川島瑞樹「ミュージック・アワー」
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15: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/08/01(水) 00:57:59.38 ID:Ai+XpKnp0
休憩中、片桐早苗がレッスンルームにやってきた。

「ちわ〜、早苗屋でーす」

「あらサブちゃん。今日は土曜日よ」

瑞樹は自然に、相手に言葉を返すことができた。
早苗の魅力がなせる技なのかもしれない。

「差し入れ、持ってきましたよん」

早苗は、栄養ドリンクの入ったバスケットを提げていた。
ドリンクの蓋には、星型の突起がついている。

「なに、この攻撃的なデザイン?」

「スタドリ。ウチの中でだけ出回ってるドリンクなんだけど」

「へえ……」

瑞樹は1つ手に取り、しげしげと眺めた。

「効果あるの?」

「ありますあります!

 一口飲むだけで疲れが吹っ飛んじゃう!」

「大丈夫なの?」

「極端な被害妄想を抱いたり、瞳孔がひらきぱっなしになったり、幻覚が見えたり、自傷行為に走ったりするくらいかな」

「ヤバイ薬じゃないの!」

「ジョーダンジョーダン」

早苗がけらけらと笑う。
その笑顔を見るだけで、瑞樹は疲れがひいていくような気がした。

「トレーナーさん。瑞樹ちゃんはどんなカンジ?」

「ズブですね!」

「苦労かけるわ」

「苦労しますね!」

トレーナーが瑞樹を一刀両断する。
早苗があごをつきだして、トレーナーに言った。

「ちょっとぉ、さっきから年上に対する物言いがおかしいんじゃない?」

「手を緩めても、将来的に恥をかくのは瑞樹さんですよ。
 私も“あの”川島瑞樹の担当になって必死なんです」

もっともな言い方だった。早苗はやれやれと肩をすくめた。

「これでも優しい方だから驚いちゃうわ」

「もっと厳しい日もあるの?」

「日、っていうか他にもトレーナーがいて…この子のお姉さんなんだけど」

「どんなカンジよ」

「鬼。なんども泣かされちゃった。びえーんって」

その姿を想像し、瑞樹はお腹を抱えて笑った。

いつ以来だろう、こんなに笑ったのは。

「お腹痛いわ…ふふぅ……フッ…!」

「片腹ですか?」

「全腹よ。クックック……」

悪役のような素振りに、早苗もトレーナーも笑い出した。

たのしい。ほんとうに。

もっと早くアイドルをやってみてもよかった。瑞樹はふと、そう思った。



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