女「好きな人のためなら」 ※百合

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35 :また明日です。ありがとうございました。 ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/05(水) 21:45:05.25 ID:msd+J/9N0
 

 ここ最近で食べた一番おいしい料理を食べ終え、お酒とおつまみに手を付ける。


「ぁ...もうなくなっちゃったぁ」

「ちょっと、飲みすぎなんじゃない」

「そんなことないよっ。カナしゃんがペース遅すぎるんれすって」

「ふふ、呂律が回ってないんだけど。あたしもそれなりに飲んでるけどね」


(しょうがないじゃん...)

 
 緊張紛らわすために飲んでいたら、いつの間にかこの状態に。


「てか、お酒つよくないですか。カナしゃんのくせに」

「どういう意味だこの。んー、そうだね、ベロンベロンに酔っ払うことはないかな」

「ふーーーん。つまんないですねーーー」

「あんた色々適当になってきてる気がするんだけど」

 
 そうは言いつつも楽しそうな顔の先輩を見て、思う。
先輩が同性との恋愛についてどう思っているか聞いてしまおうと。


(あーもう、相談しちゃえ)
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/06(木) 05:41:31.96 ID:csMH8Xjno

前作もよかったよ
37 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/06(木) 15:38:16.96 ID:udl3FMRG0
引き続き読んでもらえているとは、とてもうれしいです!頑張ります

続けます。
38 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/06(木) 15:42:24.37 ID:udl3FMRG0
「あの、いきなりですみません。相談なんですけど」

「なに?」

「女の子の友達が、恋愛で悩んでまして」

「うん」


 真面目な相談だと分かったら、すぐに真剣に話を聞く姿勢を持ってくれる。


「その子が好きなのも、女の子なんです。なかなかいいアドバイスを返してあげられなくて、
困ってるんですけど、どうしたらいいですかね」

 一気に酔いが冷めた気がする。お酒のせいで熱くなっていた頬の熱はさらに高まっていく。


「難しいね」


 顎に手を当てて、首を傾けながら考える。わたしからすればもうどんな様子でさえも絵になる人だ。


「その好きな子になんとなく同性愛についてどう思うか聞いてみる、とか。
あとは...そう、否定された場合はすぐ諦めないで、同性愛について知ってもらって、理解を深めてから考えてもらう、とか」
 

 すごくためになるアドバイスだ。早速実践させてもらおう。
39 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/06(木) 15:45:59.46 ID:udl3FMRG0
「なるほど、ありがとうございます。......で、カナさんはどう思ってるんです?
その、同性愛について。友達から告白されたりしたら...どうですか」

「それは...うぅん...」

 
 落ち着いて、心の準備をしなければ。どんな答えが返ってきても平静を装うことができるように。


「いきなり言われたら、ちょっと困るかなぁ」


首の後ろを手で押さえながら苦笑いする先輩。一瞬、息が出来なくなった。


「っ、へぇ。そですか」

「あたしは友達だと思ってた存在が、いきなり大きく変わるワケじゃない?
だからその気持ちの差がね」

「なるほどっ。ぁ、あーなんか気持ち悪い。トイレ行ってきますっ」

「へ?ちょっと、大丈夫...」


最後まで聞かずにトイレへ駆け込む。答えを聞く準備をしていたのに、
私の心はそんなことおかまいなしに動揺した。震えた声は聞かれてしまっただろうか。
クシャクシャに歪んだ顔は見られてしまっただろうか。


「っ...ぅ、、くっ…...」


(泣いちゃダメだ、泣いちゃダメだ。カナさんに心配かけるっ)


 拒絶されたわけではない。ただ、困惑すると言われただけなのにたった一言で心は大きくかき乱された。
40 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/06(木) 15:52:18.78 ID:udl3FMRG0
“友達から言われたら、結構困るかな”


(これは、これはぁ......)


 おそらく、オブラートに包んで言ってくれているのだろう。
しかし先輩の表情をまともに見るのは不可能だった。数秒でも見続けていたら
涙腺は崩壊していただろうから。

 静かに扉を叩かれる。もうそんな程度の気遣いでさえ泣きそうだ。


「っ…...入ってまーす」

「ねぇ、本当に大丈夫?ひどい顔してたけど」


 酷い顔はしっかり見られてしまっていた。


「だいじょぶですから、すぐにおさまります」

「いや...あのねぇ、大丈夫そうな顔じゃなかったから来てんの。
ほら、お水持って来たから開けなー」

「いいですからっ、5分もすれば平気に」


 言い終わるのを待たずして扉がカチャリと開かれた。
なんてことを。女子がトイレにいるのに勝手に開けるなんて。
鍵をかけ忘れた私が間抜けなのかもしれないが、それでもいきなり開けられるとは思わない。


「な、なにっ…勝手に入って、来てっ」

「まさか開いてるとは。てか、泣いてんじゃない。本気で気持ち悪くなった?大丈夫?」


 もう無理だった。泣いている子供をあやすように背中をポンポンと叩かれると、
簡単に涙が流れていく。


「だから、すぐ、おさまりますからぁっ」

「まぁほらとりあえず、水。ほい」


 渡されたコップを少し間を置いて受け取る。両手で持って一気に飲み干した。


「んく、んく…」

「っふふ。なんかかわいいねその飲み方」

「っ、ぐ」


 危うく先輩の顔面に噴き出すところだった。
先輩の言動に対する反応があまりにも単純すぎて、自分でも心配になってきた。

41 :夜に再開すると思います。 ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/06(木) 16:00:59.11 ID:udl3FMRG0
「は、ぅ……ありがとうございました。落ち着きました」

「ん。よかった」


 やることは終えたはずの先輩は動こうとしない。
狭いトイレの個室に二人で座り込んでいるのはなんとも奇妙な光景だ。
掃除していて本当に良かったと思う。


「あの……?もう出ましょう?」

「うん、その前に一ついい?」

「はい。なんでしょう」

「まさか......まさか、ナオだったりする?さっきの話」

「なにが、ですか」


 質問の仕方がいくらなんでもベタ過ぎたか。


(バレたかな。終わったかな、これ)


「あんた、」

「.......」

「告白されてる?」


「あっ、え?」

「もう友達に告白されて悩んでたってことじゃないの?」


 ……少し、いや相当ズレているけれど、その方が都合はいいのでそういうことにしておこう。


「そう、そうなんですよ。よく分かりましたね」

「それならそうと言えばいいのにぃ。回りくどい相談の仕方してぇ」


(バレなくて良かった。……いや良いのかな)


「えへへ、ごめんなさい」


 そうだ、この流れに便乗して言ってしまった方が良いかもしれない。
同性愛について自分が肯定的であることを伝えておこう。しかし決して本心は伝えないように。


「あの、実はそこまで嫌じゃなかったり、するんです。女の子に好かれるの」

「へー以外…相手は結構いい子なんだ?」


 特に引かれることはなかったので一つ安心する。


「あはは、そりゃもう……」

「そっかぁー…..どうするの?」

「正直、今は友達のままでいたい気持ちの方が大きいです。それに」

「うん……それに?」

 至近距離で話し合っているので、さっきから心臓はフル稼働しているけれど、
泣いているところを見られてしまったのでそれほど緊張感はない。
半ばヤケクソになっているということもあり、もうある程度のことは打ち明けられそうだ。


「気になってる人、いまして……」

「ぇ、えーっ。そんなっ」

 まるで自分が振られたかのようなリアクション。
すぐさま私の”気になる人”について興味を示す。
42 : ◆COErr5OWSM [sage]:2017/07/06(木) 20:49:26.43 ID:udl3FMRG0
すみません。やはり明日にします
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/06(木) 21:38:18.62 ID:k7bvsVRco
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 00:45:21.75 ID:dKpSWyM4O
よいぞ
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 05:43:21.27 ID:xlkgLqZwo
46 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/07(金) 19:42:14.96 ID:UXa5ajJZ0
ありがたいです。。つづけます
47 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/07(金) 20:00:29.42 ID:UXa5ajJZ0
「うーい誰なんだー?男か女かー?」
 

 肩に腕を回して引き寄せられる。
微塵も自分のことだと思っていない点については、悲しくならざるを得ない。


「お、おしえませんっ。そういう先輩は、どうなんですか、いるんですか」

「えぇー?どぉみえるぅ?」


 体をくねくねと揺らしてふざけて躱された。そうはいくかと一言投下。


「わたしは、いてほしくないですよ」

「……」

 
リアクションが返ってこないので不安になる。
冗談だ、と誤魔化そうとしたところをわしゃわしゃと撫でられた。


「このぉ!くぁいいやつだなまったくっ」

「うぁあ」


 少しした後、ぴたりと動きが止め、少しだけ高い声でゆったりと言う。


「...安心しなよ。寂しくなったらいつでも来ていいから...ね?」

「…はい……」


 こんな風に言われたらうなずくしかない。
肝心な所は分からなかったものの、先輩の首元に密着して香りを堪能できたことで充分お釣りは来る。

48 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/07(金) 20:07:49.48 ID:UXa5ajJZ0

「なにー、ふにゃふにゃになっちゃって。眠くなってきた?」


 なんて落ち着く匂いなんだろう。
就寝する前に嗅げば、携帯をいじって夜更かしせずに速攻で眠りに落ちることができそうだ。


「ほら立って。ベッド行くよ」

「んー……」


 手を引かれてベッドまで誘導された。その勢いのまま、ベッドにぽふんと倒れこむ。
布団もご丁寧にかけられた。今日は怖いくらいいい事が起きる。
代わりに後々不幸なことがどっと押し寄せてきそうだ。


「じゃ、そろそろ帰るね」


 自分の荷物とテーブルの上をさっと片付けていく。


「えー……」


 口をへの字にして別れを惜しむ。泊まってほしいとまでは言わないが、
もう少し長くいてもいいと思う。そう伝えたら、
明日は外せない用事があるというのでおとなしく引き下がった。への字の角度は鋭くなっていく。


「また遊べるでしょー?さて……あれ、無いな」

「どしたんです」

「リップクリームがなーい。唇カサカサなのに困る…まぁ、見つけたら連絡して?」

「はい…じゃあ、また会いましょうね」

「うん。じゃーね」


 玄関まで見送りに行こうとしたけれど、眠いなら寝てろと止められてしまった。

 扉が閉められる音。いつもの倍、静かな気がする。
ひとまず、気まずい別れ方にならなくて本当によかったと思う。

49 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/07(金) 20:22:13.54 ID:UXa5ajJZ0
「あ」

 
 歯磨きとお風呂を済ませようと洗面所に向かうと、探し物はすぐに見つかった。


(家に上がった時、手を洗ったついでにここでリップ塗ってたのかな)


 すぐに見つけて連絡できていたら、すぐに先輩とまた会えたかもしれない。
ベッドの上でぐうたらしていたことを少し後悔する。しかし
もう過ぎてしまったことはしょうがないと諦めて、浴槽にお湯を半分ほど張って入る。

 さっきからリップが気になってしょうがない。
しかし、手に取ってしまったらもうおしまいのような気がするので、どうにかしてこらえようとする。


(いや…だめ……だめだよ……)


 心はそう思ってはいるものの、ついにリップを取ろうと動く体は止まらなかった。

 また湯船に戻り、浴槽に背を預ける。手元のものはすでにキャップが開けられてしまっている。
目の前まで持ってきてじっと見る。やはりかわいいもの好きな趣味らしく、猫のキャラの柄が描いてあった。

 半身浴にもかかわらず、肩まで浸かっている時の様に心拍数はドクドク上昇していく。


(そう、酔ってるから……酔ってるからこんなこと、するんだ)


 一人で言い訳して、リップと口付けをした。
なんの味も香りも付いていないというのに、私はそれだけで昂った。
濡らさないように棚に置いたリップは、この空間では私にとって、先輩同様の存在になっていた。

50 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/07(金) 20:31:28.45 ID:UXa5ajJZ0

(見て、ください。カナさんのこと考えると、こうなるんです……)


 唇についたリップを指でなぞって塗り広げる。
蕩けた顔で行うその様は、本人には絶対に見せられない。
リップが付いた場所は先輩の所有物にされたようで嬉しかった。

 その手で自分の大きくもなく、小さくもない胸を愛撫する。


(ここも、カナさんのものです…っ)


 両方の先端をつねったり、こねたりする。あっという間に達した。
感じやすい体質であるというのは抜きに、先輩のことを思うといつもこうなる。今日は特に敏感だ。


(ぜんぶ、わたしの、ぜんぶ……)


 まだ足りない。“先輩”の手はお腹を下ってひときわ熱い部分へ進んでいく。


「はっ……んっ」


 ちゃぷ、ちゃぷ。お湯はみぞおちのところまでしか溜められていないのに、気を抜くと溺れそうだった。
ドロドロになっている赤い割れ目を、何度も“先輩”の手が激しく往復した。


「ぁっ、ぁ…ゃ、ん」


(カナさんのものにしてっ)

51 :また明日です。ありがとうございました。 ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/07(金) 20:53:45.61 ID:UXa5ajJZ0

 2本の指が何の抵抗もなく私の中に侵入した。
しかし中はその指を絞め殺そうとしているかの如く、ぎちぎちに締め付けてきた。
第一関節はクイと曲げられ、指の腹で内壁を細かくこすり始める。


「あっ、あ、ぁ」


 断続的にくる絶頂は病みつきになってしまいそう。中指の爪で軽くカリカリとこすると
その度にお腹の奥全てが歓喜する。リップクリーム一つでこれとは、自分でも少し引いてしまいそう。


 “先輩”の指は熟れた突起に向かい、弾かれ、つままれ、押し込まれ、ひどい虐められ方をした。
口をだらしなく開けて叫ぶ。


「はっ、あっぁ…カナさ…っ…!」


 “なんかかわいいね”“えらい、えらい”“しょーがない。たまにね”
ただの友達に向けられているであろう言葉と表情は、私の脳みそを融かすには充分だった。


「あぁっ、ぃ…っ」


 大きくはねた後に、背筋を伸ばして天井を向く。太ももと下腹部のひくつきはしばらく制御出来そうにない。
最近で一番幸福感と快感を得られた慰めの行為だった。
 
 しかしそれ以上に罪悪感は重くのしかかってくる。次に会った時は、
見つからなかったと嘘をつき、新品のリップクリームを手渡そう。だから、これは保管、しておこう。


(捨てるのは、勿体ないし…)


また一人で言い訳して、ぬるくなり始めた湯船から出る。
52 : ◆COErr5OWSM [sage]:2017/07/07(金) 21:03:18.02 ID:UXa5ajJZ0
訂正です。すみません!

ד先輩”の指は熟れた突起に向かい、弾かれ、つままれ、押し込まれ、ひどい虐められ方をした。
○“先輩”の指は熟れた突起に向かい、そこは弾かれ、つままれ、押し込まれ、ひどい虐められ方をした。

です。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 21:55:27.65 ID:stb0J4tQo
おつ
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/08(土) 06:15:15.02 ID:5XKzy+lPo
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/08(土) 08:00:17.03 ID:4WD7SRG2o
56 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/09(日) 08:16:33.68 ID:Fq1ynReO0
遅れました。
あとまた訂正です。
第一関節は〜のところ、第二関節です。Hシーンは苦手です…
続けます
57 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/09(日) 08:21:37.05 ID:Fq1ynReO0
 あれから、先輩と連絡を取る頻度や遊ぶことはとても増えた。
進展は全くないと言っていい、しかし決してマイナスではない。

 代わりにミカとは全く会わなくなった。先輩とのことを考えると、
ミカとの関係は私の汚点だと思うようになった。我ながら酷い言い方だとは思う。
しかしいずれどこかでばれてしまう前に、彼女との関係は断ち切っておきたい。
 
 それなのに久しぶりに先輩と会ってから少し経って、一度だけ行為に及んだことがあった。
彼女がしつこく誘ってきたのと、私も欲求不満の限界が来ていたことが理由だ。


(もう、終わりにしよう)


 私から連絡する。話があるからどこかで会おう、とだけ。すぐに返事が来た。


『私の家がいいな』


 特に断る理由もないので承諾した。付き合っているわけでもないから、
彼女もきっぱりと終わりにしてくれるだろう。彼女は元々、
男の人に飽きたから同性との行為に手を出した人なのだから。
58 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/09(日) 08:22:27.07 ID:Fq1ynReO0
 あれから、先輩と連絡を取る頻度や遊ぶことはとても増えた。
進展は全くないと言っていい、しかし決してマイナスではない。

 代わりにミカとは全く会わなくなった。先輩とのことを考えると、
ミカとの関係は私の汚点だと思うようになった。我ながら酷い言い方だとは思う。
しかしいずれどこかでばれてしまう前に、彼女との関係は断ち切っておきたい。
 
 それなのに久しぶりに先輩と会ってから少し経って、一度だけ行為に及んだことがあった。
彼女がしつこく誘ってきたのと、私も欲求不満の限界が来ていたことが理由だ。


(もう、終わりにしよう)


 私から連絡する。話があるからどこかで会おう、とだけ。すぐに返事が来た。


『私の家がいいな』


 特に断る理由もないので承諾した。付き合っているわけでもないから、
彼女もきっぱりと終わりにしてくれるだろう。彼女は元々、
男の人に飽きたから同性との行為に手を出した人なのだから。
59 :連投すみません ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/09(日) 08:25:37.32 ID:Fq1ynReO0







会わなければよかった。

会わなければよかった。

会わなければよかった。






60 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/09(日) 08:29:28.43 ID:Fq1ynReO0
 久しぶりに顔を合わせるので心配だったが、彼女は概ねいつも通りだった。


(なんだろう、いつも以上に明るいけど、なんだか不気味)


「それで、話ってなーに?」

「うん、あのね、もう終わりにしたい。……この関係」

「…ああ〜。恋人になりたいって意味で?」

「……」

「はは、ちがうよね。しっかしナオちゃん真面目だねー。
LINEで伝えてハイ終わりってやつも多い時代なのに」

「そう、かな……」

 
 ミカの存在には少しだけ、助けられたという気持ちを持っている。
私が、心に空いた穴を埋めるために利用して、
心がこもっていないまま関係を維持していたことに対する罪悪感もある。
彼女は上がっていた口角をすっと下げ、眼差しを今まで見たことが無いくらい真剣にさせる。


「やだよ、私は」

「え...それは、どうして?」
61 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/09(日) 08:34:29.50 ID:Fq1ynReO0
 まったくもって予想外の回答だった。彼女ほどの容姿と性格なら(行為中はどうかと思う)、
男女に関わりなく相手に困ることは無いはずだ。私に固執する理由など一体どこにあるのだろうか。


「好きだから。ナオちゃんのこと、好きになったから」


 一体いつから?なぜ?


「でもミカちゃん、そんな感じはなかったと思うんだけど」

「好きだってえっちした後、いっぱい言ってたじゃん。
んー、ああいう言い方じゃ気付いてもらえないか。真剣に言うのが恥ずかしかったからさ…
軽く聞こえちゃうかぁ。いつの間にかね、本気になってた」


 あれは、そういうことだったのか。全く真剣に聞いていなかった。
しかし期待に応えることはできない。


「ナオちゃんが、別の誰かを重ねながら私とシてるの、最初はどうでもよかったんだ」


 私はそこまでわかりやすい女なのだろうか。
ミカの言う通り先輩を想うことは確かにあった。彼女は引き続き理由を説明していく。


「でもさ、私だけを見させようと努力して、たまにだけど、
私だけしか考えられなくさせるようにできた時さ、物凄く嬉しかった。それがきっかけかなぁ」


 確かにそういう時はあった。しかしミカと過ごした日々のほとんどは、体を触れ合わせたことだけだ。
体から始まる関係を全否定するわけではない。それでも私はその流れを受け入れられない。


「…」
62 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/09(日) 08:41:03.49 ID:Fq1ynReO0
「私にとってえっちは超大事なんだ。体に触れば心にも触れると思う。
言葉だけじゃ伝わらないものもあるんだよ。本能に従っていけば相手の真の姿が見える。そう考えてるから」


 彼女なりに、考えは明確にしてあるようだった。


「よく、わかったよ。ミカちゃんの言いたいことは」

「ほんとっ?それなら」

「だけど、ごめん。私の気持ちは変わらない。この関係を終わらせたい。
ミカちゃんの気持ちに応える気持ちは、ない」


 俯いて何も言わなくなってしまった。両方のこぶしは赤くなるほど力が込められ、微かに震えていた。


「………チッ」


 今の舌打ちは聞き間違えではないだろう。彼女の部屋は防音だと以前聞いたことがあるし、
今はテレビも付いておらず、机を前に、椅子に座って向き合っている状況。


「はぁ、それなりに理由考えて言ったのにダメか。うざいなぁ、カナ先輩は」


 彼女が知るはずもない人物の名前を口にする。純粋に悪い意味で鼓動が早くなる。


「な、ぇ?何でカナさんのこと」

「ツイッターから。最近頻繁にイチャイチャするようになってたよね。楽しそうだったね。」


 いつの間に私のアカウントを見つけていたのか。誰でも見られるようにしていたのは警戒不足だっただろうか。
まさかこのように利用されるとまでは思わなかった


「その後、あーこいつがナオちゃんの好きな人か、ってすぐ気付いたよ。
ナオちゃんと別れたところを尾行して、あいつの家の場所とか大学とか調べたし。ほら」

(なに…これ)
63 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/09(日) 08:50:11.41 ID:Fq1ynReO0
 昼夜問わず、あらゆる角度から先輩を隠し撮りした画像フォルダを見せつけられた。
彼女はテストで満点を取って自慢するかのような表情をしている。


「好きだなんて、そんなこと」

「あるよね?好きな人の前でするメスの顔してたよ。
あのブスのこと思ってオナニーしたりするんでしょ?どこがいいの?あんな女。どうせ整形してあのレベ」


 我慢できるはずが無かった。好きな人を侮辱され、私の堪忍袋の緒はいとも簡単に切れてしまった。
人の顔を加減せずに叩いたのは初めてだ。


「それ以上、なにも言わないで...っ」

「好きな人のためなら手を上げることも構わないんだ。
ふふ、ふ。私もそういうタイプなんだ。奇遇だね?」


 そう言うと彼女は椅子が倒れることなどお構いなしに勢いよく立つ。
私の襟をいきなり掴んで引き寄せる。

 直後、私の鳩尾に拳がめり込んだ。


「ぉ、っ、えっ…っ」


 息ができない。立っていられない。


「ま、正直に言うとナオちゃんとのえっちが楽しすぎたってのが大体の理由かな。
何でも反応してくれるし。くふふ。あ、好きなのは本当だよ?」


 床に四つん這いでうずくまって、陸に上がった魚の様に呼吸に苦しむ私には、
ミカが何を言っているのかさっぱり理解不能だった。今度は足がお腹にめり込んできた。


「よっ!っっと」

「っゔ、ぇ、ぅ、ふぅ…ぐ…ぁ、っ」
64 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/09(日) 09:00:15.81 ID:Fq1ynReO0
「いたた…つま先が…。肋骨に当たったかな」


 狂っている。これはどう考えても狂っている。力が入らない。
髪の毛を引っ張られてベッドの上に放り出される。


「しつけの悪いナオちゃんには、これをあげましょー」

「ひっ、や、やだっ…」


 頭上で両腕をまとめられ、そこではガチャガチャと不快な音がする。
貧弱な抵抗は虚しい結果に終わり、両腕は手錠で拘束された。
殺されるのだろうか。こんなところで死ぬのは嫌だ。涙は異常なほど自然に出た。
止める気力は無いし、止められる力もない。


「殺しはしないよ、絶対に。安心して?」


 この状況で安心なんてできる人がいたら、それは異常者だ。


「今日は新しいプレイに挑戦してみようね。絶対気に入るから、期待してね」


 大声をあげて助けを呼ぶことは、無意味であり不可能だった。
この部屋の防音設備は完璧であるらしく、以前この部屋でみっともない大声を挙げさせられた時も、
上下左右の部屋から何も反応は無かったから。それに彼女の手にはいつの間にかスタンガンが用意されていた。
暴れた際に大人しくさせるためだろう。私は、考えなしに地獄に飛び込でしまった、ただの馬鹿だった。


「頚動脈を圧迫して、脳を酸欠状態にするのっ。そうするとね、
少しだけ幻覚が引き起こされて、頭がボーっとするんだって。それでこの状態の時にイくと」


私の耳元に顔を寄せて囁く。


「すっごく、気持ちいいんだって......」


気持ち悪い。鳥肌が立つのは、三日月のように笑う目と口が、
これから行われる行為の怖さを分かりやすく表しているからだ。そうに違いない。
65 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/09(日) 09:07:09.85 ID:Fq1ynReO0
「初めてやるから、こっちも、しながら、ね」


 スカートの中に手を突っ込まれ下着を乱暴にずり降ろされる。
いきなり外気に晒されたソコはなぜか湿っていた。


「あは…やっぱり、ナオちゃん」


 気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!


「いじめられるのすきだよね」


 こんなことで反応する自分が、気持ち悪い!
66 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/09(日) 09:13:12.15 ID:Fq1ynReO0
 耳障りな水音を立てさせられて数分が経つ。いつもの触り方とは全く違って、
焦らしているのは明らかだった。体をひねって避けようとすると、
バチチチとスタンガンを鳴らしてくる。どこかで聞いたことがある。この音には威嚇効果があり、
戦意を喪失させる意味も持っているらしい。実際その通りだ。恐怖で体が縮こまる。
 
 体は私の意思などお構いなしに火照っている。焦らされているような弱い刺激でもイってしまいそうだった。


「ぅ…んっ…!ふ、んん」


 ミカのペースが上がってきた。声を上げたくない。こんな人に喜ばれたくない。
シャツは乱暴に開かれ、ブラはベッドの外に投げ出されている。手で胸の先端をつまんで持ち上げられた。
痛いほど真っ赤に染まった乳首は、愛撫と程遠い扱われ方に悦んでいた。


「いっ!ぁ、あ゛っ…!いた、ぃ、やめっ」


 体を弓なりに反らせて、なんとか
引っ張られる力を弱めようとするが、彼女はそれ以上に上へ上へと手を止めなかった。


「っふふ。……えいっ」


 掛け声と同時に、彼女の両手に思い切り力が込められた。
私の乳首を親指と人差し指で挟み込んで、限界まで平らに潰してくる。
経験したことの無い痛みと快感が、そこから全身を駆け巡った。


「っ、ぎっ!?あ、ぁああぁっ!」


 ようやく解放された所は、いつまでたってもヒリヒリとした痛みが引かなかった。


「あっ、はぁ…はぁ……」


 手を離した隙に落ち着こうと思っていたが、彼女は私に休む暇など与えるつもりはないようだ。
口を私の胸元に近づけてきて、こちらを上目遣いで見上げてくる。
67 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/09(日) 09:22:04.06 ID:Fq1ynReO0
「ふぅっ……ふーっ…」

「どうしたの…?そんな目して、待ちきれないの?」

「そんなこと、…あぅっ!」


 口に含んだあとは、舌で転がされたり強く吸われたりした。
一旦それを止めると、今度は乳首を歯で捕まえた状態のままこちらを見てくる。


「はあっ……はあっ…」

「ぃひひ。んむ」


 噛みちぎられたかと思うほどの力強さだった。


「っ……い゛……っ…」


 歯を食いしばって快感の波が過ぎるのを待つ。こうでもしないと、
みっともない大声を出してしまいそうだったから。与えられた刺激は一瞬だけだったにもかかわらず、
私の頭の中と下半身を大きく揺さぶった。

 汗のせいで額に張り付いた前髪が気持ち悪い。ぐったりしていると、
いつの間にか彼女の手は私の股へと伸ばされていた。
ソコは優しく撫でられるだけで、粘着質の透明な液体がとぷとぷと溢れさせる。


「んっ…あ、っ…」


 先ほどのように激しく攻められたことは今までなかった。
こちらも同様にめちゃくちゃにされてしまうのだろうか。


「うぅ…く、ふ…っ」


 彼女の2本の指は、てらてらとするピンクの肉を遠慮なくかき分けていく。
その中は別の生き物であるかのように激しくうごめいていた。
68 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/09(日) 09:32:13.13 ID:Fq1ynReO0
「我慢しなくて、いいんだからね?」

 一体何のことを言っているのかさっぱりだったが、その意味はすぐに思い知らされた。
指をクイっと曲げ、弱点の部分に当てられる。


「あっ、あ…んっ…ぁ」

「すごい……キツキツだよ、ナオちゃん。咥えて離そうとしない。…じゃあ、イこっか」


 そう言うと、指と手を激しく動かし始めた。愛液はじゅぷじゅぷと溢れ、
彼女の手と私の太ももをあっという間に濡らした。


「んっ…あっ、あ、ぁああぁ!」

「ずっとこうしたかった…。いいよぉ、ナオちゃん、本当に可愛い」


 弱点を一定のペースで犯されると、尿意とはまた違った感覚が高まってくる。


「いっ、んぁっ、イってりゅ、イってる、からぁっ!」

「もっと……もっと」

「ふっ、あ、あぁあぁぁ」


 ソコはもう耐え切れず、彼女の腕とベッドのシーツをびしゃびしゃにした。
中は心配になる程ガクガクと震え、何かを吸い出そうとして締め付ける動きを止めない。


「ひっ、あぁ…くっ……」


 ちゅぷんと抜かれた指と同時に、腰は大きく震えて潮を勢いよく出した。


「本当は舐めてあげたいけど、また今度にしようね。だいぶ慣れさせたし、そろそろ……ね」


 脳内は混乱していた。勝手に反応する体を制御しようとする命令、
送られてくる快感に素直に従う信号、そして先輩の存在がごちゃごちゃに混ざっている。
 
 通常より性的刺激に鈍感な体質の逆も多分あるだろう。私は自分の体質を、
もう何かの病気だと思い込むことにした。

69 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/09(日) 09:48:53.77 ID:Fq1ynReO0
「ふふ、もう十分ほぐれてきたから、そろそろやろうか」


 恍惚の表情を浮かべた彼女が私のお腹の上にまたがり、首を両手で押さえてくる。


「ふふ、ふふ、ふ。怖い?怖いよね?でも、それだけじゃないよね?
それと同じくらい期待してるよね?そういう顔してるよね?」

「そんなわけない…気持ち悪い。はやく家に帰して」

「まぁ、やってみればわかることだね」


 そう言うと、両手に力が込められた。


(…くる、しい。けど、そこまで強くない…?)

「ゆっくりやっていこうね。結構危ないプレイだから、私も慎重にやるよ」


 なんでもいいから早く終わってほしい。手を塞がれ、体の上に乗られている状態ではそう願う他なかった




「は、ぁぐ、ひ…っ」


 先ほどから段々絞める力が強くなってきて、本格的に命の危険を感じるようになる。
自分の生死を相手に握られているという感覚が、私の背筋をゾクゾクと震えさせる。
時折彼女は絞める力をほんの少しだけ弱め、私が肺に酸素を送る機会を“くれる”。
いや、違う、何を言っているのだ。“くれる”なんて、これではまるで有り難がっているみたいだ。


「ぁ……かっ…ぁ、ひゅ…」


 情けない声を出して泣きながら彼女を見る。ほんの少しでも良心が残っていることを期待していたが、
ダメだった。心の底から楽しそうだった。
70 :また明日です。ありがとうございました ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/09(日) 09:52:16.33 ID:Fq1ynReO0
 更に力を加えられる。


(ほんとに、死…ん…)


 ひっくり返ったカブトムシのように足をバタバタさせて逃げようとする。
スタンガンの存在など完全に頭の中から消えていた。


「ぁ…がっ………ぉ」

(いやだ、しにたくない。いやだ、いやだ、カナさん)


 グッとより強く絞められるのと同時に、口付けをされた。


「んぐ、ぅっ!」


 消えてなくなりたい。勝手にお腹の奥が熱くなって、ソコになにも触れていないのに、
きゅうきゅうと肉がせわしなく動く。


「ぷぁっ、かっぁ、はっ、あぁ、ぁ...っ」


 震える体を抑えようと力を込めても、まったく言うことを聞いてくれない。
ミカは私の上からどいてベッドの側でその光景を見下ろしていた。


「ぇへ、へへ、ふふふ。はぁ、はっ、すごく可愛かったよ、ナオちゃん。」


 彼女の瞳孔は開ききって、不気味なほど楽しそうな笑顔を浮かべて息を切らしていた。
私にはもう人間の顔に見えなかった。


「今度は…はぁ……首絞められて、イっちゃったね、ぁは」


 死ねばいい。この人も私も。」
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/09(日) 10:46:22.24 ID:FbsKcdDCo
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/09(日) 17:32:09.16 ID:8nae1I2Mo

甘々三角関係展開かと思ったら...
レズ調教もいいよね!
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/10(月) 01:03:04.52 ID:5jqwCL08O
とてもよい
74 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/10(月) 20:28:53.90 ID:yDxkFqKx0
ありがとうございます。どんな反応でも頂けると嬉しいです。
甘々展開、書く前に思いつきませんでした。ちょっと後悔。
続けます。
75 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/10(月) 20:32:34.87 ID:yDxkFqKx0
手錠は外され、代わりに足首を結束バンドでまとめられた。
ミカが自分の家で会いたいということは、こういう部分で準備万端にしていたからだったのだろう。


「……カナ、さん…」


 絶望しないために、心の拠り所である人の名前を強く思うあまり、つい口から言葉が漏れてしまった。
限りなく小さな声で言ったつもりでも、聞こえてしまっていたようだ。


「はあぁ…だからダメだってぇ、ナオちゃん。あんな女のことなんて考えちゃ。」


「こう見えてね、私結構嫉妬してるんだよ?あのクソ女にさ、
ナオちゃんの心を奪われてると思うと……何しちゃうかわからないよ」


 それだけは、それだけはダメだ。先輩はこんなことに全く関わるべきではないし、巻き込まれる理由なんて何一つない。


「ま、まって、お願いっ。なんだってするから、だからカナさんには何もっ」


 左頬に彼女の平手と強い衝撃が飛んできたので、最後まで言うことができなかった。


「ぃ、つ…」

「なに?何のため?」

 
 彼女は、私が先輩のためでなく自発的に従うことを望んでいるのだろう。
そうしないと先輩へ危害を加えるかもしれないし、私の体も無事では済まないかもしれない。


「……ミカちゃんのため、私がそうしたいから、です。

「うんうん、そうだよね。やっぱさっきの聞き間違いだったんだ」

「あ、これからのことなんだけど、私バイト少なくしたから。これから一緒にいる時間もっと増やせるよ。
大体私の家で遊ぶことになるかなぁ、近いし、色々道具あるし。大学内では今まで通りでいいよ。でも、ちゃんと見てるからね」


 べらべらと勝手に今後の予定を並び立てていく。
76 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/10(月) 20:40:03.54 ID:yDxkFqKx0
「…分かった」


 声が震えてしまう。目が合ったら何をされるか分からないという恐怖感から、
彼女の顔を見ることができない。


「首、痕がついて赤くなってるね。私のものだっていう証でいいね…すごく良いと思う…。
でもそれだと、ナオちゃん大学で困っちゃうでしょ?だから、はいこれ」

 そんな気遣いをするなら、最初から首など絞めるなと言いたい。
幅が広めの黒いチョーカーを手渡してきた。自分で付けろということだろうか。
渋々付けてみれば、普通ファッションに取り入れられるものでも、
今は屈服させられている象徴にしか思えなかった。


(…違和感がすごい。落ち着かない……)

「わぁぁ……」


 両手を合わせて、無邪気な子供の様に喜んでいる。
他の人ならミカの整った顔が明るい笑みを浮かべている様子に見えるだろうが、
私には悪魔にしか見えなかった。


「すっっごく似合ってる。早く大学行ってみんなの反応見たいね!」

「……あ、ありがとう…」

「バイト中とかお風呂とか、どうしても外さなきゃいけない場面以外付けててね?」

「…わかった……。あの、今日はもう、家に帰してもらえない?少し、つかれちゃって」


 今頃になってとてつもない疲労感が襲って来ていた。目を閉じたら一瞬で眠れそうだ。


「んー…まぁ、いいよ。けど変な気は起こさないで?ほらあそこ、見える?」


 ミカが指さした方向には、私達2人を映せるようにカメラが設置してあった。


「警察や誰かに相談したら、撮ったものをあの女に送る。それと……カナ先輩、どうなるか、わかるよね?」


 絶対にカナさんに迷惑はかけてはダメだ。
友達にも家族にも、バレないように振る舞うようにしなければ。
77 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/10(月) 20:44:38.86 ID:yDxkFqKx0
「大丈夫、だから。今日はもう休みたい」

「ん、じゃあ家まで送ってく。女の子一人で夜道を歩くのは危ないからね」

 
 彼女と歩くほうが不審者と遭遇するより危険だ。
わざと人通りの多い道を歩かされる。チョーカーを付けて歩く私は、繋いだ手がまるでリードのようだと思った。

 これは、精神的にも肉体的にもきつい。先輩に会って、普段通りにできる自信は無い。
そもそも会わせてもらえる気がしない。
LINEだったらミカに監視されることはないだろうから、しばらく会えなくなることを先輩に伝えよう。


(これくらいなら、大丈夫だよね)


 バイトが忙しくなったとか新しくサークル入っただとか、
ありきたりな理由をつけて送信する。数分経って『りょーかい』とだけ返信が来た。淡白な反応。


(寂しがってくれてるかなぁ……ないか…私なんてただの高校の時の後輩だ)


 いけない、こんなことでネガティヴになっていたら、この先のことに耐えられないだろう。


(先輩に迷惑がかからないように……)


 優先事項のトップにあるのは常に先輩だった。

78 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/10(月) 20:48:18.42 ID:yDxkFqKx0
「やっほー……あら、ナオちゃん、それ」

「おはよー。んー?なに?」

「なにって……首に付けてるの、チョーカーじゃん」


 普段から行動を共にする友達のキョウコと、グループの顔見知り達も同様に反応する。


「そーだよ。えへ、どう?似合ってる?」


 首を傾げて精一杯笑ったつもりだったが、皆にはそう映っていなかったようだ。


「う、うん…かわいいっちゃかわいいけど…」


 珍しい。いつも私と同じくらい元気な友達はぎこちない反応を示した。


「今の顔、なんかめっちゃエロくね?それ付けるとナオちゃんかなり印象変わるわ」

「まー流行ってるしねチョーカー。ウチの友達にもつけてる奴いるわ。似合ってないけどね」


 あまり接点のない人達からも感想が飛んできた。


(……今の時期、チョーカーが流行ってくれてるのは不幸中の幸いかな)



 お昼に店長からシフトの休みを告げられた。
朝から土砂降りの雨で、翌日の朝まで止まないという予報。こういう時、
客は相当少ないだろうとの考えから、シフトに入る人数を減らすこともある。それに私が選ばれてしまった。
必死に入りたいと色々理由を付けて頼んでみたがダメだった。店長は割と頑固だ。


「ふーん、今日休みなんだ」

「わっ、ミカちゃん…」


 背後に忍び寄っていたことに全く気付かなかった。
5限目終わりの人気のない空き教室で携帯をいじっていたというのに、どうやって見つけたのか。
とても気味が悪い。
79 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/10(月) 20:51:43.89 ID:yDxkFqKx0
「そりゃそーだよねー、この雨だし」

「うん…そうだね」


 嫌な予感しかしない。また彼女に蹂躙されるのだろうか。
そう憂鬱になっていた隙を突かれて、携帯をパッと奪われた。


「ちょっ、なに」

「逆らうの?」

 
 逆らったら私へどんな罰が来るか分からないし、
何より先輩への危害が加わるかもしれないということもあって、萎縮してしまう。

 
「確かめたかったことがあってね……」
 
 
 私は座ったままなので、彼女が立ちながら操作している画面で何を見ているのか確認できない。
すると彼女の動きが突然止まった。

 
「…………」


 長い沈黙の後、静かに質問する。


「ねぇ、なにこれ」


 目の前に差し出された画面には、私と先輩のLINEの会話履歴。


「これは、ただ……しばらく会えないってことを伝えただけで…」

「……ふっ」


 口をグニャッと歪め、鼻で笑う。嫌な予感は的中したようだ。


「まだまだ躾が足りないみたいだね」

「えっ…LINEくらいは自由に……」


 彼女はいきなり机を叩いて大きな音を出した。


「未練タラタラじゃん。私と付き合ってるんでしょ、私だけ見るべきでしょ」


 そんな話は聞いていない。いつの間にか交際していることになっていた。



80 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/10(月) 21:02:11.39 ID:yDxkFqKx0
「でも、っ」


 また大きな音をたてられる。自分の手が痛むことも構わず、目一杯に机を叩く。
彼女が出す大きな音を聞くと、心臓を鷲掴みにされているような感覚に陥った。


「そ、それ、やめてよっ。びっくりするから」

「お家、行こっか……」


 まずい、確実に怒っている。しかしここで従わなければ先輩に被害が及ぶだろう。


(先輩のため……)


 家に着くなり後ろから背中を押され、顔から床へ倒れこむ。


「きゃあっ」

「今日はシンプルにやるよ、ナオちゃん」


 私の髪の毛を引っ張りながら彼女が部屋を進んで行く。


「いっ、痛い!待って!自分で動くからっ」


 必死に頼んでみても全く聞き入れてもらえない。


「う、ぐっ。……ね、ねぇ、怒らせちゃったのなら謝る。ごめん…」

「んーん?別に怒ってないよ。飼い犬の躾は飼い主の務めだからね、しょうがないことだから」


 人のお腹を自然に殴るスキルというのは、日常生活を送っていく上で
どうしたら得ることができるだろう。考えても思い付かなかったので、
それは頭がおかしい人にしか分からないことなのだなと思った。


「あ"ぅっ、ほんとに…あっ、ただ、連絡してただけなのっ…!」

「そういうことじゃないよ。分かってないなぁ」
81 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/10(月) 21:06:55.70 ID:yDxkFqKx0
「ま、待って…」

「ふー……これでも手加減してたんだけど」


 下から襲って来た拳をもろに受け、私の口は開きっぱなしにさせられる。
ダラダラとこぼれる唾液がカーペットにシミを作っていく。


「ぁか、っ……はっ、ぁ…」


「ナオちゃん、何に対して謝ればいいか分かった?それから、どうしたらいいのか分かった?」


 そんなことは最初から分かっている。しかし先輩は私の数少ない、いや、唯一の精神安定剤。
それをこんな早くに奪われるなんて。


「うぅ……ぅ、ひっ……っ」


 今と、これからの生活を想像すると涙が止まらなかった。


「はぁ、まだ分からないか。立って、ナオちゃん」


 いやだ、いやだ。殴られるのはただ痛いだけ、気持ちよくなんてない。
駄々をこねる子供みたいに首を横に振って拒否する。


「……立て!!」

82 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/10(月) 21:09:52.48 ID:yDxkFqKx0

 耳をつんざくような大声を出し、近くにあったテレビのリモコンを手に持ち
机の角を思い切り叩く。これが普通の部屋なら隣の部屋に音が漏れていただろう。
しかし今はミカの家。異常を察して通報する人、様子を見に来る人が現れることはない。


「立て!早く答えろ!!」


 一定の間隔で大きな音を出して私を急かす。この音を聴くと頭が混乱して冷静でいられなくなる。
目の焦点はぶれ、喉は狭くなって思うように声を出せなくなる。


「わかっ、分かったからっ……ひっ、ごめんなさい!ごめんなさい!」

「何で謝るのか、具体的に」

「わ、私がカナさんと連絡とってたから……」

「これから、どうするのかな?」


 あんまりだ。殴られないようにするためには、どうするかわかっている。


「ねぇ、ナオちゃん……」


 口ごもって答えずにいると、彼女は膝立ちになり私をやさしく抱きしめてきた。


「もう答えは分かってると思う。それは私のためであると同時に、相手のためにもなるんだよ……?」

(カナさんの……ため…?)
83 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/10(月) 21:15:39.82 ID:yDxkFqKx0

「だからお願い、ちゃんと答えて?」


 先輩のためと言われたら、私の思考回路は至極単純なものになって、全ての要求を飲み込んでしまう。
今まで首を絞められたり殴られたりしてきたように。


「っ…ひっ……もう…っ…この人とは、連絡…取らない」

「そぉ〜だね、正解だよ。えらいえらい」

(……えへ、やったよカナさん。私、頑張ってるよ)


 この日彼女は体調が悪かったらしくあの後すぐに帰宅した。
体調不良だから機嫌も悪くなりやすくなっていたのだろうか。


(まだお腹が気持ち悪い……。今日は何も食べずに寝よう)


 眠りに落ちる前は、いつも同じ人物を思い浮かべる。




84 :たぶん明後日になります。ありがとうございました。 ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/10(月) 21:18:58.61 ID:yDxkFqKx0







先輩さえ生きてくれればそれでいい。

先輩が無事ならそれでいい。

先輩は何も知らなくていい。







85 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/10(月) 21:24:24.04 ID:cNPfSYjzo
ミカちゃん怖いよう
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/10(月) 21:24:36.30 ID:X1ufpLOuo

心理描写が素晴らしい
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/11(火) 06:31:39.08 ID:WmOV/qr5o

ナオが先輩と再開してからのミカが病んでく過程がとても気になります
88 : ◆COErr5OWSM [sage]:2017/07/12(水) 20:14:46.92 ID:lo8oM5vv0
レスありがとうございます。
やはり木曜日に投下します、度々すみません。

>>87
描写が足りませんでしたね…
そこも書きたいんですけど修正してる内にどんどん長くなってきそうなので、省略させてください
ご想像にお任せします、すみません。
89 : ◆COErr5OWSM [sage]:2017/07/13(木) 19:45:18.54 ID:86ZA2IUD0
それからの日々は最悪だった。彼女を怒らせるようなことをすれば、
躾と称して殴る蹴る、ビンタ、首を絞める、足を舐めさせるなどのことが待っていた。
普段のセックスでは、まるで獣のように犯してくる彼女の性欲に夜通し付き合わされる。
身体的疲労はどんどんたまっていった。
  
 それに加えて最近は、キスマークを私の身体中につけるようになる。チョーカーでは隠しきれない所につけるので言い訳に困る。
寝不足のせいで、バイト先で仕事を失敗することが多くなり、店長からクビを言い渡されてしまった。
友だちの誘いにも乗る気は失せ、そうすると当然距離はあいていく。講義は後方の席に座って一人で受けることが増えた


(何言ってるか全然わかんないや...)


 レジュメを配りパワーポイントに沿って進んで行くだけの授業は、貴重な睡眠時間となる。
騒々しくなってきたと同時に目を覚ます。


(あ、もうお昼休みか...)


 コンビニで買ってきておいた栄養ドリンクと菓子パン一個。最近はこれくらいしか食べる気力がなくなってしまった。
席を立ち人気のない所に向かおうとしたら肩を叩かれた。


「や…ナオちゃん」

「こんにちは、ナオさん」

 
 仲の良いキョウコとヒトミに声をかけられた。いつもなら元気に対応する所だが、今はそうもいかない。


「あぁ、二人とも、元気してる?」

(いつもどーり、いつもどーりに)

「もう見てられないわよ、今のあなた」

「そうだよナオちゃん、最近暗いよ……なにかあったでしょ?」

「んー?そんなことないよ。いつもこれくらいでしょ?」

「確実に私生活で何かあったでしょう。…その首、毎日のようにキスマーク付けてきているけど、関係しているの?


 言ったらカナさんが危なくなる。どうせ相談しても二人とも同性愛に引いて離れて行くに決まっている。
大切な友達に対してこんな風に思い込んでしまう程度まで、精神的疲労は溜まっていた。

90 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/13(木) 19:53:16.10 ID:86ZA2IUD0

「そう?隈は酷くて講義もまともに受けられず、どんどん顔はやつれていくばかり。
普通の友達なら心配せずにはいられないわ。……お付き合いしている方と何かあったのでしょう。
何か力になれるかもしれないから、少し話しをして…」


 話しても分かってくれるのか。私が好きになったのは女の人、それも友達だった人。今苦しめられているのも女の人。
相談して役に立てるケースなんてあるものか。


「そこはさ、プライベートなことだから、放っておいてほしいかな」

「でも、ナオちゃん、相談したら気が楽になるかもしれないよ?」



「…っ、しつこいなぁ!私が悩んでる前提で話してるけどっ、そんなことないんだよ」


 キョウコはいきなり怒鳴られたことにオロオロした反応。ヒトミはいつもと変わらず冷静だった。


「そう。そこまで言い張るのなら私にも考えがある」

「…勝手にしたらいいじゃん。悩んでることなんてないから、無意味だけどね」

「ちょ、ちょっと待ってっ。二人とも、そんな険悪な感じにならずに、ねっ?」


 私はさっさとこの場から離れて、昼食をとるために勢いよく席を立った


(ぅ、わっ)


 世界が一瞬だけ斜めになった感覚。後ろの方向に何かの力で引っ張られたようだった。
そのままいけば転ぶところを、ヒトミに腕を支えられ体勢を整えることができた。


「……」


91 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/13(木) 19:57:33.25 ID:86ZA2IUD0
「離してよ…躓いただけだから」


 何も言わずに手を離してくれた。もう一方の友人はまだ離したいことがあるとか何とか、
私を引き止める声を発していたが無視して進む。今振り替えれば絶対に泣いてしまうから。


(あんな態度、とったのに…)


優しすぎる友達二人に対しての罪悪感と共に、私はまた一人で昼食を食べた



 先輩からのLINEやツイッターでのメッセージ、電話の通知は今ではもうほとんど来ることがない。
ずっと無視されればそうなるのは当たり前だ。私はもう見捨てられてしまったのだろうかと不安になる。


(せめて少しくらい返信しないと、不審に思われる)


 そう思ってミカに許可を貰おうと決めた。今日も家に連れ込まれたので、そこで相談してみよう。

 しかし彼女の様子を見てそんな考えはすぐに消えた。今までに見た中で一番不機嫌だ。
今日は何も怒らせるようなことはしていないはず。
椅子に座ってブツブツと何かを呟いている。私はベッドの上で臆病に待っているしかなかった。


「あいつ……まさか……来るなんて………」


 何を言っているのかよく聞き取れない。本当に心当たりがないので、私以外の何かが原因だろう。


「私のもの……印……印…付けなきゃ…」

92 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/13(木) 20:04:28.28 ID:86ZA2IUD0
 ゆらりと立ち上がってこちらへ向かって来る。手には手錠と結束バンド。
無抵抗で拘束されるのに慣れてしまっている自分がいるのに嫌悪感を抱く。
今日は覚悟をしておいた方がいいかもしれない。どうせ彼女の不満は私にぶつけられる。

 私をベッドの上に縛り付けた後ミカは何かを取りに行ってから馬乗りになって来た。


「今日ね、昼に、いたんだよ」

「…えっと……だれが…?」

「カナ」

「カナっ、えっ……」

 まさか、そんなことがあるのか。私に会うために来たのかどうか分かるわけもないのに、
心は熱く喜んでいる。しかしそれを表情に出してはいけない。
どうでもいいという気持ちに見せなければ。


「そう、なんだ」

「守らなきゃいけない…あいつから。だから仕方ないんだよ……」


 虚ろな目をしつつ取り出したのはカッターナイフだった。一瞬で全身から血の気が引く。


「分かりやすいように、まずは腕にね」

「まっ、待って!なんでっ……私、何もしてないっ」


 手首が擦れて赤くなるのも気にせず腕を振って抵抗する。
刃が左腕に当てられると、金縛りにあったように体が動かせ無くなった。


「ゃ、やだっ…お、お願い…っ…どうしたら…許してっ」


 最後まで懇願することは叶わず、腕の内側へゆっくりと一本の線が引かれた。
93 :また明日です。ありがとうございました ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/13(木) 20:26:12.00 ID:86ZA2IUD0
「は、あぁっ、あぁあ」

 冷たい刃が私の皮膚と肉を突き破ってくる。線に沿って血の玉がぷくぷくと浮き出てきた。
顔は冷や汗と涙で歪んでめちゃくちゃになっている。彼女はそのあと続けざまに、計三本斜めに傷をつけた。


「はは…上手いでしょ。ミカの、ミの字だよ。こうしといたら、あいつから、守れる…」


 笑っている、しかしいつものように楽しんでいる感情が全てではないように見えた。
どこか焦っているようだった。


「ぃ…っ、ひくっ……いた、い…」


 リストカットより明らかに深く切り付けられただろう。この傷はおそらく一生残る。
彼女は私のTシャツを胸元まで上げてきた。先ほど“まずは”と言っていた。
今度はこちらに奴隷の印を刻まれてしまうのだろうか。

 抵抗は、もう諦めた。暴れると本当に殺されそうな雰囲気だし、かえって傷が増えそうだった。


「はあぁ…白くて、スベスベで…無駄な肉がついてない……彫刻みたい…」


 お腹に頬ずりして恍惚の表情を見せる。手には依然カッターが握られているままだ。


「誰かに…見せられないように……」

「っ、ぁは、っぁぁ、あ、ん」


 左の脇腹にもミカの印が刻まれた。
私はこれからこの傷をずっと背負っていくのかと思い絶望したが、不思議と涙は出なかった。
出し過ぎて既に枯れていた。


「はぁぁ……素敵だよ、ナオちゃん」

「ぅ…、ぁっ」

 傷ついた場所をゆっくりとなぞられる。満足したなら早く帰してほしい。
もうこのレベルまで来ると死への恐怖はだいぶ薄れてきてしまっていた。


 彼女はあれをしたことによりとても安心したようで、あの後は異常なほど優しく接してきた。
上機嫌な時は私にベタベタ触って帰るだけ。切りつけてから終始明るい彼女が帰った後、
傷をつけられた箇所を鏡で確認した。なぜか乾いた笑いが出た。
 
 シャワーを浴びる際、傷がしみることで嫌でも彼女の恐ろしい顔が浮かんできてしまう。
その度に涙が出てきて安心する。私はまだイかれていないと。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/13(木) 20:41:46.59 ID:5urdZl12O
最高だ…
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/13(木) 21:36:43.27 ID:LC2QZbT0o
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/14(金) 13:34:19.29 ID:/R8/hb0Ko
97 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/15(土) 01:03:23.17 ID:DOR/zOiN0
ありがとうございます、遅れました。
続けます
98 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/15(土) 01:10:12.42 ID:DOR/zOiN0
土日はミカと会うことはない。
シフトを少なくした分、土日入るようにしたそうだ。私に取っては貴重な休息の時間。
 
 とはいえ、最近は友達を誘うことはなくなったし、誘われることもなくなった。
ミカと会う機会を減らすため、また新しくバイトを始めてみたがダメだった。
大きな音がたてられると、誰かに怒られているみたいでパニックを起こしそうになってしまうから。


(だるいな…なにもかも)


 何もすることがないので映画を観て暇を潰すことが増えた。
面白い物でもつまらない物でも、少しの間だけ嫌なことを忘れられる。
 
 今日も夕方までベッドの上で時間を浪費し、その後映画を借りに行った。
帰りにアパートの階段を登って行くと、部屋の前に人影が見えた。


(……まさか、シフトを休んで来たとかじゃないよね)


 考えていても仕方がないので近づいて調べることにしようとしたが、やめた。
暗い中よく目を凝らして見てみたら、一番会いたいのに会ってはいけない人物がそこに佇んでいた。
99 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/15(土) 01:17:04.70 ID:DOR/zOiN0
(なんで…なんでいるの?)

(どうする?逃げる?…でも、どこへ…。ネカフェとか、そこら辺へ行こうか?
何で私の家の前にいるの…?聞きたい、けど、これがバレたらどうなる?)

 
 半ばパニック状態になりながら対処を考えているうちに、もう近づかれてしまっていた


「そんな中途半端なトコで何やってんの」


(…カナさん……カナさん…カナさん、カナさんっ、カナさんっ…)


 視界に入れただけで動悸が激しくなった。
本物が目の前にいる。毎日夢見た光景でいずれ消えてしまう先輩は、今日は消えなかった。


「しばらく会わなかったねぇ。1ヶ月ちょっとくらい?
ナオずーっとLINE無視するんだもん。困ったよまったく」


 けらけらと笑いながら、今まで通りに接してくる。なぜ怒っていないのか、
なぜ何も聞いてこないのか、早く追い返さなければ。思考回路はコントロール不能だった。
私みたいなやつを情緒不安定というんだろう。


「ぁ、あっ……の…」

「ん?何て?」


 喉がヒクついて声が出ない。しっかりしなければいけない。ここで追い返さないと先輩が危ない。


「きょ、うは用事あるから、帰ってください…」

「用事って?そのDVD見ること?」

「そ、それだけじゃないです」

「後は何?」

100 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/15(土) 01:21:46.10 ID:DOR/zOiN0

 何故食い下がるのか。これ以上近くにいられたら頭がどうにかなりそう。
下唇を目いっぱい噛んで感情が爆発することを抑える。


「もう、いいじゃないですか……。別に、カナさんには関係ないことですから」

「…そっか。心配だから用事終わるまで待ってる」

(なんで、なんで……!)

「だからっ!カナさんはっ、邪魔なんです!帰ってくださいよっ!
……っ、ていうか何で心配するんですか!?今までずっと連絡してこなかったくせに!」


 子供が泣きながら喋る時みたいで、自分でも滑稽だと思う。
このまま嫌われれば、もう会いに来ることはないかもしれない。
会えなくなるのは死ぬほど悲しいけれど、こうすれば安全なはずだ。


「それに…それにっ…カナさんのこと、ほんとはめんどくさく感じてたんですっ!
だから会え、会わないようにして清々しましたよ!あとは、あとはっ…ぁとは…」


 全然嘘の理由が出てこない。全部楽しかった思い出しかない。


「今のを要約すると、あたしに会えなくて寂しかったってことかな」


 もうダメだ。どうすればいいのか分からない。
膝から崩れ落ち、涙が溢れ出てきてくしゃくしゃになった顔を両手で隠した。
最近で一生分のどれくらいの涙を流したのか気になる。
101 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/15(土) 01:25:29.55 ID:DOR/zOiN0

「…っば、ばかじゃないんですか……そんなこと、ないですから…っく」

「はいはい、分かったから。ほら立って」


 私の腕を引っ張って扉の前まで連れていき、早く鍵を開けるよう急かす。


「ねぇ早く。携帯に連絡しても無視されるだろうからって、
あたしずーっと待ってたんだけど?」


 ここでグダグダしていれば、周りに目立ってミカに知られるかもしれない。
観念して先輩を部屋に上げた。



 沈黙が続く。先輩はずっと何かを待っている。それはきっと私から話し始めることだ。
そうしないといつまでも居座るつもりでいそうだ。この状況をうまく誤魔化しきれる自信は少しも無い。

 それにしても、洗面所で手を洗いに行った時見た自分の顔は酷いものだった。
目と鼻は泣いたせいで赤くなっている。まともに彼女の顔を見ることができない。
まずはとにかく、さっきのことを謝らなければいけないだろう。


「ぐす、あの……さっきは、すみませんでした。
あんなこと、ほんとは思ってないんですけど、少し、ワケがあって……」


 視界には正座している太ももの上で、もじもじと落ち着きのない両手が映る。


「…それ、その首のやつも関係あるでしょ?」

「えっ?」

 少し気まずそうに私の首にある赤い印を指差す。
先輩に会ったショックで、キスマークのことなど完全に忘れていた。
慌てて自分の腕で首を覆うようにして隠す。休日は忌々しい首輪を外しているので丸見えだった。
102 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/15(土) 01:29:48.88 ID:DOR/zOiN0

「あぅ……これはっ、虫に刺されて」

「いや無理があるでしょ…。
まぁ、あたしが何で来たかだけど……実は、あんたの友だちに相談されたからなの」

「えっ、だれが…」

「この間バイト先にいっしょに食べに来てた子達。あとでちゃんと謝りなよ?心配かけてごめんって」


 ヒトミの言っていた考えとはこういうことか。本当に、本当に優し過ぎる友達だ。


「はい……」

「…で、えーっと…その、首のやつは彼氏さんに付けられたものなの?」


 彼氏、普通はそう考えるのが当たり前なのに、やはり悲しくなってしまう。弱々しく首を横に振る。


「ん?じゃあ誰に?」

「……ぉ……なの、…です」

「…?ごめん、聞き取れなかった。もう一回」

「ぉ、女の子っ、に、付けられたん、です」


 告白する声は気まずさからどんどん尻すぼみになっていった。先輩は一瞬間を空けてから反応する。


「……結構驚いた。もしかして、この前相談した件の子?」

「違います…。それに、あの……」

103 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/15(土) 01:35:51.50 ID:DOR/zOiN0

 言えない。私が女の子と関係を持っていることに引かれていないのはまだ良かった。
この関係を説明するにはどうすればいい?全て説明すれば、汚れた人だと思われるに違いない。
事態の重さに離れていってしまうかもしれない。


「言いにくいんだったら、答えたいことだけ答えて。あたしが知りたいこと聞くから」


 こんなことをカミングアウトされたら普通混乱するだろうに、
冷静に私を気遣う事ができる先輩には、何を言ってももう大丈夫かもしれないと思わざるを得なかった。

 性的な部分についてはできるだけ曖昧に話してミカとの関係を説明した。
もちろん、きっかけは話していない。


「け、軽蔑しましたよね……こんな私…っ」


 話していくうちに先輩の眉間にどんどんシワがよっていった。


「あの……」


 何も言わないでいる先輩はすごく怖い。
この間をどうしたらいいものかと思っていたところへ、頭に手が伸ばされた。
叩かれると思いつい反射的に肩をすくめてしまう。


「ごめん」


 そう言って私の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「な、なんでカナさんが…」
104 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/15(土) 01:44:46.16 ID:DOR/zOiN0

「こんなに大変なことになってるとは思わなくて、
ナオの気まぐれで私と距離空けたのかと思ってた。軽く考えてた、だからごめん」

「そ、そんな…カナさんは何も悪くないですっ」

「けどね、申し訳ないと思うのと同時に、あんたに怒ってる」


 当たり前のことだ。今もこうして先輩を巻き込んでしまっている。
もし先輩がミカに襲われでもしたら、私は、私の心は一体どうなってしまうだろう。どんな行動を起こすだろう。


「なんか勘違いしてそうだから言っとくけど、何で私に相談しないんだーと思って怒ってるの」

「……でも、相談したら、嫉妬したミカちゃんが、何するか」

「あのねぇ、あたしのこと舐めすぎじゃない?」


 今度は乱暴に撫でられた。


「相手が男ならまだしも、女でしょ?
聞いた限りじゃムキムキのマッチョなわけでもないだろうし、簡単にやられはしないと思うよ。
でも…さっき聞いたような状況じゃ、冷静な判断ができないのも無理ない。よく、耐えたね」


 先輩に頭を引き寄せられて優しく抱かれた。
すぐに目頭が熱くなってぼろぼろと涙が流れていく。
私の涙腺はちゃんと機能しているのだろうか。


「ひっ、ぅ….うぅぅ、カナさんっ」

「……よしよし、よしよし…あたしにできることなら協力するから」

 今までずっと冷え切っていた心が、一瞬で温められるのを感じる。
いい匂いだし、柔らかい。全てを包み込んでもらっているような気分になった。
105 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/15(土) 01:50:58.00 ID:DOR/zOiN0



「……カナさん」

「どーした?」


 抱きしめられてしばらくした後、アブナイ考えが一瞬頭の中に浮かんだ。
その一瞬が与えた影響は余りにも大きすぎる物だった。

 もう、全てを先輩で上書きしてもらいたい。見て欲しい、触れて欲しい、感じて欲しい。


「これ……」

「えっ…ど、どうしたの……この傷…」


 酷く動揺している。私を見て心を乱してくれているという事実に、体は熱を持った。
左腕に付けられた印を見せ、先輩の手をその上に持って来させる。
傷はまだ塞がりきっておらず、少し引っ掻くだけでまた血が出てきてしまうだろう。


「さっき話した子に、付けられたんです」

「そんな…これ、ひどい……」


 私の腕をとって驚きと悲しみの表情を浮かべる。ここまできたら、私の思いはもう止められなかった。


「…お願いがあります。ここを……傷付けてもらいたいんです」

「……へ…?」

「カナさんに付けられた傷なら、受け入れられます」

「や、ちょっと…!」

106 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/15(土) 01:54:39.96 ID:DOR/zOiN0


 返答を待たずに先輩の手をとった。かさぶたになり切っていない柔らかい部分を
愛しい人の爪が削っていく。作りかけの皮はいとも簡単に壊されていった。


「ナ、ナオっ…こんなこと…!」

「あっ…はぁっ…っ…お願いですっ、このまま…んっ」

 
 先輩の顔はいくつかの感情が混ざっている微妙なものに見えた。困惑、同情、軽蔑、恐怖。
今の私は、この人にどう思われているかなどはどうでもよいことだった。
先輩に傷を付けられているという事が何よりも大事だった。


「っ…はぁ……あは…」


 ついさっきまで消し去りたかった傷痕は、一瞬で宝物になった。
まだ足りない。全てを先輩に捧げたい。そのまま自分の服をめくって、
腰の近くの脇腹にある傷も上書きしてもらおうと思ったが、腕に力を込められてしまった。


「なに、してんの…ばか……っ」

「なにって…カナさんに協力してもらってるんですよ」

「こ、こんなの、ナオを痛めつけてるだけ……いっ」


 先輩の手首をつかんでいる手はそれを離さないように強く握る。
話が、違う。
107 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/15(土) 01:57:16.99 ID:DOR/zOiN0

「さっき、言ってたじゃないですか」

「いっ、ナオっ…痛いっ」

「協力してくれるって……!」

「ぅうっ…わ、分かったから、離してっ」


 今は、明らかに恐怖の感情しか見られない。


「っ、はぁ……ぁ、あぁ…んっ」


 幸福感が心を満たす。ミカに傷つけられた時とは何もかも違う感覚だった。
先輩の細くしなやかな指が自分の血で汚されているのを見て、体中の血が沸き立つ。


「……っ」


 苦虫を噛み潰したような顔だ。それに比べて、私はこの溢れそうな気持ちを隠すのに精一杯だった。
108 :夜再開します。 ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/15(土) 01:59:56.14 ID:DOR/zOiN0




 幸せそうに笑ったら、気持ち悪がられてしまうから。




109 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/15(土) 02:16:35.18 ID:XU+DGIZgo
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/15(土) 23:40:41.27 ID:883qUuAuo

痛いの終わり?
111 : ◆COErr5OWSM [sage]:2017/07/16(日) 03:32:13.61 ID:P2XF2Z1l0
ありがとうございます

少し遅れます。すみません
もう少しで話自体終わりますので、少々お待ちください
112 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/18(火) 23:34:19.64 ID:z73y8B/Z0
すみません遅れました。続けます。
113 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/18(火) 23:37:25.44 ID:z73y8B/Z0

「……本当に、さっきはどうかしてました、すみません…」

「いや……もう謝らなくていいって。……でももう、あんなことはしたくないよ…?」

「はい……それは…」


 自分でも一体何回謝ったか分からない。
確実に何かに飲まれて暴走してしまっていた。


「それで、これからのことだけど…早速行動に移すべきだよ。
具体的には、ナオが暴行を受けてる証拠を確保したほうがいいと思う」

「でも、どうやって……?あ、カナさんが危ない目にあう方法は絶対嫌ですからね」

「えぇ?あたしなら」

「絶対ダメです!カナさんに何かあったら……生きていけないです」

「そんな大げさな…」


 冗談で言っているつもりは全くない。


「じゃあどうする……。うぅん……。ナオはどうしたいの?」


 私はこのことを大ごとにしたくないと言った。かなりデリケートな問題だし、
周りの人に迷惑をかけたくない。関わる人間をなるべく少なくしたい。
実際は一番事態から遠ざけたかった人物を協力させてしまっていることに落ち込む。


「いいの?そうすると、やり方は限られてくると思うけど」
114 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/18(火) 23:41:57.87 ID:z73y8B/Z0

「はい、大丈夫です。……実は、思いついたことがあるんですけど」


 提案した作戦を聞いた先輩は激怒したけれど、私は引かない。
知られてしまった今、私が一番頑張らなければいけないのだから、
この方法を閃いた時はこれがベストだと思った。かなり開き直っていた。

 もっと自分の体を大事にしてだとか、他に方法があるはずだとか騒がれた。
二人して引かないとこのままではいつまでも時間がかかりそうなので、私は妥協案を提示する。
これに対しても反対されてしまった。しかし私にはもう折れる気が無いと察したのか、
先輩は口を尖らせながら提案を受け入れた。

 私の身を案じてのことなのだろうが、これは一人でやりたかった。
先輩に見られていたら、どんな精神状態になるか自分でも分からない。

 決行は明後日の月曜日。

115 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/18(火) 23:45:24.32 ID:z73y8B/Z0

「ただいまぁ」

「……おかえり」


 私の家に来る時はこのようなやりとりを強制されるようになった。
いつも通り彼女は何か怒ることがない限り、ニコニコした表情をしている。


「珍しいね?ナオちゃんから家に来て欲しいだなんて」


 彼女とリビングに入った時点で作戦開始だ。完璧に怒らせなければいけない。


「さぁて、今日はどんなことしようか

「あの、もう……そういうの嫌…」


 ミカをはっきりと拒絶する。最近反抗することがなかったからか、珍しく困惑の表情を浮かべている。


「……は?なに、いきなり」

「だから、もうミカちゃんとはこういうことしたくないって言ってるの」


 怯んだのはほんの一秒程度で、すぐに体勢を立て直す。


「あぁ、今日は、きつくやられたいんだ」

「ち、違うっ。本気で嫌なんだってば」


 彼女はもうスイッチが入っていた。身近にあるものを思い切り蹴飛ばし大きな音を出す。私の苦手な音だ。


「っ、……ミカちゃんに飽きちゃったから、終わらせたいの。次は、もっと優しい人と付き合いたい……

「……全っ然躾が足りないみたいだね」


 彼女がテキパキ準備をしているのを止めようと手を伸ばすが、また大きな音を出される。
どうしても体が震えて力が出なくなってしまう。怯んでいる隙を突かれて目隠しと手錠を手際よく付けられてしまった。


「あぅっ…く、何を…」


 彼女に軽く押されて尻餅をつく。その後何が飛んで来るのかと待ち構えていたが、何も来ない。
116 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/18(火) 23:51:11.66 ID:z73y8B/Z0

(……?)


 何の気配もしない。確かに今までそこにいたはずの彼女の存在が感じられなかった。


「ミ、ミカちゃん?ねぇ、これ外してよ。普通に話し合いしようよ……」


 無反応。その後何度も話しかけてみたが、何も返ってこない。
これでは作戦が失敗してしまう。彼女にアクションを起こしてもらわなければ。
 
 そう思い立ち上がろうとした瞬間、バチンと何かで床を叩く音が部屋に響いた。


「きゃっ!……ミカちゃんっ、お願いだから、暴力は……」

(何かしなる音がしたような……もしかして、ムチ…?)


 部屋には自分の呼吸音しか聞こえなくなった。恐怖で呼吸が乱れる。
何も来ないことが逆に不安を煽っていく。行動しようとすると床にムチのようなものが叩きつけられるので、
いつ自分の方に飛んで来るか気が気でなかった。視界は封じられているので音に敏感に反応してしまう。

「はーっ……はーっ…」


 また心臓が握り潰されそうな感覚に陥る。先輩のことを思う時とは似て非なるものだった。
もうかなり限界は近い。先輩に合図を送ってしまいそうになった瞬間、顔に手を添えられた。


「ひっ、いやぁっ!やぁっ」

「ふふ……ナオちゃん…目隠し、外してあげるから…鏡見てごらん?」

「んぅ」

 頬をつかまれ無理やり鏡の方を向けさせられる。その顔は確かに恐怖で塗り潰されていた。
しかしそれと同時に、頬を赤く染めてもいた。瞳の奥は何かに飢えている。


「っふふ、んふふ、あははははっ」

「……ぁ、ぁ」
117 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/18(火) 23:54:35.78 ID:z73y8B/Z0

「ナオちゃんは、生まれつきのドMなんだよ」

「ち、ちがう、こんな……こんなの、私じゃない……」

「でも見てよ?泣いてるけど悦んでる顔。いじめられて嬉しいです、
いじめられたいですって顔。本当にかわいいね……」

「あ、ぁぁ……う、う…」


 ショックを受けて言葉が出ないということを初めて経験する。
大げさだな馬鹿にしていた表現が自分に起こるとは思わなかった。
今まで様々な暴行を受けてきたが、その時自分がどのような顔をしているかは分からなかった。
酷い事実を思い知らされた。


「……あーもう我慢できない。やっていい?絞めていい?いいよね?やるよ?」


 最初から答えを待つ気は無い様で、すぐ首に手がまとわりついてきた。


「か、ぁ……っ」

 今までで一番強く絞められているかもしれない。合図を出すならここしかないけれど、
少しも声を出すことができない。このままやられ続けたら、本当に死んでしまうかもしれない。
その時頭の中では、その瞬間一体どんな感覚になるのか、少し気になってしまっていた。

 それとほぼ同時のタイミングで、クローゼットの扉が開かれる。
118 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/18(火) 23:57:46.63 ID:z73y8B/Z0

「…明らかに、やりすぎ」


 首を絞めているミカは、ずっと遠ざけていたはずの対象が
突然登場したことに驚きの表情を隠せていない。


「はぁ…!?何でお前がここに…っ」

「…ナオがこういうことはもうしたくないって言うから、協力してるの。証拠としてビデオに撮ってた」


 隠れていた理由を述べながら彼女に詰め寄る。
困惑していた彼女は、後退りながらもすぐさま体制を立て直す。


「うっっざいんだけど……ほんとに殺したいこいつ…」

「刑罰については全く知らないからなんとも言えないけど、
警察が見たら絶対黙ってはいないと思う。首思いっきり絞めてたし」

「ふん、同意の上でそういうプレイをしてたんだっての…。ね、ナオちゃん?」


 同意した覚えは無い。ミカのお仕置きが怖いが首を横に振る。


「違うみたいだよ。……変なマネはしないでよ、本当に」


 先輩は先程から抑揚の無い低い声で話している。
本気で怒っている様子に、それ程心配してくれているのかと、こんな状況ながら嬉しく思ってしまう。


「ミカさんは…ナオの弱みに付け込んで、自分の欲求を満たすことしか考えてない。
それも最低のやり方で。この子は混乱して冷静な判断はできなかっただろうし、
心も体も疲れきってる。……もう解放してあげてほしい、お願い」

「ナオちゃんのことは私が一番知り尽くしてる。これから慣れていく段階なんだから、邪魔しないでよ……!」

「あなたがそうでよくても、相手はそうと限らない。
互いの気持ちがどれだけ通じ合ってるか、それが大事。……ナオ、あんたはどうしたいの」


 私は、最初からずっと同じことしか考えていない。


「……カナさんと、一緒にいたいです…」
119 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/19(水) 00:01:18.91 ID:YXe5aSfo0
 
 告白紛いのことを言ってしまったと、思わず赤面する。


「……っ…なんでよ、なんであんたなの…。なんで私じゃダメなの…」


 彼女は純粋に悔しがっていた。それに対し先輩は努めて平静に返す。


「多分……会った順番とか、そういう些細な事かも…。
ミカさんが先にナオと会ってたら、全然違うことになってたかもしれない」

 
 激昂して暴れるだろうという私の予想に反して、
彼女はうなだれて静かに泣いた。


「ここまで……ここまでしたのに………私は…」


 彼女の様子を見て、そうさせている原因は自分にあるとわかっていながら、少しだけ哀れだと思った。
理由や形はどうあれ、ミカは本気で私のことが好きなのだということを感じ取れた。


「……」

「……」


 しばらくの間沈黙が続いた。先に行動を起こしたのはミカで、ゆっくりと立ち上がる。
先輩は私をかばうように位置取り身構えてくれた。

120 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/19(水) 00:08:09.43 ID:YXe5aSfo0

「…もう……いい……帰る…」


 先輩と2人で拍子抜けする。念の為部屋の中の凶器になりそうなものは全て外に出していた。
予想外の展開に、ここからどうなるのか考えを巡らせていると、ミカは私たちの様子を見て鼻で笑った。


「……いいよ…心配しなくて。あんたのこと、殺してやりたいって思うこともあったけどさ、
実際そんなこと出来るわけないし……。これ以上、どうしようもないから…」

 
 赤く腫れた目で私を一瞥する。その瞳の中に執着心や嫉妬、怒りの感情は見られなかった。


「もう近付かない。……全部捨てるよ、ナオちゃんと関連するものは。……バイバイ」


 短くそう言ってからスタスタと玄関の方へ向かって行く。
このまま別れるのは嫌だと思い、咄嗟に口を開いて別れの言葉を告げる


「ミカちゃん…私…殴られて痛かったし、怖かったよ。
色々束縛強過ぎると思うから、次付き合う人には優しくしてあげて……?」


 私以外の人物は口を開けて唖然としている。無理もない。
今まで痛めつけられてきた相手を心配するなど、自分でもおかしいことだと思っている。
それでも、放って置けなかった。


「また、明日……」

「…ほんとに、ばかでしょ……」


何と言ったかほとんど聞き取れなかったけれど、帰り際手を振ってくれたのでよしとしよう。
複雑な表情ではあるものの、何か諦めがついたような顔をした彼女を見送った後、隣から深い溜息が聞こえてきた。

121 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/19(水) 00:13:59.61 ID:YXe5aSfo0

「わ、わかってますよ……何であんなことしたのかですよね」

「そうだね…あほナオ」

「で、でもほら、なんだかほっとけないし、後腐れなく別れた方が復讐とかされなさそうですし……」

「…もう好きにして。はーっ疲れた。怒りと恐怖を抑えるの大変だったよほんとに」

「え…カナさんも怖かったんですか」


 相当怒っていたのは分かったが、怖がっているそぶりは見えなかった。


「あったりまえでしょ…。相手はムチとか手錠とか持ってるやつなんだから、
ブチ切れたら何して来るか…あ、そういえばそれ」


 私の手首を指差す。展開に夢中で手錠を外すしてもらうことをすっかり忘れていた。


「あっ手錠……鍵無かったらどうしよう」

「そん時は一生そのまま」

「えぇ……」


 先輩に拘束されて、そのままでいるのも悪くないと少しだけ思ってしまった。
探していたら玄関の脇にある棚の上に置いてあった。先輩に外してもらう。
 
 擦れて赤くなった手首をさする。
外してくれたのが先輩だからか、ようやく解放されたという実感が強く湧いた。


「っ…あれ、ごめんなさいっ…」

「今はいいから……泣いてスッキリしちゃいな」


 首に抱きついてだらしなく泣く。
彼女の服に涙でシミを作ってしまっているが、今は何も文句を言われない。

122 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/19(水) 00:16:47.97 ID:YXe5aSfo0

「ぅぅぅ、ふ、くう…ごめんなさい、ぃ」

「今だけは許したげるから、思う存分どーぞ…辛かったね……」


 この前のように背中をポンポンとたたかれる。子供じゃないんだからと言いたいけれど、
体全部が湯たんぽで温められているようですごく気持ちいいので大人しくしておく。


「ねぇ、そろそろいいでしょ…?」

「も、もうちょっと」


 泣き止んで十分以上経ってもまだ離れない。
せっかくの機会なのだから長く触れ合っていたい。今は後ろからお腹に手を回して先輩を抱いている状態。


「……暑いんだけど」

「照れてるんですか…?か、かわいい、です……」


 先輩の香りを至近距離で感じるのは本当に危険だ。頭がクラクラしてしょうがない。


「…っ」

(なんか、変な気分になっちゃいそう)

「こ、こらっ」

「全然くさく無いですからっ。い、いい香りです、ほんと」

「あー恥ずい恥ずい……早く終わって…」


 五分ほどこうしたやり取りを繰り返した後、先輩は前を向いたままおももむろに口を開いた。


「さっき言ったこと、覚えてる?」

「えっ?」

123 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/19(水) 00:19:36.20 ID:YXe5aSfo0

「あたしと一緒にいたい、そう言ったでしょ」

「あ……は、はい」

「どういう意味で言ったの?」

 なんてプレッシャーの強い質問だろう。こっちこそ、どういう意味で質問しているのか聞きたい。
先輩は体をひねってこちらを向く。顔と顔の距離が半端なく近い。恥ずかしくて顔を逸らしても、ズイッと近寄って来る。


「本当は分かってるんじゃないんですか……」

「100%じゃない。だから、あんたの口から直接聞きたい」
 

 もう逃げられない。


「私は、好き…大好きです。カナさんが好きです」


 この際全部言わないと後悔するだろうと、半ば諦めつつ告白する。


「頭の中、ほとんどカナさんで埋まってるんです…。初めて恋した相手で、女の子だけど好きになって……」


 以前相談した時には話せなかったことも明らかにする。


「ミカちゃんと体だけの関係になったのも、カナさんとそういうことしたいから、
なんです。私の好きはそういう“好き”なんです…」

124 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/19(水) 00:22:55.47 ID:YXe5aSfo0
 
 しばらく待ってみても反応が返ってこない。不安でしょうがなく思って、
上目遣いに先輩を見ると顎に手を当てて真剣な表情をしていた。


「ふぅん……じゃ次、あたしのどこが好きなの?」

「つ、次、えっ…」


 まさかここで掘り下げられるとは思わなかった。


「えと、その...」

「はっきりと、正直に」

(面接みたい…)

「ま、まず顔は、すごく好きです」

「顔"は"?」

「か、顔もですっ。あと、身体つきもすごく良いと思…」

(…あれ?私今なんて言った?)

 
 先輩は目を細めて口を真一文字に結んでいる。
好きな理由を答える時に最低の答えを述べてしまったことに気付く。


「あ、あの、今のは違くて」

「違うの?」

「いや、違くないですけど、あっ、違うけど違わな……あ、あれ……?」


 自分でも何を言っているか分からなくなってきた。
 

「あの…あの…それだけじゃないです。他にもいっぱいあるんです…」

125 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/19(水) 00:27:35.17 ID:YXe5aSfo0

「そうなの?聞かせて?」

(うぅ…)


 イジワルする時の小悪魔フェイス。その顔も好きだ。


「普段自分でかわいいって言っておきながら、
褒められると照れちゃう所…料理が上手な所…面倒見がいい所…頑張り屋さんな所…
お姉ちゃんらしさと子供らしさを両方持ってる所…」


(まぁ、要するに…)

「全部すき……です」


 これで断られても、後悔は無い。
同性の友達に告白されたという爪痕を、先輩の中に残せたら上出来。


「なるほどね……じゃあ、しばらく一緒にいてあげる」

「一緒に……?」

「うん、一緒にいる」

「な、なんでですか。この間カナさん、同性の友達から告白されたら困るって……」

「あぁー、確かに言ったね。」


 それに、と付け足して話し出す。


「今のあんた、ほっとけないし、自暴自棄になられても困るし」

(それって、なんだか、憐れみのような…)


 そう思ってしまうとどうしても暗い顔になる。


「こら、勘違いするな」

126 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/19(水) 00:31:07.00 ID:YXe5aSfo0

「あぃたっ」

 
 ネガティヴ思考をデコピンで中断させられる。


「あんたに好きって言われて、嫌な気はしなかった、それじゃあだめ?」


 だめなわけない。ほっぺたをつねって現実かどうか確かめる。


「いひゃい……」

「何やってんの。ハイ早く答えてー、いーち、にー」

「えっ」


 カウントダウンされると焦る。深呼吸してから、はっきりと改めて言う。


「嫌じゃない、ありがとうございます…」


 顔は太陽みたいに赤くて熱い。恥ずかしくて目をそらしそうになったけど、
そうしたら怒られそうなので頑張って目を合わせ続けた。


「ん、よろしい」


 ふにゃっと照れながら笑う目の前の人の可愛さに耐えられず、思い切り抱きついた。


「カナさんっ」


 どゎぶ、とか女の子にあるまじき声が聞こえたような気がするけど気にしない。

 今までは、好きな人のために耐え続けていた。
これからは好きな人と近くにいられる。先輩、多分私は何があっても一生あなたのことが好き。
私は好きな人のためなら、先輩のためなら何でもできる。

127 : ◆COErr5OWSM [saga]:2017/07/19(水) 00:31:54.09 ID:YXe5aSfo0
 


 それに、”一緒にいる”と言ってくれた。


128 : ◆COErr5OWSM [sage]:2017/07/19(水) 00:33:38.98 ID:YXe5aSfo0
一応終わりです。最後まで読んでいただきありがとうございました。
感想やご指摘などがありましたら気軽に書いていってください。

129 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 01:38:45.10 ID:fyk4Y0L/O
よかった乙
ミカと共依存でズブズブになるのも見たかった
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 03:24:17.49 ID:aWT5CGxto
カナさんがもっとひどいヤンデレになるオチ想像してたらそんなことなくて良かった
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2017/07/19(水) 06:43:09.40 ID:g3PH9/kko

良かった
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 07:58:57.60 ID:GecZ1PRdO
綺麗に終わって逆にビックリするわ
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 08:30:11.86 ID:pAeEaBDDO
ハピエンで良かった。おつおつ
ミカちゃんもうちょい粘るかと思ったけど、案外現実ってこんなもんなのかもね。すっきり終われた点も良かったよ。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 09:32:04.96 ID:23nRblG7O
貴重なオリジナル百合SSありがとう!
また機会があったら何か書いて欲しいな
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