高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
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18:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:38:36.82 ID:eE/KPeRw0
 カフェアイドル・高森藍子ちゃんによるキャンペーンということもあって、カフェには藍子目当てのお客さんがたくさんやってくる。でも、少し過ごすうちに――


 開店から40分くらい経った頃、ドアをくぐったのは溌剌とした男性だった。彼もやはりこれまでのお客さんのように、まず藍子に目を留める。笑顔を向けられ、照れ感情をめいっぱい隠すように頬をひくつかせつつも目を逸らさない。ふらり、ふらり、とさっきまでの精悍な出で立ちはどこへ行ったのか、極上のハチミツを見つけた熊のようにちょっぴりだらしない足取りで藍子へ近付くと、手を差し出した。声は聞き取れきれなかったけど、握手、と言っているように見えた。
 すかさず近くのスタッフさんが割って入る。藍子も、今日は店員の藍子ですから、と柔らかく拒む。
 お客さんは露骨にがっかりしつつも、藍子の申し訳無さそうな顔、ついでにスタッフさんの静かながら離れたここにまで感じられる「圧」に負けて、手をだらんと下げてしまう。

 これは事前にシミュレーションした通り。もともと藍子は握手を求められればしてあげるつもりだったみたいだけど、そんなことをしてたらキリがないし不公平になりかねない。Pさんと一緒に説得し、最後には先ほども言った言葉――今日は店員さんだから、という理由を用意することでようやく納得してくれた。ちなみにメッセージカードのアイディアを出したのは、そのすぐ後だったりする。

 さて、藍子は納得したけどお客さんがそうとは限らない。
 やっぱりどうしても、落胆したり、場合によっては怒ってしまう人もいるかもしれない。いくら藍子のファンが優しい人達ばかりといっても、少なからず欲望や荒い気性を持ち込んでしまう大人っている訳なんだから。
 シミュレーションしたとはいえ初めて起こったケース。つい身を乗り出して、その後の顛末を見守ってしまう。……ついでに私の斜め下のスタッフさんも。鼻息が荒いんだけど。

 握手を拒まれたお客さんは、藍子ではないスタッフに先導されとぼとぼと2人がけのテーブルへと案内された。
 水をあおり、メニューを開き……への字になっていた口が、少しずつ緩んでいく。
 5分くらいそうしていた後、彼は顔を上げた。注文をするのかと思ったけど、そうではない。店内を、最初はぐるりと見渡し始める。
 感嘆の息を吐いてから、次は1箇所1箇所をじっくりと。何かを見つける度におかしそうに肩を震わせたと思うと、おぉ、と口をすぼめることも。
 反対側の壁際、くつろぎスペースにかかる写真を見つけてからは、自分のスマフォと交互に見て何かを確認しているようだった。

 ……これは終わった後にSNSで見つけたことなんだけど、彼はもともとウォーキングが好きで、けっこう前から藍子のファンなんだって。で、藍子につられてカフェに行ってみるようになったり、写真を撮るようになったみたい。たびたびSNSにアップしてる写真の中には2桁の反応がついてるものもあった。
 藍子のLIVEがあれば可能な限り予定を合わせ、最前列のチケットを買った日の呟きは……なんというか、ものすごいことになってた。文字制限いっぱいに、半分は同じひらがなを、もう半分はビックリマークを並べまくってたんだよね……。

 それだけ熱心なファンだからこそ、握手してもらおうとしたのも、拒まれて落胆したのも分かる。

 でも、それで暴れだすようなことはなくて……。

 さらにその後、彼は注文で呼び止めた。彼の元へ向かったのは藍子ではなく、握手を制止にかかったスタッフさんだった。
 これもシミュレーション通り。やらかした人の元へは藍子を行かせない。念の為、ね……。ところが彼は、自分のところに来たのが藍子ではなかったにも関わらず、ずっと朗らかな顔。注文に向かったスタッフさんも最初は警戒してたけど、すぐに表情がほぐれていく。彼はその後、卵に新鮮なトマトを加えた「いつでも食べられる朝食メニュー」にパンケーキを追加注文して、とっても満足した顔で帰っていった。


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