その剣士、サキュバス憑きにつき。

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

107 :誤爆った [saga]:2015/11/10(火) 21:39:30.61 ID:RKc8xUH5O

剣士「!」

そうか、知っているのか。
彼女たちがどんな会話を交わしたのか、娘が夢魔をどう思っているのかは分からない。
しかし、一般的な人間の感覚からして悪魔と親交があるのは異様だろう。





剣士「いや。自分の過去を清算する為だ」

俺の旅立ちは夢魔の為ではない。これは本心である。
これを伝えると納得したのか、いつものように柔らかい笑顔と、頬から照る小さな光を浮かべた。

娘「清算できたら……また、またいつか……私の頭を撫でてくれますか?」

剣士「俺は、お前の父親にはなれない」

娘「……」



なでなで。



娘「あ……」

剣士「しかし、ゆかりが有ればまた会う事もあるだろう。それでも構わないか」

娘「はい!」
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/11/10(火) 21:50:25.45 ID:RKc8xUH5O




俺は村を去る。俺の一命を取り留め、俺に居場所をくれた恩人たちの村を。

剣と金、地図に油、飲み水と干し肉。それだけ背負って歩き出す。
すぐ俺は砂塵に巻かれ、顔を覆い、地平に溶けてゆくだろう。
その前に伝えるべき事があった。




剣士「ありがとう。宿の娘と、その母よ。過去の遺物に朽ちたとて、死んでしまえば過去を振り返る事もできなかった」

剣士「身体を大事にしろ」

母「けっ。あんたが言うんじゃないよ」
娘「そうですよ」






剣士「……世話になった」


俺の行く手に朝日が昇る。
ああ、気持ちいいのだ。
きっと今は素直になったとして、負の力にも飲まれないだろう。

一時だが、俺は幸せだ。




「はじまりの小村 おわり」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/10(火) 21:50:52.47 ID:RKc8xUH5O
長く
かかった
すまない
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/10(火) 22:16:39.43 ID:hV5TxMYn0
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/10(火) 23:54:21.01 ID:q+3GZieV0
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/11(水) 00:30:35.99 ID:4+Fq1GLpo
名作の予感
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/11(水) 05:09:23.11 ID:8/snZVl00

母いいキャラだ
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/11/14(土) 12:31:01.65 ID:QMyGrB/UO



それは夢の世界の事であった。



夢魔「お別れは済ませたかしら?」

剣士「滞りなく」

美しい少女は笑う。
主人を見つめ、柔らかく笑う。


夢魔「……本当かしら。泣かせてないわよね」




この世界は、夢か、幻か。
まだ平和な世界に過ごす俺が見ている、悪夢なのか。
そうあって欲しいと、いつも願っていた。




剣士「……」

夢魔「申し開きはあるかしら。ふふふふ」

剣士「待て。あれは嬉し泣きだ。多分」





しかしやはり、ここは現世だ。

早めの野営を決め込み、明日に備えて眠りについた泡沫の夢の事なのだ。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/11/23(月) 17:18:20.03 ID:DfW6P8DMO

夢魔「あの子は。まあ仕方ないかしら。罪作りよねえ、本当に」

剣士「これ以上罪を重ねたくないとは、思っている」

夢魔「あらそうなの。じゃあ天然たらしね、怖いわあ」

剣士「いや、そんなつもりはない……」






パチン!






夢魔が指を鳴らすと、周囲の風景がガラガラと変わっていく。四角く覆われた何もない場所、これはどうやら。

夢魔「察したかしら。ここは不退転のリングよ」

剣士「……何をする気だ」

夢魔「やだ、知ってるくせに。女の子に言わせるのが趣味なワケ……?」

剣士「戦うのかと聞いている。今更そんな事をする必要があるのか」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/11/23(月) 17:34:41.27 ID:DfW6P8DMO

夢魔「正確には組手かしら。まさか、サキュバスが殺しをするとでも」

剣士「ならばサキュバスらしい精神攻撃を企んでいるのだろう。この世界ではお前に何を振るうのも気が進まない」

夢魔「へえ、私を大事にしてくれてるのね……うふふっ、ありがとう。」






夢魔「でも、私強いから」

夢魔「小細工もしないし魔法も要らない。ここはひとつ、力比べでもどうかしら? 勇者さん?」





パチン!

俺の前に剣が刺さる。どうやら現実で愛用しているそれを模しているらしい……なるほど、握りも重さもその通りだ。
対し、美しい少女は棒を構えていた。棒術を嗜む悪魔など聞いた事もない。

夢魔「この世界は貴方の夢で、私の支配する世界。貴方が目覚めたいと思えば全てが終わるし、そうね、この短剣を……ほら」

剣士「!? よせっ」

夢魔「っ……ご覧の通りよ。ここは食卓、ステーキナイフも安全であるべき。でしょう?」

夢魔が腕に刺した傷が、みるみる癒えていく。そもそも血の一滴も溢れない様子を見るに、ここはそういう世界なのだろう。



夢魔「ヤる気になったかしら?」

剣士「……組手など久しいものでな」

夢魔「あっ、そうそう。戦う理由を聞いていたわね。ひとつは、これから旅をする貴方に、私の身体の感触を隅々まで知って欲しいと思っての事よ」

剣士「もうひとつは?」





夢魔「こんな男に恋破れた、可愛い娘の弔い合戦よ♪」

……。
同じ乙女として、やはり許してくれないらしい。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/11/23(月) 17:57:40.69 ID:DfW6P8DMO

剣士「加減はしないぞ」
夢魔「良いわ、いらっしゃい……」

長物を持つ人間との組手は少なくない。
やはり間合いが広い事は戦いにおいてあらゆる強みとなり得るからだ。
相手が何であろうと……油断はしない。

剣士「はっ!」

夢魔「!」



ガキン!



袈裟を捌く。非力を補うように、俺の剣を逸らしていく。

ガキン!ガキン!

夢魔「あはっ、激しいのね」

剣士「まだ、小手調べだっ!」



ガキィン!!



夢魔「っ……力を使わなくても、竜と張り合えるだけの事はあるわ」

強く剣を奔らせ、棒を強く弾いた感触を味わう。
夢魔を吹き飛ばすには至らないが、しなりも加わって手のひらを痺れさせているだろうか。



少し、夢魔の逆手に踏み込んでみる。
これを見ているか?

剣士「おおっ!」



夢魔「あらあらあらぁ! ……どうしたのよ。見くびらないで」



剣士「っ、心得がないわけではないようだな」

速い。一瞬で俺の腹部を突き破ろうとした。
現実で喰らっていたら、肋骨を失い痙攣、呼吸が乱れて即戦闘不能だ。


この夢魔が何者であるか?
その問いは、続く棒術の猛りに消えていった。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/11/23(月) 18:08:06.85 ID:DfW6P8DMO

夢魔「ふっ、はっ、あああっ!」

剣士「……、っ、ふっ、ふっ、ふう」


……。
手数が多い。
そして速い。


夢魔「たっ!」

足か。

夢魔「ふうう」

小手。

夢魔「やあああ!!」


ガキィン!!




剣士「首か。やらんぞ」

夢魔「ふふ、欲しくなっちゃうじゃない……!」

ガスッ。

夢魔は俺のももを蹴り、間合いを取り直そうとする。




ああ、しかし、終わりだ。




剣を翻し、宙を舞う夢魔に突撃する……!!
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/11/23(月) 18:26:11.67 ID:DfW6P8DMO

夢魔「!」

中央から端に握り替え、威力と射程の増した一撃を空中から放つ。
後ろに飛び退きながらの技とは思えない程、棒がしなって風を切る。

剣士「ぐっ」




ドフッ……!




夢魔「……!?」

夢魔の渾身の一撃を、間合いを詰めながら背中と腕で喰らい切る。痛みで筋肉が千切れそうだ。

一太刀も浴びれない有象無象とは相手が違う。
相手が武人であるならば、心技体の全てで制す……!




剣士「おおおおおッ!!」




ドガッ!!

夢魔「く、いやあああっ!?」

俺の体当たりに直撃した夢魔が、衝撃を和らげながらも地面を転がっていく。
あまりの勢いに、そのまま壁に激突した。


夢魔「いた、た……」


ジャキン。

夢魔「……」

夢魔「ふふ、参りました。ご主人様」


身体を打ち付けた夢魔の獲物を踏みつけ、その喉に剣先を突きつける。
勝負あったようだ。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/11/23(月) 18:49:16.00 ID:DfW6P8DMO

……………………
…………
……

剣士「その技はどこで仕込まれた」

夢魔「私を拾ってくれた悪魔によ。護身用には少し心許ないかしらね……自信なくしちゃう」

剣士「謙遜するな、大した腕だ。胸を貸すほどの余裕もなかった」





剣士「お前はその身のこなしから見るに、棒術でありながら周りの物を活用した、閉所での戦いを得意とするように見える。この組手では力を発揮出来なかっただろう」

夢魔「そこまで分かっちゃうんだ。ふふ、読心術って使われる側はこんな気持ちなのね」

剣士「人聞きの悪い」

夢魔「ううん、嫌じゃない気分よ。勇ましいご主人様も、いつになく口数の多いご主人様も、素敵だわ」

剣士「……よせ」




剣士「しかし。流石のお前も、戦いとなればあのように高揚するのだな」

夢魔「あら、猛ってほしいならベッドの上でも構わないのよ?」

剣士「その手の冗談はやめろ」

夢魔「ふふ、棒術には自信があるのに……」


そうも言いながら、指を鳴らしてベッドメイクを済ませている。
襲われる事は無いのだろうが……隣に座るよう促す笑顔に何故か逆らえない。



夢魔「お休みなさい、マスター」



白魚のような指が、俺の髪を梳く。
ベッドの上で勝たせてもらえるのは何時になるのか、そんな事を考えながら眠りについた。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/23(月) 20:34:34.87 ID:8SHd5A0OO
はよ
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/23(月) 20:35:03.51 ID:fhetunK10
乙。この雰囲気、嫌いじゃない。
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/23(月) 21:39:52.63 ID:3R59tXq9o
おつです
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/23(月) 21:57:17.39 ID:/kKqW6zLo
おつ
楽しみにしてる
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/11/27(金) 17:44:21.67 ID:j/DoSJZ0O

……………………
…………
……

着いたぞ。

夢魔「ふーん、なるほどねえ」

何がだ。

夢魔「だって、言っていたじゃない? お前好みの町だろう、って」

ああ、ここは……。




「うぉらテメエぶっ殺してやる!」
「う、ぐ……誰だよ……? 酒に何を入れやがった……」
「ほら張った張った!! ガタイのいいあんちゃんと、酔っぱらいの見せもんだァ!!」
「俺はこいつに金貨を、オラッ5枚!」
「ああ〜ん、だめぇ♪ 一緒に良いとこイクって言ったでしょ?」
「うごぉ〜〜〜〜……ひっく、うごぉ〜〜〜〜…………」
「ほらよ、ブツだ。丁寧に扱えよ?」
「おお、こいつは上物だな。ふっは、歩け歩け」
「やだぁ……助けてくださいぃ……」






ここは、ちょうど行き道の中腹にある有数の歓楽街。快楽と欲望と悪意の渦巻く虚ろの町。



「ひゅーっ、ヘイ兄ちゃん!」



何故か酒瓶が俺に投げられても、それは不思議ではない。

ズバン!

剣士「失せろ」

「たっはっは、やるネェ! 仕方ねえそれはオゴリだァ、あひゃひゃひゃひゃ!!」





夢魔「路銀を稼ぐには、間違いのない町ね」

ある意味では夢より奇天烈な、異様な熱気の支配する町だった。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/11/30(月) 02:56:01.12 ID:WzxIEtOGO


ガッチャン!
ドッタン!バッタン!


夢魔「ただ少し誤解されているかしらね……こういう町も嫌いじゃないのだけれど」

お前にとっては食料の山ではないのか。




夢魔「他人を陥れるような卑しい欲、自己を満たす為だけの淫らな欲が渦巻いているわ」
夢魔「誰かと過ごす中でのささやかな願望や、想い人に抱く優しい愛欲……そういうものが私の好み」




……お前、本当に夢魔か?

夢魔「そのようなのよねえ。グルメでしてよ?」

流石に分からん。

夢魔「油の多い料理や強いお酒より、小鉢に入ったサラダや温かいミルクが好きってこと」

それなら、分からなくはない。しかし、俺の精は好ましくないのではないか。

夢魔「……バランス栄養食?」

人を滋養品扱いするな……。



「あいつは、あいつだけは……! おい、さっさと捕まえろ!」



別に、食べに行きたい奴がいれば俺の元を離れても良いぞ。

夢魔「くす、貴方はそれで平気なのかしら? 寂しそうな顔はさせたくないのだけど」

言ってろ。

夢魔「いやね、私だって操くらい立てるわ。貴方が居れば、それで充分よ」

どんなサキュバスだ……。



「くっ、どいてどいてどいて……!!」



夢魔「なんだか、あちこちで荒れてるわねえ。勇者さんは我関せず、といったところかしら?」


……チャキン。


夢魔「ま、お供するわ」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/30(月) 10:20:34.52 ID:fyaVFmrDO

ちょっと、隣のヤンジャンでサキュバスさん読んでくる
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/01(火) 01:09:11.40 ID:iVh4n7rBO


路地の中を入って行くと街灯や人の明かりは急に遮られ、身が凍るような緊張感を生み出す。
帯刀に手をかけたまま、声のした方を追った。


「おい、こっちだ!」「いたぞ、追え!」



剣士「そうか。こっちなのだな」



ガスッ!

「ぐへっ……!?」「ごは……っ!」

柄の部分を頚椎に叩き付け、先を急ぐ。
しばらく行くと、そこは高い建物の行き止まりになっており、何やら大人の集団に少女が襲われていた。

数は10も居ない……腕の立ちそうな輩も見当たらない。



「捕まえたぞ……!」

少女「っや、離して……!」

「このメスガキっ、奴隷屋にでも売り飛ばして」「面倒くせえよ、この場で殺ればいい」




気分は良いか?

夢魔「いいえ、まったく」

同感だ。
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/01(火) 01:20:02.33 ID:iVh4n7rBO



剣士「おい」



「あん?」

ゴキッ!

「ぶっ!?」

鼻を押さえた小物が石畳に転がる。
振り返る集団の中から、リーダー格の男が懐をまさぐりながら歩み寄ってきた。

「何だテメェ。このガキの親父かァ?」

剣士「いや。ただの憂さ晴らしだ」

「じゃあ……」



「相手を間違えたなァ!!」






少女「!」

あれは……銃といったか。
懐をこね回して暗器を出す馬鹿がどこにいる。

剣士「鎧袖一触とはいかないが」



パァン!!



剣士「抜くまでも無い」

ドサッ……。

「な」「お、おい兄貴!」

なるほど。
竜の炎よりか、まったく細い射線だ。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/01(火) 01:44:09.55 ID:iVh4n7rBO


「なんだ、こい、つ……」


前に斬り伏せた野盗たちとそう変わる事はない。
路地が静かになるのに時間はかからなかった。

少女「あの、助けてくれて、ありがとうございました」

剣士「礼は要らん」



シャキン!



少女「!?」

剣士「代わりに、話を聞かせて貰おうかと思ってな」


今宵、初めて抜いた剣の先を突き付ける。
あのような組織があれだけの人数で追うような事情があり、それを短時間とはいえかわしていた子供が普通だとは思えない。

少女「は、話って……!?」

剣士「とぼけるな。何をして、この手の組織の恨みを買った」

少女「え、あのっ、何をって」





少女「こういう?」





カチャ、パァン!!

剣士「っ!?」

少女は突如、あの男が持っていた銃を取り、発砲した。
それまで銃に視線を向けず、殺意も隠したまま、軽く忘れ物を取りに行くような動きで、心臓を狂い無く撃ち抜こうと。

少女「……チッ。お前、ホンモノか」



夢魔「マスター、下手したら死ぬわよ」

言うのが遅い。



パァン!!パァン!!パァン!!

少女「っ、んだよお前、見えるのか?」

剣士「生憎。」



ドフッ……!
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/01(火) 02:01:16.13 ID:iVh4n7rBO

……………………
…………
……

夢魔「ふふっ、お人好しねえ」

あの中に、あのまま転がしておいてどうする。

夢魔「勝手に逃げるんじゃないかしら?」

まあ、そうだろうが。



少女「……そこを右だ。突き当たりまで頼む」



一撃を与えたあと、俺は少女を担ぎ上げて寝ぐらまで運ぶ事にした。
既に宿を取るような時間ではない事を考えると、一晩明かす羽目になってしまうか……。


少女「お前、旅のもんにしては強すぎるだろ。何なんだ?」

剣士「いや。旅の者だ」

少女「嘘つけ……なんで鉄砲を全部避けられるんだよ」

剣士「それより怖いものを知っているからだ」




少女「ああ、着いた。ここだ、開けてくれ」




ボロボロになった木のドアを開ける。
生活臭のする毛布の類いに、少女を横たえた。
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/01(火) 11:10:47.95 ID:u6kFVRV1o
ドラゴンブレスと比べるならハープーンミサイルくらいはないとね…
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/01(火) 17:18:47.22 ID:8IyOts+NO

少女「まあ、改めて礼を言うよ。あと、済まなかった」

剣士「……」

少女「それで、目的は何だ。金はやれないけど、身体で済むなら遊んでやっても良いよ」

剣士「何の為にわざわざ腕ごと捕まえて担ぎ上げたと思っている。痛かったろう」

少女「……まったくだよ、しっかり畳んで締め付けやがって」



俺は、まだこの少女が敵意を失ってはいない事を確信していた。
隙あらば背中を刺してくるだろうし、施しを受ければ何か盛られていると見て間違いない。
身を寄せるなんて、もっての他だ。

夢魔「貴方は生きづらいわね」

今回は本当に危ない。
……勘ではあるが。



剣士「お前は何者だ」

少女「ナニモノって。そんな大層なもんじゃないよ、あたしはただの孤児」

剣士「盗人か?」

少女「あー、はっきり聞くね……そうだよ、人のもん盗って生きてるクチ。もっと不幸な娘だと思った?」

剣士「予想通りではないが、大して変わらん」

夢魔「ちょっとマスター」

レディの扱いは苦手でな。



少女「あってて……思い切り腹やられると、マジで足立たなくなるんだな……」

それなりに強く拳を入れたつもりであったが、既に力が戻ってきているようだった。
鈍痛を堪えるようにして立ち上がるあたり、この手の修羅場は幾度となく潜ってきたのだろう。



少女「ってて、茶を沸かさせてくれ……」

剣士「……」

少女「あたしが飲むんだっつの。盛らねーよ」
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/01(火) 17:51:04.84 ID:8IyOts+NO

コポコポ……

隣町の茶葉とはまた違う風合いの香りが漂っていた。
今のところは背を向けたまま、新しく何かを手に取る様子もない。

少女「礼をしてやりたいところではあるんだけどね、マジであんまり物がねえんだよ。ウチは」

剣士「要らん」

夢魔「ご主人様っ」

少女「だったら帰ればいいだろ……あ、そうか、あんた宿がないとか?」

剣士「……」

少女「何だよ、図星か。ま、あたしがおっかなくて先に眠れないってとこでしょ」

コポコポ…………。



少女「別に良いよ。あんたみたいな化け物に暴れられたらひとたまりもないし、それほど強ければ寝てる間も無防備じゃないんだろ?」

剣士「別に、そうも完全無欠では……」

夢魔「マスター……」

少女「疲れてるんだろ、寝なよ。あたしもこれ飲んで、痛みが引いたら寝るから……」

剣士「……」

コポコポ…………
コポコポコポ…………………







剣士「…………」

地を、這う。
いや、何故、地を這っている?

考える、暇は……外へ……外…………。



夢魔「ご主……! マス……!!」

ガラガラガラ!!


少女「ありゃー、いっけない。出入り口の本棚倒れちゃ、った。出られなーい」

剣士「く、そ……」


コポコポコポコポ……!


剣士「……………………す、ぅ……」

夢魔「…………!! …………!!!」

剣士「っ、はっ……!」

少女「ほら、そのまま寝ちまいなよ。あ、何であたしがマスクなんか付けてるって? いやー鼻が乾いてさあ」

夢魔「マ………!!!」



少女「腹ヤったら大人しくなるんだっけな? オラよっ!!」

ガスッ!!

剣士「ごはっ……、…… …… … …」



……………………
…………
……
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/01(火) 18:08:01.05 ID:8IyOts+NO



…………。



おねがい。
わたしと、ひとつに、なって。

剣士「……」




これは、夢か?

暖かく、懐かしい、影が笑う。



ずっと、いっしょ。
いっしょだから。



いや、夢なんかではない。

この声、あの笑顔は、俺の知る……。

俺が、一番大切にしていた……。



うふっ……あったかいね。
このまま、お昼寝しようか……。



大切な……夢?

いや、これは……これが、正しいんだ。

今までが、間違って……今までのは、俺が見てた、長い夢……?


なら、大切な、この子といっしょ、に……。





「おやすみ、しようか」





 
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/01(火) 18:27:47.33 ID:8IyOts+NO




「ははははははははははははは!!」




!!!


己が燃えた。黒く燃え盛る負の炎が、この世界のすべてを焦がす!


剣士「ああ、ああああやめろ! やめてくれ!!」


「あつい……? うふふ、あついね……」


憎悪に嫉妬、狂気に絶望を焚べて、焚べて焚べて炎はまだ足りぬ!
己は燻り、猛り、この世界を壊しつくす!!


「あつい、な……はだが、ぴりぴりするよ……」


剣士「ああああああ!!! ぎゃあああああ!!!」




「たす、け て……」




剣士「があああああッ、ぐあああああああ!!!」
「はははっ、はははははははははは!!!」







剣士「ぐ、うぅう……」

「はははははは、ふっ、ふふっふ」


そう、己が中に眠る、悪夢の力は、因果の炎は……まだ、潰えてはいない。
俺はまだ、己が休むことなど許していない。


そうだろう。


「ふふっ、ふーっ、ふう……」

剣士「……」


俺はすべての燃え跡で羽ばたく、黒い翼を見上げた。


剣士「心より、礼を言う」

夢魔「ええ。受け止めたわよ、貴方の悪夢」
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/01(火) 18:57:32.03 ID:8IyOts+NO


夢魔「貴方は何処かで、誰かの為に朽ちる事を望んでいる」


夢魔「けれど本当は死にたいわけでなく、大切なもののことを一番に考えてしまうだけ」


夢魔「我が儘で、強欲で、綺麗で……死にたくない。それが貴方の姿」




剣士「ああ。この炎を捨て、安らぎに堕ちる事など出来ない」




千の夜を越えて、何度でも目覚めさせる。忘れられない悪夢こそが、俺の生きたいという意志。

その悪夢にすら寄り添い、貪り喰らう狂気の怪物。

夢魔「Nightmareこそが現実。悪夢のような現実を、必死に抱きしめて、強く愛して、悲痛に背負って、そして生き抜く」

剣士「お前も、そう思うか」

夢魔「ええ。私もよ」




理解するという事は、大きく言い換えてしまうと魂を売るという事でもある。
人が魂を売れば、元のままではいられない。

つまり剣士は、もうただの剣士ではない。




……。


むくり。


魔剣士「ふーん、悪くない身体ねぇ」

少女「つ、強いだけじゃなくて二重人格のカマホモかよ……!!」


その剣士、サキュバス憑きにつき。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/01(火) 19:19:14.84 ID:8IyOts+NO




少女「テメェは戦えんのかよカマホモ野郎!」

魔剣士「あら、ごめんなさい。いくら煽られても、私全力以上にはなれないの」



再び腹部を狙って蹴りを繰り出す少女に対し、部屋の隅からモップを拾って応戦する。






剣士「おい、これは一体……?」

普段の逆よ。
簡単に言うと貴方の意識がやられてしまったから、私が術と……色々用いてその身体に成り代わっているワケ。

剣士「その、いや、すまないが、言葉遣いをだな……」




少女「おっと包丁がァ!」

魔剣士「はぁい外れ」

少女「くっそ狭い所で暴れやがって……糞カマホモ!」

剣士「いや、だからカマはともかく何でホモに……もういい、ちょっとそいつ黙らせてくれ」



魔剣士「Yes, my master。私のご主人様を罵った罪、万の悪夢で償ってもらうわ……!!」


ズドン!バキィ!!


少女「うおぉヤサを壊すなぁ! や、やべーんじゃねえのコイツ? マジで関わったらやばかった奴じゃ……!」

魔剣士「よそ見はダメよ。らあッ!!」
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/01(火) 20:09:06.51 ID:8IyOts+NO

魔剣士「刺さりそうな柄と重そうな頭、どっちが好きかしら?」

少女「うおっ、と、どっちも、嫌だね!」

バキィ!

少女「うわ床ヒビいった……!」



剣士「その、顔とか身体とか変わってないなら、言葉遣いを何とか……」

こんな機会でもないとなかなか貸してくれそうにないじゃない?
たまにはイイでしょ♪



魔剣士「さ、もう少し激しく行くわよ」

夢魔、いや違う。俺の身体が宙を舞い、窓の縁を蹴飛ばした。何やら不吉な音が鳴った気がした……建て付けを悪くしただろうか。

ギシッ……!

少女「や、やめろそれ高いんだよ……!」

天井の柱に手を掛けながら、不釣り合いに高貴な電飾をモップで釣り上げる。

ビュン、バリーン!!

少女「あああ痛え、ガラス飛んだぞ!」

放り投げた反動のままタンスに飛び移り、飛び降りながら大きく横薙ぎ。テーブルの上の色んなものが壁に吹き飛んだ。
少女は部屋に仕込んでいた暗器の在りかも滅茶苦茶にされ、逃げ回る一方である。


少女「や、やめろ戦うから外でやろう外でやってくれ」

魔剣士「んふ、覚悟は出来て? てあっ!!」

少女「いでぇ!?」

モップを傘立てに突き立て、垂直な棒に飛び上がる。俺らしからぬ身軽さで旋回したのち、体重の乗った蹴りが少女を捉えた。
彼女は勢いに吹き飛ばされるままコンロの横に激突し……。

魔剣士「そーら、よっと!」


ガシャアアアン!!



少女「――」

直後、自分のこめかみで大音を鳴らした傘立てに失神するのだった。



ゴトン、ジョワアア……。

魔剣士「やだ、そういえば火の元を止めてなかったわね」

剣士「もう勘弁してやれ……」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/01(火) 20:35:41.29 ID:BOckzF2V0
wktk
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/02(水) 00:46:27.39 ID:887sS6sbo
これは熱い...!
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/03(木) 09:00:10.61 ID:L849V1TCO

コンロの上から転がり落ちた鍋を拾い、その中に入っていた大きな葉を取る。

魔剣士「これね、葉っぱちゃんは」

神経を侵す作用があって、安眠の為に使われるわ。煮出した汁なんて飲むわけないじゃない。

剣士「こぼしたところから揮発しているようだが……平気か」


神経毒が効かないくらいには、夢魔の精神は図太いのよ。それより、この子もグッスリしちゃったわねえ。


目を回した少女を見やる。息は穏やかで、そのまま寝てしまったようだ。

剣士「殺すか? 生かしておくのは危険だ」


そうしたい所なんだけれど、それじゃあの男たちと変わらないわ。
貴方の身体なんだし、貴方の顔を立ててあげる。

剣士「……他に努力するべき事もあると思うのだが」



まあいいわ。とりあえず貴方に身体を返すわよ。



剣士「済まない、正直助かった。死んでいたかもしれない」

困ったご主人様ね……ふふっ。
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/04(金) 12:23:38.12 ID:SsiSA85oO

軽い目眩のような感覚のあと、身体の主導権が俺に戻された。
五感を共有しながらも勝手に手足が動いてしまうというのは、正直気味が悪かったので助かる。

夢魔「……ふう」

ありがとう、夢魔。

夢魔「ふふふっ、いいえ。じゃあ褒められついでに、もう一仕事してこようかしら」



俺の頭の中から夢魔の気配が消えていく。
彼女を頭の中に宿すのも、もう随分慣れてしまったものだ。

夢魔「私のご主人様に好き勝手してくれちゃったしね、この子。私の本分である、悪夢をたぁっぷりと……ね」







夢魔が消えて、隣の少女がうなされ始めたのはすぐの事になる。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/04(金) 13:36:00.33 ID:t+phyXEOO
うぉお...やるなぁ
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/05(土) 11:39:28.04 ID:ZvI98X34O

……………………
…………
……



150!
はいあんちゃん180!
ああ〜これでどうだ!?
ほい200!……
ッターン!


剣士「ん、騒がしいな……」

熟睡してしまっていたか。
近くに市があるらしく、町は昨晩のような妖しい喧騒とは違った活気に満ち溢れている。

少女「すぅ……ふ……すぅ」

……先に起きれて本当に良かった。






夢魔、居るか。

……

居ないか。この少女の中か、それともまだどこかで動いているか……。






剣士「しかし、酷い」

昨日は薄暗かったとはいえ、部屋が元の形を留めていない事は分かる。
家財は飛び、床板は跳ね上がり、衣類は千切れているものまで。

剣士「……ハァ」

罪悪感のない心ではない。
正確には冤罪だが、俺のやった事だ。最低限生活できるようになるまで、部屋の片付けをする事にした……。
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/05(土) 12:22:24.11 ID:ZvI98X34O

少女「うう……ん」

剣士「……目覚めたか」

床板を剥がし、適当な板材をあてがっていたところに少女は目覚めた。
元が丁寧に片付けられていたようで、見た目よりあちこちにものがある。似たような用途であろうものを同じところに片付けていった。

少女「ん……く、漁ってんじゃねーよ」

剣士「無法者ゆえ」




少女「というかお前、これ片付けてたのか?」

剣士「俺の不始末だからな。いや、カマホモの不始末か」

少女「……。お前、本当に変な奴だな」




少女「あぁーあ、毒も効かねえんじゃお手上げだ。飯食いに行こうぜ」

剣士「今度は何を盛ってくれるんだ」

少女「野暮だな、普通の店に食いに行くの。オゴってやるよ、それで貸しはチャラだ」

小さな身体に逞しい意志を秘めた少女は、少しだけ屈託なく笑った。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/05(土) 16:48:04.82 ID:ZvI98X34O

柔らかいパンに、熱い肉と卵。
溢れ出す黄身と肉汁を、小麦がじゅわりと包み込む。

なるほど、ただこれだけの朝食というものが悪くない。


少女「ふもふうもうもふもふ」

剣士「……。飲み込んで喋れ」

少女「っくん。美味いだろこの店、ここで食うのがちょっとした楽しみなんだ」

剣士「肉と油は貴重だからな」

少女「そういうもんか? ああ、お前は旅人だっけな」


会話の間が待ち切れないようで、また少女はかぶり付く。
口の端から少しだけ黄身がこぼれているのを見て、俺も少し大口でかぶり付いた。



…………


剣士「良いのか。元よりお前に払わせる気は無かったのだが」

少女「殺そうとした奴に借りまで作っちまった、あたしの居心地が悪いんだよ。お前もお前で、あたしが諦めた途端に毒気無くしやがって」

剣士「ご馳走様。美味しかった」



カランコロン……
「ありあっしたー!」



少女「ケッ」
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/06(日) 12:29:16.69 ID:3vPyo3x8O

剣士「蒸し返すようで悪いが、昨日の奴らは良いのか。気絶させただけで、訳があるならお前の事をまた付け狙うだろう」

少女「ああ? 良いんだよあいつら単純だから。むしろアンタの方が恨まれてるに決まってる。まあ銃も効きゃしないアンタが不覚を取る事もねーだろうけどよ」

剣士「気を付けよう」

少女「……おう」




少女「……んで、次は……ん……あいよ」

剣士「どうした?」

少女「いや、な」




そういえばこの少女は平然としているが、昨日見せられた悪夢については憶えていないのだろうか。

剣士「昨晩はよく眠れたか」

少女「……最悪に決まってんだろ」

剣士「いや、自分でこしらえた睡眠毒の味はどうだったかと思ってな」

少女「あ、ああ。そういう事か。お陰でグッスリだよ」

あの様子の夢魔が無事に帰したという事はないだろうが……それでも何の影響も及ぼさなかった訳ではないらしい。
誰にとって何が悪夢か、人それぞれというわけか。俺のような夢見の悪い人間ばかりでもないだろう。



少女「そんな事は良いんだよ。お前、これからどこに行くんだ?」

剣士「砦の方に向かおうと思うのだが、備えも路銀も足りない。一時的に、何か仕事を探そうかと思っている」

少女「そうか、んじゃあ酒場行くか。アタシから斡旋しても疑うだろう?」

剣士「今更。……俺も日陰の人間だ」
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/08(火) 07:53:38.33 ID:oQhkXgm7O

カランカラン……



マスター「お?」

少女「マスター、アタシだ、こいつに何か紹介してやってくれ」

マスター「何だよ、ただの子連れかと思ったらお前じゃねえか。お前も『パパ』を作る年頃になったのかぁ? ハッハッハ」

少女「そりゃ良い。けど、売る体もこいつの手持ちも足りなくてな」

マスター「ハッハッハッハ!」



剣士「竜絡みで困っている事はあるか。請け負う」

マスター「おいおい、竜とやり合う気かお父さん。この辺じゃ、罠や薬にかけて遠くから撃ち殺すのが主流なんだよ」

少女「ところがどっこい、マスター。こいつはホンモノだ。そもそもアタシの紹介だって分かってんだろ?」






マスター「それはどういう事だよ? こっそり教えろや」

少女「だから、本物さ。銃も毒もこいつには効かなかった」

マスター「へえ……」



マスター「竜じゃないんだけどなあ」

主人が、ある依頼書をカウンターに叩きつける。

マスター「一個頼まれてくれるかい?」



その期待に満ちた視線、銃を向けられ毒を盛られるであろう未来に溜息をついた。
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/08(火) 08:17:09.21 ID:uwxDwgAzo
強いが故のってか
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/08(火) 09:21:06.09 ID:GmomQ4FmO
更新多くて嬉しい
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/08(火) 11:08:10.45 ID:Q/8wcXV4O
続きが楽しみである
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/08(火) 17:51:36.01 ID:MTwOd6XY0
楽しみにしてる
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/08(火) 19:04:38.05 ID:oQhkXgm7O

剣士「結局、こうなるか……」

少女「わりいな」




依頼の内容は、あるギャングの解体。
既に何十人もの冒険者や賞金稼ぎ、町人から旅人、役人から商売人まで、奴等にやり込まれ、あるいは行方不明となっているらしい。
歓楽街であるといえ、力強い活気に支えられた貿易の拠点に暗い影を落としているようだ。




少女「アタシも手伝ったら山分けにしてくれるか?」

剣士「足手まといとは言わんが、また何かを謀るつもりであればこの場で殺す」

少女「じゃ、オッケーって事だな。汚ねぇ金もタンマリ眠ってるだろうし……ひひひっ♪」




マスター『報酬は、金貨10枚。役所ならもう少し出せるだろうが、ウチじゃこの程度だ。それでやってくれるか』

剣士『お前は俺を殺す気か。人生設計に関わる額の報酬を約束するなど、つまりは人命と天秤にかける程の案件という事だ』

マスター『おや、お父さんはギャンブル嫌いかい?』

剣士『ああ、殺しより。他の依頼にしてもらいたい』

マスター『馬鹿だな。そいつらに、美味い汁吸われちまってる以上はマトモな依頼なんて残っちゃねえ。純粋な力だってあるんだぜ』

剣士『……考えさせてくれ』

マスター『受諾届けも契約書も要らねえさ。ぶっ壊してきて、一言「殺った」とだけ言えば金は払ってやる。ま、頼んだぜ』




少女の話によると、昨日彼女を追いかけていた組織も後からギャングに飼われ始めた組織だと言う。
これ以上の利を感じなかった彼女は、組織の金を盗んで抜け出し、今に至るそうだ。




剣士「足も一人で洗えなかったお前が、良い口の利き方をする」

少女「捕まるのは承知の上だったし、身体に色々仕込んでたんだよ。人目のない所で完全に撒いてやろうと思ったのに、大きなお世話だぜ」

剣士「ああ分かった。世話はしないからな」

少女「いざという時は世話してくれないかなー、と」

剣士「……本当に余裕のある時だけだ」
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/08(火) 21:59:04.51 ID:oQhkXgm7O

少女「それで、いつやらかすつもりなのさ」

剣士「明日だ。昨晩の事もあるし、少し消耗している……」



夢魔が戻らないのも、少し気になる。
戦力として数えられたものかは分からないが、「毒が効かない」俺である為には居て欲しい。



少女「それじゃ、またアタシのところに泊まっていきなよ」

剣士「……この町で一番安い宿を教えろ」

少女「物盗りにあっても知らねーぞ」

剣士「首取りに遭うより万倍マシだ」



あの使い魔は、どこで油を売っているやら。



少女「あいつらの居所も知らねーのに、良くも言えるぜ。どっちにしろ、片方で動いてもたかが知れてるんだから気持ち良く手を組め!」

剣士「……最もだ」

少女「おう、よろしくな」

差し出された手を取り、俺は少し迷った。
握り返し、警戒を解いた。




少女「それじゃ準備も兼ねて、家のリフォームの続き……やるか……」

剣士「……すまない」

肩を落として戸を開ける。朝方に少し弄ったが、日が昇って明るくなった部屋は見るに堪えない。
張本人は、本当にどこで油を売っているやら。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/09(水) 07:42:34.72 ID:oj92hrYOO
これは、夢魔はどうなったと予想したもんかね
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/09(水) 08:35:44.72 ID:A5NP6V/go
148でなんとなく予想はできるけどな
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/16(水) 09:58:10.47 ID:1Wh+wIvGO

少女「しかし、派手にやってくれたなあ」

剣士「面目ない」

少女「褒めてるんだよ。猿みたいに駆けずり回りやがって」




少女「なあ、その体術は誰に仕込まれたんだ?」

カマホモの仲間……とは、言いたくはないな……。

剣士「少し、遠い異国の地で」

少女「今度教えてくれよ!」

剣士「それは難しいな……夢見が良ければ、天啓を授かるかもしれん」

少女「てんけい?」

剣士「良い子にしてれば、その内ひらめく事もあるだろう」

少女「ほーん?」




……

剣士「このトランプは、変わったデザインだな」

少女「あー、危ないぞそれ。端が刃物になってて、毒が塗ってある」

…………

剣士「壊れたものは大体掃き出したぞ」

少女「そしたら、こっちのテーブルを……」

……………………

少女「どうした、ぼーっとして」

剣士「……。すまない、少し昔を思い出していた」
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/16(水) 11:55:35.54 ID:JG8n/Dz5O
キタ━(゚∀゚)━!
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/16(水) 18:46:50.98 ID:1Wh+wIvGO


……………………



少女「終わったー!」

モノが減った分、部屋は以前より綺麗になったかもしれない。
いつになく良い汗をかいてしまった。

昔も、こうして手伝いをしていたな。


少女「ほれ、ご飯」

剣士「いいのか」

少女「給料だ!」


投げ渡された握り飯を食べる。
量は足りないが、それがいっそう腹に染みる。

少女も食べ終わると、整えたベッドに身を横たえた。

少女「ああ、疲れた」

剣士「……寝るのか?」

少女「あー? 眠くなったらな」


目を閉じ、こちらを信用したのか完全に油断しきっていた。
俺と同じく額に汗を浮かべ、投げた幼い腿が服から覗いている。


少女「お前も寝るか?」

剣士「やめておく」
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/16(水) 19:05:43.10 ID:1Wh+wIvGO

少女「じゃ、適当にくつろいでてくれ……」



それだけ言い残し、少女は瞳を閉じる。
軽く丸まり、毛布を抱くようにして落ち着いてしまった。

剣士「……」

戸締りをするにも、鍵がどこか分からない。外に出る事は難しいか。



…………

少女「すぅ……すぅ……」

どうやら、本当に寝てしまったようだ。
くつろいでてくれと言われても、片付けたばかりの部屋を物色する興味も、毒かも分からない食べ物をかじる勇気も無く、視線を結局は少女に移すことになった。



少女「すぅ……すぅ……」



規則正しい寝息が、部屋を静かに漂う。深く休んでいるようだ。

剣士「なぜ、このようないたいけな少女が……」

柄にも無く、この少女の境遇に思いを馳せてみる。
どれだけの修羅場をくぐり抜けて、あれだけの哀しみを宿せるのか。
生きるためには強くなくてはならない。


夢魔と理解しあった事のひとつが、頭を奔る。
同情と共感の入り交じった気持ちが手を伸ばした。


少女「すぅ……すぅ……」

寝顔はこんなに可愛らしいのに。
そして髪の毛は柔らかい。

俺がそっと手を離すとき、




少女「……」




紅い瞳の少女と目が合っていた。
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/16(水) 19:36:40.30 ID:1Wh+wIvGO


剣士「……!?」

足が痺れたと思った時には遅かった。痺れは全身に回り、たちまち動けなくなっていく……!
どうしてこう、最近の俺は迂闊なんだ!




少女「うふふ、上手くいった」

剣士「何を……まさか、魔族?」

少女「うーん、半分正解。分からないかしら?」



ああ。大方そんなところだろうと思っていた。



剣士「どこをほっつき歩いてると思ったら、いつから『入って』いた」

少女「ずっとよ。貴方に入っていたように朝から」

剣士「今度はどんな茶番がお望みなんだ」



少女「すぐ分かるわ。天井のシミでも数えてればすぐ終わるわよ? ふふっ♪」



瞳の色が黒に戻ると、もそりと布団を退けた少女が起き上がる。

少女「昨日……とんでもないもの見せられちまったんだ。夢の中で。ああ、思い出したくねえ」

少女「あれは……もう、ダメだったよ。あんな悪夢、壊れちまう。アタシは5秒で降参して、悪魔女の言うことを聞くことにした」

少女「アンタの使い魔だったとは、驚いた。そりゃ嵌めたし蹴ったし、怒るわけだ。ふたりとも悪かったよ」

少女「何とか許してもらって、今に至るってワケさ」
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/16(水) 19:59:55.31 ID:1Wh+wIvGO

剣士「それで、何故それを黙ったまま動き、何を吹き込んでいた……鞍替えでもする気か」

少女「あっはっは、それはねーよ。ずいぶんアンタ気に入られてるみたいでさ。あの人の世界で、直接顔を合わせたいだなんて言ってて」



少女「とても楽しいデートだった、と」



…………。

緊張を解いた。
本当に茶番じゃないか、何だったんだ一体。




少女「さて」

剣士「いや、待て。それなら、何で俺は縛られているんだ?」

少女「喜んでたけど、こうも言ってたぜ」





少女「昨晩、あれだけ働いてもうお腹ペコペコなのに、いつまで経っても精を補給してくれないって」

そ、それは直接言え……!

少女「アタシとちゃんと一緒に寝てくれればこうはしなかった、とさ。契約の事を忘れられてて怒っちまったみたいだぜ」









腕を取られ、体重のままベッドに引き込まれた!
抱き着かれたまま動けない俺は、嫌な予感に再び硬直する。

少女「精液よこせよ。」

衝撃的な囁きと、吐息の熱さが脳を撫ぜていった……。
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/16(水) 22:18:26.16 ID:xi0Gpww5O
ほう...!

楽しみじゃあないか
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/17(木) 16:56:35.49 ID:GNDx2Ma+O

少女「ん、しょ」

しなだれ掛かる肢体を振り払えないまま、上半身が引き込まれていく。
口でしている呼吸は熱く、耳に甘い。

少女「やっぱ、ガッシリしてんな……」




剣士「っ、やめろ」

年相応ではない低い声は耳元でだけ強く震え、それでいて女の声である。
唇の皮が耳を掠めた時、ようやく我に返ってくる事が出来た。

こ、これで押し切られてはいけない。精を与えなければいけない事はそうなのだが、夢魔の見ている前で、しかも、こんな幼い少女にそんな。



しかし気持ちとは裏腹に、睦み合う男女のように身体は寝所でもつれ合う。



少女「――アタシさ。いつも好き放題に使われるもんだから、好き勝手できるのは新鮮だわ」

剣士「な、なら尚更よせ! された側がその後どれだけ虚しくなるものか知っているだろう!」

少女「うるさいなぁ」

剣士「おい夢魔、見ているんだろう。すまなかった、止めてくれっ」



少女の細腕は背に回り、首と首を密着するように抱き合わせる。



少女「もう動けないんだし、諦めなって。今度は殺そうってワケじゃないんだしさ……ちゃんと、良くしてあげるから」

剣士「お前のような幼子に、こんなことをさせるわけにはいかん。そっちこそ、諦めてくれ」

少女「やだよ、結構腹ペコみたいだし。それとも何、他の男を食べに行っても良いの?」

剣士「それは、別に……」





少女「…………」

剣士「…………」





少女「もうヤっちゃえってさ。まあ、アタシも怒るわ。そりゃ」

な、何でなんだ……!?
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/17(木) 21:44:27.67 ID:GNDx2Ma+O

剣士「そもそも、人の精を受けたからといって憑いている人間を介して補給する事は出来るのか」

少女「出来るってよ。……へへ、その気になったか?」

剣士「それとは別だ。すぐに眠るから、勘弁してくれ……」





ぴったりと固定されたハグ。
呼気にも声にも熱い蒸気が混じり、寒気がするほどに耳腔を焼いていく。
続けざま、ゼロ距離の会話。
何度かもう、びくりと身体は竦んでいる。





少女「じゃあ、眠ってみろよ。本当に悪魔娘にワビを入れたいってんなら、すぐにでも眠れるよな……?」


剣士「この膝立ちでどうやって寝ろと、っ!?」

少女「ちゅむ……」




熱い粘膜が耳に吸い付いたその時……無様なほど、俺は震える。

少女「……な、気持ちいいんだろ。ちゅぷ……」


幼い肢体がアンバランスに蠢きだす。
水音とくぐもった声が、男の洗脳を始めた。
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/18(金) 15:33:31.54 ID:LHAJ1c+CO

剣士「っ……寝れるか、馬鹿」

少女「じゃあ、アタシに弄ばれるしかないなぁ……れろっ」

剣士「や、めろ。っく」






少女「耐えても無駄だぞ……時間はいくらでもあるんだから」

剣士「この調子だと、朝日が拝めそう、だな」

少女「へへへ、今は強がってろよ……お前から、楽にしてくれってせがむまで……ちゅぷ、れる」

剣士「っ。く……」

少女「眠れないよな……無理だよなぁ? しょうがないんだから、諦めて楽しもうぜ……」


…………。
どうやら、気勢を削ぐ事は無理なようだ。
言い返しても息は乱れるし、勝手に喋らせておく。

どこが……その、感じるかを、悟られてしまうのも、悔しかった。



少女「だんまりか……ちゅぷ、れぇ……」

少女「はむ、んちゅ……」

少女「……れる。……れる。……れる。」

先ほど舐めた、耳と頭の境を何度もなぞる。
耳が口の中に含まれて……甘く、ねっとりと。
どく、どくという口腔の脈が、少女から受け取るには生々しすぎた。

剣士「……ぅ」

不意打ちに身体が震えることはないが、……もう、本当に気持ちが良いと認めざるを得ない。ダメだ、いやらしい。
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/19(土) 09:16:30.54 ID:UltopfNtO

少女「こういうのは……?」

剣士「っ」

首に回されていた腕が解け、中指が耳にあてがわれだ。
するりと穴を塞ぎ、残りの指でさわさわと触れるように愛撫する。

少女「こうするとさ、アタシの声しか聞こえなくなるだろ。頭の中で、響かねえか?」

剣士「……、……」



少女「じゃ、もっかい。はむ、んん……くちゅる……」

剣士「……!」

少女「ちゅぷ、れるれるれる……ちゅうう」

剣士「ぁ……くぅ」



少女が紡ぐ水音が、塞がれた片耳で反射して、波のように揺れる。
娼婦のような舌遣いのせいで、思考がどんどん鈍くなっていく。息も上がる。
何度も、何度も、何度も。静かな部屋で、長い時間を。

俺の分身は、既に膨らみきっていた。





少女「ぷは……嬉しいなぁ。ちゃんと興奮してくれるんだ」

剣士「っ、ふ、はぁ……」

少女「なあ、少し聞いてくれるか」
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/19(土) 13:45:10.15 ID:UltopfNtO

少女「諦めろとは言ったけどさ」

少女「アタシも危ない時は、いろいろとクソじじい共に舐め回されたりしてさ。やっぱ嫌だったわけだけど」

少女「人ってさ、気持ち良いところに気持ち良いことされると、しょうがないじゃん。気持ち良くなるもんじゃん」

少女「身体は正直だな、とか言うけど、アタシそういうのマジ嫌いでさ。身体と気持ちはやっぱり別のもんだと思うんだよ」

剣士「……」

この身の事が脳裏をよぎる。
心はままならず、力は持て余している。

少女「だからさ」





少女「もし、本当に嫌だったら言って。綺麗な身体じゃないしさ……すぐ、楽にするから」

剣士「お前は優しいな」

少女「……」



少女「……///」



少女「お前、シラフでさらっと言うな! 余裕ないくせに」

剣士「分かった、お前の好きにして良い。あと、お前を汚いとは思っていない」

少女「……ありがとよ」



少女の指先から、光が奔る。
見覚えがあるような紋様を描いた時、俺は立ち上がり、その眼前に盛り上がりを突き付けた。

剣士「お前に好き放題されたい」

少女「……」

剣士「……」

いや、空気を読め。夢魔よ。
あと、素直になるマジックはやめろと言った。
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/19(土) 17:41:09.79 ID:UltopfNtO

体質なのかは知らんが、一気に少女の顔が紅潮する。

少女「おまっ……誘ったけどよ! 誘ったけど、そんな事考えてたのかよ!///」

剣士「割と早い段階からそうなる。可愛いお前にああもされれば、興奮するのは当たり前だ」

俺の口は留まるところを知らない。もういい。もう良いだろう。やめてくれ。
やめてくれよ……。



少女「かわ……!///」

剣士「ああ。もっと強引に犯してくるかと思ったら、あんなに焦らして、俺に許しまで請おうとする。だがそれがいい。」

少女「……」

もういい。もういいんだ俺。夢魔よ。もう十分辱めたろう。

剣士「さあ、もう先が濡れてるんだ。ひと思いにやってくれ」

少女「はいよ……」

少女が、半分覚めたような目でズボンに手をかける。




人間が、自分の思考や感情を抑圧するのは、とても怖い事に繋がるのだと知った。
あと、もう恥ずかしくて消えてしまいたい。




下着ごとズボンをおろされ、糸を引いた愚息が勢いよく飛び出る。

剣士「もう、殺してくれ……」

そして、最悪のタイミングで自我を返しやがった。

少女「あ、意識戻った? 大変だな、お前も……」
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/20(日) 04:46:35.64 ID:a5bDKInn0
ロリコンでMとかこの剣士救えない
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/20(日) 07:41:09.50 ID:9JNSP6xYo
剣士が可愛すぎて笑える
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2015/12/20(日) 16:23:41.28 ID:ddDKKc+0O
素晴らしすぎてくさ生える
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/20(日) 20:39:39.89 ID:i22MF0LC0
ここに来て剣士のイメージ崩壊。だが、それがいい。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/23(水) 20:25:21.46 ID:xNvvfe/hO

少女「ホントだ、もう垂れてら……へへ」

つるりとした先の方に、丸い雫が浮いている。
それを眺めるのは恋人でもなく婦人でもなく、俺を殺そうとした盗賊で、幼子であるというそのギャップ。
既に羞恥は通り越し、世間から堕ちていくような興奮をもたらした。



少女「……熱いな。手、冷たくねえか?」

剣士「っく、ぁ」

ついに触れた手が柔らかくて小さくて、それどころではない。
軽く添えられただけのはずなのに、長く刺激を求めていた幹に響く。






少女「こすってれば、あったかくなっかな」

剣士「あっ……!」

少女の手コキが始まった。
圧力は優しく、速度はゆるい。
感動と錯覚するような、じいんとした快感が全身に広がる。

このままでも、長く耐えられない。そう直感するのに十分な痺れ。



すっ、すっ、すっ。
しゅりしゅり。



剣士「く、くうっ」

こんな早漏ではない筈なのに……それ程までに、心身が深く絡め取られてしまったのか。




しゅっ、しゅっ、しゅっ……


少女「へへ♪ そうだよ。声、我慢すんなよ」

剣士「く、くそっ、悪魔め……!」

少女「……今はアタシがしてんの。悪魔さんの事はあとでな」


ぴと、にちゅ……。


親指が先端にかすり、音の変化に目を丸くする。
意地の悪そうな笑みを浮かべると、両手の親指でくりくりと塗りたくった。
驚くほどの気持ち良さに、勝手に身体が反応する。


少女「はは、すげー我慢汁。もう出てんじゃねーの?」

剣士「んなっ、わけあるか……!」

少女「そっか。じゃあ出せよ。」


甘く包む手が、そのまま二本に増えた。
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/23(水) 21:08:34.55 ID:xNvvfe/hO


くち、くち、くち。
にちゅにちゅ……


剣士「っ、あ、あ……」

少女「なあ、こんな時で悪いけどさ、聞いてくれないか。」

剣士「っ……?」



少女「アタシは、本気で敵わない奴なんて今までいなかったし、生きるためには優しい奴にも酷い事しなくちゃいけなかったし」

少女「嫌われるような事して、嫌われて生きてた」

少女「気に入った奴も、利用しなくちゃいけない。アタシから離れて行っちまう……だから、悲しい事なんか覚えてられないように、深く入れ込まないようにしてた」

少女「……だってさ、ガキだし! そんな上手く生きてけねえもん!」

少女「でもさ?」

少女「アタシをマジで打ち負かして、アタシの事を認めてくれて、それでただ許してくれた、お人好しな奴がいたんだよ」


少女「アタシはな。お前のことは忘れられそうにない。」


剣士「……!」

少女「お前もいつか行っちゃうだろうけどさ。アタシのこと、忘れないでくれ」



くちくちくちくち!



剣士「う、あ……!」

祈るような手が、俺が逃げてしまわないように優しく包む。

拙く悲しい生の紡ぐ、戯れじゃない手練手管。
俺がいってしまう前の、ただこの短い時のために。
そんな、ものを受けたら、俺は、俺は……!


少女「……おっけー、部屋汚すなよ。んちゅっ」

剣士「!? うっ、あ、あ……!!」



どくん!



あの口に吸い込まれると思った時、気持ちの良いものが弾けた。
今は、どこへもいかない。
そんな気持ちが愛おしそうに俺を吸う、少女の頭に手を添えていた。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/23(水) 21:53:47.48 ID:xNvvfe/hO

少女「んっ、んっ、んふ」

剣士「あ、はぁぁ……!」



どくん、どくん、どく、……



剣士「っ、吸われ……!!」

それは精神的な絶頂を迎えたと思った。
脈動に合わせ、ぷにぷにと吸い付く唇を見つめた時、たまらない快感が流れる肉体に意識がいった。

少女「んふふ、れるれる……♪」

剣士「っ!?」

少女「んちゅ、ちゅううう……」


どく、どく、どく、どく……


まだ絶頂する肉棒が、年端もいかぬ少女に翻弄される。
柔らかい粘膜が這い、長い長い気持ちの良い射精を味わわされる。





少女「ふっふふ。ごく、ごく」

剣士「っ、あ」

少女「ぷあっ。へへ……///」

嬉しそうな笑顔と、飲み干される大量の精液。


衝撃的な体験、倒錯的な快感。それは彼女の望み通り、嫌でも忘れられそうにはなかった。



……………………
…………
……
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/23(水) 22:32:59.91 ID:yBI7F0kC0
イイ…
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/23(水) 22:36:14.18 ID:PeUZb6FHo
>>178
うるせぇsageろks
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/23(水) 23:45:05.37 ID:xNvvfe/hO

かつて、勇者を取り巻く仲間には数多くの役職が存在した。
戦士や狩人、魔法を扱う者から神に仕える僧侶まで。
それぞれの道に精通し、到達した者だけが名乗り得る職業。

剣士「……」

しかし、男性として精通したものが、到達した際に賢者を名乗る事は、古今東西おなじみの事である。





少女「そんな落ち込んでメシ食うなよ、な? あんま気にしてないから、裸に鞭打たれてヒイヒイ言う奴もいるし、そんなのに比べれば全然」

剣士「そんなのと比べられる高さまで持ち上げないでくれないか……」

少女、淫行、絶頂。
己の罪状はこれだけでまとまる。
これから俺はお日様に顔を向けて生きていけるのか。



剣士「ごく、むぐ……」

温めてもらった粗製のスープを飲み、かなり硬いパンをかじる。
味わえる心境ではなく、あっという間に腹におさまった。

少女「んく、ごくっ……」
少女『ふっふふ。ごく、ごく』

剣士「……」



いや、口元を注視するな、俺!!!



剣士「あああ……!」

少女「……どうしたんだ頭振り乱して」

違う、これは違う。
俺はこんなに揺らぎやすい人間だったのか……?
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/24(木) 12:29:41.38 ID:atB4hdi2O

…………

少女「んじゃ、そっちのソファー使って良いから。おやすみ」

剣士「ああ……」

少女「これで許してくれるんだよな? ……オーライ、殺されるかと思ったぜ」

剣士「……」

正直、眠りたくない。
どんな仕置が待ち受けているのか、恐ろしい……。



少女「明かり消すな」

剣士「ああ……」

少女「……もう一発するか?」

剣士「!? もうしないぞッ!」

少女「たははは、冗談だって。明日よろしくな」


少女は眠りについたのか、ここには俺がひとり。
暗い部屋が、来るべき悪夢を予想させるようだ。



剣士「……zzz」



ただ疲れていたのは確からしく、身体はソファーに沈んでいった……。
182 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage ]:2016/01/01(金) 10:32:37.31 ID:p/04288SO
まだか
剣士はまだか
183 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/02(土) 17:10:07.31 ID:eS/Bq8yeO



夢魔「……お目覚めかしら」



夢に落ちると、そこはベッドの上だった。
ただそのベッドに果てはなく、薄く心地の良いシーツが延々と広がっている。

それをベッドと理解できるのは、傍らに座る存在のあるが故か。


剣士「あと5分……と言ったらどうする」

夢魔「貴方は、私を5分も我慢できる気でいるの?」

剣士「お前のする事で、時々歯止めの利かない激情に襲われる」

夢魔「あら、私は罪な女ね……」



柔らかい布に手を付き、起き上がる。
女豹か狼のように襲いかかろうとする使い魔が、赤い視線を向けていた。



夢魔「では、改めてこんばんは。ご主人様、何か言い残すことはあるかしら?」

剣士「弁明を。」

夢魔「それは聞いてあげない。大丈夫よ、別に取って食おうという話じゃないの」

剣士「……済まなかった」

夢魔「済んじゃったものね。まあ、私から言うことと言えば」





夢魔「この変態。」





剣士「…………」

これは、堪えるな……。
184 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/02(土) 17:39:14.88 ID:eS/Bq8yeO

夢魔「あの子を通して頂いた、あの濃厚な精液。最高に美味しかったわ、それはもう、腹立たしいほどに」

夢魔「このところ、口に苦い良薬ばかり飲まされてて舌が狂っていたかと思ってたけれど、安心したわよ」




夢魔「お陰で、その中身までハッキリと味わうことが出来たわ。はぁ……」




……何?
中身?

夢魔「良い? ご主人様」




夢魔「なんで私のキスより感極まって興奮してるのよ!!」




剣士「な、なんでそう言い切れる」

夢魔「分かるわよ味で!! 宿の娘ちゃんといい、貴方は小さい女の子なら何でも良いの!?」

剣士「!? それは誤解だ……!」

夢魔「なら、ああやって身体を売ってる女に興奮する性癖なのかしら!? 変態じゃない!!」

剣士「売女が好きとも売女が嫌いとも言っていない!」

夢魔「それは幼女ならどっちでも良いってことでしょう!? この変態、変態!!」

剣士「一言も言っていない!!」



……………………
…………
……


夢魔は初め、男に媚ぶのは嫌だとは言っていた。

ただ、女は女だったらしい。

女は、分からない。



そんな感想が、ヒステリックな問答の間に木霊していた……。
185 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/02(土) 17:53:12.80 ID:DCnmjuVDO
これはwwww
186 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/02(土) 21:01:44.54 ID:+SgucArS0
夢魔かわいい
187 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage ]:2016/01/02(土) 21:07:31.27 ID:uhEkaymL0
夢魔の嫉妬てらかわ
188 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/03(日) 10:11:34.09 ID:LZ0x2VJho
あらあらwwwwww
189 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/06(水) 11:51:30.94 ID:loCTq9bqO



剣士「……」

夢魔「……」



背中と合わせた筋肉が、揺れる羽に合わせてピクピクと動いている。
横でシーツを叩く尻尾もペチペチペチ……と、どこか落ち着きがない。


ひとしきり言いたい事を吐き出したあとで、しおらしくされても困るのだが。


剣士「夢魔よ」

夢魔「……何よ」

剣士「あまり気取るな」

夢魔「どういう意味かしら」

剣士「先ほどのように、自分の思った事は言った方が良い」



……ペチペチ。



夢魔「……」

剣士「口調も、砕けていた方が良いだろう。そのように見える」

夢魔「貴方に言われたくないわ」

剣士「俺は元よりこうだ。すまない」

夢魔「……あのねえ!」




夢魔「寂しかったの!!」




壁に返らない無限の世界に、彼女は鳴く。
俺は驚いてる事を自覚し、しかし胸の中にあるよく分からないものを持て余していた。

剣士「…….悪かった」

夢魔「もう言わないからね」

剣士「夢魔」

自然と肩に手が伸びる。振り向き、振り向かせ、押し倒す。
開く瞳孔、はためく長髪、開いた唇。



夢魔「な、何あなたっ、んっ……!」



可愛いと思う事に、説明は要らない。
190 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/06(水) 12:11:28.33 ID:gEPrkdrG0
うっひょおおおおおおおおおおおおお
191 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/06(水) 12:23:21.49 ID:loCTq9bqO


夢魔「ん、んぅ……!?」

魅せられてても良い。
狂ってても良い。
堕ちていっても良い。

夢魔「ん、んんっ、んちゅ」

可愛い。

夢魔「ちゅ、ちゅう……」

可愛い。

夢魔「ふあ、んんっ……」

ああ、可愛い……。

夢魔「ちゅぷ、あふ……♪」


あと、不味くてすまない。

夢魔「……んう。ぷは」




ぬるついた舌を抜くとき、びりりと気持ち良い。
赤い頬と、不満そうな顔が、また火を付けてしまいそうだ。


夢魔「……少し、癖はあるけど。今の、美味しかったから」

剣士「夢魔」

再び、襲いかかろうという俺の身を制す。

夢魔「あ、あの、お腹いっぱい、もう」

剣士「……そうか」

夢魔「露骨に残念そうにしないの……」

夢魔「余計なこと考えないで、またさっきみたいなご飯を、ご飯が、欲しいな」



夢魔「……///」



この、胸に宿るよく分からないものは何だろうか。
遠い昔に、自分が凍らせてしまったものが、ほんの少し融けたような。

剣士「……」

言葉にするのは難しいので、掻き抱いた。
192 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/06(水) 12:30:26.13 ID:m9uUr1eMo
うひょう!
193 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします :2016/01/06(水) 12:34:37.13 ID:MaqZp2e50
えんだあ?
194 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/06(水) 13:02:32.85 ID:9IEtbqYWo
いやぁ?
195 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/06(水) 16:15:41.70 ID:loCTq9bqO

…………

剣士「zzz」

夢魔「別に、お気に入りなのは公言しちゃった事だもの。今更」

夢魔「……///」



夢魔「でも、ね……私、サキュバスだし」

夢魔「私の気持ちも、彼の寵愛も」

夢魔「…………。明日、空いた時間に文献でも漁ろうかしら。いや、明日はご主人様のサポートに回らなくちゃ」





夢魔「そんな、疲れること考えるもんじゃないわね。お休みなさい、貴方様」
196 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage ]:2016/01/07(木) 16:54:36.67 ID:kKwJQQf90
この世界では一夫多妻はありならいいなぁ
197 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/08(金) 09:22:43.05 ID:3j3O9G23O

……………………
…………
……


剣士「……」

少女「よう、起きてたのか」



夢魔「ほら、挨拶くらい返したら?」

あ、ああ。



剣士「……ああ、おはよう」


少女は薄暗い部屋の中で荷物をまとめ、服の中に何やらガサガサと仕込んでいた。
陽が半分顔を出した頃のことである。





少女「飯、そこのパン。支度できたらいこーぜ」

剣士「すまない、いただく」

少女「へへ、昨晩は楽しかったか?」

剣士「楽しくなかった、ということは、ないな……」

少女「へぇ〜?」




夢魔「何言ってるのよ……」

どう返せと……。




剣士「ご馳走様」

少女「うい。準備は出来てるか?」

愛用の剣を抜く。
油は薄く伸ばしてあり、刃も異常ない。

剣士「ああ」





少女「じゃ、行こうか。」

ああ。

夢魔「ええ。」
198 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/08(金) 12:59:36.80 ID:3j3O9G23O



剣士「しかし、ギャングという実態の薄いものをどう潰すつもりだ」

少女「実態がどーちゃらと言われても分かんねーけど、隠し事の多いやつらだから口は固いだろうなあ」




秘密主義の強い組織なら、揺すろうとそう壊れる事はない。

夢魔「そうね。舐めてかからない方が良いと思うわ」

当然だ、緊張すらしている。
無法者の集まりに見えて、その手の輩は異様なほど人を束ねる事に長けているものだ。

夢魔「まあ……私もおんぶに抱っこじゃ困るだろうし、期待してても良いわよ?」

俺の身体を使う時は言え。了解したら明け渡してやる。




少女「さて、あそこに見える商社が元締めなんだけど」



大きな倉庫と合わさったような、高い建物が見える。卸売業でも手掛けているのだろうか。



剣士「ああ。策はあるか」

少女「アタシ、お前のことは本当に信じるからな」

剣士「策は無いんだな」

少女「へへ」

剣士「まったく……飾った言葉はあとで聞いてやるから、誤魔化すものではない」





正面からズカズカと門に近付いていく少女。

少女「〜〜〜〜〜」

当然門番に止められるが、何やら見せると舌打ちをしながら道を譲る。

少女「おい、お前も来いよ」

剣士「あ、ああ。良いのか?」

少女「偉くはないけど元構成員だからな。門番くらいじゃアタシが末端で寝返った事なんて知らねーだろ」

199 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/08(金) 13:22:38.70 ID:3j3O9G23O




少女「さって、ここらで受付なんだけど……覚悟は良いか?」




剣士「構わんが、二手に分かれるのは御免こうむる。道案内は欲しい」

少女「離れたら先にアタシが殺られるわ。よろしく頼むよ……!!」



懐から白い塊を取り出し、少女は前方に投げ付ける。
塊は煙を噴き出し、建物の玄関を覆う!



少女「煙幕と神経毒のハイブリッドさ! ねーちゃん、代わんな!」

マスクを着用した少女が煙に突っ込む。
建物内には既に声が沸き始めている……!

剣士「早速か……夢魔!」

OK、頼りにしてくれるわねぇ。



……っ!
魔剣士「っ、接続完了よ。貴方の期待に応えてあげる」



タッタッタッタ……!

魔剣士「煙の量が多いわね」

少女「ねーちゃん、こっちだ!」

少女はナイフを抜き、カウンターに迫る。



少女「『ホウレンソウ』は素早くやるもんだ。グッバイ」

受付嬢「っ!?」



少女は肩の上に飛び掛かり、喉と頸動脈の二箇所を素早く突き刺した。

少女「ビビんな! ズラかるぞ!」

本当に、殺しに躊躇はないのね……。

剣士「眺めるのは後だ、追え!!」
200 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/08(金) 13:34:51.98 ID:3j3O9G23O


キャアアア!!
おい、敵襲!敵襲だ!!
くそっ、頭が痛ぇ……!




魔剣士「この煙は沈む?浮かぶ?」

少女「沈むはずだ。地下の奴らも牽制できるだろ」





通したら親父に殺される!


剣士「……殺気」


クソ野郎がッ!!


剣士「夢魔、伏せろ!!」

魔剣士「っ、少女ちゃん!!」


ガバッ!!
ダァン!!


少女「ってぇ、何すんだ」

魔剣士「撃たれるところだったわよ!」

剣士「怯むな、右だ!!」

魔剣士「クッ、右よ……!」

ダァン!!

少女「痛って!? ……くうっ、この野郎!」



少女は横腹を押さえながら、持っていたナイフを水平に投擲する。
視界の悪い中、回転するそれは見事胸元に突き刺さった。



魔剣士「撃たれた!?」

少女「大事ねぇ!! 来い、上だ!!」
201 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/12(火) 16:49:46.09 ID:dQmgm0kUO

煙の海を逃げ出すように階を上がり、少女はその踊り場でへたり込んだ。


魔剣士「少女ちゃん」

少女「大事ねえって言ったろ。……痛いけど、深くねえ」

抑えていた手の指からは、既に血が溢れ始めている。

剣士「バカを言うな、これは浅いわけがない。臓を抉られているはずだ」

魔剣士「少女ちゃん、無理は絶対に駄目よ」

少女「処置の用意くらいしてるに決まってんだろ? っと、いてて……」



マスター。

剣士「どうした?」

少女ちゃんを撃ち抜いたあの野郎、どう思うかしら?

剣士「……俺の考えが甘かった」

違うのよ、そうじゃなくて!
もっとこう、正直に言いたい事があるでしょう?

剣士「撃つなら……俺の身体にすればよかったものを」

そうじゃなくて、マスター。
もっと正直に、ねえ。
負の感情は、抑えつけちゃいけない……生き物には必ず、必要なものよ。



少女『嫌われるような事して、嫌われて生きてた』
少女『……だってさ、ガキだし! そんな上手く生きてけねえもん!』
少女『アタシはな。お前のことは忘れられそうにない。』



剣士「よくも少女を――」

自分の中にある、恐れていた力が灯ってしまう。
恨み、怒り、恨み、悔しさ、怒り、怒り怒り怒り。
っ、思いの外に強い。抑え付けなければ……!


魔剣士「協力ありがとう、マスター。喪われゆく生命よ、命の力よ……!」

しかし、にっこりと笑った俺は掌を少女にかざし、暴れ出る力をその腹部に向けた。

少女「う、くっ?」
剣士「これは……!?」

魔剣士「癒しの力よ。今、代謝に力を加えて炎症を抑えたわ。こう見えても私、魔法使いの弟子なのよ?」



少女の傷は塞がるに至らないが、血はすぐに止まり、顔色を見るに痛みも緩和されていると見える。
暴れかけていた俺の激情も薄れていく……なんとも、頼もしい悪魔だ。



剣士「成る程、俺から力を引き出したかったのだな」

勘違いしないでマスター、貴方の強い力を魔力に変えられるのは、起因する負の感情を私が把握できる時だけ。

剣士「それはどういう事だ?」

平たく言うとね。私も、ムカついたからよ。

剣士「そ、そうか……」

協力、というよりは、共感してくれてありがとう。
ふふっ、こうしてふたりで寄り添える限り、この力は貴方のものよ。



少女「なんか、すげーし分からねーけど……ありがとな、ねーちゃん!」

魔剣士「あら、どう致しまして。さてマスター、私の出番は終わりよ」

分かった……!
202 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/12(火) 17:03:32.03 ID:Gl0CJRFRO
良い二人だな
203 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/13(水) 10:08:12.20 ID:VnB5L5qhO



夢魔「っ……消耗するわね」

っ……平気か。

夢魔「そうね、ふふっ。今夜は楽しみにしてる」



剣士「待たせたな、行くぞ」

少女「おっけー、アンタから頼む」

剣士「分かった……追っ手はどうする」

少女「ほいっと」

少女は白い塊をもうひとつ階下に投げ込む。
階下の人間は更に悲鳴を上げ、ドタバタと離れていったようだ。



剣士「2つあったのか……」

少女「今のは玉ねぎ爆弾さ。嗅ぐなよ、ねーちゃんでも鼻痛くなるから」

マスクを取り去り、気合を入れ直したように後ろを付いてくる。

少女「こっから上にいる人間はクズばかりさ。殺っちまえ」

剣士「……お前がその許可を下しても困る」

少女「まあ、気兼ねなくやってくれって事だよ」

剣士「なら、俺からは手を下そう」



「出たぞ、ってー!!」「うらうらうらうら」「蜂の巣だっちょお!!」



最後の段を登り切り、すぐ近くのテーブルを蹴飛ばす。
宙に浮いた木の机に風穴がいくつも開いた。
204 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/13(水) 10:12:12.10 ID:VnB5L5qhO


少女「チッ……!」

剣士「金を」

剣士「よこせええええ!!!」

羨望、嫉妬、財欲。
いや、そんなに執着があるわけではないのだが……確かに、小さく自分にある事を認め、制御できる力を振るう。

贅沢な身体しやがって……。

「ぷげぇ!?」

突き出した拳が机を突き破り、そのままふとましい男の頬を張り飛ばす。


ダダダダ……!


剣士「おっと撃つなら肉を撃つんだな」
「ひ、ひいっ」

「く、くそ」「アニキィ!」




少女「当てられない銃なんか持つんじゃねえよ」

ダァン、ダァン!!


「がっ……」「ぐあっ!」


少女の銃撃がそれぞれの拳銃を撃ち落とす。

剣士「悪くない」

少女「えー、ちゃんと褒めてくれよ」

間合いの長い獲物で固まって戦う理由が俺には分からない……お陰で、一振りで足りそうだ。


ズバン!!


剣の速さも長さも悟らせはしない。
居合の線上に首が2つ舞った。

「よ、よくもボクのぶきゃを……!」

少女「後ろだよおじちゃん」



ダァン!!
205 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/14(木) 10:24:01.63 ID:b/QoVJomO

……。


剣士「……ふん」
少女「ほれ、こっちこっち!」



ギャアアア!!!
ごは、ああっ……。
へ? あ、あ、ああー!


夢魔「………………」



夢魔(頑張ってくれている2人には悪いけれど)

彼の中に眠る使い魔は、主人の目を通して伝わる惨劇に口を押さえていた。
首も瞳もままならぬ、彼と添い遂げるに決して目を逸らせない光景が流れ込み、聴覚から伝わる断末魔が頭をおかしくする。

夢魔(吐き気が……)


慣れたつもりでも、身体と心は拒絶反応を起こす……それは生き物としての本能か、過去の傷跡か。


彼が生き物を殺す様子は何度か見ている。だがそこに負の感情がぶつけられている事が、恐怖を与えるのかもしれない。





夢魔(……集中。魔法陣を書き足して、接続を強固に……)
206 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/14(木) 10:43:17.81 ID:b/QoVJomO



屍と荷物の散らかった3階を突破し、4階へ。
金細工のされた仰々しいドアノブに手をかける。



剣士「……。鍵か」

少女「いや、アタシは分からねーぞ?」

剣士「下がっていろ」




剣士「おおおおッ!!」




バキィ!!

剣士「……破れんとは」

剣の柄で挑んでみたが、手応えはない。
今、何か憎むような、負の感情を呼び起こせることがあるだろうか……。

夢魔「この変態。」

剣士「ぬおおおおおおァ!!!」



バキャア!!!
もうもう……。



素直になるマジックのくだりは、指折りの屈辱である。

夢魔「あら、いい火力ねえ」

覚えていろ……。








?「……おいおい、ご挨拶だなァ」

誇りと木屑の中から姿を現したのは、スーツに身を包んだ男だった。
203.70 KB Speed:0   VIP Service SS速報R 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)