1: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:43:28.34 ID:U1swVBcn0
北上麗花さん誕生日おめでとうのss(遅刻)
がっつり地の文・恋愛・Pドルなので注意
SSWiki : ss.vip2ch.com
2: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:44:18.22 ID:U1swVBcn0
chapter 1. 90℃ / tea
「プロデューサーさん、だいたい90℃なんですよ」
3: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:45:27.53 ID:U1swVBcn0
これ以上は泥沼になりそうだったので思考を打ち切った。麗花の突拍子もない発言には深い意味がある場合となんの意味もない場合がある。今回はおそらく後者なので、速やかに本題に戻ってもらおう。
「で、お茶がどうしたんだ?」
「あ、そうですお茶なんです」
4: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:45:56.10 ID:U1swVBcn0
結局、お茶の淹れ方はネットで調べることにした。お湯の温度のこともきちんと書いてある。
「湯気の立ち方で温度がわかるんですね〜」
画面を覗き込む麗花が興味深そうに呟く。首に息と髪の毛が当たってくすぐったい。
5: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:46:27.02 ID:U1swVBcn0
「じゃあ、淹れてみましょう!」
さっきのサイトを見ながら作業を始める。淹れるのは2人分だ。
使う水は200ミリリットル。電気ケトルに入れてスイッチを押す。水道水でもいいけど硬水は駄目らしい。
6: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:47:00.61 ID:U1swVBcn0
麗花とハイタッチを交わし、いざ実飲。せっかく調整した90℃は少し熱いので、ふーふー冷ましてから口に含む。口の中に熱がじんわりと広がっていき、うまみと渋みを残していった。ホッとする味だ。いつもの茶葉だから、当然と言えば当然か。
うん、まあ。なんか、こう……。
「普通……」
7: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:47:44.01 ID:U1swVBcn0
chapter 2. 24℃ / me
人間は、歳を重ねるとあちこち衰えてくるものだ。個人差はあるものの、身体能力や視力、聴力、そして記憶力といった力を維持するのは簡単なことではないし、弛まぬ努力をしても衰える速度を遅くするのが関の山である。
そして年月とともに能力を失ってしまうのは人間だけではない。言うまでもなく他の動物もそうだし、経年劣化によって故障するのだから機械も老化すると言えるだろう。そして前述の通り、老化には能力の衰退──つまりは“ボケ”がつきものだ。
8: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:48:20.53 ID:U1swVBcn0
「暑い……」
今日の最高気温は28℃まで上がるらしい。もちろん真夏に比べれば低い気温だけれど、熱いお茶なんて飲んでいられない程度には暑い。そういえば、麗花と一緒にお茶を飲んでからずいぶん経っている。だからといってこの暑さを許せるわけではないけれど。
加えて、今いる劇場の事務室はエアコンが稼働していない。経費削減のため、エアコンの使用は6月まで固く禁止されているからだ。それまでは各々薄着になるなどの対策で暑さを耐えなければならない。もし掟を破ろうものなら、経費の鬼──秋月律子に雷を落とされてしまうのは疑いようもなかった。
9: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:49:12.35 ID:U1swVBcn0
「プロデューサーさん、暑いなら一緒に登山に行きませんか? 山の上は涼しいですよ」
「山か……遠慮しておくよ」
一瞬だけ“いいな”と思ってしまった。冷静になろう。その涼しい場所にたどり着くまでに、いったいどれほどの汗を流せばいいんだ? そして山に登ったからには、暑い暑い平地へ戻らなければならない。やっぱり登山はなしだ。
10: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:49:53.11 ID:U1swVBcn0
ちなみに、なぜ休みのはずの麗花がいたのかというと昨日メールでこんなやり取りをしたからだ。
『劇場がお休みだから、明日もプロデューサーさんに会えませんね(´・ω・`)』
『何か用でもあるのか? 一応、明日なら話は聞ける。仕事をするために事務室にいるから』
11: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:50:40.73 ID:U1swVBcn0
chapter 3. 90℃ / coffee
「プロデューサーさん、だいたい90℃なんですよ」
12: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:51:23.61 ID:U1swVBcn0
別にそれはいいのだけれど、1つだけ疑問がある。
「麗花ってコーヒー飲むのか?」
「実は、この前初めて飲んだんです。ジュースを買おうと思ったら、プロデューサーさんがいつも飲んでるコーヒーがあって、つい買っちゃいました!」
13: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:52:03.23 ID:U1swVBcn0
劇場に常備してあるコーヒー豆は浅煎りのようだ。パッケージにそう書いてある。
「ということは……やっぱりお湯は90℃くらいがいいみたいです」
と、麗花がスマホを見ながら言った。ディスプレイにはコーヒーの淹れ方についてまとめたサイトが表示されている。
14: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:52:34.95 ID:U1swVBcn0
「……プロデューサーさん」
麗花は笑顔のままカップを机においた。コーヒーからは、まだ少しだけ湯気が立っている。
「こうやって2人でお話するの、久しぶりですよね?」
15: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:53:36.09 ID:U1swVBcn0
chapter 4. Body Temperature / me:get lonely easily
今週は、出張の間滞っていた業務の後処理に奔走した週だった。
帰路の途中、疲れに耐えかねたのでコンビニで休憩することにした。いつものブラックコーヒーを車の中で飲むと、モヤがかかった頭の中が徐々に晴れていくような気がした。
16: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:54:32.93 ID:U1swVBcn0
※
事務室の蛍光灯は窓側だけ点いていた。部屋中のどこを探してもバースデーパーティーの面影はない。光っている一部の蛍光灯がまるでスポットライトのように、ソファーに座っている誰かの後ろ姿を照らしている。
麗花だ。
17: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:55:11.32 ID:U1swVBcn0
「私、寂しかったんです」
くぐもって聞こえることを差し引いても、聞いたことのない声音だった。もしかすると、今の麗花は見たことのない顔をしているのかもしれない。けれど振り返れない以上それを見ることはできない。
「プロデューサーさんと全然お話できなくて、全然会えなくて、寂しかったんです。プロデューサーさんがいつも飲んでるコーヒーを飲んでも、ただ苦いだけでした」
18: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:55:37.83 ID:U1swVBcn0
だって、後ろを向いたままでは麗花を抱きしめられないから。
19: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:56:16.71 ID:U1swVBcn0
「ぷ、プロデューサーさん……?」
麗花は驚いている。思えば麗花に抱きつかれることはあっても自分から抱きしめることはなかった。本当は、もっと早くこうするべきだったのかもしれない。
「大丈夫だ、麗花。もう大丈夫。ここ最近は、ちょっとタイミングが合わなかっただけなんだ。もう仕事の山は越えたから、明日からは普通に会える」
20: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:57:05.92 ID:U1swVBcn0
「私、プロデューサーさんと一緒にご飯を食べたいです」
「ああ」
「一緒に、ドライブしたいです」
21: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:58:53.26 ID:U1swVBcn0
おしまい
これを完成させるにあたってたくさんの方にご協力いただきました。この場でお礼申し上げます
あとで渋にも上げます
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