過去ログ - 夜叉「もうすぐ死ぬ人」
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19:JK[saga]
2011/12/15(木) 19:31:43.34 ID:fJUeZbYv0
『ならば死ねばよいだろう』

月夜叉は昴が初めて見る表情で、冷徹に呟いた。
否、実際には月夜叉の表情は微塵も変わっていない。
昴の心情が月夜叉を冷徹な存在に見せているだけだ。
月夜叉には感情が存在しない故に、人間の感情を丸ごと呑み込む。
人間の感情の持ち様によって、月夜叉は如何様な姿にでも変貌するのだ。
当然、それは月夜叉の特殊な能力などではない。
月夜叉は真白な赤子の如き存在であり、感情を他者に伝える事など決してしない。
故に人間は月夜叉に自分の姿を投影する。
姿見の如く、月夜叉は人間の感情をそのままに写すのだ。
昂ぶる者が見れば月夜叉は暴虐な嵐に映り、
穏やかな者が見れば月夜叉は凪として映る。
それだけの事なのだ。

昴もそれを分かっている。
痛いほど分かっている。認めたくないだけだ。

『真に死を望むとあれば、何時如何様にでも死ねたはずだ』

「何が言いたい……?」

『昴は真に死を望んでいるのだろうか』

「当然だ」

「生きる価値もない、死にたいと昴に限らず人の子は言うが、実際に死ぬ者は極少数だ。
私は過去より疑問に思っているのだが、何故死なないだろうか。
死にたいのであれば、即座に命を絶てばよいだろうに」

昴は目を剥いた。
死を望みながら、未だ存在している矛盾。
人間の知人はそれを分かっていながら、敢えて昴には問わなかった。
それは恐らく昴への思いやりだったのだろう。
哀れなる昴を傷つけない為の。

されど、月夜叉は異なる。
月夜叉に同情を求める行為自体がそもそもの誤りで、
非人間に人間の理論を通そうとした所で完全無欠に無意味なのだ。
幼稚な理論武装は月夜叉に意味を成さない。
渺茫たる事実の渦の中に生きる月夜叉には、興味を示す価値もない。

昴は反論出来ずその場に蹲った。
自分は何をしている?
死を望み、浄化を望んでいるというのに、何故自分は死ねない?

本当は分かっていた。
死を望んだのは、自分を特別視しない世界が恨めしかったからなのだと。
昴は誰よりも求められたかった。誰よりも特別な存在になりたかった。
しかし、それは叶わなかった。
自分より無能で下賤な輩に見える人間に先を行かれるのが現実だった。
斯様な世界など必要無かった。
己を褒め称えない世界など、己が特別でない世界など、拒絶したかったのだ。
故に死にたかった。


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