高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
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名無しNIPPER
[sage saga]
2021/05/16(日) 14:39:09.25 ID:eE/KPeRw0
ちいさなトラブルの種は抜いてしまうのではなく、持ち味の花を咲かせる立ち回りもあって、『あいこカフェ』はそれからも順調だった。
中にはさっきみたいに、藍子に握手をお願いしたり、図々しくも色紙を出してくる人もいた。
その度に近くにいるスタッフさんが止めにかかる。同じことが何度か起きるとそのうち、制止役のスタッフさんが固定されるようになって、できるだけ藍子の近くにいようと立ち回り始めた。それに合わせてギザギザヘアーさんが導線を変え、それを見た別のスタッフさんもまた……と、自然なアドリブが発生していく。
サインを断られてしまった人も、カフェという空間に浸ることで、もやっとした気持ちとか、怒りの感情とかを溶かしてゆくのが見て取れる。メッセージカードを手に取って目を見開き、ちょっとだけだらしなく顔をふにゃっとしたり……席を立つ時にはやっぱり笑顔。
来てよかったという言葉は自然に出てきたみたいで、言った本人が一番驚いていた。レジ対応をしていたスタッフさんは、その時だけ店員としての顔ではなく、心からの笑顔を浮かべた。
一方その間、藍子はくつろぎスペースの方にいた。
レタスを下地に飛び出してしまいそうなほどの卵がまばゆいサンドイッチを慎重に運ぶ。そのままでは靴を脱げないので、片膝をつき空いた手で1人用のテーブルを引き寄せ、そこへお盆を乗せた。軽い膝立ちのような体勢で靴を脱いだら、注文したお客さんが壁掛けの写真を見つめていることに気がつき、友だちの距離よりも1歩半離れた位置から話しかける。
女性の笑顔を見ると藍子は遠慮の距離を詰める。カウンター裏の扉からは聞き取れきれないけど、たぶん写真について説明してる筈。
どこで撮ったか、誰と撮ったか――どうやら女性とは写真の趣味が合うようで、藍子の熱弁が始まってしまう。
シャッターを押した時のワクワク感を全身で表現したと思うと、女性から何かを……たぶん、シャッタースポットかな? 教えてもらうとエプロンの隙間から本来注文を受ける為に使うメモ帳を取り出し熱心に書き記し、今度は気を良くした女性がずいと近づいて……話の盛り上がっぷりに店内の注目を集め、そして藍子は近くまでやってきたスタッフさんに肩をつつかれる。
ハッとなった藍子が、慌てて首を左へ右へ。「さわがしくしてしまってすみませんっ」深々と頭を下げる様子に、みんながほんわかと笑う。
赤くなった顔をパタパタと仰いでいると、スタッフさんがまた藍子をつつく。次は気をつけましょうね、と言われている姿は、言葉こそ丁寧だけど誰がどう見てもアイドルとスタッフの関係ではない。カフェの店員同士の、ちょっとしたやり取りのようにしか見えなかった。
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