男「川で全裸のエルフ拾った

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46 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 02:02:06.14 ID:DNNueUGuO
早漏は嫌われるぞ
47 :>>30の訂正 [saga]:2016/08/05(金) 02:24:28.30 ID:0/G1P+FM0
 男 「と、とにかく吐き出せ!な?吐き出せ!!」

エルフ「そんな、吐き出すなんてとんでもありません!」

 男 「……はい?」

弓使い「ええ、その通りです。こんなに甘くて美味しいなんて……」

エルフ「今まで私たちが食べてきたリンゴは何だったの……?」

弓使い「リンゴは酸っぱさと瑞々しさを楽しむものだと思ってたのに…… 甘い、本当に甘い!」

 男 「よ、喜んでいただけたようで何より……」

エルフ「こんなに甘いリンゴがあるなんて…… あむっ!」

弓使い「ん〜〜!」

 男 (この子の笑顔なんて初めて見たよ……)

弓使い「…………」

 男 「……な、なんだ?」

 男 (物珍しげに見てたのが気に障ったか?)

弓使い「……あの」

 男 「はい、なんでしょう?」
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 02:25:37.10 ID:0/G1P+FM0
 男 「――――で、またその丸薬だけ?」

エルフ「ええ」

弓使い「お構いなく」

 男 (……お構いなく、なんてよく知ってるよな。人間の言葉ン中でも微妙な部類だと思うんだが)

 男 「……ま、これも食べなよ、っと」

エルフ「わっ、ちょ、ちょっと!」

弓使い「急に物を投げないでください…… あら?」

エルフ「リンゴ……」

弓使い「まだ残ってたんですか?」

 男 「……安かったから、つい買い占めちまった」

エルフ「……いただいてもいいんですか?」

 男 「どうぞどうぞ」

エルフ「ありがとうございます!」

弓使い「……ありがとうございます」

 男 「レムルストゥニ」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 02:28:40.23 ID:0/G1P+FM0
 男 「――――っと、腹も膨れた所で出発するとしようか」

弓使い「そうですね、あまりのんびりとしているわけにもいきません」

 男 「そういや西に向かうとは言ってたが、西の森ってのはどの辺りのことだ?」

エルフ「え?」

 男 「実は西に向かうとしか聞いていない」

弓使い「ああ、そういえば言ってませんでしたね」

エルフ「ワリャリャシアに行くんです」

 男 「なに?わりゃりゃ?」

エルフ「えっと…… ごめんなさい、人間の国の地名とかはよく知らないんです」

弓使い「次から次へと新しい国が出てきては滅びて出てきては滅びての繰り返しですから」

 男 「う〜ん、地図でなら分かるか?ほら」

エルフ「ありがとうございます。えーっと……」

弓使い「ここ、ですね」

 男 「やっぱり隣の国か……」

弓使い「何か問題が?」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 02:30:35.87 ID:0/G1P+FM0
 男 「ああ」

エルフ「お隣とは仲がお悪いとか?」

 男 「仲は…… 悪いかな?」

エルフ「そうですか」

弓使い「しかし仲が悪いだけが理由ではないでしょう?その隣国へ行くことは禁じられているのですか?それ以前に国を出てはならないとか」

 男 「いや、国王はそういうのを固く取り締まるような人じゃない」

弓使い「……この国の王について何か知っておいでのようですが」

 男 「国王は奴隷の出だからな。人を縛るのも人に縛られるのも嫌いなんだよ」

エルフ「それじゃあ…… お隣に問題があるってことですか」

弓使い「そういえば昨日の女性も最近隣国が物騒だと」

 男 「隣国は今治安が悪いらしくてな…… 物取りや野盗が増えているらしい」

弓使い「今は、ということは、元々治安はよかったのですか?」

 男 「ああ、何年か前まではな。まぁ、貴族だ賤民だのくだらないことにこだわる連中の多いいけ好かない国だが」

エルフ「何かあったんですか?」

 男 「飢饉が起きたそうだ。その後も不作やら何やらで国の蓄えがあまり無いらしい」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 02:32:45.03 ID:0/G1P+FM0
エルフ「それで困った人たちが野盗になったりしていると……」

 男 「噂じゃ他国に攻め込んで物資を奪おうと企んでいるとか」

エルフ「あまりよろしくないお国ですね」

 男 「だな。そもそもこの国の革命の混乱に乗じて領地を拡大せんとしていたって噂もあるような国さ」

エルフ「そうなんですか」

 男 「もっとも革命は一ヶ月もしないうちに成功して混乱もすぐに治まったから首を突っ込む隙なんてなかったが」

弓使い「……やはり人間は争いをやめることはできないのですね」

 男 「そうじゃないと思いたいがねぇ……」

弓使い「思うだけなら簡単ですよ」

 男 「……とにかく君らの言うまで行くのはちと骨が折れるかもしれない」

弓使い「……骨が折れようと、西の森の調査は私たちにとって急務です」

エルフ「行くしかないんです……!」

 男 「ですよなー…… 少し遠回りになるが山から国境を越えるルートで行く」

エルフ「そのまま関所を通るのは難しいですよね」

弓使い「難しいどころの話じゃないわよ」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 02:34:46.35 ID:0/G1P+FM0
 男 「まぁ、確か守備隊にはニヤケ面がいるっていうからソイツに話せば通れるかもだが念には念をだ。それに……」

エルフ「それに……?」

 男 「関所を通れば野盗共に『新鮮な獲物が入りましたよー』って教えるようなもんだからな」

エルフ「そんな、関所というからには向こうの国にも番兵がいるんでしょう?」

 男 「いるだろうけど、今のあっちの国の台所事情を聞く限りじゃ野党と裏でつながっておこぼれをもらってる可能性もある。関所はマズいだろう」

弓使い「それで密入国というわけですか」

 男 「君たちがエルフって時点である種の密入国状態だけどな」

エルフ「あはは…… そですね」

弓使い「しょうがないじゃないですか。関所なんて通れるはずもありませんから」

 男 「まぁ、うちの国はその辺も割と寛容だから周辺国から亡命してくる人も多い。その中に金持ちが多かったってのも野盗が増えた理由かもな」

弓使い「国を捨てた人間、国を超えてきた人間諸共に襲っているということですか」

 男 「ああ、だからできる限り野盗に俺たちが侵入したことがバレないようにしたいんだ……」

弓使い「了解しました。では、そろそろここを発ちましょう」

エルフ「あの、ちなみにニヤケヅラって?」

 男 「昔からの知り合い」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 02:36:44.05 ID:0/G1P+FM0
―――――
―――


 男 「っと…… そろそろお昼時だけどどこか影のところで飯も兼ねて休むかい?」

エルフ「オヒルドキ……?ああ、お昼のご飯の時間ですね」

 男 「あー…… もしかしてエルフって一日二食?」

弓使い「ええ、朝夕の二回だけですね」

 男 「そっかー、昨日も食べてなかったしやっぱりそうなんだ。喰い損ねたわけじゃないのね」

エルフ「えーっと、人間は一日三食なんですか?」

 男 「普通の人はね」

エルフ「それなら私たちは気にせず食べちゃってください。生活のリズムはなるべく崩さない方がいいですから」

 男 「うわー、耳が痛いわー」

弓使い「つまり、不規則な生活をしていらっしゃると」

 男 「今の生業が猟師なもんでね。飯も食わずに駆けずり回ったりとかしてまして……」

弓使い「獲物…… 動物を追いかけているのですか?」

 男 「あー、うん…… すまん」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 02:37:49.63 ID:0/G1P+FM0
弓使い「別に謝っていただく必要はありません。それが人間の食文化なのでしょう?」

 男 「いや、でも嫌な思いさせちまったわけだし……」

弓使い「ですから……」

エルフ「も、もうその話はいいですから!私たちのことはお気になさらず人間さんはご飯食べちゃってください」

 男 「ありがとね。でも、君らが食べないんなら俺も食べない」

エルフ「でも……」

 男 「いや、食料も大量にあるわけじゃなし節約しないとな。ま、いざとなりゃ一日一食でも十分すぎるくらいだしね」

弓使い「一日一食で十分、は言い過ぎではありませんか?」

 男 「いやいや、昔は一日に一食が基本だったからそういうのには慣れてるんだ」

弓使い「昔は、ですか。一体どんな生活をされていたんですか?」

エルフ「あ、私も聞きたいです」

 男 「楽しくもない話だ、忘れてくれ」

エルフ「え?でも……」

 男 「気が滅入る話だから、またいずれな」

弓使い「……わかりました」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 02:40:14.75 ID:0/G1P+FM0
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―――


 男 「……今夜はここで野宿だな」

弓使い「そうですね、もうすぐ日も落ちます」

エルフ「今日はどれくらい進んだんでしょうか?」

 男 「地図で言うとこの辺りかな?で、ここが昨日野宿した場所」

エルフ「ぜ、全然進んでない……」

弓使い「そうね…… もっと速さを上げられますか?」

 男 「俺は日頃歩き回ってるから大丈夫だけど問題は君らだ。いけるか?」

弓使い「私は大丈夫です」

エルフ「もっと速くかぁ……」

弓使い「……いけるわよね?」

エルフ「なにをおっしゃいますやら! ……いけますとも」

弓使い「だったらちゃんとこっち見なさい」

 男 「まぁ、無理はしない程度に進行速度を上げるということで」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 02:42:31.31 ID:0/G1P+FM0
 男 「それじゃ、寝床づくりと火の準備を……」

弓使い「寝床は私たちでやります。貴方は火起こしを」

 男 「了解だ」

エルフ「それにしても地面が整ってることが多いですよね。小石とか枝とかもあんまり落ちてないですし」

弓使い「街道沿いだからでしょ?さっきこの人間が言っていたようにこの街道を多くの旅人や商人が行き交うみたいだから」

 男 「そゆことそゆこと」

エルフ「へー、ありがたいことですね。手間が省けますし」

弓使い「今までは寝床を作るだけでもひと苦労だったしね」

 男 「まぁ、人目につかないってことは人が通らない場所ってことだし、その辺はしょうがないところだろ」

エルフ「そうなんですよ…… あーあ、ずっとこんな感じが続けばいいのに」

弓使い「無駄口叩いてないで手を動かしなさい」

エルフ「はーい……」

 男 (種族は違えど似てるところは結構あるんだな……)

弓使い「火はどうなっていますか?」

 男 「まだだよ」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 02:45:09.62 ID:0/G1P+FM0
―――
――


 男 「……さてと」

エルフ「……すぅ」

弓使い「すぅ……」

 男 (起こすのはかわいそうかな…… だが、今後のことを考えれば消耗はできる限り抑えたい)

弓使い「んぅ…… んんっ!」

 男 「お、起きた」

弓使い「……旅が始まってからこの睡眠時間が身に染みてきていますので」

 男 「慣れか」

弓使い「慣れですね」

 男 「ちなみにこっちの子は?」

エルフ「スヤァ…」

弓使い「慣れてませんね。おかげでこちらが難儀します」

 男 「だろうな。じゃ、悪いけどおやすみ――――」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 02:47:37.90 ID:0/G1P+FM0
―――――
―――


弓使い「…………」

 男 「――――誰だ!?」
 
弓使い「っと、お目覚めのようですね」

 男 「……って、そうだ。君らと旅してたんだ」

弓使い「刃物はしまっておいてくださいね」

 男 「申し訳ない……」

弓使い「いえ、いざというときには即座に対応していただけそうではあるとわかりましたので」

エルフ「むにゃ……」

弓使い「貴女は早く起きな、さいっ!」

エルフ「うにゃっ!?」

 男 「おーう、過激ぃ」

弓使い「はい?」

 男 「イイエナンデモアリマセン」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 02:50:12.44 ID:0/G1P+FM0
―――
――


 男 「さて、今日はこの先にある町に寄って行くとしようか」

弓使い「……昨日の話をもうお忘れですか?」

 男 「いや、でも君らが寝てる時に使ってる毛布もうボロボロだろ?新しいのにしないと……」

弓使い「まぁ、それは確かに…… ですが」

 男 「金の心配なら要らないぜ?使い道なかったからぼちぼち貯まってるんだ」

弓使い「しかし、あまりご迷惑をおかけするわけにはいきません」

 男 「だったらこの旅が終わった時に必要経費とか請求するよ。それでいいだろ?」

弓使い「……言い方が悪かったでしょうか?うまく伝わっていないようですね」

 男 「うん?」

弓使い「恩の押し売りをされたくないと言っているのです」

エルフ「ちょっ、ちょっと!」

 男 「……そういうつもりじゃなかったんだけどな」

弓使い「貴方は私たちのことを知ってしまった。本来なら口封じをするところでしたが、その代わりとして旅に同行させているのです」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 02:52:18.55 ID:0/G1P+FM0
 男 「そうだな」

弓使い「ですから、貴方は私たちの旅を滞りなく進めることだけをしていただければ結構です」

 男 「馴れ合いは必要ない、と?」

弓使い「そういうことです」

 男 「なるほど、じゃあ町に着いたら絶対買い物するぞ」

弓使い「……はい?」

 男 「君らの使ってる毛布はボロボロになるまで使い込んでて不衛生だ。そんなもんいつまでも使ってたら健康を害する可能性が高い」

弓使い「はい?」

 男 「旅を滞りなく終わらせることだけを考えろって言ったよな?今言ったことは円滑な旅の妨げになる。買い物するぞ」

弓使い「そんな屁理屈捏ねないでください!」

 男 「滞りなくーって言ったのはそっちだろうが!それに昔世話になったエルフには何一つ恩返しできなかったんだ、その代わりだと思って受け取ってくれよ!」

弓使い「……わかりました。頑固な人間ですね、貴方」

 男 「君も大概意地っ張りだよな」

エルフ「えーと、街で買い物するってことでいいんですよね?でも、それってそもそも人目に晒されて危ないんじゃ……」

 男 ・弓使い「「あ」」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 02:54:09.11 ID:0/G1P+FM0
―――――
―――


エルフ「……人がたくさんいますねぇ」

弓使い「看板曰く<最西端の町>ですか」

 男 「文字通り最先端の町だ。こっから国境までは村とか集落ばっかりになる」

弓使い「……だからここで必要なものを買い揃えていくべきだ、と」

 男 「そゆことよ」

エルフ「……ばれないでしょうか?」

 男 「大丈夫だよ。国境いから一番近い町だけあっていろんな奴がいるし」

 男 (……まぁ、この国の中なら最悪バレてもなんとかなる気もするが。東の国も大丈夫かな?)

弓使い「……滞りなくどころか旅はあえなく失敗、なんてちっとも笑えませんよ?」

 男 「大丈夫だって。これくらいは『滞りなく』の許容範囲だよ」

弓使い「そういうことにしておきます」

エルフ「それじゃあお願いしますね」

 男 「おう、まずは布を扱ってるところだな」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 02:56:58.96 ID:0/G1P+FM0
―――
――


 男 「――――毛布はこれでいいかな?質実剛健、但し遊び心は一欠けらもない」

エルフ「丈夫そうですね」

弓使い「機能性の方が重要ですので、これで構いません」

 男 「よし、じゃあコイツを2枚お買い上げっと」

エルフ「……羊の毛ですよね、これ?」

弓使い「凄い……」

 男 「……何が?」

エルフ「1枚編むのも結構時間かかるんですが、それをこれだけの数用意してるなんて……」

 男 「確か紡績機とかいうものが出来て、それのおかげで生産効率が向上したとか聞いてる」

弓使い「ボウセキキ……?」

エルフ「聞いたことないです。どういうものなんです?」

 男 「よくわかんないけどそれが結構便利らしくて服なんかもほら、いっぱいある」

エルフ「わぁー……」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 02:58:58.35 ID:0/G1P+FM0
弓使い「ボウセキキ…… どんなものなのか気になりますね」

 男 「あと、足踏織機なんてのもあったかな?」

エルフ「アシブミオリキ?何を足で踏むんですか、それ?」

 男 「えーと、紡績機が糸をつくるやつで…… 足踏織機は布をつくるんだっけか?」

弓使い「私に聞かないでください」

 男 「じゃあ店主に聞く?」

弓使い「不要です。人間との接触は必要に迫られたときだけにしたいので」

 男 「うーい」

エルフ「それにしてもすごいですね…… 凝った柄物なんて早くても三月に1枚しかできないのに」

弓使い「私もそう思う。人間の技術はすごいわね……」

エルフ「……ねぇ、あっちの方も見に行きません?」

 男 「俺は別にかまわないけど?」

弓使い「……貴女も昨日の話を忘れたの?遅れを少しでも取り戻さなくちゃいけないの」

エルフ「でも、折角だし……」

弓使い「貴女ねぇ……」
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:01:07.81 ID:0/G1P+FM0
 男 「……先、急ごうか?」

弓使い「はい、行きましょう」

エルフ「ちょ、ちょっと!ちょっとだけだから!!」

弓使い「くどいわよ」

エルフ「でもほら!服は私たちが着るだけじゃなくて里に持って帰ってからも使えるでしょ?」

弓使い「……それはそうだけど」

エルフ「それにこれ見てよ!なんかフリフリしててかわいいじゃない!あとこっちも!」

弓使い「う……」

エルフ「ね、少しだけ。少し見ていくだけだから」

弓使い「…………」

 男 (あー、呆れて声も出ないと)

エルフ「……やっぱりダメ?」

弓使い「……少しだけよ」

 男 (折れるんかーい)

エルフ「ありがと!」
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:03:36.24 ID:0/G1P+FM0
―――
――


エルフ「ああ、これもかわいい!里にはこんな飾りがついたのなんてないし、着てみたいな〜」

弓使い「あまりはしゃがないでよ?」

 男 「大丈夫だよ。ここなら女の子が騒いでても不思議じゃないし」

弓使い「はい?」

 男 「ほら、あそことか」

エルフ「あそこですか?」

幼 女「あ、これかわいいー!」

少 女「でもこれアンタにはまだ早いわね」

幼 女「えー!」

少 女「アンタにはこっちの方が似合うわよ」

幼 女「えー!子供っぽいからヤダ!!」

少 女「まだ子供のくせに何言ってんのよ」

弓使い「……そうみたいですね」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:05:25.79 ID:0/G1P+FM0
―――
――


 男 (――――何で知ったんだっけ?女は服選びに時間をアホほどかけるって)

エルフ「これなんか似合うんじゃない?」

弓使い「デザインはいいけど旅には不向きだと思うわ」

エルフ「じゃーあ…… これ!」

弓使い「……それはちょっと、派手っていうか」

エルフ「じゃあどんなのがいいのよ」

弓使い「そうね…… これとか」

エルフ「あ、これもかわいい〜!でもでも!貴女にはもっとこうあったかい色の方が似合うって!」

弓使い「そ、そう?私は合わないと思うけど……」

エルフ「じゃあ、聞いてみましょうか。ねぇ、この子にはどっちが似合うと思います?」

弓使い「ちょ、ちょっと!」

 男 「おれ?そうだな、俺もあったかい色の方が似合うと思うよ」

エルフ「ほらみてみなさーい!」
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:06:39.33 ID:0/G1P+FM0
 男 (しかしペースを上げようって言ったのは誰なんだって話だよ……)

エルフ「あのー」

 男 (っと、服選びに付き合うときは笑顔で苛立ちを見せちゃいけないんだっけか)
 
 男 「なに?」
 
エルフ「この下着と同じところにあったこの布地の少ないものは何でしょう?」

 男 「おうふ」
 
エルフ「はい?」

 男 「あー、うん、それねぇ…… 俺に聞く?」
 
弓使い「貴方以外に誰に聞けと?」

 男 「ですよなー…… 周りに誰もいないな?」

エルフ「はい、いらっしゃいませんけど」

 男 「それは…… うん、それは女性限定の服で、コルスレ・ゴルジェと言いまして」

弓使い「初耳ですね。用途は?外見を飾りたてるための物でしょうか?」

 男 「違います。ほら、あれだ、服の下に着ける奴で、胸を…… こう形よく見せるためだとか垂れないようにするだとか」
 
エルフ「……へ?」
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:08:27.43 ID:0/G1P+FM0
 男 「輪の部分に腕を通して、面積の広い部分を胸に当てて…… なんつーことを口走ってるんでしょうかね」
 
エルフ「あ、はい……」

弓使い「な、なるほど…… そういうものですか」

 男 「君らの文化にはなかったもんなのね」

弓使い「……使ってみる?」

エルフ「そうね、そうしましょう」

 男 「えーと、人によって大きさが違うらしいよ?」

弓使い「……なんですって?」

 男 「いや、その、胸…… の大きさによって着けるべき大きさが」

弓使い「どこを見て仰っておられますか?」

エルフ「じゃあ、着回しできないんですね」

弓使い「ちょっと待って、少し聞き捨てならない」

エルフ「しょうがない、これはやめておきましょう」

弓使い「ねぇ、ちょっと」

 男 (……サラシみたいなもんはエルフにもあるんだろうか?)
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:10:06.51 ID:0/G1P+FM0
―――――
―――


弓使い「――――すいません、大分お待たせしてしまいました」

 男 「ああ、俺は気にしてないよ。ただ……」

弓使い「ペースを上げるどころかさらに遅らせてしまいましたね……」

 男 「まぁ、布屋に連れてったのは俺なんだし…… なんかすまん」

弓使い「いえ、大丈夫です…… あの子も大分喜んでるみたいだし」

エルフ「えへへ…… 人間の里にはいろんな布地があるんですねぇ」

弓使い「それに、私としたことがつい我を忘れてしまい……」

 男 「結構買ったよなぁ…… まぁ、問題は俺の懐事情よりこの量をどうするかだな」

エルフ「ごめんなさい……」

弓使い「……すいません」

 男 「えーと、すいません。預かり所ってあります?」
 
店 主「この通りの突き当りだよ」

 男 「だそうだ。機能性重視の奴を選んで残りはそこに預けて行こう」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:13:24.49 ID:0/G1P+FM0
エルフ「いいんですか?」

 男 「これだけのもん持って歩いていくなんざ正気の沙汰じゃないだろ?」

弓使い「正気の沙汰じゃ、な…い……?」

 男 「あー、言い方が悪かったな。まあいいや、次は食料とかも見にいこうか」

弓使い「食料でしたらまだありますので結構です」

 男 「いやいや、俺の分のこともあるのよ?」

弓使い「ああ、それは申し訳ございません」

 男 「あと、想定より旅路が遅れてるんならその分の食料も補充しとかないといけないだろ?」

弓使い「その心配はご無用です。想定される日程以上の食糧を常備していますので」

エルフ「でも、水はいりますよね?」

 男 「国境いは川になってるから西の国の分はそこで汲んでいく。そこに行くまでの分だけ買うとしよう」
 
エルフ「どれぐらいいりますか?」

 男 「軽いもんじゃないけど絶対必要なもんだしなぁ…… はてさて、どんだけ買うとしようかねぇ」

弓使い「今の調子なら一日当たりこの小さい水筒の半分くらいですね」

 男 「じゃ、それを基準に考えよう」
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:14:30.89 ID:0/G1P+FM0
―――――
―――


 男 「さーて、買い物も終わったし…… そろそろ行きますか」

エルフ「はい、行きましょう!」

 男 「……あの子、大分はしゃいでらっしゃる?」

弓使い「ですね」

 男 「服いっぱい買ったのが原因か」
 
弓使い「かわいい柄物や飾り付の服は里にはほとんどありませんから、余程楽しかったんでしょう」

 男 「君も大分はしゃいでたしね」
 
弓使い「私はそのようなことはありません」

 男 「店出るときも預かり屋に預けたときも君の方が名残惜しそうにしていたけど」
 
弓使い「気のせいです」

 男 「君の名誉のためにそういうことにしておこう」

弓使い「その言い方は何ですか?見当違いも甚だしいですよ」

 男 「はいはい」
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:15:40.99 ID:0/G1P+FM0
エルフ「――――あの」

 男 「うん?」

エルフ「やっぱり道中黙々と進むのって楽しくありませんよね?」

 男 「概ね同意だ。ただ、この旅は道楽じゃないんだろう?」

弓使い「その通りです。私たちは使命のために行動していますので」

エルフ「でも、スウィルニフな人間さんと接触できたわけだし、いろいろとお話を聞きたくない?」

弓使い「スウィルニフ……?人間と馴れ馴れしくし過ぎた様ね。これ以上関わるのはやめなさい」

エルフ「え〜、でも先生は生きた教材に学ぶことが一番だって言ってたよ?」

弓使い「それは……」

エルフ「『私が教えられる部分には限界があります。もし機会があれば直接人間から教わった方がよいですよ』って言ってたよね?」

弓使い「でも、これ以上過度な接触は……」

エルフ「折角のこの機会を逃したら、次はいつ機会が巡ってくるのよ」

弓使い「……わかった、わかったわよもう。でも、程々にしておきなさい」

エルフ「はーい」

 男 (姉、ってのはああいう感じなのかね?)
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:17:26.43 ID:0/G1P+FM0
エルフ「というわけで人間さん、いろいろとお聞きしてもよろしいですか?」

 男 「いいよ、俺に答えられることなら」

エルフ「そうですね…… そうだ、人間さんは海、を見たことがありますか?」

 男 「海…… ああ、何回か行ったな」

エルフ「やっぱりあれですか?海の水って塩辛いんですか?」

 男 「うん、しょっぱかったな」

エルフ「そうなんですか!文献にはそう書いてあったんですが里にいる者たちには実際見聞きした者がいなくて」

弓使い「人間に海から遠いところまで追いやられてしまいましたので」

 男 「……すまん」

弓使い「貴方に言ったところで詮無いことですので謝っていただかなくても結構です」

エルフ「それなら話の腰を折らないで!で、海って川や湖とは他にどう違うんですか?」

 男 「そうだな、大きさはもちろんのこと…… 底に生えてた草もでかかったな」

エルフ「魚も大きいんですよね?」

 男 「そうだな、ちっこいのもいるけど色鮮やかな奴がたくさんいて…… きれいだったな」

弓使い「色鮮やか…… ですか」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:19:41.64 ID:0/G1P+FM0
 男 「うん、赤やら青やら黄色やら…… 岩の一部だと思ったら貝だったり、黒やら赤やらのヒトデ」

エルフ「ヒトデ?」

 男 「ああ、ヒトデっていうのはなんつーのかな、こう、棘が五本こんな感じで引っ付いてるやつで……」

エルフ「あっ、それってミチャンですね!ほんとにいるんだ…… あ、それならクーンサフサ、棘だらけの生き物もいるんですか?」

 男 「棘だらけ…… ウニ、のことかな?触るだけで痛そうな」
 
エルフ「それですよきっと!いやぁ、文献には載ってるんですけどホントにいるんですね。そんな摩訶不思議な生物」

 男 「まぁ、確かに初めて見たときはわけがわからんかったな。アレに名前がついてることすら知らなかったし」

エルフ「まるで空想上の生き物ですよね?私てっきり著者がでっち上げたものだとばかり…… じゃあ、あれも真実?」

 男 「あれ?」

エルフ「海を延々と進んでいくと、とても大きな島があるそうなんです。それこそ私たちが生きているこの世界のように」

 男 「海の向こうに?世界と同じくらいの島が?」

エルフ「ええ、文献には島は一つだけでなくもっとあるそうです。全て把握できてはいないそうですが」

 男 「もっとある?じゃあ、そこにも俺たち人間やエルフがいるのかな?」

エルフ「どうなんでしょうね?ひとつの島にはエルフや人間によく似た獣のような耳と尻尾が生えている生き物が暮らしていたそうですが」

 男 「マジか!行ってみて―な、その島…… 言うなれば新世界か?」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:21:32.54 ID:0/G1P+FM0
弓使い「……興奮してるところ悪いけど、その記述が正しいかどうかは里でも論議されているでしょ?」

エルフ「えー?でも、ミチャンやクーンサフサがいたなら島だってあるでしょう?」

弓使い「一つ真実があったからと言って全てが真実に変わるわけでもないのよ」

エルフ「ひとつじゃないですー、ミチャンとクーンサフサのふたつですー」

弓使い「子どもみたいなこと言わないでよ」

 男 「海…… また行ってみたくなったな。できるならその向こうにまで」

エルフ「ですよね!私も行ってみたいです!」

弓使い「まだ今回の調査も終わっていないのに、叶いもしない夢を語るのはやめなさい」

エルフ「叶わないとは決まってないわよ!」

弓使い「人間から隠れて生きることで精一杯な私たちの種族の事情を鑑みなさい。無理に決まっているでしょう?」

エルフ「う〜」

弓使い「……でも、本当に島があるのなら、エルフがそこに逃れられるなら、自由に生きていけるのかもしれないわね」

 男 「…………」

弓使い「さて、今はそれより身近な問題を解決します。ぼーっとしてないで、先をいぞぎましょう」

 男 「ぼーっと突っ立ってたわけじゃないけどな。仰せのままに」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:22:51.35 ID:0/G1P+FM0
―――――
―――


 男 「あれから数日、か」

エルフ「今どの辺りにいるんでしょう?」

 男 「ちょっと待てよ…… っと、この辺」

弓使い「当初の予定よりもまだ遅れていますね」

 男 「だからと言ってこれ以上歩調を上げても体に支障をきたすと思うな。ここらで折り合いをつけてみたらどうだ?」

弓使い「……そうですね、道半ばで倒れるようなことがあれば本末転倒ですし」

エルフ「ところで話は変わるけど、この柵さっきからずっと続いてますけど何なんでしょう?」

弓使い「話変わり過ぎよ」

 男 「ああ、これは元貴族のやってる牧場だな。飼ってる動物が逃げ出さないようにするための柵だ」

エルフ「あ、ほんとだ。羊がいますね。見るの久し振り!」

弓使い「里以来ね。ところで、さっきの元貴族というのは?革命の時に貴族と呼ばれる人種は須らく抹殺されたのでは?」

 男 「全部が全部殺されたわけじゃないさ。ここの主は革命以前から奴隷の扱いに異を唱えていた人で、革命の時にも奴隷側に協力してくれた高潔な人だ」

弓使い「……よければ、もう少し詳しくお聞かせ願えますか?」
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:24:37.93 ID:0/G1P+FM0
 男 「珍しいな?まぁ、いいけど。ここの主は奴隷も同じ人間だということで過酷な労働を強制したり、尊厳を奪うようなことはしなかった」

弓使い「しかし、それは少数派の意見だったのでは?そんな人間がどうして革命以前に貴族でいられたのでしょう?」

 男 「良質な乳や肉とかを献上していたからだったような。主の牧場のそれは当時最高級品とされたぐらいだし」

弓使い「なるほど……」

 男 「その良質な食材を提供できたのは主の下にいたエルフのおかげだった、とも聞いてる」

弓使い「そうでしたか、じゃあその主が例の……」

 男 「例の?」

エルフ「あのぉ!この池って使ってもいいでしょうか!」

 男 「あの子、何時の間に柵を…… 使うって何する気だ?」

エルフ「この頃歩き詰めなので足が火照ってまして!冷やしたいなぁと!」

 男 「多分牛とか羊とかの飲み水だろうからあんまり汚さなきゃいいと思うが!」

エルフ「じゃあ布を浸して使います!」

 男 「それなら多分大丈夫だろう!」

エルフ「わかりました!」

弓使い「……本当によろしいので?」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:26:51.38 ID:0/G1P+FM0
 男 「多分ね。怒られたら怒られたできちんと謝れば許してくれると思うよ、ここの主なら」

弓使い「そうですか」

 男 「ところで例の、って?」

弓使い「それは…… あら?」

 男 「あら?ああ、あれか?」

弓使い「人間の子供ですね」

 男 「そうだな」

弓使い「どこから来たんでしょう?」

 男 「ここの主の子供じゃないかな?あそこの茂みで遊んでたんだろう」

弓使い「あ、あの子に気付いた」

 男 「ああ、気付いたな」

弓使い「あの子の方は気付いてないようですね」

 男 「なんだ、まるで助走をつけてるような……」

弓使い「……嫌な予感がします」

 男 「あ、行った」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:28:49.95 ID:0/G1P+FM0
少 年「ど〜ん!!」

エルフ「きゃぁあああっ!!?」

 男 「あのガキ!」

エルフ「――――ぶはっ!ちょ、ちょっとなに!?なにがおきたの!?」

少 年「そこは俺の縄張りだ!勝手に使った奴にはセーサイだ!!」

エルフ「そ、そうでしたか!それは大変なご無礼を!」

 男 「悪いな、少年。勝手にお気に入りの場所を使っちまって」

少 年「ん?誰だお前?」

 男 「この子の連れさ」

少 年「そうか!ならお前にもセーサイだ!」

 男 「っと、だからって蹴っ飛ばしてもいいってわけじゃないだろ?」

少 年「わっ、ちょっ、おろせ!おろせよ!!」

弓使い「……まったく、何してるのよ。捕まって」

エルフ「ありがとう…… うう、ずぶ濡れ……」

少 年「くそっ!はなせ!はーなーせーっ!!」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:29:56.45 ID:0/G1P+FM0
 男 「わかったわかった。降ろしてやるから今後はいきなり暴力じゃなくてちゃんと話をするんだぞ」

少 年「わかった!今度からそーするよ!」

 男 「ほんとだな?じゃあ、降ろすぞ」

少 年「ありがと…… からの!」

 男 「ひらり」

少 年「うわっ!?」

 男 「おっと危ない、池に落ちるところだったな」

少 年「た、助かった…… ありがとう」

 男 「ありがとうだぁ〜?約束を早速破りやがって!」

少 年「うわぁ!?ご、ごめん!ごめんよぉ!!」

 男 「本当に反省してるのか?おい」

母 親「何を騒いでるの〜?……あら?」

少 年「ゲッ、かーちゃん……」

母 親「あらあらあら?」

 男 (子どもならともかく母親に連れがエルフだってバレるのは少々マズいか?)
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:33:03.75 ID:0/G1P+FM0
母 親「どうもウチの子が旅の方々にご迷惑をおかけしたみたいで…… 申し訳ありません」

 男 「ああ、いえ、こちらが勝手にお宅の私有地の池を使っていたことの方が悪いことでして」
 
母 親「ちょっとウチの子渡してくださいます?」

 男 「あ、はい」

少 年「や〜め〜ろ〜!たすけろー!!」

母 親「何が助けろよ!」

少 年「い゛た゛ぁっ!?」

 男 (おーう、ケツにいいのが一発入った)

母 親「アンタまた旅の人に迷惑かけたんだね!!おやめって何回も言ったでしょ!!」

少 年「だ、だってコイツがあだぁっ!」

母 親「だってもあさってもあるもんですか!全くアンタはほんとにもう!!」

少 年「っっ!?ごめっ、ごめんよ母ちゃったぁい!!」

母 親「私に謝ってどうすんの!この人たちにごめんなさいするんだよ!」

少 年「ごめんなさい、ごめんなさぁーい!!」

 男 「おーう、過激ぃ」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:35:08.03 ID:0/G1P+FM0
―――
――


少 年「……ってぇーな、クソ」

母 親「こら」

少 年「……申し訳ありませんでした」

母 親「すいません旅の方々、うちのバカ息子が……」

 男 「い、いえ、大丈夫です」

母 親「お詫びと言っては何ですが辺りも暗くなり始めた事ですし、我が家でおもてなしをさせていただけませんか?」

弓使い「いえ、それには及びません」

 男 「非があるのは勝手にお宅の私有地に入ったこちらです。申し訳ありませんでした」

母親「ですがバカ息子のせいでお連れ様が濡れてしまったご様子。ここの池の水は冷たいですから風邪でもひかれては大変ですよ」

エルフ「……いえ、そんなことは、はっ、へっくち!」

母親「ここにはお湯を沸かす設備もございます。どうかお詫びをさせてはいただけませんか?」

 男 「うーむ……」

 男 (ご厚意を無下にするわけにもいかんが、彼女たちがエルフと知られるのはまずいよな……)
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:37:45.92 ID:0/G1P+FM0
弓使い「……わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」

 男 「え゛?」

母 親「そうですか!ではこちらへ…… ほら、ご案内して」

少 年「わかったよ…… どうぞ、ぼくについて来てください」

 男 「……いいのか?」

弓使い「……この方ならきっと大丈夫です」

 男 「何を根拠に?」

弓使い「直感ですね。本質を捉える才があると仲間内でも言われておりましたので」

 男 「そですか」

弓使い「最初に出会ったときの貴方よりは信用できます」

 男 「マジすか」

弓使い「それに奴隷の扱いに異を唱えていた御仁の伴侶であられるならば、悪い方には転ばないでしょう」

 男 「さいですな」

エルフ「……へっくち」

弓使い「さぁ、行きましょう。このままじゃホントにこの子が風邪をひいてしまいます」
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:39:11.62 ID:0/G1P+FM0
 男 (――――で、こうして御相伴に与ることになったわけだが)

父 親「すみません、お客人に配膳を手伝わせてしまいまして……」

 男 「いえ、本当なら叱責を受けるべきところをこのような歓待をしていただけるのです。これぐらいは喜んで手伝わせていただきます」

少 年「だよな!だから俺はやらなくてもいいだろ?」

父 親「……ん?」

少 年「やらせていただきます!」

 男 「ははは……」

父 親「すいません、厳しく育てているつもりなのですがどうにも生意気な子でして」

 男 「元気があっていいと思いますよ。……それにしても多いですね?」

父 親「我が家では可能な限り家族揃って食事をとることにしているんですよ。それでこれだけの数に」

 男 「これだけの数のご家族…… すごいですね」

父 親「家族というのは彼らのことも含めてですよ」

農 夫「旦那様、いつもありがとうございます」

牧 童「うちの班はこれで全員です。残りはあとで交代します」

父 親「うん、みんなお疲れ様。もうすぐ家内たちから声がかかると思う」
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:40:19.71 ID:0/G1P+FM0
母 親「あなた〜、みんな〜、できたわよ」

父 親「ほら、やっぱりね。今行くよ」

少 年「はーい」

牧 童「今日はなんだったっけ?」

農 夫「シチューだったと思う」

婦 人「その通りだよ。あんたたちはこれを持ってって」

少 年「おっ、肉だ!」

母 親「これはお客さんに出すの。あなたの分じゃないの」

少 年「え〜、マジ?」

母 親「そういう口のきき方をしないの」

少 年「へいへい」

母 親「こら!」

 男 「……少し、羨ましいかな」

エルフ「ありがとうございました」

 男 「お、出てきた」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:41:55.16 ID:0/G1P+FM0
母 親「お湯加減いかがでしたかしら?」

エルフ「いいお湯加減でした。おかげさまで暖まりました」

弓使い「私まで使わせていただいて…… ありがとうございました」

 男 (部屋の中でも帽子、か…… かぶりっぱなしで何か言われなきゃいいが)

エルフ「あ、こちらは夕食ですか?」

農 婦「そうですよ。腕によりをかけてつくらせていただきました」

弓使い「そんな、夕食までいただけるなんて…… 本当にありがとうございます」

母 親「いえいえ、私が好きでやっていることですから」

父 親「妻は人をもてなすのが趣味みたいなものでしてね。ここを訪れた方は皆捕まえてしまうんですよ」

少 年「野盗がここに押し入ってきた時もそれに気付かずもてなそうとするんだもんなー」

母 親「ちょっと、そんなことは言わなくていいの!」

 男 「はは、そうなんですか」

婦 人「で、奥様のもてなしに感動して野盗から足を洗ったのがあそこの人たちなの」

元野党「「「「「「「「どうも〜」」」」」」」」

 男 「わーお」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:42:43.68 ID:0/G1P+FM0
―――
――


父 親「――――さて、それでは」

一 同『『『『『『『『『『いただきます』』』』』』』』』』

エルフ「あの、これって……」

 男 「うん、獣。牛の肉だな」

弓使い「やはり……」

 男 「俺も食べないようにするから、そういう文化の人間として振る舞えばいいんじゃないか?」

農 夫「旦那様、お客人の前ですがよろしいでしょうか?」

父 親「う、む。そうだな、どうしたものか……」

 男 「大事なお話なら席を外させていただきますが?」

父 親「いえ、普段は食事の時に農場や牧場の様子を話していましてな。貴方方さえよければそのままお食事を続けていただいて」

弓使い「私たちはかまいませんが、本当にお聞きしてしまってもよろしいのでしょうか?」

父 親「ええ、構いませんとも。というわけだ、手短に頼む」

農 夫「はい、うちの班の担当区分は特に問題なかったです」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:44:32.91 ID:0/G1P+FM0
牧 童「同じく」

元野盗「うちのとこはマサヨの乳の出が悪くなってきたんで、出荷数に影響が出てくるかと」

太っちょ「うちはハナコが妊娠したみたいでさぁ」

労働者「うちの班は問題ありません」

父 親「んんっ!特に問題のないところは今日は言わなくてもいい。何かあったところだけ挙手してもらえれば」



父 親「……ないようだな。みんな、今日も一日ありがとう」

一 同『『『『『『いえいえ』』』』』』

父 親「お騒がせしました」

エルフ「いえいえ、そんなことは」

母 親「どうかしら?お口に合いますかしら?」

弓使い「はい、大変おいしくいただいております」

母 親「よかったわ、旅の方って時々ここと食文化が違うこともあったりして……」

 男 「……実は我々、獣の肉はちょっと」

母 親「あ、あら?そうでしたの!ごめんなさい、お作りする前にお聞きするのを失念しておりましたわ」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:46:24.34 ID:0/G1P+FM0
エルフ「申し訳ありません、折角作っていただいたのに」

母 親「いえいえ、謝るのはこちらの方です。すぐに下げさせますわね」

少 年「おねーちゃん、肉食べないんなら俺にくれよ」

エルフ「え?えーと…… よろしいですか?」

少 年「いいだろかーちゃん」

母 親「……んもぅ、ちゃんと野菜も食べるんだったら食べていいわよ」

少 年「じゃ、いっただっきまーっす!」

エルフ「はい、どーぞ」

少 年「あんっ、んぐんぐんむ…… なぁ、おねーちゃん」

エルフ「はい?」

少 年「部屋ン中で帽子は変だぜ、とっちまいなよ!」

エルフ「あっ!?」

 男 「なっ!?」

少 年「うわ、おねーちゃんの耳なげーな!」

 男 (そうきたかー!?)
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:47:30.76 ID:0/G1P+FM0
エルフ「あは、あははは……」

父 親「――――少し、よろしいですかな?」

 男 「はい、なんでしょう?」

 男 (圧が半端ないな、主だけじゃなく他の連中も睨んできやがる…… ん?何だアイツ)

父 親「……貴方方の御関係は?」

 男 「旅の同行者です」

父 親「本当に?」

エルフ「は、はい!本当です!」

父 親「彼は奴隷商ではない、と?」

弓使い「ええ、その通りです」

婦 人「本当にそうなんですか?もしそうじゃないのなら旦那様に」

農 夫「旦那様はお優しい方です。革命以前から私たちを普通の人として扱ってくださいました」

 男 「存じております、主殿が奴隷解放のため革命に大いにご協力されたことを。あの時は本当にありがとうございました」

父 親「む、すると貴方は……」

 男 「はい、私も元奴隷です。以前お会いした時はまだ幼く、当時の面影はもう残っていないとは思いますが」
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:48:50.86 ID:0/G1P+FM0
父 親「面影…… もしや君は、あの『鷹の目』と呼ばれていた……」

 男 「はい、そうです」

父 親「いや、これは大変失礼なことをしました。申し訳ありません、貴方を奴隷商だと疑ってしまった」

 男 「いえ、今この国でエルフを連れているとしたら表を歩けないような人間だと思うのは当然のことでしょう」

父 親「本当にすみません。……では、何故エルフのお嬢さんをお連れしているのですか?」

 男 「それは……」

弓使い「それは私たちから説明させていただきます」

エルフ「私たちは里の長からの使命を受けて西の方へと調査に向かう途中なんです」

弓使い「その道中でこちらの方の御協力を頂けることとなり、こうして同行していただいているのです」

父 親「そうでしたか……」

弓使い「無用の混乱を避けようとしていたとはいえエルフの恩人に身分を偽っていたこと、深くお詫び申し上げます」

エルフ「申し訳ありませんでした」

父 親「エルフの恩人……?もしや、彼はあの後無事にエルフの里まで帰れたのですか?」

エルフ「はい、貴方のことをよく話してくれました。奴隷のために立ち上がった気高いスウィルニフの一人だったと」

父 親「そうでしたか!いやよかった、よかった……!」
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:50:02.28 ID:0/G1P+FM0
―――
――


父 親「――――この土地は放牧に適しておりましてな。それを教えてくれたのも彼でした。感謝してもしきれません」

エルフ「彼も貴方に感謝していました。暗い闇の中しか知らなかった自分を光のあるところへ連れ出してくれたと。その恩に報いたかったとも」

父 親「そうでしたか…… 革命の後、助け出された大勢のエルフの護衛として共に帰っていったきりどうしているのかと思っていましたが、いや、よかった」

母 親「さぁ、どうぞ遠慮なくお食べになって」

 男 「ああっと、すいません奥様、エルフは獣の肉は食べないそうなんです」

母 親「ええ?彼は食べていたけど……?」

弓使い「……きっと、言い出せなかったんだと思います。貴方方のやさしい微笑を見ていたら断ることが出来なかったんだと」

父 親「なんと…… 知らなかったとはいえ、私たちは何ということを」

母 親「ああ、何とお詫びをすればいいのか……」

エルフ「そんな、彼は貴方方にはとても感謝していました。気を病んでいただかなくても結構です」

少 年「……よーするに、俺が肉食ってもいいんだよな?」

弓使い「そうですね。はい、どうぞ」

母 親「アンタって子はほんとにもう……」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:50:58.15 ID:0/G1P+FM0
―――
――


父 親「――――おっと、すっかり話し込んでしまいましたな」

少 年「スゥ、スゥ……」

母 親「ごめんなさい、旅でお疲れのところをこんな遅くまで」

エルフ「いえ、とても有意義で楽しい時間でした」

父 親「そう言ってもらえるとありがたいです。さ、この方たちを部屋まで案内してくれ」

女 性「はい、ではこちらへどうぞ」

弓使い「いえ、それには及びま」

 男 「ありがとうございます」

弓使い「ちょっと」

 男 「こんな時間から歩くつもりか?折角の機会だ、ぐっすり眠らせてもらおう」

弓使い「……わかりました、ありがとうございます」

 男 「ん。……ところでご主人」

父 親「はい、何でしょうか?」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:52:00.50 ID:0/G1P+FM0
 男 「あそこにいる彼なんですが」

父 親「彼が何か?」

 男 「彼はいつ頃からこちらに?」

父 親「革命が終わってからしばらくして…… だと記憶しています」

 男 「そうですか……」

不審者「さ、ぼっちゃん。部屋に戻りましょう」

 男 (……アイツだけ彼女らの正体がバレたときに俺だけでなく彼女たちも見ていた。まるで品定めするように)
 
 男 「……ありがとうございました。今夜はお世話になります」

父 親「ん、ああ、どーぞ。ゆっくりとお休みください」

 男 (気のせいかもしれんし、主殿にはまだお伝えしなくてもいいな…… っと)

 男 「……すいません、俺もお風呂場を借りてもよろしいでしょうか?」

父 親「ああ、これは申し訳ありません。そういえば貴方はまだでしたな。おい、誰か!」

 男 「あ、そこまでしていただかなくても結構です。汗さえ流せれば」

父 親「本当に申し訳ない……」

 男 「いえいえ……」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:53:37.80 ID:0/G1P+FM0
―――――
―――


母 親「是非またお立ち寄りくださいね」

父 親「旅の無事を祈っております」

エルフ「ありがとうございました。このご恩は一生忘れません」

弓使い「お世話になりました」

 男 「ありがとうございました。それでは……」

少 年「おねーちゃんたち、待って!」

エルフ「はい?」

少 年「はっ、はっ、はぁっ、これ!」

エルフ「これって、乾酪……?」

少 年「昔ここにいたエルフのーにーちゃんと同じ名前を付けた乾酪なんだって。これ、にーちゃんに渡してくれよ」

弓使い「……ごめんなさい、この旅はきっと長くなります。いくら乾酪でも里に帰るころには傷んでしまうかと」

少 年「じゃあさ、旅の帰り道にまたここに寄ってくれよ!なっ!いいだろ!」

弓使い「……はい、お約束します。きっとまたここに立ち寄らせていただきます」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:54:31.13 ID:0/G1P+FM0
少 年「約束だからな!絶対だからな!また来いよ〜〜〜!!」





エルフ「――――いい人たちだったなぁ」

 男 「そうだな」

弓使い「人間が皆、あの方たちのようであったならいいのですが……」

 男 「ハハハ…… まぁ十人十色と言うし」

エルフ「ジュウニントイロ?」

 男 「十人もいりゃ性格とか好みとかバラバラで全員同じってわけじゃない、十人いりゃ十人の考えがある。そんな意味の言葉だよ」

エルフ「へぇ〜……」

弓使い「……でも、人間の本質は誰しもが同じ。変わらないのではないでしょうか?」

 男 「はい?」

弓使い「あの方たちも飼っている動物をやがては殺して食べるのでしょう?」

 男 「そうだけど…… 君らだって羊を飼ってるんだろ?羊の毛の布があるとか」

弓使い「ええ、私たちエルフも羊を飼ってはいます。ですがそれは毛を刈って布にしたりするためで殺したりはしません」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:56:17.98 ID:0/G1P+FM0
 男 「……そうだな、俺たちは羊も殺して食べるもんな。でもな」

弓使い「でも?」

 男 「俺たちは確かに動物を殺して食うために飼っている。だけど俺たちは動物にちゃんと感謝している。それが山の教えだ」

エルフ「感謝?」

 男 「ああそうだ、無暗に殺しているわけじゃない。俺たちが生きていくためにその命をもらってるんだからな」

 男 「君たちだって羊たちに毛をもらったり、乳を分けてもらったりすることに感謝しているだろ?それと同じだよ」

弓使い「生きるために…… ですか。わからないでもありません」

エルフ「ですけど……」

 男 「…………」

弓使い「……貴方は確かリョウシ、という職ぎょ」

 男 「悪い、後にしてくれ」

エルフ「どうしましたか?」

 男 「今、牧場のところから鳩が出てきた。アレを捕まえなきゃならん」

エルフ「捕まえるって、どうしてです?」

 男 「きっとあれは伝書鳩だ。昨日あの中で一人だけ君たちを品定めするように見ている奴がいた。恐らく奴隷商とつながっている」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:57:56.41 ID:0/G1P+FM0
弓使い「デンショバト、というのはわかりませんがつまりはあの鳩をプワカークにしようとしていることですね」

 男 「ぷわ…?ああ、多分それだ。もしあの男がホントに奴隷商とつながってるんならあの鳩に君たちの正体と行方を知らせる文書を持たせてあることになる」

エルフ「それはすごく困りますね」

 男 「ああ、だから君たちには悪いが撃ち落とす」

弓使い「そんな!動物は無暗に殺さないと仰ったではありませんか!」

 男 「だからってこのまま見過ごしたら君たちはどうなる!」

エルフ「私に任せて!スゥゥゥゥゥ……」

 男 「何を!?」

エルフ「―----――――――--------------―――――-----――――――ッッ!!」

 男 (がぁぁっ!?なんだこの声耳がキーンって!?)

 鳩 「   」

 男 「んぁ?」

 鳩 「   」

エルフ「                 」

 男 「ごめん、今ちょっと耳がキーンとしてて聞こえない」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:58:59.59 ID:0/G1P+FM0
エルフ「――――?―――すか?聞こえますかー?」

 男 「うん、聞こえるようになってきた」

エルフ「ごめんなさい、人間さんの耳にはよくないみたいでした」

 男 「いや、いいよ。多分それのおかげでハトがここにいるんだろうし」

 鳩 「フォーホー、ホッホー」

 男 「しかしどういうことだこれ」

弓使い「以前言っていなかったでしょうか?私たちは動物と意思の疎通が図れると」

 男 「言ってた気がする。つまり、あの超高音で鳩を呼び寄せたと」

エルフ「結構高いところにいたのでよく聞こえるように大きな声を出したんです……」

 男 「ん、まぁ、そんなことより手紙の有無だ。どれどれ……」

 鳩 「フォッポー」

 男 「あったあった、と。さて、その気になる内容とは?」

エルフ「内容とは?」

 男 「……暗号ですな」

弓使い「他の誰かに迂闊に読まれては困る内容、ということですね」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 03:59:47.68 ID:0/G1P+FM0
 男 「――――う〜む」

エルフ「悩んでおられますね〜」

 鳩 「フォーホー、ホッホー」

弓使い「でも、そろそろみたいよ」

 鳩 「クルッポー」

 男 「……よし、こういうことか」

弓使い「解けましたか?」

エルフ「ごめんなさい。人間の文化とか習慣とかわからなくて、何もお手伝いできなくて」

 男 「気にせんでいいよ。やっぱり想像を裏切ってはくれなかったか」

弓使い「ということはやはり」

 男 「俺たちの行く先で待ち伏せるように、って内容だったよ」

弓使い「いかがなされますか?」

 男 「とりあえずはこの文書を別の内容に差し替える。俺らと関係ないところに行ってもらうとしよう」

 男 「そんで、今後のことを牧場の主に伝えてくる。あと、君たちにやってもらいたいことがあるんだが」
 
エルフ「はい?」
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 04:00:45.18 ID:0/G1P+FM0
―――
――


父 親「ふむ…… むっ?」



父 親「……どうにも肩が凝ってしょうがない。肩の荷が下りないものか」

 男 「……肩の荷よりも目の上のたんこぶが重たいのでは」

父 親「君か…… いや懐かしかったよ。革命以前、私たちは今の合言葉で情報のやり取りをしていた」

 男 「覚えていて下さったようで何よりです」

父 親「忘れられるものかよ…… あの伝令から教わったのかね?」

 男 「はい、こうして誰にも気取られず目的の場所へと潜り込む術も合わせて。いつか彼と共に事を成すべく」

父 親「なかなか見事だった。彼も鼻が高いことだろう…… さて、わざわざこんな方法をとったということは何かあったのだろう?」

 男 「昨晩お聞きした男が関係していると思われることです」

父 親「穏やかではなさそうだな。エルフのお嬢さんたちのことかな?」

 男 「はい、先刻この牧場から伝書鳩が飛び立ちました。その鳩を捕え確認したところ、エルフのことと待ち伏せするようにとの伝言が」

父 親「……なんと」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 04:03:18.23 ID:0/G1P+FM0
 男 「恐らく以前ここにエルフがいたことや、革命前後の主の処遇などからエルフと繋がりがあると睨んで潜り込んでいたんでしょう」

父 親「うむ、どうするか……」

 男 「エルフとなれば奴隷商に高く売れます。ならず者たちは必ず動くでしょう。そこを突きます」

父 親「偽の文書でお引き寄せる、ということだな。わかった、近隣の衛兵たちに連絡を取ろう」

 男 「ありがとうございます。場所はこちらが指定してもよろしいでしょうか?」

父 親「ああ、万が一君たちが連中に出くわしては厄介だ」

 男 「はい、場所は…… ここを指定しています」

父 親「了解した」

 男 「あと、この鳩は彼女たちを通じて帰還する際はまず貴方の下に行くようにしてあります」

 鳩 「フォッポー」

父 親「うむ、内通者が誰かは私の方で調べよう」

 男 「恩に着ます。それでは……」

父 親「しかし口惜しいな、今もまだ奴隷を商売にしようとする連中がいるなどとは」

 男 「……彼女たちが言っていました。人間の本質は変わらないのでは、と」

父 親「人間の本質?」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 04:04:38.71 ID:0/G1P+FM0
 男 「詳しくは聞いていません。ですが、察するところ人間とは利己的な存在である、ということかと。私もそう思うときが多々あります」

父 親「利己的、か…… その通りだ、それを否定するのは至難だろうな。奴らのような存在が無くてもだ」

 男 「やはり、そうなのでしょうか……」

父 親「……だが、利己的なのは人間だけではないのと思うのだよ。私たちだけでなく生物全ての本質は利己的なのではないか?とね」

 男 「生き物全てが?」

父 親「うむ、犬も鳥も自身が生きる為、自己の子孫を残すことを念頭に生きている。それは究極の利己的な行動だとは思わないか?」

 男 「……極論では?」

父 親「確かに極論ではあるが、突き詰めれば生き物全ては利己的であると考えられるはずだ。それは生きている限りしょうがないことだと私は思う」

父 親「森の者と謳われたエルフとて例外ではないだろう。だが、彼らはその高い知性を以てそういった生物の本質をも捻じ伏せ今の高みに至ったのだ」

父 親「ならば、同じく知性を持つ我々人間も強く意志を持てばその高みへと至ることはできるはずだと、私はそう思う。君はどうかね?」

 男 「……私も、そう思います。そうであると信じたいです」

父 親「そうか…… しかし、今語ったのは私の拙い知識と経験で練り上げた妄想だ。鵜呑みにしてくれるなよ?」

 男 「心得ました」

父 親「うむ、では後はこちらで上手くやっておく。道中気を付けてくれたまえ」

 男 「はい、それでは……」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 04:07:53.05 ID:0/G1P+FM0
―――
――


 男 (――――人間の本質は利己的、なれど強い意志を持つことで高みに至れる、か)

 男 (やっぱり奴隷だった頃に見た人間の醜さ、下劣さ。あれこそが人間の本性なんだろうな)

 男 (だけど、俺たちはその醜さを知っている。だからこそ、強い意志を持ってその醜さを克服できる、ってところか……)

 男 「……戻ったぞ」

弓使い「首尾は?」

 男 「上々」

弓使い「それは良い傾向ですね」

エルフ「それで、この先はどう行くんです?」

 男 「引き続き街道沿いを通っていく。連中にはエルフ一行は街道を避けて進んでいるって偽の文書を掴ませてるしな」

エルフ「うっかり鉢合わせたりはしませんか?」

 男 「人数も五人にしといた。大丈夫だよ」

弓使い「……それでは行きましょうか」

エルフ「うん」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 04:22:04.89 ID:lcmTX77z0
面白くて寝られぬ
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 07:42:50.73 ID:uYg9ZaSio
乙です
すごくいいね
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 12:43:57.69 ID:PQSL5AJJo
エロ…?
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 14:40:26.38 ID:ExzLVXGPO

いい
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:12:21.72 ID:0/G1P+FM0
―――――
―――


 男 「――――国境も大分近づいてきたな」

弓使い「ならず者たちにも出会わずに済みました」

 男 「牧場の主が動いてくれたんだ。今頃きっとお縄についてるさ」

エルフ「ですね。この旅の中で、思いの外たくさんのスウィルニフに出会えました」

 男 「ああ、あの人たちは間違いなくスウィルニフだよ」

弓使い「ですが、その中に確実に一人はディアンニフがいましたが」

 男 「それが人間の全てじゃないさ」

弓使い「おや、いつぞやはもっと曖昧な返事をいただいたのですが」

 男 「心境の変化があったんでね」

エルフ「それって?」

 男 「主殿の話を聞いてね…… っと」

???『ウォオオオォォ〜〜〜〜〜―――----』

 男 「……アイツらも夕飯時かな?」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:15:15.21 ID:0/G1P+FM0
エルフ「ガンドレイ…… 狼?」

弓使い「狼の声とは微妙に違う気がするけど……」

 男 「じゃあ多分野犬だな、野犬。犬だな」

エルフ「犬?ああ。確か狼を人間が飼えるように飼い慣らしたっていう」

 男 「それが野生に帰ったのが野犬だ。で、アイツらが何言ってるとかもわかるのか?」

弓使い「ええ、一言で言えば私たちの荷物を狙ってます」

エルフ「でも変ですよ?狼なら火を恐れて近づかないはずでは?」

 男 「多分、生粋の野犬じゃなくて元は飼い犬だったんだろうな」

エルフ「そんな……」

弓使い「酷いことをしますね。飼っていたのに見放したんですか?」

 男 「飼い手にもいろいろあったんだろ」

弓使い「いろいろ、ですか」

 男 「さて、どうするかね?鉄砲で蹴散らすってのもなぁ……」

弓使い「でしたら私たちに任せていただけませんか?」

エルフ「人間ではなく私たちエルフの言葉なら耳を傾けてくれるかもしれません」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:17:52.77 ID:0/G1P+FM0
 男 「できるのか?捨てられた恨みとかあるだろうに。俺なら人間憎しってなるだろうし」

弓使い「恐らくは……」

野犬A「バウッ!」

野犬B「グゥゥゥ〜〜―--」

野犬C「ヘッヘッヘッヘ・・・・・・」

 男 「賢いね、何匹かが囮になって注意を引いている内に残りの奴らが荷物をかっぱらうって寸法か」

エルフ「こんな知恵を身につけなきゃいけなかったなんて……」

弓使い「ウウウウウウウ・・・・」

 男 (……これが犬語)

エルフ「クゥゥン・・・」

野犬B「ワオン!」

エルフ「ウウウウウウウ―――」

野犬B「ヘッヘッヘッヘ」

エルフ「フゥゥウウ・・・・」

 男 (エルフの会話もわかんねーけど犬語…… 狼語もさっぱりだな)
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:19:28.97 ID:0/G1P+FM0
―――
――


野犬共「クゥーーン……」

 男 (とまぁ、野犬たちの大人しいこと大人しいこと)

エルフ「スーリャパシマ、ウネルシィ……」

 男 「……鳩の時もそうだが、エルフってホントに動物と話せるんだな」

エルフ「話せるといっても言葉を交わしてるわけではありませんけど」

 男 「へぇ、で、どんなことを?」

エルフ「どうしてこうなったのかを教えてくれました」

 男 「大体想像はつくが……」

エルフ「ええ、飼い主が死んでこうならざるを得なかった子もいますけどほとんどは捨てられた子、それに人間に苛められていた子……」

弓使い「……かわいそうな子たち」

 男 「捨てたくて捨てたわけじゃない奴だっているだろう。だが…… 苛められてたってのは、な」

弓使い「……ひどい話です」

 男 「……人間全てがそうだってわけじゃない」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:21:26.43 ID:0/G1P+FM0
エルフ「貴方や牧場の人に出会ってそれは感じました」

弓使い「ですが、こうやってこの子たちの声を聴いているだけでも……」

 男 「……ま、とりあえずはそうだな。これでお引き取り願えないかな?」

弓使い「それは…… 貴方の食糧では?」

 男 「全部持ってかれちゃ困るしな。これぐらいで勘弁してくれと伝えてくれ」

エルフ「……わかりました。ウルルルル―――」

野犬B「グゥゥゥ〜〜―--」

エルフ「ウォォオオ・・・・」

野犬B「バウッ!」

エルフ「フニャッ!?」

 男 「っと、大丈夫か?」

エルフ「あ、はい……」

 男 「てっきりもっと寄越せと飛びかかったと思ったんだが、あっさり行っちまったな」

弓使い「群れの頭の子がこれで我慢する、と」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:23:58.85 ID:0/G1P+FM0
エルフ「本当に良かったんですか?」

 男 「いいのいいの」

エルフ「ホントは事情を伝えて別のところに行ってもらう算段だったんですけど」

 男 「マジか」

弓使い「そんな腹空いてない。だが、襲いやすそうな人間。食べ物奪う」

 男 「って感じだったんだな。ま、いいか…… しかしすごいね、そんなとこまでわかるんだ」

エルフ「ええ、人間はできないんですよね?」

 男 「まぁね」

弓使い「動物にも意思はあります。しかし人間はそんなこと知りもせずにいいように利用して食べるために殺してしまう」

 男 「まぁ、それが人間の築き上げてきた食文化だしな……」

弓使い「……以前聞きそびれましたが、貴方はリョウシでしたよね?」

 男 「今のところはね」

弓使い「リョウシなるものはどんな気持ちで獣たちを殺しているのですか?」

 男 「おっと、嫌な質問だ」

弓使い「でしょうね」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:26:27.67 ID:0/G1P+FM0
 男 「でしょうね、って…… そうだな。感謝と祈りと謝罪、それとやっぱり楽しさかな?」

弓使い「…………」

 男 「俺たちが食べたいから、そんな理由だけで殺してしまうことへの謝罪とだからこそせめて魂は安らかに眠ってほしいと願う祈り」

エルフ「…………」

 男 「そして、そいつを食べることで得られる満足感や幸福感に対する感謝…… あと純粋に狙い澄ました弾丸が見事獲物に命中した喜びみたいな」

弓使い「……確かに私も狙った的に矢を当てられたときに達成感を感じることはあります。ですが、今仰られた感覚は一概には理解できません」

 男 「……だろうな」

エルフ「殺して楽しい…… そんな感情があるから人は争いをやめられないのでしょうか?」

 男 「……そうかもな。今言った事だって結局は利己的な気持ちから出てきたもんだし」

エルフ「利己的?」

 男 「そ、突き詰めていけば生き物みんな利己的だってな」

弓使い「…………」

 男 「獲物を食べた時の満足感は言わずもがな、撃った奴への謝罪と祈りだってそのままじゃ後味が良くないからやってんのさ」

エルフ「そんな……」

 男 「牧場の主殿からこのことを聞いたとき、俺の心の閊えも取れた気がした」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:31:53.32 ID:0/G1P+FM0
弓使い「胸の閊え?」

 男 「ああ。革命の後、猟師としてアイツらから離れて暮らしだしたころからずっと引っかかってたことがある」

 男 「俺は確かにあのとき、俺たちの未来のために戦った。そしてその後は他国にもまだ大勢いる俺たちと同じ境遇の人やエルフを助けるために腕を磨いていた」

 男 「もっとも、まだまだガキだったから考えなしで、そしたら心を磨いてこいって言われて猟師をやらされて……」

 男 「で、そうしてアイツらから離れてみて、静かなところで暮らしてるうちにふと自分は本当に奴隷にされてる人たちを助けたいのか疑問に思えてきた」

 男 「俺は虐げられて人々を救いたいんじゃなくて、虐げている奴らを殺したいだけなんじゃないかって」

 男 「他の誰かのためじゃない、俺の虐げられていた時の鬱屈した昏い感情をぶつけたかっただけなんじゃないかってな」

 男 「何せ穏やかな暮らしってのをしてみればあれだけ強かったこの世全ての奴隷を開放するって想いがドンドン薄れていっちまって」

 男 「このまま静かに過ごせていければいいや、なんて考えることが少しずつ増えていっちまったんだよ」

 男 「結局は他の奴のことなんてどうでもよくてさ、自分だけがよければそれでいい。なんてさ」

エルフ「…………」

 男 「でも、主殿の考えを聞いてようやく分かった気がするんだ。利己的でもいいだって、それはしょうがないんだってな」

弓使い「しょうがない?」

 男 「しょうがないんだよ。生きるためには食わなきゃならん。食うからには食う対象から命を奪う。自分が生きるために他の命を犠牲にする」

 男 「全くもって利己的だ。己の命の為に他に害を成す。それが生きていくってことなんだろうな」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:35:24.01 ID:0/G1P+FM0
 男 「そう、生き物は生きていこうとする限り利己的な行動をせざるを得ない。結局は自分が一番なんだ。だから……」

 男 「だから、俺が大勢の虐げられてる人やエルフのことなんて放っといて自分の幸せって奴だけ考えてもいいんだよ」

エルフ「…………」

 男 「それは俺が生きている限り、生きようとする限り当然のことなんだ。生き物としての俺の本当の思いなんだ」

 男 「でも、それが俺の全てじゃない。生き物の全てじゃない」

弓使い「は……?」

 男 「生き物として俺はそうなんだ。でも、人として、まだ大勢いる俺たちと同じ境遇の人やエルフを助けたいって考えてる俺も本物なんだ」

 男 「自分のためだけに生きたいって気持ちも本物で、奴隷に身を落とさせられた人たちを助けたいって気持ちも本物」

 男 「どっちかだけが本物じゃない。どっちも本当の俺なんだ。そういうことなんだ」

 男 「だから、君らの言うスウィルニフってのは生き物としての自分、つまり本能を知性で押さえつけて想いを通す人で」

 男 「ディアンニフてのは本能に知性を沿わせて好き放題やるような奴のことなんだよ。きっと」

弓使い「では、貴方はスウィルニフだと?」

 男 「いんや、虐げられてる奴らを助けたいってのもホントだし、積もりに積もった恨みを虐げる側に八つ当たりしたいってのもホントだし」

弓使い「自分の為に虐げる者を倒し、他者の為にも虐げるものを倒したい、ということでしょうか?」

 男 「そゆこと」
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:37:44.43 ID:0/G1P+FM0
弓使い「なるほど、急に長々と語り出したので一瞬引きましたが貴方の考えというのはわかりました」

 男 「うん、長々と悪かった。大分気持ち悪かったと思う。でも正直ようやく探してた答えが見つかって誰かに話したかったってのがある」

弓使い「ですが…… 生き物全てが利己的である、というのは賛同できません」

エルフ「そうですね……」

 男 「いや、君らエルフだって突き詰めれば利己的だ」

弓使い「何を仰るのやら」

 男 「エルフも羊に毛をもらったり、乳を分けてもらったりしてるんだろ?自分たちの生活のためにさ」

弓使い「その通りです。それが何か?」

 男 「それって命までは奪ってないだけでやってることは俺たち人間と同じ、自分たちのために羊から毛や乳を奪ってるってことだ」

弓使い「それは違います。私たちは彼らから一方的に奪うのではなく、お互いが支え合って生きているんです。共に生きているんです」

 男 「それこそ人間だって一緒だ。羊に餌をやったり住む場所を与えてやってる」

弓使い「貴方方人間は生き物の心もわからないんでしょう?貴方方が与えているのは一方的な好意、私たちのやっている共生とはまるで違います!」

 男 「いいや、同じだ!」

エルフ「もうやめて!」

男・弓使い「!?」
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:39:03.46 ID:0/G1P+FM0
エルフ「……もうやめましょう。私たちは西の森に行くことが目的で、エルフはこう人間はこうだなんて言い争ってる場合じゃないんです」

 男 「……そうだったな、悪い」

弓使い「私としたことが、貴方に窘められるなんてね」

エルフ「わかったらこの話はもうおしまい。明日に備えて休みましょう?」

 男 「じゃ、俺が先に火の番をするよ」

エルフ「いえ、今日は人間さんが先に寝てください」

 男 「は?あ、うん、別にいいけど」

弓使い「では、私が先に火の番ということで……」

 男 「よろしく頼む」

エルフ「――――人間さん」

 男 「はい、なんでしょう」

エルフ「貴方の仰ること話わかります。ですが、納得できるわけではありません。それはあの子も同じです」

 男 「悪いな、何か宗教家みたいなこと言っちまってた」

エルフ「シュウキョウ?まぁ、さっきの話は揉めるだけですし、今後一切その話はしないということでいいですか?」

 男 「あいよ。あとこの話を振ってきたのはあの子の方だから、あの子にも言っといてくれ」
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:40:04.46 ID:0/G1P+FM0
―――――
―――


 男 「いよいよ国境間近となり、街道を離れたわけですが」

エルフ「やっぱり歩き辛いですね……」

弓使い「緑が生き生きとしていますからね。已む無しでは?」

 男 「そうだな。水の音が聞こえてきたし、もう少ししたら開けた場所に出るしそこで一旦休憩ってことで」

弓使い「了解しました」

エルフ「はい、ところで……」

 男 「なんざんしょ?」

エルフ「街道を離れたときに使おうとされていたあの平たい棒みたいなのは結局何だったんですか?」

 男 「ああ、アレ?鉈ってやつだよ」

エルフ「ナタ?」

 男 「そ、森の中で邪魔な草木を払ったり蔓切りをしたりする道具。ま、森の力うんぬん言ってる君たちの前で使うのはどうかと思って」

弓使い「賢明な判断です。ちなみにこの匂い…… それもテツですか?」

 男 「そうだよ。それもあるから使うのやめたのさ」
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:42:04.98 ID:0/G1P+FM0
―――
――


 男 「――――とかなんとかやってるうちに着いたな」

エルフ「え?もう隣国に?」

 男 「いやいや、さっき言ってた開けた場所」

弓使い「確かに小川がありますね。あんなところから水の音が?私にも聞こえなかったのに」

 男 「耳がいいんでね。余計な荷物にならない程度に水も補給しようか。魚は流石にいないかな?」

エルフ「あの……」

 男 「なんだ?」

エルフ「水浴びしてもいいでしょうか?」

 男 「いいよ。流されないなら」

弓使い「今度は溺れないように気を付けるのよ」

エルフ「……パースィリコ」

 男 「なんだって?」

弓使い「いじわる、と」
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:42:35.13 ID:0/G1P+FM0
エルフ「――――見ないでくださいよ?」

 男 「見ない見ない」

 男 (川で拾ったときもそうだったが、エルフもやっぱり裸見られるのは嫌なのね、と)

弓使い「明後日の方を向いていらっしゃいますが、何をお考えで?」

 男 「いや、やっぱり人間とエルフの考え方って結構近いんだなと」

弓使い「姿形がそっくりですから、自ずと似通った思考が生まれたのでは?」

 男 「確かにねぇ…… エルフと人間との見た目の差は耳の長さくらいだしな」

弓使い「一体何故そんなことをお考えに?」

 男 「いや、別に。ただ、ふとそんなことを考えただけで…… なぁ」

弓使い「はい?」

 男 「これだけ似てるとなると、人間とエルフって元々は同じ種族だったりして」

弓使い「在り得ません」

 男 「そっかー、在り得ないかー」

弓使い「ええ、一緒にしないでください」

 男 「あいよ……」
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:43:31.68 ID:0/G1P+FM0
 男 「……でもさ」

弓使い「くどいですね」

 男 「いや、さっきのとはちょっと違くて」

弓使い「なんですか?」

 男 「人間とエルフは姿形も似てるし思考も似てるってんなら、もしかしたら」

弓使い「共存も可能では、などと仰る気ですか?」

 男 「そのつもりだった」

弓使い「それは難しいでしょう。今もなおエルフが隠れ住まねばならないのは誰のせいだとお思いですか?」

 男 「人間」

弓使い「私たちの人間への忌避の感情は相当強いです。斯く言う私もそうです」

 男 「いやはや、難しいね」

弓使い「……どうしてそんなことを?」

 男 「なんとなく、だよ。君らが森の力が弱まると困るって言ってたのを思い出してな」

 男 「本当に何と無くだよ。深く考えていったことじゃない。忘れてくれても全然かまわない話」

弓使い「はあ……」
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:44:04.47 ID:0/G1P+FM0
エルフ「――――終わりました。何のお話ですか?」

 男 「夢と理想の儚さについて」

エルフ「はぁ、それはまた難しそうな話ですね……」

弓使い「では、私も水浴びしてきます」

 男 「あいよ」

弓使い「ああ、覗いても構いませんよ?」

 男 「え゛」

弓使い「代わりにお命を頂戴しますが」

 男 「ですよねー」

エルフ「……見たかったんですか?」

 男 「見てもいいならね」

エルフ「不潔です」

 男 「悪いね」

エルフ「ところで、さっき仰っていたエルフと人間の共存についてなんですけど」

 男 「なんだ、聞いてたんじゃないか」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:44:53.01 ID:0/G1P+FM0
エルフ「あの子と私の考えは少し違うので」

 男 「へえ」

エルフ「それで人間さん、貴方はエルフと人の共存は可能だと思いますか?」

 男 「出来ると思う。食文化とか、そういうのにお互いの理解が進めばな。君らと一緒に旅してみて実際そう思えた」

エルフ「そうですか…… 先生もそう仰ってました。このままではいずれエルフは滅びるんじゃないかって」

エルフ「ちなみにエルフが全て死に絶える、というわけじゃなくてエルフという集団で生きていけないということです」

 男 「大丈夫か、その先生?多分だけどその考えは一般的なエルフの考えじゃないだろ?」

エルフ「ええ、このことは私以外誰もいないところでお話ししましたので」

 男 「それならいいや」

弓使い「キャアッ!?」

エルフ「ともあれ、私と先生はエルフは人間との共存を考えるべき段階に来たと、ほへ?」

弓使い「ちょ、ちょっと!オウギュ!メタランテ!!」

 男 「あの子の声だな」

エルフ「何かあったんでしょうか?何かに襲われたんでしょうか!?」

 男 「見に行ってみよう。ああ、その前に君の荷物を持って、あと俺より先に行ってくれ」
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:46:42.09 ID:0/G1P+FM0
エルフ「――――大丈夫!?何があったの?」

弓使い「あ、良かった。あの子に私の荷物を盗られてしまったの!」

子 猿「ウキャッキキィー」

エルフ「まぁ、かわいい」

弓使い「同意だけど言ってる場合じゃないわ。弓もあの子が持ってるしすばしっこくてつかまえられないの」

 男 「よし、ならあの子猿から荷物を奪い返せばいいんだな」

弓使い「きゃっ!?……どうして後ろを向いておられるので?」

 男 「フッ、助けを求める乙女の悲鳴を聞いて駆けつけたものの、問題解決後に自身の裸体を見られたことへの羞恥から乙女の手痛い一撃を被る……」

 男 「そんなトホホでベタな展開は避けたいのでね!!」

弓使い「……はぁ」

 男 「というわけでその子に君の着替え渡しといて。俺はあの小生意気な猿をば……」

子 猿「キィ?」

エルフ「あの、その構えていらっしゃる弓でどうされるおつもりで……」

 男 「決まってる、風穴を開け…… る!」

子 猿「ウキャァーッ!?」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:48:50.15 ID:0/G1P+FM0
 男 「……とまぁ、俺の殺気を感じて逃げたんだろうが狙いは最初から荷物の方なんでね。鞄に穴空いたけど勘弁してくれよ」

弓使い「いえ、構いません」

子 猿「キーッ!キーッ!」

 男 「あれ、コイツ逃げないのかね?あ、ちょ、これはお前のじゃねぇんだから、こら、わぷ…… 顔面はやめろ」

子 猿「ウキャーッ!」

 男 「大人しくしろって…… で、子猿がいるってことは近くに親猿、そして群れがいるってことか」

エルフ「もしかしてこの子が囮になって群れが私たちの荷物を狙ってたんじゃ!?」

 男 「荷物なら持ってきてるだろ。そんなトホホでベタな展開は避けたいのでね!!」

子 猿「キキッ!!」

弓使い「はぁ…… とりあえずはありがとうございます」

 男 「いいのいいの。っと、そうだ、ちょっとコイツに聞いてくれないか?」

エルフ「なんでしょう?」

 男 「確かこの種類の猿の生息域は隣国で、大人の猿なら兎も角子猿がいるってのはおかしいんだ」

弓使い「なるほど…… キーキーキキー」

子 猿「ウキュ」
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 18:52:46.14 ID:0/G1P+FM0
弓使い「母親に連れてこられた、よくわかんない」

エルフ「ということみたいです。母親猿を探して聞いてみますか?」

 男 「いや、結果的に子猿を捕まえてる状態だし明らかな敵対行動してるわけだから話なんてできないだろ」

エルフ「それもそうですね……」

 男 「ま、母猿がここまで来てるってんならお隣の治安は相当アレらしいな」

弓使い「そのようですね」

 男 「君らの言う西の森…… どうなってんのかね?」

エルフ「それを確かめに行くんです」

 男 「だな。ほれ、お前もお帰りよ」

子 猿「ウッキャーッ!!」

 男 「わぷ…… 顔はやめろって」

母 猿「ギャオギャオッ!!」

 男 「おっと…… ほれ、お母さんも心配してるみたいだし」

子 猿「・・・・キャッキャッ」

 男 「大きくなれよー」
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 18:57:43.45 ID:gGDMaJW30
>>115では「心の閊え」なのに>>116の最初の行では「胸の閊え」になっているのはなぜ?
130 :>>129様 なんででしょう?閊えしか聞き取れなかったんじゃないでしょうかね?(適当) [saga]:2016/08/05(金) 19:23:37.97 ID:0/G1P+FM0
―――――
―――


 男 「さて、国境も眼と鼻の先になったわけだが……」

エルフ「いよいよですね…… 森の声が少し聞こえてきます」

弓使い「大分近づきました…… 目的地はまだ先ですが」

 男 「川を境にしているから必然的に川を渡らなきゃいけないんだが、橋がかかっているところは当然狙われる」

弓使い「かといって浅瀬の辺りでは亡命者などを狙う野盗が潜んでいる可能性が高い……」

エルフ「ということは…… どういうことですか!」

 男 「どうもこうも、普通なら渡らないところを渡るってことだ」

エルフ「普通なら渡らないということは……?」

 男 「まぁ、深かったり流れが速かったり?」

弓使い「危険ですね」

 男 「でも、行かなきゃならないんだろ?」

弓使い「はい」

 男 「もう少し上流に行こう。ここらはまだ野盗の目がありそうだ」
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 19:27:52.62 ID:0/G1P+FM0
 男 「――――と、いうわけでここから国境を越えます」

エルフ「……流れ、速い。それに深いですね」

 男 「また流されそうか?」

エルフ「い、いえ!今回は大丈夫です!!」

 男 「それならいいや。ま、まずは対岸の無事を確認しますか…… っと」

弓使い「弓、ですか?」

 男 「鉄砲は音がデカいからな。音でそういう連中を招き寄せてしまうかもしれん」

弓使い「テッポウは音が出るんですか?」

 男 「ああ。さて、あの辺とあそこら辺が怪しいよなぁ…… とりあえず2・3発撃ってみて」

弓使い「人の気配や物音は聞こえませんが?」

 男 「いや、息を潜めて隠れてるかもしれないし念のために」



エルフ「……反応ありませんね」

 男 「これなら渡っても大丈夫、かな?」

弓使い「今は大丈夫でもこれからどうなるかはわかりません。急ぎましょう」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 19:30:16.73 ID:0/G1P+FM0
―――
――


 男 「ふぅ…… 無事密入国成功。玉薬も濡れてないな」

弓使い「荷物も一つも流されずに済みました」

エルフ「シャウペシィ、ペントゥルルノーマスーワラヴィ……」

 男 「今なんて?謝ってたっぽいけど」

弓使い「縄を括り付けるために矢を刺した木に穴をあけてごめんなさい、と」

 男 「ああ、それはすまん……」

エルフ「この程度はかすり傷にも入らんよ、って許してくれました」

 男 「寛大な木でよかったな。さて、んじゃさっさと着替えるか」

弓使い「そうですね。濡れたままでは水の跡でつけられるかもしれませんし」

エルフ「じゃあ人間さん、ちょっと離れてて……」

 男 「あー、悪いけど、そういうわけにはいかん」

エルフ「ええっ!? ……み、見る気ですか!?」

 男 「いやいや、今離れるのは危険なんだって」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 19:35:13.50 ID:gGDMaJW30
完結にいつぐらいかかるのかな?
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 19:35:16.33 ID:0/G1P+FM0
弓使い「確かに野盗の類が潜んでいる可能性がある以上、あまり離れて行動するのは危険ですね。ですが」

エルフ「ですが!ですがです!!」

 男 「後ろ向いてるし絶対に着替えてるとこは見ない。見てもいいなら見るけどな」

エルフ「いいわけないでしょ!!」

 男 「ですよなー」

弓使い「それに今さら何を言ってるの。貴女流されたとき裸だったんでしょ?」

エルフ「あ」

 男 「げ」

エルフ「――――見てたんですか?」

 男 「……見なきゃ助けられんだろ」

エルフ「そう言えば意識を取り戻したとき貴方の服を着させられてました……」

 男 「そのままってわけにもいかんだろ」

エルフ「……触ったんですか?」

 男 「触らずにどうやっへぶっ!?」

弓使い「いいのが入りましたね、顔面に」
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 19:37:47.80 ID:0/G1P+FM0
―――――
―――


 男 「で、この国で初めて迎える夜です」

弓使い「そうですね」

 男 「ホントは火を起こすところなんだけどねー、今ここは猛獣より性質の悪いのがうじゃうじゃいてねー」

弓使い「焚き火なんてここにいると教えているようなものですから、正しい判断だと思います」

 男 「どうも」

エルフ「それにしてもやっぱりこの国は不穏みたいですね。木々がずっとざわめいてます」

弓使い「そうね、それに嫌な臭いもします…… 準備はできましたか?」

 男 「ああ、いつでも行ける」

弓使い「数は…… 十二、三」

 男 「いや、十五はいる」

弓使い「……合図したら走るわよ」

エルフ「わかってる」

 男 「それじゃまずは一発!」
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 19:40:31.27 ID:0/G1P+FM0
野盗イ「ぐぁああああーーーーっ!!!」

エルフ「すごい音」

弓使い「命中したようですね」

 男 「今のは警告だ!次からは脚じゃなく頭にぶち当てて容赦なく殺す!!いや、心臓もありか?死にたくないならさっさと立ち去れ!」

野盗ロ「そいつぁこっちの台詞だぜ!女と荷物を置いてきゃ命は助けてやるよ!!」

 男 「やなこった!!」

弓使い「今よ!走って!!」

エルフ「ええ!」

 男 「あそこを突っ切る!走れ走れ走れぇ!!」

野盗ロ「逃がすかぁっ!!」

 男 「そこを何とかお願いします!」

野盗ロ「ぎぃやぁあああっっ!!!」

弓使い「右!」

野盗ハ「かひゅっ……」

エルフ「あっ、つっ…… 二人とも凄いなぁ、全部命中」
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 19:42:55.00 ID:0/G1P+FM0
―――
――


 男 「はぁ、はぁ…… あれだけ射って、これだけ走ればもうついて来てないだろ……」

弓使い「そ、そうですね…… もう足音は、聞こえ、ません……」

エルフ「は、はい…… 私も、何も……」

 男 「獣の気配も、なさそうだし…… 少し、休んでいこう……」

弓使い「そう、ですね……」

エルフ「はぁあ〜〜…… それにしてもすごい音でしたね、そのテッポウ」

 男 「ああ、音だけじゃなく威力も凄い。弓とか弩なんかよりも余程殺すことに特化してる」

弓使い「……実に人間らしい武器ですね」

 男 「そう?」

エルフ「それに人間さん、弓もお得意だったんですね!」

 男 「ああ、昔はこっちが主武装だったな」

弓使い「鷹の目、でしたか?そう呼ばれてた頃のことですか?」

 男 「……ちょっとその呼び方はやめてほしいかな。若気の至りなもんで」
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 19:47:30.07 ID:0/G1P+FM0
エルフ「……は、あ……」

弓使い「どうしたの?少し様子がおかしいみたいだけど」

エルフ「うん、さっき走った時に枝か何かで怪我しちゃったみたい」

 男 「ホントに枝か?ちょっと傷口見るぞ」

弓使い「毒草だったら厄介よ」

エルフ「……ここです」

弓使い「ちょっと、これ枝とか葉っぱにに引っ掛けた傷じゃないわ」

 男 「だな。悪い、ちょっと吸うぞ」

エルフ「え、吸うってきゃあっ!?」

 男 「プッ…… まずいな」

エルフ「血なんて不味いに決まってます!」

 男 「いや、そうじゃなくて」

弓使い「やはり矢傷……」

 男 「ああ、あと吸いだせるだけ吸い出してみたが少し舌が痺れる感じがした。鏃になんか塗られてたんだろうな」

弓使い「毒ですか!?」
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 19:50:17.20 ID:0/G1P+FM0
 男 「いや、痺れ薬だろう。昔飲まされた奴と味と感覚が似てる」

弓使い「昔に?」

 男 「あと女を置いていきゃ命は助けてやる、って言ってたし最初から殺すつもりじゃなかったろ」

弓使い「殺すつもりはなかったって、あれだけ矢を射かけておいてですか?」

 男 「野盗の最大の狙いは荷物、金目の物だからな。矢が刺さって死んだら死んだで放置、生きてたなら生きてたで薬が回ったところで捕まえるのさ」

 男 「男だったら身包み剥いでから殺して、女だったら身包み剥いでお楽しみ、そんで殺すか売っ払うかってとこだ」

弓使い「だから死の危険性はないと……」

 男 「だが、この薬は本気でほとんど動けなくなる。そろそろ効果が出てくるだろうし、動けない彼女を担いで移動するとなると確実に歩みは遅くなる」

 男 「で、その足の遅くなった獲物を身軽な格好をした尾行役が素早く追いかけてくる。マズイ状況だ」

エルフ「ごめんなさい……」

 男 「謝るのは野党に追い詰められて絶体絶命になってからな」

弓使い「……このままここで休むのは危険では?」

 男 「ああ、多分血の付いた矢とか跡とか見つけてるだろうし、間違いなく俺たちを探そうとはするだろうな」

弓使い「行きましょう。少しでも距離を稼ぎませんと」

 男 「そうしよう。あと、休む時間も少し減らして場合によっちゃ徹夜も覚悟しないとな……」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 19:54:18.30 ID:0/G1P+FM0
―――――
―――


弓使い「ねぇ、大丈夫?」

エルフ「あい、しょ…ふっ……」

 男 「しばらくは無理だな。2・3日は抜けないし、人間とエルフの違いもあるだろう」

弓使い「この近くに薬草があれば……」

 男 「探すのに時間を取られるのは惜しい。それにこの薬は変態が調合して作った人工ものだ。薬草じゃ効き目は薄いだろう」

弓使い「そんな!]

 男 「解毒剤もなかったな。俺も効果が切れるまでピクリとも動けなかった」

弓使い「なんてものを…… ごめんね、もう少し頑張って」

エルフ「あぅ……」

 男 「……そろそろ変わるよ。周囲の警戒は任せた」

弓使い「承知しました」

エルフ「…め、さい……」

 男 「はいはい、謝るのは後でいいから」
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 19:57:11.83 ID:0/G1P+FM0
―――
――


 男 「……おい、ここらで一旦休もう」

エルフ「ふえ……?」

弓使い「いえ、まだ行けます」

 男 「日が落ちてからもう大分経った。これ以上は危険だ」

弓使い「ですが」

 男 「ですが、だ。少しでも休まないと疲労が蓄積してくる」

弓使い「でも」

 男 「溜まった疲労は集中を奪う。切れた集中は敗北を呼び込む。そう教わったし実際そうだ」

弓使い「……わかりました」

 男 「まったく、逃げる方は不利だよな。追いかけてくる方は楽なのに」

弓使い「猟師の貴方が言うと説得力がすごいですね」

 男 「まぁね、追いかけてくる方の考えはよくわかる」

弓使い「さて、どこか休むのにいい場所はないでしょうか」
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 20:00:04.13 ID:0/G1P+FM0
―――――
―――


 男 「ん……?」

 男 (枝を踏む音…… 野盗じゃないな、不用心すぎる。つまり獣の類…… 大きさからして猪、熊?)

???「・・・・スフゥー」

 男 (息が荒い?それに歩調が速い…… 普通じゃなさそうだ)

???「グゥゥウ・・・・」

 男 (――――熊、か…… 何事もない夜を期待してたんだがなぁ)

弓使い「……すぅ」

 熊 「ゥルルル・・・・」

 男 (手負い…… 野盗にでもやられたか?)

 熊 「・・・・・・・・」

 男 (結構な深手だ。ほっといてもその内死ぬだろうが…… 楽にしてやるべきか?)

 男 (いや、駄目だ。銃声を聞きつけてまた野盗が来るかもしれんし、この子たちが殺生は嫌がるだろうし)

 熊 「グフゥ・・・・」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 20:01:52.55 ID:0/G1P+FM0
 男 (こっちにさえ向かって来なけりゃいいか……)

 熊 「・・・・・・・・」

 男 (おいおいマジか、こっちに向かってくるかよ)

 男 「おい、起きろ。起きてくれ」

弓使い「……どうされました?」

 男 「手負いの熊がこっちに向かってる。気付かれないようにここを離れるぞ」

弓使い「待ってください、動物の気配なんてしませんよ?」

 男 「まだ距離があるからな」

エルフ「どして…でふ……?」

 男 「大分喋れるようになってきたな?ああ、手負いの理由はわからん」

弓使い「助けられませんか?」

 男 「いや、普通に考えて無理だろ」

弓使い「私たちは人間と違って動物の心を通わせることができます。人間には無理でも」

 男 「手負いの獣ってのはそういう次元じゃない。特にもうすぐ死ぬって時はな」

弓使い「……ケガをしているだけですよね?」
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 20:05:14.21 ID:0/G1P+FM0
 男 「ああ、君らのいた世界には死にかけた獣はいなかっただろうな。あれは人間にやられてる」

弓使い「人間は熊まで食べるんですか!?」

 男 「場合によってはな。基本的には作物を守るために追い払うくらいだが、この国の情勢を鑑みるに……」

弓使い「食べるために、殺そうとした?」

 男 「野盗が自分たちの安全確保のために始末しようとした、ってのもあるか」

弓使い「自分勝手な都合で……」

 男 「兎に角、今のあの熊は凶暴だ。見つけられたら殺すか殺されるかしかない」

エルフ「れも……」

 男 「これ以上は問答無用。行くぞ」

弓使い「……わかりました」

 熊 「グゥ・・・・」

 男 「……あん?」

弓使い「どうされましたか?」

 男 「おいおい、嘘だろ……」

弓使い「こっちに向かってきているんですか?」
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/05(金) 20:06:21.81 ID:0/G1P+FM0
 男 「ああそうだ」

 男 (どうする?偶々こっちに向かってきているだけならゆっくりここを離れればやり過ごせるはずだが、狙いを完全に俺たちに定めているとしたら?)

弓使い「こっちに来るというのなら、一度話してみます」

 男 「だから何言ってる。無理だ、無理なんだよ」

弓使い「熊の足は私たちよりも余程速いです。逃げられるはずもありません。それなら」

 男 「無理だって…… くそ、鉄砲は音で嗅ぎ付かれるから使いたくなかったが」

エルフ「だめ、れす…!」

 男 「こっちの台詞だよ」

 熊 「グァァァアアッ!!」

エルフ「なっ……」

弓使い「……ひっ」

 男 「だから無理だって言った!くそっ!!」

エルフ「だ、だめ!」

 男 「くっ、手をどけてくれ!みんな殺されるぞ!!」

 熊 「グォォオオオッ!!?・・・・オオゥ」
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