【艦これ】ex.彼女

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1 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 01:58:02.30 ID:RoopFMMpO
・独自設定あり
・主に憲兵さんがメイン
・息抜きにコメディを書きたくなって始めた、オムニバス形式のお話。なので更新は不定期です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1520701082
2 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 01:59:16.17 ID:RoopFMMpO


「そんな……。」


ひどい雨の日の事だった。
あの時の彼女の震えた声は、今でも時折思い出す。

馴染みの公園で、別れ話をした時の事。

あれ以上に女の子を泣かせた事は、未だに無いな。
赤い傘に、彼女の長い髪。
でもその髪が頬に張り付いていたのは、雨で濡れたからじゃなくて……。





3 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:00:14.82 ID:RoopFMMpO


第一話・邂逅


4 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:01:05.85 ID:RoopFMMpO


「…………ひっでえ目覚めだな。」

なんつー夢だ。よりにもよって、異動初日にこれか。
あんまり思い出したくない元カノの夢。

何年前だっけなぁ…まあいいや。
寝覚めの悪さを振り払い、景気付けに豪快に顔を洗う。
ついでにヒゲ剃って歯も磨いて、そんで勝手知ったるカーキ色に袖を通せば、見慣れた姿の完成だ。

でも今日からは、2週間前までとは違う場所。

着任2年目、初めての異動。
さて、気合い入れましょう。

今日も一日憲兵稼業、頑張りますか!

5 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:02:25.76 ID:RoopFMMpO

「憲兵長殿!おはようございます!」

「ああ、おはよう。今日からよろしく頼むよ。」

「はい!どうぞよろしくお願い致します!」


意気揚々と詰所に入り、まずはここの長への挨拶だ。

着任の挨拶は引越しの時に済ませてるが、やっぱこの人怖そうだな…。
切れ長の目に銀縁眼鏡…ぱっと見イケメンだが、それ以上にインテリヤクザって印象なのが正直なところだ。

「赴任早々すまないが、今日はまだ警邏の時間じゃないんだ。
そこでなんだが…少し雑談をしないか?君の人となりを知りたい。」

「は、はい…そうですね!自分もまだちゃんとはお話出来ておりませんし!」

雑談かぁ…うーん、見るからに何考えてるか分からない人だぞ?前のとこじゃ当たらなかったタイプだ。
しかしここでも俺の使命は同じ。鎮守府の治安を守り、艦娘やここに勤める人達も守る。それが俺の仕事だ。

そうだ、これからこの人の下に付くんだ。
チームとして一丸となる為にも、些細な事でも必要な事じゃないか。

さて、何から訊かれるかな…誕生日?それとも出身かな?
おおう…眼鏡をくいっとやる動作がまた、冷徹そうなオーラを出してる…何か緊張してきたぞ…。


6 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:03:07.38 ID:RoopFMMpO



「君は女性の部位なら、どこに惹かれる?」




………………。




はい?




7 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:04:27.31 ID:RoopFMMpO

「ほう、なるほどな…今の話を分析するに、君はどちらかと言えば柔らかな雰囲気の女性が好み…。
髪はロング派…手の綺麗な人に弱い……要は可愛いよりは美人派と言う事か……。」

え?ゑ?ヱ?
一人でブツブツ言い始めたぞ。何でさっきより眼鏡が光ってんだよ…。

だんだん声が小さくなって、それに比例してボソボソと何か言ってる音は目立つ。
怖えよ…一体何考えてんだこの人…。

「君、どうして憲兵になった?」

「え?はい!所属志望を決める際、深海棲艦討伐に関わる皆様を、裏からお守りしたいと考えまして…。」

「そうか、立派な心掛けだ。私も気持ちは同じだ、共にここを守っていこうではないか。」

「え、ええ…今後ともよろしくお願い致します!」

「守りたいものがあると言うのは、この職務に於いてはとても重要だ……。
見てみろあの中庭を…愛でるべき年頃の娘達が華々しく過ごしているではないか。
ああ、女性と言うのは何故かくも美しく儚いのか。

あの艶やかな髪に透き通る肌それと曇りなき瞳にセイレーンの如く我々を惑わす美しき声華やかな笑顔弾むようなたわわな果実いや青々とした実りを待つそれもまた素晴らしいすらりとした脚はまるで芸術品の如くしなやかな腕は甘美なる陰影を持ってその美しさを我々の目に刻み込む平和のため髪をなびかせ戦う様は気品すら感じさせ戦の後に纏う血と潮の薫りでさえ花々をも凌駕する高貴なるスメルその存在はまさに神々しく天が与えたもうた地上の奇跡と呼んで何一つ差し支えない。

……私はね、そんな美しき彼女達を愛で……んんっ!
守る為にだね、こうしてこの職務に就いているのだよ。」


………………。


……やべえ、変態だ。


8 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:05:17.14 ID:RoopFMMpO

「憲兵長殿、早速ですが出動事案です。」

「一体どうしたと言うのかね?通報も無く、窓から見える中庭も至って平和ではないか。」

「憲兵詰所にて変質者出没!確保だ!軍法会議に掛けてやる!」

「離せ!何故私を逮捕しようとするのだ!
私はただこうしてお花さん達を視か…じゃなかった!艦娘達を見守っているだけではないか!」

「てめえ今視姦つったろ!大人しくしやがれエロ眼鏡!」

「貴様ぁ!上官に対してその口の利き方は何だ!許さんぞ!」

「容疑者に使う敬語は持ち合わせてねえ!」

9 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:07:10.15 ID:RoopFMMpO


「………で、何か言う事は?」

「も、もうひわけごらいまへんでひた……。」

俺ね、一応空手三段。
な、何故こんなひ弱そうな眼鏡にボコられたんだろう…嘘だろおい。

ちっ、腐っても憲兵長って事か…まあいい、癖のある上司に当たる事もあるだろ。
こんにゃろう、絶対いつか告発からの更迭コースにしてやるからな。

「ほー、貴様如きに私を更迭出来るとでも?」

「いいっ!?」

「貴様のような小童の思考などお見通しなのだよ。
まあまあ、これから貴様は私の部下だ…ここは一つ、私と共にここを守って行こうではないか。な?」

格闘技齧ってたからこそ分かるプレッシャーってのはあるもんだ…。
この時こいつのひと睨みだけで、俺は勝ち目が無い事を悟った。

何なんだこいつ…も、もしかしなくても、俺はとんでもねえ場所に飛ばされてしまったんじゃ…。

「ふぅ…まぁ安心しろ。私はただ女性を観察するのが好きなだけだ。
決して直接セクハラを働くなどと言った無粋な真似はせん。
あくまで彼女達は守り、時に正すべき対象だ。それが我々の仕事。」

「……本当ですか?」

「ああ。生憎問題を起こした艦娘については、私は一切の容赦はしない。
提督、並びに職員に対しても、該当すれば同じだ。

貴様のやる事はここでも変わらん。
前任地では優秀だったと聞いている、そのまま職務に邁進したまえ。」

「…はい。」

「時に貴様、質問したい事がある。」

「何でしょうか?」

「うなじの素晴らしさについてどう思う?」


………やっぱダメだこいつ!!


10 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:09:01.12 ID:RoopFMMpO

「はぁ〜〜〜………。」

お昼休み……の、喫煙所。
しかし昼メシなんて食う気も起きやしねえ。

結局あの後眼鏡に延々性癖についての話をされ続け、場所覚えついでの初警邏も何とも足取りが重かった。
あの野郎、話の節々でニヤニヤしやがって…人の性癖聞いて何が楽しいんだ?

溜息が止まらず、思わず2本目のタバコに手を付ける。
やべえな、こりゃ相当イライラしてる証拠だ。

そんな時、ガチャリと喫煙室の扉が開いた。
入ってきたのは白い制服……ああ、粗相が無いようにしないと。

「提督殿、ご無沙汰しております。先日のご挨拶以来ですね。」

「ああ、君か。今日から着任だったね。
君のお世話にならないよう気をつけるよ。」

「ははは、提督殿ならご心配には及びませんよ。」

「だといいけどなぁ。
あ、そう言えば今日の夜挨拶あるの知ってる?」

「新規赴任の挨拶ですよね?1800に食堂にてと伺っております。」

「そうか、ならそこでしっかり顔を覚えてもらうように。
うちは悪戯っ子も多いからな、今後は君を見たら大人しくなるよう頼むよ。」

「はい!何卒よろしくお願い致します!」

「まあ憲兵長はあの通りへんた…曲者だが、腕は確かだ。
彼の下でしっかり学んでくれ。」

今、変態って言いかけたよな……あいつやっぱり逮捕した方がいいんじゃねえか?
提督はタバコを吸い終えると、その人のいい笑顔のまま喫煙室を出て行った。

そう、『笑顔のままで』だ。

11 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:11:48.24 ID:RoopFMMpO


「時に貴様、現在交際相手はいるのか?」

またかよ……。

現在時刻1730、今日の任務は粗方終わり。
夕暮れ時でも腹は減らず、もうカップメンでいいやと考えていた時だった。

「はぁ……いやぁ、今は彼女はいないすねぇ……。」

「今はという事は、いた事はあるんだな?」

「ええ、まぁ……。」

「ほう、どんな女性だった?」

「………聞くんすか、それ…。」

「上官の質問には素直に答えろ。」

にやけた面で眼鏡を直すな。顔だけ無駄にイケメンなのがまた癪に触る。
本当割るぞてめえの眼鏡。ちくしょう、今度べったべたに指紋つけてやる。

あいつかぁ…あんまり思い出したくねえなぁ…。

12 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:13:02.74 ID:RoopFMMpO

「高校の同級生でしたね…。」

「ほう、青春じゃないか。どう言った経緯で?」

「告白されてですね…そこから卒業前まで付き合ってました。」

「という事は、卒業を機に別れてしまったという事か?」

「……いえ、卒業の少し前です。俺から振りました。」

「それは無体な…またどうして?」

「あー…ちょっと……いや、かなり重かったんですよね。
嫉妬深いって言うか…矢が飛んで来ると言うか……。」

「矢とは?」

「文字通りです。彼女、弓道部の県ベスト3だったんですよ…他の女の子と接触あろうもんなら……ふふ…。」

「それだけ愛されていたという事だろう?男ならハートで受け止めたまえよ。」

「心臓がいくつあっても足りませんよ…トドメはバレンタインのチョコレート。」

「バレンタイン?」

「鉄の味がしました。それでいよいよ精神的に持たなくなって…。」

「……ご褒美ではないか。」

ちょっと引き気味に言われても、説得力ねえっての。
ほれ見ろ、この変態ですら引いてんじゃねえか。

その後は結局、逃げるように進路にしてた軍学校に入ったっけ。
男所帯で揉まれて何年か、気付けば憲兵も2年目。その間新しい彼女は出来ず。

そう思うと結構前で、でもあいつの泣き顔だけは嫌に生々しく思い出す。
まぁ、だからどうって事は無いけどな。


13 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:13:59.81 ID:RoopFMMpO

「そうか……性交渉はあったのか?」

「そりゃありましたよ…今日び相手がいてなお純潔貫く10代なんていないでしょうに。
まあ、俺が喰われる側だったんですけど…。」

「………成る程な。その様な性質でそこまで行ったのならば、その子はきっと貴様の事を忘れずにいるだろう。
もしかしたら……今も尚、貴様の事を想い続けているのかもな。」

「………やめてください。切実に。」

「…さて、そろそろ良い時間だな。挨拶がある、食堂に行こうか。」

そう扉を開ける眼鏡の肩は、何とも軽やかだった。
今思えば、この時こいつの肩を引っ掴んで振り向かせれば良かったと思う。
きっとニヤニヤと笑ってやがったろうからな。

いや…でも時既に遅しだったか。
着任したその時点でもう、俺は足を踏み入れていたのだ。

この鎮守府と言う名の魔窟って奴に…!

14 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:15:11.73 ID:RoopFMMpO

「えー、では紹介しよう。本日より新たに配属された憲兵さんだ。
みんな、彼の世話になる事が無いよう頼むぞ。」

挨拶そのものは滞りなく終わった。
今日は新任組の歓迎会という事で、ここの面子が勢揃いだ。

しかしこうして見ると、ここは前いた所より大きな艦隊だ。
一人一人顔と名前を覚えなきゃだが、果たして覚えきれるのやら。
挨拶も終わったし座らなきゃな…空いている席は…と考えていた時、ある場所から声が掛かった。

「憲兵さーん、よかったらこっちに座りませんか?」

「良いんですか?ありがとうございます。」

ある一角にいた艦娘が、そう声を掛けてくれた。
お言葉に甘え促されるままにそのテーブルへ近付き、そこに座る面子が目に入り……。



俺の時間は、音を立てて止まった。



15 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:16:25.61 ID:RoopFMMpO




「あら…素敵な方ですね。

『初めまして』、正規空母・翔鶴と申します。」



16 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:17:29.99 ID:RoopFMMpO

そこにいたのは……まさに数分前に眼鏡との会話に出ていた噂の元カノ。
そしてその瞬間、ここにいた全員の目がこう笑ったのを俺は見逃さなかった。


「かかったなアホめが!」と。


これより始まるのは、艦娘になってたなんて想像もしてなかった元カノとの、再会以降の日々。
並びに、俺とこいつのヨリを戻させようとしてくる、ここのメンバー全員との攻防戦の日々である。

この時俺は、眼鏡や提督の笑顔の真意を知った。

こいつら……全員グルじゃねえかあああああああっ!!!!!!


17 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:18:53.95 ID:RoopFMMpO
今回はここまで。
こんな感じで、気晴らしにポツポツと書いて行こうかと思います。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/11(日) 03:02:36.60 ID:Nj72GiUDo
おつ
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/11(日) 11:37:11.99 ID:XO8Cy2sY0
おつきたいはよ
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/11(日) 22:42:27.56 ID:bBSEfadA0
期待待機
21 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:08:07.40 ID:Bb7Tt4iuO




第2話・白蛇さん



22 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:09:11.42 ID:Bb7Tt4iuO

「憲兵さん、どうかしましたか?」

席へ呼んでくれた艦娘は、固まる俺を見てそんな事をぬかす。
隠しきれてねえ薄笑いを浮かべてな。

どうしたもこうしたもねえよ…な、なんでこいつがいるんだよ…。
ああ…翔鶴って空母か…確かにこいつは適任だわ。

「まだお若いんですね。おいくつになられるんですか?」

白い髪をなびかせつつ、白白しい質問です。
お前と同い年だよこんちくしょう。

ええ、相変わらず綺麗な白髪です事……そんで隣に座らさせられた俺はカーキの軍服だ。
まさに白蛇に睨まれた蛙の色合い。ははは…このじっとりした視線、既視感しかねえなぁ…。

因みに今は乾杯寸前。寧ろそんな逃げられない空気に完敗寸前だ。
しばらくここにいるしかねえじゃんかよぉ…め、眼鏡は…ん?SMS?

23 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:10:10.61 ID:Bb7Tt4iuO

『携帯番号しか知らんので、こちらで失礼する。

事務作業があるので先に失礼させてもらった。
せっかくの歓迎会だ、大いに(主に翔鶴君と)楽しんでくれたまえ。

武運を祈る。』


……あの眼鏡、逃げたな。

いや、落ち着け俺。まだ乾杯だぞ?これだけテーブル数があれば、必然的に立ってあちこち回る事になる。
幸いまだ誰も料理や皿に手を付けていない、上手く立ち回ればしれっと違う場所に座れるチャンスだ。
よし、乾杯が終わったら誰か間に挟もう。それしかない。

「では今後の発展を願い…乾杯!」

提督の合図と共に、乾杯が始まる。
立ち上がって各テーブルを回り、様々な艦娘や職員とグラスを交わし…。

またしても、俺の時間は止まる結果となるのである。

24 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:11:56.28 ID:Bb7Tt4iuO


「あ、“どうも初めまして。 ”翔鶴型二番艦の瑞鶴です。」


うん…俺君の事よーく知ってるよ。
あいつは俺に対して重かったが、同時にシスコンの気もあった…そのめちゃくちゃ可愛がってた妹だね。何ならあいつに頼まれて迎えとか行った事あるね。
だからだろうね、別れた時俺の通学路まで怒鳴り込んできたよね。

引き笑い気味な俺を尻目に乾杯を交わすと、妹の方はそのまま次の面子へと向かう。
だがそのすれ違い様だ、俺のポケットに何か突っ込まれた感覚があったのは。

何だ?メモ……?



25 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:12:30.89 ID:Bb7Tt4iuO




『席変えたら爆撃。』





あ、死んだ。


26 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:13:35.81 ID:Bb7Tt4iuO

「憲兵さーん、戻るのはこっちですよー。」

しばらく石になっていると、そうオレンジの着物の艦娘から声が掛かる。
この子もグルか……!ああ、逃げ場がない!な、何か打つ手は…そうだ!

「あ、ごめんなさい。少しお手洗いに……。」

「場所分かります?」

「ええ、見取り図は持ってますので。」

よし、ひとまず時間稼ぎだ。
後はダメ押しに眼鏡に呼び出されたって体にしとけば、もうちょっと時間稼げる。

飲み始めれば段々席なんてグダッて来るだろ。
その辺でしれっと戻れば、上手くあいつから逃げ切れる。

トイレは……お、そこそこ遠いじゃん、ついてるぜ。この廊下の突き当たりか。

27 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:15:00.89 ID:Bb7Tt4iuO

『カツ…カツ…』


ここ、結構足音響くんだな。


『カツ…カツ…『カツ…』』


ん?


『カツカツカツ『カツカツカツ』』


なんかおかしい。


『カッカッカッ『カッカッカッ』』


いや、絶対おかしい。


『ダダダダダ『ダダダダダ』』


………なんかいる!!


いや、振り向くな俺!大丈夫!きっと幽霊だ!それより恐ろしいもんな訳ねえ!
よし!そこを曲がればトイレだ!
ん?壁に鏡……?


ものすごい笑顔の白髪の女が映ってました。


『つるっ…。』


あ、ひょっとしてワックス掛けたて…この角度、もうダメなやつだなぁ…。
床にぶっ倒れるなんて空手で散々やってる…問題は後ろの……。


“つ・か・ま・え・た”


蛇に食われる蛙の気持ち、よく分かったよ。

床に倒れるその瞬間、奴は強烈なタックルをかましてきた。
まさにレスリングのグラウンド。或いは獲物に巻き付く蛇。
どさ…と虚しい音が廊下に響いた時、俺の敗北は確定したのである。

28 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:16:07.15 ID:Bb7Tt4iuO

「ふふふ…この日をずっと待ちわびていたわ…。」

「離せ!俺は何も待ってねえ!何でお前がここにいるんだよ!!」

「あなたを追ってよ。」

「正気か!?」

本性出して来やがった……!
ちくしょう、下手に振り払おうもんなら問題になる。
いや、待てよ…今このシチュエーションなら俺の方が……!

「せ、正規空母翔鶴!これ以上暴れるならば、貴様を暴行の現行犯にて確保する!」

「………そう。」

職権濫用は嫌いだが、背に腹は変えられねえ。
今なら切れるカードだ、これでやめさせられれば…。

「………“憲兵さん”、今は大人しく退きますね。
ですが覚えておいてください…“ここの皆は私の味方”ですよ?

ふふ……お手洗いはそちらです。では、私は先に戻りますね。」

直後、頬にぬるりとした感触が走った。
奴は俺の頬をひと舐めし、何事も無かったかのように踵を返して去って行ったんだ。

その後宴会の場に戻り、以降は特に何かしてくる様子も無く終わった。
宴もたけなわ、後は部屋に戻るだけだが……俺にはその前に、行くべきところがあった。

俺の隣、202号室。
あの眼鏡の私室だ……!


29 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:17:16.85 ID:Bb7Tt4iuO

「てめえコラァ!!」

「ノックもせずに何だ貴様は。」

「何だじゃねえよ何だじゃ!どこから知ってやがった!!」

「貴様の資料が送られてきた時だ。
提督の所にも来ていて、たまたまその日の秘書艦が翔鶴君だったんだ。
貴様の写真も載っていてな、内容を確認する際、偶然貴様の着任を知ってしまい……ふふふ。」

「……何がおかしい?」

「……貴様のせいで、こちらは仕事が増えてしまったのだよ。確保ではなく、保護でな。

それからというもの、翔鶴君は暇を見ては弓道場に篭るようになった…昼夜を問わず、任務が無ければ常にだ。
貴様の写真を的に貼り、その下に体を書いてな。心臓の所にハートマークもばっちりだ。

貴様の名を呟きながら、今度は逃さないと虚ろな目で矢を射る姿は壮観だったぞ……いつしかこう呼ばれるようになっていた。

“いない元カレの名を呼ぶ病”とな。」

「う……。」

「お陰でこちらは毎晩毎晩保護の為出動…ただでさえ前任の異動は貴様が来るより早く、その間私はほぼ一人で面倒を見なくてはならなかった…。
中にはその様に魘される艦娘もいてな…まあ、瑞鶴と言うんだが。

ここは一つ、貴様に責任を取らせようと言うのが満場一致の結論だ。」

「……で、あんたの本音は?」

「そんなの面白そうだからに決まっているだろう!
あと私は、恋する乙女が最も美しいと思うから!以上!」

「よし!死ね!」

結果3秒でノックアウトでした。俺が。

30 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:18:50.52 ID:Bb7Tt4iuO

「まぁまぁ、当時は色々あったのかもしれぬが、翔鶴君は良い女ではないか。
容姿も整い、人当たりも柔らか…良い嫁になると思うぞ?考え直してはみないか?」

「俺の話聞いてた!?嫌だっての!あだだだだ!?」

ボストンクラブを決めながら、眼鏡はニヤニヤとこうぬかしやがる。
こ、この野郎…ちくしょう、絶対いつか告発してやる…!

「ふう…仕方がない、今日の所は勘弁してやろう。
あまり無理強いした所で、貴様が乗り気でないなら翔鶴君が可哀想だしな。

ああそうだ、貴様に渡すものがあった。」

「……何すかこれ?」

「この寮の部屋割りだ。渡したファイルに綴じ忘れていてな。
寮のトラブルで出動する際は、そちらを使うように。

私はおふざけも大好きだが、やるべき事はやりたい主義だ。そこはしっかりと頼むぞ。とっとと帰れ。」

「いって!」

紙を見る間もなくケツを蹴られて叩き出され、しぶしぶ部屋に戻る事にした。

資料に目を通すと、内部は結構でかい寮なのが分かる。
ああ、艦娘・職員共通なのか…えーと、2階が職員用で、3階から6階までが艦娘用区か……


く?


31 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:20:03.57 ID:Bb7Tt4iuO

この時俺は、恐ろしい事に気付いてしまった。

部屋ナンバーって奴は頭の数字が階、残り二桁が何番目の部屋かの意味になる。
例えばこの203号室なら、2階の3番目の部屋って事だ。

問題は…頭の数字を3に入れ替えた、真上の部屋。


『303号室・翔鶴』


さらに右下に視線をずらすと、改定日が一昨日。
つまり、俺が越して来る前日……!

待て!こんな時こそマニュアルだ!
これには艦娘の能力と、そこへの対処が載ってる!
頼むぜ…いくらなんでもそんな芸当は……。


『空母・本人と妖精のスキルによっては、ホバリングも可能。
高練度な者の中には、艦載機を虫のように操作出来る者もいる。』


パタンと資料を閉じ、からくり人形のように窓を見た。
カーテンの隙間、そこには……!


『きらーん』


ものすごく眩しい笑顔で、コックピットからサムズアップする妖精と目が合った。

艦載機には、何やら紙が括り付けられている。
それを妖精が窓に貼り付け、綺麗なホバリングで上に登って行った。内容は…。


32 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:21:37.70 ID:Bb7Tt4iuO


『ずっとあなたを待っていました。

追伸・最近DIYに凝っています。』


DIY…うん、縄梯子とか作るのかな?

逃げ場なし、外堀はもはや埋立地。
初日にして魔窟に迷い込んだ事を悟った俺は、ただ絶望感に灰になるのみだった。


『びたん!』

「ひいいいいいっ!?」


…なんて打ちひしがれてたら、また窓に紙!
こ、今度はな……


『ご自由にどうぞと書かれた笑顔の翔鶴の写真』


もう、還っていいかな……土に。

33 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:23:09.63 ID:Bb7Tt4iuO

気絶なのか疲れなのか、気付いたら寝落ちして初日は終わった。

その日の夜、夢を見た。
あれはまだ、あいつと仲良くしてた頃の春休み。

お互い大会も終わり、あいつがうちに遊びに来ていたものの、疲れて眠くなってしまって。
それで窓も閉めず、二人でぼんやりと昼寝をしていた。

春風が心地よく、時々窓から庭の桜が舞い込む。
それを手に取っては、綺麗だねなんて笑っていたものだ。

別に何をするでも話すでもなく、ただ体を預け合って眠る1日。
そんなひと時は、どうしようもなく幸せだったように思う。

……ん?て言うか夢だよなこれ?
夢だと気付いた瞬間、越して来たばかりの部屋に引き戻された。

あれ…?布団ちゃんと被ってる…?
俺、確かベッドに倒れてそのまま……。

いや、誰もいねえ。考えるな俺。
なんか妙に片側に寄ってるとか、空いてる側が生暖かいとかあるけど。

わあ、白い髪はっけーん。

現在時刻、朝の4時。
俺の波乱の憲兵生活は、こうしてひと息つく間も無く次へ次へと向かって行くのであった。

誰か…俺を助けてくれええええええっ!


34 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:23:58.75 ID:Bb7Tt4iuO
今回はこれにて終了。
次回はネタがまとまったらば。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/13(火) 01:33:35.17 ID:Qel9f9/zO
おつ。けしの花びら〜の人ですな。
文体に特徴があるからすぐ分かったw。楽しみにしてます。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/13(火) 22:41:55.91 ID:SMfQZD8Io
翔鶴さんみたいな美人振るとかどう考えてもホモだろこの憲兵
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/14(水) 00:01:15.13 ID:UvUXuaiGO
その理屈ならヤンデレから逃げた奴はみんなホモになってしまう
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/14(水) 00:15:24.36 ID:+fWPp1MzO
翔鶴といえば前立腺開発だからなあ……
もう開発されてたりして。
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 10:31:48.97 ID:I/uapy+A0
まずは妖精さんを餌付けして仲間確保しなきゃな
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 15:27:00.01 ID:Ngx5fdJh0
つ異動願い
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 23:05:45.15 ID:2BEMW7W20
きらーんする妖精さん
可愛いだろうなぁ
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/18(日) 22:04:47.93 ID:cfTTCqbJO

翔鶴じゃない、娼鶴だコレ
43 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:12:14.13 ID:nEuouCZeO





第3話・珍しい兵隊さん、略して…




44 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:13:33.50 ID:nEuouCZeO

「はぁ〜……」

勤務2日目、現在時刻は午後3時。
あの後結局二度寝も出来ず、死にそうな顔で仕事をこなしていた。

今は午後休憩に入ったが、寝不足だと逆につらい。
ちょっと気を緩めれば、途端に瞼が落ちそうだ。

「くくく、あの後は熱い夜でも過ごしたのか?随分憔悴しているじゃないか。」

「熱いどころか凍て付く夜でしたよ、主に肝がね。」

分かってて言ってんだろ、割るぞ。

いや、でも今は怒る気力も湧かねえ…とにかく眠い。
今日は夜警は無し、出動でも無い限りは帰って寝れる。あと3時間堪えれば勝ち。

あー、布団が恋しいぜ……。

45 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:14:58.30 ID:nEuouCZeO

「三千世界の鴉を殺し、鶴と朝寝がしてみたい、と言った顔だな。」

「鴉が鳴いたらさっさと布団と朝寝するのが人でしょう、何で鶴限定なんすか。
大体その鶴のせいで寝不足なんですよ……ふぁ…。」

「…致したのか?」

「んな能動的なマネするわけ無いでしょう。起きたらベッドの端が生暖かく、ダメ押しの白い髪一本です。
一体どう忍び込みやがったのか…。」

「ああ、そう言えばこの前鍵束を落としてしまってな。
その時鍵が一つ見つかっていなかったんだが、翔鶴君が届けてくれたな。」

「……何日後ですか?」

「3日後だな。」

「部屋は?」

「203号室だ。」

「次の夜警の時、背後に気を付けてくださいね。」

犯人はてめえか。その間に鍵屋行ってたってオチだろ。
どうなってんだここの警備は…ああ、こいつの気分次第か。

幸いここの寮は雨戸が付いてた、閉めりゃ昨日みたいな事態はまだ避けられる。
ドアは突っ張り棒かますとして…問題はやっぱ、ここにあいつがいる事そのものだな。あとこの眼鏡。

異動願いは半年経たないと申請不可、かと言って憲兵辞める気はさらさらねえ。
お上からの辞令なんて、当面来ない神の声…となると、諦めさせるしか道は無し。

……って何冷静に考えてんだ俺!さっきからキレる場面だろうが!?

はぁ〜……ダメだ、イラつく元気もねえんだな今は…。
もういいや、今日は帰ったら寝よ…。

46 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:16:25.74 ID:nEuouCZeO

「ふむ…昨日前任地からの報告書を読み返したのだが、なかなかやるじゃないか。2回犯罪者の逮捕に協力したとあるが。」

「ああ、そんな事もありましたね…。」

「夏と冬、休日にそれぞれひったくりと誘拐の現場に遭遇。持ち前の身体能力を活かし、犯人を確保。
……そんな正義感の持ち主が、どうして上司にはこんなに冷たいのか…。」

「そのレンズにベッタベタに指当ててよーく考えてください。
そんなに良いものじゃないですよ、実際は俺が逮捕寸前でしたから。」

「ほう、どうしてまた?」

「あー…とっさに繰り出した技が上段回し蹴りと踵落としで、どっちも気絶して。
まあ、事情を知らない警官からしたら、俺が暴漢ですよね…。」

前の上官に、やり過ぎだ馬鹿者!ってめちゃくちゃ怒られたな。
犯人が訴えてたら、過剰防衛でとっ捕まってる所だった…。

俺も分かっちゃいるんだが、ああいう場面に遭遇すると体が先に動いちまう。ダメなんだよな、人のピンチを見ちまうと加減が…。
そんな性分だから、こういう仕事を選んだフシもあるけど。

ああ、そもそもあいつとの馴れ初めも…やべ、頭痛がしてきた。



47 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:17:59.98 ID:nEuouCZeO

「なるほどな、それで翔鶴君の心を正拳突きしたわけか。」

「ぶっほっ!?」

「中高と空手部が無かった貴様は、放課後になればすぐ道場に通う日々。学校では目立たない方だった…。
一方弓道部の翔鶴君は、日暮れまで学校で練習に励む毎日。一見すれば接点の薄い二人…。

しかぁし!そんなある日、通り魔が翔鶴君を狙う!
襲い来る刃!恐怖に震える瞳!

…だが次の瞬間、通り魔は華麗なる回し蹴りにより吹っ飛ばされた!
よーく覚えているだろう…そう!そこに現れたヒーローこそ貴様だったのだ!」

「き、聞いてたんすか…。」

「そうとも…毎晩毎晩保護の度にここで体をくねらせ耳にタコが出来るまで語ってくれたぞ?
大丈夫か?と手を差し伸べてくれた時の輝く笑顔は忘れられないとも…。」

あいつ誇張してやがる…実際は苦笑いだよ。

通り魔の歯が2〜3本転がったのを見て、あいつを連れて速攻逃げたんだ…やべえ、やりすぎたって。
人間って、青ざめると笑っちゃうよね。

そこから色々あって付き合うに至ったんだが、何年前の話だよ…。うーん、いよいよ頭が痛え。


48 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:20:24.85 ID:nEuouCZeO
その後終業時刻になり、俺は速攻で自室へと戻った。
寝巻きに着替え、シャワー室でひとっ風呂浴び、やっとの思いでひと眠り。
まだ夕暮れではあるが、今夜はしこたま眠れそうだ。対策もしたし、昨日みたいなホラーも無いだろ。

あー、瞼が重てえ…。


うーん。


すう…。




「キャアアアアッ!?」



何事だ!?

悲鳴は…廊下じゃねえ、外か!
躊躇してる場合じゃねえ!裸足のまま外へ出ると、事は中庭で起こっていた。

……っ!?侵入者か!!

寝起きの目はまだ霞んじゃいたが、ナイフを持ってるのはすぐわかった。

「ひっ…助けて…。」

別の人影…やべえ!艦娘が襲われてる!

後になるとつくづく悪癖だと思うんだが…そこからの行動は早かった。
細かい事を考えるより先に、もう犯人は目の前。
何度も練習でやった動きを繰り出した時、俺の脚には重い感触が走っていた。

「へぶぅ!?」

あ、結構派手に吹っ飛んだな…。

いつもそうだ、犯人の悲鳴が耳に入ってようやく我に帰る。
やっちまったなぁ…まぁ、今回は事が事だ、お咎めなしだろう。
そうだ!まずは被害者の無事を確認しないと。

「大丈夫か!?」

「ええ…また私を助けてくれたのね!」


…また?



49 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:23:02.79 ID:nEuouCZeO

折しも、ちょうど目の霞みが抜けてきた頃。
冷静になった俺は、そこでようやく襲われていたのが誰かを理解した。

外灯の照明に照らされ、さらさらと輝く白い髪…何よりものすっっげー覚えのあるじっとりとした視線。
にも関わらず、しいたけかってぐらいキラキラもしてる矛盾した瞳。

さながら闇夜に降り立つ白い鶴…なわきゃ無く、俺には闇夜に浮かぶメドゥーサにしか見えなかった。

しかも…


翔鶴

E.大弓
E.装甲甲板
E.バルジ多数
E.艤装の核部分(艦娘の身体強化機能有り)


お前今ワンパンで反撃出来る仕様じゃねえか!?


50 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:24:07.80 ID:nEuouCZeO

「く……くくく……良い蹴りではないか…。」


あれ?どっかで聞いた声だなー。

後ろを向くと、口の辺りから血を垂らしながら立ち上がる目出し帽。
ん、んー…あのマスク越しでも分かる鋭い目つき、それにあの声…さっきまで話してた奴によーく似てるなぁ。

「ふふふ、私とした事が“うっかりさん”だ…今日は“時刻のみ抜き打ちの防犯訓練がある”と貴様に伝え忘れていたよ…。
やはり眼鏡が無いと何も見えんな…貴様ごときの蹴りもかわせんとは。」

「け、憲兵長…。」

「これは私のミスだ、本当は貴様の関節を5〜6個外してやりたい所だが、甘んじて受け入れよう。
しかし…“そちら”の方は、早くどうにかしないとしょっぴかねばならんぞ?」

「へ?


〜〜〜〜っっっ!!!!???」


皆、寝る時の格好はどうしてる?
パジャマを着るのか、それともラフな部屋着で行くのか。それぞれ嗜好があるだろう。

俺はまず、秋冬はジャージにパーカー。
それ以外は…


ボ、ボクサーパンツ、一丁だ…。


51 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:26:04.61 ID:nEuouCZeO

「ふふふ…相変わらず素敵な体…。」


さわさわとした感触がした頃には、もう遅かった。
メドゥーサの蛇は俺に纏わりつき、あの目を見た瞬間俺は硬直。

めっちゃ上気した顔の女がそこにいましたよ、と。

「ふう…貴様を捕まえる必要もなさそうだな。」

「ま、待て!」

「…おや、今の騒ぎで艦娘が集まって来たか。
では、怪我の手当てがあるので失礼する。事情説明は任せたぞ。」

「てめえハメやがったな!!」

「では明日なー。今夜はお楽しみでなー。」

「ふふふ、今日はお仕事は終わりでしょう?続きは私の部屋で…ね?
ほら、梯子使えば私の部屋に忍び込めるし。」

「てめえやっぱり作ってやがったのか!ま、待て!そんなとこに手ェ掛けたら…パンツが…!」

「「「翔鶴さん!!」」」

「皆来てるよ!あ……今ビリって……あ…あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っっっっ!!!!???」

その後しばらく、俺が裏ではチン兵さんと皆に呼ばれてたのは言うまでも無い。
忘れらんねえなぁ…駆逐の子達が、頬を赤らめ指越しにガン見してきた瞬間。あれ、目から汗が出てくるや…。


52 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:27:31.50 ID:nEuouCZeO

ストーカー気味の元カノとの再会、頭のイカレた上司と、異動早々無茶苦茶な展開だらけのこの鎮守府での憲兵生活。
だが無茶苦茶はまだまだ続くと、お仕事の方でも俺は思い知る事になるのである。

次の異動を勝ち取るのが先か、俺が胃潰瘍で集中治療室に移動するのが先か。
それは神のみぞ知るのであった。

神のみぞ知る…神の味噌汁とかふざけて言う奴いたよな。
飲んだ後の味噌汁は効く。だから『あいつ』にしこたま浴びせてえ。

そう思う事件が、後々待ってたんだよ…はは…。



53 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:29:50.48 ID:nEuouCZeO
今回はこれにて終了。これから他の艦娘も絡めて行く予定です。
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 03:44:58.48 ID:DEw0w68Wo
おつー
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 12:47:09.14 ID:+nZdPrpC0
乙!
ここはやはり駆逐艦などの幼い系の子たちの面倒を見て翔鶴が関わる隙間を減らすしかない……流石に自重する、よな?
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 13:46:05.80 ID:Ni673BkA0
おつん
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 14:57:33.35 ID:mRmKHuSKO
期待
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 23:05:34.51 ID:urRnnqxl0

期待
59 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:24:43.45 ID:tsUKKMS1O



※今回は色々と汚いのでご注意願います。


60 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:25:35.91 ID:tsUKKMS1O



第4話・バッカス様


61 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:26:39.14 ID:tsUKKMS1O
あれから数日。
ここの勝手にも慣れ始めたが、取り立てて何かが起こる事も無い日々だった。
それで日も落ちて、詰所で書類の整理と勤しんでいた時の事。


「……そう言えば、中庭にまだ落ちてたぞ。」

「何がですか?」

「貴様の破片がだ。」

「ふふ…まだ、あったんすねぇ……。」


うん。思い出すと涙が出ちゃう。

あの時ケツ押さえてたのがまずかった…結局隠すのが間に合わず、一瞬とは言え急所を公衆の面前に晒す羽目になったからな…。
まだ桜が残る今…しかし先に散り行くものは、俺のパンツとプライドか。ああ、つらい。

そんな風に涙を堪えていた矢先、詰所に着信音が鳴り響いた。

62 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:27:46.81 ID:tsUKKMS1O

「はい…ええ、“P”ですか。かしこまりました、すぐ向かいます。」

「どうしました?」

「……出動だ。」

「……!!事件ですか!?」

「事件と言えば事件だが…そうだな、常連さんって奴だ。」

「常連?」


現場は寮の4階。
最初は部屋かと思ったが、4階の艦娘達が3階まで避難していた。

ただ事じゃねえ…一体何が?

「憲兵長!」

「なぁに、私が来たからにはもう大丈夫だ。」

「はい……どうか妹を!」

妹?

その子をよく見ると、どうやら外国人のようだ。
確か海外から交換派遣で来てる子達もいるって聞いたな。

「さて、行くぞ。念の為にこれを飲んでおけ。」

「何すかこれ…。」

手渡されたものは、小さな金の缶…ってウコンじゃねえかこれ。

いよいよ何が起きているのか分からない。
促されるままぐいっとウコンを飲み、俺達は4階への階段を駆け上がった。

そして、俺達が目にしたものは。

63 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:28:57.16 ID:tsUKKMS1O

まず、泡吹いて倒れてる人影が目についた。
それぞれ青い制服、水着、赤い袴とスカート…全部で4人。
それらの死屍累々の先に、ゆらりと動く人影が……


銀髪とケツを揺らしつつ、男前に立っていた。



……えー、そりゃ俺だって男ですよ。
何かこう、Xでビデオなサイト見ちゃったりとか、スケベ拗らせる場面だってある。

だからこそだ…敢えて言わせてくれ。

こんなに反応出来ねえ全裸の女、初めて見たよ!


64 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:30:17.38 ID:tsUKKMS1O


「すぅ……。

……ポオオオオオウウゥゥゥルルルルゥァアアアアアアアアッ!!!!
むああああとぅあ貴様かあああああっっっっ!!!!!!」

「うおっ!?」


何!?こいつこんな大声出せんのかよ!?
眼鏡は大声の後、ガツガツと靴を鳴らして奴へと近づいて行く。
うわ、顔がすげえキレてる…あの子死んだな…。

「あれ〜憲兵長じゃないですか〜。一緒に飲みましょうよ〜。
あ、あなたは新しい憲兵さんですね〜。お近付きの印に一杯どうですか〜?」

「誰が飲むかぁ!!今日と言う今日こそは許さんぞ!!
女の子がぁ!裸でぇ!出歩いちゃ!ダメでしょうがああああああ!!!」

「いやキレるとこそっち!?」

眼鏡は上着を脱ぎ、手慣れた動作でポーラの肩に掛けた。
あ、ちゃんとボタンも掛けてあげるのね…って何か暴れてんぞ!?

「や〜だ〜。あついです〜。」

「暑いじゃない!一体何度目だと思ってるんだ!
こら!暴れるな!神妙に服を着ろ!!」

「や〜で〜す〜。離してくださ〜い。」

「誰が離すかぁ!ええい大人しくしろ!!」

「や〜め〜て〜ゆらさないで〜……


…………うぷ。」


………うぷ?


65 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:31:37.70 ID:tsUKKMS1O

直後、この空間だけがマレー半島南端の世界的金融センター都市…の、某公園になった。

しゃがんでボタンを掛ける眼鏡の頭へと、金色の雨が降り注ぐ。
それはスローモーションで優雅な曲線を描き、まず帽子へと押し寄せた。
帽子の崖を乗り越え、その波はレンズと肉眼の隙間へとこぼれ落ちて行く。

その者カーキの衣(眼鏡の)を纏い、金色の野を生み出すべし。
失われし理性との絆を破棄し、人々を不浄の地へと導かん。

きっと奴の視界は今、さぞかし黄金郷と化したことだろう。

うわぁ…やっぱり法被の似合う芸人みたいにキラキラしてないね。何て言うか、てりてりしてる。
俺、『ぎょぼ』って擬音で吐く人初めて見たよ…。

66 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:32:51.66 ID:tsUKKMS1O

「ギャァアアアアッッ!!?目が!目があああああ!!!」

「憲兵長!!傷は深いです!!そのまま死ね!!」

「却下だ!超生きる!!」

「はー…生き返りました〜…吐いちゃいましたね〜…。
と言うことは〜…みんなで飲み直すしかないで〜〜す!!」

「げぇっ!?」

酒瓶片手にポーラが俺に突っ込んで来る。
一瞬たじろぐが、ふと冷静になれば、相手は艤装の無い艦娘。
つまり今のこいつは普通の女の子、俺の身体能力なら取り押さえられるはずだ。

そうだ!このまま腕を押さえれば……!

え…消えた……?

「こっちですよ〜。さあ一杯行きましょう〜。」

次の瞬間、俺の口内はブドウの酸味に犯されていた。
ラッパ状態で瓶を突っ込まれ、どばどばと胃まで押し寄せて来るのは赤ワイン。因みに俺、赤ワインは大の苦手。

そんなもんをぶち込まれた日にゃ、結果は決まりきっていた。

67 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:33:58.48 ID:tsUKKMS1O


「おおおおおおおお!!!」


叫び声だと思ったか?吐瀉音だよ。
飲ませると言う事に関しては、こいつに艤装なんて関係無かった。
ナチュラル酔拳の使い手、それがポーラだったのだ。

「げほっ、ごほっ……。」

「ごちそうさまが〜聞こえな〜い。ほら飲んで飲んで〜。」

鼻が痛えんだよ。逆流してんじゃねえか…。
まじいな、早速回ってきやがった…上手く組手の体勢が取れねえ…。

ああ、こんな所で俺たちは負けてしまうのか…この後待っているのは酒浸り地獄。
ポーラが二度目の攻撃体勢に入り、ついぞ死を覚悟した。


68 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:34:45.87 ID:tsUKKMS1O


「行くわよ!全機、突撃!」



その声が聞こえた瞬間、背後から一斉に艦載機達が飛び出してきた。
艦載機に括り付けられたのは満タンのバケツ、それが爆撃代わりにスコールのようにポーラへと降り注ぐ。

「冷たいです〜…あ、お酒が…むにゃ…」

全ての水を浴びた後、酔いが落ち着いたポーラはその場へと倒れ伏す。
朦朧とする視界の中…こちらへ伸びる腕は、優しく俺を抱きしめていた。


「__……。」

「ふふ、久々にその名前を呼んでくれたのね。
今はゆっくり眠りなさい。」

吐き気のつらさに取り憑かれ、俺はされるがまま。
その苦痛と、抱かれた腕の心地よさに目を閉じた時。

「ふふふ、これで部屋まで…。」

「誰が行くかバカ!」

やっぱり相変わらずでした、このお方。

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