萩原雪歩「ココロをつたえる場所」
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7: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 20:56:47.07 ID:bbgcA4Fi0
「とりあえず、言い出しっぺのロコからアイディアをプレゼンしますね。ロコは、何といってもアーティスティックにステージを彩りたいと思ってます!」

 ロコは自分の理想を、今度こそ自信に満ちた笑顔で宣言した。

「アイドルは歌って踊るもの。でも、それだけじゃないってロコは思います。ステージを、公演を、その全部をクリエイトしてこそアイドルです! そして、ロコがクリエイトするステージに、ロコアートは欠かせません!」

 言葉の一つ一つが、まるで五線譜をなぞる旋律のように彼女の口からこぼれ出る。歌っているみたいに楽しげに語るのだ。言葉の意味が全て伝わるわけじゃなくっても、ロコはそれをロコなりに表現している。そう感じさせるだけの魅力がそこにあった。

「ただ……これは、ロコだけのステージじゃありませんから。アートだって、四人全員にフィットしたものじゃなきゃ意味がないです。そのためにも、三人のビジョンを聞かせてください!」

 淀みなく紡がれながらも、決して聞き取りづらくなるほどの早口ではない……そんな言葉が聞いてくれた三人に届いていると信じて、ロコはゆるやかに一礼した。
 ぱちりぱちりと、人数ゆえにまばらではあるものの拍手が響く。一番大きな音の主でもあった千鶴は、満足げな表情とともに一歩前へ出た。こつ、と木張りの床を踏みしめる音が拍手の代わりに反響する。

「いい演説でしたわね、コロちゃん。それでは、コロちゃんの希望に応えるためにも、わたくしが続かせていただきますわ!」

 ロコは褒められた嬉しさと、未だに名前を正しく呼んでもらえないことへの小さな憤りに挟まれて、なんともいえない表情をしていた。
 彼女にとって名前は大事なアイデンティティだ。千鶴がニックネームのつもりで呼んでいることはわかるけど、まだちょっと複雑な心境なのである。
 千鶴がロコの様子に気づいているか否かは判然としない。ただ確かなのは、彼女がロコの意を汲んで真っ先に名乗り出てくれたであろうということだった。

「わたくし二階堂千鶴といえば、やはりセレブ! 豪華絢爛ながら気品に満ちたステージこそが相応しいに違いありませんわ! おーっほっほっほ……けほっ、こほっ!?」

 その言葉は彼女が常々から主張しているものと変わらない、一貫したこだわりだった。高笑いの途中でむせ返ってしまったことだけは失点だったようで、千鶴は少しだけきまりが悪そうに目を逸らし、咳払いをした。

「とにかく、わたくしは劇場に足を運んでくださった皆様が憧れすら抱くような……そんな、二階堂千鶴の名に恥じない姿を見せることのできる公演を希望しますわ」

「コロちゃん、こんなところでいいかしら?」

「ロコはロコですが、グッドなプレゼンでしたよ! チヅルのエレガンスが、ロコの中でさらに確かなものへとアップデートされました!」

「そ、それじゃあ私も、まだしっかりまとまってるわけじゃないですけど……」

 雪歩も千鶴に続くように、おずおずと声を上げる。三人目ともなれば聞く側もなんとなく感覚が掴めてくるもので、すぐさま雪歩の言葉を待つように視線が集まった。
 もっとも、そのスムーズさが逆に彼女を緊張させてしまうのだけど。

「え、えっと、私は……やさしい、雰囲気の公演にしたいな。みんなで歌う曲は、穏やかで、静かだけどしっかりと未来に夢を見るような曲、だから」

 はじめは少し覚束なかったけれど、雪歩はふわりとやわらかな笑みを浮かべて言葉を続けた。胸に手を当てて、その奥底にある気持ちをそらんじるように。
 本当はこれくらいのこと、緊張する必要なんてないはずなのだ。それでも、どこかで何かが引っ掛かって、雪歩が感じる鼓動は早まってしまう。

「手を取れるほど近くじゃないかもだけど、ちゃんと繋がってる。そんな風にみんなと思いあえたら、素敵だなぁ、って思います」

「…………」

 その言葉を聞いて、桃子は雪歩に向けていた視線を外した。それも、雪歩と目が合ったタイミングで。それは今まで口を挟まずにただ話を聞いていた彼女が見せる、初めての明確な反応だった。



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