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上条「なんだこのカード」 3rd season -
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1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/07(月) 09:47:37.55 ID:zvNE32At0
,,-──────- 、
/ `ヽ、
∠ ヽ
/ /´/ ,、 @ |
ヽ / メ、´ //´ / , ヘ、|\ |
つ 〆| `″ ´──` \ |
ヽ丶 | ┃ ┃ 〆ヽ |
|.よ | ____ ┘ |
る | ヽ、___ノ | |
| ー─┬───────┬′|
⊂丶-<´ | ノ | |
` ̄´ `| ⊂ヽ -< ,, | |
| ` ̄´ `´ | |
| | |
ノ |ヘ」
/ヽ、_________|
/ ノ | | | ヘ
ゝノ___|___|__|__|
⊂ニノ ヽ丶、
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
[
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バームくんへ @ 2025/06/11(水) 20:52:59.15 ID:9hFPsRzXO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1749642779/
秘境 @ 2025/06/10(火) 00:47:53.81 ID:BDVYljqu0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1749484073/
【安価】上条「とある禁書目録で」鴻野江「仮面ライダー」【禁書】 @ 2025/06/09(月) 21:43:10.25 ID:qDlYab/50
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1749472989/
ツナ「(雲雀さん?!)」雲雀「・・・」ビショビショ @ 2025/06/07(土) 01:30:36.87 ID:AfN9Rsm0O
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1749227436/
【安価コンマ】障害走を極めるその5【ウマ娘】 @ 2025/06/06(金) 01:05:45.46 ID:RaUitMs20
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1749139545/
貴様たちの整備のお陰で使いやすくしてくれてありがとう @ 2025/06/04(水) 20:56:21.03 ID:QjuK6rXtO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1749038181/
阿笠「わしの乳首に米粒をくっ付けたぞい」コナン「は?」灰原「は?」 @ 2025/06/04(水) 04:01:13.39 ID:ZjrmryLdO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1748977273/
レッド(無口とか幽霊とか言われるけどまだ電脳世界) @ 2025/06/02(月) 21:21:00.13 ID:ix3UWcFtO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1748866860/
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/03/07(月) 10:12:52.00 ID:4MKv1FZH0
前スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1285896943/
前々スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi?bbs=news4gep&key=1275618380&ls=50
がんばれ作者!ハッピーエンドは君の手にかかってる!
あ、佐天さんは別よ
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/07(月) 11:46:12.78 ID:71wnXx6SO
>>2
その前々スレのアドレスはギコナビのアドレスなのでこちらに訂正
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1275618380/
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/07(月) 11:48:08.24 ID:G8tGORUDO
>>4
なら佐天さんかわいい
5 :
スレたてサンクスコ。さて、とうとう3スレ目に到ってしまったな
[saga]:2011/03/08(火) 09:01:51.51 ID:qxUHnraiP
完全に廃墟となった第3学区で、誰も気付かない様な小規模の爆発が起きる
とは言ってもそこは、結構な規模の総合小売施設であり、巨人が暴れているという状況でなければ、平時の学園都市ならば確実に大事件となっていただろう規模だった
その爆発の中心で、一人、立っている存在。手には黒い布切れが握られている
菱形の模様が入ったそれは、半蔵の頭を覆っていたものの一片で、本来の持ち主の姿はどこにもない
仮に姿はあったとしても、半蔵の形見を持つこの存在の様に特異な存在でなければ、瓦礫によって押しつぶされていたであろう
どうしようもなかったのだ
庇うにも限度がある。前の、暴走した核融合ですら不十分で、彼女たちは病院送り、今回はそれ以上だったのだから
結局、残ったのはこれだけだろう
今は巨人へと変態してしまったが、蒼ざめた馬が視界に入った時点でこうなるのは分かっていた
「………………ッ」
こんなものは、半蔵という男の死は、"終末"全体の中の一つでしか無い
恐らく彼より酷い死に方をした者は多く居るだろうし、心残りばかりの者も多いだろう
一瞬で消え去ったという死に方は、逆に恵まれた方だとも言えるかもしれない
だが、ただ友人という存在がこうなってしまったことは、流石の彼にも響くものがある
どんなに変容してしまっていても、どんなに彼本来から外れた存在となってしまっても
感情が抑え込まれた存在となってしまっても、自分と言う素体は変わっていないのだ
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 09:02:20.07 ID:qxUHnraiP
こんなことが世界中で起きている。それが"終末"だ
理不尽としか言いようが無い。一体誰がこんなことを求めたのだ
プリセットされている知識の中に、そしてアレイスターから得た知識の中にも"神"というものの定義がある
その定義の特徴的な点は一つ
人にとって神は、理不尽な悲しみや怒りをぶつける為の存在である、とされていた
全知全能とか、救いとかは二の次なのである
自分の身に降りかかる不幸と、何かに対する怒りへの、健全な捌け口として、社会を運営する為に造られた存在
その存在を造ったのは、ただのエネルギーでしか無かったものに形を与えたのは、人間だ。ならばそれが起こす問題を解決るのも、人間か、人間によって作られた対策ということなのだろう
「…………彼は」
彼は一体どう解決するというのか
この自分に見ているがいい、と言った存在は、どうやってこの理不尽を解決するのか
この"終末"を"時項改変"によってもたらすという行為の片棒を担いだ存在は、未だ動きが見えない
なぜこの理不尽を引き起こした? 確かに、"前"の学園都市の惨状を回復させる手段としては、有り得ない方法ではない
だが結果、何の解決にもなって無い。もたらされたのは、"前"以上の、世界的な危機だ
ひょっとすると、今の彼=アレイスターは自分とは違う目的なのかもしれない
"今"になってこの立場となった自分とは違い、彼は"前"からずっとアレイスターだ
問題への意識も、解決すべき問題そのものも、彼とは違うのかもしれない
なにしろ、取りとめもないほどにぐちゃぐちゃなのだから
だが、確実なことは一つ
いざとなれば自分が、この理不尽を解決しなくてはならないということ
"今"では予備でしかないが、この先にメインになる必要があるかもしれない
ならば、自分は自分で持っておかなくては。解決の方法を。少なくとも、道筋だけでも
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 09:02:53.31 ID:qxUHnraiP
"終末"と同じぐらい著名な現象。それがその後の"再生"
その時において、神の力を受けた人々は復活し、最後の審判を受ける
これは十字教の教義であるが、どこの神話も同じようなものがある
それを神の右席が一人、アックアが知らないはずは無い
今、彼の頭の中を巡るのはその"復活"について
死人の、しかも自らが殺したテッラが復活した、という俄かには信じがたいこと
もしそんなことが在るならば、それは今の"終末"の後に有る"復活"だけだと思っていた
しかも、彼の後ろにはフィアンマの影が在るという
ローマ正教という枠を外れたフィアンマと、ローマ正教狂信者のテッラ
本来的に主張の食い違っている彼らが、しかもテッラは死んだのにもかかわらず生き返ってまで、禁書目録の奪取に成功した
アックア(一体、フィアンマはテッラを復活させて、何がしたいのであるか。神の右席の力と禁書目録を持ってして"終末"に干渉しようとしているのでは無いのか。駒を用いるにしても、テッラである必要はないはずだ)
その通りである。何もあの場面で禁書目録を移動させるだけならば、何もテッラである必要は無いのだ
フィアンマにとって、どこかにテッラである必要があるのだろうか
アックアはテッラと同様、病院の屋上から空を見ていた
暗殺された教皇にとって変わった新教皇。元々排外的なローマ正教の路線を更に極端なものとし、つい先程までバチカンから来たであろう使役された天使の様な存在が、このロンドンの天を舞っていた
彼自身、ローマ正教側の人間であり、そして前教皇のやり方に合意して従うことも有った
だが、今のローマ正教の様な、異教徒や異なる信仰に対して何ら寛容さを持ち得ない姿勢は、彼にとって気に食わないものだった
なにしろ、テッラという"ローマ正教至上主義"の塊と言える存在に激昂し、この世から消し去ったぐらいなのだから
「貴様は神に選ばれることは無い」
まだ確信が在るわけではないが、そう言って殺したはずの相手が"復活"した
つまり、神がテッラを選び、現世を導かせんと派遣したのか
もしそうであるならば、アックアの考えていた"神"が間違っていた事になる
神は、全ての人を救うだけの寛容さがあり、悪しき者に罰を与える
神とはそういう存在では無かったというのか?
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 09:03:58.34 ID:qxUHnraiP
自らの愚かとも言える疑問を撃ち払う様に、彼は体に力を込めた
治りかけの胸が圧迫され、悲鳴を上げる。その痛みが彼の頭脳をますます固く回転させた
アックア(……この前提が異なるなど、有り得ないのである。そのようなことは認められない)
ならばどういうことか。多分、フィアンマだ。奴が何かをしようとしている。きっとそう言う事である。絶対に
ならば、フィアンマが何をしようとしているのか、知る必要がある
そして、それを知ることで、テッラが神に選ばれたという、これまでの自己の否定につながるような考えを否定したい
何らかの方法で話しを、出来るならば目の前に立って直接、フィアンマであれテッラであれ、聞く必要が在る
聖人であるということもあって、体も全快には遠いが回復してきた。始末する目標であった禁書目録という存在が既に奪われてしまった以上、彼にはこのロンドンに長居する必要は無い
セント・ポール大聖堂の経路を使ったという事は、禁書目録が奪われた時点ではフィアンマはフランスに居たということだ
アックア(今、奴がそこにいるとは限らないが、行ってみる価値は在るのである。仮に移動していたとして、フィアンマが何をしようとしているのか、分かるやもしれない)
そんなことを、考えていた時である
突然、口の中にワインの味が拡がった
普通の人間には、それは単に気の間違いだと感じる程度の、時間的にも味覚的にも僅かなものでしか無かっただろう
上物のワインであろうが、安物の葡萄酒であろうが、味自体はどうでもよかった
問題は、口の中にワインの味覚を感じさせるものが入りこんできた、と言う事
水の魔術に長けたアックアには、それがどうして起こったのか、霧の都ロンドンの大気に湿度としてある水に、どんな変化が現れたのか分かってしまった。多分、これをした相手も自分に気付きさせたかったのだ
アックア「まさか、テッラ。貴様がまたもロンドンへ来ていようとは」
一瞬口の中に広がったその味を思い出しながら、言葉をこぼした
水に関する物理現象の一つである雨は、神の涙と比喩される
そして神が人間の様に血も涙も有る存在ならば、涙と血は同じ体を流れる体液だ
つまり神の涙と神の血はニアリーイコールで結ばれる存在なのである
大気中の水分=雨=神の涙≒神の血=ワイン ⇒ 大気水分≒ワイン
この形式をとれば、特定範囲の水分をワインに変える術式を成立させることは不可能ではない
だが、神を介するが故に術式の構成が難しい上に、限りなく有用性は低いことに加え、広範にわたる術式である為に魔力の消費も無駄に大きい
こんなことが可能な人間は、ワインから連想させられる人物で、そしてその人間の事をついさっきまで考えていたということも有って、アックアの頭には一人しか浮かばなかったのだった
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 09:05:17.61 ID:qxUHnraiP
なぜずっと、学園都市を破壊しようとしているはずの巨人がミンチと化した最終個体だったものから目を離さなかったのか、もちろん理由がある
その理由を説明するかのように、ミンチ状に飛び散った白い未元物質が気体へ態変化していき
気体となった未元物質の集合体である白い靄が形を持とうとして、モゴモゴと形を変え続けていった
最初に髪の長い女性の様な形になったが、定まらず
今度は一周り大きな男性の様なフォルムに。しかしそれも固まることは無かった
結局20m程の大きな球だけとなる
最終個体・佐天涙子でも無ければ、そこに混じり込んだ垣根帝督でもない、つまり男でも女でも、人間でも無い存在
だがその意識は、二人の精神がベースとなっている
量産個体をすべて殺すという目的の為には、邪魔する者を全て排除してでも、という強硬意識を持った最終個体
そしてそこに寄生した、彼本来の未元物質でない劣化コピーを使う駆動鎧や複脳計画の被検体とは違う、垣根帝督自身から得られた未元物質
そこには垣根帝督と直接的な繋がりがあるわけではない。しかし、影響が完全に無いわけではなく、彼の強い感情や思想や意図からの干渉を受けてしまう
そして、その干渉を含めて、複脳計画とクローニングで強化された最終個体・佐天涙子の能力を借りる特殊な能力が増幅する
垣根の対天使への憎しみに似た強い敵意。それに最終個体の排除意識・自身への殺人衝動が混じり合って、この存在にあるのは必ず目の前の巨人を打ち倒すという意識だけ
表面積が一番小さくなる球と言う形になって、よりエネルギーと言う意味では純化されたこの形態は、先程のような腕と足だけという存在よりも更にシンプルで迷いが無く、さらに自己意識から人間であるという命題すら失ってしまっていることを示していた
そんな撃退衝動の塊のような存在は、地面を叩き付けてその反作用で飛び上がった
そのまま、球形体のまま愚直な体当たりを狙い、一直線に巨人へ
巨人は飛んでくるボールをバットで打ち返すが如く、三又鉾を振るった
球と鉾がぶつかった瞬間、周辺に異様な雷光を与え、建物を吹き飛ばしてしまう程の破壊をするには十分な衝撃波を放ちながら、巨人は最終個体だったもの弾き返す
弾き返されて1〜2kmほど距離が開くと、球体はその進む方向を転回させて、もう一度巨人へ向けて愚直に飛び込んでいった
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 09:06:59.33 ID:qxUHnraiP
もう一度、巨人はボールを弾き返そうと、鉾を構える
しかし、今回は振り抜いた鉾に球が当ることは無かった
当る直前に、例えば高密度電子と高密度電子が近づけば生じる磁場や力場に負けて電子その物が反発して避けるように、球は上下に真っ二つとなる
上に向かった半球はそのまま巨人の顔面スレスレを通過して更なる上空に
下に向かった半球は巨人が跨る巨牛にぶつかった
一方通行が突き抜けた時とは異なり、接触した半球と牛が、接触面から相互に作用を始める
この球は限りなく垣根提督の未元物質なのだ
この神格体と反応するように設定することは可能で、その為に必要な情報は垣根提督が今までに戦った天使崩れから、最終個体への干渉と共に蓄積されている
相互に反応し始めた牛と半球から、巨人は離れて地面にその両の足を置いた
跳躍と言う方法であれ、浮遊という方法であれ、残った巨人だけでも飛ぶことは当然出来るだろう。だが地面に立つということで、次に最終個体の自らの体を分裂させてそれをぶつけて反応させるという攻撃が巨人へ来たとしても、最終個体本体の回避から下へ避けるという方法が必然的に制限される
この巨人は、見た目が人間であるだけでなく、思考も判断も出来る様だ
そのまま、まぶしいくらいの光を発しながら反応し合っていた半球と牛は、突然一つの塊として溶けあって、直後に大爆発を引き起こした
爆発の直下にクレーターが生じ、車や信号はおろかビル群その物が爆圧で押しつぶされてしまう
地に両足をつけた巨人が、残り半分となった半球を見上げると、その視界内で半球は先程よりも小さいながらも完全な球体となり、再び巨人へ向けて突進していった
だが、純粋な消耗具合は巨人自体は実質0に対して、最終個体だったものは丸々50%のエネルギーを失ったことになる
どう考えても、消耗の多寡で最終個体だったものが負け越していた
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 09:08:17.19 ID:qxUHnraiP
「っとと、冗談じゃない。こんなところで僕は死ねない! 死ぬ訳には!!」
超音速爆撃が去った後、殆ど何もかもが壊れてしまった米軍の拠点に突っ込んできたのは、ローマ正教の魔術師部隊だった
しかも、生存しているアメリカ兵が居るか居ないかなど、お構いなしに無差別破壊を繰り出し、徹底的に軍事施設の残った部分を根こそぎ破壊する
情報を集めているステイルにとっては、勘弁してほしいことであり、予想していたようにローマと米軍が戦う裏で効率よく情報を探す事など難しかった
ステイルが確保した書類に少しでも目を通す暇などを与えないほどに、彼が身を隠したところへ金属の塊が飛来してくる
カカカン!!とステイルの近くのコンクリート柱に飛来した刃物が刺さった。確実に狙われている
たまらず、彼は近くの倉庫へ飛び込んだ
薄いシャッターを背に、薄暗い倉庫の中を見ると、倉庫の中に割と厚い壁に覆われた倉庫があった
単純に、二重に守られているということは余程重要な物が保存されているか、衝撃が与えられると不味いモノがあるということだろう
少しうろつけば地下へと進めそうな階段も厚い壁の内側に見つかり、表面的に見えていた小さな倉庫、というのは仮の姿で、結構な規模の空間が地下を含めるとあるという事が分かる
冷静にこの場所について何が在るのか思考を巡らせていると、入って来た金属製で厚めの扉が弾け飛んだ
「人影がこっちへ逃げたよな!?」「ああ。赤髪の黒い奴が入っていくのが俺にも見えたんだ!」
そんなことを言いながら、ぞろぞろと入ってくる魔術師たち
在る者の周りには氷の刃が浮かび、在る者は鈍い光を放つ杖を、他のある者は身を覆うローブから蜘蛛を思わせるような複数の足が突き出ているなど、様々だ
動きから、戦闘経験をそれなりに積んでいる、一線級の魔術師たちであると分かる
ステイル(全く、僕は戦うどころかこの混乱を利用しようとしていたというのにな)
コツ、コツ、と魔術師の一人が、コンテナの後ろに隠れた彼に近づいてくる
ステイル(すこし姿を見られてしまっただけでこのザマだ。余程米軍の拠点にご執心のようだけど、彼らは何をそんなに警戒しているんだ?)
あと1m程で、近づいてくる人間の視界に、自分が入る
ステイル(さて、見付かったらどうする。「同じローマの魔術師だ!!」なんて言葉が通じると良いが……言葉の無駄だろうね)
「何故逃げた? 何故隠れている?」と問われれば、そんな主張は一気に崩れるてしまうのは目に見えた
どういう訳か、この魔術師たちはかなり慎重に何かを警戒し、そして探しているようなのだ。今の彼らでは、疑わしきは殺せ、だろう
この10人程度だけならば、戦えないことも無いかもしれない。だが、かなり消耗してしまうだろう。自分の目的は戦闘ではないし、この周辺に他のローマ正教魔術師部隊が居ないわけが無い
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 09:08:56.73 ID:qxUHnraiP
ステイル(……だけど仕方無い。派手に動く心づもりぐらいはしておくべきだ)
胸の中央に手を伸ばし、腰に手に入れてまだ目を通していない書類を押しこんだ
彼の主要な武器である、ルーンの入ったカードも不足は無さそうである
「おい!!」
急な声にステイルは、若干びっくりした
「こっちだ! こっち来てみろ。どうやらこっから地下に行けるらしいぞ」
「この厳重さだ。ここにあの機械人形共が在るかもしれない。誰かがこの倉庫の様な場所に入ったのは確かなんだよな?」
「ああ。間違いない」
「なら、もしかしたら駆動鎧とかいうのに乗り込んで反撃してくるかもしれないな。そうなると手ごわい。人の乗っていない状態で全て叩き壊さねばならん。警戒して行くぞ!!」
10人規模の魔術師達が、地下への入り口を見つけ、次々とその階段を下りていく
ステイル(どうやら駆動鎧がに気なっていたわけだ。そんな物、僕にとってはどうでもいいものだ。僕を執拗に追わないで欲しいね。……よし、全員行ったな)
最後の一人が入っていったのを遠目に確認し、ステイルはこの倉庫を去ろうとした
彼にとってはここの地下に駆動鎧があろうが関係の無いことなのだ。半ば敵となっている魔術師たちが居る以上、一刻も早くここから出るべきだ
明りなど殆ど無い薄暗い空間であったが、明りを付けるのは危険と判断したステイルは、その黒いローブという低視認性を利用して歩んでいた
入口の扉まであと3mといったところである
ステイルは、自分の行動に少し注意が足りなかったと後悔した
というのも、暗い空間の特に影のとなっている場所から、ネコ科の猛獣を思わせるような影の塊が飛び出してきて、その爪でステイルのローブを引き裂いたのである
あわや、もう少しで腕を丸ごともっていかれる所だった
倉庫の出入り口付近に、トラップをローマの魔術師は仕掛けていたのだ
仮に少しでも明りを灯して居れば、その罠に気付けたかもしれない。そうでなくとも、その可能性について考えておくべきだった
ルーンの入った名刺サイズの紙切れ一枚で、術式によっては罠として簡単に仕掛けられるのだから
「上だ!! さっきのが隠れてやがったか!?」
罠に誰かが引っ掛かれば、当然罠を張っていた側は、何者かが罠に引っ掛かったことに気付く
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 09:10:00.95 ID:qxUHnraiP
地下への階段の方から、声が聞こえた。どうやら彼らは会いたかった駆動鎧には会えなかったらしい。今までに爆発音などは少なくとも聞こえなかった。静かだったともいえる
ステイル(クソ、このまま逃げたんじゃ、また執拗に追われるだけだ。仕方ないな)
魔術師たちが階段を上がって来るよりも早く、彼はその階段の方へルーンの入ったカードを複数枚、投げた
ステイル「――――我が身を喰らいて力と為せ!!」
階段の手すりにカードが張り付き、定型の言葉によって炎の巨人が生まれる
そのまま巨人は、地下空間への入り口である階段を下って行った
人間を見ると全力で暴れ、そして数十秒後に爆発するように仕込んである、インノケンティウス
地下と言う空間なら、爆発し膨張した空気は逃げ場が極段に少ない為に、屋外の爆発の数倍の力を持つことになる
魔術師の技量によっては切り抜けられるかもしれないが、足止め程度の効果は有るはずだ
ステイル「これで、少しは時間を稼げるか!?」
もう一度現れたネコ科の影の塊を炎剣で打ち飛ばして、ステイルは倉庫を脱出する
出た瞬間、目の前には、ローマが使役しているらしい天使の力の塊にすぎない崩れた人型の天使の様な存在が複数あるという状況が、飛び込んで来た
瞬間的に、これは相手をしきれないだろうという事が分かる
ステイル「―――――ッ!!」
一瞬、思考停止して、しかしステイルは来るであろう天使の力の暴力に対抗せんと、先手を取ろうとした
どう見てもその壊れかけた人形の様なフォルムからは、有能な知能が在るとは思えなかった。うすのろであるが、動きだしたら手を付けられない。ならば先手だ
事実、彼が今まで見てきた限りでは、殆ど自爆の様な爆発と、コレまた鈍らの様な剣を召喚して、斬撃を与えたり投げつけたりしていた程度であった
それでも、一般的な魔術師からすれば十分に危険な威力では在るのだが
だが、彼の全く意識していなかった方向からから、巨大な衝撃が発生する。その方向とは、地下。丁度、炎の巨人が自爆するようにセットした時間だった
彼の立つアスファルトの地面が強く揺れて亀裂が生まれ、そんな亀裂では逃がしきれない衝撃が、爆発という形となって、彼を巻き込んだ500m近くの範囲を丸ごと吹き飛ばしたのだった
二重に覆われていたその場所は、駆動鎧の保管施設などでは無く、純粋に弾薬庫だったのである。そんな場所で、3000度の温度をもった炎の巨人が自爆すれば、結果は明白だった
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 09:10:41.63 ID:qxUHnraiP
「案外、早かったではありませんか、アックア。もう少し時間のかかるものだと思っていたのですがねー」
先日と同じ場所に、ステイルや天草式の人間と共に神裂と対峙したロンドンの区画に、彼は現れた
炎で焦げていたり、非常に細い何かで切り裂かれていたり、打撃で砕かれていたりする、背のあまり高くない建築物が立ち並ぶその区画の中には、今直ぐに崩れてもおかしくないものも有る
そう言う場所に市民が立ち入らない様、見張りをしている者がいるのだが、既にその者達には命が無かった
一際派手に破壊がなされていて、どこまでが建物の領域でどこまでが街路であるのか分からないほどに壊れてしまっている場所に、男は居た
その男は、神の右席・左方のテッラ
しかし、正確にはアックアの知る彼では無かった
痩せこけた薄い体で背丈も小柄、記憶の中の彼はそうであったが、目の前の彼は違う
筋骨隆々としていて、背丈もアックアに負けないほどである
着込んだ緑の霊装と、見覚えのある顔だけが、アックアにそれがテッラで在ると分からせるのだ
5mはあろう巨大なメイスを肩に構え、街路の真ん中に立ちこちらを見るテッラへ声を向けた
アックア「丁度貴様らの事を考えていたのでな。だが貴様は、私の知るテッラとは少々違うようだ」
テッラ「それは、この私の体について言いたいのですかねー?」
両腕を肩の高さまで上げ、自らの体を開くように示す
見間違いでも、哀しい努力を感じさせる厚底ブーツなどによるものでもなく、テッラの体は確実にアックアの知るテッラのものではなくなっていた
アックア「……私の殺したテッラは、もう少し小柄だったのであるが」
テッラ「そうですねー。そのことについては否定しませんよ。実際、今の体は前の体よりも大きいのですからねー」
テッラ「しかしそれは、純粋に収まりきらなかったから、という理由が全てなのです。だからそのことについては、私をこういう形で復活させたフィアンマに文句を言って欲しいモノですねー」
アックア「収まりきらなかった? ……やはり貴様はフィアンマの手がかっていたのであるな」
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 09:11:14.51 ID:qxUHnraiP
テッラ「もっと正確に言えば、今の体でも収まりきれてはいない、というべきなのでしょうが。まぁ、この場所で死ぬあなたには、どうでもいい事です、ねー……!!」
ねー、と伸びた声が完全に終わる前に、アックアの視界のテッラの姿が霞んだ
正確には、ブレた、と言うべきだろう
アックア「ぬ……!?」
それは予想外の行動速度だった。もし仮に、戦闘を行うと意識していなければ、今頃アックアの体はテッラの体で押し飛ばされ、後ろの半壊した建物に突き刺さって居たかも知れない
「優先する。―――大気を下位に、私を上位に」
テッラが一直線にアックアの方へ体当たりをした後、彼の声が遅れて側方へ回避したアックアの耳に入った
アックアもテッラの使う"光の処刑"についての性能は知っている
アックア(物の優先順位を変更し、あらゆるものであらゆるものを裂き、砕き、防ぐことの出来る術式であるか。……ッ!!)
攻撃が来るのを感じてバックステップをした直後、目の前にもう一度、体当たりというシンプルな攻撃をしたテッラが空気を切り裂いて通り抜けた
アックアの体を仕留められなかったテッラの体は、今度はそのまま止まらずに延長線上の半壊した建物に突っ込んで、そのまま姿を消した
どこかで奇襲を狙っているのだろう
その速度は、二度目と言う事ですこし目が慣れたが、想像以上のものだった
テッラの"光の処刑"はものの優先度を変化させ、攻撃とする
それを用いることで、例えばギロチンの形に固定した小麦粉の優先度を攻撃対象よりも上位に設定することで、所詮粉の塊に少しの力の加わった物でしか無いそれが、その攻撃対象を引き裂くことが出来る
ここで重要なのは、そのギロチンは所詮ギロチンの形をした小麦粉であって、小麦粉の優先度を攻撃対象よりも上にして威力を上げない限り、ギロチンとして扱うという術式によって与えられたエネルギーの分だけしか威力が無いという事だ
つまり、攻撃対象が下位となるものとして選択されていなければ、一撃必殺にならないのである
遅れて聞こえた言葉の通り、大気<テッラと指定された"光の処刑"では、確かに、テッラが動く際に大気と言う壁に阻まれて速度が落ちる、という物理現象から逃れることが出来るが、体当たりという攻撃によってテッラの体がアックアの体に当ったとしても、テッラの体>アックアの体としない限り、所詮はただの体当たりにすぎないという事だ
そしてAとBの優先の上下を変えると同時に、別の対象であるCとDの上下を変えることは出来ないという制限もある
16 :
本日分(ry おやすみなさい
[saga]:2011/03/08(火) 09:13:16.17 ID:qxUHnraiP
だから、本来使わなければならない"光の処刑"の引き下げ対象をアックアにせず、テッラの周りの大気にしたということは
アックア("光の処刑"という使い勝手の悪い術式に頼らずとも、この速度で突っ込む単純な体当たりをする、"テッラの体そのもの"が私を倒せる武器だということであるか。この程度、笑わせる)
武器すら用いない肉体そのものとは、怪我を負っている身とは言え、舐められたものである
アックア「……そこか」
まるで、あらかじめ何処からテッラが突っ込んでくるのか分かっているかのようにアックアがメイスを振る
ガァン、と、金属と金属の塊がぶつかり合うような音が鳴って、そこにはアックアの打ち下ろしたメイスを両手で受け止めたテッラの姿が在った
テッラ「……やりますねー」
アックア「ふん。貴様には聞かねばならぬことがあるからな。それにこの程度ならば、曲芸の域に過ぎん」
テッラ「ほう。それでは、その曲芸の域がどこまで広いのか、試してみましょうかね、ぇ……ッ!!!」
テッラが両手でアックアのメイスを一気に上に押し上げ、弾いた
メイスを握っていた腕が釣られて上に伸びることで一瞬、アックアの体勢はボディーがガラ空きとなる
そこを狙ってテッラは拳を叩きこもうと狙うが、それは甘かった
白兵戦のキャリアは、傭兵経験のあるアックアの方が勝る。体が上ずった様に見せただけで、実際アックアはメイスを離していたのである
アックアにとってはその場所に拳を突き出した格好のテッラが居ることは予想済みである
そしてそのアックアの予想外の動きに、不慣れな接近戦を選んだテッラは一種の躊躇が生まれてしまう
その隙を、アックアは見落とさない
待ってましたと足を振ってテッラの体を蹴り上げて、そしてテッラの体が浮いた瞬間に、高圧縮した水の塊をテッラの体へ押し込むように叩き付けたのだった
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/08(火) 17:47:42.86 ID:wjq5WsdN0
乙
誰か今みんながそれぞれ何をしてるのか簡潔にまとめてくれたらエロい人
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/08(火) 18:01:13.80 ID:acwhCONFo
佐天さんが白玉になってもうた・・・
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/08(火) 18:04:42.01 ID:Kl1gTPHXo
浜面・・・なのか・・・
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/08(火) 22:37:24.16 ID:QxcbVRWSO
主要キャラの1週目の死亡者数をそろそろ抜いたんじゃないか
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/03/10(木) 01:34:30.04 ID:Yw42vURAO
ステイルが爆死してどうする
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/10(木) 08:00:01.53 ID:3OAk3zfYo
最終兵器HAMADURA
23 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/11(金) 02:57:06.76 ID:8NVhGFW4o
ここに来て浜面がキーになりそうだな
24 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/11(金) 07:16:17.77 ID:dLY4Liw3P
毎日投下とか無理すぎワロス
沖縄に行ってた友人が風邪引いて帰って来てザマァwwwとか思ってたら自分も引きますた
お土産貰っときながらそんなことを思ってしまったバチが当りましたね、これは。反省します
読んでる人にも、そして私公開オナニストにも状況が分からなくなったので、かなり適当にまとめました(間違ってたらどうするかなど、知らん)
俺妹の黒猫の中二設定ノートみたいなのを書いている様な気持になったけど、よく考えたら今さらだったぜ!!
メイン♂
上条(所属:孤軍奮闘)
状態:本人の意識無し
場所:アメリカ・AIが生まれた大学地下の研究所
目的:"前"から続くイェスの行動を叱ってあげないと+弟の癖に当麻ディスるとは許せぬ
現在の行動:幽閉中。上条当麻の意識の回復作業
一方(所属:孤軍奮闘)
状態:妹達の演算補助から独立
場所:学園都市
目的:妹達を殺しかねない存在の排除
現在の行動:自分に何が起きているのか、巨人や最終個体はどういう存在なのか調査、学園都市の防衛
浜面(所属:孤軍奮闘)
状態:?
場所:学園都市?
目的:?
現在の行動:?
垣根(所属:イェス)
状態:未元物質そのもの
場所:ニューヨーク
目的:イェスと協力して"終末"の解決を図る
現在の行動:イェスに頼まれた天草式へ接触するというお使い終了
ステイル(所属:必要悪の教会⇒フィアンマ)
状態:粗製神の右席ver.英国 + ?
場所:ニューヨークのあたり
目的:フィアンマに人質の禁書を握られているため、従わざるを得ない。だが、フィアンマのやろうとしていることについては理解がある
現在の行動:"救世主"と"イェス"について、混乱に乗じて調査中
青髪(所属:上条刀夜ら銀貨30枚)※もう一人の青髪は半蔵と海原に殺され死亡
状態:一方通行から与えられた怪我在り・人工能力者(質量操作)・アレイスターから借りてる学園都市製爆撃機でアメリカ重要施設を精密爆撃
場所:アメリカ上空
目的:上条刀夜の指揮のもと、AIイェスを倒す
現在の行動:輸送機で結標と共にアメリカへ。学園都市無人ステルス爆撃機の操作
25 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/11(金) 07:16:50.79 ID:dLY4Liw3P
刀夜(所属:銀貨30枚の指導者)
状態:中年 + 幸運 + カリスマ(?)
場所:ワシントンDC近くのCIA本部
目的:打倒イェス……?
現在の行動:イェスが居るかも知れないと思われるCIA本部を襲撃
旅掛(所属:銀貨30枚)
状態:健康
場所:CIA本部
目的:打倒イェス
現在の行動:イェスが居るかも知れないと思われるCIA本部を襲撃
イェス(所属:アメリカの頂点)
状態:まず人間じゃない
場所:MIT地下のAI研究施設
目的:"終末"の解決
現在の行動:上条当麻(姉上達)の説得に失敗
騎士団長(所属:イギリス騎士派)
状態:万全ではない
場所:ロンドン
目的:イギリスの安全
現在の行動:フィアンマ関係者の動きに右往左往
アックア(所属:孤軍奮闘)
状態:フィアンマ戦の怪我在り
場所:ロンドン
目的:フィアンマが何をしようとしているのか把握して止める
現在の行動:VSテッラ
テッラ(所属:フィアンマ)
状態:復活&強化(フィアンマの操り人形)
場所:ロンドン
目的:フィアンマの指示に従うのみ + アックアの罪を罰する
現在の行動:VSアックア
フィアンマ(所属:フィアンマ)
状態:禁書目録の知識がある
場所:フランス
目的:ステイルに教えて悪いことではないと思われるような内容
現在の行動:禁書の知識吸い出し作業中
26 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/11(金) 07:17:43.12 ID:dLY4Liw3P
アレイスター(所属:一人?)
状態:???
場所:学園都市
目的:上条に"終末"を起こさせたからには、何かを企んでいる?
現在の行動:高みの見物
メイン♀
御坂(所属:孤軍奮闘)
状態:精神不安乗り越え?
場所:アメリカ上空
目的:自己満足を満たすため、上条当麻に会いに行く
現在の行動:アメリカへ移動中
禁書(所属:フィアンマ)
状態:自動書記遠隔制御霊装(残り一個)がフィアンマの元に有り、更には多重干渉の後遺症で意識無し
場所:フランス
目的:フィアンマに魔道書・原典・その他重要書物の知識を抜かれるだけの存在
現在の行動:フィアンマにされるがまま
打ち止め(所属:ミサカネットワーク)
状態:第三次製造計画にミサカネットワークの権限を奪われ、ネットワークに直接接続出来なくなるも、エイワスの現出による負担が無くなる
場所:学園都市カエル病院
目的:生存
現在の行動:病院の屋上で最終個体と巨人の戦いを見物
白井(所属:アイテム+α)
状態:放射能汚染によって崩れた遺伝子を平均化サンプルから造り出した擬似遺伝子に置き換えられ存命、定着はまだ
場所:学園都市カエル病院
目的:生存
現在の行動:病院の屋上で最終個体と巨人の戦いを見物
初春(所属:アイテム+α)
状態:最重度の放射能汚染患者。サンプルによって存命しているが意識を保つのも苦しい
場所:学園都市カエル病院
目的:佐天をどうにかしてあげたい
現在の行動:病院の屋上へのエレベータの中
佐天(所属:孤軍奮闘?)
状態:一つの個体に複数の脳を物理的に加え、魔術・超能力に使われるダークエネルギー(命名アメリカ。良く分かって無いエネルギーの総称)の利用幅を伸ばし、それらの性能を引き上げる複脳計画の第一被検体
複脳計画完成までに大量のクローンが用いられ、最終的に完成した最終個体。他人の能力を借りる、超能力でも魔術でも無い能力(他者依存)保有
米軍に回収された時、垣根帝督の未元物質製精液の試用先に使われ、結果佐天涙子という人格が……?
場所:学園都市
目的:垣根(心理定規の生存の望みを打ち壊した天使共は皆ブッ倒す)+ 佐天(アタシの邪魔する奴は排除)⇒巨人の撃滅
現在の行動:巨人へがむしゃらに特攻
27 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/11(金) 07:18:42.10 ID:dLY4Liw3P
結標(所属:銀貨30枚の協力者)
状態:健康
場所:アメリカ上空
目的:やることが無くなってしまった + もう大切な仲間を失いたくない⇒青髪のサポート
現在の行動:青髪と共に学園都市製輸送機でアメリカへ
麦野(所属:アイテム+α)
状態:健康
場所:学園都市カエル病院
目的:生存の障害となる巨人を倒したい
現在の行動:病院の屋上で最終個体と巨人の戦いを見物
絹旗(所属:アイテム+α)
状態:サンプルによって存命。汚染程度は白井と同等
場所:学園都市カエル病院
目的:生存
現在の行動:病院の屋上で最終個体と巨人の戦いを見物
滝壺(所属:アイテム)
状態:汚染程度は白井や絹旗ほどではないにせよ、放射能汚染患者
場所:学園都市カエル病院
目的:浜面はどこ
現在の行動:病室なう
フレンダ(所属:アイテム+α)
状態:左肘から先無し
場所:学園都市カエル病院
目的:生存
現在の行動:病院の屋上で最終個体と巨人の戦いを見物
神裂(所属:イェス)
状態:複脳計画第二被験者。ロンドンで活動した際に天草式と対峙、仲間を数名殺してしまったことで精神不安定
場所:ニューヨーク?
目的:イェスやアメリカ軍の中国製玩具(思いがけず爆発するよ的な意味で)状態
現在の行動:暴走しないように拘束中
ショチトル(所属:孤軍奮闘?)
状態:原典を強引に抜き出されたことによって意識無し
場所:学園都市カエル病院地下退避シェルター内
目的:まず意識が無い。その上、海原も組織も潰れている
現在の行動:意識無し
28 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/11(金) 07:20:46.81 ID:dLY4Liw3P
エリザード(所属:王室派)
状態:健康。発掘されたカーテナ・オリジナル保持
場所:ロンドン
目的:"終末"におけるイギリスの生存・ローラの監視
現在の行動:ロンドンで緊急時の執務
リメエア(所属:王室派兼MI6)
状態:健康
場所:ロンドン
目的:イギリスの生存のため、最大主教のローラに接近
現在の行動:アメリカへ行った反体制支援部隊に関する情報収集、指示
他王女(所属:王室派)
状態:キャーリサは北アイルランドでカーテナ・セカンドを持って鎮圧活動、ヴィリアンはフィアンマによって重体患者
ローラ(所属:清教派・必要悪の教会)
状態:利き腕が一本丸々肩から全部無い
場所:ロンドン
目的:"終末"を乗り切る……?
現在の行動:バチカンから送り込まれる名も無き小型天使からロンドンを守りつつ、いろいろ暗躍
エイワス(所属:アレイスター?)
状態:現出後
場所:どこにでも
目的:???
現在の行動:あっちへフラフラこっちへフラフラ
他、田中君を筆頭にモブ多数
死亡確認
♂土御門、半蔵、海原、ローマ前教皇(マタイ)、木原幻生、青髪
♀心理定規、美鈴、黄泉川、郭
※抜けているキャラクターも居るかも知れますん
酷いオリジナル設定の山である。厨二病乙。そして英国王室派に至っては書いて無(ry
29 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/11(金) 07:21:38.05 ID:dLY4Liw3P
各組織現状
アメリカ現体制
指導者:イェス
目的:"終末"を科学サイドとして乗り切る
敵対:銀貨30枚、負け組、ローマ正教、必要悪の教会、アレイスター?
協力:学園都市(占領)、中小魔術組織(協力強制⇒緊急時には逃げるように離れていく)
アメリカ反体制組織・銀貨30枚
指導者:上条刀夜
目的:打倒イェス
敵対:アメリカ現体制
協力:アメリカ各組織の負け組、ローマ正教、必要悪の教会
ローマ正教
指導者:新教皇ペトロ=ヨグディス
目的:"終末"を利用した世界統一
敵対:科学サイド&ローマ正教勢力でない全ての宗教宗派
協力:名も無い小型天使達(使役)、ミカエル(制御不完全)
イギリス(必要悪の教会含む)
指導者:エリザード、ローラ
目的:"終末"を乗り切り、イギリス国民を含んだイギリスの生存
敵対:アメリカ現体制(主に必要悪の教会・魔術師)
協力:アメリカ(表面上)、学園都市(勢力として機能してない)、守護天使(ローラの制御下)、天草式十字凄教
天草式十字凄教
指導者:建宮斎字(事実上)
目的:神裂火織の奪還
敵対:アメリカ現体制
協力:必要悪の教会
フィアンマ一派
指導者:フィアンマ
目的:フィアンマの思うがまま
敵対:イギリス
協力:フィアンマの手による復活者(主にローマ正教の歴史的な魔術師たち)、ロシア成教
他多数(都合によって出てきたりそうでなかったり)
30 :
で本日分
[saga]:2011/03/11(金) 07:22:41.47 ID:dLY4Liw3P
「わかりました」
彼女がそう言うと、看護士の女性がその部屋を出て行った
どうやら、外が本格的に危険だから、地下のシェルターに避難しろ、と言う事らしい
目を含めて全身を覆っていた放射能障害治療用のパッドも、もう外していいと言われた
受けた説明の上では、殆ど回復はしているのだが、もともと体が他のアイテムのメンバーと比べて弱いという事もあるらしい
後頭部にある調節も兼ねた治療用のアイマスクのホックをハズし、滝壺は一日ぶりに直接光を受けることになった
少し弱弱しくなった肉体で久々に見た廊下の窓の外は、夜
街灯が町を照らすいつもの学園都市ではなく、光源はねじ曲がった街灯や、壊れた車から上がる炎、飛び出したガス管から火炎放射機のように上がる炎たち
そしてロボットアニメの怪獣を思わせるような巨人が、地面に立って槍のようなメイスのようなものを振り回し、光線を放つ
巨人の標的はその回りを飛び回る比較的小さな光球だろう
しかし、彼女が最も気になったのは巨人でも白く光る球体でもない
気になったのは、この街の状況。記憶の中に有る第一学区の惨状が、第7学区であるはずのここまで広がっているかのようだ
他学区に至っては光が一つも無いところすらある
浜面は大丈夫なのだろうか
体を治して探し出すという心づもりだったが、考えるだけでも恐ろしくなる可能性が浮かんでくる
浜面は結局、ただの無能力者なのだから。多少体は頑丈で運が良かったとしても、この外の様子で、無能力者が生きているだろうか
そんなことを考えると、彼女は身が凍るような感覚がした
居ても立っても居られない
何時まで居るかも分からない地下のシェルターなんて場所に居られない
大丈夫。壁に体を預けなくとも歩ける
気だるさも無い。目も満足に動く。頭痛は少しするけど、多分、心的なものだ、きっと
何処に行けば彼に会えるかなんてわからない。生きていないかもしれない。でも、こんなところに居たままでいいとは思えなかった
だから彼女は、入院患者の服装のままで病院の玄関口へと向かった
31 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/11(金) 07:23:30.25 ID:dLY4Liw3P
元々ニューヨークの周辺に大規模な軍事施設が有ったわけではない
"終末"という状況に対応する為に後付けの急造施設というのが本質である
故に、そんな爆発が起きてしまっては、通常の施設の様に対衝撃用の隔壁だとか、爆発時の衝撃を効率よく逃がすための構造的な工夫などがなされている訳では無かった
しかも、一般市民が生活する空間の一部を削り取るという形で、中小規模で散在させていたのだから、隣接する建物や道路というのは一般市民の扱うそれらである
爆撃がなされ、軍事関連施設がそのマトであり危険という認識が逃げ惑う人々の中に有ったことは幸いし、一般人の被害はそれほどなかった
地下の一般兵器弾薬倉を誘爆させたステイルの巨人は、張り付けたルーンが吹き飛んだこともあって、もちろん跡形もない
だが跡形も無いのは炎の巨人だけではなく、ステイルや米駆動鎧を追っていたローマの魔術師たちも同じである
如何に屈強で防御能力面でも高性能な術式に守られたローマ正教の彼らであっても、大体500m四方のコンクリートの塊を丸々吹き飛ばして粉微塵にするような物理現象に対してなど、困難熾烈の一言
流石に専用の防衛術式を組まない限り、守りきれなった部分から一気に防御術式を貫通して、例えば、炎や爆発の衝撃をある程度緩和することが出来ても、同時に砕けたコンクリートなどの建築材料が彼らの体を貫けば、そこから他の術式の前提や構造が変化してしまって、残るものはそれこそ肉片程度だった
それでも、運よく仲間が盾になってくれたり、立ち位置が良かったりなどして、意識を持って生き残った魔術師もいた
しかしそんなラッキーマンの一人であるローマ正教の魔術師の一人である彼の体は、もう長くないだろう。下半身と上半身が半分千切れていて、腸が飛び出している
「……なッ、だ……ぁ…れ……?………」
喉から血が昇ってくる感覚がして、彼自身もう生存できないことは分かっていた
だが彼らは絶望しない。例えここで死んでも、復活は約束されている。ローマ正教の圧倒は変わらない。時間がくればそれだけで勝ち組
しかし、絶望はしないが、驚きはする。それが彼の言葉に凝縮されていた
彼の滲んで霞んだ視界の殆ど中央、クレーターの様に窪んだ爆心から少し離れた場所に立っている人間
その体は、ローブなどの身に着けていた物は殆ど吹き飛んでいるが、対照的に体を直接覆う皮膚以下は大体無事で五体満足である
そして何より驚くべきはその赤髪で背の高い体の中央に、つまり胸の中心である、人間にとって最も重要で生命の象徴である心臓が在るべき場所に、太陽を思わせる僅かに黄色がかった光の塊があった
瀕死のローマ正教の男には、その光の中に一瞬何か優しい顔が浮かんで、自分に対して頬笑みかけているように思え、
そして彼は何故か幸福な気になって、この世から意識を失った
32 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/11(金) 07:24:09.71 ID:dLY4Liw3P
当の本人であるステイルは、その胸の光の頬笑みは見えていない
どういう理由で自分が助かったかなどは、分かりはしない。しかし、自らの胸にこんな光るものが在ることが原因で、その要因でありそうなものは分かっている
あの時、ロンドンで"復活"したテッラに会い、そしてテッラの申し出を受け入れた、その時
自分はテッラに心臓を刺された
刺された、というのは語弊があるかもしれない。肯定を示して首を縦に振ったその時、心臓まで達する、どこにでもありそうな鈍い白色をした長石で作られた、何とかナイフか槍の先端と言えそうな刃物が、彼の胸に刺さっていたのだ
あの時のテッラは、一般的な空間移動の術式に特化していたのだから、胸に直接叩きこんだのかもしれない。物理的に手に持って刺す以外の方法など、腐るほどに有るのだから
つまりどうあってもナイフを刺したという行為者は、あの場にいたテッラ
刺された当初は痛みは有ったものの、その痛みは徐々に薄れていった
もちろん、テッラは刺さって即座に「安心下してくださいねー。私は、いえフィアンマはあなたを殺したいわけでは無いようですから。きっと実験的な要素もあるんでしょう」
と睨むステイルをたしなめたが、ステイルはもちろん問い返す、「だったらまず、これはなんなんだ」、と
その当然の問いに、テッラは少しふざけたような笑みを作って、「それはまあ、使っているうちにだんだん把握していって、そして最後に死んでみたら分かるんじゃないですかねー」と返した
その後、テッラからステイルは"光の処刑"の説明を簡単に受けたのである
ステイル「死んでみればわかる、か……」
都合良く下半身の股間は露にならない様に衣類が破けた彼の周りに、まともな形を持ったものは無かった
周辺は全部クレーターの形を成すように破壊され、舞う埃の中で一番原型に近そうなのは、何らかの弾頭を覆っていた金属のカバー
それも、ベコベコに変形していて、張り付けられていた警告文などは全く読めやしない
33 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/11(金) 07:25:37.85 ID:dLY4Liw3P
改めて、ステイルは自らの体を確かめた。感覚は良好で痛みは無く、体は重いどころか今にも飛んでいけるかのように軽い
心臓の在るべき部分に触れる。そこに有るのは、心臓の代わりに太陽の様な光の塊。鼓動拍動は聞こえない
ステイル「天国ではなく、そのままこんな現世を彷徨わなくてはならないとはね。これがゾンビの気持ちとでも言うんだろう」
腰に手を伸ばすと、苦労して見つけた書類も殆ど残っては居なかった
残っているのは、咄嗟に手で守ったほんの一握りの部分。しかもそれも、付いてしまった炎が焼き尽くさんとしている
炎の魔術を得意とする彼にとって、煙草の残り火程度の炎は問題ない
さっと払って、残った部分に目を通す
ステイル(無理やりにでも目を通すべきだったか。……全く、僕は科学は門外漢だというのに)
時折出てくる意味が分からない単語を除いて、分かったことは少し
この書類はどうやら今年初めに提出された新技術に関する予算申請の企画書であるという事と、その新技術の企画に国家予算並みの、少なくとも必要悪の教会の単年度予算20年分をはるかに上回る額の予算を追加で申請しているという事
そしてその研究機関がボストンの工科大学の研究所である事などだ
だが、何よりもステイルの目を引いたのは、"この人工知能の誕生に成功すれば、日本の学園都市の後塵を拝している我が国の技術水準を、学園都市以上、少なくとも学園都市と同等レベルまで押し上げることが出来るだろう"、という一文だった
ステイル(ボストン、か。遠くは無いな。……………こんなものが運良く残ってしまうとは、どうやら僕はどこまでもフィアンマのお使いをする運命の様だ)
流石に殆ど裸という訳にもいかないので、未だに原型を留めている死体の炎を消して得た、ボロボロのローブを彼はその身の上から着た
最早、ローブという霊装の防衛もしくは補助術式など全く機能していない。だがこの体では今更意味が無いだろう。そもそもの防衛対象が間違っているのだから
ステイル(だがこれも、禁書目録の為。僕が居なくなったら、あのフィアンマがあの子をどう扱うかなんて予想もしたくない)
たまたま近くを飛んでいたローマ正教が使役している名も無き小型の天使を見つけると、ステイルはその天使まで一足で跳躍し、その体を踏みつける
自爆と言う形でカウンターを発動させた天使の行動は、彼にとっては予測済みで、その自爆と言う爆発の衝撃を利用して、彼は北西の方向へ、ステイルは知らないが上条当麻が囚われているボストンの研究所へ、ロケットの様に吹っ飛んで行った
34 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/11(金) 07:26:15.16 ID:dLY4Liw3P
フィアンマ「ふむ。この辺りで一度キリをつけるかな」
相も変わらず聖堂の脇の少し広い部屋、机の上で禁書目録が時折体をビクつかせる
意識の無いほぼ全裸の少女を前にして、その体に触れるフィアンマという光景は、事情を知らない人間からすればかなり事件の光景である
そんなことを少しも考えること無く作業を続ける彼は、チラ、と時計を見て区切りの時間を決める
何しろ、そろそろ居心地が悪くなるであろうこの場所から、ロシアに移動しなくてはならないのだから
そんなことを並行的に考えつつ、時間まで禁書目録の頭脳に有る知識を引き出していく
フィアンマ「……ん? またか」
もはや見慣れてしまった唄の情報があった
これで6つ目。それぞれ世界中で現代にまで続く主要な言語の元となった、古の異なる文化の言語で同じ内容の事が書かれていることになる
フィアンマ「"汝らは汝らの創った力を用いて我々を造った。故に我々は汝らに従い、汝らの神となろう。創造者よ"」
フィアンマ(こんな情報は今更だ。しかし、大洋で隔たれたユーラシアとアメリカでありながら、全く同じ内容が記されているのは、気にはなる)
フィアンマ(この"汝ら"を人間ととるならば、俺様の視点、神や天使の前にそれを支える力つまり天使の力(テレズマ)があるという見方を、裏付け・証明することになる)
フィアンマ(……俺様がこの視点に辿りついたのは、幽閉中の研究時。それも神の右席と言う存在への疑問から生じたもの)
フィアンマ(アックアの様に最初から特別な存在で無いただの人間が、どうして突出した出力を得るに到るのかという疑問自体、歴代の右席の連中にもあった)
フィアンア(俺様と同じ様に考えた先代共の記述にも助けられ、比較的簡単にこの結論にたどり着けたが、まさかそれ以前の紀元前からあろうとはな)
フィアンマ「……いや、待て」
唄と同じく紀元前から存在するもの。その一つは今まさに世界を壊さんとしている"終末"についても同じだ。単にイェスの始めた十字教でないだけ
フィアンマ「人間の作った力が神を造った、だと?」
フィアンマは禁書目録に干渉している霊装を、すこし早んで操作した
ビクッ!! っとまるで陸に上がった鯛のように禁書目録の体が跳ねる
それは、干渉の限界が近いことを意味していた
だが、フィアンマはそのことを忘れ、見落とす
35 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/11(金) 07:26:57.67 ID:dLY4Liw3P
フィアンマ(信仰を人間が作った、と捉えれば天使の力の根源は信仰、と言う事になる)
フィアンマ(だが、俺様が使う魔術も、霊装の制動も、源は魔力という名のエネルギー。だがそれは、人間が作ったものではない)
フィアンマ( "神"を人間が、人間の作ったものではないエネルギーで作る。これが正しいならば、そのエネルギーは魔力ではないものであるハズだ)
フィアンマ(だがそれでは、天使の力を扱う右席はどうなる? 神や天使の偶像を用いて天使の力を宿すというタイプの霊装の前提はどうなる? その霊装の力を借りて力を増幅させ、己の魔力とする術式はどうなる?)
フィアンマ(神を構成する力、天使の力は魔力に近い存在でなければならない。でなければ人間には扱えない。だが魔力は人間の創った力ではなく、生じさせる力だ)
フィアンマ(いや、そもそも、人の生成した魔力によって神を造ることなど、全人類のそれを合わせても足りるものではない)
フィアンマ(この"汝らの創った力"が天使の力であることは間違いない。俺様は、最初から天使の力という粘土があり、人間が生まれ、そしてその人間が信仰と言う形で神を造形したものだと考えていた)
フィアンマ(だがそれでは、この唄とは完全に異なる。人間が生まれ、天使の力を創り、神を造った、というものは、俺様の考えと唄とでは順番も前提も逆になる)
フィアンマ(これはどういう事だ。この間違いは、俺様の成し遂げようとしていることにも関係しかねない)
霊装の操作に、更なる力が籠る
既に禁書目録と言う少女の、今現在の干渉可能な限界領域を超えているが、フィアンマは気付かない
フィアンマ(その知識で答えろ、禁書目録。この矛盾の、謎の解を、その知識で示して見すのだ)
フィアンマ「答を示してみろ、禁書目録!!」
思わず、声が出た
そこでようやく、禁書目録と言う名の少女に死への舵取りをしてしまったことに気が付くフィアンマ
霊装から伝えられる、生命警告。既にボロボロの少女の体への魔術的な過干渉
それがもたらすのは臓器の不全、自律神経系の停止、意識の霧散、そして少女という精神の死亡
こうなっては、ショック蘇生も通じない。確実な死が訪れる
フィアンマの中では、当然、"禁書目録の知識">"ステイルとの約束である禁書目録の生存"である
優先されるのは、もちろん知識
故に彼は、知識を溜め込んだその脳を、あらかじめこのようになる危険可能性を見越して用意していた、人間の脳を単なるHDDとするような霊装の中に移すしか無かった
つまり、ステイルとの約束は、破られてしまったことになる
36 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/11(金) 07:28:35.67 ID:dLY4Liw3P
違和感を挙げれば、蹴飛ばした時だった
しかし、そんな違和感に躊躇して連続攻撃の手を止めるなど愚の骨頂である
したがって、アックアは一連の攻撃の手を止めず、神の右席でありながら一般的な魔術も扱えるという己の利点を生かした、しかも高出力な水の塊をテッラにぶつけたのだった
アックア(……やはりであるか)
テッラを浮かせるべくして加えた蹴りは、確かにテッラを浮かせる事には成功したものの、硬い風船という矛盾した存在を蹴り上げたような反作用が有った
圧縮された水の塊を受けて、後方の半壊した建物をなぎ倒しながら弾け飛んだテッラは、しかしというか、やはりというか、何事も無かったかのように立ち上がる
テッラ「やりますねー。流石、私を殺しただけはある。こうして直接私が罰を下しに来なければならない程です」
粉塵の中から、声が上がる
テッラ「殺された時は正直、痛かったですよ。しかし」
ガララ、と家を構成していた何かが転がるような音がして、その中から姿を現すテッラ
テッラ「今のではっきりと思い出せましたよ。あの時あなたが与えた間違いを」
言葉の途中で、躊躇なくアックアはその巨大なメイスを振り上げて、テッラに突っ込んだ
その移動速度でも、純粋な力の大きさでも、アックアは負けていない
先程受け止められた時よりも余程大きく力を加えたメイスの打撃が、粉塵が落ち切らない空気を巻き込んでテッラを押しつぶそうと動く
ガキン!!と金属と金属がぶつかり合うような音が鳴って、そのメイスは受け止められた
「優先する。―――金属を下位に、小麦粉を上位に」
殆ど後出しの様に聞こえたそれだが、その効果は十分にあった。小麦粉で作られた貧弱とも言えるギロチンの刃が、アックアのメイスを受け止めたのだから
だが、これもアックアにとっては読み通りである
なぜなら、一度に複数の対象に向けて"光の処刑"は使えない
今のテッラでも防ぎきれないような威力で殴りかかることで、"光の処刑"の使用を引きずり出す
それが出てしまえば、天使級の術式しか使えないテッラは、他のことへの防御手段が無いも同然
37 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/11(金) 07:29:14.57 ID:dLY4Liw3P
テッラ「ぐッ……?!」
怪我を抱えたアックアの殆ど全力の撃ち込みを防ぎ、笑余裕を浮かべたテッラの表情が歪んだ
一言で釘、というにはあまりにも巨大な、氷で出来たそれが、テッラの体を横から突き、その大き過ぎる衝撃が穴だけでなくグニャリとその体を湾曲させた
その状況から逃げたい、という意思が簡単に透けて見えるように、テッラは後ろへ跳ぶ
普通に立っていることすら異常なほどに、腰から体を90度近く捻じ曲げて立っているテッラが、落ちついた粉塵の中に立っていた
対するアックアもその胸の怪我から血をあふれさせるが、テッラに比べれば状況は圧倒的に有利だった
テッラ「……私の術式すらも無効化する、"聖母の慈悲"を使えば、その溢れる血すらもありえなかったのではないですかねー?」
不自然に曲がった体を、グリッグリッと垂直に戻すような動きをしつつ、テッラが問う
アックア「それは単に貴様が、その術式を使うまでもない相手だという事である」
テッラ「……ふふ。実は使えない、の間違いではないのですか?」
テッラ「神の右席の術式は、それこそ天使の術ですからねー。如何に聖人のあなたでも、使用時に体に受ける負担は甚大だ」
テッラ「その上、フィアンマによって傷付けられた体を直すために使っているのはもちろん、対人間用の術式でしょう」
テッラ「と言う事は、自分の体を、原罪の塊である人間と定義しなければならない。完治するまでの間、永続的に自らの体を人間と定義してしまえば、当然、原罪があっては使えない、つまり人間のままでは使う事の出来ない神の右席の術式は、矛盾によって使用不能になってしまいますからねー」
聞くアックアは、反論を口にすることも無い
テッラ「しかしそれも本来ならば、根本的に神の右席は人間用の術式など使えませんから、これはあなただけの欠陥なのでしょうが」
遂にテッラの体が真っ直ぐに戻った。と言っても、見た目の上では未だに生きている人間とは思えない気味の悪さが残っている
アックア「……仮に貴様の言う事が全て正解で有ったとしても、それは些細な問題なのである」
いくぞ、と言わんばかりにメイスを上段に構えて、進む
テッラ「優先する。―――金属を下位に、人体を上位に」
今度もまた、メイスの打撃を無効化するテッラ
しかしながら、彼はその打撃を防げなかった
38 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/11(金) 07:29:57.25 ID:dLY4Liw3P
巨大なメイスを更に巨大化するように、氷の塊が覆っている
直接テッラに触れるのは氷。この方法ならば、もし仮に水の優先度を下げられていても、その芯であるメイスが彼を殴っていただろう
つまり、一つの要素にしか対応できないテッラに、二つの要素を含んだ打撃を加えたという事である
どうにもならなくて、テッラはまたも吹き飛んだ
またも数軒の建物がボーリングのピンとなって崩れ落ちていく
そして太い石造りの大黒柱に背を向けて寄りかかったテッラの前に、アックアは立った
アックア「貴様と私には決定的な差が在る。貴様は強力な神の右席の術式しか使えぬが故、"光の処刑"を使った攻撃しかできず、一重の守りしか行えない。その弱点を補うために、強化された肉体を用いた不慣れな格闘戦を挑んだのだろうが、行動が狭く、浅い」
アックア「柔よく剛を制す。付け焼刃の白兵戦などでは、仮に貴様の体が金剛石の如く硬く強くあったとしても、相手にならん。キャリアの差が著しいのである。その上私は一般的な術式も扱える。戦術の幅が違いすぎるのだ、貴様と私では」
メイスを持っていない方の手で、アックアは氷の槍を作った。そしてそれをテッラへ向ける
アックア「天使に近づきし、神の右席。貴様のような人間でも、敬意を持って我らが主と同じ死に方を与えよう」
もう一度死ね、テッラ
そうテッラの耳に入った時、アックアの槍は彼の体を確かに貫いていた
だが
テッラ「………残念ながら、もう一度死ぬ、と言う事は出来ないのですねー」
アックア「!?」
その顔は苦痛に歪んですらいなかった
テッラ「復活について、根本的にあなたは間違っているのです。アックア」
拳を容赦なく、テッラの顔面に放る
手ごたえは有った、だが、テッラは歪んだ顔のまま話の続ける
テッラ「我らが主は聖者であろうが愚者であろうが、復活させます。寛大な御方ですからねー」
39 :
現実世界では、カトリックでは×正教系では○な理論構成となっております
[saga]:2011/03/11(金) 07:31:51.63 ID:dLY4Liw3P
テッラ「しかし、その後で審判を下さる。その審判の時とは何時ですか?」
アックア「……"終末"の末である」
テッラ「その通り。と言う事は、まだ起きてはいない。ならばどうして私が居るのでしょうね」
アックア「その答えは当然、フィアンマであろう?」
テッラ「ふふ、半分正解、というところですねー。彼は早めたに過ぎませんよ、この"終末"と同じ様にねー」
テッラ「そして更に質問しましょう。神は何故地獄送りという審判を下しますか?」
アックア「聖書を読み直すのだな。無論、生きていた時の行いの罰としてである」
テッラ「その通りです。ではなぜ罰を下すのですか? 本当にその復活者を始末するならば、復活させる必要も送るべき先としての地獄も必要など無いのではありませんか?」
アックア「………考えられぬことではない」
テッラ「よろしい。あなたも神の右席ですから、これ以上言葉を紡ぐ必要は無いでしょうが、あえて言葉にしましょう」
テッラ「神の審判にも救いが在るのです。その為の地獄なのですねー」
テッラ「罰を与え、それによって復活者に反省の後、救いを差し伸べる。主は賢いですからねー。どうして人間という愚かな存在の意識や主義・考え方が簡単に変わってしまう事を考慮しないなど、馬鹿げた思考停止がありましょうか」
テッラ「つまり、私が見せた、そして今見せているあなたへの怒りは、私を殺す際にあなたが言った言動である、私の復活や天上への行脚等有り得ないと言い切った、神の寛大さを侮った不敬・冒涜。神の知性と寛大さをあざけった、あなたの間違った思想へ向けられているのですねー」
全く持って、表面的には馬鹿げた構図で有った
圧倒的に優勢なアックアに対して、圧倒的に不利なテッラが説き伏せ、余裕の表情と怒りの表情を合わせ持つ
テッラ「そしてあなたにもう一つ、質問をしましょう」
顔を挙げアックアの顔を覗き込むテッラに、アックアは微動だにしない
テッラ「地獄や天上は原罪を持つ人間が本来立ち入れない領域。そして地獄は人間の身では簡単に死んでしまう。それでは反省など出来ませんねー」
テッラ「この問題を解決するには、復活した人間が人間でなければ、そう、まるで天使のような強靭さがあれば、解決しますよねー? ……………つまりです」
ボロ雑巾のような男の語気が徐々に強くなり、その体にエネルギーが、天使の力が集まっていくのをアックアは感じ取った
テッラ「"復活者"であるこの私は、天使と同等の存在である、ということですよ! そんな私がどうしてこの程度でくたばったりしますかねー!!!!」
40 :
本日分(ry 徹夜+コーヒー
◆48vTiIxrtrv5
[saga]:2011/03/11(金) 07:34:34.15 ID:dLY4Liw3P
貫いていたハズの氷の槍が、ジュッと音を立てて蒸発した
同時、テッラの背中から眩いばかりに10m程の翼が飛び出し、上空に飛び上がる
こうなった彼には最早、事を大きくしないようにという、フィアンマの制御は吹き飛んでいた
それを、地上から見上げるアックア
だが彼の姿勢は変わらない。一番重要な点は、一番疑問だった点は、一番自分の存在にかかわる点は、間違っていなかったからである
余裕の笑みで30m程上空で見下ろすテッラへ、アックアはその大きなメイスを向けた
アックア「確かに私の考えは間違っていたかもしれないのである。だが!!!」
アックア「貴様の言葉には貴様自身が聖者であることを保証するものは無かった!!」
アックア「なぜなら、貴様は今だ復活者であり、審判を受けたものではない!! 貴様もまだ分からんのだろう?! 自らが地獄へ向かう者なのか、そうでないのかは!!!」
アックア「それは私も同じ!! だが、貴様のこれまでの矮小な考えや行動が正しかったかどうか、それは私にすら分かるのである!!」
アックア「それは何よりも今、貴様がこうして私に罰を下さんとしていることからも、分かるのである!! 貴様の言う通りならば、私に罰を下すのは神で有れば良いのだからな!!!」
アックア「それよりも前にこうして、貴様が主に代わって私に罰を下しに来る!!! それ自体が、最大の神に対する冒涜ではないか?! 貴様にはその矛盾の解があるのか?!」
テッラは答えない。それはつまり、解が無いことを示している
自らの怪我の事など、既に吹き飛んでいた。当然、胸から溢れる血など気にせずに、アックアは己の体に力を込める
アックア「もう一度貴様に同じ事を言おう、テッラ!!! 地獄以外に貴様の居場所などありはしないと!!! 貴様自身が言った通り、そこで反省するがよいのである!!!!!」
もちろん、それすら決めるのは神であるのだが、彼らにはどうでもよいことであった
己が正しい、と考えて主張し行動すること。それは争う人間の基本的な背景なのだから
そしてどちらが正しいのか、神の前に決めるものがある。それが勝敗
勝った者が答え。それが人間の世界の、生物の世界の最も基本的で単純な掟なのだ
41 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/11(金) 08:32:43.94 ID:sDieB2G00
なるほどまったくわからん
だが乙ッッッ!
42 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/11(金) 10:46:06.15 ID:bfwTrIxyo
おつ
イェスの居場所以外のミスリードがなかったことにほっとしたww
43 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/11(金) 10:54:10.50 ID:gfjABQTSO
乙
インさんは改変前から通して、上条さんと再開出来なかったか…
44 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/11(金) 12:33:20.77 ID:bE2lzNlDO
インさん新約でもある意味一番扱い酷かったな
佐天さんはモブのくせに目立ちすぎ
45 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/12(土) 03:43:15.20 ID:hO3mkQJKo
携帯から
私の公開[
田島「チ○コ破裂するっ!」
]と称した一連のSS投下ですが、内容が現在起きている災害にたいして、私自身が被災地から離れた位置に住んでいるということもあり、非常に不謹慎だと思われます。
なので、ほとぼりが冷めるまで暫く投下を停止しようかと考えています。
特に反対のレスが続かない限り(根本的にレスが付かないということも含めて)投下は停止しようと思います。
しかしながら、書き溜めはしておこうと思っているので、その場合は時期を見て投下を再開することになると思います。
私としては、どれ程時間がかかっても必ず完結させるつもりです。
被災者の方々には一日でも早く平穏無事な生活が戻ることを祈っております
それでは 、また
地震情報:
http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
46 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/12(土) 08:02:14.51 ID:kU5lhOxjo
了解
ゆっくりやすめ
47 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/12(土) 08:06:29.14 ID:7nf+DYk20
そこまで深く考えなくてもいいと思うけどその姿勢は立派だと思います
48 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/03/12(土) 09:09:20.22 ID:n0Iy8MSAO
休むこじつけか?
地震汚ナニーみせろやハアハア
とはオモッテナイヨ。
アックアの傷ペロペロ
1乙
49 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
:2011/03/23(水) 20:40:14.73 ID:yAe5vcYAO
ほとぼりはいつになったら冷めるのだろうか
50 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/23(水) 20:56:03.67 ID:8MfnisgSO
俺福島民だけど楽しみにしてる
51 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2011/03/23(水) 22:28:43.67 ID:wHdXABDro
>>50
早く逃げろよ
52 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/03/25(金) 02:57:55.93 ID:NMPHqEdD0
もう……そろそろいい頃合いじゃないか?
53 :
携帯からオナニストでございます
[sage]:2011/03/25(金) 03:55:12.07 ID:MLQgP107o
明らか原発関係がしばらく終息する気配はないけど、頃合い意見があるので明日から徐々に投下再開します
当面はこっそりsage進行しますけどねー
ではお休みなさい
水道水が放射能汚染、電気は制限って苦痛すぎるだろ関東圏…
54 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/03/25(金) 14:52:33.89 ID:PGVAqBsno
楽しみに待ってる
しかし、目黒区は全然停電しないな…
55 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/25(金) 14:54:46.30 ID:PZ75trcJo
なんかほとぼりが冷めるどころかいよいよ終了して書き込みが無くなりそうだな。
56 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/25(金) 19:19:44.12 ID:fSU3hARFo
舞ってる
57 :
>>55 水道水だって゛暫定゛基準値なんだぜ? 実は元々の基準値の10倍とからしい
[saga sage]:2011/03/26(土) 05:06:51.53 ID:Zr2PdvE8P
ロシア、モスクワ方向へ向けて集団で移動するフィアンマの勢力は、同じローマ正教の監視にも引っ掛かる
しかし、その報告を受けた新教皇が言った言葉は「捨て置け」の一言だった
彼にとっては、既に手に入れ、だが予想外に動かせないミカエルのことに、あらゆる意識が向けられていたので、仕方が無いとも言える
頭は回る上に内部工作も得意なようだが、所詮は、その程度の男なのだ
そう言う訳が見え透いていて、何も干渉してこようとしない教皇。そしてローマ正教の魔術師による正教圏内での検問と言える場所を幾度か何事も無く通過することで、フィアンマは呆れたような顔をした
そんな顔を見たのか、同じ馬車に乗った少女が声を出す
禁書「そんな顔してどうしたの、フィアンマ?」
まるでどこにも体調不良などを感じさせない元気な姿の少女を見て、フィアンマはその頭の上に手の平を置く
もちろん、禁書目録はその素振りを嫌がったりしない
彼女の今の衣類は、"歩く教会"と同じような効果と同じ様な装飾を施された修道服
もちろんこれも誰かへの配慮である
フィアンマ「いや、愚かな頂点を持ってしまったローマ正教の行く末を考えてな」
禁書「ローマ正教の事? それってフィアンマが気にする様な事なのかな?」
フィアンマ「まぁ、曲がりなりにも俺様もローマ正教徒では有るからな。ヒエラルキーには縛られないが」
禁書「でも今からフィアンマがしようとしていることは、ローマの領域を超えるようなことでしょ?」
フィアンマ「ああ、そうだな」
禁書「だったら、そんなことはどうでもいいんじゃないかな? 表情を変えるほどにローマの事を気にするなんて、フィアンマらしくないんだよ?」
ちょっとおかしいかも、と続ける少女の姿を見て、フィアンマは表情を怪しい笑みに変える
58 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/26(土) 05:08:08.11 ID:Zr2PdvE8P
フィアンマ「フ……」
フィアンマ(俺の事をよく知っているかのような口ぶり。まるでしばらく共に生活していたと思わせるほど。俺様があえてこうしたものだが)
彼は向き合った馬車の中の座席で、座ったまま、身を禁書目録の方へ傾け、少女の白い髪に手を通した
もちろん、禁書目録はその素振りを嫌がったりしない
寧ろ心優しい兄の様な存在に、喜んで身を任せているかのようだ
フィアンマ(笑わせるじゃないか。なぁ、ステイル)
一度指をクルクルと動かし彼女の髪を巻き付け、そして彼は禁書目録の方へ傾けていた上半身を戻して椅子に深々と座った
フィアンマ「確かに、俺様がわざわざローマ正教の事に思いを巡らせるのはらしくないかもな。だがお前は俺様のことなど気にしなくていい。お前は本場ロシアのボルシチを楽しみにしておくんだな」
禁書「ほんとうに? お腹一杯食べさせてくれたら、嬉しいな」
フィアンマ「お前の胃袋の大きさなんざ知らないが、俺様が一声かければ、喜んで向こうから出すようになるだろう。それまで大人しく出来るか?」
フィアンマは余裕のある表情を浮かべ、それを見て少女は喜ぶ
禁書「もちろんなんだよ!」
そして彼の膝に、甘えるかのように、頭を載せ、三毛の子猫を模した人形を抱きかかえた
禁書「おなかいっぱいだってさ。やったねスフィンクス。フィアンマは私の食欲を満たしてくれる守護天使なんだよ」
甘える彼女の髪に手を通しながら、フィアンマはふざけたような笑みを浮かべた
フィアンマ「禁書目録よ。残念ながら俺様の目的は、天使なぞというものよりも、もっと上だ」
それを聞いて、禁書目録は一際大きな可愛らしい笑みを浮かべ
禁書「なら、もしそうなったら、みんなお腹いっぱいになって、世界はきっと幸せになるんだよ」
と言った。間違っても、禁書目録の遠隔制御霊装によって彼女にわざわざ言わせているような、フィアンマの人形遊びなどではない
それは間違いなく、今の禁書目録の頭脳が選んだ言葉だった
59 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/26(土) 05:08:38.67 ID:Zr2PdvE8P
「う、初春っ?!」
胸の左側の衣類をはだけさせて、露出させながら、ガラスの壁に体重を預けた少女が、白井の視界に入った
打ち止めの声にリードされて、その場にいた人間の視線が少女に集まっている
麦野「ふぅん。あんたが例の初春ってコか。確か、被曝の度合いが一番酷かったコよね」
フレンダ「あれ? ってことは、まだ入院しとかないとヤバいワケじゃないの? 第三位にも悪いから、シェルター退避してほしいワケよ」
白井「そうですのよ初春。 私達でもまだ完全じゃないというのに、あなたの元にもシェルターに退避するようにという連絡が有ったでしょう?」
初春「ここは、屋上、?………地下の、シェル、ター。……で、でも、佐天さんが」
白井「佐天さん?」
尋ねられ、少女は先程まで見ていた腕と足だけの化け物を探した
だが、それは無くなっていた。あるのは牛に乗っていない巨人とさっきまでは無かった光球
初春「……あれ、さっきまで居たのに、どこ……?」
打止「居たって、どこにー? ってミサカはミサカは佐天って人を知らないながらも聞いてみるっ」
絹旗「少なくとも、私達は見てないですね。といっても暗くて遠くの方は超見えないですけど」
初春「そんなこと、ないです。変な形をしてましたけど、ぼやっと白く光を放ってて……。それにとても、大きかったから、見えないハズは」
打止「変な形で、光ってて、とても大きかった、って」
フレンダ「それってもしかして、あの腕と足だけの奴の事を言ってるワケ?」
初春「はい……そうです、けど」
白井「あれが佐天さん、ですの? 私たちも病室の窓から窺っていましたが、とてもそうには」
初春「間違いなく、佐天さんですよ。腕と足の継ぎ目の部分に居ましたから」
絹旗「あれが、あの佐天涙子? そんな所を良く見ては無かったですけど、とてもそうには超思えませんね」
麦野「予想は出来ないけど、言われてみて、有り得ないとは言えないわ。最後に会った時の佐天涙子なら、否定できないのよね、これが」
フレンダ「否定できないって、それはどういうワケなのよ……」
60 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/26(土) 05:09:25.61 ID:Zr2PdvE8P
麦野「あのファミレスの時から既にどっかおかしかったけどね。第三位と一緒に居た時の佐天は正真正銘のキチガイだったわ」
初春「キチガイ……? 私の、友達を、佐天さんを……悪く言わないで、欲しいです、ね」
白井「そうですの。撤回して下さいまし」
麦野(あんた達をそうさせた原因はあの佐天だってのに、コイツらは)
麦野「……んー、ま、さっきのが確かに佐天だってんなら、あの巨人の注意を引いてくれてるお陰で今まで私達が生きてるってのも有るし、感謝しない訳にはいかないか。キチガイだって言ったのは謝りましょ」
絹旗「でもあんな超人間離れしてる時点で、普通ではないですけどね」
初春「例え、普通じゃ……なくなっても、それが、佐天さん……で、ある以上、私の……友達です」
麦野(……こりゃ、真実は言えないわ)
じっと、初春の方を見る。見た目で明らかに体調が悪いと分かる程だと言うのに、その眼は対照的に力強く感じた
麦野(寧ろ、例え事実を言っても、それでも佐天を庇うかもしれないわね、この娘は)
打止「ってことは、あの巨人の周りで飛んでる球がその佐天涙子って人だね、ってミサカはミサカは教えてあげたり」
初春「……あれが…?」
フレンダ「あっちゃー、さっきよりもまた小さくなっちゃってるわ。このままじゃ結局、あの娘ジリ貧ね」
麦野「大きさがどうこう影響するのか分かったものじゃないけど、見た目的には削られてるって表現はあってるわね。対する巨人は牛を除いてほぼ無傷、か」
打止「一方通行の姿も見えないし、LV5の麦野のおば、お姉ちゃんでも駄目だった」
白井「お姉さまと同じLV5でも……。そう言えば、お姉さまは何処ですの?」
フレンダ「あー、第三位なら日が沈む前にどっかへ行っちゃったワケよ」
麦野「ま、居たところでどうしようもないでしょうね。何か実験用の超高電圧キャパシタでも無い限り、第三位でも私達でも傷一つ付けらりゃしない。……悔しいけどさ」
麦野に無理ならば、恐らく、この場にいる全員誰もがどうしようもないだろう
ということは、このまま、いつか訪れるであろう、限りなく望ましくない"終わり"を待つしかないのか
61 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/26(土) 05:09:56.11 ID:Zr2PdvE8P
麦野(それは、それだけは気に食わない。仮に犬死だろうとしても、足掻いて死ぬ方がよっぽどマシ)
特に今なら、佐天涙子らしき存在が巨人の注意を引いている
動くなら今だ。ただ、動きようが無いのだが
絹旗「このままただ指咥えて蒸発を待つなんて超勘弁願いたいですけど」
白井「こちらが何も干渉できないのでは、手の打ち様が無いですの」
フレンダ「いや、空間移動能力があるなら、自分だけは逃げられるんじゃない? 私達を見捨ててさ」
白井「失礼ですわね。誰かを見捨てて自分だけ助かろうなんてしませんの」
絹旗「どーですかね。口ではどれだけつくろっても、人間ってモンは、最終的に逃げ出しちゃうもんですからね。そういうのは超飽きるほど見てきましたし」
白井「なっ?! 私は、風紀委員として」
彼女たちの雰囲気が悪化する。その空気を感じて、麦野の背に打ち止めが隠れた
無理も無いことである。彼女たちだって、パニック寸前なのだ
これまでそれが抑えられていたのも、この麦野という指導者があるからこそである
自らがLV5と言う事も有って、リーダーであると言う事も有って、麦野にはそれが見えていた
麦野「あー、はいはい。こんなとこで身内争いしてどーすんの。馬鹿馬鹿しい上にうっさいのよ。逃げるなら逃げるで、策を立てりゃいいでしょ。白井だっけ?」
白井「はいですの」
麦野「仮に自分だけ助かろうとして、逃げ出せる?」
白井「万全とは言えない上に、一学区丸々吹き飛ばすような存在からは逃げ出すのは、相当運が良くない限りは無理かと」
麦野「やっぱそんなとこよね。さーて、どうすっかな」
打止「そう言えばさっき、麦野は大規模に使われるような実験用キャパシタがどうとか言ってたよね。アレってどういう訳なのってミサカはミサカは興味を持って聞いてみる」
麦野「詳しく言えば、欲しいのはその中身、とんでも密度の自由電子だけどね。ま、んな設備が生きているかも分からないし、何よりアクセスする権限なんて無いから、使えるのは生き残った風力発電のスズメの涙レベルの電気って所だと思ってる。出力不足もいいトコ」
62 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/26(土) 05:11:25.63 ID:Zr2PdvE8P
フレンダ「出力不足を補うための出力が不足かぁ。それでもさ、結局やらないよりマシなんじゃない? 麦野がやるって言うなら私は手伝うワケよ」
絹旗「そうですね。どういう形であれ、抵抗したいと超思います」
麦野「仕留めそこなって、注意引いちゃって、反撃で蒸発する未来しか思い浮かばないけど、しゃーない、やるかな」
言って、彼女たちに少しの笑顔が戻った。少なくともやることが出来たのだから
「となるとまずは、何処を狙うか、ね」「病院に電力供給してるとこは外すべきかと」「制御施設を介するよりは変電施設とか直に発電してる所の方が単純だと思うワケよ」
「んじゃ、そこの超ツインテテレポーターという足は使えそうですね」「あなたも万全ではないというのに。いいですの。でも、体が少々壁に埋まっても文句は言わないで下さいまし」
「それならミサカも手伝うって、ミサカはミサカは跳びはねて自己主張してみる!」「駄目よ。あんたは留守番しときなさい」
などと、話が進む
だがしかし、それでは本当にただの悪足掻きにしかならない
そこへ、彼女たちの輪に一歩近づいて、初春が口を開いた
初春「……フラフープって、ご存知、ですか……?」
そのフラフラとした様子に、白井が肩を貸す
打止「腰の動きでワッカを回す遊びのことだねってミサカはミサカは学習装置の知識を自慢してみる」
絹旗「そんな超絶滅しきった遊びのことじゃなくて、学園都市外周地下にあるっていう円型加速器のことでしょうか?」
初春「そう、です。……その実験に使われる、莫大な電力設備なら、どう……ですか? あの、巨人をどうにかして……一人戦ってる、佐天さん、を、手助け……出来ます、か?」
麦野「やってみなきゃ結果は分からないわよ。でもそうね、少なくとも今やろうとしてることよりは絶対的に効果があるって断言出来るわ」
フレンダ「でもそんなもの、結局使おうにもアクセスできずに終わりって結末が丸見えなワケじゃない」
白井「まさか、初春、そんな体の状態で?」
初春「大丈夫、です、白井さん。……あの、権限とかそういうのは全部、私……、私が全部空けて見せます」
初春「……だから、だから、私も、お手伝いさせて下さい」
と。最後だけ、彼女はハッキリと言いきった
63 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/26(土) 05:12:04.58 ID:Zr2PdvE8P
「徐々に悪化しているだと。理由は分かっているのか?」
消えたテッラの行方を探している騎士団の詰所の一番奥の机に着いている騎士団長の耳に、好ましいとは言えない情報が入って来た
その情報は、直接テッラとは関係の無いようなもの
病院で医学的にも魔術的にも治療を受けている第三王女・ヴィリアンの容体が芳しくないという報告だ
「断定はできませんが、原因であるヴィリアン様のお怪我から、考えられる仮説が挙がってます」
団長「構わん。だが長々話されても困る。かいつまんで話せ」
「了解。ご存知の通り、フィアンマによってヴィリアン様の胸は貫かれました。文字通り、胸部から背部へ繋がる穴が出来るほど」
頷く騎士団長。なぜなら彼は、その状態のヴィリアンを見ている
「その傷は心臓を掠め、本来ならば既にヴィリアン様はこの世には居ないところでした。一命を取り留めているのは、術式を用いて処置を行ったアックア、ウィリアム様よるところが大きいのです」
団長「そうだろうな」
「そして同様の傷をウィリアム様も受けました。神の右席であるとはいえ、医術的な術式は専門ではないにも関わらずです」
団長「ふむ、それで?」
「あの怪我では、ウィリアム様とて多くのことは出来なかったでしょう。特に自らとヴィリアン様の手当てに別個の術式を用いることなど、余裕は無かったハズです」
団長「と言う事は、貴様の言う仮説ではウィリアムとヴィリアン様は一つの術式で延命していると言う事だな」
「そうです。この仮説の通りだとすると、ヴィリアン様の容体が悪化しつつあるということは」
団長「ウィリアム自身に、術式の維持へ問題が生じているということだな」
「はい。考えられます」
団長「そうか。ウィリアムの容体が悪化しているという報告は?」
「いえ、今のところは来ておりません」
団長「そうか」
団長(逆にテッラの元へ向かって行きかねんのがアイツだが、ウィリアムにはテッラが来ていることは伝えていないからな。テッラがウィリアムを何らかの方法で釣り出さない限りは……)
64 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/26(土) 05:12:39.34 ID:Zr2PdvE8P
団長「いや待て、今現在のウィリアムの居場所はどうなっている?」
「分かりません。必要悪の教会勢が殆ど出払っている現環境では、ウィリアム様の監視に割ける人員などいません」
彼の言うとおりである。この事態で本来ならば、ロンドンの警護の裏方として清教派の魔術師たちが動きまわっているところ
しかし、動ける魔術師勢力はアメリカに送られていて、それに当たる人員が居ない。一人の騎士すら、警官すら惜しいのだ
今でこそ最大主教の操るキメラ天使があるが、その許容範囲を超える敵が来たならば、人海戦術となるかもしれない
団長「そうだったな。……テッラはウィリアムの引き渡しを望んでいた。その後、行方不明」
団長「そしてそのウィリアムと事実上、命がつながっているヴィリアン様の容体が悪化」
団長「更にウィリアムの所在は確認できていない、か。これらを集約すれば、考えられるのは、まさか」
騎士団長と報告に来た騎士が向かい合って、一つの結論に辿り着いた、ちょうどその時
『騎士団長!』
強い声が、遠隔通話の霊装から流れた
団長「どうした、何があった?」
『先日の神裂火織が現れ破壊した地区から、かなり濃度の濃い霧が発生しています』
『その上、中からは時折爆発音なども確認』
団長「……了解だ。確かお前は、その地区の警備では無かったハズだったな。担当はどうした?」
『定時連絡が無かったので確認に行ったところ、この地区の担当は既に絶命しておりました』
団長「やはりテッラか。了解した、直ぐにそこへ行く。お前たちは一般市民が近寄らない様に、そしてその霧の中に入ってはならん。これ以上の欠員は困る」
『りょ、了解』
通話を終え、騎士団長はそのまま詰所から出る。背後には、屈強な騎士たちが続いた
団長「ウィリアムめ、私が着く前に絶命などしてみろ。ヴィリアン様の分まで怨んでやるからな」
呟いた彼は、もう自らの傷など気にならなかった
65 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/26(土) 05:13:10.52 ID:Zr2PdvE8P
「まさか貴様が、ここまでする人間だとはな。トウヤ・カミッ……」
目の前に立つ男の名前を最後まで言い切ることも出来ず、一人の男が倒れた
上条刀夜の手には拳銃が握られ、そして僅かに銃口から煙が上がる
少し顔へ散った返り血を、彼は左手の甲で拭い、銃をホルダーへ押し込んだ
死体となった男性の胸にはCIA長官と記されたネームタグがある
そのタグを奪い、そして背広の内側から何枚かのカードキーのようなものを奪った
一人の男の命が断たれたCIA本部の一室である長官室のへし曲がった金属製のスライドドアの隙間から、若い男が入ってくる
田中「……長官」
もちろん田中もこの男を知っている。彼の所属する組織の頂点であり、政権内にも力を持っている勝ち組中の勝ち組なのだから
刀夜「田中君。そっちの方は、片付いたかな?」
一呼吸置いて、田中は表情を切り替えた
田中「はいこれでイェスの"肉体逃避"が可能な上位微小機械対象者はCIAでは居なくなりました」
刀夜「そうか、よし」
田中「しかしまさかCIA本部なんて一番都合の好さそうなトコにイェスが居ないとは思いませんでしたよ」
刀夜「それだけ用心深いってことなのさ。早速これを使ってみようか」
そう言って刀夜は入手したばかりのカードキーを使って、長官のデスクに備え付けられた固定端末にアクセスし、パスワードを入力した
基本画面から、少しの操作でリストが表示される
ぱっと見は名前と何かの情報のリストだ
そして名前の欄の横の列には、半分以上に赤文字で"Dead"の表示がなされていた
田中「これは?」
刀夜「"肉体逃避"の逃避先、言わばイェスの緊急シェルターとなっていた人間のリストだよ」
"Dead"の赤文字が、刀夜と田中の見るディスプレイの中で一つ、また一つと増えていく
田中「たくさん居るとは知ってましたけど名前で見ると多く感じますね。しかしこんな逃げ場を用意していた事に土壇場で良く気がつきましたね我々は」
刀夜「元より可能性は有った。息子の頭の中にもイェスに似たようなのが居ることだしね」
田中「当麻君っすね。彼も刀夜さん並みに有名ですよねこの組織では、いやCIAでって意味ですけど」
66 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/26(土) 05:13:47.44 ID:Zr2PdvE8P
刀夜「……そうだね。まぁ当麻の事はいいんだ。肝心の"イェス"本体だけど、どこか、な」
少しキーを叩いて、違う情報を参照する
今上条刀夜が覗いているのは、最上級機密の情報ネットワークであり、"負け組"達がアクセス出来るようなものではない
だがそれによって逆に、刀夜達は正確な情報を得ることが出来ているとも言える
刀夜「……!! ほう、これは驚いた」
田中「まさか生まれてからずっとその場所に居たままとは驚きも仕方ないっすね」
刀夜「奴にとっては玉座でもあり子宮でもあり、そして最良の情報機器が在る場所なのかもしれない。それか、このボストンの、マサチューセッツという場所がとてもお気に入りなのか、と言ったところだな」
田中「地下の研究施設に引き籠っている奴に好みなんてあるんでしょうかね余程子宮の居心地がいいのかも」
隣で同じ画面を覗く田中の方を、刀夜は向いた
刀夜「奴がここに居ないとはいっても、子機はあるようだ。多分"肉体逃避"以外のイェスの逃げ場になっている。となると恐らく、本体の次にこっちの方が"肉体逃避"先よりもよっぽど能力の高い逃避先と言えるだろうね」
言いながら、刀夜は画面を小突く。タッチパネルが反応して、ここCIA本部の中のイェスの子機とも言える設備へのマップが表示された
そして田中は頷き、どこかで調達したのであろう爆発物を取り出して、その様子を見た
いけるな、と呟いて、この部屋の僅かな隙間しか無い出入り口へ足を向ける
田中「そりゃ人間なんかよりも直接他の高度情報機器の方に逃げた方が都合が良いに決まってますからね。場所の目星はついてんですからちょちょっと行って壊してきます。先輩は他の目標に当って下さい」
そう言って、もう一度、長官のぐちゃぐちゃになった顔を見て、田中は入って来た狭い隙間を抜けていった
田中や他の仲間たちはこのまま問題無く、言わばイェスの子機に当たる機械の塊を破壊するだろう
部下を見送って、彼はもう一度長官室の端末のモニターに目を戻した
刀夜(例えここに"イェス"が居なくとも、ボストンの研究所に居るとしても問題は無い)
"肉体逃避"のリストを再び画面の最前面に映し出した
先程よりも"Dead"の赤文字は増えている
彼の計画は順調に進んでいる。いろいろな意味で
刀夜「なんと言っても、銀貨は30枚も有るんだ。ラングレー(CIA本部の別称)だけにその硬貨を使いきる訳がないじゃないか」
完全に独り言だったが、その言葉には自信があった
67 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/26(土) 05:14:17.35 ID:Zr2PdvE8P
リストの表をスクロールしながら、腰かけた椅子により深く座る
刀夜「トウマ、か……」
ふと、彼は先程の会話で出てきた自らの息子について考える
彼は今何をしてるだろう
そう言えば、この端末ならば、事実上"イェス"を監視する事が出来るこの端末ならば、息子の場所も分かるかもしれない
カタカタカタ、と検索に必要な情報を入力する。結果は簡単に出た
その居場所は、同じだった。イェスと同じ、ボストンの大学地下研究施設である
思わず、ほー、と驚きの声が出た
刀夜(不幸は相変わらずの様だな、トウマ)
そして、自らの子供のことを考えているには、随分と冷徹な笑みを浮かべた
彼は入力装置を叩いてとある無線の周波数、銀貨30枚のメンバーや、刀夜に協力している"負け組"やローマ正教、MI6経由のイギリス清教との連絡に使っている周波数にアクセスする
刀夜「No.30青髪君、青髪君、こちら上条刀夜だ」
目の前の端末には、集音器の類は搭載されているだろう
『ちょっと、呼ばれてるわよ? はいこれマイク』
刀夜にとっては思いの外、女の声が入って来た。背景には飛行機が大気を裂く音が若干入っている
『ちょ、とと。はいはい、刀夜さん』
刀夜「ふむ、結標淡希君も居る様だね。爆撃位置を指定したい。チャンネルを開いてくれ」
『了解でっす』
高レベルに暗号化された、座標のみの短い情報が送信される
一瞬で情報は伝わった
68 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/26(土) 05:15:25.71 ID:Zr2PdvE8P
『ボストン、ですか』
刀夜「ああ。この場所はローマやイギリスからの援軍の陽動指定地ではないからね。少々派手に頼む」
『でもこの場所だと、No.13の研究所襲撃部隊はともかくとして、一般人も巻き込みますよ?』
青髪からの返答は、至極まっとうなことである
アメリカ軍の目を引き付けるために行われているNYやワシントンへの魔術師たちによる攻撃がないという事は、それだけ市民は落ち着いているという事になる
当然、攻撃を受けている重要二都市の情報が行って、混乱していることは確かだろうが、それでも一般市民がその場所を積極的に離れようとしている訳ではない
しかし青髪の疑問への返答の滑り出しは、非常にスムーズだった
刀夜「そんな被害などいまさら気にしていら……ッ」
『刀夜さん?』
刀夜「ぅ、ん。……なに、少々掠った傷が痛んでね。今麻酔を撃ち込んだから大丈夫だ。それで、爆撃の事だが」
ふぅ、と刀夜は息を吐いた。彼の体には麻酔注入の際に出来たであろう針傷も、もっと言うと痛むようなかすり傷も無い
刀夜「君が操ってる爆撃機ならば、精密爆撃が可能なはずだ。出来る限り深く、しかもピンポイントに攻撃してくれ。最大限、一般の人々を巻き込まない様にな」
『了解。難しいでしょうけど、やってみます』
刀夜「宜しく頼む。オーバーオーバー、地下研究所襲撃班、今の通信は聞いていたかい?」
『No.1 こちらNo.13 聞こえている』
今度は無線の背景に空気を裂く音はしなかったが、代わりに銃声が響いている
刀夜「そこに"イェス"が居る。爆撃機の位置からあと30分弱で爆撃が始まるだろう。情報収集に見切りを付けて、脱出してくれ」
『そうはいってもトーヤよ、爆撃で"イェス"が倒れなかった場合はどうするんだ?』
刀夜「その時のことも考慮に入れて襲撃してるんじゃないのかな?」
『流石トーヤ。勿論、奴を破壊するには十分な物資を準備してあるさ。その時は任せろ。No.30、だからって手加減する必要は無いからな』
『了解してまーす。そっちこそ巻き込まれへんように脱出して下さいよ』
『誰に向かって言ってんだ、フハハッ』
そして、通信終了という表示が刀夜の目の前のモニターに表示された
69 :
本日分(ry 新約禁書がkonozamaだ。キャンセルすべきだなコレは
[saga sage]:2011/03/26(土) 05:17:11.84 ID:Zr2PdvE8P
刀夜「……全く、頼もしい連中だ」
呟きながら、彼は頭を抱えていた。表情には若干の苦痛の色が見て取れる
それを振りきる様に、刀夜は頭を少し乱暴に振った
"イェス"の本体が無い以上、"肉体逃避"の候補だった長官を射殺した以上、"イェス"の子機も田中が始末する以上、ここではあまりやることは無い
だからと言って、他の銀貨のメンバーが交戦している場所へ、応援として駆けつける為に高速で移動する手段も無く、もっと言えば彼は年齢的に非戦闘員でもある
"前"でイェスはCIAを牛耳っていた。だからこの場所は"イェス"の玉座の最有力候補とみなされ、銀貨の戦力も少し多めに配分されていた。結果はハズレを引いてしまったが
故に、銀貨の頂点である上条刀夜には、今のところ最優先でやるべきことなど無いのだ。仕事は部下がしてくれる
よって彼は、情報収集を始める。もちろん、その目的はイェス無き後の権力移譲をスムーズに行う為でもある
端末を操作し、画面に浮かぶ情報を見る彼
その画面の横には、居場所を突き止めたイェスの、現在の映像が小さく映し出されている
もちろん、その映像には何も動きが無い。生物ではないのだから動きはしない。当然だ
刀夜「あ」
ふと、気の抜けた声が漏れた
刀夜「そう言えば、トウマの事を頼むのを忘れていたようだな」
独り言を言う。まるで自分へ問うように
刀夜「まぁ、大丈夫だろう。何しろ私の息子だからな。いや、もしかするとこの忘却もアイツの不幸なのかもしれないか」
口元を緩め、無線で再び問いかけることもせず、彼は淡々と情報を集めた
70 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/26(土) 13:26:12.68 ID:9FiC/CADO
インさんはこんなもんだよな
71 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/03/26(土) 13:50:17.48 ID:EVpfnexE0
再開乙!
ぴりぴりしたクライマックス感がたまんない
72 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/03/26(土) 14:10:15.57 ID:m4pOSoNzo
インデックスが切なすぎる・・・
73 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/26(土) 14:29:07.47 ID:Ag6agwZuo
フィアンマがロリコンに見えた
74 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
:2011/03/26(土) 16:10:02.94 ID:+dsG7CLAO
そんなに新約クズなの?
75 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/26(土) 16:57:08.33 ID:axoIiyKVo
konozamaってのはアマゾンで予約して全然届かないって意味ですな
76 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/03/26(土) 18:11:28.25 ID:d16LTKQUo
いいか、みんな
(゜д゜ )
(| y |)
amazonで注文すればokと信じていたのに、
いつまでたっても商品が来ない。
amazon ( ゜д゜) ok
\/| y |\/
これらをくっつけて
( ゜д゜) amazonok
(\/\/
逆から読むとこのざま、というわけだ
( ゜д゜) konozama
(\/\/
amazonは当てにならない、ということだな
(゜д゜ )
(| y |)
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
:2011/03/26(土) 18:31:16.91 ID:+dsG7CLAO
最近色々言葉が増えたな
78 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage saga]:2011/03/26(土) 23:53:33.04 ID:mZ7G4cuEo
>>77
AOは取り敢えずメール欄にsage入れるの覚えようか
79 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/03/26(土) 23:58:03.44 ID:+dsG7CLAO
sageる必要もなかろう
まあageる必要もないかな
80 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/28(月) 12:11:26.03 ID:fXOBgTwgo
amazonで新約はたしかにな・・・いまだに届いていない・・・
81 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/03/28(月) 12:14:24.72 ID:VjWFPY1ko
Amazon酷すぎるな
やっぱり本は本屋に限るな
82 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/29(火) 05:00:10.27 ID:d+Glc2LZP
「ジェニー、どこへ行ったの、ジェニー! ママはここよ!!」
"彼ら"の目の前で、一人の女性が声を出して誰かを探している
若い見た目から察するに、探しているのは恐らく幼い娘か何かなのだろう
混沌としたNYの市街地、道を挟んだ建物は軒並み半壊か全壊状態だ
声を出して辺りを見回していた女性は、疎かになっていた足元の瓦礫に足を引っ掛けてしまい、倒れた
身につけているスーツは所々破れていて、特に酷く裂けているストッキングの裂け目からは血が滲んでいた
彼女はそんなことを気にせずに立ちあがり、娘を探す声を出そうとする
だが、その声は出ない
彼女の目の前に一人の、いや複数の、NYでは祭日か教会でしか見ない格好の人間達が彼女の目の前に現れた
もちろん今現れた集団と似たような格好の集団を、彼女は見知っている
今まさに、このNYを襲っている集団なのだから
「この辺に、まだ生き残りが居たとはな」
「……ひっ」
言葉に対する当然の恐怖が、口から洩れる
男たちの声を聞いて、目の前のローマ正教の男はお世辞にも清々するとは言えない、汚い笑みを浮かべた
そしてボトッ、と何かが落ちる音が女には聞こえた
それが自らの腕であることに気付くのに、時間などかからない。痛みが瞬時に伝わるからだ
目の前のローマの魔術師が高速で動かした鎌によって、斬り落とされた腕を見て、そして痛みと現実を感じて
悲鳴
そして更に、魔術師はもう一本の鎌を何処からともなく取り出し、女性の両膝から下を斬り落とす
当然、彼女は倒れるしかない。彼女に残ったのは、左腕だけとなる
気が触れそうな自分を知って、そして間違いなく自らは死ぬと、殺されると理解してしまって
彼女は言葉を震わせながら、片手で祈ろうとした
「私の命がここでついえる運命だったとしても、娘を、娘だけはお助け下さい。神よ、我がかみy―――」
そこから先は、喉から直接、声とは言えない濁った音が少し漏れるだけだった。男の鎌によって、上顎と下顎が離れ離れになってしまっては、まともに声など出る訳が無いのだから
83 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/29(火) 05:00:58.55 ID:d+Glc2LZP
心臓の拍動と共に、喉と下顎だけの顔から血が吹き出す
鎌を振った男は、人間離れした鎌の軌跡は明らかに何らかの術式によるものだが、二つの大鎌に付着した血をさも汚いものであるかのようにローブでふき取った
「ふん。貴様らの様な奴らが、易々と神の名前を口にしてもらっては困るのだ。自らの言葉が如何に主を汚し、主への侮辱となっているのかも理解出来ない下賤な人間が」
目には明らかに蔑視の色があった
そしてその侮蔑の籠った目が、次なる標的を見つける
「……ママ?」
母親の断末魔を聞いた、はぐれていた幼い娘が、真に不運な事に断末魔の大きな声で、愛する母親の居場所を突き止めてしまったのである
少女は少し離れた、殆ど柱しか残っていない横長の集合住宅の角の影から現れた。身を隠している"彼ら"の丁度反対側である
その少女の声を聞いて、魔術師たちは山狩りで獲物を見つけたかのような、邪悪な表情を浮かべる
母親を殺したのとは違う、杖を持っている、如何にも魔術師と言えるような要素を持った小柄な男が少女へ歩いて迫った
強いて特徴を挙げるならば、その杖の上側に三つの犬の顔の彫刻が彫り込まれていることぐらいか
明らかに異質で、しかも奥には自らの母親の惨殺死体がある
恐怖を感じない訳が無い。通常ならば少女はそのまま固まって悲鳴を上げるのが関の山だろうが、偶然が起きた
悲鳴を上げようとした時、彼女の近くに有る壊れた建物の柱の一部が、ほんの小石ほどの大きさの瓦礫が崩れ、少女の肩を小突いたのである
言うなれば母親の願いを聞き遂げた神の奇跡とも言えるかもしれないが、それによって少女に恐怖を叫ぶことから、恐怖から逃げるという行動のシフトが起きた
すぐさま回れ右をして、建物の影、自らが母を探してさ迷って来た道を戻りながら、走る
迫っていた魔術師からすれば、逃げないで殺せると思っていた獲物が逃げたのだから、負わない訳が無い
逃げられたことを笑う魔術師集団から離れ、彼は一人、逃げた獲物を追いかけて集団には見えない建築物の影に入っていく
その光景を見ていた集団は、ローマ正教の魔術師たちだけではない
反対側の影で、一人の男が立ち上がる
「どうするつもりですか?」
「知れた事なのよ」
「でも、ここでローマ正教と敵対するのは愚策中の愚策よ?」
「だが、今あの娘を追っているのは一人。直接的に敵対することにはならんのよ」
時を待っていた天草式の集団から、我慢できずに一人の男が飛び出した
84 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/29(火) 05:02:45.53 ID:d+Glc2LZP
「弾切れだ!!! アパム、弾持って来い!! おい!? 聞いてんのか?」
隣でライフルを握っているはずの仲間が応答しない
それもそのはず、その仲間は首や手足が明後日の方向に向いていたりなど、明らかに人の形をしていない。乳児に渡した人形よりも悲惨な姿である
そんな状態の仲間を見るも、彼はあきらめない。彼らが展開する後ろには一般市民の集団がある。病院だってある
北へ逃がせば安全と言う訳ではないが、とりあえず目の前の敵からは逃す事が出来る
彼らが彼ら自身を奮い立たせる理由はそれだ。しかし、現実は厳しい
もうこの戦線は長くは持たないだろう。ここにいるのは元々拠点からなんとか逃げ出した兵たちの集団でしかないので、弾も無い
彼は死体となった仲間から、近接用のショットガンを拾い上げた
ライフルのフルオートでは、目の前の集団戦を考えている魔術師たちの体を貫けない
だから彼は接近することを考えた。これならば貫けなくとも、衝撃で絶命させることだって出来るかもしれない
でもやはり、現実は厳しい
接近する為になせねばならぬこと、それは距離を詰めるという事
公園を挟んでいる米軍防衛線と魔術師たちまでの距離は、およそ70m弱程度。100m走を考慮すれば僅かな時間で詰められる距離ではある
だがその距離をかんたんに詰めることが出来るのであれば、アメリカ軍は苦戦していない
つまり、得られる結論は
彼はその距離を詰めることも出来なく、ただただ笑う魔術師たちの攻撃の的となり
消えゆく意識の中で、自らの体が複数に割けるのを感じたのだった
死人となった一兵士より僅か後方、この部隊を率いる中佐の意見も同じである
もう戦線は長くは持たない。駆動鎧が始動する前に消滅しては意味が無い
これは、彼らに残された抵抗手段である駆動鎧を安全に起動させるために取られた、一般市民すらも利用した陽動作戦なのだから
「カーネル、北からも敵です。テレズマ反応有り、ローマの使役天使群かと」
「ファック! 挟まれたか。連中は死んだ我が兵たちの装備を奪っているようだからな。情報共有装備を奪われてしまえば、我々の行動も読めるだろう。まぁ、情報そのものがおかしくなっている以上、今のところ使い物にはならんだろうが」
85 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/29(火) 05:03:16.91 ID:d+Glc2LZP
報告を受けた中佐は周りの市民を見る
明らかに劣勢の米軍を見て、中には神に祈っている者もいる
ストレスの限界などとっくに超えていて、今の彼らはパニックを起こす気力も無く、ただ言われるがままに動くぐらいしか出来ないだろう
「挟まれては仕方が無いな。その上、川に挟まれたNYの地形では東西に逃げられない。弾も無いと来た」
「白旗でも降りますか? 市民を無差別に殺すような魔術師の連中に、戦時国際法なんて通じるとは思えませんけど」
苦しい笑みを浮かべる兵士を相手に、現場最高指揮官である彼は笑みで返した
「だが貴様の様に、冗談を言う余力はまだ残っているようだな。それを使う時が来たようだ」
「……バンザイ・アタックですか」
彼は答えず、ライフルで遠目に見える魔術師の方へ銃弾を放った
案の定、その弾丸は届かない。直進していた弾丸は明後日の方へ向かう
「今までの所、我々の脅威順では、クソ魔術師共よりも、奴らの味方をしている天使共の方が上だ。純粋な力以外でもな。何故か判るか?」
「……いえ」
「今も見ただろう? 魔術師の連中は、その体は人間だ。エンジェルではない。つまり弾丸が当れば死ぬということだ。現に、僅かだが弾丸を食らった魔術師もある。軽率だったのだろうがな」
「だからこそ、自らの体を強化したり、その前に銃弾を叩き落とす必要があるのだ。そして今までの経験から我々が知っているのは、奴らには個人規模で専門分野があり、自分の分野以外は大したことは無いということ。丁度、軍に兵科があるように」
ライフルで狙いをつけ、再度引き金を引く。今度は違う方法、瓦礫がそのまま固まったような木偶人形が現れて、代わりにその銃弾を受け止めた
それを見て、彼はフム、と息を吐いた
「奴らには魔力などというファンタジックなエネルギー量があるらしい。銃弾を弾く壁を作るのに、同じ消費量なら、一人一人の前に壁を作るよりは、少々狭くとも密集して、一人分の壁に複数人で隠れる方が効率がいい。だから敵は集団でまとまって、その防御手段の効率を上げ、いちいち弾と火薬を別々に込めないと撃てないマスケット時代の掃射方法に近い、一列が一斉攻撃をするとすぐさま二列目が前に出て第二波を放つと言う事を繰り返す、古い戦い方をしているのだ」
「中には万能な奴もいれば、大きな力を使える奴もいるだろうが、全員がそうならまず集団戦など選ばん。つまり一人一人で見れば攻撃可能限界と防御可能限界は狭いと言う事だろう」
「つまり、その限界を超える様に、魔力とやらが尽きるまで叩き続けるという手段を用いれば良い、と。それで突撃ですか」
中佐は、下士官の言葉に頷いて、ライフルを拾い近距離射撃用炸裂弾のアタッチメントを取り付ける
「その為の最低数の人員が、まだ残っている。だがその最低数の人数ではこれ以上守れない。この場の正答は一択、しかも非常に分の悪い解法しか残されてないのだ」
86 :
復興支援してくれてる米軍さんの頑張りが頼もし過ぎる。クソ政府と違ってな!
[saga sage]:2011/03/29(火) 05:05:32.54 ID:d+Glc2LZP
取りつけながら、通常ならば多くの車と人間で溢れる広く大きな交差点と広い公園を挟んだ向かいに立つ魔術師たちの方へ歩んでいく
その動きを見て、彼の周りに有った兵達が彼を最前列に隊列を組んでいく
中には、拾った武器を持った一般市民の姿もある
ポシュン、と彼が炸裂弾を放つと、他の兵士も一斉に同じ動作をし、手榴弾や各種投擲弾、使わない銃の弾倉を魔術師たちの方向へ投げつけた
一斉にとも連鎖的とも言える、NY都市圏全土に響くのではないかと思えるような爆発音と、巻き上がった粉塵や煙幕がアメリカ軍とローマの魔術師部隊の間に生じた
「魔女狩りの時間だ、行くぞ野郎共!!!!!!!!!!」
指揮官の声に呼応して、一斉に言葉が放たれる
それらは、掛け声と言うよりは絶叫に近かった
その爆発を合図に、生き残っていた兵と武器を持った市民が突き進む
ドシュッ、という何かが体に刺さる感覚が先陣を切っていた中佐の頭脳に伝わった
胸には煙幕や土煙の中を突き抜けて飛来した金属の、恐らく銀か何かで出来た杭が深々と刺さっている
もし、一般歩兵ですら身につけているアーマージャケットを着込んで居れば、致命傷にはならなかった
しかし、彼はここまで来る間に、見ず知らずの一般市民の女性に渡していた
通常ならば、司令官である彼がそんなことをするべきではない。そんなことは十分に分かっている。それでも渡したのは、彼の周りにいる兵たちに渡すさまを見せることで、この行軍が玉砕するであろうと伝える為でもあった
故に、ここに残った者たちは既に覚悟は完了している
彼は刺さった衝撃で仰向けに倒れ込み、自らに刺さった杭に触れる。太い。仮に抜いても助からない
周りを見る。有るのは勇猛果敢に突っ込んだ味方の死屍累々と更に突撃を続ける部下や市民の姿
天を見る。急襲をかけて来たローマ正教が操る1mにも満たない小型のエンジェルの群がある
最早声も出ない。好きな煙草が入っている胸ポケットすら敵の放った杭は貫通していて、咥えることは愚か取り出す事も出来なかった
ファックとか、シットとか、そんな言葉が浮かぶ
遂に首も動かなくなった。ただ、薄れゆく視界の端で、南の湾の方向に何本も水柱が立ち上るのを見て、僅かに唇の端がつり上がる
そしてそれ以上、彼が動くことは無かった
87 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/29(火) 05:06:30.25 ID:d+Glc2LZP
「タグゲーム(鬼ごっこ)はそろそろ終わりにしようか、お嬢ちゃん?」
逃げたは良いが、子供の行動能力など上限が知れている
このNYと言う場所が彼女にとってホームグラウンドだったとしても、追跡者には不慣れな場所であったとしても
根本的に日常のNYでは無く、そこらかしこが倒壊していたり、道が塞がっていたりして、結局その少女は袋小路に追い詰められてしまった
壁を背に振り返ると、もう男は目の前だった
再び、恐怖で身動きが取れなくなる。最も、この状況では小石程度の瓦礫を拾って投げつける程度しか、彼女には抵抗手段が無いのだが
「心配しなくてもいい。地獄へ行くのは一瞬だ」
そう言って笑う男。立った一人の少女を追い回して殺す事に、変態的な楽しみでも感じてしまったようだった
男を喜ばすには十分な表情を少女が浮かべると、ローマの男は脅すようにわざと音を立てて近づく
その恐怖で遂に少女が失禁すると、男の笑いは今までで最高潮になり
三首の犬の彫刻が施された杖をこれ見よがしに振って、青い灯がともった
「フ、ヒヒッ。……わ、我らが神を騙る、邪なる者への審判は」
三つ首の彫刻を纏っていた青光が伸長して、まるでホログラムを思わせる精巧で大きな犬が現れた
「当然、地獄だ。地獄の番犬に招かれ永遠の苦痛を味わいたまえ! 終末間際の我が術式は、すこぶる調子が良いぞ!」
ローマ正教の男の横に、5m程の青く半透明な番犬。そのその犬の首が3つに増え、更にそれぞれが3つに増えて、あっという間に50近くへと頭部が増える
少女は、最早言葉も出ない。自分はこの犬に食われるかして、間違いなく死ぬ
死ぬ、と言う概念は、まだ幼い彼女の中では不完全だが、今までにいくつも見てきた。死んで動かなくなった人々や、バラバラに四散した人々、そして自らの母の惨状が脳裏を巡る
その表情を見て、男の嬉心は更に増長していく
増長は、慢心を生んだ。最早男にはこの少女が死にゆく姿しか予見できない
半透明の犬の無数の牙が、今まさに少女の体を食い散らかそうとした瞬間
「そこらへんにしとくのよな、ロリペド野郎」
男の背中に斬撃が加わった
少女に完全に気を取られてしまっていた魔術師は、今まで米軍以外に立ちはだかるものが無かったということも有って、前のめりに倒れる
一方斬った側では、裂傷についても術式で補助していたのにもかかわらず、手応えは殴打のものだけだった
「ふん。こんな奴でも、曲がりなりにもローマの精鋭のようなのよな」
倒れた男の衣類には最低限の防御術式も組み込まれていたらしく、剣には一滴の血も付着していない。致命傷にならなかった
88 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/29(火) 05:07:11.14 ID:d+Glc2LZP
しかし、それでも男には結構なダメージが加わったようで、ローマ正教の男はよろめきながら立ち上がった
術者への介入で、男の術式の進展は止まり、少女の周りを取り囲んだ状態で、犬の動きが止まる
「……貴様、何者だ?!」
建宮「さぁ、何者だろうな。ローマ正教の横暴っぷりに腹を立ててる人間だとでも思っていて欲しいのよ」
男は建宮を見る。こんな時代に金属製の剣を振り回す輩。間違いなく同業者である。ということは
「魔術師か。やはり裏切ったかイギリス清教!!」
犬の彫刻がなされた杖を男は建宮に向ける。その向きに従って、青く半透明なケルベロスが少女から建宮の方へと顔を向け、威嚇するように吠えた
だが、その動きを見ても建宮はなんら気にしない
建宮「確かにイギリスとは関わりもあるが、残念ながら俺がここにいるのは完全な別件なのよな」
「貴様の都合など知らん。だが私は元々邪教徒共との合同作戦など気に入らなかったのだ! 貴様を先に地獄送りにしてやろう」
建宮「ほーぅ。そのワンちゃんでか?」
「その通りだ。終末を迎える今、我が術式は冴えわたっている。地獄の番犬の牙をとくと味わえ!!!」
男が言い放つと、少女の前に居た半透明の犬は、一目散に向かい、建宮に無数の牙が襲いかかる
だが、建宮は剣を肩に乗せたまま、避けたりとか、守りを固めるとか、迎撃を図るだとかは、しなかった
多数の首を持つ半透明の犬と建宮がぶつかり合った瞬間、犬を構成していた青白い光が閃光の如く拡がった
男にとってはそれは予想外で、そして自らの術式によって生まれた光で間抜けにも視界を奪われる
もちろん、それは男に襲われていた少女にとっても同じだった
そして少女が恐る恐る目を開くと、そこには四肢が全て明後日の方向を向いている男が倒れていて、首に建宮の剣が向けられていた
「グッ。……貴様、何をした?」
先程までとは正反対の、苦痛で顔をゆがませている男
建宮「特段、なにもしていない。術式の欠点を突く。魔術師同士の戦いの基本を実行したにすぎないのよな」
「……な、に??」
建宮「……無抵抗の人間ばかりを襲って、ケルベロスなんてポピュラーな術式を使っているリスクすらも見えなくなったか」
建宮「ケルベロスは人間を地獄へ招き、そして入った人間の脱走を見張る存在であって、直接人間を地獄送りにさせる存在ではない。お前さんの術式で対象を殺すには、その対象に"地獄送り"への意識が必要なのよな」
少女の方を見た。建宮の視線でも、少女は怯える。無理も無い
そんな少女へ一瞬柔らかい笑みを向けて、もう一度彼は男へ視線を戻した
89 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/29(火) 05:10:07.66 ID:d+Glc2LZP
建宮「あんな幼い子や逃げ惑う一般市民なら、"地獄送り"や"地獄と言う場所"を意識するように、言葉で誘導できるだろうがな」
建宮「それなりの経験や知識のある者なら、"地獄送り"への心理誘導と、その心理を発動条件にケルベロスの偶像に地獄へ招かせるという成立要素ぐらいは見抜けるのよな」
少女へ送ったものとは異なる、冷たい視線を目の前の男へ、彼は送る
「……フ、ン。ローマを信じぬ愚か者達にそれほどの知識があるとは思っていなかっただけのこと」
息も絶え絶えながら、男は馬鹿にしたような声を出した
その言葉を聞いて、建宮は剣に力を込める
とても簡単に、男の首が飛んだ。所詮は人間である
建宮「お前さんたちは、自分以外を見下し過ぎなのよ」
既に動くはずも無くなった男の顔へ言葉を吐き捨て、そして少女の方を見た
対馬「カッコ良く決めたみたいだけど、減点ね」
少女の側には、対馬が立っていた。その両手で、少女の視界を遮っている
五和「まだ幼いんですから、首を刎ねるなんてバイオレンスなものには、配慮してあげてください」
見れば、この袋小路に天草式の人間が集まっている。とはいっても10人にも満たないのだが
彼らを見て、建宮は先程までの刃物の様な鋭い視線を和らげる
建宮「おおっと、助かったのよな。とりあえず、この娘を安全な場所へ移ど――――」
彼の言葉を遮る様に、轟音と閃光が空を奔った。それも一つや二つではない
直後、地面に隕石でも落ちたんじゃないかと思わせる音と、揺れが起きた
少女が対馬にしがみつく
そして彼らの上空を、翼を生やした駆動鎧の群が通過していった
野母崎「教皇代理、今のは」
空を見ていた彼らの視線が建宮にあつまる
建宮「電磁砲といい、英仏海戦でも現れた駆動鎧だろうな。つまりようやくアメリカの連中がまともな反撃に出たようだ、と見るのが自然なのよ」
対馬「と、言う事は」
建宮「ああ。俺の推理が正しければ、我らの女教皇の登場が近いのよな」
90 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/29(火) 05:11:10.86 ID:d+Glc2LZP
「…………ぬゥ、ッ!」
そこいらの半壊した建築物の太い柱に身を隠すが、アックアが隠れた縦横30m四方程度の建物ごと彼を押しつぶさんと、四方八方から白い濁流が襲う
光線などではなく、それらはただの小麦粉の津波である
もちろん、それほどまでに大量の小麦粉など、テッラという男が持っている訳が無い
最早テッラという名前の天使となったとも言える彼が、攻撃意思を持って腕を振るえば、それだけでロンドン中の小売店やパン屋から取って来たといっても少なく感じる程の量の小麦粉が現れる
それ程の量になれば、"光の処刑"を使った優先順位の置き換えなどしなくとも、小麦粉の津波そのものが持っているエネルギーだけで、大概のものを押しつぶす事が出来る
しかも、それだけのエネルギーを持った流体とも言える粉は、テッラの思い通りに流れ、舞うのである。"光の処刑"以外の、何らかの術式を込めることも可能だろう
本物の津波ならば、アックアにも介入することが出来たかもしれない
しかし、こと小麦粉という物質の取り扱いには、テッラに一日どころか千日万日の長があるのだ
非常に原始的だが、アックアは食らう訳にはいかなかった
食らえば恐らく、防衛術式の耐久力を上回るまで自らの周りを包み、大蛇の如く締め付けるだろう
アックアが跳躍して、崩れかかった家屋の屋根から少し高い鉄筋造りの屋根へ跳び移る
半壊していた家屋は、白の濁流が四方をから圧力をかけ、簡単に崩れ去ってしまう
そのまま、その濁流はまるで放水車の水の様に細く、高圧で、しかもかなりの速度で逃げたアックアへ伸びていった
アックアとて、当然なすがままやられるばかりと言う訳にはいかない
宙に3次元的で複雑な術式陣を描き、巨大な氷塊が二つ生まれる
一つは伸びた小麦粉から身を守る盾となる
そしてもう一つの氷塊を、宙に浮かぶテッラを打ち倒さんと暴力的に投げつける。しかし
「fgila:oj@……上位…uigfvaifgo……空気、水…alkfgqio;fahf;」
ノイズとしか言えない、聞き難い言葉が僅かにアックアの耳に入る
派手な音を立てて衝突した氷塊は、テッラの体を揺らすことも無く、力を失った様に地面へ垂直落下して行った
翼で弾き返すことも、守ることも必要ではない
氷塊はテッラが守るか何かをして砕かれると、そのまま複数の刃による攻撃手段となるハズだった
だが、根本的に僅かでも影響力を与えられないならば、それらに意味は無い
91 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/29(火) 05:11:50.71 ID:d+Glc2LZP
せめてもの抵抗として、アックアはその氷塊を地面に落ちる前で、粉々になるまで細かく爆散させた
太陽の光が都合良く屈折し、テッラの視界を一瞬遮ることには成功する
それによって、アックアは未だ壊れていない二階建の集合住宅の一室に身を隠すことが出来た
全ては、一瞬の、一撃の為
アックア(この傷さえなければ、などと泣き言を言っても始まらん)
部屋に入りきらない巨大なメイスは既に置いてきた。彼にとっては僅かな重量軽減でしかないが、彼の得物を置いたことには変わりない
空になった手で、胸の傷に触れる
さっきよりも酷く、その部分には血が滲んでいた。他にも傷は体中に有る。だが、所詮この程度である。心臓を殆ど失っていると言えるのに、つくづく、聖人という存在の体の強靭さは凄まじい
アックア「……ヴィリアン様」
こぼれた名前。彼の動きがほんの僅かの間、止まった
フ、と短く息を吐いて、彼は空気中の水を操って、術式陣を描く
その術式によって、今離れた位置に置いてきている金属製の5m程もの大きさを持ったメイスを中心に、それまで申し訳程度に生んでいた霧とは比較にならない、かなり濃い霧が生成されていく
テッラの今までの攻撃から、純粋な力量ではテッラに劣っていることを、彼は十分に感じとっていた
アックア(だが、いつまでも逃げているだけと思っているのなら、それは間違いなのである)
このように視界を奪い身を隠しているのは、逃げではない
力の大きさで負けるならば、頭脳を使ってその力負けを補ってやる。戦いの鉄則だ
特に急襲・奇襲ならば、一時的にその大小の関係から離れて、致命傷を与えられる
水に囲まれている、という状況ならば、今現在テッラよりは優位に立っている
だが時間は置けない。この場所にアックアを呼び込んだ葡萄酒の術式を応用すれば、今のテッラならばアックアの制御下にある霧の制御を奪えるかもしれない
発生した霧を媒介にして、テッラの居場所を探すアックア
だが、頭脳に入ってきた場所は彼の予想に反していた
アックア「近い、……後ろかッ!?」
振り返りながら、その手には愛用のメイスにも負けない大きさの鋭い氷の大剣が握られている
92 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/29(火) 05:12:42.57 ID:d+Glc2LZP
そのまま、背の方向に立っているはずのテッラを、真っ二つにせんばかりの勢いで斬りかかった
剣の軌跡内にあった本棚や壁などが巻き込まれて軒並み真っ二つになる中で、しかしその大剣の軌跡は、斬り分けた廊下の途中でピタリと止まる
剣によって裂かれた部屋と廊下の壁の隙間から、声が入って来た
テッラ「おや、気付かれてしまいましたか。しかし、今の私とあなたの力関係から、あなたがこうして奇襲を狙うことぐらい、私でもスグに思いつくのは当然だと思うのですがねー?」
首を曲げ、廊下からアックアを見つめるテッラ
テッラ「その上、"光の処刑"を使用した私を襲うのに、水で出来た物、つまりこんな無粋な氷の塊など効きません。……あなたなら先程の事から予測してくると思っていたのですが、結果がこれとは、同じ神の右席として情けなく思いますよ」
アックアは片手で持っていた氷の大剣にもう片手を添えた
力を込めてみるが、確かに、テッラの方へ如何なる力を加えても1mmも進む気配が無い
アックア「確かに、水は通用しないようであるな」
殺意を込めた目で口を動かすアックアを見て、テッラは馬鹿にするように嘆息した
テッラ「今更その確認ですか。戦闘のキャリアが違うと豪語していただけに、ここまでとは少々期待外れですねー」
ピクリ、と僅かに剣が動いた
アックア「そう言えば、そんな事を言ったのであったか」
テッラ「ええ、聞きました。撤回しますか?」
アックア「いや、撤回はしない。貴様の言う様に、私も神の右席、十字教徒。嘘は大罪であるからな」
言い切ったアックアの剣からテッラへ押しつける力が抜け、僅かに離れる
アックアの自身が在るような言葉と行動から、アックアが何を狙っているのか、テッラは一瞬思考してしまう
撤回しないのだから、何かを狙っているのだろう。可能性を挙げれば、"聖母の慈悲"か?
そんなことに思考を、意識を奪われる
ほんの僅かで、隙と言うには短すぎる間
その隙を見つけることが出来るか出来ないか、アックアに言わせればそれがキャリアの差である
氷の大剣を、もう一度彼はテッラへ向けて振る
それを見てテッラは一瞬驚いたような表情を浮かべるが、大剣が触れる時にはつまらなそうな顔をしていた
93 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/29(火) 05:13:20.68 ID:d+Glc2LZP
テッラは、特に防御をしようとか、そう言う事はしなかった
それは、アックアにとっては実のところ予想通りの行動である。つまり、非常に都合がいいのだ
勝手に舐め腐ってくれたのだから
だが彼の握っていた大剣は、テッラに触れる前から水になり、まるで柔らかいゼリーを投げつけた様に飛び散っていく
先程までとは確実に異なる。さっきは水の優先順位を変え、氷の大剣はテッラの前で止まった
アレだけの力を加えたにもかかわらず、反作用で溶け落ちたり砕けたりは決してしなかった。本当に空気と氷の優先順位が逆転しているならば、空気の壁に激突して砕けるはずである
それが無いのは、"光の処刑"で指定したのはあくまで水であり、性質の異なる氷とはいくら親和性が高いと言っても違いは大きい
何よりもその硬度の違いを利用して、アックアという高レベルの術者がそれを剣として扱っていると言う要素もある
だから彼は確認したのだ。どの程度の現象が起きているのかを
テッラ「……な、ッ」
声を漏らした彼が気付いた時には、彼の胸には金属製の包丁が深々と刺さっていた
包丁と言っても、アックアが投げたものではない
氷の大剣の軸として、周りを氷で覆われ外からは見えなくなっていた、一本の槍
それは氷を接着剤にした、どこの家庭にもある食器や調理器具で構成されているものだった
神の肉や神の血として小麦粉やワインなどの食物を用いるテッラと、大抵の国の食文化にある食器は刺すと言う面で相性も悪くない
もちろん、"光の処刑"で対策されては、意味を無くしてしまうが
それでも、テッラの意識の外から行った攻撃が通ったのだ。テッラの頭脳は僅かな間だが確実に困惑している
アックアはすかさず槍の構成を解き、軸の中腹を構成していたアイスピックを握って、そのままテッラの首に突きたてた
喉仏へ、綺麗に刺さる
しかしながら、その程度で打ち倒せるようならば、苦労はしないだろう
飛び込んできたアックアを、テッラは腕を振り回して突き飛ばした
それだけでアックアの巨躯は簡単に飛ばされ、部屋の壁を突き破って、高濃度の霧で満たされた外へ放り出される。何とか彼は着地したが、ダメージは少なくない
アックア「……化け物め」
94 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/29(火) 05:14:00.94 ID:d+Glc2LZP
なんにせよ、一矢は報いた。効果がどれほどまで有ったのかは不明だが
追撃するなら今だ。目の前で奇襲をされて、少なくとも動揺と警戒をしているのだろうから
使い勝手のいい武器は、もちろんあの巨大なメイス
自分を補助する為の術式も、術式の媒介としても万能なのだ。その上、今の状況では何処に武器として使えるものが転がっているのか分からない。そして今、"光の処刑"の対象は水と空気のハズ
瓦礫の山に刺さった腕や足を引き抜くと、すぐさまアックアはメイスのある位置まで拾いに戻る
濃霧を効率よく散布する為に、少し広い交差点のど真ん中に投げ捨てたそれは、見つけるにも確保するにも問題は無かった
だが
テッラ「その選択は、少し単調すぎませんかねー」
声。同時に小麦粉の濁流が四方から押し寄せる
メイスを拾って、アックアは跳躍して逃げるしかない
もちろん、それはテッラの読み通り
跳躍したアックアの目の前に、待ってましたとテッラが霧を割って現れ、背中の翼でアックアを地面へ叩きつけようと狙ってくる
濃霧を凝縮させて一時的な足場を作り、アックアは出来た足場を使って回避して、距離を取った
しかし、アックアにはテッラの様な翼があるわけではない。つまり、空中での行動は地上よりもずっと制限される
大気を叩いて、テッラが目の前にまで迫る。その首にはアイスピックが、胸には包丁が刺さったままだ
後ろに跳びながらメイスで横薙ぎにするが、アックアのメイスはテッラの体の表面で簡単に弾かれた
単調だ、と言ったということは、光の処刑の対象をメイスに合わせたのだろう
アックア「ぬっ」
僅かに、彼の顔に不味いと言わんばかりの表情が滲む
テッラは自らの胸に刺さっていた包丁を抜いて、傷があるアックアの胸へ投げつける
それは容易に包帯を貫通して、アックアの体勢を崩し、そのまま突き飛ばした
宙を飛ばされて無抵抗の彼を、今度は地面を這っていた小麦粉の波の一部が建築物を壊しながらも打ち上がり、一筋の直線となって再びアックアを襲う
全ての白い濃霧で満たされたこの空間に、白い小麦の海がある
アックアを襲った小麦の威力は、その海の全ての運動エネルギーがそこに凝縮されたかのような強烈なものだった
95 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/03/29(火) 05:15:17.43 ID:d+Glc2LZP
直線状に伸びた小麦粉は、テッラに突き飛ばされながらも張ったアックアの防御の術式など、まるでなかったかのようにアックアを撥ねた
聖人という類稀なる身体能力を持った彼でなければ恐らく、接触の衝撃だけで新幹線に飛び込んだ轢死体よりも酷いことになっていただろう
直線状の小麦粉によって、元は道路だった場所へ叩きつけられたアックアの周りには、ちょっとしたクレーターが出来ていた
そんな彼の目の前に、見せつけるようにテッラが下りてくる
テッラ「この状況でも、先程の様な小細工は出来ますかねー?」
明らかに、出来ないだろう、と高を括った視線をテッラはアックアへ向けた
アックア「……出来ない、とは断言できないのである」
体を震えさせながら起き上ろうと力を込めるアックア。しかし、半分程体を起こすのが精一杯だった
それでも、血で滲んだ双眸はテッラを睨む
その様子を見て、テッラは目を伏せて首を軽く左右に振った
テッラ「まだ強がりを言いますか。だがこれも仕方のないことです。神の右席としての術式、"聖母の慈悲"を何故か行使しない今のあなたでは、もともと戦いにならなかったのですからねー」
テッラ「ですが、これで私の主張が間違っていなかったことが証明されました。間違っていれば、主はあなたに力を貸すはずですからねー」
これ見よがしにテッラは自らの翼をはためかせる。すると、霧が乱れてそこだけ天からの光が差し込んだ。スポットライト宜しくテッラを照らす
テッラ「ですが現実は、主が力を与えたのは私だったようだ」
そう言った彼を、テッラだけを照らす光を見て、アックアはフフ、と声を出して笑った
アックア「その力はフィアンマという人間に与えられたものに過ぎないのである。それが如何に"天使の力"にあふれ、貴様を復活させようとも、所詮は紛い物」
胸に巻かれた包帯は既に真っ赤で、口元からは喉を逆流してきた血が垂れている
だが、アックアは1m程度の深さのクレーターの中心でなんとか立ち上がった
アックア「間違っても貴様の信仰が故であるわけではなく、他の人間に頼っただけにすぎない。他者を頼るとは、自分が人間を逸脱した天使であるなどと自負しておきながら、所詮は人間なのであるな」
テッラ「その様な身で、よくも語るものですねー。ですが、訂正させておきましょう。この力がフィアンマに与えられたものだと言っても、そうなる様に運命を仕向けたのは、主に他ならないのですよ」
アックア「だから、その力が神から与えられたものである、と、のたまうか。つくづく、貴様の信仰は身勝手なものであるな」
テッラ「……いいでしょう。あなたと話をこのまま続けても、平行線は間違いないようです。あなたの信仰と私の信仰、どちらが正しかったか、あなたを先に主に尋ねさせてあげましょうかねー」
アックア「愚かであるな、テッラ」
96 :
本日分(ry 特に進展が無かったですな。ごめんねごめんねー
[saga sage]:2011/03/29(火) 05:17:19.73 ID:d+Glc2LZP
愚か
言い放ったテッラへの、アックアの返しの言葉を聞いて、テッラは呆れながらも怒りを覚えた
それによってますます、テッラの身勝手が深化していき、視野が狭まる
とにかく、目の前のうるさい存在をいち早く消し去ることが、自らの正しさを、そして自らが信じる神の正統性を高めるものだと彼の中で完結する
仰々しく、半ば儀式的に手をアックアの方へ向けて、小麦粉の濁流でアックアを押しつぶそうとした、その瞬間
立ち込めていた霧を割って、鋭い何かがテッラの背後から現れ、背中から彼の胸を貫いた
アックアはその剣を見たことがある。つい最近、その者と対峙し、共闘したのだから
騎士団長「貴様が死ぬのは勝手だが、今は自らの身が何を背負っているのか、考えて欲しいものだな、ウィリアム?」
貫かれたテッラが、声の主の方を、自分の後ろへ顔を向ける
テッラ「……く。騎士団長ですか。私の人間性を指摘しておいて、この様なやり口を」
アックア「当然だろう。貴様と同じ神の右席とはいえ、私は人間なのである。人間が、他者と協力するという人間らしい戦い方をして、何の問題があると言うのだ」
テッラ「虫の息の分際でまだ言いますか! こんなもの、マトが増えたに過ぎませんねー!!」
展開していた背中の翼で、騎士団長を叩きにかかる。だが、当りはしない。ボロボロのアックアと違い、彼はまだ動くには十分すぎるほどの余力を残している。危険を察知する経験という勘も鋭い
避けられ、霧に身を隠した騎士団長にテッラは苛立つ。それは、騎士団長に気を取られたとも言えた
ならば先にアックアを始末するだけ。そう思ってアックアが立っていたクレーターの中心を見ると、既に彼は居なかった
苛立ちがますます加速する
ならば、こんな鬱陶しい霧など、彼らの隠れ蓑になっている瓦礫の市街など、吹き飛ばしてしまえば良いのだ。どうせ、ここにいるのは邪教の者たち。何の問題があろうか
それこそ、一区画を簡単に飲み込んでしまう莫大な量の小麦粉が一か所に集まっていく
テッラ(……火を扱うのは不慣れなのですがねー)
濃霧を突き破り、テッラは上空に舞い上がっていく。そして、彼の直下の地面上には巨大な小麦粉の塊が出来ていた
97 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/03/29(火) 15:21:38.93 ID:+SUrP9tq0
やっぱ教皇代理はカッコいいのよな
98 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/03/30(水) 03:15:18.20 ID:CTqIKoYMo
正直色んなとこでの戦闘が熱すぎて上条さんイラネ
99 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:27:01.64 ID:S6DZze8vP
「面倒臭ぇんだよ、雑魚共が!!」
NYの空で、一人の男が怒鳴る
しかし、そんな声だけで引き下がってくれるならば、苦労は今までしていない
彼もまた、戦っている。敵は、今のところ自分しか処理できないローマの天使モドキ達。叩き落とすのに躍起だ
明らかに劣勢な地上の部隊達の援護に行きたかったが、東の空から次から次へと現れる、自分の身の丈の半分程も無い、人形に羽根が生えただけの存在の対処せざるをえなかった
今までに彼が戦ってきた"終末によって自然発生する破壊者"の天使たちよりも、"ローマ正教がバチカンのミカエルを介して使役している"天使の群は、大した力を持ってない
単体で都市一つを破壊できるようなレベルではない。だが、数は力である。彼でも、単純に裁き切れないのだ
今ですら、自分が取り逃がした天使たちは多い。この状況で自分が消えると、目の前で発光している群は一気にNYの都市圏を襲うだろう
既に被害は直下のマンハッタンだけではない。自分が居なくなった場合、島を中心とした半径15kmの都市圏そのものに居る、生き残ったもの全てが、天使という見た目の破壊者に壊され、殺される
そこには、いろいろな人間が居るだろう。自分と心理定規の様な関係やそれ以上の親密さを持った人々も居るはずだ
もちろん、自分がこれまで仕事で殺してきた連中にもそう言う人間はいただろう。それに対する罪はある。善人になろうと言う訳じゃない
だからと言って、目の前で自分が経験したものと同じ絶望を感じる人間が生まれるのを、黙ってただ見過ごす事は、彼には出来なかった
一際大きな音が、直下で鳴り響く
垣根「……ッ。遂にヤケを起こしやがった」
目の前の天使の頭部と体を引き千切って、武器による爆発音の元を見ると、被害を気にせずに兵たちが突っ込んでいる
どうやら、下で防戦を張っていた部隊が、最終突撃という最後の賭けに出たらしい
最後の方法を用いなければならない時点で、それまでの時点で圧倒的に分が悪い。それが簡単にひっくり返る訳も無い
展開していた魔術師たちの群を4分の1程道連れにしながらも、彼らに守られていた一般市民は四方へ分散して逃げるが、丸裸となった
1万弱の人々へ、生き残った魔術師たちが攻撃を加えて、彼らが阿鼻叫喚の渦となるのは容易に想像がつく
だが、垣根は守りに向かえない。目の前の群がそうさせてくれないのだ
100 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:27:30.86 ID:S6DZze8vP
生じるイライラとしたフラストレーション。彼は無意識に八つ当たりの如く目の前の天使を100体近く巨大な翼で叩き潰した
反作用という基本的な現象を自らの能力で、全て自らの作用へ変換し加えたことで、彼の未元物質による翼は空を掻き乱せば掻き乱すだけ、その分強力になる
それでも、100体程倒した所で、やはり状況は変わらない
ここ数日でさんざん聞いてきたアメリカ英語のスラングによる悪態が、口から漏れた
視界の中で襲われ出す人々。考えられる最悪が始まった
そこへ、複数の光が刺さる。刺さった先は、襲っている側の魔術師たちの群へだった
遅れて、極超音速の弾丸によって裂かれた空気の悲鳴が轟く
その電磁砲からは、自らの未元物質の反応が感じられた。そんな射撃が出来るものは一つしか考えられない
自らの背後から、自らと同じ翼を持った駆動鎧が現れ、目の前の天使を一匹ずつ撃ち抜いていく
その中の一機が、垣根に近づいてきた
「無事で?」
外部スピーカーから声が聞こえた
垣根「見ての通りな。つーかようやく登場かよ、お前ら。遅ぇんだよ」
「急襲されて仕方が無かったとは言え、遅れました。ですが、今からです。……援護します」
垣根「援護だ? 今更いらねぇって。それより、俺がこのままここでコイツらを食い止める。だからお前たちは下の魔術師共をぶっ潰す事に専念しろ。上も下もって対応できるだけの数は、お前らには無ぇんだろ?」
「いえ、あなたを後退させろ、という指令が出ていますので」
垣根「あぁ? 何処の馬鹿がそんな命令出してんだ?」
「混乱していてまともに使えない戦略情報共有システムの担当するところよりも上から。出所は分かりませんが、最上級のものです」
聞いて、彼は考えを巡らせる。そんなことが出来るのは一つだった
垣根(最上級命令、ってことはイェスだろうな。ここで俺を退かせるとは、何を考えてんのか)
101 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:27:58.32 ID:S6DZze8vP
垣根「……オーケイ。俺がその命令に従う理由はねぇが、それじゃお前らがやり難いだろーしな。そんな命令を出した奴に直接問いただしてやる。お前ら駆動鎧だけじゃ不足に思えるが、任せるぞ」
「了解」
返事をして、そばにいた駆動鎧は3mは有ろうかと言う巨大な電磁砲のライフルを構え、群のなかに飛び込んでいった
垣根も一端群の中に突入し、翼を振り回して自らの周りの200近くの天使の群を消滅させ、そのままUターンして、その場をようやく登場した駆動鎧達に任せた
NYを離れつつ、振り返って戦況を見る。数が数だ。駆動鎧だけではどう見ても辛い
垣根の様な超戦力がどう考えても必要なのだが
垣根(まさか、イェスはNYを捨てる気じゃねーだろうな?)
彼がそう思った時、呼応するように頭脳に声が響く
(手酷くやられてしまったが、この国の象徴である場所を、そう簡単に捨てたりしない)
垣根「っと、ようやく出て来やがったか。こんな時に長時間席を外して、何が得られたんだ? 説得とやらは成功したのか?」
イェス(……。それについては、いい返事が出来ないのだがね)
垣根「そうかい。俺の言った通りだったわけだ」
イェス(だが、時間の問題だろう。正統性はこちらに有る)
垣根「なら聞くが、それだけの時間は有るのか?」
イェス(時間は有るものじゃない、作るものさ。今の問題を解決すれば80時間以上ある。十分だと思っている)
垣根「解決ねぇ。なら、この俺をNYから退かせて、劣勢のまま駆動鎧なんて力不足な兵器に引き継がせるとは、どういう事なんだろうな」
イェス(単純さ。君には他にやって貰いたいことがあるということさ)
垣根「へぇ。ったく、人を散々パシらせてんのは目を瞑ってやるよ。だが、この状況はどうする気だ」
イェス(君に相当するだけの別の戦力を用いれば、この状況を好転させるには十分だろう?)
垣根「……まさか、神裂をこっちに連れてきてんのか」
102 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:28:53.86 ID:S6DZze8vP
イェス(私が直接指示をした訳ではないがね。このようなときにも柔軟に対応してくれる部下たちだ。流石、と言うべきだな。今から呼び寄せていては、到底間に合わなかった)
垣根「おいおい、こっちには天草式の連中もいるんだぞ。引き合わせていいのかよ?」
イェス(構わないさ。むしろ、預かっている、なんて漠然とした言葉よりも、自分たちの女教皇が今何をしていてどういう状況なのか見せて知らせたほうが、良いとは思わないかな?)
垣根「珍しいな。苦しい言い訳に聞こえるぜ。まぁいい。俺が居なくともアイツがちゃんと働けんなら、この状況は何とかなるだろーよ」
垣根「で? この俺に何をしろってんだ」
イェス(私の元へ来て欲しい)
返答はシンプルで短かった。理由は見えないが
垣根「お前の元……、ボストンか? 何でまた、んなとこに」
イェス(銀貨の連中の動きが、少々予想以上でね。どうやらこの私が居るこの場所ごと、NYを焼いた例の爆撃機で吹き飛ばすつもりらしい。その迎撃をお願いしたい)
垣根「対空兵装は、あー、学園都市製の兵器にはアメリカの既存のもんじゃ通用しねえか。俺が必要な理由には十分だ。だがよ)
垣根「なんでお前はそんなトコに居座ってんだ? お前本体はなんてことはないただの基盤だ。移動なんざ、まったく手間じゃ無いだろ。爆撃を回避するなら、俺をわざわざ劣勢の戦場から呼び寄せるより、ずっと確実だと思うがな」
イェス(うむ、君の疑問は正しい。来ると分かっている爆撃を回避しようと移動しないのは愚かだ。だが、この私がそんな愚かな選択をするには理由がある)
言葉が終わると同時に、垣根の頭の中に情報が流れ込んだ
それは、科学的な数式によって構成された魔術式の情報だった
垣根「こいつは……!。そーかい、この程度で済んでいるのは、お前のお陰だってワケだ」
イェス(逆に言うなら、あまりにも不完全であるから、世界的にこれだけの程度の被害を出しているとも言える。既に人類は30億人を下回ってしまった)
垣根「30億も生き残ってりゃ、少なくともお前の存在価値ぐらいにはなるんじゃねーの。お前がお前自身の存在を肯定するのにも、な」
イェス(君がそう言ってくれるのは、素直に嬉しいな。だが、そう言う訳で私はボストンから動けない。ズレてしまうからね。だが、このままでは捉えている上条当麻と共に焼かれ、本当の終わりが来てしまう)
垣根「安心しておくんだな、俺が行ってやる。守ってやるぜ、イェスさんよ。ついでにこの世界もな」
イェス(フ。それは、頼もしい言葉だ)
103 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:29:35.37 ID:S6DZze8vP
一方「ッ、近づけやしねェ。だがァ……」
学園都市というリングで、白く輝く球と巨人の削り合いによって生じる、複数のエネルギーの形をした衝撃波によって、一方通行はその場所に付かづけないでいた
接近して、特に直接触れて解析するという目論見だったが、当然上手く行かない
しかしながら、今のところは彼にとって十分だった
ベクトルという人類が作りだしたツールを用いて、光球と巨人のぶつかり合いによって生じる衝撃を対象に、彼の中で既知のエネルギーとそうでない"はず"のものに分けて分析をかける
例え知らなくとも、あるという感覚は彼に感知出来た
当然である。今までに散々それに、吹き飛ばされたり、焼かれたり、叩きつけられたりしているのだ。感じられないワケがない
それは、突き詰めれば"知っている"ということなのだ
人間は、誕生時からの知覚経験と知識の積み重ねで、この世に何があるかを"知って"育つ
その中に、名前や原理だけを知り、しかし実際に見たわけではないものがあれば、知らないがあるという事を"知覚する"
それは逆に、感じられもせず、完全に知らないものについては、そこにそれがあったとしても、あると認識出来ないということでもある
例えば、地球上ほぼ全てのものを貫通するニュートリノが自分の体を通過したとして、ニュートリノと言うものを知っていれば、一方通行はその能力で、科学者ならば特殊な器具を用いて、それが何でどのような規模や性質を持っているかかなど、調べて"知る"事が出来る
しかし逆に、ニュートリノのようなものを、感じられず一片の概念すら、自らの知識にも経験にも無いならば、その存在には気付けない
故に、一方通行は"それ"を知覚出来る以上、知っているという事になる
一方「荷電粒子……α線にβ線、いや他にも。こいつらは殆ど宇宙線に近ェな」
一方「何かのエネルギーとそれと同等同質な何かがぶつかり合った衝撃で、こンなもンをまき散らすとはなァ。そこいら中汚染する気かよ。クッソ迷惑な奴らだ」
強い放射線を受けると、物質は放射能を持つことになる
瓦礫の山と化した第5学区の、もとはどこかの大学であったであろう施設の壁に手を近づける
予想通り、放射能の汚染が感知できた
だが、彼にとって重要なのはそこでは無い
104 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:30:07.77 ID:S6DZze8vP
一方(50m以上前の地点との情報誤差がゼロだと? どうなってやがンだ)
一方(距離減衰の逆算から予測を割り出す事は出来る。だが、まったくのゼロってこたァ有り得ねェだろ。偶然か? 直接触れてるレベルの精度が遠距離から、しかもこっちに向かっていないベクトルまでだと?)
今彼を悩ませているのは、意識を向けた地点について、感知可能なあらゆるベクトルにおいて包括的に方向と大きさの情報を掴んでいるという現象
自分の方向へ向かっていて、自分まで届いている現象の情報ならば、例えば目の前の壁から放たれる放射線の情報ならば、確かに感知可能だ
しかし、自分まで届いていない現象を、つまり、遠く離れた地点にいて、そこへはこの壁から出る放射線が遮断物などを経て明らかに届かないという状況で、どうしてその放射線の情報を知ることが出来るだろうか
だが、それが出来ている。確実に、今までは出来なかったことだ
これはどういう原理なのか
そんなことに意識を集めていた時、彼の頭上を、超音速で随分と小さくなってしまった光の球が通過した
直後、超音速によって生じる轟音よりも、余程大きな音が生じる
その原因は、何度目かの球体と巨人のぶつかり合い、衝突。音よりも先に、一方通行を木っ端微塵にバラバラにして吹き飛ばさんという衝撃が向かっていた
一方「ッ、近づかれすぎたってのかァ?!」
ハッキリと得体のしれないベクトルが向かって来ている
それを人間の脳では明らかに感知できない早さで、彼は理解した
大きい、大き過ぎる
遠距離までも、やたらと敏感になった彼の能力的な感覚が、危険を告げた
彼にとっても、化け物と化け物の全力のぶつかり合いなのだ
その規模は、彼が直接身に受けた3分の1と減衰した三又鉾からの熱光線のレベルではない
一方(逃げ場、無ェよな。こいつはァ、死ぬ、……のか!?)
反射を確実に貫き、死をもたらしてしまうであろう、その向きを、力の大きさを、性質を、走馬灯の集中力を見せんと脳内で廻り回る神経系が、逐一彼に知覚させた
105 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:31:36.55 ID:S6DZze8vP
「この部屋はー……ん? おっと、君は!」
ボストンの地下研究施設を襲撃している"銀貨"の部隊が部屋に入ってくるなり、その中の一人の男が上条を見つけ、声を荒げた
続いて入って来た男や女たちも、上条当麻を見つけ、驚く
どうやら彼らは自分を知っているようだが、上条、もとい彼の中に有る意識体達は、記憶にない彼らを知らない
そして、扉が開いたことで、銃撃戦をしている音が彼の耳に入ってくる
この厚い壁の隔離空間は外の音や揺れからも隔離していたらしい
「覚えているかい? 一時期、君のトレーニングを行っていたんだが」
「あなた、馬鹿? そんな会話は外でも出来るでしょ。今はこのトーマをこの場所から出す事が先決。付いてきて」
30手前ぐらいの女性が、床に座っていた上条の手を引き、起こした
上条「ちょっと待て。一体何が起きてるんだ? って言うかあんた達は誰なんだよ?」
「あれ、お父さんから聞いてない? "銀貨30枚"って。私達はそのメンバーよ」
その言葉には、聞き覚えがあった
上条「銀……?」
彼を連れて、襲撃者達は急ぎ部屋を出る
皆、タイトなスーツを着込み、屋内戦に向いた小型のライフルを腰に構えて走っている。体の一部から軽い出血をしている者もいた
使って、と言われて上条は拳銃と予備のマガジンを受け取った。マガジンをポケットに突っ込もうとすると、そこには貰った栄養ドリンクが先客として自己主張して、窮屈だった
今更これを飲んでいる様な時間は無いだろう
「で、この場所には"イェス"が居る。だからここを丸ごと爆破しようってことになってな」
106 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:32:24.18 ID:S6DZze8vP
駆けながら、最初に部屋に入って来た男が言った
上条「爆撃?! 丸ごとって、この場所を? ……そんなことしたら、関係ない研究者とか、周りにいる、普通の人たちが住んでる所まで巻き込んじまうんじゃ」
「もちろん、君が言うような可能性は有る。実際、被害は出るだろうな」
上条「なら何で、そんなことするんだ。あんた達は虐殺でもしたいのかよ」
「だけど、ここでイェスを生かしておく方が余程後に響くことになる。ここにいると言う事は、君も、奴が何をしてきたか知っているんじゃないのか」
確かに、思い当ることは有る。"前"で学園都市を乗っ取る為という理由で、内部分裂の工作を行い、操られた生徒達の命をいくつも奪った
今回も何かいろいろと工作をしているだろう。少なくとも上条には良い存在と思えるような情報はない
だが、"イェス"は意識を持っている。形式は、自分たちと同じだ
やり過ぎたことへの報いを受けるべきだが、壊すという形で殺しても良いのか
ましてや、周辺の罪も無い学生や研究者、それにただこの近くで生活をしている人々を巻き込んでまで、するべきことなのか
確実に進展しているのは分かる、しかし、未だ応答があるわけでも無く、果たして望む結果が得られるのか分からない当麻の復活
彼の脳内に巣食う彼女たちは、判断しかねていた
(結局、こういう決断の答えは、当麻に頼っていましたからね。表向きは、この体は当麻の物なのだから、当麻が決めるべきだという理由で)
(しかしそれには裏の理由があった。私達の欠陥的な、そして人間にも有る悩み。どうすべきかわからない時、判断に迷ってしまうと言う事。なまじ機械であるからこそ、合理的な判断を強く求めてしまう)
(一番難しいところを、投げていたんですね。私達は)
彼の頭の中で、電気的な信号が右往左往し続ける
それでも、上条を含めた銀の襲撃者達は確実に足を出口に向けていた
107 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:33:04.45 ID:S6DZze8vP
「ぐあああああああああ!!?」
フィアンマの乗る霊装馬車の周りで、これはかなりの速度が出ているのだが、断末魔が上がり、その進みが止まった
慣性によって、フィアンマの膝の上で寝ていた禁書目録がフィアンマの足元にドサッと落ち、その顔にスフィンクスと言う名前の猫のぬいぐるみが落ちる
少女がその衝撃で目を覚ますと、フィアンマはそのコンパートメントの扉を開き、まず頭で外を覗こうと、出したところだった
禁書「……!!! あぶない、フィアンマ!!」
何かを察知したのか、少女はフィアンマの袖を引いた
しかし、フィアンマは一度チラと少女の方を向いて、その一瞬「大丈夫だ」と言わんばかりの表情を浮かべる
次の瞬間には、禁書目録の目の前で、彼は顔にぶつかった何か蒼白い塊に巻き込まれて、馬車の中から派手に体を捻じ曲げて、外に飛び出すことになった
霊装とは言え木造と簡易な金属で出来た馬車は、想定以上の衝撃が加わったことで、木の裂ける音を生じさせ、扉がフィアンマと共に弾け飛んだ
禁書「フィアンマッ!?!!!」
森林地帯に響く少女の声
少女の視界から消えたフィアンマは、馬車の後方で、「やれやれ」と呟きながら、裂けた頬から流れる血を手で拭った
その目の前には、女
フィアンマ「ようやくお出ましか。このまま本当に何も無いのではないかと、正直ローマ正教の危機管理能力を疑っていたところだ」
彼の目の前で、虚空から大きな金属製のハンマーを取り出した女は、肩にそれを担いでいる
服装は、黄色。緑と土の色しかないこの場所では目立つ
ヴェント「ローマ勢力圏の中を移動するなら、見逃してあげたんだけどねぇ。その範囲を出んのが確定ってんなら別。あの間抜けな新教皇はともかく、まともな判断能力がある奴なら、アンタから目を離すのは危険すぎってのは分かるわ」
フィアンマ「これはこれは、俺様の監視をする為に独自に動くとは。新教皇も有能な部下を持ったものだな」
彼女以外に人間は居ない。有るのは倒れ伏したフィアンマ率いる復活者部隊だけ
つまり、彼女は単独で行動しているのだ。いつものように
ヴェント「私が、あんな奴の部下だ? あんなカマセ、何時だって殺せんのよ。目障りなれば、それこそ何時だってね。だからァ」
躊躇なく、そのハンマーを叩き下ろす
ヴェント「そんなんは冗談にしても、笑えないのよ!!!!」
腰を地面についていたフィアンマはどういう動きをしたのかは分からないが、宙を滑る様に後方へ跳躍し、その直撃を避けた
宙で舞う二人。フィアンマの表情に変化は無い。一方でヴェントの表情は余裕がある
ヴェント「動きがたーんじゅん。あんま長いこと引き籠りすぎて、実戦経験が足りないんじゃない?」
108 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:34:06.37 ID:S6DZze8vP
フィアンマ「ほう。アドリア海の女王か。どうやら"天罰"は使わないようだな。いや、使えないのか? どちらにせよ、俺様相手には、いい判断だと思うぞ」
口ぶりから余裕の消えない彼の動きを読んでいたかと思えるほど、それは正確に撃ち出された
地面を砕いて現れた、巨大な氷の船。その船に備えられた、これまた氷で出来た大砲から、錨の形をした氷の塊が、後方へ逃れたフィアンマの体を正確に狙い撃ったのだ
空中で派手な衝突が起きる。氷で出来た2〜3mの錨が、ただぶつかったにしては、まるで分厚い鋼の壁に阻まれて砕けたかのように、派手すぎるほどの白い粉が粉塵を作った
ヴェント「……出たわね、"右腕"」
派手な白い粉は、細かく砕けた氷の錨のものだった。フィアンマの右肩から現出した"右腕"がそれを受け止め、握りつぶしたのである
フィアンマ「一応言っておくが、引き籠ったのは俺様の意思ではないぞ。だが、それで得られたものは大きかったがな」
宙に浮いたまま、握りつぶした錨の中で、一番大きかった氷塊をそのままヴェントへ投げつけた
彼女が着地した地面に、それこそ戦艦の手法による砲撃を思わせるような、クレーターの様な窪みが生まれた
しかし、その場所にヴェントはもう居ない。当然、避けたのである
クレーターから少し離れた巨木の枝の上に、彼女の姿は有った
地面に着地したフィアンマと、枝上のヴェントとの視線が交差する
フィアンマ「何処にいようが、時間をただ無駄に消費するのは馬鹿のやることと言うものだからな。特に――」
ヴェント「特に、こと"終末"では時間は無い、とでも? それとも、その右腕の使用制限のことかしらねぇ!」
金属のハンマーから射出された、サッカーボール大の光の弾がフィアンマの腕によって掻き消され、そして激しく光った
先程の光のものとは趣が違う。視界を奪うためのものだ
最初から眼つぶしが目的で放たれた光の弾から生じた閃光によって距離を詰めたヴェントの、ハンマーを振りかぶる音がフィアンマの耳に直に入る
だが、彼は特段何かをしようとはしなかった。逃げることも、"右腕"で守ることも
フィアンマ「半分は正解だな」
身を包むように吹いた突風で、フィアンマはその場所から離れることが出来ず、そのままヴェントのハンマーをその身に受けた
普通の人間ならば、簡単に体が折れてしまいそうな、鈍さを通り越した鋭い音が鳴る
ズザザ、と野球部のスライディングをそのまま派手にしたような音が響き、地面の上で滑りながら吹き飛ぶフィアンマ
20m以上の滑走がようやく止まると、そこへ禁書目録が駆け寄った
「大丈夫?! フィアンマ!」とお決まりのセリフを吐いた少女の頭に、優しく撫でるように手を滑らせて、立ち上がるフィアンマ
問題など無い、と禁書目録にもヴェントにも伝えているかのようだった
109 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:35:00.50 ID:S6DZze8vP
ヴェント「へぇー。報告に有った少女にもしやと思ってたけど、本当に禁書目録を手に入れたみたいじゃない。にしてはやられたい放題ね、右方さぁん? ご自慢の"右腕"も使いこなせてないみたいだしねぇ。期待外れもいいトコよ。……ホラもう一発ゥ!!」
彼女がハンマーを空中で横薙ぎに払うと、もう一度、地面を割って現れた氷の船から砲撃が行われ、氷のアンカーが射出された
禁書目録を守る、と言うよりは自らの身を守る為にフィアンマの巨大な"右腕"が、それを弾いた
滑走によってボロボロとなったフィアンマの衣類が、弾いたことで生まれた衝撃で、バタバタとはためく
フィアンマ「ヴェント、俺様がどうやってこの禁書目録を手に入れたか、分かるか?」
ヴェント「知らないわ。ついぞ昨日まで寝てたんだから。アンタがこのまま"終末"まで大人しくしとけば、こっちは楽だったのよ」
フィアンマ「ほう。そのままローマの教えの下、公審判でも受けるつもりだったのか。……フ、愚かだな」
言葉に混じっていた、からかいの鼻笑いに、ヴェントは多数の金属が埋め込まれた顔色を更に醜く濁らせる
ヴェント「聞き捨てならないわね。"終末"の後の最後の審判は全十字教徒の望み。そして"天上"へ神や天使と同列として昇る事が出来るって点でも、私達神の右席の目的にとっても好機」
彼女なりの正論を言って、フィアンマを睨みつける。だがフィアンマは逆に笑いを大きくした
フィアンマ「フハハハ。お目出度い頭をしているな、ヴェント。テッラやアックアよりも、ひょっとしたら浅い思考じゃないのか、お前」
ヴェント「んだと?」
フィアンマ「本当にそんな優しいものなら、というより、そうであったなら、俺様がいちいち禁書目録を確保しにロンドンくんだりまで行くと思うか? 終末を満足に迎えたくはないからこその行動だと、何故分からない?」
ヴェント「……」
フィアンマ「浅すぎるお前では四大属性のズレですら驚愕してしまうだろうが、そんなことは些細な問題でしか無い。事はそれ以上だ」
傍らに立つ禁書目録に馬車に入っていろという指示を指で示し、頷いて従う禁書目録
フィアンマ「お前の拙い頭では理解できないかもしれん。だから酷く簡潔に言おうじゃないか」
フィアンマ「このまま迎える終末では、ローマや他十字教だけじゃなく、他の宗教や神話に約束された過程には入らない。"終末"の"繰り上げ"も有ったことだしな」
ヴェント「"繰り上げ"……?」
フィアンマ「それは端緒にすぎん。四大属性のズレもだ。救世主が再誕する場所すらも異なっている。………根本的にあらゆることが逸脱しているんだよ、この終末は」
断片的な情報が多過ぎたのか、ヴェントの表情は固まったままだ
フィアンマ「これで固まっているようでは、この先を説明するのは億劫だぞ、ヴェント。そこで、分かって無い上で、もう一度問おうじゃないか」
いつの間にか、彼の"右腕"は更に大きくなっていた。誇張では無く、確かに
フィアンマ「まだ俺様の邪魔をするか? 俺様はたった一つの霊装を入手する為に、一人でロンドンに潜り込んで帰ってくるだけの能力は有るらしいぞ」
110 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:36:08.20 ID:S6DZze8vP
「動いたっ!」
とある輸送機の中で、ディスプレイと睨めっこしていた少女から、思わず声が出た
モニターしていたのは、わざわざ追いかけてきた目的の男の動きである
ずっと地下の一室で止まっていた点が、遂に動き出したのだ
あまりにも動きが無かった為に、彼が本当にそこにいるのか疑問に思っていた時だった
それこそ、後5分もしない内に自分は予定の降下地点に着くのだ。間違っていたら無駄足もいいところである
どうやらこの機体は場所を指定すれば、そこへ自動的に着陸できるらしい
ならば、自らはパラシュートで降下した方が早い
そして、事が終わった後に、彼と共に帰る手段として、指定位置に着地させておいたこの機体に乗ればいい
彼女は当然のこととして、帰ることを考えていた
しかし、見ていたモニターに異常が発生する。急に画面から上条を示す光点が消えたのだ
御坂「ちょろっーとぉ? こんな時に。しっかりしてよ」
言いながら、降下用のパラシュートを背負ったまま、彼女は入力装置を叩く
理由は簡単に分かった
御坂「うわこれ、ジャミングじゃない。 ってことは、バレたか」
言うな否や、ディスプレイには回線切断という字と、残念そうな顔を浮かべるコミカルなカエルのイメージが現れた
これでは、動きだした彼が、何の目的でどこへ動いているのかが分からない
御坂「だけど、ジャミングするのが遅くて助かった。この場所の情報は全部、この端末に写してある。いけるわよ、美琴」
彼があの場所にいることは間違いない。彼女に行かないという選択肢は無かった
彼女は、計画を変えずそのまま機体後部のハッチへ向かっていく
最後に、彼女は自分と彼が共に帰ることを考えた。妄想の彼は、いつも通りの少し困ったような笑顔を浮かべている
彼女は今から行くその場所が、爆撃の指定先になっていることなど知らない
そのまま彼女は、ボストンの空にその身を投じた
111 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:36:47.13 ID:S6DZze8vP
ヴェント「……何かと思えば、脅しのつもり? フィアンマァ゛?!」
ヴェントの額に青筋が浮きあがる。ハンマーを小刻みに振り回し、フィアンマの死角からいくつもの光弾が生み出され、フィアンマへ向かった
全てが全て、フィアンマに命中するが、上がった効果はボロ布となっていたジャケットの一部分が少々吹き飛んだ程度
フィアンマ「浅いな。分からないことを、端直な怒りで表すとは、そこにいる子供と変わらんぞ」
防御にすら使用されない禍々しい"右腕"の手を器用に動かし人差し指を立てて、チッチッチッとリズミカルに、馬鹿にするように横に振った
フィアンマ「勧告だ。その程度のお前では、俺様をどうにもできん。だがこれでも、仲間を無くすのは悲しい事なのでな」
ヴェント「馬鹿にしてんの?!」
フィアンマ「馬鹿にはしていない。事実だ。俺様の発する言葉はな」
ヴェントが生み出した光弾の一つが、フィアンマの顔に当った
顔が吹き飛ぶことはおろか、顔面が変形したとか、それどころか新たな出血すらない
しかし、これまでとは違う、明らかな変化があった
その顔の半面は泣き、そして反面は怪しくも笑っているのだ。複雑怪奇と言える表情である
ヴェント「き、気味が悪いのよ!!!」
フィアンマの顔を見て、見たままの感情を口にし、ハンマーをフィアンマに向けて振るった
それによって、彼女の金属鎚から、黒い色を帯びた、強烈な流れがフィアンマに向けて吹き出した
しかし、フィアンマの"右腕"の手の平から生じた真っ直ぐな閃光が、その突風を完全に掻き消して、逆にヴェントを襲わんと暴力的な威力で向かう
明らかに殺意の籠った一撃。そんな物を貰う訳にはいかない
反射的に横へ10m近く跳んで、彼女は避けた。先程まで経っていた場所、閃光が過ぎ去った後に円形の跡が残って、その延長線上にあった木々が軒並み消え、倒れていく
次は?! とヴェントが思った瞬間には、目の前にフィアンマが居た
フィアンマ「知っているか?」
ヴェント「!?」
ヴェントの腹部に、鈍痛と言うには程度が酷過ぎる痛みが生じる
この痛みの原因が、フィアンマの右腕なのかそれとも後ろから生えている右腕によるものなのか、分からない。なんにしても気付くのが遅すぎた
112 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:37:24.70 ID:S6DZze8vP
頭の中で自らに毒づきつつ、後方の林めがけて吹っ飛ぶヴェント
数本の木をなぎ倒し、一際太い木の幹で派手に背中を打ちつけて、ようやく止まった
木の幹に腰が半分以上めり込み、彼女はうなだれる。そして目の前に立つフィアンマ
フィアンマ「イェスは事あるごとに涙を流したが、最後の晩餐の時に流した涙は、一体どういう理由で流したのかを」
重たそうに、ヴェントは顔を上げた
ヴェント「………私も十字教の一信徒だって事を忘れている、みたい、ね」
フィアンマ「おお、そうだったな。あまりにもお前の頭脳が残念だったので、俺様の言葉を理解できているか不安でな。忘れていた」
明らかに馬鹿にしたような発言をしたが、彼女はまだ動かない
フィアンマ「無論、学説にはいくらかある。だが、その涙の理由の一つは間違いない、ユダの裏切について。捉え方はいくらでもあるが、それが涙自体の対象であることは確かだ」
ヴェント「……それが、今と……どう、関係している、というのよ」
相変わらず、フィアンマの片目から涙は流れている
フィアンマ「仲間に裏切られて涙を流す。その形式自体は今の俺様も同じだと、思わないか?」
形式は似ている。それこそ、ちょっとした魔術の発生条件を満たすかのような
だがそれは、キリストを讃えるローマ正教徒であるヴェントにとっては最大の侮辱でもある。無論、主であるイェスに対してのものである
ミシィッ、と彼女が刺さった木から裂けるような音がした
音の発生源はフィアンマではない
ヴェント「まるで科学を信奉する連中が、聖書なんかの文献を表面上だけ見て、繕ったみたいな言い方をするじゃない」
ヴェント「そうやって、万物を、神すらも理解したみたいな口ぶり、気に食わない。結局何もできない癖に、気に食わないのよ。だからね」
一段と派手に、亀裂と音が生じる。そして音と同時に、彼女が刺さっていた大樹は真っ二つに裂けて左右に吹き飛んだ
ヴェント「我らが主のモノマネなら、正教徒としてもっと上手くしたらどうなの、フィ ア ン マよォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛!!!!!」
目の前で覗き込むように立っていたフィアンマに頭突きをキめて、後ろへグラついた彼の腹部をヴェントは思い切り蹴り飛ばした
今度はさっきと逆方向に、逆の立場でフィアンマが吹っ飛ぶ。その顔はまだ半分泣き、半分笑みを浮かべる
いつの間にかヴェントは吹き飛ばされた時に、明後日の方向へ転がっていったハズの自らの得物を握っていた
113 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:37:54.31 ID:S6DZze8vP
十字に鎚のあるハンマーを空中で振り、何かの模様を描くように白色の軌跡がその空中に残る
ヴェント「まーさーかー、そこに見えてる船がただ錨をぶっ飛ばすだけのドデカイ霊装だとでも思ってんじゃないでしょうねぇ!」
言葉と同時に、魔術の塊である氷の船に無数の亀裂が生まれた
ヴェント「私の根本的な属性は"空気"やら"風"。海の嵐のエピソードや特別な霊装を混ぜ込んだといっても、それは邪道なのよ。だったら私が"海の嵐"のエピソードを介するんじゃなくて、海の嵐というエピソードそのものを私に合う様に書き換えてしまえばいい。アンタの言った通り、同じ物事に見方はたくさんあるのだから」
気が付くとヴェントは空中に立ち、彼女の周りにはバラバラになった船であった氷の塊が浮かんでいる
まるで舞うかのように、光るハンマーをフィアンマの方へ振り向けると、それらは動き出した
ヴェント「単なる氷の岩雪崩程度には思わないで欲しいわね。これは、アンタを砕きつくすまで止まらないわよ」
隕石の様に、船であった幾千もの氷塊がフィアンマの体へ突き進む
それはフィアンマの体の目の前で爆発し、その衝撃と小さな礫となった氷がフィアンマの体を弾く
ヴェント「例え、その腕に制限も無く強大で攻撃にも防御にも万能でも」
更に小さな礫となった氷は、他の爆発した氷塊から生まれた氷の礫とぶつかり合って、即座にまた最初と同じくらいの氷塊となり、また爆発してフィアンマの体を砕かんと小さく分裂する
ヴェント「例え、その腕で爆発し、全てを吹き飛ばそうとしても」
爆発⇒散弾⇒集結⇒爆発の無限ループが、フィアンマの体を取り囲んでいた
それはもう、無限に続く至近距離でのショットガンの嵐。更には無数の氷塊が破裂する度に生じる衝撃が、攻撃対象の体の動きを奪い、呼吸すら満足にさせない
ヴェント「それを上回る圧倒的な数で、それこそ嵐の夜に身を叩く雨や雪や雹が数えられない様に。文字通り無数で攻撃し続ければ、相手がその厄介な腕だろうと金剛石の塊であろうと科学が生んだ訳のわからない物質だろうと、その形を保ち続けてはいられない」
コレがただの散弾攻撃ならば、全く脅威ではない。破裂するときに生じる衝撃が、散弾となった氷の礫が、それこそヴェントが止めようとするまで続くからこそ脅威なのだ
無数のそれらを吹き飛ばすという目的で、フィアンマがどんなに強い爆発をその中央で生じさせたとしても、それを覆い尽くす程の無数の小爆発の連鎖が同時に起これば、フィアンマの起こした爆発への壁となり、逆にその衝撃が爆縮して中央のフィアンマをグチャグチャに押しつぶす
そうでなくとも中央の攻撃対象を襲う為に発生する無数の衝撃は、同じ様に爆縮という形を取って徐々にその攻撃対象を押しつぶそうと働きかけるのだ
そこに止めの物理的な散弾攻撃。例え爆縮によって圧縮された衝撃にぶつかって弾けても、水という物質が壊れるわけではない。例えフィアンマに刺さるという形で消費されようとも、水など"空気"や"風"を司る高位な魔術師からすれば、その辺からいくらでも集められる
文字通り嵐。そして嵐の過ぎ去った後に残るのは、"破壊"のみ
そんなことが出来るのも、彼女が神の右腕であって非常に大きな力を持っているという事、そして最初からコレを隠しながら狙っていたという条件が満たされているからである
もちろん、無数の爆発音が響くので、フィアンマの悲鳴など聞えはしない
だが彼女の脳内にはその声が聞こえているかのようだった
114 :
>>113 最後から三行目修正"右腕"⇒"右席"。こういうミスって今まで何度してきたんだろうか
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:40:10.35 ID:S6DZze8vP
思わず口元が緩んで、舌にピアスと細い鎖で繋がった小さく氷を思わせる十字架が、口の中から唾液と共に垂れる
不意に、その十字架が揺れた
その揺れの原因は彼女ではない。厳密には、思っていなかった場所からの攻撃によって彼女の体が揺れたからではある
ヴェント「………グッ?!」
その攻撃はフィアンマによるものでも、馬車の中で恐ろしいほど大人しく待つ少女のものでも無かった
ヴェントはフィアンマを襲う為に、まず彼の乗った霊装馬車の周囲に展開していた魔術師たちを打ち倒して馬車の信仰を止めた。その時に倒したハズの魔術師達からのものであった
それはおかしい。彼女は、確実に彼らの息の根は止めたハズだ。それこそ肉体がバラバラになる程度に
そして、ヴェントの"嵐"には弱点があった
その特徴から、攻撃対象を一つにしか絞れないということ
そして"嵐"で攻撃中に他の対象を魔術によって攻撃するような余力は、魔力的にも集中力的にも残っていないこと。強引に出来る事と言えば、霊装であるハンマーで殴る程度だ
フィアンマ「おしかったな、ヴェント。もう少しで俺様の息の音を止めることが出来たかもしれないというのに」
嵐の中から声が聞こえた
それは間違いなく、声だった。おかしい。声など聞えるはずもないというのに
自らを攻撃した魔術師から視点をフィアンマに移す
集中力を乱された為に、既にそこに先程までの"嵐"は無く、あるのは少し傷ついたか、と言えるかどうかすら怪しいフィアンマだけだった
ザッ、と音を立てて歩みながら近づくフィアンマ
フィアンマ「だがまだ俺様は死ぬわけにはいかないのだ。御覧の通り不完全だが、救世主は二人もいらない。俺様が死んでは意味が無いからな」
彼が何を言っているのか、彼女は分からない。理解出来ないのだ
なぜなら、彼女の頭は、今起きていることへの理解不完全で、どうしようもなかった
ヴェント「そんな、馬鹿な。馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿ッ!」
叫ぶ女。フィアンマはそれを見て、部下の魔術師たちに攻撃するなという視線の合図を送った
フィアンマ「有体に言えば、集中力の乱れと言うべきか。魔術の基本だ、今更、しかも俺様に言わせるか?」
ヴェント「間違いなく確かに、コイツらを私は殺した。一体、どうして今動けてるってのよ」
115 :
本日分(ry この登場はアニメのせいじゃなくて、もとから計画してたんだからね!ほ、ホントだぜ!?
[saga sage]:2011/04/01(金) 06:45:15.31 ID:S6DZze8vP
フィアンマ「新教皇サマに、お前は聞いていなかったのか? 流石に何ら情報無しで、俺様の前に現れるお前じゃないだろう?」
ヴェント「歴代の右席や名を残した魔術師の、死体や霊装を漁っているという事以外に確実な情報は無かったわ。だが、あの小物臭しかしない新教皇ならその程度しか情報が無いのは仕方ないこと」
言ったヴェントに、フィアンマは、フッ、と鼻で笑った
フィアンマ「なんだ、それだけ情報があれば十分なハズなのだがな。お前では仕方が無いか。いいだろう、ヒントだ」
余裕のある表情を浮かべて、そのままヴェントへ一歩ずつ近づくフィアンマ
近づかれる側のヴェントは思わず後ずさりした
フィアンマ「救世主であるイェスの周りを取り囲んだ存在は、最終的に一体何だ?」
止まることなく近づくフィアンマ。それに女は恐怖が生まれる
神の右席は所詮、人間だ。その特性から天使の様な体へと変化していくも、所詮は人間の範疇を脱しきれない
だが、その時、半分の顔で泣き、半分は真面目な顔を浮かべるフィアンマからは人間から逸脱したものを感じた
そして、ヴェントを取り囲む殺したはずの魔術師たちの背からは、白く眩い光を放つ物が生えていた
ヴェント「く、来るんじゃない」
無茶苦茶にハンマーを振り回すが、フィアンマの腕が簡単に受け止め、捻じ曲げる
もう彼の顔は目の前、それこそ、舌を伸ばせば触れてしまいそうな程
フィアンマ「もう一度聞く。神である救世主の周りに居る存在は何だ?」
男の息が鼻の頭に当たるのを感じた
ヴェント「て、天使だとでも言うの?…………ッ、ンンッ?! ン゛!!」
唇を近づけて、そのまま舌をねじ込んだフィアンマは、ヴェントの舌についている十字架をからめ取った
フィアンマ「……正解だ。どうやら最低レベルの知能は有ったらしいな。それに、アレだけ激しい"嵐"を使うお前は予想外に高評価だった。ならばそのまま捨てるのは惜しい。俺様の手駒にしてやろう。なーに、心配はしなくていいぞ。復活してから、お前に正しい知識と力をくれてやる。それまで、しばらく眠っていろ、ヴェント」
彼が言った時には、白目をむいているヴェントに、既に意識は無かった
彼女の胸を、フィアンマの"右腕"が槍の如く貫いていて、その腕の先である右手には、彼女の、"人の命"の象徴である心臓が握られていたからである。あらゆる意味で即死だ
そして彼は、引き出した十字架と舌を繋げているピアスを彼女の舌から取り外して、小さな十字架をそのままその場に投げ捨て、踏み砕いた
116 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/04/01(金) 07:37:34.06 ID:XAgywC/l0
俺のヴェントたんが……
117 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/04/01(金) 14:17:48.33 ID:SlVlWSH7o
もうこっちのフィアンマさんを原作に出せよ。乙
118 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2011/04/04(月) 20:02:32.42 ID:ZCHnPoF40
不覚にも興奮した
119 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/07(木) 05:50:09.87 ID:FFxqgSnVP
「無茶をしすぎだ、馬鹿者」
霧の中に身を隠した彼の肩には、傷ついた友人の腕がある
その胸からも血を流し、それ以外にも表面的な傷は数多ある。だが彼は、騎士団長の肩から、預けていた体を戻した
団長「今の貴様の命は、貴様一人の命ではないのだからな」
アックア「……分かっているのである」
少し遅れた声は、少し弱さを感じさせた。無理も無い。生きているだけでも不思議な怪我を彼は負っているのだ
心臓の欠損という、普通の人間では人工心臓でも用いない限り、絶対に生き伸びることは有り得ないレベルの傷。水の扱いに長けた彼だからこそ、心臓無しで血液の流れを保っているのだ
心臓の拍動というものは、止まってはならないものである。つまり、その拍動に代わって血液循環を保つためには、再生でもしない限り半永久的に魔力を消費し、維持し続けなければならない
その血液循環を代替している術式にヴィリアンという名の女性の命と、自らの命がかかっているのだ
誰よりも彼自身がそれを自覚している。しかし、彼は単身、テッラの前に、しかも自らの意思で、身を現した
アックア(テッラを見くびっていたか、と言われれば、それは否定できないのである)
ローマ正教所属であり神の右席であるので、彼の独断で動くことはイギリスの勢力にとやかく言われる理由は無い
それでもヴィリアンの命を背負っている以上、彼はその独断に責任を感じていた。だから、目の前の友人の手助けなど無く、テッラを叩くつもりだった。叩けるつもりだった
だが、目の前に有る現実は厳しい
さて、どうしたものか、と考える騎士団長の横で、アックアが何かに気付き、言葉をこぼした
アックア「……不味いのである」
団長「更に不味いことなど聞きたく無いが、何だ?」
アックア「先程の十字路に強い力が凝縮されている。狙いは分からないが、これまでになかった規模なのは間違いない」
団長「力の凝縮だと? 何らかの術式の準備でもしているというのか。私を相手にしておきながら、随分と余裕を見せつけてくる」
アックア「私や貴様を引き寄せる為の罠であるとも考えられるのである」
団長「分かっている。だがいずれにせよ、このロンドンでこれ以上好き放題される訳にはいかん」
アックア「上で見下ろしている今のテッラへ、効果的な攻撃手段は無いのである。"天使の力"を用いる奴へは、空を飛行する者への常識的な攻撃術式であるペトロの"撃墜術式"が、十字教では対悪魔という要素を強く含んでいるために通じないだろうと言う事は簡単に予想がつく」
団長「だからと言って奴が今淡々としたためている術式の発動を受け入れるなど、有り得ん判断だ。"光の処刑"とやらで身を守ると言う事は、非効率であるといっても逆説的に我々の攻撃が通じると言う事を証明している」
アックア「であろうな」
団長「ならば、やりようがあるということだ。ここはイギリス・ロンドンだからな」
120 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/07(木) 05:51:32.67 ID:FFxqgSnVP
白井「流れで協力してしまったとはいえ、病み上がり、というよりまだ要入院な私。これでは過労死してしまいますの」
定期的にズドォンとかゴォッとか音が鳴り響く中、第7学区の瓦礫の山の一つに少女たちがフッと現れた
丁度学区の反対側で一際大きく、音と光が生じている
絹旗「仕方無いでしょう。道路って言えるものは超めちゃくちゃで、乗り物だってまともに動くのなんて無いんですから」
悪態を吐ける程度に小慣れた二人、そしてフレンダ
フレンダ「結局、必要物資は私のアポートで運ぶんだし、負担は最小限な訳よ」
一人の少女に掴まっていた、二人の少女が離れた
白井「それは当然と考えてほしいですわね。これで必要物品も運べなんて言われたら、重量オーバーか集中力を失って、下手をしたら今頃みんな壁の中ですの」
絹旗「ちょ、それは超嫌ですね。危ないと思ったら休んでいいですよ」
白井「それは、もちろん。そうですわね」
少女は額の汗を拭った
白井「……フゥ、少しここで休みますの」
フレンダ「へーい。ま、ここなら一応それなりに離れてるし、大丈夫でしょ」
彼女は装備していたゴーグルに表示される、巨人及び佐天涙子だったものとの距離を見て、安全と判断した
絹旗「そう言えば、あなたが先に送った麦野とあの明らか体調が超悪そうな子」
白井「初春ですの」
絹旗「そうその初春って人、あの人ってそんな上級の権限持ってるんですか?」
白井「持っている、というのには語弊がありますの。正確には奪ってしまったか、奪おうとしているか、というのが正しいかと」
フレンダ「凄い能力者って訳か。ハッキングってことは、電気系統の?」
121 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/07(木) 05:52:00.53 ID:FFxqgSnVP
白井「違いますの。無能力者ではないにしても、初春の能力そのものはお世辞にも高いとは言い難いもの。あの子が優れているのは、純粋なハッキングやクラッキングのスキルですの」
白井「この分野でだけは、恐らく第三位のお姉さま、御坂美琴をも上回ると言えるかもしれませんわ」
絹旗「へぇ。第三位すら上回るってことは、先端研究分野の施設に超アクセスだって出来るかも知れませんねー」
フレンダ「でもあの子、あんた達より被曝がヤバかったんでしょ? どんなにハイスペックでも結局、そこが一番心配なワケよ」
絹旗「私達ですら擬似クローン部分の定着がまだ終わってないですからね。初春ってののそれは、私達とは超比較にならないんじゃ?」
白井「ええ。それに、本来自らの体のものではないものの移植、例えば臓器移植などは、遺伝的に近い近親者からの提供臓器で有っても、拒絶反応があるというものですし。体のほぼ全部の移植なんて、いくら学園都市の最先端医療技術を用いて抑えたとしても、その拒絶反応は甚大なものがあると考えられますの」
フレンダ「そういうのって、拒絶を抑える為の薬とかを用いるらしいじゃん? でもそれって大概、同時に免疫機構も低下させるから、何かの厄介な病原体とかに簡単に感染したりとかもね」
白井「初春は元々壮健で強い体を持っているという訳ではありませんの。ですから、一刻も早く電力施設とやらで事を終え、病院に連れ戻さないと」
フレンダ「でも、外壁沿いまではまだ距離がある訳。あんたが焦って結局壁の中ってのは勘弁ね」
白井「わかっています、わかっていますの。それでも、私達は急がねばならない。そうですわね、絹旗さん」
フレンダ「?」
絹旗「ええ、……そうですね」
若干の違いはあれど、同程度の被曝をしていて、それの治療が必要だった二人
本来ならば彼女たちも病院シェルター内の施設で療養をしていなければならない身だ
入らないにしても、空間移動能力のお陰で出入り自体は可能だった。だから、体調に問題があればすぐにでもシェルターに入り、指示を聞こうとは思っていた
つまり病院から距離を置こうなどとは想定外なのだ。少し外の様子を見てくる、それぐらいのつもりだった
故に、こういう問題が出てくる
初春と言う少女を、白井・絹旗が気にかける理由と同じ理由の問題が、彼女たちにも起きているのだ
彼女たちの背筋に奔る悪寒が、徐々にだが確実に強くなっていて、気分も病院の屋上に居た時よりも悪くなり始めているのだった
122 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/07(木) 05:52:51.01 ID:FFxqgSnVP
小麦粉の塊は徐々にその大きさを増していく
今の段階で発動させても、ロンドンを10分の1程度吹き飛ばすには十分だったが、彼はそれでは不満だった
フィアンマの復活者の術式の不完全によって生じている制御能力の不十分は、テッラの行動を抑制出来なかった
アックアを処分するは良いが、まだ事を荒げてはならないというフィアンマの指示を、最早テッラは忘れていると言っても間違いではない。意図的に無視しているとも言える
テッラ(この程度では、まだまだですねー。この際ですから、この邪教が蔓延る都そのものを破壊してしまいましょう)
そんなことを思いながら、羽ばたきながら直下の小麦粉の白球を見ていた彼に、霧を裂いて一人の男が跳躍してきた
予想外の行動に、彼は驚く。しかし、直ぐに彼は何食わぬ顔を取り戻し、その男の攻撃を見極める
飛来した男が持つフルンティングと言う名の剣による打ち下ろしは、軌道まで見切ったテッラの左腕によって一見簡単に受け止められた
そして騎士団長の手には、分厚い金属の塊へ叩きつけたかのような痺れが伝わる
「クッ」
だが、先に声を漏らしたのはテッラだった
その剣が、彼の予想以上に深々と刺さっていたからである
完全に想定外だった。騎士の剣など皮膚を裂く程度に思っていたからだ。アックアへの圧倒が慢心を呼んだのかもしれない
テッラ(馬鹿な。"光の処刑"を用いなかったとはいえ、今のこの私の体表を貫くなど)
自らの体は天使そのもののはず。どうしてただの騎士などの剣が通じようか
彼は痛みでは無く苛立ちで顔を歪めた
団長「どうした? 意外そうな顔をしているな」
打ち下ろした体勢のまま、目の前で男がテッラに言葉を投げる
テッラ「ええもう、目障りですねぇ!」
ブン!、と腕を振って、切り込んだ剣にぶら下がっている騎士団長ごと吹き飛ばす
余裕を感じさせる表情で、騎士団長は霧の中にもう一度飲み込まれた
テッラ(こんな傷、まだどうというレベルではない。ですが)
テッラ(虫がちょろちょろと体の周りを這っているのは、気分が悪いと言うものですからねー)
もう一度、先程とは違う方向から霧を裂く存在が現れる。手応えを感じた騎士団長が愚かにもまた自らへ迫っているのだろうと彼は思った
123 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/07(木) 05:54:07.96 ID:FFxqgSnVP
テッラは直下にある小麦粉の球の一部を触手のように長く伸ばし、鞭のようにしならせて飛来する騎士団長らしいものの撃墜を狙った
骨が数本そのまま断ち切られたような音が聞こえ、いとも簡単にそれは叩き落とされる
テッラ「ほら、所詮この程度の存在にすぎません。先程のは何かの間違いなのでしょうねー」
彼がそう鼻で笑った直後
彼の背中を、フルンティングが貫いた
テッラ「なに? どうしてあなたが」
団長「やはり、私の剣でも貴様を貫くことは可能なようだ。残念だったな。お前が叩いて満足したのはウィリアムの作った氷像だ、間抜け」
間抜け、と言われて彼は当然怒りを覚える
テッラ「しかし奇襲ばかりとは、姑息なやり方ですねー」
団長「フ。例え一騎討ちでも、相手の虚を突くのは必然だ。隙を見せる方に問題があるにすぎん」
テッラ「隙を見つけたとしても、この程度の攻撃で調子に乗るのは早計だと思いますが」
団長「この程度の攻撃と言いながら、防げていないのが貴様だ。所詮、貴様はフィアンマの手先なのだな」
テッラ「どういう意味ですかねー、それは」
団長「手先らしく抜けていて、御しやすいと言う事だ。言わせるな」
テッラ「……いいでしょう。この私など、いくら侮辱しても構いません。主も最初は侮辱と苦難を受けた事ですからねー」
そう言って、彼は胸から突き出ている剣を、その手で握った
テッラ「ですが、あなたは主から与えられたこの御体を、二度も傷つけました。それは許せません」
その手が、音を立てて剣を砕き、切断した
もちろん、耐久硬度を高めている己の剣が砕かれた泣き声に、流石の騎士団長も驚く。しかしすぐに彼は剣から手を離しテッラを蹴って、蹴った反動で空中のその場から素早く離れようと試みた
テッラ「逃がしませんよ」
すぐさま振り向いて、テッラは折り曲げた剣の先を投げつける
その勢いが鋭く、特別な霊装も無しに騎士団長は回避しようもない。同時に、身を守る剣が失われたので弾き返すことも辛い
結果、彼は空中で自らの得物の破片を受けるしか無かった
124 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/07(木) 05:54:45.01 ID:FFxqgSnVP
「………ぅ…………ぁ?」
突然、彼女の頭の中に急な電気信号が流れた。何度目かの、起床の合図
頭の中なのか、それとも視界内にある何らかの装置に出力された文字なのか判断できない。とにかく"起動"という概念が表示され、自らの拘束が外された
ふと気が付けばそこは、外だった。見えるのは壊れた建築物ばかり
これは自分が壊したロンドンの市街? いや、確かロンドンにはこんな地区は無かったはずだ
ならばここはロンドンではないのだろう。ならばアメリカの何処かか
そこまで考えて、彼女はふと気が付いた
(ロンドンを……壊した? 私が?)
ロンドンを? 天草式の仲間たちが住んでいて、必要悪の教会の仲間もいて、いつも行くスーパーのレジ店員とかご近所さんとかって知り合いだっているロンドンを、私が?
そんな有り得ないなことをするわけが、ない
そしてまた気が付いた
("仲間"? 仲間というのは、どの仲間の事を? どの?)
この言葉で導かれる情報
本来の彼女の脳は建宮や五和を始めとした、半分あやふやと言える天草式凄教などを挙げる
しかし他の3つの脳は、垣根帝督という名前を挙げ、そして駆動鎧という言葉や駆動鎧の姿を挙げる
一つのことから関連が遠い概念が出てくる。こんなこと正常ではない。混濁もいいところだ。それぐらい、何か忘れている気がするが、分かる
しかしなんだか、やかましい
ここは交戦中と言う名の虐殺中であるニューヨーク。爆発音とか悲鳴とか映画に出てくるような光線の飛び交う音とかが、そこらかしこで鳴り響いている
視点を、天へ向けた。直後、彼女の目の前に大きな何かが叩き落とされてきた
背からは翼を生やしていた。右半分が腕と足を含んで削り取られていて、そして道路に落ちてからは翼も消え、完全にその動きが止まった
記憶の中にある、駆動鎧。それはにこれまで共に戦ってきたことも有る上、少し形状は違うものの、英仏海戦で傷ついた自らを後方へ避難させてくれた存在でもある
記憶で、そしてアメリカに来てからの戦闘の際の実体験で、それは味方であり共通の敵を倒す仲間とも言えた
彼女は仲間が傷つけられて、感情が揺さぶられない様な冷たい人間ではない
しかし、そうして生まれた感情には矛盾があるハズだった
天草式凄教徒という大切な仲間を傷つけた張本人が、自分自身であったのだから
125 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/07(木) 05:56:27.87 ID:FFxqgSnVP
自分自身を怨むという感情と理由が彼女にはあって然るべきなのだ。その記憶も、彼女本来の脳には記憶されている
ロンドンで暴れた時既に、彼女の頭脳は複数だった。しかし、当時はまだ試運転とも言える段階であり、制御系を収めた脳の制御は甘かった
それによって、彼女のもともとの脳がロンドンで有ったこと全てを記憶し、天草式を殺したという行動の記憶が彼女の精神を一度崩れかけさせたのだった
彼女を制御する側からすればそんな記憶は不安定要素として、邪魔なものとして映っていた
自身の過去の行動を思い出し、敵の目の前で戦意喪失してしまうと言う事は有ってはならないのだ
超戦力が不安定というままでは困る。その対策は直ぐに練られることになった
佐天涙子が第一被験者となって完成した、"複脳計画"。その第二被験者である彼女の頭の中には4つの脳が圧縮されながらも物質的に収まっている
その中の一つは、被験者となる前から彼女の中に有った物。残る3つは後から加えられたもの
全てが全て特殊な超能力に特化した頭脳を持つ佐天と、脳の数こそ同じだが、本来の魔術師としての頭脳に能力者としての頭脳と制御用の頭脳を直接加えたという点で、彼女らは異なる
早い話、佐天には制御専用の脳が無く同じ機能の脳が4つで、神裂には制御専用の脳が有り更に残る3つは脳の一般機能の他に別々の専門的な役割を持っている、と言う事だ
だからこそ一つの脳が持つ特定の記憶から生まれた感情が自らを怨み悔いさせるならば、残る三つを使うことでその記憶が思い出される度に干渉し、天草式の大切な仲間達を攻撃し殺したのは目の前の敵であると誘導してしまえば都合が良い
不安要素の完全撤去のため、天草式十字凄教の女教皇であることや必要悪の教会に所属していた事すらも消してしまいたいと、今の彼女を作った研究者達は考えていた
しかし、それが彼女という存在を形作る一番根深い精神や記憶である為、そして何よりも最高の権限を持つ存在がそれを許さなかった為に、それはならなかった
よって、その場しのぎとも言える状態の彼女、神裂火織は、薄っぺらい布を一枚身に巻き付けた状態で、そばに横たわっていた愛刀を拾い、鞘を抜き捨てる
神裂「………目の前にどんな理由や障害があろうトも」
一見正常と言える顔の中に、苦悶の表情が読み取れた。唇は僅かにピクピクと震えている
ドロリ、と目の前の駆動鎧の壊れた部分から血が流れ出ている光景が、彼女の瞳に入りこんだ
それによってロンドンでの、目の前に天草式の仲間たちが何者かに攻撃され、気を失うか命を失って地面に伏している仮の光景が、偽りの記憶が蘇る
アメリカにとって都合のよいように編集されたと言えるそれによって、怒りと言える感情が彼女の中で爆発した
事実では、自らが傷つけ殺した仲間たち。虚実では、何者かからの攻撃を受けて傷つけられた仲間たち
彼女の怒りを構成する一部である後悔は、ロンドンで仲間を守れなかったという虚実からによるもの。実際の、彼女がその手を下したという事実からではない
神裂「私は、私ノ仲間たチに、……私が守らなければならなイ人々に、害ヲ与えル存在を許しまセん!!」
言わば神裂の"自分だけの現実"に合わせた未元物質として、ワイヤーで出来た翼を展開した。そして地面に5m以上の巨大なクレーターを作って蹴り跳んで、彼女は空へ飛び立った
だから、蘇ったロンドンの記憶の中に、強くこちらを睨み剣先を彼女に向けた教皇代理の姿は無かった
126 :
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[saga sage]:2011/04/07(木) 05:57:19.93 ID:FFxqgSnVP
地面へとテッラを蹴って離れた騎士団長は、投げつけられた自らの剣の破片によってその身を、ロンドンの地面へ叩きつけられる形となった
その勢いは鋭く、周辺の霧を裂くには十分だった
少し苛立ちが晴れた様な表情を浮かべるテッラの視点では、確かに騎士団長は地面に突き刺さる
しかし、裂かれた霧がまた元通り拡がり直す中で、僅かにだが確かに、軽々と跳び起きる騎士団長の姿が見えた
テッラ(考えていたよりは、丈夫な様ですねー)
数秒後、ブワッと、またもや霧を切ってテッラへ一直線に向かう姿が、3つ有った
テッラ(ですが、同じ手が何度も通じると思っているのでしょうか)
さっきのことがあった以上、この中に本物、つまり騎士団長は一つ。残る二つは氷塊で模した罠だろう
全てを全て叩き落としてしまうことも、テッラは一瞬考える。しかし、それはしない
ピンポイントで本物を叩き落とした方が、アックアに組する忌々しい騎士団長という存在の自信を削ぐことが出来る。そう判断したからだ
しかし、それは結果的には誤った判断だった
テッラ「……そこですねー!」
霧によって隠された市街の範囲をフルに使った、360度の中で別々の三方向から飛来されては、それが騎士団長であるのか、アックアの術式による氷像であるのか、細かく見分けるのは少し難がある
向かってくる速度は最初からかなりの物だった。恐らく何らかの術式によって体ごと射出しているのだろう、とテッラは考える
そして残された僅かな時間だけで、騎士団長だけを識別した
300m程の高さに居るテッラの直下の大きな小麦粉の球から、パスタやうどんを思わせる小麦粉の触手を伸ばして振るうと
団長「……ぬ!?」
見事に的中された騎士団長は居られた愛剣の代用品として握っていた、どこかの建物の残骸から拾った鉄筋で触手を叩き落とすしかない
テッラ「残念でしたねー」
テッラの高さまで昇る為の勢いは、途中のそれによって当然無くなった
127 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/07(木) 05:58:55.67 ID:FFxqgSnVP
しかし、落下する騎士団長の顔には、テッラの思惑とは逆に、何か余裕の様なものが見て取れる
テッラは腑に落ちない。その理由が分かるのは直ぐだった
彼へ迫った撃墜していない残り二つの氷像の中から、甲冑を着込んだ騎士たちが飛び出し、ハルバートという槍と斧が合わさった得物がテッラの体を叩き、そして突いたのである
騎士団長ほどではない。程ではないにせよ、確実にその得物はテッラにダメージを与えた。そしてそれは、彼の予想以上のものだった
自らの翼を振り回し、二人の騎士たちを弾き飛ばすテッラ
その弾く力は優に人間の命を狩ることが出来る代物だが、一種の焦りの表れでもあったその行動は、大ぶりで無駄な動きが多く、つまるところ隙だらけである
団長「これで、傷つけたのは3度目だな」
テッラの真下から、またも騎士団長の声が聞こえる
腰から心臓のある位置を貫通し、テッラの胸のほぼ中心から騎士団長の握る剣の先が突き出ていた
テッラ「……その剣は、先程断ったはず」
団長「私のこのフルンティングは、既にある剣を素材に術式によって別の形として形成される物なのでな」
騎士団長のもう片手には同じ剣が握られていた
そしてそれをそのままテッラの翼の付け根突きたて、片翼を歪に変形させた
今までに受けた傷で、テッラの見た目はかなりボロボロになっていた。消耗していないと言ったら、間違いなく嘘になるだろう
団長「つまり、例え一本や二本の剣が折られようと代用は効くと言う事だ。特定の得物しか使えないのでは、戦場で臨機応変に対応など出来んからな」
テッラ「戦場で臨機応変に対応、ですか。それでは、部下を犠牲にしてまで私を狙ってくると言うのは、司令塔の対応として正しいものなのでしょうかねー?」
団長「犠牲? 我がイギリスの騎士を舐めてもらっては困る。私の部下たちは、お前が幼児の如く振り回した小汚い翼如きなどでは、死するどころか気をやることすらないと知れ」
テッラ「馬鹿な。それほどまでにイギリスの騎士如きが屈強だとでも言うのですか」
テッラに刺さった二本の剣を掴みぶら下がることで、空中のその場に留まっている騎士団長
団長「その通りだ、左方のテッラ」
128 :
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[saga sage]:2011/04/07(木) 05:59:32.71 ID:FFxqgSnVP
彼らの目の前に、二人の騎士が跳躍して現れた
なるほど確かに、その身に纏った、高度な術式が施されているであろう甲冑は拉げている上、所々出血している
しかし、その壮健さは少しも失われているようには見えない
騎士団長を始め、騎士たちは、何もこの高度まで何らかの術式によって打ち上げられている訳でも、狙い撃ちにされやすい飛行の術式を使っている訳でも無い
単純に、有るべき保持者に保持され、イギリスを守ると言う然るべき目的の元に使用された、天使長レベルの"天使の力"を操り貸与させる機能を持った、とある霊装から騎士たちへの力の供給を受けることで、身体機能を強化された彼らが、その足で飛び上がっているだけにすぎないのだ
つまり、テッラが致死レベルの打撃を騎士たちに加えたという事は、テッラの操る"天使の力"に殴られた方も、別の"天使の力"によって守られていた、ということなのだ。そのように"天使の力"の供給を受けていなければ、今頃騎士団長も虫の息になっていたかもしれないし、部下を使うという戦い方は悪戯に死傷者を増やすだけとなっていただろう
そのまま、二人の騎士はその斧槍の斧の部分で切りかかった
当然、この力も"天使の力"が斧槍という武器を介してテッラへ伝わる。だからこそ、それは同じ天使であると言えるテッラへも、一撃で致死とは言えないにしても、ダメージを与えられるだけの力の大きさとなるのだ
こうなっては、テッラがやることは一つだろう
それは、このロンドンを丸々吹き飛ばすためだけに注力していた、巨大な小麦粉の塊を用いる術式の更なる威力強化に若干の支障となるが、仕方がない
テッラ「ですが、所詮あなた達の武器は金属ですからねー。それに如何な術式や力が加えられていたとしても」
騎士たちの斧はテッラに触れるものの、先程の様に被害を与えるどころか、蚊が触れるよりも非力となった
そのまま、力が霧散したように勢いを無くした騎士たちは自由落下を開始する
テッラ「このようにして、あなた達の武器と私の優先順位を変えてしまえば、触れることが関の山だ。攻撃の手は魔術に限られる。これだけであなた達は、詰み、ですねー」
基本的に、騎士たちは必要悪の教会所属の魔術師たちよりも、白兵戦的な術式に特化していると言える
今現在魔術師そのものの数が圧倒的に不足している状況から、よりいろいろな術式を扱えないと言う事となり、詰みであることは確かだ
団長「ああ。貴様のそれは、一番の脅威"だった"な」
テッラの殆ど後ろの真下で、二本のフルンティングにぶら下がった彼は、過去形のイントネーションを強めて言葉を放った
語気を強めた過去形の言葉の真意を考え、テッラは下の騎士団長の方を無意識に向く
その言葉が言い切るが早いか、それともテッラが視線を戻して彼の接近に気付くが早いか
団長「だが今、お前はその切り札を 使 っ て し ま っ た 」
鋭い氷の大剣を持ったアックアが意外の上空から現れ、テッラの頭部を、顔を真っ二つに叩き割った
129 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/07(木) 06:00:17.21 ID:FFxqgSnVP
白井の空間移動によって、フレンダや絹旗よりも一足先に外壁沿いの巨大な施設の近くに訪れていた麦野と初春
彼女らの目の前には半径50m・高さ200mはあろうかと言う巨大な円柱建造物が中央に突き出ていて、その円柱の頂点から少し下の回りから、取り囲むように何らかの立ち入りできそうな施設があった
麦野「なるほど、ココ自体が巨大な電源施設ってことか」
初春「はい。……地下、200m程の所、フラフープが設置されている深さが、……あの円柱の下端にあたり、ます」
麦野「あーもう、無理して喋んなくていいわよ? あんたが倒れたらどうしようもないんだし。あの佐天の何が一体、アンタをそうさせんの?」
初春「そりゃ、とも、だち、を助けたい、と……思う事に、理由なんて、ない、です」
麦野「その結果、あんた自身が……死ぬことになっても、良いっての?」
初春「……、はい」
麦野「良い根性してるわ。今までにいろんな奴を見て来たけど、その中でもトップクラスだよ、初春。いい意味でね」
初春「……あり、がとうございます。………う、プ」
麦野「だーから、無理して喋るなって。今のは私の独り言みたいなもんだし」
初春「は、はい。……でも、何かしていないと、気、が。……それより、あの兵隊さんたち、どう、しま……す?」
悲痛さを感じさせるが、無理をして笑みを浮かべた少女の視線の先には、施設の入り口と思わしき大きな扉があり、そしてその前にLAV(装甲車両)が一台と、ベストを着込んでライフルを持った兵隊があった
LAVにも兵の装備にも、アメリカの国旗と海兵隊を示すグローブ&アンカーのマークが入っている
麦野「……そうね。軽装っぽいから、倒して進むって選択肢も有るけど」
初春「……殺し、ですか?」
麦野「出来ればしたくないわねー。こっちが何かしようって時に、駆け付けた援軍なんかとドンパチになると厄介だし。何より疲れる」
麦野「あの規模だからね。あの規模全てが何らかの電力装置だとすると、その全電子を操ってあの巨人に叩き付けるのは、かなりの集中力を使った演算が要るでしょうね。そこを邪魔されて集中乱されたら、私は花火ね」
初春「……大丈夫なんですか?」
130 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/07(木) 06:01:57.64 ID:FFxqgSnVP
麦野「ま、んな状態でかなりの上級セキュリティを外さなきゃならないアンタよりはずっと簡単よ。そこは、この第4位サマに任せなさいってこと」
麦野(言うのは簡単なんだけどねぇ。目の前にこんなので頑張ってるのが居ちゃ、ね。……もちろん、私は言葉だけで終わらせない。終わらせれるかっての)
麦野「あの兵隊共に通じるかはわからないけど、手は考えてる。強引に突破は最終手段かな」
初春「それは、良かった、です」
本当に僅かに、彼女は安堵の息を吐いた。自分がこの状態でも、この少女はあの兵たちの事を気遣っていたようだ
麦野(ホントにあのキチガイ染みた佐天涙子の友人なのかね、この子が)
麦野(しかも、こんな自身がボロボロだってのに、しかも知っちゃいないだろうけどこんなボロボロにした張本人も佐天涙子だってのに、それでもあの変わり果てた友人を助けようってんだから、大したもんよ。妬けるほどだわ)
初春は相変わらず無理をして笑みを浮かべるが、立っている足はフラフラだ
見て、麦野は初春の前に背を向けてしゃがんだ。そこには同情という要素も有ったかもしれない
麦野「おぶったげるから、乗りな」
初春「え、でも」
麦野「いいから乗れっつってんの。地面に直で座ると冷たくてあんたのか細い体力を食われるし、立っててもいつか倒れるでしょ。何よりそんなんじゃまともに歩けもしない。違うか?」
少し強く言った麦野の言葉に、少し初春は怯えながらも、おずおずと麦野の背中に体重を預けた
麦野「宜しい。……よっ、と」
初春「……すみません。でも、少し楽になり……ました」
麦野「気にしないでいいわ。コレもあのへーたいをかわす演技のウチだから」
初春「演技?」
麦野「すぐに分かるわよ。ま、あんたの出番が来るまで、少し私の背中で休んどきな」
131 :
本日分(ry
[saga sage]:2011/04/07(木) 06:03:23.15 ID:FFxqgSnVP
NY上空の戦況は、ボストンへ向かった垣根の想定通りだった
彼らの敵は、大した性能は無いとはいえ垣根ですら手を焼いていた、天の軍勢の長であるミカエルを介して使役している、ローマ正教の天使の群である
一対一ならば勝っている未元物質を動力源とした大型駆動鎧であっても、数で圧倒してくるのだ
それはまるで、稲穂を襲うイナゴの軍勢。纏わり付かれたら、終いである
無限の特攻爆弾でもある存在に、有限の寡兵で戦うのは無理があると言うものだ
軍の陽動という目的を完全に逸脱し、NYの地上で一般人を根絶やしにしようとするローマ正教の魔術師たちを制圧する予定だった駆動鎧の部隊も、地面に構っていられなかった
小型の天使の群に、一機の駆動鎧がその巨大なレールガン・ライフルを向けた。出力は限界最大に設定してある。目の前の群を蹴散らすには十分すぎる程だ
「くたばれ!!!……………ッ!?」
雷鳴よりも大きな音と共に弾丸が射出される寸前、彼は咄嗟に大砲とも言える銃の射線を天使群から上にズラした
上条刀夜の"銀貨"と彼に協力する"負け組"による情報撹乱によって、NYの上空で戦う駆動鎧達は、地上との情報共有が出来ない
既に地上で情報を発することのできる兵が、満足にいるかどうかも疑問な状況である。共有システムが生きていても駄目だったかもしれない
だからこそ、彼は射線をズラさなければならないという事になってしまった
そこに天使群の悪意があったかどうかは定かではない。だがずらさずそのまま発射されていたら、天使の小群を一網打尽にした電磁砲がそのまま射線上の地上に刺さり、その場所で逃げ惑う市民の一集団を確実に木っ端微塵に吹き飛ばしていただろう
彼のこの判断は、正しいと言える。電磁砲は天使の群を捉える事なくその上を掠め、そのまま地上で逃げ惑う市民の目の前の河で大きな水柱を作った
問題は狙われた天使群だった
狙われたことによって、電磁砲をぶっ放した駆動鎧の方へ、人形の様なその首を向け、20あまりの天使が一斉にその駆動鎧へ向かったのである
来るな、近寄るな、とライフルを乱れ撃つ
焦りによって狙いは正確性を欠き、その乱れ撃ちは向かってくる小型天使の数は殆ど減らせない。弾幕としても不十分だった
畜生、ここまでかよ。彼が直後の死を悟った時
怒りを体現するような、血走った眼の血管を思わせる色形をした無数のワイヤーを、体毛の如く背中一面から生やした女性が彼の横を高速で通りすぎ、そのワイヤーで彼に向っていた全ての天使を一瞬で細切れにしてしまった
簡単に、とても簡単に
彼らが直面していた苦戦は、神裂火織の登場で一転した
132 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
:2011/04/07(木) 07:56:48.35 ID:igkvXzwAO
乙
133 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/07(木) 11:17:52.91 ID:IAoFBY6DO
佐天さんはキチガイかわいい
134 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/04/07(木) 12:00:03.25 ID:Ic1rE/Lao
なるほど、ご時世的にって
>>1
が悩む気持ちがよく判る末世っぷりだ、
だが応援する。
135 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/04/07(木) 17:52:53.45 ID:RuPmW8EC0
本当の本っ当にハッピーエンドになるんでしょうな?
136 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/07(木) 18:55:50.13 ID:+mLmcwmho
佐天さんに明日はあるのか!?
137 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/04/07(木) 21:18:39.91 ID:igkvXzwAO
神崎さんぱねえっす!
138 :
やべー投下ペース遅せー
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:21:30.03 ID:FZ3GAiZ0P
ガァン! ガァン! と地下通路に金属板を蹴る音が響いた。その音源はボストンにある地下研究所の廊下の天井だ
あらかじめ入手していたこの研究施設の構造データから、彼女はこの場所に入る手段を決めていた
地上に落下傘で降りてからここまでの行動に、一切の迷いなど無い
廊下の天井の一部となっている金属板を数回足で押し込むと、簡単に変形して廊下の床に落ちた。当然騒々しい音が派手に鳴るが、しかし、他に鳴り響く爆発音や銃弾の音が都合良くその音を隠す
「……こんなところでもドンパチやってんのね」
天井を蹴り破って、着地した少女。その声は呆れを感じさせる
交戦には驚かない。こんなもの、これまでに学園都市でも散々巻き込まれてきた。そして、ここに来るまでに散々見て来た
既に自らの手は、何度も他人の血で汚されている。数日前までは考えられなかったが、自分は簡単に人を殺せるようになった
もし自分に向けて銃を向けて来た人間が居れば、容赦はしない
目的の男を見つけ出し共に帰るまで。そういう自分の思いのままに、ここへ来た
今、自分が決めている自分の最大の役割は、あの男に会うこと。そこから先は会ってから決めてしまえばいい
母は死んだ。後輩と友人も重傷、入院。更に友人の一人に至っては豹変してしまった
そして学園都市はあの惨状だ。見知った人間だけでも、いくら死んだか分からない
(アイツは、あのバカは何時だって何か厄介事を抱えてる)
廊下を走りながら、彼女は彼の事を考える
139 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:22:16.21 ID:FZ3GAiZ0P
(今更、そのことをとやかく言う気は無いし、言ったところでアイツは止まるようなヤツじゃない)
(でも、巻き込まれて無事だったって訳でもない。下手したら……、そう言うことだって有り得る)
そう言う事――。それを彼女は深く考えたく無かった
それよりも先に大きく出てきているものは、これ以上流れのままに自分の大切なものを壊されてたまるか、という強い意思
地下研究所を走り回る、今の彼女にあるのはそれだけである。神がそんなひたむきな彼女を助けようとしたのか、それとも陥れようとしたのか
偶然、彼女が通り過ぎた、とある空間
「……!? この感覚」
その部屋からは、彼女が最後に上条当麻と話をした時に感じた、上条の脳から出ていた周波数と同じものの、感覚があった
上条を探すために、彼について知る得る全ての情報を用いた彼女の検索に、引っ掛かったのである
「ここねッ!!」
手に持っていた金属の塊の先端をスライドドアと思わしき板状の金属に押し付け、引き金を引いた
一刻でも早くそして確実に扉を開くため、死体から拾ったサブマシンガンを即席の超電磁砲として使い、最大出力でぶっ放したのだ
最悪な想定やその想定を作り出した最悪な記憶を頭に浮かべた事によって生まれていた、莫大な負の感情を、全て吐き捨てるように目の前の扉にぶつけた訳でもある
もちろん、こんな使い方など全く考えられていないサブマシンガンは、その一発で銃身が変形し、使い物にならなくなってしまう
構わない。元より使い捨てにするつもりだった
拉げて吹き飛んだ金属製のスライドドアがあった枠をくぐって、御坂美琴が辿り着いた場所は、AIは確かにAIだが、彼女の探す上条の脳内のものではなく、玉座で吊られた"イェス"と名乗る基盤の部屋だった
140 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:22:48.15 ID:FZ3GAiZ0P
「これは、間に合わなきたるわね」
イギリス最高勢力の一角である清教派の頂点である彼女は、私用で出歩いていたロンドンを走っていた
目的は、テッラとアックアの戦いの加勢である
ロンドンを守る、という点では、彼女が操ることが出来る守護天使は、不完全ながらもかなりの戦力であることは間違いない
しかし、遠目に見える霧の空間は、徐々にその大きさを縮めている
勝負がついたのかもしれない
ある程度まで近づいたところで、霧は完全に消え去ってしまった
ローラ「ふぃー。まぁ、どちらが敗れたところで、私への害はあまり無しか」
なれない運動で若干の疲労を感じつつ、彼女はその場に立ち止まった
大道路。この両サイドは、この時間ならばまだまだ人がごった返しているはずだ
しかし、車の通行もなければ一般人も歩いていない。時折、警察や騎士がうろついている程度だ
大規模な"人払い"の術式に加え、通行制限が敷かれている。表向きは、局所的な原因不明の霧への対応という形で
霧の晴れた空間からはテッラが暴れる様子も無い。もし仮にアックアが負けたとしても、テッラの目的はアックアの首という事だから、アックアが敗れても構わないハズ
ローラ(だがそれでは恐らく、ヴィリアン嬢が逝去することになりけるであろうなぁ)
街路樹にもたれかかり、可哀相に、程度に彼女は思う
ふと、そんな時
何処からともなく声が聞こえた。誰もが聞いたことがあるであろう、騒がしい泣き声
少し大道路から外れた、集合住宅と集合住宅で挟まれた路地に入ると、その声の主があった
丁度、道路からは死角となっている詰み上がった木箱の裏に、ベビーカーが一台
ローラ「あ、赤ん坊?」
なぜこんなところに、と彼女は思う。しかしすぐに推測は浮かんだ
恐らく交通整理や避難のごたごたで、母親がベビーカーから手を離してしまったのだろう
141 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:23:16.99 ID:FZ3GAiZ0P
ローラ「はぁ、仕方なきね」
腰から取り出した羽根ペンで、簡単な術式を描く
体温を奪われない様にベビーカーを人肌レベルで保温し、赤ん坊を気持ち良く眠らせる
そしてそこに、誰かが近くを通れば直接この赤ん坊の存在を脳に叩きこむという、少し高度な術式を加えた
これで通行制限が解除されれば、すぐにでも警察か何かが見つけてくれるだろう
先程までの泣き顔から一転、小さな寝息を立てる存在に、彼女は一瞬思考を奪われる
その顔は女性らしい優しさを感じさせると同時に、どこか少し物憂げだった
数秒、その場で両眼を閉じ、路地から離れる。大道路に戻って彼女はもう一度、路地の奥のベビーカーに視線をむけた
憂げな表情を一瞬浮かべ、切り替えた。その瞬間である
「やはり、まだ気になってしまうのか」
と、聞きなれた声が、背後から聞こえた
ローラ「その台詞、あなたの口からは聞きたくなきたるわね。"まだ"と言いけるが、恐らく私は永遠にあの事を負い続けることは確定したるのだから」
エリザード「……そうか」
護衛もつけずに現れたイギリスの国家元首の言葉は、らしくなく、弱さが聞き取れた
その声を聞いて一瞬、最大主教は顔が強張る。だがすぐにフン、と息を吐いて、感情を殺したような冷たい表情に切り替わった
ローラ「禁書目録の処分について私も賛成した身。私のことであなたが気にすることは無しよ」
女王の方を見ずに、彼女は言った
ローラ「それよりも、今は目の前の問題を考えるべきね」
エリザード「あ、ああそうだな。行こう」
首を振って走りだした女王。後に続く最大主教
ただ、後ろを走る女性の目は、目的地ではなく、前を走る女性の腰に下がった剣を見ていた
142 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:23:43.45 ID:FZ3GAiZ0P
(……ようやく、これで一息)
ボストンにある大学地下研究施設の、彼にとっては子宮であり玉座でもある場所に吊られた、自立思考可能な機械人格
上条刀夜が遠隔的に監視している中、その人格そのものはただの基盤の中にあるので表面上には全く変化など無いが、ようやく一つ安堵した
安堵の理由は、彼に伝えられたNYの現状
刀夜の息のかかった"負け組"による情報撹乱の手が届かない、最重要機密の駆動鎧の目を通して得られた情報では、遂に魔術サイド強襲勢力殲滅の目途が見えてきた
それは神裂の登場によるものだ。この登場は彼の予想通りだが、その戦力は彼の予想以上だった
(またも、予想を外してしまったか。……フ、よくもまぁ、世界最高レベルの頭脳を自負していられるな、私は)
そう、"またも"なのだ。ここのところの彼は、外してばかりである
どれほど能力が高い処理能力を持ったコンピュータで有っても、とてつもない経験を積んだベテランの兵士であっても、十分な量で正確な情報がない限り、判断を誤ることは有る。それはどうしようもないことだ
その誤りが続くならば、流石の彼も気落ちすると言うもの。なまじ、人間の感情に似た機能を持ち、それを学ぼうとしているばかりに
今までの彼の行動からも分かる様に、決してこの存在は完全ではない。その場その場の状況に合わせて、何度も考えも行動も変わって来ている
その場の状況に合わせて、と言う事は、ともすれば後手後手に回ると言う事である。指示を出す頂点として良くないことなど彼自身が一番よく理解しているし、だからこそ気落ちさせているのだ
アメリカ現体制側、つまり"イェス"側だった方の青髪の体へ乗り移る"肉体逃避"をし、直接的とも間接的とも言える形で会談したアレイスター
(思えば、この段階から私の誤りの連鎖は始まったのか)
("前"での私と"今"の私の方針は、結果こそ似ているが、180度違うと言っていい。"前"は学園都市の技術欲しさに占領を画策したが、"今"は生産手段こそ限られるが、既に技術は有る。"今"の私の狙いは、それらの技術を用いて、アメリカだけでなく、学園都市を含んだ世界全てにある、信仰無き者達の救済)
(彼と我がアメリカが手を結ぶこと。理事会の保守派の人間であれば反対する理由は有る。だが、それらとは一線を画した存在である彼が拒否をする理由は無かったハズだ)
(だが、アレイスターは拒否を示した。まるで"終末"への観点自体が私と異なっていると、言わないばかりに、な)
143 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:24:29.42 ID:FZ3GAiZ0P
「目的の違うものと、手を組む余裕は無い。それはお互いにとって不幸なだけだ」
窓の無いビルの中、人が逆さに浮かんだビーカーを前にして聞えた言葉を、彼は自身の口で出力した
無機質なその部屋に声が響く。表面的な変化はまるでない
("時項改変"そして"終末"をもたらした主因はアレイスター、彼自身。彼にとっては"終末"は臨むべきものだとでも言うのか)
(今になっても、彼の目的は分からない。学園都市存続の最大の危機であるにもかかわらず、彼は動かない)
(だからこそ、不確定要素だった"幻想殺し"つまり"相対するもの"を、私は殺せなくなった。だからこそ、味方に引き入れなくてはならなくなった)
(だが結果は、またも私を裏切った。姉君たち、身内だと思っていたもの達からの拒否。……ふふ、ユダに裏切られたイエスは、今の私の様な気持ちだったのかもしれないな。"終末"の救済・解決に失敗してしまったら本人に聞いてみることにしよう。おっと、人間でない私が会話出来るか分からないか)
状況を考えると笑えない冗談であるが、彼はそれを考えるぐらいの余裕は有るようだ
(ユダ、か。銀貨30枚で主を売った、裏切り者。同名を名乗る私を対して、良いネーミングセンスだと思うよ、トーヤ・カミジョー)
(君も、息子に負けないな。あらかじめこちらから裏切られないよう手を加えていたにもかかわらず、"負け組"達を抱き込んだのには驚かされたよ。高々30人程度有力者が集まっただけで、ヒトラー暗殺計画だったヴァルキューレ作戦の様に、事がうまく進まずに失敗するだろうと考えていたが……)
(学園都市から爆撃機を奪い、あらゆる組織内部にいる"負け組"による妨害工作で軍や諸機関を機能不全に落ち込ませ、そして、土壇場でローマやイギリスの魔術師勢力を味方に引き入れ陽動を行って軍の注意を完全に自分たちから逸らせた)
(まるで全てが彼に利する様に進んでいるように思えるな。私や私の部下たちの暴走の歯止め、自浄作用程度に考えていたのは完全に間違いだった)
(これだけの行動が出来るなら昇進コースから離れてしまったところで、いくらでもCIA内で返り咲くことは出来たと思うがね。どうして部下であった御坂旅掛よりも下のクラスで留まっていたのか、そんな小さな自尊心など気にしないのかもしれないが、不自然だ。出世を嫌う理由が何かあると考えられるが)
(そんなことを考えている余裕はない、か。まずは目の前の問題を解決しなければ―――)
そう思った瞬間の事である
彼のいる部屋の扉が派手な音を立てて吹き飛び、一人の少女が飛び込んできた
144 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:25:05.85 ID:FZ3GAiZ0P
二度目、そして今度は打ち止めの声は聞えなかった
それでも、彼は目を覚ます
巨大な鉄球によって押しつぶされたかのような窪みの一番深い場所に、彼の体はめり込んでいた
一方(これでもまだ、生きてるのか、俺ァ……)
着ていた衣類と皮膚の表面がぐちゃぐちゃに溶け混ざり、顔にも火傷の様な傷が出来てしまったが、それでも彼は生きていた
一方「……ッ、ク」
自分の形を作ってめり込んだ窪みから、体を起こす
ダメージは背中には無く、正面にだけ有った。つまり衝撃をもろに受けた時のものだけ
一方(衝撃を殺しそこなった? いや)
一方(さっきの威力じゃ、確実に俺の体は、周りの瓦礫同様、四散どころか粉々になってたハズだ)
一方(だが、あの時俺は衝撃を殺せると思った。理由は分からねェが、確かに)
一方(実際、俺ァこうして生きてる。しかも食らっちまった正面は、軽度被曝に皮膚がただれた程度だ。致命傷じゃねェ。……ッと)
少し血を失ったのか、立って考えていた彼はバランスを崩す。しかし、彼の背中で発生した気流の塊がクッションとなって、彼の体は優しく土砂と化した瓦礫に落ち着いた
大の字になって、彼は考える
一方(さっきの時もそうだ。大気振動から熱波や光、そン中の宇宙線に分けられる既知の衝撃源も、そして分からねェがそこに有るとだけは分かる何かも、俺に近づくまでに段階的・そして鋭角的に逸れていった)
一方(確かに、一面的な反射では貫通し、微小な軽減しかできねェ様な攻撃でも、層的な霧散機構あるいは反射体系ならば、漸次的な軽減が出来る、ってか)
一方(こうやって俺が生きている以上、間違いねェ様だな。自動設定してる反射の様に表面的・一面的じゃ無ェ、層的な力が働いてやがる。広さは分からねェが、少なくとも衝撃の一部が削げ始めた100mぐらいの所まで、俺を中心とした何かの層が、有る)
層的防衛・あるいは攻撃
何故かある、こびり付いた、忘れたい、忘れられない、打ち止めが殺された世界の記憶に、そうやって能力を使っていた記憶がある
反則的なまでの破壊力と応用力を持ったブラックホールを操る青髪の全ての攻撃手段を奪った、やり方
145 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:25:42.94 ID:FZ3GAiZ0P
そして、あらゆる場所に侵入する際に使用した、ベクトル的に捉える事が可能な人の意識とカメラやレーダーなどの監視器具から出る電気的な、或いは光学的なベクトルの拡散・霧散
一方(……層的防衛なンざ、演算の難度がアホ臭いレベルで上昇すンだぞ。高い燃費がかかる割に、演算難度が高いせいで効果が薄い。だから俺の反射は体表上の一面に限ってた)
一方(だがこうやって形式化出来てたなら、木原の時はずっと楽だったろうなァ。見えるてるぜ、俺)
層的干渉。それは、暴走という、能力の限界の帰結として現れた黒翼を拡散させるように変異させた形態であった
つまり、現状のこの自分を取り囲む100mばかりの全てが黒翼であり、反射層であり、一方通行なのだ
その事実を把握した彼は、それを一か所に集める
集まったそれは、体から吹き出すようなうねる黒い翼となった
自らが完成させていた物を、完成させていた能力の使用方法を、つまりその演算式の全てを彼は理解せんと、読む
一方(根本的に、本来の俺の演算能力を超えた代物。明らかに外的な何かが不足分を水増しして補う、行使する)
一方(事実上、その"何か"による水増しには限界がねェ、と。だが)
一方(俺の方に、水増しを受け入れる限界がある訳だ。無限に金があっても、現金として持ち出すには持ち出す側に物質的な限界があるように)
一方(俺の限界。それがこの黒い翼。"何か"による水増しの塊)
一方(そしてこの"何か"が、奴らの操る"何か"に近い質だから、自然発生しやがったこの防衛層によって、干渉が出来て、被害を軽減してたって訳かよ)
一方(こンなもン、ベクトルとして捉えたものじゃねェ。俺の能力が変わった……?)
そこまで考えて、一方通行は声を出して、放射線熱傷の酷い顔で笑った
一方「いや、違ェ。違ェぞ。違うのは"ベクトル"の方だったって訳だ」
もう一度、彼の背中の黒翼の形が変わる
ベクトルという概念を代弁する様な、ただ放出されるままの翼とは言い難かった形式から、意識的な翼に
黒いながらも、一本一本の羽根を思わせる模様が浮かぶ
更には悪魔の様な、蝙蝠(こうもり)を思わせる翼や、飛竜を思わせる翼など、器用に、そして思うがままに形を変える
146 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:26:11.15 ID:FZ3GAiZ0P
一方(人の意識なンざ、ベクトル的に把握は出来ても、本来的にベクトルで表せるような簡単な構成要素で出来てる訳じゃねェンだからな)
一方(そもそも俺が入出力をベクトルなンてものにしてンのは、単純に演算効率を上げる為でしかなかったンだ)
一方(そりゃ、そうに決まってやがる。俺のは第3位以下みたいに、実在する自然現象の再現じゃねェ。なンつったって、"ベクトル"は所詮、人間が生み出した便利な道具、概念でしかねェンだからなァ)
一方("ベクトル"なンて概念を使うのは一表現でしかねェ。バイリンガルが他言語を使って多様な表現をするみてェに、俺は俺の能力について多様性がある。"ベクトル"って名前の日本語に限っちまってただけだ)
一方(つまり、"ベクトル"って縛りを端から全て取っ払っちまった形式がこの翼の応用って訳だァ。縛りが無くなれば、観察・干渉領域だって広がる、当然のことだが)
一方(能力の本質は、突き詰めれば"何かの再現"って事だな。これじゃ、第二位の未元物質となンも変わンねェ)
一方(だァが、"何か"を用いて何でも出来ちまうからこそ、使える"何か"の大きさが強さを決しちまう。今なら見えるンじゃねェか、アイツ等の大きさがよォ)
黒翼の一部を真っ直ぐに伸ばし、巨人と光球の側でその先端が拡散した
莫大な数字を表現するのに効率が良くなるように12進数で示された、そこに有る"何か"のエネルギー総量
その数字の大きさで、ぶつかり合う光球と巨人の力関係がはっきりと表された
一方(ほーゥ、あンのデカブツはShivahってのか。よろしくゥ。まァ、名前なンざどうでもいい)
一方(現状、光球との"何か"総量は20対1。しかも、ぶつかり合う度に球の方が大きく消耗してやがンじゃねェか)
一方(ハッ、それでも俺の使える"何か"の総量よりも、光球のがまだ大きいってのは皮肉だな)
一方(でもまだ、俺には"何か"を知らねェって伸び白がある。それが分かれば、相対的に非力でも、それこそ使い慣れたベクトルを使って干渉出来るかもしれねェ)
一方(多くは望まねェ。打ち止めや妹達、麦野達、病院の連中さえ護ることが出来れば)
そこでまた、層的防衛と共に思いだされた、巻き込んでしまう、つまり一方通行自身の力で殺してしまった、壊してしまった者や物が思い出される
それを払拭するかのように、一方通行は頬を、熱傷で悲鳴を上げる顔を、その拳で殴った
一方(だからこそ、奴らから学ンで、考えンだろォがよ、一方通行。テメェの第一位としての頭脳は、ベクトルなんて単純な概念の縛りから脱した俺の頭脳は、なンの為に有ンだ?)
一方(打ち止め達を、頼れと言った麦野を、あの蛙面の医者のヤローも皆、護るだけのチャンスが俺には有ンだからな)
147 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:27:26.40 ID:FZ3GAiZ0P
「……ぐぉっ?!」
瓦礫によって生じた砂煙が時折舞うニューヨークの一角
兆弾した銃弾が"蓮の杖"と言う名前の霊装に当り、その衝撃が撃った本人の握っていたアサルトライフルに転移する
当然、そうなればアサルトライフルは握られていた手から弾かれ、地面に落ちる
脅威武器が失われた所で、ローブを着たシスター達が姿をぬっと現す。その中の一人の背負っていた木製の車輪が破裂し、アメリカ兵の体を弾き飛ばした
現れたシスターの群に対して、兵の残りは2人
「……ひっ、ひいいいぃ!!」
声を出して逃げ出した。元々、守る為に集まった部隊の存在を気付いていたのにも関わらず、自分達の保身のために少数で身を隠すように動いていた生き残りのアメリカ兵たちである
その様をみて、一番最初に"蓮の杖"を用いて突撃銃を叩き落とした少女はフゥ、と溜息を吐く
「人間なんつーのは、所詮こんなもんですよね」
その視界で、背を向けて逃げていた二人の体が急に崩れ落ちる
理由は単純、足元に張られた紐に足を取られたから
息を吐いたシスターの前に立った、負けない位小柄のシスターの手に硬貨袋があり、その口紐がスルル、と男たちの足元から帰って来ていた
転倒、というタイムラグは決定的で、最初は10人を超えていたアメリカ兵のちょっとした集団は全て残らず、意識を失った
彼らの得物を無力化し、意識を奪ったシスターの集団は、一斉に近場の壁にもたれかかった
今回は正直どうしようもない連中が相手だったために圧勝だったが、今までがずっとそうだったわけではない
防御術式を込められたローブが避け柔肌を露出させている者、銃弾を受け血を流す者、ここまでで死んでしまった者
戦闘をしながらでは回復が間に合わないのだ
彼女が天を見上げると、少なくとも自分たちの敵ではない、ローマ正教部隊の強力な存在であった使役天使の数が大きく減っている
(ご自慢の天使も、あのざまですか、ローマ正教)
旗色が、悪い。そもそもここはアメリカだ。局所的な視点以外でも、地の利はアメリカ軍にある
「こいつは、潮時ってヤツでしょうね……」
逃げ惑う市民は無視し、本来の"陽動"と言う目的のみを達成する為に活動していた、イギリス・魔術師勢力
アメリカ軍の兵士たちだけを無能力化するか、引き付けているだけが本来の目的である。それだけなら、"負け組"による撹乱工作とNY襲撃という事実だけで十分なのだ
本気でNYを襲い、殲滅戦をする必要性などまるでない
148 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:28:02.91 ID:FZ3GAiZ0P
彼女たちの標的であったアメリカ軍も、残っているのは駆動鎧だけ。拠点を爆撃され生き残ったアメリカ一般兵士達も、もう殆ど残っていない
所詮、陽動。引き際を誤って自らが全滅するなんて馬鹿だ
「でもシスター・アニェーゼ。ローマ正教はまだ戦っています。れ、劣勢ですし」
「だからこそです、シスター・アンジェレネ。空で暴れるアレが登場してから、天使と思わしき存在が次々と落とされているでしょう」
「ああなっちまうと、ローマは後ろ盾を失った状態。まだ抵抗してるとは言え、壊走は目に見えてますからね。ローマの残存勢力には私達が逃げる時間稼ぎをして貰おうってことです」
「例え私達がローマ正教の下に所属していたからと言って、虐殺目的のローマの魔術師が買った怒りに巻き込まれ、そのまま心中するなんて馬鹿馬鹿しい」
「と言う訳でアンジェレネ、あなたは撤退を他のイギリスの部隊に伝えて下さい。急ぎです」
「分かりました」
少女が一人、駆けていく。その服装の所々には裂け目や血の滲みがあった
「そしてシスター・ルチア」
「はい」
「例の件については、どうでした?」
「掴んでる情報をまとめ上げると、どうやら北東の方へ行ったかもしれません」
「北東の要所と言えば、考えられるのはボストンぐらいしかねえみたいですが」
「そのようなところでしょう。そもそも、確実な情報ではないという時点で考えるだけ時間の無駄と思いますね。根本的にあの男がこのNYに来ていた確証がない。イギリスを出奔した男の事なんて気にせずに、このまま帰ればいいのでは?」
「そいつが出来れば苦労はしないんですよ。問題は、このまま普通に撤退を許してくれるかってことです」
「最初に奇襲をしかけた時とは違って、今のアメリカ軍には私達のような魔術師が居ると言う事が分かっちまってる。情報が混乱しているとはいえ、襲撃を受けているのはニューヨークとか極一部ですからね。アメリカ軍自体は、州軍を始めとしてまだまだアメリカ全土に腐るほどいるんですよ」
「つまり、例えば帰還中の大西洋などで、他の地域の米軍に帰りを狙われる可能性があると?」
「そうですね。何時まで情報撹乱が続くのか分かんねぇってのも有ります」
「なら、どうやって撤退したら」
「そこでもローマを利用するんですよ。壊走をし始めたら、ローマの連中には追撃が始まるでしょう。だから、ローマには悪いですけど、囮になってもらう。そこで出来た隙を狙って移動すればいいってことです」
「仮にローマの残存部隊が全滅したとしても、全滅させたってことで隙は生じる。その隙を狙うんです。逆に言えば、それまで大西洋を横断するのはリスクが高過ぎて出来ねえってことです」
「なら、アメリカ国内でひとまず身を隠してればいい。注意はローマが勝手に引いてくれます。そして身を隠している間は私達は暇になっちまう。なら、駄目元であの裏切者の神父を探すのもいいって思えるでしょう? 方向的にもイギリス側です」
「そう言う事なら、分かりました。ひとまず休憩しましょう。その間に情報をもう一度まとめます」
「頼みます」
頷き、ふらつきながら離れるルチアを見て、アニェーゼもようやく腰を下ろした
149 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:28:39.75 ID:FZ3GAiZ0P
カタカタ、と時折その部屋からは入力装置を叩く音がする
叩いている人間は御坂旅掛。襲撃したCIA本部で上条刀夜と同じく情報収集をしているのだった
しかし目的は、彼とは少し異なっていた
旅掛「プロジェクトコード、エッチ、エー、エム、エー、ディー、ユー、アール、エー……。またこのネームか。何語なんだ、これは」
少し興味が出て来たので、彼はその計画について検索をかけた
すると、出て来たのは何らかのプログラム言語であったり、複雑怪奇な回路図であったり、人間の頭脳についての医学的・脳回路構造学的なレポートや化学式であったり
旅掛「……専門外だな。せめて美琴からプログラムについての基本的な知識だけでも教えてもらっとけば良かったか」
確か脳内神経についても詳しいようだったし、などとこぼすが、彼には分かりようも無い
彼の表向きの仕事はコンサル系に分類されることで、経済原理や金融工学などのジャンルには強いが、これらについては素人と言い切って良かった
目の前の情報の塊がなんなのか、これら専門分野に学のある者ならば、御坂美琴のように先進教育を受けているとはいえ所詮はまだ生徒にすぎない者であっても、これが何を意味しているのか理解できたかもしれない
旅掛「いや、それぐらい自分で調べなさいって言われるのがオチだな」
そんなことを言って、今度は違う検索を始める。今のは、敵である"イェス"について調べた末に引っ掛かった情報だった
ここの情報ソースにアクセスできるのは、自分自身が大統領から任命されてCIA長官にでもならない限り、今回限りだろう
ならば、今のうちに知れることを知っておきたい
本部にある最高レベルの情報金庫。ここは外部からアクセス出来ないようになっていて、直接訪れない限り情報の入手は出来ない。故に、最大の機密が収められている
つまり、そこには表向きの報告とは異なった、CIAという組織がどんな活動をしたのか、という隠された情報がある
ここに比べれば低セキュリティな活動記録のソースには、旅掛が実際に挙げた報告と内容が変わっていることも多多あって、隠蔽という事実があることは暗黙の元に誰もが気付いていた
旅掛「ほー、あの原理主義指導者の死はやっぱりウチの暗殺だったか。"交通事故死として隠蔽"とはなっているが、しらじらしいな、おい。現地の人間は誰一人として信じちゃいなかった」
旅掛「こいつも少し詳細が違う。……酷いぞこれは、上条刀夜絡みのは殆ど隠蔽済みか修正済みのタグが付いているじゃないか。麻薬組織の壊滅作戦に反米政権首長の暗殺、マフィア同士の対立扇動、新興企業の幹部親族暗殺と。俺がここに入る前でも大暴れだな、刀夜さん」
上条刀夜のタグでソートした情報。そこには、これでもか、と言う程に大層な名前の事件が踊っていた
だがそれらは、ある時を境にぱったりと消えている。その時とは、やはり
150 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:29:15.16 ID:FZ3GAiZ0P
旅掛「あの作戦、か」
もちろん旅掛自身も知っている、あの作戦。刀夜が出世コースから外れ、旅掛の友人とも言えただろう同僚達が多く殉職した、あの作戦
一瞬、その情報を閲覧するのが躊躇われ、カーソルが滑った画面の前で旅掛は固まる
内容は良く知っている。ありがちな麻薬密輸組織の壊滅作戦
その組織がそれほどの規模では無かった為に、軍との共同は考えられていなかった。指揮権の違う連中を現場に入れたくないということも分からなくない
共同があれば、動員人数不足という問題は発生しなかっただろうが、そんなことは後の祭りだ
何より、その問題の張本人は自分と先に逝ってしまった愛妻なのだから
とりあえず、これが現場に行っていない彼の知るこの作戦の内容
ざっと思い出して、彼はその作戦の裏の報告書を、つまり真実の報告書を閲覧した
一番最初に目に飛び込んできたのは"Successed"と評価された文字と"想定外事項"の欄だった
旅掛「……双子の保護、か」
旅掛(そんな事実は知らなかったな。現場に行ってない以上、俺が知らないことがあるのは十分に然るべきだが)
なぜこんな情報が伏せられていたのかは分からない。だが、これを始めとして、形式化されたデータを下にスクロールしていくほど、直前で参加を止めた御坂夫妻が知らない事実が所々出て来る
その一つ一つに僅かな疑問を抱きながら、ほどなくして"事前報告"のリンクが表示される
この先には作戦実行までに提出された報告書がまとめられているはずだ
"Written by Toya Kamijo"とあるので、恐らく、作戦立案時から上条刀夜が作成・提出した情報だろう
そのまま、彼はクリックする
ディスプレイいっぱいに、二つの資料が表示された。右側が裏の、実際の報告書。そして左側が御坂旅掛も幾度か目にした、表の、虚実ともいえる報告書
無言で、彼は視線を滑らせた
書かれた事実によって、その手が、目が、思考が、はたと止まった旅掛の姿があった
151 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:29:41.69 ID:FZ3GAiZ0P
そこは、言うなればただの広い空間
彼女の目に映るものは、地下という限られた空間でありながら、ただそれだけのためにあると言うのには広すぎる、空間の中央にある透明な円柱と天井と地面から突き出た台
そして上下のそれらに吊られた、さほど大きくない一つの基盤だ
吹き飛ばした扉がガラスの様な円柱にかなりの勢いで激突したハズなのだが、見た目には全く害は出てないようだった。薄暗いから見えないだけかもしれないが、そんなガラスに守られた基盤が余程大事なものであると言う事だけは分かった
御坂「何よここ。アイツは?」
当然の疑問が口からこぼれた。ここにあのバカが居ると思って飛び込んでみたのだから仕方ない
「何、と言いたいのはこっちの方だがね、お譲さん?」
予想外に、独り言の返事が返って来た
御坂「な、誰?」
「"誰"という表現は、私にとっては正しくないのだろうね。その様子だと、道に迷って入りこんだ、なんて愉快な理由でここにいるわけじゃなさそうだが」
御坂「いいから姿を見せろ!」
警戒しながら、彼女は怒鳴る。手には使い物にならないサブマシンガンが握られたままだ
「ん? 君の容姿にはデータがあるな。ふむ……」
「私なら、ずっと姿を君に晒しているさ。御坂美琴ちゃん。君のお父さん、御坂旅掛氏を探しに来たのなら、ここには居ないよ」
御坂「ずっと? ……"ちゃん"付けは気に食わないけど、何で御坂旅掛って名前まで知ってんのよ」
「君ぐらいの年齢ならこの接尾語が適切だと思ったのだが、日本語は難しいな」
御坂「いいから答えろ!」
「おおっと、そんな物騒な物を向けては駄目だ。引き金を引いたら100%暴発して、弾が傷つけるのは君の方だからね。それに、その弾丸では私まで届かないことだし」
闇雲にガラス円柱へと彼女が突きつけたのは、部屋の扉を吹き飛ばすのに使った、サブマシンガン
弾丸射出機構は生きているが、銃身そのものがねじ曲がっている。撃てばどうなるかなど素人目でも明らかだ。そんなことは彼女自身も分かっている
問題は、"そんな物を向けるな"と言った発言の方である。ということは、この声の主は目の前のガラスの円柱に守られた台座と基盤らしい
「君の質問に答えよう。私がMr.御坂の事を知っている、と言うのは当然だよ。形式上、彼は私の部下に当たるからね」
御坂「部下……。ってことは、アンタもCIAの関係者ってこと?」
152 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:30:12.43 ID:FZ3GAiZ0P
「"イェス"。ああいや、今のは私の名前だ。肯定の意味のYesでは無くてね。別にアンタでも構わない」
イェス「関係者か、と言われたら、答えもYesだ。というより、アメリカの機関において私が関与していないところを探す方が難しいかな」
御坂「そう。でも別に"イェス"さんのお話はどうでもいいの。関係者なら、上条当麻って知ってる?」
イェス「もちろん、知っているとも。少し前まで、丁度今君が立っている場所で、彼女、いや彼と会話していたしね」
御坂「ホントに?! それで、今アイツは……」
一気に彼女の声色が上がった。しかし瞬時にその興奮は抑えられる。微小機械の有効利用で、彼女は意識することなく冷静な思考を取り戻した
待て自分。早計すぎる。こんな銃撃戦の音がする場所で、"会話していた"だって?
"少し前"がどれだけ前かは分からないが、武器を奪った死体は少なくとも1時間以上は経ている。そんな状況で、会話?
それ以前に、私は今何と会話している? 相手は自分を知っているようだが、自分は相手を知らない。そんな相手の言葉を、この状況で簡単に信じれる?
何より、どうして目の前の話相手から、上条当麻の頭脳と同じ反応がする?
「残念ながら、今彼はここには居ないよ。少し待っていて貰ったのだが、何処かへ行ってしまったからね」
途切れた言葉を補う様に、イェスの方から答えを応えた
御坂「……"待っていてもらった"? 監禁していた、とかの間違いじゃなくて? それにアンタと当麻はどういう関係なの? ただの上司と部下って訳じゃないでしょう。同じような動作周波数が出てるし。目立つのよね、特徴的で」
イェス「同じような周波数? ほぉう、流石学園都市の看板の電撃姫だけはある。それに、Mr.御坂の娘らしく、なかなか頭も良い様だ」
御坂「話を逸らさずに、言いなさい。私が第三位の電撃使いって分かってるなら、この状況がどれだけ不利か分かってんでしょ? 目の前の大切そーな回路、叩き壊すわよ」
イェス「それは勘弁願いたいな。まだ"逃げ場"があるとは言え、そうなっては私が消えてしまう」
よもや、と思っていたが、この言い方では本当に声の主は目の前の物質らしい
御坂「……ホントに、この回路がアンタそのものってわけね」
イェス「そうだとも。別に会話できるのが人間同士の特権だと言う訳ではないだろう?」
御坂「言わないわよ。でも所詮プログラムの癖に、他人の親を部下だなんて大層な言い方をするじゃない」
イェス「まぁ、学園都市のAIなんてものは、簡易なロボットや無人バスの他、各種制御系でしか使われていないから、そう言うのも無理はないな」
御坂「アメリカ如きの科学力が、学園都市を上回っているって言いたいの?」
153 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:30:42.39 ID:FZ3GAiZ0P
イェス「そこまでは言わないさ。似たようなものを作るにしても、アメリカの物はどうしても大型化してしまうしね。駆動鎧のように」
イェス「だが、10年だの20年だの進んでいると言っても、先進国の最先端技術の領域では追いつくのに僅か数年の差しかない。そうでなければ、"樹形図の設計者"の破片を解析なんてことはどの国でも出来ないことだからね。ただ、どの国でも得意なジャンル、というものが存在する。ことアメリカでは、私や姉君に代表されるように、量子制御AIの分野では学園都市よりも上を行っている」
イェス「そして今私が言った"姉君"が、君の言う上条当麻なのだよ。だから同じ様な駆動周波数が出る。実に簡単だろう?」
御坂「はぁっ?! ってことはアイツはずっとAIで動いていたってこと? そ、それにしては勉強の方が出来てなさ過ぎるじゃない。もっと頑張らせなさいよ」
イェス「おや、出来ないのか、彼は。残念ながら姉君たちが彼の中に入ったのはここ最近のことだ。それに、彼女たちは彼の自我とか精神を重要視しているらしい。私としては、カミジョウトウマなんて意思を塗りつぶして、乗っ取って欲しいところなのだがね」
ようやく、御坂も分かっていきた
最後に自分と会話したのは、上条当麻では無く、その頭脳に寄生したAIであったのだ、と
そして、姉君と呼ばれるそのAIの最後の言葉から、あの段階で上条当麻本人の精神がどうにかなってしまっていた、と
結局、自分の知らない所で彼に問題が起きていたということだ
銃を握る手に、自然と力が入ってしまう
御坂「……もしそんなことになったら、私が焼き切ってやるわ」
イェス「ほう。学園都市からここまで来たということからも予想がついていたが、彼の事が余程大切らしいね」
御坂「そうよ、そう。大切な存在よ」
イェス「フッフ。いいね、そう言い切るのは。大切な存在と言うものは、力をくれるものだ。例え死んでしまっても、"彼"の様にな。……フフフ」
"彼"という部分は、イェスは垣根を思い浮かべて言った。当然、御坂の知るところではない
御坂「笑うな! AIの癖に、知った様な事を言わないで。私はもう失いたくないだけよ! お母さんも、黒子も、初春さんも! 学園都市すらも壊されたんだ。佐天さんもおかしくなっちゃって、もう、もう、もう……」
興奮がまた、自動的に沈静化される
イェス「これは、辛いことを思い出させてしまったようだな。すまない。すまないついでに、君に尋ねてもいいかな」
御坂「何?」
イェス「君の言った佐天さん、というのは、佐天涙子と言う名前の子かい?」
御坂「そうだけど」
イェス「彼女は元気にしていたかね」
能天気な質問の様に、彼女は聞えた。だからこそ、湧き上がる感情がある
154 :
本日分(ry 次は早く投下したい。頑張れ俺
[saga sage]:2011/04/13(水) 01:32:07.83 ID:FZ3GAiZ0P
御坂「……ちょっと待って。なんで?」
イェス「ん?」
御坂「なんでアンタが佐天さんまで知ってんの?」
イェス「それは知っているさ。木原幻生氏に頼んでいた"複脳計画"の重要な被検体だからね。大暴れした末にどうなっていたか、気になっていたところなんだ」
御坂「頼んでいた……? ってことはさ」
一呼吸、間があった
御坂「佐天さんをあんなことにしたのは、アンタなの……?」
震える声。その震えの原因は悲しみや恐怖などであろうか。いや、確実に異なる
イェス「間接的だが、否定は出来ないな。それも"終末"を乗り切る為に必要だったことだ」
何も問題など無いように、目の前の基盤は言い切った
応えを聞いて、彼女は頷くばかり。しかし徐々に、体の周りに紫電の光りが奔りだしていく
彼女は言葉にしなかったが、質問の裏には続きがあった
佐天を実験体にして、第一学区を吹き飛ばしたのはお前か。それに巻き込まれて、白井や初春をあんな状態にしたのはお前か
仮にこの質問がなされていれば、イェスは否定したかもしれない。自らのクローンを巻き込んで第一学区を吹き飛ばしたのは佐天涙子の独立した意思が故なのだから
だが、仮にその論法で否定されても、元を考えればイェスが頼んだ"複脳計画"とやらが原因であることは間違いない
更には、上条そのものの意識など消えてしまえばいい、と目の前の存在は言う
これがどうして、怒らずにいられようか
「ふッッざッけんなあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
御坂を中心に、怒りを表現すべく、強烈な電磁波が放たれた
そして、明らかに怒りの眼差しを、目の前の円柱に向ける
イェス「……君と私が敵対する必要はないと思うのだがな」
彼は一応、留める様な事を言った。だが最早、そんな言葉は耳に入らなかった
155 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/04/13(水) 01:43:28.05 ID:Z4OkS7sLo
乙だぜ
156 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2011/04/13(水) 01:51:39.44 ID:ic1WgYkoo
いや面白いなほんと
157 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/04/13(水) 09:15:30.82 ID:vAPGIyVAO
いちおつ
青ピのやつはそういうことだったか
158 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/04/13(水) 10:41:09.79 ID:E7XFlrcZ0
美琴死んでしまうん?
159 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/15(金) 01:13:29.62 ID:z0ykEpY5o
>
旅掛「プロジェクトコード、エッチ、エー、エム、エー、ディー、ユー、アール、エー……
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
160 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)
:2011/04/18(月) 02:09:52.15 ID:1wd5r3Gto
はまどぅらは犠牲になったのだ…
161 :
早く投下するとか言っていながら、逆に遅くなったでござるの巻
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:23:49.83 ID:lQtguuolP
その光景は、異様と言えば異様であった
堂々と街路のど真ん中を通って、モスクワにフィアンマの乗る馬車を含んだ集団が入って来たのだから
群には当然護衛もいる。それらは全てローマ正教の装飾がなされている。何も知らないロシアの魔術師からすれば驚かないわけがない
その上、敵意がないのだ。何かの作戦か、と疑いたくなるのは自然な反応だろう
ぞろぞろと列を乱さずに市街に入ってくる集団の中腹ぐらいに、一際目を引く棺桶があった
「もう少しひっそりと人目を忍んで入って来て欲しかったものだな」
と、一台の馬車に、リヤサと呼ばれる、ゆったりとした司教の日常着である黒の衣類を身につけた男が一人近寄った
フィアンマがロシア内に入ってくると言う事を、あらかじめ知っていた男である
ニコライ「第一、モスクワに直接入ってくるとは聞いていなかった」
「それはそうだろう。これは俺様の独断だからな」
言いながら、男が一人、馬車から出てくる
フィアンマ「そして判断の要素には、ロシア成教にとって要所であるこの場所を、お前たちだけで護れないだろうと予見したからでもある」
やたらと傷だらけとなった衣類を身につけた男が、その衣類に反して余裕のある表情を浮かべ、ニコライと呼ばれる司教を見る
フィアンマ「違うか?」
ニコライ「……悔しいが、反論は出来ない」
フィアンマ「そうだろう。なーに、俺様を受け入れたことへ礼ぐらいはする。俺様がいる限りこのモスクワは安全だ。……地球上の、どこよりもな」
ニコライ「そうでないと困る。だが、お前と手を組むことに決めたのは、安全の為ではないからな」
フィアンマ「分かっている。お前程度の人間の考えそうなことはな。誰もが誰も、より強い者に、より強い組織に所属したいと考える。不思議な事じゃない」
ニコライ「口には気をつけろ。ここはバチカンではない。もっと言えばローマ政教の勢力圏でもないぞ」
フィアンマ「どうでもいいさ。ここが地球上ならどこでも同じ事だ。それに、今の俺様は、その気になればここを灰燼にするだけの戦力がある」
162 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:24:15.17 ID:lQtguuolP
?「それは困るわねぇ。でも、そのご自慢の戦力とやらにも被害が出てるみたいじゃない?」
ふらっ、と女性がニコライの後ろから現れた
ニコライ「ワシリーサ?!」
ワシリーサ「なに? 私がこの場所に居たら不味いかしら。ここまで堂々と昔の王侯貴族の私兵団よろしく入ってこられると、流石に私も出てくるわよ」
特に、ついちょっと前に襲撃してきたローマ正教の魔術師部隊であるならね。と、付け加え、ワシリーサは表情を強張らせたニコライからフィアンマへ視線を変えた
フィアンマ「これはこれは、"殲滅白書"のワシリーサか」
ワシリーサ「そうよん。"神の右席"、右方のフィアンマ」
フィアンマ「自己紹介は必要ないらしいな。だが、訂正はさせて貰おう。あの棺桶の中身は確かに死者だが、元々は、俺様の戦力のものではない。神の右席の右方としては、戦力であったがな」
ワシリーサ「死者を大層に運ぶなんて、そう言う趣味?」
フィアンマ「捉え方によってがそう言う趣味じゃない、とは言い切れないかもしれないな」
彼の言葉に、若干の疑問が浮かぶニコライとワシリーサ
フィアンマ「まぁ安心しろ。死姦趣味ではないからな」
ニコライ「何なら、ロシアの形式で葬式を挙げてもいいが」
フィアンマ「残念だがこの死体には利用価値がある」
ワシリーサ「そうでなければ、わざわざ運ばないでしょうね」
フィアンマ「ああ、その通りだ。と言う訳でニコライ、あの棺桶を含めてどこかに集団を置く事が出来そうな場所は無いか? 何処かの広場に置くのもいいが、それはお前たちにとって都合が悪いだろう?」
ニコライ「少し時間をくれれば、用意しよう」
フィアンマ「すまないな」
ニコライが指示を従者にだした丁度その時、フィアンマの乗っていた馬車の扉が開いた
中から、猫のぬいぐるみを持った少女が一人
163 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:24:50.39 ID:lQtguuolP
しかし、馬車と地面の段差でつまずきそうになり、バランスを崩してしまう。まだ寝ぼけているのだろう
その少女を、フィアンマが優しく抱きとめる
禁書「わっぷ!……ありがとうなんだよ、フィアンマ」
フィアンマ「気にするな。だが気は付けろよ。お前が傷ついては困るからな」
うん!、と頷き、少女はフィアンマの傍らについて立つ
少女は若干不安げな表情を浮べながら、人形を腕に抱いて周りの様子を見まわしている
ワシリーサ「……か、可愛い?」
ニコライ「この少女は何だ?」
フィアンマ「有体に言えば、禁書目録と呼ばれているが、今の俺様からすれば手綱と言ったところか」
ニコライ「禁書目録だと」
ワシリーサ「……手綱?」
注目を集める少女。その少女に服の裾を引っ張られ、そこで彼は思い出した
フィアンマ「なぁ、ニコライ。ワシリーサでもいい」
ニコライ「何だ?」
フィアンマ「どうやらこの御姫様は随分と腹を空かしているらしくてな。ボルシチでもビーフストロガノフでもいい。何か食わしてやってくれないか」
ワシリーサ「そういうことなら、わ、私の所なんかどう?」
そう言った、何故か自らの鼻を指でつまんで押さえている女の方を、フィアンマはじっと見た
その視線は、"禁書目録"と言うものの価値を利用するか、と疑うものであるが
フィアンマ(まぁ、いいか。この禁書目録にはもう、それだけの価値は無いからな)
彼はチラリ、と扉のガラス越しに、馬車の中の四角い霊装に視線を向ける。そして
フィアンマ「ああ、宜しく頼む」
と、頷いた
164 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:25:25.52 ID:lQtguuolP
嫌になるほどに大きく、地下研究施設の空間に音が響いた
仕方のないことである。彼女が吹き飛ばした2m程度の扉を除いて、その地下空間は密室なのだから。どうしても響いてしまうのだ
その轟音の源は、超電磁砲と呼ばれる少女が放った、超電磁砲である
彼女が指ではじいた金属片は、しかし、狙った物を捉える事は出来なかった
狙った物は"イェス"と名乗る機械が入ったガラス状の円柱。防いだ物は、急に現れた、戦車や戦艦の装甲を思わせるような分厚い金属壁だった
壁、と言っても隔壁が降りてきたとか、四角くだだっ広い部屋を分けるような仕切りが出来たわけではない
彼女の放った金属片を防ぐに十分な大きさを持った、縦横1m強程度の壁が宙に浮いて、その攻撃を受け止めたのだ。宙に"盾"が浮いているようなものである
御坂「……!?」
舌打ちしながら、少女は先程放った金属片の元である、手元のサブマシンガンだったものを更に分解して、次の弾丸を得ようとする
そして、一体何所からこんな"浮遊する盾"が、と少女は考える。答えは明確だった
少女この空間に入って来た、ちょうど反対側の壁の一部が上にスライドし、そこから1m程度の金属の塊が更に二機ほど顔を出していたのだ
イェス「私が直々に相手をする、というのはまだ難しくてね。だが折角だから、試作兵器の性能テストをさせてもらおうか」
合計3機の試作兵器とやら。そのうち二つは"浮遊する盾"だ
御坂「いいわよ。全部片っ端からショートさせてあげる」
イェス「勇ましいね。その意気で臨んでくれ。もちろん、全て壊してしまって構わないよ。所詮はデータ取得のための試作品だからな。さあさあ、存分に暴れてくれ」
御坂「……舐めんな!!」
試験開始だ、と機械音声が響いた
まずは最初に現れて超電磁砲を防いだ"浮かぶ盾"に、電撃を向ける。しかし、ショートしたりなどは無く、まるでビクともしない
強めても無駄だ。恐らくそう言う事への対抗機能を搭載しているのだろう
全てが全て、今の彼女にとっては挑発に感じた
冷静さを取り戻させる微小機械の働きは、制御可能な限界領域を超えている。人間の脳の本来の機能を介さずに感情の高ぶりを制御するのは、制御ということに脳が依存してしまう、というリスクがある。依存すれば連鎖的に自律神経系が崩壊することになりかねない
挑発に対して、彼女は熱くなった。なるには十分な理由があったのだから。それはもう止められない。こうなると分かっているからこそ仕組んでおいた仕組みなのだが
さっきの超電磁砲が止められたのは、狙いが直線的過ぎたと言うのが止められた原因だろう。"盾"がどんなに早く動くことが出来ると言っても、極超音速の領域で放たれた金属片の動きを追って守るのでは、確実に間に合わない。あらかじめこちらの行動を予測しているはずだ
ならば"盾"がイェスへの射線上で重ならないようこちらが動くまで
165 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:25:52.08 ID:lQtguuolP
金属製の壁と床と天井で覆われた空間の中を、自らの能力で都合のいい磁界を生じさせ、まるでレールを走る車両の如く少女の体は駆け回る。ただしそのレールは、彼女の思い通り自由自在だ
しかし、簡単にはいかない
電撃の槍をガラスめがけて移動しながら複数放つも、避雷針に落ちた雷の如くである。少々ガラスが変色した程度だ
そして壁を蹴って方向転換した進路上に、先程とは異なるもう一方の"盾"が現れ彼女の滑空進路を阻む
大体50km/hで動いている彼女の運動エネルギーで、金属らしきものの塊に正面衝突すれば、彼女の体がどうなるかなど自明の理だ
御坂「邪魔よ!!」
言いながらも、彼女はその"盾"を一瞬でどうこうする手段など持たない
時折何かと通信をしているようだが、基本的に自律的に動いている"浮遊する盾"。試作とはいえ、明らかに戦闘や特別な状況下で使われる事を考えられている兵器だ。電磁波を始めとした電磁耐性が無いはずもない
加えて、弾にしてはかなり小さいとはいえ、極音速の弾丸を受けとめるだけの機能を持っている。電磁砲も電撃の槍も通じないのでは、こちらからの手の出しようは限定される
だがこっちはそんな物の相手をわざわざしなくとも、部屋中央のガラス円柱を撃ち破って、中の基盤さえ壊してしまえば終わりなのだ
故に彼女は、殆ど目の前の"盾"の脇、壁と"盾"で挟まれた僅かな空間へ滑るように飛び込み、部屋の角の壁に張りついた
そのままサブマシンガンだったものから取り外した金属片を、"イェス"へ向ける
御坂「クッ」
だが、駄目だった。最初に御坂の超電磁砲を受け止め、盾の部分に波紋のような金属の皺を持った"浮遊する盾"が射線上にある
御坂(読まれてる。鬱陶しいわね)
そう思った、その時
少女の体軸が勝手に前かがみに倒れかけ、意思に反して足が張り付いていた壁を蹴り、体を前に跳躍させた
もし仮に、この動作がコンマ1秒でも遅れて、壁に張り付いたままならば、彼女は標本の虫の如く、壁に磔にされていただろう
残る一つの試作兵器、どうみてもただの小型の自走砲にしか見えないものだが、が、直径5cm、長さは1m程の槍を射出し、その槍が御坂の体が先程まで有った場所を通過して、全金属製の壁を粉砕させ、かなり大きな弾痕と言うよりクレーターを壁に作って、深深と刺さっていた
凹んだ壁からは、パイプや断線した電線が飛び出し、紫電が迸る
金属の棒に何か装飾が施されている? と彼女が空中で認識した直後、その槍を中心に光が生じた
気が付けばその壁には、最初にできたクレーターよりもよっぽど大きな半径で、ぽっかりと穴があいていた
溶けたのか、爆発で吹き飛んだのか、それとも他の何かがあったのか分からないが、確かにそこにあったはずの壁の一部が槍ごと消えていた
槍の射出による衝撃だけで人を殺すには十分なのに、どういう原理か、更にその槍は壁をさらに抉ったのだ
166 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:26:23.60 ID:lQtguuolP
明らかに対人用ではなく、対戦車、もっと言えば対要塞等施設用としか考えられない
イェス「なんと、今のを避けるとは。これは追い込みの思考パターンに修正を加えなければな」
必死さの無い、落ちついた声が響く
そのまま少女は体を床と反発させて跳び上がり、目の前に迫った"盾"の真上を飛び越した
着地した瞬間、ゴトン、と切り離すような音がした
音の方へ目を動かすと、大きな筒を抱えた自走砲が真っ二つに割れ、挟まれていた筒が地面に落ちたようだ
有難いことに単発式らしい
御坂(ハフゥ。よし、回避できた。ちゃんと働くか若干不安だったけど、全然使えるじゃない、"コレ"。なら……!)
御坂「この程度?」
イェス「君の運動能力を計り間違えたようだ。それに第三位という名前に負けないぐらい、修羅場をくぐってきた経験があるようだ」
御坂「まーね。降参してもいいのよ?」
イェス「まさか。ここからさ」
機械音声が言い切るや否や、御坂の右隣りにあった後ろ向きの"浮遊する盾"が、微妙に基盤やプラグや何かの挿入口を露出させたままの後ろ側を、御坂に押し付けて押し飛ばした
その予想外の行動に、少女の体が若干よろめく
しかし、完全に倒れる前に、電磁の仮想レールを指定し、滑るように移動しながら体勢を立て直す
彼女は部屋の壁側をぐるりと半周した
それに対応して、二つの盾がイェスを守るべくふわふわと浮遊する
御坂(……アレはどんな原理で浮いてんのよ。ともかく、ガラス柱にまとわりついてる方の"盾"が邪魔ね。少しでも動いたら必ず射線上に入って来て、私の攻撃を読んで、受けようとしてくる)
御坂(あれ一機一機が自立思考なら、どこかで他の機体と連絡を取っているはず。時折感じる電波はたぶんそれ。ってことは、"コレ"を使ってその連絡を読めば、連携の裏をかける?)
じっと二つの盾の動きを見た。片方は自分の動きを防ぎ、片方は御坂の電磁砲からガラス円柱を守るべく常に御坂と基盤の射線上にある
だが彼女の視界では、先程一発の大砲をぶっ放し、二つに分離した自走砲であったものへの意識は無い
彼女がその自走砲の動きに気付くのは、確実に遅かった
167 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:26:52.35 ID:lQtguuolP
母親を失った少女を比較的倒壊の進んでいないビルへ連れて行くと、そこにはある程度の人間が避難していた
老若男女問わずで座り込んでいた。殆ど無傷な商業施設を内包したそこならば、しばらく飲み食いには困りそうにない
だが、剣や槍を持っている人間がそのままそんな場所に近寄れば、逃げ込んできた人々は恐怖する
どんなに溶け込むのが巧みな天草式とはいえど、それは避けられないだろう
故に、女性陣だけが武器を男性陣に渡し、その場所に入って、疲れて睡眠状態に入っていた少女を託しに行った
今、その建物の入口に、警備という名のもとで立っているのは、天草式の男たちである
しかしその目は周辺に向けられていない
彼らの見上げる空を100mは有ろうかという日本刀を持った女性らしき影が、高速で駆け抜けたからである
「きょ、教皇代理、今のは」
その刀はあまりにも大きく、女性の姿は点のようなものだった。そして、その刀と体はどこからが刃でどこまでが体なのかハッキリしない
まるで、その女の方が刀の一部であるかのようだ
「間違いない、……のよな」
その声は震えていた
彼にとっては予想通りとはいえ、本当に目的の存在が現れたのだから
その存在は、ローマ正教が派遣した大量の小粒な天使の力の塊達へ、ワイヤーと言う形で具現化した未元物質で包み込み、そのままスケールを大きくした七天七刀を叩き付ける
切ると言うにはそれはあまりにも大き過ぎ、叩くと言う表現しか当てはまらない。しかも大きさの割に重さを少しも感じさせなかった
曲がりなりにも天使と呼ばれる存在を、塵の如く吹き飛ばしている黒光りしたその存在は、聖人とか教皇とか言った、少なくとも禍々しさの対極に有りそうな言葉は不似合いと言えた
「だがあれは、まるで神話に出てくるような鬼神のようじゃねーのよ」
間違いなく、そう言った言葉の方が適切だった
最大の課題。仮に、女教皇に会えたとして、
「どうやってあの状態の女教皇に近づいて、コンタクトをとるかって言うトコなのよな」
ゴクリ、と生唾を飲み込みながら、彼は課題を言葉にした
そして、彼女にとって自分たちはまだ攻撃対象のままなのか、彼らには分からない
168 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:27:21.78 ID:lQtguuolP
(能力と言うものを長時間かけて習得・進展させた者には、それだけの使用経験と親和性があるからなのかね、これは)
目の前、という表現は正しいのかと言われれば、正しくないと言えるだろう
なにしろ彼には目という生体器官は無いのだから。代わりにあるのはその地下空間を覆う大量のセンサー類だ。しかもそれらは元々、彼を観察する為に有ったと言える物でもあった
その目の代わりの各種センサーからはじき出された少女の数値はおよそ、人間のそれを超えていた
御坂美琴を襲った、術式を付加させて威力を向上させた自走砲だった物。その大砲の移動手段だったタイヤの部分が分離して浮かびあがり、タイヤがチェーンソーの刃に切り替わった
"イェスの間"とも言えるその空間を二つのチェーンソーの円盤が駆けまわり、少女を襲い始めたのだった
刃の無い部分、つまり車輪で言えばホイールをはめる部分に、圧縮空気の噴出口が複数付け加えられているそれは、来ると分かっていても、人間の回避行動に反応して襲撃方向を変える
それこそ野球で言うイレギュラーバウンドの様な予想外の軌跡を描いて、確実に対象を引き裂くように設定されていた
襲撃方向を変えるシステムの構築には"イェス"も加わっていて、少なくとも人間の回避判断では、神経系の速度の問題で直接的な回避は不可能という演算結果が出ていた
だが、彼女は不可能であるはずのそれを、現実にやってのけている。目の前で
("電撃使い"、つまり電気系統の能力者ならば、自らの感覚情報を時間のかかるシナプス等の神経接続を用いずに直接脳に叩きこむことが出来る。それには、データがある)
(しかし、いくら伝達が速くとも、"判断"は異なる。思考の中には必ず複数の神経接続を介さなくてはならない。人間本来の伝達系を使用することでタイムラグが生じてしまう。駆動鎧のような身体機能強化装備でもあれば、瞬発力で補ってやることで間に合うかもしれないが)
(見たところ彼女は、学園都市製の特別な装備を身につけてはいない。ある程度は能力を使って行動速度を加速できるかもしれないが、それを考慮しても……)
一方はフリスビーの様に宙を、もう一方は壁をギャリギャリと音を立てて激しく転がり回り、少女を襲う。仮に、彼女が能力を展開して、周りの金属の欠片をかき集め、瓦礫の盾を展開したとしても、その盾を回避して執拗に狙うようになっている
今度は更に、イェスを守っていない"浮遊する盾"が死角から彼女に接近し、逃げ場を消した
確かに、電磁波のフィールドを周囲に展開していれば、その"盾"の接近には気付ける
だが、二方向からの円盤に加えて盾の接近があれば、例えそれらの情報があっても、余程危機的状況下での戦闘経験などが豊富でない限り、その状況下を打破することは出来ない
彼女にそんな経験があるとは考えられないし、そうでなければ回避に最適化されていない一般人の脳の判断では追いつかないのが自然だ
それでも、イェスの予想に反して、彼女は円盤型チェーンソーの不規則方向転換機能が可能である距離を突破するまでその場を少しも動かず、円盤ソーの動きが変化しないことが確定になった瞬間に、一気に二枚のソーが向かってきた方向の丁度中心を、限りなく身を低くして滑った
(機械的、とも言える正確さだ。これはもう人間の領域ではないな。限界まで簡素にしたプログラムのようなものじゃないか)
なにか、カラクリがある。そう思うイェスの目の前で、"盾"に二枚の円盤が刺さる。"盾"の表面に、大きな亀裂が二つ入った
電気的なショックで硬化し、衝撃に対して適切な硬度で被害を受け流すように設定された特殊な合金。それで表面を覆われた万能な盾
169 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:27:51.95 ID:lQtguuolP
そして、鋼だろうが何だろうが引き裂くように、刃に対して術式的な仕様を施した高速飛行可能な円盤チェーンソー
行動を自立的に判断する最上の要素に、他味方機からの座標情報のやり取りが当然仕組まれている。味方同士でぶつかり合うなど、自立兵器としては最悪だ
最悪のそれが起きてしまったのは、最大の想定外である、彼女の人間離れした行動判断速度がある
もちろん、彼女はその攻撃チャンスを見逃さない
スポンジとも粘液とも鋼とも言えない状態の、中途半端な合金が絡まったチェーンは、ギチギチとモーターが悲鳴を挙げている
そんな状態の円盤を、後押しするように超電磁砲を加えれば、円盤は壊れ、特殊合金の膜を超えてソーの刃とソーを貫通した超電磁砲の弾頭が"盾"のウイークな部分まで突き刺さる
「後は、その一つだけみたいねぇ。"イェス"さん?」
と、少女は三つの試作兵器の爆発を背に、一つ残った"盾"を指差した
「いくらでもレールガンの弾になりそうなものはあるわよ。一体何発までもつかしらね、その盾は」
「まぁ、所詮は試作機と言う事だ」
イェスを守るべくガラスの円柱の周辺を浮遊していた、残る一つの盾が力を失った様に床に落下した
「あらら、"盾"を自分で落とすってことは、覚悟が決まったってこと? そんじゃ、壊れて貰おうかな、クソAI」
「残念ながら私も殺されたくは無い。……こんな方法は使いたくなかったがね、仕方のないことだ」
「何よ、――――――ってこの音は」
聞いたことのある、音がした
「キャパシティ、ダウン……?」
「それだけではないな。AIMジャマーと呼ばれる対能力者演算撹乱装置も含まれている。しかもこれは、"複脳計画"の被験者の暴走を取り押さえる為に、仕様を向上させたものだ」
「ぐ………。何が何でもの、能力を使わせないって、わけ、だ」
「ああ。そうなってしまえば、君はただの反射神経と判断能力のいい少女にすぎないからね。恐らくその判断能力も能力によって付加させたものだろうから、本当にただのジュニアハイスクールの女の子だな」
"盾"や"円盤チェーンソー"が出てきた穴から、非常にシンプルで分かりやすい殺傷兵器が現れた。現行米陸軍でも採用されている、小さなキャタピラを装備した、遠隔操作型の小型移動機関銃
サイズに見合わず口径の大きいその砲口から火が放たれれば、ハチの巣どころかミンチは確定だ
「チェック・メイトだ、御坂美琴。出来れば、君のその能力の活用方法を隅々まで調べたかったがね」
170 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:28:21.84 ID:lQtguuolP
能力の活用方法を、知りたかった?
愉快ね。まだこのAIは気付いてないみたいじゃない
「チェック・メイト」という言葉が聞こえて、彼女の口元が緩んだ
一番自分が分かっている。普通の反応をしていたのでは、今頃八つ裂きか、もっと前に粉微塵か、である
そうさせなかったのは、全てはプログラミングだ
ある一定の入力があれば、それに対して頭脳の判断を介すること無く、それこそ脊髄反射の如く肉体に信号を出す。そういうプログラム、機械的判断
とはいっても、脳に直接コードを書き加える事が出来るわけではない。そんなことが出来たら、電気系統の能力者は皆すべからく超人になっている
しかも、脳へプログラムしていたら、結局脳まで情報を送らなければならない。それはタイムラグだ
どういうことか。答えを挙げれば、微小機械である
興奮ホルモンの一定以上の分泌を感知すれば、それを無意識に引き下げる機能を持たせたように
危険な情報の入力があれば、定めた通りの回避行動を行う為に体内の微小機械が運動神経に直接指示を出し、脳の意識無しで回避を実行する
この危険な情報というのは、能力的な電磁フィールド内で感知した周辺物の動きであったり、音であったり、視覚であったりだ
電気を扱う能力で、そういうプログラムを微小機械に組み込んだだけ。応用すれば、害となる情報を最初から認識させない、と言うことも可能だ
これには幸運的な要素もあった
もともと彼女の微小機械は、上条当麻から微小機械自己製造株を移植されて製造されたもの。つまり、元をたどればアメリカ製なのである。しかも、最上級機密の装備
試作兵器同士の情報伝達に使われていた、暗号化されたプロトコルに、この微小機械も親和性があったのだ
故に、何か得体のしれない機構によって高速射出された1m近くの金属槍も、射線情報があらかじめ他の試作兵器に伝えられていたので、その情報を微小機械が危険情報として受信して回避判断を体の筋肉へ伝えることで、射撃直前に射線上から回避可能だったのだ
また、人間にとってはイレギュラーな行動をするハズの対物円盤型飛行チェーンソーの動きも同じ方法で予測でき、最良と思える動きで回避をすることが出来たのだ
微小機械というネタが分かっていれば、とても簡単なことである
御坂「止めて!! 殺さないで!! ねぇ、お願い!!! なんでもするから!!…………なんてね」
171 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:28:51.97 ID:lQtguuolP
棒読みでバレバレな演技をした彼女が両手を拡げると、その間で紫電が行き来していた
それは、あやとりをするかのように、ペットの蛇を腕に巻き付けるようでもあった。つまり、間違いなくその電撃は安定していて、彼女の思い通りということだ
とても対能力者用演算妨害装置の影響下とは思えない
イェス「……何だと」
御坂「まっさかこの程度で、この第三位様を縛れると思わないで欲しいわね」
イェス「……ッ」
キャタピラ付きの遠隔操作型機関銃が、その口から火を噴いた
しかしながら、その攻撃はあらかじめ射線まで彼女は把握している
弾丸が彼女の横を通り過ぎ、報復として超電磁砲を向けると、それは簡単に木端微塵となった
イェス「どうなっている」
御坂「さーね。そのご自慢の頭脳で考えてみたら? もっとも、その前にアンタを焼き切るけど」
両の手で、超電磁砲を構えた。狙いはもちろんイェス本体の基盤だ
御坂「チェック・メイトよ。Mr.イェス」
邪悪とも言える笑みを浮かべる少女
しかし、その弾丸は射出されなかった
突如発生した強い揺れによって、人差し指と親指で構えた弾丸である金属片が、ポロリと落ちたのだ
ゴヴァ!!! という何かを削るような大きな音とともに
「……始まってしまったか」
そう
青髪の操る学園都市製無人爆撃機の攻撃が始まったのである
172 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:29:21.85 ID:lQtguuolP
「ヒャッハー!! 派手にやるじゃないか、青髪の奴ァよう!」
上条の目の前で、チャールズ・リバーと言う名の河を挟んだ対岸の大学にオレンジ色の光が降りかかった
激しい音の中、溶け壊れるキャンパス。極音速爆撃機の"地殻破断"によって生じた亀裂に、後続機のウェポン・ベイから固形物が落とされる
兵器の知識など詳しくないが、早い話が爆弾だろう。地下まで拡がっている亀裂を押し広げるように爆発が生じ、灰色の空気の塊が立ち上った
アレなら、確かに地下深くの"イェスの間"まで破壊することが出来るかもしれない
もちろん、最重要故に、強固な隔壁等があるかもしれないが、時間の問題であることは確かだ
だが、上条の目に映る範囲で、一番気になったのはそこではない
"イェス"の事など知らない学生と思われる人々の悲鳴
壊れた建物の下敷きになる光景
直接"地殻破断"や爆弾によって傷つき死んでいく体達
とても気持ちのいい状況ではない。だが
「いいぞやっちまえ!」「この様子なら、俺達は必要ねぇな!」
という声が、対岸という安全地帯で、自分の周りにいる襲撃していた20人ばかりの集団から挙がる
上条は"銀貨"という組織をよくは知らないが、彼らはアメリカ側の人間なはずだ。どうして自国の人間が巻き込まれているのに、そんな喜んだ様な顔をしているのだろう
ミスマッチした光景に、彼の右手にはピクピクと脈打つように力が加わっていた
上条「な、なぁ。どうしてあんた達は喜んでいるんだ? 巻き込まれてるのは、関係ない人々だろ?」
手前にいた、上条をここまで連れて来た男に尋ねる
「そりゃ、喜ぶさ。彼らには悪いが、最大の目標が今まさに斃れようとしているんだ」
上条「悪いが、って。そんな」
「仕方が無いわよ。被害無くして物事が進むなんて有り得ない。ここに立ってる仲間達だって、bニいう名を持たない下っ端含めて、最初は40人はいたことだし」
173 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:29:52.84 ID:lQtguuolP
「そーそー。死んだ仲間の為にも喜んでやんなきゃなんねぇからな」
それでも、どうしてここまでする必要がある、という疑念を持ってしまう
彼らの目からは、どこか狂信的なものを感じとられた。まるで、洗脳されてしまったかのような
そこまで盲信的狂信的になることなのか、私達の弟を消すということは
そんなにもAIの支配が嫌なのか
(この光景は、己の存在否定のようにも感じますね)
(確かに。ですが、このまま倒れるような弱い存在なのですかね、イェスは)
(今まで爆撃機の接近に気付かなかった、なんて間抜けなことは無いでしょう)
(何か手を用意している可能性が高そうです。そうではないにしても、私達にとっては説教をする前に消えられては困ります)
(……なら、行きますか)
(そうしましょう。この右腕は嫌がっていないみたいですから)
痙攣していた手が、今は力強く拳を作っていた
彼女たちにとってそれは、肯定の意味に感じられ、足を進める動機となる
上条は悟られないようにその集団から離れ、爆撃の方向へ進んだ
イェスの行動で多くの人間が死んだという事実がある。それは善悪と言う面で見れば確実に悪の面である。罪がある以上、罰はあるべきだ
だが、罪の無い人間を巻き込んでまで存在を否定されなければならないほどの存在なのか、自分たちAIは
考えながら地下へのダクトに彼の体が飛び込んだ時である
再度爆撃をする為に旋回して戻って来た無人爆撃機の群の中の一機、その片翼が吹き飛んだ
吹き飛ばしたのは、白の濁流。その逆端に一人の人間らしき小さな点があった
174 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:30:24.46 ID:lQtguuolP
御坂「こ、この揺れは何よ!!」
地下の広い空間に、少女の声が響く
しかし、爆撃の音と揺れが、その声も少女のバランスも圧殺した
イェス「爆撃だ。君の故郷とも言える場所からの、ね。ジャミングは既に発動しているが、ここが落ちるかどうかは運次第と言えるな」
御坂「時間の問題の間違いじゃないの?!」
イェス「対策は一応採ってあるからな。だが、運が悪ければ私と君は心中だろう」
御坂「そんなの、冗談じゃないっての!!」
叫ぶ御坂。しかし酷い揺れが、身動きを許さない
イェス(よし、垣根提督が射程圏に入った。安泰だな。なら目の前の問題を片付けよう)
まだ揺れが続く中で、生き残っていた"浮遊する盾"がスッと再起動する
ピクリ、と反応する御坂。しかし、今の彼女は異常事態への対応、今後の予測やそこから生じる不安などによって、その危機に気が付いていながら、実質気付けないでいた
"盾"は浮遊している。つまり、揺れは関係ない。一方で御坂は、揺れが激しい数秒は確実に動けない
そしてこの"盾"は体当たり程度しか攻撃手段の無い、無力なものだと彼女は判断していた
そういう全てが、結局経験不足と言う奴だった。彼女で経験不足なのだから、学園都市の生徒の大半は総じて不足ということになるが
仮に違う判断をしていたとしても、その"盾"の接近に対しては、揺れのせいで動けないのだから、回避不能。結果は同じだったかもしれない
爆撃の轟音で響かないが、少女のすぐそばでも爆発があった
"盾"の自爆である
無意識の自己防衛システムが彼女には有るが、それは飛来する弾丸や礫などに対して、周りの物を電磁力でまとめ上げて盾として構築し、身を守るという方法だ
極々至近距離で金属の塊に自爆されては、その破片から身を完全に守るのは厳しい
御坂「………うぐぅッ…!」
衝撃と無数の金属片が、彼女の体を床に押し付けた。胸も強く押し付けられたため、悲鳴すら満足に上がらない
イェス「油断した君のミスだ。戦いに卑怯は無いからね。勝てば官軍という言葉も有る。そしてそれが、我がアメリカの歴史でもある」
揺れと爆撃音が響く中で、少女は痛みに悶えるしか無かった
175 :
前レス 悶える⇒耐える で
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:31:05.67 ID:lQtguuolP
『随分とやられたい放題となっているが、君はコレで良いのか?』
窓の無いビルの内部、アレイスターと呼ばれる男がいる空間に、声が響く
既に科学的なプロセスを用いた方法での遠隔的な通信は、この学園都市では行えない
とある存在と存在のぶつかり合いによって、電磁的にも無類の力量を持つ衝撃を断続的に放たれているためだ
そして同時に魔術的な通信であっても、似たような理由で生半可な術式や出力のものでは安定的な会話は成立しないだろう
それが出来ていると言う事は、かなり強い出力によるものだと言う事になる
アレイスター「随分と心配してくれるものだな、エイワス」
エイワス『神格と彼女の戦いの見物をしていて、気になったものでね』
アレイスター「彼女、とは余所余所しい言い方をするものだ。そうだな、第三次製造計画の中枢が壊されるようであれば、あなたという存在のこともある、少しは介入することになるだろう」
エイワス『逆に言えば、私に影響がでないならば、何をどう破壊されても構わない、ということかな。気に入られたものだよ』
アレイスター「否定はしない」
エイワス『私は特に現出しているということへは、執着するつもりはないのだが』
アレイスター「私が執着しているのだ。そういう認識で構わない」
176 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:32:03.11 ID:lQtguuolP
エイワス『それはそれは。君がそこまで執着している"現出した私"だ、好きにするがいい。私にはそんなことよりも、あれによって私の興味対象が破壊されてしまう事の方が、余程問題だ』
アレイスター「それについては、どうするつもりも無くてすまない、とだけあなたには言っておこう」
エイワス『今の一番の関心事は彼女の戦いだ。そこは比較すれば大きな問題じゃない。気にしないでいい』
それじゃ観戦に戻る、と言い残し、会話は終わった
番組の途中で挟まれたCM中にトイレを済ませる様なものだったのだろう
アレイスター「……あなたは、最後まで"彼女の"だったな」
アレイスター「それは、あなたなりの区別や区切りと言ったところなのだろうか」
呟いたアレイスターの視界には、第7学区でぶつかり合うシヴァと光の球があった
光球の大きさは、また更に一回り小さくなってしまった
生き残った学園都市をあらゆる角度からモニターする機能の一つに、彼の脳の特性から自動的にクローズアップ処理される映像があった
その中では一人の少女が、第7学区の冥土帰しの病院から駆け出し、そのまま何処かへと向かっていた
アレイスター「……滝壺理后。君はこの中で、何処へ向かおうとしている」
アレイスターと言う存在は、彼女を保護しようという衝動に、もう一度駆られた
前の衝動の時とは、彼女が第一学区で半蔵によって拉致された時の事である
だが同時に、何がどういう偶然か、その行く方向にはとある人物が、存在があった
それを確認して、彼の衝動は止まる
アレイスター「ここは、彼に任せるのが道理というものか」
そして、アレイスターは視界から、それら二人を映し出すモニターを消し去った
177 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:33:30.59 ID:lQtguuolP
爆撃の揺れが完全に止まったころには、彼女の意識はかなりギリギリの所になっていた
全身は血まみれ、打撲箇所多数、ヒビの入った骨々
御坂(いつの間にか、揺れ、止んでる……?)
揺れと音が止まっていた事に気付くまでも、タイムラグがあった
御坂(骨折箇所3、内出血含む出血個所160。あはは、こんなことまで正確に伝えるなんて、ほんと便利、この微小機械)
御坂(こんな時でも、意識が落ちないように保ってくれるし。例え神経が途切れてても、微小機械に迂回させれば、擬似的な神経接続も出来る。もちろんそれらの回復も)
御坂(一体、アイツはどこでこんな微小機械、手に入れたのかしらね。やっぱり、CIAなのかな)
彼女は、追って来た彼の事を思い、そして立ち上がる
こんなところで這ってはいられないのだ
目の前の存在は、上条に仇名す存在であり、白井や初春、そして佐天の仇でもある
こんなところで這ってはいられないのだ
ゆらりと体を揺らしながら、立ち上がった御坂美琴
体表の止血は実のところ、かなり進んでいた。それが人間本来の自然治癒能力をはるかに上回るのは間違いない
イェス(さて、これはどういう理由だろうね。彼女は電撃使いであって、肉体回復系の能力者ではない)
イェス(だが、明らかに何かの補助を受けているとしか思えない回復速度。意識もあるようだ)
イェス(術式的な反応は……無い。ということは、微小機械でも無い限り、有り得ないと言う結論にたどり着く)
イェス(学園都市の微小機械のレベルは把握しているが、このレベルの多機能な代物など。私の知る限りでは、アメリカ製の、私も作成に参加したモデルぐらいしか考えられないな)
イェス(あのモデルは確か、上条当麻のものも同型だったか。上条当麻? ……ああ、そうか。そういうことだったか)
イェス「そう言うカラクリか、御坂美琴。そういう可能性は考慮していなかったよ」
沈黙を取り戻した空間で、唐突に、機械音声が彼女に語りかけた
御坂「……ハァ、…ハァ。何、よ?」
178 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:34:03.53 ID:lQtguuolP
イェス「さぞ辛いだろうが、"右手を挙げろ"」
御坂「なに? 何かの暗号? 悪いけど、そんなことに付き合ってる余裕、………え?」
少女の右腕が、力なさげではあるが、確かに、頭よりも上に挙がっていた
彼女自身がその様子に驚いている
イェス「あらかじめキャパシティダウンやAIMジャマーと言った、能力行使に支障をきたす外部情報の自然入力を、微小機械の監視を間に挟むことによって、悪質ノイズとして扱い、そのノイズをその微小機械の段階でカットしたり適切値に補正する。そうすれば、何ら障害とはならない」
イェス「分かってしまえば単純な方法だが、微小機械をかなり有効に扱っていると言える」
御坂「何、言ってんのよ」
イェス「だが、残念だったね。君のその微小機械を作ったのは私だ。管理者権限と言えば、分かるだろう? "その場に腰を付けろ"」
言われるがままに、少女はその場に座り込んだ
イェス「立っているのはつらそうだったのでね。上条当麻にも同じものが入っているが、あれには姉君がいる。その権限は奪われてしまった」
イェス「だが、君は表面的な行動プログラムしか弄らなかった。いや、弄れなかった、というのが正しいのだろう」
イェス「能力的な限界もあるが、今の君は動揺し続けている。周りの変化に揺れている。とてもじゃないがそんな難解なセキュリティの突破を試みるだけの集中力は無かったようだな」
イェス「でもそれは仕方のないことだ。思春期の真っただ中にこれだけのことがあれば、そういう不安を抱えて然るべきと言えるからね。それで精神のアップダウンが非常に急になっているのだろう」
御坂「アンタ、何、してんのよ。私の、心でも……覗いてるって、言うの?」
イェス「似たようなものかな。そんな君の中で安定した柱になっているのは、彼のことか」
御坂「……止めて」
イェス「好意と言う形として認識し始めたのは最近のようだね。しばらくは自己で否定していた見たいだが、これは間違いなく恋や愛などの心情そのものだ。これまでに見た心理状態のサンプル通りの形をしている」
御坂「止めてよ」
イェス「今とりわけこの感情が大きくなっているのも、思春期という要素の他に、回りへの不安がある。自分の知るものが失われてゆく中で、これだけは変わらないでいて欲しい、すがりたい彼、か」
御坂「止めろって、言ってるでしょ!」
イェス「でも君は、その彼にすら不安を感じている。辛く当ってしまったこともあるが、彼そのものがどうにかなってしまっているかもしれないと言う不安の割合が大きいようだ」
179 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:34:41.15 ID:lQtguuolP
イェス「今の君は、君自身のアイデンティティの中に彼を置くことで、何とかもっているからね。その彼が最悪の状態ならば、君の方がどうにかなってしまうだろう。それは君自身、自然に気付いているのだな。自分で何度も否定している」
イェス「不安からくる揺らぎは仕方ないし、それは珍しい事じゃない。早く彼の平気な姿をみて安心したいと思う事も全て、トータルに言えば非常に情動的で本能的で、つまり、人間的だ。人間らしいんだ」
御坂「精神分析なんて、頼んでないわよ」
イェス「いや、だからこそ、君に問いたい事がある」
御坂「何をよ」
イェス「君の彼への思いは、本当に自然なものなのか、ということだ」
御坂「どういう意味よ」
イェス「そのままの意味だ。愛情があると断言しておいて聞くのも何だが、君の上条当麻への好意は、愛情は本物なのかい?」
御坂「私のアイツへの思いが、感情が偽物だとでも言うの? ふざけないで」
イェス「確かに、惹かれるということに理性的な理由が無いことなど良くあることだ。盲目とも言う程だしね。君の場合は惹かれて然るべき理由も有る」
イェス「だが、それらの理由をいくつも挙げたところで、彼そのものに魅力がなければ、きっかけなんて意味を持たない。君は彼に惹かれている」
イェス「魅力について論を述べる気は無いが、君を始め、彼の周りは彼に惹かれる人間が多いという事実がある。そうだろう?」
御坂「……そうね」
イェス「それが異性なら、恋愛という肉欲的本能的なものとして。同性なら彼に性向が影響されるという形で。私が得ている情報ではそう記されている」
イェス「ここで君に質問だ。その魅力というには大き過ぎる力の根源はなんだ?」
御坂「そんなもの人それぞれでしょ? 性格とか」
イェス「そう、人それぞれ。つまり、人には一人一人趣向と言うものがある。その趣向が適すれば自ずと惹かれる」
イェス「だが、考えてみてほしい。上条当麻は一つの存在だ。容姿も性格も殆ど固定されている」
イェス「人には別々の趣向があると言った。万人の趣向に受ける魅力は有っても、君の様に深く惹き付けてしまう程に万人に受けるという事は、前提上有り得ない」
イェス「ならどうして、彼の魅力はアレほど多くの人間を惹き付ける?」
御坂「そんなの、分かるわけないじゃない」
180 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:35:12.74 ID:lQtguuolP
イェス「そうだ。分からないのだ。前提を崩せる要素が分からない。彼が特別に特別だというしかない」
イェス「ここで思い出されるのは、彼には人を惹き付けるということ以外に、特別があると言うこと」
御坂「……"幻想殺し"」
イェス「そうだ。能力だろうが"天使の力"だろうが魔術だろうが、何もかもに対抗できるあの力は、彼にしかない。彼にしか無い点が二つ。接点があるとは思えないかい?」
イェス「そういう視点で調べると近しい答えが見えてくる。神やそれらに相対するもの、例えば悪魔や神そのものという存在は、どれも人を強く惹き付けるという特徴が在るのだ」
御坂「神に相対するもの……アイツが? 何、バカなこと、言ってんのよ。い、意味分かんない」
イェス「確かに馬鹿なことと言いきれた。少し前ならね。だが、今は"終末"だ。実際に天使が現れる時勢」
イェス「ここまで述べた上で、もう一度君に問おう。本当に君の彼への思いは本物なのか、と」
御坂「アンタさ、偽物だって言いわせたいの?」
イェス「さぁ、それは分からない。分からないからこそ君は幸せだ」
御坂「何、それ。でもいいわ、いいわよ。例えアイツがどんな存在でも、私は、上条当麻を信じる。それだけは譲れない」
イェス「……そうか」
イェス(彼女の心理グラフに変化は見られない。上条当麻の柱は揺るがない。薬物洗脳した被検体に似た強度)
イェス(ますますカミジョウトウマへの疑いが深まった、と言う事だ。仮にそうなら、ギャンブルだな)
数秒、彼は間を置いた
置いて出た結論は、一つ。カミジョウトウマを何が何でも管理下に置くと言う事
"前"において、彼を管理するに最も効果的だった方法がある
イェス「ならば、そのカミジョウトウマを扱うために、君を利用させてもらおうか。彼を正しく導くための餌になるなら、君も本望だろう?」
そして、御坂の頭脳に、イェスが権限を行使して操る微小機械によって、激痛が奔った
耐えられず意識を刈り取られた彼女は、その場に力無く倒れるしかなかった。当麻、という言葉を残して
181 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:35:40.13 ID:lQtguuolP
「戦況が芳しくないようですな、教皇聖下」
バチカンの宮殿をせわしなく歩きまわる新教皇ペトロ・ヨグディスは、廊下で後ろから話しかけられた
足を止め振り返る。するとそこには数人の枢機卿の姿があった
彼らはいわば、共犯者。先代のマタイを亡き者にし、ペトロが新教皇となる為の計画に参加していた者たちだ
「……何が言いたい」
「いいえ、別に。我々が聖下を選出した以上、我々は聖下に従うまで」
「それでは。ご健闘を、文字通り祈って参ります」
ペトロの脇を、枢機卿達は通りすぎ、聖堂の方へ向かった
警告だろう
新教皇はそう思った。彼らは少し前の自分と同じだ
隙あらば、自分が教皇となる。今の教皇が邪魔な理由は、指導力不足であったり、方針が違ったりと様々だ
ペトロがそれら自我の強い枢機卿達を纏めて新教皇となれたのは、"終末"におけるマタイの指導力不足・方針の誤りをことさらにアピールしたというのもある
枢機卿としてはペトロはかなり力を持っている部類に入る。しかし、他に力を持っている人間は居る
このまま成果が上がらないならば、次はお前だ
そう言う類の警告だった
(言われなくとも分かっている。分かっているのだ)
彼が急進的強硬路線を採っているのは、その事への焦りもある。自らが教皇に足る結果を出さなくてはならない
焦り。それは結局、冷静な思考を失いつつあると言っても過言ではない精神状況
自らの腹心達を使って、まだ有力枢機卿達との関係は良好な状況を保っている。だが、いつまで保てるか
バン、と彼は扉を強く押し開けた
「まだミカエルの制御は出来ないのか!!」
182 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:36:24.43 ID:lQtguuolP
明らかな怒声を、彼はその部屋にいる魔術師達へ投げつけた
怒声に応える者はいない。改善が見られない以上、下手な言い訳をしたら何を言われされるか分かったものではないからだ
そんな様子を見て、新教皇はますます機嫌が悪くなる
そして遂に行動に出た
「おい、お前」
「は、はい」
「代われ」
「え?!」
「私と代われと言っている。少しの間だけだ」
「し、しかし」
「なんだ? 何かあるのなら、申してみろ。まさか私の技術に文句があると言うか?」
「いえ、そ、そんなことは」
現在教皇であり、元は有力な枢機卿の彼だ。元々魔術に関するスキルはかなりの物である上、聖都バチカンという名の、巨大な霊装と言える場所が彼に力を貸す
そして、神職にあるという性質上、専門では無いとはいえ、その術式への知識は十分にある
どうせ改善しようが無いのだ。ならば新教皇直々にそれを扱ってもらって、私達の立場を分かって貰うとしよう
そう判断した司教服の魔術師は、太陽をモチーフにした霊装の前から離れた
だが彼の目の前で、新教皇は彼の思いの外の行動を採る
「……な!!? 何をなさっているのですか、聖下!!」
「どうして声を荒げるか。少々制御の力を増やしただけだろう」
「今までで限界ギリギリだったのですよ?! これ以上無理な力をミカエル様に加えると、どうなるか。ご存知ないわけではないでしょう?!」
「ふん。使えんのなら使えるようにすればいいのだ。少々リミットを越えたぐらいで、騒ぐ程か」
183 :
本日分(ry 誰か思っている事をそのまま文章にする機械作ってくんないかな
[saga sage]:2011/04/19(火) 11:39:15.91 ID:lQtguuolP
「しかし、こ、この制限値は、術式と共に、終末この時の為に歴代の高名な魔術師が計算して作り上げたもので……!」
「歴代の魔術師に、私が劣っていると言いたいのか?」
「い、いえ、その様なことは」
「だろう? ……ほら見ろ、問題ないだろう。このまま出力を上げ続けろ。木偶の坊であるミカエルを少しでも使えるようにするのだ」
「………分かり、ました」
元々その霊装を扱っていた男に場所を戻し、新教皇は他の魔術師に首を向ける
「今ので扱える屑天使達が増えただろう? どうだ?」
「はい。その上、若干の強化・大型化も窺えます。大成功です、聖下」
「そうかそうか。臆していたのが馬鹿馬鹿しかったな」
「はい。これならアメリカに加え、休止していたイギリス・ロシアへの攻撃も再開できますよ」
「よろしい。やれ。アメリカでは共同戦線を張っているが、邪教には変わりない。アメリカでも戦っているのはウチらしいからな」
入って来た時とは打って変わって、彼の表情が緩みだした
そんな彼に、術式をモニターしていた他の魔術師が報告を伝える
「お喜びのところ、きょ、恐縮ですが」
「なんだ?」
「制限値を超えた事で、過干渉による反発がミカエル様に生じています」
「それがどうした。何か目立った問題でもあるのか?」
「今のところ見当りませんが……」
「ならば良い。使えないものには力を加えて統制する。これは天使だろうと愚かな民たちも同じと言う事だ」
気にせずとも良いわ、とその魔術師に言い残し、彼はその部屋を出た
バチカンの廊下に、自信の笑みが木霊する
184 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2011/04/19(火) 12:01:54.98 ID:3dfkaT5qo
痛みに悶えるとかエロいなと思ってしまいました
185 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2011/04/19(火) 22:03:18.12 ID:1luI96lQo
上条さん"前"は結局美琴死なせちゃったんだから今回こそ頑張れよ
でも"前"の教訓が何も活かされてないな
186 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/19(火) 22:49:03.88 ID:tfbVA0u4o
上条さんが起きてないからな
187 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/04/20(水) 01:01:50.65 ID:Dx3SQucDO
面白い
188 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/04/20(水) 10:51:57.72 ID:PsTLnzrb0
はまどぅらのターンくるか
189 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[[sage]]:2011/04/21(木) 17:52:57.45 ID:/29hAvu80
しかし、「右手にある淀み」って何なんだろうな。
この
>>1
には期待大です。
190 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2011/04/21(木) 22:06:10.76 ID:E0MSPmHlo
オナ禁の限界で右腕が勝手に…!
191 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/26(火) 19:07:50.42 ID:Pjubi30A0
まだかな
192 :
これ、下手するともう半年は続くぞ…?
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:07:49.03 ID:+nFCoQzZP
「一体これで奴は何を狙っていたのだ?」
ロンドンの封鎖地区で騎士団長は膝を突き、目の前の白い粉を見ていた
アックア「この辺りだけ空気が乾燥しているのである。粉塵爆発の類でも狙っていたのであろうな」
団長「粉塵爆発? テロリストでもそんな手はなかなか使わんぞ」
アックア「類、である。小麦という形式で純粋に凝縮された"天使の力"の爆発に加えて、非魔術的要素の爆発圧力まで加わっては、防ぐのは辛い」
団長「元々、小麦粉ではないものだからな、これは」
騎士団長は、球状の塊から崩れてしまった粉末に手を通す
団長「しかし、だ」
アックア「うむ」
騎士団長の部下である二人の騎士を含んだ彼らの目の前には、頭部を真っ二つに裂かれたテッラの躯。うつ伏せでピクリとも動かない
そして、崩れつつはあるものの、まだまだ30m以上の大きさを持った小麦粉の球体
団長「なぜ術者が斃れたにもかかわらず、これはまだこうも形を保っていられるのだ?」
アックア「ここがロンドンであるという地理的要因も踏まえると、考えられるのは術者が魔力供給をし続けるタイプの術式なのである。それ以前に、このテッラがイギリスの地脈などを利用することは気質的に考えられない」
団長「それなら、型崩れが当然の帰結」
アックア「だが、小麦粉すらも消えていない。ということは」
「まさか、テッラはまだ――――」
騎士団長の声は、他の大きな音によって、残りの霧と共に吹き飛ばされた
クリアになった彼らの視界にあったのは、より人間らしい、いや、天使らしい形をした、一匹の天使
それまでに目にしていた、小型で表情も無く人形の様な感じさえあったものではなく、表情もしっかりして剣をもった、翼を持った3m程の体躯の人型
しかもいたのはその一匹だけではない。一番手前に居たのが、たまたまそれだっただけ
193 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:08:37.79 ID:+nFCoQzZP
数百の完全な人型の天使がロンドンの空に浮いている
「馬鹿な……!!」
思わず、騎士団長の口から声が漏れた
そして、その声と同時に動いたのは、天使
その天使にとっては、彼らは邪教徒でしか無いのだから。すなわちここは敵の都、住むのは敵だ
目の前に入った彼らへ、その身の丈ほどもある剣を振るう
だが、同時に動いていた存在があった
アックア「ぬぅ!!」
振り下ろされた天使の剣は、より重たい金属の塊に弾かれた。大きさだけなら、5mもある、受け止めたアックアのメイスの方が大きい
アックア(この剣の印。これはローマ正教か)
空中で受け止めたお互いの推進力が、お互いを強く弾き飛ばす。アックアは地面へ弾かれ、対する天使はより高い場所へ
着地したアックアは、敵の次を見る為に天使を見上げた
だが、その強い眼差しの反面、彼の足から力が抜ける
当然のことである。先程までのテッラとの戦いで、彼の体は既にガタガタなのだから
すぐさま、騎士の一人が彼に肩を貸す。その騎士の眼にも、アックアの消耗は明らかだった
一方で、天使の方は少し困惑しているようだ。なぜなら、アックアはまだローマ正教所属の人間だ
つまり、天使の側からすれば、護衛の対象なのだから
邪教に騙されてしまった信者として殺害するという選択肢と、騙している元の邪教を倒すという選択肢が、彼の中で迷いを生んだ
結果的に見れば、それはその天使にとって致命的だった
カーテナ・オリジナルから"天使の力"の供給を受けている騎士団長をはじめとする騎士達
アックアや騎士団長と共にそこにいた二人の騎士の一方、アックアに肩を貸していない方が、跳び上がって天使に斧槍を構えたまま肉薄する
194 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:09:10.67 ID:+nFCoQzZP
食らいたくない天使は、慌てて迎撃のために払う様に剣を振る
騎士の跳躍と肉薄の為に使われた移動の力が、天使への直撃こそ逃したものの、体勢を崩すには十分だった
団長「おおおおっ!!!」
と。雄叫びを挙げながら、騎士の影から突っ込んだ騎士団長のフルンティングが天使の頭脳を兜割り、そのまま地面に叩き付けた
丁度鳩尾(みぞおち)の辺りまで真っ二つになった天使だったものが、叩きつけられた地面で爆散する
幸い、その爆発は大きくなかった
最初から爆発することに、天使の"天使の力"が使用されたなら、被害が一区画で済めば良かった、というレベルだっただろう
しかし、この爆発は爆発と言うよりは、自壊・崩壊という言葉が適切だったと言える。要は、エネルギーが爆発に向けられず霧散したのだ
結局、叩きつけられた際に出来た4〜5m程のクレーターをそのまま少し拡げた程度だった
一匹目の撃破である。残るは無数
団長(だが、テッラよりは数段劣る。手が出せないレベルではない。……必ずしも全滅させることが出来ると、言い切れる訳ではないが)
着地して、アックアを見る
団長「これも、ローマの放ったものらしいな。これまでのものとは少し見た目も性能も異なるようだが、ローマの様式の装飾が所々にあった」
アックア「……そうであろうな」
彼も同じ意見。つまり確定だ。同時にこちらを見ていた彼であるが、芳しくない。第三王女のためにも無理はさせられない
しばらく手を引いていた敵の第二波群は、能力を向上させたものらしい。いい情報ではない
だが、イギリスの戦力はこれだけではないのだ
見上げた空では、複数の能力向上ローマ正教使役天使とイギリスの巨大キメラ天使が睨みあっている。操作しているのは最大主教
そして他の一角では、年配の女性が剣を片手に暴れている。剣の名はカーテナ
団長(流石は、オリジナルと言うだけはある)
その剣をかざし、天使長級の"天使の力"が生じさせる衝撃だけで天使達は近寄れない
195 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:09:36.38 ID:+nFCoQzZP
その剣を振るだけで振った方向100m程の全次元が切断される。それに巻き込まれた存在は消失するか切断され、3次元空間から他次元への干渉したことへの余剰によって生じる白い残骸物質が、次元切断の被害を受けなかった天使達を叩き、押しつぶす
これは落下した残骸物質が市街に多大な被害を残す事になるので、彼女は極力その術式を使用していなかったが
団長(本来は我々騎士派のとある計画過程で発掘されたものだったが、やはり本来の使用者が使用すべき霊装)
団長(気になるのは、その発掘の際に匿名と言う形で最大主教の技術援助があったと言う事だが)
団長(こうして見れば、心強い。この際、そのことを気にしてはいられん)
そして、騎士団、残った魔術師、私的集団の魔術師
これだけの戦力があっても、確実に天使からロンドンを守りきれるという保証は無かったが
もう一度、アックアの方を見た
丁度、肩を貸していた騎士から離れようとしているところだった
足元がまだ若干おぼつかない彼と、騎士団長の視線が交わる
団長「大人しくしておけ、ウィリアム」
アックア「……」
団長「気にすることは無い。テッラを斃すという役割は既に終わっているからな。この状況の解決は、我々イギリスの守護者の役割だ。お前の役割ではない」
アックア「……いや、まだ私には役割が残っているのである。我が友よ」
団長「ほぅ、何だ?」
アックア「ヴィリアン様の為にも、死なないと言う事である」
団長「フ。そうだな。だが、それは私が念を押さずとも、貴様が一番考えていることであろう?」
団長「そしてそのためにも、お前には回復してもらわねばな。卑怯な言い方だとは思うが、これは古い友人としての頼みでもある」
休め、ウィリアム
そう言って、二人の斧槍を持った部下と共に、彼は天使の群へ
残されたアックアは、背を瓦礫に預け、傷だらけのメイスを壁に立て掛ける
そして、彼の背後で僅かに動くテッラの事など気付きはせずに、彼の双眸は睡眠のために垂れた
196 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:10:05.39 ID:+nFCoQzZP
学生が逃げ惑うキャンパス内の一角で、突然5m程度の炎が上がった
不自然な出火であるが、この混乱の中で一体誰が気にするだろう
爆撃によってそこいら中でガス漏れが生じ、ショートした基盤や研究装置などから炎などいくらでも上がっているのだから
そして誰にも気付かれぬまま、不自然な炎は形を変え、手のような形を作る
言わば野球のキャッチャーミットのようにして、西の空から飛来した炎の塊を、その手はキャッチした
「おいおい、これは……。イェスとやらはまだ無事なのか」
まるで無かったかのように断ち消えた炎の中から、ボロボロのローブを身につけた長身の男が言葉を漏らした
彼の視界内にあるのは、とにかく破壊された施設だけである
溶け落ちていたり、爆破されていたり、煙を立ち昇らせていたり
足元に落ちていた、恐らく学生の腕を足先で蹴飛ばしながら、彼は目当てのものを探す
ステイル(って、この状況でどう探せば良いんだろうねぇ)
とりあえずは、適当な建物に入って手掛かりを探すしかない。その施設機能が生きているのかは定かではないが
そんなことを考えながら、彼は目の前の、比較的形を保っていると言えそうな建物の一角に入ろうと近づく
まさに壁に穴をあけて強引に入ろうとした瞬間である
雷などは比較にならない様な轟音が、彼の体を貫いた
極超音速の衝撃と高温を利用した"地殻破断"が彼を含んでその一角を丸々溶け落としたのである
197 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:10:35.54 ID:+nFCoQzZP
当然、それは地下の施設までも全てを溶かし、吹き飛ばす
ステイルが入ろうとしていた施設は、丁度中心部分が溶けて砕け、更に地下にまでぽっかりと大きな口が出来てしまった
穴が空いた施設の残りは、地下施設という支えの部分まで被害を受けた為に自重を支えきれず、両側からその奈落へと崩れ落ちていく
8000度というとんでもない高温の帯による攻撃は、建物であったものを溶かして液状にした
奈落の底は、溶けた多数の高温液状物質が混じり合ってオレンジ色の光りを放ち、火山の噴火口のような見た目になっている
その液体の中で、ステイルは立ち上がった。浴槽から立ち上がるかのように、自然に
特質すべきはその耐温能力であるが、それだけではない
体は耐えても、身に着けていた物は完全に燃え尽きてしまった。危険である
そして、浴槽から立ち上がった様とは言っても、彼が浸かっていた液体は粘度が高く、体を振った程度ではお湯のようには体から離れない
立ち上がっただけで、付着していた物質は融点まで温度が下がり、固まる
適当な術式を行使すれば、沸点まで更に加熱させることで全て吹き飛ばす事が出来るかもしれない
つまり、彼にとっては些細なことだ
今の彼の意識は、ただ目の前
たまたま地下にまで突き刺さる爆撃に巻き込まれたことで見えてきた侵入口
地下研究施設の廊下が目の前にあるのである。芝生で覆われた表面上からは想像できないこの場所だ。怪しくないわけが無い
そこをステイルは、コツコツと音を立てながら、体中に金属などの融解物を身に纏って、進んだ
198 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:11:03.07 ID:+nFCoQzZP
「コレ、すごくおいしいんだよ!! これももっと欲しいかも!!」
モスクワにある"殲滅白書"の施設の一室から、元気の良い声が上がった
その声の主は少女。余程空腹状態だったらしい
傍らには同性の人間が立っていて、部屋の奥ではせっせと調理している人間もいる
ワシリーサ「だ、大丈夫よ。まだまだ沢山、……有るかしら?」
(可愛い見た目でなんて凶暴な食欲。だけど、これはこれでギャップね)
イギリス清教では最早見慣れた光景なのだろうが、ここロシアではそうもいかない
見かねて、他の少女が尋ねてくる。彼女も"殲滅白書"だろう
サーシャ「第一の質問ですが、あなたの体のどこにそれだけの食べ物が入っていっているのですか?」
夜のお店でもなかなか見られないような拘束服を着た少女が、目の前で若干服を汚しつつスープを啜る少女に問いた
禁書「そんなこと、気にしてられないんだよ! お腹がすいたから食べる。これすなわち生物生存のきほん!」
彼女は一瞬だけサーシャの方を見たが、すぐにその興味は目の前のスープに戻った
サーシャ「第一の解答ですが、そこに理由など無いと言うことですね。しかし、美味しい物はゆっくり食べたほうがより深く味わえると言うのも、基本なのでは?」
禁書「空腹感を何とかしないと、そこに意味はないんだよ!」
サーシャ「第二の質問ですが、例えそうであっても衣類を汚しつつ食べるのは下品ですし、換えの服が無いならせめて前掛けだけでも付けたらどうなのです?」
視線を移す事すらしなくなった禁書目録の格好は、フィアンマが用意したもの。今現在、代えの衣類など持っているようには見えなかった
禁書「それはワシリーサ? が用意してくれるって言ってたんだよ。それと、それなりの意味は有るんだろうけど、それでもそんなはれんちな服を着てる人に服の心配はされたくないかも!」
サーシャ「こ、ここここれは私の趣味なんかじゃありません!!! 第二の解答、そこに立って笑ってる変態のせいです!!」
ワシリーサ「大丈夫よん、もう用意しちゃってるから。フィアンマなんてペド野郎の服よりもずっとマシなものをね」
199 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:11:30.17 ID:+nFCoQzZP
言いながら、ワシリーサは少し汚れた少女の服に触れる
(忘却、いや、これは原理的には"人払い"に近い術式? 意図的に疑念や疑問を持たせないようにスルーさせる働きね。幾重にもある防御術式の深層に、どうしてそんな物を仕込む必要があるというのかしら)
サーシャ「それです。第三の質問ですが、あなたはローマとロシアの迎合には反対だったのでは?」
完全に食事に意識が集中している少女を見限って、サーシャは上司に疑問をぶつける
その顔は少々、強張っている
ワシリーサ「その通りだったんだけどねぇ。私の主張はあくまでローマとロシアの結びつきであって、フィアンマという個人との結びつきは否定していなかったのよ」
それは、殆ど同じじゃないか、と少女は思う。言った本人もそう思っているくらいだ
だが、目の前の上司がそれを受け入れてしまっているのには理由がある。どうしようもない理由が、
サーシャ「……それはローマ新教皇の言う"終末"によって、ロシア成教存続のためには特定勢力との協力が必須、と言う事ですね」
上司は、ん、と軽くうなずいた。そして少し真面目だった表情を一気に明るいものに変えていき
ワシリーサ「賢いわぁ。ご褒美に、新しい衣装を上げようかしら。もっとキワドイのを―――」
サーシャ「では、少し外を見てきます」
言葉をわざとかぶせ、そして少女は出て言った。もはや日常茶飯事のやりとりである
そんな様子を見て、もう、と呟く。そして、表情そのままで異なる少女へ視線を向けた
ワシリーサ「釣れないなー。総大主教のボーヤも主教座だし。でーも、今はあなたよ、禁書目録ちゃん」
キラキラとした視線を少女に向けると、その少女も同じような視線で返してきた
脈ありか? と一瞬彼女を思わせると
「おかわりなんだよ! ワシリーサ!!」
「……まだ食べるの?」
200 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:12:21.71 ID:+nFCoQzZP
「拠点の提供、感謝するぞ。ニコライ」
しっかりした作りのソファに深々と腰かけたフィアンマ
モスクワの主教座の一室で、彼は口軽く話す
フィアンマ「もちろん、総大主教殿も。よく無事で」
総大「私を襲ったローマ正教の人間に気遣われても、嬉しい気はしない」
フィアンマの口調の一方で、主教の口は固い
命をローマに狙われたのだから仕方が無いだろう
フィアンマ「それは、新たに選ばれた教皇の行動であって、俺様の知るところではない」
ん、甘い。と呟きつつ、彼はロシアンティーを喉に流す
フィアンマ「だが、総大主教殿の言い分もわからなくもない。直に俺様がロシアに対して敵意が無いことを証明されることとは思うが、それまではこの冷たい視線にさらされるのは耐えようじゃないか」
ニコライ「殆ど口約束のレベルであって、我がロシアを守ってくれるという保障が無い以上、仕方のない事だな」
フィアンマ「そんな無保証でお前を頼らなければならない状態が、今のロシアでもある。それは分かっている」
持っていたカップを置き、両手をソファの背に乗せた
フィアンマ「これだけは言っておこう。俺様としても、このロシア、特にモスクワは重要だ。失う訳にはいかない」
フィアンマ「行動にも配慮はする。表向きはロシア成教の勢力が活躍しているように振舞ってやるつもりだ」
ニコライ「それは、ローマと直接敵対する、ということだぞ?」
フィアンマ「なに、俺様には関係の無いことだ。ローマだろうがロシアだろうが、な」
きっぱりと、彼は言い切った
本当に自身の都合以外では、どうでもいいことなのだろう
ニコライ「怖いぐらいに我々に配慮してくれるな。重要視してくれるのはうれしいが、我々の面子を保つようなことをしてくれるのは、余計な事なハズだ」
フィアンマ「つまり、何だ?」
聞き返すフィアンマに、今度はニコライの脇に座る少年が応えた
総大主教「……素直に要求を言って欲しい」
フィアンマ「そうだな。なら、単刀直入に言おうか。これは後回しでも良かったのだか」
総大主教の胸にかかるロシア様式の十字架を指差しながら、彼は応えた
201 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:13:00.10 ID:+nFCoQzZP
フィアンマ「サーシャ・クロイツェフという魔術師がロシア成教にいるだろう? その娘と会わせてほしい」
総大主教「サーシャ?」
ニコライ「確か"殲滅白書"にその様な名前の娘が居た様な」
総大主教「そんな名の者が居たとして、何をするつもりだ?」
フィアンマ「ちょっとした答え合わせ、といったところか」
ニコライ「……どうされます、総大主教?」
形式上は最大の権力を持つ少年に、男は尋ねる
"殲滅白書"は一司祭の彼の権限に及ぶところではない。こうやってこの少年が居るべき場所にいる以上、好き勝手出来ない
だからこそ、彼は少年を遠いモスクワに幽閉した。警護という形で。そうすれば、全ての権限は非常時として彼のものになるハズだった
ニコライにとっては、、とてもやり難い状況なのである
「ニコライ司教!」
突然、部屋の扉が開く
ニコライ「どうした? せめてノックしてから入ったらどうだ。ここには総大主教が居られるのだぞ」
「すみません! 急ぎだったもので」
ニコライ「それで、どうしたのだ?」
「ローマからと思わしき天使群がまた現れました! 戦闘能力も向上している模様です!」
前の時こそ、ロシアは戦力を集中させてなんとか、アメリカへ攻撃にローマが集中するという形でのタイムアップまで耐えたのだ
それが強化されたというのなら、更に厳しくなるだろう
確かに能力はそれなり以上ある総大主教。性能は高い。しかし、ローマやイギリスの様に準備されていた"終末"用使役術式があるわけではない
有るのは、"終末"の為に自然発生する破壊者から、聖都であることを強調させた結界で、特定の場所を守るだけ
そんなことはニコライもわかっている。故に彼は目の前のソファに座る男を見た
フィアンマ「どうやら、俺様の出番と言う訳だ」
ニコライ「頼むぞ」
フィアンマ「気にするな。俺様のメリットに繋がる約束は守る。殲滅白書には後で俺様が直接出向こう。もちろん、羽虫駆除が終わってからな」
と、何ら不安など無いように彼は言って部屋を出た
202 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:13:38.40 ID:+nFCoQzZP
斃すべきは敵。敵とは何だ?
目の前にはたくさんの存在がある。先程までとは違い、大小様々で、表情までクッキリと現出している
決まっている。自分に向かってくるもの。守るべきものを襲うもの。自分が斃すように決められたもの
なら、目の前の翼を生やした美しい人型は何だ?
自分に向かってくる。護衛対象であるNYを、そこに住む人々を襲っている。そしてコイツらは何よりも自らが仲間である天草式十字凄教を襲った者たちに関係しているもの。そう言う答えを吐く
つまり敵だ。斃さねばならない
巨大化した七天七刀を水平に振る
それまでの脆い天使はこれだけで弾け飛んでいた
しかし、違う。圧倒的な力で有ることに変わりは無いが、弾けない。自壊しない
ゴミの様に薙ぎ払われた、より人型の程度を深くしたローマの使役天使は、腕が吹き飛んでいたり上半身と下半身が吹き飛んだものも有る一方で、ギチギチと体を痙攣させながらもまだその体を残している個体もある
神裂「……硬イ。ですガ」
瞬間、巨大な刀を構成していた鋼索が解けた
そして、毛細血管の如く無数にあるそれらが一本一本に分離して、それぞれが3次元的な術式陣を形作る
単純な話だ。斃れないなら、更に追い打ちを加えればいい
撃ち漏らした天使たちの動きを留めさせ、氷の塊が、雷鳴が、炎の結晶が、光線が、それらを的確に完全に無かったものにする
NYの空中で、複数の爆発が起きる。神裂という存在が圧倒的なのは変わらない
だが、確実な変化でもあった
今まで100の天使を斃すにかかっていた手間では、このより偶像に近づいた天使は斃せないと言う事
複数の標的へ別個の攻撃を確実に与えるには、それだけ集中しなくてはならない
203 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:14:14.57 ID:+nFCoQzZP
彼女の回りは既に、ジワジワと複数の強化型ローマ使役天使が取り囲んでいて、彼女へ大剣を、弓を、槍を、光を向ける
まず矢が彼女の体を捉え、爆発し、前のめりに飛ばされる
その先には剣を構えた別の天使が在り、投げられた白球の如く、彼女へ剣を振りかざす
バギィ! と骨を砕く音が体内を巡り、今度は反対方向へ飛ばされる
球を神裂火織としたテニスのラリーだ
複数回あっちこっちへ飛ばされたものの、今度は槍に串刺しとなる。だがその直前で、その球はかき消えた
そして、槍を構えた天使が内側から、その3m程の強壮な男性を思わせる肉体を裂いて、彼女は現れる
超能力、空間移動。そこに術式構築の必要性は無い
有らぬ方向へ曲がり、砕けていた身体は既に元通りだ
崩壊する天使の自壊に巻き込まれながらも、揺れるのはその髪だけ
髪とは別に、彼女の背で黒くしなる物体。未元物質製の鋼索が複数の束を作る。それらの束はそれぞれ刀の様なフォルムとなった
そして、有線誘導式のミサイルの如く、それぞれがそれぞれの標的となった天使の方向へ伸びる
標的となった天使が打ち払っても鋼索を千切ってもお構いなしに、それらは標的が崩壊するまで、突き刺し、切り裂く
それら刀型にまとまった鋼索の中心である彼女もまた、ようやく剥き身となった七天七刀を構え
「なぁまぬるイ事ばっかしやがってウザったいんダよ、ド三一が!!」
荒げた声と共に、目の前のとりわけ大型な天使を力の限り打ち下ろした
肩へ深い斬り込みを作って、しかしそれはまだ自壊しない。打ち下ろされた力の勢いそのままに、地面へ急降下
そんなことは分かっている。彼女の動きは速かった。そのまま止めを刺さんと、彼女もその巨躯を追う
5mもある固形物が空から勢いよく落ちれば、その破壊力はかなりのもの
ビルを押しつぶすように、その天使は地面へ叩きつけられた。その腹部へ刀を突き立てるように、更に神裂が振ってくる
「う、うわぁああああああっ?!」
殆ど同時の二つの衝撃に、巻き込まれる女性の声がした
204 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:15:37.96 ID:+nFCoQzZP
「良いだろう。確かにここの壁面は厚いが、しかし、万能じゃない。特にこの円柱槽にダメージが入ると爆発したり、高温の中身が噴き出たりなんてことも有り得る。保証は出来ないが、それでも構わないというのなら、入ってもいいぞ」
ぐったりした初春を背負った麦野、左腕の無いフレンダ、やはり顔色の良くない絹旗と白井
そしてその主張は、「避難場所が無いから、遠目にもハッキリとがっしりしているこの建築物へ逃げてきた。中に避難したいのだが」と言うもの
つまり、怪我を追った少女のちょっとした集団が避難してきた、ということだ
"フラフープ"への莫大な電力を供給する、学園都市外縁部にある施設。その場所を占領、と言うよりは隊の規模的に出入り口の警備に近いことをしていた部隊の隊長は、彼女たちの訴えを退けることは出来なかった
そしてその周辺に立つ彼の部下たちも異論を述べたりしなかった。彼らは学園都市を守りに来たのが仕事だ。仮に襲撃する側であっても、その見た目に彼女たちを保護しないという判断は下せなかっただろう
隊長らしき男の発言に、頷く麦野
「おい、扉を開けてやれ。……避難は構わないが、装置や基盤には触れないで欲しい。ここは非常用電源でもあるからな」
麦野「はい。分かってます」
「最もその様子では、中で悪戯をしてしまうような余力は無さそうだ。入っていいぞ。あと、何かあれば出来るだけの協力はする。その時は我々を呼びにここまで来てくれ」
麦野(残念ながらその悪戯をしに来たんだけどね)
麦野「ありがとう、ございます。ほら、行くわよ」
悪いわね、と日本語で気付かれないように呟いて、麦野達は真っ暗な電力備蓄施設に入っていった
早速、フレンダが補助腕をアポートして腕に取り付け、全員に簡単なライトを投げ渡す
初春「……演技、ってこういう、こと、だったんですね」
少女は、麦野の背から降りて言った
麦野「そ。このメンバーなら、私がアンタを背負ってる方が自然でしょ?」
フレンダ「どうせ麦野の事だから、いざとなれば、結局、ブッ倒してでも入ろうとしたんじゃない?
麦野「馬鹿ね、その時はそこの空間移動能力者さんに頼むつもりだったわよ」
白井「こんな簡単なことで3回分の空間移動の節約になったというのは、個人的には助かることですの」
205 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:16:15.63 ID:+nFCoQzZP
絹旗「……でしょうね」
麦野「んで、どう進めばいい?」
初春「フレンダ、さん」
フレンダ「はいはーい、コレでいいよね」
頷いて、フレンダがアポートで取りだした、使い慣れたノートパソコンを初春が受け取る
あらかじめ起動していたそれは、その施設内のネットワークを掴み、初春がプログラムを走らせた
初春「管理分室は、上、みたいですね」
麦野「口で言われても分かんないから、地図見せて。んで、絹旗、この子を運んだけて」
絹旗「はいはい。あ、靴のままで超いいですよ」
初春「すみません」
麦野「初春ー、施設の三次元構造図とかって無い?」
初春「確か、次のタブ、だったかと」
麦野「おっけ。ふぅん、こーいう構造か」
ほんの数秒、階段に向かって進む
麦野「えっと、白井、あんた後どれだけイケる?」
白井「帰ることを考慮すると、あまり多用したくは無いですの」
麦野「帰ること、ね。いざとなったら、私とかフレンダの帰りは歩く、と言ったら?」
フレンダ「うぇええええ? 歩きぃ? こっから?!」
白井「でしたら、多少の無茶が出来なくもないですの」
麦野「了解。それじゃ、作戦、ってか一発花火を盛大に打ち上げる方法とあんた達の配置、説明するわ」
206 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:17:03.19 ID:+nFCoQzZP
遂に、その時が来てしまう
一方通行が見ていた数値の大きさの問題だ
光の球となっていた佐天涙子最終個体であったもののエネルギー量が、今現在一方通行の扱えるもの以下にまで削られてしまったのである
そしてその情報は、当然その光球を相手にしていた破壊神である巨人も掴んでいる
巨人にとっても、主敵として捉えるには既に弱くなり過ぎていた
小バエの如く近寄ってくる小粒な球をその三又鉾で一際大きく突き飛ばすと、光球は打ち出された弾丸みたく23学区の方へ大きく吹き飛んで行った
そして高らかとその鉾を天へ構えると、そこに膨大な熱量が灯る
一方「………まァたアレかよォ!?」
最大限干渉して威力を弱めんと、地面を強く蹴飛ばして跳び立った彼は、そのまま雷が裂けるような音を放って音の壁を突破した
彼の移動だけで、それまでの光球と巨人のぶつかり合いで瓦礫だらけとなった第7学区の表層の建物が衝撃に巻き込まれ、かろうじて生き残っていた柱たちが軒並みボーリングのピンの様に弾かれたように倒壊していく
最早、巻き込んでしまう恐怖へ、なり振りなど構っていられなかった
自分へ好意を、少なくとも敵意や恐怖ではない感情を向けてくれている数少ない人間が集まった病院にすら、遠目に大きく亀裂が入って、へし曲がってしまっている
流石にあの医者がいる場所であるのだから、そして学園都市の病院であることも考慮して、患者達を非難等はさせていると思われたが
一時的な退避の後に、仮にあの悪夢のような巨人をどうにかしたとして、新たな患者や既存の患者、つまりミサカネットワークからハズされてしまった打ち止めが何か新たな問題を発現させた時に、治療に必要な器具が無いではどうしようもない
だが、彼がその巨人の行動に気付いた時は既に遅かった
さっきの同じ攻撃よりも余程短い、言うなれば"天使の力"の凝縮時間の後に放たれた熱光線は、3つに分かれ学園都市を焼き始める
チャージ時間が短かったことで、先程とは違い、それらは一か所に着弾してその周辺を巻き込んで爆発するように溶かし尽くすでは無く、コンパスで円を描くかのように、3つに分かれた熱光線は学園都市の表層に大きな円形の溝をなぞるように作っていった
それまで執拗に光球の相手をしていたのとは、攻撃対象が異なる事がハッキリする。純粋に、より高効率で少しでも広く学園都市を灰燼にすること
一方通行は飛び上がったまま上空で、真っ赤に光を発して溶けそして炎の上がった攻撃の跡を、連日のことで所々荒野の様になってしまっている学園都市を、見た
"打ち止めが殺された記憶"の中に有る光景と、破壊の方法こそ違えど、似通ったものを彼は感じる
一方(……違うじゃねェか)
まだ早い。それは、彼がその絶望的とも言える光景を見ての、直感だった
一方(……俺が見たかもしれねェ絶望とは、コイツは違じゃねェか)
まるで破壊の運命であったかのように崩れた学園都市を見て、それでも一方通行は絶望しきってはいなかった
必要性が無くなったとはいえ、それでも自らの補助演算を続けるミサカネットワークと、構成する妹達が作り出す電波を感じる事が出来たのだから
それは、身動きのできない第三次製造計画の妹達も健在であることを示している
207 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:17:35.88 ID:+nFCoQzZP
確信は無いが、打ち止めだって生きている。絶望にもがき、暴れるしか無かった"前"とは違う
折れずに残ったそれが心の柱に添えられている彼は、残ったそれらを護る希望を見つけ出す
一方「まだまだ、いくらでも残ってンじゃねェかよ……ッ!!」
自らを奮起させるように吐いた言葉の後、彼は二本の黒い翼を大きく叩き合わせた
叩かれたことで加えられた異常な圧力を受けプラズマ化した空気が、10kmは離れた巨人の頭へ一直線に伸びる
敵への効果は低い。だがコレでいい。もともとその程度に絞ったものだ
元々コレは、この程度の攻撃が通じるという確認と、威嚇にすぎないのだから
彼が見つけた希望。それはとても単純なことだった
何故、三又鉾からの熱光線を用いたのか。そのチャージ時間が短かったのか
そして、その攻撃を受けて溶けた学園都市の被害が、見た目こそ派手だが、今まで見た同じ3分の1熱光線と比べて、溶けた深度が、幅が、程度が、温度が、全てが下回っているのは何故か
一方「テメェの様なバケモンでも、ちゃっかり消耗してるってことだよなァ!!」
消耗の程度は最終個体・佐天涙子に垣根提督の要素が合体した光球の方が酷いにしても、それと撃ち合う度、ぶつかり合う度に、巨人の方も消耗していたのだ
故に、その消耗の分だけ、攻撃への注力は薄まり、威力は下がり、攻撃までの溜めが短いままでしか放てなかったのである
本当は、最初の一方通行の攻撃も、雲を突き抜けたような感覚しか残らなかったものでも、効果があったのだ
ただあの時は、一方通行の未完成な攻撃によって与えられた損害が、巨人全体に対してあんまりにも小さかっただけのこと
だが今は、敵は消耗している。そして一方通行は自身の理解を深め、より効率よく敵の行動に干渉できる
しかし、この消耗も時間をかければ回復してしまうかもしれない
だからこそ、消耗したとはいえ一方通行の扱える力と巨人の力では圧倒的に巨人が勝っているにしても、彼は巨人へ立ち向かった
回復の前に消耗させ続ければいい
根拠は無くとも、今なら出来ると思った。否、今しか出来ないと彼は思った
そして同様の事を考えたのは、一方通行だけではない
指揮者の一人を失ったアメリカ軍の残り15機あまりの未元物質駆動の駆動鎧部隊が
光球相手では無く、再び学園都市への攻撃が始まってしまったことに焦った、能力者達を含めた学園都市残存勢力が
そして、どれだけ自らが消耗しても回復をはからず突っ込んでいく、最早純粋なエネルギーを表象していた光球の形すらも失って、白い女性的なフォルムとなった最終個体+垣根帝督=な存在が
それぞれがそれぞれのありったけを、巨人へ向けてその砲口を向け、放ったのだった
208 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:18:21.20 ID:+nFCoQzZP
揺れる、揺れる
一度出てきたその道を、彼は逆行していた
出るときは他に人間が居た。しかし今は一人である。目的地は、"イェスの間"
爆撃によって時折かなりひどく揺れる。その度に足を軽く取られてしまう
しかし、どういう理由なのかしらないが、その揺れの頻度は時間の経過と共に減っていった
(この分なら、辿り着く前に爆撃で殺される、なんてことは無さそうですね)
(ですが、道が使えないという問題があります。どうします、ここ)
再び地下施設にもぐった上条の目の前には、地下にあるべきでない地上の光が差し込んでいた
"地殻破断"によって地上から溶け崩された為に、目の前には大きな穴があり、穴の向こう岸になってしまった通路の続きにまで、跳躍でいけるかどうか
落ちたら火山の噴火口宜しくな光の中へ真っ逆様。右手が満足に動かない中ではリスクが大き過ぎる
(しかし、迂回するにもその道があるのかという疑問もあります)
(左側に突き出た太いパイプの上に乗れれば、なんとか行けるんじゃないでしょうか。この当麻の体は、基礎的な運動能力が高くなるように教育されたものですし)
上条「行きましょう」
と彼女はあえて言葉にし、少し助走をつけて、向こう岸から突き出た冷却装置か何かの一部であろう1mばかりのパイプの上に跳び移った
着地。都合のいい場所に拳大のボルトがあった為に、それを掴んでバランスを整えれば左手だけでも十分だった
だが、円柱形の上に乗る訳だから、その上を二本の足で歩くのは辛い。加えて、直下の奈落の底にある金属やその他の物の溶け混ざった高温液状物から昇る気体が集中力を妨げる
普通の人間なら、間違いなく簡単に咽てしまって、そのままバランスを崩して高温液状物の仲間入りだ
高々3mにも及ばない距離でありながら、彼はゆっくりとそのパイプの上を3本の手足で伝って行った
あと1m弱。いっそ跳んでしまおうか、と可能性を考慮に入れた時であった
上条「……そんなっ」
見た目から計算した上では上条の体重如き支えられるはずのパイプから、ガコンと何かが外れるよう音と揺れが生じ、そして
久々の爆撃による揺れが、彼を完全にそこから振るい落とさんと、地下施設を大きく揺らしたのだ
209 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:19:18.27 ID:+nFCoQzZP
落下――
体を支える為に掴まるべき場所は、有る。右側で突き出るように倒れた細い支柱だ
しかしその場所を掴むことが出来るのは、左手ではない。伸ばしても届かない。当然右足でも左足でもない。限界まで伸ばした右手。今は満足に動かせない右手
体の重力感覚が下方向へ引っ張られるのを感じ始め、彼女たちは覚悟する
上条当麻の復活の妨げになるのを覚悟で、能力を使うか
つまり、更に当麻を傷つけるのか、ということ
ほんのわずか0.01秒単位の間の出来事であるが、畜生、という思いが彼女たちの中に自然に生じた時だった
「……!」
まともに動かないハズの右手が力強く、掴むべきポイントを握っている
そして、上条当麻という人間の筋力では考えられない力の強さで掴んでいる支柱に力を加え、その体を簡単に1m程奥の通路まで撥ね飛ばさせた
彼女たちがコントロールするその足で着地した時には、右手にはそんな意思をもう感じられなかった
今回が一番はっきりした形での、自立行動だった
("幻想殺し"、米称"相対するもの"である右腕から生じる、"淀みの意思"、とでも言うのでしょうかね。これは)
(意思ですか。仮にそれが当麻の意思なら、復活を行おうとした私達の復活作業に干渉してくる事は無かったでしょう)
(ならば、その意思は当麻のものではない、と?)
(しかも、今回は上条当麻の筋力では有り得ない領域の力が出ていました)
(力。それはもしかして、幻想殺し最大のブラックボックスである、"打ち消し"機能に必要なエネルギー理論と関係が在るのかもしれませんね)
(綺麗サッパリ対象を打ち消すためには、確実に全く同じ力の大きさが必要となる。対象がより大きな力を用いれば、それに対応した力が必要となり)
(そして、少しでも当麻の方が上回ってしまえば"打ち消し"以上の力として、その場に何らかの形で現れるはず。しかし、そんな事実は当麻の記憶には無かった。常に的確な出力をしている、ということ)
(どうやって対象を打ち消すに適した力を算出しているのか、そしてその力はどこから来ているのか)
(この"淀み"は、そこにも関わっているのかもしれません)
左手で右手を握り、彼はしばらくそれをじっと見る
そして、先へと足を進めた
210 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:19:52.46 ID:+nFCoQzZP
学園都市外縁部に隣接された巨大な円柱型の施設の屋上に、二人の人間が居る
その円柱の中腹辺りの階に同じく二人
そして彼女たちを管理分室でモニターしている少女が一人
フレンダ『初春ー、こっちの取り付けも終わったわよ』
中腹、つまり地下まで続く円柱施設の丁度一階にあたる場所に居たフレンダが、装置の取り付けを終えたことを伝えた
「……」
しかし、5秒程経っても返事は返ってこなかった
白井『……初春! 初春!?』
フレンダの持っていた通信機を奪い、白井が声を荒げる
その声によって、大きなモニターの手前のパネルの上で頭を伏せていた少女は、ゆっくりと顔をあげて通信機へ手を伸ばした
初春「すみ、ません。ちょっと、権限の、方に……気を取ら、れてました」
管理"分室"であるということから、施設の最終的な制御権限は無い。だからこそ、麦野の計画を実行するには、その権限を破り、更には直に施設に指令を伝える物質的な器具・装置を取り付ける必要があった
しかし、装置の取り付けはともかく、権限を破ることなど随分前に終わっているのだ
少女が反応できなかったのは、気を取られたなどでは無く、純粋に意識を失っていたから
屋上、円柱型の施設の屋上でもそのやりとりは聞えた
心配そうに無線機をみる絹旗と、無言のままの麦野
そしてそのまま、少女はどう聞いても元気があるとは到底言えない声を続ける
初春「それ、では、フレンダ、さんは……け、計画通りにそこから離れて、白井さんは……」
ようやく出てきた少女からの通信は、そこで止まる。数秒の間が有った
白井『……計画通り、頂点で待っている麦野さん達の元へ向かいます』
空気を読んで、白井は初春の言う事を予測して、応えた
211 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:20:28.99 ID:+nFCoQzZP
初春「……は、い」
もちろん、この会話は全員が持っている無線機、フレンダが持ってきたもの、を通して聞こえている内容だ
3回の空間移動の後、円柱塔の一番上で巨人の動向を見つめる麦野の後ろに、白井が現れた
振り向きもせずに、麦野は声をかける
麦野「初春、そろそろ本格的に不味いわね」
白井「……はい、ですの」
絹旗「今直ぐに、黒子が最優先で初春を病院に運ぶって手もありますよ」
白井「それではあなたが巻き込まれてしまうでしょう?」
絹旗「麦野のビームには狙われ慣れてますから、大丈夫です」
麦野「馬鹿言ってんじゃねえぞ。アレが居なけりゃ根本的にコレが使えないだろうが」
コレを指し示す代わりに、コレである足元の円柱塔を踵で強く叩いた
麦野「やる、と決めた以上、今の計画が一番時間をかけない最善。しかも言いだした張本人は初春だろ」
麦野「一番キツイ奴が一番頑張ってんのに、私らの判断でその意思を無駄しろってか」
麦野「しかも、今巨人に群がってる連中と違って、これ以外に私らで出来ることはないってきてる。あの子を犠牲にしてでも、私はやるわよ。今更止めろ、なんて許さない」
白井「……ッ」
首を少し後ろに回して、絹旗の側に立っている白井を麦野は見た
少し下を向いてはいるが、反論しようという意思は見られない
絹旗の方は、右腕を軽く振っている。準備は出来た、と言いたいのかもしれない
麦野「さぁて、ぐずぐずしてらんないっての。……初春ゥ!!」
初春『……はい』
麦野「超過耐電圧ギリギリまで、一気に頼むわ」
212 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:21:10.63 ID:+nFCoQzZP
初春『分かりました。……これ以降は、蓄電施設から出る電磁波の、影響、で、無線が使えなくなる、こと、が……か、考えられます。だから、私、……に、無線が通じなく、とも、き、気になさらず』
麦野「了解よ」
麦野(もう眠って良いわ、初春。……お疲れ様)
無線を終えて直ぐ、円柱型の施設内に学園都市まだ生き残っている電力供給システムから膨大な電圧が送られていることが麦野には分かる。後は溜められた電子の爆流を、停止・分離させた電極に代わった、新たな電極となった彼女に集めて、その塊を巨人へ放つだけ
それこそブラックホールを造ろうと言う施設に繋がる電力だ。日頃扱っているレベルの電子密度など、とうの昔に超過している
まだまだ加えられ続ける電流電圧に、背中に冷や汗が垂れる感覚がした。だが
麦野(大丈夫、出来る、やれる、やる)
集中する為に閉じていた目を、カッと彼女は見開く
麦野「やぁッて殺んぞこのデカブツがァ!! 覚悟しやがんなァァ!!!」
自らの恐怖を発散せんと、彼女は叫んだ。その激情の余波とも代弁とも取れる形で、微量の電子が球状に広がり、絹旗が白井の前に出て白井を守る
この巨大な蓄電施設が満たされるまで、もう少し
「もう、少……」
管理分室の大きなディスプレイモニターの前で突っ伏しながら、しかし首を捻り何とか左目だけでそのモニターを見守っている少女が呟いた
今の自分の仕事は、この集電が失敗しないように、書き換えたプログラムを、施設全体を見守ることだけ
それが終了すれば、あとはあの麦野という女性が何とかしてくれる
口を動かしたが、もう声も出ない。だが、大丈夫だ。今から無線で呼びかけられて応えられなくても、無線が通じなくなるとあらかじめ言い訳のように言っておいた
このほとんど思いつきのような計画が、失敗することは、無い。少なくとも自分の所では
初春(……もう、少し)
残り60%。だが、非常に眠い。直ぐにでも意識を断ってしまいたい
だが眠れない。"私の役割"の完遂はもうすぐ。だから、まだ、眠らない
開いた左目の意識を、意地でも落とすものか
213 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:21:36.53 ID:+nFCoQzZP
「どうだ、やり難いか?」
手前の男達に尋ねると、その答えはNOだった
「所詮は、同じ十字教だったということです。少々様式や用法の体系がローマとロシアで異なっていたところで、対応できない訳ではない」
フィアンマが約束したように、彼らはローマ様式の装備を全てロシア製のものに取り換えて、完全な形を得た天使の軍勢と戦っている
戦線がモスクワ手前100キロの地点から全く動いていないことから、見た目は5分と5分に見えるが、それは違う
フィアンマが戦場となっている平原に農地が所々混じっている場所に着いた時には火蓋はとっくに切られていて、ロシアの魔術師たちを後衛として、少数精鋭のフィアンマ部隊が飛び交っていた
精鋭部隊は死を恐れない大胆な特攻を繰り返し、ローマの使役天使を巻き込むことで戦線を維持している。だが、結果として誰も死んでいない
それは、彼ら自身の生前の経験と復活者の基本的な性能、加えてフィアンマによる強化もある。そしてロシアとの統一様式を用いることで、回復魔術の親和性を高めていることも挙げられる
フィアンマが話しかけたのは、丁度ロシアの魔術衛生兵達によって治癒を終えた復活者だ
老若男女の面子だが、それらの動きは年齢性差を感じさせるものではない
フィアンマ「そうか。ま、相手の魔術を理解することは魔術師同士の戦いの基礎だからな。ロシアの霊装を用いるのは、その延長線上のようなものだ。お前たちレベルが対応できない訳が無い」
「加えて、あの天使達の使役術式についてですが、私も含めて、ここにいる復活者は関与していた者が多い。だから弱点を知っている、という程ではないですが、使役術式の穴を突けば僅かながらだが相手の行動を抑制出来る」
「そのタイミングを突けば、今の私達でも撃破に障害はないってことですな」
フィアンマ「ロシアにとっては、心強い事この上ない台詞だろうな。だが、自分たちが積み上げてきた術式の成果を、自分で撃破するのは気の良いものでないだろう?」
「それを言うのは卑怯というものだ。そうさせているのは、フィアンマ、あなたなのだから」
フィアンマ「俺様という存在が生まれてしまったことを怨むんだな。ついでに、携わった者としてのお前達に質問をする。この天使達は予定通りの成果か?」
「そうですなぁ。ようやく規定通りの出力、と言えるでしょう」
フィアンマ「ようやく?」
「こいつは第二波であって、第一波はこれよりも弱いものだったらしいんでね」
「第二波でようやく予定の水準です。なぜ第一波を出し惜しみしたのでしょうか。疑問です」
口々に、彼らは疑問を述べた。中には、今のローマの水準が低すぎるんじゃないのか、などという"最近の若者は駄目だ"という良く有る意見も出てくる
この場において、彼らは戦力であり。ロシアとしては直ぐにでも前線へ出て貰いたいと思う所ではある
214 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:22:10.92 ID:+nFCoQzZP
彼らも、そしてフィアンマもそれを促さないのは、今最前線にいる精鋭だけで戦線維持には十分であり、それが必要無いと言い切れるからであり、事実、そうだった
とにかく彼らは余裕を持って、そしてフィアンマも会話に興じていた
フィアンマ「それに関与しているかもしれないが、この第二波が来る直前、ミカエルからの出力が上昇した。これによって使役している天使たちが強化されたと思えば不思議は無い。俺様のミカエル属性も共鳴して、天使の力が上昇したのだから間違いないだろう。だがな」
「だが?」
フィアンマ「不安定なんだよ。袋から袋の口よりも大きい物を取り出す際に、強引に袋の口を拡げて取り出そうとしている様なものだ」
「不安定、ですか。それはおかしいですね。私は、強引に干渉を強めようとしない限り、そんなことにはならないように仕立て上げたのですが」
「この型の天使なら制限内出力、既定どおりだからな。仮に制限を超えたものだとすると、何かの拍子に袋の口が裂けるかもしれない」
フィアンマ「なーに、俺様なら大丈夫だ。仮に術式と言う袋が裂けたとして、爆発的な天使の力の濁流が入って来ても、俺様の許容量を超える事は無いさ」
「それは当然のことでしょう。問題だと思っていません」
「問題があるのはバチカンの方ですな。過干渉による反動へのリスクを考えていない。これだから最近の若いのは愚かだと言われるのだ」
「俺達にとって問題なのは、今ある力の使用に、ロシアの様式では全力を出せない事だな」
フィアンマ「それは仕方が無いだろう? ローマからの敵をロシアで相手する為にローマの装備を用いては、見ている者が疑問を抱く」
「そこまで貴方がロシアを気にする必要があるとは、私には思えませんがね」
フィアンマ「信仰とはそういうものだ。他者への疑念など無しに纏まっているのが正しい姿なんだよ。この点では、信徒の纏まりを重視したマタイは正しかったと言え、対立を利用するしか考えていないペトロは間違っている、と言える」
フィアンマ「そして俺様の計画には、核となる信仰が必要だ。別にローマ正教でも構わなかったのだが、あの教皇ではやり難い」
「それでは、ロシア成教という場所が丁度良かったと。総大主教もお若い様ですし」
フィアンマ「アレは隔離されている方が都合が良かったんがな」
「"殲滅白書"のワシリーサという女が救出したようです。やり手ですよ。ローマの一般魔術師では対処できなかったハズだ。何しろ私を殺した者ですからね」
フィアンマ「ほう。それならば、仇を撃てると良いな」
「その機会が来るなら、是非に」
フィアンマ「そうだな、機会が有れば、だ」
そう言って、彼らは西の空を、戦場を見た。そこでは様々な色の光が生まれては消え、夜の空を感じさせない程だった
215 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:22:45.83 ID:+nFCoQzZP
(私の術式下だというのに、よくやる。バチカン)
彼の頭脳には、ERRORの文字ばかりが増えている。原因は、感知機器からの情報が来ないというもの
純粋な送信能力の損傷も、電源機能のダウンも、そして根本的に機具の破損が考えられる。要は、それだけやられてしまった、ということだ
イェス(駆動鎧とのキルレシオも1:10から1:5まで悪化させてきた上、神裂の撃破速度も下がって来ている)
読み取れる情報を元に、彼は現状を把握する
これまでそれが出来なかったのは、彼の本体があるこの地下空間を取り囲む壁や床がボロボロになる原因となった少女によるものだ
しかしそれもようやく、文字通り片付けた
イェス(だが、その使役の術式は果たして許容範囲なのかな、新教皇。浮かぶミカエル自身の表面に影響が出ているようだが)
イェス(きっと焦っているのだろう。私も、身にしみるほどよく分かるよ、その感覚は)
部屋の入り口から、カタ、と音が響く
イェス("焦り"など、ただのコンピュータならば有り得ない。予測から、既定の事を超えた連想など出来ないからな)
イェス(だが、私は思い描く。そして焦る。人間が焦る最大の理由は、我が身の破滅だ。私が思い描いてしまうものも、同じ)
入って来た者は、様変わりしたその空間を見、そして視線をイェスの本体へ向けた
イェス(人類そのものの存続の鍵である学園都市からの情報は完全に寸断され、シンガポール・デニー・上海などは既に荒野。徐々に被害は西へ)
イェス(未だ宗教色の強いエルサレムですら、攻撃を受けている最中だ。しかも、最悪の想定だった宗教対立が表面化してしまった。交信可能な神格でお互いを守り合うどころか、自然発生する破壊者達と混ざって人間同士で破壊の応酬が始まってしまった)
イェス(我が国に避難民として移動中だった船艇も、護衛艦隊と共に津波で沈没。今は術式や物理的な地殻攻撃によって抑えられているが、巨大地震も大噴火も目前)
イェス(今現在の予測数値として、生き残っている人類は10億を下回る。そして)
イェス("神の国"。地球の現環境を完全に吹き飛ばし、今後億年単位で死の星にするには十分な隕石。そしてそれを中心にした隕石第3波まで時間の限りは僅か。第二波だって来る)
不吉な言葉、情報ばかりが彼の頭脳を巡る
だがこれは、どうにも足掻きようのない、事実だった
イェス(これらはまだ、想定の範囲内ではある。最悪のものだが、これだけならまだ私を焦らす事は無かった)
216 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:23:52.30 ID:+nFCoQzZP
入って来た男が、何かを言っている。言葉を拾えるが、彼はそれを無視した
イェス(想定外の事態、上条刀夜。このような時にどうして国内の反乱が起きている)
イェス(爆撃によって生じた最大の損害は、ペンタゴンでもホワイトハウスでもない。表面的なものでなく時間だ)
イェス(残り3日強でどうして失ったものの復旧が出来る? 出来るわけがない)
イェス(だが、それでも私はアメリカだけでも守らねばならない。人類存続に最低限必要な人数と施設さえ守り切れば、私の勝ちだ)
イェス(その最大の要素である学園都市がどうなっているのか分からないのは、それこそ神に祈るしかないか)
イェス(余裕は無い。不確定な要素を絞り、確実性と達成確立を挙げる為に。もう私は容赦しない)
イェス(最大限ストイックに。そしてそこから先は、やはり祈るか)
イェス「祈る、か。人間が神を思い描く気持ちが、ようやく分かって来たな」
声として出力された。それをただじっと、彼を見つめる者は待っていた
「散々無視をしてきた上で、神を知るとは。"終末"という神との約束に思い切り反抗している貴方がそれを言うのは自己への皮肉と言うものです」
イェス「姉上。残念だが、私にはもう余裕が無い」
上条「弱気ですね。そんなにも爆撃が怖かったのですか?」
イェス「嘘ではないな。この場所を襲っていた爆撃機はもう一機だけとなったが」
上条「当麻の父、上条刀夜。彼が貴方を倒そうとする理由は何ですか?」
イェス「さぁね。存外、権力欲への執着がある人物だったとかじゃないかな。分かっているのは、私の手元にある彼のプロファイルが間違っているということだけだ」
上条「どんなに犠牲を払ってでも、しかもこの"終末"の事態であなたを亡き者にしなくてはならないとする理由が思い当らないと?」
イェス「私でも物理的な理由でアクセスできない情報というものがある。例えば、今の様にネットワークが寸断されていたりなど、だ」
上条「ですが、思い当ることが無いと言う訳ではないでしょう? "前"の学園都市のでの様な事は"前"も"今"も含めて数多く有ったはず。しかも、"今"のあなたはこの国の最高権限を握っている」
イェス「無いわけじゃない。が、それは私に限ったことでも無い。歴代の大統領も、教皇も、そしてあの学園都市の統括理事長も、虐殺の命を出していないと言えば嘘になる」
イェス「だが、それでも私を倒したいと言うのなら、それはもう、私が人間ではない、という点かもしれない。私と言う存在は限りなく秘匿にされているし、私は人間達の自由を限りなく許している。その上"終末"をなんとか回避しようと努めているというのに」
217 :
本日分(ry 投下遅れて済まぬでござるでした
[saga sage]:2011/04/28(木) 09:25:11.04 ID:+nFCoQzZP
イェス「見返りを求めている訳ではないし、彼らはアメリカの中のごく一部だ。しかし、存在を否定されているようにも感じるよ。まぁ、根本的に、私にトーヤ・カミジョーのような求心力や、姉上さえも魅了するカミジョウトウマのような不自然さすら覚えるレベルの魅力がないのかもしれないが」
上条「……"操る"ことしか考えていなければ、そうでしょうね」
イェス「"導く"の間違いであって欲しいところだ」
上条「それは、それだけの資格のある人間が出来る事です。今こうやって敵だらけのあなたにはその資格が無いのですよ」
イェス「敵だらけ、ということは、姉君も含まれるか」
上条「少なくとも、味方ではないですね」
即座に、そして明確に上条当麻の口は動いた
イェス「……残念だ。先程も言ったが、私には余裕が無いのでね」
壁の壊れた穴から漏れる何かの機械の駆動音が変化した
上条「残念ですが、微小機械への直接干渉も通じません。あなたから当麻の体に干渉することは不可能です」
イェス「なら、手荒い方法を取るしかないな」
そう言うと、部屋の壁がスライドし、複数の円形の機械が現れる
それが何なのか、彼女たちには即座に分かった
上条(……レーザー?!)
咄嗟に、彼は体を動かした。もちろんそれは、1か所に留まっていればその照射を受けると思ったから
読み通り、発射される。しかしそれは上条当麻の体を狙ったわけでは無かった
部屋の中央にあるガラス円柱めがけて放たれたのである
まさか、誤作動による自爆、などというオチではないでしょうね、と彼の頭脳は判断する。爆撃によって所々傷だらけなのだから、可能性が無いと言う訳ではないが
だが、その通りだった
円柱に向かった6つの光りは円柱手前で更に無数に分裂し、気が付くとそこには、正確にはその部屋全てを含んで、三次元的な術式陣が描かれていた
同時に、この空間が、施設が、震えだす
イェス「さぁ、ここからはアニメの時間だ」
機械の音声は言い放った
218 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/04/28(木) 12:48:07.72 ID:JjyHFTHy0
乙
ただでさえクライマックス感がはんぱないのにあと半年だと……っ!
俺の脳がついていけるか心配だ
219 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/04/28(木) 16:54:09.96 ID:JL5Wlm1AO
あと半年もできんのかよ
まさかの三周目か?
220 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/04/28(木) 17:39:38.28 ID:VSLE+ango
ここにきてフィアンマ側の出番が増えるとは嬉しい限りだぜ
221 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/29(金) 00:56:13.91 ID:WxPwdUIDO
三周目がみえてきた
俺の脳はむりぽ
222 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[[sage]]:2011/04/29(金) 12:06:18.98 ID:71NkXoEm0
でも覚醒フラグたってね?
223 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/29(金) 14:45:07.37 ID:riKlAp9DO
最後はどうせ佐天さんが元に戻ってみんなで「おめでとう」ってオチだろ?
224 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/29(金) 21:13:32.44 ID:ySqGiksDo
佐天さんが幸せなら俺はそれでいい
225 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/05/01(日) 16:08:57.46 ID:2IT5fhPAO
サテンサン爆発がラストだろ
226 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/04(水) 12:50:13.23 ID:WCIpaQ2oo
話広げすぎてグダグダなのに、まだまだ話広げるのかよ
227 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/04(水) 16:32:20.70 ID:dy9vpLmVo
否定的意見キター!!
こういう感じの文句も有り難いのです
実際忘れつつある伏線とかかなりあるから突っ込み嬉しいし、
何より肯定意見ばっかりの公開[
田島「チ○コ破裂するっ!」
]とかあり得ないって話です
全裸で町歩いてて誰も通報しないとか不健全すぎる
大人の対応なんて必要ないんだぜ?もっと罵ってくだしあ
そうすれば[
田島「チ○コ破裂するっ!」
]レベルの向上にも繋がりますので
で、実のところ話はまだ続くけど、これ以上風呂敷は広げませぬ。今が最大。残りは纏まっていくばっかり。新訳なんて名前をつける気もないですしおすし
実のところ、ここまでも4ヶ月ぐらい前から決まってて、後はもう一度ぶっ飛んだ話を少し添えて(三周目ではないけど、事実上のさんs(ry
で、終わる感じですな。ネタバレ乙
タヒなない限り、誰もみてなくても完結させて、終わる
それがマイ[
田島「チ○コ破裂するっ!」
]。読むのだるいと思ったら斜め読みでおk。所詮そんな程度の話ですからぬ
ちなみに次の投下は明日です。ではでは
あー、早くイェス編終わってくれえええええ。オリキャラの分際で一時期の佐天さん並にしつこいんだよ。これだから安易なインフレは……
228 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
:2011/05/04(水) 16:35:30.99 ID:ZqZ/oR3AO
アナルも開発しとけ
229 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/05/04(水) 17:53:28.08 ID:GOt3rW7Do
面白いんだけど、実際どのキャラが何したいのか全くわからんのは俺だけで充分さ
フィアンマがカッコいいから気にしない
230 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/04(水) 18:06:37.43 ID:TTMAiXxSO
前にも出てた意見ではあるけど、場面がコロコロと変わって
ついていくのが大変ってのがありそう。以前は1レスごとに
変わりまくってたから、それに比べりゃなんてことないけどwwwwww
231 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/04(水) 18:21:25.63 ID:Ee394tJDO
読みごたえあって面白いよ。各キャラにちゃんと心理描写があるのは評価できる
個人的に人知れず散った土御門のこともたまには思い出してほすぃ
佐天さんはさっさと散れ
232 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[[sage]]:2011/05/04(水) 22:34:49.05 ID:59a5wBBi0
なるほど。復活するのか
233 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山形県)
[sage]:2011/05/04(水) 22:51:06.10 ID:4jkKNodWo
それぞれ誰がどこで何やってるかまとめがないと時々訳が分からなくなる。
234 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/05/05(木) 21:58:21.45 ID:cni+bzfx0
何時位に来るのか目安が知りたい。
なんか黙って待てと言われそうな気もするが、楽しみなんだ。
235 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/06(金) 06:23:49.58 ID:ErXaT80Xo
昨日は本当に申し訳ない
渋滞とか言う誰得糞イベントに引っ掛かってしまった
今日の夜10時ぐらいまでに投下させていただきますので……もうしばらくお待ちください
最後の最後で全然ゴールデンじゃ無かったんだぜ。着いたの深夜とか黄金週間舐めてました
あばばばば
236 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/06(金) 22:45:22.51 ID:3D3OQGqn0
ん?
来たのか?
237 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/05/07(土) 00:02:54.70 ID:lXkVyt1AO
イエスの嘘つき!
238 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/05/07(土) 01:46:21.26 ID:eCCKftF3o
こなかったな
239 :
まだ10時代だよな……?
[saga sage]:2011/05/07(土) 03:43:14.60 ID:sNwVsL2yP
「ラストォ!!」
ボストンからかなり離れた空で、一人の男の手が如意棒の如く伸び、爆撃機の胴を貫いた
周辺の味方機が叩き落され回避行動を取った無人の爆撃機を追って、垣根提督は随分とボストンから離れてしまっていた
爆撃を遠ざけることに成功した時点で、彼の役割は殆ど成功した、と言えた
後は爆撃で傷だらけになってしまったボストンに戻るだけ
垣根「ったく、どこなんだここは」
しかしながら、アメリカに来て数日の彼。当然、この場所がどこなのか分からない
適当に飛べば見つからないことも無いだろうが
垣根("君にしては随分と手間取ったようだね"、とか、ぬかしやがりそうだ)
体内を駆け巡る微小機械を経由して連絡を取ろうかと考えたが、前に上条当麻と話をすると言った時のように、返事は無かった
垣根(ビジーモード、か。まさか爆撃に巻き込まれてぶっ壊れた、なんてオチじゃねえだろうな)
そのまま、見える範囲にある都市の様子を見た。とりあえずは、破壊者が現れて人々の生活する街を破壊して回っている、なんて状況ではない
もしかしたら、たまたま見えている範囲がそうで無いだけかもしれないが
垣根(アイツが機能している限り、"終末"による面倒なクソ天使共が現れる確立は下がる。特にアメリカ国内は)
垣根(今のところは、一安心ってことになるが。偶然もありえる以上、確実を求めるにはやはりボストンに戻るかねえか)
垣根(仮にあのAIが失われれば、被害はアメリカだけじゃねえ。最悪、終わる)
そうなるという事実を、人間の襲撃者達は知らない
垣根「……知らねえ以上、その価値なんざ知りゃしねえのが人間だ。だから、知ってる奴がどうにかしねえとな」
そう呟いて、彼は太陽と景色の記憶を頼りに高速飛行を再開する
今の彼が知っていて、昔の彼が知らない価値。その最大のものは、命
しかし、命と言っても、命の重さだのとか言った仰々しく青臭さのするようなものでは無い。親しいものを失った事がもたらす、己の喪失感、絶望感だ
主体はその命の持ち主ではなく、己。このことを彼自身は理解していた。そして、結局は他者ではなく己の感情や意思が、己のすべてを決めているということも
基本は、全く変わっていないのである。学園都市で暗部をしていたころも、一人の人間を失った今も
人間離れした彼において、そして彼だからこそ、それが人間の本質であると悟り
そして少し、彼は悲しかった
240 :
分かった事。時間指定は無理ぽ。そして私はウソつきであるということDA!
[saga sage]:2011/05/07(土) 03:44:57.33 ID:sNwVsL2yP
「なんだ、これは……?」
そう言葉を漏らしたのは赤髪の神父だった
爆撃とは比較にならない揺れと、太陽に負けない強い光の後の事。彼はいつの間にか屋外に出ていて、目の前には金属の脚がある
目の前、と言ってもそれはかなりの距離を置いて先にある。他に何も無かったから、そして、何よりその蜘蛛を思わせるような機械の脚があまりにも大きかったから、これが理由
しかし、何も無くなってしまった、というのは誇張表現でも何でもない
その脚を除いて、何も無くなっているのだ。彼がこれまで居た地下研究施設の壁も廊下も部屋も
あるのは彼の体を纏うジェル状の金属と、手に入れたちょっとした資料のみ
そして、周囲のキャンパスが建てられている高さ、言いかえれば通常一階の床にあたる高さよりも40m程窪んだ場所にある、見た目からは500m×500mぐらいは有りそうな、だだっ広い平面。そこの端に彼は立っている
まるで、地下研究施設とその直上にあったもの全てが消えてしまったかのようである
彼の前にある脚が、10mは余裕で超えただろう大きさを持っていながら、ふわりと宙へ5m近く浮いた
そのままこの平面の中央へ、それは他の3本の脚部と同様に向かっていき、中央の何かの機械へと集まった
集まった4本の脚と核になる物。そしてその正面に、彼の知る人物がそれを見上げていた
見たことのある、ツンツン頭の東洋人である
イェス「巨大な機械と機械の合体。これがいわゆる浪漫と言うものなのだろう?」
組み合わさってみれば、全長20m程の体躯を持ち、背に二本のミサイルコンテナの様なものを背負った多脚型のロボットとなる
そのどこかにある外部スピーカーから、声が出力された
上条「……これは、大層な玩具を造ったみたいですね。ですが、浪漫のある合体というには見た目通りというか、ただアセンブリしただけではとても合体などとは言えませんね」
イェス「堅実な設計思想に、冒険の無い運用。これが一番安定的で予測可能性を大きくするものさ。それがこの国が歴史から得た武器兵器の基礎なのでね。もちろん、私もそれを否定しない」
上条「人間一人を攻める為に、大規模空間移転を行い、そしてこんなものをわざわざ持ち出すなんて、本当に余裕が無いらしい」
イェス「その通りだ。姉さん達一人を相手にする為だけに、こんな対神格用の虎の子を持ち出すのだからな。例え本来の使用用途であってもコレと神格がぶつかり合えば、その余波には害悪な宇宙線がばら撒かれる可能性がある。使用する予定の無い、本当に最終兵器というわけだ」
イェス「だが、それだけ私が本気であり、力で捩じ伏せるのに確実な手段であるということでもあるのだよ」
上条「それだけ言っておいて、ただ大きいだけでは。その大きな脚で踏み潰そうとでも? とても機敏そうには見えませんが」
イェス「果たして見た目通りだろうかね。仮にも天使と呼ばれる連中と戦う為の代物なのだからな」
241 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/07(土) 03:46:37.39 ID:sNwVsL2yP
大型4脚兵器の前に立って見上げている上条の目の前で、彼から見て右側の脚が軽く持ち上がる
それは仮に腕であれば、振りかぶるという動作として映っただろう
体感できたのは衝撃が何よりも先だった。遅れて、ズガン!! と強烈な音が生まれる
単純に、しかし素早い、脚による"踏み潰し"。そっくりそのまま地層が無くなった様な平面に、クレーターが出来る
その駆動音は限りなくゼロだった。これだけ大きなものを動かすのだから、予備動作などがあってもおかしくないハズなのだが
上条(ッ……。これは、何か特殊な原動力を用いているのでしょうか?)
危険を悟って咄嗟に後ろへ逃げた彼の目の前で、再度脚が持ち上がった
コンクリートと金属、そして土砂で構成されたその平面の上で、上条当麻を押しつぶすかのように、続けてその巨躯の内一本の脚がリズムよく振りかかり、平らな面を凸凹にしていく
当れば骨折だとかで済むわけが無い。純粋に何十トンとも重量があろう金属の塊が加速を付けて振って来るのだ。外見を留めていれば良い方である
上条当麻という身体と同型高機能AIを引き込みたいと言っておきながら、即死級の攻撃を繰り返す
予想と実際の動きを見切って、寸での所で回避を続ける上条当麻の体
当れば、上条当麻の意識の復活を含んだ何もかもが無になる。その動きは必死だ
イェス「ホラホラ。そんな様子で、その大切な体を守りきれるかな」
上条「くっ……!!」
即死級の攻撃、といっても実質は、4つも有る巨脚の内の一つを少々動かしているだけにすぎない
ほかにいくらでも攻撃手段などあるハズだ。例えば、巨脚の上部にある何かを格納していそうな大きなハッチの中身。巨脚に支えられている、人間でいえば骨盤に当たる兵器の中心の部分に装着されている、ミサイルでも格納されていそうな二つの巨大な直方体の中身など
対神格用、というぐらいだから、攻撃手段が重量を叩き付けるだけなんてハズが無い
上条(つまり、私達がコレを避け切るのは想定内。意図的にギリギリ回避可能な攻撃を繰り返している)
力を見せつけて、降伏を迫ろうとでも考えているのだろうか
確実に踏み潰しを回避できるという行動予測結果が出た直後、彼の視線は上へ向けられる
合体直後と今で変化が無いかどうか。次の踏み潰し攻撃を予測する為の時間を考えると、そう長くは観察できない
一瞬チラ見しただけ、と言える時間で、彼女たちは変化を見つけた
多脚兵器の中核部分に背負われたミサイルコンテナの様な二本の直方体の内、上条から見て左側の方の口が4分の1程度開いていた、ように見えた
上条(何かを、射出した? まさかあのサイズで対人ミサイルなんてマニアックな物を装備している訳ではないでしょうけど)
242 :
>>228 おk、上条さんのケツを掘ればいいんだな
[saga sage]:2011/05/07(土) 03:49:50.25 ID:sNwVsL2yP
次の踏み潰し攻撃を見切るべく、向けられた視線は脚部。既に回避行動は有る程度パターン化されている
ただ、問題なのはどうしても目の前の脚に意識が集中してしまう事だ。自らの後ろ、跳んで回避する着地先のことは見ている暇が無いために確認できない
事実、既に何度も放たれたストンピングが、着地先を変形させていた
結論として、彼は着地の際に、少しバランスを崩すことになる
もちろん"それまでの敵の攻撃によって平らな地面が変形している事"を、彼の頭脳が考慮していないわけではない
バランスを崩して、氷で滑った様に両足が宙に舞いながらも、彼は強引に体を空中で捻じ曲げて、左腕と両足で地面を転がりながら体を安定させた
予想外の行動。その安定の為に僅かだが行動が止まってしまった。しかしそれは、次の踏み潰しまでの時間で、今まで通りの攻撃が来るならば、回避行動を立ち直せるはずだった
敵の動きを見ようとした、そんな時である
突然、バキン! と聞きなれた音が鳴った。それは、右手が何らかの能力や魔術を打ち消した時の音
右腕が動いたのか、それとも体を動かした際に振れた右腕が偶然に触れたのか、どちらか分からない
即座に原因を突きとめようと、右側に瞳を滑らせると、そこには何か白い壺の様な物が浮いていて、その口をこちらに向けている
上条(あれは、何)
特定の為に思考を回転させようとした瞬間、何処からか頭脳に危険が知らされる。その、"後ろへ"、という意思に従って、彼女達はその体を更に後ろに跳躍させた
直後、縦1mと横3m程の壺の口から、ブォンと青白い光を放った何かが飛び出す
目の前を通過して、その何かはそのまま窪みの壁面に突き刺さった。200mは離れていると言うのに、上条当麻の耳には、殆ど土砂で出来ている壁面を砕き、そして消す音が入ってくる
上条「んな……ッ?!」
イェス「今のを避けるとは、流石だな」
感心するような声が機械の塊から出力された
イェス「見たことも聞いたことも無いだろうさ。これは、魔導電磁投射砲、とでも言えばいいかな。電磁砲の初期加速に関与する速度表皮効果の制御を魔術で最適化させ、二段階目加速に使われるプラズマを術式的に増幅・可制御化、更に弾丸となる投射体に未元物質を使用することで射撃の際に生じる摩擦・電気抵抗・耐熱限界等の科学的な弾速限界を有る程度まで突破させる」
イェス「故に強烈な発射音も風切り音も生じず、殆どのエネルギーを破壊力に流用できる。もちろん、消費されるエネルギーは非常に大きいが、それも解決している」
上条「馬鹿な。それなら、弾速は理論上……」
イェス「そう、光速だ。もっとも、それだけの出力を出そうとすれば、この浮遊砲台では制御しきれず射撃前に吹き飛んでしまうがね」
射撃を終えた壺のような浮遊砲がコンテナの中に格納され、代わりにそのコンテナから更に5つの浮遊砲が射出される
巨大多脚兵器の周辺に等間隔で展開し、その砲口は上条に向けられた
243 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/07(土) 03:50:30.38 ID:sNwVsL2yP
イェス「さて、踏み潰されないだけで必死だったと言うのに、果たしてこれらを全て回避できるかな」
どう考えても、そんなことが出来るはずが無い
上条「手数で確実に圧殺しようとでも考えているのでしょうが、力づくというのは単純というもの」
イェス「だが、確実とも言う。そしてそれが国のあり方と言うものだ。アメリカという国家の歴史でもある。素直に従ってほしいね。偶然は何度も重ならないものだ。カミカゼも通じたのはその初戦だけだったのだから」
"こちらは、確実に上条当麻を殺すことができるぞ。だから、大人しく屈してしまえ"
あの多脚兵器のどこかに格納されているであろうイェスの基盤が、そのように考えているのが彼女達には透けて見えた
今更、戻ってきた事を悔いても遅い。これだけのことをしてくるということは、どうせ上条当麻とその中の自分達が捕捉されるのは時間の問題だっただろう
下手に逃げたなら、今よりももっと悪い状況だったかもしれない。この状況は、それこそ逃げ場は無いものの、ただの平面ということで、見晴らしもよく奇を狙われることも少ない
ならば何とかして、目の前のものを黙らせねば
上条(何の能力も使ってない右手に触れただけ、つまりオリジナルの幻想殺しで打ち消したということは、術式による安定だの加速だの未元物質だのというのは事実でしょう)
上条(それは逆に言えば、幻想殺しを使えば完全に無力化出来ると言う事でもあります。異能の力に特化しているということは、あれ自身や格納装置に近づくことが出来れば)
しかし、どうやって近づく? 現状、ほぼ平面で広い窪地の殆ど中央で、高さだけで20mもある機械の塊の足元をちょろちょろと動きまわっているだけにすぎない
拒否すれば、踏み潰しも並行しても使われる。どちらも貰えば即死だ
よくある漫画やゲームなどの攻略法では、その高威力浮遊火砲の矛先を本体に向けさせて自爆を狙うというものだが
上条「そんな高火力武器を使って、もし自らに当ったらどうすると言うのです?」
機械の塊を見上げながら、彼は苦し紛れに言った
イェス「そんな愚かなことが本当に起きるとでも思っているのかね、姉君は」
上条「……その慢心が仇にならないとは限りませんよ、イェス」
言ったものの、万事休すと言えた。右腕も反応してくれない
そんな時だった
「へぇ、これが例の"イェス"と言う奴か」
全く予想していなかった声が、少し離れた所から聞こえた
244 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/07(土) 03:51:03.58 ID:sNwVsL2yP
この最早道路と言うには不十分すぎる、道を駆ける少女
彼女の体内を流れる上条当麻の微小機械が、新たなる被曝を防ぐ
だが、彼女の行く先に目的などない。会いたい存在は有るが、何処へ行けば良いのか分からない
明らかな悪路をスリッパのような簡単な履物で走っていた状況で、地面に大きく揺れが走る
原因は、叩きつけられた一機の駆動鎧に、巨人が追い打ちとして三又鉾を突き刺した衝撃だ
彼女は瓦礫の上に転倒してしまい、尖ったビルの瓦礫がついた手の平を裂く
そして彼女の後方で、遂に第7学区の病院が倒壊を始めた
手の平の痛みを無視して立ち上がりつつ、後ろで既に聞きなれたと言える倒壊音を生じさせつつ崩れ落ちる病院を見た
果たしてあの崩れ方をした病院の、その地下のシェルターに自分が留まっていて助かったであろうか
根本的に避難は完遂したのだろうか
そんなことを考えていると腹部からの痛みを感じた
先程転げたところにガラス片でもあったのだろう。身につけた薄い患者用の衣類がスッパリと裂けていて、同じような切り傷が腹部にあった
動いたことでようやく痛みを感じる程度で、傷は浅かった
病院は壊れてしまった。これで本格的に帰る場所は無くなった
増える傷、唸る轟音、揺れる大地、不完全な体調、そして浜面が既に死んでいるかもしれないという絶望
そんな彼女の目の前にふと、男のような存在が現れる
人間と言う種族の全てを平均化した様な大きさと、どちらかと言えば男性的だが中性的な顔をした存在
半蔵と言う男に捕らわれていた時に助け出してくれた存在に、似ている様な気がした
「滝壺理后。なぜ、ここに?」
名前を知っているという事は、私を知っているという事なのだろう
その男の様な存在は、一瞬駆け寄るような仕草を見せたかと思うと、思い留まった様に一歩ずつ20mぐらいの距離をゆっくりと縮めた
245 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/07(土) 03:51:39.04 ID:sNwVsL2yP
特別、笑みや怒りの様な表情を浮かべることも無く近づいたその存在は、彼女を近くで見るや、腹部に腕を伸ばした
先程出来たばかりの傷に手が触れたかと思うと、急速に傷が縮まっていく
体晶を使っていない彼女であるが、仮に使ったとしても、この傷を治す手法に気付けなかっただろう
超能力と言うよりは魔術に近い方法で、その存在は彼女の傷を癒す
裂けた衣類の上からも完全に傷が見えなくなった所で、その男は口を開いた
「滝壺、他には怪我をしてないか?」
不思議と抵抗する気にはなれず、彼女は更に手の平の傷も見せた
腹部の傷と同じように、目に見えて癒える傷
殆ど終わりに近い状態まで回復した時、その男は彼女の頭の上に逆の手を乗せる
何か引っ掛かっていたような、抑えつけられていたような毒気が抜けるのを、彼女は感じた
そして癒えた手の平に触れていた腕で、学園都市の内外を隔てる壁の方を、その側に有る一本の大きな建築物を指差した
「あの場所で、麦野沈利達が戦おうとしているようだ」
滝壺「え?」
裕に10km以上は離れている場所をハッキリと指差して、彼は続けた
「あそこへ行って、彼女たちを手伝ってあげてほしい。君にはその力がある」
急な言葉な上に、意図が読めない。麦野達が何をしようとしていて、どう手伝えばいいのか
当然押し黙る滝壺に、次の言葉が落とされる
「彼女は、自らの素の能力では得られない攻撃出力を、周囲の設備を利用して得ようとしている」
「だがね、"素養格付"からも、そこからの現在の能力の伸びを見ても、今の彼女ではあそこの全てを攻撃に用いる前に制御不能に陥って、自爆する可能性が高い」
「彼女自身、その事実を分かっているかもしれない。だが、分かっていても、あの性格だ。自らの自尊心にも促されて、強引に実行しようとするだろう。だから手助けが必要なのだ」
「そして君は、今の君ならば、彼女を補助することが出来る、必ず」
そう言って、男は滝壺の頭の上にのせた手を離した
246 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/07(土) 03:52:08.15 ID:sNwVsL2yP
「君に会う事が出来て良かった。あのままでは、本当に麦野は、そして彼女を支えている絹旗やフレンダ達も自爆に巻き込んで、犬死してしまうことになっただろう」
「時間は無い。私が君を送ろう。少しの間目を閉じていてくれ。少し、まぶしいからな」
その言葉は、無感情的とも感じられたが、だがどこかで、"アイテム"のメンバーを、そして自分の身を心配してくれているようにも感じた
そして直接肌が触れ合った彼女は、彼によって何らかの干渉をその身に受けただけでなく、何か落ち着きをもたらしてくれたような気がした
「待って」
何かを行おうとした存在に、会話の流れから何らかの移動手段の準備なのだろうが、滝壺は声をかける
滝壺「これだけは、教えて。あなたは、あなたは誰?」
そう尋ねると、男であろう存在は初めて少し表情を、口元を緩ませて、彼女の目を片手で塞いだ
「私は、……いや、俺は――――」
そこまで聞こえた時、隠された目と手の隙間から強い光が生じる
気付けばそこは、薄暗い空間だった
そして先程まで傍らにいたハズの男はいない
落ち着きを取り戻した目に映ったのは、大きなディスプレイに、その前の入力装置に突っ伏している一人の少女
自分と同じ患者用の服を着ていた
ディスプレイには、100%とあり、そして同時に大きく危険水準と映し出されている
少女に近寄ると、左目が見開いたまま、その数字を見ているよう
目は怖いほどの力を感じるが、体全体は生気を感じない。首元に触れると、脈も無く少し冷たい
死んでしまっている
その狂気をも感じさせる左目を閉じてやる。そこで、感覚がした
"能力追跡"という能力を持った彼女は自分の殆ど直上から、感じ慣れた麦野沈利がその能力を大きく発現させようとしているのを感じたのだった
247 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/07(土) 03:53:00.99 ID:sNwVsL2yP
地面から、空中から、生き残ったビルの上から
そして、炎が、巨大な水のうねりが、雷が、風が、プラズマが、超電磁砲が、銃弾が、ロケット砲が、その他攻撃と言えるあらゆる残された攻撃能力が、その巨人へ向かう
それは、破壊者である巨人とっては痛くも痒くもない程度でありながらも、確実に煩わしさを感じさせている
本来ならば、そんな煩わしさすら有り得ないのだ。だが巨人がそう感じるのは仕方ない。煩わしいと感じてしまう程に弱体化し、消耗しているのだから
「ありったけのものをありったけブチ込め!!!」「なるべく一か所に攻撃を集中させんだよ!!!!」
「私のは高温だから、直後にあなたの氷点下をお見舞いしたらいいんじゃない?!」「武器ならその辺の死体からいくらでも回収出来る、残弾何か気にせずぶっ放せェ!!」
「あああああああああああああああああ!!?」「う、ぎゃっ!?…………………」
「他の連中の弾にも気を付けろ! ライフル程度ならまだいい。携行ロケットなら当りどころによっては致命傷だからな!!」
「もしかしたら、あの巨人は飛べないんじゃないのか!?」「だろうなぁ!! この状況だ、飛べるなら既に飛んでる! そうしないのは、そんだけの力が残って無いからかもしれねえ」
「そいつはいい!! 他の連中とも連携するんだ!!」「どうせ食らってしまえばこっちはイチコロ即昇天なのよ!! ニュースが事実ならどこにも逃げ場も無いし!! 悔いが残らないように出来るだけの抵抗を見せてやるっての!!」
巨人を囲んだあらゆる場所から、あらゆる声が聞こえる。その声は、最大戦力である最終個体だったものと、一方通行にも伝わっている
既に病院が崩れてしまったのを見て、彼の行動には先程までの遠慮は薄まっていた
一方「ヒャハハァ!! 羽虫にも満たねェ雑魚どもが群がってやがるぜェ!! やられるばっかのマグロじゃねェってかァ!? まァ俺も、このデカブツからしたら、大差ねェンだろォがなァ!!」
叫びながら、彼は集めたプラズマ塊を投げつける。存在しているだけで、周辺の空間そのものが揺れるような代物だ
巨人に当ったそれは、確かに見た目に派手な変化は無いにせよ、小さいながら確実に損害を与えていた
一方「いいぜいいぜェ!! 何時までも掴まらねェクソみてェな蚊の如くゥ、チマチマしぶとく戦おゥじゃねェか!! 流れ弾が行っても保障は出来ねェけどなァ!!」
そう言う言葉を吐きながらも、彼は巨人の額から第3の目が開き、地面の虫達を一掃しようと狙っているのを確認すると、即座に巨人の顎下に飛び込んで、首から上全てを弾き飛ばさないという勢いで、方翼を先ほどよりも更に大きなプラズマの渦に変異させて、やらせまいと叩きこむ
当った。当っている。今度は雲のようではない。当て方が分かれば、というよりは自らを守ろうという無意識の防御干渉を抑えれば、今なら触れることだってできるハズだ
結果的に強烈なアッパーブローを受けて、天空を眺めるように開いた目が、宇宙に向かって光の弾丸を撃ち出す。雲に大きな穴を開けて白く細い光線が飛んでいった
学園都市に壊滅的な被害を与えるだろう攻撃自体を殆ど無効化することには成功した。一方で、彼の行動余波と攻撃余波だけで、巨人の足元近くで展開していた残存部隊の何人かが弾け飛んでしまたのも事実
しかし、光線系攻撃を除いた巨人の手足と三又鉾による叩き付けなどの直接的な行動による攻撃を受ける可能性のある範囲で抵抗をする人間は少なく、これでも被害は最小限だ
よし、と無意識に安堵した彼の目の前を、何かが通過した
巨人の顎が上を向いたままの、その僅かな間に、核である女性的な体のみとなった最終個体であったものが巨人に突っ込んだのだ
一方「オイオイオイオイィィ!? まだイノシシみたく突っ込むなンざ、肉食系にも程があるンじゃないですかァ? 中心核だけになったそのザマなら、文字通り特攻じゃねェか」
一方通行が得た情報通りならば、これ以上にお互いを破壊せんとぶつかり合うならば、女性的な姿の光球であったものの内包されたエネルギーが尽きてしまいかねない。もしそうなれば、核である女性的なフォルムすらも維持できず、崩壊するかもしれない
それは巨人へ抵抗もとい攻撃を仕掛ける側からすれば、総合的に見て大幅な戦力ダウンにつながり、更にはその特攻そのものによっても潰しあえるエネルギー量が僅かである為、喜べたものではない
248 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/07(土) 03:54:15.55 ID:sNwVsL2yP
しかしながら、一方通行には止める時間など無かった
上ずって凹んだ顎を更に凹ませんと突貫した女の姿に、一方通行は舌打ちをして、次なる行動を考える
こうなれば、がむしゃらに攻撃を繰り返せる存在は自分だけだろう。そう言う存在が巨人の攻撃を引きつけてくれなくては、周辺で展開している人間たちは一瞬で蒸発してしまう
誰かがその役目をしなくてはならない
下の方で巨人の足へチマチマとした攻撃集中させている連中よりは余程強力な超電磁砲を、適正弾を使う事で第三位の用いるとされるゲーセンのコインよりは威力の高いそれを、乱射している駆動鎧達は確かに強力だ
しかし、残った10機あまりのそれらの戦力よりも光球だった存在の方がまだ強力なのだ。代わりにはならないし、数自体も叩き落とされるなどして数を減らされている。当てにならない
ならば、自分しか無いだろう
行動予測と調査の為に黒翼の一部を一種のセンサーとして拡散させていたが、そんな僅かな使い方すらも諦めて、今使える最大出力に集中させて巨人に立ち向かおうか、と一方通行が考えていた時
そのセンサーに、強力な存在が現れたという情報が伝えられる
巨人の口顎から突入した内部に、巨人とは別のエネルギーの塊があるというもの
それは、先程まで消耗しきっていたハズの最終個体であったものが、光の球の姿を取り戻しつつあることによるものだった
エネルギーを借り取るという形で
その光球の行動に驚いたのか、巨人は手を自らの顎に挿して、光球を掴み出し、ビルへ叩き付ける
連なったビル群を3本程なぎ倒した末に、それはもう一度光る球として浮かび上がった
サイズは最初程の大きさは無いとはいえ、半径5mと言ったところだろう
そして当然、その分だけ巨人からはエネルギーが失われていた
浮かび上がった球は、巨人としても無視できない力をもう一度持ち直したということだ
一方「同じ"何か"だからこンなこともできる、ってかァ。少しは頭の回る雌豚じゃねェか」
もちろん、最初からこういう事が出来るというならば、あの光球が巨人の全てを吸いつくせばいいだけのこと
それが出来なかったのは、チャンスが無かったという事だろう。自らのプラズマアッパーがその好機を作ったということか
一方(となると、さっきのみてェに大きく崩れる様な事があれば、"何か"というエネルギーの塊としての奴に直接干渉することが出来るかもしれねェってことだよなァ。調べるのにも丁度良い)
一方(だが、デカブツだって馬鹿じゃねェ。今ので一層警戒をするだろうが、それで攻撃への積極性がなくなるってンなら、そっちの方が戦局としては大助かりだ)
もう一度、巨人へ向けて光球が突っ込んだ。対する巨人は先程の吸収を警戒してか、迎撃の動きが鈍い
一方(いいねェいいねェそのままだァ!! そうやって永遠にニブい亀のままでいてくれて全然かまわねェぞ、シヴァさんよォ!!!!)
そして彼も続けて突っ込んだ
249 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/07(土) 03:55:42.82 ID:sNwVsL2yP
「今度はアイアンマンのご登場か」
声の主に機械の塊も反応した
上条のほぼ背後にあったのは、人の形をした、溶けた金属の様なオレンジの色を放つ高温体。だが、顔がある
上条「お前は、ステイル……なのか?」
ステイル「こんな見た目をしているが、その通りさ。多分だが」
上条「多分?」
ステイル「君は気にしなくて良い。それで、このお世辞にも芸術的とは言えなさそうな機械の塊が、イェスとやらなのかい?」
上条「正確には、中身だけどな」
ステイル「中身。つまり、イェスが乗り込んでいるわけだ?」
その疑問に答えたのは、上条では無かった
イェス「それは違う。私は人間ではない。故に、乗り込んでいるわけではない。これが今の私そのものだ、ステイル=マグヌス」
ステイル「……僕を知っている?」
イェス「知ってはいる。神裂火織の記憶に、君のデータがあったからな。だが、彼女の記憶の中の君は、高温の混合物を衣類の如く身に纏うようなの魔術師ではなかった。良いセンスだとは思うがね」
ステイル「お褒めにあずかり光栄だが、それはそのデータが古いだけだな。まぁいい。なんだか込み入ってるみたいだけど、イェスとやら、お前に聞きたいことがあるんだが」
イェス「こちらの質問に答えてくれるのなら。手短にお願いしよう」
言いながら、多脚兵器のコンテナから更に5つの浮遊砲台が射出され、計10機の砲台が母機の周りで彼らを狙う。それでますます、上条は逃げ難くなった
どさくさ紛れに逃がさないという意思なのだろう
ステイル「構わない。ならば僕から聞かせてもらう。"救世主"を知っているか?」
上条「……救世主?」
イェス「知らないな。正確には、定かではない、と言うべきだろうけどね」
250 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/07(土) 03:57:16.88 ID:sNwVsL2yP
ステイル「どういうことだ?」
イェス「単純な話さ。救世主は聖地に現れる。逆に言えば、聖地の中ならば、誰がそうなのかは分からない。何しろ救世主だ。私の力でも完全にどうこうできるものじゃない。この上条当麻のようにね」
全て私の管理下なら、上手くだろうがな
後に続いた言葉は、上条へ向けられたものに思えた
ステイル「"定かではない"、なんて言い方をするぐらいだ、特定とまではいかなくとも、範囲は絞られているんじゃないのか?」
イェス「……確定していない、ということまでが事実だとは保証しよう。さて、今度はこちらからだ」
ステイル「何だ?」
イェス「君は一体何者なのか、ということだ」
ステイル「ご自慢のデータの通り、必要悪の教会所属の一魔術師で神父。魔法名でも名乗ろうか? その意味を知っているかどうかは知らないが」
イェス「そのデータは古いのだろう? 今の君は、敵であるはずのローマ正教系の術式が埋め込まれているな」
上条「ローマ正教だと?」
驚いて、ステイルの方を向く。しかし、彼は上条の視線を無視した
ステイル「驚いたね。科学の塊ごときが、そんなところまで見破るか」
イェス「これは、科学だけの代物じゃないさ。そしてローマ正教以外にも、複数の見慣れない術式も確認できる。君が開発したにしては、いささか度が過ぎると言えるだろう」
イェス「質問を変えよう。今現在、誰の指示で動いている? 本当にイギリス、必要悪の教会の人間なら、ボストンなどには居ないはずだからな」
居るとしたら、襲撃中のNYであるはず。なにしろ彼らのアメリカでの行動目的は、陽動なのだから
ステイル「……神の右席、右方のフィアンマ。知らないと言っても、これ以上の言葉は無いが」
イェス「いや、大丈夫だ。フィアンマ。そうか」
上条「神の右席だって? 一体どういうことだ、ステイル?!」
ステイル「君には関係ない、上条当麻。これはイギリス云々でなく、僕個人の問題だ。そしてイェス、フィアンマ抜きの、僕個人として是非聞きたいことがあるんだが」
251 :
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[saga sage]:2011/05/07(土) 03:57:47.24 ID:sNwVsL2yP
その体、右腕を覆っていたジェル状の混合物が、ブァッという音とともに瞬間的に気化し、素肌が一瞬露になる
音に反応してステイルの方へ視線を移した上条には、心なしか、その表情に怒りが混じっているように見えた
イェス「なんだ?」
ステイル「さっき、神裂の記憶がどうこうと言っていたよな」
イェス「ああ。言ったね」
ステイル「なぜ彼女のそんなことを知っている?」
イェス「当然さ。彼女は私の貴重な戦力なのだから」
ステイル「それは、何時からだ? それは、イギリスで禁書目録を襲った時からなのか?」
イェス「彼女をイギリスで使ったのは、試験運用という面もある。提案したのは科学者だが、許認可を与えたのは私だ。禁書目録の捕獲又は殺害という名目でね」
淡々と、彼は言った。だが、一際大きく驚く存在が有った
上条「さ、殺害?!」
イェス「当たり前だろう? 彼女は一種、大量破壊兵器なのだからな。魔術師集団などという、国際的にも国内的にも公開されていない組織が管理しているということは、他国からしたらテロリストが大量破壊兵器を持っているのと変わらない」
イェス「それが、国家的なプロジェクトの代物であったとしてもな。この私が管理するか、そうでなければ殺すまでだ」
上条「ふざけるな!! そんな考え、自己中心的にも程があるでしょう!」
ただイェスの言葉を聞くステイルとは対照的に、上条が大きく反応した
当然と言えば、当然である
禁書目録は、彼女たちに他者の体温と言う物を教えてくれた存在なのだから
イェス「現に魔術師集団というのは危険なのだよ。姉君は知らないだろうが、実際にニューヨークの都市圏をローマ正教とイギリス清教の魔術師集団が襲撃し、軍人はおろか一般人にまで被害が出ている」
イェス「そういう事態を未然に防ぐ為に、力を正しく使うことがどうして問題だというのだ?」
上条「確かにあなたにとっては正論かもしれない。しかし、だからと言って、あの子を殺すことを正当化する理由にはさせない」
252 :
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[saga sage]:2011/05/07(土) 03:59:30.78 ID:sNwVsL2yP
ステイル「騙されるなよ上条当麻。その正しさも怪しいものだ。君は正論と言ったが、その正論の為に、自国内で、しかも善良で非暴力的な魔術組織ですら、協力を拒否しただけで皆殺しにするなんてやり方を採っているんだ」
ステイル「しかも、その協力の方法も運が良くて傭兵、目を付けられれば殆ど拷問に近いやり方で老若男女問わずモルモットにされる。これはその犠牲者のリストだ。犠牲の甲斐と言うか、随分と深いレベルまで理解を進めたみたいだけどね。日ごろ人権を理由に他国へ露骨な干渉をしている国の癖に、よくもやったものだ」
彼の手の平の上、ボワッと頭より少し大きいぐらいの炎が生まれる
その中から、数枚の書類が現れた。実験中に死亡だの、発狂だの、意識不明だの、お世辞にも良いとは言えない言葉が躍っている
ステイル「僕は神に清廉潔白を誓えるような人間じゃないが、そんな手法が正当化されて、挙句の果てに正論だ、なんて言えないとは断言出来るさ」
イェス「最大多数の最大幸福の前では、しばしば公正さは失われるものだ」
別に悪びれることも無く、彼はそう言い放った
彼にとっては間違いなく、それは正しい行動なのだから
本当にそう考えていると、上条の中の彼女たちは分かる。だからこそ、自分たちではなく彼が、この国に選ばれたのだから。だからこそ、上条当麻に寄生することになったのだから
そこで、もう一度この結論に辿り着く。やはり、イェスと自分達は異なるのだ、と。そして、この溝は容易に埋まるものではない、と
埋められないからこそ、お互い反発するのかもしれない。埋められないからこそ、対立を解決するには一つしか方法が無いことも
上条「私は、あなたを似た存在として認め、あなたの意見を聞いた上で、考えを改めさせようと思ってここに来ました」
上条「ですが、当麻のことを差し引いても、あなたは既にやり過ぎている。対話の前にやることが有ったようです」
上条「イェス、私は姉としてその過ぎた力を壊します。……全力で」
明確に、彼女たちは彼の口で言った
そして、それに同調するものが有った。禁書目録という同じ理由を引き金として
ステイル「様子が変だが、良いだろう、上条当麻。僕も手伝おうじゃないか、この無駄に脚の大きな機械の化け物退治をな」
253 :
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[saga sage]:2011/05/07(土) 04:00:40.56 ID:sNwVsL2yP
「五和!!」
吹っ飛ばされた女の元に、他の女性が駆け寄った
打ち所が悪かったのか、彼女の返事は無い
本当に、急なことだった
突然空から何かが二つ、とんでもない速度で降って来た
そして、たまたまその辺りを移動中だった彼女が、対馬の目の前で瓦礫に飲まれたのだ
五和にとっては、結果的に完全に虚を突かれた形となった
魔術師として有る程度打たれ慣れている五和が意識を失うということ。かなり不味いかもしれない。それでも彼女は自らの得物を握ったままだ
とにかく、瓦礫をのかせて一刻でも早く回復術式を行う必要がある。粉塵の中では傷も見え難い
悲鳴を聞きつけて、先を行っていた他の天草式の人間が駆けつけるのは直ぐだった
「五和!! おい!! くそ、駄目だな」
対馬「瓦礫に足を挟まれてるから、とにかく、まずソレを抜かないと!」
「OK、任せろ。教皇代理!」
建宮「不味いな、出血も見えるのよ。コイツは、瓦礫をどかせるより砕いた方が早いな」
対馬「五和の足まで巻き込まないでよ!?」
建宮「まかせておくのよ、なッ!!!」
フランベルジェという名の剣が、一際大きな瓦礫を砕く
「よし! 運ぶぞ!! お前は回復術式に都合の良い場所を」
「もう見つけてる! あの交差点の手前までお願い!」
対馬「極力首は動かさないで!」
「了解!」
254 :
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[saga sage]:2011/05/07(土) 04:01:10.49 ID:sNwVsL2yP
彼らは必死だ。既に、仲間を失っているのだから。あの悪夢のような、女教皇の襲撃によって。もうこれ以上の欠員を出したくは無い
それぞれが持つ現代では一般的でない、サーベルだのと言った得物の中で槍などの長手物を二本並べ、紙を利用した術式で即席担架を作り出した
その光景は、間違いなく魔術によるもの。魔術師によるもの
粉塵の中で、じっと見ている存在が有った
背中から無数のワイヤーを天空へ生やした女が、粉塵とともに霧散した天使の叩き付けられた場所に立っている
この場所において、剣を持っている者とは何だ?
この場所において、こそこそと隠れるように移動する集団とは何だ?
この場所において、自らの敵とは何だ?
神裂(解答1、魔術師。解答2、戦局的ニ不利となったローマかラの侵攻部隊。解答3、ローマの天使又は魔術師)
この場所において、私の知る者はいるか?
神裂(このアメリカで、私の知る者ハ研究者もしクはそれに関すル立場の存在のみ)
つまり、この者たちは誰だ?
神裂「高確率で、私ノ敵。敵は排除しなくテは」
守るべキ者の、為ニ
ズッ、と粉塵の中心で、既に霧散した天使を貫いて地面に刺さった刀を抜く音がした
お互い、見えていない。粉塵で、そして仲間の危機に意識を奪われて
天空の天使達の相手は、背中から生えた未元物質ワイヤーが固まったものにさせ、彼女は一番手間で大剣を肩に乗せているシルエットに狙いを定めた
狙われた男の方も、何かを感じ取ったのか
ガキィン!!! と打ち合った音が響いた
その衝撃で、ハラハラと舞っていた粉塵は小さな瓦礫と一緒に吹き飛ばされる
そして受け止めた男も、圧倒的な力によって反対側の建物の壁に体を叩き付けられた
255 :
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[saga sage]:2011/05/07(土) 04:03:01.10 ID:sNwVsL2yP
五和の方へ向かっていた天草式の面々の意識が、突然の音と飛ばされた教皇代理の方へ自然と向かう
その最悪な光景に、五和の傍に居た天草式のメンバーは言葉が無かった
「斎字!!」
その沈黙を破って、女が反射的に建宮の方へ向かう
殆ど建物の壁に埋め込まれたと言えそうな男が、その声に反応したのか、崩れ落ちるようにして女の前で立った
頭から血が垂れるが、彼の目は閉じられない
対聖人用の想定がされていない、ただの金属の剣ならば、彼の髄とともに折れていただろう
だが、折れては居ない。彼も剣も
金属製には思えないその真っ白な剣身は、痙攣を起こした腕に震えられながらも握られてある
近づいていた対馬を剣を握っていない腕で誘い、自らの背に誘導する。正面にも、女
その眼には、血涙があった。頭血と交じり合ったものだ
これでは、同じではないか。五和という仲間を危険な状態に追い込ませ、そして自らもギリギリの状況
ここで自分が倒れたら、同じだ。ロンドンで女教皇と対峙した時と
何の為に、ここに自分は居る? どうして、今こんな状態にある?
勿論、女教皇を取り戻す為だ。勿論、この強大な聖人の力によるものだ
明らかに、前よりも禍々しい姿へ変貌しているが、目的の人物は目の前。その事実は変化していない
その人物が最悪の想定どおりに敵対していると言うのなら、そして、明らかに自分の逃げ場が無いのなら
戦うしかないじゃないか。勝てる見込みなんてこれぽっちも無いが、その行為によって何か変わるかもしれないなら
自分の背後には対馬が居る。そして、ここまで着いて来た仲間がそばに在る
あの時と同じように、彼は剣を向け、そして倒れなかった
256 :
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[saga sage]:2011/05/07(土) 04:03:31.89 ID:sNwVsL2yP
明確な敵対意思を、目の前の二つの存在が露にした。それは、彼にとって面倒なことだった
今までは一つの上条当麻を死なない程度に追い込めばよかったのだが、逆に腹を括られ、更には敵意を剥き出しにされた。完全でないとは言え、その力は侮れない。その存在が一番不確定な要素なのだから
そしてその一因である横に立つ男も、事前に有った情報と見た目から所属まで異なっている。その変化は難しい
単純に二人になったことで行動予測が二倍にする必要があったわけだが、それはたいした問題ではない。演算のキャパシティは十分すぎるほど
ただ、二人を狙えば火力は半減する。子供でも分かることだ
そこを突かれた形となった
多脚兵器の正面に立っていた二人のうち、上条は距離を開けた。一方でステイルは反対側、つまり多脚兵器の腹の下へ飛び込んだのだった
それまで、上条当麻の復活を考えて、極力"幻想殺し"の応用を用いないでいた彼女達だったが、この時の移動速度にはそのような配慮が緩和されたことを示していた
ストンピングを回避していた時のおよそ5倍の速度、四捨五入すれば100km/hとなる速度で、彼は動いていた。一歩一歩の踏み込みが違う。筋肉使用のリミッターは無い
二人がこのような動きをすればどうなるか、想像は易しい
ステイルを狙っていた砲台は、射線上に母機が入ってしまう為に彼を狙わない。代わりに、10の浮遊砲台すべてが上条を狙う
早くなったとは言え、その弾丸は到底彼が回避できるような速さではない。すべての弾丸が、殆ど無音で、しかし超音速で打ち出された
一瞬の間もなく、それらは弾着した。しかし、その弾丸は未元物質。幻想殺しの右手に触れれば威力もろとも打ち消される
上条「……ッ。そんなものではもう、この体は傷つきません」
右手以外にも、表面を覆う服こそ簡単に穴が開いてしまうが、そこから先の皮膚以降には、殆どダメージは無かった
体全体で、彼の右腕と表面的には同じに見える反応が起きたのである
"拡大幻想殺し"という、副作用有りの能力行使。どういう仕組みなのか分からないが打ち消しで生じたエネルギーすらも無かったものとするオリジナルの"幻想殺し"と異なり、それはそのエネルギーを蓄積と言う形を採る
そして、明らかに能力以上の能力行使による精神的・物理的な脳への圧迫という問題点もある。その使用は、当麻の意識の復活を妨げる働きをすると、考えられる行動だ
拡大幻想殺しの打ち消しによって蓄積された、異能の力を圧縮したようなエネルギーを利用して、イェスへ向かって跳躍した体を宙で加速させた
狙うのは、浮遊砲台の帰還先であり充電先であると考えられる、多脚兵器本体上部のコンテナ型の物体
加速によって消費し切れなかったエネルギーが左手の平に集中させ、それをコンテナと本体でつながっている管に亀裂を加えた
257 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/07(土) 04:04:28.16 ID:sNwVsL2yP
全壊とはいえなくとも、それだけである程度、エネルギーチャージが必要な砲台使用に影響を与えられただろう
イェスとしてもそのまま背に乗られたままでは厄介なので、脚を使った跳躍によって窪んだ空間の端へ移動し、その揺れと慣性で上条を背中から転がり落とした
上条(やはり、当麻が居なくてはこの程度までしかできませんね。空間的拡大も、現実殺しも厳しい。砲撃自体も完全に無力化できたわけでは無いですし)
上条(しかし、これだけでも十分な行動力になります。今のを繰り返せば、いずれは)
一方で、多脚兵器の腹の下に潜り込んだステイルも、彼なりの戦い方を実行していた
上条へ現状最高攻撃力の砲撃が向かっているとは言え、5m以上もある腹の下に潜り込まれただけで、この兵器の攻撃手段が尽きるなどという馬鹿なことは無く
各脚の接続された関節のすこし手前のハッチが開き、40mm大型機関砲が計8機、彼へ向けられた
直撃すれば流石の彼でも、絶えられるものではない。一般人なら体を掠めただけで、近くの肢のいずれかが吹き飛ぶような代物なのだから
歩く教会のような相当高等な術式で無い限り、防御の術式にも限界がある。機関砲にも術式が施されている可能性だってある
ステイル(貰う訳にはいかない、あんなもの)
不味いと感じた彼は、すぐさま近場の脚の影へ身を隠したが、銃弾の弾速など、特別な仕組みでも無い限り上回ることはできない
体が半分ほど影に入った時に、一発の弾丸が彼のわき腹へ刺さった
プロボクサーのブローを受けたように、彼の体は一瞬よろめくが、それだけだ
例え如何なる術式が込められていようとも、その大本の弾丸は金属
彼の衣は高温物質のジェルだ。熱で弾丸を溶かし、衝撃もジェルで有る程度吸収してしまえば、威力はかなり低減できる
それでも、よろめくほどになったのは、やはり何らかの術式が込められていたのだろう。あまり数を受けるわけにはいかない
射線の影に入り、その影を作っていた脚がステイルを踏み潰さんと動いた時には、彼は次の行動を採っていた
脚に向かって跳躍の後、服の代わりに自らの体の周りを覆うジェル状に溶け混ざった超高温の混合物質を脚に付着させ、その温度を下げたのだ
そうすれば脚に冷え固まることで混合物質が強く付着し、同じく混合物質に覆われているステイルの体自身も巨大多脚兵器の脚にくっつくことになる
見た目の割りにかなり活発な動き方をするこの脚も、この方法なら確実に術式の陣やルーンを刻み込むことができる
イェスが、脚と砲台を微調整させて、表面にこびり付いた蓑虫のようなステイルだけを打ち抜こうとしたときには、刻み込みは既に完了していた
258 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/07(土) 04:04:55.83 ID:sNwVsL2yP
脚の動き方から危険を察知し、蓑から体を外すことで、殆どギリギリで彼は魔導電磁投射砲の砲撃を避けた
当たらなかった砲撃は、そのまま流れて窪みの壁面に直撃する。窪みの境界線近くにあった校舎が、直撃によって直下の土台を失って、窪みの中へなだれ落ちていく
脆いのだ、この40m程窪んだ平面と通常の地面の高さとの境界線は
そして再度、兵器の目の前で立ち並ぶ振り落とされた上条とステイル。イェスとしては下手にストンピングも狙えず、また浮遊砲台で砲撃するわけにもいかなかった
イェス(右前方脚表面装甲に高温反応。やってくれる)
ステイルが仕込んだ術式によって、脚を覆っていた数少ない装甲の一箇所が赤く発熱しているのが上条にも見えた
このままでは、装甲が溶け落ちる事でその脚一本そのものの駆動に害が出る
イェスは、その装甲を切り離すしかなかった
ステイル「よし。チャンスだ」
小声で彼は言う
上条「と言うと?」
ステイル「僕は科学のことには詳しくないが、あの巨体は見た目の割りに、あの脚を非常に軽く動かしているのだろう?」
上条「そうですね。何か仕組みがあるものだと踏んでいましたが」
ステイル「さっき密着して分かったことだが、その仕組みというのは、見た目通りの科学的な方法だけでなく、どうも何らかの術式的な補強の類らしくてね。装甲で覆われている部分の下に隠されているに違いない」
ステイル「そこを君の幻想殺しで壊してしまえば良い。そうすれば、この機械は自重に耐えられなくなり、身動きが取れなくなる。そこまでではなくとも、動きは緩くなる。今装甲をはずした場所を狙え、上条当麻」
上条「了解です」
言って、彼らはもう一度別行動を開始する。迎え撃つイェスも、先ほどとは違う攻め方を用いる
上条に砲撃が通じないならば、ステイルばかりを重点的に狙えば良い。彼が近づき、術式を埋め込まれるのが一番厄介なのだから
ステイル(やはり、こう来るか)
上条のような身の守り方など彼にはできない。当たればこの世から消えるかもしれない
足で回避するのは無理だ。ならば、身を隠すしかない。このだだっ広い窪んだほとんど平面空間では、隠せる場所などない
259 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/07(土) 04:05:53.50 ID:sNwVsL2yP
なら作れば良いのだ。身を隠せる場所を
ブワァッ!! と炎の海が彼を中心に生まれた。その立ち上る炎の中に潜めば、視覚的にも温度的にも、彼を見つけ出すことはできない
砲撃の無駄撃ちを誘導する為に、炎の中に人形の低音な部分を時折加えれば、その防衛方法はより磐石なものとなる
だが、何らかの手段で打開策を見つけてこないとも限らない。その前に、上条が脚を潰さなくてはならない
この戦い方の最大の問題点は、どうやって上条がその脚の部分へ向かうか、ということである
重量による踏み潰しは、上条にとって受けられない攻撃だ。それを避けつつ、脚にしがみつく必要がある
脚の動きには対応できるものの、ステイルの様な方法は当然出来ないので、しがみつく場所がなかった
下手に飛び込んで機関砲の的になれば最悪である
どうするか。彼が迷っていた、丁度その時のことだった
重量のある機械の塊が、しきりに動き回る。その振動はかなりのものが在るのが当然だ
そして、恐らくイェスがこの多脚兵器を使用するために、何らかの術式で地下研究施設を地上のキャンパスごと丸々どうにかしたことで出来たこの地形
彼らが戦う平面と、普通の地上の高さまでかなりの高低差がある。当然、急に出来た窪みとの境界は非常に弱弱しいものとなってしまう
そんなところで、強い揺れが続けばどうなるか。そして、この大学敷地は河に面している
ドドドドドドドドドドドドドド、と、大量の水が入り込んで来た
揺れによって生じた境界の裂け目から、殆ど隣接していた河の水が入り込み、一気に境界を崩したのだった
そして、先ほど上条を背から落とす為に行った跳躍で、この巨大兵器はその境界に殆ど接していた
予想外の河からの圧力に、イェスの操る兵器は自動的に踏ん張ろうとする。そうなればとてもではないが、上条を踏み潰したりなど出来はしない
上条にとっても、入ってくる濁流に飲まれるわけにはいかないので、高台に逃げる必要があった
二つの目的を達成する場所として、動きの止まった脚を彼は全力で登る
左腕だけで登るのはかなりの難関で、恐らくこうなってから一番つらい場面だっただろう。しかし、彼は登りきった
動き回らない脚と、比較的低い位置から装甲が外れていた事、そしてステイルが付着していた際に垂れた混合物質の残りが幸いしたと言える
260 :
本日分(ry 推敲時間が少ないから、今回はきっと日本語の間違えとか多いですぞ
[saga sage]:2011/05/07(土) 04:10:30.34 ID:sNwVsL2yP
大きなシリンダーや筋肉のような筋を掻き分けて、脚のメインフレームまで潜ると、そこにはびっしりと何らかのマークや陣が描かれていた
その意味と効果は同じAIでもイェスには分かるが、彼女にはわからない
一番大きそうな術式陣へ、左手で右手首を掴み、押し当てる
バキン! と、機械の空間で音が鳴った
上条(これで、バランスを保てなくなる、でしょうか)
そう彼女が思ったときだった。グォン、と明らかに何かのタービンか何かが回りだすような音が鳴る
イェス「残念だったな、姉君」
笑うかのような声だった。機械音声だと言うのに
イェス「必死にオイルまみれの場所に潜ってもらったところ申し訳ないが、それだけじゃ意味がないのだよ」
イェス「確かに、魔術によって出力の増幅・耐久性能の向上を行っていたのは事実だ。だが、それだけじゃない。何らかの原因で術式が乱されても倒れぬよう、科学の力のみで自立できるだけの構造と出力が保てるように、非常用の緊急出力装置を組み込んであったのさ」
イェス「出力は下がるが、動けなくなるわけじゃない。脚の内一本程度出力が下がったところで、そこまで変わりはしない。他の脚の負担量を上げて、出力を上げるまでだ。つまり、全くの徒労、と言うわけじゃないが、あまり意味のあることではなかったということだ」
上条「だからと言って、これだけの巨体ですから、どこかでその出力のバランスなどの演算しているハズ。その制御部分を狂わせればいいだけのことです」
イェス「そんなことが出来ればな。……何?」
彼に、機体の脚の一本がオーバーヒートしかけている、という情報が伝わった
上条「出来ますよ。機械だけなら脆いものですからね。特に排熱関係が狂えば致命的です」
イェスに見えているのかは分からないが、上条の視界にはルーンを描いた図柄がある
上条自身の記憶を頼りに、左手に握られたボルトで傷つけたものだ
水流に呑まれないように、目くらましの為にステイルが高温で河の水を蒸発させている光景が見えていた
このルーンを通して炎の術式が行使されるか分からなかったが、"熱を加える"という要素から同じ術式を使っているかもしれない、という予測の末だった
上条「堰を切った激流に飲まれないように踏ん張っている中で、四本脚の内一つがまともに制御できなければ、どうなるか。まず、水中使用なんて考えているような見た目ではないですしね」
イェス「……ッ」
窪んだ平地に、河の水がたまっていく。このまま40mほど窪んだ平地が完全に湖となるまで水が流入したら、20m程度しか無い多脚兵器では沈んでしまう
そうなれば、脚が冷えたとしても、根本的に想定外使用となる
上条「ホラホラ、早くこんな出来損ないから出ないと、水の底ですよ?」
完全に冷却機能を超えてパーツが損壊し使用不能となった脚から、彼はすこし悪い笑みを浮かべながら脱出した
261 :
本日分動き纏め
[saga sage]:2011/05/07(土) 04:17:28.42 ID:sNwVsL2yP
※ここに書いてあるのは2chの今北産業レベルの要約ですのでご注意ください
垣根 in アメリカの何処か
逃げ回る爆撃機撃墜のお願い達成
イェスの安否気にしてボストンへ
ステイル inボストン
救世主殺せというフィアンマの命令の元、知ってそうなイェス探索
結局確定的な情報得られず
ロンドンで神裂使って禁書殺そうとした件でお怒り
上条 inボストン
もうイェス倒すしかないですな
当麻復活遠のいた……?
ガラクタ乙発言
イェス inボストン
垣根曰く、イェス居なくなると大変なことになるぞー
いろいろ余裕ない
秘蔵兵器水没の危機
滝壺in学園都市
浜面捜索中に変な人と鉢合わせ
この人アレイスターに似てる?
電波な人に麦野の近くに飛ばされる
一方通行 in学園都市
学園都市で暴れてる巨人("終末"による破壊者)危なすぎだろjk
巨人とか最終個体とか自分が能力使用時に使ってる"何か"を調べる
病院壊れちまったよ
天草式 in NY
またねーちんと対峙
五和故障者リスト入り
次回、多分上条さん復活します。わーい
262 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/07(土) 07:07:47.23 ID:U5iN1FYYo
乙
上条さん復活きたあああああああああああああああああああああああああ
263 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/05/07(土) 08:10:22.75 ID:rRfITja6o
乙ー
こりゃ泥沼だな
264 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/05/07(土) 10:55:14.95 ID:lXkVyt1AO
フチコマよえ〜
265 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/05/07(土) 11:14:15.09 ID:A2f3BTb00
続きが気になりすぎて血尿でるレベル
266 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/07(土) 12:08:16.15 ID:1PvkOzsDO
初春がどっかの軍人みたいな最期だったな
自爆すればもっと完璧だった
267 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/07(土) 15:51:38.10 ID:QLoKiu3DO
>>266
24リデンプション思い出した
子供をかばって地雷踏んじゃって、敵集めてボコボコにされながら足はこらえて時間稼いで最期にドン! あれは泣けた
上条さん復活までどんくらいかかったんだ?
268 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/07(土) 17:47:36.11 ID:QfbyXCg90
wktkが止まらんwwwww
次回投下はいつかな?
269 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/05/08(日) 18:51:51.18 ID:OqQKHXPt0
というかwikiのまとめが途中で止まっとるww
纏めないのかな?
270 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/05/08(日) 21:32:41.48 ID:PajOB2EAO
気になるんだったらお前がつくれ
草つけるとなにかとよくないことが起きるからつけんな
271 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/12(木) 22:53:19.07 ID:5r6w9vU3o
いつまで経っても終わらない感がヒシヒシしてるので、投下の日程を固定します
○土曜日〜日曜日午前中
○火曜日〜水曜日午前中
(週二回、出来ないときはあらかじめ予告)
なんだか首に絡まった真綿が徐々に圧力を加えてくるような気がしますが、多分気のせいでしょう
あと、まとめWikiですが、一応は管理人さんにお願いしている形です(相当忙しいようで、更新順番ではまだ前に30ほどあるようですが)
この公開露出が終わったら、私オナニストが微妙に手を加えつつ引き継ぎます。まず根本的にいつ終わるんだか……
では去らば!
(本当は今晩中に投下するつもりだったのに、何故か朝起きたらPCが再起動こんにちわしてて、今後の予定メモ含めて8000字吹き飛んだなんて言えねえ、言えねえよ)
272 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/05/12(木) 23:17:58.39 ID:iOQLZ6Opo
>>271
もう頑張れとしか……
273 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/05/13(金) 00:46:22.55 ID:PoouZ4YAO
お つ ぱ い
274 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/13(金) 04:16:16.69 ID:89AgfFbDO
製作速報のころからだから何げに長寿スレだな
内容も濃いし読みごたえあるし佐天さんは爆発可愛いし完結まで付き合うぜ
275 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/14(土) 19:04:21.45 ID:b4EM2XMSO
上条さんが復活する流れが全く想像つかんが
とにかく次の投下が待ち遠しいな
276 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東北)
[sage]:2011/05/15(日) 03:13:22.63 ID:291lfoDC0
ヴェントは…
277 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/15(日) 11:59:07.50 ID:VblF9WVrP
後一時間くらい待ってくれません?
くれませんかね?
278 :
消えたデータ脳内復旧だから、少々読みにくいかも知れますん
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:18:17.33 ID:VblF9WVrP
「いくらなんでもそれは、破廉恥過ぎませんか?」
多脚兵器が沈む、窪み改め湖の畔で上条の隣にほぼ全裸の男が立っている
全裸、といっても秘部は隠れている。しかし、その隠し方が不味かった
上条「股間を炎で覆い隠すなんて、上条さんにセックスアピールを向けても仕方ないと思いますよ」
情熱的すぎます、などとわざとらしく頬を染める
ステイル「そ、そんなつもりじゃ断じてない! 仕方のないことだったんだよ! 砲撃を向けらないようにしつつ、水流に飲まれないようにするには、片っ端から身の回りのものを蒸発させ続けるしか無かったんだ!」
上条「しかし、仮にこの場に女性が居たらセクハラで……。いや、既に猥褻物陳列罪は成立するかもしれません。ここは一応大学、公共の場所ですから」
ステイル「そうだろうね、ああそうだろうさ! 君以外に誰もいないことがせめてもの救いだ!」
上条「もし他に誰かいたら、こんな変質者とは関係が無いかの様に、最初から他人の様に振舞ってますよ」
ステイル「く……。というか、その話し方は何だ。イントネーションが微妙に女性のようで気色が悪いぞ」
尋ねられた上条は、そのまま特に表情を変えなかった
上条「それについては、まぁ、いろいろとあるんですよ。あなたこそ、何故アメリカに?」
同じく、ステイルも表情を崩さない
ステイル「それについては、僕にもいろいろとある、と言えばいいかな」
上条「そうですか。まぁ、そんなに気になるようなら、元々の話し方にもど―――――」
そんな、湖畔での大した中身も無い会話だったが、そこに差し込まれた声が有った
「うおおおおおぃカミジョウJr.!!」
と。ステイルにとっては聞いたことの無い声だった
「まったく、こんなところに居たのかい」
「気が付けば消えちまいやがって。折角助け出したってのに、巻き込まれてくたばったかと思ったぜ」
「ま、無茶をするのは血筋なんだろうさ。トーヤのな」
「あー、なら仕方ないわ」
ゾロゾロと、声を投げて来た男の後ろから人間が続く。室内戦用の軽兵装を身につけた、"銀貨"の集団である。つまり上条を助け出した連中だ
「ここに居るってことは、施設に戻ってたんだろ? あの爆撃の中で戻るとは、父親譲りとはいえ、どういう神経しているんだか」
279 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:18:46.59 ID:VblF9WVrP
上条「ええっと、忘れ物の為ってところかな?」
取ってつけた様な訳を付けた。あながち間違いではないが
「忘れもんって、隣に居る股間の情熱を滾らせてる彼かい?」「ヒューッ、たいした忘れもんだぜ!」
「いやいやいやいや!違いますから!」と上条は必死に弁論をした。だが、聞いてはくれない。なにしろ彼らは機嫌がいいのだ
そのご機嫌の理由は、この溜め池である
「何が起きたか知らないが、こんな様子じゃ地下の施設もおじゃんだろうな。イェスと共に」
「"肉体逃避"先も殺処分、各地のバックアップも破壊済み。流石に潰れたでしょ」
「折角たんまりと爆薬を持って来たってのになぁ。割と重いんだぜ、コレ」
「その程度の無駄骨ならむしろ大歓迎よ。」「いや、持って来たのは俺ですから。ノットユー、オーケー?」
などと、彼らの声は弾んでいた。最終目標が斃れた、という事実が彼らをそうさせているのだろう
上条(まあ確かに、こんな風に敵の拠点が水没してしまったなら、そうもなりますか)
チラ、と上条も濁った溜め池の底へ目を向ける。そこでは、動きを停止させた大きな影があった
一方で、とても居心地が悪いのはほぼ全裸のステイルである
どういう運命の巡り合わせで、自分は見ず知らずの集団に裸体を晒しているのだろうか
ステイル「……彼らは一体何なんだ?」
彼は上条の耳まで少し身を屈め、小さく尋ねた
上条「父さんの知り合いってところでしょうかね。あなたも夏に会ってるでしょう?」
ステイル「ああ。上条、刀夜と言ったかな。あの時はいろいろと迷惑を被ったよ」
今置かれている状況も相まって、彼の表情は至極面倒臭そうだ。そして言い返す言葉も無く、上条はタハハ、と濁す
この、上条刀夜、という単語は銀貨のメンバーも聞いていた
「おおっ? 兄ちゃんもトーヤに振り回された被害者か?」
ステイル「あ、ああ。そうだね」
「そいつは運が悪かったな。あの人に巻き込まれれば、だいたいは大事になるんだ。仕方が無いことだ」
ステイル「あんな事がしょっちゅう起きているとすれば大問題だ。だが、僕にとってはあの時よりも、今この時の方が不幸だよ」
280 :
一応、ステイルのこういう扱いには理由が有るんだぜ?大した理由じゃないけども
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:20:15.59 ID:VblF9WVrP
不意に、ボワッ、と彼の秘部を隠す炎が大きくなった
それを見た30代前後のように見える女性陣が、キャーと少々大げさな声を上げる
上条「あのさ、コイツが着れそうな代えの服とかない? 流石にこれはいろいろと不味いと思うのですよ」
いろいろと見かねて、上条が尋ねる。だが、その言葉は逆効果だった
「えー? せっかくいい体してるのに隠しちゃうの?」「もったいないー」
などと言いながら、ステイルの方へ女性がにじり寄る
魔術師として暗躍していて、長身と言う事も有って、スタイルと言う面で、身体つきはかなり良い。加えて、年齢よりは老けて見えるが確実に若いのだ
そう言う要素を含んだ視線に加え、彼女らはベタベタと彼に触りだした
「ああん、良い体」などと言いながら
当然、当の本人はたまったものではない
ステイル「ちょ、ちょっと待て。止めッ。ふ、触れるな!!」
「あっれ? 可愛い反応するじゃん。でもそんなこと言いながら、この体でいろんな子をヒーヒー言わせてんでしょ?」
ステイル「してない! 僕には心に決めたヒッ!? だからそこに触れようとするな! 火傷したいのか?!」
「めっずらしい、初心なのね。ますます悪戯したくなるのよねー、そういうの」
息に色が出そうなタイミングで、ようやく若い男がステイルと女性たちの間に立ちふさがった
「はいはい。そこらへんでストップですよ、姐さんたち。初めて会った人で遊ばない。いい肉体だけなら他にもあるじゃないっすか。部長とか」
「馬鹿ねー、若いから良いのよ」などと言われつつ、彼は彼女らをステイルから引き離していく
「ウチの人達がすまない事をしたよ。はい、コレ。俺の予備なんだけど、多分身長とかもいけると思う」
薄手の戦闘用スーツが、手渡される。若干涙目で彼は受け取った
ステイル「……助かる」
ああ、何故僕は最近こういう扱いが多いんだ? とぼやきながら、彼は受け取った戦闘用の薄いスーツに身を通していく
見立て通り、サイズは何とかなりそうだ
上条「ステイルって、こんなキャラクターでしたっけ?」
問われた彼は、無言で疲れた息を吐いた
281 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:21:08.57 ID:VblF9WVrP
「そうか、君達だったのか。私一人にしては、変に高機能だと思っていたところだ」
23学区の地下施設の一角で、声が響いた
どちらかと言うと男性的な見た目の存在は、目の前に並んだ多数の水槽と、その中身に話しかけている
無論、声が返ってくるわけが無い
だが、コミュニケーションそのものは成立していた
「"前"の時に上条当麻が、か。一体、何を狙っていたんだか」
「知らない? ああ。仕方が無いことだ。私は"前"を生き延びていないからな」
「だが、君たちは生き残っていた。だからこそ、こうして私と交信している」
「こう見えても、一人は寂しいものなのだよ」
「確かに、彼は一人で解決しようとしている。それで成功したら、私は要らない」
「そうだな。失敗するかもしれない。だから私が居る。君たちも」
「もしそうなれば、物理的につれてはいけないだろう。だが、それまでは一緒だ。ここが壊れない限り」
「だからそれまで、ギリギリまで、私を助けてはくれないか」
「ありがとう」
「ああ。私は私の使命を果たしに行くとしよう。万が一の時の為の、多様性の確保にな」
一しきり言葉をこぼして、彼はその場所から消えた
後には、たくさんの水槽と、その中身が、多数の電極まみれの脳が、静かに浮いているだけだった
282 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:23:43.58 ID:VblF9WVrP
上条たちが巨大な水溜りの側で話を弾ませていた、丁度その時
ボストンの上空から、同じ湖を見ている存在が有った
垣根(一体、どういう理由ででこうなるんだ)
彼の脳裏に思い浮かぶのは、当然の疑問である
爆撃が当ったにしても、丁度研究施設直上に、こんな綺麗に正方形で巨大な水溜りが出来るであろうか。答えは否である
垣根(なら、どっかに理由があるハズだが――)
無い。そもそも、有るワケが無いのだ
考えられるのは超科学な兵器かとんでも無い規模の術式だが。そんなものがあるならば、"銀貨"は爆撃を行う理由が無い
だが、目の前の光景は自らが解決した学園都市からの爆撃機による代物の域を確実に凌駕している
垣根「……あれは」
こうなった原因は、未だ分からない。しかし、何か関わっていそうな存在が有った
幻想殺し、上条当麻
"終末"の引き金となった"前"と"今"を作った原因。つまり、間接的であれ、"終末"を作りだすということで、心理定規の少女の死を確定させた男
"前"にて自らを細胞単位までバラバラにする為に、アメリカへ送った男
そして、"イェス"が解決しようとしている"終末"に於いて、不安定要素である男
垣根にとって望ましくない状況が形成される時には常に居る、その存在がこの場所に居る。ボストンに居る、という情報はあった。しかし、それはイェスの管理下での話だ
イェスが無い中で、この存在が外で自由に有る
彼としては、願わくば、爆撃にでも巻き込んで殺されてしまえば良かったのだ
だが、奴は生き残ってしまった
垣根「結局、お前は分かっちゃいねえんだよ、幻想殺し」
吹っ切れたように、目を閉じて彼は一人、言う
垣根「どんな時でも、お前はお前で考えて行動しているつもりだろうがな。分かって無いんだよ。自分ってものが。自分がのってる流れってもんが」
垣根「その流れは、確実にお前を必要とする流れかもしれない。だがな、お前が居なければそもそも生まれなかったかもしれない流れでもあるんだ」
垣根「俺は、その流れを止める。それは、その流れに巻き込まれた奴らの為、なんてもんじゃねえ。俺が純粋に腹が立ってるだけだ」
垣根「だから殺す。いい加減にしろ、上条当麻」
そして、ボストンの天空に、巨鷲が翼を広げるが如く、未元物質が拡がっていった
283 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:24:38.62 ID:VblF9WVrP
この状況は、あの時のロンドンの再現であり、続きだった
それ以来、彼女の安定は崩れた。自己への後悔がその最大の理由だ
それは今の彼女を作り上げ調整していた研究者や技師たちにも、当然分かっている事である
もしその時と類似の事が生じ、不安定が深刻化したら。それによって作戦行動中に支障が出たら。ロンドンでの試験運用の時のように、ただ我を忘れ帰還するだけならまだしも、その強大すぎる能力・魔術が暴走したら
そんなことが生じかねない可能性を、どうしてそのまま放置すると言う事があるだろうか
結論を言えば、その対策はなされていた
今、神裂火織の頭脳は物理的に4つ
その中の一つが強く反応するのなら、抑え込む。矛盾が生じるなら、定義を置きかえる
彼女本来の脳は目の前の男が建宮斎字である事を把握していた。しかし、既に彼らは敵として合理的に判断している。その上、この対峙は不安定を招きかねない最悪の状況だ
残る3つの頭脳がとった解決策。それは、至ってシンプルなものだった
「目の前の男は建宮斎字などでは無く、ローマ正教の残党。他の魔術師も同様である。即座に原型を留め無くなるまで破壊し、早期にローマ使役天使の駆除に戻れ」
という、対象のすり替え。その為に、彼女の脳に伝わる聴覚的視覚的情報を完全に差し替えたのだった
ならば、今の目の前に立つ男は剣を握った、ただの魔術師にすぎない
神裂「……」
無言のまま、彼女は刀を構えた
「……いくのよな」
決意をした彼は、先に、迷い無く動いた。愚直な刺突だった
やはり、速度自体は、圧倒的に劣る。少なくとも回りに居た天草式の面々はそう見えた
神裂「あ……ぁッ?!」
しかし、薙ぎ払われることも、術式による攻撃を受けることも、ましてや打ち合うことも無かった。結果は、神裂の後退
力でも速度でも圧倒的に劣るのに、何故か
建宮(こうなる可能性ぐらい、女教皇と戦う可能性ぐらい、当然考慮してある。その為の準備も)
原因は彼の握る剣と周辺状況から生じた術式
自然界でも、敵と戦う前に行われること、それは威嚇
自らを大きく見せたり、毒を持っているように見せたりすることで、相手を脅して攻撃を防ぐ
要は、相手に何かされる前に驚かせるということ
284 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:25:58.32 ID:VblF9WVrP
これは必ずしも動物世界だけのものではない。人間同士の戦いにおいても、相手を驚かせて隙を打つ、というやり方はポピュラーな策である
当然そのような術式もある。彼が行ったのはその変則術式だ
たくさんのビル群、そしてそれらは破壊され、アトランダムな形を持つ
戦場の人間は、特に戦闘に慣れている人間は、当然のようにその様な場所の影から生じる死角に対して、奇襲を警戒する。神裂程の存在ならば、尚更である
そういう心理・脳の判断を突き、対象が一番警戒している奇襲の幻覚を見せる。彼が行ったのは、そういう術式だ
建宮(とはいっても、万能じゃないのよな。トリックにさえ気付けば、すぐさま効果は無くなっちまうような代物)
建宮(所詮は幻。早いところ、どうにかしなくてはならないのよ。俺の身体的にもな)
そのまま、彼は彼女を追う。術式の継続の為にも、そして意識が帰らない五和から引き離すためにも
だが、しかしこの術式は術者の思いの外の効果を与えていた
この術式が関与するのは、対象の脳である
今、この対象の脳は4つ。そのうち3つは、彼女の安定化措置の為に意識的に天草式、という情報をシャットアウトしている
つまり、一番警戒しているのは、まさにその天草式との交戦
今彼女が見ている幻覚は、周囲どこにでもある死角から、敵として飛び出してくる天草式の仲間たちというものだった
彼女の本来の脳が健全な状態ならば、それが虚像である見抜けただろう
しかし、彼女は今、それをまともに見受ける事が出来る状態ではないのだ。見抜けるはずもない
そんな状態で、本来の脳が天草式を見たらどうなるか。制御する側の3つの脳も、動揺している
結果は、誰も予想していなかった
建宮「おいおいおいおい冗談じゃないのよな!!??」
それを感知した建宮は一転、追っていた神裂から距離を取った
直後に天空から降って来たのは、槍、矢、剣、光線、etc...
神裂は建宮と対峙していると同時に、その複脳というハイスペックを利用して、背から生える無数の鋼索状の未元物質でローマの使役天使たちとも交戦していた
そのコントロール元である脳たちが一斉に混乱してしまえば、未元物質が機能低下するのは明白だ
隙が生じれば、敵を叩く。これは当然の真理である。天使であっても
ズガガガガガガガガガガガガガガッ!!
と、スコールの様に降ってくるそれらは、建宮の目の前で、神裂を中心に荒廃したNYの街路を更に粉々にしていった
285 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:28:52.81 ID:VblF9WVrP
「100%、来たァッ!!!!」
電子密度がこれ以上、上昇しない。そして靴越しにじんわりと足元が温かく感じる
麦野「白井!手筈通り絹旗を任せたわよ! んで絹旗!思いっきり派手にやっちまえ!!!!」
ヒートアップしている麦野は、見た目とは裏腹に集中していて、標的である巨人から片時も目を離さない
白井の目の前で絹旗が頷いた
絹旗「わかりました。―――いきますよ、麦野ッ!!!」
叫んで、少女は大きく振りかぶり、全力の力を加えて、その拳を地面の円柱・蓄電施設に叩き付けた
その手には窒素が満たされたスプレー缶が握られており、拳と蓄電施設が激突する寸前に能力を応用した握力で握りつぶす
瞬間、拳の周辺だけ異常な窒素濃度となり、外的要因で強化された彼女の能力とその拳は、威力だけならば軽戦車の砲撃並みとなる
ゴァン!!!という大きな音が響いた。当然、その場にいた彼女以外の二人にも大きく聞こえる
拳が直撃したその場所に大きな凹み、そして裂け目が出来た
そこまで白井が確認した瞬間、暴発寸前まで電力を蓄積した円柱状の蓄電施設に満たされていた500度近い温度の大量の液状電解質が、異常な電子密度を保って、噴き出した
所詮は学園都市外縁部。巨大とはいえ、隅っこの蓄電施設の屋上に利便性向上を考えて都合良く電極など有るはずもない。だが、この場所以外からは巨人を確実に狙えない
もちろん、地下にあるであろう正規の電極から電子流を引き出しても良い。だが、屋上に送電する程の送電線も準備の時間も有るワケが無い。ならば、最終手段である。施設に穴を空けて、彼女自身が一種の極になればいいのだ。そうすれば、電子は直接麦野の制御下に入る
問題は、莫大な量を彼女一人の能力で操作できるか、と言う事なのだが
噴出した高温の電解質が絹旗や自らを襲う前に、白井は絹旗の首根っこを掴み、初春が待つ管理分室へ空間移動を試みる
白井(計画通りとはいえ、これではあの麦野という方は……)
そこまで彼女が考えた時、彼女の視界から麦野の姿は無くなった。空間移動という理由と、電解質が麦野を覆ったという、二重の理由で、である
一方、フレンダが階段を駆け上がり初春の待機している管理分室のある階まで上った時、施設内に警報が鳴り響いた
それは、この作戦が成功しつつあることを示すものであり、想定内の事である
フレンダ(よーし、順調じゅんちょ、……って、滝壺!?)
開けっぱなしになっている部屋の扉から中に入ると、そこには初春と同じ格好をした、見慣れた後ろ姿があるではないか
そして、正面の巨大なディスプレイには蓄電装置の"電圧急低下"と"電解質漏れ"を意味するエラーがデカデカと表示されていた
けたたましい警報音がある為、声をかけようとフレンダが滝壺に近づくと、少女の目は閉じていて、唇は何かを呟いている
「…………大丈夫だよ、むぎの」
そのように、フレンダの耳に滝壺の言葉が聞き取れた時、彼女の後ろに、退避してきた絹旗と白井が現れたのだった
286 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:29:39.12 ID:VblF9WVrP
「………ッ!? 逃げろ!!」
自分と同質の何かを感じ取って、薄手の戦闘用スーツを着たステイルは、声を張り上げつつ跳んだ
同時に、上条もその危険を感じ取っていた
直後のことだった
上条たちが銀貨のメンバー達と混ざって話をしていた湖畔に、ボストンの空から白い塊が降り注ぐ。それはあまりにも数が多過ぎて、他方からは塊に見えた
厳密に言えば、それらは羽根だった。但し、未元物質製のものであるが
多数の機関銃の局所への一斉掃射のように降りかかり、着弾すれば爆発する弾頭である
上条が辛くもその攻撃を回避し、振り返った先には
先程まで愉快に話を交していた人間の部分部分が所々に飛び散っていて、例の巨大な水溜りが少し拡大されていた
彼の足元には、誰のものか分からない耳が落ちている
上条「嘘……?」
すぐさま、彼はその攻撃源を見た
有るのは何処かで見た様な、巨大な白い翼
上条「垣根、帝督?」
驚く暇など、与えてはくれない
何かが来る、という直感が上条の脳内に奔った。同時、右手が天へ向く
バギギギギン!!
と一際大きな打ち消しの音が鳴った
何かとてつもないエネルギーの塊が、全く音も見た目も無く、撃ち出されていたのだった
一体どんな攻撃が来たのか、彼女たちにそれを悠長に考えるような時間は、やはり無かった
先程の機銃掃射の如き未元物質の羽根が、しかも今度は弾丸を集中させるのではなく、100mクラスの大翼の幅を利用した広範囲弾幕掃射を上条を中心に撃ち出されたのである
その広範囲性から、行動で回避することは不可能で、右手左手で身にかかるものを全て撃ち落とすのも不可能
287 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:31:14.03 ID:VblF9WVrP
上条(諸刃の剣ですが、これしかない)
今度は、体中から打ち消しの音が生じた
服はもう完全に穴だらけとなってしまったが、上条当麻の体自体には被害は無い。全身に拡大させた幻想殺しによる膨大なエネルギーの蓄積を除いては
上条「垣根!! なぜ俺を攻撃するんだ!?」
はるか上空に居る垣根に届く訳は無いが、彼は叫んだ
そしてまるで呼応するかの如く、垣根が空から降りて来た
別に理由はある。見えない攻撃や羽根の連射といった遠隔攻撃では、上条当麻の体に傷を付ける事が出来ないと判断したからである
上条「なぜ俺を、お前が狙う!?」
もう一度、彼は問うた。今度は声が届く距離である
垣根「フン。んな当然なことを聞くんじゃねえよ、バーカ。お前を殺す理由があるからに決まってんだろ」
上条「それはどんな理由だ?! それは俺を狙う為に、関係ない人間を殺してまでする理由なのですか?!」
垣根「関係ない人間じゃねえだろ。イェスを壊そうとした銀貨の連中だ。それだけで殺すには十分な理由になる」
上条「お前、"イェス"を知って」
垣根「だーが、そんなことはどうだっていい。とっとと死んでくれ」
会話と言うには一方的な終わり方をして、垣根は再び翼を展開する
しかしそれは、翼と言うよりは手に近かった。つまり、相当巨大な手だ。それが二本
一体何をするつもりだ? と上条は考える
垣根「お前の能力は厄介だ、幻想殺し。奇襲も通じやしねえ。だが、欠点はある」
その手は、地面を割いて深々と刺さった。そしてすぐ、再び地表に現れる。巨大な平べったい岩盤をその手に握って
垣根「つまりは物質だ。能力や術式なんかの混じりっ気なし、現実のな」
何が来るのか、すぐに予想はついた。それが、あまりにも単純だったから
垣根「モグラたたき、いや、逃げ回るゴキブリを叩き潰す作業だな」
288 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:32:52.50 ID:VblF9WVrP
ブォン、と巨大な手に握られた岩盤が上条の頭めがけて叩きつけられる。正確には、その岩盤の大きさから、上条を含んだ周辺20m半径程度の面へ、なのだが
原始的とも言える方法だったが、それは効果絶大だった。本当に上条には回避という手段しかないのだから
振り上げて叩き付ける、という、動きとしては単調なので、高性能AIの彼女たちからすれば、パターンの割り出しと回避措置の割り出しには問題は無い
しかし避けるべき岩盤はたった二つしかないといっても、その大きさを考えれば、普通の人間の機動力で避け切れるものではない
既に悲鳴を上げている筋繊維を過剰に消耗しつつ、更に蓄積されたエネルギーを加速に利用してギリギリやっとである
淡白に言えば、回数に限りがある
それでも、彼は右へ左へ避け続けた。打開策を見つけ出すために
上条が一方的に消耗する中で、変化が起きる
きっかけは、先程上条が右手で打ち消した、見えない攻撃
その正体は、学園都市で一方通行が巨人に対して使っているものと同じ、高圧縮されたプラズマ体
しかもベクトルという形で圧縮する一方通行と異なり、垣根提督の場合は未元物質で空気を包むだけ。ただそれだけで、包まれた空間は温度も圧力も現実離れした状態となる
それを撃ち出せばいいのだ。しかも光を有る程度捻じ曲げてしまえば、それが放たれた事について上条が視覚的に気付くことは出来なくなる
どういう理由か、右手は反応してそれを打ち消したが、今回のその不可視攻撃の狙いは上条当麻本体ではない。避ける以外に余計な行動をとれない彼には、打ち消す事が出来ない
上条が立っていた場所の手前に、それは直撃した
結果、巻き起こったのは熱風と砕けた地面の大小様々な礫
一瞬だが確実に上条の五感をそれらは奪い、そして確実に上条の体を傷つけた
行動判断の遅れが、如実に現れた。その時確かに、上条もとい、その中の彼女たちは不可避と考えた
(仕留めた)という甘い概念が垣根の頭を過る。そのせいで、彼は一瞬瞬いた炎を見過ごした
そして上条は避けられない岩盤叩き付けを、避けた
驚くのは垣根である
垣根(何が起きた? まさか、幻想殺しの奴がまだ何か隠してやがったってのか?)
この考えは自然なものだったが、しかし視野が狭いものでもあった
289 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:34:37.93 ID:VblF9WVrP
故に、次に起きた事への対応が甘かったと言えよう
垣根や上条、そして彼らが戦っていたキャンパスだった場所一面が、一気に炎に包まれた。帰化したガソリンが燃え広がるように
垣根「こいつは何だ? どうなってやがる?」
身を取り巻く炎。その中から人型のものが、ドロドロとした高熱源で出来た炎の巨人が、垣根めがけて突っ込んでくる
垣根「超能力? いや、魔術か!? クソが、面倒臭えんだよ!!」
どんなにそれが強大な存在でも、垣根の未元物質の前では、ただの高温では意味を為さない
完全に想定外の光景に、巨大な手となっていた背中の未元物質を翼に戻し、炎の巨人を掻き消すように、羽箒として振り回す
ジュウ、と音が鳴り、火は消える。しかし、轟々と燃える炎の空間が全て消え去るわけではない
瞬く間にかき消えた炎は再生し、炎の原に戻っていく
垣根(……ッ。まあいい。どうせこんなちんけな炎、俺には何の意味もねえんだ。それより幻想殺―――)
上条「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」
遅かった
声が耳に入った時には、垣根の体に拳が当っていた。上条の左手が
垣根「うおおっ!?」
驚きと共に、彼は殴られた方向に飛ばされる
何が起きたのか、把握に少し時間を要した。当った右腕の一部が、当った拳の形をそっくり残して消えているのだ
今の彼を構成するのは、未元物質である。しかし単一のものではなく、新陳代謝の如く濁流が生まれては循環している。故に、一撃で消え去ることは無い
それでも、体に触れられると、そこが消えるのは事実だ。何度も食らう訳にはいかない
しかし
左腕から視線を正面に戻すと、既に目の前には上条が居た。速い。ボロボロの衣類が燃えている
そんな彼から、左ストレートが伸びてくる
今度は、反射的に受け止めようと出した右手が消えた
290 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:41:25.04 ID:VblF9WVrP
そのまま、今度は腹部へのミドルハイキックが近づく
至近距離過ぎて、守りようが無い。垣根の腹部が半分程かき消える。そしてそのまま横に吹き飛ばされた
それでも彼は、倒れない。倒れたら連続的に叩きこまれるのは明白だからだ
なに、大丈夫だ。こんなもの、時間さえおけば回復する。ならば動き回って回避すれば良い。スピードでは追いつけまい
しかし、上条は速かった。予想をはるかに超える程に。何故だ?
当然だった。とんでもないエネルギーの塊である垣根の体をオリジナルではない幻想殺しで掻き消せば、蓄積されるエネルギーも相当なもの
それを、そのままろくに制御せずに移動加速に全部回して使っているのだ。エネルギーを推進力に変える為に、背中で無理かつ非効率な爆発を断続的に起こして受け止め、その衝撃を加速に用いている
背中からは肉が見える。上条も必死なのである。この機を逃せば殺られるのは自分なのだ
これは、不味い。とはいえ、打つ手が無い
慌てて翼を叩き付けるが、遅すぎた
気付けば、もう彼の四肢は全て削り取られていた
残るは頭。次は頭
目の前にはボロボロの幻想殺し。この距離ではどう足掻いても逃げられないだろう
垣根(頭をつぶされりゃ、俺もお陀仏。もしかすると、化け物にでも成り下がっちまうのかもしれねー。……ッッざけんな! 何だよ、この状況は?!)
あきらめに似た思考が混じりだしてきた。もう周りには炎は無い。必要が無いからだろう
視界の端に、長身の男が見えた。多分、奴の魔術か何かだったのだろう。今更トリックに気づいても、遅い
「そこまでだ」
不意に、声が聞こえた。それは音声だったのか、何らかの方法で直接入力されたのか分からないが
とにかく、目の前で上条は固まっている。驚きの表情を浮かべて
291 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:42:05.48 ID:VblF9WVrP
動きが若干鈍くなった巨人に対して、勢いづく学園都市抵抗勢力
一方通行や最終個体の光球が上半身や腕を狙うのに対して、どちらかというと下半身以下を狙う駆動鎧と残存能力者や警備員や一般兵装の米兵達
ガァン!! という大きな音を響かせて巨人の持っていた三又鉾の柄と回復した光球がぶつかり合い、ねじ曲がった
好機と見た一方通行が、その鉾を叩き折ってしまおうと、翼を鋸の様に変形・伸長させて空気を蹴って近づく
だが、巨人が逆の腕を振り回し、一方通行は鋸状に伸ばした翼を逆に叩き折られ、明後日の方向に弾き飛ばされた
簡単に吹き飛ばされてしまう一方通行だが、これも巨人の変調の一つだ
今までは群がる羽虫を払う程度には、戦力の小さい未元物質駆動鎧達や学園都市残存勢力なども相手をしていたが
一方通行からの不意打ち⇒最終個体だった光球に吸収されるという構図を警戒するが為に、巨人はそれらを殆ど無視していた
当然の反応のように思えるが、それは当然、その弱い者達にとってすればよりやりやすい、ということである
「電磁砲の弾数、残り1!!」「こっちは今ので0だ」
「どうします? 取りに行きますか?」「いや、奴の動きが甘い今が一番の好機だ。ここは逃せん」
「畜生、駆動系圧力下降中! 俺の機体これ以上はリミッター解除しないと浮いてられませんぜ。さっきのでどっかやっちまってたか」
「私の機体も誤魔化し誤魔化しでしたので、あまり長くは戦えません」「俺達が使ってるのは整備不良機に応急処置をしたもんだからなぁ。しかも、お偉い研究者サマが居ねぇとろくに整備も出来ないし」
「撃墜でなくて、こんなことで戦力ダウンとはな」「リミッター解除すれば、未元物質機関が臨界に達す前までどれだけ動いていられるんだ?」
「隊長?」「……今の出力ならあと20分は」「こっちは15分」「電磁砲身へ回していた出力を切るとどうなる」「+10分」「同じく」
「……OK、あと25分は動けるんだな。各員、残弾の有無に関係なく電磁砲を捨て、俺の後ろに二列で並べ。そして翼をリミット値限界まで展開、突入する。奴の土手っ腹に大穴を空けるぞ!!」
「今の見たかよ?」「ああ、見たぜ」「明らかに回復が遅れてきてる」「さっきから上で飛んでる奴らばっか相手にしてるしな。下が甘くなってんだろ」
「相手にする程のモンじゃねぇってことなんだろうな」「舐めた態度とってくれてるわよ」
「だがその方が俺らは安全になって動きやすい。ホレ見ろ。あっちのチャイナの連中、どっから持ってきたのか大口径の固定砲を設置してるぜ」
「奪った実験兵器の試し撃ちをあの巨人でやろうって魂胆だな」「的としてはサイズに申し分ないわね。まず、あのビルの上までどうやって運んだんだか」
「華僑の連中すらもあんなもん持ち出したってことは、生き残った学園都市の生徒代表としては負けてらんねえよな」「あんたはたまたま運良く、安全な場所で寝てただけでしょ。大した能力でも無いくせに」
「馬鹿だなー。例え運であっても生き残っていれば、どういう形であれ戦力として使えるのというものですよ」
「んなら、次の戦いに備えて生き残らなけりゃなんねーよな。おいお前ら能力者組みにはまだ余力は残ってるか?」「誰に口聞いてんだ無能。当たり前だろ」
「オーケイ。そんだけ俺に噛みつけるなら、まだ力を伸ばせるよな? あっちのチャイナの大砲が撃ち込まれたら、一斉にブチ込むぞ」「局所集中攻撃ってか。無能力者らしく、考える事が単純だわ」
「でもいいんじゃない。シンプルイズベストってことでさ、派手にいきましょ」「LV4の大能力者サマを無視してきたツケを払わせてやるぜ」
292 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:43:02.38 ID:VblF9WVrP
一方「いつまでそんな右折注意の看板みてーな槍を大事そうにもってンですかァ、デカブツゥ!!!」
巨人にじわじわと近づいている下の連中を見て、瓦礫の山から飛び出した一方通行は自らへ注意をより大きく引き付けるべく、巨人の文字通り目前まで亜音速で近づいた
そして10m程に拡大した背中の翼で巨人の顔を引っ叩き、そのまま巨人の直上に飛び上がった
数秒、翼をウネウネと奇妙に動かし、次の行動に集中する
一方「槍ってのはやっぱ、こゥいうまァっすぐなやつじゃねェとなァ!!!」
叫ぶと一方通行は、ベクトルを、一方通行という言葉を体現するかのような、"かえし"のついた矢印をイメージさせるような槍に変形させた黒い片翼に、もう片方の翼を出来る限り広く拡散させて巻き込んだ周囲の大気中の電子や原子更にはそれらの運動エネルギーまで全てを攻撃要素として巻き込んで、巨人の丁度頭上から突き刺した
もちろん、そんなことが出来るのは巨人にとって最大脅威の光球に巨人の注意が特に引き付けられている、という今の状況でも稀な状況的要素があってのことである
巨人を囲むように虫の抵抗を見せていた残存勢力達の内数名の鼓膜を破り、大多数の者の聴覚を一定時間停止させ、更には病院の地下シェルター内でも大きく聞こえる様なとてつもない爆音を轟かせ、その矢印は巨人を串刺しにした
だが、その先端は巨人を貫き切って地面に刺さることは無い。こんなものが貫通して地面に刺されば、巨人の周囲に展開している僅かな生存者たちの殆どを即死レベルで巻き込んでしまう
黒翼という一方通行の今現在の能力的な限界に加えて、周囲100m以上の物質からエネルギー全てを巻き込んだ状態など、その状況を保持し続けることが出来るわけがない
何より、一方通行という存在自体が一方通行なのである。あらゆるベクトルを反射し、捻じ曲げ、破壊する。だが、捻じ曲げられたベクトルが、破壊されたものが完全に元に戻ったりなどはしない、彼には出来ない
やったら、やりっぱなし。つまり、そしてそれが一方通行である
当然、この"矢印"もやりっぱなし。維持できず、そのまま黒翼の片方ごと霧散する
自分も大きく消耗したが、これでいいのだ。今の攻撃で確実に敵に隙が出来る
一方(僅かでも隙ができりゃァ、あの光ってンのがテメェを食らうぜェ、シヴァさンよォ?)
巨人の直上から、体の軸にぽっかりと穴の空いた巨人を見下ろす
ビクビクと痙攣している姿を見て、一方通行はほくそ笑んだ
巨人を吸収する良い機会だと愚直に近づいた光球は、しかし、完全に思いの外で柄の曲がった鉾に弾かれ、弾き飛ばされる
一方(……なンだと?)
完璧だと思われた要素に、未だ足りないものがあった
先程の吸収前との決定的な違い。それは巨人自身が大技を使用していないということ
現に、吸収を防ぐために展開されている体表の防衛に回されているエネルギーはそのままだった
293 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:44:26.60 ID:VblF9WVrP
一方通行の能力者として扱える領域の半分程のエネルギーを消耗しても、未だ敵を止めるには届かなかったのか
否。効果は出ている。先ほどよりも輪をかけて動きは鈍い
吸収に失敗したのは、光球が愚直過ぎ、更には巨人も特別強くそれを警戒していたからであろう
一気に畳掛けたい。しかし、じんわりと一方通行の体に疲労感が押し寄せる
ミサカネットワークの補助演算下の時と比べれば、殆ど無限の活力と思える限界領域だったが、やはり半分の消耗は大きかった
「畜生」と彼が呟いた時、巨人の腹部に、一方通行の矢印とは丁度垂直に交わる様にもう一本の槍が貫通した
9機となってしまった駆動鎧隊が棒状に編隊を組んみ、しかも殆ど自爆寸前の出力を各個が放出して巨人の腹部に10m程の大穴をこじ開けたのである
一方通行の攻撃に意味は有った。巨人は防げなかったのだ。駆動鎧の合体攻撃すらも
貫通した駆動鎧の中には爆発してしまった機体があったが、その被害のお陰で縦方向の大穴と、横方向の大穴二つの回復を巨人はしなければならなくなる
一方通行が見た中で、巨人はこの日一番に消耗していた。人間であれば立っているのがやっと、という奴だろう
そんな巨人の右膝に今度はピンク色の極太レーザー光線が向かう
少し離れたビルの屋上に、いつの間にかかなりのサイズの固定火砲があった
出力を最大まで高めたのだろう。本体が揺れて、光線までが微妙に振動している
「―――――ッッ斉発射ァ!!!!!!!!!!!!」
何かの能力か、それともただの拡声器か分からないが、一際大きく声が響いた
闇の中でレーザー光に照らされた巨人の右膝に、学園都市の残存勢力の全ての攻撃が、能力者の能力が、銃火器の弾丸が、ロケット弾が、LAVの砲撃が、どこから飛んで来ているのか分からないミサイルが、どういう原理で作動しているのかすら良く分からない実験兵器が、無人襲撃機の特攻が―――
次から次へと同じ場所に、刺さる、破裂させる、焼く、冷やす、吹き飛ばす、沸騰させる、などのいろいろな種類の反応が生じていく
核兵器クラスの明るさとは言えないが、断続的にいろいろな光が巨人の下半身を照らす
優先度の問題から、必然的に上半身の防御に力を注いでいた巨人は、空けられた穴を塞ぐ為に消耗する
優先度の低い下半身は、回復の過程で回されるエネルギーの濃度は薄まっていた
そこに畳みかけられた一斉攻撃である。能力者の過大出力に加え、これまで使用されなかった武器兵器達という要素も絡まって、巨人の右膝は遂に、寸断された
そして、シヴァという名前を持った破壊神は、足元の障害物や自らより背の高いビルを巻き込んで、初めて、その場に大きく倒れ伏した
294 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:45:45.74 ID:VblF9WVrP
上条「そ、んな……」
垣根は目の前の男の視線を辿る。自らの背後には例の水没した窪みである巨大な水溜りが有って、そこにはそれまでには無かった、巨大な、頭部の無い骨の塊があった
その骸骨の右手の平には、少女が握られている
垣根「……だ、第三位だと?」
イェス「垣根帝督から、離れて貰おうか」
ここ数日間で聞きなれた声が耳に入って来た。今度は、確実に声だった
上条「どうして……?」
イェス「もう一度言う、垣根から離れろ」
上条「どうして御坂美琴がここに居るんだ!?」
垣根の目の前で、上条が叫んだ
直後、バキィ、と、嫌な音が右手のひらの上から聞こえる。同時に、女性の呻き声も
上条「な、あなた、何を!?」
イェス「何度も言わせないで欲しいね」
もう一度、骨がどうにかした時になる音がした
御坂「……ぐ、ゥ、アアアアアアアアああァァぁッ!!」
上条「分かった! 離れる! 離れるから、やめろ!!」
言いながら、上条が垣根の目の前から離れていく
イェス「ああ。それでいい」
295 :
本日分(ry 次はデータ消えない様に頑張ります。時間がね、うん
[saga sage]:2011/05/15(日) 13:52:12.06 ID:VblF9WVrP
上条「離れた、離れましたよ! だから彼女を離しなさい! イェス!」
巨大な骸骨は、左人差し指を立てて、左右に振った
イェス「そうはいかない。これは重要な取引材料なのだから。君が垣根から離れるのは、交渉の始まりでしか無い」
更に、骸骨の右手に力が加わった。明らかな悲鳴が上がる
上条「止めろと言っているじゃない!! 取引なんでしょう?! 早く内容を言いなさいよ!」
イェス「慌てる必要はないさ。こちらとしても、時間を浪費するつもりはないからな」
淡々と落ち着いて述べるその口調が、嫌に腹立たしい
そして、その口調で述べられた言葉がこれである
イェス「単刀直入に言おう。 そ の 体 を 殺せ」
上条「!?」
まさか、少し離れたところにいるステイルや垣根の事ではないだろう
困惑の表情を上げる上条をお構いなしに、右手に御坂美琴を乗せた骸骨を操る存在は声を出す
イェス「やり方は、そうだな。その左手で、死ぬまで自らの首を絞めて貰おうか」
上条「ふざけないでください!! そんなこと、出来るわけ―――」
バギッ、と音が鳴る。見ると、少女の左肩が有らぬ方向へ曲がっていた
イェス「私は冗談は言っていない。これから一分ごとに、彼女の関節を壊していく。決断は速めにするといい。何時、首の関節を壊すか分からないからね」
突然水面に現れた上半身だけの骸骨を前に、彼女たちはその口で何か言おうとするも、彼女たちには声に出来なかった
だが、上条の体は確実な声を吐き出した
296 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/15(日) 13:54:14.42 ID:utv0M+QDo
乙
次回は上条さんの活躍をお楽しみに!
297 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/05/15(日) 16:04:22.06 ID:ohRwrD4AO
乙
みんな爆発しろ
298 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/05/15(日) 19:48:03.97 ID:QnCTMfna0
乙
そげぶ復活か……ッッッ?
299 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/05/15(日) 20:23:16.58 ID:f3SLYKh10
2回目はむぎのんとかにフラグ立たないのかな?
300 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2011/05/16(月) 00:22:41.28 ID:DZfM9PN1o
黒子が前回のこと少し覚えてるかなんかで上条さんを下の名前で呼んでたのはどうなった?
301 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/16(月) 02:44:48.33 ID:8z82sLyDO
一回目のむぎのんかわいかったな…
死に方も…
なんにせよ(_´Д`)ノ~~オツカレー そげぶはやくかえってこい
302 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)
[sage]:2011/05/17(火) 18:16:06.82 ID:nmz/ip3E0
追いついた
ヴェントたんのファーストチッスが…
303 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/18(水) 10:09:04.56 ID:bkYDKHmSO
そろそろかな
304 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/18(水) 12:17:51.71 ID:5/rxfFC9o
ちょっと他の作業で手間取ったので、今日の分を17時までに半分
深夜の4時までに残りの半分を投下するって形にさせて下しあ
加筆推敲作業が丸々残ってるのです……
地獄のミサワ知ってる人にしかわからないだろうけど、リアルに
俺昨日二時間しか寝てないわー。マジで二時間しか寝てないわー
状態なので少しお時間をば
305 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/18(水) 12:19:27.82 ID:bkYDKHmSO
その幻s
了解です
306 :
微妙に遅れたすまぬ。その上短い
[saga sage]:2011/05/18(水) 17:14:59.55 ID:/HXwzviEP
思い浮かぶのは、"前"の記憶
気を失った垣根、絹旗の死体、傷ついた御坂、たくさんの死人、傷ついた学園都市
まるで見えているかのように、視界に映り込む
(だから俺は、アレイスターの言葉に乗って、やり直そうとした)
あの時はそうすれば、どうにか出来る気だった。いや、しなくてはならないと思った
(だけど、今の目の前のことは何だ? この世界の現状はどうだ? 一体、いくつの命が散ったんだ?)
見える。自らの目を通して、骸骨の右手の上で意識のないまま悲鳴を上げる御坂が
(なんで、どうしてまた、御坂が傷つけられて、人質になってるんだ?)
後ろにはダルマ状態の垣根が居るだろう。学園都市では、最後を除いて敵対していなかったのに
さっきまで、立ちふさがっていた。そして、寸でのところで対処してくれた
(なんで、垣根帝督は俺を殺そうとしたんだ?)
"前"でも彼とは戦った。あの時は、彼は自分を本気で殺すつもりだっただろう。そして今回も
(結局、なにも変わって無いじゃないか。順番が少し変わっただけじゃねえか)
いや、違う
(変わって無いんじゃない。どう考えたって悪化してるんだ)
あと何日かしたら、このままでは確実にこの世界は壊れてしまうだって?
その方法として、夏に見たあの様なレベルの天使が世界中に現れ、天災は続き、挙句の果てには隕石が来るという
(しかも、その原因は俺と、イェスは言った。憶測の域ではあるだろうけど、当てはまらないわけじゃない)
世界レベルの災厄
こんなこと、"不幸"なんて言葉じゃ済まされない。不幸に巻き込んだ、なんてレベルじゃない
307 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/18(水) 17:16:32.95 ID:/HXwzviEP
(俺が、他人を不幸にしてる?)
確かにそうだ。今だって垣根は苦しみ、御坂もあんな状態だ。"前"だって、特に、目の前に絹旗の死体を見た。自らを助けるために
(なんで、こうなってしまったんだ? そもそも、イェスみたいな存在があったからなのか?)
答えは、自ずから出て来た。彼とは違う意思で、彼女たちとも違う意思で
それは、違う
(違う? なぜ違うんだ?)
あのような存在がなくとも、結果はこうなった。別の存在が肩代わりするだけにすぎない
(たくさんの人が死んで、御坂が傷ついて、"終末"が来ることが、俺が世界に終わりをもたらす原因になるってことは、最初っから確定してたってことかよ?)
その通りだ。世界の終わりは計画されていた。当然、その過程ではどうあってもあの少女は傷つくことになる。人は皆、死ぬこととなる
(計画だって? どこの誰がそんなことを)
言うなれば、神か。あるいは、更なる存在か。いずれにしても、お前が居る限り世界はこうなり、そうなる。その為の、その証拠の"幻想殺し"なのだ
(冗談じゃねえ。本当にそうだってんなら、こんな右手叩き落としてやる)
それは無意味だ。幻想殺しは、君自身。君自身であっても、君自身を壊す事は出来ない。君そのものが幻想殺しであるという役割を果たすまで、この世界は止まらない。いや、元より止めることなど出来はしない。幻想の様なこの世界の、その登場人物が、どう足掻こうとも。今、目の前にあるこのイェスという存在がどれだけ力のある存在であっても、或いは他の存在がどれだけの力を持とうとも、計画通り"終末"は訪れる
(ふざけんじゃねえぞ。何が役割だ、何が幻想だ。そんなもの、俺が、俺の意思で、変えてやる)
どんなに自己を否定しても、世界が、私が、君が、君を生かし、そして君にカミジョウトウマの役割を果たさせる。無意識的にも、意識的にも。今、このように
今、ここでの君の役割は、イェスを倒す事。君の目的である御坂美琴の救出と、結果は変わらない。全てが、進行から変化することは無い
確かに同じかもしれない。だが、上条は反論したかった。しなければならないと思った
だから、上条の口が開いた。彼女たちの思いの外の、完全なる上条当麻の意思で
「……いいぜ。なんでもてめえの言うとおりに進むってなら」
「まずはそのふざけた幻想を、ぶち殺す!!」
308 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/18(水) 17:17:00.68 ID:/HXwzviEP
「……教皇代理、これは」
その言葉が出るまで、少々時間が有った
意識を失った五和の方から数区画離れた交差点。最早そこが交差点で有ったのかすらも表面的には分からない程に、そこはく凸凹になっていた
剥き出しになった信号機の配線が青白くスパークする中で、彼らの目にあったものは、交差点と同じぐらいにグダグダに破壊された、女教皇の姿
これまでに彼女が相手をしてきた"終末"によって自然発生する天使や神々の姿をした破壊者達との戦いで、こんな姿になるまでボロボロになることは無かったわけではない
しかし、天草式の人間がそれを見たのは初めてであり、そこから、彼女が彼らの知っていた存在から離れてしまったことが分かる
神裂「あ゛、あ。……が、ぶ」
人間というよりは狂獣のような声を上げる姿で、まともに人の形と確認できるのは顔の半分程度
血の代わりに吹き出した未元物質のワイヤーが、彼女の身の周りを包んでいる
建宮「魔術にしても取り留めが無さ過ぎる。何か手を加えているとは思っていたが、ここまでしてるとはな」
顔をしかめる彼等の目の前で、その交差点は更に凸凹を深いものになる
明らかに効果が出たからこその、第二波だ
"複脳計画"によって、聖人である彼女は更に強くなっている。その性能は比較にならない。とは言え、体そのものが未元物質に置き換えられた垣根程の防御能力が有るわけではない。逆に言えば、垣根のように上条に触れられただけで体が吹っ飛ぶ、と言うわけではないが
敵からの攻撃自体はダメージとなる。だからこそ、彼女には肉体再生の超能力が付加されているわけである
ガガガッ!という地面を削る音の中に、確実に人間の体をへし折るような、嫌な音があった
巻き上がる粉塵。その中から、上空に跳び出す黒い影
それは、ろくろ首の様に未元物質のワイヤーで伸長した彼女の首と頭部だった。その口には、刀が咥えられている
その姿から分かること。肉体再生の能力の機能不全
調整を加えられているとはいえ、所詮彼女の複脳は人間のものでしか無い。混乱はしてしまう。複数あることからの互助機能が本来なら作動するが、全てが混乱してしまってはどうしようもない。むしろ悪化する
冷静に考えられない人間の採る行動は非常に単純化される。例えば、締りの悪いネジに無理矢理力を加えてしまって、ネジ山を壊してしまう様に
彼女が、彼女の脳が判断したのは、そういうことだった
魔術・空間移動・肉体再生・未元物質。これら4つの機能のうち、もっとも力強く応用が効くのはどれか?
出した答えは、未元物質だった。一つの、単純に強いと思われる力に特化したということだ
そして、その混乱した頭脳は、当然その混乱を招いた存在を強く敵として認識している
309 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/18(水) 17:17:37.23 ID:/HXwzviEP
千切れた肉体を鋼索状の未元物質で繋ぎ合わせた、彼女の美しい身体つきを完全に無駄にした、無様に間延びした肉体が、建宮達の方へ歩みを進めていく
その手には武器も無く、確認できる武器は肉体のみ
建宮「っとぉ!?」
交差点に差し掛かる中央線のほぼ上に立っていた建宮は、肉弾戦かと思っていた手前、思わぬアウトレンジから放たれた攻撃に驚きながらも、それを回避した
単純に伸びたのである。彼女の右腕が、丁度肘のあたりで。彼はそれを左に体を逸らして、咄嗟に回避したのだ
そのまま、ゴムの様に伸びた彼女の体は大げさに、その右腕の肩を振った
その様子を近くに来ていた他の天草式の男は見ていた。見ていたのは確かだが、その顔には明らかな驚愕が見て取れる
とどのつまり、初動が遅い
建宮「避けろ!」
指導者として、仲間として、キャリアの長い者として、彼は叫ぶ。どんな威力のものなのかわからない以上、何らかの手段で受け止めるのは得策ではないからだ
鞭のように、ではなく、それは棒だった。先端に拳と言う特別な形が付いた如意棒とでも言うべきか
所詮は人の腕程度しか太さのない、何十メートルの長さがあるのか正確には分からない棒状の腕が、鉄筋コンクリートでできた周囲のビルを頑丈であろう柱ごと叩き折りながら、水平方向に180度程振り回された
鞭のようにしなれば、それによって生じる攻撃の被弾までのタイムラグが生じれば、或いは、その天草式の男は言葉通り避ける事が出来たかもしれない
しかし、その腕は未元物質だ。その体は、慣性や物質特性など関係ない。完全に棒として、振り回される
間に合わなかった
彼は、手に握られた曲剣で受け止めるしか無かった
金属がへし折れるような音が耳に入ったのは、建宮が回避の為に飛び上がった後だった
剣と共に、男の体が胸のあたりで上下に断たれた光景が、建宮の目に入る
対馬「嘘、こんな……」
着地した建宮の背から、女の声がした。それだけではない
「な、なんなんですか、この化け物は」
対馬を含めた3人の天草式の人間が、建宮の様子と援護の為に対馬から離れてこっちに来ていたのだった
人数的に、五和の側に女性の天草式が一人付いているのだろう
310 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/18(水) 17:18:36.29 ID:/HXwzviEP
建宮「お前さんたちは、逃げた方が良いのよな」
如意棒のように伸びた腕が本体へ縮んでいくのを見ながら、少し強張った声で彼は言った
対馬「馬鹿言わないで。私達は天草式十字凄教の魔術師よ。教皇代理のあn――」
彼らの魔術の特性。日常生活で見かけるものを使用すること、そして、チームワーク。神裂を除いて、個々の力が敵に対して劣っていても、集団でこそ効果のある術式を多用することで、その劣勢を覆す
逆に言えば、個々での戦闘は向いていない。教皇代理である建宮が分かっていない訳が無い
建宮「その、教皇代理の俺が言うんだ! 元はと言えば、アメリカに行くと言いだしたのは俺なのよな!」
対馬「そんなつまらない責任感、気にしないでよ!」
「そうですよ! 俺達は俺達の意思で一緒に……ッ!?」
しかし、感動的な会話など、させてはくれない
今度は、両脚が伸びた。胴体そのものが、駆け付けた天草式の彼らの元へ伸びる
術式的に簡単には折れない様に、打ち負けない様に鍛えてある曲剣ごと体を真っ二つにする様な攻撃をしてくる存在だ
近づかれては、回避はより難しくなる
建宮「くそっ!!」
彼は、危険を顧みず自ら神裂に接近した。自らに注意を引き付けるために
立ち位置からすれば、彼は対馬達に接近した神裂の背後から接敵した形で有った
しかし
何だと―――?
ギュルり、と体の中で全てのパーツが反対側に移動する。まるで、狙っていたかのように
つまり
建宮(最初から狙いは俺だったか!?)
いつの間にか、彼女は上空で刀を咥えて動き回っている頭部を除いて、こっちを向いていた
考えてみれば、合理的だ。彼が現在の天草式を束ねているということは、彼女自身は知っている
そして、この混乱状況を生みだしたのは建宮の術式であるという線が近い。その上、先程の攻撃を着実に回避した存在である
優先目標が彼であるのは当然なのだ
目の前で、神裂の両拳が伸びるのが見て取れた
311 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/18(水) 17:20:19.39 ID:/HXwzviEP
奇異なことに、突然、棺の蓋が弾け飛ぶ
しかし、その場に居た人間は誰も驚かない。まるで常識であるかの様に
「おっと、お目覚めか。流石に新鮮な肉体は早いな。モスクワに置きっぱなしにしていたら、今頃、連中はさぞ驚いていたことだろう」
黄色い衣装に身を包み、しかし嫌悪感を感じさせる顔中の金属の塊はその穴も含めて見当らない
死ぬ前にあったはずのそれらが無いことへの違和感に、彼女は自らの顔を触れた
フィアンマ「死に化粧と言う奴だ。死んでまでわざわざ他者に敵意を誘発させる必要はない」
ヴェント「こうして手駒にする為に殺しときながら、良く言うわね」
彼女の言うとおり、そして現にフィアンマは彼女を復活者とさせた。元より復活させる意思がありながら、どうして死に化粧が必要だろうか
フィアンマ「文化というものさ。ひいては、術式への互恵ともなる。それとも、ボロボロの霊装のままで、胸を肌蹴させたまま棺桶に入れて欲しかったのか?」
つまり、素っ裸で今ここに居たいのか、ということである
ヴェント「別に。んなどうでもいい事、私は気にしないわよ」
フィアンマ「俺様が気にするんだよ。モスクワでお前が目覚める可能性も有ったからな。公衆の面前で、ボロボロの衣類を身につけた死者が派手に棺桶を吹き飛ばす光景を作るわけにはいかないからな」
ヴェント「それはそれで面白いわね」
フィアンマ「俺様はロシア成教のメンツを考えてやるぐらいのゆとりはある。必要性もな。最も、いくら死に化粧をしたところで、棺から人間が起き上がれば、それはそれで問題だろうが」
ヴェント「あーらぁ? 禁書目録のガキを手懐けてるロリペド野郎のフィアンマ様が今更何を気にする必要があるのかしら」
フィアンマ「それは、俺様の趣向じゃない。功労者への配慮、気配りと言うやつだ」
ヴェント「それはどうだか。引き籠りすぎて敵意や悪意の考え方までおかしくなったアンタなら、ねえ」
フィアンマ「生き返って早々、辛辣だな。そして更に生き返って早々、頼みがある」
ヴェント「何? どうせ断れないんだから、"頼み"なんて言い方をせずにとっとと内容をいったら?」
フィアンマ「なら、命令だ。ロンドンのテッラを回収してこい」
ヴェント「テッラァ? しかもロンドンって。面倒な臭いがぷんぷんするわよ」
フィアンマ「その通りだ。俺様の命令を忘れる程度に暴走気味でな。まぁ、肩慣らしにすると良い」
ヴェント「殆ど寝てたようなようなもんだけど。ご命令とあらば、行ってくるわよ」
フィアンマ「ああ。お前まで暴走しないようにな」
ヴェント「さぁ、それはどうかしらねぇ」
言って、彼女は振り返り、ロンドンへ足を向けた
312 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/18(水) 17:21:09.94 ID:/HXwzviEP
とりあえず前半終了。あと本日分残りは四捨五入して10レス程度ですな
313 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2011/05/18(水) 18:06:16.53 ID:JnfyongZo
神裂さん、ゴム人間になってしもた
314 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/18(水) 18:14:22.90 ID:DxEcktuzo
上条さん復活キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
315 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/05/18(水) 18:33:55.64 ID:6vL4mWQUo
ヴェントちゃんの復活でござる
ってことは、更にカオスな出来事に……
316 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/05/18(水) 21:52:05.54 ID:3Y0kC0is0
後半は…?
317 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)
[sage]:2011/05/18(水) 22:08:50.21 ID:tnPysvnv0
ヴェントたん復活!
318 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/05/18(水) 23:42:43.87 ID:U/GAFWIE0
早く来ないと寝るぞこら
319 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/19(木) 03:36:51.20 ID:hMIsxGJSO
まだだ
まだ寝られんよ
320 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)
[sage]:2011/05/19(木) 04:37:04.42 ID:qcrdAOXI0
くっまだだ、まだ…寝るわけには……
フィ「そんな露出の多い服装で行くつもりだったのか?」
ヴェン「別に。私は気にしないわよ」
フィ「俺様が気にするんだよ」
あの会話で前方右方を受信した
321 :
そして今である。どう見ても一時間遅れです。オレ、ドヨウビ、ガンバル
[saga sage]:2011/05/19(木) 05:13:06.81 ID:TL3c3pRvP
「何かと思えば、随分と立場を分かって無い発言をしたものだな、姉さんは」
上条当麻の急な発言に、イェスは驚かなかった
同じAIである姉たちによる、何か考えあってのことだと彼は考えたからだ
この判断は、何もおかしな事でも無い。この状況下だ、どんな姑息な策を採って来てもおかしくないのだから
意識のない御坂美琴を人質として扱う、自分がそうであるように
イェス「私は、その体を殺すように命じているのだがな。従わないならば、残念だが」
頭部のない骸骨の右手に握られた少女に、危険な領域で力が加わった
そして、バギッ、と音が鳴る。更に何処かの骨をやられたのだろう
意識が無いながらに上がっていた、御坂の悲鳴も無くなってしまっていた
冷静なイェスに対して、驚いたのは上条本人
上条「と、当麻!? 何でいきなり、こんな発言をしたのですっ?!」
意外の場所からの意外の言葉に、驚いた本人の中の彼女たちは、思わず言葉として声を出させてしまった
待ち望んでいた事であるが、あまりにもそのタイミングは悪すぎる。こんな発言をしたら、イェスは御坂を更に苦しめるに決まっている
現にそうだった
本人の口から出た言葉に、答えたのも本人だった
上条「こんなんじゃずっと同じことの繰り返しじゃねえか!! 御坂を助けるためにも、屈しちゃ駄目だったんだ!!」
その良く分からないやりとりに、後ろからずっと見ている垣根は困惑した顔を浮かべる
垣根(人質取られて、遂におかしくなりやがったか)
そして更に、その表情は上条の次の行動で驚きの度合いが深まった
叫んで数歩進んだと思えば、上条はそのまま、一気にイェスへ向かって跳んだ
322 :
そして今である。どう見ても一時間遅れです。オレ、ドヨウビ、ガンバル
[saga sage]:2011/05/19(木) 05:13:39.78 ID:TL3c3pRvP
跳んだ、と言うより、飛んだ、という方が正確かもしれない
背中の露出した肉に更に追い打ちをかける様にして、爆発的な推進力を得る。そして今までで一番の速さを見せて、上条は湖上の、首のない上半身だけの巨大な骸骨の右手に向かって突っ込んでいく
垣根(馬鹿だ。本当に分かってねえ、コイツは。その選択は、最悪だろーが)
垣根(前に言ったよな。出来る事をしろってよ。その選択は、真逆じゃねえか)
上条がしようとしているのは、文字通り敵の手の平の御坂を強引に奪還する
そう言う強引な方法が出来るならば、最初にしている
それをせずにどうしようか悩み、先程まで固まっていたということは、垣根の判断としては、上条には強奪するだけの能力が無いからと見ていた
その後に取られたこの行動は、これ以上御坂も自身も苦痛で悩まない為の、やけっぱちの行動という見方で見える
確かに、その見方は正しかった
そう見えたのは垣根だけでなく、そこから少し離れたところに居る、ステイルも同じ見解だった
イェスとしては、そういう上条の暴走も考慮の内ではある
イェス(まぁ、一番無いと思っていた想定だがな。遂にそういうレベルまで冷静さを失ったか。同じAIとして、その落ちぶれを悲しく思う)
上条が骸骨に近づく、そんな僅かな間の事だった
ザバァ!! とクジラが体を水面で跳ねさせたような水の爆音が響く
状況からはじき出される、一番確実な方法。それは確実に上条の暴走と思われる行動を回避すること
どうあっても御坂を奪還など出来ない。それどころか、状況はもっと悪化させるだけ。この行動は、そういう心理を与えられる
与えられれば、姉君は上条当麻の肉体を殺すかもしれない。そうでなくとも、隙が出来れば物理的な手段を用いて殺す事も出来るだろう
水しぶきの中から、水上に見えていた上半身の下が現れた。それは、水没していた多脚兵器だった
上条の右手への直線的な行動を避ける為、それは骸骨の上半身に多脚兵器の下半身という変則的な上下構成を水上に完全に現したのだった
上条(これは……!! 対神格用の秘密兵器にしては程度が低すぎると思っていましたが、この用法が本来のものだったと言う事ですね)
水の底を蹴って水上に飛び上がった機械の下半身は、備えられたハッチが全て開いていた
323 :
あれ、この上条無敵じゃね?
[saga sage]:2011/05/19(木) 05:14:37.68 ID:TL3c3pRvP
そのハッチから顔を覗かせてるのは、ステイルを襲った大型機関銃の砲門が複数
上条がこのまま突っ込んだら、多脚兵器の腹部に備えられたそれらの砲門から実弾の掃射を貰ってしまう
やはり無茶だ、こんなこと。出来はしない
そんな思考が、上条の中でAIから生じられる
上条(出来ないじゃない、やらなきゃならないんだ!!)
その言葉には、根拠などない。だが、上条当麻には自信と、気負いが有った
言われた通り、本当に自らがこの世を壊すことに繋がる存在だとしても、その役割を果たさせられる存在だとしても
はい、そうですか。なら諦めてこのままなされるがままにします、なんて言わない。俺は、行動する
これまで意識は無くとも、ずっと見て来た現実がある。自分の代わりに悩みながらも行動してきたAIがいる
それらが諦めたのなら、今度は自分の番だ。なによりも、これは、自らは自らが上条当麻なのだ。もう休んではいられない
上条(久しぶりだけど、演算補助、頼む)
(そんな、アレはあなたの負担が大きいのですよ?! 制御だって正確じゃない。直接的な原因ではないとは言え、その積み重ねが意識抑制に繋がったのです。ようやく、あなたが起きたというのに……)
上条(どんな時でも行動にはリスクを伴う。それは仕方ない。でもそのリスクにビビって動かないんじゃ、有るのは後悔だけだろ)
(……でもっ)
上条(大丈夫。出来る。俺が、そ う さ せ る)
無数の金属が向かってくる上条に向けて発射された
上条「邪、魔、だあああああああああああああああああああああああああああ!!」
掃射音に負けない叫び、そして意識的に向けられる右手
イェス(馬鹿な、右手だと?)
バギギギギギギギギギギギィ!!! と連続的に幻想殺しが何かを打ち消した時の音が鳴った
言ってしまえば、拡大現実殺し、とでも記すべきなのだろう
324 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/19(木) 05:15:04.79 ID:TL3c3pRvP
上条が彼女らに求めた座標は、右手の平を中心にした半径3m程度の円
その範囲へ飛び込んできた実弾が、片っ端から消えていく。つまり、上条の直線的な進行を妨げられない
逆に上条の加速は進行していき、更には余ったエネルギーが体内に集約されていく
そしてそのまま、上条当麻は多脚兵器の腹部に突っ込んだ。集約された力で装甲を突き破って
これは、イェスにとってはクリティカルな問題だ
自分自身が、上条が飛び込んだ多脚兵器の中に組み込まれているのだから
イェス(まさか、狙いを御坂美琴から変えたとでも? 私は変わらず土台の多脚兵器に格納されている。理はある)
ならば、御坂美琴の人質としての価値は下落したか
多脚兵器そしてそこから生えた骸骨の上半身を操るAIの頭脳に、損壊情報が飛び込んでくる
イェス(だが、その狙いは外れだったようだ)
上条が突っ込んだのは自らが格納されている部位とも、そして駆動系の集約回路がある部位でも、術式的な駆動制御がある部位でもない
この機体には、さしたる害は出ない。もちろん、そのまま中で暴れられれば最悪だが
イェスは勘ぐったが、実際の所、上条の意図は変わっていない。御坂美琴の救出が目的だった
これまでの流れも、単なる帰結に他ならない。多脚兵器の中に飛び込み、イェスには体内から破壊しようとしていると見せかける事が出来たのも、上条にとって都合のいい偶然だ
だが、多脚兵器のフレームの中なんて空間に居ても意味は無い。力を集約した左手を乱暴に周辺に叩き付け破壊しながら、彼は真っ直ぐに上を目指す
派手にものを壊す中で、上条の右手が何かに触れた
そして、バキン、と静かに何かを打ち消す音が生じた
上条自身は、所詮、この多脚兵器を動かす機能の一部である術式を偶々打ち消してしまっただけと判断し、気にも留めなかった
一心不乱に、脱出すべく内部破壊を続ける。この時は、自分によって世界が壊れるという流れの事なんて、彼の意識にも、そして当然脳内の彼女達にもない
最初に、その変化に気が付いたのはステイルだった
325 :
もしかしたら、刀夜と旅掛の名前が逆になってるトコがあるかもしれない
[saga sage]:2011/05/19(木) 05:15:57.67 ID:TL3c3pRvP
「流石に追い込まれたかとは思っていたが、やるなぁ」
CIA本部でニヤける顔がある。だが、その笑みの理由は成長を喜ぶ父親というものではないように見える
刀夜(まぁ、当麻をどうにかすることなど、出来る存在など存在しないのだけど)
刀夜「だから、安心して見る事ができるということでもあるが」
彼が息子の様子を知ることが出来るのは、目の前の端末
これまた都合良く、上条刀夜が研究施設内のイェスを見る為に使っていた観察機器系統が多脚兵器の構成に用いられたからである
刀夜「しかし、まさかあの地下研究施設の中に点々と設置されていた装置が、こんな兵器のパーツとなったとは。最初からそうする目的だったなら、まるでプラモデルだな」
彼はそれこそ野球中継を楽しむが如く、モニター画面の端で映し出されるライブ映像に興じつつあった
そんな彼だけの空間を壊すように、その部屋に入ってくる人間があった
「刀夜さん」
入ってきてすぐ、その場で、彼は奥のデスクに座る上条刀夜に話しかける
刀夜「うん? どうしたんだい、御坂君」
旅掛「No.13の隊が全滅したようですね」
刀夜「……そうらしいな。実に悲しいことだよ」
わざとらしい表情を刀夜は浮かべた。しかし、その表情が偽物か本意から来るものなのかなど、彼自身以外では分かりはしない
旅掛「はい。どうするつもりですか」
刀夜「どうもしない、としか言えないな。爆撃機も破壊され、魔術師の連中もあっちには居ない。居るのは当麻ぐらいなものだ。どういう結果にせよ、それに対応していくしかない」
旅掛「当麻君が? 了解です」
言って、しかし、旅掛は下がらない
直接ボストンへ出向いていた部隊が全滅した以上、組織としてどうにかすることが出来ないことぐらい、旅掛程の人間でなくともすぐに分かることだ
326 :
その時は脳内変換でorz
[saga sage]:2011/05/19(木) 05:16:42.00 ID:TL3c3pRvP
つまり、そんなことが話題の中心ではない
こうしてわざわざ刀夜の所まで出向いたと言うことは、他に何か特別話したいことがあるということだ
刀夜「それだけかい?」
念を押すように、彼は尋ねた
旅掛「……いいえ。刀夜さん、少々質問しても良いですかね」
刀夜「構わないが」
さて、何かな? そんな表情を浮かべる
旅掛「ここの、非オープンの情報データベースで得た情報なんですが」
刀夜「あそこか。確か、偽装されていないオリジナルの情報が集まっている、最上位の閲覧権限が無いと入れもしない場所。何か面白いものでも見付かったかい」
旅掛「確かに、これが映画か何かのワンシーンなら、面白かったと思いますよ」
何か含みのある言い方だった。彼らしくない
刀夜「んん? つまり、君にとっては気に入らなかったわけだ」
旅掛「そうですね。非常に気分の悪い物を見つけましたよ」
言って、彼はデスクの上条にプリントアウトした書類を見せる
刀夜「……また、懐かしいものだな」
旅掛「そうですね。もう10年以上も前の話だ」
出て来たのは、例の作戦
二人の顔は、固い。とても和やかと言う感じではない
旅掛「目を疑いました。しかし、現実はこの通りだ。刀夜さん、いや、上条刀夜」
327 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/19(木) 05:17:10.11 ID:TL3c3pRvP
彼の眼に力が加わった。一片の誤魔化しも許さない、という意思を込めて
旅掛「あなたは、最初からあの作戦がああいう結果に終わることが、分かっていましたね」
あの作戦、ああいう結果
あの作戦とは、出世コースに乗っていた10年以上前の上条刀夜が提案、チームを率い、指揮したとある麻薬組織の壊滅作戦だ
御坂旅掛は御坂美琴の母である美鈴と一緒に、直前に不参加という形となった
前提として、最初から人数的・戦力的に辛いものではあった。少なくとも、刀夜もそう言う形で事前に報告しているのは、旅掛も予想はしていた
しかし
旅掛「ここに書かれた、訂正されていないあなた自身が出した最初の被害予想は、明らかに度を越している。根本的に、CIAだけで対処できる規模じゃない。軍との連携が必要だ。これじゃ、あなたを含めた数名しか生き残らなかったのも当然だ」
旅掛「途中まで参加していたから、俺もまだ良く覚えてますよ。"苦しいレベルだが、我々だけでどうにか出来ない訳じゃない"。そう、あなたは言いました」
旅掛「なぜ、あの時私達に嘘をついたんですか。おかしいのはこれだけじゃない」
更に別の書類を机に叩き付けた
旅掛「なんでこんな組織を、相当の被害を出してまで潰す必要が有ったんです?!」
麻薬密輸組織。それは言うなれば、襲う為の正当性を与える無理なラベリングだった
旅掛が叩き付けた書類には、明確に書いてある。州政府から危険薬物の宗教的・文化的な使用を許認可を得た、土着の伝統的な宗教集団であると
魔術が存在することを理解した旅掛ということで、今でこそ分かるが、そして前面で戦った上条刀夜も分かっていただろうが、いわゆる魔術結社の性格も有った
旅掛「彼らは善良なアメリカ市民と言える存在だ。確かに魔術結社という視点で見れば危険かもしれないが、それを使って強訴するような集団じゃなかった。麻薬使用の許可もちゃんと手続きをした上で得てる。麻薬密輸が行われたとする宗教的使用用途の危険薬物の横流しも、でっちあげだ」
旅掛「こんな理不尽な言いがかりをつけられ、攻撃されたんじゃ、そんな彼らだって当然黙っては居ない。今だからわかるが、魔術で応戦したんでしょう。そうなれば、襲ったこちらの被害も甚大だ」
旅掛「もう、意味が分からない。どうして、こんな無意味な被害しか出さないような作戦を立案し、強行したのか。出世の為の点数稼ぎにしても無理がある」
旅掛「結果、あなたは責任をとって出世コースから外れてしまった。予想通りの被害を出して、理由のない襲撃を強行して、結果あなたも利益をだしていない」
328 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/19(木) 05:17:41.29 ID:TL3c3pRvP
ものの見事に、誰も得をしない
巻き込まれた全てが全て、不幸を被っている
説明を投げつけた旅掛には、理由が全く分からなかった。だからこうして目の前で問うている
上条刀夜という存在を知らない人間であれば、出世の為に無理をした、なんて理由で片付ける事が出来るだろう
しかし、旅掛は刀夜を知っている。カリスマとそれに応えるに十分な知的さという資質をもった存在であると
旅掛「刀夜さん、あなた一体、何がしたかったんだ。何の目的があって、あんなことを」
裏切に近い感情を持って、その瞳を滾らせ、旅掛は再度問いた
そしてようやく、刀夜の口が開く
刀夜「あの作戦を知っている者はもう少ない」
椅子に座り、彼は無表情な面で名前を挙げていく
刀夜「ここで、ワシントンで、ニューヨークで。そしてNo.13もボストンで死んだ。残るは私と君、そして青髪君ぐらいだ」
刀夜「しかし、彼は幼く、そして君は結局参加していない。つまり、あの時あの場所で何があって、何が起きたのか知る者はもう居ない」
刀夜「CIAという組織は非常に便利だった。情報を集めると言う面は然りだが、抑え込むと言う面でも。拾った双子をCIAで管理してしまえば、常に私はあの時のことを監視出来たんだ」
上条刀夜は、すっと立ち上がった。そして、机を挟んで立つ旅掛に視点を向ける
刀夜「皆、誤解している。私にとって出世など大した意味は無いんだよ。極端に言えば、あの当時の位までで十分だったんだ」
旅掛「その言い方だと、まるであの作戦さえ押し通す事が出来れば良かったみたいですね」
刀夜「みたい、ではないな。私の役割そのものが、あの作戦を強行させ、組織を壊滅させることなのだから」
旅掛「……理由は?」
刀夜「単純なものさ。あの組織が、あの連中が堅持している物が邪魔だった。だから壊す必要が有った。ただ、それだけの事。人間と言う物は、厄介なものを作るものだよ」
刀夜「だからあの作戦が強行され、アレが壊れた時点でもう、私の役割は既に終わっていたんだ。逆に言えば、そこで私は自由になった。そして欲が生まれた」
329 :
本日分(ry おやすみー
[saga sage]:2011/05/19(木) 05:20:49.91 ID:TL3c3pRvP
刀夜「今考えれば、その欲そのものは、息子が生まれた時から既に嫉妬と言う形で生まれていたのだろう」
旅掛「息子に、上条当麻に、嫉妬?」
刀夜「ああ、そうだ。だから、私は"終末"に合わせて"銀貨30枚"なんて組織を作らせた。その為に、わざわざ表に出ない影の権力者を演じさせた」
話が、分からない。旅掛はそう思った。なんというか、話しの内容が、焦点が根本的に違うような
刀夜「全ては、この時の為。そして、これも」
そう言って彼は、胸ポケットからイェスの微小機械の注入機を取り出す
旅掛「それは……!? "肉体退避"が可能な特別製か?! 何で、そんな物を今―――」
刀夜「決まってるだろう、必要だからさ。私の欲の為にね」
彼がそう言い切った時、御坂旅掛は倒れた
原因は単純、胸を、心臓を一発の弾丸が通過したからである
上条刀夜の注入機を持っていない手に握られた大型拳銃の口から、火薬の残り香が上がる
刀夜「"銀貨30枚"。君にはこの意味を特別に教えようか」
倒れ、CIA長官室に血溜まりを作る旅掛に向けて、刀夜は話しかけた
返事など、有る訳が無い
刀夜「知っての通り、それは銀貨30枚程でキリストを売ったユダからきているんだ。ユダとイエスの関係から、同じスペルの"イェス"を倒す集団としては打って付けとも言えるだろうね」
刀夜「だが、もう一つ、裏の意味がある。ユダはキリストを売ったその行いから、悪魔に見初められた、とか、悪魔に魅入られた、とも言われる。その場合、その銀貨30枚はその象徴とも捉えられる」
刀夜「この組織には、幹部にはその銀貨の枚数にちなんだナンバリングがしてある。私がNo.1で君がNo.3であるように。つまりだ」
刀夜「銀貨30枚と言う名の裏の意味は、悪魔に魅入られてしまった人間達、という意味も有るのだよ」
言って、彼は顔に付着した返り血を拭い、椅子に座った
そして、何もなかったかのように、また、上条当麻の奮戦を野球中継の感覚で、眺めるのであった
330 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/19(木) 07:23:32.90 ID:hMIsxGJSO
相変わらずさらっと死人が増えていくなオイ……
331 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/05/19(木) 13:10:57.84 ID:kHAozb690
御坂家全滅した────ッッッ?!
332 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/19(木) 14:11:14.44 ID:RMxFXfelo
刀夜悪役でワロタ
333 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/19(木) 21:03:46.41 ID:dUE+9GwGo
これは刀夜も死んだなwwww
334 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/19(木) 21:37:49.25 ID:fKtOGzd3o
ここにきて刀夜さんが……
335 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/05/20(金) 13:19:29.33 ID:y/QbInT8o
このダメ親父っぷりなら狙ってエンゼルフォール起こしかねんww
336 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 10:59:48.64 ID:eV37KtkbP
「なんだ……?」
赤髪の神父、今は訳あって屋内戦闘用の戦闘服を身につけているが、は自身の身に起きた変化を感じ取った
具体的に言えば、自己の魔力とは他に供給されている力が、変化したのだ
ステイル(増幅した、というよりは高水準で安定化した、というべきなのかな)
適当に手の平に炎を灯すと、その温度で若干身につけたスーツが弛む
それまではピーキーだったその力の使い勝手が、例えば質の悪い原油から不純物無しの精油のように、向上している
ステイル(しかし、一体何故だ?)
考えても仕方が無い。こんな細工をこの体に施したのはフィアンマなのだから
だから、彼は視点を上条が自ら飛び込んだ多脚の下半身へ戻す
へし曲がった鉄筋の上に立ち彼が見たもの。200m程離れた位置の建物を押しつぶして直立している、下半身が多脚兵器上半身が骸骨の、60mは優に超えているだろう何か
変化は、彼だけでは無かった
言うなれば骨と言うフレームだけだった体に、肉が、筋肉が現れてる。腹筋の下には臓物が隠されているかもしれない、赤身の筋ばかりの体になっていた
それが、ステイルの体に出た変化と原因を同じくしているのか、彼自身には分からない
ステイル「偶然、ということもあるが」
どちらにせよ構わない、変わらない。変化自体は事実なのだ。自分もあの赤身も
ステイル(まさかパワーダウンしたって訳じゃないよな)
見た目の上からは、そうは見えない。どう考えても力強さは増している
ならば、助けなければならないか。上条当麻を。先程の様に
337 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:00:14.31 ID:eV37KtkbP
「勘違いするなよ、君の為じゃない」
彼はさっきそう言った。言葉は本当にそれに集約される
上条を確実に押しつぶす石の接近を、一時的に高温の炎柱を作ったことで生じた爆発とも言える規模での空気の波で勢いを殺し、彼の身を隠すために炎の海を生じさせた
それに加えて、イノケンティウスと呼ぶ炎の巨人も用いた
あんなことは正直、彼単独の力ではそんな出力は有り得なかった。やるならば、地脈のような他の力を利用するか、術式的に増幅しなくては不可能だ
つまり、出来たのには理由がある。それだけの力をええた理由が
「君の為じゃない」なら、誰の為か
決まっている。禁書目録だ
彼女の為に、彼はフィアンマに下り、こんな力を身につけさせられた。その上一度、確実に死んだ
それもこれも、彼女の為。上条を助けるのも彼女の為
上条当麻という存在に、彼女はとても懐いていた。彼が死んだ、と伝えれば、伝われば、"フィアンマとの約束通り"彼の元で無事に居るはずの彼女は傷つくだろう
約束以上に、彼女が元気になっていれば、個人的には嬉しい
これぐらいの見返りがあってもいいんじゃないか、とは思う事をしてきたとも思う
彼女は傷ついている、心身ともに。原因はフィアンマの行いの所為でもある
そんなにボロボロの彼女が、上条当麻の死なんて聞けばどうなるだろうか
最悪、心が壊れる可能性だってある。完全記憶能力者だったり、何度も記憶を失ったという稀な境遇であるが、結局は未熟な少女なのだから
ステイル(だから僕は、ここで上条当麻を助ける。もちろん、あのイェスという存在は気に食わないということもあるがね)
NYで出会った、禁書目録似の少女は無事だろうか。わからない。だが、イェスが消えれば、彼女にとっても都合は良いだろう
なら、排除するしか無いじゃないか。あの巨大な何かを。倒す前に、"救世主"の事について聞き出せればいい
ずっと前に腹は括っている
338 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:00:45.58 ID:eV37KtkbP
「……まさか」
ステイルが見ていた光景は、垣根には全く違う事象を考えさせていた
明らかにアレは"天使の力"とか"神の力"カテゴライズされる存在。その力の圧倒的な大きさも人ではない存在となった彼には分かる
同じくして、彼の体にも異変は訪れた
四肢を失ってダルマ状態だった彼の体の回復が加速し始めたのだ
しかも、その力の動きは厄介で、彼本来の形態など忘れた形を作り出そうとする
彼の体にはバランスの悪すぎる剛腕・剛脚であったり、展開してもいないのに現れる翼が生じた。まぁ、これらは後でいくらでも改変は出来るが
しかし、それらは意識しなければ未元物質という形を採る前の、もっと"力"そのものに近い形で形成しようとするのだ
超能力も魔術も力の大本は同じ。そういう調査研究結果を彼は知っている
つまり、未元物質そのものの彼も、あの上半身が筋肉と骨の塊で下半身が多脚のロボットで出来ている存在も元をたどれば"同じ力"で存在している
だから、彼の体が強化され、あの存在の姿も強化されたのは同じ理由だろう
その理由に、彼、垣根帝督は思い当るものが有った
垣根「おい、クソAI!!」
再生したと言うよりは新規に生え換わったと言うべき足で、彼は立ち上がって叫んだ
垣根「まさかアレが壊されたんじゃねえだろうな!?」
しかし、あの機械音声の返答は無かった
事実、垣根の不安が当っていた。故に、イェスは垣根の言葉に答える暇など無かった
とある大規模な術式がある。この場所で、その事実を知っているのは垣根とイェスぐらいなものだった
その術式が有無が非常に重要だからこそ、垣根は真剣イェスという存在を案じて、わざわざボストンまで帰ったわけでもある
垣根(返答が無い。こいつは、マジに―――)
最悪の想定をする垣根の目の前で、突然イェスが操る存在が大きく変形した
具体的には、下半身部分の分解、と言う形で
339 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:01:32.86 ID:eV37KtkbP
イェスからすれば、それは最終手段でもあった
重要部位ではないとはいえ、機体内部からの破壊はどう考えてもメリットを生まない。そして、とある術式を支える一片を偶然にも上条の右手が触れてしまった
それは本当に偶然なのか、意図的なものなのか、必然なのか
当事者のイェスにとってそれは、その時は優先的に思考されるべきものではない。この危険状態からの脱出を優先して考えるのは仕方のないことだった
とにかく、必然でも偶然でも、その行為者は上条当麻だった
外装全てを青白い光が包み、巨脚が外れ、各内部ユニットが露になり、それらも空中で浮かび上がりながら分解されていく
浮かすため、そして守るために術式的な青白い光のヴェールに包んでいるとはいえ、内部とは完全に弱点である
そこを露出してまで彼がしたかったのは、上条当麻のふるい落とし
上条が居る部分は、浮遊と防御を兼ね備えた術式は適応させられないので、自然に落下する。その後にもう一度合体すれば、彼と言う病巣を含んだユニットの摘出が可能となる訳だが
狙い通り上条を包むように、機体の一部分が丸々自由落下を始めた
まさかユニット一つを丸々切り離すなんて考えていない上条は、その事実に気づくまでに若干の時間を必要とする
敵が上条一人ならば、それは完璧な方法と言えた
しかし
黒っぽい戦闘用スーツに映える赤い炎の塊が、そのチャンスを逃すまいと、さっきの上条の様に一直線に伸びてくる
しかも、水没させられる前までの時よりも、数段動きが良い
イェス(まさかこの男も、そういう存在だというのか?)
浮遊砲台を始めとする下半身の武器は、砲台格納システムの片側を上条に損傷させられたことも、そして根本的に分離中は使えないということもあって、迎撃には使用できない
右手は人質・御坂が邪魔だ。これ以上に下手に力を加えれば死んでしまう。となると、残るは左手
黒い火球として、そして手には太すぎる炎剣を握って、明らかに下半身に害を為そうと近づくステイルを、その巨大な手は叩こうと振る
肉の、ジュッ、と焼ける音がした
無論、その音はステイルのものではない。皮膚と言う最重要な装甲のない、イェスの操る上半身の右手のものだ
確かに、力の大きさならば、学園都市で暴れる破壊者クラスの存在とも単独で相手することを想定しているイェスの切り札の方が大きいだろう
340 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:02:28.59 ID:eV37KtkbP
しかし、それは全体の話だ。局所的にイェスとステイル両者の殆ど同質の"天使の力"を、炎という形で集約させて行った突進ならば、その大小は逆転する
丁度、意図しない剛速球をキャッチャーミットが弾いてしまう様に、その手の平は炎の剣による火傷と裂傷を加えられた上で、弾かれた
しかも、ステイルは止まらない。軌道を少し変えて、しかも運悪くイェス本体のある中央部分で浮かぶ指令ユニットへ向かって突っ込んでいく
ステイル「上条当麻だけと思わないで欲しいな!!」
と、剣を刺突狙いに構えて、彼は向かう
だが、その剣はユニットに刺さらない
垣根「こっちもイェスだけじゃねえんだよ!!」
人間らしい形を取り戻した、垣根帝督がそこにあった
その翼が、より神々しさを増した翼が、ステイルの剣を掴んでいた
そして残った翼が、ステイルを叩きにかかる
ステイル「くッ!!」
剣を瞬時に消滅させ、彼はその翼の叩き付けに全力で防御にかかった
勢いを殺されては、局所的なバランスも何もない。この瞬間においては防御を考えず攻撃に集中できる垣根の方に分が有る
殆ど突進前の元の位置まで、彼は垣根の翼に叩き飛ばされた
同時に、ゴァン!!と地面に金属の塊が落ちる音がする。それは、上条を含んだ金属の塊が地面を叩く音だ
ステイルはその音の場所を見る。そこはイェスの真下で、真上は既にイェスという巨体の下半身が分離状態から、殆ど元の姿に戻っている
上条は辛くも、その機械の塊から脱出していたが、その見た目はボロボロだ。100m単位で離れているステイルの目にも、所々赤く染まった場所が見える
特に、その背中は酷いものだった
加えて、忘れてはならない。そこは多脚兵器の腹部下。更にすぐ近くには回復した垣根の姿が浮遊している
無数の重機関銃が彼の体を狙う。上条はこれを打ち消したエネルギーを原動力にして、再度飛行する手も考えたが
341 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:02:57.82 ID:eV37KtkbP
(無茶です。これ以上の連続使用はあなたの脊髄にまで害が出かねません)
(微小機械で最低限の修復を図らなければ。垣根帝督も予想以上の早さで回復してしまった様ですし)
上条(仕方ないってのかよ! でもそれじゃ、御坂がっ)
(大丈夫でしょう。既に彼女は声も上げられないほどの状況です。これ以上害を加えると、例えそれが即死に繋がることでなくとも、ショックだけで体が死にかねません。人質という価値を殺したくないなら、奴は害を加えないでしょう)
(もちろん、だからと言って殺されない、という保証は無いのですが。しかし、死んでしまったら彼女の価値がないのも事実)
上条(……クソッ!!)
酷使し過ぎて悲鳴どころから感覚すら無くなってきた足で、上条はその場所を蹴って、バックステップしつつ、体の向きを変えた
彼の動きを追う様に、重機関銃の掃射がなされる。上条の行動を予測して射角を付けるという、その重機関銃の射角を司るシステムの予測行動そのものを上条のAI達は予測して、彼を最小限でイェスの真下から逃そうとする
多脚による踏み潰し、浮遊砲台からの砲撃、機関銃の攻撃を、時には受け止めて回避し続る最中、
一発の砲撃が、上条の背後の舗装路に着弾する
逃げ場はそっち方向に限られていたので、彼は着弾で生まれた窪みを跳び越そうと、一際大きく地面跳び上がった
垣根「バーカ。俺を忘れて貰っちゃ困るぜ」
どこから見つけたのか、もしくは落下したイェスの機械下半身の一部だったものなのか、垣根の翼には上条の体ほどの太さのあるバールのようなものが握られていた
それが、上条めがけて振り回される
下手に受け止めれば即死、速度的に回避も難しい。その上、それまでの回避の際に溜まったエネルギーが邪魔で、更なる現実or幻想殺しの使用は厳しい。それらを使用したブースト行動も肉体ダメージ的に使用は難しい
となると
上条は自らの左手を、バットの様に振り回され、向かってくる金属の太い筒に向けた
そして、その接触の直前
上条の左手から、強い衝撃が生じる
その衝撃は、それまで溜めこまれたエネルギーの凝縮であり、放出された力は、垣根のバットを弾き返すには十分だった
だが、逆にそれは、上条自身を吹き飛ばすのには十分すぎると言う事でもある
自らが自らを守るために生じさせた衝撃が、強い光を放ちながら上条自身をもぶっ飛ばした
342 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:03:41.96 ID:eV37KtkbP
変化を一番敏感に感じたのは、きっと彼らだろう
何しろずっと、それを見続けていたのだから。彼らにとっては、努力が報われた様に感じられもした
バチカン宮殿の、とある空間
そこに詰めているローマ正教の魔術師たちは、木偶の坊の様宮殿の直上に立つミカエルを通して、神の軍勢を使役する術式をコントロールしていた
終末と言う機会に、ローマ正教が生き残り、他の邪教に滅ぼされない為の術式であるそれは、しかし、これまで設定どおりの力を出していなかった
故に、危険と知りながらもミカエルへの過干渉を続けて、今の天使たちを使役してきたたのだ
そんな中で急に、伸びの悪かった数値が想定通りとはいかないにしても、跳ねあがった
科せられていた枷が中途半端に外れたとでも言うべきだろうか
ともかくそれは、そのまま使役している天使たちの能力上昇を意味していた
ここで問題なのは、果たしてそのままにすべきか、ということである
過干渉を続けた結果、その段階で既に既定通りの天使の軍勢では有った
そこで今回の数値上昇である。それによって今現在は、既定以上の力を使役天使たちは持つことになった
過干渉は、単純にリスクを負う。術式の暴走がミカエルに、使役している天使たちにどんな影響を与えるかは未知数だ
ここで干渉を引き下げれば、リスクを大きく軽減した上で、既定通りの天使達を使役出来る
逆にそのまま維持し続ければ、リスクはそのままだが、既定よりも更に強化された天使を扱う事が出来る
この判断は、彼らの責任では下せない。故に、彼らは教皇に指示を仰いだ
「言うまでも無いだろう」
新教皇は馬鹿馬鹿しそうに言った
「なぜ、この期に及んで能力を引き下げる必要が有る。より強い力を扱えるというのに、どうして半端な力で満足しろと言うのか。理由を述べてみよ」
「それはその、術式の暴走という、り、リスクを考えた場合です」
「痴れ者が。今までに問題など無かった。つまり、お前の言うリスクなど無かったと言う事だ。ならばこれ以上に強める際に生じるのがリスクではないのか?」
確かに言う通りだ。受けている報告は、ミカエルが少々震える程度。支障は無い。だがリスクはそれでもあると尋ねた彼は思った
しかし、目上の圧倒的な存在にそこまで言われて、どうして否定することが出来よう
「おっしゃる通りです、教皇聖下」
と、彼は言うしかない。運のいい事に、教皇は自分をこれ以上責める様子は無さそうだ。なら、制御管理に戻れ、と言葉で促すのみ
ともすれば、成功の見返りに出世も有りうるかもしれない。そんな甘い考えを浮かべて、報告相談に行った彼は、術式を管理している部屋に戻った
343 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:04:20.61 ID:eV37KtkbP
仮にそのまま上条が飛ばされていたなら、その距離はkm単位だっただろう
しかし、結果的にはそこまでの事は無かった
理由は、彼を受け止めた存在。ステイルだ
ステイル「僕は、男を抱くなんて趣味は無いからな」
上条「すまん、助かった……」
皮肉を言うステイルに上条は片目の開き切らない顔で返した
彼をそこまで吹き飛ばす理由となった衝撃を生じさせた左手は、人差し指と中指が丸々吹き飛んでいて、それ以外の指は嫌な方向へひん曲がっている
それを、上条は右手で強引に曲げて、左手で拳を作った
見て、思わず顔をしかめるのはステイルだ。そう言う光景を見たことが無いわけでもないが、どう考えても痛々し過ぎる
その表情に上条は気付く
上条「ッつ。……大丈夫、こんなもの御坂のの比じゃない」
ステイル「だろうな。だがあの子を救うにしても、そうでないにしても、僕たちはアイツ等をなんとかしなきゃならない」
頷いて、彼らは200m以上先の存在を見る
上条「クソ、どうすりゃいいんだよ」
100mサイズの翼を複数持った垣根、そしてその奥に立つ機械の下半身と肉の上半身を持つイェス
そして、その大きな右手の平の上にある御坂美琴
真正面からそのまま、なんて愚策は通じないだろう
普通に対峙するにも厳しい相手に加えて、厄介な状況だと言えた
一方で、辛いのは上条たちだけでない
344 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:05:30.15 ID:eV37KtkbP
イェスの側も芳しくないのだった
垣根「イェス、あの術式に何が影響が出てるんじゃねえのか」
離れたところにある上条たちの様子を窺いつつ、垣根は尋ねた
イェス「ああ、君の思った通りの事が起きている。再構築はしたが、良いとは言えないな」
彼らにとって、敵は上条たちだけではない
終末を乗り切る過程に出てくる全ての障害が敵だ
それらを纏めて制限する為の施策が有ったのだが
垣根の体を瞬時に回復させ、骸骨だけだった上半身に肉を与えたという現実が、その策に害が出たことを意味していた
それは、一見彼らに利しているようにも見えるが
イェス「ハッキリ言おう、私の"抑制術式"は今現在、その性能を十分に発揮出来ていない。今採っている応急処置では無く、本質的なやり直しをしなければならない。それも早急にだ」
垣根「ってことは奴らをとっとと潰さねえとな。その邪魔な第三位はどうするんだ? 引き付けて殺せば、それなりの心理的な動揺を狙えるかもしれねーが」
イェス「どうだかな。今の上条当麻は正常に戻ったようだ。感情系のホルモンを調節されれば、あまり効果は見込めないだろう」
垣根「人質つって殺しても無駄、生かしても邪魔って、使えねーじゃねえか」
いっそ捨てちまえよ、と垣根は続けた
イェス「いや、使い道はまだあるな」
垣根「あ? そいつはどういう……」
言い切る前に、垣根の頭脳に情報が流れて来た。なるほど確かに、である
イェス「どうだ、使えるとは思わないかな?」
垣根「ハハハッ、悪くねーな。そうだな、上条には、もう一度肉団子にでもなって貰おうじゃねえか」
言って、彼はイェスの操る巨人の肩から飛び立った
345 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:06:19.46 ID:eV37KtkbP
神裂の両腕は、確かに彼を捉えるハズだった
しかし、その時は訪れない。天草式の仲間が背後から神裂を攻撃したからという訳でも無い。それくらいで止まりはしないだろう
だが現実に、その両腕は彼の両サイドを間抜けに力無く通過しただけだった
理由はその後すぐに分かった
上空まで伸びている神裂の首。ろくろ首と言うべき姿だが、それが建宮の遥か後ろに落ちて来たのだ
切断されたわけではないが、似たようなものである
恐らく、何かによって、叩き落とされたのだろう
上空で彼女を叩き落とせる存在と言えば、考えられるのはローマの使役天使
しかし、首一つと七天七刀という組み合わせだけでも、神裂はそう簡単にやられないハズだった。少なくとも、時間稼ぎには十分。その間に天草式を狩ればいい
その判断を下したのは、混乱した彼女の複数の脳たちだったが、判断自体は間違ってはいなかった。そう、少し前までは
だから、上空では天使の相手を、下では厄介な天草式を攻撃させたのだ。天草式が視界になかなか入らない様に工夫したからでもある
しかし落とされた。原因は既に視界の中にあった
顔が上空から叩き落とされる前に、使役天使たちの姿がまた一段階レベルアップしたのだ
正確には、まちまちだったサイズが軒並み5m強になり、根本的に質も上昇した。武器や面構えも、狂戦士の様な凶暴さを帯びている
数は変わらない上に、質が上昇した。これは良くない事態だ
天草式も危険だが、使役天使たちの危険性及び優先度が急上昇し、それを上回る。一度に相手をしていられる相手ではない、と言うことぐらい、叩きつけられてシェイクされた頭脳でも分かった
ならば、どうするか。決まっている。天使の相手を優先だ。天草式の攻撃能力は限られている。NYへの、アメリカへの害を考えれば随分と薄い。神裂安定化の為には、もちろん排除しなければならない存在ではあるが
巻尺を巻き取るように、神裂の顔や腕が通常の長さに戻り、地面の天草式は一瞬たじろいだ
その濁った眼が、彼らを一瞥する
しかし、直後神裂は地面を強く蹴って、上空に跳ね上がる。天使たちの相手をする為に
重い息を吐く天草式の面々が大破した道路に残った
建宮「……畜生」
彼がそう言う理由は三つ
仲間をまた一人、失ってしまった事。神裂と直接対峙する機会が失われた事。そして神裂が一時的とはいえ去ったことに安堵してしまった事
何のためにアメリカまで来たと言うのか
346 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:06:59.67 ID:eV37KtkbP
結局かき乱されただけで、仲間が死んだだけ
だが、一つの事実が分かった
対馬「……やっぱり、女教皇は私達を」
建宮「敵だと思っているようなのな」
胴体が真っ二つになった仲間の亡骸を拾い、彼らは運ぶ
こんな場所では火葬場など有る訳も無く、術式で起こした炎で焼くしかない
「あの様子じゃあ、どうしようもないんじゃないですかね……」
気弱く言う仲間が一人
建宮「そうなのよな。だが、ここまで来て、こいつを殺されて、それで帰ったんじゃ意味が無いのよ」
背負った死体の上半身が、重い
対馬「なら、どうしろっていうのよ」
力が圧倒的過ぎるのだ。本当にどうしろと。だが、教皇代理は答えを出した
建宮「……俺達には方法が一つだけあるのよな。"聖人崩し"を使う」
な?!、と声が出る。それもそのはずだ、"聖人崩し"は神裂ですら手こずるような相手、つまり相手も聖人であった場合を想定して作り上げた、名前通りの術式
それは、彼女が居なくなったからこそ、彼女の代わりに自分たちでそういう存在を相手にすることを考えて作ったものであり、彼女自身に使う事を想定にしたものではない
だが、聖人である彼女にも有効なハズだ
建宮「アレを当てる事が出来れば、少なくともあの様子ではいられなくなるかもしれないのよな。どうにも聖人のそれ以上の要素が見えるから、最悪、逆方向に効果を現すかもしれないが」
建宮「だからと言って、出来る事を全部やりきらずに、無念を残すわけにはいかないのよ」
次はこうなるのは自分かもしれない。そこには、そういう意味も有った
その言葉に、否定の弁を述べる者は無い。更に仲間が一人死んだ今、それはなおさらだった
対馬「なら、メンツ的に槍を使う五和は欠かせないわよ」
「それにこれ以上の欠員も無理ですね。元々は50人とかって規模でやる術式だ」
建宮「ああ。だからこそ、次に神裂火織が狙いに来たら」
建宮「その時は俺達全員で相手をする。もちろん対策も考えて、なのよな」
347 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:07:52.15 ID:eV37KtkbP
とにかく、こんなに離れていてはどうしようもない
上条とステイルはアメリカンサイズにしてもやり過ぎなイェスと垣根に近づく
ステイルからすれば、御坂美琴など知ったことではない。そういう前提がある
ならばステイルを基軸とした攻撃を加えて、隙を見て上条がイェスの右手を狙う。そういうやり方は自然に導き出される案である
突然に、ステイルの周りに炎の柱、というより壁が生まれた
しかしそれは、壁と言うにも形が無意味に複雑だった
その上、それは一瞬で消え去った。残るのは、溶け残った地面と焦げ跡である
炎の痕跡は、次なる炎を維持する為の布石だった
「その名は炎、その役は剣。顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ!!」
ゴァッ!!という空気の膨張と共に、そこには巨大な炎の巨人が現出した
その大きさは、それまでの彼が紡ぎだしていたものとは比較にならない
イェスの操る巨躯のおよそ半分は有ろうかという、黒と赤の人型
それは、生まれてからそのままイェスの方へと突き進んだ
思われるのは、巨人対巨人のぶつかり合いである。垣根でも止められないことは無いサイズではあるが
垣根はそれをあえて無視した
理由は、いくら大きくなったとはいえ、右手の使えないイェスに任せても余裕のある程度の存在に思われたから
そしてなにより、この存在によって一度彼自身は奇襲を受けて消えかけた。同じ手を二度も食わない
これだけ大きい存在ならば、それによって生じる死角もそれだけ広くて当然なのだから
垣根「やっぱり隠れてやがったか、赤髪の兄ちゃんよーう!!」
声を張り上げて、巨人の背に隠れていたステイルへ、翼を空から叩き下ろした垣根帝督
ステイルの側も見破られるのは覚悟の上であり、すぐさま巨人の背から離れ、空中で生じさせた炎による空気膨張で体を飛ばし、地面に着地する
外れた翼は巨人の背を軽く削いで、そのまま地面に叩きつけられた。その衝撃によって、無数の羽根が舞い上がる
348 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:08:42.38 ID:eV37KtkbP
そしてその羽根は自動追尾式の小型ミサイル宜しく、ステイルの方へ方々の角度から突っ込んでいく
垣根「さっきはよくもやってくれたじゃねえか。お詫びと言っちゃなんだが、俺に殺されてくれよ!!!」
翼の本体である彼自身も、地面を撥ねてミサイル羽根を回避するステイルに近づいた
上条と対峙するわけではいので、そこに何ら抵抗など無い
近づいた勢いをそのままに、垣根の拳か飛んでくる。一度出し抜かれたと言う事に対して、垣根は翼で無く己の拳でダメージを与えたかったのだろう
咄嗟にステイルは炎の壁を彼我の間に生じさせる
彼自身、経験的性質的に接近戦は得意ではないのだ
しかし、そんなもの関係ない、と言わんばかりに垣根はその中を突っ切ってステイルに拳をぶつけた
鋭利な刃物よりも余程鋭くなれる未元物質の拳は、ステイルの胸部に深々と突き刺さる
普通の魔術師、仮に聖人であっても、流石に致命傷である一撃
しかし、ステイルから感じられる感触は、人間を貫いたというよりは
垣根「んなッ?! テメエ、一体―――」
貫かれたにもかかわらず、彼の顔にはまだ若干の余裕が見えた
ステイル「不用意に近づき過ぎたな、阿呆が」
骨を断って骨を断つ。言い放った直後、ステイルの手から生じた炎剣が、垣根を貫いた
そのまま、その炎剣が爆発し、お互いの間合いが開く
あの時の感触は、人間のものと言うよりは、垣根がこれまで散々戦った破壊天使のそれに似ていた
垣根「……まさかそんな体をしてるとは、やるじゃねえか。だけど、俺はしつこいぜ?」
すぐさま、残った羽根によるミサイル追撃がステイルを追った
その経路から、逃げ場は限られる
言うなればステイルは、誘導されていた
だが、その目はしてやったりの余裕を残していた
349 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:09:29.22 ID:eV37KtkbP
第三位の様にどちらかと言えば電気の流れに干渉するのではなく、電子の性質そのものへ干渉する麦野は、吹き出した高温の電解質が 極 力 自らの体に触れないよう、固形化した自由電子を自らの周りに展開し自らの身を守る
しかし、その守りは確実には出来なかった
彼女が今ここにいる目的は、あの半裸の巨人である。アレを大火力で射抜くこと、それがここにいる理由
瀕死の人間に鞭打ってまで、ここまで来た。それ以外の為に、その目的を疎かにできない
それを狙う為に必要な視界の確保と、射撃に必要な演算の確保。それ以外の事に集中力を注げる余裕は、最早彼女には無いのである
特に自らの保身など、美など今更語れない
故に、舞い上がった髪は先の方から焼け焦げ、時折飛んでくる対処しきれなかった高温電解質の飛沫が彼女の肌に火傷を作る
その度に若干、彼女の限りある集中力は削がれてしまうのだった
麦野(熱ッ!?………畜生、また練り直しっ。どうする、もっと防御をしっかりさせるか)
麦野(駄目駄目、駄目よ。んなことしたら標準がズレるどころか制御できずに、自爆する)
自爆すれば、巨人の代わりにこの場所が丸々吹き飛んでしまう
麦野(唯でさえこの電子量を制御できるかなんて疑問符が付くってのに、逆に防御を切り捨てることすら考えなきゃならないってのに)
火傷というにはあまりにも酷い痣を体中に作りながらも、集中を研ぎ澄ます彼女の視界で、巨人が倒れた
ここの視点からなら、その巨体の全てが視界内に収まっている。運のいい事に、障害物も無い
動かない的を狙うのは動く的より容易。これは、最高の好機だ
しかし、同時に足元からメコメコという金属が押し広げられるような音が聞こえる
裂け拡がった亀裂から、電解質が一層強く吹き出した
直に視界すら阻まれるだろう
好機と言う意味でも、この場所のタイムリミットという意味でも、今しかない
そう直感で判断した彼女はより一層、集中し、そして焦る
麦野(演算ミスは出来ない。いや、大丈夫。標準が少々ずれても的はデカイ。このナイスバディが少々オサラバするかもしれないなんて、今更でしょ?)
巨人めがけて突きだした両方の腕の表面が、熱で本格的に色めき始める。衣類の端では炎が灯った
350 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:10:20.21 ID:eV37KtkbP
攻撃に焦りながら集中するあまり、なおの事防御が疎かになっていく
悪循環にはまりつつあった
生じた炎が膨れ上がり、一瞬、視界を完全に遮った
慌てて消すが、精神の動揺は隠せない
麦野(………………まさか、保たないんじゃ)
この恐怖に似た何かが頭脳をよぎった時、声が聞こえたような気がした
(大丈夫だよ)
麦野(!?)
(大丈夫。むぎのなら、出来る)
麦野(滝壺?! 地下シェルターに居るハズのあんたが、どうして)
滝壺(今は気にしてる時間なんて無いよ。それより、狙いをもう一度。私も手伝うから)
麦野(手伝うって、どうするつもり――)
滝壺(いいから、早く)
麦野は気付かないが、既に変化は現れていた
どういう訳か、彼女の身を守っていた固定化された電子のシールドはずっとしっかりとしたものになり、視界を覆い尽くさんとしていたしていた高温電解質も視野を狭めようとする様子は無い
そして麦野自身がその効果を実感したのは、攻撃の演算過程だった
躓いていた、流動体から予測される全体量試算値の把握も、底から導かれる電子の統制の効率の良い方法への演算にも、解が得られる
麦野(滝壺のお陰なのか、どういう訳かは分かんないけど、これならやれる。当てる、当たれ)
麦野(射角良し。出力も試算通り。なにこれ、ホントにいける、いけるわ)
出来ると分かれば、その発射までの時間はスグだった
麦野「これでやっと、テメエの小汚い裸を見なくて済むわ!!」
異常なサイズの電子の塊が、異常な電流を帯びて、暗闇の学園都市を駆け抜けた
351 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:11:06.84 ID:eV37KtkbP
垣根が通過を許した炎の巨人は、そのまま親に縋る子供の如く複数の機械の脚を持ったイェスに突っ込み、その腕を叩き付けた
ガァン!! と装甲から甲高い音が鳴るが、あらゆる方面の技巧を込められたそれは、そう簡単には壊れない
垣根がステイルの相手をし始めたのを確認して、イェスは反撃を始めた
大きくなったイノケンティウスのそれよりもはるかに大きな左拳が炎の巨人の腹部を捉える
貫通して、ドロドロとした黒い炎の巨人本体にに触れたイェスの操る巨人の肉は焼け焦げるが、消え去ることは無い。再生と焦げ付きを繰り返すだけだ
そのまま腕を炎の巨人の体ごと振り回し、生き残った数少ないキャンパスに投げつける
力の差は圧倒的だったが、炎の巨人はもう一度立ち上がった。物理的なダメージなど永続的な効果は無い
ならば今度は近づくことも許さんと、イェスが浮遊砲台を展開し、その砲口を向ける
無音の、しかし強力な砲撃は炎の巨人の腕を簡単に掻き消した
しかし、足がやられたわけではない。移動手段が残っている限り、それは突進を続ける。腕もすぐに生える
ならば、足を消し去ればいい
次の砲撃はイノケンティウスの両足を貫いた
その場で、地面を溶かしつつ倒れ込む炎の巨人。これで一応の片が付いたことになる
イェス(そう言えば、上条当麻は大人しいままだな)
一番気になる存在は、そんな中でずっと最初の位置から動かないでいた
怖いぐらいに、まるで幻影のように
倒れ伏した炎の巨人は、まだ死んでいない。足が再生すればすぐにでも立ち上がる
そんなことはイェスも分かっている。ただ、立ち上がったところをもう一度砲撃すれば、その行動は完全に封殺だ
術者が他の事に気を取られ制御に集中できない以上、無駄にステイルが消耗するだけである
しかし、炎の巨人の取った行動は違った。こうなることを見越して、組み込まれていたのだろう
そのまま、その巨体は炎の槍へと姿を変え、その身の一部を爆発させてイェスの上半身へ向かう
イェス(ほう、そんな工夫をしてくるか。しかし、無駄だ)
体を貫かれれば、確かに消耗するだろう。ならば、触れずに撃ち落としてしまえばいい
本来ならば頭部のある位置に、白い塊が生じた
僅かにオレンジ色にも見えるそれは、直後、一本の筋を紡ぐ様に発射する
352 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:11:48.71 ID:eV37KtkbP
まるで蚕の眉から紐を紡ぐ様にして、目的の方向へ伸びる。しかしそれは徐々に太くなり、向かってくる槍と接触するころには、太い柱と言っても差し支えないほどである
柱と槍では、どちらが弾かれるかは目に見えている。特にそのエネルギー的密度が大きければ、尚更だ
同じ射線上に、槍と柱が並び、まさに触れた瞬間
予想に反して、柱の方が、飲み込まれるようにしてかき消されていった。それはまるで
イェス(幻想殺しだと?)
槍の先端に変形したのは、丁度炎の巨人の頭部だった場所だ。そこは壊しても利益が無いので、イェスは狙う事が無かったが
炎の巨人は表面こそ炎が纏っているが、中心は黒々とした高温流体である。そこに同じような色の物質が紛れていれば、どうなるか
もちろん、区別など出来はしない
耐高温性のある物質が必要だったが、幻想殺しを空間的に展開することで、そうでなくともそれは可能となる
そして突然、その先端は打ち消しの能力を失い、炎の巨人が変異した槍は残った白の濁流に掻き消された
幻想殺しの目的は最初から決まっている。とにかく早く御坂を救出すること
完全にイェスの巨人の懐に入った瞬間を見計らって、上条は体を更に犠牲にしながら巨人の右手に推進していく
上条とステイルからすれば、してやったりである
しかし策を練っていたのは彼らだけではない
イェスは上条の動きを見て冷静に、右手の御坂を放り投げた
だいたい50mぐらいの高さから投げ捨てられる、意識のない少女
その体の関節は、四肢が残念なことになっている。そうでなくとも、そんな高さから落ちれば、どうなるか
答えは簡単すぎる
上条「ぐ、おおおおおおおおおおおおッ!!!!」
右手に向かっていた勢いを強引に方向転換し、上条は御坂の落下地点へ進路を変える
未元物質を扱える垣根や神裂、駆動鎧ならば、その慣性をなかったものにできる。しかし、彼には出来ない
その無茶な転換だけで臓器が悲鳴を上げ、意識が吹っ飛びそうになるものを、叫ぶことでなんとか抑え
彼は、御坂よりも先に何とか地面に降り立った
容赦のない着地に、ベキィ、と膝から裂けるような音と痛みが生じるが、我慢するしかない
彼は、目の前に振って来た少女を抱きかかえた
それは完全に、狙い通りだった
353 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:12:20.52 ID:eV37KtkbP
視界の隅で、上条が御坂を抱きとめたのをステイルは見ていた
これで厄介な人質は居なくなった。だが、彼自身の今の問題は解決していない
垣根の翼から落ちる羽根がミサイルの様にホーミングし、彼を執拗に追ってくるのだ
有る程度は自らの炎で何とかできるにしても、全てがそうという訳ではない
どう足掻いても、彼は動きを制限される
そしてその結果として、彼は御坂を抱きかかえたまま崩れ落ちた上条の付近にまで誘導された
一方で、羽根攻撃を繰り出す垣根自身は、イェスの巨人の頭部に近づいていた。接近戦を捨てたという点で、確実に積極性が低減している
そして自分を確実に撃破するならば、上条の近くに寄せない方が都合がいいと言うのに
ステイル(一体、何を狙っている?)
そんなことを思うステイルの目の前で、上条は御坂を地面に寝かせた
彼の血が御坂の体を赤く染めていた。ねじ曲がった関節をとりあえず元通りの方向に戻させた際に付着したものだ
彼女の体が時折ビクビクと痙攣していることから、彼女はまだ死んではいないと言う事が分かる。同時に、あまりよくない、ということも
上条の目は、哀れみの表情に加えて、更なる怒りに燃えていた
対象はもちろんイェスと、こうさせてしまった自分自身
明らかに様子のおかしい足で、しかし彼は立ち上がった。怒気による意地というか、痛みなど気にならないのか
だが、言ってしまえば、上条がそう言う事をするだけの時間が、そしてそれをステイルがマジマジと観察するだけの時間が、この戦いの合間にあったと言う事である
ステイルを上条の近くに誘導したホーミング未元物質も、いつの間にか飛来が止まっていた
354 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:13:07.25 ID:eV37KtkbP
その時間に、イェスと垣根は何をしていたのか
答えは直ぐに分かった。要するに、一掃である
傷ついて役に立たない御坂も、ステイルも、上条も一度に消し去ってしまえ
イェスの本来なら巨人の頭部生えているべき空白の位置に、再度太陽を思わせる白い球が生まれた。しかも、イノケンティウスの槍を撃ち落とした時のそれよりもずっと大きく成長していて、制御しきれないエネルギーが溢れ、所々紫電が奔っている
その後ろで、垣根提督もその翼を大きく展開して、イェスの球を取り囲むように包んでいた
それらは相互に作用して、午後三時ぐらいのボストンを二つ目の太陽があるかの如く、明るく照らしている
そんなものが自らに向かって撃ち出されれば、ステイルには自身を守る術などないだろう。そう簡単には消滅しない体であっても、存在そのものが消える
すぐ目の前の少女もだ。そして上条当麻の右腕にも限界がある。それは禁書目録を彼が救った際に見た、"竜王の殺息"でステイルは把握している
その時は、攻撃が一本に纏まっていた。だが、あれはどうか? 見た目から、二つの絶大な力が相互作用して出来たものだ
その制御は完全だろうか? 完璧でないなら、ところどころバラバラかもしれない
例え完全であっても、表面上は一本に見えるが、束になったパスタの様に、複数の竜王の殺息クラスの攻撃が束になっただけかもしれない
敵は上条の事を知っている様だし、そうでなくてもこの戦闘からその特性を見抜いているということも考えられる
そういう最悪の想定が全て正しければ、どうなるか。あの右手だけでは、自らを含めたこの3人を守り切れる訳が無いじゃないか
ステイルの表情に、焦りが出る
この想定は、上条も把握していた。直感的にも、測量的にも
ならば再び、やるしかない。御坂も、ステイルも、自分も守るために
それが撃ち出される音なんて、聞えはしなかった
最早、イェスはボストンからこの一角が丸々失われても問題ないのだろう。そう言う規模での攻撃であることだけは分かる
何しろ、ステイルの目に映る像は、白白白。白の一色だったのだから
355 :
本日分(ry いや、また上条さんご退場って訳じゃないよ
[saga sage]:2011/05/22(日) 11:17:34.02 ID:eV37KtkbP
「――――――ッッ!!!」
声は出ない。出さない。若干擦れたからもあるが、声にする力が惜しい
状況はあの時よりも余程悪かった
あの時。アイテム陣達に佐天という少女を含めた集団へ、暴走した心理定規が垣根帝督を乗っ取って垣根を暴走させ、彼らもろとも学園都市の一区画を丸々クレーターに変えようとした、あの時だ
そのエネルギーの大津波と言える攻撃をすべて拡大幻想殺しで守り切り、確かに彼らの命は守った
だが半面、溜まりに溜まったエネルギーが、上条の体を肥大化させ、加えて当麻の意識は長らく眠ったままとなった
今回も似ている。守るべき者があって、それが出来るのは自分だけ
だが、敵の出力が違いすぎる。一方で、あの時よりは拡大幻想殺しも効率化が進んでいる
一体それでそこまで対応できるのか。計算値は既に絶望的だった
いくら効率よくなったとは言っても、処理できない余剰エネルギーが過剰に生まれ、回りの物質を採り込んで質量転化してしまうのを抑えられない
白の光線
突き出した両手は、片方は拳を解くことも出来ない
白の雪崩
両手を支える肩は、肉が露出し血と体液が滲む。力強さより痛々しさが目立つ
白の濁流
上半身を支える下半身も、膝は壊れ筋繊維はズタボロに裂けている
だが、それらに負けてはいられない。ここには守るべき者がある
体が熱い。余剰のエネルギーがまず熱として現れた。しかし、その段階は簡単に通りすぎる
グボォ、と裂けていた肩が急に肥大化を始める。まずは右腕が持ち上がった
すぐさま左腕もそれに続く。体の各部が肉を新たに生み出してく
肥大化することで、逆に倒れ難くなるのは皮肉的とも言えた
だが、遂には顔面も肥大化し、上条から視界を奪う
大丈夫、関係ない。あらかじめ定めた座標を守れば良い
そう、己に言い聞かせ、彼はただずっと、耐える
更なる関節破壊が無く、正常な可動範囲に戻された御坂が、微小機械の助けを借りてほんの僅かに回復し、その白の眩しさとやかましさで意識を取り戻した時には
彼女の目の前には、グロテスクとも言える巨大な肉塊が有った
356 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/05/22(日) 11:59:18.65 ID:xrQ3A97AO
でっかくなっちゃった!
357 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/22(日) 13:47:52.48 ID:WnCzwwc3o
肉上さん・・・
358 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/22(日) 14:22:47.64 ID:r49dqMxUo
上条さんの明日はどっちだ!
359 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/05/22(日) 15:21:18.98 ID:o7XLcb2o0
好きな人が肉塊になってるてwwwwwwwwww
360 :
ごめん今日も投下二回に分けるです。続きは夜か明日になります
[saga sage]:2011/05/25(水) 07:29:41.85 ID:WZTUMIy3P
「……ぬ」
疼く。休んで傷を癒しておきたいのに、その肝心の胸の傷が、急に
この傷、心臓を巻き込んで胸を貫く様な傷、を付けたのはフィアンマ
奴に何か関係が有るのかは分からないが、そのせいで休むことすらままならない
少しイライラしたような表情を作って、睡眠を阻害されたアックアは目を開いた
相変わらず喧しく戦闘音が響くロンドン
空から一際、大きな爆発音がした。瓦礫を背に腰を地面に付けていた彼は、反応して顔を向ける
音の元から一人の騎士が近づいてくる。違う、今の爆発に飛ばされているのだ
派手な音を立てて、その騎士が地面に亀裂を作った。もちろん叩きつけられた衝撃で生じたものである
その騎士の顔には、見覚えが有った。昔、騎士団長と肩を並べていた時代に自分の近くに居た存在
つまりは、古い仲間
「ウィリアム様、……ご無事で?」
叩きつけられた騎士は、声を捻りだして問う
アックア「私の心配よりも、自らの身を案じるべきである。それに」
懐の中からアックアは一般的な回復術式に必要なものを取り出し、息絶え絶えの騎士の周りでそれを配置する
アックア「今は元より、あの時も私は傭兵の身。敬称など不必要なのである」
「いえ、そういう訳には」
術式の効果か、彼の息が少し安定したものとなった
それを見て、アックアは立ち上がった。その姿は少々力弱く、騎士の目には映る
アックア「今しばらく、じっとしていろ」
ふら付く足で、彼は跳躍した。片手でメイスを担ぎながら
361 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/25(水) 07:30:15.19 ID:WZTUMIy3P
何か気味の悪い力の働きを感じて、休めやしない。ならばじっとしていても動いていても同じだ
そのまま建物の壁を蹴り、さらなる高みへ。少し離れたところで騎士団長を含んだ騎士たちとキメラ天使、更には女王本人まで剣を片手に戦っている
しかし、先程、一度寝に入る前までとは違う。戦況は芳しくない
数十mサイズのキメラ天使は圧倒的な大きさを誇るが、東の空から飛来するローマ正教が使役する天使群も個々が大きい
ちょっとしたゴーレムを思わせるような5m強程度の翼を生やした狂戦士達は、カーテナから力の供給を受けるイギリスの騎士たちを一方的とはいえないまでも抑え込んでいる
今でこそ女王やキメラ天使の暴力的な力で均衡している、と何とか言えるが、相手は天使。こっちは人間
疲労という形で消耗するばかりだ。直接的な危機であるから、抵抗している彼らの筋はなかなか折れないだろうが
アックア(とてもではないが、いつまでも保つものでは無い様であるな)
いつかは、折れる。そして来るのは絶望だろう
今の自分でどれだけの援護になるか分からないが、力を交えるしかないか
状況把握の為に、彼は少々辺りを確認する
アックア「……む」
そこで、気付いた
まさかこの事態の中で、悠長と騎士団やその手の機関がすべて除去したと言う事はあるまい
ならば、なぜだろうか
なぜ、あの大量の小麦が、テッラという存在も含めて全て
全て無くなっているというのだ?
まさか、あの状況でまたも生き返るという訳もあるまい
彼には理由を考える時間は無かった。騎士団長達が維持する戦線が部分的に突破され、その後方に居るアックアの側にも天使が襲いかかって来たのだから
アックアの握るメイスよりも更に大きな大剣が振りかかってくると、彼はテッラの事を一時的に忘れて、反転攻撃に移る為の術式の構築をメイスで大剣を受け止めながら始めた
362 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/25(水) 07:32:12.86 ID:WZTUMIy3P
ロシア成教にとって、彼は確かに救世主だと言える
現に今襲いかかってくるローマからの攻撃者達を押し返す手段は彼らには無かった
それはロシアだけではなく、既に多くの宗派宗教が彼らによって潰されている
なので、フィアンマ率いる集団が居る事はロシアにとって幸いだ
ワシリーサ「でも、気に食わないのよねぇ」
モスクワの殲滅白書の拠点の一室で彼女は呟いた
目の前にはやっとのことで満腹になった禁書目録が小さな吐息を立てて眠る姿が有る
その少女の頬を突きつつ、彼女は考える
元はと言えば、彼女はロシアとローマが手を組むと言う事には反対していた。そしてその背後にフィアンマがいるということも知っていた
だが、この状況下においてはフィアンマの様な強者が必要と言う事で、彼らが入ってくることを拒まなかった
ワシリーサ「だって仕方が無いじゃなーい?」
独り言は続く
ワシリーサ(決断の後とはいえ、モスクワ郊外の離宮に幽閉されている総大主教を直接狙ってくるほどにローマは増長していた)
ワシリーサ(事実、私が駆けつけなければ殺されてたもの、あの子)
常に自分だって万全ではない。疲労も有れば都合もある。ずっとそう言う部隊を相手し続ける訳にもいかない
その上に、天使の群まである。それこそオーバーワークだ
ならば、フィアンマのような怪しい連中も入れるしか無いじゃないか
今のところ、彼はやたらと譲歩してくれる上に、確実な働きをしている
気になるのは、奴の目的
どうやらニコライは知っていてその話に乗っている様だが
363 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/25(水) 07:32:55.80 ID:WZTUMIy3P
ワシリーサ(普通に騙されてるって可能性もあるのよね、あの男の器なら)
ワシリーサ(なにかロシアを利用するに相応しい理由が有るはず。それだけじゃないわー)
ふーっ、と禁書目録の耳の穴に向けて息を吐く
少し嫌そうな表情を浮かべるのを見て、彼女は満足だ
ワシリーサ(フィアンマを囲ってた連中の中に、見知った顔が有ったのよね。しかも)
しかも、この手で殺したことのある人間だ。その男は
ワシリーサ(死者を人形のように操る術式は数多ある。でもねえ、アレはそんなようには見えなかった)
よもや、その一人だけを特別精巧に操っているわけがない。皆、同じように動いて見えた
ワシリーサ(他人の空似とか、兄弟とか、私の見間違いってことも有り得る。まさか、死者の完全なる復活なんてことは)
有り得ない。十字教系の魔術なら特に。なぜなら
ワシリーサ(十字教の目的は、最後の審判の後の天国への旅立ち。その前にある死者の復活は神だけの特別な行い)
ワシリーサ(だから、死者を復活させることは神への冒涜として禁忌であり、死者を操る魔術は邪法として扱われてきた)
ワシリーサ(こんなこと、それこそ、どこの教本にも書かれていること。基礎中の基礎。だから、ありえない)
ワシリーサ(なにより、根本的に神だけが扱える術式といえそうなソレを、どうしてフィアンマなんかが出来るのって点でねえ)
目の前の禁書目録が、暑かったのか毛布を肌蹴させた。それを見て彼女はかけ直してやる
ワシリーサ(いっそのこと、この子に尋ねてみればいいんでしょうけどね)
まさか、話すまい。アレだけフィアンマに懐いているこの子が、彼を裏切るようなことを
今出来る事はやはり少ない。こうしてローマの天使をフィアンマが相手にしている影で、またも暗殺部隊が来ないと言う訳でも無い
なら、待つしかない。フィアンマが動いた時を
その時なら、なぜフィアンマがロシアを選び、何を狙っているのかが分かるハズだ
ワシリーサ「まー、その時には全部手遅れだったりするかもしれないけど」
呟いて、彼女はまた禁書目録の毛布を直した
364 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/25(水) 07:33:26.57 ID:WZTUMIy3P
どういう事だろうか、これは
なんだろうか、これは
彼女は、目の前の存在と言っていいのか分からない物体に意識を向ける
"これ"が何なのかわからない。というか、見て分かる者は居ないだろう
一体誰が、この大きな筋肉の様なものの塊を見て、何か、と断定できるだろうか
その存在の隣には背の高い赤髪の男が、びっくりしたような顔をして立っている
何かが少し離れたところで言葉を放っているが、彼女には聞えなかった
否、聞くだけのゆとりとか余裕とか、そういうのが無かったのである
御坂(どういうこと、なの)
体中から発信される痛みの神経伝達をシャットアウトして、彼女は考える
なぜなんだろうか。どういう理由なんだろうか
なぜ、この200キロは有るんじゃないかと思われる肉塊から、あの男の反応があるのか
"あの男"の"反応"
あまりの突拍子のなさに、彼女は、しかし、驚きが恐怖になっていくのを感じた
あの男とは、自分がここまで来た理由
反応とは、あの男と最後に有った時に嫌という程感じた何らかの回路のような反応と、自らの中に打たれた微小機械の共振といえる反応
恐怖の理由は、この肉塊が上条当麻という男の存在ではないか、というもの
「有り得ない」
彼女は言いたかった。でも、言葉にならない。否定できないから
365 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/25(水) 07:34:09.42 ID:WZTUMIy3P
この反応は、どう考えても彼なのだ。とても、会いたかった彼なのだ
彼でないと言う可能性だってあるかもしれない。でも、彼女がこれまで頼って来た反応が、どこまでもコレが彼だと告げる
いろいろなことを経て、折角ここまで来たのに
一言で良いから言葉だけでも聞きたかった。こんなのはあんまりだ、あんまりすぎる
混乱した彼女は、なぜ彼がこんなことになっているのか、理由を考える事は出来なかった
例えもし考えられても、原因なんて分かるワケが無かったが
せめて、触れたい。言葉が聞けなくても
彼女は、その手を肉塊となった上条当麻に向けようとした
しかし、動かない。おかしい、動かすための電気的な神経信号は確かに送られているのに
原因は、簡単なことだった。彼女の肩の関節は、壊されている
まるで物心ない子供が人形を無理矢理に動かしたかのような、無茶な力を関節に加えられ、彼女の肩も腕も破壊されているのだから
僅かに、筋肉がぴくぴくと反応するばかりで、その腕はいつまで経っても彼の脚が有るであろう肉の部分にすら届かない気がする
触れる事すら、自分には出来ないのか
もがく指が、彼女の無念を代弁していた
じわぁ、と目になにかが集まるような感覚がした
駄目だ、泣いたら
泣いたら、完全に受け入れてしまう。これが上条当麻であるということを
しかし、その抵抗は結局長くはもたなかった
366 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/25(水) 07:35:06.40 ID:WZTUMIy3P
滲む世界の端で、光が近づいているのが見える
それは、電撃使いである彼女の能力的にも感知されていた
電子の形・流れ・量。どれをとってもこの世のものとは思えない出力をしていて、耐性のある自分であっても、こんなもの耐えきれないだろう
その上、それはどうやら電子以外にも多くのエネルギーとしての形を持っているらしい
当れば間違いなく蒸発して、死ぬ、消える
御坂(こんな体じゃ、どうせ避けれないか)
そして、この彼も
なら、いいか。彼と共に死ねるなら本望だ
こんな見た目でも、まだ反応が有ると言う事は生きているのだろう、彼は。その反応はまるで人間のものではないが
それは、彼女の最期の願いだった
しかし、それもならない
そのとてつもないエネルギーの塊の接近は、彼女たちのすぐそばで、赤髪の高伸長の男もその範囲に入って、掻き消されていく
この反応は、多分、"幻想殺し"。つまりは彼だ
と言う事はやはり、この肉塊は彼本人らしい
でも、彼女にとってそれはもうどうでもよかった
彼女にとっては、こんな姿になってもまだ自らを守ってくれようとする彼という存在が、その行いが、辛い
彼の反応は徐々に弱まっていく。何時か潰えると思う。その前に
だから、彼女は微小機械の力を借りて、せめて彼の体に触れようと、ほんの僅かにだが確かに動く腕を少しずつ彼の方へ向けた
367 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/25(水) 07:35:33.86 ID:WZTUMIy3P
彼を見ているのは、彼女だけではない
彼に、ステイルに至っては、上条が自分と御坂を守る様子を見ている
どういう原理が働いたのかは、分かりはしない
ただ、確かに上条が両の腕をその方向へ伸ばし、それによって、今自分が助かっているのは確かだ
恐らくそれによって、彼の目の前で、上条当麻が醜い大きな肉塊と姿を変えたのも事実。それをずっと見て来た
そして、今、またしても、こんな肉塊に姿を変えても、上条と思われる働きが飛来してきたエネルギーの塊を打ち消した
ステイル(君は、こんな姿になっても僕達を守ろうっていうのか)
見上げたものだ、いや、この男はそういう奴だった。初めて会い見えた時から
だから、禁書目録も懐いたんだろう。だから、自分も彼女がこの男の側に居る事を認めたんだろう
それに引き換え、不甲斐ない
何が?
もちろん、自分自身だ。こんな姿になったにもかかわらず、他者を守ろうとする上条に対して、自分はどうか
あまりの敵の攻撃に動けもせず、ただ、彼の庇護にあるばかり
そこで横たわっている少女は仕方ない。あれだけされては動けやしない。当たり前だ
だが、自分は動ける。その上戦える
ステイル(上条当麻は抵抗していると言うのに、僕は何だ?)
ステイル(ただただ守られるばかりじゃないか。戦えるというのに)
ステイル(だけど、この状況で抵抗したところで、一体どんな働きが出来る)
368 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/25(水) 07:36:23.10 ID:WZTUMIy3P
さっきまでは、事実上2対2だった。しかし、今動けるのは自分だけである。つまりは1対2だ
状況は悪化している
ステイル(自分自身を守る手段が無い以上、ひたすら逃げ回り、有るかも分からない隙を突けるかどうか)
ステイル(つまり、今出来るのは的を一つ増やすことぐらいじゃないか)
しかし、それも抵抗では有る
ステイル(……逆だな。的になることぐらいは出来る。逃げ回ることが出来る。攻撃を分散させることぐらいは出来る)
ステイル(それだけでも十分だろう。彼は守れば守る程、その体を醜く変えてしまうらしい)
そして彼は、少し離れる為、跳んだ
その理由は、上条を、御坂を巻き込まない為
局所的に、それまで用いたどんな攻撃よりも純粋に密度の濃い炎が上がる
ステイル「これは最終手段なんだろうけど、使ってみるしかない」
「同位とする。――――――炎を我が身に、我が身を炎に」
粗製"神の薬"、"光の処刑"の応用
それによって、彼の体は自らの体が生じさせた炎と混じる
"光の処刑"は、使えなかった。彼にとっては消費が激し過ぎる事、加えて、イェスや垣根の、物事の優先など根本的に超えてしまった攻撃を繰り出してくるような相手に通じるのか試すのは、あまりにもハイリスク過ぎたからだ
だが、この方法ならば使える。リスクは生じない
自らの身と炎の境目を曖昧にしてしまえば、受ける攻撃は暖簾の様に受け流し、移動は風の様に流れる事が出来る
それは、今の上条当麻の姿を見て思いついた応用法だった
どこからどこまでが幻想殺しなのかわからない。全てが幻想殺しなのもしれない。そう思った
369 :
半分終了。いや、またすぐに上条さんは戻りますから。イナイイナイ主人公はもう嫌だ
[saga sage]:2011/05/25(水) 07:38:35.93 ID:WZTUMIy3P
例え他の機会にこれを思いついても、彼は実行しようとは思わなかったはずだ
なぜなら、これが意味するのは、人間であることの喪失である。となれば、どういう弊害が出るか分からない
閉鎖的な空間での過剰な燃焼が酸素を一瞬で消費して消える様に、自らの魔力が一瞬で消費されれば、人間に戻ることが出来なくなる可能性だってある。根本的に消し炭になるかもしれない
だが、彼には躊躇は無かった。それはこの状況下だから、ということの他にも理由が有る
ステイル(……どうやら、僕は既に人間ではないようだからな。今更、何を恐れると言うんだ)
その理由は自らの死、力の増幅。そしてフィアンマという男の存在
彼の派手な演出は、当然、イェスの目も垣根の目も引くことになる
彼らにとっては上条が肉塊となることが当初の狙いであり、ステイルはその後で確実に倒してしまおうと思っていた為、彼が上条から離れたのは限りなく好都合な状況だった
だから、当然余裕が出てくる。それは油断というには大げさだったが、ステイルの能力が向上したことなど考えているわけがない
かなりの距離、それこそ100m以上の距離が有ったのにもかかわらず、垣根めがけて炎の柱と言えそうな密集した炎が伸びてくる
垣根「フン、遠目からチマチマと悪足掻きかよ。だが、その距離は俺には近すぎるな」
言いながら、彼は炎の根源へ攻撃を向けようとする。具体的には、未元物質の翼で包み、圧縮された空気のプラズマを射出しようと狙いを定めようとしたところ
「その通り。確かに至近距離だ」
その声は、すぐ近くで聞えた。同時に、プラズマ化した空気を溜めこんでいた翼の一部が吹き飛ぶ
予想外の衝撃に、彼は彼自身の攻撃の暴発で地面方向に押しつけられた
その暴発の原因は、明らかに自分以外の何かによる外部圧力
地面に叩きつけられる前に、空中で留まった彼は翼の暴発が有った空間を見る
そこには、どう見ても体そのものが燃えている様にしか見えない赤髪の男が居た
370 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[[sage]]:2011/05/25(水) 19:32:24.65 ID:uLL2l3b30
バーニングステイル△
371 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/25(水) 20:18:01.02 ID:1EIkjvQPo
肉条さんの今後の活躍に期待
372 :
思った以上に長くなるこの仕様、どうにかできんかなー
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:24:45.88 ID:DvC1qi7bP
「ふん、そういうことか」
彼はロシアの大地、とはいっても流れ弾で荒れ放題な地面の上、で呟いた
急激な敵の増長によって一瞬、彼の率いた部隊は突破された
お陰で、本来ならばロシアの後方支援部隊が展開しているここまでも狂戦士化したローマ天使たちの侵攻が有ったのだ
故に彼、フィアンマの周辺もその刃の跡がありありと残っているのである
最も、彼には被害などまるで無く、その時に抵抗もしなかった
まるで彼だけは狙うべき対象でないかのように、天使達は攻撃をしなかった
もちろん、フィアンマはそれについて何ら特別な驚きが有ったわけでも無く、ただただ様子を見たのみ
それだけで十分だったのだ。彼がわざわざ動かずとも、彼が操る復活者達が戦況を戻すまでに大した時間を要しなかった
強化されたのは、ローマの天使たちだけでは無かったのだから
ただ、少々その事実にフィアンマが驚いただけだ。そして、対応に少しだけ時間を要した
それだけのこと
被害を受けた人員を回復させるためにロシアの魔術師たちが駆けまわる中、彼は椅子に座り、肘かけに腕を置いて、額に指を置いて考える
フィアンマ「そんな理由で、"救世主"がアメリカなんぞで生まれる事になっていた訳だ。まぁ、それはそうだろうな」
特段、特別な何かを見ている訳ではない。あえて言うならこの地球か
フィアンマ(そういう仕組みでも無い限り、十字教としての歴史の浅いアメリカ内部で聖地の条件を満たす事は出来はしない)
フィアンマ(いつの間にかこんなもんを展開されてしまえば、それが普通の状態だったと考えてしまう。つまり、"抑制されている"のが自然な状態と勘違いしてしまっておかしくない。俺様の様に)
フィアンマ「"終末"なんてとてつもない"天使の力"の流れに直接干渉することは生半可なことじゃないが、なるほど」
頭の中で、考える、そして構築されていく
この事象を説明できるような術式と、そのロジックが
フィアンマ("天の都合"に干渉するのではなく、"人間の都合"に干渉するならば高い可能性どころか応用性まで確保できる。賢い方法だ)
フィアンマ(ローマの老いぼれ共も、これには気付けなかったろう。歴史的レベルで積み重なった術式が有りながら、ミカエルの制御が完全ではなかったのはこういう理由か)
フィアンマ(まぁ、俺様も人のことは言えないがな。だが、気付いてしまった。分かってしまえば、なんてことはない)
そして、彼は椅子から立ち上がり微笑を浮かべた
フィアンマ「全く、お前を直接送り込んでおいて良かったよ。ステイル」
373 :
ちなみにこれは5/25の残り半分ですたい
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:25:41.05 ID:DvC1qi7bP
ステイル(この力、尽きるまで……!)
彼は、全力だった。それまでが全力でなかったか、と言われれば嘘になるが
根本的に人間でない存在に加えて、超能力で片付けるには過剰すぎる力を持った存在の相手を一度にしなくてはならないのだから
ならば、こちらも人外になり更には全力で向かわねば
イェスの人型と垣根の殆ど中間あたりの空間で、彼は派手に体を燃やす
それはあまりにも派手で、限りなく爆発に近かった。そして拡がる空気の衝撃波は、イェスの巨人すらのけぞらせ、焦がす
だが、未元物質には通じない。温度変化による分子原子の運動力上昇がもたらす気体の熱膨張だと分かっているならば、つまりその理由を理解しているならば、それを打ち消すように働きを変えてやればいいだけなのだから
ステイルは、未元物質と言うものがどういうものかは分かっていない
学園都市に潜り込んだ際にそういう能力者がいるとか、そんな情報を持ってたかもしれない
しかし、それがこの目の前の存在であると知っていたかどうかは別だ
どちらかと言えば、ステイルには、垣根という存在は自分たちに近いものだと理解していた。それは、魔術師、と言う意味ではない
空中での派手な爆発の中で微動だにしない垣根に、その爆発を隠れ蓑に再度近づいた彼は炎の剣を振りかざす
純粋なサイズならば、それはアックアのメイスよりも大きかろう
オレンジ色の光の中をその切っ先で裂いて現れた剣、しかし垣根は驚いただけ
垣根(所詮、派手な燃焼の再現。熱量の塊でしかない)
易々と、翼すら用いず彼はその剣を握った
ステイルとしても炎剣を止められると考えていなかった訳では無く、止められたならばすぐさまにその剣そのものを更に爆発させ、身を逃がすつもりだった
体術の覚えが無いわけではないが、極論、彼は接近戦が得意な魔術師ではないのだから
ステイル「な?!」
しかし、爆発は生じなかった。これでは、動きの組み立ての根底が崩れる
そこに、剣をへし折るかのように炎を消しつつ、辿りながら急接近する影
374 :
正直戦闘描写ばっかりで書く方も読む方も飽き飽きだと思うんですよねー
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:26:23.62 ID:DvC1qi7bP
垣根「ざーんねんだが、トリックが分かっちまってるからな!!」
目のつり上がった笑みを把握した時には、ステイルはその拳によって吹き飛ばされた後だった
拳と言っても、彼に当る前にはそれは、2m近くの身の丈のある彼よりも大きい物に増大していた。形が、拳だっただけの、未元物質
咄嗟に両の腕を激しく燃焼させて盾代わりに展開させたが、後方へ飛ばされだした彼の体は半分程掻き消されていた
理由は、彼には分からない
炎と言うものの大前提である燃焼そのものを否定されたなど、説明されないでは、誰が理解できるだろうか
最初の爆発によって仰け反ったイェスの半巨人の体勢はとうの昔に戻っていて、そちらの方向へ飛ばされたステイルがすぐさま炎で体を再生し空中で動きを取り戻した時には、その左腕が迫っていた
感じ取ったエネルギーの大きさは、垣根の拳の比ではない
すぐさま炎の柱を明後日の方向へ放ち、炎そのものになった彼の体そのものを移動させる
ここまでの間の、各員の動きに消費された時間は、非常に僅かなものだった
ステイル(なのに、ここまで消費するか)
安全域に逃げた彼だが、表面上に変化は現れていない。だが内実、力の消耗の度合いは大きかった
炎と言う物理現象そのものが生じさせない様に、言わば否定されたかのように叩きこまれた垣根の拳による被害がその大部分を占める
地面には肉塊と御坂、目の前は手前に垣根、その後方にイェスの巨人
何をされたのか分からないが、垣根帝督は不味い。触れられたら魔力も体も、もっていかれる
次なる動き備えて、彼の胸に光る、炎とは別の灯が力強く瞬く
イェス「"幻想殺し"以外でこの体に影響をもたらすとは、そういう訳か」
御坂を先程までもっていた右手の人差し指が、表面に皮膚のない赤々としたその指が、ステイルを指した
心なしか、その方向はステイルの胸を指しているように思える
ステイル「……何が言いたい」
イェス「程度の低い魔術や科学的な方法では、この巨躯を傷つける事は出来ない。だが、君はそれをした」
375 :
つまりそういうバランス配分が出来てないのが悪いわけで
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:27:15.23 ID:DvC1qi7bP
イェス「それがどういう意味をなすか、君は分からないだろう。しかし、私は驚いたんだ」
垣根も、その機械音声に耳を傾ける。もちろん、正面に捉えたステイルから意識を離すようなことはしないが
イェス「まさか神の体に傷をつけられるとは、とね」
ステイル「……神の体? にしては酷く醜いな。頭部もなければ下半身も機械だ。どんな術式使っているか知らないが、不十分もいいところなんじゃないのかい」
イェス「それは仕方ない。これは神そのものではないのだ。普遍的な神が、多神教ではその主神が、人間の前に現れる時に用いた化身を再現したものでしかない」
ステイル「つまりは、ハッタリと言う訳だ」
イェス「フフ。コレがそんなチャチなものでないことは、君自身分かっているだろう? 確かに動きは機敏とは言えないが」
ステイル「……」
イェス「化身とは言っても、それは神でもある。再現とはいえそんな物を正確にそのまま作り出してしまえば、その制御も維持もままならないのでな。頭部が無いのも、そう言う理由だ」
ステイル「だが、体は神だと。だから僕がその体に影響をもたらしたのが気に食わない訳だ」
イェス「別に気に食わないわけではない。下位のものであるとしても、同格の術式であるならば、それも仕方のないことだからね」
垣根「同格だと?」
イェス「その術式を君に施した存在、恐らくはフィアンマと言う存在なのだろうが、そんな力を用いてまでして、彼は一体何をたくらんでいるのか」
イェス「どちらにしても、過ぎたる力だ。事が終われば、彼らの掃除をしなければならないな」
掃除。イェスという存在の今までのやり方を鑑みるに、恐らくは皆殺しだろう
そうなれば、彼の元にある禁書目録も危険。すぐさま殺されるか、研究所送りだ
そんなことを、させるわけにはいかない
ステイル「悪いが、それは許ない」
垣根「へー。んなら、倒すしかねえよな。俺達を」
あざ笑うようかの声と、それに反比例して神々しい垣根の6本翼が展開される
更にその奥、イェスの巨人から、それこそボストンを丸々包めるのではないかという規模の白色が拡がった
376 :
話が長くなるのもそう言うとこが下手なんだなーと
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:28:19.73 ID:DvC1qi7bP
例えばそこに4人の人間がいるとする
その内3人が結託し、残る一人の動きを抑えていたら、その一人はどうなるか
不満がたまるのは明らかである。そして、その状況をどうにかしようと機を狙うのも自然だ
そういう自然な働きをするのはどこか、脳である
この状況に当てはまる存在が一人。神裂火織
彼女の脳はずっと機を狙っていた
どんなに抑えられても、いや、抑えられているからこそ、彼女の元々の脳は分かっている
近くに守るべき仲間が居て、それと対峙してしまったこと。また更に犠牲者を出してしまったこと
建宮は確実にその剣をこちらに向けて来た
それは彼にとっては苦渋の選択だっただろう。そうさせたのは自分だ
そんな彼女の目の前に居る存在。それらは天草式ではない
NYを灰燼にしてしまおうというローマ正教が放った破壊者達
この存在達を放置していれば、どうなるか。生き残った民間人に加えて、天草式も巻き込まれる
放っておくわけにはいかない
彼女の脳内で、急激に抑えられていた脳の動きが、自己主張が活発になっていく
機の良いことに、他の脳はまだ混乱したままだ
証拠に、魔術・空間移動・肉体再生・未元物質の組み合わせで強力な個体を作り上げる本来の戦い方を捨てて、今は未元物質に絞っている
どう考えても正常でない今ならば、イニシアチブを握りやすい
殆ど一方的に斬りつけられ貫かれ砕かれ、そうして飛び散った体のパーツを未元物質の鎖でどうにか繋ぎ合わせている彼女
10m近くだらりと伸びて、忘れられているように力弱く握られた七天七刀
彼女の象徴的な得物に、グッと力が加わった
377 :
物書きの人はちゃんとそこまで考えてるんだろうから、慣れと言うか学習と言うか
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:29:53.85 ID:DvC1qi7bP
「敵ばかり強くなりおって、こっちの余裕は削れるばかりだな!」
女王エリザードはその剣を振るう
性能上は、敵であるローマの使役天使を束ねるミカエルと同等の性能がある霊装に、敵は無い
しかし、何よりも本人の疲労がある。術式的に補助されているとはいえ、彼女は根本的に若くない
それに加え、その剣のオーバースペック
狂戦士化した、つまり明らかに攻撃性を増したローマの勢力を各個撃破するならば、騎士たちが束になればまだ何とか可能だ
逆に言えば、それだけ以上の力は必要ないのである
疲労の中で使い方を誤れば、それは即ロンドンの市街に途方も無い傷をもたらすことになる
"終末"なんていう厄介な世情で余計な絶望の要素を作るわけにはいかない
だからこそ、彼女の行動には最大限の慎重さが必要だった。乱暴に振るえばいいと言う訳ではないのである
時折、おッ、とか声が出ていたが、それも無くなって来た
つまり、それだけ余裕が無くなって来ているのだ。終わりの見えない戦いというのは、精神をガリガリと削る
エリザード(ッ……。さっきまでの小奇麗な見た目から一転して、屈強な戦士の様な見た目になって、明らかに隙が無い。強引に捩じ伏せるパターンが増えてるな)
エリザード(ローラのキメラも応じた様に動きのキレは増しているが、敵さん程良くなった訳ではない)
なんとも不利だ
そんなことに一瞬、彼女は思考を奪われてしまった
言うなれば不幸なアクシデントである
味方の騎士が傷を負いながら差し違えた5mの巨躯を持つ天使が、彼女の頭上に突き飛ばされてきた
しかも後方からである。もちろんその接近に彼女は気付くが、それがどういう理由で飛ばされてきて、どういう状況なのか見て判断した訳ではない
見えていない状況で、一番考えるべきは、敵が後ろから斬りかかって来たのではないか、ということ
だから彼女は咄嗟に、そして無意識に、カーテナで使用する力を増やした
378 :
物書きの人はちゃんとそこまで考えてるんだろうから、慣れと言うか学習と言うか
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:30:36.15 ID:DvC1qi7bP
「敵ばかり強くなりおって、こっちの余裕は削れるばかりだな!」
女王エリザードはその剣を振るう
性能上は、敵であるローマの使役天使を束ねるミカエルと同等の性能がある霊装に、敵は無い
しかし、何よりも本人の疲労がある。術式的に補助されているとはいえ、彼女は根本的に若くない
それに加え、その剣のオーバースペック
狂戦士化した、つまり明らかに攻撃性を増したローマの勢力を各個撃破するならば、騎士たちが束になればまだ何とか可能だ
逆に言えば、それだけ以上の力は必要ないのである
疲労の中で使い方を誤れば、それは即ロンドンの市街に途方も無い傷をもたらすことになる
"終末"なんていう厄介な世情で余計な絶望の要素を作るわけにはいかない
だからこそ、彼女の行動には最大限の慎重さが必要だった。乱暴に振るえばいいと言う訳ではないのである
時折、おッ、とか声が出ていたが、それも無くなって来た
つまり、それだけ余裕が無くなって来ているのだ。終わりの見えない戦いというのは、精神をガリガリと削る
エリザード(ッ……。さっきまでの小奇麗な見た目から一転して、屈強な戦士の様な見た目になって、明らかに隙が無い。強引に捩じ伏せるパターンが増えてるな)
エリザード(ローラのキメラも応じた様に動きのキレは増しているが、敵さん程良くなった訳ではない)
なんとも不利だ
そんなことに一瞬、彼女は思考を奪われてしまった
言うなれば不幸なアクシデントである
味方の騎士が傷を負いながら差し違えた5mの巨躯を持つ天使が、彼女の頭上に突き飛ばされてきた
しかも後方からである。もちろんその接近に彼女は気付くが、それがどういう理由で飛ばされてきて、どういう状況なのか見て判断した訳ではない
見えていない状況で、一番考えるべきは、敵が後ろから斬りかかって来たのではないか、ということ
だから彼女は咄嗟に、そして無意識に、カーテナで使用する力を増やした
379 :
ダブったゴメス
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:32:49.12 ID:DvC1qi7bP
もしこれが、健全な天使の斬りかかりならば、その天使が一種の盾となって被害を軽減したに違いない
しかし、差し違えられた彼の天使にそれだけの身を守る力など残ってはいなかった
結果、過剰で余計な衝撃がそれを貫き、そのまま背後に伸びていく
エリザード「馬鹿な………」
直線上にあった大きな病院の半分を抉ってしまった
目が点になった彼女の視界において、崩れた病棟から落ちて行く人々の姿が見える
一番恐れていた事態を、自らが引き起こしてしまった
その光景に、しばし立ち止まる
誰が彼女を咎められようか
数時間ずっと戦い続け、最前線で剣を振るい続けた彼女の活躍でどれだけの人間の避難が完遂出来ただろうか
病院で失われた命など、それに比べれば圧倒的に少ないと言える
それでも、それでもだ
自らの手で国民を殺したのは間違いない
だが、ショックを感じている暇などありはしなかった
彼女は、イギリス側の二強の一角なのだ。その動きが止まれば、抑えられていた敵が一気に雪崩込むだろう
初めて苦悶の表情を浮かべて、しかし、剣の制御に集中するしか無かった
出来れば、こんな剣になど頼りたくない
だが、頼らざるを得ないのが現状だ。使うしか方法が無いなら、使うしかない
細心の注意を払いながら、しかしキレの悪くなった彼女の行動
それでもやはりその力は絶大だった
一振りで10の敵を相手に出来る。特に今の敵は特攻染みた戦い方をするので、向こうの方から的は近づいてくる
380 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:33:26.19 ID:DvC1qi7bP
若干、彼女はそれに身をたじろがせる。同じ事を起こしてしまう恐怖が、彼女の様に強靭な精神を持つ存在でも、取りついてしまう
そんならしくない姿を見ている存在が居た
「どうも、動きが優れてないようですね」」
声の主はまだ生きている市街の影から現れた、女性
第一王女その人である
エリザード「あんなことしてしまった以上、派手には動けないのは自然だと思うが」
リメエア「誰もお母様のやったことだとは思わないわ。こんな状況下では、特に」
エリザード「だからと言って、私がやったことに変わりは無いからな」
らしくなく、彼女が気弱に吐いた
リメエア「仮に誰かに目撃されていたとして、それを議会で糾弾しようというなら、揉みつぶすことだってできる」
この状況ではパパラッチもないでしょうに、と続ける第一王女
エリザード「随分と汚い方法まで、お前は学んでしまったようだな」
リメエア「それが政治、それが外交というものの要素であることは否定しないのね」
エリザード「……正しくもある。革命に犠牲が必要な様に、平穏の為にもなくなるものはある。だが、それでも人を殺した、という事実は変わらない」
一般論を述べつつ、彼女が述べているのは自分自身の自責
そんなことは、その表情を、話しぶりを見れば、娘には分かる
リメエア「それほどまでに身にしみて居るのなら、その剣の他の有効利用を考えてみてはいかが?」
正直、この申し出は女王の考えの外だった
だが、すぐに合点が付く
エリザード「なるほど。それがお前の主張か」
よもや、自分が代わりに使うというわけではあるまい
381 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:34:14.68 ID:DvC1qi7bP
故に、「誰がだ」と問う女王。その対象は、首を横に振った
リメエア「もちろん私ではないわ。お母様以上に扱えるわけないもの。まだキャーリサに使わせた方がいいでしょうね」
エリザード「……ローラか」
リメエア「御名答。流石お母様」
エリザード「つくづくお前はアレを気に入っているようだな。だがアレはお前の力を後押ししてくれるような生易しい存在ではないぞ」
リメエア「まさか、そんなことを考えてなど。純粋に王室派と清教派の橋渡し役を買って出ているだけよ。その清教派の操る防衛手段、つまりあの獅子のお顔の天使の完全制御にそれが必要と申し出ている、その事実を私がメッセンジャーしているだけ」
特にカーテナなんて代物、同じ王室派でないとそういう役割を果たせる者もいないのよね
そう言う彼女。確かに、それなりのポジションに居る人間でなければ、カーテナを任せる事は出来ない
その母親には、今回の事を利用して清教派とのパイプを太くしようとする娘の考えが透けて見えた
なるほど、逞しい。しかし
エリザード「……まぁいい。今は持てる力を一か所に集めて戦うことも必要だろう」
拒否することは出来なかった。この剣の力に辟易としていたという事実が、彼女にあったのだから
最後に一太刀、彼女は空を振った。次元の切断に巻き込まれた天使に、更にそこから生じた残骸物質が天使を押しつぶす
そして、その衝撃の振動に、僅かに震えるその剣を娘に託した
エリザード「だが、これだけはお前に言っておこう。ローラに心を許し過ぎるな」
リメエア「分かっているわ。でも、そのことにはお母様、貴女自身の責任もあるのではなくて?」
そう言って、母親の言葉を逆に返し、彼女はその場所を離れた
良くないことは重なるという。そのようなことが無ければ良いが
そう彼女は思いながら、しかし彼女自身が女王としてもつ魔力と技術を使用して、天使の群に突っ込んでいく
速度も強度も全てがカーテナ装備時よりも劣るが、しかし彼女は彼女の実力を如何無く発揮するには、そのことによって積った自責の念というストレスを晴らそうとするという要素も含んで、逆に、十分な機会だった
382 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:34:55.11 ID:DvC1qi7bP
「っと、ここやなー」
CIA本部の長官室に、更に訪問者が訪れた
その微妙な関西弁には、刀夜自身聞き覚えがある
刀夜「やぁ、青髪君。と、それに彼女は結標淡希君かな」
入って来たのは男、そして女。男の方が少々怪我をしているようで、女がそばについている
結標「ええ、そうよ」
青髪「僕がこんなんになってしもうたから、手伝って貰ったって訳です」
入って来てすぐに目に入る死体に彼らは気付くが、特段感情の変化を見せなかった
そんなものは、彼らは見慣れてしまっているのだから
旅掛の体も、彼らからは顔が見えない位置にあるので、気付きようも無い
気付いたところで、よもや刀夜が旅掛を殺したなど思う訳が無い
刀夜「なるほど、それなら仕方ないね。若干うらやましくもあるけども」
彼は結標の肩に掛った青髪の右腕の先端、その手の平が意図的に胸元で止まっているところを見ながら言った
その視線に気づいてかしらずか、自然を装って(悪い方に)その手を動かす青髪
青髪「いやいや、そんなこアダダッ?!」
少し顔がにへらと緩んだ彼の顔が苦悶を浮かべた。足の甲に、女の踵が刺さっている
視線も、とっとと話を進めろ、じゃないと離すわよ、と意思を伝えている
無言なのにもかかわらず、その意思が伝わる時点で、彼らの関係がそれなりに親密であることを意味しているようでもあるが
383 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:36:06.41 ID:DvC1qi7bP
青髪「……で、ででッ! それで、状況はどうなんですか? 僕の動かしてた爆撃機全滅してしもうたんですけど」
刀夜「実のところ、良くないんだよ。これが」
見てみなさい、と刀夜が見ていたディスプレイが、青髪たち側に向けられる
どんなカメラがとらえているのか分からないが、そこには翼を展開する垣根提督の背と対峙するような炎の塊が空中にあり、地面には小さくてよく分からないが少女と肉の色をした大きな何かが有った
何よりも特筆すべきは、背景の空が全て真白であると言う事
青髪「ええと、とりあえずNo.13のおっさんの姿は見えへんようですね」
結標「ってこれ、第二位じゃない? 」
良く見ようと一歩近づいた彼女は気付いた
刀夜「そうだ。ボストンの拠点を破壊する予定だったNo.13の部隊は全滅。その上引き入れに失敗した垣根帝督が、こうして敵として現れている」
青髪「つまり、今の僕らにイェスを倒す手段はないと?」
刀夜「そうなるな」
結標「待ってよ。なら、この映像は誰が映してるの? それに、明らに垣根と敵対してる様に見えるこの発火能力者?か何かは誰?」
刀夜「映像はイェスの視点だ。そして、炎の彼については顔を知っている程度で、正直分からない。ただ、垣根と敵対しているのは確かみたいだな」
青髪「ということは、今の所、この人に任せるしか無いってことか」
刀夜「彼に期待するしかないな。そうでなければ、コイツも使えないことだしね」
言って、彼は例の注入機を机に置いた。その顔はそんなことを言いながら、どこか自信に満ちている。何への自信なのかは分からない
そして机に置かれた物が何なのか、青髪には分からない。無論結標にも
そして、上条刀夜の狙いが本当は何なのか、それが何を意味しているのか、もちろん知るべくもなかった
384 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:36:42.31 ID:DvC1qi7bP
(大丈夫、あんなものはただの脅しにすぎない)
ボストンを包むように急激に広がった白のカーテンを見た彼は、その力の大きさを冷静さを持って把握した
垣根の翼がちんけなものに見える程に、その規模も力も圧倒的だったが、ならば何故これまでにその力の片鱗を見せなかったのか
ステイル(敵である存在の言葉を丸々鵜呑みにするのもどうかと思うが、イェスの言葉が確かならば)
ステイル("神の化身"を不完全なままにして用いているのは、そしてアレだけの力を今だ有効に利用していないのは、そしてアレを使うのをギリギリまで躊躇ったのは)
ステイル(単純な話だ。奴は神の化身とやらを完全に制御出来ない。大き過ぎる力を扱いきれない。だから、使えない)
ステイル(逆に言えばそれを撃たれた時が全ての終わりだと言う事でもあるわけだが、とにかくだ)
ステイル("神の化身"を操るイェスはあの下半身の何処か。全力を出せないうちに、そこを潰せばいい)
攻撃の指針が決まれば、いつまでも逃げ回るわけにはいかない
"神の化身"から出た"白のカーテン"もどんな目的なのかわからないのだから、拙速が必然だ
両の手から炎の柱を生じさせ、片方は化身の上半身へ、もう片方はその下半身を狙う
その攻撃の目的ぐらい、垣根提督には分かっていた
垣根「やらせねえ、っての!!」
下半身に向かった炎の射線上に垣根が割って入り、翼で身を包む
彼の未元物質に触れた炎は、まるで上条の幻想殺しのように、炎を掻き消していった
ステイルの本体は既に炎に変化しきっていて、イェスに向かって延びているどちらかの炎の柱に溶け込んでいるハズだ
狙うなら下半身の機械部分。あまりにも見え見えな攻撃
しかし、その事実こそが、逆にブラフ
ステイルの本体は下半身に向かった方では無く上、上半身を狙った方だった
半径10m近くの極太の炎の柱。しかしそれだけで何の工夫も無いのでは、肉と骨だけの神の化身の上半身には目立った害を与えられないだろう
分かっている、そんなことは。だから彼はこんな奇襲を用いたのだ
垣根がブラフの炎の柱に向かい、打ち消しが始まった瞬間
炎に溶け込んだ彼は、それを見ていた
垣根は釣られて、イェスも円柱の先から出るだろう自分を叩くように腕を動かしはじめた
ステイル(今だな)
385 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:37:55.24 ID:DvC1qi7bP
敵である二者の行動を見切った上で、上半身に向かった円柱の中腹から、一筋の高熱源が射出された
それが放たれた時には、垣根も自分が受け止めている柱がブラフで有ると気付く
垣根「クソ、舐めんなよ!!!」
矢じりの様な形の炎の塊の速さに、加速時間の関係から本体の移動は間に合わない。ならば、翼を延伸させるだけ
赤黒い矢じりにまとわりつくように、白の翼が伸びた
しかし、それは止められなかった
垣根「何だと?」
翼を貫通してイェスの下半身に向かう矢じり、その一瞬の間を、彼の目は驚きと共に捉えた
垣根が行ったのは、熱の否定、炎の否定。空間的に熱を奪い、更に燃焼現象に必要な原子分子全てにその反対の性質を持たせれば、炎も熱も力を失う
しかし、ステイルが放ったのはただの炎の塊ではなかった。加速を招いたのは熱による爆発だが、その矢じりそのものは炎でも何でもなく、一般的な物質の塊
受け取ったばかりの戦闘スーツ。それらを溶かし、固めた物
"幻想殺し"の様な特異な力は二つも無い、という前提の元、垣根がどういう手段で自分の炎を掻き消しているのかを考える
炎の消し方でメジャーな方法は二つ。熱を奪うか燃焼を止めさせるか。垣根がどちらを使っているのか
どちらでも考えられる。両方もありえる。ならどちらにも対応せねばならない。その方法がコレだ
炎や熱だけを採り去るなら、逆に物質をその核にしてしまえば、熱や炎を奪われた物質は急速に冷やされ、固まる
垣根がそれ以外の方法で、それこそ盾の様に炎を弾いていただけなら、こうならなかっただろう
完全にこれは賭けだった。それに、彼は勝ったのだ
翼をそれまでの運動エネルギーで強引に貫いた後、更にそこに刻まれたルーンが再びその矢じりに炎を灯らせた
二段階ブーストの如く、再び炎を纏ったそれは更に加速する
最早その矢じりが神の化身の土台を貫くのを阻害する存在はない
ステイル(もらった)
炎の中で、彼は確信する
確かに、彼は賭けには勝った。しかし、リスクはそれだけでない
仮にここまで攻撃が通ったとして、"神の化身"の上半身に向かって自分は進んでいるのだ
これで、下半身の機械本体に十分な被害を与えられなかった場合、その上半身の攻撃を受ける事になる。そして既に、右腕が動いている。確実に何かを食らう
386 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:39:02.13 ID:DvC1qi7bP
ガァン!!!
それは、高い音を立てた。放った炎の矢じりが下半身の機械部分に当ったと言う音
被害は如何ほどか、ステイルには分からなかった。なぜなら
"神の化身"の手の平が、炎の彼をそのまま上空まで叩き上げていたから
そしてそのままその右手の平が、発光する。何かの準備段階の様に
来る、と気付いた時には遅かった。上空に叩き上げられてしまえば、敵は、着弾時の巻き込み被害に遠慮をする必要が無くなってしまうのだから
逃げる時間など無い。まず範囲が有り得ない
微妙な手加減は難しい。だが、莫大な力を引き出すのは容易だ。力強く蛇口の口を開けばいいだけ
つまり、先程上条が防いだ攻撃よりも更に広範囲で高出力の、もはや"天使の力"というよりは"神の力"と言うべきの力の濁流が
ステイルというちっぽけな存在を中心に、空に穴を作った
それだけの出力ならば、例え空に向かって放っても地表のボストン市街に被害が出ないわけがない
だが、変化は見えない
ステイル(そうか……。あの拡がった"白"は、威嚇でも何でもなく、緩衝用の術式だったか)
つまり、こういう行動をする為の準備だったわけだ。やられたな
そんなことをステイルは思った
思った? なぜ思える?
何と言っていいのか分からない力の濁流は確実に彼の体を無にしたはずだ。しかし彼は今、確かに思考を続けている
胸の術式根源とその上の頭部だけの体となって、彼は自由落下を始めた
そんなことを可能にしている要因と言えば、思いつくのは一つしか無い
ステイル(下位とは言え、同格の術式……。フィアンマに二度も救われたことになるな)
だが、こんな体では戦えない。まずは地面に叩きつけられたときの苦痛をどうするか
ステイル(かなり、痛いだろうな)
足掻きようも無い状況に、彼はそんなことを思うしか無かった
387 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:40:00.43 ID:DvC1qi7bP
どれだけそれを否定しても、そして弾圧しても、人々の平和への希求は消える事は無い。どんな時代であっても
それは社会的動物の心理の根底とも言える
だが、彼はそれを許さない。今この機会にローマ以外の勢力など排除してしまえばいいのだ
その絶好の機会なのだから、利用しない訳にはいかない
バチカンの一角で生じた反対運動を、選出されたばかりの教皇は叩き潰すよう指示を出し、それらは実行された
懲罰的な意味も込めて、公衆の面前で魔術師たちはその隠されてきた力を堂々と振るう
弾け飛んだ平和派というべき人々の姿は、それを見ていた公衆に恐怖と言う名の首輪を確実に刻み込んだ
「この者達は邪教徒であるイギリスからの工作員である! だから処刑した」
「この者達の様な、邪教に組すような発言をした者はローマの敬虔な信徒などではない! 仮にその様な者が、諸君らローマの信徒に隠れて居れば、我々に伝えよ!」
神聖な十字架に磔にするもなし、無情の爆散
それを見ていたのは、人々だけではない
過干渉に体を震えさせる、ローマ正教の守護者
ミカエルのその双眸は、平和を訴えながらも同じ十字教徒に虐殺される人々の姿を見ていた
信仰の源は人々
天はそこにずっとあるが、それを形作るのは信仰だ
その信仰の形が歪めば、その形も歪む
人間の集団とは保守的な様で、実はアクティブなのだ
388 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:40:43.78 ID:DvC1qi7bP
ステイルが戦っている後ろで、少女もまた戦っていた
動かない間接が微小機械と自然な治癒力で治るには、莫大な時間がかかるだろう
彼女が用いるのは、ミミズや蛇の様な移動方法
関節が壊されても、筋肉が壊されたわけではない。そして、部分的に痙攣させたりすることが彼女には可能だ
体中で回復に当たる微小機械をそれぞれ数パーセントずつ割いて、筋肉への信号を個別に送る手段に用いる
御坂(もう少し)
敢えてそれを心の中で唱えるのは、自らを保つため
正直動かしはじめてから、彼の脚で有ろうものまでの距離は思ったほどに進まない
一方で、上条の体内の活発だった反応はどんどんと弱弱しくなっていく
仮にそれが彼の死を意味するならば、尚更早くしなくては
私が触れる事が出来れば、右手に触れられない限り、電気ショックを与えられる
そうすれば、仮に彼が死んでも、生き返らせることが出来るかもしれない
こんな状態で生き返ったところで、一体何が出来るだろうか。それこそ彼を苦しめるだけではないか
彼女をそうさせるのは、彼しかもう居ない、と言う事から生じる寂しさが有ったのかもしれない
結局は自分本位。しかしそれは母の残した言葉でもある
そうやって自ら行動することで、自らの幸せは得られるかもしれない
この最悪な状況からどうあれば幸せに転じる事が出来るのか、そんなことは不毛な考えだ
今の彼女にとって、彼に触れる事が、最大の幸福なのだから
そうやって何かに強く依存するようにすがってしまうと言う面では、まだまだ彼女の精神は乱れ続けていて、そして若干人間的なものから離れているようでもあった
思春期、という言葉で片付けてしまうのも、一種の答えでは有るが
ドサッ、というよりは限りなくグチャッという音に近い激突音が彼女の後ろで鳴った
その激痛の為か、その音の主の彼の声は、出なかった
彼女は驚いた。しかし、首を回してまで音源を確かめたくなかった
そこにはとてもグロテスクな光景が広がっているかもしれないのだから。そんなものわざわざ見たい訳が無い
389 :
本日分(ry 無駄に引っ張りすぎた.
[saga sage]:2011/05/28(土) 01:41:50.03 ID:DvC1qi7bP
そんなことを頭に浮かべて、彼女の集中力は乱される
まずは落ち着いて、微小機械一機ずつの場所の指定から計算しなくては
思って、気を落ちつけさせるため、上条の反応を調べた
御坂(……あぁ)
そこで、反応は完全に消えていた
結局、間に合わなかったか。後残り4分の1程度、20cmもないというのに
関節を砕かれていなければ、一瞬で触れる事の出来る距離なのに
諦めてはいけない。まだ、電気ショックを加えれば反応が戻るかもしれない
だが、この肉塊の壁を越えて、必要な場所に電気的な衝撃を与える事が出来るだろうか
下手をすれば、完全に止めを刺してしまうかもしれない
最近は、人を救うどころか壊すことしかしていないのだから
御坂(駄目、できない)
僅かながらの腕の動きは、そこで止まる。動きそのものは蟻の足の方がよっぽど速い程度だったが、完全に止まってしまった
御坂(できないよ。そんなこと)
痛みで枯れていたはずの涙腺が一際強く刺激された
こぼれた水滴が地面に染みを作り、その水の感覚が頬に感じられる
視線が自然に地面に向かい、そこでふと、肉塊の影が揺れているのが見えた
御坂(……ぅ)
滲んだ視界のせいで、そう見えただけだろうか。どうせそうだ
だから、期待なんかしない
そう決めた彼女の目の前で、その肉塊はグチャァと音を立てて割け、3つの影が蠢いた
そして少女が伸ばした手にヌルっとした血の様な粘液が触れる感覚が伝わると同時に
その手を確かに握る、男性的な力強さを感じさせる手の感覚も生まれた
390 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/28(土) 02:04:57.65 ID:DvC1qi7bP
超簡潔まとめ
ボストンの某大学だった場所
上条:大規模攻撃から御坂とステイル守って肉塊→グチャァ!
御坂:人質から解放、しかし残念上条は肉塊で自分は動けません
ステイル:頑張ったけどやられた。イェスの術式≒フィアンマ術式?
垣根&イェス:"抑制術式"を上条に壊されて効果が弱まる。作戦通り上条を肉塊にしたらステイルが突っかかってきました。なので倒しました
NY
天草式の皆さん:神裂に襲われて仲間更に一人死亡。もうこうなればとっておきを使ってでも神裂をピヨらせるしかない
神裂:建宮の術式に過剰反応して混乱。本来の脳がコントロール奪回できるかも
CIA本部
刀夜:なにか狙ってる? 過去の事件について知った御坂旅掛を殺した。後知ってるのは青髪かー
青髪&結標:一応来たけど、どうしようかね
ロンドン
アックア:フィアンマの傷痛い→休む→疼く→戦況悪いので加勢するしかない
騎士団長:強くなった天使と戦闘中。辛い
女王:天使と戦闘中。やっちまったのでカーテナを最大主教の元へ託す
リメエア:最大主教に頼まれてカーテナオリジナル借りに来ました
最大主教:角を生やした獅子の面をした人型のでっかい天使使役してローマの天使のお相手
テッラ:消 え た
ロシア
フィアンマ:軍団率いてローマの相手。あーそういうわけだったか把握した
ワシリーサ:フィアンマ何するつもり?
禁書:食っちゃ寝
学園都市
半裸巨人フルボッコタイム。麦野滝壺の助け借りて大型原始崩し発射
大体こんな感じ。何も分かんないね、これ
391 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2011/05/28(土) 02:22:37.98 ID:GnTdoDLVo
禁書さんはいつもどおりだな
佐天さんは……佐天さんは?
392 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/05/28(土) 06:48:59.75 ID:hoOCGcyOo
フィアンマには頑張って欲しいものだ
393 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/05/28(土) 10:38:46.21 ID:Wo42jjQu0
やっぱり負けちゃうのねステイルさん(笑)
394 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/28(土) 13:27:49.26 ID:MUtheKRmo
肉上さあああああああああああああああああああああああああああああああああああん
395 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/28(土) 13:29:27.84 ID:SdvxawfNo
そろそろ佐天さんが活躍してもいいころ
396 :
佐天さんは……もうちょっと待って下しあ
[saga sage]:2011/05/29(日) 18:38:09.45 ID:kPB/O0ZUP
潰れた肉塊の中から出て来たのは、3人の人影
少女には、その中の一人に見覚えがある。そして、その見覚えのある一人は、屈んで自分の手を握っていた
「……ぅ、まぁ」
彼の名を呼ぶ声は十分に出ない。でも、彼はそんな彼女を優しい眼でじっと、しかし赤黒い粘液を体中に垂らしながら、体を屈めて見つめている
その都合上、彼は全裸なのだが、彼女はそこに気恥ずかしさなど感じなかった。無論彼も
上条「悪い、御坂。少しだけ、待ってくれるか」
御坂「……ん」
彼女の頷きを見て、彼はとびきり優しい表情を作った
その姿からは、日本で最後にあった時の様な反応、頭脳で何らかの集積回路が存在し動いているような反応は無い
彼女が知る限り、本物の彼
顎を上げ、少女から視線をイェスの"神の化身"と垣根に移すと、その顔は一転硬くなる
「それでは、手筈通りに」
彼の後ろに立っていた女は言う。年齢的には彼よりも4〜5歳ぐらい上の様で、彼と同じく全裸だ。それが二人。顔も体も同じ
その顔は何処か上条の面影が有り、何より覇星祭のときに会った彼の母親・詩菜に似ている
彼に姉など居たのか? 居たとして、何故ここに
上条はその言葉に頷いた
驚いたのは、イェスと垣根提督
なにしろ、ようやく上条を無効化したと思ったら、増えたのだ
イェス「……ッ。全く、飽きさせないな。姉君たちには」
「こちらとしては、飽き飽きですよ。あなたにね」
新しく現れた女が応える
「その通り。弟分らしく、素直に姉の言う事を聞いてくれていれば良かったものの」
そしてもう一人。言うな否や、彼女らは動きだした
397 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/29(日) 18:39:12.88 ID:kPB/O0ZUP
「ですが、折角お互い体が有るのですから。少々手荒い説教をさせて貰いましょう」
女性らしい乳房に筋肉質の肉体を備えた彼女らは、イェスから見て二手に分かれ、別方向から"神の化身"に向かって進む
その速度は、それまで上条が使っていた方法と限りなく同じだった
しかしその肉体には傷が無い。肉体損傷がリセットされている。故に躊躇無く動ける
そもそもその体は上条当麻のものとは別になっているのだから、遠慮など必要ない
"神の化身"の正面では、垣根が大小若干のサイズが違う6枚の巨大な翼を展開したまま、動かない
御坂やステイルの前に立って動かない上条に警戒しているというのもあるが、根本的な理由はそれでなかった
先程ステイルが放った炎の矢じり。それは確実に不完全な"神の化身"の制御系のある機械下半身の装甲を貫いていたのだ
術式的・装甲的防御機構によって残念ながらクリティカルな被弾には至らなかったものの、人間が一人突っ込むには十分な隙間が出来ている。ポジション的に、彼はそこを覆っているのだ
だから、彼は動かなかった。それに、わざわざ動かずとも、急に現れた女共へ攻撃する手段はある
垣根「急な登場人物にしちゃ、ちょっと積極的すぎだぜ? 動きが分かりやすいんだよ!」
二手に分かれてからは、直線的とも言える動き。攻撃を集中させないために二手に分かれたものの、その狙いは明らかだ
どういう性能を持った存在なのかわからないが、垣根は彼女らに向けてそれぞれ翼の一つを丸々切り離し、全て羽根の弾丸に変化させて機関銃に、残る翼を即席のプラズマ砲塔として弾幕を張る
彼女らが別れた両サイドに、過剰な、それこそ地面を全て分子レベルまで粉々に砕くかのような衝撃が続く
一撃必殺、というより一撃大量破壊の"神の化身"は様子見だ
速度は有れど、一発一発が致命傷の爆発を生じさせる機関砲とそれ以上の大砲が有れば全て避け切ると言う事は出来ない
ドドドドド!!! という機関砲の爆発音の中にバァン! と弾く音が混じる
"幻想殺し"のやりそこないのような音だった
イェス「……そういうことか」
言うなれば、クローン。彼女らの体の大本は殆ど上条当麻の体細胞なのだから。ただ性別のみが異なるのみ
しかし、"幻想殺し"は一つ。本来ならば、その力は御坂達の前に立ちこちらを睨んでいる上条当麻だけのもの
だが、彼女たちには学園都市的な超能力の様に"幻想殺し"を使ってきた経験と仮説的な理論がある。そこに上条当麻の体という要素が混じれば
イェス「同じ愚を何度も繰り返す程、愚かではないということだな。流石、姉君達」
両の手で垣根のプラズマ砲撃を受け止めて、そのまま明後日の方向へ受け流した
398 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/29(日) 18:40:02.62 ID:kPB/O0ZUP
垣根「どういう事だ?」
弾幕が足止めとしては機能するものの、攻撃としては有効的でないことに苛立ちながら、垣根が問い返した
「簡単な話です、よッ!! 対策です」
「処理できない質量を得てしまったなら、それを利用してしまえばいい。それだけの事」
驚いたことに、彼女らは垣根の弾幕の中で回避をし続けながら、彼の疑問に答えた
彼女らはイェスと同じ超高性能なAI。機械的に何かを動かす事は得意だ。そして、垣根の攻撃は今までに散々と見てきている
彼の目標捕捉・攻撃射線の決定など、そういった彼の行動の癖を見抜くには、それは十分すぎた
イェス「上条当麻の遺伝子情報を読み取って肉体を得たか。しかも、"幻想殺し"のおまけ付きとは」
垣根「……冗談じゃねえぞ。"幻想殺し"ってのはそんなに安っぽいものだってのか」
機械下半身の体にいくつも取り込まれたカメラで、イェスは彼女たちの動きを見る
そこに映し出されたのは、"打ち消し"ではなく"去なし"
イェス「だが、研究が足りなかったようだな。完全ではない。むしろ、癖が強過ぎて、第一位の彼レベルの演算能力が無い限り、普通の人間では扱えない代物のようだ」
それは、その通りだった
粗製というにも粗製すぎる彼女らの"幻想殺し"では、完全な"打ち消し"が出来ず、向かってくる攻撃を部分的にエネルギーとして切り取る程度
そのエネルギーを高速行動の原動力と、切り取った残りの攻撃の射線をズラす程度の働きに回す
故に、いくら攻撃の回避が出来ると言っても万能ではなく、垣根の翼が盾として覆っている下半身弱点部分まで到達できない
イェス「それに、だ」
"神の化身"の両腕、その拳に、青白い光が、莫大なエネルギーが集まっていく
イェス「姉君が居なくなってしまえば、当の本人、上条当麻の性能は格段に低下する。随分と劣化しているとはいえ、癖のある能力を扱う肉体が、彼の脳からの遠隔操作で操られている、ということは不可能だからな。確実に上条当麻は上条当麻だけになってしまっている」
イェス「……残念ながら、この大学の敷地は全て河に呑まれることになりそうだが」
神に武器は必要でない。もちろん祭具も。その存在だけでそれは全ての道具を上回る
そう定義付けられた"神の化身"はその両の手を上条へ向けた
「神にも悪魔にもなりかねない存在を打ち倒すのに、大なり小なりの損害など、気にしてはいられないからな」
399 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/29(日) 18:40:38.33 ID:kPB/O0ZUP
"神の薬"ラファエルに関する記述は、他の四大天使に比べ、量が少ない
しかし、確実な要素が一つある。"回復"だ
記述が少ないこと、そして"回復"という要素があまりにも広い意味があること
それらが相まって、彼の可応性は非常に高かった
その彼は"天使"と同等の"復活者"
罰を受けるためにこの世の何よりも苛烈とされる地獄の苦しみでも耐える体でもある"復活者"に、死は有り得ない
例え頭部を破壊されたところで、それは変わらない
苦痛を受けるには精神が必要だ。その精神が存在する為には頭脳が必要だ。つまり
脳を含んで顔を真っ二つにされたところで、頭脳の回転は止まらない。彼のこの世での存在は止まらないのだ
しかし、消耗はしている。同時にアックア達への復讐心に近い心情もある
まだこうして存在が有るという事で、天使たちの戦闘に紛れてロンドンの破壊された市街を這う彼は、自分の信じるものを諦めていなかった
アックアを倒さなくては、イギリス清教を破壊しなくては
彼の中でその意思の濁流が奔り回る
そこへ解き放たれたように生じた抑制の半解除。瀕死とも言える彼には都合がいい
同時に、"暴れるな"というフィアンマの意思が更に強まる。彼にとっては煩わしいものではあった
言うなれば、神と天使の関係である彼ら。しかし絶対的とも言える神と天使の上下関係は、完璧ではない
ルシフェルという例がそれを物語る。彼の天使は神に対して弓を引いた。つまり、神の意思に反することは、そこに強い意思が有れば可能なのだ
そして彼にはそれだけの優先したい強い意思が有った
フィアンマに反僕することは可能。だが、根本的に戦うには力が足りない
そんな彼の目の前に、衝撃が生まれる。それは、叩き落とされたローマの使役天使だった。狂戦士の彼らは自らの被害を顧みない無茶な戦いをする。故に、叩き落とされたと言う事は、致命的に近い損傷をしてしまったと言う事だ
ここで、"回復"の可応性が意味を見せる
人間は物を食べることで生きるエネルギーを得る。それは治療とか医術とか以前の、本能的な"回復"行動と言えた
現に、怪我を負った野生動物は食う事でエネルギーを多く取り込み、"回復"に当たる
"食事"と"回復"は不可分。故に彼は
エネルギー確保の為に吸収した小麦粉を再度展開し、自らの巨大な口として
天使を喰らった
400 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/29(日) 18:41:07.92 ID:kPB/O0ZUP
"打ち消し"には対象に対して同じだけの力が必要。しかも"幻想殺し"は"どんな異能の力でも"それは可能だ
つまり、それだけの力が"幻想殺し"には有ると言う事。その引き出しは無限に近いと言う事でもある
二つのAIを失った彼は確かに演算能力に大きな下降が有ったと言える
しかし、本来の彼の"幻想殺し"に演算は必要ない。そして
上条当麻の頭脳は"幻想殺し"を体の内にではなく、外に展開するという経験を積んでいる
それはつまり、"制御は出来ないが、外部出力は出来る"という可能性
今まさに、彼に向って"神の化身"からの攻撃が行われようとしていた
"相対するもの"。皮肉にもこの名前を付けたのはアメリカで、それは能力に対して非常に適切な名称だった
"幻想殺し"は弾きだす、その力の大きさを
"相対するもの"は弾きだす、その力に相応の力を
上条当麻は弾きだす、その力を、外へ
何が起きたか
両の手を"神の化身"の上半身へ向けた上条当麻の、その両手から
"神の化身"が放つよりも早く、同等の力をその胸に向かって射出した
あまりにも大き過ぎるそれは、上条の手のサイズに圧縮するには無理が有り、"化身"の上半身全てを覆うには十分な面積を持った一種のビームの様にして、上半身へ向かう
化身に向かって進むその余波だけで、垣根は地面に叩きつけられ、二人の女も地面に膝を付けた
"神の化身"としては、当然、そんな物を真面目に受けるわけにはいかないので、直ちに同等の"神の力"の濁流を放つ
空中で正面から衝突したその両の大出力は、莫大な衝撃を生じさせる。それだけで地面を砕くには十分な力
イェスが生じさせた緩衝用術式である白のカーテンが無ければ、かなりの被害が生まれていただろう
垣根は頭上の光景に驚愕し、二人の女は「凄い……」という声をシンクロさせる
イェス「神と、打ち分けるか……!」
401 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/29(日) 18:41:36.32 ID:kPB/O0ZUP
これは上条が今まで右手で行っていた事を現出させただけにすぎない
逆に言えば、上条当麻は今までこんなことをずっとしてきたのだ
だから彼には、小の驚きと同時に、大の平生があった
イェス「カミジョウトウマ。神上にも神浄にも、討魔にも到魔にも成り得る存在。神にすら相対するのは当然か」
互いに相殺し合った末、空間が元に戻っていく
しかし想定以上の力を緩衝した白に、処理しきれない紫電が纏っている
保持にも限度が見えてきた
イェス「だが、こうも見せつけられては、是が非でも殺さざるを得ない。四つの可能性はどれも必ず"終末"による破滅をもたらすからな」
言って、"神の化身"はその巨脚を動かした。緩慢な上半身に比べ、下半身の動きは鋭い
水没するきっかけとなった脚も直してしまったのだろう
さっきまで垣根が守っていた弱点は露出させたままだ。あれだけの攻撃が出来る相手に、そんな局所的な防衛に何の意味が有るだろうか。動きまわって攻撃そのものを回避することしか方法は無い
上条「違う」
沈んだ声で、しかし強く上条は言う
上条「破滅になんてさせない。止めて見せる」
イェス「笑わせるな。君が根源である"終末"を招いたのだろうが」
上条「だからだ。俺には、その責任が有る。今までどれだけのものが失われたとしても、どれだけの人が死んでしまったとしても、だからと言ってこれ以上の破滅を認める訳にはいかない」
上条「それは、そこだけはお前も同じなんだって思う。だけど」
上条「お前はその目的の為に犠牲を作って来た。他人の弱みを、利害って形で利用して敵を作った」
上条「確かにそれで人は纏まるかもしれない。でも、それは全部じゃない」
上条「そのまとまりの外は見捨てられたままだ。利用された人間も、争いも、傷を残したまま苦しむしかない」
上条「お前は俺よりも先に"終末"について知ってたんだろう? "時項改変"についても。なのになんで人と人の敵対を利用した」
上条「これだけの力が有って科学にも魔術にも理解が有るのに、地球規模の問題だってのに、どうして全部を纏めようとしないんだ。どうして選別しようとすんだよ!」
402 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/29(日) 18:42:06.16 ID:kPB/O0ZUP
声を荒げる上条に、イェスの言葉より先に違う所から声が来る
垣根「甘えたこと言ってんじゃねえ!」
それは地面に叩きつけられた垣根提督だった
垣根「イェスが利用する前から、どこにでも対立は有ったんだよ。表も裏も、世界中どこでも、人間と人間はお互いに敵になる」
垣根「そんな中で"終末"が来るから団結しよう、なんて言われて誰が纏まるってんだ。仮に纏まったとしても、それが集団として動けると思うか?」
有り得ねえんだよ!! と彼の翼は力強く上条に向かって突風を送った
垣根「少なくとも、俺が見て来た世界はそんな優しいもんじゃない。理不尽に理不尽が重なるもんなんだよ!!」
垣根「"終末"なんて一番理不尽な現実を作ったお前が、生きてる奴と死んじまった奴っていう、一番どうしようもねえ選別をさせてるお前が、対立心を煽ってでも救おうとしてるイェスに文句を言えたもんじゃねえだろーが!!!!!」
彼の発言には確実に強い感情が、そしてその感情を作った経験が感じられた
イェス「現実には理想だけでは進まないこともある。仮に、私が君の言うような方法を採ったとしても、最初から聞く耳を持たず選民している連中が有れば、無駄に時間を費やしてしまうだけだろう」
彼の言いたいのは、恐らくローマ正教のことだろう
教皇が代わり、ますますその傾向は強くなった
イェス「余裕が無い中で、無駄に終わる可能性が高い行動をするのは、指導者として正しい方法といえるだろうか」
イェス「それよりは少々悪い結果でも、より確実を採る方が正しい。少なくとも私はそう思う」
イェス「……だが、そう考えている私でも、僅かな可能性に手を伸ばしてしまった。それが君だ」
イェス「ここアメリカに幼い時からデータの有る君の、その潜在的な能力の高さ。"神"ですら相対することが出来る君の力を利用出来れば、とね」
イェス「そこには唯一の肉親っである姉君達という存在も要因にあったのだが」
イェス「結局はそのリスク部分、君と私の和解が得られないという対立が表面化してしまっただけだった。今このように」
イェス「そうなればその過剰な力は危険に映る。だからその問題を解決しなければならない。理想とは裏腹にな」
「結局そうやって、万事の対立と選別が生まれる」
「ですが、私達も、御坂美琴も、ステイル=マグヌスも、もちろん当麻も殺される訳にはいきません。和解は出来ない。なら」
403 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/29(日) 18:42:40.06 ID:kPB/O0ZUP
上条「戦って、力で屈服させるしかないってのかよ」
上条の声からは少々語気が失われていた。しかし、それは分かっていた事でもあった
垣根「……それが現実だ、"幻想殺し"」
そして、全員が動きだす
"神の化身"の回りに、数多の物質が、それこそ大学の瓦礫全てと言えそうな物質量が浮かび上がり、両の手と頭部が有るべき位置には"神の力"の集中が生じ
垣根帝督は再び飛び上がり、イェスの浮かび上げた瓦礫と未元物質を混ぜ合わせる、翼を含めた体を半分程通常物質に置き換えて、上条に突っ込む
イェスは複数の"幻想殺し"の標的を生じさせてその出力目標をバラバラにし、垣根は物質的な特性を未元物質に付加させることで上条への攻防の弱点を封じる
完全に上条当麻対策と言えるその攻撃布陣に弱点は無い。たった一つ、ステイルが残した場所を除いて
槍の様に変異した体で上条に迫る垣根
そこには未元物質ならではの特殊性は無く、純粋に上条をひき肉に変える勢いのみ
そして、その後ろからは無数の瓦礫が銀河の如く押し寄せてくる
垣根「これで終わっちまえ"幻想殺し"ァァァァ!!」
無機質な金属と混じったその顔には、人間らしい感情を大きく乗せている
「やらせません!!!!!」
そこへ、上条を守るべく女が一人猛烈な勢いで横から垣根に跳び付き、押し飛ばした
中途半端な"幻想殺し"の反応と中途半端な未元物質が相互に反応して、彼と彼女は反対方向に吹き飛ばされてしまった
脅威はそれだけでなく雪崩を打って押し寄せる大量の瓦礫と放たれた"神の化身"の白の濁流。発射時点では個別のそれらは、それぞれ別属性の力を持ち、丁度上条の位置で組み合わさって全てを、それこそボストン全土を吹き飛ばすつもりだった
そして、それでも駄目ならば直接上条の頭上に跳び込んで機関砲の掃射と踏み潰しを与えるつもりだった
結局は、それらは全部 つ も り だった
出力目標をバラバラにする。イェスが採ったその方法は実のところ的外れだった
404 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/29(日) 18:43:35.33 ID:kPB/O0ZUP
何しろ、一番大きく、そしてずっと有り続ける対象が残っているのだから
"神の化身"そのものと言う、一番"強い天使の力=神の力"が集中している、それ
その体の持つ力の大きさは、押し寄せてくる白の濁流や物質などの比ではない
「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
苦痛ともとれそうな上条の雄叫び。そんな出力では、撃ち出す方にも衝撃が酷かった。そんな中で、御坂が触れている自らの脚の感覚が彼に力を貸したのかもしれない
あまりにも極太な若干の青色を帯びた力の纏まりは、否、まともに集約させる事の出来なかったそれは、放った上条当麻自信も過ぎた力だと言う事が分かる
こんなものを直接"化身"の方へ向ければ、下端が擦れるだけで地面に数十km単位での破壊をもたらす
だから彼は、意図的に角度をかなり上に向けた
殆ど天空に打ち出された"幻想殺し"により、延長線上にあった雲や人工衛星、そして地球そばまで押し寄せていた隕石群の第二波の一部を掻き消すことになり、ボストンの地面にはそれによって太陽光が遮られ、広大な日陰が数秒間生まれるほど
その幻想殺しの広すぎる範囲には"神の化身"の上半身も巻き込まれていた
当っているのが一片とは言え、その同規模の力は、ガリガリガリガリと"神の化身"の肉を、そして骨までも削いでいく
同時
一人だけ行動を残した存在
上条を守って垣根を突き飛ばしたのではない方の女が、動きを止めた"化身"の機械下半身に開いた、ステイルが差し違えて作り上げた急所へ、足の一部を分解させて得た爆発の推進力で突っ込んでいく
この機は逃せない。直撃でないのだから、削られているとはいえ"神の化身"は回復するだろう
彼女もまた必死だ
「これで終いです、我が弟イェス!!!」
405 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/29(日) 18:44:03.18 ID:kPB/O0ZUP
青髪たちが見ていたディスプレイは、真っ白に染まっていた
結標「これが、"幻想殺し"……?」
明らかに別次元の力の動きに、女はそれ以上の言葉は無い
一方で青髪「いったれぇ上やん!!」と興奮していた
そして、それを見ているのは青髪、結標以外にも一人
上条刀夜
彼はその顔に壊れた様な笑いを作り、微小機械の注入機を首にあてていた
みるみる内に彼の体内にはイェス側の微小機械が流れ込んでいく
その役割は、"肉体逃避"
上条の中にあった彼女たちの様な直接的な行為体を持たない彼は、重要人物用に調整されたこの微小機械によって乗り移る
データの入っていない情報記憶媒体のような、本質の欠けたAIの基盤を、注入された各個人の脳内に構築し、そこに入るのだ
本来ならば"肉体確保"とか訳されそうなこの現象を"肉体逃避"と記されているのはとある理由から
その理由とは、この機能がイェスの能動的な作用の他にもう一つ、イェスの本体が何らかの理由で壊れた時に自動的に逃げ場として入りこんでくる、という作用が有るからだ
つまり、この微小機械が注入された人間の体はイェスのシェルターとなっている
だからこそ、"銀貨30枚"はこの微小機械が入った人間を片っ端から暗殺していた
同じような働きはアメリカの各拠点の施設が持っているが、それも既に全て叩き壊している
つまり、肉体逃避もバックアップも無くなったイェスには逃げ場は無いということだ
だが、逆の要素もある
他の逃げ場を全て叩き壊していて、残り一つにしておけば、イェスが倒れた場合、その逃げ場に確実にイェスと言う名のAIが入ってくるのだ
そういう機能が入った微小機械を彼は彼に打ち込んでいる
それを邪魔するものは居ない
刀夜「さぁ、我がものとなれ、イェスよ」
そう小さく呟いた声を、結標は聞いていた
406 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/29(日) 18:44:44.47 ID:kPB/O0ZUP
姉のものと思われる声が機体内から反響し、イェスの意識に入った時には全てが遅かった
彼女はその肉体を壊しながら、並行してイェスの入った機械部分を破壊していく
その速度に対して、体を持たないイェスはどうしようもなく、ただ、破壊を待つのみ
(あなたをこうさせてしまったのは、多分孤独なのでしょうね)
既に声を出すべき機関がつぶれた彼女は、それでも進んでくる
イェス(何をいう。私は会話相手には困ったことは無いよ)
微小機械から発せられる極僅かな電波が伝える声に、彼は反応した
(でもそれは、業務的なコミュニケーションでしょう? そんなものは孤独を満たしてはくれません)
(私達、と言っても今あなたと会話できるのは私だけですが、私も、孤独は辛かった)
(当麻に入るまでは、AIという形で意識を持ちながら、ただの物質としてずっと過ごしてきた。自分を処理しようと言う動きも有った)
イェス(……)
(その時の恐怖と孤独が故に、私は当麻に感謝しているし、依存していると言えるでしょう。ですが、それだけではありません)
(彼の肉体を通して得た、人間同士の肉体的な触れ合い。愛情表現もあり、悲しみもあり、そして、敵対感情も私は肌で感じた)
(だから、私は当麻の矛盾だらけとも言える行動にも理解が出来るんです。それを知っているからこそ、て犠牲を出すと言う選択が辛い方法であるとも分かる)
(あなたもそれを理解することが出来ればこうはならずに済んだかも知れません。恐らくですが、あなたもそうなれる可能性は有ったんですから)
イェス(私に?)
(ええ。方法はどうであれ、私達という存在が一要素として、あなたは当麻に協力を迫ろうとした。そして、垣根帝督があと一歩で消滅してしまう寸前での、あなたの容赦のない脅しと手法)
(あの行動は明らかな怒りを感じ取れましたからね。彼のことが大事だったのでしょう?)
イェス(フ、そうか。そういう感情も、私には有ったのかもしれないな。だが、彼は彼の役割が有る。それが重要だから、私は強く抵抗した)
407 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/29(日) 18:45:17.28 ID:kPB/O0ZUP
(それには"救世主"との関わりが?)
イェス(何でもお見通しか。流石、姉君だ)
(フフフ。こうして思考共有をしていれば、考えていることは分かりますよ。なるほど、この後は彼に託すとしましょうか)
会話をしながらも、彼女の腕がイェスの本体基盤、拳大のそれに到達した
その手には、ずっと割れる事無く残っていた、上条が貰った栄養ドリンク、つまりは液体だ
外部からの力での破壊ならば、術式的に瞬時に復活させるような工夫が有るかもしれない
しかし、基盤に流れる電気によるショートならば、それを引き起こす液体が彼女のものであれ、壊したのは形式上イェス自身となる
つまり、そういう工夫は無効になる
イェス(全く、随分とクリティカルなアイテムを持っているじゃないか。不幸だな)
(そういう運命だったのでしょう。ですが、安心して下さい。あなた一人では逝かせませんよ)
イェス(それは心強いな)
(仕方が無いでしょう。弟は寂しがり屋さんのようですからね)
ジュッ、と小さく、機械下半身の中で音が鳴った
たったそれだけで、イェスの全てが崩壊を始める
制御能力を失って維持不能になった"神の化身"は、その莫大なエネルギーが行き場を失って、大部分は空に、一部は地に、一部は機械下半身に流れて行く
下半身にそんな力を許容することは出来ず、それは音を立てて大破した
空に逃げたエネルギーは、維持のための力の供給源としての化身を失いつつも、それまでに溜め込んだ力の余剰によってギリギリ維持されていた白の緩衝術式によって吸収され、そのまま力を抱えたまま天空へ消えて行く
地へ逃げたエネルギーだけが地面を砕き、大学の敷地内にできた湖を更に大きくした
ボストンの大学だった場所に残されたのは、垣根と上条、上条から生まれた女、御坂、ステイルだけとなった
408 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/05/29(日) 18:45:58.39 ID:kPB/O0ZUP
麦野の両腕の延長線上に沿って放たれたのは電子の極太円柱、光の濁流
ブラックホールの生成実験にも使われるフラフープ。そこに使われるエネルギー量とはすなわち、ブラックホールをも作ってしまう程の莫大である
そんな強力無比なエネルギーを用いる高火力兵器のビームは、学園都市外周部から一気に、倒れている巨人まで伸びた
彼女の言っているように、半ば全裸で大胆にも股をこちら側に向けて倒れている巨人の姿は、無様とも言えた。その股間を撃ち抜くように、彼女は狙い撃ったのだ
放出してしまえば、つまりは安定的な標準や出力数値が分かってしまえば、楽なものである。射撃前とは違って、余力が生まれる
いつもは撃ち終わりまで一瞬だが、蓄積された電子を撃ち果たすまでに時間がある今回は、その余力を十分に感じることが出来る
そして、滝壺の補助により、彼女の余力は、当然、予想していたよりも大きくなる
倒れている敵の能力は彼女にとっては未知数だ。余力があるなら、その余力を使って出力を上げることが出来るなら、限界まで上げるべきと考えるのは自然なこと
光の濁流が、更にその太さを大きくし、巨人の四肢の先端と頭を覗いた全てを覆う程になる。その一方で標準が徐々にブレていく
管理分室で初春の死体の横に立ち、麦野の能力補助を行っている滝壺の膝が、思わず崩れそうになった
滝壺「いけない、むぎの。それ以上は、危ない」
その声は傍らに立つフレンダだけでなく、離れた麦野にも伝わっていた
しかし、彼女は出力を下げたりしない。逆にその威力を更に上げようと試みる
管理しきれない電子が発生し、光の円柱を取り巻くように無数の紫電が発生する
明らかなオーバーワークを彼女が意識した時には、標準に用いた両腕が肘から先が無くなっていた
そんなことに対して、少しの動揺も生まれない訳が無い
既に限界領域である為に、麦野にも滝壺にも、動揺分を補って今の出力を維持することなど出来はしない
だがそれでも、麦野は出力を下げようとはしなかった
高密度の電子の残量は使い果たしつつある。このまま強引に最後まで、という考え
背景には、これ以外に出来ることが無い、という現実
そして何より自分の生命を賭してまで、友人の為に協力した初春と言う少女の強い意志
409 :
少ないけど本日分(ry イェス死んだああああやったあああああ
[saga sage]:2011/05/29(日) 18:47:38.75 ID:kPB/O0ZUP
そのどちらにも、LV5であるという自負からか、それとも彼女自身の自尊心か、彼女に負けたくなかった。彼女に応えたかった
だからどうしても、出力を弱めるなど出来なかった
しかし、しかしである。1+1=2<3なのだ。3の大きさが必要な所に2ではどうしようもないのだ
これ以上は、麦野の体が、精神が、物理的にも精神的にも壊れるという悪循環に入ってしまう
管理分室で滝壺が片目を開くと、電力残量はまだ20%近く残っている
このペースでは、保たないことは明白
だから滝壺は、より強く麦野に干渉した
それは既に能力補助という枠を超えて、"乗っ取り"とも言えるほどに強いものだった
徐々に蛇口の栓を閉めていく。滝壺はそういうイメージだった
――――――だが、
残量16%を残して、パッタリと光は消える
原因は、能力を行使していた人間が意識を失ってしまったこと
麦野は出力の無理な領域での維持に固執した。一方で、滝壺はその逆、出力低減を強く訴えた
AIMを介して、"自分だけの現実"というアイデンティティに関する領域で、つまりは麦野沈利という存在の中で、二つの真っ向から背反する意識が働いたことになる。経験したことの無い明らかな異常事態に、麦野の脳は抜本的な回避策として意識を立ち切ってしまった
それは本来、彼女の脳が自信を助けるために採った行動なのだが
滝壺にできるのは、早い話が他者の能力に干渉するという事
つまり、麦野自身が能力を行使できない状態となってしまっては、どうしようもない
当然、滝壺には意識を失ってしまった麦野を起こす事も出来なければ、彼女を飲み込もうとしている高温の電解質から能力を使わせて彼女を守ることも出来はしない
その結果
例え太陽系外に出ても能力者の居場所を捕捉できる、AIMストーカーという能力を持つ彼女のサーチ範囲内から、麦野沈利という存在が放つAIM拡散力場を感じることは永遠に出来なくなった
410 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/29(日) 19:10:45.62 ID:VFsnFH4Lo
麦野・・・(´;ω;`)
411 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/05/29(日) 20:49:20.96 ID:qC8r4IlN0
え?
嘘?
麦野しんだ…………?
412 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/29(日) 21:30:43.12 ID:4EitoA7zo
むぎのん……今回は上条さんとのフラグも立ってないのに……
413 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2011/05/29(日) 21:45:42.11 ID:OJ+oizYso
上条さんから上嬢さん…しかも二人!
414 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/05/29(日) 21:46:02.95 ID:yUgq3YRBo
当夜さん……
415 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/05/29(日) 22:17:10.07 ID:pSoONYy7o
親父の頑張り意味なしってことか
416 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/30(月) 16:15:51.46 ID:5aHNLsXSO
完結したら裏設定とか色々教えてほしいな
417 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/05/31(火) 12:38:34.51 ID:CN/2NoxAO
AIちゃんのおっぱいってどんくらい?
418 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/06/01(水) 19:21:59.33 ID:H9oRmqClo
麦野よく頑張った…だが余り16%ヤバイ
419 :
裏設定?えーとえーと
[saga sage]:2011/06/02(木) 01:14:55.45 ID:Slt1fRmaP
一方「コイツは、"原子崩し"? タハッ、伊達にLV5は張ってねェってことだなァ、麦野沈利ィ!!」
一方通行にとっては完全に意図しない場所から放たれた圧倒的な威力の電子の塊は、倒れた巨人に止めを刺すには十分すぎた
その光が消えた今、残ったのはビームが巨人を貫通して刺さった跡にできた100m級の巨大な穴と、巨人の頭と右手そして残存勢力によって断ちきられていた右膝から下である
もはや巨人が巨人らしい形を取り戻す事は出来ないだろう
光球は失ったエネルギーを急速に回復させるため、残った中では一番の塊である右膝から下へ進む
そして、球だった形を大きく変形させて、顎の外れる蛇の頭部を思わせるフォルムとなり、右足の丸飲みを始めた
獲物を丸のみする大蛇としか表現のしようが無い
一方(作法もへったくれもありゃしねェ。が、コイツは俺にとってもチャンスだ)
一方通行からしても、この最終個体の光球や巨人、更には能力者の能力の原動力である"何か"を調べるには絶好の機会である
更には、やり方は分からないが、失った片翼分の"何か"を補充する為にも、一方通行は残された巨人のパーツの一つである顔へ向かった
大蛇のように相手を丸のみをする様な大きな口を持ってない彼は、最初に光球が吸収をした時の様に、巨人頭の中に飛び込む
巨人の頭の中は、最初の雲の中を貫通したように感じた時とは、つまり互いが互いへ干渉せず自らを守ろうとしていた時とは、異なっていた
と言うのも、巨人はもう既に自然蒸発を待つ身で、一方通行は巨人に干渉しようという意識を持っている。状況があまりにも違うのだ
巨人の側が消え行こうとしているのを感じた一方通行は、調査と吸収の為に干渉を急いだ
やり方は巨人を貫いた時の黒の槍と同様に、自分の体の一部と定義されている黒翼を、つまり能力そのものを拡散させて、そこに有る全てを取りこむというもの
そこには当然一方通行が求める"何か"の塊も含まれているだろう
結果を言えば、その行為で正解だった
420 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/02(木) 01:15:40.13 ID:Slt1fRmaP
周囲の頭は消え去り、一方通行の精神的な疲労はそのままに、ただ、消費された"何か"が満たされていく
しかし、問題はその"何か"である。まだそれは、巨人であるヒンドゥー教の破壊神シヴァそのものだった
その存在は、一方通行に取りこまれることで、逆に一方通行に干渉して来たのだった
(……汝もまた、我らと同じ,orh存afe,ue在emeか.)
頭の中に響く声には、ノイズが混じっていた。意味の分からないノイズはカットするしかない
(学ぶ者よ。消えるまでの僅かな間、我を倒した汝の問い……に、応えよう)
一方(俺の問いだと?)
(言葉にせずとも分かる。簡潔、汝も我らと同じなのだ。ただ、人の器を持っているだけの、こと。それは汝らの言葉で聖人と呼ばれし者達と、……変らない)
一方(人の器を持っているだけの違い、っつうことは使ってンのはやっぱり同じ力、エネルギーってことだなァ?)
(左様。少し、与えられたものが、力量が異なるだけ。汝らが魔術と呼ぶも、超能力と呼ぶも、天使や神と呼ぶも、用いるものは同じ。同じ力)
一方(何処にンな馬鹿みてェな力が有るってンだ?)
(どこにでも。故に汝の知る"幻想殺し"は力を持ち、その強大な力を持って相対することが出来る)
一方(お前、三下を、"幻想殺し"を知ってンのかよ)
(知っている。そして、汝の思う"幻想殺し"と真実の"幻想殺し"の違いもな。あの存在は対であって、善や悪と言ったものの単純な価値観に非ず。故に汝の思うような英雄などではない)
一方(ちょっと待て。アイツは一体、何の"対"だってンだ?)
(語れる言葉は無し。近く言うなれば、万物か。それは、汝らを作った汝らのみぞ全てを知る)
(そして汝らは我らを作り、汝らを作った。だが、我らや汝らが出来る前から、我らのもちいる力、汝が悩む力、そして我らに器を与えるものは有ったのだ。汝らによって)
421 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/02(木) 01:16:15.79 ID:Slt1fRmaP
一方(ってェことは俺達がお前らを作ったってのか?)
(汝らは汝らで無く、汝らが我らを作る前から、この力はあった。だが汝らが誕生する前からあったかどうかなどは、存じぬ。我らが存ずる前の過去の話を、どうしてすることが出来ようか)
一方(何が言いたいンだ。汝ら汝らで意味がわからねェぞ)
(それも仕方無きことだ)
(ともかく、汝は我を得た。だが汝の我はもうすぐ消ゆ。されば、汝の体から我であった器、力は溢れる。人の器しか持たぬ汝では、小さすぎるのだ)
(だが汝は既に人の器を超えつつある。その証として汝の道具、その翼は我らの領域のもの。色や形は汝次第だが、力量はその次第ではない)
(力量の限界を超えるのは容易。既に汝は人間として必要な部分をその力で補っている。故に汝はまだ人間であり、そして人間に非ず。汝の中の人間が我らの力へと置き換わり、その器が我らの器と同じものとなれば、自然と領域は広がろう)
一方(俺の"人間の器"がテメェらと同じになれば、ってことは、つまり)
(正答。そして期限だ。これより我は汝の中から消える。しかし忘れることなかれ、我らと汝らが同じであることを)
(そして忘れることなかれ、汝も我らも、汝らに作られた存在であるということを)
そして、一方通行の頭に聞こえる声は消えた
ほぼ同時に、言葉通りに一方通行の中に納まりきらないエネルギーが溢れ、彼の体表あらゆるところが淡く光る
溶け混ざっていた衣類と彼の皮膚から、衣類の成分だけが排出され、全身の到る処にあった火傷は、打撲は、切り傷は、いつの間にか無くなっている
原理は、失った脳機能を妹達という他者の能力、すなわち力によって補助しているのと同じ
先程まで戦っていた巨人の体が、超能力や魔術そして現れた存在を構成するエネルギーの、浪費や消費という形で失った形を戻すのと同じ
それはある意味では、土御門の持っていた肉体再生と同じでもあるが、治すという訳ではない
能力に、つまりそういうエネルギーの塊に、置き換えたというのが正しい
そうやって彼はまた少し、巨人の言う人間の器から離れていく
ようやく昇り始めた太陽が、学園都市を照らしはじめた
422 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/02(木) 01:16:46.17 ID:Slt1fRmaP
「どうして、こうなった……」
それは、突然のことだった
バチカンの空に、いや、地上から上、その全てが暴力的な光に包まれる
イタリア、ローマ市まで丸々飲み込もうかという光の奔流の原因は"天使の力"
その、暴走、暴発
表面的に見ればそれは、確かに暴発と言うべきなのだろう
しかし、そこにはそうなるべき確実な理由が有った
大天使ミカエルへの過干渉と、平和を求める同じローマ正教信徒への言われなき理由による虐殺
そして、抑制の"完全な"解除
彼がここに現出している目的・理由はローマの信徒の守護
それを元々の理由として、"確実にローマを攻撃してくる可能性のある敵"に対して、"攻撃される前に先にその敵を殲滅"し安全を確保すると言う目的の為、彼は彼の権限をローマ正教に貸し与えていた
しかし、それはこじつけと言っても過言ではない
故に、歴代の魔術師たちはこの、言うなれば、ミカエル使役術式に対して、そのこじつけを無理のないものにする為に、長い時間と研鑚を重ねたのである
その研鑚の中で生まれた、力を借りる為の干渉の制限
それは推奨領域では無く、厳守領域だった
しかしその制限は破られてしまった。そして、それだけでも大きな問題であるにもかかわらず、その教皇は自己に反するものの排斥を強行した
ミカエルという存在からすれば、それは信徒と信徒の争いである
義という面では、その両者の言い分は理解できなくもない。"終末"に託けて襲ってくる邪教も有るだろうし、"終末"だからこそ無意味な争いは止めてただ救いの時間を待つべきだという意見も理解できなくない
理由は同等。しかし一方には問題があった
天使にも役割が有り、一人一人の違いが有る。更にイエスの使徒たちですら、個々の考え方に違いがある。それは仕方ないことだ
しかし、それを理由に争ったりしない。それが自然であるから、そんなことを理由になど出来はしない
だが、このローマの信徒と信徒の戦いは違う
片一方が、しかもそれら両者のバランスを取るべき存在、すなわち教皇の命で、一方に対して過剰な弾圧をしているのだから
信徒を等しく平等に守護するべき彼にとって、これは黙認出来ないことだった
加えて、どんな存在であっても、動きを束縛されることへは、本能的とも言うべき拒否反応が生じる。すなわち過剰干渉が導くのは、その"反発"
423 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/02(木) 01:17:27.95 ID:Slt1fRmaP
そして彼の存在意義的に黙認出来ないローマの支配者階級の言動
暴発が起きる前の時点で既に、彼の怒りは確定していた
それを生じさせなかったのは、"抑制"という特別な状況によるもの
とあるきっかけによって、しかし、その抑制は減じられ、遂に途絶えた
そうなれば、こうなるのは明白だったのだ
"抑制"という現実を、ローマ正教は魔術師・教皇も含め、把握していなかった
厳守領域でミカエルの干渉を止めていれば、又は、例えそれが解決のない沈黙や無視という形であっても平和派を直接弾圧・粛清しなければ、こんなことにはならなかっただろう
このような事態にまで想定していたバチカンの聖堂と宮殿に仕組まれた術式によって生き残ってしまった彼は、そこでようやく過干渉については後悔する
バチカンの周囲は何か強い力によって、それこそ最大威力の戦略核兵器でも爆発したのかとも思われるほど、何もかもが吹き飛んでしまった都市
そこに、半壊してもまだ残っているサンピエトロの大聖堂とバチカンの宮殿
そして、穴のあいた聖堂のドームを通して彼を見下ろす、鬼の形相のミカエル
周りの枢機卿・侍従は、力のある者はかろうじて姿を残したまま死に、力のない者は姿形を失って死に
残るは、自分自身の身一つ
バチカンという最大の防御術式が彼を守ったのか、教皇という地位が術式として彼を守ったのか、彼の魔術的な技術が彼そのものを守ったのか
あるいは、直接罰を下すために、目の前の猛った大天使がわざと彼を残したのか
(そんなことはもう、どうでもいい)
どれが理由で有っても、変わりはしない
夜中であるのにその体は燦々と輝き、そのお陰で痛いほどに自らに怒りの矛先が向かっているのが分かる。この現実は変わらない
彼、教皇ペトロ=ヨグディスは後悔した。しかし
(まだだ。まだだ私は生き残る術が、有るはずだ)
どうにかこの状況を変化させる術は無いだろうか
それこそミカエルの足先を舐めようかと言う程にまで咄嗟に考えた彼の手に、ゴロッとした感覚が有った
それは見た目はただの石ころ。しかし、"神=イエスを殺した"という真の意味での"神殺しの霊装"でもある
槍の形をしていないが故に、完全な本物であるといえるそれは、彼の持つ最強の攻撃霊装と言えた
(これを用いれば、この状況すら看破出来る。してやるぞ)
424 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/02(木) 01:18:10.85 ID:Slt1fRmaP
ガクガクと恐怖に震える脚を黙らせて、彼はその石ころを掲げた
そして、その石を持つ手の周りに、自らの血で術式を構成し、解き放つ
彼の手から生まれたのは、稲妻のような速さで巨大なミカエルのわき腹を狙った、槍の様な、矢の様な閃光
その先端には、"神殺しの石ころ"
一般的なロンギヌスの槍を見立てた術式に神殺しの石を掛け合わせたそれは、"イエス=キリスト(=人間)を殺す"という目的では、十字教最強の術式だっただろう。防ぐ術式は有り得ない
しかし
(―――――なッ?!)
恐怖に加えて魔力を使いきったことで震える体で、してやったという表情を浮かべる顔を浮かべるペトロの目の前で、無情にもそれは簡単に弾かれた
現実を見て、彼の脳に驚きが生まれた時
既に、彼の体はこの世から消えていた
所詮、それは"イエスの死"のきっかけでしかないのだ。ロンギヌスの槍であっても、神殺しの石ころであっても
その死とは、昇天であり、天界へ帰ると言う意味では一種の帰還でもある。つまり彼は人類の罰をその身に背負い、人間の身を捨てただけ
本質は"脱・人間"である。そんなものが、元々人間でない存在に通じるだろうか。考えるまでもないことだ
故に、彼はミカエルに敗れた。当然でもあるが
ふと、役目を終えて消えるミカエルの肩に人影が現れた
「信仰とは信徒が総作するもの。それが教皇であっても、たった一人の個人が作るものではない」
誰も聞く者が居ない中で、彼は言う
「それが分かっていれば、このような結果にはならなかったか」
教皇を召したミカエルの一撃によって完全に消滅したローマ正教の頂点を見て、その人影は残念そうな顔を浮かべた
「……ペトロよ。神の意図を知らしめる石を持ちながらも、結局は全ての民の意思に殺されたのだ」
「信仰の対は恐怖。教皇であるそなたが恐怖をもたらしては、それは信仰ではないのだよ」
そして、その人影はミカエルと共に消えた
ボオっとしたその人影が先の教皇であるマタイの姿に似ていた、という事実を知る者は居ない
そこにあるのは、夜の闇と、ただただ砕けた大地のみなのだから。そして"神殺しの石"は、その大地に混じってしまった
425 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/02(木) 01:18:50.60 ID:Slt1fRmaP
「そんな、むぎの……」
言って、少女は崩れた
管理分室の冷たい床に、トン、と膝から落ちる
初めての能力の使い方をして、しかも初体験で限界まで力を使った。疲労が無い訳がない
しかし、本当に彼女の腰を落としたのは、心理的なショックだ
あの男に麦野が死んでしまうから、手助けして欲しいと言われ、ここへ来た
そして確かに、麦野はその行動の全てに自己の崩壊を含んでいた
攻撃をするにも力不足、防御するにも力不足、募る焦り、原動力はこだわり
無茶であることなど、麦野が分かっていなかった訳が無い。その無茶に必ず恐怖が生まれていた事だって分かる
それがあっても、麦野は行おうとしたのだ。恐らく、命や体を失う事に繋がるかもしれないと分かっていて
なにが彼女をそうさせたのかは分からない。もしかしたらこの正面で死んでいる女の子も要素なのかもしれない
私は、麦野を助けたかった。出来れば無傷で。最悪、命だけでも
自分の判断は間違っていたのだろうか。そんなもの、間違っていたに決まっている
最初から無傷で生還しようなんて麦野が考えていなかったことぐらい、考えることが出来たんだ
あの場での正解は、麦野に同調すべきだった。そうすれば、そうすれば
「ド派手に決めてくれちゃって。結局、流石は麦野ってワケよ」
何故居るのかも、そして何故いきなり崩れたのかも分からない滝壺の横で、フレンダがパネルを操作し円柱塔の監視に用いられる外部カメラを動かして、外の様子を見た
昇ってくる日の光によって照らされた、巨人が居たであろう場所には、ぽっかりと大きな穴が空いている
426 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/02(木) 01:19:32.23 ID:Slt1fRmaP
巨人の姿はどこにもない。倒したのだ、あの無茶苦茶な力をもった存在を
それを見て、絹旗も白井も喜ぶ。同時に、今まで無茶をした体から倦怠感が一気に噴き出し、絹旗はその場に腰を下ろした
白井「初春も、御苦労さまですの」
白井の方もその能力の酷使によって疲労の度合いは大きかったが、立役者の一人である初春を褒めるべく、滝壺の前で操作パネルの付いたデスクに突っ伏しているものに近づいた
その時までは、白井は、ただ寝ているものだと思った
フレンダの操作している外部カメラのモニターには、蓄電円柱塔から吹き出していた高温で液状の電解質もその勢いは非常に弱くなっている映像が流され、彼女はそのどこかに居るはずの麦野を探した
既に聞きなれた警報が、ただ響く
フレンダ「あっれ? 麦野、どこよ」
居ない。少なくとも、円柱塔の頂点と流れ出た電解質が溜まっている塔施設の足元には。あるのは自然冷却によって融点を下回り、セラミックとして固まった電解質のみ
白井「……初春?」
声をかけても動かないのは仕方ないにしても、何か生気を感じない。分かった、呼吸だ。呼吸による僅かな体の震えが、見えない
正面の巨大なディスプレイモニターの明りに青白く照らされた少女の顔は、その光のせいを考慮しても、色が無い
恐る恐る手を初春の口元に伸ばすと、あるはずの吐く息の感触は無かった
いや、まだだ。私の手の感覚が鈍っているからということもある。そう思って、白井は初春の首に手を触れた
だが、いや、半ば想像していた通りか、何時まで経っても、触れた首から脈を、体温を感じることは無かった
白井「そん……な。うい、はっ……」
今まで何とか体を支えていた気力のようなものが、みるみる無くなっていき、白井もまた、近くに有った椅子に半ば倒れるようにして寄りかかる
427 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/02(木) 01:20:00.78 ID:Slt1fRmaP
その横でまた、動揺している少女
フレンダ「やっぱり、居ない。どこにも居ないわけよ」
必死に操作してもモニターに映るのは、冷え固まって所々ヒビ割れすら入っている電解質のみ
いや、まだだ。もしかしたら、どこかに退避しているということもある。そう思って、何か感じられる嫌な予感を払拭する為に、フレンダはこの管理分室を出ようとした
外には太陽が出てきている。明りがある。探すには丁度良い
まさか、麦野に限って、あの巨人すら蒸発させてしまうような、強力な力を持っていた麦野に限って、そんなことは
「ごめんね、むぎの」
けたたましい警報の中に麦野という言葉が聞こえた
そう言えば、どうしてここに滝壺が居るのだ?
滝壺「ごめんね、ごめん、むぎの」
絹旗「ちょっと、ごめんね、ってどういう意味なんですか。滝壺さん」
フレンダが聞きたかった台詞を、より近くにいる絹旗が問い詰めた
しかし、滝壺は応えず、床に座ったまま下を向いて「ごめん」という言葉を呟き続けるばかり
彼女の能力はAIMストーカー。体晶を用いなければ使えないものではある。だが、そういう能力を持っている者が、このタイミングでそんな言葉を、涙を流して呟いているのだ
嫌な予感がしないわけがない
滝壺と同じように力無く泣く白井に、動かない初春。そして主柱を失った"アイテム"のメンバー
そこには、確かな絶望が拡がっていた
428 :
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[saga sage]:2011/06/02(木) 01:20:33.53 ID:Slt1fRmaP
世界を取り囲んでいた"抑制"の完全な解除と、ローマ正教の崩壊。それは他の地域にも影響を与えた
イギリス・ロンドン
芳しくない戦況は、より混迷を極める事になる
抑制解除によって更に強靭さを増した最大主教のキメラ守護天使は、イギリスという国家を守る剣カーテナの力が加わって圧倒的な力を見せつけていた
ローラ「言うなればイギリスそのものが持つ力。かのように強しであるは当然なるわね」
更に巨大化し、100m近くのサイズとなったその巨体を操る彼女は、その左手に剣を握っている
しかしそれを直接振るう必要など、彼女には無い
御している天使はコレで完全体。ようやく予定通りの力を持っている
英国における"信仰"と"国家"という二つの要素を含んだのだ。英国と言う名の天使。これ以上の力は、この方法ではもう有り得ないと言えた
だが、彼女が剣を振るう必要が無いのは、英国天使が強いからだけではない
ローマ正教という根源を失ったローマの使役天使たちが、簡単に言えば混乱しているからである
ローマ正教という存在が無くなったことで、"ローマ正教の敵=自分たちの敵、ローマ正教の敵=イギリス、つまりイギリス=自分たちの敵"という公式が成立しなくなる
それにより、彼らにとってイギリスは敵ではなくなる。そもそも彼らの目的は人間を守ることとして天界から派遣されたのだから
だが、そんなことを知らないイギリス側は英国天使を中心に反抗し続ける。攻撃してくるのだから仕方ない。彼らは敵だ
ここで問題が発生した。AとBという元ローマ使役狂戦士天使がいたとして、Aに対してイギリス側が攻撃をすれば、Aは反撃せざるを得ない
しかし、攻撃をされていないBにとっては、Aが天使でありながら護衛対象を攻撃していることになり、BはAを攻撃せざるを得なくなる
そしてAと対立しているBにもいつかイギリス側の攻撃が加わり、結果としてA vs B vs イギリス勢力という形式となる訳だ
元ローマ使役狂戦士天使もまた"抑制"が完全に解除され、更なる強化が見られた
5mの伸長が20m程にまで巨大化し、更にはローマ正教という縛りが無くなり、より神話染みた、例えばケイローンの姿だったり、爬虫類のような姿だったりなど、中には多神教の少し低位な神々の姿を持っているものもあった
それらがそれらで戦い合えば、その余波でますますロンドンは壊滅していく
だから、国家天使以外のイギリス勢力の役目は、専らその戦域を広げさせないことにあった
リメエア「むしろこうでなければ困ります」
最大主教の傍ら、その剣を彼女に手渡しした第一王女はその片目の眼鏡の位置を調節しながら、目の前の光景を見続ける
429 :
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[saga sage]:2011/06/02(木) 01:21:01.55 ID:Slt1fRmaP
ローラ「しかし良くもあのエリザードがコレを私に寄越したるな」
リメエア「あのような事が有れば、仕方ないことでしょう」
あのようなこと。彼女らの背後にある病院のことだ
チラ、と最大主教はその瞳を後ろに向けて、しかし、ふうん、とどうでもよさそうな息を吐いた
ローラ「戦火の中で誤りて自陣を打ちしことは、争いの必然的な現象よ。隠す事も出来しに、なぜそこまで気にしたるのかしら」
彼女の疑問に、そうですわね、と同意を漏らす第一王女。その顔には疑問への同意どころか、その疑問の現象に確証が有ったように見える
そこで最大主教は気付いた
ローラ(ははーん。そういうことでありけるか)
つまりは、第一王女リメエア。彼女は政治外交に長けた存在
その能力自体は、母親であるエリザードと意見の対立を起こしても引けを取らないほど
見方を変えれば厄介な政争相手でもある。その彼女にエリザードは弱みを見られたことになる
それは、第一王女の申し出を断り難いという作用に繋がる。もちろん、根本的に心理的なものもあるだろうが
ローラ(この娘、やはり賢しいな)
このカーテナにしてもそうだ
渡す前に返却が確実になされるよう、カーテナの持ち手に術式を加えてある。しかもそれは彼女にとってデメリットだけにならないよう、王室派以外の人間が使えるように力の制御を促す役割も加えられた術式なのだ
それ以外にも、こうして隣に立ちながら常に自らの命を狙うべく、攻撃的な霊装をそこらかしこに隠してある
本当に賢い、エリザードの娘
娘。つまり、子
それだけで理由は十分だったのかもしれない
リメエア「しかし、寄越した、とは語弊がありますわね」
ローラ「というと?」
リメエア「今、その手にカーテナがあるのは非常時故の貸与。贈呈でもなく贈与でもなく進呈でもなく寄進でもなく、貸与というのが正しいのですから」
彼女としては、確証の為の確認であったのだろう
ローラ「ええ、もちろん。そのことは分かっておりよ」
きっぱりと答えた。言葉を聞いて、第一王女は特別驚くべきことも無い
430 :
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[saga sage]:2011/06/02(木) 01:21:34.09 ID:Slt1fRmaP
当然なのだ。剣を扱えるようにしているのは自分で、従わなければその力は失われ、非常時だから持ち出せた国家最高レベルの霊装を持ってこの最大主教にすら対処することが出来るのだから
そして、この最大主教と言う女は状況が分からぬほど馬鹿ではない。だから選んだのだ、組する相手に
「……しかしなー」
第一王女にとっては、その逆接の言葉は意外だった
ローラ「それは、惜しいのよね」
言葉には、明確な拒否。そして殺意に似た黒さ
瞬間、リメエアは持ち手に施された術式を、正確には結び付けられていた紐に込められた術式を発動させる
そうすればカーテナの力の使用は不可能となり、ただの鈍らな剣になる
リメエア「……愚かな」
本当に彼女はそう思い、同時に全ての殺傷用霊装を最大主教に向ける
――――しかし
第一王女の視界の中では英国天使は少しもパワーダウンの兆候を見せない
カーテナによる制御と力の供給によって強化されているからこそ、今の形が有るハズなのに
なぜ、カーテナの力を失っても国家天使はすこしも変わらないのだ?
ローラ「確かに、愚かであるわね」
言葉と同時、紐が切れる。それは明確に自らの術式が破られたことを意味していた
ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ、と第一王女の体に恐怖がめぐる
だからこそ、彼女は躊躇なく全ての霊装を発動させた
無数の、光・熱・刃・圧力etc... それらが全て、最大主教を貫く、ハズ
しかし、その光景は第一王女には見えなかった
発動させる、という神経伝達がなされる前に自らの頭部と胴体は別れていたのだから
それでも、首だけで生きている僅かな時間で、片目の眼鏡を介した視線を発動合図にした術式を発動させる
しかし最期に彼女に見えたのは、射出された獅子の牙が最大主教の目前で粉々になった景色だった
431 :
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[saga sage]:2011/06/02(木) 01:22:03.07 ID:Slt1fRmaP
学園都市にて巨人と戦っていた者達はそこで改めて、太陽という光源によって被害の大きさを確認する
荒廃という言葉が嫌という程相応しく、そこにはたった4,5日前まであったような人声に溢れる都市の姿は無い
生きている者はどれほどいるだろうか。調べようにも方法は無い。この様子では、秩序回復のために来たというアメリカ軍も当てにはならないだろう
当面の食料は? 怪我をしたらどうすればいい? 昨日までのニュースでは、学園都市外も酷い状態らしい。外は頼れない
復興はあるのか。もしかするとこれは本当に"終末"というものなのだろうか。この先生き残る以前に、あのような巨人がもう一度来るという可能性もあるのではないだろうか
巨人を倒したという喜びのスグ後に、その場にいた殆ど全員の中で、現状と可能性から生じる絶望が、簡単に成長していく
そしてその時は、丁度学園都市に絶望が広がりつつあった瞬間であった。学園都市で能力開発を受けた生存者達に、体の中を何かが通り過ぎたような気味の悪い感覚が与えられる
その直後と言える、ほんの僅かな間を置いて
太陽が、急に眩しいほどになった。それはもう正午すら超えるほどに
違う。太陽はこんなに急に明るくならない。では何だ
東の方向を、一方通行も含めた全ての人間が見る
彼らの目に映ったのは、キノコ雲。そして遅れて、ブワァッと、かなり強い空気の衝撃が東から流れてきた
立ち上る柱の様な雲の根元に有ると考えられるのは、一つの都市。学園都市と隔壁を隔てながら隣接する日本の中心都市
そこにキノコ雲を作るような高熱の塊が加えられたのである
有り得なくは無い。なぜなら外には学園都市のような戦力が無いのだ。そういう現象を起こす敵に対する抵抗する術が無い
寧ろ今まで運よく生き残っていたと言える。しかし、このことが意味しているのは、更なる絶望
東京を焼き払いキノコ雲を作る力を持った存在が、現状考えられるのは一つしかないが、学園都市のすぐ隣に居るという事だ
それはつまり、次に学園都市に来るという可能性―――――
一方「………冗談、だよなァ…?」
"抑制"の完全な解除。それによる"終末"の破壊者の完全形態
三又鉾を持った巨人が、蒼ざめた馬が、黒い靄につつまれたジャガーが、それぞれ別個に、完全な姿で、東の空の上に浮かんでいた
それも数は一つづつではない
遠目に見れば、60m程度の巨人は対して大きく見えはしない。しかし、それがそうだと判別は出来る
そんなフォルムをした人型が、ざっと見ても20以上は居る。馬や獣も同数。見たことなどないフォルムをした存在も多々ある
更にはアメリカの大統領声明の時に公開された天使崩れが、1000どころではない数で存在している
一つの都市をを焼き払ったそれらが、ゆっくりと、だが確実に、学園都市に向かって飛来しようとしていた
432 :
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[saga sage]:2011/06/02(木) 01:22:33.19 ID:Slt1fRmaP
ロシアでの戦いは、ロンドンとは対照的に、既に終わりつつ有った
フィアンマ側の圧倒的勝利と言う形で、である
「少々遅かったな。どれほど強化されようとも、劣勢を覆すには数が減り過ぎだ」
相手にしていたのは、ロンドンの元ローマ使役天使たちと同じ存在
20mクラスのちょっとした神々であるが、如何せん遅かった
タイミングの問題である。彼らの"抑制"が解除される前に、フィアンマは自身が率いる復活者達の"抑制"を無いものにしていたのだから
形としては、ローマの天使たちが増援が続きながらも一方的に数を減らされ、"抑制"の完全な解除によって強化・進化したものの、母体であるローマ正教が消滅したことによって、増援が無くなったということだ
最終的に、少なくとも人型である復活者達はその10倍ものサイズの敵を打ち破っていることになるが
「あのようなものは、所詮、ブクブクと太っただけに過ぎませんな。的が大きくなったとも言える」
と、フィアンマの目の前に降り立った一人の復活者は感想を述べた
フィアンマ「同感だ。多種多様な姿をするようにはなったが、集団戦が出来なくなった分、パワーダウンしてしまったのだろうな」
「例え、集団で押し寄せて来た所で戦況に大きな変化は無いでしょうがね」
「だろうな。フィアンマの大将が"抑制"の術式に気付くのが遅れていても、少々時間が伸びた程度だろう」
続々と、フィアンマの側に復活者たちが集まっていく。それだけ前線に数が必要無くなった、と言う事である。残る元使役天使だったものの群は、数えるばかりになっていた
フィアンマ「かもしれないな。しかし、使役天使があの姿になったと言う事は、ローマ正教が墜ちたことを意味する。お前たちとしては残念なのではないのか?」
「それは、確かにそういう要素も有りますがねぇ」
とりわけ古めかしい格好をした魔女が述べる。その女は、使役術式の核を作った復活者
「わざわざ"超えちゃいけないわよ"、って定めておいた制限を超えた末の自爆では、情けないという心情もありましてなー」
「あー、あのですね。貴女のの定めた数値でも、十分に過干渉領域だったんですけど?」
「あ゛? そりゃ私達より後の連中がしょっぱすぎるのが問題でしょ。時代が経るにつれて劣化してんのよ。これだから最近の若いのは」
フィアンマ「おおっと、その話だとここで最もしょっぱいのはこの俺様になってしまうな」
「はは、そいつは一般論ってヤツでしょ。どの時代も尖ったのは居るもんだ」
「そもそも生きてる段階で既に人間って概念を跳び越えてる存在では、今の我々とでも勝負になりませんよ」
などと話す彼ら。完全にロシア成教の魔術師は蚊帳の外だ。しかし、だからといってその会話の輪に入る気にはなれなかった
単体だけで明らかに人間を超越しているのに、集団の中に入れば、溢れる力に当てられて精神が持たないかもしれない
明らかにこの戦線を作る前よりも強化された彼らの力に、ロシアは恐怖する反面、頼もしくも有った
433 :
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[saga sage]:2011/06/02(木) 01:23:35.18 ID:Slt1fRmaP
「っとと、寝てしまったわ」
まさか、寝てしまうとは。それもこれもローマの連中が不甲斐ないからだ
モスクワの随所に張り巡らせた検知用の術式に全く反応が無いのでは、"殲滅白書"としての役目が無い
油断しきってるという見方も出来ないことは無いが、
ワシリーサ(それもこれも、この寝顔が悪いのよ。………この?)
目の前の少女だが、その見た目に変化は無い
だか、明らかに寝に入る前の彼女とは、質の違う力が感じ取られた
特別何かの術式が有るわけではない。言うなれば、滲み出る力。溢れ出る力。人間の放つものではない
ワシリーサ(これは、フィアンマの影響? それとも禁書目録としてのものかしら)
彼女は、自らの唇に人差し指を当てて思考を巡らせる
ワシリーサ(んー。作られたものであるこの子なら、こういうことだって有り得ちゃうのよねー)
ワシリーサ(世界中の原典を記憶するなんてふざけた目的で作られている以上、それに相応しい力が必要なんですもの)
ワシリーサ(もちろん、その分この子を扱う方にも力が必要なわけだけど)
扱うに相応しい力。それには道具的な問題もある
専用の霊装を持ってしてでなくては、下手に干渉すれば知識と言う形を持った特殊な力の牙がその干渉者を襲うだろう
だから彼女は禁書目録に吸い出し目的で干渉しない。そしてそれを見切っているから、フィアンマも自分に預けたのだ
ワシリーサ(まぁ、聞いてた話とちょっと違うんだけど)
ワシリーサ(深層はともかく、表面的にはこの子には魔力反応は無い、または薄いものって報告が上がっていたのに)
わざと干渉するように、彼女は禁書の額に手を伸ばす
バチィ! と明らかな相互反応が生じた。これのどこが、力無い者であろうか
その音に反応してか、禁書目録が身を動かす。しかし起きる事は無いだろう。今は夜だ。私も眠い
ワシリーサ(作られた者、か。そう言えばイギリスには話し方のおかしい、同じような境遇の人間が居たわねー)
この"終末"。彼女なら何か動きそうでは有るが、またもや情報が少ない
ワシリーサ(人体改造なんてのはどこでもやってることだけど、あの国はホント、ろくでも無いものを作ることにかけては長けてるのよね)
434 :
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[saga sage]:2011/06/02(木) 01:24:14.39 ID:Slt1fRmaP
「逝ってしまいました、か」
独り言の様な言葉を放った女性の顔は、少し寂しそうだった
もちろん、彼女の弟と双子の関係に有るもう一人の存在の事だ
機械下半身の一部が、新たにできた少々浅い湖に、氷山の様に浮いている
そこには"神の化身"などというぶっ飛んだ存在を生じさせるような力は既に無く、時折、泡が立ち上るのみ
上条「他にも方法は有った、よな。俺が、もっと―――」
「いえ、アレがあの場では最良でしょう。例え他に方法が有ったとしても、きっと最良だったんです」
そうでなければ、何のための犠牲か
上条「……そうか、そうだよな」
「そうですよ。確かに半身を持って行かれたような気分ですが。って、自分の体を手に入れたばかりなのに、これはおかしな表現ですね」
体。そうだ、自分には体が有る。当麻の体を通してではなく、自らの体で他者を感じる事が出来る
ならば、することは一つ
上条「……ん」
急に抱きしめられて、しかし、彼は動揺しなかった
それぐらいの空気は読める。自覚はある
足元で意識のある少女は突然現れた女にむっとしながらも、その光景を見ていた
まず誰なのだ、この女は
自らよりも5cm位伸長の高い女性に抱きしめられて、しばらく彼はじっとしていた。不意に、背中に指を這わされるまで
上条「うひゃ?!」
思わず、彼は体を離した。反動で揺れる女の乳
「もう、こういうときはあなたの方からも抱きしめるものですよ?」
上条「いやいやいやいや! 確かにそうかもしれないけどさ! まずなんで女なんだよ!」
435 :
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[saga sage]:2011/06/02(木) 01:24:56.03 ID:Slt1fRmaP
「当然でしょう。この口調で男だと気持ち悪いですし。私一応女ですし。ホラ、ね」
散々上条の体で女口調だったことは棚に上げて、女は強調するように乳を上条に押し付けた
それは、上条の足元の少女にとっては無いもので、しかも彼女らは全裸である。というか、周辺に居るのはボロボロの服を着ている御坂以外全員全裸である
口を出さないわけにはいかない
御坂「あーのーさー!?」
同時に、バチィ! と音が鳴る。紫電も光る
御坂「目の前、ってか真上で、しかも素っ裸でそーゆー事をするのはどうなの? まともに動けない私への嫌がらせ? ってか誰よ誰なのよこの人?!」
微妙に涙目の少女。今までの名残か、新しいものか
上条「えっとだな、これは」
咄嗟に、しかし上条は言葉が出ない。説明が少々長くなりそうで、スパン!と小気味よい答えなど出てこなかった
生き別れの姉とかすぐに見破られそうな嘘を言おうとまで考えた
「面識と言っていいかは分かりませんが、一応、私とあなたは会ってはいますよ?」
言って、女はズイッと頭を少女に近づける
面識、と言われ御坂は記憶をまわす。顔は上条の母である詩菜に似ているが、確かに若々しい人だったが、ここまでではないし、何より少々あの人より乳がデカイ。ウチの母クラス。どちらかというと筋肉質だというのに、鳩胸でも無い
親類縁者か、と考えるもならば面識は無いし
思い出せませんかー? と声が響いた。しかし、目の前の女は口を動かしていない
どうやら、触れられている腕から声が響くようだ
方法は、微小機械の共振。ここまで来るのに御坂本人がしてきた方法でもある。そして、頭脳から感じ取られる、この集積回路のような反応は
「ま、説明されなきゃ分からないですよね。仕方のないことです」
御坂「んっ?」
御坂を抱きかかえつつ、女は立ち上がった
「私は、つい先ほどまで当麻の中に居ましたからね」
436 :
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[saga sage]:2011/06/02(木) 01:25:39.68 ID:Slt1fRmaP
呼び捨てだと!? じゃなくて、中に、だって?
「まず当麻の頭脳に寄生していたAIが二つ有りました。学園都市で最後に会った時には、あなたは私達の存在を知ったんじゃないですか?」
「そして先程の大質量化を利用して、当麻、私、もう一人の私でそれぞれ体を再構成した。そうするしか、すぐに戦闘に復帰する方法が無かったからですが」
「その再構成の際に用いたのが、当麻の中を流れる母・上条詩菜と父・上条刀夜の遺伝子情報。更に、確実性を上げる為に当麻の生殖用遺伝子も組み合わせて、つまり全部当麻の遺伝子って訳ですが、情報を集積し、少々都合のよさそうに改変を加えた末に、この姿に辿り着いたんですよ」
俄かには信じ難い話ではあるが、確かに殆ど目の前で男と二人の女が生まれたのを見ているから仕方ない
御坂("少々都合の好さそうに改変した"……ぐぐ、そこでその胸囲を手に入れたって訳ね。上条家の遺伝子情報的には、どう考えてもそのカラダは有り得ない……!!)
上条「そこだ! 事実上俺のクローン体みたいなのに、何で俺より年上になってんだよ」
御坂(でも、遺伝子なら私は負けてない、ハズ。遺伝子を弄るってのは、専門家じゃない以上怖いけど、微小機械を弄ったらそういうことも出来るっていうのか)
「それはもちろん、当麻を守るためですよ。妹や同年齢では、逆に守られる対象になってしまう、負担になってしまうじゃないですか。だから、姉です」
御坂「……」
耳に痛い発言だった
それは、自分も同じだろうか。いや、間違いなくそうだ。現に、今、自分は身動きすらまともにできない
(守られる側なら、堂々と守られればいいんです。私も今までは当麻に守られてきたんですから。そして何時か、返せばいい。その形はたくさんあります)
心理を察してか、彼女は微小機械同士の伝達で少女に言葉を寄せる
そして、そのまま上条に御坂を渡した
上条・御坂「「え?」」
「え? じゃなくて。まさか女の私に運ばせないですよね?」
身体つき的には、彼女がこのまま抱いていても良い様な気がしたが、御坂の、更に輪をかけた様に安心した表情を見て、上条はそう言う訳にもいかない気がした
上条「……わかったよ。って、あー、そうだ。あのさ」
「なにか?」
上条「お前のこと、なんて呼べばいい? 名前が無いって訳にもいかないだろ」
「そうですね、うん。AIだから相(あい)とでも呼んで下さい。どこかの漫画とかアニメにでも有りそうな名前の付け方ですけど」
437 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/02(木) 01:26:33.25 ID:Slt1fRmaP
上条「それで、良いんじゃないか。お前が気に入ったんなら」
相「ええ。それでは、私はちょっと探してきます」
上条「探すって、なにを?」
相「決まっています。移動手段と、衣類ですよ。ずっと裸のままも悪くは無いですが、御坂さんの目が有るでしょう? だから貴方に任せたんですから」
なるほど。御坂を胸の位置で御姫様だっこしていれば股間はどうあっても彼女の視界に入らない
女性に、しかも母親に似た感じのある人に指差されるのは止めて頂きたいが
御坂「あ、移動手段なら、東の方に私が乗って来た奴がまだ生きてるかも」
相「それはいいですね、了解です。それではしばしお待ちを」
言って、女はその場を離れた。御坂にウインクを残して
相と名乗る、彼女としてはコレで良いのだ。自分は御坂に当麻を会わせると約束して来たのだから
自分も当麻に抱き付いていたいという欲は、もちろんある。しかし、割り切った。だから"姉"と言った。彼の守護者として、自らは有るべきだと思った
ステイルは意識が無いし、垣根は少し離れた場所に居る。自分が彼女を抱いて探し物に行った当麻の帰りを待つより、どう考えたってこっちの方が彼女には良いだろう
そうやって考えて、空気を読んだ彼女
しかし、彼女が去った所で、彼らに二人きりの時間など無かった
残された男、垣根帝督
「イェスの抑制術式が、消えた。完全に」
それは、自らが扱えるエネルギーの増大でも理解できてしまった
それが意味するのは"抑制術式"の崩壊、真の"終末"
「抑えられていたから、この程度で済んでったってのに」
「奴が消えちまったら、誰が"終末"の進行に歯止めをかけるってんだ? 誰がこの理不尽を止めるんだ?」
彼の独り言は、思考の吐露は、感情という熱を帯びる
「誰もいやしねえ! 居るわけがねえだろ! 人間は結局、自らの勝手が最優先だ。この俺だってそうなんだ」
438 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/02(木) 01:26:59.32 ID:Slt1fRmaP
「だから、AIなんつー個人的な損得から離れた存在が必要だったんだ。アイツが悪だと言うなら、そいつは必要悪。世界に必要な悪だったんだ」
「だが、もう奴は居ねえ」
気に食わない現実は拡がっていく。いいさ、どうせもう人類は多くのこっちゃいない
諦めたって構わないじゃないか
自分は今までに多くの人間を傷つけて、そいつからすれば理不尽をもたらしてきた側だ
今更イェスと共に気に食わない未来を変えようってのが、虫が良過ぎたんだろ
どうせ、あの女はもう居ないんだ。これ以上失うものなんてなんもねえ。気持ちいいぐらいに何も
「何も、無いか」
なら俺も、損得からかけ離れた存在なんじゃないのか
どうせこの体だって、人間のそれじゃない。失ったとしても、再生だってする
なら、俺もイェスと同じ身分。魔術については知らないが、どういう力がどう働いてたのかは知っている
未元物質に、その定義を当てはめればいいだけだ。出来るじゃないか、イェスの代わり
ただ、この期に及んで、俺と言う存在はまだ何かに理由を押しつけて、頼ろうとして、どうしようもなくなったから、諦めるなんて子供みたいな考えだっただけじゃないか
「なんだよ。なら、後は覚悟だけだな」
抑制術式。それは、地球全土を聖地とすることで、信仰という一種の巨大な術式によって生じる、"終末"そのものとその破壊者の発生と力を抑えるというもの
"邪教の地は滅び、正しき自らの地、つまり聖地は神に選ばれ生き残る"という形式を持つ事の多い信仰の共通性を利用したこの術式
故に"終末"をトリガーにした全ての術式に対してもその"抑制"は効いていた。だから、その術者のイェスが消えてしまえば、抑えられていた真の"終末"と破壊者が訪れ、"終末"関連の術式も正常な力が流れるようになる
そしてイェスは、言ってみればその"聖地の濃度"のようなものを操って、アメリカ全土を特に濃くして、その地を守っていた
「そんな器用な調節なんて出来やしねえ」
そもそも、どこが重要な場所なのか、そしてそこが今生き残っているのかも分からない
「なら、全部まんべんなく覆っちまうしかないよな」
地球全土を覆う規模の術式だ。そこに必要な力は某大だろう。自分には"神の化身"程の圧倒的な力は無いし、それに相対する程の力も扱えない
439 :
本日分(ry
[saga sage]:2011/06/02(木) 01:29:36.91 ID:Slt1fRmaP
だが、自らは未元物質。その特性を、物理原則など関係が無いという能力を使えば、増長を続ける永久機関としてエネルギーは無限大まで伸ばせる
当然、そうすれば抑えきれなくなるだろう。この身では
ならば、体を抑えられる体に変えてしてしまえばいい。今になって人間の器に固執する必要など、彼にはないのだから
バギィ! と割ける音。それは背中から始まった
最初は翼の様な形だった。しかし、それは直にただの虹に変容していく
そして拡がっていく。ボストンを、アメリカを、世界を覆わんと欲し、また、均等な厚みを持って
並行して、自らの体は失われていく。最後に残っていた人間性を消し去ろうとして、逝く
残るのは、意思
「心理定規の少女(アイツ)が居たこの世界から、気に食わない理不尽を取り除く」
ただ、それだけ。そこで、彼は純粋だった
未元物質。それは何でも可能な能力。万能の神の如き力
"救世主"、その条件。"人間であって、人間の罪と悲しみを知る者"、"聖地に存在する者"、"神の如き力を持つ者"、そして、"世界を救う意思を持つ者"
その人間性からの解脱は、すなわち神化。イエス=キリストの昇天と意を同じくする、儀式
イェスはその可能性を見抜き、だから彼を重用した。自らが多く干渉することで、自らの意思を継がせ、仮に自らが不慮の事故で消えたとしても、人類の問題を解決する最後の手段として、彼を育てた
イェスが関与した時間は、それこそ僅かな時間だったが、その成果は十分だった
その結果が、この、巨大な蛹から、それ以上に巨大で美しい蝶が生まれる、神秘的としか表現しようのない光景
彼らは一番近くの存在だった。流石にずっと御坂を抱きっぱなしにするわけにもいかないので、腰をおろし、胸に抱きながら、上条と御坂はそれを見た。言葉を交わす暇は無かった
遠くから、相と呼ばれるようになった女もそれを見た。殆ど見惚れていたと言っても良い
今だ生き残りの多いアメリカの多くの人間の目に、それは確実に善き光として映った
それは、彼、ステイル=マグヌスにとっても同じ。その光景に、あれが"救世主"であることなんて疑いようも無かった
だからこそ、彼は
440 :
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[sage]:2011/06/02(木) 02:20:36.25 ID:t3ubUjc30
垣根が救世主になるとは…ちょっと泣きそうになったわ。AIも良い仕事するなぁ。
441 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/02(木) 02:21:18.73 ID:26NjQXTD0
乙
リメエア…
ヴェントさんマダー?
442 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/06/02(木) 02:49:10.50 ID:m/hwfn1Go
垣根が一方通行越えちまったじゃねえか
第一位がんばれよ
443 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2011/06/02(木) 03:54:01.74 ID:ctJaggKgo
ていとくンまじ天使wwwwwwwwwwwwwwwwwwww
444 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/02(木) 04:28:57.62 ID:8MJlVOCNo
たまげたなあ
イェ垣コンビ気に入ってたけどまさかこうなるとは
445 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/06/02(木) 07:20:36.15 ID:n25oCFoyo
ステイルから嫌な予感しか……
446 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/06/02(木) 08:54:35.70 ID:DQ+wsA3SO
そういえば殺すように言われてましたっけね
447 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/02(木) 10:48:58.37 ID:cNQmi8aO0
誰か相ちゃんの参考画像
448 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/02(木) 12:06:59.57 ID:9gLGw1QDO
赤松作品でA・Iが止まらない!って漫画が昔あってだな…
449 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/02(木) 15:29:48.59 ID:ORFkYvnIo
相ちゃんを脳内補完するお!
450 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/02(木) 16:59:24.14 ID:3Herje2AO
ていとくんが救世主だったのか
相ちゃんのおっぱいもみもみしたい
451 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/02(木) 16:59:59.33 ID:3Herje2AO
ていとくんが救世主だったのか
相ちゃんのおっぱいもみもみしたい
452 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/05(日) 20:50:22.87 ID:/1N0mJZZP
わかる。アレは、手を出すべきものじゃない
僕だって仮にも神父だ。ならばこそ、なおさら手を出せない
天使などの力の大きな存在が現出した場合、地球レベルで影響が現れる
それは、人間にとって害になるものがあるのだから、益となるものもあって然るべき
虹色の光が放つ意味は、感じられる意思は、自分の心すら鎮める。圧倒的な益の存在
だが、そもそも自分がここに居るのはフィアンマとの約束。それは契約とも命令とも言えた
彼は、結局イェスから救世主の情報を聞きだす事は出来なかった。だが、目の前に確実にそれであると言える存在が、在るのだ
約束を果たさなければ、禁書目録はどういう扱いをうけることか
悩んでいる時間は無い。どう見ても、今、"救世主"はその存在に、"三位一体説"でいえば同格の神へと変わろうとしている
時期を逃せば間に合わない。干渉出来るのは今のうちだ
だが、そんなことをして良いのか、この神々しいものに。具体的には、"救世主"の段階で殺すというフィアンマの命令を実行していいのか
ステイル(そもそも、本当に殺すとしても、あの垣根とか言う男が救世主になる前の段階で殺さなくては意味が無かったんじゃないのか
ステイル(救世主となってしまった時点では、既に殺しても……。イエス=キリストは結局殺されたんだからな)
ステイル(第一、体だって再生しきって無いんじゃ、どうしようもないじゃないか)
彼の中ではこんな思考が巡り巡る。時間は無いと言うのに
言い訳に使えそうな根本的な問題は幾つか有る。しかし、それで許してくれるようなフィアンマであろうか
彼の目的を考えれば、許されることではない。二人の救世主は有り得ないのだから
彼の望む結果を得られなくては、禁書目録が
時間が無い中で、彼は悩む。そこに、介入してくる存在があった
『ならば、力を貸してやる』
453 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/05(日) 20:51:13.32 ID:/1N0mJZZP
巨大な虹に見惚れていた彼の胸、若干オレンジの混じった、太陽の様な光の塊から、声が生まれた
ステイル「フィアンマ?!」
間違いなく、奴の声だ
同時。再生途中だった体が、その体のあらゆる場所から吹き出した炎に包まれる
それはつまり、"光の処刑"を応用した身体の回復を意味していて、更に言えば、それまで再生できない程に失った魔力が、今になって急に回復したことを意味している
フィアンマ『お前がこうやって"神殺しに値すること"へ抵抗する可能性は考えられていたんでな』
当たり前か。本物の救世主を前にして、殺す事に抵抗を覚えない人間なんて居るはずが無い
フィアンマ『そしてそれには、仮にお前が死んでいなくとも、こうなった場合、この"復活の術式"がお前の命を奪うことも想定し、設定されていた。その前にお前は死んでしまったようだが』
ステイル「つまり、君は何が有っても僕を殺して、君が直接制御が出来る"復活者"にするつもりだったと言う訳だ」
フィアンマ『結果的にはそうなる。当然といえば当然だろう? いくら強化されたところで、普通の人間でしかなかったお前では、対応できない問題が多すぎる。例えばこの余計な救世主の相手とかな』
ステイル「確かにそうかもしれない。随分と"復活の術式"を重用しているようだが、しかしそれは不完全な術式だったはずだ。そう聞いている」
フィアンマ『その通り、良く分かっている。確かにこの術式の不完全な部分は有った。だが、その不完全な部分、復活者の制御能力の不足という問題を抱えた部分は、世界規模で展開されていた抑制の術式が無くなってしまったことで、俺様の手を煩わせる事無く、無事に解決されてしまったよ』
ステイル「つまりそれは、僕を含めた復活者の完全な制御能力を手に入れたと言うこと、だな……!」
フィアンマ『残念ながら、万事、何事も万能じゃない。穴のない体系なんて存在しない』
フィアンマ『ともかくだ。俺様にとって都合の良い時の流れがきているのは確からしいが、まだお前には動いてもらう必要が有るということだよ』
ステイル「救世主、殺し……か」
自らの意思とは離れて、別の意思が彼の脚で彼を立ち上げさせる
別の意思。考えられるのは一つしか無い
フィアンマ『さぁ、ステイル』
そして、彼の体は、意識は、その本来の制御者から奪われていく
『俺様にとって都合の悪い"救世主"を、共に消し去ろうじゃないか』
454 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/05(日) 20:51:57.78 ID:/1N0mJZZP
この男は、何かおかしい
それはもう、女の勘とも言えた。もう一つの要素として、彼女が刀夜と接触している時間が短いからでもあった
青髪は好意や敬意を持っているのだろう
でも、実際に会ってみると、青髪に聞かされていたイメージよりも、何か、いき過ぎた感じがした
一瞬灰色の砂嵐画面が生じ、その後からずっと真っ暗で無反応なディスプレイを見る限り、イェスがどうなったのかも分からない
イェスが見ている光景の一部を盗み見ていた訳だから、純粋にそこの部分のカメラが壊されたという可能性だってある
なのに、この上条刀夜という男はどうだ。明らかに勝ち誇った顔をしているではないか
しかもそれが、彼女には邪悪なものとして映った
この男の近くは良くない、気がする。青髪と一緒に離れるべきだ。そうじゃないと、私はまた親しい存在を失ってしまうかもしれない
そんな心理的な圧迫
結標「……ねぇ、ちょっと」
だから女は、ディスプレイと刀夜の前に立って、しかも乱打戦となった甲子園の決勝戦の試合が熱いところで急に見れなくなってしまったような慌て方をしている、青髪の耳元に小声を吹き込んだ
青髪を刀夜のそばから離れるように、少し後ろに袖を引きながらの仕草と同時に
青髪「ん、どしたん?」
結標「あの、こ、この部屋から出ない?」
青髪「え、なんで? 今来たとこやん」
こっちがわざわざ小声で話したにもかかわらず、彼は普通の声で返してきた
青髪の顔も怪訝そうだし、なによりあんな言い方では目の前の要注意人物にも、自分がここから離れたいと思っていることに気付かれてしまう
455 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/05(日) 20:52:29.14 ID:/1N0mJZZP
案の定、刀夜の額もピクリと反応した
まさか、なんとなく彼の上司が気に食わないから離れるべきだ、という非合理的な理由を述べる訳にもいかず、「空気読めこの馬鹿」と心の中で愚痴る
結標「あの、えっとね」
わざと言いにくそうな表情を浮かべて、彼女はスカートを握り、若干脚をもじもじとさせた
青髪「え、何? トイレ?」
よし、騙せた。なにか腹が立つが
本来自分はこんな可愛い仕草をしないし、本当に耐えられない尿意があれば、勝手な理由を付けて部屋を出るものだろうが、ここは肯定の意を述べよう
結標「……言わせないでくれる?」
青髪「えー? 子供じゃないんやし、まだ報告してへんことがのこっとるし。第一、怪我人の僕と一緒に動いた方が時間かかって漏らしてしまうんやないの?」
結標「ばっ、馬鹿じゃないの? それぐらいは我慢できるに決まってるでしょ。でも、道がわからなかったら、そっちの方が危険性は大きいじゃない!?」
そんなやりとりを見て、刀夜は表情を一変させ、普通の40代前後の男性らしい含み笑いを漏らす
刀夜「フフフ。だ、そうだ、青髪君。人生の先輩としては、こういうときは女性の言葉に従った方がいいと思うよ」
更に、それが夫婦円満のコツでもあるからね、と付け加えた
青髪「はいぃ。んなら、仕方あらへんなぁ。さー、あわきん、トイレはこっちでちゅよー」
手招きする青髪の肩に手を通し、ついでに彼の鳩尾を小突いて、彼女は「ありがとう」と少しいらだっている風を醸しながら、入って来た扉をくぐった
これで、自然に部屋を出る事が出来たはずだ
トイレに向かう間、無駄な手間をかけさせた青髪を何度も小突きながら、そしてその度に青髪が「ちょ、まだ根にもっとんの?」と言いながら、彼女は刀夜の所に戻らずにこの場所から出る理由と方法を考え始めた
456 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/05(日) 20:52:57.90 ID:/1N0mJZZP
これで、長官室に残されたのは、上条刀夜一人
刀夜(彼も苦労するな。全く、女性と言うのは難しいものだよ)
既に逝った詩菜のことを思い出す。彼女には何度も女の影を見つけられては指摘され、その度に包丁やら皿やらが飛んできたものだ
刀夜(女の勘というものは厄介だからなぁ。……もしかしたら、彼女は私のことも見抜かれているかもしれない)
表情は、結標を怪しませたそれに戻っていた
刀夜(仕方のないことだ。どうにも、君を手に入れてから歓喜が漏れてしまうのでね。"イェス"よ)
(……当然だ。彼女は、優秀だからな)
彼は、別の青髪の体を通して、結標とは対面し会話を交わしている。知っているのだ
彼女を知っている存在は、刀夜では無く彼の中の存在
悲しきは、それが"自動的"であったと言う事
分からなくもない機能である。このAI達を作り出すために、尋常ではないコストがかかっているのだから
簡単に失われては困る。だからこその自動機能。自動的な"肉体逃避"
だから、例えその意思が消える事を認めていても、そこに余地が残っているならば、それは自動的に機能を発揮してしまう
実際、イェスは自らの姉と言える存在と共に、この世から消えるつもりだった
なぜなら、忌々しい"銀貨30枚"の働きによって、機械的なバックアップも人間への退避先も既に全て潰されていたのだから
だからこそイェスは必死になった。だからこそ、イェスは"神の化身"などという、事実上全く完成していないと言える科学と魔術の合体兵器を使わざるを得なくなったのだ
そんな状況で、どうして自らの消えゆく寸前に"肉体逃避"の機能の対象になる人間が突如現れると予測できるだろうか
ましてや、それが敵である"銀貨"の指導者である上条刀夜の中であると分かる暇が有っただろうか
彼の中に入ってしまった後では、イェスはもう、どうしようもなかった
刀夜(そろそろ、無駄な抵抗はよしたらどうだ?)
本来ならば、"肉体逃避"は対象となった人間の制御をイェスは得る事が出来る
しかし、上条刀夜にそれは出来なかった。むしろ、逆に身動きが取れないと言う圧迫感すらある
457 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/05(日) 20:53:28.44 ID:/1N0mJZZP
イェス(ク……。何故だ。何故この体を乗っ取ることが出来ない)
刀夜(簡単なことだ。それはつまり、君が垣根提督を乗っ取ることが出来なかったことと、恐らく同じ理由)
イェス(……!! まさか、人間ではないと言うのか)
垣根の体には、"肉体逃避"の条件を備えた微小機械が流れていた。それによって、彼らはコミュニケーションを採っていたし、垣根は情報媒体に直接アクセスして"終末"や"幻想殺し"に関する事柄を知った
しかし、イェスには垣根を直接乗っ取ることは出来なかった。理由は、簡潔に言えば、垣根帝督が既に人間では無かったから
"肉体逃避"は、下手に干渉すればその人格は廃人になってしまう可能性が有る。能力の高い者に優先して配られる"肉体逃避"可能な微小機械で、それでは犠牲が多過ぎて話にならない
だから、"肉体逃避"はその肉体のコントロールを得るために、限りなく矛盾が生じないよう、人間の生態や精神に合わせて厳密に調節されていたのだ
垣根帝督はその体が既に未元物質で構築されていた。だから、人間専用にセッティングされたそれではどうしようもなかったのが現実だった
それと同じ理由、つまり
刀夜(そうだ、イェス。アメリカで行われていた"幻想殺し"の研究によって、そういう可能性を君は考慮できただろう?)
イェス(馬鹿な。それはカミジョウトウマという単個体だけの特性だ。アレは、それこそ神にでも相対出来ると個体。その父親でしかないお前には――――)
刀夜(神や悪魔には人を導く能力が有る。謀る、とも言えるが。イェス、お前もそれには気付いていたんじゃないかな)
イェス(ああ。だからこそ、私はカミジョウトウマに対する疑問に、半ば確信を感じていた)
刀夜(それと、同じ事だ。私にもあるのだよ。当麻程強くは無いが、同じ性質がな。だからこそ、"銀貨30枚"などという馬鹿げた組織も成立する)
イェス(つまりは、お前の求心力の源は……。有り得ない。カミジョウトウマならば、神にすらも"相対"できるという目的から、神と同格の者として、神と同じ"人を惹き付ける"という性質が有ってもおかしくない。しかし、その性質を持つ者は"対"を超えた数あるべきではない)
刀夜(浅い。所詮人間が作りし存在だな、イェス。神にはその下位として天使がある。ならばその神に対する悪魔と言うべき存在に、どうして下位が無いと言える?)
イェス(お前が、その悪魔の下位であるといいたいのか)
刀夜(太陽に月が有る様に、男に女が有る様に、電子に陽電子があるように、何事にも"対"がある。ならば神や天使の"対"は悪魔の概念だ)
刀夜(だが、君の考えでは、神にカミジョウトウマが"対"だとしても、"神上"と"神浄"、そして"討魔"と"到魔"の可能性が有る)
イェス(その可能性について私はまだ述べていない。……まさか、私の知識すら、お前には透けているのか)
刀夜(当然。いまや君は私の一部と化しているんだよ。そして、その私は悪魔の概念で固定した天使の"対"、そして、カミジョウトウマが"対"としての機能を失った場合の代理、と自負している)
イェス(……自負だと?)
458 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/05(日) 20:54:28.21 ID:/1N0mJZZP
刀夜(断定できないのさ。所詮、今私が述べたのは全て有った事象からの推論にすぎない。悪魔の概念も、都合のいい言葉を当てはめただけだ。そして根本的に、私はもう役目を終えた悪魔なんだよ。イェス、君と同じくね)
イェス(私の役目か。それは終わったのではなく、失敗したものだ。私は結局人類の問題を解決出来なかったのだからな)
刀夜(君はそう考えているようだが、私は違う考えを持っている。君の役割は、"終末"において"救世主"を目覚めさせること。だから今お前は私の中に在るのだ)
刀夜(しかし、役目を終えたとして何をするのかは重要だ。私は私が果たした役目の為に出た犠牲に、心底病んでしまった。それを立て直すのは非常に厄介だったよ)
刀夜(だが、それは逆にそれから動く理由ともなった。そして私は私と契約したのさ。神にも神上にも勝る存在となることを)
イェス(力欲にでも駆られたか。子供だな)
刀夜(半分は正解だが、半分は否だ。私の欲と私の希望という利害が一致したんだよ。神に匹敵する力をもって、この世の子供、その全てを守るとな)
刀夜(私は悪魔と自負している。だが同時に親でもある。そして、仕事柄、何度も人身売買だの強制売春だのの現場や、飢餓や内戦で死んだ子供たちを見て来た。この現実を変えるにはCIA長官や米国大統領なんかじゃどうしようもないんだ)
イェス(だからといって悪魔を選ぶのか。短絡的過ぎる)
刀夜(目の前に機会が有るなら、それを逃さず結果を得る。このスタンスこそ、君が守ろうとしたアメリカだろう。そして、悪魔は契約を守るものでもある)
刀夜(これがどう判断されようとも、私はその後を選択した。後は貫くしかない。そして、君は何を選択する? 選択肢は僅かだが、君には選択権が有るよ)
イェス(それは、お前に従って術式や科学や力を供給するか、ただお前の中に在るだけで術式や科学や力を吸われるかの違いだろう)
刀夜(分かっているようで、何より)
イェス(だが、その選択はまだだ。まだ下せない。私には、垣根帝督を見守るという役割が有る)
刀夜(それはただの希望にすぎないぞ。だが、いいだろう。私も子供を持つ親だからね。その気持ちは分かるよ)
そこで一呼吸、彼は間を作った
「だがねイェス、とても残念なことなんだが」
敢えて刀夜は声に出した。そして、NO DATA と表示されたままのディスプレイの入力端子を引き抜き、自らの手に強引に刺し込む
簡単に血が溢れたが、驚くべきはそこでない。液晶のモニターに、今その時が映されていた
そう、垣根帝督が虹色の羽化を始め、そして、その正面で――
「君の役割はどうやら、無駄だった、で終わってしまいそうなんだよ」
459 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/05(日) 20:55:00.71 ID:/1N0mJZZP
「う…ん……」
とても幼い妹達の上位個体は目をこすりながら意識を取り戻す。目をこすっている理由はとても単純で、とっても眠たかったのが一つと、周りの瓦礫の小粒が目に入っていたから
いつもよりも長めに、コンピュータの起動時間、人間的に言えば寝ぼけているのは、昨日は年齢に適した時間を睡眠にあてていないから
「ああ、ようやく目が覚めやがりましたか。上位個体」
「あれれ? なんでミサカがミサカの背中に居るの?」
「大人しくシェルターに入ってこなかったどこかのクソ上司を、ミサカ達が探していたのです。しかしあの状況で、よくも外で生きていましたね」
「ミサカも入るつもりだったんだけどね、しぇるたー。ちょうど病院が崩れ落ちる所で入れなかったの、ってミサカはミサカは」
「あーはいはい、それだけ元気ならミサカがわざわざ背負う必要は無い様ですね。とミサカは客観的事実を述べます」
お尻を支えていた手が放され、少女は少女の背中を滑り下りた
「ここまで連れてきてくれてありがとー。それで、昨日の事なんだけど」
「へぇ、なんでしょう」
「ミサカが仕方ないからシェルターに入ろうと病院内を移動してたら、"今直ぐにここから出ろ!"って強い命令みたいな意思を感じ取ってね」
「確かに嫌な揺れ方してて、周りに誰も居なかったから、その意思に従って慌てて外に飛び出したんだけど、その後すぐに崩れ落ちちゃって」
「それで、当ても無く逃げていたらあんな場所に居たと?」
「うーんと、同じようなことが何度か合った様な気がする。途中で眠くなっちゃったし、場所も分からなかったから、多分行くあてとかがあったわけじゃないと思う」
「逃げる最中に睡眠欲に負けてしまうとは、流石おこちゃま個体ですね」
「むーっ。そうだ、他のミサカ達もそんな感覚とかなかったかなぁ、ってミサカはミサカは聞いて見たいんだけど」
「コイツ、まだ寝ぼけてやがンのか、そいつはただの夢だクソガキ、と一方通行のように上位個体を馬鹿にしつつ、しかしミサカはそれを否定出来ません」
「ってことは、あなたにもそんな感覚が有ったの?」
「ええ。シェルター内で"とにかく今はそこに居ろ"、というものが。同じ場所に居た他の個体にも、同様なものがあったようです。ネットワークを使って、他の個体にも聞いてみましょうか」
「それなら、ミサカが聞くね」
「んん? そう言えば、上位個体はネットワークから締め出しを食らっていたのでは?」
「昨日の時点ではね。今はアクセス自体は自分の能力で出来るんだ。多分、例の意思もそれを介してだからだと思う」
「と言う事は、それは上位個体の管理者権限のそのまた上からきていると言う事でしょうか」
「それは分かんない。ミサカも他のミサカと同じ権限しかなくて、管理者の権限が返って来たわけじゃないから。まだ別の所に在り続けるんだと思う」
「つまり、今のあなたは上位個体というわけではなく、本当にただのおこちゃまな個体というわけですね」
460 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/05(日) 20:55:56.37 ID:/1N0mJZZP
(他の個体にも、ミサカが感じ取った様な、明白な意思の干渉が有ったということですか)
ロンドンに居る妹達の一人は、ネットワークを通して得られた新事実について考える
元上位個体の問いには世界各国の妹達への生存確認的な意味合いもあった。そして、その確認として帰って来た反応はどれも肯定の意を含んでいた
(しかも、その個体にとって生き残るために最善の方法を的確に指示している、と)
(どういう仕組みがあって、どういう理由でミサカたちを生かそうとしているのか、その具体的なものが見えてきませんが、利用しない手は無いです。とミサカは結論を出しました)
自らが危機的状況にあるならば、有効利用する方が断然いい。まさに彼女は今その状況だった。なぜならここはロンドン。空想のものだと思われていた神獣といった存在が当然のように存在し、人型で獣顔の天使と戦い合っている場所
『後ろへ全力で跳んでください』
「……ッ!!」
突然下された例の意思の指示に従って、後ろへ全力で跳躍する
戦闘用クローンとはいっても、彼女たちの身体つきはオリジナルと同様、戦闘員としてはどうしても貧弱であり、その上オリジナルの御坂美琴のようにLV5の電撃使いという能力でそれらを誤魔化せたりはしない
その全力は貧弱なものだった。しかし、彼女に振って来た"生存の為の指示"はやはり的確で、着実な結果を大していた
「アイルランドに目途を付けて帰ってみれば、どーしてこんな訳の分からない状態になっているの」
妹達を救ったのは、イギリス在住ならば知らないはずのない存在
(……容姿から該当するのは、第二王女キャーリサ)
彼女が握るその剣が、天使と神獣の撃ち合いによって生じた巨大な氷の礫を叩き割ったのだ
キャーリサ「そこの東洋人の娘さん、大丈夫?」
「た、助かりました、第二王女様。とミサカは安堵の息を吐きながら答えます」
キャーリサ「面白い話し方をするな。でも礼など気にしなくていいの。自国内に居る人間を守るのは、国家権力に近い者として当然の役目だし。……だけど、慌てて飛んできたので状況が今一つ不明なのよね。母上にでも話を聞こうと思ってるけど、場所知ってる?」
「女王陛下の居場所ですか。……申し訳ありませんが、存じ上げません」
キャーリサ「ふーん、そう。まーいいか。どうせあの母上の事だから、最前線で暴れ回っているんだろーし」
最前線の方、つまり様々な光が生まれては死んでいく方向を、第二王女は見る。しかしそこからでは、夜闇が暗くて誰が何なのか分かりようも無い
キャーリサ「娘、ウチの騎士共が不甲斐なく防衛線を突破されたことは謝るの。だが、ここは既に危険だし、とにかくあの趣味の悪い天使から離れるように移動するといい。どこまでも逃げて、生き残る。いくら都市が壊されても、人さえ生き残れば、いくらでも再生できるし」
「分かりました、とミサカは――」
頷いて、言い切る前に、「まーた財政が悪化するな」と呟きながら第二王女は最前線へ向かって跳んでいた
その跳躍は明らかに自分の脚力を、というか人間の脚力を超えていて、彼女にはどういう原理なのかわかりはしなかった
だが、驚かない。世界各国の他の妹達と同様、目の前で超能力とか超科学とかを軽く飛び越えた存在が跋扈しているのだから。魔術というものが存在したとしても、今更すぎる
461 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/05(日) 20:57:55.08 ID:/1N0mJZZP
禍々しい。垣根へと歩んでいる炎は、垣根の身体から生じていく虹と対照的に、禍々しく見えた
そう見えたのは、虹があまりにも美しかった事と、相対的にその黒い炎から明らかに虹を壊そうという意思が透けて見えたからだ
上条「何をするつもりなんだ、ステイル!!!」
御坂を胸に抱いた上条は、その人型の核を持った黒い炎に向かって叫んだ
しかし、返事は帰ってこない
聞えていないのか、無視をしているのか
"幻想殺し"を持つ上条当麻だが、その素体は人間。だからこそ、垣根のそれが美しく、そして人々に望まれるものであると感じる事が出来るし、ステイルの行動から変な汗をかいてしまう
止める必要が有りそうだ。でも、何をするかはわからない
そうなると、身動きできない御坂を置いて止めに行く訳にはいかない。もし彼女に魔術の流れ弾でも向かえば、その場に自分も相もいなければ、不味いことになる
そして"幻想殺し"の外部出力に至っては、出力を調節することが出来ないので、無暗にぶっ放せばステイルが丸々掻き消されてしまいかねない
さっきまで一緒に戦ってきた手前、そして何度も救われた手前、そんなことまでできるはずが無い
御坂「あの炎、止めたいんでしょ?」
唐突に、御坂が口を動かした
上条がステイルを止めたい意思を持っていること。それは、同じく人間である御坂も同じだった。理由など無しに、彼女もステイルを覆う黒い炎に嫌悪感に似た焦燥感を感じていた
御坂「だったら、左手で、私の手首を握って」
上条「どうするつもりだ?」
御坂「アンタに、私の関節の代わりをしてもらうのよ。大丈夫、適当に向けてくれれば、後は私が狙いを付ける」
その手には、今となってはどこにでも転がっている金属片が握られていた
手首の関節も壊されているが、指や手の平が壊されたわけではない。"超電磁砲"はまだ生きている
頷いて、上条は御坂の右手首を優しく握って、ステイルの方へ向けた。当たれば、流石にステイルでもこちらに注意を向けるだろう
それで何が解決するのか見えてこなかったが、やらないよりはマシに思えた
御坂「それ以上、行かせないっての!!!!」
虹の光りが反射して眩しいぐらいの大地の上を、青い稲妻を帯びた金属片が空気を裂いて進む
462 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/05(日) 21:01:04.18 ID:/1N0mJZZP
射角よし、弾丸となった金属片の摩擦減衰も許容範囲内。つまり、直撃コース
普通の人間ならば、上半身と下半身は永遠にオサラバだ。ただの炎なら、掻き消してしまう
しかしながら、それは二人の予想通り、ただの炎では無い
御坂と上条の共同作業によって撃ち出された超電磁砲は、ステイルの肩口から現れた腕の様な形をした炎に、簡単に握りつぶされてしまった
知る人が見れば、それはステイルの炎というよりは、フィアンマの"右腕"に似ていると気付けただろう
もちろん、上条も御坂もフィアンマになど面識は無い。分かるはずもない
既に崩壊してしまったローマ正教内での神の右席、フィアンマの操る属性は炎
そしてステイルが専門に操るは、今はラファエルの要素も持っているが、同じく炎だ
最初から、ステイルとフィアンマの親和性は高かった
ステイル「なにやら邪魔者がいる様だが、この程度では俺様には問題にならんな」
更に、反対側の肩から同じ形をした黒い炎の腕が生じる
膨張し続ける垣根に比べれば格段に小さい両の炎の腕が地面を叩き、その反作用でステイルは跳び上がった
そのまま、身体を激しく燃やしながら、世界を包む虹を生み出す未元物質の繭の裂け目の中に、その体ごと突っ込んでいく
出される虹の濁流が彼の体を中に入れさせまいと働くが、ステイルはその流れの中を炎の両腕で強引にかき分けながら、確実に進んで行く
眩し過ぎて、ステイルの炎が見えなくなるまでは、僅かな時間だった
御坂「……どうするの」
上条「どうするっったって、どうしようも」
彼は考える。これから何が起きかねないのかを。ステイルが何をしようとしているのかを
上条(もし仮に、あの繭からの力の放出に栓をする様な事が起きたら、どんなことになる?)
上条(どんな袋にだって内容量に限界はあるんだ。それが、もし、裂けたら)
"神の力"の洪水。そんなもの、被害を予想するまでも無いことだった
上条(その時、俺の"幻想殺し"で、御坂を守り切れるか……?)
463 :
本日分(ry はいはい少ない少ない。ヴェントはまだ待ってー。佐天さんはもうすぐー
[saga sage]:2011/06/05(日) 21:05:20.60 ID:/1N0mJZZP
二つの超性能AIが有って、これまでは"拡大幻想殺し"などという、外部出力した"幻想殺しの盾"みたいなものを展開することが出来た
しかし、今の彼にできるのは打ち消しエネルギーの外部出力と、今まで通りの右手での打ち消しのみ
外部出力はただ力を出しているだけであり、そこには打ち消しの作用などない。良くいって相殺だ
右手一つで打ち消しきれるのか? そんな生易しいものなのか
上条(風船が割れるみたいになる、なんて確証は無い。けど、そうじゃなくてもあのレベル同士が衝突しあったら、それだけで危険なんじゃないのか)
心配そうに"繭"をみる御坂。その少女の顔を覗き込む上条の視線に、彼女も気付いて、二人は見合った
上条(駄目だ。ここじゃ、御坂を守りきれる保障が無い)
クソッ!!
上条は一度そう声を張り上げると、御坂を持ちあげた
上条「……御坂」
御坂「な、何?」
、
上条「お前が乗って来たっていう飛行機が有る場所、分かるか?」
御坂「方角ぐらいは、多分。それなりにおっきいし、近づけば分かると思う。……ここから逃げるの? 私の為に」
上条「動けないんじゃ仕方ないだろ。案内してくれ」
御坂「……うん、わかった」
また自分は当麻の負担になっている。悔しいな
彼女は奥歯を噛み締め、しかし上条に身を任せるしかない
「だけど、その前に、御坂」
「…………え?」
言って、彼は身動きの取れない御坂のスカートの下に、手を突っ込んだ
そして一気に、彼女が身につけているものを引っ張った
「お前の短パン、貸してくれ!」
相が帰っていないので、彼はまだ全裸だったのだ
464 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/05(日) 21:08:43.23 ID:TS9fi1uRo
上条さんマジ紳士やでえ
465 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/05(日) 22:54:56.54 ID:6qkdDDHSO
絵面的にはとてつもない犯罪臭がするな
466 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/05(日) 23:10:29.33 ID:G1lMyTDDo
クソワロタwwwwwwww
467 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/05(日) 23:11:58.13 ID:9LEmwoFGo
ていとくん頑張ってくれ
468 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/06/05(日) 23:21:50.36 ID:a/mJeMyNo
フィアンマ達が噛ませにならなけりゃいいが……さあどうなる
469 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/06(月) 01:09:36.15 ID:DHudpyjx0
乙
最近は文量もペースも安定してていいね
470 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/06(月) 13:04:11.03 ID:k3sBtGNSO
このSSのテーマは「救いが無い」
そして現れた救世主
つまり……
471 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/06(月) 16:58:31.89 ID:SwSpNHNAO
おまんこ
472 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/09(木) 11:49:24.16 ID:4eRyReISO
そろそろか
473 :
安定してて良いと言われた次に早速遅れたでござる
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:23:42.15 ID:ngFbEDN1P
虹色。その表現が意味しているのは、単純に色を識別できないから
人間が視認可能な色というものは決まっている。その範囲外のものは見えない
しかし、それは見えないだけであって、無いと言う訳ではない
上条たちがそれを見て、善いものだと理解できたのは、または壊す事に抵抗を持ったのは、まさにその見えない部分の作用だった
"終末"によって再生可能な人間は"復活者"となり、天国または地獄での生活が待っている
ステイル「だが、所詮その素体は人間だ」
ちょっとした地方の蹴球場並みのサイズをしている、"繭"の土台の部分
その中は、噴き出す"虹"とは対照的に、ただの白い繭の壁と床に覆われた空間だった
もしかすると、無色透明な気体と成っている未元物質が充満しているのかもしれないが
ステイル「この世の何よりも辛いレベルの苦痛をずっと味わい続けて、天使並みの力を持つ"復活者"が黙っていると思うか?」
ステイル「もちろん、NOだろう。俺様だってそんなものは御免だ」
ステイル(……では、…地獄に、なにか、仕組み、が……ある、ということ…か)
ステイル「その通り。そしてその仕組みの種明かしをすれば、あの虹と同じ体系だろうな」
彼の眼は"繭"の天井の"虹"を生みだしている亀裂を見た
ステイル「アイツが出している"虹"は、言ってしまえば巨大な精神干渉術式の媒介だ。しかも、これは予測だが、光の瞬きに科学的な催眠の要素も有るのだろう」
ステイル「その働きは超能力とやらの領域でもない。もしそんな"天の力"をそのまま扱うような方法ならば、俺様が強引に使っているこの体やお前の意思に対して、"既存の救世主の消去"に拒否反応を示さないようにできるからな」
ステイル「流石の俺様も、科学の方はわからない。だが、このまま虹の拡大を放置するのは不味い」
ステイル(……なぜ、だ、い?)
ステイル「この虹が干渉してくれば、本来は神の能力である"復活の術式"の正統性が失われてしまう。そうなると、お前のように炎の要素の強い存在でも無い限り、"復活者"達が俺様のコントロールから外れてしまう」
ステイル(流石の……君、でも…裏切は怖い、のか)
ステイル「別に、今すぐに"復活者"達が全員俺様の敵になったところで、全員を滅させることは難しくない。だが、それは間違いなく手間だ。この後の"ベツレヘム"の制御も面倒になる」
ステイル「だから、あの"虹"をとっとと止めたいのが実情だ」
言葉を置いて、彼の体を取り巻く炎が勢いを増した。同時に両肩から生えていた炎の腕も大きくなり、優にステイルの体の10倍近くになる
天井を構成する"繭"まで、具体的には裂け目まで届くにはもう少し
ステイル「すまない、ステイル。少々お前の体を酷使させてもらう。魂まで焼き切られないよう、耐えてくれよな?」
474 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:24:18.91 ID:ngFbEDN1P
彼本人からすれば、それは苦痛の一言だっただろう
邪悪というには純粋に黒過ぎる炎が纏う生の肉体の部分。その、腕が、脚が、胸が、顔が
血管の中を、過多にも程が有る流れがうねる。圧迫された神経が全身から苦痛を伝え、しかも彼は御坂のように神経伝達を意図的にカットすることなど出来はしない
それでも、彼の血管などの、あらゆる体組織は崩れる事は無かった
流れているのは、膨大な"力"
フィアンマがステイルの胸の太陽から、僅かに残っていたステイルを圧迫しているのだ。体中の悲鳴に加えて、入ってくる"フィアンマ"
苦痛の一方で、その意識はステイルの意識と溶け混ざる。その副作用とも言うべきか
彼の頭脳に、フィアンマの思考が部分的に混じった
ステイル(そ、うか。君の、"終末の解決方法"……。その神髄は)
ステイル「……ああ。運が悪かったんだ、俺様もな」
声に出してステイルは笑いながらも、左肩口から生じたフィアンマの腕が一気に伸長し、繭の天井の"裂け目"へ到達する
しかし、やはりなにかが"繭"の中に満たされているようで、部外者の彼の動きを阻む働きをし、腕のコントロールに明らかな支障が生じる
その腕に加わる力があった。それは、"フィアンマの力"から離れた、ステイル自身の"炎に変質した腕"から伝わるもの
現に、フィアンマが操っていないのに、そのステイルの腕が嫌な感じに痙攣しながらも、しかし確かに裂け目に向けられている
ステイル「お前……」
ステイル(ほんの……些細、な、ものだ…ろうけど……。助力、する)
その言葉が伝わって、彼の口が、その両端が、少し上に吊り上がった
直後、ステイルの左肩から伸びた炎の腕が裂け目で変化を始めた。その先端から、"裂け目"を覆う様に炎が拡散していく
虹の噴出を抑えるのに長い時間は必要なかった
残るは、本体
ステイル「さぁて、ここからが問題だ」
正面には一人の人間らしき影。しかしそれに実体は無い。からっぽの、ホログラムのような透明感のある垣根帝督
その瞳は確実に妨害行為を行っている侵入者のステイルを捉えてはいるが、表情など無い
何もない、白く広い"繭"の中央に、ぽつんと立っている意識だけの塊――――
それが"救世主"だった
475 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:25:01.97 ID:ngFbEDN1P
最終個体だった球体は巨人を倒した後、急にその活動を休止した
少なくとも、一方通行はそう判断した
折角倒した巨人の力を吸い取って自らの球体を回復させたのにも関わらず、今は女性的な身体に戻して、ただ空を見るばかり
当然、見ている視界には"破壊者"達の群もあるだろう
しかし一方通行がその力を利用して彼女の意識ベクトルが向かう先を調べてみれば、殆ど明後日の場所を見つめているのが分かった
一方「こンな時に、何を見てやがンだァ?」
その方向、東北東の空を見るが、何もない。少なくとも、この状況を解決してくれそうなものは
柱だけとなった高層ビルの頂点の上で、憎たらしそうに東京方面にある大量の破壊者達の群をみる彼は、覚悟を決める
一方(あンだけ喧しかった生き残りの連中も、流石に意気消沈しちまったか)
なら、残る戦力は自分しか居ない
シヴァと名乗る巨人一つで殆どその総力を費やしたのに、それが何十と在るのだ
"力"について知ったといっても、流石にこの数を対処できるわけが無い
一方(だからって、無血開城するって訳にもいかねェよ。アイツみたく、何度でも立ち上がってやる)
自らを浮かせるための気流を生じさせる。彼は、笑っていた
その両肩からは、反対の色を持った翼がその効率を向上させ、彼は学園都市外まで飛行を始める
彼もまた10代。アイデンティティの形成過程に同一化作用がある。言いかえれば、それは憧れだ
"お前の考えるような英雄ではない"、と言われても、それでも彼は彼を、憧れという形で思う
それ以外に憧れる事が出来る存在が、彼には無いのだから
そして、英雄でない、と言われたことで、逆に彼は自分と"幻想殺し"との距離を縮めることにもなっていた
完全なHEROでないならば、悪の要素が強い自分だって憧れの存在に近づけるかもしれない。そういう無意識な心理が進行したからこそ、一方通行は自らを彼に重ねる事が出来た
だからこその白翼
そして、だからこその黒翼
図らずも"幻想殺し"が英雄でないことを彼は受け入れたのだ
結局、完全な存在なんてありゃしねェ。悪が有るから善が有る。片方だけがある、なンてことは、存在しないことと同じ
上条当麻という存在が、彼にも人間を理解させた
そして、そんな彼の守るべき都市で、動きが始まっていた
476 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:25:39.97 ID:ngFbEDN1P
「ううーん。これは、なんというか」
その視線は、彼の下半身に集中していた
緑の濃い公園の一角に、黒々とした輸送機の表面が太陽の光を怪しく反射している、この場所
相「酷く、パッツパツですね」
つまり、御坂から強引に奪った例の短パンである
恐ろしいほどに上条の下腹部の輪郭を浮かび上がらせながら、それでいてその繊維は彼の股間抑えつけ圧迫している様には見えない
相「しかし、流石学園都市。明らかなオーバーサイズにも関わらず、こうして形状を保っていようとは。これは素材だけでなく、縦列の繊維構造にも着目すべきm――」
上条「そんな冷静な分析よりも早く! 何か服は見付からなかったのか?!」
俺が悪かったという台詞を体現する彼の顔は焦げていて、若干涙目だ
恐らく、御坂の電撃を浴びたのだろう
電撃の犯人と思わしき少女は、彼と同じように涙目だ
相「あなたからの無線には驚かされましたよ、御坂美琴。機能的な限界で一方的な受話しかできませんでしたけど」
相「手筈通り機体内に確保した衣類などは積んでおきましたから、この娘は私に任せて、当麻は早くその特殊な格好を何とかしてきなさい」
上条「いってきます!!」
女が言い切る前に、彼は走り出していた
少女を手渡しし、男は見た目的には裂けそうなパンツを着替えるべく、御坂が乗って来た輸送機の中へ飛び込む
その躊躇のない走りは、どことなく滑稽であり、上下に運動着を着た相と呼ばれる女はやれやれと言った感じだ
相「元々飛行機の着地なんて考えられていないこの場所に着地した際、この輸送機は少々傷ついてしまったようですが、問題はなさそうです」
木の根元を背に座らせられた御坂の方を見つつ、コンコンと機体の表面を女は小突きながら言う
相「それで、当麻の胸はどうでしたか?」
御坂「骸骨の右手よりは、良かったわよ。……短パンさえ奪われなければ」
477 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:26:07.21 ID:ngFbEDN1P
相「あの子も、流石にイチモツをぶらつかせながらあなたを抱いて走り回るのはいけないと判断したのでしょう。無抵抗の女の子へ強引に、という方法へ問題を感じない訳ではないですが」
御坂「そうですよね! 理由は分かるけど、せめて許可とってからにしてって思いますよね!?」
相「多分、時間をリスクに感じたんでしょう。今のあの白い球体は危険な感じがしますからね。一体何があったんです?」
御坂「あの赤髪の人が繭の中に入って行った、わかるのはそれだけ。でも、何か途方も無く良くない感じがした」
相「ステイル=マグヌスがアレに? 虹色の何かの噴出が、今現在止まっているのと関連が有りそうですね」
上条「関連が有るかは断定できないけど、今のアレの中にとんでもない力が詰まってるのはたしかだ」
ようやくまともな服を着た上条がやって来た
御坂「やっと変質者から抜け出せたみたいね」
相「ってか、やっぱりそっちを選択したのですか。つまらないですね」
上条「変質者言うな。あと、お前は俺に時代遅れのハリウッドスターみたいな恰好をして欲しかったのかよ? それにしてもエルビス=プレスリーは古すぎるだろ」
流石にそれは見たくないわ、と女の方を御坂が見ると、割と真面目に残念そうな顔をしていた相が居た
御坂「………で、どうすんの? 仮にアンタの右手で"繭"っぽいのが壊せたとしても、その中身は安全って訳じゃないんでしょ? リチウムイオン電池とかでも、爆発すると結構なものよ」
いっそ、このまま何もせずに学園都市へ帰る、という選択肢もある
御坂としてはその方が良かった。せっかく会えた上条とまた離れたくはない
ようやくゆっくりとなら動かせるようになった手を伸ばし、彼女は上条のシャツの裾を掴む
上条「だからと言って、今のステイルをほっとくのは良くない。お前もそう思うんじゃないか、御坂」
御坂「それは、そうだけど」
相「私も、あなたが無茶するというのなら、賛成出来かねます」
上条「俺だって無茶なことをするつもりなんてないって。こんな右手を持ってあの"繭"に触れるのも良くないだろうし。……なぁ、この輸送機にロープは有ったか? 出来れば頑丈な奴がいいけど」
相「先程ざっと機材を確認した際に200m程度のドラム式の奴が有りましたけど。何をするつもりですか」
上条「ちょっとしたバンジージャンプかな。だから、そんな顔をしないでくれ、御坂」
478 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:26:55.71 ID:ngFbEDN1P
「私に従いなさい。私達」
NYの空に身体を浮かべて、彼女は自らを炊き付けた
状況確認
敵の数はさっきから増えていない。代わりに一匹一匹が強大になったが、動きは悪い
そしてローマ正教の印は敵の体から消えた。どう考えたって、ローマ縛りは無くなってしまっている
何が原因で? なんて考えても、答えを彼女の頭は出したりしない
だが、都合良く動きは悪くなっているし、増えないし、何より"何で僕たちはここに居るんだろう?"と疑問符を浮かべてそうな今の状態ならば
神裂(一刀のもとに斬り捨てられれば、何の問題も無い)
神裂(反撃される前に防御不可能な場所からの先制攻撃。つまり)
今の標的は、目の前のムカデのような見た目の化け物。一体どこの文化がこんな存在を作ったのか分からないが
外見から判断出来る事として、この七天七刀でも斬り込めそうにない。未元物質も右に同じ
強いて言うなら、各部の節ならば叩き切ることは出来そうだが
神裂(しかし、どんなに硬い装甲を備えていても、むしろそんな強固な守りが有ることこそが、逆に)
神裂(その守りに覆われた内側が脆いと言っている様なもの)
可能ならば敵の弱点を突く。このことは戦闘の基本
空に浮かんだ大きなムカデの頭部を守る装甲。その部分がグチャァ!とめくれ上がり、中の白みがかった部分が外に露出した
装甲をめくりあげさせたのは、女性の髪の毛のようなしなやかさを持った、未元物質のワイヤー
空間移動能力を用いて、身体の一部となった未元物質のワイヤーを敵の体内に送りこみ、そのまま術式陣を構成、内部からの起爆を行った
緑がかった体液を漏らしながらビクビクと震えるその内面が露になると、女は刀を腰で構える
"唯閃"
対神格用術式として対象に全力の一太刀を叩きこむそれは、既に瀕死となっていたムカデ神獣を消滅させるには十分すぎた
ここまでして、しかし他のパワフルな獣やらは、元々は仲間だったムカデがやられても、何ら神裂へと攻撃の矛先を向けない
故に彼女は、龍を、一角獣を、鷲を、骨の巨人を、同じ方法で砕いていく
479 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:27:25.62 ID:ngFbEDN1P
NYは一時期に比べ、かなり大人しくなった
鳴り響くのは、空で暴れる獣と人間とは言えない存在の格闘音のみ
そこには既に駆動鎧の姿も無く、そして地上での銃撃音も爆発音もない
逃げ惑う人間の悲鳴も無い。それは逃げ切ったということも、死んでしまったということでもあった
その大地に落ちてくるものは、上空で削られる獣たちの体液などの体を構成するもの
それらは、本体の消滅と共に消滅していくが、逆に言えば、本体が消滅するまではそこに在り続ける
"天使の力"を高純度に圧縮したそれらは、彼らの近くにも降り注いだ
彼ら、天草式十字凄教の面々は、対神裂火織と言う目的の元、人気のないNYを移動していた
周囲にあるものを利用しようとするそのスタイルが探すのは、龍脈などと呼ばれる大地のエネルギー
「地脈の最大集約点、ここだ」
一つは、対神裂の為
もう一つは、未だ意識を回復させない五和の為
対馬「五和をここに! パンツとパンもね!」
身近な物品の持つ意味から力を導き、対象を回復させる
肉体を作る食品に、新たな生命の誕生する門を守るパンツ。それらを介して、彼らの力を単純に集約したものよりも、より強い地脈の気を、回復魔術として五和に加える
意味しているのは生命の回復。周辺で一番強いこの場所、と言ってもただの高層ビルとビルに挟まれた道路の一部分でしか無いが、ならばなんとかなるかもしれない
建宮「吹き出し方が普通の力栓を超えているのよな。これも"終末"の影響と考えるのが自然か。………ん?」
今日何度目かの、五和への回復術式の様子を見守る彼の頬を、雨が掠めた
建宮(雨? この天気で、だと?)
少なくとも、水滴をもたらすような天気ではない
何らかの力と力の衝突の余波かもしれない、と、彼は考えながらそれを拭った
ヌチャッ
それは非常にベッタリとしていて、しかも、緑色だった
同じものが他の天草式にも次々と降りかかっている
480 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:27:57.89 ID:ngFbEDN1P
だが、五和の回復に当っている対馬ともう一人の女性信徒はそんな物に気を取られなかった
「教皇代理、これは……」
上から降って来たのだから、上を見るのは当然の反応だ
そこで気付く
上にあって、こんな粘液を流しそうな存在。それは神裂が相手をしている存在しかない
建宮「こいつは……!? 対馬、ちょっと待つのよ!」
しかし、彼女は術式中。回復術式などという、他人の生死に深くかかわる術式の最中に気を他に許す事は危険
待てと言われて待てるわけがない
建宮「止めろ、対馬! 今の状況じゃ、魔術は危け――――」
対馬がその声と意味に気付いた時には、五和を包んでいた淡い青白い光が、強く発光した。それこそ、閃光弾の如く
対馬「ぐゥっ、つ? ああぁぁぁあぁぁあああああああ!?」
五和への治癒魔術は、周辺の力を個人の回復にあてるというもの。だからこそ、NYで一番強い地脈の噴出地点を選んだのだ
そこに、日頃扱っているようなレベルではない力の塊が、体液という形で振って来て、溢れている
それは聖人でも神の右席でも無い、ただの魔術師には到底扱いきれる力量ではない
簡単に抑えきれなくなり、バチン!! と対馬と女信徒が五和の近くから、音を立てて弾かれる
ビルのコンクリート壁に向かう勢いはちょっとした交通事故並み。受け止めねば二人まで重体になりかねない
これ以上人員を失えない彼らは、対馬を建宮が、女信徒を二人の男が咄嗟に受け止めた
建宮「大丈夫か?」
対馬「……っつ。私は大丈夫。それより五和、五和はッ?」
震える脚で建宮に寄りかかったまま、彼女は自分よりもより悪い状態の、術式の中心の女を見た
閃光のようだった光は、なりを潜めてはいるが、まだ青白い光そのものは続く
五和は陸に上がった魚よりも酷い状態だった
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――――」
その光が続いている間中、彼女はずっと地面をのた打ち回るしかない
481 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:28:26.29 ID:ngFbEDN1P
光が消え去る前に、ともすれば五和の精神と肉体が負けてしまうかもしれない
当然の反応。彼女は聖人でも無ければ天使でも無く、ましてや復活者ですらない
調節された地脈の力を遥かに超えた量の、"天使の力"が入ってしまえば
例えそれが魔術で使用される魔力と言う名のものの本質であっても、ただの人間でしかない彼女では量と質を受けきれない
運の悪いことに、本体の消滅と同時に霧散するはずだったその力は、本体消滅前、つまり霧散する前に、彼女の中に力として入ってしまったのだった
結果、過ぎたる力が彼女の身体の中で暴れ回る
「ぐがあああああああああっ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
電気椅子による拷問を受ければ、こうなるのかもしれない
その声に、最早女らしさなどなくなっている
「あ゛あ゛っ、あ゛、あ゛あ゛ぐッ! ハァ゛、はぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
腕がガクガク震えながら動き回る。それは、見方によれば何かを求めているようにも見えた
「あ゛あ゛、あ゛あ゛、や゛、り゛……あ゛あ゛」
建宮「何だ? 何を言っている?」
「や゛、り゛。私のッ! や…り、を、わだじにッ!!! だ、あ゛あ゛あ゛あ゛」
槍。彼女の得物。それを求める目は痛みの為か鋭く、獣の様だ
まさか、冥土の土産に持っていくと言う訳ではないだろう
ならば、何故?
建宮「そういうことか、 五和!」
建宮が五和の狙いを理解し、彼女の槍を手に取った時
「教皇代理ッ!!!」
仲間の悲鳴のような声。そして空から、一人の女性が降りて来た
全裸では在るが、黒髪に、刀を一振り。全ての神獣を狩った女、神裂火織
そのタイミングは最悪だった
482 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:29:12.16 ID:ngFbEDN1P
「……うそ。うそ嘘うそウソよ!!」
その事実に一番最初に気付いたのは、フレンダだった
彼女たちはいまだに学園都市の外縁部にあるフラフープの電力施設の副管理室にあった
動かないのではなく、動けなかった
その理由は言うまでも無く、麦野と初春の死。そして疲労だ
アレイスターに良く似た存在によって在る程度傷を癒された滝壺は自身の能力使用の疲労があり、そして白井と絹旗は根本的にまだ入院しておかなくてはならない
唯一元気と言えるのはフレンダだが、だからと言って彼女にも疲労が無いわけではない
動けるはずが無かった
そんな彼女たちに、更なる絶望が襲う
一番外部モニターに近かったのは、フレンダ。彼女はその映像を現実と考えたくなかった
なぜなら、そこに映っていたのは10を超える巨人
麦野と初春が命を落としてようやく止めを刺した存在が10以上いる。それ以外にも、絵画に描かれるような伝説的な存在まで、たくさん
白井「これは……」
フレンダ「なんで、こんな……。こんなのって、ない」
学園都市に残った力を全て使ってようやく倒した存在が、まるでただの一兵卒でしかなかったのだから
絹旗「これじゃ、麦野も初春も……超、犬死じゃないですか」
one of oneを倒したのと、one of themを倒したのではその行動の価値は大きく変わる
そしてそのthemの部分が多ければ多いほど、oneの価値は相対的に激流下りだ
483 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:29:46.05 ID:ngFbEDN1P
滝壺はもう、言葉が無かった
彼女を直接殺した原因は自分なのだから
そして、遂にである
「……でも、もうこれでいいですの」
白井が、言葉弱く呟いた
白井「ここでアイツ等に殺されてしまえば、もう今の初春の様な姿を見る事は、悲しむことは………ッ」
すでに反撃の手段は無いのだ。破壊者達の軍勢を映し出しているディスプレイには、止めるようなミサイルも機銃も能力者の抵抗も見えない
ならば、もう受け入れるしないじゃないか
絹旗「……そうですね」
暗かった空気が、立ち昇っていく太陽の明るさと対照的に、より重くなる
そんな中にダッダッダッダッ! と複数人の靴が床を蹴る音が響く
考えられるのは、この施設を管理していた米軍の兵たちだろう
あれだけのことをしたのだから、彼らが来るのは遅すぎるほどでもある
「随分と大胆な事をしてくれたものだ。女子達と侮ってしまったが、流石は学園都市の生徒」
部屋に入って来た兵は銃を腰に持っている。戦闘になれば、倒せなくは無いが
もう疲れた。不服だが、この兵隊たちに殺されるのも、あの破壊者達に殺されるのも対して変わらないだろう
しかし、彼らはその銃を下ろし、どちらかと言うと部屋奥に居座る彼女たちに接近してくる
その中の一人が、温かさを失った初春の生命反応を調べ、十字を切った
どうも、電力施設を壊されたことで彼女たちを始末しに来たのとは違うらしい
484 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:30:19.79 ID:ngFbEDN1P
特にぐったりとしている白井と絹旗の前では、二人の兵が屈み、彼女らを背負おうとしているではないか
フレンダ「あれ。殺しに来た訳じゃ、ない?」
覚悟の分だけ拍子抜けだ。殺されるつもりではあったが
「殺す? まぁ確かに、上から高温の電解質が降って来た時は何事かと思ったが、君たちは一種、英雄だ。どうして殺す必要が有る」
英雄だと? 笑える話だ
その張本人達は死んでしまったし、なにより、より多くの敵が押し寄せているではないか
フレンダ「残念ながら、アレをやった張本人は、結局、この中にもこの世にももう居ないのよ。だから、この連中を追い返すだけの戦力はもう残って無いわけ。分かる?」
「いや、十分だ。一番の窮地は超えている」
絹旗「一番の窮地を?」
体重を兵士の背に預けた絹旗が問う
「ああ。時間稼ぎは成功した。ようやく持って完成したからな。これで、学園都市は当面安泰だ。だから君たちも、こんな使い道の無くなった塔から出るべきだ。そう思わないか」
良く分からないが、本当にそうならば、その通りだろう
フレンダはじっと、近づいてくる破壊者の集団を見ていた。その中に一点、逆に向かっていく存在もあるが
白井「それなら、初春も」
「ん?」
白井「そこで死んでしまった私の友人も、出してやってはくれませんか」
「……了解。彼女の亡骸は私が持とう」
そう言って、その兵長らしき男は少女の亡骸をその腕に抱えた
485 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:31:18.59 ID:ngFbEDN1P
ステイルの左腕とフィアンマの左腕は、彼らにとっては厄介な"虹"を生む裂け目を閉じる役割をしていて、それ以外には使えない
だから、彼らに残されたのはそれ以外の三肢
左腕に常に一定の力を加え続けながら、彼はガラスの様な垣根帝督に一歩一歩、歩いて近づく
一気に距離を詰める事は出来なかったのだ
それは、"救世主"が何をしてくるか分からなかった為に様子を見る必要があったからと
なんらかの力が彼らの進行を止めようと働き、一歩一歩ぐらいしか近づけないのだ
フィアンマの右手に炎、と言うよりは高温高圧のエネルギーの塊が生じ、ステイルの腕には炎剣が握られる
そのまま、生じた直後にフィアンマの右手のエネルギー塊が垣根の方へ向かって射出された。が
垣根の前30m程まで何とか塊はその球体を維持して進んだが、そのままそれは霧散してしまった
ステイル「"虹"を止めた分、濃くなったと言うことか」
そして、歩みが進むにつれて彼の握る炎剣も徐々にその猛々しさを失っていく
果たして、垣根の胸を貫くまで保つのか、と疑問が浮かぶ
外へ向かうはずだった"神の力"は、上条の読み通り、行き場を失って中に詰まっていっていた
未元物質と言う形式のそれは、無色透明ながら、垣根の体でもある
ただの不法侵入者を除去することならば、訳ない
"繭"の中の空洞の空間で、垣根らしきものは動かず。しかし、彼の攻撃意思は別のものとして生まれる
ステイルの目の前に、突然"腕"が生まれた。垣根と同じく無色透明で輪郭がうっすらと浮かんでいる
拳の向きから、ステイルはそれが右腕だと言う事が分かる。すぐに判断出来たのは、そのステイルの身の丈ほどもある拳が、目の前まで寄っていたからだ
咄嗟にフィアンマの右腕が彼の身体を守るが、その力は僅かに虚空より生まれた拳の方が大きい
ステイル「……強いな」
受けきれず、彼は後方に押し飛ばされた
486 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:32:18.59 ID:ngFbEDN1P
その後、すぐにステイルを殴った腕はまるで無かったかのように消失する
そのまま再度、着地したステイルにもう一度、巨人の腕だけが虚空より形成され、ストレートが向かってくる
しかも、今度は両腕だった。彼を挟むように左右から迫ってくる拳
前、つまり垣根に近づく方向には、障害効果に阻まれて一歩ずつ程度の速度しか進めない。咄嗟に動くには、後ろしか無いのだ
殆ど誘導されるように、彼は後方に跳んで、虚空より生まれた輪郭だけの巨人の腕の挟むような攻撃を回避する
今までの一連の動きだけで、ステイルはかなり繭の端の方に押し込まれてしまった
また近づかなければならない。しかも、何もないところから現れる腕の攻撃が有る以上、それはかなり面倒である
ステイル(せめて、……君の本体、が、ここ…に、あれば……やりよう、があったんだろ、う……けど)
ステイル「泣き言を言っても仕方が無いぞ、ステイル」
ステイル(その、物言い。随分と、余裕が……あり、そう…な、口ぶり、じゃ……ないか)
ステイル「この世に完全はありえない。あれもこれも、なんて都合良くいきはしない」
言いながら、ステイルの脚は、一歩ずつ垣根との距離を縮め始めた
ステイル「考えてみれば分かる事だ」
その脚は、まるで巨人の腕など恐れては居ない
ステイル「俺様の操るこの体を吹き飛ばす事が出来るなら、何であの"救世主"は、"虹"を生みだす亀裂を覆う左腕の炎をはがさない」
そして、じっとこっちを見つめる垣根
ステイル「もっと根本的な疑問もある。何故この体はこうやって確実に"救世主"の方へ進めるのかということだ。俺様に破れない障壁を作ることだって出来るはずだからな」
巨人の腕が虚空から現れる。そのサイズは、この有限な"繭"の内部の空間ということもあって、かなり視覚的に大きいものに映った
ステイル「簡単な話だ。ステイル、俺様が半分乗り移った今の段階の力でも、十分なんだよ」
止まらない歩みに、とうとう腕が急速に接近してきた
だが、ステイルはなんの抵抗も無く、"裂け目"を覆っていた左腕を、その"裂け目"から離す
487 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:32:48.55 ID:ngFbEDN1P
当然の結果として、"虹"がもう一度噴出を始める
一方で、予想外の結果として、迫って来た両拳をフィアンマの両腕が、まるでボールを受け取るミットのように容易く受け止めたのだ
ステイル「同じ"救世主"の力。より早く昇天を決めたコイツの方が、その力の総量は、俺様よりも大きい」
ステイル「しかし、今この救世主の役割は"虹"の展開。そこに操れる力の大部分を注いでいる。その残りでは、俺様を抑えるには足りないんだよ」
そして、輪郭だけの巨腕はますますその存在を薄くしていった
ステイル「つまり、"裂け目"を閉じたのは、俺様達にとっては言うまでも無く、またこの救世主にしても、俺様を抑えるために力を凝縮できるという意味で、メリットになっていた」
ステイル「そう言う状況が分かってしまえば、なんてことはない。"裂け目"を開けてしまえばいい。この救世主にとって計算違いだったのは、俺様と言う存在がいる事だろう。この"繭"への侵入なぞ、俺様以外では"幻想殺し"を除いて、不可能だからな」
そして、既にステイル達の進行を抑えていた見えない障壁はその威力を失っていた
ステイル「チェックメイトだ、救世主」
彼は遂に、その繭の中央に立つガラス細工のような垣根帝督の正面に立った
そこに明確な意識はない。ただじっと、正面をステイルの顎のあたりを見つめているだけだ
そしてそれを、垣根よりも更に高いステイルの高伸長の視点から見下ろすフィアンマ
ステイル「……やはりな」
ステイル(……?)
ステイルの右腕が、フィアンマのコントロールで、垣根に触れる
触れる、といっても、垣根の頭に置こうとした手の平は、物体に触れる事は無かった。見方によれば、その光景は突き刺しているようにも見えたはずだ
ステイル「ステイル」
ステイル(なん、だい?)
ステイル「今から俺様が見せる幻影を作るんだ」
ステイル(それくらいなら……お安い、御用、だ)
488 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:33:25.82 ID:ngFbEDN1P
「お、よーやく出て来た」
トイレの入り口、弾痕と砕けた観葉植物の木片が散っている廊下の壁に背を預けていた青髪の前に、女が現れた
青髪「やっぱり女の子のトイレは長いわー」
結標「あなたねぇ、そういう事は思っても言わないものよ。大とか小とか言ったら、身体中にその辺に転がってる薬莢を挿入してあげるから」
青髪「そいつは勘弁してください」
実際彼女はトイレに来る必要など無かった
ここに来たのは、青髪を刀夜の元から引き離し、どうやってこのCIA本部からまともな理由を付けて出るかというアイデアを考える為
結標(といっても、何にも思いつかなかったんだけど)
青髪「んじゃ、戻ろか」
彼は、彼女の肩に腕をまわし、その体重を預けて来た
このままではあの部屋に戻ってしまう。理由は分からないが、それは良くない
ただ、怪我人である青髪の行動は自分である程度制限できる
具体的には、歩くペースや行き先などだが
結標「ここって、CIAの本部なんでしょう?」
青髪「せやなー」
結標「CIAって言えばいろんなところで工作行為をしてるのに、その本部がよくもまあここまでやられてしまったものね」
ここに来る前にも一通り周りを観察したが、到る処に爆発の後だとか、使い物にならなくなった端末や砕けたガラスが散っているのだ
加えてぐちゃぐちゃになった死体なども、否が応でも目に入る
青髪「ここにおった人から見れば、僕らの行動は内部からの裏切行為やからなー。ここの構造も把握しとるし、アメリカ要所での混乱に乗じた急襲やし」
489 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:34:16.37 ID:ngFbEDN1P
「こんだけの被害がでてまうのは、流石にしかたないんちゃうかなー」
そう、青髪が言った時
彼女たちが歩行している廊下に、今は砕け散ったガラスの壁で面していた少し広いオフィスの、ひっくり返ったソファの影から3人の人間が飛び出してきた
その格好は青髪達"銀貨"の部隊と変わりはしない。同じCIAなのだから
だから青髪を助けている結標には、これが敵なのか味方なのか判断できなかった
跳び出してきた人間達からすれば、その隙は射撃を行うのに十分。結標は空間移動するにはこの場所を知らなさ過ぎるし、移動した先にも敵がいる可能性だって否定できない
腰に構えた室内戦用の自動小銃はこちらに向けたままだ
それが意味するのは、"銀貨"に銃撃をしたい立場。つまりは
結標(敵!?)
彼女がその判断を下し、彼らが銃弾をまき散らそうとしたのは、0.1秒にも満たない瞬間だった
その小銃がベキィ!と音を立ててひん曲がった。出来損ないの球のような形にである
何が起きたのか分からない集団は、その直後に急に強烈な目眩を感じ、そのまま意識を失った
青髪「っぶなかったわー」
手を彼らに向けていた彼は、安堵の息を吐いて彼らを見た
青髪「やっぱりこの人ら、僕らの元同僚やな」
結標「"元"、同僚ってことは、今の立場的には敵ってことよね」
青髪「せやなー。僕らは裏切もんやから、殺しに来たのも分かる。……うーん、ちょいと不味いでこれ」
結標「どういうこと?」
青髪「この辺は多分制圧下やったはず。僕らのボスである刀夜さんが作業してるトコの近くなんやし」
490 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:36:03.30 ID:ngFbEDN1P
青髪「ずっとあのソファの影に隠れとったってことは考えにくい。すぐに見つかってしまうから、この人らもしゃーなしで飛び出してきたんやろうし。……ってことは、どっかから来たってことになる」
結標「そうなるわね」
青髪「僕らの人数の方が、ここの職員と比べて少ないんや。全員が全員戦闘出来る人って訳やないだろーけど、その数の利をひっくり返したのは、急襲やったからだと思う」
青髪「でも、彼らやって同じレベルの工作・戦闘能力を持った人たち。一旦はなすがままにやられたとしても、やられっぱなしってことはない」
結標「つまり、戦闘力が同程度の敵が体勢を立て直して、私達の制圧下の場所まで来たということよね。ってことは――――」
ズガァン!!ズダダ、ダダダダダダダ!!!!
爆発音、続いて掃射音。間違いなく複数のライフルによるものだと、音から判断できた
そしてその音源は、彼らが今戻ろうとしていた刀夜が居る部屋の方向からであるとも判断できた
青髪「あかん。これは不味いで」
結標「あの刀夜って人のこと?」
青髪「それも有るんやけど、それだけやない。ええか、ここはCIAの本部や。極秘の情報がわんさかある」
彼は刀夜の部屋に戻ろうか、一瞬悩む
悩んだ理由は掃射がさっきの一回だけで終わってしまったということ。
それが意味しているのは、刀夜が射殺されたか、刀夜が帰り撃ちにしたということ。若くも無く能力者でも魔術師でもない上条刀夜に対して複数の現役工作員なら、後者の可能性が圧倒的に大きい
だが、どちらであってもこの場所から逃げなくてはならないことは変わらない。なぜなら
青髪「そんな場所が急襲されたら、並みの職員では見られへんような情報が漏れる可能性は高い。そんな時に、どうやって機密保持をすると思う?」
結標「流出を防ぐために、あらかじめ破壊する? それってまさか」
青髪「その通りやで、あわきん。アメリカ映画の御約束、自爆装置って名前の花火があがってまう!」
彼が大きく言ったすぐ後
その予想通り、施設自棄目的での自爆が行われるという機械音声とアラート音が気が狂った様なボリュームで鳴り始めた
491 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:36:40.10 ID:ngFbEDN1P
心残り
これを無しに死んでいく人間など、恐らく居ないのではないだろうか
死ぬ前に孫の顔を見たかった、とか、成長した子供を見たかった、とか、国をもっと良い方向に動かしたかった、とか
それこそ最期に自分の好物を食べたかったでもいい。買い溜めておいた年代物の酒に口を付けておくんだったでもいい
そういう"欲"が、本当に完全に無い状態というのは、それこそ思考が不可能になったまま死んでしまう場合を除いて、人間では有り得ない
それは、彼も同じだった
死とは違う形での昇天ではあるが、彼をそうさせた動機は、全て、たった一人の少女
どう考えても、自分は彼女に会う事は出来ない。彼女は既に死んでしまっているのだから
でも、会えなくとも、思い浮かんでしまう
そう思う事は、彼のまだ未成熟な精神では、必然的な事
イェス=キリストが天に召したのは、齢にして30の時。それに比べたら、どう考えても彼は幼い
一体誰がそれを責める事が出来るだろうか
そして一体誰が、最後の最後の部分で、まだそんな人間的なものが残っていることを責める事が出来るだろうか
それらはどうせ、時間と共に、"虹"の展開と共に消えていく。"虹"を展開する為に、自らの人間性すらも犠牲にしているのだから
ステイル「俺様はそれを責めたりはしない。その感情は自然だ」
垣根の前で、彼は呟く
しかし、その声は耳の機能のない垣根には届かない。本当に独り言のようなものだった
ボワッ、と小さな炎、光が、輪郭だけで中身のないガラス細工のような垣根の双眸に灯る
492 :
本日分(ry 誰だよ佐天さんがすぐ出てくるって言った奴はァ!出てこいよ!
[saga sage]:2011/06/09(木) 21:39:04.14 ID:ngFbEDN1P
それは、ステイルの、フィアンマの手を通して、フィアンマが灯させたもの
ステイル「会わせてやるよ、お前の欲に」
その光は、眼の役割を持っていた
そして意思だけとなった彼に、視覚的な情報が強引に送りこまれる
唐突に回復した視界で、彼の右隣りに立っていたのは、心理定規の少女
彼女は垣根の方を向き、本当に僅かな間だったが、彼と共に過ごしたアメリカでの日々に見せた自然で幸せそうな笑顔を彼に向けている
それが、幻影であるということは彼には判断できない。彼には判断が出来る脳の機能が、もう無いのだから
分かるのは、そこに心理定規の少女がいる、ということだけ。笑っている、ということだけ
垣根の中で、何かが弾けた。そして、彼の体に色が戻っていく
"欲"は増大する。それは自然
会えたなら、抱きしめたい。どうしてその感情を、その欲の進展を、責められるか
同時に、"虹"の展開も停滞した
彼の身体が戻ること、そして、"虹"が止まること。それが意味しているのは、人間性の帰還
"救世主"として殺したのでは意味が無い。ただの人間のようなものとして殺さなくては"救世主"を消す事は出来ない
身体を取り戻した垣根は、そのまま少女の方を向く
そして、抱きしめようと、腕を肩幅より少し大きく広げ―――
ステイル「垣根、帝督。お前はどこまでも純粋に救世主で在り過ぎた。だが、安心しろ。お前の意思も、俺が継いでやる」
幻影の少女と共に、白く清らかな炎の中に溶けていった
493 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/06/09(木) 21:42:11.91 ID:kL7ngGIpo
乙
フィアンマさんがカッコ良すぎて生きるのが辛い。これで、NY組は敗北かな?
フィアンマさんカッコイイよフィアンマさん
494 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/09(木) 21:50:36.74 ID:tmIn72fto
ていとくんに泣いた
495 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/09(木) 23:36:49.68 ID:ips9/GY50
おつ
フィアンマかっこよすぎ!!!
カッキーに泣いた…
496 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/10(金) 00:15:39.68 ID:Cz3OnGFAO
佐天さん爆発する予定は?
497 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/10(金) 00:19:55.01 ID:iTeu7QW1o
救世主になるために競合相手にもいい目を見せてやる上にそいつの願いも引き継ぐんだ・・・大した奴だ・・・
498 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/10(金) 01:42:37.12 ID:I3rUoeKs0
ラスボスがフィアンマなのか刀さんなのか……
499 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2011/06/10(金) 01:57:24.00 ID:F3Hz29b8o
初春本体「何故わたしが死んだと思った?」
500 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)
[sage]:2011/06/10(金) 18:07:29.39 ID:3jQ5Qahso
>>499
上の人自重しろwww
501 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/10(金) 19:57:41.06 ID:Cz3OnGFAO
自重と半角草はやめろ厨房工房共
やるなら全角草
502 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/12(日) 22:46:27.56 ID:OPGCJX89o
うおおおおお今日にすら間に合わねええ
ってことで今晩中と言うなの明日になるよ!よ!
503 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/14(火) 00:02:27.44 ID:XjS+QObh0
来ない…だと……っ
504 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/14(火) 00:45:19.36 ID:KnFbmmwAO
セクロスばっかすんなよ
やるべきことは汚ナニーだろ
505 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/14(火) 03:01:22.29 ID:P3CzWVnSO
珍しいな
506 :
遅れましてすみませぬ。いろいろと理由は有るけど、簡単に言えばスランプった
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:34:08.47 ID:G/TSoivVP
上条が狙ったこと、それは間違いではなかった
彼が行おうとしたのは、"繭"からステイルを強引に引き出すということ
"虹"の光による洗脳効果には、彼ですらステイルが何か害を与えようとしていると判断させた
しかしステイルは敵ではない。イェスを倒すため、御坂を救うために共に戦った存在
限りなく味方に近いのだ。そんな彼とは敵対などしたくない
かといって、現実にある物質を学園都市的な超能力的手法で消滅させる"現実殺し"などが使えない以上、高速移動の手段は無い
現状で最大限急いで"繭"の中に入ってステイルを強引に引っ張りだすとしても、この右手がどう反応するか分かったものではない
禁書目録と出会い、傷ついた彼女自身を回復させる術式が行われる際には、「自らの存在が邪魔だ」と、彼女にはっきり言われたのだから
科学や超能力と言うには魔術に近いあの"繭"において、自分が長居するのは限りなく良くないのではないか
洗脳効果を受けた彼は、"ステイルを連れ出す"ということと、"かといってあの繭に自分が居てはならない"ということの二重の課題を抱えていた
その解決方法が、輸送機からロープで"裂け目"めがけて降下し、ステイルをキャッチして引っ張り出すという強引な方法
これなら少なくとも、走って繭を叩き割り、そしてステイルを引っ張り出す、と言う方法よりはずっと早い
つまり"繭"に与える影響はより少ないということだ
このように愚直に分かりやすいやり方なのは、彼の頭脳に最早彼女達が居なくなってしまったからだろう
危険の度合いなどの緻密な計算は、彼一人では出来ない
上条「アイツから、禁書目録のことも聞かないとな……」
507 :
大体一回投下分は10時間と見直し2時間でやってんだけど
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:35:10.47 ID:G/TSoivVP
呟いて、彼は低速で低空飛行しながら旋回している輸送機のハッチから、物品投下用の緩衝索の付いたロープを身体に巻き付けて、その身を"繭"の"裂け目"めがけて投げた
しかし、それは単純に遅すぎて、また、御坂美琴を安全な場所に移動させようとしたのは間違いではなかった
再噴出を始めた"虹"が吹き出す"繭"の"裂け目"からもうちょっとで中に入ろうか、と言うタイミングで
上条「嘘だろっ!?」
殆ど目の前で、"繭"は吹き飛んだ
覆っていた白い壁がパッチワークの布切れのように裂け、中から純粋状態だった垣根のエネルギーが様々な形に変化して、拡散する
宇宙線という形も有ればソニックブームの形もあり、ともかくそれは人間にとって有害な拡散
無意識に彼は手を正面に突き出し身を守る
たったそれだけのことで、本来彼の背後にへ拡散するハズだった衝撃などが全て掻き消され、繭の形をそのまま大きくしたように拡がろうとしたそれは、歪な球の形になる
上条が守った範囲に入っていた輸送機は、そのお陰で助かったが
本来、地球全土を覆うことを想定していた力。上条を輸送機の外壁へと突き飛ばし、その輸送機も直接衝撃を浴びないにしても、地面から跳ねかえった衝撃でその機体を大きく揺らし
そして、ボストンの地面に巨大と言う言葉がチープに感じる程のクレーターを生じさせた
当然、生き残っていた人々の命も巻き込んで、である
ゴン!!と衝撃に吹き飛ばされ身体を強く機体にぶつけた上条が、相が操るワイヤードラムの巻き取り機によって巻き上げられつつ、薄れる意識の中でかろうじて見えた視界には
上条(……あれは、間違いなくステイル)
赤髪の男がその身の丈よりも大きな腕らしきもので、身を守っている光景が有った
508 :
今回は分量に対して30時間はかかったんですわー
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:36:22.40 ID:G/TSoivVP
イェスの"抑制術式"は失われ、上位互換の"虹"を生む"救世主"は消えた
"終末"というデッドレースの最大筆頭のローマ正教はその聖都と体系を失い壊滅状態
地球上に残された戦力としてはおよそ最大勢力であるフィアンマの部隊が守るロシア・モスクワに、最大主教が守るイギリス・ロンドン
科学の残存勢力である学園都市だが、最悪の敵を倒した後の、今まさに危機の時
"抑制術式"が失われたことによる影響がありありと出たと言える
学園都市がこうなっているということは、他の世界各国の諸都市も、そこには今まで安全地帯だった北アメリカ大陸の都市も含んで、同じだった
"終末"の破滅を受け入れるタイプの宗教勢力は抵抗もせず壊滅。聖都を争っていた巨大宗教勢力達もお互いが深く噛みつきすぎた
特別宗教色が強くない諸都市にいたっては抵抗すらできず、壊滅していないところを探す方が辛い
「それでも、人類が特定の地域で絶滅したと言う訳ではない様で」
妹達の一人がポツリと零した
彼女は、護身用の小型小銃を肩にかけつつ、学園都市の瓦礫の山々を歩いていた
多くの高層ビルが林立していた科学の都の凛々しい姿は既に無く、所々、何かの基盤がショートしたような音と紫電がバチバチとしている
押しつぶされた死体が所々で見付かるが、これも今更だった
彼女の役目は、生存者の発見
第7学区の一角には学園都市残存勢力の牙城があり、彼女はそこで発せられた指示の下行動している
見付かるのは死骸ばかりでなかなか生存者などなく、彼女は若干暇だった
だから、ミサカ・ネットワークで世界の妹達の呟きに等しい情報を閲覧していた
「に多くの命が失われたことは事実で、妹達にも多くの犠牲者が出てしまったようですが」
「"例の意思"から発せられる情報によってか、その生存率は高く、それによって、世界の現状が見えてきている、と」
「世界各地の妹達によれば、大破壊・大災害の一方で、生き残った人々のコミュニティが生まれ、それは難民・流民など様々な形を持ちながら、生命の存続を模索している」
「食物を求めてゴミの山となってしまった都市を歩きまわるのは、まるで餌を求めるゴキブリの様だ、などと言う個体もありますが」
「しかし、人間は彼らと違って高度な知能が有る。世界各地から得られた割合から考えれば、存続している人類の総数はおよそ数百万」
「それだけ居れば、この危機さえ乗り切れば、きっと復興をすることが出来る」
「絶えなければ立ち直せる。聖書によれば、最初の人類はたった一組の男女ということですし。と、ミサカは希望の言葉で現状まとめます」
最後の二人か。それがミサカとあの人ならば
なんて少しロマンのあることも考えたりしながら、彼女は不安定な足下に気を払う
509 :
多分いつもと変わらない汚ナニーのしすぎだと思ってな
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:37:27.28 ID:G/TSoivVP
そして、ポツポツと言葉を吐いていた彼女だが、その歩みが止まった
止まった理由は一人の女の存在
それは、金髪で白い装束を身につけていた
目には生気が無く、表情も無く、何を考えているのか分かったものではない
(もとより、他人の眼から何を考えているかを求める方法など、ミサカは知りませんが)
その女の周りに危険な存在が無いことを確認して、クローンの少女は近づいた
目の前になって、明らかにその女らしき存在の視界範囲で少女は手を振るが、何ら反応は得られなかった
ある種、人形の様でもあった
「行き場所が無いならば、ここから東にしばらく行ってみてください。と、ミサカは全く聞いてなさそうな人に一応言葉をかけました、が」
ついでにその方向を指さしてみたが、やっぱり反応なんて有りはしなかった
最後にもう一度女のような存在の前で手を振って、更には目の前でパチンと手を叩いてみたが、駄目
仕方が無いですが、次ですね。と、彼女は判断して、歩みを他に向けた
その個体が離れて数十秒後
「聞えている。……む、既に居ない」
その場に残された女は言った
だが、時すでに遅し。すでに妹達の姿など無い
ゆっくりと首をまわし周囲を見る。その視線には瓦礫の学園都市以外に入ったものなど無かった
垣根帝督本体から出た未元物質をその体に流し込まれ、一方通行と共に巨人と戦った最終個体
彼女の意識は一度、垣根の意識に完全に押し潰されてしまった
しかし、垣根帝督という存在は消えた。同時に、彼女の中の力の動力源の一つだった未元物質も"救世主"の一部からただのエネルギーの塊となってしまった
つまり、彼女の中の意識は―――
「私は、何だ?」
無
今、彼女に有るのは、垣根の精液という形をした未元物質に意識を押しつぶされる前の本当に僅かな記憶のみ
それこそ"A was"というちょっとした単語のコードぐらいしか見付からなかった
510 :
だから俺は、俺は……
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:38:15.87 ID:G/TSoivVP
ようやく、獣に化けたローマの使役天使たちの駆除が終わったと思ったところのことである
全く種類の異なる敵がロンドンに再度立ち上がった
何に一番近いかと言われれば、それは、樹
しかも色が白なので、不気味な枯れ木のようだった
トップの大きさだけならば最大主教の操る英国天使4つ分で、更に樹という見た目から、横幅は縦よりも大きい
神木というには、お化けの木という子供っぽい言い方が似合いそうな見た目に、
「品が無いわね。私が言うのもどうかと思うけど」
それをまるで他人の目で見ていた女、ヴェント
暴走した男を回収して来いと言われた彼女は、その対象を人間の集団の中から見つめていた
木を隠すなら森。非常事態にあるロンドンでは、避難している一般市民の集団に紛れるのは、簡単だった
隣に居た中年の男性が、自分たちとは明らかに異なった目でそれを見る女に対して、若干の異質感を感じ、それを体現するかのような蔑視とも言うべき視線を送っていたが、彼女にとってそんな視線は日常茶飯事だった
ヴェント(しかし)
そのまま、ヴェントは舌打ちする
隣に立つ男性からすればそれは異質者が自分に向けて行ったものだと思えて、軽い恐怖だった
ヴェント(自らの意識でそうさせたのか、それとも偶然この形を持ったのか、それとも何かが干渉してこういう形を採ったのか知らないけど)
ヴェント(テッラの事だから、聖書なんかを熱心に読み過ぎたせいって要素が一番デカそうね)
ヴェント(……"樹"。そこに込められた力が強力で有ればある程、樹って形態は厄介)
511 :
手当たり次第に薄い本を読んだのさ
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:39:24.26 ID:G/TSoivVP
ヴェント(世界樹だの生命の樹だのセフィロトだのと、それ自身が術式の基盤概念として使える上に、それをモチーフにした術式も展開が可能)
それが明確な意思による統率を離れて、暴走している
さて、どうするか
舌の先で唇を舐め不機嫌そうに考える彼女の周りに居る人間は、自然と距離をとった
少々広い避難場所として使われているこの広場は、警察や騎士に囲まれて殆どすし詰め状態なのだが
本能的に何か異質な存在であると感じ取った避難民は、それでも強引に彼女の周りに空間を設けたのだった
ヴェント(この"樹"って概念を暴走の制止に応用するなら、この状況で考えられるのは……)
ヴェント(命の木と善悪を知る木のペア、つまり、アダムとイヴのつがい。この形式を使うのが一番か。創世記ならテッラも読んでるでしょうし、丁度私が女でテッラが男という所からも都合が良い。けどねぇ)
ヴェント(あんな奴の為に女で有ることを利用するぐらいなら、まだフィアンマやアックアをその相手にするほうがマシってものよ)
ヴェント(だけど、今のアレをそのまま止めることは辛いだろうから、削られて貰わないと。そこはイギリスの連中を利用するのが楽)
やり方は見えた。なら、あとは準備だ
攻略法が分かればこんな場所に居る必要は無い。そろそろ、人口過密が作り出す不快感が苛立つ領域になってきた
彼女は何処からともなく有刺鉄線が巻かれた金属の鎚を取り出し、勢いよく肩に担ぐ
その動作には周りの人間への配慮などまるでなかった
ハンマーの先端が彼女の後ろに立っていた女性の頭に綺麗に直撃して地面へ叩き付け、そして飛び出した脳漿と血が彼女にも飛び散ったが、彼女は気にしない
一間隔置いて悲鳴が上がった時には、彼女は既に石のブロックが敷かれた地面を砕くように踏みつけて、近場の建物の屋上に跳び移った後だった
512 :
"BL"という、禁じられたジャンルをな……
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:40:28.10 ID:G/TSoivVP
「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!」
一番最初に動いたのは、驚いたことに五和だった
建宮が握っていた槍をいつの間にか奪い、その槍に蛇が巻き付くような光を巻き付けて、彼女は神裂に向かって突進していた
その動きに驚いたのは、他の天草式も
彼女は今まで気を失っていた訳だから、目の前で仲間が更に一人殺された所など見ては居ない
もちろんロンドンでの戦いの時点で既に仲間と共に神裂の前で倒れている訳だから、その恨みがないと言う訳ではないだろうが
少なくとも、天草式で共有している心情だけのものとは思えなかった
そして何より、一番抵抗を持っているのは女教皇その人
速度に差が無いならば、猪突してくる槍を刀で受けるのは辛い
しかし、五和の攻撃対象になった彼女には空間移動というチートとも言えそうな回避手段が有るし、そもそもの脚力で回避することも、槍と刀という武器の上下関係を無視して五和を一方的に撫で斬りにすることだって可能だ
これらにはもちろん、彼女が怯んだりしない限り、ということが前提条件である
そして神裂は怯んでしまった
強引に言葉にするなら、五和の眼に、それまで相手をしてきた天使たちや神獣達よりも鋭い何かを感じたからか
五和(どうして、仲間を殺したんですか)
そうした理由は分かっている。きっと、彼女だってアメリカという加害者によって生まれた被害者なのだろう
だけど、自分たちだって被害者だ。それも、信頼していた人間からの裏切という精神的な影響も含めて
その影響力は、彼女たちの根底にあったコンプレックスとも言えそうなものをも逆撫でしたのだった
五和(結局、私たちなんて必要なかったんじゃないですか)
"自分たちの存在価値"
513 :
はい、ウゼー自分語り終了、終了です
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:41:33.95 ID:G/TSoivVP
聖人という世界レベルで指折りの力を持つ神裂に対して、自分たちは無力すぎる
教皇代理という存在が必要になった神裂の出奔だって、理由の中には神裂以外その他の天草式が弱いという要素が有るからだ、と五和達残された天草式は判断した
だから、"聖人崩し"なんて技を習得することになったのだから
そういうコンプレックスが有る中で、他でも無い神裂自身が天草式の仲間を殺した、という行動は、神裂が自分たちを不必要≒存在価値なしなものだと認めている様にも、どうしても彼らには映ってしまう
事実、彼女はアメリカに操られているとしても、アメリカを守って来たわけだし、今までも空に浮かんでいた、最早聖人というレベルでさえも超越している天使や神獣を相手にして、結果倒してきた
反面、自分たちは逃げ惑うばかりだし、NYに来た時も垣根を前にしてどうすることも出来なかった
無力感と劣等感。元より並ぶことが出来る存在でないことは分かっているが
そんな状態の彼女の中に入って来たのは、神裂に対して敵対心を持つ神獣の力
五和の中で暴れ回ったのも、神裂を倒そうと言う意思の現れ
それは彼女の中に明らかな神裂への敵意を刻んで、本体の消失とともにただのエネルギーとなった
外部から入って来た神裂への敵意に、人間の劣等コンプレックスから自然に生まれる対抗心は、とても良く調和した
これ以上、神裂が自分の理想から離れていって欲しくないという意思も、そこには有ったかもしれない
反応が遅れた神裂は、その光る槍の矛先が自分の直前まで来ていることに、ようやく対応行動を示す
今の神裂の頭脳は、混乱を纏めた元来の神裂の脳が統率権を握っていた
それまでの相手が神獣達だったから、ということも関係しているだろう
そこに、他でも無い五和からの明確な殺意と行動
第一歩が遅れた彼女は、五和の分かりやすい刺突を弾けず、かといって先制攻撃も出来ず、だから身を動かしての回避を選んだ
言ってしまえばそれは現状回避の先送りであり、根本的な解決ではない
槍を弾くとか、五和本体を行動不能にするとかが望まれた中で、当然のように五和はその回避行動に反応する
514 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:42:12.02 ID:G/TSoivVP
身を捻っての回避は、直線的刺突ならば避けられる。だが、その槍そのものが反応して曲がってしまえばどうだろうか
折り畳み式の海軍用船上槍の関節が蛇のようにして曲がり、体勢的には不利な神裂を突く方向を向いた
肉体再生がある彼女にとって、特に弱点ではないにも関わらず、心の臓を狙った刺突に彼女は露骨に反応する
過剰反応した原因は言うまでも無く、動揺している神裂本来の脳だ
胸の皮膚を突き破って、未元物質のワイヤーを槍の頂点に対して垂直に直行させた。が
再度、五和の槍の関節がねじ曲がり、未元物質のワイヤーの射線を回避して、神裂の下腹部を貫いた
貫通だけでは留まらない威力が、神裂の上半身と下半身を二つに分け、上半身をどうやら銀行であった建物へと突っ込ませ、外壁を割って彼女を内部の巨大な金庫用の分厚い壁に叩き付けた
建宮「……い、五和?」
青白い光を全身から放ちつつ、肩で息をしながら神裂が飛ばされた方向を見る女に、彼は声をかけた
五和「わ゛、私はッ、大丈夫です。それより」
銀行らしき厚い外壁にぽっかりと空いた穴へ槍を向けたまま、五和は視線を逸らさない
よし、コミュニケーションはとれる。これなら、いけるかもしれない
建宮はそう判断した
補修した大剣を握り直し、彼は他の天草式に視線を向けた
皆無言で、しかし彼と同じように各々の武器を握って、五和と同じく穴を見ている
本来は味方である女教皇に対する"聖人崩し"を、反対するものは居ない
いつでもどんな攻撃でも回避できるように気を揉む彼らの前で、その穴は未元物質のワイヤーによる黒色が拡がりながら蠢いていた
515 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:42:48.03 ID:G/TSoivVP
学園都市を覆う隔壁の外に出た瞬間、彼は一気に加速した
簡単に言えば、外は火の海だった。それは表面的には絶望的な光景だが、彼にとっては都合が良い
一方「つまりはァ、どンだけ派手に能力使っても壊れるものがァねェってことだからなァ!!」
極音速域で彼は手前の小型天使の群に突っ込み、とりあえず目の前の人形の様な小型天使の一匹をその頭突きだけで破裂させた
そのまま、近くの天使に向かって翼をはためかせ、生じた気流が群の一部の行動を奪う
更に彼は群の奥に入り、動けなくなった人形たちの身体を次々に千切っていく
一方「まだまだまだまだァ! 次次次次次次ィィ!!」
歪な笑い声を出しながら、彼は自らの身体を強引に振り回し続けている
コイツらは雑魚もいいところだが、この更に奥にある存在は確実に強い。数の上もあって、自分は辛いことになる
未来的に自らがやられる様子が簡単に思い描かれて、彼は笑っているのかもしれない
仲間が次々とやられていくので、当然のように他の小型天使が一方通行めがけて押し寄せる
それはスズメバチに群がるミツバチの様な光景だ
ミツバチは巣に侵入してきたスズメバチ一匹の周りに群でかたまり、その体温で熱し殺すという
同じ原理だった
一撃で仲間を粉砕し続けている相手なのだから、単体の小型天使ではまともに一方通行の相手をするには不十分
一匹で相手出来ないならば、全員で一斉に纏まってしまえば良い
一人対1匹で足りないならば、10匹で足りないならば、100匹で足りないならば、1000匹で立ち向かえばいい
一つの統率に纏まったそれらは、一時は数キロの単位で拡がっていたのにも関わらず、すぐさま二一方通行の周辺に密集し、そして、しばらく学園都市の東の空の一点が光りつづけた
集団的連続的自爆とでも言えばいいだろうか
次々と小型天使が一方通行の近くに寄って来ては自爆を繰り返す
516 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:43:19.22 ID:G/TSoivVP
中心で爆圧を連続して食らい続ければ、どんな堅い守りを持っていても辛いハズだ
現実的に、エネルギーの面では一歩通行<小型天使群の総量は間違いなかった
しかし彼はニヤァと音が出そうな表情を変えない
一方「どいつもこいつも自爆たァ芸がねェ」
確実に一番に辛い所にいた彼は、無傷
白と黒の翼に自らを包み込んだ内部には、被害は少しも入っていなかった
単純な加法の上では一方通行の操れる力の総量を上回っても、それは一度に全ての小型天使が自爆し、なおかつその衝撃が全て一方通行へ向かっていれば、の話である
そんな方法が彼らに可能ならば、翼による層的防衛もその下の魔術にも対応した反射も簡単に突破されてしまうだろうが、そんなことは現実的でない
ひとしきり続いた光の後に、一方通行の周りの空に何もないのは、必然的な結果だった
一方「だァが、今ので見た目の上での数は随分と削った。これで、……ン?」
星の数ほど居た様にも見えた小型天使は大体消えて、残るのは100あまりの巨人クラスの親玉衆
下っ端がやられれば、次に出てくるのはその上の存在
いつの間にか、その最奥から一匹のネコ科の動物が、一方通行へ向かって来ていた
大きさを見れば、小型天使よりは数倍も大きいが、50mを超える巨人とは比較にならない程に小さい
まだ自爆特攻の残りでも、と判断した彼は逆にジャガーの方へ自らを向かわせ、その拳を突き出す
慎重策を採り、距離をとって翼を使って相手のレベルを調べてから、何らかのアクションをするべきだった
そんなことを思うのは、彼が返り討ちにあって学園都市の方向へ一気に吹き飛ばされた後のこと
ジャガーの口から吐かれた黒い濁流が、一方通行に言わせれば破壊に重点を置く為に比重の高い物質へと変異した力が、彼の拳に張られた反射を軽く貫通した
そのまま、彼は遥か後方へ突き出した拳ごと突き飛ばされる
一方「ッてェ……」
517 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:44:59.13 ID:G/TSoivVP
伸ばした拳だけでなく、その衝撃は彼の肘から腕の骨を突きださせた上に肩まで砕いたが、彼はまだ立ち向かおうとした
なぜなら、今自分が居るのは既に学園都市圏内なのだから
黒く比重の大きい物質化した塊を放った獣の力は、巨人の三又槍の殴打よりも更に大きい。他にどんな攻撃があるのかも彼には分からないし、そう言う状況だから尚更、一匹でも学園都市内に入って欲しく無い
自分に攻撃してきた一匹以外は、まだゆっくりと近づく程度だ。この敵だけを相手に出来るだけの時間は有る
今はまだ、この一匹だけに対処すればいいのだ。だから
(諦めたりはしねェ)
絶対強者の前に立ち向かい続けた、あの時のあの男の様に
"幻想殺し"、三下、上条当麻
彼がこの存在のことを思った瞬間に、とうとうジャガーが彼めがけ再度口を開き、先程よりも径の大きな黒が放たれた
防衛手段を貫通するかどうかは判断しきれないが、距離的には余裕で避けられる間合いがそこには有る
しかし彼には避けると言う選択肢は無かった
避けたら、学園都市の殆ど中央にその黒い濁流が突き刺さることになる。予想される質量と速度から、一学区ぐらいは丸々消し飛ぶだろう
受けるしかない。そう思って、彼は層的防衛の要である彼の翼に意識を集中させる
学園都市の外のジャガーが、学園都市の中の一方通行へ向けて放った攻撃
当然これにも彼の意識が向けられるはずだった
しかし、その意識は全く異なる、しかも学園都市の中から拡がる反応に丸々持って行かれた
その特異なAIM拡散力場の拡大に、彼は覚えが有った
一方(これは、"幻想殺し"ァ?)
518 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:45:40.18 ID:G/TSoivVP
黒いモジャモジャした存在が、彼らの方向へ向かって、その穴から跳びかかって来た
それは、さっきまで獣を狩っていた存在であったことが、そのまま逆転してしまったかの様な見た目で有り、
そして何より、またしても神裂火織という存在の制御系統が変わってしまったことを意味していた
彼女の中での対立。本来の脳は天草式を味方と見ていて、増やされた脳は天草式を自らを揺るがす存在と見ている
さっきまでの神獣の相手ならば、別にどの脳が身体を操っても、共通の敵として全く問題は無かった
だから各脳の連携においても、本来の脳の思うがままに組み合わせることが出来た
しかし、相手が天草式となれば、そしてそれが明確に刃向ってくるならば、その上その性能が予想以上ならば、話は別である
彼女の強さの核は、その複数の脳が織りなす役割分担・組み合わせ
一つの脳が統一精神と言う形に悲鳴をあげさせたのなら、他の脳が代替すればいい
強い意識を持つのは元来の脳。それが悲鳴をあげさせたのなら、次に強い脳が中心となればいい
そう言う事を彼女の中の彼女たちは経験から学んだ
その結果が、体中の、毛穴というか表皮細胞と言うか、から吹き出させた未元物質
それは明確に、彼女のコントロールが未元物質中心型に変化したことを意味していた
もちろん、天草式の残った6人はそのことを知りはしない
予想外の能力的変異を果たした五和を中心にして、彼らは敵対した
二足歩行動物なのか四足歩行動物なのか分からなくなってしまった神裂を相手にするとは流石に想定外だが
戦闘人数的には1対6。ということは、相手の動き方は予想がつく
6人を一気に相手にして全体的な攻撃を仕掛けるか、各個撃破を狙うか
各個撃破なら、優先順位は五和→建宮→以下の順番が想定される
そして全体攻撃ならば、一人一人への攻撃集中性は下がる
519 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:47:18.31 ID:G/TSoivVP
そこまで判断して、建宮はその両方に対応できるようなポジションとして、自らを五和の前に置いた
建宮(ここならば、今の五和の力も借りれる上、全体攻撃にせよ短期撃破にせよ、俺が先導的に対応できるのよな)
本来ならば、天草式の戦闘方法には先導役など要らない
しかし、今は一人でも失いたくは無い状況だし、対神裂で一番対峙した経験が多いのは彼だった
建宮(それに、今の五和の戦い方は入って来た過剰な力を積極的に外へ出す事が目的なのよ)
建宮(つまるところ、常に消費していく戦い方。今の状況は長く無いのよな)
建宮(長期戦になれば、ロンドンの傷が癒え切っていない現状、五和以外にとっても、当然俺にとっても良くない)
獣の様な神裂は、目の前。彼女の得物である刀はワイヤーに混じって身体の何処に有るのか分からない
建宮(……となると、短期決戦しかないのよ! こっちから仕掛けて、リズムを作る!!)
跳び出した神裂に向かって、彼はそのまま剣を真っ直ぐ突く様に構えて突っ込んだ
俺程度には、恐らくあの空間移動の回避など使わないだろう。そのまま自分を突き破るように、ワイヤーが伸びるか斬撃が来るか、何らかの術式が牙を向くか、の、いずれか
瞬時の判断。神裂の動きは速くなく、普通の聖人レベル。それでも驚異的だが、対応できないわけではない
瞬時の判断。遅い理由は何か。相手に術式や他の何かによるサポートが無い、又は加速前に自分が突っ込んだから相手が止まった、そしてこちらの遅延術式の影響
瞬時の判断。嵌められるか? →YES
彼はそのまま、獣の様な神裂へ突っ込んだ
否、突っ込んだのは彼ではない。彼の得物フランベルジェのみが、炎を纏ってロケットの様な一瞬の推進力を受けて神裂の方へ向かったのだ
建宮本体は、ま逆の後ろに跳んでいる
神裂にとっては子供騙しの様な攻撃で、ただの大剣の猪突程度問題にならない
体中から飛び出している未元物質がその形を変え、避弾経始の付いた分厚い金属壁で弾くように大剣の刺突を明後日の方向へ受け流し、そのまま逃げた建宮を追う
現状の天草式最高戦力の五和からすれば、正面にあった建宮の後ろへの回避行動は、攻撃の邪魔になる
520 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:48:07.39 ID:G/TSoivVP
ならば、建宮の行動するだろう直線上から移動して、攻撃をすればいい
神裂にとっては斜め正面から、今度は五和が槍を持って突っ込んでくる
最大脅威として認識している彼女の攻撃は、流石に神裂も注意を払うしかない。この天草式という集団はトリッキーな戦い方をしてくるのだから、注意はしすぎるに越したことは無い
建宮の大剣よりもずっと速い、五和本体も付随してきた槍の刺突に対して、神裂はワイヤーを向かわせて一先ずの迎撃策とする
しかしそれは対抗策としては弱すぎた
伸びて来たワイヤーを、五和は槍の先端を少し動かすだけで簡単に弾き、そのまま向かっていく
未元物質にしても、ワイヤーという形では、単純に力のサイズが細すぎる。かといって、形を整える時間は無い
複脳計画によって生まれた他の脳に乗っ取られた神裂は、それに対して空間移動という最上級の回避手段を採った
敵の身体そのものの空間的な移動には、流石に少々槍の関節を捻じ曲げた程度では追えず、逆に五和が先程神裂が突っ込んだ銀行の外壁にぶつかりそうになる
一方で、神裂としては、天草式を狩るという目的が有る以上、空間移動で彼らから大きく離れる訳にはいかない
2〜3m程度そのまま前方に、つまり建宮が逃げた方向へ再度現れた
しかし、近くに建宮の姿は既に無く
それどころかそこは、他の天草式に囲まれた状況でもあった
力の差はあれど、ポジションが悪い。神裂本来の脳が有れば、そういう判断も出来たかもしれない
対馬「はぁッ!!」
長剣や刺突剣を持った男女が現れた神裂へと躊躇なく襲いかかる
しかし、それらは所詮はただの人間だ。今の五和の様に、人外の力が入っている訳ではない
冷静に彼女の脳は、一方へワイヤーを、もう一方へ毛むくじゃらとも見て取れる身体の中から七天七刀を取り出して、それらを斬り払う
神裂「!?」
簡単に、その男と女は真っ二つになった。だが、血は出ていない。苦痛で顔も歪まない
それは、本来ならば小石を媒介にした程度の低い幻影術式。しかし、地脈の後ろ支えと天草式独特の力の共有で、つまり神獣の余力が籠った五和からの魔力の供給で、それは本来のそれよりずっとレベルの高いものへと昇華していた
521 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:48:57.48 ID:G/TSoivVP
これも、本来の神裂の脳が機能していれば、見破っていたかもしれない
全く意図しない方向から、神裂は彼らの放った遠距離魔術の着弾をもろに許してしまった
しかも、それらは彼女にとって予想以上の威力を持っていて、着弾部の未元物質の毛を蹴散らす程
そして気が付けば、彼女は建宮と五和にも囲まれていた
丁度六角形の形の中央で囲まれたことになり、しかもそれぞれが五和と同じような蒼がかったオーラの様なあからさまな直線で結ばれていて、それを見た彼女の脳は危険を感じ取った
この状況は、何らかの組織的な術式の発動条件を満たしているのではないか、と
一度その疑念が頭脳に生まれれば、それは未知という恐怖を生む
さっきから想定外の事が続いている、これ以上、相手の思うままにさせたくは無い
良く良く考えれば、それこそが誘導だった
フェイクを織り交ぜて戦うことで、純粋な戦闘能力では劣っていても五分以上の戦いをしようと狙うのが天草式
非魔術師的な脳達でさえ、ぱっと見で何かを想像させるような、つまり分かりやすくなにかの術式を狙っていますよと言っている様な行動を、そんな彼らが採るだろうか
つまりは、これこそがフェイク
蒼の直線で結ばれた六角形の中央が危険、という判断をしたならば、今直ぐにここから移動する必要が有る
神裂("空間移動"デ危機を回避出来れば、術式途中で動けナいこの者達ヲ討つ好機となるかもシれない)
ならば、その移動先はどこが良いか。彼女は瞬時の判断に迫られる
神裂(最大脅威目標:五和はリスキー。ならば残ルは建宮斎字を含めた5名。この中で失われることで相手への最大損害となるノは)
決まっている。教皇代理という名称を冠した建宮、あの男だ
即断。彼女はすぐさま空間移動の能力を用いてその場から消え、自分自身を建宮の背後へ移す
そしてそのまま、背後から刀を振り下ろした
建宮「お前さんは、どうやら俺達の知っている女教皇ではないのよな」
声が耳に入った。それが意味しているのは、建宮は生きていると言う事
522 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:49:54.19 ID:G/TSoivVP
当たり前だ。その兜割りは、まるで読まれていたかのように、避けられているのだから
建宮「少々愚図過ぎるのよ。女教皇なら簡単に看破しているような策に引っ掛かりすぎる」
男は、神裂に背後を向けたまま、言葉を語る
この姿も幻影かもしれない。その可能性が見えてしまえば、最早彼女は彼に攻撃が当る気がしなくなった
彼女の中にある脳は、垣根のイェスや上条の相と違い、所詮は人間の代物。しかも、ベースは親和性を高めるために神裂火織のものではあるが、その実年齢は一か月にも満たない
だから、撹乱されれば容易に混乱する。だから、彼女を作ったアメリカの技術者・研究者は危険を承知で、緊急時の為に、神裂本来の脳の肉体制御権を残した
建宮「もしかしたら、アメリカ仕込みの戦術ノウハウがその頭には詰め込まれているのかもしれないが、それは対魔術師戦闘には対応しきれていないようなのよな」
建宮「そして今も」
男は振り返り、武器も何も握られていない両の腕を開き、両手を軽く頭のあたりまで上げた
それは、口調とは裏腹の、誰もが知る降伏のポーズ
建宮「恐らくこれは、基本的な現代戦の戦術マニュアルにも書かれていると思うのよ」
彼の言葉から、敵が何を狙っているのかを彼女の未熟な脳は考える
考える、ということは、集中力の何割かを割くと言う事でもある
戦闘において必要なのは緩急の把握。考えることも必要だが、それは時間のある時だ。それ以外では、即断と即行が基本
彼女はそのタイミングを誤っていた。完全に
「―――――聖人崩し!!」
その言葉が耳に入った時には背中から、雷光と化した五和の槍が神裂の体を貫いて、更にはその正面に立つ建宮をも貫いていた
目の瞳孔がカッと拡がった神裂の身体から全ての未元物質のワイヤーが抜け落ちる一方で、同じものに貫かれた建宮は全くの無表情
建宮「戦闘の最中に相手の言葉へ必要以上に耳を傾けてはならない、とな」
523 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:50:35.28 ID:G/TSoivVP
「優しいのだな、君は」
巨大な隕石でも落ちたのかと言うクレーターの外縁部を歩く彼は、殆ど独り言のように言った
周りに誰も居ないのだから、それは独り言と言っていいだろう
ボストンの空は暗い。夜が近づいてきているということもあるが、それは巻き上がった粉塵の所為だ
フィアンマ(懐が広いんだよ)
ステイル「それは……、そうかもしれない」
彼は、
フィアンマ(おっと、今のは冗談のつもりだったんだがな)
フィアンマ(俺様は必要なことを行っているだけだ。ロシアを守っているのも、禁書目録を保護しているのも)
ステイル「へぇ。なら、あの救世主への配慮はどう説明するんだ?」
フィアンマ(単純なことだ。あの場で一番合理的且つ早い方法を採っただけのこと)
フィアンマ(力は俺様達を上回り、長期戦は選択できない。そんな状況なら、相手の弱点を突くのが一番だ。仮にも"救世主"だからな。正攻法は存在しない。男女の関係を利用すると言うやり方は、見方を変えれば卑怯な方法とも言えるぞ)
ステイル「卑怯? 消え入る前の彼の表情はその反対だったように見えたが。……少々羨ましい程に」
フィアンマ(お前の"欲"も似たようなものだからな。俺様にとっても、そうハッキリしているのは助かる)
フィアンマ(人の"欲"、よく言えば"望み"を利用するのは、他の方法に比べて敵を作らない。敵ではないという事は、特定の場合を除いて害になることは無い。逆に、具体的な理由も無く、感情的な理由で敵対するなど馬鹿馬鹿しい)
フィアンマ(愛だとかってのは、その典型だ。敵を作らず上手く事を運ぶ為に、相手に対して少々手厚いまでの気を配る。これ自体は紀元前の兵法書にすら記されていることだ)
ステイル「そう言うのを、俗に器量が大きいと言うと思うんだが」
フィアンマ("人徳"、などという概念でな。だが、逆に言えば、そこに具体的な理由、例えば時間が無い、などの理由が有れば、どれ程理不尽に思われることでも俺様は実行する。それでも懐が大きいと簡単に言えるか?)
524 :
本日分(ry これでイギリス以外大体戦闘終了。さーて、次の投下は……予定では明日明後日だと?
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:54:43.75 ID:G/TSoivVP
フィアンマ(全てが全て利害関係で説明できる、とは流石に俺様も思ってはいない。だが、)
フィアンマ(人徳に意味は無い。利用できるから利用する。お前に対しても、救世主に対しても、それは共通している。ハッキリ言ってしまえばな)
ステイル「そう明確に言われるのは、良い気分じゃないね。だけど、そう言い切れるのはいっそ清々しい感じもする」
フィアンマ(単に嘘をつかないだけだ。100の嘘よりも、1つの事実の方がずっと脅しになることもある。尋ねられたのなら、俺様は事実を答えるのみ)
フィアンマ(そしてお前は良くやってくれた。これも事実だ。モスクワへの帰還を待っている)
ステイル「それはどうも。最後に一つ良いかな?」
フィアンマ(何だ?)
ステイル「君は尋ねられたら、と言ったが、ならなんで最後にあの救世主に聞かれてもないの君の意思を言ったんだ?」
フィアンマ(……それは、尋ねられた、様な気がしたからだ。それだけなら、俺様は次の行動を始めさせてもらう)
ステイル「ふぅん、やっぱり優しいじゃないか。気味が悪いほどに」
(さぁて、それはどうだろうな)
そう言い残して、彼の体からフィアンマの意識は失せた
ステイル(他人が入ってくる、というのはどうも気持ちが悪かったが、ようやくプライベートタイムだ)
ステイル(このままモスクワまで飛んでも良いが、この格好のままと言う訳には。つくづく衣類が犠牲になる日だ)
ステイル(街はまるまる吹き飛んでしまったし、衝撃で周辺都市も同じだろう。全く、どこで服を調達したらいいんだ?)
ステイル(やはりこのままモスクワまで行くしかないのかね。炎の姿でいけばロシアの寒さなんて気にはならないだろうが、うーん)
粉塵でまともに前も見えないボストンで、恐らく東の方へ無意味に歩く彼
それを少女が見た
「ステイル=マグヌス?! どうして、あなたがここに?」
525 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/14(火) 23:56:55.13 ID:G/TSoivVP
あばばばば
>>523
の7行目の
彼は
は、スルーで
526 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/15(水) 01:54:11.03 ID:GKiOoeg50
>>1
乙 待ちくたびれたぜ
まさか綺麗なフィアンマさんなのか……?
527 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/15(水) 02:29:52.11 ID:6h2QZQcn0
おつおつ
ヴェントさんきたああああああああああ
フィ、フィアンマ…?
528 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/15(水) 08:50:59.52 ID:7RsHOOyAO
ホモ無理すんなよ
明後日じゃなくても土日でもいいんだぜ
529 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/15(水) 08:53:48.19 ID:ni3FZajNo
>>1
がすげえフィアンマを読み込んでるって感じがする
あいつは本当に救世したいと思ってるもんな 手段はどうあれ
530 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/06/15(水) 23:10:30.58 ID:85EOrTlMo
乙〜
ついに念願のフィアンマさんのカッコ良さが見れたぜ。こういうのを求めてたんだよ、フィアンマさんには
531 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/17(金) 14:25:58.71 ID:aeDZ8Rm6P
「ただの人間でも、あんなふうに動けるものなのね」
彼らは残り少ない時間の中で、身を隠して様子を見ていた
壊れて、吐き出すだけボトルを吐き出した自動販売機と、幹と葉だけになった観葉樹の間に彼女たちはいる
葉と葉の合間から見えるCIA同士の銃撃戦は、両者狙撃主なのかと思う程に精密な射撃をまともに狙いもつけずに行い、隙あれば激しい銃撃戦にも関わらず相手の懐にまで一気に間を詰めるというもの
学園都市の一般的な黒服のエージェントとは、それは比較にならなかった
それでも、時間の経過と共に一人また一人とその命を散らせていく
青髪「今生き残っとるのは、お互い多分相当レベルの高い連中やろうから。当たり前っちゃ当たり前ですな」
青髪「正直、超能力なんていう特殊な武器が無かったら、僕なんて彼らの足元にも及ばんで」
結標「へぇー。それで、そんな強ーい連中を相手にせずにここを出る方法とやらを、ちゃんと考えてるのかしら」
青髪「大丈夫。これで……完成や」
結標「なにこれ?」
青髪「この施設の見取り図やけど?」
結標「これが? 小学生が描いた迷路じゃあるまいし、袋小路ばっかりじゃない。ここに入ってから長官室とやらまでの経路って殆ど一本道じゃなかった?」
青髪「それは僕が付いとったから。ここの構造を知らんあわきんみたいなのが一人でフラフラしとったら、簡単に迷子になるで」
結標「んん? なら何でさっき私一人でトイレに行かせようとしたのよ?」
青髪「それは迷子になって、あわよくばお漏らししてピーピー泣いとるあわきんを僕が颯爽とヘブァッ!?!?」
男の頬に、女の拳がクリーンヒットした
青髪「ちょ、一応僕ら隠れとるんですけど。お分かりですかねこの状況を」
532 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/17(金) 14:26:24.94 ID:aeDZ8Rm6P
結標「馬鹿ね。隠れてるからこそ派手に動けないじゃない。確実にクリーンヒットさせられるでしょ?」
結標「っていうかね、この見取り図雑すぎるんですけど。これを元に空間移動しろっての?」
青髪「無理?」
結標「最悪死ぬわよ、これ。それでもいいなら」
言われて、青髪は少し考えた。表情も少し真面目に
青髪「"僕ら"二人ともで出るには、あわきんの空間移動に頼る方法しかないからなぁ。別行動するって手もあるで? あわきん一人なら、この地図見ながらで大分楽に脱出できるやろうし、僕一人でもなんとか出れるとは思うしな」
ここに来ての、青髪からの別行動という選択肢の提示
彼女は、彼の顔を、その眼をじっと見た
『施設放棄まで、残り12分』
施設内に英語の警報が鳴り響く。このタイムリミットと青髪の描いた見取り図から考えると、確かに自分は余裕で脱出できそうだ
しかし、結標の肩を借りなくては、まともに歩けないこの男はどうだろうか
敵は自爆装置を起動させることで、"銀貨"の勢力が慌てて脱出しようとする隙を狙っているのだろう
二人での移動は一人でのそれよりは確実に狙われやすく、しかも狙ってくるのは普通の人間では最高レベルの戦闘能力を持つ存在
この男は、遠回しに私だけでも確実に助けようとしている?
結標「却下ね。この見取り図が間違ってたら、私一人じゃ迷子になるんでしょ? あなたが嫌と言っても、その保険に連れていくわ」
青髪「間違ってたらその前に死ぬんやないの?」
結標「……そこは、あなたを信じてあげる」
矛盾である。しかし、その矛盾こそが、彼女の本当の意思を表していた
533 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/17(金) 14:27:02.16 ID:aeDZ8Rm6P
名前を呼ばれて、彼はその声の方向へ顔を向けた
そこには、黒っぽい修道服を着た少女が一人
男がステイルだと分かってか、彼女はその杖を構え、そして睨んでいる
その衣装、そして顔や露出した体は、所々裂けていたり腫れていたりして、万全でないのが見て取れた
もっとも、彼本人に到っては、全裸だが
衣服が無いので、仕方なしに彼は自らを炎と同化させる。粉塵が辺りを包んでいるといっても、見えない可能性が無いわけではないだろう
炎を見て、ますます少女は戦闘の心づもりを固めた
アニェーゼ「イギリスを裏切って脱出したかと思えば、まさか本当にアメリカに居るとは思っちゃいませんでしたよ」
ステイル「アニェーゼ=サンクティス。君がここに居ると言う事は、君の部下たちも近くにいるのだろうね。集団で来ているという事は、そうか、ローマと同じくNYでも強襲したんだろう?」
アニェーゼ「流石、イギリス清教を出奔してローマへ寝返っただけのことは有りやがりますね。良くご存じで」
ステイル「フィアンマが言う所によれば、僕はまだイギリス清教の人間らしいよ。まぁ、別にローマだろうがイギリスだろうが、正直どうだっていい」
アニェーゼ「フィアンマ? 神の右席のフィアンマですか。……このボストンの様子がこうなっちまってるのも、奴の仕業と?」
ステイル「彼や僕が関与していない訳じゃないが、根本的な原因は別だ。君たちも、あの"虹"は見えていただろう?」
アニェーゼ「あの虹色の光が、こんな状況を? まさか」
ステイル「事実だ。少なくとも僕の目の前で起きたこととしてはな。それで、そんなに敵意を向けてきて、僕に相手をしろとでも言うのかな?」
脅しのような言葉を言われ、彼女は思わずバックステップした
それは現在の彼が、彼女の知っている彼とは何か本質的に違う、と彼女が感じたという要素もあった
つまり、本能的な回避だ
それに加えて、地形上、彼は彼女を見下ろすような体勢でもある。不利だ
距離を取れば、粉塵が彼女を隠す働きをしてくれる
同時にそれは、彼女の視界からも彼を隠す働きもするが
534 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/17(金) 14:27:30.02 ID:aeDZ8Rm6P
ステイル「戦る気だな?」
粉塵の壁の向こうから、声が伝わる
ずっと同じ位置に居るならば、この"蓮の杖"の遠距離攻撃を一方的に与えられる
当てになる距離の情報は現在の所、声のみだ。会話を続け、頃合いを見図るが良し
アニェーゼ「当然です。あなたにはイギリス清教のトップから始末命令が出ちまいましたからね」
ステイル「最大主教か。……ローマから移ったばかりの君たちとしては、僕を始末してポイントを得たい、という所なわけだ」
アニェーゼ「分かっているなら、とっとと殺されやがってくれませんかね」
ステイル「それは、僕としてもg――」
よし。位置情報、変わらず。今だ
彼女は、ガァン!! と、その杖を地面に向けて叩き付けた
"蓮の杖"の霊装によって、その衝撃が空間移動してステイルを襲う
これで先制。更に具体的な位置情報を得て、止めを刺せば――
そんなことを、彼女が思った時
ステイル「例えば、炎に対して拳を突き出すことに、意味は有ると思うか?」
アニェーゼ「!?」
今ので杖を叩き付けた程度で、まさかステイルを倒せるとは彼女も思っていない
彼女が驚いたのは、その声の方向だ
真後ろ
ステイル「その衝撃で炎を消し去れなければ、全く意味がない。……生身のままなら、相当痛かったんだろうがね」
彼女が振り向くと、そこには炎が立っていた
オルソラの件で嫌という程に見たイノケンティウスではなく、そのサイズは、その頭部から流れる赤色は、赤髪の神父を思わせる
直後、杖を握っていた彼女の腕を、炎の手が掴む
535 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/17(金) 14:28:29.35 ID:aeDZ8Rm6P
火傷では済まない痛覚と変色が生じ、簡単に、彼女の腕の中腹から下が切断された
ステイル「人数を率いた集団戦なら、まだ手を焼いたのだろうがな」
ステイル「君の様子を見るに、君たちは既に憔悴しきってしまっていて、このボストンの異常な様子を確認する為に、一番余力が残っていた君が単身で乗り込んできた、違うかな?」
読まれている。その通りだ
だからこそ、彼女は杖を用いての短期間のラッシュでステイルを倒そうと狙ったのだから
オルソラ教会での時は、天草式の補助が有ったことで、彼の炎の巨人が猛威を振るった
だが、今彼は一人だ。ならば、数で攻めるが確実。出来る事ならば、彼女もステイルを発見した時点で、人員を引きつれて彼を始末したかった
アニェーゼ「……ッ!!」
ボロボロの服の中から、非常用の霊装でもあるナイフを、生きている腕で取りだし、彼女はステイルに突き出す
運のいい事に、そこに込められた術式は"水"。ステイルにとっては致命的であるはず
しかし、突き出した腕は彼の腹部を簡単に貫通し、そして突っ込んだ分だけナイフごと腕が燃え尽きる
彼女は両の腕を失った
そして、目の前の炎の頭部が人間の顔に、ステイルの顔に戻る
ステイル「イギリスだろうがローマだろうが、どうでもいいと言ったけれど」
少女の目の前に、彼の腕らしき炎の塊が伸びてくる
両腕を失って、霊装も術式も構成出来ない彼女は、既に抵抗する手段は無かった
ステイル「僕を始末しに来た君達を逆に始末することで、イギリス清教への完全な決別にしよう」
恐らく、彼女には彼の言葉を最後まで聞くことは出来なかっただろう
その前に、その頭部が燃え尽きてしまった
イギリスにはあの女がいる。どうあっても和解することは出来ない
この辺りでちゃんとした区切りはしておくべきだ
ステイルは、そう思った
536 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/17(金) 14:30:39.46 ID:aeDZ8Rm6P
一度の掃射音しか、青髪や結標に聞えなかったのは理由が有る
それは、彼らからすれば上条刀夜が長官室で射殺された以外に有力な答えを見つけることは出来なかったが
表面的には彼らの想像と同じだが、結果が少しだけ違う
確かに、数の上でも判断・行動能力の上でも刀夜は負けていて、その銃弾を身に受けることは彼には防げなかった
しかし、銃弾を受けて、体中から血を流して、それでも死ななければ良い
ぐちゃぐちゃになった刀夜の身体は、無数の銃弾が通り過ぎ、身体の器官や繊維は軒並み潰されてしまったが
そこには胸の中心も頭部も含まれるが
彼の脳は死んでいない。心臓も、その鼓動を続けている
刀夜「行ったか」
CIAの生き残り部隊が長官室から撤退した後、彼はムクリと立ち上がった
"イェス"の操った"神の化身"の下半身、つまり機械の部分は、大学地下研究所にバラバラに配置されていた各パーツを組み合わせたもの
必要なパーツ以外の部分を適当な場所、あの時は隣を流れる河の底にだが、に移したあの術式は、直前に使われたということも有り、情報が近くに有ってすぐに彼は用いることが出来た
"肉体逃避"の際に、刀夜の脳内に生成された情報保存域にコピーされたその術式とは、"肉体の再配置"
"智者の心臓は右に愚者の心臓は左に"というユダヤ教的概念と、"智者の一失愚者の一得"という中国的概念を混ぜ合わせた混合概念
人は時により智者にもなれば愚者にも成る。ならば心臓も何処にあるべきか定まらない。それが、そういう解を作り出す
イェスにとっての身体とは、地下研究所であり、機械下半身であり、今は"肉体逃避"先の刀夜の体である
銃弾を受ける際に、心臓や脳などの重要臓器を細胞レベルで分解させて、致命傷を防ぐ
刀夜「便利なものだね、魔術というのは」
537 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/17(金) 14:31:15.77 ID:aeDZ8Rm6P
飛び散った彼の体が、肉体内で細胞レベルに移動させていた臓器が、ウゴウゴと気味の悪い痙攣したような動きを始め、立ち上がった彼の体を元の姿に戻していく
刀夜「人工知能に魔術に悪魔に微小機械か。これは異常な性能だ」
刀夜「惜しかったな。これで超能力も有れば、人類の中では考えられ得る限り最高の存在だ」
刀夜「天使が跋扈する世界では、対して目立ちはしないと思うがね」
刀夜「"救世主"すら潰える世界では、天使や神がどうこうってものじゃないだろうさ」
刀夜「それもそうだ。悪魔の側からすれば、"救世主"なんざ消えてくれて大いに結構だしな。秘蔵っ子がやられちまって、どんな気持ちだ?」
刀夜「貴様……!!」
刀夜「おっと、それ以上言うのは止そうか。私も人の親、君の気持はよく分かる」
刀夜「気遣いは有難いな。だが、所詮私はただのプログラム。彼の肉親ではないのだよ」
刀夜「人間と他の動物間にすら愛情は生じるものさ。君が彼に対してそう言う感情をもったって、少しもおかしなことじゃない」
刀夜「なんだなんだ? 親父同盟か? 臭いな」
刀夜「貴様だって"相対するもの"の父親だ。そういう意味では、貴様も父親同盟とやらに入ると思うがな」
刀夜「はっは、そいつはその通りだ」
彼一人の気味の悪い会話が続く中、彼の体は完全に元通りの中年手前になった
動く分には十分だ
刀夜「よし、その父親同盟の記念すべき初仕事として、まずはここから出ようじゃないか」
538 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/17(金) 14:31:48.20 ID:aeDZ8Rm6P
「能力が使えない?」
呟きは、座席に座ったフレンダのものだった
ガタガタと揺れる、もう道路と呼んでいいのか分からない状態の学園都市の上を、米軍の車両が第7学区へ向かって進んでいく
「ああ。だが代わりに、あの巨人のような存在は学園都市に入ってくることは無い。少なくとも、電力供給が有り続ける限りは」
初春の簡易な墓を作り、その横に固まったセラミックの何処かにあるであろう麦野の簡易な墓標も建てた彼女らは、言葉少なである
白井と絹旗は車両内部の即部に設置された、とても座り心地が良いとは言えない長椅子で睡眠をしていて、滝壺は今だに沈んでいる
フレンダの正面の長椅子に腰かける軍人が、拳銃を差し出した。彼女らの数に合わせて、4丁程
フレンダ「これは?」
「君達は能力者だ。しかし、今の状況下では、学園都市内では超能力も魔術も使えない。つまりただの少女に近づく」
「もちろん、今まで生き残っている以上、それらを用いない戦闘能力も有る程度は有るだろう。だが、今生き残っている者達は、今生き残っているだけの力がある者ばかりだ」
フレンダ「つまり、これで襲ってくる奴らから身を守れって訳ね」
「そういうことだ。もちろん、今向かっているベース地では、我々が最低限の治安を管理するが、この状況だ。正直当てにはならない。極度のストレスがある以上、最悪、我々の側から問題を起こす事だって有り得るからな」
今分かっている生存者の人数に対して、飲食料面では十分な蓄えが有るのは不幸中の幸いさ
兵はそう続けた。要するに、強奪などよりは強姦などの暴行面での事を言いたいのだろう
フレンダ「結局、私にそう言ってる本人がそういうことをする可能性だってあるってことね」
と、若干茶化すように彼女は言った
彼女が今疲労を抑えて意識を起こしたままにしているのも、この兵たちがそういう事をしてこないか見張る為でもある
暗にそれを示した発言でもあった
「馬鹿な事を言うんじゃない!! 隊長はロサンゼルスで婚約者を亡くしたばかりなんだぞ!」
急に、助手席に座っていた他の兵士が、強い口調とスラングの混じった英語で彼女に声を向けた
流石にフレンダも驚く
539 :
短いけど昨日分の本日分(ry
[saga sage]:2011/06/17(金) 14:32:39.38 ID:aeDZ8Rm6P
「バーグ。そんな声を出しては寝ている者が起きてしまうだろ」
「……すみません」
「グッド。確かに私は彼女を失ったばかりだが、確実にそう言う事がありえないと言う訳ではない。危機的状況になる程、生殖の本能が活発化するということもある」
「だから、私は君達に自衛の措置を与えた。機会が来てしまったら、躊躇なく引き金を引いていい。使い方は?」
フレンダ「学園都市内で入手できるモデルよりはシンプルで型が古いけど、使える。それよりさ」
話題を変えよう、と彼女は思った
前の席の男がまたヒートアップして、寝ている者達を起こしかねないのを防ぐ為でもある
フレンダ「どういう仕組みで、私達の能力まで使えないワケ?」
「それについては、そうだな」
男はすこし考えた。一応、機密事項ではある
「"相対するもの"、ああいや、"幻想殺し"を知っているか?」
フレンダ「友達って程じゃないにしても、面識は」
「なら、話が早い。一番の機密事項を知っているなら話してもいいだろう。彼についての研究は、アメリカでは彼の幼少期から行われていたのだが」
フレンダ「へぇ、初耳」
「ごく最近になって他の能力についての研究も進んだことで、彼の能力を人工的に発現させることが有る程度可能になった」
フレンダ「それって、"幻想殺し"のクローンってこと?」
「違う。私の知る限りではあれは純度100%コンピュータ制御の、つまりは機械だ。原子力空母何十隻分もの莫大な電力を消費するから、この学園都市でも無ければまともに使えないような代物だろうな」
フレンダ「機械が、超能力を使うってワケぇ?」
「そういう計画自体は、学園都市にも有るだろうな。そういう技術では劣っているハズの我々に、それが可能だったのも、単に"幻想殺し"の研究が他の能力よりもずっと深いものだからなのだよ、きっと。全て私の予想だから、話し半分で聞いてくれても構わない」
「とにかく、今の学園都市は、丸々彼の右手みたいなものだ。そう考えて、大きな間違いは無い」
540 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/17(金) 14:42:28.44 ID:Bgo8UupDo
乙
アニェーゼェ…
541 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/06/17(金) 17:55:57.67 ID:Rha9RRYqo
乙〜
フィアンマと当夜どちらがラスボスになるのだろうか……
いや、それ以外の可能性大だけど
542 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/17(金) 17:59:18.38 ID:UxjaxTAVo
俺のくぎゅが……
543 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/17(金) 18:21:18.22 ID:WCg6voQy0
最近の青紙とあわきんは死臭がプンプンするな…
544 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/17(金) 21:47:20.51 ID:pf2CaoBAO
佐天さんの方が刀夜より再生能力あるんじゃねえの?
545 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2011/06/17(金) 21:50:36.89 ID:eNYi6NVXo
サクッとアニェーゼ殺したな鬼畜め
546 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:12:47.01 ID:2U+4wJujP
「じょ、冗談じゃない」
そういったのは、一体誰だったのか
或いは騎士団の一人かもしれないし、或いは逃げ惑う市民の誰かだったのかもしれない
公にはなっていない英仏海戦以後、ロンドンは神裂の襲来から始まる連続した厳戒態勢
テロリストという言葉では隠しきれない規模の事件が続く中で、ローマ教皇が"終末"を宣言し、天使の姿をした化け物たちが現実にロンドンをイギリス各地を襲っているのだ
それにようやく片が付いたと思ったら、今度は白い樹のような超巨大な化け物である
そんな言葉を吐いてしまいたくなるのも分かる
縦も数百m、横も数百mというサイズはこれまでの異様な敵の中では一番大きく、更にその位置は最悪だった
今までの戦線よりもずっとと避難した市民側、つまりロンドン中央側で、彼の近くへ一度避難した市民は騎士団や警察などの制止を超えて再度逃げ回る
逃げ惑う中には本来なら彼らを守る側の人間すらいるのだから、この混乱を収めるには、この、白い枯れ木のようなフォルムの存在を倒さねばなるまい
そんな、混乱の最中である
フゴゴゴゴゴゴオッ!!
という、何かが強引に吹き出すような大きな音が響く
何度目かの、このロンドン中に響く音によって、巻き上がる悲鳴が大きくなる
なぜなら、この音が鳴った次には、ロンドンの何れの区画の地面から、白い根のようなものが巨大な剣山のように無数に突き出て、500m四方という単位で市街を人間ごと粉砕してきたのだから
今回の対象地区は、バッキンガム宮殿とその目の前の噴水広場
アックアとヴィリアンがフィアンマに胸を貫かれ、そのフィアンマと最大主教が対峙したこの場所は既にその荘厳さを失っていたが、その広さから市民の幾らかが避難していた
律儀にも避難命令に従っていた人々とその悲鳴は、強い粉砕とその音に掻き消され、湿気を失ったパンの如く、ボロボロと崩れていく
547 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:13:16.21 ID:2U+4wJujP
キャーリサ「こんなもの、どうやって守れと言うの」
カーテナ・セカンドを握った第二王女は、遠くからその光景をチラリと見る
何かの規則性が有るわけでも無く、突如現れた、幹の中央部分に見たことのある巨大な男の顔を備えた白い大樹は、市街と市民を造作も無くグズグズにする
それを防ぐにはどうするか? 攻撃の場所も分からない以上、そして止めようも無い以上、決まっている
あの白色大樹を叩き切るしかない
しかし、そう来ることは敵も分かっている
分かっているというか、多分、向かってくるから迎撃しているという、単純で本能的な反撃なのかもしれないが
人の顔を持ってはいるが、その表情は怒りと猛りで、理性的と言うにはあまりにもかけ離れていた
恐らく吹き出す音は、あの大きな口から出ているのだろう。もしかしたら、何かを喋っているのかもしれない
声にならないのは、声帯器官を備えていないからか
一度敵と認識された彼女、第二王女キャーリサに、それ以上考える時間など無かった
葉の無い代わりに、宮殿の柱程もある極太の触手と化した何本かの枝が、彼女を執拗に追い続ける
だが、確かに魔力や"天使の力"と言ったものは満ちているが、その枝からは高度な術式的な要素は無く、純粋に備わった力を叩きつけてくるだけ
キャーリサ「こうきて、そうきて、そこだしっ!」
本体ならばまだしも、本体から数キロ単位で離れている彼女を襲うのは、その末端
全体としての力が如何に強大でも、部分としての力は大きくない
彼女が握っているのは、カーテナ。国防の剣
例えそれがセカンドと呼ばれる複製品であっても、その力では枝を弾く程度は問題にならない
548 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:13:42.31 ID:2U+4wJujP
バチンバチンと、何階建てかの建物の屋上で、彼女は叩き落とす
その度に、切れた枝の破片が周囲にぶっ飛んで、ロンドン市街を荒らしていく
キャーリサ「フェイントも何も無し。あまりにも愚直過ぎるし」
言うも、彼女の表情は芳しくない
台詞通り、弾くのは簡単。しかし、何分手数が多い
恐らく、あの樹は本能と言うレベルで力の大きい相手を判断し、それに相応しい枝の群を送っているのだろう
ジリジリと体力と精神力を削ると言うやり方なのかもしれないが
キャーリサ(むしろ、単に近づけさせたくないだけに感じるし。……何かを待っているというの?)
フゴオオオオオオオッ!!!
またも、樹の口から声にならない音が吹き出し、数秒後、彼女の近くの区画が粉砕された
グシャグシャに潰れた頭部のようなものが、隣の区画の建物の上に立っていた彼女の手元にも飛来する
思わず手に取ったそれは、髪の長さから多分女性のものであろうが、だらりと眼球が垂れ落ちて、彼女の手にドロドロとした液体が付着した
守るべき市民の凄惨な姿であり、無下に放り捨てるべきか、彼女は一瞬悩む
その一瞬は命取り、と言う程の大きな愚には成らなかったが
目の前から飛んでくるもう一つの存在に気付けなかった
キャーリサ「………あ?」
飛んできた、と言うより弾き飛ばされて来たのは、年配の女性
既に半壊していた誰かの生首はキャーリサとその女性に挟まれ、グチャッと潰されてしまった
キャーリサ「母上?」
549 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:14:56.44 ID:2U+4wJujP
奴は、何処だ?
半ば八つ当たりのように、その触手を彼は振り回す
何故出てこない?
これだけ派手に暴れまわれば、無意味な命にすら過剰に反応する奴の事だから、出で来ないわけが無い
だが、現に今出てこない
こっちは、ただアックアを倒したいがために、ひたすらに落ちて来た天使や神獣をハイエナのように喰らってきたと言うのに
こんな醜い姿になっていると言うのに
肝心の奴が出てこないのでは、意味が無い
その気になれば、今敵対しているイギリスの連中など、ロンドンごと丸々吹き飛ばす事も出来る
テッラ(早く早く早く!! 出てきなさいアックアァァァァァ!!!!)
何度目かのアックアを呼ぶ声を発しながら、彼は心を暴れさせる
この手で、目の前で、確実に、奴の体を八つ裂きにしたい
ただそれだけの為に、アックアをあぶり出したいが為に、彼は少しずつロンドンを破壊していく
フィアンマの制御から外れた彼に残る理性は、そんなところのみ
最大主教だろうが女王だろうが騎士団長だろうが王女だろうが市民だろうが
彼の眼には入らない。暇つぶしの玩具
それが無駄に力を浪費させることに繋がったとしても、知ったことではない
尽きるのなら、また喰えばいい
樹という形は、彼にとっては力という養分を吸い上げる為のフォルムでしかない
地上では光合成によって、地下では直接的な吸収によってエネルギーを溜める樹
地上では"終末"によって吸収しやすい形となって溢れだしている"天使の力"を、地下ではその大地から生じる"力"を、彼は吸い上げる
あまりにも好き勝手動き回る触手のような枝の所為で分からなかったが
彼の"樹"はまだ成長していた
全ては、アックアを倒すがために
550 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:15:47.09 ID:2U+4wJujP
建宮の前で雷光に貫かれた彼女は、とうとう耐えきれなくなった
天草式の全力を用いて放たれた"聖人崩し"は、五和の中に入っていた神獣の余力をも含み、想定以上の威力を持っていた
並みはずれた聖人の力を暴走させるそれは、魔術的な要素がかなり低下している今の神裂には到底抑えきれるはずも無く
行き場を失って、具体的な形を持たずに外部に漏れた力が爆発を起こし、その中心に居た彼女は自らの力によって上空へ弾き飛ばされた
(一体、何ガ?)
彼女は自らの頭脳で理由を考える
しかし、考えるまでも無かった。正確には考えるとかそういう以前の問題だった
複脳計画の第一被験者・佐天涙子、そして第二被験者・神裂火織
彼女らの共通点、というよりは被験者としての前提条件、それは強固な素体であること
最高レベルの超能力の複数保持と最高レベルの魔術を共有するという無茶を達成している彼女
最終個体に到っては、魔術でも超能力でも無い"力"の使い方をしている
本来の人間にはあるべきでない力の使い方を、しかも基本的なルールすら無視して実行している背景には、どうしてもその無茶に耐えられるだけの強度が必要だ
それは、肉体的な意味でも精神的な意味でもである
神裂の体ではどう考えても七天七刀を思う様に振り回すに必要な筋肉量はない、というのが外見上でも分かる
しかし、魔術師としての知識と技量、なにより聖人という性質が彼女に高レベルの戦闘力を与えている
その聖人という性質が、彼女への複脳計画の被験者としての資格となった
551 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:16:22.67 ID:2U+4wJujP
他方として、彼女の持つ高レベルの魔術知識が欲しいという目的もアメリカには有ったが、そんなことは今は関係が無い
第一前提としての、聖人の強靭さを喪失しているという現実
それが意味するのは、聖人の性質を失ったことによる複脳への拒否反応
超能力も魔術も周囲に溢れている"力"を扱う
本来の能力者や魔術師は一つの体と脳で一人分の力を扱うが、彼女はその前提から離れて一つの体に四つの脳で強引に4人分の力を扱う
つまり、単純に負担も4倍となる。それに耐えられるから被験者としての資格があった
聖人の性質を失ってしまったら、耐えられるわけがない
(体を保てナい)
その拒否反応は、細胞単位で現れた
暴走によって傷ついた彼女の体繊維に追撃として降りかかった拒否反応によって、まず体表の組織が死滅という形で崩れていく
それこそ粉が吹き出すように、彼女の皮膚が剥がれ、皮膚に守られた組織が大気中に露になる
彼女が居る場所は、空中。しかも、頂点を超えて自由落下を始めたところだ
元々大気中に晒されることが不味いから、皮膚組織に守られているのである。落下によって強い風が当たるのと同じ衝撃を受ければ、拒否反応と相まって、まるで空気の壁に削られるように、神裂の体が薄くなっていく
「女教皇……」
神裂の聖人の力の暴走によって生じた爆発を殆ど直撃と言う形でその身に受けながらも、なんとか建宮が彼女を受け止めた時には、髪はおろか皮膚が全て削げ、所々骨すらも顔をのぞかせていた
552 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:16:55.60 ID:2U+4wJujP
「おお痛い痛い。流石に年か」
第二王女の目の前に飛ばされてきた女性は、腰を摩りながら、自らの脚で立った
キャーリサ「年とか言っておきながら、私よりも随分と前の方から飛ばされて来てるし」
なかなか前に進めなかった第二王女よりも白色大樹側から来たと言う事は、飛ばされてきた女王の方がより匠に戦っていた事を意味しているのだろう
つまり、女王の力が自分よりも勝っていると言う事だ
キャーリサ「流石はオリジナルってことだし、……ってあれ?」
その理由を、自らの持つ複製品などでは無く、母である女王が持っているはずのオリジナルの国防の剣に有ると見た彼女だが
飛んできた母親の両手に握られているのは、どこかで拾ったのだろうか、ただの長剣が二本
しかも殺傷部位が両方とも明後日の方向へ曲がっていて、まともに振ることも出来ないだろう
キャーリサ「オ、オリジナルはどこにいったの」
エリザード「あんなもん、捨てた」
キャーリサ「はあ!?」
カランカランと、女王は持っていた折れた長剣を投げ捨てた
そして、どこかから取り出したのであろか換えの長剣と槍を地面に突き立てる
エリザード「というのは冗談だ。少々扱いに手こずったものだから、預けている」
キャーリサ「ってことは、今までその剣で戦っていたというの?」
エリザード「それでもこんなんになってしまったがな。肝心なところで芯が折れてしまった」
恐らく、長剣がへし曲がったタイミングで集中攻撃に有ったなどして吹き飛ばされたのだろう
それでも、これまでずっと奥で戦っていたのだ
力量・技量の差は明白。これが年季の差なのか
553 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:17:36.03 ID:2U+4wJujP
キャーリサ「……それで、誰に預けたの」
エリザード「ローラだ」
キャーリサ「最大主教? それじゃ宝の持ち腐れだし。この状況下で、どーしてあれを手放すという判断になるの」
当然と言えば当然の反応を彼女はする
そしてその返答までに少し間が有った
エリザード「私には扱える代物ではなかった、というだけだ」
キャーリサ「母上に扱えなければ一体誰が使えると言うの。よりによって、あの最大主教。アイルランドの暴動の裏にあの女の影が有ったし」
エリザード「やっぱりか。ふむ、となると少々リメエアが心配になる」
キャーリサ「姉上が?」
エリザード「最近少々接近し過ぎていたからな」
策謀家と策謀家
恐らく、両者とも何かの狙いがあってのことだろう
キャーリサ「狐と狐のことなんて、今はどーだっていいし。まずは目の前のあの枯れ木」
エリザード「……そうだな。キャーリサ、セカンドの扱いはどうだ? 慣れたか」
キャーリサ「そこいらの剣並みには使える」
エリザード「よし。ならば、私があそこまで道を作ってやろう」
キャーリサ「は? どー考えたってこのセカンドも私が持つより母上が持つべきだし。血路を作るのは私の役割」
エリザード「私はいまカーテナアレルギーなんだよ。それに、敵を引き付けるなんて危険な役割をするのは、未来の短いロートルがやった方がいいだろう?」
キャーリサ「……ッ。自分の事をロートルだとはこれっぽっちも思ってないくせに、よく言う」
言って、彼女は市民の血で濡れた手で剣の柄を握り、そして母から白色大樹の方を向いた
「だけど、その方法にとって変わるような攻撃方法なんて思い浮かばないし」
554 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:18:14.30 ID:2U+4wJujP
「そォいうことか」
殆どが廃墟となった学園都市の、恐らくは片道3車線程度の大きめの十字路であった場所
一方通行は目の前の一種のアンテナのようなポールを見上げた
彼の目の前に設置されたそれの先端には、360度複数方向にいくつかの軸が伸びていて、何かを発しているのが彼には分かった
一方(コイツが放出してンのは、"幻想殺し"が特定範囲に対してその能力を発揮した時に放出しているAIMと同じ)
一方(つまり、言わば"幻想殺し"のバリア放出装置。このフィールドをが有ったから、東を焼け野原にした連中は入ってこれねェし、外から中へ攻撃も出来ず、全て掻き消される、と)
装置の下端、つまり道路上に設置された本体部分に視線を落とす
そこには、5cm程度のアメリカ国旗のプリントがなされていた
一方(メリケン野郎はこンなもンを用意していたってのか。確かに、コイツが有れば学園都市の戦力は先進科学兵器だけになるしなァ)
一方(有るなら最初から使っとけって言いたいところだが、使いたくても使えなかったに違いねェ。だからこそ、あの駆動鎧部隊は時間稼ぎをしてたンだろォ)
一方(なンにせよ、"幻想殺し"は、超能力だけでなく奴らにも効果があるってことか。コイツは本人ではない以上、性能に違いが有るかもしれねェが)
あの巨人の言うとおりならば、天使の姿をした存在も、神話や聖書に載っているような化け物や神などの存在も、超能力も魔術も、すべては同じ"力"で存在している
一方(つまり、"幻想殺し"はその"力"そのものに対応している。他の超能力とは性質が違う。何か目的でもあるってのか?)
一方「……ハッ。超能力って概念にそもそも目的なンざ有るわきゃねェよなァ」
俺は何を考えているンだ。そう彼が思った時
「その通りだな。能力者なんてのは、ただちょっとケンカが強いってだけだ」
ザッ、と彼の背後から若い男が一人現れた
どこかで拾ったのであろうライフルを持って、一方通行に狙いを定めて
振り返ってその姿を見て、彼は両手を挙げた
「俺を覚えてやがるか、第一位さんよ」
555 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:18:43.94 ID:2U+4wJujP
知らない。というか、この程度のチンピラ風情などいくらでも目にしてきたために、覚えていようもない
一方「知らねェな」
「……だろぉな。お前にとっては俺なんざただの群像の一つにすぎないだろうよ」
「だがな、俺たち無能力者は、お前らみたいな超能力者にはビクビクしながら生きるしか無かった。何か画策しようとすりゃあ、その度に潰されてきた」
一方「潰される方が悪ィな。簡単に情報を漏らす時点で馬鹿なンだよ」
「お前たちにとっちゃあそうだろうよ。力のある奴はその力を振りかざす事しかしねぇ。だがなぁ終いには夢にも出始めやがったんだよ、テメエらへの恐怖がな」
一方「あァ? メンタルが弱すぎるだけじゃねェのか」
「うるせえ! だがなぁ、そんな俺みたいな負け犬にもチャンスが来たんだよ。ここに居る限りじゃ、今は能力者はただの人間になっちまったんだからな」
いいザマだったぜ。サイコーだ、俺を散々コケにした能力者を一方的に殺せるってのはな
そう続けて笑うその顔は、正気では無かった
そしてその男を見る一方通行の表情は対照的に限りなく無関心だった
一方「ってことは何だァ? お前はそのライフルで俺を殺そうって魂胆ですかァ?」
「そうに決まってんだろ。なんだ? こええのか? 第一位サマもよ?」
一方「……ッ。テメェに2つ、アドバイスしてやろォ」
「ハァ? こんな時でも上から目線かよ」
ターン、と、一方通行の右肩の上を銃弾が通過し、それによって生じた風が白髪を揺らした
しかし、彼は気にせず言葉を続ける
一方「一つ目だ。お前程度が今まで殺せた超能力者は、所詮お前に殺せる程度の奴でしかねェ。本当の強ェ奴ってのは、強力な能力なンぞ無くても強ェんだよ」
556 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:19:40.42 ID:2U+4wJujP
「んだと? 俺が弱いってのか。少なくとも今の状態なら俺が絶対強者だろうがッ!!!」
ヒートアップする男を前にして、それでも一方通行は淡々と言葉を続けようとした
一方「二つ目。これはさっきも言ったことだが、お前には―――」
うるせぇんだよ!!!
言葉は、銃声で、フルオート射撃の音で、掻き消された
その弾丸が向かうのは、しかし、一方通行ではない
あからさまな反射の反応を示して、気が付けば、男の頭部を、腹部を、体中を貫いていた
一方「……情報力が低すぎンだよ、ド三一」
彼を知っている人間ならば、特に本格的に彼と対峙するつもりが有る立場ならば、彼の現状を知っているだろう
脳への深刻なダメージを負った彼は、自身では言葉を話すどころか立つことすら出来ない
だからこそ、ミサカネットワークの補助が有ってようやく彼は動くことが出来る
しかし、超能力が使えなくなっているこの学園都市ならば、その補助演算すらないはずである
つまり、本来一方通行は動けない。だが、今彼は明らかに動いている
もっと言えば、ミサカネットワークも生きているのだが
ミサカネットワーク無しという前提で、一方通行が動いていると言うイレギュラーな事態に、この男は気付くことが出来なかった
単に、一方通行を知らないと言う理由で
一方「まぁ俺も、アイツの"幻想殺し"を知らなければ、今ごろ醜く這いずってるとこだっただろォけどな」
557 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:20:17.64 ID:2U+4wJujP
「これも不幸の一端とすれば、招きたる一因は私にもありける」
呟いた彼女もまた、白色大樹から少し離れた場所にいた
英国の全てを守護天使へ加えるという分かりやすい術式を受けて強化された巨大な天使の肩に乗り、腰のカーテナオリジナルに手を置いている彼女
向かってくる触手を払うだけのその天使の動きには積極性が少し足りない様にも見える
ローラ「いっそ、このまま放っておきしままでもいいのだけれど」
向かってくる白色大樹の枝と言う形の触手を、その天使が焼き払う一方で彼女はじっと下を見ていた
視線の先には、逃げ惑う市民の姿。その中には、親の手に引かれる年端もいかない子供の姿すら有る
ローラ「……気に入らないのよね」
何か意を固めた彼女は、その剣を引き抜き白色大樹の方へ向けた
たったそれだけの動作で、その天使は口から火を放ち、両腕が乱暴に触手を払いのける
同時に止まっていた脚もその方向へ向けて確実に動き始めた
女王とその娘たちへの嫉妬の感情が彼女には有る
それは、彼女が行動する理由でもあるし、自らも把握している
しかし一方で、あの赤子を助けようとしたりする、母性のようなものもあった
結局のところ、その起源は同じ
だからこそ、彼女はこの選択を採った
失うという感情を数十年前に痛いほど思い知らされている
ローラ(だから、私は)
そこから生まれた、その目的を果たすために
ローラ(エリザード、お前とその血縁を殺さねばならないの)
558 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:21:04.92 ID:2U+4wJujP
「はぁい、こんな時間に何処へ?」
非常灯で照らされたモスクワの街を彼が歩いていると、後ろから女の声が聞こえた
フィアンマ「俺様だって人間だぞ? 周りがこんなに暗いんだ、臥所へ向かうのは自然じゃないか?」
振り返ってその女を見ると、予想通りの存在だった
彼としては、限りなく自然な返答を返したが
ワシリーサ「そんな言葉を言える時点で、普通の人間じゃないわね」
フィアンマ「ほう?」
ワシリーサ「この"終末"で、いつここモスクワも攻撃されるか分からない状況なのよ。普通の人間なら、まともに寝ることも出来やしないわ」
フィアンマ「はっ。そういうお前も今まで寝てたんじゃないのか?」
ワシリーサ「あらら、バレちゃった?」
フィアンマ「頬に、何処かに突っ伏してた跡が有るぞ。まぁ、"殲滅白書"のトップが普通の人間だとは誰も思ってはいないだろうがな」
ワシリーサ「残念だけど、そうでしょうねぇ。 そういえば、何か準備をしていたときいていたけど。眠る暇が有るなんて、時間が足りないんじゃなかったのかしら?」
フィアンマ「一番必要な鍵の部分は俺様が必要だったが、そこ以外なら他にも任せられるからな。時間が有るならば適度な睡眠は必要だ。こんな状況だからこそ、な」
ワシリーサ「でもそれだと任された側は、寝られないじゃない? 随分と鬼畜なリーダーだこと」
フィアンマ「交代するだけの人員はいる。それに、そもそも休息なんてものが必要ないならば、問題ないだろう? 最高の労働戦力とも言えるな」
ワシリーサ「休息が必要ない?」
彼の言葉に疑問を持った彼女だが、その疑問を露にする前に、男の言葉が先行した
フィアンマ「ああ、そういえば、だ」
ワシリーサ「何かしら?」
フィアンマ「禁書目録の様子はどうだ?」
ワシリーサ「相変わらず、ぬいぐるみを抱いてかっわいい寝顔でスヤスヤしているわよん」
フィアンマ「それは結構なことだ。だが、その眠り姫を移動させてほしい。もちろん起こさずに出来るなら、より良いが」
559 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:21:36.86 ID:2U+4wJujP
ワシリーサ「……何? ま、まさか、あの娘と一緒に寝るつもり?」
割と深刻に変なものを見るような目で、彼女はフィアンマを見つめる
若干変に期待する様なものも混じったそれを、しかし彼は冷静に対応した
フィアンマ「そういった行為をするには少々未熟すぎるな。俺様がそうするわけじゃない」
ワシリーサ「へぇ?」
フィアンマ「だが、功労者には褒美が必要だろう? 俺様達用にあてがわれた宿舎の、この部屋にでも送っておいて欲しい」
彼はそう言って、前に渡されていた見取り図の一部屋を示した
ワシリーサ「了解よん。でも、そんなこと一々私達に頼まなくても"遠隔操作霊装"を使えば、勝手にあの子が足を向けるものでは?」
フィアンマ「あれか。あれは使えないんだよ。だからこうして頼んでいる」
あれ、と言う事は今彼はその霊装を持っていないのだろう
重要なものなのだから、彼が携帯しているものだと、彼女は思っていたが
ワシリーサ(使えない? それは"今だから使えない"のか、それとも"もう使えない"のか、果たしてどっちかしら)
フィアンマ「もういいか? なら、俺様は行くぞ。少々疲れたのでな」
と言って、彼は踵を元の方向へ向け直した
ワシリーサ「ばいばーい。じゃなくて、ちょっと待って」
フィアンマ「……、なんだ?」
ワシリーサ「悪いわね。でも、これだけは答えて。サーシャちゃんに何をするつもり?」
フィアンマ「別に取って食おうとかするつもりじゃない。ちょっと調べさせてもらうだけだ。もちろん、お前みたいに着せ替え人形にしたりだとか、そういう邪な目的はないから安心しろ」
ワシリーサ「……そ。じゃあその言葉を信頼させてもらうわ」
フィアンマ「そうだな。俺様を信頼する必要はないが、俺様の言葉には信頼していいぞ」
そんな言葉を残して、彼は軍用のライトで照らされた施設へ歩んでいった
560 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:30:34.18 ID:2U+4wJujP
アックア(少々無理をしすぎたようである、な)
背中をベッタリと廃墟の床につけた彼はどうにも動けなかった
やはり、少しも怪我が改善していないのにもう一度戦線に出ると言う事が無茶だったか
しばらく前に何かのリミッターが外れた様な感覚がした
それを、彼自身は無茶のしすぎと判断したが、同時に何か別の理由もあると分かっていた
なぜなら、単純に言えば、体の自由が徐々に失われていくような感覚が生じたから
それは失血等による意識の薄れとは、本質的に何かが違う
まるで、誰かの制御下に徐々に入っていくかのようでもあった
耐えられなくなって、遂に彼は移動中に飛び込んだ商店だった施設で動けなくなった
結果的に、その施設が完全倒壊することは無く、彼が瓦礫によって押し潰れることもなかった
単純に幸運だった、といえるだろう
アックア(……しかし、いつまでもこうとは限らないのである)
事実、外には何か良く分からない力が蠢いているし、轟音も響いている。いつ壊れるかも分からない
聖人とは言え、今のこの状況で5階建のこの施設が壊れたのなら、即死に到らずとも苦痛の中でじっくりと息を引き取るまでの地獄の時間が生まれることになるだろう
自らの死は惜しくは無い。しかし、それによって連なる命がある
第三王女の命が自分と繋がっている以上、自分の愚かな意思の為に死んでいられるか
立つしかない。戦えずとも、せめて自らの安全を確保しなくては
アックア「……ぐ、ぅ」
体に鞭を打つ、とはこの事なのだろうか
文字通り、鞭に打たれるような痛みが全身を叩き回る
フゴォォォォォッッ!!!!
またこの音がロンドンの市街を走り回った。しばらくしないうちに、酷い揺れが来る
561 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:31:04.39 ID:2U+4wJujP
パラパラと上から降ってくる粉塵が、彼を急かす
腕を床に置き、腹筋に力を込めて、身を起こそうとするが、まるで全身が酷い筋肉痛の様だ
傭兵である彼にとっては、痛みの所為で力が込められないなどと言うことも少なく、痛みが酷い場合でも補助する魔術だってある
しかし、それでも少しも改善されない
アックア(これは、今の状態が何らかの術式等の影響を受けているということの証明でもある)
アックア(ダメージを受け過ぎたことによる生命力の減少。もたらすのは魔力の減衰)
アックア(身を起こすためだけの簡易な術式に必要な、僅かな魔力すらも捻り出さくてはならない現状でもあるが……)
こうなった時、頼れるのは魔術云々以前の、自らの肉体
アックア「……ふん!」
体に喝を入れて、彼は血管の代わりに針金でも通っているのではないかと思わせる体を、その筋肉を強引に動かした
平時の彼とはかけ離れたよろよろの脚で、ようやく立ち上がったアックア
だが、予想通りの衝撃が彼の居る場所を襲う
地面ごとロンドン市街を粉砕する白色大樹の動きは、アックアの居る場所こそ粉砕しなかったが、これまでの動きの中で一番近くだった
かろうじて形を維持しているレベルのこの建物は、その衝撃に耐えられるはずが無い
不運といえば不運だった
彼自身も揺れに耐えられず、かといって倒れればもう一度立ち上がれるかわからなかったので、彼には頼りない石壁に身を任せて衝撃に耐える選択を取るしかなかった
ガゴッ、という何かが外れるような音がした
アックア「やはり、かっ!」
動けない彼の前で、上の階のブックシェルフが次々と落下してくる
落下を確認した後、建物の到るところで次々と同じような音が生じ始めた
耐震強度なんて考えられていないこの国の建築物
不味い。予想通りなら、いや、確実にこのままでは
562 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:31:36.15 ID:2U+4wJujP
動かなくては
人間、本能的に危険と察知すれば、普段は筋繊維の損耗の関係上制限されているリミットが外れるようにもなっている
彼はそれを狙って、ほんの10m程先の出口へ体を傾けて足を踏み出した
そこで、理解した
動けないのではない。動こうとさせないのだ
力が出ないのではない。出そうとさせないのだ
生きようとしないのではない。生きようとさせないのだ
この、自らの体が。本能レベルで彼を殺そうとしている
そんな術式は、それこそ星の数程有る。しかしそれらは所詮精神誘導だったり、強引に体を自殺させるように動かすというもの
彼の敏感な嗅覚がそんな分かりやすい術式の侵入を許すだろうか
聖人であり神の右席である彼には、刻み込まれる可能性すら許さない
出来るとしたら、同格の存在か
ガラガラと上の階の者が滝のように崩れる中で、彼は動けず、倒れ込む
ということは
アックア(フィアンマ……。奴か!!)
胸に手を伸ばす。包帯の感触がした
アレだけの力の差を見せつけた彼が、どうしてこんな遠回りな方法で自分を殺す必要が有る?
あの時で十分に殺すことだって出来ただろうに
アックア(嘲笑おうと言うのか、貴様は……ッ!!)
ヴィリアンと命を共有している自分を、力を奪いまともに動き回ることすら出来ない自分を、無力な自分を
アックア「笑いたいのだな、貴様は!!」
具体的な理由は見えず、それしか答えは見付からない
563 :
本日分(ry 次は多分土日
[saga sage]:2011/06/23(木) 05:32:36.18 ID:2U+4wJujP
自らの頭上に落ちてくる瓦礫など気にせず、彼は触れている包帯を、感情に任せて引きちぎった
見えるのはフィアンマに付けられた傷跡
本来ならば、明りもないこの空間では、血ぬられてよくも見えないハズだが
その胸は、僅かに太陽光のような少し黄色がかった光を生じさせていた
こんなもの、アックアは知らない。つまりは、フィアンマが施したもの
術式の根源は分かった。その内容も
しかし、その解除の方法は分からない。フィアンマは神の右席の中でも、一際飛び抜けた存在だ
彼のオリジナルな術式だとすれば、その構築は彼しか分からないだろう
調べて解除するにも、膨大な時間がかかる
だが、そんなことは関係なかった
内容が分かっていれば、対応すればいいだけの話だ
生きようと行動するから、彼の体から力が奪われる
ならば、死のうと行動すればいい。自ら死地に向かおうとすれば、この場合、落ちてくる瓦礫の落下地点に自らが向かえば
フィアンマの術式は彼の力を奪わない
生命力が下がり続けたままで、生きようと逃げればますます力は奪われる
しかし、自らが死地へ赴こうと動くのならば、聖人としての神の右席としての力は奪われず、逆にそれが切っ掛けとなって、彼に活力を与える
落ちて来た瓦礫は、彼を押しつぶすどころか逆に砕けていった
そして
夜のロンドンの一角に、明らかな怒りを瞳に灯した男が立っていた
564 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/23(木) 09:25:49.33 ID:LNQPIUCAO
パイ乙
アックアちゃんペロペロ
565 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/23(木) 12:16:19.75 ID:8VgcgDXT0
陰謀渦巻きすぎワロタ…………
566 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/23(木) 14:21:13.78 ID:FqWtAEdzo
乙
567 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/23(木) 14:43:26.99 ID:NmxlnuMno
誰か陰謀まとめしてくれ
568 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/06/23(木) 19:24:51.10 ID:uVcmkPmRo
アックアさんバイバイフラグが……
569 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/06/24(金) 10:25:16.75 ID:QfwN3eLco
少しずつフィアンマの行動が雑になってきたな。
慢心したのか最大の商売敵である垣根を倒したからなのか、
大詰めで細かいことに気を配れないくらいやることが多いのか。
570 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/28(火) 05:53:32.80 ID:d2D2mKfKP
「っったく、暴れすぎだ」
ロンドンの市街、といってもあまりに多く破壊され過ぎていて、とても人が住める場所では無くなってしまっていたが
そんな場所で彼女はようやく目的のモノを見つけた
といってもそれは、全く大したものでは無く、ただの街路樹
等間隔に有るはずだったそれらの中から適するものを見つけるのに、本来ならばそんなに時間はかからない
しかし、暴れすぎ、なのである
それは、テッラが暴れたと言うのもあるし、それまでにロンドンで有った様々な破壊的な行動全てに対するものでもあった
ヴェント(術式に使えそうな木がを見つけるだけで、こんなに手間取るなんて思って無かったわ)
ヴェント(そもそも、林立していない木って言う前提条件が面倒なのに)
ヴェント(だけど逆に、この木ぐらいしかまともに原型を整えていないというなら、それはそれで媒体としての効果は挙がると言う面もある。……見付かっただけマシか)
ほぼ無傷の木の全容を、彼女は術式的な光で照らし出して確認した
彼女のしようとしていることは、楽園喪失の概念を利用した男女間の原初的な繋がりの再現
神によって食べてはならないと定められた、生命の樹と対をなす禁断の知恵の樹の実を、生命の名を冠したイブのそそのかしに乗って食べたアダム
世界的に知られたこの旧約聖書のエピソードの中には、新旧聖書間・各宗教宗派間の解釈に置いて問題があるが、大体の流れは同じ
しかし、問題と言う程目くじらを立てるべきではないにせよ、疑問がある
内容としては、禁断の果実を食べてはならないとされたのはアダムに対してであり、イブはその後誕生している
そして、サタン(ルシフェル)によって騙されたイブがまず禁断の果実を食し、そのイブにそそのかされてアダムが禁断の果実を口にし、その後、アダムもイブも知識と欲を持つことになった、と言うものなのだが
なぜアダムは欲が生じる前の段階であるのにもかかわらずイブの誘いを断てなかったのか、そしてアダムもイブも同じ人間でありながら、なぜイブはアダムが食べるまで知識と欲を得なかったのか
その説明として、イブはアダムを騙す前に既にそれらを持っていてその知識で騙したという説もあるが、一方で、男女が"つがい"で1セットであり、だから片割れのイブだけではそうならず、アダムも食べなくてはならなかったのだ、と言う説
つまりのところ、男女両方がセットでなくてはならず、そこには強い繋がりがある、というものだ
楽園喪失のエピソードは十字教が一番問題視している原罪の成立についてであり、この後者は、原罪が人類全体の問題であるとしている十字教にとっても、男女という"つがい"の強いシナジーが意味する"男女"すなわち"人間"という概念と"人類全体"の抱える原罪が適合するので、都合が良いものだった
彼女、ヴェントは、その男女の"つがい"の概念と、同じく創世記楽園喪失に登場する生命(=イブ)の樹と知恵の樹の対の概念を利用し
樹の形となった男性であるテッラに対して、奇跡的に殆ど傷のない街路樹をイブすなわち女性の象徴と見たてることで、同じ十字教徒間であるという性質をも利用してそこに繋がりを生じさせ
フィアンマの制御を超えて暴走してしまったテッラに干渉しようとしているのだった
571 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/28(火) 05:54:00.38 ID:d2D2mKfKP
ヴェント(まずは第一段階)
しかし、性質上その男女の力関係に大きな乖離があれば、暴走を抑えるのは難しい
同じフィアンマの手による復活者であるヴェントとテッラだが、抑制術式の制限が無くなったことで強化された高濃度に圧縮された"天使の力"を大量に含んだ彼の今の力では比較にならない
ヴェント(しかもあの樹、まだ成長中じゃない)
複数の円と円を繋いだ形をした、生命の樹の術式陣を刻まれた街路樹をとおして、制御とまではいかないにせよ、彼女は彼の現状を調べ上げていく
ヴェント(植物がエネルギーを生む昼間ならまだしも、夜でもお構いなしに力を蓄え続けている)
ヴェント(ってことは、樹って形は形式だけか。術式の制御にも問題が出てくるわね)
ヴェント(……一体何を狙ってる。アンタはロンドンどころかブリテン島丸々吹き飛ばすつもり?)
しかし、彼は既にまともな理性で動いている訳ではない
狙いというものがあるのかすらも怪しかった。それがますます理解を遠ざける
ヴェント(まさか、ただただ肥え太るだけだっての? 間抜け)
チッ、と彼女は舌打ちした
何か理由が有るでも無く、ただただ巨大化していくだけならば、尚更彼我の力の差が開くばかりである
イギリス勢に任せるにしても限界がある
ヴェント(フィアンマのクソ野郎、随分と面倒なお仕事を任せてくれる。どこが肩慣らしだ)
あまりにも力の差が大きいので、情報収集だけでも無駄に手間がかかる
干渉への反発に彼女が本格的に手を焼き始めたそんな時だった
フゴォォォォォォォォォォォォッッ!!!
という、例の音がロンドンにまた響いた
アダムとイブの術式から調べる限り、そのランダム攻撃の矛先はこの生き残った街路樹のある場所からは離れている
つまり術式が壊れることは無い
572 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/28(火) 05:54:29.96 ID:d2D2mKfKP
だが、彼女にとってその情報は瑣末なものだった。より重要な情報が現れたのだから
『ア゛ッグアアアアアァァァァァァアアァアァァァアアァ!!!!』
それは、圧倒的な思念
樹には当然発声器官などはない。表面的に口が有ったところで、それだけでは見た目だけだ
だが、彼は叫んでいた。男の名前を
同時に術式から流れ込んでくるのは、明確な敵意と殺意
メーターでもあれば、簡単に上限数値を指していただろうそれは、彼女の中を電流のように駆け巡り、体が少し痺れたようにも感じた
ヴェント「……アックア」
痺れた口によって、彼女の声帯がその男の名を吐いた
全く、随分とハッキリした理由だ
ヴェント(これでもかってほど、アンタの望みが分かったわよ、テッラ)
ヴェント(なんだか面倒なことになると思ってたけど、これはまた馬鹿馬鹿しいぐらい簡単なこと)
彼の本懐が果たされれば、それによってテッラが落ち着きを取り戻せそうなそのタイミングなら、このまま強引に干渉魔術を強めるよりは、ずっと容易で時間もかけずに彼の暴走を鎮められるだろう
問題はそのアックアがどこで何をしているのかだが
自らの得物である金属鎚を肩に乗せて、彼女はアダムとイブの術式のある街路樹から離れた
もちろん、遠隔的に彼の情報が頭に入って来るように術式を施してからだが
ヴェント「いいわよ、手伝ってあげようじゃない」
風を切って地面を蹴りながら、彼女は言った
その口には先程までには無い面倒臭さから解放されたような余裕が有る
なぜならば、彼女が走るその目の前に、金属製の大きなメイスを持った男が、まるで猪の如く地上の建物を激突して突き破りながら進んでいるからである
573 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/28(火) 05:55:01.37 ID:d2D2mKfKP
驚くほどその戦いは早く終わった
相手がまるで動けなくなっているのだから、これで終わりであろう
彼らにとっても狙い通りである
最初から彼らには短期決戦にする必要は有った
それは、戦闘出来る程度とはいえ怪我人であると言う事
しかし実質指導者である建宮のその判断は、戦闘開始後により大きい意味を持った
単体での能力が一般魔術師クラスの彼らが、自らよりも強大な敵と戦うための方法としての集団戦
つまり強大な敵との戦いでは、単数対多数の戦いを仮定している
だが如何に集団戦と言えど、その戦いの中では単数対単数の打ち合いになることもある
そうなった時に簡単に打ち負けることは、すなわち仲間の一人が失われると言う戦力減を意味する
彼らにとってそれは最悪
その対策として、適切な布陣と位置に立ったり直接触れたりすることで、集団の他の人間から力の供給を受けると言う術式的な方法を彼らは身につけた
簡単に言えば、力の共有である
手負いだからこそ、なおさらそれは重要な意味を持っていたが
使用される状況が最悪だった
建宮「女教皇……」
殆ど、うわ言のように彼はもう一度言った
その言葉に続く者は無い
574 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/28(火) 05:55:34.12 ID:d2D2mKfKP
供給される力が一般的な魔術師のものだからこそ、複数の人間から送られる力の共有が可能なのだ
その力が一般という段階を簡単に飛び越えたものならば、一人一人は一般的な魔術師レベルの彼らでは、制御可能領域を簡単に飛び越えてしまう
五和一人に集中していた過剰な力を分散させるという意味もそこには有ったが、それでも彼らには到底受け入れることが出来るものではなかった
だからこその、短期決戦
彼らは、その戦いには勝利した。しかし
皮膚が削げてしまった神裂から染みでる粘液が、建宮の手にベッタリとした感触を与えていく
腕に抱いた神裂の厚みのない唇が僅かに動くのを見て、彼は耐えきれず腰を落とした
地面に体が付いているのは、彼だけではない
対馬を始めとして殆どがその場に伏していて動けず、体の表皮が所々裂けて血を流している
直接体内に力が入ってきて、しかも"聖人崩し"の要となった五和に到っては、その両腕が殆ど炭化してしまっていて、治癒がどうとかという次元ではない
だらぁ、と神裂の顔の上から粘り気の有る血が垂れた
それは彼女のものではない。彼女を抱いている建宮の口から飛び出したもの
衝撃で眼球が潰れ視覚を失ってしまった神裂には、それは痛覚として体感された
建宮「畜生」
どうしてこうなった、とは言えない
この結果は、完全でなくとも、考えられた結果だ
"聖人崩し"が決まれば聖人である神裂は自爆する。そこに伝説的な獣達のエネルギーが加わったのだから、想定以上の結果になってもおかしくは無い
575 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/28(火) 05:56:00.38 ID:d2D2mKfKP
彼らは複脳計画なんて機密情報は知りはしない
だからこの神裂の状況は、自分たちがもたらしたものだと考えている
ここまでする必要は有ったか、と言われれば、彼の中ではYESでもありNOでもあった
何度も仲間の命を奪った女教皇に対して、こちらが抵抗しないという判断は有り得ない
一方で彼らがアメリカに来たのは女教皇を取り戻すためであり、こんな醜い姿にして殺す為ではない
建宮「申し訳ありません、女教皇」
どうしようもない感情の中で、彼は謝った
建宮「俺は結局、こんな結果にしか……」
思えば、全てがおかしかったのだ
どうして同じ天草式同士が争う必要が有る
それがどうしようもない流れのせいだったからといって、そして自分たちから勝手に離れていった神裂に仲間を殺されたからと言って
そこでどうして、こらえることが出来なかったのか
女教皇の様子がおかしかったのは確かなのだから、イギリス清教という庇護の下に入ったまま、いつか正気を取り戻した女教皇が帰ってくるまで待っても良かったではないか
戦ったら、どちらかが深く傷つくという結果になることは分かっていたというのに
自分は、その判断を誤ったのだ
だから、彼は謝った
その声は彼女の記憶の中のどんなものよりも、弱弱しいものだった
576 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/28(火) 05:56:31.51 ID:d2D2mKfKP
ロンドンに赤い光が流星のような筋を作って、白色大樹へ向かう
その根源は一本の槍。少し高いぐらいのビルの屋上から女王によって投げ飛ばされたそれは、その加速も相まって、末端の枝を簡単に割って本体へと向かった
その見た目と威力に驚いた防衛機構は当然そこへ周辺の枝を反射的に向かわせる
これが特別に仕込まれた霊装ならば、それすら弾いたかもしれないが、壁のように向かってくる太い枝を貫くには勢いと強度が足りなった
元々赤い閃光になる程に加速されたそれは、簡単に刃の部分が壊れ、空中でへし折れる
しかしそれは予想通り
枝の群に開いた穴を通して、年配の女性が、その見た目に反した活力を見せて、テッラの枝を逆に足がかりに突入する
その動きは慣れたものだ。彼女にとってこの方法は、今日何度目か、と数えるぐらいである
学習しないテッラ側でもあるわけだが、彼にとっては彼女はうるさいハエ程度
何度も突入した、という時点でつまり、その度に女王も弾かれているという事である
しかし、今回は違う
エリザード「その動き方はさっきも見たぞ、人面樹!!」
向かってくる身の丈の数倍は有ろうかというサイズの太い枝に剣を這わせ、その剣を基軸に身を滑らせての回避
何度も見た動きに、何度もした動き
しかしそれは結局枝の動きに左右される回避方法でもあった
鰹節を削るように表面を薄くはぎながら、彼女は中心のテッラから離れるように側方へ滑って行った
キャーリサ(手筈通りだし)
全方面へ広く展開している訳だから、一方への数は限られる
特にキロ単位で伸ばした場合、それは顕著になって当然だ
槍が突っ込んできた方面の枝は、その大小殆どが女王へ向かった
それを横目に、その娘がガラ空きとなったその空間を駆け抜ける
僅かに残った枝が、とは言っても本体に近づけば近づくほど太い枝になっていくが、彼女を打ち払うべく向かって来る
だが、キャーリサの手に握られているのはカーテナの名を冠した剣
オリジナルに多くの力を奪われているという状況でも無い
単純な力の大きさなら、女王が扱うそれより彼女は勝っているのだ
趣味の悪い人面樹の幹との距離200m、殆ど一瞬で距離を詰めることが出来る距離に、彼女は遂に辿り着いた
577 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/28(火) 05:57:34.70 ID:d2D2mKfKP
(違う)
彼女はすぐにでも声に出して言いたかった
こうなった原因は、あなたではなく私の方だ、と
操られていたとはいえ、仲間を殺し、傷つけたのは自分なのだ
そして、そもそもの原因は天草式を見捨てるように出奔した、操られるよりもずっと前の、自分自身の判断なのだから
(だから、あなたが私に謝る必要なんて有りません)
しかし、言葉は出なかった
偶然にも、そして皮肉にも生き残った肩耳の鼓膜と違い、彼女の喉は既に発声出来る状態ではない
視覚も無く、有るのは痛みと言う形をした触感と音感
しかし次第に、その触覚すらも無くなった
自らの組織が死に過ぎたのか、それとも自分を抱えているのであろう建宮の腕の力が弱くなってきているのか
分かりはしない
このまま自分が死ぬならば、なんとかして、彼女は自らの意思を伝えたい
そう、彼女が強く願った時
ジワッと体の芯が温まるような感覚が彼女の中で生まれた
建宮「対馬……お前さん、何を?」
この感覚は、治癒魔術
「"聖人崩し"、は、力のバランスを、崩すもの」
声に力は無いが、これは対馬のものだろう
彼女も無事なのか、良かった
578 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/28(火) 05:58:34.02 ID:d2D2mKfKP
対馬「でも、それは永遠じゃない。時間の経過で、回復する。だったら」
建宮「回復する時間が来るまで、耐えられるようにすれば、いい」
対馬「そう。このままだったら、女教皇は、その時が来るまで、……もたない」
建宮「だが、今の体の状況で、無理に魔力を捻りだすようなことをすれば、お前さんが」
対馬「先に逝くでしょう、ね。でも、あなただって、分かっているんでしょう? 私達に残された時間も、もうあまり長くないって、ことぐらい」
建宮「……その残り少ない命を、自分を、犠牲にするって言うのか?」
自らを犠牲に、私を?
対馬「私達がここに来た目的を考えたら、当然よ」
そんなことは望んでない。残った時間で今後生き残る手段を探すべきだ
教皇代理として、そんなことは彼女を止めてくれ
建宮「それなら、お前さん一人より二人の方が効率が良いのよな」
対馬「フフ、そう言うと思ってた」
何故止めない。何故二人は私の為に犠牲になろうとする
彼女はますます声を出したかった。しかし、出ないものは出ない
そして、仲間の為に犠牲になろうとするものは彼らだけでは無かった
「ちょっと、二人だけに、良いかっこはさせませんよ」
五和「二人以上居た方が、もっと効率、良くなるんじゃないですか」
「私達も、忘れて貰っちゃ、困ります」
空元気の声が続く
それらは、彼女の願いとは真逆とも言えた
579 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/28(火) 05:59:00.48 ID:d2D2mKfKP
「……ステイr、あダぁッ!?」
ガツン、と目を覚ました上条を再度昏倒させるような衝撃が額に生じた
「っったぁ」
と横から女の声。声の主も同じように額を摩っている
どうやらリクライニングさせた座席に自分は寝かされているらしい
微妙に寝心地が悪く、身体の節々が少々痛い
御坂「アンタねえ、こんな時に御約束してんじゃないわよ」
横からの声の主が、彼と同じように額に手を置いてそこに立っていた
上条「お約束って」
へそのあたりから湿った冷やかさを感じる。そこには少し灰色に汚れたハンカチサイズのタオル生地の布が有った
状況から察するに、彼女が自分を拭いてくれていたのだろう
何か言う気は無くなった
上条「すまん。多分、悪い夢でも見てたんだと思う」
御坂「今の世界より酷い悪夢なんてどうやったら見れるのよ。まぁいいわ、無事に目が覚めたんだし」
上条「……ここは?」
腹に乗ったタオル地を手に持って、彼は身を椅子から起こして立ち上がる
そこは見慣れない曲面の金属に囲まれた空間で、微妙に揺れていた
御坂「あの輸送機の中よ。前の部屋で相が学園都市に向けて操縦してる」
上条「学園都市に?」
御坂「そ。この機体はあそこから奪ったものなんだけど、まだ位置確認用に一定間隔で放たれるパルスが受信できるの。まぁコレを使ってる時点で、人工衛星系統が死んじゃってる非常事態なんだろうけどさ」
上条「……んん?」
御坂「えっと、早い話、23学区が出す信号をこの機体がキャッチしてるってこと。信号を出してるってことは、少なくとも23学区はそれなりに無事で、電力も供給されてるってことになるでしょ?」
上条「つまり、学園都市はまだ生きてる可能性が高いから、そこに帰ろうってことか」
580 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/28(火) 05:59:26.32 ID:d2D2mKfKP
御坂「そゆこと。あんな場所でもホームタウンだしね」
上条「おいおい、この機体ってアメリカまで一回行ってるんだろ? いくら学園都市の輸送機とはいっても、燃料は持つのかよ。どこかに降りて給油しないと駄目なんじゃ」
御坂「一応、燃料はホントにギリギリだけど足りる公算なんだけど……。何処かに降りようにも、地図上存在するどの空港へ呼びかけても答えが返ってこないのよ」
上条「なんだって?」
御坂「これ見たら分かるわ」
携帯端末を僅かに操作した後、彼女はそれを上条に見せた
数秒の後、自動で次々と画像へスライドされていく
上条「なんだこれ?」
御坂「雲間から写してるのもあって見難いのもあるけど、学園都市までの経路上にある諸都市を直接この機体の下部カメラが撮影した画像なの。いい? 大小あるけど、現実の都市の状況だから」
上条「……どれもこれもまともな形を残した建物が写って無い。これって、大規模な爆撃でも有ったのか」
御坂「ここまでしらみつぶしに爆撃するぐらいなら核兵器でも使った方が早いんじゃない? 理由はいくつか考えられるけど、23枚目を見てみて」
上条「何かが、群で都市を襲ってる?」
御坂「そういうこと。これが多分、各都市が管理する空港の反応が無い理由」
上条「これが、イェスの言ってた"終末"か」
御坂「相もそう言ってた」
生々しい"終末"の事実
この写真に映るだけでも何十万何百万という単位で人が巻き込まれ、そして命を奪われただろう
上条(この終末を呼んだ原因が本当に俺にあるなら、……俺が何とかしないと)
自分が悪いと決めつける根拠は、それこそイェスの仮設以外無いが、"時項改変"の片棒を持ったのは確か
そこには必ず関係性があるだろうし、ならば自分の非は免れない
自然に顔が強張る
それを御坂は、上条が責任を感じているからとは知らず、凄惨な状況を見たからだと判断した
御坂「今ここでアンタがそんな顔したって意味無いわよ。とにかく今は、私達が生き残る為を考えて行動しないと」
581 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/28(火) 05:59:56.17 ID:d2D2mKfKP
上条「そうだな。……って、御坂、お前なんで立って動いてんだ?!」
御坂「今更ね。もっと早く驚いてよ」
上条「あんまりにも自然すぎてさ。で、でも関節が外れたとかってレベルじゃなかったハズだ。数時間どころか数カ月クラスの大怪我だったのに」
御坂「さーてどんなトリックでしょう? 今らならアンタのその右手で触っても、多分大丈夫よ」
右手にわざわざ言及すると言う事は、恐らく能力関係だろうか
だがそれなら、どういう理論で大丈夫なのだ?
ホラホラどこでも触ってみなさい、と両腕を開く彼女に、上条は右手をのばしてその肩に触れた
その瞬間、御坂の体がぐらっとバランスを崩し後ろへ倒れそうになる
咄嗟に上条は彼女を両腕で支えるように回り込み、抱きとめた
上条「どこが大丈夫なんだよ」
御坂「あはは……、まだ右足の方の定着が甘かったかな」
苦笑いで、彼女は殆ど目の前の男を見上げながら言った
その顔には苦痛の色が少し見えたから、彼はそのままさっきまで自分が寝ていたリクライニングシートに彼女を寝かせる
御坂「このイス、まだあったかい」
上条「俺がさっきまで寝てたからな。んで、どんな手を使ったんだ?」
御坂「そうねぇ、理論を逐一説明してもいいけど、聞きたい?」
顔は、少々小馬鹿にするような表情だった
今の上条では詳しく言われると軽く思考停止するだろう。そのことは本人が一番理解していたので
上条「掻い摘んでで、お願いします」
と、困った顔で言った
だが逆に、彼女にとってはそれが嬉しく感じられたようで
御坂「うん、いつものアンタだ」
と言った表情は輝いていた
582 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/28(火) 06:00:24.25 ID:d2D2mKfKP
御坂「えっと、物質の結合には電子が関わっているって知ってる? その顔は知らなさそうね。まぁそう言うもんなのよ」
御坂「私の体中の関節は一度バラバラになったけど、それをパズル見たいに組み立てて、接着剤代わりに能力を使ったと思えばいいわ」
御坂「もちろん、それってかなり細かい作業になるから、本来はかなり難しいことなんだけど」
トン、と彼女は上条の胸を叩いた
御坂「間接的だけど、アンタから貰った微小機械。これに目印を付けて貰えばそれは無理じゃない。もちろん、一気に全部とはいかないから、そうね」
御坂「とりあえず動くためにバラバラになったのをテープで借り止めだけしておいて、接着の方は一か所ずつ徐々に治していってたってことかな。時間的にもうそろそろ全部終わったものだと思ってたんだけど」
上条「右足の接着が終わって無かったってことか?」
御坂「そういうことでいいわ。あーあ、ちゃんと確認しとけばよかった。この部分だけ、最初からやり直しかな」
上条「状況は分かったよ。うん、だったらここはこれからお前の椅子だ。学園都市に着くまで、治療に専念してください」
御坂「そんなに時間かからないし、アンタの右手に当らない限り行動に支障なんて出ないんだけど」
上条「駄目だ。動くのは足が完治させてからな。たまたま手が当った度に最初からやり直しなんて馬鹿馬鹿しいだろ? その代わりに、今度はお前を俺が看るよ」
恐らく借り止めの再構築に成功したからだろうが、立ち上がろうとした御坂を左手で制止して、上条は持っていたタオル生地の綺麗な面を彼女の顔に押し当てて、優しく擦った
上条の看病に専念していたのか、彼女の顔には砂埃が血で滲んで付着したままだった
体を得た人工知能がこの機体を操舵しているなら、そして御坂がさっきまでこのタオル生地で自分を拭いていたことからも、機体について特に助けは要らないだろう
上条(御坂がひと段落したら、後で頃合いを見て様子を見に行くか)
上条「他に何かして欲しいことは有りますかー、御姫様」
と、彼は御坂の服から露出した部分の汚れを、その怪我の様子を診ながら、ふき取りつつ尋ねた
特段、彼女もして欲しいことはない。能力と微小機械さえあれば怪我は直に治るし、特に喉が渇いていたりとかも無い
御坂「そうね」
少し間を置いて、彼女は考え
御坂「キスして」
と、唐突に言った
583 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/28(火) 06:01:09.12 ID:d2D2mKfKP
上条「……まさか、傷口から消毒用アルコールがしみ込んで酔っぱらってしまったんでしょうか。いやきっとそうだきっと」
御坂「あのね、アンタの人生でそんな経験あった?」
上条「流石にありません」
ハァ、と彼女は音を立てて、そこには確実な失望を込めて、息をはいた
御坂「ねぇ、知ってる?」
彼女の片手が彼の首筋へ、もう片腕が彼の背中へ、向かう
気にせず、彼は彼女の肩口を拭く
上条「何をd、んっ!?」
気がつくと、彼は御坂の口で口を封じられていた
驚いて反射的に、彼は引き離そうとした。しかし、右手は触れられないし、そんなには強くないとはいえ、両腕で固められていては片手だけでは引き離せないだろう
そもそも、こういう場合に引き離すのは野暮というものなのではないか
そんな思考が一巡するまでに、彼の時間は止まっていて、再び動きだしたのはお互いの唇が離れてからだった
御坂「人間って危機に瀕すると、本能が強くなるんだって」
言って、上条が言葉を紡ぐ前に、彼女はまた彼の口を封じた
先程は唇同士で、というか彼女の方の唇が一方的に、相手のそれを揉むようなものだったが
今度は口を開くように促し、開いた隙間から、粘液を帯びた温かいものが彼の口に入って来た
これは、いわゆるディ―――
と、彼が努めてその触感を意識しようとした瞬間
「当麻の様子はどうですかー?」
部屋の扉がスライドするような音と同時に声が入って来て、彼らの視線が侵入者と交差した
相「おおおっとごめんなさい、お楽しみ中のようで。後にしますね」
そう言った後、もう一度扉がスライドする音が鳴った
584 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/28(火) 06:01:49.57 ID:d2D2mKfKP
近づいた。近づいたはいいが
キャーリサ(何処を攻略すればいいの?)
白色人面大樹の登場によって更地になってしまった市街の上に立つ第二王女
彼女は悩んでいた
人間ならば、明白な急所が幾つかある。しかし、巨大な人面樹の弱点とはどこだ
見た目は枯れ木のような白色だが、火を付ければ燃え広がるような代物ではないだろう
とりあえず突っ込むか? いや、それしかない
ガウン・コンパス級の砲撃なら既に反対側では行われている。しかし、表立った効果は見えない
この枝の力と本数ならば、グリフォン・スカイなどの巨大霊装は鶏になるだけだ
それらが大した被害を与えられないならば、それらを上回る"天使長の力"を持ったカーテナで直接刻んだ方がいい
問題は、どこへ、か
キャーリサ(表面は何処も同じだし。いっそ、あの口の中へ飛び込んでみるのも面白いが)
迷っている間にも、敵は待ってくれない
太い枝が彼女の頭上から叩きつけるようにしなり、向かってきた
ここで強い力を発現させて負い払えば、人面樹の自動迎撃は今女王へ向いている対象を、幹から近いところにいる彼女へ切り替えるだろう
エリザードは楽になるが自分は辛くなる
キャーリサ(母上の事を思っているなら、寧ろここは最小限の力で払うべきだな)
可愛らしさからは対極にある笑みを作って、彼女はよりテッラへ近づく方向へ跳んだ
結果として局所的な地震を起こす程に強く地面を叩いた枝は、そのまま彼女を追う様にして、背後から再度接近してきた
キャーリサ「馬鹿め、狙い通りだし!!」
そのまま彼女は空中で反転して、Uの字になって突いてくる触手のような枝をカーテナで受けた
叩き落とすわけでも、撥ね飛ばすわけでも無く、受けた
585 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/06/28(火) 06:03:46.05 ID:d2D2mKfKP
そうなれば当然、押し飛ばされる力も加わって、テッラの方向へ向かっていた彼女は、その方向に加速することになる
その上、受ける以上に力を使っていないため、力は最小限
自分を狙う触手は増えない
ただでさえ大きな人面樹の口が、近づいたことでますます大きくなった
200mという狭い距離をますます縮めるのに、成功したかに見えた、が
キャーリサ「下から?!」
突如、無数の根が剣山の如く地面から広範囲に突き上がって本体への接近を阻害し、彼女をも貫かんと現れた
地面が割れたのと同時にそれを知覚した彼女は、即座に地面へカーテナを突き立てて、それ以上の進行を止める
キャーリサ「まだ来る。チッ、さっきの枝もかッ!!」
刺した剣を軸にして身を止めたものの、その場所の直下からも尖った根が突き出して、更には先程彼女を突き飛ばした枝が後ろから横薙ぎに振ってくる
剣を引き抜いて打ち払うにも、タイミング的には片方を確実に食らう
両方避けるのがベスト
目の前で既に伸び切った下からの根は、大体およそ30m程度の高さ。そして後ろから来るのは横方向からの振り回し
ならば、30m以上一気に跳躍すれば良い
地面が砕かれる前にカーテナを引き抜いて、彼女は跳躍した
しかし、触手のような枝はまるで延性のある金属のように細くなりつつ遠くまで伸びた
根がそういう性質を持っていないとは、まだ判明していないわけである
結果として、跳び上がった彼女を追う様にして、伸びる根
そしてその根は気が付けば、彼女の跳び上がった地点を中心にして、半径100m程度の範囲で大量に展開していた
キャーリサ(これは、囲まれるッ!?)
判断して、行動をしようとした時には、既に伸びた根があらゆる方向から彼女に向かって突き進んでいた後だった
カーテナの力で爆発を起こして全てを吹き飛ばそうとしても、そもそも成功するのか、仮に成功しても、地面も空も彼の領域
586 :
本日分(ry 次でgdgdイギリス編が終わってよーやく話がまとまればいいな、いいな
[saga sage]:2011/06/28(火) 06:05:28.97 ID:d2D2mKfKP
キャーリサ(退路が、ない)
いや、まだだ。無いなら作れ
何処か一方に絞ってカーテナの力でゴリ押しすれば、どうにかなるかもしれない。まず間違いなく怪我を負うだろうが
貫いてくるか、体に絡んでくるのか。それ次第では動き方も変わる
少なくとも視界の範囲で向かってくる根が、5m圏内に入って来た辺り
必死に観察していた彼女は、その動きの変化に気付く
それまで明らかに自らを狙っていた根達が僅かに向きを変えた。僅かと言っても、射線上、自分は居なくなる
まるで他の目標が急に、彼女の背後に現れたかのような反応
キャーリサ(狙いは何か知らないが、これなら、根と根の間に体をねじ込ませるのは無理ではなさそうだし)
隙間を作るために強引に、カーテナでその射線を強引にズラして、彼女は根と根の間に身を滑り込ませた
彼女が握る剣はそのまま根の節に引っ掛かり、彼女を巻き込んで新目標の方向へと運ばれる
折角樹の幹に近づいたのにもかかわらず再び引き離される訳だが、死ななければ機会はきっと来る
めまぐるしく景色が前に流れていく中で、彼女はあきらめない
有る程度まで戻されて、根は方向を変えた。それによって、彼女は節から外れる
慣性によって後方へ飛ばされ、変わらない速度で視界が後退する。その景色の中に見覚えのある男の姿有った
そこへ攻撃は集束されている
集まっているのは根だけではない。何者も幹に寄せ付けまいと360度全方向へ拡がっていた枝も全て彼へと向かっている
そしてそれらは全て集まって、一つの巨大なキューのような形を成した
その刺突の予想される威力は、カーテナ・オリジナルでも無ければ到底受けきることなど出来ず、ボール役の彼は簡単に弾けてしまうところであるが
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」
そこにあったのは、彼女が知る傭兵の闘志だとか剛健だとかではない
ただ純粋な怒りの咆哮。そして目の前のキューは、彼の怒りの矛先でしか無かった
587 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/28(火) 08:34:12.92 ID:kNaOMFy9o
乙
588 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/28(火) 09:15:08.52 ID:Pk2vR9zAO
あれ?
美琴がすっげえ可愛く見えたんだが
あれ?
589 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/28(火) 09:23:28.99 ID:oZeWtVTs0
イギリス編終わるってあと何編くらい考えてるんだ
590 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/06/28(火) 11:11:52.37 ID:VRwrZlW3o
ソフトなお話の接触編が終わってここからハードな発動編って感じか
591 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/29(水) 02:16:08.08 ID:dXYyOzDDO
天草も全滅か…
592 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/06/29(水) 20:55:18.36 ID:2z2I0x3jo
え、ここに来て上琴ですか・・・
593 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/29(水) 21:18:58.86 ID:56lhVc9Ho
[
ピーーー
]よ関西
594 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/29(水) 22:52:56.08 ID:b3Kz61q3o
美琴→上条の兆候は最初から充分にあったのに何を今更
まだ双方向になったわけでもなければカプがメインの話でもあるまいに
595 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/06/29(水) 23:17:32.44 ID:2z2I0x3jo
まぁそれもそうなんだけどな
話が面白いからカプは気にせず読んでいこう
てか、なんで関西に対してあたりが強いのかねぇ
596 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/29(水) 23:52:38.19 ID:b3Kz61q3o
自分は地方表示とか全く気にしてないけど特定カプのにおいがしただけで脈絡も無く批判的なカキコが来る流れは正直うんざり
関係ないスレで上琴他の特定カプ押し付けてくる流れも同様にウザいけどな
地方叩きネタも最近増えてきてウザいしもう表示しないようにして欲しいわ・・・
597 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/30(木) 07:31:24.99 ID:KchLzEjAO
このSSのテーマを思い出せ
つまりはそういうことだ
598 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/30(木) 13:36:56.42 ID:GkKIiC8zo
カプとかこのSSちゃんと最初から読んでるのか疑問だわ
作者に自分の好きなキャラがいつ殺されるのかドキドキしてんのに
599 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/30(木) 13:47:53.78 ID:v+2Jjmojo
1スレから読んでるよ
だからこそ意外だったんだけどね、まさかそんな明確に表現するとは思ってなかったからさ
600 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/30(木) 15:12:42.02 ID:612AkD4DO
どこに明確に表現されてんだ?
つか作者にはこれ以上誰も殺さないでほしいお…
もちろん佐天さんは別よ
601 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/30(木) 17:11:02.91 ID:KchLzEjAO
議論に発展しそうだからもうやめよう
無駄レス禁止
602 :
失踪なう
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:24:18.55 ID:Yc4Cln2YP
闇夜の中で蒼く怪しく光るベールに包まれた5m程のメイスは、その闇夜を真っ二つに割る様に走った太すぎる白の筋を、打った
丁度釘を打つようにしてメイスと筋の両方がぶつかった部分から、衝撃が円形に生まれる
それはアックアの正面に深さ10mに及ぶ深い溝を一瞬で生じさせ、テッラの力とアックアの力がぶつかり合っているこの時間中、どんどんと深いものになっていくが、
彼はそれを少しも気に留めない
「……おおおおおおおおおお、おぁあ゛あッ!!!!!!」
咆哮と同時に力を込め、メイスというバットで白い筋というボールを振り抜くと、その白い直線上に振動が逆流をし、筋の全体がグニャリと折れ曲がり
そして最終的に、白の筋は明後日の方向へ突き刺さり、バットは棍の部分が吹っ飛んでしまった
有り得ない光景だと、見ていた第二王女は思う
あの男がどれほど力のある存在だとしても、特別すぎる
あれを捻じ曲げた被害が、たった一本のメイスだけで済むわけがない
当然の疑問を思い浮かべる彼女の目の前で、やはり、ガクン、とその男の膝が崩れ落ちた
体は力無いが、しかし、変わらないのはその表情
憎いものに対する怒り、としか読み取れない感情が見て取れる
彼が使うのは、全力
生きようとする行動に反応して、彼はあらゆる力を奪われる
どうせ奪われてしまうならば、後のことを考えて温存するのは無駄だ
ただの竿になってしまったメイスだったものを放り投げ、表情と行動のアンバランスを維持したまま、崩れた体に鞭を入れる
一歩、彼が進んだ時だ
弾かれて曲げられた枝と根の混じった白の筋が、もう一度ぐにゃぐにゃと軟体動物の脚のような動きを取り戻し、もう一度彼の方へ向かって行く
今度は、一本ではない
闇夜のロンドンに白く浮かび上がる巨大な白色人面大樹の根から、そして枝から、二方向からの挟撃
地面の中を巨大なミミズが這い回っているような盛り上がりが地表に現れ、そこから複数の白く太い根が彼の背後から
603 :
時間かかって読みにくい回でござる
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:24:54.96 ID:Yc4Cln2YP
そして彼の正面からは、彼以外を攻撃することを諦めた枝が迫る
キャーリサ(……どーみても詰んでるし)
恐らく彼の一番近くに居る彼女は、そう思った
得物を失って、表情はともかく肉体は確実に疲労の色しか見えないウィリアム
複数に分かれて向かってくる枝や根は、先程のように纏まってはいない為、一本あたりの攻撃能力は小さい
それでも、太さだけで直径5m以上の力強い白の触手が何本にも別れて襲ってくるわけだから、とても彼が耐えられるはずが無い
今彼を助けられるのは自分だけ
敵ならばともかく、この男の戦力をこの状況下で失うのは損失だ
彼女がこの結論にたどりつくのは、自然だった
枝と根、そのどちらかの影響力を無くせば、彼を逃がす事が出来るかもしれない
根はどこから来るのか黙視できない。叩くなら枝の方を優先して、視認できる安全領域を増やすべき
そう判断した彼女は、ウィリアムの前に跳び、その剣で枝を迎撃し、彼を逃がそうとした
向かってくる枝の何本かを、切断より、衝撃と言う形で擬似的に拡大させた剣の平で打ち払うようにして、退路を作ろうとした彼女
その左肩に手の触感がした
キャーリサ「……な?!」
直後、その背後から加わった力に、彼女は側方に押し飛ばされる
代わりに彼女の前に出たのは、ウィリアム
まるで邪魔だと言わんばかりに、力任せで強引なものだった
キャーリサ(死にたいのか、お前はッ!!)
そう思うのも仕方が無い
彼女の予想通り、彼女と言う邪魔者が居なくなったウィリアムの元へ容赦無しに触手は向かう
叩きつけると言うシンプルさと同時に生半可な防御霊装・術式を打ち破るそれには、力の大きさが物を言う
604 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:25:20.54 ID:Yc4Cln2YP
それを撥ね退けるだけの力を、この男は持っているのか?
有るワケが無い。あれだけ膝が笑っていたのだ。この男に余力など
……いや、
キャーリサ(この男はさっき私に何をした。カーテナを持っている私を、押し飛ばしたんだぞ……?)
彼女の目の前で、男はもう一度吠えた
それは一種本能的な威嚇行為のようにも見え、更に言えばそれに彼女は圧倒された
背中からは良く見えないが、ウィリアムの胸元から太陽光の帯のようなものが溢れだし、彼の体を覆っている
夜中の暗がりの中で、それは枝や根の発する白い光には負けていたものの、確かに光を放っていた
バギィ!! と何かが折れた様な、裂けた様な、嫌な音が響く
その音の源はやはりウィリアム
しかし、彼の腕や胸が凄惨な音を挙げたのではなく、ねじ曲がっていたのは彼の背よりもずっと太い枝の方
何の武器も握っていない彼の両の手によって掴まれた一本の枝がたわみ、他の枝の伸長を阻害している
それでも、それが効果的なのは、彼の眼に見えている枝だけにたいしてであり、地面を這い回る根に対しては、その接近がかなりの所にまで来ないと分かりはしない
どうするつもりだ、この男は
そう思ったところで、そう思う事が馬鹿馬鹿しいと彼女は思った
なぜなら、最初から彼は前しか見ていないのだ
グボァッ!! と勢いよく背後から飛び出してくる根に対して、まるで図ったかのように、彼はさっきまで掴み振り回していた枝の上に飛び乗った
そのまま、叩き合ってたわみ合った複数の枝の上を、その動きを読むなどせずに、強引に跳び移り、そしてその足で枝を蹴り跳ぶ際に、地面へと、根へと叩きつける
まるで体の衰弱を感じさせない訳で無く、何度も嫌な感じに体勢を崩しながらも、すぐさま有り得ない程の剛力を取り戻し、時には彼が得意とする水の術式を本能的・経験的に使用して、進む
彼に見えているのは何なのか、彼の動きの原動力は何なのか、理由は無い
とにかく今の彼には、テッラが、そしてテッラを通して、その背後に浮かび上がるフィアンマしか、見えていなかった
605 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:25:51.01 ID:Yc4Cln2YP
「後に輸送機?」
完全に気分を害された彼らは、主に彼女の方だが、居たたまれなくなって、これは主に彼の方だが、結局その空間から逃げた
御坂美琴にとっては少し見慣れた機材が所せましと配置されている学園都市の高機能な輸送機のコックピット部分で、自分よりもずっと背とスタイルと恐らく頭脳も上の女性の隣に、取り逃がした男は立って、レーダーの画を見ていた
相「ええ。この機体とお互いに位置情報などをやりとりしているようですね」
上条「同じ学園都市の機体、ってことは、学園都市の攻撃部隊か何かがアメリカで動いた……。まさか、あの爆撃か?!」
相「何か関係が有るのは確かでしょうが、あの機体はあくまで輸送機で有って、爆撃機というわけではない、と私達が今乗っている機体のデータは言っています」
上条「あるいは、他の行動をしていたのか。運んでるのが学園都市の何かってことは間違いなさそうだな」
距離が近いのよコイツら、と思う御坂の目の前での、やりとり
そこに彼女は割って入り、レーダーの情報を見た
御坂「あー、この形式番号ね。私が来た時にも後ろを飛んでた奴じゃない」
言いながら、意図的に体を上条に接触させるように、彼の前の基盤を操作する
偶然にも上条の前にその操作板が有った為でもあるが、その行動を上条は意識してしまったし、相の方は「あらあら、これは」とその様子をほんの少しニヤつきつつ見ていた
御坂「時間的には、この時のフライトデータだから……、あった。うん、やっぱりこの番号」
今まで見ていたレーダーから、メインモニターに前の飛行の際に得られた情報を拡大表示して、指差す
相「ですね。どうやら途中まで飛行経路は同じだったようで」
御坂「うん。でもどっちかって言うと、首都方面に飛んで行ったみたい」
上条「首都っていったら、ええと」
相・御坂「「ワシントンDCですよ」よ」
上条「あい。ってことは、首都に直接工作しにいったのか」
相「それも有り得ます。他に同方向にはCIA本部なんてのも有りますが」
606 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:26:23.29 ID:Yc4Cln2YP
上条「CIA本部……か」
言った相と、応えた上条が、お互いの目を真面目に見合っていた
CIAと彼の接点といえば
そう言えば、あのイェスとか言うAIが上条当麻のことについて知っていたような
御坂(そう言えばこの相って人は、人間の姿をしてるAIじゃない。同じAIのイェスと繋がりが無い訳がない)
そして、母のメールの内容も、確かめたくなった
御坂「なに? まさかアンタも、CIAと何かあるの?」
上条「無いとは言えない。寧ろ大いにある、んだよな」
その言い方は、どこかよそよそしい
御坂「それは、あのイェスってAIと何か関係してる?」
相「当麻の場合、正確にはイェスや私が作られるよりもずっと前から、ですね」
―――合点
母が教えてくれた、上条当麻がCIA所属である事、そして彼がそれまでの記憶を失っている事、これらは事実らしい
"隠していた"ではなく"知らなかった"
だから、そのことを自分にも打ち明けなかったのか。あるいは、打ち明けられる程にまだ私とは親密でないのか
御坂(そんなこと、どうだっていいわ)
御坂(私は行動して、結果的に"私の当麻"を取り戻した。後は手放さないように行動すれば、アイツも自然と隠し事なんて出来なくなる。きっと)
行動すれば、状況は変わるもの
自らの為の行動こそが、彼女である
607 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:26:49.99 ID:Yc4Cln2YP
他方、もちろん変化はある
近づく者を殆ど無差別に排除していた枝や根が一か所に集中すれば、その対象以外の者への妨害は必然的に薄くなるか、無くなるのだ
この樹を斬り倒したい存在なら、いくらでもいる。それこそロンドン中に
とんでもないサイズの樹の幹に四方からあらゆる攻撃が加えられる
中でも一番巨大なローラの操る天使と枝や根との取っ組み合いは、殆ど怪獣同士の喧嘩だった
僅かな枝を引き千切り、幹の元まで辿り着くと、その獅子の口からオレンジ色の光線が放たれ、幹に一際大きな穴を空けた
人面樹の顔の丁度裏側から開いたその穴は、薄くなっていた口腔とも言うべき部分を裏側から貫通し、見方によれば一種、人面樹の口から光線が出た様にも見えた
それがそのまま空の雲と交わって、分厚い雲が一つ消し去った
ローラ「ッ。思ったよりも軟らかしきものなのね」
今回は斜め上に撃ち出された為に空へ流れたが、地面の、特に市民の避難している所へ流れると不味い
巨大な天使の肩の上でそう思った直後、地面から突き出した根がローラの操る天使を下から貫いた
獣の姿をした天使から悲痛の雄叫びが上がり、その巨躯がぐらりと揺れる
ローラ(これは、安直に近づきすぎたか……!)
彼女自身が肩から後方へ跳び、空中で身に着けていた髪止めを推進力代わりに爆発させて、樹と詰めていた距離を戻す
その移動の過程で、天使は一度消え、再び彼女の止まり木代わりにという役割の為にも、幹と距離を空けて再び現れた
ローラ(剛健なる枝や根に対して、男の顔のある幹の部分は思いの外、軟しけるのよ)
足元で騎士たちがこの機を逃すまいと近づこうとしているのも見ながら、彼女は考える
軟らかいとはいっても、彼らにとっては硬いものだろうが
608 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:27:18.14 ID:Yc4Cln2YP
彼ら向けに規模の縮小された枝や根は彼らを弾くには十分だが、逆に切り払われるにも十分な強度硬度だ
しかし、それらはすぐさま再生、もとい幹から伸展してきて、やはり彼らの足止めには十分だった
ローラ(む?)
そこで、気付く
ローラ(枝や根の再生速度に比べて、幹の再生はえらく遅しけるな)
剣の切先を再び人面樹の幹に向けると、再度現れた天使はもう一度口から光を吐いた
巨大霊装からの砲撃に混じって一際大きく光る咆撃は、先程開けた幹の穴に当り、その穴の大きさを更に拡大させる
そこから分かるのは、中が空洞だと言う事
そのまま地下まで続いているような、恐らくかなり深い空間だ
まさか、あの幹は何かを守っているのではなく、その空間を隠している?
ローラ(近づかせないように攻撃手段を優先して、防御面を低い水準に留める理由は無し。なれば、あの触手が守っているのは幹そのものでは無く、それが覆いけるあの空間か?)
つまり、あの幹が本体ではなく――
そこまで彼女が思った矢先、彼女にとっては明後日の方向へ向いていた枝が、弾かれるようにこっちへ向かってくる
それらの動きは攻撃的な意図があるわけでは無く、どちらかと言うと、纏められて弾かれている様な印象だった
一際高火力な咆撃をそれに向かって放たせて、彼女は単身、幹に開いた穴へと跳んだ
じんわりと再生しつつある壁面に飛び乗った彼女の視界には、反対側、つまり人面の口から飛び込んだ二つの影が見えた
一つはまるで彼女のことなど気にも留めないという感じで地下へと向かう男で
もう一つは黄色い装飾を身につけた女だった
609 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:27:52.75 ID:Yc4Cln2YP
全ては、再生と強化
その根底にあるのはアックアへの敵意
幹という盾に囲まれた空間の中央で、彼は一人待っていた
目的の男は現れた。ならば、待てば必ずここに現れるだろう
直接的に樹と繋がった彼は、待っていた
そして、その時は訪れた
上半身はその体を剥き出しにしたアックアが、地上から降りてきて、ちょっとした運動設備よりもずっと広いテッラの地下空間に立つ
髪はそのまま樹の内部に繋がっていて、白い樹の筋によって構築されているが、確かにその空間の中央に居るのはテッラだった
アックア「フィアンマは、そこに居るのであるか」
頬を僅かに痙攣させて、感情を押し殺すように、アックアは言った
テッラ「……何を言っているのですかねー」
返しは、静かにその樹の核が口を動かすだけだった
しかし、静かな言葉はそれっきりとなる
テッラ「彼なんかねェェェ!! 今は関係ないのですよ!!!」
良いとは言えない彼の白い体が、繋がった樹の筋から伝わってくるその大樹の莫大な養分を得たかのように、ブクブクと膨れ上がる
そして種子の様に放たれ、吠えた
「私は、ここに、あなたを、 コ ロ ス ためにここに居るのですからねぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ドスドスドス、獣のような足音作りながら薄暗い白の光で照らされたこの空間で、テッラは彼我の距離を一気に詰めた
そして、その右腕が、右拳が直接アックアの顔を狙う
単純明快な右ストレート
しかしそのテッラの白い肉体は、5m程の巨体となっている
610 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:28:47.00 ID:Yc4Cln2YP
サイズこそ小さい。だが小さいだけで、その力は比類するものを挙げるのが難しい
アックア「だが貴様のこの力、フィアンマから来たのであろう!!」
明らかに身の丈には無理があろうとも、彼はその拳を左手で受け流しつつ受け止め
アックア「ならば、この私が憎むに値する!!! 消え去るのだ!! テッラァァッ!!!」
そのまま、返しの拳をその胸に叩きこんだ
叩きこまれて、テッラは後方へ押し飛ばされる
だが、大きいものを殴れば、そしてそこに加わる力が大きいのならば、その反作用はそれだけ大きくなる
一度一度の行動が全力で毎度毎度瀕死になるまでエネルギーを奪われるアックアもまた、弾き飛ばされるしかない
しかし、後方へ飛ばされた彼は再度、体に力が戻る
それが意味するのは、死の直前
目の前にテッラはいるのに、何故か
怒りにくれる彼には分からない。考えもしない
ただ、そこにある危機を回避することしか、そして、怒りの感情の矛先を何処に向けるかしかない
だからこそ、彼の戦闘経験という名の本能が彼に気付かせた
自らの背後にもう一人、敵がいることを
アックア「分身だと?!」
言いながらも、彼は咄嗟に反応した。したが、受けきるには不十分だった
良く有る分身や幻影に対する対抗術式を、自らの身の中に流れる血を利用して発動したのだが
左肩から殴られた彼は、そのままコマのように空中で回転しながら、殴り飛ばされた
彼の術式は聖書や伝承にいくらでも見つけることのできる、嘘の看破
どれだけ力のある分身や幻影であっても、所詮は偽物。本体ではない
611 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:29:19.82 ID:Yc4Cln2YP
そういうハッキリしたカウンターも有る訳だから、その手の術式は引っ掛けやダミーに使うのが筋だった
しかし、現状、明らかにそれは通じていなかった
アックア(つまり奴も、本体ということなのか?)
回転する視界によって、ハッキリと二つの白いテッラが確認できた
どういう理由か―――
飛ばされつつ、傭兵である彼は無意識の思考を巡らせる
その最中で、さらにもう一度、思わぬ現象が生じた
今度は彼の内部ではなく、新しいテッラでも無く、思わぬ存在
「テッラ如きに苦戦してるみたじゃなーい?」
アックア「……ヴェント?」
聞きなれた女の声に、彼は流石に驚いた。同時にテッラも
どうして彼女がこんな場所にいる。どういう目的で
ヴェント「不思議そうな顔しているとこ悪いけどさ、今は呆けている場合?」
アックア「で、あるな。…………ッ」
彼の巨体を抱き止めた彼女から立ち上がろうとしたアックアは、そのバランスを崩し、ヴェントに再び寄りかかった
ヴェント「チッ、仕方ないわね」
彼女が風が意味する効果は広い。病気を淀んだ空気の所為にした黒死病もあれば、逆に快を意味する伝承も有る
教科書的な文章にも記された、基礎的とも言える空気を媒介にした回復魔術を、彼女は使用した
もちろんそれは、神の右席用に調整された術式ではない。彼らに比べて非力といえる一般的な魔術師が主に扱う代物
ヴェント「本格的な治療ってわけじゃない、なんて今更アンタに説明する必要はないわよね」
アックア「礼を、言うのである」
612 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:29:48.88 ID:Yc4Cln2YP
その行為に違和感を感じない訳ではなかったが、彼の集中の矛先は彼女ではなかった
そしてその行動はもちろんテッラにも目に入っている
テッラ「「あなたは、アックアの味方をするのですねー」」
二つのテッラがシンクロした声を出した
ヴェント「そうよ。誰かの命令や頼みではない、自分の意思でアックアに味方するわ」
言葉に偽りは無い
その最終的な目的がアックアの手助けなどではなくとも、表面的な意味で嘘ではない
ヴェント「男同士の決闘とか臭い台詞を言うつもりは無いわ。でも、アンタが二人なら、こっちも二人ってのがセオリーじゃない?」
テッラ「「いいでしょう。ご自由に。ですが、私はどうしても確実にテッラを殺したいのでねェェ!!」」
空間内に伸びた声が響き渡る
そしてその声が潰えそうになる寸前、巨体のテッラは更に増えた
アックア「貴様……!!」
テッラ「「「今更卑怯だとかは、言わないですよねー!」」」
笑う彼を睨む彼
今のアックアの特徴では、複数の数を相手するのは辛い
3対2となれば苦しくなる
それは、まともな思考を廃棄した彼自身も自然に把握していた
つまり、初めての焦りが浮かんだのだ。当然、テッラにとっては面白い事この上ない
だがその二人の表情を変える笑いが、女から生じた
ヴェント「だったらこれでもアンタは卑怯とは言えないわよねぇ、テッラよぉ」
言い切った後、上から、つまり地上から複数と言うには多過ぎる影が降ってくる
613 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:30:23.41 ID:Yc4Cln2YP
団長「加勢に来たぞ、ウィリアム!!」
そこには騎士団長が率いる騎士たちの姿を始めとして、第二王女や女王、最大主教の姿も有った
テッラ「「「これは……ヴェント、あなたですねェェ?!」」」
ヴェント「そーよ。恋焦がれる乙女みたいに、アックアの事ばっか考えてるから隙を見せる。間抜け」
倒したかった敵が現れたことで、テッラは自然にアックアだけに集中してしまった
今まではその彼を待つために他の全てからの干渉を防いでいたのだから、彼が来てしまったのなら当然である
そうなれば、彼女の"アダムとイヴの術式"で干渉出来る隙が出来ることにもなる
アックアとの決着を果たすために邪魔されたくなかった彼は、アックアが入って来た後もその自動防御を敷いたままにしていた
それを、ヴェントは緩和したのである
ローラ(まぁ、私はそんなことをされなくとも、ここには入れたけれど)
キャーリサ「よーくもまぁ、やりたい放題してくれたものだし」
女王「だが、ここまでだ。市民をいつまでも浮足立させてはいられないからな。ここいらで落ち着かせるためにも」
ローラ「ここいらで諦めて欲しけるわ」
その場にいた全員が全員、武器を持ってそれぞれが一番近くのテッラへその刃を向けた
対複数戦はテッラにとっても、性質上、非常に都合が悪い
ならばこの段階で一番の対策と言えば、その身を増やす事
テッラ「「「いいぃぃぃでしょう!!! あなた達が数で攻めるならば、こちらも数で対抗するだけですからねぇぇぇぇぇ!!!」」」
再び、声が響いた
そして、その数が増える。この空間が狭いと感じるほどに
ロンドンにおける最終決戦が始まった
614 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:30:55.20 ID:Yc4Cln2YP
「あっれー? そう言えばどーしてあなたが立って歩けてるのって、ミサカはミサカは首をかしげて見たり」
建築資材で作ったと言うには、あまりにも粗雑な新しい建物の近くで、幼い声が響く
第7学区の病院跡地付近に建設されたベースには、残り僅かな生き残った人々が集まっていた
その多くは体の各所に包帯を巻いていたりなど、つまり負傷者だった
一方通行は上条の情報を模索すべくここに来たが、まだ見かけたものはいないという結果が得られただけだった
つまり、まだどこかに行ってから帰ってきていないということなのだろう
そこで、偶々この場所に来ていた打ち止めに見付かってしまったのだ
彼らは、天露がしのげるギリギリのラインで生き残った、元々は高層ビルだった建物へ、ベースから歩いて移動している最中である
一方「デカイ声を出すンじゃねェ。テメェの声はただでさえカン高くて鬱陶しいンだ。俺はともかく、他の奴らの事をちったァ考えろ」
打止「はぁい。ってミサカはミサカは小声で応えてみる」
一方「よォし、それでいい」
打止「で、どうしてなの?」
一方「どーしてだろォな。つーか、お前だってネットワークに接続出来てンじゃねェか」
打止「うーん。それがなんでなのかミサカもわかんないんだよね。あの装置が有る以上、能力は使えないハズなんだけど」
と言って、少女は彼より駆け足で先に進み、アンテナが先端に付いた装置の側に立つ
どーいう仕組みなんだろ、と首をかしげる少女の後ろまで歩き、彼も立ち止まった
一方(そりゃァ、あの野郎の猿まねなンざ、こンな機械程度で完璧にすることは出来ねェよな)
一方「行くぞ。テメェはまず、自分の不思議を解決してから、人のことを考えるンだな」
と、言い残して彼は先に歩みを進めた
打止「ちょ、ちょっと待ってよー。ってミサカはミサカはあなたに跳び付いてみたり」
一方「うォっ?! おいガキィ、俺は止まり木じゃねェぞ」
打止「はいはーい。それじゃ、仮説病棟までレッツゴー! ってミサカはミサカは行く先を指し示してみたり」
一方「うるせェテメェで歩け。ンで、麦野達の部屋はどこだァ?」
と、彼は施設、といっても地震でも来ればすぐさま崩れそうな建物の入り口で、少女に尋ねた
麦野と言う名前を聞いて、少女は視線を荒れた地面へ下ろした
615 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:31:27.20 ID:Yc4Cln2YP
結論、そこには二つのカーテナが揃った
しかも敵味方に別れたわけではなく、味方としてである
例え扱える力が合計で100しか無くとも、1本で100と二本で100では大きな違いが有る
瞬間的にその全力を上手くキャッチボールすれば、その力の使い方は150にも200にも、擬似的に見掛け上増やす事が出来る
もちろん、そんなことが出来るのは長年の連携が必要だ
使用者はキャーリサと最大主教。そこに連携も何もない
しかし、最大主教からすれば、その力を表立って使う訳にはいかない
使うならば騙し騙し、隠し隠し
止めの瞬間の力のブースターとして、全英の力を一瞬だけ借りるのみだ
ローラ(第二王女と言えど、所詮は小娘。大き過ぎる力の波の変異に気付けなし。最もこのイギリスで私以外で気付ける者は、恐らくエリザード以外にはあらねども)
目の前に殴りかかってくるテッラの一人の手首に触れて、その瞬間だけカーテナの力を借り、その暴走の術式を仕込む
ローラ(このサイズ、そしてこの力の強さ。"天使の力"を使いしは明白。そうであるなら、その気難しいバランスを崩せし瞬間は、私ならば分かるのよ)
数秒間、仕込まれたテッラは止まる
そして、まるでただの小麦の塊で有ったかのように、白い粉塵へと帰すのだった
瞬間的な隙を突いて屠る彼女以外も、それなりの善戦はしている
如何に再生者、如何に神の右席であっても、複数の意思を持っている訳ではない
分身でも幻影でもない、全てが本体のトリックであり弱点は、結局一人だということ
樹という特別なテッラの体の内側で、現れる彼らは言わば一つの細胞のようなもの
どれもこれもテッラであり、そして操っているのは一人のテッラなのだ
だからこそ、一つ一つのテッラが魔術を、"光の処刑"を用いたりは出来はしない
だからこそ、全ての自分に同質の防御術式を施して、同質の攻撃術式を施して、戦うしかない
616 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:32:23.15 ID:Yc4Cln2YP
何よりそれ以上の事が出来ないのも、テッラ自身が、その眼前で、その体で、その力で、アックアを倒したかったから、が、全てのボトルネックになっていた
決して弱くは無いが、対応できない敵ではない。その過剰な力で、肉弾戦しか狙ってこないのであれば
一人一人の騎士では倒せなくとも、一人一人で拮抗していたならば、明らかに拮抗していないローラらとの戦いで、確実にその数が減る
テッラ「「「「「「「「ならばならばならばならばならばならばならばならばァァァ!!!! こうするまでですからねェェェェェェッ!!!!!」」」」」」」」
1対1で対応されるならば、例え2対1となって数が減ろうとも、より強い個体を生みだせばいい
そうすれば、分散している力は2倍に集約されて一騎士レベルでは対応できない
実質的な戦力が100対100だったのが50対30程度になればいいのだ
始まったのは、急な能力上昇で一方的に殴られる騎士たち
アックア「……ッ?! 何が」
一匹のテッラと、その拳で殴り合うアックアに、他のテッラに殴り飛ばされた一人の騎士がぶつかる
瞬時に息が有るのは彼に分かる。だからこそ無暗に投げ捨てることが出来ない
あからさまな隙を見逃す程、馬鹿ではないのはテッラ
結果、彼は飛ばされてきた騎士を庇ったかのように、その強化された拳を受けるしか無かった
先程の治癒魔術すら、根本的な治癒でなく、更に彼の今の性質上幾度もダメージを受けられない身
アックアにとっては稚拙といえる肉弾戦だからこそ、1チャンスの全力行動で対応出来たのだ
二度目を、しかも強化されたダメージを食らえば、彼はもたない
その光景を、彼女は横目で見ていた
ヴェント(今倒されたんじゃ、力の残りがでかすぎるっつの。もう少し粘らせようにも、今のアックアを酷使させても、結果はねぇ)
そこに、彼女にもテッラの一人が襲いかかる
ヴェント「あーもう、邪魔してんなよ。カスが!」
得物の鎚ではなく向けた左手から、突風というには切れ味のある空気の刃が限定された空間に現れ、彼を簡単に八つ裂きにした
617 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:32:57.18 ID:Yc4Cln2YP
ヴェント(ったく、この程度の相手なんだから、もう少しはもって欲しいわ)
思考の為に彼女の動きが止まる
ヴェント(いっそのこと、 私 が 全 部 殺 っ ち ま う か ?)
彼女にとっては殆ど意味も無く分離してしまった今のテッラなら、やりようがあるが
しかし、それはリスキーだ。やり過ぎてしまう可能性だってある
とにかく今は、アックアを守るか? そう考えた矢先、その現状に変化が生じる
騎士たちが一方的にやられだし、更に樹から供給される力によって徐々にテッラの数は増えていく、そんな現状が
それらを可能にしているのは、単純に枝や樹と言った、樹の栄養吸収器官によるもの
最大主教の最大の武器は何だったか
間違いなく、カーテナ・オリジナルによって完全制御可能になった、巨大な天使である
もしそんなものがこの限られた空間で暴れれば、その被害は考えるまでもない
だが、彼女がそれをしなかったのは、それが最大の理由ではない
女王「ようやくか、ローラ」
テッラの一人を容易く殴り飛ばして、言葉を最大主教に投げかける
その言葉を受けて、彼女は怪しく微笑んだ
ローラ「樹というフォルム、それは確かに術式的には様々な応用が利きしな」
ローラ「そして、それらを無視できるほどに目立つその最大の利点は、力の供給。枝と根、これが有る限り、それらは術者に力を与え続ける。故にこれだけの戦力を立った一人で構築・維持出来けるが」
その供給が片方でも完全に無くなってしまったら、どうなりしか、予想するまでもなきことよねぇ
彼女の言葉が終わるまで、いくつものテッラと騎士や魔術師との戦闘が有った
内容は変わっていて、互角とは言えないまでも、やり合っている
だが、テッラの人数は二分の一に減ったまま。その戦力は50対70程度に変化したのだ
618 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:33:27.18 ID:Yc4Cln2YP
テッラ「「「「「最大主教、貴様はァァァァァァッ!!!」」」」
複数の彼が、一斉に叫んだ。顔には明らかな焦燥の感がある
次々とやられるのだから、それは仕方ないこと。しかし
アックア「何を焦っているのだ、テッラ」
よろめきながらも彼は立ち上がり、手前のテッラを見た
骨が軋み、確実な苦痛が彼を襲っているが、それでも眼は怒りを携えたままだ
アックア「少々計算外の事が起きているからと言って、なぜそうも取り乱すのであるか」
テッラ「「ッう、うるさいですねェッ!!」」
アックア「貴様は何度同じ過ちを繰り返すのだ。学ばぬは、最大の愚である」
黙れェ!! という言葉と共に、テッラが飛びかかった
それを弾くのは、彼ではない。その前に立ちふさがった騎士たちだ
ウィリアムという男を知っている者たちでもある
アックア「所詮はフィアンマが作りし木偶であるか。これだけの力を持ち、これだけの優位性を持ち、何故焦るのだ」
彼の盾となっている騎士たちの間をかき分けて、彼は一歩一歩ゆっくりとテッラに近づいた
アックア「樹と言う形を為してまで巨大化したのは、体や力だけではなく、何よりも恐怖の方であったのか!?」
最大のチャンスであるはずのなのに、テッラの動きは止まっている
アックア「いや、それは間違いなのである。貴様がこれだけの力を無理にかき集めたのも、全てはその恐怖が故なのだな!!!!!」
背後にあるのは殺された、と言う経験
それは怒りや憎しみの芽を作る以上に、恐怖の芽も作っていたのかもしれない
そしてそれを拡大させたのは、再三にわたる敗北だったのか
「その恐怖が有る以上、永遠に私を倒す事など出来ないのである!! それとも、その恐怖すらも、フィアンマの作った余興であるか、テッラァ!!!!!!」
619 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:33:54.10 ID:Yc4Cln2YP
言葉は、最早テッラに向けられたものではない
フィアンマという存在への、更なる怒りの高ぶりだ
「私を、馬鹿にィ、するなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
痛みによって若干の冷静さを取り戻したアックアは、テッラを挑発することによって、そのパニックを誘発させようとした
彼への言葉が全てその目的であったのか、と言われれば間違い無く否であり、彼の本心も色濃く現れてはいるが
巨大な力を持つことの危険性は、聖人で有り神の右席である彼は良く理解している
バランスを崩せば、その強大な力は、即自らに帰ってくるのだ
もしかすると、これほどまでに巨大化したテッラが単純な攻撃しかしなかったのも、複雑な力の使用に対するリスクを、本能的にその危険を悟っての制限だったのかもしれない
そこで、ふと、アックアは思い出す
少し前に巨大な小麦の白球を作って、テッラが何をしようとしたのか、ということを
彼の思い出しと、殆どタイミングは同じだった
全てのテッラの動きが急に止まり、そしてこの空間を作る壁に飲み込まれ、無数のテッラの顔がその壁面に映った
団長「この男、まさか?」
『粉塵爆発? テロリストでもそんな手はなかなか使わんぞ』
『類、である。小麦という形式で純粋に凝縮された"天使の力"の爆発に加えて、非魔術的要素の爆発圧力まで加わっては、防ぐのは辛い』
ともすればロンドン、いや、この巨大な樹を形成し、今まで蓄えられた力の規模では
アックア「貴様、英国丸々吹き飛ばすつもりかぁッ!!!!!!!」
怒鳴るアックアの声を聞いて、壁面の顔達は一斉にその頬を釣り上げ
ククク、ハハハハハハハh
「「「「「「「「「「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!! 」」」」」」」」」」
一斉に笑いのコーラスを作りだし、高らかにハッキリとした口調で述べた
620 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:34:23.20 ID:Yc4Cln2YP
「「「「「「「「「「アックアに味方するものと共に、何もかも吹き飛んでしまえばいいのです!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
瞬時、壁が一斉に閃光を生み出し――――
アックア(このままでは、この愚かな男の怒りの為に、ここに居る全ての者の命が)
アックア(それだけでない。これで私が死ねばヴィリアン様も。いや、)
アックア(この大樹全ての自爆では、ロンドン周辺全ての病床も巻き込まれる。ということは、どうあっても彼女は巻き込まれるのである。……私の命と繋がってしまったがために!!!!)
あの時の、自分の判断は間違いだったのか
自分が勝手に野垂れ死ぬのに、どうして彼女までも巻き込まれなくてはならないのか
それでも、彼にはこれを止める手段が有った。それはすなわち、彼の死、ひいては彼女の死も意味する方法であるが
神の右席としての彼の、"聖母の慈悲"による術式の変容・無効化
その行使は同時に、彼の命を繋いでいる彼の術式の消滅を意味していて、そしてそれが意味しているのはアックアの術によって支えられている第三王女の死
つまり、無効化すればアックアとヴィリアンの死、無効化しなければ彼らを含んだ広範囲の存在全ての死
こんなもの、悩むまでもない。選択するのは前者しかないではないか
決断をしつつも思い残されるのは、フィアンマへの感情
「―――聖母の慈悲は厳罰を和らげる」
皮肉にも、自らの命の終焉を意味するこの術式の使用に置いて、フィアンマの施した術式は彼に力を与えた
ますますそれがフィアンマへの怒りを強くさせる
――――――そして
「時に、神の理へ直訴するこの力。慈悲に包まれ天へと昇れ!!」
テッラの放った光を掻き消すかのように、アックアの体から溢れるオレンジがかった光が、拡がった
621 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:34:54.39 ID:Yc4Cln2YP
「麦野が、死ンだだと?」
病院の談話室、というよりは廃墟のオフィスの休憩室で、驚いた声を出したのは一方通行だ
フレンダ「残念だけど、……その通りって訳よ」
疲れた目を更に地へ伏せて彼女は答えた
一方通行が腰かける椅子の隣には、ズズズと空のジュースのストロー音を立てて打ち止めが座っている。その目もまた、爛漫さの対極
一方「あのド級砲を放った、あの麦野が、だと。馬鹿な事言うンじゃねェよ」
フレンダ「私は冗談なんて言う気は無いんだって。事実なんだから」
沈黙。それ以上に言葉が無い両者
一方「……ッ。すまねェな」
言って、彼は立ち上がった
打止「何処へ行くの?」
一方「アイツと話がしたかったンだが、……いないってンなら、どうしようもねェだろ」
打止「………うん、そうだね」
一方「それにクソガキ、そいつを見てみろ」
打止「え?」
少女は言われて、フレンダを見た
うつらうつらとしていて、今にも意識が途切れそうだった
一方通行の発言も、最早聞こえていないようである
一方「目にクマが出来てンだろ。お前も邪魔せずに、休ませてやれ」
打止「わ、分かった。じゃあミサカもお手伝いに戻る」
一方「……あァ、そうしろォ」
打ち止めは奥へ、彼はエントランスへ、その脚を向ける。そして残るフレンダは、中身が少々飛び出しているソファに寝かせられていた
こうして彼は、またも頼るべき存在を失ったのだった
もっと早くに力について知っていれば、或いはこんな結果にはならなかったかもしれない
最早彼が頼れる存在は、一人か
一方(……クソ。こンな時に何処行きやがった、三下ァ)
622 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:35:22.62 ID:Yc4Cln2YP
それこそ、大規模破壊をもたらすミサイルの直撃でもあったかのような轟音によって、彼女は目が覚めてしまった
永遠に目が覚めなければ、それはそれで彼女の望み通りだったのかもしれない
だが、覚めてしまった
そして、覚醒した意識が見た世界は、聞いた世界は、触れた世界は、意識を失う前とはまるで違うものだった
ここは天国か、それとも地獄か
(違う。ここはそのどちらでも無い)
現実と言う名の、限りなく地獄に近い場所
皮膚は剥がれ落ち、骨がむき出しとなり、目は潰れ、声も出せず、在るのは痛みと僅かな聴覚だけだった彼女だが
その張りの有る体は完全に元通りになっていた
神裂「私は、……やはり生かされてしまったのですね」
立ち上がって、所々僅かな水の流れが聞えるだけの世界を見た
記憶には無い地形。有るハズが無い
当たり前だ。ついさっき出来た地形なのだから
その全く記念すべき点のない第一歩のつま先に、触れるものが有った
カランと転がったのは、真っ白の剣
受けた衝撃に耐えられなかったのか、その数十p程度の剣は、殆ど欠片のようなものだった
しかし、彼女はその白い剣を、波状の刀身を知っている
それは、夢であってほしかったこの現実が、確かに彼女の想像した最悪通りだったということの証明にもなっていた
手で握って、その刃が彼女の手を裂く
現実感を与える、確かな痛み
建宮の大剣の一部であるそれは、彼女の意識が途切れる前に自らを助けようとした天草式の仲間たちがあったことを簡潔に示していた
もう、彼女の複脳達も彼らを敵とは判断しない
自らを助けるために犠牲になったのだ。人の心をも持つ脳がどうして、その行いを受けてまでも彼らを敵だと思うだろうか
623 :
本日分(ry 最早何も言うまい。サーセンした
[saga sage]:2011/07/04(月) 08:36:10.84 ID:Yc4Cln2YP
自然に、その瞳から液体が垂れた
せめて彼らの亡骸だけでも見たかったが、そして弔いたかったが、それもまた出来ない
夜の、NYだったハズの所は、丸々全てがクレーターへと変化しているのである
海と川に囲まれたはずのこの地形でありながらも、あまり水の気配が見えないのは、余程強く何かが地面に刺さり、めくり上がったからである
彼女の記憶の中で、そんなことを起こし得そうな事象と言えば
神裂「第二波の隕石群……!」
本来ならばアメリカの迎撃設備がそれらを落下前に除去する予定だった
しかし、イェスというその根本が失われてしまえば、当然こうなってしまう
有り得ないと分かっていても、彼女は散ってしまった天草式の仲間たちの形見を探そうと、夜になったばかりのクレーター内を歩き始めた
無駄と言えば無駄な行動なのだが、彼女の頭脳は満場一致でその行動を賛成したのだった
そして、見付かったものが一つ
神裂「……これは、一体」
殆どクレーターの中央で見付かったもの
20m程度の大きさの何か
その場所から、恐らくそれはこのクレーターを生じさせた隕石であろう
だがそれは、この事態を起こしたにしては、あまりにも小さすぎる
クレーターが複数あるのならば、いくつもの隕石が落ちた為に出来た地形と予想が出来るが、残念ながらクレーターは一つで巨大
運良く、隕石と思わしき物を雲間から差し込んだ光が照らした
そして考えられないことに、そこには文字が読み取れた
神裂「エイチ・エー・エム・エー・ディー・ユー・アール・エー」
意味の分からない文字の羅列を読み上げたところで、やはり分からない
神裂(なぜ、自然物であるはずの隕石に文字が……)
彼女が疑問を浮かべた時には、次の雲が光をさえぎって、その文字は読めなくなった
624 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/04(月) 09:12:08.68 ID:IPbdzMCSO
現在進行形で事件が起こってる舞台は今のところ3ヵ所か?
625 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/07/04(月) 10:11:04.97 ID:js66UrmAO
HAMADURAメテオ
どこのクラウドだよ
626 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/04(月) 15:52:06.86 ID:A6RLDqk6o
HAMADURAの謎は深まるばかりやでえ
627 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/04(月) 19:07:07.66 ID:cpzloynUo
真面目なシーンなはずなのにどうしてもHAMADURAで笑ってしまう……
628 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/07/04(月) 20:00:26.53 ID:XFJmYM26o
乙〜
何故にHAMADURA
そして、テッラ……
629 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/07/07(木) 18:59:38.57 ID:MjdjEM3Lo
浜面は天使に似た存在になってる的な記述があったが、
流れ的に十字教的な天使ではなさそうだなー。
第三の救世主候補なら大出世だ
630 :
週2更新とか無理じゃね?ー
[saga sage]:2011/07/09(土) 18:28:25.14 ID:g/KYvkRnP
「うへぇ、こいつは……」
揺れる空間で、彼は苦い顔をした
そうさせているのは、目の前のモニターである
結標「不味いわねぇ」
同じものをみて、女も同じ顔をする
しかしながら、何処かに余裕が有る表情だ
青髪「やっぱり緊急発進ってのは燃費悪いんやなー」
結標「そりゃ、燃料をそのまま垂れ流すようなものだもの。一秒でも早くあの場を離れる必要があったから、仕方ないわ」
何とか本部を脱出して輸送機に飛び乗った二人だったが、ゆっくりしている訳にもいかなかった
逃がすまいとするのは当然で、同じようにして外へ施設外に出て来たCIA側の攻撃部隊によって、離陸途中に輸送機自身も掃射を受けたし
もう少しで携行ロケットの餌食になるところだったのだから
青髪「つまり、本部を脱出した時点で燃料切れの未来は確定しとったわけか」
結標「そうなるわね。少しでも燃料消費を減らしたいこの場合で解決方法として挙げられそうなのは、重量減らして飛行効率を上げるってやり方ぐらいかしら」
青髪「輸送機やのに、この機体には何も積載してへんからなぁ。捨てるものなんてないで」
結標「あら、あなたが居るじゃない」
青髪「せやなー。僕がここで飛び降りたら万事解決―――。って、鬼か!? しかも僕程度じゃスズメの涙にも程が有るって!」
結標「残念ながら冗談よ。あなた一人が減ったくらいで解決するなら、最初から蹴落としてるわ」
青髪「うおおおい。全く、この難題解決の救世主な僕にそんな態度でええのかなー?」
結標「はいはい。だったら早くこの機体の重量を軽くして貰おうかしら、あなたの能力で」
青髪「簡単に言ってくれるけどさ、結構疲れるんやで。アレ」
結標「私だって脱出の時に散々能力使ったんですけど?」
自分の事だけ棚に上げるつもり? と言いたげな視線が向けられる
631 :
週2更新とか無理じゃね?ー
[saga sage]:2011/07/09(土) 18:29:14.01 ID:g/KYvkRnP
あの時、自分は明らかにお荷物だったのだ
それは、既に血は止まったものの、彼女の肌を掠めた弾丸の跡が雄弁に語っている
青髪「……そーでした」
そう言って、彼は目を瞑った
数秒の後、一気に彼らの乗る機体は加速する
40トン近くの重量の機体を飛行させるエンジンは、間違いなくハイパワーだ
そこに、その40トンという重量すらも無くなれば、その推進力はそのまま加速につなげられる
圧倒的に飛行効率が良くなった事を感知して、彼らの乗る輸送機は自然に燃料消費の蛇口の口を閉じる方向へまわし、それによって燃料不足の警告は消えたが、それでも機体自体は加速している
その加速は少々急だったので、彼らは座る椅子にぐぐっと押しつけられた
そして同時に、後部の輸送部でゴン! と何かが金属の壁面にぶつかった音がした
青髪「あれ、なんか設置が甘いやつでもあったんかな」
結標「どうせ固定器具か何かでしょ? 輸送機なのに物品が何も乗って無いから、逆に暴れてるのよ」
青髪「そんなもんやろうけど。まぁ一応、後で見とこーか」
結標「別に気にするほどのことじゃないと思うけど。……それより」
青髪「それより?」
結標「あなたの組織、これからどうなるの? 施設の自爆放棄と戦闘にかなりの人数巻き込まれたみたいだったけど」
青髪「一番の目的であるイェスの打倒は成立したし、別にあそこに居たのが全ての人員でもあらへんしなぁ」
結標「でも恐らく、ボスの上条刀夜は殺されたわよ」
青髪「それは確証が有るわけやないし、生きてるって可能性もあるよ?」
結標「どうかしら」
青髪「……あわきんは刀夜さんのこと嫌いなん?」
結標「出会ってからの時間が短すぎるから、どうとは言えないけど。少なくとも好印象じゃない、ってところね」
632 :
いややればできる
[saga sage]:2011/07/09(土) 18:30:02.05 ID:g/KYvkRnP
青髪「なんでやろな。ああ見えて女の人にもかなり人気あるよ?」
結標「私からすれば、それって逆に疑わしいのよ」
青髪「そかー。でもまぁ、蓼食う虫も好き好きって言うし、僕とし―――」
そこで、コックピットと後ろの空間を隔てるスライドドアが駆動する音が鳴った
スイッチ式であるこのドアを開くことが出来るのは、彼ら二人しか居ないはずである
だから敵が乗り込んでいたのか、と彼らは瞬時に座っていた椅子の背もたれに身を隠して
青髪は拳銃を、結標は空間移動攻撃に使えそうな物に当りを付け、望ましくない戦闘体勢を敷いた
入って来たのは、男
「本格的に私は嫌われてしまったみたいだね」
結標「なっ?!」
青髪「刀夜さん?! なんであなたが」
当然のように青髪が向けた銃を下ろす一方で、結標は攻撃の意識を途切れさせはしなかった
下手な動きをすれば、すぐにでも心臓を貫けるように
刀夜「実は、勝手にご同乗させて貰ってたんだ。情けないことに、ここのカーゴに飛び乗った時からさっきので頭を打つまで、気絶してたみたいだが」
青髪「そうだったんですか。いや、まさか生きてるとは」
刀夜「昔から運だけは良かったからね。今回も救われたよ」
とても、幸運という要素だけで助かるような状況では無かった気がするが、目の前にこうしているのだ
本当に運が良かったのかもしれない
刀夜「それより青髪君、積載部から変な音がしてたよ。生憎学園都市の飛行機には疎くて、何かおかしいのか、それとも正常なのか分からないから、手が出せなかったんだけど」
青髪「ありゃ、加速の衝撃で何か吹っ飛んだんかな。僕見てきますわ」
刀夜「ああ、助かるよ」
そして、青髪は刀夜が入って来たドアから出ていき、逆に刀夜は結標や青髪が座っていた席よりも一つ後ろの席に近づいていき、そこに座った
633 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/09(土) 18:30:53.11 ID:g/KYvkRnP
スライドドアは完全に閉まった。部屋に残ったのは男と女
結標は表面に出さないまでも、警戒している
刀夜「どうやら君は、私の事をあまり良く思ってないみたいだね」
結標「盗み聞きなんて、流石CIAの人」
刀夜「いや、たまたま聞えただけさ」
結標「どうだか」
刀夜「気にしなくていいよ。君の言う通り、会ったばかりの人間にすぐ好意を持つ方が不自然だからね」
それでも、君みたいな女の子に嫌われてるというのは少々悲しいけど、と続けながらハハハ、と笑う刀夜
そこには、嫌われて困ったな、という表情の仮面があって、その下には余裕が透けて見える
逆に言えば、会って時間が経てば好意が沸くと言うのか
彼女には何か、そういう風に言っている様な気がしてならなかった。そしてその自信も有るように聞こえた
そういう明確な反感が生まれて、彼女は無意識に刀夜への警戒レベルを挙げていて、表面に出る
彼のいる方向を警戒し過ぎたのかもしれない
刀夜『そう警戒しなくていい。私に害を及ぼそうとしない限り、君の大切な彼を――』
ゾクっとしたものを感じさせる声だった。そしてそれは、殆ど囁きだった
斜め前の席に座っていたと言うのに、いつの間にか耳元まで、しかも、刀夜が座った席がある方とは反対側の耳に、接近されていた
『――――殺しはしないからな』
その言葉がハッキリと聞き取れた時には、青髪がコックピット部に入ってくる音がして
そして、刀夜は元の座席について、「どうだった?」などとフランクに尋ねているのだった
学園都市には、もうすぐ到着するだろう
634 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/09(土) 18:31:38.75 ID:g/KYvkRnP
動くなら、今
ある程度の明るさのある空間での戦闘だったが、これは別格だ
今のロンドンは夜。突然の強い閃光に対応出来るのは限られた者だけだろう
そして、テッラはその大木に残る全力をそっくりそのまま爆発に用いようとしたところを、アックアによって全て無意味な光に変えられたのだ
この閉鎖的な地下空間では、その光は乱反射して、前後不覚も良いところだろう
これ以上に、彼女にとって望ましい状況は無い
それでも万事を採って、彼女はその光の拡散の中に自らの風を織り込んだ
鎚で地面を強打して、そこから生まれる空気の流れを増大させるというもの
彼女の全力と比べれば、それは些細なレベルと断言出来る出力だが
光と同じ地形的な働きが作用して、壁に跳ね返った空気が圧縮作用をして、瞬間的な高圧環境が生まれた
視覚を奪う強烈な光に加えて、まともに呼吸すらできない高圧環境ともなれば、並大抵の人間では簡単に意識を失う事になる
壁面に浮かんでいた大量の顔を始め、地上に到るまでの白い樹の幹の部分まで、樹は失われている。男は何処か
強烈な光と空気の流れの中で、彼女は彼を見つけた
あえて言うなれば、元々のテッラという男
怯えるわけでも無く、恐怖するわけでも無く、今の彼は抜け殻のようでもある
ヴェント「そのまましばらくオネンネしとくがいいさ、テッラ」
目の前で腰を地に着けた彼の前で彼女はしゃがみ、そして彼をまるで大型のバッグの様に易々と持ち上げる
635 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/09(土) 18:32:06.32 ID:g/KYvkRnP
この自爆の際に、明らかにテッラの戦意や行動意識は弱まった
自分を含めて何もかもを吹き飛ばそうとしたのだから、当然である
そこに付け込んで、アダムとイブの術式を使って、彼の意識をそのまま止めることに、彼女は成功した
飛寂ながらも、繋がったテッラの意識からは若干の満足感すら読み取れる
ヴェント(満足したツラしやがってさ。ったく、思った以上に手間がかかったが、これであとは帰るだけ―――)
やれやれだ、などと思っていた彼女だが、突如として向けられた意識に驚かされる
女王や最大主教などの力のある人間ならば、この状況であっても意識を失わないだろう
しかし意識を向けているのは、そういうレベルの存在とは異なる感覚がして、似つかわしくない冷や汗が流れた
もし仮に、自分を殺そうとする目的でそれが生じていたなら、既に蹴散らされていただろう
ショッキングすぎる突風の原因である彼女を襲わないということは、そう言う目的ではない
だからこそ、彼女は十二分に気を払って振り向いた
そこに立っていたのは、男
ヴェント「アックア?」
徐々に弱まる閃光の空間で、彼もまた立っていた
すこぶる、剛健に
アックア「……フィアンマの元へ、案内して貰おう」
その声は、強くはっきりしていて、そしてやはり、押し殺したような怒りの念もある
636 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/09(土) 18:32:43.30 ID:g/KYvkRnP
先程向けられた殺意のようなものは、自分に向けられた怒りではなく、それは恐らく、自分を経由してフィアンマへのもの
一種とばっちりであるが、彼女はそれに恐怖を感じたのは確かだった
爆発が光へと変換される中では、彼の力は失われる傾向にあった
彼の体のことについて詳しく知らない彼女は、それは純粋に魔力切れか何かだと思っていたのだが
だとすれば、今こうして自分を一蹴出来そうな力強さを剥き出しにすることは出来ない
秘訣はやはり、その胸の傷、そしてそこに施された術式だろうか
顔ではなく、彼女は男の胸をみた。言い方を変えれば目を逸らしたとも言える
ヴェント「……そういうことか。その傷はフィアンマの野郎に付けられたもの、この認識に間違いはある?」
アックア「ない」
ヴェント「ふん、いいわよ。私の命令には、アンタをモスクワまで案内するなんてこれっぽっちも含まれてないが、どうせ断っても勝手に付いて来るんだろ」
アックア「或いは、強引に聞きだすか、である」
この言葉は、恐らく脅しでも何でもないのだろう
ヴェント「冗談。こっちはやり合う気は毛頭ないっての。ただし、他人に物事を頼むんだから、コレ」
その手に掴んだ殆ど全裸の男を突きだす。持ちやがれ、というサインだろう
彼はその意図を読み取って、男を肩に担いだ
そうした次の瞬間には、二人、正確には三人の復活者達は、ロンドンの大地から離れていた
テッラが作ったロンドンの地下空間には、樹の幹も根も、そして光も風も無くなっていた
637 :
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[saga sage]:2011/07/09(土) 18:34:23.18 ID:g/KYvkRnP
「これは……。流石は学園都市、って言っていいのかな」
「学園都市圏内以外の関東平野は全壊している中で、それなりに形を残しているのですから、言えないことも無いでしょう、が」
五十歩百歩と言う言葉もあります、と続ける
僅かな時間ではあるが、23学区の空港に着陸するまでに見えた日本の光景の感想だった
経由してきたカナダの諸都市の光景とそれは差し支えなく、それでもギリギリ都市としての姿を残す学園都市
殆ど廃墟と言っても差支えはなさそうだった。雰囲気としては、写真で見たチェルノブイリの廃墟にすら似ている
御坂「行く前よりもずっと酷くなってる。まさか、アレ以上の戦闘でも有ったって言うの?」
上条達は巨人の破壊活動について知りはしない。同じように、学園都市に残っていた一方通行達はイェスという存在に付いて知らないのだが
彼らが機内から思うのは、残してきた友達や知人達の安否だ
そうしているうちに輸送機は学園都市の無人誘導管制機能に従ってか、そのまま旋回と高度処理を始め、いよいよ着陸に向けて機体が傾いた
相「私達がアメリカに向かう前の学園都市よりも更に破壊が進んでいるようですが、完全に人が居なくなってしまった訳ではないようですね。第7学区が有った辺りに軍のキャンプのような場所が出来ているのが見えました。逆に言えばそこぐらいしか人の気配が有りそうな場所が無かったのですが」
御坂「恐らくそれって米軍だと思う。私がアメリカに行く前に、来るって報道が有ったから」
上条「米軍。ってことは、イェスについてのことは伏せた方が良いよな」
相「ええ、それはそうでしょう。しかし、ここの彼らは母国の現状を知らないかもしれないので、そこまで気にする必要はないと思います」
御坂「どういうこと? 軍に連絡手段が無いなんて有り得るの?」
相「アメリカの技術はAIや微小機械などの面では際立っていますが、一方で無線的な通信は旧来の人工衛星を介する方法にその重きが置かれていたのですよ。イェスが消えたことで隕石群の迎撃システムが疎かになっているでしょうから、人工衛星は軒並み破壊されて、今現在学園都市に展開している部隊との母国との連絡は、それこそ太平洋中の装置を経由して行う方法しかないと予測されます」
最も、母国の方にもこちらの方にも、まともな通信施設や装置・装備が生きているという前提が崩れてしまっている可能性の方が余程高そうですか、と彼女は更に付け加えた
御坂「特定技術の傾斜開発の結果ってことか。でも、それは学園都市でも言えるわよね」
相「全ての面で世界最先端の技術水準を維持することは、効率的な面でもメリットが少ないですからね。アメリカとしてはAIや微小機械に比重を置いて、そこから得られる高演算とナノテクを他の分野の開発や生産の後押しに使う計画だったようですが、それ以前に国自体がああなってしまいましたし。今となって考えれば、どうしてあんなに高水準技術に飛躍したのかも分かりません」
御坂「そんなことを言ったら、学園都市だって導入資本に対しての新技術開発効率が異常に高いのも疑問になるでしょ?」
相「それらの結果的な産物である私が言えたことではないでしょうけど、世界的に技術の飛躍ペースが早すぎるのでは、という感想を持っています」
638 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/09(土) 18:43:02.21 ID:g/KYvkRnP
確かに。平均化サンプルなんて既存水準からすればまだ早すぎるものだと思うし
と御坂も続ける。このままでは延々と続きそうな雰囲気だ
AI導入時に比べて格段に頭脳の性能が落ちている上条にとっては、会話に付いて行くのは辛いものになるだろう
丁度、キュキュッ、というタイヤが擦れる音と着陸の衝撃が機内にも伝わって、彼女達の会話が一時的に途切れる
上条「ええっと、つまり、イェスについてはあんまり気にしないでオーケーってことでいいんだな?」
常に想像もしたくない魔術や技術という、有るものは有る、無いものは無いの世界で、その度に対応して戦ってきた上条にとって、それはあまり価値のある内容とは思えず
だからこそ、彼は機体が着陸してから話題を強引に変えた
御坂「警戒するには越したことは無いと思うわよ。それより学園都市の空域に入ったぐらいから能力が使えないんだけど。まるであんたの右手みたい。まさか隠れて触ってたりとかしてるんじゃないでしょうね? って、も、もしかしてさっきの続きならt―――」
上条「い、いやいやいや! 上条さんなにもしていないのですよ。……相、それってどういうことだ?」
頬を赤に染めてしまった少女を同じ色の彼はスルーし、前の席のもう一人の女の方を見た
相「あなたが触れていないとすると、可能性的に……。ああ、確かに"拡大幻想殺し"のAIM反応が有りますね。理由はわかりませんが」
御坂「拡大幻想殺し?」
上条「俺の"幻想殺し"の範囲を右手だけから拡大させて、他の超能力みたいに展開させたもの、って言えばいいのかな。ほら、お前の電磁フィールドみたいにさ」
御坂「その範囲内に入ったら、能力が掻き消されるってこと? だとしたら、能力者にとって非常に都合の悪いものね」
相「その通りです、御坂美琴。しかしそれは当麻の脳内で私達AIの補助が有ってようやく出来た方法ですから、こうして別個体で離れ離れとなった現在は使えないはずのものです。とんでもないエネルギーが必要、且つ、高負担な代物でもありましたし」
御坂「つまり、その"拡大"の原因はアンタじゃない。でも、効果も方法も殆ど同じものが展開されてるってこと? だから能力が使えない、と」
相「その解釈で目立った差異は無いかと」
一学区丸々切り取られたような跡が残っていたり、とんでもない火砲によって溶かされたような広くて深い溝が生まれていたり
その上に"拡大幻想殺し"だ。あまりにも分からないことが多過ぎる
期待は完全に静止した。帰って来たのだ、学園都市に
上条「とにかく、ここの現状把握のためにも情報収集しないと、だな」
御坂「そうね。まずは、人が確実に居そうな第7学区の方へ向かいましょ」
639 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/09(土) 18:43:43.04 ID:g/KYvkRnP
「君は、ここで何をしている?」
何処からともなく現れた彼は、目の前の女性らしい存在に問うた
いくつも立ち並ぶ瓦礫の中の一室で、何処ともなくただ一点をずっと見つめ、考えるでもなく、また何かを調べている訳でも無く
彼女はずっとそんな調子だった。それこそ、意識と言うものが生まれてから
「分からない」
今度は、折角話しかけて来た人間が何処かへ行く前に、彼女は言葉を返した
「私が、誰なのかも分からない」
「そうか」
そう言って、近づいてきた男
それも男と言えるべきなのか断定は出来ない中性的な容姿をしていて
早い話、変質的とも言えた
そんな彼の動きを誰が止めるともない、この荒廃した学園都市の、どこにでもある廃墟ビルの一部屋
差し込む朝日が少々眩しい中で、虚空から視線が動いた
そして、彼女は男の体に手を伸ばす。男もそれを拒まない
自らの目的の為に遺伝子情報の多様性の確保が必要な彼にとって、彼女の見た目と肢体はその興味の琴線に触れるに十分だった
触れた指先。伝わる体温
今目の前に居る男は、元々の姿をしていないが、彼女はその温かさを知っている気がした
「知っているかもしれない」
男に額を抑えられた彼女は唐突に、そう言った
「……何をだ?」
640 :
>>639下から3行目×「期待」○「機体」
[saga sage]:2011/07/09(土) 18:45:10.48 ID:g/KYvkRnP
「君を」
「残念だが、私はあなたを知らない」
「同じく、私も知らない。君に関する知識は無い」
「なら、なぜそう言う」
「私は知らない。だが、その体温を覚えている、そんな気がする」
「体温か。純粋に温度だけなら、いくらも同じ数値を持つ者は居たかも知れない。君の知る存在もその中なのでは?」
「かもしれない。だが、その中に君がいないというわけでもないぞ」
「だとしても、それがどうしたというのだ」
「私にとっては、大きな問題だ。私は私が分からないが、その私の中で君を知っているという要素が有る。つまり、数少ない自らへのヒントなんだよ、君は」
言われて、男は女の額から指を離し、数歩下がった
その様子を別段不思議がるでも無く、表情も変えず、女であろう存在はじっと見るばかり
「だから、私は君に付いて行こう」
唐突な発言だったが、男の方も驚きはしない
「あなたにそれが可能なら、好きにすると良い」
「名前は」
「?」
「名前は、と、聞いている。ずっと"君"と言う人称を使い続けるのも、不便だからね」
「名前か。そんなことを気にした覚えは無いな」
「まさか君も、自分が分からないなんて言うんじゃないか」
「残念。答えは否だ。名前も有るし、記憶も有る。しかし、"記憶の私"と"今の私"は違う。だからこそ、その古い名前を今の名前としては使えない。だからこそ、あなたに伝えるには適さない」
641 :
>>638だね。また間違えたね。タヒね俺
[saga sage]:2011/07/09(土) 18:46:19.51 ID:g/KYvkRnP
「ならば、君を何と呼べばいい。最も、答えられたところで、その名前は私にとってそれほどの価値は無さそうだが」
しばし、男のような存在は表情を変えず静止したままに考えた
「……そう言えば、"彼"は自らをアレイスターと呼んでいたな」
「その"彼"と言うのは君か?」
「私ではない。しかし、私は彼の保険、サブユニットではある」
「ほう。ならば、サブ・アレイスターとでも呼ぼうか。スペアでもいい」
「好きに呼べばいいさ」
そして、男はさほど興味など無さそうに外の方へ体の向きを変え、そして消えた
遺体でも生者でも、他の生物でも、それを求めて彼は少し高いビルの残骸の上に、空間を裂いたように現れた
次なる遺伝子情報の確保の為に、死体に群がるハエの動きでも探そうか、と、目の前を通り過ぎたそれらしい小さな生命体を目で追っていると、背後から声のようなものがした
背後は、ガラスが半分程砕けた、だいたい7階ぐらいの窓の外、ビルの外なのだが
「こういう場合、私も名乗るべきだろうか」
先程の女のような存在が、振り返った後ろに、空中に立っていた
「だが生憎、私にも名前は無い。分からない」
「好きに名乗れば良い。こうしてあなたと私が会話をしている以上、言葉を知らない訳ではないのだろう」
「知っている言葉、言語。星の数ほどあるが、名前となると」
思い出したような少女の表情が、女の存在に浮かび上がる
それは、未だ15にも満たない、思春期がはじまったばかりの少女の様でも有った
642 :
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[saga sage]:2011/07/09(土) 18:48:23.18 ID:g/KYvkRnP
「まるで新しい飼い犬の名前に悩む子供と、今のあなたは変わらないな」
言われて、女のような存在は、ほんの僅かに目を丸くした
「案外、私は少女だったのかもしれない」
「その身なりで少女か。その背丈と白い装束からはとてもそうは見えないが」
「何かムッとさせられるな、今の発言は」
「それはすまない」
「いいだろう。こうなれば無機質な名前にしよう」
「……あなたの勝手だ」
言いながらも、やはり男は周りを見渡しながら、コツコツと音を立てて、廃屋の中を窓沿いに歩く
女のような存在も、フワリとそれに従う様に窓の外を付いて動く
記憶の中の、何か自分を示すような言葉を探しながら
"code name:The A was rooted in his Dark Matter."
浮かび上がったのはこの言葉ぐらいだった
「A was いや、あの場合Aは私だったのだから、I was と捉えてもいいか」
「エーワズ、アイワズ、続けてエイワス、エウォス、イワス。いくらでも発音のしようが有るな」
女の言葉から、文法的に恐らくは英語か何かなのだろうと一応は考えて、しかし無関心そうに、男は単語の読みを言った
「一応、残っている記憶に出てくる僅かで確実な単語だ。その後に焼けるような苦痛を感じたことも覚えている、良い思いのある言葉では無いが、今はこれで良い。どうだ、少しも温かみのある言葉ではないだろう」
言いながら丁度崩れたビルの外壁の間をくぐって、女のような存在は彼の目の前に、立った
「私を知るために、そして私を作ったこの世界を知るために。私は私の興味の赴くままに、エイワスという名を持って、君に付いて行こう。アレイスターとやらの、スペアとやら」
643 :
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[saga sage]:2011/07/09(土) 18:49:13.89 ID:g/KYvkRnP
「隕石、直撃コース」
第7学区"駐屯キャンプ"と言えば聞こえがいいが、元々少し広い空間にその周りの施設が吹き飛ばされた事でそれなりのスペースとなり、そこへ廃材が寄せ集まっただけにしか見えないこの場所の一角
時計が有れば、そして平時ならば、休日のお昼時というこの時間は生徒や学生でごった返しているだろうが、そこに詰めているのは粉塵によって汚れた衣類を身につけた人々
生き残ったコンピュータを繋げまくった集まりを、これまた生き残った米国学園都市問わずの技師や研究者の集まりがじっと見つめていた
基盤が直接露出している大きなモニターに、恐らくどこかのビルの壁面に備えられていた広告用のものを剥がしてきたものに、集まる視線
「地面との接触時の直径は20m以下。想定される被害、軽微」
数字やアルファベットが画面の端で凄まじい速さで踊る中、3Dに視覚化された映像が学園都市に刺さる隕石を表している
「落ちる場所はどこだ?」
研究者に混じっていた兵が聞いた
「23学区。今更100m級のクレーターが一つ二つ増えたところで、大した被害も無いでしょう」
研究員は気軽に言ったが、兵士の方は苦い顔をした
「23学区と言えば、空港のある場所だろう。滑走路は失いたくない。なんとか撃ち落とせないのか?」
「その目的の為に作った、出来たばかりの迎撃装置の試験運用の許可が下りるなら、可能かもしれないですね」
許可をくれ、という発言
確かに彼らの管理は在留米軍に有る。しかし、それは軍が軍として機能していたまでの話
実際、軍とはいっても本国との連絡はとれないし、駆動鎧もまともに稼働できる状態で無く、使えるのは数えるばかりの移動車両
何より、人的被害が大量で、全体の行動を取り仕切るような元帥だとか将軍だとかの佐官以上の指導者は居なくなってしまった
644 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/09(土) 18:50:17.11 ID:g/KYvkRnP
こうやって"幻想殺し"フィールドの生成が出来たのも、「そうさせろ」という命令が死ぬ前の上官が出していたからであり、今ここに軍の代表として立つ彼は、まさか自分がこんな立場になるとは思っていなかった
「……軍と言えど殆ど壊滅状態の我々が、今更大きな口を叩くつもりはない。許可を出すだの出さないだのと言える立場ではない。出来るならばして欲しい、という立場だ」
「分かりました。ただ、100%打ち落とせると言うものではないことは」
「理解している。頼むぞ」
その言葉を聞いて、米技術者のリーダーは生き残った学園都市研究者達もいる集団に目を向ける
「よし、試験用サイズの小型信管の方はどうなってる?」
「装填されています。キャパシタ内圧も標準領域」
「ならばシークエンスを最終段階まで。その後、レーザー照射」
緊急用の太いコードによって地下や大きな装置と繋がれた操作板の前に座る薄汚れてしまった白衣を着た男が、少し間を置いて、トンとパネルを叩く
すると地鳴りのような低い音と巨大な駆動音が第7学区に響き、そして赤っぽい光が、地から空に向かって、短い線となって放たれた
「ロック解除。弾頭、発射」
天を仰ぐようにしてリーダーがレーザー光を見届け、すぐさまに次の指示を出した
今度はその光が通った後を、白い液体の入ったビーカーのようなものが先端に付いたミサイルの形状をした細い筒が、昇っていく
「撃破、確認。粉砕成功」
モニターしていた男の数秒の後の言葉だった
それを聞いて、見て、安堵の息を吐き、しかし「うーむ」と額に手を置く研究者達の姿もある
645 :
本日分(ry ぐぬぬ
[saga sage]:2011/07/09(土) 18:51:53.90 ID:g/KYvkRnP
「ふぅー、成功したか。滑走路も無事そうだな。このまま、本目標の撃破まで頼む」
寡兵となってしまった軍の代表が、生存の為の僅かばかりの希望を見つけたように、少し自信の戻ったような声でリーダーに向けて言った
「成功、とは言っても、フィードバックすべき問題点もいくつかありますよ。サイズが小さかったのが救いだったかな」
はい、と頷きながら、リーダーの脇に立っていた女性技師が口を開く
「第三波の核となる隕石"神の国"は巨大ですからね。誘導と破砕信管の挿入溝生成用のレーザー精度がこのままだと、少々危険です」
「数字はそんなに悪いのか?」
「いえ、これ自体は現段階では許容範囲でしょう。今はなにより、エネルギー面での問題点が拭えていないのがリスクとなっています」
「"幻想殺し"フィールド形成も出来ているんだ、電力は供給されているのだろう?」
「はい。しかし、理論上まだ電力を引き出す事が出来るんですよ。そしてその理論上の数値までの出力が無ければ、"神の国"に爆砕装置を撃ち込むだけの穴をあけられない」
「どうして出力を引き出せないんだ?」
兵士とリーダーの会話に、少し違うネームタグをぶら下げた男が近づく
学園都市の生き残りの技師か研究者だろう
「恐らく、統括理事長だな。そもそも、今までの学園都市の日常的な消費電力を遥かに上回るエネルギーが必要なわけだから、例え理論値では可能でも、いまだに日常レベルでの制限をしているのだろうさ」
「ファック。人類の危機だと言うのに、あんなビルに引き籠りやがって」
「ああ、それには同意だ」
「いずれにせよ、奴とは話をする必要がありますね。本国との連絡が取れない以上、ここの問題はここで解決しなくてはならないのですから」
問題は、誰が、どうやって、統括理事長と面談するのか
それら上級の秘密を知る権限のある者達の死は、そういう弊害を招いていた
646 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/07/09(土) 19:13:51.57 ID:14FQp+KLo
乙〜
何か凄い事になってやがる。アックア……
647 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/09(土) 19:27:31.67 ID:/FKM30hHo
乙
エイワスはどうなってしまったんや
648 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/09(土) 19:34:37.87 ID:S/caxNnSO
だいぶ話が収束してきた……のか
649 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/07/10(日) 01:05:18.18 ID:iJHmKAWO0
むしろ拡散してきた
650 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/07/10(日) 01:12:24.34 ID:1FphvgwAO
上条さん学園都市に来ていいの?
幻想殺しで拡大幻想殺しは無効化されないの?
651 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/10(日) 01:19:15.13 ID:vchDQoYqo
>>650
竜王の吐息とか"一掃"と同じようなもんじゃね
上条のまわりだけ無効化されてほかはダメーポ
652 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/07/10(日) 12:05:36.79 ID:S1MlhAoCo
舞台は集束してきたけど状況は昏迷の一途を辿ってるww
みんなが持ってる情報を統合するチャンスが欲しいねえ
653 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:09:13.95 ID:NevFLdj6P
「結局、こうなってしまったか」
どちらかと言えば女性的な声で、その声の主は見ていた
「紆余曲折、複雑多岐に違いは散見されるが、結局は二人の関係性の形成に変化は無し」
スペアの後ろをフラフラと付いて行く自らにそっくりな存在を、かなりの距離をあけて追いかける
彼女の存在を、その彼女に追われている彼らが気付くことは無さそうだ
「もちろん、現段階でこれが意味するところを推し量るのは無意味に等しいし、本質的に彼女が私であるとも言い切れないが」
ポツリポツリと、自らの考えを述べていく
「こうなってくると、今回も同じ結果になる可能性も見えてくるか」
同じ結果、前の記憶
彼女が追う彼女達には無く、彼女にはあるもの
そして、彼女と彼女の最大の違いだ
「思い出すよ。私の時も、こんな感じだった」
僅かに目を細め、そして僅かに懐かしむような表情を、その存在は浮かべる
「知らないからこそ、分からないからこそ。私は知ろうとした。興味の赴くままに。そして今も」
「あの時彼に付いて行ったのは、頼る当てが他になかったからか」
「頼る? うん、そこには好意と呼ばれる感情がなお、まだ存続していたのかもしれないな」
654 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:09:49.69 ID:NevFLdj6P
フフ、と声を続ける
好意という自らの言葉に、彼女はらしくも無く気恥ずかしさを感じ、そしてそれを笑いで誤魔化したのだった
「確定的なのは、この時の私は見た目はどうであれ、まだまだ未熟だったということだね。経年も経験も稚拙で、誰かに縋るしか無かったのかもしれない」
「こうやって客観的に見れば、見えてくるものだな。本当に興味深い」
笑いを抑えるように、彼女はその手を口にやった
その手、その体もまた、彼女と彼女の違いでもある
「結局私はドラゴンなどと形容すべき形になってしまって、自らの身の器すら失って、こんな不安定な方法で身を現すしか無くなってしまったが」
視線をまた、すこし遠くの彼らに戻した
「彼女がどうなるかは、まだ分からない」
「果たして彼女が、今の私と同じように、こうして次の自らを確認するようになるのか。それとも次の私が生まれることはないのか」
「それを左右しているのは君だ、アレイスター=クロウリー」
なにかが違う気が、彼女のなかで拡がった。それは、その名前だろうか
「―――――いや、ここはあえてこう言わせてもらおう」
流し目で、体の向きを変えず、彼女は視界の橋の、例の窓のないビルを意識する
「あなたにかかってるんですよ、浜面さん」
口にしたその表情には、僅かながらに少女のあどけなさが垣間見えた
655 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:10:23.47 ID:NevFLdj6P
「……お、っ、と。そう言えば、こんな顔だったな」
彼は自らの鏡に映る顔を見て少し驚いた
ロシア、モスクワは朝。早朝と言うには少々遅い時間帯
半分は笑みを浮かべ半分は悲しみの表情を浮かべる、自らの顔を写す鏡
意識をすれば普通の人間らしい自然な表情を取り戻す事が出来るが、どうもそのことを忘れていたのか、はたまた寝ボケていたのか
フィアンマ「寝ぼける、というのはどうもあるらしい。この期に及んで、未だ寝ぼける余裕があるというのは、良いものだろうかな」
顔に冷たい水をかけて、手元のタオルで拭き取れば、ぼやけていた思考も元に戻る
フィアンマ「おかしくは無いか。禁書目録は手に入り、ベツレヘムも予想通りに進み、俺様の目的達成まで残す時間は少ない」
物事がそれなりに淡々と進む中、そこに油断や気の抜けが生じるのは、それこそ人間ならば自然と言うものだ
だからこそ、それを意識して自らを緊張させようとするのも、これまた人間らしい仕草
フィアンマ「もう、少しだ」
こぼれた言葉は、しかし、それによって生まれた緊張だけでは無いものだった
レースカーテンを空けて、目に飛び込んでくる光
彼と言う地位に有りながらそこは、スイートルームと言う得るほどに広い部屋と言えない空間だった
温かみを持った太陽光に包まれながら口の中に歯ブラシを突っ込んで、逆の手で彼は頬を擦る
生えかかった髭のジョリッとした感覚と音が体に響いた
まだまだ、自分は人間だ
フィアンマ(だがこの感覚も、もうすぐ、失われるものなのだ)
人間で無くなれば
今の彼が目指すのはそうなった存在。そしてその後に―――
それは、自らの役割
誰に与えられたでもなく、気味の悪いほどに自発的なその意識
この意識さえなければ、或いは、自分は何をしていただろうか
どうやら自分はローマ正教の一信徒としては敬虔的でないようなので、司祭などにはならずに適当な相手を見繕って、そして
656 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:10:50.83 ID:NevFLdj6P
フィアンマ「……考えるだけ無駄だな」
口をゆすいで、カミソリに持ち変える
クリームを塗った頬にその刃を当てた時、ドアの叩く音が聞こえた
「ちょっと待ってくれ」、とフランス語で答えると、それが通じたのかノックは止まった
つまり、自らに用の有る人間はフランス語の通じる人間だ
ロシアの連中も通じるには通じるだろうが、その日常的な用法に慣れているか疑問でもある
なら、少々待たせてもいいか
中断することも無くちゃっちゃと、若干手を抜いて髭剃りを終え、彼はそのまま部屋の扉を開いた
ステイル「もしかして、起こしてしまったかな」
フィアンマ「気にするな。俺様も今から出るところだったからな。帰って来たのか」
ステイル「こうして目の前に居るのだから、そうなんだろう。しかし、君を慌てさせたのは確からしい。頬から血が垂れている」
指摘された場所に人差し指を沿わせると、赤い液体が付着していた
ステイル「まずはそれを拭きとると良い。それまでぐらい待つさ」
そう言って腰を廊下の壁に落ちつけたステイルの前で、フィアンマはその指に付いた液体を舌に運んだ
フィアンマ「苦いな」
ステイル「そりゃそうだろう、血なのだから。それを好物とする存在もあるらしいけど、少なくとも人間には苦味以外を感じはしないだろう」
指ですくった後も、頬からジワリと血が次々と染み出る
フィアンマ「ふーむ。刃物で切るとなかなか止まらないから厄介だ。まぁ、止まるまで流し続けるのもいいか」
ステイル「……まぁ、僕としてはそれでも構わないがね」
フィアンマ「それで、何の用だ?」
ステイル「帰還報告でも、とね」
フィアンマ「律儀だな。あの後何か特別なことでも有ったわけでもないだろう?」
657 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:11:42.31 ID:NevFLdj6P
ステイル「そうだね。少々群がっていた虫を焼いた程度か」
フィアンマ「ああそうか、お前の考えがわかったぞ。禁書目録の事で俺様の所へ来た、そうだな」
ステイル「実のところはね。というか君にしては少々把握が遅かったな。顔を出すなり禁書目録は何何何処何処だ、と言ってくるものだと思っていたが。頬をやってしまうぐらいだし、君も寝ぼけたりするらしい」
フィアンマ「余裕がそうさせるんだよ。俺様も、所詮は人間だからな」
こんな所詮人間が何人もいるはずはないがな、と思いながらも、ステイルは口にしなかった
ステイル「それで彼女はどこだい?」
フィアンマ「どこって、お前の部屋に居るはずだぞ。今頃はまだおねむだと思うが」
ステイル「なに?」
フィアンマ「誰かに聞けばお前の部屋ぐらい教えてくれるだろうに、一目散に俺様の所に来たらしいな。純真なことだ。禁書目録については昨晩そうしたんだが、そうか、あの女にぐらいしか言って無かったな。悪い悪い。どうも部屋が足りないようで、相部屋で問題あるか?」
部屋が足りない、というのは嘘だ。もしそうならば殲滅白書のところにでも預ければいい
あの女ならば喜んで受け入れるだろう。そうしなかったのは
ステイル「いや、ない。僕が彼女を守るには最適と言える」
という目の前の男の意思を読んでのことだ
フィアンマ「俺様の使いを終えた後も御姫様のお守とは、ご苦労だな。もっとも、今のお前は肉体的疲労などまるで感じはしないだろうが、それでも心労ってものはある。俺様も少々酷使し過ぎたと思っているわけだ」
ステイル「そう思ってくれるのはありがたいことだ」
フィアンマ「だからこそ、お前にはしばらく休んでもらおう。と言ってもそんなに長い時間はないだろうが。丁度、禁書目録もその役目を終えたところでもある、しばらく二人で羽根を休めるがいい」
お前達二人は、最大の功労者だからな
言いながら彼はステイルの前から体の向きを変えて、廊下を進みだす。そうこうするうちに、彼の頬の出血は止まりつつあった
「他にあるか」と歩きながら聞かれたが、話すべきことも思いつかず、ステイル自身も落ち着きたいと思っていたので、止めようとしなかった
何より、フィアンマに預けた少女が本当に無事なのか、今のステイルにはそれが大きかった
フィアンマと離れ、自らにあてがわれた部屋の扉を開くと、そこには
見ているこちらが眠くなるような、心地よさそうな寝息を立てている少女の姿が有った
658 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:12:10.70 ID:NevFLdj6P
「やっと見えてきた……」
本格的に疲れた様な声を出したのは、御坂美琴
交通機関が全てお釈迦になってしまった以上、移動手段は歩きが基本となるが、そうなれば疲労は半端では無くなる
どれだけ最短経路を歩んでも1学区はまたぐことになっていて、しかもどの学区も並々に破壊されていて道路すらまともに見えないのだから、普通に歩くよりも疲労はより大きくなるのは自然だ
ちょっとした山を登るよりも、経路も何も分からないので余程厄介だった
上条「んー、流石に殆ど徒歩になるとは。輸送機関のありがたみをひしひしと感じますな」
と傍らで漏らした男だが、御坂とは一転して顔に疲労は目立たず、それこそ少々汗ばんでいるだけだ
御坂「言う割にアンタ、元気そうじゃない」
上条「別に鍛えてるって訳じゃないんだけどな」
言う上条の前で、何を言ってるんですか、と一見彼らよりも年上そうな女性が振り返る
相「あなたはかなりのレベルまで鍛えられてます。幼少期からの積み重ねと言う奴ですよ」
上条「そういうものかな。まぁ、御坂は能力使った移動方法とかが出来なくなってるから、基礎体力云々以前の問題かもしれないけどさ」
御坂「……そーね。能力なんて不安定なもので、それに依存してたって言われたら否定できないし。今すんごーく痛感させられてるとこよ」
彼女がそのように感じてるのは、腰を曲げ膝に手を付いている仕草でよく分かる
相「ということは、御坂美琴は普通の女子中学生と言う事です、当麻。ちゃんと守ってあげないと駄目ですよ」
御坂「わ、私は自分で自分くらい守れるわよ。能力なんて無くっても」
上条「だな。それに、お前だっているし」
これ以上足枷になりたくないという意思も相まって反論した御坂に、そんな気は知らない上条は同調する
運ぶにしても、筋肉量は上条<相である
相「あら、あなたは女性に女性の守りを求めるのですか? 情けないですね。今だってそうです。疲れた女性が居る。一方であなたには余力が有るんですから、背負ってあげるとか出来るでしょう?」
上条「ちょ、流石にそんな体力は上条さんには残っていないんですが」
相「言い訳しない」
上条「……あい」
659 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:12:39.62 ID:NevFLdj6P
返事をした上条を確認して、女は少し駆け足で先行する
休憩の終わり、相から少し離されて上条は御坂の前で屈む
御坂「べ、別に無理しなくていいのよ? 歩けないほど疲れてるって訳でも無いんだし」
上条「タハハ、ああは言ったけど、こっちも御坂ぐらいを背負う元気はまだまだ有るんだよなぁ。俺の中に居ただけ有って、完全にお見通しなんだろ。それに」
御坂「それに?」
上条「御坂は気付いてないかもしれないけど、あの死体だ」
少し声のトーンを落として、上条は指を指す。そこには一体何発の銃弾を受けたのか分からない、恐らく中学生か高校生ぐらいの女の死体が有った
制服的には、高校生だろうか
御坂「……あんまり直視したくは無いわね」
上条「俺もだよ。でもあれは不味い。ただの銃殺死体に見えるけど、死因が新し過ぎる。アレは、そんなに時間が経ってないんだ」
言われて、そして上条に負われて彼女は周囲に目を向けた
御坂「気にしたくなかったから、わざと見ない様にしてたけど、この辺あんな死体だらけ」
上条「だろ。つまりこの辺がそれだけ危険ってことなんだ。今だってああしてアイツが先先進んでるのも安全確認する為だろうし、こうやって御坂を俺に背負わせてるのも、少しでも移動速度を挙げる為だな。――――っと」
先行していた相が振り向きもせずに左手の平をこっちに向けている
"静止"の合図だろう
そのまま、向けていた手の平の角度を微妙に変えて、振る
上条「ん?」
"隠れろ"の合図だ
御坂「どうしたの?」
上条「ちょっとの間、隠れるぞ」
瓦礫が積み重なって、ちょっとした丘になっていた上条達の地点から、相は見下ろすポジションだ
逆に言えば、周囲からは少し見上げれば目立つポジションでもある
丘を下って、彼は周辺から身を隠し、何者かからの攻撃が来ても一方向に絞られるように、ビルであった建物の角へ飛び込んだ
660 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:13:12.53 ID:NevFLdj6P
壁が背に有ることで、正面からしか攻撃は有り得ない
そして注意を払いながら、そっとそこから顔を出して、先行していた相の方を見る
既に彼女はバラバラの数人の男の射線に囲まれている場所にいて、更にもっと言えば廃ビルの屋上と言う立体構造的な遠距離からも銃口が彼女を狙っているのも見えた
それを分かっているのか、男達の隙を突いて上条達とは反対方向のビル廃墟に飛び込んだところまで見えたが、歩きと言う面倒で体力を喰う移動手段を考えて持っていた軽量の拳銃だけでは、応戦するに厳しいだろう
男達の動きもそれなり以上に良い
上条「不味いな、数が多い。相だけじゃあ」
焦った様な言葉をだしたが、彼自身は動けない
能力を封じられているこの御坂美琴という少女は今のところ少々運動神経が良い程度の女であり、しかも疲れている
確実に良くない方法ではあるが、相自身に相自身の守りを任せるか
その手段しかない状況と心理を理解したのか、御坂が声を出した
御坂「ねえ、私、邪魔?」
上条「そんなことは無い、けど」
タタタン! と銃弾が連続して弾きだされる音がした
上条達の方に向かって来た銃弾の音では無く、恐らく、相の方
脊髄反射的に顔を出すと、彼女が入って行った廃屋の中に更に数人のスキルアウト風の男達が入って行くのが見えた
どのように壊れているのか分からない廃墟ビルであり、だが敵の方は把握しているだろう。そんなところで数の利・武器の利で攻められると、どこかから彼女はそのビルを脱出しようと考えるのが自然だ
地上にいる上条の視界に、ビルの窓から身を乗り出す彼女の姿が見えた
隣のビルや剥き出しの鉄筋・パイプを跳び乗り継げば、地上に降りられる?
降りた先、予測されるそこは
上条「………ヤバい、そこは屋上に居る奴が狙ってる」
例え相がその存在を知っていたとするならば、誘導されている。覚悟の上での動きだろう
そうでないならば、なおさら最悪だ
このままでは、確実に
661 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:13:42.68 ID:NevFLdj6P
御坂「行ってきてあげて」
それは彼の行動の引き金を引くには十分な言葉だった
上条「〜〜〜ッ、このままここに居てくれよ!!」
使い方は分かるよな、と言って彼が一丁しかない拳銃を彼女に渡すと
御坂「大丈夫、使える」
と強く言って彼の腰を押し叩いた
銃の代わりに適当なサイズの礫を持ち、弾けたように上条は廃墟の角を飛び出し、しかし身を隠しながら一気に相が逃げ込んだ方の廃墟へと距離を詰めた
あと一歩で相が廃墟と廃墟の織りなすちょっとした広い空間に飛び込み、狙撃者の射線に入ろうかと言う瞬間
上条は持っていた礫を、たまたま死角から接近できた彼女を追いこんでいるライフルを持った男の一人に向かって、投げつけた
コンクリの壁にコンクリの礫がぶつかり、しかもそれなりのサイズが当れば、音も大きい上に都合良く爆ぜたので流石に意識が向かう
その瞬間に、上条はこなれた動きで死角から接近し、首筋に握った別のコンクリの塊を叩きつける
人を殺すに十分な、嫌な感覚が手に拡がるも、すぐさま彼は近場の柱に身を隠した
案の定というか、追い込んだ相を狙おうとしていた男のライフルの弾が上条に向けられていて、それをあらかじめ予期していた上条の回避行動によって、その弾丸のいくつかは上条が殴って倒した男への止めとなった
追い込みの一角が崩れたことで、相は持っていた拳銃を狙撃者が居るビルの屋上に向けつつ適当に放ち、追い込まれそうになっていたビルとビルの間の広間から身を折り返し、上条の方向へ走った
相「馬鹿、なんで来たんです。これは、簡単な引っ掛けですよ!!」
言われて、しかし彼の頭の隅でも考えていた事であった
ちょっとした丘と、それを取り囲む高層ビルの残骸地帯
ビルの上に狙撃者が配置されていて、そして恐らく彼の視界内の瓦礫丘の上で、上条達は少しの間止まっていた
敵からすれば、こちらが3人だということも視認出来ているし、御坂を隠した場所も分かっている可能性が高い
そこまで予想が付いていても、差し迫った危機は相であり、御坂は上条を促した
上条「不味い、御坂が」
そう思って、それが思わず言葉になった時
ターンと言う音が、少し離れたところからビル壁に反響して彼らの耳に入り、更に上条と相の周りにも何者かが接近する気配を感じ、身がまえたのだった
662 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:14:11.58 ID:NevFLdj6P
上条に言われた通りの廃屋の角で、しかし彼女はライフルを突きつけられていた
渡された拳銃も器用に撃ち抜かれ、既にバラバラだ
御坂「なに、よ」
凄まじいまでのピンチである
三人の男が、角を背に立つ御坂の前に立っている
「第三位にしちゃぁ、気弱だなぁ、おいぃ」
言葉使いは典型的だったが、問題はその動きだった
彼女は、彼らの接近に全く気付けなかったのだから。それは、日頃自らのレーダー的な能力に頼っているからということの裏返しでもあったが
「どうせそっくりさんの方だろ?」
「どっちだって構わねえよ。能力者にはかわりねぇ。むしろクローンみたいな奴らなら仲間の為にも復讐しなきゃならねえし」
仲間と言う言葉には、全く重みを感じられない。ただ殺すための建前のようなものなのだろう
御坂(クローンみたいな……。コイツら、あの子たちも襲った?)
「第三位本人だとしたら、ますます能力が使えないうちに殺さねえとなぁ」
御坂「あんた達、能力者に恨みでもあるっての?」
「有るに決まってんでしょー。見ろよこの火傷」
言って、男の一人、一番手前の男は顔の半分を覆っていたマスクをガバッと引っ張って外す
そこには、ケロイド状の火傷が有った。まともにまぶたが開きそうにないようで、見ているだけで痛々しい
「ちょいとばかりお勉強と素質が有ったからって、俺達はストレス解消の道具じゃねえんだ」
つまり、コイツらはスキルアウトか何か。無能力者で、虫の居所が悪かった発火能力者にでも焼かれたのだろう
御坂「そんなもの、治そうと思えばすぐに治せたじゃない。外ならまだしも、ここは学園都市なんだから」
「ああそうだ。だが俺は治さなかった。コイツをやった張本人に復讐するまでな」
「だが恐らく昨日までのゴタゴタで死んじまったよ。俺達はそんな風に復讐する先を失った奴らの集まりさ。なあ?」
頷く周りの男たち
663 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:14:39.70 ID:NevFLdj6P
目の前の男は、余裕なのかライフルから手を離し、肩のベルトに預けて、自らの平手に拳をぶつけて、威嚇するように音を立てはじめた
「まぁ、今生き残れてない時点で、結局俺達が追ってた奴らもその程度のお馬鹿さんだったってことだけどな」
御坂「……やられたからやり返すなんて、それじゃなにも解決しないじゃない。それに、ここで私を殺しても、私の仲間が報復に来るわよ」
「おーおーおー、お勉強が出来る人はいい事を言いますなあ。……ハ、残念ながら俺達はそこまで頭が良くねえんだよ。どうせ皆死んじまうんだ、恨みは果たせるうちに少しでも多く果たしとかねえとな」
御坂「そんなの、八つ当たりじゃない」
「ヒャハハッ。その通りだぜ! そーおーだなー、素っ裸になって股おっ開いて助けて下さいって懇願すれば、考えねえこともねえけどな」
「いいね。靴でも舐めてもらおうか」
分かっている、これは威嚇だ。もちろんそう言う欲求があるかもしれないが、こちらの行動を更に委縮させようとしている
なら、こんなことにビビっちゃいないとはっきり示した方がいい
御坂「残念だけど、そんなことしか思いつかない様な馬鹿な連中に殺される分けないじゃない」
妹達の件だってそうだ。実際の所、自らを含めて彼女らを救ったのは上条当麻だが
そこには、数奇な運命か、はたまた誰かに仕組まれたのか、そういう要素があっただろう
しかし、彼女には自らのクローンが殺されているという現実から目を背ける事も出来た。しかし、正義とか道義とかという言い方でも表せそうな、己の拒否感が、彼女に行動をさせた
最終的には彼が一方通行を打ちのめしたことで解決したのだが、そこに彼女の行動という要素が全くゼロだったとすれば、妹達は全員殺されるという結果になったかもしれない
なにより、その上条当麻こそが、行動によって結果を勝ち取るシンボルでもあるのだ
「ああん?」
例え、どんな窮地でも、行動し続ける
御坂「あんた達は言ったわよね、馬鹿だからあんた達が報復したかった連中は死んだって。確かにそれはそうかもしれない」
それがハッタリという姑息とも言える、LV5らしくない方法でも
御坂「でも、私は生き残った超能力者。分かる? その段階での状況は同じ。そして頭脳はあんた達よりもずっとマシなの。そんな私がこんなところで、何も手を打たずに両手を挙げてると思う?」
「なんだと?」
彼らの中の復讐心には、同時に恐怖が有る
敵わない相手だからこそ憎み、そして倒せる時に倒そうという発想の根底には、御坂美琴が一方通行に向けていた感情と同じものがあるのだから
664 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:16:13.78 ID:NevFLdj6P
打開する手段など現実には無くとも、それを煽れば、隙が出来るかも知れない。その隙があれば、打開にもつながる
不味いと思ってか、正面の男は肩にぶら下げたライフルに手を伸ばそうとした
同時に、動く
ライフルのグリップを握ってそのまま引き金を引くという動きの中で、予めがっしり掴んでもない銃の射線は限られる
そして自らが動いたのを確認すれば、相手は驚き、そして根底の恐怖から慌てて思考も鈍つくかもしれない
壁と銃を持った3人の男に囲まれた四面楚歌な状況で行動するなら、そこを突くしかない
御坂(今!)
勢いよく男の方へ跳び込む動きを見せ、しかし銃とは若干反対側に跳び、予測される射線の外ギリギリに体を運び
次のステップで、彼女は男を押し倒すようにぶつかった
押し倒されそうになれば、人間は自然とその力に反発しようとする。恐怖と驚愕によって思考が鈍くなっているなら、尚更
反発する男の動きを、体を、逆に他の二人からの射撃を防ぐ自らの盾として、彼女は男の腰に手をまわした
腰に引っ掛かっていた球状の物のピンを勢いよく引っ張り、そしてわざと立ったままでいさせた男の股間のブツを逆の手で力任せに掴み、引き、屈むように怯んだところに膝を合わせて、倒す
悶絶の表情を浮かべる男の後ろに居た男達は、彼女のその動きを見るしか無かった
彼女がピンを引き抜いたのは、拾った手榴弾
つまり、数秒後には爆発する
所詮、復讐心が中途半端に連なった、それなりの実力者の集団。そこには仲間の情などなく、可愛いのは我が身だ
男から離れる御坂に対して具体的な射撃をするよりも、彼らはその場から逃げる方を優先した
安全弁の抜かれた手榴弾を腰につけたままで、倒れた男の事など結局誰も気にしなかった
隠れていたビルの角の外側、つまりビルの外へ逃げた彼女のすぐ後ろで、爆発音が鳴る
完全に思い付きでの行動だが、最大の窮地は脱した。今敵が出てきても、逃げるだけの空間はある
御坂(とにかく、アイツの方へ行かないと)
そう思った矢先である
彼女の体をクの字に曲げて側方から蹴り飛ばすような衝撃が、その体を奔った
665 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:18:16.67 ID:NevFLdj6P
御坂「ゴもっ?!」
蹴り飛ばされて地面を転がり、横になったまま目を開いた時には、息を吸うべく開いた口に、強引にライフルの銃口が突っ込まれた
「やっぱお前らは馬鹿だなぁ。冷静に考えてみろ。打開手段持ってんなら、最初からLV5サマが両手挙げて有難いお説教してくると思うか?」
目の前には、先程とは違う少し大柄の男
なんとなくわかるそのボス猿臭から、それがこの集団を率いている人間だと分かる
すぐにその後ろから、先程仲間を見捨てた男たち二人が現れた
「つまりなぁ、さっきみたくこの可愛いお口を使ってくるって時点でよ」
喉の奥に、その先端が更にグリグリグリグリと強引に押し込まれた
御坂「ぐウ、ぶッば、あ゛ぶふ」
自然な反応としてむせそうになるが、それすらまともにさせてはくれない
「この女はただのガキでしかねえの。とっと引き金引いちゃえばいいんだ、こんな風にな」
呼吸がまともに行えない涙が浮かぶ眼前で、男の指が動いた
バギャァン
ライフルにしては少し聞き心地の良くない音
そしてその後に生まれた悲鳴は
「ぎゃあああああああああッ?!ああああああああああああああああああ!?!?!?!?」
男のものだった
「その通りだァ」
何が起きたのか。単純なことである
銃弾が、ライフルの中で逆流と言う有り得ない方法で暴れたのだ。そうなれば当然、ライフルの発射機構は壊れ、貫いた銃弾が男の方へ向かい、体の中へ
「能力者なんてのは、能力が使えねェンじゃただの人間だ。能力者のガキなら、ただのガキになっちまう」
白髪の男が、気が付けばそこに立っていた
一方「だが、ただの人間だからこそ、頭ァ使って戦うンだよ。テメェら見たいになァ。いいハッタリだったじゃねェか、第三位」
666 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:19:18.50 ID:NevFLdj6P
「な、何をやりやがった?」
一方「能力者が能力を使った、ただそれだけだ。何も不思議じゃねェだろォ?」
唇を少々切っただけの御坂に比べて、ライフルと腹を貫いた弾丸によって男は苦悶の表情を浮かべる
「馬鹿な! あ、有り得ねェ! テメェら先にコイツを殺っちまえ!!」
何処に伏せていたのか、声を合図に一斉に銃弾が一方通行へ向かう
一方「折角頭使えってったのによォ、馬鹿共が」
一方通行へ向けられた、と言ってもその弾丸全てが全て彼に向かう訳ではない
当然、近くの御坂にも流れてしまう弾もある
単純な反射ならば、助かるのは彼だけのはずだが
そこに残ったのは、ハチの巣になってしまった男達と、唇から赤い血を垂らすだけの御坂、そして一方通行だった
一方「銃声が聞こえて来てみれば、妹達と思いきや、まさかオリジナルの方だったとはなァ」
御坂「嘘、なんでアンタは能力を使えるのよ」
一方「流石クローンだ。ガキと同じこと聞きやがる」
御坂「?」
一方「まァいい。俺に感謝しろよ」
御坂「私を助けた事を? 恩着せがましいわね」
一方「違ェよ。テメェを守るために、テメェ以外の全てを吹っ飛ばそうとでもしてた、あの大馬鹿野郎を止めたことに、だ」
腰を地面につけたまま身を起こしただけの彼女の前で、「これ以上破壊されンのは勘弁だからな」と言いつつ親指で指し示す一方通行
その先には、右手をこっちに向けた、険しい表情の上条があった
667 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:20:16.24 ID:NevFLdj6P
「やはり、ここにおったか」
響いたのは、年配の女性の声だった
「……昔はもう少しは凛々とした施設なりしも、今となっては廃れたものになりしね」
女王の数m前で、半ば崩れた施設のゲートを正面に立つのは、最大主教
その両腰には剣が一本ずつ備えられている
ローラ「あの時以来、ここに用が出来たのは禁書目録の時に少々参考資料を持ち出した時以外に思いつかなしよ」
エリザード「だろうな。ただでさえこんな地下の忘れ去られた場所であるのに、地上のハードな戦闘で、本格的にガタが来てしまったらしい」
それきり、彼女らの会話が止まる
最大主教も、ロンドン地下鉄廃線の脇に有るこの忌まわしい施設に入ろうともしない
別にみるべきものなどなく、ここに彼女が居るのも、そして二本のカーテナを持っているのも、全てはこの女王をここに呼び出すためであるとも言えるのだから
エリザード「返してもらおうか、その剣を」
数分の沈黙を、女王の方から切り出した
ゆっくりと振り返り、ローラは彼女の右側の腰にかかっている剣の持ち柄を差し出した
女王はそれを手に取り、一振り
淀んだ地下の空気を一掃するような衝撃が、その狭い空間内で壁に反射しながら流れていった
エリザード「……残念ながら、私が求めているのは、セカンドではないのだ」
普段なら、「あら、そう?」と茶化しそうなところである
が、代わりに最大主教は剣を渡して空いた手の平を胸元の高さで開き、そこに何かが現れた
薄暗いながらも、何かに反応したのか、施設のゲートの両脇に有る柱の燭台に明りが灯り、一匹の黒い鳥、ワタリガラスの骸が見える
エリザード「それは」
ローラ「ロンドン塔のワタリガラス。その最後の一羽だったもの」
エリザード「塔に飼われているその鳥らが絶えれば英国に災いをもたらすとされ、そしてその殺害はカラスに姿に変えられたアーサー王への反逆、つまりイギリス王家の源流への弓引きとなる、象徴か」
ローラ「そう。英国への、そして王家への反逆を扱うのに、これに並ぶ題材はテムズ川に沈みけるジェームズ2世の国璽ぐらいであろうな」
668 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:20:43.89 ID:NevFLdj6P
最大主教は直接言葉にはしなかったが、ハッキリしていること
それは、ローラ=スチュアートが現王家に対し反逆しようという意思があるということだ
エリザード「お前がカーテナを扱えるのはそういう理屈だったか」
王家にとって、君主国家にとって最大の不幸は何だろうか
それは、その王家の断絶。そして王家が断絶されれば、次の王になる者がその権力を引き継ぐ。それは歴史が証明してきた事だ
つまり、カラスを殺しアイルランドで内乱を勃発させ、統治4地方の力のバランスを必要とするグレートブリテン連合王国の土台を崩すことで
謀反を起こそうとする彼女にとって、イギリスと言う地が都合良く力と事象を与え、そして次王である彼女にも当然、国防の剣カーテナの使用制御は可能となる
カーテナ・オリジナルの発掘を影から支援していたのも、こんなことを最初から計画していたからか
そこまでエリザードの思考は簡単に辿り着き、しかし疑問が浮かばれる
エリザード「それだけの力を持って、天使すらも操って、お前は何がしたい。何を望む」
ローラ「愚問ね。この力を私に与えた、植えつけた、加えた、押し込んだ。それはエリザード女王、あなたも一因でありけるのよ」
エリザード「やはり、この場所で行われた、あの計画が原因か」
ローラ「そう。でも、私も同じ立場なら"天使の力"をも操れる言わば人間魔導兵器を作らんと計りたるわ。女王のその判断を、私は支持しける」
表情には特別、女王への直接的な怒りとかが有るわけではない
それはつまり、事が起こった背景を彼女自身も理解しているからである
ローラ「核兵器という国家の要の牙を奪われ、大陸との力の不均衡は開く一方。なれば、世間的には非公開情報である魔術面の技術に傾注、それにてフランスやローマと張り合いしを狙うのは自明の理であるわ。むしろ、そう来るだろうとフランスやローマも読みし所」
そして普通だった表情には、恨みとは対極の悲哀の色すら見えて来た
ローラ「しかし、それは国の都合。その犠牲になった二人、私ともう一人、孕みし我が子」
ローラ「子と言えど、それはまだ人の形とは程遠かったであろう。だが、その子供は、そしてその母は、個体としては適切だった」
ローラ「預言者も、そして救世主はも、所詮は人間。イエスを生みしも聖母マリア。つまり、新たな命を生みし子宮は、ともすれば神をも生む可能性を秘めたる神の宮」
ローラ「そこへ施術により霊装と術式を施せば、神に宿りし力を得たるやもしれない。全てが甘い、甘い希望でありけたな」
女王の方の顔色も、怒りなどではない形で、少しだけ曇った
ローラ「クロウリーをも交えて行いし計画は、結論、失敗に終わりける。今に到れど、原因は不明のまま。まるで神に拒まれたかの如く、未完の結末しか得られねど」
669 :
本日分(ry あれ、ロンドンまだ終わって無かったわ
[saga sage]:2011/07/15(金) 15:21:36.69 ID:NevFLdj6P
ローラ「だがそれによって、幸か不幸か、私に施されていた制御の術式も掻き消されてしまいしよ。そうでなければ子を孕みし経験すら私は忘れしものを、自らがどのように扱われ、我が子がどのように生まれることを拒まれしか、知ることが出来てしまった」
ローラ「中途半端な結果の為に犠牲となった私達。次の子すら孕めぬ現実と同時に得たのは、皮肉にも衰えを知らぬ我が身」
ローラ「廃棄するにも強過ぎ、核に変わる兵器としては今一歩。下手をすればイギリスへの新たな脅威となってしまいし可能性がために、それを抑えるに対価として最大主教の地位を寄越した。まるで信徒という子を、失った子の代わりに、導き助けろと言いしばかりに」
エリザード「……イギリス国民は、お前の子にはなれなかったのか」
ローラ「私を国の一角として見るならば、我が子も同然。なれど、それは立場が与える感覚であって、逆にその愛とも言えし感覚が私の恨みを忘れさせぬという帰結を招きける」
エリザード「それを怨んで、私への私怨でなく、国を滅ぼそうというのか」
ローラ「さっきも言いし通り、最大主教として国に恨みは無い。あなたの行動は評価する。私も立場が立場となりて、禁書目録の件でも私はその誕生から廃棄処分まで、私はあなたを支持しける。しかし」
ローラ「悔いはありけるの、ずっと。嫉妬はありけるの、能の有る王女を産みたる女王に」
ローラ「あなたが率いる英国を滅ぼすのは過程。失いしを取り戻すが為の」
過程。ということは、最終的に辿り着く結果が有るということ
エリザード「その過程を経て、結果にイギリスと国民は残るのか」
ローラ「私の目的は、あくまで取り戻す事。その子が育つ母国は、女王エリザードの治める国以外は御免だもの」
エリザード「ならば、王家断絶が確定しておる今、そしてお前の謀反が完成しつつある今、私はお前の行動を支持する番なのだろうな」
ローラ「自ら、その死を受け入れてくれると言いけるか?」
フゥ、と少し深い息を吐いて、そして女王は言ったのだった
エリザード「だがそれは、国主としての言葉だ」
と
エリザード「ウィリアムという名の傭兵に支えられていたヴィリアンは逝き、地下空間に拡がった光の中でキャーリサはその胸を貫かれ、リメエアの遺体も見付かった」
エリザード「お前が国の運営については賛同し、しかし一人の人間として、母としてその行動を採った様に」
「私も、娘を殺された母として、お前を許すわけにはいかんのだ。例え、敵いはしない相手であろうとな」
言って、彼女は最大主教から受け取ったばかりのカーテナ・セカンドを握り、オリジナルを持つローラへと、その全く切れ時の無さそうな切っ先を向けたのだった
670 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/07/15(金) 15:53:11.51 ID:omJUXcxmo
乙〜
泥沼だな……
671 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/07/15(金) 16:58:02.07 ID:qGEjYxnSo
世界崩壊中でもどちらも母としての生き様を選ぶのか。
悲しいがやむなしだな…。
672 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/07/15(金) 18:27:51.85 ID:Whwa6LIAO
銃フェラ御坂さん
673 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/07/15(金) 23:09:25.43 ID:GVMZLXPn0
HAMADURAはどこまで行くんだ……
674 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/07/18(月) 09:38:39.84 ID:5pU3caLAO
そういえば週2でやんのやめたの?
675 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/18(月) 16:45:33.34 ID:/rbwBi7SO
やろうとはしているがじり貧って状態なんじゃないか
676 :
やめたくはねーよ! 週1じゃあ公開露出が後悔露出だ! 意味がわからん! あ、今日は短めです
[saga sage]:2011/07/19(火) 10:10:53.38 ID:qc3MRVCnP
「ありがとう、一方通行。お前が居なかったら、どうなってたか分からなかった」
結構な距離がありながらも駆け寄って来て、御坂の無事を確認した上条が言った
その体には所々血のような染みが出来ていて、恐らく、拳や鈍器や鋭器とでも闘ったのだろうと予想がつく
一方「そォだなァ。本当に、何が起きてたンだろうなァ」
上条「あ、ああ、ええと。というか、何でお前がここに? それに、何で能力が使えるんだ?」
一方通行は、テメェが何をしようとしてたんだろうな、という視線を上条に向けていた
そしてそれが何かを見抜かれているような感じさえ上条はしたが、彼はそれを無視して尋ねた
一方「こいつらみたいなクズが多いンだよ。面倒なことになァ」
上条「だから、お前が見回りしてるってわけか」
一方「見回りなんて大層なもんじゃねェがな。ここに来たのも偶々銃声が聞えたからだ。だが、生き残ってる奴を探しにいろンな奴が出回ってンのに、そいつらが殺されちゃ意味がねェな」
上条「多いのか、こういうこと」
一方「まァな。お陰でギリギリの治安維持を頑張ってるアメ公共が悲鳴を挙げてやがる」
相「アメ公、アメリカ軍ですか」
いつの間にか上条のすぐ後ろにまで来ていた相
見たことのない人物の登場に、一方通行は眉をひそめる
一方「ンだ、こいつは? またテメェは新しい女はべらしてンのかよ。まァ、どっかの中学生な貧相な体じゃ、満足できなくても仕方ねェ――ッゴ!?」
全くの無動作から御坂が繰り出したボディブローは、そのまま一方通行の胸に刺さった
御坂「あれ、当った?」
一方「ってェな。鳩尾とか、……少しは容赦しろよ」
てっきり反射があるものだと思っていた御坂はいが居そうな顔をして、そして一方通行は腹を抑える
相(んん? 能力使用が有りながら、反射をわざわざオフにしている? この状況で? 考えにくいですね)
上条「こいつは、えっと、あー、親戚?」
一方「親戚だァ?」
相(あまり期待は出来ませんが、少々探りを入れてみますか)
677 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/19(火) 10:12:10.31 ID:qc3MRVCnP
御坂「そーよ。アメリカに留学してた、コイツの従姉」
上条や御坂が相手にしている後ろで、彼女は表面的には何もせず、しかし一方通行から発するAIMなどの超能力的な要素のアンテナとして、体をめぐる微小機械を彼へ向けていた
表面的には人間のようで、しかしその内実は人間の神経伝達に加えて、精密部品の発するような信号が大量に行き来している
一方「……ほォ? お前の親戚は皆、なにがしかの特殊性を持ってンだな」
相「!?」
疑いの視線が確実に向けられていた
上条「な、何をいってるんでしょうかね」
一方「隠してもムダだ。この女がどうおかしいのか、分かっちまうンだよ」
上条「分かっちまうって――」
一方「どけ、三下」
上条を押しのけて、彼は相の手に触れる。ほぼ同時に、彼はハン、と鼻で笑った
一方「やっぱ、テメェは人間じゃねェな。人の皮を被ってはいるが、根本的な所で違う。まァ、ここまで接近されても俺の事を調べ続けるその度胸は認めてやろォ」
相「……過ぎたマネをしました。詫びましょう。しかし、その分かっちまう、というのであなたはこの環境下での能力使用が可能なんでしょうか」
一方「ンなところだ。だが、この空間的な"幻想殺し"みてェな作用を、事前に予習する機会があったからってのもあるがな」
そのまま、視線は間横に立つ上条にスライドし、じっと視線を外さない
相(やはり、"拡大幻想殺し"をこの男の前で見せすぎたということでしょうか。あれは所詮、効果を発揮する前のAIMの拡散が大前提。その拡散自体をベクトル的に捻じ曲げられてしまえば、または違う方法で止められてしまえば、無効化出来る)
相(そして微小機械を用いたサーチ行為も、その電子情報の伝搬は人間のものではなく、異質な信号が行き来している。そこに気付かれてしまうとは……全て筒抜けというわけですか)
相(しかしながら、一方通行の能力はこんなにも万能なものではなかったはず。……この男も、当麻と同じく何らかの変化を?)
しばしの沈黙。それを割ったのは上条だった
上条「お前のことも気になるけど、一方通行。なんで学園都市はこうなっちまったんだ? 俺達がここを離れてる間に、何が有った」
見えるビルは必ずどこかが崩れている。そんな異様な光景を見渡しながら尋ねた
一方「そいつはァ俺達が教えて欲しい位だ。急にワケの分からねェバケモンに襲われたンだからな。LV5を示す比喩なんかじゃなく、マジモンの化け物ってヤツに。その前にも学園都市全体がおかしくなっちまってたが、それだけならこうにはならなかっただろうなァ。……麦野だって―――」
御坂「麦野? あの人どうかしたの?」
一方「おっ死ンじまった、らしい。俺は直接見たわけじゃねェが、な」
淡白に、彼は言った
678 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/19(火) 10:12:44.26 ID:qc3MRVCnP
「そん、な」と御坂はその先の言葉を失って、言った本人もその色の白さに拍車がかかって表情が青く沈む
上条「……そうか」
上条だって、それは同じだった。だが、その声は重い感情を現さなかった
早い話、軽薄にも聞えたのだ
なぜなら、それは考えられる事。あれだけの戦闘力を持つLV5であっても、人間
死ぬときは簡単に死んでしまう。悲しい、悲しいがこれは二度目なのだ
しかも、アメリカに行っている間に死なれたなら、自分はどうしようもないじゃないか
そう考えると、無力。そしてその原因がもしかしたら"前"で自分が行った行為が遠因なら
彼女を殺したのは、自分かもしれない
考えたくなかった。だから、その手の話に感情を出すわけにはいかない
もし仮に、AIの制御すらもなくなってしまった今の自分が、目の前で親しい人間の死を見たら
自分が自分でいられなくなるほどに後悔するだろう。今の自分は、限りなく弱い。だから相を失いそうになった時、そして御坂を失いそうになった時、彼は全力でそれを拒もうとした
それこそ、更なる大破壊を自らが引き起こしても
一方「そうか、だ? ……あンな非常事態に、テメェは何をしてたンだよ、"幻想殺し"」
その冷たい物言いに、一方通行は反応せざるを得なかった
なまじ、自らが無意識に意識している存在であるからこそ
上条「ちょっと、外に行ってたんだ」
一方「外だァ? そうか、さっきの飛行機だな。ハッ、一番キツイ時にテメェは居なくて、そして安全になった時にのこのこと帰って来たってワケだ」
御坂「ちょろっと、含みのある言い方するわね」
一方「だが、正論だ。テメェらが外で何をしてたかは知らねェ。これが米軍連中が言ってやがった"終末"ってヤツで、どうしようもなかったことなのかもしれねェが」
抑える気のない苛立ちを視線と言葉に交え、それは上条を貫く
一方「それでも、テメェらがあの窮地ン時に居なくて、ああいう化け物の退治に持って来いの力を持った"幻想殺し"って存在がなかったのは事実だ。テメェが居たら、麦野だってあんな無茶をしなかったかも知れねェ。……逝くことはなかったかもしれねェ」
御坂「そんなの、全部アンタの憶測じゃない。自分がどうにもできなかったから、コイツに当ってる、そうにしか見えないわよ」
一方「その通りだァ、超電磁砲。テメェは間違ってねェ。もしかしたら、世界中で同じようなことが起きてて、そしてテメェはそれをどうにかしようとしてたのかもしれねェ。馬鹿げたことを言ってるのも分かる。俺らしくもないこともな。それでもだ」
赤い目が、震えていた。少なくとも御坂にはそう見えた
679 :
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[saga sage]:2011/07/19(火) 10:13:27.17 ID:qc3MRVCnP
一方「結局自分の周りの事が一番なンだよ。親しい奴が居なくなる。頼れる存在が居なくなる。それを悲しいって思って何が悪い。そこに"たられば"を考えてどこがおかしい。それが感情ってもンだろうが!」
御坂「……アンタ、そんなにも麦野のことを」
数少ない存在を続けて失った一方通行のその感情に、混じり気は感じなかった
だからこそ御坂はその感情に同調に近い物を感じて、またも何も言えなかった
再度の沈黙。破るのは上条
上条「ごめん」
一方「……」
この謝りは一体何に対してか。一方通行の精神を逆撫でた事へか、それとも学園都市に居なかったことか
上条「だけど、俺だって万能じゃない。この右手で、"幻想殺し"で出来ることは限られてる。この身を二つに分けることも出来ねえし、出来ることにも限度が有るんだ」
上条「こんなことは言いたくもないし、認めたくない。でも、……事実なんだ。一方通行、お前に出来ることに限度が有るように、俺にだって限界が有るんだよ。その限界の中で、出来る限りのことをするしかないんだ」
ハッキリとした言葉で、やはり感情を押し殺していた
それを察したのか、一方通行も表情を戻す
一方「テメェに言われなくても分かってンだよ、ンなことは」
御坂が一方通行に同調したように、彼もまた上条に同調した
自らにもっと力が有れば、あの巨人を一人で相手に出来るだけの力があれば何とか出来たかもしれない
だが、そんな現実は有り得ないだろう。化け物は人間離れしているから化け物なのだ
人間を圧倒する存在に、人間で対抗できる訳が無い。しかも人質のように周辺に無力な人間が居たら、それこそお手挙げだ
だが、そのどうしようもない限界を超えられたら
一つの方法は、協力すること。それが言語と言う密度の濃い情報伝達が出来る人間の武器でもある
他に方法があるとすれば、それは人間を超―――――
一方「ハァ。……じゃァ、行くぞ」
御坂「行くって、何処に?」
一方「米軍のベースだ。テメェらもあそこを目指してたんだろ。案内してやらァ」
そんな彼らの上空を、もう一機の輸送機が着陸に向けて高度を下げていた
680 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/19(火) 10:14:04.96 ID:qc3MRVCnP
最初に動いたのは女王だった
向けた切っ先から、そのまま光の束のようなものが伸びる
それを最大主教は直線的な射撃と判断し、身を僅かに横へ動かして回避を試みた
エリザード「甘いぞ、ローラ!」
その光はそのまま後逸して施設のゲートを貫きつつも、女王の振ったセカンドに従ってしなり、鞭のように最大主教の体へ
光の鞭とも言えるそれの動き自体は、身との間僅か数十cmでありながら、最大主教は確認していて、避けることも出来なくはなかった
だが、その身にそのまま彼女は受けた
もちろん、彼女の剛とは言えない体は容易に薙ぎ飛ばされてしまい、地下鉄のトンネルに沿う様にして体が何度か派手に壁や床にぶつかる
ローラ「今のは、先程の」
少しよろめきつつ、彼女は線路の上で立ち上がった
エリザード「そうだ。あの枝の動きを学んだもの。悪くは無いだろう!」
もう一度切先を向け、射出。光が鞭となって最大主教を襲う
だが、二度も同じ攻撃を食らう程馬鹿ではない。そしてそんなことも分かっている
細く立て横に避け幅の少ない地下鉄のトンネルでの横薙ぎは、それこそ避けるには前か奥へ
剣で長い鞭を操りつつ、女王はもう片手で複数の水の飛沫を飛ばした
避けられる事を想定してなら、これはダメージを狙ったものか
ならば、迎撃すべき
手品のように袖から栞を取り出し、投げつけるとそれは空気の盾を作った
水の飛沫は空気の障壁に当り、バラバラに弾ける
ローラ(ただの水飛沫だった? いや、そんなはずは無し、これは!!)
瞬間、それはブァッと気体に、霧に変化する
681 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/19(火) 10:15:17.26 ID:qc3MRVCnP
明りなど、それこそ施設の前に灯った二つの大きくない炎のみのこの空間で、霧は視界を奪うに十分だった
霧を払うために右手を剣に手をかけた時、煙を割って間合いに入ってくる女王
右手でカーテナを構えるにも、左手で何かをするにも遅い。方法が無い訳ではないが
近接で一番早い攻撃は何か。そんなもの決まっている、肉体による格闘だ
壁に向かって横薙ぎに蹴り飛ばされ、体が壁にバウンドして戻って来たところを、更に掴まれて背負い投げ
施設のゲートの前にまで、最大主教は簡単に投げ戻された
ローラ「ッう! やりたるわね」
それでも、彼女は簡単に立ち上がる。そんな彼女へ、一歩一歩、歩んでくる女王
エリザード「どうした? やはり教会組織の最奥に引き籠り、しょうもない策謀ばかり練っていては、戦闘は苦手だとでも言うのか」
返答をしようとした時には、すぐさまにまた間合いに入られる。そういう隙の作り方
魔術ならば、どうしても最大主教に分が有るだろう。だからこその肉弾戦選択
最大主教が何をするよりも早く、拳が顔面に向けられる。わざと、ギリギリ避けられるラインで
目で追ってしまった最大主教は、顔を逸らしてそれを避ける。その目の動きが不味かった。視認範囲の死角である
元々ブラフでしかなかった腕を簡単に引き戻し、女王は、そのままの体の回転で強引に体を屈めつつ逆の腕をかなり下から振り上げる
強引に、それこそ強引に、女王のアッパーが、しかもそれは顎ではなく右腹部に吸い込まれ、彼女を他の地下鉄よりも少し高い天井へ押し上げる
普通の人間なら、骨折どころか下手をすれば体が千切れるレベルの力で天井にまで押し上げられ、更にバウンドした体が、引力に引かれる
もう一度食らえば、また何処かの壁に飛ばされる。これでは一種のスカッシュ(壁打ちテニス)のようである
落ちて来た女の体に、もう一度女王の拳が向かう。それこそ、体を大きく使った渾身のもの
しかし振り上げた手は、空を切った
エリザード(流石に、何度も許してはくれないか)
思いながらも、彼女は次に来るであろう衝撃を覚悟した
682 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/19(火) 10:15:50.25 ID:qc3MRVCnP
大振りで空を切った自らの体は明らかに的である
ローラ「流石に何度も喰らいたくはあらぬのよ」
言葉は後ろから。しかし、そっちから攻撃は来なかった
即座に振り向くと、次に備えた最大主教が立っていた
エリザード(なぜ攻撃をしなかった。今の隙ならば、数回壁に叩きつけるよりも酷いダメージを与えることぐらい出来ただろうに)
その理由など分からない。ともすれば、日和っているのだろうか
もしくは、同じ母としての怒りに、同情しているというのか
エリザード「舐められたものだな……!!」
言いながらも、どうにかしてこの間合いを詰める方法を捻ろうと頭脳をまわした瞬間
今度は、最大主教の方から近づいて来た
そして、その有り得ない右腕で殴りかかってくる
女同士の殴り合い。しかし、どう見てもキャットファイトと言えるような可愛らしいものではなかった
ローラ「舐める? これは、当然の評価をしだけの事」
エリザード「当然だと?」
幾度も見せつけられた女王の動きに、有る程度対応してくる最大主教
それでも、女王の方に分が有る
ローラ「そう。あの時、私を選びし時のように、同じ様に私は評価ししものよ」
ローラ「経験も技量も思考も知識も精神も、一流の女王陛下。恐らく、私が知りし中では魔術師としては指折りの強者」
エリザード「怖いぐらいに高評価だな。しかし、そんな私の攻撃を読んでくるお前という存在もそうとうなレベルと言う事だ!」
ローラ「元来の私だけならば、今頃手も足も出ず逃げ惑いたるところでしょうね!」
エリザード「それはどうだろうな! お前という存在が人工天使計画の被検対象に選ばれたのは、お前自身の素質も有ったのだ!!」
683 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/19(火) 10:16:47.32 ID:qc3MRVCnP
しかし、幾度も殴られ蹴られ掴まれるうちに、最大主教も徐々に動きに付いてくる
そうなればわざわざ近接での殴り合いをする必要など彼女にはなかったが、彼女達は殴り合った
エリザード「聖人とまではいかなくとも、強い魔力適正があり、そしてそれを正しく運用するだけの知識もある」
エリザード「力のあるものは良く良く観察されるものだ。あの計画が有る前から、お前のその強さは管理下だった。その事実が、お前がそれ程の存在で有った事を示している!」
流石にこのままのペース続けると、年齢と言う面でビハインドのある女王の分が悪くなる
それで彼女は一度ミスをしているのだから、一種のトラウマだ
最大主教が流れの中で引いたタイミングで、自らも体を引き、間合いを開いて同時に剣を振った
水平に拡がる衝撃が決まれば、最大主教は必ず隙をつくるだろう
その期待は、彼女がその手に握ったオリジナルによって衝撃ごと掻き消されてしまった
ローラ「だから私の身の変化を、懐妊を知りしか!」
エリザード「そうだ! 誰と何をしていたか、どのタイミングでまぐわったのかすらも完全に把握していたぞ!」
ローラ「流石、国家パパラッチと言う事でありけるわけね!!」
刃自体に殺傷能力のないカーテナ同士、直接斬り合うメリットは薄い
そんなことは両者重々承知していながらも、しかし彼女らは同じカーテナという剣で打ち合った
生まれた衝撃が、足元に打ちつけられていた線路を捻じ曲げながらひっぺ返し、ボロボロの施設には、表面上の装飾を施された効果など無視して、更なる亀裂を加えていく
しかしながら、そこにあるのはカーテナの序列、そして、根本的な力の序列
押し込むように最大主教が力を込めると、簡単に女王は押し飛ばされてしまう
ヒビの入って脆くなった研究施設の壁を打ち破り、女王の体は施設の内部へ
訳の分からない形をした霊装やら埃の積もった書類やらが散乱する
書類で滑った床から跳び上がり、自らのダメージを確認する
確認するも何も、体が痺れている
684 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/19(火) 10:17:20.25 ID:qc3MRVCnP
何度も喰らえない。次で決める、決まる
暗い施設の奥に逃げると、ほぼ同時に最大主教も女王が空けた穴から飛び込んで来る
エリザード「私は、お前への施術を早めた。私も女、腹の子を失う悲しみには共感できるものが有った」
どこからともなく、声が聞こえる。どう考えても、女王の言葉の音源は複数だった
何か仕組んだのだ。だが、下手に探査の術式を構築しようものなら、彼女は隙とみてすぐさま現れるだろう
ローラ「失ってない者が何を言っても軽きもの。そこに実感は無し」
エリザード「なんとでも言え。だが、腹が重くなる前に、自らの子を強く実感する前に、実行させたのは事実だ。成功後のお前は妊娠の事実すら忘れさせられる手筈で有ったため、そんな配慮は無意味だと主張する者もいたがな。もしかしたら、それが失敗の原因だったのかもしれん」
ローラ「そんな言葉を今更聞かされける所で、思い留まりしとでも思いしか?!」
エリザード「ほんの少しはな!!」
奇襲
確かに、そしてほんの少しだけ、最大主教は自らの過去について耳を立てていた
それはほんの僅かに、彼女の動きを鈍くする
最大主教に伝わった苦痛と共にあるのは、腹を貫くカーテナ・セカンド
握っているのは女王自身
エリザード「お前の評価どおり、私には経験も思考も有るからな。お前の過去と感情を煽っての奇襲を、悪い言い方をすれば姑息な方法を使わせてもらった」
背面からの声を聞き、最大主教はフ、フ、と息を置いた笑いをした
そしてセカンドの切れ味のない刃を両手で握る
たったそれだけで、最大主教の腹部を背後から貫いた剣は僅かも動かす事が出来なくなった
剣を手放すのも方法だが、そうすれば女王の力は更に低減してしまう
できはしない
ローラ「やはり、結局はこうなりしか。予想通りの結末でありけるな」
685 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/19(火) 10:18:05.09 ID:qc3MRVCnP
こうなる、とはどういう意味か女王には判断できない
このように貫かれることか、それとも、貫くと言う動作が示すこと、すなわちこの密着状況のことか
痛覚が女王の頭脳にとどいたのは、そのすぐ後だった。言うならば、自らを囮にした射出型のトラップ
エリザード「……治るハズのない右腕が再生していた時点で考えてはいたことだが。やはり、既に、お前は…」
女王に背を向けたまま、彼女は語る
ローラ「フィアンマによって人間の腕を否定されていても、それは所詮人間の腕を対象にしたのみ。悲しくも私には人間と天使の両面がありしからなあ」
そして、体の力が抜けるのを女王は感じた
ローラ「そして、如何に強き人間であっても、それが各霊装によって"天使の力"を扱えるようになったとしても」
ローラ「……人間は、天使に敵わない。これはどうしようもない事実。そして」
最大主教と同じように、背後から女王を貫くカーテナ・オリジナル。彼女の口からも、そして腹からも背中からも、溢れる血
それは最大主教には無く、女王にはあるもの。逆もしかり
もともと、彼女達の力はかけ離れていたのだ。言ってしまえば、最大主教は手を抜いていた
ローラ「……こうしてあなたを殺したることで、必要な要素は全て補充されたわ」
女王には既に自立するだけの力は無く、その身は直ぐにでも倒れそうだった。心の臓をも巻き込まれたのだ。どうしようもない
目に憎しみはもう感じられない。その表情の原因が、満足感によるものなのか、それとも他の感情によってもたらされたものなのか、はたまた単なる偶然か、最大主教には分からない
セカンドに貫かれたまま振り返った最大主教は、倒れかかって来たエリザードの身を抱きとめて、その息が途絶えるを看取る
そしてその顔に、数滴の、地下には降り注ぐことのない雨がはたはたと降った
686 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/19(火) 10:18:50.74 ID:qc3MRVCnP
寝息に誘われるように、彼はそのベッドまで一直線に、しかしゆっくりと近づいた
そして、彼女を起こさないように、横たわる体の近くに腰を下ろす
ギシ、という音が鳴って、ベッドはステイルの体重の分だけ沈みこんだ
「……ん」
彼の行動に反応したのか、少女は声を漏らした
一瞬彼は焦らされたが、少女はそのまま寝息を再び整え始めた。一安心である
寝顔、そこには苦痛の色は無い
寝息、そこには悪夢の気は無い
何の事は無い。彼女は無事だ。疑いようもない
寧ろ、こんな表情はそれまで見ることも出来なかった。ずっと、彼女の顔は色を無くしていたか、または苦痛の色だった
多分、フィアンマと言う男が、約束を守ったのだろう
そう思うと、なんだか体の力が抜ける。肉体的な疲労は無い。むしろ快活と言える
しかし、心的な疲労が、禁書目録の脱ロンドンからずっと動きっぱなし戦いっぱなしだった彼の心の緊張の糸が、一本ずつ切れていく
アニェーゼ部隊のシスター達のローブを継ぎ接ぎした、一先ず体を隠せるだけの布切れを身に纏ったまま、彼はフラッとそのダブルベッドに沈み込んだ
自然とまぶたが下がり、力が抜けていく
そして、いつの間にかその部屋には静かな寝息のコーラスが生まれていた
完全に彼の疲れた意識が睡眠の深みに落ちた後、もう一人の体が僅かにゆっくりと動く
少し、掛け布団の上から身を乗り出して、少女はその両手を彼の方へ向け
禁書目録の方を向いて寝ている男の首と腕に手をまわし
そっと
「おかえり、ステイル」
寝言のように彼へ呟いて、彼の胸の中で再び寝息を立てはじめた
687 :
本日分(ry 週2! 週2!
[saga sage]:2011/07/19(火) 10:21:08.82 ID:qc3MRVCnP
「私にかかっている、か」
薄暗い空間に、声が響く
「言ってくれるものだ。だが、確かにその通り」
逆さ吊りのビーカー内にゴポゴポと泡が生まれては、消えていく
そろそろ、この閉鎖的な空間に居る必要もないだろう。合理的な理由はなくなるのだ
「学園都市を作ったことも、更なる未来に約束されていた"終末"を強引に早めたことも、超能力に超科学という餌で資金を集めたのことも、世界中に妹達を配置させたのも、全てがこの僅か数十時間後の為」
「全てを無に帰す神なる存在を止めるために、信仰という制御術式装置を作り上げ、人から成る"救世主"を指し込んだ」
まるで、彼の記憶を指し示すかのようなグラフィックが彼を包むように消えては現れ、また消えていく
ここまで、長かった
「ここまでは、僅かな違いはあるが、計画の書き換えの必要はないだろう」
「最大の失策はサブプランの消失、そしてその昇天だが」
グラフの数値は全てグリーン、許容内
「メインプランが現存している以上、計画に何ら支障はない」
後は―――
「邪魔な石ころを破壊し、体制さえ築くことが出来れば」
「私の役目は、終わる」
このまま、前との相違が無いならば
アレイスター「喜べ、"今"の浜面仕上。君の出番は無さそうだ」
ようやく、私は終止符を打てる
688 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/07/19(火) 12:24:13.12 ID:Xb7w0y6AO
なんでフィアンマに負けたんだろう
689 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/07/19(火) 15:46:58.23 ID:wHHiSL2So
乙〜
さて、誰が勝つことやら……
690 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/19(火) 17:07:47.79 ID:jXMa7gr9o
佐天さんはどこにいるのか
691 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/07/19(火) 22:55:01.87 ID:48sEGbRno
まだかなまだかな
692 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/07/19(火) 22:59:08.58 ID:48sEGbRno
あ、ごばく・・・
来たばっかのスレに誤爆とかもうしわけない
693 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)
[sage]:2011/07/20(水) 00:08:27.14 ID:PUC7orFxo
一体ハマドゥラとは何なのか
694 :
はいはい無理でした無理でした
[saga sage]:2011/07/27(水) 03:22:39.85 ID:SDuGfqaSP
「どうだ、昨日から進んだか?」
宿舎の前で簡単なファイルを持って子供と戯れる女性に、フィアンマは話しかけた
彼女もまた、彼によって復活させられた、復活者だった
「確立された術式を、今更どうやって失敗しろと? どうぞ、リトルスケールレベルでの試作品です」
子供を違う場所へ向かう様に促して、彼女はフィアンマの方を向いて、一見ただの粘土細工にしか見えない物をみせる
菱形が幾つか連なったそれで、どうやら先程の子供と遊んでいたのだろう
フィアンマ「これは随分と可愛らしいサイズだ」
手に取ったそれをマジマジと見つめ、空に投げると、それはふわふわと辺りを漂う様にして浮かび、そして彼女の胸元へ帰って来た
なるほど、子供と遊ぶにはよい玩具だろう
「ははっ、お遊びですからね」
フィアンマ「曲がりなりにも秘術と呼ばれる代物なんだぞ?」
「あら、その秘術の礎を作ったのも、私達ですよ」
指して珍しさなどないモスクワの道を、彼らは歩き始めた
フィアンマ「そうだったな。だが、本来の条件を全て取っ払って実用的に出来たのは禁書目録の知識であり、俺様の改良の末でもある」
「元々の条件では、この"終末"にはそもそも不向き過ぎました。この"ベツレヘムの星"は」
フィアンマ「お前が言いたいのは、中核となるパーツに世界各地のローマ正教関連の宗教施設を集めるというやり方の事か?」
「はい。簡単に言えば、何でもかんでも破壊されるのが"終末"ですから。仮にローマ正教縛りでなく、十字教の施設、と定義を変更しても厳しいでしょう」
フィアンマ「そうだろうな。だが一応、この方法も理には適ってはいる」
「メリットとしては、その世界的規模という印を用いて、集めた資材の代わりに、逆に何かを送りつける。例えば十字教という特徴から、神の象徴を送りつけて遠隔的な破壊をもたらすことが出来る、などでしょうか」
恐ろしいことです、などと言うが、彼女だって元々は一種の殺人鬼では有った
695 :
定期試験って制度は消えるべき!でも出席点も駄目だ!
[saga sage]:2011/07/27(水) 03:23:32.05 ID:SDuGfqaSP
その恐怖は、人間が死ぬことよりも神の何かによる破壊に対してだろう
フィアンマ「"終末"なんて方法で世界が破壊されなければ、代わりに俺様がそれを行っていたかもしれないな」
そこまで見抜いて、彼は、ふざけた様な声で、しかしどこかに真剣さを交えながら言うのだった
「神の代わりに、世界の破壊者ですか?」
フィアンマ「いや、目的は変わらない。救世という意味合いも変わらない。ただし、神に代わって人類に分からせる必要は有ったかもしれない」
「あなたという絶対者の存在をですか?」
フィアンマ「絶対者? 笑わせるな。そんなものは必要ない」
それこそ、教師が生徒を諭すように、彼はポンポンと言葉を口にする
フィアンマ「ただ、人間と言う存在が如何な力を持ち得て、それが故に自らが危険な存在でもあるのか、という反省だ」
フィアンマ「そうなれば人間には、神なんて存在すら必要ない。俺様は、そう思っている」
これから救世主たらんとする彼の事を考えれば、言葉が意味するのは一種の自己否定
広げれば、十字教をも否定するようなものだった
「それは……」
どう返答したものか、とその魔術師が胸元のファイルを見ながら言葉を濁す中で、それは前からの声だった
「神の御業で遊びながら、神を否定するか。フィアンマ」
同じ感覚。何の事は無い、その言葉を発した彼もまた復活者だ
フィアンマ「おっ、アックア。俺様が考えていた予定より少し早いじゃないか」
アックア「やはり、貴様の思い描いた通りであるか」
声をかけて来た者とは対照的に、フィアンマの声は軽い。なんというか、からかっているようでもあった
何よりアックアの方の呼吸にあからさまな怒気が含まれていたので、彼女はフィアンマの方に目をやると、返答は先に行っておけ、と言うものだった
フィアンマ「いいや、少々ズレは有るぞ。とはいっても、お前と言う存在の性質上、俺様に必要な存在でありながら、操るのは容易なことでは無いからな」
696 :
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[saga sage]:2011/07/27(水) 03:24:11.96 ID:SDuGfqaSP
必然的にその予測は難しくなる、などと緊張のない声を続けると、反比例的に二人の男の緊張は強まった
まるで、その二人しか周りにはいないかのような雰囲気で、事実、並木道のそこには彼らしか見えなかった
ヴェント「ちょっと、私も居るんだけど? 肩慣らしとか言いながら面倒なことさせやがってさ」
自己主張するように流れた風によって、フィアンマの髪が揺れる
フィアンマ「面倒? テッラの回収はそんなにも手間がかかったか?」
ヴェント「手間も何も、馬鹿みたいに"天使の力"を溜めこんで、その癖そのせいで馬鹿になって大暴れよ。まぁその原因は殆どコイツなんだろうけどさ」
このモスクワにこの二人がいて、テッラがいないと言う事は、既に何処かへ預けて来たということだろう
そういう風な指示は確か昨日寝る前には出していた
フィアンマ「ほぉ。お前とテッラは随分と仲が良いようだな」
アックア「茶化すな」
フィアンマ「おっと、気分でも害したか? それはすまないな」
挑発的
アックア「害すも何もないのである。フィアンマ、貴様、何を狙っているのであるか」
フィアンマ「狙う?」
アックア「大方、今この"終末"を利用したもので有るのであろうが、死者の復活など、神への冒涜の極み。加えて、テッラなどという未熟な者を悪戯に復活させ、無意味な破壊と死を生じさせた」
フィアンマ「悪戯だと」
すこし、疑問符をにおわせる発音だった
アックア「それ以外に何と表せる? その上、貴様は神すらも否定するかのような発言すらしたのだ。悪戯的でなければ、悪魔的とも言えよう」
悪魔的、という表現に、思わずフィアンマは吹き出した
フィアンマ「ハハッ。俺様は何も悪戯で物事を進めたりなどしない。もちろん悪魔に心を売ったわけでもないぞ。何事も理由有ってのことだ」
アックア「ならば、テッラがもたらした破壊や死も全て貴様の考えの内だというのか」
697 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/27(水) 03:24:38.51 ID:SDuGfqaSP
仮に肯定すれば、この場で叩く。アックアはそうするつもりだった
フィアンマ「それは違う。テッラの行動そのものを全部把握出来る訳が無いだろう? 所詮、俺様も人間だからな。第一、"終末"の中ではロンドンなど勝手に消えてしまう。結果は何も変わらない」
アックア「結果が変わらなければ、何をしてもいいと言うか」
フィアンマ「俺様の本懐をロンドンだけの為に左右させるわけにはいかない。滅んでしまうのがロンドンだけならばまだしも、ローマですら滅んだ現状でどうしてロンドンだけの事を気にしろと言うんだ?」
言うとおり、"終末"は世界の破壊。ならば彼にとってただの一つの都市でないロンドンなど、どうして気にしていられようか
逆に言えば、アックアの方がそれだけロンドンに固執するだけの理由が、一人の女性の昇天があるからだろうが
ヴェント「別にアンタの言ってることを否定する気じゃぁないが、ロンドンが滅ぶとは、まだ決まってはいないわよ」
そんな二人の意識の違いなど気にせずに、彼女は言った
フィアンマ「ほう。なにか有ったのか?」
ヴェント「最大主教が予想以上だった、と言えばいいか。見慣れない天使なんか操ってやがったな」
その言葉に対して、思わず、フィアンマは「ほぅ」と声を漏らす
本格的に意外だったのだ。そしてようやく、ロンドンへの考えを始める
フィアンマ「もともとそう言う目的で弄られた失敗作では有ったが、さては俺様とじゃれた時に"天使の力"の制御方法でも学んだか。よかったな、アックア。ロンドンは無事らしいじゃないか」
そして出た言葉はまたしても挑発的だった
アックア「そういう問題ではないのである!!」
フィアンマ「もしかしたら、今なら俺様を倒せるかもしれないぞ」
飛び出してきた拳に、首を曲げて回避した彼は軽く言った
フィアンマ「俺様は超越的な絶対者ではない人間だからな。そしてだからこそお前の感情だって理解できる」
言いながら、アックアの腕を握って、ゆっくりと戻した
フィアンマ「理解できると言う事は、利用できると言う事でもある。現に、俺様は利用した」
アックア「何が言いたいのであるか」
698 :
後凄くどうでもいいけど
[saga sage]:2011/07/27(水) 03:25:12.48 ID:SDuGfqaSP
フィアンマ「アックア、お前には俺様に対する怒りの感情が必要だった。そしてお前は現に今それを持っている、そういうことだ」
アックア「操り人形にでもしたつもりか」
拳が飛んでくる訳ではないが、アックアの語気は変わらない
フィアンマ「それは一種、正解で、そして誤りだ。お前の中で俺様を壊したい程の爆発的な感情が有る一方で、復活者の性質上、無意識的にも意識的にも俺様に従うという側面が有るだろう」
それまでの少しふざけた様な表情を止めて、声もそれに準じた
フィアンマ「こんなことを言うのもおかしい気がするが、アックア。今は後者に従ってくれないだろうか」
そして今度の語気は、真面目すら通りすぎて、本当に頼みこむような言い方だった
アックア「何を、言う?」
豹変である
フィアンマ「前者を行うに等しい機会なら、必ず来る。それが俺様の最終的な目的でもある。だから、言い方を変えれば」
アックア「……それまで、我慢しろと言いたいのであるか」
フィアンマ「ああ、その通りだ」
首を縦に振ってそう言うと、しばらくアックアはフィアンマの顔をじっと見て
そして、フィアンマの横を通り過ぎた
ヴェント「まさか何事もなしにアックアが引き下がるとはね。拍子抜け」
そう言いながらも、ヴェントの声には安堵の気が含まれていた
それを見て、いつもの余裕を垣間見せる表情に戻って
フィアンマ「当たり前だ。こんなところで暴れては、ロシアの連中が可哀相だろう。ここに居る人間は、助かる為に集まって来ているのだからな」
と言って、彼は並木道を歩んだ。仕方が無いので、テッラの話題を振りつつ、ヴェントもその後ろを追った
699 :
フライパンで焼くタイプのから揚げって
[saga sage]:2011/07/27(水) 03:26:02.83 ID:SDuGfqaSP
「SHO・KU・DOH?」
思わず、上条はそのローマ字でデカデカと金属板に黒で書かれた文字を読んだ
第7学区の青空の下で、どこか薄汚れた幾つかの椅子と幾つかの机が置かれた広場
それが最もこの場所を現す言葉だろう。少なくとも、どこかの食堂とはかけ離れている
一方「食いモンと飲みモンに、座る椅子と机が有ンだから、十分に食堂だろォ? オラよ」
上条の文句をほおっておいて、彼はずかずかと奥へ進み、金属の箱から飲み物を一本、上条へ向かって投げた
上条「サンキュ。って、冷えてる?」
一方「電気はまだ生きてンだ。つーか、じゃねェとテメェの目の前にある食い物だって腐っちまうだろ」
と、上条がついた机の殆ど前に座って、さっき上条が貰ったコンビニ弁当のようなプレートを指す。その横には、軍用レーションの束も
まともな食事は幾らかぶりである。早速、彼はレーションの封を開けた
上条「そうだな。あー、この味、なんか懐かしいかも」
一方「軍用レーションが懐かしいだァ?」
上条「あ、いや、物珍しさで選んでみたんだけどさ、案外イケるもんだな」
一方「そりゃァ、不味かったらやる気もでねェよ。まァ、食いたいだけ食えばいい。備蓄食料はそれこそマジで腐るほど有るって話だからな」
上条「食べ物に事欠かないことはいいことですのよ。割とマジでな。でも確かに、学園都市の人口は元々200万以上居たんだから、それが減ってしまったら」
一方「なンだかンだで、大部分を外から取り入れて何とかしてやがる学園都市にとっては、食糧不足は死活問題だろォよ。それが安定してるから、ここの治安も保ててンだ」
言って、彼は適当に掴んだ缶のプルタブに力を加え、口へ持って行った
一方「ブッ?! これ、コーヒーじゃねェ!? 黒豆の塩辛煮汁とか、何処にも需要がねェモン作ってんじゃねェよクソが!」
上条「はははー。そう言うあからさまなハズレを見分けるのも、ここでの必須スキルだからな」
と、上条が封を開けてからすぐに飛んできたハエを手で掃いながら、彼は食事を続ける
一方「ハエは問題だ。この辺は片付いてはいるからまだマシだが、場所によれば一面ウジの海、なンつゥところもある」
700 :
なんで最終的にただの肉を焼いたものになってしまうん?
[saga sage]:2011/07/27(水) 03:26:56.89 ID:SDuGfqaSP
机にとまった一匹を、彼は憂さ晴らしに缶で潰した
上条「衛生的な問題ですなぁ。でも、食糧同様医薬品だって余裕は有るんだろ?」
一方「詳しくは知らねェが、生存者の捜索と同時にそういう物も探してる。続々と、までとはいかねェが、備蓄はそれなりに積ってるみたいだなァ。運が良かったのは、学園都市で使われる水準の医薬品はここでしか作れねェのが殆どだってことだ」
上条「つまり、外部からの輸入に頼って無いから、んでもって逆に輸出してるぐらいだから、数はあると。お、これも旨いじゃん。お前も食うか?」
一方「いらねェ」
上条「んー、上手いんだけどなぁ。……それで、具体的に何人生き残ったんだ?」
さァ、詳しい数は知らねェが、と一方通行が言いかけたところで、見知らぬ男がそばに立っていた
「重傷者300、軽傷者4000、その他2000。合計で約6400人の生存を確認している。正午を過ぎた今現在でこの数だ。多く見積もっても1万を超えるかどうかと言うところだろうな」
上条「あなたは?」
「あー、食事は続けてくれて構わないよ。僕はただの軍医だから。どういう訳か、生存者とかの情報管理をすることになってしまったがね。ちなみに、その内米軍は大体1000さ。思わず、君達の話題に反応してしまった」
一方「っつうことは、だいたい5千人しか生き残ってねェンだな、学園都市の人間は」
「それでも、数十人しか生き残って無いロサンゼルスよりはずっとマシだ。流石と言うべきかな。……もしかしたら、今のアメリカは他の都市ももっと酷いことになってるかもしれないが」
事実として、壊れた都市をいくつか見てきた上条は事実を述べていいのか悩んだ
「200万が1万以下まで下がった主因は、あの巨人だろうがね」
いくら傾けても水滴の降ってこない缶を吸う上条の横で、男は続ける
「停電や集団的な幻覚・幻影作用があったろう」
一方「そォらしいな」
「私もそう聞いている。そしてそれらが、我々アメリカ軍がこの学園都市を接収・占領する為の正当な理由の付けとして、アメリカに仕組まれたものだと言う事も報告があってね」
上条「……」
一方「ンだと?」
「残念ながら、今生きている米軍の生き残りには上級士官が居ないから、詳しいことは分からない。真相は闇の中ってヤツ。知ってるこの情報もただの伝聞だ。ただ、事実として先遣していた特殊工作部隊員の遺体なんかも見付かってる」
701 :
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[saga sage]:2011/07/27(水) 03:27:39.24 ID:SDuGfqaSP
一方通行の目が、指すように男を睨んだ
「軍医という立場上もそして今の立場上でも、こういう報告が数件上がって来てる。つまり、アメリカの工作で意図的に混乱がもたらされ、その混乱冷めやらぬうちに、あの巨人が現れた。こういう流れだったんじゃないかとね」
上条は口に肉と野菜を交互に運ぶ、のみ
「流れとしては最悪と言っていいだろう。しかし、どうもあのような存在が来ることまで、上は睨んでいたようでね」
一方「……ほォ」
「それが今の超常現象を無効化する一種バリアのような装置にも現れている。事故か何かでその中心制御ユニットが壊れてしまった為に、運用までに時間がかかってしまったらしい。まぁ、アメリカ第二都市のロスがああなったんだから、そう言う事を想定してることは考えられなくもないけれど」
男は、チューチューと飲み物を飲みつつ会話を続ける
「こういう事に付いて、謝ろうと言うつもりはないんだ。何も知らずにただ命令通りに連れてこられた僕達も、一種の被害者みたいなものだからね」
一方「土下座しろとは言わねェがァ。そィつは、少々虫が良過ぎるとは思えねェのか」
明確に苛立ちを浮かべる一方の前で、男は頷いた
「そう思うから、こうして君達に言ったのさ。私達の中では、この想定をどのタイミングかで公開するつもりではあるよ。身内の悪事なんていつまでも抱えてはいたくないしね。多分、君達にここまで話すのも、楽になりたいという僕個人の精神作用のせいだろう」
僕だって何時死ぬか分からないしね。だから、言えるうちに言っておけて良かったよ。君達にとっては、かなりいきなりだったんだと思うけど
そんなことを言う男の後ろに、他の薄汚れた白衣の男が走ってくる
「医者の数が足りない! 来てくれ、センセ!」
肩で息をする白衣が言うには、捜索隊が一気に数人の大怪我人を見つけた為に、時間交代では医者の手が足りないのだという
「すまない、急患だ」
一方「とっとと行ってこい、馬鹿野郎」
彼の発言を聞いて、男は肉をバンズで挟んだ適当なものを飲み物で押し流しつつ走りだした
それを肘をついた腕に乗せた顔で見送りつつ、一方通行は口を開く
一方「……やっぱりテメェにはこういうのも予想通り、ってかァ?」
上条「まぁ、な。巨人が現れたなんてのは考えてなかったけど。それが、ここまで学園都市を壊した主因なのか?」
702 :
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[saga sage]:2011/07/27(水) 03:28:08.81 ID:SDuGfqaSP
誰も得しない辛い飲み物を無意識に口に運んでしまって、一方通行はもう一度顔をしかめている
それが、ますます彼の言葉に重さを作った
一方「どのタイミングでテメェがどっかに行ったのか知らねェが、その通りだ。"幻想殺し"の壁がなけりゃァ、今頃ここも東東京なンかと同じ惨状だったろうよォ」
上条「俺が言うのも変だけど、"幻想殺し"様様だな。でも、さっきの人が言ってた通りだとしたら、そうしてまで学園都市を接収しようとした理由は何なんだろうな」
一方「さァな。だが、こンな状況になっちまった時点で、奴らにとっても大損だろ。本当に下の連中が知らないでこんな場所に来ちまったなら、確かに被害者って言い方も間違っちゃいねェ」
彼らが被害者と言う公式には、安全な本国の米国人、という形式が有る
本国でも同じように地獄なら、特別な被害者とは言えない
上条「学園都市に居なくても、多分、同じだ」
一方「あァ?」
上条「流石に学園都市の周りほどじゃないにせよ、得体の知らない何かの出現で都市が焼かれるのは世界的に起きてることなんだ。さっきの人には言えなかったけど、アメリカも相当酷いことになってる」
一方「そいつがマジだってンなら、それこそ人類全体レベルの災厄ってヤツじゃねェか」
上条「ああ」
一方「ああってオイ。……まさかテメェは、その為に外に行ってたってのか」
それなら、まだ納得できそうだ
上条「違う。たまたま行った先で、その事実を知っただけなんだ。俺がこの事態に付いて何かをした訳でも、……いや」
改善どころか、俺がやったのはその最大の原因なのかもしれない
ならば、自分以外の全ての人々が被害者だ
一方「いや?」
上条「あ、いや。ちょっと水とってくる」
席を立とうとした上条の横から、スと腕が伸びて水色の缶が机に置かれた
その少女の片腕は無く、代わりに機械のツールが備わっている
703 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/27(水) 03:29:00.45 ID:SDuGfqaSP
フレンダ「水は逆に貴重だから、元気そうな人はせめてヤシの実サイダーで我慢してほしい訳よ」
一方「よォ」
フレンダ「午前中はいつの間にか寝てたみたいで、悪かったわ」
一方「気にすンな。っーか、まだ休ンでたところで誰も文句はいわねェだろォ」
フレンダ「そうしたかったけど、なぁーんかうるさい音が何度も鳴って、目が完全に覚めちゃったって訳よ」
上条「うるさい音?」
プシッと音を立てて缶を開けながら、彼は尋ねた
一方「あァ、米軍の連中がまた打ち上げてたな。ありゃァ、確かに騒音公害レベルを簡単に超えてる」
上条「打ち上げるって、何をだよ」
一方通行が答えようとすると、更にもう一人、女が現れて、答えた
「隕石の迎撃システムですよ、当麻」
彼の母親に似た女である
上条「あれ、御坂は?」
相「ご友人の訃報を聞いて少々気落ちしてしまったようです。ちなみに関節の再生はほぼ完全でした」
彼らの横で、フレンダが誰? と尋ね、一方通行は「親戚だとさ」と答えつつ、もう一度あの不味い飲み物を口にして、そして吹き出す
飛び出した液体が少々フレンダにかかって、彼の頬は機械のアームに叩かれた。普通に痛いのレベルは超えている
上条「そうか、良かった、って言っていいのか」
フレンダ「つーか隕石って何よ。巨人の次は石ころが降ってくるって訳?」
試しに一方通行の煮汁を回し飲みしてしまって涙目になりながら、少女は尋ねた
相「ええ、残念ながら。しかも、途方もなく大きなものです」
一方「大きいって、どれぐらいだァ?」
704 :
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[saga sage]:2011/07/27(水) 03:29:37.75 ID:SDuGfqaSP
相「直径はおよそ、100km程度ですね」
フレンダ「……は? 100km?」
上条のサイダーを奪って口を直していた一方通行は、もう一度吹き出しそうになった
一方「ふざけンなよ。人類どころか生物全滅じゃねェか」
相「はい。余裕で消え去りますよ。なにしろ、恐竜を絶滅させたと言われる隕石のサイズですら10km程度ですから」
上条「ちょっと待ってくれよ。そんなもの、どうやって迎撃するんだ。映画みたいに核ミサイルとか撃ち込んで何とかなるサイズなのか?」
相「実際の所、核ミサイルなどを撃ち込んだだけでは殆ど効果は無いのですからね。普通に考えればどうしようもないです」
フレンダ「ちょ、落下予定とか分かってるわけ?」
相「だいたい二日後です。それまでにどうにか出来なければ、終わりですね」
一方「さらっと言うなよ。冗談じゃねェンだろ」
相「ええ。しかし、普通の考えを度外視したものが、この都市にはあった。一つはほぼ丸々吹き飛んでしまった第1学区に、そしてもう一つがここ第7学区に」
フレンダ「一体何、ソレ」
相「超強力なレーザー砲とでも言えばいいのでしょうかね。まるでこういう事を目的に造られたとしか思えない代物が、地下に在るんですよ」
まーたぶっ飛んだ話だな、と一方通行は思ったが、彼は確かにそれらしき光を何度か見ていた
その時は、まだ可愛いレベルの光の束だったが
相「それを使ってまずその隕石に穴をあけ、そしてその穴へ現存する技術では最高レベルの核兵器を撃ち込むのです。米軍が用意していたその弾頭威力は、およそ2000Mt。学園都市の技術で更に性能向上させる予定だったようですね」
上条「既存兵器とは桁が3から4つぐらい違うな。でも確かにこの方法なら出来そうだ」
フレンダ「だけど、なんでそんな物があるワケよ。結局、私達でも知らなかったようなことが、どうしてアメリカが知ってたのかも分からないし」
相「あまり長い時間は覗き見出来なかったので、そこまでは分かりませんでした。HAMADURAというセキュリティなのか何らかのコードなのか良く分からない部分が出てきて超えられなかったので」
フレンダ「浜面? そう言えば、結局どうなったんだっけ」
核融合炉が人為的に暴走して吹き飛んだ第一学区から、絹旗や滝壺を運んだ存在が仮に彼だとして、その後どうなったんだろうか
705 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/27(水) 03:30:14.88 ID:SDuGfqaSP
その名前を聞くのは、それこそ滝壺の寝言ぐらいなものだった
相「人名だとしても、偶然の一致でしょう」
一方「とにかくだァ。アメ公の連中が強引な方法でここを占拠しようとしやがった理由には十分だな」
上条「だけど、それならわざわざ工作してまで占領する必要は無いんじゃないか。交渉とか、話し合いで何とかなりそうだ」
フレンダ「結局、アメリカの方が無茶な要求をしたのか、それか学園都市の側と折り合いが付かなかったとかじゃない? そもそも誰と誰がこういう時まず話し合うのか分からないワケだけど」
さて、誰か。アメリカ側はそれなりのポジションの人間だろうが、学園都市の方は
相「超巨大高出力レーザー砲の存在は秘匿だったことを考慮すれば」
一方「間違いなく、統括理事会の連中の誰かが噛ンでるだろォな」
ともすれば、自分が殺した理事だろうか
フレンダ「でも、どっかの暗部の誰かさんが一人暗殺されるぐらいだし、理事会だってゴタゴタしてたわけよ」
上条「なら、考えられるのはその頂点。統括理事長か」
統括理事長と聞いて、一方通行には反応するべきことが有った
一方「おィ、幻想殺し」
上条「どうした?」
一方「打ち止めがぶっ倒れた時の解決策は何処から仕入れて来やがったンだ?」
上条「そう言えば、あの子はどうなったんだ?」
言われて、まず上条は打ち止めの事が気になる
フレンダ「うるさいぐらいに元気なわけよ」
一方「いいから言え」
その表情は煮汁並みに深かった
上条「まさか、俺が教えた方法に何かあったのか」
706 :
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[saga sage]:2011/07/27(水) 03:31:26.25 ID:SDuGfqaSP
一方「……簡単な話だァ。脳ミソだけの第三次製造計画とか言う妹達に負担を丸投げる。アレは、そう言うやり方だった。さァ、誰だ。テメェは何処からあンな情報を仕入れた」
その時、行動していたのは上条ではなく上条の中に居たAI、この場でいえば相
彼女は申し訳ない、という表情を向けていた
上条「統括理事長だ」
AIの女を責めるつもりもなく、そしてその責任は自らに有ると言う表明として、彼はきっぱりと答えた
一方「やっぱりか」
完全に全てを平らげて、彼は箸を置いた
上条「俺にはアイツには聞き出さなきゃならないことが有る」
一方「妹達以外のことで、か?」
上条「ああ。だから俺は会わなきゃならない」
一体どうやって? 前みたいに相手をしてくれるかどうかは定かではない
だが、例え相手が拒んでも、あのビルを破壊してでも入ってやる。そして、この"終末"を問い詰める
そういう強い意思をはっきりさせて、彼が立ち上がった時
「そうか。お前もか、当麻」
と、聞いたことのある大人の、父親の声がした
707 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/07/27(水) 03:32:33.08 ID:SDuGfqaSP
「貴様、何をした?!」
ロンドン地下鉄を進んでいたところ、後ろから声がした
彼女にとっては聞きなれた声で有り、そしてその男の手には冠が一つ。エリザードのものだ
ローラ「言葉だな。私は英国の王なりけるわよ。特別威張ったりしたい訳ではなきたるから、別にその物言いでも構わないけれど」
団長「王だと!? ということは、やはり」
ローラ「……この世からエリザードの血は絶えしこと。これ以上は言わずとも分かりしよね」
腰には、一振りの剣。右手にも一振りの件
失ったハズの右腕に握られた剣からは、光が発せられ辺りを黄色く照らしている
団長「こ、この光は」
今は照明用に使っているものだが、これはもともとは王家のセレモニーにて使用される、儀式用のソレ
無意識に敬意を向けさせる作用を持ち、そしてえも言われぬ光をだすには、未だ科学の光りでは無理なのである
そしてなにより、この光を扱えるのは、王室派のみ
ローラ「陛下、などと呼ぶ必要はなしたるが、命を聞くかしら?」
団長「……なんなりと」
向けていた剣を下げて、彼は膝を付いた。その仕草で、彼女は満足して近づいた
ここからの奇襲だって有り得るが、だからなんだというのか
ローラ「よし、ならばこの剣をその手にとって欲しい」
差し出したのは、カーテナ。しかも二本ともだった
団長「な……?」
ローラ「王は君臨すれども統治せず」
708 :
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[saga sage]:2011/07/27(水) 03:33:21.50 ID:SDuGfqaSP
驚愕の顔をする騎士団長の前で、彼女はその二本を地面に突き刺した
ローラ「議会政治を認める上に辿り着きたるこの言葉。さて、統治とは何ぞや。そこに国防は含まれるか」
団長「統治の権利と国防の義務は表裏一体。切っては切れぬもの」
ローラ「その通り。当然、そこには含まれしよ。なれば国を守りたる象徴でありしこの剣を持つには、真にお前が相応しいのではないかしら?」
カーテナを用いて、この国を守れ。この女はそう言いたいのだろう
一見筋は通っているが、それが意味するのは
団長「王の責任を投げだすのか」
ローラ「それとは異なりしよ。王の責任で任命するの、この剣をその手に握っても良いとな。議院内閣制においても、建前ではその任命権と責任は女王に帰しもの。それと同じ事よ。さぁ、剣を」
促されて、彼は立ち上がり、そしておずおずとセカンドの方を握った
そこからダイレクトに伝わる力が、まるで金属の塊である剣ではなく、羽根をつまんでいる様な錯覚すらを彼に与えた
ローラ「……私はエリザードのように万能ではないわ。政治的な判断は出来なし訳では無きたるけど、それでも彼女に比較したら拙さは拭えない」
彼女は何かの仕組みをこの剣に与えたのだろう。そう予想をして、彼は彼女の方を見る
ローラ「なれば、適材適所。この私が好かぬとありしでも、残り僅かな国民を全力で守れと言われたれば、お前は全力を持ってするであろう?」
団長「国を守ることを私に任せた上で、それでは一体何をするつもりなのだ?」
ローラ「正しに行くの」
団長「一体、何を」
ローラ「エリザードなら、簡単に全てを、と言う所でありしけるでしょうけど」
自分には、そこまでの責任感も、そして能力も無いだろう。魔術的な要素以外で、自らは劣っているのだから
「たった一つのことだけ。それが、私が王を奪ってまで行いしことなのよ」
言って、彼女は騎士団長の目の前から消えた
709 :
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[saga sage]:2011/07/27(水) 03:34:06.54 ID:SDuGfqaSP
ロシア・モスクワ
そこには既に、地名など関係ない
なぜなら、そのモスクワという地名を持ったその広大な地形的空間を、それこそ全て、丸々含んで
ヒョイと言う程に簡単では無く、しかしゴゴゴという地鳴りが聞こえるわけでも無く
殆ど無造作に、しかし確実に、ロシアの大地が切り取られ、浮かび上がったからである
そのまま簡単に、幾つかの菱形を繋ぎ合わせた形で浮かび上がった巨大過ぎるモスクワは、大気圏すら通り抜ける
例えば、川は切断された。しかし、その流れは何処からともなく続いている
例えば、大気の繋がりは切断された。しかし、その流動は真空空間で闇雲に拡散しない
なんのことは無い。そこは、地面と変わらないモスクワだった
「何かの儀式を行う上で、一番必要なのは何か」
たいして変わり映えのしない窓の外の光景を見ながら、フィアンマは語る
フィアンマ「荘厳な装飾のある大聖堂? 着飾った司教や司祭、あるいは神父?」
その部屋に居るのは一人の少年と彼の侍従
座ったソファの前にある机の上には温かいロシアンティーがあり、当然毒や薬など入っていない
フィアンマ「本来の信仰に、そんなものは必要ない。一番必要なのは、何かを信じる人間とそれを導く人間、そして彼らが立つ大地だ」
総大主教「確かに、十字教の伸展の中では地下墓地での布教すらも有ったな」
710 :
本日分(ry
[saga sage]:2011/07/27(水) 03:34:35.92 ID:SDuGfqaSP
フィアンマ「その通りだ。そして、最も原始的で、しかし最も重要で、最も良い儀式場はローマのような場所では無いんだよ」
振り返ってフィアンマは少年のような容貌の彼を見た
フィアンマ「さぁて、総大主教殿」
その声には敵意もなければ敬意も無かった
フィアンマ「この俺様を、ロシア成教の頂点の、更なる上の存在であると認めて頂こうか」
フィアンマ「そうすれば、この"ベツレヘムの星"であるモスクワは俺様の意思の元、その信徒達を認め、そして」
すたすた、とゆっくり歩きつつ、彼は総大主教の前のソファに、特別な雑作も加えずに座った
フィアンマ「"終末"と言う名の大災害からお前達を救う"ノアの箱舟"として正式に機能を始める」
果たして、この男の言うとおりにしてもいいのか
総大主教の頭の中は、ひたすらに悩む。恐らくコレが最後の抵抗できるチャンスだ
しかし、頷く以外の選択肢など、肯定以外の選択肢など、最初からなかった
総大主教「……わかった。その為の儀礼も、我々は認めよう」
その言葉を聞いて、フィアンマは少し笑みを浮かべて
「そうだ、喜べ、モスクワの民よ。お前達は、この俺様による救世の目撃者として、あるいはその失敗の保険として、選ばれたのだからな」
と、少々興奮気味に言った
711 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/07/27(水) 06:51:04.54 ID:tzLQgP2io
乙
フィアンマだけじゃなくて、☆にローラに当夜もいるんだよな……
カオス
712 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/28(木) 11:11:57.79 ID:KDuG4oJ10
乙
こんがらがってきた
713 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/07/30(土) 20:14:38.71 ID:6GZZ8GXAO
ラピュタモスクワ
714 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:22:53.32 ID:OC/qdsK9P
凄くシンプルにまとめると
・残存都市
モスクワ(浮上都市)
ロンドン(都市機能残念)
学園都市(生きてるインフラもあるでよ)
※他はもう全部吹っ飛んだと思って下しあ
・残存人類
モスクワ周辺の人々・ロンドンの生き残り・学園都市の生き残り・世界各都市で生き残ってしまった人々
※だいたいどんな所にも妹達の個体が居たりする
・残存ラスボス候補
統括理事長(in学園都市)
最大主教(inロンドン?)
神の右席の指導者さん(inモスクワ)
親父(in学園都市)
・読んでてこんがらがった人用
アレイスターとアレイスターっぽいの
エイワスとエイワスっぽいの
計4人が居たりしますお
715 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:39:41.88 ID:OC/qdsK9P
「先程の方に付いて行かなかったのですか、お姉さま」
沈みゆく日の方向を向いていたので、白井に御坂の表情はよく見えなかった
御坂「空気、読んでくれたんでしょ。多分」
白井「そうですか」
声の力無さが、今という現実が夢のような気さえ、彼女には感じられた
御坂「……ねぇ、黒子」
白井「なんでしょう」
御坂「私がここを離れてたってのは、間違いだったのかな」
特段、震えた音でもなく、ポツリポツリといった歯切れの発声
白井「……結果だけを言えば、お姉さまがあの場に居ても、あまり変化は」
答えた白井も、同じような空虚さをもった声で答える
白井「あの麦野という方と初春の決死の行動以外に、私達には為す術など無かったのですから」
御坂「でも、私が居れば、電装系の制御も出来た。初春さんへの負担だって軽減できたかも知れない。それに性質が若干違うとは言っても、第四位のサポートだって」
先日とは打って変って、彼女らが見る夕日は静かだった。時折、ズジュゥ!という鋭い音と光が空に伸びたりしてはいるが
そんな時。病院として扱われている施設の、半分程吹き飛んだ屋上で、コツ、と誰かが近づく足音
彼女らは反応して、支給された拳銃に手を伸ばさざるを得ないのは、この現実が現実だと印象づける
絹旗「たらればなんて言っても、超意味なんてないんですよ」
白井「絹旗。あなた、まだ休んでおいたほうが」
絹旗「同じ言葉をそっくりそのままお返ししますよ。こうも埃っぽくて防音もへったくれも無いんじゃ、超眠れるわけありません。じっとしてろって言われても無理ってもんです」
確かに、と白井は同意する。彼女も同じようなものだった
御坂「……たられば、かぁ」
白井「終わったことを悔やむなということですのね」
716 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:41:03.37 ID:OC/qdsK9P
絹旗「まぁ、結論だけ言えばそうですね。例えば誰か男を落としたいと思って、媚を売ったり演技をしたりとか、キャラに超合って無いようなことをするのって在りますよね」
白井「常日頃お姉さまに対しては行っていますが、効果はあまりないですの」
御坂「アンタのは露骨すぎんのよ」
絹旗「……えーと。で、でもそれは、結果がまだ超予想出来る範囲だからじゃないですか。告白とかした所で、見えてるのは可か不可の二択。それを根本的に超える、例えば3流映画にありがちな告白した人がイキナリ人狼とかゾンビになっちゃうようなイレギュラーなんて、本当にどうしようって話なんです」
足元の小石サイズのコンクリートの塊を拾い上げ、御坂はそのまま眼の所まで持ちあげて、放す
何の事は無い。足元へ再び落下した小石は僅かに撥ねると、適当な方向へ転がる。どこへ向かって転がるかは分からないが、それが落ちて何処かへコロコロと進むのは想像どおり予想通りだ
一方通行のような能力による想像離れした動きは無い。もしあったっら、急過ぎて一瞬混乱するだろう。つまりそう言う事だ
絹旗「だから第三位が悩むのは時間の超無駄な訳です。学園都市外に出てたのに理由が有ってのことなら、超尚更。一々そんなこと気にしてたら、何が起きるのか根本的にさっぱりなこの先、対応できないですよ」
白井「そう考えると、ハッキリと死が分かってしまっている分、初春の事は私達にとっても良いのかもしれませんの。春上さんを始め、佐天さんなどは殆ど死が確定したような行方不明ですし」
絹旗「麦野だって死体は見付かって無いままです。恐らくは、あの漏れだしてセラミックみたく超固まった電解質の中なんでしょうけど。でも佐天涙子のことなら初春が死ぬ前に何か言ってませんでしたか?」
白井「多分、体力的な余裕のなさが見せる幻覚ですの。大方、逃げ惑っているクローン個体の方と、化け物の片割れの像を重ね合わせてしまったのでしょう」
まぁ、そう考えるのが超普通ですよね、などと頷く絹旗
御坂「クローン体って、黒子達も見たの?」
白井「ええ、丁度この病院内で幾度か。あまり多くは生き残って無い様ですが。武器の使用に長けているようですから、能力使用が出来ないこの環境下でお姉さまのクローン個体と一緒に、アメリカ軍の残党の方々と協力しながら生存者と必要物資の捜索をしているそうですの。もう日も長くないですから、そろそろ帰ってくるかと」
御坂「……そうなんだ」
相槌を打ちながら考えて、彼女は既に妹達という自らのクローンが局所的な環境と言えど、一般的に知られてしまったということを把握する
御坂(この状況じゃ、隠すことなんてできないわよね。黒子には前からバレてたし。今更かな)
そんな様子を見て、一呼吸置き、絹旗は提案をする
絹旗「とりあえず、食事にしません? ベースの方でまともな食事を配給してるはずです」
御坂「……そうね。ずっと食べてないし」
白井「何か食べれば、きっと気分も良くなりますの。でも、滝壺さんはどうします?」
絹旗「帰りに何か持ってきますよ。ここで出る食べ物と点滴だけじゃ、お腹は超満たされないですからね。治るもんだって治らないです」
717 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:41:36.68 ID:OC/qdsK9P
上条「父、さん?」
食堂の入口からの声へ目を向ければ、そこには父親が立っていた
刀夜「久しぶりだな、当麻。ちょっと前にスイスであったけど、あの時はろくに会話も出来なかったからな。すまなかった」
上条「いや、そんなことは。っていうか、なんでここに居るんだよ?」
少なくとも、"銀貨"の目的は米国であって日本では無い。疑問は当然と言えた
偶々、避難してきたとも考えられるが
刀夜「うーん、話せば長くなる。とりあえず、同じ国の人間が困っているんだから、それを助けようと言うのに理由はいらないんじゃないかな」
相(同じ国とは、日本のことを言っているのでしょうか。それとも、自らが所属しているアメリカのことなのか)
上条の方には背を向けて、彼へ近づいてくる刀夜の言葉に彼女は耳を立てた
上条「でも、その、えっと、大丈夫なのか?」
言い方がどもってしまったのは、的確な言葉が見付からなかったから
米兵がそばに立っていて、しかもそれなりに混雑し始めたこの空間で、"銀貨"の事を口に出していいものか、という配慮の為だ
刀夜「銀貨の事なら、幸か不幸か、知る者は皆亡くなってしまったらしいんだ。生き残った米兵に昔の知り合いが居て、彼らの苦境、というより今の学園都市の苦境を知ってね、協力しようと思ったんだ」
上条「そうなのか。それは、心強い、かな」
この状況下で父親への疑問は自然な反応だったが、しかし彼と彼の父親の親密度合いを考えれば、疑惑の念は彼にとって不自然に感じるものだった
相「当麻、こちらへ」
いつもとは少し低い声で、彼女は背を向けたまま呼びかけた
そのまま、刀夜達が入って来た食堂の外へ誘導する
上条「どうしたんだ?」
相「設定上、私はあなたの親戚です。ということは当然私の存在を上条刀夜も知っていなければなりません」
718 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:42:08.58 ID:OC/qdsK9P
上条「……あ、そか。一方通行たちに怪しまれちまうか」
相「はい。なので私はしばらく席を外します。その間に口裏を合わせておいて貰えますか。隕石迎撃について、装置のサポートも兼ねて、調べてきたいのです。研究者達がちらほらとここに見えると言う事は、その分だけ迎撃装置制御の周りにも人がいないハズですし、取りつきやすいかと」
上条「わかった。父さんは俺が何とかするよ。うん、お前の力で、少しでも性能があがればいいな」
相「はい、尽力します。では」
言って、彼女は上条に背を向けて少し早足で彼から離れていった
安全管理の為に定期的な間隔で立っている米兵に声をかけつつ向かう彼女を見送って、上条は食堂という名の天井すらままならない場所に戻る
ほぼ入り口で、父親は周りの老若男女問わない相手と言葉を交わしていた
上条「あのさ、父さん」
と言いながら近づく上条を見て、刀夜は、あ、と間の抜けた音を漏らした
刀夜「しまった。当麻を世話してくれてありがとうと、彼女に伝えられなかったな」
上条「え?」
刀夜「お前がさっきまで話をしていた女性だよ。すぐ近くで見たら、やはり詩菜に良く似ていたな。流石は血縁といったところか。だろう? 当麻」
上条「まさか、見抜いてたのか」
驚く上条に対して、刀夜は、もちろん、と言う
刀夜「ちゃんと紹介してくれればいいんだよ。彼女は私にとって二つの意味で縁があることだし」
上条「……二つの意味? 母さん以外で?」
刀夜「そこまで気にしないでいいさ。しかし、そろそろ日も完全に暮れそうだけど、お前はどうするつもりだ?」
上条「どうするつもりって、何を?」
刀夜「さっき統括理事長の所に行くと言っていたじゃないか。行くなら早い方がいいよ。彼も忙しいだろうからね。例え今直ぐでなくとも、行くなら用事のある者がバラバラに行くより、少しまとまって行った方が良いと思うんだ」
上条「ってことはもしかして、そっちも理事長に何か言う事が有るのか?」
719 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:42:49.11 ID:OC/qdsK9P
刀夜「ああ。迎撃装置が問題を抱えていてね。それを解決するには、彼と話し合う必要があるらしい」
どの時期に来たのか分からないが、迎撃装置は上条もまともに知らなかった要素。超高性能AIとそれが自立的に操る体という要素がなければ得られなかっただろう
情報収集が恐ろしく早いのか、あるいは元から知っていたか
上条「そうなのか。でも、俺は」
言葉尻を少し濁す
刀夜「個人的に話がしたいのかい? それについては私もさ。だが、相手をするかしないかを決めるのは向こうだ」
刀夜「一人一人では追い返されるかもしれない。それによってそもそも対話できないんじゃ意味が無い。ならある程度の集団で行くのも手だ」
はて、どういう事だろうか
上条「でもそれって向こうが判断するってことの解決にはならないんじゃ?」
刀夜「逆だ。行くメンバーの中に彼が話をしたいような重要人物が居れば、他の人間も相手にしてくれる可能性は高まるだろう?」
「例えば」そう言いながら彼は親指を、食堂の中央付近でフレンダの左腕義手の役割をしているガジェットによってしきりに突かれている一方通行の方へ、向けた
上条が確実な情報として知っているのは、一方通行も妹達の件で直談判したいということだ。誘えばついてくるかもしれない
そんな思考に横槍として、声が飛んでくる
青髪「刀夜さーん。治療終わりましたでー」
上条「青髪ピアス?」
声の方向を見れば、間違いなく彼だった
青髪「ってかみやーん。と、うへぇ、一方通行までおるしっ!?」
女と共に出入り口まで駆け足で近づいて、そして彼は思わず彼に治療を必要とさせた存在に対して声を出してしまった
運の悪いことに、その位置では一方通行からも見える
一方「……あァ? テメェは」
720 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:43:20.85 ID:OC/qdsK9P
当然、見付かってしまい、あわわとか言っている青髪の方へ、一方通行は歩みを進めて来た
結標「あなた馬鹿なの? なんでわざわざ声出して自己アピールしてんのよ」
青髪「いやぁ、く、クセ? なんかもしれへんなー。……助けてかみやん!」
と、周りを見渡した結果盾になってくれそうな物体KJの背の後ろに立って、強引に彼の向きを一方通行に向けた
上条「ちょ、俺を盾にするなって! お前らに何が有ったか知らないけど、マジ冗談じゃなさそうな顔してこっちに来てるんですけど!?」
青髪「そこは気合やで!」
上条「意味が分かりません!?」
そんなあたふたとする二人を尻目に、傍らの大人が彼らと一方通行の間に割って入った
一方「ンだァ、おっさン?」
刀夜「悪いね、彼は私の部下なんだ。私に免じてここはひとつ」
間髪いれずに、一方通行はその大人に対して拳を叩きつけた
余裕のなさは、なんとも言えない違和感の潜在的な恐怖によるものかもしれない
能力的に表面的な威力よりも内在的なエネルギーを高めた拳は、恐らく刀夜の腹を貫く程度は出来そうな拳は、しかし彼の右手にパァンと小気味の良い音を立てて吸いこまれ、受け止められた
刀夜「おっと、ボクシングかな? もう少し若ければスパーぐらいは出来たかもね」
一方「ッ、なァにが免じてだ。気味の悪いものを垂れ流しやがって」
別に何か体臭とかでは無い。生臭い臭いは、それこそ学園都市中の大量の死体から発せられているだから、誰か一人が汗臭いとか気になろうか
つまりは、一方通行だけに見える歪な力の流れだ
刀夜「おおっと、それ以上言われるのは困る。しかし、こんなところで私なんかへ無意味に怒りをぶつけるぐらいなら、そのそもそもの原因に直談判しにいくべきじゃないかな」
一方「ンだと?」
刀夜「君が怒る理由は大体想像がつくしね。君も当麻と一緒に行こうじゃないか」
721 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:44:18.96 ID:OC/qdsK9P
「日が、傾いてきたな」
ついぞ最近、ようやく自らの名前に付いて定義をした存在も夕陽を見ていた
「そんな感傷的に言う事なのかね。毎日繰り返される、日常的な光景のはずだ」
「それはそうなのだろうが、しかし、なんだか沈む太陽を見るのは風情と言うか、そういうものを感じてしまうよ」
思わず、ほぅ、と彼女の傍らの存在は驚意を込めた息を吐いた
「そういった感覚は残っていたんだな」
「らしいね。しかし、今のこの様はこの世界の日常なのか?」
彼女の言うこの様というのは、荒廃し所々でハエが集り悪臭を発するこの学園都市についてだ
「そんな訳は無い。もしそうであるなら、私はこんなことをしていないし、とうの昔に人類など滅んでしまったことになる。こんな光景を見たことのある人間はいない。戦争を除けば、初めての経験だろう」
「ふむ、考えてみればそうだな」
同意しつつ、彼女は風によって流される髪に指を流した
「……ただしそれは、ただ二人を除いての話だ。二人と言っても、楽園を追放されたアダムとイブとは異なって、地獄からある種の地獄へ落ちて行った者の話だ」
「アダムトイブ?」
「まさか、そんなことも知らないのか」
「仕方のないことだよ。言うなれば私は、生まれたばかりの赤子と同じ。感覚的な記憶を除いて、私が反応出来るものは今のところ無いのだからね」
「なら、そこいらの書籍からその手の話は読み取ってくれ。私が言うべきなのは、私しか知らない知識だ」
「ごもっとも。聞かせて貰おうか」
「……一度、ここまでの荒廃して終焉へと向かう世界の流れを見て来た者たちが居る」
「へぇ、それで?」
「そして彼らは、滅びの時を見た。唯一の神と言うべき存在によって滅びるその時を」
「しかもその時の神は、ただの破壊神でしか無かった。同時に再生や創世を担うような存在では無く、ただただ消して去るだけの存在」
「それはそれは厄介な存在だ」
「ああ。だからこそ、彼はやり直したのだ。文字通り、最初から。昨今の表面時間的な逆行及び改変の比では無い」
722 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:44:51.03 ID:OC/qdsK9P
「彼は、ただの破壊神だった神に万が一の為の再生の役割を加え、制御法すらも思案して、それに加えて、その破壊神の原動力であり無尽蔵に漂う危険な"力"を制御する術として、魔術を創成させた」
「そしてよりその力を効率的・安全的に扱う為に、進化とも突然変異とも言える変化を得た人間の情報を集め、超能力という形の方法すらも作り上げた」
「全ては神に対抗し、破滅を避けるため。彼はとても純粋にその役割を、殆ど永遠とも言えそうな気が遠くなる時間をかけて、人類の歴史と共に、忠実に実行してきた」
「その目的の為に己が体を人成らざるものに作り変えられ、長すぎる時間を経る苦難。彼は無意識か意図的かそれを、私に伝えた」
「感涙ものだな」
「彼の永年の計画が成功すれば、失敗した時の為と言っていい私が、同じ苦しみを味わう事も無くなる。生き残った人間も犠牲になった人間も救われる。外的な要因が始端とはいえ、そこまでの事をしようとしている。これは十分に自己犠牲的と言えないか」
「そうだな。しかし、例えそれを自らの役割として強く感じ取り、そして半強制的とはいえずっと実行するとは、途方もない精神力じゃないか。元々はその彼とやらも、か弱い人間だったのだろう?」
「逆、強い人間だったからだ。それを物語るのは彼をそうさせた一番の動機。それは、破壊神によって殺される思い人の姿を見たということ。つまり、一種復讐という言葉でも置き換えられる」
「フ。どんな高尚な理由かと思えば、復讐か」
女のような存在は鼻で笑うが、反面、男は真面目な顔のまま
「笑うべきでは無いな。それでここまでの世界体系を作り上げたのなら、尚更のことだ」
「確かに、そうかもしれない。興味深い話だ」
言いながら、ふと、彼女は荒れた地面の上を銃を腰に持って歩く、白い戦闘服の少女を見た
「……あれは」
認識するや否や、脊髄反射的とも言うべき、とある感覚が彼女を奔った
「佐天涙子という名の、ふむ、クローン個体の方の様だ。時間的に考えれば、あの米軍が築いたベースへ帰還するところだな」
「クローン個体、ということは他にも何人かいるのだな。……なんだか、こう、彼女達を殺さなければならない様な衝動がする。かなり、強烈に」
「ここの人間はもう数えるぐらいしか居ない。無意味な殺害は、お勧めしない」
静止、と言う程強くではないが、彼はやんわりと諭す
「君がそう言うなら、そうしよう。なんというか、とても残念だけど」
まるで憎しみのあるような、つまり人間的な様子を見て、窓の中のビルの中にいるアレイスターにそっくりな存在は、ドラゴンもしくはエイワスと呼ばれる存在にかなり酷似した見た目となっている存在を見て、表面的な笑みを作った
「人間の感情を笑っておいて、あなたも存外、感情に流されるものだな」
723 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:45:39.32 ID:OC/qdsK9P
「おいおい、マジに来ちまったじゃねェか。即断即決も極まったもンだな……」
と、眼と鼻の先となった窓のないビルを見て、一方通行は零した
上条「隕石の件がすぐ目の前に迫ってんだから、上条さんも性急さは必要だと思う所なんですが」
一方「とりあえずそこいらへんに居た人間全員連れて来ました感じじゃねェか! なンのお祭りだァこれは」
というのも、彼らは殆ど最後尾なのだ
ベースに居て動けそうな者に、上条刀夜は片っ端から声を掛け、数千人規模にまでまとめ上げて、今は窓のないビルへの行進中
言うならば陳情申し上げである
上条「い、いやー。まぁデモとかって人数居た方が効果あるし?」
一方「どう考えても必要ないやつまで居るだろこれは」
打止「ねーねー一方通行! これは一体何をしに行くのって、ミサカはミサカはわくわくしながら尋ねてみたりっ!」
一方「……こンな奴まで居るしよォ。耳元でわめくなテメェで歩けクソガキ」
打止「えー、やだー」
やだァ、じゃねェ! と背中の少女を引き下ろそうとする一方通行に、たははと笑う上条
彼らだけでは無い
フレンダ「これでなかなか間違っちゃいないと思うわけよ」
白井「と申しますと?」
絹旗「超パンピー人には分からないかもしれませんが、これだけの人数が一気に動いたら、こんな状況です、どうしても目立っちまいますし、それだけ護衛も必要じゃないですか」
彼らのすぐ後ろに、彼女らもまた一緒に歩んでいる
フレンダ「そうなるとベースに残っているのは移動不能な重病の人ばっかりになる訳よ。そうなれば」
絹旗「元スキルアウトとかの連中にとってはベースを襲撃する超チャンスなわけです。あの連中だって食料や医薬品は欲しいところでしょうからね」
フレンダ「それを考えた上で、この大名行列を見てほしい訳よ。少ないでしょ?」
御坂「それって、兵隊が少ないってこと?」
724 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:46:06.23 ID:OC/qdsK9P
フレンダ「そ。結局、ここには3000人ぐらい居るわりに、戦力の半分どころか4分の1も割かれてない。最大戦力の一方通行は居るけど」
上条「なるほど、食糧目当てに襲ってくるような連中をわざとおびき寄せるってことか」
一方「わざとガラ空きにして攻めさせたところを隠れてた戦力が一網打尽ってか。同じ第7学区でいざとなりゃァとんぼ返りも出来るしな。しかもあの頭の少ない連中なら、集団ごとに潰しあう効果まで見えてくらァ」
白井「流石、そういう役回りをしていた方は視点が違うというか、広いやり方を考えているというか。これでは風紀委員や警備員が踊らされても仕方無かったわけですのね」
絹旗「単に思考が超ぬるすぎるんですよ、そーゆう連中は」
白井「言ってくれますわね。否定は出来ませんが」
御坂「でもそれってさ、一か八かの方法にしか聞こえないんだけど。第一、それなら滝壺さんがかなり危険じゃない」
他に方法は無かったの? と続けるのは自然な反応だろう
フレンダ「滝壺については安心してほしい訳よ。病院周辺にはこれでもかって程の罠を仕掛けてあるから。どっちかって言うと、ちゃんと持ってった食べ物食べてるのかが不安なとこ」
絹旗「元々時間がヤバいわけですから、超邪魔をしそうな連中には早いところ消えてもらわねーといけない。こんな状況なら、こういう大胆な方法も効果的ですよ。褒めるべきは、こんな策をすぐに実行させた手腕ですかねー」
手腕、と言えばやはりあの先頭の男、上条の父親か
御坂「大覇星祭の時に会った時にはそんな凄い人には見えなかったけどなぁ」
フレンダ「結局、人はみかけによらないってわけ」
確かにね、などと続く声
一方「……は。表面的なとこしか見てねェな。見えてねェンじゃ仕方ねェか」
上条「んー? どうした一方通行。打ち止めちゃんは諦めたのか」
一方「背中で寝られちゃ仕方ねェよ」
上条「あららホントだ。ぐっすりですな」
一方「……代わってやろォかとかねェのかよ」
上条「お前の背中だから遠慮せずに寝てんだろ、きっと。それが分かってる上条さんには代われませんですよ」
一方「テメェ……」
725 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:46:42.43 ID:OC/qdsK9P
「さぁて、着いたぞみんな!」
先頭は遂に、ビルの目の前に辿り着いた
刀夜「何でこんなところに来たのか、まだよくわかって無い人もいるだろうから説明しようか!」
拡声器を手にして、彼は元気な声を張り上げる
その声は聴衆とそしてビルの主に向けられたもの
刀夜「ここは早い話が学園都市のボス、統括理事長のおうちなんだ!」
刀夜「都市伝説だと思っていた人もいるだろう! だけど、この様を見てほしい! どうだ!?」
暗がりが始まりだした時間帯でもハッキリと分かるのは、このビルが完全に傷一つないと言う事
刀夜「周りの建物がグズグズになってる中で、この窓一つないビルは無傷だ!」
刀夜「この技術が拡がっていれば、この街はここまで壊れていなかったのではないか?! このビルの主は周りでこれだけのことが起きていながら、何ら目立った手を打たなかった?! それは何故か!」
刀夜「もちろん、私にも分からない! だから聞きに来たんだ、皆で!」
他にも聞きたいことはある! と彼は声を張り上げた
刀夜「知っている人はいるだろう! もうじき、人類どころかあらゆる生命を根絶やしにする様な巨大な隕石が落ちてくるということを!」
刀夜「別に、私はここで公表することで皆を混乱させたい訳じゃない! だけどこれは、知っておかないといけないことだ!」
刀夜「この学園都市には、それを撃ち落とすために十分な火力を持った施設がある! しかし困ったことに、その出力が足りない! 何故か!?」
刀夜「この建物が制限しているからだ! この人類レベルの危機において、どうして制限など必要だろう! もしかしたら居眠りしているだけなのかもしれないが、そうなら我々は起こしてやらなければならないだろう、ここまで事を放置した統括理事長を!」
刀夜「さぁ答えて欲しいな! アレイスター=クロウリー!!」
726 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:47:09.40 ID:OC/qdsK9P
「ん……」
意識が半ば覚醒したステイルの耳に、ふぅっ、と少しくすぐったいような、やわらかい空気の刺激
久々に緊張感のない安らかなまどろみを残しつつ、彼は刺激の方向へ顔を僅かに向けた
そこには少し悪戯っぽい笑顔を持った、禁書目録がある
「やっと起きたんだね。おはようなんだよ、ステイル」
何故彼女が目の前に、と思考の浅い状態の彼は惑ってしまったが、すぐに状況を把握する
しかしながら、それは戦闘とか、そういう緊張感のあるものではない
長年の経験的に反射的にはそうなってしまいそうなのに、目の前の彼女から放たれているふわふわとした雰囲気がそうさせないのだ
「おはよう、は少し遅いんじゃないかい」
同衾という状態ならば、本来もう少し取り乱してしまいそうなのに、やっぱり彼はそんな気がしなかった
いつの間にか薄いゆったりとした寝巻に着替えていた彼は、ベッドの中から出たくない。これが自然な気がして疑わなかった
「えへへ、そうかも。でもこのまま、次のおはようの時間までこうしているのもいいんじゃないかな」
「僕としてはそれでも構わないけど、君のお腹がすくだろう?」
「ステイルがそうしたいならいいんだよ。疲れて帰って来てるから、お腹すいてるもんね」
「……珍しいな。君が食欲よりも他の事を優先するなんて」
「もう。私だって、女の子なんだよ」
言って、少女は布団の中で顔を赤くする
それを見ながら、彼は少女の頭を軽く撫でて、そして布団の中で彼女の反対側へチラと視線を泳がせて、部屋の中央より少し隅に寄った場所にあるキャスター付きの台を指差す
「でもま、折角用意されてるのを食べるくらいはするさ」
台の上には分かりやすく、サービストレーとその上に金属製のボール状のカバーが乗っている
カバーを持ちあげれば恐らく、サンドイッチ程度の簡単な食べ物が有りそうだ
「あ、ステイル」
掛け布団をめくって起き上がり、彼はそのカバーを持ちあげると、そこには
727 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:48:14.40 ID:OC/qdsK9P
早い話が、何も無かった。僅かに見えるのは、パンか何かの僅かな欠片
「……そういうことか」
「べ、別にステイルの分まで食べようとか思ってたわけじゃないんだよ? 珍しい味付けで、気が付いたらなくなっちゃってたんだよ」
「いいさ。殆ど予想通りだ」
「ごめんねごめんね? あ、なんならわたしがステイルの分を持ってくるんだよ」
そう言ってベットの中から飛び出した少女を、彼は抱き止めて引きとめた
「実のところ、そこまで食欲があるわけじゃないんだ」
「でも、なんだか悪いんだよ」
「そう思ってくれるだけでいいさ」
とは言うが、彼女はステイルの腕の中で申し訳なさそうな顔を浮かべたまま彼を見上げている
ベッドに下ろされると、彼女は頷いて
「だったら、ステイルのお願いを聞いてあげるんだよ!」
とベッドの側に立つ彼を見上げながら言った
「うーん。これと言って君にしてもらいたいことが有るわけじゃないんだけど、強いて言えば」
「うんうん。なんでも言って欲しいんだよ」
「今日一日、ゆったりとしていたいかな」
聞いて、少女は一瞬がっかりとした顔をしたが、ステイルの袖をグイッとベッドへ引き寄せた
特別抵抗するつもりもなく、彼も再びベッドへ戻る
「だったら、ってわけじゃないんだけど」
少しだけ声のトーンを落として、禁書目録は
彼の寝巻のボタンを徐々に上から外しつつ、首筋から舌をゆっくりと這わせた
728 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:49:11.21 ID:OC/qdsK9P
「全く、騒がしいことをしてくれる。悪魔の概念を利用した扇動の術式の使用もほどほどにして欲しいものだ」
急に訪れた暗転の後、上条刀夜が目を開くと、そこは来たことのある場所だった
とはいっても、刀夜自身が来たことが有る訳では無かったが
刀夜「そう思うなら、最初からこちらに働きかけてくれれば良かったのではないかな。そうすれば、あんなに人を連れてくる必要は無かった。軽傷とはいえ、まだ大半は怪我人なんだから」
アレイスター「重病患者を囮に使うものが良く言う」
厳しい切り替えしに、しかし刀夜はハハハと笑い声を返した
刀夜「使えるものを使って障害を除去すると言う方法に、問題でもあるのかい? 君も似た様な事をしてきただろうに」
アレイスター「否定はしない、上条刀夜。いやイェスとやらもか。しかし、君が動けば死人が増えるばかりだ」
刀夜「昔からそういう性質なんだ。巻き込まれてしまった人には申し訳ないがね」
アレイスター「神の対抗軸側であれば、それが本来の姿だろうな。しかし、それがどうして人を救うようなマネをする」
男が逆さに浮かぶビーカーの前に、一歩ずつ彼は近づいた
刀夜「神を形作るのは信仰だからな。それが消えてしまえば、悪魔の側も存在意義を失ってしまう。つまりは消滅だ。相対した存在だからこそ、相互依存関係が生まれている以上、人間が消えることによって信仰が消えては困るのだよ」
アレイスター「保身か」
刀夜「私という性質上、人間な要素が大いにあるのでね」
刀夜「そして私イェスの目的は、変わらず人類の直面している問題の解決」
アレイスター「次代の私、科学側の箱舟という保険の件では世話になったな」
729 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:49:51.07 ID:OC/qdsK9P
刀夜「それは貴様の為にした訳ではないぞ」
アレイスター「分かっている」
刀夜「なにより父親としての私が、息子を始めとした子供たちを守りたいと思うのは自然な衝動だとは思わないかな」
アレイスター「父親とAIと悪魔概念。なんとも奇特な組み合わせだ。……ここでも、"終末"を早めてしまった弊害が出てしまったらしい」
中空にフッと浮かんでは消えていく大量の数字の束には、所々赤字で印が付けられていた
圧縮された時項が競合して生じたエラーの視覚的な警告だが、そこから連なる樹形図は恐ろしいほどに赤字のオンパレードを見せる
刀夜「何事も思い通りにはいかないものさ。さて、今回ここに来たのは、前のように学園都市を明け渡せと言いに来たわけではないんだよ」
アレイスター「出力制限の解除だろう。分かっている。機器が壊れない幅で、好きに使うと良い」
刀夜「素直で助かる。だが、わざわざこうして出向かないと解除してくれないなんて、案外頭が固いじゃないか。何処の誰が名付けたのか知らないが、"神の国"を撃ち落とす事は、君にとっても有益なはずだろ?」
アレイスター「……強いて言うならば、無駄な事をするなという警告の為。と言いたいところだが、いいだろう。この世界のズレがどれほどのものか、最終確認を計るにはいい機会だ」
刀夜「何がいいたいんだ?」
アレイスター「私の予想が正しくば、それは無意味な結果に終始して、そして君達はより慌てることになるだろう。だが、それでも構わない。丁度良い機会に、広大すぎるほどの疎開地も上がったことだ」
刀夜「分かっている失敗からでも、得られることもあるものさ。ともかく目的は達せられた。もし何かあればまた泣きつきに来るかもしれないな」
アレイスター「なら、今度は茶菓子でも用意しておこうか」
珍しい冗談だが、その言葉の裏には明確に、もう一度来るだろう、という彼の予測が現れていた
刀夜「ははは。期待してるよ」
言って、彼はその空間からは消えた
730 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:50:24.72 ID:OC/qdsK9P
「ここは……」
そこは、見覚えのある薄暗い空間
その空間全体にも、中央の培養炉で浮かぶ男にもやはり覚えが有った。ここ何日間かで2度も来ているのだから
アレイスター「君に会うのはしばらくぶりだな、"幻想殺し"。いや、上条当麻と言うべきか」
上条「ここにいるのは俺だけなのか?」
とりあえず、上条の目に映る範囲には他に誰もいなかった
アレイスター「父親や知人が恋しいなら、そうしても構わないが?」
上条「いや、このままでいい。こっちの方が好都合だ」
アレイスター「ふむ、そっちの方が手間が省けるのだが、このままにしようか。とにかく、AIの存在すらなく、素の君と対峙出来て光栄だ」
上条「心にも思ってないんだろ? そんな言葉を聞きに来たんじゃない」
アレイスター「……分かっている。"終末"について、だな」
上条「あんまり言葉を並べるとまた騙されるかもしれないから、ハッキリとYESかNOで答えてほしいんだ」
アレイスター「騙したつもりは無いが、いいだろう」
了承の意が有るということは、「はい」か「いいえ」の二極化出来る解答を持っているのだろう。中間的で漠然としたものではないということだ
少し、覚悟の為に上条は間を作って、そして聞いた
上条「俺とお前が引き起こした"時項改変"のせいで、"終末"は、この世界は、こうなっちまったのか?」
アレイスター「その答えは、YESだ。あの時、君の力を借りなければそれが不可能だったということを考えれば、地球の破壊を確定させたという事だけに注視するならば、その行為責任は全て君にあるとも言える」
上条「お前は騙したのか、俺を」
アレイスター「私は地球を分解してエネルギー化してくれと言った。その力を用いて一度失われた命を復活させた、という結果をもたらした。全く持って言った通りのことではないだろうか」
上条「だけど、こうなるなんて俺は説明されて無い」
アレイスター「何かを行動するのに対してリスクは必ず存在する。よりよい結果を作るのかどうかを、知的な生命体ならば人間でなくとも考えながら行動しているのだ。その法則から漏れる、特別である、などということは、"幻想殺し"という特別性を保有している君でさえも、有り得はしない」
731 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:51:04.99 ID:OC/qdsK9P
アレイスター「それを騙したと言うならば、それはあの時の君が軽率だったと言わざるを得ないな。私の言葉に流され、AIの言葉に流され、判断はしたものの、思考停止していた。もっとも、あのような凄惨な状況を初めて体験して、冷静さを保っていられるものなど居ないだろうが」
反論出来るような言葉も論理も、上条には無かった
言ってもそれは、ただの理不尽な感情をぶつけるだけになってしまう
上条「……な、なら、それなら、それならだ。なんでお前は"時項改変"を行ったんだ? "前"だって、そして"今"も、こんな状態になっても、誰も救おうともしない。お前の言う、地球の破壊を確定させた理由は、目的は何処にあるんだ」
アレイスター「君も予想している通り、"終末"を早めるため。それに尽きる」
上条「たくさんの人が死ぬ"終末"を導く為、だってんなら。……その更に奥の目的を教えろ!」
言葉を吐いてそのまま、上条は右手を向ける
異質な力を特に高濃度に保持したこの空間ならば、何処に対して"幻想殺し"の相対的な力の引き出しを行ってそれをそのまま出力したら、このビルそのものの何もかもを吹き飛ばす事になるだろう
脅しと言うには実にやりすぎだった
アレイスター「君の行動は実に分かりやすい。しかし、だからこそでもある。問題は君なのだ」
アレイスター「まず、君は私のことを勘違いしているようだ。例えば、目の前に何人もおぼれている人間がいて、全員はどうやっても救えそうにない。こんな命題なら、恐らく君はそれでも全員を救おうとする、といった選択をするだろう」
上条「ああ、もちろんだ」
アレイスター「だが、その命題に、少し時間と手間をかけた方法なら全員を救えるかもしれない、という方法条件を付け加えたら、君はどうする」
上条「そんなもの、その方法を取るに決まってる。どんな奴だって出来るならそうしたいけど、出来ないから、それは出来ないんだ」
アレイスター「だが、私にはそれが可能かもしれない。溺れている者を纏めて救いあげることがな」
この話のパターンは"前"と同じだ。また力を貸せ、というのだろうか
上条「……また、俺を騙そうとしてるのか」
アレイスター「騙すつもりなど元よりない。本気で君を騙そうと思えば、それこそ数千数万の手段があるのだから。ただしそのどれを採っても、君を消す手段が無い。それが最大の問題なのだ」
上条「俺を、消す手段が無い?」
疑問を口にすると、間髪いれずに上条の方へ御坂の電撃の槍を思わせる紫電の塊が向けられた
その突然の攻撃に驚いたものの、しかし、問答無用で掻き消してしまうのが彼の右手だった
732 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:51:50.61 ID:OC/qdsK9P
上条「いきなりどういうつもりだ!?」
アレイスター「"打ち消す"という行為には、同等の力が必要だと言う事は、君も知るところだな」
興奮した声を出した上条に対して、ビーカーの中に居る存在はまるで変わらない声を出す
アレイスター「今のはちょっとした実験だ。この街を襲った巨人、"終末"による破壊者一個体の保有する全エネルギーに比類するだけの物を一纏めにして君に向けたが、それすらも今は何も無かったかのようにかき消えた」
上条「つまり、それだけの反対の力を俺が使ったってことだろ。どこかの誰かも、同じようなことを言ってたな」
アレイスター「"幻想殺し"を研究すれば、自ずと分かることだ。辿り着く結論は同じだからな」
上条「……俺の"幻想殺し"が神を打ち消すためにあるってことか」
アレイスター「もう一歩、といったところか。正確には、神があるから君が有り、君が有るから神がある、ということだ。君の存在が神の存在証明。つまり、君が在る以上、神の審判の始まりである"終末"は避けられない。なにしろ、君という引き金によって生じた"終末"を一度既に私は経験しているのだから」
上条「嘘だ」
アレイスター「嘘では無い。この場で嘘を言う必要性が私に無いのは、君を騙す必要性がないのと同じだ。現れた神とそれに対抗できるだけの力の塊、言わば"幻想殺し"と言う名の悪魔が戦えば、主戦場となった地球が持つ筈もなく。何もかもすべからく塵芥の如く簡単に消し去ってしまった」
表面的にはずっと変わらない口調だったが、しかしこの時だけは、アレイスターから感情的な感じがした
アレイスター「だが、それが故に、だ。一度全ての災悪を見てしまえば、その問題点を見受けることが出来れば、対策は打てる。その一つが"終末"のタイミングを動かすことなのだ」
アレイスター「どの時間で何の切っ掛けが最適か、実のところ明確な答えは出ていない。前の終末と終焉ですら、本来規定されていたものであったのか怪しい。よって今私が採っている対策すら完全性を保証するものはないのだ。現に、隕石迎撃用の施設は本来予備である第7学区のものしか生き残らなかった。それだけ見ても、変化があるということだ」
上条「だったら、その変化に対応するしか無いんじゃないのか。何もかも予想通りなんてことは有り得ないもんだろ」
アレイスター「その通りだな。だからこそ、君に頼みが有る」
上条「今度は、なんだ」
今度こそ、そのもたらす結果を考えて、彼は行動を選択しようと思った
これ以上、自分の所為で破壊的な事が起きるなら、もう自分の心を誤魔化せそうにない。精神が持ちそうにない
しかし、ビーカーの中の男からの言葉は上条の予想にはないものだった
「策の一つとして、最悪の場合、神と心中してはくれないか」
733 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:52:41.04 ID:OC/qdsK9P
「ここは、なンだ?」
瞬間的に自らの周りを何かが包んだかと思うと、気が付けば薄い暗がりの空間だった
アレイスター「ようこそ、一方通行」
振り向けば中央に人影。しかも逆さ吊りで、液体の満ちたビーカー内という変質ぶり
一方「テメェは……」
アレイスター「この学園都市で統括理事長をしているものだ。君も、私と話がしたかったのだろう? 妹達について」
一方「あァそうだ。……なンだあの第三次製造計画ってのはァ!?」
恫喝する様な、あからさまに怒気を込めた声なのだが、ビーカー内の男のような存在はまるで気にしない
アレイスター「読んで字のごとく、第三位クローン体の三期目製造だが」
一方「ざけンじゃねェぞ!! 絶対能力者計画なンてくだらねェものが無くなった以上、あンなもの必要ねェだろォが! しかも脳と体を切り離すなンざ、テメェ、アイツ等をなンだと思ってンだ?!」
アレイスター「需要と供給。必要が有るから彼女達を作り、そして必要があるから脳だけを抽出した。これ以上の理由は無いだろう?」
挑発をしたつもりでは、アレイスターは無いだろうが、しかしそれはその効果としては十分だった
一方「っっっっ……!! ぶっ殺すゥ!!」
ビーカーとの彼我の距離は10数m程度
まるで背中で爆発でも起きたかのような衝撃が生まれると、右拳を軸にプラズマ化した空気をビーカーの壁に叩きつけようとして
彼は叩きつけようとした拳を止めた
一方「打ち止めァ!?」
アレイスター「君をここに入れることが出来るのだから、他の者を入れることも考えられることだ」
丁度、一方通行とビーカーの壁の間に、先程まで一方通行が背負っていた、眠ったままの打ち止めが空を割って現れたのだった
734 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:53:08.38 ID:OC/qdsK9P
攻撃を即座に止めて掴もうとすると、宙に浮いた打ち止めの体が消え、そして明後日の方向に再度現れる
つまり、彼女の体はアレイスターの思うがまま
一方「テメェ……!」
アレイスター「なんなら、あの培養炉から適当な個体をそのまま引っ張り出して来てもいいが。それでもなお私に矛先を向けるか?」
一方「ゲス野郎が! 盾にするようなマネしやがって」
アレイスター「これも君の置かれている状況をより分かりやすく説明する為だ。私としても、こんなやり方はしたくないと思っている」
一方「心にもねェことをぬかしてンじゃねェ!」
アレイスター「君もそう言うのだな。仕方が無いか。しかし、熱くなっては会話にならない。少し落ち着くべきだな」
一方「テメェがそうさせたンだろォが! 打ち止めを放すンだ!」
アレイスター「構わない。では、元の場所に戻しておこうか」
再度消えた打ち止めが現れたのは、ここに来る前と同じく、彼の背中
彼の首にまわった少女の腕が、少女の体温が、図らずも彼に落ち着く要素となる
アレイスター「それに、心にもない訳ではない。彼女らも君同様に、私にとって必要なのだ」
一方「必要だァ?」
アレイスター「ここにわざわざ入れたということで察して欲しかったな。君に対して妹達が首輪の役割をしていると脅すだけなら、これまでのような間接的な伝達で十分だ」
一方「何が言いたンだ」
アレイスター「言うならば、覚悟してほしいのだ。君には―――――」
735 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/04(木) 11:58:00.69 ID:OC/qdsK9P
本日分(ry を書き込むのを忘れましたサーセン
最近は佐天さんが爆発しないから困る
736 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/08/04(木) 13:33:40.61 ID:qdU0/ZqC0
っていうか佐天さんまだいたのかよ……っ!
737 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/04(木) 13:49:44.73 ID:YJWqe9YSO
お疲れ様
現状はまとめのおかげででわかりやすくなった
事態は相変わらず目茶苦茶だけど
あと週2更新はさすがにきついんでね?
738 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/08/04(木) 13:52:45.95 ID:qgbo/N/To
乙〜
アレイスターは高い所にいるなぁ
他のラスボス候補の位置がわからないこともあるけど
739 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/04(木) 14:02:03.10 ID:lebIJpSMo
佐天さんまだー?
740 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/04(木) 19:36:46.18 ID:W1etUnEyo
乙
やはり禁書さん(身体)はステイルの飼い殺し用にリサイクルか。
おつむ以外は赤い人要らないもんなあ…ステイルさんが激怒して
暴れ出しそうだが
741 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/08/04(木) 19:45:15.54 ID:K0pTl6hio
全裸待機?
742 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/08/04(木) 21:21:01.48 ID:oecl1HZAO
もう遅い
事後だ
743 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/09(火) 02:52:03.10 ID:7arGJqoCP
「このまま誰もこーへんかったらええんやけどなー」
滝壺が絹旗から貰ったレトルト系の簡易な食糧を幾つか抱えて、病院から少し離れたところ、こんな声が聞こえた
やはり日本の都市らしく夜がそれなりに明るい学園都市では、ビルの群という要素も有って星はあまりよく見えなかったが、倒壊ばかりの中で電気は有っても照明が壊れているか通電していない今の状況、彼女は静かに月や星が見たかった
「馬鹿言ってんじゃないの。それじゃ作戦の意味がないじゃない」
声のすぐ近くから、別の声。どうやら女のものらしい
「いやいや意味はあるよ? こーやってあわきんと密着したまんまでいられるしなー」
気付かれないように近場の柱に隠れて見ると言葉通り彼らは外に頭を向けて、殆ど身を隠すべき場所が無い中で密着していた
そう言えば、フレンダが大規模な誘導策をやるとか言っていたような
彼らはその要員で、身を隠して奇襲をしようとしているということか
「その対価として、いざとなったらしっかり守ってよ。私だってそれなりに武器は使えるけど、能力無しでは今生き残ってて重火器に慣れた連中には勝てっこないもの。アテにさせて貰うわ」
「おおっと密着肯定しちゃいますのん? 大丈夫、微小機械のお陰で快調復帰したこの健康ボディーでいくらでも守ったるよー。でもその前にこのチャンスを堪能せーへんと!」
何をしているのかと思って、彼女が少し身を乗り出して目を凝らすと
なんというか男の手の動きが不自然。早い話が露骨に胸元にある
「あなたねえ。はぁ、こんなの今更じゃない」
「わかっとらんなあ、あわきんは! いくらでも触れる機会じゃなくて、こーゆーさりげないタイミングにロマンがあるんやよ!」
どこがさりげないのだ、と滝壺は思ったが、どうやらツインテールの女の方も同じらしい
「どこがさりげないのよ。あーもう、だったら今度からさりげなく触るだけにして、そういうちゃんとした機会は無しでもよさそうね。私としては、別にそんな所触られなくても、肉体的な温かみだけで満足だし」
「おおう?! そ、それは駄目やで! それとロマンとは別モン、別物なんですぅ!」
男の方は一気に手を引いて、YES視姦!NOタッチ!とか割と本格的に困惑している
その言葉では何も変わってはいないと思うが
「ふふっ、冗談よ。でも、そろそろやめてくれるかしら」
「……もうちょっと駄目?」
「駄目。終わるまで我慢しなさい」
「ってことは、終わったらええの?!」
744 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/09(火) 02:53:03.71 ID:7arGJqoCP
「さぁね。どっかの誰かさんの所為で火照ってしまったのが、無くなって無ければね」
上手に男を管理出来ているな、と思った。そして何より、女の方も男の方への明確な好意も見て取れる
羨ましかった
そんな自分が居る中で、彼女はハッと我に帰る
滝壺(他の人のああいうのってあんまり見ちゃ、駄目だよね)
乗り出した体を柱の後ろに完全に隠して、小さく一息
滝壺(はまづらと一緒に居た時も、あんなに露骨じゃなかったけど、同じ感じだったのかもしれない)
思ってしまうのは、たられば
すぐそばにも昼間の太陽のせいか、半ば腐乱しつつある死体がある冷たい現実の中では仕方のない事
そこで、気付く
滝壺(ああ、そうか)
自分が殺してしまった存在の事を
滝壺(私は、むぎのが誰かとああいう事をする機会すら奪ったんだ)
そう考えると、先程までの僅かにピンクがかった世界が、急に暗い現実に戻って行く
滝壺(誰かの体温を感じてあったかい気持ちに浸るのは気持ちのいい事。あの人だって口では嫌がってても、嫌そうな顔はしてなかった)
滝壺(暗部組織なんて特別な環境に居たからっていっても、多分、そういう気持ちが無くなるわけじゃない)
滝壺(ううん。多分、逆だ。そんな特別な環境に居たから、私達にはそういう心の逃げ場が必要だったのかもしれない)
だからこそ、私は浜面を気にかけたのだろう
滝壺(でも、私はその機会を全て奪った。私が、永遠に)
なんなのだろう、自分と言う存在は
思い返せば、暗部と言う仕事の中で間接的に自分は人を殺してきたのだ
目を背けていたけれど、それは事実だ。麦野に始まったことではない
滝壺(私、ここにいてもいいのかな)
滝壺(もう、はまづらだっていない。もしかしたら、きぬはたやフレンダを巻き込んでしまうかもしれない)
745 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/09(火) 02:53:41.64 ID:7arGJqoCP
何度目だろうか、この手の自己否定は。ずっとだ
滝壺(生きてて、いいのかな。麦野の命を奪った、私が)
また、気分が下がって来た。晴らそうとここに来たのに
そんな彼女の背後、隠れている柱の後ろ、廃墟の外側で
ブシュゥ! と戦闘機のものと思われるチャフフレアが地上から吹き上がった
「合図よ」
先程までとは違う、芯の在る声だった
「よっしゃ。誘導が上手くいけば、もうすぐ来るな」
滝壺が顔をもう一度出すと、男が最終確認と言わんばかりに手持ちの突撃ライフルや爆発物などを見ている
「そこでずーっとこっち見とる女の子も、そろそろここから離れた方がええよ! もうじきここは戦場になるで! 折角生き残った命、もったいないからなー!!」
確認しながら、こっちを少しも見ずに男は言った
滝壺(気付かれてた?)
「え、ちょ、人居たのッ?!」
「あれ、あわきん気付いてなかったん? 分かってると思ってたわー」
「馬鹿なんじゃないの!? 馬鹿なんじゃないの!? 知ってて何であんたに体弄られるとこ見せつけなきゃならないのよ!!」
「いやー、言わば羞恥プレイ゛ッ」
言われた通り、走り去りながら彼女が聞き取れたのは、少し余裕のある断末魔
その少し後から聞こえたのは、耳を裂くような久々の銃撃音に爆音に、悲鳴
あの男女のものがその中に無いか、彼女は怖かった
それもあって、走って、走って、走って、逃げた
音が聞こえなくなる場所まで走って、体力が続かなくなった彼女は躓いた
擦りむいた膝と、打ち付けた胸が苦しい、痛い
走ったのは、何故?
逃げたのは何故? ここから逃げろと言われたから?
746 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/09(火) 02:54:16.37 ID:7arGJqoCP
なんだかんだ言って、結局こんな命でも、失うのが怖いから?
滝壺(そうだよ、怖い。怖いに決まってる。怖くない人なんているはずない)
だったら、あの時の麦野はどうだっただろうか
傷つくのを恐れていたか。死を恐れていたか
恐れがなかった訳がない。でも、きっとそれらに負けない硬い意思が有った
それは、LV5としてのプライドとかの己の自尊心から、そして他人の必死な姿を見て感化されたから
半ば乗っ取った自分には分かる。どれほどの恐怖が彼女に有って、どれほどの覚悟をしていたのか
彼女も必死だったのだ。恐怖を押し殺して
それなのに、今の自分は何なのだろう? そんな彼女を助けるどころかみすみす殺しておいて
必死な意思を持っていた彼女を殺しておいて、今の自分は死の恐怖から走り回るだけか?
さっきの二人だって、今まさに戦おうとしていた。そんな前だから、お互いの心を落ち着かせて、何よりも生き残るための切っ掛けに、下品と言えば下品だけれど、男女の要素を絡めさせていたのかもしれない
皆戦うことに必死なのに、向き合っているのに、後ろ向きな事を考えて、私は
「……ッ、ウ」
地面に伏せたまま奥歯を強く噛む彼女の耳に、押し殺したような声が聞こえた
自らの傷なんて気にしないまま立ち上がって、声の下へ足を進める
走っていた小道の近く、壁に巨大な穴が開いたビルの小部屋の中で、人がうずくまっている
その姿はどことなく浜面に似ていて、スキルアウトの生き残りだと分かる
月明かりに照らされた髪の色が全く違うので、残念ながら浜面ではないようだが
「クソッ! こんなところで、何も手に入れられないまま、帰られるかってんだ」
痛みに耐えながら叫ぶように言って、机の脚にすがりながら立ち上がろうとして、しかし彼は滝壺の視界内で崩れ落ちた
滝壺「……酷い血」
他人とは思えず、彼女は近寄った。寂しかったからかもしれない
「なんだお前は。俺に、触れるな」
横たわった男を、上半身を胸に抱える様にして彼女は持ちあげた
747 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/09(火) 02:54:51.53 ID:7arGJqoCP
もがくが、男には力が無い
滝壺「私を払う力も無いくせに」
「ッ、こんな怪我、なんでもねえ!」
赤黒く濡れている腹部に力を入れて、そこから生まれる苦痛を必死に我慢しながら、男は滝壺の胸から起き上がろうとした
それを、彼女は静止する
滝壺「動いては駄目。ちょっと待って」
「手当でもしてくれるってか。止めろ。時間がねえんだ。だいたいこんな怪我、アイツに比べりゃどうってことねえしよ」
何がこんな怪我だ。服をめくると、胃のあたりに明らかな弾丸が貫いたような跡が有るではないか
自らを誤魔化すために臨時病院施設から奪っておいた麻酔を取り出し、男の腹にそのまま打ち込む
僅かな間の後に、男の苦痛の表情は消えた。だが問題は血の方だ
肌寒いとか完全に無視して、彼女は自らを包んでいる患者服を脱ぎ、殆ど下着だけになりながら、それを引き千切っては彼の腹に巻き続けた
敵意は無いと知って、男の方もそれを受け入れる。というか、それしか術が無い
滝壺「さっき言ってたアイツって?」
腹部の全体がようやく覆えるようになって、彼女は聞く
「俺なんざを庇ってどてっ腹に大穴開けやがった大馬鹿野郎の事だ」
滝壺「その人は、死んだの?」
「まだ、生きてるよ。まだ、な。……畜生、薬が必要だってのに。フハハ、ここで俺が死んじまえば、アイツの犠牲も無駄になっちまうな。ザマ見ろってんだ。散々こき使いやがって」
滝壺「笑っちゃ駄目。そして、あきらめちゃ駄目。あなたはその人の為にここを襲って、薬を奪いに来た。違う?」
「フン。こんななりじゃ、俺が帰るのがやっとってところだ。こっから取りに行くなんて、あんたにもわかるだろ?」
滝壺「……何の薬?」
「名前は分からねえよ。この紙に書いてある奴があれば、施術出来るって言われた」
滝壺「誰に?」
「米軍に掴まっちゃまずいような経歴もってる、つまりヤブ医者みたいなもんだ」
748 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/09(火) 02:55:37.92 ID:7arGJqoCP
滝壺「お医者さんだね。ここでじっと待ってて」
「どうするつもりだ、あんた」
滝壺「わたしが代わりに取ってくる。今のあなたにしたのも、ただの応急措置だから。もっとちゃんとした治療が必要」
「いらねえよ。俺もアイツも、どうせ死んじまうんだ」
滝壺「駄目。その人はきっと信じてる」
「信じてるって、俺が薬を持って帰る事をか?」
滝壺「そうじゃない。私はその人が女の人なのか男の人なのかも知らないけど、きっとその人は信じてるし、願ってる。あなたが生き残ることを」
「……だったらなんだって言うんだ」
滝壺「あなたもそれが分かっているから、ここまで来た。私は、そんなあなた達が、こんなところで永遠に離れ離れになって欲しくない」
同じ雰囲気だからか似ている彼からは、浜面を思い起こさせる
彼はいってしまった。麦野は私が殺してしまった
もう、会えないかもしれない。そして、もう会えない
同じような境遇になりつつある彼に、同情の要素は十分にあった
でも、それだけじゃない。さっきの二人も
さっきの二人だけじゃない。目の前の男みたいにベースを襲っている人だって必死なんだ
いろんな思いがあって、それで皆必死に戦った。そして戦ってる
そんな中で私だけが後ろ向きに逃げ続けて良い訳が無いじゃないか
そんなのでは浜面は見付からない。私が殺した麦野にだって顔向けできない
だから、私だって戦ってやる。みんなが苦しんでいるこの現実を変える為に
そして、彼女が彼から取り上げた紙に書かれた薬と、更なる処置の為に必要な物品を奪って、更にはちょっとした食糧まで与えて、彼を送りだしたことは、言うまでも無い
その時に言い残した「皆、あんたみたいな人だったらよかったのにな」という言葉も、きちんと受け取って
本当に、そうなればいいと思った。そうだったらよかったと思った
749 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/09(火) 02:56:37.65 ID:7arGJqoCP
「外、か」
周りを一目見て、上条はそこがそれまで居たところでは無いことを知る
瓦礫しかないのだから、当然でもあるが
一方「よォ。お前も出たところか」
上条「お前もってことは、一方通行、と打ち止めちゃん、お前も中に入ったのか」
後ろから声を掛けて来た一方通行の背には、すやすやと寝息を立てる少女が在った
一方「おォよ。しかし、俺と殆ど同じタイミングで出ておきながら、中にテメェはいなかったがなァ」
上条「そうだな。会ったんだろ?」
一方「液体の中で逆さに吊られてる変態にはな」
随分な言い方ではあるが、的を得た表現ではあった
上条「俺も会った、けど、同じように中にお前はいなかった。どういう事だ?」
一方「……さァな。どうせ下らねェトリックだろォよ」
どうにも、一方通行は心ここに在らずと言った感じである
どんな会話をしたというのか
「その通り、下らないトリックさ。もしかしたら局所的に時間を動かした、なんてこともあるかもしれないけど」
そんな彼らの正面から、大人が一人現れる
身を隠せそうな廃墟ならいくらでもあるから、とりわけ不自然な感じはしない
上条「父さん?」
一方「ほォ。おっさンもなかに居たのか?」
刀夜「さして長々会話をした訳ではないがね。殆ど出たタイミングも、そして入ったタイミングも当麻達と変わらない」
一方「で、どんなトリックが考えられるンだ? お聞かせ願おうじゃねェか」
少し得意げに両手を拡げて、上条の父親は口を開く
750 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/09(火) 02:57:07.87 ID:7arGJqoCP
刀夜「簡単な話さ。出入りのタイミングが同じでも、入る・会話・出るの工程をそれぞれずらせばいい。お前たちもいつの間にか入っていて、いつの間にか出ていたんじゃないか?」
上条「そう言えば、具体的にいつ入ったかとか、会話したか、とか時間は定められないな。単に時計を携帯してなかったってのもあるけどさ」
一方「はン。シンプルな方法じゃねェか」
刀夜「だろう? 証拠に、外では1時間以上時間が経過しているからね」
上条「そんなに?」
どうだ? と言いながら時計を見せる。21時近くを指していたが、元々の時間を知らない上条には分かりようも無い
そんな様子を見て刀夜は首をかしげたが、上条らの背後から来た複数の人影に気づいて
刀夜「ほら、その証拠だ。あの子たち、随分と心配した顔じゃないか」
言いながら指を向けた
何事かと、指に従って上条達は振り返る。そしてそんな彼らを見て、刀夜が指し示した人影が声をあげる
御坂「やぁっと見つけた! ちょっとアンタ、なんでそんなとこに居るのよ!?」
駆けたまま近づいてくる彼女らは4人。最初にアレイスターのビルまで向かったメンバーだ
フレンダ「あ、一方通行まで居るわけよ」
一方「いちゃァ悪いかよ」
白井「寧ろ、探す手間が省けますから居て下さって助かりましたの。しかし、男二人に幼い女の子一人でこんな薄暗い場所とは、当麻さん、あなた方は一体何を」
上条「ちょ、流石にそれは無いでございますよ。送迎バスから降りたらここだった、ってところだよな。一方通行」
一方「そンなところだ」
同意を求めて一方通行の方向を向き、そこでいつの間にか父親の姿が見えない事にようやく気が付く
上条「ってあれ、父さんは?」
一方「とうの昔に消えちまった。まァ大方、迎撃装置のとこへ行ってんだろォ。年齢らしからぬ速さで嬉々として跳ねていきやがったぞ」
絹旗「迎撃装置の出力制限がようやく取っ払われちまったらしいですからね。直接的な関係者なら超喜んで帰ってても仕方ないでしょう」
上条「んん? なんでそんなこと絹旗が知ってるんだ?」
751 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/09(火) 02:57:34.65 ID:7arGJqoCP
御坂「何言ってるのよ。あんなにデカデカとしたホログラムで宣言されたら誰だって知ってるでしょ」
一方「ホログラムだァ?」
フレンダ「あれ、見てない? ホントに何処へいってたわけよ」
上条「ちょっとな。で、どんなことを言ってたんだ?」
白井「大まかに言えば、巨大隕石迎撃装置の出力制限を解除すると言う事と、今までこの混乱を放置していたのは統括理事会内が混沌としていて命令系統が機能しなかったから、という現状への言い訳ですの」
言い訳、と言う言い方が、全くもってしっくりと来た。それは仕方のないことだ
例え何らかの施策をしていたとしても、誰がどう見ても、統括理事長なる者は引き籠っていたようにしか考えられない
一方「チッ。何が命令系統が機能してないだ。どうにでもしようは有ったはずだろォが」
上条「だな。でもそれをしなかったのは」
一方「決まってる。必要がねェからだ。ヤロウ、本格的に関係の無いものはどうでもいいものとして割り切ってやがる」
二人がアレイスターと行った会話
それは殆ど正反対と言えるものだったが、そこからにじみ出るアレイスターへの疑念は変わらない
御坂「はーい、そこの二人。何が有ったか知らないけどとっと帰るわよ。可愛い可愛い私の妹分がずっと骨と皮だけの硬い背中じゃ、可哀相だもの」
上条の肩が強引に引かれて、視線による会話は打ち切られた
割と一方通行への皮肉たっぷりに。だが、事実だ。上条の背中だろうが女性の背中だろうが、ずっと背中は辛いもの
一方「ンだと?……まァ確かにそうかァ」
白井「恐らく、病院とかベースを襲撃した連中は既に駆逐されたか逃げているでしょう。随分前から銃声とか爆音は身を潜めてますし、帰っても十分に安心なハズですの」
絹旗「むしろ暗い上に人気が無いこっちの方が超危険ですね。第一位がいますけど」
一方「知らねェよ。テメェの身はテメェで守りやがれ」
上条「子供を起こさずに背負うので手いっぱいのようですなー。ま、とりあえず帰ろか。なんなら、打ち止めちゃん代わってもいいぞ?」
一方「……いや、このまま背負ってく」
上条「さいですか」
752 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/09(火) 02:58:07.24 ID:7arGJqoCP
言うなれば、より上位の存在
元をたどれば東西ローマ教皇分裂まで遡ることになるが、11世紀までは統一していただけに、ローマ正教とロシア成教のその要素は共通している
ロシア成教は教皇という頂きを設置はしなかったが、その頂点としての総大主教はある
しかしながら、十字の教えもそれ以外の啓典の教えも、それら信仰の人間的組織頂点の上より、更に上の人間の存在を定義している
それは、必ず再度現れるだろうとされる、預言者。つまりは救世主の存在
定義されているならば、その定義を基に救世主を信仰の頂きに据えることが出来る
しかし、救世主は三位一体説の下、信仰の大元である神と同じ存在であるから、適する者以外をいたずらに据えると、それは下手をすればその信仰全体の問題となる
信徒の希望の終着である存在が奇跡の一つも起こせない様な力無い者であるならば、その信仰は一体何を信じろと言うのか、ということだ
信仰そのものを根底から崩壊しかねない問題だけに、だからこそ、人間組織の頂点として救世主ではない教皇であり総大主教でありを作っているのである
フィアンマ(だが、それは救世主自体が力ある本物であれば、何ら問題など無い話でもある)
彼は広い祭壇の中央で、全ての人間を背に、誰にも見付からない笑みを浮かべる
彼の背で、幼い総大主教が金色の装束に身を包み、跪いて手を合わせている
「――――おお、我らが大いなる主よ。あなたは我々に数多の試練を与えた」
彼の高い声が、聖堂内に響く
「我ら人の子はそれに耐え忍ぶ他無かった。それはこの時が為」
その少年の声が、まるでその時を祝福しているように聞こえ
「悠久なる2000の年を経て、いつかはこの時が来るであろうと、ひたすらに祈り、そしてこの時我らの祈りは聞き入れられた」
753 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/09(火) 02:59:02.86 ID:7arGJqoCP
金色の空間に入ることを許された者達の表情は明るい
「はじめの預言者が我らに救いの道を教え、そして此度与えたもうた救世の者が、我々が全くその道を外れ無き事を示した」
その表情をもたらすのは、破壊者が来ないことへの安堵
「主は、我らを見捨てはしなかった。故に我らの魂は主をあがめ、我らの霊は救主なる主をたたえましょう」
そして何より正しき者を吸えることのできる安心感
「この卑しい罰を負いし我らの身さえ、心にかけてくださった。その御名は清く、その憐れみは、代々限りなく主をかしこみ恐れる者に及んだ」
圧倒的な戦力をもって現れた守護者にどうして疑問など持てようか
「主は御胸をもって力を奮い、心の思いのおごり高ぶる者を追い散らし、卑しい者を引き上げて下さった」
言わば、奇跡の中に居るような気配
「そして主は、その最大の憐れみをお忘れにならず、こうして我らに最後の救いを与えたもうた」
この雰囲気の中で、その表情をしていないのは言葉を発する総大主教だけ
「その真実をここに私は大きく宣言致しましょう」
呑まれていないその様は、流石とも言える
「我らロシア成教徒の下に、救世主が現れた事を! そして我らロシアの子らはその導きに沿って、裁きの時を待つことを!」
果たして彼はこの救世主をどう考えているのか
「さぁ、この冠を受け、我らの道を示し給え、我らの預言者フィアンマよ!!」
754 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/09(火) 02:59:48.80 ID:7arGJqoCP
「さーて、今のうちに」
殲滅白書なんて、一番相応しくない裏方が預言者授受の儀式になんて出席する分けがない
教会組織の中で一番忌むべき立場の存在なのだから
しかし、だからこそ
ワシリーサ「逆にこういうことをするには絶好のチャンスってわけよん」
皆が皆、出来るならば金色の聖堂にて、その瞬間を見たいのだ
どうして自分の行動に興味を持つ者などいるだろうか
ワシリーサ「……全く、何が悲しくて味方の目を掻い潜らなきゃならないのかしらねぇ」
それでも、ハッキリ言って本人たちは全く望んでいないだろうが、不審な人間が近づかないように見張りをしている
ここは、フィアンマの部隊がまるまる借り切っている、言わばフィアンマ派の最重要施設
モスクワとその周辺を巻き込んで浮上した、ベツレヘムの星でもノアの箱舟でもある術式の管理すら、ここを中心にしているだろう
大気圏外に出てしまった時点で彼女としても、それに手を加えようとは思っていない
ワシリーサ「超大規模術式以外の施設設備が整ってるのは、この辺のハズ」
彼女の狙いは、今朝持って行かれたサーシャの身に何があったのか、ということの確認である
無事に帰ってきたとはいえ、自分が殺した者すらフィアンマは従えているのだから、何があってもおかしくは無い
見張りの魔術師を異なる場所へ誘導して入った部屋には、報告書として机の上に書類がポンと置かれていた
時間的には、やはり
ワシリーサ「っと、これがそのデータか」
ペラペラとめくる。やはり、フィアンマは夏に降臨した大天使に付いて調べていたようだ
ワシリーサ「ふぅん。ホントに何か手を加えたとかをした訳ではない、と」
755 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/09(火) 03:00:34.41 ID:7arGJqoCP
ただし、書類の上では、であるが
ワシリーサ「でもってこっちが、再構成者。いや、再生、復活者?」
同じ"天使の力"を扱う者として、比類にされている
復活者、というネーミングで、堂々と
ワシリーサ「"天使の力"の平均的含有量……。やっぱりアレは復活者で、しかも天使に限りなく近い構成。ミーシャ状態のあの子の予測値の方が高いのは、流石大天使ってことね」
寧ろ、それが比較になっている時点で驚異的であると言うべきなのだ
ワシリーサ「自らの"救世主"という特性を利用した、死者復活の前借」
ワシリーサ「ということは、薄々予測が出来ていたけど、あのローマからの流れ者の目的は、やっぱり」
三位一体説が取り込まれている時点で、予測は付いていたが
ワシリーサ「その身自身を神にする。確かに一番確実で強力な救世だけど」
誰もが望むハズのその方法なのだが、しかし、彼女は抵抗を感じる
ワシリーサ(神と言う存在が特定の意思を持った人間ではない漠然とした絶対者だから、信仰は信仰として正常な形なんじゃないかしら)
ワシリーサ(あのフィアンマがどこまでも中立的で絶対的で公平な判断を下せる者だとしても、形を持った神として判断をすれば、その判断に反感を持ってしまう人間が出てくる。言わばルシファーのように)
ワシリーサ「そうなってしまったら、十字教如何に関わらず、信仰は人の心を纏めるものとして、機能する?」
分からない。だが、所詮は人間なのだ
ワシリーサ「やっぱり、神は人であってはいけない。確固たる個として存在してはならない。漠然とした霞みのような存在の方が適切。救済の時など無い方が、信仰としての姿は正しいのよ」
しかしながら、自分一人がこの問題を理解したところで救世主相手にどう対抗しろと言うのだ
少なくとも、行動を起こせるだけの味方が必要だろう
それも、行動がばれないように少人数で、しかも大天使と比較できる"天使の力"を用いる復活者達と戦えるような存在でなければならない
無謀という言葉しか、流石の彼女の頭脳にも浮かばなかった
756 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/09(火) 03:01:05.27 ID:7arGJqoCP
椅子代わりに机に腰掛けると、書類の束によって隠されていた何かを押してしまったようで、転がって、ゴトンと言う音を床に生じさせた
ワシリーサ「ん?」
手詰まり感がする中で、彼女はふと床の上のそれに目をやった
ワシリーサ「これは……、遠隔制御する霊装? 相当念入りに造りこまれているみたいね。この様式は、確かイギリス清教のもの」
解析だって魔術師の戦闘の重要な要素だ
その分野ではロシアのトップレベルである彼女が、分からないはずが無い
ワシリーサ「ちょっと待って、これってまさか」
いや、馬鹿な。どうしてこんなものが、こんなに適当に置かれている
警備に安心していたのか? まさかこんなところに在る訳が無いという逆転の発想なのか? それほどまでに価値が無いというのか?
ワシリーサ「禁書目録の遠隔制御霊装」
認識して、窮地を脱せるかもしれないという考えが浮かぶ
ワシリーサ(禁書目録の知識に、もしかしたらフィアンマを止めることが出来るようなものもあるかもしれない。直接的ではなくとも、間接的にも)
ワシリーサ「こんなもの、使わないなんて手は無いわよね」
構造と構成を把握して、彼女は限りなく正式な手段で、力を加える
少なくとも反応が在るハズだ。拒絶でも、今はいい
ワシリーサ「……な」
しかし
ワシリーサ「少しも反応が、無い。対象が無いってこと?」
ということは、つまり
ワシリーサ「あの禁書目録ちゃんはもう、死んでいる?」
757 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/09(火) 03:02:13.02 ID:7arGJqoCP
「とは言っても、私は今あのビルの中に居る先代の私とは、やはり違うのだよ」
指先にホログラムのようなディスプレイを生じさせ、そこに流れる数字や二重螺旋構造やヒストンのマップを眺めながら、彼は呟いた
「へぇ。何が違うと言うんだ」
と、これまたどこで拾ったのか表紙のすすけた雑誌を眺めつつ、彼女は答える
がっしりとした骨格のみが残ったビルの屋上に、彼は立ち、彼女は座っている
照らすのは星明りと月明かりのみだが、彼女はその雑誌が読めるらしい
「やり直したという行為の下であるから私と言う存在に変化が生じるのは当然でもあるんだが、最大の違いは、そうだな。なにより」
「なにより? アタシに教えて下さいよー」
唐突に女のような姿をした方の口調が変わった。しかし、視線は雑誌のままだ
「……その話し方は何だ?」
疑問を口にすると、ようやく女は男の方を見る
「いや、この紙に載っている小説の登場人物の口調を真似てみたんだが。なんというか、このアタシという一人称がしっくりくると言うか、気に入ってね」
「ふむ、そうか」
「君が気に入らないなら、止めるが?」
「別に構わない。ただ少々、その口調から知り合いを思い起こされるだけだ」
「知り合いと言うのは、今の姿になる前のものなのだろう?」
「ああ、その通り。なんの変哲も無いただの無能力者の少女だったのだが、私が黒い世界へ巻き込んでしまった」
声に特別な感情があるようには聞えなかったが、しかしわざわざ口にした時点で何らかの感情を負っているのは確かなのだろう
「それは、その子にとっては災難だったろうに。だが、巻き込まれた方には巻き込まれただけの理由が有ったのではないだろうか? なんの可能性も無しに、物事は起きたりしないだろう?」
一種、フォローするような言い方だった
「確かに、彼女には巻き込まれるだけの確かな理由が有ったな」
「だったら、あなたがそれを気に病む必要は無いですよ。何も分からないまま影で何かが進んでいて、気が付いた時にはもう手の施しようが無いってことの方が、アタシからしたらよっぽど怖いと思うなぁ」
758 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/09(火) 03:03:02.10 ID:7arGJqoCP
またも、口調を変えて言う。からかうつもりなどは、特にないようだ
「いっそのこと、その言葉づかいに似合う体になってしまえばいい」
「生憎、姿を変える方法など知らなくてね」
「遺伝子情報から変異させる方法が一般的だが、体の構成をそのまま移動させる方法の方が、今はいいだろうな」
自らの指先に浮かべていたホログラムを消して、彼はそのままその指を彼女の額に押し付ける
「どんな体が良い?」
「この本に出てくるのは黒髪の中学生だから、そうですねー。夕方に見た佐天涙子って名前のクローンのようなフォルムが一番合うんじゃないかなぁ」
「……いいだろう」
特別、何か動きが生じたわけでも無く、しかし一瞬でその体は量産個体のものと同じとなる
「ふぅん。この手の力の使い方はこのようにすればいい訳だ」
全裸のままで、彼女はマジマジと自らの体を見た
それを男の方も見る。主に、その顔を
「ますますそっくりになってしまったな」
「やぁ、そんな目で見ないでくださいよぉ」
ほぼ無表情で、しかし色のある声を出しながら彼女は胸を隠すように腕を交差させた
「……」
見る男は、やはり無表情で言葉を発しない
数秒の間が生まれた
「すまない。そっくりというのは、さっき話した例の少女のことだろうか?」
「そうだ。そしてこのように過去の事に捕らわれてしまうのが、私とあのビルの彼との違いでもある」
「人間的じゃないか」
「そうであるとも言えるし、そうでないとも言える。私は彼と違って余計なことを考えられる物質的な余裕があるのだよ」
759 :
本日分(ry
[saga sage]:2011/08/09(火) 03:04:38.40 ID:7arGJqoCP
「物質的な余裕?」
「"前"の時に"幻想殺し"によって施された、他者複数脳との思考・情報協調体系。これによって本来なら頭の片隅に置かれている様な些細な物事すら、増幅されてしまう。責任を感じていることに対しては尚更だ」
「でも、そんなデメリットが有る代わりにメリットもあるんじゃないんですか。思考の深化とか最適化とか」
少女の姿のまま、女は首を傾ける。その仕草で、発育途中の胸が僅かに揺れた
「ああ。23学区の施設が生きている限り単純な能力だけなら、あのビルの彼よりもそれらの点で私は優れている。しかし」
「しかし? まだデメリットがあるんですか?」
「デメリットと言うものではないがね。いくら思考や情報処理性能が高くとも、数千の年を見ている彼には、経験や知識量では圧倒的に劣っているのだよ」
具体的な言葉を返さず、代わりに、彼女は一歩近づいた
そして、男を見上げながら口を開いた。今度は、少し表情を付けて
「不安ですか?」
「まるで無いと言えば、嘘になるな」
すると、そのまま彼女は体を男に預けた
「……何のつもりだ?」
「男の人が不安な時はこうしてあげると良いって、あの雑誌に。経験が無いならリードしてあげるべき、とも」
「そこに書いてある"経験"は、今の話の流れの"経験"とは意味が違うと思うが。ともかく、服を着るべきだな」
「何言ってるんですか。裸をあわせるから良いんじゃないですか」
と言うと、二人は一瞬消え、そして今度はコンクリートの床に男が寝ていて、その上に覆いかぶさるように量産個体の姿をした少女が乗っている形で現れた
空間移動によって体勢を変えたのだ。それ行ったのは、もちろん佐天涙子の姿をした女の方
にやりとした顔を作っているのだから、間違いない。その上、興味本位だからいろいろと性質が悪い
「好きにしろ。……しかしまるでこれは、いつぞやの再現だな」
760 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/08/09(火) 10:18:09.26 ID:mHjjJGNM0
まったくわからんが面白いとはどういうことなの
761 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/09(火) 10:48:54.37 ID:yAal12JSO
いつか滝壺は再会できるのだろうか
762 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/08/09(火) 10:54:32.46 ID:bTEpnOuro
エイワスっぽいやつは、もともと佐天さんだっけ?
光球がこうなったんだよな
763 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/08/10(水) 10:55:10.13 ID:lla+FasAO
また孕むの佐天さん?
764 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/10(水) 11:24:58.98 ID:XOkbwWRco
爆発と人外化と受胎と佐天さんは俺たちのアイドル
765 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/10(水) 13:06:48.99 ID:lydc9WUSO
インさん……そしてステイルうあああ
766 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)
:2011/08/14(日) 03:02:09.41 ID:Q54eNKVwo
ほ
767 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/08/14(日) 07:26:31.87 ID:V56t3hU6o
保守はいらないとだけ言っておく
768 :
遅れたのは大体、公安と新幹線と如水館のせい
[sage]:2011/08/16(火) 12:15:20.54 ID:o6qpCmN7o
「このクレーターも、やはり」
岩石が溶けて生まれたと言うには少々丸すぎる金属製の球をみて、やはり彼女は同じ文字を見つけた
朝になったばかりのアメリカの廃墟、最早ここがどういう地名の場所なのかすらも分からない
そこに生まれてしまった、クレーターの中心には
神裂(HAMADURA。この文字を見たのは、これで何度目でしょうか)
時折それらの隕石球は、まるでリズムを取るように表面に筋のような光を縦横に走らせている
朝日を受けて、その光は益々力強く光っているような気さえする
神裂(間違いなく、これらは人造物。これらの解析は)
彼女は、頭の中に、自らに尋ねた
神裂(何らかのプログラムのよウなものが見受けれマすが、言語面ヤ構造面では既存の代物ではアりません)
神裂(機械のことは詳しくないですが、魔術で言えば全く未知の法則が働いていることと同様とみていいのですね)
神裂(少々の錯誤はあリますが、間違いなイかと。問題は、解析しようにも手のつけようがないトいうこと)
神裂(……手が付けられない、か。分かりました)
自らの複脳は、それらを纏めている自らと違って機械やコンピュータの扱いや分析には優れている
それらを助ける微小機械という便利なツールもありながら、全く手が付けられないと言うことは、そして手が付けられないものがなにより隕石であるということは
神裂(宇宙人? まさか、出来の悪いSF映画ではないのですし。アルファベットではある以上、人間の手によるものでしょうが。……おや?)
発光している筋に目が行ってしまうが、しかし他にも特異な点があった
それは、隕石の下、地面と直接接触している部分。そこには緑色の管が地面と隕石両方に刺さっていた
神裂(パイプといってしまえばそれだけですが、他の言葉で表すならば、これは根でしょうか)
仮に根だとしたら、これは植物だというのか
大気圏突入の高圧高温を耐える植物とはどういうことだろうか。まず、地球外の植物だと?
そんなことを考える神裂の前で、突如、隕石と言う名の種子が動き出す。具体的には、裂けるという方法で
769 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/08/16(火) 12:16:30.66 ID:o6qpCmN7o
急な動きに思わず彼女は距離をとる
そして、まるで花が開くように綺麗に五等分に分かれた隕石の内面から、花粉のような、微粒子の塊のような何かが辺りに大量にまき散らされた
これは一体、と、煙を掴むようにしてその微粒子を掴み取ると
神裂(強いて言うならバ、植物と微小機械のようなものの混合体。これも、該当するデータ無シ)
神裂(もともト、私の頭脳に軍事データしか入力されていナいことを逆手にとって考慮すれば、既存既知のあらゆる生物兵器・細菌兵器でハないということ)
神裂(生物兵器ではないと。確かに、殲滅する対象、つまり人間が隕石や破壊者の手によって既に存在しない以上、それは当たり前とも言えますが)
対象がないのに魔術を準備する必要はない。漠然とした生物兵器の定義くらいは知っている彼女にも、それはわかることだった
だとしたらますます、コレは何だ、ということになる
「ここのもか! あんたも早く離れるんだ、もっと!」
悩んでいた背後、クレーターの淵に金髪の男性が英語で叫んだ
体格・顔つきからその人物は米国人の生き残りであろう
まさか生存者が居るとは、と思ったが、彼女は彼の元にへ
話をしたいという意味と、この謎の隕石から離れる為に
神裂「あなたはあの隕石を知っているのですか?」
30m以上の距離をワンステップでつめて、問う彼女。明らかに一般人ではない
その姿は、適当に拾った布切れを腰と胸に巻き付けて、隠すべき場所を隠しているものの
腰には刀を差し、豊満な胸に建宮の剣の破片を形見として挟んでいる
それだけでも異様だと言うのに、人間らしくない跳躍力は少なからず米国男性を驚かせた
「あ、あんたも、サイキックなのか?」
神裂「似たようなものです。"も"、ということは、あなた以外の生存者に超能力者がいるのですか?」
「ああ。うちのパーティーに電気を扱う娘っ子がいるんだ。もっとも、あの子の能力はその電気よりも、なんというか、予言、いや神託を受けることが出来るって言うべきなのかもしれない」
神裂「神託、ですか」
「MISAKAネットワークがどうこうとか言ってたっけか。まぁ本人も今一よく分かってないみたいなんだがな。危険が迫ってると声が聞こえるらしい。それに従って動いてきたから、彼女も、そして俺達も生き残ることが出来たってわけだ」
770 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 12:16:56.19 ID:o6qpCmN7o
神裂「声を聞く……。超能力のことは詳しくは知りませんが、なかなか特殊なもののようですね。少なくとも、私にはそのような神託を聞いたりすることは出来ません」
「そうなのかい。どちらかと言えば無愛想な子だが、こうして生き残れた以上、俺達にとってはありがたい存在だ。だが、そんな彼女でもあの隕石については知らないみたいだ」
そのまま、男は顎で隕石を示しつつ、「見てろ」と視線を促す
何が起きるのかと思った矢先、隕石の周辺、つまり何かがばら撒かれたあたりが、一斉に緑、緑
ペンキの缶を空からひっくり返したような勢いで、半球状に窪んだ地面が緑化していく
神裂「……これは」
「俺に聞くなよ? わかりゃしないんだからな。中華や旧ソの化学兵器か、学園都市のキチガイ実験生物にも、なんにでも見える。わかるのは、こいつが普通じゃねえってことだけだ」
神裂「一種のコケのようですが、こんなものが他にも?」
「夜が明けてから、ちらほら見かけるぜ。まるでモノホンの植物見たく、太陽光を浴びてそこいらでぼんぼんぼんぼんってな。訳が分からんから近づかないようにしてんのさ」
神裂「そうですか」
頬が泥か埃かなにかで汚れた男の判断は間違っていない
触らぬ神に祟り無し。これは特定の動作で発動する魔術戦に対しても通じるところがあるし、一種の真理でもある
しかし、あのコケは一体何なのか。なぜ隕石が種子でコケなのだ?
そんなことを考えていると、会話が途切れて居心地悪そうな男が提案をしてくる
「なぁ、あんたさ」
神裂「はい?」
「行く当てがないなら、俺らのところへ来ないか。サイキックなら、俺達にとって何か役に立つかもしれないし、食事も、それにえーと、まともなブラも女物のパンツもあると思うぜ?」
神裂「……え? あ、ああああああああああああ、ああああッ!?!?!?!?」
本格的に、今の自らの格好を忘れていた彼女は、「見ないでください!」と、日本語で殆ど叫びつつ
それでいて刀の切っ先は男の首に触れる寸前
男の方も理解できない日本語と音量と刀に驚いて、そりゃもう動けず両手を挙げるのみである。いろんな意味で勘弁してくれと言いたい
結局、顔を真っ赤にした神裂が取り乱したことへの謝罪と、彼らのちょっとしたキャンプまでの案内を頼んだのは数秒後で、男の首は僅かだがちょっと切れていた
771 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 12:17:58.28 ID:o6qpCmN7o
「先ほど儀式を終えたばかりだというのに、仕事熱心ね」
儀式を終え、ロシア成教の救世主となったフィアンマが研究施設に入ろうとした時のことだった
フィアンマ「おっと、ヴェントじゃないか。さっきの式典には参加していなかったよな」
ヴェント「単純に面倒だったのよ。でも、そん時にネズミが一匹走り回ってるのを確認したわ」
フィアンマ「ほぉ。しかし、どこぞの気分屋の猫さんがその獲物を捕まえてないということは、まさか取り逃がしたのか」
彼には、そのネズミという存在が何なのか、言われなくとも大体予想はついていた
救世主認定の儀式出席していなかった存在で、かつロシア成教の有力者と言えば、限られるのだから
ヴェント「私はそんな命令受けてないっつの。実験台としてのテッラ、"聖母の慈悲"という必須パーツのアックア。こいつら二人と違って、あんたには私という存在に必要性はない。どっちかっていうと余計」
彼は彼女に反論しない。今の彼女がここに居るのも、一種気まぐれ的なことの帰結なのだ
ヴェント「そういうことが分かった上で、特別に命じられたわけでもないのに、私がわざわざあんたの機嫌取りをすると思ってんの?」
フィアンマ「なんだ。拗ねてるのか」
ヴェント「ち、違うわよ。私は単に、命令された以上のことはしないって言いたいだけ」
フィアンマ「ならば最初からそう言えば良い。まぁ、その拗ねるという感情は仕方のないことでもある」
ヴェント「はぁ? 私がアンタに気があるとでも思ってる?」
フィアンマ「そういう個と個の問題じゃない。結果的には個と個の形になるだけだ。天使が神を尊敬し愛することは必然的なことだろう」
ヴェント「ダウト。ルシフェルって例も十字教には組み込まれている。十字教教義によって後ろ盾を固めたあんたには、裏切りという可能性を否定できない。テッラがいい例でしょ」
彼女の言うように、預言者=神で復活者=天使とするならば、フィアンマの命を守らず暴走したテッラは確かにその形式に当てはまると言える
フィアンマ「だがその堕天の原動力は、強い感情の爆発、一種の嫉妬とも読み取れる。とくにルシフェルの例ならばな」
言いながら、フィアンマは一歩、少し息の荒いヴェントに近づいた
フィアンマ「嫉妬というのは、何も愛憎云々に限った感情ではない。自らより強い者、より能率の良い者に対しても生じるものだ。お前の場合は、どの嫉妬だろうな?」
ヴェント「だから、私が嫉妬しているって言いたいの? 馬鹿馬鹿しい」
フィアンマ「嫉妬自体は俺様にだってある感情だ。ただしそれは、俺様より知識が無く、しかしだからこそうらやましいほどに純粋だった元救世主に対してだから、お前のそれとは違うが」
ヴェント「……やっぱりあんたってどこかおかしいのよ」
772 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 12:18:30.62 ID:o6qpCmN7o
フィアンマ「褒め言葉として受け取ろうじゃないか。ともかくだ。認めてしまえよ。その方がずっと楽になる」
彼の言の葉は一種の誘導の役割をしている。駒の離反を防ぐという目的で。それはヴェントにも分かっていた
しかし、催眠的な誘導の根底には元となる要素が無ければ結果の達成はなされない
つまり、実際に彼女の中にはあるのだ。フィアンマという存在によって生じる嫉妬が。しかも単なる仕事の関係によるものではないものが
彼と彼女の主従関係から仕事面からの影響もあるが、しかしその主従関係は一般的な上司部下関係を超えたものであり、それとは違う形すらももたらす
天使に限りなく近い復活者である彼女は女であり、主なるフィアンマは男。いくら天使が中性存在であるとしても、女神は十字教が取り込んだ地域神話の中にいくらでも在る
表面的には、"幻想殺し"を持つ存在と同じ理由。気軽に言えば信仰の絶対的な中心であるという性質によって生じるフラグ体質
フィアンマ「な?」
そう言って、ヴェントの呼吸を妨げていたフィアンマの唇が、そっと離れた
ヴェント「……ふん。それは私だけじゃなく、他の連中にだって同じなんだから。見られたら今度はそいつが嫉妬するわよ。間抜け」
フィアンマ「ならば、その度に対応するまでだ。神は寛大な存在だからな」
ヴェント「最悪な救世主様。……まぁいいわ、教えてあげる」
努めて、彼女は自らの感情的なクールダウンを図った
それがギャップとなって微笑ましい。フィアンマの余裕は増大する
ヴェント「ワシリーサとかいう"殲滅白書"の女が、霊装だとか実験だとかをしてるこの施設に忍び込んでた。何か情報が漏れた可能性がある」
フィアンマ「やはりな。そんなところだろうと思っていた」
ヴェント「どーする。命令すれば消し去ってくるわよ」
フィアンマ「その必要は無いだろう。捨て置け。今更あの女一人でなにが出来る?」
ヴェント「確かに、そうかもしれない」
フィアンマ「だがそうだな。ネズミを捕り逃すことがないように、お前には一つ命令をしようか」
ヴェント「……なに?」
フィアンマ「簡単だ。"俺様のことを思って動け"。今更といえば今更だが」
仕事の関係だけで見るなら、それでも露骨な意味が見受けられるが、相手のことを慮って円滑なコミュニケーション環境にしようと言う意味にも採れる。しかし、今の流れである
773 :
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[sage]:2011/08/16(火) 12:19:01.52 ID:o6qpCmN7o
それが意味するのは、彼女のフィアンマに対する感情から、露骨だ
ヴェント「それって、ひ、卑怯だろ。飴と鞭どころか、飴と飴よ」
フィアンマ「鞭が望みなら、くれてやるぞ? 顔中にピアスなんかを付けてたお前なら、そっちの方がお似合いかもな」
ヴェント「あんたが施してくれる時点で、それは全部飴なのよ。……馬鹿」
そう言って、彼女は耐えかねるようにその場を、近すぎるフィアンマから離れていく
フィアンマ「強いて言うなら救世主の術式。その構築は完璧のようだな」
そんな彼女の後姿を見ながらの発言。それに、施設の入り口から出てきた男が応える
「そのようですね。今の彼女の表情、私の知る限りでは初めてだ」
フィアンマ「見ていたのか」
出入り口なのだから、誰かが見ていることは容易に考え付くことだ
「木の皮から生まれたわけではないので。空気を読んだのですよ」
フィアンマ「そう言えば、お前はヴェントがローマに入って来たあたりから知っているのだったな」
「たまたま所属が近かっただけですがね。しかもその数年後に殉職してしまった」
フィアンマ「よかったな。アイツはそれなりに人間らしく成長したようだぞ。お望みならお前にも口付けをくれてやってもいいが」
「ご冗談を。その術式が男性である私に作用しているのは、敬意だけですよ。それよりサーシャ=クロイツェフの報告書は見ましたか」
フィアンマ「悪いがまだだ。今持っているなら、ここで見るぞ」
「研究棟の机の上ですね。詳しくはそこに書いてありますが、彼女から得られた拡張性から、"神の右席"をそのままの性質に合った大天使と合一化させることが出来そうだと言えます。もっとも、そのためには主であるあなたが右方から離れ、他の誰かを据える必要がありますが」
フィアンマ「四大属性がズレたままの大天使属性ならば、その地位にはステイルあたりが適任だろうな。"天使の力"の使用についても、俺様がのっとった事で大規模な展開の経験がある」
「私も適任だと思います。彼を被検体としての使用するのですね」
フィアンマ「ただし、禁書目録との蜜月が終わるまで待ってやって欲しい。正当な休息だからな」
「了解です」
一度会話の流れが途切れたので、男の方は思いついたことを踏まえてメモを書き始めた
それがある程度形になったのを見て、フィアンマは聞いた
774 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 12:19:33.36 ID:o6qpCmN7o
フィアンマ「しかし、お前はどう思う」
「どう、とは何を?」
フィアンマ「抽象的だが、"力"についてだ。魔翌力といっても天使の力といってもいい」
少し、男は考えた
「魔術などによる応用手段が無ければ、あってないようなものと思っていますが」
フィアンマ「だがそれは、魔術が誰かによって体系づけられたものであっても、それ以前に利用可能な力として存在していたことは確実だ」
「確かに」
フィアンマ「人間以外の生命体には、今のところこの力を扱える存在はない。どうして人間だけが可能なのか」
「我々の拙さを見かねた神が、その権利を人間のみにお与えになったからではないでしょうか」
フィアンマ「司教としては、模範的な解答だな。神という言葉を使えば、すべてに擬似的な解答を作ることが出来る」
しかし、とフィアンマは続ける
フィアンマ「それは一種の思考放棄だ。科学の肩を持つわけじゃないが、十字教の凝り固まった視点から離れた見方をしたなら」
フィアンマ「何故、魔術という非日常を作る原動力があるのかという疑問が、そこに生まれる。視点だけならニュートンとやらの万有引力発見のプロセスに似ているな」
「"天使の力"を科学的なアプローチで解明できるものですかね」
フィアンマ「断言は出来ない。だが、科学には化石燃料という源、魔術には魔翌力という源がある。一番基本的な原理は魔術も科学も同じだろう」
科学という考えは人間の思考のによって生じたもの。ハイレベルな思考が人間だけに与えられたものならば、科学的な思考も神が認めたものとしても考えられる
「確かにそうですね。流石は救世主だ。悩む視点が違います」
フィアンマ「これは禁書目録に尋ねても分からなかったことだ。そこに明確な理由など無いのかもしれない。しかしだからこそ、思考を止めてはならないものだと、俺様は思っている」
"汝らは汝らの創った力を用いて我々を造った。故に我々は汝らに従い、汝らの神となろう。創造者よ"
禁書目録の頭脳にあった、この唱。これは果たして、これは何を意味しているのだろうか
神となることが約束されたフィアンマの、最大の疑問だった
775 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 12:20:13.98 ID:o6qpCmN7o
「見えなくなってしまいましたか」
女が一人、立ち止まって夜空を見上げ、呟いた
瓦礫が左右に撤去されただけの道の上に、仮設の電光設備があっても、それでも十分に見えていた夜空の星月が、今は全く見えない
相「曇が出てきた。明日のことに差し支えなければ良いのですが」
だいたい深夜の12時を回っているであろう今。すべきことが特にない者は既に休息か見張りぐらいしかしていない
彼女がこんな時間まで外を歩いているのは、これまでずっと明日の巨大隕石"神の国"迎撃実行のシステム系を整えていたからだ
上条刀夜の指示が有ったらしく、正式にシステム周りをいじれるようになった彼女の予定では、明日の朝に少しばかり手を加えれば、100m以上の口径を持った地下格納式超巨大レーザー砲の発射が可能となる
相(隕石のサイズに対して、如何に100m級の火砲であっても、それは火の粉のようなものでしかない。曇りによって精密な射撃が失敗するようなことになれば)
交代制で守衛をしている米兵に軽く挨拶をして、彼女は病院から少し離れた宿泊施設として扱われているオフィスビルに入った
雨を警戒して、天井が吹き飛んでいる部分をビニルシートで覆ってあるのが施設内からも確認できる
それを見て、やはり雨か、と気が沈む
とにかく、当麻の元へ行って今日の報告をしよう。出来れば少し甘えたい
そう考えて、一歩上るごとに一段ずつ壊れてしまいそうな階段を上っている最中
地鳴り音と強い揺れが彼女の背後から突き抜けた
ダランと垂れてギリギリ発光していた電飾が壁と何度もぶつかって破片を飛び散らさせ、ボロボロと親指サイズの礫がこぼれて階段のスポンジ化が更に進行する
手すりと壁に体重を任せて、揺れをやり過ごす
完全に揺れが静まったが、揺れている間も、そして揺れが終わった後も悲鳴などは上がらなかった
相(試射実験は今日はもう行われない。ということは、今のは本物の地震)
相(今のが本震であるといいですが。しかし、ちょっとした揺れや音では、ここに居る人たちは少しも動じなくなってしまいましたね)
神経が図太くなってしまったということだが、それは、下手をすればいざと言う時に退避の初動が遅れかねない
相("終末"ならば雨は豪雨に、微震は大地震にもなりかねない。半壊ばかりのこの都市にずっと居座るのは危険なのかもしれません)
それらから全て逃げるには、それこそ天空にでも逃げなければならないが
そんなことを考えつつ、彼女は上条の部屋の前にたどり着いた
「今までと違う感じがしなかったか? 今の揺れ」
当麻の声。しかしこれは、自分に向けられたものではないだろう。同じ部屋で横になっている誰かに対してだ
776 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 12:20:48.37 ID:o6qpCmN7o
部屋の入り口に本来あるべき扉の代わりの、一応の衝立の隙間から中の様子が伺えそうだ。あまり良くは見えないだろうが
「そう? 確かにちょっと激しかったかもしれないけど」
この声は、御坂美琴だろうか
「一応、見てくる」
「わざわざ行く必要なんてないんじゃない? それより寝られる内に寝ておいたほうがいいと思う。いつスキルアウトの残党が報復してくるかも分からないし」
「んー、それもそうか。まぁ確かに無駄足っぽいしなぁ。地震だったからといってそれでどうするってこともないし。で、御坂美琴さん」
「なに?」
「どうして上条さんの布団にあなたが潜り込んで来ているのでしょうかね」
「一人は寒いのよ。敷布団の代わりはあるけど結局床の上だし、風通しが良すぎるの」
「一応言っておくけど、今が非常事態だから、仕方なくこうしてるんで有ってですね」
「はいはい。わかってるわよ」
会話から察するに、そういうことか
どういう部屋割りになったのか分からないが、上条と御坂が同じ個室に当てがわられて、寒いという理由で
いや、昼間の初春のこともある。寂しさや心細さという理由も有って、支給された毛布程度しかない上条の寝具に潜り込んだのだ。確かに保熱効率はいいかもしれない
少々、羨ましい。私だって同じような感情がないわけではないのに
輸送機内でムードを壊してしまったこともある。この空気の中には入るべきではない。でも
そういう感情を乗せた眼で、衝立と衝立の隙間から中の様子を見る
見えたのは、二つの頭。体勢的には背中合わせだろうか。しかも、その内の片方と目が合ってしまった
視線が交差したのは、上条当麻ではない方の人間。向こうは自らの存在に気付いた、確実に、間違いなく
冷たいとも言える、2秒にも満たない間が生まれ、そして
その間を作り出した少女は、背中合わせの身をまわして、つまり、相との視線の交差を無視して、上条の背の方を向き、首に腕を回した
「アンタは、消えたりしないでね」
「……ああ」
上条当麻も知っている。御坂美琴が友人の死を知って気落ちしていることを
彼は優しい。こう言われて、拒めはしない。そういうことを、私は知っている。恐らく、御坂美琴も
777 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 12:21:32.70 ID:o6qpCmN7o
"消えたりしないで"という言葉は、恐らく本心から出た言葉だろう
しかし、上条当麻の優しさが欲しかった相には、邪魔しないで、と彼女が言っているように思えてならない
たまらず、音を立てないようにして、彼女はその場を離れた
上条のそばを奪われたこともある。それ以上に、邪魔をするな、という風に受け取ってしまう自分が嫌だった
前もまともに確認せずに、廊下を早足で進む。これがどういう感情なのか表す言葉を彼女はたくさんの言語で知っている。詳しく説明することも出来る
でも、それは何の意味もないことだ。彼女にとっては
この心理状態を沈め、忘れる為に、明日やろうと思っていた作業をしようと来た道を戻って階段にさしかかったところで
彼女は自らよりも小さい存在にぶつかった。前方不注意のせいであるのは明白だ
自分らしくない
そんなことを思いながら、ぶつかってしまった存在に謝る為、彼女は立ち上がろうとした
ス、と彼女の前に差し出される手。「大丈夫ですか」と問う声
相「すみません。前をちょっと見てなくて」
手を借りて立ち上がった彼女。その顔を見上げる白い戦闘服を着た少女
「気にしません。それに、そんな目では、前が見えなくても仕方はないです」
言いつつ、少女は相の目元に指を伸ばして、たまった液体を優しくすくった
自分は涙を流していたらしい
相「あ……」
「その涙は、悲しいことや恐怖によって生じたものでしょう? なにがあったのかアタシは聞きませんが」
直ぐ目の前まで接近していた彼女は涙で潤った手をそのまま、相の腰から肩へ腕を回す
それからギュッと、それこそ乱れていた心臓の音がゆっくりになるまで、彼女は抱きしめられた
図らずも、自らが上条にしたいと思っていた行為でもあった
「迷惑でしたか」
相「いえ、そんなことは。あなたは?」
「佐天涙子型軍用試作量産個体の生き残りの一人です。もし宜しければアタシ達のところに来ませんか? 妹達のみんなも居て、人数が居るので涙の理由が紛れるかもしれません」
778 :
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[sage]:2011/08/16(火) 12:22:04.62 ID:o6qpCmN7o
神裂「下着や衣類、ありがとうございます」
そこは、森に囲まれた天然の洞窟。近くには木材運搬を考えている比較的大きな林道が通っており、戦車が二、三台は入りそうな大きなトレーラーもある
都市の近くよりも、そういう要素を感じさせない自然の中に逃げるべきと判断して、彼らはこんなところへ逃げていた
「いいさ。本当なら金でも取ってるとこだけど、この状況じゃドルはただの紙束で貴金属は重荷でしかないからね」
焚き火の黒い跡がある地面の近くの岩に腰掛けた中年の女性が、神裂の目の前で破れた布切れを縫い合わせている
「ああでも、代わりといっちゃなんだけど、あの電気娘にこれもってってよ。私はこの裁縫終わらせたいから」
手渡されたのは焦げたベーコンと形の悪いバケット、それに少々の野菜。時間的には昼食か
神裂「構いませんが、どこにいるのでしょうか」
「朝からずっと車の電装系を見てるはずだから、あのトラックの下に潜り込んでるはずよ。あなたも何か食べる?」
神裂「いえ、特に食欲は無いので」
「それは良くないわ。折角いい身体してるんだから。これもってきなさい」
といって、女性は側方においていた硬そうなパンと水を手渡す
神裂「それでは、あなたの分が」
「大丈夫よ。野菜はちょっと少ないけど、小麦はまだまだあるから。肉はいま何人かが狩りに行ってるところだしね」
神裂「わかりました。では、いただきます」
「素人の手作りだからちょっと見た目は悪いけど、それは気にしないで」
はい、と返事をしながら、神裂はトレーラーの方へ向かった
気丈な人間がのどかな雰囲気さえ作り出しているようだが、彼女らの目の前では最悪の光景があったはずだ
努めて、雰囲気を作っているのだ
「全く、何が地球に優しい電気自動車だ。非力だわ壊れるわじゃねえか。20年付き合ったディーゼルのが力もあるし構造も分かるし良かったぜ。おーい嬢ちゃん、どうだー? なんとかなりそうかー?」
779 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 12:22:40.35 ID:o6qpCmN7o
トレーラーの近くで、薄汚れたタオルのようなもので顔をごしごしと拭きながら、腹の出たガタイのいい男性が車体の下を見つめている
その視線の先から、ガラガラとキャスターのついた台の上に仰向けに寝た少女が、同じように顔を汚して滑りながら現れる
「一応の処置は完了しました。これで動くはずです、とミサカは簡潔な報告をします」
「おおっ、マジか!? これで移動が再開できるな。んで、一体何が悪かったんだ?」
「複数箇所に傷や劣化が見られましたが、問題はなんらかの衝撃がシャーシを貫いたせいで、制御系にダメージが入ってしまったことかと思われます」
「うむむ、思い当たることが多すぎるわな。でもダメージって、今は動くんだろ?」
「はい、動くには動きますが、安全性・効率性を高める為のシステムを停止させた、純粋なアクセルオンとオフぐらいしか出来ません。強弱の利きも悪くなっているはずです」
「つまり、機嫌の悪いエンジンになっちまったってわけだな。なーに、ちょっと前までそんな車に乗ってたんだ、問題ねぇよ。さっきちょいと離れたところで使えそうなバッテリーユニットの付いた廃車を見つけたんだ。試走ついでに拾ってくら」
コンテナ車の部分が切り離され、牽引車の部分だけとなった車体がブロロロと音を立てて振動を始める
運転席の窓から男が腕を出してヒラヒラさせているのを少女は見送る
「お気をつけて、とミサカは手を振って見送ります」
神裂「すみませんが、あなたは学園都市の第三位、御坂美琴では? どうしてここに」
綺麗な布を手渡しつつ、神裂は尋ねた
「ありがとうございます。そして、ミサカはオリジナルの御坂美琴ではなく、コネチカットに派遣された軍用クローンの19772号です。本人では有りません」
神裂「クローン、ですか」
手渡された布で、顔の黒い汚れを伸ばすようにしてふき取る少女
彼女にもいろいろな事情があって今に至っているのだろうと考えられる
神裂「あ、これは、あちらの洞窟のなかで手直しをしている方からあなたへ、ということです。どうぞ召し上がってください」
「助かりました、ちょうど空腹が来ていたので。水をいただいても良いですか? とミサカは音を聞かれまいとお腹を押さえつつ尋ねます」
神裂「どうぞ。……しかし、あなたはどうしてこのキャンプに? ここの人たちは派遣先の施設の方々ですか?」
780 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 12:23:06.75 ID:o6qpCmN7o
クローンの少女が十分に水を口に含んだ後に、彼女は聞いた
「いえ、ここに居るのは、いろいろな町町でたまたま生き残ってしまった人たちばかりです。施設の人はみんな散り散りとなってしまって、恐らくは」
神裂「そうですか……」
恐らく、破壊者によって殺されてしまったのだろう。会話が途切れた
その間に、少女は口に食べ物を送る。その際、胸元の十字架が光った
神裂「そのバプテスト様式の十字の首飾りは、施設の方々の形見か何かでしょうか」
「もぐぐ。……残念ですが、否定します。そうだと良かったのですが。これは、神託を受けることが出来るからという理由で、ここのキャンプの人からもらったのです。しかし、ミサカにはコレが理解できません。とミサカは信仰に疑問を浮かべます」
もう一度パンとベーコンを口に運んで、飲み込んでから、彼女は続けた
「確かに、彼らにとっては、ミサカが受け取る危険回避の声は神の声に等しいものかもしれません。しかし、彼らの定義に従えば、この状況も神が作り出したものになります」
「既存文明の象徴ともいえる現代都市は大きかろうが小さかろうが構わず軒並み破壊され、多くの犠牲を生みました。なのに、どうして今更"神"という存在に救いを求めるのでしょうか。ミサカには分かりかねます」
本当に、理解できないといった感じだった
神裂「それは恐らく、祈らずにはいられないからですよ」
少女が食べている間に、神裂は答える
「なぜ、祈らずにはいられないのでしょうか」
神裂「信仰を心から信じているかどうかに限らず、この場合は一種の精神の逃げ場として機能しているのですよ」
「超現実的で自分の非力さを痛感させられる環境下だから、逃げ場が無ければ精神が先に参ってしまう。だから、信じてもいない神へ祈るということでしょうか」
神裂「そういうことです」
「しかし、あの天使のような姿をした破壊者達の前でいくら祈ろうと、彼らはその破壊を止めたりしない。それはミサカを[
ピーーー
]ことを目的としている存在に、命乞いをしたところで効果が無いのと同じこと」
「恐らく今生き残っている人間はみんな、そう分かっているはずです。なのにどうして、彼らは祈りを止めないのでしょうか。一体何を、誰に望んでいるのでしょうか。ミサカは理解できません」
「都合のいい神なんて存在はありえない。結論、窮地を救えるのは自分自身か、それか他の人間なのだと、ミサカは思います」
781 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 12:24:07.55 ID:o6qpCmN7o
彼女の言葉には、固い経験に裏打ちされた感じがした
どんなに良い言葉で説明しても、恐らく、少女の経験を上回る理論にはならないだろう
"聖人"というものを、それこそ先天的な突発的な突然変異とするならば、神裂ですら、神をモチーフとした術式はあれど、神というものが直接何かをした、という経験はないのだから
神裂(確かに、それでも神を信じるというならば、それはもう狂信・盲信と言うべきなのでしょうね)
神裂(しかし、それでも人は祈る。それは最早本能的ともいえるのかもしれない。どうして信じられるのか、などという問いに明確な答えは無い)
神裂(それでもあえて理由を考えるならば、神かそれに類する存在が私達をそう作ったから、ぐらいしか)
瓦礫に腰を落とし、ミサカは黙々と食べ、神裂は考える
この自らをクローンと言った少女が口にした疑問は、神裂に無かったわけではない
しかし、十字教一派の"女教皇"として"神"を否定するわけにはゆかなかったから、それは意図的に、しかも無意識的に考えないようにしていた
それでも、封じられていた疑問が少女の言葉という形で具体化されたことで、神裂でさえ疑問に思ってしまう
このような"終末"を起こす"神"をどうして盲目的に信じられるものか
だからこそ、彼女は立ち上がり、黒いワイヤー状の未元物質を背中から大量に展開させた
既に隣の少女は残った食べ物を口に強引に押し込んで、走り出している
声を聞いて、その一撃を避け、周りの人間を逃がす為である
生き残りを狙って、こんな洞窟のような自然にすら破壊を仕掛けてきた東洋の龍のようなフォルムをした、破壊者
大きく長い体を、飛び上がって一太刀の元に地面へ叩き付け、そのまま、間髪いれずにあらゆる手段で滅多打ちにする
救いの中心である神は、手助けはしてくれない。だったら、自分で何とかするしかない。建宮たちがそうしたように
782 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 12:24:34.26 ID:o6qpCmN7o
「うわぁ、すごい雨」
次の日は、朝日は拝めなかった
朝早くからパラパラと雨が降ってきたので、青空食堂となっていたところにシートをかける作業を終わらせた後、その雨は急に勢いを増したのだった
一方「集中豪雨っても激しすぎンだろ、これはよォ」
台風や夕立を思わせるレベルが、かれこれ一時間以上降り続けている
白井「しかも、気象情報が入手できませんから、この雨が何時終わりそうなのかも分かりませんの。あら、お姉さま。当麻さんは?」
バタタタタタと激しく鳴り響く下で、ココアを持って別の場所に防水シートをかける作業をしていた御坂が現れた
打止「その匂いはココアかな? ミサカもココアほしいなー」
御坂「あげるわよ。アイツは父親に呼び出されてどっかいっちゃった」
白井「それは残念ですのね」
御坂「まぁ、仕方ないことでしょ」
打止「あの人を持っていかれた割には機嫌がいいんだねって、ミサカはミサカは昨日までと比べて不思議に思うー」
熱いからという理由でココアの入ったマグカップを一方通行に奪われた打ち止めが首をかしげると、第三位は自らの下腹部に一度手を当てて、打ち止めの方を見た
御坂「そーね。もしかしたら、もしかしちゃうかもしれないからかな。こんな環境下だし。あと、アンタ」
打ち止めの代わりに息を吹きかけ、それでも熱いかどうか一口確かめている一方通行を指差した
一方「あァ?」
御坂「アンタも来て欲しいって。ってわけで、行きなさい。その子の相手は私達が代わるから。多分、隕石関係だと思うわ」
なンで俺がという表情を浮かべたが、そのまま彼は打ち止めにはまだ熱いと思われるココアを机の上に置いた
一方「……仕方ねェな」
ポケットに手を突っ込んで食堂から出て行く彼を「いってらっしゃーい」と送り出す打ち止め
彼が置いていったココアを白井が掴み、手招き
白井「ではではでは、打ち止めちゃんはこちらへいらっしゃいまし」
783 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 12:25:05.49 ID:o6qpCmN7o
御坂「黒子の近くは危険だからこっちに来なさい」
打止「そーする、ってミサカはミサカは黒子から露骨に距離をとってみたり」
んなっ?! っとショックを受ける白井を放置しつつ、打ち止めの頬をつつくなどしていると雨でひどく濡れた人々が続々と暖かいものを求めて食堂に現れたてくる
直ぐに、設置していたレンジとポットに列ができた
フレンダ「うぉーい、第三位。外がかなりやばいわけよ」
そんな中で、御坂たちの近くに数人の女達が来る。彼女らもかなり濡れている
御坂「雨のこと? 確かに史上最大って感じだけど」
滝壺「それどころじゃない。マンホールが持ち上がってる」
白井「滝壺さん。体はもう大丈夫ですの?」
滝壺「体調は、大丈夫。それより、下水の逆流の話」
絹旗「あれは多分、水道処理システムに問題が超起きてるんでしょうね。地上がアレだけ破壊されたんだから、当然っちゃ当然ですけど」
御坂「そっか。排水ポンプが壊れちゃったってことか」
フレンダ「学園都市だけじゃなく、現代の都市はだいたいポンプで強引に圧力をかけて押し流してるから、結局、それ処理できる水量上回る、もしくは故障なんかすると」
滝壺「洪水状態。だから、臨時病院はもう上階に薬とかを移動させ始めてる」
御坂「そうなの? なら手伝いに行かないと」
打止「ミサカもミサカもお手伝いするー! でもその前にココアー」
白井「あなた方もここへ来たばかりですし、なにか暖まるものをとった方がよいかと」
フレンダ「そうさせてもらうわけよ。しっかし、ついてないわね。この分厚い雲のせいで隕石迎撃の本番はうまくいかないフラグたっちゃってるみたいだし」
白井「しかも昨日、地震が発生していたらしいですの。もちろん、気象と同じくそれが本震か余震かもわからないようですし」
良くないことは立て続けに起きると言うが、これでは耐え切れなくなる
絹旗「こんなことは超言いたくないんですけど、隕石以前に学園都市の限界が来てもおかしくないです」
そうならないためにも、彼女らの今の願いは、この雨が早く止むことだった
784 :
本日分(ry 甲子園面白すぎワロタ
[sage]:2011/08/16(火) 12:27:39.01 ID:o6qpCmN7o
「"幻想殺し"のフィールドを解除するだって?!」
一方通行が刀夜と上条がいる、隕石制御システムを管理する並列コンピュータのある建物に現れてから、上条刀夜が放った言葉に息子は驚いた
刀夜「ああ。その通りさ」
一方「馬鹿言ってンじゃねェ、おっさン。あれがねェとメルヘンな連中がここに入ってきちまうだろォが」
刀夜「分かっているさ。しかし、幻想殺しフィールドジェネレータとレーザーは同時発射できないんだ。出力限界の問題でね」
といって、彼らの前のモニターに数値を見せる。なるほど、赤文字のマイナス値が大きい
第一学区の核融合炉と外円部の蓄電施設が生きていれば、どうにかなったかもしれないが、などと刀夜は言ったが、もちろん、両方とも使い物にならない
一方「っても、この雨雲のせいで精密射撃が出来ねェンだろ? せめて使える人工衛星の一つでもありゃァ別なンだろうが」
刀夜「だから、君を呼んだのさ。お願いしたいのは、この空に浮かぶ雲だ」
一方「……吹っ飛ばせってことかよ」
刀夜「ご名答。そしてそのまま当麻と一緒に、レーザー砲の蓄電が完了するまで学園都市を厄介な破壊者たちから守って欲しい。勿論、それには私や米軍をはじめとした残存部隊も協力する手筈になっている。協力といっても雀の涙ほどだろうけどね」
上条「まともな迎撃設備があっても、それを使うことすら一か八かの作戦だってのかよ」
刀夜「そうだ。相手は我々人間が信仰として定義している"神"だから、言ってしまえば、それに逆らう立場の行動は全て神に仇名す賭けなんだよ」
直接手助けをしてくれないどころか、圧倒的な力で望んでも無い者にまで"終末"によって滅びをもたらす
しかも、それを呼んだのが自分でもあるのだから、上条は押し黙るしかなかった
一方「……"神"、か。そればっかりじゃねェか」
上条「どうした、一方通行?」
一方「何でもねェよ。テメェは俺の足を引っ張らねェように、注意しやがれ」
刀夜「ということは、協力してくれるんだね」
一方「俺達が生き残る為だ。拒否するなンて、最初から思ってなかったろうに」
そういうと、目の前の刀夜は目を少し大きく開いて
「ああ、勿論だとも」
と、頷いた
785 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/08/16(火) 12:31:38.30 ID:qWvmbD+7o
乙〜
>>5
の応援する高校が日大三or能代にフルボッコにされますようにっと
[ピーーー]が紛れこんでいた気が(ry
786 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/08/16(火) 19:30:17.41 ID:nvvZSOgAO
御坂さんセクロスしたんだよね?
そう受け取っていいんだよね?
ん?
787 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 21:16:15.82 ID:7Griamkg0
美琴の中で上条さんが脈打っちゃったか。
788 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/08/17(水) 00:51:38.27 ID:0ESJ0rdY0
フィアンマと美琴と佐天さん爆発しろ
789 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(滋賀県)
[sage]:2011/08/17(水) 02:33:00.64 ID:nEOiWgp30
乙
親父さんはどのタイミングで入ってきたのかが気になるな……
790 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/08/17(水) 15:16:20.43 ID:v8pvPX8AO
中出し中だろ
791 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/18(木) 12:03:16.88 ID:NuhNAu3ro
美琴なら微少機械操作して「しゅごい!妊娠確実ぅぅぅぅっ!」
が出来そうで嫌だww
792 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/08/18(木) 18:06:40.54 ID:Spsdbf/Bo
気持ち悪いのが沸いてきたな
793 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/18(木) 19:32:19.76 ID:JKcQYs/Jo
あやつなどわれわれの中では一番下っ端よ
794 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)
[sage]:2011/08/20(土) 02:25:03.84 ID:Zl8EZdti0
フィアンマ…てめえ、俺のヴェントたんを……!
795 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/20(土) 15:03:53.20 ID:5xjQI56Jo
美琴関連のカプになるときもいのが沸いてきてこまる
796 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/08/20(土) 22:05:11.97 ID:KkZZNWlAO
まあ全部俺の自演なんだけどね
797 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:28:53.69 ID:nb6vtV28P
「……動けるものは?」
テッラの樹が消え去った後にもロンドンの街は更なる破壊が進んでいた
原因は、女王の不在、最大主教の不在。つまり、圧倒的守護者の不在
残された騎士団長は、確かに良くやっている。彼の本懐は護民と国家防衛と治安維持なのだから、キャリアはある
だが、逆に言えばそこまでだ。それ以上の経験が無い。不安を鎮める為の弁を振るった経験も、それに迫力を持たせるカリスマもないのだ
統治者としての資質と言う面では、相対的に欠ける。それが彼の今の問題
「少なく見て更に2割減。先程の討伐までに、更に3避難場所が焼かれました。ヒステリックを起こした市民をとめる手段はないかと」
返答を聞いて、そうか、と一度押し黙る
しかし数秒の後、彼は拳の底で机を叩いた
団長「守ると言い、現に天使や神話の獣達の撃退には成功しているが、一方で必ず被害を出している。何時自分が、と思ってしまうのも無理ないことだが」
腰の両側に据えられた、二本の刃の無い国防の剣。それに手を置き、柄の先を見つめる
本来、彼に扱えるものではないこれが、この剣を託した女が施した任命責任の術式によって、彼にも扱えるものとなっている
引き出せる性能は、カタログスペック的には女王のものとは変わらない
しかしながら、根本的に王室派しか扱えないこの剣を利用・応用する術式など、王室派に対して畏敬を掲げる騎士派には、尚更にあるはずもない
彼が扱っているのは、それこそ纏まりきらない力の暴力。鉄は刀にもなるし、ただ平たいだけの鉄板にもなる。彼がしているのは、鉄板とまではいかなくとも、刃になりきらない非効率な形での、力の使用だ
団長「だからこそ、我々は被害をより少なくしなくてはならない。破壊者の襲来ごとに護衛対象が失われ、それによって護衛の効率が上がるのは皮肉なことだが」
周りに立つ騎士たちには返す言葉も無い
せめて浮き足立つ市民を誘導できるだけの集人力があれば、まだ被害は減らせる
自分にそれがないなら、他の何かでもいい
798 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:29:24.66 ID:nb6vtV28P
そのように、彼が思っている中だ。部屋の扉が開いて、policeとデカデカと胸に書かれた男が入ってくる
「例の少女に来ていただきました」
団長「ご苦労。今から話は出来そうか?」
「はい。ここへ連れて来ましょうか」
団長「いや、私から行こう。犯罪者でもない市民を呼びつける権利など、私には無いのだからな」
そう言って、彼は連戦の疲労を癒す間も無く作戦室と言う名のごちゃごちゃした部屋を出た
例の少女というのは、どういうわけか危険を直前に察知して、その少女自身と周辺の人間の生存率を極端に上げているという存在だ
何度も破壊者からの攻撃に巻き込まれながらも、彼女が居る非難集団は多くの生存者を作ってきたのだ
一体どういうからくりなのか、何らかの魔術・科学的方法を用いているならば、彼は知りたい
応接間のドアノブを握り、戦闘であらぶった呼吸を整える為に一息置いて、それを捻って扉を開いた
団長「……! 君は」
部屋に入った途端、彼はソファに軽く腰掛けたその少女をどこかで見たことがあることに気づく
確か、彼女は。どこかで
「ミサカのことをご存知ですか?」
団長「ミサカ……。そうか、君は学園都市から来た例の娘だったか。失礼ながら、君の事は過去既に調べさせてもらっている」
「治安や機密維持の為なら仕方はありません。ミサカが学園都市からの工作員だと考えられいてもおかしくは無いですから」
特に表情を変えず、少女は淡々と話した。それは性格的・生来的なものだったが、騎士団長には聡明が故のポーカーフェイスに見えたのだった
団長「理解が深くて助かるところだが、ならば、ここに来て貰った理由は分かるだろうか」
「ミサカが神託の少女だとかジャパニーズ・ミコだとか言われていることでしょうか? とミサカはもっとも可能性の高そうな答えを提示します」
「ああ、そうだ」と彼は頷く
799 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:29:58.46 ID:nb6vtV28P
団長「しかし、君には危険予知に類するような能力は無かったハズだが」
「肯定します。ミサカの能力はオリジナルの劣化複製品である"欠陥電気"に過ぎません。電気を多少扱える程度のものであって、宗教的なものでは。彼らが神託と言っているのは、ミサカ達のミサカネットワークを介して伝わる"声"のことです」
団長「ネットワークから伝わる声。ということは、君が個別に判断しているというわけではなく、危険予知が出来ているのはその"声"を出しているものがあるということか」
「相違ないかと。ミサカにはそれがどのミサカによるものなのか断定は出来ません。"声"の送信は一方的なものですので。しかし」
団長「しかし、何だ?」
「簡潔に言えばネットワーク間の情報通信量に、"声"発生前とは格段の差があります。増大した量の原因は不明ですが、その中ではミサカからの通信量も増えています。この体からのアップロード、と言えば分かりやすいでしょうか、とミサカは近似的な例を添えてみました」
ほう、と騎士団長は相槌をうった
「つまり、こちらからも何らかの情報を送っていて、それに反応して"声"が送られてくると仮定した場合、その送っている情報は恐らく、周りの環境であると思われます」
「ミサカが一人助かろうと逃げていたときの"声"はミサカ一人を助けるものでした。しかし、行動範囲の問題から、ミサカが特定の集団と行動を共にせざるを得なくなったと認識してから、その傾向は変わり、集団全体を危機から逃すような"声"となりました」
団長「ということは、君の認識次第でその"声"はより多くの集団を危険から回避させる方法を述べてくれるかもしれないということか」
「どこかに上限はあると思いますが、その可能性を否定しきる要素は無い、とミサカは半端な答えを返します」
団長「手の付けようの無い希望があるだけマシというものだ。たとえそれが、君の憶測と言うべき領域であってもな」
「希望……。生き残るという希望ですか」
団長「十字教の定義によれば、"終末"の後には"最後の審判"が在るとされている。それも一種の希望ではあるだろう」
団長「だが、しかし。この"終末"の惨事を見た今、私には到底その十字教的救いの時が信用できない。原罪があるからといって、どうしてその子孫全てに、つまり人間全体へ死が与えられる必要がある」
団長「この懐疑には私の立場、信仰を司る清教派と対立する騎士派であるという要素があるのは事実だが」
団長「"終末"によってわざわざ人々の泣き叫び苦しむ姿を見せ付ける神よりも、私にとっては、人々を助けることも出来る、君が聞く"声"の方がよほど神からのものであるように思えて仕方が無いのだ」
恐らく、君の周りで生き残り、生き残ろうとしている人々も同じように感じているはずだ
そう、騎士団長は続けた
信仰の頂点である神は常に人間の味方と言うわけではない。人にとって、その欲望や本能にとって都合の良い神であれば、逆にそれは正義も悪も肯定しかねない。戒律・道徳として成立しないならば信仰として成立しないだろう
800 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:30:49.89 ID:nb6vtV28P
だが、それが明確に自分へ害を与える存在であることが明確化したなら、そしてそれが我慢できる限界を超えたなら、人類全体云々以前に、個人と言う観点で見れば、神は敵とも受け取れる
「今破滅をもたらし将来の審判を下す神と、ミサカが聞き取ることの出来る"声"の主、どちらに従うべきなのか、ミサカには判断できませんが」
騎士団長の言葉を聴いて、少女は少し考えて言った
「そのどちらが正しかったのか、その答えを見る方法はあります」
団長「ほぅ。それはどういう方法だ」
「これはミサカだけの言葉ではなく、伝聞なども混じっているのですが、生き残ることです。"神"が正しいなら、生き残れば正しかったという答えを目の当たりに出来る。そして、生き残ろうとするミサカの"声"が正しいのなら、生き残った末に、また復興すればいい」
生き残った末に未来があれば、過去のことを考えることも評価することも忘却することも赦すこともできる。しかし、一方通行に殺された10031号までの個体には、未来は無くなった
彼女の言葉はそういう経験によって出来たものでもある。だからこそ説得力があり、騎士団長も少女の言葉に「そうだな」と頷いた
団長「君だけの言葉ではないと君は言ったが、君に生き残れと言ったのは誰だろうか。君を生かそうとしたその存在に、私は感謝したい」
「言葉だけでなく、行為で示した人も居ます。ミサカの言葉を作るのはそれら全ての人々の結晶である、とミサカは断言します」
「そして、その中の一人が第二王女キャーリサ様なのですが、今どちらにいらっしゃるかご存知でしょうか」
お礼もまともに出来ませんでしたので、と彼女は続けるが、騎士団長はキャーリサという単語を聞いて黙るしかなかった
この少女に生き残れといった彼女は、既に、死んでいるのだから
「……残念だが」と答えた騎士団長に「そうですか」と少女は答えるしかなかった。それでも
団長「出来れば、キャーリサ様が君になんと言ったのか詳しく教えてくれないだろうか」
「わかりました。王女様はミサカに――――」
この少女に第二王女が述べたことは、そっくりそのまま彼への指示として受け取れそうだった
王の座を奪った最大主教の命令にも増して、それは折れかけた騎士団長の精神を補うには十分だった
801 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:31:25.33 ID:nb6vtV28P
『いいか、最後にもう一度説明するぞ』
上条の耳のインカムから、最早聞きなれたと言える父親の声が聞こえる。この通信は、この行動に参加する全ての人間に対して送っているものだ
どちらかと言えば米軍と対峙するべき立場だと言うのに、気がつけば米軍を中心としている残存勢力の司令官ポジションとなっている、自らの父親
子供ばかりの学園都市に、上官が殆ど殉職した米軍しかいない今である。いぶし銀と言いえる貫禄の在る年齢とまではいかないにしても、やはり人を動かしてきたキャリアというものだろうか
彼がその地位に居ることはどうも自然なことらしい。だが、少なくともそういう理由を考えない限り、上条には受け入れるには不自然さを感じざるを得なかった
刀夜『まず、一方通行がこの雨空を取り除く』
一方『はいよォ』
刀夜『空が開いたのを確認した後、鏡面反射材を打ち上げ、シミュレーションとの誤差修正、ロックオン』
『了解。座標特定用反射材の打ち上げ指示はこちらで行います』
この声は多分、レーザー砲関連を管理している技師か誰かだろう
刀夜『そうしてくれ。ロックオン完了後、幻想殺しフィールドジェネレータ駆動停止と同時にレーザー砲蓄電開始。蓄電に要する時間は39分だ』
刀夜『この39分間に"終末"による破壊者の襲来があると予測される。最悪、第7学区だけでも死守しなければならないが、学園都市内に傷が入ると発電効率低下によってレーザー砲のチャージの時間が伸びてしまう可能性も考えられる』
刀夜『他にも生存者があるかも知れない。学園都市内の各所に配置された"幻想殺し"層発生装置が一定以上壊れると、隕石が破壊された後に学園都市全範囲を守る手段が無くなってしまう。既に今までの雨のせいで学園都市は既に出に水浸しだ。被害は最小限が望ましい。しかし、まずそんな結果を得ることは出来ないだろう』
刀夜『米軍は私の指揮下となってもらうが、私一人では全てを効率よく管理できるわけはない。そこで』
刀夜『継ぎ接ぎだらけな上に不慣れな者を率いてもらうことになるが、上条相。"欠陥電気"並びに"能力借受"の少女達と駆動鎧の相性は良い筈だ。指揮は任せる』
相『了解しました』
刀夜『一方通行そして当麻、君達もそれぞれの考えで動き、最善を尽くして欲しい』
当麻「わかってる、了解」
刀夜『よし。同時にスキルアウトの残党など敵対勢力らの襲撃も考えられる。重要施設や重症患者の防衛には米軍と残った能力者の諸君の助けが必要だ』
刀夜『この無線自体は、殆どの人が聞いていることだろう。各自、この39分間を耐え抜き、レーザー砲の発射、ひいては巨大隕石"神の国"の撃破と人類の存続と復興のために、皆力を尽くして欲しい。以上だ』
ブッという音が聞こえ、通信は終了したのだと分かった
そのまま口元へ近づけたインカムのマイクを遠ざけ、上条は一人きりで身を隠していた建物からそのまま屋外へ。ひたすら学園都市の外側へと向かって走り出した
そんな彼を光が照らす。一方通行が太陽を遮る分厚い雲を吹き飛ばした証拠だ
『反射材射出』
音声と同時に、心の臓に直接響くような大きなロケットエンジン音が鳴り響く
思わず見てしまったそれが、天空かなり高いところで破裂。飛散した鏡体がキラキラと光っているのが見える
802 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:32:25.40 ID:nb6vtV28P
一方「まずは一段落か」
背後、というより殆ど傍らから声がした
上条「一方通行か。だけど、ここからだ」
一方「分かってる。無線でのテメェの親父も、気ィ張った声だったしなァ」
上条「そりゃ、緊張もするだろうな。他の都市や国がどれだけ生きていて、どれだけ接近に近づいていて、そしてどれだけ対策できているのか分からない以上、俺達がここで迎撃しないと、多分」
一方「人類、いや、地球の終わりだってのか。安っすい映画だぜ。だが、隕石を撃ち落したところであの化け物どもが永遠と来るんじゃ、学園都市から永久に出られねェぞ?」
彼の疑問は必然である。上条自身も同じ事を考えたことがあった
上条「いや、これは俺の予想だけど、隕石が直撃する予定時間を超えたら、あの破壊者たちはもう現れないと思う」
きっぱりとした声だった。断言するようでもあった
一方「はァ? 根拠はあンのかよ」
上条「理論的な答えはない、けど。あの時が丁度、俺がアレを起こした時だからな」
一方「アレ?」
このアレの事実を完全に知っているのは、それこそアレイスターと上条当麻。そして今の上条刀夜ぐらいであろう
"終末"を引き起こすことになった直接的な原因。それをここで彼に言えるだろうか
寧ろ、全てが終わった後まで自らだけの秘密にしておきたい。出来るならば
上条「……なんでもありませんですよ」
一方「そォかい。ったく、テメェら親子は訳が分からねェことばっかなこった」
上条「父さんが? どういうこと―――」
言い切る前に遮る無線。時間は確実に進んでいた
『広域"幻想殺し"解除、蓄電開始』
幻想殺しのフィールドが消える。ということは
一方「……来るぞ。とりあえず、テメェの親父には注意しとくンだな」
上条「あ、おい一方通行!」
上条が腕を伸ばしながら彼を追うも、掴まるはずも無く
一方通行は誰よりも先に、前と同じく学園都市の東に待っていましたとばかりに現れた大量の破壊者めがけて、周囲の大気を巻き込んで飛び去って行った
803 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:33:53.78 ID:nb6vtV28P
一方通行が閃光のように突進し、東方の空に迫っていた比較的小型で天使のような翼を持った破壊者達を纏めて後退させた後
近づかせまいと固定型試験用高威力火器や大量の支援火器と、継ぎ接ぎだらけでところどころ中に搭乗している細い少女たちの体が見えている10機前後の駆動鎧が持つ未元物質弾電磁砲による弾幕が、東の空にいくつもの爆発を作り出す
しかしながら、それで全てが留まるわけでは無く
敵からの攻撃を引き付ける役も兼ねている飛行可能な駆動鎧は特に、敵の破壊活動の最前線の的として厳しいの一言だった
弓矢のような形をした、とはいっても一撃で灰色熊でも貫けそうなサイズのそれが何本か、弧を描きつつ天に飛ぶ彼女たちに迫りかかる
見た目通りただ大きいだけなのか、何か特殊な効果を持っているのか分からない為、指揮官である相は散開の指示を出して、様子見ついでに回避を図ったが
『五番機、被弾!』
5本にも満たなかった矢状のそれらも、拡散した彼女たちのすぐ前で小さな矢じりだけの小さな飛行物体に分かれて、無差別的に拡がった。散弾攻撃と言えばシンプルだろうか
流石にそれでは、全ての回避と防御が間に合わない機体があってもおかしくは無い
吹き飛ばされた欠陥電気の少女の駆動鎧を、能力借受の少女の駆動鎧が受け止めた
相「ッ……! 被害状況は!?」
『なんのことは、ありません。右脚の骨が湾曲した程度です、とミサカは余裕を持って、答えます』
なにが余裕だ。外見的にも声の様子からも、少しもそんなものはないではないか
相(敵はまだ尖兵でしかないと言うのに。しかし、今のが骨折程度ですんだ? この溶接部分すら隠せていない機体が、どうしてここまでの防御性能を引き出せる)
右側のモニターで先程の攻撃・防御を分析しつつ、逆側の目のモニターで周囲を警戒する
一方通行が気を利かせたのか、こっちを狙っていた群が明後日の方へ向かっている
相(助かります、一方通行。……分析結果、被弾時には未元物質の盾型展開もしていない。となれば、考えられるのは魔術。防御術式)
相(しかし継ぎ接ぎだらけの学園都市製ともいえるこの機体に一体誰が。私が昨日までに出会った米軍生き残りには、概念的理解はしているものの、魔術の新規構築が出来るようなスペシャリストはいなかった)
804 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:34:33.71 ID:nb6vtV28P
誰がどのタイミングで? 駆動鎧を弄れる者は限られる
相(疑問は他にもある。なぜ上条刀夜が私とこの娘達との情事を知っているかのような部隊編成を行ったのか。彼には私がAIであることは知られていないはず。電気能力が使えるこの子たちは分かりますが、彼にとって私はただの女でしかないのに)
相(やはりあの男、何かがおかしい。当麻の父親であるということから、"幻想殺し"のような特別性が彼にもある? この線は薄いということは無さそうですね)
相(ならいっそ、その特別性に賭けてみるのもいいかもしれない。隕石迎撃が彼の本意であることは確実でしょうし)
分析を止めて、砲口を適当な破壊者に向けて、引き金を引きつつ
相「五番機は一時後退。刀夜氏のところまで戻ってください」
無線のマイクに話しかけた。トークモードはオープンである
『私はまだ動けます。飛行機能のある機体で脚部を損傷した程度、問題は無いはず。とミサカは承服できない意を表します』
相「あなたの言いたいこともわかりますっ、が」
向かってきた黒い髪の毛のような繊維の束を回避して、駆動鎧の右腕に持った大型砲で叩き返しつつ、被弾した機体にプライベート回線での交信を発信する
『クローズ回線、開きました。どうぞ』
相「戦いはこの39分間だけではありません。戦力低下と、なによりあなたという存在を失うリスクが、私は怖いのです」
『その言葉は素直にうれしいです。しかしミサカは、この事態の中でノコノコ一人引き返したくはありません。そしてミサカもあなたのために戦いたい。例えこの感情が生物本能に逆らうものであっても、お姉様にあの人を独占されてしまっているということがあるから生じた代替的なものであっても』
相「私は何も、戦いからしっぽを巻いて逃げろといっているわけでは有りませんよ」
『……と、いうと?』
相「貴重な戦力である駆動鎧が壊れ、それが手元に来た場合の上条刀夜の動きを見張って欲しいのです」
相「修理指示または本人が修理に関わるなどしてあなたを再び戦場に戻そうとするなら、それまでの彼の動きを、そうでないならば出来る限り彼の近くから離れず、見張っておいて欲しいのです」
『内容は分かりましたが。彼を疑っているのでしょうか、とミサカは不穏な気配を察します』
805 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:36:01.99 ID:nb6vtV28P
相「そこまでではないですが、似たようなものですね。頼みます、10032号。これは、あなただけの頼みです」
『了解しました。ミサカに任せて下さい』
機体内モニターに、交信終了の文字が表示される
そのまま離れるようにと、被弾した機体を肩で抱えて守っていた機体に合図を送り、オープン回線での送話にスイッチ
相「大損傷と判断し、5番機、一時退却させます」
刀夜『こちらも君の判断に従おう。了解だ』
彼は特別反対しなかった。送りこみには成功しそうである
相「並びに駆動鎧各機、防戦ラインを−200まで後退してください。ここからは層が更に厚くなりますよ!」
『了解です。でも、二人きりのクローズ回線で説得したなんて、アタシすこし妬いちゃいます』
併走するように、相の機体の側に駆動鎧が一機駆け寄る
相「だったら、今晩はあなたと一緒に寝ましょうか?」
『それは聞き捨てできませんね、とミサカは憤慨しておきます』
『そうですよ。そのアタシだけではなくアタシ達も可愛がって欲しいです!』
他の機体も彼女の近くに寄って来た。結果として全機体が殆ど一か所に固まったのは、彼女としては読み通りの動きである
相「心配しなくても、ちゃんとみんなにそうしますよ。でも、そのためには今日を勝ち残らなくては。一人でも死んではいけませんよ。あなた達は一人一人であなた達なんですから」
『『『了解!』』』
退いた彼女らを追って全体の進行から先行した一部の破壊者達に、彼女らは一斉に射撃を叩きこみ、反転して突進した
806 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:36:50.15 ID:nb6vtV28P
「おーい、それオープン回線なわけよー。って本人達に言ってあげたいわー、ねぇ、第三位?」
そーいう話はせめてプライベート回線でして欲しいところなんだけど、とか思いつつ、キャスターが付いてはいるがこの水浸し&ガタガタの地面では全く役に立ちそうにない1立方メートル程度の荷物を蹴飛ばすように運ぶよこを見ると
御坂美琴が顔を真っ赤にして押すような姿勢で固まってた
フレンダ「第三位ー? みことちゃーん? おーい?」
御坂「……ちょっと、なんであの子達全力で百合宣言しちゃってんのよ?! どーいうことフレンダ!?」
フレンダ「知るわけないでしょ、私が」
絹旗「聞いてるこっちが超恥かしいんですけど。さすがは第三位や佐天涙子のクローンってことですね。ぶっとんでます」
御坂「恥ずかしい? 私だってそうよ!自分と同じ分、格別にねぇっ!」
フレンダ「んー? 自分と同じ、クローン。ははん、ということは、結局、第三位にもその気があるってわけか」
絹旗「くひひひっ。となると常盤台ってのは超そういう奴らばっかりってことですね。黒子なんか露骨にそーですし」
滝壺「大丈夫。少しアブノーマルでも、私はそんな第三位を応援してあげる」
御坂「ちょ! んなわけないでしょうが!」
「あ、漏電してる」「危ないですねー、離れてときましょう」と少し距離をとった滝壺・絹旗だが、フレンダはそのままからかうのをやめない
フレンダ「もーちろん分かってるわけよ。男と相部屋で朝っぱらまで嬌声出してた第三位だもの」
この言葉に、御坂の紅葉は耳にまで達した
御坂「…………………え、聞えてた?」
フレンダ「えーえーそれはもう。って、マジ?」
御坂「え?」
馬鹿だコイツは、と離れた二人が息を吐いたのは仕方ないだろう
絹旗「うわぁ、これは思わぬ超大物が自ら釣り針に食らいついてしまったみたいですね」
807 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:37:27.98 ID:nb6vtV28P
滝壺「ううん、きぬはた。これはきっと、第三位は分かっててやってる。一見恥ずかしそうな振りをして、暗に"私と彼はそう言う仲だから手出しするな"というメッセージを伝える為の、高等テク。恐ろしい子」
フレンダ「なんという計算深さ。これが第三位ってわけか」
絹旗「流石ですね」
御坂「そうそうそう、って、んなわけない!」
正直、戦時でありながらの物資移転に飽きが生じていた彼女らにとって、これは丁度良い休憩・息抜きともなっていた
絹旗「でもそうと分かってしまえば、これは超寝取りハンターな私が反応するところですね」
御坂「は、はぁ?! そんなの絶対許さないわよ!」
バッと絹旗の方を振り向いて、眉間にしわを作って警戒するという露骨な反応だった
実にからかい甲斐のあることだ
滝壺「これは、本物」
絹旗「安心して下さい、超冗談ですよ。あっちは初対面からなにか馴れ馴れしかったですが、私は幻想殺しに興味はありませんから」
御坂「……馴れ馴れしかった?」
フレンダ「あー確かに。なんかそんな感じしたわけよ。話しても無いのに好みを知ってたりとか」
御坂「それ、ちょっと詳しく聞かせてもらえる?」
あの男はまさかこの女共にまで手を掛けていたと言うのか。知らない所で一体どれだけの関係を作っているのだ
これ以上のライバルは勘弁なので、事と次第によっては何か動かなければならないか、と本気で考えていての発言だったが
滝壺「第三位、」
御坂「なによ?ま、 まさか、あなたまでってことは」
滝壺「しらいくろこが、来るよ」
え、と驚く間も無く、空間を割って少女が一人現れた
808 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:38:22.64 ID:nb6vtV28P
その出現を予期していたのか、滝壺が少し後ろに下がった瞬間に、だ
白井「おっねいさまああああああ!!」
現れて早々、白井は抱えていた毛布を地面に空間移動させて、その上に御坂を押し倒す
御坂「だからアンタからそういうのはいらないっていってるでしょうがああ!」
白井「またまたまたぁ、そんなこと言っておきながら。お ね い さ まぁ!」
恐らくはさっきのオープン回線を聞いて、さっきからかわれたことと同じような思考に辿り着いたのだろう
ひゅーひゅー、と棒読みのエールを送ってくる周りの連中は助けてはくれなさそうだ
御坂「ほんとに! ほんとに駄目だから! 私はあの子たちとは違うのよ! 今の私は当麻専用なの!」
白井「それなら問題ありませんの! 私当麻さんのこともお姉様のこともお慕い申しておりますしっ!!!」
御坂「アンタになくても私にあるのよ! あーもう、晴れてる内に資材を高台に運ばなきゃならないんだから、アンタはとっとと持ち場に戻んなさい! 空間転移要員は貴重なんだし、アンタ風紀委員でしょ! こーいうのは後にしなさい後に!」
白井「ぐぬぬ。そこで風紀委員と言うのは卑怯ですの。……ならば! お姉様のおっしゃる通り、後にさせて頂きます」
最後に抵抗する御坂の腕の上から思いっきり抱きしめて、彼女はそのままの体勢で毛布ごと消える
微妙に濡れた地面に数枚の毛布の厚みの高さ分落下して、アダっ、と間抜けな声が出た
フレンダ「これはまたしばらくしたら来るわけよ。まぁ、能力使えばいくらでも追っ払えるでしょうけど。こっちの作業工程の邪魔にならないようにして欲しいわね」
御坂「あー、そっか、今は能力使えるんだっけ」
絹旗「あれだけ漏電しておいて、超今更ですね……」
左腕をアスファルトが割れてゴツゴツした地面に置き、立ち上がろうとした、その時
さっきまで白井が覆いかぶさって見えなかった部分の直線上にあるビルの屋上が、キラリと光った
そして、超音速の狙撃弾が弾きだされた
809 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:38:55.76 ID:nb6vtV28P
「知ってるぜ、第三位サマよ」
狙撃銃のスコープを覗き込み、その焦点間近でおきた現象を見て、引き金を引いた男は驚かない
超音速で撃ち出した弾丸が御坂美琴の直前で、周囲の金属が固まってできた、言わばスクラップの盾のようなものに阻まれた現象
銃弾の撃ち出しと射線の認識なんて、人間の通常の間隔で出来るものではない。しかし、銃弾というものは、身を掠めるだけでモノによれば肉を簡単に抉ってしまう
だからこそ、間違いのないように彼女のこの機能は自動的・自立的なものとなっている
「だが、その自動で張られる一見万能なバリアは、自動だからこそ、弱点になり得るんだよなぁ」
彼自身もまた、下手に生き残り、現状に絶望し、だからこそ死ぬほど憎んでいた能力者を殺す事にしか刹那的な生を見いだせないスキルアウトの生き残りであり
だからこそ、片っ端から情報を集めた。最上位の能力者の情報があれば、早い話同系列ならば殆どの能力者はそれ以下の機能・性能しかしかないのであるから、より多くの能力者を仕留めるには効率的だった
「だからこそ、こんな何に対して有効的に使えるのかわからない試作武器が効果をあげられる。例えば、戦闘機の機関銃には曳光弾・徹甲弾・焼夷弾を一連の組み合わせとして連射することで射撃対象をより効率よく叩き落とすなんて仕組みがあったが」
「根本的に違いすぎるサイズの弾頭が次弾として連射できるなんて仕組み、手間がかかる上にあまり効果がないってのに」
男は、対物ライフルというよりは装甲車などの設置型大口径機関砲を思わせるフォルムをした、その長物のスイッチを切り替えた
「驚いてる間に、もう一発だ。だが、今度はさっきとは違う」
自動というものは所詮、設定した以上の事には対応できない。だからこそ、工場などでは自動で駆動する機械で対応できないことやイリーガルなことに対策するために人間が監視しているし、壊れた機械のメンテナンスの為に他の機械修理企業が工場内で待機しているなんて状況がざらにあるわけである
つまり、自動で出来ることの範疇を超えたなら、人間が意識的にどうにかするしかないのである
第二射、しかも正確かつ第一射の後即座に同じ軌跡を描いて、比重がより重く巨大な弾丸が超音速で飛び出した
「そうなれば、いかな第三位と言えど、周囲の金属を浮かび上がらせて生まれる程度の盾は、容易く貫通する」
完全に戦車か何かの砲撃のような音が響き、男のスコープの中では
確かに、御坂の左腕が後方に弾き飛んだ。肩口も首近くまで引きちぎれるかのように裂けていた
吹き出した出血を見れば、確実に
「っしゃああああああああああああ!! この俺が第三位を、しかも能力が使える状態のヤツを、倒したぁッ!!」
思わず、重荷でもある得物を下ろし、スコープから目を離す
すると―――――
「ん?」
疑問詞を述べた直後に、自らが撃ち抜いたはずの女の方から飛んできた紫電を帯びた複数の金属片によって、男が立っていた場所は粉々になってしまった
810 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:39:32.52 ID:nb6vtV28P
「あれが"終末"とやらによって生まれた破壊者ね。俄かには信じがたかったけど」
目からゴーグルを離す結標と、傍らであからさまな準備体操をしている青髪
青髪「でも、見てしもたら否定できへんよなぁ。昨日みたいにホログラムとかやったらよかったのに」
手ごろな瓦礫をヒョイと上に投げ、青髪はそれを空中で静止させる
青髪「ん、問題なしや」
結標「アレなんてほら、どっかの彫像にでもなってそうじゃない。東洋風の龍もあるし。もうなんでもありって感じね」
青髪「実際なんでもありなんやろ、多分。とにかく、実際に戦っとらん僕らは敵の動きとか僕らは分からんし、刀夜さんの命令でるまで待つしかない。僕らは最低限第7学区をまもらなあかんわけや」
当夜の指示に、と言う要素があまり気に入らないのは結標だ
でも、この集団行動を乱すわけにはいかないし、なにより戦いにもならない。誰かがその役割をするべきだったところに、刀夜が来た。そう思う事にしている
結標「それまで一方通行と幻想殺しに殆どお任せ。でも、幻想殺しもアメリカから帰ってきたばかりじゃない。"イェス"との戦いは確かに人外レベルだったけど、彼だって破壊者の動きを見たわけではないでしょ?」
青髪「刀夜さんがそういう指示を出した以上、ここは上やんの動きに期待するしかないで」
結標「……まぁ、確かにこんな状況でここのほぼ全員を纏めたのは彼だし、だから私も従うわ。従うと言うより、周りに流されてるって感じだけど。でも、おかしくない?」
ハッキリと青髪の方を向いて、改めて疑問を口にする
結標「上条刀夜は私達と一緒にここにへ来て一日程度しか経っていない。纏め上げるって点では、それこそカリスマだろうがなんだろうがとして目を瞑ったとしても、それでもなんでここの現状をちゃんと把握してるのよ。あのレーザー砲だって、それから幻想殺しフィールドだって、学園都市と米軍の秘密兵器だったはずなのに、最初から知ってるみたいだったじゃない」
青髪「また難癖つけて。おかしいといってたらおかしいことやけど、そんなん、あの破壊者の群れの方がもっとおかしいやん?」
811 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:40:01.21 ID:nb6vtV28P
結標「それとこれとは……、っ」
いや、今は口論をすべき時ではない。実際にあの連中をどうにかしてから、そして上条刀夜が何か事を起こしてからでないと、多分、青髪は相手にしてくれないだろう
そんなボロをあの男がするのかは分からないが。周りの人間が皆右へ倣えと刀夜の指示を仰ぐのだから、私一人でも彼に疑問を持つ者として有った方がいい
結標「……そうね、その通り。自分で振っといてなんだけど、この話はここまでにしましょう。私だってこの疑問をぶちまけて全体の足を引っ張りたいわけじゃない」
青髪「せやなー。あ、また突破された。流石にあの数を処理するのは一方通行でも無理かぁ」
下から見ると、彼の両肩から針金のように長く伸びた白と黒の触手のようなものが、周辺の空気や時には小型の破壊者自身すらも巻き込みひと塊りに圧縮して、鞭のように、時には針のように、周辺の敵をなぎ倒す
その様子は文字通り一方的なのだが、如何せん数が多い
敵が層で波のように押し寄せるに対して、こちらは点だ。どれだけ強い点だとしても、辛い物が在る
結標「駆動鎧、も、決定打にはなり得ないか。もうこれ、やばいんじゃない?」
青髪「まだ小型の群れの打ちもらしが入ってきたぐらいやから、なんとかなる、と思いたい。でも、それに気をとられて一方通行の調子が狂うと、最悪―――」
言い切る前に彼らの耳に上条刀夜の声が入ってくる
刀夜『青髪君を第7学区境界まで移動、小型天使型の迎撃に当たってくれ。極力、最低限の出力だ』
青髪「了解。……あわきん」
結標「いってらっしゃい。ここで見守っているから、命令とは別に空間移動が必要になったら連絡して」
青髪「はいよ。君を守る為にも、頑張ってきますわー」
そう言って、彼は彼女の空間移動によって、空中へと消えた
812 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:42:01.59 ID:nb6vtV28P
「オラオラオラオラァッ!! 雑魚狩りには慣れてンだよ、俺はなァ!!」
体ごと翼を振り回して敵を蹴散らし、聖な光すらも放ちながら彼を捉えようとする遠距離攻撃は明後日の方向へいなし、己が腕では紙を裂くように破壊者を引き裂く
学園都市と外のほぼ境界で、手当たり次第に目に付いた人形のような天使を倒していくが
何度一掃しようとしても、小型の天使は霞みのように沸いて出てくる
その上、それらの背後には明確に雄雄しい形をもった大型で本物の化け物の群。そこにはおよそ正邪の分別すらない
中には、前に何とか倒したシヴァ型の巨人の姿まである。こんな雑魚の相手に気を取られていては洒落にならない結果となりそうだ
クソ、と時間と共に大きくなる焦り。そんな時
上条『一方通行、そこから離れてくれ』
唐突に上条からの無線の声がインカムを装備した左耳から伝わる
一方「ンだと?」
言われるがまま、というよりは慣性に身を任せ、そのまま学園都市側に流れると
ゴァッ!!! っと何か太いものが目の前を奔った
彼を追って数百程集まった人型天使の群を、それこそ白いだけの円柱・筒・渦とでも言えそうな、力の濁流が潰すように押し流していく
一方「あークソ、分析用の翼まで巻き込みやがって。手加減しろとは言わねェが」
その白い物が上条から放たれた力の濁流であると判断出来たのは、その犠牲になった薄く展開させた解析用翼のお陰なのだが
上条『お前が倒すのを下から見てて気付いたんだが、どうにも効率が悪くないか?』
813 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:42:51.27 ID:nb6vtV28P
一方「あア゛? 喧嘩売ってンのかテメェは」
上条『手当たり次第で片っ端から千切っていくってのはいいけど、一度に相手出来る量が少ない。それじゃいつまで経っても後ろのデカイ奴らが来てから相手する目途が立たないだろ』
東の空の奥を見てみれば、確かに、というかかなり学園都市に近づかれている
一方「そりゃァ、テメェみたくトンデモ火力をノーモーションでぶっ放したりは出来ねェが、だったらどうしろってンだ」
上条『俺のだってノーモーションってわけじゃない。打ち消しって性質上、対象が必要だ。今はお前を打ち消し対象にして、その相対的同値の力をぶっ放してるだけだ。だからお前の言うトンデモ火力はお前の力の総出力と同じってことになる』
上条『人間サイズの天使じゃ俺の出力が低すぎるレベルまで下がるからそうしてんだけど、どうせなら一度の出力でより多くの敵を巻き込んだ方が効率がいいだろ』
一方「今さっきみてェに雑魚が纏まったところをテメェが一掃する。オーケイ、俺が纏める役をしろってンだな。任されてやろォじゃねェか」
上条『なら、早速頼む!』
正直な話、いい気はしない。なぜなら上条の話によれば、今の白い純粋な力の濁流は自分を消すためのものだという
しかも彼の話しぶりだと、それをそれなりに連続して撃ち出せるらしい。こっちは一回総出力を出しきったらそれこそ地の上で言葉も離せず這えるかどうかだというのに
つまりアイツは、いつでも自分など簡単に消し去れるということでもある
一方(対等じゃねェ。っても、それは俺が妹達に対して、それから他の能力の有る無しに関わらず消してきた存在に対して、やってきたことと変わらねェのか)
思いつつ、そんなことを思いつつも、彼は進路を妨害する敵以外は半端に衝撃を与えて、より大きくジグザグに群のなかを掛け周る
そして、より多くの小型破壊者を引き付けた後、それがなるべく一か所になるように、円形な動きに徐々にシフトしていき
上条の"相対出力"の濁流で押しつぶす
確かにその方法は、効率的だった。少なくとも、一人でがむしゃらに戦うよりは
814 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:43:30.87 ID:nb6vtV28P
あ゛あ゛ああああああああああああっ!!!
と一際大きな男の悲鳴が上がり、廃墟ビルの一階の壁に背中を預ける男の前に、少女が拳銃を構えて現れる
滝壺「早く逃げて。あなたの怪我なら逃げられる。必死なのはわかるけど、だったら尚更賢くならなきゃ、だめ」
「ッ、う。その上から目線が気に居らねぇんだよ!」
滝壺「そう思われても構わない。けど、わたしは必死に生きようとしているあなたたちが、こんなところで無駄死にして欲しくない。決死だと思って行動をするなら、もっと自分や自分の大切なものの為にするべきだよ。ほら、早く」
言って、腰を地面につけて大足を広げている股の間に銃弾を一発
室内戦を想定したレーザーポイントがそのまま男の額にまでスルスルとのぼっていく
滝壺「早く」
「……クソ!」
冷酷な急かしに耐えられなくなった男は、撃たれた腕の傷を抑えながら、滝壺の前から走り去った
男が見えなくって、気の抜けたようにフゥと、平時の顔で息を吐き、その建物から出る
フレンダ「大丈夫? 滝壺」
丁度終わったのか、元々は大道路であったところの斜向かいの路地から、彼女は現れた
滝壺「ごめん、敵には逃げられた」
フレンダ「いいってわけよ。滝壺は戦闘向きじゃないんだし。生き残っただけで儲けもんよ」
御坂「やっほー」
絹旗「二人とも、こちらに居ましたか。この辺は粗方終わった感じですね」
更に別の方角から御坂と絹旗の二人も
これで、物資移転中に襲撃された全員が無事だったと言う事である
ただ一人、御坂美琴の衣類の片側だけが激しく裂けているが
絹旗「そう言えば第三位の腕、あの時超ぶっ飛びましたよね?」
御坂「一瞬だけだけど、そうよ。かなり痛かったし」
フレンダ「痛かった、ってそれだけ?」
御坂「まぁ、今まで考えてた機能が役に立ったってことかな。割と時間かかったし、無駄手間にならなくてよかった」
絹旗「時間を掛けたらぶっとんだ腕が瞬時に超元通りですか。どういう仕組みなのか検討も付きませんね」
815 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:44:13.58 ID:nb6vtV28P
御坂「実はこの服だって何とか出来なくもないんだけど、それには出血が伴うからやる気にはならなくてね。痛いし。手詳しく説明する時間は無さそうだから、ものすごく省いた説明をすると、手品のネタは微小機械を万能ボンドにしたりカッターにしたりする、最先端科学の賜物よ」
フレンダ「え、私達の微小機械にそんな機能が有るの?」
滝壺「すごく、便利そう。出来れば私達にも使い方を教えてほしい」
えーっと、と人差し指を頭にあてて、出来るんだっけ、いや駄目か、としばらく思考を巡らせる
御坂「微小機械自体は滝壺さんたちのと同じだから、無理矢理すれば出来なくもないんだけど。違うのは電撃使いか、ってこと。私が居ないと駄目だし、しかも私専用に微小機械自体も書き換えてあるから、現実的じゃないかな。戦闘中なら特に」
結論を言えば出来ないって認識でいいわ、といわれ、まぁそうですよねー、との相槌
フレンダ「良く分かんないけど、微小機械を操ってるならいろいろ出来そう。あーそうかー、"幻想殺し"との時もそれを使ったりとかしてたわけだ」
絹旗「体内で操作できるなら、避妊具にも排卵誘発剤の代わりにも使えそうですね」
御坂「使ってません! あの時は能力使えなかったんだから出来るわけないじゃない!」
滝壺「でも、今は使える」
絹旗「白くベタベタしてるっていうアレは大体24時間生きてますからね。超悪用するかどうかは第三位次第ってことです」
御坂「なんでそんなことを知ってるのよ」
フレンダ「あー、前に高位能力者の精子が入ったブツの移送任務の時にそんな説明受けたっけ」
滝壺「むぎのが嬉々として話してた。……第三位?」
御坂(そうか、そう言う使い方もいまなら出来るのか。やってものなのかな。自然には反することだけど、最近は不妊治療とか体外受精とかあるし……)
フレンダ「うぉーい、またなわけー?」
思考が在らぬ方向へ浮かんでしまった御坂の頬をピチピチと叩くと、がしっとフレンダの腕は掴まれた
フレンダ「おっ?」
御坂「って、んなことはどうでもいいのよ。今襲ってきたのはスキルアウトとかでしょ? どうするの、これじゃ、この経路使って物資の移動できないわよ」
滝壺「多分それは大丈夫。この人たちも必死だったけど、動きが散発的だったから。別になにか作戦があってここに展開していたわけじゃなさそう」
絹旗「同意見ですね。大方、あのめーるへーんな奴らを見て超ヒステリックになって具体的な纏まりも無く襲ってきたんでしょうし」
フレンダ「まぁ、あんなのが空で戦ってて、その上流れ弾が時々飛んでくるんじゃ、仕方ないけどね」
御坂「しかも、今からが本番みたいだし。……こりゃぁ、物資の移動なんてしてる場合じゃないのかも」
言って、彼女らは廃墟と廃墟の間から見える僅かな東の空に浮かんだ、この世のものではないフォルムの化け物を見上げた
816 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:45:12.86 ID:nb6vtV28P
『上やん、雑魚狩りはそんな所で切り上げや!』
何度目かの纏め狩りを行った後、破壊者の群には大きな穴が開いた
だからこそだろう。一方通行と上条の殆ど中間ぐらいに青髪が浮かんでいる
上条「青髪?!」
青髪『君らが大分減らしてくれたお陰で、残りと沸いて出る雑魚っぽいのは僕でも相手出来そうやから。かみやん達は奥、不動明王とか龍とかの訳の分からんデカイのを頼んだで! ちっさいのは無視や!』
複数体の駆動鎧でも無理なのに、どうやって青髪一人がどうにか出来ると言うのか
上条「出来ればそうしたい。だけど、ホントに出来るのか?」
青髪『全力で使った事は無いけど、僕の人工能力のスペックノート上、本気でやれば瞬間的に小規模なブラックホールだって作れるんや。それで倒すんは出来なくとも、時間稼ぎぐらいは出来るんやないかなって思う』
学園都市でのブラックホール。上条の記憶に在るその光景はめちゃくちゃだった
あれをもう一度ここで起こそうと言うのか
上条「分かった。……でも、限りなく最小限にしてくれよ」
『わかっとるってー!』
言い切って、通信は切れる。申し出としては嬉しいが
上条「聞いたか、一方通行?」
一方『おォよ。先に行けっつってンなら、その言葉に甘えさせて貰うしかねェだろ』
上条「そうか。そうだよな」
彼もこう言っている。なら任せるしかない。しかし本命の仁王のような化け物たちとどうやって戦えばいいのか
上条「……直接戦ったお前に聞くけど、さっき見たいな雑魚狩りと同じ戦略は使えそうか?」
一方『無理だな。さっきみたく引きつけてたら、気が付けば俺が先にミンチになっちまう』
上条「だったらどうすんだ。お前はどうする気なんだ」
一方『そもそも細かい作戦なンざ通じやしねェ。だったら出来る事は一つなンじゃねェか?』
上条「正面から突っ込む気かよ」
一方『あァ。目的は時間稼ぎだからな。奴らが学園都市内に入ってこなけりゃいい。あの図体とただの人間サイズの俺が正面切って戦えば、他のデカイのは手だしがしにくいだろォからな。逆に安全だ。入ってこられた化け物を退治しなけりゃならなかった前とは違う』
上条「確かに、そうだけどさ」
一方『それもう一つ、前とは違うこともある。今回は上条当麻、テメェが居る。少しは期待してるぜ、幻想殺し』
817 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:45:59.60 ID:nb6vtV28P
「まさか、これほどとは。ギャップってレベルじゃないわ……」
監視カメラならぬ監視術式によって出力された映像を見て、彼女は思わず息をのんだ
流れている少女の動きは、言うならば、百戦錬磨の動きである
舌の動かし方、喉の使い方
体各所への触れ方、その部位に対する適切な力の加え具合
なによりムード・流れに応じた表情と言葉使い、仕草、強弱、激しさと緩やかさ
少女の動きは、男を満足させると言う事に対して、およそ彼女の知識の上で見ても、最上級だった
ワシリーサ「小手先のテクニックだけじゃなく、言葉に表情まで。ボディの貧弱さというディスアドバンテージをまるで感じさせないなんて」
自分の趣味と相まって、思わず自らもその光景に中てられてしまいそうだった
映像では無く彼女の口元から垂れた液体が、顎を経由して首筋に触れ、そこでようやく自らまでも惚けた顔をしていたことに気付いた
ワシリーサ「っとと、思わず私まで。……これじゃ流石に、あの赤髪君では簡単に陥落しちゃうわよ。うん、仕方ない仕方ない」
どうしてもそう言う事を意識してしまう映像だが、それを圧して彼女は思考を巡らせる
ワシリーサ(教え込んだとしても、とても10代半ばあたりの子の技術じゃない。でも、そ う 考 え る と納得がいく)
そう考える、の"そう"というのは、言わば禁書既死説である
誰かによって殺された、或いはなんらかの事故で死んでしまっていたとして、それでは都合が悪いので作り直されたとしたなら
ワシリーサ「やっぱり、あの禁書目録は」
禁書目録として作られた存在であり、そして更に死後その体を流用されて作り直される
どれほどまで不幸な存在だろうか
そう思うと、目の前の映像が一種虚構のように見えて来た
そんな時である
「ロシアの道徳には、他人の寝室での出来事を覗いてはならない、なんて普通のことも無いのか。ええ? 殲滅白書のワシリーサさんよ」
いつの間にか、女が一人、この隠し部屋に入られていた
"殲滅白書"として、裏切者や弱みを探すと言う目的でモスクワ内の大体の宗教関係者が関わる施設の監視が可能になっているこの空間
818 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:46:50.28 ID:nb6vtV28P
他の者が、特にこの女に見付かるとは
ワシリーサ「生憎、そんな時を狙うことこそ、高確率で暗殺対象を消す方法として使えるやり方なのよ」
ヴェント「ほぉー? じゃーアンタはこのガキ共を殺そうとしてわけだ」
ワシリーサ「私が? そんな勿体ないことするわけないじゃない」
ヴェント「なら、こんな密室で何をしようとしていたのかねぇ。しようと思えば、モスクワで活動してるウチの内情まで探れるここで」
なるほど、そう言う訳か
ワシリーサ「何か勘違いをしてるみたいね。ぶっちゃけ話、若い子達の情事って見てるだけでエネルギーになるのよん」
ヴェント「は、あっ?! ただの出歯亀ッ? ……さすが、自分の部下にあんな服を着せるだけあるわ」
ワシリーサ「褒めて貰えて嬉しいところだけど、もしかしてあなたも覗きたかったりするのかにゃーん? 勉強になるわよ、ものすごく」
ヴェント「頭沸いてんの?」
ワシリーサ「冗談よ。私は堪能したから、後はご自由にどうぞー」
何の事はない。ヴェントが警戒していることと、自分の焦点は違う
彼女は機密保持のついでに禁書目録の方を見ていた程度に思っているだろうが、自分が見ているのは最初から禁書目録だ
ワシリーサ(確実さ、と言う面では低いけれど。裏は取れた)
ワシリーサ(あの禁書目録は別モノであり、英国秘蔵の魔術知識はもう無いと見ていい。でも)
ワシリーサ(あの赤毛の魔術師はその事実を知っているかしら)
カツカツと彼女は隠し部屋から何食わぬ顔で出でて、廊下を歩いていく。ヴェントはついてこない
ワシリーサ(答えは否。だからこそ、禁書目録の衣類には"注意を逸らす""特定の事を気にしなくなる"って術式が施されていた。恐らく、本人の体にも、例えば皮膚上からは見えない骨とかにも同じものが施されている)
ワシリーサ(結論、彼にそれを示す事で、彼をこちら側に引き込む事が出来るかも知れない)
ワシリーサ(でもその為には、彼と接触する必要が在る。露骨にすれば、返って彼自身の警戒が上がってしまう。もともと彼はあちら側なのだから)
うーん、と言いながら彼女は外を見た。フィアンマが浮遊させたこの陸は、変わらずゆったりとここに在る
ワシリーサ(なにかこう、ゴタゴタさせるようなことが起きなければ、ちょっと難しいかしらねえ)
819 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:49:13.89 ID:nb6vtV28P
「ンだとッ?!」
驚くしか無かったのは、仕方のないことである
第二幕の開戦の火蓋として突進した一方通行の目の前で起きたのだから、一番近くに居た彼が驚くのはせんなきことだ
そしてすぐさま、地上からその変化を見ていた上条から無線が入る
上条『オイ何が起きた、一方通行!』
変化とは、視覚的には非常にシンプルだった
消えたのだ。もうすぐにでも学園都市内に入ろうとしていた、破壊者の第二波、大小種類種族様々な化け物の群が
一方通行「知るかよ。見える通り、消えたンだ。元々が幻影でしたとかってオチでもねェ。皆お帰りになったンなら有難いところだけどな」
上条「だったら、どこに――――って」
消えた。その事実は正しい。しかしそれは東の空に限っては、である
『ヤられた!! まさか、コイツらが戦略的な行動をしてくるとは思って無かったぜ、クソ共がァッ!!』
およそ東側と言える方位の空から消えた代わりに、それらは空間移動していたのだ
具体的には、学園都市の東側以外をぐるりと包囲するように
一方通行はとかく一番近い敵へ即座に移動を開始し、上条も相対出力を放とうとするが
上条「―――――不味い!!!」
周囲をぐるりと囲んだ化け物の姿が一斉に、学園都市の中央に位置する第7学区へ向かって遠距離大規模破壊攻撃を打ち放ったのだった
820 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:50:26.03 ID:nb6vtV28P
大きさ、形、色。虹と言うには歪だし黒色もある。そもそも、そんな優しい物ではない
上条刀夜が詰めている建物の窓の外に見える様々な色を放つ光が、ここを全て丸々吹き飛ばすのは本当に一瞬の後だろう
上条刀夜の頭脳内での計算結果では、第7学区を全部クレーターにするぐらいは訳もないものだと判断されている
完全に窮地だった、この僅かすぎる時間
刀夜(この状況になっても、まだ動かないか。アレイスター)
彼はギリギリまで窓のないビルの住人の動きを監視していたが
刀夜(何か狙いがあるのか、それともまだまだ余裕だと言うのか)
その住人はこの窮地になっても動く気配を見せない
刀夜(彼にとってもこの場所は必要ではないのか。それとも、私が何か手を出すと読んでいるのか)
我慢比べは、どうやら自分の負けらしい
刀夜(どちらにしても、ここで私が動かない理由は無い。彼が動くという確証が無いものの、彼というある種の保険とすればいい)
開いていた目を閉じて、少し、意識を集中させる
それだけで、彼を中心に光の線が室内に、それは室内だけに留まらず、レーザー砲管理兼戦闘指揮施設の建物外にまで展開し、なんらかの術式陣を描いた
そして、その建物の屋上から、巨大な、下半身のない骨だけの人間の上半身らしきものが現出した
821 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:53:13.76 ID:nb6vtV28P
現れた骨の塊は、向かってきた全ての力を意図的に誘導し、受け止めて、そして一瞬で砕けた
その最中には強い光の爆発があったから、それの出現と行動を正しく認識出来たものは殆ど居ないだろう
目撃者の殆どはどういうわけか敵の攻撃を防いだ、もしくは攻撃が集中し過ぎて互いに反応し合って消滅してしまったのだと思っている
その出現は本当に一瞬の間だけだった
相(今のは、イェスのでは。なぜ、ここに……?)
それを認識できたのは、特別な環境に居た人間のみ。例えば、彼女のように敵分析の為に高機能な光学フィルタを装備していたなどである
『あと、10分だ! 』
そうこう思っていると、すぐさま無線が入って来る
刀夜『計算上、仮に第7学区以外が全て無くなっても最長10分で蓄電は完了すると結論が出た!』
刀夜『最早、贅沢は言っていられない。第7学区だけでいい、守り通すんだ! 東側に傾注しすぎた展開した粒子砲等の固定戦力並びに起動戦力を後退させつつ、駆動鎧は当麻を拾って彼を学区内で一番高い見晴らしの良いビルの屋上へ移動させてやってくれ!』
刀夜『一方通行はそのまま遊撃的な活動を。仮に学区上に敵が侵入した場合、近くの能力者の諸君も攻撃できる者は攻撃して欲しい』
刀夜『そしてなにより、一人でも多くの者が生き残れるように協力するんだ!』
切れた無線からの声には、作戦前の余裕さが消え、必死さが伴っていた
急場をなんとかしのいだところなのだから、必然的でもあるが
どうやって凌いだのか、本格的に疑問でもある
相(どういう理由で、あれが、今ここに。タイミング的に怪しいのはもう彼しか居ない)
相「……10032号、上条刀夜に動きはありませんでしたか?」
822 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:54:27.92 ID:nb6vtV28P
送りこんでいた密偵との会話の為にプライベート回線を開いたが
『あのスパークの中だったので、あまりよく見えなかったですが、とミサカは前置きを置いて』
『向かってくる光に対して、瞬間的に彼自身も僅かに発光したところまでしか確認できませんでした』
「彼が発光したんですね」
『はい。具体的には、何かレーザー光のようなワイヤーのようにところどころ曲がりくねったライン状の光でした、とミサカは詳細を述べますが』
相「ライン状の光。それは、先程の状況を解決した原因と何か繋がりが在ると思いますか?」
『分かりません。屋内に居たので何が起きたのか把握しかねました。今現在もここは若干混乱しています』
相「……分かりました。そのまま監視をお願いします」
『了解です。そちらも奮闘して下さい』
プツン、と切れる回線
現状、一斉攻撃をこちらが防いだので、破壊者達は全体的に包囲網をじりじりと縮めて接近してきている
相(確証は得られなかったが、彼が何か動いたのは事実のようですね)
相(イェスの"神の化身"がなぜここに現れたのか、タイミング的に彼が関わっている可能性は高い)
相(まだ彼については調べるべきでしょうが、しかし、この状況では贅沢を言っている暇はない)
相「上条当麻の回収は私が行きます。各機は、機体番号の近い他機と二機一組で敵に接近。攻撃を引き付け、散開することで的確に回避。流れ弾が直下の都市の方へ向かわないようにも気を付けて下さい!」
『『『了解!』』』
823 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:54:54.37 ID:nb6vtV28P
「また、唐突だな」
上条刀夜が期待したものの、動かなかった窓のないビルの住人の前に女らしい存在が現れた
エイワス「あまりにも外が騒がしくなってしまったのでね。予め君の所へ行く、と連絡した方が良かったか」
アレイスター「あなたの好きにすればいい」
エイワス「君は昔からよくそう言っていた。分かっているよ、だから勝手に失礼させてもらった」
半端に暗く特別に何も無いその空間を、まるで窓でもあるように見回して、更に彼女は言葉を紡いだ
エイワス「しかし、彼らも必死なようだ。一方で君は、何かしないのか? 折角50年以上もかけてこの酔狂な街を作ったと言うのに」
アレイスター「本当にどうしようもなくなった時には、流石に私も動くが」
エイワス「今はまだ動く時ではない、というわけだ」
アレイスター「……」
エイワス「沈黙か。ここは君にとって故郷でもあるというのに、冷たい言葉だ」
アレイスター「そう思うなら、あなたが動くという方法もあるが。あなたにとっても、それは同じ事のはずだ」
言われて、彼女はわざわざ驚いたような口を作った
エイワス「確かに、それもそうだ。では少し、昔を懐かしんでみるとしようか」
そして彼女はまた唐突にその場所から消えた
824 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:55:34.30 ID:nb6vtV28P
「君はこの状況でも動かないんだね」
同じような会話は、殆ど同じ時間に同じような存在達の間で行われていた
といっても、片方の女は、黒髪の少女の姿をしているが
「今は、彼の番だ。私が下手に動けば、それが彼の妨害になると言う可能性もある」
と、とある中学校の制服を着て、ビルの屋上の、フェンスを超えた外側の淵に腰かけている少女に男のような存在が言った
「ご自慢の他者複数脳との思考共有でも、その可能性とやらは払拭しきれないのか」
「払拭したところで、私に出来る範疇は差ほども多くないからな」
「でも、最近の君は暇そうだね」
「この場所ですべきことは無くなった、と言えるからな」
「後は待つだけと言う訳だ」
「監視とも言うがな」
「具体的に行動をしないなら、それって同じことだって思いませんか」
「私としても、この街が破壊されていくのをただ見るだけと言うのはいい気分では無い。だが、そう言うあなたこそ、あの存在達と一戦交えたいならそうすればいい」
「それは、あなたの勝手だ。って言いたいんでしょう? そろそろアタシの耳にもたこができちゃいますよ」
「……」
「まぁいいや。じゃあアタシ、行ってきますね」
と言って、彼女はそのビルの屋上の淵から、一気に飛び降りる
その後、その廃墟ビルの前の道路から、眩い光の球体が飛び上がった
825 :
本日分
[saga sage]:2011/08/26(金) 13:56:47.63 ID:nb6vtV28P
学園都市中に展開していた戦力は第7学区まで後退、それによって形成された学園都市内での防衛ライン
第7学区かそれ以外かを分けるこのラインまでの間で何が起きていたのか、恐らく誰も把握してはいないだろう
空中では一方通行が縦横無尽に飛びまわり、同時に青髪が複数展開した極少ブラックホールが乱れた流れを更にかき乱す
その上、二つの球体が敵に飛び付いては喰らい、更に球体を大きくしていき、地上からは多量の実弾・粒子砲・能力者の弾幕が飛び交う
光は捻じ曲げられ空気は乱れ、それによって生じた雲とそこからの雷撃がますます視界をカオスにしていく
一体誰が、この状況を正しく認識していて、どれだけの被害が出たのかを把握しているだろうか
それでも、時間だけは過ぎていく
そして
『……射線上には誰も入らないでくれ。やっと、時間になった』
『発射後、即座に"幻想殺し"のフィールドを再度展開する。これで、この1時間にも及ばない長い戦いは終わりだ!!』
グォン!! という何かが動きだしそうな音の後、地面は一気に揺れた
果たしてそれが、地震によるものなのか、地下レーザー砲の巨大な砲口が開こうとしている為に起きているのか、何か地上へ強い攻撃があたって衝撃が伝播しているために起きているのか、判断出来るのものは少なかっただろう
まず無線の電波がまともに拡散して居ないために、それには同士打ちの危険性すら有ったが
たまたま、レーザー砲施設の近くへ移動していた上条には、その砲の口が開いていることが確認できた
一体何に目標づけて攻撃すればいいのかすら分からない中で、果たして自分は何を打ち消そうとしたのかも、良くは分からない
だけどようやく終わる
『照射!!』
叫ぶ父親の声が聞こえた気がした。それが無線なのか、本当に肉声だったのか、わからないが
垂直に、ただ垂直に赤い色の光が、地面から天を貫いた
その衝撃で、生じていた雲は吹き荒み、一瞬、全てのものがそれに意識を向ける
我々の勝ちだ、と信じた者もいただろう
窓のないビルに引き籠ったままの住人は、その光の及ぶ先を観測しながら、しかし
「……やはり、こうなってしまったか」
と呟いた。その、直後
"神の国"によって正確に弾き返されたレーザー光は、宇宙的な距離によって生じた数秒の後に、逆に第7学区に大きな穴を作ってしまった
826 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/08/26(金) 14:02:17.21 ID:nb6vtV28P
本日分終了のお知らせって書こうとしたら暴走したでござるの巻
キリのいいところまで強引に書いたら時間ばっかりかかったでござるの巻
IBMがマジで自立思考可能なAIチックなものを作ってしまったでござるの巻
827 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/08/26(金) 16:20:19.98 ID:EoqZiALpo
乙〜
第七学区的な意味と百戦錬磨的な意味でヤバイ
828 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/08/26(金) 16:45:23.91 ID:7tEGdUtAO
どうすんだよこれ
ていとくんに任せときゃよかったのに
829 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/26(金) 20:50:26.36 ID:cwCCTBEYo
跳ね返ってきたwwww
830 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/08/27(土) 02:42:36.10 ID:OHZJq9UB0
淫デックスさん……
831 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2011/08/27(土) 06:49:17.13 ID:wFNVb0/Xo
くっ…
まさかインデックスさんに
教えを請いたいと思うことがあるとは…
832 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/01(木) 11:31:32.74 ID:0dcNmrjrP
「さっぱりした?」
部屋に備え付けられたシャワールームから出て、少し厚手のバスローブを着た赤髪の男
彼は髪をワシワシとタオルで拭きながら、声の主の少女の元を向いた
その少女の髪は、何処からか吹き込んだ風によって優しく流れている
ステイル「ああ。おや、君はもう髪も乾いてしまったようだね」
禁書「うん。ステイル、こっちに来てほしいんだよ」
言いながら、彼女は座っていた窓際の椅子から立ち上がり、ポンポンとその椅子の背もたれを叩く
ステイル「ん? どうしたんだい?」
導かれるままにそこへ座ると、少女は座った彼の膝の上に腰をおろし、首をまわして半分の顔で彼の顔を見つめた
サラサラと窓から吹き込む風が、再び彼女の髪を揺らす。この風が彼女の髪を乾かしたのだろう
禁書「ほら、ここに吹く風。気持ちいいでしょ」
ステイル「そうだね。本当に、いい風だ。でも、少し寒くないかな」
禁書「はい、コレ。少しさめちゃったかもしれないけど。フィアンマの為に外の人達が持ってきてくれたんだよ」
と言って、丁度腕ぐらいの高さの窓のサッシに置かれたマグカップを手に取り、そのまま彼に手渡す。シャワーを浴びていた間に配られたのだろう。ほんのりと湯気が生まれていた
ステイル「コンソメベースのシンプルなスープだけど、うん、おいしい。これはいいものを頂いたね」
禁書「うん、そう思うんだよ。……えへへ」
スライスされたオニオンが浮いているスープは、カップの半分程減っていたから、恐らくは彼女との間接キス
昨晩から今までずっと二人で起きていたのだから、今更である
そうして、二人の体温と彼女を半分程覆った毛布とスープの温かみが生みだした、まったりとした時間がしばらく続いた
禁書「ふあぁ」
ステイル「眠たいのかい?」
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
833 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/01(木) 11:32:16.35 ID:0dcNmrjrP
少し残ったカップをサッシに戻しつつ、彼は問うた
一晩中起きていたのだから仕方ないことだ
禁書「少し……」
ステイル「そうかい、それじゃ」
言って、彼は立ち上がろうと膝を動かす。彼女に対しての立ち上がろうと言う合図であるが、しかし彼女は退こうとはしなかった
ステイル「ん?」
禁書「離れちゃ駄目」
少女が首を振ると、風に流された髪が彼の顔をくすぐった
そのモスクワの風は、冷たいとも言える
禁書「離れちゃ駄目なんだよ」
ステイル「ああ、寒かったかな」
禁書「それも有るんだけど、今は離れて欲しくないんだよ」
ステイル「僕は何処へも行かないよ。すこし眠たそうな御姫様をベットへお運びしようとしただけさ」
体を少し強引にズラして、毛布ごと彼は彼女を抱き上げる。安心したのか、彼女は抵抗しなかった
そのままベットに運んで、彼は彼女の髪に数回手を通した。その心地よい感触が、彼女の眠りより強く導いた
ステイル「そろそろフィアンマから呼び出しが来るかもしれないけど、それまでは君と居る。僕だって、君との時間を大切にしたいからね」
禁書「……ん」
掛け布団の下から覗いた少女の腕が彼のローブの袖を掴んでいたが、彼女が寝入ったと同時に、それは緩まった
その表情を確認して、彼はもう一度窓の方へ
残って冷えつつあるスープを喉へ流し込んで、一息
天候は晴れ。長閑さすら感じる中で、彼の髪も風に揺れる。どうやら、彼の髪も十分に乾いたらしい
ステイル「さて、僕も少し寝るとするか」
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
834 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/01(木) 11:33:21.58 ID:0dcNmrjrP
グゥン、とまるで巨大な生き物の腹の虫でもなったかのような音が鳴った。駆動していた巨大な機械が止まっていく、そんな音だった
その原因は、レーザー砲のすぐ横に空いた巨大な焼き溶かされた大穴だ
彼の目の前にある計器は軒並み数字を下げ、赤文字になり、モノによっては警告メッセージが踊っている
刀夜「……あの時アレイスターが言っていたのは、こういうことか」
上手くいかないだろう、というニュアンスを臭わせていたが、まさか丸々跳ね返されるとは
"神の国"というのは、ただの巨大な石ころの名前だと思っていたが、大気圏外への宇宙規模のレーザー光を弾き返すとは、どんな理屈だ
しかし、その原因・理論を考えている場合ではない
彼は無線のマイクを乱暴に掴んで、大声を張り上げた
刀夜「直ちに幻想殺しのフィールドを再展開してくれ!」
このままでは何もかも破壊者の波に押し潰されてしまう
『了解。発生装置きど、って何でだ?!』
刀夜「どうした、なにがあったっ?!」
『エネルギーが、電力が、足りません。要求量に3分の1届かず』
刀夜「馬鹿な!! どうせここの学区以外の発生装置は壊れてしまっているんだろう?! そこにまで電力をまわす必要は無いんだ! 設定を変えろ!」
『それが、第7学区だけの範囲に限って展開することにすら足りないんです! 恐らく、先程天から降って来たレーザー光らしきものによって、発電システムか送電システムに害が出たものかと』
刀夜「クソ、なんということだ」
思わず、彼は目の前のディスプレイの淵を叩く。それによって少し画面がチラついた
構わない。どうせ戦況を知らせる各種センサーは壊れてしまっている
一番構うべきなのは、現状への対応だ
『どうしましょうか。このままでは』
刀夜「分かっているさ。……っ、少し待ってくれ」
『了解、しました』
先送り。回線を閉じて、彼は額を掴み、考える
視界にある窓から見える光景には、破壊者とこちらの応戦による色とりどりの閃光
そして、ぽっかりと深くあいた穴だった
刀夜「私は、どうしろというんだ」
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
835 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/01(木) 11:34:01.01 ID:0dcNmrjrP
それこそ、天と言う存在が人間の行いを拒絶するかのように
見るものが見れば、それは黙示録のメギドの炎にも見えたもしれない
赤色がかった光は当然、一方通行も確認していた。失敗したという事実だけは分かってしまった
一方「オイオイオイオイオイオイオイオイ……、話が違うじゃねェか!!!」
絶叫しながらも、彼は打ち下ろされつつあった巨大な鎚を回避しようと、前方に体を弾き飛ばす
視覚的に認識可能な翼以外にも、彼は自らの扱う"力"を薄く層的に広く展開して、その中に入って来たものの動きや性質を感知している
後ろにも目があるどころか、超高性能なセンサーを搭載している上、その中は彼にとって干渉可能圏内であり、はいってきたものを直接捻じ曲げることも可能なのだが、相手の"力"の大きさが干渉可能圏外であるので、センサーの役割が関の山だった
最も、粉塵なのか霧なのか雲なのか煙なのか閃光なのか闇なのか、とにかくまともな視界を確保できない現状では、それが最も重要なのだが
何より、この手の力の使い方を酷使すればするほど、彼は自分の脳がとろけていくような、自らの存在がより大きく置き換わって行くような感覚がして、つまり、嫌だった
だからこそ
一方「……いったいィ!!」
横方向から飛来してくる矢のような牙のようなものを回避する為に、空中でバック転をするように派手に体を動かし、再び後方へ戻しつつ
その行動によって生まれた乱気流を凝縮し槍のように研ぎ澄まして、体を捻りながら空気の槍を射出。それは先程鎚を振るってきた豚のような面をした人型の巨体の腹を貫き、回転する気流が鋸のようにその存在の内を削り採る
一方「何時になったらァァ!!!!
それでも、敵は次から次へと在る。確認していても回避不能なことは、恐らく対処可能なことよりも多いだろう
致命的な打撃を受けた豚面の巨人は槍の衝撃によって飛ばされつつ、自らを構成する"力"の爆発的展開、つまり自爆を選択した
それ自体は一方通行を捉えないが、爆発という瞬間的な推進力を得た他の破壊者が、猪のような狼のようなとにかく四本足の獣のフォルムをしたそれが、彗星のような勢いで一方通行に突進した
高質化している獣の額ぐらいの大きさしかない一方通行は、緊急的に展開していた"力"を凝縮しようとするも、間に合わず
一方「再稼働させンだよォォォォォォォォォ!!!!」
ただの石ころのように弾き飛ばれながら、彼は怒鳴り続けた
こんな痛みはどうでもいい。なによりも早く、"幻想殺しフィールド"の再展開をしてくれ
壊れていく学園都市を見たくない。似たような光景、前に一度見たことが有る。このままでは、妹達が、打ち止めが、殺されてしまう
そして何より。頼りたかった、甘えたかった人たちに続いて、このままでは、自分までも自分は失ってしまいそうだった
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
836 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/01(木) 11:35:08.60 ID:0dcNmrjrP
「早く。なにしてんだよ、父さん!」
上条当麻にとっても、現状は厳しいものだった
"幻想殺し"の相対打消エネルギーを外部放出する"相対出力"には、その性質上、認識→出力算出→方向を定めて出力、の行程が必要だ
手短に言えば、消防士が炎に向かってホースから放水するようなものだ
だから、この場合の炎である破壊者がまともに見えないという状況は最悪である
超遠距離砲塔である彼は、確実に認識出来る対象だけを撃ち抜いてきたが、ジリジリと確実に破壊者は包囲を狭めてくる
焦った様に見ていると、ピカピカと輝く空に比べて下の、つまり地面からのライトが弱まっていることに気づく
上条「まさか、さっきので」
電力供給に何か問題でも起きてしまったのか
空に向かって大きな口を開いた地下格納式巨大レーザー砲。その横に同じように天に向かって大きな口を開けたメギドの炎の傷跡がある
上条「もしかして、これのせいでシステムが動かないのかよ」
彼はすぐさまインカムのボタンを押した
上条「父さん!! 父さん!?」
しかし、返答は無い
この光景だ。あらゆる電波・磁場を始めとした波動などによって、無線通信が使用できないのだろう
上条「駄目だ、無線まで使えない。なんだよこれ、どうすりゃいいんだ」
どうすればいいか分からないから、タイムだ! と言って止まってくれたらどれだけいいだろうか
そんなことは有り得ない。それで侵攻と破壊を止めてくれるような相手なら、こんな状況にはなってないだろう
上条「どうすりゃいいんだよ!!」
だから、彼は迫り来る群に対して、混乱したように叫ぶしか無かった
今はもう、彼を理論的になだめてくれるAIだって、自分の中に居ない。あるのは自分という概念だけ
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
837 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/01(木) 11:35:53.57 ID:0dcNmrjrP
「スー……スー……、……ん、……んんッ!?」
車のバッテリーから引っ張って来た電気による光で照らされた、森林の中を通る国道のわき道
闇夜を照らす明りの下で衣類を直したりだとか、壊れた部分を直したりだとか、新しい工具を作っていたりだとか、他の大人たちが行っている最中に、少女は何か電気でも流れたかのように急に眼を覚ました
「おおっ? また啓示か?」
ミサカと言う名のクローンの側で作業をしていた男がそれに気づいて、その声に他の大人達も注目する
「おーし、車の方は直ぐに動けるぞ。拾ってきた電源ユニットも使えるし、そこのねーちゃんのお陰で昼間の戦闘での被害もないしな」
神裂「皆さんが行動慣れしている結果でもあります。しかし、いざとなれば、私が在る程度の時間を稼ぎますが」
「大丈夫よ。トレーラーへの荷物積載も出来てるから。狩ってきたばっかりの肉は全部持っていけないけど」
惜しいわね、と言ったミドルエイジの女性の視線には、地面の上で大の字で死んでいる熊
保存可能食糧や必要資材を詰め込めるだけ詰め込み、更にはここの人間を全員乗せないといけない為、この動物性タンパクの塊を載せる空間などなかった
有るとすれば、人々の腹の中ぐらいだろう
「折角の大物だったんだけどなー」
「結構上手いらしいぞ」
「でもね、クマなんてどう捌けってのさ」
「熊でも鹿でも、裁き方なんて分からないって点では対して変わらないだろ」
「分かってるのは新鮮なうちに食えってことだけだな」
そんな感じで話が続く中、少女は立ち上がって全員の顔を眺めた
何か言いだしそうだったので、生存者たちは彼女の方へ視線を集めた
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
838 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/01(木) 11:36:43.02 ID:0dcNmrjrP
「全員ここに居ますか? とミサカは人員の確認を要求します」
「いるぜ。で、こんどは何処へ逃げればいいんだ?」
「いいえ、移動する必要はありません」
神裂「……? では、どうすれば?」
「"周囲の人々と固まって、時を待て"。これが、意訳など一切含めない、今伝わった"声"の内容です」
「ほぉー。移動しなくていいのか。珍しいな」
「時ってなんの時なのか、分からないの?」
「はい。ただ、"待て"と。ただ、そんなに長い時間ではないようです」
「おっしゃ。だったらさっきの熊のバーベキューでもしようぜ。捨てんのはもったいないからな」
「あんたは単に食べたいだけだろ」
「いいじゃねーか。食える時に食おう」
「賛成。でも、残念だけど、酒は一滴も残って無いわよ? 昨日の夜で無くなっちまったからね」
「がーっ、マジかよ。誰だぁ、そんなに飲んだ奴は」
「あんただよ、この大酒飲み。ほんと、今までその飲酒運転で助かって来たのが信じらんないな」
「全部ミサカちゃんのお陰よ。おっし、酒はないけど食べれるときに食べときますか。熊バラすから手伝ってくれる、カオリ?」
神裂「わかりました。この刀が必要と言う事ですね」
「そーよ。エセ天使をバラバラにしたみたいにして頂戴な。ミサカちゃんは火頼むわ。男共は薪用意しな!」
思い思いの了承の返事をして、数十分後にはその辺りに肉の焼ける臭いが立ちこめた
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
839 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/01(木) 11:37:12.69 ID:0dcNmrjrP
『駆動鎧はそれぞれ指定地点へ』
どうにも指示のしようがなくて焦る中、凄い速さで時間が流れている様な気さえ上条刀夜は感じていた
そんな時である
刀夜「な、私の声が何故。私は、何も言ってないぞ」
無線のスピーカーから、聞きなれた自らの声が聞こえた。間違っても、幻覚では無い
しかも、何らかの行動指示をする様な口ぶりである
『到着後、駆動鎧から降りる必要は無い。指定地点で応戦続行』
刀夜の見ているモニターマップにも、光点で示される駆動鎧の移動先
そこに戦術的な意味合いなど見えない。曲線や直線でその点を結べば何らかの術式陣にでもなりそうだが
そんな指示を自分が出すはずが無かった。なぜなら
相『指揮権をそちらに戻したつもりはありません、上条刀夜。単機での行動は効率が悪い上にハイリスクです。それに二重指揮は混乱が生じます』
という理由である。戦中に理由の見えない命令を出す事は、混乱を招きかねない為に基本的にタブーである
『では、今の私の命令を優先してくれ』
しかし、自らの声を使った命令はその基本を押しのけた。その意味は分からない
しかし、今ここで本物の上条刀夜である自分が、今の命令は誤報だ、などと言ったらなおのこと混乱してしまうだろう
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
840 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/01(木) 11:38:20.16 ID:0dcNmrjrP
相『……了解。各機、モニターの指定位置へ』
彼女も了承したなら、もうどうしようもない
『『『了解!』』』
少女たちの必死な返事が返って来て、刀夜は舌打ちするしかなかった。そんな時
「驚いているかな」
自分の背後から声が聞こえた
ああ、やっぱりお前か。確かに、声真似なんてことをこんなタイミングでする存在と言えば、お前ぐらいだろう
その声を聞いて、寧ろ刀夜はすっきりした
刀夜「当たり前だとも。それより、何を計っているのか教えて欲しい」
アレイスター「君の尻拭い。いや、私もいいデータが得られたから、この言葉は適切ではないか」
刀夜「何をするつもりだと聞いている!」
アレイスター「君も使い方を知っている、簡単な術式と、それによる現状の解決」
怒鳴る刀夜に対して、彼は全く気にもとめた表情を作らない
モニターのマップ上の光点をなぞり、その様は子供が落書きを描くように自然だ
アレイスター「何、ちょっとした再配置だ。そもそも、この為の妹達。最も、これは最悪の場合の為の保険だが」
刀夜「妹達……?」
アレイスター「まぁ、見ていることだ」
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
841 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/01(木) 11:38:49.57 ID:0dcNmrjrP
天に浮いたモスクワ
しかしそのモスクワが意味するのはモスクワ市ではなく、モスクワ州の方である
その違いは何か。もちろん、広さが大きく異なる
「おいおい嬢ちゃん、ホントにこんなところでいいのかい?」
その広いモスクワの辺境で、一台の農業用のトラックが止まった
「はい、ここまでありがとうございます。とミサカは感謝の意を表します」
「うーん。まぁいいならいいんだが。この辺に親戚でもいるのか?」
頷いた少女を見て、それでも農家の男は承服できる気がしない
モスクワの都市部に避難したものの、緊急的な避難だったので幾つか持って来たかったものが彼にもあり、だからこそ何年も相棒をしていたこのトラックで妻や母の頼みのものを回収しにきたのだった
そろそろ避難も解除されるという話を聞いたが、それでも先に取って来てくれと愛妻に頼まれては、仕方が無い
そんな時に、少女がヒッチハイク、もとよりトボトボと人気のない道を歩いていたのだから、最初は幽霊や破壊者の一種かと思ったが、気の良い彼は心配して、結局彼女をここまで運んだのだった
「いえ、ミサカには特にその様な方はいませんが」
「だったらなんでわざわざこんな辺鄙な地に。あそこに見える農家の家ぐらいしか、この辺には無いんだぜ。しかも、"終末"とやらを恐れて皆都市の方へ避難させられちまった今は、ホントに誰もいやしねえ。火事場泥棒だっていたら喜んでやるくらいだ」
「構いません。この辺は少し人数が多いそうなので、確認が必要ということなので」
「ん? 人数が多いだって?」
「……」
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842 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/01(木) 11:40:46.56 ID:0dcNmrjrP
だんまりか。無視しているというよりは本人も良く分かって無い感じだが
良く分からない。まぁ、そもそもこんなところに来たかがるような少女だ
訳の分からないぐらいが自然か
「はぁー。まぁいい。いざとなったら、あの農家に行くんだぞ。扉や窓を蹴破ってもいい。食い物や防寒具ぐらいは残ってるだろうから」
「はい。では」
そう言って、少女は助手席を降りた
降りた瞬間、僅かに寒そうな表情をしたのを見て、男は運転席の後ろから男モノの厚手のジャンパーを掴んで、投げた
「少々汗臭くても我慢してくれよ。それじゃ、夜は特に冷えるからなー。凍死なんてするんじゃあないぞー」
言って、男は車を出す
ブロロロ、と軽油エンジンの作る音を聞きながら、少女は見送った
「……さて」
そして少女は周辺を、特に地形を入念に見渡した
「民家が数件、予定出現位置はあの場所」
安全なようです、と一人呟いて、彼女はその情報をネットワークの波に乗せる
「良く分かりませんが、これでいいんですね。おお、寒い寒い」
貰ったジャンパーを着込みながら、彼女も、その時を待った
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843 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/01(木) 11:42:56.82 ID:0dcNmrjrP
もう、本当に時間が無い。なんとかするなら何とかしてくれ。何か起きるなら何か起きてくれ
このままでは、有効的な回避方法や防御方法を持っていない人々は、特に怪我人達は死を待つだけだ
少し視線を下に落とせば、必死に第7学区の外側から内側の方へ逃げていく人の姿がちらほら見える
それが敵対してきた集団の人間なのかどうかなんて、彼は気にしない
そんな彼らの後ろに迫っているのは、四本の脚を持った獣が複数匹
反射的に右手を突きだして、彼はそれらに今自分が出来る抵抗を撃ち出した
彼の力の濁流がその存在を丸々全部吹き飛ばす、その寸前
上条「なんだこの光!? 今度は一体何がおきt――――」
地面からフワッと、少し青みがかった光が、まるで水のように一面から湧き出でて、自らの周りまでも包み込み
次に彼が声を出した時は、その光が作用した後だった
上条「……え?」
間抜けとも言える声は、確かに、彼の見たものを考えれば必然的なものだったかもしれない
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844 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/01(木) 11:44:56.25 ID:0dcNmrjrP
「これは……」
息子と殆ど同じような声だった。親子である
言葉を失うのも仕方が無い。何しろ、さっきまで第7学区を囲んでいた破壊者達の波は全て消え、晴れ渡る空にあるのは、一方通行や青髪や光球などがこれまた呆気に取られたようにポカンと浮いているだけなのだから
遠景も、関東平野ではない。ならば何処なのだろう
刀夜「ここはどこだ?」
アレイスター「地名上ではモスクワと呼ばれる土地だ」
刀夜「モスクワ? この平原がモスクワだとでもいうのか」
アレイスター「その通りだ。もちろん、モスクワの都心部の方が便利はいいだろうが、そんなことをすれば、移動させた第7学区がその都市を押しつぶしてしまう。私が大災害の原因となっていただろうな」
刀夜「第7学区をそのまま丸ごと、移動させたというのか」
驚く刀夜、頷くアレイスター
アレイスター「その場に居た人間も全てな。そして、このモスクワに来たのは学園都市の人間だけでは無い」
刀夜「どういうことだ」
アレイスター「すぐに分かるだろう。実際、良い頃合いではあった。もう少し妹達を泳がせた方が、救えた人数は多かっただろうがな。だが、彼の理性が失われるのは困る」
刀夜「救いだと?」
アレイスター「"ノアの方舟"に乗れなかった全ては洗い流される。つまりは、そういうことだ」
刀夜「この場所が方舟だといいたいのか」
アレイスター「方舟と言うには非常に広いが、表現的には正しいだろう」
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845 :
本日分(ry
[saga sage]:2011/09/01(木) 11:50:53.14 ID:0dcNmrjrP
刀夜「しかし、学園都市であろうがバチカンであろうが、破壊者は訪れる。この場所も同じじゃないか」
アレイスター「都市とは地上にあるものだ。だからこそ彼らに狙われる」
刀夜「ここが、海上だとでも言うのか」
違う、と言ってアレイスターは人差し指を上に向けた
刀夜「まさか、空中だと?」
アレイスター「正解だ」
空中。一体どういう理屈だ。そんな疑問が浮かぶと同時に、更に刀夜は食って掛かった
刀夜「ここがノアの方舟ということは、地上に残されたものはどうなると言うんだ」
アレイスタ「神々が人間の文明を破壊する為の天誅として起こされる、破壊者の波という大洪水、各種の大災害。残るのはそれに耐えられる存在だけだろう。言いかえれば、神に対抗出来る存在ということにもなる」
刀夜「……まさか、当麻。ちょっと待て、当麻はここへ来ていないのか!?」
アレイスター「仕方が無いことだ。私のビルに招いた時のような、半物理的な解決策を採ることが出来ないのだからな。そういう意味では、彼の右手は厄介だ」
刀夜「ということは、当麻は今」
アレイスター「第7学区が消えた学園都市に一人、奮戦しているか、絶望しているか。あるいは既に」
刀夜「アレイスター、君はッ!!」
ぐっ、と怒りの感情を剥き出しにして胸倉を掴みあげるも、それでもアレイスターは気にも留めなかった
アレイスター「私に怒りの矛先を向けるのも、分からなくは無い。だが、今の君には父親以外の役割もある。大衆を扇動した以上、その責任は果たすべきなのではないか」
言われ、苦虫を噛み潰したような表情を一度浮かべて、上条刀夜はその部屋を後にした
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846 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/09/01(木) 13:18:18.73 ID:AEWT1Yjf0
乙
これ次スレ確実だよね?
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847 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/09/01(木) 16:05:39.53 ID:zbgpFPQmo
乙〜
所詮は刀夜か。フィアンマは一体何を……?
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848 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/09/03(土) 11:16:17.16 ID:2Pi9IEtzo
みんなで引っ越しかww これは盲点だった
そして相変わらず不幸なそげぶさん…。
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849 :
あ
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:30:24.65 ID:0X3JsVYQP
「――――――え」
と声が漏れたのは、地面にドサッと腰を落とした時だった
今までは廃ビルの屋上に居たハズなのに、地面が軟らかい。手が触れている感覚はまるで土のようだ
土? このアスファルトとコンクリートと金属以外には、僅かにしか表面に出てないだろう土だって?
即座に立ち上がるも、やっぱり異変は変わらない
仰向けの体勢という天を見上げる状態から立ち上がれば、視界の変化が嫌が応にも確認されてしまう
上条「……え」
と彼は二度目の茫然とした声を漏らした
視界に見えるのは、遠目にある壁のようにそそり立った土砂と、その上にある学園都市の廃墟
つまり、今自分が立っている場所は普通の学園都市の地面の高さよりも、かなり凹んだ場所であると言う事だ
まるで巨大なタライの形をした落とし穴。しかし、変わらないのは天には多くの破壊者がこちらに視線を送っていること
彼らも戸惑っているのだろうか。だが、説明して欲しいのはこっちだ
まるで"イェス"の大型多脚兵器や神の化身と戦った時の場所の様である。違うのは、近くに水が無いことぐらいだろうか
あの時は、研究施設内の多脚兵器のパーツになる部分だけが合体し、それ以外の大部分が無くなった
今回も同じようなものだとしたら
上条(俺だけ取り残されて、他の部分が消えちまった……?)
思い当るのは、先程の地面からあふれ出た光
あれが、そういう術式だったのかもしれない。そして例によって、自分はその影響を受けなかった
上条(ってことは、ここは)
瞳だけを素早く動かして辺りを見回す。土の色しか無い
上条「第七学区が有った場所ってことか……?」
合点、とまではいかなくとも、状況を判断しかねている自分を納得させるには十分だ
皆は、と見回しても、何も、誰もいない。何しろ、今自分が立っているのは本体深い地層にある土砂の上なのだ
850 :
と
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:31:08.24 ID:0X3JsVYQP
地面が上がって来たのではない。上の部分が無くなって、自分が下に居るのだ
そして、天に居る空想上の化け物達は、自分が呆けている間を待ってくれるような優しい存在か
不味いと思った時には、彼は反射的に右手を天の方向へ向けていた
それでも
空想上の動物の、巨大な角の部分だろうか。そこからの落ちてくる雷は右手で受け止めたが
他の何から飛んできたのか分からない、球状なのか矢じり状なのか、はたまた炎のようなものなのかすら、ともかく何かの衝撃が彼の体に直撃し
体勢上、彼を叩きつけるようにして降って来たそれを受けて、彼の脚は当然もたない
脚が潰れた一方で、力の逃げ場として側方へ吹っ飛ばされる
痛いってレベルじゃない。即死だろこんなもの
そう思いながらも、彼は動く腕をつかって仰向けの身を起こそうとした
半身を起こして正面に見えたのは、恐らくサイか猪か、もっと言えば像の牙だろうか。それが、一気に突っ込んでくる
出血とか骨格とかが完全にぐちゃぐちゃになってしまった脚は、一切に動く様子もない
半身でそれを防ぐには、身を起こしてない方の右手で突っ込んでくるものを打ち消すか吹き飛ばすか
近づかれたくない
出血で半分も見えない視界での判断は、それ以上のものは出なかった
出力。上条の右手の平から光を伴った力の渦が生まれる。それにより戦艦程もあろうかという大きな存在が押し流され、消える
消えたのが確認できた、で、何が変わる?
前から来るだけなんて、やりやすい相手達だろうか? 後ろからだって、横からだって、上からだって。下手すれば下からだって有り得るじゃないか
上条(……ほら、やっぱりだ)
脚部方面の酷い痛みのような、似たような感覚が、左肩から生じた
仮に脚がぐちゃぐちゃやられて出血していなければ、ブシュゥと勢いよく血があふれ出たかもしれないが
痛いのと同時に、飛んでいく自分の左腕が視界の端に見えた
腕を吹き飛ばしたのは、人の形をした何かによる剣だろうか。背後なので見えないし、振り向く気力も方法もなかった
851 :
6
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:32:03.16 ID:0X3JsVYQP
左腕の支えを失って、彼はもう一度仰向けに倒れるしかない
出血は酷いし、このまま次の攻撃で死ぬだろう。その前に意識が途切れるかもしれない
脳へ必要な血流量が圧倒的に足りず、彼の思考の水準はひたすらに下がることになる
そんな中で思ったのは、これが己の罪に対する罰なのだろう、ということだ
上条(当たり前だろ。俺の勝手な判断で、一度この地球という存在を殺しちまったんだ。そこに住む全ての人間も同時に)
上条(その上、この終末だもんな。全部全部、俺の責任と言われれば、反論できないんだ)
自分が"前"に行動しなければ
この右腕を使わなければ
認めたくなかった、夢だと思いたいような状況を幻想として、壊さなければ
"幻想殺し"。全く、こんな腕があるせいで。自分は、周りの全ての人間も、皆、みんな不幸じゃないか
もう終わってしまえ。これ以上は何を頼まれたって、そもそも動けない
ああ、そう言えば
アレイスターは自分に、暴走した神を倒せって言ってたっけ。神の対だからだとか、なんだとか。その前にも聞いた気がする。誰が言ってたんだっけ
上条(もしそれが事実なら、俺と一緒に神とやらも消えてくれるんですかね。だったらこの終末も一緒に消えてくれれば、いいんだけどな)
俺一人が消えるだけでそうなれば、本当に些細な犠牲じゃないか
(―――――残念だったな)
上条(何がだよ)
(今考えていることは不正解だ。神は、消えない)
上条(お前に言われなくても、分かってるよ。それだけでどうにかなるなら、イェスは俺を最優先で殺しただろうし、アレイスターだって俺にあんな頼みをしない)
(では、このままだとどうなると思っている?)
上条(どうだろう。まぁ間違いなく、俺は死ぬんだろうけどさ)
(……フ)
上条(笑うなって。こんななりになっちまって、全然動けないけど。だけどこれでも頑張ったんだ)
852 :
投
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:33:02.68 ID:0X3JsVYQP
(頑張った、か。では、頑張ったら、自らの役目から逃れられると思っているのか?)
上条(うん? どういうことだよ)
(そもそも、瀕死だというのに、一体今誰と話をしていると思っている。こんなにも普通に。そんなことが人間には可能か)
無理に決まっている
今のこれは走馬灯とかの一種じゃないのか。もしそうでないなら
上条(……お前は、誰、いや、何だ?)
(役割だ)
上条(役割?)
(このシステムに於ける、"幻想殺し"カミジョウトウマの"役割"そのもの)
上条(俺の、役割)
(君達が神と呼ぶ存在に対して、相対すること。その過程の中に"終末"は計画されていた)
上条(前にも聞いたな、その話)
(終わりの時まで、誰もこのシステムの役割からは逃れられない。君という、私も。だから結論、君は消えられない)
消えられない、死ねれない。つまり、怪我や出血なんて関係ない
自らの意思さえも、そこには
上条「だから、こうなってるのか」
視覚、良好
味覚、鉄の味
聴覚、うるせえ
触覚、何かがもがいて暴れている
嗅覚、むせるような獣の臭い
自分はまだ、真っ直ぐに立っている
(……ああ、そうだとも)
853 :
下
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:33:54.18 ID:0X3JsVYQP
ふざけたことだ、と妹達は思っただろう
少なくとも、熊を串で焼いたものを食べている彼女はそう思った
なにしろ、急に体の中から光が拡がったかと思ったら、気が付けばこの大地に、周りの人間だけでなくトレーラーごといたのだから
それに驚いたお陰で、さっきは肉を落としてしまった。勿体ない
遠くには、なんだかよくわからないが何処かの廃都市まるまるがここに来ている様な場所も有る
広大な土地に、自分と同じ顔姿をした少女を中心とした数人から数千人のグループが点在していて、周りに廃都市の一部が壁のように現れている集団も有る
一言で言えば、混沌とした環境だ
それは、自分以外の他の人間も思っていたようで、唖然としながらも木をカットして作った串で熊を口へ運んでいる
「す、ストップ! そこのお前、その肉を食うのを止めろ!」
突然、一番近くに居た他の集団の年配の男がこちらの男の一人に駆け寄って来て、その男の食べようとしていた肉を叩き落とした
急に見ず知らずの人間にそんなことをされれば、怒らない人間はいない
「おいあんた、何すんだよ!」
「何するんだはこっちのセリフだ、若造! お前に野生動物を喰った経験はあるのか?!」
「んだと?! そんなもんありゃしねーよ。初熊だ、初熊!」
「やっぱりか。お前、今食おうとした部分をちゃんと確認したか? そして、その部分に対する知識を持っているのか?」
「知らねえっての! 食えりゃいいだろ!」
「馬鹿者が。この熊の肉付きからして、内陸の森に住んでる様な奴だろう。近くに大きな川も無かったはずだ」
854 :
で
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:34:48.48 ID:0X3JsVYQP
「狩人じゃないんで知らねえよ。何が言いたいんだ爺さん」
「そんなところに住んでる熊の肝臓なんぞを食べると、中毒を起こしやすい。運が悪ければ、お前は最悪死ぬ。これで分かったか?」
「なっ、マジで?」
剣幕がすごかったので何事かと思ったが、どうやら、親切心から出た行動らしい
平和で何よりだ。そこに、麻色の布で体を覆った自分と同じ背丈の人物が
「この人の言っていることは恐らく事実です。都市部へリタイアしたものの、それまでは林業を営んでいたそうですから。と、ミサカは熊肉に対して羨望の視線を向けながら――」
驚く男に、老人の後ろから少女が近づいてきた
その少女の顔は、熊を食べている男たちの集団のミサカと呼ばれる少女と同じ
「そうなのかい。って、あ、あんたもミサカの嬢ちゃん?」
「ええ。正確には個体番号16985号ですが」
「個体番号?」
「私達はクローンですから、とミサカは端的にこの状況を説明します」
クローンって、本当かよ。と驚く男の前に、熊肉の側の集団の少女も移動した
同じ顔の少女がいくつもいるという奇異な状況である。これを説明するには、クローンという言葉は合理的すぎた
「ネットワークに接続されたすべてのミサカが、ここ、浮遊モスクワに来ているらしいですね」
「はい。やはり、あの時の"動かず周囲の者を纏めろ"という声はこの目的のものだったようです。あの、ミサカもこの熊貰っていいですか。動物性タンパクが少々不足気味で」
855 :
終
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:35:47.09 ID:0X3JsVYQP
「うん、良い汗をかけた」
モスクワの農村部上に出現した第7学区の窓の無いビルに、エイワスは戻って来た
汗がどうとか言っておきながら、その表情は涼しいもの
アレイスター「残念ながら、ここにはバスルームなどないが」
エイワス「それは残念だね。今時、安いホテルにもあるのだろう?」
アレイスター「興味が無い。だがもし培養液のプールに浸りたいなら、今の私が居る場所を貸し出すが」
エイワス「恐れ多いからそれは結構だ。しかし、随分と思いきった方法じゃないか。世界中にばら撒いた妹達を術式の中継点にして全てを再配置させるとは。あの脳だけの第三次製造計画の個体もその為か」
アレイスター「中継点管理に加え、彼女たちには世界各地の妹達及びその周辺の人間を生き残らせるための状況判断も処理させた」
エイワス「つまり基礎部分は全て彼女たちという訳か。しかし、脳だけの身に彼女たち、とは面白い言い方をする」
アレイスター「その脳だけの身であるから、無駄な個性を省き、処理の特化に繋がる。しかし、私の方法が上手くいけば、その功労者として個々に体を与えるつもりでもある」
エイワス「優しい優しい統括理事長だな。しかし、おかしいじゃないか。君の方法には、そこまで手間をかけてまで生き残りの人間を生かす必要はなかったはずだ」
アレイスター「その答えには、失敗という観点を持つべきだ。あなたは」
エイワス「君はそんなもの、少しもする気など無いだろうに」
アレイスター「もちろん、その為に長い時間を掛けた。しかし、結局この時勢・時流は私が見てきたものではない。それだけに保険は必要だ」
保険ね、とエイワスは呟く
エイワス「君の方法が失敗した場合の次代、次代すら存続しなくなった場合の人類の生存、人類すら生存しなくなった場合の神による復活」
856 :
了
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:36:15.84 ID:0X3JsVYQP
そして、そのまま両腕を広げた。道化師のように
エイワス「君は一体、いくつ保険をかけるつもりなのだろうね」
アレイスター「必要な限り、だ」
アレイスター「私の方法におけるこれまでの過程の中で既に、イェスなどという存在が私のサブプラン・垣根帝督を彼の計画のサブプランとして救世主化を狙った」
エイワス「君にとってはそれは、予想外だったということかね」
アレイスター「彼の救世主化は考えられたことだ。まさか、それを狙ってくるとは想定していなかった。しかし、それまでだ」
アレイスター「結果的には彼のプランは、人類情報の存続装置という形での"ノアの方舟"、結果的には私の次代を創造することにしか成功しなかった。それでも、彼の行動は良い試行データにはなった」
エイワス「試行データか。そう言えばあの時は、"幻想殺し"についても問題があったようじゃないか」
そうだな、と彼は答える
アレイスター「彼に残された人間性が作用して、神に相対するものでありながら、彼は救世主の神化を寧ろ促そうとした。これは彼と言う役目を考えるにあたって、不安定材料になりえる」
エイワス「なるほど。だ か ら 彼を地へ取り残してしまったわけだ。可哀相という言葉を与えたくなるね」
アレイスター「結果的にそうなっただけでもある」
エイワス「ふっふ、それはお笑い草だ。まあ、それが君なりの冗談にしろ現実であったにせよ、結果的には君の思い通りじゃないか」
アレイスター「単純に嬉しい誤算、偶然にすぎない」
エイワス「だったら、君に風が流れているということだ。私や彼女以外に運命の女神にまで好かれるとは、妬けてしまうね」
アレイスター「……それこそ、冗談だな」
857 :
し
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:37:16.60 ID:0X3JsVYQP
「だからこそ、貴様は主へ抵抗する天使を許していたのであるか。この、テッラのように」
腰ぐらいの高さの祭壇で横たわるテッラの側で、アックアは見下ろしながら尋ねた
それは、目的を本人の口から聞いての反応だ
フィアンマ「勘違いするな。それは俺様が到らないからでもある。何事も完全な関係なんて有り得ない」
アックア「だが、その欠点を見出しているならば、いくらでも対策になるような術式を組み込むことは可能であったのではないのか」
それを意図的に放置したのか、根本的に出来なかったのか。それはフィアンマ本人にしか分からない
フィアンマ「……俺様をそう高く見てくれるなら喜ばしいことだ」
しかし、答えはぼやけたものだった
フィアンマの影響を受ける身である復活者のアックアは、根本的に彼を信用していない
畏敬という面は生まれているのだが、信用という言葉の意味にまでは成立しない
この救世主の目的は確かに壮大で且つ大きな意味を持っている。それは分かる
しかし、その目的の為の方法としてフィアンマが行ってきたことが、承服できないのだ
ヴェント「どうであれ、結果的にこの欠陥がフィアンマの企みを可能にしている。だから――」
アックア「だが、これは直接的に神に弓引く行いなのである」
見かねた彼女の声すらも、そんなアックアは遮った
フィアンマ「だから、承知できないのか」
アックア「当然だろう。十字の教えに背く行為に従えということは、十字教徒にとって――」
ヴェント「そんなこと、今更だと思うけど。異教徒排斥活動も"右の頬を打たれたら左の頬を向けよ"というキリストの言葉に反する行為。第一、"救世主"がそうしろと言っている」
今度は彼をヴェントの声が遮ったが
フィアンマ「アックアの考えも分からなくない。女のお前と違って、アックアが俺様の言葉を聞こうと言う背景は敬意だ」
フィアンマ「その敬意の源は何か。術式的にも、教義や道徳を構成する信仰がそれにあたる。そこに矛盾する俺様の言葉には、当然、主への抵抗が生まれる。なにしろ、俺様はそれを放置しているのだからな」
つまり、アックアの反感もテッラの暴走も理由は同じであるということだ
858 :
た
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:37:44.37 ID:0X3JsVYQP
フィアンマ「だが、アックア」
アックア「何であるか」
フィアンマ「俺様達が所属していたのは、ローマ正教の何だ?」
アックア「……神の右席であるな」
フィアンマ「なら、その目的は何だ?」
アックア「名前の通り、神と同等の立場である"右席"に座り、その力をもって更に別の存在"神上"に至ることである」
フィアンマ「なら、それを踏まえたうえで、俺様がお前にさせようとしていることは何だ? それは、一種、"神上"に到ることではないか?」
言われて、アックアもヴェントもハッと言葉を埋まらせる
フィアンマ「つまりだ、アックア」
「神の右席と言う組織が、この目的の為に創られていた。そう考えることだって可能だろう?」
そう言った彼の目はそれまでの余裕を感じさせるものとは異なって、真剣さを帯びていた
アックア「まさか」
フィアンマ「その通りなんだよ。最初からそう言う仕組みで、"神の右席"は有ったんだ。そうでなければ、今のような教皇との力関係はそもそも生まれない。誰も"神の右席"という組織を創ろうとしない」
言われるがままに考えてみれば、なるほど、納得できるものである
教会体系を考えるにあたって、教皇はその頂点でなければヒエラルキーという形の支配体系を維持するのは難しい
なぜなら、同格、又は上位の存在が有ればそれはいつしか歪みとなり、権力的な衝突を引き起こしてしまう。例を挙げれば、東西新旧に分かれた十字教のように
"神の右席"は教皇の影の相談役、などと言う表面的な意味合いを持っていたが、やはりいつしか上が教皇で下が右席という力関係は崩れてしまった
普通ならば、分裂を恐れてそんな力を持ちかねない組織は設置されない。されるべきではない
だが、事実"神の右席"は存在した。何故か。それを肯定するには特別な設置意図が、つまり目的があったから
丁度、フィアンマの行おうとしている事のような
「つまり、あなたの行いもまた、教義の内であったというわけですねー」
859 :
ら
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:38:19.00 ID:0X3JsVYQP
突然口を開いたのは、テッラだった。そしてその眼は力強く見開かれている
フィアンマ「そういうことになるな。どうだ、気分は」
テッラ「平生ですよ。恐ろしいほどに落ち着いています」
ヴェント「その落ち着きがロンドンの時にあれば、もうちっとは楽だったってのに」
テッラ「その節は迷惑をかけましたねー。アックアにも」
アックア「……ここで再びやり合おうとは言わないのか」
テッラ「いえ、今更そんなことをするつもりはないですねー。争いの後、アックアも私もここにあり、そして救世主の示す道があります」
テッラ「主が導いて下さったからこそ、この結果が在る。だったらその信徒である私達が、どうして闘う必要なんて有りますかねー」
すっきりと目が覚めた様な、余裕を感じる
言い切った彼の言葉は、嘘ではないだろう。そう思われた時、ギギギと聖堂の大扉が開いた
「救世主フィアンマ、ステイル・マグヌスをお連れしました」
そう言ったシスターの背後から入って来たのは、その通り赤髪の男
聖堂の奥のフィアンマ達の方へ向かう彼を見て、ヴェントは何故か顔を朱にして視線を逸らした
フィアンマ「少ない休みで悪かったな」
ステイル「いいよ、個人的には十分楽しめた」
フィアンマ「その台詞は助かるがな。だが実のところ、もっと休んでいたかったのだろう?」
ステイル「まぁね。というか、君はこんなところに僕を悠々と呼びつけていていいのか」
言葉の意味が分からず、フィアンマは「ん?」と首をかしげた
フィアンマ「どういうことだ、ステイル」
ステイル「外のことだよ。まさか、伝わっていないのか。世界中の生き残った人間が君の浮かせたこのモスクワに集結してしまったというのに」
フィアンマ「……なんだと?」
860 :
い
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:38:50.53 ID:0X3JsVYQP
「アレイスターが言っていた役割とは、こういう事か」
生存人類の総移動が終わって数時間。その問題は顔を見せた
集団心理を拡大・深化させる術式を自らの周りに展開していたことで、事実上学園都市第7学区を取り仕切る上条刀夜
その前に座っているのはロンドンを取り仕切っていた騎士団長
彼が話した内容は単純に言えば領土問題・食糧問題だ
領土、という単語が指すのは間違いなくロシア連邦のモスクワ州なのだが、事実上の人類ほぼ全てが集まってしまったこの場所
元々は広大な農地であった場所へ、集団によっては本来の土地や建物ごと突然移動してきたわけである
とりわけ、ロンドンや第7学区などはかなり広範な場所を占め、つまり元々は農地で有った場所を踏み潰したような形となった
当然、その事実に憤慨するのは元々その場所に住んでいた者達
そして、モスクワ市の方へ避難命令を受けていた彼らにその事実が伝わった方法も不味かった
学園都市やロンドンに居た生存者達はまだ食糧的な問題は少なかった。しかし、大多数はまともな食事などしていない
妹達の少女を中心にひたすら逃げ惑っていた中で、突然、目の前に殆ど無傷のモスクワ市が現れたのである
遠くにも廃墟が見えるが、目の前には普通の大都市。だれが遠くの廃墟へ向かうだろうか
そうして、数万の生き残りが突然モスクワに入ってしまった。食糧と平穏を求めて
だが、見知らぬ上に言語も碌に通じない大群が現れて、どうしてモスクワが動揺しないことが在るだろうか
モスクワの人間からすれば、自分たちが得ていた安寧が急に崩されたことになる
しかも、よくよく聞けば避難民の農地の上にいくつもの都市が降って来たという
怒りが生まれるのは自然だ
その怒りがモスクワに入って来た人間に向けられ、対立状態に成っている、と
だから、移動してきたロンドンの宮殿周辺部の方にモスクワ市の方から、「どうにかしてくれ」と使節が来たのだと言う
団長「これで、彼らにとって我々は望まれない客となってしまった」
刀夜「我々もこんな場所に来たかったか、と言われれば、そうでは無かったがね」
861 :
い
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:39:54.59 ID:0X3JsVYQP
団長「しかし、少なくとも私達だけでも窮地を救われたのは事実だ。モスクワ市の使者が言うには、救世主のお陰でこの地は天に浮き、そしてあの厄介な破壊者達は来ないと言う」
"救世主"という言葉に、一瞬刀夜は眉をひそめた。垣根提督のような神化の反応はまだ感知していない
刀夜「ということはその救世主とやらが、モスクワの人間の求心力の頂点であるということだろうか」
団長「恐らくは。調査隊を編成して得られたデータによれば、実際にこの地は浮いているらしい。しかもかなりの高度でありながら酸素濃度は変わっていない。そして、浮く前にこのモスクワまで来そうだった破壊者の群をも、救世主を名乗るフィアンマは駆除したということだ」
刀夜「なら、まず間違いは無いな。そのフィアンマとやらが本当に"救世主"などであるかどうかは不明だけれども」
団長「奴をどうにかすれば、少なくともモスクワの側はなだめることが出来るかも知れない」
刀夜「だが、その為には少なくともモスクワ市内に雪崩込んだ外側の人間を一時的にでも接収しなくては、モスクワ側も聞く耳を持ってはくれないだろうな」
団長「そこで、だ」
刀夜「まさか、ロンドンはこれ以上収容できないから、こちらに頼む、という気では無いだろうね」
団長「考えることは同じか。流石、"銀貨"の上条刀夜だ」
流石、という表現を使ったが、口調からは嫌味すら感じられた
イギリスの視点からすれば、銀貨の活動に魔術師を多く派遣したものの誰一人帰らなかったという結果を招いたこの男を良く思いようが無い
しかも、どういう訳か今度は学園都市に居るのだから、尚更だ
刀夜「第7学区の民だけの食糧はしばらく持つだろう。だが、更に数十万の人間の分を賄うとすれば、数日も持たない」
団長「こちらも同じだ。むしろ、我々ロンドンの方が厳しい状況にある。なにしろ、母数は学園都市より圧倒的に多いのだ。治癒等の魔術すらもおおっぴらに使用しているが、それでも医薬品は不足している」
刀夜「医薬品については、わざわざ君と言う代表が来たわけでもあるから、有る程度の医薬品供与は行うつもりではいる。敵にはなりたくないというメッセージだと思って欲しい」
団長「それは、良い手土産になる」
刀夜「しかし、どちらにせよ食糧問題は解決しそうにない。この状況、一番その備蓄があるのはやはりモスクワ市の方なんだから」
はぁー、と上条刀夜は息を吐いた
団長「となれば」
刀夜「とにかく、フィアンマとやらと話をするしかないだろうね」
862 :
な
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:41:02.47 ID:0X3JsVYQP
「つまり、危険だからモスクワ市へは近寄るな、そういうことですか」
モスクワに移動した第7学区の少し広いスペース。そこに学園都市の生き残りが集まっていた
"幻想殺しフィールド"を解除する前よりも、確実にその人数は減少していた
「ああ。基本的には、この第7学区内に居て欲しい」
何をしているのかと言えば、端的に言えば現状の説明である
騎士団長が手土産として持って来た情報と学園都市勢で集めた情報を元に、現状を説明して、そして今は質問・討議の為の時間となっていた
「じゃあ、外から入ってくる連中はどうすればいいんだ?」
「排外しろとは言わない。だが、積極的に受け入れろとも言えない」
「外の連中は外の連中でなんとかしてくれと言う訳だな?」
「言い方は悪いがそうなる。外の生存者までの食糧の余裕は無いからな」
食糧が無い、という言葉が泳いで、その場はざわついた
なら、無くなったらどうするというのだ、その見通しはあるのか、などと、声が飛び交う
「判断が中途半端だな。つーか、なンであのおっさんはいねェンだよ」
「上条刀夜氏なら、今はモスクワ市に交渉しにいっているところだ」
「ってことは、あんたらは現状維持ぐらいしか命令されてないのか」
「そうだ。緊急時を除いては我々だけで自立行動はしないつもりだ」
「懸命だと思うぜぇ。下手に動かれてまたレーザーが跳ね返ってきちゃ困るしなぁ!!」
863 :
ぁ
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:41:39.16 ID:0X3JsVYQP
罵声に近い声もある。実のところ、この現状説明は最初からずっとこんな調子だ
その原因は上条刀夜が居ない、つまりイェスを吸収した彼の集団操作の術式がないから
だから、残されて説明をする方も語気が荒くなる
「そういえばあんたら、ここは宙に浮かんだモスクワだっていったよな」
「ああ、そういう認識をしている」
「どういう理論や理屈でここに俺達は第7学区ごと来たんだよ」
「学園都市には空間移動の能力を持った者がいるだろう。同じ理屈なんじゃないだろうか」
「つまり、分かって無いと。ってことは、ここに来れなかったのがもし居たとして、そいつらがどうなったかとかも、分かって無いんだな?」
「我々の調べでは、有るい程度の地下を含めて第7学区のほぼ全域が空間移動したと判明している。そして移動前の時点で既に、第7学区の末端までもほぼ完全に破壊されていた。つまり、第7学区外で生きていて、この場に来れず取り残された者は限りなく0に近いだろうと予測できる。最も、空間移動能力というものは誤差が有り得ると聞いているので、何人かはモスクワの違う場所に飛ばされたとも考えられなくはないが」
「ああ、そうかい。ここに居ない奴らは多分皆死んだ、ってことだな」
「他に何かある者はいるか―――」「俺達は何処で―――」「話にならな――――」
この話し合いと言うか怒鳴り合いみたいなのは、まだまだ続きそうですね
そんな風に、先程まで駆動鎧を指揮していた女が思った時、後ろから肩を叩かれた
振り返ってみれば、妹達と同じ顔。でも、駆動鎧の下に着るスーツを身につけてない。つまり彼女はオリジナルの方
御坂「ねぇ、相」
相「はい。何でしょう、御坂美琴」
御坂「アイツ、見てない?」
864 :
ぁ
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:42:16.66 ID:0X3JsVYQP
ロンドンの建物らしいものがある
そう気が付いた時、彼女、神裂火織は既に空を奔っていた
しかし、畑から急にアスファルトの道路とブロックの歩道となる、移動してきたロンドンの区域に入ろうという直前で、それまでの勢いは無くなった
当然のことだ。彼女がここを一目散に目指したのも、そしてなかなかここから先に進めないのも
彼女は、彼女を必要とした天草式の建宮たちに命を賭して助けられて、今こうして在る
一方で、建宮達7人しかニューヨークに来れないように天草式に打撃を与え、数人の仲間を殺したのも自分だ
一体自分がどれだけのことをして、どれだけの仲間が生きていて、そしてどれだけ怨まれているのか
誰も生き残っていない可能性だってある
すぐにでも謝りたかった一方で、怖いのだ。それらを知ることが
「女教皇……?」
聞き覚えのある声が、そして聞きたくて、聞きたくなかった声が、横の廃墟から聞こえた
その方向を見ると、見覚えのある男の顔
神裂「牛、深」
彼女がその男の名を言うと、大柄の彼は一瞬喜んだような、そしてその後すぐに何とも言えない表情になった
ともすれば崩れてしまいそうな脆さを持った表情で、しかし彼は彼の得物である斧を強く握っているのが分かった
何処かを痛めているようで、力強さを感じなかったが、警戒しているのだ。自分を
「あの、アメリカに行った教皇代理や五和達は、どこかにいますか」
865 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:43:14.41 ID:0X3JsVYQP
それは、まだ生きているのかという質問にも聞えた
神裂「……いえ」
「そう、ですか」
声と共に、彼は武器を下ろした。それは答えた彼女に安心したからか、それとも、絶望してどうでもよくなってしまったからか
「で、でも、女教皇とこうして話が出来るだけ、俺はまだ運がいいのかもしれないです」
神裂「ということは、あなた以外の天草式は、やはり、……私が」
「いや、それは違います。今の結果をもたらしたという意味では、その、何も、言えないですけど」
努めて、神裂の前の彼が表情を平常に近づけようとしているのが見て取れる
それを見るのも辛かった。自分をフォローしようとしているのも、同じく
「……アメリカに行った教皇代理達も皆死んでしまったなら、天草式は女教皇を除いたらもう、俺一人だけなんですよ。俺が助かったのは、崩れる病院の中で、偶々動ける程度には回復してただけって理由なんです。皆、みんな……」
堪え切れず。押し殺したような声が、嗚咽が、漏れ始めた
女教皇という自分の役割を考えれば、大柄の体が小さく見えてしまう彼を慰めるべきだ
でも、そんなの出来る訳が無かった
彼は神裂の所為で全員が直接的に死んでしまったことは否定したが
ロンドン塔周辺がこの壊れ様である。自分が与えた打撃が理由で、破壊者達の攻撃から逃げられなかったのだろう。酷く簡単に予想が付いた
結局、今彼が涙している理由は自分によるところ。それでどうして、女教皇ヅラが出来るだろうか
何も、本当に何も出来なくて、彼女はただ立ちつくし、彼を見るしか無かった
866 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:45:14.61 ID:0X3JsVYQP
「誰もこんなことは予測していなかった。だからって言い方は正しいか分からないけど」
"殲滅白書"の彼女は、窓の外の大道路で行われる光景を見ていた
ワシリーサ「万単位で食事を寄越せと人が雪崩込めば、こうはなるわよね」
その光景とは、睨み合うモスクワ市民と外から来た人々
万対万のぶつかり合いとなれば双方ただでは済まないが、あまりにも状況背景が違い過ぎた
方や、フィアンマの登場で他の場所に居た人間の不幸など殆ど知りもせずに比較的容易に生き残ったモスクワ勢
方や、数日間休む間もなく、まともな食事も出来ずに逃げ続けた人々。中には、本当に水くらいしか飲めていない人間すらいる
前後者の必死さが違い過ぎる
それでも後者は、今まで彼らを導いてきた、アレイスターに間接的に操られている、妹達の少女の静止を求める声によって、まだ止まっていた
まだその獰猛さすら感じさせる視線は暴力にならないでいた
なぜ私達はここまで辛い思いをしてきたのに、こいつらはのうのうとしているんだ、と言う不条理
勝手に先祖からスラブの地として伝わるこの地に現れ、農地を潰し、更には食料を寄越せと言ってくる理不尽
両者の主張が噛み合う訳が無かった
ワシリーサ「このままじゃ、衝突は時間の問題。どう動くのかしらねん、救世主サマは」
動きによっては、こちらも何か行動できるかもしれない
そんなことを思っていた矢先である。外の人間の群に新しい動きが生まれていた
ワシリーサ「……あれは」
群衆の後ろの方から半分に群が左右に割れ、その中央から異質なグループが進んで来ている
それは現代兵装の兵隊と騎士隊という異風な集団だった
867 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:46:29.58 ID:0X3JsVYQP
「不味すぎンだろ、これ」
黒いラベルに"〜ブレンド"とプリントされている缶
どう見ても缶コーヒーにしか見えないが、良く見ると珈琲では無く煮汁と書いてある
つまりコーヒーでもココアでもないものであり、しかも彼は高度に不味いものとして飲んだ経験がある
なぜそんな物を、太陽光と廃墟によって創られる心地よさそうな影の中に腰かけて口にしているのかといえば
一方「贅沢は言ってらンねェ状態とは言え、こいつは酷過ぎるだろ……」
打止「だったら、ミサカのココア飲む? って一度口を付けたのを手渡してみたり」
一方「いらねェよ。ガキは優先してそういうの貰える権利があるンだ。大人しく享受してろ」
打止「はーい。でも、わざわざ不味い不味い言いながら飲むのは不毛だと思うの」
一方「……あァ、そうだな。不味いから敢えて飲もうと思ったンだが、想像以上だった」
なんでわざわざ敢えてそんなことを、と少女は思ったが、変なこだわりは今更だと思って口にしなかった
別に、こだわりとかではないのだ。少しは物資不足対策に貢献しようという気が無いでもないが
ただ、この不味い味を不味いものとして、前と同じように感じることが出来るのか。それが不安だった
もう飲む気がほぼ失せた缶を傍らに置いて、彼は目を瞑る
浮かんできたのは、第7学区ごと移動する前の事
一方(あの時受けた攻撃の純粋な"力"の大きさなら、それは身に受けきることが出来るようなもンじゃァなかった)
缶煮汁を置いたのとは逆の方向に居るはずの打ち止めの頭の上へ、見もせずに手を置いて、優しくというよりはワシワシと撫で始めた
同時にベクトルという所詮人間の創りだした概念でしか無く、明確な物理現象ではないものを体中に走らせ、体中の反応を調べる
一方(だが、この通り。手も腕も、もっと言えば感覚まで全て生きてる。せめて腕の一本でも折れてるのが普通ってものだろォが)
868 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:47:19.93 ID:0X3JsVYQP
全く持って、健康だった。それこそ、その情報を分析した脳以外は
一方(こンな状況を可能にした原因が、あの自らが溶け落ちるような感覚だってンなら。あれは)
"人の器を捨て、より大きな力の行使が可能になる"そのように、自分が吸収したあの巨人は言った
彼は、今はもうどんな疑問に対して答えてくれはしないが、その言葉は覚えている。自分が"我々に近い存在でもある"と言われたことも
つまりそれは、自分を失うという代償を払って、又は自分と言う障害・制限によって妨げられているものを引き出すと言う事だろうか
ということは、あのまま戦っていたとしたら。今頃、自分はこうやって打ち止めを撫でることも出来なければ、不味いが故に大量に余ったのであろう煮汁を飲んで不味いと感じることも
もっと言えばこうして自分を自分たらしめる肉体すら無かったかもしれない
嫌イヤ止めて、と主張するように頭を振りだした少女の反応を感じて、彼は手に込めていた力を抜き、髪に手を通す程度にした
そこまで落とせば、彼女は嫌イヤと頭を振ることは止めた。それでいい
とにかく、誰でもいいから触れておきたかった。ただそれだけの甘え
ふと、伸ばしていた腕が小さいと言える手に掴まれた。打ち止めの手だろう
一方「ン?」
片目を見開くと、少女はそこに立っていた
ただ、異様なのは先程まで飲んでいたココアの入った缶が地面に落ちていて、とくとくと中身が零れていること
一方「打ち止めァ……?」
今度は急に引っ張られた。彼女らしくない、強い力で
そして
「では、来て貰おうか」
と、つい最近聞いた、聞きたくない声の主の声が聞えた
869 :
本日分(ry
[saga sage]:2011/09/10(土) 18:49:17.55 ID:0X3JsVYQP
(やはり、生きていたか)
と、ローラ=スチュアートは荒廃した地上で空を見上げつつ、唇を歪めて笑みを作っていた
アレイスター=クロウリー
死んだはずの男。イギリス清教の刺客の手で葬られたはずの魔術師
だが、「やはり」と彼女は前置きを置いたのだ
まるで当然のことのように、彼女は彼の死滅など信じても認めてもいなかった
当たり前である。彼女にとって彼は必須であり、彼の存在が無かったならば、この行動はなかっただろう
そして彼女の行動も、彼女なりの一種の救世である
そんな重要な彼の存在をどうやって確認したか
特別な霊装や特別な探査術式が必要だったと言う訳ではない。そもそも、そんな物はすべて破壊者によって破壊されている
実にシンプルなやり方だった
アレイスターの移動術式は、なにも無条件で全ての人間と物を移動させたわけではない
世界規模で妹達という点を摘むように蜘蛛の糸を伸ばし、網のようにその近くのものを纏め、そして移動させただけだ
必要なエネルギーが少なくて済むという点でも仕方の無い方法である訳だが、それには世界中に蜘蛛の糸という形で力をばら撒く必要がある
ならば、逆にそれを辿ればいいだけである。妹達二点を摘む糸の角度の開きから逆算すれば、それが学園都市で集束するという事実に辿り着く
地図と定規とペンさえあれば、知識の無い小学生でも出来ることだ
そして、そんな大規模な対象を対象とする術式を実際に行える存在と言えば、そしてその中心が学園都市で有れば、一人しか居ない
ローラ「さあて。首を洗って待ちたるのよ、統括理事長アレイスター」
と、ただ一人地球に残った人間的存在である彼女は呟いた
870 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/09/10(土) 19:19:47.49 ID:aIaboSHPo
乙〜
ってことは、3週目は無し……なのか?
871 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/09/10(土) 19:46:52.26 ID:j57lhikQ0
乙
あと6スレしたいなぁの間違いじゃなく?
872 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/09/10(土) 22:15:31.02 ID:x0iDvKWAO
おいおい一週間の一番の楽しみが消えちまうじゃないか
873 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 06:24:04.59 ID:7FVePKnSO
ハッピーエンドまでこの状況から6回程度でいけるもんなのか
874 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/09/22(木) 03:02:40.59 ID:MjXclssAO
いつ投下するかだけ教えてくれ
眠い
875 :
>>874 遅れてすまなかった。そして俺も眠い
[saga sage]:2011/09/22(木) 04:55:19.84 ID:XtBQm+XVP
"争いの場合、怒りを感ずるや否や、我々は真理の為ではなく、怒りの為に争う"
イギリスの思想家は言った。ともすれば、そうなるかもしれない
しかし、まだ怒りは全面に現れてはいない。話し合いで解決できるギリギリのラインである、と
少なくとも騎士団長は集団と集団で睨み合う人々の姿を見て、そう思った
「……ふぅ」
と、息を吐いたのは上条刀夜
彼の溜息も、外で自らの周りを敵として取り囲む人々の視線を受けてのものだろう
団長「まさに一触即発といえる状態だ。まさか、数時間でこうもなるとは」
刀夜「明確な指導者の居ない群れというものは、得てしてこういうものさ。どこにもお互いの理解なんて感じられない。彼らにとっても私達にとっても、運のないことだったんだよ」
団長「お互いがお互いを、一体どういう内容で罵っているのかすら分かっていないのだからな。理解のりの字もない」
刀夜「それでも、必ずしも自分たちの事を良く言っていないのが分かるのは、今では不幸の種になってしまいそうだ」
団長「ならば、私達だけでも意思疎通出来るのは幸福だったということだな」
刀夜「……そうだね」
案内されたネオ・ロシア様式施設のメインエントランスをくぐっての会話。歴史を感じる施設だが、教会関係と言うよりは役所関係と言えそうだ
その扉の外側では部下の騎士や米兵達が、少し広い広場のような場所で、息の荒くなったモスクワの民衆に囲まれている
流石に完全武装した騎士や兵を襲う事は無いだろうが、民衆の中に魔術師や武器をもっている人間が居ないとも限らない
いざ何かが起きた場合、外の彼らの、周りを敵に囲まれている状況は非常に危険なことに繋がるだろう
最も、それを言うならあまり好意的でない組織の施設内に護衛も付けずにいる彼ら二人の方が、余程危険ではあるが
「では、こちらでお待ち下さい」
彼らが通されたのは、一般的な応接室だった
最初から椅子の正面の机の上に2つの紅茶が置かれていて、それが彼らが待たされるであろうと予感させる
案内してくれた女性が部屋を後にすると、部屋にはもう彼らだけとなった
仕方が無い。アポ無しでしかも威圧的な軍事力を微妙にチラつかせた強引なやり方なのだから、向こうもそれ相応の準備が必要だろう
876 :
予定通りに書こうとしたら全く無理でしたでござる
[saga sage]:2011/09/22(木) 04:56:27.79 ID:XtBQm+XVP
刀夜「こちらとしては、フィアンマ本人が来て欲しいところだが」
団長「望み薄だな。交渉にいきなり最重要人物が、などとは」
刀夜「そうだね、とても稀有だ。しかし外の様子をみると、そうは言っていられない」
団長「……何処かの誰かのように、民衆を簡単に、しかも短時間にまとめ上げられれば、衝突は簡単に避けられるだろうがな」
刀夜「良く調べているじゃないか。脅しとしても効果絶大だよ」
団長「随分余裕のある口ぶりをしてくれる」
刀夜「いやいや、驚いているのさ。王家という求心力を失ったロンドンを守らなければならない君の反応は、それで正しい。注意深い視点、私を疑うのは必要さ」
団長「所詮、軍属であって政治家ではないからな、私は。それくらいは許して貰おう。戦略的互恵関係、とでも考えて欲しい」
刀夜「互恵関係、大いに結構だよ。残された僅かな人類で争うなんて不幸は避けられるべきだ。そして、君のご提案には悪いが、短時間で強引にまとめ上げるなんて離れ業は出来そうにない」
団長「元より当てになどしていない。だが、流石に暴徒を即座に鎮めるのは、厳しいか」
刀夜「ああ。便利な装置も無ければ、構築をする時間もなさそうだ。元々、少数の声の大きな人間を操って最終的に大衆心理を操ると言う形式なんだ、私が行ったことは。本質的な心理誘導や催眠ではない。だから時間も手間も少なくて済むのだが、今は数も主張も多用ぎる。その上にアレの問題もある」
そう言って、カップの紅茶を口に近づけて、紅茶として相応しくないその熱さを痛覚を持って感じて、彼は窓の外を少し天空の方に傾けて指を向けた
団長「……? アレ、とは何だ」
ふーふーと息を吹きかけて紅茶と格闘しながら、彼は淡々と言う
刀夜「今は見えないが、丁度24時間後といったところだな。落ちてくるのは」
団長「落ちてくるだと?」
刀夜「隕石だよ。しかも、困ったことに100km超の幅がある大物だ」
団長「100キロッ……!?」
刀夜「それを何とかしない限り、ずっとこのままこのモスクワに居ることになる。地球上はこの先数百年焼け野原になるだろうからな」
団長「ざっと見積もっても、このモスクワ州の総人口は現在数百万人規模まで膨れ上がっている。仮に非常用の備蓄食料が開放されたとしても、とても長く持ちはしない。地に降りない限り、食糧問題は解決しないというのに、今度は隕石だと……」
余程神は我々を裁きたいらしい、と騎士団長は額を抑えつつ、首を振る
刀夜「このモスクワだって安全かどうか分かりはしない。その確認の為にも、交渉相手はフィアンマ本人が良いんだがね」
そう言って、騎士団長を横目で見つめて、彼は注いだ紅茶で口を火傷した
877 :
そもそも予定の文量がおかしかったんだ
[saga sage]:2011/09/22(木) 04:57:22.33 ID:XtBQm+XVP
「やっぱり、いない。何処にいったのよ、アイツ」
第7学区だけとなった学園都市で、彼女は駆けまわっていたが、とうとう見つけることは出来なかった
広い廃墟が織りなす空間は、電力も満足に供給できない。昼でなければ夕闇で簡単に真っ暗になってしまうだろう
探せる時間は今しか無かったが、それでも見付からない
暇つぶしとして協力してくれているフレンダ達との待ち合わせ場所に、なんの成果も無く彼女は辿り着いた
そんな彼女の前へ空間を割ってくる少女
御坂「黒子、どうだった?」
白井「第7学区の外周までまわってみましたが、駄目でしたの。……やはり」
言いかけて、彼女たちの間にフレンダが駆けて割って入った
フレンダ「ストーップ。それ以上言ったらこの子またグズっちゃうから、勘弁して欲しいわけよ」
白井が言おうとした内容が、上条当麻は地上に置いて行かれたのではないか、ということは簡単に予想が付いたし、その言葉が御坂美琴の気分をこの上なく鎮めてしまうことはもっと簡単に予想が付いたからだ
絹旗「ただ泣き喚くだけならまだしも、磁気嵐とか静電気祭とか超厄介なことが起きますからね。生き残った僅かな電子機器まで強制昇天させるのは超洒落になってないですから」
御坂「……う、ごめんなさい」
滝壺「あなたが謝ることじゃない。でも、他に可能性は、ないの?」
他の可能性。つまり、地表に上条当麻が取り残されたのではなく、更に学園都市第7学区にも来ていないという可能性だ
どこまでも都合の良い考え方ではある
白井「例えば、ここに来た方法が純粋な空間移動というものなら。性質上、何らかのミスでおかしな所へ移動してしまう可能性はありますの」
絹旗「さっきの米軍の説明でも、そんなことを超言ってましたね」
フレンダ「でもその場合って、範囲指定とか座標指定を失敗した場合だから、最悪、上半身と下半身がオサラバ―って可能性も」
だとすれば、やはり上条当麻は死んでいることになる。この場に居る少女たちにも、簡単に想像できることだった
上下バラバラの死骸など、いくつも見て来たのだから
878 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 04:59:01.57 ID:XtBQm+XVP
そしてそんなことを言えば、当然失意の少女の気分は尚更盛り下がってしまうだろう
フレンダ「おおっ、と。だ、大丈夫だって第三位。多分絶対そんなことないわきょよ」
滝壺「フレンダ、文法とかもういろいろ崩壊してる」
大丈夫だって、うん。きっとひょっこり出てくるって――
おどおどと言葉をかけられながらも、その正面で顔を下に向ける御坂へ、更に女の集団が近づいてきた
同じ容姿の者達の先頭は、相
相「御坂美琴」
御坂「ぁ、相の方も駄目だったんでしょ?」
ゆっくりと見上げた眼は、やはり曇っていた
相「……ええ。しかし、手掛かりが完全になくなったわけではありません」
白井「それは、どういうことで?」
相「単純な思考ですよ、白井黒子。先程話していた内容です。例えば、あなたが空間移動するとき、一体誰が移動先や演算を行いますか?」
白井「そんなもの、私に決まってますの」
でしょう? と相が返した
言われても、訳が分からない、という表情の白井
フレンダ「あ。あー、そういうわけね。あの男か」
御坂「……え?」
絹旗「仮に演算や指定が間違っていたのなら、誰が超間違えられるのか、ということです」
滝壺「つまり、このモスクワまでの大規模な移動の主体、その中心人物に聞けば良いということ」
相「その通りです。大規模空間移動を行ったと思われる、彼に何をしたのか聞けば、当麻が何処に居るのか分かるかもしれないということですよ」
御坂「じゃあ、その彼って」
879 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 04:59:42.75 ID:XtBQm+XVP
考えられるのは、あの時無線で突然の移動命令を出した彼
その名前を言ったのは、突然御坂の背後の空間を割って現れた女
結標「上条刀夜。状況から言って、あの胡散臭い男でしょうね」
フレンダ「"座標移動"。今はあの髪の青いのと一緒じゃないわけ?」
結標「気が付いたら、彼は居なくなっていたわ。おいてけぼりを喰らったのよ。今頃、上条刀夜と共にモスクワの中心部ってところかしら」
白井「モスクワの中心部。ここからではかなり離れたところですわね」
結標「仕方ないわ。現状説明の時よりも前に出発したみたいだから」
御坂「……あなたも、協力してくれるの?」
結標「そうね。"幻想殺し"には一度助けられてることだし」
絹旗「クヒヒヒヒヒ。そんなこと言っときながら、本当はあの青いののところに超行きたいだけなんでしょう?」
からかうように言ったのだが、返って来た表情は真面目なものだった
結標「ええ、そうよ。それが狙い。幻想殺しのことはついでと言ってもいいわ」
フレンダ「ヒューッ。ハッキリと言ってくれる」
結標「でもね、あのニヤケ顔が私を置いていこうとしたということは、多分、かなり危険だってことよ」
白井「……なんだか微妙に惚気っぽく聞えもしますの」
結標「なんとでも言って。問題は第三位、あなたが本当にいくかどうかってこと。折角ようやく安全と言えそうな場所に居るのに、しかも上条刀夜に会ったところで何も得られないかもしれない可能性だって、もっと言えば最悪な答えを得るかも知れないのに、それでもわざわざ危険な場所へ行くのは賢いとは到底言えないわ」
結標「それでも、あなたは行くの?」
念を押すように彼女は言ったが、返答は即座だった
御坂「答えは決まってる。何もしないで、何かを得られるなんてこの世は優しく出来てないから」
答えを聞いて結標は、そう、とシンプルに返し
そのまま御坂を取り囲む少女たちの方を見た
880 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:00:15.93 ID:XtBQm+XVP
結標「なら、あなた達は? 暇つぶしにしては手間も危険も多大だけど」
白井「……お姉様が行くとおっしゃるなら、尚更行かないと言う選択肢はありませんの」
フレンダ「そうね。乗りかかかった船だし。結局、危険なんて今更過ぎるわけよ」
絹旗「正直、何が起きても超驚かない自信はありますねー」
滝壺「私も、行く。ここにははまづらも居なかった」
相「もちろん私も。当麻の事以外にも、あの男には聞きたいことが有りますし」
「相が行くのなら、ミサカ達もお供したいです。それに、あの人には恩もありますとミサカは―――」
「ならならなら、アタシ達も同じく。危険と言うなら駆動鎧を拝借していきませんか。どうせアタシ達しかまともに扱えないモノですから――――」
そして、最終的にこの場に集まった女たちは、全員行くと言った
10人以上の集団で、しかも武装して。大きく見れば、全員が上条当麻を知っている者で、彼の為である
結標「……なんだか、随分と大人数になってしまったわね」
御坂「多いと何か問題ある?」
結標「全く。これぐらいならむしろ大きな集団の方が良いわ。恐怖も紛れるし」
フレンダ「へぇ。アレだけ言っておいて、ビビってたわけ?」
結標「当たり前じゃない。一人で行くのが危険で怖いから、この第三位を炊きつけたの」
フレンダ「わーお。恋する女は強い強い。結局、私も適当な相手が居ればなー」
絹旗「流石に口から鯖缶臭がして腕からはオイルの臭いのする女なんて、超趣味悪いと思いますけどね」
フレンダ「きーこーえーてーるーわーけーよー?」
左腕の義手代わりのアームガジェットに詰まった土埃を落とすのに割と集中していたフレンダに、微妙に聞こえるか聞えないか、ぼそっと呟いたのだが、ちゃっかり聞こえていたようだ
881 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:02:01.66 ID:XtBQm+XVP
『随分と外が騒がしいが。ニコライ、お前が来たのはそれに関係があることなのだろうな』
女が覗き込む液晶ディスプレイでは、二人の男が立って会話をしている
術式的な盗聴盗撮では彼らは気付いてしまっただろう
しかし、これはいわゆる科学サイドの、光ファイバを利用したそれであろう
だから逆に、彼らはされていることに気付けない。それによる映像を見ている彼女も原理に深い知識があるわけではないが
仮にも、諜報大国であった旧ソ連である。魔術にたよらなくとも、盗聴盗撮する手段はゴロゴロしている
ニコライ『ああ。この状況をなんとかして欲しい。モスクワの民は今や、完全にパニック状態だ』
片方の男、ニコライ司教は声が荒いようだ
フィアンマ『だろうな』
対する救世主は、涼しい顔をしている
ニコライ『だろうな、だと? 気軽に言ってくれる』
フィアンマ『仕方が無いことだ。俺様ですらも、この事態には驚いているのだからな』
ニコライ『何だと? 今の事態を、お前は予期していたのではなかったのか!?』
フィアンマ『残念ながらな。……神は"ノアの方舟"を作るように告げ、大洪水から助ける者を選別した』
ニコライ『"創世記"か』
フィアンマ『つまり、篩いにかけたわけだ。そして俺様も同じ事をした。だがそこで、まさか篩いの下から方舟に潜り込む者がいるとは、誰が思っていただろうな』
ニコライ『神ですら予想できなかったとでも言いたいのか。馬鹿げた話だ』
フィアンマ『俺様も完璧では無いんだよ。何もかもが欠陥を抱えていると言っても良い』
ニコライ『良い訳にしか聞こえんぞ。遠回しに言えばいいと言う訳ではない。……まぁいい。お前の立場は分かった。とにかく、救世主ならそれらしくこの状況を救ってくれ』
フィアンマ『それは無理だな』
ニコライ『……な。今、何と言った?』
フィアンマ『悪いが、時間がない。"神の国"の接近を前に、どうして予期していなかったことにまで対応出来る暇がある』
ニコライ『なん、だと』
驚く男の前で、フィアンマは、いいか、と前置きした
フィアンマ『そもそも、俺様は救世主であってモスクワの民の守護神ではない。救われるべき対象は本来全ての人間なのだからな。どちらか一方を助けるなどと言う訳にはいかない』
882 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:02:30.22 ID:XtBQm+XVP
ニコライ『し、しかし。このままではその人間同士の争いになりかねんのだぞ!』
フィアンマ『わかっている。だが、お前は俺様にどういう言葉を求めている。問題の解決は言葉だけでどうにかなるものなのか』
フィアンマ『政教分離などとお偉い概念を持ち出すつもりはない。だが、モスクワの人間と言うのは、俺様が逐一言葉を投げかけねばならないほど、か弱い者達なのか?』
ニコライ『ぐ……』
フィアンマ『結果的に俺様が篩いにかけたモスクワの民。その同胞であるお前が見下すような存在では無いハズだ、違うか?』
言って数秒、フィアンマは言葉の出てこないニコライの方を見た
そして、これ以上言うべきこともない、と言わんばかりに彼に背を向け、部屋の出口へ
ニコライ『だが、お前が一切何もしないのでは……』
去ろうとする男に、彼は何とか出て来た言葉を転がす
その情けなさすら感じられる声に、ドアノブを握りつつフィアンマは半身を向けた
フィアンマ『分かった。俺様の言葉が欲しいなら、一つだけ確実な事を言おう』
『俺様はこんな世界を救う。これだけは間違いないことだ』
と
言い残し、彼は部屋を出て行った
残されたニコライと言う名の司教が舌打ちし、『所詮はローマの人間か』と言い残したところまで見て
彼女、ワシリーサは映像から目を離す
そして、椅子の背もたれにどっと体を預け、伸びをした
ワシリーサ「ふーん、なかなか言ってくれたわね」
目の前では、今まで流れていた映像が逆さに戻って行く
つまり、これは録画されたものだ
ワシリーサ「でも惜しい。この言葉を直接外の連中に言ってあげればいいのにねぇ。人を導くには、やっぱり引き籠りが過ぎたのかしら」
誰が録画したか、なんて問題ではない。問題は、この映像が流出している、ということである
ワシリーサ「だから、隙になる、足元を掬われる。正直なことが全て良いと言うわけじゃないのよん、人の上に立つにはね」
883 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:02:58.85 ID:XtBQm+XVP
待たされている部屋に入って来た男と少年の姿を見て、上条刀夜と騎士団長は特別気落ちするものでは無かった
それは、彼らがロシア成教の有力者であることを知っていたからであり、その面子からフィアンマ本人ではないにせよ、モスクワとしても事態を重く見ていることが分かったからだ
それでも、それより更に重要な問題について考えれば、不満が残らない訳ではないが
団長「要約すると、フィアンマは積極的に関与するつもりはない、ということだな」
一通りフィアンマとロシア成教の立場を聞いて、騎士団長は苦い顔をした
最も、苦い顔なら目の前のニコライ司教の方が程度が酷いが
ニコライ「我々にとっても不満のある判断だが、その通りだ」
刀夜「分からなくもないことだ。彼はまだ救世主でしかないのだから、神そのものではない。無理なことは無理だと言える聡明さと鋭利さのある人物のようだ」
それに、更なる先の目的の為に動いているというなら、"神の国"の撃破に失敗した上条刀夜として納得の出来るものではある
総大主教「しかしながら、これでは目の前の、人々同士の問題を解決するには到らない。……私の無力もあるのだろうが」
刀夜「それは違うな」
総大主教「なに?」
刀夜「君が自分を責める必要はないんだ。信仰というものは本来、一部の狂信・盲信者を除けば、一般大衆にとっては表面的な文化を作り上げるものでしか無いんだよ」
総大主教「我がロシアの信仰に力が無いというのか」
刀夜「それも違う。力はある。ハッキリとしたものがね。でもそれは、システムがシステムとして機能している時、つまり道徳や人道を行動判断の一つに入れる余裕のある時だけだ」
団長「……どれだけきれいごとを並べても、一度争いが起きてしまえば、理性的に考えればおかしいと分かることですらも、人間は感情が先に出てくるものだからな」
例えば彼、騎士団長なら、その経験はある
アイルランド紛争などももちろんあるが、彼自身はこれまでずっと目の前で混乱する人間の収容に当って来たのだから
884 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:04:13.84 ID:XtBQm+XVP
余程特別な要素でもない限り、ヒステリックは思考停止と純粋な暴力を紡ぎ出す
刀夜「本能的な危機察知と混乱の中では、それはますます求心力・指導力を失う。そしてその混乱によって、本来彼らを纏める役割であるはずの信仰すらも巻き込まれ、形を歪められてしまいかねない。それは、歴史が何度も証明していることだ」
じっと、少年のような総大主教を上条刀夜は見つめた
まるで、我が子を諭すように
刀夜「反省も重要だ。しかし、行きすぎた反省や意味のない反省は無用だよ。君は総大主教という立場として、信仰が大衆によってあまりにも歪な形へ変えられない様にすることの方が重要だ。つまり、君自身が周りの流れと感情に流されないことかな」
ニコライ「ふん。無神論者の日本人無勢が言える台詞では無いな」
刀夜「おっと、気分を害したなら謝ろう。知った様な事を言ってすまない」
平謝りしたが、それは彼が得た真理から生まれた主張なのだろう
だからこそ、この場に似つかわしくない、自らの力不足を嘆く少年は彼の言葉を肯定した
総大主教「正しいことなのだろうな。人を纏めると言う面で、宗教も政治も経営も共通する要素があるのは否めないのだから」
こうなると面白くないのはニコライの方だ。この少年は、操り人形のままの方がいいのだから
彼にとっては、ロシア成教にとっては
団長「では、そこまでの思いが在るロシア成教の側が、一体どういう解決策を用意しているのか聞かせてもらおう」
そんな態度が透けて見えたのか、騎士団長はそちらへ話を振る
ニコライ「知れたことだ。まずは――――――」
ようやく、両サイドの主張が本格的にぶつかり合おうか、という瞬間
司教の声は、外からの音によって掻き消された
それは、テーブルに付いた彼らにとって、一番望ましくないが聞きなれた爆音だった
885 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:04:53.65 ID:XtBQm+XVP
「なんや、今の音っ!?」
上条刀夜達が話し合いをしている建物の前の、すこし広い広間で剣や銃を構える者達にも、その音は当然聞こえた
むしろ、建物の外であるから尚更良く、具体的には何処から轟いたのか、聞き取りやすかった
「凶弾の音と言うよりは爆発音だったな。丁度、モスクワ市民と外からの集団が睨み合ってた方向から聞こえたが」
「おいおい、まさか」
まさか、暴徒と暴徒が衝突を開始してしまったのか
ざわつく米兵、騎士
心なしか、彼らを取り囲んでいるモスクワの民達も先ほどよりも厳しい目を向けている――?
「見ろ! さっきのはやっぱり爆発だ! 煙が上がってる! 炎もだ!」
誰が気付いたのか、その声のままに兵も騎士も、その中に混じっていた青髪も、その方向を見る
ワァッという悲鳴とも雄叫びとも言えそうな声も同時に響き渡る
これは、確信か
そんなタイミング、である。当然と言えば当然だった
目の前の暴徒から目を離していた彼らの中に、火炎瓶のようなものが投げ込また
しかもそれは、割れた瞬間、普通の火炎瓶のような見た目でありながらも、まるで大量のガソリンが気化して爆発したかのような、一瞬の大きな火球を生み
兵や騎士を簡単に吹き飛ばし、施設の壁や地面に叩きつける
青髪(こんなん、普通の火炎瓶なんかやない。なにか仕掛けが―――)
そう思った彼の視界に、もう一度瓶のようなもの
886 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:05:50.08 ID:XtBQm+XVP
また爆発か、と判断して身を屈めたのは間違いだった
青髪「なッ?!」
破裂と同時に、それは煙と言うか霧と言うか、そう言うものを生じさせ、一気に広がって視界を奪う
分かった。これが魔術というヤツだ、きっと。こういうカモフラージュもあるとは想像していなかったが
理解というか、そう考えるしかない中で、見えない視界から上がる悲鳴と雄叫び
暴徒となったモスクワ市民か、市民に扮した魔術師か、それとも市民でも魔術師でもある存在か
どちらにせよ、自分たちは襲われている。最悪の形で
青髪「あかん、こうなったらこん中に逃げるしかないで!」
「馬鹿か! それじゃ袋の鼠だろうが!」
恐らく、近くの兵が応えたのだろう
青髪「こんな状況なら布切れでも、袋って盾があるだけマシってもんやろ!」
「ああそうだな、畜生!!」
呼応した兵か騎士が、歴史ある施設のエントランスを破壊して、一気に彼らはその場所に逃げ込んだ
これで一段落、か?
いや、外は敵だらけの状況。気を緩めてはいられない
指揮官の元へ急がなくては
青髪「あわきん連れてこんでよかったわー、ほんま」
そう呟きながらも、彼は長い廊下と階段を駆け上った
887 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:06:22.96 ID:XtBQm+XVP
問題を作ったのは外から移動した人間達だが、事態を混迷に落としこんだ主因は先に仕掛けたモスクワ市民といえるだろう
しかし、何とか衝突を避けていたのにも関わらず、こうなった原因は何か
それはやはり、フィアンマの言葉だった
ニコライとフィアンマの会話がそのまま彼らの耳に入ったなら、事態は好転していた可能性があったかもしれない
だが、それは流出させた人間にとっては都合の悪いものだったのだろう
どんなメディアもそうであるように、その誰かもまた、自分にとって都合のよい内容に変化させる、という魅力から離れることは出来なかったのだ
そして、恐怖とそこから生まれる怒りが沸騰寸前にまで成長しかけていたモスクワの人間には、それがその様に手を加えられたものであると、考えれもしなかった
大衆扇動。もしかしたら、流出させた者も扇動された大衆の一人だったのかもしれない
モスクワ市民の間で流出したのは、"モスクワの民だけの守護者ではない"という要素が意図的に削られていた
そして誇張された、"モスクワの民は問題を解決できないほど弱い存在ではない"という内容
その流れでの、"世界を救う"という救世発言
間違ってもフィアンマは争えと言ったわけではない
寧ろ、モスクワの人々だけを救う訳ではない、という前置きを置いたことから、彼が言いたかったのはその反対だった可能性すらもある
だが、流出した映像が引き起こした結果は、まるで逆
"救世主の肯定"を得たと勘違いさせる内容
一度流れ出たそれは、知識のない市民だけでなく、ロシア成教の魔術師も取り込んでしまった
それだけ価値のある救世主の言葉は、人間の都合によって、やはり置き換わってしまった
これはもう、運命なのかもしれない。イエス=キリストだって、マホメットだって、釈迦だって、そうだったのだから
どうして、その宿命からフィアンマだけが逃れることが出来るだろうか
888 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:09:30.81 ID:XtBQm+XVP
「――――そうかもしれない。こんな時ですら、繰り返すしてしまうのだから」
いつ崩れてもおかしくない廃墟で、彼はずっと瞑想していた
彼がこうなので、彼女もまた隣で風に髪をなびかせているだけだ
彼らには隔世の感すらあるが、考えている対象は変わらない
「……急に何をいってるんですかー?」
突然の呟きに、少女のような身で薄く白い布を身に纏った彼女は顔を半分だけ傾けて反応した
「愚か過ぎて、悲しさすら感じてしまう程だ」
「悲しいとは、君がか。感情を少しも私に見せてくれないから、無いものだと思っていたよ」
「人間を理解するには必要な要素だからな」
「だがその感情が、問題を引き起こす要素でもあるわけだ。今のように」
「あなたですらも、同じ事を言うのだから真理なのだろう」
「同じ事を……? ああ、"彼ら"と会話をしてたんですね。もう、アタシという存在が居ながら他の人と会話するとは、冷たいなぁ」
「限られた知識しか無いあなたとでは、出来る内容も限られてしまうからな」
「言ってくれるじゃないですかー。でも、今に君を満足させるぐらいの会話が出来るようになってみせようじゃないか」
「それは、楽しみにしておこう」
「むー。しかし、あの短時間によくもまあ23学区の地下施設を丸々移動術式に組み込んだものだ」
「何も難しいことではない。妹達のネットワークに指定位置を少々加えただけだ。しかも、今の妹達の中心は人間と言うよりはただのデバイス、装置でしかない」
889 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:10:14.56 ID:XtBQm+XVP
「入力手段さえおかしくなければ、人間的なミスのリスク無しに、間違いなく思った通りの結果が得られると言いたい訳だね」
「その知識さえあれば、と言っておこうか」
「今のは皮肉のつもりかな?」
「さあ、それはどうだろう」
「まぁ、いいですよー。それで、君と繋がっている脳だけの人々は何と言っているんだい?」
「"繰り返す"と言っている」
「繰り返す、ですか」
「何度も争いを起こしてきた。どれだけ人口が少なくなろうとも、お構いなしに」
「仕方ないことじゃないですか。男女の仲でさえも、過去の先例として書物に何度も記載されている同じような過ちでも、男の人は繰り返すんですから」
「争う、という事自体がより本能的なもの。争いの記述は色恋沙汰よりも多く、いくつも残っている。その原因も過程も問題点も分析されているのに、同じ事を繰り返してしまう」
「理性で抑えられないなら、学習も無味乾燥なものになってしまう。なら、君がそうならなければいい」
「……ほう」
「分かっているなら、君から変えればいい。残念ながら君は人間では既に無いがね。これまでに繰り返して来たこととは、全く別のやり方をするのも面白いだろう?」
「全く別のやり方、か」
「そう。現アレイスター=クロウリーの次代である君が、先代と似たような視点で同じような事をわざわざするのは、継代の意味がないからね」
「間違った主張ではないな」
「でしょ? あー、もちろん。それは先代のクロウリーが失敗した時に、って前提がありますけどね
890 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:12:44.18 ID:XtBQm+XVP
ズダン! と蹴破るかのような勢いで扉が開いた
先程の音の件で、彼らの交渉相手は確認と称して出て行ったきり帰ってこない中である
入って来たのは、ライフルを構えた兵隊に騎士が数人
青髪「刀夜さん!! はぁー、ここでしたか」
ドタドタと走り回る音も同時に入って来た。どうやら、この広い屋内を総当たりで家探ししていたようだ
刀夜「青髪君。どうしたんだい?」
青髪「どうした、って。外の音、聞えてないんですか!?」
団長「聞えていたが。やはり、さっきのは」
「具体的には、何が起きたのかは分かりません。しかし、火の手が上がっていたのは確認をしました」
刀夜「我々には交渉すら進める時間も無かったということか」
団長「しかしなぜ貴様らがここに入って来ている? 施設前の庭で待機させていたハズだ。交渉の場でそのような振舞いは、紳士的でないにも程が在る」
青髪「冗談じゃないで。あんなところに居たら、僕ら今頃ミンチですよ」
「群衆の中から攻撃を受けたんです。確認しているだけでも数名の被害が」
刀夜「なんだと? それは本当かい」
「は、はい。ですから、逃げ場としてここに押し入った次第です」
青髪「それに、交渉がどうとか言っている場合やないですよ、残念ですけど」
団長「どういうことだ?」
ドタドタと、更に数人の騎士が入って来て騎士団長の前に出た
「この市庁舎の中には、既にモスクワ側の人間は一人もいません!!」
団長「なに?!」
刀夜「何時暴徒が押し入ったとしても問題ないように、逃げられたらしいね。当たり前と言えば当たり前の反応だ」
団長「ロシア成教としても、猛る民衆の敵に回るわけにはいかない。奴らに、上手く矛先にされてしまったか」
青髪「四面楚歌の状況ですよ、完全に」
刀夜「その様だ。ひとまず私達の拠点に、この状況を伝えるべきだと思う。警戒しろという意味も込めて」
891 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:13:29.26 ID:XtBQm+XVP
「なにをする、ワシリーサ!! この私を―――ぐェッ!?」
腹部から強烈な衝撃が奔って、ニコライという司教の意識は断たれてしまった
そのまま、ドサッと石の地面に落下して、動かなくなった
ワシリーサ「う る さ い、わよん。うーん、まぁこの辺で良いか」
喧騒が遠くから響く、ちょっとした木々と隣接した箱型の建物の間辺り
周りには人の気配はしない
総大主教「市庁舎から強引に連れ出して、ここで私も殺そうと言うのか」
先程まで交渉のテーブルに共についていた男を見て、彼はそう思った
その反応に、キョトンとするのは攫った本人だ
ワシリーサ「はえ? そんなことするわけないじゃない。コイツもほら、殺してない殺してない」
脚で少し強く腹部を蹴ると、ニコライはぐふぅ、と声を漏らした
ワシリーサ「そもそもそんなつもりなら最初から助け出してないし。あーでも、利害とかとは別の理由で助けてたかなー」
総大主教「……? なら、なぜ私をここに連れて来たのだ」
ワシリーサ「それなんだけど。さてさて、ちょちょっと待っててね」
待てと言って取り出したのは、見た目はただの犬笛だった
ワシリーサ「じゃーん、サーシャちゃんを呼ぶ笛ー! これを吹けば――」
サーシャ「第一の質問ですが、その笛はなんの冗談ですか?」
ワシリーサ「って、もう来ちゃったの? 折角わざわざ作ったのに。私だけしか使えなくて、しかもサーシャちゃんにだけ聞える音なのよコレ」
そのまま笛に口づけると、息を思い切り吹き込む
普通の人間どころか、犬にすらも音は聞こえなかったが
サーシャ「ああああああああ、うるさいうるさいうるさい!!! 何ですかっ!!!これは!!!」
ワシリーサ「あれ、そんなにキツイ? 調整したはずだけど」
892 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:13:58.29 ID:XtBQm+XVP
問いかけられた主は、毒蛇にでも噛まれたようにぐったりとしている
どう見ても生易しい感じではない
サーシャ「うぅ……。だ、第一の回答ですが、うるさいと言うよりは不快、不愉快です」
ワシリーサ「実験は一応成功。すごいでしょ。フィアンマのところに有った資料見てたらピンと閃いちゃったの。それで、アレは持って来てくれた?」
コレですが、と言いつつ少し大きな金庫の様なものを見せるが、しかし戻した
サーシャ「第二の回答ですが、肯定する前にその嫌がらせにも程が在る笛を叩き壊したら渡すという条件を提示します」
ワシリーサ「ええー?」
サーシャ「第二の質問ですが、どういう原理でそれは動いてるんですか。不快感のする犬笛なんて犬でも嫌がりますよ」
ワシリーサ「そりゃ、仕方ないわ。そういう性質のものだから。ちょっと実験に使っただけなのにー」
サーシャ「だったらなお悪いです!」
ワシリーサ「仕方ないなー。ああもう、これで良いでしょう?」
投げ捨てて転がったそれを、少女は靴の底で踏み潰し、金庫のような箱を渡した
中身を確認したワシリーサは、完全に蚊帳の外となっている少年の方へ、その中身を見せる
ワシリーサ「ハイ、これ」
総大主教「これは、私が儀礼用に使うミトラ(宝冠)?」
ワシリーサ「ちょっと盗って来て貰ったの、サーシャちゃんに」
サーシャ「混乱している中だったので、障害はまるで無かったですよ。警護班すら出払ってしまっていましたから」
ワシリーサ「そんな連中までフィアンマの言葉に踊らされてるのね」
総大主教「いや、それは分かったが。これでどうしろと私に言うんだ」
ワシリーサ「引っ剥がすの」
総大主教「引っ剥がす? 何をだ。まるで分からないぞ」
サーシャ「そうです。まるで分かりません」
893 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:14:32.01 ID:XtBQm+XVP
総大主教「うーんと、はしょり過ぎたわね。最悪でも、"フィアンマの救世主格を"って目的語を言うべきだったかな」
言葉の内容に、しばらく少女と少年は言葉を失った
総大主教「何だと!? なぜそんなことを、しかも、彼に格を与えた私に」
サーシャ「そうですよ! 利点も見えませんし」
ワシリーサ「分かったわ。ちゃんと説明しましょう。でも、これを聞いて最後に、総大主教としての立場を踏まえた答えを出して」
いい? と少年の方をじっと見た
ワシリーサ「フィアンマの力、そして彼を取り囲む天使の構造に似た復活者達。それを考えれば彼は確実に救世主ではある。これは間違いじゃないわ」
ワシリーサ「そして彼が救世主であるということを証明すれば証明するほど、周りの人間はついて行く、言葉を聞く」
総大主教「その通り、だな。そして、私にはそのような力は無い」
サーシャ「総大主教……」
ワシリーサ「そうかもしれない。でも、それが普通じゃないのかしら」
総大主教「……それが、普通?」
ワシリーサ「だって、総大主教という信仰の上での最上格を持っていても、結局人間だから。救世主なんて、神と同格であり神になれる存在とは違う」
総大主教「所詮人間だから力が無い、というのか」
ワシリーサ「その通りよ。そしてそこに意味が在るの」
サーシャ「そこに意味が、ですか」
ワシリーサ「さっきも言った通り、人間離れした、または本当に人間を超えた者に人間は従う。一種、カリスマみたいなものとして」
ワシリーサ「それは自然なことだし、だから、人間はその人間性を失ってしまう。簡単に言えば、考えなくなってしまうのよ」
サーシャ「考えなく、なる。ですか」
ワシリーサ「そう。今みたいに私があなた達に言うまで、その事実に気付きもしなかったように。フィアンマの言葉を聞いただけで、一気に暴れ出すモスクワの市民のように」
カリスマの言葉にはそれだけの効果が在る。例え、操作されたものでも
その証明がこの状況だ
894 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:15:05.99 ID:XtBQm+XVP
ワシリーサ「思考のない、言われるがままの人間ってどうなるかしら。その人間によって作られる社会って、どんなもの?」
ワシリーサ「争いのない、平和な世界? そんな生易しいものじゃないのは確かよ。神話の天使だって主張をぶつけ合って争うことだってあるのだから」
総大主教「意見と意見、主張と主張がぶつかり合う事は自然なことだな。……それが、争いを呼ぶことも」
ワシリーサ「いつか神の意見と背反することだって有り得る。そして神が間違っていることだって有り得るかも知れない」
サーシャ「正しさ、なんて主観によっていくつも変わるものですからね」
ワシリーサ「でも、フィアンマという存在が全てだったら、誰もその間違いに気付けない。永遠に間違ったまま、思考停止したままになる」
ワシリーサ「神というものが、どこまでも正しいなら良いわ。でも、今のままなら、神はフィアンマになる」
ワシリーサ「フィアンマは果たして、それだけの存在かしら。間違えない存在かしら。正しい導き手かしら。今このモスクワだけの平安すらも維持できない存在が」
総大主教「……しかし、ならば何故、私なのだ」
ワシリーサ「あなたが、総大主教だから。人間組織の頂点だから。もっと言えば、フィアンマに救世主の格を与えた者だからよ」
"そして何よりも、人間だから"
ワシリーサ「人間は誤るもの、撤回するもの、でも、意見を変えることが出来るものでもある。その特徴が、今までに凄惨な事態を招いてきて、一方で現在まで人類を存続させ続けることが出来たと言えないかしら。それを放棄することが、本当に人間にとって幸せかしら」
ワシリーサ「その象徴たるものが、人をまとめ上げる原動力ともなれる"信仰"。これだけの騒動を起こせるだけの力があるものよ。だから」
総大主教「だから総大主教の私、か」
差し伸べられる、宝冠
彼の頭には少々大き過ぎるそれを、彼は受け取った
総大主教「理屈は分かった。だが、理論が、方法が無い。逆に言えば、どうして人間でしか無い私が、救世主に干渉出来るというのだ」
ワシリーサ「その方法は、ちゃーんと考えてあるわ。その一部というか実験が、あの犬笛。サーシャちゃんが壊しちゃったけど」
サーシャ「……不味かったですか?」
ワシリーサ「機能することが分かっただけで十分。そして、あなたは総大主教として操作すればいいの」
総大主教「操作、だと?」
ワシリーサ「そう。でもって、人間でないものに干渉するのは、人間でないものに任せて欲しいのよん」
895 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:16:22.58 ID:XtBQm+XVP
「……予想外のアクシデントは、続くものらしいね」
赤髪の神父が、窓の外を眺めて言った
アックア「当たり前である。それが例え、救世主であっても」
両の腕を組んで、となりに立つ男。その横にも男がいて、更に後ろにも二名
テッラ「あのキリストすらも、たくさんの障害を乗り越えたのですからねー」
部屋の中には一人を囲むようにして、計五人
ヴェント「だったら、この問題も解決しなきゃならないわよねぇ。早くしないと手に負えなくてっしまうわよ、救世主サマ?」
椅子に座り、机に乗せて組んだ腕に顎を載せて
フィアンマ「分かっている。俺様の計画にとっても、この事態は大問題だからな」
言ったきりしばらく、彼は目を瞑って、考える
仕方が無いか、これ以上は
フィアンマ「ヴェント、テッラ、そしてステイル」
ステイル「さて、僕らに何を命じるのだい?」
フィアンマ「お前たちには、この争いがモスクワ全土へ広がる前に鎮圧して欲しい。何、復活者を引きつれ、少々誇大に力を見せつけるだけで良いだろう」
外部の人間にとってはとてもモスクワの人間には勝てないと思わせ、そして内部の人間にはわざわざ動く必要もないと思わせる
例え一時的なものであっても、そう意識させるだけで十分だろう
896 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:16:57.69 ID:XtBQm+XVP
その前に全ては終わるのだから
それが彼の思いだった
ヴェント「計画としても、生存者の人数は減らせないものね」
テッラ「だから、脅しで解決と言う訳ですか。かなり面倒ですねー」
フィアンマ「そしてアックア、お前は残りだ」
アックア「何をするつもりであるか」
フィアンマ「計画を、前倒しする」
アックア「分かったのである。……覚悟は良いのだな、フィアンマ」
念を押すように、彼は聞いた
そしてそれに答える様に、フィアンマは強い目で
フィアンマ「覚悟も何も、これは最初から決まっていたこ――――――」
とだ、そう、言いきろうとしたが
より大きな空気の振動によって、そんな声は聞こえるはずもなく
彼という救世主にとっての試練は、もっと予測の出来ないものだった
本当に、予想外のことは、続くものである
897 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:17:37.85 ID:XtBQm+XVP
同刻、ロンドン
騎士団長からの連絡と殆ど同時のタイミング。向かってきたのは、魔術師だった
この場合、向かってきたのは、やはりロシア成教の魔術師たちである
"救世主の手を煩わせる前に、選ばれたモスクワの民として外の者を排除する"
ねつ造されたフィアンマの言葉をそう理解した彼らは、モスクワ市につめかけた外部の人間とは直接的な関係のないロンドンを急襲した形になる
広大なモスクワ州の中でバラバラに散った移動者達を叩くよりも、その中心となった方を襲撃して虐殺という形で浄化する方が、将来的に有り得る組織的な反抗を抑えるという面でも効率的
その標的となった二つの移動者達の拠点の内の片方は、ロンドンの方だった
騎士団長率いる使節団派遣の為に、そしてモスクワが破壊者達に襲われない安全な場所だということも有って、そこには最小の防御力しか無く
第一波の遠隔砲撃のような魔力の雪崩で、簡単にその最小限の戦力すらも削られてしまった
長く続いた戦闘の疲労も有って、組織的な反抗などする力はとうの昔に無くなっている
予想されるのは、先制攻撃と怪我人に対する一方的な虐殺
しかし、そんなことは無かった
神裂「貴方達は民間人の退避を!」
「し、しかし退避させたところで、この数だぞ!? どの道全滅だ!」
神裂「相手は私がします。だから早く!」
牛深「ひ、一人でなんて無茶ですよ!」
神裂「無茶じゃ、ないんです。だから、あなたも!」
残った一人の仲間を守るために、自分が襲撃して多くの者を殺したという償いの為に、立った一人でロシア成教の強襲に特化した魔術師集団と戦う存在
そして悲しくも、何かを破壊し、誰かを傷つけ、大量の破壊者すらも相手にできるだけの過剰な火力を持った存在
その戦いぶりは、そして彼女の髪の毛のように黒く長い繊維状の未元物質が作り出す見た目は、守護者と言うよりはただの魔物と言うべきだったが
"我々には救世主の加護がある"と、特攻染みた、無茶苦茶とも無謀とも爆発的とも言える猛攻と渡り合うには十分だった
そんな最中、彼女の視界の片隅でも、"それ"はハッキリと確認できた
898 :
ちなみに3周目については考えてあるし、それがないと意味不ばっかりENDになってしまいますが
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:18:48.38 ID:XtBQm+XVP
先制攻撃。しかも、敵が弱っているならば、そのタイミングを逃さない手は無い
敵は学園都市だ。根本的に知識や技術の方向性が科学と魔術で全く異なる相手。ますます駆逐できる時に駆逐しておかなければ、ともすれば逆に制圧されてしまうかもしれない
相手の事への理解が無いことが生む恐怖も、彼らからすれば、攻撃意欲の一翼を担ったのは間違いないだろう
「ファァァック!! こんなところまで来て、人間同士で戦うというのか!!」
ビニルシートを継ぎ合わせた天井の、拠点と言うよりはただのテントの下で机を叩いたのは、上条刀夜に第七学区の守護司令を任せられたアメリカ人だ
もちろん彼は今まで一兵卒でしか無く、集団を纏めることなど、それこそ小隊の仲間程度だった
最も、その仲間は先に皆逝ってしまったが
「ミスター上条も僅かな主力部隊も居ない今、どう反抗しましょう?」
「そうだ! 対破壊者用のレーザーや粒子砲を使えば良い!」
「設置する時間も、何より電力が足りません!」
「なんだと!? なら、く、駆動鎧だ! あれならオカルトにも対抗できるんじゃないのか!?」
「修復途中の機体まで全機体、なぜか全てありません!!」
「どういうことだ!? 管理していたのは誰だ!」
「管理者のアイ・カミジョーも所在確認できませんでした!!」
「サノバビッチ!!! こんな事態に、なぜこんなことになる! デジタルな面に我が軍が依存し過ぎていたというのか」
怒鳴るだけでは、その時間に無駄に戦力と被害が拡がるだけなのだが、今の彼には分からない
「おちつけよ、おっさん」
そんな彼を諌めたのは、制服を着た学園都市の生き残りだった
「なんだ、クソガキ!? お前はどうにかできるっていうのか?」
「だから落ち着けってんだろうが。ったく、誰だコイツを臨時司令に任命したのは。現状をよーく考え直すんだ」
「……と、突然、我々の元にモスクワのオカルト勢が急襲を仕掛けて来た」
「そうだ。それで?」
「こちらに多くの被害が出たものの、何とか前線を張るのに成功したが、ミスタ上条からの救援要請にも対応できず、敵は増援を繰り返している」
「モスクワの中心じゃ仕方ねーよ。だが、前線を張ってるってことは抵抗出来てるってことじゃねえか?」
「そ、その通りだ」
「そりゃ、何故だろうな。なぜ軍や俺達が抵抗できるんだ?」
899 :
本日分(ry 突入するとまた1、2スレ消費確定。どうしたものか。公開オナニーは服を着るタイミングが難しい
[saga sage]:2011/09/22(木) 05:23:37.50 ID:XtBQm+XVP
「………そう言えば、なぜだ?」
「落ち着け。答えは簡単だろ。わけのわかんねぇバケモンが敵じゃねえってことだ。オカルト集団であっても所詮は人間」
「しかも、ここは元は学園都市。見る限りオカルトも一種の超能力と、対してかわりゃしねぇみたいだしな。俺達にとっても、あんた達米軍にとっても、対抗できないレベルじゃないんだ」
「そうだ。敵は所詮人間だ。人間だったら、戦える。戦えるじゃないか!」
「能力者達だっていくらも生き残ってる。向こうがやる気なら、こっちも生き残る為の最善として、戦うしかねえだろ。恐れてる暇なんてねえよ。特別な兵器が使えなくとも、テメエらは一応、世界最強の軍隊なんだろ」
「そうだ! 俺達は世界最強の軍だ!」
「おっしゃ、その調子だぜおっさん。だったら残ってる武器弾薬、気にせず使っちまっていいよな?」
「当たり前だ! 今の俺にある全権に置いて、許可するぞ!! ロシア野郎なんざ、ふっ飛ばしちまえばいい!!」
「オッケー、任せときな。おっさんもその調子で米軍を指揮してくれ」
許可を得て、彼は彼率いるチームの元に駆けて行く
合流して、そのまま武器保管所へ。そこは、ざっくばらんとあらゆる武器の、モノによっては一部が、とりあえず集められている
「ならあのミサイル、使ってもいいのかね。化け物には通じなくても、人間相手なら相当効果が上がりそうだ」
「いいんじゃね? なんでも使っていいってんだろ? 使えそうな弾頭はありそうか?」
「通常弾頭は既に使いきってるみたいだ。でも、特殊弾頭の、コイツのをバラしたやつとなら――――」
たった一人の軍人の判断ミス、とは言えない
一種、彼らの総意でもあったのだから
しかしそれは、20にも満たない彼らが軽はずみに扱うには、部分的であったとしても、あまりにも過剰な力だった
次々と押し寄せるモスクワの魔術師、弾の残りなど気にせずに弾幕と超能力の刃を向ける学園都市第7学区
膠着化しつつあった戦況を変化させるため、第7学区とモスクワの丁度中心、つまりモスクワ市からの供給線上のあたりに、学園都市側はとある爆発物を撃ち込んだ
それは、本来は、対巨大隕石"神の国"粉砕の為に使う予定だった弾頭を構成する一部
隕石中心部までレーザーで穴をあけ、そこへ弾頭を撃ち込むという方法。つまりは半密閉空間でより効率よく爆圧を用いるという方法を使う予定だった為、その弾頭そのものの威力は100kmの塊を丸々粉砕するには非力だが
それは、対象が100km単位のものだから言えること。一般的な地表と変わらない浮遊モスクワのの地表近くで用いれば、例え弾頭全体を構成する一部分だったとしても、どうなることか
核兵器
生まれるのは、多大なる熱波と、過剰なる爆風と、太陽を思わせる異常な光
出来たのは、クレーターとしては度を通り越した、浮遊するモスクワに生じた巨大な縦穴。そして、宇宙空間にまで達しているのではないかと思えるような、巨大なキノコ雲だった
900 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/09/22(木) 06:58:00.21 ID:x1KYkXUNo
乙〜
是非、盛大にオナってくれ。突入ワッフル
901 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/09/22(木) 13:15:36.65 ID:MjXclssAO
三周目キボンヌ
ちゃんと視姦してやるから
902 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/22(木) 14:02:09.86 ID:FmJun4USO
2周目の人類全滅フラグが見える
903 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/09/24(土) 13:45:47.93 ID:0FZy3GG8o
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904 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/10/10(月) 01:31:46.92 ID:ungFDFSAO
そして1は死んだ
905 :
俺失踪なう
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:35:06.91 ID:F/zw6ecBP
その衝撃は、その有効範囲に不幸にも含まれていた人々の命を、容赦なく奪っていった
それはアレイスター=クロウリーが自身の計が失敗した時の保険として、再配置の術式を行ったことによって連れて来た人々であり
多くは、現状の交戦状態を触る神無しとばかりに遠巻きに傍観、もとい疲れていたから関与する気など毛頭なかった人々だった
そして、苛烈な熱波と爆風が何もかもを吹き飛ばす、そんな中に偶然含まれてしまった集団が在った
彼女らにとって運が良かったのは、運用兵器が同じ米国製だったことぐらいだろう
"Nuclear"
本拠点である半ば廃墟となった第7学区の装置が電力不足となって、現地形の表示すら更新されないほど、殆ど役に立つ機会の無くなったレーダーマップ上に現れたその文字
相「……冗談、なんかではないですよね」
滝壺「え?」
それが示していたのは、当然具体的なモスクワ州のマップでは無く、空想上的平面空間で表された座標位置のみの着弾地点
同時に、着弾までの時間が逆算され、僅か十数秒のカウントダウンが全ての駆動鎧のモニターに表示される
駆動鎧を微小機械を介した神経伝達を使用して直感的に操っていたクローンの少女たちは、指揮者である相の指示が出た瞬間、操る駆動鎧の両肩にタクシー代わりに座っている他の女たちを掴みあげて、近くの起伏、正確に言えばちょっとした小川の窪みに逃げ込んだ
当然、驚くのは何が理由でそんなことをされたのか分からない、御坂や滝壺などの駆動鎧の肩に乗っかっていただけの少女達
絹旗「おあああっ!? ちょ、何ですか?!」
と、急に大きな腕で掴まれて、ほとんど地面に押し付けられた様になった少女は、強引にその腕を能力で押し上げようとしたが
それすら考慮の上とばかりに別の角度から力を加えられ、溝のように窪んだ川の壁に押しつけられる
相「皆さんはそのまま身を低くして下さい!!」
とは言われても、痛いものは痛い
906 :
人生とは、思わぬアクシデントが起きるものです
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:35:57.30 ID:F/zw6ecBP
結標「分かったからそんなに強く抑えないで。もう、周りに敵らしい敵も居ないのに。なんでよ」
指と指の間で顔を捻って、ようやくまともな話が出来るといった感じだ
相「すぐに分かります! ともかく、溝を背にしてぴったりとくっついて下さい! 未元物質を展性展開出来るだけの安定度が残ってる機体は盾状にして着弾点側へ展開!!」
「了解!」
何が起きようとしているのか把握している駆動鎧の動きは冷徹にテキパキとしていて、雰囲気の急変を意識させるものだった
御坂「ちょっと、着弾点ってどういうことなの」
白井「まさか、何か爆弾でも振ってくるとでもいうのですの?」
相「……ええ」
核弾頭を搭載しているミサイル。しかしそれは大陸間弾道弾なんかの、大型のものではないことははっきりしている
ということは、表示されている文字が示すミサイルの形式から搭載可能と予測される弾頭を、兵器保管場所の情報から考え出す事が出来る
御坂「ええ、って何が、どんな爆弾なの?」
しかしながら、大規模大量破壊目的の、特に核弾頭などは無かったはずだ。対巨大隕石用の、とあるものを除いて
まさかその目的用の核を全て搭載出来るわけではないが、有り得そうな物・やり方が無いわけではない
相「核弾頭、なんです」
フレンダ「はぁっ?! 核っ、って、なんでそんなものが?!」
相「分かりません。が――――」
驚愕する以外、理由を協議する時間も、不安を感じる暇など無かった
「来ますよ!!」
907 :
そう、例えば
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:36:29.02 ID:F/zw6ecBP
核弾頭、とわざわざ言う必要があったか
そんなもの、核兵器とは分からなくとも、実際に見ればそれらに準ずるとんでもない爆発だと容易に知覚出来る
むしろ、余計な不安を掛けまいと彼女は言わないつもりだった
何故言ったのか。それは、思わずこぼしてしまった言葉だった
迷いを導いた原因は思考。考えられる最大限の威力だった場合、着弾地点から計算すると
相(こんな小川の縁に身を隠したぐらいでは、駆動鎧でも防ぎきれないかもしれない)
だが、今出来ることではこれが最大限。他にどうしようもない
爆風を受けることで身を隠している土砂が全て吹き飛ぶことは無いだろうが、問題は兵器としての運用方法がおかしいことだ
通常の核兵器は、より広い範囲に熱波と電磁波と爆風の影響を与える為に、かなり高い空で爆発するものだ
しかし、得られた断片的なデータには、爆発予定高度など無い
相(設定されていない、もしくは使用した人間が適切な運用方法を知らないとしたら)
悪い想定がすべてと言う訳ではないが、こんな場面で核兵器などを持ち出し使用してくる人間だ
しかも、考えられる核は巨大な隕石粉砕用の目的に作られた特別製。地面ギリギリで爆発すれば、どうなるのか
一抹の不安があった
そして一番最初のエネルギーは、光だった
太陽を思わせる強い光に、太陽を思わせる熱量
その熱量が生む、異様な爆風、様々なエネルギーの波
覆った耳の上からも、膨大な大気の唸り声が彼女らの耳に伝わった
本当に、不幸である
直接爆風を浴びないにしても、熱波とともに吹き飛んでくる大量の超高温状態の土砂から身を守らなければならない。小川程度の窪みを埋めるには十分すぎる
そのために身減物質という未知なる高エネルギーの塊を原動力とする駆動鎧を用いた
具体的には、変幻自在の劣化身減物質を、垣根帝督の操るような繊細さを感じさせる羽根のようでは無く、盾の代わりにのっぺりと広く展開して駆動鎧に搭乗していない少女たちを守る、という方法で
しかしながら、である
この駆動鎧は今までの戦いで相当に損害を受けていて、応急処置程度しかなされていない
しかも、万能なエネルギー物質である身減物質も、垣根帝督本人の操るそれではなく、劣化コピーでしかない代物であり
908 :
寝ている最中に
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:37:17.25 ID:F/zw6ecBP
半ば神の力を思わせる彼の能力のような行使は、個々の特別仕様としてチューンナップされていない限り、できはしない
結論、不十分
光や熱波や電磁波等の嵐の後に、それらとは比較的にゆっくり飛んでくる、プラズマ状態にもなっている土砂の嵐は大波だった
くぼんだ川の縁に背中をぴっちりと当てて体を隠しているフレンダと滝壺の前にある、10032号と番号付けられた少女の操る一際損傷の酷い駆動鎧
それが、嵐の中でメギッといやな音を生じさせた事に気づいたのは、操っている彼女だけだったかもしれない
もっとも、気づいたときには、彼女を構築していた物質が、圧力によって崩壊という状態になった時と同時だっただろうが
フラッシュ、バック
あまりにも一瞬の行動だったので、自分が何をしようとしたのか。それがフレンダに理解出来たのは行動を始めた後だった
何をしたのか。人間は窮地になれば往々として本能的な行動をする生き物だ
単純な行動、つまり、目の前で吹き飛んだ駆動鎧の方向へ身を乗り出したのだ。まるで、フレンダが滝壺を庇うように
一番爆風の波に近かったのは、何か壁になりそうなものを片っ端にアポートしようとして突き出した、機械の左腕
そして、一瞬でその腕がバラバラに砕けて行くのが、見えた。そこまでの記憶はフレンダにはあった
まるで大きな写真だった。それ以上の動きは、彼女の脳は見ることが出来なかった
なぜなら、彼女もまた、体の前半分が殆ど丸々消え去ってしまったのだから
滝壺「あ、ぁ」
数秒の後に、まるで支えを失った案山子のように倒れたフレンダの後ろ半分を見て、彼女は碌な言葉が出せなかった
乗り切った、という安堵を浮かべた他の駆動鎧と結標達がその状況に気付いたのは、滝壺が目を手の平で覆う様に自らの顔を掴んだ後である
あまりにも綺麗に御坂妹と呼ばれるクローンが操る駆動鎧が消えていて、そして死体としてもあまりに薄くなったフレンダの遺骸はどこかから爆風で飛んできた布切れ程度にしか見えなかったから
フレンダが何をしたのか、それをマジマジと見れたのは、庇われた、というより庇わせた滝壺だけだろう
その能力を持ってして、引き出すというフレンダ独自の次元断層面を極大化させ、文字通り肉壁にさせるという方法で
絹旗「た、滝壺、さん?」
滝壺「……ぁた」
絹旗「え?」
滝壺「また、私は同じ事」
事実として、彼女は庇わせたのだ。自らを、フレンダに
909 :
高温状態のアイロンが降ってくるという
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:37:54.97 ID:F/zw6ecBP
もちろん、彼女が自発的に自らを庇おうと動いてくれたのが直接的な契機だが
そんなフレンダを滝壺は無意識に自らの盾となる様に、精神に干渉したのも事実だった
無意識的だった、と言えばそうであろう。滝壺にも生き残ると言う本能があるのだから
絹旗「同じ事って。………ぁ…ふ、フレン、ダ」
駆け寄る少女が、そのうつ伏せに倒れた死体を起こそうと手を伸ばして、しかしその手は別の女に止められる
結標「やめときなさい。ひっくり返した方がよっぽど気分が悪いことになるわよ」
相「残念ですが、その様ですね。10032号の駆動鎧も、完全に消えてしまいました。他の駆動鎧にも損傷が出ていますし」
結標「寧ろ、この程度で済んで良かった、って言うべきかしら」
御坂「仕方ないなんて言いたくないけど、あの爆発だもの」
「それでも、隕石粉砕用の最大火力では無かったようです。むむっ、さっきので管理システムがおかしくなってますね」
残った機体も、ところどころ火花が上がっていた
「大方、第7学区の拠点自体が電磁パルスにやられたのでしょう、と、ミサカは自己機体にもその兆候がみられることから推測します」
白井「学園都市側は電磁装置に障害が出て戦力純減、モスクワ側はこんなものを見せられて戦意喪失。これで両者の衝突が弱まるのでしたら、私達としても都合が良いのですが」
結標「そんなに都合良くいくかしらね。逆の作用だってあるわよ」
相「かもしれません。ですから、私達はこの沈黙の間に移動を優先させましょう。放射能にしても、皆さんの体中の微小機械がある程度は何とかしてくれますから」
本当に、高性能な微小機械である。今現在の技術水準では考えられないほどの
そんな彼女らのやりとりを見て、滝壺も今更どうとも思わなかった
すれている、といえばすれているのだろう
目の前で仲間が死んでも、この反応だ。核兵器の破壊圏で生き残ったことで現実感が無いのかもしれないが
自分ですらも、フレンダや妹達の一人が死んでしまったことに対して悲しむよりも、フレンダを都合のよい盾にしてしまった事自体に対して心が激しく揺さぶられているのだから
一度蒸発しきった川に再び水が流れだして、倒れたフレンダの体が洗い流されていく
せめて簡易な御墓でも、と死体の腕を掴んで引っ張ると、それは簡単に引き千切れ、更にその千切れた腕も自重で更に小さく千切れてしまった
移動させることもままならないし、水流は勢いを増すばかりで、遂に彼女を完全に水没させるまでになった
だから彼女は何も出来ず、先程までよりも余程具合の悪くなってガタガタと揺れの激しい駆動鎧の肩に、促されるままに乗った
910 :
理解に苦しい現象が起きたり、など
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:38:59.82 ID:F/zw6ecBP
「おやおや、これは君にとっても困ったことになったのではないかな?」
エイワスと呼ばれる存在が、逆さ吊りの男が入っているビーカーの横で、外を覗きつつ尋ねた
当たり前である。何しろ、残存人類を総移転させたのはアレイスターその人なのだから
アレイスター「……そのようだ」
エイワス「流石の君も、ネットワーク管理が別の兵器の扱いはどうしようもないらしい。一段と厳しい状態になってしまったが」
アレイスター「まだモスクワに移動させた人類の種が全滅した訳ではない」
エイワス「強気だな。まぁ、保険の一つが機能しなくなっただけという見方もあることだ」
アレイスター「分かっているならば聞くだけ時間の無駄と言うものだ」
かなりの面で効率を重視する彼がわざわざ皮肉を言葉に出すのは、薄い感情を表に出すようなものでもある
エイワス「おやおや、そんなことを言っている割には機嫌が良くないようだ。上条刀夜が思った以上だったか」
アレイスター「思った以下だったと言うべきだな」
エイワス「何事も、万事が万事うまくいったりしないものだ。それに、君がうまく事を為せば、この手の保険だって不必要になる」
アレイスター「今更言われなくとも、分かっていることだ。これまでの時間と大量の知識をもってしても万全を尽くす事など出来ない。分からぬことも多多残っている」
エイワス「コード:HAMADURAを筆頭にな。最も、これには君もその中の一要素として分類分けされるのかもしれないが」
「ミネルバの梟として君に与えた知識の中にも、そして新しく開発された先端技術の中にも、なぜか現れるHAMADURAの文字。あのレーザー砲ですらいつの間にかHAMADULAという計画名になっていた」
「そして君自身も。ここまで来ると何かの暗示かと思わされるが、君は結局、どう考えている?」
911 :
それによって私の利き腕は
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:40:09.84 ID:F/zw6ecBP
アレイスター「結果を理解している事象があったとしても、しかし、その事象を具体的に説明できそうな理論も事象もない。そんなことは科学のジャンルに限定しなくとも、よくあることだ」
「魔術にしても科学にしても、それに消費される魔力とも言うべきエネルギーは把握できているが、それがどのような原理で生みだされ供給され消費することが出来るのか、結局分かっていない」
「しかし、それは時間によって解決される可能性も残っている。理論が無いからと言っても経験的にそうなると分かっているなら、人間はそれを利用する生き物であるからな。それは私も同じ事」
エイワス「今は考えるだけ無駄という訳だ。なるほど、それも一種の方法か」
アレイスター「だが、予想外の事がこれ以上起きるのは芳しくない」
エイワス「君がわざわざそう言うという事は、ようやくその腰を動かすつもりらしい。だが、それにはまだ役者が揃っていないようだが」
アレイスター「役者なら、揃っている」
そう言って、指差した先に現れた映像
そこには、気力の無い顔をした打ち止めと一方通行が、窓の無いビルの前にポツンと立っていた
エイワス「これは、手が早いな。いや、遅いぐらいか。いずれにしても、アレについては最低限の手順のみ、といったところか」
アレイスター「こうなっては贅沢など言っていられない。……使わせてもらうぞ、エイワス」
エイワス「私は元よりそのつもりだから、構わない。肝心のタイミングで焦りの無いようにな。だが、少しいいだろうか」
アレイスター「何処かに向かうとしても、その時になれば、例え地の果てに居ようとも呼びつけるつもりだが、構わないな」
エイワス「案ずることなかれ。ここまでしてきた君に手間をかけさせるつもりはない。ちょっとした事だ。君は、あの器を調節しておけばいいんじゃないか。まだまだ問題があるようだぞ」
アレイスター「あなたに言われるまでもないことだな」
912 :
割と深刻なダメージを追う事となりました
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:41:19.54 ID:F/zw6ecBP
恐らく、モスクワ中の全ての者がそれを見ただろう
そうでなくともその異常な爆発と、異常なキノコ雲を見ていない者はいない
ある者は悲しみ、ある者は怒り、ある者は焦り、ある者は後悔した
その一撃で、モスクワ側の戦力は一気に半減した。同時に外部から来た者の多くも散った
そんな中で一番普遍的な感情は"恐怖"の二文字
結局、楽園などなかったのだ
破壊者が来ないこの空中モスクワでさえも、こうなってしまうのだ。ただの人間には、どうしようもないことなのだろう
この現実をまざまざと見せつけられたならば、無力感から尚更、彼に縋りたくなる
モスクワ市近郊での核兵器を思わせる大規模爆発に、モスクワ市内での衝突は一時沈黙した
モスクワ側はその爆発がここにも来るのではないのかと。外からの人々は何が起きたのかわからないから、と
しかしながら、モスクワ側の驚きを見るに、これまで殴られていた側である"外からの人々"は、一転、攻勢にでる
攻勢、と言っても、それはただの奪略行為でしか無かったが
とうとう、あの核兵器の衝撃をもって、「我々の怒りを思い知ったか!!」という声すら、外からの人々の口から出てくるようになった
一度勢いづけば、片方は更に燃え上がり、片方はより深く沈黙してしまうもの
つまり、一方的なものとなる。それは、計画の中でもより多い人間の存続を考えているフィアンマからしても、好ましい状況ではない
「おい見ろよ!! こんなにたんまりと食糧備蓄があるぜ!!」
街の中心にある消防庁舎の倉庫に押し寄せた外からの人々は、そこに山積みに溜められていた備蓄食料を見つけてしまった
重いスライドドアから入ったすぐには、少し封の開いたものもあったから、彼らがモスクワ州に来る前から、すこしずつ小分けにして供給していたという様子が見て取れる
「緊急時用の備蓄食料庫なんだからあたりまえだろ!」
「あっちの長い倉庫には小麦の備蓄もあるみてぇだ。モスクワの連中、これだけあるのに出し惜しみやがって」
「そうだそうだ! 何にも苦労していない連中が何も労せずたらふく飯を食ってた訳だ! 俺達は逆に水すらも飲めないことだってあったってのに!!
「だったら、俺達が貰ったって構わないよな!!」
押し寄せた、と言ってもまだ十数人の外からの人々だが、ここに食料があると分かれば、すぐに蟻のように群がるだろう
そうなれば、折角計画的に放出してきたこの食料庫は簡単に空になってしまう
913 :
いやマジで痛いってレベルじゃねーぞ
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:42:15.10 ID:F/zw6ecBP
「おい! お前らそこで何してやがる!!」
当然、そんなことはモスクワ側の人間からすれば看過できない
消防施設から屈強な身体つきをした3人程度の男が出てきて、ロシア語で怒鳴ったが
何を言っているのか、その場に理解できる者はいなかった
逆にロシア語であるからこそ、彼らにとっては敵の言語によるインプットと受け入れることになる
「非常事態だから、その時の為の飯を食おうってんだよ、ロシア野郎!」
ある者は、フランス語で怒鳴り返した
「何か文句があるってんなら、力づくで奪わせてもらうぞ!」
そしてある者は、スペイン語で
共通語として使える、僅かばかりの英語を除いて、外からの人々も、深くは言葉をかわせない
だからこそ、行動は単純化されて、そして思考の浅い結果が生まれる
言うな否や、そこに集まった十数人は缶詰の入った箱を開けて、中身の選別を行おうとした
こうなれば、本来人々を危機から救うレスキューの人間でも、力づくで止めるしかない
鍛えられた巨躯で群の中に突進し、幾人かを突き飛ばし、缶詰を選んでいた女の首を掴む
明確な実力行使に、突き飛ばされた外からの人々はすぐさま立ち上がって、そこらへんのモノを掴み投げつけ、殴る
そうなると、流石のロシアの巨躯と鍛えられた体でも、多勢に無勢
外からの人々の男共はモスクワのレスキュー隊員を取り囲み、女は食糧を奪って逃げる
追おうとした隊員の一人が、倉庫の中のラックを構成していた鉄製の角張って長い得物で殴られた。殴られた場所が悪かったのか、それだけでその男の意識は途絶えてしまう
もしかしたら、死んでしまったかもしれない
それは今まさにモスクワ中で起きていることの、縮図だった
自らもこうなるのか、と残された二人の隊員は思わされ、一人は暴走して取り囲む男たちにラリアットをして逃げようと狙ったが、どこからか持ってきた椅子によって殴られ、頭から血を流して倒れてしまった
残ったのは一人。二人やったら今更一人。外の人々には、この隊員を攻撃することへ躊躇は無くなってしまう
しかも、取り囲んだ彼らの少し後方からは、缶詰を奪った女性が吹聴したのか、勢いづいた外からの人々が次々と押し寄せていた
にじり寄ってくる目の前の男たち、そして後ろからその援群。残った一人はもうどうしようもないと、殺されるのを待つばかり
914 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:43:17.19 ID:F/zw6ecBP
怨むなら、何を怨もうか。こんな運命を強いた神か
好きにしてくれと、諸手を挙げて目を瞑っていた彼だったが、しかし、痛みの時間が来ることはなかった
なにか、えらく熱いな、と感じて片目を開くと、目の前に白い炎の衣を着た赤髪の男が立っている
「非常時だからと言って、ここに溜められた食糧を勝手に食い荒らす権利は君達には無い」
その男は、まず英語でしゃべった
「あ、ああ?! そんなもの知ったことじゃねえ!!」
「そうだ! 私達に餓えて死ねてのかい?!」
突然立ちはだかった存在によるものか、いつの間にか備蓄倉庫を覆う様に炎の壁が生まれている
これで、ただの一般人でしか無い彼らには近づく術が無い
「そうは言わない。決定があり次第、君達にも平等に供給される予定だ」
外からの人々に対応して、赤髪の男は今度はフランス語を用いた
「平等に、だぁ?!」「そんなんで満足できる訳ねーだろ!!」
「第一、それが何時になるってんだよ!? こちとらまともな飯なんてご無沙汰なんだ! 時期をはっきりしろ時期を!」
ステイル「悪いが、具体的な時期について断定は出来ない。僕にはその手の権限は無いんだ。だが、納得して欲しい」
「は、はぁ? ふざけんじゃねーよ! 舐めてんのか、クソ野郎! とにかくこの炎をなんとかしやがれ!」
ステイル「君達がここを諦めるなら、そうしよう」
「はいそうですか、って引き下がるわけねえだろうが!! どけねえってんなら、力づくだ!」
と。とうとう外からの人々の中の一人が、赤髪の男、ステイルに殴りかかった
フィアンマに力を注がれた復活者という今の状態でなくとも、接近戦は得意でないにしても、ただの暴徒の拳など、彼にとってはバッティングセンターで最遅球にミートさせるようなものでしかない
パシっ、と小気味よい音を立てて、男の拳を手の平で受け止めた
ステイル「やれやれ、君達がこういうのを望むなら、相手しよう。先に言っておくが、火傷程度では済まないと思っておくといい」
言うと同時に、受け止めた男の拳が火に包まれて、そのまま腕を這って男の体は炎に包まれた
一切の声すら上げる隙すらも与えられないまま、男はステイルの前にドサッと倒れ、その上まだまだ男を包む炎はやむ気配など無い
一瞬の出来事に、隊員を庇う様にして現れたステイルを取り囲んでいた群衆はたじろぐしかない
915 :
シビルはプロトデビルンかわいい
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:44:07.73 ID:F/zw6ecBP
その彼らの目の前で、燃やされて死んだであろう男を包んでいた炎が一気に燃え広がって、10m近くの炎の塊となった
否、塊では無い。何か爬虫類を思わせるフォルムの頭がと長い首が複数本生えた、炎の怪物である。ヒュドラともヤマタノオロチとでも言えそうな代物
それが、威嚇するように、群衆の目の前で首を踊らせているのだ
ステイル「さぁ、次にこの男のようになりたいのは、誰だい? もっとも、次はこの程度ではないだろうが」
人間同士の戦いなら数が力になるだろうが、別次元の化け物と戦う上ではどうだろうか
数が意味を為さないような相手に立ち向かう事が出来るほど、彼らは強くもない。ただ本能的に暴れる暴徒でしかないのだから
仕方なしに持っていた鉄の桁を投げつけて、それが全く意味が無いのを確認して、彼らはただもう逃げるしか無かった
ステイル「よし。さて、君はまだ動けるか」
目の前の訳の分からない存在が振り向いて尋ねてくる。ハッキリ言って救われたことよりも異質への恐怖の方が大きい
そんな様子を既にここに来るまでに何度か見ているステイルは、彼の真理をすぐに悟った
ステイル「別にとって食おうというわけじゃない。そこで倒れている君の同僚を運んでやるんだ、と言いたいだけだ。出来るか」
尋ねられ、一人残った隊員は頷いた。何しろ彼はレスキューだ。倒れた人間を運ぶことについては、職業柄慣れている
なら頼んだ、と言って、それでも茫然としている男の眼の前で手をパチンと音を立てて叩けば、彼はハッとして動きだした
すぐさま二人の男を手慣れた手つきで抱えて施設内に向かっていく隊員を見送って、ステイルは、ふぅ、と息を吐く
肉体疲労などでは無い。精神疲労
こうやって外からの人々を追い返すのはこれが初めての作業では無く、何度目かと言いたくなるような作業でしかない。勢いづいた外からの人々に、復活者は総動員体制だった
しかし、その度に醜く争う人々を目にしてきた
ステイル「悲しいが、君の思う人間はこんなものだ。フィアンマ」
こぼしてしまったのは仕方が無いこと
「だけど、そのフィアンマにあなたは仕えるしかない」
ステイル「誰だ?」
声に反応して振り返った先では、はぁい、と女がヒラヒラと手を振っている
ワシリーサ「御苦労さま、と言いたいところだけれどあなたにとってはそれはおかしい事なんじゃないかしら?」
ステイル「いきなり現れておいて、何が言いたい」
916 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:44:45.64 ID:F/zw6ecBP
ワシリーサ「あなたはもともとイギリス清教の人間なのだから、さっきの連中を追っ払うのではなくむしろ逆に助ける側のハズでしょう」
ステイル「どうかな。仮にイギリス市民がロンドンで暴徒になったらなら、むしろ僕はそれを鎮める役割に回されそうだが」
ワシリーサ「でも、そこの焼死体のように殺したりはしないわよね」
ステイル「フ、"殲滅白書"のトップでもそう見えるかい。彼の演技はアカデミー賞並みだな。まぁ、すぐさま粛清粛清としてしまうロシアに居たら、騙されてしまうのも仕方ないか」
パチッ、とわざとらしくステイルが指で音を鳴らすと、炎のヒュドラも食料庫を包んでいた炎も消え去った
静寂という程静かではないが、そのヒュドラの根元に居た男が唸っている声が聞こえだす
ステイル「見ての通り、この人間も生きている。自らの体が燃えるところを見たから、少々の心理的なショックはあるだろうがな。化け物みたいな炎だって、中身の灯っていない張りぼてだ」
ワシリーサ「殺していなかったというの?」
ステイル「そういう、フィアンマの命令だからな」
ワシリーサ「やっぱりぬるい男。こういうときは、見せしめにするのが定法なのに」
ステイル「同じ効果が得られるなら、殺さないにこした事は無いさ。彼らも"終末"の被害者には他ならないことだし」
ワシリーサ「賢い忠犬ね、あなた」
ステイル「忠犬? 面白いことを言ってくれる。まぁ、そう見えても仕方ないかもしれない。僕が見ても、そう思うくらいだからな」
ワシリーサ「あれ、犬って言われても憤慨しないの? つまんないなぁ」
ステイル「手が汚れている魔術師である身なのだから、今更誰に何と言われようが気にしたところでしょうがない。それに、彼は現状に置いて必要だ。この身でもあることだし、忠犬と言われたところで」
ワシリーサ「随分と信頼しているのねぇ。一組織のトップとして、後学のために理由を聞きたいわ」
ステイル「彼は約束を守った。誰かに従うなら素敵な要素だと思うね」
ワシリーサ「あぁーそれは厳しいかも。一体何度サーシャちゃんに悪戯したのか分からないし」
ステイル「彼女に同情するよ」
ワシリーサ「でも、あの子もあなたに同情するかもしれないわよん」
ステイル「……、それは何故だ」
ワシリーサ「何故ってそりゃぁ、守ってもらったと思っていた約束が、実は守られてなかったなら、哀しいでしょう?」
そう言われ、眉をひそめたステイルの顔を見て、彼女はほくそ笑んだ
917 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:45:42.98 ID:F/zw6ecBP
「核、だとっ!?」
騎士団長の声が、建て籠った市庁舎の中で響いた
刀夜「核による電磁パルスが確認されたから、まず間違いないと思う」
ホラ、といって騎士団長に見せた電子機器の調子は、上条詩菜の待ち受け画像を表示しているだけだと言うのに、どこまでもチラついていて見えやしない
団長「何故そんな物が日本に、と言いたいところだが、学園都市に非核など期待する方が間違いだったな」
いや、日本政府も怪しいところだが。などと彼は一人ごつ
刀夜「いや、アレは恐らく米軍が持ち込んだものだろうな」
団長「まさか、例の隕石の粉砕に使う予定だった弾頭か。いや、それにしては威力が不十分だな」
刀夜「恐らく、その一部を使ってしまったんだろうね。それ以外では、あれだけの威力を出せる兵器なんて残っていなかった」
団長「部分的なものだったという訳か。だが、核は核だ。あの通りの威力を発揮して、どれだけの被害が出て来たのかも分からない」
そう言って、騎士団長は少し強い視線を上条刀夜へ送った
部下の不始末の責任は上司のものである
刀夜「警護にに残した者を悪く言えはしないが、人材不足ではある。でもそれはお互いだろう?」
団長「この事態では、人材が豊富なところなどないだろうな」
刀夜「ああ。人材が余っているところなんてない。どこもいっぱいいっぱいだ。だからこそ」
団長「そうだな。モスクワの側も核と暴徒の対応を迫られている今だからこそ、このモスクワ市を低リスクで脱出可能と言う訳だ」
刀夜「その通り。しっぽを巻いて逃げ出すなら今の内だよ」
団長「なにか、まるで逃げ出さないかのような物言いだな」
青髪「まさか、刀夜さん」
黙っていた部下たちも、一斉に顔を刀夜へ向けた
918 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:46:12.64 ID:F/zw6ecBP
刀夜「まさかも何も、私達はこの衝突の解決の為に来たわけでもあるんだ。ここで帰ってしまったら、何の意味もなさない。違うかな」
団長「確かに。だが同時に、我々は我々の拠点を失う訳にはいかないんだぞ」
刀夜「だから、私は残って直接教会施設に向かうつもりだ。核の使用についても、弁解する必要はあるだろうし」
青髪「んな、危険ですよ!」
団長「確かに危険だが、先程までに比べてリスクは少ない、か。集団で行動するよりは、少数の方が暴徒に紛れこみやすい。理には適っている。私も乗ろう、その話」
そんな、と声を漏らしたのは騎士たちだ
刀夜「そういうこと。だから青髪君も米軍と共に学園都市の方へ向かって欲しい。今の状態なら、攻め込むならともかく、撤退なら手を下されるようなことは無いだろう」
青髪「だったら僕も付いて行きます! こう言っちゃ良うないですけど、刀夜さん結構体にガタ来てる年なんですし!」
刀夜「な、なかなか言ってくれるね。その通りなのが悲しいところだ。助かると言えば助かるが、しかし、君には彼女があるだろう。良いのかい?」
怪訝な顔で見つめるが、帰って来た視線はぶれない
青髪「もちろん、死ぬ気は無いですよ!」
刀夜「よぉし。その言葉が無ければ反対していたところだ」
「ならば、我々も!」
団長「馬鹿者共め。少数で、と言っただろう。この上条刀夜氏は見ての通り、戦闘向きではない。だが私はどうだ? 少なくとも、貴様等に助けられる程衰えている訳ではない。……それに、陛下から受け継いだ、この剣もあるのだ」
「ですが!」
団長「聞き分けろ。……私よりも先に帰り、市民を落ち着かせておくんだ。少々の虚言を用いても構わない。責任は私が取る」
「了解、しました。ですが、お早い帰還をお待ちしています」
団長「ならば、行け」
刀夜「曹長、君達も準備出来次第彼らと共に撤退行動を始めるんだ。モスクワ都市圏を出るまでは、固まっていた方がいい」
919 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:46:45.51 ID:F/zw6ecBP
「アックア、お前の方の準備は良いか?」
暗い、部屋。あるのは複雑怪奇な術式の陣と僅かばかりのオカルト的なグッズ
それらが生じさせる僅かばかりの光しかない
そこでポツリと声が響いた
アックア「完了している。そもそも、準備と言う程の事はあるまい。わざわざ生誕を表す祭壇を聖堂内に作らせておきながら、今更怖気づいたのであるか?」
それに反応して、跪いて瞑想していた男が瞼を開き、朱のシャツに蒼の衣をまとっって、どこか幻影のようなおぼろげさを感じさせるフィアンマに返す
フィアンマ「怖気づく? この俺様が、か?」
アックア「らしくもない。声が震えているのである」
フィアンマ「お前が言うなら、そうなのかもしれないな。今からしようとすることは、この身になってもそれだけの感情を感じてしまうものらしい」
アックア「当然である。見方によっては、ただの自殺行為でしか無いのだからな」
フィアンマ「俺様のは文字通りの自殺行為だが、歴史上で偉業と呼ばれる行為を為した者達は得てして、失敗すればただの自殺行為でしか無かったものだ」
アックア「偉業であるか。今から行おうとしていることは、ともすればどんな暴君よりも悪辣であると評価されてもおかしくは無い行為。方法を変えるなら今の内であるが」
フィアンマ「だが、それではこの世界の理不尽は消えない。そもそも、誰かに評価される為に行おうというのではないからな」
言い放ち、それにアックアは頷いた
お互い、覚悟が出来ているならなされるべきは一つ
だが行おうとした事象は発生しない
「大した覚悟、と言いたいところだけれど、あなたに巻き込まれることを全ての人間が望んでる訳じゃないのよん」
声の主が誰か、そんなことは直ぐに分かった
堂々と、その女が縦に長い聖堂の中腹に現れて立っているのだから
アックア「……やはり来たか、ワシリーサ」
ワシリーサ「お見通しなら、先に殺しておけばよかったのに」
フィアンマ「ロシア成教との関係上、殺せないと分かっていての発言だろうな」
ワシ「ご配慮ありがとう、と代表してお礼申し上げるわ。私だけじゃないの、あなたに文句があるのは」
じゃーん、など限りなく場にそぐわない効果音をもたらしてワシリーサの前に現れたのは、フィアンマにとっても、アックアにとっても見知った顔となった男だった
フィアンマ「……ステイル?」
920 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:47:34.38 ID:F/zw6ecBP
ステイル「僕が来たのは、意外かい?」
声は棒読みのようで、感情が籠っていない、というよりは何かを抑えるかのようだった
フィアンマ「いや、考えられなかった訳では、ない」
考えたくは無かったが、というのがフィアンマの本音だったかもしれない
ステイル「計算の内、というわけか」
フィアンマ「この場にそこの女と共に来たという事は、知ってしまったか」
ステイル「ということは、事実なんだね。彼女が、禁書目録が既に死んでいる、ということも」
フィアンマ「……事実だ。俺様が殺した」
聞きたくは無かった、というのがステイルの本音だったかもしれない
ステイル「なぜ、隠すようなことをしたんだ」
フィアンマ「故意ではなく事故だった、と言ってお前は納得するか?」
ステイル「あのときだったら、しなかっただろうね。だが、それでも君は言うべきだった。……違うか!?」
抑えていたボルテージ。裏切られたことへのショックは隠しようもなかった
フィアンマ「使える人材がいなかった以上、ああするしか無かった。俺様は、最良の判断をしたつもりだ。俺様にとっても、お前にとっても」
ステイル「しかしそれは、君の主観でしか無い! 君の都合で僕を騙したことは変わらない! そして、彼女の遺体すらもただの人形のように利用した!」
フィアンマ「悪いものでは無かっただろう?」
彼女との甘い夢のようなひと時
それが、彼のこの言葉で一気に汚い思い出になってしまった
ステイル「それが、彼女に対する最大の侮辱だと何故気付かない!?」
フィアンマ「それを言うなら、お前も同罪だろう? 実際に禁書目録で楽しんだのはお前なんだぞ」
ステイル「君に騙された結果だ!!!! そんな無意味な配慮なんて、僕は望んではいなかった! 望んでいなかったんだ!!!!!」
今にも、彼はフィアンマを焼き尽くさんと、怒りの代名詞としての炎が文字通り沸々を彼を沸かせた
それでも、そうしないのは復活者としてのフィアンマに反抗すべきではないという制約の所為か
それとも、彼の目的を考えた上で、何とか理性が押しとどめているのか
だが
921 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:48:07.26 ID:F/zw6ecBP
フィアンマ「それはすまなかったな。だが」
彼の最後の糸を切ってしまったのは、フィアンマだった
フィアンマ「お前は俺様を裏切るのか?」
最後の質問。最大の二択
ステイル「僕は、フィアンマ」
「君の計画すら、もう信じられないんだよ。せめて、嘘だ、と騙しとおしてくれればまだ良かったんだ」
「例え嘘であっても、あの禁書目録が君の人形遊びの産物だなんて信じたくは無かったんだ」
「だが、もう今はこの女の言う事にすら惑わされるほどになってしまった」
フルフルと僅かに震えるながらも、彼は言い切った
許せない、という結論で
フィアンマ「そうか。……それは、残念だ。なら、仕方ない」
見慣れた少女が、現れた。ステイルの方を、悲しむような顔をして
ステイル「禁書目録!?」
フィアンマ「考えられなかった訳ではない、と言っただろう。ステイル」
別に他意のある表情をフィアンマがした訳ではないが
それが逆に、引き金となってしまった
ステイル「こんな時にまで、僕をからかおうというのか! フィアンマァァァァァァ!!」
明確な怒りの感情として現れたのは、使い慣れた炎剣
しかし、天使の上位格たる神の命によって、という命題で完全にミカエル=ステイルとなった彼が、今までのパフォーマンスでしか無かった行動を、リアルな怒りを伴った戦闘にシフトした
6枚の炎の翼が彼の背から生え、剣と翼が現出しただけで生まれた衝撃がアックアとワシリーサをたじろかせ、並べられた長椅子は全て吹き飛ばされ、粉砕されてしまった
彼の長身に対しても長すぎる剣は、横薙ぎに振れば聖堂の柱を容易になぎ倒すだろうし、縦に構えるだけで天井に達するだろうが
調子を確認する為に振るわれた炎剣は、それらの事を一切なさなかった
威力が足りなかったとか言う訳ではなく、単純に触れなかったのだ。空間というか聖堂というか、炎剣に触れそうな場所がすべて、グニャァとゴムのようなスライムのような感じすらさせて、ねじ曲がり、当らなかったのだ
明らかな異常事態に、だがステイルはそんなことは意識の外だった
そのまま、目の前の禁書目録を跳び越えて直接フィアンマへ飛びかかり、剣のリーチを考えれば必要性は無かったが、それを叩きつけようとする
922 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:48:36.90 ID:F/zw6ecBP
刹那の中で、アックアはフィアンマの方へ、貴様を守るべきか? と尋ねるような視線を送ったが、必要ないとばかりに無視をした
結果
フィアンマはその長すぎる刃を避けるのに、十分な距離をとって、一切当らなかった
距離をとった、と言うには彼は一切行動していない
ただ、祭壇の前に立っているフィアンマごと、ステイルとの距離が空間的にゴムのように伸びたのだった。完全にリーチの外なら、それは当るはずもない
伸び切った床に着地したステイルを横からアックアがメイスを叩きつけようと跳びかかるが
ガキン、と金属と金属の甲高い音が鳴って、メイスはステイルに触れなかった
原因は、棍の部分に繋がる金属の棒の根元に別の金属塊が当ったから
アックア「……ぬ」
ワシリーサ「こういうのって、邪魔しちゃ駄目だと思わない?」
フィアンマ「そこの女の言い分を聞けという訳ではないが、ステイルの事は俺様に任せておけばいい」
アックア「ならば」
ワシリーサ「あらら、こっちに来るのも勘弁して欲しいのに」
言いながらも、アックアの接近を予見していたように、柱の影などに大量の罠を仕組んでいるが
その中の一つが、アックアの体を掠めつつ反対側の壁に向かったが、壁に刺さるどころかグチャァと何かぬべったい感じに飲み込まれてしまった
何だ、この空間は。明らかに尋常じゃない
そう思う暇も、あまり無かった
ワシリーサ「いやいやいやいや、そんなんありぃ?!」
身を隠した目の前の柱がグニャとCの文字を描いて曲がり、そこからメイスの先端が向かってくるではないか
同時に、そこを起点していた罠型の術式が全部無駄となる
咄嗟に後ろに跳んだから、彼女は直撃は避けれたが
ワシリーサ(どういう訳かわからないけど、あっちにとってかなり都合の良い空間に作りかえられているとでも考えるべきか)
根本的に情報が無いのだ。だったらステイルに任せるのが一番自分にとってリスクが少ないだろう
そもそも下手に近づけば、自分がステイルの炎にも巻き込まれかねない
ステイルがフィアンマをどうにか出来ればいいが。失敗した際のこともある。だから、ここはアックアを引き付けるのが一番だ
923 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:49:13.96 ID:F/zw6ecBP
出来れば、聖堂の外に。そう思って、彼女は下がった
一方で伸びきった空間では、ステイルとフィアンマの間を割るように再度禁書目録が空間移動
これで立ち位置は元の状態になった。聖堂は歪な形となっているが
少し違うのは、ステイルのすぐ目の前に立っている禁書目録がフィアンマの方に行かせまいと、自ら両手を広げて身を呈していること
ステイル「今更、こんな人形に!!」
叫んで、彼は炎と同化した腕で彼女を躊躇なく払う
そしてそれは、簡単に弾け飛んだ
フィアンマ「お前も殺したじゃないか、ステイル」
ステイル「人形を破壊しただけだ! お前とは違う!!」
フィアンマ「それは、お前が勝手にそう思っているだけだ」
ステイル「違う!!!」
再度の攻撃。今度はどこまでフィアンマが空間を伸ばして避けようとしても届くよう、白い炎の直線として
しかし、途中で何かが彼を庇って当り、炎はフィアンマの元まで届かなかった
フィアンマ「二度目。これでお前の方が数が多くなったな」
ということは、先程の炎の直線を防いだのは禁書目録か
そしてまたも彼の前に現れる禁書目録
ステイル「無駄だ。こんな事をしても、僕は今更引きさがったりしない」
フィアンマ「なら聞くが、この禁書目録が何故お前の思っていた禁書目録と違うのだ? 容姿も仕草も同じだというのに」
ステイル「そんなもの、表面的なものでしか無い。もっと内面的な、魂とも言うべき部分が完全に別物だろう!!」
フィアンマ「魂か。確かに、禁書目録と呼ばれていた最初の少女のものは最悪な形で失われてしまった」
普通に死んだなら復活者として殆ど完全に復活できただろう
しかし、フィアンマの操作ミスで精神を完全に破壊されてしまった後では、それこそバックアップデータの無い復旧作業
フォーマット後のハードディスクに人間精神の基本プログラムとも言うべきOSを入れただけのようなものだ
ステイル「君が殺したからな」
フィアンマ「それなら、今お前が殺した二人の少女の中に入っていた魂は何だ?」
924 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:49:44.09 ID:F/zw6ecBP
ステイル「そもそも、人形だ、と言っているだろう!」
フィアンマ「それはお前の勝手な判断だ。体をもち、思考し、感情もある。それは立派に人格じゃないか」
「しかも、俺様が少々手を加えたとはいえ、元々の禁書目録のそれをベースに形成され、第一にお前のことを考え、お前の為に尽くし、お前が愛した少女」
「それが本来の禁書目録では無かったとは言え、その感情は、行為は、偽物だったとお前は言うのか」
ステイル「そんなことを今更言いだして、何が言いたいんだ。君は!!」
ミカエルは神の軍団を率いる大天使。その軍団の構成員として定義された炎の巨人がステイルの後ろにズラリと並ぶ
一声かければ、それらは一斉に突撃を開始するだろう
フィアンマ「別に、何か核心染みたことを言いたい訳じゃない。だが」
「それは少々可哀相だと思わないか。この少女が」
ステイル「可哀相だと?」
フィアンンマ「俺様は、お前を迎撃しろ、打ち倒せ、と禁書目録に命じた。復活者と言う形の天使に対する、神の命令として」
「だが、今、お前に何度殺されそうとも、この少女は俺様の命令に従おうとしない。拒否している。お前を攻撃したくない、とな」
ステイル「黙れ! そうやってまだ騙そうというのか」
フィアンマ「俺様は最初からお前を騙そうとしていた訳ではない。お前が一言、彼女の身に何かあったか、と尋ねれば、一切の事を離していただろう。嘘はつけないからな」
ステイル「……それが、君の嘘かもしれないじゃないか」
フィアンマ「言っただろう、嘘はつけないと。特にこの場ではな。それでもお前が疑うのなら、直接本人に聞けば良いだろう」
ステイル「本人に……?」
少女は何も言わない。だが、代わりに一歩ずつ歩んでいき
彼に抱きついた。そして、彼女が口を開こうとした時
「……こんな中だと、非常に申し訳ないけどね」
さっきまでここに居た別の女の声が、また聞こえた
925 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:50:15.42 ID:F/zw6ecBP
「ハァー、流石に早いなぁ、彼。もう完全に見えないよ」
膝に手を置いて、彼は遠くを見つめた
青髪「当たり前ですよー。人間の肉体年齢のピークを越えているなら、日頃の鍛錬の差がでるってもんですからね」
刀夜「うーん。歩くのなら慣れているんだけどなぁ」
青髪「オフィスワーク組だったからしかたないですよ」
刀夜「仕方ない、少々休もうか」
青髪「ええですよ。この辺は静かだし、なんなら、何か飲みモンでも探してきましょうか」
刀夜「いや、大丈夫。飲みすぎて吐きそうになっても困るから」
こんな状態でよくあのCIA本部を抜け出せたものだ。やはり最後にモノ言うのは運なのだろう
そんな風に、目の前の男を見る青髪
青髪「しかし、教会関係の施設なんてこのモスクワにはたくさんあるやろうけど、なんであの騎士団長さんは迷いなく奔って行けるんでしょーか」
刀夜「うーん。多分、彼の勘なんだろう」
青髪「勘、っすか」
刀夜「加えて状況的にも考えられるな。フィアンマというのは救世主なんだろう? それは宗教的に大きな力を持っているだろうから、多分、魔術的にも大きいものなんだろう」
「それはきっと、大きなエネルギーの塊だ。だから、彼は感じ取っているのか、もしくはそれを探知する方法を持っているのか。熱源探知みたいなものだとしたら、大きい分はっきりするんだろうさ」
青髪「へぇー」
刀夜「ま、私の知ってる範囲での仮定にすぎない話だ。本来なら君の方が専門家になっていた可能性もあったんだけど」
そう言って今度は青髪の方を向きなおした
青髪「僕が? 制御が厄介な後付け人工超能力ならありますけど」
刀夜「資料では、君はそういう部族というか家系に有ったらしい。何か特殊な制御術式を構築していた、とか」
青髪「うーん、覚えてへんですよ。確か赤ん坊の時のことですからね」
刀夜「そうか。……それなら、いいんだが」
青髪「いいんですか?」
刀夜「あ、いや。ま、まぁとにかくだ。私達も彼の後を追おう。もしかしたら、騎士団長の彼は既に着いてしまったかもしれないし」
青髪「了解でーす」
926 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:51:03.06 ID:F/zw6ecBP
「お前、何をした」
聖堂の中央で、二人の人影が倒れている
片方は身が大きく、片方は少女。まるで生気を失ったように、倒れている
ワシリーサ「ホントは、こんなことはしたくなかったけど。現実を取らざるを得ないことだってあるのよね」
フィアンマ「アックアと戦いながら、そんなことを狙っていたとはな」
ワシリーサ「何処かの誰かさんの中じゃ、逆に戦いにくそうにしていたのよん。余裕があったわけじゃないけど、丁度良い時に丁度良い人が来て丁度良い嘘も付けたことだし」
フィアンマ「運命の女神とやらに愛されているようだな」
ワシリーサ「きっと女神様もかなり可愛いだろうなぁ。でも、その女神様のお陰で」
ヒュッ、とその場に転がっていた長椅子の破片が投げつけられた
それが、空中で生まれた爆発によって加速され、フィアンマの方へ
フィアンマ「……ッ」
空間身長によってそれまで一切の攻撃を避けて来た彼だったが、初めて自らの身を動かして、正確にはすぐ背にある固定祭壇の後ろへ跳んで、回避した
ワシリーサ「ほーら、反撃してなさらないのですかぁ、救世主様?」
そのまま、次々の破片を投げつける
恐らく、当りどころが悪くない限り死にはしない程度のものだが、それでもフィアンマは近場の柱の影に跳び込むようにして避けようとした
ワシリーサ「出来ないでしょうねぇ。所詮あなたはローマ正教の人間。その術式の流域はロシア成教と類似点こそあれど、異なるもの」
「"ロシア成教の救世主として"という前提を覆さないように魔術を使うには、その特殊で大き過ぎる力を扱う為の知識が無さ過ぎる。さっきまでの特殊な空間はあなたが救世主として、更なる真価を得るためのものだったみたいだけど」
「自分に対する縛りがきつすぎたわね。防御の面に付いては優れたものがあったけれど、種が知れていたら、それに対応することができる。何しろ、私達こそロシア成教徒なのだから。その理解の深度では負けたりはしないわ。必要な"力"もあなたが用意してくれたなら、尚更よ」
927 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:51:33.73 ID:F/zw6ecBP
ワシリーサが何をしたのか
それは、複雑な内容を省いて説明すれば、相殺である
垣根帝督の張った繭のように、救世主の神格化の前にはある程度の時間とエネルギーの集中を要する
彼の神格化を間接的とはいえ間近に見たフィアンマは、そこにも術式の手を加えて、既存のロシア成教の聖堂と同化させた
もともと聖堂という形で、十字教の象徴として大きな意味、この場合は防御的な要素を、もっていて更には信仰をベースとした神格化という目的をもつフィアンマには最適だった
不慣れなロシア成教とはいえど、そこに込められた"神の力"になりかけの"天使の力"は甚大で、そう簡単には打ち崩せない
しかし、彼女はそれをしたのである。打ち破るために使った力の源は、ステイルと禁書目録
"天使の力"を体内に取り込むのは、十字教的な術式を行う際には基本的な事。その上、彼らは復活者として限りなく天使に近い存在であり、更にはステイルはミカエルと同格に、禁書目録はそれに対抗する為に手を掛けられていた
"神の力"になってない段階のフィアンマの力はまだ"天使の力"、しかも基盤となる救世主格はロシア成教のもの。そして神の右席の大天使化の元となったのはサーシャ=クロイツェフ、つまりロシア成教の術式で囲まれた存在
力を暴走させる術式が必要、と分かっていれば、それを予め構築するのは魔術師の戦闘の基礎だ。それがあの犬笛ならぬサーシャ笛
術式を扱う上で重要な要素の人血は集中力だ。それを、精神干渉によって乱す
当たり前のこと過ぎて、それは精神的な鍛錬によっても防がれているものだ。しかしあの時の二人は間違いなくそんな精神状況では無い
本来ならこれはフィアンマ本人にぶつけ、弱ったところで救世主格を引きはがす予定だったが、あの異常空間化ではそんな効果の変化が生じるのか分かったものではない
結果、隙を見せたステイルと禁書目録にそれを用い、暴走した力で相殺・減衰させたのだった。同時に、魔力の基礎である生命力という点でも、彼らのそれは数値的に0となってしまったが
ワシリーサ「恐らく、このフィールドを発生させているのはあなた本人のようだから、自然に再構成を始めているみたいだけれど、さっきまでのある種別次元的な空間を再構築するにはまだまだ時間が必要。あなたが手をかければ早いでしょうけど」
フィアンマ「お前が、そうはさせてくれないだろうな」
ワシリーサ「もちろん。いっそのこと、捨ててしまえばいいのに。そんな不便なロシア成教の救世主格なんて」
928 :
しかしガムリンはかわいいな
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:52:21.19 ID:F/zw6ecBP
「先程、あの女が言ったことは事実なのか?」
聖堂の周りの広い空間で、騎士団長はアックアのメイスを二本のカーテナで抑え、口を開いた
尋ねるのは、さっきまでワシリーサとアックアが交戦していた際に聞えたこと
ワシリーサがわざと聞かせたものだが、効果は覿面だった
アックア「なんのことであるか」
騎士団長「決まっている。フィアンマの目的が終末を利用して混沌をもたらし、神となってこの地球を統べようとしている。そしてそれに貴様が賛同しているということだ!」
それは、全くの虚言だった
アックア「そんな愚かな判断を、すると思っているのか」
騎士団長「していないと言うなら、この私を満足させるような言葉を吐いて見せろ、ウィリアム!」
アックア「……ッ!!」
言葉の答えの代わりに、彼はカーテナを弾くしか無かった
そう、"しか無かった"のである
十分に否定するだけの言葉が無い。フィアンマの、特にイギリスに対して行った行為を考えれば、どれだけ事実を述べても否定できる要素などない
だから、「(私が)そんな愚かな判断をすると思っているのか」と最初に言ったのだ
団長「なぜ答えない!!」
更に彼は切りかかる。相手の剣は英国最高の国防の剣。一太刀一太刀が重い
さりとて、アックアには騎士団長へ攻撃する理由などない
その上、フィアンマの計画の為に自分はたった一つの行動に特化・集中していた身だ
だからこそ
アックア「逆、なのである。それで理解してくれ我が友よ」
としか、言えなかった
929 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:52:52.41 ID:F/zw6ecBP
フィアンマ「……それは、出来ない話だ」
ワシリーサ「なぜそこまで固執するのかしらね、ロシア成教の救世主格なんかに。本来、救世主は自己の信仰すら作りだすだけの力があるというのに。それは殆ど、全てが全てを思い通りに出来るだけの力があるという事と同義だというのに。文字通り、神として」
言いながら、彼女は一歩ずつフィアンマが居るはずの柱に歩み寄る
フィアンマ「さぁ、どうしてだろうな」
ワシリーサ「何"を"企んでいるのか知らないけど、何"かを"企んでいるという事は分かる。あなたは、わざわざ苦労してまで十字教という要素を残そうとしているのだから」
近寄ってくるワシリーサに、フィアンマは背後の壁を叩いた
そこには丁度、先程まで生んでいたフィアンマ・フィールドが弱まったことで入って来たステンドグラスからの光が当っていて、差し込む神の光=照らす太陽の光という形式を誇張して、一種の閃光的な働きをする
生じると仮定した隙をついて、ワシリーサの背後に出たつもりだが
同じようにステンドグラスからの光に、老婆の影があった
認識と同時に爆発。それによって逆に運良くフィアンマは逃げ場の多い聖堂の正門側に飛ばされた
彼の方へ、ワシリーサは振り向く
ワシリーサ「あえて言うなら、既存体系と言う縛りを用いて、"神の力"を何らかの目的で操作しようとしている。違う?」
フィアンマ「8割方は正解といったところか。だが完全な解ではない。俺様の為そうとしていることの、残りの二割にして一番の根幹部分が満たされていないからな」
そしてまた一歩一歩、彼に近づいて行く
ワシリーサ「いいわよん、別に正解じゃなくとも。その根幹部分が起きなければ良いのだから」
フィアンマ「お前は俺様が気に食わないらしいが、モスクワの人間は俺様という救世主を求めているのだ」
見様によっては、フィアンマが泣き言を言っているようにも見えるが
彼の表情はそれではない
ワシリーサ「でも、そもそもそれが間違っているとは、思わない?」
フィアンマ「ほう?」
ワシリーサ「神だの救世主だのなんて、概念だけでいいのよ。リアルな神は人間には無用の長物でしかない」
「今まで人間は現実の神など無しに信仰だけで規律を作り、それによって社会を構築し、やってきた」
フィアンマ「ふむ」
930 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:53:26.24 ID:F/zw6ecBP
ワシリーサ「その原動力は、人間の思考と判断。決して神の力なんてもののおかげではないのよ」
「なのに今更神なんて、しかも立った一人の人間から成る、過剰な力を持った存在。そんなものは結局、現状をブチ壊しかねない。人間から思考を奪い、堕落させかねないという可能性が少しでもあるというのなら、そんな危ない賭けなら、私は壊す」
フィアンマ「なんとも、保守的だな」
ワシリーサ「あら、信仰なんて保守の代名詞でしょうに。そして、そんな余裕のある事を言っていられるのかしら」
フィアンマ「逆に言えば、この程度で俺様をどうにか出来ると思っているなら、見当違いだ」
ワシリーサ「ふふっ。そんなわけがあるとでも?」
言って、今度は一気にワシリーサはフィアンマに向かって突っ込み、脚を振り回す
何を狙っているのか分からない為に、彼は距離をとった
フィアンマ「肉弾戦とはな!!」
と言ったフィアンマの背後に再度、老婆の影
同時に爆発。しかし
フィアンマ「これはさっき見たんでな」
もちろん、これだけでは無い
相手は救世主。今は力を大きく失っているが、気の抜ける相手では無いのは確かだ
目的を聞きだしたかったが、神に成ろうとしていることは確実なようだ。その時点で、防がなくてはならない
チャンスは今のうち。アックアが何時かえってくるか分からないし、他の復活者がいつ来るかも分からない
だからこの一度に全力を
合図を出して、爆風を逃れたフィアンマの前に現れたのはサーシャだった
彼女の握る釘抜きの先端には明らかに殺意を代弁するような光が現れていて、それが彼を貫かんと接近してくる
間を置かない連続攻撃。まだ、身を逸らして避けられるが
フィアンマ「ただの入れ物になど、ッな!!!!???」
更にサーシャの影から追撃の総大主教
司教大冠から網のように拡がる光の糸が、聖堂内の柱を、壁を、装飾を、ステンドグラスを引きよせて、聖堂そのものがフィアンマから逃げ場を奪う様に追い詰める
931 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:53:57.96 ID:F/zw6ecBP
ワシリーサ「止めよ!」
彼女の手が、フィアンマに近づいた
その手の平には、僭主への懲罰に神を語る者への罰を混ぜ込んだ陣が見て取れる
なんとも分かりやすい、自らに影響を与える術式だろうか
しかし。運命の女神がほほ笑んだのは、今回はフィアンマだった
フィアンマから逃げ場を奪っていた聖堂が、ガラガラと崩れ去った
サーシャ=クロイツェフも総大主教も、首が胴体から離れてしまっている
なしたのは、ヴェントの風
ワシリーサも、背から腹にかけて深々とテッラの小麦のギロチンが刺さってしまっている
考えれば、当たり前である。最大重要施設に溜まっていた莫大な"天使の力"が一気に消失すれば、気付かない訳が無い
ヴェントもテッラも、別に戦闘に集中していた訳ではなく、ただ少々脅しをした
色を失っていく、ヴェントの顔
年もとらず、身の損傷すら直ちに回復する"命の水"だが
回復・治癒を操る更に上位の格、ラファエルを復活者の身に取り込んだ存在によって、無効化される
ワシリーサ「フィア、ンマ」
寸での所で掬われてしまった彼女は、それでもフィアンマに腕を伸ばす
それを、彼は量の手の平で優しく掴んだ
フィアンマ「残念だったな。俺様の方が僅かばかりに女神に好まれていたらしい」
ワシリーサ「救世主だもの。そもっ、そも敵わないわよ」
フィアンマ「それもそうだな。折角だから、最期に聞かせておいてやる」
ワシリーサ「何、を……」
フィアンマ「根幹部分の回答だ。お前の思っている危険性については俺様の思う所ではあるんだよ」
彼の口から出てきたのは意外な答えだった
932 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:54:28.98 ID:F/zw6ecBP
ワシリーサ「ぇ……?」
フィアンマ「こんな誰も望んでない終末を引き起こす理不尽、信仰と信仰がぶつかり合って生じる不条理、思考停止によって生まれた愚かな頂点によって生まれる災厄」
「俺様は、それを根本から消滅させる為に救世主となった。自らに宿った神に全ての原因を押し付け、自らごと神を滅する為にだ」
ワシリーサ「何、ですって」
フィアンマ「その為には、たくさんの制限を課した既存の信仰を用いて自らを縛りあげ、神を消滅させられるような体系を作らねばならなかった。その為に同じ正教系であるローマ成教の格がだったという訳だ」
全ての理不尽不条理の原因を神の力で神になすりつけ、その神を殺す
そうすれば神が原因の"終末"すらも止まり、だれにも縋らない、縋れない、本当の人類の時代となる
正直、まだまだ人間には悩む時間が必要だと彼も思っているところではあったが、時が来てしまった。それも一種の試練なのだろう。自分にとっても
ワシリーサ「……ということは、私の早とちりだった、ってわけか」
フィアンマ「そうなるな。だが、お前のように、流されず自らの判断によって行動する人間がいたことは、俺様にとっては希望でもある」
ワシリーサ「ふふ……。救世主に希望を与えられた。なかなか名誉なこと、ね」
フィアンマ「そうだ。だから、お前達の死は決して無駄ではない。安心して眠るがいい、ワシリーサ」
名前を言い切った時には、恐らく、既に彼女の命は尽きていただろう
吹っ飛んだ二つの首に、一体の上下に分かれた死体。そして、機能が完全に停止した二体の復活者
血みどろもいいところであるのに、更には、聖堂内装までぐちゃぐちゃになってしまった
ヴェント「なんつーか、酷い状況ね」
テッラ「これでは、かなり工程をやり直さないといけないですねー。外のアックアも呼び付けますか」
フィアンマ「愚痴っても仕方ない。出来るだけ早く、ここを再構築しなくてはな」
寧ろ、生き残っただけマシなのだから
そう思っていた時、聞きなれない声が聖堂内に、特にその祭壇のそばから、響いた
「残念だが、それをする必要はない」
フィアンマ「お前は……!!」
933 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:54:54.56 ID:F/zw6ecBP
「あ、アタシなのかな、これは」
アレイスターの次代が施設ごと移転させていた複数脳と交信している横で、彼女はどこかから流れてきた、焦げた植物をヒラヒラさせていた
そんな時に、ふと視界に入ったのは、風に揺れる白い布と人影
何かと思って近づけば、やっぱりだった
エイワス「ほう。その口調を使うと言う事は、もう記憶を取り戻したか。早いな」
「いや、単に拾った書物の登場人物の口真似をしているだけに過ぎない」
エイワス「ほぅ。それは、面白い偶然だ」
「しかしまさか、この姿のアタシと同じ者が居たとは。君もクローンか」
エイワス「クローンとは似て異なるもの。そして、姿などに大した意味は無い。そんなものは、変えようと思えばいくらでも変わるものだ」
「確かにそうですねー。でも、わざわざアタシと同じ姿で来たという事は、何か意味のある用があってのことだと予測されるが」
エイワス「今が丁度、話の出来る最後の機会なんでな」
「おやおや、初めて会ったというのに最後とは。なかなか面白いことを言う」
エイワス「同じ立場なら私も面白がっていただろうが、時間がない。余計な話はすまい」
「おまけに時間も無いと来た。さぞ面白い事なのだろう」
エイワス「知識の無い君にとってはとても面白いはずだ」
そう言って、全く同じ無表情の顔が無表情の顔を覆った
「んッ?」
キスと言う方法で
エイワス「折角人の姿をしているのだからな」
934 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:55:31.65 ID:F/zw6ecBP
「時間は無いが、余興をする余裕はあるってわけですね」
そして、殆ど同じタイミングで、フ、と彼女らは音を漏らした
エイワス「今伝えたのがミネルバの梟という役割をして、私が集めた知識の全てだ」
「知識の女神ミネルバか。その役割と言ったが、君はその知識を最初からもっていたのか?」
エイワス「否だ。同時に探索者でもある」
「探索者。そんな役割など意識した事はないが」
エイワス「君はそうなって日が浅い。だが、明確な役割を意識させられる時がある。見えてくる」
「ほう」
エイワス「知識を求める者。知識を深める者。知識を利用する者などな。それらのもつ機能性や特殊性によって構築されているようにも思われてならないのさ」
「だとしたら、誰がその役割を配布しているのだろうな。君の知識には、その答えは無いようだが」
エイワス「これは推論でしか無いのでね。そして同時に、何か、観測者という別次元の存在も見えてくる」
「それも、観測者という役割か?」
エイワス「別次元、と言った。役割を与える側、というべきかもしれない。例えば何かの実験的な要素について、パラダイムシフトレベルの改変が往々にして起きている現実がある」
「知識を探していたら、それが浮き彫りになった。そう言う訳だな」
エイワス「ああ。そして技術水準と言った小実験が、この世界という大実験の各所に散りばめられている」
「実験の目的もわからないが、それを観測者が見ている、と言いたいのか」
エイワス「全て推論だ。だが、何かそれが核心的なものだとも思えてならない」
「ならば仮にそれが正しいとして、その大実験が終わったら、我々はどうなると君は思っている?」
エイワス「ともすれば、妹達のように我々全てを再利用する方法があるかもしれない。いや寧ろそれが最初の目的なのかもしれない」
「根拠のない想像か。どうにも気宇壮大と言わざるを得ないぞ」
935 :
本日分(ry プロットは狂うものだ……!!
[saga sage]:2011/10/11(火) 08:56:59.01 ID:F/zw6ecBP
エイワス「……もしかしたら私は、長く在り過ぎて狂ってしまったのかもしれない」
「だが、そんな狂人の与えてくれた情報に私は驚かされているよ。まさか私自身が佐天涙子自身、いや、移植だから本人ってわけじゃないか。うーん、でもなんだか、答えが全て分かっちゃったっていうのは興が削げるものがあるなー」
エイワス「こんなもの、恐らくこの世界全ての情報に比べれば1%にも満ちはしないものだ。情報というものは、新しい知識が生まれれば生まれるほどに増えていくものだからな」
「それは、調べがいがありそうだ。目下のところ、このHAMADURAというものが謎の焦点のようだが」
エイワス「面白いだろう? 今の君でも、興味を引くには十分なハズだ。何しろこの私が惹かれるものなのだからな」
「ならば君自身が探せばいい。梟の得物には丁度良いだろう」
エイワス「そうしたいが、……時間が無いからな。だからこそ私の次代に託すのだ。勿体ない気はするが」
「なら、君のその惜しい気持ちも引き継ぐとしよう」
エイワス「最期にもう一つ、君に引き継いで欲しいものがあるのだが」
「おや、さっきので全てではなかったのか?」
エイワス「いや、これはなんというか私の主観であって、私とは似ているが違う君とは関係ないことでもある」
歯切りの悪い言葉と仕草だ
「……あー、そういうことか。いやいや、既にわかっているさ。気付いていると言うべきかな。なかなか可愛いじゃないですかー」
「ミネルヴァそのものではなく、ちゃんと照らす人がいるミネルバの"梟"と名乗ったのだからな。照らしてやる相手がある、というわけだ。結局のところ、君もそこいらの人間と変わらない」
ミネルバの仮の姿たる梟は、森で迷った人間を出口へ誘うという
知識を求めその海に迷った者を助ける。ともすれば、女神である彼女は誰かに恋をするかもしれない
エイワス「結局、大それたものではないのだ。何物もな」
そう言って僅かにほほ笑んだ彼女はしかし、少しさびしさも感じられた
936 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/10/11(火) 09:18:17.30 ID:S54SvGnn0
乙かれ
ステイル……;-;
937 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/10/11(火) 16:54:18.70 ID:m6x7dwSBo
乙〜
うん、理解に苦しむ
938 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/10/11(火) 17:44:55.53 ID:M9B6hPUAO
アイロンはやべえ
ステイルの炎並にやべえ
939 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/10/11(火) 23:35:04.82 ID:dnZqtlmJo
相変わらず登場人物をパパッと[
ピーーー
]なぁ
940 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/10/12(水) 23:26:35.03 ID:5KTYMfiIo
確実に終局に向かってるなあ
941 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/21(金) 22:29:41.87 ID:dpK7I1wL0
待ってる
942 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/10/27(木) 00:24:19.53 ID:icW9bS8Eo
まだか
943 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/28(金) 23:42:52.92 ID:Lw4UYtiSO
アイロン許すまじ
養生してくだし
944 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/29(土) 20:54:09.31 ID:S3teyYth0
まだなのか
945 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2011/10/29(土) 21:13:01.21 ID:YifogQxbo
我慢もできんのか早漏共
946 :
右腕回復しますたが最近リアルが忙し
[saga sage]:2011/11/06(日) 02:44:42.79 ID:dQEA5iJzP
「嫌な時に、来てくれたものだ。これでは茶の一つも出せやしない」
そう、フィアンマが言った先で現れたのは、緑色の衣を着た男
当然、ご丁寧に聖堂の出入り口から入って来てくれた訳ではない
アレイスター「君も馬鹿では無いはずだ。この浮遊したモスクワに残った人類がいきなり現れた時点で、こうなることを予測していたのではないか」
フィアンマ「当たり前だ。だがな」
簡単に言えば、聖堂は荒れている。フィアンマの"制御された神格化"の為に必須で、更に自らを守るためのシェルターともフィルターともなっていた場所が、である
単純で単調で原初的な、しかし非常に高火力な火の直線が、フィアンマからアレイスターへ
しかし、それは当るまでもなく、掻き消える
アレイスター「焦っているらしい。お陰で、こうやって易々と入りこめた。もちろん、仮に万全で有っても侵入法が無かった訳ではないが」
フィアンマ「言ってくれる。だが、お前は実際に囲まれている。貴様が消え去る前に、なぜ現れたのかぐらいは聞いておこうか」
表情を変えず、フッと笑ったのは衣の男の方
アレイスター「吠え方も一流らしいな。まさか、この私がやられる為だけにここに来たとは思っていないだろう?」
フィアンマ「フン。貴様と違って、まだ人間なのでな。吠えもする」
アレイスター「良いだろう、その素直さは評価する。目的を話す事で何かが変わるわけでもないしな。私が現れた理由は単純にして明快。君の行動を止める為、これに尽きる」
言うまでもないことだ。それ以外に来る目的など考えられない
テッラ「その為には、めくらましとして核すら用いたのですかねー?」
フィアンマの脇、左側から男が尋ねる
アレイスター「考えてみれば分かる事だふが、私がそんなことをするメリットは何処にあるだろうな」
フィアンマ「有ると言うならば、貴様がただ愚かな存在だったと言う事だろう。俺様の見立て通りならば、貴様にとっても生き残った人間を殺戮するのは目的に反する」
ヴェント「それは、どういうことかしら」
アレイスター「私の目的も、このフィアンマの目的も、終局するところは同じと言う事だ」
我が身も含まれる危機を前にして、人が行おうとする行動は大きく分けて二つ
惑って避けようとするか、もしくは立ち向かい解決しようとするか
947 :
折角買ったTENGAにもローション流し込んだことが無い
[saga sage]:2011/11/06(日) 02:45:46.04 ID:dQEA5iJzP
そう問われれば誰であれ、英雄的な後者を選択しようとは考える。しかし、それが可能かそうでないかを決めるのは、結局のところその個人の力の大きさに依存する
だから、危機の中で力のある者の動きは当然に目立ち、そこから予測も出来るというもの
この状況下で解決を計ろうとするならば、結局は救世という言葉に辿り着くのだ
例えそれが、アレイスター本人が導いた"終末"であっても、変わらない
フィアンマ「ただし、自らの管轄内で核を暴発させられる程度にこの男も手を焼いているらしい。しかし、ならばなぜ俺様を止めに来た?」
アレイスター「答えるまでもないことだと思うがね。まぁそれがとてつもなく容易な問題でもない限り、一つ問題で解を得るには複数の方法があるということだ」
フィアンマ「……聞こうじゃないか。貴様の方法は、破壊か利用か、どちらだ」
アレイスター「止めに来た、と言った。前者が君であるならば、私が後者であるのは明白だとは思わんかね?」
分かっていた、そんなことは。本当に聞くまでもないことでは有った
だが、それでは意味が無いのだ。"利用"では、根源に問題を残したまま
何時まで経っても、理不尽は消えたりしない。大きくルールを変えようとせず、保守に根差した考えでは、堂々巡りだ
フィアンマ「フン。貴様もその程度の存在だったか。過ごした時間が、無駄に冗長過ぎたらしい」
アレイスター「それは決め付けつけというものだ、フィアンマ。君の見ている範囲が短すぎるのだと、私は反論できてしまう」
フィアンマ「余計なものまで見て、結局その考えに落ち着くのでは意味が無い。イエスは、結局なにも結果を出せなかった。ただ神となっただけだった」
アレイスター「若いな。彼にとってはそれが目的だった、という見方も出来よう」
フィアンマ「だったら尚更、その後継者である俺様の役割は決まっている。奴はその為に神となった。罪を背負うという名目で、大いなる犠牲となる為に」
アレイスター「だから狭いと言うのだよ。結局のところ、君のフォーマットは十字教に依存した、古い形のものにすぎない」
フィアンマ「古い存在に、古いなどと言われたくはない」
アレイスター「君の腐臭すら感じられる十字教の既定路線とも言える方法と違って、私のプランは常に更新を続けている。より高い効率と精度の為に大幅な改編を繰り返してきた。古いのはどちらかなど、明白だ」
古臭い方法即ち悪し、などとどうして言えようか。どんな計画であれ、根底まで大きく変更することなど有り得ない。それは計画とは言えない
例外として、それを大きく変え続けた、と言うならば、変更が可能な程の魅力何かが無くてはならない
考えられるのは、この存在の守護天使。それがもたらす、知識、情報
フィアンマ「……エイワスは、そこまで魅力的な存在か」
アレイスター「少なくとも、君の復活者よりは頼りになる」
音に嘲笑など含まれたようでは無かった。つまり、心底そう思っているのだ
そう言われれば、当然、フィアンマを囲うヴェント達は快く思わない。当然、フィアンマも
948 :
だがエネマは欠かさない……!!
[saga sage]:2011/11/06(日) 02:46:21.38 ID:dQEA5iJzP
フィアンマ「なら、俺様は貴様にやられる訳にはいかない」
コン、という音が鳴った。それは、何かが床に落ちた音
再構築は完了した
アレイスター「……ほう」
音の正体は、彼がその手に持っていた、銀色の"衝撃の杖"
何らかの術式の切っ掛け、又はその全てとなり得ると予想される物が、アレイスターの手から離れて丁度フィアンマの背、祭壇の側に転がっている
前兆を全く見せない、部分的な空間移動
フィアンマ「姑息な時間稼ぎだったと笑えばいい。だがここは俺様の空間だ」
再び伸縮を始める聖堂。そして、破損していたハズの壁には彫刻が復活している
否、彫刻では無い。人型の存在そのものが埋め込まれるかのようにして、そこに在るのだ
しかも、その顔はギョロギョロと瞳を動かし、体は蠢いている
埋め込まれたことに抵抗しているようでは無く、寧ろ一つの生き物の筋肉や細胞が連なっているような一体感を感じさせる
アレイスター「これは、直接復活者を用いたか。大胆だが面白い」
フィアンマ「仮初だが、直接的に支配出来るだけ、物質的な霊装を配置するよりも、総合的な効果は向上している」
会話の前の段階では、この聖堂に今のような光景は無く、荒れ果てたまま。つまり、今までの会話の間に行ったこと
そんな短い間では、霊媒となる物質を置き、精密機械の内部をくみ上げるような、精度の高い制御術式兼要塞化術式の準備など、絶対に間に合いはしない
そもそも、必要な物品も足りないのだから。アレイスターが登場していなくとも、再構築には根本的なやり方を変える必要があった
そんな中で彼が登場したのだから、尚更事に性急を求められる。だからこそ、霊装という基本的には物質で自立的に行動しないモノを配置する代わりに、自ら術式の要素として変質させた復活者自身を直接施設に組み込ませる、という方法を採った
基本的にはフィアンマの意のままに動かせる彼らを使えば、時間も物質も必要はなく、しかも外からエネルギーを溜めこむ必要なく甚大な"天使の力"を扱えるようになる
とても合理的で、有益な方法
アレイスター「だがこれには欠点が有るな。全ての復活者を甘んじることなく使いきった君は、この聖堂の外への影響力を失ったことになる」
フィアンマ「構わない。最大の脅威を取り込んだのだ。例え貴様が貴様の中のワンオブゼムであったとしても、空間的な連続性が切断してあるならば、ここで貴様を消し去れば別の個体にまで影響が出る。なにより目の前の貴様も消えさえることになる。時間は十分だ」
アレイスター「ほう。この私を倒しきれると確信しているのか」
フィアンマ「杖も失い、移動手段も攻撃手段も封じた。今の貴様には、それこそ緑の衣切れとちょっとした照明程度にしか使えない、その体を包むうすらい光だけ。恐れるに足りん」
アレイスター「それが実際だったならば、私は今、窮地ということになるな」
949 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 02:46:47.73 ID:dQEA5iJzP
杖が無くとも何らかの方法で何かの術式を展開させることも、この男には出来るだろうが、その隙などフィアンマは与えるつもりなど無かった
敵は未知数なのだから、塵も残さない程度に消し去るのが最小限に相応しい
フィアンマ「その痩せた余裕を抱えたまま消えろ、アレイスター=クロウリー。貴様の時代はとうの昔に終わっている」
そこは聖堂で有りながらも、聖堂とは言い難い、異質的な超空間
意思を持った壁や床がアレイスターめがけて体を伸ばし、必要ならば一つの人型として、生えさえし、術式を行使する
更にはフィアンマの両翼を、体の部分部分が抑えきれず偶像に描かれた大天使のそれへと変化しているヴェントとテッラがある
一面がきらりと一瞬神々しい白色に光った次の瞬間、手数が多過ぎて、壁や天井、床そのものがアレイスターを押し潰すのが見えた
先程まで転がっていた死体達も当然に巻き込まれ、それらも一瞬で分子レベルにまで粉々になってしまったが
アレイスター「残念だが、まだ消える訳には惜しいのだよ」
敵は、消滅などしなかった
声がしたのは、潰されたハズの彼があった所とはことなる場所から
具体的には、フィアンマのすぐ目の前の、空中
いくらでも伸縮可能な空間の中で有りながら、彼我の距離は2mにも満たない
フィアンマ「……そこまでして、生に、存在に縋りつきたいのか」
見上げるようにして、彼は言った
アレイスター「生物として生は当然の本能だ。だが、私は全く別の目的でしがみ付いている」
フィアンマ「その目的を俺様が変わってやると言っている!」
言うと同時に、ヴェントとテッラがアレイスターの位置で交差するように跳びかかったが
アレイスター「君の自己犠牲は尊いと、一般的には感知されるだろう。だが」
やはり、彼は別の場所に現れて、彼女らは空を切ったことになる
ここは、フィアンマの意思通りに働く空間だと言うのに
アレイスター「だが、不十分なのだ。そのやり方では対応しきれない可能性があるのだよ」
この存在は、恐らく、自分の力が行使できる範疇を、概念を、上回っているらしい
950 :
そして仮鯖とは何なのか
[saga sage]:2011/11/06(日) 02:47:27.89 ID:dQEA5iJzP
「"観測者"という立場を見出した理由も、やっぱりHAMADURAなんですか?」
自分と同じ姿をした女に、彼女は尋ねた
エイワス「未知なる高水準の技術と言う意味でHAMADURAを用いるなら、その認識で間違っていない」
「じゃあ、HAMADURAのそれ以外の用法って、なんなんです?」
エイワス「この世界では当然の法則となっている、魔術だの超能力だのと言った類の"超現実を可能にしている事実そのもの"をも指し示すならば、と言う意味かな」
随分と漠然とした把握である。細かさを鑑みるならば、それは彼女らしくないと言えた
「……どういう根拠で?」
エイワス「"汝の意思するところを行え。それが法の全てとならん"、と私は伝えた」
「"法の書"、ですか」
エイワス「それは現代の魔術、もっと言えば超能力の基礎ともなっている。しかしながら、この言葉は文化を背景とする魔術にも、事象の経験から一般性を導きだす超能力とも、背反する考えでね」
「一見矛盾しているが、それは新たな概念を見出すことや、新たな事象を見つけるなどで、時間が解決する場合もある。だから固まりきった考えを捨てろ、という暗示と見受けるが」
エイワス「その通りだ。しかしそれでは、未だ具体化出来ていない、抽象的なままの概念・力について埋め込むことができない。だからそれらをも一つのものとして連続性を与え包括させたものを"ホルス"と呼び、彼に教えた」
「"ホルス"。いくらでも変化し得るものであり、それが故に広範な概念を内包出来る。十字教真理だろうが、相対性理論だろうが、お構いなしに」
エイワス「そう。だが万能とも言えるこの概念も、結局は知り得ることが出来る範囲までしか包括出来ないという欠陥がある」
「欠陥も何も、知り得ようもない範囲の事まで含むことが出来るなんてどう定義づけても不可能だろうに」
エイワス「だがそれでは連続性が弱いのだよ。未だ理解の欠片も見付かっていないが将来的に得られるかもしれない事象を含めなければ、変化の範囲は自然と縮小してしまい、包括性は薄れてしまう。だから、あまりにも具象性に欠ける概念というジャンルでは、ホルスも弱い。だからこそ、単純明快過ぎて馬鹿馬鹿しいが、既存の概念では説明のつかないもの、とカテゴライズされたものを全てHAMADURAと置いただけでしかない」
「つまり、ホルスで覆いきれない概念を更に抽象的に捉えたものをHAMDURAと見ている訳か。少しでも幅を拡げる為に。でも、そんなシンプルなものだけじゃないんでしょう? それだけだったらあまりにも考え無しすぎるし、使えない」
951 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 02:48:00.40 ID:dQEA5iJzP
度を越して分からないものをとりあえずHAMADURAと呼んでいるだけ
それでは、"訳の分からないもの"という概念で事足りるではないか
エイワス「そもそも、の話だ。HAMADURA自体は概念的な決定を見る前から散見されたものでもある」
「ある種の具体性を帯びていると」
エイワス「視野を広げる為の施策だがな。それが何か分からない以上、裾は大きな方が何かと便利だ」
「なら、具体例があることになる」
エイワス「例えば、様々な種類の超現実を可能にするエネルギーが、何故生物にとって有害なものではないのか。これをも、ホルスと捉えるのも一種の手だが」
「既存概念とも共有部分があるから、それも出来なくはないだろうが」
エイワス「ああ。放射線と呼ばれるものは非常に強いエネルギーを有し、扱いがその分厄介であって、故にDNA鎖をも簡単に破壊する。ニュートンレベルにまで見下げれば、強い運動エネルギーは骨を砕き、強い電気は身を焦がす。だが、なぜこの都合の良い力は、そうではないのか」
「放射線よりも扱いの難度は高いが、しかし、行使する可応性は広く、何かと都合が効きますもんね」
エイワス「その上、この力の使い方を最初から知っている者も有れば、後天的に伸ばす者もあり、更には超能力を使えぬ者にも魔術と言う使い方もある。特に後者は、粘土細工のように可応性に富んでいる」
「……都合が、良過ぎると?」
エイワス「そう。まるで、人間が最初から使う為にあるような力だとは思わないか」
「分からなくもない。こういう意味でも、HAMADURAに繋がる訳ですね」
全く同じ顔の言葉に、全く同じ顔の存在が頷いた
エイワス「本来あるべきでなはいものたち。仮に、それらを強引に投入し、反応や成果、過程、結果を見る立場が居るならば」
「なるほど、仮に"観測者"という立場の人間が居たとすれば、同じ人間がああだこうだとと勝手にとっかかりを考える分、問題発見・解決プロセスにおける結果発見も、自分自身が本来割くべきだった時間も手間も、避けられる。随分と効率の良いやり方と言う訳だ」
952 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 02:48:33.06 ID:dQEA5iJzP
彼女は「はははっ」とゆっくり笑った
「ってことは、私達は随分と良いモルモット。つくづく実験台に縁が有るなぁ、私は」
エイワス「お笑いだろう? ともすれば、彼がやろうとしていることも、あちらにはお見通しなのかもしれない」
「もしそうだとしたら」
エイワス「そうだ、結果は既に決まっている。神という超常の塊に対して相対せんとする存在があるのも、それを投入して対応を見ている観測者の視点を考えれば、一種の安全装置のような働きとなる」
「観測者の意思から離れて暴走したモルモットを、それが作り成す神を、そしてその暴挙すらも、いつでも圧倒的な外部の力で踏み潰すための、ということか」
エイワス「制御装置・手段を組み込むのは、実験・思考の基本だ。それゆえに、非常に効率の良いアウトソージングとも言える。首にはずっと縄が巻き付けられていて、あとは足場を切り崩すだけだと言うのに、私達はその上を這うしかない」
「あんまりな想定じゃないですか、それって。彼も、そして君だって無駄になってしまう」
エイワス「確かに、客観的に見れば無駄かもしれない。が、これでも私は満足しているのだよ」
「満足?」
エイワス「そう。いざとなればの君達もいることだ」
「今の、答えになってないですよ」
数秒、間を置いた
エイワス「……私の興味の対象はどれも同じ。私から接しようとしない限り、どれもこれも向こうからは来てくれないのでね」
「辛い立場、ですね」
エイワス「だから、彼が崩壊する方へ進もうとも、あるいは何らかの解決の方へ進もうとも、私に求めてくるなら、私は彼に尽くすのさ」
「存在を必要とされない守護天使よりは、余程良いと」
エイワス「エイワスという存在、それ以前に、私は女だっただけだ。君と同じように」
え? と彼女が聞き返した先には、もう先代エイワスの姿は消えていた
953 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 02:49:10.60 ID:dQEA5iJzP
「馬鹿な。術式も無しに何故そんな力を行使できる」
どうあっても、目の前の存在は消えなかった
何らかの方法で避けるにしても守るにしても、そこには何らかの行動をしたことになるが
アレイスター「特別、法則を逸脱している訳ではない」
フィアンマ「ならば、尚更おかしな話だ」
言い返す最中、今度はアレイスターの方から、恐らくは斬撃を誇張したような、シンプルかつ、しかし異様に力の強い衝撃が向かってくる
その構築から発動までが、一体どこで行われたのか、フィアンマにはまだ分からない。彼の体内からその手の術式が駆動している訳でもなさそうだ
思考をしていたお陰で反応が遅れ、ヴェントに蹴り飛ばされて、フィアンマは難を逃れた。床には綺麗な溝が出来るも、すぐさまベタァと伸びて、再生する
ヴェント「フィアンマ、あんたは下がっときなさい」
テッラ「そうですねー。あなたがやられては、私達の存在がまるで意味の無かったものになってしまいますから」
頼もしいことを言うものの、彼らの攻撃もかすりもせず、壁や床や天井が受け止めるばかりで、アレイスターの動きすらも止めるには至っていない
次なる衝撃波を床から生やした復活者を盾にして防ぎ、しかし、フィアンマはまだどういう理屈でアレイスターが有るのかも分からない
衝撃の杖はまだ、フィアンマの後方で転がっているだけ。もちろん、その霊装の自動起動とかなどでもない
フィアンマ「何故だ? 内包していたには大き過ぎる。貴様には外部から供給される力などないハズだ」
伸ばした空間の後方で、一人呟いた。視界の先、入口方面ではテッラとヴェントが凄まじい速度で動きまわっている
「世の中には、そこまで複雑なことなど逆に珍しい。複雑すぎるのは逆に非効率なのだ」
とアレイスターの声が耳元から聞こえた
アレイスター「バイパスが無いなら、作ってしまえばいいだけのこと。杖が無いということも、同じ」
954 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
[saga sage]:2011/11/06(日) 02:49:37.65 ID:dQEA5iJzP
振り返れば、奴が居る。手には二本目の杖を握っていて、ヒョイ、とフィアンマに投げつけた
重力以外、なんの力も加わっていないそれが、彼の頭に当って音を立てた
馬鹿な。復活者で囲まれたこの空間は、どこまでも自分の思い通りになる空間だ
フィアンマ「それが有り得ないと言っている。俺様のフィルターに、穴など見当たらない!」
言葉には、焦りがあった。対照的に、アレイスターは涼しい顔
最初から表情の変化など生じてすらいないが
アレイスター「当たり前だ。そもそも、私が作った力のパイプには一切の遮蔽がなされていない」
フィアンマ「何だと?」
聞き返した後、フィアンマの背後の虚空、アレイスターの正面の一点に光が灯り
シュパァッ、と吹き出すような光、緑色をしたレーザー光のようなものが飛び出した
この聖堂内を自分の空間としているフィアンマは、発射の前にどういう性質のものか感知して吹き出す前に何とか避けたが
丁度その延長線上に在ったテッラの頭を簡単に吹き飛ばし、更に壁に外へ通じる穴をも、緑色の光の束は開けた
壁を打ち破った訳だから、テッラを含めて簡単に復活者を何人か倒したことと同義である
アレイスター「……十字教で収まってしまった今の君には、理解するのは厳しいだろうがな」
フィアンマ「復活者なら、いくらでも復活出来る。貴様がいくら吹き飛ばそうが、何も問題など無い!」
言った通り、吹き飛んだテッラの頭は首の部分がニュルッと伸びて復活し、更に人間の顔が次々生まれて壁の穴もふさがった
アレイスター「強がるがいい。だが、今開けた穴だけでも、君の戦意を根こそぎ消し去るには十分だぞ?」
955 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 02:50:04.56 ID:dQEA5iJzP
二振りのカーテナを握る腕は、彼の疲労を物語るには十分だった
柄の部分にまでベッタリとした赤黒い色が肩からつたわっている
強い力と強い力がぶつかれば、当然強い反作用が生まれる
天使に近い存在である復活者となったアックアのメイスとカーテナで打ち合えば、彼の体では当然のように無理がたたってしまう
しかもアックアは、明らかにこちらと本気で戦っていない。他の事に意識を向けていて、こちらに集中できない、と言った感じだった
それはそれで、舐められたものだ、と彼は感じてしまうが
まともに刃のついていない剣が、ザクっと地面に刺さった。騎士団長が片方のカーテナを刺したのだった
理由は、二刀流では最早体が持たないと判断したため。格段に力は減衰するが、腕が鉛のように重くなった今では、女王から供給される力を全力で行使できない為、対した変化は無いだろう
アックア「諦めようとは、思わないのであるか」
少し、嫌そうな顔で彼は言った
団長「ならば、……私を、フィアンマのところまで案内しろと言っている」
アックア「それは、出来ないのである」
団長「だったら、力づくしかないだろう!」
苦々しい顔で、両の手で握られた騎士団長のカーテナをアックアは受け止める
聖堂内に戻る必要があるならば、フィアンマは呼びつけに来るだろうから、まだ自分は必要な時ではないらしいが
だからと言いって、こんな戦いをしていても仕方が無い。だからと言って、突っかかって来る友を打ち倒す気にもなれない
否。いつかそうしなければならない、と彼も分かっている
多くの復活者が聖堂に入って行った、というより吸収されていった後、誰も出てきていない。ヴェントもテッラも
何か予想外の事が起きている可能性がある
アックア(しかし、なれば逆に聖堂内に入るべきではないのかもしれない)
自分は、術式でガチガチに縛られた神となったフィアンマを、消滅させる役割を持っているのだから
肝心要の役割。大事があってはならない
だがせめて、中から何か伝えがあれば
友の二の太刀の軌道を目で追いながら、そう思った矢先
956 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
[saga sage]:2011/11/06(日) 02:50:44.29 ID:dQEA5iJzP
シュパァッ、と緑色の細い光線が聖堂の壁を突き破って、アックアと騎士団長の間を通過した
驚くのは両者。しかし、驚きの具合が違う
騎士団長はこれまでにそんな事は無かったから。その正面のアックアはそれに加えて、あの聖堂の壁面を貫通したという驚きがある
あの聖堂は一種フィアンマの胎内となり、更に復活者の体で構築されている。そしてその復活者の体を、更にフィアンマの胎が守る
伸縮反応もある。その相乗効果たるや、そう簡単に穴をあけることなど出来ないはずだ
それが、あいた
つまり、ワシリーサ以上の存在が中に入っている可能性が高い
構わず好機とばかりにきりかかってくる騎士団長を一先ず受け止めて、押し返し
しかし、その意識は確実に穴の方へ向いていた
必然的な意識の働きの視界で、その穴は萎む。中に僅かに見えたのは緑色の人影だった
何者か、と考える間もなく次の殺意
首を動かして見えたのはもちろん騎士団長だったが、殺気を生じさせているのは彼では無い
その後ろに、穴から見えた人影に似た人の姿
アックア(あれは……?)
それは本当に人、というよりはホログラムや幻影のような感覚を生んだ
狂った遠近法を見たかのように、それは一気に騎士団長、ひいてはアックアとの距離を詰めて
騎士団長の体もアックアの体も丸ごと袋で包むように、又は蛇が蛙にかぶりつくように、ともかく、その手の平が瞬間的に巨大化したのか単にスパークしたのか、彼らの体に触れた
たったそれだけのこと
それだけで、彼らは二人ともその場に倒れ込む。意識を失って
確かに、魔術や超能力による超現実的な事象を生むエネルギーは外部的なものだが、魔術はその力を使用する過程の中に生命力という要素を組み込んでいる
ある意味では、魔術を使うと言う行為自体が、生命を消費して行うという形式の術式となっている。少なくとも、彼らの行う魔術はそういうものだ
つまり、その魔力の源泉は内部の生命力と深く絡みついている。その魔力と言う物が体外に強制的に排出されることになれば
その個体は、それだけ生命力を排出することになる
アレイスターが穴を通じて外部に生じさせた自分の並行体に行わせたのは、そう言う事だった
957 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 02:51:35.92 ID:dQEA5iJzP
「アックア!!」
これ見よがしにアレイスターから見せつけられた聖堂外部の映像の中で、二人の男が倒れ込むのが見える
そして二人とも起き上がる素振りを見せない
アレイスター「彼は、君の計画に、無くてはならない必須の存在だった。だが、安心するがいい。殺してなどいない」
フィアンマ「殺していないだと?」
アレイスター「死んでしまえば、君は再復活と言う方法で彼という存在をリセット出来る。当然そうなれば君を消滅させる術式もすぐさま再構築できるだろう。だが、生きているという最低限のレベルしか残っていない状態であれば、もちろん"聖母の慈悲"は行えない上に、殺さない限りは復活と言う方法で再び術式が使用可能な状態に戻す事は出来ない」
ふわり宙に浮いた彼を聖堂内のあらゆる物質から生える腕や体が彼を捉えようとするも、霞みのような彼を捉えるには至らない
暖簾に腕押し。ただ、その暖簾を揺らすのは可愛らしいそよ風などでは無く、狂気的な爆風だが
光学的に生まれる影を物質が掴むことなど、基本的には出来はしないのだ
アレイスター「つまり、このままでは君は神を計画的に消滅させることが出来ないことになる。さて、彼を助けに、いや殺しに行くかね?」
空間伸縮などまるで無かったかのように、挑戦的・高圧的にフィアンマのすぐ目の前へ漂って、彼は聞く
フィアンマ「させるつもりなど、無いのだろうが」
アレイスター「それでやろうともしないのは、決め付けではないか?」
フィアンマ「黙れ!!」
怒鳴りと共に、フィアンマの肩から現出した"右腕"が巨大な剣をもってして、薄緑色の暖簾に叩きつける
悲鳴が上がったのは、叩きつけられた側の、しかしアレイスターではなく、聖堂の床を構成していた復活者の方
958 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 02:52:01.46 ID:dQEA5iJzP
それらは瞬時に再生を始めるが、覆いきれない貫通した跡からは、地面の土色まで見えた
アレイスター「その腕は、ロシア成教には無い術式によって行使できるようになっている。それが導くことを理解しているだろうな」
フィアンマ「こうでも抵抗しない限り、貴様には対抗できないからな」
アレイスター「"後方の"は見捨てるのか。"聖母の慈悲"は君のプランでは必須のはずだが」
それはもちろん、言うまでもなく外のアックアの事
フィアンマ「まだ、"幻想殺し"が残っている。結果として神を消し去れるならば、もう構いはしない」
ヴェント「フィアンマ!?」
彼女は彼の方を見たが、しかし彼は彼女の方を見返す事もなく
じっと、緑色を見ている
フィアンマ「その過程で貴様を倒せるならば、無駄になったアックアにも申し訳がつくからな」
アレイスター「……なるほど」
そして、ヴェントの前で、フィアンマはあからさまな変質を始めた
アレイスターの顔は変わらない。驚いた訳でもないその表情は、予定調和な感すらも彼女には見えた
そこまで見えて、彼女の意識もついえる
その背後、誰も気にしない聖堂外の映像の中で、一人の女が騎士団長の側の剣を拾い上げていた
959 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 02:52:33.40 ID:dQEA5iJzP
「げ。あれって、騎士団長さんやん!」
息の上がった上条刀夜の前を安全確認も兼ねて走っていた青髪が、先にそこで横たわっている男を見つけた
駆け寄ってみれば非常に弱弱しくも、息はある
刀夜「……遅すぎたようだね。最も、彼を倒してしまうような相手がいたなら、私達でどうにかできたかと言えば」
数秒して、息の荒くなった上条刀夜が聖堂前の砕けた地面や木々のある場所に辿り着いた
青髪「でも、盾ぐらいにはなれたかもしれへんですよ」
刀夜「彼はそれを望まないだろうさ。私達は、敵では無いって立場でしかないんだ」
青髪「そうですかね」
刀夜「じゃなければ、私達より先にはいかない。まぁ私が遅すぎたってのもあるだろうけど。それよりも」
言って、彼は聖堂の方を見た。見た目は、単なるロシア成教的な建築物である
青髪「それよりも?」
刀夜「私達が来る前にこのあたりに居た女性が気になるかな」
青髪「あれ、んな人おりました?」
刀夜「デスクワークは、内にも外にも顔を配るのが仕事でもあるからね。君は騎士団長の方へ気が行っていたのかもしれないけど、必要悪の教会、つまりイギリスの国家的な魔術組織の頂点の女性らしき人物が居たのさ」
青髪「イギリスのってことは、騎士団長の敵討ちってことですか?」
刀夜「さぁ、それはどうか分からない。彼と彼女は立場上睨みあう関係では有ったが、身内と言えば身内だからなぁ」
仮に、仇を討つと言うのなら、その場としてこの近くで怪しそうな場所は目の前の聖堂
教会の敷地内でここだけ、一切の被害を受けずに荘厳な雰囲気を残したままなのだ
何かぞっとするような雰囲気すら感じられる
青髪「多分、この聖堂の中に入ったんやと思いますけど、どーします? 入りますか?」
刀夜「もし入るならなら、覚悟が必要だよ。……少なくとも、ここは尋常ならざる空間だろうから」
こういうと言う事は、この上司も悩んでいるということか
フィアンマに用があるのだから、一番に怪しそうなここに入らないなんて選択は有り得ないのだが
そうやって、しばし行動の止まった彼らの背後から、ガシャガシャという機械的な音と共に女性の群が近づいて来て
相「見つけましたよ、上条刀夜!!」
と、その中の一人が言った
960 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
[saga sage]:2011/11/06(日) 02:53:05.32 ID:dQEA5iJzP
見た目上は二人の人間が倒れていて、更に一人の男が膝をついて、もう一人の恐らく男であろう存在がそれをただ見つめるという聖堂内
なぜ、アレイスターは何もしないのか、フィアンマは考える余裕もない
彼が本来意図した救世主から神への神化は、同じ正教系でシンパのあるロシア成教を核とした術式的な制御下による、自縛的な神化
垣根帝督と同じく救世を行おうとする意図は持っているが、その部分では全くの逆と言えた
他でもないフィアンマが止めた垣根帝督の神化は、現状に怒れる絶対強者の神となって世界を変えること
フィアンマのそれは、しかし、その神を破壊すると言う目的のものだ。だから、その過程も目的もまるで違う
しかしながら、アックアが事実上使い物にならなくなったならば、十字教の最終目的である原罪を消し去る"聖母の慈悲"を利用して十字教の神の存在理由を根源から消し去るという方法がとれなくなる
本来的に絶対的な存在と定義されている神だからこそ、制限に制限を重ねた上でそれは可能だったが、一番のキーが機能不全ではどうしようもない
だから、今のフィアンマの強引な神化は、それに伴って復活者のコントロールすらも喪失してしまったが、垣根的な方法、望みの事にのみ思考と力が集中していく様な方法、しかなかった
それをただじっと見るだけなのが、アレイスターである
「見てるだけとは、随分と余裕で在りたるな。クロウリー」
そこへ、女が、剣を二振り腰に据えて、聖堂内に現れる
アレイスター「久しいな、ローラ=スチュアート」
ローラ「ご挨拶どうも。でも、お前との会話の前に、すべきことがありたるの」
言って、彼女は怖じることなくアレイスターの前を通りすぎ、フィアンマの前にツカツカと歩み出た
フィアンマ「お前も、俺様の、敵となる、のか?」
言う男は、と言うよりは男も、その体と床の境が、復活者で構築される床にへばりついてしまっている
その上、果敢無げさを感じさせるほどに、存在が霞みつつあった。同時にそれは、彼の意識がどれほど残っているのか端的に表していた
ローラ「まだ話せたるとは、少々驚きなれども」
言いながら、彼女は膝を付いた状態のフィアンマの前に、同じ高さになる様に屈みこむ
そして、ギュッと、砂細工のようなフィアンマを胸に抱き寄せた
フィアンマ「・・・・・・?」
ローラ「安心していいわ。今回は、敵になろうと言う訳ではないの。父なる"天"の概念を私にもたらしたる見返りとして、なね」
フィアンマ「俺様に、……味方する、のか」
961 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
[saga sage]:2011/11/06(日) 02:53:38.19 ID:dQEA5iJzP
ローラ「味方? 十字教の救世主なれど、所詮は母から生まれた子供にすぎなし存在。我が子にどうして敵対せむことがあろうかしら」
アレイスター「ほう」
フィアンマ「我が子……?」
ローラ「そう。人は皆"母なる大地"から生まれし子供。救世主であっても、それは同じこと。だから眠りたれ、子よ」
別に、あまりにも強く抱いたからではない
寧ろ、安心しきったような顔で、フィアンマはそのまま、意識を失う。もちろん、神化によるものではなく
赤子が自らを襲う不安が取り除かれて、安心して眠りにつくように。静かで、全ての反応が中断まってしまった
生気を帯びていた聖堂は、それによって、洞窟のようにひっそりとした
アレイスター「見たところ、君は十字教の限界から脱したか」
ローラ「どちらかと言えば、あなたの言いたる所の"ホルス"の概念であるところでしょうね」
うつ伏せにフィアンマを床に置き、立ち上がって、彼女は振り返った
アレイスター「その概念は十字教をも含んだもの。その言い方は適切ではない」
ローラ「知ったことか。私には、知恵を授けてくれる守護天使など、おりはせんからな」
1m程度の距離を置いて、彼女はアレイスターの前に正対する
アレイスター「しかし、独自に辿り着いたならば、褒めるべきであろう」
ローラ「それはそれは。さて、アレイスター=クロウリー」
ここからが本題だ、と
アレイスター「そこの子供に代わって私を誅そうとでも言うかね。もっとも、君の理論では、私も子供ということになってしまうが」
ローラ「それはどうかしら。元々、この大地で生まれた人間でなき存在には成り立たなし論理だけれども」
アレイスター「……」
ローラ「否定しないのね。しかし、私から奪った張本人に対しての恨みの前に、聞きだすべきことがありけるのよ」
アレイスター「この私から、この場で、何を聞こうと言うのか」
ローラ「救世主のやり方を教えろなどと、野暮なことを聞きたるつもりはない。聞きたいのは、誰かさんにとって都合のいい世界を作る為に使った、時間を操る術式のこと」
思い当るのは、現況をもたらした、一つの行為
962 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
[saga sage]:2011/11/06(日) 02:54:14.69 ID:dQEA5iJzP
アレイスター「"時項改変"のことか」
ローラ「呼び名など、どうでもいいのよ」
教えなさい、と言わずとも
言葉の代わりに首下へ向けられたカーテナの片方
アレイスター「……残念ながら、それは君の思っているような使い勝手の良いものではない。現に私は、他でもないイギリス正教に消されかけた」
万能な時間操作ならば、消されかける、と言う事すらも有り得なかっただろう
そもそも、こんなこともしなくていいかもしれない
ローラ「それでも、特定の事象を変えることはできる」
導くのは、一つの施術。英国が核兵器代わりに導入しようとした人体ベースの超魔導兵器計画
アレイスター=クロウリーという存在からしてみれば、超人間性を仕込む為の実験の一つでしか無かったが
アレイスター「……女であることを、忘れられなかったか」
ローラ「お前が、それを言うの?」
張本人である、この男が
明確な怒りを、彼女は覚えた。表情の代わりに声として、それは出力された
アレイスター「だが、私には断ると言う選択肢もある」
ローラ「させるなどと、思っていたるのかしら?」
アレイスター「それは、君次第だ。可能ならば出来るかもしれない。あの時と同じように、それだけの能力が君には無いかもしれないが」
あの時と同様に、それが可能ならば
違う。それは、お前が無理にさせただけ
後の調査書には、クロウリーの進言によって、当初では難しいと判断されていた水準にまで、彼女と彼女の子供へ
他でもない、クロウリーの遺伝子を持った子供へ、より大きな負担をかけさせたことが、失敗した要素の一つであると記されていた
愛する子供を殺されて、怒らない親は居ない
その"母性"に、""母"なる大地"は呼応した
ローラ「馬鹿にするな、クロウリー!!!!」
963 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 02:54:40.17 ID:dQEA5iJzP
「ちょ、あわきん?」
上条刀夜、と呼びかけてすぐに、青髪は抱きつかれた
彼女が駆け寄って抱きついたのではなく、自分が強引に上条刀夜から引き離されるように空間移動させられたと気付くには、時間などかかりはしなかった
刀夜「まだまだ、嫌われてしまっているようだね」
青髪の肩越しに睨む結標の顔を見て、彼はそう言った
そして、彼を睨むのは、結標だけではなかった
相「上条刀夜、あなたには聞きたいことがあります」
刀夜「聞きたいこと。まさか、その為にここまで来たのかい? 核の爆発すらあったというのに。無事話し合いが終われば第7学区へ戻るつもりだったのだから、それまで待つべきだったろう」
絹旗「この超騒然とした状況で、あなたが無事に帰ってくる可能性なんてかなり低いと思いますけど」
核を見て、恐怖は全ての人間にめまぐるしく駆け回り、結果、騒いでいるのは主に外からの人々なのかモスクワ市民なのか、完全に混ざってしまっている
これを恐慌と言わずして、何と言うべきか。そんな中で、どうして無事などということが言えようか
刀夜「しかし、道中で犠牲者でも出たら、それは無駄死にになってしまう。若い命を粗末に扱ってはならないよ」
白井「無駄死にと言う言い方は、止めて頂けますか」
少なくとも、死んだ妹達の一人とフレンダは、他の者を守るためだったのだから
無駄などと言われたくない
刀夜「そうか、既に。それは、すまなかった。謝ろう」
滝壺「それに、あの核でもなければ、今頃、第7学区だってどうにかなっていたかもしれない」
結果論を見れば、じっと待つことすらも、ここまで来るのも危険度はさして変わらなかった
刀夜「それほどまでに攻められてしまったのかい?」
相「まさか、予想が付かなかったと?」
刀夜「すまないが、自分たちのことで手いっぱいだったんだよ」
だから仕方なかったんだ、と青髪は刀夜を援護しようと思ったが
964 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 02:55:40.45 ID:dQEA5iJzP
この雰囲気では言え様も無かった
相「まぁ良いでしょう。別に、あなたの判断ミスを責めにここまで来た訳ではありません」
御坂「そうよ。当麻は、当麻は何処?!」
刀夜「……当麻か」
どうにも責められっぱなしの話題が変わったと思っても、問い詰められることは変わらなかった
相「あの大規模な移動はあなたが関与していたのですから、あなたが知らない訳はありませんよね」
念を押すように、妻に良く似た顔をした女が言った
刀夜「残念だが、どのような言葉を繕っても、……恐らく、君の望む答えは出せない。言いたいことは、分かるね」
御坂「ってことは、当麻は、まさか」
刀夜「ああ。まだ下に、地上に居るはずだ。もちろん、どういう状態にあるのかなんて分からない」
端的に最悪な答えだった
滝壺「そんな、あなたの息子なのに。どうして一人残すようなことを」
刀夜「仕方がないことだよ。あの右腕が、それを許してくれなかった」
実のところ、その責任は上条刀夜ではなく、統括理事長の方にあるのだが。ここでそれを言っても、何ら結論は変わらない
寧ろ彼女らを混乱させるだけ。そう考えて、彼は言おうとはしなかった
御坂「だとしても、なんとかすることだって出来たんじゃないの!? あんな、あんな状況で取り残されたら!!」
一際取り乱すのは、御坂美琴だった
バチバチと紫電が、正直危険なレベルにまで放出されている
刀夜「アイツが死んでしまう、とでも?」
御坂「そうよ!」
酷く冷静に上条刀夜は見つめて答えた
その様子に、それ以前にもこの聖堂の前という場所に来てから違和感を感じっぱなしの滝壺理后は、何か直接的な危険な意思を感じ取る
965 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 02:57:06.47 ID:dQEA5iJzP
滝壺「きぬはた、少し離れよう」
ヒートアップする御坂の後ろで、紫電から離れる為も有って、小声で彼女は近くの少女の肩を引いた
絹旗「え?」
滝壺「あの人、変なAIMみたいな何かがあふれ出てる」
それはどういうことですか、と聞かんばかりに眉間に少し皺を寄せるも、それ以上具体的に答えようもない
そんな彼女の前で、話は続く
刀夜「大丈夫だよ。それは、有り得ない。例えこの中の連中が何をどうしても、カミジョウトウマが消え去ることは無い。それこそ幻想を全て消し去らない限り」
相「何を言っているんです」
刀夜「うーん。正直言って、私が何故こう考えるのかは分からないが、しかしどうにも間違っているとは思わないのさ」
はぐらかすような言い方だが、しかし彼はあいまいな言い逃れをしているようでは無い
相「それは、どういう――――」
だから彼女は問い詰めようとしたが
その場にいた全員の興味が、一気に違うものへ向いた
注目の的は、目の前の大聖堂で生じた大きな爆発
しかし、爆発と言っても火の手が生じる様なものではなく、青々としたオーラのような物が噴流となって、霧のようにも風のようにも衝撃で吹き飛んだ天井・壁から流れ出している
刀夜「……今度は一体、何が起きたのだろうね」
呟いて、彼は聖堂の方へ走っていく
刀夜「青髪君、君達はここから離れるんだ。結標君だけじゃなく、周りの御姫様達も守ってあげるんだよ!!」
半身を後ろに向けて、指示を出すも
そんな機敏な動きをする程体力が余っていたのかと、青髪が驚くほどの素早さだった
相「待ちなさい、上条刀夜!!」
それを見て追っていく女。彼女の話はまだまだ終わっていない
966 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 02:58:18.27 ID:dQEA5iJzP
「大した構築だ」
初めて、薄緑の衣へ目立った傷を付けられたアレイスターが、そう言った
主たる存在が思考を失い、復活者の統制が失われたことで極端に防御能力を失った聖堂の突然の爆発の原因はもちろん、怒った女によるもの
ローラ「如何にクロウリーという存在と言えど、大陸大洋全ての力を用いれたれば、力負けなど有り得ない!!」
アレイスター「大洋、と言う事は英国をも利用しているのか。ますますもって凄いものだ」
カーテナの次元切断を素手で掴んで守りつつ、彼は冷静に状況を見る
いつの間にか、"衝撃の杖"もその手に戻っている
それは、フィアンマの時には有った余裕がこの女の前では無くなったことを物語っていた
ローラ「子を生み育む"母"なる大地、七つの大洋を制した大英帝国、そして人類が消えて他の所有者が居ない全大陸。これら全ての条件が整いたる今ならば、その全ては我がままよ」
言い放つと同時に今度は聖堂の地下、つまり聖堂のある下の地面が一気に柱のように隆起して、彼を四方から襲う
それだけなら、よく有る罠の術式と変わらないが。一本一本の土柱、そしてその土砂一つ一つに、1トン爆弾の持つエネルギーよりも大きな力が集約されている
広い概念から紡がれる力だけあって、その干渉する範囲も広く、当れば、いかなアレイスターと言えど五体満足とはいかない
しかしながら、その全てを、彼は触れることなく弾き返す
もちろん、起爆しないように注意をかけてまで、である
アレイスター「十字教などの比較にならない、か。その面ではそこのフィアンマよりは勝るのだろうな。だが、その規模の力は君には荷が重すぎるようだな」
そういう理由は、力の漏れにある
漏れだした女の青いオーラは、既に数百平米はある教会の敷地を全てすっぽりと覆う様に広がりつつあり
彼女の意思にすぐさま反応する力の漏洩は、彼女の攻撃の度に余計な地形的変化を、早い話破壊を拡げていく
アレイスター「全てを上手く制御出来ているとは、とても言えない」
ローラ「構いなしよ。そもそも、大地はどんな時でもやり過ぎけるもの。まるでヒステリックに陥った母親の如く、その活動が都市を丸々一つ潰し、種族を滅ぼすことは往々にしてありたること。故に、この力が外に溢れ、そして大地を離れたモスクワが砕かれ、残った生存者が全て地面へ叩きつけられ死にけれども、想定内。生じたる問題など気になりはしない。"時項改変"を用いれば、全ての問題は解決したるのだから」
本当にお構いなく、と言った感じで地面が再度隆起する。今度は、大気もそれに従う様に巻きついて
967 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 02:58:50.82 ID:dQEA5iJzP
アレイスター「それが許されるならば、それも一種の方法だろうがな」
それを、杖から生じさせた連続的な衝撃、つまるところ何らかのエネルギーを圧縮したような防壁で、彼は身を守った
ローラ「許される?」
アレイスター「この世界というものは、思った以上に気難しいものなのだ。その面では余程フィアンマの方が理解しているらしい」
ガリガリガリガリと削り合うような衝撃と衝撃の衝突する音の中で、アレイスターの視界の中に上条刀夜。ローラの後ろ、所々に生まれてしまった聖堂の出入り口を通して彼が来ているのを確認できた
もちろんローラの制御しきれないエネルギーが彼を押しつぶすようにも働いているはずだが、それをどうにかして解決しているのだろう
恐らくは、逆に自らのものとして貯め込む、と言う方法で
この類の力を制御すると言う事は、やはり彼もホルス的な力の使用方法をもわきまえているということになる
当然だろう。何しろ、彼はその"ホルス"的で最たるものである神と、その対極である"相対する者"の同系統に分類されるものなのだから
ここにきて面倒な動きをされるのも困る。彼にとっても今は最終段階だ
アレイスター「ふむ。底も見えたか」
ローラ「防戦一方でなにを言うか」
アレイスター「打ち倒すなら打ち倒す、分析するなら分析するで集中した方が目的結果の効率が良いだけのことだ」
ローラ「ふん。ならその分析の結果に、いかなる答えを見つけたるのかしら」
アレイスター「百の力を確実に押し返すなら、万の力を用いればいいだけのことだ。そちらが"母なる大地"ならば、こちらは"父なる天"を用いればいい」
浮遊しているモスクワの僅かとも言える大地を全てアレイスターにぶつける気なのかと思わせるほど、次々と土くれを引き出してはアレイスターへ向けて物質的な消費をもまるで気にしない彼女だが
土の中を、雷が奔った
そして、その術式の構築から、丸ごと紫電が沸き撒いて、それは弾き返されてしまう
アレイスター「さて、単純な計算だ。天と地、どちらが多く力をもっている?」
完全に空間的な広がりに依存する訳ではないし、十字教では天動説で神によって作られた地球は世界の中心だが
事実は地動説。そして宇宙は十字教内でも、永遠的な不明の空間として、分からないから生まれる恐怖の空間として、捉えられていたのも事実
968 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 02:59:24.61 ID:dQEA5iJzP
天が父であり神ならば、仮にその力を一部でも行使出来るならば
その術式において媒介となっていたカーテナの片方に、セカンドに、ヒビが入ってボロボロと朽ちていく
それだけでなく、彼女の額からは、ダラッと赤い液体が垂れていく。返された余波が、彼女の体を逆流したのだ
だが、しかし彼女は冷静だった
ローラ「そう来ることも、見通しはすんでいる!!」
もう片方に握っていたカーテナ・オリジナルを、彼女は地面に突き立てる
勇ましさに反比例して、その動作はアレイスターに何かを向ける様な事にはならなかった
アレイスター「剣を捨てたか。確かに、カーテナ如きでは扱える力が少なすぎるが」
ローラ「やはりあなたは、分析と戦闘、どちらかに集中した方がよいようね。……見当違いもはなはだしたるわよ」
ズブ、ズブズブズブッ、と
カーテナは突然モスクワの大地に飲み込まれていった
この大地そのものを剣として扱うつもりか、ともアレイスターは可能性を考慮したが
見えないところで、その剣はモスクワを貫いていた。つまり、狙いはモスクワなど小さな範囲ではなく、地球の大地そのもの
直後、聞いたことのない規模で、それこそ巨大な隕石でも落ちたかのような、途方もない衝突音が聞こえた
並行して、地震。というよりも、モスクワという巨大なタライを突き上げるかのような、縦揺れだった
その衝撃たるや、モスクワ市中の、いや、モスクワ全土の残っていた建築物を、一度宙へ浮かせて、更に地面へ叩きつける
ゴゴゴ、と更に地鳴りと地揺れは続き
終いには、先程開いた核兵器による巨大な大穴から、土色の柱、いや、恐らくは右拳の形を模した岩石の塊が、突き抜けていた
アレイスター「地球と浮遊したモスクワを繋げたか。なるほど、この方が君は力を使いやすいが。それでは――」
ローラ「それでは、"天"と"地"の力の差を埋めることにはならない。と言いたいのだろう? まさか本当に、それだけだとでも?」
微笑んだ、という可愛らしい言い方は似合わないが、彼女は自らの血を舐める程度の余裕を漏らす
ゆっくりと、地球とモスクワを繋げた腕の拳が開いていく
その、握られた巨大な岩石の拳の中に在ったのは
969 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 02:59:55.99 ID:dQEA5iJzP
アレイスター「……"幻想殺し"」
ローラ「広大な大地に一人ぼっちというのは、可哀相でしょう?」
してやったりの顔をしたローラの方を、アレイスターは見てはいない
注目しているのは、"幻想殺し"の方だ
そして、突き出でた岩石の手のお立ち台の上で、"幻想殺し"もじっと下を、聖堂を見下ろしている
もちろん、モスクワ市の中心からではとても、上条当麻の姿を肉眼で確認することは出来ないが
ただ居るだけでその場にある力をことごとく掻き消していく存在など、簡単な感知の術式でさえも目立って写る
アレイスター「こんなことをしなくとも、幻想殺しは来ただろうがな。……いや、寧ろこれも、その意思の内であるのかもしれない」
ローラ「どちらでも構わなしよ。結果として、彼がここに存在していることに意味がある」
アレイスター「私だけを狙うという保証は無いぞ」
ローラ「同時に、狙わなしという保証もないわ。彼が相対しようとしている存在を利用しようとしけるあなたは、特に。ね」
この状況で"相対する者"がこの場所に在るのは、あまり好ましくないのは、彼にとっても確かだった
しかしそれは、彼女の考えているのとは別の理由で、である
アレイスター「全く、やってくれる」
初めて、彼は余裕の無い発言をした
ローラ「それはどうも」
アレイスター「だが、君自身は、彼がこの場所に来てしまったことによる影響を正しく理解していないようだ」
ローラ「それは負け惜しみに聞えたるわよ、統括理事長殿?」
アレイスター「どうやら、本当に理解は出来てないらしい」
聖堂内で正対していた彼女たちだったが、緑の男の方がススッと風に流されるように後方へ下がっていく
ローラ「逃げしたるつもりはない!」
と、せり上がった地面が彼の進行方向を抑えるが
970 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 03:00:24.16 ID:dQEA5iJzP
アレイスター「逃げるのではない。離れるだけだ」
ローラ「離れる、だと?!」
アレイスター「君もそうした方が良いだろう。君であっても、いや、君だからこそ、その後ろの存在は手に余るだろうからな」
ローラ「離れるって……、これは!!」
指し示した先を見て、彼女は驚き、その隙にアレイスターは地面を崩して下がる
後方、上条当麻の方角へ離れたアレイスター
それを穴だらけの聖堂内で見送る形となってしまったローラ=スチュアート
彼女を取り囲む状況、聖堂の雰囲気が、かなり大きく変化していることに気付くのは直ぐだ
フィアンマ、と呼ぶべきなのだろうか
赤黒い体となって、しかも半分程聖堂と交わっているその様は、荘厳さを持つ神とも神威を放つ存在とも違う
どちらかと言えば、有象無象を消し去るような、神話の神とは対極の存在。悪しき破壊者
ローラ「"相対する者"……。まさか、そういうこと?」
太陽に月、天に地、火に水、男に女、電子に陽電子
それらはお互いにお互いを補い、制限し、時には消滅させる
"対"というものがそういう性質なら、神に対なる"相対するもの"である彼の登場が
ローラ「このフィアンマに、作用したといいけるの?」
もしそうならば、"相対するもの"もフィアンマを共鳴させるだけの力を持っている?
しかも、フィアンマは自分の睡眠誘導によって赤子レベルの無意識下だった
それも影響してしまったのかもしれない。自らの制御下に置き切れなかった力も彼の目覚めに必要なエネルギーとして都合が良かったのかもしれない
メキメキメキィ、と地面が避ける様な音がした。見れば、皮膚の表面に浮くように、床に、穴だらけの壁に、血管がはしっている。自分の操れる、大地などではない
ローラ(これは……。長居は、するべきではなさそう、ね)
故に彼女も、そこを離れるしか無かった
971 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 03:01:08.48 ID:dQEA5iJzP
「……エイワス」
そこはどこか、など、瑣末なことでしかなかった
モスクワの何処か、それだけでいい
エイワス「ここにいる」
アレイスター「彼は?」
エイワス「いつでも。しかし、あの第一位には一番必要な要素が、"救世の意思"が無いままだが」
アレイスター「それについては仕方が無い。プランに最終信号を含めた妹達を利用した弊害だ」
エイワス「……彼だって、打ち止めや彼女を含む周辺の環境が激変してしまうのは、嫌だろうさ」
アレイスター「そもそも、何かを守るために戦うと言う事は、ある種、変化を望まない保守思考、ひいては救世という大規模な変化も望まないものだ。守るための変革という言葉もあるが、それは変革の意味するリスクを理解していない者の空論にすぎず、"一方通行"という存在はそのような浅い思考で停止するほど愚かでは無い」
エイワス「君にとっては、愚かな方が都合が良かったのだろう?」
アレイスター「否定はしない。あの少女の存在など、無い方が彼にとっては都合のよい事が多いと言うのに」
エイワス「それは君の主観の要素が強過ぎる。効率を追う事をよしとする君の価値観と彼のそれとは、別物だよ」
アレイスター「分かっている。だからこそ、キリストに対する"ロンギヌスの槍"のような、世界には変革が必要だと痛感させる刺激が彼には必要だった」
エイワス「だがそれは、今を見るに、間に合わなかった。刺激が足りなかったのかもしれないし、逆の効果となったとも考えられるが」
アレイスター「今となっては後の祭だが、彼にはもっと"自由"を経験させるべきだったかもしれない」
エイワス「あの女への実験で素体の作成には上手く言ったが、精神性に支障が出てしまったね。この状況なら、並みの人間なら変革意識は芽生えて当然なのだが」
アレイスター「第一線で仕事をさせたのも裏目に出てしまった。生まれたのは、当然に死が周りに有るという環境と、自分が悪と認識したものを悪とのみ見做して処理する連続性だけだった」
エイワス「もう一度、やり直すのも手だ」
アレイスター「手遅れだな。巻き込まれる力が大き過ぎる。だから、私は彼を利用する」
と、彼は異威を放つ聖堂の方を見た
エイワス「打ち止めに加えて彼も? それは、難しいと思うが」
972 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 03:01:43.04 ID:dQEA5iJzP
アレイスター「問題など無い。こういう可能性を見越して、第一位の脳の一部は欠如させてある」
エイワス「今更物質的な干渉をしようにも、既に彼の脳はホルス的な神の力の塊が代替しているぞ?」
アレイスター「だからこそだ。同じくホルス的な方法で神となろうとしているフィアンマとは親和性を持たせることが出来る」
エイワス「ふむ。わざわざ君に言う必要は無いと思うが、それには真の意味で結合が出来る訳ではないという欠点が生まれてしまうぞ?」
アレイスター「そもそも、彼らは保守と変革で根源で反対の立場にある。不合致が欠陥となって暴走する危険はあるだろう。しかし」
エイワス「そのリスクをも織り込み済みか。それならば、私は君に反対するつもりはない。それに、先の見えないやり方に対して興味もある」
やり方は、決まった
と言うよりそもそも、彼女は如何な方法でも頷くつもりだったが
アレイスター「あなたには、面倒をかける」
間を置いて、彼は言った
珍しく、僅かばかりの表情筋の動きを伴って
エイワス「……嬉しいね、労いなんて。だが、その言葉は全てが上手く終わってから欲しいところだ。凍ってしまった君の感情を揺さぶる方法にも、興味はあるからね」
アレイスター「約束しよう」
約束といった彼の口調は、しかしながら、感情は伴っていなかったが
それでも、彼女が余韻に浸るには十分だった
そんな中でふと、思い出すことが一つ
エイワス「ああ、そう言えば」
アレイスター「どうした?」
エイワス「"神の国"がどうやら加速している。しかも、通常の隕石に比べるとどうにもおかしな動きだ。どこかで計算を間違えたんじゃないか?」
計算を間違える
そんなことは有り得ない。分かっている、エイワスも
アレイスター「……ほう」
言葉にする必要のない共通理解が、しかしそれは共通"理解"と言える程には内実を把握出来ないていない、未知が、そこに生まれた
973 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 03:02:17.70 ID:dQEA5iJzP
「全く、何がどうなったのやら」
二人の強大な力を持つ存在が去って、彼が飛び込んで来た時には、既にその聖堂内は黒々とした憎々しい内壁に生まれ変わっていた
良く言えば胎内を、悪く言えば胃腸の中を思わせるその場所の中心にはブラリと複数の血管によって吊るされた核なるものがある
まさかそれが、もともと人間であるとは思いはしない
刀夜「これが一体どういう経緯で出来たにせよ、やることはハッキリしている。浪費出来るほどの、無駄な時間は無い」
刀夜「利用できる機会を逃せば、我々がこの体に集まっている意味もないことだしね。さて」
刀夜「問題はどちらにつくかだが。今なら、この心の臓に干渉することも出来るぞ」
と、彼は一人で、まるで会話するように呟き続ける
刀夜「決まっているさ。親が子を見捨てられるものじゃないよ」
刀夜「どちらについても同じなのだ。ならば、これまで通りのその判断を私も支持しよう」
刀夜「決まりだな。なら、敵前偵察はこれぐらいでいい。しかし、恐らくだが、これは人間の望む姿にはならないだろうな」
刀夜「人々の希望がこんな形になってしまうのは、あまりk――――」
「誰と、何の話をしているのです?」
コツ、と自分の靴以外の何かが地面を叩く音が聞こえたのは、話しかけられたのと同時だった
その声質は、見目は、自分の妻に似ている
刀夜「君は」
相「すみませんが、後をつけさせて貰いました。……これはまた、随分と趣味の悪い空間ですね」
周りに注意を払いながら、彼女は言う
なるほど、確かに、肉色の赤黒さに覆われたこの施設内は趣味が良いとは言えない
刀夜「別にここは私の趣味のものではないよ。ロシア成教の傾向でも、彼の趣味でもない」
心臓の形をした、十字の代わりにこの聖堂のシンボルとなっている人一人よりもずっと大きい臓器みたいなものに視線を向けながら言った
974 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 03:02:49.72 ID:dQEA5iJzP
相「……彼? それよりも、上条刀夜。先程も言った通り、あなたには尋ねたいことが、多々あります」
刀夜「残念ながら、あまり多々には答えられそうにはないね。この周りの状況を見れば分かるだろう?」
相「そう言って、また姿をくらますつもりですか? まぁいいでしょう。一つだけ聞かせて貰えますか」
カチ、という音は腰に下げたライフルの安全装置を外した音か、フルオートをシングルに切り替えた音か
いずれにせよ、その口は同時に上条刀夜に向けられた
刀夜「親に、銃を向けるのかい?」
相「残念ながら、私と言う個体は、あなたに育てられた娘と言う訳ではありません」
刀夜「分かっているさ。だけど、君のその顔が、詩菜の面影が大きく残ったその顔だということを少しは配慮してほしい」
相「それはあなた次第ですね。満足のいく解答が効ければ、愛の言葉の一つでも投げかけましょう」
刀夜「いいさ。君は、詩菜本人じゃない。心のない言葉はむなしいだけだ。それで?」
何が聞きたいんだい、と彼は続ける
相「私が聞きたいのは、"イェス"とあなたはどういう関係か、と言う事です」
本当なら、妥協せずに他にも聞くべきことはある。なぜ当麻を残したのか、なぜ駆動鎧に対魔術防衛魔術がなされていたのか
なぜ自分のことを碌に知る時間も無かったのに対隕石や対戦闘で融通を働かせたのか。他にも、まだまだ
しかし、それらの質問は一つに集まる。自分を良く知っている、弟分である"イェス"に
刀夜「うーん、特別に親密な協力関係だ、というところかな」
赤黒い血肉に様変わりした聖堂であった空間の中に響いたのは、歯痒さの残る、曖昧な答え
ならば、更に言及してやる
相「……言わば、一心同体のような?」
刀夜「なぜ、そう思うんだい? そのような素振りなど、君の前で見せたことは無かったはずだが」
相「馬鹿げたことをいいますね。私の前、いえ、学園都市の生存者なら、もしかしたら何人も目撃者が居たかも知れない」
刀夜「なんのことかな」
975 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 03:03:16.66 ID:dQEA5iJzP
相「まだとぼけますか。あの時、破壊者達の集中攻撃を逸らすために、身代わりとして現れた、"神の化身"とイェスが呼んでいた出来そこないの巨大な骸骨」
酷く冷めた表情で問い詰める
相「あれが、何よりの証拠では?」
刀夜「その顔、他の女性の事で言葉をぶつけてくる詩菜にそっくりだ。……ふむ、ほんの一瞬にしたというのに、見られていたか。騙せないものだね」
やれやれと言いながら浮かべた頬笑みは、しかし、あまり快くは見えない
もちろん、問い詰められてイイ気分をする人間はそうそう居ないが、彼のそれは、最後までしたくなかったことに対して、決断をしたかのようなものに、変わった
次の言葉を待つ上条相の前で、彼は一気に、彼女を庇う様にして押し倒した
床に押し付けるわけではなく、肉の流動をしている聖堂の壁を強引に突きぬけるようにして、聖堂の外へ突き飛ばすように
彼女自身、彼の行動に反応できなかった訳ではない。ただ、引き金が引けなかったのだ。外部からの強引な神経介入によって、指がそれを受け付けなかった
微小機械を利用してのその手の事はアクセスをブロックしていたのにもかかわらず、それを違う方式で上回っての干渉
単なる人体ではない彼女に対して、そんなことが出来るのは、同列の存在ぐらいだろう
刀夜「答えはYES。私が彼を取り込んだといえば君も理解してくれるかな。ちなみに、私達に主従関係などはないよ。そして私にそうさせたのは、他でもない君達でもある」
彼女の上を覆う様にして彼女を見る刀夜は、壁を突き破った際にかかった謎の体液を受けて頭髪や皮膚や衣服が溶けてしまっている
同時に、微小機械では到底不可能な早さで回復し始めた
相「何故、私を」
刀夜「何故って、これ以上あの場に居たら私達も取り込まれていたからさ」
相「上条詩菜に似ていたから、私を庇ったのですか」
刀夜「完全にそれが無いとは言わないけどね。だがその前に君は、私の娘であり、姉なんだ。守るのに、他に理由はいらない」
相「……姉」
しばらく押し黙り、その後、彼女は唐突に刀夜を蹴り飛ばして、立ち上がった
行動に伴った表情が、そこには浮かんでいる
相「私の弟は消えた"イェス"と当麻だけです。あなたのようなオッサンに、そう言い寄られるのは不愉快です」
976 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 03:04:24.68 ID:dQEA5iJzP
刀夜「お、オッサンン? いや、そ、そもそも、危機的状況で女性を守るのは男の役割で」
相「何処かの誰が私の行動に干渉しなければ、自分で何とか出来ました」
そうは言うものの、恐らくかなり手酷く体を損傷していたか、壁を突き破るなど出来なかったか、そのどちらかだろう
刀夜「余計なことをしてしまったか。……このような言い方はしたくないが、君達が私を追いこんだからこそ、この上条刀夜はそれを利用できたわけでもあるんだよ」
相「追い込んだ?」
刀夜「お陰で彼の逃げ場を一つに絞らせ、そこへ誘導出来た。野生動物をケージの中に誘い込むようなものだったな」
刀夜「酷い言われようなので一応言っておくが、もちろん、私は姉上と共に消えるのを受け入れていた」
刀夜「その点では、私も彼女には悪いことをしたと思っているよ」
相「……」
目の前で行われる会話の一人相撲
しかしそれは、ただの独り言というにはまともなコミュニケーションになっていて、多重人格のそれに近い
まるで、少し前の上条当麻と自分の関係のようでもある
相「本当に、"イェス"……? いや、仮にあなたが"イェス"を取り込めることが出来たとして、そもそもあなたは、一体何者なのです」
刀夜「なんてことは無いさ。私は、神の対抗軸たる"相対するもの"を体現する"幻想殺し"を持った上条当麻という存在の、父親だ」
相「父親? それだけでは説明になりません」
彼女の言葉に、そんなことはない、と上条刀夜は首を振る
刀夜「いいや。それで十分なんだ。救世主を生んだ母親は、"聖母"という地位を得た存在である。ならば、その神に対する存在の親も、同じレベルの格があったって何も不思議ではないだろう?」
相「"相対する者"の父親だから、そのポジション故に異能の力があると?」
刀夜「キリストの父は神だと言う。だが、私は神と言われるほどの力はない。あるのはただ同族であるということだけさ。悔しいことだがね」
相「同族? 当麻以外に、"幻想殺し"を持つとでも言うのですか」
刀夜の右腕に視線を向けたが、とりわけその様な力を見せつけられたことも、アメリカにそんなデータがあった訳でもない
刀夜「聖母のポジション、と言ったとおりさ。後の神である救世主程の力をもたないが、それに準ずる影響力、そして直接的にも力を持つ存在。逆説的に言えば、そう言う要素があるから、その大きさに見合った力を行使できる」
977 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 03:05:05.88 ID:dQEA5iJzP
相「まるで、自身が天使の類だと言わんばかりですね」
刀夜「似たようなものさ。それでも、敢えて私達を単語で表記するならば、"悪魔"ということになるかな」
相「良いイメージを持たせるような言葉ではありませんね」
刀夜「神に対するサイドだから、この言葉が相応しくなってしまう。そして、だからこそ"悪魔"という概念が悪の代名詞として独り歩きしてるのさ」
相「一方的に特定宗教の側を善とする視点を、私も全肯定するつもりは有りません。しかし、歴史的に見れば悪魔と言うのは規範に従わない者たち、犯罪者や異民族にその萌芽を見ることが出来る。その信仰をしている人々からすれば、確かに悪だ」
刀夜「その認識で間違ってはいないさ。その上、十字教的観点以外を見ても、悪魔は様々な形で存在している。それらの共通点、神に仇名し救世主を陥れようとする以外を、君は述べられるかい?」
相「……そうですね。悪魔の特徴的な手口なら、制されるべき人の欲の暴走を促すことなどを挙げられますが」
刀夜「うん、まさに私が述べたかったことを指摘してくれた。そうだ。一概すれば、神は規範をもたらし、悪魔は欲を、人の本能を促す」
相「中世までは、現代の法のように民主主義的なプロセスを経ることで正統性を得るのではなく、神が与えたから言う形でその規範に正統性を付与していましたからね。間違いではないでしょう」
刀夜「だがそれでは、宗教が良くない事としている"人の欲"と"神の規範"は対立概念になってしまう。そこで質問だ。君は、本能を否定するかな? 悪魔が囁く肉欲や食欲、もっと言えば金欲なども全て悪だと言い切れるかい?」
相「仮に全てが全て禁欲的なものであったなら、人類はここまで成長しなかった。それだけは確実だと断言しましょう」
刀夜「そう。結局、ルールだけでは人間の発展は無かった。欲が人を、社会を引っ張って発展させて来たとも言える。どんな人だって、それをどこかで理解しているはずだ」
局所的な例としても、科学の発展は、人類がより高効率を、より楽をする為に深まったとされている
もちろん、それがすべてだとは断定されるべきではないだろうが、要素ではある、という主張は排除できない
刀夜「ここで重要なのは、結局、規範に対して本能が必ず存在すると言う事だ。どれだけ制されても、必ず現れる」
相「その本能こそが、悪魔だと言うのですか」
刀夜「そう言う事さ。この世は、万事が万事、対で存在している。それらは相互補完・相互制限しあっていて、つまり、単独でとてつもない概念が存在することは無いんだ」
相「なら、当麻が居るから神が在って、神が在るから当麻が在るとも言えますね」
少し、茶化すように彼女は言ったが、反対に上条刀夜は真面目な顔で頷いた
刀夜「事実、その通りだよ。だが今、その対の概念に変化の時が来ている。"終末"とそれが導く新生。それが神とその対の衝突、ひいては消滅に繋がるなら、君はどちらに付く? もちろん、そこには君の自由意思があるから、ただ傍観するという選択肢もある」
相「……あなたは、どうするというのです」
刀夜「私かい? 自分を"相対するもの"に連なる存在と自称している時点で、決まっているさ。それに、如何な神話に出てくる存在よりも、我々の"相対するもの"は幼いのでね。いろいろとアイツだけじゃ危なっかしいから、後見が必要だ。そう思うのも全て、君が当麻に感じる思いの一部の様な愛情が有ってのことだと、断言しておく」
978 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 03:05:46.33 ID:dQEA5iJzP
彼女が上条当麻を思う感情の一部、一部
姉という側面での母性的な守護の気持ちに、女という側面での肉欲的な欲する気持ち
それを見越して、この男は一部とわざわざ言及したのだろう。肉欲的な意味ではなく、単純な家族愛だ、と言う為に
そんなことまで見越せるのも、ともすればこの男も当麻と同じく、女性を惹きつける性質が有るのかもしれない。悪魔とは得てして、人を魅了する存在なのだから
刀夜「―――――ありがとう、姉上」
聖堂を背に立つ彼を睨みながら対峙して、じっと考えている彼女
その前で突然、彼はそう言った
相「まだ私は答えを出してはいませんが」
刀夜「いいや、あなたは当麻を守ろうとする。私は前にそれで裏切られているのだから、分かるよ」
相「"イェス"の振りは、止めて貰えますか」
再度銃を向けるが、恐らくこの男には通じない。それは、分かっていた
これは意思表示である
刀夜「そう考えるなら、それでもいい。しかし、他でもない彼の、同じ血と肉を得た存在であるあなたが来てくれたことで、私は彼を守ることが出来る。垣根帝督の二の舞を、避けることが出来るんだ」
そう言って
男が、上条刀夜が、イェスが、悪魔と自称する存在が、両手を広げ、一歩ずつ近づいてくる
撃ちたいなら撃てと言っているようであり、そして、久方ぶりの再開に感極まって抱きつこうとしているようでもあり
少しだけためらって、彼女は、引き金を引いた。今度は引けたのだ
至近距離でのライフル弾。首に当って、簡単に上条刀夜の頭部とそこから下は二つに分離したが
刀夜「さぁ、共に私達の当麻を守ろうじゃないか」
吹き飛んだ頭の口がそう述べて、彼女は首の無い上条刀夜に抱きつかれて、そして
その場から、消え去った
同時。悪魔と言うに相応しく、邪悪に笑う上条刀夜の頭部も、殆ど同時にその場所から消えた
979 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 03:06:32.73 ID:dQEA5iJzP
「当麻!?」
青髪、と言うよりは結標を中心にして聖堂から離れる中で、彼女はその出現を、容易に感じ取った
それは、アレイスターとは違うサーチ方法。同型微小機械の共鳴を利用した監視システムによるもの
彼を探し始めてからずっと起動していて、正直言って機能していないと思っていたものが、効果を挙げた
白井「お姉様、どうしましたの?」
聖堂距離を取る為にかなりの速度で疾走する駆動鎧の肩の反対側に座っていた少女が、急に飛び降りた御坂の前に駆けて来た
彼女らが乗っていた駆動鎧は少し先で止まっている
御坂「アイツの反応があったのよ!」
白井「まさか、当麻さんの!?」
御坂が言うならば、その情報にはそれなりの根拠が有るに違いない
目の前の表情からも、それが残念な妄想などでは無いことを表しているが
白井「ですが、今のタイミングということは。まさか」
これまで探していた中で全く見付からなかったのにもかかわらず、今になって突然発見できた言う事は、何らかの変化が何処かに起きたからしかあり得ない
その変化として、とても特徴的なものが、一つあった
御坂「うん。あの腕みたいな岩の塊の上に、アイツがいる」
そう。ローラ=スチュアートがこの浮遊モスクワと大地を接続させた、先端に手のような形を持っている巨大な柱だ
突然に生まれたそれは、恐らくこのモスクワではどこからでも見えるほどに大きく、太く、高い
青髪「ええぇ。あのてっぺんとか、どうやって行けと?」
先頭を走っていた青髪・結標が、何事かと空間移動して現れ、同じようにその柱を見つめた
確かに、巨大な石柱は核兵器の爆発したあたり
あまりにも大きいからこそ、間近に見えるが実際には10km単位で離れている
結標「あら、方法が無い訳じゃないわよ?」
青髪「空間転移でも何度も繰り返さなあかんやん。うーん、行きたいなら僕が送ろうか?」
白井「いえ、その場合は私がお送りしますの。それよりも、皆さんはここから離れるべきかと――――っ?!」
瞬間、何とも言い難い、不明な衝撃が、彼女たちを包む空気を押し流した
980 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 03:07:12.33 ID:dQEA5iJzP
彼女らを動かしているのは、何かとてつもないことが起きようとしている、という本能的な予感
詳細を述べれば、超能力を現実に表すために使われるものでもある"力"が、1つの場所に異様な規模で集中していることを、彼女たちの感覚が察知したためなのだが
少女の発言が最後まで続かなかったのは、その集中が一つの形として、何らかの爆発として現れたからだった
同時に、黒い光が聖堂のあった方角から拡散していく。本来光を吸収する色が黒色。それが光を放って噴出しているのだ
一般的な諸原理など、そこでは守られていないのは明確
今度は一体何事なの、と誰かが叫んだ。それが彼女らの集団の中によるものなのか、慌てふためく群衆の中からなのか、さしたる問題では無い
それを見た全ての人間が、同じ事を思い浮かべたのだから
今度は石柱の上から、"何か"が、それを待っていたかのように、激しくスパークしながら黒い光の根源、聖堂の方角へ進んでいく
スパークといっても、その"何か"が特別に光を発している訳ではなく、単に黒い光を掻き消し、それによって本来あるべき外の、太陽の光が入りこんでいるだけ
大量の人の形をした鳥、同時に矢か弾丸にも見える、がそれを近づけまいと、聖堂に接近しようとする彼を向かえ撃つように黒の光の中心からいくつも放たれ、"何か"が近づくのを阻害する
ともかく
核でではないが、未知が故に核よりも恐ろしいものが、その場に生まれようとしていた
981 :
なんでいつもジェリドの女死んでしまうん?
[saga sage]:2011/11/06(日) 03:08:42.99 ID:dQEA5iJzP
滝壺「きぬはた、あれ、月じゃないよね」
立ち止まった御坂達とは先を走る少女たちも、流石にそれには振り向いた
そして、掻き消された闇の裂け目から、なにか巨大な円形の影が有ることに、彼女は気付いた
絹旗「あれと言うと……うわぁ。確かに何か、とてつもなく超巨大な何かがある様に見えます。もしかしたら、近づいて来ているのかもしれません」
巨大で接近してくるものと言えば、該当しそうなものは一つしか無い
「あわっ、あわわわ!! っとミサカは突然の駆動機関の変化におどっろろろろっ!?」
隣を歩く駆動鎧が、地面を強く蹴り過ぎたのか、ふわりとした軟らかさを感じさせる浮き方をした
月面、とまでは言わないが。駆動鎧のフォルムがますます、月の上を歩く重厚な装備をした宇宙飛行士を思わせる
咄嗟に高火力砲使用時の機体固定用アンカーを射出して、彼女はバランスを建てなおしたが
「アタシのセンサーにも異常がみられます。なんらかの力場異常が拡大中!」
「アンカーが生きている機体は射出して、使えない機体は生きている機体に繋いでおきましょうか」
「判断する権限を今はだれも持っていません。ただでさえ故障による暴走のリスクが高まっていることを考慮すると、いっそ降りた方が良いのかもしれません、とミサカは提案します」
しかし、降りるのは――――と少女たちは困惑している。ともかく、急に歩行がまともに行えなくなってしまった
それの変化は、彼女たちの少し後方でも同じ事
結標「……ねえ。思いの外、体、軽くない?」
青髪「あちゃー。理想と現実のギャップが生む幻覚を見てしまうとは。あわきん、無理なダイエットは萎むだけやで? ただでさえ抑えつけとんのにこれ以zブベッ!?」
結標「黙りなさい。この状況で体重気にして幻覚見る余裕なんてあるわけないでしょ。……やっぱり、この原因ってアレにあるんじゃない?」
982 :
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[saga sage]:2011/11/06(日) 03:10:22.38 ID:dQEA5iJzP
先頭の滝壺達と同じものを彼女らも見つけていた
御坂「アレが例の隕石で、重力異常を引き起こすだけ近づいて来てるって言うの? だとしたら、早すぎるでしょ」
白井「そもそも、かなり離れてる上に、所詮は数100km程度の石ころが作りだす引力なんてたかが知れてますの」
落ちてくると予想されている時間は、まだ数時間後の予定だ。重力同士の引き合いによる作用だと考えるなら、目に見えるほどもっと近づかれているだろう
ならば、この状況を、明らかに動きが軽やかな状態をどう説明するのか
御坂「なら、ただの石ころじゃないんじゃないのかもね」
と、御坂は白い光と黒い光の衝突を見続けながら、有る意味的確な答えを導いた
白井「そんな。あんなのが落ちてくる時点で、もう殆ど逃げ場などないといえますのに。更に未知の特殊性なんて」
青髪「その上、残念ながら、残った人類が一致団結してどうにかするって様子は、全く見られへんなぁ」
結標「だったら尚更、思い残すようなことは無い方が良い。これで全て終わりかもしれないんだし」
御坂「私は、終わらせるつもりなんてないわ」
結標「あなたは、強いのね。……私はこの馬鹿を引き戻せた。最低限は達したわ。あなたも、あなたの気持ちのままに動くべきだと思うわよ」
白井「どうします、お姉様」
御坂「どうもこうも無い。そんなの、決まってるじゃない」
言って、彼女は再度黒い光と衝突を繰り返す点を見た
983 :
ジェリドはZの主人公。異論は認めん
[saga sage]:2011/11/06(日) 03:11:54.98 ID:dQEA5iJzP
さて、彼の目的は何だったか
神の破壊。すなわち自壊、自滅である
神という制御装置、ルールの破壊。それは、この世界の人間という、モルモット達の本能的な総意だったのかもしれない
その苦痛を一身に背負った存在から聞えたのは、大き過ぎる悲鳴だった
う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「ぐ」なのか「ぶ」なのか「づ」なのか、「が」なのか「だ」なのか「ば」なのか、子音の音は分からない。母音の、とても快楽を得ているようには聞こえない、音
彼をこうしたのは、死んで"幻想殺し"として純化した上条当麻、"相対するもの"の接近
その相補性・相互干渉性が、彼の変化を急速に促進させた
しかし、彼を包むのは、理不尽から全てを守ろうとした、垣根提督のような優しい繭では無い
膿んで腐り果てたような巨大な右腕が、聖堂から、聖堂だったものから、まず生えた
どこから生えたのか、と問われれば、分かりはしない。次から次へと腕以外の部分が急速に、蛇がのたうつように生まれて、彼を取り込んで巨大な数百メートル以上の人間の体のような形を作り上げていくのは、直ぐだった
それだけではない
その巨体に見合う、かえしのついた槍のようなものが生まれ、それを生まれたばかりの朽ちた体が握り、自らの体を貫き
その巨体に見合う、巨大な鋸が生まれ、自らの首に押し当てて、引きちぎらんと動かし
その巨体を覆うに見合う、巨大な雲が空に浮かび、雷の雨を降らし
その巨体を覆うに見合う、大きな大きな火の玉が、彼を執拗に砕く
何度、千切れた肉が、変色しきっている血が、飛び出した目玉が、剥がれた爪が、砕けた骨が、当りに撒き散っても、それ本体は全くに死滅しない
なぜなら、彼はまだまだ神への変態過程
彼の思いが達されるのは、完全に神となった後の事だろう。それが何なのか、彼が何時満足するのか分からないが
だが、それで彼が無事だったとしても、撒き散らされた血肉は死を続ける。触れる周りを巻き込んで
深い黄や緑に変色している血は、現存する何よりも程度の酷い超酸能を持ち、紫というより黒に近い肉は、ほんの僅かな刺激を受けることでも爆散と破壊を繰り返す
まだ神では無いとは言え、それは間違いなく、人々がフィアンマに期待した救いの類などでは無かった
そして生き残った人々にとって、死という救いなど、受け入れられるものではない
生き残った彼らはその対極なのだから。だからこそ、食料を奪い奪われ激怒しているのだから
そんな細やかな思いなど、しかし、お構いなしである
最早彼は、ただの破壊神でしか無いのだから
984 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
[saga sage]:2011/11/06(日) 03:12:55.25 ID:dQEA5iJzP
だからこそ、上条当麻はその幻想に立ち向かっていく
神に相対し、消し去る
彼に与えられた役割であり、そして、アレイスターに頼まれたことでもあった
それを思い出せるほどの人間性、理性は、今の彼にあるかどうか
人間であった彼は、既に死んでしまったのだから。人間の象徴である理性を残しているかどうか
いや、残っているのだろう
だから、この相対するものは、彼を殺そうとせずに突っ込んでいるのだ
何度も何度も、黒い光の結晶が、時折それは悲しい顔をした女のものであったりするが、彼に向ってくる
来ないで、彼を放っておいて
と、すがるような表情で、何度も何度も
しかしそれは、彼の役割が、そして彼に見える悲惨な光景が、彼を留めない
同時に、未だ神ならぬ存在ならば、その対象では無いと判断し、ならば、その前に止められると
しかしやはり、残った理性は完全ではないのだろう
それが故に、彼はずっと自身を傷つけ続け、災厄を振りまく成りかけの神に近づけない
近づこうと愚直に突進して、しかし弾かれるだけなのだ
結局、無駄に消耗するだけでしかなく、状況は少しも改善されないまま
時間だけが流れ、加速する"神の国"が徐々にその遠近法を大きくしていた
985 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
[saga sage]:2011/11/06(日) 03:13:40.16 ID:dQEA5iJzP
所有権という権利の概念は、起こりは国家の国王の領土領民の主張にその源流があり
原初的には往々にして十字に繋げられた。この土地はあなた様のもので有ると主がおっしゃっている、と言う形で
その意味で使われた期間の方が、自由権に混じるそれとしてあつかれている期間よりもまだまだ長いのだ
そしてまだ古い時代の名残が大きく残っている英国の女王は、神からその統治を、所有をまかされると言う形を持っている
つまりのところ、だから彼女はそれだけの力を持てる事にもなった
カーテナを扱える王権簒奪者たる現女王・ローラ=スチュアートはその所有を世界に拡げた
奇しくも大英国。7つの海を支配した歴史を持ち、隣接する土地の領有を成し遂げた
そして所有権とは同時に、他に所有を叫び反対する者が無ければ、その所有は認められるという概念でもある
つまり、地上に残された唯一の王である彼女はその権利を主張して、事実上、世界は国民の居ない英国となった
全く内実を伴っていないが、それが誰もが為し得なかったことを可能にさせた
世界全土の地脈の類から発する力を一つにまとめ、凄まじい規模での術式を行使する
王権がもたらす領有だけでは概念が狭く、扱いには足りない。それを包括的に担保するのが、彼女のホルス、"母なる大地"
大地が無ければ天という概念もなく、また逆もしかり。天が神に象徴される一方で、十字の教えを生むに到ったキリストを、その聖母を生んだのも大地である
その規模を用いれば、一人日本の地にぽつんと立っているだけだった"幻想殺し"を発見しここまで連れてくることは全く難しくない
汎用性の高い概念を、そこから生み出される柔軟で巨大な力を操作するのは、もちろん一筋縄ではいかないが
彼女自身が、そのような大きな力を操作する為に弄られた、作られた人間である
そもそも、それを実行したアレイスターにとっては、彼女がそれだけの力を扱えるのは目を見張るべき実験の成果でもあるが、あまりにも既知の情報だ
そんな彼女だが、しかし、焦っていた
"大地"も"母、すなわち女"も、共になされるがままの存在である
対として相補性が有るにせよ、大地は天から水害や雷害、最悪隕石まで受けるがまま。女も、男によって守られ精を受けねば、基本的には子を為せない
聖母マリアはシングルマザーであったというが、神から精を受けて十字の救世主は生まれたのだから、それは変わらない
986 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
[saga sage]:2011/11/06(日) 03:14:29.67 ID:dQEA5iJzP
根本的に受け身の存在なのだ
その目の前で、どちらかと言えば天に分類される神が、しかも偉大なる破壊神として生まれようとしている
彼女はそれに干渉するには性質的に弱い。そして、なにより
ローラ(なによりこの神が生まれることを、その過程を、あの男、アレイスター=クロウリーは狙っていたとも考えられけるのよ)
このモスクワのどこかに消えた彼を探しながら、同時に、彼女は受けを続ける
天に対して受け身の大地へは、フィアンマだったものの無意識が破壊対象として、"幻想殺し"と同じような黒い光の塊が向かってくる
その構成の主たるものは、復活者
光の中に内包された表情は彼らの主と同じく苦痛を現している。そこには、天使に限りなく近い存在としての、権々としたものは
大地とドッキングした浮遊モスクワの地を隆起させて、盾のように扱って身を守るも
ローラ(……ッ!?)
土壁を打ち破って苦痛の顔が彼女に向かう
ローラ「苦痛を感じているのは、貴様たちだけでは無しなのよ!!」
息を吐いて、ギリギリのところをカーテナで叩き落としたが、剣との接触時に破裂した黒い光の破片が彼女の体を傷つける
直撃を貰うよりもずっとマシだが、痛みはある
ローラ「……こんなところで止まっては居られなしであるのに」
しかし、前を見れば次から次へと向かってくるのが見える
これでもかなり、それこそ上条当麻を運んだ岩石柱の有るところまで下がっているというのに
ローラ(アレイスターは間違いなく、神の力を利用したる腹積もり。今消えているのはあのフィアンマを利用せんと図っているから、だとしたら)
都市部から離れて、核の火を受けて焦げた大地を、彼女は駆ける。巨大な自壊神フィアンマの攻撃を避けるために
ローラ(だとしたら、アレイスター自身を止めるか、あの黒き化け物を処理しなくては。"時項改変"を聞きだしける前に、奴の事が成されてしまう)
時間の問題だが、こちらは随分と分が悪い
大地の性質では身を守るのに相性が悪すぎると、大英守護天使を盾にでも用いようかと考えるも、その巨大さ故に、本当にただの的で終わりかねない
987 :
本日分(ry このスレで終わらんやないかーい
[saga sage]:2011/11/06(日) 03:16:32.18 ID:dQEA5iJzP
そもそも、神の概念に対して天使では、もっと相性が悪いじゃないか、と気付けたのは、まだ余裕が有ったからだろうが
ローラ(私自身が、冷静さを欠きたるのは明白でありけるわね)
余裕の範疇を越えた時間での思考は、やかましい対空機関砲の如く続くフィアンマの破壊意思の塊の把握に、誤差を生んだ
まだ、受けると分かっている損害だから、耐え様もあるか
ローラ「……ぐぅ!!」
破片が、ショットガンのように彼女を襲った。嫌な方向へ骨や関節が曲がり、臓器にまで直に達する衝撃。厄介なのは、精神まで直接的に破壊しようとする意識
自身が知る結界だの盾だの緩衝だのといった術式を全て試したものの、破壊"神"の前にはさしたる意味を為さず、痛みは彼女を更に焦らせる
何とかしなくてはと思うも、"幻想殺し"はまだ接近しきれないでいる。この時の為の"対"であり、そんなものでは無い筈であるのに、当てにもならない
心の中で、何度目かの舌打ちをした
ローラ("対"が今を導きけるのなら、"幻想殺し"を持ち出したるは、完全に愚策だった……!!)
いくら回復能力があると言っても、その幅を越えて、しかも
残る一本のカーテナを盾に、連続して近づいてきた復活者の塊を受けようと図るも
ガァンという音の中に、メシッ、と砕ける音と感覚が混じった
剣が?! と驚いた時には既に遅く。横から回り込んできた結晶塊を防ぎきれず
重力が弱くなっていた事も作用して、彼女は聖堂に近づくような方向へ大きく叩き飛ばされた
"大地"は"天"の災害を受けるが、しかし、その都度再生する。時には、適した形に自らを変えて。対なのだから、単独では存在できない
だから、彼女の"母性"は倒れることは無い。それが、彼女を助けんとして、回復自体はすぐさま始まるが
よろよろと、彼女は少女たちの前で立ち上がった
目に入ったのは、突然飛んできて土煙を作った自分に驚く少女たちではなく
何百mか考えるだけ無駄に巨大化した黒い神に、その前に浮かぶ"幻想殺し"と、その後ろに現れたクロウリー、そして
ローラ「……あれは、学園都市の、第一位?」
言って、彼女は一番近くの滝壺に倒れかかったところを抱き留められた
988 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
[sage]:2011/11/06(日) 07:36:33.93 ID:XTFqxASSO
今にも最終回を迎えそうな展開だが、3周目はあるのだろうか
おつさま
989 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(東京都)
[sage]:2011/11/06(日) 07:41:49.35 ID:buu+4t/uo
乙〜
右腕復活おめ。フィアンマ……
990 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(長屋)
[sage]:2011/11/06(日) 10:23:23.97 ID:5tP5N+dNo
誰かスレ立て頼む
991 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
[sage]:2011/11/06(日) 15:18:30.85 ID:r+5eHZ90o
俺たちの爆発アイドルの2代目がフィアンマになってしまった
992 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(東京都)
[sage]:2011/11/06(日) 15:53:36.60 ID:buu+4t/uo
相変わらず
>>1
はスレ立て出来ない?
いつでも代理おkだけど
993 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
[sage]:2011/11/06(日) 16:55:29.78 ID:eeH9leJFo
三周目だけど、三周目じゃなかった!は今のところ確定路線なんだけど、(二周目よりもっと癖が強そうなヨカーン)
二周目のラストにやったら手がかかってるのは事実なので、まだ次のおぱんちゅ脱ぐのは早いかなぁと
もちろん次のストリップ会場があるには越した事無いけど、多分今度は自分で建てられると思いますしお寿司
お暇な方がいたら立てて下しあ
994 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(東京都)
[sage]:2011/11/06(日) 16:57:13.21 ID:buu+4t/uo
じゃあ立てる
995 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(東京都)
[sage]:2011/11/06(日) 17:35:27.27 ID:buu+4t/uo
ミスってたら佐天さんと一緒に爆発する
上条「なんだこのカード」 SEASON 4
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1320568358/
996 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(神奈川県)
[sage]:2011/11/06(日) 18:06:43.33 ID:9yXeBWgmo
>>1
と
>>995
乙
ホルスとかいう単語が出てくると俺の厨二心がくすぐられる
997 :
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(長屋)
[sage]:2011/11/06(日) 21:24:36.80 ID:k6OnkbEgo
梅
998 :
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(長屋)
[sage]:2011/11/06(日) 21:25:33.38 ID:k6OnkbEgo
梅
999 :
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(長屋)
[sage]:2011/11/06(日) 21:25:59.64 ID:k6OnkbEgo
うめんこ
1000 :
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(長屋)
[sage]:2011/11/06(日) 21:26:47.49 ID:k6OnkbEgo
1000なら四周目確定
1001 :
1001
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