アルコ&ピース酒井「Black Savanna」
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1: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 19:42:53.74 ID:z3oD1mZbo
「オレ、UFO見た事あるんすよ」
なんの気も無しに、ラジオブースで話をした。それが確か結構前……、多分二年前位の話だと思うけど、実はいつだったかあんま良く覚えてない。
それ言った理由とか、特にない。だって、その時伝えたいことだったし。
普通ビビんね?UFO見たりしたらさ。ホットな情報だから、まずそんなの平子さんに届けたいでしょ。なんならリスナーにも届けたいでしょ。
他に話したい話題もねえし、それに何よりめちゃくちゃキャッチーなワードだと思ったからだ。インパクトあるし、めちゃくちゃ引きがあると確信してたからこそ話題に出せる。
勿論誰もそんな話、マジで信じるわけがねえし、与太話だって言って笑い飛ばすような事だと思った。それは仕方がねえ。
事実は小説よりも奇なり、とは言うけどさ、同時に自分が信じてえ事実しか信用しないもんってのが人間じゃん?
オレん家、ベランダから防衛省見えっから、とかなんとか言ったらさ、笑ってくれたでしょ。マジなんだけどさ。信じてくれや、とは言わねえけど……しかしアレだな、今考えても「オレん家防衛省見えんだよ」、っての、マジかっけえセリフだと思いません?
「それがほんとだったらお前、今頃もう消されてるよ」
そんなこと言いながら笑ってくれたじゃねえですか、平子さん。
……て言うかUFO見たのはマジなんだけど、けどそれはさておいてもちゃんと笑ってくれんじゃん。笑いになる程度に相槌打ってさ、ちゃんと話聞いてくれたろ。
あの日見たんだ。オレはマジで、UFO見たんだ、ほんとに見たんだよ。
そん時、アンタはどうせ見間違いだなんて言って、取り合ってくんなかった。それはまあ普通だよ、当たり前だろうよ。普通の人はそんなの信じねえと思うよ、オレだってさ。バカじゃねえし。
でもあの日、そう、四月の中旬。小学生の頃に地元で三センチもあるデケェ蟻を見たとかで騒いで、ブースで本気の目ぇしながらアンタは、言ったよな。
「いんのよ。UMAは」
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2: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 19:44:45.73 ID:z3oD1mZbo
至極真面目な顔して。
真っ直ぐオレのこと見て。
そうやって、言ったんだ。まさかそんなこと言う人がオレのUFO目撃談全否定とか思わなくって、オレもつい笑い声を漏らしてしまった。
趣味が映画鑑賞、サイエンス・フィクションを愛した、虚言と夢を織り交ぜた話術を得意とする平子さんらしからぬセリフだったと、オレは勝手に思ってた。
3: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 19:46:19.84 ID:z3oD1mZbo
最終的に、地元のお友達に電話して裏取ったからガチってことでそれはいいんすけど、けどあの時の熱量マージでヤバかったからね。音声、聴き直した方がいいよ自分で。
あの人めちゃくちゃ喋りやすいいい人でしたね。つか、友達とか居たんすね。へー、いがーい。
「それ誰が知ってんすか」
4: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 19:47:57.97 ID:z3oD1mZbo
あれ、なんかおかしいな、と思ったのはそんなに前じゃない。有楽町を牛耳ってた頃のアンタはそこまでおかしくは……いや、うそ。あの頃から言っちまえばオレら、どっちもかなりイカレてましたわ。
ラジオ終わりそうつって、終わらず降格でなんとかなって、けどやっぱ終わったりして、なんだかんだ合ったあの頃。リスナー含めてオレら、相当狂ってた気がすっけど、源流は未だに変わってねえもんな。や、それは良くって。
……そうだ、きっとこの二〜三年だ。ずっと兆候はあった、ような気はしてっけど、それが確信に変わるのにあんまりにも時間がかかりすぎてしまって、むしろただの虚言なのかどうか、良く分かってなかったのがいけねえんだろうな。
5: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 19:49:13.93 ID:z3oD1mZbo
「何、何なんその計画は」
ああもう、脇道に逸れてばっかし……リスナーと一緒に振り回されながらオレ、その話なげぇなとか、これそもそもオチあんのかなとか、大体この話なんなんだよとかそんな事を思いながら対峙していた。
つか、出だしからして「その日は頭くらいのサイズの雹が降って、玄関開けたら首切られた鶏が十羽並べられてる」とかバカいかちぃ書き出しで、世にこんな小説があってたまるかとオレに言わせたがってるようだった。
6: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 19:50:24.98 ID:z3oD1mZbo
ある日の、いつもの東京。
やたらに人が歩き回る、コンクリートの檻。生気のない顔で歩くリーマン連中なんか、懲役五百年の労働刑にでも科せられてんのかって、視界に入れただけでもう不安になる。
けど、どことなく前に比べ人は少ないような気がする。
なんでも、やべーウイルスがどうこうで、という事だったけど、詳しいことは何回テレビ見ててもよく分かんなかった。本格化し始めるのは、さらに少し時間が経った頃だ。
街はそれなりに人が出ているが、人の減少に焦って、ビラ持った人達が何かを配っていた。居酒屋のとか、人探しのとか。
7: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 19:52:34.72 ID:z3oD1mZbo
「結構この辺歩いてるつもりだったけど、知らねえこといっぱいあんな」
誰とも言わずひとり呟く。オレにだってそんな日くらいありますわ。
歩いている道の先の方で、信号が点滅して青から赤に変わった。車道の信号と一緒に全てが赤になる。人と車の入れ替わり、全ての物体が動かずにピタリと止まるあの瞬間。ほんのわずかに世界が静まるあの瞬間。
8: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 19:53:54.22 ID:z3oD1mZbo
「てのがあって」
「怖。それよく何もなかったな」
と言うのを数日後、近況報告的に平子さんに言った。とはいえさすがに面白おかしく転がるような話でもないからきっと公共で喋ることはねえんだろうなと思った。オフレコってやつだ。
9: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 19:56:02.91 ID:z3oD1mZbo
「白い、ガキ……」
言葉が途絶える。余りにも不意に。
何でかは分かんねえんだよなぁ。
この人、今何を考えてるんだろ。どっか遠くの方を見ながら、平子さんがなんか考えてるっぽかった。いつものあれこれ試行錯誤してる時の顔だ。そう言うのを邪魔すんのは野暮ってもんだから、言う言葉無い。
10: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 19:57:07.30 ID:z3oD1mZbo
なんも出てこねえ、いや、なんかしらは出てくんだろ、と自分を鼓舞してあの時の映像を脳裏から引っ張り出す。
あんなに遠かったのに、どうしてそんな事が分かったんだろう?
理由が分からねえ。けど、オレは思い出せてしまった。根本的な原因を解決するような理由すらも分からねえが、とにかく考える事が重要らしいので考える。
ええっと。
11: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 19:58:43.41 ID:z3oD1mZbo
三月。
オレらはまだ、前半はなんとか普段通りにやれていた。けど、それでも感染対策だ、なんだっつって後半のスケジュールから段々と白紙になりだした。
メディアも大変よ、ほんと。人気稼業ってのはこう言う時しんどい。普通の人と同じように、仕事できるわけじゃねえから。
いかなラジオスターとて残念なことにオレもただの人の子、対策つっても簡単なことしか出来ねんだけど。
口元にマスクってのは芸能人のトレンドっしょ、とかなんとか、普段からやってっけど余計色んなこと気を付けなきゃなんねえなと思った。
12: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:00:44.18 ID:z3oD1mZbo
突然思い出すのは、あの唐突な揺れ。
そしてまたあの時みたいに、進行方向の信号が赤に変わる。今度は揺れたり、躓いたりする事こそなかったけど、やっぱりなんか変な感じがしてビルの方を向く。
まさか、な。そんなわけないだろ。
そう期待したけれど。
13: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:01:29.92 ID:z3oD1mZbo
ガシャン。
なんか、音がした。
オレのすぐ隣に、何かが落ちた。遅れて全身にぞっ、と鳥肌が立ち、冷や汗がぶわっと吹き出て身体中が震え出す。ああ、なんだよ。なんだっつうんだよ。
14: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:02:49.77 ID:z3oD1mZbo
しっかし、最近そんなやべーことばっかしだな。死にたくねえわ、そんな事件事故で。笑えねえって、そんなラストは。
芸人っつーくらいなら、最期もちゃんと笑える方がいいんだろうか、とかつい考えちまう。
「ちなみにさ、」
15: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:03:40.89 ID:z3oD1mZbo
一本吸って、まあいい時間だし行くか、と喫煙室の扉を開けた。がちゃ、と軽い金属音と共に扉が開く。そっから楽屋へ、と一歩踏み出したら、廊下の奥の方によく知る人がいるのを見た。
「あれ、平子さん?」
聞こえてないのか、意図的に無視してんのか。そいつはどっかに言ってしまう。長い廊下の奥の方に歩いていこうとしていた。
16: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:04:36.16 ID:z3oD1mZbo
四月。
テレビの仕事が一回、全部吹っ飛んだのが痛い。人によっちゃあ、三週間休みなんてもんが来るような状態だ。あのオードリーですら「連休寄越せ!」とかつい前まで言ってたのに、今じゃ「ほぼ毎日家にいる」とか言ってんだぜ?マジやべえよ。
そんなんでご多分に漏れずオレらも影響を受け、独り身には無駄過ぎるほどにめちゃくちゃたくさん時間が出来たから、料理作ったりなんかギター買っちゃったり、そんでこの時間になーんとなく色々出来るようになっちゃったりしねえかなとか思ったりした。
だから、四月のまだ冷たい風が流れたその日の夜も、まだまだ弾けもしないギターを片手に、オレはベランダに出た。月でも見ながら、ギター持ってタバコ咥えて、こっから見える防衛省を見ながら佇む。なんか雰囲気だけでもかっけーな、えげつねぇカッコ良さじゃね?と勝手にほくそ笑んだ。これでギターがジャンジャカ引けりゃあ最高だろうに。
あ、ギターはガチでちゃんっと練習してんの。やりてーことがあって。買う買う詐欺して、えーと、六年?位引っ張ったけど、まあもういいっしょ、ほんとに時間あるしやらせて欲しいなって思ったからふつーにやってる。人気なさそうなYouTube狙って、毎日毎日ぺんぺんやってんの。これマジで。ちょっとは弾けるようになりたかったから。
17: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:06:06.24 ID:z3oD1mZbo
履き慣らしたシューズで街を歩く。
夜の街は、今までよりも半分以下の人の出方だった。まあ、そうだろうなって思っちゃう。気を付けよう、って言ってる時だったから。オレもほんとは出ちゃいけないんだろうが、こればっかりは見逃してくれよと思い足早に道を行く。
いつも見る時は車道挟んだ向こう側にある、あのビル。今日はその真ん前に立っていた。
ビルはどこもかしこも光がなく寝静まっている。生命がひとつもないように、しんとしていた。真正面の、正門的なとこは閉まっていて、名前はよく分かんねえけど両側からガラガラって出てくるシャッターみたいなんがある。
さっきのキラキラは、間違いねえ、ここに来たんだ。妙な確信があった。
18: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:06:40.75 ID:z3oD1mZbo
「何をしている」
や、うそ。やべぇ。誰かいた。
突然敷地内の方から、短めの声がした。
19: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:07:50.13 ID:z3oD1mZbo
オレの脳が理解を拒む。知ってる人だけど、全然こんなの知らない。気張れオレ。夜でも昼みたいに目ぇ開けて、その正門の向こうっ側をちゃんと見てろ。
それでもこの状況には全然理解が追いつかなくて、世界は死んだように凍りつく。張り詰めた緊張感と、何だかどんよりした厭な臭いの張り付いた空気が揺れる。
「なんだよ……なんなんだよ、アンタ何なんだよ」
20: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:08:37.08 ID:z3oD1mZbo
「UMAはいんのよ」
「いや、オレUMAはいねぇと思うよ」
そんなこんなで、さらに数日経過して四月の中旬。そう、UMAがいるとか、デケェ蟻見たとか、そんな話をした日まで話がやっと戻ってくる。
21: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:09:36.37 ID:z3oD1mZbo
だけどなんで今、と質問しようとしたところ、その答えはこちらからわざわざ聞くまでもなく返ってくる。
「一ヶ月前位かな。晩酌しようと思ったら酒が無いのに気付いたから、夜だけどコンビニ行ってくるわって嫁に言って、家出たのよ。したら、その行きの道で、見たんだよ」
「白いガキすか」
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