【艦これ】ex.彼女

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

69 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:36:19.03 ID:tsUKKMS1O

「……ふう、今ので洗い流されたか。」

「憲兵長…。」

「さて、私はこの子を部屋へ連れて行くとしよう。
翔鶴君、今回は本当に助かった。ありがとう。」

嵐が去った…はぁ、終わったかな。
その場にへたり込んだ俺は、そこでようやく一息をつくことが出来た。

そうだな、まずは…。

「ありがとな、助かったよ。」

「大した事じゃないわ。

……てばかりにも行かないし。」

「何か言ったか?」

「いえ、何も言ってないわ。
さて、と……じゃあ着替えましょう?もちろん私の部屋で!!」

「却下だっての。」

今はもう、怒鳴る気も起きねえや。
ぺし、と軽いチョップをかますと、何でかこいつはくすくすと笑っていた。

……ん?そう言えば眼鏡の奴、ポーラを常連さんとか言ってたな。

「…なあ、もしかしてあの子っていつもああ?」

「あそこまでは珍しいわ。
でも、しょっちゅう脱いで憲兵長のお世話になってるわね。」

ははは…て事は、これからいつもって事か…。
ま、ひとまず今は、事件が片付いた事に安堵するとしよう。

さーて、帰ろ…


『かつん!』


ん?あ、酒瓶踏んだなぁ…

あれー?宙に浮いてるぞー?
体が回転して…待って、それでそっちコケたら…あ…ああああああああっ!?


『ふに……。』


俺がすっこけた先には、もちろんあいつです。
受け身を取ろうと伸ばした手は、何て言うかこう、身に覚えのある柔らかいものに。

ダイビングパイタッチ、成立…相手は奴。

つ ま り 。


「……ふふ、ふふふ……やっとその気になってくれたのね!!」

「待て!事故だ!」

「事故も運命よ!全航空隊、発艦始め!」


結局一晩しこたま鬼ごっこをする羽目になり、逃げ切った時には俺はミイラのようでしたとさ。

70 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:37:11.79 ID:tsUKKMS1O

もう当分、ワインはいらねえ…。
あー、何か折れそうだ…馴染みとしょうもねえ話がしてえ。
そう考えた俺はスマホを取り出し、ある人物へとコンタクトを取った。
そっちの艦娘には仲良くしてくれてた奴らもいて、その中でも特に悪友って呼べる奴だ。

『久々だね、元気?』

『何とかな。早速積もる話だらけだよ。××日時間ある?飲みてえんだ。』

『あー、参ってるねぇ。
その日は空いてるよ、久々に大将のお店行こうよ。』

『お、いいね。じゃあまた連絡するよ。』


前いた鎮守府は、実は言うほどここから離れちゃいない。

車飛ばせば1時間半、電車使っても2時間あるか無いか。
早めに飲んで帰れば、全然日帰りも可能な場所だ。
さすがにあいつも、そんなとこまでストーキングはしねえだろ…。

…とか思ってたのが、間違いでした。

そう、別にあいつがストーキングする必要は無いんだよ。
ついでに言うと、文明の恐ろしさも俺は味わう事になるのである。

嗚呼、俺のプライベートはいずこ…。


71 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:39:05.85 ID:tsUKKMS1O
今回はこれにて終了。
お食事並びに飲酒中の方がいらっしゃいましたら、誠に申し訳ございませんでした。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/29(木) 23:20:16.44 ID:CHlXJLSA0
目の前で他の子誉めたら行方不明になんのかね?
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/30(金) 12:43:59.00 ID:R51aWtb40
盛 り 上 が っ て 参 り ま し た !
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/03(火) 01:42:52.16 ID:itt/GOm4O

この翔鶴さんアグレッシブ過ぎる
75 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:08:29.87 ID:YAIwfqJuO

あの後「久々だし本気で飲むよ!」と言われ、予定が変わった。
当初俺が提案した日の前日という事になった訳だ。

こっちの仕事も夜警は無し、夕方にはすんなり終わった。
朝までコースか。外泊許可も取ったし、電車で寝過ごさなけりゃ朝帰りでも大した問題はない。

出撃明けにタフだなとも思うんだが、アレで意外と酒好きな奴だ。
もののついでに土産もリュックに詰めて、少しばかりの旅としけ込もう。

はぁ…何だか久々に一息つける気がするぜ。元気してっかなぁ、あいつ。

76 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:09:06.33 ID:YAIwfqJuO




第5話・LAN、卵、乱-その1-



77 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:09:50.22 ID:YAIwfqJuO

さて、懐かしの駅…って程でもねえけど、ちょっと久々の街に着きましたよと。
現在時刻は20時20分。電車の中で軽く寝たし、飲むには持ってこい。
えーと…あそこの券売の前って言ってたな。

で、待ち合わせ時刻になった訳だが。来ねえなぁ。
イヤホンから流れる音楽も、今日何度目になるのやら。

「…ねぇ。」

まあ、この時間にあそこから来るならちょっと掛かんだろ。
あいつならある意味目立つし…

「ねえってば!!」

「いってえ!?」

イヤホンを乱暴に引っこ抜かれたかと思えば、間近にいたよ。
ああ、ちっこいもんなこいつ…見えてなかったわ。

「むー、今なんか失礼な事考えてたでしょ?」

「い、いやー、別にー。久々だな、元気してたか?」

こいつは瑞鳳。
俺が前いた所の艦娘で、当時からの悪友でもある。

……因みに、こんなんでも俺と同い年。

78 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:11:51.20 ID:YAIwfqJuO

「「かんぱーい」」

馴染みの店に入って、早々に乾杯だ。
あそこにいた時は、週に一度は来てたっけなぁ。
ああ、ビールがうめえ…そんで大将の卵焼き…心に沁みるぜえ…。

「生き返るなぁ…。」

「実感こもってるわね…あっちはそんなに大変なの?」

「まぁ、色々とな…もうちょい飲んだら話すわ。そっちはどうよ?」

「相変わらずよ。君が異動して皆寂しがってるよー?
あ、写真撮らせてよ。LINEで回すから。」

「はーい。」

勝手知ったる奴と、気兼ね無く酒を飲む。
こんな些細な瞬間でさえ、今は何と有り難え事か…。

「大将ー、生二つ追加でー。」

「あいよ!あ、づほちゃんはコーラかな?」

「ひどーい、分かってる癖に〜。」

「あっはっは、最初来た時はびっくりしたもんだよ。
久々だ、ゆっくりしてきな!」

「くくく…。」

「むー、何ニヤニヤしてるのよ?」

「いや、知り合った時を思い出してよ。」

「ああ、あの時?君も私の事子供扱いしてたもんね。」

79 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:13:17.36 ID:YAIwfqJuO

こいつと仲良くなったきっかけは、そもそもは俺の勘違いだった。

まだ新人の時か…初めて一人夜警をしてたら、中庭で泣いてるづほを見つけたんだ。
その時はもう深夜、何事かと思って声掛けてな。

「どうしたんだ?こんな時間に。」

「…何でもないですよ。」

困ったもんだなんて思って、話を聞こうと横に座った。
で、その後俺が発した言葉が……いや、でもありゃしょうがねえよ。

「提督にでも怒られたのか?でも“駆逐艦”がこんな夜中に出歩いちゃいけねえな。
詰所に行こうぜ、話ぐらいならいくらでも聞くよ。」

「………“駆逐艦”?」

「そうそう、こっちも憲兵さんだからな。
“子供の深夜徘徊”は、これ以上はお説教しなきゃいけなくなっちまう。」

「……あなた、この前入った新人さんよね?軍学校出たての。」

「そうだけど?これでも君よりお兄さんだ。」

「〜〜〜〜っ!!!」

免許付きのビンタ、なかなか強烈だったな。
顔に張り付いた免許見て、え?え?え?ってなリアクションになったのはよく覚えてる。

結局泣いてた理由も、その頃付き合ってた奴に振られたからって話でな。
その後ヤケ酒と愚痴に延々付き合わされて、そこから始まった腐れ縁だ。
買い置きだから!ってしこたま発泡酒持ってきた時は、思わず二度見したもんさ。

……振られた理由は、俺の言葉にキレた理由に近かったらしいが。相当気が立ってたらしい。

「ちぇーだ。相変わらずちんちくりんですよー。」

「まぁあの件は制服のせいもあったし。
私服ん時はちゃんとちっこいだけの女に見えてる、安心しとけよ。」

「……そう?」

「そうそう、さっきは気付かなかったもんよ。」

「えへへ…。」

…待ち合わせの時、完全に身長で探してたのは黙っておこう。

「…でもさ、少し痩せたんじゃない?本当に大丈夫なの?」

「あー…実はな…。」

80 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:15:36.19 ID:YAIwfqJuO

「へ?向こうに元カノがいたって、あの元カノ?」

「あの元カノだ。妹とセットで翔鶴型やってんよ…。」

「あ、あー……それは…。」

察してくれる友は貴重だ…。
づほも大まかな過去は知ってるから、容易に俺がやつれた理由は想像出来たのだろう。

「キツいわね……。」

「早速色々と事件がな…。」

「……ねえ、“その翔鶴”ってどんな見た目の子?
あそこなら演習で何度か当たってるから、知ってるかも。」

ひとえに同型艦と言っても、適合者は世に複数いたりする。
人が違う訳だから、勿論容姿も皆違うんだけどな。
俺の知ってる『翔鶴』は、あいつな訳なんだけども…。

「白髪のロングだな。身長はそこそこある。」

「…………へぇ、あの人かぁ。」

「知ってんのか?」

「挨拶と演習しかした事ないけどね。
憲兵だとその辺見ないだろうけど、結構よそにも顔見知りぐらいは増えるものよ?
あの人同い年なんだ…そうは見えなかったけど。」

「言ってやるなよ…昔から結構気にしてんだから。」

「む。だめだよー?そうやって何だかんだ人の肩持つから付け込まれちゃうんだって。」

「そんなもんか?」

「そんなものよ。君は良くも悪くも人に甘いとこあるから、もうちょっとドライになろうよ。」

「お、何の話だ?とうとう二人も付き合いだしたかー。」

「あははは!ないない!大将ー、こいつとはそんなんじゃないわよー。」

「ははは、言うなー。」

大将はたまにこんな茶々を入れては来るが、実際異性としての意識はお互い無い。
だからこんな気兼ねない関係でいられてるし、何でも話せる間柄な訳だ。

酔えばお互い下ネタもぶちかますし、潰れたづほを何度も介抱したなぁ…。
憲兵って環境でそんな友達が出来たのは、つくづく恵まれたもんだと思う。


81 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:16:49.50 ID:YAIwfqJuO

「元カノの件もだし、上司もなかなかクレイジーな奴でさ。
何かもう疲れちまってなぁ…ありがとな、時間作ってくれて。これだけでも気楽になれるよ。」

「……帰ってきなよ。」

「へ?」

「半年やれば異動願い出せるでしょ?そしたら帰ってきなって。」

「ま、考え中だよ…異動が決まったとして、そっちにまた着任出来るとは限らねえしな。」

「そっかぁ…でもまた遊びおいでよ。今度はみんなで飲も。」

「そうだな…あ、お土産あるんだよ。」

そんでリュックを開けたんだ。
中には饅頭の箱が入って…



\やぁ/




いや、何も見てない。
何か饅頭頬張ってる小さいのがいた気がするけど、多分疲れてんだろ…。


「どうしたの?」

「あ、ああ、ちょっと電車で揉まれちまってな…今出…。」



\こんばんわー/


……………。


出てきちゃったよ、この子…。


82 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:17:59.07 ID:YAIwfqJuO

「あれ?この子艦載機妖精じゃない?かわいー。
誰かのが付いてきちゃっ………!?

ねえ、“艦載機の子”って事は…。」

「………ははは。」

妖精をつまみ上げると、何かを背負ってるし、抱えてもいた…あれー?どっかで見覚えがあんな、この背中の四角いの…。
確か前携帯変えた時、スマホ屋の一角に…。


妖精

E.小型ネットワークカメラ
E.ポケットwi-fi


ははは、遠方のペットの監視もばっちりってかこの野郎!
よーし!今ならわおーんとかにゃーんとか鳴いちゃうぞ!恐怖で!



83 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:18:56.18 ID:YAIwfqJuO

「うわぁ……ここまでやる?」

「これから話そうと思ってたんだが…やりかねんなぁ、あいつは…。
俺さえ絡まなけりゃ温厚なんだけど…。」

「ねえねえ妖精さん、ちょっとそのカメラこっち向けてくれる?
向けてくれたらいいものあげるよー。この美味しい卵焼き、食べりゅ?」

\たべりゅー/


へ?そんな餌付けして何やる気?

づほはカメラを自分の方に向けさせると、何やらにこっとレンズに向かって微笑んだ。

次の瞬間。




『お見せできない指の立て方をしております』




……お前自分が何やったかわかっとんのかー!?



84 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:19:58.04 ID:YAIwfqJuO

「な、な、なぁっ!?」

「……っく…あのねぇ、私こう言う陰湿な真似する女…。

大っ嫌いらんらよねーー!!」

あ、一番ダメなパターン来た。

何度かぶち当たった事のある、通称怪獣モードってやつ。
誰が呼んだか、仲間内で『ヅホラ出現』で通ってるそれ。

ん?SMS?誰だこの番号………



『面白いわね、その子。』



今の携帯番号は、あっちじゃ眼鏡ぐらいにしか教えてない。
流石のあいつも無駄なトラブルは嫌なのか、教えないとも約束してくれた。

そんな時、続け様にLINEが入る。今度は眼鏡だ。
それを開くと……


『すまない、あの翔鶴君は流石に止められなかった。』


あの眼鏡がガチ謝罪とな…あいつマジで何した?


85 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:21:53.96 ID:YAIwfqJuO

「ふふふ、美味しい?」

\おいちー!/

本日の戦犯様は、何事も無かったかのように妖精を可愛がっております。

ああ、鬼電とか無いのが余計怖い…酒の汗より脂汗、体温と心拍数に歯止めなし。
目下未来は暗黒の暗黒、そんな現実の末に…


「よっしゃあ!今夜は飲むぞ!」

「おー!行け行けー!」


俺はとうとう、考えるのをやめた…。


86 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:23:21.63 ID:YAIwfqJuO
今回はこれにて終了。
他の艦娘が巻き起こす珍事件も絡めつつ、進めて行けたらなと思います。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 14:15:19.01 ID:I45nETuq0
(別にこれ艦これじゃなくてもよくね?)
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 14:51:24.29 ID:q1M/nKOmO

瑞鳳ェ…大惨事鎮守府大戦が始まりそう
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 14:54:23.99 ID:5s3jKZtDO
面白いわ
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 18:00:01.99 ID:2Und2ktR0
いっそ瑞鳳と付き合っちゃいなYO
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 19:49:21.61 ID:TGhy/bnN0
翔鶴vs.瑞鳳 見たい
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/07(土) 01:41:14.42 ID:H4lS7O4m0
づほと妖精さん可愛いなぁ……

しかしこれで艦娘が本気になったら憲兵なぞなんの役にも立たんという事がはっきり分かってしまったな……
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 09:13:02.97 ID:fKjRUiogO
別スレのが重い展開だけにこれは吹くw
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/10(火) 15:40:47.55 ID:122c3Se4O
なんかこの憲兵、DV受けてるのにでもでもだってでなかなか逃げない妻タイプな気がする
何が言いたいかというと、ずほ、ファイト!
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/11(水) 03:57:35.53 ID:5smrC9zC0
乙。
やっべ、初見だが今追っかけてるなかで一番楽しみなの出来たわw
96 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:42:49.48 ID:VF317A2nO




第6話・LAN、卵、乱-その2-



97 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:44:00.05 ID:VF317A2nO

「あはははは!!それでね!それでね!」

現在時刻、深夜24時。づほはとっても元気です。
…指の事とか、多分忘れてる。

2軒目は個室居酒屋で大正解だ、こいつはこうなるといよいよ止まらない。
さっきから会話の端々に要ピー音な単語が並びまくっているが、こりゃ朝は送りかな。慣れたもんではあるけども。

妖精からストーキング道具も取り上げ、今は俺のリュックですうすう眠ってる。
対応は済んだ…目下の問題は、やはりさっきのあの件。

こちとら元カレだ、性質ぐらいは人より知ってる。
妹は短気な方だが…あいつ自身は、キレると笑うタイプの女。

……オーケイ俺、大丈夫だ。
づほは酒が抜ければちゃんと反省できる子だ、この際泥は俺が被りゃいい。
あいつだって艦娘だ、あんまり無茶するなら俺もお仕事しなけりゃならない。

いや、待て。お仕事と言えば、目下の問題は…。

98 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:45:23.94 ID:VF317A2nO

「ごめん、ちょっとトイレ行く。」

「いってらっしゃーい。」

そう言えばあいつ、眼鏡相手に何やらかした?
連絡が来たって事は、傷害沙汰にはなっちゃいねえらしいが…電話してみよう。

「もしもし、お疲れ様です。生きてます?」

『ああ、さっきはすまなかったな…怪我は一切していない、大丈夫だ。』

「何されました?」

『ふふ…少し弱みをな。』

「……脅迫ですか?」

『ふっ…私を誰だと思っている?
ただ、私も女の涙には勝てなかったと言う事さ…。』

「分かりました。“嘘泣き”とか“目薬”って単語、100万回グーグル先生に聞いてください。
お疲れでしょうからゆっくり休んで下さいね、永遠に。」

…………あははぁ…そういやこういう奴だったよ…。

もはやここまで来ると、段々覚悟が決まってきた。
今は飲もう、全ては帰り道で考えよう。

そんな風に思いつつ個室に戻ると、づほがいない。
トイレかな?とか思ってると、肩にずしりと重さが来た。

99 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:46:56.95 ID:VF317A2nO

「ふふふ…君の格納庫は相変わらずかな?」

「ったく、やめろっての。」

「よいではないか、よいではないか〜…うん、この格闘技ならではの締まった胸筋…相変わらず揉みがいがあるわね。」

出たよおっぱいソムリエ。

づほは酔っ払うと男女関係無く揉む。ていうかまさぐる。
大体ターゲットは俺か、もしくは艦娘なら『あの人』か。
「無いからこそ愛でたいのよ!」とか、ちょっと悲しくなる事を言ってたな…。

「久々なんだよー、揉ませてよー。」

「普段何人も揉んでるだろ….。」

「女の子ばっかりじゃ飽きるのよ。たまには男の子も揉みたい…揉みしだきたい…。」

「お前が女で良かったよ。艦娘ならぬ艦息子だったらしょっぴいてたわ。」

じゃれてくるづほをあしらいつつ、そう言えば他の連中どうしてるかなーなんて考えてた。
いつもづほがこうなると、大体寮に着いたら『あの人』にお願いしてたっけ。

『久しぶりね、そちらはどうかしら?』

お、噂をすれば何とやら。
そう言えば皆にLINE回すって言ってたもんな。

100 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:48:45.24 ID:VF317A2nO

『ヅホラが出ました。』

『大変そうね。今夜は朝までかしら?』

『この調子だとそうですね、まあ元々誘ったのは俺なんで。朝そっちに送ります。』

『お願いね。私もそこで一度起きるわ。』

『すいません、ご迷惑をお掛けします。』

久々にあそこに行くなぁ…とは言え、他の皆は寝てるだろうけど。
今度は皆で飲もう、うん。

「ちぇー、少しは反応してよー。つまんないの。」

「お兄さんの気持ちになる。」

「ん?何か言った…?」

「いででで!つねるなっての!」

「へーんだ、どうせあの人相手だったら変な声出したりしてたクセにー。」

「ぶっ!?お前なぁ……。」

「図星かな?図星なのかな?ここがええのんか?んー?」

酒臭えが、それ以上にオーラにおっさん臭を感じる。
普段は女の子らしいんだけどなぁ…それが一緒に飲んでて面白くもあるんだけど。

「ふっふっふ…今度演習でかち合ったら両手で行ってやるわ…。」

「マジでやめろ。」

今度こそ胃が轟沈するわ。
はーあ……でも少しは気楽になれたな、見知った顔のお陰かね。感謝しねえとだ。

それでグダグダと飲み続けて、もう明け方。
店を出る頃には、すっかりグデングデンになったづほが完成していた。

途中までタクシー使うかとも思ったが、中でやらかされても困る。
そんな訳で少し遠いが、づほをおぶって鎮守府まで向かう事にしたんだ。

101 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:49:51.95 ID:VF317A2nO

リュックを前に掛けて、背中にはづほ。
海岸線を歩きつつ、朝まで飲んだ時はよくこんな風に連れて帰ってたなぁ、と思い出していた。
明け方の風は、良い感じに酒を抜いてくれる。うーん、良い朝だ。変わんねえなぁ。

その頃と違うのは、俺のリュックにあいつの妖精がいる事ぐらい。
正門が見えてきたな、着いたら連絡しないと…。


\おはよー/


お、這い出して来たぞ。
ははは、登ってくるなよくすぐってえ。こらこら、そんな耳んとこ来たら落ち…




「ねぇ…テレパシーって、知ってる?」




oh…何でそこだけそんなセクスィーボォオイス……。


102 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:50:38.33 ID:VF317A2nO





「ふふふ…楽しかったかしら?」





103 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:52:31.80 ID:VF317A2nO

頭ん中に亀裂、走る。

まず国道の方に振り返る。
そこには一台の車、ナンバーには思いっきり現職場の土地名。
視線を移動、運転席。おっと隈の深え緑のツインテールだ。顔が死んでる。
さあさあ心拍数は一気に上昇、いやしかし振り向くな俺。俺の真後ろ、歩道の方は見ちゃあいけねえ。
背中にはづほ、顔はカメラでバッチリ公開済み。
幾らづほが煽ったとは言え元は俺の問題、巻き込み事故だけは避けねばならない。
ゴールだ、ゴールを目指すんだ。正門に着けば『あの人』を頼れる、最悪俺が連れ帰られるだけで済む…!


「………ん…あれ?あなた…。」


おっと瑞鳳選手の覚醒だ。
あ、やめて、振り向かないで、肩から手ぇ離さないで。
あ、あ、腕の動きに釣られて俺の視線もおおおおおお!!!!


「帰りなさいよ、ばーか。」


さざめく潮騒…そのリズムに合わせ揺れる白い髪…
朝日に照らされる笑顔には……


「ふふ……本当に面白いわね、あなた。」


目元に暗黒が立ち込めておりました。

ゴール、決まったね……平和の。


104 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:53:27.18 ID:VF317A2nO

「……ちょっと降ろしてもらっていい?」

づほは固まる俺から勝手に降りると、つかつかとあいつへと近付いて行く。
何やる気だ…開幕クロスカウンターとかやめてくれ…。

「ふーん……ほうほう…。」

手が伸びる。え?何?襟掴む気か?
まずいまずい!止めねえと!

「づほ!待て!」

「……………えい。」


『もにゅん。』


「ふーん…85のEってとこかぁ……ふむ、この弾力と張り…恐らくは…。

___あなた、将来垂れるわね♪」


カウンターじゃねー!?おっぱいストレーーートゥ!!!

105 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:54:56.17 ID:VF317A2nO

「ふふ…そう、気を付けるわ。ちなみに歳はおいくつ?」

「あなたと同い年よ。聞くまでもっと上だと思ってたけどね。」

「ふぅん…あなた、ヒヨコに似てるわね。よく言われないかしら?
私“鶏は胸派”なのだけど…ああ、“その歳までヒヨコ”なら、もう“胸肉は育たない”のかしら?ふふふ。」


翔鶴選手、捻りの効いたリバーブロウです。
づほを見ると……表情が、無い。サンマみてえな目になってやがる…!


106 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:56:38.65 ID:VF317A2nO

「……ふふ、言うじゃない。

でも心は顔にも出るものよ?随分大人びて見えるけど、内心不安だからストーキングするのよね?
しかもとっくに切れてる男相手に…そう言うのを情緒不安定って言うのよ。だから嫌われる以上に怖がられちゃう。

あ、そっかー。メンタルが更年期だから、そんな大人びて見えるんだね!おばさん♪」

その瞬間、確かに重力が増した。
だ、大地を揺るがすアルカイックスマイル…!
付き合ってた時すら感じた事ねえプレッシャーが空間を支配しやがった。

「そう…見た目相応に幼いあなたが言うなら間違いないわね。
あなた、男性とお付き合いした事はある?」

「……あ、あるわよ、勿論…。」

「くす…二人で飲みに行くぐらいだから、今は違うと言うことでいいかしら?
そうね、その人は容姿で人を差別しないからいいでしょうけれど、お付き合いした方は大変だったでしょう?

例えば…お相手がロリコンさんと間違えられて、警察のお世話になっちゃったりとか。
それで段々肩身が狭くなったお相手の気持ちも冷めて……みたいな。
やっぱりお子様に恋は難しいかしら?ふふふ。」


もう、モノローグも出てこねぇ…なんだこの地雷原で相撲取るみてえな地獄絵図は…。

しかもよ…今のは……!

107 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:59:29.90 ID:VF317A2nO

「ふふ……ふふふ……。

…その通りよちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「づほ!やめろっての!!」

「離して!!こいつの脳みそかち割りゅうううううう!!」

その時のづほ、マジでこんなん→(´??Д??`)だったな…あいつ、づほのトラウマピンポイントで突きやがった…。
ああもう、どっちが悪いとか言ってる場合じゃねえ!妹も何やってんだよ、姉貴止めろよ!!



「騒がしいわね。」



そんな騒ぎの中、正門脇の通用口が開いた。
そこにいたのは、まさにづほの世話を頼もうとしてた『あの人』。


「…加賀さん!」


正規空母・加賀。
この鎮守府の艦娘の長にして、真の元締めと言われる人。

108 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 02:01:26.34 ID:VF317A2nO
【訂正】顔文字が反映されないの忘れてました。血の涙の顔文字と思っていただければ。
109 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 02:02:51.70 ID:VF317A2nO

「馴染みの声がすると思ったら、昔見た顔もいるわね。
……わざわざ隣から御足労ね、どう言う事かしら?五航戦。」

「………あ、あ、その…。」

あいつがたじろぐ…だと?
え、加賀さんって向こうと付き合い無いと思ってたけど、知り合いなのか?

「酔った子もいるようだし、場所を変えましょう………ふん!」

「……!?」

うお…ラリアット一発でのしちまった…。

「この子程度、鎧袖一触よ。
もう一羽いるようね、今度はうるさい方の鶴。」

姉を引きずりつつ、加賀さんはつかつかと車の方へ。
後部座席にあいつを突っ込んで…え、運転席開けた?何だ、すげえ揺れて……止まった。

すると間もなく、ゆっくりと俺たちの前へと車が近付いてくる。
ガーッと窓が開くと……

助手席で泡吹いてる妹がいました。

110 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 02:04:44.50 ID:VF317A2nO
「駐車場に停めてくるから、瑞鳳を中までお願い。立ち入り許可は出しておくわ。」

「は、はい…。」

行っちまった、なぁ…いけね、づほを離さないとだ。

「おーい、づほー?」

「ムス-」

「こらこら、いつまでもブーたれてもしょうがねえだろ?中入ろうぜ。」

「……おんぶ。」

「へ?」

「怒り疲れたからおんぶしてって言ってるの!そしたら入る!」

「まーだ酔ってんのか…しゃあねえ、乗りな。」

まぁこいつ軽いからいいけどよ…。
おぶってやると少しは機嫌が直ったのか、づほは終始ニコニコと笑っていた。
うちは姉貴一人だけど、妹とかいたらこんな感じ……

「……何か失礼な事考えた?」

「滅相もございません!」

……いや、今その事考えるのはやめよう。死ぬ気がする。

でも加賀さん、あいつらまで中に入れてどうすんだ?
ん?加賀さんからだ。

『中に入れたかしら?弓道場まで来てちょうだい。』

弓道場……とりあえず行くか。
………行かなきゃ良かったと、数分後の俺は心底思うんだけどな。

前夜の酒は序の口。
波乱の休日は、まだまだ続くと思い知る事になるのである。

ああ…夕方まで、タイムスリップしてえ…。



111 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 02:07:20.78 ID:VF317A2nO
今回はこれにて終了。次回はいずれ。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/21(土) 02:29:09.59 ID:rIKFPUdmO

次の更新を楽しみにしてる
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/21(土) 03:26:59.52 ID:k/fa+gZYo
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/21(土) 04:23:17.17 ID:65eg+GmO0
これはまごう事なき一航戦ですわ
頼りになるぅ!
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/21(土) 09:19:38.22 ID:nn+x3jYA0
キャー加賀さんステキー
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/21(土) 20:46:49.21 ID:CsOzKkM60
レディ・カガ・・・
げに素晴らしき、一航戦のHOKORIよ
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 01:39:05.77 ID:4uCL5eJs0
加賀さん、一生ついていきますっ!
翔鶴が妖怪じみてたから、普通の姿を見れて少しほっとした
118 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:35:09.57 ID:fgkf4R9fO




第7話・LAN、卵、乱-その3-



119 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:36:14.32 ID:fgkf4R9fO

「さて…。」

かつての職場なんて言っても、ほんの一月前までいた所。
迷わず弓道場に着いたんだが……。

「すぅ……すぅ……。」

づほ、遂に力尽きる。

どうしたもんか…いや、あいつらも気絶してるしな。とりあえず寝かせとく感じだろ。
そう思いつつ扉を開けると、目をぐるぐるさせたままの姉妹が寝かされてた。

加賀さんはと言うと……へ?道着?
さっきはジャージにクロックスとかだったのに、何やる気だ?

「来たわね。早速で悪いのだけれど、10分席を外してくれる?」

「はい、いいですけど…。」

で、10分経過。
いいわよと声が掛かり、扉を開けてみると…。

「………道着?」

「ええ、全員着替えさせたわ。」

「こいつらまだ落ちてますけど、何するんですか?」

「………こうするのよ。」

120 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:37:16.69 ID:fgkf4R9fO

ばっしゃーーん、と、直後に水しぶきが3人を襲った。
加賀さんは躊躇いもなく、30リットルはありそうなバケツの水を奴らにぶちまけたんだ。顔面から。

「ぶーーっ!?」

「ふえっ!?へっ!?」

「え?何!?」

三者三様のリアクションで目を覚ますと、ようやく状況を理解したらしい。
なんかメイクとか色々大惨事になってるけど、もうそんな事気にする余地も無さげだ。

皆、ある一点を見て固まったからな。


「………あなた達。」


ゴゴゴって擬音が目視できそうな威圧感だった。
加賀さん……め、めちゃくちゃ怒ってる…!

121 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:38:25.17 ID:fgkf4R9fO
「まず翔鶴。朝から人の鎮守府の前で騒ぐとはいい度胸ね。しかもうちの子と喧嘩という形で。」

「え…えーと、そのー…。」

「今日は休日よ。確かにあなた達がどこへ行こうが勝手。
……人に迷惑を掛けないのならば。」

「はい…!」

「瑞鶴。あなたの運転のようだけど、どうして車を降りて喧嘩を止めなかったのかしら?」

「…………からよ。」

「何かしら?よく聞こえないのだけど?」

「……こ、怖かったのよ!免許取りたてで初めて高速乗ったから!
それで着いたらもう、糸切れちゃって…。」

「そう。因みにどちらから言い出したの?」

「わ、私からよ……翔鶴姉の様子見て、つい運転するって言っちゃって…。」

「つまり自滅という事ね。次、瑞鳳。」

「は、はい!」

「たまに羽目を外すのは良いけれど、揉め事は感心しないわね。
どうしてそうなったのかしら?」

「え、ええ、それは……最初翔鶴さんの妖精さんが…。」

づほはそれをきっかけに、事の全てを加賀さんに話した。
話終えるまで、加賀さんは黙ってそれを聞いていたんだが……話が進むにつれ、3人ともどんどん顔色が青くなって行った。

それとは別に、加賀さんにも青いものが。
顔はいつものポーカーフェイスなんだが…組んでる腕にな、徐々に青い方の血管が浮いてきてた。


「…………そう、大体事情は分かったわ。」


すくっと立ち上がると、加賀さんは正座する3人の前に立ちはだかり…。

ごん!ごん!ごん!と三発、こっちの頭も痛くなりそうな音がこだました。

122 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:40:00.12 ID:fgkf4R9fO

「「「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」」」

「あなた達全員が悪いわね。

まず瑞鳳。
頭に来るのは分かるけれど、積極的に喧嘩を売ったのはいただけないわ。ストーキング道具の電源を落とすだけで充分よ。
ただでさえ__に面倒を見てもらっていたのだから、余計な迷惑を掛けてはダメ。

次に瑞鶴。
不慣れな時期の無理な運転は、事故の元よ。
それにストーキングの時点で止めなかったのかしら?
盗撮を知らなくとも、どう言う経緯で翔鶴が動いたのかは理解出来ると思うのだけれど。
止めようとしなかったのならば、いよいよ正真正銘の七面鳥よ。

次……翔鶴。
妖精の私的利用、ストーキング、おまけに揉める可能性を理解しつつこちらまで来た事……更に__への日頃の行い。五航戦の名にさえ恥じるわね。
あなたのような大人しい子が、__相手には豹変…人とは分からないものだわ。

__の立場も理解してあげるべきね。
憲兵とは言え今日は休暇、ましてや私達艦娘も、艤装なしではただの人。せいぜい少し腕っ節の強い女でしかない。
__のような武術に長けた男性が安易に止めようとしたら、あなた達に怪我をさせる可能性が高い…あまり強硬手段には出られないわ。

……それとも昔付き合っていたのなら、そんな性質を分かっていてやったのかしら?
それ如何によっては、更にあなたの罪は重くなるけれど。
また“餌やり”をさせられたいのかしら?

最後、__。
手は出せなくとも、口ぐらいはもう少し上手く出しなさい。
あなたは少し人が良すぎるきらいがある、それは時には人の為にならないわ。
こちらの安全と取り締まりを預けるのが憲兵、仕事以外でももう少し厳しくいなさい。」

「は、はい…!」

「翔鶴と瑞鳳、まずは各々に謝りなさい。それで手打ちにする事。いい?」

123 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:40:44.65 ID:fgkf4R9fO

……か、神様がいた。
すげえ人だと思ってたけど、こいつらをこうもまとめ上げられるなんて…。

「加賀さん、あの二人と知り合いなんですか?」

「そうよ。以前、空母合同合宿の教官を務めた時に。
特に五航戦の二人には、“魚に餌をたくさんあげてもらった”もの。」

魚の餌?
その時ふと、軍学校時代の訓練合宿を思い出した。

“コラァそこ!照準がヨレてんだよ!またタンポポさんに栄養あげるまで走らせんぞオウ!!”

あ…魚の餌ってそういう……。
なるほど、あいつらのビビリようも分かる。


「翔鶴さん、ごめんなさい。」

「いえ、私こそ。」

良かった…これで何とか解決…。

「ふふ…瑞鳳さん、プール帰りの子供みたいで可愛らしいわ。」

「あなたも濡れた道着がセクシーね。熟女みたい。」

「ふぅん?」

「何?」


し て ま せ ん で し た ! !

124 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:42:50.45 ID:fgkf4R9fO

俺たちの戦いはこれからだ!じゃねえんだよ…1R目は手打ちにして2R目で仕切り直しってかコラ。
おい、これ加賀さん本当にキレんぞ…ん?

…何で笑ってんのあんた。

「ふう…ああは言ったけれど、艦娘たるもの血気盛んでなくては務まらないのも事実かしら。

しかし醜悪な戦いはそこまでよ。私達は空母にして弓使い、ならば潔く弓で決着を付けなさい。
そこまで争うならば…“あの方法”を取るわ。」


…………で、何でこうなったんでしょうか。

母さん。俺は今、的の前にいます。
……頭にリンゴを載せて。

「空母式ウィリアム・テル。艦娘発足初期、喧嘩になった弓使いの空母2名が編み出した決闘法。
どうしても気に食わないのなら、こちらで決着をつけてもらうわ。

ルールは簡単。先に吸盤式の矢でリンゴを3回落とした者の勝ち、負けた方は大人しく引き下がる事。
尚、今回は“落とし方そのものは問わない”とする。」

「………加賀さん、ちなみにその空母って…。」

「激しい戦いだったわ。プリンの怨みとは山よりも高く、海よりも深いもの。
いえ、むしろ宇宙の彼方よりも。」

「あんたかい!!」

ん?殺気…?

射場の方を見ると、明らかにそっちだけ空気が張り詰めている。
こ、これが臨戦態勢の艦娘の気迫…!どっちからだ?

125 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:44:41.75 ID:fgkf4R9fO

「私が先行よ。」

吸盤式の矢…笑顔で構えるあいつ……嗚呼、蘇る青春時代。何度眼前で壁に吸い付くそいつを見ただろうか…。
はははやべえよ……む、武者震いがして来やがった……って思っとかねえと持ちゃしねえ…!

「__五航戦・翔鶴。参ります。」

来る!

………遅い…?

それこそ昔ソフトボールの授業で受けた球よりゆるく、矢はゆっくりとこちらへと飛んで来る。
でも軌道は揺れず、ただまっすぐに……え?急に落ち…


『ぽすん』


「……へ?」

俺の左胸に優しく触れたかと思うと、矢はポロリと足元へ。
拍子抜けして力が抜けた途端、今度は別の物が転がり落ちた。
そうか、頭の力も緩んだから、リンゴが…。

「ふふ…今度は逃がさないわ。私の狙いはあなたの心。
これでまず私が1点ね、瑞鳳ちゃん?」

昔から上手かったけど、これには俺もぽかんとした。
すげえ…矢をスローかつソフトに当てに行くなんて、なかなか出来る芸当じゃねえぞ。

126 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:45:28.31 ID:fgkf4R9fO

「翔鶴、腕を上げたわね。」

「いえ、それ程でも。まだまだ加賀さん達には及びません。」

「次、瑞鳳。」

づほが射場に立てば、今度はさっきと別の張り詰めた空気が場を支配する。
どう来る気だ……まだ酒残ってなきゃいいが…。

「翔鶴さん、あなたらしい捻りの効いた弓ね…正規空母の余裕ってやつ?
なら私は軽空母らしく、少数精鋭の精神で行かせてもらうわ。

___航空母艦・瑞鳳、推して参ります。」

……あいつが柔軟なら、づほは鋭角!構えまでに無駄がねえ…来る!

このスピード感、覚えがあるぞ?
そうだ…試合で相手の技が来る、何度も見たあの感覚…!

「……うおっ!?」

丁度顔に来た矢を、俺は咄嗟に避けた。
当然避けた弾みでリンゴは頭から落ち、足元にコロコロと転がっていた。

づほの奴、まさか…!

「ふふ、君なら避けるって思ってたよ。人の蹴りや拳のスピードを意識したもん。
翔鶴さん…これが互いの恥すら知る飲み仲間の信頼関係ってやつよ?」

やってくれんなぁ、あいつ…。

127 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:46:50.53 ID:fgkf4R9fO

「あなたもなかなかやるわね。
瑞鳳ちゃん、せっかくだからもう一つ賭けない?勝った方が……」

「ちょっと待ったぁ!!」

「?」

でかい声がしたかと思えば、どうやら声の主は妹の瑞鶴。
何だ物言いか?いや、あいつも弓持ってるな…いつの間に。

「加賀さん、私も混ぜてもらっていい?
こんな面白そうなの見てたら、燃えて来ちゃう。」

「いいわ、久々にあなたの弓も見たいし。」

おいおい、お前が混ざってもケリ着かねえだろ…ん?何か空気が…。
その時ふと、頭の中で眼鏡の言葉が蘇った。


“中には翔鶴君のその様に魘される艦娘もいてな…まあ、瑞鶴と言うんだが。”


明らかにさっきとベクトルの違う殺気を感じる。
何だろ、なんて言うんだろ。うん、狙うゆえの殺気じゃなく、文字通り殺す気な方。

射場の妹と目が合うと、妹はにっこりと笑った。
読唇術は座学でちょっとかじった事がある…だから何となく、何言ってるかも分かる…。

128 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:47:57.10 ID:fgkf4R9fO






“う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か・?”







129 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:49:45.04 ID:fgkf4R9fO

待て待て待て!!あいつ俺の頭リンゴみてえにパーンする気だ!
多分避けれねえ全速力で来る、逃げた所で出口は射場…となると、外させるしかねえ。

どうする?
そうだ、あいつは何となく『あの有名人』とキャラ被る……となれば!


「おい!妹!」

「…何よ。」

「……左で引けや。」


頼むぜ、乗ってくれ…!そして盛大に外せ!俺の命の為に!

130 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:51:09.08 ID:fgkf4R9fO

「はっ……乗らないわよそんな挑発!
こっちはあの番組やって以来、散っ々色んな人から似てるっていじられてるの!耐性なんかとっくに出来てるわよ!

遠慮なく、利き手で行かせてもらうわ…!」

「いいっ!?」

皆考える事は同じかよ!!
どうする!?逃げた所で狙って来るぞ!

「瑞鶴。」

「…何よ加賀さん。いい所なんだから邪魔しないで。」

「左で引きなさい。」

「……………。



……やってやろうじゃないのよこの野郎おおおおおおおお!!!!」

加賀さんあんた女神だ!
利き手じゃなけりゃ力は弱い!当たらねえ可能性はグッと上がる!

「……!?

__!!だめ!!」

ん?あいつなに叫んで…


「妹の弓は両利きよ!!避けて!!」


………はぁ!?


131 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:52:15.57 ID:fgkf4R9fO

「ふふふ……戦場に於いては、利き手に怪我をする可能性だってある…。
だから私は、日頃弓だけはどっちでも引けるように鍛えてんのよ!!

でも、“少しコントロールが甘くなるかも”ね…空母らしくアウトレンジで行かせてもらうわ!!」

上に射った!?どこだ…?

そうして上を見ると、予想外の刺客が俺を襲った。
太陽…しまった!逆光で何も見えねえ!!

どこから来る…避けるポイントを予測されてるか、それともストレートに来るか。
目を懲らせ……見えた!!この軌道ならこうするしかねえ!!

後ろに下がった俺の眼前を、スレスレのところで矢が落下していく。
視界を通り抜け、後は地面へ…そう安堵したその時だ。


鋭い痛みが、俺を通り抜けて行った。



132 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:53:16.42 ID:fgkf4R9fO

男には、防ぎようのない弱点がある。
数多のスポーツでも、防具を付ける場所。

所謂、漢のシンボルという奴だ。

袋の方にばかり気を取られがちだが、もう一つパーツがあるだろう?象の鼻的比喩をされるアレ。
アレもダメージを喰らえば、充分に痛い。

確かに矢は避けた…だが、ギリギリだった。
絶妙な角度で向かって来た矢は、象の鼻のみを引っ掻くように掠めたのだ。

よくあの痛みは地鳴りに例えられるが、そちらのみへの衝撃は……まるで雷に打たれたかのようだった。
長ったらしく回顧しちゃみてるが、実際のところは。



「 」



声にならない叫びすら、もはや上がらなかったよね。
そのまま倒れた記憶も無く、俺は意識を手放したのだった…。


133 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:55:00.05 ID:fgkf4R9fO

「うーん…。」

うう…なんか色々痛え…。
床が固えな…ここは…弓道場か。一体どんぐらい寝てた?

最初に目に入ったのは青空だったが、手を握られている感覚が。
ふと横を見ると…そこにはすうすうと眠る、あいつの姿があった。

「あなたが一番ね。皆疲れて眠ってしまっていたわ。」

「加賀さん…。」

起きて握られていた手を離すと、一瞬あいつは顔をしかめた。
変わんねえなあと、何となくあいつの手の感触にそんな事を思っていた。
周りを見渡すと、気持ち良さそうに寝てるづほに、何だか青い顔して寝てる妹……って、こいつまた気絶してねえか?

134 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:55:44.43 ID:fgkf4R9fO

「ふふ、瑞鳳も余程嬉しかったのでしょう。あの子があれだけはしゃいでる所は、久々に見たわ。
色々言ったけれど、あの子と遊んでくれてありがとう。」

「そんなんでしたか?変わんねえなぁって思ってましたけど。」

「表向きはね。でもあなたが異動して一番寂しがっていたのはあの子よ。」

「…確かに、しょっちゅうつるんでましたからね。」

「そうね。それにしても意外だったわ、まさかあなたの元相手が翔鶴だったなんて。
大人しい子だとばかり思っていたから、さっき目の当たりにするまでイメージが無かったもの。」

「……本当は普段通り大人しい、ちょっと気弱な奴なんですよ。
故に俺が絡むと、過激な行動に出ちまう。」

「そう…嫌いになったから振った、という訳では無さそうね。」

「…………。

……そうですね、心が折れたって言うのが、当時の正直な所だったのかもしれません。
今となっては、ビビったり苦手意識ばかりではありますけど。」

「異性としての意識は無いと?」

「ですね。戻る気も無いです。」

「…海とは非日常、陸とは日常。それを忘るべからず。
いつも下の子達に教えてる事よ。

帰る場所や守るものがあってこそ、私達は戦える。」

「…………そっちを守るのが、俺達の仕事って奴ですよ。
今の上司はクソ野郎ではありますけど、そこの所は同じですかね。」

「…相変わらず苦労しそうね、あなたは。」

「はは…よく言われます。
久々にお話できて、嬉しかったです。ご迷惑をおかけしました。」

「疲れたでしょう?更衣室にシャワー室もあるから、よかったら浴びて行きなさい。」

「ありがとうございます。少しお借りしますね。」

そうしてシャワー浴びてる間に、皆起きたみたいだ。
入れ違いに皆がシャワー浴びてる間、俺は射場に横になって、ぼーっと空を見上げていた。

色々あるけど、頑張らねえとな。

135 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:56:45.81 ID:fgkf4R9fO

「お邪魔しました。づほ、またな。」

「うん!今度は皆で飲み行こ!」


挨拶してあそこを後にすると、近くに一台の車が停まっていた。
あれは…ああ、あいつらもさっき出てったばっかか。

「__、乗って行かない?」

「大丈夫。ちょっと散歩して帰りてえんだ。」

「そう?電車だと結構あるけど…。」

「ちゃんと帰るよ。悪いけど、先に行っててくれ。」

「………分かったわ。気を付けてね。」

あいつもそれ以上は食い下がる事なく、車は遠く離れて行った。
妖精も返したし、今は正真正銘一人きり。

駅までの少し遠い道のりの中を、潮風を浴びつつ歩く。
夕暮れか。まだ時間あるな…。
そう思うと柵に腕を乗せて、ぼんやりと海を見ていた。

自分でも何でそうしたのかは、いまいち分からなかったけどな。

136 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:57:34.34 ID:fgkf4R9fO





「翔鶴姉、よかったの?」

「……いいのよ、今日は。」

「……………そう。」

「…眩しいわね、夕日。」

「…………。

ご飯食べて帰ろ?お腹空いちゃった。」





137 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:59:12.89 ID:fgkf4R9fO


「ああ、この事か。今印刷するから、このデータに目を通しておいてくれ。」

明けて数日後。
事務作業をしていると、眼鏡に声を掛けられた。
何枚かプリントアウトを待つ間、奴は資料についての説明をしてくれた。

「艦娘の交換異動制があるのは知ってるだろう?」

「ええ、経験を積ませる為、戦力の等しい艦娘を定期的にトレードする制度でしたよね?」

「そうだ。今年はうちと隣でやるらしい。
1ヶ月後に来るんだが、顔とパーソナリティを把握しておかねばならんからな。憲兵隊の方にも資料が来る。
隣という事は、恐らく貴様の知り合いでもあるだろう?この前そちらの者と飲みに行ったと言っていたものな。」

「…………。」

何だろう、この胸騒ぎ。
嬉しいような、嫌な予感もするような…。

「お、出てきたな。この子のようだ。
ほう、駆逐艦かな?随分可愛らしい…。」

その時、机に置きっぱにしてた携帯が震えた。
ちらりとそこを見ると、緑の通知…ま、まさかな…。


『今度そっちに行く事になったから、よろしくぅ!』

「ほう、瑞鳳と言うのか…貴様と同い年だと!?」

「……………はは…はははははは……。」


この一月後、当然のようにまた一悶着が起きるのだが。
その間にも、他の連中による事件は続くのである。

例えば『あいつ』とかな。



138 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 22:00:33.11 ID:fgkf4R9fO

ひとえに駆逐って言っても、年齢層は意外と広い。歳的には高校の高学年ぐらいとか、中学低学年ぐらいとか。

でも総合的に見れば、結局の所子供な訳で。色々な事に興味を持つ年頃だ。
物事のセンスの有無も、そんな興味の中で学んで行く歳だろう。

そんな学びの年頃により、俺の…いや、俺たちの胃腸は犠牲になるんだ…ストレスじゃなく、物理的にな。


まずてめえが食ってみろ。


『あいつ』に対して言いたい事は、これに尽きるぜ…。


139 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 22:02:08.44 ID:fgkf4R9fO
瑞鳳編、ひとまず終了。
次回は亡国がイージスする予定です。
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/30(月) 22:06:05.97 ID:VrtD9AexO
乙です
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2018/04/30(月) 23:44:02.36 ID:TyAmJswxO
乙です。あいつ=メシマズ界最凶の彼女ですね……
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/01(火) 09:44:49.89 ID:GC/SvjCMo
ヒダリデウテヤ
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/01(火) 11:28:11.53 ID:aS/OEvenO
乙!
まさかのあのMMD作品ご本人設定かよ瑞鶴w
144 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:33:09.57 ID:YFzNwdWXO




第8話・かみにみすてられたやろうども



145 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:34:26.30 ID:YFzNwdWXO
ある日の事だった。

本当に何でもない昼下がりだ。
嘘のようにサクサク仕事が進んだ俺達は、詰所で暇を持て余していた。

「………暇ですね。」

「………滅多にないな、こんな事は。」

「警邏でも行きます?」

「さっき回ったばかりだろう?一応規定があるからな。」

「……次、いつでしたっけ?」

「2時間後だ。」

お互い本は部屋で読む派、手元にあるのはスマホのみ。
これじゃ通報でも無い限り、いよいよ給料泥棒になっちまう。

「ん?何か焦げ臭くないすか?」

「ふむ、甘い香りも混じっているな。」

そんな時、何やら独特な香りを感じた。

一応ここのガス周りを見るが、特に何かが燃えてる訳じゃない。
外を覗いてみても煙が上がってる様子も無く、騒ぐ声も無し。
そうして一体何だと思っている間に、次々と匂いが増えていく。

「甘くて焦げ臭くて、ジューシーかつ刺激的な匂いもしますね…。」

「柑橘系と磯の香りもするな。」

いや、まだるっこしいのはもういい。シンプルに言おう。


くせえ。


色々混じってるが、全体的に甘さと炎を纏ってるフレーバー。
段々それが濃くなってくる。

その正体は…匂いがピークに達した時に判明した。

146 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:35:28.53 ID:YFzNwdWXO

『どごおおおおおおおおん!!!!』


「爆発!?」

「い、いや、何処からも煙は上がっていないな…工廠で弾の実験でもしているんじゃないか?」

「いやいや何言ってんすか!実験やるって報告無いでしょ!!行きますよ!!」

この時は慌てていて気にしてなかったが、眼鏡が少し汗かいてたのを突っ込んでおくべきだった。
……爆発音の正体、多分知ってたと思うんだよなぁ。

147 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:38:14.52 ID:YFzNwdWXO

外へ出たものの、未だ出動要請は無し。しかし俺達は憲兵、トラブルを放置する訳にも行かない。
煙は一向に見当たらず、相変わらず騒ぎになってる様子も無い。
仕方なく匂いの元を探してみる事としたが、もはや何処からか分からない。

「一度戻ろう。工廠の報告ミスかもしれない。」

そう眼鏡に促され、渋々戻る事にしたんだが…あれ?むしろ戻る程匂いが強くなってるよーな…?

そう疑問を持ちつつ詰所に戻ると、中で誰かが座っている。
ん?あの子って、駆逐艦の…。


「何処に行っていた?差し入れを持って来たんだ。」


ああ、確か磯風って言ったな。
挨拶以来、特に接触も無かった子だ。

ん?差し入れ?その言葉にふと、後ろにいる眼鏡を見ると…。


「い、い、い、磯風じゃじゃじゃないか…。」


……眼鏡がめっちゃ焦ってる…。

一瞬そっちに気を取られたが、すぐに磯風の方に意識が向いた。
いや、強制的に向けさせられた。


くせえ。


さっきから感じる異臭の原因は、磯風が片手に持ってる箱。
そのよくある100均のケーキ箱は、ずもももも…と擬音が見えそうな紫色の臭気を放っていた。


148 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:39:59.69 ID:YFzNwdWXO

「いつも頑張っているからな!甘いものを食べて欲しいと思ったんだ。」

「そ、そうか…ありがたくいただこう…。」

笑顔が引きつってる眼鏡とか、初めて見たぞ…。

ん?そう言えばこの子って、誰かに似てるな…。
このドヤ顔にツリ目、赤い瞳…それにこの堅めな口調…あれ?何かいつもぶっ飛ばしたくなる奴にそっく…


「気にするな、私とあなたの仲じゃないか。」

「ああ、出来た従姉妹を持って幸せ者だよ…。」


従 姉 妹 ?


…え!?従姉妹ぉ!?


149 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:41:30.61 ID:YFzNwdWXO

「…同じ場所に着任したのは偶然だが、磯風は叔母の娘でな。
たまにこうして差し入れをくれるんだ。

せっかくだ…貴 様 も 一 緒 に 食 べ な い か ? 」


(逃げるな喰え)って心の声が、ミシミシと掴まれた肩からよーく伝わって来た。

いや、絶対やべえだろこの匂い…。
恐る恐る箱を開けると、一層匂いが目に沁みる…が、中にあるのは普通のマカロンだった。見た目だけは。

「今回は自信作だ。心して食え。」

「ありがとう、いただくよ。」

一口で行った!?
今まで見た事ねえ菩薩のような笑顔でマカロンを頬張ると、眼鏡は数回の咀嚼の後、えづく様子も無くそれを飲み込んだ。

え…?意外と食えるのか…?

「どうだ!?」

「ああ、とても美味しいよ…五臓六腑に染み渡るようだ。」

この時眼鏡の瞳から、ポタポタと雫がこぼれ落ちた。
いや、瞳に限った話じゃない。顔面の穴という穴から次々と液体がこぼれ落ちていく。

それはもう赤黒い、出たらまずい色の血がな。

150 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:43:19.45 ID:YFzNwdWXO

「貴様モどうダ?とテもうマイぞ?」


……いや、んな昔のホラゲみてえなツラで言われても説得力ねえから。
顔から羽根とかフジツボとか生えて来そうだよ今のあんた。

「そこの新人さんもどうだ?是非食べてみてくれ。」

おっとロック・オン。

あまりの事態に逆に冷静になっちまってたが、よーく考えなくても危険じゃねえか…メシマズってレベルじゃねえ…!
いや…しかし今は善意、心遣いな訳だ。
はははそうだ、なんか副作用あるだけで本当に食える代物かもしれねえだろ?邪険には出来ねえ。
ええいままよ!男なら黙って食う!

「ありがとう、いただくよ。」

………まずははじっこだけ一口ね。


『かり……。』


……。

………。

…………。

……………塩酸って、固形物だっけ?


151 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:45:03.02 ID:YFzNwdWXO

「どうだ!?美味いだろう!?」

「…………。」

俺、まだ20代前半だけどよ……大人には、時に心を鬼にしなくてはならない瞬間がある。
自分より年若い者に、間違いを教えなくてはならない瞬間がある。

想像してみよう。
こいつが将来彼氏を作ったり、もしくは結婚したりしたとする。
キノコが採れた!とか言ってうっかり死の天使召喚したり、毒草のおひたし出しちゃったりな可能性もある訳だ。
そんな悲劇は食い止めなくてはならない。

故に俺のやるべき事は、一つしかない。

「……磯風。」

「どう……むがっ!?」

「……!?待て!!」

眼鏡よ、止めてくれるな。

片手で頬をむにっとやって、開いた口にマカロンを放り込む。ただそれだけだ。
食えば分かる、それ以上の教育など何も無い。

決してさっき一瞬意識が無かったとか、未だに喉の奥で血の味がするとか。
あるいは死にかけた事に俺がブチ切れてるとか、そんな事は無いからな。無いったら無い。

ごくりと音がし、しばしの静寂。
その間一体何秒か。やがて磯風は、さっき同様のドヤ顔に戻って口を開いた。

152 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:46:16.87 ID:YFzNwdWXO

「ふふ、なるほどな……。


………○*マ?#ョ♪%〆ぎゃ÷^\-:ソ々〒ロ=☆っ!!!ニ_??ん?」


その言葉を遺し、磯風は泡吹いて倒れた。
ああ、終わったな……二つの意味で。


「………貴様、自分が何をしたのか分かっているのか?」

「憲兵長…俺は憲兵としての使命を果たしたまでです。
ここの平和のため、体を張った…それだけですよ。

……よく見てください憲兵長、これが指導です。」

「………憤!!」


俺の顔面がディストラクション。
掌底を打ち込む瞬間の眼鏡は、範馬の血が流れてそうな顔をしていた。

153 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:48:32.70 ID:YFzNwdWXO

あれから数時間を経て、警邏に出ている。
眼鏡は磯風を寮に運び、俺一人で回っている最中だ。

可愛い従姉妹を傷付けたくないのは分からなくもねえけど、やっぱ甘やかしちゃダメだ。
何かが起きてからでは遅い……本当に、遅すぎるぐらいだ。
いや、もう起こっているのかもしれない。

え?今どこにいるかって?


………トイレだよ。



へへへ…やられたぜ畜生。
わずかひとかけのマカロンで、俺の腹はバイオテロを起こしていた。

仕事どころじゃねえ、出れねぇんだよ…!さっきから15分ぐらい籠ってんだけど。
あ、あのガキ…つくづくとんでもねえもんこさえやがって……アレか?あの一族はどっかしらネジが外れてんのか?

ふー…やっと波が引いたか……ケツ痛えけど、拭かなきゃ出れねえ…。

…………。


………紙が、無い。


154 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:50:53.80 ID:YFzNwdWXO

指先に掴めたのは、一反木綿の如くひらひらと揺れる切れっ端。
シングルロールのこいつは、どう見ても足りねえ。
どうする?いや、こうなった時は文字通り身を切る覚悟を決めるしかない。

芯で拭く。

痛えだろうなぁ…切れたりすんのかなぁ……ええいままよ!いざオープンセサミ!
ははは最近のトイレットペーパーってすげえよな!最後まで紙ぎっしりだもん!

……って芯なしぺーーパーーー!!!

今ポケットティッシュは無い…だからこんなテンションになってる訳で。
あるのは憲兵道具以外は、財布とスマホ。

仕方ねえ。弱み握られるが、ここは眼鏡を頼るか。

『もしもし?』

「すいません、トイレの紙が無くて…。」

『ふっ…腹を壊したのか?あの子の料理を邪険にした罰だ。』

「…いや、アレに関しては俺謝んないっすよ。
むしろ従兄弟のあんたが教育するべきでしょう。どう考えても原因アレです。」

『貴様も学生時代、陸軍式のキャンプは経験しただろう?
蛇やヤモリを焼き、虫を食い…おおよそ現代人とは思えぬ食事をしたはずだ。それしきで腹を下すとは情けない。』

「ゾンビになってた人に言われたくないです。不味いもんと、体調崩すもんは別ですからね。
て言うかあんたどこいるんすか今?」

『……いつの時代も、ヒット曲と言うのはあるものだな。』

「………は?」

『………私は今、懐かしの“トイレの神様”だ。』


お 前 も か 。


155 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:52:45.10 ID:YFzNwdWXO

無言で携帯を切り、俺は途方に暮れた。

状況整理。
まず整備や事務方は頼れない。まだ付き合いねえし、各部署にトイレ完備。偶然助けが来る事も無い。
提督も同じくだ…執務室近くにトイレあり、俺らとの連絡は詰所の電話が主。個人的な連絡先は知らない。

で、このトイレは、前元カノに追っかけられた時に使った場所…廊下の突き当たりだ。
艦娘はちょちょく隣の女子トイレを使うようだが、男衆はあまり使わない…俺だって、腹痛で駆け込んで久々に使った場所。

つまり、助け舟は期待出来ない。よって『やる』しか無い。

みっともねえ半ケツを晒し、洗面台上の棚から紙を出す。他の選択肢は滅んだ。
幸いここの入り口は扉がある、注意を払えば見られる事は無い…よし、これで行こう。

いざ行かん!この監禁からの脱出へ!

156 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:54:47.91 ID:YFzNwdWXO

『がちゃ…ばたばたばた……がちゃん』


誰か隣に来た…!紙はねえけど、神の救いはやってきたぞ!

『じゃばああああああ……』

…いや、待て。
初っ端から派手に水流してる…て事は、今隣にいるのは音を気にする層の人間。

1年目の頃に学習したが、女所帯ゆえ女子高的なノリも強い…女子トイレが満員で、難を逃れにこっちに逃げ込んだ艦娘の可能性が高い。
誰だ…?この際背に腹は変えられねえ、ノックだ!


「………誰かいないか?」


そう拳を握った瞬間、先に弱々しいノックと声が隣から響いた。

……この声、さっき聞いたな。
ああ、そうだ…これはまさに俺の腹痛の元凶…!


「……磯風、てめえか。」

「その声はさっきの新人だな。
ふふ……紙が、無いんだ…助けてくれ…。」

「……お前もか。」

「まさか…あなたもか。」

「ああ…紙は尽き、神は死んだ。」

壁一枚隔て、しかし共に堕ちるは蟻地獄。

地獄への道は善意で舗装されている…まさにその通り。
眼鏡への善意で文字通りの飯テロリズムをぶちかましたこいつもまた、己の身すら地獄に叩き落としたのだ。

…食わせたの、俺だけど。

157 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:58:06.93 ID:YFzNwdWXO

「そうだ、兄ぃに紙を持ってきてもらおう!」

「兄ぃって憲兵長の事か?あいつならトイレの神様になったぞ。お前のアレで。
こっちは頼れる筋は全滅、もう万事休すだ。
磯風…逆に誰かに連絡を取れないか?お前なら姉妹艦を頼れるだろ?」

「ふっ…この磯風を誰だと思っている?スマホなど、部屋で絶賛充電中だ……!」

「……GUSOHを漏洩させて大惨事を引き起こした挙げ句、自沈もするとはマヌケだな。“いそかぜ”だけに。」

「ふふふ、言うじゃないか“チン兵”さん?
今更下半身以上に晒す恥など無いだろう?大人しくこの磯風の為に紙を取りに行くんだ…。」

「言ったなてめえ。そもそも何で女子トイレが埋まってるんだ?お前、何人かに食わせただろ?」

「ああ、見た目はよく出来たから、皆褒めてくれたよ…お裾分けして、そのまま詰所に向かったんだ。
浜風、浦風、谷風…良い仲間を持った…。」

「きっと今隣で唸ってるのはそいつらだぞ。
近くで見てて鼻がバカになってたんだろ、アレ臭かったし。」

「な…臭いだと!?私は臭い物を兄ぃに喰わせてしまったと言うのか!?」

「確かに将来臭い飯喰わされそうな奴だけどな。
あいつの事を思うんなら、せめて人間に食えるもん作ってやれよ。冗談抜きにその内死ぬぞ。
折角作ってくれたもんを無下にしたくなくて、今まで無理して食ってたんじゃないか?
女に甘いバカだけど、従姉妹なら尚更だろ。」

「……そうか。私は…何と言う事を……うっ!?」

何度となく水洗音が、隣から響いた。
ああ、まるっと一個喰わせたもんな…そいつがやっと落ち着いた頃、弱々しい声が聞こえてくる。

「……兄ぃはな、小さい頃から何度も遊んでくれたんだ。艦娘になった今だって面倒を見てくれて…。
少しでもそんな兄ぃを労いたくて、今まで何度も作って……サンマだって、やっと少し焦がす程度に収められるようになったのに…。

ああ、この腹の痛みが罰なのだな…ふふ、きっと私は夜までここから出られず、クソ風とか言われてしまうんだ……。」

……………。

……ちっとばかり、言い過ぎたかな。

158 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 04:01:34.36 ID:YFzNwdWXO

「…ま、確かにお前の言った通りだな。今更晒す恥なんてありゃしねえ。
これで貸し一つな、俺が取りに行ってやる。」

「新人…ありがとう…!」

「これに懲りたら、今度は美味いもんあいつに作ってやれよ。」

はぁ…大の男が半ケツによちよち歩きかよ…しゃあねえなぁ。
でも可愛げのねえクソガキだと思ってたが、人思いなとこもあんじゃねえか。だったら一肌脱いでやる。

ずり落ちたズボンのまま移動する様はマヌケ以外の何者でもねえが、俺の気持ちは晴れやかだった。
最初からこうしときゃ良かったんだ、さーて、棚を開ければ……。


「…………磯風。」

「どうした……?」

「天は俺達を見捨てた。」


棚の中は、何度瞬きをしてもがらんどうだった。
棚に紙など無い。そしてこの世に神など無い…!!

この男子トイレに個室は2つ、どっちも俺達が使っていた。
水道んとこもペーパータオルじゃなくエアータオル、もう一体どうしろってんだ。

うなだれたまま、すごすごと個室へと戻る。
磯風も察したのだろう、もはや何も言わない。
沈黙が重い、人は真の絶望を前にはもはや言葉も出ないのか。

ここのトイレ掃除、確か艦娘の当番制だったな…サボった奴、絶対シメる。

「ふっ……なぁ新人、もう仲良くクソ艦娘とクソ憲兵になるしかなさそうだな…。」

「クソを連呼するな。前んとこの問題児を思い出す…ん?」

…着信?ああ、メルマガね。眼鏡かと期待したんだが……。


………待て、一つだけ手はある。

159 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 04:02:52.62 ID:YFzNwdWXO

「磯風…翔鶴と俺の関係は知ってるか?」

「知っているぞ。あなたは翔鶴さんの元カレだろう?
皆ロマンチックだとか騒いでいたが…あなたはどうやら、彼女の事は苦手なようだな。」

「ああ、まぁ色々あって別れたからな…。」

「……まさか!?」

「……そのまさかだよ!」


あいつなら、艦載機を使って俺達に紙を届ける事も出来る。

やべえ、ドキドキすんなぁ…でもやるしかねえ。
俺とこのクソガキの名誉の為、何より最後に犠牲になるのは年長の務めだ。

ふー……行くぜ、発信!!


『もしもし?』

「頼みがある…。」

『ふふ…言ってみて?』

「ああ、実はな……。」

『そう…磯風ちゃんも災難ね。いいわ、届けてあげる。

今度一日、デートしてくれたらね♪』


…………一日かぁ。

もう、迷ってる場合じゃねえな。

160 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 04:04:46.83 ID:YFzNwdWXO

「わかった。どっかの休みで一日くれてやる。だから俺達を助けてくれ。」

『了解♪ちょっと待っててね。』

「ありがとう…。」

『ふふ、どういたしまして。』


5分もしない内に、窓からエンジン音が聞こえてきた。
上の方から放り込まれたのは、まさに蜘蛛の糸の如き白さを放つトイレットペーパー。
本来なら真っ先に自分のケツを拭いて渡す所だが…。

俺はまず、そいつを隣の個室に放り込んだ。

「先に使いな。そんで何事も無かったかのように出てけ。いいな?」

「……良いのか?」

「俺も憲兵としての立場がある。変にタイミング被って、訳わかんねえ誤解になるのは勘弁だからな。後から出てくよ。」

「……ありがとう…本当に、ありがとう…!」

「これに懲りたら、まともなもん作れるように頑張れよ。
甘いもんは嫌いじゃねえ、今度は美味えの期待してるぜ?」

「……ああ、この磯風に任せておけ!」

磯風は自分の方を済ませると、俺の個室に紙を放り込み、またありがとうと言って去って行った。

161 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 04:05:48.83 ID:YFzNwdWXO

「ふーー……。」

さっきはああ言ったが、実際の所後から出ると決めたのは、あの約束のせいだった。

デートか……この土地に来て間もない今じゃ、あいつ主導になる流れだよな…何が起こるんだろ。
今になって、ものすっっっごく不安になって来てたんだ…。

ああ、考えてもらちが明かねえ…まずは出るか…。
今は紙があると言う事に感謝し、この地獄から脱しゅ……


「痛ぅううううううううっ!!??」


隙間から入る、夕暮れのオレンジに染まる個室の中。



俺のケツは、切れていた。


162 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 04:07:53.97 ID:YFzNwdWXO
今回はこれにて終了。
そろそろ艦娘側にもツッコミ枠が必要かな…。
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 08:08:56.25 ID:Y/NcsmEX0
うむ、面白かった
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 09:16:17.40 ID:Z7UZmZZcO
銀魂みたいに紙幣で拭けばよかったんでね?
更新乙さま
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 09:19:06.29 ID:ZEP5v09CO
乙です。相変わらず別作品とのギャップが酷いw。
突っ込み役……霞ちゃんとか?年長組なら飛龍あたりかな。
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 09:58:10.13 ID:yxzAL8V30
何故瑞鳳を頼らなかった!?
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 10:06:48.71 ID:ZEP5v09CO
>>166
づほまだ来てなかったんじゃなかったっけ。
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 12:40:48.00 ID:PV11j0MGO
飯テロ枠にちゃんと厳しく当たる主役も、メシマズを素直に認め受け入れる艦娘も珍しいからすっきりした。
645.83 KB Speed:0.4   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)