高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
1- 20
33:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:49:06.93 ID:eE/KPeRw0
「ねえ藍子。ここでいつもみたいにのんびり喋るのもいいけど……。いつものカフェじゃないし、いつもの店員さんもいないんだから、せっかくだしいつもじゃないことをしない?」
「いつもじゃないことって?」
「それはね――」

 実はやってみたいと思うことがあった。藍子の手を取って立ち上がる。連れて行く先はカフェの向かって右側、くつろぎスペース。靴を脱いで、藍子は引っ張られながらこんな時でも私の分も含めて靴を合わせて、先に座り込んだ私の隣に腰を降ろした。
 次に私は、思いっきり寝転んだ。藍子を引っ張るようにしたから、藍子もその場に寝転がされた。

「わっ……」
「こうやって、ごろんってしちゃうのっ。普段は誰かに見られてるかもしれないし、アイドルとしてそんな姿は見せれないけど、今は藍子しかいないからっ!」

 本当に藍子しかいないカフェは、この世界にここしかない。そしてここも、明日になれば冷たい白壁と表札もない建物へと戻ってしまう。
 だからこんなことができるのは今晩しかなかった。
 こうして寝っ転がると意外と頭が硬いので、片手でビーズクッションを引き寄せる。先に藍子に渡してあげて、私は子ども用のアニマルクッション。頭の体重でたぬきの柄がぐにゃりとなってしまう。

「あー……。きもちいー……」
「ふふ、ほんと……。こうしていると、きもちいいなぁ……」

 クッションへと沈んでいく声。目の前には天井しか移ってないけど、すぐ近くに、本当にすぐ近くから藍子の姿が感じられる。

 カフェで向かい合った時よりも、あるいはカフェ巡りの時に座席の都合で隣り合った時なんかよりも遥かに近い。膝枕の時よりも、もっと……。

 寝返りを打ってみたら、藍子の顔がすぐ近くに来た。……さすがに、これは、ちょっと。カフェって一応は公共のスペース、姿が無くても他の人が利用する場所なんだし……という、最後の最後に残った意地のラインが私を反対側へと頭を向けさせた。
 新鮮な柑橘のような甘酸っぱい笑い声もすごく近くて、むずかゆくて、ドキドキもした。
 お昼に似たことをやっちゃったから、その罰かなー……。

「そういえば、藍子」
「うん、なあに?」
「会ったよ、前にほら……。カフェ仲間だった、藍子のファンの――」
「……来ていましたよね……あの2人。すごく久しぶりに見ました」
「やっぱり藍子も? 私も。テラス席に行ったら普通に座っててすごくびっくりしちゃった」
「私は、そんなにびっくりしなかったかな……?」
「えー?」
「カフェの計画を練っている時、どんなお客さまが来るかな、と考えていたら、ふっと思い浮かびましたから。ひょっとしたら、と思って……」
「なんだ、そっか」

 少しがっかりしたけど、藍子らしい。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
43Res/82.00 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice