過去ログ - 男「また、あした」
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154:まるで幻のよう ◆hwowIh89qo
2011/09/09(金) 20:56:13.12 ID:uH8thC/k0
一つの物語のプロローグから、エピローグまでを俺達は見てきた。
友人の、その淡く甘い恋のお話を、あくまで俺は、俺たちは外野から見つめていた。

だからだろう。まさか自分自身が役者へとなるのとは夢にも思わなかった。
――しかし、そんなのはおかしな話だったのだ。生きているのならば、否応なく自分自身を演じきるしかない。
以下略



155:まるで幻のよう2 ◆hwowIh89qo
2011/09/09(金) 20:58:26.45 ID:uH8thC/k0
二人をここまで導いたのは、俺と春野がお膳立てしたから、というのもある。
しかし、俺たちはあくまで、船を川へ押してやっただけだ。
事実、二人は、俺たちも驚くような進展で、あれよあれよという間に、幸福を具現した存在となった。

――だから、それでいい、と俺は思っていた。俺の親友が、ここまで幸せになった。
以下略



156:まるで幻のよう3 ◆hwowIh89qo
2011/09/09(金) 21:00:50.48 ID:uH8thC/k0
「映画ぐらい、秘密にしなくていいと思うんだが」
「……だって、秋川君の前で誘うのも、恥かしいから」
「恥かしい? ……よくわからんが、まぁ、そういうことなら」
「今回こそは、夏原君も恐がるような和風ホラーよ」

以下略



157:まるで幻のよう4 ◆hwowIh89qo
2011/09/09(金) 21:02:50.24 ID:uH8thC/k0
「放課後のデートなんだから、嬉しそうにしなさい?」
「花は開かないし、実も結ばない。そんな草の発芽をどうして喜べるんだ」

数回、彼女が隣で歩いているのを他人に見られている。
数回、彼女と笑みすら浮かべて会話しているのを、他人に見られている。
以下略



158:まるで幻のよう5 ◆hwowIh89qo
2011/09/09(金) 21:05:37.36 ID:uH8thC/k0
今思えば、妙なことだと感づいても良さそうなものだった。
春野の今日の行動は、少しばかり怪しかった。急に映画に誘うし、あの凍りついたような表情。
そして、俺は失念していた。彼女の家は門限が厳しいことに。
普通なら、放課後、つまり夕暮れに映画に誘うことなんてしない。
家につくころには、21時か22時頃になるだろう。
以下略



159:まるで幻のよう6 ◆hwowIh89qo
2011/09/09(金) 21:07:43.11 ID:uH8thC/k0
結局、春野が立ち直ったのは、バスで学校前についてからだった。
車内では平静を保とうとしていたようだが、それでも身体が時折震えていたように見えた。
誤魔化そうとしていたのか、いつもより遥かに口数も多かった。

「……はぁ。帰ってきちゃった」
以下略



160:まるで幻のよう7 ◆hwowIh89qo
2011/09/09(金) 21:09:44.62 ID:uH8thC/k0
「自分でもわからないわ。どうして、腹立たしく思うのか。
 どうして、こうして約束まで破って、わざわざ恐い映画を見に行くのか。
 良くないってわかっているのに、それでもする意味、したいと思った理由。
 全部、私の中に答えはあるハズなのに、わからないのよ」

以下略



161:まるで幻のよう8 ◆hwowIh89qo
2011/09/09(金) 21:13:16.95 ID:uH8thC/k0
「安心していいわよ。……それに、もう花ぐらいなら開いているわ」
「……まどろっこしいな。俺は自惚れ屋のつもりはないが、それでも不安だ」

俺は、この手の言葉遊びも得意じゃない。
何を言っているのかわからなくなるからだ。相手が何を言いたいのかも、掴めない。
以下略



162:まるで幻のよう9 ◆hwowIh89qo
2011/09/09(金) 21:15:21.03 ID:uH8thC/k0
「……驚いた。行動力はあるんだから」
「悪いな。不器用だからこういうことしかできん」

俺は秋川のように繊細でもなければ冬森のように素直でもない。
あの二人のような恋仲なんぞ、望むべくもない。春野が俺を求めるというのならば、俺はそれに応えてやるだけだ。
以下略



163:まるで幻のよう10 ◆hwowIh89qo
2011/09/09(金) 21:16:41.97 ID:uH8thC/k0
しばらく歩いて、立ち止まり夜空を見上げる。今夜は月が大きく丸く見え、星空が広がっていた。
まるで現実感がない。それこそ、幻のようだ。確かな充足感を抱きながらも、今が現実だとは思えない。
俺と春野では不釣合いが過ぎる。彼女には、もっと相応しい男というものがあるはずだ。
恋は盲目とはいうものの、俺の何がいいのかわからない。
当然、嬉しくはある。彼女のことを気に入り、好きでさえある。全てが充足している。
以下略



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