビを見ながら、ベヨネッタがボッと奇妙な事を突如言い出すからだ。

五和「…………はぃ?」

ベヨネッタ「良いBODYしてるわねアンタ。顔も一級品だし」

五和「…………い、いえ…………」

ベヨネッタ「天草式十字凄教って言ったっけ、所属に関しては顔の審査でもあんの?」

五和「いえいえいえそんな事は全く……」

ベヨネッタ「ふーんあそう」

五和「…………」
85 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 23:24:41.69 ID:2og95pco
ベヨネッタ「で、結構な数の男を悩ましてきたでしょ?」

五和「ッ……!そ、んな事はありません!」

ベヨネッタ「へぇんあそう」

五和「…………」

ベヨネッタ「というかもしかして…………まだ男を知らないとか?」

五和「し、知りません!!!!」

ベヨネッタ「じゃあ女が好き?」

五和「何で『じゃあ』なんですか!!?どっちも知りません!!!」

ベヨネッタ「じゃあ悪魔とかは?」

五和「だから無いです!!!!」

ベヨネッタ「へぇ。じゃあ私が『教えてあげよっか』?手取り足取り」

五和「―――ッッッ!!!!!!!い、いりません!!!!!!!!!!!!!」

ベヨネッタ「そう?魔女は病み付きになるわよ?私ら、棒付きでも穴でも触手でも何でも差別しないし」

五和「いりませんって!!!!!!!!というか差別とかの問題じゃないですよねそれ!!!!!??」

ベヨネッタ「あーら。あなた結構美味しそうだったのに残念」

五和「…………ッ…………はぁ…………」
86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 23:27:16.85 ID:2og95pco
ベヨネッタ「じゃあ、武と忠義に身を捧げるって感じ?」

五和「…………」

ベヨネッタ「あ、違うわね。恋してるわねその顔」

五和「―――なッッ!!!!!い、いや…………そ、その…………!!!!!!!」

ベヨネッタ「好きで好きでたまらない、生まれた時のカッコーでとことん絡みたいのにでも実りそうも無いと」

五和「――――――はぁああああストップ!!!そこでストップ!!!!!やめてくださいお願いします!!!!!!!!」

ベヨネッタ「ん〜んふふ」

五和「………………はぁ………………(この人といるとすごく疲れる……寮に帰りたい……)」

ソファーでぎゃあぎゃあ騒ぐ五和と、そんな彼女をニヤニヤとしながらからかっているベヨネッタ。
その二人を後ろの壁際で、神裂は壁に寄りかかりながら眺めていた。
隣には、相変わらず本を読んでいるジャンヌ。
彼女はゆっくりとページを捲りながら。

ジャンヌ「確か、あの子は槍使いだったな?私が粉砕しちまったけども」

神裂「ああ…………そうですね、五和の武器も調達しなければ……」

ジャンヌ「OK、なら」

そこでジャンヌはパタリと本を閉じ。


ジャンヌ「五和」

五和「……はい。なんですか?」

背後から呼ばれ、ソファーの背もたれ越しにジャンヌの方へと振り返る五和。

キャンディーの棒を口の端から突き出しながら、同じように振り返るベヨネッタ。
何するの?と、興味津々な表情を浮かべ。
87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 23:29:37.65 ID:2og95pco
ジャンヌ「来い」

五和「………………?」

首を傾げながらも立ち上がり、ジャンヌの前へと歩き進んできた五和。

ジャンヌ「そこで止まれ」

と、ジャンヌまであと2mという所で彼女は制止された。

五和「???」

ジャンヌ「使ってた槍、フリウリのコルセスカだったな?」

五和「?はい、フリウリスピアでしたけど……?」

ジャンヌ「よし」

いま一つジャンヌの意図が掴めず、きょとんとした表情を浮かべている五和。
そんな時、ジャンヌは右手を軽く挙げ。

パチンと指を鳴らし。

その次の瞬間。

五和「―――!!!!」

ジャンヌと五和の間の床に、赤い魔方陣が浮かび上がり。

するりと、床から生えてきたかのように10本程のフリウリスピアが姿を表した。
88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 23:31:22.49 ID:2og95pco

五和「こ、これは……?!」

さながらちょっとした竹林のように聳え立つ、
フリウリスピアの『林』。

ジャンヌ「お前に使えるレベルのを選んだ。どれでもいい。好きなのを選べ。くれてやる」

ジャンヌ「何だったら全部でもいい」

五和「い、良いんですか……!?」

ジャンヌ「私が持ってても使わないしな」

ジャンヌ「全てアンブラ製だ。質は保証する」

ジャンヌ「術式の事前のすり合わせをしなくとも実戦で問題なく扱える」

ジャンヌ「こいつらの『方』からお前の属性に合わせてくれるからな」

五和「………………」

恐る恐る槍の林に歩み寄り、それぞれに触れていく五和。
基本的な形状は同じだが、どれも様々な形をしている。

色は銀や黒、金や、それぞれが混ざり赤や青い装飾が施されていたり。
穂先も肉厚なのから薄め、刃渡り50cm程のから15cmとコンパクトなものまで。
穂先の下にあるウイング状に突き出た刃の、本数と角度、反りの形も様々。

材質もそれぞれ違うのか、いや全ての材質がいままで五和が触れたことの無いものばかりだった。
柄の部分も合成樹脂でも木製でもなく、既存の金属でもなく。

ガラスのように滑らか繊細であり硬質でありながら、
触れた瞬間に手に程よく馴染み、しっかりと滑らず握りこめる奇妙な触感。

全金属製のどっしりとした重量感と安定感がありながら、一方で羽のような軽さ。


五和「………………す、すごい……」
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 23:34:16.26 ID:2og95pco

五和「(…………これ…………)」

しばらく各槍をまじまじと眺めては軽く握ったりしていた五和。

彼女は時間を掛け、一つの槍を固く握り締めた。
全体が純銀のような艶かしい光を放ち、穂先から柄まで全て同一のガラスのような質感の素材で形成されている槍。
金の若木をあしらったらしき装飾が、穂先から柄の先まで掘り込まれていた。

五和は周囲の間合いを確認し、
その槍を己の体の方へと引き寄せては軽く両手で構えを取り。

バランス、握った感覚、しなり方、その他の感覚を軽く確認。

五和「…………」

何もかもが完璧だった。
誰もが唸る業物。
こんな代物扱い切れるのか、と己が役者不足に感じてしまう程。

五和「本当に……良いんですか?」

ジャンヌ「構わん。好きに使いな。今からお前の物だ」

五和「あ、ありがとうございます!!!!!」

ジャンヌ「礼は寄せ。そもそもお前の槍砕いちまったの私だしな」

五和「いえ…………あれは私が制止を聞かずに向かって行ったからであって……」

ジャンヌ「グダグダ抜かすんじゃないよ。良いから受け取っておけ」

五和「……は、はい!!すみません!!」
90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 23:37:25.89 ID:2og95pco
新たに手に入れた槍を、向きをかえ持ち方をかえ眺める五和。
その瞳は子供のように輝いていた。

五和「……………………」

と、そうして槍を眺めていた時。
彼女は槍のとある部分に目を留めた。

柄の握りのすぐ先に彫られてる妙な文字。
五和は全く読むことができなかったが、
並々ならぬ神秘性がじわじわと染み込んでくる。

五和「…………」

彼女はその文字の上を指でゆっくりとなぞり、
この文字の放つオーラを魂で感じていた。

さながら歴史的な芸術品を見、
どこが素晴らしいのは分からずともその空気を何となく感じるように。

そんな彼女に向け、気づいたようにジャンヌが。

ジャンヌ「ああ、それは前の主の名だ」

ジャンヌ「エノク語だ。無理に読もうとしない方が良い」

五和「……その……前の持ち主のお方は……?」

ジャンヌ「500年前に戦死したさ」

五和「……」

ジャンヌ「銃よりも槍を好んでた奴でな。最期の時もその槍を握ってた」

五和「……」

ジャンヌ「代わりにお前が大事に使ってやんな。『そいつ』も本望だろ」

五和「…………」
91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 23:39:20.30 ID:2og95pco

これらの槍は、天界の破壊を免れ人知れず世界中に散らばっていた『遺品』。
ジャンヌが500年掛け回収してきた、同族達の『遺品』。

今五和の前にある槍達は、ジャンヌの『コレクション』の極一部に過ぎない。
膨大な数・種類の武器をジャンヌはかき集め、回収してきた。

ある時は、見当違いの札を貼られて博物倉庫に置かれていたのを、忍び込んで回収したり。
ある時は、骨董品店に置かれていたのを買い取ったり。
ある時は、ゴミ捨て場や泥の中から見つけ出し。

全て丹念に汚れを落とし、手入れをし、修復し。
そっと誰の手にも届かない場所に保管し続けている。

家族の死に様が刻まれた遺品を。
一族の生き様が刻まれた遺品を。

彼女達の『生きた証』を。


今は亡き『故郷の一部』を。


ジャンヌ「…………」


その遺品の一つが今、『生』を受けて再び武人の手に収まったのを、
ジャンヌは穏やかな気持ちで見守っていた。
92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 23:41:59.03 ID:2og95pco

ベヨネッタ「じゃあ…………」

しばらくした後、黙って見ていたベヨネッタが立ち上がり、
背伸びをし腰をしならせながら。

ベヨネッタ「ちょっと相手してあげる。少し教えてあげる。アンブラ式のやり方」

五和「…………というと……?」

ベヨネッタ「手合わせ。やっぱ『試運転』も必要でしょ」

五和「あ…………で、では…………」

ベヨネッタ「C'mon. Get out」

ベヨネッタは小さく、そして艶かしく笑みを浮かべながら、
大股のキャットウォークで足早に外へと繋がるドアの方へと向かっていった。

五和「あの!本当にありがとうございます!!!」

槍を胸に抱きかかえるように持ちながら、再度ジャンヌに礼を言う五和。

ジャンヌ「良いからとりあえず行け。セレッサを待たせると後悔するぞ?」

ジャンヌの言葉にタイミング良く。


ベヨネッタ「―――Hurry!!!! Hurry up!!!!」


外から響いてきた、ベヨネッタの大声。

それを聞き、五和は慌てながら外に駆け出て行った。
93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 23:45:25.81 ID:2og95pco
ジャンヌ「…………五和、か。セレッサに気に入られたみたいだな。良かったな」

神裂「…………」

ジャンヌ「意外だろうが、あいつあんな風に見えても実は結構人見知りだからな」

ジャンヌ「表では笑ってふざけた事を抜かしていても、内心ではあまり他人に近付こうとはしていない」

神裂「…………訳は何となくわかります。アイゼン様から、ベヨネッタさんの生い立ちは少しだけ聞きましたから」

ジャンヌ「そうか」

神裂「……」

ジャンヌはそっけなく返事を返し、再び本を開いては黙々と読み始めた。
その隣で、神裂は壁に寄りかかりながら様々な思索に耽っていた。

ジャンヌ「……」

神裂「……」

ジャンヌ「……」

神裂「…………質問がいくつかあるのですが、良いでしょうか?」

ジャンヌ「話せ」

神裂「あなた方の扱う召喚術って、通常の物とはかなり違いますよね?」

神裂「いや、私も、そのような大規模な召喚術は悪魔と関わるようになってしか見てませんけど……」
94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 23:48:42.71 ID:2og95pco
ジャンヌ「何だ?魔女の技に興味があるのか?」

ジャンヌ「もしかして魔女の技を使いたいのか?それは無理だ」

ジャンヌ「太古の『真人間』の系列でなければな。それもアンブラの血を継ぐ」

神裂「いえ、そういう訳ではなく、純粋に気になるというか」

ジャンヌ「職業病だな」

神裂「はは……まあ……そんなところです」

ジャンヌ「まあ良い。少し話してやる。別段秘密という訳では無いしな」


ジャンヌ「先のお前の推測、正解だ。私らの召喚術は普通の悪魔召喚とは全く違う」

ジャンヌ「まず、アンブラの召喚術は二つに大分される」


ジャンヌ「契約召喚と強制召喚」


ジャンヌ「一つ目の契約召喚。これが基本的に使われる召喚術だ」

ジャンヌ「契約内容のお互いの関係は様々。主従、共友、『恋人』関係などな」


神裂「…………『恋人』というと?」


ジャンヌ「そのままの意味だ。『主契約』はこの恋人関係である場合が多い」

ジャンヌ「『主契約』とは、十字教系から言わせれば『聖守護天使』みたいなもんだ」

ジャンヌ「一人につき一体つく、どちらかが死ぬまで永続する終身契約」

神裂「なるほど」

ジャンヌ「『主契約』をする事により、その悪魔から恒常的に力が供給される、いや、常に『半身同化』と言った方が良いな」

神裂「その主契約は恋人関係が多い、ということですが、具体的にはどうやって契約を……?」

ジャンヌ「契約の際には、『肉体の繋がり』を必要とする。      性的な意味合いが強めで」

神裂「…………!!!」
95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 23:50:44.76 ID:2og95pco
神裂「……ッな、なるほど……!!!!」

ジャンヌ「大抵は、強大な悪魔になればなるほど『とことん求めて』くる。場合によっては、耐え切れずに死ぬこともある」

神裂「…………そ、その……『営み』で死ぬのですか…………?」

ジャンヌ「ただの体の交わりではない。魂と魂を繋げ、力と力を捻り合わせ、存在そのものから一体となる」

ジャンヌ「相手の悪魔の力に見合わぬのならば、その時の負荷で死ぬ」

ジャンヌ「相手が認めなかったら、その場で殺されもする」

神裂「…………」

ジャンヌ「私の『主契約』相手はマダム=ステュクスなんだが、契約の儀の時はそれはもう凄まじかったぞ?」

ジャンヌ「セレッサのマダム=バタフライはもっと過激だったらしいが。あいつが疲れきって辟易としてたぐらいだからな」

神裂「……………………やはり…………やはり『魔女』とはそういう……」

ジャンヌ「ま、十字教が言う『色情魔』であるのは間違いないな」

ジャンヌ「ただ、『尻軽女になれ』ということではない」

ジャンヌ「誰でもかんでも股を開く奴はタダの『売女』だよ。そんなアホなど『魔女』ではない」

ジャンヌ「心身を全て捧げる高潔な儀。快楽などタダの付属品」

ジャンヌ「求めているのは強大なる力と強固なる繋がりだ」

神裂「…………なるほど…………」

ジャンヌ「それにな、対象の悪魔によって契約の儀の内容も様々だ」

ジャンヌ「何度も交わりを求めてくる者から、軽い口づけ、それどころか握手のみで済む者もいる」

ジャンヌ「要は、重要なのは物質的な肉体の接触ではなく、精神体のすり合わせという事だ」

ジャンヌ「心を通じ合わすのさ。完璧にな」

神裂「…………」
96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 23:54:18.38 ID:2og95pco
ジャンヌ「ま、『主契約』はそんなところだ。そして主契約とは他に、別の複数の悪魔とも契約を結ぶことがある」

ジャンヌ「セレッサがお前に向けて喚び出したヘカトンケイルなどだ」

神裂「……」

ジャンヌ「そちらは『魔獣契約』と呼ばれてる」

ジャンヌ「恒常的に力を受け、詠唱も術式構築も無しで即座に召喚もできる『主契約』とは違い、」

ジャンヌ「『魔獣契約』の召喚の際はそれ相応の作業をしなければならない。かなりの力も消耗する」

ジャンヌ「つまりだな……『主契約』は既に『半召喚済み』であり常時術者の体内に『宿っている』が、」

ジャンヌ「『魔獣契約』は遠くから一々引っ張ってこなければならない、という事だ」

ジャンヌ「準備に手間もかかりある程度の時間もかかる訳だ」

神裂「……では、主契約の方が使い勝手が良いのでは?わざわざそんな事をしなくとも」

ジャンヌ「いや、利点もある」

ジャンヌ「まず力の上乗せ。『主契約』によって強化された力に、更に別の悪魔の力をいくつも上乗せできる」

ジャンヌ「二つ目、『主契約』の場合は、対象の悪魔が傷つけば同化状態にある術者も傷を負う、」

ジャンヌ「対象の悪魔が死ねば術者も死ぬ。つまり一心同体だ」

ジャンヌ「だが『魔獣契約』の場合は、喚び出した悪魔がいくら傷付こうが死のうが術者には何らダメージが無い」


神裂「そういうことですか……なるほど」
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 23:57:35.89 ID:2og95pco
ジャンヌ「『主契約』は一心同体となり生死を共にする。その代わり、常に同化しあいお互いの力で強化しあっている」

ジャンヌ「その関係上、契約の儀は濃密なものになりがちだ」

ジャンヌ「それと比べ『魔獣契約』は緩やかな繋がりだ。同化せず、助っ人・援軍・仲間という術者とは『別体』で動く」

ジャンヌ「そのおかげで術者とは離れた場所に遠隔召喚、つまり遠地に送り込む事もできる」

ジャンヌ「また、緩やかな繋がりの分、召喚が拒否される場合もあるし、」

ジャンヌ「契約の儀の内容も簡単なものだ。大半が血の印を捺すだけで契約成立する」

ジャンヌ「まあ、中にはセレッサのように力ずくで叩きのめして屈服させたり、主契約と何ら変わらずに『営み』をする者もいるがな」

神裂「…………やっぱり、ベヨネッタさんは基本的にそういうのが好きなんですね?契約どうこう以前に」

ジャンヌ「…………まあな。アホなのか魔女の鑑なのか……どっちもだろうな」

ジャンヌ「セレッサと魔獣契約結んでる輩らは、皆あいつに心底惚れている。一人を省いてな」

ジャンヌ「名だたる諸神・諸王ともあろう連中がデレデレしやがる。見てられないよ全く」

神裂「ははあ」

ジャンヌ「だがまあ、さすがのセレッサでも唯一『ハート』を落とせなかった者がいる」

ジャンヌ「普通に、口頭で契約しただけのな」

神裂「?」


ジャンヌ「バージルさ」
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 23:58:54.70 ID:2og95pco

神裂「!!バージルさんとも契約してるんですか!!??」

ジャンヌ「まあな」

ジャンヌ「お互いの力を認めてな」

神裂「!!!」

ジャンヌ「特に使う予定は無いんだが、一応いつでも喚び出せるには越したことが無いしな」

ジャンヌ「バージルの性格的に、本当は私が術者であった方が良かったと思うんだが、私は一歩力が及ばずな」

ジャンヌ「いや、できることはできるんだが、召喚したら私がスタミナ切れで動けなくなる」

ジャンヌ「バージルをも召喚して飄々としていられるのはセレッサぐらいさ」

ジャンヌ「ま、さすがのあいつでも、闇の左目が起動時でなきゃ無理らしいがな」

神裂「…………そう……なんですか……」
99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/14(木) 00:01:40.80 ID:7tYZ2N2o
ジャンヌ「とりあえず、『契約召喚』の簡単な区分と仕組みはこんなところだ」

神裂「では、『強制召喚』というのは?」

ジャンヌ「そのままの意味だ」

ジャンヌ「契約無しで、力づくで引っ張り出す。相手の意思などお構い無しにな」

神裂「かなり難しそうですね」

ジャンヌ「いや、これ自体は難しくない。そもそも、アンブラの者が一番最初に覚える召喚術だ」

神裂「?」

ジャンヌ「『契約する事が不可能』な存在を喚ぶのが可能」

ジャンヌ「『非生命体』も手元に喚び出す事ができる」

ジャンヌ「さっきのフリウリスピアを持ってきたのもこれだ」

神裂「ああ、そういう事ですね」

ジャンヌ「界の違いなど関係なく、『どこからでも』引っ張り出せるアンブラの召喚術の基本中の基本だ」



ジャンヌ「そして、この強制召喚の究極が『クイーン=シバ』だ」
100 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/14(木) 00:04:00.46 ID:7tYZ2N2o
神裂「あ……それもアイゼン様から少し聞きました。確かベヨネッタさんがジュベレウスを倒した時に……」

ジャンヌ「そうだ」

ジャンヌ「あれはな、悪魔を喚ぶのではない」


ジャンヌ「『魔界そのもの』、『魔界の力場そのもの』から直接引っ張り出すのさ」


ジャンヌ「『力の塊』をな」


神裂「…………」

ジャンヌ「クイーン=シバとはな、元々は魔界での『力場』に対する通称だ」

ジャンヌ「畏敬の念と『母』という意味合いが篭ってる。魂の還る地であり、そして生まれる地」

ジャンヌ「魔帝もスパーダも、元はここから誕生したのだしな。魔界の基盤であり理であり、そして母であり父である」

神裂「…………」

ジャンヌ「その強大さに、かつて私らの『母達』は目をつけた」

ジャンヌ「元々これは対魔界用に作り出された術式だ」

ジャンヌ「魔界の侵略に備え、私らの『母達』は力を蓄えていたが、それでもまだまだ足りなかった」

ジャンヌ「決定的な切り札が必要だったんだ。それこそ魔帝やスパーダをも上回るな」

ジャンヌ「そして母達はこの考えに帰結した。唯一彼らを上回り得るのが、『魔界の力場』ではないか、と」


ジャンヌ「つまり『魔界そのもの』ではないか、と」
101 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/14(木) 00:06:35.49 ID:7tYZ2N2o
ジャンヌ「それで遂にある時、この召喚式をアイゼン様が完成させ、試しに起動してみたらしい」

神裂「…………それでどうなったんですか?」

ジャンヌ「『召喚には』成功した。10秒程度だったらしいが、魔界の力場の一部が姿を変え現出した」

神裂「……召喚には…………ですか?」


ジャンヌ「実際に現物を召喚した際に、とある問題が判明したのさ」


ジャンヌ「力場自体には、『確たる意志』が存在していなかったのだ」


神裂「?」


ジャンヌ「力場は力場、『単なる』莫大な力の溜り場にしか過ぎなかった」


ジャンヌ「そして、『魔界の生者』と密接な繋がりを持っていた」

ジャンヌ「生者である無数の悪魔達が、力場に強く影響を与えていた」

神裂「…………」


ジャンヌ「特に魔界の『生者』の頂点であった魔帝。その莫大な力は当然、力場にも大きな影響を与えていた」


ジャンヌ「『魔帝の意志』が、『魔界そのもの』にも影響を与えていた」


ジャンヌ「つまり、『魔帝を頂点とした生者』達の意志が、『魔界の意志』でもあったのさ」


神裂「……」

ジャンヌ「どういう事かはわかるな?」
102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/14(木) 00:08:48.72 ID:7tYZ2N2o
ジャンヌ「基本的にだ。生者が死ぬと、生れついた力場に還っていく」

ジャンヌ「その際、個々人の記憶は薄れ消えていく」

ジャンヌ「だが本質的な本能部分は残り続け、次に誕生していく生者に受け継がれていく」

ジャンヌ「そしてそれが、その世界の理となっていく」

神裂「……」

その点についてはアイゼンからも聞いた。
だからこそ、天界や魔女・賢者達はセフィロトの樹と新たな力場を人間に与え、

本来の力場から完全分離させ、
人間界の古き神族の系列が生まれ出でないようにしたと。


神裂「…………つまり……現出したクイーン=シバは……」


ジャンヌ「『魔界寄り』だったのさ」


ジャンヌ「はっきり言うとだ。『当時の状況下』では、対魔界、魔帝・スパーダに対して使用できるものではなかった」

ジャンヌ「『魔界の意志』がほぼ完全に一つとなっていた当時ではな」

ジャンヌ「魔帝の支配に対し裏で反抗していた者達もいたが、」

ジャンヌ「数的に見て、魔界全体の意志を塗り替えることなど到底無理なのはわかるだろ?」

ジャンヌ「それどころか、『よそ者』である我等が『魔界の意志』を塗り替える事など」

神裂「…………」


ジャンヌ「クイーン=シバは武器になり得なかったのさ。『当時の魔界』に対しては」
103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/14(木) 00:12:02.07 ID:7tYZ2N2o
ジャンヌ「ただまあ、瞬間的な力の総量は魔帝やスパーダをも上回っており、手を加えればいくらでも使えそうに見えた」

ジャンヌ「それで様々な方法が試されようとされた。どうにかして意志を上書きする方法、」

ジャンヌ「引き出した力を魔界から完全に分離させ、魔女に宿す方法などがな」

ジャンヌ「だがどれも失敗だった。そもそも試す事自体が不可能に近かった」

神裂「?」

ジャンヌ「クイーン=シバの術式自体は単純だ。だがな、術者にかかる負担はとてつもなかった」

ジャンヌ「強制召喚は、力の負荷が全て術者にかかってくる」

ジャンヌ「そのせいで、その後一度もテストできなかったのさ」

ジャンヌ「史上最強と謡われていたアイゼン様でさえ、最初の一度で数十年間も床で死の境をさ迷った」

ジャンヌ「その他の者はほとんど起動できなかった。起動できたとしてもすぐに命を落としていった」

ジャンヌ「誰一人、その後一度もクイーン=シバを完璧に現出させた事ができた者はいなかった」

ジャンヌ「更に、見かねた長や長老達は術式を下々の者にまで公開し、身分を問わずに使用できる者を募った」

ジャンヌ「だがそれでも現れなかった」



ジャンヌ「セレッサがやっちまうまではな」



神裂「…………」


ジャンヌ「即ち、あいつはんな代物を一発勝負でやり遂げちまったのさ」


ジャンヌ「しかもかのジュベレウス相手に、完璧に」
104 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/14(木) 00:17:07.19 ID:7tYZ2N2o
ジャンヌ「アイゼン様の時よりも遥かに多い量の力を引き出し、それらを完全に制御しジュベレウスに全てを叩き込んだ」

ジャンヌ「どうやったかは私も知らないが、セレッサはクイーン=シバの意志を支配できちまったようだ」

ジャンヌ「後でアイゼン様から聞いたんだがな、その時、セレッサは魔界の全力場の6分の1もの力を引き出してたらしい」

ジャンヌ「人間界を3万回以上は破壊できる量だ」

ジャンヌ「アイゼン様でさえ20分の1でやっとだったらしいのに、とんだぶっ飛び具合だなコレは」

神裂「……………………」

ジャンヌ「まあ、状況がアイゼン様の時代よりも良かった点もあったがな」

ジャンヌ「魔帝は封印中、スパーダは反逆。つまり魔界には、全てを纏め上げる強固な意志が無かった」

ジャンヌ「ジュベレウスも、セレッサに闇の左目を奪われたことによる不完全復活だったしな」

神裂「…………」

ジャンヌ「だが…………それでも、無数の悪魔達の意志を纏め上げた事、」

ジャンヌ「とんでもない量の力を、完全に統率下においた事の凄まじさは変わりないがな」


ジャンヌ「セレッサは紛れも無く史上最強の魔女さ」


神裂「……」
105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/14(木) 00:21:16.63 ID:7tYZ2N2o
神裂「…………あの、ふと思ったんですが、そのクイーン=シバ、」

ジャンヌ「何だ?」

神裂「もしも、もしもですよ」


神裂「今のスパーダの一族に向けて使えばどうなるのですか?」


ジャンヌ「…………さあな。ある程度はどうなるか考えられるが」


ジャンヌ「スパーダ一族もその魔の『原点』は魔界の力場」


ジャンヌ「その意志が力場に影響を及ぼし、セレッサの意志を上回る事があれば、まずクイーン=シバ自体が武器になり得ない」

ジャンヌ「ましてや、直接相対するとなれば、力場を解さなくともその場で魔自体が共鳴しあってしまう可能性もある」

ジャンヌ「最終的には、それぞれの『個人の本質の強さ』で決まるな」

ジャンヌ「精神が勝った方がクイーン=シバという『力の塊』の主導権を握る」

神裂「なるほど…………」


ジャンヌ「ま、スパーダ一族相手なら、そもそもクイーン=シバを使わない方が良い」

ジャンヌ「クイーン=シバはお荷物にしかならんさ」

神裂「…………」


ジャンヌ「アンブラ魔女の王道である格闘戦で挑んだ方が、私らにとっては『かなり強くいける』」


ジャンヌ「『かなり』、な」
106 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/14(木) 00:24:36.22 ID:7tYZ2N2o
神裂「…………」

ジャンヌ「ははは、試してみたいな。私じゃあ中々厳しいかもだが、セレッサならばバージルや弟相手でも『かなり』いけるはずだ」

ジャンヌ「というか、セレッサは思いっきり勝つ自信があるだろうな。私もそう思ってる。セレッサが勝利を収めるとな」

ジャンヌ「ま、それと同じくバージルらも思いっきり勝つ自信があると思うが」

ジャンヌ「こればっかりは、実際にやって見なきゃわからん」

ジャンヌ「だがまあ、楽しそうだが試す事はできない」



ジャンヌ「実際にんな事をしたら、どっちが勝とうが人間界は確実に終わっちまうからな」



神裂「確かに。考えたくないですねそれは」

ジャンヌ「我等が我らの芯を通す限り、そしてスパーダの一族がその信念を貫く限り、」

ジャンヌ「我等が正面から殺し合うことはまず有り得ない」


神裂「ですね」


ジャンヌ「あ〜タダな、これだけは確かだ。私らはバージルの息子にはまず負けない」

ジャンヌ「セレッサはもちろん、私もあのガキには絶対に負けんよ。ま〜だまだ青すぎる。あのガキは」


神裂「…………」

―――
107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/14(木) 00:25:42.30 ID:7tYZ2N2o
今日はここまでです。
次は明日の夜に。
108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/14(木) 00:27:33.46 ID:ToC1wdQo

この話は今後のフラグと見た
109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/14(木) 00:33:24.87 ID:tvYsCLMo

やはりこの猛者たちにとって
ネロは青二才か
110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/14(木) 01:23:20.46 ID:j2OoC4w0

魔界ってダンテたちの全力勝負に耐え切れるんだっけ?
111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/14(木) 02:30:45.31 ID:Nz14QpE0
おヨネさんスゲェな乙
112 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/20(水) 17:51:57.85 ID:FSn0EsAO
人間界もやるじゃん
113 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/20(水) 17:54:24.54 ID:lX5Bj16o
復活した!投下あるかな
114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/20(水) 18:20:56.24 ID:UO61336o
コンスタントに投下しなきゃストレス溜まる>>1だから、
いつも通りクールで淡々としながらも内面はかなりムラムラしてるだろうな
115 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/20(水) 20:54:05.43 ID:YN9FdMDO
やったー!復活したー!(T_T)
116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/20(水) 22:39:20.89 ID:NpZP9YUo
ハッハー復活だぜ
117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/20(水) 23:15:48.47 ID:n04WsQMo
復活したー
118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/20(水) 23:17:05.48 ID:n04WsQMo
―――

バッキンガム宮殿地下深く。

物理的な分厚い隔壁、更に伝説級の結界に何重にも守られながらその深部に広がる、
東西南北200m、天井は50mにも達する広大な地下空間。

ここがイギリスの中枢。

イギリスの魔術・正規軍両方の軍事の心臓部。

北側の壁面は一面が巨大なモニターに覆いつくされ、各地の地図・各軍の動きなどをリアルタイムで表示しており、
その前にはNASAの管制室のように大量の端末が並び。

軍服や修道服、騎士の礼装を纏った者があちこちを行きかい、
様々な言葉が飛び交っていた。

ウェストミンスターにある国防省地下の指令センターともリアルタイムで接続されており、
ここで今のイギリスの『全て』が把握できるようになっているのだ。

国防省は正規軍の指令本部、
そしてここはその他の騎士・清教の本部も含めたイギリス全軍の総司令部といったところだ。

北側のモニター、その前での作業を見下ろすように配置されている、南壁面のテラス。
そこには、巨大なV字上の机が上辺が北側に向くように置かれ、イギリスの『上層部』と呼ばれる閣僚や将官、
『老人達』が席に着いており。



南側、V字状の机の頂点には、質素でありながらも荘厳な木製の椅子に座す

イギリス王室、第二王女であり―――


そして現在のイギリス最高司令官である―――


―――真紅のドレスを纏ったキャーリサ。
119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/20(水) 23:21:34.22 ID:n04WsQMo

この南側のテラスの手すりにあたる場所には、上層部集団から見て北側の大モニターと重なるように、
魔術による立体映像が更に詳細な情報を示しながら浮かび上がっていた。

最新の通信設備と通信魔術の併用、最新のモニターと魔術の映像、
そして行きかう、様々な所属の人々。

ここの指令センターは、正に科学と魔術が混在していた。
もちろん、この場に勤めている者達は皆厳格な審査を通った者ばかりであり、
この場で見たこと経験した事の口外は当然禁止とされている。


軍事の長でもあり、今は母から全権を委任されている第二王女。
肘掛に左手で頬杖を付き、右手には既に起動状態である、淡く輝いているカーテナ=セカンド。

彼女はその最強クラスの霊装の切っ先で杖のようにコンコンと床を叩き、
不機嫌そうに眉を顰めながら手すり付近の立体映像を睨んでいた。

彼女の右斜め前には騎士派の長、騎士団長。
左側の清教派の長が着く席は空いていた。

最大主教『代理の代理』、清教派の実働最高指揮官シェリー=クロムウェルの席なのだが、
現在彼女はキャーリサの『特命』によりとある場所にて作業を行っている為席を外していた。

キャーリサ「…………」

飛び交う、各地の戦況。
それと同時にモニターと立体映像に、各情報が目まぐるしく表示されていく。

ここにいる者達は皆、表面上では冷静を装いながらも内心では焦燥していた。

キャーリサと、彼女の隣に侍る騎士団以外は。
120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/20(水) 23:23:38.69 ID:n04WsQMo

イギリスが国家の存亡そのものの危機に陥るなど、正に第二次大戦以来。

ここにいる者達は誰一人経験したことが無い。

先日のクーデターは国家全体を揺るがしたものの、この国自体の『滅亡』とはまた違う。
ウィンザー事件はその規模は国家全体の危機だったが、本格的にイギリスが動く前に早々に集結した。

だが今回は違う。

クーデターの時とは違い、今の敵は『外』。
ウィンザー事件の時とは違い、今の問題は特定の存在を排除すればキレイさっぱり済むというものでもない。

ドロドロと陰湿であり、ヘドロのようにいくら洗っても淀みは抜けない。
ネットリとし、非常に後味が悪い戦い。

それが国家同士の全面衝突。
それが人間勢力と人間勢力の殲滅戦。

それが世界大戦。

キャーリサ「…………」

現在の戦況は、未だどの勢力も手探り状態。
イギリスも、そして実際に先頭切ってこの国と激突するフランスも、
どちらも既に開戦状態にあるにも関わらず未だに準備が整っていない。

小規模な戦闘は各地で頻発しているものの、
依然、両陣営とも大規模な作戦には乗り出せないでいた。
121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/20(水) 23:27:07.47 ID:n04WsQMo
キャーリサ「…………」

この状況の中、イギリスはどう戦えば良いのか。

学園都市側とも真っ向から対立してしまった以上、今のイギリスは孤立無援。
兄弟国アメリカからの支援は、『とある理由』で今現在は全く無し。

それらをも鑑みて、キャーリサはとりあえず守りに徹する事を考えていた。

確かにイギリス本土の防衛の為にも目と鼻の先のフランスを叩き潰しておきたいが、
それは全体的・長期的に見て不利になる点の方が多い。

中立の姿勢を示している北ヨーロッパ・北欧系諸国を省き、
東欧・南ヨーロッパは敵。
更に東にはロシアも控えている。

一画に過ぎないフランスを落とした所で、この陣営が全て崩れるとは思えない。
むしろローマ正教側の怒りを更に掻き立て、戦況は更に泥沼化する可能性が高い。

(以前キャーリサは、クーデター成功の折にはカーテナを手にヨーロッパ蹂躙を目論んでいたが、
 それは圧倒的な力を見せつけ、電撃的に突き進んで一国一国屈服させて行くつもりだった。
 最初から諸国が固い連合を組み徹底抗戦を掲げている今では、そんなやり方はもう通じないだろう)

また一方で、イギリスの軍事的大陸進出により、中立国らも何かしらの行動を始めるかもしれない。
ヨーロッパが戦場となる以上、ドイツ等も黙ってはいられない事態となるのだ。

キャーリサ「…………」

大陸進出による補給線の拡大と戦線の肥大。
『頭数』の少なさが表面化し低下する全体の戦力密度。

煮えたぎったフランス・ローマ正教との激烈を極める戦闘。
『降伏』の二文字がどちらにも存在しない徹底的な殲滅戦。
そして、更に敵として増えるかもしれない強大な兵力。

キャーリサ「…………」

アメリカの支援無しという現状において、
攻勢に出て大陸進出するにはリスクがあまりにも大きすぎるだろう。

少なくともキャーリサは、そんな危険な賭けで祖国と民を道連れにする事などできなかった。
122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/20(水) 23:29:23.74 ID:n04WsQMo

キャーリサ「(………………さて…………どうするか……)」

と、一応の方針はこう決めていたものの。
キャーリサはこの戦争の着地点が見出せないでいた。

いや、正確に言えば『丸く収まる着地点』を、だ。

既に交渉の余地が無い程に、両陣営の世論は煮えたぎっている。
イギリスも、国民も軍部も魔術側も皆怒り狂っている。

関係の修復は最早不可能。
戦うしかない。

誰も退く事ができない。
退く事が許されない。

どの陣営も、この底無しのアリ地獄のような戦いに身を投じていくしかないのだ。

見える着地点はただ一つ。

どちらかの『滅亡』だ。

キャーリサ「(…………まあまあ、なんつーうまい具合に整ったもんだ)」

現状のこの有様に第二王女は頭の中で呆れ果て、小さく笑ってしまった。
最早笑うしか無いだろう。

だが、彼女は決して現状を見放した訳ではなかった。
現実から逃げた訳でもない。


キャーリサ「(…………そーれでだ。誰がこのクソッタレな舞台を整えた?)」


彼女は冷静に前を見据え、渦巻く闇を見つめながら。
最も重要な部分への疑問を投げかけた。

『着地点の鍵』へ向けて。
123 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/20(水) 23:30:37.49 ID:n04WsQMo
既に戦争が始まっている今ではさほど重要視され無さそうな、
皆が見失いがちなこの部分。

戦争の発端理由は今やどうでも良い。

問題はどうやって勝つかだ、と今大半の者は思っているようだが。


実はこの部分が最も重要でもある。

ここにキャーリサと共に座している各首脳達も、
騎士団長を省き誰一人そこを見てはいない。

問題の『核』はそこにあるのに。

この妙な『違和感』の発信源が。

キャーリサ「…………」


今、軍事に精通するこの第二王女ははっきりと感じていた。

魔術世界と表の世界両方を知る彼女は認識していた。


この戦争は何かがおかしい。


普通の『人間の戦争』ではない、と。
124 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/20(水) 23:32:47.57 ID:n04WsQMo

キャーリサ「…………」

冷静に一歩引いてみれば何もかもが、『何か』がおかしいのが感じ取れる。
この状況はどこかが『ズレて』おり、世界が『狂っている』。

先日、魔女だったというローラが女王エリザードを殺しかけた。

その後、ローラの部屋がくまなく調べられ
ローマ正教側への通信履歴が残っていた霊装が発見され、
魔女ローラはローマ正教側の刺客であり裏切り者だったと断定されたのだが。

キャーリサ「…………」

どうにもこうにも納得できない。
反証はできないのだが、何かがひっかかる。

ローマ正教は、ヴァチカンの一件がイギリス清教の手によるものだと発表したが、
キャーリサから言わせればそんな事は絶対に有り得ない。

とんでもない言いがかりだ。

最大戦力であり重要な指揮官の一人でもある神裂を失ってまで、
窮地に追い込まれる形で開戦する馬鹿がどこにいる。
(そもそもイギリス側は、緊張と解き開戦を回避することに全力を尽くしていた)

そのヴァチカンにて、神裂とステイルが得体の知れない存在と交戦したらしく、
神裂の従者として共に赴いていた五和を含め三人とも忽然と姿を消した。

あそこで一体何があったのだろうか。

あの一件がローマ正教側の自作自演と考えるのも無理がある。
それはローマ正教諸国の反応を見て一目瞭然だ。

自作自演だったのならば、前もってある程度の準備はしておくはずだろう。
こんな大混乱など起こさずに、だ。
125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/20(水) 23:36:23.65 ID:n04WsQMo

キャーリサ「…………」

また、ローマ正教諸国やロシアにある人造悪魔兵器の動向もおかしい。
配備状況が今一芳しくないのだ。

切り札と考えているのならば、いや実際に切り札であり今イギリスが最も恐れている存在の『一つ』なのだが、
なぜかどこの国も配備を最優先にはしていない。

各地に潜伏している諜報員から、
人造悪魔兵器の輸送を後回しにして霊装兵器が優先されたという報告もいくつもきている。

そんな物よりも人造悪魔兵器の方が、戦力としては明らかに上なのに。

最優先にすれば、一日もかからずに最前線に運べるはずだ。
しっかりと揃わなくても、着いた分から解き放っていけばそれだけでかなりの戦力となりうる。

それなのに現在の輸送状況では、第一陣が前線にてお目見えするのは早くても三日後。

キャーリサ「…………」

ここでキャーリサは一つの推測に思い至った。

もしかすると。


フランス、いやローマ正教一般諸国達は、人造悪魔兵器を『知らない』のではないか、と。


非活動状態の人造悪魔兵器の見た目は、通常の銃器や装甲車両・戦闘ヘリ・戦闘機。


まさか、各国もその『見た目どおり』としての認識しか持っていないのではないか、と。


ローマ正教諸国・ロシア全体としてはその兵器が『悪魔』とは知らずに、
ただ単に通常戦力の増強として、ウロボロス社から『最新兵器がお買い得』という感覚で購入したのではないか、と。
126 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/20(水) 23:38:42.99 ID:n04WsQMo

キャーリサ「…………」

恐らく、それら取引の場を仲介した連中が黒幕かもしくはその手先。

人造悪魔兵器という事実を隠しつつ、各国に忍び込ませる為に手を打った者達が。

それはまず、ウロボロス社上層部が一枚噛んでると見て間違いない。

いや、大規模にそんな事をできる権限を持つ者など一人しかいない。

CEO、アリウス。

これは以前からのウィンザー事件・人造悪魔兵器に関する調査報告が裏打ちしている。


そして一方で、ローマ正教側からも全てを知りつつ結びついた者がいるはず。

キャーリサ「…………」

ローマ正教全体に絶大な権限を誇る者は?
有無を言わせず、疑うことを許さずに絶対の命令を下せる者は?

ローマ正教徒にとって、その言葉は神のものに等しい真のトップは?


答えは簡単。


キャーリサ「(…………神の右席か)」
127 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/20(水) 23:41:31.17 ID:n04WsQMo
残った唯一の神の右席。

『右方』。

キャーリサは『核』を見定めた。


この騒乱の本当の『コア』の一部を。


キャーリサ「…………」

と、ここまで彼女はたどり着いたものの。

キャーリサ「(……手詰まりか)」

現在、どちらにもすぐには『手が出せない』。

右方のフィアンマとウロボロス社CEOアリウス。

フィアンマの現在の所在は不明。
先日に学園都市に出現したらしいが、その後は全くわからない。
(学園都市でのフィアンマの一件は、その直後に情報規制され学園都市がイギリスとも関係を絶った為、
 正確な情報は何一つ伝わってきてはいない)

一方でアリウス。

居場所はわかる。
だがその居場所の『状態』が問題だ。

各方面の報告によると。


どうやら今現在のデュマーリ島は、正に『魔窟』と化しているらしいのだ。
128 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/20(水) 23:44:02.00 ID:n04WsQMo
魔術の海中移動要塞の一つをあの島の沖に潜伏させているが、その報告からも明らか。

あの島は今、大量の悪魔達によって占有されている、と。
『本物の地獄』が出現した、と。

そんな地にはそうそう簡単に手が出せない。

もし攻勢を仕掛けるとしたら、通常兵力は対悪魔にはほぼ全く意味を成さない為、
魔術サイドの兵力をかなりつぎ込む必要があるが。

『孤立』している現状では兵力を裂く事ができない。
欧州戦線での大きな通常兵力差を、魔術サイドの兵力でやっと補完しているのだ。
(それでも頭数は明らかに劣っている。孤立無援の長期戦となると正に絶望的だ)

アメリカは今、太平洋側では全力で学園都市・日本と共に戦線を固めているが、
こちらの大西洋側では『別の事』に力を入れている為、現在イギリスには直接的な支援を行ってはいない。

キャーリサ「…………」

欧州戦線では正にイギリスは孤立無援なのだ。

今は裏世界の魔術サイドにおける『小競り合い』ではなく、国家同士の殲滅戦だ。

相手がフランス一国ならば勝ち目はあっただろうが、
今は一国のみでユーラシア大陸と渡り合おうとしている状況だ。

裏の魔術世界では、イギリスはローマ正教ともある程度渡り合っていたが、
表も裏も無い、ストレートに『国力』がものを言う全面戦争において不利なのは自明の理。

現にフランスには今、あの国のだけではなくローマ正教・ロシア盛教からの精鋭魔術部隊が続々と集結しつつある。
同じくローマ正教側各国の連合正規軍も、その歩みは魔術系統よりは鈍重だが集まりつつある。

数日中に本格的な大規模激突が始まるのは確実だ。

こんな現状の中では、イギリスが攻勢に出るにしろ守勢に回るにしろ、
どの道デュマーリ島に兵力を裂く事など論外だ。
129 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/20(水) 23:45:25.45 ID:n04WsQMo
学園都市・日本・アメリカは完全に防御に徹している。
ロシア本土に侵攻する気配が一切無い。

この太平洋側の連合軍がロシア入りしてくれれば、
いくらかはこっちに向かってくる戦力が減るだろうに。

キャーリサ「…………チッ…………」

関係を切った学園都市からのささやかな嫌がらせってか と、
第二王女は舌打ちしながら頭の中ではき捨てた。


ちなみにアメリカがイギリス支援を行っていない理由。
決してイギリスを見放したと言うわけではない。

大西洋側にて、アメリカにとって更に重要な問題が発生したのだ。
それが今、アメリカが集中している『別の事』だ。

いや、『別の事』と表現するのは間違いか。


なにせアメリカが大西洋側で集中しているのは、


正にこのデュマーリ島の件なのだから。


当初イギリス支援の為に出航した二つの空母打撃群が、
突如デュマーリ島へ進路を変えたのだ。

あの島の異常から2時間後の出来事だ。
130 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/20(水) 23:49:33.02 ID:n04WsQMo
キャーリサ「…………」

デュマーリ島の異常はアメリカに大きな衝撃をもたらしたらしい。

あの典型的な『科学脳』の国が悪魔の事を理解しているのか、
いやそれ以前に存在自体を認識しているのかどうかすら怪しいが、それでもその多大なる危険性は認識できたようだ。

なにせ、ウロボロス社の自治域とはいえアメリカ本土の目と鼻の先の『領土』でもある。

あの好戦的な国家が、本土近くの脅威には特に神経質に成りがちなあの国家が、
そんな不気味な爆弾を近くに放って置く訳が無いだろう。

確かにウロボロス社とは根強い繋がりがあるが、そんな事など国家の保全と天秤にかけるまでも無い。
人間同士ならばそれぞれの思惑の駆け引きがあるが、相手は『人外』。

さすがのアメリカでも、人外を手なずける気は起きなかったのだろう。
あの国が放った艦隊の動きから見て、デュマーリ島に攻撃を仕掛ける気なのは明白だ。

キャーリサ「…………」

アメリカ軍は、技術面においては学園都市・ウロボロス社に遅れを取っているが、
それでも世界の正規軍の中では技術水準も規模もダントツのトップ。

学園都市の奇妙奇天烈な『デタラメ』兵器群も、
初戦は優位に立てるだろうが、本腰入れて正面からじっくりやりあったら最終的に押し負けるのは明らか。

魔術や能力と言った超自然的な力は全く無い代わりに、通常兵力は堂々の地球最強だ。

そのアメリカ軍から放たれた二つの空母打撃群。
そしてデュマーリ島の地理から見て、本土からも向かうであろう大規模な航空戦力。

小国ではないそれなりの国でも、2、3日あれば丸々叩き潰せる程の規模だ。

だが。

キャーリサ「(…………全く。兵力がもったいないっつーの。それをこっちに寄越せよ)」

悪魔が巣くうあの魔境に対してはほぼ無力だろう。
戦力どうこう以前に、存在している次元の格が違うのだ。
相性がとことん悪すぎる。

結果は目に見えている。

『通常世界無敵』、『物質的な戦闘』に関しては最強の米軍といえども。


『別次元世界』、『物質的な』限界を軽々超えていく存在相手ではどうしようもない。
131 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/20(水) 23:51:14.33 ID:n04WsQMo
キャーリサ「…………」

ただまあ、イギリスにとってはその犠牲から得る物もいくつかあるだろう。

今キャーリサの周りにいる、非魔術の正規軍最高幹部達は、
未だに悪魔というものについてはピンとこないらしい。
ここ二ヶ月、イギリス全土の悪魔掃討作戦で魔術部隊と共同で動いてはいたものの、やはり非魔術人。

悪魔どうこう以前に魔術云々自体、正しい認識を持つ者は極少数だ。
将軍の中にも未だに胡散臭げな反応を示す者もいる。

(そもそも正規軍の一般常識では、魔術も能力と同じものと考えており、
 イギリスも非公式でありながら学園都市のような能力開発を行っている、というのが暗黙の認識となっている。
 最高幹部以外では、悪魔も生物兵器の一種と認識されている)

だがキャーリサにとって正しく理解しようがそうでなかろうかはどうでも良い。

彼女が望んでいるのは、その多大なる脅威性を『正しく』認識し見に染みこませて貰う事だ。

現に、正規軍の武官は皆デュマーリ島の事を全く重要視していない。

危機感が足りないのだ。

確かに目下の欧州戦線は重要だが、一方でこのデュマーリ島の件も実際は同じくらいの重要度なのだが。

間に大西洋という巨大な海域が広がっている事も、その的外れな安心感の源となっており、
本気になった米軍が向かったことで『これでこの件は一件落着、もう話し合う必要は無い』と言う者までいる。

キャーリサ「…………」

つまり、そんな連中にとってはこの米軍の行く末はいい薬になるに違いないのだ。
頭で理解しなくとも良い。

恐怖と脅威を認識さえしてくれれば、と。
132 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/20(水) 23:56:47.19 ID:n04WsQMo

と、キャーリサが相変わらず不機嫌そうな表情で思考を巡らせていた最中。

『緊急報告。米統合参謀本部からの情報です』

響く通信霊装からの声。
ちょうどキャーリサが欲しがっていた報告だ。

『デュマーリ島周辺の最新報告です。同島沖にて監視を行っていたセルキー8も確認済み』

その言葉に、正規軍の幹部は見るからに『戦勝報告か』と思っているであろう明るい表情を浮かべた。

何も知らずに。

対照的に、結果を正しく予想できている魔術系の幹部達は皆一様に眉を顰めていた。

キャーリサ「OK、話せ」

そして告げられていく。


『デュマーリ島に向け展開していた米海軍第3・第7空母打撃群が「消息を絶った」模様』


『艦船からのミサイル攻撃、本土及び艦隊からによる航空攻撃、艦積のレールガンによる砲撃らは全て失敗』

『空母ジョン・C・ステニス、ロナルド・レーガンを含む全ての艦船、及び本土からの空軍機約110機が「消息不明」との事』

『その後、軌道上の衛星からによるレーザー照射も行ったとのことですが、これも失敗した模様』

『衛星は初弾照射4秒後に撃墜されたと』


米軍の末路。
133 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/20(水) 23:59:54.76 ID:LIugS9oo
気合入れてますね
本当に引き込まれる
頑張ってください
134 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:01:22.22 ID:mRdgekMo
その報告を聞いていた正規軍の幹部達。
いつのまにか皆、魔術系の幹部達と同じような表情に変わっていた。

キャーリサ「ほーら見ろ、言わんこっちゃねーっつーの」

そんなどんよりとした空気を切り裂く、いつも通りの軽い口調の第二王女。

騎士団長「……正に大敗ですね。ベトナム以来じゃないでしょうか?」

キャーリサ「一戦闘での損害規模ならWW2以来だろ。いや、あの国の歴史上堂々一位の最悪の規模かもな」

『またセルキー8からの追加報告によると、高出力の魔が検出されたとの事です』

キャーリサ「悪魔の種類と数は判明したか?」

『おおよそは。大悪魔はいませんでしたが、最高等悪魔はブリッツが5体、リヴァイアサンが7体確認できました』

キャーリサ「…………」

ブリッツ、リヴァイアサン。

こんな悪魔なんぞ、デビルハンターの名を称すことを許された最精鋭の英騎士・英魔術師も手が出せない。

現有イギリス戦力の中では、シルビアかカーテナ装備の王家か騎士団長ぐらいしか『処理』できない。

雷速で行動可能、戦闘能力は大悪魔に匹敵すると言われているブリッツに至っては、
この面子でもそれなりに厳しいかもしれない。

それが最低でも計12体とは。

『その他にも500体以上の悪魔が出現した模様です』

『また、それとは別に人造悪魔兵器と思われる個体も1300体程確認』

キャーリサ「………………………キ○ガイ染みすぎだっつーのその規模は」

騎士団長『…………これでもまだ氷山の一角でしょう。気が滅入りますね………本当に』
135 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:05:49.84 ID:mRdgekMo
キャーリサ「…………さてと。じゃあ皆の者、耳を闊歩じって聞け。命を下す」

キャーリサ「まずデュマーリ島の件」

キャーリサ「外務大臣。ヤンキー共にはとりあえずこう伝えとけ。『止めておけ。お前らじゃ何をやっても無駄だ』、」

キャーリサ「『その島は無視してこっちに援軍を派遣しろ。そうしたらこっちがその島の事を処理してやる』、ってな」

キャーリサ「それとビスケー湾のイラストリアスの艦隊、カヴン=コンパス(魔術移動要塞)を大西洋側に向かわせ哨戒網を強める」

キャーリサ「特に、デュマーリ島と我が国を結ぶ直線ラインを重点的にだ」

キャーリサ「ビスケーの開いた穴はクイーン・エリザベスに一時補完させ、後にインヴィンシブルを叩き起こして向かわせ埋める」

キャーリサ「セルキー9とセルキー10を更にデュマーリ島沖へ向かわせ、あの島の周囲の監視網を強化させろ」

キャーリサ「ヤンキー共の『生存者』は収容してやれ」

キャーリサ「どうせそこまで『数は多くない』だろ。可能な限り載せてやれ」

キャーリサ「デュマーリ島そのものについては保留。現状では手を出す余裕は無い」
136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 00:06:40.59 ID:KsDUASM0
C
137 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:10:09.95 ID:mRdgekMo
キャーリサ「次に欧州戦線。状況に進展があるまで本土防衛に死力を尽くす」

キャーリサ「騎士と清教。禁書目録の回収、及びローラ=スチュアート、ステイル=マグヌスの討伐は一時凍結する」

キャーリサ「どうせ連中は国内にはいない。討伐部隊を解体し各地に配備し直せ」

キャーリサ「海軍はビスケー湾、ケルト海の封鎖を維持」

キャーリサ「ジブラルタルの監視を続けろ。ドゴールのジジイ(空母シャルルドゴール)を地中海から出すな」

キャーリサ「空軍も現状を維持。如何なる勢力にも我が国の空をのさばらせるな」

キャーリサ「騎士と清教の該当部隊も同じく」

キャーリサ「迎撃は苛烈を極めさせ、我が国の領内に武器を伴って侵入する者は何人も生きては返すな。全て血祭りに上げろ」

キャーリサ「それと近衛侍女長、シルビアをさっさと呼び戻せ。魔神崩れと孤児付きでもかわまんと言え」

キャーリサ「騎士団長もだ。ウィリアム=オルウェルをちゃっちゃと呼べ」

キャーリサ「騎士の誓いを果たしに来い、ってな。さもないとヴィリアンを前線に向かわせるつーの」


キャーリサ「まあ、こんなところだ。では各々、祖国への忠誠を示せ。ユニオンジャックへの誓いを果たせ」


キャーリサ「以上。さっさと動け」


「「「「「「「Yes, Ma'am.」」」」」」」
138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:13:09.91 ID:mRdgekMo
キャーリサの言葉がしめくられ、堰を切ったかのように動き出す幹部達。

ある者は立ち上がり、携帯や通信機を耳に当てながらそそくさと退席し、
ある者はその場から下界のフロアへ指示を飛ばす。

そんな中。

キャーリサ「…………何してる?さっさと動けっつーの」

隣にて、未だ動く様子の無い騎士団長へ、
目を細めながら高圧的に言葉を飛ばすキャーリサ。

騎士団長「…………ウィリアムですが、呼ぼうにも連絡手段がありません」

キャーリサ「どこにいるかもわからんの?」

騎士団長「正に」

キャーリサ「却ーッ下。その言葉は認めない。遅くとも三日以内に呼べってーの」

騎士団長「いえ、そもそも呼ぶ必要はありませんかと」

騎士団長「あの男は自ずとやって来ます。必ず」

キャーリサ「……ふん」


―――
139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 00:15:33.91 ID:mRdgekMo
ミスりました。
イギリスパートの前に入れる予定だった部分をこれから投下します。
140 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:17:25.63 ID:mRdgekMo
―――

学園都市。
第二学区、とある施設。

薄暗い一室にて、一方通行は壁に寄りかかりながら、
ガラス壁で隔てられている隣の部屋を見つめていた。

ガラスの向こうには、学習装置に寝かされている打ち止め。
打ち止めの周りには複数の白衣の者がおり、それぞれが電子機器の端末を弄っていた。
そしてその作業を横で確認しつつ、手元のPDAで打ち止めの状態を見ている芳川。

一方通行は、能力をONにし様々な情報を確認しながら、
ガラス壁越しにその打ち止めのインストール作業を『監視』しているのだ。

一方「…………」

作業が始まって15分。
一時間ほど前、打ち止めにインストールされるプログラムに芳川と共に何度も目を通したが、
特に異常は無かった。
それに量自体もそこまで多く無く、内容も特に難しいものではなかった。

その為、実際のインストール作業も実はもう終わっており今は再確認中。

もうそろそろ全ての行程が終わる頃だ。
141 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:21:49.49 ID:mRdgekMo
一方「…………」

案の定、一段落ついたかのように白衣の者達がそれぞれ動き出し。
芳川はPDAから顔を挙げ、ガラス越しに一方通行に目配り。

と、ガラス越しとは言うものの、実はマジックミラーになっており、
芳川側からは彼の姿が確認できないのだが。

その為、芳川の視点は当然一方通行には全く定まってはいなかった。

一方「…………」

芳川がそうやって『鏡』を見た直後。

芳川『完了したわ』

一方通行のいる側の部屋に響く、通話機越しの彼女の声。

一方「問題は?」

淡々とした口調でそっけなく言葉を返す一方通行。
芳川からの声はスピーカーとなっているが、彼側からの声は彼女の耳の通信機へ届くため、
他の作業員や打ち止めには聞こえない。

しかし芳川が誰と話をしているのかは明白だった。

打ち止めにとっては。

少女はリクライニングチェア風の学習装置から体を起こし、
その大きな瞳で『鏡』の方を見つめていた。

悲しげな、かつ泣きそうなのを堪えているかのような複雑な表情で。
142 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:23:49.30 ID:mRdgekMo
芳川『何も。そっちからは何か見えた?』

一方「何もねェ」

芳川『OK……』

一方「じゃァ後は黄泉川と合流した後、指定のシェルターに向かえ」

芳川『……顔ぐらい見せてあげれば?』

一方「いらねェ。さっさと行け」

芳川『……そう。わかった』

一方「…………」

打ち止めを抱き上げ、学習装置からゆっくりと降ろす芳川。
そして少女の背中を押し、退室を促したその時。

打ち止めが芳川の手を払いのけ、ガラス壁に向かって一気に駆け出し。


打ち止め「そこにいるんでしょ!!!!!!!ねえ!!!!!!ってミサカはミサカは…………」


小さな両手の平を叩き付けながら、瞳を潤ませ体を震わせ叫んだ。


打ち止め「…………あなたが『見えない』…………ひぐ…………うぁ…………いやだって…………ひぐ…………」

そして泣き崩れた。
小さな頭を鏡に当てて。

潤んだ吐息で鏡を曇らせて。

しかし。

一方通行は一瞬だけ、ピクリと目を細めただけ。

彼が示した反応はそれだけだった。

そして彼は踵を返し、少女に背を向けてドアの方へと向かって行った。
少しばかり早足で。

―――
143 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 00:24:55.07 ID:mRdgekMo
抜けは以上です。
では続きを。
144 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:27:01.05 ID:mRdgekMo
―――

学園都市。

翌日。午前10時。

第二学区、とある地下演習場。

灰色の壁の広大な地下空間、床には1mごとに縦横に線が引かれ、
屋内は白いライトの光で満たされていた。

その中央に一人立ち目を閉じて精神を集中している、
見た目は小学生にも見えてしまう事がある、可愛らしい小柄な一人の少女。

だがその能力は今や、見た目からは考えられないほどに強力。


『調整』によって新生した『窒素装甲』、絹旗最愛。


彼女の前方には、不規則に置かれている自動車や、
シェルターの扉のような分厚い特殊素材の塊が点在していた。

これらは『的』。

絹旗から見て奥になればなるほど、
並べられている『的』の大きさきさや重量、強度が増していた。
145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:29:21.29 ID:mRdgekMo
これはいわばタイムアタック。
制限時間内にどれだけ多くの物を破壊できるか、
そしてどこまで突き進めるか、を見る為のものだ。

更に、ただ一方的に破壊していくだけではない。
壁には等間隔で穴があいており、時折そこから銃弾等が放たれてくる事もある。

AIMの最大値測定・能力の完成度チェックも兼ねた、
暗部戦闘要員向けの『身体測定』といったところか。

この形式のテスト、絹旗は以前にも何度も受けたことがある。

ここでやったからこそ、己の窒素装甲が銃弾を弾ける強度だとわかったし、
大質量の物を分投げる際の演算の仕方等、そして能力を合わせた体の動かし方を覚えたのだ。

一方通行や未元物質も、その能力が完成する前の初期の頃は、
これと同じようなテストを何度も受けた事だろう。


絹旗「…………」

目を閉じ、能力に意識を集中する絹旗。
昨日の調整によって窒素装甲の厚みは20cmにまで増し、その密度も桁違い。
更に装甲の外、半径5m程の空間を周囲の窒素の流れで視覚せずとも知覚できる。

これも応用すれば、防御面で更に素晴らしい恩恵を受けることが可能だ。
146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:30:52.34 ID:mRdgekMo
絹旗「…………」

集中し、沈黙。

そしてしばし立った後。

屋内にブザーの音が鳴り響き、どこかのスピーカーから。

『「窒素装甲」。始めろ』

測定員のテスト開始の合図。


絹旗「―――ッ―――!!!!」


その声とほぼ同時に絹旗は、音にならない『掛け声』を発し、
正拳を放つような動作で右手を前に突き出す。

瞬間、高密度に圧縮された『窒素弾』が放たれ。

まず15m程前方、一番近くにあった乗用車が一瞬にして砕け散る。

潰れたのではなく、ひしゃげたのでもない。
榴弾が叩き込まれたかのように、内側から破裂した。
147 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:33:38.87 ID:mRdgekMo
乗用車の破片が飛び散り、中を舞う中。
その金属の雨の中を、猛烈な速さで突っ切り衝撃波で破片を撒き散らす小さな影。

以前は窒素を動かして『運ぶ』だけであったが、
今の絹旗は別のやり方を併用して更に高速に動ける。

窒素を高密度まで圧縮し、それを任意の方向へ解き放つ。
別段、難しいことではない。
今日の工業界では極当たり前のように使われている。

圧縮窒素ガスだ。

このジェットが、絹旗の体を一瞬にして音速近くまで爆発的に加速させた。

砲弾の如き飛び出した絹旗。
そのままの勢いで二台目の車、アンチスキルなどで使われる装甲バンに体ごと突っ込む。

一台目と同じく、まるで紙細工のように装甲バンは一瞬にして粉砕―――


―――したかと思った次の瞬間。


飛び散りかけた破片と残骸が、今度は瞬間的に一点に集まり超圧縮。

50cm程の金属球体に。

絹旗は、その窒素で力ずくに圧縮した『ボール』を掴み上げ、
次の標的へと圧縮ガスのジェットを使いつつ思いっきり分投げた。

音速の数倍にまで加速され、更に圧縮窒素ガスの『炸裂剤』まで負荷された砲弾。

放たれた先は、シェルターの隔壁などに使われる厚さ1mにも達する特殊素材の壁。

砲弾はその中ほどにまで食い込み、そして。

ガスの圧縮が解き放たれ爆散。

特殊素材の壁は意図も簡単に砕け散った。
148 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:36:50.03 ID:mRdgekMo
絹旗「(―――超素晴らしいです)」

能力の状態を己自信で確認し、満足げに薄く笑う絹旗。
そのまま、更に奥の標的に向かおうと再び自身を加速させた次の瞬間。

絹旗「―――」

周囲の知覚域に侵入する、未知の物体。
飛び散る破片ではない。

大口径の銃弾だ。

それも複数。四方八方から彼女を包囲する形で。

以前の絹旗なら、装甲が貫かれることはなくとも衝撃をダイレクトで受けてしまうため、
体が弾き飛ばされたりもした。

だがそれは前までの話。

そもそも、以前ならばこうして銃弾の飛来を感知する事もできなかったが。

今は違う。

知覚域の進入物体を捉え、一方通行の演算をモデルとしたシステムが自動で働く。
彼女自身の能力行使が強化された為、この演算モデルの真価がやっと発揮される。

銃弾の飛翔ルートを割り出し、ピンポイントで窒素を圧縮。

そして装甲表面から窒素弾が放たれ、自動的に銃弾を『迎撃』。

銃弾程度では『窒素装甲』に触れることすら叶わなかった。

『窒素装甲』はあくまで『装甲』。
鎧はあくまで鎧。

確かに心強いが、一番良いのは。


接触さえしない事だ。
149 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:41:58.10 ID:mRdgekMo
銃弾を難なく退けた絹旗。

そのままの勢いで最後の標的、更に分厚いシェルター隔壁素材へと突進し。
宙で身を捻り。

絹旗「―――やぁああらぁあ!!!!!!!!!!!!」

雄たけびを上げながら、飛び回し蹴り。

水平に振るわれた小さな足で抉られぶち切られ。
隔壁素材は上下真っ二つ。

更に絹旗は空中で身を捻り、右手で割れた上方を掴み。

絹旗「―――はぁああ―――!!!!!!!!!!!」

一気に叩き降ろす。

上と下の二つに分かれた隔壁素材。
それが再び一つになる。

次の瞬間には、二つどころではなく無数の破片となって飛び散ったが。


標的を全て破壊しつくし、ひらりと舞い降りる絹旗。
ジェットの浮力により、優しく優雅にかつ可憐に少女は軟着陸。

絹旗「…………ふぅ…………超良い感じですね」

そして小さな両手を叩き合わせ、埃を掃うような仕草で軽く息を吐いた。
窒素の幕と装甲で守られているため、実際はチリ一つついていないが。

『タイムは1.57秒』

その時、スピーカーから響く測定員の声。

絹旗「…………」

『おめでとう。タイムは午前の部のレベル4勢のメンバー中では4位だ』

『能力行使の完成度も満点だ。AIM強度がしっかり反映されている』


絹旗「すみません。1位は誰ですか?」


『テレポーターだ。ジャッジメントから選抜されたな。タイムは0.52秒だった』


―――
150 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:43:11.93 ID:mRdgekMo
―――

同じく第二学区、また別の地下演習場。
絹旗がいたところと同規模のその地下空間。

だが、中の有様は全く違っていた。
大量の金属片が散らばっており、並大抵の事ではヒビすら入らない演習場の床や壁も、
あちこちが大きくへこんでは割れたりしていた。

そんな中、一画にあるひしゃげた金属塊の上に腰掛、
軍用ライトをクルクルとまわしながら何食わぬ顔で鼻歌を歌っている少女。

暫定的でありながら、晴れてレベル5入りした第八位、結標淡希。

この演習場の爪痕は彼女がつけたものだが、これでもまだまだ極一部。
ただの演算確認のため、かなり力を制限しただけでこの有様になってしまったのだ。

結標自身は未だ知らないが、彼女のAIMの強度は全能力者中、事実上『第五位』。
麦野や御坂をも遥かに上回っているそのAIM拡散力場が、ストレートに実際の能力行使に反映されればどうなるか。

当然、凄まじい事になる。

更に元々、テレポート系統は能力者世界でも特異な存在であり、
11次元まで干渉するという他と一線を画すその性質上、AIM強度も他よりも高い傾向がある。

そのテレポート系の頂点に立つ結標。

彼女が真の素養を最大限活用したら、どうなるかはお察しの通りだ。
151 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:47:18.28 ID:mRdgekMo
ちなみに、この彼女の強化の全てが、ミサカネットワークの演算補助のおかげというわけではない。
むしろ演算補助はちょっとしたスパイスに過ぎない。

演算補助をするだけで爆発的に能力行使を高められるのなら、
それこそ妹達のどれかが御坂並の力を発揮できてもおかしくない事になる。

この能力の強化は、強大なAIM拡散力場という『材料』があってこそ。

『材料(AIM強度)』が無ければ、どれ程優秀な『料理人(演算)』がいても無意味なのだ。

そもそもこの演算補助自体も、彼女の『元の素養』から割り出された数値を下地にして構成されている。
彼女自身がいずれ身に付け得ることが可能なであろうレベルの、だ。

あくまで演算補助は、『順当に成長していった場合』の、
『未来の彼女の演算力』を擬似的にシミュレーションしているだけなのだ。

それは一方通行にも当て嵌っている。

ミサかネットワークは能力の演算スペックだけなら、
かつての一方通行自身の脳を上回っている。

だが現に見るとおり実際の演算補助は、
脳を失う以前の彼と同じ水準『までしか』できない、という事だ。


これまた彼女自身は知る由が無いが、もし何かが違っていたら。
例えば能力実験中に『あの事故』が起きず、順当に成長していたら。

そうだったのならば、その優先度から見てもレベル5第三位の座に上り詰めていたことだろう。
152 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:50:25.43 ID:mRdgekMo
そんなテレポート系の『女王』、結標淡希。
悠々と鼻歌を奏でながら、心地よさ気に廃墟と貸した演習場ど真ん中で佇んでいた。

と、しばしそうしていたところ。

演習場に二人の少年が入ってきた。

一方通行と土御門。

二人は金属塊の下から結標を見上げ。

土御門「おっす。どうだ調子は?」

一方「随分とゴキゲンだなァ」

土御門はニヤニヤと不適な笑みを浮かべながら、
一方通行は相変わらずトゲのあるオーラを放ちながら声を飛ばした。


結標「良い感じ。色々と面白いわ」


土御門「で、具体的にはどうなった?スペックはどれだけ伸びた?」
153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 00:51:14.09 ID:KsDUASM0
C
154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:54:25.20 ID:mRdgekMo
結標「まず、ここでやってみた分から見て計算すると」


結標「一度に掌握できる質量は大体1万トン」


結標「掌握可能域は500m」


結標「転移距離は一度で飛ばせるのが約4000m、秒間にすると最大約12km移動可能」


結標「同時に転移処理できる数は大体1万2千」


結標「あと、昨日の調整の時にアクセラレータの演算モデルも入れてもらったから、『転移膜』も有りってところ」


淡々と、別段何でも無い様にとんでもない推定スペックを羅列していく結標。


結標「ま、この最高スペックを行使すればスタミナ切れで大変なことになると思うけど」


土御門「ひゃ〜…………おっそろしや……」

一方「まァ、やっとそれなりに使えるレベルになったじゃねェか」





155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:58:06.83 ID:mRdgekMo
結標「それと、ただ飛ばすだけが能じゃなくなったわよ」

土御門「?」

結標「そうそう、これをアクセラレータに見てもらいたかったの。能力ONにして」

一方「ンだよ。少しだけだかンな」

そこを見てて、と20m程離れた場所の直径2mほどの金属塊を指し、
とひと段落置いた結標。

そしてくるりと軍用ライトを回した次の瞬間。

『無音』で金属塊が砕け、粉末の山へと姿を変えてしまった。

どう、と得意げな笑みを浮かべる結標。
はン、と小さく笑う一方通行。

土御門「………………今のは何だ?」

そしてポカンとする土御門。


土御門「…………今何やったんだ?……」


一方「『同じ点』に向けて、『同時』に『複数』を転移させたか」


結標「そうそう」
156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 00:59:40.93 ID:mRdgekMo
テレポートは、三次元上では一瞬で消え別の場所に同時に出現しているように見える。

だが実際は十一次元上を『移動』させており、当然ベクトルも発生している。

そして十一次元を通し三次元上に転移させる際、物体は三次元上に『抵抗無く割り込む』。
物体同士の衝突も反発も一切起きない。
するりと、『最初からその場にあったかのよう』に出現する。

より高次元の物体の方が、『存在』が優先されるのだ。


だが同じ十一次元からの物体が同時に重なれば?


当然『衝突』する。


転移途中の十一次元ベクトルの激突。
しかし転移作業はそのまま進み、その十一次元上の衝突エネルギーが三次元上に『変換』されて出現。

その異次元の力が、ストレートに溢れ出す。

これは結標も、試してみるまでは何が起こるかがわからなかった。
何かが起こるという事は予想できていたが、いかんせんかなり緻密な作業を必要とする為実際にはできなかった。

(転移のタイミングは完全に同一でなければならない。
 精神状態によって演算の時間的ラグが常に発生していた以前では、実験が不可能だった)
157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 01:03:33.75 ID:mRdgekMo
そして今、こうしてやっとその実験ができた訳だ。
結果は。

とにかく高濃度の得体の知れない『力』が、凄まじい勢いで放出された。
放出された、とは言うものの『爆発』とは言い難い。

エネルギーの伝播は空気を介すのではなく、空間そのものを介しているらしかった。
その為、俗に言われている『衝撃波』は発生しない。

更に一瞬で一定域の空間が『同時』に歪んでいるため、『伝播』と言えるのかすらも怪しい。
周囲の破壊の仕方も、『波』で押しつぶしていくのではなく、『同時』に崩壊させて『粉化』しているのだ。

その為、物体の姿を変えた粉が周囲に飛び散ることも無くその場に普通に降り積もる。

一方「おもしれェな」

結標「ま、指向性の『局点粉砕技』ってところかな」

結標「触れながらとか、手のすぐ近くに『点』を設定すればもっと威力増すみたいだけど」

一方「昔、一度だけ見たことあンぜ。前にテレポーターを反射した時もこォなった」

結標「…………具体的にどうなったの?」

一方「同じだ。そいつの体が崩壊して粉化した」

結標「…………………………まあそれはおいといて。それで何か見えた?エネルギーとかどう動いてんのこれ?」

一方「わかる事ァわかるが、説明しろっつゥのは無理だ」

結標「じゃあ、ネットワークにそのデータ流せない?欲しいんだけど」

一方「無理だ」
158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 01:06:16.58 ID:P6waZ.AO
大量にキタ━━━(゜∀゜)━━━!!
159 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 01:06:54.06 ID:mRdgekMo
結標「じゃあ…………今は1立方cmの大気を1000個、同点に転移したんだけど、」

結標「やっぱり転移物の質量が増せば範囲とか威力も増す?」

一方「当然」

結標「そう……それとさ、こういう局点的なのも使い勝手良いんだけど、『普通の爆発』は起こせない?」

一方「広域にエネルギーを『拡散』させてェのか?」

結標「そう。どーんといける手法も欲しいなって。コレだけのエネルギー、どうにか『拡散』させればかなり吹っ飛ばせるでしょ」

一方「なら『土台』は揃ってンだろ」

結標「?」

一方「物体を十一次元に通す時、『変換』してンだろォが」

一方「その『変換』を完全に掌握すれば良い。今のは、十一次元のエネルギーを強引に三次元上に『押し付けてる』だけだ」

一方「正しく『変換』し、出力の仕方を変えれば『拡散』させるも『圧縮』させるも思いのままだ」

一方「『拡散』させりゃァ、威力は落ちる代わりに広範囲を吹っ飛ばせる」

一方「『圧縮』させ一点集中させりゃァ、範囲は小さくなる代わりに局点の破壊力は増す」

結標「…………理論は何となくわかるけど、具体的にどうすれば良いのよ?」

一方「『力』を認識しろっつゥ事だ」

一方「『能力』じゃねェ。その能力を発動し行使する際の『力』、だ」

結標「……………………簡ッッッ単に言うわね」
160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/21(木) 01:10:53.64 ID:mRdgekMo
一方「簡単ではねェよ。力の『拡散』も『圧縮』も、俺もつい最近悪魔共と戦うよォになってから覚えたことだしな」

結標「………………ねぇぇーー、どうにかしてその『認識』、ネットワークに流せない?」

一方「無理だ。コレばっかりは自分で覚ェなきゃどォにもなンねェ」

一方「そこをマスターすりゃァ、『座標移動』つゥのは『オマケ』にしか過ぎねェくらィの力を行使できンぞ」

結標「オマケ?」

一方「一昨日の『クソ野郎』が言ってやがった。俺のベクトル操作も『オマケ』ってな。俺も今なら何となくわかる」

一方「つまりだ、オマェも俺もベクトル操作と空間操作っつゥ『アプローチ』は違うが『行き着くゴール』はほぼ同じもン、だって事だ」

結標「じゃあ何よ、私もいつか『そういう腕』みたいなのつけちゃう事になっちゃうの?」

結標「それは嫌よ。四六時中、長黒手袋付けてるような体なんて」

一方「あ゛ァ゛ァ゛???」

土御門「まあまあ………………とりあえずこれに目を通せば、アクセラレータの言いたい事がわかるぜよ」

そこで土御門が一つの丸まった書類を取り出した。
と、次の瞬間、彼の手からその書類がフッと消え。

結標「これは?」

金属塊の上の結標の手の中に移動していた。

土御門「…………『能力』についての色々な情報だ。アレイスターから貰った」

結標「…………アレイスターから?信頼性は?」

土御門「少なくとも俺達のお墨付きだ。見てみろ。お前にもかなり関係あるぜよ」

土御門「ま、俺はこれから『野暮用』あるから席を外させてもらうぜよ」

土御門「なんかあったらアクセラレータに聞け。『優先度第四位さん』よ」


結標「…………はあ?」

―――
161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 01:12:25.28 ID:mRdgekMo
今日はここまでです。
次は明日に投下したいと思っておりますが、無理だった場合は月曜の夜となります。
162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 01:16:15.29 ID:OjRbRFc0
乙です!
163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 01:21:08.11 ID:f2Md1A20
ハイパー乙!!
どうでもいいかもしれないが >>130の『ダントツのトップ』ってとこ
『ダントツ』はそもそも『断然トップ』の略だから意味が重複してる事になるよ
どうか明日来れますように
164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 01:29:56.52 ID:b11d96Ao
おつうう!確かに濃いな。楽しませてもらったっ
165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 01:34:06.85 ID:mRdgekMo
>>163
おおおすみません。
ご指摘ありがとう御座います。


それと修正です。
>>134の24行目、シェリーが抜けてました。
正しくは

現有イギリス戦力の中では、シェリー・シルビアかカーテナ装備の王家・騎士団長〜

となります。
166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 15:25:25.43 ID:OcIbKYAO
キャーリサのカタカナが何のことか分からんwwww
ググってきまーす
167 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 15:53:35.27 ID:cSBfusDO
これ読んでる人でDMCとベヨネッタ知らない人ってどれくらいいるんかね?
168 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 16:06:12.87 ID:j737mcDO
DMCはやったことあるけどベヨネッタはベヨネッタがガチムチの黒人とやりまくってる同人しか知らない
169 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:04:27.13 ID:ap56yVco
―――

とある病棟の一階のフロア。

ずらりと並んでいる長椅子の一つにて、『ジャッジメントから選抜されたテレポーター』、

白井黒子がボンヤリと天井を仰ぎながら座っていた。

つい先ほど、第二学区の地下演習場でテストを終えてきたばかり。
調整によって、新生した己の能力を実際に確かめてみたのだが。

黒子「…………」

はっきり言って想像以上だった。
自分自身が怖くなるほどに。

測定員達の話を聞くところによると、昨日の調整はAIM自体を強化するのではなく、
今まで垂れ流していたAIMを全て能力として扱えるようにしただけ、との事だ。
それが最適化、効率化だと。

つまるところ、元々このレベルの力の素養はあった、という事だ。
昨日の調整を受けなくとも、順当に成長していればいずれどの道到達していたと。

黒子「…………ふう…………」

ただ、順当にじわじわ成長していたらこんな違和感も感じなかっただろう。
いきなりドンと跳ね上がれば、やはりどことなく奇妙な感覚が纏わりつく。

ただまあ、大きな力と引き換えならば安いものだ。
170 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:07:12.60 ID:ap56yVco
とはいえ、かなり能力が強くなったものの、
経験からすると悪魔と戦うにはまだまだ心もとない。

黒子は思う。

この程度じゃダメですの。

こんな程度じゃ、お姉さまの傍では戦えませんの、と。

決定的な何かが足りない。
まだまだこれでは、御坂の隣で戦う事ができない。

だが、その打開策も無い訳ではない。
御坂にあのとんでもない銃弾を与えたレディ、という人物。

己も、御坂レベルとはいかないまでもああいう何かしらの武器が欲しい。
悪魔に対抗するための大きな武器が欲しい。


しかし御坂の話を聞く限り、到底黒子には資金的に手が出せないものらしかった。

御坂に直接掛け合い数発譲ってもらうにしても、
『お姉さま』は確実に追求してくる。

何に使うの?と。

そして必ず察知する。
黒子が『危険地帯』に行こうとしている事を。

黒子は、己がデュマーリ島に赴く事はなんとしても伏せておきたい。
御坂には絶対に知られたくない。

なぜなら。

あの優しい優しい『お姉さま』は必ず胸を痛め、
黒子の事をどうしようも無いほどに心配してしまうだろうから。
171 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:08:17.69 ID:ap56yVco
それとは別に一瞬、ほんの一瞬だけ、御坂の部屋に忍び込み、
バッグからあの銃弾を数発だけ『借りて』行こうとも思い浮かべてしまったが、
この黒子にそんな事ができる訳が無かった。

盗むという以前に、己が取ってしまった数発が、
いざという時の御坂の命を左右するかもしれないと考えると、絶対にできない事だった。

そうやって、少女はぼんやりとしながらも頭を悩ませていた時。

フロアの奥の方から足音が響いてきた。

黒子「…………」

足音は三つ。
一つは、かちゃかちゃと金属が軽くぶつかり合う音を伴っている。

そんな音に何気なく耳を傾けていた時。


「あ!!!!!」


その足音の方から響く、聞きなれた声。


「白井さん!!!!!」


黒子「(…………佐天さん……?)」
172 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:09:38.27 ID:ap56yVco

むくりと、ややだるそうに身を起こし声の方へと振り向く黒子。
ちょうど長い黒髪の友人、佐天が駆け寄ってくる最中だった。

そんな彼女の後ろを、優雅かつ力強く歩きながら付いてくる、
巨大なロケットランチャーを背負っているサングラスをかけた白人女。
その脇を、ちょこちょこと早歩きで付いてくる赤毛の幼い少女。

黒子「…………」

二人とも見覚えないが、その身なりと雰囲気で一瞬にして分かる。

悪魔関係の者達だ、恐らくダンテやトリッシュ繋がりの、と。


佐天「おはようございます!!!」

黒子「おはようですの」

佐天の相変わらずの元気溢れる笑顔とは対照的に、
苦笑いのような笑みを浮かべながら挨拶を返す黒子。

佐天「……あれ、どうしたんです?」

黒子「少しばかり、『お仕事』の疲れが残ってますの」

佐天「あ〜……お疲れ様です」
173 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:11:07.96 ID:ap56yVco
黒子はゆっくりと立ち上がり、緩やかな仕草で服の皺を整えながら。

黒子「え〜っと…………それで、その方々はどちら様ですの?」

佐天「あ、そうだ!紹介しますね!」

一泊置いた後、佐天の少し後ろに来ていた二人を、彼女は指しながら。

佐天「そっちの可愛い子がルシアちゃん!」

佐天の紹介に合わせ、ルシアがペコリと頭を下げ。


佐天「こちらが、レディさん!!!!御坂さんが言ってた方ですよ〜!」


レディは軽く口の端を上げた。


その『レディ』の名を聞いた瞬間。

黒子は目を丸くし固まった。
当然だろう。


黒子「―――」


つい先ほども、この女関係で色々と考えていたのだから。
174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:12:49.70 ID:ap56yVco
佐天「……………………白井さん?」


黒子「――――――」

佐天の呼びかけにも応じず、石化したかの如く固まり続ける黒子。

首を傾げるルシア。
レディも訝しげに目を細めたのがサングラス越しからでもわかる。

佐天「あのう……………………どうしt」

数秒間の沈黙の後、再び佐天が呼びかけようとした瞬間。


黒子「―――はぁあああああああああ!!!!!!!!」


彫像のような佇まいから一変し、凄まじい形相で声を張り上げながら跳ね―――。


レディ「―――」


レディの前に『平伏した』。

完璧に。

さながら、武士の世の忠臣が如く。
175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:15:01.85 ID:ap56yVco
佐天「え?!えええ?!!!し、白井さん!!!!??」

ルシア「…………?」

突然の友人の不可思議な行動に、思わず声を大きくして驚く佐天。
『新た』に目撃した、『人間の行動』にポカンとするルシア。

そして。

レディ「………………はぁ?」

いかにも、『何コイツ』とでも言いたげに眉を思いっきり顰めるレディ。


黒子「―――あなた様にお願いが!!!!この無精黒子!!!!一生のお願いがありますの!!!!!!!!!」

黒子はそんなレディに向け、平伏したまま声を張り上げた。

レディ「?」

だが日本語。
当然レディは全く分からず、更に『はぁ?』っと全く隠すことなく怪訝な表情。

ルシア「……こ、このお方が、お願いがあるそうです」

そんなレディに向け、ルシアが横から英語で補足。
176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:16:26.73 ID:ap56yVco
その英語の会話を聞いた黒子。
すかさず今度は英語でもう一度同じ事を口にした。

やはり日本人的な癖がややありながらも、即座に英語を口から奏でられるのは、
さすがは名門常盤台といったところだろうか。

当の黒子は英語をすんなりと口にできた事になど全く関心を寄せていなかったが。
それどころではない。

レディ「…………何の用?」

黒子「わたくしめ!!!あなた様の武器を買いたいんですの!!!!」

黒子「お姉さまに売っていただけた程の物で無くともいいので!!!!」

黒子「お一つ!!!!お一つだけでいいですのでお売りになって下さいまし!!!!!」

レディ「姉?」

黒子「常盤台の超電磁砲、御坂美琴お姉さまですの!!!!」

レディ「あ〜、ミコトちゃんの妹か。似てない姉妹ね」

レディ「それで武器は何?どんなの?」

黒子「…………このような物を」

黒子は恐る恐る顔を上げながら、太もものベルトから一本の鉄釘を抜き取り、
上納品を差し出すかのように頭の上に掲げてレディに見せた。
177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:18:27.16 ID:ap56yVco
レディ「……釘?どうやって使ってるの?」

黒子「わたくしめの能力で飛ばしますの。テレポートですの」

レディ「へぇ……アンタも能力者ね」
                                  ゴールド
レディ「で、予算は幾らあんの?ドルで。『 金 』が一番好きなんだけど、まあそこまでは期待しないわ」

黒子「…………ドル換算ならば……今すぐにお支払いできるのは××××ドル程ですの…………」

レディ「…………」

そこでレディはピクリと眉を動かした。
御坂に撃った弾よりも少し格下げした物が一つだけしか買えないレベルだ。

中学一年生にしてはかなりの額だが、レディにとってははした金同然。
取引する気すら起きない、興味が一切沸かない商談だ。

普段なら一笑し、『舐めてんの?』と吐き捨てる程度のだ。

レディ「…………」

だがこの時は、レディはそうはしなかった。

眼前にて平伏し、半ば潤みかけた瞳で己を見上げている少女。
もう退くことができない、何かにすがりつくような眼差し。

こんな目を向けられてまで、『残念でした』と見捨てるほど彼女の心は冷酷ではない。
いや、むしろこういう目が大好きだ。

儚い『弱者』でありながらも、なりふり構わず強引に進もうとするその少々危なげな心意気。

レディ「へぇ…………」

黒子を見下ろしながら、
『オッドアイ』の『人間最強』のデビルハンターは小さく笑った。

十数年前の、若き『オッドアイの誰か』さんもこういう目をしていたんだろうか、と思いながら。


こういう目で、同じく若かったあのスパーダの息子に詰め寄ったのだろうか、と。
178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:21:22.78 ID:ap56yVco
黒子「…………」

レディ「ちょうど良い有り合わせが無くて、今はこれぐらいしかないんだけど」

暫しの沈黙の後、レディは背中からロケットランチャーを降ろし。
ランチャーの尻の部分についている巨大な弾倉を開け、そこから一本の大きな黒い金属製の杭を引き抜き、
黒子に見せるように掲げた。

それは長さ20cm、太さ5cmの大きな杭。
表面には得体の知れない紋様が刻み込まれていた。

これはレディのランチャーから射出する為の杭。
以前、上条に対しても似たようなのを使ったが、今手に持っているのはそれよりも更に強力なもの。

レディの、『本気の勝負用』弾頭だ。
当てることさえできれば、大悪魔にも充分過ぎるほど通用する代物だ。

当然、黒子はその弾にどれ程の技術が集約されているかなど知る由は無いが、
御坂の弾よりも明らかに高価そうなのは誰が見ても一目瞭然。

黒子「………………………………お幾らで……ありますの?」

恐る恐る値を聞く黒子。


レディ「私が使う為の特製品だから、本来は売り物じゃないのよ」

そして帰って来た答えの値は。


レディ「まあ『もし』、『もしも』値をつけるとしたら…………一本×××××××ドルくらいかしら」


桁が違っていた。


黒子「――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!」
179 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:23:11.50 ID:ap56yVco
レディ「どう?これしかないけど?」

硬直する黒子に、ニヤリと悪戯っぽく笑みを浮かべながら声を飛ばすレディ。
これはある種のテストだ。

とても身の丈に合わない、後の人生が潰れてしまいそうな重い『借し』を背負ってまで前に進む覚悟があるのか。
なりふり構わず前に進もうとする信念があるのか。

黒子「―――」

いくら『お嬢様』といっても、とても中学生では背負いきれない金額。
レベル5の御坂が異常なだけであって、さすがの常盤台の生徒でもそんな額などポンと出せるわけが無い。

しかし。

黒子「―――わかりましたの―――」

黒子は即答した。
迷い無く。

その『程度』で揺らぐ程ヤワな決心では無い。


黒子「お代金は必ず―――何十年かかかってでも必ずお支払い致しますの―――」


黒子「この身、臓物を売ってでも必ず―――」


そして黒子は再び頭を下げ、その額を背負う事を誓ったが。
思わぬ返答がレディから帰って来た。


レディ「あ、勘違いしないで。さっきのは『もし値を付けたら』の『if』だから」


黒子「―――は……ぃ?」


レディ「―――これは『売らない』」
180 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:24:16.63 ID:ap56yVco
黒子「―――そ、そんな!!!!!!!!!!」

ニヤニヤと意地が悪そうに、ケロリと『売買』を断るレディ。


レディ「毛も生えてないようなチビが、この私の『スペシャル』な非買品を『買い取ろう』なんざ10年早い」

レディ「普通に『売る』と思ってんの?返済能力がどう見ても無さそうなガキに」

レディ「残念だけど、『貧乏人』は相手にしないの」


黒子「―――」

告げられる冷酷な言葉。
だが、そんな言葉とは正に矛盾している行動をレディは取り始めた。

その手に持っていた大きな杭を乱暴に。

黒子「―――え?」

黒子の前に落とし。


レディ「だから―――」


更にベルトのバックパックから、刃渡り5cm程の投擲用のナイフを5本取り出し。
同じく黒子の前に投げ落とした。

黒子「え?はい?は?」

レディの行動の意味がわからず、キョトンとする黒子。



レディ「―――今は『試供品』で我慢してね。おまけも付けとくわ―――」


そんな黒子に向け、小首を傾げながら相変わらず意地が悪そうに小さくレディは笑った。


レディ「―――意味、わかる?」


黒子「――――――」


―――
181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:27:18.67 ID:ap56yVco
―――

学園都市、とある病棟の一室。

そのドアの前に、赤毛の長身の男とつんつん頭の少年が突っ立っていた。
ドアに背を向け、さながら門番のように。

上条「……」

ステイル「……」

なぜ二人がこうして、無言のまま突っ立ているのか。
それはインデックスが着替えているからだ。
今朝洗い上がり乾いたばかりのいつもの修道服に。

上条「…………」

ステイル「…………」

それを無言のままただ待つ、人の域を超えた感覚を持つ二人。
そんな彼らの耳に入る、背後の室内から聞こえてくる衣擦れの音やインデックスの息遣い。
悪魔的な感覚で、例え目で見ずとも気配で彼女が今どんな動きをしているか、
どんな姿勢なのかが手を取るように分かってしまう。

上条「…………………」

ステイル「…………………」

彼女の白い素肌が、このドアの向こうにある―――
彼女の美しい髪が、その白い肌と共に解放されている―――という煩悩が二人の中で渦巻く。

悪魔の超感覚は、こんなところでもウブな若者を『苦しめて』しまっていた。

いや、無視すれば良いではないか と言ってしまえばそれまでなのだが、二人にとってそれは不可能に近い。
いかんせん、二人とも彼女に心奪われているのだ。

どうしようも無いほどに。
182 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:29:46.60 ID:ap56yVco
上条「…………」

ステイル「…………」

上条「……………………………………ステイル」

ステイル「…………何だ?」

上条「……………………しりとりでもしないか?『暇』だろ」

ステイル「………………………………ああ、それは『名案』だな。付き合ってやっても良い」

と、ちょうどその時。

『苦しい暇』を持て余していた二人に助け舟が到来する。

上条「……お」

廊下の先から、ニヤつき手を小さく振りながら進んでくる金髪サングラスの『親友』。

土御門。

ステイル「…………あの顔に救いを見たのは初めてだな」

そんな彼の姿を見て、ステイルが皮肉を篭めて小さく呟いた。
183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:30:57.02 ID:ap56yVco
土御門「おはようさん」

上条「おう、おはよう」

ステイル「やあ。助かったよ」

土御門「?」

上条「いや、こっちの話だ」

土御門「……つーか、どうしたんだにゃー?ゲッソリしてこんなところに突っ立って」

上条「…………今、インデックスが着替えてる」

土御門「……………………あ〜、なるほど。悪魔もツライもんだな」

ステイル「それよりもだ。何しに来た?」

土御門「うおい、その言い草はひどいぜよ。友達に朝の挨拶しに来て悪いかにゃー?」

ステイル「どうせ君の事だ。用件はそれだけじゃないだろう?」

土御門「はは、おっしゃるとおりで」
184 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:32:11.66 ID:ap56yVco
土御門「よしよし……こいつをな…………」

一泊おきながら、おもむろにポケットを漁り丸まった一束の書類らしきものを取り出す土御門。
そしてそれを広げながら二人に見せるように突き出し。

土御門「インデックスに見てもらいたいんぜよ」

さらりと告げる。

その書類らしきもの、広げられてみると実は航空写真のようなものだった。

上条「……これ、何だ?」


土御門「デュマーリ島」


ステイル「…………ッ……これが……」

土御門「あ〜、聞いてるよな、天の門がどうのこうのって話は」

上条「ああ、それなりに」

土御門「そいつを開く術式が、この島のどこかにある『かも』しれないんだぜよ」

上条「―――!」

土御門「だから、インデックスにも目を通してもらいたい」
185 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:34:54.42 ID:ap56yVco
上条「……なるほど…………」

ステイル「…………それで、発見できた場合はどうするんだい?まだそこは詳しく聞いてなかったが」

土御門「んまあ、発見『してもしなくとも』、能力者の部隊をデュマーリ島に投入するって段取りだぜよ」

上条「能力者の部隊?」

土御門「通常兵器がほとんど効果が無いのは知ってるだろう?だから能力者だ。『力』には『力』をってな」

ステイル「それはわかるが、術式を発見できなければ送る意味が無いんじゃないか?」

土御門「いんやあ、妨害して時間稼ぎはできる。レベル5、それもアホみたいに強化された『三人』も行くしな。戦力的には充分だぜよ」

上条「アクセラレータも行くのか?」

土御門「いや、アイツは学園都市で仕事がある。詳しくは聞いてないが、アレイスターと『共同』の作業があるらしい」

上条「じゃ、じゃあまさか御坂が!?」

土御門「レールガンも行かない。『ベオやん』とは面識無い三人だぜよ」
186 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:36:57.42 ID:ap56yVco
上条「……………………」

土御門「で話を戻すが、デュマーリ強襲と同時進行で、アレイスターが学園都市側からも手を撃つらしいぜよ」

土御門「元々そっちが本命で、強襲作戦はその時間稼ぎが主目標ってわけだ」

ステイル「アレイスターが?信用できるのか?」

土御門「こればっかりは信用するしか無いだろ。あの野郎も今回はマジだと思うぜよ。あのアレイスターが珍しくキレ気味だったしな」

土御門「切羽詰ってるあの野郎を見るのは初めてだったにゃー。何せ俺達に協力を素直に頼み込んでくるくらいだったからな」

ステイル「…………そうか……君も行くのか?」

土御門「そうだにゃー。明後日か明々後日に出撃だ」

上条「………………………………………………………………なあ」


土御門「ん?」



上条「―――――――――俺も行く」



ステイル「…………………………………………はぁ?」
187 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:38:12.96 ID:ap56yVco
ステイル「―――」

上条の唐突な言葉。
ステイルは否が応にも思い出してしまう。

上条はこういう男だ、と。
いや、普通に考えれば予想できただろう。

上条が土御門の話を聞いて何を思うかが。

これが上条の強さの源であるのは確かだろう。
とにかく前に進む。
とにかくやってみる。

誰かが戦いに行くのを黙って見てはいられない、と。

だが、これが彼の一番の『危うさ』でもある。

『危うすぎる』。



ステイルとしては、上条を絶対に行かせるわけにはいかない。


何せ彼はインデックスの―――。
188 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:40:16.20 ID:ap56yVco
ステイル「――――――ふざけるな!!!絶対にダメだ!!!!」


上条「わかってる!!!何でダメかは!!!だがよ!!!!」


上条「術式ってんなら俺の右手が切り札になるじゃねえか!!!!」


上条「黙ってられるかよ!!!!!!この右手を持っておいといて傍観なんかできねえ!!!!!」


上条「―――俺にも戦わせろ!!!!!!!!!!!!!!」


ステイル「ダメだ!!!」

上条「俺の右手が天の門の解放を防げるかも知れねえんだ!!!!それに自意識過剰じゃねえが俺は戦力にもなる!!!!!」

上条「天界云々はインデックスにも関係が―――!!!!」

ステイル「大有りだ……!!!!!……大有りだ。だが―――」


ステイル「―――君はまたインデックスの傍から離れる気か?」


ステイル「―――先日あんな事があったのにまだそう言うのか?」



上条「―――ッ……」
189 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:41:57.54 ID:ap56yVco
ステイル「それに相手が相手だ。右手で触ってすぐカタが付くとは到底思えない」

ステイル「そしてあそこは大悪魔が徘徊しているかもしれない魔境らしいじゃないか」

ステイル「そんな地獄に君を送り出す訳にはいかない」


ステイル「君を『失わせる』訳にはいかない」


上条「……………………」

土御門「…………もしステイルが許可を出しても、俺は連れて行かない。かみやんは残るんだ」

土御門「言ったろ?向こうで術式が壊せなくたって問題ない、学園都市の方でも策があるって」

土御門「元々、デュマーリ強襲作戦は術式が壊せない事を一番の前提として練られてる」

土御門「術式破壊はできたらの目標」

土御門「メインは妨害・時間稼ぎだ。わざわざかみやんが行く必要は無い。戦力は充分だ」

上条「…………」

ステイル「インデックスはまず君を止めはしないだろう。『今』の彼女は、君が望むなら何も言わずに従うはずだ」

ステイル「だが彼女のその好意に『甘える』な。これ以上彼女に…………彼女の心に負担を与えないでくれ」

ステイル「『君』は、やっと彼女が手に入れた『居場所』なんだ」


ステイル「頼む。君の安寧を祈らせるような事はさせないでくれ」


上条「…………」



土御門「かみやんの悪い癖だにゃー。一人で全部やろうとするのは」



土御門「たまには頼りにしてくれ。同じ志の戦友を」

上条「…………………………………………………………………………わかった……」
190 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:43:56.16 ID:ap56yVco
と、三人がドアの前でそうしていたところ。

そのドアがゆっくりと開き、

インデックス「終わったんだよ〜」

ひょっこりと、修道服に着替え終わったインデックスが顔を出した。

ステイル「…………ああ、土御門が君に手伝って欲しい事があるらしい」



インデックス「うん、『聞こえてた』。良いんだよ」


上条「…………………………………………」

ステイル「…………………………………………」

『聞こえてた』。
その言葉に押し黙ってしまった二人。

そんな彼らとは正反対に、何事も無かったかのようにいつもの笑みを浮かべながら。

土御門「それなら話は早いにゃ〜」

インデックスに写真を差し出す土御門。

彼女はそれらを受け取り、
水晶の様に透き通り美しい目を大きく開き、一枚一枚を綿密に解析していく。

そしてしばしの後。

彼女は一枚の写真、デュマーリ北島の大都市の全体を写した写真で目を留めた。

インデックス「…………何か書くものあるかな?」

ステイルが袖から出した小さな鉛筆を受け取り、
彼女は写真をドアに押し付けて、その上に何やら描き始めた。

インデックス「ここ……こう…………こうなって」

まず、都市全体をキャンバスにする程の直径5kmにもなる大きな円。
その曲線上に、等間隔で小さな○マーク。

そして、あちこちに奇妙な文字らしきものを書き込んでいった。
191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:45:48.23 ID:ap56yVco
土御門「………………」

彼女が何かを見つけたのは確かだろう。

だが魔術に精通している土御門でさえ、何を描いているのかは検討も付かなかった。
まず一番最初の円。

『円』は魔方陣の基本。
あらゆる術式の土台。

だが今インデックスが描いた円は、土御門からすればどう見ても何かをなぞったり結び付けているようには思えなかった。
都市の構造物とは全く関係なく、ただ単に落書きでもしているかのような。

続けて書き足していくのも、いまいちピンと来ない。
少なくとも土御門の知識の中には、このような形式は存在していない。

土御門「…………」

インデックス「ほんの微かにしか見えないけど…………確かに『何か』が隠されてる」

インデックス「それが何なのかはわからないけど…………何かの魔術的意味を持った構造体なのは確実みたいかも」

インデックス「エノク語だと思われる因子があるんだよ」

インデックス「意味はわからないけど、『法の書』の中に記述されてた文字と同じ形のがいくつか」
192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:52:12.40 ID:ap56yVco
土御門「……となると、これが天の門を開く術式か?」


インデックス「……うーん…………それはわからないんだよ……別の用途の可能性もあるし」


インデックス「それと、術式にも見えるけど『何かの建築物』を『真上から見た図』ともとれるんだよ」


インデックス「…………あ……『設計図』とかかも」


土御門「建築物の?設計図?」



インデックス「そう。私の感覚からだと、大きな『円形ホール』を上から見た図で―――」



インデックス「―――外周部には『柱』か『像』がたくさん並んでるんだよ」



土御門「何かはわからないか?どんな小さなことでも良い」

インデックス「…………ごめん……」

土御門「…………そうか。とりあえず何かあるのは間違い無いんだな?」

インデックス「うん。あとこれが何にせよ、とても普通の人間が扱える代物ではないんだよ」

インデックス「間違いなく神の領域のものだよ」

インデックス「前にバージルが私から抜き取って使った、魔帝の封印を解くような水準の」

土御門「……それで、ランドマーク(地表の目印)はあるのか?」

インデックス「あるよ」

インデックス「私がマークしたところ、座標は間違いないから、あとでもっと大きな写真と照らし合わせればいいんだよ」

インデックス「そうすれば位置をちゃんと特定できると思うから」
193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:53:51.51 ID:ap56yVco
土御門「OK、助かったにゃー。これから詳しく調べるが、とりあえず得る物はかなりあったぜよ」

土御門「何かが見つかっただけでもかなりの前進だ」

インデックスから写真を受け取り、丸めて再びポケットに突っ込む土御門。

土御門「さーて、俺は忙しいからここらで」

土御門「また後で、暇があったら顔をだすにゃー」

そして相変わらずのノリで簡単な挨拶をすると、足早にその場から離れていった。

上条「…………」

ステイル「…………」

その土御門の背中を見送りながら、同じく相変わらず押し黙っている二人。
さっきの言い合いが明らかにインデックスに聞かれていた事で、二人ともかなり居心地が悪かったのだ。

とにかく己の短絡さを呪う上条とステイル。
普通に考えれば聞かれてしまうのは当たり前なのに、と。


禁書「あ、さっきの事なんだけどね」


そんな二人に向けてインデックスが。
特に気にすることなく、これまた天使のような笑みを浮かべ。



禁書「私はね、何も『言わない』んだよ」


優しく、穏やかな声で告げた。

上条「…………」
194 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:55:13.33 ID:ap56yVco
『何も言わない』。

ステイル「…………」

これは決してどうでも良いという事ではない。
上条が決める事には何も文句を言わない、という事だろう。

つい最近まで、インデックスは上条の行動に悉く文句を付けたりしていた。
もちろんそれらも上条の身を案じてだ。

だが、今回の騒動で上条への思い方は彼女の中で更に『進化』してしまったらしく、
本当に『天使』のようになってしまったのだ。

上条がYESと言えばYES、NOと言えばNO。
正に上条の全てが彼女にとっての全て、だ。

ステイル「…………」

彼女が上条にここまでの幸せを感じているのなら、
これほどまでの拠り所を彼の中に見出したのならば、それは最高に素晴らしいことだ。

だがステイルはこうも思ってしまった。

どいつもこいつも己の身を省みない者ばかり。
何かの為に全てを賭けようとする自己犠牲心の塊。
少しくらい『わがまま』に、己の望む事だけに素直になったらどうだ、と。

たまには、そのとんでもない心の力を『己のみ』の幸せに傾けたらどうだ、と。

前のように『お腹がすいたー!!!!』と喚き散らしたり、上条に縋りよって『行かないで!!!』と言ったりすれば、と。

どいつもこいつも正に『聖人』なみの清さ、清すぎる、と。

尤も、ステイル自身もそう言えた口ではないが。

というかここまでインデックスの事を案じるのも、
まさしくステイルの思う『どいつもこいつも』なのだが。


そんなステイルの思いなど気づかずに、インデックスは軽い足取りで前に歩み出て。

禁書「さ、私達はトリッシュのところにいこ!今日もお仕事があるんだよ!」

二人の方へ振り向き、春の優しい太陽のような笑顔と透き通った声を振りまいた。

ステイル「…………ああ」

上条「…………おう。行こうぜ」
195 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:57:20.90 ID:ap56yVco
病棟の静かな廊下を進む土御門。

彼はポケットの中に入っている写真を意識していた。

何かの、神の領域の術式がある可能性大。
かなり素晴らしい情報だ。
これ自体が天の門を開く術式ではないにしても、重要なのは確実。
少なくとも妨害の為の大きな目標物となる。

ちなみに。

先ほど上条には、術式破壊は二の次という風に言ってしまったが。

あれはやや過剰表現だ。
というか、上条を説得させる為の嘘だ。

時間稼ぎ、と言っているのはアレイスターであり、土御門達はそうは思ってはいない。
彼らはこう思っている。


何が何でも術式を破壊せねば、と。


まあ、それと上条がデュマーリに行くかどうかはまた別の問題だが。

土御門「…………」

廊下はシーンと静まり返り、無人と思ってしまいそうなぐらい静かだ。
悪魔ならそれなりの人の気配や音を感じるのだろうが、ノーマル人間の土御門にとっては静寂そのもの。
聞こえるのは、己の響く足音だけだった。


廊下の突き当たりの角を曲がる直前までは。
196 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 00:58:39.37 ID:ap56yVco
角に差し掛かったその瞬間。

パチンと鳴る、小さな何かの炸裂音。


そう、火花が散ったような―――。


土御門「…………」

そして角の向こうから聞こえる。


「ちょっと良い?」


女の声。


土御門「あ〜、どちらさんかにゃー?」

そんな言葉を発しながらも、
直前に鳴った音とその声を聞き、角の向こうに何者がいるか即座に判別した土御門。
相変わらずのノリでその角の方へと歩き進んで行き。

腕を組みながら壁に寄りかかっている茶髪の少女を横目で一瞥した。



土御門「おお、これはこれは―――麗しの『レールガン』」
197 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 01:00:14.99 ID:ap56yVco
御坂「………………少し話さない?『さっき』の事」


土御門「さっき?さあ、何の事だがさっぱりわからないぜよ」

御坂「とぼけないで…………あれだけ大声で言い合ってたら嫌でも聞こえるわよ」

土御門「ま、それもそうか……………………で、俺に何の用かにゃー?」

御坂「そのデュマーリ島云々の話、詳しく聞かせて」


御坂「それと―――」



御坂「―――『一つ』、『席』空けてくれない?」



土御門「………………お前には声はかかって無いんだぜい?」


御坂「―――私も『同じ志の戦友』」


御坂「たまには休んでもらって欲しいの。当麻には」
198 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 01:02:04.90 ID:ap56yVco
土御門「お前は『かみやん付き』っていう任務が継続中だろう?」

御坂「そう、私は当麻の世話係。護衛からご飯作り、洗濯からお使いまで。いわば当麻専用の『何でも屋』」

御坂「だからコレもその一つ。当麻が動けないのなら、代わりに私が行くべきでしょ」

土御門「……超拡大解釈だな。ま、その気持ちは素晴らしいと思うがな、生憎戦力は整ってる」

土御門「向こうに行くレベル5三名だって、『普通のレベル5』じゃあない」

土御門「どいつもこいつも『化け物』揃いだぜよ。それにお前はかみやんのような『手』は無い」


御坂「でも『コレ』がある」

と、そこで御坂は腕組していた手を外し、右手を軽く掲げた。
その指先には。

レディ製の12.7mm魔弾。


御坂「『コレ』、欲しくない?確かに私は、化け物面子に比べれば総合的に力はかなり低いけど―――」


御坂「―――『矢』が最高レベルなのは自負してるわよ。特に悪魔に対しては―――ね」


土御門「…………そいつは確かに『おいしい』ぜよ…………OK、とりあえず『検討』しとく」

御坂「うん、ありがとね」

土御門「………………もちろんかみやんには内緒かにゃー?」


御坂「当然」


―――
199 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 01:03:09.47 ID:ap56yVco
今日はここまでです。
次は月曜の夜に。

ただ、もしかしたら明日の夜七時くらいに少し投下するかもしれません。
200 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 01:11:35.24 ID:ceHToh2o

さあもりあがってまいりました
201 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/22(金) 01:59:15.47 ID:rJF1Kk60
乙!
きてくれたー!
これは明日も超待機だぜ
202 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 13:14:55.51 ID:48T2HIDO
インデックスさんマジ天使
203 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 16:23:36.68 ID:Yk7TcsDO
削板は今どこに行っちゃったんだ?
四番目なのに強化される様子もないし
204 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/22(金) 17:02:35.60 ID:i.rrDIAO
戦力外通告?
205 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 19:09:10.16 ID:ap56yVco
削板は学園都市にて何も知らずにすごしてます。
アレイスター的には、万が一の学園都市の防衛兵力です。
何かがあったら放し飼いにする感じで。


原石であり発見時からある程度完成しちゃってた削板は、
プランの素材としては不適ですので、AIM強度は四位でありながらもプラン優先度は53位となっております。

アレイスターがプランの為に0から作り上げた『人工能力者』・一方通行や未元物質、
サブの御坂や麦野、滝壺と結標もいましたので、
わざわざ未知の原石を解析して使う必要が無い、という事です。

ですから本腰入れての実験開発・調査も行われませんでしたし、
そこに起因したデータ不足で強化や調整もできない、と。

いわば、アレイスターにとってはいてもいなくてもイイ子です。

では投下します。
206 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:10:33.06 ID:ap56yVco
―――

某大陸沿岸部の都市の一画に広がる、
広大なスラム街。

その荒んだ街の中にある、とある小さなバー。

『ゲイツ・オブ・ヘル』。

店内には今、二人の男がいた。
カウンター向こうで、グラスを磨き丁寧に並べているこの店のマスター、ロダン。

そして彼の馴染みの客であり、ツケと言う名の無銭飲食の常習犯、ダンテ。

ロダン「………今日は何の用だ?ベヨネッタをここで待ってたって無駄だ。アイツはしばらくは来ないぞ?」

ダンテ「そおじゃねえ。あの後、昨日一日考えててな。それでまたいくつか聞きたい事が出たんだ」

ロダン「……言っておくが、俺は中立だからな。どこの側にもt」

ダンテ「そう言うな。人間界に店を構えてる以上、お前にも関係あるだろ」

ロダン「…………なるほど」

ロダン「仕方ねえ。できる限りは協力してやろうじゃねえか」

ロダン「こっちとしても金を全く落としていかねえ奴はさっさと追い出したいんでな」

ロダン「何が聞きたい?」


ダンテ「セフィロトの樹。こいつを『切断』すればどおなる?」


ロダン「………………」
207 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/22(金) 19:11:33.97 ID:I6j6rQg0
削板は能力もよくわかんないし行ってもどうなるか計算できないから加えてないのかな
208 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:11:57.27 ID:ap56yVco
ロダン「…………それは言葉通り繋がりを『ぶった切る』のか、それとも『破壊』なのかどっちだ?」

ロダン「具体的にどう『切る』かでも大きく変わる。それにそもそも、アレを切るなんざ不可能に近いぞ?」

ダンテ「バージルが切りたがってるらしい」

ロダン「……閻魔刀か。それならば『刃』はあるな。だがバージルと言えどもそれだけじゃあ無理だ」

ロダン「セフィロトの樹はな、天界の者にしか認識できん。こればっかりは、いくら強力な『刃』があっても無理だ」

ダンテ「そこを解決する方法も、バージルは手に入れたらしいぜ。まだ確認はしてねえが多分な」

ロダン「どういうことだ?まさか上位の天使を寝返らせたとかか?」

ダンテ「イギリス清教に天使がいたろ?」

ダンテ「ヴァチカンで魔女と戦った後、『行方不明』だ」

ロダン「…………なるほどな…………とりあえずそのお前の推測が正しければ、」

ロダン「バージル達はセフィロトの樹を切る『刃』と『認識』を手に入れているな」

ダンテ「これでバッサリいけるだろ?」

ロダン「…………いけることはいけるがな」

ダンテ「……まだ何かあるのか?」


ロダン「切断『は』可能だ。『単純』に切断するだけならば、な」
209 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:13:42.84 ID:ap56yVco
ダンテ「…………どういう事だ?」

ロダン「『アレ』は下手に切るととんでもない事になる」

ロダン「『構造』を理解していなければな。そして『切る場所』を選ぶ必要がある」

ダンテ「…………」

ロダン「セフィロトの樹はな、ただの魂を吸出し管理する為の『パイプ』でも『操作用通信線』でもない」

ロダン「その機能は無数にある、巨大な『多目的複合システム群』だ」

ダンテ「…………もうちっとわかりやすく頼む。重要なところだけをな」

ロダン「……セフィロトの樹の大きな役割の一つにな、人間達への『力場』の提供がある」

ロダン「大昔にこの人間界の『力場』が封印されたのは知っているな?」

ダンテ「サラッと聞いた。詳しくは知らねえが」

ロダン「その時、魔や天と繋がっている者達を省き、一介の人間達は『存在する土台』を失った訳だ」


ロダン「力場が無くなる、という事はその世界の『理』が消失する。残るのは空洞化した無の空間だけ。虚無だ」


ロダン「生も死も無い。足場を失った生命はその存在を保つ事ができなくなる」


ダンテ「…………」

ロダン「そこでだ。それを免れるため、天界は人間達に『仮の力場』を用意した」

ダンテ「…………」

ロダン「つまり、今は『天界が人間達の力場』代わりとなっているという事だ」

ロダン「ま、一介の人間達を繋ぎ止めておく『生命維持装置』みたいなもんだ」

ダンテ「『死ねば天に召される』って言うしな。この言い方もあながち間違ってなかったって訳か」
210 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:14:53.89 ID:ap56yVco
ロダン「ここまでくればわかるな?」

ロダン「セフィロトの樹は『人間の存在』を証明する命綱でもある」

ダンテ「…………」

ロダン「アレを丸ごと切っちまったら、当然天界の力は弱まるが大半の人間達も消滅する」

ダンテ「…………………さっき言ったな、『切る場所を選ぶ必要がある』って」

ロダン「…………そうだ。セフィロトの樹を切断する、と言っても天界への『魂の供給線』を切るのか、」

ロダン「人間への『テレズマの供給線』か、または魂の『支配線』を切るか」

ロダン「それとも、『力場への繋がり』を切るのか。どれを切るかで結果は千差万別だ」

ロダン「そしてその選別に必要なのが―――」


ロダン「―――セフィロトの樹の『設計図』、もしくは『構造図』」


ロダン「とにかく、アレの内部を全て把握できなければな。『刃』と『認識』だけでは手を出せねえ」


ダンテ「…………」

ロダン「いいか、コイツは人間の脳や心臓の手術をするようなものであり、慎重かつ正確な作業が必要だ」


ロダン「バージルが、一般の人間の事なんざどうでも良いってんなら話は別だが」
211 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:15:49.18 ID:ap56yVco
ダンテ「…………へっへ……なるほど……」

その時、ダンテが小さく不敵な笑みを浮かべながら呟いた。
ここまでの話を聞き、彼の中での空いていたピースが埋まり始めたのだ。

彼はまた一つ、とある確信をもった。

バージルの『あの行動』の意味が繋がった。


なぜバージルは―――。


―――フィアンマにインデックスを攫わせようとしたのかが。



ロダン「………………何かあるのか?」


ダンテ「対象を『見ただけ』で術式構造を『全て解析』できる『目』ってのはどうだ?」



ダンテ「『一目で構造図が手に入る目』、それと『天使の認識』と『閻魔刀の力』―――」



ダンテ「―――これでセフィロトの樹、好き勝手弄れるだろ?」


ロダン「…………それならば問題無い」

ダンテが何を指して『目』と言っているのか、
その意図を悟ったロダンも薄く笑いながら言葉を返した。
212 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:16:52.78 ID:ap56yVco
ロダン「そうなると前みたく、『目』に記録されてるフォルトゥナ製の『トンデモ術式』も目的の一部かも知れねえ」

ダンテ「使えるのあるか?」

ロダン「魔剣精製、界の封印式等々、人間には扱えんがバージルなら余裕で起動できるのが目白押しだ」

ロダン「それらにちょっと手を加えりゃあ、様々な用途に使えるしな」

ロダン「それでだ。その『目』、今はどこにいる?」

ダンテ「学園都市だ」

ロダン「なるほどな。近い内、再びバージル達は何らかのアクションを仕掛けてくるぞ」

ダンテ「それは間違いねえな」

ロダン「注意しとけ。まあ、これでとりあえずアイツの行動と目的の一部が固まったな」

ダンテ「…………『一部』だがな」

ダンテはポツリと、もう一度ロダンの言葉を強調しながら復唱した。

そう、まだわかったのは一部だけ。

最も重要なのは、バージルは何を目的としてセフィロトの樹を切るか、だ。

何がしたいのか?
切断してその後は?

ロダン「問題は、セフィロトの樹に手を加えて何をするか、だな」

ダンテ「いや」

ダンテ「アイツは最終的にセフィロトの樹を全部切っちまう気だ。丸ごとぶっ壊すつもりだろ」

ロダン「…………何だと?さっき言ったとおり、んな事しちまったら人間は死ぬぞ?何を根拠にしてる?」

ダンテ「勘だ」

ロダン「…………」
213 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:17:46.70 ID:ap56yVco
ダンテ「……もう一度確かめさせてくれ」

ダンテ「セフィロトの樹を全部切っちまったら、人間は死ぬんだな?」

ロダン「もちろんだ。部分部分の切る順序を問わず、最終的に全部切断しちまったら結果はそうなる」


ダンテ「…………『力場』を失ったからそうなるんだな?」


ロダン「そうだ」


ダンテ「―――へっへ、そうかい。じゃあつまりだ―――」




ロダン「―――『新しい力場』を与えれば問題は無えって事か?」




ロダン「………………………………そう来たか」


ダンテ「これで人間は死なねえだろ。むしろ―――」



ダンテ「―――天界から完全に『解放』されて『万々歳』じゃねえか?」



ダンテ「みんな『ハッピーエンド』だろ?」



ダンテ「どうだ?」
214 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:19:03.43 ID:ap56yVco
ロダン「…………」

ダンテ「ん?問題ねえだろ?」

ロダン「まあ…………『理論的』にはそうだな。『理論的』には」

ダンテ「あ〜、まーたこれにもなんかあるのかよ」

ロダン「ありまくりだ」

ロダン「新しい『力場』を作るという事は困難だ」

ロダン「魔帝の創造でも不可能だ。生命が宿り輪廻する一世界、『界と力場』を『セット』で創るとすればジュベレウスしかできねえ」

ロダン「そのジュベレウスの力も、光の右目が完全に破壊されちまった以上、もう存在しない」

ダンテ「いや、何も新しく作らなくていいだろ。封印されてた元の人間界の『力場』を割り当てれば」

ロダン「ダメだ。『あのまま』繋げても機能しねえ。なにせ―――」


ロダン「―――あの『力場』は既に『死んじまってる』からな」


ロダン「あそこは今や『ただの墓場』に過ぎねえ。古の神々の『残留物廃棄場』だ」

ダンテ「…………じゃあ新しく作るのは?可能だろ?天界がそうしたんだからよ」

ロダン「厳密に言うとアレは新しく作った訳ではねえ。元からあった天界の力場を少し調整して繋げただけだ」

ダンテ「…………あ〜、めんどくせえな。はっきり聞くぜ。さっき理論的に可能つったな?どおすれば可能だ?」


ロダン「…………唯一の方法は…………封印されてる人間界の力場を『再利用』することだ」
215 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:20:12.66 ID:ap56yVco
ダンテ「ん?さっき言ったじゃねえか?あれは使えねえって」

ロダン「『あのまま』だと、だ。『再利用』すれば使える。『再利用』ならばな」

ダンテ「……あのよ、一々もったいぶった口調は止してくれ。要点だけをスパッと言えないか?」

ダンテ「シンプルにだ。シンプルに」

ロダン「黙れ。これは癖だ」

ダンテ「『古巣』の癖か?やっぱ天界ってみんなそうクドイ言い方するのか?」

ロダン「ええいうるせえ!!!お前さんにわかり安く言ってやろうとしてんだ!!!」

ダンテ「パパパパって言ってくれた方が分かり安い」

ロダン「わかった!!!わかった!!!この野郎…………!!!」

ダンテ「で、どうやって『再利用』する?」


ロダン「『再点火』すれば良い」


ダンテ「………………………………どういう意味だ?」

ロダン「ほら見ろ!!!!シンプルに言ったってわかりっこねえだろうが!!!!」
216 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:21:22.41 ID:ap56yVco
ダンテ「わかった。じゃあ好きに説明してくれ」

ロダン「…………良いか?つまりだ、死んじまった力場を『生』に転換する『強烈な火種』、」

ロダン「力の流れを巻き起こす『莫大な動力』、新たな『理』を刻み込んだ『超巨大な器』、いや、一纏めに言えば」



ロダン「力場全体の死を『塗り替える程』のとてつもなく『強大な生』を叩き込めば良い―――」



ロダン「―――理を自在に歪めてしまうほどの力、精神の強固さ、要は全てにおいて『完璧』な―――」



ロダン「―――『人柱』が必要ってことだ」



ロダン「もちろん、人間の為の力場なら―――」



              ・ ・ ・
ロダン「―――『人の血』が入った『人柱』をな」



ロダン「―――何にもかき消されない、『濃厚な人間性』を持った『人柱』を、だ」


ダンテ「―――――――――………………………………………………」
217 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:22:08.65 ID:ap56yVco
そのロダンの言葉を耳にしたダンテ。

彼の脳内の中で、『全て』のピースが埋る。


『スパーダ』。


人間界の為、『全て』を捨てて『全て』を捧げた男。


その息子である―――。


―――バージルとダンテ。


なぜ、バージルはあの場で『スパーダの息子』という表現を使ったのか?


なぜ、バージルはあの場で二人の違いを指摘したのか?


なぜ、バージルは双子で生まれてきた事の意味を問うたのか?


それらが。


ダンテ「―――」


ダンテの頭の中で、ロダンが発した『濃厚な人間性』という言葉と結びついた。
218 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:23:23.66 ID:ap56yVco
ダンテとバージル。


その内面の違いは?


どんなショックがあっても感情を爆発させることは無いダンテ。

一方で家族を守りきれず、母を死なせてしまった己の非力さに激昂し、
『激怒し続けたまま』全てを投げ打って無我夢中で力を求めたバージル。


知らず知らずの内に保護者のような視点から人類を見守ってしまうダンテ。

一方で、そもそも視点の違いなど存在せずに常に正面から等身大で激突していくバージル。


特定の女性を愛すことが無い、『恋』を知らないダンテ。

一方で、立派に意志を受け継いだ息子をもうけたバージル。


そしてテメンニグルの塔における兄弟同士の殺し合いの際。

最期の最期まで感情を押し殺し、刃を振り切ったのはどっちだ?

最期の最期に感情を滲み出させ、刃を止めたのはどっちだ?


―――悪魔の力の陰に潜む、『強烈すぎる』人間性を有しているのはどちらだ?


―――どちらが、本物の『愛』と『怒り』を知っている?



一体どっちが―――。



―――『人間らしい』?
219 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:24:50.28 ID:ap56yVco
どちらが、何を母と父から受け継いだのか。

浮き彫りになる双子の違い。

見事に別れている違い。


それは『力』の違いではない―――。


『人間性の濃さ』。

『危うく激しい心』、だ。


ダンテは色んな意味で『バランス』が良すぎる。
完璧な程に『安定』しすぎている。


一方で。

バージルは―――。

その悪魔の性質に隠れがちであり、一見すると正に悪魔の気質と言ってしまいそうだが。


よく見てみると。


実際は良くも悪くも―――。


―――――――――人間的過ぎる―――。


バージルを今まで突き動かし続けてきたのは、根の根は『悪魔の本能』ではない。

『危うい感情』だ。

『不安定な凄まじい激情』だ。


―――頑固で短気。そして強固な芯が通っていながらも、一方で非常に『不安定』。

決して、決して表には出さないが内面はとんでもない激情家―――。


―――これぞ、正に『強烈な人間性』ではないか。
220 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:25:45.76 ID:ap56yVco
ダンテは『人』を守る為の『盾』。

人の心を理解し、その最も熱きハート『も』有している『悪魔』。


バージルはその『盾』の前にある『矛』。

『究極の矛』となる為、人のハートではなく『魔』にとことん染まりあがった『悪魔』。


そしてネロは『人』。

外面的には悪魔だが、中身は正真正銘の『人間』。


『家族』に何かの意味をつけるとしたら、以前のダンテはこう考えただろう。


だが実際は違っていた。


バージルはダンテという『盾』の後ろにいた。


バージルは『人』そのものだった。


良くも悪くも『人のハート』の猛々しさを最も体現していたのがバージルだった。


バージルの方が、ダンテよりも人としてのハートが猛烈に『熱かった』。

その身を焦すほど。
己の何もかもを燃やし尽くすほど。


悪魔の強烈な本能でさえ丸呑みにし、区別できないくらい完全に同化してしまうほどに。
221 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:26:45.49 ID:ap56yVco
ダンテ「―――」

なぜあの時、バージルがあんな問いを己にぶつけてきたのか。

それを今、ダンテは理解し。


―――『知る』。

バージルの考えがわかる。
兄が見えている景色がようやく写る。

バージルは『役割』を見出したのだ。

己の存在の『意味』を。

生まれついたその時からの『宿命』を。


その最期の使命は―――。


―――『人柱』、と。


確かに。

確かにロダンの言葉通りならば、その役目はバージルが最適となる。


だが。

ダンテ「(ふざけんな―――何でそうなるんだよ―――)」

ダンテはバージルの考えを理解した上で、それを真っ向から否定する。


ダンテ「(―――お前は『極端』すぎる―――)」


なぜいつもいつもバージル『だけ』が。


ダンテ「(―――底無しの馬鹿野郎だ―――バカ正直すぎる)」

失い続けなければならないのか、と。

背負い続けなければならないのか、と。


『いつも』進んで貧乏くじを引くのか、と。
222 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:27:40.99 ID:ap56yVco
生きていくという事は、己自身の手で道を開くということ。

外部の『何か』が敷いたレールになんざ従う道理は無い―――。


―――『宿命』だからといって、それに身を捧げる道理は無い―――。


父スパーダは、そんな『宿命』をへし折る為に抗い続けてきたのではないのか?

愛する者達の為に、だ。


それを踏まえてダンテは真っ向から否定する。


バージルの『宿命』を。


お前一人だけでは抜け出せないのなら。

お前一人の為だけの『宿命』ならば。

お前がおとなしくそんなクソみてえな『宿命』に従うってのなら。


『俺』が豪快に割り込んで、そんな『宿命』なんざ―――と。


ダンテは『生涯最大の敵』をここに見定めた。


それは。

魔界との怨嗟でもない。

魔帝との因縁でもない。


スパーダの『血』そのものに刻み込まれ、そして纏わり付く―――。



―――この『鎖』。



スパーダ血族の『宿命』だ。
223 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 19:28:14.84 ID:ap56yVco
ダンテ「(―――)」


ダンテ「悪い。『用事』ができた。そろそろ行かせてもらうぜ」

ダンテ「『バカ』が『また一人』で『バカ』な事をしようとしてるんでな」


ロダン「………………………………バージルか?」


ダンテ「まあな。アイツの『抜け駆け』は認めねえよ。『これ以上』は」


ロダン「…………」


ダンテ「―――今度は『俺の番』にする。何がなんでもな」


方法はまだ思いついていない。
具体的にどうやるかは以前ピンと来ない。

だが、これだけはダンテは宣言する。


ダンテ「―――ちょっくらぶっ壊してくるぜ」



バージルだけが『貧乏くじを引いてしまう』そんな『運命』なんか―――。


家族に纏わり続けている『宿命』なんか―――。



ダンテ「―――目障りな『鎖』をな」



―――ぶち壊す、と。


―――
224 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 19:28:43.33 ID:ap56yVco
今日はここまでです。
次は月曜か火曜の夜に。
225 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 19:38:54.51 ID:CgEBvsIo
乙!
226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/22(金) 19:39:50.22 ID:I6j6rQg0
乙!
はじめてリアルタイムに遭遇したぜ・・・
227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 20:52:08.26 ID:48T2HIDO
バージルの死亡フラグが立ったが、ダンテなら派手に叩き折ってくれるに違いない
228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 21:28:26.06 ID:EQoFUWU0
ようやくダンテに火が付いた・・・始まったなもうたまらん
229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 23:19:46.03 ID:l3sPfgAO
科学側のインフレがやばいな 大悪魔に匹敵するって…
大悪魔でも弱めのケロベロスやルドアグがやばい……


と見せかけて天と地ほどの差がまだまだあるんですよね?
230 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 23:25:54.31 ID:nq5jq1ko
さあ、燃え上がってきたぜ、ベイベェーーー!!
231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/23(土) 00:22:36.51 ID:Q8Hog/so
>>229
ここで科学側が追い上げてきたけど、現状で大悪魔とまともにやりあえるのって、
確実なのは一通さんと麦ストルだけだからやっぱまだまだ戦力差はかなり厳しいと思う
スーパー結標、当たりさえすればすげえパンチ力持ってる御坂、それ以上の一発切り札持ちの黒子がどうなるかだな
232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/23(土) 02:35:47.04 ID:p0SV4AAO
>>134
DMCは3までしかやってないんだけど、ブリッツってつまりシャドウみたいなやつなんでしょ?
それとリヴァイアサンが同列みたいに言われてるのはおかしくない?
おかしいというのは面白いという意味ではないよ。
233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/23(土) 07:44:30.57 ID:g0PdRXs0
確かにあのサイズでブリッツとかシャドウと同格、って言われると何と無く変な感じがあるかなぁ……。
234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/23(土) 13:36:12.08 ID:60rXr3Q0
ダンテのそげぶ……だと…?
235 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/23(土) 15:20:06.61 ID:HybxgQDO
>>231
『ベオ条』の次は『麦ストル』か……となると、ステイル+イフリートで『ステイフ』なのかしら
236 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/23(土) 16:57:34.14 ID:1ogIzc2o
>>235
ステリートのがスタイリッシュじゃね
237 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/23(土) 20:03:42.38 ID:Q8Hog/so
>>232
悪魔の格とかの序列説明じゃなくて、そこは単なるイギリス視点からの実際に戦闘した場合のリスク度描写だと俺は把握したけど
『処理』って言い方で強調してるし

むしろイギリス目線から見れば、超巨大・超タフでもボーっとノロノロ空を泳いでるだけのリヴァと、
超スピードで超積極的に攻撃しかけてくる大悪魔並みの戦闘力のブリッツじゃ、
実際に交戦すると後者の方が対処が難しいってのも納得できそうだけど

変態級のダンテ視点じゃなくて、戦力ギリギリのイギリス視点からみればな
238 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/23(土) 22:04:32.24 ID:p0SV4AAO
>>237
そういえばリヴァイアサンはムービー見る限りじゃDMCで一番危険度の低いやつだった。
239 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/24(日) 03:32:11.22 ID:5ZnBgAAO
『三匹の猛獣』はキツかった
リヴァに飲まれたほうがマシ
240 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/24(日) 09:51:41.60 ID:IPZ57CI0
確かにリヴァは手を出さない限りボーっとしてそうだな…
昼寝中の熊みたいなものか?大きさに違いがありすぎるが
241 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/26(火) 01:29:35.00 ID:yfjHwGg0
>>238 心臓からビーム出る程度の能力だったしな
242 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/26(火) 01:43:41.66 ID:qZXHTl6o
リヴァ→ボーっとしてる巨大な牛 目の前のエサを食べる事しか頭に無い
ブリッツ→常にラリッてブチギレてるスズメバチ 認識した存在はとにかく片っ端からぶっ刺してく

こんな感じか
243 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/26(火) 12:45:03.49 ID:COXeCsAO
>>242
分かりやすすぎて泣いた
244 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/26(火) 17:13:36.78 ID:xbjTRgUo
今日も楽しみだ
wktk
245 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/26(火) 20:27:48.15 ID:OIwv6wDO
この物語の絵を見てみたいわ…。誰か描いてくれないかしら
246 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/26(火) 21:14:19.81 ID:/RpJXMko
絵…だと
どう考えても設定的には精神汚染されてしまうな
それでも見てみたいが
247 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/26(火) 22:23:55.63 ID:6hKq.6go
まだかなまだかな
248 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/26(火) 23:30:38.28 ID:Nm.f8P.o
冷たい幸福
249 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/26(火) 23:31:26.97 ID:Nm.f8P.o
>>248 誤爆

―――

翌日。

午前10時。

学園都市、とある病棟の会議室。
普段は手術の段取り等を話し合うこの部屋にて、デュマーリ島強襲作戦に関係する幹部達が集っていた。

部屋の中央に置かれた、大きな机を囲むメンバー。

右端には一方通行、その隣には土御門。
左端には麦野、その隣に結標。

一方通行後ろの壁際には、車椅子に乗っているエツァリ。
医療用ベッドから車椅子に『昇格』したが、依然彼の全身をギプスや包帯が覆っていた。

現『グループ』の五名がこうして再び集まっていた。


『二つ』の新しい『顔』を更に加えて。


それは結標の隣にいる―――。


―――滝壺理后と。


土御門の隣に座している―――。



―――御坂美琴。
250 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/26(火) 23:35:14.28 ID:Nm.f8P.o
室内はただただ沈黙。
皆がそれぞれ腕を組んだり頬杖をし、会議が始まるのを静かに待っていた。

御坂「(…………ぐ…………)」

そんな中、御坂はやや俯きがちに机の反対側の面子の顔をチラチラと見ながら、
非常に居心地の悪そうな表情を浮かべていた。

麦野、結標、滝壺。

三名とも御坂は戦ったことがある。

ただ滝壺は第23学区の件もあって、今は敵性とは全く認識していない。
むしろ御坂は、彼女の体調が悪い事を聞いてカエル顔の医者を紹介したりまでした。

その事もあって、現にさっき御坂がこの部屋に入って来て滝壺と目があった際、
彼女は相変わらずボーっとしながらもニコリッと笑って会釈してくれた。

結標も、魔帝の騒乱の際に一瞬だけ『顔』を合わせたのを覚えている。
あの状況から見ても一応『同じ側』であり、
ここでこうして再開することも特に不思議ではないかもしれない。

以前戦って以来まともに話したことが無く、やや気まずいのはあるが。
向こうもそうなのか、それとも特に意識すらしていないのか、
会釈した滝壺とは対照的にチラリと御坂を見ただけだった。

とまあ色々思う事はあるものの、少なくともこの二人に関してはさほどでもない。

(結標がレベル5第八位、滝壺がレベル5第九位となったと、
 土御門からさらりと聞かされた時は、さすがに顔に出して驚いてしまったが)


それよりも何よりも。


麦野。


麦野だ。
251 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/26(火) 23:37:35.77 ID:cwok0..o
なんか鰤みたいな誤爆してんな
252 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/26(火) 23:37:54.09 ID:Nm.f8P.o
御坂「…………」

麦野沈利。レベル5第四位、『原子崩し』。

それだけの肩書きならば、こうしてここに召集されていてもおかしくは無い。
おかしくは無いが。

御坂が気を張り詰めさせているのはそこではない。

最後に会ったのはシスターズ騒動の時。
あの時の印象によると、非常に危険な『殺戮思考』の持ち主。

この女は『獰猛』、『血に餓えた狂気の塊』、それが御坂の認識だった。

そして麦野の姿をチラチラ眺めていた時に目に入った『ある存在』が、
御坂の緊張を更に高め困惑させていた。


アラストルだ。


なぜあれが?

なぜダンテの魔具があの女に?

ダンテは知っているのだろうか?

いや、知らないはずは無いだろうが、ではなぜこんな危険な女に渡した?

と、そんな事がぐるぐると御坂の頭の中を回るが、
答えが出てくるわけも無い。
253 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/26(火) 23:41:46.82 ID:Nm.f8P.o
と、そうやってジロジロと麦野を見ていたところ。

麦野「何?」

御坂の視線に対し、
顔を動かさずに眼球だけを向けながら無感情的な鋭い声を放つ麦野。

御坂「…………!」


御坂「…………ア、アラストル」


御坂「わ、私も前に一回だけ使ったことあるの」

アラストル『久しぶりだな。小娘』

御坂「あ、う、うん久しぶり!」

麦野「へぇ。で?」

御坂「きょ、『許可』は貰ってるの?」


アラストル『問題無い。マスターが命じられた』

アラストル『この娘の傍に、とな』


御坂「…………」


麦野「そーゆーこと。文句ある?」


御坂「い、いや…………それなら別に……」
254 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/26(火) 23:43:50.13 ID:Nm.f8P.o
アラストルが言うのならば間違いないのだろう。
ダンテは麦野にアラストルを託した。

なぜなのかは見当も付かないが。

いや、実は御坂は、たった今のわずかな会話でその答えの『尻尾』が見えた気がした。

御坂「…………」

御坂に対する麦野の態度と、纏っている雰囲気。

淡々。

無感情。

興味なし眼中になし。

少しくらい嫌悪感や敵意を表してもいいのに、とまで御坂は思ってしまった。

以前会った時とは雰囲気が全く違う。

眼帯を付けて片腕を無くし服も高級スーツと、その身なりもかなり変わっていたが。
何よりもその表情やオーラが別人のようだった。

高慢、傲慢、高飛車、以前は全身から醸し出していたそれらの空気が、
今は欠片も無かった。

いや、あるにはあるが、それらが以前のように鼻にはつかなくなっている。
ナチュラルに馴染んでいる、と言った方が良いか。

それよりも今『濃厚』なのは、何があっても揺るがないと思わせてくる根が張りどっしりとした貫禄。
一回りも二回りも『何か』のスケールが大きく分厚く頑丈なったような。

御坂「………………」

以前の麦野を表現するなら、『イカレタ暴れん坊お嬢様』、と御坂はしただろう。

そして今は。

『絶大なる女皇帝』。

この言葉がピッタリだ。
255 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/26(火) 23:45:41.69 ID:Nm.f8P.o
御坂「…………」

もしかするとこっちが『地』なのかもしれない、とも御坂は思った。

一方通行も初対面時には『アク』が猛烈に強かったが、
そもそもその会った時の状況が特殊だっただけなのかもしれない。

現に今の一方通行もかなり落ち着いており、
シスターズ事件の時のような身の毛がよだつ笑みなども浮かべない。

この部屋に入って目が合った時だって、一方通行はチラリとこちらを見ただけ。
特に何も感情を示してはいなかった。


ただ、この場においての空気が『希薄』、という訳ではない。

皆、強烈な空気を纏っている。
その胸の内に秘めている重く絶対の覚悟から発せられているであろうオーラを。
(滝壺だけは相変わらずボーっとしているが)

御坂「……………………」

こういう雰囲気。
ああいう目。

御坂は何度も見たことがあり、何度も感じたことがある。

上条だ。
256 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/26(火) 23:47:49.29 ID:Nm.f8P.o
そう、本気になった上条もこういうオーラを纏っていた。
冷徹な鋭い目つき、冷たく引き締まる表情、
それでいて放たれる肌がジリジリと焼けつきそうな熱気。

何があったのかはわからないが、
『今の麦野』にダンテがアラストルを託すのも何らおかしくはないかもしれない。


現に御坂から見ても、今の麦野の雰囲気は本気になった上条と同様のものなのだから。


御坂「(…………そっか…………みんな同じなんだね)」


何の為に、何を背負っているかは皆それぞれだろう。
だがその『覚悟』は皆同じ。

ここにいる者達は皆。

何かの為に戦おうとしている戦士。


御坂「(…………私も…………腹据えなきゃ)」
257 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/26(火) 23:49:37.94 ID:Nm.f8P.o
と、御坂が心の中で再度覚悟を決めていたところ。

ドアが開き、一人の20代後半らしき黒服の男が入室してきた。
脇には薄い書類の冊子。

そして机の前に立ち、書類を無造作に放り投げるように机に置きながら。

「おはよう諸君」

そっけなく挨拶。
そして開口一番。

「ではまずレールガン」

御坂へ。

御坂「は、はい!」

「理事長から作戦参加の許可が下りた。それと言伝も預かっている」

御坂「…………?」

「『自由にしてくれて良い。私に一々許可を求めるな』だそうだ」

御坂「(…………………………どうでも良いってことね)」

「編成位置は後で土御門と話し合って、そっちで決めてくれ」

土御門「了解だぜよ」

御坂「はい」
258 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/26(火) 23:55:28.60 ID:Nm.f8P.o
「さて…………本題に入ろう」

「これはまだ一般公表されていない情報だ」

「昨夜、アメリカ軍がデュマーリ島に向け総攻撃を仕掛けたが、返り討ちに合い全滅した」

「これにより、東シナ海から二つの空母打撃群が米本土防衛に向かい、結果的にこちらの戦線の戦力は削られてしまったが……」

「まあそれはどうでもいい」

「この戦闘で、二つの空母打撃群と多数の航空隊が消息不明。軍属18000人以上が行方不明」

「恐らく生存者はほぼいない。絶望的だ」

一方「…………戦ったのは悪魔か?」

「そうだ。悪魔の大軍勢によって一気に駆逐された」

一方「…………」

「我々の調べからするとな、人造悪魔を含め2000体近くが出現したようだ」

土御門「あ〜。そいつはどうしようもねえぜよ。一方的だったろ?」

「いくらか悪魔を迎撃できたらしいが、それでも多勢に無勢、まあ一方的虐殺と見て間違いない」

「ただ、我々としては好都合だった。おかげでどのような悪魔がどれだけの規模、あの島に居座っているかが具体的に知ることができた」

「今あの島自体は靄に覆われてて観測が困難だが、この戦闘はデュマーリ島から1000km離れた洋上で行われたからな」

「衛星で事細かに観測できた」
259 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/26(火) 23:58:55.59 ID:Nm.f8P.o
一方「具体的には?」

「まず人造悪魔兵器。戦闘機型と艦船型が200体、それらによって輸送・投下された小銃・パワードスーツ型が1100体」

「アラストル、『インフェスタント』や『憑き』について補足してくれ」

男の声に応じ、麦野の腰にある大剣から響くエコーのかかった声。

アラストル『大型の奴には「インフェスタント」が取り憑いているだろう。無機質を悪魔化させる連中だ」

アラストル『単体ならば特に脅威でも無いが、何かに憑いた状態は「それなり」に厄介だ」

アラストル『元のお前らの「おもちゃ」のスペックでは見るな。形は似れど、本質は別物だ』

「実際に米艦隊の鉄壁の防空網を易々と突破している。対空ミサイル程度一発二発ではビクともしなかったようだ」

「艦載のレールガンでいくらか撃破できたらしいが、これも多勢に無勢だったようだ」

「だがまあ、ここにいる面々ならば簡単に対処できるだろう。他の隊員も冷静にいけば問題なく処理できる」


土御門「(…………俺以外はにゃー…………)」


「次に、今度は『純粋な悪魔』。500体ほど観測されたが、」

「それらの大半がアサルト、フロスト、ブレイド等で構成されていた」

「滝壺理后以外は皆、フロストとの戦闘経験があるな」

「アサルト・ブレイドも同じ派生系の一種だ。ほぼ同様、と考えてくれてかまわない」

「これも君らにとっては問題ないだろう。『防衛』の場合ならば数を抑えきれないかもしれんが、今回は『強襲』だ」

「まあ、他の隊員達も数的劣勢がそこまで酷くなければ対処できる。部隊単位でしっかりと戦えばな」

「こちら側の損害0とはさすがにいかないが」

麦野「…………」
260 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 00:01:56.59 ID:.bzd8U.o
「それで、問題はここからだ」

と、男はそこまで喋り終えた後、一旦軽く咳払いし、
話を仕切りなおした。


「ブリッツが出現した」


御坂「…………」

その悪魔の名にピクリと眉を動かす御坂。
そんな彼女の反応を見、

「レールガン。二度交戦してるな?」

御坂に声を飛ばす男。

「そのおかげで、元からかなり正確なデータがある」

「悪魔としての格はそれほど高くは無いが、戦闘能力は非常に高い」

「人間界とは全く異なる性質の電撃を纏っており、防御力もかなりのものだ」

「更に全身を雷化して雷速で行動可能。最高で秒速200kmにも達する速度だ」

「物理的なやり方では接近を感知する事はまず不可能」

「ただ、攻撃する瞬間には物体化する必要がある。ここまでは良いなレールガン?」

御坂「そ、そう。いちいち体を戻さなきゃならないみたい」

御坂「あ……あとエレクトロマスターなら、周囲の電気の流れである程度は『動きの予兆』?みたいのはできるわよ」

御坂「これも相手が近距離を飛び回ってくれた場合しか使えないけど」

御坂「遠方からの急速接近、接敵を前もって感知するのはさすがに無理」

「OK、そういう事だ。ただ、君達に接近を感知する術が無い、という訳ではない」

「滝壺理后の、全名それぞれを『支局』とした力の探査網には必ず引っかかる」

「魔の力はAIMとはまた性質が違うが、一応感知はできる」

「そこを『流れる』のならば、水だろうが水銀だろうが『流れ』はとりあえず『見える』ようにな」

「それとメルトダウナーの感知もある。滝壺理后より範囲は狭いが、今の彼女は『正確』に魔を認識できる」

麦野「私はミサカネットワークとも滝壺のAIMネットワークとも接続しないから、知覚共有は無理だけどね」
261 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 00:04:20.30 ID:.bzd8U.o
麦野「近距離高速戦適性評価A−以上の8人。もしくは結標かレールガン。それか私」

麦野「これ以外の者は対応できないわね。他の者は、接敵した場合はすぐに退かせる」

麦野「該当者以外はただの『的』に過ぎない」

御坂「…………ええ。一帯を猛烈な速度で飛び回りながら攻撃してくる」

御坂「高速戦闘ができない人はただの『的』よ。気づく暇なくミンチにされるわ」

「それと適性評価A−以上の者でも、対応はできても処理自体は難しい」

「最終的な『処理』は結標淡希かレールガン、それかメルトダウナーに任せた方が良いだろう」

麦野「そうね」

結標「了解」


「さて、次はコレだ」

一泊置き、今度は机の上の冊子に手を伸ばし、一枚の写真を取り出す男。
そして皆に見えるようにその写真を掲げた。

そこに写っているのは、『クジラ』のような形をした悪魔を真上から捉えた光景。

その悪魔のスケールはとんでもないものだった。
脇に米海軍のものと思われる空母が写っていたが、なんとそれの1.5倍以上の大きさ。

頭部から尾まで、実に400m以上はあるかもしれない。

写真を見つめる皆、彼らの頭にその認識が入るのを待った後。
男がポツリと口を開いた。


「通称『リヴァイアサン』だ」
262 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 00:04:36.90 ID:PtQnuMgo
待ってたぜw
wktk
263 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 00:11:40.44 ID:.bzd8U.o
リヴァイアサン。

旧約にもその名が登場する『海の最悪の怪物』だ。

土御門「…………」

その写真と名、そして知っている魔術的知識を照らし合わせながら、土御門はふと思った。
これが旧約に記されていた存在の『元ネタ』、『本家』か、と。


「リヴァイアサン。この悪魔については、我々側はまともにデータが取れていない」

「魔帝の騒乱の際にも複数体出没したが、いずれもダンテの使い魔に倒され我々は一切関わっていないしな」

「今回の件でも全く手を下してはいない。上空を浮遊していただけでな」

「アラストル、補足を頼む」


アラストル『リヴァイアサンか。また厄介なのがでてきたな』

アラストル『「魔獣」、だ。人間界で例えるならば、悪魔が「人」で魔獣が「動物」といったところさ』

アラストル『鈍重であり知能は極めて低い。これまた人間界ならば魚類程度といったところか』


アラストル『しかしタフさとパワーは並みの大悪魔を凌駕してる。耐久度に至っては特に凄まじい』


アラストル『中には諸王・諸神と肩を並べる力の個体もな。体長が人間界の言い方だと10km以上になるのもたまにいる』

アラストル『本気で振るわれたその尾ひれにでも直撃してしまったら、ここにいる面子でもは皆「即死」だ。もちろん俺を省いてな』

アラストル『だが、先も言ったとおり動きは非常に鈍重。回避は楽だろうさ。当たらなければ問題無い』

アラストル『それ以前にとりあえず近付かなければ良い。下手に近付けば縄張り意識で興奮するからな』


アラストル『……いや、絶対に興奮させるな。興奮させたらお前らでは手が付けられない』


アラストル『激怒した場合、動きは当然それなりに速くなるしな』


麦野「触らぬ神に祟りなしって事か」
264 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 00:18:07.90 ID:.bzd8U.o
一方「…………おィ。一つ気になるンだが、なンでンな怪物が出現する?」

一方「『人間を殺そう』とかいゥ脳ミソもねェアホなンだろ?わざわざ人間界に来る必要はあンのか?」

アラストル『あの島の術者が引き出したんだろう』

一方「理由は?」


アラストル『単純だ。活用できるからだ』


アラストル『リヴァイアサンは腹の中に無数の悪魔を飼っている。興奮したら大量の悪魔を吐き出す事がある』


アラストル『奴の腹の中が魔界と繋がっている、と考えても良い。いや、リヴァイアサン自体が魔界の『欠片』だ』


アラストル『またその影響で、リヴァイアサンが浮遊する一帯の魔は非常に高密度になる』

アラストル『奴がいる、ということはそこが「生粋の魔境」である証拠だ。魔界の「自然体系」が漏れて来てるという事だ』


土御門「魔界の空母、移動要塞みたいなものか」

麦野「つまりキレイな川を証明する『メダカ』みたいなもんでしょ。サイズがヤバ過ぎるけど」


結標「…………近付かなければ問題ない、って話だけど、何かの理由で倒さざるを得ない場合は?」

アラストル『先も言ったが、近付き怒らせると非常に危険だ。そうなった場合はブリッツなど可愛いくらいに感じるぞ?』

結標「わかってる。どう戦えば?弱点の一つくらいあるでしょ」

アラストル『そうだな……お前らの攻撃が有効的に通る部分は、「外から」では恐らく「目玉」だけだな』

アラストル『他の部分の外皮は硬すぎる。地道に削っていけば理論上は倒せるが、さすがに鈍重でもその前に激怒するだろうな』

アラストル『「外から」、そしてこちらから攻める場合はそれなりの損害を覚悟した方が良い』

土御門「…………『外から』とは?」

アラストル『「内から」ならばかなり有効な攻撃方法がある。奴の最大の弱点は「心臓」だ』

アラストル『そこを攻撃したいのならばわざと飲み込まれれば良い』

結標「…………飲み込まれ…………ゲッ……最悪」
265 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 00:21:15.77 ID:.bzd8U.o
麦野「(…………アンタでも外からじゃ無理って事?)」

アラストル『(いや。俺「単体」ならば容易だ)』

麦野「(…………それ、まるで私がお荷物みたいな言い方なんだけど)」

アラストル「(戦い相手を殺す、という目的だけを見ればな)」

アラストル「(ただ、マスターはお前に俺を託された。俺はお前と共に戦う。それが俺にとっての全てだ)」

アラストル「(俺にとって、お前と共に戦いお前を勝利に導かなければ、俺自身の存在意義は無だ)」

アラストル「(何があっても俺はお前を見放したりはしない)」

アラストル「(お前が死ぬのならば迷わず共に逝こう。マスターが俺の任を解く命を下さぬ限りな)」


麦野「(…………私の心の内、『知ってる』んでしょ?知っててそう言うわけ?)」


アラストル「(そうだ)」


麦野「(…………………………………『後悔』するなよ)」


アラストル「(こっちは好きでやっている。気にするな)」


麦野「(…………………そう……)」


麦野「…………他には?」

麦野は脳内でのプライベート会話を終え、
少し不機嫌そうにアラストルへと先を促した。


アラストル『…………まあそんなところだ。腹に入る場合は覚悟するんだな。消化される前に心臓を潰せ』
266 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 00:23:13.82 ID:.bzd8U.o
「…………よし、そんなところだな。これに目を通しておいてくれ」

男は冊子から書類を取り出し、机の上に人数分載せた。
今話した悪魔のデータや昨夜の米軍と悪魔との戦闘詳細が記された書類だ。

「それと日程だが……土御門、メルトダウナー、昨日の話で問題ないな?」

土御門「ああ」

麦野「ええ」


「では決まりだ」


「明日17:00時、第23学区4番エプロン18番ハンガーにて、全名を集めた作戦の最終確認を行う」


「その際の説明は土御門かメルトダウナーの口から行ってくれ」



「最終確認の後、17:45時までに各機への搭乗を済ませ」




「18:10時に出撃」




「デュマーリ島降下予想時刻は19:37時」



御坂「(……明日…………)」
267 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 00:26:00.60 ID:FLX6uCgo
美琴はテスタメントで調整受けないのか?
268 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 00:26:21.02 ID:.bzd8U.o
土御門「あ〜それとだな。インデックスが術式に似た魔術因子の構造体を見つけてくれた」

土御門「今細部の写真と照らし合わせて解析中だ。ランドマークの正確な位置を割り出してる」

土御門「明日の昼までには、正確な報告書を仕上げとく。最終確認前までにはデータを全名に配る予定だぜよ」

「よし、頼んだぞ」

一方「おィ、俺の方についてはどォなンだ?まだ全然話がこねェンだが」

「私も何も聞いていない。待機しててくれ」

一方「チッ…………またかよ」

「あと滝壺理后」

滝壺「…………?」


「『あの力』はメルトダウナー、結標、土御門のどれかの許可が下るまで、もしくはこの三名が死亡した時以外絶対に使うな」


「それは『最後の切り札』だ。決して独断で行わないように」


「任務成功の前に全滅が免れない事態以外では使うな」

滝壺「うん。わかった」
269 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 00:31:22.89 ID:.bzd8U.o
「レールガン」

御坂「ん?」

「お前は先日渡された受信機で、ミサカネットワークを経由して相互通信を行え」

「飛び入り参加だからな。調整は間に合わない。間に合ったとしても、能力との噛み合わせで『例の大砲』に不都合が出ても困るしな」

御坂「わかった」

土御門「あ〜それとここでお前の編成決めちまうぜよ。基本的に単独行動の方がいいだろ?」

御坂「あ、うん、そうかも」

土御門「OK、部隊戦術とかの知識もお前だけは欠落してるからな」

土御門「俺らとは多分行動がかみ合わないぜよ。足引っ張り合うだけだ」

御坂「はあ??私がお荷物って事?」

麦野「叩き上げの『一般人』でしょ。元から戦闘員の私達とは違うって事」

結標「大体にして本物の戦闘カリキュラム系、今まで受けたこと無いでしょ?」

御坂「…………あ…………確かにそう……ね……」

土御門「ま、テキトーに暴れてくれればそれだけで充分だ。俺と同じく『フリー』にしとくぜよ」

御坂「…………」


「ではこんなところだな。後は明日まで、各々それぞれの作業を行ったり体を休めたりしてくれ」


「『最期』になるかもしれない。済ませるべき事は早めに済ませとけ。では健闘を祈る」


そう言葉を締めくくり、男は冊子を手に退室していった。
270 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 00:34:00.38 ID:.bzd8U.o
土御門「あ〜…………それにしても肩が凝るぜよ。寝不足にはキツイにゃー」

男が出て行った後、土御門が背伸びを目いっぱいし大きな大きなあくび。


麦野「良いじゃない。もうすぐ『永遠に休める』かもしれないんだし」

土御門「相変わらず女帝サマはドギツイにゃー」


麦野「あーそれにしても…………眠い…………」

と、先ほど土御門に言った癖して、
同じくだらしなく天井を仰ぎうめき声をもらしながら呟く麦野。

麦野「これじゃあ行く前に過労死だわ…………」

滝壺「……………………むぎのの信号、よどんでる。汚くなってるよ」

麦野「あ、それ多分悪魔の力が混ざってるだけだから。っていうかさ、私を指して『汚い』って表現やめてくれない?」

アラストル『俺の力を汚いとはどういう事だ小娘。死した者の力を使う分際で汚いと(ry』

一方「どォでも良い事ウダウダ言ってンじゃねェよアバズレ。ガラクタもだ。耳障りなンだよ」

麦野「あぁんだって?蝋人形みてえな肌しやがって。キメェんだよ」
271 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 00:36:48.96 ID:.bzd8U.o
結標「そうねアクセラレータだって、いつも以上に顔色悪くて気味悪いわよ。『化け物』でもさすがに疲れるのね」

一方「あァ?ンだと変態女?貧相な体してる癖して露出してンじゃねェよ」

麦野「言えてる。かわいそーな体よね。ホントか・わ・い・そ・う」

結標「厚化粧しなきゃ栄えない奴に比べたら私なんてまだまだ」

土御門「俺は貧相な体もストライクだぜい」

結標「死ね」

エツァリ「…………皆さん……落ち着いて下さい……疲れてるのなら……喋らない方が(ry」

土御門「その『ナリ』でそれ言うか」

麦野「黙ってろ死に底無い。止めさしてあげよっか?」

一方「オマェいたのかよ。まだ死ンで無かったのか?」

エツァリ「ははは…………やはり皆さんは……犬畜生以下ですね」

土御門「何を今更」

滝壺「…………あ……また受信した」


御坂「…………………………………………………………………………」
272 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 00:39:20.60 ID:.bzd8U.o
御坂「………………」

飛び交う罵詈雑言。

それぞれが好き勝手、聞き手の事を考えずに喋る。

一見すると慣れ親しんだ友人のじゃれ合いのようだが、
良く見てみると皆本気で嫌悪感を剥き出しにしている。

それもかなり冷めたものを。

皆それぞれに対し一定の信頼を寄せているのもわかるが、
その一方で、目的のためならば迷うことなく進んで殺そうともするような。


そんな『冷酷・冷徹・無感情な友情』。


いや、『友情』、と表現しても良いのだろうか。


ともかく一般の『感情豊かな世界』を生きてきた御坂にとって、
このメンバーのお互いの接し方は理解しがたく、
それはそれは奇妙な関係性に見えてしまっていた。
273 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 00:42:15.75 ID:.bzd8U.o
麦野「あー…………………………どうせ最期になるかもなら一発……土御門、付き合え」

土御門「俺とヤリたいのか?」

麦野「死ねカス。飲みだっつーの。浴びるだけ飲みたい」

土御門「…………はぁ?俺は今日は妹と二人っきりで(ry」

麦野「その前でも後でもいいだろ。アクセラレータ、結標もだ。『頭数』が足らねえのよ」

土御門「……」

一方「はァ?ざけンな」

麦野「『どうせ』予定無いだろ?一回くらい付き合え。もしかして飲めないの?私と飲み比べて負けるの嫌?」

一方「ハッ。誰に喧嘩売ってやがる。上等だ」

土御門「(本当負けず嫌いだなコイツは)」

結標「私は予定あるんだけど。それに頭数集めなら『部下』引っ張ってくれば?」

麦野「無えよ。下っ端と飲めるか」

滝壺「むぎの、私は誘わないの?」

麦野「…………私なんざより浜面か絹旗のところにでも行ってろ」

滝壺「……うん」

エツァリ「あの…………」

麦野「そのナリで酒飲んだら普通に死ぬわよ。別にいいけど。好きにすれば」

エツァリ「…………ですね」

麦野「場所は……ああ、もうこの部屋で良いわ。酒はそこらの黒服に持ってこさせればいい」

麦野「夜8時前に集まれ。以上」

土御門「ひゅー。これは最後の最後まで振り回されそうだにy」



御坂「―――わ、私は!!!!??」
274 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 00:45:53.41 ID:.bzd8U.o
突如声を張り上げながら立ち上がった御坂。
今まで好き勝手話していた面子の会話がピタリとやみ、彼女が集まった。

そして数秒間の沈黙。


御坂「(…………え?……ちょ、ちょっと!!何よこの空気……って私なんで……!!)」


思いっきり名乗り出たのだが、
なぜそうしたのかは御坂自身もはっきりとは分かっていなかった。

このメンバーの奇妙な繋がりをもっと知りたかったのか、
色々聞きたいことが前からあった一方通行や、
様変わりした麦野と腹を割って話す唯一の機会と見たのか。

土御門「……さあ。良いんじゃないか?」

最初に沈黙を破ったのは土御門。
ぽつりと投げやりな一言。

一方「どォでも良い」

麦野「好きにすれば」

結標「別に」

そして続く、そっけなさすぎる返答。

御坂「(………………え?これってOKって事?どっち?OKって事でいいのよね……?)」

麦野「ていうか、飲んだことあるの?レールガン」


御坂「あ、あるわよそのくらい!!!私ってガブガブいける口なんだからッッ!!!!」


麦野「…………へぇ……まあどうでも良いけど(飲んだことすらないかもねこりゃ)」

土御門「(嘘丸出しだな。飲んだことすら無いかもな)」

一方「(…………めンどくさそォだなおィ。コイツが来たらさっさと切り上げるか)」

結標「(そういえばこの中で最年少で中坊なんだっけレールガン)」

エツァリ「(相変わらず……可愛いですね御坂さんは…………その可愛さで死んでしまいそうです)」

滝壺「(…………あ…………また受信……)」

―――
275 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 00:46:38.06 ID:.bzd8U.o
今日はここまでです。
次は明日の夜七時辺りに。
276 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 00:48:27.43 ID:FLX6uCgo
美琴に酒飲ませちゃだめだろあの美鈴さん的に考えて
277 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 00:49:23.78 ID:f46/HAAO
エツァリは相変わらずだな安心した
278 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/27(水) 01:01:39.52 ID:KbYIfAs0
しれっと>>232の疑問に補足を入れてくれる>>1に感動した
ギガビートの出番もありそうね
279 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 02:10:07.24 ID:PtQnuMgo

また楽しみにしてるぜぇ
280 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 02:37:05.59 ID:GlHDKdk0
今夜も乙でした(*´ω`)ゝ
281 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 02:37:14.03 ID:FBLdXoAO

波乱の宴会になりそうだなwwww
282 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 10:57:24.40 ID:20aGucDO
ラグビーの時といい、>>248といい、僕には>>1のことが全くわからないよ!
283 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 18:53:10.29 ID:.bzd8U.o
―――

イギリス。

深夜。

とある片田舎の、打ち捨てられた小さな小屋。

その中に、今にも抜け落ちそうな床板を眺めている一人の女が立っていた。

赤いボディスーツを纏った銀髪の。


ジャンヌ。


ジャンヌ「…………」

彼女は屈みながら、床板の一画を指でゆっくりとなぞっていた。
一見すると別段なにもない。
何かが置かれているわけでもなく、染みがついてるわけでもない。

だがジャンヌははっきりと嗅ぎ取っていた。


この床板についていたであろう、『魔女の血』を。


ジャンヌ「……」


魔女であった『ローラ=スチュアート』の血を。
284 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 18:55:29.79 ID:.bzd8U.o
ジャンヌ「…………どこに行った?ローラ」

その指を唇に運び、ペロリと舐め呟くジャンヌ。

痕跡が残されている、という事はおかしい。
今までジャンヌに気づかれること無く生きてきたのだから、
全ての痕跡を抹消することもお手の物だろうに。

考えられるとすれば。

ローラはかなり余裕が無くなって来ているという事。

理由はわからないが『とにかく時間が無い』、という事だ。

深手を負ってそこまで頭が回らなくなっている、とも考えられそうだがそれは無いだろう。
ヴァチカンにてジャンヌやベヨネッタに相対したときですら、ローラの思考は冷静そのものに見えた。

ジャンヌ「…………」

また、これは何かの『罠』とも考えられそうだが、
ローラの視点から見れば、まず罠以前に自分の痕跡がジャンヌに渡る事を良しとはしないだろう。

あらゆる力・技術・経験の差から見ても、
ローラ自身がジャンヌやベヨネッタを欺けるとは思っていないはずだ。

そもそも、現にここにこうしてジャンヌがいることも、ローラの想定外もかもしれない。
いや、想定内だとしても何もできなかっただろう。

ジャンヌの記憶によればローラは最精鋭の近衛に所属していた。

だがジャンヌにすれば赤子同然。


魔女の中でもジャンヌは規格外。

幼少の頃から将来は間違いなく長の座に付くであろうと言われ、
アイゼンを超えるかもしれないとも謡われたてきた『正統派最強』の魔女。

彼女と並ぶ魔女はアイゼンのみ。

彼女を超える魔女はベヨネッタのみ。

それ以外に、彼女に並び立つような魔女は今も昔も存在しない。
285 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 18:56:26.94 ID:.bzd8U.o
ジャンヌ「…………尻尾が丸見えだな。まだまた甘いよ」

そんな正統派最強の魔女が、ついにローラの姿を捉えた。

舐めた血。

血は召喚術にも使われる『キー』。

それを体内、魂に直接刻まれている術式で解析する。

強制召喚で引き釣り出すには『キー』が不足だが。
どこをどう通り、どこに向かったくらいは容易に割り出せる。

ジャンヌ「…………」


その位置は。


日本。



関東。




―――学園都市。
286 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:02:14.22 ID:.bzd8U.o
ジャンヌ「(…………学園都市か。『ちょうどいい』な)」

学園都市。

その答えを知ったジャンヌは小さく笑い。

そして立ち上がり、左手を宙に円を描くように動かし魔女用の通信魔術を起動させた。
彼女の前に浮かび上がる、直径30cm程のエノク語の光の魔方陣。

ジャンヌ「バージル。捉えた。ローラは学園都市に向かった」

ジャンヌ「私も向かって良いか?」

バージル『任せる』

ジャンヌ「神裂達が来る前に先に『済ませとく』」

ジャンヌ「ついでにこの際だ。私が禁書目録を回収しといても良いが?」

バージル『その必要は無い。その魔女に専念しろ。神裂は明日にも向かわせる』

ジャンヌ「…………また予定変更か?そいつらはデュマーリ島の件が片付くまで待機では?」


バージル『デュマーリで「何か」あった場合は俺が行く』


ジャンヌ「…………わかった(……弟が本格的に動き出したか?)」


ジャンヌ「では私は学園都市に」


バージル『ああ』


―――
287 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:03:26.15 ID:.bzd8U.o
―――

学園都市、正午過ぎ。

とある病棟の廊下の中ほどにあるちょっとした談話フロア。
そこの長椅子にてキリエとルシア、そして佐天が腰掛けていた。

ちょうど今は昼の休憩ということで、インデックス・上条・ステイルは昼食を食べに下の階へ、
そしてキリエは運動も兼ねて、少し病棟内を散歩し今は小休止中だ。

ちなみにトリッシュとレディは病室にて、
トリッシュの銃伝いに送られてきた『ダンテからの情報』について色々と話し込んでいる。

キリエ「ルイコちゃん、本当に綺麗な髪してるなあ」

キリエが佐天の長い黒髪を眺めながら、穏やかな声色。

ルシア「〜」

そんな彼女の言葉をすかさず通訳するルシア。
もうこの通訳作業は皆慣れ、テンポ良く会話できるようになっていた。

佐天「え、え!?いやいやいやいや!」

キリエ「ちょっとくやしいかも」

佐天「そんな事無いですよ〜!キリエさんなんか金髪で……お肌も透き通ってるし本当にお人形さんみたいですよ!」

佐天「憧れちゃうな〜。お姫様って」
288 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:05:16.55 ID:.bzd8U.o
キリエ「あ……ミコトちゃんも勘違いしてたけど、私そういうのじゃないよ?」

佐天「またまたぁ。あんな強くてカッコいい王子様捕まえといて何言ってるんですかあ」

キリエ「…………ふふ。まあ…………」

佐天「否定しないところがまた羨ましい!あー羨ましい!」

キリエ「ご、ごめんさない」

佐天「いえいえ!冗談ですよ!あ〜でも、初めて見たときはびっくりしました」

キリエ「?ネロを?」

佐天「はい。何か……良く分からないけどとにかくすごい雰囲気で」

キリエ「あ……目つきとか風貌が、多分初対面の人からするとすごい近付きにくいところあるもんね」

佐天「…………私も最初見たときはちょっと怖かったです(それ以上にイケメン過ぎてアレでしたんだけどッ)」

キリエ「でもネロはね、本当はすごく優しい人なの」

佐天「…………わかります。表面は冷たいけれど、中はすごくあったかい『人』です」

佐天「まあちょっとしか一緒にいなかった私如きがこう言うのもアレなんですけどねッ!」

キリエ「…………」

キリエは佐天の話を聞きながら思っていた。

この子、ネロを『人』として見ているんだ、と。
ネロのあんな力を見てまで、
この子は彼の事を『人』として特別な色眼鏡無しで見ている、と。

知識が無いから、とも言えない。
逆に知識が無い者の方が、ネロの事を異質すぎる存在として怖がってしまうはずだ。

人は本能的に『巨大な未知』というものの存在をとことん嫌う性質がある。
知識を探求し『知ろう』とする行動もそれの裏返しだ。

更にネロに限って言えば、知識を持ち彼が『何なのか』を知っている者すら彼を恐れ特別視する。
悪魔の力が覚醒する以前からでも驚異的すぎる身体能力を誇っていたネロは、
フォルトゥナでも異質な目で見られ続けてきた。
289 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:06:18.62 ID:.bzd8U.o
今となっては、フォルトゥナの者達のネロへの見方は180度変わったが、
それでも『現人神』として見ている以上、彼を『人』とは認識していない。

忌み嫌われる対象から崇拝の対象となっただけで、視線の指している対象は力。
彼自身を色眼鏡無しで見ている者は、同じ孤児院で育ったような若い騎士等極少数だ。

受け入られたフォルトゥナでそれだ。

フォルトゥナの外に出れば、それはそれは恐れられ忌み嫌われる存在だ。

だが、この子は違う。

ネロの力を目の当たりにしてまで、彼の事を等身大で見ている。
『俗っぽい』と言ってしまえば聞こえは悪いが、
そういう視線で彼が見て貰っている、というのは実は素晴らしいことではないか。

キリエ「…………」

現にキリエ自身だって、
『力』や『存在』を無視した『等身大のネロ自身』にどうしようもないほどに惚れているのだから。

ネロが天使だろうが悪魔だろうが、人間の凶悪な犯罪者だろうが、
ネロがネロ自身ならばキリエにとって違いは無い。

キリエにとって、ネロは悪魔ではない。
フォルトゥナの神でもない。

ネロはネロだ。

そして。


佐天にとってもだろう。
290 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:07:36.60 ID:.bzd8U.o
キリエ「…………ありがとう。ルイコちゃん」

佐天「…………へ?」

キリエ「ネロをちゃんと見てくれて」

佐天「…………」

佐天「…………」

佐天「…………」

佐天「……………………あーもう!!!はっきり言います!!」


佐天「私、ネロさんに惚れちゃったみたいです」


キリエ「………………えッ…………えええええ?!」


佐天「恋ってしたことないんですけど…………多分『これ』ですよね」


キリエ「…………ッ……」

佐天「ま、わかってますよ!私が勝手に一方的にですから!(わかっててもしょうがないものだよね。失恋上等よ)」

キリエ「…………」

佐天「何も言わないで下さい!私には!これは私の『自業自得』なんですから!」

佐天「…………ってすみません。一人で…………困りますよねこんな事いわれても」

キリエ「ううん。嬉しい」


佐天「へ?」
291 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:08:56.07 ID:.bzd8U.o
キリエ「ネロをそういう風に見てくれる人って、ほとんどいなかったから」

キリエ「もう一度言わせて。ネロを人として見てくれてありがとう。本当にありがとう」

佐天「…………あ〜、そう言われちゃうとなあ」

キリエ「?」

佐天「いや……すみません、あの…………諦めが付かないっていうか。いや無理なのはわかってるんですけど……」

キリエ「じゃあ…………」


キリエ「『ネロは絶対に渡さないから』」


佐天「…………」

キリエ「…………これでいい?」

佐天「ああーんそれもキツイィィィィィイイ!!!!っていうか『これでいい?』なんて言ったら意味無いですし!!!!」

キリエ「ゴメン。でもこれも本音」

佐天「キリエさん結構キッツイとこもありますよね!!!天使みたいに笑いながらズケズケと!!!」

キリエ「あははは…………何て言ったらいいか……こういうの初めてだから…………どうしよう?」

佐天「…………どうしましょうか?私もわ〜かりませんあははははは!」

ルシア「…………??」

どうしようもなく笑いあう二人。
そんな彼女達の間にて、通訳しながらも話の中身が良く分かっていないルシアは
不思議そうに首を傾げていた。

佐天「でも…………私も言いますと」

キリエ「?」

佐天「ネロさんの婚約者さん、キリエさんで良かったです。本当にお似合いです」

キリエ「……ありがとう。本当に嬉しい」

佐天「あーああああその笑顔がまた!もおおおお!!!」

―――
292 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:09:31.32 ID:.bzd8U.o
―――

一方その頃。

とある病室。

トリッシュ「…………」

レディ「…………」

トリッシュ「…………」

レディ「……とりあえずはさ。私としては、人間界が無くならず人類も滅ばなければOK」

トリッシュ「……まあ、それは大前提ね」

レディ「あー。ホント複雑ね。どう収拾つけるのこれ」

レディ「ネロに説明しといた方が良いんじゃない?」

レディ「キリエの事があるけど、ネロだって天界の口の件も防げるのならば見過ごすはず無いだろうし」

ダンテがバージルの『使命』を『横取り』するとした以上、ダンテにとっても天界の口は開いてもらわなければならない。
一方でネロは、キリエの件が済み次第アリウスを即刻排除しようとしている。
天界の口の開放も防げるのならば、迷い無く手を打つはずだ。

230万の人命がかかっているのだ。

救うのが可能であるのならば、絶対に見捨てるはずが無い。
いや、むしろ彼は必ず救うつもりでいるはず。

ネロは絶対に、人類全体と230万の命を天秤にかけたりはしない。
最初から『犠牲を承知』するなど、彼は絶対にできない。

何が何でも、一人でも多くとにかく救おうとしているだろう。

学園都市側の動きに対してだって、表面上は冷めて煙たそうな態度を見せているものの、
内心では『俺が全部やるから、俺が全ての責任を背負うから任せてくれ』というスタンスであるはずだ。
293 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:10:41.92 ID:.bzd8U.o
トリッシュ「…………」

だからと言って、ダンテやバージルの目的を告げるのもマズイ。

必ずネロは、『俺がやる』と双子に割り込んでくるはず。

『スパーダを持ってるのは俺なんだから、俺が本命だろ』、と。

トリッシュ「説明したらもっと混乱するでしょ。ネロの事だから『はいそうですか』って黙ってる訳が無いし」

トリッシュ「今でさえバージルとダンテの『主導権の奪い合い』なのに、そこにネロが入ったらもうぐっちゃぐっちゃでしょ」

レディ「…………どうしてスパーダの一族って皆そうなのかしらね。良くも悪くも皆アクが強すぎるわ」

トリッシュ「…………」

レディ「説明したらしたらで三つ巴。説明しなくとも三つ巴。参るわねあの家族にはほんと」

そう、どう転んでも結果的に三者の意見が割れてしまうのは目に見えている。

レディ「それと言わなかったら言わなかったで、ぎゃあぎゃあ言うと思うけど。ネロ。また変に荒れそう」

レディ「ダンテとバージルのためなら平気で命投げ出すくらいあの二人に心酔してるし」

トリッシュ「本当に『そうなる』からあの二人は、ネロに知られるの避けてるんでしょ」

レディ「…………」

トリッシュ「…………やっぱり、この件は全てダンテに任せるべきね」

トリッシュ「私達が勝手に動くべきではないわね」
294 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:12:08.46 ID:.bzd8U.o
レディ「……………………はぁ〜、私ったらとんでもない時代に生まれちゃったわね全く」

トリッシュ「あら、そう言う割にはかなり楽しんでるじゃないの?」

レディ「ま、そうなんだけど」

レディ「ただ、傍観するしかないってのもかなり癪」

トリッシュ「…………まあこればっかりはね」

レディ「…………」

とそんな重苦しい空気が流れる中。

響く、ドアのノックの音。

トリッシュ「はいどうぞ」

そしてトリッシュの声に促され、ドアが開き。


御坂「あの…………」


神妙な面持ちをした御坂が姿を現した。
295 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:13:23.24 ID:.bzd8U.o
トリッシュ「あ、イマジンブレイカー達ならもうそろそろ来ると思うわよ」

御坂「…………」

そのトリッシュの言葉に対し、御坂は無言で唇を噛み締めたまま。

トリッシュ「Hum......」

レディ「(…………何かあるか)」

二人ともその御坂の様子を見、
彼女の中にある『何か』の思いの存在を即座に気づく。

彼女に圧し掛かっている何かを。

トリッシュ「なあに?」

レディ「…………」

今度はやや穏やかな口調で、トリッシュは御坂に用を促した。

御坂「…………あ…………挨拶しておこうかなって……」

私服の上着の裾を握り締めながら、ようやく口を開いた御坂。


トリッシュ「何の?」


御坂「お、お世話になった…………というかその……」


レディ「(……なるほどね)」
296 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:14:29.15 ID:.bzd8U.o
御坂は隠しているようだが、この二人の目を誤魔化せるはずも無い。
彼女の言葉でトリッシュもレディも即座にピンと来た。

これは戦いに行く際の挨拶だ、と。

そう考えると。

今、御坂がいく『戦場』は一つしかない。


トリッシュ「あ、デュマーリ島に行くの?」


何を隠すことがあるか。

とあっさり、トリッシュはストレートに言葉を飛ばした。


御坂「―――!!!!!!!!!!!!」

当然、慌て焦り始める御坂。

御坂「あ……!!!!ど、どこからそれを?!!!!」

レディ「どこからって。アンタを見りゃわかるわよ」

御坂「…………!!!!!!!!!」

トリッシュ「別に、そう取り繕うとしなくても良いわよ。楽にして」
297 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:15:46.33 ID:.bzd8U.o
御坂「…………あッ……………う、うん。私、明日デュマーリ島に行く」

トリッシュ「(……まあ、この子の性格から見て、知ったら行くのは予想できたわね)」

トリッシュ「レディ」

レディ「ん?」

トリッシュ「『先輩』としてアドバイスくらいしてあげれば?」

レディ「あ〜、そうね」

レディ「じゃあ…………そうね、『人の先輩』として少しだけ」

レディ「退く時は退きなさい。ただ、戦いから逃げるということじゃあない」

レディ「退いたのならば、まず周りを、状況を良く観察する」

レディ「良い?人間には『頭』がある。『頭』を使いなさい」

レディ「一見手が出せなさそうな存在でも、必ず付け入る隙があるの」

レディ「『チャンス』はそこら中に転がってる。『有効な手段』は時に『近く』を転がってるものよ」

レディ「一見通用し無そうに見えても、実はかなり有効な『切り札』もあるものよ」

レディ「力が劣っていても、それが『最強の武器』になり得るいうこともありえるの」

レディ「ダンテやバージル、ネロの三人でも殺しきるのが不可能だった魔帝を、小さなイマジンブレイカーが『壊した』みたいに」

レディ「……って、これはちょっと例えにしずらいか」

御坂「…………ううん。わかる……わかります」
298 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:16:52.97 ID:.bzd8U.o
レディ「…………あー…………」

と、その時レディは立ち上がり。

レディ「怖いんでしょ?」

ニヤリと笑いながら、御坂の方へと歩き進み。

御坂「!そ、そんなんじゃ……!」


レディ「良いじゃないの。それが人間よ」

そして彼女の前で屈み、その頬を右手で優しく撫でた。

御坂「…………!」

レディ「私だって悪魔と戦うのは本当は怖い」

その手から。

指から伝わる温もり。

人間の暖かさ。


レディ「でもね、その恐怖を押し殺して戦おうとする心がある」

レディ「アンタにも。それを誇りなさい」


レディ「アンタは『人間の鑑』」


御坂「―――」


レディ「『人の子』として前に歩み出なさい」
299 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:18:03.37 ID:.bzd8U.o
レディの温もりと言霊。

それらを認識した御坂は、目を大きく見開き顔をあげ、
目の前の女性のサングラス越しのオッドアイを見つめた。

そんな彼女の頭に、小さく笑いながら今度はポンと右手を乗せるレディ。

レディ「ま、私ほど『前』に出たら、その恐怖が逆に楽しくなってきちゃうけど」

レディ「そこまでは行くか行かないかはご自由に。でも最っ高に楽しいわよ」

御坂「…………」

レディ「アンタ、直情的、直線的、無鉄砲でしょ?」

御坂「……うん。自覚してる」

レディ「やっぱり。わかるわよ。何となく私に似てるし」

御坂「………………」

レディ「もっと早くどこかで出会ってれば、一から修行させて戦い方教えてあげても良かったんだけど」


御坂「―――……………………………………私も……」


レディ「ま、帰ってきたら教えてあげても良いわ。アンタがその気なら」


御坂「―――っ」

と、御坂がレディに何かを言おうとした時。

レディ「さ、用は済んだでしょ。さっさと他の事も済ませてきな」

くるりと踵を返しながら立ち上がり、御坂に背を向けレディは離れていった。
まるで、御坂の答えを『今は聞かない、帰ってから言え』と態度で示しているかのように。
300 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:19:19.58 ID:.bzd8U.o
御坂「―――ッ…………じゃ、じゃあ行ってきます!!!!!」

そんなレディの背中から発せられていた意図を読んだのか。
御坂はハッとしたかのように一度体を揺らし、二人に向けペコリと頭を下げ。

トリッシュ「イマジンブレイカー達にも挨拶しなさい」

御坂「うん!!!」

そしてトリッシュの声にも促され、足早に退室していった。


レディ「…………世話の焼けるガキだこと」

先ほどまで座っていた丸椅子に腰掛け、
ドアの方へと視線を向けながらポツリと呟くレディ。

トリッシュ「……でも、随分とあの子の事気に入ったみたいじゃないの」

そんな彼女へ、同じくドアの方を見ながら言葉を飛ばすトリッシュ。

レディ「かも。私に似て可愛いし。大きくなったら化けるわよあの子は」

トリッシュ「ねえ、そういえば、昨日あの子の『妹』に会ったって言ってなかった?」

レディ「…………そうだけど?」

トリッシュ「言わなくて良いの?」

レディ「言うかどうかは本人達が決めることでしょ」

レディ「『誰かさん』曰く、『家族の問題』には部外者は余計な口を出すなって」

トリッシュ「ふふ、まあそうね」


レディ「……………………ちょっと失礼」


と、その時一泊置いてレディがそそくさと立ち上がり、ドアの方へと向かった。
301 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:20:33.62 ID:.bzd8U.o
トリッシュ「………………『大』?『小』?人間って大変よね」

そんな彼女の背中へ、そっけなく言葉を飛ばすトリッシュ。

レディ「……………………『小』。あのさ、私も一応『レディ』なんだから言わせないでくれない?」

トリッシュ「あらごめんなさい」

レディ「……わざと言ってるわね。全く…………」

そう小さくはき捨てながら、レディはそそくさと部屋から出て行った。


トリッシュ「…………」


そして一人になったトリッシュは、ふと思索に耽入った。


いや、正確には『一人』ではないか。


今、彼女の愛銃を持つ『相棒』とリンクし手いる為、
互いの心の内がリアルタイムで筒抜けなのだから。
302 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:21:29.62 ID:.bzd8U.o
トリッシュ「…………」

今までもある程度はダンテの内面を見てきたが、今初めて彼女はダンテの中を直接見ていた。

共有して。

ありありと彼の中身が伝わってくる。

戦いの楽しみ。

戦いの快感。

そして『人』への底なしの愛と。


―――底なしの苦悩。


トリッシュ「…………」

今までも、多くの命がダンテの手の平をすり抜けて零れ落ちて行った。
事件の種を排除し結果的に解決できたとしても、救う対象だった存在の多くが消えていった。

ダンテの存在に掻き消されがちであり、彼自身も決して表面に出さないためわかりにくいが、
彼の周りには常に『死』が纏わりついて来た。


ダンテ自身がどんなに飄々と明るく振舞っても。

事件の核を叩き潰し、毎度の如く圧倒的な勝利を収めても。


トリッシュの知る限り、その周りの『人間』が『幸せ』になったためしなど数える程度しか無かった。
303 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:22:18.14 ID:.bzd8U.o
本当の意味で救われたのは『極少数』。
過去から続く怨嗟に『巻き込まれた』人々を引き上げ、『0』に戻しただけ。

いや、『0』になっただけでもマシだ。

大半が『マイナス』のままだ。
それは『マイナス』となった人々の『仇討ち』の戦い。
彼自身の血に刻まれた、過去から延々と続く『贖罪』。

これ以上『マイナス』が『伝染』しないよう、力ずくで闇を『埋め立てる』だけ。


彼は、己自身の事を『ヒーロー』とは思っていない。


彼は、己自身の事を『救世主』とは思っていない。


『罪人』だ。


『疫病神』だ。


必死に『マイナス』を『0』に戻そうとしている『罪びと』だ。
304 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:23:21.49 ID:.bzd8U.o
かつてスパーダは人間界を救った際も、己が救世主として称えられる事を嫌った。
『英雄』として名が広まることを良しとしなかった。

なぜなら。

『プラス』になることなど何もしていなかったから。

人間界にとっての『マイナス』を『0』に戻しただけだから。
しかもその『マイナス』は、己が片棒を担って大きく増幅させてしまった存在なのだから。


そしてダンテもこの父の考えを受け継いでいる。

ダンテはテメンニグルの塔で兄と戦った際、そのスパーダの跡を継ぐことを決心した。

『これ』をダンテは『宿命』と表現したのだ。


父をも縛り上げてた『巨大な鎖』。

それをダンテは『全て』引き受けた。


『人の傍』ではなく離れた位置から『人間界を守る』という『贖罪』。

血に刻まれた『罪』の『償い』。

ダンテは『一人』で背負うことを心に決めたのだ。

ネロでもバージルでもない。


ダンテ自身が『一人』で。


一人で。

そう―――。


一人で全てを背負った『はず』なのに。
305 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:24:07.19 ID:.bzd8U.o
今、その巨大な『鎖』はバージルを縛り上げ、そして『奪おう』としている。
このまま行けばネロも。

そしてその先は。

『人間界』も。


『宿命』は『全て』を奪おうとしている。
『全て』に『食指』を伸ばそうとしている。


ダンテがそんな事など絶対に許す訳が無い。


『―――まだ足らないのかよ』


『―――まだ喰らうつもりか?』


『―――ふざけるな。これ以上何も「やらねえ」』



『―――「俺だけ」だったはずだ―――』



『―――「俺だけ」を喰らえ。そう決めたはずだ』



『―――俺を目一杯喰って、腹を壊してとっととくたばれよ』、と。
306 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:25:08.23 ID:.bzd8U.o
ダンテは正面から遂に宣戦布告した。

『ここで「お前」を断ち切ってやる』、と。


家族を解放するため。

愛する全てを解放するため。


父も。

母も。

兄も。

甥も。


人類の全てを。


そして人間界そのものを。



この巨大な『宿命』から解き放つため。


全ての『マイナス』を『0』に戻すため。

彼はケリをつけようとしている。


己で全て『清算』しようと。



『「主役」の俺がやるべきだろ』、と―――。
307 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/27(水) 19:27:02.46 ID:.bzd8U.o
―――と。

ダンテの今の心境を把握したトリッシュ。
それを理解した上で、彼女は告げる。

トリッシュ「(―――ねえ。ダンテ)」

今、己の愛銃を持ち精神がリンクしている『相棒』へ。

ダンテ『(何だ?)』

トリッシュ「(アナタの考えもわかる。アナタが自分の事をどう思ってるかも)」

これは単なるわがままよね、と自覚しながらも。

トリッシュ「(でもね。アナタも今ははっきりとわかるでしょ?私にとっては―――)」

リンクしている以上、ダンテも知っているのは当然であるのだが。


トリッシュ「(―――アナタが『救世主』なのよ)」


彼女は『はっきり』と伝えたかった。


トリッシュ「(私にとってたった一人の―――)」



トリッシュ「(…………―――『英雄』なんだから)」



ダンテ『(そうか)』


トリッシュ「(死んだら許さないわよ。約束して。約束しなさい)」


ダンテ『(―――………………あ〜…………わぁったよ。約束する)』

トリッシュ「(―――…………わかってる?今はアナタの心、こっちに駄々漏れなのよ)」


トリッシュ「(―――嘘吐き)」


ダンテ『(……………………ま、それは最後まで見てから言え)』

―――
308 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 19:28:53.00 ID:.bzd8U.o
今日はここまでです。
次は日曜か月曜の夜に。

来週中にでも伸びに伸びてしまったこの編を終わらせようと、
やや駆け足になっております。
すみません。
309 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 19:35:02.80 ID:20aGucDO
ダンテ死なんといて
310 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/27(水) 19:50:45.99 ID:JhVlsYA0
絆が深いのも考えもんだなぁ……
311 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 21:36:23.53 ID:FvMqjLMo
あれ、ダンテでもこの敵はかなりやばいんじゃね?
ダンテから見ても絶対神に抗うようなもんだろこれ



でもダンテならきっとやってくれるはず
どうやってぶちのめしてケリをつけてくれるのか楽しみだぜ
312 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/28(木) 00:16:19.82 ID:kBRLCMAO
親父の尻拭いとはダンテも言った台詞だが、いいテーマだな
宿命を断ち切るってのは、終わりに相応しく個人的にかなり燃えるぜ
313 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/28(木) 03:43:07.19 ID:0lO9ij60
今夜も乙乙乙!
314 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/29(金) 20:27:39.51 ID:Ya/1UMAO
文章くどすぎアホみたいに1から10までばっさりはぶけよ
315 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/29(金) 22:29:20.73 ID:h33vygAO
日本語でおk
316 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/29(金) 23:35:50.48 ID:gT6iq8.o
このSS批判する奴初めて見たかもしれん
317 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/29(金) 23:51:11.88 ID:cFLqii2o
DMCは全部やったけどベヨはやってない…

やってから読むべきか、読んでから購入を検討するか
なかなかに迷うところだな
318 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/30(土) 02:04:50.40 ID:677ysoAO
>>317
俺なんて体験版しかやってないぜ!
まぁストーリーに関して言えばDMCのようにB級王道展開だろうから気にせず読んでいいんじゃない?
319 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/30(土) 08:03:11.91 ID:KmMhsJ.o
まぁ、少しくどいと感じるところはあるかなあ

同じ状況説明何度もしたりとか

面白いんだけどね
320 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/30(土) 10:14:06.86 ID:RJDmI2M0
一気に書き上げてる訳じゃなくてぶつ切りに投下してるから
説明部分や設定描写が重なるのは仕方ないんだよ。
小説じゃなくて長期SSだから仕方ないトコだと思って暖かく
見守ってあげて。
321 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/31(日) 01:44:08.02 ID:zTA9ZYAO
纏めて読むと少しくどいだろうけど
俺は生だけで読んでるからちょうど良いかな
322 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/31(日) 20:31:59.61 ID:KCYdIyco
ストロベリーサンデーが止まらない
323 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 18:28:47.30 ID:wAdLIUoo
変わらず、いや変化もしつつか。おもしろいぜ。たまらんなあ。
324 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 23:00:45.73 ID:jtQF5cAO
そろそろかぁ
325 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 23:11:43.94 ID:smIwbYso
―――

とある病棟の廊下。

昼食と休憩を済ませたインデックス、上条、ステイル。
この三名がトリッシュとキリエの待つ病室へと向かっていたところ。

禁書「あ」

彼らの正面、廊下の先から御坂が手を振りながら歩み寄ってきた。

御坂「いたいた」

上条「?」

御坂「えーっと…………話があるんだけど良いかな?」

上条「ん?」

御坂「あのさ。アンタに……その……『伝えておきたい』ことがあるの」

上条「………………………………………………」

今の上条ならここでピンとくる。
御坂が自分に伝えたい事は何なのかが。

禁書「うん……………………ステイル、先に私と一緒に戻るんだよ」

『同じく』恋する乙女の感覚で敏感に状況を把握したインデックス。
影の全く無い微笑みを浮かべると、脇のステイルの袖を引っ張りながらこの場を離れるよう促した。

ステイル「……い、いや…………待て……」

ステイルもその妙な空気を感じ取り、
『二人っきりにして良いのかインデックス?』と言いたげな表情で戸惑い始めたが。

禁書「良いんだよ。私は部外者。『アレ』はあの二人の事なんだから」

禁書「さ、さ、ほら!!何モタモタしてるのかな!?さっさと行くんだよ!」

尻を叩かれるようにインデックスにまくし立てられ、彼女に押されるような形でその場から離れていった。
その際。

御坂「……」

インデックスがちらりと御坂の方へと振り向き、穏やかな表情で小さく頷いた。

御坂「(……………………ありがとう)」
326 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 23:14:28.20 ID:smIwbYso
上条「…………」

御坂「…………」


御坂「…………ふーっ……『先』にこっち言うか」


上条「?」


御坂「あー、私、デュマーリ島に行くの。明日の夕方に出発」


上条「………………………………はっっ…………はぃぃぃ??!!!!」


御坂「だーから、ちょっくら暴れてくるって言ってんの」

パチリとウインクし、可愛らしく笑いながら告げる御坂。
まるで遊びに行くようなノリで。

上条「い、いや……!!!!ちょっと待て待て待て!!!!わかってんのか!!!??あの島は―――」


御坂「いまや千、いや万を超える悪魔が巣くう『魔境』。わかってるって。多分アンタよりも詳細把握してるわよ」


上条「わ、わかってるなら何で……!!!!??」


御坂「『なんで』?」

御坂「おかしな事聞かないでよ。決まってるでしょ―――」



御坂「アンタの『世界』―――」



御坂「―――私も守りたいからよ。。」


上条「―――」
327 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 23:16:17.48 ID:smIwbYso
上条「―――……」


御坂「……私も一緒に戦いたいなーって。少しでも役に立ちたいなって」

上条「…………で、でも御坂……」


御坂「言わないで」


御坂「っていうか、アンタに私自身の気持ちの事、何だかんだ言われる筋合いはないでしょ」

御坂「これは『私のもの』」

御坂「これは私がやりたい事なんだから」

御坂「私自身が決めた事なんだから」


御坂「それにそろそろ、守られ続けてきた『借り』返さないとねっ」

御坂「私にも、自分で言うのもアレだけどそれなりの『プライド』ってもんがあるし」

上条「…………御坂……」
328 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 23:18:41.34 ID:smIwbYso
御坂「それに厳密に言うと、『アンタの為』に戦うだけなわけじゃあない」

御坂「これは私自身の戦いでもあるの」


御坂「『アンタが好きな私自身』の為の戦いでもあるんだから」


上条「…………………………」

御坂「……………………あ……………ちょ………っ!!!!!」

御坂「…………うっ…………ん…………ぐぐぐ…………!!!!

勢いでもう一つの『伝えたいこと』の一部を言ってしまった御坂。
一瞬ドモり、俯いたが。

御坂「―――んぱあああああああああああああぁぁぁもうっっ!!!!!!!!!こぉなったらはっきり言うわっっ!!!!」

今にも爆発しそうなくらい顔を真っ赤にしながらも、気合を入れるような声を発しながら、
真っ直ぐと顔を上げて上条の顔を見据え。


御坂「私さ、アンタの事が―――」


堂々と前に歩みだし。


御坂「―――当麻の事が―――」


宣言し。


御坂「―――大好き!!!!!」


己の想いをぶつけた。


御坂「死んじゃいそうなくらい大好きなの!!!!!!」


上条「―――…………」
329 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 23:23:33.12 ID:smIwbYso
御坂「ッ…………………………………………」

上条「…………………………………………」

そして流れる数十秒間の沈黙。

上条「………………………………お、俺は……」

御坂「あ…………気使わないで。……私、その……わかってるから……」

上条「へ??」

御坂「…………アンタ、あの子に心底惚れてるでしょ」

上条「!!!知ってたのか!!!!!??」

御坂「知ってるも何も見ればわかるってのよ!!!!!!この単細胞!!!」

上条「な、な!!!!お、俺だって知ってたぞ!!!!御坂が俺の事好きなのは!!!お前の方こそ単純じゃねえか!!!!」

御坂「はぃ!!??ちょ、ちょっと!!!それどういうことよ―――!!!!」

上条「どういうことも何も!!!!お前こそ―――!!!!」

御坂「―――…………」

上条「―――…………」

御坂「…………ぷは、ははっはははは!」

上条「…………へっ……ははははははは!!!」

御坂「……あーあ、なーんかガンって構えてたのがバカらしくなってきちゃった」

上条「……はぁ〜、俺も。どう返そうか悩んでたのがアホみたいだ」

御坂「でも良かった」

上条「?」

御坂「こうでなくちゃ。変にこじれるの嫌だもん」

上条「はは、そうだな。お前がウジウジしてるのは似合わないな」

上条「笑ってる顔が一番だ」

御坂「……………………まーたそういう事言う」

上条「……な、何だよ?」

御坂「いんやーなーにもー」
330 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 23:26:12.68 ID:smIwbYso
御坂「…………あ、ねえねえそれでさ」

上条「ん?」

御坂「当麻の事、ずっと好きでいて良い?」

上条「(…………なんつー質問だよ……女って良くわからねえな……)」

上条「……いや、さっき自分で言ったろ?俺に『気持ちの事何だかんだ言われる筋合いは無い』って」

御坂「あ……あはは、そうだったっけっ。じゃあお言葉に甘えて、ずっと当麻に惚れさせ続けてもらうわ」

上条「……俺はどうこうしろとは言わないけど、いいのかそれで?」

御坂「余裕だっつーの。恋する乙女は強いのよ」

上条「……そうだ。はっきり俺の方からも言わせてくれ」


御坂「……今更変にオブラート包まないでね」


上条「おう……俺は、その気持ちに応える事は無理だ」


上条「その気持ちはインデックスにしか向けられない」


御坂「…………うん。OK、わかってるわ」
331 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 23:32:55.59 ID:smIwbYso
上条「それともう一つ」

御坂「?」


上条「ありがとう」


御坂「―――」


上条「こんな俺にその気持ちを向けてくれて嬉しい」


上条「…………その気持ちに応える事はできないけど」


上条「お前は俺にとって大事な人の一人だ」


上条「何があってもお前の世界は守る」


御坂「あのさ………………アンタさ、私をこれ以上惚れさせてどうするつもりよ?何考えてんの?本当にバカなの?」

上条「ぐぐ………………………………」

御坂「―――って冗談よジョーダン!好きだから別に問題無いわ。ドンと来いって感じよ」

御坂「ただ、そこらの女の子にはもうそういう事言わないの。これ以上手を広げるとそのうち暗殺されそうだし」

御坂「そういう事あっちこっちにポンポン言うから色々面倒なことになるのよ」

御坂「私はさ、もう結構前からちゃんと覚悟決めてたからこうだけど、他の子じゃこうは済まないかもよ。もっとドロドロするかも」

上条「は、はい…………肝に命じておきます……」
332 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 23:35:26.37 ID:smIwbYso
御坂「あ〜……最後に一つだけ聞いて良い?もしさ、もし」

上条「?」


御坂「当麻があの子の事好きになる前に……」


御坂「……わ、私が気持ち伝えてたら…………『見込み』あった?」


上条「…………かもしれない『けど』……」


御坂「……『けど』?」


上条「……今となっちゃはっきり答えられない。『もし』が想像しにくいんだ」



上条「今の俺、あいつに思いっきり惚れちまってるから」



御坂「………………ふふ、やっぱ、私が惚れた男なだけあるわね」

御坂「ムカつくぐらい『痺れる』わ。そういうところ」

上条「……」


御坂「……ねえ、当麻。約束して。あの子の傍にいてあげて。ずっと」


上条「……ああ。約束する。誓うよ」
333 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 23:37:16.91 ID:smIwbYso
そして上条がスッと右手を差し出し。

上条「―――『美琴』」

彼女の下の名を読んだ。

御坂「―――…………うん。『当麻』」

同じく御坂も上条の下の名を呼び。
彼の右手を固く握った。
がっちりと。

それはお互いへの敬意と信頼と。

対等な『絆』の証明。


御坂「………………この時を夢見てたの」


御坂「当麻に……こうして『認められる』日を」


恋仲ではない。
だが。
御坂は上条に最も近付いた一人となった。
彼女もまた、上条にとって特別な者の一人。

それを肌で、手で、魂で確認し知り合えた今。

御坂にとって、今までの人生で最高の瞬間となった。


御坂「……ありがとう。本当に」


上条「『こちらこそ』な」


上条「それと絶対帰って来いよ。帰って来なきゃ許さねえからな」


御坂「当麻も。『約束』破ったら承知しないから」
334 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 23:42:23.65 ID:smIwbYso
御坂「―――そーれじゃ!行って来るわね!留守番、頼むわよ?」

そして二人は手を離し。

澄み渡る笑顔を浮かべ、手を振りながら御坂は後ずさりし。

上条「おう。任せとけ」


御坂「あと!!!!!!私が『こう』したんだから―――」


御坂「―――モタモタしてないで当麻も『こう』しなさいよ!!!!あの子に!!!!!」


上条「―――」


御坂「じゃーあねー!」

踵を返し、
軽く明るくそれでいて確かな『重さ』をもった、揺ぎ無い足取りで彼から離れていった。


上条「……………………俺も……『俺自身』のやるべきことをさっさとやらなきゃな」

上条は穏やかな表情を浮かべつつ、
遠ざかる御坂の背を見つめながら小さく呟いた。


上条「御坂に負けてられねえぜ」

先ほど握手を交わした右手を固く握りながら。




―――さっさと伝えよう。インデックスに―――全部―――。




335 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 23:44:19.19 ID:smIwbYso
病棟の廊下を軽やかな足取りで進む御坂。

御坂「〜♪」

不思議な感覚だ。
この想いが実らないことが確定的になったというのに、
心は晴れ渡っている。

いや、よくよく考えれば不思議なことではないかもしれない。

心のどこかでは、上条が応えてくれるのを期待していたかもしれないが、
それは今となっては御坂の本望ではない。

ブレてしまう上条なんか『嫌い』だ。

そんな奴、『上条当麻』ではない。


御坂ではなくインデックスを迷い無く選ぶのが上条当麻。
己の心に素直で芯が通っているのが上条当麻。

その顔がどれほど愛おしい事か。
そんな彼がどんなにかっこいい事か。
そんな彼に御坂美琴は惚れている。
だからこれで良いのだ。

例え彼の目が己に向いていなくとも。


これで良い。


あれが、彼女が望む『上条当麻』の姿なのだから。
336 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 23:45:25.43 ID:smIwbYso
御坂「よし…………」

吹っ切れた御坂の足取りは確かなものであり、そして揺ぎ無い。

ただ吹っ切れたと言っても恋が冷めたというわけではない。
むしろ余計に火がついた。

その『方向』に吹っ切れたのだ。

今なら御坂は学園都市中、いや世界中に向けて堂々と宣言できる。

私は当麻に惚れたんだ、と。

私は当麻の事が大好きだ、と。

負い目や恥ずかしさなど微塵も無い。
それが彼女の『誇り』であり、全てを受け入れ前に歩みだした『自分自身』なのだから。


御坂「……おっけー。気合入ったわ。とことんやったるわ」


一回りも二回りも『強く』なった御坂美琴。

純真無垢な乙女は突き進んで行く。
陰りの無い歩みで。

―――
337 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 23:49:05.62 ID:smIwbYso
―――

フォルトゥナ。

フォルトゥナ魔剣騎士団本部。

再建された堅牢な本部のとある大きな一室。
広めの部屋の中央に大きな円テーブルが置かれており、
複数名の騎士の最高幹部、そしてネロが立ちながらそのテーブルを囲んでいた。

その輪から少し離れる形で、壁際にて椅子に座っている現フォルトゥナ騎士団長。
既に髪は無くなり白い髭を蓄えた老齢80だが、
その眼光は今だ鋭く鍛え上げられた体も全く衰えてはいない。

彼はかつて教皇サンクトゥスに反発し、
その結果現役を退き隠居する事となった最高幹部の一人であった。

清き全うたるフォルトゥナ騎士道を体現していたこの老人にとって、
騎士精神を曲解した教皇サンクトゥスのやり方はどうしても馴染めなかったのだ。

騒乱後の騎士団再建の際、ネロを騎士団長にとの声が高まったが、
ネロは騎士団長の座を辞退し代わりに彼を推したのだ。
皆もそのネロの言葉に賛同し、滞りなくこの老齢な最高峰の戦士が騎士団長の座についた。

ネロ以外ならば彼しかいない、と。

ちなみにこれは余談だが、
ネロが敬語を使って話す相手は存命人物の中でこの騎士団長のみでもある。

ネロが幼少の頃、騎士の初歩教育の際に教鞭を持ち、
フォルトゥナ騎士道の何たるかを叩き込んだ人物がこの現騎士団長なのだから。
338 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 23:50:29.10 ID:smIwbYso
ネロ「…………」

テーブルの上には様々な報告書・書類が載せられており。
ネロはその一つ、騎士団の編成状況が記された報告書に目を通していた。

重装騎士が82名。
軽装騎士が311名。
騎士見習いが66名。

計459名。

これらが現フォルトゥナ騎士団所属の全戦闘要員。

人数だけで見ればかなり心細い規模だろうが、
人間世界最高峰のデビルハンターが480人も含まれていると考えれば、
その圧倒的なパワーが分かりやすいだろう。

更にそれとは別に市民からの義勇兵が約600名。

これが現在のフォルトゥナにおいて剣を持つ者達だ。
この内、騎士団所属の200名がネロに率いられてデュマーリ島に向かう手はずになっている。
残りはフォルトゥナの守護だ。
339 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 23:52:16.34 ID:smIwbYso
ミス

>人間世界最高峰のデビルハンターが480人  ×


>人間世界最高峰のデビルハンターが393人  ○
340 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 23:55:32.18 ID:smIwbYso
ネロ「…………」

と、ネロを含む幹部達が様々な報告書に目を通していたところ。
一人の若い騎士が書類を手に部屋に入ってきた。

その者が腰に差している細い剣。
積極的対悪魔戦用ではなくあくまで護身用のもの。
身なりから察するに、戦闘員ではなく技術部門の者だ。

その若い騎士は簡単な礼を済ませ、書類に目を落としながら。

「デュマーリ周辺の遠隔監視調査を行っていた隊からより報告」

「かなり巧妙に偽装されていましたが、『糸』の発見に成功しました」

「デュマーリ島より世界各地の人造悪魔一体一体へと接続されてました」

淡々と報告を読み上げた。

「解析はできたか?」

その男に向け、ネロの左隣にいた屈強な初老の幹部が言葉を飛ばす。

「ある程度は。基本的にそれぞれの個体が命令に従って独立活動するらしいですが、完全にではありません」

「常に『糸』により制御を受けております。知能の低い下等悪魔を組み合わせたからでしょう」

ネロ「…………」

そう、ルシアやセクレタリーのような高度の知能を有する高等存在ならまだしも、
下等・低知能ならばある程度の制御は必要になってくるはずだ。

フロストやアサルトのような命令にどこまでも忠実な『生粋の戦士タイプ』の悪魔でもない限り、
放っておくと命令なんかそっちのけで、欲望のまま好き放題やらかす可能性もあるのだ。
341 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 23:58:18.56 ID:smIwbYso
「万が一の為の強制停止用の記述も発見できました」

「意図に沿わない暴走を防止する為のものでしょう」

ネロ「…………」

まあ、相手を考えるとそういう万が一の対策をとっているのも当然だろう。
ルシアにも似たような術式が魂に刻み込まれているのを先日直に目にした。

「浸入は可能か?」

今度はネロの右斜め前方、やや細身の30代後半の幹部が口を開いた。
一応聞いておくか、といった投げやりな声色で。

『糸』にそのような機能があれば浸入は誰でも考える。
破壊できれば悪魔の統制を失わせる事が可能であり、更にジャックをできれば一気に強制停止もできる。

だが。

アリウスならば、いや彼でなくとも普通に考えれば分かるだろう。
フォルトゥナ側が浸入を試みるという事は。

そして若い騎士からの返答は予想通り。

「『防護隔壁』が非常に強固であり、回線浸入は困難を極めております」

「現在の状況は?それとどれだけの時間があれば隔壁を破れる?」

「回線浸入を試みましたが、そのたびに防護記述が自動更新され、自動修復と更なる隔壁強化が行われる仕様です」

「現在はまずその更新用記述の破壊を試みてますが、最低でも2ヶ月かかるかと」

「……やはり論外だな」

ネロ「…………」
342 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/02(火) 00:00:47.92 ID:LWRiYboo
だが、この報告が無益だったというとそれは違う。

少なくとも世界中に散らばっている人造悪魔兵器を、
一つ一つ潰す必要なく一度に全て強制停止できる方法があるのがわかったのだ。

「……即座に手を出せる方法はあるか?」

「デュマーリにあるであろう『コア』から浸入できれば即座に」

「その為には現地にて『コア』を探し出し、直に接続する必要がありますが」

「ちょうど良いな。よし、2時間以内に術式構造の詳細を含む報告書をネロに提出してくれ」

「了解」

ネロ「(…………向こうでの仕事が増えたな)」

アリウスの処理、魔界の門と天界の門の件。
そこに更に加わった人造悪魔の制御コア奪取とジャック、そしてその破壊。

騎士200を連れて行くとはいえ、少々ハードスケジュールだ。

ネロ「(ま、やってやるさ)」

ただ、もちろんハードな『だけ』であり『困難』ではない。
343 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/02(火) 00:06:52.63 ID:LWRiYboo
「それとは別に、『糸』の末端解析はできたのか?」

「はい。各地にある人造悪魔兵器の総数とおおまかな配置は判明しました」

「島外の人造悪魔の総数は13万5732体」

「この内の31%がフランス北部に、25%がイタリア中部に、17%がロシア東部に集中、その他は各地に点在」

ネロ「(…………イタリア…………ローマ正教自体も標的か……)」

ネロ「(天界系の人間勢力を全て破壊する気だな。天界を更に刺激する為に)」

と、その時。


『ネロ様。ネロ様あてに極秘回線からの通信が入っております』

室内に響く、通信魔術からの声。
皆一旦手を止めネロの方へと目を向けた。

ネロ「…………イギリスか?」

『いえ。それが…………』


『ローマ正教、教皇用の回線からです』


ネロ「…………相手は?まさか教皇サマか?」


『いえ。こう名乗っております』



『「神の右席」―――』



『―――「前方」を冠す者だと』



ネロ「………………………………へぇ」

『どう致しますか?』

ネロ「とりあえずこっちに繋げてくれ」

『了解』
344 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/02(火) 00:13:22.40 ID:LWRiYboo
ネロ「OK、俺に用か?」


『…………アンタが……スパーダの孫か?』


ネロの呼びかけに対し返ってくる、やや性格がきつそうな若い女の声。



ネロ「そうだが?」

『…………意外だったわ。こうもすんなり繋げてもらえるなんて』

ネロ「……『前方』は何ヶ月か前に空座になったと聞いたが」


『今日返り咲いたのよ』


ネロ「そうか。それで何の用だ?とりあえず聞いてやる」

『……私の身分確認とかはいらないのか?そんなにすぐに信じるのh』

ネロ「誰も信じるとは言ってねえ。とりあえず聞くっつってるんだ。それに一応教皇用回線使ってるしな」

『この秘密回線がどこのかバレてるのか。さすがはフォルトゥナといったとこr』

ネロ「御託はいいからさっさとしろ。こっちは忙しいんだ」

『わかったわよ。単調直入に言う』


『アンタ達、フォルトゥナの力が借りたい―――』



『―――兵の一部をこちらに寄越してくれない?』



ネロ「…………あぁ?」
345 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/02(火) 00:15:24.21 ID:LWRiYboo
『……もう一度言う』


『精鋭部隊を貸してくれない?』


「…………この者は何を……」

「ふざけた事を抜かすな」

「笑えぬ冗談だな」

『前方』からの申し出。
その内容に対し、呆れかえった声が幹部達から漏れる。

ネロ『…………ワケは?』

しかし、ネロと壁際の騎士団長だけはそんな素振りなど微塵も見せなかった。
この『前方』の声に微かに見える心の内を、その『重さ』を的確に読み取っていたのだ。


『…………「私ら」は今、人間同士の戦争を「終わらせる」最終兵器―――』


                     V I P
『―――20億人が掲げる「 旗 」を「保護」してる』



ネロ「―――…………………………」
346 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/02(火) 00:18:32.78 ID:LWRiYboo
ここで周りの幹部達の空気も変わった。
嘲笑的な部分は跡形も無く消え、皆の顔に武人としての確かな緊張が滲む。

ネロ「20億の旗、ね。そいつはご大層なVIPだ」

『放っておくと殺されそうだったから。この「旗」が戦火に巻き込まれて折れちまったら、人間はもう後には退けなくなる』

『アンタ達が悪魔諸々の件を解決してくれたとしても。それで人間界自体は救われたとしても―――』


『―――24億の全十字教徒間の、「人間同士の戦争」は絶対に終わらない』


 わたしら
『十字教徒はアンタ達と違って馬鹿で無知で臆病な子羊達の集まりに過ぎないから』

『後で「真実」を明かされてもどうにもならないの。むしろ受け入れられずに確実に更に暴走するわ』

『わかるだろ?十字教の根本が覆ったら、いや、全ての「天界系宗教」の真実が明かされたら人間社会は完全に崩壊する』

『異世界間の問題が解決したとしても、これ以上「旗」や「聖地」が陵辱されたら人間世界は千年の内戦に突入する』

ネロ「…………だろうな。『保護』、良い判断だと思うぜ」

ネロ「それで俺達に具体的に何をして欲しい?」


『まず一つ目。この「旗」を守るのを手伝って欲しい』


『私もそれなりにやれるけど、やっぱり頭数が足らない。というか私ぐらいしかまともに対抗できる奴が「今ここ」にはいない』

『「半悪魔兵器共」はこの「旗」をも狙ってるの。先ほども襲撃されたわ。純正の高等悪魔も複数紛れてたし』

ネロ「…………」
347 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/02(火) 00:20:44.13 ID:LWRiYboo
『二つ目。「子羊達」の保護。イタリアでは、もう一部の「半悪魔兵器共」が活動し始めてる』

『できる限り道中の者を保護する。兵・民・勢力・国籍・魔術科学関係なく』

『三つ目。「旗」と「子羊達」の群れを「しかるべき場所」に届ける』

ネロ「…………」

『その「しかるべき場所」に受け入れられてもらうには、アンタ達が共にいなければ難しいの』

ネロ「…………」

『アンタに来てくれとは言わない。デュマーリ島に行かなければならないのは知ってるわ』

『フォルトゥナの騎士と紋章があればいいの』

ネロ「…………」

『頼む』


『スパーダの孫、ネロ。アンタが作ってくれた「信頼」とアンタとフォルトゥナの「威光」が―――』


『―――長きに渡って分裂していた「子羊達」がやっと手を取り合える切り札なのよ』


 わたしら
『十字教徒にとって、いや、全ての子羊達にとってこれは運命の時となるの』


ネロ「…………」

前方の言葉を聞き、ゆっくりと周りの幹部達の顔を見やるネロ。
その視線が交わるたびに、幹部達は無言のまま頷いた。

それは賛同の意思表示。


前方の言葉を受け入れた記し。
348 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/02(火) 00:23:45.57 ID:LWRiYboo
彼らは24億とフォルトゥナを天秤にかけた訳ではない。

どちらも人間。
どちらも守るべき人間界の存在。

フォルトゥナ騎士団は『その為』に生まれた組織だ。


『前方』の申し出を断る道理など存在しない。

皆が無言で互いの意志を確認した後。

ネロ「……騎士団長殿。兵員を裂けますか?」

静かに、ゆっくりとネロは口を開いた。
壁際の恩師に向けて。

「……ネロ君が必要と考えるのならば構わん」

小さく一度咳払いした後、
穏やかでありながら厳かな空気を伴った騎士団長の声が放たれた。

ネロ「…………デュマーリ島には俺一人で行きます」

ネロ「俺が率いる予定だった200名を彼女の方にまわして下さい」

「…………ネロ君に聞くのも愚問だが……ネロ君は一人でやれるかな?」

ネロ「問題ありません」

ネロ「それにデュマーリでの人手の件なら『別のあて』があります」

「ほう。別のあてとは?」


ネロ「『東の友人』達です。この件に関しては当初は疎ましく思っていましたが」


ネロ「どうせ現地で鉢合わせするので」

                           フリー
ネロ「それに俺、やっぱり戦いは『独り身』の方が好きなんで」


「……ほっほ。ネロ君らしいのう。ならば良し。好きにするが良い」
349 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/02(火) 00:27:58.70 ID:LWRiYboo
   ここ
「フォルトゥナの防衛から少し裂いて増員しよう」

「フォルトゥナ城に全市民を避難させ、周囲を結界で固めれば問題ない」

「都市結界の修復は後にして先に城の周りに構築させよう。あの規模なら一日でできる」

周りの幹部達もネロに続いて、
それぞれがこの計画を全力でサポートすべく素早く判断していく。

ネロ「……聞いてたか?そういう事だ」

『…………礼を言うわ。正直、受け入れてくれるとは思ってなかった』

ネロ「フォルトゥナは変わったのさ」

『……』

ネロ「では作戦の練り直しと戦闘準備がある。諸々の体制が整うのは12時間後だ」

『じゃあ12時間後に「船」を送る。海岸の結界を解いておいて』

ネロ「船?んなもんなくとも行けるが。重装騎士ならここから一時間半で地中海入りできる」


『「今の私の船」ならそこから30分で地中海に入れる』


ネロ「……………………へぇ……天界魔術も捨てたもんじゃねえな」

『私が使う力とそこらの天界魔術を比べてもらっても困る』

『規格外のアンタにとっちゃ微々たる物かもしれないけど、』


『一応「今の私」はウリエルの力を「全て内包」できるんだからな』


ネロ「へぇ……」


―――
350 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 00:28:52.33 ID:LWRiYboo
今日はここまでです。
次は水曜か木曜に。
もしかしたら明日に。
351 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 00:32:30.39 ID:BaRT6kAO
>>350
そこは是非 明日に!
352 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 00:42:49.69 ID:v3OJ54Qo
俺の嫁ヴェントタソがきたか
353 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 00:55:06.90 ID:.mA5FQAO
誰かと思ったら超絶チート天罰術式で有名な人か
354 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 00:57:06.63 ID:vM7qxc6o
ヴェントも魔改造されたのか?
wktk
355 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 02:09:20.29 ID:YwcTK4o0
ヴェントタンキターーーーーーーーーーーーー
後はアックアに期待
356 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 12:57:00.21 ID:pPpDuMAO
テッラはどうした
357 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 13:19:51.58 ID:lpFqklQo
テッ/ラ
358 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:22:10.42 ID:Swh4S.DO
フレンダはどうした
359 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:26:27.87 ID:/DeL5ago
俺の横で寝てるよ
360 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 17:17:59.10 ID:Swh4S.DO
>>359
……?お前の横に寝てる人、アックアにしか見えないんだが……
361 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 22:01:12.96 ID:0NGaz.co
残念、それは私の木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥンだ。
362 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 01:33:50.30 ID:xhXqN2Qo
マダー?
363 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 03:48:33.90 ID:/CFFqYDO
そういや前にベオ条さん作ったな
上条さん男の癖に棒みたいな体してる
364 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 22:09:53.48 ID:UXlK5MMo
くるかな
365 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:07:49.85 ID:21Z5I3oo
―――

学園都市。

午後九時。

とある病棟の一室。


御坂「とーま!!!!!とーまよ!!!!!!!アイチュろり良い男なんれいりゃあしぬあい!!!!!!!!!」


御坂「だっしゃああああああああ!!!!!!!ヤバイヤバイ!!!!!何れあんなかっほいいの!!!!!!!」


その中にて響き渡る、呂律の回っていない御坂の大声。
長椅子の上に寝そべり、クッションを抱きしめながら喚き悶えるレベル5第三位。
視点が定まっておらず、前髪をパチパチと鳴らし顔を真っ赤に火照らせ。

御坂「とうまぁあああ〜……んふんふふふふ…………とうま〜♪ちゅー♪」

抱いているクッションに口付けを何度もするこの有様。
もう自分でも何を言っているのか、何をしているのか分からないだろう。

土御門「(酒が入ったら色々壊れるタイプか。それにしても……何かあったみたいだな)」

一方「(…………ウゼェ…………)」

麦野「(私、こんな奴に負けたのかよ……)」

結標「(私、こんなのから逃げたのね……)」

エツァリ「(ああ…………酔っている御坂さんもまた……あの火照ってる頬がたまらないですね……)」

そんな彼女を眺めている五人。
それぞれ違った表情を浮かべてはいるものの、
朗らかな表情の約一名を省き皆が冷めた目なのは共通していた。
366 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:09:24.03 ID:21Z5I3oo
一方通行、土御門、麦野、結標は、
部屋の中央に置かれた低い机を取り囲むように配置されているソファーに腰掛けていた。
黒服の連中に運ばせたものだ。

机の上には、同じく黒服の男に手配させたさまざまな酒が置いてあった。

片側のソファーには一方通行と土御門。
そのソファーの隣に車椅子のエツァリ。

机を挟んで向かい合うもう片方のソファーには、麦野が足を組みながらどかりと座り、
その隣にて、一段高くなる形で結標が背もたれに軽く腰掛けていた。

そして、泥酔している御坂は彼らの輪から外れ壁際の長椅子にて、
一人で意味不明なことを喚きながら悶えていた。


この宴会が始まってから約一時間。


土御門のノロケ話とそれに対する弄り。

結標の少年院にいる仲間達の話。

麦野の今までの恋愛癖。
高慢・高望みしすぎて、身なりに反し一人の恋人さえもてなかった事に対する驚きと弄り。

エツァリの故郷での話し。
土御門と共に魔術の談義講釈。

これらの中身があって無い様な話が交わされた。


言葉はやはりやや棘があったが、内容は『普通』の年頃の少年少女達の会話。


そして『暗部構成員同士』としてはあまりに『異質』な会話が。
367 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:11:01.32 ID:21Z5I3oo
本来、能力者を中心とした暗部組織内では、特に明確に禁止されているわけでのないのだが、
こうしたプライベート時間の関りはタブーとされている。

少なくともこの『グループ』ではそうだった。

勤務時間外は赤の『他人』。
勤務時間内は同僚である『他人』、だ。

普段だったら、一方通行も土御門も結標もエツァリも出席しなかっただろうし、
そもそも麦野がああして声を挙げることもまずなかっただろう。

だが今は違っていた。

状況が状況だった。
皆心のどこかでこう思ったのかもしれない。

『終末』となるかもしれないのなら。

せめて少しでも。

少しでも、失ってしまった『普通の青春』の時間を味わっておきたい、と。

例えそれが『張りぼて』の演出だろうと。

決して『本物の時間』にはなれない『偽物』だろうと。


そしてこの時間の中、皆の中にはある心境の変化が起こっていった。
368 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:13:52.75 ID:21Z5I3oo
結標は、少年院にいる仲間には今自分がやっている『影』は決して話せない。
土御門は妹にはもちろん、親友である上条にでもすら、『影』の部分は打ち明けられない。
故郷の組織から破門されたエツァリ、唯一の『家族』ショチトルがいるものの、やはり『影』を話すことはできない。

一方通行は、唯一の『家族達』からつい最近身を置いたばかり。

そして麦野は『誰一人』いない。


だが、ここにいる五人は皆『影』を共有している。

同じ血を啜り同じ闇を被っている。


そして皆は『気づいた』。

考えてみれば、自分の事を『影』も全て明かしてここまで話せる『繋がり』は、
この暗部の『クズ仲間』しかいなかった事を。

この面子しかいなかった事に。


仮初でも建前でも。


とりあえず『対等の友』と呼べるのはこの面子しか―――。
369 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:15:03.29 ID:21Z5I3oo
ちなみにこの時間を作った仕掛け役。

今は泥酔し見るも無残な有様になっているが、実はその御坂だ。

どことなく吹っ切れたような彼女のノリにより、
この場の空気が形成されたのだ。

『本物の時間』を知っている彼女の放つ空気が。
仮初・偽りでありながらも、暗部に堕ちた者達にわずかな灯火の種を与えた事となった。


土御門「そういえば……ここにいる面子って、全員レールガンとそれなりに関わってきたんだったな」

会話の切れ目。
背もたれに寄りかかり、思い出したように口を開いた土御門」

結標「世間は狭いって言うけど、案外本当にそうね」

一方「上位能力者世界が狭いンだろ」

麦野「暗部に関わったレベル5勢が顔を合わせるのなんて時間の問題でしょ。いつか会うわそりゃ」

麦野「アクセラレータと私は、第六位以外は全員面識あるんじゃない?」

一方「あァ」

結標「そういえば私、第七位だけまだ会ったことないけど。私が『運び屋』やってた間はアレイスターのところにも来なかったし」

一方「あァ〜……」

麦野「アイツね…………」
370 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:16:15.32 ID:21Z5I3oo
一方「一言で言うと『バカ』だ」

結標「?」

一方「いや…………『アホ』か?」

結標「能力は?」

一方「……良くわかンねェ。前に実験でやりあわされた事あるンだがな、」

一方「妙な力の塊をぶつけてきやがった。とんでもねェ量のな」

一方「反射は完璧にできたがあの野郎、反射されたのを『根性』とか喚きながら受け止めて、ンで叫びながら『喜びやがった』」

結標「はあ?バカじゃないの?」

一方「だろ」

麦野「ああ、そういえば根性根性うるさい奴だったわ」

麦野「前に私も一度戦わされた事あるんだけど、アイツ私の粒機波形高速砲を『口』で塞き止めやがったし」

麦野「んで喚いて笑ってた」

結標「……バカだけど強さもバカみたいなのなんだ」

一方「今はどォかわかンねェが、前までは俺とダークマターとアイツの三強だったろォよ」

結標「…………へえ〜」
371 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:19:36.91 ID:21Z5I3oo
土御門「あ〜、そうそうダークマター。お前ら二人マジで殺し合いしたことあるんだろ?」

麦野「私はサラリとしかやり合ってないけどアクセラレータはガッツリやったんでしょ?」

一方「俺のポジションを狙ってやがったなァ。アレイスターと交渉する為に」


麦野「今思うと……アイツの方が私よりもよっぽど『生きてた』かもしれないわね」


一方「かもな……反吐が出るクソ野郎なのは変わりねェがな」

麦野「それは言えてる」

一方「あァ。つゥか脳ミソも全部消し飛ばしてた方が良かったかもな」

一方「まさかアレで生きてるとは思わなかったぜ」

土御門「でもアイツが死んでたら、お前は魔帝騒乱の時戦えなかったんだぜぃ?」

土御門「今の『その力』にも目覚めて無かったかもだしな」

一方「……………………まァな」

麦野「あ、話しか聞いてないんだけど、あの時のアクセラレータってどのくらいまで強化されたの?」


一方「『今の俺』なンざゴミレベルだ。桁違いだぜ」


麦野「…………」


土御門「あの時のアクセラレータはな、あのバージルに血を流させたんだぜい」


麦野「―――…………『アレ』に傷かよ……」

結標「すごいわよね」

                                  オ ー ル ワ ン
麦野「ははっ…………さすがは『優先度・AIM強度序列・レベル序列一位』ってところか」
372 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:22:45.19 ID:21Z5I3oo
と、その時。

少し前からピタリと静かになっていた御坂が。

御坂「…………う……んぐぅ…………吐きそうっ…………」

前髪周辺をパチパチと鳴らしつつむくりと起き上がり、
目を潤ませ小刻みに震えながら悲壮な声を挙げた。

麦野「はあ?ふざけんな。結標、こいつをさっさとトイレに飛ばせ」

一方「チッ。酒も飲めねェ中坊が」

エツァリ「そう言わずに…………最初は誰でもこういうものでしょう」

麦野「あ、アンタいたの?忘れてたわ」

結標「仕方ないわね。能力切れる?トイレに送ってあげるから」

御坂「……ご………めん…………………」

そして謝りながら口を押さえ込んでいる彼女の姿が、結標の能力によってフッと消え。

その十数秒後。


一瞬だけ天井の電灯が点滅した。
恐らく病棟全体の明かりが明滅しただろう。


土御門「さすがは電撃姫。スケールのでかい嘔吐だぜよ」

結標「普通の施設だったら完全にブレーカーとんでたわねこれ」
373 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:24:02.76 ID:21Z5I3oo
土御門「さて……俺はそろそろお暇させていただくにゃー。妹が待ってるんでな」

結標「私もそろそろ面会時間だから」

エツァリ「自分も…………ショチトルの面会時間ですので」

麦野「ああ?ノリ悪いなアンタら」

一方「俺とこのアマ残す気かァ?」

土御門「そう言うな。二人とも積もる話もあるだろ」


土御門「お前らは『似た者』同士なんだからな」


麦野「…………」

一方「…………」

じゃあね、と結標は手を振りながら姿を消し。
エツァリもついでに結標の能力で飛ばされ。

そして土御門は、いつもの不敵な笑みを浮かべながら退室していった。
374 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:26:27.71 ID:21Z5I3oo
麦野「……」

一方「…………」

二人は『似た者』同士。

結標と土御門は違う。
あの二人は、今までの己の行い全体に対する後悔は無い。

グループに入る前から、暗部に堕ちる前からあの二人は自身の芯を貫き真っ直ぐに生きてきた。
殺戮に対し快楽を見出すことなどしなかった。
常に等身大で激突し抗ってきた。


だが一方通行と麦野は。


道を見つけられず、歩みを誤り。
己の手で、本来救うべき守るべき存在を破壊してしまった過去がある。

快楽に浸りながら手を血に染めた事実がある。

それが二人の上に重く圧し掛かっていた。
凄まじい後悔の念が。


一方「……」

一方通行は感じ取る。

麦野沈利。

この女も俺と『同じ』だ、と。

そして麦野も同じく感じ取っていた。

麦野「…………」

この男は『同類』だ、と。
375 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:28:23.49 ID:21Z5I3oo

土御門の言う通り、正に『似た者』同士だ。


今まで何をしてきたのか。

どのような経緯で己の過ちに気づき今に至るのか。

それらは違うだろうが、だが『今は同じ』だ。

一方通行は上条によって。

麦野はダンテによって。

二人とも、同じく本物のヒーローによって目覚めさせられた者。

彼らは奇妙な感覚に陥っていた。
自分自身を鏡で見ているような。

一方「……」

麦野「……」


不思議な共感覚。


二人っきりとなり、こうして無言のままお互いを見ていると更に強調される。

なぜかどことなく『居心地の良い』、嗅ぎ慣れた同じ匂いが。
376 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:29:39.16 ID:21Z5I3oo
麦野「………………ねえ」

一方「…………なンだ?」


麦野「…………今まで殺した連中の顔、全部覚えてる?」


一方「…………………なンでンな事聞く?」

麦野「…………何となく。私は、少なくとも顔を見て殺した奴は全員覚えてる」

麦野「…………いや……『最近』になって思い出してきた」

麦野「顔も……最期の声も……殺した時の感触も」

一方「…………」


麦野「その連中の、蝋人形みたいな蒼白な顔がしょっちゅう浮かぶの」

麦野「この潰れた右目の『向こう』に。無表情で私をずっと見てる」


一方「…………」

一方「……そォかィ…………俺はな。寝るとたまに見る。いや…………」


一方「『強化されたあン時』からしょっちゅう見るよォになった」


一方「『同じ顔した一万人』の女が、眼球のねェ真っ黒な眼窟を俺に向けてるンだ」


一方「何も言わずにジッと立ちながらな。そして俺は何もできねェ。その場から離れる事ができねェンだ」

一方「後ろには下がれず。ただその視線を受け続けるだけだ」


麦野「……………………その『夢』の終わりは?」


一方「『夢』?違ェな。これは『過去』っつゥ『現実』だ」


一方「それに『終わる事』は無ェ。永遠にな。むしろ『始まってすら』いねェ」

一方「これから行く。『連中』の所に行かなきゃなンねェンだ。『こっち』でやる事をさっさと済ませてなァ」

麦野「…………」
377 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:32:21.09 ID:21Z5I3oo
一方「…………それでオマェの見る映像には『終わり』はあるのか?」

麦野「………………無い」

一方「…………そォか」

麦野「……」

一方「……」

麦野「……私もね。アンタと同じく『向こう』に行かなくちゃならないと思ってるの」

一方「……『だろうな』」

      黄泉の川
麦野「『向こう側』に会わなきゃならない『仲間』がいる」

麦野「そして『伝えなきゃいけない』事もある」

麦野「今更伝えてもどうにもならないんだけど。でも言わなきゃならない『言葉』がある」


麦野「でもね…………」


一方「…………?」


麦野「…………私は……これはわがままなのはわかってるけど……」

麦野「こんな薄汚れてどの口でって言われるだろうけど……」



麦野「生きたい」



一方「―――…………」
378 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:34:23.93 ID:21Z5I3oo
一方「……………………」

一方通行の中で、
この身勝手な麦野の発言に対し怒りがこみ上がってきた。

このアマはアホだ。

往生際が悪い。

ふざけてやがる、と。


『死刑囚』が『生きたい』と口にするのはあまりにも身勝手な話だろう。

大勢を殺しておきながら何を抜かす?と言われるのが当たり前だ。

自分の事を疑うことなく無実と思っているのならまだしも、
罪を認識した上でそんな事を口にするとは。


一方「……」


と、そう思う一方で、彼の心の片隅では。


一瞬だけ、何となく妬ましいような。


そう、『羨ましい』と思ってしまった。


己と同じく闇に堕ち、そして己自身の罪をしっかりと認識し向き合った上で、
素直に『生きたい』と言える彼女の姿が。

これはただ単に身勝手なだけなのだろうか。

ただ往生際が悪いだけなのだろうか。


それとも―――。


―――『勇気』の一種なのだろうか。
379 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:36:26.09 ID:21Z5I3oo
麦野「こんな風に…………思えるのは初めてだわ……」

麦野「いえ…………たぶん特別クラスに入る前のずっと『昔』もこう思えてたみたい」


麦野「なんだか凄くなつかしい感覚でさ。不思議な…………うん……」


一方「…………」


麦野「…………あー。悪い。ムカつくでしょ?腹立つわよね」

麦野「何言っちゃってんのよね私は。わかってるっつーの。こんな事言える分際じゃないことぐらい」

麦野「今の言葉は忘れろ」

麦野は背もたれに後頭部をだらしなく預け、自分自身に呆れ返るような声を挙げた。

麦野「悪い。シケた話振っちまって」

一方「…………」

それに対し一方通行は沈黙だけ返した。
何を言えば良いのかわからなかったのだ。

どの言葉を使えば良いのかが。
380 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:37:22.34 ID:21Z5I3oo
ここで言葉の選択を誤ると。
これ以上この話に、この女の言葉に入り込んでしまったら。


自分の何かが壊れてしまいそうな気がしたからだ。


つい先日、『最期の繋がり』を自ら絶ったばかりの『自分』が。


あの自分が『否定』されてしまいそうだったから―――。


だがその一方で。


一方「…………」


実は危うい興味も沸いていた。
麦野ともっと話したいという、奇妙な願望が。


麦野の『視点』が知りたくなってきたのだ。

己と同じく大きなものを背負っていながら、最終的な結論が食い違う彼女。

一体何を感じ、何をどう思っているのかを。
381 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:39:07.41 ID:21Z5I3oo
ここで少し、一方通行の中でブレーキがかかる。
いや、誘惑に負けたと言った方が良いか。

自分はやる事をやったら『死ぬべき』という結論を曲げた訳ではない。

ただ。

ケジメをつけるのは麦野の話を聞いてからでも良いのではないか、と。

それぐらいならば。

一方「……」

決して彼女の言葉を受け入れようという訳ではない。
ただ、一つの客観的な意見として。

純粋に知りたい、それだけだ。


一方「……………………よォ。帰ってきたら……また飲まねェか?」

麦野「………………こういう風に誘われたの初めてだわ。私の『中身』を知った上で誘うなんて物好きね」

一方「勘違いすンな。特に深い意味はねェ。そのまンまの意味だ」

麦野「だからそれ。深い意味無しにさらりと言われたのが初めてなんだって」

一方「…………そォかィ。で、返事は?」

麦野「……いいわよ」

麦野「付き合ってあげる。生きて帰ってこれたらね」

一方「ハッ。無理はしなくていいぜ」

麦野「それどういう意味?『死なないように無理するな』って事?」

麦野「それとも『無理して生きて帰ってくるな』って事?」

一方「両方ォだ」

麦野「…………誘った女に対しては、口先だけでも良いからせめて前者の答えをするべきだろ普通」

一方「うるせェな。一応前者も入れて答えてやったンだ。ウダウダ言うンじゃねェ」

麦野「『一応』、ね。はっ……私もヒデェ男に誘われたもんだ」

一方「悪かったな」

―――
382 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:41:47.87 ID:21Z5I3oo
―――

翌日。

第23学区。

午後三時。

地下の長い長い通路を土御門は進んでいた。
車椅子に乗っているエツァリを押しながら。

土御門の格好は至っていつも通りの私服。

だがその他に纏っているものらは、明らかに『普通』とは呼べなかった。

はだけたシャツの下、Tシャツの上には煙幕弾や手榴弾を大量にぶら下げているベルト状の弾帯。
右側の腰には大きな拳銃を下げ、左側の腰には弾倉。
腰の後ろ側にはさまざまな物が詰まっている幅30cmほどのバックパック。
太ももには予備の弾倉と救急セットがベルトで括り付けられ。

頭部には、ミサカネットワークを介し通信できるよう調整された軍用のヘッドセットを装着していた。

エツァリ「……後三時間後ですね…………出撃」

車椅子を押されながら、真後ろの土御門へ向けて口を開くエツァリ。

土御門「はは、腕が鳴るにゃー」

それに対し、いつものの軽いノリで土御門は言葉を返した。
383 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:44:19.56 ID:21Z5I3oo
エツァリ「…………結局、あの島の術式解析は間に合いませんでしたね」

土御門「確かに用途がわからず仕舞いだったが、位置は特定できたんだ」

土御門「こうなったらもうやるしかないぜよ」

土御門「結構行き当たりばったりでも何とかなるものだしな」

エツァリ「……はは…………」

土御門「そういえば……滝壺理后のデータには目を通したよな?」

エツァリ「はい、一通り」

土御門「そのデータ見て思ったんだがな……」

エツァリ「?」

土御門「AIMの完全掌握ができるって事はだ」



土御門「AIMを『全て奪う』、つまり『能力の剥奪』、もしくは『完全抑制』が可能かもしれないという事か?」



エツァリ「……さあ、はっきりとは言えませんが……でも個人的な印象だと可能に見えます」

エツァリ「その点に何か?作戦に関係する事なら話しておいて欲しいですが」


土御門「いんやあ。『俺の個人的』な事でちょっとな」


エツァリ「……個人的……ですか?」

土御門「ま、気にするな。忘れてくれ」
384 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:48:16.51 ID:21Z5I3oo

土御門「あー、そうそう、話し変わるが知ってるかにゃ〜?日本も『魔術的』に動き始めたぜい」

土御門「『宮内庁陰陽寮』から『天社土御門神道本庁』に命が下された」

エツァリ「……やっと重い腰を上げましたか」

土御門「ああ。『あの部門』が正式に、こうして大規模に動くのは半世紀振りだ」

       カ ミ カ ゼ
土御門「『神代ノ風』の発動陣構築が急ピッチで進められている」


土御門「防衛ライン維持が不可と判断された場合、自衛艦艇を駒として日本海で発動される予定だ」

エツァリ「…………あんな術式を使うのですか?被害は日本側にも……」


土御門「それだけじゃあない。最悪の事態の場合、『天之瓊矛』の使用が認められた」


エツァリ「――――――!!」


土御門「人造悪魔兵器の軍が日本に上陸」

土御門「各主要都市及び首都圏が悪魔の手に落ち、国家機能が完全に停止。防衛機能の完全喪失」

土御門「そして国民の国外退避が不可能とされた段階で『起動』される」


エツァリ「―――自国土ごと『消す』気ですか!!!!??あんな物を使うなんて―――」


土御門「…………まあ、この国は消えるだろうな。『列島ごと砕け』、『大洋の中に沈む』」


土御門「だが『あそこ』はこう判断した」

土御門「逃げ場を失った国民を、みすみす悪魔の手にかけさせるわけにはいかないってな」

土御門「悪魔に貪られ体を引き散られ、永遠にその魂が苛まれないようにだ」


土御門「つまり『安楽死措置』だにゃー」


エツァリ「―――…………」
385 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:52:07.09 ID:21Z5I3oo
土御門「どうせ死ぬのなら一瞬で死に、そして魂が解放された方がマシだろ?」

土御門「悪魔に殺されるということは、それでオシマイとはいかない」

土御門「むしろ始まりだ。『永遠に魂を囚われ続く』、想像を絶する苦痛のな」

エツァリ「…………確かにそうですが…………」

土御門「それにだ、それが起動されるって時は、もう『何もかも』が絶望的な時だけだ」


土御門「俺らが俺らの仕事をしっかりとやり遂げれば、そんな展開は来ない『だろう』ぜい」


エツァリ「…………………」


エツァリ「…………ちょっと待ってください」

土御門「ん?」

エツァリ「その件の事は置いておくとして……」


エツァリ「あなたの話を聞く限り、宮内庁も人造悪魔兵器の件を把握しているようですが」


エツァリ「あそこは一体どうやってその情報を?」


土御門「…………」
386 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 23:57:23.40 ID:FwK3EUDO
支援
387 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 23:58:30.38 ID:21Z5I3oo
エツァリ「いや…………当てましょう」


エツァリ「土御門、あなたですね。向こうの機密情報をあなたが知っているのも納得できる」


土御門「…………俺の仕事は学園都市・イギリス清教間のパイプ役だけじゃあない」


土御門「そもそも俺が『どこで』陰陽術を習得し、『陰陽博士』の位を与えられたか、な」


エツァリ「…………そこが……『本当の古巣』ですか?」

土御門「まあな。俺はエリート中のエリート、キャリア組み昇進まっしぐらの『特別国家公務員』だったんだぜぃ」

土御門「それがなんでこんな所に『飛ばされた』のか……泣けるにゃー」

エツァリ「…………まだ籍を置いているのですか?あそこに?」


土御門「籍を置いてるも何も、まだ特命任務継続中だ」


エツァリ「なるほど……学園都市・日本間の『裏のパイプ役』、及び『アレイスターの監視』ですか」


土御門「そこはご想像にお任せするぜい」


エツァリ「ん…………っ―――ちょっと待ってください。先ほどの滝壺理后の能力云々の話……」

エツァリ「まさかあなたは……自身のAIMを消させて『元の力』を…………?」


土御門「はっは、うまくいけば良いけどな。失敗したら多分『バイバイみんな』だぜよ」


―――
388 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 23:59:46.38 ID:21Z5I3oo
今日はここまでです。
次は明日に。
多分明日中にこの編を終われます。
389 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 00:07:21.13 ID:wsyuoZM0
今夜も乙っしたー(´ω`)ノシ♪


どーでもいい事なんだけど「宴会の席に酒持って来た黒服」が
福本漫画的に脳内再生されてざわざわタイムだった
390 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 00:23:44.57 ID:0EciNH6o
少し補足を。

『神代ノ風』(カミカゼ)は、第二次大戦中の特攻攻撃の『神風』では無く、
元寇の際に吹いたとされる暴風の『神風』の意味で使わせて頂いております。

作中のこの術式は、決して特攻系のものではありません。
気分を害された方がおりましたら大変申し訳ありません。
391 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 00:42:57.87 ID:3DnG3O.o
392 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 00:54:51.24 ID:8mYjzUAO
超乙です
この>>390 みたいな細かい配慮ができるってスゴいな…ここの>>1
393 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 02:26:57.27 ID:VtdZQsAO
土御門てものスゲェエリートなんだな
どういう生き方をしたらこの歳でここまでキャリアを積めるのか・・・・・・

ところで>>1に聞きたいんだけど>>384の天(変換できない)矛ってのもなにか設定資料あるの?
あるなら見たいし、今後明かされるなら黙っとく
394 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 07:51:57.87 ID:dNllmkAO
土御門にも覚醒フラグだと…?
筆者は各キャラの見せ場がうますぎる
395 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 09:23:13.27 ID:Q3AFu.AO
>>393
設定も何も日本神話の武器の名前じゃないか
「あまのぬぼこ」な
396 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 13:22:57.47 ID:hr0P/GAo
>>395
あめのぬぼこ、の方が一般的な気がする?

古事記上巻。イザナギ、イザナミが国造りをした際に天上から海に垂らした矛(槍のような武器)
そこから滴る雫から日本列島ができたという
397 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 15:51:08.62 ID:VtdZQsAO
>>395-396
サンクス
無知ですまないな。まずググるべきだったか。
398 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 21:38:59.62 ID:b1oWEFgo
サイレンスレを思い出す・・・
399 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 23:10:38.89 ID:0EciNH6o
>>393
『天之瓊矛』(古事記では『天沼矛』)とは>>395-396の通りです。

その部分の設定は、今後作中で描写する予定も特に無かったため、
蔵出しという事で補足させていただきます。

当SS内における『天之瓊矛』は、人の手によって作られた偶像理論レプリカではなく、
天界由来の正真正銘の『オリジナル』であり、
厳密に言うと魔術霊装ではなく魔具・魔導器の天界バージョンのようなものです。

起動によって発動するのは、

 「イザナギとイザナミがこの矛を使って下界をかき混ぜ、
  下界の雫を穂先から垂らして淤能碁呂島(おのごろじま)を作り、
  この島で二人の神がアーンして日本列島を産んだ」

という『国産み』の再現です。

実際の現象は、
大地震が起きて現列島が全て崩壊・一度海底に沈んで初期化された後、
大規模な海底火山活動によって全く別の列島が新たに形成される、というものです。

しかし下界(人間界)で人間の手で起動してしまうと、
オリジナルが故に人の器では完全稼動できず、列島が完全消滅した段階で現象はストップします。

神話どおり天上(天界)にいる二神(イザナギ・イザナミ本人)によって『天之瓊矛』が使われないと、
『国産み』は100%再現できない、という事です。

また、日本が所持する数ある神器霊装の中でも最高峰のものであり、
有する力自体は全人類が所有する霊装の中でもトップ5に入る、と裏で設定しております。

効果対象が日本列島限定・オリジナルが故に人の手ではまともに扱えない、と、
とてつもなく極端で使い勝手の悪い存在ですが。


投下始めます。
400 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:15:37.24 ID:0EciNH6o
―――

一方その頃。

同じく第23学区。

別の地下通路を、
麦野と一方通行が並び歩いていた。

一方「……」

麦野「……」

出撃メンバーではない一方通行は当然として、麦野の方も服装は昨日と変わらなかった。
高級なスーツをしっかりとキメ、金属製の眼帯を右目に、腰にはアラストル。

レベル4勢のメンバーには戦闘服が支給されているが、
レベル5・指揮幹部クラス(滝壺を省く)のメンバーは服装が自由となっている。

まず麦野と結標、御坂は戦闘服なんか着ていても意味が無い。
意味が無いのならば普通に精神的に慣れた服装の方が良い。

そして土御門は後の『個人的』な事も考え、
『魔術的』に融通の利く自身の私服、というわけだ。

麦野「……」

ちなみに昨晩のあの後、
あのまま二人は酔いつぶれて寝てしまった。

その気になればアルコールを分解できる一方通行も。
酒には絶大な自信があり、どんなに飲んでも潰れない麦野も。

昨晩だけは酔った。

今後『一生分』の『酔い』を前払いさせてもらったかのように。

一方「…………酔いは抜けたか?」

麦野「抜けた。シャワー浴びれば一発よ。アンタは?」

一方「百分の一秒能力起動させりゃァすぐだ」

麦野「へぇ。便利ね」
401 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:18:14.60 ID:0EciNH6o
一方「…………」

麦野「…………」

中身があって無い様な短い会話の後、
再び無言のまま二人は歩き進んで行き。

数分後、T字路に突き当たった。
右側は出撃組の集合場所のハンガーがある、四番エプロンに繋がっている。
左側は、その四番エプロンからの出撃が見渡せる管制室に。

二人はそこで止まり、向かい合い。

一方「………………準備は?」

麦野「完璧」

一方「アラストル。このクソアマの事任せンぜ」

一方「任務さえ完遂してくれりゃァこの女の生死なンざどォでも良いが、死なれたら『気分が悪ィ』」

アラストル『任せろ』

麦野「気分が悪い、ね」

麦野「私もアンタがどなろうと知ったこっちゃないけど、死なれたら『ムカつく』」

麦野「せいぜいそっちもがんばりな」

一方「はッ」


一方「…………じゃァ行って来い。カス共に引導を渡して来い」


麦野「ええ。行って来る。クソ共は皆ゴロシにしてくる」


そして麦野は踵を返し、四番エプロンに繋がる方へと歩みだした。

と、数歩進んだところで、ふわりと髪を靡かせて振り向き。

麦野「あ、一つ良い?」

一方「あァ?」


麦野「帰った時の飲み、アンタの奢りだかんね」
402 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:20:09.76 ID:0EciNH6o

麦野「それと私、がぶ飲みするから」

一方「カッ。わァってるよ。たンまり資金は用意しといてやる」


一方「良いからさっさと済ませて来いやクソアマ」


麦野「はっ……じゃあね。そっちもよろしく」


一方「…………おゥ。任せな」


そして麦野は再び前を向き、
歩き進んで行った。

そんな彼女の後姿を、相変わらずの冷徹な目で眺めていた一方通行。


一方「……………………ハッ。とことン図太い野郎だ」


小さく呟き。


一方「嫌ェじゃねェぜ。オマェみてェなアマは」


そして吐き捨てながら踵を返し、
管制室へ繋がる方へと進んでいった。


―――
403 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:21:16.32 ID:0EciNH6o
―――

学園都市、午後4時ちょうど。

この科学の街にて、この時一人の『アンブラの魔女』が人知れず侵入した。

アレイスターを含む誰一人にも気づかれずに。



「学園都市か……」


魔女はとあるビルの上に立ち、その科学の町並みを見渡していた。


「(何だかんだで、直に訪れたるのは初でありけるか)」


そよ風が彼女のベージュの修道服、
そして長い長い金髪を優しく撫でていく。


「(……科学の街と言いたるも……)」


「(……風は世界共通でありけるわね)」


「(……)」



「(さーて………………どこにいたる?我が『片割れ』は)」


―――
404 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:23:28.31 ID:0EciNH6o
―――

学園都市。

第23学区、午後4時半。

広大な地下施設の一画、長く続く通路の半ばにある広めのフロア。
そこに並べられていた長椅子の一つに、浜面仕上と絹旗最愛が並んで座っていた。

絹旗最愛は、学園都市最新の黒い戦闘服に身を固めていた。
一見すると投擲用の催涙弾にも見える液体窒素缶を、大量に腹・腰周りに装着。
太ももには、万が一のサブとして小さな拳銃。

絹旗「……」

姿勢正しく座り、彼女はゆっくりと呼吸しながら目を瞑っていた。

その隣の浜面仕上も同じく黒い戦闘服。

唯一の無能力者である彼は、物々しい通常火器武装をしていた。
最新式のアサルトライフルを肩からぶら下げ、大量の弾倉を防弾ベストの腹回りに装着。
腰には拳銃、太ももにはその拳銃用の弾倉も。

浜面「………………」

隣で落ち着き払っている絹旗とは対照的に、
彼はベストの胸元にあるフックを指でせわしなく鳴らしていた。


二人はここで滝壺理后を待っていた。

ちなみに今朝命じられた編成位置は、
二人とも滝壺理后の護衛だった。
405 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:26:44.63 ID:0EciNH6o
絹旗「……超うるさいですね」

浜面「……わ、悪い」

絹旗「せめて出撃前くらいは超静かにして欲しいです」

浜面「そ、そうだよな」

絹旗に冷ややかに一喝され、フックから手を離す浜面。

とその時。

長い通路の向こうから、トコトコと歩き進んでくる人影。

あの歩き方や仕草、この二人にとっては一目瞭然。

滝壺理后だ。

格好も絹旗らと同じく黒い戦闘服。
唯一違うのは、武装類の装備を一切装着していないところか。

絹旗「……行きましょう」

浜面「……おう」

ぴょんと跳ねるように立ち上がる絹旗と、
装備の擦れる音を鳴らしながらゆっくりと立ち上がる浜面。

そして二人は並び歩き、友であり護衛対象である滝壺と合流した。
406 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:28:58.30 ID:0EciNH6o
絹旗「おはようございます、と言っても今朝も超一緒でしたね」

浜面「おーす」

滝壺「……」


滝壺「やっぱりはまづらが当たってた」


絹旗「…………はい?超いきなり何ですか?」

浜面「ん?何がだ?」


滝壺「むぎの、もう私たちのこと怒ってないよ」


絹旗「……………………どうしてそう思えるんですか?」

滝壺「……実は昨日、むぎのが言ったの」


滝壺「最期になるかもしれないから、はまづらときぬはたの所に行けって」


絹旗「…………で?それだけですか?」

滝壺「うん。でもこれで充分だと思うよ?」

浜面「……………………」

絹旗「……超舌舐めずりしてるような顔とかしてませんでしたか?こう……超上げて落とすみたいな……」


滝壺「ううん。さびしそうな顔してた」


絹旗「…………」

浜面「…………」
407 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:30:39.12 ID:0EciNH6o
浜面「……なあ……絹旗……やっぱり……」

絹旗「………………認めたわけではありませんが、一応心に留めておきます」

浜面「……いや、わかるだろ?麦野はもうそんな……」

絹旗「滝壺さんも浜面も忘れたんですか?」


絹旗「麦野はフレンダを殺しました」


絹旗「確かにフレンダにも落ち度がありました。捕らわれた際に情報を漏らしたんですから」

絹旗「ですが、元を辿ればそのような状況を超作ったのは麦野です」

絹旗「フレンダをあんな窮地に追い込んでしまったのは麦野です」

絹旗「フレンダは麦野の事を本当に慕っていたのに、麦野はそんなフレンダに自身の負の面を全て押し付けようとしたんです」


絹旗「私達を超裏切ったのは麦野の方です」


絹旗「それは超揺るぎの無い事実ですから。今がどうだろうと『消えません』」


滝壺「―――……」

絹旗「―――……」
408 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:32:57.55 ID:0EciNH6o
絹旗「……一応、今ここで超はっきり言っておきましょう」



絹旗「私は『あの女』を超憎んでますから」



絹旗「私はともかく、理不尽な怒りであなた達までも殺そうとした事は絶対に許しません。絶対に」



絹旗「私が『あの女』に超言いたい言葉は『死ね』。その一言だけです」


滝壺「……」

絹旗「……」

絹旗「……この話は終わりです」

絹旗「これからという時に超余計なことは考えないで下さい」

絹旗「あなた達がどう思おうと別に良いですが、今はそれに構ってる余裕は超無いはず」


絹旗「今超大事なのは。任務を完遂し、三人全員でこの街に生きて帰ってくる」


絹旗「頭の中はそれだけにして下さい」

滝壺「…………………………うん」

浜面「………………おう」


絹旗「……では行きましょう」

―――
409 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:36:16.90 ID:0EciNH6o
―――

午後5時11分。

この時、もう一人のアンブラの魔女が学園都市に浸入した。
同じく誰にも気づかれずに。

アンブラ魔女史上、間違いなく『最強の一人』である強者が。

先に侵入した魔女とは違い、
彼女はグレーのスーツを纏って変装して街中を歩いていた。

印象的な銀髪とトレードマークの赤縁メガネはいつも通りだが。


「(学園都市か)」


彼女は街中を歩みながら、路上を行きかう人々をじっくりと観察する。
少年少女の割合が異常に多い。


「(学生の街、か…………やり難いな)」


神裂・バージルらによる『舞台準備』が済む前に、
力を解放して戦闘しなければならない場合もある事考えると非常にやり難い。

巻き添えが出てしまう可能性が非常に高い。


「(どこにいるんだ?さっさと出て来な……頼むから抵抗するなよ)」


「(私にやらせるな)」


「(………………ローラ)」


この時、彼女はまだ知らなかった。

この街にいる魔女の人数が『二人』ではなかった事に。

『四人目』の幼い生存者がこの街にいた事に。


―――
410 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:38:33.41 ID:0EciNH6o
―――

学園都市。

午後5時27分。

第23学区4番エプロン18番ハンガー。

大きな格納庫内にて、無造作に並べられている大量の椅子に座っている少年少女達。
公表はされていないものの、初めて能力者による正式な軍事的組織として編成されたこの部隊。

未成年の中高生達が、皆一様に黒い最新式の戦闘服で身を固めているその光景は異質なものであった。
人権保護団体がこの光景を目にしたらそれはそれは大騒ぎになるだろう。

そんな少年少女達は今、このハンガー内に響き渡る麦野沈利の力強い声に耳を傾けていた。

作戦の最終確認を行う麦野の声。

威厳があり、一切のブレが無い絶大な安定感のある確かな声色。

その音色が少年少女達の勇気の土台となり、静かに戦気を高揚させていく。

ただ、『一部』を省いて。


黒子「―――」

その『一部』の一人、

この集まりの一画にいた黒子の耳には、最早麦野の言葉は入っていなかった。
集まりの前の方、大きなスクリーンの傍にそれぞれの姿勢で佇んでいる幹部達。


その中に、臨戦状態の御坂の姿を見つけてしまったから。


私服、弾の入ったバッグを背負い、反対側の肩にはあの『大砲』。
腕を組みキッと顔を引き締めてる彼女は、どう見ても出撃メンバーの一人だった。


黒子「―――お……ね…………えさま…………なぜ……??」
411 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:41:44.52 ID:0EciNH6o
ここにいる者達と同じく黒い戦闘服を纏っている白井黒子。

腹回りには大量の合金製の杭。
太ももには、レディから譲り受けた奇妙な紋様が刻み込まれている投擲用のナイフ。
そして背中の薄めのバックパックの中には、
彼女が有する最大の切り札であるレディ特製の大きな杭。

御坂にはとにかく秘密にしてこのメンバーに入り、戦闘態勢を整えてもう出撃、というところまで来た黒子。
そんな彼女にとって、こんなところで御坂の姿を見てしまうなどあまりにも衝撃的な事だった。

昨日の夕方、黒子は御坂に会いに言ったものの、
彼女はこの部隊に所属していたことなど寸分も匂わしてはいなかったのに、と。

黒子「…………………………………………」



麦野「……こんなところだな」

そんな中、麦野の淡々とした説明が終わり。


麦野「……じゃあ……最後に言わせろ」

最高指揮官は皆の顔をジッと見つめ、最後の言葉を送る。


麦野「向こうは本物の『地獄』だ」


麦野「この中の内、必ず生きて帰って来れない奴が出てくる」

麦野「いや、『全員』生きて帰って来れないかもしれない」

麦野「だが人間はいつかは死ぬもの。必ずその時が来る」


麦野「……オメデタイ『大義』に命を懸けろとは言わない。ただ―――」


麦野「―――人生で一度くらい、圧倒的な『勝ち』を手に入れたくはないか?」
412 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:42:49.01 ID:0EciNH6o
麦野「私も含め、テメェらは今まで『負け続け』の人生で反吐を啜ってきたはずだ」


麦野「良いように扱われて、決められた『レール』の上を進むだけの『負け犬』人生を歩んで来たはずだ」


麦野「だが」


麦野「ここからは『レール』は存在しない。私ら自身が歩む『進路』を決められる」


麦野「いいか、これは今までの『ツケ』を『ぶっ飛ばす』唯一の機会―――」


麦野「―――地の底に堕ちヘドロに囚われた私らが『自由』になる唯一の道だ」


麦野「―――人生で『初めて』生と死を、そしてその『意味』を『自分達の手』で左右できるんだ」


麦野「―――そうするとだ。これ以上の『戦場』は無ぇだろ?」


麦野「―――死んでも勝ち、生きて帰れば更に圧勝。これ以上の『パーティ』が他にあるか?」



麦野「―――ビビるなよ。私達は『勝つ』。それは絶対だ」



麦野「―――世界に『魅せて』やれ。私達の生き様と死に様を」




麦野「―――そして『勝ち様』をな」
413 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:44:17.58 ID:0EciNH6o
少年少女は呼吸すら止まったかようにシンと静まり返っていた。
彼らから静かに溢れ出した戦気が、ハンガー内に充満し空気がこれまで無いほどに張り詰める。

声に出して返事をする者は一人もいないが。


だが『返答』は態度と表情で返ってきた。

パーフェクトな返答が。

彼らの意志に満足し、軽く目を細め小さく笑う麦野。
そして土御門、結標、御坂の方へと目を向けた。

土御門は不敵に笑いながら。
結標は呆れたようでありながらも楽しそうな笑みを浮かべながら。
御坂は口元を引き締めながら無言のまま頷きを返した。


麦野「OK、じゃあさっさと各自指定の機に搭乗しろ」


麦野「―――パーティの時間だ」


そして矢のような声を放ち、出撃の時を告げた。



麦野「―――――――――行こうぜクズ共」



『声』の返事は未だ無い。
だが少年少女たちは態度で示した。

皆一斉に勢い良く立ち上がり、力強く歩み出す。

一切の物怖じ無く。

迷い無く自ら前へと。


ただ、黒子と麦野以外の元アイテム勢だけは顔に陰りがあったが。


―――
414 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:47:48.36 ID:0EciNH6o
―――

デュマーリ島。

今や島全土には何よりも濃い漆黒の闇がかぶさり、
焼け付くようでありながら凍り付いてしまいそうでもある空気に覆われていた。

この魔境の北島。

島全体を覆う巨大な近代都市。
普段ならば大勢の者が行きかうその通りも、しんと静まり返り今や無人。

あちこちにある生々しい血痕が、その『日常』の末路の一遍を物語っていた。

そんな静まり返った街を静かに見下ろしている超高層ビル群の中、
一際大きく飛びぬけている巨大なビル。

『貪られた50万人』の墓標のように聳え立つその塔の最上階にて、
この悪夢の元凶アリウスが座していた。

最上階フロア大きなホール、その中央に置かれている椅子に。


フィアンマ『準備は?』

どこからともなく響いてくる、学園都市に『潜伏中』のフィアンマの声。


アリウス「……それを聞いてどうする?整おうとも整っておらずとも今がその時だ」


フィアンマ『確かにな』
415 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:50:09.33 ID:0EciNH6o
フィアンマ『こうなったら多少計画と食い違っても良い』

フィアンマ『「過程」に対しては何も言わん』

フィアンマ『とにかく天の門と魔の門を開き、覇王とスパーダの力を手に入れろ』

フィアンマ『その「結果」だけを求めろ』


アリウス「……随分とあからさまになって来たな小僧。焦っているのか?」


フィアンマ『この際言うか。はっきり言うと「俺様も」覇王とスパーダの力が欲しいのでな』


フィアンマ『そしてお前が引き出してくれなければ手に入らない』

アリウス「ふん、たかが竜王になっただけで、その域へと達した俺から力を奪えると?」

アリウス「かの『創造』の方程式を竜王程度で扱えるとでも?」

フィアンマ『なあに、しっかりと考えてある。お前がその心配をする必要は無いだろう?気にするな』

アリウス「言っていろ。『創造』は後で頂く」

アリウス「勝つのはこの俺だ」

フィアンマ『…………はは、楽しみにしてるよ。お前が最期にどんな顔するのか―――』


フィアンマ『―――「興味がある」』


アリウス「…………ふん」
416 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:51:46.85 ID:0EciNH6o
フィアンマ『ではさっさと「駒」を起動して騒ぎを起こしてくれ』

フィアンマ『早く天界の目を逸らしてくれ。ただでさえ「ここ」は天界の意識が集中しているんだ』


フィアンマ『「俺様」の復活は目立ちすぎる』


アリウス「…………急かすな」

スッと右手の平を上に向けるアリウス。
するとその上に直径30cm程の魔方陣が浮かび上がり、拳大の水晶玉が出現した。


アリウス「…………」

その水晶玉を握り、『糸』を通じて世界中の人造悪魔兵器へとリンクする。

世界中に散らばっている人造悪魔兵器。
予定よりも少し配置が違うが、全体的には問題ない。


アリウス「(では時間だ)」

一斉起動する時。

十字教を皮切りに、人間界の天界系勢力に対し大きな爪痕を刻む。
決して癒えない巨大な傷を。
そして目障りな学園都市にも牙の圧力を。


―――人を殺せ。



アリウス「宴の時間だ。目覚めろ。忌まわしき魔の子らよ」


―――目に付いた人間は残らず殺せ。



アリウス「地獄の釜の蓋を解放しろ。この世を人の血と叫びで染め上げろ」


―――一切の例外なく。


―――
417 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:53:45.52 ID:0EciNH6o
―――

『それ』は世界中で始まった。

フランス北部、とある陸軍野営地では。

集積されていた装甲車両が突如軋み。
装甲の上に黒い肉塊が浮き上がり、巨大な瞳が開き、そしてその大口径の砲から四方八方に『死』をばら撒き。

イタリア中部の兵器集積場ては、
ケースに入れられ積み上げられていた小銃から手足が生え、一人でに動き出し無差別に発砲し始め。

ロシア東部のとある空軍基地では、無人の戦闘機の表面に同じく黒い肉塊が浮き上り、
勝手に離陸してつい先ほどまで駐機していた基地を灰燼に変え。

日本海上空では、学園都市の最新鋭戦闘機部隊が、悲鳴の通信を最期に忽然と姿を消して行き。

ジブラルタル海峡では、ここを見張っていたイギリス海軍の潜水艦が突如爆沈した。

これらの例は極一部。

世界中で、一方的な『虐殺』が同時に大量に引き起こされた。

その災厄を最も濃く受けてしまったローマ正教・ロシア盛教、この連合勢力の指揮系統は完全に崩壊する。
いや、指揮系統だけではない。

最早何もかもが一気に崩壊した。


『人類』はこの大戦の主導権を奪われたのだ。


遂に世界は移行する。


異界の者達の壮絶な戦場へと。


『本物の地獄』が始まった。


そして桁が見る間に膨れ上がっていく『死者数』を受け、
天界の目は否応無くそちらへと向けられる事となった。
418 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:55:51.32 ID:0EciNH6o
ドーバー海峡近くの後方指揮所にいた、
シェリーも対岸の惨状の報告を受けていた。


シェリー「(……向こうでは……一体何が起こってる?)」

血相を変えた者達が周囲を行きかう中、
シェリーは目を見開き、机の上の通信魔術映像に次々と表示されていく報告に目を通していた。

突如人造悪魔兵器が一斉起動した。
その事については、いつか確実に来ると構えてはいたが。

それは『フランスがこちらに対し使う』という想定だ。


こんな『形』など。


これでは『第三次世界大戦』なんかじゃ―――。


シェリー「(違う―――これは―――)」


何がどうなってこうなってしまったかの経緯なんかはまるでわからない。
だがこれだけは確実だった。

今、『戦争の主題』が大きく変わった。


そう、もうこれは。


『イギリス清教対ローマ正教・ロシア成教』の戦争ではない。



『人間対悪魔』の戦争だ。
419 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/05(金) 23:57:51.69 ID:0EciNH6o
シェリー「キャーリサ様!」

通信霊装の向こうの最高指揮官へとシェリーは大声で呼びかけた。

キャーリサ『報告は見た。命ずる。今より最敵性勢力は悪魔とする』

そして返ってくる、冷静沈着な声。
まるでこの事態を予期していたかのような。

キャーリサ『フランス人は二の次だ。対悪魔を国防最優先事項とする』

シェリー「了解!!!」

キャーリサ『お前はドーバー前線に出ろ。騎士団長も前線に送る。お前ら二人が全軍を率い抑え込め』


キャーリサ『こっちはリメリアに任せ、私がそこの後方指揮所に移る。そして場合によっては私も前線に立つ』


シェリー「了解!!ウィリアム=オルウェルとシルビアはまだですか?!」


キャーリサ『まだだ。二名とも連絡がつかない。連中の増援は「まだ」期待するな』


キャーリサ『それと敵は悪魔だ。作戦など無く真っ直ぐ力ずくで来るはずだ』

キャーリサ『つまりドーバーが要となる』

キャーリサ『そこが我らの最後の防壁だ。あの数に上陸されたら手の内ようがない』

キャーリサ『人造悪魔だけではなく、純粋な高等悪魔が紛れているのも確実』

キャーリサ『そんな軍の上陸を許してしまったら、我が国土は必ず灰燼に帰す』


キャーリサ『何があってもそこを通すな』



キャーリサ『死守せよ』



シェリー「……了解ッ!!!」
420 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:00:33.36 ID:b6Co5Sco
シェリーはキャーリサとの通信を切断し、今度は各地への通信回線を開き。

シェリー「オルソラ!!!!対魔結界をできるだけの数ドーバー全体に張るよう命じろ!!!!」

オルソラ『了解でございます』

シェリー「建宮!!!そこの師団を率いてドーバーに急行しろ!!!」

建宮『了解なのよな!』

シェリー「アニェーゼ!!今から私もそっちに向かう!!!」

アニェーゼ『早く来やがって下さいっ……!ヤっバイですよ!連中が向こう岸に集まってます!!!』

アニェーゼ『とんでもねえ数の赤い光が水平線の向こうを覆ってます!!!!』


アニェーゼ『あああああ奴らの声が聞こえやがる!!!!!いつこっちに来てもおかしくない状況です!!!!』


シェリー「待ってろ!!!今行く!!!」

―――

バッキンガム宮殿地下、総合指揮センターから伸びる長い廊下を、
従者を連れて足早に歩いていたキャーリサ。

振り向きもせずに後ろの従者へと淡々と口を開いた。

キャーリサ「国内及びドイツ・ベルギー・オランダ・デンマーク・ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの全魔術結社のリストを挙げろ」

キャーリサ「そして全ての魔術結社に現在の状況報告を流せ。もちろん該当国の政府にもだ」


キャーリサ「それとこう伝えろ。『この戦争は変わった。今より人対魔の戦いである』、と」


「……伝えるだけでございますか?」

キャーリサ「それで充分だ。これで立ち上がらなかったらそいつらはカスだ」


キャーリサ「人として死んだも同然だっつーの。何の為の『力』だ」


キャーリサ「『力』を持ちながら動かない連中は、『人間』を名乗りこの世界に生きる資格は無い」


―――
421 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:02:30.17 ID:b6Co5Sco
―――


アリウス「…………」

『隠れ蓑』の起動は済んだ。

ここからはアリウス自身の計画を本格起動させる時だ。

まず、天の門の術式。

天界が今、世界各地の惨状に意識を集中している以上、
門を開く『鍵』のチェックは必ず疎かになる。

とにかく早く門を開こうと、『照合作業』をいくつか飛ばす事も考えられる。
『模造品』の鍵を使おうとしているアリウスにとっては好都合だ。

天界側は、相手がアリウスではなくフィアンマと思い込んで作業するだろう。

アリウス「…………………………」


とその時。

そう思考を巡らせつつ作業を行っていた彼は、
ふと『とある点』に引っかかり手を止めた。

天の門の術式も、この鍵の設計も、元は全てフィアンマから盗み出したもの。
そしてフィアンマは言った。

『その情報はわざと流した』、と。

つまり。

フィアンマの手が加わっていてもおかしくはない。

アリウスに対する『保険』のような仕掛けが入っていても―――。
422 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:04:13.40 ID:b6Co5Sco
アリウス「…………」

だが、もしそうだっだとしても問題は無い。

何が仕込まれていようとも、アリウスにはそれを打ち破る絶対の自信がある。
フィアンマにとっては、アリウスが覇王とスパーダの力を手に入れてくれなければ困る。

そしてアリウスとしては。

その状態となった自身が、そんな小ざかしいせこい罠に嵌るとも思っていない。


覇王とスパーダ。
その両方を手に入れた時点で、フィアンマはこちらには手を出せないはず、と。


アリウス「(愚か者めが。底が浅いぞ。この俺の裏をかくなど100年早いわ小僧)」


小さく笑い。
葉巻を噛み締めながら、アリウスは再び手を動かし始めた。

アリウス「(問題はない)」


天の門の起動。

魔の門の現出。

そしてアルカナによる覇王復活。

その全ての作業が順調に始まった。
423 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:05:21.61 ID:b6Co5Sco
アリウス「では始めるか」

そしてアリウスは最後の一手。

この『舞台』の完成の為の最後のピース。

開幕を告げる狼煙へと手をかけた。


それはネロの恋人、キリエにつけた『マーキング』。


そもそもはキリエを拉致するのがフォルトゥナ襲撃の最重要目的だった。
そしてそれが失敗した場合の為の保険があのマーキングだ。

直後にネロに見せたアリウスとキリエの『同期術式』は、
マーキングを利用しただけのあの場で作った即効技だ。

つまり。


アリウス「開演だ」


マーキングの『本当の仕事』はここから。


あの女へ手をかけた本当の目的は『盾』にする為ではない。


『エサ』だ。


アリウス「お前の為の舞台を用意してやったぞ」


アリウス「スパーダの孫、ネロよ」



アリウス「楽しむが良い」



―――
424 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:06:43.03 ID:b6Co5Sco
―――

遡る事数分前。

学園都市。

とある病棟の一室。

トリッシュ「……」

ベッドの上には、相変わらず毛布に包まっているトリッシュ。
その彼女の視線の先には。

レディ「……」

部屋の壁際にて、荷物を空けさまざまな道具を散らかして何やら作業を行っているレディ。
彼女はサングラスを頭の上にあげ、オッドアイの瞳を凝らしながら、
長さ15cm、太さ2cmほどの杭に小さなナイフで術式を刻み込んでいた。

ちなみにキリエはルシアとお馴染みとなった佐天と共に、病棟内の散歩に出ていた。

そして彼女の術式解析はもう完了した。

術式内容全てを知りつくしたという訳では無いが、
ひっぺ剥がす方法は完璧に確立できたのだ。

レディが今行っている作業は、その解除用の『鍵』の作成だ。
425 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:07:45.38 ID:b6Co5Sco
トリッシュ「もう終わる?」

レディ「あと一分で」

トリッシュの言葉にそっけなく返答しながら、
レディは床にナイフで魔方陣を刻み込んだ。

その魔方陣の中央からポッと青い炎が吹き上がり。

レディは横にあったバッグの中に手を突っ込み、
赤い液体が入っている小さな小瓶を取り出した。

この間採取したネロの血だ。

その小瓶の栓を指で器用に弾き飛ばすと、もう片方の手に持っていた杭にかけ始めた。

そして一通り血で染め上げた後、先ほど点火した炎でその杭を焙り、
血液から水分だけを飛ばして組織を膠着。

レディ「……OK、完成」

これで鍵は完成。

後はしかるべき術式でキリエを保護した後、
同じくしかるべき術式で彼女の体内にこの杭を溶け込ませるだけ。


それで解除だ。
426 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:08:18.00 ID:b6Co5Sco
レディ「じゃあ呼んで来るわね」

杭を手に立ち上がり、ドアの方へと向かうレディ。

トリッシュ「さっさと済ませちゃって」

レディ「はいはい」

適当な答えを返した後、廊下に出て足早に進んでいくレディ。

しばらく進み廊下の突き当りを曲がると、その向こうにキリエ・佐天・ルシアの姿が見えた。
三人とも並びながら歩き、ちょうどこっちに戻ろうとしていたのだろうこちらに向かってきていた。

レディ「キリエ。出来たわよ」

レディは声を飛ばしながら、今しがた完成したばかりの『鍵』である杭を軽くかがけ―――。



―――たその時。


レディ「―――」


彼女の鍛え上げられた勘が捉えた。

この場の空気の何かが変わったのを。

同じく感じたのだろう、キリエの隣にいたルシアも硬直する。


そしてその直後。


異変が始まる。
427 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:09:12.88 ID:b6Co5Sco
キリエ「―――……ッ……」

突如手首を押さえ顔を歪めたキリエ。

『あのアザ』付近に鈍痛が走り始めたのだ。

ルシア「―――」

佐天「―――?!」

両側にいる二人の少女が、キリエを見て言葉を放とうと口を開きかけたが。

『現象』はすぐに始まった。

言葉を交わす暇なく。


キリエの足元に浮かび上がる『赤い魔方陣』。



そして。


キリエ「―――」



一瞬にして『沈み込む』キリエの体。


佐天「―――」


両脇のルシアと佐天ごと。
428 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:10:47.28 ID:b6Co5Sco

ルシア「(―――これは―――)」

ルシアは一瞬にしてこれが何なのかを把握した。
彼女自身もいつも使っていた悪魔の移動術の一種だ。

だが普通ではない。

明らかに何らかの目的の為に改造されている。

その速度も取り込む吸引力も強すぎる。

ルシアならともかく、佐天とキリエはもう引っ張り上げられない。
強引にこの『吸引』に逆らったら、彼女達の体が千切れてしまう。


ルシア「―――」

ルシアは即座に判断する。


己も二人に付いて行かなければ、と。


向こうに悪魔でもいたら。

いや、確実にいる。


そんな場所で、彼女達二人だけになってしまったら抗う術は無い。


その瞬間、ルシアは二人の手を取り固く握った。
バラバラに飛ばされないように。
429 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:11:53.86 ID:b6Co5Sco
そして廊下の先、15m程の場所でその現象を見ていたレディ。

彼女も即座に判断を下した。

手に持っていた杭を振り上げ。



レディ「―――Take it!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



閉じつつあった魔方陣の中へと放り投げた。

あとわずかという所、放られた杭はギリギリの穴を抜け。


ルシアがその杭を口でキャッチ。


そして次の瞬間、穴は完全に閉じ。


三人は『どこか』へと『転送』されていった。
430 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:13:55.16 ID:b6Co5Sco
レディ「―――Fuckfuckfuck!!!!!!!!!!!!!!!!!!Damn it!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

杭をギリギリのところでルシアに授けたレディ。
即座に魔方陣の浮かんでいた床に滑り込むように駆け、
手早くナイフで解析用の術式を床に刻んでいく。


トリッシュ「何が―――!!??」


その時、彼女の後方20m程の場所、
壁に寄りかかっているトリッシュが声を張り上げた。

彼女も異質な空気を感じ、その動かぬ身に鞭打って壁伝いになんとかここまでやってきたのだ。


レディ「やられた!!!!!連れて行かれた!!!!!!!!」


トリッシュ「―――転移先は!!!??」




レディ「―――……………………デュマーリ島…………!!!!!!」




ナイフを固く握り締めながら。
解析結果を告げるレディ。


トリッシュ「―――……まずい―――……まずいわ!!!!!!」


トリッシュ「ネロは?!繋がる?!」


レディ「いや……多分もうデュマーリ付近にいるのかもしれない……妨害されてて繋がんないわ」


トリッシュ「(こんな時―――私が動ければ―――!!!!!!!)」
431 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:15:13.19 ID:b6Co5Sco

トリッシュ「―――ダンテ!!!!聞こえてる!!??」

そしてトリッシュは天井を仰ぎ声を張り上げた。
頭の中で呼びかけるだけで通じるのだが、衝動的に今は大きな声で。


ダンテ『聞いてたぜ。ハッハァ〜盛り上がってきたじゃねえか』


トリッシュ「何が盛り上がったのよ!!!!??どうにか―――」


ダンテ『―――大丈夫だろ。心配ねえさ』


トリッシュ「―――またアナタはそんな事を―――!!!!」


ダンテ『うるせえな。良いから信じろ。何とかなる』



ダンテ『―――向こうにはネロがいるんだからな』



ダンテ『―――アイツは負けねえさ』



トリッシュ「―――…………」


―――
432 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:16:27.74 ID:b6Co5Sco
―――

学園都市。

第七学区、上条宅。

午後6時を過ぎた頃。

上条「あ〜……やっぱり今度掃除しなきゃな」

禁書「うん……」

夜風が吹き抜ける薄暗い宅内を、きょろきょろと見回しながら言葉を交わす上条と。
小萌に預けていたスフィンクスをようやく迎えに行き、
胸元に大事に抱えているインデックス。

二人は荷物を取りに数日振りに我が家に帰ってきたのだ。

上条「…………でも改めて見ると案外、そこまで壊れてないな」

禁書「そうかも…………」

あの時はそこまで意識が回らなかったが、思ったほど部屋は破壊されていなかった。
一方通行が室内から窓をぶち抜いたからだろう、ガラス片もほとんど内側には飛散していなかった。

ベランダの手すりも、まるで鋭利な刃物で切り落とされたかのようにきれいさっぱり消え、破片も全く落ちていなかった。

破壊の仕方がキレイ、スマートと言うのだろうか。
こう言うのもおかしな事だが、一方通行の破壊の仕方は無駄が無いと称すべきかもしれない。

上条「でも靴は脱ぐなよ?やっぱ少しガラス片が散らばってるから」

禁書「うん……ちょっと待って。土足で上がって良いのかな?」

上条「どうせ後で掃除すんだ。今は良いさ」
433 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:18:13.44 ID:b6Co5Sco
そして二人はいそいそと荷物を集めてはバッグに入れ始めた。

荷物は少ない。
ほとんどがインデックスのだけ。
上条の着替えの大半はデビルメイクライにあり、後で取りに行けば問題ないからだ。

それならば当然、すぐに作業は終わる。

インデックス「…………」

インデックスはスフィンクスを抱きしめながら、
ふわりと修道服を靡かせてベランダへと出た。

手すりの無いベランダ。
そこから見える第七学区。

先日の激戦地となったこの区画からは一般市民が皆避難させられており、
立ち並ぶビルや寮には灯りが全く灯っていなかった。

インデックス「…………」

地上の光は、ポツポツとあるアンチスキルの作業灯のみ。

そしてそれだからこそ。


インデックス「……」


普段は夜景に掻き消されていた、冬の早い夜空の光が、
静かに優しく降り注いでいた。
434 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:19:13.37 ID:b6Co5Sco
煌々と瞬く大量の星。
それらを見上げながらインデックスはポツリと呟いた。

インデックス「キレイ……」

あの時と。
上条がデビルメイクライに行く前、二人っきりで夜道を歩んだ時と同じように。

そんな彼女の背中にふわりとかけられる毛布。

上条「寒いだろ。暖かくしなくちゃな」

そして言葉に続き、彼女の横に並び立つ上条。

禁書「とうまも暖かくしなくちゃダメなんだよ」

上条「はは、俺は問題ないさ。冷凍庫の中だろうとオーブンの中だろうと屁でも無いんだからな」

禁書「…………うーん……でも私だけ暖まるのもイヤだから、建前だけでも良いからとうまも」

そう言うとインデックスはその場にゆっくりと座り込み、
そして毛布を広げて上条に隣に座るように促した。

禁書「ほら、さっさと座ってくれないかな?寒いんだよ」

上条「…………はは……わかったわかった」
435 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:21:57.20 ID:b6Co5Sco
一つの毛布に包まりながら並び座る二人。

穏やかでありながら、どことなく意識が別のところへと離れているような会話。
二人は何となく予感していたのかもしれない。

今起こっていること、そして今後起こる『大きな大きな事象』を。

そして二人とも意識していた。

『話』をできるのは今しか無いかもしれない。

伝えたい事を伝え、その言霊をゆっくり噛み締められるのは今晩だけなのかもしれない、と。

そして先に話を仕掛けたのは。

禁書「……ここで私ととうまは出会ったんだよ」

インデックスだった。

上条「…………」

禁書「今は無くなっちゃったんだけど、私はここの手すりに引っかかってて……」


上条「―――待ってくれ…………それについて伝えたいことがある」


だが上条も押されるばかりではなかった。
彼は既に心に決めていた。

昨日、御坂から貰った。

全てを打ち明ける『覚悟』を―――。


前に踏み出す『勇気』を―――。



上条「………………………………………俺、記憶が無いんだ」



上条「お前と出会った頃の事は…………何も覚えていない」



禁書「…………」
436 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:23:15.15 ID:b6Co5Sco
上条「…………」

どんな言葉が返ってくるのか。
インデックスは悲むのか。
それとも体を震わせ怒るのか。

だが、インデックスの反応は上条が予想していたものではなかった。

彼女は何も言わずに、ポスンと上条の肩に頭を預け。


禁書「………………だから、今教えてあげようとしてたんだよ」


そしてこう告げた。
全く動じていない穏やかな口調で。


上条「……………………………………やっぱり知ってたのか?」

禁書「……うん。このあいだ聞いちゃったんだよ」


上条「………………………すまん……ずっと騙しつづけて……本当に―――」


禁書「―――何も言わないで。私は別に良いんだよ」


上条「別に…………って!!!!だってお前と出会った時の記憶すら―――」


禁書「確かに。確かにアレは私の大事な宝物。だけど―――」



禁書「―――『今』に比べたら。。。」



禁書「ずるいよ。とうまは」



禁書「そんな事打ち明けられたって『今の私』は怒れないんだよ」


上条「―――…………」
437 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:24:50.38 ID:b6Co5Sco

上条「……でも、俺は……お前を救った上条当麻とは別人なんだ」

禁書「どこが?」

上条「どこがって……だって何も覚えてないんだぞ?俺はただ……前の上条当麻の跡を次いで……」

禁書「それは違うんだよ」

禁書「こうしてるとわかるんだから」

禁書「あの時、私を抱き抱えてくれたとうまと何もかわらないって」

上条「……」

禁書「記憶が無くなろうと。悪魔になろうと。とうまはとうま。何も変わらない」

上条「……」

禁書「皆の為にあちこち走り回ったのも、ただ記憶を失う前の仕事を引き継いだだけって言うの?」

禁書「死に掛けて……ある時は本当に死んでまで……」

上条「……」

禁書「あれはとうまじゃなきゃできない。他の降って沸いた誰かができるワケが無いんだよ」

上条「……」

禁書「だからその事はもう何も言わないで。何も」

上条「………………………………」
438 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:26:04.73 ID:b6Co5Sco
禁書「あ……そうだ……これも盗み聞きしちゃったことなんだけど……」

上条「……」

禁書「私の『この力』、元を辿ればこれが『元凶』だと私も思う。でも」

上条「…………」


禁書「皆忘れがちだけど、とうまのその『右手』だって『私』と同じくらいの『厄病神』なんだよ」


上条「………………そう……かもな」

禁書「……私が全てから解き放たれるのならとうまも」

禁書「人間に戻って……そしてその右手も普通の手に戻して……そうじゃなきゃイヤなんだよ」

上条「…………」


禁書「私だけが救われてとうまが救われないなんて、そんな世界なんか私にとって意味が無いんだよ」


禁書「もう『守られるだけ』なのはイヤ。私も一緒にとうまと行きたいんだよ。どこまでも」
439 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:28:08.38 ID:b6Co5Sco
上条「………………よし、じゃあ約束しよう」

禁書「……うん」

上条「俺とお前は一緒だ。『ここ』から抜けるのも一緒だ」

禁書「どこまでも一緒。『救われる』時も。『堕ちる』時も」

上条「…………絶対にお前一人にはしない」

禁書「…………絶対にとうま一人にはしない」


二人の中にある想いが膨れ上がっていく。


そしてこう告げる。


今がその時だ、と。


禁書「ねえ。とうま―――」


少女はその声に従う。
この胸一杯の、
はち切れんばかりに篭められた想い伝えるべく。



禁書「―――私、とうまの事が好き」




禁書「―――とうまが大好きなの」
440 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:29:33.45 ID:b6Co5Sco
上条「―――…………」


彼女の鼓動は波打ち。
体温が一気に上がりつつあるも。

なぜか声色は落ち着いていた。

淡々と冷めていた、という訳ではない。
ぬくもりのある穏やかな声だった。


そして上条も告げる。

今一番彼女に伝えたかったことを。


何も恐れることは無い。
勇気を持ち。



上条「俺も―――」



わずかに体を震わせながらも。



上条「―――お前の事が好きだ」



確かな落ち着いた声で。



上条「―――好きだインデックス」
441 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:30:38.96 ID:b6Co5Sco
上条の言葉を受け。

彼に寄りかかりながら顔をあげるインデックス。

その顔にはこれまで上条が見たことの無いほど美しい笑みがあった。

儚く脆く繊細でありながら。
それでいて煌々と輝く暖かい笑顔が。

禁書「……」

上条「……」

両者の顔の距離はわずか15cm足らず。

鼓動を高鳴らせ頬を赤らめるも、二人は決してお互いから目を離さない。

真っ直ぐに見つ合う。

禁書「……とうま、私そのとうまの言葉がずっと欲しかったのかも」

禁書「自分で気づくのが遅すぎちゃったのかな私」


上条「…………俺もだな」

上条「なんでもっと早く言えなかったんだろうな……」
442 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:31:55.00 ID:b6Co5Sco
禁書「でも……良かった」

向かい合う二人。

その顔の間の距離が徐々に。


上条「ああ……ちゃんと……言えた」


ゆっくりと狭められていく。


禁書「うん……ちゃんと……」


お互い吸い寄せられるかの如く。

そして二人とも、その引力には逆らわなかった。

素直に。

この胸の高ぶりのまま。


インデックスは静かに目を瞑り。

上条も瞼を閉じ。
443 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:33:20.25 ID:b6Co5Sco

星が瞬く夜空の下。

少年少女を『地獄』へと運ぶ超音速機の、大気を切り裂く音が響く中。

緩やかな夜風が吹くベランダの上で。

始めて出会ったこの『場所』にて。



この物語が始まった『聖地』にて。




二人は唇を重ねた。




優しく―――。


静かに―――。
444 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:33:54.69 ID:b6Co5Sco

そしてこの瞬間。


とある『運命のトリガー』がインデックスの中で引かれた。
彼女自身が『まだ』気づいていなかった歯車が回りだす。


今のこの状況。
二人の想い。
そして結ばれる心。

それらの条件が満たされ。


ここに『魔女』と『悪魔』の『絆』が形成された。


種の壁を超えた『上条当麻』と『インデックス』という存在の『魂の癒着』。


一心同体・運命共同体。


決して断ち切ることのできない


何人も間に割り込むことができない


永久の究極の『繋がり』を―――。
445 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 00:35:19.76 ID:b6Co5Sco
意識を共有し。

お互いの上に圧し掛かっている巨大な巨大な『重石』を再認識する二人。

お互いとも、抜け出すのが困難な渦の中心にいる事を。
固く鎖が纏わり付いていることを。


これはとんでもなく危うい賭けなのかもしれない。


両者の破滅へと転げ落ちる片道切符なのか。

それとも一筋の救いの光となるのか。

『今』はわからない。

だが、二人にとってそんな事など今やどうでも良かった。

こうして結ばれたのなら、結末がどうなろうと。

いつまでも『一緒』なのだから。
いつまでも心は通じ合っているのだから。


『二人にとって』のBADENDはもう消え去った。


どんなに過酷な未来が待ち受けていようと。
どんなに凄まじい苦痛がこの先に待ち伏せしていようと。


二人は決して後悔しない。


この『瞬間』の『幸せ』だけは、もう誰の手にも奪われないのだから。

間違いなく今この瞬間『だけ』は。


世界で最も幸せを感じていたのはこの二人であった。

―――

準備と休息編

終わり
446 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:36:18.55 ID:8SY9VHg0
447 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 00:36:34.02 ID:b6Co5Sco
今日はここまでです。
デュマーリ島編は来週の水木金辺りに始めます。
448 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 00:36:36.92 ID:SaV0f/w0
449 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:44:09.21 ID:OY5lY2DO
450 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 01:00:06.63 ID:suTKG6.0
たまらんですな超乙
451 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 01:06:26.82 ID:82IrPMAO
惜しみない乙を。
超乙
452 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 02:35:34.89 ID:fqRHQ.I0
∀Z乙
453 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 03:13:42.82 ID:RnobDYAO
平穏は御仕舞いか
454 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 03:23:57.53 ID:XSp7Eigo
ワクワクするなぁ
・・・もの凄くワクワクするなぁ
455 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 04:43:10.55 ID:RvSGZUAO
>>393だが>>1乙&サンクス
ワクワクが止まらない展開だぜ!
456 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 12:30:03.81 ID:D.mdbgDO
上条さんとインデックスさん結ばれて良かったな。ニヤニヤが止まらんよ。このままハッピーエンドを迎えて欲しいものだ

にしても『4人目』の魔女って誰だ?ジャンヌ、ローラ、インデックス…あと一人。ベヨネッタ?
457 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 12:47:24.24 ID:6.1p5j.o
単純に学園都市にいる魔女の数ではないのでは。
ベヨネッタ、ジャンヌに続き生きていたローラ。そして4人目の・・・
458 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 13:19:28.95 ID:D.mdbgDO
>>457
失礼、その通りだった
459 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 17:28:04.01 ID:87tNA9Ao
スフィンクス「('A`)」
460 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/07(日) 03:59:29.39 ID:SP6eRxQ0
乙〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っとぅ
461 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/07(日) 17:44:01.77 ID:Z/g0xcAO
きも
462 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/07(日) 20:54:49.15 ID:Qy1bNwAO
みんなもの凄く性格がハッキリしてるな
特に、ここまで軸のブレない当麻は素晴らしい
463 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/07(日) 21:29:19.11 ID:QWFG/EAO
上条さんだからさ
464 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 03:48:53.28 ID:6K.tN6AO
この御坂はマジイケメンだと思う
465 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/08(月) 05:56:58.11 ID:kl4yZaw0
つーか、皆かっこいいよ、味方側も敵側も
そしてインデックスマジ天使
466 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 18:16:58.65 ID:2N3k1IAO
そげぶさんがリア充すぎてしにたくなった…ちくしょう…
467 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 00:11:13.12 ID:ErTBgAQo
美琴の単発火力はどれくらいなんだろう。
通常レールガンでゴートリングを2発。レールキャノン(仮 の最大火力でフィアンマさんの足止めは可能。
・・・極端だなぁ。ひたすらぶち込めば大悪魔、ファントムやグリフォン、わんわんわんくらいなら勝てるかな。撃てれば。
468 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 01:10:56.12 ID:c9eRY2AO
>>467
とりあえず今の美琴ならタイマンでブリッツと当たれば苦戦はしないだろうな
レールキャノンの威力がよく分からんからハッキリ言えんが
469 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/11(木) 21:13:51.05 ID:3GNzGBo0
今夜は投下あるのかしら
470 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/12(金) 23:14:18.51 ID:ByNVe6AO
この忙しい時期に>>1は俺らを満足させるためだけに書いてくれてるんだよな。
正直無理しないでほしい。
471 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/12(金) 23:44:50.72 ID:XM6ipHYo
マダー
472 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/12(金) 23:56:36.56 ID:ErduE1so

―――



「地獄―――」



「―――ここは本物の地獄だな」


とある超高層ビルの最上階にて、全身を最新式の戦闘服・武装で固め、
そして左肩の上腕部に『星条旗』のワッペンをつけている一人の男。

彼は、眼下に広がる薄闇の中の超高層ビル群を眺めながら呟やいた。


「…………神も天使もいませんね……少なくともここには」

そんな彼の独り言のような声に、同じく独り言のように言葉を返した斜め後ろにいる同じ軍装の男。
彼らが今いる場所。

そこは、ビルの管理用のフロアであり配線や基盤が至るところに犇いていた。
窓辺の二人の後ろ側には、もう三人同じ軍装の男達がおり、
二人はあちこちの配線・基盤を弄り、一人は携帯用のPC端末を操作しながらマイクになにやら呼びかけ続けていた。

そしてこのフロアには更にもう三人いた。

ウロボロス社のマークが刻印されているパワードスーツを着込んだ男達。
それぞれがフロアのドア付近に立ち大口径の銃を手に警戒していた。

このパワードスーツ、学園都市のそれとはかなり見た目が違っていた。
表面は黒い『筋繊維らしき』構造で覆われており、さながら皮膚体表を剥がされたかのような外観だ。
着込んでしまったら身長も体格も一切わからなくなってしまう学園都市製のと対照的に、
そのスーツの厚み自体も差ほどのものではなく、
黒いシルエットだけにしたら筋骨隆々のボディビルダーと同じくらいに見えるだろう。


そんなウロボロス社製の最新装備をした男達とアメリカの特殊部隊の男達。

彼らは今ここで何をやっているかというと。

途絶された通信の回復を試みているのだ。
このビルの頂点に立っている巨大な通信等を使って。
473 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:01:59.18 ID:tJ.4jHwo

「……状況は?」

窓辺から街を見下ろしていた男。
この質問は何度目になるだろうかと自覚しながらも、背後の部下へと言葉を飛ばした。

「変化無し。全ての帯域で呼びかけておりますが、応答はありません」

「それと……やはりジャミングされている可能性はありません。信号は『全て正常』です」

「…………」

何度聞いても不可解だ。
ジャミング無し。
こちらの信号は異常なく正確に飛んで行っている。

ではなぜどこも応答しない?

軍用回線だけではなく、民間回線にも満遍なく信号を送っているのに。

この島の周囲や天面全てを、
いかなる『線』をも遮断する非透過性の金属壁で囲むでもしないとこんな現象はまずありえない。

この島のそのものが、何かの方法で外界と隔離されたのか。

「…………」


「もしかすると、『外の世界の方』が消えちまったかもですね」


その時、基盤を弄っていた一人の部下がポツリと呟いた。
474 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:04:08.61 ID:tJ.4jHwo

外の世界の方が消えてしまった。

その言葉に対し、誰も返答しなかった。
普段なら『ありえねえ』『バカか』『SFの読みすぎたアホ』といった言葉が返されただろうが。

この時はそんな言葉達は飛び交わなかった。


なぜなら。


誰も否定できなかったから。

現に、この島で彼らは『ありえない』光景をいくつも目の当たりにしてきた。

いまや、24時間常に『薄闇』に包まれているこの島。
星も出ないし太陽も出ない。

雲が無いのにも関わらず妙な質感の揺らぎ、
まるで『面』そのものが鼓動しているかのように見える漆黒の空。


漆黒であり、そしてどこにも灯りが無いにも関わらずボーっとやけに見通しの聞く『奇妙な闇』。


この世のものとは思えない、この猛者達ですら今まで経験したことの無かった異質な空気感。




そして。




あの『異形の化け物』たち―――。
475 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:06:32.01 ID:tJ.4jHwo

この島に送り込まれた特殊部隊は複数あり、それぞれ別の任務を与えられていた。

あるチームは空爆や砲撃の誘導と観測。
あるチームはこの島の防御機構への破壊工作。
あるチームは滞在していたアメリカ要人の保護。

そしてここにいる男達のチームに与えられた任務は『情報の取得』。
この島の厳重なメインサーバーにハードから侵入し、消去される前に『極秘情報』を全て強奪する。

学園都市につぐ先進勢力ウロボロス社、その科学の結晶を本国に持ち帰ることだ。


だが実際にこの島にやってきたら。


何もかもが瓦解した。
当初の計画など全てが吹き飛んだ。

この島での現実離れし過ぎた異常事態に。

一応極秘情報の奪取は成功したものの、彼らはこの島から出れなくなってしまった。
通信も途絶し孤立。

島内に残っていたチーム間で相互に情報を交換したり合流したりしていた矢先の事だった。


異形の化け物達が、突如島全土に溢れ出したのだ。
476 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:08:30.14 ID:tJ.4jHwo

どこからともなく出現した無数の怪物達は、目に付いた人間達を無差別に捕食していった。
当然、この島を守るウロボロス社の武装部隊が出動しそれなりに奮戦したものの、
結果的に一時間もしないうちに壊滅。

怪物の中には、戦車砲を至近距離から受けても死なないような存在までもいた。

そんな怪物とどう戦えと?

普通の対人戦ならスペシャリストだが。


あんな化け物相手にどうしろと―――?


そこを見て、この米特殊部隊のチームは正面から激突することを極力避けるように行動した。

だからこそ今でもこうして『生きている』。

ちなみにその過程で、ウロボロス社兵や科学者、民間人の生き残りともいくらか合流した。

最早こんな状況で人間同士で対立している訳にもいかなかったのだ。
(そもそもウロボロス社の一般兵・一般人達は、自分達が今アメリカと敵対関係にあることさえ知らされていなかった)

彼らはこの異質すぎる狂気の世界を生き残るために、
それぞれの力を出し合って協力する事を決めた。


ただ今のところ。

生き残る、もしくはここから脱出する目処は全く立っていなかったが。

もう街には、人影が自分達以外見当たらなくなっていた。

彼らははっきりと認識していた。


生存者は恐らく自分達だけ。


ここにあるのは血と肉塊と死だけ―――と。
477 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:16:34.86 ID:tJ.4jHwo


「そちらはどうだ?」

窓辺から闇に浸る街を眺めながら、男は下階にて待機している別働隊へと通信。


6名の特殊部隊員、3名のウロボロス社兵、
2名の科学者と道中で保護した8人の民間人がこのビルの1階にいる。

『医療品が底を突きました。ブラボーから一名、民間人が二名の計三名が失血死』

『ウロボロス社の連中に現在棟内の医療品と「食べれる」食料を探させていますが、今のところ収穫はありません』

「……了解。現状を維持しろ」

『了解』

「…………」

どんどんと事態は悪化してきている。
他にも負傷している物がいる以上、医療品の欠如はかなり痛い。
それにもしあの怪物と戦闘となると、必ず重傷者が出る。
(ここの来るまでに何度も襲撃され、その都度死人と重傷者が出てきた)

更に食料と水。

これだけの大都市ならばそこら中にあると思われがちであったが、
この異質な世界はそれをも許してはくれなかった。

蛇口から出るのも排水溝のも、全ての水が真っ黒で異臭漂うドロドロした液体となり。
食料は全て腐っていた。
冷凍庫の中のものまでだ。

水も食料も医療品も無し。

このままでは明らかにもたない。
全てが絶望的であった。


ただ武器だけは、
街に出ればウロボロス社兵が使用していたものが腐るほど転がっていたが。
478 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:19:55.75 ID:tJ.4jHwo

とその時。

一人の部下が、窓辺の男の方へとPDAを片手に歩み寄って来。
そのPDAの画面を男に見せながら。

「さっきから一つ気になっていたんですが……入手したデータバンクの中にこれが……」

「……」

その画面に映っていたのは、円の図形のようなものに奇妙な文字が満遍なく描かれているものだった。
一目見て、誰でもこう思うだろう。

「『オカルト』……ですか?なぜ……こんな代物が最高度セキュリティの中に」

オカルト?、と。

良く見るとそのオカルトチックな図面は、この北島に広がる大都市の地図の上に描かれていた。

「……………………お前は知らんかもしれんが、俺は少しそれらしき『世界』に関わったことがある」

「世界?」

「…………『魔術』、さ」

「……はい?」

「何なのかはともかく最高度セキュリティの中にある。とにかく重要な代物なのは確かさ」


と、男が腑に落ちない表情をしている部下の肩を軽く叩いた直後。


「―――信号が!!!!!!!信号を受信!!!!!!」

PC端末に向かっていた男が突如声を張り上げた。
479 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:21:47.51 ID:tJ.4jHwo
「どこからだ?!」

振り向き、言葉を返す窓辺の男。


「……発信源は近海の超高高度……!!!」

「航空機か?」

「はい……発信源数から見て……機数は恐らく20かと……」

「速度は?」

「……マッハ7でこちらに向かってきています!!!本島上空通過は5分後弱かと!」

マッハ7。

「……」

その言葉を聞いて、男の頭の中にはとある無人機が思い浮かんでいた。
去年米空軍に配備されたばかりの、超音速のスクラムジェット機だ。

だが、その直後に彼の思考が否定される。

「―――音声通信!!!音声通信です!!!」

「(…………有人機……だと?)」

「スピーカーに!」

端末の前の男が手際良く操作。
変換された通信信号が音声となりスピーカーからもれ始めた。


『………射出ポ………まで………5………』


『何………だ!!!………つら………』


『こちら……………被弾!!!!………隔壁……傷!!!!……分解s―――』


『………3!!!………後ろ…………』
480 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:24:48.62 ID:tJ.4jHwo

「(交戦中か……??!)」

ノイズの中に途切れ途切れに聞こえてくる怒号。
そして声の後ろにて凄まじい轟音が響いている。

「(……アメリカではないな……)」

マッハ7に達する性能を誇る実用の有人機なんかを所有している勢力は、男の知る限り二つしかない。
学園都市かウロボロス社だ。

「(……英語圏でもない……)」

そして、飛び交っている言葉は英語だがネイティブの発音ではなく、
アジア系の訛りがある。

つまり。


音声の主は学園都市の者達で間違いない。


「…………暗号化はされていないのか?」

「はい。機密回線ではありません」

「そうか……」

短距離用・機密回線としては使えない変わりに、
最も信号が強く単純でジャミングの妨害等に強い性質を持つ帯域を使っているのだ。
彼らもまた、ここと同じく奇妙な通信妨害にあっておりこの帯域を使いざるを得なかったのだろう。

そしてこれはまた別の点でも好都合なところがある。

「ノイズを除去できるか?」

単純であるため、復元作業も行いやすい。

「しばしお待ちを」
481 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:28:12.05 ID:tJ.4jHwo

「完了、流します」

そしてクリアになった音声が、スピーカーを通じてフロア内に響き渡り始めた。


『―――が多すぎる!!!!対応しきれない!!!』

それは壮絶な声達だった。

『気密維持不能!!!本機はここまd―――』

『「Gwaihir 12」が空中分解した!!!!脱出は無し!!!!!繰り返す!!!脱出は無し!!!!』

『―――クソが!!!!バケモノ共が!!!!さっさとクタバリやがれ!!!!』

『来るぞ!!!!3時方向!!!!』

『命中!!!命中!!!』

聞こえてくる声は激しい交戦中のもの。

「「……」」

男達は無言のまま、
空の彼方の地獄からの声に耳を傾けながら顔を見合わせていた。


『「AIMストーカー」から報告があった!!!目標の島高高度一帯に非常に高密度な「力の壁」を確認!!!』

『機体強度の超過が予想され突破は不可能!!!繰り返す!!!突破は不可能!!!!』

『突入予想時刻は2分30秒後!!!!』


『危険は把握した!だが何があっても編隊を崩すな!!現コースを維持しろ!!!護衛機は輸送編隊を死守せよ!!!!』


『全「天使」の射出完了までコース変更は無い!!!!!』


『このまま突入する!!!!』


『―――射出ポイントまであと4分―――』
482 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:32:39.79 ID:tJ.4jHwo


「(……天使……?)」

何かを島に投下するつもりなのか。
口ぶりから、爆弾等の何らかの兵器を落とすのとはまた違う風にも聞こえる。

『―――「Gwaihir 9」が撃墜された!!!!!脱出は確認できない!!!!』

『―――4時方向だ!!!!!』

『―――どうなってんだよ「こいつら」は―――!!!!!??』


『全機へ告ぐ!!編隊10時から2時方向までを「メルトダウナー」により一斉掃射する!』


『繰り返す!「メルトダウナー」により一斉掃射する!』


『前衛機は輸送編隊後方へと後退せよ!』

「……」

メルトダウナー。
何らかの兵器のコードか?と思っていた次の瞬間。


『―――さっさと退けやがれ!!!纏めて吹っ飛ばすわよ―――!!!!』


奇妙なエコーがかかった若い女の、
異様な圧迫感をもった脳内に直接聞こえてくるような声が響き。

直後、飛び交っていた大量の通信が全て潰れてしまうほどのとんでもないノイズが走った。


「……!!何だ?!何が起こ―――」

何が起こったか?
直後、その答えの一端を彼らは見た。

いや、否応無く見せさせられた。
483 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:35:14.51 ID:tJ.4jHwo

フロアにいた全員がその瞬間感じた。
強烈な圧迫感を。

全身が強張り、寿命が縮んでしまいそうな閉塞感。

そして彼らは、そのプレッシャーが押し寄せてきた方向を反射的に振り向いてしまった。
皆の視線は窓へ、その向こうの外の景色へと向けられた。


それとほぼ同時に。


聳えている街並みの向こう、水平線の遥か彼方。


その果ての果ての空にて、『紫』と『青白さ』の混じった奇妙な光が明滅した。


「―――」


雷が瞬いているように。
良く見ると光の柱のような筋も幾本も見える。
だが、もし雷であったら非現実的な規模すぎる。

ここからならばかなり小さく見えるものの、
そもそも地球は球体である以上、遠くの物は水平線の下に隠れて見えない。
例の学園都市の連中が高高度飛行中であることを考えても、まだまだ直接見えない距離なのだ。

それなのに、光がこうして見えるとは。

つまりあの現象は、
光源から20km四方が光に満たされるくらいのとんでもないスケールの『何か』なのだ。
484 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:37:52.15 ID:tJ.4jHwo
その光をボーっと見つめながら、皆はそれぞれ口を開いた。
覇気の無い、呆然とした声色で。

「…………何だ……あれは……」

「……核……か?」

「核があんな色で光るかよ……」

「……反物質爆弾とか言う代物じゃねえか?」

「いや、パルス兵器の一種に見えるな……あの色……」

「……そういえばオーロラに似てるな……」

「……あの光の筋……何かの光線兵器に見えるが」


「通信の回復はまだか?」

「ただ今……回復しました!」

そして再びスピーカーから通信音声が漏れ始めた。


『―――だ!!!!確認!!!!』

『敵性因子24%の排除を確認!!!!』


『結標ッ!!!私から見て2時方向の護衛機を後ろに「飛ばせ」!!!!邪魔で仕方ねえのよ!!!!』


『無理よ!!!!離れすぎてる!!!!』


『ああクソ!!!こちら「メルトダウナー」だ!!!編隊が密集しすぎてる!!!これじゃあ思いっきり撃てねーんだけど??!!!』


『輸送機以外は「巻き添え」も許可する!!!輸送機だけは傷つけるな!!!!』

『聞こえたな!!!巻き込まれるぞ!!!!護衛機は編隊の後方へ下がれ!!!!至急下がれ!!!』


『退避!!!』

『退避せよ!!!』


「(メルトダウナー……兵器ではなく個人コードか?……それも女か……?)」
485 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:40:30.91 ID:tJ.4jHwo

そして空の彼方が何度も明滅した。
『光源』が接近しつつあるためか、更に激しくハッキリと。


『―――目標島上空、高高度の「力の壁」詳細観測解析結果!!!』

『現コース現速度で突入した場合、衝撃は機体及び電磁シールド強度を超過!!!』

『シールドの喪失、外殻損傷、気密隔壁破断によって突入後3.28秒以内に空中分解します!!!!』

『「力の壁」突入まであと1分!!!』


『クソ!!輸送編隊各機へ!!射出開始時刻を早める!!!データ転送!!!』


『照準補正作業、第三段階から第七段階は飛ばす!!!ムーブポイントが最終着弾補正を行う!!!』

『全機へ告ぐ!現コースを維持せよ!!!繰り返す!!!射出完了まで現在速度とコースを維持せよ!!!』


『こちら「ムーブポイント」!!!位置に付いた!!!「撃ち漏らし」は私が全部拾うから!!!!』


『―――射出ポイント変更。確認。適用補正完了』


『―――「天使」の射出開始15秒前。各員衝撃に備えてください―――』


『―――12.37秒で全天使射出完了予定―――』


『――――――3、2、1、射出開始―――』
486 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:42:46.21 ID:tJ.4jHwo

「(その速度から更に『射出』だと―――?)」

「来るぞ!!!衝撃に備えろ!!!!」

『天使』と呼ばれてはいるが、具体的に何が来るのかはわからない。
だがあの速度から何かが放たれる、そして射出と言うことは更に加速されているかもしれない、
という事を考えると、飛来する物体が何であろうと着弾点が徹底的に破壊されるのは確実だ。

男の放った声に、最精鋭の軍人達は反射的速度でそれぞれの姿勢をとった。

「(頼むから―――このビルには直撃するなよ―――!)」



『―――全天使射出完了。着弾まであと20秒―――』


『こちら「メルトダウナー」。降下する』

『こちら「ムーブポイント」。降下する。今のところ着弾補正の必要なし』


『輸送編隊より「天使」達へ。我々はここまでだ。各員、健闘を祈r―――』


『―――警告。「力の壁」突n―――』


機械的な警告音声を遮る様に大ききな轟音が一度響き。

通信信号はそこでぴたりと途絶えた。

そして。

「―――」

男達は窓の向こうに見た。



超高高度をまるで流星群のように、『砕け散り』ながら過ぎ去っていく大量の光点を。


一方、その空の下。

街には『砕け散らず』しっかりと形を保った『流星』が着弾した。
猛烈な速度で。
487 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:46:35.62 ID:tJ.4jHwo

落下してきた光の玉の数は10個前後だろうか。

いや、あまりにも速すぎる為、『玉』ではなく『筋』と言った方が良いか。

ビルを何本も『貫通』し、地響きと共に巨大な粉塵をぶち上げ。
まるで戦艦からの砲撃が行われているかのような、壮烈な破壊を撒き散らして光は着弾した。


「―――おおお!!!!!!」

幸いこのビルには直撃しなかったが、一番近い着弾地点は500m程先。
その凄まじい衝撃にビル全体が大地震の如く振動し、強化ガラスにも亀裂が走り。
柱や壁に寄りかかったり床に伏せたりなどしている男達の体を揺らしていく。

「大丈夫か!!!?」

窓辺にいた男は耳の通信機に指先をあて、再び下階の別働隊へと通信を飛ばした。

『一応は!!!』

「負傷者は?!」

『出ていません!!』

「我々は今から降りる!!!とにかく移動するぞ!!!準備しろ!!!」

『どこへです!!?』

「北でも南でもどこでも良い!!とにかくまずこの街から出る!!!移動準備だ!」

『了解!それと一体何があったんですか?!』


「ああ、空から―――」


―――何かが降ってきた、そう言おうとした時だった。


窓の向こう、粉塵があちこちに巻き上がっている街の中、『それ』は舞い降りてきた。


『青白い』閃光に覆われた、『紫』色の巨大な翼を生やした『何か』が―――。
488 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:50:29.07 ID:tJ.4jHwo

「―――」

『それ』は、男達の場所から3.5km程離れているビルの頂点にふわりと降り立った。
この距離からでは、大きな翼は見えるものの翼を生やしている物体が一体何なのかは判別できなかった。
だが視覚的にそうであっても、男達はその規格外の異形の力を感じていた。

本能的に、だ。

遠くの光り輝く翼から目を離せない男達。


そして舞い降りてから数秒ほど経った頃、
光り輝く翼がとまっているビルの根元周辺にて、なにやらゾワリと黒い塊が動いた。

「…………あれは……」

無数の何かが集まった異質な『群れ』。
遠目でもわかる。

あれは無数の異形の化け物の集まりだ、と。

それらが寒気立つような動きでビルを急速に這い上がっていき。

そして翼に触れるかという瞬間。

「―――」

翼の『根元』にある何かから、青白い光の柱が数十本も出現した。

一本一本が10m近くの太さがあるかもしれないその光の柱。

群がってきていた無数の化け物共を一気に薙ぎ払い吹き飛ばし、
それでも留まらずに周囲のビルを幾本も貫通し、遥か彼方まで延びていった。

そして寸断されたビルの上辺が、ズルリと滑り落ち倒壊していく。

「―――…………ッ……」

男はその一部始終をはっきりと見ていた。

見ていたのだが。

『―――応答を!!!何があったんです?!!!』

「…………」

通信機から響いてくる問いに対し、返す言葉が見つからなかった。
この異質すぎる光景と感覚を、どう説明すれば良いのかがまるでわからなかったのだ。
489 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:56:27.95 ID:tJ.4jHwo
と、その時。


「―――『天使』―――……」


部下の内の一人がそう小さく呟いた。
十字を胸元で切りながら。

その単語。
先ほどの通信の中で幾度と無く交わされていた言葉だ。

「…………」

そう、その言葉。
男はそこでようやく、あの『光の翼』を表すに相応しい言葉を見つけた。
難しいことは無かったのかもしれない。
あの通信の中で既に答えが出ていたのかもしれない。

アレが何なのかは。

『応答を!!!どうしたんです!!?今の轟音は!!!?』



「―――…………『天使』だ……」


男は光り輝く翼を見つめながら、ポツリと呟いた。
恐怖と喜びと、希望と絶望が入り混じった奇妙な表情を浮かべながら。


『―――…………は?』



「………………『天使』が舞い降りて来たのさ―――」



「―――この地獄に。ちょっとアブねえ感じのな―――」



―――――――――――――――――――――


               デュマーリ島編


―――――――――――――――――――――
490 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:59:23.44 ID:wYlumsAO
うおおおぉぉぉぉおぉおぉおぉおおおおぉぉ
麦ストル!!!!!!
491 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 01:04:11.91 ID:lSCtc4o0
おつ!
次の投下が楽しみだ!
492 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 01:04:15.07 ID:1xNJnU20
(´ω`)ゞ再開待ってました!!!
493 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 01:06:19.95 ID:tJ.4jHwo
次はできれば明日の夜に。
無理ならば日曜となります。
494 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 01:13:14.97 ID:IkW9isso
天使ってのはレベル5勢か?
つか結構やられたみたいだな
495 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 01:15:41.63 ID:beAfHK20
乙!!
魔人化して空飛びつつ雷撃するやつみたいなのやらないかな・・・
496 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 02:10:03.86 ID:mf4BB4co
乙!
うっひょーワクワクがとまらないな! 次回が楽しみだ
497 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 08:51:51.79 ID:nrdjlIDO
>>494
どれくらいやられたか知りたいぜ。つか、しょっぱなからヤバすぎ
498 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 13:55:12.25 ID:b0m94IM0
最後のセリフって何か元ネタあるのかな?

スゲェ気に入った
499 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 22:01:00.88 ID:vsFGPTAo
空中戦がエースコンバットかと思った
500 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 11:07:31.52 ID:.kKia2DO
生き残りの特殊部隊員の一人がフィアー2のベケットさんに重なるな。
501 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 12:53:30.21 ID:MMmDKADO
フィアー!
502 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 15:49:08.14 ID:Aw1sA36o
やられたってのは護衛機じゃね?
突入部隊自体は無傷っぽいけど
503 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 16:10:07.54 ID:odPEFXU0
>>500
アルマさんがアップをはじめたようです
504 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/14(日) 23:52:40.97 ID:SzF6rqoo
―――

デュマーリ北島。

天井まで50mはあろうかという、暗く広大な地下倉庫。
ここは倉庫であり『通路』でもある。
幅は200m程だが奥は延々と続いており、
学園都市第23学区の地下駐機場にも似ている構造をしている。

灯りは一切付いておらず、広大な空間は闇に包まれていた。

ただ、灯りが無いにも関わらず物体が良く見えるという、この世のものではない奇妙な『闇』であったが。
そして肌が焼け付くような、それでいて凍て付いてしまいそうな魔の大気。

そんな忌まわしき空間となっていたこの倉庫、その冷たい金属の床の上で。


佐天「…………う………………ん…………?」


目を覚まし、頭の鈍痛に顔を顰めながらも起き上がった佐天。

佐天「―――へ??」

そしてその目で周囲を見渡せば当然。


佐天「―――えっ!!?ええっ!!!!!??ここどこっ!!!!?」


豹変した光景に驚く。
何の変哲も無い普通の反応だ。
505 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/14(日) 23:56:59.57 ID:SzF6rqoo
ルシア「―――静かに」

その直後、佐天のちょうど背後から響いてきた、聞きなれた友の声。
声色は普段とは明らかに違い、鋭く尖っていたが。

佐天「……!!!?」

佐天は座ったまま身を捩り、ルシアの方へと振り向いた。

幼い容姿の赤毛の少女は、
佐天の方へ横顔を向けている形で仁王立ちしており、
延々と続くこの倉庫の奥の方をジッと見つめてた。

無表情で。

鋭く冷徹な瞳で。

そしてその隣にて、しゃがんで張り詰めた表情でルシアとは逆の方向を睨んでいるキリエ。

佐天「何が―――」

キリエ「シッ。静かに…………」

事態を今一つ掴めず再び大きめの声で口を開きかけた佐天、
キリエの小さくも鋭い声に即静止させられた。
506 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/14(日) 23:58:59.60 ID:SzF6rqoo

ルシア「私達、飛ばされました」

ルシアが奥の闇を微動だにせず睨みながら、小さく口を開いた。

佐天「……飛ば……された?」

ルシア「……魔の力によってです」

ルシア「ここは学園都市ではありません」

佐天「………………っ……!」

普通ならばここで理解できずに何で?なぜ?と混乱してしまうだろう。

だが佐天の思考はそこまでは乱れなかった。

確かに驚きだが、思考停止してしまうほどではない。
前にも『鏡の世界入り』という奇妙な体験はしている。

ただ、何も精神的ストレスが無かった、という訳ではない。
むしろ彼女は凄まじいストレスを感じていた。


佐天「(……じゃ、じゃあ…………ま、『また』―――?)」


『理解できず混乱』ではなく、『理解した上での恐怖』が。

『知っている』からこそ、『本当』に怖いと思えるのだ。

脳裏に鮮明に蘇る『デパートでの悪夢』。


佐天「(――――――)」


それが彼女の体を固く縛った。
冷たく巨大な恐怖という『手』が心を鷲掴みに。
507 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:00:32.51 ID:1tlWYyYo
キリエ「……ルシアちゃん……ここはやっぱり……」

じっと闇の向こうを見つめながら、恐る恐る背後のルシアへと言葉を放つキリエ。

ルシア「デュマーリ島です。間違いありません」

それに対し、既に臨戦態勢のオーラを纏っているルシアの冷徹な返答。

キリエ「…………とにかく移動しましょう。ここの転送地点にいたらすぐに見つかって―――」

ルシア「いえ」


ルシア「―――もう見つかってます―――」


キリエ「―――」


ルシア「それと残念ですが隠れ場所はありません」

ルシアはキリエの案に対し絶望的な言葉を返し。


ルシア「―――この島には『死角』がありませんから」


そして『経験』と目で見えている情報からの事実を伝えた。

無表情で、冷酷に淡々と。
508 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:02:37.74 ID:1tlWYyYo

キリエ「…………じゃあ…………どうする?」


ルシア「少し待っててください。今考えてます」

『故郷』の『古巣』を望む、大きく見開かれているルシアの瞳。
そこにははっきりと映っていた。

この地下倉庫も、そしてその向こうも。
この島全体を覆う魔の息吹を。

この島は外界と隔絶され、完全な魔境と化している。

ここはアリウスの『腹の中』だ。

抜け穴は無い。
隠れ場所も無い。

どこへ向かっても、どこにいてもこの『網』に必ずかかってしまう。

ルシア「…………」

この島から離脱する為、普段使っている悪魔の移動術ももちろん試した。
だがここはもう『人間界』とは呼べない、全く別の界と化していた。
509 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:03:29.25 ID:1tlWYyYo

その為、現在地の座標の算出もできず『穴』も構築できなかった。
更にレディやトリッシュへの通信魔術も全く繋がらない。

ルシア「…………」

この魔境はアリウスの手が入っているのだ。
妨害工作がしっかりと練りこまれててもおかしくはない。

ルシアは身をもって知っている。

あの男の妥協の無さを。

恐らく、この妨害工作は非常に強固な『防護術式』に守られており、
端から術式に浸入して解除するのは困難だ。


『コア』を破壊しない限り―――。


そしてもちろん、その『コア』の周囲はとんでもない力か何かの存在が守っているはず―――。


キリエと佐天を連れたままそんなところへ行くことなどできない。
510 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:04:59.31 ID:1tlWYyYo

ならば、残された道は一つ。

二人を物理的に島の外へと運び出すしかない。

ルシア「(…………)」

しかしアリウスの事だ。
そう易々とこの魔境の外へ出れるようにしておくとは考えられない。
入るのは容易く、出るのは非常に困難であるのは確かだ。

それに既に見つかっている以上、必ず追っ手が来るし待ち伏せもされるだろう。

だが現時点では、ルシアはそれしか思いつかなかった。

ルシア「(…………)」

この二人をこの魔境から出す方法は。


ルシア「…………あなた達を島の外へと『運び』ます」

キリエ「…………」

ルシア「ここから一番近い港は北へ3km。そこから船で」

ルシア「航空機は危険ですから」

キリエ「……ええ」
511 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:06:35.56 ID:1tlWYyYo
キリエ「ルイコちゃん、さあ、立って」

硬直し座り込んでいる佐天の手を優しくとり、立ち上がらせるキリエ。


ルシア『―――急ぎましょう。「彼ら」が来ました』

その時ルシアが、瞳を輝かせてエコーのかかった声で追っ手が迫っている事を告げ。
両手を軽く広げ、床に魔方陣を出現させ。

そこから出現した二本の曲刀を手に取った。

ルシア『では、あなた方を運びます』

次いでルシアの背中から光が溢れ、一対の巨大な白い翼が出現した。
ルシアは半魔人化し、魔人化時の翼だけを出現させたのだ。

ルシア『動かないで下さい』

そしてルシアは二人に背を向ける形でその巨大な翼を広げ、彼女達を包み込んだ。
まるで親鳥が翼で雛を優しく抱き上げるかのように。

その体制は、ルシアが背負う形であったが。

ルシア『苦しくありませんか?』

キリエ「うん。大丈夫」

佐天「…………」

ルシア『では行きます』


ルシア『「少し」揺れますが、我慢してください』


そしてルシアは、翼に包まれた二人を背負いながら床を強く蹴り出し。
闇の中へと飛び込んでいった。
512 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:08:58.80 ID:1tlWYyYo
追っ手はその直後、すぐに現れた。

ルシア『―――』

肌に感じるざわめきと、
延々と続く倉庫の向こうにひしめく無数の赤い光点。

悪魔の移動術が使えないのは、
ルシア達だけではなくここにいる全ての悪魔に共通していることなのだろう。

恐らくアリウスの直接的な意志が無い限り使えないのだ。

ルシア『―――』

その制限はある意味好都合だ。

移動術の制限が無かったら、
追っ手はどこでも即湧き出てくる。

だが制限があれば。

『足』だけが物を言う今の状況ならば。

『物理的に距離』を離せば、その『文字通り』距離を置けるのだから。


逃げ切る事も充分可能だ。
513 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:11:04.97 ID:1tlWYyYo
ルシア『―――シッ―――』

小さく息を吐き。


眼前に迫った無数の悪魔の群れへと、ルシアは真っ直ぐに飛び込んだ。


そして両手に握っている二本の曲刀の柄を緩やかに、かつ神速で振りぬき。

円を基調とした無駄の無い剣捌きで悪魔の『壁』に穴を切り開いていく。

放たれる金色の斬撃。
響く魔の咆哮の重奏をバックに、舞い散る悪魔の首手足と体液。


一滴も返り血を浴びず華麗に、
かつ猛烈な速度で、『穢れなき許されざる魔天使』は駆け抜けていった。

群がる魔に死を与えながら。

背中にある、大切な大切な儚い命達を守るべく。


ルシア『―――』


そんな中、ルシアはとある理由で周囲全体に意識を集中していた。
周りの悪魔達に向けてではない。


『一つ』。


気になる『悪魔の視線』があったのだ。
514 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:12:09.92 ID:1tlWYyYo
ここに群がってきている下等悪魔のものではない。

アリウスのものでもない。
あの男は今現在、こちらの状況を逐一見ているだろうが、
アリウスはそれ以前に悪魔ではなく人間だ。

こんな視線ではない。

今、ルシア達をどこからか観察しているその視線は、明らかに純粋な悪魔のもの。

それもかなり『強大』な。

ルシア『(―――どこから……?)』

群がる悪魔を切り捨て進みつつ、周囲をくまなく観察するルシア。

この倉庫内に感じるのは、大量の下等悪魔と背後の二人の鼓動と『闇』だけ。


ルシア『(―――闇…………)』


そう、『闇』。



       シャドウ
―――『 影 』だ。
515 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:13:14.81 ID:1tlWYyYo

『影』。

そこに意識が向いた時。

ルシアの悪魔の勘が大きくざわめく。

そしてゾワリと全身を突如這い回る悪寒と共に勘が叫ぶ。


―――来る―――、と。


ルシア『―――』


『影』。


それに類し、今のような攻撃を繰り出してくる存在はルシアの知る限り『一種類』しかいない。
いや、間違いない。
以前アリウスの下にいた頃、試験的に戦わされたことがあるのを記憶している。


『シャドウ』だ。


『闇獄』に住まう、『影』で体を構成している戦闘種族。

特定の条件下において、刀剣等の近接武器攻撃を
その威力関係なく無力化してしまうという特殊な能力を有する、非常に厄介な存在。

とは言うものの、有する力自体は高くても高等悪魔『程度』であり、このルシアにとっては別段敵でも無―――。


―――かったはずだったのだが。
516 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:14:56.85 ID:1tlWYyYo

ルシア『―――ッ―――』


この『シャドウ』からと『思われる』攻撃は、明らかにルシアのその『知識』と『経験』とは合致しなかった。

いや、攻撃の性質や特徴は『シャドウ』と全く『同じ』だったのだが。

『スケール』が違った。

『力の強さ』が。


肌で否応無く感じる『存在の格』が―――。


これは間違いなかった。

相手は高等悪魔『程度』ではない。

これ程の濃度の力―――。


―――確実に『大悪魔』だ。


そう彼女がこの異様な殺気の源を認識したと同時に。

この倉庫全体に立ち込めている『闇』そのものが『全て』動いた。

その『影』らがズルリと形を変え。

『無数の切っ先』となる。

四方八方360度全方位、
天井、壁、床、全ての面が剣山に変わってしまったかのように。

そして凄まじい速度でその無数の刃が伸びた。

ルシアを正確に目指し。


彼女を貫くべく。

―――
517 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:17:34.72 ID:1tlWYyYo
―――

崩れ傾いたビルと、
巻き上がる巨大な粉塵。

そして悪魔達の断末魔と、
その大量の肉塊が300m下の地上に叩き落ちる地響き。

そんな情景の中。


麦野『…………』


『許されざる女神』、『穢れ危うい天使』と化している麦野沈利が佇み立っていた。
とある超高層ビルの上に聳え立つアンテナ塔の頂点に。


左目を赤く輝かせ、右手に白銀の魔剣アラストルを握り、
背中から表面が『青白い閃光』に覆われた巨大な『紫』の翼を生やし。

右目の眼帯の隙間から青白い光を迸らせ、
左肩から少し離れた宙空、スーツの袖が焼けない位置に浮かび上がっている青白い巨大なアーム。


魔界の力と人間界の古の力が、完全に融合した異質極まりない存在。


それが今の彼女だ。
518 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:20:03.20 ID:1tlWYyYo

麦野『……滝壺。能力展開を許可するわ。全人員のAIMを掌握しろ』

街を見下ろしながら、麦野はポッと宙に向けて言葉を放った。


滝壺『…………うん…………はい。完了したよ』


そして麦野の脳内にて響く滝壺理后の声。


現在の麦野の異質な力には、滝壺は干渉できない。

しかし信号を認識できる以上、
そして麦野側が許可してくれればある程度の割り込みは可能だ。

知覚共有等の高度なデータリンクは不可能だが、
既存の通信機程度の簡単な音声送受信ならば何とかできる。


麦野『私を省く生存人員数を報告しろ』


滝壺『…………むぎのを省いた幹部を含めて91人』


滝壺『降下したときに……すこし減ったよ』


麦野『…………』
519 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:23:16.71 ID:1tlWYyYo

結標『―――あ、それで報告』

その時、麦野と違い完全に滝壺とAIMリンクしている結標の声も響いてきた。

結標『最後に射出されたシェルなんだけど、間に合わなかったみたい。「上」の「力の壁」を掠ったせいで外殻損傷、』

結標『で、乗ってた内の「生きてた」2人は私がすぐ地上に飛ばしたんだけど、残りは無理だったわ』


結標『外殻損傷した時点の破片で即死してたから』


麦野『…………了解』


麦野『……レールガン。どうだ?漏らしてない?』


御坂『―――誰がッッ!!!』

麦野、結標とはまた違う接続方法の御坂からも、生存を示す声。


麦野『土御門?そろそろ死んだか?』

土御門『あー、あー、聞こえるか?悪いが生きてるぜよ』
520 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:25:42.46 ID:1tlWYyYo
滝壺『つちみかどのAIM、すごく弱いから捕捉しにくい』

土御門『…………悪かったな』

麦野『重要株は欠けてない。人員も90%以上は確保してる』

麦野『サブプラン移行の必要は無し。ファーストプラン可能と見る。異論は?』

土御門『無し』

結標『無し』

麦野『よし、各チームに術式のランドマークを一つずつ虱潰しに調査させろ』

土御門『気になる物・奇妙な物を見つけた場合は俺に』

滝壺『はい』

土御門『俺は俺で気になる地点を当たっていく』

結標『私は全部隊の保全管理と直接指揮。滝壺もサポートね』

滝壺『はい』

麦野『私とレールガンは、まずは「遊軍」となり片っ端から悪魔を狩る』

麦野『何かあった場合は私らに繋げろ。近い方が現場に急行する』

滝壺『はい』


麦野『OK、滝壺。全員に伝えろ。ファーストプラン開始だ』


滝壺『うん、任せて』
521 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:28:29.81 ID:1tlWYyYo

結標『あ、それと、諸々が確定するまでやたらに街破壊しないでね』

麦野『私?私に言ってんの?』

結標『そうよ。街の総破壊は一応土御門の判断の後だから』

麦野『でもさ、群がってきたら纏めて吹っ飛ばすに限るでしょうが。ちまちま削ってなんかいられねーっつーの』

麦野『考えて見ろよ。私らの部下はコイツらのせいで死ぬハメになった。殺しまくって何が悪い?』

結標『…………ん、ちょっと待って。「お客さん」が来た―――』

と、その時。


麦野『―――』

悪魔の感覚で、
麦野は遠方にて蠢く大量の悪魔の群れを察知。

その方向へ目を向けると、2km程先のビルに大量の悪魔が群がっているのが見え―――。


―――た次の瞬間。


ビルが悪魔の群れごと一瞬で『消失』した。

キレイさっぱり、特に振動等も音も無くと。
522 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:33:41.15 ID:1tlWYyYo

麦野『……』

そしてその消えたビルと悪魔の群れがどこに行ったかと言うと。

答えは直後に『降って』来た。

突如天高く、そのビルがパッと『出現』。

300m近くもあろうそのビルは、遥かな高みから猛烈な速度で垂直に降って来、
街中のど真ん中へ激突。

地鳴りが響き渡り、大気が振るえ街全体が大きく振動した。

麦野『(…………へぇ。中々……)』

あれが『誰』の仕業なのかすぐに悟った麦野。
ぶちあがった粉塵と飛び散る破片を眺めながら小さく笑った。

そして放たれてくる力を肌で認識し。
物質的な『見た目』だけではない、その確かな力の強さを認め。


ただ、一つ気になる点があったが。
あのビルの落下速度。

重力に従うだけでは、ビルはあそこまで加速はされない。
どう見ても重力以外の『別なる何か』が加わっていた。

麦野「(……ま、別にいいわ)」

だがまあ、別に麦野にとっては興味がない事だ。
確たる戦力ならばそれで良い。
その攻撃原理など知ったこっちゃない。
523 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:35:37.25 ID:1tlWYyYo


結標『―――…………まあ、ちまちま削ってなんかいられないってのも一理あるわね』


そして、あの破壊の『元凶』からの声が再び響いてきた。

麦野『でしょ?』

結標『それに、やっぱり私もあんの化け物共殺し捲くりたいわ。ムカムカしてきた』

麦野『ね?』

御坂『ちょっとアンタ達!気持ちはわかるけど「生きてる仲間」に巻き添えでたらどうすんのよ!気をつけてよ!?』

土御門『俺も言わせて貰うぜよこの怪物共が。あまり街を壊すな。俺がゴーサイン出すまでは』

麦野『わかってるって』

結標『はいはい』


土御門『…………よし……じゃあ早速……』

結標『……ええ。ここからね』

御坂『OK…………やってやるわよ』


麦野『―――気合いれな。「本番」だ』


―――
524 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 00:36:21.10 ID:1tlWYyYo
今日はここまでです。
次は明日か火曜に。
525 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 00:40:34.63 ID:Kcp6PF2o
いいねえ、いいねえ! 人間の抗う姿が燃えるぜ!!
526 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 00:41:26.56 ID:XmUwMXIo
乙ー

面白かった、次もたのむぜ!
527 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 03:12:27.57 ID:1auZQeQo
乙!
こういう戦えなかった連中が出てくる展開は胸に来るものがあるな
528 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 01:54:12.30 ID:i0CAhoDO
デュマーリ島の現状ってカグヅチが無くてとマネカタの居ないボルテクス界みたいな感じなんだろうか。
529 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 14:05:08.87 ID:4nL2.EDO
>>528
まぁそんなところじゃね
530 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:11:30.36 ID:ObWO5UQo
―――

白井黒子は、薄暗い路上の真ん中に静かに立っていた。

冷めた目で己の足元の地面に視線を降ろしつつ。

レディから貰った刃渡り5cm程の小さなナイフを、
指の間に挟み込むようにして握り締めながら。

拳の指の間から突き出しているその刃、
白銀の先端から滴る、『赤黒』とも『緑黒』ともいえる奇妙な色合いの濃い液体。


それは『体液』だ。


先ほど彼女が狩り取った悪魔の。


黒子「…………」


この地において、白井黒子はやけに落ち着いていた。

これは一種の諦めなのか、勇気なのか。
それとも感覚が麻痺したのか。
どれにせよ、少なくとも彼女の精神はこの空間に適応してしまっていた。

彼女にとっての日常と非日常が、今や完全に反転していた。

『いつ』それが反転したのか。

二ヵ月半前、黒子にとって『始まり』であるあの凄惨な殺戮現場を見た時からか。

ゴートリングの放つ恐怖に潰れ、
悪魔と言う存在の格を叩き付けられた時か。

勇気を出して奮い立ち、御坂と共に悪魔を狩りブリッツに立ち向かった時からか?

どれがきっかけでどれが決定打なのか、
今考えると、思い当たる節が『多すぎ』てわからない。
531 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:13:15.13 ID:ObWO5UQo

ただ、どの時点で既に完全に変わっていたのかはわかる。

約一時間前、学園都市から乗り心地の悪い超音速機で飛び立ち。
生きた心地がしない、人造悪魔達のとんでもない猛攻の中をなんとか潜り抜け。
8人乗りの砲弾型のシェルに詰め込まれて撃ち出され。

この地獄へ着地したその時には、
既に黒子の『生きる世界』は変わっていた。

そしてそれこそが、黒子の望む世界だった。

少し前までは嫌悪し距離を置きたかがっていたが。

ここ最近は踏み入りたくて仕方がなかった世界だ。


ただ、決してその狂気や混沌・死に心惹かれたわけではない。
むしろ嫌悪感は常に増大しつつある。


彼女がこの世界に入りたかった理由は一つ。


黒子「(―――お姉さま)」



黒子「(わたくし、今実感しておりますの。ようやくこのわたくしめも―――)」



黒子「(―――『そちら側』の一員となれましたの)」


ただ、最愛のお姉さまと『同じ一緒』の世界で戦いたかったから。
532 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:15:22.01 ID:ObWO5UQo

彼女の前、1m程の所の地面の上に、小さなぬいぐるみ。
3〜4歳の女の子が胸に抱いてそうな、可愛らしいぬいぐるみだ。

いや、『可愛らしかった』と過去形で言うべきだろう。

何せ、今のソレは真っ赤に染まっていたのだから。
真っ赤に染まった子供用の玩具は、
そのギャップが相まって戦慄してしまうような不気味さを漂わせていた。

黒子「…………」

ぬいぐるみの横には、
『主』のものであろう小さな小さな靴の片方が転がっていた。

そして地面には。
同じく『主』のものであろう、『引きずられた血痕』が生々しく付いており。

その赤い道筋は黒子の足の下を通り、彼女の後方4m程のところ、


黒子「…………」


そこに横たわっているアサルトと呼ばれる悪魔の、『頭部の無い』死体の方へと続いていた。


黒子の手にある刃、その表面を伝う『体液』の『源』だった肉塊へと。


黒子「……………………」
533 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:18:44.82 ID:ObWO5UQo

と、そう彼女がぬいぐるみの『幼い主』を襲ったであろう惨劇に、
静かに想いを巡らせていた時。

黒子「…………」

彼女はふと背後に気配を感じた。
そしてその瞬間彼女の頭の中には、
接近物体のデータが瞬時に浮かび上がった。

強化調整以来、異様に研ぎ澄まされている五感、そこに能力が加わった『六感』。

更に滝壺を介した演算補助で底上げされている今。

彼女の能力は、自身から20m以内ならば目視せずとも、
認識さえできれば対象の座標、重量、形状、体積を即座に把握できる程にまでなっていた。



黒子「…………」

接近してきた気配の源は何か。
データで直ぐにそれは判明した。

同じ機・同じシェルに乗っていた同じチームのメンバーだ。


黒子は今、8人程のチームに所属している。

「…………ひどい所だよね〜」

そのメンバーの一人、やや茶色かかったショートヘアの女が、
黒子の隣に並び立ちながらぽつりと呟いた。

整った顔立ちに人形のように白い肌、身長は御坂と同じくらい、
身なりの雰囲気から見て高校2、3年生か。
534 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:21:57.09 ID:ObWO5UQo

黒子「……」

「…………ちっちゃい子?」

女は黒子の横から、彼女と同じように目の前の地面に転がっているぬいぐるみに目を移し、
再び小さく呟いた。

黒子「…………恐らく」

「…………へえ…………」

黒子「……」

「ところでさ、キミ、テレポーターなんだ?」

黒子「……はいですの」

                                 C Q H B
「やっぱり。キミだよね、レベル4勢の『近距離高速戦』適性テストで、トップタイム叩き出したジャッジメントから来た子って」

黒子「……まあ…………」

「さっきもすごかったもん。しゅぱぱぱッ!!!って。何やったのかぜんぜん見えなかったし。キミ、名前は何て言うの?」


黒子「……『Charlie 4』」


「いや、そうじゃなくて『名前』……いやいいか」

「こんな所に来ちゃってから『名前』知り合ってもしょうがないしね」


「『他人』の方が良い ってね」


黒子「…………」


「ということで、知ってると思うけど改めて。私は『Charlie 6』。よろしくね」


黒子「…………よろしくですの」
535 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:24:14.40 ID:ObWO5UQo
とその時。

黒子「―――」

脳内にて、突如『地図』とその『座標』、
それに関する概要文が浮かび上がった。
『AIMストーカー』から送られてきたデータだ。

「全員、AIMストーカーからの目標ポイント座標を受信したな!行くぞ!」

そして直後、黒子の背後25m程の場所から響く、図太い声。

         AIMストーカーの支援
「俺達には『 天 使 の 加 護 』があるが万能じゃあない!気を抜くんじゃねえぞ!」

このチームのリーダーである黒髪に短髪の体つきの良い男のものだ。
黒子の隣の女と同じくらいの歳であろう。


「じゃあ……行こうか」

黒子「…………はいですの」

隣の女と共に、踵を返しメンバーの後に続くべく歩みだそうとしたその瞬間。


滝壺『ちょっとまって「Charlie」。そっちに34個の反応が北から急速接近してるよ』


滝壺『接敵は35秒後に』


チームの全員の脳内に響く、敵の接近を告げる『天使の声』。

536 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:30:26.61 ID:ObWO5UQo

先天的に防御ステータスが圧倒的に弱い人間達にとって、
対悪魔戦にて最も被害が出やすいのが強襲・奇襲された場合だ。

だが滝壺がいれば、このように強襲も奇襲も成立しない。


これが、滝壺がいることの強みの一つでもある。


滝壺『信号から見て「下等悪魔」だけだけど支援は要る?』

滝壺『「レールガン」の射程内だから、すぐに火力支援できるけど?』

「この程度にそんなご大層なものは良い。必要ない。他にとっておいてくれ」

滝壺『わかった。がんばって』


「聞いたな!!!先に連中を潰す!!!!」


あちこちにつぶれた乗用車が転がっている薄暗い路上。
そこに響く、チームリーダーの声。

そして各々、北から来る脅威に向けて臨戦態勢に入る少年少女達。

先ほどから、既に左手にナイフを握っていた黒子は
体の向きを北側に変えただけだったが。
537 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:32:56.72 ID:ObWO5UQo

黒子の隣の女は、両手を軽く横に広げていた。

黒子「…………」

その女の手の先。
大気が何かの影響で揺らいでいるのか、背景が『歪んでいた』。

黒子の視線に気づいたのか、女も黒子の方へ視線を移し。


「キミには負けるかもだけど、私も結構やるよ?」


黒子「そうですか。来ましたの」

そして少年少女たちは、北の方へと真っ直ぐに視線を向けた。
敵は連なるビルの間にすぐに『捕捉』できた。


34体の『アサルト』。

トカゲのような姿をしている、体長2〜3m程の悪魔。
片方の手には巨大なおぞましい爪。
もう片方の手首あたりには円形の盾が括り付けられていた。

フロストの『熱帯向け』といった具合か。


それらがビルからビルへと、壁面を伝い猛烈な速度でこちらに向かって来た。
人間側に自分達の存在が既にバレているのを知ってか、
凄まじい獣染みた咆哮を挙げながら。
538 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:35:16.97 ID:ObWO5UQo
先に仕掛けたのは人間側だった。

悪魔の一団がビル壁面から跳ね、弾丸のように一行に飛び掛った瞬間。

黒子「―――」

妙な耳鳴りがし。
そして先頭の3体のアサルトのが見えない『何か』によって弾き飛ばされ、
近くのビルへと叩き込まれていった。

それは黒子の隣にいた女が放った現象だった。

女の両手周囲の揺らぎはさらに強まっており。
そして指をパチンと小さく鳴らされたと同時に、再び耳鳴りを伴う見えない『何か』が悪魔達を弾き飛ばした。


黒子「(……音波?……何らかの衝撃波の一種?)」


黒子「(射程はまあまあ………………威力は……)」


女の指鳴りと同時に出現する見えない『何か』。
今度は路上に着地した瞬間の数体のアサルトを真上から叩き潰したが。

アスファルトに埋め込まれたアサルト達は死んでおらず、
興奮したように咆え破片を撒き散らしながら這い上がってきた。


黒子「(…………足りませんの。このお方は防御向きの後方支援タイプですのね)」
539 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:38:16.94 ID:ObWO5UQo
そう冷静かつ客観的に思考しつつ、黒子は自身の能力を発動させた。

一気に30m程前方へ『飛び』。


とある一体のアサルトの『頭上』へ。


黒子「―――」


常人ならば、黒子の動きには全く反応できないだろう。
死角からの完全な奇襲となるはずだ。

しかし、相手は悪魔。
それも『死神もどき』といった雑魚ではなく、人間世界で言えば『職業軍人』である純粋な戦闘タイプ。

そう簡単にいくはずがない。


転移したその先で黒子が見たのは、真っ直ぐこちらを見上げていたアサルトの不気味な瞳だった。
『ようこそ』と言わんばかりに。


俗に言えば、これは『悪魔の勘か』。


一応、学園都市側においても、その現象について科学面からの報告が出ている。

それは黒子の脳内にも、資料としてある程度書き込まれている。

「能力者がその能力を行使する際、力(AIM)に必ず予備動作的予兆が見られる」。

そして別の項では、

「基本的に悪魔は力(AIM)を感じ取る事が可能」
「悪魔もAIMと似た力を常に纏っている為、対象『そのもの』に対し作用する能力は阻害・もしくは相殺される場合もある」、
「能力者のAIMと悪魔の力では、後者の方が『能動的な生』であり絶対的優勢である」、
「その為、同程度の濃度で干渉し合った場合はほぼ確実に押し負ける」、

「悪魔が纏っている力にダメージが入らない限り、もしくは相手が意図的に力を緩めない限り、」
「同程度のAIMが打ち勝つことはまずあり得ない」、と。
540 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:42:14.48 ID:ObWO5UQo
黒子の転移先を完全に見切っていたアサルト。
即座に彼女に向けて、強靭な尻尾が鞭のようにしなり振るわれた。

直撃してしまったら黒子の小さな体など一瞬で挽肉だ。


ただ、当たればの話だが。


当たるかという寸前、黒子の体が小さな風切り音と共に消失し。
振るわれたアサルトの尾は、黒子が一瞬前までいた空間をむなしく切り。


『同時』に、今度はアサルトの『喉の下』に出現した黒子。

そして次の瞬間。

彼女は、指の間に二本のナイフを挟んだ左手をアサルトの喉に向け振るった。



レディ謹製のナイフは、悪魔の固い表皮と『纏っている力』を滑らかに切り裂いていった。
黒子の腕力だけで、抵抗も無く易々と。


そして『纏っている力』に穴が開くということは。

その穴の中の部分に関しては、黒子の能力を妨害するものは一切存在しない。


黒子の拳から突き出ている二本の刃が、アサルトの皮膚を裂いて行き。
それと同時に、切断筋の周囲幅20cm程が黒子の能力によって『消えていく』。


小さなその手でたった一振り。


それだけで、アサルトの喉が『消えてなくなった』。

いや、正確には『分離して彼方に飛ばされた』。

541 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:46:04.94 ID:ObWO5UQo
アサルトの喉から即座に吹き出すおぞましい体液。

しかし黒子は一滴すら浴びずに、瞬時にアサルトの後方へと飛ぶ。

当然、同時に黒子の移動先を察知するアサルト。
猛烈な速度で背後に振り向き、彼女の転移先へ巨大な爪で横に凪ぐも。

またしても黒子は『既に』そこにはいなかった。

彼女はアサルトの頭上に飛んでおり。
そして出現したと同時にアサルトの脳天に向け、十字を描くように刃を握りこんだ拳を振るった。


次の瞬間、アサルトの頭部は消失した。


喉下が欠けた、下あごの断片を残して全て。


黒子がこのアサルトへ向かっていってから約0.4秒。
その間に彼女は4回飛び、アサルトの喉に一切りと脳天に二切り

そして瞬時に狩った。


黒子は仕留めたばかりの獲物の後方に転移し、静かに降り立つ。

振り向きもせずに次の標的を見定める彼女の背後で、
頭部の大部分が消失したアサルトがゆっくりと倒れ込んだ。

糸の切れた人形のように。
542 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:49:56.85 ID:ObWO5UQo

彼女の戦い方の原理は簡単。

察知されるのなら、察知できないくらい素早く連続して飛べば良い。

相手の体内に物体を打ち込めないのなら、『直接』やればいい。

相手の力によって能力に障害が起きるのならば、その力にダメージを与えれば良い。

それだけのことなのだ。


ただ、強化調整による飛ぶ際の時間的ラグの『消失』と『連続使用』が可能であってこそ、

そして黒子自身の鍛え上げられた戦闘センスがあってこそできる戦い方であり、
誰にでも真似できるものではないが。


更に、少し掠っただけで肉体が削がれていくような、
そんな一撃即死攻撃の射程内へ進んで身を投じる戦い方を選ぶなど、
傍から見れば正に狂気の沙汰だろう。


だがそれが人間対悪魔との戦いの真理だ。
肉体的に極端に劣る人間にとって、攻撃こそ最大の防御。

相手の攻撃を一発たりとも許すまじと、とにかく攻勢に出ること。

それが人間にとって、確実な勝利を手に入れられる唯一の手段なのだ。


恐怖を克服し、その境地にようやくたどり着いたテレポーター、白井黒子。

彼女は今正に本物のデビルハンターと化していた。
543 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:52:22.63 ID:ObWO5UQo

そして彼女は『空間を舞う』。

ブラフを織り交ぜてアサルトの至近距離へ飛んでは、刃で切り裂き同時にその部分を『飛ばし』。

チームメンバーの支援を受けつつ、
またチームメンバーが殺し損ねたアサルトに止めを刺し。

悪魔達の体の部分部分を奪っては次々と狩り取っていった。

どうやら、このチーム内で戦闘においては彼女が最も激しく攻撃的らしかった。

次第に縦横無尽に飛び交う彼女を他の七人がサポート、
という戦術がこの場で構築され即座に適用され。

相互に作用しあい、チーム全体の戦闘能力を更に高め洗練させていく。


ただ。

ついていけない者・力が及ばない者は当然、容赦無く『脱落』していく。
『この程度』で消える者はどの道消える。

あっけなく。

あっさり。

ここには『慈悲』も『救い』も無い。


あるのは『戦い』と『死』のみだ。


そして『脱落者』達もそれを知った上でここに来ている。


どうなろうと自業自得だ。
どんな結果になろうと、文句を言う権利など一切無い―――
544 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:54:43.71 ID:ObWO5UQo
黒子「―――」

戦いの中。
黒子が感覚に従い、次の獲物の方へと振り向いたその時。

彼女が捉えたアサルトの前に、一人の女が立っていた。

先ほど彼女に話しかけてきた『Charlie 6』だ。

黒子「―――」

いや、彼女がアサルトの前に立っていた、と言うよりは 
アサルトが彼女の背後に立っていた、と言うべきか。


そして次の瞬間。


「――――――ぇ゛ッ―――」

肋骨を砕き、肺を貫き、皮膚を引き裂き。

女の胸から突如『生える』、緑がかった薄汚れた大きな『爪』。


それは背後のアサルトからの一突き。


黒子「―――」


次いで、すかさず添えられたアサルトのもう片方の手と強靭な顎によって、
女の体はあっけなく引き千切られた。

断末魔も苦痛の声を漏らすヒマなく。
自分に何が起こったのかさえ知るヒマなく、女は文字通り『赤く散った』。


黒子「―――――――――…………」


――――――――――――。。。。
545 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:56:11.22 ID:ObWO5UQo
一分後。


「―――――――…………こちら『Charlie』」


「報告。敵性因子の排除完了―――」

再び静けさを取り戻した薄暗い街の中。
淡々としたチームリーダーの声が響いていた。

路上には激戦を物語る捲れあがったアスファルトと、大量の悪魔の死体。

そして。


「―――損害は戦死1名。負傷者は無し。任務継続する。以上」


人間の少女一体分の―――。


『こっちでも確認したよ。了解「Charlie」。任務継続して』


「よし、行くぞ。少し時間を押している。急ぐぞ」

相変わらず淡々としたリーダーの声。
それに従い、メンバー達も動き出す。

「『Charlie 4』……さっき『Charlie 6』と話したよな?」

とその時、黒子の傍にいた背の低い黒髪の少年が、
彼女に向けて小さく口を開いた。

黒子「……まあ」

「もしかして知り合いだった?」

黒子「………………………………いえ」



黒子「―――『他人』ですの」


―――
546 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 00:57:20.55 ID:ObWO5UQo
今日はここまでです。
次は明日に。
547 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 01:08:25.69 ID:J9gzirMo
おつおつ
548 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/17(水) 01:09:56.82 ID:nHhmCUQ0
おつ
549 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 01:13:58.05 ID:DIg9U0oo

つか悪魔ってのは単純な肉体の破壊程度で殺せるものなのか?
なんか首飛ばされても死ななそうなイメージあるが
550 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 01:17:33.31 ID:qvazokc0
おつおつ
551 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/17(水) 01:18:58.58 ID:DCecOUU0
おつ
黒子かっけぇ
やはりジャッジメントみたいに悠長にやってるのより 奇襲・瞬殺の方が黒子の能力にあってるな
っつか 4代目火影を思い出したわ
552 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/17(水) 01:24:45.64 ID:DCecOUU0
>>549
いつだか説明された魂のダメージってやつだろ
下級悪魔程度なら首をはねられた程度のダメージで死ぬんじゃない?
ダンテとかになると顔弾けても死なないみたいだけど
553 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 01:38:16.73 ID:ObWO5UQo
>>549
単純な物理攻撃はほとんど意味を成しませんが、
>>61などでも触れているとおり
能力者の攻撃は悪魔達の攻撃と同じく魂にダメージを与える事が可能です。

更に黒子の場合、レディナイフで防御ステータス0状態にしたところに力を叩き込んでますので、
ますます効果が倍増してます。

554 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 01:51:15.24 ID:DIg9U0oo
ああなるほど
てことは黒子や美琴みたいな特製の武器があるかレベル5みたいに単純に能力の強度が高くないとダメージは与えられないのか。
555 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 02:25:56.25 ID:TL9XkcAO
テレポートってのはかくあるべきだな
まさにチート
556 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 02:31:26.14 ID:9DSUruQo
乙乙
557 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 03:23:47.77 ID:zuBMPzYo

6娘め、フラグをたてよってからにwwwwwwww
558 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 10:52:05.98 ID:TcnrQIDO
黒子の精神が強靭になり過ぎてヤバイな
559 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 23:38:28.47 ID:ObWO5UQo
すみません。
本日の投下は厳しくなりました。
次は明日の夜11時辺りになります。
560 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/17(水) 23:43:09.61 ID:Bh1/hjw0
>>558
恋する乙女は強い。ってことか
561 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/17(水) 23:59:47.39 ID:tsb1lFAo
同時に死亡フラグが・・・
562 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 00:22:18.25 ID:UniYT7wo
黒子は補正があるから死なないけど普通こうゆうキャラは後に死ぬよね
563 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 01:21:42.57 ID:qfwztQAO
でもこの手の精神的な強さって危うい部分もあるんだよな…
564 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:01:05.02 ID:TLDG3swo
―――

全方位から猛烈な速度で迫ってくる『影の刃』。

ルシア『―――』

彼女は瞬時に全ての感覚を周囲に集中させ、
全てを回避行動に傾ける。


光沢が一切無い、塗りつぶしたかのような『黒』。

その刃が首からわずか数ミリのところを突き抜けて行き。
こめかみを掠り。
捻った腰、わき腹の衣服の表面を裂き。
仰け反ったルシアの顎先を真下から掠っていき。
真横から、ルシアの鼻先数ミリのところの大気を貫通していく。

全てがギリギリであった。

これは刃筋を見切った余裕のある回避行動ではない。
ルシアにとって本当に間一髪だったのだ。


ルシア『――――――ふぁッ!!!!!!』

この猛撃の『一つの波』をひとまず潜り抜けたルシアは、
溜め込んでいた胸の空気を吐き出し。

滑り込むように着地し低く曲刀を構えて周囲を見据えた。

影の刃いなした曲刀、
その柄を持つ手の痺れと震えが、この漆黒の刃の誇る凄まじい膂力を示し。

彼女の全身いたるところある、
赤い雫がジワリと漏れ出している浅い切り傷が、
回避が非常に困難である速度と密度を示していた。
565 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:07:46.32 ID:TLDG3swo

ルシア『…………はッ…………はッ……』

見通す限り、倉庫の先も奥も全てが『影』に覆われている。

今の攻撃の激しさから考えても、
このまま突き進んで行くのは厳しすぎる。

ルシアがまずもたない。

現状の非魔人化状態では必ず回避に限界が来る。
あの刃に串刺しにされ。
動きが止まった瞬間、更に無数の刃によって細切れにされ。

最終的に死ぬ。

ルシア『(…………ッ……)』

あの影の刃は、ルシアだけを狙っていた。
キリエに傷がつくの事は避けているようだ。

だがそうだとしても、今のルシア達にとっては何の利益も無い。

ルシア自身、この背中の二人が助かるのならば命を差し出しても良いと覚悟しているが、
今の状況下では、ルシアという存在の消失は二人の死に直結しかねない。

今こんなところでは彼女は絶対に死ねないのだ。

しかし背中の二人の事を考えると、魔人化するのもダメだ。
背負ったまま魔人化すると、二人はルシアの放つ力に到底耐えられない。

かと言って降ろして進むというのは論外だ。
それはどう考えても危険が増すだけだ。
566 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 23:08:36.91 ID:lbwIirco
待ってた!
567 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:11:43.61 ID:TLDG3swo

ルシア『(…………どうしよう…………どうすれば……)』

ではどうする。

背中の儚い二つの鼓動が、少女を更に焦燥させていく。

そしてこうしている今も、どう感じても高等悪魔『程度』ではない、
強烈すぎる視線と殺気を全方位から感じる。

『影』がある限り、どこまで行っても逃れられない。

つい一瞬前までは港まで行くことを考えてはいたが、
今となってはそれはもう無意味な行動でしかないだろう。

ルシア『(………………動けない……定点で耐えるしか選択肢が……無……)』


と、その時だった。

倉庫の向こう。

闇の中から。


ルシア『―――…………!!!!』


革靴の足音が響いてきた。

ルシアが聞きなれた、そして彼女の『怒り』を刺激する足音が。



「―――お前も来たとはな。『χ』―――」


彼女の存在を示す『言霊』と共に。
568 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:15:41.08 ID:TLDG3swo

闇の中から姿を現した男。

アリウス。

その顔を一目見た瞬間、ルシアの中で『何か』がピキリと軋む音が響く。

ルシア『―――…………ッ……』

だが、彼女はその『何か』が『暴発』しそうなのを堪えた。
漲る自身の衝動をとにかく押さえ込もうとしていた。

アリウスに対する凄まじい殺気と敵意を。

これに染まってしまったら、フォルトゥナの二の舞だ。

魂に刻まれている『呪縛』は再び―――。


フォルトゥナの時とは違い素顔を露にしていたアリウスは、
相変わらず葉巻を燻らせ、全てを見下しているような傲慢な表情を浮かべながら。

アリウス「我慢しなくても良い―――」

アリウス「お前は言ったな?己は『製造コード』ではなく『名』を持つ存在だと」


アリウス「ではさっさと証明したらどうだ?」



アリウス「―――それがお前の『心』とやらなんだろう?」



ルシアから15m程のところまで進み、
そこで立ち止まった。

あざ笑い、『挑発』という危険な誘惑の声を飛ばしながら。
569 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:17:32.91 ID:TLDG3swo
ルシア『―――』

とその時、アリウスの背後。

闇の中にぼんやりと二つの赤い光点が浮かび上がった。

悪魔の瞳だ。
その体のサイズは大型か、光点の大きさはルシアの頭ほどもあった。

闇に隠れている体、目の大きさから推測するにその全長は30m近くになるのかもしれない。

そして強烈な威圧感を持つ、『豹』のような瞳―――。


ルシア『(―――間違いない―――)』


やはり間違いない。
あれは先ほどの『影の攻撃』を仕掛けてきた存在であり、『シャドウ』と呼ばれる悪魔族だ。


ルシア『(でも―――普通……じゃない…………?)』


しかし。

そのスケールがルシアの知識とは明らかに違っていたのも確実となった。


滲みででくる力の格が―――。

570 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:19:54.21 ID:TLDG3swo

そのルシアの表情を見、
彼女が何を思っているのかを悟ったアリウス。


アリウス「……俺に味方する魔界の強者はアスタロトとトリグラフだけではない」


相変わらずの傲慢な表情を浮かべ、
軽く右手を挙げながら己の後方を指して告げた。


アリウス「『彼』、『闇獄』の『神』もだ」


ルシア『…………神……』


アリウス「『彼』の魔界での呼び名は『jlkahsgengg』」

アリウス「人語の呼称は存在しない。今まで一度も人の前に姿を表す事はなかったからな」

アリウス「そもそも魔界でもあまり名は知られてはいない」


アリウス「魔界の呼び名を人語に訳すのならば……」


アリウス「『影豹王』(レクス=パンテラ=アートルム)とでもなるか。まあ好きに呼ぶが良い」


ルシア『…………』
571 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:25:42.23 ID:TLDG3swo
アリウスの言葉が正しければ。

一つの『界』を統べている存在ならば。

彼の背後に控えている『アレ』は、大悪魔の中でもかなり高位の存在。


ルシア『―――』

実際に戦ってみないとわからない、とは一応言えるものの、
いくらルシアでも戦うのが厳しすぎるのは明らかだ。

『戦い』にすらならないかもしれない。


と、そこで一際緊張した表情のルシアを見たアリウス。

アリウス「安心しろ。お前如きの問題で『彼』の手は煩わせん」

わざとらしく眉を寄せ、なだめる様な表情を浮かべ。
嘲笑が混じった声色で言葉を飛ばし。


アリウス「お前の背中には俺の『客』がいる。俺がやるのが道理だろう?」


左手をスッとルシアの方へと向けた、その次の瞬間。


アリウス「そして―――」


アリウス「―――お前を破壊するのは『お前自身』だがな」


ルシア『―――ぐ…………ッッッ……?』


突如、ルシアの口から鮮血が噴出し。


そして彼女は力なく前に倒れこんだ。
572 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:28:39.45 ID:TLDG3swo
崩れ落ちるルシア。
背中の翼も力なく開き、中からキリエと佐天が転げ落ち。

キリエ「―――ルシ……アちゃん??!!ルシアちゃん!!!!!」

ルシアの惨状を見たキリエは即跳ね起き、
直ぐに彼女に駆け寄ろうとしたが。


アリウス「―――『客人』よ。そのような忌まわしき『液体』で身を汚すな」


キリエ「あッ―――…………ぐッ…………」

アリウスがそう告げたと同時に、
跳ね起き立ち上がったそのままの状態でキリエの動きが止まった。

キリエ「(…………動か…………が……―――!!!!!!??)」

その次の瞬間、彼女は胸の中の猛烈な痛みに襲われその場に膝を付いた。

表情を曇らせ。
冷や汗を噴出し。
苦しそうに呼吸しながら。


ルシアとキリエ。
二人は、完全にアリウスの術中に嵌っていた。
魂に刻まれた術式によって。
573 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:30:09.46 ID:TLDG3swo


ルシア『(―――……な……ん…………?)』

この崩壊現象。
これはフォルトゥナの時と同じ作用だ。

しかし、今ルシアはアリウスに刃を『向けよう』とはしていなかった。
何とか堪え、明確な殺意をあの男には向けていなかった。

それなのに彼女の魂に刻み込まれていた術式、『呪縛』は起動した。


アリウス「不思議か?……『ここ』がどこなのか、お前は忘れたのか?」


呆れた表情を浮かべ、冷徹な言葉を浴びせかけるアリウス。
自身が吐いた血に喘ぎ溺れている彼女へと。


アリウス「なぜ『俺の腹』と化したこの島にて、俺がお前との『接続』を修復する可能性を想定していなかった?」


アリウス「まさか『この程度』の事でさえ想定外とでも?」


アリウス「全く……我ながら情けなくなるな、その愚鈍なる知能の低さには」


アリウス「正にお前は『駄作』だな」
574 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:33:38.58 ID:TLDG3swo
アリウス「さて…………」

ルシアに向け吐き捨てた後、アリウスは軽く足で床を叩いた。
直後、彼の前の床の影が大きく盛り上がり。

その影の中から、黒い大きな球体の上半分が出現した。
下に隠れている部分を考えると、直径3m程はあろうか。

表面の三分の一ほどが削り取られたかのように透けており、
そこからオレンジとも赤とも言える光が漏れていた。

ルシア『(―――あ………れ……は……)」

ボンヤリとした意識の中、その大きな球体を目にしたルシア。

見覚えがある。
いや、断言できる。


あれは『シャドウ』の『コア』だ。


やはりサイズは、知ってる物よりもかなり巨大であったが。

地に伏せっているルシアの視線など欠片も気にせずに、
アリウスはその球体に手をかざし重要な言葉達を口にした。


アリウス「『アルカナ』を起こせ。さっさと俺に覇王を『降ろせ』」


アリウス「それと『照合』も終わった。天の門の構築を開始しろ」


その次の瞬間、巨大なシャドウのコアの光が増し、
表面に様々な光の紋様が浮かび上がった。
575 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:37:51.53 ID:TLDG3swo
ルシア『(――――――………………!!!!!!!!!)』

浮かび上がった光の紋様、あれは明らかに何らかの術式だ。

アリウスの言動、そして今の現象を見て、ルシアは一つの推測を打ち立てた。


                     ア レ
ルシア『(まさか……「シャドウのコア」が…………「核」…………?)』


『核』。


少なくともアリウスの言葉から、
『アレ』が覇王復活と天の門を開く術式の制御核と考えることも可能だ。


しかし、シャドウのコアを『間借り』してそこに核を隠し込むなど、余りにも突拍子も無い―――



―――いや。

むしろ、『それ』がアリウスらしいではないか。

なぜなら、ルシア達にとって『あそこ』は最悪の隠し場所なのだから。

『影の中』に隠れられてしまったらどうしようもない。

見つけ出すのは困難だ。
影の方から出てきてくれない限り、こちらから手を出す事ができないのだから。


ルシア『(―――…………)』


ただ、これは誰かに伝えねばならない情報なのは確かだ。
ネロが一番好ましいが、今この街に来ているかもしれない能力者達でも良い。

とにかくこの情報を誰かに託さねば―――。
576 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:39:57.59 ID:TLDG3swo
―――と、思うものの。

この現状では、誰かに情報を託すことさえ困難だ。
無傷の佐天がいるが、彼女に喋ったところでどうする?

アリウスが、重要な情報を持った人間をご親切に解放するか?

そんな事絶対にありえない。


ルシア『―――…………』

とにかくこのままでは誰一人、ここから動けない。
キリエは捕らわれ己と佐天は命を落とす。

どうにかしてこの状況を大きく―――。


―――と思っていたところ。


ルシア『―――…………?』

ふと、胸の辺りの妙な触感に気付いた。

その触感の発信源は。

小さな細い杭。

キリエの魂に刻み込まれた術式を解く為にレディが作った『鍵』だ。
胸元に仕舞い込んでいたそれが、
うつぶせになっている為彼女の皮膚に押し付けられていた。


ルシア『………………………………………………………………』

577 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:42:24.37 ID:TLDG3swo


その彼女の後方、2m程の所。


そこの床に佐天は座り込んでいた。


佐天「―――」

悶え苦しむキリエとルシアに、大きく見開いた瞳を向けながら。

その瞳は不気味なほどに透き通っていた。
『光が無く』、まるで底無しの穴のような。

そう、陰りの無い『恐怖の瞳』だ。

佐天「―――」

振動している体。
震える顎により、歯の小刻みな衝突音が鳴り響く。

彼女の精神は既に限界だった。

この張り詰めた糸がいつ切れてもおかしくはない。
578 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:45:47.51 ID:TLDG3swo

佐天「―――あ…………」

アリウス。
その背後にゆらぐ、巨大な赤い二つの光点。
うつぶせに倒れ、血を吐くルシア。
呼吸困難に陥ったかのように喉を鳴らしうずくまるキリエ。

それらにより、彼女の精神をつなぎとめている最後の糸が徐々にほつれていき。


佐天「―――………………あ……あ……」


そして―――。


と、その時だった。
咽び蹲りながらも、キリエが佐天の方へと顔を向け。


佐天「―――」


強引に笑みを浮かべ。


キリエ「…………ルイ…コ……ちゃん……『大丈夫』だか……ら…………」
579 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:50:42.98 ID:TLDG3swo

佐天「――――――――――――――――――」


そのキリエの姿と声、『大丈夫』という言葉で、

彼女の中で『何か』が弾け飛んだ。


佐天「(―――)」


そして遂に彼女の精神がトンだ。


だが恐怖によって『廃人』化した訳では無い。


『吹っ切れた』という事だ。


佐天「(―――)」


黒子とは『逆』、御坂と『同じ』である『放散型』で。


キリエの言葉により蘇る、あの悪夢の日の記憶。

鏡の世界の中でのあの『シスター』の姿と声。

彼女が佐天に囁き続けてくれた、『大丈夫だから』という言葉。

恐怖に飲み込まれた彼女を繋ぎ止めた、天使のような声。
580 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:55:44.00 ID:TLDG3swo
佐天「―――」

あの時、あのシスターは無力にも関わらず身を挺して佐天を守ろうとした。
そして励まし続けてくれた。

あのシスターが守ってくれなかったら、ネロが来る前に佐天の命は消えていた。

力は無くともできる事がある。
あのシスターは、力が無くとも佐天の命を繋ぎ止めたのだ。

今、あの時のように救いが来るのかどうかなどまるでわからない。
佐天にとって絶望的かどうかさえもわからない。

でも。

諦めたらそこで終わりだ。

万が一にでも救いが来るとしたのならば。

状況が大きく変わる『何か』が到来するのなら。

その確率が僅かでもあるのならば。


『それまで』繋ぎ止めるべきだ。


―――今度は私が―――。


例え力が無くとも。


―――私がやらなくちゃ―――。


全力で全身全霊で。
581 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:58:46.67 ID:TLDG3swo

佐天「(――――――立ってよ―――)」

瞳に光が戻り、自身の芯を確立した少女。

佐天「(お願い―――立って―――)」

恐怖によって凍りついた己の体を何とか動かそうとする。


佐天「(―――立つんだってば―――)」


全身に力を入れ、熱気を流し込み活性化させ。


佐天「(立て―――立てよ―――!!!!!!!!」

そして遂に。



佐天「―――立てェエ!!!!!!涙子ォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」



佐天「うぉっしゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


恐怖という拘束を引きちぎり、人間の少女は立ち上がった。
自身に向けた怒号を響かせながら。

その体は未だに小刻みに揺れていたものの、彼女は力強く確かに立っていた。
582 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:04:56.64 ID:5Z/u3mEo

アリウスはコアに手を翳したまま眉を顰め。
突如叫び声を挙げ立ち上がった佐天に目を向け、


アリウス「……………………………………………………何だお前は?」


やや意表を突かれたのか、小さく口を開いた。
いや、実際アリウスとしてはこれはかなり想定外の事であった。

現に彼の意識が離れてしまう。

床でゆっくりとなにやら動いていたルシアから。


佐天「―――私は佐天 涙子だオラァッッ!!!!!!!」


佐天「―――ルシアちゃんとキリエさんの友達!!!!!!!!」

鼻息を荒げながら声高に堂々と宣言する佐天。


アリウス「………………………………そうか。それは『災難』だったな」


その佐天の言葉を聞き、今度は日本語で返すアリウス。

この佐天の余りにも突拍子も無い登場に、
アリウスでも小さく笑ってしまっていた。


佐天「ささささ災難なんかじゃない!!!!!!!!」


アリウス「……………………それは良かったな」


佐天「ううううううるさい!!!!おいオッサン!!!!!アンタにい、いいいい言っておくッ!!!!!!!!!


佐天「―――二人には絶ッッッッッッッ対に手を出させないッッ!!!!!!!!!!!」


アリウス「………………………………………………お前は何を言っているんだ?」
583 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 00:08:29.36 ID:DbHM8oI0
がんばれ涙子。無能力でも人の意地があるトコロを見せてやれ。

熱烈支援
584 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:15:08.21 ID:5Z/u3mEo

アリウス「(………………………………何だコレは)」

アリウス「(……この小娘は何で動いている?勇気か?蛮勇か?自殺願望か?)」

アリウス「(それとも状況を理解していない単なるバカか?もしくは救いようの無い究極のバカか?)」

アリウス「(…………滑稽だ。ふん、やられたな。さすがに俺でも想定外だった)」

アリウス「(引っ付いてきたカスがまさか『道化』だったとは)」


佐天「な、何がおかしいッッッッ!!!!!!!!!!!」


アリウス「……生憎―――」

アリウスは小さく笑いながらも、作業を済ませ『巨大なシャドウ』のコアを再び影の中に戻し。


アリウス「―――俺の舞台に『道化』は必要としていない」


踵を返し、佐天に背を向けながら。


アリウス「ご退場願おうか」


軽くサッと手を掲げた。
すると、佐天の両脇の闇の中から二体のアサルトがゆらりと姿を現した。


佐天「――――――ま…………ままままっまあま―――!!!!!!」
585 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:17:28.96 ID:5Z/u3mEo

佐天「(―――これ―――)」


両脇からゆっくりと歩み寄ってくる二体の異形の化け物。

おぞましい牙をむき出しにし、粘ついた涎を垂らしては獣の声。
ご馳走を前にして、どう食そうかの思索を楽しんでいるような動作。

まず『友好的』では無いのは明らか。

佐天でも容易にわかる。


佐天「(ヤバイよ!!!!!絶対ヤバイ!!!!!!!)」


このままでは『死ぬ』、と。

ではどうするか。
両脇の化け物には、どう転んでも自身が何かをできそうには思えない。

でも。

佐天「(―――あのオッサンなら少しは―――!!!!!!)」

見た目は人間に見えるアリウス。

体つきは佐天とは比べ物にならない程逞しいが、
両脇に迫る人外の化け物よりはかなり難易度が低く見える。

もちろんそれでも『勝つ』、というのが困難なのは佐天もわかるが、
彼女から見てもアリウスが『ボス』なのはわかるし、
それなりに食いつけば何らかの活路を見出せるかもしれないのだ。


佐天「―――うッッ―――」


引っかき傷の一つくらいなら何とかつけられるかも、と考えた佐天。


佐天「―――うォォォォォォりャァアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!」


雄たけびを上げながら前へと飛び出し。
小さな拳を振り上げ、アリウスの背中へと飛び掛った。
586 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:21:30.03 ID:5Z/u3mEo

アリウス「…………」

『仕方なかった』といえばそれまでだが、佐天はあまりにも無知だった。

確かにアリウスの見た目は人間だ。
いや、アリウスは正真正銘の『人間』だ。

だが『人間』もピンキリだ。
大半は佐天のような『普通』の者だが、
中には一方通行のような『神族』の領域に入った『特別な人間』もいる。

そして、このアリウスもその一人だ。

『特別な人間』だ。

その瞬間。

アリウスの足元の床から後方に向けて、銀色の光沢がある大きな『鎌状の腕』がズルリと出現した。
長さは3m程、全体の形状はカマキリの腕に似ているだろうか。
表面はうろこ状だったが。

ギチリと一度軋んだ後、先端が佐天の喉へ向けて振るわれた。
彼女が、目視どころか存在を認識する事も不可能な速度で。


そして、彼女の首は一瞬で刎ね飛ば―――。


アリウス「―――…………」


―――されるはずだったのだが。
587 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:25:54.18 ID:5Z/u3mEo

もし『運』というのがあるとすれば、それは佐天に味方していたのかもしれない。

いや。

こう言った方が良いか。

佐天は自ら立ち上がったことにより、その『運』を強引に引き寄せた、と。


アリウスにとって、彼女はクダラナイ『道化』なのは確かだ。
だが一旦舞台に上がってしまった『道化』は、その劇の空気を変えてしまう力を持つ。

どんな小物であろうとも、『登場人物である以上』、だ。

最初の影響は小さい為、別段気にする必要も無いと思われるが。
確実に劇の筋書きは変わっていく。
そして気付いた時には、既に修正不可能なところにまで達する。

このアリウスの物語もまたそうだ。


彼が書き上げた物語は崩壊していく。
狂い始め、彼が決して予期し得なかった結末へと向かっていく。


最初はゆっくりと。


最期は怒涛の如く。



そしてその崩壊の『始点』が『この時間』だ。


佐天涙子が作り出した小さな小さなピースだ。


これが崩壊の火種だ。
588 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:28:19.61 ID:5Z/u3mEo
響く『金属音の衝突音』。
どう聞いても、人の肉が断たれた響きではない。

更に、アリウスの背中の中ほどに走った『微妙な衝撃』。

アリウス「……………………何?」

佐天「……………………へ?…………へ?」

佐天自身、何がどうなったのか良く把握できていなかった。

前に駆け出し放った彼女の拳は、
アリウスの肩からかけている上質なコートに軽くめり込んだ。


そしてようやく彼女の目にも映る、銀色の巨大な『鎌状の腕』。
その不気味に光る大きな刃は、彼女の首の横僅か数センチのところで制止していた。

佐天「………何…………これ…………ッ!!!??」


と、その時。


『―――佐天さん―――伏せてください―――』


背後から響く、エコーのかかった声。
そして背中を強く押され


佐天「―――えッ―――あッッッ!!!!!!」


佐天は前のめりに、半ば倒れこむようにして伏せた。


その瞬間。

『金色』の光の筋が走った。
彼女の後方から彼女の頭上を通り、そしてアリウスの大きな背中めがけて。

甲高い金属音を奏でながら―――。
589 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:29:48.80 ID:5Z/u3mEo
光の筋。

アリウス「―――」

それは斬撃。

その放たれた力の『刃』が、振り向きかけたアリウスの肩からわき腹にかけて直撃した。
斬撃の甲高い飛翔音に続き響く、今度は耳を劈く凄まじい激突音。

佐天「―――わ―――ひッッッ―――!!!!!!!!!!!

更に立て続けに何発も何発も放たれては、
佐天の頭上を通過しアリウスの居た方向へと炸裂していった。

光が弾け飛び、斬激の余波が衝突点から放射線状に走り、
床に一瞬にして複数の溝を刻みこんでいく。

捲れあがる倉庫の床や壁、飛び散る破片や火花、荒れ狂う衝撃波の渦。

そしてその斬撃の嵐に襲われ、アリウスは一瞬にして弾き飛ばされ、
倉庫の奥へと吹き飛んでいった。


佐天「―――な…………な……な……?」

頭を守るように手を添えながら、恐る恐る顔を上げ、
変わり果てた前方の有様を呆然と眺める佐天。

アリウスが断っていた場所、そこから向こうは完全な廃墟となり。

天井の大きな割れ目は地上まで達していたのか、倉庫内の空気が急速に流れ始め、
巻き上がっていた粉塵を押し流していく。
590 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:36:15.43 ID:5Z/u3mEo
『―――助かりました。あの男の気を引いてくれて』


佐天「―――!!」

そして後方から再び響く声と共に、
突如腕を掴まれ引っ張り上げられる形で立たされた。

その声の方へと振り向くと。

キリエに肩を貸しているルシアが立っていた。
キリエとは反対側の右手には、ぼんやりと金色に光っている曲刀。

そして彼女の胸には。


佐天「―――ルシアちゃん……!!!!む……胸……!!!!刺さって……ち……血が……!!!!」


細い杭が深々と突き刺さっていた。

痛々しすぎる光景に慌てふためく佐天だが、
ルシアはそんな彼女の事など気にもせず平然と更に過激な行動を取った。

キリエを床に座らせると、右手を胸の前に掲げ握っている曲刀の柄で

佐天「わわわわわやめややややめッッッッッ―――!!!!!!!!」

突き出ている杭の頭を思いっきり叩いた。
当然、強い力で押された杭は彼女の胸を貫通し、
背中側から飛び出して床に金属音を響かせながら落ちた。

佐天「ちょちょちょちょわわわっわわっわわわわっわわわわ(ry」


ルシア『落ち着いてください。大丈夫です。私は頑丈ですので』


最早言葉になっていない声を挙げている佐天に対し、
ルシアはやや強めの平然とした口調の言葉を飛ばした。

ルシア『落ち着いて。「大丈夫」です』

背中から血を滴らせ噴出しながら。
591 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:39:19.66 ID:5Z/u3mEo
次いでルシアはテキパキとした動作で杭を広い、
キリエの横に屈み。

その杭の切っ先をキリエの胸に当てがった。

佐天「―――……な……なな……何…………するの…………!?」


ルシア『…………楽にします』

佐天「へ?『楽』ってちょっと―――ッ!!!!!!!!!!!」

ルシア『キリエさん、少し痛みますが我慢してください。麻酔魔術も保護魔術も施す時間はありませんので』

佐天を完全に無視しつつそう言葉を告げるルシア。

何をするのか悟ったキリエ。
ルシアの瞳を見つめて小さく頷いた。

そんな彼女の顔を見、ルシアは躊躇い無く杭をキリエの胸に沈ませた。
メキリと湿った音が鳴り。

佐天「―――ちょっとぉぉぉやめやめやややややおおおぎゃああああああああああああ!!!!!!!!!」

キリエ「―――ッッッ…………く…………はッッッッッ…………!!!!!!」

激痛にも関わらず声を挙げずに堪え、
押し出されるように軽く短く息を吐くキリエ。

キリエ「はッ―――!!!!!はッ……!!!!」

そして次第に彼女の呼吸は安定し、その顔にも少しだけ覇気が戻り始めた。
胸に杭が突き刺されたにもかかわらず、逆に生気が漲ってきていた。

佐天「…………な……ななあな……ひぇええええ……」
592 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:42:12.43 ID:5Z/u3mEo
ルシア『少し……楽になりましたか?』

キリエ「ええ。ありがとう…………だいぶ楽になった……立って歩けると思う」

ルシア『「鍵」は第四肋骨と第五肋骨の間の胸骨寄り、心臓と肺の隙間を通してます』

ルシア『今は時間がありませんので簡単な安定術式のみですが、』

ルシア『一応「呪縛」の機能は一時停止しています』

ルシア『そして「引き抜けば」術式を破壊できます。が、このまま引き抜いてしまうと魂も砕けます』


ルシア『つまり死にます』


キリエ「…………」

ルシア『後ほど、「浸透」と肉体保全・保護術式を施してから引き抜いてください』


ルシア『該当術式は―――』

そしてルシアは該当する魔術の名称を次々と並べては、手順を簡潔に示していった。
キリエは脂汗を滲ませながらも、
頷きつつ小さく口を動かし、復唱しながらルシアの言葉を記憶していく。

脇で聞いている佐天にとっては、この飛び交う専門用語はもちろんチンプンカンプンだった。

いや。

佐天「…………………ひぇえ…………ひぇえええええぇぇぇ…………ひぇぇえぇ…………」

それ以前に、目の前の痛ましい光景のせいで、
冷静に聞き耳を立てる余裕も無かったが。
593 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:44:39.59 ID:5Z/u3mEo

ルシア『―――これらなら大丈夫です』

キリエ「ええ。わかった」

ルシア『ネロさんなら問題なく扱えますが、さほど難易も高くないため他にも扱える方がいると思います』

ルシア『とにかく私達に友好的な、魔術に精通した方を探してください』

ルシア『この街に来る学園都市側の方々の中にも、魔術に精通しているお方がいるみたいですので』

ルシア『その方は天界系専門のようでしたが、代替魔術もたくさんあるはずです』

キリエ「うん……わかった」

ルシア『良いですか?コレはあくまでも一時的な処置です』


ルシア『15分以上経ってしまったら恐らく手遅れになります。「反動」がきます』


ルシア『それよりも前に、先言った全うな手順で処置を完了させてください』


ルシア『あ……それと「核は影にあり」。これも覚えてください』


ルシア『ネロさんか、もしくはその同志の方に必ず伝えてください』

キリエ「…………ええ」
594 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:46:46.17 ID:5Z/u3mEo
ルシア『では佐天さん。キリエさんをお願いします。一緒にここから離れてください』

佐天「へ……へ?!!!」

キリエ「…………ルシアちゃん……」

ルシア『早くここから。200m程の地点に地上へ繋がる階段があります』

ルシア『決して止まらず振り返らずに進んでください』

佐天「―――!!ルシアちゃんはどうす―――」

ルシア『私はここで戦います』

佐天「そ、そんな!!!じゃ、じゃあ私も一緒に―――!!!!!」

ルシア『キリエさん一人ではここから離れられません。佐天さんがいないと無理です』


ルシア『それにここにいたら二人とも巻き添えになります』


佐天「―――」


ルシア『これより先、あなた方を巻き込まずに戦える自信は「ありません」』


佐天「―――…………でも!!!!!!―――」


佐天「―――『友達』を置いていくなn―――!!!!!!」


ルシア『―――私もです。「友達」を死地に置いておきたくはありません』


佐天「―――…………」


ルシア『……お願いします。お願い…………行って……さあ……』
595 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:53:49.05 ID:5Z/u3mEo
佐天「…………………………………………」

3秒間。

佐天は無言のままルシアの瞳を見つめた後。

無言のまま頷き。
キリエに肩を貸し、足早に示された方向へと駆けて行った。


ルシア『………………………………………………………………………………』



二人を移動させるのは、アリウスの手から遠ざけるため?

それは厳密には違う。

力を解放した自身とアリウスの戦いから遠ざけるためだ。

この島の中に居る以上、アリウスの手からはどう足掻いても逃げられない。
どこへ逃げても、あの『闇獄の神』かもしくはアリウスにどの道行く手を塞がれるだろう。

先ほど足止めされた時点で、港へ一気に突っ走るという方法は『不可能』と立証されたのだ。
彼女に今できることは一つしかない。


それはアリウスを今ここで―――。


―――そう、あの男さえ潰せば、『全て』何とかなる。


今、ルシアにとってアリウスは『不可侵の領域』の存在ではない。

刃は確実に届く。

アリウスとキリエの接続回線は一時停止。

そしてルシア自信の呪縛も『消えている』のだから。
596 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:55:38.30 ID:5Z/u3mEo

ルシアの中、魂に刻み込まれていた『呪縛』。

平常時は魂の奥底へと埋もれ、
彼女をくまなく調べ上げたレディもトリッシュもマティエも皆その姿を捉えることは不可能だった。

だがアリウスの前で完全稼動状態ならば。

呪縛はもちろん派手に目立ち『剥き出し』だ。


そして、キリエの魂へと刻み込まれた術式と、
ルシアの魂へと刻み込まれている術式の大きな類似点。

二つは用途もまた刻み込まれた経緯も違うが、だが作り手は同じアリウス。
術式のベース言語も同じ古代ギリシャのグノーシス式。

程度に差はあれど、レディの作った『杭』は必ず何らかの効果はあるはず。

ルシアはその賭けに出たのだ。

そして出たサイコロの目は。

彼女の『勝ち』だった。


魂の中に刻み込まれていた術式は『崩壊』した。


ただ。

キリエだけの為に作られていたせいか、やはり噛み合わず。
そして処置があまりにも雑すぎた為。


『副作用』も出てきたが。
597 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:58:39.50 ID:5Z/u3mEo

「…………あの小娘…………一本取られたな……久しぶりに『困惑』という感情を味わった」


廃墟と化した倉庫の奥から響いてくる声。


アリウス「………そのおかげでこの俺が………こんな無様な失態を犯すとは。俺もまだまだだな」

そしてゆらりと姿を現す、『無傷の埃一つついていない』アリウス。
葉巻を燻らせながらの相変わらずの傲慢な表情。

アリウス「それと……………………やはり無理があったみたいだな?」

ルシア『…………』

そのアリウスが、何に対して『無理があった』と指しているのかはルシアも当然わかる。
それはもちろん、ルシアが自身に行った処置の事だ。

引き抜く際には本来、先ほどキリエに告げた手順で行わないと大変なことになる。
あの手順が無い、という事は『手術器具無しで素手だけで手術を行う』ようなものだ。

いわばルシアの行った方法は、
腕を強引に突き刺し患部を退き釣りだし握り潰す、というやり方だ。

そんな『無理やり過ぎる手術』をしてしまったら?


アリウス「あと1時間か?それとも30分を切ってるか―――?」


当然、命が削れていく。


アリウス「―――お前の魂が完全に砕け散るのは?」
598 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 01:00:13.34 ID:5Z/u3mEo

ルシア『……………………それがどうした?』


アリウス「『友の為とあらば死をも恐れない』、か」


アリウス「はッ……『気高き信念』の『コピー』もそこまでくれば、な」

アリウス「お前にとっては嘘は真実、偽は真に成り代わるか」

アリウス「俺にとっては偽は偽だがな。所詮『模造品』だ」


ルシア『…………うるさい。お前の言葉は耳障りだ。お前は私が断つ』


アリウス「…………お前『程度』でこの俺をどうにかできるとでも?」


ルシア『できる』


アリウス「ほぉ…………大した自信だな。それはどこから来る?」


ルシア『……お前は以前、私に向けてこう言った』


ルシア『「お前の刃は決して届かない」って』


アリウス「…………」



ルシア『でも―――』



ルシア『―――さっき届いたけど?』
599 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 01:04:39.73 ID:5Z/u3mEo

アリウス「―――ははははははははッッッ!!!!!!確かに!!!!その通りだな!!!」

その『指摘』を受け、豪快に高々と笑い声を上げるアリウス。

アリウス「では次は!!!??」


ルシア『次は血―――』

ルシア『その次は骨―――』


ルシア『―――そして最期に魂だ』


アリウス「ははははははッ――――――面白い。面白いぞ。大口を叩くその首―――」


それらの続けられた言葉に、豪快に笑っていたアリウスの顔から笑みが一気に引いていき。
入れ替りに、凄まじい殺気と憤怒が彼の顔を覆い尽くし。



アリウス『―――この手で直にへし折ってやる』



強烈な威圧感と共に、エコーのかかり始める声。
600 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 01:06:18.82 ID:5Z/u3mEo

アリウス『―――覇王が復活し、その力が俺に宿るのは約5分後だ』

スッと両手を左右に広げるアリウス。

その腕の周囲、更に足元にて赤い光で形成された大量の術式や魔方陣が浮き上がった。

アリウス『―――だが今や、それはお前には関係ないことだ』

広げられた両手先には、
赤黒い炎のような光の揺らぎが出現。

そして周囲の床からは、
先ほどの『鎌状の腕』同じような『材質』で形成されているであろう、
大量の刃や触手がズルリと伸び上がって来。


アリウス『―――心配も何もいらない。後の事を気にする必要は無い』


彼の背後には、恐らく魔道兵器の一種であろう大きな大きな不気味な金属塊が出現した。



アリウス『―――五分後には、お前は生きていないのだからな』


601 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 01:09:29.85 ID:5Z/u3mEo

これらはアリウスの歴史の集大成。

一世紀生きてきた彼の、今まで築いてきた魔界魔術大系。

彼は自身の歴史その『全て』を全身に『武装』した。


アリウス。


本名、ジョン=バトラー=イェイツ。

種族、『第二世代』の人間。



アリウス『―――甘く見るな。強いぞ―――』



彼は『弱き人間』の一人でもあるが。



アリウス『―――この俺は』



間違いなく『最強の人間』の一人でもある。
602 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 01:10:55.67 ID:5Z/u3mEo

ルシア『―――』


ルシアにとって、アリウスはもう『不可侵』の存在ではない。
だがそれでも。

それでも、現にこうして全面から相対するとこの男の強大さが肌に染みてわかる。
そこらの下手な大悪魔よりも遥かに強い。

『力』だけではない。


その『芯』が強固過ぎる。


かなり歪んではいても、『人間としての信念』が凄まじすぎる。

ルシアは認めざるを得なかった。

自身よりも『様々な面』で遥かに『強い』、と。


ルシア『―――…………』


そして。


この男を倒すのが、どれ程困難な事なのかを。

まあ。

今更、ルシアには退く気も後悔も無いが。
困難なだけで、可能性はあるのだ。

1%でも可能性があれば充分―――。


―――その1%を分捕れば問題ない。
603 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 01:12:30.63 ID:5Z/u3mEo


アリウス『我が「傀儡子」の儚き幻夢、終焉を向えし時―――』



何らかの術式詠唱なのか、それとも何かの感傷にでも浸り謡っているのか。

アリウスは静かに口を開き言葉を連ねていった。



アリウス『―――我が「創父造手」による「壞」をもって目覚めとす―――』



淡々と。



『どことなく』悲しげな言霊が響いていく。



アリウス『―――よって今生よりの「解放」とす』



異質極まりない関係である、呪われた『父子』の間に。


―――
604 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 01:13:22.57 ID:5Z/u3mEo
今日はここまでです。
次は土曜か日曜に。
605 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 01:16:45.20 ID:DbHM8oI0
今夜も乙乙乙
606 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 01:40:41.72 ID:WKQ2yBgo
触手…ジュルリ
607 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 02:51:24.68 ID:UnBVCRQo
乙乙
佐天さんさすがすぎるぜ……!
608 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 08:36:26.52 ID:g3pVtcAO
良い展開だ
609 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 01:48:42.42 ID:yEo2fiQ0
情報が誰の元に行くのか気になる…
つっちーあたりに行かねぇーかな……これ以上ハラハラさせてくれるなよ…」
610 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 10:07:54.76 ID:A2ltaAAO
デカいシャドウとか鬼畜すぎる
611 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:10:25.63 ID:gtxGI5co
―――

麦野『…………』

麦野は島の上空2000mの宙を浮遊していた。

背中から伸びる一対の紫の翼をゆっくりとしならせ、
左肩近くから浮かび上がっている青白いアームを不気味に揺らしながら。

彼女は今、『砲台』役をしていた。

滝壺『むぎの、22体の悪魔の集団を発見。まわりには誰も居ないから、砲撃して殲滅くれる?』

麦野『座標は?』

滝壺『標的の座標は―――』

麦野と滝壺の間では、単純な音声通信しかできない以上座標データを直接脳内に送り込むことはできない。
ただある程度の方向や位置を知れば、あとは麦野側が感覚を集中させて相手を捕捉できる為、特に問題は無い。


麦野『OK、捕捉した』


小さく呟いた彼女の周囲で光が煌き。

その次の瞬間。

太さ10m以上にもなる巨大な光の柱が放たれ、街に叩き込まれた。
着弾地点では高温の太陽のような光が激しく明滅し。
次いで一瞬だけ見える、白く球状に広がる衝撃波。

そして巨大な粉塵と爆炎の柱がぶち上がった。


麦野『命中』

滝壺『うん……OK、殲滅完了だよ』
612 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:17:11.76 ID:gtxGI5co

滝壺『ところで…………むぎの、』

麦野『何?』

滝壺『…………さっきから妙な反応がある』


麦野『…………もしかして、「島全体を覆っている」ような?』


滝壺『むぎのも捉えてた?これなんなのかな。「力の大気」みたいなもの?』


麦野『…………いや…………』

アラストル『いいや。これは「単体の悪魔」の力だ』

そこで少し言葉を篭らせた麦野。
そんな彼女に代わる様に今度はアラストルが口を開いた。

滝壺『…………え?全体に満遍なく広がってるんだよ?』

滝壺『それにこれが単体の悪魔のものだとすると、その悪魔、―――』


滝壺『―――むぎのとアラストルよりもかなり「信号が強い」って事になるよ?』


アラストル『そうだ。それが正しい。そのままだ』


アラストル『俺達よりも力が格上で、全体に満遍なく広がれる悪魔だ』


アラストル『高位の大悪魔で間違いない』
613 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:20:16.90 ID:gtxGI5co

麦野『やっぱり…………神とか王とかって言うクラス?』

アラストル『そうだ。力は俺よりもそれなりに格上だな』

麦野『……勝算は?』

アラストル『…………コイツがどんな奴なのか、見てみないとハッキリとは言えないが……』

アラストル『力だけで単純に見てみたらかなり「厳しい」な』

アラストル『この全体に広がっているように感じ取れる事からも、コイツが特異な力を持っている可能性も考えられる』

麦野『…………ただ、「厳しい」ってだけで「不可能」っつーわけじゃあないんだな?』

アラストル『ああ』


麦野『…………1%でも勝つ確率があるのなら充分。「簡単」な話ね』


麦野『どうってことないわ』


アラストル『お前、「人間にしては」本当にイイ女だな。ますます気に入った』

麦野『はいはいどうもどうも』

614 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:21:55.52 ID:gtxGI5co

滝壺『…………あ、もう一つ。この変な信号のせいで良く見えないエリアもあるの』

滝壺『街の…………下、地下かな、一部のエリアがノイズが酷すぎて』

麦野『位置は?』

滝壺『F9、D9とD10の全域、それと周囲のエリアにも広がってる』

滝壺『このエリア、ノイズの合間にさっき少しだけ別の信号も見えたよ』

滝壺『多分二つ……片方は何か変な感じで良く分からなかったんだけど、』

滝壺『もう片方は麦野と同じくらい強い信号』

麦野『……おい。わかるか?』

アラストル『…………いや。見えないな。俺にはこの広がっているデカブツの力しか確認できない』

麦野『…………直接行って確認するか……』

アラストル『ああ、そうした方が良いな』

滝壺『そのちょっと近くにつちみかどがいるから、戦う時は気をつけてね』

麦野『わかった』

―――
615 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:23:50.09 ID:gtxGI5co
―――

超高層ビルの合間に挟まれ佇んでいる、5階建ての小さなオフィスビル。
(小さな、と言ってもこの街の基準からであり、そのフロアは奥行き20mはあったが)

その3階のずらりと並んでいるデスクの間に土御門は立っていた。


土御門「(……………………何も無いな…………)」

このビルは、
インデックスの助けで浮き彫りとなった『大規模構造図』のランドマークの一つなのだが。

屋上から地下室まで一通り見て回ったものの、魔術のマの字も無い。
魔術的因子は欠片も無い、どこにでもある極々普通のオフィスビルだ。


土御門「(…………となると…………やはり街の地下構造か)」

各チームにもランドマークを調査させてはいるが、
恐らくここと同じく地上の構造物は無関係だ。

高層ビルから信号・看板等、ランドマークの種類が不規則すぎていたことから、
地上の物は関係ないと来る前から予想していたが、
こうして一つ確認してみてそれが確証へと変わった。

ただ。

大方、いや確信をもってこの結果は予想できていたが、実は何も備えが無い。

いや、備えようが無かったのだ。
北島の地下構造群は、地上の超高層ビル群の大都市よりも遥かに巨大。
そして学園都市の情報網を持ってしても、その深部の構造図は全く把握できていない。

この強襲作戦にあたっても、
情報が欠片も無いし情報を手に入れる手段も時間も無かった。


土御門「(…………ここに来て手探りか…………わかってはいたが面倒だな……)」


土御門「(どこかで構造図のデータを手に入れなければな……)」
616 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:25:02.91 ID:gtxGI5co

土御門「滝壺。聞こえるか?」

滝壺『聞こえるよ』

土御門「ランドマークに到達したチームは?」

滝壺『二つのチームが戦闘して遅れてるけど、他のチームは到達してるよ。それで今調査s」

土御門「地上の構造物は無関係である可能性大だ。調査する必要は無いと判断する」

土御門「ランドマーク直下の地下を調べさせろ」

土御門「『地下室』じゃないぞ?地下の構造物だ」

土御門「少し手荒でも構わない。別の構造物へ到達するまで、真下へ掘り抜いて行かせろ」

滝壺『うん。了解』

土御門「それと、俺の現在地から近いチームは?」

滝壺『「Charlie」かな。途中で戦闘が無ければ、3分以内にそこに行けるよ』

土御門「どのチームでも良い。一つ、すぐにこっちに寄越してくれ。ここの地面を掘り抜かせる」

滝壺『了解』
617 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:26:38.66 ID:gtxGI5co

土御門「あとレールガンに繋げてくれ」


滝壺『……はい、繋がったよ』

御坂『はいはい何?』

土御門「その前に一つ確認だ。お前の方からなら一応、視覚データ等の類はミサカネットワークに流せるんだな?」

御坂『できるわよ。流すって言うより、勝手に引っこ抜かれてくんだけど』


土御門「OK、頼みたいことがある。最優先でだ」

土御門「まず、ウロボロス社のネットワークに接続できる端末を探してくれ」


御坂『…………あ〜。わかった。抜き出してデータは何?』


土御門「北島の地下構造図。詳細なほど良い。恐らく最高機密の類だろう」

御坂『任せて。それとこういう場合って「構造図に乗ってない更に極秘な施設がある」ってのもお約束だけど、』

御坂『そっちの方も配線とか工事記録とか諸々のデータから解析して炙り出す?』

土御門「頼む。思いつく限りの方法で洗いざらい情報を掻き出し、それをミサカネットワークに」

御坂『おっけー』
618 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:28:14.87 ID:gtxGI5co

指令を出し、脳内で一通り今後の段取りを組んだ土御門。

土御門「………………」

脇のデスクに軽く腰掛、チームが来るのを静かに待った。

周囲の悪魔の状況は常に滝壺が『見て』くれており、
そして土御門の方でも気配を消して動いている為、
この島に来てからはまだ悪魔とは一度も交戦していないし遭遇もしていない。


そもそも実は言うと、彼は今まで一度も悪魔と直接戦ったことが無い。

この数ヶ月間で悪魔関連の知識はかなり豊富になった。
イギリス清教・学園都市側の中でもトップクラスだろう。


しかし、対悪魔に関する戦闘能力は一般人のまま。
捨て身の魔術攻撃でフロストかアサルトを一体倒せれば御の字という程度だ。

土御門「(…………きっついなやっぱり)」

今まで上手く立ち回り交戦は全て避けてきたが。

さすがに人間が完全アウェーとなっているこの島の最前線では、
それは非常に難しいのは明白。


土御門「(…………………………………………そろそろ本気で、『アレ』やるかどうかも考えておくか)」
619 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:32:07.13 ID:gtxGI5co
と、そうして思考を巡らせていたところ。

土御門「―――………………」

ふと、何かが動く気配。
このフロア内に、己以外の者の気配。

土御門「…………」

息を押し殺し、眼球だけを動かして薄暗い室内に目を凝らしつつ、
ゆっくりと腰の拳銃に手を伸ばした。

感覚的面から言えば、悪魔ではないようだ。
悪魔に殺気を向けられた際の独特の圧迫感が感じられない。

滝壺『「Charlie」の7名、今悪魔に遭遇して交戦中だから遅れるよ。恐らく4分30秒後にそっちに』

ヘッドセットから聞こえてくる『守護天使』の声が、その土御門の感覚を裏付けていた。
悪魔であれば滝壺が捕捉しているはずであり、言及してくるのが当たり前だ。
それに彼女の報告から、この気配が『Charlie』のメンバーのものでもないの確かだ。

土御門「…………」

悪魔でも学園都市勢でもない。

つまり考えられるのは―――。

とその時だった。

土御門「(……………………しまった…………)」

今度は突如、すぐ背後に感じる気配。

土御門「(…………こりゃ…………久しぶりだな……………………一本取られた)」

土御門ともあろう者が後ろを取られたのだ。
彼の顔に浮かび上がる、ちょっとした驚きと、
自身への呆れと降参の意が混じった奇妙な笑み。

そして、この土御門の背後をとったその気配から響いてくる、

「―――Freeze. Don't move」

アメリカ訛りの静止を命ずる英語。
620 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:34:18.03 ID:gtxGI5co
「手を離せ」

そして、抜きかけている拳銃から手を離せとの命令。

土御門「…………」

特に抗うそぶりも見せず、土御門は指示に従いゆっくりと手を離し。
その一方で感覚を研ぎ澄ませて周囲の情報を拾っていく。

後ろの男は、土御門から4m程のところから指示をしている。
恐らく、銃口をこちらに向けて即射殺できる体制で。

最初感じた気配の方向とは別だ。
つまり、土御門が捕捉できていない者が一人以上いる。

土御門「(…………用心深い…………かなりやり難いな)」

滝壺『つちみかど?今の声誰?』

土御門「(……まずいな)」

こっちの音を拾った滝壺からの呼びかけがくるものの、
土御門側は下手に喋れない。

変な仕草を少しでも取れば脳天をぶち抜かれかねないのだ。

土御門「(俺も毛嫌いしないで調整受けとくべきだったか……まあ今更か……)」

調整を受けていればヘッドセットいらずで脳内で会話できただろうが、
当然今更考えても仕方が無い。

滝壺『つちみかど?………………問題発生?』

土御門「(…………おう。発生しまくりだぜぃ畜生)」

滝壺『つちみかど?』
621 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:36:39.63 ID:gtxGI5co

「手を頭の上に」

土御門「(…………)」

指示に従いつつも、頭の中でこの場を切り抜ける策を模索するが、
妙案は一つも思いつかなかった。

体術で相手を拘束して『人盾』にして―――という案はまず論外。
相手が近付いてこない限りどうしようもない。
後ろの声の主は、口と人差し指以外を動かす気は毛頭無いらしい。

土御門「(…………)」

スタングレネードを即座に引き抜き起爆、という案もダメだ。
爆発まで数秒間の時間を有する為、その間に射殺されるのがオチだ。

では、拳銃を素早く抜き応戦するのは?
それも論外だ。

二人以上相手がいるのは確実なのに、その内の一人しか位置を把握していない。
一人射殺できても、その直後に即こっちも射殺されるだろう。

その『保険』の為にも他の者は姿を現していないのだ。


土御門「(……参った。学園都市のアホな『駄犬』共とは違うな…………)」


土御門「(ここは穏便に行くか)」
622 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:40:30.48 ID:gtxGI5co
指示をしてきていた男が後ろから歩み寄って来、手際よく土御門の腰から拳銃を奪い取り、
そしてヘッドセットも彼の頭からむしる様に外し取り。

「何者だ?」

土御門「……あ〜、いいか?説得力無いのはわかってるが、俺は怪しいもんじゃないぜよ?」

土御門「お前らの敵じゃあない」

伏せながら、後ろの男に向け声を飛ばす土御門。

「聞かれた事だけ答えろ。余計な口は開くな」

だがその土御門の言葉は完全に無視され、
男の淡々とした冷ややかな声が返ってきた。


「何者だ?……………………いや、学園都市から来たな?」


土御門「…………いんやあ。旅行者だ」

                       C I A
「……こういう話がある。『ラングレー』の連中の間で言われてるヤツだ」


「『日系の小洒落たガキが最新装備を所持してるのならば、学園都市のガキと思え』」

「それとな、俺らはさっき見た。学園都市の編隊がこの島に何かを打ち込んで行ったのをな」


土御門「………………………………ああ…………ああそうさ。そうだ。俺は学園都市の者だ」


「OK。単刀直入に聞く。何しに来た?」


土御門「『世界を救う為』だ」


土御門「いや……こう言った方がいいか。『化け物共から人間世界を守る為』だ」


「………………………………信じると思うか?」

土御門「『化け物』、あっちの方がお前らからしたら信じがたい存在じゃないか?」

「…………」
623 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:45:19.43 ID:gtxGI5co
「…………あの化け物の事、知ってるのか?」

土御門「お前らよりは良く理解している」

「では…………さっきからこの街の上にいるあの『紫の天使』は?」

「あれも機体群が現れた後に出現したが」

土御門「はは…………『天使』、ね。あれは俺の『同僚』だ」

「能力者ってやつか?」

土御門「『一応』な。アイツは能力者の中でも特に異質だ。アレが普通だとは思わないでくれ」


「…………」

その後、
何かを考えているのか数秒間の沈黙。

そして。

「…………………起きてこっちを向け。頭に手を載せたままだ。ゆっくり」
624 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:47:41.90 ID:gtxGI5co
土御門「…………」

指示に従いゆっくり振り返ると。

4m程離れた場所に、アサルトライフルを構えている屈強な男が立っていた。

銃口は土御門の顔真っ直ぐに向けられており、
人差し指も引き金に係り幾分か絞られている。

その銃、暗視ゴーグル、戦闘服の類は全て最新式。
学園都市製の装備もいくつか判別できた。

土御門「(…………)」

装備の類から、この兵士がどこの国のどのような部隊に所属しているのかはある程度わかる。

そして兵士の肩にある、
戦闘地向けの配色であるグレーのワッペンがその土御門の推測の確証となった。

星条旗だ。


土御門「(やっぱりアメリカ人か…………………………)」

土御門「銃を降ろしてくれ。学園都市と『お宅』は今同盟国として共闘中だろ?」

「学園都市は、同盟相手でも不利益とみなせば平気で消すらしいが」

土御門「……不利益ならばな。それはお前らも同じだろ」

土御門「それに俺達は今、利害は一致してると思うが?」

「どうしてそう思う?」

土御門「お前らが『化け物共とオトモダチ』とは見えないからな」


「…………………………………………良いだろう」
625 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:50:17.12 ID:gtxGI5co

再び数秒間の沈黙の後、そう呟いた男は銃を降ろした。

それに次いで、周囲の薄闇の中からもう三人ほど同じ軍装の男が現れた。

土御門「(計四人か…………いや、まだどこからか別働隊か何かが監視してるだろうな)」

土御門が見えている四人は、
一見銃を降ろし警戒を解いているようにも見えるが、いまだ彼の方へと意識を研ぎ澄ませている。

外見だけで内面では全く信用していない。

そして信用していないのにこう銃を降ろしてしまうということは。
そうしてもいい『保険』があるからなのだ。

土御門「で、どこだ?俺に狙いつけてる狙撃手は?向かいのビルか?」

ストレートにその部分へと突っ込む土御門。

「さあな」

それに対し、男は特に動じぬそぶりであしらった。

土御門「じゃあ…………早くヘッドセット返してくれ」

土御門「実は言うとな。今能力者の部隊がこっちに向かってきてる」

土御門「俺は結構な重要人物なんだ。その俺が突如通信途絶えたら、当然色々考えるよな?」

「……」

土御門「友好的に来てもらいたいなら返してくれ」
626 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:53:34.33 ID:gtxGI5co
「その前に最後に聞きたい。これの答えを聞いたら俺達はここから消えてやる」

土御門「…………何だ?」

「外から来たのなら知ってるか?我々の艦隊はどうなった?我が国はどうなってる?」

土御門「…………北大西洋に展開していたお宅の艦隊は全滅した。空母二隻も含めてな」

「…………」

土御門「で、お前さん達の国は本土防衛に専念するらしい」

「…………………………外の全体の状況は?」

土御門「……ヤバイぜい。あの化け物共が外でも徐々に暴れ始めてる」


土御門「このままだと人類が敗北し、最終的に絶滅するかもな」


土御門「で、それを止めに俺達が来た。何をどうするかは面倒だから聞かないでくれ」

「………………………………俺達にできることは?」

土御門「無い。ま、生き延びたきゃ、事が済むまでどこかに隠れててくれ」


「そうか………………………………ほら。返すぜ」


そして男は土御門に向けヘッドセットと拳銃を投げ渡し。


「邪魔したな」

部下に移動するよう手でサインを出しながらそう小さく呟き、
そしてフロアの奥の方へと歩んでいった。
627 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:57:59.08 ID:gtxGI5co
土御門は近くのデスクに軽く腰掛け。

ヘッドセットを頭に装着しなおし拳銃をホルダーに戻しつつ、
その男達の後姿を見送った。

土御門「滝壺」

滝壺『つちみかど。どうしたの?』

土御門「いや、生存者に遭遇しただけだ。アメリカ人だ。特に問題は無い」

土御門「それと、『Charlie』に『連中には手を出すな』と伝えておいてくれ」

滝壺『了解』


土御門「(……………………それにしても連中……良く生き残ってたな)」

米軍の壊滅前に浸入していたということは、
丸三日近く以上この地獄にいたことになる。

土御門「(恐ろしくタフだな………………俺の後ろ取ったのもマグレではないかやはり)」

土御門「(『ノーマル人間』としての『性能』は俺よりも上か……まあ、そりゃあそうだろうな)」

と、その時。


小さな風切り音と共に、一人のツインテールの少女が正に突然土御門の前に姿を現した。

そして少女は、土御門を見ながらこう小さく口を開いた。


黒子「…………『Charlie』。指定ポイントに到着ですの」
628 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 01:01:02.03 ID:gtxGI5co

土御門「(………………コイツッ……)」

現れた白井黒子に対し、頭の中で小さく驚きの意をこめて呟く土御門。
その突然の出現に驚いたわけではない。

その豹変していた雰囲気に対してだ。


土御門「(…………一線を越えたか…………『だが』―――)」


『恐怖や死を受け入れ、そして克服し戦士となる』、と一概に言っても様々なパターンがある。

上条のように煮えたぎった信念の炎を瞳に秘めた、堅実な闘士となるパターンや、
御坂のように外面も内面もほとんど人格変化は無いが、芯と器が非常に強固かつ大きくなるパターンなど。

上記の二人の例を含む、自分自身の核をしっかりと保持している系統は本当の意味で『強い』。

だが。

この白井黒子は。

土御門「(―――これはアブないな…………)」


目が『死んでいる』。

どう見ても、既に核も芯も『折れている』。


これは厳密に言うと『強さ』ではない。

解離性同一性障害(俗に言う多重人格障害)とかなり似ている『症状』だ。

恐怖や死を『克服』したのではない。

その凄まじいストレスから逃れる為に、無意識の内に『強い自分』を『演じ』、
極度の『興奮』と『麻痺』状態に陥っているのだ。
629 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 01:02:23.90 ID:gtxGI5co
このような『張子の虎的な強さ』というのは、実はかなり多い事例だ。
(どっちかというと、上条や土御門、御坂のような本当に『強い者』の方が少数だ)

土御門でなくとも、それなりに場数を踏み
こういう世界の者達を見てきた者ならば簡単に判別できるだろう。

このような者はどうなっていくか。

肉体の痛覚を失ったようなものだ。
それでは当然、ストレスを知らず知らずの内にどんどん溜め込んでいき。

限界の時が突然やって来る。

溜まりに溜まったストレスが一斉に爆発する時が。
今まで無視してきた負荷が全て一気に押し寄せてくる。

そして末路は廃人だ。

気付いた時はもう遅い。
仮面の下に隠れていた本当の心はボロボロに崩壊しているのだ。

その後は薬付け酒付けになり、過剰摂取でショック死したり。
重度の精神病棟に入れられたり。

最終的に自身の脳天を撃ち抜いたりなど―――。


土御門「(…………コイツはこのパターンか。そのうち『潰れる』な…………)」


決してこういう世界に馴染めない者もいる。
どんなに耐えようとしても、最終的に絶対に耐え切れなくなる者が。

いや、それがそもそも『普通』であり大多数だ。

この白井黒子もその一人であるというだけ。


土御門「(…………ま、これが普通の反応だよな。俺らが異常なだけで)」
630 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 01:05:39.14 ID:gtxGI5co

土御門「待ってたぜい」

デスクから腰を挙げ、ふざけてる風にも感じ取られる声を放った。
それとほぼ同時に、フロアの奥の方から『Charlie』チームの他のメンバーも姿を現した。

土御門「話は滝壺から聞いてるな。このビルの下、方法は何でも良いからぶち抜いていってくれ」

「どの程度まで?」

土御門「別の地下構造にぶち当たるまで。隔壁や金属板等はぶち抜いて良い」

「了解。Charlie 2、5、7、ぶち抜け。他は周囲に展開し警戒」

リーダーの指示を受け、それぞれ動き出すメンバー達。

と、その時。
土御門の隣をすれ違うかというところで黒子が足を止め。

黒子「…………放っておくんですの?あの武装した男達」

土御門「ん?ああ。好きにさせておけ」

黒子「……どんなに小さくとも、わたくし共の管理が及ばぬ存在は極力『処分』すべきと思いますの」

黒子「命を下していただければ、わたくし一人で即刻処分に赴きますの」

土御門「(……………………コイツ…………)」

土御門「……俺達の脅威にはならない。少なくとも俺はそう判断した」

黒子「ですがk」


土御門「―――聞こえないのか?『俺がそう判断した』」



土御門「―――何か文句あるのか?」



黒子「……………いえ……………………………了解」
631 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 01:08:57.65 ID:gtxGI5co

土御門「……お前、自分はあの四人を殺せると思ってるか?」

黒子「……ええ」

土御門「………………OK、質問を変える。お前はあの四人を殺したら自分はどうなると思う?」

黒子「……特にどうにも」

土御門「そうか。大した自信だな」

土御門「………………お前は予期せぬ狙撃を防げる力はあるか?」

土御門「着弾前のライフル弾に反応できて、それを防げる水準の恒常的な力だ」

黒子「……………………わたくしはありませんの」


土御門「じゃあお前はあの四人は殺せるだろうが、その直後に脳ミソぶちまけてるだろうよ」


黒子「……………………」

土御門「向こうは四人だけじゃないからな」


土御門「五人目以降が、一仕事終わらせて余裕こいてるお前の頭を打ち抜いてチェックメイトだ」

土御門「向こうからしたら俺もお前も。今この瞬間にでも頭撃ち抜けるだろうよ」

黒子「………………………………」
632 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 01:12:30.44 ID:gtxGI5co

土御門「殺し合いっつーのはな、能力や力だけで勝敗が決まるわけじゃない」

土御門「人数、配置、地形、作戦で千差万別、そして闇討ち・不意打ち・騙し討ち何でもありだ」

土御門「極端な例を挙げりゃ、レベル5だって無能力者に負けたり追い込まれる」

土御門「死んだ奴は知らねえが、惨敗して片目片腕と臓器の一部を失った奴なら知ってる」

黒子「…………」

土御門「……………………ずっとクソみてえな世界で生きてきた俺から言わせるとな、」

土御門「『見えてる物だけ』でリスク判断してしまう者は、確実にすぐ死ぬ」

黒子「…………」


土御門「特にお前みたいな、感覚が麻痺して『恐怖を忘れてる』奴はドンドン死んでく。ゴミのようにな」


黒子「…………」

土御門「恐怖を『克服』するのと『忘れる』のとでは全くの別物だ」

土御門「そして運よく生き残り続けたとしても、いつかその『ツケ』を払う」

黒子「…………」

土御門「今すぐには理解できないかもしれないが、心に留めておけ。いつかわかる」

土御門「じゃあ……さっさと行け」


黒子「…………了解」
633 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 01:13:37.00 ID:gtxGI5co

人形のような無表情、
生気の無い瞳の黒子は足早に離れていった。

土御門「……………………」

そんな彼女の遠ざかる背中を、
冷ややかな横目で見ていた時。


御坂『ねえちょっと。レールガンだけど、さっきの件で話が』

白井黒子とは違う、本当に『強い』女からの声がヘッドセットから響いてきた。


土御門「もう手に入れたのか?」

御坂『……そこがね、ネットワークに侵入して、最高ランクのセキュリティかかってる所見つけたんだけど……』


御坂『抜き出すの無理よ。不可能』


土御門「……いや、もっと時間をかければいk」

御坂『そうじゃなくて、物理的にそこのサーバーが破壊されてるのみたいなの』

土御門「………………そういうことか」
634 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 01:16:38.36 ID:gtxGI5co
御坂『んで、最後にそこに接続した回線のデータが残っててさ』

御坂『サーバー損傷時間から見ても、その最後に接続した連中が、』

御坂『おもっくそデータ引っこ抜いた後にぶっ壊したみたい』

土御門「…………」

御坂『それで残ってたデータ解析したら、接続した端末の型番とシリアルだけわかってさ、』

御坂『ミサカネットワーク経由で、妹達に学園都市のバンクとの照合してもらったのよね』

土御門「どこのか判明したのか?」

御坂「ええ」

                                US S O C O M
御坂『学園都市製の軍用携帯端末。「アメリカ特殊作戦軍」向けの特別仕様で、そこだけに納入されてる』


土御門「―――…………何?…………………………………………」

御坂『アメリカ軍がこの島に来てデータ引っこ抜いたって事になるけど…………って?土御門?』


土御門「…………待て、もう一度言ってくれ。どにへ納入されたって?」



御坂「アメリカ特殊作戦軍」



土御門「――――――」
635 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 01:19:12.42 ID:gtxGI5co

その納入先の名を聞いた途端、土御門は大きく目を見開き。


土御門「おい!!!!!さっきの米軍連中を探せ!!!!!」


窓の方へと駆けて行きながら声を張り上げた。

土御門「ここの掘り抜きは一時中断!!!連中を捜索しろ!!!!」

「……了解ッッ……聞いたな!!動け!!!」

首を傾げながらも土御門に従い、動くリーダーと各メンバー。


土御門「(クソ…………近くにいるとは思うが……)」

窓辺に立ち、薄闇の街のへ視線を巡らせて行く土御門。

まだ数分、あのアメリカ人達が近くにいるのは確かだが、周囲はコンクリートジャングル。
更地の半径300mと、ビル街の半径300mでは話が違う。

滝壺『どうしたの?』

御坂『いきなり何よ?』

土御門「説明は後だ。滝壺、普通の人間は感知できないんだな?」

滝壺『うん。ごめん。AIMかなにかの力放出してないとわからない』
636 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 01:22:07.04 ID:gtxGI5co

土御門『レールガン、レーダーは!?障害物の干渉はどれくらいだ!?』

御坂『こんな重厚な構造物まみれの街じゃ、さすがにあんまり広範囲は……』

結標『あー、私なら、障害物関係なく結構な範囲認識できるけど?』


土御門「よし、結標―――」


と。

その瞬間だった。


滝壺『―――あッ―――待っ―――!!!!!!!!!』

『何か』に気付き、声を張り上げた滝壺。
その声と同時に。


土御門「―――」


突如、土御門がいるこのビルが激しく揺れた。
まるで直下型の超大地震が発生したかのように。

―――
637 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 01:23:58.07 ID:gtxGI5co
―――

遡る事数十秒。

麦野は、土御門らがいる小さなビルから直線距離で1kmのところの宙にいた。
地上までは400m。

その彼女の真下の地点がちょうど滝壺が示した、
『島を覆う力の隙間から見えたり消えたりする何かがある』エリアの中心だ。


麦野『…………確かに何かあるな……』

アラストル『ああ…………とりあえず撃ち抜くのか?』

麦野『勝手にんな事をすりゃまた土御門にうるさく言われるわ』

アラストル『だからと言って、まさかノックして挨拶しながら行くつもりでは無いよな?』


麦野『当然。だから「うるさく言われる方」を選ぶわよ』


と、右手にあるアラストルの切っ先を眼下の大通りへ向たその時。
638 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 01:25:57.42 ID:gtxGI5co
麦野『―――』

ゾワリと感じる力。

今度は『何かある』程度ではなく、確実に感じた。
力が下から『浮上』してくるのを。

その一瞬後。


麦野の眼下、
大通りのアスファルトが大きく盛り上がり、火山の噴火の如く大爆発を起こした。

凄まじい衝撃波がビル街を駆け巡り、
大量の窓ガラスを一瞬で割ってはダイヤモンドのような破片を撒き散らしてく。

その爆発の中、膨大な量の粉塵の中を突き抜けて『金色の光の塊』が飛び出して来。
近くのビルの壁に『着地』した。


麦野『―――アレは―――』

その金色の光の主は、小さな体に大きな翼を生やした美しい鳥人のような悪魔だった。
何かと戦っていた真っ最中であったらしく、全身が傷だらけだ。
そしてその姿形は見たこと無いが、麦野はどこかで会った事のあるような感覚がしていた。

が。

『そんな事』など、今別に見つけたもう一つの『とある事』に比べたらどうでも良かった。


『別のもう一つ』。

それは眼下の粉塵の向こう。


街のど真ん中に穿たれた直径300m程の大穴の縁に立っている、一人の男。

上質なコート・スーツを纏い、逆立っている様な黒髪に口ひげ。


そして咥えている葉巻―――。
639 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 01:27:31.23 ID:gtxGI5co
その男の顔を見た瞬間。


麦野『ハッ――――――』


麦野は口を大きく横に引き裂き。
身の毛がよだつ様な、美しくありながらとんでもなく不気味な笑みを浮かべた。



麦野『―――――――――みぃぃぃぃつけたッッッ』



見間違えるはずも無い。
あの顔。
嫌と言うほど頭の中に焼き付けた男の顔。


麦野『――――――「アレ」、覇王とかってやつの力はまだよね?』


アラストル『ああ。どう見てもまだ力は宿っていない―――』


麦野『―――ということは―――』


アラストルでも手が出せないという覇王の力はまだ宿っていない。


つまり―――。



麦野『―――イ・ケ・る・わ・ね』
640 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 01:30:54.51 ID:gtxGI5co

麦野『―――結標。私の有する総指揮権は一時的にアンタに移行する』

麦野『そのまま滝壺と全チームの保全管理を継続してろ』

麦野『土御門はさっさと離れろ』

結標『ちょっと……何があったの?』

麦野『―――大将サマを見つけたのよ』



麦野『―――アリウスだ』



結標『―――』


麦野『土御門、良いわよね?』

土御門『俺に聞く必要も無いだろう?やれるのなら―――』



土御門『―――問題無い。狩れ』



麦野『つーことでレールガン、ヒマだってんなら―――』




麦野『―――まぁぁぁぁぁぜてアゲてもイイわよォォォォッ!!!!さっさと来なァァッッ!!!!!』



御坂『―――うぉぉおぉぉぉおッッッッけーぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!!!!!!!!!!』


―――
641 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 01:31:42.99 ID:gtxGI5co
今日はここまでです。
次は火曜か水曜に。
642 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/22(月) 01:32:55.51 ID:Hi60ZHc0
おつ
643 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 01:34:50.56 ID:4WanB2so

次回が楽しみだ
644 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 01:39:04.53 ID:y25KHUoo
おつ
645 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 01:39:38.73 ID:WBxRAB2o
前回の投下みて思ったけどやっぱり黒子は危ないんだな
黒子が慕うお姉さまだったら仲間が死んでそれを「他人」だなんて切り捨てたりしないよ
やっぱり麻痺してたんだな
646 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 01:43:27.63 ID:x1KnqsEo
やっべ、ゾクゾクくる・・・
647 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 01:55:42.42 ID:NjJImEAO
アラストル…VJの時のようにはならないで…
648 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 03:22:27.81 ID:mb/Iz8o0
まぁ未成年を殺し合いに参加させてる段階で覚悟もモラルもどーでもいいんだが
649 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 03:31:32.86 ID:WBxRAB2o
悪魔が人間殺しまくってる状況なのに未成年も糞もないだろ
650 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 03:41:13.14 ID:mb/Iz8o0
浅薄な設定に乗せられて熱くなるなよ坊やwwww
651 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 09:30:43.39 ID:hK5Fd2DO
二次SSの設定にマジレスしてんなよおっさん
652 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 00:54:34.78 ID:kjGM5kAO
この二人サイコーだなwwwwwwテンションがヤベェ
653 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 01:21:55.02 ID:2Epd.cY0
>>648-651
(;´ω`) 喧嘩イクナイ

(´ω`)でも4レスで止めてる処は評価に値するww
654 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 18:08:48.97 ID:tT2BiAAO
まー製作でだらだら長々荒らしても逆に恥ずかしいだけだし。


この作品どっかまとめてるとこある?
ないなら俺が…


いらぬ世話か。無粋だった。申し訳ない。
655 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 18:44:38.88 ID:iGYBi/Uo
>>654
まとめサイトは「ホライゾーン」とか「とあるSSまとめサイト!」
がいいんじゃないか?
まとめてあるとはいえ、ひと通り目を通すのも大変だけど。
656 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 19:19:06.95 ID:IwtCaMDO
>>655
そこぐらいしかねーよな…
他にもまとめてくれるサイトないかしら…
例えばぷん太とか
657 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 20:02:34.44 ID:R8EgTxIo
バージル≧ダンテ≧紫ネロ>ベヨネッタ>ジャンヌ|スタイリッシュな壁|黒曜石な一方通行≧アリウス>フィアンマ≧麦ストル≧義手一方通行|色々ハイブリッドな壁|トリッシュ>もうわからん
保留→ローラ 魔女デックス
自己満足でごめんね>>1。採点とごはんをもらえるとうれしいな。
荒れそうだったらスルーしてね皆。
658 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 20:16:24.97 ID:n8D4SIgo
トリッシュはもっと強いんじゃないか?
659 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 20:46:53.80 ID:oU6Bj/co
ジャンヌってそんな強い?
660 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 21:05:13.62 ID:R8EgTxIo
ベヨ姐ほどではないにしろ、フィアンマや半魔人化アリウスには負けないと思う。魔剣士三人と魔女二人はきっと別世界。でもステイルをボコったくらいじゃなぁ。
トリッシュさんの位置が難しい。麦ストルと義手通行、トリッシュの力関係が知りたい。
黒曜通行さんはほぼ暫定。通常バージルと打ち合うのが二人にできるかなっていう比。
・・・なんかアリウスはできそうだな・・・アリウスがスタイリッシュ連中除いた最高位かなぁ。続きが楽しみ。
661 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 21:20:37.69 ID:IKm28.DO
ベヨ姐ってダンテより強いんじゃなかったっけ
662 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 21:21:59.67 ID:IwtCaMDO
読者側が根拠のない想像で強さ決めてランキングつけてどうすんだよ。無意味でしかないわ
最終的に決めるのは作者なんだからよ
663 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 21:26:52.18 ID:Zysq5gAO
てか、ジャンヌがネロには負けんよって言ってなかったっけ?
664 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 21:27:36.94 ID:NFBE6aso
レディがどれくらいなのか知りたい。
665 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 23:16:15.51 ID:8Mjyca20
アリウス(cv銀河万丈)脳内再生余裕でした
666 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 23:38:39.78 ID:w/1Q5IAO
そもそもバージル、ダンテ、ベヨネッタ、ジャンヌあたりは
ほぼ完成された強さと思われるからいいとして
他のキャラに関しちゃこれから強さが変動する可能性が高いわけで
強さをランク付けする意味が無い
667 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 00:01:56.41 ID:cQ0bYoAO
こうなると唯一真人間で超強いレディさんパない
668 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 00:24:30.64 ID:CsVFiAAO
トリッシュはもっと強いよな
少なくとも麦ストルよりは上
対バージルの時に感覚云々あったし
669 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 00:46:22.13 ID:9hpeopco
今日はなさそうかな?
670 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 01:20:44.00 ID:lKaWako0
>>656
確か、てきとうVIPがまとめてたと思う
671 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 22:38:02.59 ID:BZes6r.o
すみません。
諸事情により、今月一杯のSS投下は厳しくなりました。
次は遅くとも来月の3日までには投下します。

お詫びといっては全く大したもんでもありませんが、
強さに関してのレスがありましたので、いくつかザザッと箇条書きの捕捉を。


ただ、相手・相性や状況によって相対的に大きく変わったりしますので、

各キャラ間の強さ優劣を明確に言明するのは避けさせていただきます。

描写・設定まとめ的なものでご了承ください。


○一方とむぎのん
 黒義手一方とトリッシュの支援の無い麦ストルは、現段階では『大体』互角『あたり』、と考えております。


○ジャンヌ
 ステイル戦では本気のホの字も出してません。彼女にとってジャレた程度です。
 ベヨネッタが髪留めを外すのと同じような、覚醒マジモードがジャンヌにもあります。
 それと四元徳の一人を うっせー黙れ と足蹴にするレベルです。
 ベヨネッタを抜きにすれば、ジャンヌはアイゼン以来の最強の魔女となります。


○トリッシュ
 明確な優劣表現は避けると上にありますが、これは揺るぎ無い事なので言明します。
 義手一方と麦ストルは本気トリッシュの相手にはなりません。差は歴然です。

 ちなみに、本編時の強化一方は魔人化バージルを前にして、その余りの格の違いに戦意喪失しています。
 あのままバージルに挑んでいたら、トリッシュと『同じ様』に敗北してたでしょう。

 トリッシュと『同じ様』に、です。


○最強の変態達三名 ダンテ、バージル、ベヨ

 ダンテ視点からだとバージルの方が強いとありますが、
 実際の差そのものは、二人の総力の規模から見ればかなり小さいものです。
 その時の状況によって簡単に覆ってしまうレベルのもんです。
 そしてベヨ姐さんはこの二名と同じ、『これ以上の上が無い領域』です。
 三人ともカンスト状態だから比較も勝敗予想も意味が無い、といった感じです。


○レディ

 現行の段階でも上条をボコボコにできます。
 現在のより鍛え上がっている彼女ならば、準備万端完全フル装備で挑めば大悪魔の相手も普通に可能です。
672 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 22:42:51.86 ID:BZes6r.o
○天界・魔界系上位の皆さんの『おおまかな力の格』
 人間目線からで俗に『神の領域』と言われる方々の大体のリスト

※『強さ』の序列ではありません。あくまで『力の格』です。
※上記の為、下の者が上の者に勝つことも普通にあります。
※各クラス内での名の並びは順不同です。
※大半の主要キャラは作中で力のレベルが変動したり、未描写の部分もあったりしますので明記しておりません。
※数分で書き出したので細部の正確性は乏しいです。『大体こんな感じ』という空気を読み取るだけにして下さい。


・唯一の創造神
完全体ジュベレウス

・魔界を含む全ての世界の支配者になれるクラス
完全体魔帝ムンドゥス 全盛期スパーダ

・魔界全土の支配者になれるクラス
覇王アルゴサクス

・大悪魔頂点クラス
ベヨとジャンヌの主契約悪魔  四元徳  ファントム(生前) 転生前の全盛期アイゼン
ねこキング  魔帝軍の最高峰の幹部 アスタロト等の10強

・大悪魔上位クラス
1魔具 グリフォン トリッシュ シェオル 魔界の各階層の支配者 ヘカトンケイル トリグラフ
魔帝軍の名だたる幹部  魔女と賢者の平均的な歴代長  天界の各派閥のトップ達・猛者達

・大悪魔中〜下位クラス
タルタルシアン ルシア 3魔具・ボス 4魔具・ボス 近衛隊等の魔女の精鋭集団
天界の各派閥の強者達(十字教の四大天使など)
ジュベレウス派の精鋭集団(上級三隊 熾天使・智天使・座天使) 


※力の格は強さに大きく影響しますが、必ずしも比例するという訳ではありません。
 筋肉量が同じでもプロ格闘家と普通の筋肉質な人では、その戦闘能力は比べるまでも無いのと一緒です。


どのクラスの悪魔(天使)と格上・格下・同格か、
と考えると、各主要キャラが大体どの辺になるのかが見えてくると思います。


では。
遅くとも来月初頭に。
673 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 22:48:32.44 ID:TKK7mnwo

仕事かな
忙しいことはいいことだ頑張れ
674 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 23:44:24.54 ID:cQ0bYoAO


・・・・・・ねこキング?え?
675 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 00:01:06.61 ID:Rg0dyIAO
ラノベメイクライ4でレディが鎧相手に手こずるのと一緒だね。
1 頑張れ、俺も単身赴任頑張るわ
676 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 04:27:25.26 ID:TtZieZYo
…ねこキングとは
677 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 14:38:20.10 ID:F6mSZADO
ねこキングってデカいシャドウのことだろ

上条さんとインデックスが魂的な意味で一体化したけど、どの程度まで精神的に通じあってるのかな
678 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 20:32:19.56 ID:yjA8wYAO
なんという律儀な>>1なんだ…
他の作者も見習ってくれればいいのに
679 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/26(金) 07:52:31.32 ID:8Rghz4oo
ねこキングワロスwww
680 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 01:26:18.04 ID:oKcah.AO
ちゃんと>>1が名前考えたのに何故wwww
681 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 07:42:13.88 ID:cvNdegDO
アリウス「魔界の呼び名を人語に訳すのならば……」


アリウス「『猫王』(ねこキング)とでもなるか。まあ好きに呼ぶが良い」


ルシア『…………』
682 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 20:44:17.60 ID:dtXG80g0
天界っつーか神サイドの味方いないの?
ジーン乱入とかアマ公召喚とかさ
683 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 22:22:05.05 ID:hjxVkkYo
誰、何処に味方かってのが大事だと思うなぁ。
学園都市に→潰す対象 アリウスに→基本敵 フィアンマに→あり得る ベオ条さんに→魔女デックスと一緒だから無い 魔剣士&魔女組に→論外
・・・oh・・・がんばれふぃあんま。空気なふぃあんまをおれはおうえんしてる。
後はロダン・・・しかいないかなぁ。
684 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 22:58:15.93 ID:m8XAbgAO
ジーンか…作中描写だけ見れば大した強さじゃなさそうだがニコニコにあげられてた制限プレイ動画のジーンならダンテや兄貴にも勝てそうだ
俺んとこのジーンじゃブリッツ一体と相討ちがやっとだな
685 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/30(火) 01:01:50.47 ID:deTgsVQ0
ジーンって誰?MGS?
686 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 02:45:14.17 ID:u2C7uv.0
ジーンはGOD HANDの主人公(ディレクターがDMCの人)
作中もパワー自主規制してるからガチならダンテ並みとかさ
我らが慈母アマ公(大神の主人公)は天界の良心として戦争止めにくるとか
こいつらは鬱フラグ何でもへし折りそうだし
687 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 03:39:50.66 ID:TBhahdw0
ジーンは魔界の頂点であるサタンをぶちのめせるぐらいだし(まぁサタン復活時は妙に戦いにくそうな体制で固定されてたけど)
ギャグ補正もあるからネロといい勝負できるぐらいには強そう
688 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/30(火) 05:40:33.76 ID:deTgsVQ0
教えてくれてありがとう。
そのジーンとアマさんは知ってるわww
あの二人なら絶対に人間側につくんじゃない?
689 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 08:32:05.86 ID:lCUg0OA0
出たら面白い事になるだろうが…ww
ジーンが出るとキンテキとかゴッド瞑想とかゴッド☆土下座とか
やりたい放題になって収拾つかなくなる可能性…
690 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 13:38:54.34 ID:drlYREA0
アマ公は人間大好きだから味方するだろうけど
信仰心で力が激しく上下するからパワーゲームには向いてないかもな
691 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 14:26:53.21 ID:vyD.2EA0
アマ公のジュベレウスをも屠った太陽パワーをもってすれば…!
692 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 18:32:06.44 ID:B1eBnoDO
あくまで禁書とDMCのクロスだからね
693 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 19:12:25.87 ID:u2C7uv.0
ロダンの店にカルピスがあれば・・・
694 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/30(火) 22:07:33.95 ID:.lWL5EAO
よしならクレイトスもよべよ
695 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 22:14:37.65 ID:JohBoMAO
アラストルのライバルビューティフルジョーも呼べよ
696 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/01(水) 04:04:15.24 ID:WxvdnHk0
クレイトスさんは絶対にあかんww
697 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 08:56:21.42 ID:q0HcdYAO
すっごいカオスww
698 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 09:05:23.43 ID:XQAvjwDO
人修羅。oO(俺がしれっと登場しても自然だよな、ダンテとは余り絡みたくないけど。)
699 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/01(水) 09:44:01.78 ID:GgwNTQDO
>>694
かっこよさのベクトルが違いすぎるwww
でも最新作で弟登場したんだよな……
兄弟対決もありかな……人間界はオワタになるがwww
700 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/01(水) 11:02:18.45 ID:ykT5zGs0
このスレの流れだと禁書成分がますます薄まっていくな
701 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 13:32:50.15 ID:u4gISUDO
>>700
他のキャラ参戦とかさすがに冗談で言ってるんだろ

ベオ条、麦ストル、義手一方、魔女デックス…
神裂、ステイル、ローラにもニックネームないかな
702 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 16:24:51.98 ID:2gpAvTMo
悪魔翌裂 ステリート 魔女ーラ 
やっつけなのは否定しない。
703 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 16:25:45.70 ID:2gpAvTMo
悪魔翌翌翌裂ってなんだよwwwwww翌いらねぇwwwwwwどうしたGoogleIMEwwwwwwwwww
704 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 18:17:45.14 ID:u4gISUDO
神裂さんは堕天裂さんで
705 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 19:37:01.44 ID:aS.UDLM0
参戦希望がカオスw まあ作者次第だわな
破綻なく出せそうなのはジーンとジョー、アマ公くらいか?

さておき、ステイフ 魔ローラ バー裂で
706 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/01(水) 22:47:53.14 ID:gK7mBJQ0
ちょい役ならともかく、プロットがあるとか前に言ってた以上、それ崩して他キャラって無理じゃね
というか、こんなそろそろ局面な感じの所で新規に別ゲーの出されてもな
707 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 01:25:58.46 ID:9kiF/2AO
あんま無茶な要求してくれるな
708 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 01:57:12.24 ID:vGa9YE60
思ったようにすりゃあそれでいいんじゃね?
709 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/02(木) 22:34:39.18 ID:BN3df..0
今日来るかな(^ω^)ワクワク
710 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 22:37:27.25 ID:8I4SCHk0
(´ω`)師走入ったから職種によっては身動き取れないからねー
711 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 23:21:37.64 ID:nwewSYAO
>>710が言ったこてが理解できない95割はニート
712 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 23:56:29.12 ID:amhKrRYo
遅れてすみません。


更なる他作品とのクロスについてですが、
クレイトスさん人修羅さんジーンさんの登場の可能性は0%と断言します。

アマ公はほんのt

ちなみに余談ですが、GOW勢の濃厚な登場を考えていた時期もありました。

SS内でのアレイスターとエイワスの古代ギリシャ神族関連の会話は、
実はGOW勢参入設定のほんの僅かな名残です。



では投下します。

※今日の分は、イギリス・ドーバー周辺の地名が一気に出てきます。
Googleマップで「イギリス ケント」と検索すれば、今回の一帯の地図が出てきます。
713 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 23:59:18.26 ID:amhKrRYo
―――

対魔英仏海峡戦線 状況経過


時刻表記:グリニッジ標準時 


9:38

 イギリス清教 必要悪の教会 最大主教代理 統括官補佐、
 兼 第二軍団最高特務執行官 シェリー=クロムウェル、ドーバー市入り。

 同市域の守備に当たる英陸軍の2個連隊、
 必要悪の教会 第四特務戦闘団 通称『アニェーゼ部隊』、
 及びその他2個魔術戦闘団と1個騎士大隊と合流。


9:39

 英仏海峡に対魔結界が展開される。


9:41

 英内閣及び王室、
 第三級戦時体制(国家総力戦の危険性)から第一級戦時体制(国家存続の危険性)へと引き上げを発表。

 前日に発令されたサウス・イースト・イングランド南部と同じく、
 グレーター・ロンドン及びイースト・オブ・イングランド全域にも、民間人の北部への避難命令発令。
 その他の地域へは即時避難勧告発令。


9:52

 全英国軍最高司令官代理 第二王女キャーリサ、
 騎士団の1個連隊、王室近衛侍女の1個大隊、及び親衛騎士隊を率いカンタベリーの後方作戦指揮所入り。
 ケント州及びイーストサセックス州に展開している全軍の直接指揮を開始。
714 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:01:40.66 ID:WIgFSnIo
9:58

 女王エリザード及び第三王女ヴィリアン含む主な王室関係者、
 騎士団の1個大隊 及び 王室近衛侍女の1個中隊、
 英陸軍近衛師団の1個連隊による警護・護送を受け、エディンバラのホリールード宮殿へ避難開始。


10:12
 
 英仏海峡、フランス側沿岸より悪魔の進軍が開始。

 陸軍の各砲兵・装甲部隊 及び 各遠隔攻撃魔術部隊、
 防御弾幕射撃の開始、英仏海峡にて火網の総展開。

 海軍艦船・航空隊及び空軍航空隊も火力展開。


10:27

 英仏海峡に展開の火網、一部効果確認されるも有効打判定無し。
 火網及び外殻結界は突破される。
 ドーバー市域にて直接戦闘による水際防衛開始。


10:31

 ディール市域、フォークストン市域にて直接戦闘による水際防衛開始。


10:37

 続けてニューロムニーからラムズゲートまでの全沿岸線にて衝突。


10:51

 イギリス清教必要悪の教会 対魔課次席執行官 
 兼 第二特務戦闘団 『天草式十字凄教』教皇代理 建宮斎字、
 騎士・魔術師混成師団を率いドーバー市域に到着。

 シェリー=クロムウェル及び現地部隊と合流し展開、戦闘参加。
715 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:04:09.61 ID:WIgFSnIo
10:54

 ディール市域陥落。
 該当地域守備隊の被害は甚大。組織的戦闘の続行は不可。
 守備部隊の生存者に向け、後方に即時撤退命令が発せられる。

 ディール城の『駒』が破壊されたことにより、沿岸線の対魔結界破断。
 第一次防衛ラインとその結界を突破した悪魔、急速に周囲に進撃。
  

10:59

 建宮斎字、第一次防衛ラインを突破した悪魔を迎え撃つ為、
 『天草式十字凄教』及び連隊規模の騎士・魔術師混成部隊を率いドーバー市域より北上。

 ディール市とドーバー市間の中間、リングアルドの村近郊にて、ディール方面より進軍してきた悪魔と衝突。
 

11:04

 ディール方面から北上して来た悪魔によって強襲され、サンドウィック市域陥落。
 該当地域守備隊の被害は甚大。組織的戦闘の続行は不可。
 守備部隊の生存者に向け、後方に即時撤退命令が発せられる。


11:01

 騎士団長、
 騎士団の1個連隊と2個魔術戦闘団、イギリス海兵隊の一部部隊と英陸軍の1個連隊を率い、
 ヘイスティングス入り。
 同市域内の部隊と合流し、悪魔と戦闘開始。

 シェリー=クロムウェル、フォークストン市に移動。


11:14

 サンドウィック方面より北上してきた悪魔により、
 マルギット及びラムズゲート市域、完全包囲・強襲され陥落。

 両市域からの撤退成功部隊は無し。
 生存者報告無し。


11:15

 キャーリサ、ケント州ドーバー区及びサネット区の第一次防衛ラインの崩壊を宣言。
 前線にある全守備部隊に向け、自己判断での第二次防衛ラインへの撤退許可を発令。

 (第二次防衛ライン  北からハーンベイ、カンタベリー、アシュフォード、ヘイスティングスを結んだ線)
716 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:07:15.77 ID:WIgFSnIo

11:16

 シェリー=クロムウェル、フォークストン及びドーバー市域の全守備部隊へ撤退命令を発令。
 彼女自身はフォークストン市に、
 『アニェーゼ部隊』と英陸軍の一部部隊はドーバー市に、周辺部隊の撤退を支援するため残留。
 
 建宮斎字率いる連隊、各地からの撤退部隊を援護しつつカンタベリーに後退。


11:18

 フォークストン市にて純粋な高等悪魔が10体以上確認され、シェリー=クロムウェルがこれらを掃討。
 その際の戦闘により、フォークストン市北西部シェリントンの1km四方の市街地が消滅。


11:19

 ニューロムニー市域陥落。
 周辺部隊の撤退支援のため 残留していた隊の生存者報告は無し。


11:20

 キャーリサ、カンタベリーにある直接指揮下の部隊から精鋭を選抜。
 この選抜部隊と親衛騎士隊を率い、カンタベリーの南南東約10km バーハムの村にまで前進。
 撤退部隊の支援にあたる。


11:22

 騎士団長率いる隊、ヘイスティングス市域の悪魔の排除完了。
 同市域周辺を完全掌握。

 今回の対魔英仏海峡戦にて、英国側の初めての勝利。

 この際の騎士団長の行った掃討戦により、ヘイスティングス市東部 オア周辺約1km四方の市街地が消滅。


11:40

 ドーバー市完全包囲される。


現在、アニェーゼ=サンクティスらが率いる各軍混成部隊が、ドーバー城および地下トーチカを拠点とし抗戦中。
同市の死守を試みる。生存者は約700名。

フォークストン市にてシェリー=クロムウェルが単独で交戦中。
717 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:09:16.11 ID:WIgFSnIo

現在までの英国側の損害 (戦死・重度の負傷合計)

陸軍
 正規軍  約18000名
 国防義勇軍 約4000名

空軍   約560名

海軍   約2200名

海兵隊  約150名

イギリス清教魔術師 約4000名

騎士及びその従卒 約2600名 

王室近衛侍女 約180名 


民間人死者数 推定8000名
(避難命令無視、もしくは何らかの事情により避難できなかった者)



現在までの英国側の戦果

 現時点までに英国領に侵入した個体の32%を排除。
 英国に向けられた推定全個体数の2割。
718 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:11:17.60 ID:WIgFSnIo

今後の経過予想

 開戦前を100%とした場合、現時点の英国の組織的戦闘能力は71%。
 現状のまま悪魔の攻勢が継続された場合、8時間後に50%を割ると推測され、
 その後は急速に減衰。

 8時間後 ケント及びサセックス地方全域が陥落
       絶対防衛線の崩壊 

 10時間後 ロンドン陥落
        避難に間に合わなかった民間人の犠牲の著しい増加
        
 22時間後 イングランド及びウェールズ全域が陥落
        急速な悪魔の侵略により指揮系統の崩壊 組織的軍事行動が困難になる 

 28時間後 スコットランド全域が陥落
        事実上の国家機能完全喪失

 29時間後 北アイルランド陥落
        事実上の英国消滅        


現状のままであれば、30時間以内に英国が消滅する確率は98%と予測される。

予測される結果を避ける為には、
英国側からの戦況を変える何らかの攻勢手段が必要と判断される。


この状況打開の為、12:10に全ての戦線にて攻勢に転じる予定。

騎士団長率いる部隊が、
ヘイスティングスから一度英仏海峡に出た後にドーバー港に強襲揚陸。
同市の残存部隊を確保した後、同市域を完全掌握し周辺へ進撃。

同時にキャーリサが先頭に立ち、
カンタベリー及びアシュフォードから各部隊が前進。

ドーバー、フォークストン、ニューロムニー、ディール、ラムズゲートの奪還及び掌握の後、対魔結界の再構築。
そして態勢の建て直しを図る。


作戦成功率は45%とされる。
成功した場合、英国の存続時間は最低140時間延びるとされる。


―――
719 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:13:06.64 ID:WIgFSnIo
―――

ドーバー海峡の海岸に沿い聳え連なる、
『ドーバーの白い崖』で有名な20km近くにも伸びる石灰岩の崖。

その天然の防壁の中ほど、切れ目の所に位置しているのがドーバー港であり、
それを見下ろすように後ろの高台にドーバー城が聳え立っている。

この港街の歴史は、判明している範囲内では紀元前1500年頃にまで遡れる。

青銅器時代から海峡間の重要な交易点として機能。
古代ローマ時代には、ブリタニア属州の玄関となり大規模な港が構築され。

中世には現在のドーバー城が築かれ、魔術的強化も施され。
第二次大戦時には、『ドーバーの白い崖』全体がトーチカ化され長大なトンネルが彫り抜かれ。
冷戦時には、最深部に核シェルターが構築。

現代、つい数日前までは3万(市域全体ならば約4万)の人口を抱える、
英仏海峡側の主要な港湾都市の一つでもあった。


そして今は。

英仏海峡対魔戦線の最前、孤立した拠点。
約700人の人間が絶望的な抗戦を続けている陸の孤島だ。


いや、実際に武器を持って戦っている人数はもっと少ない。

半数以上が重度の負傷を受けた戦闘不能の者であり、
戦力として機能しているのは200人にも満たなかった。
720 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:15:54.50 ID:WIgFSnIo

ドーバー城及び『ドーバーの白い崖』の地下を走る、とある幅6m程のトンネル。

度重なる増築と改良により、
魔術的石積み構造と近代の強化コンクリート補強が入り混じっているアンバランスな様相の壁が延々と続き。

その長い長い空間をぼんやりと満たす、
天井と床の端に取り付けられている非常灯のオレンジの光。

アニェーゼ「…………」

その一画の壁際にて、アニェーゼは胡坐をかき座りこみ。

部下のアンジェレネによって、左腕に受けた傷の手当てを受けていた。

アンジェレネ「もう少しですっ。も、もうううちょっと待っててください」

血に汚れた小さな手をせかせかと動かし、手当てを行うアンジェレネ。

アニェーゼ「……アンジェレネ、もういいです。他の方を看てやってください」

アンジェレネ「…………え、ええッ?でもまだ痛み止めの(ry」

アニェーゼ「痛み止めはいりません。感覚が鈍っちまいますから」


アニェーゼ「シスター・アンジェレネ。こいつは『命令』です。下に降り、他の負傷者を」


アンジェレネ「……りょ、了解。シスター・アニェーゼ」
721 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:18:41.82 ID:WIgFSnIo

アニェーゼ「…………」

この数ヶ月でアニェーゼ部隊も魔界魔術を併用した戦い方を覚え、
戦闘能力はローマ正教に在籍していたときよりも格段に向上している。

だが、中にはさほど戦闘能力が向上していないのもいる。

この三つ編みの幼いシスター、アンジェレネもその一人だ。

彼女は、実は魔界魔術は一つも習得していない。
はっきりと言ってしまえば、ローマ正教時代となんら変わりが無い。

真っ向から悪魔と戦ってしまったら、一瞬で凄惨な結果になってしまうだろう。
まあ、天界魔術以上に人を選んでしまう魔界魔術の性質上、仕方の無い事でもある。


冷ややかに、そして鋭く上司としての言葉をぶつけられたアンジェレネ。
しょんぼりとした面持ちでアニェーゼの下去り、
下の階層へ続く方に向かって行った。


アニェーゼ「………………ふー……」

そんな彼女の小さな背中を見送りながらアニェーゼは小さくため息をし。

後頭部を壁に預け、薄暗いトンネル内に視線を動かしていった。
722 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:19:36.87 ID:WIgFSnIo

トンネル内を行きかう、英軍兵士や魔術師、騎士。

床に置いた通信霊装や無線機と話し込む者達。

どの者も皆、その衣服は乱れ薄汚れ、
極度の緊張の連続によって顔には疲弊の色が滲んでいた。


むせ返るような汗と血のにおい、二酸化炭素濃度が高い劣悪な空気。

トンネル内のあちこちから響いてくる負傷者の苦悶のうめき声。

手当てしきれず、手遅れだった者を『送り出す』祈りの言葉。


アニェーゼ「…………」

このトンネル内を満たしているのは、
無我夢中になって足掻く強烈な『生』と決して目を背ける事のできない『死』。

『死への絶望』と『生への願い』が入り混じった、ある意味究極の空間だ。


彼女は異様な不快感を覚える一方。

なぜか、奇妙な『芸術性』を感じてしまっていた。
723 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:20:28.69 ID:WIgFSnIo

アニェーゼ「…………」

と、彼女の意識は僅かな時間だけ、この現実から浮遊し切り離されていたが。


こう幼く見えても必要悪の教会 第四特務戦闘団、

                                アニェーゼ 部隊
指揮官である彼女の名を冠した通称『Agnese Company』の指揮官であり、
このドーバー城拠点における司令官の一人でもある。

このまま『逃避』している事など許されない。


響いてくる部下の呼びかけが。


「―――ニェーゼ」


彼女を『最前線』という現実に引き戻す。


「シスター・アニェーゼ」
724 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:21:53.92 ID:WIgFSnIo

アニェーゼ「…………」

彼女は数回、トルクが落ちていた意識を覚醒させるべく強く瞬きをした後、
壁に預けていた頭部を挙げ近くの部下の方を見。

「シスター・アニェーゼ。報告です」

アニェーゼ「どうぞ」

指揮官のそれに切り替わった顔で、淡々と先を促した。

「シスター・ルチアより 第一城壁北東部の結界補強完了。戦死2名、他負傷3名出ましたが戦闘可能」

「第一城壁北部は敵の攻撃が激しく到達できず、との事です」


アニェーゼ「シスター・ルチアへ。『シスター・カタリナの隊と合流し再度第一城壁北部の修復を試みてください』」


アニェーゼ「第一城壁が一部でも決壊してしまったら、奴らは一気に雪崩れ込んで来ます」

「了解。伝えます。シスター・アニェーゼ」


アニェーゼ「…………それと今の時刻は?」

「12:00ちょうどです」

アニェーゼ「……」
725 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:24:00.46 ID:WIgFSnIo

ヘイスティングスから騎士団長の部隊がここに到着するのは、移動時間を見積もって12:18。
ここドーバー城が橋頭堡であり、イギリスの反転攻勢成功の大きな鍵となっている。


ここが落とされてしまったら、騎士団長らの部隊は上陸する際、
悪魔達からの猛攻撃を正面から受けることになり多大なる損害を出してしまう。


そして第一歩目からのその大きな『つまづき』は、
このイギリス側の攻勢作戦をも水の泡にしてしまう危険性がある。


つまり最低でもあと18分、、ここを守り切らねばならない。


アニェーゼ「(……全く…………)」

戦略兵器級最高戦力であるシェリーが居座るフォークストンはともかく、

実質200人程度しか戦力の無い、
いつ陥落してもおかしくないこのドーバーの拠点にそこまでの重責をかけるとは。

軍事的観点からすると、
リスクマネジメントが全く成り立っていないと一蹴するべきであろうお粗末な作戦だ。

アニェーゼ「…………」

まあ、だからと言って怒っても仕方ないが。

それにこのような作戦が通ってしまうという事は、
既にイギリスがそこまで追い詰められているという事でもある。

今更どうしようもない。
726 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:26:42.71 ID:WIgFSnIo

アニェーゼ「…………」


求められている時間は、『たかが18分』。


『されど18分』、だ。


この状況下での『18分』、というのは短くて非常に長く、
そしてとてつもなく不安定で不確かな時間だ。

このまま18分特に問題なく守りきれるかもしれないし、
敵の攻撃の手が薄れ、援軍が来なくとももしかしたら24時間は守りきれるかもしれないし。

逆に突如、大量の純粋な高等悪魔が出現し数分で陥落してしまうかもしれない。


何が起こるかわからない。


いや。


こういう時こそ『何か』が起こるのが世の常だろう。


世の中とはそういうものだ。
727 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:27:31.90 ID:WIgFSnIo
普通に考えたらかなり確率が低いのに。
こういう時に限ってピンポイントに。


「―――報告!!第一城壁南部が決壊!!!ナイト・ファーガス含む少なくとも9名戦死、負傷者多数!!!」


その時、通信霊装の前の修道女が、アニェーゼの方を振り向き声を飛ばした。


「現在ブラザー・パトリックの指揮の下で交戦中ですが、もちそうにないと!!!!」


アニェーゼ「…………」

その言葉を冷ややかな顔のまま静かに聞き。
アニェーゼは心の中で呟いた。


ほら。やっぱり来やがったじゃないですか、と。


アニェーゼ「総員に告げてください……『動ける戦闘要員は地上に』」

アニェーゼ「『総戦力をもって「最後」の攻勢防御に転じます』」


アニェーゼ「それとカンタベリーの作戦本部にこう送ってください」


アニェーゼ「『陣地線崩壊 状況は絶望的 増援上陸までの橋頭堡維持は困難』」


アニェーゼ「『本拠点は陥落濃厚』、と」


―――
728 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:34:05.00 ID:WIgFSnIo
―――

5万の人口を有すフォークストン市。

その街は今、一面の廃墟と化していた。

破壊された建造物よりも、破壊されていない建造物を数えた方が確実に早い。
いや、そもそも破壊されていない建造物を探す時点でかなり苦労するだろう。


その廃墟の街の上、突如轟き瞬く大量の金色の稲妻。


そしてその直後に、
大地を裂き猛烈な速度で天に伸びる、数百本もの巨大な『黒い柱』。


それは太さ10m、高さは実に400にまで瞬時に達っする『腕』。

その巨大な腕の表面には、
良く見ると何本もの『大砲やミサイル』が突き出していた。

今、英仏海峡にて戦っている者達ならば、
あれが何なのかは一瞬で判別できるだろう。

人造悪魔兵器の『大砲やミサイル』だ。


ただ、この腕から生えているこれらの兵器は、
他の人造悪魔兵器とは違う点が二つある。


一つ目。

既に『死んで』いる。

二つ目。


 ゴーレム
『 傀儡 』化している。
729 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:36:35.41 ID:WIgFSnIo

大地から生えた数百の巨大な腕。
その表面の、総計万を超える大砲が一斉に火を噴き、ミサイルが放たれた。

廃墟と貸したフォークストン市の上空を彩る、凄まじい爆発の連続。
さながら濃厚な対空砲火の如く。

その規模は凄まじく、衝撃波や破片が街に降り注ぎ、散らばっている瓦礫を更に砕いては吹き飛ばす。
この地響きは遠くロンドンでも容易に観測できるほど。

そこらの下等悪魔ならば、一瞬で塵になってしまうレベルだ。

これほどの砲火、何に対して行われているか。


それは『いくつかの金色の稲妻』に対してだ。


効果は直ぐに現れる。


爆発の嵐の中、稲妻がぷっつりと途切れ、
その光の先端から大型の悪魔が姿を現した。


大量の魔の力を帯びた弾幕を浴び、
電撃の衣を引き剥がされてしまったブリッツだ。
730 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:38:28.01 ID:WIgFSnIo
数は2体。

『翼』をもがれてしまったブリッツ達。

その雷獣らが、人の耳でもわかるほどの苛立ちが篭った咆哮を上げながら、
大地に降り立とうとしたその時。


宙を舞っていた内の一体に向けて、
黒い大きな塊がどこからとも無く『砲弾』のように飛来してきた。


それは、良く見ると人型。


身長4m程の『黒い巨人』だった。


石なのか金属なのか、それとも肉なのか見分けの付かない、
無機質と有機質が混ざった異様な体表。

腕は二対あり、一対は通常の肩の位置から。
一際長く大きいもう一対は、背中から伸びていた。


その腕は体に比べてかなり大きく、
背中から伸びている方にいたっては、胴と同じくらいの太さと身長以上の長さを誇っている。


ブリッツはその奇妙な巨人の飛来に即座に反応し、角や全身から放電。
そして巨大な鍵爪の付いた両手を、その向かってくる巨人の方へとかざし。

極太の電撃の『柱』を放った。
731 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:39:46.63 ID:WIgFSnIo

だがその凄まじい砲撃でも、巨人から腕の一本を千切り飛ばしただけだった。

勢いが殺されること無く、
残る3本の大きな腕を持つ巨人はブリッツの下へと到達し。

二本の腕で、即座にこの電撃悪魔の体をがっしりと掴み固定。


『―――ウロチョロすんじゃねえ。チカチカ目障りなんだよ』


その時、巨人の内部からくぐもった女の声がブリッツに向けて放たれた。

そして次の瞬間。

ブリッツの返答を待たずに瞬時に、
(もっとも、ブリッツが人語で言葉を返せるかどうかは疑問だが)


巨人のハンマーのような三本目の腕が、この悪魔の頭部に向けて叩き降ろされた。

強烈な一撃がブリッツの頭部を叩き潰し、上半身を砕き。


残った下半身を猛烈な速度で地面に叩き落す―――。
732 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:42:40.01 ID:WIgFSnIo

その時もう一体のブリッツが咆哮を上げ、巨人の方へと電撃となり『飛翔』してきた。

いくらか電撃の衣を回復させたのか、
ブリッツは猛烈な速度で巨人の方へと突っ込んでくる。

とはいえ、その速度は雷速と比べたらかなり遅かったが。
まだ完全に回復しきていないのだ。


そしてそれが、この雷獣の『死期』を決定付けた。


巨人は宙で身を捻り、その方向へと上半身を向け。


タイミングを見極め、突っ込んできたブリッツへカウンターを放った。

凄まじい速度で交差しすれ違う、
黒い槌のような巨大な腕と、大きな刃を生やした雷撃を纏う腕。


巨人の拳はブリッツの上半身を叩き潰し吹き飛ばした。


同じくブリッツの巨大な凶刃が、巨人の胸部に食い込む
硬質な金属を引きちぎっているかのような凄まじい音を響かせながら、その黒い体表の一部を剥ぎ取り。


そしてそのブリッツの腕は、『上半身』という根元が消えてしまった為、
繰り出された慣性に従い砲弾のようにすっ飛んでいった。
733 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:45:31.78 ID:WIgFSnIo

地響きを打ち鳴らしながら大地に降り立つ、二体のブリッツを屠った巨人。

その巨人の胸元の部分は、
先のブリッツの一撃によってぱっくりと割れていた。


そしてそこから見える、
『人間の上半身の左側』。

獅子のような荒れた金髪、褐色の肌、
薄汚れたゴシックロリータの装い。

この者が、この街のあちこちに生えている巨大な腕の『主』であり、
そして人造悪魔達をも傀儡化し操っている張本人、


シェリー=クロムウェルだ。


彼女の上半身の右側は巨人の肉の中に埋もれており、左腕も二の腕から肉の中。

胴と同じく半分だけ露になっている顔、
その境界線はまるで彼女の皮膚と巨人の肉が溶け合っているかのように曖昧だ。

出現した人の身の部分が異形の存在から生えているように見えるせいで、
退廃的なコントラストを際立たせ、余計に不気味な雰囲気を増させていき。

更にその彼女の形相が、その威圧感をより強くする。

浮かび上がっているのは凄まじい憤怒の色。

祖国の地を蹂躙された事への激情。

纏っている『魔』の影響か、それとも人間が本来持つ『危うさ』の一面か。

人の目・人の顔であるにも関わらずシェリーの形相は、
とても人のものとは思えないほどに恐ろしくなっていた。
734 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:47:20.56 ID:WIgFSnIo
シェリー『……………………』

一体目のブリッツによって飛ばされた腕が、
軋む様な音を発しながら見る間に再生していく。

また別の地では、先ほど倒された二体のブリッツの躯を、
地面から生えている巨大な腕が『喰らって』取り込んでいた。


喰らえば喰らうほど力は増していく。

死骸から得られる力など、その悪魔が生きていた時の極一部にしか過ぎないが、
それでも『塵も積もれば山』となる。

そして先日取り込んだタルタルシアンのような大悪魔なら、死骸でも巨大な力を得られる。


それが彼女の魔術、『真の魔像』と化した『ゴーレム=エリス』。


彼女が『乗っている』この巨人も、この街の至るところに生えている数百本もの巨大な腕も、
皆全て彼女の『ゴーレム』の一部。

展開された彼女の力によって フォークストン市は全域が完全な廃墟と化したが、
それと引き換えに悪魔の手からは完璧に守られていた。


ゴーレム魔術は元々かなり高難度とされていたが、
今や彼女のそれは、もう『高難度』で片付けてしまうレベルではなかった。

『教皇級』という表現でも足らない。
『神の右席級』、『魔神級』、という表現でようやくしっくりくるか。


彼女の『ゴーレム=エリス』魔術は、
正に神話級・伝説級、いや『神の領域』と言うべき水準にまで到達していた。
735 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:48:07.60 ID:WIgFSnIo

これは、単に『悪魔の力を手に入れたから強くなれた』、という訳ではない。
シェリーの元からの魔術的才と優れた技術があってこそだ。

下手をすると、王室の者ですら処刑されてしまうほどの重罪を問われていながらも、
その才と引き換えに『ほぼ自由の身』と言う恩赦を手に入れたほど。

それほど彼女は、代えの効かない優れた魔術師なのだ。


また、彼女のような異端的な天才は、実は天界魔術には向いていない。


天界魔術は、扱いは簡単だがその分得られる力はには限度がある。

魔界魔術は、扱いが非常に難しい分得られる力は、理論上は上限無し。


つまり、シェリーのような人間は元々魔界魔術向きと言っても良い。
(逆に言えば、彼女のように非常に優れた者で無ければ、魔界魔術には到底手が出せない、と言う事だ)


シェリー『エリス、旨いか?』

半身を露にしたまま、小さく呟くシェリー。
もちろん、言葉を返してくる者はいない。
フォークストン市域にて、人語を話せるのは今はシェリーただ一人。


シェリー『―――そうだよな。まだまだ足らないわよね』


だが、シェリーは『会話』を続ける。
姿の無い、いや、頭の中の何者かと話しているかのように。


シェリー『まだまだ1%も喰い切ってないしな』


シェリー『我が祖国の地を踏んだ悪魔は、全部食べ切らなきゃあ、、、な。エリス』
736 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:53:23.25 ID:WIgFSnIo
シェリー『………………』

と、その時。

シェリーは『何か』に気付き、宙を見上げスンと鼻を鳴らした。

シェリー『(………………次が来た……か……)』

ゴーレムの『鼻』が、更なる悪魔の接近を捕らえたのだ。


シェリー『(……高等悪魔が3……いや4体か?)』


フォークストン市域の部隊が撤退し、
巻き添えの気兼ねなく『好き放題』暴れまわっているシェリー。

最初の内は人造悪魔兵器の集団がシェリーに群がってきていたが、
当然このシェリーには傷一つ与えることもできずに一蹴。
取り込まれ、人造悪魔兵器達はシェリーのゴーレムの肉と化した。

それ以降、このフォークストンには下等な悪魔達は寄り付かなくなった。
代わりに来るのは、少数の高等悪魔達。

悪魔側も少数精鋭で仕掛けてきてるのだ。
そして現に、シェリーにとっては雑魚の群れを相手にするよりも面倒だ。

特にブリッツのような超攻撃型の高等悪魔を、複数体同時に相手にするのはさすがにシェリーでも厳しい。
そもそも、パワー型のシェリーにとってブリッツは非常に相性が悪い。

それこそタルタルシアンを取り込んだ今なら、
そのパンチの一撃は下手な大悪魔を卒倒させる事も可能だろうが、
当たらなければ意味が無いのは当然だ。


数十分前にブリッツを10体程相手にしたが、その時は危険な瞬間がいくつもあった。
下手をしていたら普通に死んでいたであろう事も、だ。

シェリー『(…………チッ…………)』
737 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:57:04.04 ID:WIgFSnIo

シェリー『(……………………これは……?)』

と、そうして感覚を研ぎ澄ませていたところ。
彼女はまた別の何かを嗅ぎ取った。

悪魔とは『別』の存在だ。

シェリー『………………』

巨体を動かしその反応の方角、
夜とも昼とも言えない不気味な空の下の英仏海峡を見やった。

シェリー『(…………違う。悪魔ではない…………天界魔術……いや……)』

力の匂いは魔ではなく天界魔術と『どことなく』似ているが、微妙に違う。

シェリー『(…………待て……これは……ッ……)』

だが完全に未知のもの、という訳でもない。
『今』となっては悪魔よりも出くわす機会が無い性質だが、
このタイプの存在の事をシェリーは良く知っている。


シェリー『(―――神裂…………)』


『半天使になっていた神裂と同じ匂い』だ、と。

そう、既存の『薄い』天界魔術の力ではなく。



『純正』の天使の力だ。
738 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:58:48.40 ID:WIgFSnIo

シェリー『(……どうなってる?)』


『純正の天の力を纏った何か』が、海の向こうに。


神裂ではない。
確かに性質は同一だが、雰囲気が違う。

『別の個体』だ

ヘイスティングスから発った強襲揚陸部隊でもない。
それどころか、まずイギリスではないのは確かだ。

非常事態のため、シェリーの知らない封印されていた極秘の術式が起動されたとしても、
最高司令官の一人であるシェリーの元にも必ず一言あるはずだ。

イギリスでも悪魔でも無い、別の勢力の『何か』だ。

シェリー『…………騎士団長。到着までどれくらいだ?』

彼女は即座に通信霊装を起動し。
もう一人の最高司令官へと回線を開いた。

騎士団長『あと……約14分といったところだ』

シェリー『今は洋上か?』


騎士団長『そうだが?』

シェリー『…………何か、変わった事があるだろ?』


騎士団長『……そっちからでもわかるか?……海が穏やか過ぎる』

騎士団長『海上でも激しい交戦を予測していたが、まだ一体とも遭遇していない』


騎士団長『それと観測班からの報告だとな、異常な濃度のテレズマが海峡に充満してるらしい』


騎士団長『力を解放した際の神裂火織に匹敵する程の数値だ』


シェリー『…………』
739 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 01:01:57.83 ID:WIgFSnIo

シェリー『……悪魔でもない、我々でもない、第三の何かが英仏海峡に侵入してる、間違いないな?』


騎士団長『天の力を纏った何かが、な』


シェリー『…………』

騎士団長『……ローマ正教かフランスが、追い詰められて「最後の審判級」の術式か何かでも使ったか』

騎士団長『それとも、ドイツかオランダ辺りの「ヴァルキリー」共がついに何かやり始めたか』

シェリー『…………大陸側からの何かの報告は受けていないか?』

騎士団長『いいや。どの国内機関の情報部も、まともに機能していない。混乱状態だ』

騎士団長『今は国内の指揮通信網を維持保全するだけで精一杯だからな』

騎士団長『我々は今、自国周辺の外域に対しては盲目同然だ』

シェリー『…………だろうな』

シェリー『……とりあえず私はこれから「お客さん」の相手するわ。もう1分後くらいに接敵するしな』

シェリー『ドーバーの連中にはそっちから伝えといて。警戒するようにな』


騎士団長『ああ、そのドーバーの残留部隊なんだがな』

騎士団長『先ほどから応答しない。現在、斥候が確認に向かっている』


シェリー『………………………………そうか。わかった』
740 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 01:03:50.87 ID:WIgFSnIo

と、シェリーが通信回線を切断しようとしたその時。


騎士団長『――――――……待て!!!!』


シェリー『……何?』

通信魔術の向こうで、
確認が取れたのか?確かか?と騎士団長が部下と話す声が聞こえ。


騎士団長『………………この「異変」の原因の一部、判明した』

騎士団長『テレズマの解析が完了した。時間が無いから結論から言うぞ』




騎士団長『―――「ウリエル」だ』




シェリー『―――………………………………は?』


騎士団長『その核であろう「個体」の大まかな位置も判明した』



騎士団長『ちょうど今、ドーバーに到達するぞ』


―――
741 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 01:06:01.95 ID:WIgFSnIo
―――

一方その頃。

ドーバー城。

人造悪魔達の凄まじい砲撃、そして満を持して現れたかのような複数体の高等悪魔、
ゴートリングの強襲によって城壁は何重にも張った結界もろとも崩壊。

残留部隊は多大なる損害を出し、キープ(日本で言う『本丸』)に撤退。


そして今、その追い詰められつつある人間達と追い込みつつある悪魔達が、
キープ前の広場にて最期の戦いを繰り広げていた。

キープ唯一の門の前に固く陣形を組み、
様々な術式で悪魔の猛攻を何とか退けている魔術師や騎士達。

その後ろでは、門の封鎖の為の術式を急いで構築している魔術師達。


アニェーゼ=サンクティスはその最前線にて指揮を直接執り、
そして自身も直に杖を手に戦っていた。


ここを突破されてしまったら、後はもう手の内用が無い。
戦える者達はここにいる数だけ。

キープの中、
そしてその下のトーチカには負傷者しかいない。


門の封鎖が完了するまで、
なんとしてでも持ちこたえねばならないのだ。
742 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 01:08:52.10 ID:WIgFSnIo

人造悪魔兵器の砲撃や銃撃を、簡易の結界を出現させる防御魔術で防ぎ。
突っ込んでくる悪魔には、魔術の集中砲火。

それらを掻い潜ってきた悪魔には、近接武器のファランクス。


それでも、この陣を突破してきそうな個体には。


アニェーゼ「―――つァッッッ!!!!!!!!」

アニェーゼが放つような、
魔界魔術で異様なほどにまで強化された強烈な一撃をお見舞いする。

アニェーゼが手に持っている杖の先を地面に叩きつけ、
そして地面を抉るように一気に横に引く。

すると見えない巨大が何かが、その杖の先と同じ動きをする。
とんでもない威力で。

標的とされた悪魔は一度見えない何かに上から叩き潰され。
そして今度は潰されたまま真横へと引きずられ、見るも無残な姿と化す。


地面に穿たれた凹みは直径10m近く。
そのまま横へ広がった長さは40m、広場を横切り崩れた城壁にまで達する。
743 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 01:10:02.21 ID:WIgFSnIo

だがここまでの火力があっても、明らかに劣勢だった。
陣形を組んでいる者の数は一人、また一人と徐々に減っていく。

アニェーゼら残留部隊が門の前に集い、持ちうる全ての戦力を集結させているのならば、
もちろんこのドーバー周辺の悪魔達もここに一点集中する。

その火力・戦力の差は圧倒的。

アニェーゼ達が何とか守っているキープは一応原型を留めているも、
周囲にそびえていた堅牢な城壁は、今や跡形も無くなっていた。
ところどころに土台の廃墟があるだけだ。


アニェーゼ「(―――もちま……せんね―――)」


杖を振るい指示を飛ばしながら、アニェーゼもここにいる皆と同じ事を思う。
既に限界、いや、限界を超えている、と。

しかし誰も戦うことはやめなかった。

武器を持つ手が血にまみれ、触角すら無くなって来ても。

隣にいる仲間の血飛沫を浴びても。

隣の仲間の頭部が砕けても―――。
744 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 01:12:31.81 ID:WIgFSnIo

人は自身の死を悟った時は、妙に思考が冷静になる場合も多い。
そして余計な『飾り』を捨てた自身を認識し、やっと自己の深層心理を自覚できる。

アニェーゼの場合。
その極限の中で浮き彫りになったのは。


アニェーゼ「(―――天にまします我らの父よ)」


『信仰』だった。


両親を無くし路上生活を強いられ。
何もかもを失った時も、唯一手放さなかったこの『信仰』。


アニェーゼ「(―――我らから闇を払い給え)」


そしてその『信仰』は。
今、教義の中では『相反する存在』とされているものによって叩き潰されようとしていた。


アニェーゼ「(―――我らに闇に打ち勝つ力を与え給え)」


ゴートリングが翼を広げ。

キープの門の前に陣取る彼女達を、
囲み見下ろすように宙に浮いていた。


その数、12体。


アニェーゼ「(―――我らに。その御力を。遣わせ給え―――)」
745 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 01:13:45.02 ID:WIgFSnIo
一度に相手にするのは2体が限度。

一斉に12体も来られたら。

ここは屠殺場と化す。


アニェーゼ「(願わくば―――)」


アニェーゼは心の中で祈りを続けながら、
ゆっくりと見上げ、正面に位置しているゴートリングを見。


アニェーゼ「心半ばで散った我らが兄弟を。我らが姉妹を。かの御国へと導き給え―――)」


自身達に死を与えるであろうその魔を見。


アニェーゼ「(―――彼らから苦痛を払い給え)」


そして『天上』を見。


アニェーゼ「――――――アーメン」


最後に声に出し、小さく十字を切った。
それはゴートリング達が一斉に動いたのと同時だった。


そして。


その彼女の声が届いたのか。

届かなかったのか。


それを知るのは正に『天のみぞ』であるが―――。



―――天の力が『この場』に働いたのともほぼ同時だった。
746 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 01:14:41.58 ID:WIgFSnIo
『それ』は突然やって来た。

連続して響いていた破砕音・爆音が突如止んだ。

絶え間なく続いていた悪魔達の攻撃も。
そして異質な。

悪魔とはまた違う『異界』の威圧感。

アニェーゼ「―――」

アニェーゼは知ってる。
この感じの重圧は、前にも何度も味わっている。


天使化した神裂と同じだ。


悪魔達はその瞬間ピタリと動きを止め、みな上の一点を見つめていた。
その視線の先は、ちょうどキープの頂点あたり。

魔術師や騎士、そしてアニェーゼも振り返り、
背後のキープの頂点へと視線を向けた。



アニェーゼ「――――――」



その先にいたのは。


『人』、いや。


『人』と呼べるのかわからない、『人にも見える』何かが浮遊していた。
747 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 01:17:35.21 ID:WIgFSnIo

体は人間に見える。
黄色の、昔のフランス市民の庶民衣のような造形の衣服を纏った若い女性らしき姿だ。

口からは先に『十字架の付いた長い鎖』が垂れ。

その顔は白く、そして目の縁が異様に際立っていた。
厚く化粧をしているのか、それが地肌なのかは『わからない』。

というのも、この存在が人間かどうか『わからない』からだ。


瞳が、金色に輝いているのだから。


神裂のように。


ここが、この存在が人間かどうか判別しがたい一つ目の点だ。

そして二つ目は。


背中から伸びる、『三対六枚』の巨大な『黄金色の羽』。


長さは一枚、100m近くにまでなるか。
非常に高速に微振動しているのか、大気全体が共鳴のように揺らいでおり、
翼自体も残像の如く実体間が無い。


これらの、キープ上空にいる何かの風貌。

強いこの世の物質とは思えない感覚。


いや、正にそうだろう。
少なくとも人界の域ではない。


神裂と同じような域だろう―――。



―――『本物の天使』のような。
748 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 01:19:30.44 ID:WIgFSnIo

アニェーゼ「―――」

見上げていた者達は皆、
アニェーゼを含み目を丸くし呆然としていた。

あまりにも突然であり、理解しがたく。
皆思考停止していた。


悪魔達も、動きを止めジッとその何かを見つめていた。


そして。

その場の全員の視線を浴びる『何か』がゆっくりと口を開く。



『―――「我が光は神なり」』



脳内に直接響いてくる、発信源がわからないような。


異界特有のエコーのかかった声。




『子らには「天恵」を―――』




『―――悪には「天罰」を』
749 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 01:20:23.92 ID:WIgFSnIo
そしてスッと右手を天に掲げ。



『「神の火」 「神の光」の名の下―――』





『―――裁きを―――』




そう告げると同時に、今度は右手を下ろし。

指先を地面に向けた。


その瞬間。


余りにも場違いな『心地よい風』が一体を優しく吹き抜け。

ドーバー城周辺にいた悪魔達が一瞬で『砕け散った』。


特に激しい破壊も無く、静かに。
数千、いや万に達していたであろうその全てが。


風に吹かれる砂のようにかき消され。


塵となる―――。


―――
750 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 01:22:15.44 ID:WIgFSnIo
今日はここまでです。
次は早ければ6日辺りに、遅くとも8日までには。
751 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 01:23:51.84 ID:E3CMGzco
おつ!
752 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 01:30:02.79 ID:SHEKvgEo
さすが俺のヴェントタンや!
753 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 02:47:00.50 ID:NOfgOQw0
乙ですわ

そして他愛も無い雑談にも律儀に答えてくれる>>1はマジ天使
754 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 05:00:38.60 ID:H4b4hCI0
おお、再開してた。

(´ω`)ノシ 練りに練って戻って来ましたね乙♪
755 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/04(土) 12:10:31.52 ID:9uV70zU0
ヴェントでこんなえ激しいと
アックアさんどうなってしまうん
756 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 18:42:27.05 ID:gQx1DADO
ガチで戦争だな…
757 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/05(日) 17:06:26.83 ID:RAosDzI0
ウリエルって六枚羽だっけ?
758 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 20:16:50.38 ID:8DCWjo6o
十字教的には微妙だけど、超絶美形主人公的には六枚羽で執行官でキカイダー。
759 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 22:10:30.05 ID:9x52AFIo
熾天使の羽は6枚
760 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 23:41:22.73 ID:2ivXHpwo
少し遅くなります。
日付が変わって9日になってしまいますが、0時30分までには投下始めます。
761 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 00:21:14.46 ID:Z.ouEUA0
ついにきたか
762 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:30:33.92 ID:T/QcCx2o
―――

半ば崩れかかっている、地上へと続いている長い長い非常階段。
壁にはヒビが走り、ところどころ崩れてもいる。

その階段の中途にて。
佐天はキリエを庇い、床に座り込んでいる彼女を抱きかかえるようにして屈んでいた。

佐天「…………はぁッッッ……!!!な、……んなのよもうッッッ!!!!」

ルシアの言葉に従い、急いで大きな地下倉庫の中を進み、
そして非常階段を見つけ駆け上がり。

その時だった。

大地震の如くの凄まじい揺れが襲ってきたのは。

佐天「(やっぱり……普通の地震…………とかじゃないよね…………ここも崩れそう……)」

佐天「早く行きましょう!!!ここはちょっと、というかかなりマズイよ!!!」

立ち上がり、キリエの腕に手を伸ばし先を急ぐよう促す佐天。

日本語、それも早口のそれは当然キリエは訳せなかったが、
それでも佐天の表情や体の大きな動作でどのような事を言っているのかは一目瞭然。

キリエ「…………ええ!!!」

佐天はキリエに肩を貸し、二人は階段を足早に昇っていった。
763 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:32:11.49 ID:T/QcCx2o

延々と続く階段。

キリエは身長が高く、健康的かつグラマーな体系。
決して『太っている』という訳ではないが、
小柄な佐天からすれば『それなり』に、というのも当然。

佐天「はッ……ふッ…………はッ……」

キリエの体を支えながら階段を昇る彼女の体力は、どんどん減っていく。

そしてキリエもまた息を切らし、足元が覚束なくなっていた。
胸に深々と杭が突き刺さっているのだから当たり前か。
普通ならば既に意識を失っていてもおかしくはない。

だが二人は黙々と昇って行く。

一歩ずつ一歩ずつ。

壁にある地下階層を現す数字が一つ、
また一つと小さくなり地上に近付いていく。

そして。


佐天「……!や、やった!!!!地上ですよッッ!!!!!」

キリエ「……はあッッ………………」

階段が終わり、やや広めのフロアに到達。
二人は外へと繋がる、大きな金属製のドアへと向かい。

ようやく、二人は地の底から脱する。


が。
764 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:34:14.22 ID:T/QcCx2o
勢い良く開け放たれた、そのドアの向こう。

佐天「―――…………そ、そんな―――…………」

キリエ「!!!!!」

廃墟に囲まれた、駐車場か何かの広場。

そこに、まるで彼女達を待っていたかのように数十体もの悪魔がいた。

佐天「(……どどどどどどどうしよう!!!!!どどおどd)」

おぞましい赤い瞳が二人に向き。
餌を見つけ、喜んでいるかのごとく耳障りな不気味な唸り声を上げ。
悪魔達はゆっくりと彼女達二人を囲む輪を狭めてくる。

佐天「!!!!!」

どう考えても来た道を戻った方がマシ、と、
佐天は背後のドアを開け再び戻ろうとしたが。

フロアの向こう、地下へと続く非常階段の方からも悪魔が這い上がってきていた。
あざ笑うかのような不気味な声を発しながら。

キリエ「……!!ダメ!!!!」

佐天「ああああ!!!!!!!」

半ば焼けになりながら佐天はドアを強く閉じ、
そして振り向き獰猛な捕食者達と再度向き合った。

おぞましい存在達は、既に3mの所にまで迫ってきていた。

佐天「(―――………………走って…………足下を何とか潜り抜けて…………)」

歯を噛み締め悪魔達の瞳を真っ直ぐ睨み、
どう考えても無駄、と自覚しつつもそれでも生き延びる道を探る佐天。


佐天「(…………やるしか…………せめてキリエさんだけでもここから……)」

明らかに困難、それでも佐天は迷わず決断を下し勇気を胸に。
肩を貸しているキリエをギュッと抱きしめるように支え。

一気に悪魔達の方へ、その隙間へと駆け出―――


―――そうとしたその瞬間。
765 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:35:32.79 ID:T/QcCx2o
佐天「わッ―――わわわ!!!!!!!!!」

キリエ「―――!!!!!」


突如、凄まじい爆音が響き渡った。
いや、『音』と言うよりは大気の振動、『衝撃波』と言った方が良いか。

もちろん飛び出すことなく、二人はその場に屈み頭を下げて伏せった。

何が起こったのか。

普通の人間である佐天にとっては、
『いきなり爆風が吹いた』としか表現できなかった。

これがもし聖人や悪魔などの視点からならば、
猛烈な速度で暴れ周り次々と『素手』で悪魔をぶちのめしてく『女』が見えただろう。
悪魔達が吹っ飛び、砕け、引き裂かれてなぎ倒されていくのが。

時間にして0.1秒も無い。

そんな僅かな一瞬の間に、数十体いた悪魔は見るも無残な有様になっていた。

そしてその惨状のど真ん中、佐天達の前6m程のところに。


長身の金髪の女が悠然と立っていた。


パッツン前髪の上、額に押し上げたゴーグル。
作業着のような服の上には大きめの白いエプロン。


見た目の歳は20代前半くらいか、
気が強そうな青い瞳の整った顔立ちの白人女だ。
766 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:37:23.95 ID:T/QcCx2o
いきなり現れた、見ず知らずの女。
そして目を離した一瞬で肉塊となってしまった大量の悪魔。

佐天「…………???!!!!!」

キリエ「…………??!!」

状況を掴めず、当然二人は驚き動揺するが。


「『保護』はいつもあいつの役割なんだけど」


そんな彼女達の表情など気にせずに、女はやや機嫌悪そうに口を開いた。


「あいつ今、手空いて無いから」


佐天「―――だ、だだだだだだだだだだだ誰ッッッ???!!!!」


「良いから来な。説明は後だ」

女は佐天のどもりまくってい声をサラリと受け流し、
面倒臭そうにくいっと首を掲げて同行するよう催促。


キリエ「(―――この人…………聖人……?)」

そんな女をキリエはジッと見つめながら、昔の記憶を思い出していた。

数年前にフォルトゥナに来ていた神裂と雰囲気が似ているのだ。
風貌や人格ではなく、その『存在感』がどことなく。


キリエ「…………行きましょう。あの人、信用できると思います」


佐天「……………………へ?へ?」


「早くするんだ。ほらチャッチャと!!!」


佐天「ははっははい!!!!!!」


―――
767 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 00:38:48.82 ID:XuDWdVwo
シルビアか
768 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:39:10.32 ID:T/QcCx2o
―――

深部から真上までぶち抜かれた、
冥府まで続いているかとも思えてしまう直径300mにも達する巨大な穴。

縁が崩れ、複数のビルを巻き込み穴の中に沈め。
まるで周囲に侵食していく生物のように徐々に大きくなりつつあった。

その大穴の縁に悠然と立っている一人の男。


アリウス。


アリウス『……………………』

葉巻を燻らせ、ゆっくりと空を見上げるその彼の姿は、
両手の先がほのかに赤く光っている以外は特に普段と変わりは無い。

彼自体は、だ。

その周囲の状況は、とても『普通』とは言えなかったが。

彼を取り囲むように浮かび上がっている凄まじい数の、光で形成された術式。
それらが生き物のようにうねり、そして常にその構文の内容も変化していっている。


それらの構文の一つ一つは、魔界製の『本物の魔導書』に記されてもおかしくは無いものばかり。

一構文だけでも、その解読にはローマ正教や
イギリス清教が総力をあげても一ヶ月はかかってしまう代物だ。

更に意味を検証・完全解析し、起動可能な複製構文を作るとなると数十年もかかるかもしれない。
そもそも、魔界言語の部分は解読そのものが困難であろう。
769 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:43:24.78 ID:T/QcCx2o

そんな代物が秒間万単位で浮かび上がっては、リアルタイムで変動し、
新たな構文をその場で構築していく。


同じ構文は一つも無い。
全てがその一瞬一瞬の目的の為だけに作られ、使い捨てられ消えていく。


もし魔術世界に広く発表されれば、
様々な分野で革新的技術発展がおきてしまうような知識の結晶が。


そして、そこから発動する術式ももちろん凄まじい代物だ。


最早『教皇級』、『神の右席級』などという括りでは表現できないものだ。

既存の『魔術』として括る事もできないかもしれない。


一般的に、『人間が扱う魔術』というのは『模倣』で成り立っており、
外部の何らかの『筋書き』を必要とする。


それは神話や伝承・過去の『神性を帯びた歴史』であったり、
力を引き出す『源』の存在の性質を借りたりなど。

それが一般的な『魔術』の大前提だ。
770 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:45:12.47 ID:T/QcCx2o

だが『一般的な』と括る以上、例外も当然ある。


外部の筋書きを必要とせず、自らの手で筋書きを創り出す『特別な者達』だ。

この『特別な者達』は、その力の根源や入手方法も普通の魔術師とは全く原理が異なるが、
使用する魔術の根本体系も全く異なる。


彼らは、自らの手で異界の力の根源と直接繋がり、その純正の力と融合し。

『自身の筋書き』で『思うがまま』に力を行使するのだ。

魔術記述として使用に耐えれる水準の『筋書き』を自身の手で創り出してしまうのだ。


つまり。


一般の魔術師の行使する力は、外部の神話や神性に依存するが。


この『特別な者達』は、自身が『神性』を帯び、『自身の為の神話』を創り出すのだ。


そこには、外部の筋書きや模倣に常に纏わり付いていた『縛り』も『型』も無い。
唯一の制限は、行使者自身の限界だけだ。
771 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:47:53.97 ID:T/QcCx2o
この特別な者達に該当するのは、古代由来ならばアンブラの魔女やルーメンの賢者。

かの大戦の際、スパーダと共に戦った戦巫女達とその子孫の一部などの、『古の人類』の末裔達。

近世の『第二世代の人間』ならば、
アレイスター=クロウリーや、かつてスパーダの力を求めて散ったアーカム。


そしてこのアリウスなどの極一部の超越した魔術師達。


これらの者が神話をその場で創ってしまう―――。


―――その挙動が、その思考が、その意識が―――。


―――その死に様と生き様が、そのまま『神話』と化す領域に属する『人間』。


『外部の筋書き』を模倣して周囲の世界に『映し出す』のではなく。

『自身の筋書き』により周囲の世界そのものを『変える』事。


それが可能、つまり『存在するという事それ自体が神話になってしまう』レベルであることが、
人間からは『神』、或いは『大悪魔』と呼ばれる超越した存在らの『基本水準』であり。

そして。

この領域に踏み込んだ『人間』は、魔術師界ではこう表現される。


『神話を読む者ではなく、神話となる者』、


『人としての魔術の高みを超え、神の領域に踏み込んだ者』―――



―――すなわち 『魔神』 と畏れ謳われる者である。
772 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:49:02.16 ID:T/QcCx2o
そんな、魔術師としての限界を超えているアリウス。

アリウス『…………』

大穴の縁に悠然と立ちつつ、
上空にて浮遊している能力者の方を見上げ小さくほくそ笑んだ。

アリウス『(…………アラストル、完全に癒着しているな。主従契約が確立しているか)』

アラストルとあの能力者の結合は完璧。

前の学園都市第23学区での戦いの際、『借り物』という点を突いて行った、
命令系統へ浸入し魔具の類を無効化する方法は少し厳しい。

が、それなら別のやり方でいくだけだ。


アリウス『(…………主を潰せば後は簡単だな)』


あの能力者を潰してしまえばそれで解決だ。
そして残る『主が不在』となったアラストルは、以前と同じ方法で封印してしまえばいい。

あの能力者がアラストルの力を使い切れているようには到底見えない。

それどころか、かなり『お粗末』だ。

『タダ単』に力を得た『だけ』で、まったく纏まっていない。
無駄な『垂れ流し』状態だ。

あれならば、倒す事はいとも簡単。
苦労は無い。


アラストルが魔界の諸神としての全ての力を解放してくれば、
現状のアリウスでは対応しきれない。

が、自立しての力の解放許可を出す『主』はいない、
力を全て引き出しうる『主』もいない、となれば全く脅威ではない。

絶対的な契約を結んだ使い魔は、どう足掻いてもその掟に背くことは不可能。
あのダンテと血の契約を結んだ以上、アラストルはそれを無視して単独で力の解放は絶対にできない。


アリウス『(問題は無い)』

アスタロトや、例の『影の王』の手を借りる必要も無い。
現状のまま全て対応できる。

今の所有者であるあの能力者を殺せばそれで終わりだ。
773 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:53:57.19 ID:T/QcCx2o

そもそも、アリウスは魔界の強大な『パトロン』達の直接の手をあまり借りられない事情がある。

主要なパトロンを前に出してしまい、彼らがネロに狩られてしまったら大問題なのだ。


アリウスならばともかく、他の大悪魔ならネロは即座に殺しにかかるだろう。


パトロンの支援を失ったら計画そのものが傾いてしまう。
この大詰めの時に無用な危険を冒すわけにはいかないのだ。


ちなみにそのネロの件。


アリウスとネロの恋人の『同期機能』は、今は停止しているが術式自体は解除されていない。

現状でアリウスを殺しても、ネロの恋人が同時に死ぬ事は無い。


だがその一方で、この術式が原因で『後で』免れない死を被る可能性がある。


アリウスはあの術式に、膨大な数の罠を組み込んである。
彼の命以外で解除された段階で発動する罠だ。

つまりあの杭を作った者がその一つでも見落としていれば、ネロの恋人は非常に危うくなる。
そしてその即解決法を知るのはアリウスのみ。


彼女の術を解く過程で何らかの支障があった場合、必ずアリウスの知識が必要になる。


つまり、術式の完全解除までネロはアリウスに手を出せない。
774 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:55:59.14 ID:T/QcCx2o
ネロが恋人の命よりもアリウス殺害を優先すれば話は別だが、
どう考えてもそれはまず有り得ないのは確実だ。

更に術式解除に有する時間。

あの杭の中に、大体どういった術式が刻まれているかは一目でアリウスは判別した。

あの水準の術式ならば、効果が浸透し完全解除となるのは最低でも15分はかかる。

杭の製作者、父からの比類なき才を引き継いだ『アーカムの娘』がいれば、
効果促進させて時間短縮できるかもしれないが、今この島にはいない。

アリウスが認めるほどの天才的な術式技量の持ち主でも無い限り、
要する時間を短縮するのはまず困難だ。


今の状況。

覇王復活完了までの時間は5分を切っている。
術式解除までは最短15分。

つまり覇王復活よりも先に、ネロがアリウスを殺しに来る事はまずない。

そして覇王復活すれば即座に魔界の門を開き、
スパーダの力の片割れを引き出すことも可能。

そうなれば、最早ネロは怖くない。

ネロの有する力と魔剣スパーダを手に入れ。
フィアンマから創造を奪えば、ダンテやバージル、魔女らさえももう敵ではない。

もちろんそこまで行けば、
天の門の開放に関してなどどうとでもなる。

この計画の『コア』の安全性も、表に直に出なければ問題ない。


『影』から出なければ、ネロでさえ手が出せないのだから。
775 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:00:02.38 ID:T/QcCx2o
アリウス『…………』


計画に何も問題は無い。今のところ全てが順調。

『χ』の反抗とその処分も、学園都市からの能力者の相手も『余興』。


時間までの暇潰しだ。

障害には成り得ない。


アリウス『(「この程度」で本当にこの俺を止められると思ったのか?)』


何度もシミュレーションをし、自身の計画の成功を確信したアリウス。

アリウス『(この俺の計画の、どこに穴がある?どこが失敗の要因となり得る?)』

小さく笑いながら、心の中でたった一人の旧友へと呼びかた。

アリウス『(……思考が鈍ったな。エドワードよ。正しいのはこの俺だ)』


その彼の周囲に浮かび上がっている光のうねりがより一層激しくなり。
表面で術式が激しく変動して行き。


アリウス『(―――それを証明してやる。もうじきにな)』


魔神としてのアリウスの力と技術が躍動し、
彼を覆う術式体系が更なる臨戦状態と変形していく。


そしてちょうどその瞬間。


その赤い光のうねりに、上方から照射された青白い光の柱が衝突した―――。



―――別名 『粒機波形高速砲』が。
776 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:04:54.56 ID:T/QcCx2o
降り注いだ大量の光は、大穴の縁の一角を一瞬で吹き飛ばし、そして溶かし尽くす。
着弾地点は蒸発、その周囲も広い範囲が輝く液体と化し。

そしてその液体は大穴の中へと流れ落ちていき、オレンジの大瀑布を形成する。

舞うのは水しぶきではなく火の粉。
吹き荒れるのは涼やかな霧ではなく、凄まじい熱風。


そんな灼熱の中、着弾地点の中心にいたアリウスは何事も無かったかのように立っていた。


彼の周囲に浮かび上がっている光のうねりも先ほどと特に変わり無い。

彼が立っているアスファルトの地面、半径5mの部分だけが綺麗に切り取られたのかのように残っていた。
オレンジの光り輝く海に浮かぶ小さな孤島だ。

アリウス『―――』

紫の翼を生やした、青白い光に包まれた若い女。

それは真上から凄まじい速度で急降下した麦野だ。

彼女は身を引き絞り、アラストルを頭上に掲げ。
降下した慣性を乗せ、迷い無くアリウスの頭頂部目掛け。


麦野『―――ッッつあぁぁッッ!!!!!!』


その振り上げた魔剣を一気に叩き降ろした。
正にハンマーのように力み思いっきり。

その速度とパワーは尋常じゃないレベルだったが、動きは粗暴・力の制御は乱雑。


アラストルの刃は剣筋に対し傾いており、その剣筋自体も激しくブレている。
その麦野の動きは、とても『剣技』とは呼べないものであった。

ただ力任せに棍棒をぶん回す『素人』だ。

単に物理的に見れば凄まじい衝突エネルギーだったろうが、
『ここから先』は、単に物理的に強いだけじゃ全く意味が無い領域だ。


無様にぶん回されたアラストルは、その絶大な力が全く引き出されずに。

強烈な爆風を周囲に撒き散らすも、標的のアリウスには全く届く事は無く。

彼を覆う光のうねりにぶち当たってあっけなく弾き返されてしまった。
777 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:10:11.82 ID:T/QcCx2o

麦野『―――ッッ!!?』

凄まじい衝撃によって痺れる右手。
耳鳴りのような振動音を発するアラストル。

そして体制を崩し、後方に傾く麦野の体。


アリウス『―――ふん』

麦野の驚いた顔を横目で見、冷笑するアリウス。

次の瞬間彼女の顔面に向けて、
一瞬の間にアリウスの近くの虚空から出現した銀色の触手、杭のような物が一気に伸びていく。

一本だけではない。
地面から、宙の光のうねりの中から、膨大な数の杭が。
麦野の全身を貫き粉微塵に引き裂くべく。


麦野『―――』


この『100倍返し』レベルの反撃。


『バージルと戦った時』の彼女ならば、容易に反応でき余裕を持ってかわせただろうが。


『今の麦野』は全く反応できなかった
778 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:13:14.90 ID:T/QcCx2o

麦野『―――あッ―――ぐぅッッッッッ!!!!!!!!』


その瞬間。


意識が飛びそうになるほどの凄まじい激痛が麦野の体を襲った。

それは杭が身を貫いた痛みではない。


凄まじい力で、彼女が『後方に引っ張られる』痛み。

翼の付け根にて暴れる、背中の肉、
いや背骨ごと引き抜かれるようなとんでもない激痛だ。


放たれた杭が伸びる速度以上の速さで麦野の体は後方へと吹っ飛んだ。

彼女が一瞬前までいた空間を、大量の杭が貫いていく。


麦野『………………か……あぁ゛ッッ…………う゛ッッッ…………ん゛…………!!!』


数百メートル、大通りに沿って後方に『飛ばされた』彼女は、
アスファルトを捲り上げながら乱暴に着地し、ひざをついて苦悶の声を漏らした。

『アラストルの翼』によって真後ろに強引に引っ張られたのだ。

アラストルの回避行動によって麦野は間一髪のところを免れたものの、
その意図しない強烈な力が使われた負荷が、彼女に跳ね返ってきたのだ。
779 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:14:24.33 ID:T/QcCx2o

アラストル『―――わかるだろうが、今のはもう出来ないからな。お前がもたない』

苦痛に堪える彼女とは対照的に淡々とした、いや、
どことなく楽しそうにも聞こえるアラストルの声。

ほくそ笑むそうな、せせら笑うような。

麦野『…………わかってるわよッッ……!』


アラストル『それとこれもわかってるな?今の状況は、兄上殿と戦った時とは全く違うからな』


アラストル『勘違いするなよ?今のお前は「素人同然」だ』


麦野『…………ッ…………』


そう、あの時とは違う。

あの時、彼女は洗練された剣技によって、バージルの刃をも数回退けた。

だがそれはトリッシュとの感覚共有があったおかげであり、彼女自身の技ではない。

『鍛え上げられた武人』が麦野の体に同化していただけに過ぎないのだ。

そのトリッシュの加護を失えば?


当然、残るは『ド素人』の麦野だ。
780 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:16:04.89 ID:T/QcCx2o

いくらこのアラストルのような名だたる大悪魔とでも、ただ同化して力を手に入れた『だけ』では、
悪魔の技術は手に入らない。

そもそも、そのくらいで『達人』と成れれば誰も苦労しない。

ダンテやバージルでも、生まれた時から剣を始めとする戦闘術の達人であったわけではない。
幼少期に父スパーダにより、あらゆる基本を身をもって叩き込まれたからだ。

彼らが新しく手に入れた魔具をその場で即座に使いこなしてしまうのも、
その技術の基本が完璧であるからだ。



どれほど大きな牙や爪を持っていようとも、なまくらだったら意味が無い。

どれほど強大な力を持っていても、その本質を知らなければ使いこなせない。

どれほど強力な武器を持っていたとしても、使い方を知らなければガラクタと同じ。


鍛え上げられた武人は皆、剣技であったり格闘技であったり、特殊な技能であったり、
洗練された自身のスタイルを持ち、自身の力を最大限効率よく扱える『法』を有しているのだ。


麦野は能力については『ある程度の技術』をもっているが、
悪魔の力に関してはまるっきり『ド素人』。


そして実はその能力技術自体も。


『ある線』を越えた今の一方通行からすると、『本質を何も知らない素人』のそれだろう。
781 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:18:33.73 ID:T/QcCx2o

麦野『―――』

とその時。

前方のアリウスの方から『圧』と『衝撃』を感じ、
麦野は痛みに堪えながら顔を上げた。


その彼女の視線の先では。


背丈の小さな、光を纏った鳥人のような悪魔とアリウス。
二者は至近距離で凄まじい攻防戦を繰り広げていた。

鳥人のような悪魔は、小柄で華奢な体躯に反し放つ力は強力かつ洗練された力。
円を基調とした流れるような無駄の無い動きで、無駄なく力を制御し次々と放つ剣撃や斬撃。

そして対するアリウスも、得体の知れない『何か』でそれらの攻撃を退き、そして彼の方からも攻撃を繰り出す。
麦野に使った杭のようなものや、色とりどりの光線のようなもので。


麦野『…………なッ……!?』

が、それらの速度は凄まじく、今の麦野ではまともに見えない領域だった。
同化しているアラストルからの情報で間接的にわかるだけであり、

彼女自身にとっては連続して煌く光の嵐としか認識できなかったのだ。


それは、『素人』である今の彼女程度では、とても割り込む事のできない戦いだった。


今の彼女は決して弱いわけじゃない。
現在の状態でも普通の人としての域を超えている。


が、それでも『神の領域』にはまだまだ届いていない。


その身に宿している『力』は充分『神の領域』相当だろうが、
その彼女の感覚や技術、認識はまだまだ陳腐なものにしか過ぎなかったのだ。
782 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:20:19.17 ID:T/QcCx2o

アラストル『力を解放しているルシアだな。あの小娘だよ。赤毛の。なぜここにいるかは知らんが』

その小柄でありながら洗練された強力な力を振るう悪魔を、
ルシアだと指摘する嫌に落ち着いているアラストルの声。


麦野『…………ッ』

そして。

アラストル『さて、俗に言う「大悪魔の域の戦い」がどういったものか、「己の等身大」でやっと知ったろう?』

彼女が味わっている「衝撃」を、
まるで代弁・再確認させるかのごとく言葉を続けて言った。

アラストル『あの「領域」の戦いには、さすがに今のままじゃ着いていくのは厳しい』

アラストル『これでハッキリしたな。所詮、今のお前は雑魚相手しか出来ない「派手なだけの素人」だというわけだ』


麦野『……うっせえ!!!黙ってろガラクタが!!!!!』

淡々とストレートに指摘され。
自身への不甲斐なさにイラつき、声を荒げながら体に鞭打ちゆっくりと立ち上がろうとする麦野。
その声の荒ぎは、軋む体の激痛を堪える面もあった。


アラストル『俺の力を全く引き出せていない。俺の力を全く使えていない』


アラストル『情け無いな。それでも我がマスターが認めた者か?』
783 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:25:09.00 ID:T/QcCx2o

麦野『…………チッ!!だからうっせぇんだよッ!!今更ご高承に指摘されても遅えッ!!ボケが!!!!!!』

更に声を荒げ。
今度はアラストルを地面に突き立て杖代わりにし、ようやく麦野はしっかりと立ち上がった。


アラストル『遅いも早いも無い。こればかりは、他の者が指摘しても意味は無い』

アラストル『力が何たるか、というのは身を持って知らなければな。誰かから教わる類のものではない』


アラストル『そしてなぜ今頃か?それは、実戦は最高の修練だからだ』


麦野『―――…………』

そこまでを聞いて、アラストルの言わんとした事を悟った麦野。
不機嫌なのが一転、脂汗が滲んだ顔で今度は薄く笑った。


アラストル『「殺し合い」は最高の「殺し合い」の演習』


麦野『ハッ……そういうことね……そうきたか……』


アラストル『殺す為の技術は、殺す時にしか「正確」に実践できない』


アラストル『真の武を求めるのならば、真の武に飛び込め。これぞ我々の「魔烈の学道」よ』


麦野『ふん…………その理論には同意するわ。でもちょっと極端すぎじゃない?』

アラストル『諦めろ。お前が今踏み入れようとしている世界はこのような方法じゃないと到達できない。そして生き残れない』


アラストル『ここで学べ。ここで手に入れろ。それが出来ねば行き先は死だ』


麦野『…………で、具体的にはまず何をすればいいの?すぐできるの?』


アラストル『お前の中では基本は出来上がっている。すぐかどうかはお前の心持次第だ』
784 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:26:40.47 ID:T/QcCx2o
アラストル『まず集中し。黙って俺の言葉を聞け』

アラストル『兄上殿と刃を交えたあの瞬間の感覚を思い出せ』

麦野『……今はあの時とは違うだろ?トリッシュとはt』


アラストル『黙って聞けと言っている。「思い出せ」。「無い」のだから、頭の中で「形作れ」』


アラストル『「感覚」と「技術」は無くとも、「記憶」と「経験」はある』


麦野『………………いいわ、思い出した』


アラストル『よし。もう一度あの男に突っ込め』


麦野『―――はァァァァッ??!!!』



アラストル『急げ。ルシアが押されてる。それにあの男はまだまだ全力を出していない』

アラストル『あの男が飽きてしまったら、恐らくルシアも潰される。そして今のお前じゃ一瞬で殺される』


麦野『―――くッ!!!』


アラストル『―――良いから信頼しろ。俺は裏切らない』



麦野『………………チッ……こんなガラクタの胡散臭い言葉を素直に聞いて―――』


半分やけになりつつも、麦野はアラストルを地面から引き抜き。
背中の翼を一度大きく広げ。



麦野『―――突っ込む私もどうかしてるわ畜生ッッ!!!!!!』



一気に前へと飛び出した。
最大速度で。
785 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:30:35.61 ID:T/QcCx2o

アリウスまでは数百メートル。
今の麦野の速度ならば、一瞬で到達する距離だ。

彼女自身にとっても一瞬だ。

だがその彼女の体感速度がなぜか。


アラストル『―――お前らの「能力」も我々の「魔の力」も扱いの基本原理は同一』


アラストルの言葉が始まった瞬間に急に緩やかになった。


麦野沈利。能力者でありレベル5。
その段階で彼女の集中力は折り紙つき。
そして力の認識能力も、素養は確たるものを持っている。

あとは学ぶだけ。

あとは『気付く』だけだ。


アラストル『―――感じろ。征服しろ。そして己の周りの世界を掌握しろ』


麦野は全ての雑念を捨て、あらゆる感覚に集中する。

今の彼女では見えない感じられない、
『何なのか』すらわからない『何か』を認識する為に。
786 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:34:47.63 ID:T/QcCx2o

脳内に存在し、響くのはアラストルからの言葉だけ。

それをまるで、プログラムが与えられたPCのようにただ正確に。
ただ素直に完璧に麦野は沿っていく。

今麦野が探している『何か』は、他者から知識として授かることは出来ない。
が、見つける為の『ヒント』ならば、他者から貰うことも可能。


アラストル『―――そうすれば「見えてくる」。「触れられる」―――』


アラストルの言葉が、まるで魔法のように、
麦野の精神を更なる境地へと引き込んでいく。

いや、現にアラストルの言霊にはある種の力がある。
何せこのような姿でも彼はれっきとした強大な『神』の一柱。

『催眠』などという陳腐なものではない。

『神』の言葉は『お告げ』だ。

『神の領域』からの言霊は、『人の世界』を容易に変える力を持つ。


アラストル『―――――――――「      」がな―――』


そしてその瞬間。
アラストルが何と言ったのか、全てを感覚に集中していた麦野は、
記憶する処理も行うことができなかったが。

それは何の問題も無かった。


彼女は、アラストルが発したその『言葉』を今見つけ。


その領域に『突入』したのだから。
787 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:37:36.53 ID:T/QcCx2o

麦野『――――――』

そこは別世界だった。

突き進む自身も、周囲の街並みも。
何も変わってはいない。

変わってはいないのだが『別世界』。


そして同じ。


そう、同じ、だ。

『覚え』がある世界だ。
さすがに前回よりはそれなりに『劣る』も。


その前回、トリッシュと感覚共有した時と『同一の世界』に今、麦野は入り込んでいた。


早いのか遅いのか、それどころか一定なのかすらわからない時間感覚。
いや、わからなくて良いのだ。

この領域では、それぞれにとって時空は『可変』なのだから。


あらゆる法則が、それぞれの有する力の濃淡強弱や性質によって『可変』なのだから。
788 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:39:36.58 ID:T/QcCx2o
前方のアリウスとルシアの攻防も今なら見える。
依然として彼女にとってはかなり速い攻防戦だが、一応『戦い』として認識できる。

良く見ると、ルシアの攻撃はアリウスを守っている光のうねりを思いっきり削り取っていた。
麦野の第一撃があっさり弾かれたあの光のうねりをだ。

だが貫通はしていない。

アリウスはその場から動くことなく、腕をも動かしていない。
周囲の光が別の意思を持って、自立して防御も攻撃も行っているように見える。


そしてそのアリウスまで、麦野があと20mにまで迫った時。

この瞬間、彼女には「見えた」。

そして「感じた」。

まだ『予備動作にも入っていない』、麦野へのアリウスの攻撃を。

それが悪魔の感覚。

予兆・予感とは似て非なるもの。

それは『かもしれない』という予測ではない。
『100%の現実』を事前に知る事だ。

麦野は瞬時に頭を下げ、腰を落とした。
その後に。

アリウスの光のうねりの表面が力の集中によって僅かに淀み。
術式が変動し。
それらのプロセスを経てようやく術式が動き。

光の刃が出現し振るわれ。

余裕でかわした麦野の頭上を過ぎ去っていった。


アラストル『―――それだ。その感覚を維持しろ』


『音』ではなく、直接魂に飛び込んでくるアラストルの思念。

これも同じだ。

あの時の、胸にしまっていたバラからも同じように思念が伝わってきた。


麦野『―――』
789 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:42:05.05 ID:T/QcCx2o
アラストル『―――身を委ねろ。だが「支配」はお前の手に』


麦野は腰を低く落とし、光の攻撃を上方にかわし。
そのまま地を這うような前傾姿勢のままアリウスに突進し。

左肩付近から伸びている青白いアームをアリウスの下腹部向けて叩き込んだ。

が、その一撃はアリウスの周囲をうねる光に防がれ、
アームの先端が潰れ砕け光の粒子となって霧散した。


アラストル『―――「薄い」。それでは垂れ流してるのと同義。力を圧縮しろ。力を収束しろ』


直後にアラストルからのダメ出し。


アラストル『―――かといって力むな。意識もし過ぎるな。あくまで自然に、あるがままと成れ―――』


その突っ込んだ麦野の顔面目掛け、
先ほどと同じく先の尖った銀の触手の束が、真正面の虚空から出現し伸びていく。

麦野『―――』

だが麦野は、今度は完璧にそのカウンターを捉えた。

翼を動かし、横に僅かに体重移動し。
位置的にはスレスレでありながらも余裕を持って、その『槍衾』とすれ違うようにかわした。


そしてすれ違いザマに。

右手に持っていたアラストルを斜めに、滑らかに振り下ろし。


麦野『―――ふッッ!!!!!!!』


触手の束を一気に破断。
790 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:45:18.48 ID:T/QcCx2o
アラストル『―――そうだ。周りの既成概念に縛られるな』

飛び散る触手の破片。

その中を、麦野は更に前に踏み込み、よりアリウスに近付く。


アラストル『―――ここから先の「律」は力のみ。「掟」は力のみ。「法」は力のみ―――』


そこで、ようやくアリウスは麦野の方へと顔を向けた。
それは麦野の接近にここで気付いたからではない。

ようやくアリウスにとって、彼女が『眼中に入った』のだ。

ルシアと同じく、『視線を向けるに値する敵』、と。


                    スタイル
アラストル『お前自身の「 法 」を形成しろ―――』


アリウスが見たのは。
腰を深く落としアラストルを下に構え、今にも切り上げようとしている麦野の姿だった。

そしてその巨大な刃に沿い輝き出す、紫と青白い光。


                                 力
アラストル『―――それがお前だけの「現実」となる』


そして次の瞬間。

麦野は、その白銀の大剣を真下から切り上げた。


麦野『―――ッッァァアアッ!!!!!!!!!!!!!』


今度は完璧に。

その剣筋は滑らかで。

刃面の角度も狂い無く。

刃には集中し圧縮された力―――。
791 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:49:48.87 ID:T/QcCx2o
その光り輝く刃。

反応したアリウスの光のうねりが、今までどおり防御の動きを見せるも。

アラストルの刃は、耳障りな破砕音を響かせながらその光に深く食い込み。

ごっそりと、光を砕き剥ぎ取った。

それがルシアの刃と同じように。
麦野の刃がアリウスの力に効果を示した瞬間だった。

貫き完全に切り裂くことは叶わず、半ばいなされたが。


麦野『(―――いけるッッッ!!!!!!!!!!)』


彼女も同じ舞台にようやく上がったのは確かだ。

そしてその光のうねりの亀裂が修復されるよりも早く。

麦野は、『紫』の『粒機波形高速砲』をその亀裂に放った。

彼女の周囲の宙空から放たれた、アラストルの力が使われそして圧縮された光線。

見た目は太さは50cm程度であったが、威力は今までのどの特大のものとも比べ物にはならなかった。

が。

その光線は亀裂に当たるかどうかのところで、突如直角に真上に曲がってしまった。
特に何かの抵抗も無く、すんなりと、だ。


麦野『―――チッ!!!!』

天を貫き大空に穴を穿つ、麦野の究極の砲撃。

なぜ今の砲撃が曲がったのかはわからない。
だが、誰が曲げたのかはわかる。

もちろんアリウスだ。

光の柱が当たる直前に麦野は、光のうねりの表面を埋め尽くしている奇妙な文字列が、
今までとは違う動きをし、そして違う力の流れをしたのを見たのだ。

何らかの力が働き、彼女の砲撃は大きくひん曲げられたのだ。
792 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:52:38.49 ID:T/QcCx2o

麦野が初弾で溶解させた灼熱のオレンジの湖さえも消え去り。

ビルを何棟も含んだ、アリウスから扇状に広がる、奥行き500mもの領域が跡形も無く消えていた。
地面は、あまるでやすりをかけたかのようにまっ平ら。

吹き飛ばされたのではなく、
鋭利な刃物で切り取っていってしまったと表現した方がしっくりくるか。


その射程から僅かに外れた、アリウスから550m程のところにある超高層ビルの屋上にて、
ギリギリのところで逃れた二人の女がいた。


屋上の縁に屈み、遠くのアリウスを見下ろしている麦野。

その隣にて立っている、魔人化状態のルシア。


アラストル『やっとあの男やルシアと同じ舞台に上がれたな』


アラストル『だが過信するな。お前はたった今、「本当に始まった」ばかりだ』


麦野『…………わかってるわよ』
793 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:54:06.20 ID:T/QcCx2o
ミスりました。1レス抜け
>>792の前にこれです↓
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

麦野『―――』

そしてその直後。

アリウスの背後にて、巨大な何かが光の中から出現した。

『それ』の形は『目の無い、高さ3m程のカエル』、とも表現できるか。

光沢を帯びた銀色の金属らしきもので構成されており、
表面には奇妙な、紋様がびっしりと刻まれていた。

それを見た瞬間。

麦野は悪魔の感覚で再度『知る』。

あの『目の無いカエル』から凄まじい攻撃が放たれて来ることを。
今度は、先ほどの触手らのような余裕をもった回避はできなかった。

それは単純な理由だ。

トリッシュの感覚をもっていても、より優れていたバージルの続けざまの剣撃に対応できなくなるのと同じく。

今のある線を越えたこの麦野よりも、未だアリウスの方が洗練されて優れていたからだ。


麦野『―――チッ!!!!!』


とにかく距離を置く、それだけを念頭に真後ろへと思いっきり跳ねる麦野。
同じくルシアも、思いっきりアリウスから距離を置こうと跳ねていた。

その一瞬後。


目の無い巨大なカエルの口がカッパリと開き。
そこから溢れ放たれた白い光が、麦野とルシアがいた方向を含めて広域を『消失』させた。

794 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:56:14.34 ID:T/QcCx2o
>>792の続き
〜〜〜〜〜〜〜〜〜

アラストル『大悪魔と呼ばれる存在の、魔界での一番の死因、何か知ってるか?』

麦野『……何?』

アラストル『この領域に到達したての大悪魔が調子に乗って目立ってしまい、年長の大悪魔に即狩られ喰われる事だ』

アラストル『俺達からすると「カモ」なのさ。お前のような「赤子」は』

麦野『ハッ…………ご親切な忠告、ありがとうね』


アラストル『それともう一つ忠告だ。あの男、底が見えない』


アラストル『―――不気味だ』


麦野『……悪魔が「不気味」って言うの、けっこう洒落にならないわね』


麦野『……ルシア、って言ったっけ。どう思う?客観的に見てちょっと厳しいと思わない?』

アリウスに目を向けたまま、
麦野は隣のルシアに言葉を飛ばした。

ルシア『…………はい。確かに。ですが何としてでも倒さなければなりません。あと4分20秒以内に』

麦野『それ何の時間?』

ルシア『…………覇王復活までです。あの男の言葉ですが、嘘では無いでしょう』

麦野『チッ…………』

その程度の時間的余裕しかないのならば、
一旦退いて作戦を練るヒマも無い。


麦野『(やっと私もある程度戦えそうだけど…………レールガンが来てもまだ厳しいか)』


麦野『(…………さすがにそう簡単には潰せないか)』


と、その時。
795 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:58:54.22 ID:T/QcCx2o

麦野『―――』

麦野とルシア、二人とも突如ピタリと硬直した。

更なる別の力の存在を感じたからだ。

それもかなり巨大な、そして二人にとって妙な『違和感』がある力を。

麦野『…………何か、妙なのが近付いてきてない?』

ルシア『……わ、私の記録には該当する存在がありません……と、というかこれは……悪魔では……』


アラストル『そうだ。悪魔ではない。「天の者」だ』


麦野『―――は?』


『天の者』。

その言葉を聞き、『学園都市から来た能力者』である麦野の顔が一気に引きつった。

そんな彼女の表情の変化など気もせず、アラストルは言葉を続けた。


アラストル『お前らは初めてか?本物の天界の力を感じるのは?』


アラストル『あれは……俺の記憶が正しければ、人間界でも特に有名な十字教の天使の類だと思うが』


と、そう魔剣がマイペースに注釈をつけていた所。

遠くの空が瞬き、僅かに『青み』がかった白い光の『何か』が出現した。


それは。


広げられた巨大な『翼』、に見えるか。


二対、いや三対、とにかく複数枚の巨大な『翼』に―――。


―――
796 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 02:07:33.37 ID:T/QcCx2o
―――

アリウスは相変わらず葉巻を咥え、悠然と立っていた。
その立ち位置からは、地上に出てから一歩も動いていない。


アリウス『(………………全く張り合いが無いな)』


元々は対スパーダ一族を念頭に磨き上げたこの力。


アリウス『(…………強すぎるか。今の俺でも)』


当然、彼らにはこれでは全く到底及ばないのがわかってしまった為、
こうして覇王や残されたスパーダの片割れの力を求めているのだが、

ただそれでも、ルシアや麦野程度ではこの魔神としての力は最大稼動する必要は無い。
ほんの一部の力だけで充分。


『魔神』、という括りの中でさえ、今の彼は常軌を逸している存在であろう。


そしてこの練り上げた力が、もう直に用済みとなるのはさすがに少し寂しいものがある。
覇王が復活すれば、もう必要ないガラクタに成り下がってしまう。


生涯を捧げ練り上げ、作り上げた一世一代のこの力。

覇王復活等の今計画の諸々で使用したが、
やはり戦闘で思いっきり最大限発揮したいのは男、いや、武人としての性か。


アリウス『……』

と、そうやって退屈を呪っていたその時。

アリウスも、600m先の麦野らと同じく、新たな第三者の接近を感じ、その方向を見上げた。
797 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 02:17:34.61 ID:T/QcCx2o

アリウス『(ほぉ…………)』

アリウスは当然、その接近体の正体を即割り出した。

イギリス清教に所属していた天使と『同じ』だ。


『聖人』、その天界との繋がりを利用し強引に半転生―――か。


そしてここに向かっている個体は、

どうやら『聖母』の性質もあった『あの二重聖人』であり、
バックについている守護天使も名だたる者。


イギリスの半天使よりも『手ごたえ』があるのは確かだ。


アリウス『(―――…………十字教の一柱を砕き折るのも一興、か)』

その方角に目視でも光を捉え、アリウスは心の中でほくそ笑んだ。


アリウス『(まあ、「時間潰し」には良いな。少なくとも「今の退屈」よりはマシだn―――)』


と。

その瞬間だった。

小さく笑っている彼を巻き込むように。

彼の周囲の地面が丸ごと砕け、『真上』へと吹き飛んだ
『真下』から、強烈な何かによって突き上げられたかのように。


粉にまで砕かれた粉塵が、真っ直ぐ、
それも高さ500m以上にまで一瞬で立ち上がった。
798 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 02:44:47.54 ID:dIczLmQ0
(´ω`)っC
799 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 02:50:19.04 ID:T/QcCx2o

その巻き上がる粉塵の柱に徒歩で近付いていく、一つの人影。

それは金髪の白人の男だった。
薄い水色の長袖シャツに、ベージュのベストを羽織った中々ラフな格好の。

「全く気が滅入るな。この絶望具合には……」

やれやれと息を吐き、やる気なさそうに歩き進む男。



「―――『魔神のなりそこない』が、『魔神の中でも規格外の怪物』に挑む、か……」



「我ながら無謀だな」



そんな彼に向け、立ち上がる粉塵の中から声が返ってきた。



アリウス『―――「魔神」、か。無知な連中が作った意味の無い冠だ。そうこだわるな』



アリウス『その若さで「席」を手に入れかけたのだ。お前の才そのものは素晴らしいぞ?』


アリウスの平然とした声が。


800 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 02:55:52.91 ID:T/QcCx2o

「……はぁ…………そう言える時点でもうかけ離れてるんだよなあ」


そんなアリウスの余裕の言葉を聞き、
ぽりぽりと頭を掻き半笑いしながら深い溜め息をつく金髪の男。

が、その瞳は全く笑っていなかった。
眼光は鋭く。


「そしてやっぱり、そうはっきり言えるような男だから―――」


宿っている光は強烈な殺意。


「―――あんたは何としてでも絶対に潰さなきゃな。危険過ぎる」


「生きていてもらっちゃ、失われる命が多すぎるんでね」


その瞬間、粉塵が晴れ渡り。
中から、埃ひとつついていないアリウスが姿を現した。

葉巻を燻らせ小さな、そいれでいて傲慢さが良くにじみ出ている笑みを浮かべている『魔神』が。


「俺の事はさすがに知っているみたいだが、一応名乗らせてもらうよ



オッレルス「―――オッレルスだ。お前の死に様を見るためにここに来た」



オッレルス「今ここに来る、あの『ガブリエル』と共にな」


アリウス『歓迎しよう。俺も今ちょうど退屈していたのでな』



アリウス『―――では早速教えてくれ。俺の死に様とやらを』



―――
801 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 02:57:23.41 ID:T/QcCx2o
教はここまでです
次はできれば12日か13日の夜に。
802 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 03:15:39.21 ID:PPHb6sAO

魔神か
人の域は超越してると思ったがここまでとは
あぁ、人とはなんて素晴らしいものか

誤字?
高尚>>783
まるで>>792
803 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 03:46:23.19 ID:qIahu/Yo
しびれるぜ…
804 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 04:56:23.48 ID:dIczLmQ0
深夜まで乙。
805 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 01:52:12.43 ID:Fh2jpX.o
・・・・・・モンハンやってる場合じゃなかった
806 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 04:15:00.54 ID:pTB7bu60
オッレルスって聖人だったのか……てっきりウィリアムかと…
807 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 05:27:42.77 ID:/RIIbuEo
聖人ってのはウィリアムのことを言ってるんじゃないの?
808 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 09:29:52.59 ID:Mgsc1pg0
聖人はシルビアでガブリエルはウィリアムだと思うが
809 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 12:25:39.31 ID:xURNQgDO
オッレさんは魔人のなりそこないでシルビアは聖人でヴェントがウリエル
810 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 18:39:55.85 ID:/RIIbuEo
>>808
要するにこの場面ではウィリアム(ガブリエル)=2重聖人でしょ
アリウスが感じた聖人の気配は。
シルビアも聖人だけど出てきたっけ?見逃してたらすまん
811 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 19:19:25.17 ID:xURNQgDO
>>765の女がシルビアじゃないの?
812 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 19:32:00.40 ID:/RIIbuEo
ごめん795以降の場面のこといってるのかと思った
そういうことか
813 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 22:27:31.72 ID:/HvOWGY0
ウィリアム=二重聖人(聖人+聖母)=神の右席後方(ガブリエル)
オッレルス=魔神なりそこない
シルビア=聖人
814 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/12(日) 04:00:04.14 ID:J7Df6AAO
禁書はアニメしか知らないから助かる
815 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 14:55:25.96 ID:9ExVJoDO
そういえば禁書しか知らなかった人っているんかな?
816 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 15:44:31.96 ID:DsrGfAAO
はい
817 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 17:03:42.47 ID:wJxzlGwo
むしろダンテしか知らなかった
818 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 18:52:54.80 ID:gt8vK6wo
ベヨネッタ以外は知ってた
819 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 20:01:11.42 ID:KAcCoeEo
自分もベヨとDMC2以外は知ってた。
ベヨは最近とあるあれでプレイ動画見て、oh・・・と。
820 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 07:33:30.75 ID:eHp62.AO
珍しく遅いな。まぁまだ一週間も経ってないけど。
821 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/16(木) 22:44:20.08 ID:m.nhesI0
今日も更新ないかな・・・
822 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 00:11:05.94 ID:4k6Q.KM0
(´ω`)師走だからねー
823 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 00:17:02.85 ID:Pn1pIAAO
>>1は俺達のためにクリスマスという名の悪魔を狩ってくれているんだ…
824 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/17(金) 01:14:01.48 ID:WHVpaR60
こねえええええええ
825 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 09:45:53.28 ID:/U9y4UAO
まー落ち着けよ童貞ども。痴女は寝て待てって言うだろ?
826 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/17(金) 11:09:31.30 ID:4/sZSr20
こう考えるんだ
前戯が長いほど焦らされて本番が来たときとてもよくなると
827 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 14:03:41.59 ID:hB3ra6DO
>>825
え、なに、待ってたらベヨさん来るの?
はは、さすがにそれは勘弁だなぁ……

…おや、なんだこの髪は……
828 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 17:48:44.52 ID:wk1hZoo0
人間に換算するとババァどころか干物だろjk
829 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 18:47:53.23 ID:b1is.D2o
\カーーマボーーコーーー/
830 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 19:23:34.81 ID:aiFaHkDO
んなババァの話よりキリエの話をしようぜ!

キリエかわいいよ
そして胸がエロいよ
何かレディよりエロスを感じるよ
831 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/18(土) 00:27:38.45 ID:Foqg.Ng0
今日も来ないのか・・・
832 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/19(日) 02:08:13.02 ID:/n3dLtI0
4みたいなダンテ劇場やってくんないかな

シリアスな状況でもダンテには常にノリノリでいて欲しい
833 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/19(日) 03:02:13.96 ID:wWfmzoUo
>>1さん大丈夫かな……
834 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 03:16:07.25 ID:96m6oEAO
せめて、生存報告をば……
835 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 03:17:58.87 ID:KOAFOwAO
>>832
むぎのんに披露したルシフェル無双をお忘れか
836 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 21:20:22.42 ID:a50UF1g0
>>835
それじゃなくて4のあごナスとのオペラみたいなヤツをだな

でも文字で表現するのは無理があるか
837 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 21:45:37.11 ID:8ex3IIAO
あがってるから来てると思ったら騙された畜生orz

雑談はいいがsageない奴はもげろ!
838 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 11:03:59.01 ID:oxTxysDO
12月だし仕事とか私事とか忙しいだろうから仕方ないけど、さすがに心配になってきたヨ!
839 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 19:17:44.99 ID:xOggVUU0
【年末進行(仕事)説】
【体調悪化説(含インフル)】
【気になるあの子とラブラブ説】
【狩猟生活説】

(;´ω`)・・・さぁどれよ
840 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 19:33:56.63 ID:VSF56AAO
狩猟生活ってモンハンのことかww
841 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 06:00:48.70 ID:RtCSYQDO
おいおいおいおいおい……
842 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 11:04:41.42 ID:K3305c.o
大変お久しぶりですみません。
諸事情により投下できませんでした。
まだまだかなり厳しいですが、年内にあと一度は投下したいと考えております。
すみません。
843 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 18:10:26.25 ID:R/Ka8gAO
委細承知
844 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 20:41:01.82 ID:SK5O6Ng0
>>842
生存確認できただけで何より安心した♪

無理しない程度でいいからね(*´ω`)ゝ
845 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/24(金) 03:38:22.01 ID:4zz6bVg0
乙。
別に来年に繰り越しても全然構わん。
楽しみが増えるだけだから!
846 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 09:42:33.88 ID:41592IDO
そういえば、ローラとインデックスは魔女なんだよな、少なくとも500年前から。つまりバb
847 :クリスマス終了のお知らせ [sage]:2010/12/26(日) 02:51:17.22 ID:Zbb2h6AO
>>846
合法ロリ(ゴクリ
848 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/28(火) 17:43:46.07 ID:JNhJg2g0
「※DMC(ベヨネッタ)勢は、ゲーム内の強さよりも設定上の強さを参考に」
ってどういうこと?
849 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 17:47:27.63 ID:nTMFt4Uo
>>848
ダンテ達の設定はチートってレベルの強さじゃない事になってる
ゲームやってるだけだとそんなアホみたいに強いとは絶対に分からないレベルに強い
850 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/28(火) 17:51:04.06 ID:JNhJg2g0
ありがとう
851 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 19:27:48.10 ID:.Ul37pw0
そういえばYouTubeにあったな…ウィッチタイムの真実って動画だったか…
何だっけ?プレイヤーがベヨネッタを動かしている時のウィッチタイム中の速さが
ウィッチタイム使っていない時の7倍くらいだっけ?8倍?
ムービー中はもっと速く動いてるしな…
あれ?設定上あんなのじゃ済まないくらい強いのか
852 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 19:40:34.37 ID:HeT3b2Qo
そんなことよりベヨのお仕置きタイムを早く見たい
853 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 20:48:40.78 ID:w4M6F.AO
勿論女キャラに三角木馬だろ
854 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 21:58:24.94 ID:T0YKG/M0
           _, ,_ _, ,_
トーチャーアタック!!   (Д´≡`Д) あおおぉぉぉ―――!
  _, ,_       ((=====))
(*`Д´)     __ ((⌒(⌒ ))@))
  ⊂彡☆(( /\ ̄ ̄し' ̄ ̄ ̄\ ))
        ̄ ̄ ̄ ̄| | ̄ ̄ ̄ ̄
               | |
             / \
855 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 01:20:34.09 ID:cxT/woAO
おバカwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
856 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 12:47:22.23 ID:K9yFmoDO
新約……だと……
857 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 15:58:05.62 ID:O8waM.U0
新約来たww wwktkが止まらねwwwwww
858 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 21:04:44.29 ID:30q11Fg0
ここの支援カキコは潜在能力高くて困るwwwwww
859 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 02:43:00.30 ID:BwGJcoAO
年内は無理そうかね
860 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 21:21:27.66 ID:s378vjs0
はよ
861 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 22:30:59.24 ID:bKBlXoAO
 | 三_二 / ト⊥-((`⌒)、_i  | |
 〉―_,. -‐='\ '‐<'´\/´、ヲ _/、 |
 |,.ノ_, '´,.-ニ三-_\ヽ 川 〉レ'>/ ノ 
〈´//´| `'t-t_ゥ=、i |:: :::,.-‐'''ノヘ|
. r´`ヽ /   `"""`j/ | |くゞ'フ/i/   
. |〈:ヽ, Y      ::::: ,. ┴:〉:  |/
. \ヾ( l        ヾ::::ノ  |、
 j .>,、l      _,-ニ-ニ、,  |))
 ! >ニ<:|      、;;;;;;;;;;;;;,. /|       ___,. -、
 |  |  !、           .| |       ( ヽ-ゝ _i,.>-t--、
ヽ|  |  ヽ\    _,..:::::::. / .|       `''''フく _,. -ゝ┴-r-、
..|.|  |    :::::ヽ<::::::::::::::::>゛ |_   _,.-''"´ / ̄,./´ ゝ_'ヲ
..| |  |    _;;;;;;;_ ̄ ̄   |   ̄ ̄ / _,. く  / ゝ_/ ̄|
:.ヽ‐'''!-‐''"´::::::::::::::::: ̄ ̄`〜''‐-、_    / にニ'/,.、-t‐┴―'''''ヽ
  \_:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\ /  /  .(_ヽ-'__,.⊥--t-⊥,,_
\    ̄\―-- 、 _::::::::::::::::::::__::/  /  /   ̄   )  ノ__'-ノ
  \    \::::::::::::::`''‐--‐''´::::::::::/  / / / ̄ rt‐ラ' ̄ ̄ヽ ヽ
ヽ  ヽ\   \:::::::::::::::::::::::::::::::::::::/      /    ゝニ--‐、‐   |
 l   ヽヽ   \::::::::::::::::::::::::
862 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 15:41:40.44 ID:tQm6Ee.o
―――

土御門はとあるビルの屋上に立っていた。

土御門「………………」

目を細め口を固く結び、遠くの一画を睨みながら。

その視線は、連なる高層ビル群の向こう3km程の地点。
巨大な粉塵が上がり、ビルが倒壊している区域に向けられていた。

そして更にその向こう、空の彼方に現れたに。

土御門「………………」

麦野との通話が終わったすぐ後に白井黒子の能力により、
土御門を含むその場にいたチーム全員がこのビルの屋上へここに飛ばされ。

直後、青・紫・赤・白・金の閃光が立て続けに輝き一帯が『吹き飛んだ』。

更に続けて今度は空の彼方に出現した『複数枚の白い翼』。

何がどうなったのか。

爆心地に向かい今の破壊の一因となったであろう麦野ならともかく、
具体的なことは土御門は答えられない。


だが一つだけ、この土御門にも確たる自信をもって断言できることがある。


それはあの『複数枚の白い翼』が何なのか、だ。
863 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 15:43:26.32 ID:tQm6Ee.o
土御門「………………」

半年以上前の夏のある日、
とある事件にて『アレ』を目撃したことがある。

夏のあの日、『アレ』は夜空を掌握し、
星の位置を変えて地球規模の術式を形成。
そして人界を焼き尽くそうとした。

そのあまりにも強大すぎる力の前に、土御門達は懸命に足掻き喘ぐ事となった。


土御門「(…………『ガブリエル』か)」


人間世界では特に著名な天使の一柱、『神の力』。


ガブリエルだ。


以前と同じく『人間』の体を媒体として現出しているのだろうが。
(『本体』が直接降臨するには、天の門を開き人間界と天界を接続しなければならない為、
 現状では有り得ない)


力に関して全うな知覚をもたない、
普通の人間である土御門でも本能的にわかってしまう。


より天界の『本体の性質』に近付いているのだろうか、
前回とは威圧感が比べ物にならない程に強大だ、と。
864 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 15:45:05.47 ID:Dq4gxYY0
キター!!
865 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 15:46:02.57 ID:tQm6Ee.o
だが。

土御門「…………」

そんな存在を目にしても、土御門の反応は小さく鼻を鳴らすだけだった。

確かにガブリエルが突如現れた事は想定外だが、『それだけ』。
力の大きさそのものに関しては特に驚かない。


土御門「(…………なるほど……)」


普通に慣れているからだ。


今の彼ならば、例え十字教の神が目の前に現れたとしても、
その力の大きさに関しては全く驚かないだろう。

何せ魔帝の騒乱、そして先日の禁書目録を巡る学園都市での争いにて、
頂点という頂点の力を知ったのだ。

『神々』をも片手で捻ってしまう『馬鹿げた』領域の存在を。

最早、『この程度』で一々腰は抜かさない。
『こんなレベル』では、この土御門の意識は鈍らない。

スパーダ一族レベルの存在が現われでもしない限り、
ショックで彼の思考を鈍らせるのは不可能だろう。
866 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 15:49:58.98 ID:tQm6Ee.o
土御門「…………状況は?アリウスは生きてるか?」

土御門は数秒間思索し、即座に脳内を整理した後、
通信機向こうの滝壺へと淡々と言葉を飛ばした。

滝壺『うん。たぶん傷一つ負ってない』

土御門「麦野は?」

滝壺『生きてるよ。生体反応は問題なし。でも……なぜか「ノイズ」が急に強くなって……』

土御門「気にするな。どうせアラストルの影響だろう。他には?」

滝壺『むぎのと同じくらい信号の強い悪魔がいるけど、敵じゃないと思う。今むぎのの隣にね、一緒にいるの』

土御門「…………OK、他には?」

その悪魔の事はそれだけにし、土御門は次を促した。
身元は二の次、敵じゃないとだけわかっていれば今は良いからだ。
(そもそも敵だろうが敵じゃなかろうが、今や土御門側からどうこうできる事は無い)


滝壺『約4km北の空にある白い―――』

土御門「それは良い。把握している。他は?」


滝壺『あ、うんとね、他にもう一体、良く分からないけどアリウスに信号の形式が「似てる」のが現れたよ』


土御門「(似てる?…………人間の魔術師か?)」


滝壺『今、アリウスのすぐ近くにいるよ。位置的に見て……何か話してるのかな』
867 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 15:53:25.44 ID:tQm6Ee.o

滝壺『あ、後、さっきそこから北北西800mの場所で、悪魔26体が一瞬で駆逐されたの』

土御門「…………」

土御門の位置から北北西800mというと、先ほどの『爆心地』にそれなりに近い所だ。

滝壺『多分、駆逐したのは一個体。信号は一瞬だけしか見えなかったけど、ものすごく強かったよ』

滝壺『信号の形式は……あの空の白い光のに良く似てる』

土御門「…………」

滝壺『あのね、これは私の考えだけど、私たちとは別の勢力が介入してきてると思う』

滝壺『私たちの味方かどうかはわからないけど、アリウス側と敵対してるのは確かみたい』

土御門「恐らくな。俺も同感だ」

視線変わらず、遠方の破壊された一画を見つめながら、
土御門は軽く目を細めた。

土御門「(…………ひゃー。参ったぜぃ。状況の全貌が全く把握できないぜよ)」

刻一刻と移り変わっていく状況。
それらに追いつかない情報の収集。

情報のピースの大半が欠落している状況では、
いくら頭を捻っても意味が無い。

こういう時はどうすればいいか。
それはもちろん、とにかく動き情報を集めることだ。


戦争は一に情報、二に情報、三に情報と言っても過言ではない。
少なくとも、本職が『魔術諜報員』の土御門にとっては情報が『全て』だ。


土御門「(とりあえず……こっちはこっちで仕事の続きをするか……)」


対アリウス戦の方は、現場にいる麦野自身が判断を下せば良い。
こちらはこちらで出来ることを、だ。
868 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 15:57:47.80 ID:tQm6Ee.o

土御門「……よし。俺は仕事の続きをする」

滝壺『了解』

土御門「結標。聞いてるな?」

結標『ええ』

土御門「わかっていると思うが、お前は絶対にこの交戦域には近付くな。何があってもだ。いいな?」

結標『わかってる』

もしも麦野と結標両方が死亡てしまったら、それは最悪の事態となる。

最高指揮権と最大戦闘能力の両方を有したトップが消失、
それは即ち、この部隊の心臓が止まるのと同義だ。

土御門「それと未知の勢力の存在が確認された。万が一に備えて警戒しておけ」

土御門「本格的に状況が荒れだしてきたしな。悪魔共の活動も活発化する恐れがある」

土御門「あと全チームには、ランドマークの掘り抜きを継続させろ」

結標『OK』
869 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:00:07.57 ID:tQm6Ee.o
通信を手早く済ませた土御門。
手馴れた動作で自身の装備を再点検しつつ、

土御門「白井以外は即刻退避しろ。後の支持は結標に仰げ」

背後にて待機していたチームに向け命令を飛ばした。

それを聞き、メンバー達は素早くビルの屋上から降りていった。
ただ一人、怪訝な表情を浮かべていた黒子だけを残して。

黒子「………………あの?」

土御門「さ〜て白井。今からお前はチームを外れ俺の直属だ」

黒子「?」

土御門「俺の運び屋兼ボディガードだぜい」

黒子「……何をするんですの?」


土御門「あのアメリカ人共を追跡する」


黒子「は?」


土御門「連中がな、ちょっと『重要なモン』を持ってるらしいんだ」


―――
870 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:02:22.05 ID:tQm6Ee.o
―――

とあるビルの屋上。

そこで麦野とルシアは無言・無表情のままジッと550m先を見据えていた。

麦野『…………』

突如現れた『天の者』、そしてほぼ同時にアリウスの傍に出現した金髪の男。

『あれら』が一体何者なのか、何が目的でここに現れたのかは当然わからない。
そしてそれらの疑問の答えを、正確にこの場で把握する術なども当然無い。

だが、ある程度のことなら節々から読み取れる。

まず、金髪の男はほぼ確実にアリウスと敵対関係のようだ。
何らかの力を使って出現と同時にアリウスに攻撃を加えたからだ。
ぶちあがった粉塵がそれだ。


そしてあの天の者も。


アラストル『あの天の者は我々を見てはいない。見ているのはアリウスだ。それもかなりの戦意を篭めてな』


このアラストルの分析が正しければ、
あの天の者の狙いは麦野達能力者ではなくアリウスだ。
871 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 16:02:44.98 ID:sqsStcAO
きTEL
872 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:05:11.41 ID:tQm6Ee.o

麦野『……………………』

天界は天の門を開いて欲しい。

そしてアリウスは天の門を開ける。

それなのに、天の者がアリウスに敵意を向けているとは明らかに矛盾している。
だが、今の状況がそれを現に物語っている以上、その事を否定しようも無い。

つまりこの矛盾が意味するところは、
一連の背景には今だ麦野が知りえない重大な事情がある、という事だ。


ただ。


麦野『(―――まあ、それは今考えることじゃないわね)』

そこを考えるのは今でなくても良い。
今は今しか出来ないことがある。

こうしている間も、
覇王が復活するまでのタイムリミットは刻一刻と迫ってきている。


状況も目に見えて逐一移り変わっていく。


このビルの屋上で、こうして僅かに麦野達が留まっている間にも、
あの天の者はアリウスの真上にまで移動してきていた。
873 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:07:06.15 ID:tQm6Ee.o

麦野『…………とにかくぶっ潰す』

アラストルを肩に乗せながら、
小さく独り言のように、それでいて良く響く確かな声で呟く麦野。

ルシア『はい。潰しましょう』

それに隣にいたルシアも静かに淡々と言葉を返した。

と、ちょうどその時。

御坂「―――お待たせ!!」

電磁力を使ってビル壁面を駆け上がってきたであろう御坂が、
大量の電撃を纏わりつかせながら麦野達の背後に降り立った。

御坂「…………ッ……」

彼女は着地した瞬間、魔人化しているルシアの姿を見、
わずかに驚いた色を見せたが即座に顔を切り替え。

御坂「……それでどうなってんの?」

遠くのアリウスの光を目を細めつつ見下ろしながら、
麦野へと説明を求めた。

麦野『ルシアと一緒に少し手合わせしたけど、アリウスはクソ強い』

麦野『あっちの白い光は「天の者」。アリウスの近くにも強そうな奴。二つとも少なくともアリウスと敵対してる』

麦野『タイムリミットは4分。それ超えるとアリウスに手が出せなくなる、こんなところ』
874 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:08:31.98 ID:tQm6Ee.o

御坂「……ふーん。で、プランは?」

         デカブツ
麦野『その「大砲」で援護しろ。こっちが合わせるから、私らに気にせずとにかくぶっ放せ―――』

先を促された麦野、
屋上の縁にふと歩み立ち、御坂の方へと振り返りつつ。


麦野『―――ド派手に、な』


屋上の外側へ向けて、倒れ込みながらそう口にし。
そして重力に従い、緩やかな髪を靡かせながらビルの下方へと姿を消した。

それに続けて軽く跳ね、眼下の薄闇の中へと舞い降りていくルシア。


御坂「おっけー任せて―――」


二人を見送った御坂はそう小さく呟き返しつつ、
大砲のコッキングレバーを勢い良く引き。


御坂「―――ド派手にいくのは得意だから」


腰の脇に据え構え、
その大きな砲口を眼下の赤い光へと向けた。

―――
875 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:11:51.65 ID:tQm6Ee.o
―――


オッレルス「―――オッレルスだ。お前の死に様を見るためにここに来た」


オッレルス「今ここに来る、あの『ガブリエル』と共にな」


アリウス『歓迎しよう。俺も今ちょうど退屈していたのでな』

葉巻を燻らし、余裕に満ち溢れた傲慢な微笑を浮かべたアリウス。

アリウス『―――では早速教えてくれ。俺の死に様とやらを』

そして両手を軽く広げオッレルスの方へと一歩進んだ。
待ち切れず、開戦を急かすかのように。

オッレルス「いやいやいや、俺は『死に様』は知らないよ。そしてお前の『死』も俺ではない」

だがそれに対しオッレルスは一歩下がり、
苦笑を浮かべながら肩を竦めた。

オッレルス「だから言ったろう?『見に来た』、と」


アリウス『……見物か?それならばお断り願いたいが』


オッレルス「そう言わないでくれ―――」



オッレルス「―――ちょっと『知りたい事』があってね」



アリウス『…………ほお』
876 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:15:53.67 ID:tQm6Ee.o
アリウス『まあ、何を欲してるにせよ、この期に及んでタダでやるつもりは無いがな』

オッレルス「わかってるよ。そう簡単にいかないのは。だから、せめて複数人でこういうタイミングで攻めようって腹さ」


アリウス『ふむ……』


小さく声を漏らしたアリウスはふと、自身の真上を見上げた。
その視線の先、彼の頭上300mの中には、遠くの空に出現していた『天使』が音も無く移動してきていた。


アリウス『(やはり……器はあの二重聖人か)』


『核』は長身で筋肉質・体躯の良い、壮年のやや厳しい顔つきの茶髪の白人。
右手には、その高い身長を遥かに上回る奇妙な造詣の大剣。


ローマ正教、神の右席、後方のアックア。


本名ウィリアム=オルウェル。


そして背中から伸びる、氷のような質感の『何か』で形成されている巨大な複数枚の翼、
金色に輝いている瞳、頭上に浮かび上がっている光の輪が示しているその力は。



十字教の四大天使が一柱、『神の力』、ガブリエル―――。
877 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:19:48.33 ID:tQm6Ee.o
アリウス『……転生か。使用したのはローマ正教「聖霊十式」の一つ、「御使昇天生」だな』


オッレルス「…………」

アリウス『あれは誤植が多すぎるぞ?0から構築した方が良い程の欠陥術式だ』

アリウス『現に出来上がりが酷い。「天草式の聖人」とは完成度が程遠いではないかアレは』


オッレルス「『独立存在』もできず、既存の天使の力を借りておんぶに抱っこ、だろ。わかってる」

オッレルス「遺物を使った『再現』じゃ、かの『エノク』やあの『天草式の聖人』のように『完全な本物』に成れないのは承知してるよ」


アリウス『ふん…………だが…………』


アリウスは視線を降ろし、再びオッレルスの方へ向けては彼をジッと眺め始め。

アリウス『お前の方は中々完成度が高いな』

何かを悟ったかの如く目を細め、
口の端を少し挙げ冷笑し、静かに口を開いた。



                     フリズスキャルヴ
アリウス『……ベースには「北欧玉座」か……中々良い選択だ』


878 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:22:54.58 ID:tQm6Ee.o

オッレルス「……………………ッ」

それはオッレルスが起動している術式の、『根幹』の名。

アリウスはこの僅かな時間で、
オッレルスの力が『何なのか』を見破ったのだ。


アリウス『設計も確かだ。オリジナルの構文も中々上手く出来ている』


アリウス『少し無駄が見えるが、実用に充分耐えうる水準だ』



アリウス『―――それと「目」も良く出来ているな。「視界」も「認識」も良好だろう?』



アリウスはより踏み込み更に直球、
正にピンポイントでオッレルスの術式の『とある要』を指摘した。

その下にある見透かした嘲笑を隠す気も無い、
いかにもなあざとい作り笑いを浮かべて。
879 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:25:35.49 ID:tQm6Ee.o

そんなアリウスの言葉を聞き流すかのように、オッレルスはふと瞼を閉じ。

オッレルス「……………………無駄話はそろそろやめよう―――」

揚場の無い平坦な、そして冷たく鋭い声でそう呟いた後、再度ゆっくりと瞼を開けた。


その露になった彼の『瞳』。


雰囲気は明らかに一変していた。

瞳孔は底無しの井戸のようにも見え。

感情の色が見えない無機質な、そう、監視カメラのレンズと例えられるだろうか。

もし上条やステイルがこの瞳を目にしていたとしたら、こう表現しただろう。



あれはインデックスの―――。



―――自動書記が起動している状態の瞳だ、と。



そして彼の体に現れた異常はそれだけではなかった。

白目の部分は一瞬で充血し、
顔色は紅潮し額や首の血管も浮き上がり。
呼吸は早まり、加速した鼓動は早鐘の如く打つ。


見る者が見れば、それが何の症状かはすぐに判別できるだろう。

魔術による凄まじい負荷で間違いない、と。
880 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:27:27.83 ID:tQm6Ee.o

アリウス『……慣れてないな。完全起動するのは初めてか?』

そんなオッレルスに向け、
相変わらず余裕溢れる見透かした表情で声を飛ばすアリウス。


オッレルス「…………ああ。そもそもつい先日にやっと『完成』したばかりだからね。まあそれはさておき―――」

と、その瞬間。


アリウスから見て左斜め上の彼方から。


オッレルス「―――『あの子達』もその気だし、ここからは俺達も乗じて始めさせてもらうよ」


彼を覆っていた赤い光のうねりに向け、『青白い光の矢』が超音速で激突した。


堤防に激突する波の如く、飛び散る光の雫。

普通の肉眼ならば目が潰されてしまいそうな輝きが溢れ、
衝撃波が一気に周囲の地形を剥ぎ取っていく。


飛翔してきたのはプラズマ化した『砲弾』。


レールガンによって放たれた『魔弾』。



その『意味』は、少女達による第二ラウンド開始のゴング―――。


―――
881 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 16:29:12.85 ID:tQm6Ee.o
今年はここまでです。お疲れ様でした。
次はできれば1月3日か4日の夜に。
882 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 16:29:39.75 ID:oqdoLG2o
乙でございました。

よいお年を。
883 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 16:41:53.51 ID:E96F96AO
乙でした。来年も期待してるぜ。
884 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 19:15:50.42 ID:nT1q9rg0
おつ
885 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 00:13:06.89 ID:OGb0KLI0
(*´ω`)>>1さんも読者のみんなもあけましておめでとう♪

(´ω`)b そして年内再開おめでした。今年も宜しくです!
886 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 11:07:52.09 ID:rJgRh0.0
>>1さん、今年もよろしく!
そして乙!
887 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/05(水) 19:09:47.80 ID:WhkigsAO
今日あたり来るだろうか。忙しそうだなぁ。
888 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 17:36:48.10 ID:2/c1ibco
追いついた
しえん
889 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 22:51:55.51 ID:D8L.qfEo
再度遅れてすみません。

次は明日の夜に投下します。

それと今後の予定ですが、特に滞りがなければ、
今月下旬頃には元の投下ペース(>>2+α)に回復しているかな、というところです。

そして可能ならば、どんなに遅くとも新約が発売する前に
次の学園都市編も終わらせておきたい、と思っております。

では今年も、何卒よろしくお願いいたします。
890 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 23:17:49.86 ID:nNdyneA0
>>1律儀に乙!
>>1のSS面白いから俺はいくらでも待てるよーww
891 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 03:02:53.26 ID:5biNl5U0
>>889
(*´ω`)ゞ
892 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/07(金) 23:49:05.52 ID:pebD7d6o
―――

連なる高層ビルの間。

散乱してる超低温の悪魔、フロストの死体。

それらの『冷気』のせいであちこちに霜が降りた、
正に冬のような様相の一画。

その路上のど真ん中にて、悠然と立っている一人の女。

『素手』で15体ほどのフロストを一瞬で叩きのめした張本人。


端正な顔立ちに、金髪に押し上げたゴーグル。
質素な作業服にエプロン。

英王室付き近衛侍女に所属している聖人。


シルビア。


シルビア「……さてと、久しぶりだね―――」

一仕事終えた区切りを付くように、彼女はエプロンを軽くはたきながら、
斜め後ろに振り返りつつ。


シルビア「―――土御門」


視線の先、路上にあぐらを書いている少年の名を呼んだ。
893 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/07(金) 23:51:15.70 ID:pebD7d6o
土御門「―――やあ、シルビア」


不敵な笑みを浮かべながら、彼女に声を返す土御門。

その彼の隣には、
シルビアを鋭く睨みながら立っている白井黒子。

超低温のフロストと近距離戦を行った為、全身の戦闘服表面には白く霜が付着し。
まつげの先は凍り、鼻先や耳、頬が赤くなっていた。

土御門「いんやぁ、礼を言うぜい。それにしてもひっさしぶりだにゃ〜」

土御門「確か3年振りか?しばらく見ない内にますます美人になってるにゃ〜」


シルビア「あのマセたくそ坊主も随分と男らしくなったもんだね。中身は相変わらず腐ってそうだが」


土御門「はは、言うねえ。お前も、中身は相変わらず変わって無いな」

表面的な軽口を数回交わした後。
空気の切り替えを示すかのように、土御門が自身を手ではたき。
そしてゆっくりと立ち上った。


土御門「……OK、ちょっと聞きたいことがある」


シルビア「何?」


土御門「人を探してる」


シルビア「誰を?」
894 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/07(金) 23:55:47.82 ID:pebD7d6o

土御門「アメリカ軍の特殊部隊。見なかったか?」

シルビア「ああ、見たよ」

土御門「どこで見た?」

シルビア「さっき。私が用意した『避難所』で」

土御門「会わせてくれないか?」

シルビア「目的は何だい?」

土御門「ちょっと話がしたいだけだ。戦闘行為をするつもりはない」

シルビア「……OK、すぐだ。ついてこい」


土御門「(……トントン拍子だな。うまく行き過ぎだ……)」


嫌な予感を覚えながらも、
土御門は黒子を連れ、シルビアの後に続いていった。
895 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/07(金) 23:58:27.76 ID:pebD7d6o

背後、連なるビル向こうで勃発している怪物達の激突。

その爆音と閃光、そして大地の震えを感じつつ、一行は進む。

シルビア「世間話だ」

首を少し傾け、
背後の土御門に思い出したようにシルビアは話を切り出した。

シルビア「魔術、使えないんだって?今のあんたは。それなのによくこんな所に来たな」

土御門「あ〜いいや。使おうと思えば使える」

土御門「初歩的基本的なものしか使えないし、死ぬかもしれないけどな」

シルビア「それじゃあ使えないのとほぼ同じだろ。引き換えに得た能力は?」

土御門「裂けた血管に膜を張れる」

シルビア「……全然釣り合わないねそりゃあ」


土御門「いんやあ、そうでもないぜい。学園都市に入ったおかげで『色々』得る物もあった」


土御門「それに比べりゃ、『安いもん』だにゃ」

シルビア「…………ま、あんたの事なんざ別にどうだって良いけど」


シルビア「ああ、そうだ。神裂の件、聞いたぞ。結構親しかったんだろ?」


土御門「…………親しい、か。まあ、そうと言えばそうかもだな」


シルビア「残念だったね」


土御門「……」
896 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:00:30.86 ID:B0fd2KQo

土御門「それにしても、お前とこんなところで再会するなんてホント想定外だぜい」

土御門「まさかお前が動き出すとはな」

土御門「今までも、ただ単に『惚けて』帰還命令無視してたわけじゃあなさそうだな?」


シルビア「…………………………理由はある。ここにいる理由もその延長線だ」



土御門「はは、だよな。『イチャコラしたいがために、クーデター時も学園都市のあの戦いの時も、ウィンザー事件の時も帰還命令無視』」


土御門「―――ってことだったら磔程度じゃ済まされないからなあ」


シルビア「今度こそ訂正させてもらうからな!!私は別に惚けもイチャコラしてた訳でもない!!!」


シルビア「そもそも!……そもそもだ、私達からしても、まさか学園都市勢が動くとは思ってなかった」


土御門「お互い様か。じゃあそういう事で、お互いがここにいる理由、把握している状況、とにかく情報交換しようぜい?」


シルビア「……そうだな」
897 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:01:35.62 ID:B0fd2KQo

と、そうして話しながら歩き続け。

目的地であろう、とある超高層ビルの前でシルビアは立ち止まった。

シルビア「っと、ああ、そうだ。先にこれを言っておく。実は今、厄介な『お客様』がいてね」

いきなり見せて驚かれるのもウザイからな、とシルビアは続け。

シルビア「できることなら、『癪だけど』あんたの手も借りたい」


土御門「へえ。こんなところでお客さんとは珍しいにゃ」


シルビア「珍しいどころの話じゃないよ。おかげで私はてんやわんやだ」



シルビア「フォルトゥナのお姫様だよ。お姫様」



土御門「―――…………は?」


―――
898 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:03:16.35 ID:B0fd2KQo
―――

とある超高層ビルの一階にある、シックなレストラン。

いや、今の光景ではシックな、とは言えないだろう。

レストランの入り口、そしてビルそのものの入り口には、
重装備の兵士が警戒位置についており。

強引に脇に退かれバリケード状に積み上げられいる、
大量のテーブルと椅子。

天井や床、壁もところどころ割れ、破片が大量に散らばっている。

そして床に無造作に置かれた軍用ライトの光が、
室内に佇む複数の兵士達、そして負傷者達を照らし上げていた。


そんな『元レストラン』の壁際にて、キリエと佐天は床に座り込んでいた。


佐天「……」

キリエ「……」

金髪に押し上げたゴーグル、
質素な作業服にエプロンという出で立ちの、シルビアと名乗った女に案内され、
二人はここに連れてこられたのだ。
899 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:06:00.98 ID:B0fd2KQo
そのシルビアは、彼女達を壁際に座らせた後。

近辺の生存者を回収してたところだ、ツレ達が近くで派手に暴れるからね、とをし。

兵士達のリーダー格と思わしき屈強な男と

シルビア「―――いいや、民間人じゃない。白人の方はVIPだよ」
                                                       
シルビア「今の状況的には、あんたの国の大統領なんかとは比べ物にならない、超重要人物だな」

「胸にかなり酷い傷を負ってるようだが?」
 
シルビア「私がやる。『普通の傷』じゃないからあれ。それに傷自体は見た目ほど酷いもんでもないから大丈夫」

「そうか。日系人の方は?」

シルビア「学園都市の子。民間人」

といった風に話し込み。

そして更にしばらくの後。
ちょっと待ってな、仕事が出来た、と言い、足早に屋外に出て行った。
900 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:07:31.50 ID:B0fd2KQo

そういうことでキリエは今、シルビアの帰りを待っているところだ。


『大事な話』がまだ途中なのである。


先ほど、ここに来る道中にてキリエが身分を明かしたところ。

シルビアと名乗った聖人は、
不機嫌な思案顔を浮かべてうんうん唸り始めた。

なぜシルビアがそう頭を抱え始めたのか。

キリエにとっては差ほど疑問ではなかった。

『フォルトゥナのキリエ』がこの島にいる、
という事が完全に想定外だったのだろう。


自意識過剰ではなくとも、
魔術的界隈では自分がどういう風に捉えられているのかは、キリエは重々承知している。


歴史的にも魔術的にも、そしてもちろん、人間社会での政治的にも。
知る者にとっては、キリエという人物の存在はあまりにも『重すぎる』。

十字教風に例えれば、
それこそ『生きている本物の聖母』だ。
901 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:11:51.74 ID:B0fd2KQo

彼女の扱い方によっては、天界魔術サイドと魔界魔術サイドの全面戦争を引き起こしたり、
いや、そんな事など生ぬるい、
黙示録でさえままごとに思えてしまうような災厄にも利用できてしまうだろう。


そんな彼女を、シルビアはこんな場所で『拾ってしまった』のだ。


重要な使命を背負って、
そして命を賭して向かった地にて、唐突に現れた『フォルトゥナのキリエ』。
胸には高度な術式が刻まれている杭が刺さっており、どう見ても普通ではない。

誰が見ても『訳アリ』と捉えるのは確実だ。

だが、だからといって投げ出せるものでもない。

これ程のVIPがここにいるのは、
普通に考えてそれ相応の意味があるはずなのだから。


そんな、様々な面でとてつもない『影響力』を有しているのがこのキリエだ。


もちろん、キリエ自身が決定権を持つのではなく。



『道具』的な意味で、だ。



そう、『自由意思』の無い『人形』、という事だ。
902 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:17:10.42 ID:B0fd2KQo
キリエ「…………」

キリエ個人の意思は。

こういう局面には、完全に無視される。

いつもいつも。

攫われ、助け出され。

攻撃され、守られ。

狙われ、そして救われ、だ。


何も、周りの人々に対し憤りを感じているわけではない。

ネロは彼女の本当の面も全て見てくれて、そして受け止めてくれる。
フォルトゥナの隣人も、学園都市の友人も。
皆素晴らしい人々ばかり。


だが。

有事の時は皆、『キリエ』という人間性を完全に無視し。

キリエという人物にぶら下がっている、巨大な『付加価値』だけしか見ない。


唯一、ネロだけは彼女自身の意思を正面から受け止めてくれるが、
彼が常に四六時中一緒にいるわけでもない。

むしろ、彼が留守の時を狙って『有事』は引き起こされる。


『今』のように。


そして彼女は孤立し。


『置物』となる。
903 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:19:10.41 ID:B0fd2KQo
前に出ても役に立たない時くらいはわかる。
決して自意識過剰なわけではなく、彼女はしっかり身をわきまえている。
謙遜しすぎなほどだ。

だが。

それは『彼女が全く役に立たない』、というわけではない。


彼女だって、大いに役に立つ時がある。


それが。


『今』ではないのか?


キリエの胸の奥には、フォルトゥナでも解読が困難なアリウスの術式がある。



それを『解除』する為に作られたレディの杭、つまり、『術式解読の親切な鍵』と一緒に。


きっと役に立つはず。

この『重要な情報』を求めて命を賭けてる人が、必ずいるはず。


その利用価値は絶大なはず。


キリエ「……」
904 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:20:54.72 ID:B0fd2KQo

そこでここに来る道中、キリエは包み隠さずシルビアに話した。

まず、自身の魂に刻み込まれているアリウスの術式の内容と、この胸の杭との関係、
学園都市からここに飛ばされ、そして今に至るまでの経緯を。

それを聞くシルビアの顔色がどんどん複雑な、
例えようの無い微妙なものへと変わっていった。

キリエに出会ったという事実を上回る、
更なる想定外な言葉の連続なのだから、それも当然だろうが。

そんな珍しく反応に困っている聖人と、
早口英語の連射にポカーンとしている佐天などお構い無しに、
キリエは休む暇なく言葉を続けていった。



「アリウスに直結する術式である以上、
 ダンテ・フォルトゥナ組以外に完全に信用できる者はいない」

それがネロやトリッシュ、レディらの統一された意見だ。

いまや230万の学園都市人のみならず、全人類に対しての脅威の象徴であるアリウス。

キリエがスパーダの孫のフィアンセと知った『上』で、
彼女を利用し、そして使い潰し犠牲にするのを厭わない者がいて当然。
905 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:22:16.82 ID:B0fd2KQo
そしてその行為は、ネロ達でも中々責めきれない『現実的な正義』の一面であるからこそ、
余計難しい問題だ。

だからこそ、そんな人間側の正義と正義が摩擦を起こしてしまうような事態を避ける為に、
皆はとにかくキリエの術式の解除、その破壊を推し進めた。

絶大な武器になるであろう、『重要な情報』も一緒に破壊、だ。

しかしそこが、キリエが納得のいかないところであった。


世界中の皆が、等しく脅威に晒されているのに。


なんで自分だけが先に救われるのか―――と。


『これ』は解除してはいけない。


『これ』は利用するべきだ。


例え、私の命が危険に晒されてでも―――と。


そしてもう一つ。


もう一つ、このキリエの選択には大事な訳がある。

いや、最も大事な事だ。


それは。


ネロのため―――。



―――ネロを『救う』ために、やらなければいけないことがあるのだ。



ネロは『今』、迷走しているのだから―――。
906 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:23:41.49 ID:B0fd2KQo

キリエの状況説明を一通り聞いたシルビアは。


あああ!!!どうなってんだい全く!!!少し整理するから待て!!!!、と頭を抱え込み、口を噤んでしまった。
キリエとしては、この状況説明の後に本当に言いたいことが続くのだが。

そのまま、一行は黙々と大通りの歩道を進み、ここに到着。
そして上の通り、半ばシルビアは逃げるように外出していった。


そういう事でキリエは今、シルビアの帰りを待っているのだ。

話はこれからだ、と。


まだ、私自身の意思を伝えていない、と。


そんなキリエの隣にて、室内をジッと眺めていた佐天。

佐天「んぐ……ぅ……う……」

しばらくの後、彼女は口を押さえ苦悶のうめき声を漏らした。

周囲には死んでるのか生きてるのかわからない、横たわったままピクリとも動くことの無い、
血の滲んだ包帯を巻いた者達。

床には大量の血の染み。

初めて味わう、血と汗のすえた匂いが充満した劣悪な空気。

佐天にとっては強烈であった。
おぞましいほどに。
907 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:27:12.38 ID:B0fd2KQo

前に鏡の世界に入った際、
佐天は一瞬だけ悪魔に引き摺られている『下半身』を目にした事があるが、
その当時の彼女は既に精神が朦朧としていた。

外界の細かい事に一々意識を向けてれなかったのだ。

だが今は違う。

ありえない事になったのは二度目であり、そして彼女はつい先ほど、
勇気をもって『前』に歩み出した。

最早、彼女は周囲の現実から目を背けたり逃避はしない。

意識はぶれず、はっきりとしている。

だからこそ。

だからこそ彼女は今ここで、
本当の意味で『初めて』、凄惨な現実を目の当たりにしていた。

その時。

近くにいた一人の兵士が佐天の前に屈み、なにやら彼女へ向けて言葉をかけ、
男は銀色の、金属製の小さめな『水筒』を佐天に差し出した。

突然の英語で全く聞き取れなかったものの、
声色から、気遣ってくれているを把握した佐天。

遠慮することなくその水筒を即座に手に取り、
そして勢いよく中身の液体を口に流し込んだ。


実はその『水筒』、
厳密に言えばスキットルという『蒸留酒』用の容器である。

更に言えば、ちなみに兵士はこう言っていた。

「水は貴重品だから出せないが、『コレ』ならあるぜ。『飲める』か?嬢ちゃん」

908 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:31:14.35 ID:B0fd2KQo
佐天「―――んげほぁッッ!!!んががッ……?!……ァッつッッッ?!」


焼けただれてしまうような強烈な喉越し。
一気に熱を帯びる体の芯。
口内から鼻腔へと充満する、独特な浮遊感を感じさせる香り。

佐天「ぬ゛ぁ゛にごれェ゛ェ゛ェ゛???!!!んげッッふ!!!!」

良くも悪くも彼女の倦怠感を蹴散らし、
意識を叩き起こす凄まじい刺激であった。

法を外れたスキルアウトや、裏の特別な権限がある暗部関係でも無い限り、
未成年が酒を手に入れるのは非常な困難な学園都市。

そんな地に住まう、普通の普通の中学生である佐天。


その彼女の、人生初めての飲酒は。


悪魔が蔓延る地獄の底にて、
アメリカの特殊部隊員から貰ったブランデーだ。


言って聞かせても、普通ならば誰も信じないであろう、
なんとぶっ飛んだ初体験だろうか。


ちなみに、兵士達は飲酒の為に持ち歩いているわけではない。

医療キットが底を付いた為、
方々で調達した酒を消毒液代わりにしているのだ。
909 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:32:37.75 ID:B0fd2KQo

と、佐天が顔を火照らせ咽ていたところ。

キリエ「私にも」

隣のキリエが、彼女の手からスキットルをやや乱暴に取り。
即座に大きく一口、豪快に飲み込んだ。

キリエの喉をブランデーが伝う音が佐天の耳にも聞こえてくるほど。

キリエ「……ッか……けほッ……」

そして軽く咽せたが。
その目は苦悶に喘ぐ色は無く、むしろ力強い光が宿った。



今現在、彼女の胸を杭が深く貫いている。


ルシアの施した術式が効いているとはいえ、
やはり徐々に彼女の体力を削り取っていく。

今も少しずつ、意識がおぼろげになり始めていたところだった。

そこに度数の高いブランデーの一撃。

後に色々響くであろうが、
その一撃のおかげでこの瞬間の意識は完全に覚醒した。
910 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:36:49.84 ID:B0fd2KQo
その時、ちょうどタイミング良くシルビアがレストランに戻ってきた。

キリエ「―――シルビアさん。話の続きを」

その姿を見て、キリエはさっそく声を飛ばした。
兵士に押し付けるようにスキットルを返し、右手で口を拭いながら。
(ちなみにその兵士は、ぎゃあぎゃあ喚く佐天を見て笑っていた)

シルビア「その前に紹介したい者がいる」

と、そんな急かすキリエを制止し。

シルビアは一人の少年を招き入れた。

それは黒い戦闘服に金髪、サングラスという装いの日系人だった。

その少年は、影際にいたリーダー格の兵士に一瞥した後。
キリエの前へまっすぐ進んで来。

土御門「はじめまして。土御門だ」

軽く礼をし、流暢なイギリス英語でそう名乗った。

土御門「シルビアの『同僚』であり、今はこの島に展開している能力者部隊の指揮を執ってる」

キリエ「……はじめまして。キリエです。あなたのお名前は、以前から良く聞いております」

土御門「よろしく」

とその時。

土御門、と名乗った少年の後ろにいた少女、
その姿を見た佐天が声を挙げた。


佐天「―――げほッ…………へ?し、白井さんッッ!!!???」


そして呼ばれた少女も、驚きの色に満ちた声を。


黒子「―――…………佐……天……さん…………????」
911 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 00:37:56.76 ID:B0fd2KQo
ぶつ切りですが今日はここまでです。
次は明日に。
912 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 00:38:58.61 ID:cvJoKKoo

>>1復活ヒャッハー
913 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 00:44:42.89 ID:Hz4c14ko
乙っした!!
914 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 16:15:51.10 ID:Z68L5Ys0
エンジンかかって来た乙!
915 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 16:16:25.27 ID:RIQCgwAO
佐天と病み黒子の邂逅か……緊張してきたな
>>1
916 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:31:20.49 ID:n0ggPk2Ko


―――友人。


名門常盤台に通い、ジャッジメントに勤める才色兼備な優等生。

絵に描いたような、いや、それ以上に濃い「お嬢様」風な口調だが、実際は非常に面倒見の良い、
優しく正義感溢れる少女。


それが、佐天の知る白井黒子の姿。


だが今、佐天の前にいるのは―――。


いや、『物理的な姿』は確かに白井黒子だ。

体格、顔の形、髪型も全て『同じ』だ。

しかし。

全然『違う』。

空気が違った。

瞳が違った。

表情が違った。


佐天「―――」


全くの別人と思えてしまうほど。
917 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:31:55.50 ID:n0ggPk2Ko

佐天「…………白井さん…………?」

佐天はゆっくりと立ち上がり、
黒子の方へと徐々に歩み寄りながらもう一度。

その友人の名を確かめるように呼んだ。

「何でここにいるのか?」ではなく。


「本当に白井黒子なのか?」、というニュアンスで。


それに対する黒子の反応は。

彼女は無表情、まるで西洋人形のような生気の無い顔で、
瞬きもせずに数秒間佐天を見つめた後。

今度は、佐天など視界に入っていないかのように視線を逸らし。



佐天「―――なっ―――」



数歩後退り、であった。
918 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:34:36.76 ID:n0ggPk2Ko

土御門「…………」

そんな二人を、横目で見ていた土御門は、
彼女達の『妙な空気』を敏感に読み取り。

土御門「―――白井。フロアに出てろ」

冷ややかに黒子に向け命令を飛ばした。

レストランから出て行け、と。


土御門「おい。お前も出ていけ。『邪魔』だ」


佐天「は、はいっ……すみませんっ……」


そして強い口調で佐天にも。

土御門の言葉は乱暴に聞こえるだろうが。
たかが一兵卒のメンタル問題になど、一々気を使っていられないのも当たり前。
はっきり言って知ったことではない。

だが、これは今の土御門にできる最大限の『優しさ』でもあった。

こんなに聴衆がいる所で二人の関係を。

その『すれ違い』の有様を披露させることはない、と。


彼女達側にしてみれば、俺達の方が『邪魔』だろうからな、と。
919 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:37:32.07 ID:n0ggPk2Ko
黒子はさながらロボットの如く、踵を返し足早に。
そしてその後を、佐天が駆け足で追いかけていき、二人はレストランから出て行った。

土御門は彼女達の後姿を横目で見送った後、
壁際に積み上げられているテーブルに向かい、軽く腰掛けた。

シルビア「じゃあ……」

土御門「どうぞ」

シルビア「……話はまず私からか」

シルビア「この島の外は今、悪魔と人類の全面戦争だ」

イギリス、南ヨーロッパとロシアは戦火に包まれ、
北ヨーロッパと東アジアも時間の問題、

南北両アメリカ大陸も、この島がある以上同じく終わりの時に向かっている、と、
シルビアは簡単にこの島に来る直前の世界情勢を簡潔に口にし。

いや、全面戦争と捉えてるのは人間だけで、悪魔側からすれば始まってすらいない段階だろうけど、と、
締めに独り言のようにシルビアは呟き、そのまま更に続けていく。

シルビア「……そもそも今世界中で暴れてる悪魔も、この島のクソ主の手が入ってる『まがい物』だしな」

シルビア「ただそんなものでも、人類にとっては滅亡するかの問題」


キリエ「…………」


シルビア「だから私達は止めに来た」


シルビア「私達の第一の目的は、人造悪魔兵器の制御中枢に浸入し、術式を破壊する事」
920 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:40:17.76 ID:n0ggPk2Ko
キリエ「……」

シルビア「術式の回線に浸入しようとしたんだがな、どうやっても無理だったのさ。ヒント無しじゃ、術式構文の解読は不可能」

シルビア「かと言って、『核』を壊そうにも場所がわからない。場所がわかっても、直接破壊は困難だ」

シルビア「あのアリウスですどうしようもないのに、奴のバックには神クラスの悪魔共。私達じゃ手も足も出ない」

シルビア「学園都市の子達はアリウスを殺そうとしているみたいだが、それもかなり厳しいだろう」

シルビア「確率が0って事じゃあ無いが、限りなく0に近い」


シルビア「だから残された成功率の高い方法は、『ヒント』を入手し、それで術式を解読し、そして侵入する事だ」


キリエ「―――」

シルビア「この『ヒント』入手を、私のツレが今やろうとしてる」


シルビア「直接『アリウス本人』から『盗み見』させてもらおうってね」


シルビア「これもかなりのギャンブルだけど、アリウスを殺すよりはかなり簡単だろうし」


キリエ「……………………………………それは―――!」


それは私の胸にも―――、とキリエが続けようとしたが。
921 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:42:51.94 ID:n0ggPk2Ko


シルビア「―――『それ』はダメだ」


シルビアが重ねてきた、強い声色の言葉で先を潰された。

シルビア「あんたのその胸にあるのは、私達は『使わない』」


キリエ「ですが!!」


シルビア「さっき言っただろ?アリウスから直接貰うから。だからあんたからは必要ない」


キリエ「……!!」

必要ない、ということは絶対にありえない。
この状況下では、例え1000分の1%であろうと成功確率をとにかく上げたいはず。

シルビアもさっき自分で言ったではないか。

アリウスから盗み取るのでもかなりのギャンブルだ、と。

だがキリエの胸からは、
戦闘せずに即座に手に入れることができるではないか。
922 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:49:44.13 ID:n0ggPk2Ko
と、シルビアに向かってキリエが喰いかかろうとしが。

シルビア「最も重要なのはそこじゃない。今のあんたの話を纏めると―――」

聖人はまたもや先手を打ち、彼女の言葉の頭を押さえ込み。
更に強い声色で。

そして続けた。


シルビア「―――その胸の術式を解除しないと、あんたのフィアンセはアリウスに刃を向けられないんだろ?」


シルビア「これは、私達にとっては大問題だ」

シルビア「アリウスを確実に潰せる者が手を出せないなんて、大いに困るっての」


シルビア「あんたの考えも確かに理にかなってる」


シルビア「でもな、さっきの事がある限り、選択肢はその術式の『解除』以外無いんだよ」


シルビア「言っちまえば、人造悪魔兵器の中枢破壊よりもアリウスの方が最優先だ」

シルビア「覇王が復活しちまって好き放題やられたら、イギリスだのヨーロッパだのそんなレベルの話じゃなくなるだろ」


キリエ「―――」

そう。

シルビアの言葉は正しい。
シルビアの判断も正しい。
シルビアの優先度判断も現実的だ。

だがそれは。


「キリエの胸の術式が解除されなければ、ネロはアリウスに手を出さない」、という大前提が『正しければ』の場合だ。


そしてキリエはその『大前提』を―――。


―――否定する。
923 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:52:40.40 ID:n0ggPk2Ko
シルビア「あんたの気持ちは嬉しいが。あんたにできる事は無い」

シルビアはそう、淡々と告げつつその場に屈み、
床に指で陣を刻み始めた。

シルビア「だから、手早くその胸の術式を解除させてもらう。そしてさっさと島外に退避してもらうよ」

シルビア「結構手間がかかりそうだけど、難易度自体はそう高くない。解除まで15、6分ちょっとってところだ」

シルビア「土御門。式の構築を手伝え。テレズマは私のを使う」

土御門「……………………………………………………」


キリエ「―――……るんですか?」

とその時。

キリエが小さく何かを呟いた。

シルビア「あん?」


そして次は。


キリエ「―――あなたは、ネロの何を知っているんですか?」


力強く。
レストラン内全体に響くほどの声を。


シルビア「…………」

その言葉でシルビアの手が止まった。
924 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:55:50.39 ID:n0ggPk2Ko
キリエは誰よりもネロの事を知り尽くしている。
常にネロを見てきた。
ネロという等身大の男の姿を。

最も近い場所から。
最も信頼されている位置から。

そして彼女こそが、ネロが唯一全てを曝け出す相手。

ネロ自身ですら自覚していない部分を、キリエは見続けてきた。

その事実があるからこそ、キリエは断言できる。

あのネロが、
「キリエの術式が解除されるまでは、アリウスに手を出せない」

という『不条理な状況』にいつまでも縛られてしまう『小物』でも?


違う。


彼は『大物』だ。


あの人は今や。


世界の全てを『背負える』―――。


そう、偉大なる祖父、父、叔父達と並び立つ―――。



             ヒーロー
―――本物の『英雄』の力を有している。



今の彼は『不条理な選択』そのものを―――。



―――『不条理な状況』そのものを叩き壊せる、と。
925 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:58:07.40 ID:n0ggPk2Ko
ただ。

ただ一つ、そこには問題がある。

実は、ネロ自身がその事に『気付いていない』のだ。

「キリエの術式が解除されるまでは、アリウスに手を出さない」

ネロ自身も今、こう考えてしまっている。
半ば自身に言い聞かせるようにして。

『なぜそうなるか』の重要な部分から目を離して。

なぜなら、自身の『今の思考』が纏まっていないから。

フォルトゥナの核として、そしてスパーダの孫として、
デュマーリ島の件を冷静に解決しようとしている。

クールに、淡々と、常に余裕を持って。

―――と、傍から見ればそう捉えられるだろうが。


キリエの目だけはごまかせない。
彼女だけは、ネロの本当の内面をはっきりと捉えた。

アリウスを核とした問題。

キリエが人質になるという、ネロにとってトラウマとも言える最悪の事態。

そこから派生して考えられる、下手をすると血が流れてしまう他の人間勢力との摩擦。

全世界の人造悪魔兵器と魔界・天界の同行。


そして父、バージルの事と―――。


アリウスと合間見えた際における、魔剣スパーダの反応の意味、
同時に急激に変化した自身の精神感覚。

そんな今現在の、『未知なる自分』がわからないのだ。

『今の自分』が一体何なのか、思考が纏まっていないのだ。
926 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:58:50.33 ID:n0ggPk2Ko

だからこそ、ここで今キリエが後押しする。


だからこそキリエは、ヒントとなるちょっとした刺激を与える。


将来の妻になる者として、ネロの背を支えるものとして。
彼を支援する。

彼が道に迷っているときは。

そっと、手を差し伸べて導く。


自らの行動で示す。


『あなたはもう、大丈夫だから―――』、と。



それが、キリエが今やらなければいけない事であり。



キリエに『しか』出来ない事―――。
927 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:00:47.78 ID:n0ggPk2Ko


キリエ「―――私は、あの人の事を知っています」


キリエは一度深呼吸した後、ゆっくりと、
確かめるような口調で口を開いた。


シルビア「…………それで?」


キリエ「悪魔の力に関してはわからないところが多くありますが、」

力強く、それでいてどことなく温もりのある美しい声で。


キリエ「あの人の性格、思考の仕方。今何をどう感じ、何を考えているのか。その全てを知っています」


キリエ「そこを踏まえて断言します」


キリエ「私の術式のせいであの人が刃を振らない、という事態は絶対に有り得ません」


キリエ「万が一私が死したとしても、その悲しみであの人が暴走することも有り得ません」



キリエ「『今』のあの人は、決してそういう事はしません」



シルビア「……なぜあんたは、そう自信を持って言い切れる?」



キリエ「あの人の妻になる者ですから。私は」

928 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:02:00.74 ID:n0ggPk2Ko

キリエはあっさりと答えた。

当たり前のようにはっきりと。

スパーダの一族と一緒になるという、その『重さ』を誰よりも理解し、
身を持って知っている言葉を。



キリエ「ですから私の解放は後にしてください。その前に―――」



そしてこれが。



キリエ「―――私を思う存分利用してください」



キリエが、『自らの意思』で作った『この状況』。


これが、今の状況を固く縛っている鎖を打ち砕く、凄まじい一撃となり。


ネロへの強烈なメッセージとなる。


ゴールの目の前で迷っているネロを救い出す―――。


―――『ちょっと強引』な最後のひと押しとなる。


これで踏み出せる最後の一歩で。


ネロは正真正銘の『完全』となる。
929 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:04:12.97 ID:n0ggPk2Ko

そのキリエの言葉を聞いたシルビアと土御門は数秒間、沈黙を返す事しかできなかった。

土御門「(…………はは、なんつー女だ)」


ぞわりと感じる寒気。

彼女のそのあまりのスケールのせいだ。

いや、普通に考えれば、
キリエという女がどういう存在なのかは予想がついたはずだ。

そもそも、『こういう女』でなければ、成り立たなかったはずではないか。

あのネロを支える女だ。

あのネロの拠り所だ。

あのネロの全てを受け止め、受け入れる女だ。

将来、あのネロの妻となる女だ。

将来、あの新たなスパーダの血族を生む女だ。

『スパーダの一族をも同じ目線で見、導こうとする凄まじい器量を有する女』。

そうでなければ、とても勤まらないではないか。

キリエは、ネロに選んでもらった幸運な女などではない。

なるべくしてなったのだ。


ネロがいたからキリエが救われた、ではない。


キリエがいたからこそ今のネロがいる、だ。
930 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:05:34.76 ID:n0ggPk2Ko
そしてそんな女だからこそ。

「キリエの術式が解除されるまでは、ネロはアリウスに手を出さない」、
「ネロはキリエの身を案じて、術式が解除されるまで大きな動きは出来ない」、

この大前提そのものを破壊できる。


他に誰がそんな視点から見ていた?

誰がそんな発想を?

キリエの話を聞く限り、まずアリウス自身ですら、
その大前提の上でそのような術式をかけたのだ。


つまりキリエのこの行動は、アリウスの範疇をも超えている事になる。


あのアリウスですら『想定外』、だ。


今の今まで、状況は土御門達にとって絶対的な劣勢であった。
『勝利』というカードは、既にアリウスの懐にある状態。
土御門達は、それを何とか盗み出そうと足掻いているのだ。


だが、このキリエの行動が、その状況を覆す究極の一手とも成りうる。


土御門達が足掻きもがき、何とかして食いつこうとしている、アリウスの強大な牙城。


その牙城の『基盤』を、キリエのこの行動一つが『全て』破壊しうるのだ。
931 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:07:48.62 ID:n0ggPk2Ko
そして『基盤』が破壊されたことにより、まさにリセットとなる。

思考し綿密に分析する必要ももはや無い。
リスクを踏まえて成否確率など計算しても意味が無い。

状況的有利不利の消失、だ。


アリウスの懐にあった『勝利』のカードは自由となり、『浮遊』状態となり。


入手が『不可能』だったのが、誰でも『可能』となる。


ただ、それまでの状況的有利不利が消失しただけであり、
それぞれ自身が有する力は変わりがない。

土御門達と比べると、やはりアリウスは圧倒的な力を誇っているのも事実。

しかし状況がマイナスからがゼロになってくれるだけで、何千何万倍も希望が芽生えるのだ。


攻撃が、『通じない』から『通じる』になる。


それだけで充分ではないか。


土御門「…………」


キリエの申し出を受けるか否か。

議論の余地は無い。

答えの選択肢はただ一つ。
932 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:08:54.01 ID:n0ggPk2Ko

小さく、呆れたように笑いながら。

土御門「……OK」

そう呟き、土御門はテーブルから降りた。
そしてシルビアに向け。


土御門「―――決まり。だな?」


その土御門の言葉に対し、シルビアはハッと短く、笑った後。


シルビア「全くね。こう見せ付けられちゃ、仕方ない」


肩を竦めつつため息混じりにそう口にした。



キリエ「……ありがとうございます」


933 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:10:07.01 ID:n0ggPk2Ko
決まったのなら、そう多くの言葉はいらない。

土御門「礼はこっちの台詞だ。それと一つ。キリエ嬢」


キリエ「はい」


淡々と、そして静かに。


土御門「俺の『全て』に賭けて誓う」


土御門「その命を捧げるようなことはしない」


土御門「諸々が済んだ後、必ず術式を解除し、傷一つ無い体で解放する」


別段、なんでもなさそうな口調で交わされた。


キリエ「……その誓い、お受けしましょう」


土御門「ありがとう」


キリエ「こちらこそ」


これは反撃の始まりか、それとも自滅への引導となるのか。
この段階では、そんな事を考えるのはもう意味が無い。

結果はなるようになる。
進路が決まったのなら、ただ進むだけ。

それだけだ。
934 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:13:20.28 ID:n0ggPk2Ko
さっさと始めようか。

そうシルビアはそっけなく呟き。
キリエを抱き上げ所定の位置に移動させては、床に術式を刻み始めた。

土御門「滝壺。結標、今の聞いてたな。悪いが、ここは俺の独断で行わせてもらう」

滝壺『うん。いいよ』

結標『何を今更。任せるわよ。術式云々じゃ私の出る幕ないし』

土御門「結標は今の任を継続してくれ。滝壺は待機してろ。少しやってもらうことがある」

滝壺『?うん、わかった』


シルビア「解析となるとこっちにも『目』が必要だ」

シルビア「そこでオッレルスとリンクを結ぶ。大変だろうが、あいつにこっちの分も―――」


土御門「待て。お前のそのツレ、『目』は何を使ってる?」

        フリズスキャルヴ
シルビア「『北欧玉座』がベースだ。術式構文の8割がオリジナルだから原型止めてないが」


土御門「そうか…………リンクは必要だが、『目』の共有は必要ない」

シルビア「いや、『目』無しでどうしろって?」


土御門「1分くれ。『準備』する」


シルビア「はあ?何の?」
935 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:15:24.29 ID:n0ggPk2Ko
土御門「向こうとここ、両方で平行して解析、そして照合解読した方が早いし正確だ」

シルビアの反応などお構い無しに、土御門は上半身の装備を手際よく外し始め。

土御門「ここで得られる構文には限りがあるだろうし、向こうもまた然りだ。ストックは多い方がいい」

積み上げられているテーブルに放り投げて載せ。

土御門「それ以前に、こっちの作業も押し付けたらお前のツレは死ぬぞ」

更にベスト、戦闘服の上着、その下の軍用Tシャツも素早く脱ぎ捨てた。

土御門「アリウスと戦いながら二方向作業なんざ到底無理だ。どうせ今でさえジリ貧だろう」


そして露となった、土御門の上半身。

シルビアはその体を見て目を疑った。


シルビア「―――お前……それ…………」


首の根元からへその辺りまで。

腕は肘のところまで。


その極限まで鍛え上げられた体の表面は、黒い墨で書かれた『陰陽式』で埋め尽くされていた。



土御門「―――だからここは、『俺の目』を使う」


936 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:17:54.26 ID:n0ggPk2Ko

シルビア「……待て!なんて……!もしかしてその術式は『 召 k―――」


土御門「大げさだな。お前のツレと『似たようなもん』だろうが」


土御門「『上』の許可も取ってある。問題は無い」

シルビア「ッ……!いや……!!そもそも能力者は―――!!」

土御門「その点も大丈夫だ。しっかりと手がある。ああ、そういえばシルビア、お前知らないだろ?」

シルビア「何をだ?!」


土御門「あのアリウスは今な、『天界の門』も開こうとしてるんだぜい?」


シルビア「―――…………な、……なんだって?今何て言った?」


土御門「やっぱりな。知らなかったか」

シルビアの話を聞いていて、薄々わかった。
土御門だって、アレイスターから言われるまでは予想だにしていなかったのだ。
まあ、シルビア程の人物が知らなくてもなんの不思議も無い。

アレイスターかアリウス、
スパーダの一族やトリッシュ等じゃなければ把握できないようなレベルの話なのだから。
937 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:19:25.47 ID:n0ggPk2Ko
その一方で、キリエの顔色は全く変わっていなかった。
つまり明らかに知っており、そしてあえて言わなかった、という事だ。

土御門「(…………まだ、何かあるかもな)」

その点を考えると、他にも何か言ってないことがある可能性も考えられる。

ただ、無理に聞き出すことも無い。

おとなしそうな見かけに反して、
さっきのとおりこのキリエは相当頭がキレる女だ。

視点の位置は、土御門達よりも遥かな高みにある。


そんな彼女の事だから、言わないことにも必ず意味がある。


その理由は恐らく、今は伝える必要が無いから、だ。
そして必要な時がきたら、必要な事だけを伝えるだろう。


土御門「(……今は目の前の事に専念するだけか)」


キリエ「…………」

その土御門の推察は的中していた。

キリエはもう一つ。

彼女とルシアしか知らない、とても重要な情報を握っていた。
が、彼女は 『まだ』言うべき時ではない、と判断したのだ。

なぜなら。

その情報を口にすることは、あまりに危険すぎたから。


『影』がこんなに濃い場所では。


『影』が支配しているここでは―――。

938 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:20:48.89 ID:n0ggPk2Ko
土御門の言葉で未だに己の耳を疑い、
素っ頓狂な声を挙げているシルビア。

そんな彼女に土御門は、
後で話すから今は作業してくれ、と促した後。


土御門「―――滝壺。待たせたな」


滝壺『うんと、私は何をすればいいのかな?』


土御門「お前の力で能力者からAIM、完全剥奪は可能だろ?」


滝壺『え?…………そんな事したら、そのひとに何が起こるか……「大変な事」になっちゃうんじゃないかな?』


土御門「そこは『どうでもいい』。可能か不可能かだけを聞いている」


滝壺『……やったことないからはっきりとは言えないけど…………うん。できると思うよ』



土御門「OK。では頼む。今すぐAIMを剥奪し―――」




土御門「―――俺を『完全なる無能力者』に戻してくれ」



―――
939 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 02:21:59.06 ID:n0ggPk2Ko
今日はここまでです。
次は12か13の夜に。
940 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 02:24:26.23 ID:5z5hc3lfo

やっぱりつっちーが一番かっこいいな
941 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 02:26:54.57 ID:+Y2JYKbDo
おつかれさま。
942 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 02:27:05.65 ID:gyC+L8Oho
943 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 03:24:04.92 ID:8z9mSEeq0
いやーんつっちー超カコイイ
944 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 09:48:38.79 ID:pWVocFCDO
つっちーカッケー
945 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 10:33:10.54 ID:WOG+B6i7o
そういう使い方も有るのか
946 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 23:35:23.37 ID:sYp763lbo
土御門
947 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 01:16:19.22 ID:MNvkCU7AO
土御門に惚れる の段
948 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 02:07:26.98 ID:a+tSuFFAO
これは面白い
まさか滝壺の能力をそう使うとは……
みんなに見せ場があっていいな
949 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 02:42:24.21 ID:6UXODSx9o
土御門になら俺のケツの処女を捧げてもいい
キリエ嬢には俺の命を捧げてもいい
950 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 22:41:01.28 ID:xGLODwywo
板移転みたいだから依頼出しましょう

■ 【必読】 SS・ノベル・やる夫板は移転しました 【案内処】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1294924033/
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

951 :真・スレッドムーバー :移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/14(金) 06:27:45.07 ID:BDK1e444o
えっ
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 06:33:57.87 ID:xKWo/1E00
(;゚Д゚)y━・〜 やっと見つけたぜ
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 20:24:40.14 ID:N3XK+SbDO
今日かな?
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 02:49:56.58 ID:w/2JupjQ0
最近遅いな
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 06:55:04.76 ID:aYAeNoBAO
年明け後も職種によっては忙しいだろ
気長にまとうぜ
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 22:53:17.75 ID:aCNhImd5o
―――

御坂が放出する凄まじいエネルギー。

その『全て』を無駄なく『変換』する、
よく考えれば『聖遺物』並の希少物であるダンテお手製の大砲。


そして放たれる、人間界最高峰のデビルハンター、レディが作った特性魔弾。


超高層ビルの屋上、そこから伸びた光の矢は、
800m程離れていたアリウスの下に一瞬で到達し。

彼を覆う、光のうねりに激突した。

飛び散る光の飛沫。
周囲をなぎ払う衝撃波。


アリウス『(―――これがアーカムの娘の弾か―――)』


アリウスはその瞬間、
飛来してきた魔弾に刻まれた、対魔の高度な術式の検分を行った。


辺りを破壊する物理的な威力はまず論外。
副産的な余波に過ぎない。

『力の激突』も、そこまでのものではなかった。


つまり、弾頭衝突による『直接的な威力』はたいした事は無い、ということだ。


直接的な威力は、だ。
958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 22:54:22.10 ID:aCNhImd5o
実を言うとこの手の攻撃は、
『力の激突』によって対象にダメージを負わせる類のものではない。


本命は『浸透汚染』だ。


力や魂、器を直接的に破壊するのでは無く、
それらを統率する方程式や制御系統を侵食し、動作不良を起こさせる。

例えるならば、
PCを叩き割るハンマーではなく、内部プログラムを破壊するウイルスだろうか。

この魔弾に限らず、デビルハンターが使う魔界魔術は、
基本的にこのような性質のものだ。

攻撃が命中した瞬間に術式が起動、そして浸透し相手の力を汚染。

劇毒性を帯び、
麻痺を起し、
暴走を誘発させ、
自己崩壊へと導く。

もちろん、術式の組み方によって効果を変えることも可能だ。
体の自由のみを奪う拘束系から、上のような正真正銘の殺害専用な効果まで。

このように、デビルハンターの放つ攻撃自体はあくまで『起爆剤』であり、
対象の悪魔の力『そのもの』が爆薬となる。

言い換えれば、相手の力が強ければ強いほど、
術式による破壊力も比例して増大するのだ。

これが、どうしようもないほどに力が劣等な人間達が、
悪魔に対抗する為に編み出した戦闘方法である。


悪魔に勝てる『力』が無いのなら。


悪魔を優る『叡智』によって打ち勝つ―――と。
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 22:55:40.65 ID:aCNhImd5o

アリウスに向け飛翔してきた魔弾の製作者、
アーカムの娘『レディ』は、その分野における最高峰の一人である。

相手の力を利用して相手を倒す、そのデビルハンターの戦法にとことん特化し、
一介の人の身でありながら、場合によっては大悪魔をも相手にできる『狂気の戦巫女』。


そんな彼女の実力に反せず、魔弾はアリウスの光のうねりに直撃した瞬間。

あっという間に浸透し、術式を汚染し破壊していく。


何枚も階層を貫通し、アリウスの顔から1mのところまで穴を穿つ。


アリウス『(―――さすがだ―――素晴らしい)』

その凄まじい威力と強烈な効果は、アリウスをも素直に唸らせる仕上がり。

術式の洗練具合は正に究極。
掠っただけで、フィアンマの『聖なる右』に障害が起こるのも納得せざるを得ない水準。

ただ。

これがアリウスにとって、脅威と成り得るかの話はまた別だ。
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:00:14.61 ID:aCNhImd5o

当たり前の事だが、このアリウス自身もレディと『同じ分野』に身を置く者。

そして君臨するその位置は。


レディが魔界魔術使用者の『最高峰の一人』なら。


アリウスは『たった一人の頂点』。


『唯一』の存在だ。


この壁が破られたところでどうって事はない。


この程度では、アリウスの『肉体までは』攻撃は達しない。



アリウス『(―――……)』


ガブリエルの力を帯びたアックアとオッレルス。


そして今この瞬間、着弾の閃光の中から現れた―――。



―――ルシアと麦野の攻撃を考えても、だ。
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:01:31.79 ID:aCNhImd5o

日本の曲刀を、左右それぞれの肩に乗せる構えを取りながら、
低姿勢で一気に突っ込んでくるルシア。

そしてアリウスを覆う光のうねりの面、御坂の魔弾によって汚染された『傷』を目掛け、
×字を刻むかの如く曲刀を振り下ろした。

上半身を完全に伏せってしまう程に、渾身の力を篭めて。


飛び散る光の残骸、更に深くなる『傷』。


そして刃を振り下ろしたルシアの後方には、アラストルを構えた麦野。


麦野『―――シッ―――』


軽く開かれている彼女の唇、そして並びの良い歯、
それらの隙間から息が小さく漏れ。

彼女の全身がしなやかに使われて、真っ直ぐに放たれるアラストルの鋭い刃。

その白銀の切っ先は、ルシアの小さな背中の真上を通過し。


御坂とルシアの攻撃が重ねられた『傷』へと―――。



麦野『―――ッァアアアアアッッ!!!!!!!』
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:04:13.39 ID:aCNhImd5o

だが。

結果は先ほどと『同じ』であった。

放たれた光線は、アリウスの顔のすぐ前で屈折、
再び真上の天空を貫いただけ。

麦野『(チッ―――!!)』

そして光のうねりに開いた穴も急速に埋っていき、
めり込んでいたアラストルは一気に押し出され。

ほぼ同時に、アリウス側からの攻撃が繰り出される。


虚空から出現し二人へと一斉に伸びる、『銀色の触手』。

だが、麦野とルシアも一歩も引かなかった。

彼女達はあらかじめ口合わせでもしてたかのような動きで、即座に対応。


ルシアは低姿勢で下方、後方の麦野は上方を。

『赤毛の少女』は華麗に、
かつ無駄の無い動きで二本の曲刀を振るい、次々と触手を切り落とし。

『栗毛の女神』はアームとアラストルをぶん回し、なぎ払い引きちぎっていく。
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:06:13.20 ID:aCNhImd5o
ミスです。一レス抜けました。
>>961の後に以下

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

この島に来て、そして先ほどのアリウスとの手合わせで、
一つとある『段階』を超え、
アラストルの力を本当の意味で掌握し使いこなし始めた麦野。

『新生』した彼女が放った突きは、正に強烈だった。

アラストルの切っ先は、耳障りな凄まじい破砕音を響かせながら
アリウスの光のうねりに深く突き刺さり。

この魔神の顔面から僅か40cmのところにまで到達するほどであった。


更に、麦野の攻撃はこれだけでは留まらなかった。


彼女はアラストルを引き抜こうとはせず、
立て続けに『粒機波形高速砲』を放つ。


よりアラストルの力が濃く混ざり、かつ力が限界まで圧縮されている『紫色』の光の砲撃。


その凄まじいビームの発射点はアラストルの『切っ先』。


つまり、アリウスの顔面から40cmの点から―――。
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:08:23.04 ID:aCNhImd5o
では戻って>>962から

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

凄まじい速度、おびただしい数の攻撃が飛び交う攻防撃。

麦野とルシアは、決して手数では負けていなかった。
いや、勝っていたと言っていい。

触手の攻撃を全て退けつつ、合間合間に飛来してくる御坂の魔弾に合わせ、
アリウスの光のうねりに攻撃を叩き込んでいく。

しかし。

それでも突破できなかった。

攻撃が届かない。

当のアリウスは、
光のうねりの中で葉巻を優雅に咥えているだけ。

アリウスのやっている防御は、麦野でもわかるほど最低限のものであった。
いや、アリウスにとっては防御ですらないだろう。

麦野達の繰り出す『刺激』に対し、
『反応』を示しているだけ、だ。


麦野『(眼中に無しかよ―――クソッッ!!!!!)』

進展の無さと、未だ底の見えないアリウス。
それが、彼女を焦燥させ苛立たせる。

その滾りは無意味だと理解しつつも、頭は冷静さを失いかけそうになる。


麦野『(―――あいつらは「野次馬」かよ)』

ちなみにアリウスと敵対しているとみた、あの天の者と金髪の男。

その金髪の男はいつのまにか姿を消しており。

天の者は相変わらず上空に浮遊―――。


―――していたのだが。
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:10:59.14 ID:aCNhImd5o

麦野『―――』


浮遊していた、と言う点では、先ほどから変わりなかったが。
その他の部分が大きく変化していた。

星一つなかった漆黒の空。

そのキャンバスは今や、光で形成されている無数の術式で埋め尽くされ。


空全体が、『魔方陣』と化していた。


そしてそんな空の中央に浮遊する『天の者』、ガブリエルの力を帯びたアックア。

彼は身の丈を超える大剣アスカロンを頭上に掲げ、
アリウスを金色に輝く瞳で見下ろしていた。

麦野『(―――)』

天を覆う奇妙な文字列や、巨大な翼などが一体何なのかは、
知識が無い麦野は全くわからない。

それでも、これだけは彼女でもわかる。

あの男の放つ雰囲気とその視線、構えで一目瞭然。


次の瞬間にでも、強烈な一撃をアリウスに放つ気だ、と。
966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:12:22.83 ID:aCNhImd5o

―――攻撃は真上からだ。

そう読んだ麦野は、触手らの攻撃を退けつつ、思いっきり地面を蹴り舞い上がった。

アリウスの頭上を掠めるようなコースで。
そして宙で身を翻し、光のうねりの上部にアラストルとアームの二撃を叩き込んだ。

麦野の動きを見、即座にその行動の意図を読んだルシアも続けて一気に跳ね、
同じく上部に刃を叩き込む。

弾丸のように飛び上がっては、二人はそうして光のうねりの上部を削り取っていく。

アックアの攻撃が『同じ点』に重なるように、だ。


その時、アリウスは真上を見上げていた。

ただ、麦野・ルシアとは焦点も目も合っていなかったが。

その視線は、
飛び越えつつ剣撃を叩き込んでいった彼女達へではなく。


アリウス『(―――ほお)』


アックアが空に形成した、大規模な術式へであったからだ。


アリウス『(「聖母の慈悲」、それによって「制限」を外した―――)』



アリウス『(―――「神戮」か)』
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:14:34.58 ID:aCNhImd5o


『神戮』、別名「一掃」。


かつて、大天使ガブリエルがゴモラを滅ぼした際に行使した『天の怒り』。

無数の『火矢』を大地に降らせ、全てを焼き払う『天の力』。
物理的威力だけでも大陸一つ丸々打ち砕く威力。

ゴモラを滅ぼした伝説から、人間の間では一般的に
このような『面制圧を行う広域破壊術』、として認識されている。


だが、実際は少し違う。


『面制圧』はあくまで一つの使い方に過ぎない。

むしろ、面制圧のタイプは
『雑魚をあしらうだけ』にしか使えない低難度の『オプション』だ。


力を有する『強者』に対しては、
そんな『拡散』した攻撃など無きに等しい。
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:16:08.57 ID:aCNhImd5o

そして今。


アックアは、『面制圧ではないタイプ』を使おうとしていた。

これが元々この『神戮』、別名「一掃」と呼ばれる力の本来の使い方だ。


その本質は、『一帯を一掃』するためではない。

リク
『戮』、それは『刃』をもって『斬り倒す』事。


すなわち『神戮』とは。



―――『神の刃』を持って敵を『一刀に伏す』事―――。



『面制圧』ではなく『一極集中』。



『一掃』から『一点』へ―――。
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:18:03.99 ID:aCNhImd5o

億を超える『火矢』が一つになり。

力が極限まで圧縮され。

                T H M I M S S P
アックア『―――聖母の慈悲は厳罰を和らげる』


アックアが掲げる大剣アスカロンに『載り』、
刃の一線上に集約。


         T C T C D B P T T R O G     B W I M A A T H
アックア『時に、神の理へ直訴するこの力。慈悲に包まれ天へと昇れ!!』


次いで『聖母の慈悲』によって制限が消失し。


その大剣は、『ガブリエルの剣』へと成る。


アックアの詠唱が終わると同時に、
人界の氷に『似た何か』で形成されている、長さ100mにも達しうる巨大な翼が大きくうねり。

彼の体を爆発的に加速させる。


真下のアリウスへ向けて―――。


アックア『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!』


そして白金の光を帯び、天の火を引くその刃がアリウスの頭部へ―――。

光のうねりの上部―――。


―――直前に麦野とルシアが刻んだ『傷』へ。


打ち下ろされた。
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:20:58.70 ID:aCNhImd5o

―――結果はどうなったか。


アックアの振り下ろした『神の刃』は、
アリウスを覆っていた光のうねりを『完全』に貫通した。


そして『アリウスを両断した』―――。


―――と表現できるかもしれない。


『手応え無く空を切った』、と同じニュアンスで。


簡単に言えば、
大剣アスカロンは光のうねりを叩き割った後、アリウスを『すり抜けた』。


まるで立体映像を切っただけのように。


更にその瞬間、アスカロンを包んでいた輝きも、
噴出してた火も一瞬にして『消失』。

アリウスの股下へと通り抜けた大剣は、
そのままアスファルトに鈍い音を立ててめり込む。


それが結果。


それだけであった。
971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:22:56.08 ID:aCNhImd5o
そしてただすり抜けた『だけ』なら、
この『神の刃』は大地を難なく割るはず。

さすがにスパーダの一族ほどとはいかないものの、
この刃の威力は人間界に負荷をかけ、その器にちょっとした傷を付けてしまうほどだ。


そんな次元を超えた破壊が例え無くとも、
アックアの腕力による単純な運動エネルギーだけで大きく地面を抉り飛ばす。


だが、そんな現象など起きなかった。


アスカロンは、アスファルトに鈍い音を立ててめり込んだだけ。
どう見ても自重で沈んだだけ。


アックア『……………………』

なぜそうなったのか。

それはわからずとも、
状況証拠だけで『何がどうなったのか』は容易に想像が付くだろう。


刃に載せられていた莫大な力が、
アリウスの像に接触した途端『消失』・『霧散』したのだ。

天界の力も、そして単純な運動エネルギーの大半も。

972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:26:17.89 ID:aCNhImd5o

アリウス『―――さて……自己紹介はまだだったな。アリウスだ』


その時アリウスは、
目の前のアックアに向けて、何事も無かったかのようにそう口にした。

相変わらず葉巻を燻らせ。

余裕たっぷりの雰囲気で。


アックア『…………』

ただ、アックアの顔にも全く変化は無かった。
動揺の色など微塵も無い。

天使化のせいで感情が平坦になっていた、という訳ではない。
いくら天使でも、本気で迫った攻撃が全く効果が無いとなれば動揺する。

それにアックアの顔に動揺の色は無くとも、
誰が見てもわかるアリウスへの憤怒と敵意は滲みあがっていた。


ではなぜ、彼には全く動揺の色が無いのか。


それは、『効果が無い』事をあらかじめ『知っていた』からだ。
そこをわきまえた上で、今の攻撃を繰り出したのだ。



アリウスが今の攻撃にどう反応するか。

その魔神の力の『動き』を、オッレルスが『見る』ために―――。
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 23:26:58.23 ID:aCNhImd5o
ぶつ切りですが今日はここまでです。
次は早ければ月曜に。
974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 23:29:32.59 ID:hMy39tPho

次が待ち遠しいわ
975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:30:52.53 ID:cWMySzNTo
おつかれさまでした。
976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 23:43:10.58 ID:1lIiTBNI0
(´ω`)ゞ乙でした
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 15:56:44.22 ID:hsnOu7J8o
乙乙
移転してたのか
978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 09:06:01.38 ID:kuVz/i+DO
979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 11:44:02.85 ID:fy1Zjmzd0
追い付いた
ダンテたちから見たらLv4以下なんて一般人とそんなに変わらないんだなぁ
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 23:30:04.28 ID:OD+6ZXiAO
アクセロリータ以外レベル5ですらパンピー扱いだったろ
981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 18:39:21.47 ID:QvLnevbDO
原作でも魔術側から見たら一方通行以外はパンピーだけどね

ところで今日は投下あるかな?
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 21:58:57.05 ID:LxK7YNWco
魔術側って誰のこと言ってんだよ
983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 00:56:12.74 ID:y/hS8iruo
科学側からしたら魔術(笑)だけどな
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/21(金) 22:45:09.13 ID:h6UtbVFpo
―――


オッレルス『(……)』


そのアリウスの『反応』を、
オッレルスは600m程離れているとあるビルの屋上から見ていた。


北欧玉座の論文を元にして構築された、底無し井戸のような『目』を通して。


フリズスキャルヴ
『北欧玉座』。

天界にてこの語が指すのは、オーディンが有する全てを見渡すことが出来る高座。
そして魔術においてこの名が指すのは、とある超難度の論文。

『北欧玉座』、それは『神の領域から全てを見渡す』、すなわち次元を超えた視点からの知覚。


『神と同じ席に座し、神と同じ視点から世界を見る』。


技術的面から言えば、つまり『力の認識』。

ちなみに仏教における『千里眼』等、このような特性は、異界の高位存在間では特に珍しいものでもない。
それに順じて、人間界にもこれを偶像理論でコピーした術式技術が複数存在している。


日本の『陰陽道』にも、禁術とされているその『一つ』がある。


この『北欧 玉座』の名を冠する『論文』の内容も、
そんな『神の目』の模倣方法とその応用法が記されているものだ。
985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/21(金) 22:45:54.25 ID:h6UtbVFpo

これらの理論を元に作られた術式の最たる効果は、


簡単に言えば『禁書目録の目』と同じ働きをする、ということだ。


『オッレルス自身』が認識しなくとも、この術式が間に入ることで『間接的』に認識が可能。
『北欧玉座』を通せばあらゆる魔導書の読破も可能であり、その知識と力を『ある程度』使用することも可能。

また、普通ならばその身を滅ぼしてしまうような莫大な力も、ここを通せばある程度の制御が可能となる。
『しっかりと理解できていない、よくわからない力』も何とか使うことが出来る。

この完成形の『北欧玉座』はいわば、『擬似的』に魔神の力を手に入れることができるツール。

つまり、それ故に彼は所詮『魔神もどき』である、というわけだ。


そしてそんなツールを通し、彼は今、『本物の魔神』を見ていた。


オッレルス『(―――……すごいな)』


アリウスの力・その構造や使い方は、想像を遥かに超えていた。
いや、超えているのは当たり前だろう。

『神の領域に悠然と立っている男』と、『神の領域をなんとか覗き込んでいる男』の差だ。
根本的なところから、その存在の位置がかけ離れている。

想像などできるわけがない。
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/21(金) 22:47:07.40 ID:h6UtbVFpo

そんな、想像を絶する『異質な情報』が脳内に流れ込んでくる。

間に『北欧玉座』があり、このツールが変換し『毒気』を排除してくれてはいるものの、
その量と『濃さ』でかなりの負荷だ。

そして取り込むだけでそれなのだ。


ここから更に解析処理を行い、その意味を『理解』するとなると。


オッレルス『(…………やっぱりそう長くはもたないな)』


この状態ではもって1分半。

アリウスから盗み見した構文を使って、自身を更に強化しても3分。

それ以上、この目で見続けていると確実に精神が破壊される。


引き際が肝心だ。
欲張ってここで倒れてしまうと元も子もない。
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/21(金) 22:48:45.22 ID:h6UtbVFpo

オッレルス『…………』

ただこの今の状況は、
実はオッレルスにとって想定以上の好都合な場でもあった。

まずアリウスの『機嫌が良い』。
だからこうして、じっくりと見る事ができる。

アリウスはこの状況をとにかく楽しんでいるのだ。
生涯をかけた仕事の『完成』、それを目前にした遊び心。

一切とまらずに突っ走り続けてきた男の、最初で最後の息抜き。

そんな状況ではなかったらオッレルスもアックアも、
麦野もルシアも瞬殺されているはずだ。


そして二つ目、その麦野とルシア、そして特に御坂がいることだ。

彼女達のおかげでオッレルスは、
アリウスの悪魔の力に対する反応、デビルハンターの技術に対する反応も見ることができる。

入手できる情報のバリエーションが更に増えるわけだ。
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/21(金) 22:53:43.58 ID:h6UtbVFpo

オッレルス『(……すまない……)』

しかしそんな彼女達の存在が、逆にある面ではオッレルスを苦しめていた。

アレイスターとアリウスを追うのと平行して、原石などの子供を保護する、
という活動に心血を注いできたそんなオッレルスにとって。


少女達に頼り、化物達と戦わせては利用する、というのがどれだけの苦悩であるか―――。


そして彼女達は何が何でもアリウスをここで倒そうとしているが、
自分達にはその気は無く、ある程度情報を得たら即退散つもり。

そんな、ある種の『裏切り』。

利用して。

裏切り。

オッレルス『(―――……結局……俺も「魔術師」か)』


強烈な負荷に懸命に堪える中、オッレルスは自嘲気味に思った。


己自身もまた、アレイスターやアリウスと同じく。



『大罪を背負う魔術師』であり―――。



―――『非道な大人』である、と。



―――
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 22:54:15.32 ID:h6UtbVFpo
次スレ建ててきます
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 23:02:30.73 ID:h6UtbVFpo
次スレです。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1295618410/

このスレは埋めます。
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 23:06:45.03 ID:h6UtbVFpo
埋め
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 23:09:27.54 ID:h6UtbVFpo
うめ
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 23:10:29.41 ID:MQN+o5HTo
埋め
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 23:11:06.10 ID:h6UtbVFpo
生め
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 23:11:37.40 ID:uzya6QiTo
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 23:12:07.38 ID:MQN+o5HTo
生め
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 23:12:16.88 ID:h6UtbVFpo
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 23:12:38.97 ID:oMkywrUMo
うめ
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 23:12:45.53 ID:h6UtbVFpo
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 23:13:06.84 ID:MQN+o5HTo
生め
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