高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
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1:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:25:17.33 ID:eE/KPeRw0
レンアイカフェテラスシリーズ第153話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

〜中略〜

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「熱量の残るカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「ほどほどに賑やかなカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「表情を見てくれるカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「私たちの大好きな場所で」

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2:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:26:03.21 ID:eE/KPeRw0


前回のあらすじ:3日限定の『あいこカフェ』、開店だよっ。


以下略 AAS



3:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:26:40.08 ID:eE/KPeRw0
歩行信号が点滅した時にスマフォを取り出すのは、連絡の確認だけ。ポケットにしまい直した私はうんと背伸びながら息を吐いた。
足早に駆けていくスーツ姿と、私とそんなに変わらない歳の女の子達。3人組のうち前髪の向かって右側が自己流に切りそろえられた子が、不思議そうに私のことを見た。アイドルバレした……ということではなく、横断歩道を渡らない私を疑問に思ったみたい。
私も昔は、あんな風に振り返っていたのかな。いい子ちゃんぶって、なんて悪態をついていたのかもしれない。

信号の色が交代し、カラフルな車が行き交っていく。右から左へと流れてゆくほんの数秒で目に入るものと言えばやはり、座席のぬいぐるみ。あと、運転手のサングラス……とか?
以下略 AAS



4:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:27:07.38 ID:eE/KPeRw0
たまに、藍子がアイドルとして笑顔を見せている場所のすぐ近くにいる時がある。お客さんに紛れること……よりは、スタッフとして混ざる方が多いかな。いつかの握手会の時、それと、気が付けば藍子の隣にいつも私がいることが、色んな人に認めてもらえているんだと分かった頃から、誰に向けているのか分からない建前を持って藍子の側にいることがある。それって同時に藍子の見ている景色、藍子を迎え入れているファンのみんなの顔が見える位置にいるってことでもあるよね。

まっ、私がその一部になることもあるんだけど。

握手会でも、LIVEでも、藍子を見る人々の目は優しい。大半が口元を自然に緩め、そうでない人も穏やかな眼差しで、身体がゆらゆらと揺れている人も極端な感情の揺れ幅は見られない。
以下略 AAS



5:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:27:36.61 ID:eE/KPeRw0
頭を上げたところでまたおひさまのエプロンが目に入る。つられて頭を2回も下げてしまったのならエプロンの端から肌のラインに合わせたカフェ制服が、足元では濃茶の編み上げブーツとハイソックスが垣間見え、落ち着いた印象をもたらす。藍子のヘアスタイルと言えばおだんごヘアー。今日も健在で、いつもに比べると動きやすく大きめにまとめている。
今日はオープン2日前。そろそろ緊張や、不安が生まれてもおかしくない頃だね。
そんな、自分に向けられたらお節介でしかない感情を半分だけ持って、藍子の立ち姿をもう1度上から見直してみる。
残念なことに、いつもと違うところは全然見受けられなかった。……ふふっ。残念なことに、ね。

以下略 AAS



6:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:30:11.05 ID:eE/KPeRw0
……作者です。以前書いた形式のまま執筆しましたが、これはさすがに1文字空けた方が良さそうですね。
修正しつつ投稿します。どこか修正忘れがあったらごめんなさい。



以下略 AAS



7:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:31:06.82 ID:eE/KPeRw0
 半寝起きの私に手を掴んでもらえなかったことにまたしてもぷんすかモードになった藍子ちゃんを片手で払いながら、壁にかかった写真のズレを直す。
 くつろぎスペース側の壁にはさまざまな写真がかけられていた。ほとんどはトイカメラで撮ったサイズの物で、2つだけ最新のカメラで撮った物を、不自然にならない程度に引き伸ばした物が混じっている。
 トイカメラサイズの写真は、雲がぷかぷかと浮かぶ空、木陰がくっきりと見える場所、燦々とした晴れ模様が想像できる光り輝く砂浜と誰かのピース。今は誰も乗せていないブランコ、色んな人が思い思いに花を一輪ずつ突っ込んだ結果よく分からない物に仕上がった生花、街角で大あくびしている黒猫とカメラを意識している澄んだ眼の白猫、今からでも歩き出したくなるような靴――自然のショットから人工的な物まで、なんの法則もなく、上下も一定の位置を持たずに並んでいる。その隙間を山の上から撮った1枚がいい具合に埋めていて、ぐちゃっとした感じと整えられた様相を両立させていた。

 もう1つの引き伸ばし写真は、どこかのカフェの店内。
以下略 AAS



8:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:31:38.96 ID:eE/KPeRw0
 店内へ戻ると、藍子と、それから連絡を終えたスタッフさんがおかえりなさいと言ってくれた。私も片手を上げて、ただいま、と軽く言う。

 今ここにいるスタッフさんは私を除いて3人。藍子によると、昔からよく同じ現場にいることが多い人が2人と、今回初めて会った人が1人みたい。
 私にとっては全員が初めまして。とっくに顔も名前も覚えたけどね。

以下略 AAS



9:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:32:07.30 ID:eE/KPeRw0
 さて、私を対象とした賭け行為に対してどうイジメてあげようか考えている間、藍子は最後の1人、3人目のスタッフさんとお話をしていた。
 少し灰ずんだ目が、ある病院の子供を思い出す。目の下のくっきりとした皺が特徴的の……ただし、年齢は控えておこうね。心の中ではお姉さんって呼ばせてもらおうっと。
 見た目通りの聞き役性格、藍子もだいたいそんな感じだから、お互い割り箸をお弁当箱の上に並べてしまい、お昼ごはんがちっとも進んでいない。見なさいよ、こっちのエセ令嬢なんて口の反対側にまでご飯粒をつけてんのよ? だいたい、いくら時間がないからって――そこまで続けたところでやめておいた。なんか、他の人がいる前でそーいうことを言うのって違うと思う。スタッフさんがいくら馴染んだとはいえ今回が初めましてっていうのもあるけど、なんか……なんだろ。分かんないけど……そっか。そうやって藍子をイジメるのは1対1の時だけだね。

 うんうんっ。そういうこと。
以下略 AAS



10:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:33:06.64 ID:eE/KPeRw0
 藍子にお礼を言ってお弁当箱は自分で洗い、片付けてからは作業再開。少し気が早いけど、「1時間後にオープンしても大丈夫なくらいの準備」って心がけで進めちゃうことにした。
 それぞれのテーブルを改めて磨き直し、藍子お手製のメニューを置いていく。長机の一番手前と一番奥、それから2人がけの四角テーブルのこれまた両端の席にはメニューを開いて置いておく。
 中には種類のたくさんあるサンドイッチを始めとして、敢えて家で撮った写真を掲載することで温かみが生まれた定食の案内と、広く知られるレシピを元に事務所のみんなからも手伝ってもらったオリジナルのスイーツが並ぶ。リストに並ぶ一品物も小さいながら写真が添えられていて、見ててお腹が空いてくる。
 2ページ目はドリンク一覧。私の好きなメロンソーダや藍子の好きなココアはもちろん、なんといっても右半分を埋めるコーヒーの種類が魅力的だね。銘柄はおしゃれなフォントで。それを見てもピンと来ない方向けには下に、藍子によるとっても簡単で分かりやすい説明が加わっている。

以下略 AAS



11:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:33:37.52 ID:eE/KPeRw0
「加蓮ちゃん。加蓮ちゃん、いまいいですか?」

 ハッとなって振り返ると、藍子が大きく手を振っていた。玄関に業者さんが来ていて、他のスタッフさんも食材入りのコンテナを運び入れている。
 トラックの音も、ベルの音も気付かなかった。考え込みすぎちゃってた。メニューを大げさに閉じて藍子の元へ。

以下略 AAS



12:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:34:07.40 ID:eE/KPeRw0
「ねえ、藍子――」

 名前を呼んだ。

 反応が返ってきたのは、随分と遅れてからだった。
以下略 AAS



13:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:34:36.48 ID:eE/KPeRw0
「この後のこと、決めた?」

 藍子は最初、明日から始まる3日間のことだと思ったみたい。不思議そうに首を傾げ、そして私の言葉の意味に気がつき、わずかに目を見張る。

「カフェのこと。……どう? 実際に『あいこカフェ』がこうして形になった……なりつつある訳だけど、藍子の中で何か決まったこととか分かったこととかある?」
以下略 AAS



14:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:35:37.77 ID:eE/KPeRw0
「ずっと一生懸命になっちゃうくらい、今が楽しいんです」

 藍子は続けてそう言い、髪を揺らした。

「自分の思い描いてた理想ができあがるのと、大好きな場所が組み立てられていくのが、一緒に見られて……つい、駆け回りたくなっちゃうくらいっ。でも、カフェは静かにしなきゃいけない場所なので、走ることなんてしませんけれどね」
以下略 AAS



15:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:36:08.05 ID:eE/KPeRw0


□ ■ □ ■ □


以下略 AAS



16:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:36:37.76 ID:eE/KPeRw0
 ちりん、とベルが鳴る。


 最初のお客さんが来た!

以下略 AAS



17:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:37:36.10 ID:eE/KPeRw0
 改めて確認になるけど、『あいこカフェ』は藍子のアイドルとしての活動。3日間限定のキャンペーンだよね。

 アイドル活動だから、ファンのみんなにはもちろん事前通知している。
 ただ、最初に伝えたのはだいぶん前――ではあるものの、カフェアイドルとしてすっかり定着していた藍子がメインということもあって来店希望者が殺到した。カフェとして借りるスペースもそれほど広くないし、人員も限界がある。何よりカフェが部活大会が終わった後のファミレスみたいに大騒ぎになることは藍子が望んでいない。

以下略 AAS



18:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:38:36.82 ID:eE/KPeRw0
 カフェアイドル・高森藍子ちゃんによるキャンペーンということもあって、カフェには藍子目当てのお客さんがたくさんやってくる。でも、少し過ごすうちに――


 開店から40分くらい経った頃、ドアをくぐったのは溌剌とした男性だった。彼もやはりこれまでのお客さんのように、まず藍子に目を留める。笑顔を向けられ、照れ感情をめいっぱい隠すように頬をひくつかせつつも目を逸らさない。ふらり、ふらり、とさっきまでの精悍な出で立ちはどこへ行ったのか、極上のハチミツを見つけた熊のようにちょっぴりだらしない足取りで藍子へ近付くと、手を差し出した。声は聞き取れきれなかったけど、握手、と言っているように見えた。
 すかさず近くのスタッフさんが割って入る。藍子も、今日は店員の藍子ですから、と柔らかく拒む。
以下略 AAS



19:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:39:09.25 ID:eE/KPeRw0
 ちいさなトラブルの種は抜いてしまうのではなく、持ち味の花を咲かせる立ち回りもあって、『あいこカフェ』はそれからも順調だった。

 中にはさっきみたいに、藍子に握手をお願いしたり、図々しくも色紙を出してくる人もいた。
 その度に近くにいるスタッフさんが止めにかかる。同じことが何度か起きるとそのうち、制止役のスタッフさんが固定されるようになって、できるだけ藍子の近くにいようと立ち回り始めた。それに合わせてギザギザヘアーさんが導線を変え、それを見た別のスタッフさんもまた……と、自然なアドリブが発生していく。
 サインを断られてしまった人も、カフェという空間に浸ることで、もやっとした気持ちとか、怒りの感情とかを溶かしてゆくのが見て取れる。メッセージカードを手に取って目を見開き、ちょっとだけだらしなく顔をふにゃっとしたり……席を立つ時にはやっぱり笑顔。
以下略 AAS



20:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:39:39.42 ID:eE/KPeRw0
 ――今日は店員の藍子ですから

 そう言った時の藍子は、どんな気持ちだったんだろ?

 新しいお客さんがやってくる。笑顔が、横顔の端から見える。けどそれが、アイドルとしての物なのか、店員としての物なのかは分からない。
以下略 AAS



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