真・恋姫夢想【凡将伝Re】5

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302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/05/16(火) 00:14:22.85 ID:O/qKvAVvo
乙したー
さっすが当代の政治100&孫子ぱうあーやでぇ
娘を人質にとられちゃあ降伏もやむなしですな

タイトル案は「孫子曰く、」で
303 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/05/16(火) 05:41:16.53 ID:l68RjYHN0
>>302
どもです!

汚い流石孫家汚いと罵詈雑言が来ると思っておりました
実際卑怯ですが勝てばよかろうなのだ

>タイトル案は「孫子曰く、」で
これは本当に言ってるやつですからこれでよかろうかもしれません
ありがとうございます!
304 :赤ペン [sage]:2023/05/16(火) 10:27:09.40 ID:p4QMt4Sy0
乙でしたー
>>300
>>ハッタリであろうと断じようとする。 【あろうと断じよう】だとあやふやな感じが
○ハッタリだと断じようとする。    もしくは【ハッタリであろうと断じる。】?でもこれだと黄忠の心が強くてちょっと違うか
>>そう。周泰は警戒が厳しい禁裏に単身踏込み、玉体を守りきったのだからして。  【踏み込み】だと力強い気がします、警察の確保―!みたいな?
○そう。周泰は警戒が厳しい禁裏に単身潜り込み、玉体を守りきったのだからして。 警備の隙を縫って潜入してるしこちらの方が良さげ
>>「荊州に帰ってきなさいな。孫家は貴女を将として抱える準備があるわ」 お荷物みたい…間違ってないけど
○「荊州に帰ってきなさいな。孫家は貴女を将として迎える準備があるわ」 勧誘してるしこの方が良さげ
>>住み慣れた荊州。そして動乱に巻き込まれた幽州。どちらで娘と共に生を歩むのかしら、と。   幽州で生きる道があるんですか?
○住み慣れた荊州。それとも動乱に巻き込まれた幽州。どちらで娘と共に生を歩むのかしら、と。 というか幽州選んだ場合娘は生きていられるのかしら

人質取って将を寝返らせるのはよくあることでは?
罵詈雑言浴びせるなら騙して悪いがして親子の感動の対面()して笑いながら親子仲良く天国に送ってあげるくらいしないと(2度裏切った以上仕方ないね)
305 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/05/16(火) 19:28:23.19 ID:l68RjYHN0
>>304
赤ペン先生ありがとうございます!

>人質取って将を寝返らせるのはよくあることでは?
その通りwではありますねぇ
ただ、恋姫無双ではあまり見ないかな?

>罵詈雑言浴びせるなら騙して悪いがして親子の感動の対面()して笑いながら親子仲良く天国に送ってあげるくらいしないと(2度裏切った以上仕方ないね)
ヒェ

まあ、孫策なら普通にやるなと思ったりしました
断金コンビならばやらない理由はないし、実際孫権陸遜ラインはかなり穏当ですね
306 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/05/16(火) 19:33:55.65 ID:l68RjYHN0
まー余所様と比較してもしゃあないですしね
新機軸とか考えていなくて、自分が読みたい恋姫を突き詰めているので

ただ、星ちゃん最強は余所では見かけないなって
もちろん紀霊主人公は前提ですけども

頑張りまーす
307 :青ペン [sage saga]:2023/05/19(金) 03:23:11.26 ID:gOIffsZRo
>>301
うーん、そうねぇ
智才切り裂く鬼子母神〜母闘うは誰が為〜
とでも。
308 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/05/29(月) 21:36:54.49 ID:8jMCmvSB0
火を、灯す。

黎明にはまだ遠い。
未明の闇の中で覚醒する。
伸びをひとつ。
全身の疲労、そして損傷がないことを確認し、笑みを浮かべる。
貼り付けるにはまだ早い。

「よいしょっと」

整える。身体を整える。心は既に整っている。
伸ばす、縮める、可動を確かめる。全身で夜気を吸い、ゆっくりと放出する。
その息は、熱く、厚く。
内なる熱気を細く長く、吐く。

整える。
身支度。或いは儀式。
そして整えていく。馬良という存在に自身を染めていく。
確認していく。没入していく。
白粉で顔を覆い、分厚い眼鏡を手に取る。
そして仕上げは眉を白く染めること。
そうして馬良という人格は覚醒するのだ。
完成するのだ。

諜報員の上位者、統括者にとって諜報員の技術そのものは必須ではない。
だが、張勲はその技術についても卓越していた。
体術こそ弟に一歩譲るが、それこそ余技である。
つまり、やはり彼女は張家の最高傑作であった。
309 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/05/29(月) 21:39:37.64 ID:8jMCmvSB0
◆◆◆

草、という存在がある。
世代をまたいでの諜報。
馬良という存在はその一つ。
実在する存在になりかわることこそが成功の秘訣である。
だからこそ、成功は約束されていて、成功している。
張家の張り巡らした糸は、かように根深いのだ。

鏡の前で笑みを一つ。

そして、整える。
人格を更に整える。
白眉。名家たる馬家。そこで最も優れたる馬良としての人格を整える。
これよりは蜀の能吏にて忠臣。引っ込み思案で完璧主義者。

「そんな存在に私はなりたい」

その願望までが捏造。全てが捏造、借り物。

だからこそ、張勲はより深く人格を宿す。
馬良という人格を演じるのではない。
投影するのだ。

◆◆◆

「どうぞ」

黎明。執務室にて意識を断っていた諸葛亮。
書類によだれの跡が見える。なんと尊いことか。
慌てる彼女に馬良が差し出したのは火酒である。

馬良は信じて疑わない。起き抜けにはこれが一番だと。

「ささ、ぐぐーっとやってくださいませ。
 眠気を払うにはこれが一番ですよ。
 政務は、案件は待ってくれませんものね」

にこやかに杯に火酒を注ぐ。

「でもまあ、ちょっと口当たりがよくないですものね。
 でもご安心ください!
 これをこうして、こうすれば、どんどんいけますよ!」

そう言って柑橘の果汁を注ぐ。
にこやかに差し出す。

「どうぞ!」

よかれと思って。
310 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/05/29(月) 21:40:41.29 ID:8jMCmvSB0
◆◆◆

ぷはぁ、と吐息を一つ。
熱い吐息を続けて漏らして諸葛亮は続けて喉を炎に晒す。
その炎が意識を覚醒させてくれるのだ。
なるほど、火酒とはよく言ったものだ。その炎の明るさは日の光と同等に覚醒を助長してくれるのだ。

そして、柑橘の爽やかな香り。これは確かに段違いに飲みやすい。
馬良は流石だと思いつつ諸葛亮は目の前の書類に取りかかる。
意識を切り替える。蜀の丞相としての自覚。それは誰に言われるものでもない。
ごく自然なものである。

うずたかく積まれた書類に取りかかる。

半分は未決済書類。半分は書式の整っていない書類の修正確認。

これも馬良が身を尽くして整えてくれたものだ。
蜀は立ち上げて間もない未熟な組織である。
当然、官僚組織についても既存のものを流用するしかなかった。

多くの官僚は出奔したものの、その一部は残ってくれたのだ。
これは大きかった。
これこそ劉備の人徳、いやさ大徳の証明など思ったものだが。

だがしかし、その品質においては千差万別。もっと言えば質的には貧弱と言っていいだろう。
それを支えていたのは諸葛亮その人であると言っても過言でもない。
彼女は驚異的な処理能力を万全に発揮し、ありとあらゆる書類を最善な形で処理していたのだ。
流石に蜀という国家を運営するにあたっては、全てに目を通すことはできていなかったのだが。

ここにきて、それを整えてくれる存在がいる。いるのだ。

「おかわりですか?どうぞ」

苦笑し冷水を煽る。
甘い、果実の味わいと香りに癒やされる。

意識が広がる。指先まで、過不足なく動くのを感じる。
気力が満ちていく。

「お疲れであればお休みされた方がよいのでは」

そんな言葉。それすらも心地よく響く。
だが、それでも。

「そうもいきません。
 ご承知の通り、劉家の戦況を支えるのは私達の献身なのですから」
311 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/05/29(月) 21:41:25.11 ID:8jMCmvSB0
◆◆◆

勇ましい宣言。
諸葛亮は流石と言うべきだろう。
日が傾く前に積まれた案件を全て処理していたのだ。

そしてそこからは馬良の時間である。

諸葛亮の指示を確認し関係各部署に伝達し即時の対応を迫る。
書面での不備は幾度でも糺(ただ)し、書式を美しく保つことも忘れない。
後で閲覧する人に対して、監査する者に対して、一切を明らかにするためである。

そう言われれば、そしてその言の論者が馬良ならば反論の余地はない。
かくして、蜀の内務は美しくその書式を整えており、
その一切を読み解くことが容易となっていた。
激務に入れ替わる官僚が問題なく対処するその体制。
質・量ともに貧弱であった蜀という体制を存続させたのは
諸葛亮という卓越した行政官と、それを支えた馬良の存在が大きいであろう。

◆◆◆

「いけません、ここの書式は揃えてください。
 続いて、この表現は前段の表現と並んで諸葛亮様の推奨に置き換えて下さい。
 ここ、誤字が酷い。貴方の書類は複数の担当に確認させて下さい。
 勿論確認した責任者は書類に印を押すこと。
 ああ、この書式は丁寧で素晴らしいですね。再現性も容易ですし。
 君、この書式を明日からの書類に水平展開して。
十日程度を猶予期間として、この書式でない書類は差し戻しにするから。
ええ?諸葛亮様の裁可?
これからいただくけど、それが何か?
君は過去にしか興味が無いのだね、禍根でしかないね。
今蜀は新しい時代に向けて皆頑張っているんだよ君は何を立ち止まっているの?
もっと頑張って、熱くなって。
他人事じゃないだよ。他人事と思っているでしょ君は。
だってそうじゃないと合点がいかないじゃない。
そうじゃないならなにかで示してよ。
君が頑張っているって信じたいけど今君は何をしているの。
君は何をやっているの、君は何ができるの。
そう、提案がない理想がない知性がない品性がない速度もない何もない。
せめて形式だけは整えて、お願いだから」

馬良は能吏である。
きちんとした書類をきちんとした書式で運用させることに成功したのだからして。
だからこそ、後世においての評価が揺るぎないのである。

その評価。
ただ、「能吏」とだけ。
312 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/05/29(月) 21:42:02.24 ID:8jMCmvSB0
本日ここまですー
かんそうとかくだしあー

いやほんと欲しい欲しい欲しいヨシ!

寝る
313 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/05/29(月) 21:43:33.71 ID:8jMCmvSB0
重曹ちゃんメインヒロインでやりたい現代物ヒーローものやりたい
くそう私に身体があと10個くらいあればなんかええ感じで色々できるのに
314 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/05/29(月) 21:54:49.05 ID:8jMCmvSB0
それはそれとして、お盆までには完結させたい。
やりとげたい。
始末をつけたい。
そんな感じです。

いえ、ご不満とかあるとは思いますけんども。
それでも反応ある限りやりますやります。

逆に観測なくなればその時はそういうことなんでしょう。
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/05/29(月) 23:52:03.14 ID:N2l8zYux0
なんで書き溜めないのかな?
書き溜めないでスレ立てする時の心情ってどーなってるの?

普通に友達関係や上下関係作ってる人で人間関係の最低常識が解ってる
人ならこんな非常識な事を出来無い筈なんだがな?

一応は読物で素人の発表場所で読み手をイライラさせるって
なに考えてるの?
確かに俺はお前に金銭を渡してる訳じゃない

お前もプロ意識なんてある訳じゃないと思う
でも、書き手と読み手が居たらそれは一つの作品なんだよ

これはお前の作品であり可愛い子供なんだよ
それをネットで流して俺みたいな奴からダメ出し受けて
悔しくないのか?

なんでその場凌ぎの子供を世間に晒すんだ?

ちゃんと考えて書き溜めしてからスレ立てして
恥ずかしくないお前の子供を世の中に送れよ

お前の意識の問題だぞ
316 :青ペン [sage saga]:2023/05/30(火) 04:50:53.10 ID:wjOQ2ABzo
>>312
最近は先に案出されてたからなぁ

『仕組みに染み込む蜘蛛の毒』

とでも。
317 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/05/30(火) 15:01:43.51 ID:pQt8bhj60
>>316
最近は本当に、リライトのね、書きたいとこでしたのでごめんねって
題名含めて年単位で練ってたやつなんですよ許してくれめんす
嘘です大体その場のノリです

>『仕組みに染み込む蜘蛛の毒』
いい!
だが何か足りず何か多い感があります
このお話は本当に七乃さんに幾度もダメ出し食らったので
できたらリテイクお願いしたいです

素材としては「白眉」「絡新婦」「埋伏」「ブラック企業」「仕込み」
このあたりのどれかがあったら嬉しいです
なお一ノ瀬案

「ドキッ!
白眉と持て囃される名家出身の秀才が私の職場に来たら、あらゆる書面をチェックしだして重箱の隅をつつく感じでうっとおしい!
でも言ってることは正しいし、反論したら10倍やること増えてぴえんだよう。
 なお諸葛亮様はなんか満足しているようだから私の職場の労働環境がマジでやばい
 畜生あの白粉ブス、死ねばいいのに。
 と思っても言えない私の未来はどっちだ」

みたいな感じになります
318 :赤ペン [sage]:2023/05/30(火) 17:07:46.28 ID:baRAuvId0
乙でしたー
>>310
>>これこそ劉備の人徳、いやさ大徳の証明など思ったものだが。  本当に大徳があるならもっとやりようがあっただろうに
○これこそ劉備の人徳、いやさ大徳の証明などと思ったものだが。 もしくは【大徳の証明だなと思った】とかどうでしょう
>>311
>>他人事じゃないだよ。他人事と思っているでしょ君は。  何か某凡人の知識の中にある人物がいくつかインストールされてるような?
○他人事じゃないんだよ。他人事と思っているでしょ君は。 それとも上で【興味が無いのだね】って言ってるから【他人事じゃないのだよ。】の方が良いかな?

なん・・・だと・・・?今明かされる衝撃の真実!楽しかったぜエお前との同僚ごっこぉwwwwwwとなるのか?いや、闇に葬られて誰も知らずに胸の内か
ところで美羽様の守護は大丈夫なんだろうか…本当の意味で張勲が美羽様を預ける相手として信頼できるのは…と思ったけど如南大返しの時に取り立てた人もいるか
朝もはよから迎え酒して仕事…お体に障りますよ(サメ顔感

書き溜め無しでスレ立てスンナはせめて1スレ目で言う事なんよ…むしろ読み手が金銭渡してるプロなら書き溜めしてるなんて言うナイーブな考えは捨てろ
319 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/05/30(火) 20:54:07.02 ID:pQt8bhj60
>>318
赤ペン先生ありがとうございます!
やったぜ

>なん・・・だと・・・?今明かされる衝撃の真実!楽しかったぜエお前との同僚ごっこぉwwwwwwとなるのか?いや、闇に葬られて誰も知らずに胸の内か
どの口がどの口がどの口が!
はやってみたいシチュエーションではありますね

>ところで美羽様の守護は大丈夫なんだろうか…本当の意味で張勲が美羽様を預ける相手として
>信頼できるのは…と思ったけど如南大返しの時に取り立てた人もいるか
基本的に大丈夫なお立場なんですけども、七乃さんがそれを容認するかというとね
つまり、それだけ覚悟ガンギマリで今生のベストを尽くす感じであれこれ
風ちゃんが煽ったんだろうなって

頑張るぞいっと
320 :青ペン [sage saga]:2023/05/30(火) 23:43:06.79 ID:wjOQ2ABzo
>>317
リテイク了解なりよ

【闇の職場の絡新婦〜白眉が仕込むは甘美な毒】
321 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/06/06(火) 22:15:50.03 ID:JZ+/Gopd0
●一度これと決めたら主にはとことん尽くしますっ!敵からの勧誘なんて一蹴なのです!
●主が迷いなく己の道を突き進めるように道を整えておくのがNo.2のお仕事ですっ!
●主が一番でないと駄目なのです!そうです夢はでっかく!
●どんな逆境にも挫けず挑みかかります!泣きません、勝つまでは!
●中華の大半を敵に回しても、袁家のような数は暴力がモットーな敵を相手にしても手痛いダメージを与えるほどの軍の運営、補給はお任せくださいっ!そうです私は優秀なのですっ!
●先々まで見通して、後々のこともちゃんと考案しております!ご安心ください、何も心配はいらないのです。
●嫌なことも苦しいことも汚いことも知らないまま笑っていてくださればよいのです。全てこの私にお任せを。主の笑顔こそが私の幸せですっ!

ロリ軍師って素晴らしいですね
これは国宝ものですよ実際

なんとなくの備忘録
いやあ、諸葛亮様って健気でかわいいですわよね

完結も近い。。。
お盆であちら完結が現実的かな
322 :赤ペン [sage]:2023/06/07(水) 08:46:19.32 ID:q8YnJo980
劉備のことは主として認めてないのか…むしろ自分が上と認識してるのか
主(一刀)が一番、自分がNo2
323 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/06/26(月) 21:46:35.61 ID:w7bT4XqC0
「襄平が落ちた、だと……?」

何かの聞き間違いだろうと関羽は再度問いただす。だが、もたらされる応えは変わらず。

「馬鹿な!紫苑は歴戦の名将だぞ!それがなんで……!いや、言っても仕方がないな。
 朱里を呼べ……いや、こちらから行く。朱里はどこだ!」

関羽は舌打ちをする。既に蜀陣営にて軍師――というか事務全般を取り仕切ることができるのは諸葛亮くらいとなっている。関羽も幾らかは手伝おうとするが到底及ぶところではない。書式や言い回し、いつの間にか洗練されたそれについていけていないのだ。
即物的な意味でも鳳統、そして陳宮の死というのは蜀陣営にとってこれ以上ない痛手であった。

「朱里、襄平が落ちたそうだ。どうする」

その言葉を発してから関羽はそれを後悔する。問い詰める諸葛亮は頬が痩せこけていて、傍目から見て分かるほどに憔悴している。
この様子、尋常ではない。

「そうですか……」

諸葛亮は関羽の問いに、あっけないほどに平淡な口調で応じる。そこに動揺の欠片もなく、思考の海に沈みこんでいく。

「朱里……?」

問うても応えはない。
見れば、意識を混濁させているような瞬間、煽るのは火酒。それにより辛うじて意識を保っているようなものだ。
流石にこの惨状が、どうしようもないというのは関羽にだって分かるのだ。一言で言えば。

「詰んだ」

という現状。兵站は機能せず。
軍を維持する食糧こそ、付近の義倉や村落から用立てているが、いかんせんじり貧というやつである。
324 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/06/26(月) 21:47:04.94 ID:w7bT4XqC0
◆◆◆

「愛紗、ここにいたのか」

「あ、ご主人様……」

「襄平が落ちたって?」

そう。だから兵を充足することもままならないのだ。
帰る拠点すら失い、彷徨(さすら)うのが蜀軍の現状である。

「申し訳ありません。雛里ちゃん、恋さん、陳宮さんを喪ってなお目的を達せられておりません」

後一歩。いや、半歩及ばなかったと諸葛亮は歯噛みする。そう、あと半歩あれば。紀霊さえ討てば、と。

「もうさ、いいよ、朱里。そんなに頑張らなくてもいい」

「ご主人様……?」

「桃香の言ってたこと。大事にしよう。みんなが笑って暮らせるように、って。
 それはここじゃなくてもいいと思うんだ」

「と、仰いますと……?」

「うん、ここで言う天の国。それか蓬莱。そこに行かないか?
 国ってやつはさ、人がいないと成り立たない。国は人がいないと成り立たない。でも、人は必ずしも国を必要としない。
 だから、皆が笑って暮らせる世界。それを天の国で実現しないか?」

「…はい。ご主人様の仰(おっしゃ)る通りです。その通りににいたしましょう。
 お任せください。万事滞りなく勤めて見せます……」

満足そうに頷く北郷一刀。そしてその命に従う諸葛亮。そして関羽は何故か双眸から溢れる涙。

「朱里、朱里。それでは身が持たないだろう。少し、休め……」

くすり、と諸葛亮が微笑む。かつてふっくらとしていた頬は痩せこけ、双眸はそれでも鋭く光を放つ。

「いえ、ご主人様がそう決めたのです。それは果たされなければなりません」

どうして、こうなったのだろう。関羽はそう、思う。
皆が笑って暮らせる、そのために頑張ってきたのに。そのために頑張ったのに。

「ばーーっかじゃねえの?」

そんなお気楽な声が脳内に響く。うるさい、黙れとばかりに関羽は内心で吠える。それすら今の蜀軍では禁忌。ぎり、と歯を食いしばる。

「どうしろというのだ。どうしたらよかったというのだ。
 何ができる。何をすればいいのだ。どうしたって、もう……」

手遅れではないか。

そして、関羽はその言葉を口にすることができなかったのである。

「天の国、だって……?」

失意の帰陣。その馬超を待ち受けていたのは思いもよらぬ報せであった。
馬超としては、だ。
彼女――馬超――は負けた。負けたのだ。騎兵を率いて白馬義従に負けたという事実を認めている。更に中華でも屈指の軍師――鳳雛――を随伴して、だ。
どこか緩いところのある蜀。それを引き締める意味でも一罰百戒。どのような沙汰でも受けようと思っていたのだ。それが、思いもよらぬ展開である。

「ちょっと、待ってくれ。一刀、流石になにがなんだか分からない。
いや、それよりだ。あたしは二郎を討ち取るどころか、雛理をも死なせてしまったんだ。
その沙汰はどうなる」

信賞必罰、武家においては欠かせないものだ。これまでの馬超の言動もそれは全て戦場での勝利があったからこそのものであったのだ。

「雛里については、とても残念だった。本当に悲しい。
でもさ、翠が駄目だったならば、誰であっても駄目だったんじゃないかな。
いや、もっとひどいことになってたかもしれないよな?」

それはそうだ。騎兵の扱いについては今でも中華で一番であるという自覚と自負が馬超にはある。
だが、だが、である。

「それでも、私は負けた。負けたんだ。
 いけない。いけないよ、一刀。
私は行けない。いけないよ。
 あたしにその資格はないし、やっぱりね。そんなに、捨てられないよ。
 父上が身を挺して守ろうとしたもの。それが何だったのか。
それはまだ分からないけど、きっとここにあるんだと思う。
 だから、行けない。あたしは、父上は。
父上は自由に生きろって言ってくれた。言ってくれたけど。
だけど、ううん。だからこそ、かな」
325 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/06/26(月) 21:47:35.36 ID:w7bT4XqC0
行けない。
この、中華から去ることはできない。

「ごめんな。でも。やっぱり、できないよ。あたしは……」

悄然と馬超は呟く。闊達な常とは違って、それでも、いやだとばかりにかぶりを振る。
そんな中、それでも。
くしゃり、と撫でられる感触に馬超は暫し耽溺してしまう。

「翠がそう決めたんだったら、仕方ないさ。寂しいけど、さ。
 でも、翠が言う、行く末ってやつ。きっと大変だと俺は思う。
 だからさ、だから、な。
いつでも歓迎するよ翠のこと。
逃げる、ってさ。そんなに悪いことじゃないと思うよ。
 生きていればこそ、だと俺は思うよ」

「一刀……!」

ごめん、と。否、やっぱり一緒に行く!と。様々な思いが駆け抜ける。
そこでの決め手は思いかけず。

「なんだ。翠はだらしないのだ。鈴々はお兄ちゃんと、もちろん、お姉ちゃんと愛紗。
みんなと一緒にいくのだ」

無垢なる言説。張飛の言葉に馬超は身を引き裂かれるような決断を下す。

「ごめん、一刀。あたしは、やっぱり。
一緒に、いけない」

「いいさ。翠の選択だもの。
誰も咎めはしないよ」

「あ、あ。
一刀……」

そのやり取りに諸葛亮は、ほう、と息を吐く。
これでいい、これでいいのだと。これが最善なのだと。

北郷一刀、そして劉備の両名さえ存命ならば、どうとでもなると。

そして再び書類の山と向かい合う。
如何に主たちを逃すか。そして逆襲するか。それらは諸葛亮の脳髄に既にある。

「足掻いて、みせます。いえ、そうじゃないです。
 ええ。やり遂げてみせませす」

北上して匈奴の支配域から東を目指すもよし、真っ直ぐに東進するもよし。
主導権はこちらにあるのだからして。

迫る袁家軍。その進軍速度すら諸葛亮にとっては手の内なのだ。このままでは追いつかれてしまうだろうが、進軍するその道いっぱいに民がいればどうか?
まさかに、民草を蹴散らしはしないだろう。そうなれば暴動だ。まともな進軍なぞできなくなる。

窮地に追い込まれて尚、諸葛亮は三日月模様に口元を歪める。
けして、自らの主には見せられない表情だなあという思いと、それを窘めてくれたであろう友人を思って。偲んで。
そして、彼女が自分を訪ねるのも想定内。どうやら今回は、とことんそりが合わなかったのだが、これまでその関係が破綻しなかったのは率いる主のおかげなのであろう。
そう思いながら喉に液体を流し込む。
揺蕩っていた思考を炎にまとめて、向き合う。

「すまんな、多忙という言葉では足りないくらいほどに忙しいことは理解しているのだが」

だったら来るな、とは思っても言えない。劉備の股肱にして親友。その存在を軽んじることは出来ない。ただ、今は時間が惜しい。そう思っていたのだが。

関羽からもたらされたのは思いもよらぬ提案。

「殿(しんがり)、私が受け持つ」

民草を守る。魔王紀霊の追撃から守る。
その言に諸葛亮はしばし…、目を細めて考え込むのであった。
326 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/06/26(月) 21:48:26.49 ID:w7bT4XqC0
本日ここまですー
かんそうとかくだしあー

なんとかお盆までに献血じゃない完結したいですわよね
327 :赤ペン [sage]:2023/06/27(火) 12:48:58.59 ID:O8bA/ZO50
乙でしたー
>>324
>>「…はい。ご主人様の仰(おっしゃ)る通りです。その通りににいたしましょう。 【致しましょう】を漢字にした方が分かりやすいかな?
○「……はい。ご主人様の仰(おっしゃ)る通りです。その通りにいたしましょう。 そこで悪い奴(紀霊)に騙されてる多くの人たちを見捨てて【皆】が笑って〜とか言うのは笑い話にもならないんだわ…なんか言えよ飲んだくれ
>>お任せください。万事滞りなく勤めて見せます……」 【勤めて】にかかってる補助動詞なので
○お任せください。万事滞りなく勤めてみせます……」 の方が良いと思います【勤めてみます】の変形と見ればわかりやすいかな?
>>そして、関羽はその言葉を口にすることができなかったのである。 この間に場面転換があるような気がするんですが、同じ場所で話してるんですかね?

「天の国、だって……?」
○そして、関羽はその言葉を口にすることができなかったのである。 一刀と一緒に入ってきてこの話をしてるなら直す必要はないですが

◆◆◆ 失意の帰陣して沙汰を下すような謁見の場じゃなくて参謀室みたいな所に来るかしら

「天の国、だって……?」
>>騎兵を率いて白馬義従に負けたという事実を認めている。更に中華でも屈指の軍師――鳳雛――を随伴して、だ。  【更に】のかかり先が分かりづらいかな
○騎兵を率いて、更に中華でも屈指の軍師――鳳雛――を随伴した上で白馬義従に負けたという事実を認めている。 もしくは
○騎兵を率いて白馬義従に負けたという事実を認めている。それも中華でも屈指の軍師――鳳雛――を随伴して、だ。 倒置法的にこっちの方が負けた事実が強く出るかな?
>>それはそうだ。騎兵の扱いについては今でも中華で一番であるという自覚と自負が馬超にはある。 お前負けた事実を認めているはどこ行った…軍師が雑魚だったから負けて自分だけなら勝ってたとか言う気か?
○それはそうだ。騎兵の扱いについては今でも中華で屈指であるという自覚と自負が馬超にはある。 張遼とかいるし…というのは置いといても明確に格付け済んだ奴いるんだからそこは自覚しろ
>>「それでも、私は負けた。負けたんだ。 頭は揃えた方が読みやすいかな
 いけない。いけないよ、一刀。
私は行けない。いけないよ。
 あたしにその資格はないし、やっぱりね。そんなに、捨てられないよ。
 父上が身を挺して守ろうとしたもの。それが何だったのか。
それはまだ分からないけど、きっとここにあるんだと思う。
 だから、行けない。あたしは、父上は。
父上は自由に生きろって言ってくれた。言ってくれたけど。
だけど、ううん。だからこそ、かな」
○「それでも、私は負けた。負けたんだ。
 いけない。いけないよ、一刀。
 私は行けない。行けないよ。                           ここは漢字で統一した方が良さそう
 あたしにその資格はないし、やっぱりね。そんなに、捨てられないよ。
 父上が身を挺して守ろうとしたもの。それが何だったのか。
 それはまだ分からないけど、きっとここにあるんだと思う。
 だから、行けない。あたしは、父上は。
 父上は自由に生きろって言ってくれた。言ってくれたけど。
 だけど、ううん。だからこそ、かな」
>>325
>>「翠がそう決めたんだったら、仕方ないさ。寂しいけど、さ。 悩んだ末に決めたことは結局後悔する!だから、今楽な方を選びなさい!
 でも、翠が言う、行く末ってやつ。きっと大変だと俺は思う。
 だからさ、だから、な。
いつでも歓迎するよ翠のこと。
逃げる、ってさ。そんなに悪いことじゃないと思うよ。
 生きていればこそ、だと俺は思うよ」
○「翠がそう決めたんだったら、仕方ないさ。寂しいけど、さ。 嫌なことからは逃げればいい、逃げるのは負けじゃない!逃げるが勝ちと言うのだから!
 でも、翠が言う、行く末ってやつ。きっと大変だと俺は思う。
 だからさ、だから、な。
 いつでも歓迎するよ翠のこと。
 逃げる、ってさ。そんなに悪いことじゃないと思うよ。
 生きていればこそ、だと俺は思うよ」
>> ええ。やり遂げてみせませす」 酒の飲み過ぎで呂律回ってないぜえw
○ ええ。やり遂げてみせます」  脳髄に火酒がだいぶ回ってらっしゃる
>>窮地に追い込まれて尚、諸葛亮は三日月模様に口元を歪める。 模様って言うと何か違和感が
○窮地に追い込まれて尚、諸葛亮は三日月の様に口元を歪める。 もしくは【三日月の形に】とかどうでしょう
>>「すまんな、多忙という言葉では足りないくらいほどに忙しいことは理解しているのだが」 【くらいほど】は片方で良さそうかな
○「すまんな、多忙という言葉では足りないほどに忙しいことは理解しているのだが」    そういや桃色髪のあの娘は何してるんだろうか…一般兵の慰撫(傾世元禳)に忙しいのかな

民草が略奪されるならまだしも追撃される?妙だな
国を興しといて滅亡の危機になるや国なんて必要ない!とかやべーよ
お前らが蜀とか言い出さずに公孫?の下で皆が幸せになるよう努力してればこんなことにならなかったんやぞ
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/27(火) 13:09:51.66 ID:q1SLZeNbO
乙したー

コイツ本当に現代から来た一般人か???
精神構造おかしいよ・・・・・・
329 :赤ペン [sage]:2023/06/27(火) 15:23:38.92 ID:O8bA/ZO50
きっと現代では2ちゃんでレスパしたり、回転寿司で醤油さし舐めたりしてたんだよ(適当
330 :赤ペン [sage]:2023/06/28(水) 12:43:53.62 ID:swvCOeBU0
蜀の国民はやればできる!できる子たちなのだから、うまくいかなくてもそれはあなたのせいじゃない!上手くいかないのは袁家が悪い! を入れるの忘れてた
未来に笑ってるか分からないから今だけでも笑おう!は…劉備なら言いそうか?
331 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/06/28(水) 20:38:40.55 ID:+a/EAW1f0
>>327
赤ペン先生ありがとうございます!

>なんか言えよ飲んだくれ


>ここは漢字で統一した方が良さそう
ここはあえて統一してないやつです

>お前らが蜀とか言い出さずに公孫賛の下で皆が幸せになるよう努力してればこんなことにならなかったんやぞ
それはそう。
でもそうはならなかったし多分できなかったし何千何万回やってもそうはならないんだろうなと思います。

>>328
>コイツ本当に現代から来た一般人か?
戦場に出たことなく、童貞なのです。

>>330
>蜀の国民はやればできる!できる子たちなのだから、うまくいかなくてもそれはあなたのせいじゃない!上手くいかないのは袁家が悪い!
うーんこの水の女神教徒感w
そこまではっちゃけれたら、色々とまた変わってきたと思います

>未来に笑ってるか分からないから今だけでも笑おう!は…劉備なら言いそうか?
そんな、未来に不安をもたらすようなことは、言わないんじゃないかなって思います

頑張る
332 :赤ペン [sage]:2023/06/29(木) 11:17:20.23 ID:yAqzr1Z70
じゃあ逆に
>>「それでも、私は負けた。負けたんだ。 ここを
 いけない。いけないよ、一刀。
○「それでも、私は負けた。負けたんだ。 に変えてみるか?どうだろう
 いけない。行けないよ、一刀。

アクシズのあれって明日どうなってるか分からないから今を全力で楽しもう!みたいな…宵越しの銭は持たねえ的な教義じゃないかな
今日後回しにした辛いことは明日の私が何とかしてくれるでしょう…という全力でだめな人の考え方の可能性?それはそう
333 :青ペン [sage saga]:2023/06/30(金) 02:10:58.33 ID:YhnUOKqBo
>>326
めちゃくちゃ難しいな、今回のサブタイ…。

カクゴと、覚悟
〜敗けで気づくものと対話で気づくこと〜
かなぁ…。
334 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/07/17(月) 19:58:46.09 ID:deQqUpEU0
三者三様

20時からやりますやります
335 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/07/17(月) 20:01:37.05 ID:deQqUpEU0
「二郎殿はこれより先、進むに及ばず。お疲れであろう、御身の養生をのみお考えください」

「は?」

稟ちゃんさんから放たれた言葉。それに俺は言葉を失う。何言ってんの?、と。

「呂布の単騎特攻。邪道と言って貶めるのは容易いですが、その有効性は確定的に明らかなもの。
 蜀なぞと標榜する武装集団。そこには未だ関羽、張飛、馬超という傑出した武人がおります。そして蜀勢が狙うのは二郎殿の首ひとつでありましょう。
 既に逆賊の狙いは明らか。洛陽にて療養していただくのがよいと愚考いたします。
 なに、華佗殿も洛陽に向かわれていますし……」

「まて。
 ちょっと待って」

「ああ、身辺の警護については典韋殿、李典殿、陳蘭殿を充てます」

不足ですか?と首を傾げてくれる。
無論。

「気に食わないな。これは俺の喧嘩だ。俺の戦争だ。
ここで引けとかありえんだろうが」

 そして、いっそ冷たいばかりの視線を。

「感傷、という奴ですか。
相手の勝利条件は二郎殿の首級。であればそれを避けるのは必然。
お気に召さずとも聞いていただきますとも」

淡々とした言葉、だが俺の神経を逆撫でるそれにしみじみと思う。
なんか、ありがたいなあ、と。諫言、有難し。
だが、それはそれ、これはこれである。

「風、蜀勢の動きについて現状報告!」

「はい〜。その軍勢を集結させ東へ向かっていますね。襄平は既に孫家によって落とされていますからねぇ〜。
 なお、近隣の村落を扇動し、引き連れている模様ですね〜。
既に数千の民が同行。ほどなく数万に膨れ上がるかと〜」

どこぞの笛吹き男かよ!
まあ、それも想定内である。つまり。

「民の歩みの遅さ、その分厚さに追撃が困難ということだろう?」

ぴく、と稟ちゃんさんの鉄面皮が揺らぐのを見て。笑う。

「民を肉の壁となしての逃亡。厄介この上ないだろう?
 追撃するならば民を馬蹄の犠牲にせんといかんだろうさ。
そして、その汚名を背負うのは俺の仕事だ。
 そう、その通り。そして自称天の御使いたる北郷一刀を。蜀なぞという幻想に生きる蒙昧どもを教育してやろうじゃないか。そうさ、つまり」

――魔王からは逃げられないのさ。
336 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/07/17(月) 20:02:05.40 ID:deQqUpEU0
◆◆◆

「征夷大将軍たる俺の決定だ。
異論は認めない。各員の奮闘に期待する」

ニヤリ、と笑い紀霊は指をぱちり、と打ち鳴らす。その合図に典韋は付き従う。見送るのは軍師二人。

「風!どうして貴女は二郎殿を止めなかったのですか!」

ふわりとした笑みを浮かべて程立は応える。

「これはしたり。ですねえ。当然のこと。二郎さんがそれを望んだから。
或いは望まなかったからですが〜」

くすくす、と程立は柔らかく笑う。

「やはり、分かっていたのですね」

「勿論です〜。風は二郎さんの軍師ですからして〜」

くふふと笑みを漏らす程立に郭嘉はぎろ、と視線を強める。

「分かっているでしょう。的を狙う英傑には関羽、張飛、馬超と一騎当千が揃っています」

「だからこそ、ですよ。二郎さんを後ろへ下げる。そこに集中的にそのお三方が殺到したらどうしようもないですよ」

ですから、と笑う。

「もっと言えばね、一番安全なのは星ちゃんの傍ですよ。
 保証します。既に階梯が違いますよ、今の星ちゃんはね……。
 まさに、絶対無敵、国士無双というやつなのですよ……」

わが身の智謀、搾りだした謀略なぞ児戯の如く薙ぎ払うであろう。
戦術なぞ、趙雲一人で事足りてしまうのだ。
目の前で見た程立はそう確信している。

「そのへんにしてもらいたいものだな。
 我が軍の誇る軍師たちが言い争うなぞ、ぞっとせんよ」

ゆら、と身を揺らして趙雲が笑う。

「今から、戦後について語るとは随分余裕だな?」

趙雲は手にした愛槍龍牙を軽く振るう。風を切り裂くその音響。そして音量、音色。
超一流の武人が奏でる、猛々しい舞曲。

「……これは星ちゃんに一本とられたのですよ〜。
……ですが、戦略戦術において如何に激論を交わし、譲らぬことがあっても、です。
 目指す方向は同じですし、別に友誼に影響があるわけでもありません。単に、目的地に赴く。その道程の違いだけなのですし。
 ね?稟ちゃん」

くふふ、とほくそ笑む程立。その様子に超雲はやれやれとばかりに。

「なんだ。風と稟がいつになく険悪だから、と思ったが余計なことだったか」

こういうのは、向いていないのかな、と首を傾げる趙雲に郭嘉は憮然とする。

「星にまでそのようなことを言われるとは心外の極みですね。一体私はどういう風に思われているのか一度聞いておきたいくらいに」

ニヤリ、と趙雲が応える。

「無論。鬼算の戦術家、神謀の戦略家だとも。だからこそ悔しいな。
風が言ったがな。如何に関羽、張飛、馬超がいようとも最早主に毛ほどの傷もつけさせんよ。
 そして、彼奴(きゃつ)ら……。
ズタズタにしてやるぞ……!」

刹那、獰猛な笑みを漏らす趙雲から吹き出す、圧倒的な覇気。殺意の波動とでも言うべき禍々しい奔流に郭嘉は言葉を失い、程立はくふふ、と笑う。

「どっちにしてもです。蜀軍がどこに逃亡するのか。それを見極めないといけません。
 どうせ稟ちゃんも星ちゃんも。
無論私もですが、此度の不首尾、責任を負うつもりなのでしょう?
 で、あれば功績を被せる方は近くにいた方がいいのではないですか?
流石にここから二郎さんを洛陽に帰参させた上で完勝して、それを二郎さんの手柄にするのは苦しいでしょうし」

くふふ、と程立は笑う。
まずは勝つ。それは三者の合意。
そしてその功績は主の物である。

くふふ、と。ニヤリ、と。そして無表情に。
三者三様に必勝を期す。今度は、今回こそは完膚なきまでに叩き潰す、と。
337 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/07/17(月) 20:03:41.70 ID:deQqUpEU0
というわけで以上です!
本日ここまですー

感想とかくだしあー

今回の題名は
「三者三様」
かなって

勿論鋭い題名は大歓迎ですよ→誰か

なんとかお盆までには完結したいですわよね
338 :赤ペン [sage]:2023/07/20(木) 18:07:00.49 ID:q5wYUbnR0
乙でしたー
>>335
>>お疲れであろう、御身の養生をのみお考えください」 凛ちゃんさんってこういう子だったっけ?
○お疲れでしょう、御身の養生をのみお考えください」 【であろう】って上から目線というか、一応上司相手だし、こうかなって思う
>>その有効性は確定的に明らかなもの。 破壊力バツ牛んだったよな
○その有効性は明らかなもの。       あるいは【その有効性は無視できるものではありません】とかどうでしょう
>>336
>>ゆら、と身を揺らして趙雲が笑う。         上で【見送るのは軍師二人】って言ってるしこれ入ってきたんですよね?
○するりと、当然のようにそこにいた趙雲が笑う。 それとも一緒にいたけど黙して語らずだったのかしら
○ゆら、と立ち上がり趙雲が笑う。          二郎が襲われてなければメンマ片手に酒飲んでそう
>>「今から、戦後について語るとは随分余裕だな?」  えっと…行間で終わったらどうやって可愛がられるかとか子供は何人欲しいとか話してたの?
○そうしてどう勝つか、の段に来ているのだと話している所に割って入る こんな感じの一文を入れた方が良いと思います。

○「今から、戦後について語るとは随分余裕だな?」 (どう勝つか≒勝った後の名声やら土地やら人やらを考えてる感じで)
>>「無論。鬼算の戦術家、神謀の戦略家だとも。だからこそ悔しいな。 謀神とかは聞くけど神の謀りと聞くとろくでもなさそう(ギリシャ感
○「無論。神算の戦術家、鬼謀の戦略家だとも。だからこそ悔しいな。 神算鬼謀(しんさんきぼう)というしこの方が良いと思います


二郎を安全圏に引っ込めようと説得する理論武装の時に滅茶苦茶早口で喋ってそう…立て板に水とはこのことかってぐらい
命の危機だったし生存本能刺激されてそうな二郎…典韋と二人っきりでどこへ行ったのかは知らぬ
魔王は悪名全部被ってフェードアウトするつもりか、勇者もいないし姫様が攫われても仕方ないね。って来るぞ
339 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/07/24(月) 20:52:32.04 ID:hcIxN0TV0
>>338
赤ペン先生ありがとうございます!

> 破壊力バツ牛んだったよな
ぎゃあ

>二郎を安全圏に引っ込めようと説得する理論武装の時に滅茶苦茶早口で喋ってそう…立て板に水とはこのことかってぐらい
それをご理解いただけるというのは本当にありがたいことなんだなって

>命の危機だったし生存本能刺激されてそうな二郎…典韋と二人っきりでどこへ行ったのかは知らぬ
なおこれは想定外
知らんw

>魔王は悪名全部被ってフェードアウトするつもりか、勇者もいないし姫様が攫われても仕方ないね。って来るぞ
これはアリ路線ですね次世代的に考えて

なお魔王にははおーがおっっちんしそうなんですがそれは
※はおーはいつでも覇王にクラスチェンジできます
340 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/07/25(火) 20:28:26.16 ID:gQuqb1my0
天神祭、今年は涼しくて最高やん・・・
341 :青ペン [sage saga]:2023/07/31(月) 06:01:18.22 ID:maqD02Eko
>>337
ほむほむ
【鬼算神謀天下無双〜想う道筋は違えど終着地はひとつ〜】
かな。
ちょいと長いが…。
342 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/10(木) 21:22:25.75 ID:mNy5Y1D80
お盆でやりとげたい・・・
が、正直過去イチボロボロなのよね
いやまあ、頑張りまーす
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/08/11(金) 06:03:30.94 ID:/RgnKfesO
普段書き込まないけど見てる人間はいるから
ガンガレ
壊れない程度に超ガンガレ(無責任)
344 :赤ペン [sage]:2023/08/11(金) 10:04:10.19 ID:TvFM0u1k0
頑張れって言うけど既に頑張ってるんだよ!という人もいるけど
頑張れって言う人と言わない人だったらいう人の方が善人じゃないかと思う今日この頃
言わない後方理解者面より言う無責任…理想は言う理解者だろうけど
345 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/11(金) 14:51:14.70 ID:Y1pxDFPw0
ウッス頑張りますココカラッス
346 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/11(金) 20:55:19.47 ID:Y1pxDFPw0
愚痴とか見苦しいとこすんませんした
やります
結果だけでやりますやります
347 :青ペン [sage saga]:2023/08/12(土) 06:04:31.97 ID:pjKTkfWuo
>>346
牛歩でもエエのよ
最終的に完結まで持ち込むことが出来れば(語弊はあるけど)作者の勝ちやねん
たとえどんな評価になろうとも、完結させたという事実は重いのよ
348 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/14(月) 15:41:13.64 ID:x8Kt1Aqa0
昏い。

暗い執務室に墨をする音が響く。かつては丹精込めて自らしていたそれを、それをすら。
諸葛亮は他人に譲るほど、時というものを惜しんでいた。
傍らで一心不乱に墨をするのは馬良。眼鏡と覆面で覆い、表情は見受けられない。
ただ、墨をする。

ごくり。

諸葛亮が煽るそれは火酒。
柑橘を浮かべたそれを煽り、瞬間の活力を得る。
訪れる眠気は陰気。それは火酒の陽気により振り払われる。
煌々として、諸葛亮はその命を燃やしているのだ。
349 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/14(月) 15:43:21.05 ID:x8Kt1Aqa0
◆◆◆

 日輪の蔭りを見上げ、諸葛亮は再び手元の書類に目を落とす。
 目は落ちくぼみ、頬はこけ、唇は潤いを失っている。幾日眠っていないか、それを考えるリソースすらが惜しい。
 東へ。ひたすら東へ。どうせ民が主君を追うのだ。転進したルートは隠しようもない。であれば少しでも速度の稼げる漢朝内――皮肉なことにその街道を整えたのは紀霊である――をひたすらに。
 頭痛が激しい。それは幸いである。意識が覚醒するから。食欲がない。それは幸いである。目の前の書類に専念できるから。
 そうして、諸葛亮は数日のうちに蜀軍とそれに付き従う民の目指すルートを選定し、その道程を導き、必要な物資を算定し供給計画を策定してのけた。伏竜の面目躍如というレベルではない。

「朱里ちゃん、大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。私は正常に機能していますから……」

 既に限界を超えてなお諸葛亮は最適解を弾き出そうとする。それを北郷一刀は抱きしめる。

「もういい、休め。朱里……。
休んでくれ……!」

 その言葉に諸葛亮は素直に、弱弱しく頷く。

「はい。流石の私も少し、すこしだけ。
 すこしだけ、たぶん疲れてしまいました」

 はわわ……と付け加えて、諸葛亮はよろよろと起き上る。歩こうとしてごろり、と転がってしたたかに頭をぶつける。
 なに、どうということもない。内なる頭痛が外からも、もたらされただけだからして。
 そう思い立ち上がろうとするも上手く四肢が動かない。なるほど、筋肉が劣化したか、と思う間もなく。

「はわわ……」

 北郷一刀は諸葛亮の華奢な身体を抱き上げて宿に向かう。辛うじてとれたその寝台に諸葛亮を寝かせて、苦笑する。

「まあ。少し朱里は頑張り過ぎてたからな。ちょっとここで休んでくれよ」

「はい。一応ご主人様たちの行程表については策定しましたので、それを参照して頂ければと思います。それで、大丈夫ですから。
 私も、少し休んだら追いかけますが、先を急いで下さい。ご主人様たちが進まねば道は拓けません」

 乾いた声で諸葛亮は言の葉を連ねる。
 幾つも湧き出る。いつもの策を、その奔流を止められない。
 もっと、もっと高みへと。研ぎ澄まされた思考。動かない肉体。
 その齟齬に戸惑いながらも、ひとまずは横になる。
 もっと、もっとできるのに、と思いながら。

◆◆◆

「分かった。じゃ、朱里。天の国で待ってるからな」

 そう言って北郷一刀は横になった諸葛亮をきゅ、と抱きしめる。その抱擁。その温かさに諸葛亮は熱いものが双眸に込み上げるのを感じる。
 ぎゅ、と閉じた瞼から漏れるそれを見せぬために布団にもぐりこむ。眠いのだ、と言わんばかりに。
 その様子を見て北郷一刀は苦笑を一つ漏らし、その場を後にする。
 その、温かい気配が消えうせてから諸葛亮は嗚咽を漏らす。肺腑から、魂魄を吐き出すように。
 そして、急速に四肢が弛緩し、五感が遠ざかるのを感じ、誰とはなしに微笑む。
 傍らには馬良のぬくもりがいて。あって。

「わたし、頑張ったよね……」
「ええ、これ以上はないくらいに」

 その声に諸葛亮は安堵する。

「きちんと書類は無謬にて運用しました。貴女には一厘の間違いも残されません。
 ええ、残された書類に誤字脱字一文字すらないことは確かですとも。
 きちんと、間違いなぞ残していませんとも」

慈母の笑み。
毒婦の笑み。

 そして満足する。やりとげたと。
 それでも至らない。
 間違いのない組織。その恐ろしさ。
 無謬という状態の不健全さに。

 そうして、諸葛亮は満たされ、やりきったという意識。
 幸せなままに意識を手放した。
 絡新婦に抱きしめられて。

 そうして、二度と目覚めることはなかったのである。
350 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/14(月) 15:44:03.89 ID:x8Kt1Aqa0
本日ここまですー
かんそうとかくだしあー

お盆のうちにいけるとこまえでいきたい案件でうs
351 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/14(月) 15:45:32.40 ID:x8Kt1Aqa0
七乃さんがやっべーのよ
352 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/14(月) 15:58:16.35 ID:x8Kt1Aqa0
多分風ちゃんと七乃さんが一番すき
優遇はしないけどね
後は割と関羽が好き
頑張る人が好きなのです
353 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/14(月) 21:56:42.34 ID:x8Kt1Aqa0
今日もやるぜ。
色々やるのよ。
354 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/14(月) 22:18:56.63 ID:x8Kt1Aqa0
風が砂塵を舞い上げる。踊るように四方に飛び散るその様は何故か郷愁を掻きたてる。とはいえ、前に進むと決めたのは俺だ。俺なのだ。
白蓮も蒲公英もなんか鬼気迫る表情で自ら斥候として駆け回っている。個人的には民がぞろぞろと進む先に彼奴らはいると思うのだがね。
これには稟ちゃんさんと風も同意はしてくれた。だが、それを目くらましにして逃亡を図るという可能性もあるとのことだ。まあ、流石に自分らを勧誘した奴が行方をくらましたら暴動か逃散だと思うのだけどね。

「もうすぐ、最後尾に追いつきます。どうするのです?本気で民を蹴散らすのですか?」
「荒地やら森を進むわけにもいかん。できるだけ陣を細くして進むしかないだろう。気は進まんがな。」

なんという桶狭間フラグ。言っててまあ。どんより、である。
いや実際、灌木やら草木生い茂るとこを進むわけにもいかん。何より物資を運ぶ馬車が通れんわ。メインストリートの整備はしたが、流石に迂回路とか!

「まあ、常識的に考えて二郎殿を狙うならば好機ですね。
ですが今回は星をお傍に置けます。ねえ、星?」
「無論。幾千幾万の軍勢来ようとも鎧袖一触。主に毛ほどの傷もつけさせんともよ」

キャーセイサーン!素敵!抱いて!

「まあ、星が傍にあるならば千人力さね」

頼りにしてるよ、と笑う前に報せが。

「ほう……?」

流民の最後尾にあった関羽がその道程の河川。その橋梁の上で仁王立ちしているという報せである。
そして、淡々と数を頼りに押しつぶしてしまおうという稟ちゃんさんの献策に俺は苦笑する。

「そりゃあ、恋ほどじゃないけども関羽も一騎当千というやつさ。無駄な血は流したくない。
 ここは、俺が出る」

「これは……。寝言は寝ているからこそ許されるというものです。いいから貴方はひっこんでてください」

おいおい、そりゃあ、あんまりな物言いだろうよ。

「別に丸腰で行くわけじゃない。星、いけるか?」
「無論」

……不敵で無敵。天下無双たる星が傍らにあるのだ。そうだな。もう、なにもこわくない。
355 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/14(月) 22:19:22.04 ID:x8Kt1Aqa0
◆◆◆

「じゃあ、行こうか」

 と言って現場に来たのだが、これはすごい。マジか。マジだった。

「おお、ほんとに単騎で踏ん張っているのだな」

関羽である。青竜偃月刀を構え、腰に差しているのは七星刀かな?
そして天下無双たる星は容赦なく、関羽に言の葉の連撃を浴びせかける。
早い、早いよ星ちゃん!いいぞもっとやれ!

「おお、愛紗。そのように単身立つのはみっともないな。いや、兵卒に見限られたというのであればそれはそれでいいのだが。
 にしても、夜鷹のように単身殿方を誘うのは如何なものと思うぞ。
仕える主筋の品位というものが、知れるからな」

ニヤリ、と挑発する星の言葉にも関羽は、その程度の挑発では身じろぎ一つしない。
黙然というやつである。

「この身は、ご主人様の武威の顕現。押し通るならば言葉は不要。千が万の軍勢であっても退けてくれよう」

 そして星は歩みを止めない。

「ほお、面白い。言ったな。吐いた唾、後悔させてくれよう。
思えば愛紗よ。武においてどちらが勝るか、結論はお預けだったな」

ゆらり、と星から気炎が昇るのを感じ。

「やめんか」
「む、主よ、なにをするか」

ぽこん、と星の形のいい臀部に軽く一撃を加えて俺は関羽に向かい合う。

「よお、久しぶりだな、関羽よ。息災そうで何より」

その言葉に関羽はくしゃり、と表情を歪める。決壊する。

「貴方は、貴方がいたから!貴方のせいで!」

フン、とばかりに関羽のそんな惰弱を切り捨てようじゃないか。
追いつめられた顔の彼女、狙い撃ちである。

「あぁ?お前のせいだろうが。お前が劉備を甘やかした。見過ごした。そうだろう?
 更には北郷一刀だ。天の御使いと名乗る匹夫さ!
 厄介ごとを持ち込みやがって!」

反論しようとした関羽を見て猪々子が叫ぶ。

「ふざけんな!ふざけんなよ!お前らが何をしたか!何をしたか分かってるのかよ!
 アタイにだって分かる。お前らは余計なことしかしてない!
 アニキがどれだけ頑張ってたか!それを台無しにして!あんとき、刺し違えても前に進むべきだったて後悔してるよ!」

今にも飛び出そうとする猪々子の背をぽん、と叩いて落ち着かせる。どうどう。

「で、だ。何か言いたいことはあったりするのかな?」

「……。
ここは通行止めです。他を当たってください」

その物言いにカチン、とくる。
いや、これで最善を尽くそうとしているのだろうけどさ。

「あ?なんつった?聞こえないな」
「ここは通行止めだ、と言ったのです」

ざわ、と殺気が立ち昇る。ニヤリ、と笑う星から。ハァ?と獰猛にその身を臨戦な猪々子から。くすり、と笑う斗詩から。無言の流琉から。

「まあ、そう言うなよ、どうせ分かっているだろう?抵抗は無意味さ。
 何せ、お前が守っている橋、それ無意味だからね」

「な、なにを言うのですか!
 その手には乗りませんよ!」

 まーね、普通だったらそうなんだけどね。

「関羽よ、君が幾日そこで粘れると想定しているか知らないが・・・。
 こちらには母流龍九商会という存在がいてね。
 申し訳ないが、数時間もあればお前の横に橋を架けることができるのだよ」

 今すぐにでも作業にかからせろという視線は割と、俺でも無視できんくらいの圧力なのよ?
356 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/14(月) 22:21:56.22 ID:x8Kt1Aqa0
◆◆◆

「あのな。もっぺん言うぞ。健気だと思うがね。
身を挺しての通せんぼだけどな、それ無駄だし」

「まあ、そこでどんだけ頑張るつもりかね。一刻か、それ以上か?
 言っとくが、一刻もあればうちの技術部はお前さんの横に橋をかけてしまうぞ?」

ちょっとさばを読んだかもしらんが真桜ならば一晩といわず一刻で浮橋くらいは楽勝だろうさ。多分きっとおそらくメイビー。

そして、動揺する関羽に一番聞きたかったことを聞く。

「で、だ。天の御使いは再起を期すのかね?叩き潰すのも面倒くさいのだけんども」

「――ご主人様は、天の国に旅立たれた。最早中華に興味は持たれていない」

――その言葉が聞きたかった。

「ふむ。じゃあ、関羽よ、なぜそこにいる?もう、北郷一刀は逃がしたのだろうよ、天の国へと。
 どうしてそこにいるのかな?」

くしゃり、と秀麗な顔をしかめて関羽は黙り込む、口を開く。

「どうして……。どうして貴方はいるのですか!どうして、こんなにも貴方は私の心をかき乱す!
 貴方さえいなければ、きっと。きっとご主人様の描く、皆が笑える世が!」

ほう。
なるほどね。
じゃあ聞こうか。

「皆、って誰さ」

その、俺の問いに関羽は黙り込む。下を向く。

「関羽よ。お前は何を守りたいのだ?ご主人様たちか?それとも無辜の民か?」
「そ、れは……。民だ。無辜の民を守りたいからこそ私たちは――」

 苦しいところだよね。分かるよ。だが容赦せん。

「は、笑えるよな。その理想でどれだけの民が死んだか!理想を抱えてどれだけの民を溺死させたのか!戦に駆り出し、無駄死にさせ、寡婦と孤児を幾人作った!」

黙り込む関羽。俺は畳み掛ける。
357 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/14(月) 22:22:25.55 ID:x8Kt1Aqa0
「で、民のためにお前はそこに立ってるのだったか。
 それが本当ならば、さっさと降るんだな。抵抗は無意味だ」

「この身を替えても!私は民を守ると誓ったのだ!死など恐れない!」

その言葉にニヤリ、と笑う。

「じゃあ、関羽よこうしよう。お前が降ればここで軍を引こう。民も手にかけない。どうだね」
「な!」

言葉を失う関羽。

「主、それは……!」

なに、本拠を喪った蜀軍がどう動くか。それが分からんかったからこうしてえんやこらと足を延ばしているのだ。目的は達せられたと言っていい。これ以上は無駄無駄。
匈奴なり近隣の村落やらで戦力拡充させて逆撃もあると思っていたんだが、それがないならもうどうでもいい。
天の国、ということは日本に向かったということであろう。そこらへんは俺の関知するとこじゃない。もう、好きにすればいいのさ。無事に海を渡れるとも思わんがね。

「そ、それが本当ならば……。本当に、民に手をかけないならば……」

「阿呆。誰が好きで民を手にかけるかよ。ああ、時間稼ぎは通用しないぜ?既に技術部は橋の建造に動いてるからな」

そして、がくり、と関羽は項垂れて俺の軍門に降ったのである。
勝利……圧倒的勝利……!

「アニキー。でもこいつ、降ったにしてもどうせ死罪だろ?いまここでやっちゃってもいいんじゃねーの?」

「そうですね。文ちゃんに私も賛成です。降ったからといって死一等を減じられることもないでしょうし。いっそここで派手に討死させてあげた方が温情かもしれませんよ?」

猪々子と斗詩の物言いもごもっとも。
私たち不満です、という複数の視線を受けてにへらと笑う。

「そして関羽への沙汰は今下す」

更に視線が俺に集まる。

「関羽。字を雲長。真名を――愛紗」

ざわ、とその場がざわつく。許されてもいない真名を呼ぶのはこの中華において絶対的な禁忌。思わず抗議の声を上げようとした誰より先に。

「沙汰を下す。漢朝に叛旗を翻した不逞の輩。関羽と名乗っていた匹夫。そのすべての名を剥奪する。これが征夷大将軍たる俺の下す沙汰である。
 以降、貴様は字伏(あざふせ)と名乗れ」

 これが俺の下した処分である。
 
358 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/14(月) 22:22:59.73 ID:x8Kt1Aqa0
本日ここまですー
かんそうとかくだしあー

やります
359 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/15(火) 22:32:03.41 ID:l8mnJp+j0
もうすぐ完結
360 :青ペン [sage saga]:2023/08/16(水) 07:28:16.04 ID:cuVlB0rdo
>>350
ほむ…。
【伏龍の眠り】
ココはシンプルにいこうか
361 :青ペン [sage saga]:2023/08/16(水) 07:33:28.05 ID:cuVlB0rdo
>>358
んー。どう捌くかねぇ…。
【武神転生〜ただ、一人の少女として〜】かなぁ。

…。そういや、劉備、張飛、北郷くんは生死不明ってことで良いのかな?
362 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/16(水) 07:54:52.81 ID:l1HXNvuf0
>>361
>生死不明ってことで良いのかな?
当然死んでますが生死不明です
描写はしませんがここで一応断言しときましょうかね
不粋の極みではありますが
363 :青ペン [sage saga]:2023/08/16(水) 19:58:50.32 ID:cuVlB0rdo
>>362
まあ、そうなるか…。
本文に(明確な)描写なかった以上は触れるべきではなかったのかもだけど
364 :赤ペン [sage]:2023/08/17(木) 14:55:09.05 ID:CU23HYUJ0
乙でしたー
>>348
>>諸葛亮は他人に譲るほど、時というものを惜しんでいた。 【譲る】というか優先順位を付けて捨てたというか
○諸葛亮は他人に恃むほど、時というものを惜しんでいた。 【頼む】…でも馬良に任せてる(名無しの文官に任せない)あたり大切な仕事なんだな
>>349
>>幾日眠っていないか、それを考えるリソースすらが惜しい。 資源とか資産?
○幾日眠っていないか、それを考える寸暇すら惜しい。   時間というよりは思考領域の問題な気もするけど【思考することさえ惜しい。】とかどうでしょう
>>転進したルートは隠しようもない。であれば少しでも速度の稼げる漢朝内     漢朝内から抜けれるならそのまま外国いけばいいだけでは?
○転進したところで道程は隠しようもない。であれば少しでも速度の稼げる舗装路 公道っぽい所ひた走ってるんだろうね…レンガとか使われてる
>>諸葛亮は数日のうちに蜀軍とそれに付き従う民の目指すルートを選定し、その道程を導き、必要な物資を算定し供給計画を策定してのけた。伏竜の面目躍如というレベルではない。 所詮は伏せたままよ
○諸葛亮は数日のうちに蜀軍とそれに付き従う民の目指す道筋を選定し、その道程を導き、必要な物資を算定し供給計画を策定してのけた。もはや伏竜という異名すら役不足だ。   画竜点睛と呼んであげよう…絵に描いた餅?

本日ここまでとは何だったのか
ロウソクは消える前が一番…とか最高潮に達したということはあとは下がるだけなのだ、とかそんな感じの伏龍さん
脳内ピンクちゃんは民の為に、とか言ってた気がするけど亮ちゃんはご主人様の為の民って感じだったような…一刀は劉備の為の国だった気もするしこいつら目的地大分バラバラだったのでは
365 :赤ペン [sage]:2023/08/17(木) 16:03:56.29 ID:CU23HYUJ0
さて続きっと
>>355
>>ゆらり、と星から気炎が昇るのを感じ。  物理的に昇ったり降りたり昇降したりしてないなら
○ゆらり、と星から気炎が上がるのを感じ。 漲ってて抑えきれないのか、あえて魅せてるのか…好きな男の前でカッコつけたい乙女心?物騒やなw
>>ぽこん、と星の形のいい臀部に軽く一撃を加えて俺は関羽に向かい合う。 【ぽこん】ってげんこつで頭を小突くなら分かるんですが
○ぺちん、と星の形のいい臀部に軽く一撃を加えて俺は関羽に向かい合う。 尻たたきみたいなものならこの方がよさげ?
>>フン、とばかりに関羽のそんな惰弱を切り捨てようじゃないか。   惰弱というか情弱というか…二郎のことを知ろうと思えば知れただろうに、その先に何があるかの想像くらいは出来ただろうに
○フン、と鼻息一つで関羽のそんな惰弱を切り捨てようじゃないか。 ちょっと違う?
○筋違いだとばかりに関羽のそんな惰弱を切り捨てようじゃないか。 【ばかりに】というかそのものずばりか…【戯言だと言わんばかりに】とか?
>>あんとき、刺し違えても前に進むべきだったて後悔してるよ!」  関羽と刺し違えても意味無いし、意味のある奴と差し違えるのは君だと阻まれるだろうなあ
○あんとき、刺し違えても前に進むべきだったって後悔してるよ!」 
>>356
>>くしゃり、と秀麗な顔をしかめて関羽は黙り込む、口を開く。  【黙り込む】って言うとそれまでしっかり喋ってたのが言われるがままになるとかそんな感じがするけど…結構すぐに口を開いてるので
○くしゃり、と秀麗な顔をしかめて関羽は涙を湛える、口を開く。 泣くぞすぐ泣くぞ絶対泣くぞほら泣くぞ…絶対今感情が表面張力してるよ
>>黙り込む関羽。俺は畳み掛ける。    上で既に黙り込んでるんだよなあ
○槍に縋り立つ関羽。俺は畳み掛ける。 最初は穂先をこちらに向けてたのがいつの間にか下に向けててついには膝を震わせて自力じゃ立てなくなってるとか素晴らしい芸術作品になると思うんだ(キラキラお目目
>>357
>>「この身を替えても!私は民を守ると誓ったのだ!死など恐れない!」 「チェーンジ!」とか言って体を取り替える特戦隊隊長?
○「命にかえても!私は民を守ると誓ったのだ!死など恐れない!」   (この身にかえても)だとほら…R18でくっころなイメージが。原作がエロゲだし

>>「まあ、星が傍にあるならば千人力さね」 そいつは随分と過小評価だねえ、万夫不当。万人力よ
>>そうだな。もう、なにもこわくない。 お前分かっててフラグ立てるのやめろや、頭と胴体泣き別れさせっぞ
>>――その言葉が聞きたかった。 本物の黒男さんの場合だと「それが聞きたかった」なんだけどネットではこっちの方が有名になってる気がする
>>許されてもいない真名を呼ぶのはこの中華において絶対的な禁忌。思わず抗議の声を上げようとした誰より先に。 現状で関羽に声を上げる気力すらあるとは思えんから紀霊の部下の誰かが上げそうになったってことよね…
こんな奴相手でもそうしそうになるって考えると名を全て奪う事の罰の意味が凄い重いってことに…下手すりゃ死罪よりも重い?
マッチポンプで二郎と二人っきりの時だけ愛紗に戻れてどろっどろに依存するようにならねえかなあ…おもらし命令して出したら「愛紗、よくできました」とか誉めてあげたい
366 :青ペン [sage saga]:2023/08/21(月) 01:26:08.16 ID:62pGlTqMo
>>365
ぶっちゃけ【これまでの生涯を全否定する】ようなもんだからね、名前をすべて奪うってのは。
ある意味死よりも重いんじゃないかな。
そして死という逃げ道すら与えられないんだから、其はもう、ね…。
367 :赤ペン [sage]:2023/08/21(月) 09:06:34.99 ID:a59oSAvA0
ぶっちゃけ今の紀霊の権力とか考えると関羽雲長(愛紗)が忌み名として残りそうですらある
あんたほどの人がそういうなら…
368 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/21(月) 17:18:19.77 ID:oDFXJMpu0
>>363
いやまあ、旧でもそこら辺は荒れてましたからねー
一応の決着を付けたつもりでも、明文化されないと分からない人はいるのだなと思ったものです。
フライングネタバレになってしまいましたがまあ、ええかなと。
こっちでは先に明言しとこうかなと。
なろうでは黙殺します。
※書いてないとこのネタバレしちまったなと苦笑するなど
※酔っ払ってたのよ

>>364
赤ペン先生ありがとうございます!

>脳内ピンクちゃんは民の為に、とか言ってた気がするけど亮ちゃんはご主人様の為の民って感じだったような…一刀は劉備の為の国だった気もするしこいつら目的地大分バラバラだったのでは
所詮野合勢力っすよ(暴言)
理想なのか個人崇拝なのか、その個人は誰なのか
ほんと、当時苦痛だったっすよw

>>365

>そいつは随分と過小評価だねえ、万夫不当。万人力よ
長らく一騎当千扱いだったので、言ってからしまったとか思ってますよw
ちなみに百人力はよく聞きますが千人力ってパタリロ以外に見た覚えがないのでここの表現は再考するかもしれませんが、あえてしないかもしれません
→エトランジュ王妃に対しての台詞だったと記憶しています
※当然なろうではこんな解説しませんし、誤字扱いされてもスルーしますとも

>本物の黒男さんの場合だと「それが聞きたかった」なんだけどネットではこっちの方が有名になってる気がする
そうなんですよねw まあこっちは分かりやすさ優先です

>こんな奴相手でもそうしそうになるって考えると名を全て奪う事の罰の意味が凄い重いってことに…下手すりゃ死罪よりも重い?
あ、「貴様には死ですら生ぬるい」的な文言入れるの忘れてましたメモメモ

>マッチポンプで二郎と二人っきりの時だけ愛紗に戻れてどろっどろに依存するようにならねえかなあ…おもらし命令して出したら「愛紗、よくできました」とか誉めてあげたい
前回はなかったけど今回は溶かしてから名誉挽回がされる予定です
※描写はしませんエピローグ後のお話です

>>366
>ぶっちゃけ【これまでの生涯を全否定する】ようなもんだからね、名前をすべて奪うってのは。
>ある意味死よりも重いんじゃないかな。
これはその通りです
死ですら生ぬるいというやつ
そして後日自分が何をやったか「わからせ」られるんですよw
多分

>>367
>ぶっちゃけ今の紀霊の権力とか考えると関羽雲長(愛紗)が忌み名として残りそうですらある
関帝廟が後世できることがあるのか!可能性はゼロではない!

>あんたほどの人がそういうなら…
草w
陰の実力者、となるはずが、ばばーんと!
覚えていますか
将来の夢は天下り公務員的なものでした・・・
369 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/21(月) 17:20:44.57 ID:oDFXJMpu0
もうちょっとだけ続くんじゃ
※本当にもうちょっとだけです

個別エピローグは省略しようかなあ・・・
もう、数人に絞らないと終わらない
目標は体育の日くらいに、なろう完結くらい
370 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/21(月) 22:06:04.82 ID:oDFXJMpu0
真名。それはこの世界においてその人の存在を示すモノ。
真名。それはこの世界において許しなく口にすると問答無用で殺されても文句を言えないモノ。
真名。それを奪われるということは人としての尊厳、それを奪われると同じほどに重いモノ。

「全く……前代未聞ですよ」

「空前絶後でしょねー。真名を奪い、名を奪い、字をすら奪う。いっそ死を賜った方がましなんでしょうが……」

苛烈、と言っていいだろうと郭嘉は思う。法を司る曹操に諮ることもなく独断で下したその決定。
それは紀霊の、此度の蜀と名乗る不逞の賊軍に対する憤りを内包しているに違いない。

「にしても、姓名どころか真名まで奪うとは……。
そのような暴挙……!」

焚書、肉刑すら可愛く思えるほどのことであるのだ。

「州牧代理を自己都合で殺し、その罪を糾弾されると開きなおる。
 あげく、自らが皇帝を僭称する。いや、これは首謀者ではなくともその量刑、死ですら生ぬるいでしょう。
 二郎さんの裁定、考えてみればですが。
割と妥当じゃないかなと風は思うのですよ〜」

くふふ、と笑う程立に郭嘉は柳眉を逆立てる。

「にしても、あまりと言えばあまり。これから、かつて関羽と呼ばれていた存在――今は字伏と言ったのですか――は生涯その尊厳、誇り。それらを全否定されることになります。
いっそ死を賜る方が温情というものでしょう」

郭嘉はこれで名門の生まれである。その、実家の人脈(コネ)、しがらみが煩わしくて名を偽り放浪するくらいのお転婆――紀霊談――ではあったのだが。
いや、だからこそ紀霊の裁定には思うところは少なくない。
そのような無体、董卓にだってしたことはなかったのだ。

「――あ」

――すとん、と胸に落ちた。
371 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/21(月) 22:06:32.22 ID:oDFXJMpu0
「そですね。稟ちゃん。
二郎さんはとっても優しくて、そうして、甘いお方なのですよ」

程立の声に郭嘉は頷く。項垂れる。
一体、自分はあの青年のお気楽な笑顔の裏にある葛藤を、苦悩や煩悶を。どれだけ斟酌できていたのかと。

「思えば、です。
ほんと、賈駆さんは愛されてたと思うのですよね〜」

賈駆。そして董卓一派。

「……なるほど。畏れ多くも禁裏を血に濡らしての宦官誅殺が市井にまで知れ渡っていること。適切に対処した二郎殿が、です。
魔王なぞという悪名が広がる。いかにも不自然です」

――ひどいものに至っては劉協や皇甫嵩を誅殺したのだという言説まで流布している。その紀霊の悪名に隠れて意外なほどに董卓一派については気にする者は少ない。少なくなった。

「悪名を以て悪名を制す。
そして彼女らはその死を以て将兵を救い、満足して死んでいったというわけですか。
 ――全く、度し難い」

思えば、風説の流布や制御こそが彼の最も得意とする手法。そしてその傍には張勲という情報処理の専門家(エキスパート)がいるのだ。手足となる張家がいるのだ。

「本当に。度し難い」

もや、と何か不愉快なものがこみ上げてくる。

「くふふ。清廉な英雄については星ちゃんが受け継いでくれましたからね。
 まあ、それについて星ちゃんも色々と思う所があったみたいですが〜」

「風、貴女は!」

郭嘉が語気を荒げるもどこ吹く風。

「さて、そろそろ参りましょか〜?」

そう。軍師二人と天下無双。奇しくも荒野を彷徨っていた三人とその拾い主。
その四人で今後の方策が話し合われるのだ。それは北伐の始末だけでなく、中華全土の行方すら左右するであろう。

「天下の差配すら思うが儘。宿願が叶ってよかったですね?」

茶化す程立をうるさいとばかりに一つこづく。

「おお、ひどいひどい。卑しくも軍師ならば口舌にて掣肘を加えるべきと思うのですが〜」

「言ってなさい。まあ、私たちのやるべきことは決まっていますが」

此度の戦で晒した不様。それをあの青年の責とさせるわけにはいかない。それは二人に共通した認識である。

「……あの方はまだ。
まだまだ漢朝に必要なのですから」

常のように淡々と呟く郭嘉。程立はくふふ、と笑みを漏らすのみであった。
372 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/21(月) 22:07:53.48 ID:oDFXJMpu0
本日ここまですー
かんそうとかくだしあー

宮刑も入れようかと思ったけど女子には意味ないのでやめました
貴様には死ですら生ぬるい回でした

題名案は「真名」かな
代案どしどしオナシャスお願いマッスル
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/08/21(月) 23:52:31.34 ID:AYLUTKy2o
乙したー

この世界観で真名を奪われる意味
多分自分では理解が出来ないんじゃなかろうかなぁ、と

タイトル案は「天に唾吐きし者の末路」で
374 :赤ペン [sage]:2023/08/22(火) 11:28:03.59 ID:Nm244sDB0
乙でしたー
>>370
>>「空前絶後でしょねー。真名を奪い、名を奪い、字をすら奪う。 こういうのって軽いものから初めて重いものが後の方が良さそうかな
○「空前絶後でしょねー。名を奪い、字を奪い、真名をすら奪う。 一概には言えないけど【地位も、名誉も、誇りすら奪う】みたいな?
>>「にしても、姓名どころか真名まで奪うとは……。    郭嘉の言葉としてはちょっと違和感があるような
○「それにしても、姓名どころか真名まで奪うとは……。 もしくは【それにしたって、】とか…なんとなくですが
>>焚書、肉刑すら可愛く思えるほどのことであるのだ。 ぶっちゃけやったことからすれば焚書はともかく肉刑はかわいく思えなきゃおかしいよね…時代によってはただの盗人でもかされる刑罰だし
○炮烙、?盆すら可愛く思えるほどのことであるのだ。 残酷な刑罰でぱっと思いついたのは同じ中国出身のこれかな…針串刺し(鉄の処女)とか牛入り(ファラリス)とかは知らないだろうし…舌きり(雀)?
>>いや、これは首謀者ではなくともその量刑、死ですら生ぬるいでしょう。    間違いではなく好みの問題ですが
○いやはや、これは首謀者ではなくともその量刑、死ですら生ぬるいでしょう。 の方が良さげかな?
>>「にしても、あまりと言えばあまり。これから、かつて関羽と呼ばれていた存在――今は字伏と言ったのですか――は生涯その尊厳、誇り。それらを全否定されることになります。 気の置けない友人だし有りなのかな?
○「だとしても、あまりと言えばあまり。これから、かつて関羽と呼ばれていた彼女――今は字伏でしたか――は生涯その尊厳、誇り。それらを全て否定されることになります。    喋り言葉としてちょこっと訂正
>>371
>>「……なるほど。畏れ多くも禁裏を血に濡らしての宦官誅殺が市井にまで知れ渡っていること。適切に対処した二郎殿が、です。 順番を入れ替えてみる
魔王なぞという悪名が広がる。いかにも不自然です」
○「……なるほど。畏れ多くも禁裏を血に濡らしての宦官誅殺が市井にまで知れ渡り。魔王なぞという悪名が広がる。         ぶっちゃけガチで魔王と畏れられたら知れ渡る前に皆が口を噤むよねえ
適切に対処した二郎殿が、です。いかにも不自然です」

>>――すとん、と胸に落ちた。 胸がすとんと落ち(ry
>>まだまだ漢朝に必要なのですから」 副音声で(私に必要)とか聞こえてきそう…(私が必要)?
強いて言えば国賊指定とかが近いのかもしれん…一応一刀のあれこれからすると真名のない文化に理解はあるようだけど
原作では真名だけ名乗ることを許されたアイドルがいたようないなかったような
色々と懊悩苦悩に塗れてる二郎を甘やかしてバブみの海に沈めなきゃ(使命感…薄くて小さい?だからいいんじゃないか!
375 :青ペン [sage saga]:2023/08/22(火) 20:45:27.55 ID:c5EFUUyMo
>>372
更新乙ーい

【毒を以て毒を制す〜墜ちし月への餞を〜】
としておこうか。
376 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/08/22(火) 21:36:37.57 ID:CM1XwyQF0
>>373
感想ありがとうございます!

>この世界観で真名を奪われる意味
>多分自分では理解が出来ないんじゃなかろうかなぁ、と
価値観が違いますからね、仕方ないっすね

>>374
赤ペン先生ありがとうございます!

>ぶっちゃけガチで魔王と畏れられたら知れ渡る前に皆が口を噤むよねえ
風説の流布というやつですね

>胸がすとんと落ち(ry
こら!凛ちゃんさんはある方でしょ!

>原作では真名だけ名乗ることを許されたアイドルがいたようないなかったような
だから求心力があったとかなんとか
ほいでもって、兵卒全員までに真名を許して絶望的な戦いに挑んだ二次創作もありましたね
あれはもう、身体を許した以上の案件なのだろうなということでしょうね

>>375
どもです!

餞はいいな。。。
377 :青ペン [sage saga]:2023/08/23(水) 03:27:27.62 ID:hpk2e0Oxo
>>376
言わずもがなではあるが念のために書いとくと
董卓ちゃんの汚名返上をはなむけとして送るよ、とな。
378 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/09/11(月) 19:37:43.47 ID:jpPH5Rw/0
「……海だ!」

我知らず漏れ零れたのは感嘆の言葉。北郷一刀は目の前の海岸線にほう、と息を漏らす。

「うわあ、海だ。これが海なんだね。ご主人様!」

寄り添いはしゃぐ劉備に苦笑する。なるほど。広大な中華に住むと、海というものを見たことがある人は少ないのかもな、と。
もっと常ならばはしゃいでいるであろう人物に目をやる。ここまでの道中彼らを護衛していた豪傑。張飛を。

「これが、海……」

大海原、である。寄せては返す波濤、そして彼方の水平線。圧倒的な存在感にさしもの張飛も言葉を失う。

「えっと、ここまでは街道があるから楽だったけどこっから先はまだ未整備だってさ。北、南どっちに行っても漁港があるみたいだけどどっちに行こうか」

諸葛亮が遺した指南書に目を通して北郷一刀は問う。

「うーん。私はどっちでもいいかな。ご主人様が決めたらいいと思うよ!」

にこやかなその表情、言動に救われているな、と思う。どんな逆境でもこの子と一緒ならば乗り越えられるという確信がある。それはまさに彼女の持つ人徳というものだろう。

「鈴々は、どっちに行ったらいいと思う?」

北郷一刀は大海に心奪われ、呆けたような張飛に声をかける。その言葉に張飛は慌てて、考え込む。

「あ、あの……だな。すごい、と思うのだ。海、というのを鈴々は初めて見たのだ……。
 これ、多分愛紗が見たら腰を抜かすと思うのだ。
 鈴々は、それを笑ってやるのだ。いつも。いっつも鈴々の前でいいかっこしてた愛紗のかっこ悪いとこを散々に笑ってやるのだ。
 だから。鈴々はここで愛紗を待つのだ。愛紗は絶対に嘘をつかないのだ。
だから。だからここに、きっと来るのだ。そして愛紗は方向音痴だからここからどうすればいいかわからないのだ。
 だから、お兄ちゃんがどこに行ったのか、鈴々が教えてやらないといけないのだ」

そして諸葛亮に言い含められていたことでもある。其処で迫る敵兵を殲滅し、死守すべしと。無論それを北郷一刀も劉備も知らない。

「んー。そこまで愛紗が方向音痴ってことはないと思うけどなー」
「あー、でもでもご主人様。北か南か。私たちの行く先を鈴々ちゃんが示してくれるなら愛紗ちゃんも安心だと思うな!」

なるほど、と北郷一刀は頷く。

「そうだな。じきに朱里も追いつくだろうから一緒に追いかけてくれよ。
 また、皆で、そうだな。温泉にでも行こう。いい湯がたくさんあるんだ」

にこり、と笑ってくしゃ、と張飛の頭をわしゃ、とかき混ぜる。

「うん。すぐに追いつくから。だから鈴々はここで愛紗と朱里を見つけたらかっさらってすぐに追いつくのだ」

◆◆◆

「えへへ」
「どうしたんだ?桃香」

その問いに劉備は相好を崩す。

「うん。よくないことだって分かってるんだけどね。
 えへ。
 ご主人様と二人っきりって、初めてだな、って」

その言葉に北郷一刀の頬がに上気する。

「な、何を言ってんだよ……」
「あ、うん。えへへ。でもね……?」

全身で好意を示す劉備に北郷一刀は小さく笑い、立ち上がる。

「よし!まずは船を探さないとな。話はそれからだ」
「うん、そうだね!話はそれからだね!」

そう、彼らの旅路はまだ始まったばかりなのだから。
379 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/09/11(月) 19:38:32.79 ID:jpPH5Rw/0
いったんここまで

希望の海に向けレディゴー!!!!!!!
380 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/09/11(月) 22:10:13.96 ID:jpPH5Rw/0
クソが
っと流石に思うこともありますが私は元気です
も少しでいけると思いますので

できたのでクオリティ整えてます
頑張ります頑張ってます
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/09/11(月) 23:21:13.62 ID:N7EPNfOjo
乙したー
がんがれ 超がんがれ

鈴々もなんかちげぇよなぁとか思っちゃったんだろうか
382 :赤ペン [sage]:2023/09/12(火) 10:07:36.00 ID:Z+FYYy0K0
乙でしたー
>>378
>>にこり、と笑ってくしゃ、と張飛の頭をわしゃ、とかき混ぜる。 くしゃ、なのかわしゃ、なのか。どちらかにした方が良いと思います
○にこり、と笑ってくしゃ、と張飛の頭をかき混ぜる。       もしくは【笑って張飛の頭をわしゃ、とかき混ぜる。】ですね
>>全身で好意を示す劉備に北郷一刀は小さく笑い、立ち上がる。 これの前に【歩き詰めの疲労を回復するために、腰を下ろして海を眺めていた】みたいな一文を入れた方が良いかな?
○全身で好意を示す劉備に北郷一刀は小さく笑い、歩き出す。  座る描写が無いし、かといって座って休憩するなら張飛と一緒に二人が来るかなー?程度の感じで三人でいそうだけど

ところでお気づきだろうか?誰も今までついてきてくれた民達について言及しないのである!(ばばーん)
>>ここまでは街道があるから楽だったけどこっから先はまだ未整備 逆に言えばここには定期的に魚か塩か取りに人が来るんだよな…ワンチャン腹空かして倒れたところを保護されるかもしれん>>張飛
383 :青ペン [sage saga]:2023/09/12(火) 14:59:34.96 ID:7hPRfIcCo
>>378
ほむむ…。
【東へ〜海の向こうは天の国なるや〜】
とでも
384 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/09/12(火) 20:56:46.49 ID:062XtsZZ0
「郭嘉、程立参上いたしました」

どっかりとふんぞりかえる紀霊に、軍師二人が恭しく頭を下げる。
そして郭嘉は不快気に鼻を鳴らし、程立はくふふ、と笑みを漏らす。
二人の視線は好意的とはけして言えず、その人物を貫く。即ち、かつて関羽と呼ばれていた存在を、だ。
何故この場に彼女がいるのか、などという問いを郭嘉は発しない。この北伐の始末。それに必要な材料であるからだろうと見当をつける。そして、その、姓も名も、字も真名も奪われた哀れな存在の悄然とした有様に僅かに憐憫を覚える。

閑話休題。
紀霊とは何者か。そう問われれば郭嘉は迷いなく答えるであろう。「人たらし」であると。

敵も味方も、彼に接すれば老若男女を問わずに彼を好ましく思ってしまうのだ。そう、政敵――かつての何進や今の曹操――であっても、だ。更には彼の魅力に籠絡される人物の多いことよ――無論自分を含めてだが――と郭嘉は内心苦笑する。

そうだ。紀霊の、なんとも言えない魅力をもってすれば彼女を籠絡することも――時間を要しただろうが――可能だったはずだ。
そして、そんな紀霊。彼が全力で心を折りに行けばどうなる。それはつまり、ご覧の有様というやつである。

「ぽきり、といっちゃったみたいですね〜」

くふふ、と笑う親友。
どこか空恐ろしいものを感じながらも郭嘉は辛うじて鉄面皮を保つ。
郭嘉が口を開く前に問題の人物が。

「二人ともよく来てくれた。これから、この北伐の始末をつけようと思う。ああ、この字伏は気にしない方向で」

見れば涼しい顔をして趙雲は紀霊の傍――字伏と紀霊の中間――に立っている。おかしな気を起こしても趙雲ならば指一本触れさせないであろう。まずはそこに安心し、郭嘉は気を引き締める。戦争というものは始めるよりも終わらせる方がずっと難しい。その終着点をどうするか。それがこの場で決められるのだからして。
385 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/09/12(火) 20:57:12.79 ID:062XtsZZ0
◆◆◆

「これ以上蜀なぞと名乗る賊軍に付き合う必要はありません。そう主張していましたからね。ここで軍を引くことにも否やはありません。
 しかし、首魁たる天の御使いを僭称する男、おぞましくも帝を名乗る女。
それらを放置してどう始末をつけるつもりですか」

その視線は、絶対零度の刃となって俺を切り裂くがごとく苛烈である。
まあ、退くならばもっと早くしとけってことよね。
だってしょうがないじゃない、相手が恋なんだもの。
戦略とか戦術とか、普通にひっくり返すのよあの子。
だって呂布だもの。
とは言え。

「んー?言ってる意味がよくわからんね。
大勝利!完全勝利!武勲が増えるよやったね稟ちゃんさん!」

「二郎殿。貴方は何を言っているのですか。理解に苦しみます。寝ぼけているならばゆっくりとお休みになってください。
 ええ、戦後処理は風と私で片づけておきますから」

やだ……。ぴくりとも表情筋に仕事させずに威圧してくるじゃん……。コワイ!

「寝ぼけてもないし、処理を任せきるつもりもない。
 重ねて言う。北伐軍は大勝利。北郷一刀と劉備は見事討ち取り、股肱の臣たる、かつて関羽と呼ばれていた字伏も膝をついた。
 いやあ、大勝利ですねえ」

ニヤニヤ、と笑いながら言うとさしもの稟ちゃんさんも押し黙る。

「――正気ですか」

「正気だとも。本気だとも。なに、そこの字伏が証明してくれるよ。かつて仕えていた主は死んだ、もういない、ってね」

「――流石にそれだけでは説得力がないでしょう」

「そうかな?何せ義の人ということになってるしー。それに……。
 これから星が単騎で彼奴らを討ち取ることになってるしな!」

まあ、十日も星がそこらへんで時間を潰してから帰ってきて、「討ち取ったりー」とか言えばそれで済むのだ。済むのである。どうせ今回は軍監とか意図的に排除してるし。
何か言いたげな稟ちゃんさんに風がくふふ、と笑いながら語りかける。

「此度の北伐。それは勝利を約束されていたのです。いえ、勝利せねばならなかったと言うべきでしょか〜。
 そして大筋においてそれは達せられていますし〜。
 ええ、何も問題はないですね〜」

そういうことさ。例え俺が生きようと死のうと漢朝の威光のために北伐は勝利という名のもとに幕を閉じる。閉じねばならないのだ。

「詭弁を……!そこな字伏の主が恥も外聞もなく救出に来たら?或いはまた軍を率いて来たらば何としますか!」

怒号と言っていいほどに語気を荒げたその稟ちゃんさんの言葉に俺は苦笑する。

「その時はそこの字伏が率先して首を刎ねに行くよ」

ぴくり、と一瞬肩を震わせたのを見て、もうちょっと心を折らんといかんかなーとか思ったり。あんなに丁寧に言い聞かせて、覚悟させてたはずなのになー。
天の御使いとか劉備がもっぺん中華にちょっかいをかけてきて、捕えられたらどうなるか。
残酷な刑というのは、多分全世界でこの中華が徹頭徹尾最前線だ。いやあ、文明というやつですよ。興味のある人はググってくださいませ。
だったらお前の手で苦痛なく逝かせてやれってことです、はい。だからまあ、天の御使いとかが幾度叛乱を起こしても、「またか」で済むし。むしろ、魔王的な俺に囚われた救出対象に討ち取られてねえどんな気持ち?どんな気持ち?って感じである。
裏切ったらそれはそれで……。七乃がハッスルするだけである。いやあ、死んだ方がマシな状況は65,535パターンくらいあるそうですよ……。七乃が言うと冗談に聞こえないから怖いね!いや、冗談……だよ……な……?

「つまり、俺たちは漢朝の威光のためにも完全勝利以外の結果は許されないってこったよ。
 まあ、俺の現況が瑕瑾ではあるけどな。だがそれは大した問題じゃない。
 勝利を以て漢朝の威光を、破邪顕正を示すことができればそれでいいのさ」

「――幸いにしてほぼすべての戦場で北伐軍は勝利してますしね〜。
 めでたし、めでたしというわけですよ」

くふふと笑う風の頭をわしゃわしゃと撫で上げてやる。流石メイン軍師。俺の言いたいことを代弁してくれる。
つまり、勝敗というものは曖昧なモノ。そしてそれを定義することができるのだ、俺は。俺たちは。だから勝った。それでいい。それで世は治まる。乱れたらそんときゃそんときのことさ。

「だから、ちょっと星にはおつかいを頼まんといかんけどな」

俺の言葉に星は不敵に笑い、深く頷く。

「そうだな。そうさな、十日か、それくらいあれば十分だろうよ」

おや?思った以上に乗り気である。
面倒くさいとばかりに難航する案件だと思っていたのだが。

目を白黒させる俺に星は艶然と、不敵に微笑む。
その笑み。不敵で無敵な天下無双。
386 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/09/12(火) 20:57:39.68 ID:062XtsZZ0
「きっちりと天の御使いと劉備を討ち取ってこようと言うのだ。
なに、ちょっとしたおつかいだろう?
ちゃあんと、無辜の民には毛ほども傷を負わせないとも」

「ええと、そうだな。俺が言ったのは便宜上の方便というか、な。分かってるのだろう?」

慌てる俺の様子を可笑しげに笑い、ちゅ、と口づけをし。

――星のその顔は凛々しく、雄々しく。その笑みは華麗で。

「分かるともさ。これはそれがしのけじめ。その機会だということだ。
 あの日あの時あの場所で、それがしが主の悋気を逸らした。
その結果がこれだ。このありさまだ。
 それがしの軽挙がこの状況を招いたと言ってもいい。
だから……けじめをつける。
 つけねばならないのだ」

そう言って星はニヤリ、と笑う。
その笑みが痛々しい。きっとずっと。ずっと気に病んでいたのだろう。
あの時、北郷一刀を庇ったことを。

「なに、すぐに帰ってくる。それがしの帰るところは……」

きゅ、と俺を抱きしめてすりすりと頬を。
そして何やら字伏に耳打ちし、得物を奪う。

そして見栄を切る。

「はーはっは!せめて、よおく見知った青竜偃月刀。命を絶たれるならばそれが情けというものだろうよ!
 ――国士無双、趙子龍。参る!」

◆◆◆

――そうして、ちょうど十日後。
帰還した星の手には蛇矛。かの張飛の得物である。
それを見て、関羽と呼ばれていた女は泣き崩れた。

つまりは、そういうことである。
そうして、北伐は幕を閉じた。閉じたのである。
387 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/09/12(火) 21:01:12.74 ID:062XtsZZ0
本日ここまです
感想とかくだしあー


蛇足あれこれやってたけどいらんなとなりました
セイちゃんと御一行の問答とかやったけどいらんなとなりました
哀しいね

いじょ

あと数話で完結かな
お盆で終わりたかったけどもしゃあないね

次回更新は週末以後ですお仕事で触れないのですので
388 :青ペン [sage saga]:2023/09/12(火) 22:31:47.80 ID:7hPRfIcCo
>>387
乙ーい。
これも宿命(サダメ)とはいえ…ね。

【燕人の仁王立ち〜生命の価値は…〜】

かな…。
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/09/12(火) 22:40:59.45 ID:TI9b9EsxO
乙したー
10年の旅もようやく、ですな

無論なろう版もございますが最後まで見届けさせていただきやす
390 :赤ペン [sage]:2023/09/13(水) 11:51:20.31 ID:VGjKX+s10
乙でしたー
>>384
>>更には彼の魅力に籠絡される人物の多いことよ――無論自分を含めてだが――と郭嘉は内心苦笑する。    女たらしじゃなくて人たらしだよなあw
○更に言えば彼の魅力に籠絡される人物の多いことよ――無論自分を含めてだが――と郭嘉は内心苦笑する。 人の欲というものをよく分かってる感じがする>>二郎ちゃん
>>385
>>ニヤニヤ、と笑いながら言うとさしもの稟ちゃんさんも押し黙る。 これだと【はっはっは、と笑いながら】みたいに実際に口に出してそう
○ニヤニヤと笑いながら言うとさしもの稟ちゃんさんも押し黙る。  ヤッたね稟ちゃん!家族が増えるよ…違うか?いや違わないか?
>>386
>>そう言って星はニヤリ、と笑う。 あの時二郎は[ピーーー]力があって[ピーーー]理由も十分にあったからなあ…まあ殺さないと最終的に決めたのは二郎なわけだが、間違いなくストッパーになったのは星だわな
○そう言って星はニヤリと笑う。  多分《笑みを深める》くらいにえくぼ出来てそう…理由?歯ぁ食いしばってるからよ

>>残酷な刑というのは、多分全世界でこの中華が徹頭徹尾最前線だ。いやあ、文明というやつですよ。 文明というか文化というか…刑罰に限らなければあれとかこれとかも厄いけど
単純計算すると行き帰りで帰りの方がまっすぐだから…行きに六日、戦いと休憩に1日、帰りに三日?飲まず食わずで寝ずの番とは言わんまでも六日か、張飛の体調は最悪だな。ワンチャン死んでないかもしれん(他二人に比べてヘイト低いし弱ってるなら無力化もしやすいし
どこぞの吸血鬼も言っている…いつまでもくだらないものにこだわっていないで日銭を稼いで静かに暮らせば良いだろう。と
というか名馬に乗った趙雲が10日駆けるって結構遠いな…よくもまあそんだけ歩いたもんだ、一刀(馬に乗ってたのかもしれんが
391 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/09/18(月) 20:41:07.49 ID:SI6/QD6e0
>>388
どもです!

>【燕人の仁王立ち〜生命の価値は…〜】
これは次回に使いたいかもですね
仁王立ち、浪漫ですよね

>>389
感想ありがとうございます!

>10年の旅もようやく、ですな
そんなになりますか
と思ったらなろうでも2015年からなんですね
旧を入れたら人生かけた長編なんだなって
旧からおつきあいいただいた方にはありがとうございます
それはそれとして、二次創作にてリメイクはエタるというのは
私には当てはまらないと確信してましたが、思ったより時間かかりました
気力体力時の運
頑張りまーす

>>390
赤ペン先生ありがとうございます!

>単純計算すると行き帰りで帰りの方がまっすぐだから…行きに六日、戦いと休憩に1日、帰りに三日?飲まず食わずで寝ずの番とは言わんまでも六日か、張飛の体調は最悪だな。ワンチャン死んでないかもしれん(他二人に比べてヘイト低いし弱ってるなら無力化もしやすい
ほむ
そうなるのかー、正直後世に語られる日数的に適当でしたがそうならそういう感じにしようそうしよう

>どこぞの吸血鬼も言っている…いつまでもくだらないものにこだわっていないで日銭を稼いで静かに暮らせば良いだろう。と
塩を報酬に毎日働くよりも蕪農家の方が儲かるのよ(全然違う話)
無惨な蜀幹部の最期を描く必要性を認めてませんでしたが
今回はある程度描写することにします
旧だと星ちゃんが逃がしたんじゃねーか疑惑が出ましたからね
※想定通りだが暴れる人が多かった
※一定のカタルシスは必要なんだなって
※旧だと本当に終わらせることを最優先してました

ちまちまやって10月で終わってなろうは冬休みから開始かな?
※希望的観測です
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/09/19(火) 10:00:54.88 ID:/Mndhkkr0
張飛が頭いいキャラか外見がしっかりと大人ならヘイトも向くけど
基本ガキだからなあ…俺個人としてはたいしてヘイト無いわ
小賢しいメスガキなら”分らせ”る必要あるよなあ(ニチャァ)するけど小賢しいメスガキにおちょくられてぐぬぬしてたし

一定のカタルシス、なら関羽の内心描写か、敵主魁の二人が二郎の知らんところで落ちぶれてる方がスッキリしそう
もう終わったことだけど、諸葛亮の主観では希望を託して息を引き取ったのが多少もやっとするかな?
393 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/09/19(火) 23:25:18.19 ID:Q8SFlcn20
駆ける、駆ける、駆ける。
趙雲は赤い街道――赤煉瓦で舗装された街道の俗称である――を駆ける。
換え馬を併走させるのは如南大返し以来だろうか。
まあ、主君たる紀霊の愛馬たる烈風を借り受けているので、それなりに緊張感はある。
流石に長距離追撃に、趙雲の愛馬である白龍だけでは無理と踏んだ紀霊からの申し出であった。
蜀の軍勢、或いは群衆に突入してからも誰何(すいか)の声はない。
それも当然のこと。頭巾を深く、手には青龍偃月刀。
身元は保証されたようなものである。
だからこうしてゆっくりと羹(あつもの)を口にできるし、愛馬たちにもたっぷりと秣(まぐさ)と休息を与えることができている。
孫子曰くというやつだなと思いながら浅い眠りに身を委ねる。
なに、まだ慌てるような段階ではない。なにせ劉備とその伴侶たる御使いは民と共に歩を進めているらしいから。
そこは尻に帆で然るべきだろうと個人的に思うが、それができないのだろうなと推測する。
まあ、知ったことではない。
なにせ自分から志願した任務だ。果たさなければならない。
ぐびり、と手元の水を煽り。
そういえば酒精をここ最近口にしていないなと笑みを深めるのだった。
394 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/09/19(火) 23:25:45.26 ID:Q8SFlcn20
◆◆◆

駆ける、駆ける、駆けた。
どうやら追いついた。
群衆の歩みは遅々として、機動力が売りの騎馬も駄馬となる。
むしろ荷馬として。
群衆を率いる物資をきちんと運搬しているのは好感ひとつ、である。
だがそれもここまで、だ。
いよいよその時が来た。

「やっと追いついたか」

そう、ここからは首狩りこそが本命。

「ま、腹が減っては戦はできぬ、らしいからな」

すっかり手になじんだ青龍偃月刀を大地に刻み、目を閉じる。

◆◆◆

「ここから先は通さないのだ!」

気炎万丈たる張飛。
かつてならばその意気に感動していただろう。
その武威に納得していただろう。
だが今は違う。
思えば、彼女は格上と矛を交えることもなく、ただ強いだけであったのだな、と。
ただ、強くあっただけなのだなと。

ギュ、と得物を握り、せめて言の葉を。

「久しいな鈴々。このような形で久闊を除したくはなかったがね」

「うるさいのだ!ここは通さないのだ!
 愛紗の仇は、願いは果たすのだ!」

劉備と本郷一刀を逃がした上で吠える張飛。
なるほど、本能的には理解しているのだろう。
覆すことのできない実力差というやつを。

「民を盾に騎乗であればこうまで容易く、こうはならなかったのにな」

その言に張飛は激昂する。

「そんなこと!するわけないのだ!
 そんなことを言うのは!」

蛇矛を振りかぶり。

「あ」

張飛が何かを口にしようとするが。

「御免」

とすり、と胸には青龍偃月刀が。
無拍子。

「それは、本当によくない」

せめてもの情けとばかりに趙雲は、首を切り飛ばす。

「生の感情で戦ってはいけない。なるほど、なるほどな。
 だが、それでも私は、某(それがし)はそこを大事にしていきたいと思うが。
 これも傲慢というやつになるのかな」

応える者もなく、趙雲はため息を一つ漏らす。

「さて、これもお役目、と言えればよかったのだが。
 感傷というやつはどうにもならんのだろうな」

そして前を向く。
395 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/09/19(火) 23:27:55.14 ID:Q8SFlcn20
◆◆◆

駆ける、駆ける、駆ける。
そして、果たす。
そこに達成感なぞなく。

「いっそ本当に。
どこか遠いところに逃げていてくれれば、とも思ったこともあるがな」

戯言である。

「今はただ、主に会いたい。
 それだけだな。
 ああ、そうだな、今、某(それがし)の心を占めているのは……」


悲しみ。怒り。諦め。
歩を進める。

蛇矛で、せめて。
或いは青龍偃月刀だろうか。

逃げる彼女らを討ち果たす。

高揚感なぞなく、果たしたという安堵だけがあった。
そう、安堵があった。

それを知って趙雲は、人知れず泣いたのだ。

そして、帰還した。
そう、帰った。
帰る場所は、ひとつなのだ。
その一言で、すべては癒される。

「星、おかえり」

その一言で。
396 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/09/19(火) 23:29:22.85 ID:Q8SFlcn20
本日ここまでし
感想とかオナシャス

また週末まで連行されます
仕事辞めたい
※蕪農家でびゅーしたい
397 :青ペン [sage saga]:2023/09/20(水) 02:51:24.11 ID:vzL0oO7Jo
>>396
なるほどね、確かにこちらに仁王立ちを使いたくなるのも納得ではある…。
だが、こちらに新たなる案だ。

流星の帰還〜心へ重荷を抱えて〜

とでも。
398 :赤ペン [sage]:2023/09/20(水) 11:17:11.73 ID:TiBAHtMP0
乙でしたー
>>393
>>まあ、主君たる紀霊の愛馬たる烈風を借り受けているので、それなりに緊張感はある。      【〜たる】は《男たるもの背中で語る》のような後の文がかかってこそ前の形になる言い回しなので(私はたるは足りるの訛りではないかと思ってます…言い換えると背中で語れないようでは男足りえない。みたいな)
○まあ、主君である紀霊の愛馬――烈風――を借り受けているので、それなりに緊張感はある。 部下が上司(主君)に対して【上司たるもの〜】とか言うのは違和感が
>>395
>>どこか遠いところに逃げていてくれれば、とも思ったこともあるがな」 【も】が多いかな
○どこか遠いところに逃げていてくれれば、と思ったこともあるがな」  もしくは【とも思ったのだがな」】とかどうでしょう
>>高翌揚感なぞなく、果たしたという安堵だけがあった。 間違いではないですが
>>そう、安堵があった。
○高翌揚感なぞなく、果たしたという安堵があった。    【だけがあった】の強調は後にした方がいいと思います
○そう、安堵だけがあった。

>>「民を盾に騎乗であればこうまで容易く、こうはならなかったのにな」 ちょっと馬に乗れるか不安な男がいたんですよ…色々と経験不足だったけどどうなんだろうな。少なくともそこいらの将軍とは比べられないほど下手だろうけど
まあ民(と張飛)を盾にして希望の未来へレディゴーしたけど
>>そして前を向く。 …踵を返すじゃなくて?と思ったけどなるほど、特に交わす思いも無く《果たした》のか
それにして【彼女ら】か…ご主人様呼びされたりしてたけどもはや外から見ればふぞk…おま…劉備の情夫でしかなかったのかもしれんな
399 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/10/09(月) 13:57:34.77 ID:/Yu4lkaS0
>>397
どもです!

>なるほどね、確かにこちらに仁王立ちを使いたくなるのも納得ではある…。
そゆこと。。。

>流星の帰還〜心へ重荷を抱えて〜
流星はどこかで使いたいですね
流れ星、やはり星はそうなのよ

>>398
赤ペン先生ありがとうございます!
本当にいつもありがとうございます。

>ちょっと馬に乗れるか不安な男がいたんですよ…色々と経験不足だったけどどうなんだろうな。少なくともそこいらの将軍とは比べられないほど下手だろうけど
まあ民(と張飛)を盾にして希望の未来へレディゴーしたけど
草生えるw
蒼天航路劉備なら愛人すら置き去りにして脱兎しそうな凄味がございますわね

>それにして【彼女ら】か…ご主人様呼びされたりしてたけどもはや外から見ればふぞk…おま…劉備の情夫でしかなかったのかもしれんな
ここらへん、深掘りはしません
所詮勝ってる時はまとまり、負けたら胡散霧消が世の習いでしょうから
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/10/14(土) 15:58:44.07 ID:pNt3se+n0
確かに胡散臭いけれどもwww
雲散霧消でっせ
401 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/10/16(月) 19:58:06.52 ID:Ev8kVMSl0
孫家。それは生粋の戦闘集団。それを率いるのは蓮華である。そしてそれを補佐するのが戦争の天災……じゃなく天才の穏だ。トップが理性的で合理的に動くと孫家という戦闘集団がどれだけ恐ろしい存在になるか。その証左がこれだ。
そう、たった五千かいくらの兵で蜀の本拠である襄平を落とすという離れ業を、ただの一兵の犠牲もなく果たしてしまったのだ。なにそれこわい。

「まあ、戦功第一は孫家だわなあ……」

くすり、と俺の言葉に艶のある笑みで応えるのはぶっちゃけその孫家の首魁である蓮華である。

「あら、そうかしら?対面した敵将を悉(ことごと)く討ち取った趙雲殿こそが戦功第一なのではなくって?」

「分かってて言ってるだろ。賊軍の本拠地を無血開城させ、とんでもない手土産まで準備されたら、なあ」

ぶつぶつと言いながら手の内にある玉璽を凝視する。いやそりゃあ、あちらさんも勝って帰るつもりだったんだろうし戦陣には持っていかないわなあ……。しかし玉璽は孫家が手にするというのは久々に三国志というものを思い起こさせる。

「穏辺りは反対したんじゃないのか?
これは孫家で秘蔵すべきとか言ってさ」

俺の問いに苦笑する。

「いらないわよそんな石ころ。使いどころもないしね。言っておくけどもね。
穏も同意見だったわよ?
 まあ、その石ころに価値を見出す存在がいるというのは理解しているけどもね。
 だから二郎はさっさと新しく玉璽を造ったのでしょう?」

「そうだな」

一々的確な言である。玉璽そのものよりも、だ。これは実際の権力者が持つことによってその権威の正統が担保される物。単なる賊軍が振りかざしても意味のないものなのだ。こっちにしてもあれば便利だなーくらいの認識でしかない。

「ねえ、二郎。そんな石ころよりも欲しいものがあるのよ」

きた。来ましたわ。来ましたわよ。
どんな無茶ぶりをされるのだろうか。ここぞとばかりに巻き上げるつもりでしょう!帝国金融みたいに!ミナミの帝王みたいに!

「やあね。何をそんなに身構えているのよ。言っておくけど、別に無理を言うつもりはないのよ?」

身構える俺に蓮華は苦笑……というにはもっと華やかな笑みを向ける。

「ま、二郎の懸念も分かるわよ?きっと三公の一角とか求められたらどうしようかなーとか思ってるのでしょ?」

ズバリそうです。蓮華からそれを打診されたら、実際たいていのことは受け入れざるをえない。それだけの武勲である。つか、安定した政権運営のために孫家という戦闘集団との友好関係は必須なのである。

「ばかね。そんなこと言って二郎を困らせるわけないじゃない?私も、穏も……。勿論シャオも、ね?」

可笑しげにくすくすと笑う蓮華はその笑み悪戯ぽく変質させて俺の耳元で囁く。

「黄忠。それだけよ」

「……そりゃまた」

むむむ、と唸る。随分と軽い、或いは重い根回し。正直俺の頭では判断つかんが。

「そこまでして黄忠を求める理由が分からんな」

「あら、そうかしら?孫家の領地は荊州。そして黄忠は長らく荊州を治めていた劉表の筆頭と言ってもいい人材よ?欲しいに決まってるじゃない。
 荊州を治めるのはそりゃあ孫家だけでも問題ないけどね、やっぱりその土地に通じた人材は喉から手が出るくらいに欲しいのよ。
 ――そういうことにしとけば黄忠の助命もやりやすいでしょう?」

無論、黄忠が欲しいというのはほんとよ?とくすりと笑う蓮華。

「んー。まあ、黄忠に関しては巻き込まれた感じだからなあ……」

ご息女の教育のために北方に居を移したらごらんのありさまだよ!という感じで同情すべきところは大いにある人物でもある。助命嘆願の筆頭は張紘だったしなぁ……。あいつが俺になんか頼んでくるとか、滅多にないというか初めてくらいの勢いだし……。

そんなこんなで黄忠については蓮華にその身柄を預けてしまうことにした。そして黄忠は孫家の下で大いに荊州の安定に力を振るうことになるのである。
ちなみに。

「ああ、そこらへんの計算は赤楽さん――徐庶が本名と最近知って白目を剥いた――でしょねー」

とは俺のメイン軍師の言である。

そして、洛陽に凱旋――誰が何を言おうと凱旋である――しようとした俺たち北伐軍の足を止めたのは誰あろう麗羽様であった。
402 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/10/16(月) 20:21:30.30 ID:Ev8kVMSl0
真名。それはこの世界においてその人の存在を示すモノ。
真名。それはこの世界において許しなく口にすると問答無用で殺されても文句を言えないモノ。
真名。それを奪われるということは人としての尊厳、それを奪われると同じ。いやそれ以上に重いことである。

「全く……前代未聞ですよ」
「空前絶後でしょねー。真名を奪い、名を奪い、字をすら奪う。いっそ死を賜った方がましなんでしょうが……。楽には死なせないとしても、です。流石の風もドン引きなのですよ〜」

苛烈、と言っていいだろうと郭嘉は思う。法を司る曹操に諮ることもなく独断で下したその決定は、紀霊の此度の蜀と名乗る不逞の賊軍に対する憤りを内包しているに違いない。

「にしても、姓名どころか真名まで奪うとは……。そのような暴挙……!」

焚書、肉刑すら可愛く思えるほどのことである。

「州牧代理を自己都合で殺し、その罪を糾弾されると開きなおる。
 あげく、自らが皇帝を僭称する。いや、これは首謀者ではなくともその量刑、死ですら生ぬるいでしょう。
 二郎さんの裁定、割と妥当じゃないかなと風は思うのですよ〜」

くふふ、と笑う程立に郭嘉は柳眉を逆立てる。

「にしても、あまりと言えばあまり。これから、かつて関羽と呼ばれていたモノは生涯その尊厳、誇り。それらを全否定されることになります。いっそ死を賜る方が温情というものでしょう」

郭嘉はこれで名門の生まれである。その、実家のコネ(人脈、しがらみ)が煩わしくて名を偽り放浪するくらいのお転婆――紀霊談――ではあったのだが。いや、だからこそ紀霊の裁定には思うところは少なくない。
そのような無体、董卓にだってしたことはなかったのだ。
403 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/10/16(月) 20:21:55.82 ID:Ev8kVMSl0
「――あ」

――すとん、と胸に落ちた。

「そですね。稟ちゃん、二郎さんはとっても優しくて、甘いお方なのですよ」

程立の声に郭嘉は頷く。項垂れる。
一体、自分はあの青年のお気楽な笑顔の裏にある葛藤をどれだけ斟酌できていたのかと。

「ほんと、賈駆さんは愛されてたと思うのですよね〜」

賈駆。そして董卓一派。

「……なるほど。畏れ多くも禁裏を血に濡らしての宦官誅殺が市井にまで知れ渡っていること。魔王なぞという悪名が広がる。いかにも不自然です」

――ひどいものに至っては劉協や皇甫嵩を誅殺したのだという言説まで流布している。その紀霊の悪名に隠れて意外なほどに董卓一派については気にする者は少ないのだ。

「悪名を以て悪名を制す。そして彼女らはその死を以て将兵を救い、満足して死んでいったというわけですか。
 ――全く、度し難い」

思えば、風説の制御こそが彼の最も得意とする手法。そしてその傍には張勲という情報処理のエキスパートがいるのだ。手足となる張家がいるのだ。いたのだ。
つまりそういうことだろう。

「本当に。度し難い」

もや、と何か不愉快なものが棟にこみ上げてくる。

「くふふ。清廉な英雄については星ちゃんが受け継いでくれましたからね。
 まあ、それについて星ちゃんも色々と思う所があったみたいですが〜」

「風、貴女は!」

郭嘉が語気を荒げるもどこ吹く風。

「さて、そろそろ参りましょか〜?」

そう。軍師二人と天下無双。奇しくも荒野を彷徨っていた三人とその拾い主。その四人で今後の方策が話し合われるのだ。それは北伐の始末だけでなく、中華全土の行方すら左右するであろう。

「天下の差配思うが儘。宿願が叶ってよかったですね?」

茶化す程立をうるさいとばかりに一つこづく。

「おお、ひどいひどい。卑しくも軍師ならば口舌にて掣肘を加えるべきと思うのですが〜」

「言ってなさい。まあ、私たちのやるべきことは決まっていますが」

此度の戦で晒した不様。それをあの青年の責とさせるわけにはいかない。それは二人に共通した認識である。

「……あの方はまだ漢朝に必要なのですから」

常のように淡々と呟く郭嘉。程立はくふふ、と笑みを漏らすのみであった。

「郭嘉、程立参上いたしました」

淡々とした声で述べる
どっかりとふんぞりかえる紀霊に軍師二人が恭しく頭を下げる。
そして郭嘉は不快気に鼻を鳴らし、程立はくふふ、とほくそ笑む。
二人の視線は好意的とはけして言えず、その人物を貫く。即ち、かつて関羽と呼ばれていた存在を、だ。
何故この場に彼女がいるのか、などという問いを郭嘉は発しない。この北伐の始末。それに必要な材料であるからだろうと見当をつける。そして、その、姓も名も、字も真名も奪われた哀れな存在の悄然とした有様に僅かに憐憫を覚える。

紀霊とは何者か。そう問われれば郭嘉は迷いなく答えるであろう。「人たらし」であると。

敵も味方も、彼に接すれば老若男女を問わずに彼を好ましく思ってしまうのだ。そう、政敵――かつての何進や今の曹操――であっても、だ。更には彼の魅力に籠絡される人物の多いことよ――無論自分を含めてだが――と郭嘉は内心苦笑する。

そうだ。紀霊の、なんとも言えない魅力をもってすれば彼女を籠絡することも――時間を要しただろうが――可能だったはずだ。
そして、そんな紀霊。彼が全力で心を折りに行けばどうなる。それはつまり、ご覧の有様というやつである。

「ぽきり、といっちゃったみたいですね〜」

くふふ、と笑う親友にどこか空恐ろしいものを感じながらも郭嘉は辛うじて鉄面皮を保つ。

「二人ともよく来てくれた。これから、この北伐の始末をつけようと思う。ああ、この字伏せは気にしない方向で」

見れば涼しい顔をして趙雲は紀霊の傍――字伏と紀霊の中間――に立っている。おかしな気を起こしても趙雲ならば指一本触れさせないであろう。まずはそこに安心し、郭嘉は気を引き締める。戦争というものは始めるよりも終わらせる方がずっと難しい。その終着点をどうするか。それがこの場で決められるのだからして。
404 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/10/16(月) 20:38:02.96 ID:Ev8kVMSl0
本日ここまですー
感想とかくだしあー

次回最終回
凡将伝の終りよ
405 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/10/16(月) 21:03:15.56 ID:Ev8kVMSl0
次回俺はやりきったぞ案件すお
ふざけんな俺はやったぜ

改訂とか、リライトは普通途中で下車する定説じゃん
俺はやったぜ
やりきったぜ

という感じで次回待て待って褒めてめっちゃ褒めて
406 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/10/16(月) 21:12:07.52 ID:Ev8kVMSl0
さて、洛陽への凱旋は盛大に果たされた。そりゃもう盛大であった。俺に関しては華佗のおかげで輿に乗ってという無様を晒さずに済んだことも大きい。なんとか騎乗して面目をほどこすことが出来た。五体満足というやつである。
まあ、今回の北伐では主役は星だしな!事前の風説の流布もばっちしである。そう、常山の昇り竜はついに国士無双となったのだ……。いや、立派になって……と本人に言ってやったら何とも言えない顔をした後、盛大につねられた。解せぬ。

まあ、そんなこんなでひと段落したと思った?残念。これからが本番!戦後についての綱引きが今始まるのだ……。いや、引き合うのは麗羽様と俺なのだけんども。

「改めてお疲れ様でした。二郎さん。
 見事北伐を果たされ、蜀と自称し、匈奴と野合する不埒な者どもを完膚なきまでに討ち果たす。
 まさに偉業。衛青や霍去病に並ぶ武勲と言っていいでしょう」

あ、はい。そういうことになってますね。その実は割とアレな感じなのですが。

「その武勲比類なし、と言う点ではあの華琳さんも同意しています。ええ。
 さて、一体全体どういう褒賞を与えれば征夷大将軍は満足してくれるのでしょうかね」

くすくす、と心底可笑しげに笑う麗羽様。実に可憐である。可愛い。
贔屓目なしにスペシャル美人さんだなあとぼんやり思う。

「ええと、それは置いといてですね。人事案についてご相談をば」

人事案件については司徒である俺の管轄なのだ。征夷大将軍という地位よりもある意味重い地位。
人事。つまり漢朝を左右する地位。
……ルーチンワークをしていないというのは、触れてはいけない。

「司徒に劉璋さんですか。権官ではなく正式な任官とするのですね。まあ、実質司徒府を仕切っていたのは劉璋さんですしね……。
 ええ。問題ないでしょう。三公の要となる地位。その血筋、人品。そして能力において彼女以上に相応しい方はいらっしゃないでしょうね」

うむ。司徒府を実質切り盛りしていたのは劉璋ちゃんだからな!
正式な任官。何の問題もない。何の問題もない!重要なことだから二回言ってみました!

「太尉には、夏候惇さんですか」

「ええ。白蓮はまあ、地固めということですね。此度の北伐、その責任の一端我にありとばかりに太尉の地位を辞する意向を内々に打診してきました。
まあ、白蓮ならば北方の最前線で匈奴の脅威については防ぐでしょうし。
そして次の太尉。名門夏候家。血筋の良さは折り紙つき。人品卑しからず、あれほどに竹を割ったような、そのですね。ええと。そう!汚職とかそこいらへんに縁のない人物もこのご時世においては珍しい!」

嗚呼、汚職まみれのどろどろであった宦官。その、間接的な縁者であるということを指摘されたらどうしよう!と割とヒヤヒヤしていたのだが。

「ええ、二郎さんが推挙するのですもの。そのように致しましょう」

素通り……、だと……。
こ、この信頼が重い……。

「えと。司空には引き続き華琳で。んでもって執金吾は星を充てようかと。
 それで、以上です」

「華琳さんならば妥当ですわね。それに執金吾、治安を司るのですもの。天下無双の趙子龍に、補佐として泣く子も黙る張遼が就くのでしょう?
 流石は二郎さんですわ。文句のない人事です」
407 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/10/16(月) 21:12:35.45 ID:Ev8kVMSl0
おーっほっほとご満悦な麗羽様に俺が委縮してしまう。し、信頼がものっそい重い!
まあ、稟ちゃんさんや風と話し合って、現実的な布陣にしたし問題ないな!
ほむ、と安堵の息を吐き出した俺に麗羽様は。

「ですが、一点だけ。
 ――二郎さん。貴方の名前がありませんわ」

その問いに、躊躇わずに応える。
 
「――ええ。俺は、隠居しますから」

そう、そうなのだ。俺は隠居するのだ。しちゃうのだ。

「……何故、と聞いてもよろしいですか?」

「征夷大将軍として武功をあげました。あげてしまいました。
――大将軍たる麗羽様と俺の間に隙間風を吹かそうという輩が湧いてでるでしょう。袁家の外も、内も。
 いや、それに踊らされるつもりはないですが、楔の打ち所はない方がいいです」

俺を貶める。或いは持ち上げる。どちらにしても、麗羽様への攻撃材料となりうる。俺はこれ以上表舞台にいるべきではないのだ。

「あらあら。それだけではないでしょうに」

溜息を一つ。そして、おかしげに。
くすくすと笑みを漏らす麗羽様。どうも、お見通しのようで。

「あー。あれですよ。働きたくないでござる。絶対に働きたくないでござる!」

割と本気で。

「やっぱり!どうせ本音はそんなことだと思ってましたわ。
 ずっとおっしゃってましたものね。事あるごとに、隠居したいって。
 ほんと、今にして分かりました。あれは韜晦や冗談とかの類ではなく、本音でしたのね」

くすくす、と可笑しげに麗羽様は。

「漢朝の、袁家の威信。二郎さん。貴方は本当に凄いことを果たしたのですわ。その自覚ないようですけれども。
 黄巾の乱、董卓の変。そして此度の北伐。
 気づいてらして?いずれも二郎さんがいたから、些事と言っていいくらいに収められたのですわ」

「いやいやいやいやいや。
 俺なんぞは不様を晒すばっかりで」

「あらあら。謙遜というのは時に美徳にならないというのは二郎さんから教えられたと記憶しているのですわよ?
 ――冷静に、二郎さんが果たした役割というもの。
 淡々と、具体的に書面で、実に分かり易くいただきましたわ。
 誰から、ですか?
 沮授さんと張紘さんですわ。まあ、その書面の内容を理解して、ぞっとしましたわ。
 ああ、もしも。
もしもですわよ?
 二郎さんがいなかったらどんなことになってたろうか、って」

俺がいなかったら……。
史実通りに袁家は滅亡したろう。更にその知識を得ていた蜀がどう動いたかとか考えたくもない。

「ですから。二郎さんに報いなければいけないのです。
 でも、でも。わたくしは、知ってますの」

きゅ、と抱きついてくる麗羽様を、ぎゅ、と抱きしめる。

「ええ、二郎さんの功績は比類ないモノ。だから、報いるには無茶を通して道理をうっちゃるのがいいのでしょうね。
 ――ええ、おかしなことですけどね。二郎さん。
 貴方の武勲、武功。それを加味して、貴方の隠居を、認めます」

泣き出しそうな麗羽様。双眸に金剛石よりも美しいものを蓄えているのを見て、抱きしめる腕に力を込める。

 くすり、と笑みを漏らした麗羽様がぐすり、と声を湿らせる。

「ほんとは!前線なんて出てほしくなくって!
 いつだって、二郎さんが儚くなってしまったらどうしようって……。
 武家の棟梁たる袁家の筆頭武官!それでなくっても二郎さんは事もなげに前線に立つのですもの。
 紀家の家風、鉄則たる指揮官先頭。その意味を知っています。知っているからこそ……。いえ、知っていても……」

そして、だ。
嗚咽混じりに麗羽様は俺に縋り付いて、ぐしゃぐしゃな顔で、笑う。

「だから、ほっとしているのですわ。
 もう、あのように、二郎さん。
 貴方のことを思って身を削られることがなくなるというのは」

ちゅ、と唇を重ね、麗羽様はその華奢な身を震わせる。
408 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/10/16(月) 21:13:03.36 ID:Ev8kVMSl0
「きっとこれはいけないことなのでしょうね。漢朝のためを思えば、二郎さんを隠居させるなんて、ありえませんわ。
 でも、わたくしは。それでいいって、ほっとしていますの。
 もう、これ以上二郎さんが傷つかないって思うと、それだけで……」

ぐす、とぐずりながら麗羽様が再び、ちゅ、と口づけてくれる。
ぼろぼろに崩れた化粧、体裁。それでも。いや、それだからこそ、麗羽様が、この上なく愛しい。
「――愛してます。麗羽様。だから、やはり隠居します」

「馬鹿!お馬鹿さんですわ!わたくしは、漢朝の大将軍ですのよ!
 私が命じればいかなる栄耀栄華も思いのままなのに!思いのままなのに!
 ……分かっています。二郎さん。分かっています。
 ええ、分かっていますとも……。富貴、名誉、栄耀栄華。あらゆる欲と俗に囲まれてなお、それに心を動かさない。それがどんなにすごいことかって、分かっています。そうじゃない人をたくさん。そりゃあたくさん目の当たりにしてきましたから。だから、二郎さんがどれだけ恰好よくって、素敵だったか。
 そんな、二郎さんがいるから、その背中を見て頑張ってこれました。 
そして、お慕い申し上げていますわ。ずっと。ずっと……。
 麗羽は、二郎さんをお慕い申し上げておりますの……」

愛して、いますと耳元で囁いて、ころころと、笑い、泣く。

俺は麗羽様を抱きしめながら、思う。きっとこの人を幸せにしなくては、と。それがどういうものか分からないけれども。

そして、更に思うのだ。俺の知ってる三国志とはかなり違う着地点。
それで、俺の大切な人たちは、だ。多分――俺のいい加減な知識にある三国志よりも幸せになったんじゃないかな、と思う。

まあ、あれだ。

俺はこれで全力を尽くしたから、な。やりきった感はあるのだ。

でもきっと、これからも色々と厄介なことはあるんだろうと思う。
だけども、紡がれた物語はそのまま次世代へと受け継がれて、きっと俺の出番なんてなく。それでも絶えず紡がれていくだろう。

――蒼天は、死なず。

言ってみればそれだけのことだったのかもしれない。
逆に、その一言にどれだけの意味が含まれているのか。

まあ、そこいらへんは後世の歴史家が評価することだろうし、ましてや本来の歴史との比較なんて誰もできない。

――ちょっとぐだぐだと語り過ぎたかもしらん。

よし。俺が語る、俺の物語に一旦区切りを付けるとしよう。

これは、特に何の才能もない。名もない凡人が、それでも必死に足掻いた物語である。
それ以上でも、それ以下でもない。

――面白くなき世を面白く
     南皮のことも夢のまた夢――

真・恋姫無双【凡将伝】〜ハッピーエンド「袁家の種馬」〜

409 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/10/16(月) 21:13:29.08 ID:Ev8kVMSl0
つまりそういうことです。
俺はやったぜ
410 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/10/16(月) 21:14:33.14 ID:Ev8kVMSl0
兆fんnssきょ
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/10/16(月) 22:40:21.47 ID:YXipk/XeO
乙したーーーーー!!!!

種馬って事はえっちな事しまくり酒飲みまくりの人生ボーナスモード突入、って事!!?
412 :青ペン [sage saga]:2023/10/17(火) 03:32:37.11 ID:He8d+vNho
>>408
完結乙ーい
最後は…そうさな。
【天下泰平為して凡人は愛しき人に寄り添う】
としようか。
413 :赤ペン [sage]:2023/10/17(火) 14:15:22.06 ID:L37sVwTw0
乙でしたー
>>401
>>しかし玉璽は孫家が手にするというのは久々に三国志というものを思い起こさせる。 覇王的存在が【玉璽は孫家が手にするは必定よ】とか言うならありそう
○しかし玉璽を孫家が手にするというのは久々に三国志というものを思い起こさせる。 今更渡されても袁家にとってはさほど重要ではなさそう…漢王朝としては傷で恥だからありがたいだろうけど
>>可笑しげにくすくすと笑う蓮華はその笑み悪戯ぽく変質させて俺の耳元で囁く。  小悪魔彼女風から小悪魔策士風に?
○可笑しげにくすくすと笑う蓮華はその笑みを悪戯ぽく変質させて俺の耳元で囁く。 むしろ今までが悪戯っぽくてここで蠱惑的というか傾国(策略)の微笑に変化してそう
>>「ああ、そこらへんの計算は赤楽さん――徐庶が本名と最近知って白目を剥いた――でしょねー」 途中の文も喋ってるのか

>>とは俺のメイン軍師の言である。
○「ああ、そこらへんの計算は赤楽さんでしょうねー」

○とは俺のメイン軍師の言である、なお赤楽の本名が徐庶と最近知って白目を剥いた。 どういう経緯というか誰から教えてもらったんだろうな…別に隠しはしないだろうけどわざわざ教えるほどでもないし
>>402-403
>>370-371,384 の内容と重複してます
>>406
>>まあ、そんなこんなでひと段落したと思った? 一区切りと混同しやすいんですよね
○まあ、そんなこんなで一段落したと思った?  一段落(いちだんらく)と書きます
>>そして能力において彼女以上に相応しい方はいらっしゃないでしょうね」  劉璋はわしが育てた。ってどや顔していいぞ二郎ちゃん
○そして能力において彼女以上に相応しい方はいらっしゃらないでしょうね」 今までその三公の要の地位についていた二郎ちゃん…
>>408
>>きっとこの人を幸せにしなくては、と。 女としての幸せと母としての幸せとママ友としての幸せを教えてあげなくては(使命感
○必ずこの人を幸せにしなくては、と。  もしくは【きっとこの人を幸せにする為に自分は転生したのだろう。】とか?【きっと】は仮定なので【きっとこの人を幸せにしないと後悔する】みたいな未来方向でも良いですが
>>――面白くなき世を面白く     高杉さんからパク・・・リスペクトした?
○――面白きこともなき世を面白く 上の言い方だとつまらない世界を楽しい世界にしてやるぜ!みたいな…

>>麗羽は、二郎さんをお慕い申し上げておりますの……」 ここで一人称名前になるの可愛い
改めて完結乙です
後は主要登場人物がその後どうなったかと何人子供産んだかを書けば終わりですね(オイ
7歳までは仏の子(死亡率が高い)からして一番上が7歳になるまでは毎年お腹膨らませないと、色々あって人口減って国力低下しただろうし産めよ増やせよ地に満ちよ
414 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/10/17(火) 21:28:51.78 ID:kSlKazJn0
>>411
どもです!

>種馬って事はえっちな事しまくり酒飲みまくりの人生ボーナスモード突入、って事!!?
そうなります。そうなるはずなんです。
本来というか当初の予定では鬱エンドになるんだろうなって思っていたのですが(旧作含め)。
旧作での肉体的欠損もなく、無事乗り切ることができたようです。
それもこれも外史の観測者の介入のおかげでしたねー
今作についてはどうやらメイン軍師の貢献が大きいみたいでした。
まさか君だけ並行世界を観測していたとは・・・w

>>412
どもです!

>完結乙ーい
とりあえずの達成感で山の神様にも報告してきましたw


>【天下泰平為して凡人は愛しき人に寄り添う】
よきよき

>>413
赤ペン先生ありがとうございます!
なんとかやりきりました。おつきあい下さいましてありがとうございました!
あっちへの投下するにあたって本当に助かりました。

>後は主要登場人物がその後どうなったかと何人子供産んだかを書けば終わりですね(オイ
エピローグってやつですね
今作ではどうしようか迷い中です
まあぼちぼちやってきますかね

旧作と違うの稟ちゃんさんと劉璋ちゃんくらいかな・・・?
ここから一番大変なの劉璋ちゃんなのは変わらないんですけどねw
はおーが覇王になってそれと対抗しないといけないっていう地獄w

隠居後の諸国漫遊に一緒にいるのは今作でも凪と風と愛沙になるかな・・・?
って感じです。
415 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/10/18(水) 20:57:23.41 ID:GtEEB/Ky0
あー、漫遊記には蒲公英もいますね
そして生き別れの家族と再会を果たすのじゃ多分
416 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/10/23(月) 22:09:40.65 ID:RcMSOr5o0
あっちにやってこっちでエピローグかな
そして次回作にとりかかろう

またイチからの頑張りだなって
量産力をまた出さねばというのと、発表媒体どすかな
417 :青ペン [sage saga]:2023/11/01(水) 14:50:04.52 ID:rhTnNDo+o
>>416
ちょっとだけ引っ掛かったので

>天下無双の趙子龍に、補佐として泣く子も黙る張遼が就くのでしょう?

趙子龍って字使ってるから、張遼のところも張文遠って揃えた方がいいかもー。
418 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/11/02(木) 22:01:01.62 ID:Clz+CkW00
>>417
把握
指摘サンクス
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/11/19(日) 21:12:40.30 ID:ZX34xbuc0
なろうの更新があったので、こちらに来てみましたが、やはり完結されていたのですね
お疲れ様でした
420 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/11/19(日) 21:26:23.28 ID:ODwNrYxU0
>>419
どもです!
ありがとうございます!
頑張りました(断言)

まあ、エピローグやるかどうかで迷ってますがw
次回作に行きたい気持ちもあります
421 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/11/19(日) 21:27:04.14 ID:ODwNrYxU0
あと、こちらの投下を推敲していますので
できたら、なろうで読んでほしいかなって(pvも欲しいし)
422 :赤ペン [sage]:2023/11/21(火) 17:47:05.90 ID:v65+o91b0
某異世界転生物のアニメで主人公が【秘密のシークレット】って言ってそれを聞いて現地民が【それだと意味が重複してる】と突っ込んだんだが
あの世界の言語ってどうなってるんだろうか
423 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/11/21(火) 21:54:35.07 ID:iA3UVESY0
>>422
日本語、じゃねえかなあw
主人公の知能次第だとは思うのですけんども

なお某アニメに心当たりないのでご紹介くだしあー
424 :赤ペン [sage]:2023/11/21(火) 23:01:22.96 ID:v65+o91b0
陰の実力者になりたくて です
なろう連載ものよ
425 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/11/22(水) 05:46:38.63 ID:BYTZrKY00
ほむ。
題名は知ってる。未チェック作品でした。
ご紹介ありがとうございます!
426 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/12/28(木) 20:30:08.18 ID:VcsElGjF0
おわったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
予約投稿完了
完結しましたありがとうございます!

長かったわー


つぎなにやろうかなっと
427 :赤ペン [sage]:2023/12/29(金) 08:55:47.47 ID:pv4g41Q+0
完結おめでとうございます
>>西涼に馬家気炎を挙げ 大徳は都に走る
大徳はいずこに?(ってこれ3年以上前にも聞いたようだ)
428 :青ペン [sage saga]:2023/12/31(日) 17:22:17.35 ID:1+6isEB2o
あっちの感想欄でも指摘はいってるが、コピペミスしてるっぽいぜ?
429 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2024/01/02(火) 21:25:06.60 ID:R1CcSdP00
ご指摘感謝

あっちで後日談とか人物紹介やっていきます
こんな時だ

被災地にいるかもしれない読者の気晴らしになれば幸いってことで
やりますやります
430 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2024/01/03(水) 14:55:19.39 ID:H9gTxXju0
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                   ,.: ´ ̄..>::::: ̄ ̄::::::<                 _,.. -
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エピローグとか閑話とかあっちで始めました
速さ重視のことですのでこちらでは投下しないと思います
こんな時だからこそコンテンツをやりますやります

在庫なくなったら新作をこちらでやるかもしれません
次回作にも向かいたいとかなんとか
431 :赤ペン [sage]:2024/01/03(水) 18:19:54.81 ID:yP4ORU+60
あけましておめでとうございます
何故すずかちゃん!?
432 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2024/01/03(水) 19:08:28.30 ID:H9gTxXju0
>>431
某スレで見て、いいなーこれと思っただけで他意はありません。

もしくは淫魔として次の作品で使うかもしれません。
でも淫魔扱いはよくないっすよね
433 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2024/01/03(水) 19:09:20.02 ID:H9gTxXju0
ザコ処女淫魔とかいいなって
(単なる嗜好)
434 :赤ペン [sage]:2024/01/03(水) 20:24:12.48 ID:yP4ORU+60
多分見てるのは同じスレですね…妹にもペットにした女にも先を越されて小間使いですら一応は処女ではないのに1人で処女
まあ処女ではあっても乙女とは言えないんですが…残念ながら筆がのらなかったそうですが
435 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2024/01/03(水) 20:29:17.64 ID:H9gTxXju0
>>434
そこですわよね

いやあ、残念ですが毎回キャラ付けの角度がやべーなーと思ってます
いや、参考にならんわあんなの天才じゃんよ
模倣もできひん
キャラは自分に根付かんと動かないからね、仕方ないね

なお凡将伝で一番勝手に動いたのは……

やっぱ麗羽様なのよ
逆にきちんと動いてくれたのは……
誰だろう
イメージできているのに、名前が出力できない うっ頭が(マジ)

皆様は読んでてどうでしょ
きちんと踊ってる子とアドリブかましてるなーって子

参考にしたいので、是非とも
436 :赤ペン [sage]:2024/01/03(水) 22:44:37.42 ID:yP4ORU+60
文醜顔良とか良い意味でしっかり自分の立ち位置の中で動いていた感
後は飛燕さんとかも
逆にはっちゃけてると言えば…某鉄面皮とか、トンねえとか
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