30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2011/08/29(月) 11:42:36.46 ID:PjuOVipoo
ムラサキは、まさか話を振られるとは思っていなかったのか、少なからず驚いていた。
その様子を見て彼の胸のうちに初めて緊張が走る。上手く話ができるだろうか。
あまり間をおかず、彼女は質問に、作家名だけで答えた。彼も何冊か読んでいる、流行のミステリー作家だ。
本のタイトルを訊ねると、読んだことのあるものだった。
「ああ」
と彼は頷く。「どう? 面白い?」と訊ねてみると、ムラサキは「そこそこ」と答えた。彼の感想とほとんど同じだ。
どう言葉を繋げていいか分からず、彼はそのまま押し黙る。落ち着かないように指先で本の背表紙を撫でている彼女を見て、話しかけたのは失敗だったかと後悔した。
「学校」
けれど、言葉を繋いだのはムラサキのほうだった。
「やめたって聞いたけど」
どうして彼女が知っているのだろうと考え、引き篭り始めた当初に中学時代の友人と連絡を取っていたことを思い出す。
少し考えてから、彼は頷いた。こういった話は、どこからか、いつのまにか広まっているものなのだろう。
ムラサキは彼の答えを聞いて困ったように表情を強張らせた。たしかに反応するのが難しい話題かもしれない。
やがて学科講習が始まる時間になり、彼女は簡単に別れの挨拶を投げかけて、教室のある階段を登っていった。
彼の方も送迎バスが出る時間になったので、ふたりはそれっきり何も話をしなかった。
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