496:にゃんこ[saga]
2012/06/01(金) 18:51:02.53 ID:rzsgqDp00
◎
部屋に駆け込んだ時、唯は目を覚ましていた。
でも、目を覚ましてるとは言え、
その苦しそうな表情からは体調が全然回復してないのがよく分かった。
「あ……、あずにゃん……、
りっちゃん……、おかえり……なさい……」
苦しいくせに、呆れるくらい身体が辛いくせに、
唯は無理に笑顔を浮かべて、私達を出迎えてくれた。
私達に心配させないように、私達の事を気遣って……。
それは私が何度も皆にやって来た事ではあったけど、
自分がやられると無力感に苛まれて辛いだけだった。悔しいだけだった。
私は……、こんな事を皆にやっちゃってたのか……。
それを後悔する事は出来たけど、今はそんな場合じゃなかった。
私は椅子に座って唯の様子を見てくれていたムギと場所を代わってもらう。
それから苦しそうに息をする唯の手を握って言った。
「いいんだ、無理に喋るなよ、唯……。
私が……、私が悪かったんだ……。だから……」
「そうですよ、唯先輩!
無理しないで下さい!
そんな無理してちゃ、治るものも治らなくなっちゃいますよ!」
辛そうな表情の梓が私の後ろから言葉を重ねる。
澪達は何も言わず、私達の様子を見守ってくれていた。
本当は唯に伝えたい言葉が沢山あったはずだ。
でも、澪とムギは静かに私達を見守ってくれている。
私達を信じて、任せてくれているんだ……。
私は皆のためにも、自分のためにも、その信頼に応えなきゃいけない。
もう嘘を吐かず、正直な気持ちを唯達に伝えなきゃいけないんだ。
私は自分の手が震えてるのに気付きながら、それでも言葉を続けた。
「おまえの言いたい事と、おまえの気持ちは分かったよ。
この世界がおまえの夢みたいなものなのかもしれないって事もさ……。
だけど、それが何だってんだよ。
そんな事より、私はおまえに元気になってほしいんだよ、唯」
「で、でも……、でも……、私……、私が……」
「いいから無理して喋るな、唯……。
さっきおまえは言ったな。
自分が死んだらこの世界は消えるかもしれないって。
私達が元の世界に戻れるかもしれないって。
確かにそうかもしれないな。
ここがおまえの夢の世界だってんなら、そういう事も考えられる。
おまえが死ねば、私達は元の世界に戻れるかもしれない……。
だけど、それがどうした!
おまえなしで元の世界に戻ったって……、何の意味も無いんだよ、唯。
私はただ元の世界に戻りたいわけじゃない。
おまえと一緒に、皆と一緒に、元の世界で傍に居たいんだ。
遊びたいんだ。笑いたいんだ。演奏したいんだ!
だから……、もう死ぬなんて言わないでくれ……!」
それは私の想い。
私が唯に伝えたかった想いの一部。
でも、唯は納得してくれなかったみたいで、何度も首を横に振った。
自分が死んで私達を解放するって答えは、唯だって必死に考えて出した答えなんだと思う。
拳を握り締めて、唇を噛み締めて、血反吐を吐くような気持ちで出した答えのはずなんだ。
そう簡単に折れられるはずもない。
私達の事を大切に思うからこそ、唯は折れられないんだろうな。
だけど、私だって、唯の事が大切だから折れたくないんだ。
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