高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
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32:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:48:37.20 ID:eE/KPeRw0
 コーヒーは眠れなくなっちゃうかもしれない。ココアにも同じ成分が入っていると聞いたことがある。ジュースを飲み干して悪い子! ……っていうのは、今やってもしょうがないよね。
 考えついた結果が「白湯」という実物通り味のしない選択だった。とほほ、と肩を落とす私のことを、まあまあ、と苦笑しつつ撫でてくれた。
 くっだらない意地を張ってうまくいかないのはいつまでもそう。そんな日々の失敗だって、藍子にとっては新しい思い出になるのかもしれないけどね。

「いただきます、加蓮ちゃんっ」

 ……だから白湯なんだけど。うん、もういいや。私の中でも楽しかった出来事ってことにしちゃえっ。

「ふぅ……♪ 加蓮ちゃん、今日もお疲れさま。お昼は手伝ってくれて、ありがとうございました」
「どう致しまして。バレてないといいんだけどね……」
「いまのところ、Pさんからバレたっていうお話は聞いていませんよ。だからきっと、加蓮ちゃんのことは誰にも分かっていないハズです」
「……あー、それはそれで」
「ふふ……。むかってしちゃう?」
「あのねぇ……」

 白湯入りカップを片手にわざと音を立てる藍子は、いつもより近い距離まで顔を寄せてきた。眼光の残る瞳が、ふと、嫌な気持ちに歪む。さすがに無言で怒らせる心当たりはないので焦ったけど……忘れてた。カラコン、つけたままだった。
 ウィッグは蒸れるしあれからヘルプに出ることもなかったから取ったままだったけど、カラコンは外し忘れてた。
 普段あまりやらない着脱に苦戦しつつも完全に元通りの私に戻ると、藍子は満足げに唇を緩めた。私より先に白湯を飲み干し、椅子を前に。手を伸ばしてぎりぎり届く距離が、足のつま先が触れ合える距離にまで縮まる。

「加蓮ちゃんっ」
「ん、なぁに?」
「あのね……」
「うん」
「あの……」
「あははっ、なんなのー」
「……うまく言おうと思ったけど、言えないんですっ。楽しいって言葉ばっかり、浮かんできちゃってっ!」

 そうだとは思った。ほっぺたのところ、ゆるゆるだよ? 上下にぐにぐに、左右にぐにぐに。ふにゃりふんにゃりとした抗議の声を流しながら、私もつられて笑う。

「藍子が楽しいって気持ちでいっぱいになるなら、よかった」

 ……つられて笑ったのって、何回目になるんだろ。


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