高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
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4:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:27:07.38 ID:eE/KPeRw0
たまに、藍子がアイドルとして笑顔を見せている場所のすぐ近くにいる時がある。お客さんに紛れること……よりは、スタッフとして混ざる方が多いかな。いつかの握手会の時、それと、気が付けば藍子の隣にいつも私がいることが、色んな人に認めてもらえているんだと分かった頃から、誰に向けているのか分からない建前を持って藍子の側にいることがある。それって同時に藍子の見ている景色、藍子を迎え入れているファンのみんなの顔が見える位置にいるってことでもあるよね。

まっ、私がその一部になることもあるんだけど。

握手会でも、LIVEでも、藍子を見る人々の目は優しい。大半が口元を自然に緩め、そうでない人も穏やかな眼差しで、身体がゆらゆらと揺れている人も極端な感情の揺れ幅は見られない。
それがなんだか不思議に思えた。だって私は、藍子の待っている場所へ歩いていくだけでもこんなにもあれこれ考えてしまうのだから。
あぁでもよく考えてみたら、私もそうだっけ。藍子と会ったら、私もそうなる。怒ったり笑ったり、自然と仮面が剥がれ落ちる感触はあるけど、それでも時間や空間に溶け込めていくような、藍子風に言えば自然体。全体で見れば特別なのかもしれないけど、1日1日はなんてことのない普通の連続に感情の波は穏やかになる。焦りにさえも似た時間を忘れてしまう。

思えば私、藍子とカフェで過ごした時間はたくさん覚えてるけど、カフェへ向かう途中のことはぜんぜん印象に残ってないっけ……。

自分の中で結論が出たところで、最後の曲がり角へと到着。都会の喧騒を後ろ髪のさらに向こうへと置いてきた場所には、もう少しだけ風が春の香りを残していた。

『あいこカフェ』

ボードにははなまると、薄い橙色のリボンが取り付けられていた。ちょっぴり申し訳無さそうに書かれた「準備中」という文字の横にはサンドイッチとホットドックの形をしたクリップが取り付けられている。ドアの上には来客を告げるベルが、これまた可愛らしいリボンと一緒にお客さんの笑顔を心待ちにしている。

ちりん、ちりん。

優しい音に1度立ち止まりたくなるところまで、きっと藍子の配慮。そうしている間におひさまのエプロンが出迎える。その主は、私の顔を見て、少しだけ悩んで……両手を前で合わせてから、マニュアル通りと言えばマニュアル通り、その中でワンオクターブだけのパッションをひそかに見せる声色で、私を歓迎してくれた。

「いらっしゃいませ、加蓮ちゃん♪」

今日も、藍子は朗らかな笑顔だった。



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