高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
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3:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:26:40.08 ID:eE/KPeRw0
歩行信号が点滅した時にスマフォを取り出すのは、連絡の確認だけ。ポケットにしまい直した私はうんと背伸びながら息を吐いた。
足早に駆けていくスーツ姿と、私とそんなに変わらない歳の女の子達。3人組のうち前髪の向かって右側が自己流に切りそろえられた子が、不思議そうに私のことを見た。アイドルバレした……ということではなく、横断歩道を渡らない私を疑問に思ったみたい。
私も昔は、あんな風に振り返っていたのかな。いい子ちゃんぶって、なんて悪態をついていたのかもしれない。

信号の色が交代し、カラフルな車が行き交っていく。右から左へと流れてゆくほんの数秒で目に入るものと言えばやはり、座席のぬいぐるみ。あと、運転手のサングラス……とか?
視線を移せばチョコレートのような扉がある。大通りのド真ん中にしては隠れ家のような雰囲気を放つ、雑貨屋とパン屋が合体した1軒だ。
お客さんはいるのかな……? いた。細い装飾の凝った腕時計を手首の反対側からちょっとずらしてつけた人が、もう片方の手でフランスパンをトレイに乗せている。

そこまで目で追ったところで、人並みが動き出したことに気付いた。ベビーカーをゆっくりと押すお姉さんが、やっぱり首を傾げながら私の隣を通り過ぎていく。

信号の点滅は守る癖して、横断歩道は駆け抜けた。看板の片足が塗装剥がれしている場所を通り抜けて薄暗い路地を横目に、入り口の左右にそれぞれ違う種類の自動販売機が設置された道を入る。なだらかな坂道を登るのに、私は左手でハンカチを用意しておく。
あたたかくなった、というよりは蒸し暑くなってきた5月中旬。早い地方では梅雨入りも発表された。また鬱陶しい季節が来る……なんて、もう思わない。それよりは傘の色が楽しみという気持ちが強い。

見える物が増えたことと、感情が動かされやすいこと――。

例えば、藍色の花を見かけて名前を思い出す程度には、感情が単純になって、揺れ動きやすくなった、とか。



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