女「好きな人のためなら」 ※百合

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1 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/03(月) 19:57:52.80 ID:YSYJ9ALT0
百合です。苦手な方はご注意ください。
長いです。地の文があります。
よろしくお願いします。
2 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/03(月) 20:08:01.88 ID:YSYJ9ALT0
 頭が痛い。飲みすぎた。バイト先の同僚はみんなお酒が強すぎる。
次こそはちゃんとセーブしよう、前もこう思っていたのに結局楽しくなって飲む手が止まらなくなってしまっていた。
飲み会についてあれこれ考えている内に大学に着く。大きめの教室の中央付近に陣取る友達のグループに混ざって、雑談している内に講義が始まる。

 この先生はレジュメ通りに進めていくだけで私語にも厳しくないから、後ろのグループは結構長いこと話し続けて楽しそうにしている。
後方のあるグループに目を向ける。その中で誰とでも仲良く話している人物が、私と深い関係を持つ女子大生だ。


 ミカも私も今日はバイトのシフトがなく、特に他の用事がある訳でもない。普通にいけば今日も行為に及ぶのだろう。


 私と同じ大学二年生のミカちゃんとの関係は身体だけ。いわゆるセフレというやつだ。理由は単純。需要と供給があったから。
そういう人を探す掲示板で良いなと思い会ってみたら、偶然同じ大学だった。基本、大学内で話すことはない。私がいるグループの子たちはみんな普通の大学生で、
根はマジメ、あっちは見るからに派手で系統が違う感じだから。
 私が高校の時に叶えられなかった恋の、どうやっても埋められない埋め合わせのために一年くらいこの関係が続いてしまっている。
私はこういう理由だけど、あっちは「男に飽きたから」だそうだ。私、というか女の人に飽きたら次はどうするのかちょっと気になるところ。
 
 本当に、ロクデナシになってしまった。
3 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/03(月) 20:11:30.36 ID:YSYJ9ALT0
 火曜は1から5限まであるのでお尻と腰が痛い。ひねってストレッチしているとLINEに通知が来た。
『コンビニ寄ってから私の家行こー』、か。また夜ごはんを適当にするのだろうか。
直接コンビニで落ち合うことになった。なんとなく友達に見られたくないというのもあるから、
大学内で待ち合わせるよりは助かる。

「おっすーナオちゃん」

「こんばんは、ミカちゃん」

 正直、顔は滅茶苦茶可愛い。にこにこしながら私の手を引いて店内に入っていく。
だけど、ドキドキすることはない。

「あー!ほら見てこれ!出たよー新発売とか言ってパッケ新しくして量少なくしたやつ!」

「ちょ、ちょっと、騒ぎすぎだよっ」

「えー平気でしょ。どうせみんなバイトなんだから気にしてないと思うけど」

「いやそういうことじゃなくて...」

 周りの人に迷惑だ。早いとこお会計済ませてほしいのだけど、この人はコンビニの買い物でも楽しめてしまう。


 コンビニで買ったお弁当と揚げ物とお菓子一気に食べてゴロゴロしている。
それでこのスタイル維持はズルイ。おまけに肌もキレイだ。
4 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/03(月) 20:14:15.06 ID:YSYJ9ALT0
 心の中で不満を言いながらテレビ見ていると、ふわりと耳に手が伸ばされる。
いつも急にはじまるのが心臓に悪い。

「......耳ばっかり触って、どうしたの」

「今日はソフトにやっていこうかなぁって思って」

今度は口でも弄られる。クチャクチャ、ピチャピチャ。頭の中に直接音が響く。

「ぁ、っん、...っこれ、」

「ん?なに?」

「なんか、やだ…」

「...んふふ。じゃあもっとやろっと」

 両方の耳がベトベトになった後、彼女の手で顎を持ち上げられる。顔が熱い。

「キスだけでイク人も世の中に稀にいるそうなんだけどさー、
ネットとかで調べても確実な方法が無くてね」

「ミカちゃんの研究意欲には頭が上がらないよ」

「なので私なりのやり方で実験してみよーと思います。ほら立って立って」

「別に、座ったままでもキスできるじゃん...」
5 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/03(月) 20:17:44.73 ID:YSYJ9ALT0
彼女は私より少しだけ身長が高い。する時は私が見上げる形になる。


「こんなこと、意味あるとは思えないんだけど」

「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ。ほら、手は私の首にまわして〜」

 「準備万端!」そう言うとテレビの電源を落として至近距離で向き合う。

「じゃ、いくよー?」

「お好きにどうぞ」

 さすがにこんなことで、限界までいくことなんてない。




 大体あれから20分経った、と思う。

「っ、んん、ん、く」

 最初は唇同士を触れ合わせるだけ。それから甘噛みされ、口内をめちゃくちゃにする深いキス。
今は、彼女の唾液地獄にあっている。

「っあ、はっ、ちょっとま、まって」

「ダメ。待ったら意味ないから」
6 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/03(月) 20:22:24.71 ID:YSYJ9ALT0
 彼女は唾液の量がすごく多い。それを口内にこんなハイスペースで送られてくると困る。

「ぁぅ、ん、んっく」

 二人分の唾液を喉の奥に送らなければならないから、息つく暇がない。
脳に酸素を送れない。それになぜか甘く感じる。




 もう何分キスし続けているのか分からない。

「ん、ちゅ……」

 さんざん唾液を送られたと思ったら今度は最初にしたような優しいキスに変わった。
全然攻めて来ない。さっきはあんなにガッツいていたくせに。

「どうしたの〜?」

 ニヤニヤしながら聞いてきた。ムカついたので私から舌を絡めてやった。

「ちゅ、あはは。じゃあ、そろそろやるか」

「へ?なにを」

 言いかけたところを口で塞がれた。久しぶりに送られてきたものを飲み込む。

「んっ!ふっ…ん、ぐっ」

 体が勝手にガクガクと震える。
7 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/03(月) 20:27:55.19 ID:YSYJ9ALT0
「ぷぁ…ぁ、な、にこれ…」

「あはは、震えちゃって可愛い〜」

 笑っていないで、無視しないで早く教えて。そう目で訴えると彼女は楽しそうに解説し始めた。

「ナオちゃん、私の唾を飲んでる最中、もうビクビクしてたんだよ。
飲むだけで感じちゃうようになっちゃったんだよ、ふふ」

「そんな、わけ、ない。なにか仕掛けが...」

「そんなのないよぉ。ほんとに感じやすいんだから...かわいい。もっとあげる」

「んっ、ふ、ぅ、んんっ!」

 こんな、キスだけで…?

「ぁっあ!く、ぅあ、はっ...はぁっ」

「イッちゃったね」

 足に力が入らずへたり込む。顔全体が熱い。自分が感じやすい体質だとは思っていたが、
まさかここまでとは。

「これで、おわり...?」

「っ…ナオちゃん...その顔はダメだよ」

「ぇ?なに、言って、ぅあっ?」

「ソフトとか言ったけど、ごめん...ガッツリ食べたくなった」

「あっ!やぁ、ん、やだっ、ああっ!」
8 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/03(月) 20:31:26.67 ID:YSYJ9ALT0
「全然ほぐす必要ないね。三本入れていい?」

「ちょ、っと待ってそんな、むり、ぃっ!?」

 聞いたくせに待たない。しかも入ってしまった。
片手で器用に秘部の突起を弾かれて、中をかき混ぜられて、口で胸の突起を舐められる。
私はそんなにキャパシティが高くない。一気にやられたらすぐ頭が真っ白になってしまう。

「ぁ、あっ、ぁ、もうっ」

「ん...いいよ、イッて」

「ぃっ!...っく、あぁっ!」

 下腹部の痙攣がなかなか収まらない。定期的にくる余韻の震えに情けない声が出る。

「...ぁっ、ん...ぁ、ぁっ」

「かわいい......私だけのナオちゃん...」

 勝手に所有物にしないでほしい。私の心はこことは違う遠いところにある。



 帰りの支度を手短に済ませて玄関に向かう。
9 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/03(月) 20:36:47.91 ID:YSYJ9ALT0
「あの、じゃあもうそろそろ帰るから」

「うん!好きだよ、ナオちゃん!気をつけて帰ってね」

「...うん」

 最近帰り際に好きだと伝えてから別れるようになった。
なんの意図があるのだろう。これもプレイの一種だろうか?



 一人で暗い夜道を歩いて自宅へと向かう。
だめだ、涙が出そうになる。行為の後はいつもあの人のことを思い浮かべてしまう。

カナ先輩。

 女の人を好きになるなんて、自分が一番驚いている。だけど仕方がない。
先輩の全部を、気付いたら好きになっていた。
 妹さん達のお世話を頑張ってるところ、みんなからイジられながらも
いざという時は頼りにされているところ、私が抱きついてもイヤな顔しないところ、
美人なくせにかわいいもの好きだというところ。

 まだまだある。だけど、先輩を思い浮かべると必ず、オトハさんが出てくる。
ふわふわの巻き毛で、ピアノが上手で、先輩と同い年の不器用な女の人。
 いつも先輩と一緒にいた。似た者同士だから喧嘩しているように見えて、実は相性バツグンな二人。
見ていて辛かった。私が先輩と二人でいると、珍しいねと言われるのが辛かった。
先輩とのコンビといえばオトハさんという風潮が嫌だった。
どうして私じゃないのと思った。オトハさんより私の方が、そう思うのが嫌だった。あとは、
10 :今日はここまでです。ありがとうございました。 ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/03(月) 20:42:24.18 ID:YSYJ9ALT0
ゴツン。

「いぃっ、たぁ...」

 ずっと俯いて歩いていたので電柱が目に入らなかった。顔を上げるともう家の目の前まで来ていた。
アパートの階段を登り、鍵を開けて中に入る。

「はぁ...」

 なんだかいつもより疲れた気分だ。明日は2限からだから、歯磨きだけしてお風呂は朝にしよう。
着た服そのままベッドに倒れ込む。スマートフォンの通知を確認する。
友達から、明日は空いているかどうかの確認が来ていた。居酒屋のバイトまでは暇だ。
通知音と共にすぐ返信が来る。かわいいベーカリーカフェを見つけたから一緒に行こうというお誘いだった。

返信は簡潔に済ませよう、そう思ったところで意識が手放された。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/04(火) 02:53:22.81 ID:HdoK4dOIo
乙楽しみにしてる
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/04(火) 06:15:05.35 ID:MkbKJw5qo

期待
13 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/04(火) 07:11:03.63 ID:18DF6Rhx0
>>11
>>12
ありがとうございます。励みになります。


続けます。
14 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/04(火) 07:33:28.08 ID:18DF6Rhx0
「わぁ…!外見からしてすごいオシャレだね」

「あはは、ナオちゃんはしゃぎすぎ」

「パン狂いだからね、ナオさん」

「狂いって、それさすがにひどいよ、ヒトミちゃん」


 パンは好きだ。単純に結構テンションが上がる。
私の家と大学を挟んで反対方向にあるからか、全然存在に気が付かなかった。
店員に奥の方のテーブル席に案内された。


「店員さん、女の人しか居ないのかしら?」

「どうだろう。てか、みんな顔のレベル高くない......?」


 二人がキョロキョロと店内を見ている間にメニューを独占してじっくり選ぶ。


「もう決めた!これとこれにする」

「えーはやい。まぁ初めて来たし、ウチもナオちゃんと一緒のにしよう」

「私はその隣に書いてあるものにするわ」


 店員に注文すると、友達の中でも特に明るい性格をしているキョウコは、
すぐに店員について話し出す。


「ねぇ、やっぱここ、かわいい子多すぎじゃない!?」

「何をそんなに気にしているのよ。キョウコさんも充分レベル高いでしょう」


 キョウコが容姿について騒ぐのを、落ち着いた性格のヒトミが軽くあしらう。


「そーだよ、かわいい、かわいい」

「ヒトミちゃんとナオちゃんに言われても嫌味にしか聞こえないんですけどー...」


 友達はそう言ってふてくされつつも店内を見渡すことはやめない。


「ちょっと、キョロキョロしすぎよ」
15 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/04(火) 07:39:00.90 ID:18DF6Rhx0
「んー、これで全員かな...制服も相まってみんなかわいいですな。
…あっ!見て見てあの人、美人さん!」

「え?どれど、れ…」

 
 指でさされた方向を見たら、心臓が止まりかけた。
カナ先輩がいた。怖くて気持ちを伝えられなかった好きな人、
高校を卒業してから、会う勇気も連絡する勇気も持てなかった人がいた。


「はいはい。もう分かったから。ナオさん…?どうかしたの?」

「ん?おーい。戻ってこーい」


 目の前で手を振られてハッとする。


「...っえ、あ、あの何でもない、何でもないです...」

「何で敬語?まさか、あの人に見惚れた〜?」

「いや、違くて、ぇ、えっと、知り合いに似ていたからっ。それだけ」

「ふふ、それにしても顔が赤く見えるけど?」


 この流れは非常にまずい。


「そういや飲み物を頼むの忘れてたからさ、ついでに確かめてみようよ。
すみませーん店員さーん」

「ちょっと、何っ」
16 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/04(火) 08:09:07.31 ID:18DF6Rhx0
 なんて事をしてくれるのだろう。
あぁ、こっちに来てしまう。どうする、どうする。制服が似合っていてかわいいとか、
相変わらずスタイル良いなだとか、のんきなことを考えている場合ではない。
 りんごの様に赤くなっているのっているのが自分でもわかるので、顔を上げられない。
下を向いていても近づかれたらバレるだろう。


「...お伺いいたします」

 
 不気味な間があった。非常に怖い。


「えーっとぉ、この○○を三つください」

「はいっ、○○が三つですね。かしこまりました。ご注文は以上ですか?」

「はいー。でもちょっと待ってください。ほら、ナオちゃん」


 もう逃げられないか。


「あの、カナさん?久しぶり、ですね…?」

「...そうだよ〜久しぶりだねっ。ナオちゃん」


 ちゃん付けで呼ばれた。普段は「あんた」とか「ナオ」と呼ぶのに。


「あ、ははは、ほんとに...」


 笑顔を浮かべているものの、目が笑っていないところが非常に怖い。
それにしても、本当にきれいだ。先輩は一見すればつり目の美人できつい性格だと思われがちだが、
実際はきさくな人で、女の子らしくかわいいものが大好き。このカフェは制服がとても
凝っていて、いかにも先輩が好きそうなものだ。
 このカフェは先輩が通っている大学から少し遠くにあるので、やはり高校時代同様、
本当の趣味は隠しているのだろう。


「良かったわね、ナオさん。先輩と再会できて」

 こういう形では望んでいなかった。もっとしっかり心の準備をしておきたかった。

17 :今日はここまでです。ありがとうございました。 ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/04(火) 08:17:48.97 ID:18DF6Rhx0
「すみませーん」


 別の席から店員を呼ぶ声が聞こえた。お昼時には私たちと同じ年代の女子が多く、
繁盛しているようだった。


「引き止めてすみませんでした。注文は以上ですから、どうぞお仕事に戻ってください」


 気遣いができる友達であるヒトミがファインプレー。私もそれに便乗する。


「そ、そうだねっ。カナさん、引き止めてごめんなさい!お仕事頑張ってください!」

「全然大丈夫です、気にしないでください。はぁい、ただいま参ります。...それでは失礼いたします」


 お辞儀してから仕事に戻っていく。
ギロリと私を睨んで去っていったのは気のせいではないだろう。


「...ぷっ、ぷふふっ」

「な、なにさ、なに笑ってるの」

「いや、だってナオちゃん、くくっ、顔が真っ赤なんだもん」

 
 そんなことは、私が一番わかっている。キョウコには後で欠席した分の
レジュメを見せると約束していたが、ここまでからかわれると見せる気が無くなりそうだ。


「相当あの先輩のことが好きなのね。微笑ましかったわよ」

「くふふ、面白かった、の間違いじゃなくて?」

「全っ然面白くないから。もう余計なことはしないでよ!」

「ハイハイっ。あっ飲み物きたー」



18 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/04(火) 14:20:12.78 ID:DIYMq98Eo
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/05(水) 04:50:35.88 ID:skDSwY5bo
20 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/05(水) 07:16:08.13 ID:msd+J/9N0
ありがとうございます。
続けます。
21 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/05(水) 07:24:20.72 ID:msd+J/9N0
 軽くあしらわれてムカついたが、飲み物が美味しかったのでよしとする。
その後先輩と接する機会は巡って来なかった。

 ランチの後、大学で残りの講義を受け帰宅する。
先輩にどう連絡を入れようか悩んでいたら、
先に向こうから通知が来た。ただそれだけで鼓動が早くなってしまうのはなんだか情けない。


『ひ』『さ』『し』『ぶ』『り』『ね』『( *`ω´)』

『今まで連絡してこなかったのは、どういうわけ?』


(かわいい……じゃなくて)


 怒っている。それもそうだ。高校時代に仲が良かったみんなで会う機会があっても、
先輩がいると何かしら理由をつけて欠席していた。
それに、特に先輩と仲が良いオトハさんがいることが多い。
かといって本当の理由を言えるわけがない。

 どう返信しようか悶々としていたら、スマートフォンから着信の通知が来た。
画面には【♡カナ先輩♡】の文字。この人は何回私の鼓動を乱せば済むのだろう。


《あ、カナさん、あの》

《ひ・さ・し・ぶ・り!》


 案の定声が上擦ってしまったが、先輩の声でかき消され、
それについて突っ込まれる事は無かった。
22 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/05(水) 07:30:53.30 ID:msd+J/9N0
《ひ、久しぶりです》

《さて、聞かせてもらおうかな。あたしをあからさまに避けて、
連絡もなにもよこさなかったワケを》


 当然のようにばれていた。


《いや、避けていたわけじゃなくてですね》

《じゃあ、なによ?》

《あの...》


 だめだ、言葉が出てこない。先輩と久しぶりに話すというのもあるし、
誤魔化すための理由も考えていなかった。


《...まぁ、会いたくないってんだったら、無理に理由聞かないし、もう私から連絡したりしな》

《全然ちがうッ!むしろすごく会いたかっ...た》


 とんでもない誤解を解こうと否定する勢いのあまり、
本音が出てしまった。いやな汗が出てくる。会いたくない訳がない。
全く逆、ずっと会いたかった。


《......ふぅーん?会いたかったんだぁ?なら、どうして素直にそうしなかったのかなー?》。

《それは、ですね》


 何だか、楽しそうな声になってきているのは気のせいだろうか。
スマホを持つ手がピクピク震えている。好きな人の前だと、頭の回転がこんなに鈍くなってしまうとは。
本当に何を言ったらいいか思い浮かばない。


《っく、く......ごめんごめん。いじめすぎた》

《え、いえ、そんなことは》

《まー、電話だと何だか話しづらいってこととかあるだろうし、
直接会ってゆっくり話したいね。ま、いい機会だから二人で遊ぼうよ。どう?》
 
 
 思いがけないところから先輩と遊ぶ機会が巡ってきた。
二人で会うというのはものすごく重要。キョウコにはレジュメをちゃんと見せてあげようと決めた。


23 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/05(水) 07:35:54.78 ID:msd+J/9N0
《え、は、はい!わたしも会いたいです!
そ、それじゃ、いつにします?場所はどうします?あっ、私空いているのは基本的に》

《ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ。
そんなに食い付いてくるとは思わなかったわ。んー場所は、そうねぇ》

 
 さっきとは違う意味で心拍数が上がって、なんとも言えない幸福感が心を満たしている。
誘われた、ということは、私はまだ先輩の中で仲が良い後輩でいられているのだろう。


《ナオの家とかは?一人暮らしだよね》

《大丈夫です!じゃあいつに...ぇ?》


 勢いで大丈夫と言ってしまった。


《そ、よかった。あたし、金曜日はお昼で講義終わって、午後から空いてるけど、ナオは?》

《大丈夫です...けど、私の家でですか》

《そう。だめ?お酒とか買ってさ》

 
 だめなわけがない。むしろ来て欲しい。だけど家で二人きりというのは、
私の心臓が大丈夫だろうか。先輩と二人きり、私の家で。
24 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/05(水) 07:47:39.46 ID:msd+J/9N0
《おーい、もしもし?どうかした?》

《い、いや何でもないです。よろしくお願いします》

《ぷっ、何改まってんの。じゃあ決まりね。大学って○○の辺りでしょ?》

《そうですね。あっ、大学の近くにスーパーあるから、そこで買っていきましょうか?》

《それがいいね。そこで集合でいい?》

《はい。着いたらLINEで連絡します》

《わかった。じゃ、そろそろ切るわ。またね》

《はい、また》


 「また」という言葉をこんなにうれしく感じるとは思わなかった。
今、確実に気持ち悪い顔になっていると思う。どうしても口角が上がってしまう。
掃除しなければ、年末より気合を入れて。



 予定の日までの大学生活は、入学してから一番浮ついていたと思う。
退屈な授業の時は、ずっと先輩とどんなことを話そうか考えていた。
友達といるときはいつも以上に元気だねと言われた。居酒屋のバイト中には、
常連客から最近は特に明るくて可愛いねと褒められた。先輩と会う時にも、この調子を維持できればいいのだが。
 
 バイトが終わり、帰宅直後にLINEの通知。すぐに確認するが、
期待していた人物からではなかった。
25 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/05(水) 07:54:53.99 ID:msd+J/9N0
『明日シフト休みになったから、どう?』

 
 ミカからの誘いだった。何をするか書かれていいない場合は大抵、
体を重ねあわせることを意味する。
残念だが先約がある。もし先輩からの誘いが後でも、断っていただろう。


『ごめん、高校の時の先輩と遊ぶ約束がある』


 いつものように素っ気ない返信が帰って来て終了かと思っていたら、
「女の人?なんで遊ぶの?」という質問が飛んで来た。


『女の人だよ。偶然久しぶりに会ったから遊ぼうって話になった』


 隠す必要もないので、正直に話した。いつもは1分にも満たない時間で既読がつくのに、
10分ほど後に返信が来た。


『わかった』


 時間がかかった割には短い返答だ。最近、ミカは私について色々プライベートなことを
聞くようになってきている気がするが、深く考えてもしょうがないか。

 それより明日のことを考えよう。お酒を飲むのだから、おつまみは必要だ。
テレビを観ながら話そうか?先輩が好きなアクションの洋画のDVDとか借りておいたほうがいいだろうか。
話題が尽きたらどうするか。いや、プランを立てて行ったら崩れた時に余計パニックになりそうだ。
アドリブでいこう。というか、いつも通りの私で。そう吹っ切れたら眠気もやってきたので素直にベッドに入った。


26 :夜に再開します。ありがとうございました。 ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/05(水) 07:57:19.83 ID:msd+J/9N0








 正直に話さなければよかった。

 正直に話さなければよかった。

 正直に話さなければよかった。







27 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/05(水) 08:19:08.18 ID:2mQEi/uVo
なにごとだ
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/05(水) 16:09:19.97 ID:qTeDxpfU0
いいね
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/05(水) 19:17:22.23 ID:P4BDg8TxO
素晴らしい
30 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/05(水) 20:50:16.98 ID:msd+J/9N0
ありがとうございます。

続けます。
31 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/05(水) 20:57:59.98 ID:msd+J/9N0
「お、きたか」

「こんばんは、カナさん」


 当然のことだけれど私服だ。
カフェで着ていたふわりとしたかわいらしい制服とは違い、
黒を基調に自分のスタイルを活かしたスタイリッシュな格好をしている。


「に、似合っていますね。その服」

「ぁはは、声裏返ってる」


たまに見せる、素の少し照れた笑顔は反則だ。胸がキュゥと締め付けられてたまらない。


「まぁあたしならどんな服着てても輝けるからね」


 すぐにふざけた感じに戻ってしまった。
素直にそうですね、美人ですもんねと言いたい。また照れさせたい。
言ったところで私のほうが照れるだろうけれど。


「さ、買い物済ませましょうか」

「おいこらスルーしてんじゃない」



 宅飲みの定番を買って、おつまみも定番を。
道中は意外と普通に話せた。この調子を維持できるだろうか。


「お邪魔します」

「はーい。狭くて汚いけど、どうぞくつろいでください」
32 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/05(水) 21:04:44.68 ID:msd+J/9N0
「ナオにしては綺麗にしてる方ね。狭さは、一人暮らしならこんなもんでしょ」


 私にしてはって、失礼な。あなたのために頑張って掃除しましたよ。


「えらいでしょ?ほめてください」

「はいはい。えらい、えらい」


 冗談で言ったつもりが、すっと手が伸びてきて、ふわふわと頭をなでられた。
先輩は適当にあしらっているつもりなのだろうけど、これ、私には大ダメージだ。

「えへへ、ありがとーございます」


 普段通りに反応できていればいいな。


「ほんと相変わらず犬みたい。尻尾と耳が付いていても違和感ないな」

「うわ、カナさん、そういうプレイがお好きなんですか...?」

「ちっがう。何で私がコスプレ趣味みたいになるのよ」
33 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/05(水) 21:16:51.07 ID:msd+J/9N0



 先輩が、パスタと冷蔵庫の余り物で料理を作ってくれるそうだ。
作っているところを写真や動画で撮りまくっていたら、
うっとおしいからテーブルの上片付けて食器用意してなさい、と怒られた。
不機嫌になられるのは嫌なので大人しく従った。


(やること、なくなっちゃった。......けど)


 今は夕方の中途半端な時間帯。テレビ番組もあまり面白いものはやってない。
そうすると、視線は必然的に料理中の彼女へ。


(いいなぁ。この光景)


 家に誰かがいる。それが大好きな人で、
料理を作ってくれているときたら最高以外の何物でもない。


「よーしできた。はい、おまたせ」

「わぁ、美味しそう。...普通私が作るべきですけど、ありがとうございます」

「いいのいいの。買い物中、冷蔵庫に結構食材あるって聞いた時に作ってあげようと思ってたから」


 いつの間にか料理のレベルが高くなっていることに驚いた。このスキルが私だけに披露されれば
いいのにな、と思ってしまうのはもう仕方ない。


「写真撮ってたのとかあれでしょ?どうやって作るか見たかったんでしょう。
後で色んな料理の作り方まとめて送ったげるから、心配しないで」


 不正解だ。私の家で料理しているカナさんを記録に残したいからだ。

34 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/05(水) 21:34:29.13 ID:msd+J/9N0

「ありがとうございます。...あー、でも、
やっぱり実際に見て直接習った方が、覚えやすいかもしれません」

「はぁ..」


 普通なら気にしないただの小さい溜息でも、面倒くさがられていないかと不安になる。


「しょーがない。たまにね、たまになら来てあげるよ。まったく」


 いやいや許可したその顔に、後輩に求められて嬉しがっている感情が見えるのは
私のフィルターがかかっているせいだろうか。


「カナさんの家では?」

「ん、まぁいきなりじゃなければオッケーよ」


 心の中で力いっぱいガッツポーズ。また会う口実をゲットできた。


「それにしても、本当に上手ですね。一体どうしたんです」

「まぁ大学生活三年目だし。あと料理研究サークルにも入ってるから。
はぁ...それにしても、代表は別にいるってのに...。実質私が取り仕切ってるようなもんだよ...。
あいつ、リーダーは料理のレベルが高いやつに任せるべきだとかよくわからん理屈を...」

 
 サークルに対する愚痴は多いが、他人を貶すことは無くむしろその状況を楽しんでいるようにも聞こえた。
おそらく先輩の料理は複数の人が味わっているだろう。私のささやかな希望はすぐになくなってしまった。
 しかし愚痴が長い。せっかく作ってくれた料理は出来立てで食べなければ。


「あ、あー美味しそうな料理が冷めてしまうー。早く食べなきゃー」

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